| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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1 (209) |
ひふみ神示 | 6_日月の巻 | 第36帖 | 今の臣民見て褒める様な事は皆奥知れてゐるぞ。之が善である、まことの遣り方ぞと思ってゐる事九分九厘迄は皆悪のやり方ぞ。今の世のやり方、見れば判るであらうが、上の番頭殿悪い政治すると思ってやってゐるのではないぞ。番頭殿を悪く申すでないぞ。よい政治しようと思ってやってゐるのぞ。よいと思ふ事に精出してゐるのざが、善だと思ふ事が善でなく、皆悪ざから、神の道が判らんから、身魂曇りてゐるから、臣民困る様な政治になるのぞ。まつりごとせなならんぞ。わからん事も神の申す通りすれば自分ではわからんこともよくなって行くのざぞ。悪と思ってゐることに善が沢山あるのざぞ。人裁くのは神裁くことざぞ。怖いから改心する様な事では、戦がどうなるかと申す様な事ではまことの民ではないぞ。世が愈々のとことんとなったから、今に大神様迄悪く申すもの出て来るぞ。産土様何んぞあるものかと、悪神ばかりぞと申す者沢山出てくるぞ。此の世始まってない時ざから我身我家が可愛い様では神の御用つとまらんぞ。神の御用すれば、道に従へば、我身我家は心配なくなると云ふ道理判らんか。何もかも結構な事に楽にしてやるのざから、心配せずに判らん事も素直に云ふ事聞いて呉れよ。子に嘘吐く親はないのざぞ。神界の事知らん臣民は色々と申して理屈の悪魔に囚はれて申すが、今度の愈々の仕組は臣民の知りた事ではないぞ。神界の神々様にも判らん仕組ざから、兎や角申さずと、神の神示腹に入れて身魂磨いて素直に聞いて呉れよ。それが第一等ざぞ。此の神示は世に出てゐる人では解けん。苦労に苦労したおちぶれた人で、苦労に負けぬ人で気狂いと云はれ、阿呆と謂はれても、神の道素直に聞く臣民でないと解けんぞ。解いてよく噛み砕いて世に出てゐる人に知らしてやりて下されよ。苦労喜ぶ心より楽喜ぶ心高いぞ。十一月十九日、一二 |
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2 (272) |
ひふみ神示 | 9_キの巻 | 第15帖 | 誠申すと耳に逆らうであろが、其の耳取り替へて了ふぞ、我れに判らんメグリあるぞ、今度は親子でも夫婦でも同じ様に裁く訳には行かんのざ、子が天国で親地獄と云ふ様にならん様にして呉れよ、一家揃ふて天国身魂となって呉れよ、国皆揃ふて神国となる様つとめて呉れよ、メグリは一家分け合って、国中分け合って借金なしにして下されよ、天明代りに詫してくれよ、役員代りて詫びして呉れよ、この神示肚に入れておれば何んな事が出て来ても胴すわるから心配ないぞ、あななひ、元津神々人の世ひらき和し、悉くの神人みつ道、勇み出で、総てはひふみひふみとなり、和し勇む大道。三月十九日、ひつ九の神。 |
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3 (382) |
ひふみ神示 | 17_地震の巻 | 第5帖 | 全大宇宙は、神の外にあるのではなく、神の中に、神に抱かれて育てられているのである。故に、宇宙そのものが、神と同じ性をもち、同じ質をもち、神そのものの現われの一部である。過去も、現在も、未来も一切が呼吸する現在の中に存在し、生前も死後の世界もまた神の中にあり、地上人としては地上人の中に、霊界人にありては霊界人の中に存在し、呼吸し、生長している。故に、その全体は常に雑多なるものの集合によって成っている。部分部分が雑多なるが故に、全体は存在し、力し、弥栄し、変化する。故に、歓喜生ずる。本質的には、善と真は有であり、悪と偽は影である。故に、悪は悪に、偽は偽に働き得るのみ。影なるが故に悪は善に、偽は真に働き得ない。悪の働きかけ得る真は、真実の真ではない。悪は総てを自らつくり得、生み得るものと信じている。善は総てが神から流れ来たり、自らは何ものをも、つくり得ぬものと信じている。故に、悪には本来の力はなく、影にすぎない。善は無限の力をうけるが故に、益々弥栄する。生前の世界は有なるが故に善であり、死後の世界も同様である。生前の自分の行為が地上人たる自分に結果して来ている。生前の行為が生後審判され、酬いられているのではあるが、それは、悪因縁的には現われない。そこに、神の大いなる愛の現われがあり、喜びがある。悪因縁が悪として、また善因縁は善として、生後の地上人に現われるのではない。何故ならば、大神は大歓喜であり、三千世界は、大歓喜の現われなるが故にである。地上人的に制限されたる感覚の範囲に於ては、悪と感覚し、偽と感覚し得る結果を来す場合もあるが、それは何れもが弥栄である。これを死後の生活にうつされた場合もまた同様であって、そこには地獄的なものはあり得ない。川上で濁しても川下では澄んでいるのと同様である。要するに、生前には、地獄がなく、生後にも、死後にもまた地獄はないのである。この一貫して弥栄し、大歓喜より大々歓喜に、更に超大歓喜に向って弥栄しつつ永遠に生命する真相を知らねばならぬ。しかし、天国や極楽があると思念することは既に無き地獄を自らつくり出し、生み出す因である。本来なきものをつくり出し、一を二にわける。だが、分けることによって力を生み弥栄する。地獄なきところに天国はない。天国を思念する処に地獄を生ずるのである。善を思念するが故に、悪を生み出すのである。一あり二と分け、はなれてまた、三と栄ゆるが故に歓喜が生れる。即ち、一は二にして、二は三である。生前であり、生後であり、死後であり、尚それらの総ては |
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4 (1104) |
霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 余白歌 | 余白歌 夢ならばいつかは醒めむ夢の世の夢物語聞いて目さませ〈序前〉 古へゆ今に変らぬ神の世の活物語するぞうれしき〈序前〉 天地のあらむ限りは人の世の光とならむこの物語〈序前〉 浮き沈み憂きを美山の彦神と化けおふせたる棒振彦の神〈第2章(初版)〉 苦にならぬ国照姫の名をかたる鼻高虎の醜の曲津見〈第2章(初版)〉 奸策を種々さまざまに振りまはす棒振彦の汚れたる身は〈第2章(初版)〉 高虎の醜女の神はロツキーの山の鼻高姫を使いつ〈第2章(初版)〉 顕はれて間なく隠るる二日月〈第4章〉 四日月を三日月と見る二日酔〈第4章〉 空海も必ず筆を選むなり〈第4章〉 美山彦国照姫は名を替へて言霊別や言霊姫となりぬ〈第5章〉 病神どこへうせたか春の風〈第5章〉 神徳は山より高し天真坊〈第6章(初版)〉 天地の律法を正す天道坊〈第6章(初版)〉 尻尾まで別れて逃げる古狐〈第8章(初版)〉 春霞棚引きそめて久方の高天原の教の花咲く〈第8章(初版)〉 久恵彦の足は行かねど天の下世の悉々は覚りましけり〈第8章(初版)〉 人皆の夢にも知らぬ幽事を覚すは神の教なりけり〈第8章(初版)〉 惟神道の奥処に別け入れば心の罪の恐ろしきかな〈第8章(初版)〉 冠を足にはきつつよろこびて沓をかしらにかぶる世の中〈第9章(初版)〉 良き人はしいたげられて曲者のもてはやさるる暗の世の中〈第9章(初版)〉 毒よりも気の毒としれ曲つ神〈第10章(初版)〉 毒々し曲津の毒の巧みごと〈第10章(初版)〉 気を付けよ味方の中に敵潜む〈第10章(初版)〉 虎よりもおそろしき口を人は持ち〈第11章〉 しこめとは我大神をおしこめしからの身魂の使なりけり〈第12章(初版)〉 まごころを貫きとほす槍の穂に常世の鬼も逃げうせにけり〈第13章〉 蜂かこむ室屋を出て大巳貴須世理の姫の比礼に免れつ〈第13章〉 烏羽玉の暗き天地照らさむと雲押し別けて月は出でけり〈第13章〉 惟神宇宙の外に身をおきて日に夜に月の光あらはすも〈第13章〉 炉の傍に居ても寒けき冬の夜の御空に澄める月もありけり〈第13章〉 いつはりの無き世なりせば斯くばかり心も身をも砕かざらまし〈第14章(初版)〉 初めてぞ神の恵みの知られけり苦しき坂を登り終ふせて〈第15章〉 病む時は神の御前に平伏して心の罪の在所たづねよ〈第15章〉 梟や宵になく声朝のこゑ〈第16章(初版)〉 登りゆく神路の山の山松に神の恵の露の玉散る〈第17章〉 八島国島の悉々照り渡る神の威徳に隈蔭もなし〈第17章〉 大空にきらめき渡る星かげものぼる旭にかくろひにけり〈第19章〉 一切のことに疑問を抱く内はまだ小人の境を脱せず〈第22章〉 世の中の総ては区々の感情の争ひなりせば神に在れ人〈第22章〉 幸福は家内揃うて睦まじく暮すにまさる歓びはなし〈第23章〉 産業の外の事業の一切は皆空業と覚るべきなり〈第23章〉 現し世の濁りに濁り乱るるはみな黄金の禍ひなりけり〈第25章〉 神界の真の神業は産業にあらねど唯一の実業と知れ〈第25章〉 奇魂智慧の光は村肝の心の暗を照り明すなり〈第26章〉 奇魂智の道の程々に世の物事を裁く義しさ〈第26章〉 世を救ひ国を開きて曲津まですくふ言霊別の雄々しさ〈第28章〉 国々に御名を変へさせ玉ひつつ救ひの為に降ります主〈第29章〉 天のはて地のきはみもおつるなく照らす光と現はれし救主〈第29章〉 老人も若きも男子女子も上る神路の山は変らじ〈第30章〉 あし原の中つ御国は異人の夢にも知らぬ宝ありけり〈第30章〉 教とは人の覚りの及ばざる神の言葉の御告なりけり〈第30章〉 躊躇の心打ち捨て勇ましく思ひし善事遂ぐるは義し〈第34章〉 国人を幸ふために身を忘れ難みに殉ふ心義しさ〈第34章〉 一家内和合なければ自棄自暴遂には離散の憂目見るべし〈第36章〉 咲く花の散り行く見ればいとど猶身の果敢なきを忍ばるるかな〈第37章〉 身体はよし死るとも霊魂は幾千代までも生きて栄ゆる〈第37章〉 みづみづしをしへの主の御姿は空照り渡る月のかんばせ〈第40章〉 春の朝露にほころぶ白梅の花にもまして美しき救主〈第40章〉 万有に通ずる真の神力は自信の光に如くものは無し〈第42章〉 わが祈る誠を愛でて惟神奇しき力を授け玉へよ〈第44章〉 天照神の教は神国の人のふむべき大道なりけり〈第44章〉 釈迦孔子や外の聖の唱へたる教も一つは善き節もあり〈第44章〉 今の世は神の職の多けれど神の真教を知る人まれなり〈第44章〉 時つ風吹き荒ぶとも真木柱立てし初めの心ゆるめな〈第49章〉 醜草を薙ぎて放りて神国の日本魂の松の種蒔け〈第49章〉 いろいろと世は紫陽花の七変り変らぬ道は天津日の道〈第49章〉 道のため書き記したる教典の千代万代に栄えとぞ思ふ〈第50章〉 この道の光も知らぬ人草は醜の魔風に靡き伏しつつ〈第50章〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました] |
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5 (1920) |
霊界物語 | 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 | 13 竜の解脱 | 第一三章竜の解脱〔七九五〕 大海中に浮びたる誉も高き琉球の 玉の潜みし神の島三千世界の梅の花 一度に開く時来り綾の聖地に宮柱 太敷立てて千木高く鎮まりゐます厳御霊 瑞の御霊の神勅を玉照神の二柱 完全に詳細に受け給ひ瑞の御霊の御裔なる 言依別に言依さし潮満玉や潮干の 珍の宝を索めんと教主自ら国依別の 教の司を引き率れて浪路を遥に乗り渡り 漸う此処に来て見れば我より前に紀の国の 若彦始め常楠が又もや神の御勅宣 正しく受けて逸早く来り居ませる尊さよ 天を封じて立ち並ぶ欅の楠の森林に 勝れて太き槻の幹天然自然の洞穴に 若彦、常楠両人は木俣の神と現はれて 島人等を大神の稜威に言向け和しつつ 時の来るを待つ間に言霊清き言依別の 瑞の命の大教主国依別と諸共に 来りましたる嬉しさに若彦、常楠勇み立ち ハーリス山の山奥に心も勇む膝栗毛 鞭撻ち進む谷の奥湖水の前に着きにける 四辺は闇に包まれて礫の雨は降りしきり 物凄じき折もあれ闇の帳を引き開けて 波上を歩み進み来る怪しの影を眺むれば 髭蓬々と胸に垂れ雪を欺く白髪は 長く背後に垂れ下り眼は鏡の如光り 朱を濺ぎし顔の色耳迄裂けた鰐口に 黄金の色の牙を剥き四五寸許り金色の 角を額に立て乍らガラガラ声を張りあげて 怪しき舌をニヨツと出し言依別の一行に 向つて叱言を言ひ掛ける叱言の条は竜神の 守ると聞えし太平柿国依別が畏くも 盗んで食つたが罪なりと執着心の鬼神が 力限りに罵倒して琉と球との宝玉を 渡さじものと縄を張る魔神の張りし鉄条網 手も無く切つて呉れんずと磊落不覊の神司 国依別が言霊の打ち出す誠の砲撃に 流石の魔神も辟易しおひおひ姿を縮小し 豆の如くになり果てて遂にあえなく消えにける。 『あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 金剛不壊の如意宝珠国依別が丹田に 秘め隠したる言霊の力に刃向ふ楯はなし 我は正義の鉾とりて天地の神の大道を 高天原の神の国豊葦原の瑞穂国 大海原の底までも照らし渡さにや置くべきか 国依別の言霊は筑紫の日向の橘の 小戸の青木ケ原と鳴る神伊邪那岐大神が 珍の伊吹になりませる祓戸四柱大御神 瀬織津姫や伊吹戸主珍の大神始めとし 速秋津姫神速佐須良姫神 此処に四柱宣伝使此神等の生宮と なりて現はれ来りけり大竜別や大竜姫の 珍の命の竜神よ是の天地は言霊の 助くる国ぞ生ける国幸はひゐます国なるぞ 天の岩戸の開け放れ根底の国も明かに 澄み照り渡る今の世に潮満珠や潮干の 二つの珠を何時までも抱きて何の益かある 此世を救ふ瑞御霊神の任しの両人に 惜まず隠さず矗々と汝が姿を現はして はや献れ惟神神は我等と倶にあり 仮令千尋の水底に何時迄包み隠すとも 三五教の我々が此処に現はれ来し上は 只一時も一息も躊躇ひ給ふ事勿れ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ 一、二、三、四、五、六七、八、九、十たらり 百、千、万の神人を浦安国の心安く 堅磐常磐に守らんと神の任しの此旅路 諾なひ給へ逸早く』早く早くと宣りつれば 今迄包みし黒雲は四辺隈なく晴れ渡り 浪を照らして一団の火光は徐々両人が 佇む前に近づきて忽ち変る二柱 尊き女神と相現じ満面笑を含みつつ 言依別や国依別の二人の前に手を束ね 地より湧き出る玉手箱各一個を両の手に 捧げて二人に献り綾羅の袖を翻し 忽ち起る紫の雲に乗じて久方の 大空高く天の原日の稚宮に登り行く 執着心の深かりし大竜別や大竜姫の 珍の命の両神も愈茲に三千年の 三寒三熱苦行を終へ神の恵みに救はれて 茲に尊き天津神皇大神の御右に 坐まして清き神国の常世の春に会ひ給ふ 実にも尊き物語語るも嬉し今日の宵 陰暦六月第二日松雲閣に横臥して 団扇片手に拍子とりさも諄々と述べて置く 筆執る人は北村氏神の稜威も隆光る 三五教の御教の栞となれば望外の 喜びなりと記し置くあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ。 国依別の言霊に竜若彦と称する怪物は忽ち雲散霧消し、再び現はれ来る大竜別、大竜姫は各手に琉、球の玉を納めたる玉手箱を、言依別、国依別の手に恭しく捧げ三千年の三寒三熱の苦行を茲に終了し、一切の執着を去つて、悠々として紫の雲に乗り、天津日の稚宮に上り、大神の右に座し、天の水分神となつて降雨を調節し給ふ大神と成らせ給うたのである。 清き正しき言霊は一名金剛不壊の如意宝珠とも言ふ。此天地は言霊の幸はひ助け、生き働く国である。宇宙間に於て最も貴重なる宝は声あつて形なく、無にして有、有にして無、活殺自由自在の活用ある七十五声の言霊のみである。之を霊的に称ふる時は即ち金剛不壊の如意宝珠となる。天照大御神の御神勅に「言向け和せ、宣り直せ」とあり、之は神典古事記に明かに示されてある。天の下四方の国を治め給ふは五百津美須麻琉の玉にして、此玉の活働く時は天ケ下に饑饉もなく、病災も無く戦争も無し又風難、水難、火難を始め、地異天変の虞なく、宇宙一切平安無事に治まるものである。 又、今此処に言依別、国依別の二柱の竜神より受取りたる琉、球の二宝は、風雨水火を調節し、一切の万有を摂受し或は折伏し、よく摂取不捨の神業を完成する神器である。 ここに言依別命を始め、一同は湖水に向つて天津祝詞を奏上し、天の数歌を歌ひ上げ宣伝歌を歌ひ乍ら、心地よげに元来し道を下りつつ、槻の洞穴に一先づ帰る事となつた。 言依別の一行は竜の湖水を後にして 千畳岩の碁列せる奇勝絶景縫ひ乍ら 足に任せて降り行く登りに引き替へ下り坂 思うたよりも速かに何時の間にかは竜神の 守り居たると伝へたる太平柿の辺まで 帰り来れば常楠はフト立ち留り一行を 顧み乍ら『教主さま国依別神さまが 大蛇の群に襲はれて太平柿の頂上より 身を躍らして青淵にザンブと許り飛び下り 仮死状態となり果てて渦に巻かれて流れたる 改心記念の霊場ぞ負ぬ気強い国依別の 神の司は反対に竜若彦に逆理屈 いとも立派に喰はして凹ませ給ひし健気さよ あゝ惟神々々斯うなる上は常楠も 神の心が分らない善悪正邪の標準を 如何して分けたら宜からうかお裁き頼む』と宣りつれば 言依別は打ち笑ひ『国依別の言霊は 天地の道理に適ひたり善に堕すれば悪となり 悪の極みは善となる善悪同体此真理 胸に手を当てつらつらと直日に見直し聞直し 人の小さき智慧もちて善悪正邪の標準が 分らう道理のあるべきや此世を造りし大神の 心に適ひし事ならば何れも自然の道となり 其御心に適はねば即ち悪の道となる 人の身として同胞を裁く権利は寸毫も 与へられない人の身は只何事も神の手に 任せ奉るに如くはない』いと細やかに説きつれば 国依別や若彦も常楠翁も勇み立ち 心欣々一行は黄昏過ぐる宵の口 楠と槻との森林に極めて広き天然の ホテルにこそは帰りけりあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ。 (大正一一・七・二五旧六・二北村隆光録) |
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霊界物語 | 36_亥_シロの島の物語 | 22 春の雪 | 第二二章春の雪〔一〇一〇〕 神地の城は、天恵的に火の洗礼を施され、城内の悪魔は残らず退散し、すべての建造物は烏有に帰し、天清く風爽かに、土また総ての塵芥を焼き尽し、天清浄、地清浄、人清浄、六根清浄の娑婆即寂光土を現出した。 サガレン王の率ゐ来れる正義の人々をはじめ、城内に止まりて竜雲の頤使に甘んじ、知らず知らず邪道に陥り居たる数多の人々も残らず目を醒し、広き城の馬場に集まつて、何れも身に微傷だにも負はざりし神徳に感謝の涙を流しつつ、天の目一つの神の導師の下に、国治立大神、塩長彦大神、大国彦大神を斎くべく、俄作りの祭壇の前に、天津祝詞を奏上し、神徳を讃美し、悔い改めの祈願を凝らし、敵と味方の障壁もなく、宗教の異同も忘却して只管神恩を感謝するのみにして忽ち地上の天国は築かれけり。 神地の城は火の洗礼によりて、地上に一物も止めず烏有に帰したれども、サガレン王がまさかの時の用意にと、新に造り置きたる河森川の向岸の八尋殿は、未だ一人の住込みたるものもなきままに、完全に残されありしかば、サガレン王は一同の人々を率ゐて新しき八尋殿に立入り、都下の人々が先を争うて、火事見舞として奉りたる諸々の飲食を並べ一同を饗応し、且つ天の目一つの神、君子姫、清子姫を主賓として、感謝慰労の宴会を開く事とはなりぬ。 ケールス姫も竜雲も亦悄然として、此席に恥かしげに小さくなつて片隅に控へ居る。人の性は善なりとは宜なるかな、ケールス姫は一時、妖邪の気に迷はされ、心汚き竜雲が計略の罠に陥り、恐れ多くもわが夫たり君たる国別彦の神司を無視し、且つ放逐したる其悪業を心の底より悔い、身も世もあられぬ思ひにて、良心に責められながら、つつましやかに片隅に息を殺して畏まり居る。又竜雲も一時の欲に搦まれ、悪鬼邪神の捕虜となり、悪逆無道の醜業を繰返したることを深く悔い、今迄犯せし罪の恐ろしく心の呵責に身の置き処もなく、人々に顔を向ける勇気もなく、頭を下げて片隅に縮こまり居る。今迄の竜雲は大兵肥満にして、一見温良の神人の如く見え居たりしが、己が悪事を悔悟すると共に、深く身魂に浸み渡り居たる曲神の、身内より脱出し終りたる彼の身は、忽ち縮小し、萎微し、以前の如き気品もなければ、打つて変つた痩坊主の見るもいぶせき姿となりしぞ憐れなり。 これを思へば、総ての人は憑霊の如何によつて其身魂を向上せしめ、或は向下せしめ、善悪正邪、種々雑多の行動を知らず知らずに行ふものなるを悟らるるなり。神諭にも、 『善の神が守護致せば善の行ひのみをなし、悪の霊が其肉体を守護すれば悪の行ひをなすものだ』 と示されてあるは宜なりと謂ふべし。又悪魔は決して悪相をもつて顕現するものではなく、必ず善の仮面を被りて人の眼を眩ませ、悪を敢行せむとするものである。一見して至正至直の君子人と見え、温良慈悲の聖者と見ゆる人々にも、また柔順にして女の如く淑やかに見ゆる男子の中にも、悪逆無道の行ひをなすものがあるのは、要するに悪神の憑依して、其人の身魂を自由自在に使役するからである。又一見して鬼の如く、悪魔の如く恐ろしく見ゆる人々の中に、却て誠の神の身魂活動し、善事善行をなすものも非常に沢山あるものである。故に人間の弱き眼力にては到底人の善悪正邪は判別し得らるるものでない。人を裁くは到底人の力の能くし能はざる処、これを裁く権力を享有し給ふものは、只神様計りである。故に三五教の宣伝歌にも、 『神が表に現はれて善と悪とを立て別ける』 云々と宣示されてあるのである。漫りに人の善悪正邪を裁くは所謂神の権限を冒すものであつて、正しき神の御目よりは由々しき大罪人である。又心魂の清く行ひの正しき人が一見して其心の儘が現はれ、至善至美至直の善人と見ゆる事もある。又心の中の曲り汚れて悪事をなす人の肉体が、一見して悪に見え卑劣に見える事もある。総ての人の容貌は心の鏡であるから諺にも云ふ通り、 『思ひ内にあれば色必ず外に現はる』 の箴言に漏れないものも沢山にある。然るに凶悪獰猛なる邪神は容易に其醜状を憑依せる人の容貌に現はさず、却つて聖人君子の如き面貌を表はし、悪を行ひ世人を苦しめ、以て自ら快しとする者も沢山にある。故に徒に人の容貌の善悪美醜を見て其人の善悪や人格を品評する事は到底不可能なる事を考へねばならぬ。 千変万化、変幻出没極まりなく、白昼に悪事を敢行するは悪魔の得意とする処である。悪魔は清明を嫌ひ、暗黒を喜び、暗にかくれて種々雑多の罪悪を喜んで行ふものである。然しこれは一般的悪魔の為すべき働きである。大悪魔に至つては然らず、却つて清明なる天地に公然横行し、万民を誑惑し、白日の下正々堂々と其悪事を敢行し、却つて心暗き人々より、聖人君子英雄豪傑の尊称を与へられ、得々として誇り、世人与し易しと蔭に廻つて、そつと舌を吐き出す者も沢山ないとは云へない世の中である。 一旦悪魔の容器となつて縦横無尽に暴威を振ひ、旭日昇天の勢を以て数多の部下に臨みたる竜雲も、悪霊の神威に恐れて雲を霞と脱出したるより、今迄威風堂々たりし彼も今は全く別人の如く、身体の各部に変異を来し、非力下劣の生れながらの劣等人格者となつてしまつた。されどもこの竜雲にして、再び正義公道を踏み、信仰を重ね、神の恩寵に浴しなば、以前に勝る聖人君子の身魂を授けられ、温厚篤実の君子人と改造さるるは当然である。ケールス姫は竜雲に一歩先んじて心の妖雲を払ひ、心魂に真如の日月を輝かし、前非を悔ゆるに至りしかば、今此場になつても比較的身魂を動揺せしめず、自若として神に一身を任せつつあつた。 竜雲は恥かしげに立ち上り一同に向つて懺悔の歌を謡ひ、天地の神明に謝罪の誠を尽した。其歌、 竜雲『天と地とは古の無限絶対無始無終 神徳無辺の大神が陰と陽との息をもて 造り固めし御国なり国治立大神は 天津御神の勅もて尊き御身を顧みず 豊葦原の瑞穂国下津岩根にあもりまし 大海原に漂へる島の八十島八十国を 完美に委曲に造り終へ百の神人悉く 守らせたまふ有難さ神世はやすく平けく 治まりまして吹き荒ぶ醜の魔風の跡もなく 罪も汚れも無かりしが神の御息に生れたる 蒼生の親とます天足の彦や胞場姫の 天地の道を踏み外し皇大神の御心に 背きたるより天ケ下四方の国には汚れたる 妖邪の息は充満し其息凝りて鬼となり 八岐大蛇や醜狐醜女探女を発生し 世は常闇となりにけりそれより漸く世の中に 悪魔は盛に蔓りて天地曇らせ現身の 世人の身魂を蹂躙し尊き神の生宮と 生れ出でたる人の身をいつとはなしに曲神の 珍の住家となし終へぬ吾も神の子神の宮 恵に漏れぬ身なれどもいつとはなしに曲神に つけ狙はれて由々しくも天地容れざる大罪を 重ね来りし恐ろしさ至仁至愛の大神は 吾等が汚き行ひを憐みたまひて忽ちに 各自に洗礼与へまし心に潜む曲神を 苦もなく追ひ出し給ひけりあゝ惟神々々 御霊幸倍ましましてサガレン王に背きたる 吾等が罪を許させよケールス姫を朝夕に 汚しまつりし醜業は天地容れざる罪なれど 神の尊き御心に清く見直し聞き直し 宣り直しませ天地の尊き百の神の前 罪に沈みし竜雲が今迄犯せし罪を悔い 心を清めて大前に慎み敬ひ詫びまつる 天の目一つ神司君子の姫や清子姫 其外百の人々の尊き今日の働きを 喜びゐやまひ心より慎み讃美し奉る 斯くなる上は竜雲が今迄悩みし村肝の 胸の曇りも晴れ渡り黒雲遠く吹き散りて 大空渡る日月の光を拝む心地よさ 国別彦の神様よケールス姫よ竜雲が 今迄汝に加へたるきたなき罪や曲業を 広き心に宣り直し許させ給へ惟神 神に誓ひて将来のわが改心を開陳し 身を退きて天の下四方の国々駆廻り 命の限り身の限り世人を救ひ身の罪を 亡ぼしまつるわが覚悟安く諾ひたまへかし あゝ惟神々々神の御前に願ぎまつる』 ケールス姫は又謡ふ。 ケールス姫『醜の魔神に迷はされ神の末裔と現れませる 国別彦の神司わが背の君に相背き 曲のかかりし醜人に心の限り身の限り 媚び諂ひて何時となく罪の淵へと沈淪し あらむかぎりの罪悪を尽し来りし恐ろしさ 大慈大悲の大神の霊の光りに照らされて 曇りし胸も晴れ渡り眩みし眼も明かに 輝き渡りて身の罪を直日に見直し聞き直し 顧みすれば恐ろしや天地の神の許さざる 重き罪をば知らずして重ね来りしうたてさよ あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 日の出神や木の花の咲耶姫の神言もて 神素盞嗚大神が世人を普く救はむと 三五教の御道を四方の国々島々に 開かせ給ふ神司数ある中に取りわけて 清き尊き北光の神の司や君子姫 清子の姫を下しまし火の洗礼を施して 神地の都に蟠まる醜の魔神を吹き払ひ 清めたまひし尊さよ心の闇は晴れ渡り 元つ御霊に嬉しくも立ち帰りたる吾なれど 一度魔神に汚されし吾身体を如何にせむ 寄辺渚の捨小舟取りつく島もなく涙 いづれに向つて吐却せむサガレン王の御心は 仮令吾等を許すとも重ねし罪の吾が体 如何でか元に帰るべき妾は是より聖城を 後に眺めて葦原の瑞穂の国を隈もなく 風雲雷雨をしのぎつつ三五教の御教を 開きて世人を善道に導きまつり皇神の 恵の露の万分一報いまつらむ吾心 許させたまへ天津神国津神達八百万 国魂神の御前にケールス姫が誠心を 誓ひて願ひ奉るあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と謡ひ終り、恥かしげに片隅に身を潜めて蹲まり居る様、人の見る目も哀れげに感ぜられ、一同は期せずして同情の涙にかき暮れにける。 (大正一一・九・二四旧八・四加藤明子録) |
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霊界物語 | 66_巳_オーラ山の山賊 | 02 祖先の恵 | 第二章祖先の恵〔一六八四〕 デカタン高原の大暴風は岩石を飛ばし樹木を捻倒し、棟の低い此家迄もキクキクと梁を鳴らしてゐる。併し乍ら老婆のサンヨは日課の如く吹き来る大風に馴て少しも意に介せず、前後左右に揺れる家の中に平然たるものであつた。照国別、照公、梅公、タクソン、エルソンは車坐となつてバラモン軍の荒したる跡の実況談につき問答を始めてゐた。 梅公『何とマア素敵滅法界に強烈な風が吹くぢやないか。お婆さま、お前さまはこんな風が吹いても平然としてゐるが、恐ろしい事はないかい』 サンヨ『此風はデカタン高原の名物で厶います。年に一度や二度は家も空中に吹き上げるやうな強風が吹きます。それ故、何れの家も地下室を掘り避難する事になつてゐます。こんな風はまだまだ宵の口です。それよりも恐ろしいのはバラモンの風で厶います』 梅公『フン、非常な風の荒い国だな。之が所謂風国強塀と云ふのだらう、アツハヽヽヽ』 照公『バラモン風と云ふのは、どんな風が吹くのですかな』 サンヨ『ジフテリヤよりもインフルエンザよりもひどい風で厶います。家を焼き、財物を奪ひ、人家へ這入つて女房や娘の嫌ひなく、皆何処かへ、攫つて行く鬼風で厶いますよ。何よりも、かよりも、之位恐ろしい風は厶いませぬ』 梅公『成程、弱味につけ込む風の神と云ふ謎だな。これこれタクソンさま、エルソンさま、バラモンの嵐の跡の実況を聞かして下さらないか。吾々にも対抗策があるからなア』 タクソン『ハイ、お尋ねなくとも逐一事情を申上げ、お助けを乞ひ度いと思つてゐた所で厶います。私の妻はミールと申しますが、まだ二十才の花盛り、数日以前にバラモン軍が此里に駐屯致し、老若男女を縛り上げ、一切の食料や金銭等を奪ひ、私の女房なり、村中の綺麗な娘と見れば全部掻ツ攫へて参りました。それのみならず、之から数里隔てたオーラ山の山続き、シノワ谷と云ふ所には馬賊の団体が数千人割拠して、時々遠近の村落に入り来り、金品を徴発し、女房娘の嫌ひなく皆掻ツ攫へて参りますので、吾々人民は一日も枕を高くして眠る事が出来ないので厶います。シノワ谷の馬賊を退治して下さるかと思へば、バラモン軍の大足別は馬賊に勝る悪逆無道、吾々バラモン信者は最早生活の途もきれ、塗炭の苦みを嘗め、不運に泣いて居ります。どうか三五教の御神徳によつて、此苦難を免れさして頂きたう厶います』 梅公『先生、聞けば聞く程気の毒ぢやありませぬか。現、幽、神の三界を救済すべき吾々宣伝使として看過出来ないぢやありませぬか。アヽ血は湧き腕は躍る。愈自分の活動舞台が開かれたやうぢや厶いませぬか』 照国『成程、お前のいふ通りだ。愈真剣に自分等の活動すべき舞台を与へられたのだな。併し乍ら梅公、あまり事を軽率にやつては失敗するから、ここは一切万事を神様にお任せして、徐に神策を進めて行くのが万全の策だらうよ』 梅公『成程、御尤千万、水も漏らさぬ貴方のお考へ。併し乍ら此惨状を聞いては、余り泰然自若と済まし込んでる訳にも行かぬぢやありませぬか。オイ、タクソン君、君も掛替のない一人の女房をバラモン軍に掠奪されて男らしくもない涙をこぼしてゐるよりも、どうだ、俺の家来となつて女房奪回戦に参加する気はないか。精神一到何事か成らざらむやだ。お前に信仰と熱心と勇気とさへあらば、キツト此目的は達し得られるだらうよ』 タクソン『ハイ、有難う厶います。併し乍ら女房を取られたと云つて男の目から涙を流してゐるのぢやありませぬ。天下万民の為涙を濺いでゐるのです』 梅公『ハヽヽヽヽ、ヤア大きく出よつたな。さうなくては男子は叶はぬ、見上げた男だ、愈気に入つた。梅公別の弟子にしてやるから、吾輩の云ふ事を忠実に守るのだよ』 タクソン『イヤ、有難う厶います。併し乍ら私は先生の家来にして頂きたいのです。貴方には先生があるでせう』 梅公『先生は余り御神徳も高く智慧証覚の程度も、お前とは非常に距離があるから、直々のお弟子には勿体ない。罰が当るぞ。それより身魂相応の理によつて俺の弟子にしてやる。神は順序だからな。順序を離れて神もなく道もない。なア先生、暫く私の直接の弟子にしても宜いでせう』 照国『信仰は自由だ。兎も角タクソンさまの意志に任すがよからう。相応の理によつてなア』 照公『ハヽヽヽ、オイ梅さま、どうですか、先生のお目から見れば君とタクソン君とは甲乙の区別がつかないやうだよ。バラモン教で余程魂が研いてあると見へて、どこともなしに面貌に光が輝いてゐるやうだ。流石先生は偉いわい』 梅公『そんなら、タクソン君、君の意志に任す。オイ、エルソン君、君は相応の理によつて僕の弟子にしてやる。満足だらうなア』 エルソン『ハイ、御親切に有難う厶います。併し乍ら私は年は若うても、神様のお道は聊か、学んで居りまする。仮令バラモン教でも誠の教には二つは厶いますまい。私はタクソンと竹馬の友で厶いますから、行動を共にする考へです。何卒貴方は教の道の兄弟となつて下さいな』 梅公『ハヽヽヽヽ、偉い馬力だな』 照公『又梅公、凹まされたのか、それだから「吾程のものなきやうに思うて偉さうに申してをると、スカタン喰ふぞよ」と御神諭にお示しになつてゐるのだ。梅え事考へて居つても、さう梅え事には問屋が卸さないよ。マア此度は御両人の兄弟分となつて仲良く神業に奉仕するがよからう。俺達は少しも乾児は欲しくない。兄弟分が欲しいのだ』 梅公『親分、乾児の関係ならば、マサカの時には命令が行はれ秩序整然と、物事の埓があきよいが、兄弟と云ふものは水臭いものだよ。「兄弟は他人の初まり」と云ふからな』 照公『馬鹿云ふな。「兄弟は他人が初まり」と云ふのだ。他人同志が寄つて兄弟の約束を結ぶのだ。それで特に義兄弟と云ふのだ。四海兄弟も、ここから初まるのだ。兄弟力を合せて弱小な団体も遂には強大となるのだ。あゝ強大なるかな強大なるかな。兄弟(鏡台)は所謂鏡の台だ。互に勇み交して短所を補ひ長所を採り、悪を去り善をとり、神業に奉仕するのが所謂四海兄弟、天下同胞の義務だよ』 梅公『イヤ、重々の御説法、豁然として白蓮華の咲き香ふが如く、胸中の新天地が開けたやうだ。そんなら之から吾々四人は親友兼兄弟となつて、世界の善悪正邪を明かに裁く所の鑑とならうぢやないか。国公は親子対面の嬉しさにアーメニヤに帰つて了ひ、三人の兄弟が二人になつて、稍寂寥の気分にうたれてゐた所だ。ここに天より二人の補充兄弟を与へられ、愈四魂揃うて轡を並べてハルナの都へ進軍と出掛ようかい』 婆さまは勝手覚へし家の中、真黒気に燻つた土瓶に白湯を沸かし、天然竹を切つた其儘の竹製の茶碗に湯をなみなみと注いで一行に饗応し、裏の瀬戸口に枝もたわわに実つてゐた棗の実をむしり来り、 サンヨ『折角おこし下さいまして、何のお愛想も厶いませぬ。之は此里にて有名な棗で御座いますが、此間バラモン軍がやつてきて大方拗りとりましたが、僅か残つてゐるのを、浚へて持つて参りました。何卒お食り下さいませ』 照国別一行は、 『美事な大きな棗だ。頂戴しませう』 と各自に舌鼓を打つて食ひ初めた。 梅公『何と、うまい果物だな。種は小さく実は大きく、まるつきり林檎を喰つてるやうだ。婆さま、此村には此棗は沢山あるだらうなア』 サンヨ『ハイ、此村の名物で厶いますが、今年は余程不作で厶いました。併し乍ら二人や三人の年中の食料は、どうなり、かうなり続けるで厶いませう』 梅公『天然の恩恵だな。肥料もやらず世話もせず、神様から実らして下さる実を勝手に食はして貰つていいのか。それでは、あまり冥加がよくないだらう。人間が遊惰になるのも無理がないわい』 サンヨ『此棗はコーラン国から取寄せたもので厶いまして、此村にも余り沢山は厶いませぬ。さうして日々虫取りに骨を折らねば、一日油断すれば其虫が繁殖して葉を一枚も残らず噛んで了ひます。葉が無くなれば木が枯れるのです。仲々油断は出来ませぬよ。仲々生活は楽ぢやありませぬ』 梅公『さうかな、ヤツパリ天然に生える果物でも世話が要るものかいな。其代り肥料は要らないだらう。此辺は地が肥てゐるから』 サンヨ『此棗を頂く家は祖先の恩恵によるのです。さうですから、余り何処にも、沢山はありませぬ』 梅公『祖先の恩恵と云ふが、其祖先と云ふのは神様を指して云ふのか、或は此家の祖先を云ふのか。世の中の人間は何れも神祖、人祖の恩恵を受けないものはない筈だ。此棗に限つて先祖の恩恵とは、チツト受け取れぬぢやないか』 サンヨ『此棗を植る時には犠牲が要ります。私の大祖先は子孫を愛する為めに自分の腹を切り、その血潮を根に染め、肉体は木の根に葬らせ、祖先の霊肉共に此棗の肥料となり、万古末代子孫安楽の為に守つて下さるのです。それ故、此棗は生命と申しまして、あまり沢山は厶いませぬ。今お食りに成つたでせうが此棗は酸ぱくて甘いでせう。之は人間の血液や肉の味で厶います。吾々は祖先の血を啜り、肉を食べて安全に暮してゐるのですから、云はば、あの棗は先祖の肉体も同様で厶います』 梅公『何と先祖の恩と云ふものは尊いものだな。吾々の祖先も国を肇め徳を樹て、道を開き、子孫を安住させむ為苦労をして下さつたのだ。三五の教も実の所は祖先崇拝教だ。人類愛の神教だ。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と、流石、洒脱な梅公も思はず知らず感涙に咽んでゐる。 照国別『遠津御祖、神の恵みは雨となり 土となりてぞ子孫をば救ふ。 親々の恵みの露に生き乍ら 親を忘るる邪神もあり。 親の恩忘れし時は身も魂も 亡びに向ふ初めなりけり』 サンヨ『春夏の別ちなくして此棗 実るも祖先の恵みなりけり。 親々の恵忘れし酬いにや 今日の歎きの身にふりかかる。 今よりは心の柱樹て直し 祖先の祭厚く仕へむ』 梅公『村肝の心一度に開け行く 白梅の花咲き初めてより。 梅林檎棗の味も皆同じ 主の大神の恵なりせば』 照公『此家の祖先の恵を居ながらに 受けし吾等は神の賜物。 親々の踏みてし道を辿りつつ 世の犠牲にならむとぞ思ふ』 タクソン『吾家にも祖先の恵の棗あり いざ之よりは詫言やせむ。 御恵を忘れ果てたる酬いにや 吾恋妻は攫はれにけり』 エルソン『吾恋ふる妹は枉霊に奪はれて 袖の涙の乾く間もなし。 如何にして姫の所在を探らむと 只思ふより外なかりけり』 タクソン『御一同様に申上げ度う厶いますが、此タライの村の里庄ジャンク様の娘、スガコ姫は絶世の美人で厶いますが、バラモンの軍隊が出て来る数日以前に、何者にか掻攫はれ、今迄行衛が分りませぬので、ジャンク一家の歎きは一通りぢや厶いませぬ。私もジャンク様の家の子として、先祖代々仕へてゐますが、家の宝をとられ、嬢様の行衛を探す暇もなく、女房の行衛について頭を悩めてゐます。何卒貴方のお伴となつて、嬢様や女房の行衛を探し度う厶いますが、どうか、お伴にお加へ下さいますまいか』 照国『委細承知しました。御心底お察し申します。何事も神にお任せなさいませ』 タクソン『ハイ、有難う厶います。之で私も甦つたやうな心持が致します』 エルソン『先生、私もお願ひ致します。何卒、お伴にお引連れを、強つてお許し下さいませ。私は独身者で御座いますから、家に系累もなく宣伝使のお伴には最適任者と存じます』 照国『よしよし、お前も一緒に来るがよからう』 梅公『オイ、エルソン君、君は何だか心に秘密を抱いてゐるやうだな』 エルソン『ハイ、私も相思の女が厶いました。その女の行衛を尋ね、此お婆さまに会はして上げねばなりませぬ』 梅公『ハヽヽヽヽ、さうすると当家の妹娘と以心伝心とか、相思とか、の経緯があるのだな。これ、お婆さま、あなたは此エルソンに娘を与らうと云つたのですか。さいぜん、私に娘の身の上を依頼すると仰有つたでせう』 サンヨ『ホヽヽヽヽ油断のならぬのは娘で厶います。何時の間にか此エルソンさまと親に秘密で約束をしたのかも知れませぬ。宅の娘は年をとつても子供だ子供だと思つてゐましたが、油断のならぬのは娘で厶います。これこれエルソンさま、お前は娘の花香と何か約束でもなさつたのかい』 エルソン『ハイ……イーエ……エー……まだ予定で厶います』 サンヨ『お前さまの方で定めてゐるのだらう。娘の花香はお前さまから一回の交渉も受けてゐないのだらうなア』 エルソン『花香さまに対し、どうせう、こうせう(交渉)と胸を痛めてゐる最中、お行衛が分らなくなつたので、私も憤慨の極に達し、おのれバラモン軍、吾愛人の仇だ仮令天を駆り地を潜る妙術、彼にありとも恋愛至上の真心は金鉄も熔かす勢ひ、あく迄も花香様を奪ひ回し、私の赤心を買つて貰ふ考へで厶います。どうかお婆さま、私が花香さまを無事に連れて帰りましたら、その御褒美として当家の養子にして下さるでせうな』 サンヨ『ホヽヽヽヽ何とマア抜目のない男だこと、仲々お前さまも隅には置けませぬわい』 梅公『ハヽヽヽヽそれで一切事情が判然して来た。世の中には変則的恋愛に熱中する連中もあるものだな。オイ、エルソン君、それだけの熱心があればキツト成功するよ。実の所は俺がお婆さまの委託を受け、舐つて喰はうと焚いて喰はうと自由自在との事だつたが、それ丈けお前に執着心があるのを聞くと、何だか俺も君の心理情態が憐れになつて来た。僕は花香姫に対する一切の権利を君に譲渡するよ。なアお婆さま、それで宜いでせう。云はば生死不明の美人を托されたのだから、お婆さまだとてエルソンさまの女房にするのに不足はありますまい』 サンヨ『エルソンさまも村中の褒めものなり、模範青年と云はれて居るから、キツト娘も喜ぶでせう。此事については私は何も申しませぬ、梅公さまにお任せ致します』 梅公『比較的開けたお婆さまだ、いや感心々々。これお婆さま、之から三五の神様の教も聞きなさい。然しバラモンの神様を捨てよとは云はないからなア』 サンヨ『ハイ有難う厶います。貴方等の吾家においで下さつたのをいい機会として、今日から信仰に入れて頂きませう』 タクソン『もし宣伝使様、どうかお邪魔でも厶いませうが、一度私の主人と会ふため、里庄の宅へお立寄下されますまいか。里庄はキツト喜ぶで厶いませうから』 照国『里庄の宅も嘸御心配して厶るだらう。兎も角お尋ねする事にしよう。さア一同出立の用意をなされ……、イヤお婆さま、永らくお邪魔を致しました。もう大丈夫ですから御安心なさいませ』 と言葉を残し里庄の宅に向つて宣伝歌を歌ひ乍ら進み行く。老婆サンヨは杖にすがり乍ら門の外迄見送り、名残惜しげに一行の姿の見えぬ迄見送つてゐた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一三・一二・一五旧一一・一九於祥雲閣北村隆光録) |
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霊界物語 | 67_午_ハルの湖/タラハン国の国政改革1 | 余白歌 | 余白歌 天国に吾籍ありとほこりつつ地獄にあるを知らぬ人あり〈序文(初版)〉 吾みたま地獄にありと悲める心は既に天国にあり〈総説(初版)〉 恋すてふことの天地の罪ならば世は曲津みの棲家とならむ〈総説(初版)〉 世の中に恋てふもののなかりせば平和の風は永遠に吹かまじ〈総説(初版)〉 恋愛を口にするさへ嫌ふといふ人は偽善の権化なりけり〈総説(初版)〉 誰も彼も竝べて愛する吾心をあやしと譏る人ぞいやしき〈第1章(初版)〉 村肝の心の底に光あらばすべての人を神と見るなり〈第1章(初版)〉 村肝の心くもれば世の中の人をことごと悪魔とぞ見る〈第3章(初版)〉 吾為せる太しき神業も現世の智慧に長けたる醜業と見る〈第4章(初版)〉 いかめしき掟をつくり世の人をおどせし宗教の終りはきにけり〈第5章(初版)〉 天地の神の功績は世の人を裁くにあらず救ふのみなる〈第5章(初版)〉 閉ざされし天の岩戸を開かむと伊都能売の神天降りましけり〈第5章(初版)〉 厳御魂瑞の御魂の開きたる大道にさやる醜の曲鬼〈第5章(初版)〉 祥き事の重なり来るか白鳥の空をかすめてわがやかた守る〈第6章(初版)〉 神に生き又恋に生き花に生き希望に生きて百年生きむ〈第7章(初版)〉 心なき人に語るな神秘なる貴の教の片端だにも〈第9章(初版)〉 何事も神のみむねに任すより人の践むべき良き道はなし〈第9章(初版)〉 世のために心を尽すわが身をば色眼鏡にて見る人ぞ憂き〈第11章(初版)〉 三五の月をながめて思ふかな生れたる日の夜の光を〈第11章(初版)〉 三五の月の光を友として辿り行かなむ道の奥処へ〈第12章(初版)〉 天地の神の恵みの雨降りぬ世に汚されし吾洗ふために〈第15章(初版)〉 黄金の玉を守れる五男神早く来よかし天恩郷へ〈第17章(初版)〉 苅薦の乱れし世をば正さむと伊都能売の神現れましにけり〈第17章(初版)〉 天国の柱は半ば立ちにけり後の六柱立つ日待たるる〈第18章(初版)〉 天国もまた霊国も神柱やうやく半ば立ち初めにけり〈第18章(初版)〉 天国を恐れて去りし醜人の今八衢に迷ふ魂あり〈第19章(初版)〉 天国の大神人を知らずして醜の曲霊に罪人迷ふ〈第19章(初版)〉 霊国の大御柱の一日も早く建てかし遷り行く世に〈第21章(初版)〉 只一人唯吾れ一人世のために独り立ちつつ一人を思ふ〈第21章(初版)〉 天国の十二の柱立たむまで霊山会場は淋しかるらむ〈第21章(初版)〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました] |
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霊界物語 | 71_戌_玄真坊と千種の高姫 | 05 転盗 | 第五章転盗〔一七九四〕 玉清別夫婦は神の子、玉の子と共に、まだ夜のあけぬ中から神殿の大掃除をなし山野の供物を献じ祝詞を奏上してゐる。 『高天原の聖場に元津御祖の大神の大神言もちて、天かけり国かける天使八百万神集ひに集ひます、東の都は日出る国の御名も高き、いと清々しき小雲の川を囲らせる綾の聖地の八尋殿、又西の国に至りては、パレスチナの国の御名も高きエルサレムの都、オリブ山の頂きに宮柱太しく立てて鎮まります厳と瑞との二柱従ひ玉ふ神使朝夕に天かけり国かけりまし、ウブスナ山の聖場には神素盞嗚の尊、常磐堅磐に御あとを垂れさせ玉ひ、四方の青人草は云ふも更なり、草木虫族の端に至る迄、恵みの露を垂れさせ玉ふ尊き清き大御心を拝み奉り、朝な夕なに此神床に厳の御魂を斎き奉りて仕へまつる事の由を、いと平けく安らけく聞召し相諾ひ玉ひて、バラモンの枉神に退はれたる三五の神柱玉清別をして、再び世の光となり、塩となり、花ともなりて、天晴大御神の大神業に仕へ奉らしめ玉へ、仰ぎ願はくばこれの家内をして諸々の枉事、罪穢あらしめず、日々の業務を励み勤めて、ゆるぶ事なく、怠る事なく、神谷の村の鑑として常磐堅磐に臨ませ玉へと畏み畏み祈願み奉らくと申す。三五の大神守り玉へ幸はへ玉へ、惟神の御魂幸へましませ』 と祝詞を終り、庭園を親子四人連れ新空気を呼吸すべく逍遥し初めた。 バルギーはダリヤ姫が寝息を窺ひ、ソツと裏口よりかけ出し、何処かの家へ忍び込み、沢山な黄金をせしめてダリヤ姫を驚かせ歓心を買はむものと無謀にも飛び出して了つた。 ダリヤ姫は玉清別が祝詞の声にフツと目をさまし、慌てて手水を使ひ神殿に簡単なる祝詞を奏上し、終つて吾居間へ帰り、クラヴィコードをいぢつてゐると、其処へ玉清別夫婦が襖を静に押しあけ、入り来り、 玉清『ダリヤ様、お早う御座います』 玉子『朝も早うから丹精な事で御座いますな、ほんとうに御手際がよく冴えてゐますワ』 ダリヤはクラヴィコードを床に直し、一二尺後しざりし乍ら丁寧に両手をつき、 『これはこれは御主人様、奥様、お早う御座います。いかいお世話に預りまして誠に申訳が御座いませぬ』 玉子『姫さま、何を仰有います、此処は神様の家、お世話さして頂くのは神様への御奉公で御座います。御礼を申されましては却て困ります、何卒気を使はずにユルユル御逗留下さいませ』 ダリ『ハイ、有難う御座います。お言葉に甘へて、ユツクリとお世話に預つて居りまする』 玉清『然しダリヤ様、貴女のおつれになつたバルギーとか云ふ方は、何処へ行かれましたか御存じでせうなア』 ダリ『ハイ、夜前、妾のクラヴィコードをお聞きになり、直おやすみになつたやうに思つてゐますが』 玉清『ハテ、姫様は御存じがないのですか、今朝からお姿が見えないのですよ』 ダリ『ハ、左様で御座いますか』 と平然としてゐる。 玉清『姫様、一寸お伺ひ致し度いのですが、あの男の素性は御存じで御座いませうね』 ダリ『あれはバルギーと申しまして、タニグク山の泥棒の岩窟に小頭をやつてゐましたのだが、妾が、昨夜参つた玄真坊と云ふ妖僧にそそのかされ、泥棒の岩窟に囚れどうかして逃げ度いと考へ、悪僧の酒に酔ふたのを幸ひ、あのバルギーを色を以てちよろまかし、うまく虎口を逃れたので御座います。まだ家にかへる迄道程も御座いますので、腹の悪い事と知りながらスガの里にかへる迄、何とか彼とか申して送らしてやらうかと考へ、道連れになつてるので御座います。実の処は実際の事を御夫婦様に打ち明け度いと存じましたが、バルギーが何と云つても側を離れないので申上げる機会を得ずに居りました。御夫婦様は妾が悪い男を連れてゐると、さぞお蔑みで御座いませうが、右のやうな次第で御座いますから何卒宜しくお願ひ申します』 玉清『いかにも、吾家へお訪ねになつた時から妙な夫婦だと思つて居ました。どうして、まあ、貴女のやうな淑女と泥棒面の三品野郎と御夫婦で旅行されたのか、まるつきり……木馬嘶いて石女が子を産むやうな話だ……と云つて家内と囁いてゐた処で御座います。ヤアそれ聞いて安心致しました。彼のバルギーは、最早此処へは帰つて来ますまい、キツト吾々夫婦がお宅迄送つて上げますから御安心なさいませ』 ダリ『如何して又、あのバルギーが此処へ帰らないのでせう、貴方に送つて頂けばあのやうな危険な者に道連れにならずによいから一安心ですが、彼は又何かよからぬ事でも致したので御座いますか』 玉清『エー、彼は昨夜深更に、村内の杢兵衛が家に覆面頭巾で暴れ込み、家族をフン縛り、金銭を残らず奪ひとり逃げ出す途端、門口の深井戸に落ち込み、バサバサと騒いで居つた所、不寝番が見付け出し、井戸より引き上げ彼を引縛つて、杢兵衛の家に、つないであるさうで御座います。今の先不寝番からさう訴へて参りました』 ダリヤはビツクリし乍ら、 『エー、何とマア悪い奴で御座いますな、忽ち天罰が報ふて来て吾と吾手に深井戸に陥込んだので御座いませう。然し乍ら泥棒とは云へ、此山阪をタニグク谷から此処迄送つて来てくれた男、見捨てておく訳にも行きませぬから、一目会はして下さいませぬか。彼に誠の道を説き聞かせてやり度う御座いますから、それとも村の掟で御成敗なさるのなら是非は御座いませぬ』 玉清『此村は三十三戸御座いまするが、何れも三五教の信者で、人間を裁くと云ふ事を致しませぬ。誠の道を説き聞かせて、この村外れまで送り追放する事になつて居ります。幸ひ姫様が御訓戒を与へて下さる事なら、彼も満足するでせう。然らばこれへ連れ参りますから』 ダリ『ハイ、お邪魔乍らさう願へれば結構で御座いますが』 玉清『然らばこれから不寝番に申付け、此処へ引張つて参りませう。暫くお待ち下さい』 と云ひ乍ら足早に出でて行く。 玉子姫も夫の後に従ひ軽き目礼を施し乍ら吾居間へと帰り行く。あとに残つたダリヤ姫は悪人とは云ひ乍ら、何処ともなしに憐れを催し、如何かして彼の心を改めしめむと、クラヴィコードを弾じ乍ら神に祈つてゐる。 『天と地とのその中に生きとし生ける物は沢あれど 神の形に造られし人は霊の子霊の宮と云ふ そも人生の行路を尋ぬれば川瀬の水の流るる如く 朝夕に変り行く浮きつ沈みつ倒けつ転びつ又起きつ 人生の波を渡り行く善きも悪しきも押なべて 何れも人は神の御子なすべき業は沢あれど 人の宝を掠めとり月日を送る人こそは 人にして人に非ず人の皮着る獣ならめ バルギーだとて生れついての盗人には非ざらめ 浮世の波に襲はれて聞くも嫌らし盗人の 群に入りたる事ならむ人の情は彼も知る 吾を慕ひて山阪を此処迄送り来りしは 恋とは云へど一片の誠心の輝きあればこそ スガの港に至りなば悪しき心を改めて 真人にならむと誓ひたるその舌の根の乾ぬ間に アヽあさましや人の子の家に忍びて黄金を 盗む心は何事ぞや吾身を恋ふるその余り 黄金の宝を奪ひとり吾歓心を買はむとや 扨もあさましの心かな三五教の大御神 彼が心に光明を射照り通らせ片時も 早く真人の群に入り生きて此世の用に立ち 死しては神の常久にあれます国に上り行き 永久の生命を楽しげに送らせ玉へ惟神 バルギーの男の子に相代りダリヤの姫が真心を こめて祈願み奉るあゝ惟神々々 恩頼を垂れ玉へ恩頼を垂れ玉へ』 かかる所へ村人の声ガヤガヤとバルギーを引立て乍ら門口に送つて来た。 バルギーは庭の植込の中に蹲み乍らダリヤ姫に合はす顔なしと、顔をも得あげず落涙してゐる。ダリヤ姫は庭下駄を穿き、ツカツカと其側により、扇子もて二つ三つ彼の頭を軽く打ち乍ら、涙の声を張り上げて、 『これ、バルギーさま、お前さまは、妾に改心したと云つた事はスツカリ嘘だつたのですね、何と云ふあさましい事をなさいました。世の中に為す業は沢山あるに、夜陰に紛れて人様の家に忍び入り悪虐無道にも人を括り上げ嚇し文句を並べ立て、汗や膏で貯へた金を盗らうとは実に男子の面汚し、何と云ふ悪魔が貴方に魅つたのでせう。妾は貴方のやうな方と例令三日でも道連れになつたのが残念で御座います。然し妾も貴方にお断り申さねばならぬ事が御座います。三五教のピユリタンであり乍ら如何かしてあの岩窟から身を逃れむと、今迄心にもない事を云つて貴方を騙つてゐました。決して私は貴方に恋慕してはゐませぬ。腹の底をたたけば、いやでいやで堪らないのですよ。然し乍ら、スガの里へ帰るまで貴方をうまく利用せうと思つた私の罪、幾重にもお詫を致します。お前さまが此村へ来て赤恥をかくのも、ヤツパリ私があつたため、私が悪いのです。どうぞ只今限り心を改めて真人間になつて下さいませ。そして又スガの里の方へでもお越しになりましたら、どうぞ吾家へ訪問して下さいや。此村は三五教の信者で、人のよい方許りだから貴方の罪を許して下さるさうですから、サア早くどつかへおいでなさいませ。必ず必ず道で悪い事をなすつちやいけませぬよ。これは少し許りですが路銀に使つて下さい』 と襟に縫ひこんであつた小判を一枚とり出しバルギーの懐に捻ぢこみ、『左様なら』と云ひつつ、しやくり泣きし乍ら与へられた吾居間へと帰り行く。村人はムラムラとバルギーの周囲をとりまき、青竹持つて大地を叩き乍ら、 『サア立て、帰れ』 と後をおつたて、村外れをさして送り行く。 玉清別夫婦はヤツと胸を撫で下し、再びダリヤ姫の居間に入り来り、 玉清『ダリヤ様、貴女の見上げたお志、側に聞いてゐた吾々二人は心の底から泣かされましたよ。あの御訓戒によつてバルギーも改心するで御座いませう』 ダリ『ハイ誠に赤面の至りで御座います。バルギーさまが、あのやうなザマになつたのも、もとを訊せば私が悪いので御座います。お館に迷惑を掛けて相済みませぬ。穴でもあればもぐり込み度いやうな気分が致します』 玉子『何仰有います、ダリヤ様、貴女の立場としては、時と場合によつて、バルギーを騙しなさるのも止むを得ませぬ、何事も皆神様のなさる業で御座います。然し乍ら天真坊と云ふ奴、途中に待ち受け、どんな事をするかも知れませぬから、二三日逗留なさつてお帰りなさつたら安全で御座いませう。その時は、屈強な村人を二三人つけて送らせますから御安心下さい』 ダリ『何から何まで、お世話になりまして誠に有難う御座います。何分宜しくお願ひ申します』 (大正一四・一一・七旧九・二一於祥明館北村隆光録) |
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霊界物語 | 72_亥_スガの港(宗教問答所) | 17 六樫問答 | 第一七章六樫問答〔一八二六〕 懺悔生活の偽君子、スコブッツエン宗の教祖と名乗る妖僧キユーバーはダリヤ姫に対する恋衣のすげなくも破れしより、もとより心の汚い便所掃除、糞度胸を据ゑ、捨台詞を残して問答所より屁の如く消え去つた。あとはヨリコ、花香、ダリヤの三人、何程女丈夫でも男の受持つべき掃除は永く続かないとて、薬種問屋の主人イルクに掛合ひ門番のアル、エスを臨時掃除番として、手伝はしむることとなつた。朝も早うから、新参者の掃除番はキユーバー、ダリヤが奮戦苦闘の古戦場、上雪隠の掃除しながら、 アル『オイ、エス、主人の言付だから是非もなく、エースと云つて返事はしたものの、本当に糞忌々しい、バカ臭い目に遇ふぢやないか、エー、これだから人に使はれるのは辛いと云ふのだ』 エス『何程辛いと云つても仕方がないぢやないか、何一つ人に勝れた芸能がアルと云ふでもなし、雪隠の虫のやうに、ババの尻斗り狙つてゐるやうな事で、気の利いた大役も勤まりさうな事がないぢやないか。いつも雪隠と云ふやつは、紛擾の種を蒔く奴だ。昨日もスコブッツエン宗の小便使、キユーバーとかキユーフンとか云ふ糞坊主がダリヤさまに糞糟にこきおろされ、犬の糞のやうに云はれ、終ひの果にや糞然として屁つ放り腰で雲を霞と逃げ散つたりと云ふ為体、その跡釜に据ゑられた俺達アまるつきり雪隠虫だ、然し雪隠虫だつて落胆するにや及ばないよ、少時糞壺の中でウヨウヨしてる間に羽が生え、立派な金襴の衣を着けて、金蠅となり、ヨリコ姫の頭へでも止つて糞小便を放りかけるやうになるのだからのう』 アル『門番も今日はお尻の門番と 成り下りけり糞忌々し。 仰ぎ見て穴恐ろしと雪隠虫 泣くに泣かれぬ糞を被りつ。 世の中の臭い味ひしりの穴 やがて羽衣着くる雪隠虫。 金襴の衣まとへば糞虫も 人の頭にとまり糞放る』 エス『ヨリコ姫ダリヤとしり(知)合の穴なれば 肥え(光栄)ならむと糞虫云ふらむ。 美はしき乙女の尻はよけれども 糞婆の尻いと臭きかな。 天香は雪隠空しうせぬと云ふ 日に三回の飯礼ありせば』 斯く話してゐる所へヨリコ女帝が盲腸、結腸、直腸辺りの大清潔法を施行すべく、やつて来た。アルはこれを見て、 アル『あな尊とひしりの君の御降臨 アルにあられぬ恥を見しかは』 ヨリコ『雪隠と云ふ字は雪に隠るなり 白妙の衣まとふ糞虫』 エス『白妙の衣をまとひて糞虫は 黄金の餌朝夕に喰ふ』 ヨリコ『アル、エスの二人の君よ心して 黄金仏にならぬやうにせよ』 アル『アル望み抱へし吾は糞度胸 すゑてかかりぬ便所掃除に』 エス『アル望みなどとしり顔するでない 糞奴めがいばり散らすな』 ヨリコ『アル、エスの二人の君よ今少時 はばかり玉へ吾帰るまで』 アル『はばかりの掃除はすれどこの男 はばかり乍ら腕に骨あり』 エス『えらさうにしり顔なしてブツブツと 口先過ぎてババ垂れるなよ』 両人はヨリコ姫の用を足す間、便所遠く庭の隅のパインの下にクルツプ砲の難を避けた。 アル『いか程に容姿美はしき女帝さへ 下から見れば愛想やつきむ』 エス『裏門を開いて出づる兵卒の ラツパの声も勇ましきかな』 アル『バカ云ふなばば垂れ腰を眺めたら かたい約束も小便し度くならむ』 エス『草木もゆる谷の流れをピユーピユーと 鵯越の進むよしなし。 谷の戸を開いて出るは鶯の 声ならずして鵯の声』 アル『思うたよりヨリコの姫の長雪隠 心短き俺は堪らぬ』 エス『こんなことヨリコの姫に聞えたら 糞腹立てて尻や持て来む。 何事も皆しりの穴ヨリコ姫 尻もて来れば猫婆きめる。 猫婆をきめる積りでキユーバーが 便所掃除請合しならむ。 こつぴどくこき卸されて糞腹立て 糞垂れ腰の糞坊主去ぬ』 ヨリコ姫は便所から、しとやかに出て来た。アル、エスは先を争うて手洗鉢の前により、柄杓の柄をとり水を無暗矢鱈にかけながら、 アル『弁天の化身のやうな女帝様の お手洗ふさへしやくの種なる』 エス『このやうな美人を妻にする男 面見るさへも小しやくにさはる』 ヨリコ『八尺の二人の男が漸くに 五勺許りの水を呉れたり。 雪隠の掃除も神の御恵みよ 天香さまの出世見給へ』 アル『何程に出世したとて何時迄も 尻掃除とはバツとしませぬ』 ヨリコ『左様ならアルさまエスさま別れませう 又明日の朝会ふを楽しみに』 と云ひ乍らヨリコ姫は吾居室に帰つて行く。 ○ ヨリコ姫、花香、ダリヤ、アル、エスの聯合家族は食堂に集つて四方山の話に耽り乍ら朝飯を喫してゐると、表の玄関に向つて甲走つた女の声が聞えて来た。 高姫『ハイ、御免なさいませ、一寸物をお尋ね申します。ヨリコさまと云ふ無冠の女帝さまはお宅で御座いますかな、宗教問答のためにウラナイ教の教主、千草の高姫が参りました。別に驚くやうな女ぢや御座いませぬ、第一霊国の身魂、日出神の生宮、下津岩根の大弥勒の化身で御座いますよ』 と呼はつてゐる。 ヨリコ『ホツホヽヽヽ、朝つぱらから、何処の狂人か知らないが、妙な事を云うて来よつたものだ。ダリヤさま、妾の代理となつて少時相手になつてやつて下さいな』 ダリヤ『女帝様の仰せでは御座いますが、狂者を相手にする事は真平御免を蒙り度う御座います』 ヨリ『第一線に貴女出て下さい、もしも戦況危しと見た時は第二線として花香に行つて貰ひます。その第二線が破れました時、殿として此ヨリコが大獅子吼を致しますからね』 アル『もしもし女帝様、あんな狂者にダリヤ姫さまなんか、出すのは勿体ないぢやありませぬか、先陣は私が勤めますから何卒此役目をアルに譲つて下さいませ、タカガ知れた狂者ぢやありませぬか』 ヨリコ『お前さまは決して相手になつちやいけませぬよ、いくつ位の女か一寸様子を調べて来て貰ひさへすれば宜しい』 アル『ハイ、承知致しました、オイ、エス、お前は俺の副将軍だ、ソツト後から従いて来い』 と云ひ乍ら、早くも玄関口に立塞がり、 アル『イヨー!何とマアチツト許り年はよつて居るが、ステキなものだなア』 高『これ奴さま、ナーンぢやいな、失礼な、お客さまの前で立はだかつて、挨拶一つ知らない穀潰しだな、僕のやり方を見りや大抵主人の性質が分るものだ。此下駄の脱ぎ方と云ひ、乱離骨灰、まるつきりなつちやゐないぢやないか。ヘン偉相に宗教問答所なんて、まるつきり狂者の沙汰だ』 アル『オイ、高姫とか云ふ中婆さま、人の所の宅へ出て来て、履物の小言まで云うてくれな、俺方の悪口をつくのならまだ虫を堪へておくが、天下無双の才女、ヨリコ姫女帝の悪口まで吐かすに於ては、断じて此玄関は通さない。エー糞忌々しい、婆の来る所ぢやない、屁なつと嗅いで去んでくれ』 高『ホツホヽヽヽ、お前がさう云はいでも、此高姫がヨリコ姫の膏を絞り、蛸を釣り灸をすゑ、鼬の最後屁を放らして往生さしてやるから臭い顔して待て居なさい、ド奴の糞奴め。こんなガラクタ男を使うて、えらさうに構へ込んでゐるとは誠に以て噴飯の至りだ、ホツホヽヽヽ』 アル『エー、とても、こんな気違婆は俺方の挺棒に合はない、サア第一線だ第一線だ』 と云ひ乍ら奥に飛び込み、 アル『もしもし女帝様、竹に鶯、梅に雀と云ふやうな婆が来ましたよ』 ヨリコ『ホツホヽヽヽそれは木違ひ鳥違ひと云ふのだらう、サア之から梅に雀の婆さまに向つて、戦闘開始をやつて下さい』 ダリヤ『ハイ、及ばず乍ら第一線に立ちませう、どうか後援を頼みます』 と云ひ乍ら玄関口に出た。 ダリヤ『玉鉾の道の問答せむものと 遥々尋ね来りし君はも。 いざさらば問答席へ通りまし 及ばずながら案内申さむ』 高『むづかしき歌よみかけて高姫を 困らさむとす猾さに呆れし。 兎も角も此家の奥へ踏ん込んで 狸の化の皮むいて見む』 と云ひ乍ら、ダリヤ姫に従ひ問答席についた。 ダリ『いざさらば寛ぎ給へ椅子の上に 世の悉はしりの穴の君』 高『賢しげな事を云へども何処やらに 息のぬけたる汝の顔かも。 汝こそはヨリコの姫の身代りと 吾慧眼に見えたり如何にや』 ダリ『妾こそヨリコの姫の妹よ ダリヤの花の名を負ひし姫。 何なりと問答遊ばせ立板に 水の流るる如く答へむ』 高『美はしき女にも似ず出し抜けに 大法螺を吹くしりの太さよ。 いざさらば吾問ふことに答へかし 今日こそ汝が生死の境ぞ』 ダリ『如何ならむ賢き人の来るとも 後へはひかぬ弦離れたる征矢』 高姫いかい目をむいてダリヤの姫の面上を ハツタと睨み大口を斜に開き白歯をば むき出し乍ら手を振つて演説口調で語り出す 高『お前はヨリコの妹と名乗つたからは高姫が 宣る言霊を一々に川瀬の水の流る如 答へて裁くで御座らうなよしよしそんなら高姫が 一つの問題出しませうこの世の中を造りたる 誠の神は何神か何卒聞かして貰ひませう それが分らぬやうな事で問答所の役員と云へませうか サアサア如何に』と詰寄ればダリヤはニツコと打笑ひ ダリ『如何なる難しいお尋ねと思つてゐたのに何のこと この世の御先祖は云はいでも世界に知れた厳霊 国常立の神様よこの神様は泥海を 造り固めて山川や草木の神迄生みました 吾方の誠の親です』と云へば高姫反かへり フフンと笑ふ鼻の先 高姫『三五教のトチ呆け大根本の根本の 誠の神は大弥勒底津岩根の神様よ 人間姿の分際で誠の神は分らうまい そんな下らぬ事云うて沢山の人を欺すより 早くすつこんで居りなされお前ぢや事が分らない 肝腎要の当の主ヨリコの姫を呼んでおいで 余りに相撲が違ふので阿呆らしくて話になりませぬ』 云へばダリヤはうつ向いて顔を真赤に染め乍ら すごすご立つて奥に入るつづいて出て来る美婦人は 天女に擬ふ花香姫千草の高姫見るよりも いと慇懃に会釈して静に梅花の口開き 声しとやかに『妾こそヨリコの姫に仕へたる 梅の花香と申します何卒お見知りおかれませ いかなる問答か知らねども即座にお答へ申しませう 遠慮会釈は要りませぬ何なとお尋ねなさいませ』 云へば高姫反りかへり 高『妾こそ誠の救世主高天原の霊国の 第一天人の霊魂ぞや下津岩根の大弥勒 三千世界の救世主日出神と現はれて トルマン国のスガの町天降りたるウラナイの 教の道の神柱必ず粗相のないやうに 謹み敬ひ吾言葉胸にたたんでトツクリと 考へなされよ花香さまサアサアこれから高姫が 貴女に質問致すぞや抑々天地の根本の 大根本の根本のその又根本の根本の まだまだ根本の根本の昔の昔のさる昔 ま一つの昔の又昔ま一つの昔の大昔 又も昔のその昔ドツト張込んでその昔 猿が三匹飛んで来て三千世界を掻きまはし この世に暗と明りと雨降りを来した訳は如何ですか この訳聞かして貰ひませう』云へば花香は噴き出し 花『弥勒の弥勒のまだ弥勒ま一つ弥勒のその弥勒 日の出の日の出のまだ日の出も一つ日の出のその日の出 昔の昔の大昔猿が六匹飛んで来て 一つは雪隠を掻きまはす一つは頭をかきまはす 一つは恥をかきまはす一つは借用証文書きまはす 一つはお粥をかきまはす一つはそこらをかきまはす も一つお尻をかきまはす此奴の謎がとけたなら お前さまの問題に答へませう』等と分らぬ予防線 鉄条網を張りまはし用心堅固に備へしは 流石はヨリコの妹と生れし甲斐ぞ見えにける 高姫拳を固めつつ力限りに卓を打ち 高『これやこれや女つちよ痩せ女郎そんな事云うて高姫を 煙りに捲かうとはづうづうしいお前のやうな分らない 女を相手にやして居れぬ当の主人のヨリコ姫 早く此の場へ引出せよこの高姫の弁舌で 道場破りをして見せるあゝ面白い面白い いよいよ之から正念場気の毒なのはお前達 折角建てた神館城明け渡しスゴスゴと 逃げねばならぬ断末魔いよいよこれが悪神の 世の持ち終りとなつたのだあゝ惟神々々 ウラナイ教の御神徳今更感じ入りました』 花香姫は高姫のあまりの強情に呆れ果て、暗に打ち出す鉄砲玉に持てあましつつ匆々としてヨリコの居室に駆け込んで了つた。 (大正一五・七・一旧五・二二於天之橋立文珠なかや別館北村隆光録) |