| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
|---|
|
141 (2561) |
霊界物語 | 52_卯_小北山の文助の改心物語 | 14 天賊 | 第一四章天賊〔一三五〇〕 文助は悄然として黒蛇に天地四方を包まれながら、何事も神に任して驀地に進み行く。ピタリと玉子草の生えた沼に行当つた、何うしてもここを跋渉せなくては前進することは出来ぬ。黒蛇は此沼の畔まで追つかけて来たが、何うしたものか水中へは襲うて来なかつた。文助はヤツと蛇の難を遁れ一息したと思へば、此沼を渡らねばならぬ、どこ迄広いか遠いか見当のつかぬシクシク原である。そして怪しの虫が足にたかつて来て登りつき、尺取虫の様な恰好で顔の方まで這うてくる其気持の悪さ、消え入るばかりに思はれて来た。力限りに之を薙払ひ、むしつては落し、漸く顔だけは中立地帯の安全を得て進んで行くと、沢山な人間の頭が水面に浮んでゐる。よくよく見れば、自分が今迄霊祭りをしてやつた知己や朋友の霊界に行つた者及びまだ現世に居る筈の人間の顔である。文助は此時は既に目が余程明くなつてゐた。そして其声の色によつて、現界で知己となつた信者は皆悟ることを得た。真先に現はれた人間の頭は、小北山に永らく参詣し、ヘグレ神社の信者であつた久助といふ男である。 文助『オイ、お前は久助さまぢやないか、何しにこんな所に迷うてゐるのだい、結構な天津祝詞を奏上し霊祭までしてやつてあるのに、なぜこんな所にうろついてゐるのか』 久助『お前が神様の職権を横領して猪口才な霊祭をしてやらうの、天国へ上げてやらうのと慢心を致したものぢやから、天国へ行くべき俺の先祖までが、これ此通り、こんな所に堕されてゐるのだ。祝詞のお蔭で、地獄へまでは行かないが、地獄に等しいこんな沼の中で苦しんでゐるのは、皆貴様が神さま気取になつて、神様から貰うた俺たちの霊を左右致したからだ。ササ何うしてくれる、大先祖が地獄に堕ちてるから、霊祭をして高天原へ上げてやらうなどと吐きやがつて、こんな所へ押込めておいたぢやないか』 文助『ソリヤ貴様が悪いのだよ。おれが霊祭をした時にや、貴様霊媒に憑つて……お蔭で天国へ救はれた、地獄の苦を遁れました……と喜びよつたぢやないか、一旦天国へ上つて又悪を致し、こんな所へ落されたのだらう、そんな不足は聞きませぬぞや』 久助『今の宣伝使といふ奴は、皆自分が神様の気取になり、神様の神徳を横領して、平然と構へてゐる天賊だから、そんな奴の言霊が何うして大神様の耳に達するか、皆兇党界の悪霊が、貴様の声を聞いて集まり来り、俺達の先祖の名を騙り、天国へ助けてくれたの何のと、嘘を言つてゐるのだ。霊を天国へ上げるものは大神様よりないのだ、又大神様の聖霊に充された予言者のみ、之をよくするのだ。其外の宣伝使の分際として、何うして結構な神様の分霊が左右されるか、不心得にも程があるぞ。俺の子孫は貴様等盲審神者に騙されて、自分の先祖は天国へ行つて居ると云つて喜んでゐるが、子孫の供物は皆兇党界にしてやられ、可愛い子孫の側へも近づくことが出来ない様にしてしまつたのだ。お前に限らずすべての宣伝使は自我心が強く癲狂痴呆の輩だから、大それた神様の権利を代理するやうな考へでゐるのだから困つたものだ。地獄界の案内者といふのは、貴様等如き天賊的プロパガンディストの仕業だ。サア是から俺たちの先祖や知己を迷はしてくれたお礼だ、チツタ苦しうても辛抱せい。これから暫く此沼の中へ沈めてブルブルをさしてやらう。さうなとせなくちや、俺たちの虫がいえないワ、のう熊八、テル、ヨク、七、ヨツ、賢太郎、権州、さうぢやないか。お富、お竹、お夏貴様もチツと来い、此奴の為には被害者だ』 といふや否や、「ワーツ」と蜂の巣を破つたやうな声を出して、水面に各首をつき出した。数百千のゴム毬を水中に投げたやうに、円い頭が四方八方から数限りもなく浮上つて来た。 文助『今文助が言霊を奏上して助けてやらう。身の過ちは宣り直せと云ふことがある。知らず知らずの御無礼御気障りだ。神様も神直日大直日に見直し聞直して下さるだらう。これから貴様たちも、俺が宣り直しをするから浮べるだらう、マアさう一時に喧しくいふない。惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 久助『コリヤ、久助は一同の代表者だが、そんな濁つた言霊は益々俺たちを苦しむるものだ。そして言霊を奏上して救うてやらうとは何だ。まだ貴様は我が折れぬのか、ここでお詫を致せばよし、まだ我をはるのなら、此方にも考へがあるぞ』 文助『俺は何と云つても、貴様達を悪に導かうとしてやつたことぢやない、どうぞよくしてやらうと思ふから、一生懸命に霊祭をしたり、貴様達の子孫に言ひ付けて鄭重なお給仕をさしてるのだ。そんな不足は聞きたくはないワイ』 久助『此奴ア何と云つても駄目だ。オーイ、皆の連中、餓鬼も人数だ、かかれかかれ』 と下知するや、バサバサと水をもぐつて幾千万とも限りなく大小無数の頭が浮き上り、口から各真黒のエグイともにがいとも知れぬ、煙草の脂を溶いたやうな水を吹き、四方八方より襲撃する。文助は一生懸命に、早く岸に泳ぎつきたいものだと、頭に躓き乍ら目も眩むばかりになつて、殆ど二時ばかりを無性矢鱈にシクシク原の膝を没する許りの沼を漸く向岸に着いた。 後振返り見れば、沢山の首は水際まで追つかけ来り、恨めしさうな顔をして眺めてゐる。久助の頭は真先に進んで、目を怒らし、 久助『俺達は貴様の為に、斯様な所へ押し込められてゐるが、素より案内者の貴様が悪かつた為に苦しんでゐるのだ。決して元よりの悪人ぢやない、天国へ進むだけの資格は持つてゐるのだ。其証拠は常から神様を信仰して来たのだ。今に瑞の御霊が現はれて、水の中から救つて下さるといふ御沙汰が今下つた所だから、最早お前を恨んだ所で仕方がない。綺麗薩張と大神様の徳に対して忘れてやるから、これから先、気をつけたがよからうぞ。キツと自分の神力で祖先の霊や人の病気が助かるなぞと思うたら当が違ふぞ。皆人をかやうな苦しい所へおとすばかりだから、別れに臨んで一言注意を与へておく。何れ八衢において会ふかも知れない、それまでにチツと心を直しておくがよからう』 と言ふより早く、無数の頭は俄に白煙となつて、沼の二三間許り上に渦をまき、遂にはそれが紫色に変じ、月の如き玉となり、沢山の星の様なものが其周囲に集まり、次第々々に昇騰して南の天を指して昇つて行く。其中の最も大なる月の如き玉は久助の精霊であつた。其他の小さき星の如き光は、何れも神の道に在つて忠実なる信者なりし者が、宣伝使に誤られて、一時ここに苦悶を続けてゐたのである。文助は此態を見て、初めて悟り……… 文助『ああ自分は実に慢心をして居つた、いかにも久助の言つた通だ。厳の御霊、瑞の御霊の大神様、貴神の御神徳を、知らず知らずに慢心を致して自分の物と致して居りました。重々の罪悪をお許し下さいませ。御神諭にある天の賊とは全く吾々の事で厶いました。ああ惟神霊幸倍坐世』 と詫びながら、荒風たける萱野ケ原を当途もなく進んで行く。後へ帰らうとすれども、何者か後より押すやうに思へて、一歩も退くことは出来ぬ。只機械的に馬車馬的に、何者にか制縛されつつあるやうな心地で、心ならずも進み行くのであつた。ここには草原の中に可なり大きな平たい石があつて、ムクムクと其石が動いてゐる。ハテ訝かしやと、文助は立止まつて目も放たず眺めてゐた。 (大正一二・二・九旧一一・一二・二四松村真澄録) |
|
142 (2562) |
霊界物語 | 52_卯_小北山の文助の改心物語 | 15 千引岩 | 第一五章千引岩〔一三五一〕 文助は重た相な石が、土鼠が持つ様に、ムクムクと動くので、此奴ア不思議と立止り神言を奏上してゐると、一人は二十歳位な娘、一人は十八歳位な男が岩の下から現はれて来た。文助は何者ならむと身構へしてゐると、男女二人は文助の側へ馴々しくよつて来て、 二人『お父さま、能う来て下さいました。私は年子で厶います……私は平吉で厶います』 文助『私には、成程お年、平吉といふ二人の子はあつた。併しながら其子は、姉は三つの年に、弟は二つの年に死んだ筈だ。お前のやうな大きな子を持つた筈はない、ソラ大方人違だらう』 年子『私は三つの年に現界を去つて、あなたの側を離れ、霊界へ出て来ました。さうすると沢山な、お父さまに騙された人がやつて来て、彼奴は文助の娘だと睨みますので、居るにも居られず、行く所へも行けず、今日で十六年の間、此萱野ケ原で暮して来ました。そして毎日ここに隠れて、姉弟が住居をして居ります。霊界へ来てから、ここまで成人したのです』 文助『成程、さう聞けばどこともなしに女房に似た所もあり、私の記憶に残つてゐるやうだ。そしてお前等二人は永い間此処ばかりに居つたのか』 平吉『ハイ、姉さまと二人が木の実を取つたり、芋を掘つたり、いろいろとして、今日迄暮して来ました。人に見つけられようものなら、すぐに、お前の親は俺をチヨロまかして、こんな所へ落しよつたと云つて責めますから、それが苦しさに、永い間穴住居をして居ました』 と涙を滝の如くに流し、其場で姉弟は泣き伏して了つた。文助は手を組み、涙を流しながら思案にくれてゐると、後から文助の背を叩いて、 (竜助)『オイ文助』 といふ者がある。よくよく見れば、生前に見覚のある竜助であつた。文助は驚いて、 文助『イヤ、お前は竜助か、根つから年がよらぬぢやないか』 竜助『折角お前が生前に於ていろいろと結構な話をしてくれたが、併しながら其話はスツカリ霊界へ来て見ると、間違ひだらけで、サツパリ方角が分らぬやうになり、今日で十年の間、此原野に彷徨うてゐるのだ、これから先へ行くと、八衢の関所があるが、そこから追ひかへされて、かやうな所で面白からぬ生活をやつてゐるのだ。お前の為にどれだけ苦しんでゐる者があるか分つたものでないワ』 文助『誰もかれも、会ふ人毎に不足を聞かされ、たまつたものぢやない。ヤツパリ私の言ふ事は違うて居つたのかなア』 竜助『お前はウラナイ教を俺に教へてくれた先生だが、あの教は皆兇党界の神の言葉だつた。それ故妙な所へ落される所だつたが、産土の神様の御かげによつて、霊界の方へやつて貰うたのだ。併しながら生前に於て誠の神様に反き、兇党界ばかりを拝んだ罪が酬うて来て、智慧は眩み、力はおち、かやうな所に修業を致して居るのだ。お前の娘、息子だつてヤツパリお前の脱線した教を聞いてゐたものだから、俺達と同じやうに、こんな荒野ケ原に惨めな生活をしてゐるのだ。そして大勢の者にお前の子だからと云つて、憎まれてゐるのだ、俺はいつも二人が可愛相なので、大勢に隠れて、チヨコチヨコ喰物を持つて来たり、又淋しからうと思つて訪問してやるのだよ』 文助『あ、困つた事が出来たものだなア、今は改心して三五教に入つてゐるのだ。マ、其時は悪気でしたのでないから、マ、許して貰はな仕方がない、どうぞ皆さまに会つてお詫をしたいものだ』 竜助『三五教だつて、お前の慢心が強いから、肝腎の神様の教は伝はらず、ヤツパリお前の我ばかりで、人を導いて来たのだから、地獄道へ堕ちたのもあり、ここに迷うて居るのも沢山ある。なにほど尊い神の教でも、取次が間違つたならば、信者は迷はざるを得ないのだよ』 文助『何と難かしいものだなア。吾々宣伝使は一体何うしたらいいのだらうか、訳が分らぬやうになつて了つた』 竜助『何でもない事だよ、何事も皆神様の御蔭、神様の御神徳に仍つて人が助かり、自分も生き働き、人の上に立つて教へる事が出来るのだ。自分の力は一つも之に加はるのでないといふ事が合点が行けば、それでお前は立派な宣伝使だ。余り自分の力を頼つて慢心を致すと、助かるべき者も助からぬやうな事が出来するのだよ。是から先には沢山のお前に導かれた連中が苦しんでゐるから、其積りで行つたがよい。二人の娘、息子だつてお前の為に可愛相なものだ。筆先に「子に毒をのます」と書いてあるのは此事だ。合点がいつたか』 と、どこともなしに竜助の言葉は荘重になつて来た。文助は思はず神の言葉のやうに思はれてハツと首を下げ、感謝の涙にくれてゐる。忽ちあたりがクワツと明るくなつたと思へば、竜助は大火団となつて中空に舞ひのぼり、東の方面指して帰つて行く。之は文助の産土の神であつた。 産土の神はお年、平吉の二人を憐れみ、神務の余暇に此処へ現はれて、二人を助け給ひつつあつたのである。文助は始めて産土の神の御仁慈を悟り、地にひれ伏して涕泣感謝を稍久しうした。 文助は二人に向い、 文助『お前たち二人は、子供でもあり、まだ罪も作つてゐないから、ウラナイ教の御神徳で天国へ行つて居る者だとのみ思つてゐたのに、斯様な所で苦労してゐたとは気がつかなかつた。之も全く私の罪だ。どうぞ許してくれ、さぞさぞ苦労をしたであらうな』 お年『お父さま、あなたの吾々を思うて下さる御志は本当に有難う厶いますが、何と云つても、誠の神様の道に反き、兇党界の神に媚び諂ひ、日々罪を重ねてゐられるものですから、私たちの耳にも、現界の消息がチヨコチヨコ聞えて、其度毎に剣を呑むやうな心持で厶いました。今日も亦文助の導きで兇党界行があつたが、産土様のお蔭で霊界へ救はれたといふ噂を幾ら聞いたか分りませぬ。弟も余り恥かしいと云つて外へ出ず、又外へ出ても大勢の者に睨まれるのが辛さに狐のやうに、穴を掘つて、此岩の下に生活を続けて来ました。これだけ広い野原で、石なとなければ印がないので、産土様のお蔭で、此石を一つ運んで貰ひ、これを目当に暮してゐます。石といふものは、さやります黄泉大神と云つて、これさへあれば敵は襲来しませぬ。此岩のお蔭で、姉弟がやうやうとここまで成人したので厶います。お父さまも、一時も早く御改心を遊ばして、吾々を天国へ行くやうにして下さい』 文助『今までは、吾々が祝詞の力に仍つて天国へ救へるもの、又は導けるものと思うてゐたが大変な間違だつた。これは神様の御力に仍つて救はれるのだつた、今迄は自分の力で人を救うと思ひ、又人の病を自分の力で直すと思うたのが慢心だつたのだ。もう此上は神様に何事も任して、御指図を受ける外はない。ああ惟神霊幸倍坐世』 と親子三人は荒野ケ原に端坐して、一生懸命に祈願を凝らした。 因に石といふものは、真を現はすものである。そして、所在虚偽と罪悪と醜穢を裁断する所の神力の備はつたものである。神典古事記にも、黄泉平坂の上に千引の岩をおかれたのは、黄泉国の曲を裁断する為であつた。人間の屋敷の入口に大きな岩を立てて、門に代用するのも外来の悪魔を防ぐ為である。又家屋の周囲に延石を引きまはすのも、千引の岩の古事にならひ悪魔の襲来を防ぐ為である。築山を石を以て飾るのも神の真を現はす為であり、又悪魔の襲来を防ぐ為である。そして所在植物を庭園に栽培するのは愛を表徴したのである。人間の庭園は愛善の徳と信真の光を惟神的に現はした至聖所である。故に之を坪の内とも花園とも称するのである。天国の諸団体の有様は、すべて美はしき石を配置し、所在植物を植ゑつけられた庭園に類似したものである。それから石は砿物であり玉留魂である。故に神様の御霊を斎るのは所謂霊国の真相を現はすもので、月の大神の御神徳に相応するが故に、石の玉を以て御神体とするのである。これ故に霊国の神の御舎は皆石を以て造られ、天国は木を以て、其宮を造られてある。木は愛に相応し、太陽の熱に和合するが故である。大本の御神体が石であつたから、何でも無い神だと嘲笑してゐるそこらあたりの新聞記事などは、実に霊界の真理に到達せざる癲狂痴呆であつて、新聞記者自らの不明を表白してゐるものである。 ああ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・二・九旧一一・一二・二四松村真澄録) |
|
143 (2660) |
霊界物語 | 56_未_テルモン山の神館1 | 06 高圧 | 第六章高圧〔一四三六〕 高姫に導かれて四人の男女は、細谷川の一本橋を渡り、二間造りの小さき家に導かれた。高姫の精霊は既に地獄に籍を置き、直ちに地獄に下るべき自然の資格が備はつてゐる。併し乍ら仁慈無限の大神は如何にもして其精霊を救ひやらむと三年の間、ブルガリオの修行を命じ給ふたのである。総て精霊の内分は忽ち外分に現はれるものである。外分とは概して言へば身体、動作、面貌、言語等を指すのである。内分とは善愛の想念や情動である。 地獄界に籍を有する精霊は最も尊大自我の心強く、他に対して軽侮の念を持し之を外部に不知不識の間に現はすものである。自分を尊敬せざるものに対しては忽ち威喝を現はし、又は憎悪の相好や復讐的の相好を現はすものである。 故に一言たりとも其意に合はざる事を言ふ者は、忽ち慢心だとか悪だとか虚偽だとか、いろいろの名称を附して、之を叩きつけむとするのが地獄界に籍を置くものの情態である。 現界に於ける人間も亦、顕幽一致の道理に依つて同様である。現界、霊界を問はず地獄にあるものは、全て世間愛と自己よりする、諸の悪と諸の虚偽に浸つてゐるが故に、其心と自己の心と相似たるものとでなければ、心の相応せないものと一緒に居る事は実に苦しく、呼吸も自由に出来ない位である。併し乍ら悪即ち地獄に於ける者は悪心を以て悪を行ひ、又悪を以て総ての真理を表明したり、説明せむとするものである。故に其説明には矛盾撞着支離滅裂の箇所ばかりで、正しき人間や精霊の眼から見れば、実に不都合極まるものである。斯かる悪霊が地獄界に自ら進んで堕ちゆく時は、其処に居る数多の悪霊は、彼等の上に集まり来り、峻酷獰猛なる責罰を加へむとするものである。其有様は現界に於ける法律組織と略類似して居る。総て悪を罰するものは悪人でなければならぬ。虚偽、譎詐、獰猛、峻酷等の悪徳無きものは到底悪人を罰することは出来得ないのである。併し乍ら現界と幽界と異なる点は現界にては大悪が発見されなかつたり、又善人が悪と誤解されて責罰を受くる事が沢山にあるに反し、地獄界に於ては、悪其物が自ら進んで堕ち行くのであるから、恰も衡にかけた如く、少しの不平衡も無いものである。 而して獰猛と峻酷の内分も亦外分即ち相好の上に現はるるものである。故に地獄に墜ちて居る邪鬼及邪霊は何れも其内分相応の面貌を保ち生気無き死屍の相を現じ、疣や痣、大なる腫物等一見して実に不快な感じを与ふる者である。然し之は天国に到るべき天人の目より其内分を透して見たる形相であつて、地獄の邪霊相互の間にては決して余り醜しく見えない者である。何故なれば彼等は皆虚偽を以て真と信じ、悪を以て善と感じて居るからである。時あつて天上より大神の光明、地獄界を照す時は、彼等は忽ち珍姿怪態を曝露し、恰も妖怪の如き相好を現はし、自ら其姿の恐ろしきに驚くものである。併し乍ら天界より光明下り来る時は、朦朧たる地獄は層一層暗黒の度を増すものである。愛善の徳と信真の光明は悪と虚偽とに充されたる地獄では益々暗黒となるものである。故に如何なる神の稜威も善徳も、信真の光明も、地獄に籍を置きたる人間より見たる時は、自分の住する世界よりは暗黒に見え、真理は虚偽と感じ、愛善の徳は憎悪と感ずるに至るものである。故に大部分地獄界に堕落せる現代人が、大本の光明を見て却て之を暗黒となし、至善至美の教を以て至醜至悪の教理となし、或は邪教と誹るに至るは、其人の内分相応の理に依つて寧ろ当然と謂ふ可きものである。 高姫は中有界に放たれ精霊の修養を積むべき期間を与へられたるにも拘らず、容易に地獄の境涯を脱する事を得ず、虚偽を以て真理と為し、悪を以て善と信じ、一心不乱に善の道を拡充せむと車輪の活動を続けて居るのである。類を以て集まるとか云つて、自分の内分に相似たるものでなければ、到底相和する事は霊界に於ては出来ない。現界ならばいろいろと巧言令色、或は虚偽なぞに由つて内分の幾分かを包み得るが故に高姫の教を聞くものも多少はあつたけれども、最早霊界に来つては自分と相似たるものでなければ、共に共に生涯を送る事が出来なくなつてゐた。併し乍ら高姫は依然として現界に居るものとのみ考へ、八衢の守衛が言葉も半信半疑の体に取扱ふてゐた。霊界へ来てから殆ど一ケ年、月日を経るに従つて守衛の言葉は少しも意に止めなくなり、益々悪化し乍らも自分の教は至善である、自分の動作は神に叶ひしものである、而して自分は義理天上日出神の生宮で、天地を総轄したる底津岩根の大弥勒の神の神柱と固く信じてゐるのだから堪らない。さて高姫は四人の男女を吾居間に導き、自分は正座に傲然としてかまへ、諄々として支離滅裂なる教を説き初めた。 高姫『皆さま、よくまア日出神の教に従つて此処へ跟いて厶つた。お前は余程因縁の深いお方だぞえ。こんな結構な教は鉄の草鞋が減る所迄世界中を探し廻つても外にはありませぬぞや。そして喜びなされ、此高姫は高天原の第一霊国のエンゼルの身魂で、根本の根本の大神の生宮だから、天も構へば地も構ひ、何処も彼処も一つに握つた太柱、扇で譬へたら要だぞえ。時計で喩たら竜頭の様な者だ。扇に要が無ければバラバラと潰れて了ふ。時計に竜頭が無ければ捻をかける事も出来ますまい。夫だから此高姫は根本の根本の世界に又と無い如意宝珠の玉ぢやから、よく聞きなされや。お前達は泥坊をしたり、バラモンの軍人になつたり所在悪をやつて来たのだから、直様地獄へ堕すべき代物だけれども、此の高姫の生宮の申す事をよく聞いて行ひを致したなれば結構な結構な第一天国へでも助けて上げますぞや』 と止め度もなく大法螺を吹き立てる。併し乍ら高姫自身は決して自分の言葉は大法螺だとは思つて居ない。正真正銘一分一厘間違ひのない神の慈言だと固く信じて居るのだ。 ヘル『モシ高姫様、貴女が夫れ程偉い御方なら何故天へ上つて下界を御守護遊ばさぬのですか。此様な山のほでらに御殿を建てて吾々の様な人間を一人や二人捉まへて説教をなさるとは、神としては余り迂濶ぢやないですか。世界中には幾億万とも知れぬ精霊があるにも拘らず、根本の大神様の生宮さまが左様な事をなさるとは、些と合点が参りませぬワ。要するに高姫さまの法螺では厶いますまいかなア』 高姫は忽ち地獄的精神になり、軽侮と威喝と憎悪の面相を表はし、且プンプンとふくれ出し言葉迄地獄の相を現はして来た。 高姫『コレお前は何といふ途方もない事を言ふのだ。ホンに虫けら同然のつまらぬ代物だな。勿体なくも神の生宮を軽蔑するとは以ての外ぢや。そんな不量見な事では此生宮は許しませぬぞや。直ちに地獄へ堕してやるから其積りでゐなされよ』 と獰猛なる形相に憤怒の色を現はし、歯をキリキリと噛みしめて、眼を怒らし睨めつけて居る。 ヘルは高姫の面貌を見てギヨツとしながら、屹度胸をすゑ、肱を張りわざとに体を前の方へ突き出し、胸の動悸をかくし、 ヘル『アハハハハハ吐したりな高姫、其鬼面は何の事、仁慈無限の神様は些と許り気に入らぬ事を云つたからとて、そんな六ケ敷い相好はなさりませぬぞや。神は愛と善と信とでは厶らぬか。仮にも人を威喝、軽侮、憎悪するやうな事で、何うして正しい神と云へますか。御控へ召され』 と呶鳴りつけた。 高姫は烈火の如く憤り、相好益々獰猛となり、さも憎々しげに睨めつけ乍ら、 高姫『コリヤ、バラモンの小盗人奴、何を云ふのだ。誠の生神は貴様のやうな盲聾に分つて堪らうか。お前は心の中に悪と云ふ地獄を築き上げてゐるから、此日出神の円満なる美貌が怖く見えたり、善言美詞が悪言暴語の如く聞ゆるのだ。身魂の階級が違ふと悪が善に見え、善が悪に見えたりするものだ』 と自分の悪と虚偽とにより地獄に堕ち居る事を知らず、無性矢鱈に他に対して悪呼はりをしてゐる。人間も精霊も此処迄暗愚になつては如何なる神の力も之を救ふ事は出来ないものである。 ヘルは高姫の前に首をヌツと突き出し、背水の陣を張つたつもりで、握り拳を固め、 ヘル『今一言、何なと言つて見よ。この鉄拳が貴様の脳天に障るや否や木端微塵にして呉れるぞよ』 との勢を示してゐる。流石の高姫も其権幕に辟易したか、ヘルに向つては夫れ切り相手にしなかつた。ヘルは振り上げた拳のやり所がなくなつて、首尾悪げに元へ直した。 高姫はニヤリと笑ひ乍らさも横柄な面付して後の三人を見下し、 高姫『コレ六公にシャル、ケリナ、何と云つても身魂の因縁性来の事より出来ぬのだから、妾の云ふ事が耳に入らぬ人は、如何しても地獄行きぢやぞえ。皆々、どうだい、一つ此生宮の云ふ事を聞いて天国へ上る気はないか』 ケリナ『ハイ有難う厶います。到底妾のやうな罪深き人間は自分の造つた罪業に依つて相応の地獄へ行かねばなりますまい。何程貴女様が天国へ救ひ上げてやらうと仰有つて下さつても、身魂不相応の所へ行くのは苦しくて堪えられませぬ。妾は現在の儘何時迄も此世に暮したいと存じます』 高姫『ハテ、さて解らぬ方だなア。神が御蔭をやらうと思ふてつき出して居るのに受取らぬと云ふ事があるものか。諺にも……天の与ふるものを取らざれば却つて災其身に及ぶ……といふ事があるぢやないか。何故此生宮がつき出した神徳を辞退するのだい』 ケリナ『ハイ、御親切は有難う厶いますが、神様から頂いた神徳なれば自分がお返し申さぬ限り決して取上げらるる事は厶いませぬ。併し乍ら人間さまから頂いた神徳は、何時取返されるか知れませぬから、初めから頂かない方が、双方の利益で厶いませう』 高姫『コレ、ケリナ、何と云ふ解らぬ事をお前は云ふのだい。最前からも云つた通り、底津岩根の大弥勒さまの生宮ぢやないか。此生宮を人間ぢやと思ふて居るのが、テンカラ間違ひぢやぞえ。それだからお前は改心が足らぬといふのだ。お前が妾の館へ来たのも昔の昔の根本の古き神代から、身魂の因縁があつて引寄せられたのだ。お前の大先祖は大将軍様を苦しめた十悪道の身魂ぢやから、其罪が子孫に伝はり今度は世の立替立直しにつれて、大掃除が始まるのだから、悪の系統の身魂は焼き亡ぼし、天地の間に置かぬやうにするのだから、此生宮の申す間に柔順に聞く方が、お主の徳ぢやぞえ』 ケリナ『ハイ、御親切は有難う厶いますが、妾には大先祖がどんな事をして居つたか、中先祖が何うだつたか、そんな事はテンと解りませぬ。私は私で信ずる神様が厶いますから、折角乍ら御辞退を致します』 高姫『ドークズの身魂といふものは上げも下しもならぬものだなア。人間の分際として根本の因縁が解るものかいなア。それだから此高姫が身魂調べをして各自に因縁性来を表はし、因縁だけの御用を仰せつけるのだ。先祖からの因縁性来が解らぬやうな事で、何うして底津岩根の大神様の生宮の御用が勤まりますか。神の申す間に柔順に聞いて置きなさらぬと後で後悔を致しても、其処になりたらモウ神は知りませぬぞや。マア悠りと胸に手を当てて雪隠へでも入つて考へて来なさい。アーア一人の氏子を誠の道に導かうと思へば、並や大抵の事ぢやない。乃木大将が旅順口を十万の兵士を以て落したよりも難いものだ。針の穴へ駱駝を通すよりも難い。これでは神も骨が折れるワイ。盲聾に何程結構な事を噛んで含めるやうに言ひ聞かしてやつても、豚に真珠、猫に小判のやうなものだ。憐れみ玉へ助け玉へ、底津岩根の大弥勒様』 と掌を合し一生懸命にケリナ姫の改心を祈つてゐる。シャル、六造の二人は此問答をポカンと口を開けた儘延び上つて立膝し乍ら聞いてゐる。暫くは土佐犬の噛み合ひのやうな光景で沈黙の幕が下りた。其処へ銅羅声を張り上げて門の戸をブチ割れる程叩くものがある。 高姫はツと立上り四人を尻目にかけ乍ら、門の戸を開く可く表を指して進み行く。 (大正一二・三・一四旧一・二七於竜宮館二階外山豊二録) |
|
144 (2665) |
霊界物語 | 56_未_テルモン山の神館1 | 11 惚泥 | 第一一章惚泥〔一四四一〕 求道居士はヘル、ケリナ姫と共に、テルモン山の小国別が館をさして、草茫々たる原野を進み行く。人通りも少く、一面の原野には身を没する許りの雑草生え茂り、所々に荊蕀の叢点在し、思つたやうに道が捗らない。種々の花は原野一面に咲き匂うて居る、時々足許に蚖蛇現はれ行歩甚だ危険である。 日はずつぽりと暮れて来た。月は東方の叢の中から覗き初めた。北にはテルモン山の高峰が巍然として控へて居る。夕の風に送られて晩鐘の声いと淋しげに諸行無常と響き来る。白赤斑の鴉は空を封じてテルモン山の方面さしてガアガアと鳴き乍ら帰り路を急いで居る。三人は月の光を便りに進んで行つた。併し乍ら足許に匍匐してゐる蚖蛇の危険を免るる事は到底出来ない。何程月は登りかけても長細き雑草に隔てられ、且つ昼の如くハツキリしない、若し誤つて蚖蛇の尾でも踏まうものなら、忽ち噛みつかれ、即座に命を落さねばならぬ危険がある。求道居士は惟神霊幸倍坐世を唱へ又、天の数歌を奏上し乍ら進んで行く、ヘル及びケリナ姫は未だ神徳足らずとして数歌を唱ふる事を遠慮し、ヘルはバラモンの経を称へ乍ら二人の後に跟いて行く。 或遇悪羅刹毒竜諸鬼等 念彼観音力時悉不敢害 若悪獣囲繞利牙爪可怖 念彼観音力疾走無辺方 蚖蛇及蝮蠍気毒焔火然 念彼観音力尋声自回去 雲雷鼓掣電降雹澍大雨 念彼観音力応時得消散[※観音経の一節] と唱へながら進んで行く。幸に経文の力でもあらうか、毒蛇も現はれず稍広き草の短き所へ出た。まだこれからはテルモン山の麓へは我国の里程に換算して二里以上もある。さうして山は一里許り上らねばならぬ。そこが小国別の館であつた。三人はやつと危険区域を脱れ、白楊樹の麓に、折からさし登る月を眺めながら、腰を卸して休息した。此時覆面頭巾の黒装束をした男、ノソリノソリと遥向ふの松林を通るのが見えた。ヘルは目敏く之を見て、 ヘル『もし先生、今彼方へ怪しの影が通りましたが、あれは一体何でせうかな』 求道『ウン、あれは泥坊と見える。何か悪い目的を以て旅人を掠めようとやつて来たのだらうが、先方は一人、此方は三人だから到底駄目だと思うて、道を外れたのであらう。アア可愛さうな男だなア。此世の中に為すべき事業は沢山あるに、どうして泥坊なんかするのか、どうかして助けてやりたいものだが、もはや何処かへ行つて了つた』 ヘル『もし先生、もう泥坊を助けるのはお止めなさい。あのベルだつてあの通りですもの。ゼネラルさまから沢山のお金を頂き、もう是切り泥坊はやらないと云うて置き乍ら、まだ精神が直らないのですから、駄目ですよ』 求道『それでもお前は改心したぢやないか。ベルのやうな男のみはあるまい。あれでも時節が来たならば、きつと改心するだらう』 ヘル『そりやさうです。私も実はゼネラル様からお金を頂き、これつきり泥坊を止めて正業に就かうと思ふて居ましたに、つい悪友の為に折角の決心が鈍り、益々悪事が増長して終には人を殺し、其天罰であの世の関所迄やられて来たやうな悪人が、今漸く改心して貴方のお伴するやうになつたのですから、泥坊だつて改心せないには限つて居りませぬ。併し乍ら今日はケリナさまを送つて行かねばなりませぬから、途中で泥坊に出会つても相手にならないやうにして下さいませや』 求道『ウン、承知した。併し乍らベツタリ出会つた時にや、先方が改心せうと、しまいと、一応の訓戒は与へねばならぬ。魔道に堕ちたる人間を、修験者として見捨る訳には行かぬからなア』 ヘル『それもさうですなア。成る可くそんなものに出会はないやうに、神様に願つて参りませうか』 ケリナ『もしお二人様、あの怪しい影は何うも私はベルのやうに思ひますが、違ひませうかな』 求道『ケリナさまのお察しの通りだ。間違ひはありますまい』 ヘル『エ、あの影がベルぢやと仰有るのですか、そいつは怪しからぬ。吾々が疲労れて野宿でもせうものなら、寝込を考へて先生のお金を取らうと云ふ考へで来よつたのでせう。仕方の無い奴ですなア』 求道『ウン仕方の無い奴だ。何程改心して居ても金の顔を見ると、直に又悪に還るのが小人の常だ。お前は俺の懐に持つて居る一万両の金は欲しい事は無いか』 ヘル『別に……たつて欲しいとは申しませぬ。併し貴方が与らうと仰有れば頂きます。これから修験者になつて世界を歩かうと思へば旅費も要りますからなア』 求道『さうすると矢張りお前も油断のならない男だ。トコトンの改心は中々出来ぬものと見えるのう』 ヘル『人間は如何に神様の御子ぢやと云つても、天国と地獄との間に介在して居る以上は、善許りでは到底世に立つていく事は出来ませぬ。内的生活は如何やうにも出来ませうが、衣食住の為に苦しまねばならぬ肉体は、多少の自愛心も必要で厶いますからなア』 求道『刹帝利や毘舎や、首陀なれば、多少自愛の心も生存中は必要だらうが、最早修験者となると定つた以上は金などは必要はない。神のまにまに野山に伏し、食あれば食を取り、食なければ水を飲み、水も無ければ草でも噛んで行くのが修験者の務めだ。一切の物欲を捨てねば神の使となる事は出来ないからのう』 ヘル『成程、仰せ御尤もで厶います。併し乍ら貴方は修験者の身分であり乍ら、一万両の金を持つて居ると仰有つたぢやありませぬか、どうも仰有る事が矛盾して居るやうに思はれてなりませぬがなア』 求道『ハハハハハ、私は実際は無一物だ。併し乍ら心の中に一万両持つて居るのだ。どうかして是を投げ出したいと思ふて居るが、まだ罪業が充たないと見えて除去する事が出来ないのだ。俺の一万両と云ふのは、我慢、高慢、自慢、忿慢、慢心と云ふ悪竜が一匹残つて居ると云ふ事なのだ。此一万竜を何とかして放り出さなくては、比丘になつても天地へ恥かしくて仕方がないから、宣伝使でもなければ俗人でも無い、半聖半俗の境遇に彷徨ひ、修験者となつて居るのだ。どうぞして御神徳を頂き、宣伝使の候補者にでもなりたいものだが、仲々容易の事ではない、それがために実は困つて居るのだ』 ヘル『私は又本当のお金を一万両懐中に持つて厶るのかと、固く信じて居りました。先生は口でこそ恬淡無欲らしう見せて厶るが、矢張り内心は、マンモニストだと思つて居たに、形の上の宝は些も持つて居られないのですか。それで私の疑団も晴れました。ベルの奴本当に貴方が現金を所持して居ると思ひ、こんな所迄跟いて来たかと思へば可憐さうぢやありませぬか』 ケリナ『ホホホホホ、ヘルも可憐さうぢやありませぬか。貴方だつてベルと八百長喧嘩をして、旨く修験者を誑かし、一万両の金を取らうと思つて来たのでせう。そんな事はチヤンと、私も先生も看破してゐたのですよ。この辺で諜合はし、ボツタクル考へであつたのでせう』 求道『アハハハハ、オイ、ヘル、もう駄目だ。俺達の前にはどんな悪も施すの余地がないぞ。本当に改心するか、どうだ』 ヘル『ヘン馬鹿らしい、素寒貧の文なしに跟いて来たかと思へば業腹だ。オーイ、ベル一寸来い、此奴はあんな事を云やがつて一万両持つてけつかるに違ひない、早う来い、ヤーイ』 と呶鳴り出した。忽ち駆けて来たベルは威猛高になり、 ベル『アハハハハ、今迄はバラモン軍の上官で、カーネルカーネルと尊敬して来たが、もうそんな態になつて零落て来た以上は一個の修験者だ。サア綺麗薩張りと懐の金を渡せばよし、グヅグヅ吐すと肝腎要の命が危ないぞ。サアどうだ、返答聞かう』 求道『ハハハハハ、分らん奴だなア、俺の体を何処なりと調べて見よ、一文も持つて居やしないわ』 ベル『そんなら早く裸体になつて見せろ』 求道はムクムクと真裸体になり、薄い着物をはたき乍ら、二人の前に放り出した。 ヘル『ハハア、矢張り駄目だな。併し乍らこのナイスをどうしても自分の物にせなくては嘘だ。それについては此修験者が居ると何彼の邪魔になる。サア序にバラさうぢやないか』 求道は頻りに天の数歌を奏上し始めた。ヘル、ベルの両人は些しも頓着せず、ベルの持つて来た二本の棒千切を持つて双方より打つてかかる。ケリナは白楊樹に抱きついて慄うて居る。求道居士は真裸体のまま一生懸命防ぎ戦うた。されど一本の木切も持つて居ない真裸体の求道は、二人の為に打ちのめされ其場に絶命となつて了つた。両人は冷やかに笑ひ乍ら、 ベル、ヘル『アハハハハ、どうやらこれで俺達にもハツピネスが見舞うて来たらしい。サア是からがナイスの番だ。何と云つても斯うなれば此方の自由だ。オイ、ケリナとやら、俺達二人の意志に従ふかどうだ』 ケリナ『肝腎の修験者迄が、此通りなられたので厶いますから、女の細腕で抵抗して見た所で仕様が厶いませぬ。御意見に従ひませう、併しラマ教のやうに多夫一妻主義はどうも面白う厶いませぬ。何方かお一人に願ひ度いもので厶いますなア』 ベル『成程お前の云ふのも尤もだ。まだお前はバージン姿だから到底誰が好だの嫌ひだのと云ふ事はよう云ふまいから、一つ茲で俺達二人が抽籤をやつて、一の出た方がお前を女房にすると云ふ事に定めようかなア』 ケリナ『物品か何かのやうに抽籤とは余りぢや厶いませぬか、どうか私に選まして頂く訳には行きますまいかなア』 ベル『ウン、それも一方法だ。善悪美醜をトランセンドして、お前の本守護神の得心した方に向いたが好からう。スタイルは醜うても心の綺麗な男らしい男もあり、何程スタイルは好くても、心の汚い卑劣の男もあるからなア、そこはそれ選択を誤らない様にしたがよろしからうぞ』 ケリナ『そりやさうで厶いますな。何と云つても男らしい男で、何処ともなしに同情心のある柔し味のある方が好きですわ、人を叩き殺して埋けてもやらないやうな方は絶対に嫌ひです』 ベル『成程俺も最前からヘルの棒が当つて死んだ修験者に同情の涙を濺いで、どうか死骸でも隠して上げ度いと思うて居た所だ。余り妻の選択に就いて気を取られて居つたものだからウツかりして居た。是もお前を愛する心が深いのだから、決して悪くは思うて下さるな』 ケリナ『女の美貌に現を抜かして仮令ヘルが殺したにもせよ、死屍の横たはつて居るのを見て隠してやらうともせぬ男は嫌ひですわ、お前の棒が当つて死ななくても同じ事ですよ。矢張り二人して殺すといふ考へだつたのでせう。同じ悪人に身を任す程なら、スタイルの美しいヘルさまに身を任しますわ』 ヘル『エヘヘヘヘ、オイ、ベルどうだ、恋の凱旋将軍様だ。畏れ入つたか』 ベル『ヘン馬鹿にするない、「色は年増が艮め刺す」と云つて最後の勝利は俺の手に握つて居るのだ』 ヘル『馬鹿云へ、御本人が承諾しない恋が何になるか、お生憎様だ、イヒヒヒヒ』 ケリナ『ホホホホホ、揃ひも揃ふたデレ泥だ事、誰がお前のやうな馬鹿者に身を任すものがありますか、よい加減に自惚をして置きなさい』 ベル『オイ、何程美人だと云つてもこれだけ侮辱せられては、女房にする訳にも馬鹿らしくて出来ぬぢやないか、序に此奴も一緒にバラしてやらうかい』 ヘル『ウンさうだ。かう愛想尽かしを云はれては仕やうがない。女は世界に幾人でもある。此女を生かして置いては修験者を殺したのは俺達だと云つて貰うと、些許り剣呑だから、やつつけて仕舞はうよ』 ベルは、 ベル『よし合点だ』 と矢庭に棒千切をもつて打つてかかる。ケリナは白楊樹を盾に取つて身を脱れようとする。ヘルは又もや棒千切をもつて脳天目蒐けて打ち卸した。憐やケリナはキヤツと悲鳴を上げ其場に打ち倒れた。此の時天を焦して下り来る一大火光があつた、二人は驚いて雲を霞と森林の中を逃げて行く。火団は忽ち二人の倒れて居る前に降下した。是は第一霊国より月照彦命が、二人の危難を救ふべく神の命を帯びて下られたのである。二人は漸く火団の落下した音に気が付き、四辺を見れば、桃色の薄絹を着した麗しきエンゼルが立つて居る。求道居士は拍手再拝して救命の恩を感謝した。ケリナも亦エンゼルを拝み一言も発せず、嬉し涙にかき暮れて居る。エンゼルは言葉静に両人に向ひ、 エンゼル『汝等両人、神の大道を誤らず、身をもつて道の為に殉じたる其志は見上げたものだ。其方の志に免じ、霊国より汝等を救ふべく下つて来た。吾は月照彦神なり。随分気をつけてテルモン山に帰つたがよからう。それ迄に、も一度試みに遇ふ事があるだらう。屹度自分の命を惜むやうな事では世を救ふ事は出来ないから、何事も神に任して救ひの道を拓いたらよからう。さらば』 と一言を残し、紫の雲に乗つて東の空を指して帰らせたまふた。二人は後姿を伏拝み、感謝の涙に暮れつつ、天の数歌を称へながらテルモン山を指して帰り行く。 赤心を貫き通す桑の弓 届かざらめや神の御国へ。 (大正一二・三・一六旧一・二九於竜宮館加藤明子録) |
|
145 (2678) |
霊界物語 | 57_申_テルモン山の神館2 | 01 大山 | 第一章大山〔一四五一〕 金輪奈落の地底から風輪、水輪、地輪をば 貫き出でたる大高峰伯耆の国の大山は 日本大地の要なり白扇空に逆様に 懸りて沈む日本海八岐大蛇の憑依せる 大黒主の曲津見が簸の川上に割拠して 風雨を起し洪水おこし狭田や長田に生ひ立ちし 稲田の姫を年々に悩ませ人の命をば 取らむとせしぞ歎てけれ大正十二癸の 亥年の春や如月の日光輝く夜見ケ浜 小松林の中央に堅磐常磐に築きたる 神の恵みの温泉場浜屋旅館の二階の間 いつもの通り横に臥し真善美愛第九巻 波斯と月の国境朝日もきらきらテルモンの 山の館に住まひたる小国別が物語 三千年の末迄もその功を残したる 三五教の三千彦が難行苦行の経緯を いよいよカータルブラバーサマハーダルマ・タダアガタ 唯一言も漏らさじと東の窓に向ひつつ 万年筆を走らせる夜見の浜風颯々と 吹き来る度にカーテンがバタリバタリと拍子取り 言霊車押し来るアヽ惟神々々 御霊幸倍ましまして五十と七つの物語 完全に委曲に述べ終へて綾の聖地の家苞に なさしめ給へと大神の御前に謹み願ぎまつる 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも誠一つの三五の 教の主意を一通り写さにやならぬ神の法 湯にあてられて瑞月が腹をガラガラ下らせつ 下らぬ理窟を交ぜて浜辺で取れた法螺貝の 止度もなしに吹き立てる ○ 三五教は大神の直接内流を受け、愛の善と、信の真をもつて唯一の教理となし、智愛勇親の四魂を活用させ、善の為に善を行ひ、用の為に用を勤め、真の為に真を励む。故に其言行心は常に神に向ひ、神と共にあり、所謂神の生宮にして天地経綸の主宰者たるの実を挙げ、生き乍ら天国に籍を置き、恰も黄金時代の天人の如く、神の意志其儘を地上の蒼生に宣伝し実行し、以て衆生一切を済度するをもつて唯一の務めとして居たのである。故にバラモン教ウラル教其他数多の教派の如く、自愛又は世間愛に堕して知らず識らずに神に背き、虚偽を真理と信じ、悪を善と誤解するが如き行動は取らなかつたのである。神より来れる愛及び善並に信真の光に浴し、惟神の儘に其実を示すが故に、麻柱の教と神から称へられたのである。自愛及び世間愛に堕落せる教は所謂外道である。外道とは天地惟神の大道に外れたる教を云ふ。これ皆邪神界に精霊を蹂躙され、知らず知らずに地獄界及び兇党界に堕落したものである。外道には九十五の種類があつて、其重なるものは、カビラ・マハールシといふ。このカビラ・マハールシは、即ち大黒主の事であり、三五教の真善美の言霊に追ひ捲られて自転倒島の要と湧出したる伯耆の国のマハールシ(大山)に八岐大蛇の霊と共に割拠し、六師外道と云つて外道の中にても最も勝れたる悪魔を引き率れ天下を攪乱し、遂に素盞嗚尊のために言向け和されたのである。六師外道とは、ブランナーカーシャバ、マスカリー・ガーシャリーブトラ、サンジャイーヴィ・ラチャーブトラ、アザタケー・シャカムバラ、カクダカー・トヤーヤナ、ニルケラントー・ヂニヤー・ヂブトラの六大外道である。此外道は古今東西の区別なく今日と雖も尚天下を横行濶歩し、暴威を逞しうして居るのである。 ブランナーカーシャバとは君臣、父子、夫婦、兄弟、朋友等の道を軽んじ、現界の一切を無視し、生存競争、優勝劣敗をもつて人生の本義となし、軽死重生の主義を盛に主張し、宇宙一切は総て空なり、無なり、人間の肉体は死滅するや否や煙の如く消え果て、死後の霊魂等は決して残るものでない。果して死後に霊魂ありとすれば、例へば唐辛子を焼いて灰となし、尚ほ其後にも唐辛子の辛味存するや、決して存在せざるべし。是を思へば人間死後の生活を論ずるは迂愚の骨頂なり、迷妄の極みなりと断案を下す唯物論者の如きものである。次に、 マスカリー・ガーシャリーブトラは、一切衆生の苦悩も歓楽も決して人間の行因に依るものではない。何れも自然に苦楽が来るものである。例へば茲に一つの種子を蒔くに、其種子は肥えた土の日当りよき所に蒔かれたのは、他に勝れて発達し、枚葉繁茂し、麗しき花を咲かせ、麗しき実を結び、人に愛せらるるに引き替へ、同じ種子でありながら、痩せた土地に蒔かれ、或は陰裏に蒔かれた時は十分の光線を受くる事能はず其発育も悪しく花も小さく、満足な実も結ばないやうなものである。然るに其種子に善悪は決してない。同じ木から取つた同じ種である。又其種には決して善の行ひも悪の行ひもない。唯蒔かれた所の場所即ち境遇によつて、或は歓喜に浴し、或は苦悩に浸るのである。故に人間は、蒔かれた所が悪ければ、何程気張つてもよき場所に蒔かれた種に勝つ事は出来ない。故に人間の苦楽には決して行因はないものだ、と主張する無因外道である。又是を自然外道とも云ふ。次に、 サンジャイーヴィ・ラチャーブトラと云ふのは、人間は決して修業なんかする必要がない。天地の草木を見ても春が来れば自然に花が咲き、秋が来れば自然に実が生り、冬が来れば自然に葉が散る如く、八万劫が来れば自然に人間の苦は尽きて道を得るとなすものである。要するに自暴自棄、惟神中毒の外道であつて、是を無因外道の一種となすのである。二十世紀の三五教には此の種の人が随分混入して居るやうである。次に、 アザタケー・シャカムバラ、此外道は現世に於て、何でも構はぬ、苦しみさへして置けば、きつと他生に於て、天国に生れ、無限の歓楽に浴し、百味の飲食を与へられ、栄耀栄華に平和の生活を永遠無限に送られるものとなし、人間として営むべき事業も為さず深山幽谷に身を潜め、火物断をしたり、穀食を避け、松葉を噛み、芋などを掘り、空気を吸ひ、寒中真裸、真裸足となりて寒さを耐へ、夏は蚊に刺されて所有苦しみをなし、其苦の報いを来世に得むとする所謂苦行外道である。此外道も亦今日は随分彼方此方に現はれて居る。さうして真理に暗き現在の人間はかかる苦行外道を指して真人となし、聖人と尊び神仏の如く尊敬するものである。斯かる苦行外道を尊敬する人間も亦、同気相求むるの理によつて知らず識らずに地獄道に籍を置いて居る小外道である。次に、 カクダカー・トヤーヤナ、この外道はバンロギズム(汎理論)、スピリチュアリスチック・バンセイズム(唯心的汎神論)だとか、バンフシギズム(汎心論)だとか、アーセイズム(無神論)だとか、ブルラリズム(多元論)だとか、モニズム(一元論)だとか或はソシアリズム(社会主義)アナーキズム(無政府主義)だとか、ニヒリズム(虚無主義)だとか、コンミュニズム(共産主義)だとか、種々雑多の利己的、形体的、自然的、世界的愛に対して意見を盛に主張し、無形の霊界に対して一瞥も呉れず、且霊界や神仏を無視しながらも、現界に於ても徹底する能はず、霊界に於ては等閑ながらも、或時は些しく霊界の存在を認めて見たり、或時は現界計りに執着したり、精神の帰着点を失ふたり、二途不摂の異見外道である。次に、 ニルケラントー・ヂニヤー・ヂブトラ、此外道は、人間の苦楽と云ふものは素から因縁が定つて居るものだ。例へば三碧の星はどうだとか、九紫の星はどうだとか、子の年に生れたからどうの、丑の年に生れたからどうだとか、身魂の因縁が好いとか悪いとか、宿命説に堕落した宿命外道である。斯る宿命外道は如何程神仏を信仰するとも、自分の定まつた運命を転換する事は出来ない。何事も運命と諦めて其道に殉ずるより外はない。オタマ杓子は鯰に似てゐるが、少し大きくなると手足が生へて蛙になつて了ふ。どうしても鯰になる事は出来ない。それ故因縁の悪いものが神を信じた所で誠を尽した所で決して立派なものになれさうな事はない。何も前世の因縁性来だと断定をくだす無明暗黒なる常見外道であるが、斯の如き外道は、何れも神或は仏以外の所見にして、各一派の学説を立て、科学に立脚したる霊魂研究でなければ駄目だとか、或は神仏の名を標榜する事を忌み嫌ひ、太霊道だとか、二灯園だとか、或は何々会だとか、勝手な名を附して霊界を研究せむとする所謂常見外道である。現代は此外道最も蔓延し神仏の名を称ふるよりも霊智学とか、神霊研究だとか、霊学研究会だとか云ふ科学的名称に隠るるを以て文明人の態度らしく装ひ、蟻の甘きに集ふが如く集まり来つて、雲の彼方の星を探らふとする如き外道である。斯の如きニルケラントー・ヂニヤー・ヂブトラは三五教の中からも折々発生したものである。何れも自尊主義の慢心から、斯る外道に知らず識らず堕落するのである。 序に十二因縁を略解して置く、人間には、 一、無明、アヸドヤー 二、行、サンスカーラ 三、識、ボヂニヤーナ 四、名色、ナーマルーバ 五、六入、サダーヤタナ 六、触、スバルシャ 七、愛、エータナー 八、愛、ツルシューナー 九、取、ウバーダーナ 十、有、バヷ 十一、生、ヂャーチ 十二、老死、ヂャラー・マラナ の十二因縁がある。 無明とは、過去一切の煩悩を云ひ、行とは過去煩悩の造作を云ひ、識とは現世母の体中に托する陰妄の意識を云ふ。名色の名とは心の四蘊であり、色とは形質の一蘊である。六入とは、母の体中にある中に於て六根を成ずるを云ふ。触とは三四才迄に外的の塵埃の根元に触るるを覚ゆる状態を云ふ。愛とは生れて五六才より十二三才迄の間に強く外部の塵埃を受けて、好悪の識別を起すを云ふ。愛とは十四五才より十八九才までの間に外塵を貪り愛する念慮を起すを云ふ。取とは二十才以後一層強く、外塵に執着の念を生ずるを云ふ。有とは、未来三有の果を招くべき種々の業因を造作し、積集するを云ふ。生とは未来六道又は八衢の中に生ずるを云ふ。老死とは未来愛生の身体、又遂に朽壊するを云ふ。この十二因縁はどうしても人間として避くべからざる事である。併し乍ら、此十二因縁の関門を通過して初めて人間は神の生涯に入り、永遠無窮の真の生命に入つて、天人的生活を送るべきものである。然るに総ての多くの人間は九十五種外道のために身心を曇らされ忽ち地獄道に進み入り、宇宙の大元霊たる神に背き、無限の苦を嘗むるに至るものが多い。故に神は、厳瑞二霊を地上に下し天国の福音を普く宣伝せしめ、一人も残らず天国の住民たらしめむと、聖霊を充して予言者に来らせ給ふたのである。如何に現世に於て聖人賢人、有徳者と称へらるる共、霊界の消息に通ぜず、神の恩恵を無みするものは、其心既に神に背けるが故に、到底天国の生涯を送る事は出来難いものである。約束なき救ひは決して求められないものである。故に神は前にシャキャームニ・タダーガタを下して霊界の消息を世人に示し給ひ、又ハリストスやマホメット其他の真人を予言者として地上に下し、万民を天国に救ふ約束を垂れさせられた。されど九十五種外道の跋扈甚だしく、神の約束を信ずるもの殆ど無きに至つた。それ故世は益々暗黒となり、餓鬼、畜生、修羅の巷となつて仕舞つた。茲に至仁至愛なる皇大神は、この惨状を救はむが為に、厳瑞二霊を地上に下し、万民に神約を垂れ給ふたのである。ああされど無明暗黒の中に沈める一切の衆生は救世の慈音に耳を傾くる者は少い。実に思うて見れば悲惨の極みである。ああ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・三・二四旧二・八於伯耆国皆生温泉浜屋加藤明子録) |
|
146 (2689) |
霊界物語 | 57_申_テルモン山の神館2 | 12 三狂 | 第一二章三狂〔一四六二〕 三千彦はシャルと共に小声にて宣伝歌を歌ひ乍ら、八衢街道とは知らず現界の道路を通過する気分にて進み行く。八衢の関所には例の如く赤面、白面の二人の守衛が儼然と控へて居る。見れば一人の男が赤面の守衛に何事か調べられて居た。 赤『その方の姓名は何と申すか』 男『ハイ、私は鰐口曲冬と申します』 赤『其方は何か信仰を有つてゐるか』 曲冬『ハイ、別にこれと云ふ信仰も厶いませぬが、神儒仏三教を少し許り噛つて居ります』 赤『其中で何教が一番お前の心に適したか、否徹底して居たと考へたか』 曲冬『ハイ、初めは一生懸命に仏教を研究致しました。さうした処が何処に一つ拠る所がないので止めまして厶います。要するに仏教は百合根の様なもので、一枚々々皮を剥いて奥深く進みますと、何にも無くなつて了ひます、所謂仏教は無だと思ひます。能書計り沢山並べ立て、まるで薬屋の広告見た様なものですからな。売薬の広告ならば「此薬は腹痛とか、疝気とか、肺病に用ゆべし。又日に何回服用とか、湯で飲めとか、水にて飲めとか、食前がよいとか、食後がよいとか、大人ならば何粒、小人ならば何粒、何才以下は何粒」と御叮嚀に服用書が附いて居ますが、仏教の経典は只観音を念じたら悪事災難を逃れるとか、阿弥陀を念じたら極楽にやると書いてあるのみで、八万四千の経巻も何処にも其用法が示してないので駄目だと思ひました』 赤『お前は霊界の消息を洩らしたる仏教に対し尊敬帰依の心を捨て、なまじひに研究等と申してかかるから、何にも掴めないのだ。霊界の幽遠微妙なる真理が物質界の法則を基礎として幾万年研究するとも解決のつく道理がない。暫らく理智を捨て、意志を専らとして研究すれば神の愛、仏の善、及び信と真との光明がさして来るのだ。仏教がつまらない等と感ずるのは、所謂お前の精神がつまらないからだ。仏の清きお姿がお前の曇つた鏡に映らないからだ』 曲冬『さう承はれば、さうかも知れませぬが、如何も分り難う厶います』 赤『人間の分際として仏の御精神を理解しようとするのが間違ひだ。仏は慈悲其ものだ、至仁至愛の意味が分れば一切の経文が分つたのだ』 曲冬『ア、さうで厶いましたか。それは、偉い考へ違ひをして居りました。之から一つ研究をやつて見ませう』 赤『駄目だ。二つ目には研究々々と口癖の様に申すが、お前の云ふ研究は犬に炙だ。ワンワン吠猛るばかりが能だ。止めたら宜からう。左様な心理状態では到底仏の御心を悟る事は出来ない。それから次は何を信仰したのだ』 曲冬『ハイ、別に信仰は致しませぬが、ヤハリ聖書を研究致しました』 赤『旧約か、新約か』 曲冬『勿論旧約で厶います』 赤『何か得る処があつたか』 曲冬『ハイ、売る処も買う所も厶いませぬ。これもヤツパリ私の性に合ひませぬので五里霧中に逍遙ふ所に、或人の勧めによつて三五教に入つて、可なり真面目に研究して見た所、どうも変性女子の言行が気に喰はないので、弊履を棄つる如く脱会し、今は懺悔生活に入つて居ります』 赤『その方は霊界物語の筆写迄やつたぢやないか。直接に教示を受け乍ら、分らぬとは扨ても困つた盲だな。矢張研究的態度を以てかかつて居るからだ。結構な神の教を筆写し乍ら、ホンの機械に使はれたやうなものだ。さうして幾分か信ずる処があつたのか』 曲冬『ハイ、女子の方は幾分か信じて居りましたが、然しこれは宜い加減なペテンだと考へて居りました。それよりも変性男子の神諭に重きを置いて居つた所、其原書を見て余り文章の拙劣なのに愛想をつかし、信仰が次第に剥げて了ひました』 赤『馬鹿だな。神の教は文章の巧拙によるものでないぞ。文章なんかは枝葉の問題だ、その言葉の中に包含する密意を味ふのだ。目はあれども節穴同然、耳はあれども木耳同然、舌はあれども数の子同然、鼻はあれども節瘤同然、そんな事で三五教が善いの、悪いの、男子がどうの、女子がどうのと云ふ資格があるか。よくも慢心したものだのう』 曲冬『別に慢心はして居りませぬ。世界の人間に宣伝しようと思へば信仰も信仰ですが充分研究を遂げ、これなら社会に施して差支ないと云ふ所まで調べ上げねば社会に害毒を流しますからな。云はば社会の為に忠実なる研究ですよ』 赤『お前は未だ我執我見がとれぬからいけない。異見外道、自然外道、断見外道と云ふものだ。そんな態度では何処迄も神様は真理を悟らして下さらぬぞ。神様は愚なるもの、弱きもの、小さきものをして誠の道を諭させ玉ふのだ。決して研究的態度を採る様な慢心者には、密意はお示しなさらぬ。お前は大学を卒業して一廉学者の積りで居るが、其学問は八衢や地獄では一文の価値もない。いや却て妨げとなり苦悩の因となるものだ。お前の両親も困つた事をしたものだな』 曲冬『お前は門番の癖に文士に向つて偉さうに云ひますが、日進月歩文明の世の中に学を排斥するとは以ての外ぢやありませぬか。国民が残らず無学者であつたなら皆外の文明国に奪られて了ふぢやありませぬか。人文の発達を図り、国威の宣揚を企図する為には、どうしても大学程度の学問がなければ駄目ですよ。お前等は僅か小学を卒業した位だから世間の事に徹底して居ない。それだからポリス代用の門衛をして居るのだ。到底拙者の論説に楯突く事は出来ますまい。何科あつて調べらるるか知らぬが、もつと確りした分る方を呼んで来て下さい。知識の階段が違うてるからお前さまには分りますまい』 赤『馬鹿を云ふな、此処は霊界の八衢だ。博士も学士も皆出て来る所だ。無学でどうして此門番が勤まるか。お前等は自然界の下らぬ学説に心身を蕩かし、虚偽を以て真理となし優勝劣敗弱肉強食の制度を以て最善の方法と考へてる亡者だから到底真理の蘊奥は分らないのだ。お前のやうなものが霊界へ来ると訳の分らぬ理窟を云つて精霊を汚すから、ここで現界で研究して来た下らぬ学術を皆剥奪してやらう』 曲冬『コレ赤さま、お前は発狂してるのか、但は酒に酔うて居るのかい。ここを霊界の八衢だ等と、それは何を云ふのかい。霊界や八衢や地獄があつて堪りますかい、人間は子孫を残して死ねば、それ迄のものだ。チツト哲学的知識を養うて置きなさい。社会の落伍者となつて遂に門番も勤まらなくなりますよ』 赤『門番が、それ程、其方は賤しいと思ふのか。便所の掃除や塵捨場の掃除は如何だ。それの方が矢張尊いのか』 曲冬『さうですとも、大慈大悲の心を以て人の嫌がる事を喜んでするのが、人間の人格を向上する所以です。便所の掃除する者や塵の掃除する者が無ければ、世の中は尿糞塵の泥濘混濁世界となるぢやありませぬか。それで私等は伊吹戸主の神様の御用をして居るのだ。汚いものを美しうする位神聖な仕事はありますまい。私は賤しい仕事とも汚い商売とも思つて居りませぬ』 赤『ア、さうか、それではお前の最も愛する処へやつてやらう。地獄には塵捨場もあれば堆糞の塚も沢山にある。娑婆の亡者がやつて来て腐肉に蠅が集る様に喜んで嗅いで居る。現世にある時の所主の愛によつて身魂相応の処に行つたが宜からう。夜もなく冬もなき天国に於て、総ての神の御用に仕へまつり無限の歓喜に浴するよりも、其方は臭気紛々たる地獄道へ行くのが得心だらう。サア遠慮は要らぬ、トツトと行つたが宜からうぞ』 曲冬『はてな、さうすると此処は矢張霊界ですかな』 赤『定つた事だ。霊界か現界か分らぬ様な亡者が如何なるものか。それだから心の盲と云ふのだ』 曲冬『然らばどうか天国へやつて頂き度いものです』 赤『マアここで或一定の時間を経なくては、お前の様な汚れた魂は直に天国にやる事は出来ない。先づ外部的要素をスツカリ取らなくてはならぬ。現世に於て心にもない事を云つたり、阿諛を使つたり、体を窶したり、種々とやつて来た其外念をスツカリ取り外し、第二の内部状態に入り、内的生涯の関門を越えるのだ。内的とは意志想念だ。果してその意志が善であり真であらば天国へ上る事が出来るであらう。併し乍ら内的状態になつてからエンゼルの教を聞き、其教が耳に這入る様ならば天国へ行く資格が具備してるなり、如何しても耳に這入らねば地獄行きだ。之を第三状態と云つて精霊の去就を決する時だ』 曲冬『ヘー、随分難いものですな。矢張天国も地獄もあるものですかな』 斯く話す所へ高姫は皺嗄声を張り上げ乍ら、 高姫『オーイ、三千彦、シャル、待つた待つた。云ひ度い事がある』 と天塩昆布の様になつた帯を引摺り乍ら走り来り、 高姫『こら、シャル、恩知らず奴、妾が此三千彦の極道に引倒され、苦しんでゐる間に悪口をついて逃げて来たぢやないか。コレコレお役人さま、此奴は悪党者で厶います。義理天上が直接成敗する処なれど神界の御用が忙しいから、お前さまに任すから厳しく膏をとつてやつて下さいや』 赤『ヤ、お前は高姫ぢやないか。霊界へ来て迄噪やいで居るのか。モウいい加減に外部的状態から離れたら如何だ。一年にもなるのに何と渋太い奴だな』 高姫『ヘン、よう仰有りますワイ。一年にならうと二年にならうとお構ひ御免だ。いつやらも杢助さまを隠しやがつて、量見せぬのだが何を云つても大慈大悲の大弥勒さまの生宮だから、大目に見て居るのだ。グヅグヅ申すと此生宮が承知致さんぞや』 赤『白さま、此婆アさまは、邪魔になつて仕方がないから何処かへ突き出して下さい』 高姫『ヘン、お邪魔になりますかな。そりや、さうでせう。誠の神の言葉は悪人の耳には、きつう応へませう。お気の毒様乍ら此生宮は世界万民救済の為、チツトお耳が痛うても云ふ丈け云はして貰ひませう。弥勒様の因縁を知つて居ますか、一厘の仕組が分りますか、エー、よもや解りますまい。ヘン、一厘の仕組も分らぬ癖に偉さうに云ふものぢやないわ』 赤『白さま、早く何処かへやつて下さい』 白『コレコレ高姫さま、ここは八衢だからお前は早く何処かへ行つて下さい。職務の邪魔になりますからな』 高姫『コウリヤ白狐、お前は赤狐の云ふ事を聞いて此日の出神を放出さうとするのか。ハテ悪い量見だぞえ。よう考へて御覧なさい。天地の間は何一つ弥勒様のお構ひなさらぬ処はないぞえ。お土とお水とお火の御恩を知つてますか。その本を掴んだ底津岩根の大弥勒さまを何と心得て厶る。扨ても扨ても盲程困つた者は無いワイ。ヤ最前から怪体な男が立つて居ると思つたが、お前はアブナイ教の菊石彦だな。先程は大きに憚りさま、ヨー突き倒して下さつた。コレコレ赤に白、日の出神が吩咐ける。此菊石彦は此生宮を引倒した悪人だから一つきつい制敗に遭はしなさい。屹度申付けて置きますぞや』 白の守衛は止むを得ず、棕櫚箒を以てシャル、高姫の両人に向つて掃出した。二人は驚いて雲を霞と南を指して逃げて行く。 三千彦『モシ、門番様、ここは実際の霊界で厶いますか』 赤『ハイ、さうです。貴方はアンブラック川へ悪者に縛られ投げ込まれなさつた一刹那、気絶なさつた為、精霊が此処へ遊行して来たのですよ。神の化身のスマートと云ふ義犬が矢場に川に跳び込み、貴方の死骸を啣へて堤へ引上げ、縛を解いて今一生懸命に貴方の肉体に対し介抱をして居ります。軈てスマートが迎へに来るでせうから一緒にお帰りなさい。まだ此処に来る時ではありませぬ。そしてテルモン山に悪者が跳梁つて居ますから充分注意して臨まねばなりますまい』 三千彦『さう承らば幽かに記憶に浮んで来ます。矢張私は溺死したのですかいな。霊界と云ふ所は現界と少しも違はない所ですな。一つ不思議なのは、あの高姫さまは命がなくなつたと聞いて居りましたのに随分えらい脱線振り、あの方も矢張霊界に居られるのですかな』 赤『まだ現界に三十年許り生命が残つて居りますが余り現界で邪魔をするので、時置師神様がお出になり、伊吹戸主の大神にお願ひ遊ばして、三年が間中有界に放つてあるので厶います。三年すれば屹度外の肉体に憑つて再び現界で活動するでせう。今の精神で現界に行かれちや、やりきれませぬから、あと二年の間に充分の修業をさして現界に還す積りです』 三千彦『成程、何から何まで、神様のなさる事はよく行き渡つたものですな。併し乍ら三年の後には高姫の肉体は最早駄目でせう』 赤『三年の後に生命尽きて霊界に来る肉体がありますから、其肉体に高姫の精霊を宿らせ、残り三十年を現界で活動させる手筈となつて居ります』 三千彦『ア、さうですか。三年先になれば誰かの肉体に憑つて脱線的布教をやるのですな、困つたものですな』 赤『もう已に一年を経過したのだから、後二年ですよ。あの我執我見を此二年の間に何とか改良せねばならぬのですから、霊界に於ても大変手古摺つて居ます。今は岩山の麓に小さき家を建てて一人暮しをして居ますが、マア一人で暮して居れば余り害がないから大神様も大目に見て厶るのですよ。エンゼルが行つても減らず口計りたたいて、受付けぬから困つたものです。人間の精霊も、あれ丈け我執に固まつて了つては仕方の無いものですワイ』 斯く話す時しも南の方より宙を跳んで走り来る一頭の猛犬、『ウーウー、ウワツウワツ』と二声三声高く叫んだ。此声にハツと気がつき四辺を見れば今迄の八衢の光景は影もなく消え失せ、アンブラック川の堤の青芝の上に横たはつて居た。側には猛犬スマートが行儀よく坐つて嬉しげに三千彦の顔を眺め尾を掉つて居る。テルモン山の方を眺むれば黒煙濛々として立ち上り黒雲の如く空を封じて居る。月は黒煙の間に隠顕出没しつつ足早に走る如く見えて居る。 (大正一二・三・二五旧二・九於皆生温泉浜屋北村隆光録) |
|
147 (2738) |
霊界物語 | 59_戌_イヅミの国2(キヨの港) | 05 有升 | 第五章有升〔一五〇五〕 初稚『もしテクさまとやら、キャプテン様から妾に御用とは如何なる事で厶いますか。何卒速にお伝へを願ひます』 テク『私はチツと酩酊致して居りますから脱線するかも知れませぬ。前以てお断りして置きます。あの……外でも厶いませぬが……それそれ……さう短兵急に追撃されては応戦の……余裕が厶いませぬ。先づ美人砲台の……沈黙を待つて徐に攻勢に向ひませう』 と俄に騙されて中尉の称号を貰つた嬉しさに何でもかでも軍隊の用語を使つて談判をやらうと考へて居る間抜け野良だ。 初稚『砲台だの、攻撃だの、応戦だのと、随分殺伐なお言葉ですな。どうか、も少しハンナリと仰有つて頂き度いもので厶います』 テクは『気を付け』の姿勢をとり一方の手を乳の辺りに上向けに拡げて弥宜が笏板を持つた様なスタイルになつて、稍反り乍ら、 テク『私は中尉であります。今日大尉殿の命により伝令兼斥候として此陣営へ特派せられた者であります。その使命と申すのは外でもありませぬ。アヅモス山の南麓バーチルの陣営に於て兵士の凱旋祝賀会が挙行されました。それに就いて大隊長殿が私を特使として此営所へ御派遣になつたのであります。酒宴の席には男ばかりでは、どうも興味薄きを以て、天下無双のナイス初稚姫殿を召集し来れとの命令であります。言はば此テクはキャプテンの軍使であります。速に軍律に従ひ、否上官の命に従ひ、御出張、否御出陣あり度きものであります』 初稚『オホヽヽヽ、テクさま、貴方どうも硬い事を仰有いますな。妾はお酒は嫌ひで厶いますから陣営等には到底参る事は出来ませぬ。又陣中に女が参りますと軍規が乱れますから、之ばかりはお断り申します』 テク『これは怪しからぬ。拙者を何と心得て厶る。拙者は憲兵中尉で厶るぞ。チツと注意をして物を云つて頂かないと実に困るのであります。御命令に違背なさると軍律に照し、銃殺の刑に処せらるるのであります。ここは篤と御勘考なさらねばならぬ所であります。実の所はキャプテン様は貴女の容色に属魂打込み、殆ど魂を抜かし、矢も楯も堪らないと云ふ今日の戦況であります。どうしても落城せなければ臼砲なりと野砲なりと発砲して占領して来いとの厳命であります。さア早く軍門に御出頭あらむ事を願ふあります』 初稚『これは又迷惑な事で厶いますナ。どうか左様な事を仰有らずにお帰り下さいませ。貴方はお酒を召して居らつしやいますから、左様な事を申されるのです。苟くも人の頭とならるべきキャプテン様が、妾の如き女風情を陣中にお招き遊ばす道理が厶いませうか』 テク『これはしたり、女が陣中に行けないと云ふ事がありますか。上野の形名といふ軍人の女房は陣中に入つて夫に酒を勧め、軍功を立てさせたぢやありませぬか。貴女は第二夫人様、……否第一夫人の候補者かも知れませぬ。さア何卒早く私に対し、よき報告を願ひます。否私と共に御出陣あらむ事を希望する次第であります』 初稚『妾は何と仰せられましても陣中に足を入れる事は、どうしても心が進まぬのであります。何と仰せられても行かないと云つたら行かない覚悟であります』 テク『もし、お姫さま、私のお株をとつちやいけませぬよ。「アリマス」は軍人の専用語ですからな』 チルナ姫は今迄木蔭に立つて二人の問答を聞き、自分の夫が初稚姫に恋慕してると云ふテクの報告を聞いて殆ど狂乱の如くなり、樹蔭に地団太を踏んで居る。その足音にカンナ、ヘールの両人はハツと気がつき、擦り寄つて見れば、何だかチルナ姫の様である。カンナは小声で、 カンナ『もし、奥さまぢや厶いませぬか』 チルナ『お前、今の話を聞いたか。旦那様があの女に属魂惚れて厶ると云ふ事だから、私の吩咐けたやうに何故早く要領を得て了はないのか』 カンナ『ヘー、要領を得たいのは山々で厶いますが、そうチヤクチヤクと空腹にお茶漬を食つた様には行きませぬからな』 チルナ『エー、ぢれつたい。グヅグヅして居るとどんな事が出来るか知れぬぢやないか。荒男が二人も居つて、あんな阿魔女を、どうする事も出来ぬとは腑甲斐ないものだな。さア早く肝玉を出して何とかなさらぬかいな』 ヘール『奥様、もしも、やり損なつたら、貴女後引受けて下さるかな』 チルナ『そんな心配は要りませぬ。何でもかでも強く行きさへすれば何んな事でも成功しますよ。グヅグヅしてるとあの女を連れて行つて旦那様につき合すかも知れないわ。エー、悔しや、残念や、口惜しやな。男が二人も居つてあれ位な女を如何する事も出来ぬのかいな』 カンナ『奥さま、そこ迄仰有るのなら一つやつて見ませう。然し一寸手荒い事をして同情心を失つては駄目ですから、ここで一つ歌でも歌つて心を動かし目的を達して見ませう。もし奥さま、貴女も一つ作り声をして応援して下さい』 チルナ『さア早くやつて御覧、いかなかつたら妾が応援するから』 カンナ『バラモンの軍の司ここにあり いざ言問はむ初稚姫に』 ヘール『姫様よ汝に迷ひて忍び来る 男心を見捨て玉ふな』 チルナ『チルテルの心汚き武士に 身を任しなば世に笑はれむ。 チルテルの軍の君は世に稀な チルナの姫が控へますぞや。 吾恋は大海原を渡る舟 浪を凌ぎて神島へ行く。 初稚の姫の命よ逸早く 館を立ちて月へ出でませ』 初稚姫は中より、 初稚姫『月の国ハルナの都に神在すと 慕ひて進む吾なりにけり。 さり乍らイヅミの国に今暫し 足を留めて身をや休めむ』 チルナ『此里に足を留めて居ますなら カンナ、ヘールに身を任しませ』 初稚姫『身は一つ如何で二人に仕ふべき 妾は神にのみぞ仕ふる チルテルの軍の君は賢しと 聞けども如何で身を任すべき。 若草の妻を持たせるチルテルの 君に仕へて堪るべきかは。 チルテルの厚き情に絆されて 暫し息をば休め居るのみ』 テク『初稚姫神の命はキャプテンの 第二夫人と定つてあります。 どうしても嫌と云ふなら引張つて 陣屋に進む覚悟あります。 さア早う行かねば酒が冷めまする 酒の肴に使ふあります。 キャプテンの清き男子を振棄てて カンナにつけば身を削られむ。 カンナてふ奴は人をば削り喰ふ 鬼の様なる男あります。 ヘールとはカンナをかけて削る様に 一枚一枚ヘール恋衣』 カンナ『もう自暴自棄だ勇猛心を発揮して 乗るか反るかをやつて見ませう。 おい、そこだ、テクの奴めがやつて来て 恋の邪魔する面の憎さよ。 此上は直接行動腕づくだ 初稚姫を担げて退かむ。 肱鉄をうまい辞令で誤魔化され 男の顔が何処で立たうか』 初稚『テクさま、何卒あの通り外に皆様が種々と仰有つて居ますから妾は大変迷惑致します。何卒帰つて下さい。そしてキャプテン様に御用がおありなさるのなら帰つて悠りお会ひしませう。又酒の相手も及ばず乍ら勤めさして頂きますと、何卒そこは宜しく云つて下さいませ』 テク『それでも旦那様が大変に惚れて居らつしやるのだもの、私だつて貴女に来て頂かなくては中尉もゼロになりますからな。私を中尉にして下さるのなら何卒早く来て下さい。之が私の一生のお願ひであります』 テクは自暴自棄糞になり大きな声で歌ひ出した。 テク『駄目だ駄目だ皆駄目だこんな綺麗な面をして バラモン軍のキャプテンがお言葉さへも刎ねつける 容色がよいとて自慢すなお前の様な阿魔女は 世界にや沢山ある程に慢心するのも程がある 青瓢箪に目と鼻をつけたる様なスタイルで 猪口才千万美人面愛想も欲得もつき果てた 外に厶るはカンナさま恋に狂ふたヘールさま 思ひ切つたが宜しかろこんな分らぬスベタ女郎 何程口説いて見た所でテツキリ駄目で厶るぞや 俺も折角キャプテンに憲兵中尉の職名を 頂き乍らムザムザと返さにやならぬ破目となり むかついてむかついて堪らぬがさうかと云つて此阿魔を どうする訳にも行きはせぬあれ程チルテル・キャプテンが 現を抜かし目尻下げ寝ても覚めても姫々と 大切の大切の奥さまを邪魔者扱になし乍ら 酒の場席へ引張つて男前をば誇らむと なさつて厶るがお憐しいあんな夫を持つ女房 嘸や心が揉めるだろチルナの姫のお心が 気の毒さまになつて来た女は魔物と云ふ事は 予て人から聞いて居た女の涼しい円い目で 一目睨めば鉄城もガタガタガタと覆へし 山も田地も家倉もメチヤメチヤメチヤにして了ふ こんな女が出て来たらバラモン教のキャプテンも 酒で殺した鰌の様にグニヤグニヤグニヤと相好を 崩して腰を抜かしつつ肝腎要の軍務をば 忘れて遂には免職の悲運に落ちねばならうまい 思へば思へばお気の毒此テクさまも此使命 スツカリ思ひ切つたぞや序にスパイの職掌も 返上致してバーチルの家の番頭となり済まし 朝から晩まで甘酒を思ふがままに飲み倒し 短い浮世を面白く飲めよ騒げよ一寸先や暗と 踊り狂ふて暮しませう何よりかより酒の味 美人の如きは吾々は決して物の数でない あゝ惟神々々燗して飲んだ酒の味 冷酒鯛汁の吾身にはこれに勝つた楽みは 三千世界にありませぬ初稚姫の阿魔女さま 左様なら御免を蒙つてキャプテン様に何事も 笠に笠をばかけ乍ら悪く注進仕る カンナ、ヘールの両人に現をぬかして脂下り どうしてもこしてもキャプテンの側には死んでも行かないと 駄々をば捏ねて出て来ない尻太い女と詳細に 注進するが宜しいかよくよく思案するがよい もうかうなれば自暴自棄酒ださア燗酒だ燗酒だ そろそろ酔が覚めかけた一刻も早く帰つて酒を飲もう 皆さまお酒へ左様なら』 と畳障りも荒々しく腹立ち紛れに四股を踏みならし、暗に紛れて帰り行く。 (大正一二・四・一旧二・一六於皆生温泉浜屋北村隆光録) |
|
148 (2768) |
霊界物語 | 60_亥_イヅミの国3/三美歌/祝詞/神諭 | 07 方便 | 第七章方便〔一五三二〕 新に建てられたアヅモス山の社の前には、アキス、カールにワードの役を命じおき、バーチルは玉国別一行其他と共に喜び勇んで、一先づ館へ帰る事となつた。スマの里人は老人少女を聖地に残し、玉国別一行を見送つて、バーチル館に従ひ行く。 元来スマの里は何れも山野田畠一切、バーチルの富豪に併呑され、里人は何れも小作人の境遇に甘んじてゐた。併し乍ら日歩み月進み星移るに従ひて、彼方此方に不平不満の声が起り出し、ソシァリストやコンミュニスト等が現はれて来た。中には極端なるマンモニストもあつて、僅かの財産を地底に埋匿し、吝嗇の限りを尽す小作人も現はれてゐた。然るに此度、アヅモス山の御造営完了と共に、一切の資産を開放して郷民に万遍なく分与する事となり、郷民は何れも歓喜して、リパブリックの建設者として、バーチル夫婦を、口を極めて賞揚する事となつた。俄にスマの里は憤嫉の声なく、各和煦の色を顔面に湛へて、オブチーミストの安住所となつた。 サーベル姫は村人の代表者を十数人膝元に集めて、一切の帳簿を取出し、快く之を手に渡し、自分は夫と共に永遠に、アヅモス山の大神に仕ふる事を約した。ここに又もや郷民の祝宴は盛大に開かれ、夫婦の万歳を祝し合うた。 さて玉国別一行はバーチルの居間に請ぜられ、各歓を尽して、尊き神の御教を互に語り合ひつつ、嬉しく其日を過ごした。 チルテル『玉国別様にお願ひが厶います。私も此通り菩提心を起し、一切の世染[※世塵(せじん)の誤字か?]を捨て、惟神の大道を遵奉し奉る嬉しき身の上となりましたのも、全く貴師の御余光で厶います。就ては宏遠微妙なる御教理も承はりたく、且又自分の歓びを衆生に分ち、神業の一端に奉仕したく存じて居りますから、三五教式の宣伝方法を御教示願ひたいもので厶います』 玉国別『それは誠に結構な思召、玉国別も歓喜の情に堪へませぬ。左様ならば吾々の大神様より直授された宣伝方法に就て、少し許り御伝へを致しませう。 神の恵を身に禀けて世人を救ひ助けむと 四方に教を開くなる至仁至愛の神司 たらむとすれば何時とても心を安く穏かに 歓喜の情を湛へつつ蒼生に打向ひ 幽玄微妙の道を説け清浄無垢の霊地にて 座床を造り身を浄め塵や芥を排除して 汚れに染まぬ衣をつけ心も身をも清くして 始めて宝座に着席し人の尋ねに従ひて 極めて平易に道を説け比丘や比丘尼や信徒や 王侯貴人さまざまの前をも怖ぢず赤心を 尽して微妙の意義を説き面貌声色和らげて 人の身魂をよく査べ因縁比喩を敷衍して 天地の道理を説きさとせ人は神の子神の宮 善言美詞の言霊を一人も嫌ふ者はない もし聴衆の其中に汝が説を攻撃し 或は非難するあれば吾身を深く省みよ 神にかなはぬ言霊を心の曲の汚れより 不知不識に発せるを必ず覚悟し得るならむ 百千万の敵とても只一言の善言に 感じて忽ち強力の神の味方となりぬべし 仮令数万の吾部下を味方となして誇るとも 只一言の悪言に感じて忽ち怨敵と 掌覆す如くなる此真諦を省みて 必ず過つ事勿れ只何事も世の中は すべて善事に宣り直し愛の善をば能く保ち 信の真をば能く悟り而して後に世の人に 真の道を説くならば如何なる外道の曲人も 決して反くものでない誠一つは世を救ふ 神の教は目のあたり現はれ来る摩訶不思議 すべて天地は言霊の御水火に仍りて創造され 又言霊の御水火にて規則正しく賑しく 治まり栄ゆるものぞかしあゝ惟神々々 真善美愛の神の道学ばせ玉へバラモンの 軍に仕へし諸人よ玉国別の神司 心の岩戸を押開き茲に一言宣り申す あゝ惟神々々神の授けし言霊の 厳の伊吹ぞ尊けれ旭は照る共曇る共 月は盈つ共虧くる共大三災の来る共 神に受けたる言霊を清く涼しく宣るならば すべての災忽ちに雲を霞と消え失せむ 守らせ玉へ言霊の善言美詞の太祝詞 心を清め身を浄め其行ひを清くして 厳の言霊宣るなれば雲井に高き天界の 皇大神もエンゼルも地上に現れます神々も 蒼生も草や木も其神徳を慕ひつつ これの教を守るべし偉大なる哉言霊の 皇大神の御活動仰ぎ敬まひ奉れ 仰ぎ敬ひ奉れ』 チルテル『バラモン教の神柱大黒主に従ひて 左手にコーラン捧げつつ右手に剣を握りしめ 折伏摂受の剣として外道の道を辿りつつ 今迄暮し来りしが玉国別の師の君に 誠の道を教へられ布教伝道の方便を いと明かに授けられ心の暗も晴れ渡り 旭の豊栄昇る如身も健かになりにけり いざ此上は真心の限りを尽して愛善の 徳を養ひ信真の覚りを開き詳細に 一切衆生を救済し天地の御子と生れたる 其本分を尽すべしあゝ惟神々々 三五教を守ります厳の御霊や瑞御霊 玉照彦や玉照姫の雄々しき聖き御柱に 従ひ奉り八十の国八十の島々隈もなく 神の教の司とし沐雨櫛風厭ひなく 神の御為世の為に所在ベストを尽すべし 守らせ玉へ惟神神の御前に赤心を 捧げて祈り奉るアヅモス山の宮司 バーチル夫婦も今よりは聖き尊き三五の 教を守り玉ひつつ東の宮と西の宮 心に隔つる事もなくいと忠実に朝夕に 仕へ玉はれ惟神神の光に照されて バラモン軍に仕へたるチルテル司が願ぎ奉る あゝ惟神々々御霊幸ひましませよ』 カンナ『キャプテンの司の君に従ひて 吾も進まむ神の大道へ』 ヘール『久方の天津御神の音信を 今目のあたり聞くぞ尊き』 チルナ姫『背の君は全く人となりましぬ 心に棲める曲のはなれて』 チルテル『わが魂はさまで悪しくは思はねど 寄りくる曲を防ぎかねつつ。 力なき吾魂も今は早や 千引の岩の動かずなりぬ』 チルナ姫『背の君の珍の言霊聞こしより 心の曲も消え失せにけり』 真純彦『師の君の初めて宣らす言霊を 聞きし吾こそ嬉しかりけり』 三千彦『斎苑館立出で月日数重ね 初めて聞きし吾師の言葉』 伊太彦『一と言へば十百千を悟るてふ 身魂ならでは詮すべもなし。 一聞いて直ちに島に打渡り 功績を立てし猩々舟哉』 三千彦『すぐに又鼻をば高め足許に 眼失ひ躓くなゆめ』 伊太彦『皇神の選りに選りたる吾魂は いかでか汝に比ぶべきやは』 真純彦『うぬぼれて深谷川に落ち込むな 慢心すればすぐに躓く』 伊太彦『吾とても誇る心はなけれ共 魂はいそいそ笑み栄え来て』 デビス姫『何事も人に先立つ伊太彦の 神の使のいとど畏き』 チルテル『伊太彦の得意や実にも思ふべし 獣の皮着し人を迎へて』 カンナ『獣とは云へど此世の人草に 優る霊を持てる尊さ』 ヘール『かく迄も人の心の曇りしかと 思へばいとど悲しくなりぬ』 アンチー『アヅモスの山に棲まへる鳥翼 人にあらねど人を見下す。 人々の頭の上を悠々と 舞ひて遊べる鷹ぞ恨めし』 バーチル『何事も天地の神の御心に 任すは人の務めなるらむ』 サーベル姫『天地の神も諾ひ玉ふらむ 心清けき此人々を』 テク『朝夕によからぬ事のみ漁りつつ 暮し来りし吾ぞうたてき。 さり乍ら恵も深き大神の 御手に救はれ勇む今日かな』 ワックス『テルモンの山を立出で今此処に 仇と思ひし人と並びぬ。 仇とのみ思ひし事は夢となり 今は救ひの神と見る哉』 エキス『相共に悪しき事のみ謀り合ひ 神を汚せし事の悔しさ。 町人の前に恥をば曝されて 尻叩かれし事ぞ恥かし。 今日よりは心の駒を立直し 進みて行かむ神の大道に』 ヘルマン『吾も亦善からぬ友に誘はれ ワックスを責めし事の愚かさ。 三五の神の司を殺さむと 大海原に待ちし愚かさ。 皇神の厳の力におぢ恐れ 今は全く猫となりけり』 エル『神館小国別の身失せしと 思ひて世人欺きし吾。 くさぐさの罪を重ねし吾なれど 救ひ玉ひぬ誠の神は。 スメールの御山に清く現れませる 神の御稜威を仰ぐ尊さ。 いかならむ魔神の襲ひ来るとも 今日の心は千代に変へなむ』 サーベル姫『吾こそは猩々姫の霊なり 玉国別に願言やせむ。 天王の宮の御跡の石蓋を 開けて竜王救ひ玉はれ』 玉国別『汝が願諾ひまつり之よりは アヅモス山の神を救はむ』 かく互に歌を取かはし、十二分の歓喜を尽し、玉国別は一同を従へ再び天王の古宮の床下を調査すべく、夜の明くるを待つて進み行く事となつた。 (大正一二・四・七旧二・二二於皆生温泉浜屋松村真澄録) |
|
149 (2783) |
霊界物語 | 60_亥_イヅミの国3/三美歌/祝詞/神諭 | 22 三五神諭(その三) | 第二二章三五神諭その三〔一五四七〕 明治三十四年旧六月三日 斯世の行く先の解るのは、綾部の大本の竜門館でないと、何んぼ知識で考へても何程学がありたとて、学があるほど利口が出て、解りは致さんぞよ。永くかかりて仕組んだ此の大望、解りかけたら速いから、改信が一等であるぞよ。変性男子の因縁の解る世が参りて来たから、世界にある事を先繰に、前途の事を知らせる御役であるぞよ。今度は世に落ちておいでる神々を皆世に上げねばならん御役であるから、順に御上りに成るぞよ。それに就いては世に出て御いでます万の神様に、明治二十五年から申付けてあるが、是迄のやうな世の持方では行けんから、岩戸を開くに就いては、高処から見物では可けませんぞえと申して置いたが、時節が参りたから、一旦は世界に言ふに言はれん事が出来いたすぞよ。 ○ 明治三十五年旧七月十一日 永らく筆先に出して知らしてやりても、今の人民は疑強き故に真に致さぬから、此中に実地を為て見せてあるから、能く見て置かんと肝腎の折に何も咄しが無いぞよ。霊魂の調査いたして、因縁ある身魂を引寄して御用に使ふと申して、筆先に出してあらうがな。今度の二度目の天の岩戸開と申すのは、天の岩戸を閉める役と、開く役とが出来るのであるが、神の差添の種は、自己が充分苦労をして人を助ける心でないと、天地の岩戸は却々開けんぞよ。差添の種に成るのは、二十五年からの筆先を腹へ締込みて置いたら宜いのであるぞよ。此中の結構な経綸が判りて来かける程、世界から鼻高が出て来るから、筆先で何麼弁解も出来るやうに書してあるから、調戯心で参りて赤恥かいて帰るものも出来るし、又誠で出て来るものもあるぞよ。目的を立てようと思ふて出て来るものもあるし、世間に解る程忙しくなるから、此寂しく致して誠を細かう判るやうに書してあるから、他の教会とは精神が違ふと申すのぢやぞよ。世界の鏡の出る所であるから、是迄に何程云ふて聞かしたとて、余り出口を世に墜して御用が為してありたから、疑ふ者計りで、此中の行ひがチツトも出来んゆゑ、誠の教も未だ今にさして無きやうな事であるから、此の闇の世に夜の明ける教を致しても、誰も真に致さねど、もう夜の明けるに近うなりたぞよ。夜が明けると神の教通りに世界から何事も出て来るから、世界は一旦は悪なるから、喜ぶものと悲しむものとが出来るから、大本さへ信神致して居りたら善き事が出来るやうに思ふて、薩張り嘘ぢやつたと申してゐるなれど、出口の日々の願で、大難を小難にまつり替へた所で、何なりと神国の中にも夫々の見せしめは在るぞよ。是から先になりたら、斯様な事が在るのに何故知らせなんだと小言を申すなり、知らせねば不足を申すであらうし、亦知らせて遣れば色々と疑うて悪く申すし、人民の心が薩張り覆つてゐるから、善き事は悪く見えるし、悪きこと致すものは却つて今の時節は善く見えるが、全然世が逆さまであるぞよ。今の世界に立つ人は、一つも誠の善の事は致して居らんぞよ。艮金神が表に現はれて世界の洗ひ替をいたすから、是からは何事も神から露見れて来るぞよ。今の世界の落ちてゐる人民は、高い処へ土持計り致して、年が年中苦しみてゐるなり。上に立ちてゐる神は悪の守護であるから、気儘放題好き寸法。強い者勝の世の中でありたなれど見て御座れよ、是から従来の行方を根本から改正さして了ふて、刷新の世の行方に致すから、今迄に上に立ちて居りた神は大分辛う成りて来るから、初発から出口直の手と口とを藉りて、色々と世界の霊魂に申聞したら、近所の者が驚いて、出口を警察へ連れ参りた折に、警察で三千世界の大気違ひであると申してあるぞよ。それでも気違ひが何を申す位により取りては居らんぞよ。何でもない手に合ふ者ほか能う吟味を致さんのか、モチト大きな者を吟味いたして世の潰れんやうに致さねば、此儘で置いたら、警察の云ふ事共聞く者が無きやうになるぞよ。艮金神が現はれて守護をしてやらねば、神の国は此状態で置いたら、全部悪神に略取れて了ふぞよ。斯様な時節が参りてゐるに、上に立ちておる守護神が先が解らんから、岩戸を開いて先の判る世に致すから、自己の心から発根と改信を為るやうに成るぞよ。艮金神が表になると物事速いぞよ。 ○ 明治三十六年旧七月十三日 悪神の国から始まりて、大戦争が在ると申してあるが、彼方には深い大きな計画をいたして居るなれど、表面からは一寸も見えん、艮金神は日の下に経綸が致して在るぞよ。日の下は神国で結構な国ぢやと云ふ事は、判りて居れど、何を申しても国が小さいので、一呑に為ておるから、今の精神では、戦争が始まりたら神国魂が些とも無いから、狼狽て了ふぞよ。是から段々と世が迫りて来て、世界中の大戦争となりて、窮極まで行くと、悪魔が一つになりて、皆攻めて来た折には、兎ても敵はんといふ人民が、神から見ると九分まであるが、日の下はモウ敵はんと申す所で、神国魂の生神の本の性来を、出して見せて遣ると、神国魂は胸に詰りて呑めぬから悪神の守護神が、元の霊魂の力はエライものぢや、誠ほど恐いものは無いと申して、往生する所まで神国の人民は堪忍な、今度悪神が強いと見たら、皆それへ属いて了ふから、ソコデ此の本に仕組てある事を、神国の人民が能く腹へ入れて、御用を致さす身魂が二三分出来たら、其処で昔からの経綸の神が現はれて、世界を誠一つの神力で往生致さして、世界中の安心が出来るやうに致して、昔の元の神代に復すぞよ。邪神の侵略主義はモウ世が終結ぞよ。何程人民に智慧学力が在りても、兵隊が何程沢山ありても今度は人民同志の戦争でありたら、到底敵はんなれど、三千年余りての経綸の時節が来たので在るから、世界中から攻めて来ても、誠には敵はん仕組が為てあるなれど、艮金神、竜宮乙姫どの、日出の神が表はれんと、其処までの神力は見せんから、此の大本には揃ふて神力を積ておかんと如何為様にも激烈うて、傍へは寄附かれん様な事が出来てくるから、身魂を能く磨いておけと申すのであるぞよ。身欲信仰して居る人民、そこへ成りてから助けて呉れと申ても其様な人民は醜しいから、傍へは寄せ附けんぞよ。能く神の心を汲取らんと、大本は天地の誠一つの先祖の神の経綸の尊い場所で在るから、迂濶に出て来ても、チト異う所であるから、其処にならんと眼が覚めんから、眼醒しの在るまでに、腹の中の埃を出して置かんと、地部下に成るから、執念言ふて気を附るぞよ。 ○ 明治三十七年旧正月十日 艮金神稚日女岐美命が、出口の守と現はれて、変性男子の身魂が全部現れて、斯世を構ふと余り速に見透いて、出口の傍へは寄れん様に成ると申して在るが、何彼の時節が参りたから気遣ひに成るぞよ。水晶の身魂でありたら、岩戸開きの折にも安心で何も無いなれど、一寸でも身魂に曇りがありたり、違うた遣方いたしたり、混りがありたり致したら、直ぐその場で陶汰られて、ザマを晒されるぞよ。人民からは左程にないが、神の眼からは見苦しきぞよ。変性男子は大望な御役であるから、今度の御用をさす為に、神代一代の苦労がさしてありての事であるから何程でも此筆先は湧いて来るぞよ。岩戸開きの筆先と立直しの筆先とを、世が治まる迄書かすなり、斯世一切の事を皆書かせるから、何麼事も皆解りて来るから、誰も恥かしうなるから、改信いたせ、身魂の洗濯いたせよと、出口直の手で知らしてあるのを、疑うて居りた人民気の毒が出来て来るぞよ。斯世が末に成りて、一寸も前へ行けんやうになりて、変性男子と女子とが現はれて、二度目の天の岩戸を開く大望な御役であるぞよ。今迄の教は魔法の遣方で金輪際の悪き世の終りであるぞよ。 ○ 明治三十七年旧七月十二日 今の役員信者は、今度の戦争で世が根本から立替るやうに信じて、周章てゐるなれど、世界中の修斎であるから、さう着々とは行かんぞよ。今度の戦争は門口であるから、其覚悟で居らんと、後で小言を申したり、神に不足を申して、折角の神徳を取外す事が出来いたすぞよ。変性女子の筆先は信用せぬと申して、肝腎の役員が反対いたして、書いたものを残らず一所へ寄せて灰に致したり、悪魔の守護神ぢやと申して京、伏見、丹波、丹後などを言触に廻りて神の邪魔を致したり、悪神ぢやと申して力一杯反対いたして、四方から苦しめてゐるが、全然自己の眼の玉が眩んでゐるのであるから、自己の事を人の事と思うて、恥とも知らずに、狂人の真似をしたり、馬鹿の真似を致して一廉改信が出来たと申してゐるが、気の毒であるから、何時も女子に気を附けさすと、悪神奴が大本の中へ来て何を吐すのぢや、吾々は悪魔を平げるのが第一の役ぢやと申して、女子を獣類扱ひに致して、箒で叩いたり、塩を振掛けたり、啖唾を吐きかけたり、種々として無礼を致しておるぞよ。是でも神は、何も知らぬ盲聾の人民を改信さして、助けたい一杯であるから、温順しく致して誠を説いて聞かしてやるのを逆様に聞いて居れど、信者の者に言ひ聞かして邪魔を致すので、何時までも神の思惑成就いたさんから、是から皆の役員の目の醒める様に、変性女子の御魂の肉体を、神から大本を出して経綸を致すから、其覚悟で居るがよいぞよ。女子が出たら後は火の消えた如く、一人も立寄る人民無くなるぞよ。さうして見せんと此の中は思ふ様に行かんぞよ。明治四十二年までは神が外へ連れ参りて、経綸の橋掛をいたすから、後に恥かしくないやうに、今一度気を附けて置くぞよ。この大本の中の者が残らず改信いたして、女子の身上が解りて来たら、物事は箱差したやうに進むなれど、今のやうな慢心や誤解ばかりいたしておるもの許りでは、片輪車であるから、一寸も動きが取れん、骨折損の草臥儲けに成るより仕様は無いから、皆の役員の往生いたすまでは神が連出して、外で経綸をいたして見せるから、其時には又出て御出で成されよ、手を引き合ふて神界の御用をいたさすぞよ。今度の戦争で何も彼も埒が付いて、二三年の後には天下泰平に世が治まる様に申して、エライ力味やうであるが、其麼心易い事で天の岩戸開は出来いたさんぞよ。今の大本の中に唯の一人でも、神世に成りた折に間に合ふものがあるか。誤解するも自惚にも程があるぞよ。まだまだ世界は是から段々と迫りて来て、一寸も動きの取れんやうな事が出来するのであるから、其覚悟で居らんと、後でアフンとする事が今から見透いて居るぞよ。今一度変性女子の身魂を連出す土産に、前の事を概略書き残さして置くから、大切にいたして保存して置くが宜いぞよ。一分一厘違ひは無いぞよ。明治五十年を真中として前後十年の間が岩戸開きの正念場であるぞよ。それまでに神の経綸が急けるから、何と申しても今度は止めては下さるなよ。明治五十五年の三月三日五月五日は誠に結構な日であるから、それ迄はこの大本の中は辛いぞよ。明治四十二年になりたら、変性女子がボツボツと因縁の身魂を大本へ引寄して、神の仕組を始めるから、気の小さい役員は吃驚いたして、逃出すものが出来て来るぞよ。さうなりたら世界の善悪の鏡が出る大本で在るから、色々の守護神が肉体を連れ参りて、目的を立てやうといたして、又女子の身魂に反対いたすものが現はれて来るなれど、悪の企謀は九分九厘で掌が覆りて、赤恥かいて帰るものも沢山あるぞよ。今の役員は皆抱込まれて了ふて、又女子に反対をいたすやうになるなれど、到底敵はんから往生いたして改信[※三五神諭には約70ヶ所で「改信」が使われているが、校定版・愛世版では第20章a343と第22章a311の2ヶ所だけ「改心」になっている。初版では全て「改信」であり「改心」は使われていない。したがって誤字と判断し、霊界物語ネットでは「改信」に修正した。]いたしますから、御庭の掃除になりと使うて下されと、泣いて頼むやうになるぞよ。腹の底に誠意が無いと欲に迷ふて大きな取違をいたして、ヂリヂリ悶えをいたさな成らんから、今の内に胸に手を当てて考へて見るが宜いぞよ。もう是限り何も申さんから、此筆先も今度は焼捨てぬやうに後の証拠にするが宜いぞよ。何方が取違であつたか判るやうに書かして置くぞよ。盲目聾が目が明いた積り、心の聾が耳が聞える積りで居るのであるから、薩張り始末が附かんぞよ。力一杯神界の御用をいたした積りで、力一杯邪魔をいたしておるのであるから、何うも彼うも手の出し様が無いから、止むを得ず、余所へ暫くは連参りて、経綸をいたすぞよ。今の役員チリヂリバラバラに成るぞよ。 ○ 明治三十七年旧八月十日 天も地も世界中一つに丸め、桝掛ひいた如く、誰一人つづぼには落さぬぞよ。種蒔きて苗が立ちたら出て行くぞよ。苅込になりたら、手柄をさして元へ戻すぞよ。元の種、吟味致すは今度の事ぞよ。種が宜ければ、何んな事でも出来るぞよ。 (大正一二・四・二六旧三・一一於竜宮館北村隆光再録) |
|
150 (2784) |
霊界物語 | 60_亥_イヅミの国3/三美歌/祝詞/神諭 | 23 三五神諭(その四) | 第二三章三五神諭その四〔一五四八〕 明治三十八年旧四月十六日 艮金神国常立尊出口の守と現れて、二度目の天の岩戸開きを致すに就いては、昔の世の本から拵へてある因縁の身魂を引寄して、夫々に御用を申付けるぞよ。今度の御用は因縁無くては勉まらんぞよ。先になりたら金銀は降る如くに寄りて来るから、さうなりたら吾も私もと申して、金持つて御用さして下されと申して出て来るなれど、因縁なき身魂には何程結構に申しても一文も使ふ事は出来んぞよ。是から先になると金銀を積んで神の御用を致さして欲しいと、頼みに来るもの計りであれど、一々神に伺ひ致してからでないと、受取る事は成らんぞよ。金銀に目を掛る事は相成らんから、何程辛くても今の内は木の葉なりと、草なりと食べてでも凌ぎて御用を致して居りて下さりたら、神が性念を見届けた上では何事も思ふやうに、金の心配も致さいでも善きやうに守護が致してあるぞよ。今が金輪際の叶はん辛いとこであるから、茲を一つ堪りて誠を立抜きて下さりたら、神が是で善いと云ふやうに成りたら、楽に御用が出来るやうにチヤンと仕組てあるから、罪穢のある金は神の御用には立てられんぞよ。 いつも筆先で気を附けてあるが、大本は艮金神の筆先で世を開くところであるから、余り霊学ばかりに凝ると筆先が粗略になりて、誠が却て解らんやうに成りて、神の神慮に叶はんから、筆先を七分にして霊学を三分で開いて下されよ。帰神ばかりに凝ると、最初は人が珍らしがりて集りて来るなれど、余り碌な神は出て来んから、終には山子師、飯綱使、悪魔使と言はれて、一代思はくは立たんぞよ。思はくが建たんばかりか、神の経綸を取違ひ致す人民が出来て来て、此の誠の正味の教をワヤに致すから、永らく気を附けて知らしたなれど、今に霊学が結構ぢや、筆先ども何に成ると申して一寸も聞入れぬが、どうしても諾かな諾くやうにして、改信さして見せるぞよ。神の申す事を反いて何なりと行りて見よれ、足元から鳥が飛つやうな吃驚が出て来るぞよ。世間からは悪く申され、神には気障と成るから、何も成就いたさずに大きな気の毒が出来るのが見透いておるから、其れを見るのが可哀相なから、毎度出口の手で神が知らせば、肉体で出口直が書くのぢやと申して御座るが、茲暫く見て居りたら解りて来て、頭を逆様にして歩かんならん事が出来するぞよ。誰も皆帰神で開きたいのが病癖であるから、一番にこの病癖を癒して遣るぞよ。心から発根と癒せば宜いなれど、如何しても肯かねば激しき事をして見せて眼を開けさしてやるぞよ。狐狸野天狗などの霊魂に嘲弄にしられて、夫で神国の御用が出来ると思ふのか。夫でも神国の人民ぢやと思ふて居るのか。畜生の容器にしられて夫を結構と思ふのか、神界の大罪人と成りても満足なのか。訳が解らんと申しても余りであるぞよ。斯うは言ふものの是の霊魂は何時も申す通り、世界一切の事が写るのであるから、此大本へ立寄る人民は是の遣方を見て、世界は斯んな事に成りておるのかと改信を為るやうに、神からの身魂が拵へて在るのであるから、誤解をいたさぬやうに御庇を取りて下されよ。他人が悪い悪いと思ふて居ると、全部自己の事が鏡に映りておるのであるから、他人が悪く見えるのは、自己に悪い所や霊魂に雲が掛りて居るからであるから、鏡を見て自己の身魂から改信いたすやうに、此世の本から御用の霊魂が拵へてありての、今度の二度目の天の岩戸開きであるから、一寸やソツトには解る様な浅い経綸でないから改信いたして身魂を研くが一等であるぞよ。世の本の誠の生神は今迄は物は言はなんだぞよ。世の替り目に神が憑りて、世界の事を知らせねば成らぬから、出口直は因縁ある霊魂であるから、憑りて何事も知らせるぞよ。世が治まりたら神は何も申さんぞよ。狐狸や天狗ぐらゐは何時でも誰にでも憑るが、この金神は禰宜や巫子には憑らんぞよ。何程神憑に骨を折りたとて、真の神は肝腎の時でないと憑らんぞよ。何も解らん神が憑りて参りて、知つた顔を致して種々と口走りて、肝腎の仕組も解らずに、天の岩戸開の邪魔をいたすから、一寸の油断も出来んから、不調法の無いやうに気を附けてやるのを、野蛮神が何を吐す位により解りて呉れんから、誠の神も苦労をいたすぞよ。神懸で何も彼も世界中の事が解るやうに思ふて居ると全然量見が違ふぞよ。神の申す中に聞いて置かんと、世間へ顔出しが出来んやうな、恥かしき事が出来いたすぞよ。この神一言申したら何時になりても、一分一厘間違はないぞよ。髪の毛一本程でも間違ふやうな事では、三千年かかりて仕組んだ事が水の泡になるから、そんな下手な経綸は世の元から、元の生神は致して無いから、素直に神の申す事を肯いて下されよ。世界の神、仏事、人民を助けたさの永らくの神は苦労であるぞよ。誰に因らず慢心と誤解が大怪我の元と成るぞよ。 ○ 大正元年旧八月十九日 大国常立尊が天晴表面になりて守護にかかると、一旦は神の経綸通りに致すから、改信致して神心に成りて居らんと、これから、人気の悪い所は何処でも飛火がいたすから、今度は是迄の見苦しき心を全然捨てて了ふて、産の精神に成りたらば、安全な道が造り替へてあるから、霊魂を研いて善い道へ乗り替へるやうに仕組んであれども、霊魂に曇りが在りては善い道へ乗替へたとて、辛うて御用が出来んから、発根の改信、腹の底からの改信でないと、誠の御用は出来んぞよ。竜宮様を見て皆改信をいたされよ。昔から誠に欲な見苦しき御心で在りたなれど、今度の天の岩戸開には欲を捨てて了はねば、神界の御用が勤まらんといふ事が、一番に早く御合点が参りたから、竜門のお宝を残らず艮金神に御渡し遊ばして、活溌な御働きを神界で一生懸命になりて、力量も充分に有るなり、此の方の片腕に成つて、今度の天の岩戸開の御用を遊ばすから、他の守護神も竜宮様の御改信を見て、一日も早く自己の心の中を考へて改信なされよ。大国常立尊が今表になりた所で、神界の役に立てる霊魂は一つも無いが、能くも是だけ曇りたものであるぞよ。もう神は構はんから、何彼の事を急速にいたして後の立直しに掛らんと、世界中の大事であるから、解らぬ守護神に何時までもかかりて居りたら、世界の人民が皆難渋をいたして、往きも戻りも成らんやうに成りて、戦争も済みたでも無し、止めも刺さん事になりて、世界中の大難渋と成るから、是迄耳に蛸が出来る程注意てあるが、何彼の時節が迫りて来て、動きもにじりも出来ん事に世界中が成るから、諄う守護神人民に気を附けるぞよ。 神国の人民に元の神国魂が些とありたら、茲までの難渋は無いなれど、誠一つの御魂により明されず、肝腎の事を任して為せる事も出来ず、テンで経綸が解りて居らんから、神が使ふ身魂が無いぞよ。此の方が世界中の事をいたさなならんから、何彼の事が一度になりて忙しうなると申すことが、毎度筆先で知らしてあらうがな。艮に成りたら神霊活機臨々発揮日月と現はれて、三千世界の艮を刺すぞよ。其折りに間に合ふやうに、早うから有難がりて、大本へ来て辛い修行をして居りても、肝腎の処が能く解りて居らんと、善い御用は出来んぞよ。何うなりとして引着いて居りたら、善い御用が出来ると思ふて居ると、大間違であるぞよ。艮金神が初発から一言申した事は一分一厘違はんぞよ。途中から変るのは矢張り霊魂に因縁が無いのぢやぞよ。因縁のある身魂は截りても断れん、如何な辛い目をいたしても左程苦しい事は無いぞよ。因縁性来と申すものは、エライものであるぞよ。それで今度は因縁の在る身魂が集りて来て、辛い辛抱をいたして、天地の光を出して呉れんならん。変性男子と変性女子との身魂を、茲まで化して神の御役に立てるぞよ。変性男子と女子の身魂が誰も能う為ぬ辛抱をいたして、此世には神は無きものと、学で神力をないやうに仕て居りたのを、此世に神が有るか無いかと云ふ事を、三千世界へ天晴と天地の神力を表はせて見せて、此の先は神力の世に致すから、是からは学力で、何麼事を致しても、世の本の根本の生神の神力には敵はんから、今の中に悪神のエライ企みを砕いて了ふから、一日も早く往生いたすが得であるぞよ。 今度の戦争は人民同志の戦争ではないぞよ。国と国、神と邪神との大戦争であるから、悪神の策戦計画は人民では誰も能う為ん仕組であれど、世の本の生神には敵はんぞよ。充分戦ふた所で金の要るのは程知れず、人の減るのも程は判らんぞよ。けれども出かけた船ぢや。何方の船も後方へは退けんから、トコトンまで行くぞよ。今迄の悪の守護神よ、神の国を茲までに自由にいたしたら、是に不足はもう在ろまいから、充分に敵対うて御座れよ。神力と学力との力較べの大戦争であるから、負たら従うて遣るし、勝つたら従はして、末代手は出しませぬと申すとこまで、往生をさせてやるぞよ。何程学力がエラウても、神力には勝てんぞよ。大きな見誤ひを為て居りたと云ふ事が後で気が附いて、死物狂を致さうよりも、脚下の明い中に降伏致す方が宜いぞよ。永引く程国土はチリヂリと無く為りて了ふぞよ。邪神の企謀は何麼計略も為てゐるなれど、悪では此世は立ては行かんぞよ。神の経綸は善一つの誠実地の御道に造り代へてあるから、気の附いた守護神は、善の道へ立帰りて安心なされよ。悪の身魂は平げて了ふから、早う覚悟を致さんと、もう一日の日の間にも代るから、是迄のやうに思ふておると、みな量見が違ふぞよ。毎度出口直に兵糧をとつて置かねば成らんといふ事が、諄う申して在らうがな。米が有ると申して油断をいたすで無いぞよ。人民は悧巧なもので在るなれど、先のチツトモ解らんもので在るから、筆先で何も知らすから、此筆先を大切にいたさんと、粗末にいたしたら、其場で変るやうに厳しくなるぞよ。この筆先は世界の事を、気もない中から知らしてあるから、疑うておると後で取返しの出来ん事になるぞよ。後の後悔は間に合はんぞよ。 ○ 大正三年旧七月十一日 大国常立尊が表に現はれて日出の守護となるから、人民が各自に力一杯気張りて為て来た事が、皆天地の神から為せられて居りたと申す事が、世界の人民に了解る時節が参りて来たぞよ。日出の守護になると変性男子の霊魂が、天晴世界へ現はれて次に変性女子が現はれて、女島男島へ落ちて居りた昔からの生神ばかりが揃うて天晴世に現はれて、この泥海同様の世界へ水晶の本の生神が揃うて、三千世界の岩戸開を致すから、天地の岩戸が開けて松の世、神世と相成るぞよ。綾部の神宮坪の内の本の宮は出口の入口、竜門館が高天原と相定まりて、天の御三体の大神が天地へ降り昇りを為されて、この世の御守護遊ばすぞよ。この大本は地からは変性男子と変性女子との二つの身魂を現はして、男子には経糸、女子には緯糸の意匠をさして、錦の旗を織らしてあるから、織上りたら立派な模様が出来ておるぞよ。神界の意匠を知らぬ世界の人民は色々と申して疑へども、今度の大事業は人民の知りた事では無いぞよ。神界へ出てお出ます神にも御存知の無いやうな、深い仕組であるから往生いたして神心になりて神の申すやうに致すが一番悧巧であるぞよ。まだ此先でもトコトンのギリギリ迄反対いたして、変性女子を悪く申して、神の仕組を潰さうと掛かる守護神が、京、大阪にも出て来るなれど、もう微躯とも動かぬ仕組が致して神が附添うて御用を為すから、別条は無いぞよ。変性女子の霊魂は月と水との守護であるから、汚いものが参りたら直に濁るから、訳の解らぬ身魂の曇りた守護神は傍へは寄せんやうに、役員が気を附けて下されよ。昔から今度の天の岩戸開の御用致さす為に、坤に落してありた霊魂であるぞよ。此者と出口直との霊魂が揃ふて御用を致さねば、今度の大望は、何程悧巧な人民の考へでも物事出来は致さんぞよ。此大本は世界に在る事が皆映るから、大本に在りた事は大きな事も小さい事も、善き事も悪しき事も、皆世界に現はれて来るから、変性女子をねらふものが是からまだまだ出来て来るから、確りと致して居らんと此中は治まらんぞよ。大事の仕組の身魂であるから、悪の霊がねらひ詰めて居るから、何処へ行くにも一人で出す事は成らんぞよ。変性女子は人民からは赤ン坊なれど、神が憑りたら誰の手にも合はん身魂であるぞよ。昔の元から見届けてありての、今度の大望な御用がさして在るぞよ。人民は表面だけより見えんから、何時も大きな取違ひを致すが、是も尤もの事であるぞよ。永らく大本へ来て日々御用に使はれておるものでも、女子の事は取違ひ致して、未だに反対致しておる位であるから、何にも聞かぬ世界の人民が取違ひをいたすのは、無理も無いぞよ。斯う申すと亦訳の解らぬ守護神の宿りてゐる肉体の人民が、肉体心を出して、出口は変性女子に抱込まれて居ると申すであらうが、其様な事の解らぬ艮金神出口直でありたら、三千年余りての永らくの苦労が水の泡に成るから、滅多に見違ひはいたさんぞよ。人民の智慧や学や考へで判るやうな浅い仕組は致してないぞよ。何方の身魂が一つ欠けても、今度の経綸は成就いたさんのであるから、世の本の根本から仕組て、色々と化かしてをれば、自己の霊魂が汚いから、竪からも横からも汚う見えるのであるぞよ。変性男子の身魂も変性女子の身魂も、三千世界の大化物であるから、霊魂に曇りの有る人民には見当が取れんぞよ。此大化物を世界へ現はして見せたら、如何に悪に強い守護神も人民も、アフンとして吃驚いたして、早速には物も能う言はん事が出来するぞよ。昔の根本の世の本から末代の世まで、一度あつて二度ないと言ふやうな、大望な神界と現界の岩戸開きであるから、アンナものがコンナものに成りたと申す経綸であるから、人民では見当は取れん筈であれども、改信いたして神心に立復りた人民には、明白に能く判る仕組であるぞよ。世の変り目には変な処へ変な人が現れて、変な手柄をいたすぞよと、明治三十一年の七月に筆先に書いて知らしてありたぞよ。時節が近寄りたぞよ。 (大正一二・四・二六旧三・一一於竜宮館北村隆光再録) |
|
151 (2785) |
霊界物語 | 60_亥_イヅミの国3/三美歌/祝詞/神諭 | 24 三五神諭(その五) | 第二四章三五神諭その五〔一五四九〕 大正四年旧十一月二十六日 大国常立尊が三千世界の、上中下と三段に分けてある霊魂を、それぞれに目鼻を付けて、皆を喜ぶやうに致すのは、根本の此世を創造へるよりも何程気骨の折れる事ぢや、人民では分らん事であるぞよ。初発の悪の霊魂は悪の事なら何んな事でも出来るから、茲まで世界中を悪で搦みて了ふて、善と云ふ道は通らぬやうに致して来た悪神の、頭を露はして、トコトン往生を為せて、又次に中の守護神を改信さして、下の守護神も続いて改信させねば神世には成らんぞよ。下の守護神が一番に何彼のことが解らんなれど、改信を致さねば、何うしても改信いたすやうに、喜ばして改信させねば、叱る計りでは改信の出来ぬ守護神も在るなり、何も解らん守護神の如何にも成らぬドウクヅは天地の規則通りに致して、埒宜く致さねば仕様はモウ無いぞよ。此の先で何時迄も改信の出来ぬ悪魔に永う掛りて居りて、岩戸開きの出来んやうな邪魔を致した守護神は、気の毒が今に出来致すぞよ。是丈け気を附けて知らして居るのに、改信の出来ん悪魔に成り切りて居る霊魂の宿りた肉体は、可哀想でも天地から定まりた規則通りの成敗に致すぞよ。もう何時までも解らんやうな守護神を助けて置いたら、世界が総損害に成りて、茲まで神が苦労いたした骨折が水の泡に成りて了ふぞよ。夫れでは永らく神が苦労いたした甲斐が無くなりて、天の大神様へ申訳が立たんなり、神は守護神人民を助けたいのは、胸に一杯であるから、もう一度気を附けて置くから、何事が出て来ても神に不足は申されまいぞよ。是からは悪神の守護神の好きな事も、悪き事も出来んやうに、天地から埒を附けるから、何処を恨む事も出来ず、自己の心を恨める事も出来んやうになるぞよ。天地の先祖の神は、善の守護神も悪の守護神も皆を喜ばしたいと思ふて、色々と永らく気を附けたなれど、ドウクヅの蛆虫同様の醜しき聞解の無いものは、一処へ集して固めて灰にして了ふから、悪いものに悩められて生命を取られるやうな肉体は、蛆虫同様、悪神の眷族と、も一つ下な豆狸といふやうな論にも杭にもかからんものに弄びに遇うて居るのは、肝腎の神の綱の切れて居る身魂であるぞよ。こんな守護神の宿りて居る肉体は取払ひに為て了ふて此世界の大掃除を初めるぞよ。 天地の先祖の苦労の解らん身魂は、蛆虫同様であるから、斯んな身魂は世の汚穢と成るから、神界の経綸通りに致して埒能く岩戸を開かな、後の立直しが中々大望であるから経綸通りにして見せるぞよ。さう致すと神は善一つなれど、何も解らん世界の人民が悪の守護神に引かされて、矢張り艮金神は悪神でありたと申すぞよ。細工は流々仕上が肝腎であるぞよ。天地の神の御恩も判らぬやうな、畜生より劣りた、名の附けやうの無いものは、末代の邪魔になるから、天地の規則通り規めるから、悪の守護神の中でも改信の出来たのは、今度の岩戸開きに焼払ひになる所を救けてやるぞよ。蛆虫の中からでも救かるべき身魂が在れば択出して善の方へ廻して遣るぞよ。 天の大神様が、いよいよ諸国の神に、命令を降しなされたら、艮金神国常立尊が総大将となりて、雨の神、風の神、岩の神、荒の神、地震の神、八百万の眷属を使ふと、一旦は激しいから、可成は鎮まりて世界の守護を為せるなれど、昔の生粋の神国魂の活神の守護と成りたら、此中へ来て居る身魂に申附けてある事を、皆覚えて居るであらうが、一度申した事は其様に致すから、神の申す事を一度で聞く身魂でないと、充分の事は無いぞよ。もう神からは此の上人民に知らせる事は無いから、大峠が出て来てから、如何様でも改信をしますで赦して下されと何程申しても、赦す事は出来んぞよ。是程大望な昔からの仕組を今になりて変へる様な事を致して居りたら、二度目の天の岩戸開きの大きな経綸が成就致さんぞよ。根本から大洗濯を致して、末代世界の口舌が無いやうに致して、神界の害をする霊魂が、学で此世を暗闇にして了ふて、正味のない教やら、やりかたは、世の大本からの教でないから、途中から出来たものは、末代の世の遣り方には用ゐんぞよ。 今の上に立ちて居る守護神は科学ほど結構なものは無いと申して、渡りて来られん霊魂が、神を抱込みて、好き寸法に致して、此先をモ一つ悪を強くして、悪で末代建てて行かうとのエライ目的でありたなれど、もう悪の霊や学の世の終りと成りたぞよ。本の神世へ戻りて、天と地との先祖が末代の世を持たねば、他の霊魂では此世は続かん、口舌の絶えると云ふ事は無いぞよ。 大国常立尊が変性男子の霊魂の宿りて居る肉体を借りて、末代の世を受取りて、世の本の生粋の誠の生神ばかりが表に現はれて、天地の先祖の御手伝ひで、数は尠いなれど神力は御一柱の生神の御手伝ひが在り出しても、霊魂の神が何程沢山でも、本の生神の力には敵はんから、同じ様な事を申して細々と今に続いて知らして居るなれど、途中に出来た枝の神やら、渡りて来て居る修業なしの利己主義の遣方の守護神では、肝腎の事は解りは致さんぞよ。誠の事の解る大本へ出て来て、いろはからの勉強を致さねば、学は金を入れた丈の力は出るなれど、天から貰うた霊魂に附いた生来の力でないから、物質の世の間は結構でありたなれど、もう物質の世の終りとなりたから、今迄の学では二度目の天の岩戸開きには些少も間に合はんぞよ。 ○ 大正四年旧十二月二日 大国常立尊変性男子の霊魂が現はれて、三千世界の三段に別けて在る御魂を、夫れ夫れに立替へ立別けて、目鼻を附けて、先づ是で楽ぢやと申すやうに成るのは、大事業であるぞよ。二度目の天の岩戸開は、戦争と天災とで済むやうに思ふて、今の人民はエライ取違ひを致して居るなれど、戦争と天災とで人の心が直るのなら、埒能う出来るなれど、今度の天の岩戸開は、其んな容易い事でないぞよ。昔からたてかへは在りたなれど、臭い物に蓋をした様な事ばかりが仕て有りたので、根本からの動きの取れんたてかへは、致して無いから、これ迄のやりかたは、身魂は尚悪くなりて、総曇りに成りて居るから、今度は一番に、霊魂界の岩戸開であるから、何に付けても大望であるぞよ。是程曇り切りて居る、三千世界の身魂を水晶の世に致して、モウ此の后は、曇りの懸らんやうに、万古末代、世を持ちて行かねば成らんから、中々骨の折れる事であるぞよ。 天地の大神の思ひと、人民の思ひとは、大きな違ひであるから、何に付けても、今度の仕組は、人民では汲み取れんぞよ。人民一人を改信させるのにも、中々に骨が折れようがな。今度の二度目の天の岩戸開は、昔の初まりから出来て居る、霊魂の立替立直しで在るから、悪い霊魂を絶滅して了ふてするなら、容易く出来るなれど、悪の霊魂を善へ立替へて、此世一切の事の行り方を替へて、神法をかへて、新つの世の純粋の元の水晶魂にして了ふのであるから、今の人民の思ふて居る事とは、天地の大違ひであるから、毎度筆先で気を附けてあるぞよ。 あやべの大本の中には、世界の人民の心の通りが、皆に仕て見せてあるぞよ。世界の鏡の出る所であるから、世界に在る実地正末が、皆にさして見せて在るから、色々と心配をいたして居るなれど、何んなかがみも仕て見せて在るから、世界が良くなる程、この大本は善くなるぞよ。今ではモチツト、何事も思ふやうに無いのであるぞよ。 世界の事が、皆大本に写るから、夫れで、此中から行状を善く致さんと、世界の大本となる、尊い所であるから、何事も筆先通りに為て行かねばならんぞよ。是までの世のやりかたは、神の国では用ゐられん、邪神の極悪のやり方に、変りて了ふて居るのを、盲者聾者のやうな世界の人民は、知らず知らずに、させられて居りたのであるから、分らんのは尤もの事であるぞよ。誠の神が抱込まれて、神の精神が狂ふて居るのであるから、人民が悪う成るのは当然であるぞよ。 モ一つ此の先を悪を強く致して、この現状で世を建てて行くどいらい仕組をして居るなれど、モウ悪の霊の利かん時節が循環てきて、悪神の降服いたす世になりて来たから、吾の口から吾が企みて居りた事を、全然白状いたす世になりたぞよ。 世界の御魂が、九分まで悪に化りて、今まで世を持ち荒して来た守護神に、改信の出来かけが、何の様にも出来んから、神も堪忍袋を切らして、一作に致せば八九分の霊魂が悪く成るし、改信致さす暇が、モウ無いし、是程この世に大望な事は、昔から未だ無い、困難な二度目の天の岩戸開であるのに、何も分らぬ厄雑神に使はれて居ると、何も判らんやうになるぞよ。 まことの行も致さずに、天地の先祖を無視して、悪のやりかたで世界の頭になりて、此先を悪をモ一つ強く致して、まぜこぜで行りて行ことの初発の目的通りに此所まではとんとん拍子に面白い程上り来たなれど、此神国には深い経綸が世の元から致して在りて、九分九厘まで来たぞよ。 悪神の仕組も、九分九厘までは来たなれど、モウ輪止りとなりて、前へ行く事も出来ず、後へ戻る事も出来んのが、現今の事であるぞよ。仕放題の利己主義の行方で、末代の世を悪で建てて行くことの目的が、今までは面白い程のぼれたなれど。 神の国には、チツト外の御魂には判らん経綸が為てあるから、人も善、吾も善、上下揃ふて行かねば、国の奪り合ひを為るやうな、見苦敷性来では、世は永久は続かんぞよと申して、筆先に出して、気を附けてあるぞよ。 斯世は善と悪とが有りて、何方でこの世が立つかと言ふことを末代続かせねば成らん世であるから、何事も天地から為してあるのであるぞよ。吾が為て居るのなら、何事も思ふたやうに行けんならんのに、何うしても行けんのが、神から皆為せられて居る証拠であるぞよ。善の道は、苦労が永いなれど、此の先は末代の世を続かすので中々念に念が入るぞよ。 善の行は永いなれど、善の方には、現界幽界に何一つ知らん事の無い様に、世の元から行が為してあるから、此先は、悪の仕放題に行無しに出て来た守護神が辛くなるぞよ。如何な事も為ておくと、何事も堪れるなれど、行無しの守護神に使はれて居ると、世の終ひの初まりの御用は勤まらんぞよ。 善と悪との変り目であるから、悪の守護神はヂリヂリ悶える様になるから、一日も早く改信致して、善の道に立帰らねば、モウこれからは貧乏動きも為さんぞよ。善の守護神は数は尠いなれど、何んな行も為してあるから、サア今と云ふ様に成りて来た折には、何程烈しきことの中でも、気楽に神界の御用が出来るから、一厘の御手伝で、神の本には、肝腎の時に間に合ふ守護神が拵へてありて、世界の止めを刺すのであるぞよ。神の国は小さうても、大きな国にも負は致さんぞよ。神国は世界から見れば、小さい国であれど、天と地との、神力の強い本の先祖の神が、三千世界へ天晴と現はれて、御加勢あるから、数は少うても、正味の御魂ばかりで、何んな事でも致すぞよ。何程人数が多くても、何の役にも立たぬ蛆虫計りで、善い事は一つも能う為ずに、邪魔計りを致すから、世界の物事が遅くなりて、世界中の困難であるが、未だ気の附く守護神が無い故に、何時までも筆先で知らすのであるぞよ。 天地の御恩も知らずに、利己主義で茲まで昇りつめて来た悪の守護神に、改信の為せかけが出来んので、何事も遅くなりて、総損害に、上から下までの難渋となるから、明治廿五年から、今ぢや早ぢやと申して、引掛戻しに致して、気附く様に知らしても、元からの思ひが大間違で在るから、世界の岩戸開の九分九厘と成りた所で、ジリジリ舞ふ事が見え透いて居るから、気を附けるぞよ。 天地の先祖の、思ひの判りて居る守護神と人民は、今に無いぞよ。是程暗がりの世の中へ、世の元の正真の水火神が揃ふて表はれても、恐い計りで、腰の抜けるものやら、顎が外れて早速に物も能う言はん様な守護神や、人民が沢山出来る許りで、神の目からは間に合ひさうに無いぞよ。 判りた御魂の宿りて居る肉体でありたら、何んな神徳でも授けるから、此神徳を受ける御魂に使はれて居りたら、一荷に持てん程、神徳を渡すから、其貰ふた神徳に光りを出して呉れる人民で無いと、持切りにしては天地へ申訳が無いぞよ。 ○ 大正五年旧十一月八日 あまり此世に大きな運否があるから、口舌が絶えんから、世界中を桝掛を引いて、世界の大本を創造た、天と地との先祖の誠で、万古末代善一つの道で世を治めて、口舌の無い様に致すぞよ。天は至仁至愛真神の神の王なり、地の世界は根本の国常立尊の守護で、神国の、万古末代動かぬ神の道で治めるぞよ。吾好しの行り方では、此世は何時までも立たんぞよ。この世界は一つの神で治めん事には、人民では治まりは致さんぞよ。悪神の仕組は世が段々と乱れる計りで、人民は日に増に、難渋を致すものが殖える許りで、誠の神からは目を明けて見て居られんから、天からは御三体の大神様なり、地は国常立尊の守護で、竜宮様の御加勢で、元の昔の神の経綸通りの松の世に立替致して、世界中を助けるのであるから、中々骨が折れるぞよ。モウ時節が近よりたぞよ。用意をなされよ。脚下から鳥が立つぞよ。天地の先祖の神々を粗略に致して、神は此世に無い同様にして東北へ押込めて置いて、世界の大将に成りて、悪の血統と眷属の何も知らぬ悪魔を使ふて末代世を立て様と思ふて、エライ経綸をして居れど、世の本からの天地を創らへた、其儘で肉体の続いてある、煮ても焼いても引裂いても、ビクともならん生神が、天からと地からと両鏡で、世界の事を帳面に附け止めてある同様に、判りて居るから、モウ神界には動かぬ仕組が致してあるから、世界の人民は一人なりと、一日も早く大本へ参りて、神の御用を致して、世界中を神国に致す差添へに成りて下されよ。上下揃ふて神国の世に世界中を平均すぞよ。 今の世界の人民は、現世に神は要らんものに致して、神を下に見降し、人民よりエライものは無き様に思ふて居るが見て御座れよ、岩戸開の真最中に成りて来ると、智慧でも学でも、金銀を何程積みて居りても、今度は神にすがりて、誠の神力でないと大峠が越せんぞよ。今度は神が此世に有るか無いかを、解けて見せて遣るから、悪に覆りて居る身魂でも善へ立ち返らな、神の造りた陸地の上には、居れん様になるから、改信を致して身魂を能く研いて居らんと、何彼の時節が迫りて来たから、万古末代取戻しの成らん事が出来致すから、今に続いてクドウ気を附けるのであるぞよ。是丈けに気を附けて居るのに聞かずして、吾と吾身を苦しめて最後で改信を致してもモウ遅いぞよ。厭な苦しい根の国底の国へ落されるから、さう成りてから地団太踏みてジリジリ悶えても、そんなら赦してやると云ふ事は出来んから、十分に落度の無いやうに、神がいやになりても、人民を助けたい一心であるから、何と云はれても今に気を附けるぞよ。 これからは筆先通りが、世界に現はれて来るから、心と口と行ひと三つ揃ふた誠でないと、今度神から持たす荷物は重いから、高天原から貰ふた荷が持てん様な事では、余所から人が沢山出て来だすから、其時に恥かしう無いやうに、腹帯を確り締めて居らんと、肝腎の宝を取外す事が出来るぞよ。今度は此大本に立寄る人民に、神からの重荷を持たすから、各々に身魂を十分に研いて置いて下されよ。ドンナ神徳でも渡して、世界の鑑に成る様に力を附けてやるぞよ。改信と申すのは何事に由らず、人間心を捨てて了ふて、知識や学を便りに致さず、神の申す事を一つも疑はずに生れ赤子の様になりて、神の教を守る事であるぞよ。霊魂を研くと申すのは、天から授けて貰ふた元の霊魂の命令に従ふて、肉体の心を捨て、本心に立返りて、神の申す事を何一つ背かん様に致すのであるぞよ。学や知識や金を力に致す内は、誠の霊魂は研けて居らんぞよ。 この天の岩戸開を致すには、学でも、悧巧でも、知識でも、金銀でも、法律でも、行かんぞよ。兵隊計りの力でも行かず、今の政治の行り方では、猶行かず、今迄の色々の宗教でも猶行かず、今の学校の教でも行かず、根本の天の岩戸開であるから、今の人民の思ふて居る事とは、天地の相違であるから、世界の人民が誠にいたさんから神は骨が折れるのであるぞよ。天地の間の只の一輪咲いた梅の花の経綸で、万古末代世を続かすのであるから、人民には判らんのも尤もの事であるぞよ。 九つ花が咲きかけたぞよ。九つ花が十曜に成りて咲く時は、万古末代しほれぬ神国の誠の花であるぞよ。心の善きもの、神の御役に立てて、末代神に祭りて此世の守護神といたすぞよ。此世初まりてから、前にも後にも末代に一度より無い、大謨な天の岩戸開であるから、一つなりとも神の御用を勤めたら、勤め徳であるぞよ。それも其人の心次第であるぞよ。神は無理に引張りは致さんぞよ。 是だけ蔓りた悪の世を治めて、善一つの神世に致すのであるから、此の変り目に辛い身魂が多人数あるから改信々々と一点張りに申して、知らしたのであるぞよ。早い改信は結構なれど、遅い改信は苦しみが永い許りで、何にも間に合はん事になるぞよ。艮金神で仕組致して、国常立尊と現はれて、善一つの道へ立替るのであるから、経綸通りが世界から出て来だすと、物事が早くなるから、身魂を磨いて居らんと、結構な事が出て来ても、錦の旗の模様が、判らんやうな事では成らんぞよ。今迄苦労いたした事が、水の泡になりてはつまらんから、大本の辛い行を勇んでいたす人民でありたら、神が何程でも神力を授けるから、ドウゾ取違ひをせぬやう慢心の出ぬ様に心得て居りて下されよ。世界の神、仏、耶、人民の為に、神が永らく苦労を致して居るぞよ。 (大正一二・四・二七旧三・一二於竜宮館北村隆光再録) |
|
152 (2808) |
霊界物語 | 61_子_讃美歌1 | 20 神郷 | 第二〇章神郷〔一五七〇〕 第一九二 一 皇神の早く来れと召し玉ふ 愛の御声を恐れ逃げ行く。 二 永久に栄え目出度き故郷に 生かさむとする神ぞ尊き。 三 現世の業みな終へて故郷に 早く帰れと召し玉ふ主。 四 八衢に行き悩みたる旅人の 愛の御声に耳をすまさむ。 五 皇神の厳の御門に入るならば 休ませ玉はむ重荷おろして。 六 御恵の充ち溢れたる吾神は 罪ある魂も招き玉ひぬ。 七 罪科を身に負ひしまま故郷に 帰る者さへ恵ませ玉ふ。 八 我神の恵の奥は限りなし 善と悪とにとらはれ玉はず。 九 我神の永久に在す御殿こそ いとも楽しき珍の御舎。 一〇 とく来よと御門を開き待ち玉ふ 瑞の御魂の御前にすがれ。 一一 いと清くやさしき御声聞く毎に 心の悩みうち忘れける。 第一九三 一 麻柱の命の道を疑ふな 愛の御神の教なりせば。 二 とく来れ罪も穢れも打捨てて 生命を得よと招かせ玉ふ。 三 常世行く暗の中にも我神の 深き恵は輝きわたる。 四 八千座の置戸を負ひし我神の 愛と力をたのめ罪人。 五 我神を措いて誰をか頼まむや 罪を償ふ神しなければ。 六 神の子と生れ玉ひし瑞御魂 岐美より外に世に力なし。 第一九四 一 疾く来よと玉の御手をばさし伸べて 暗路に迷ふ魂を招ぎます。 二 招かれて吾故郷に帰る時 近き審判を見守らせ玉ふ。 三 八衢の厳の審判を和めむと 誠の道を示し玉ひぬ。 四 身も魂も主に任して進み行け 醜の嵐に遭ふ例なし。 第一九五 一 我前に早く憩へと宣らす声 疲れし身魂の耳にこそ入れ。 二 数ならぬ吾身魂をも憐みて 守らせ玉ふ主ぞ畏し。 三 八束髯生血と共に抜かれたる 瑞の御魂は天地の岐美。 四 八洲河の誓約になれる真清水は 罪てふ罪を洗ひ清むる。 五 由良川の流に立ちて溺れ来る 世人の罪を洗ひます主。 六 天地はよし崩るるも我主の 御側は安し厳の御守護。 第一九六 一 急ぎて来れ諸人よ五六七の御代は近づきぬ。 二 暗と悩みに取囲まれて亡びぬ前に早来れ。 三 天津御空は掻き曇り氷雨は降りて風の音 いと凄じく襲ひ来る神は吾等の力なり。 四 死の波高く打寄せてやがて焔は降り来る 暫しの間に恐ろしや背きし国は亡び行く 神の使の導くままに身魂任せて走り行け。 五 後ふり返り形ある宝に心迷はさず 急ぎに急げよ諸人よ此世の亡ぶる時来れば。 第一九七 一 海の果て山の奥にも吾魂の 休らひぬべき花園はなし。 二 厳御魂瑞の御魂の現はれし 聖地ぞ千代の住所なりけり。 三 浮き沈みしげき此世に何ものも 頼みとすべきものはあらじな。 四 只神にすがりて誠尽すより 吾身を救ふ力だになし。 五 死するとも魂は必ず霊界に ありて御神と共に栄行く。 六 空蝉の身はよし永く保つとも 霊魂の生命なき人もあり。 七 年老いず死る事なき神の国は 永遠の生命の住所なりけり。 八 罪の身は朝の露と消ゆるとも 魂は残りて永遠に苦しむ。 九 永久の生命も愛も我神の 抱かせ玉ふ力なりけり。 第一九八 一 明日の日も知れぬ果敢なき人の身は 急ぎて来れ神の御前に。 二 明日の日を思ひまはせば安々と 世を渡るべき心起らじ。 三 束の間も死の魔はあたり附け狙ふ とくとく来れ神の教に。 四 大神の御許に早く立帰れ 露の生命の消え失せぬ間に。 五 我主の恵幸ひはや受けよ 思はぬ時に亡び来らむ。 第一九九 一 門の戸を打叩きつつ我神は 心静かに訪ひ玉ふ。 二 幾度も表に立ちて御栄えの 珍の御声を放ち玉ひぬ。 三 仇さへも生かさむ為に朝夕に 門に立たせる主ぞ尊き。 四 吾魂の力ともなり友となる 命の主を慕ひまつれよ。 五 いろいろと心の空を包みたる 迷ひの雲を晴らす我主。 六 許々多久の罪の寝所を掃き清め 珍の御園と開かせ玉ふ。 七 身も魂も命の主に捧げつつ 慕ふ心は生命なりけり。 八 永久の生命の基とあれませし 清めの主を夢な忘れそ。 第二〇〇 一 久方の天津使の讃め称ふ 栄光の主を寿ぎまつれ。 二 暗を晴らし朝日の如く輝ける 光りの主の御後慕へよ。 三 吾罪も歎きも払ふ瑞御魂 臨ませ玉へと祈れ信徒。 四 八洲河の誓約の水は吾罪を 祓ひ清むる瑞御魂なる。 五 千万の罪を一つに引受けて さすらひ玉ふ神ぞ尊し。 第二〇一 一 思ひまはせば恐ろしや厳の御魂や瑞御魂 命の神の御許を遠く離れて踏み迷ひ あとなき夢の後を追ひ空しき道を楽しみし 今日の吾身ぞ悲しけれ大橋越えてまだ先へ 行衛分らぬ後戻り皆慢心の罪ぞかし 赦させ玉へ惟神御前に祈り奉る。 二 珍の聖地を後にして習はぬ業の牧場守 朝夕の起臥によくふり返り世の中を 心鎮めて眺むれば人の情の薄衣 身に沁む浮世の荒風を凌ぐ術なき苦しさよ 赦させ玉へ惟神悔い改めて大前に 慎み敬ひ願ぎ奉る。 三 綾の聖地を打捨てて後白雲の国のはて さまよひ巡りて村肝の心を痛め魂曇り 破れし袂におく露も神の恵みを偲ばせて 無明の闇も明けぬべし一日も早く故郷の 綾の聖地に安らかにかへさせ玉へと天地に 平伏し祈り奉れあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ。 (大正一二・五・八旧三・二三北村隆光録) |
|
153 (2862) |
霊界物語 | 63_寅_伊太彦の物語 | 11 怪道 | 第一一章怪道〔一六一八〕 カークス、ベースの両人は、俄に四辺の光景一変した大原野の真中を無言の儘トボトボと、何者にか押さるるやうに進んで往く。頭の禿げた饅頭形の小さい丘の麓を辿つて往くと其所には、松と桜の樹が一株のやうになつて睦まじげに立つてゐる。冬の景色と見えて尖つた松葉が風に揺られてパラパラと両人が頭上にふつて来る。桜はもはや真裸となつて凩に梢が慄うて居た。 カークス『オイ、ベース、俺達はスーラヤの死線を越えて、伊太彦司と共に竜王の岩窟に確に這入つた積りで居るのに、何時の間にか、かふ云ふ所へ来てゐるのは不思議ぢやないか。さうして俺の立つた時はまだ夏の終りぢやつたがいつの間にかう冬が来たのだらう。合点の行かぬ事だなア』 ベース『ウン、さうだなア、何とも合点の行かぬ事だ。大方夢を見て居たのだらう。矢張スダルマ山の山腹で樵夫をやつて居た時に、グツスリと眠つて仕舞ひ、其間に冬が来たのかも知れないよ』 カークス『それだと云つて伊太彦と云ふ綺麗な神司とテルの里へいつて、ルーブヤさまの館に宿り込み結構な御馳走に預かり、それから船に乗り、スーラヤ山の死線を越えた事は確に記憶に残つて居る。大方今が夢かも知れないよ。夢と云ふ奴は僅か五分か六分かの間に生れて死ぬ迄の事を見るものだ、夢は想念の延長だから、かうして居るのが夢かも知れない。何と云つても夢の浮世と云ふからなア』 ベース『何と言つても此処は見馴ない所だ。いつの間にスーラヤ山から此処へ来たのだらう。さうして四辺の景色は冬の景ぢや。パインの老木の間から針のやうな枯松葉が降つて来る。桜は真つ裸になつて慄つて居る。兎も角も行く所迄行かうよ。又好い事があるかも知れないよ。 ベース『思ひきやスーラヤ山の岩窟に 進みし吾の斯あらむとは。 夢ならば一時も早く覚めよかし 心の空の雲を晴らして』 カークス『大空は皆黒雲に包まれて 行手も知らぬ吾ぞ悲しき。 ウラル彦神の命の戒めに 遇ひて迷ふか吾ら二人は』 ベース『ウラル彦神の教も三五の 道も御神の作らしし教。 吾は今途方に暮れて冬の野の いとも淋しき旅に立つかな。 伊太彦やブラヷーダ姫は今いづく アスマガルダの影さへ見えず』 カークス『村肝の心の暗に包まれて 今八衢に迷ふなるらむ。 天地の皇大神よ憐れみて 吾等二人の行方を照らしませ。 月も日も星かげもなき冬の野を 彷徨ふ吾等が心淋しさ。 如何にせば常世の春の花匂ふ 吾故郷に帰りゆくらむ』 ベース『日も月も西に傾く世の中に 吾は淋しき荒野に迷ふ。 西きたか東へ来たか知らねども みなみの罪と諦めゆかむ。 西東南も北もわきまへぬ 今幼児となりにけるかな』 カークス『エヽ仕方がない。犬も歩けば棒に当るとやら云ふ事がある。さアこれから膝栗毛の続くだけ此道を進んで見よう』 茲に二人は凩吹き荒ぶ野路の淋しみを消さむが為に出放題の歌を謡つて足に任せトボトボと進み行く事となつた。 カークス『あゝ訝かしや訝かしや茲は冥途か八衢か 但しは浮世の真中か四辺の景色を眺むれば 山野の草木は枯果てて露もやどらぬ淋しさよ パインの木蔭に立ち寄つて息休めむと打ち仰ぎ 見れば枯葉はバタバタと針の如くに下り来て 薄き衣を刺し通し桜の梢はブルブルと 冷き風に慄ひ居る合点の行かぬ此旅路 夢か現か幻か三五教の伊太彦と スダルマ山の間道を漸く渡りてテルの里 ルーブヤ館に立ちよりて天女のやうなブラヷーダ 姫の命にもてなされそれより船に身を任せ 一行五人スーラヤの山に鎮まるウバナンダ ナーガラシャーの宝玉を神の御為世の為に 受け取り珍の聖場へ献らむと思ひしは 夢でありしかこれは又合点の行かぬ事計り 夢の中なる貴人は今はいづくに在すか 尋ぬるよしも泣く計り霜の剣や露の玉 吾身にひしひし迫り来るこれぞ全く今迄の 犯せし罪の報いにか唯しは前世の因縁か 実に怖ろしき今日の空進みかねたる膝栗毛 あて所もなしに彷徨ひて地獄の里に進むのか 但しは常世の花匂ふ天国浄土に上るのか 神ならぬ身の吾々は如何に詮術泣く涙 暗路に迷ふ苦しさよあゝ惟神々々 神の光の一時も早く吾身を照らせかし』 ベース『旭は照らず月は出ず星の影さへ見えぬ空 亡者の如く吾々は見なれぬ道を辿りつつ あてどもなしに進み行く吾行く先は天国か 但しは聖地のエルサレム黄金山か八衢か 深き濃霧に包まれて大海原を行く船の あてども知らぬ心地なりあゝ惟神々々 天地に神のましまさば二人の今の身の上を 憐みたまひて現界かはた霊界か天国か 但しは地獄か八衢かいと明けく知らしませ 人は神の子神の宮なりとの教は聞きつれど かくも迷ひし吾霊は常夜の暗の如くなり 月日の光も左程には尊く清く思はざりし 吾等も今は漸くにいづの御光瑞御霊 月の光の尊さを正しく悟り初てけり あゝ惟神々々吾等を作りし皇神よ 一時も早く吾胸の醜の横雲打ち払ひ 完全に委曲に行方をば照らさせたまへ惟神 神の御前に願ぎまつる』 斯く謡ひつつ漸くにして濁流漲る河辺に着いた。 カークス『オイ、此処には雨も降らぬのに大変な濁流が流れて居るぢやないか。斯んな大きな川を渡らうものなら、夫こそ命の安売だ。もう仕方がない。二十世紀ぢやないが、何も彼も行きつまりだ、後へ引きかへさうか』 ベース『引きかへさうと思つても、何者か後から押して来るのだから仕方が無いぢやないか。「慢心致すと神の試に遇ふて行も帰りもならないやうになる」と三五教の教典に示されて居るが矢張り吾々は、ソーシャリズムとか自由平等主義だとか云つて神様を軽んじて来た結果こんな羽目に陥つたのだ。どうしても是は現界とは思はれないな。竜神の岩窟で命を取られ此処へ来たのだ。もう斯うなれば覚悟をするより仕方が無いぞ』 カークス『さうだ。どう考へて見ても現界のやうぢやない。お前の云ふ通り、これから駒の頭を立て直し、弱くてはいけないから、仮令地獄へ行かうとも大いに馬力を出してメートルをあげ、地獄の鬼を脅迫し、舌を捲かせ、共和国でも建設しようぢやないか。兎に角今日の世の中は弱くては立てぬのだからなア』 ベース『さうだと云つて、吾々両人の小勢では地獄を征服する訳にも行くまい。閻魔大王とか云ふやつが居て帖面を繰つて吾々の罪状を一々読み上げ焦熱地獄へでも落さうと云つたらどうする。どうせ天国へ行かれる様な行ひはして来て居ないからなア』 カークス『何心配するな地獄と云ふ所は強い者勝の世の中だ。小さい悪人は厳しい刑罰を受けるなり、大なる悪人は地獄の王者となつて大勢の亡者を腮で使ひ、愉快な生活を送らうと儘だよ。閻魔などはあるものぢやない。霊界も現界も同じ事だ。現界の状態を考へて見よ。下にあつて乱すれば刑せられ、上にあつて乱すれば衆人より尊敬せらるる矛盾暗黒の世の中だ吾々は弱くてはならない。是から褌を確りと締め、捻鉢巻をして細い腕に撚をかけ、此濁流を向ふに渡り、地獄征服と出かけようぢやないか。人間の精霊と云ふものは所主の愛によつて天国なり、又地獄へ籍を置いて居るのださうだから、何地獄だつて構ふものか、自分の本籍に帰るやうなものだ。片端から暴威を揮つて四辺の小団体を征服し、大同団結を作り、カークス、ベース王国を建てようぢやないか。何、地獄位に屁古垂れてたまらうかい。何程地獄が辛いと云つても現界位のものだ。現界は所謂地獄の映象だと云ふ事だから、吾々は経験がつんで居る。現界では大黒主と云ふ大将が居るから吾々の思ふやうには往かないが、地獄では勝手だ。この腕が一本あればどんな事でも出来るよ』 ベース『さうだなア。どうやら地獄の八丁目らしい。取つたか見たかだ。此濁流を横ぎり、其勢で地獄に侵入し、一つ脅喝的手段を弄して粟散鬼王を平げ、天晴地獄界の勇者となるも妙だ。ヤア勇ましくなつて来た。毒を喰へば皿迄だ。どうせ吾々は天国代物ぢやないからなア。アハヽヽヽ』 斯両人は河端に佇み泡沫の如き望みを抱いて雄健びして居る。傍の生へ茂つた茅の中の藁小屋から黒い痩こけた怪しい婆が破れた茣蓙を肩にかけ、ガサリガサリと萱草を揺りながら二人の前に出て左の手に榎の杖を携へた儘、 婆『誰だ誰だ、あた矢釜しい。そんな大きな声で喋り散らすと、俺の耳が蛸になるわい。貴様はどこの兵六玉だ。一寸こちらへ来い』 カークス『ハヽヽヽヽ。何とまア汚い婆もあつたものぢやないかい。物を言ふも汚らはしいわい。何と云つても天下の豪傑兵六玉のカークス王様だからなア』 婆『ヘン、人の見ぬ所でそつと猫婆を極め込み、欲な事計り致し、何も彼も人の前にカークス爺だらう。も一匹の奴は何と云ふ兵六玉だい』 ベース『此方は失敬ながら月の国にて名も高きベース様だよ』 婆『成程どいつも此奴も人気の悪い面つきだなア。ベースをカークスやうな其哀れつぽいスタイルは何だ。此処は三途の川の渡船場だ。サアこれから貴様の衣類万端剥取つてやらう。覚悟を致したがよいぞい。今の先、伊太彦、ブラヷーダの若夫婦が嬉しさうに手を引いて此所を通りよつた。さうして馬鹿面をした、何でも兄貴と見えるが、アスマガルダと云ふ奴が妹や妹の婿の僕となつて通りよつたぞや』 カークス『何、伊太彦さまが此所を通られたと云ふのか。何ぞ立派な玉でも持つて居られただらうなア』 婆『玉は沢山持つて居つたよ。粟粒のやうな小つぽけな肝玉やら縮こまつた睾丸やらどん栗のやうな目の玉やらをぶらさげて、悄気かへつて此処を通りよつた。真裸にしてやらうと思つたが貴様等とは余程御霊がよいので、此婆も手をかける事が出来ず、此萱の中に隠れてそつと見て居つたら、綺麗なナイスに手を引かれ、あの川の真中を通りよつた。大方天国へ往くのだらう。併し乍ら貴様達は此婆の手を経て、三途の川を渡らずに一途の河を渡り、直様地獄へ突き落される代物だ。ても扨ても憐れなものぢやわいのう、オンオンオン』 ベース『ヤア此奴ア、グヅグヅしては居られない。此婆を突つ倒かして置いて此河を渡り、一つ地獄征服と出かけようか、カークス来れ』 と早くも尻引き捲り、濁流目蒐けて渡らうとする。婆は細い痩せこけた手を出して、ベースの胸座を取り、三つ四つ揺する。 ベース『これや婆、どうするのだい。失敬な、人の胸座を取りやがつて』 婆『取らいでかい取らいでかい、貴様の肝玉を引き抜いてやるのだ。こら其処な兵六玉、貴様も同様だから待つて居れ。この婆が此所で荒料理をして骨も肉も付け焼にして食つてやるのだ。大分腹が減つた所へよい餌が来たものだ』 カークスは後より婆の足をグツと掴み力限り突けども押せども、地から生えた岩のやうにビクとも動かない。 カークス『ヤア何と腰の強い、強太い婆だな』 婆『定つた事だよ。俺は地の底から生えたお岩と云ふ幽霊婆だ。兵六玉の十匹や二十匹集かつて来た所でビクとも動くものかい』 ベース『こら婆アさま、放さぬかい。俺の息が切れるぢやないか』 婆『定まつた事だい。息の切れるやうに掴んで居るのだ。息を切らして軍鶏を叩くやうに叩きつぶし、砂にまぶし、肉団子をこしらへて食つて仕舞ふのだ。こうなつたら貴様達ももう娑婆の年貢の納め時だ。潔う覚悟をして居るがよい』 二人は進退谷まり、如何はせむかと案じ煩ふ折柄、遥か後の方から、宣伝歌が聞えて来た。ハツと思ふ途端、今迄婆と見えたのは河の傍の巨巌であつた。川と見えたのは果しも知られぬ薄原で、其薄の穂が風に揺られて水と見えて居つたのであつた。 (大正一二・五・二四旧四・九於教主殿加藤明子録) |
|
154 (2866) |
霊界物語 | 63_寅_伊太彦の物語 | 15 波の上 | 第一五章波の上〔一六二二〕 玉国別、初稚姫二人の乗り来れる二艘の船は伊太彦以下四人を分乗せしめ、スーラヤの湖面を西南に向つて走け出し、折柄の順風に真帆をあげてエルの港に進み行く。 初稚姫の船にはブラヷーダ、アスマガルダ、カークス、ベースが乗せられた。玉国別の船には伊太彦が只一人乗つて居る。 漂渺として際限もなき湖面を渡り行く退屈紛れにいろいろの成功談や失敗談に花が咲いた。真純彦は伊太彦に向ひ、 真純『伊太彦さま、随分お手柄で厶いましたな。まアこれで貴方も夜光の玉が手に這入つて御不足もありますまい。何と云つてもタクシャカ竜王を言向和すと云ふ勇者だから、到底吾々はお側へも寄れませぬわい』 伊太『いやもうさう言はれては面目次第もありませぬ。実の所ウバナンダ竜王は、拙者には神力が足らぬからお渡しせぬが、初稚姫様ならお渡しすると云つて散々文句言つて渡して呉れたのですよ。サツパリ今度は失敗でしたよ。アハヽヽヽ』 真純『然し伊太彦さま、貴方はブラヷーダとか云ふ奥さまが出来たさうですな』 伊太彦は真赤な顔をし乍ら、 伊太『いや、どうも痛み入ります。何程断つても先方が肯かないものですから、又親子兄弟の懇望によつて予約丈けはして置きました。然し乍らまだ正妻と云ふ訳には行きませぬ。兎も角先生のお許しを得なくちやなりませぬからな。ウバナンダ竜王が云ふには、伊太彦司は女に心をとられて居るから神力が弱つたと云ひましたよ。別に女等に心をとられては居ないのだが不思議ですな』 玉国別、三千彦は可笑しさを堪へて俯向いてクウクウと笑ふて居る。 真純『伊太彦さま、貴方に限つて女に心をとらるると云ふ筈はありませぬが、大方竜王の奴、岡嫉妬をして、そんな事云つて揶揄つたのですよ。本当なら初稚姫さまに渡すべき玉を貴方に渡したぢやありませぬか。ブラヷーダさまがお側に居ると思つて貴方に渡したのですよ。さう云へば何かお心に障るか知りませぬが、そこはそれ、奥さまの手前、竜王さまも気を利かしたのですわい。アツハヽヽヽ』 伊太『いえいえ決して決して、そんな訳ぢやありませぬ。到頭あの山の死線を越えて岩窟に這入つた所、神力が足らぬので一行五人とも邪気にうたれ、仮死状態に陥り、幽冥界の旅行と出掛け、ウラナイ教の高姫に会ふて一談判をやり、つまらぬ小理窟を振り廻し、暗い暗い原野を進んで行くと針の様な山にぶつつかり、それはそれはえらい目に会ひましたよ。そこへスマートさまが現はれ、次いで初稚姫様が現はれて高姫の守護神を追払ひ、再び現界へかへして下さつたのですよ。いやもう思ひ出してもゾツと致しますわ。「功は成り難くして敗れ易く、時は得難くして失ひ易し」とか云つて中々世の中は、うまく行かぬものですわい。知らず知らずに何時の間にか慢心し、夫婦気取りでやつて行つたのが私の失敗、高姫の奴に幽冥界に於ても大変な膏をとられましたよ』 真純『貴方は何故死線を越へて死生を共にした奥さまを初稚姫にお渡ししたのですか。あまり水臭いぢやありませぬか』 伊太『いいえ、エルの港迄お世話になつたのですよ。又船の中で貴方等に冷かされると困りますからな』 真純『いや伊太彦さまは三千彦さまの御夫婦に就いて揶揄つたので機を見るに敏なる伊太彦さまの事だから予防線を張つたのでせう』 伊太『アハヽヽヽ、それ迄内兜を見透かされては仕方がありませぬわい』 三千『伊太彦さま、随分冷かされるのは苦しいと見えますな』 伊太『三千彦さま、こんな処で敵討とは、ひどいぢやありませんか。いやもう貴方御夫婦の事は申しませぬ。何卒何事もスーラヤの水と消して下さい』 三千『決して敵討でも何でもありませぬよ。人に揶揄はれる時の御感想を承はり度いと思つた丈けですわ。然し先生、伊太彦さまの縁談はお許しになるでせうね』 玉国『三千彦さまの夫婦を承諾したのだからな』 伊太『ヤア先生、有難う厶います。そのお言葉でお許しを得たも同然と認めます』 玉国『まだ私は許して居りませぬ。然し乍ら結婚問題は当人と当人の自由ですから、そんな点までは干渉しませぬわい』 伊太彦はつまらな相な顔して頭を掻いて居る。治道居士はニコツともせず、目を塞ぎ腕を組み、此問答を一生懸命聞いて居る。バット、ベルも治道居士の傍に小さくなつて伊太彦の顔ばかり見つめて居る。 玉国別『神ならぬ玉国別は皇神の 結ぶ赤縄を如何で論争はむや。 伊太彦の神の司は皇神の 御言のままに従へば宜し。 皇神の任さし玉ひし神業を 遂げ終るまで心しませよ』 伊太彦『有難し吾師の君の御心は その言の葉に知られけるかな。 皇神の結ばせ玉ふ縁なれば 否むによしなき伊太彦の身よ』 真純彦『月の国ハルナの都に立向ふ 旅にも芽出度き話聞くかな。 言霊の軍の君も春めきて 花の色香に酔ひつつぞ行く』 三千彦『若草の妻定めてゆ何となく 心苦しく思ひつつ行く』 真純彦『苦しさの中に楽しみあるものは 妹背の旅に如くものはなし。 苦しみと口には云へど心には 笑みと栄えの花匂ふらむ』 デビス姫『真純彦神の司の言の葉は 妾の胸によくもかなへり』 真純彦『デビス姫その言の葉は詐りの なき真人の心なりけり』 治道『三五の神の大道に入りしより いつも心は春めき渡りぬ。 花と花月と月との夫婦連れ 花の都へ清くつきませ。 大空に冴えたる月の影見れば 笑ませ玉ひぬ今の話に』 伊太彦『大空の月の御神の笑ませるは 夜光の玉をみそなはしてならむ。 大空に夜光の月は輝きて 吾懐の玉に照りそふ。 ウバナンダ・ナーガラシャーの珍宝 吾懐に光らせ玉ふ。 願はくばこれの光を友として 常夜の暗を照らしてや行かむ』 艫に立つて船頭は艪を操り乍ら声も涼しく謡ひ出した。 『ここは名に負ふスーラヤ湖水 水の深さは底知れぬ。 底知れぬ神の恵と喜びに 会ふた伊太彦神司。 初稚の姫の命の玉の舟 さぞや見たからうブラヷーダ姫を。 ウバナンダ竜王さまの宝をば 乗せて漕ぎ行く此御船。 風も吹け波も立て立て竜神躍れ いつかなこたへぬ神の舟。 玉国別の神の司の居ます舟に 醜の悪魔のさやるべき。 スーラヤの山は霞に包まれて 今は光も見えずなりぬ。 夜光るスーラヤ山も伊太彦の 神の身霊に暗くなる。 これからは百里を照らした山燈台も 消えて跡なき波の泡。 月も日も波間に浮ぶスーラヤ湖水 今日は天女が渡り行く。 天人の列に加はる神司 嘸や心が勇むだらう。 漸くにエルの港が見えかけた かすかに目につくエルの山。 十五夜の月は御空に有明の 朝も早うから船を漕ぐ。 エル港越えて進むはエルサレム 一度詣り度や神の前。 朝夕に波のまにまに漂ふ俺は 何時も月日の水鏡見る』 毎晩光つて居たスーラヤ山も夜光の玉が伊太彦の懐に入つてからは光を失ひ、今船頭の謡つた如く唯一の燈台をとられて了つた。十六日の満月は東の波間より傘の様な大きな姿を現はして昇り初めた。 波に姿を半分出した時は丁度黄金山が浮いた様に見えて来た。 玉国別『金銀の波漂ひし湖の上に 黄金山の光輝く。 東の波間を昇る月影は 黄金の玉か夜光の玉か。 如意宝珠黄金の玉も及ぶまじ 波間を分けて昇る月影』 真純彦『空清く海原清き中空に 月はおひおひ円くなり行く。 月々に月見る月は多けれど 今宵の月は殊更清し』 三千彦『御恵みの露は天地に三千彦の 今さし昇る月の大神。 瑞御霊早くも月は波間をば 離れて御空にかかりましけり』 伊太彦『波間をば分けて出でたる如意宝珠 吾懐の玉に勝れる。 夜光る珍の宝珠も瑞御霊 昇り給へば見る影もなし』 デビス姫『真純彦三千彦司の守ります 珍の宝も月に如かめや。 月の国ハルナの都へ進み行く 旅路の空に清き月影』 治道『大空に昇り輝く月見れば 吾魂の恥しくなりぬ。 日は西に早や傾きて東の 波間を出づる珍の月影』 玉国別『西へ行く吾一行を見送りて 昇らせ玉ふか月の大神。 仰ぎ見る清き大空隈もなく 照らし玉ひぬ一つの玉に。 日は暑く月は涼しく澄み渡る 百の草木も露に生きなむ』 伊太彦『朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令命は失するとも誠の神の御教に 任しまつりし吾々は如何なる枉の攻め来とも 必ず神の恵みあり歓喜竜王の岩窟に 一行五人進み入り邪気に襲はれ吾魂は 浮世にけがれし肉体を脱けて忽ち死出の旅 枯野ケ原をさまよひつウラナイ教の高姫が 醜の精霊に廻り合ひいろいろ雑多と論争ひ 揚句の果ては大喧嘩おつ初めたる恥しさ アスマガルダは鉄拳をかためて高姫打たむとす 流石の高姫驚いて裏口あけて裏山の 枯木林に身をかくし雲を霞と消えにける 吾等五人は勇み立ち凱歌あげし心地して 枯野ケ原をさまよひつ神の試練に会ひ乍ら 三五教の信仰を生命にかへて守りたる その報いにや神使スマートさまが現はれて 高姫司の守護神銀毛八尾の悪狐をば 追ひやり玉へば忽ちに四辺の光景一変し いと苦しみし吾身体俄に快くなりて 勇気日頃に百倍し天地の神に打向ひ 感謝祈願の太祝詞唱ふる折しも三五の 神の司の初稚姫が此場に現れましまして 吾等が迷ふ霊身を明きに救ひ玉ひけり 気をとり直し四辺をばよくよく見ればこは如何に 歓喜竜王の岩窟と判りし時の嬉しさよ ここに竜王は初稚姫の生言霊に歓喜して 多年の苦悶を免れしと喜び勇み幾度か 感謝の言葉奉り夜光の玉を伊太彦に 手づから渡し玉ひつつ別離の歌を宣りおへて 大空高く昇りけりあゝ惟神々々 神の恵の有難さ初稚姫に従ひて 海に通ずる岩窟の光を見当てに隧道を 探り出づれば有難や吾師の君は玉の舟 波打際に横たへて吾等を救ひ玉ふべく 待たせ玉ふぞ尊けれ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも神の恵みと師の恵み 幾千代迄も忘れまじ思へば思へば有難や 大空清く海清く月亦清き玉の舟 清き真帆をば掲げつつ清けき風に送られて 清き教の司等と清き話を取交はし 珍の都へ指して行く吾身の上こそ嬉しけれ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 斯く互に歌を謡ひ或は雑談に耽り乍ら、翌日の東雲頃玉国別の舟はエルの港に着いた。早くも初稚姫は一行と共に上陸し玉ひてスマートを引連れ波止場に立つて一行の来るを待ち受け玉ひつつあつた。スマートは喜んで「ウワッウワッ」と鳴き立てて居る。 (大正一二・五・二五旧四・一〇於竜宮館北村隆光録) |
|
155 (2873) |
霊界物語 | 63_寅_伊太彦の物語 | 22 蚯蚓の声 | 第二二章蚯蚓の声〔一六二九〕 大き正しき癸の亥年卯月の十四日 新に建ちし天声社二階の一間に立て籠もり 口述台に横臥して遠き神世の物語 弥六十三巻の夢物語述べてゆく 御空は清く地青く垂柳は粛然と 戦ぎもしない夕間暮三五教の宣伝使 玉国別の一行が斎苑の館を立ち出て 諸の悩みに遇ひ乍らスーラヤ山に鎮まれる ナーガラシャーの瑞宝を教の御子の伊太彦に 受け取らせつつ海原を漸く越えてエル港 茲に一行恙なく無事な顔をば合せつつ 前途の光明楽しみて聖地に向うて出でむとす 神の司の初稚姫が木花姫の勅もて 百千万の宣言を宣らせたまへば三千彦も また伊太彦も謹みて妹の命と立ち別れ 各自々々に唯一人聖地を指して進み往く 道に起りし物語いと細々と述べてゆく。 ○ 豊葦原の中津国大日の下の聖場と 遠き神代の昔より定まり居ますエルサレム 珍の聖地に名も高き黄金山に現れませる 野立の彦や野立姫御霊の変化在して 埴安彦や埴安姫と世に現はれて三五の 珍の教を垂れたまふ其大御旨を畏みて 神素盞嗚の大神は島の八十島八十の国 由緒の深き霊場に教の園を開きまし 数多の司を教養し仁慈無限の御教を 開かせたまふ尊さよバラモン教を守護する 八岐大蛇や醜鬼の醜の御霊を言向けて 汚れ果てたる地の上を神の御国に立て直し 妬み嫉や恨みなき誠一つの神の代を 作らむために千万の艱みを恐れず遠近と 玉の御身を砕きつつ励ませたまふ尊さよ 旭は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも三五教の御教は 幾万劫の末迄も宇宙と共に変らまじ あゝ惟神々々神の御稜威の有難き。 ○ 若葉も戦ぐ神の園梅は梢に青々と 頭を並べて泰平のミロクの御代を謡ひつつ 池に泛べる魚族は恵の露を湛へたる 金竜池に悠々と曇りし世界を知らず気に いとたのもしく遊び居る月は御空に皎々と 輝きたまひ神苑を隈なく照らし給へども 木下の闇に潜むなる曲の猛びは未だ絶えず 神に体も魂も供へきつたる瑞月は 体の筋や骨までもメキメキメキと痛めつつ 闇に迷へる世の人を救はむ為に朝夕に 心を千々に砕けども知る人稀な今の世は 救はむよしも荒浪に漂ふ船の如くなり あゝ惟神々々御霊幸倍ましませよ。 ○ 朝な夕なに身を砕き教御祖の残されし 生ける教を委曲に説き諭さむと朝夕に 神の御前に太祝詞清き願を掛け巻も 畏き瑞の御心を知らぬ信徒多くして 夏の若葉の木下闇騒ぎ廻るぞうたてけれ。 ○ 和知の河水淙々と弥永久に御恵の 露を湛へて流るれど瑞の御霊にヨルダンの 清き清水を汲む人ぞいとも稀なる今の世は 清き尊き皇神の教を軽んじ疎みつつ 日頃の主張も打ち忘れいろいろ雑多と口実を 設けて逃げ出すうたてさよ皇大神の御教に 高天原の大本は三千世界を天国に 渡す世界の大橋と教へられたる言の葉を 空吹く風と聞き流し大橋越えてまだ先へ 行方も知らぬ醜霊の身の行先ぞ憐れなり 皇大神の試練に遇ひて漸く眼さめ 悔い改めてかへるとも白米に籾の混るごと 何とはなしに疎ましく初の如くなきままに 又もや醜の曲津霊は高天原の大本は 必要の時は大切に扱ひ旨く使ひつつ 一人歩みが出来だせば素知らぬ顔の半兵衛を 極めこむ所とそしりつつ泡吹き熱吹き末遂に あてども知らぬ法螺を吹き煙の如く消えて往く 誠の足らぬ偽信者神の教を現界の 皆法則にあて箝めて真理ぢや非真理ぢや不合理と 愚痴を唱ふる可笑しさよ何程知識の秀でたる 物識人も目に見えぬ神の世界の有様や 全智全能の大神の御心如何で解るべき 慢心するのも程がある唯何事も人の世は 皇大神の御心に任せて進めば怪我はなし あゝ惟神々々御霊の恩頼を願ぎまつる。 ○ 科学を基礎とせなくては神の存在経綸を 承認せないと鼻高が下らぬ屁理窟並べ立て 己が愚をも知らずして世界に於ける覚者ぞと 構へ居るこそをかしけれ学びの家に通ひつめ 机の上にて習ひたる畑水練生兵法 実地に間に合ふ筈がない口や筆には何事も いとあざやかに示すとも肝腎要の行ひが 出来ねば恰も水の泡夢か現か幻の 境遇に迷ふ亡者なり肉の眼は開けども 心の眼暗くして一も二もなく智慧学を 唯一の武器と飾りつつ進むみ霊ぞ憐れなり。 ○ 山河草木三つの巻弥々茲に述べ終る 又瑞月が出鱈目を吐くと蔭口叩くもの 彼方此方に出るであらう著述の苦労の味知らぬ 文盲学者や仇人の如何で悟らむ此苦労 如何に天地の神々が吾身を助けたまふとも 神より受けし魂の意志と想念光らねば 唯一言の口述も安くなし得るものでない 神の苦労も白浪の上に漂ふ浮草の 心定めぬ人々の囁きこそはうたてけれ 世界に著者は多くとも一日に数万の言の葉を 口述筆記するものは開闢以来例なし 作りし文の巧拙を云々するは未だしもと 許しもなるが一概にこの瑞月が物好に 下らぬ屁理窟並べ立て心に積りし欝憤を 神によそへて歌ふなぞ分らぬ事を云ふ人が 神の教の中にあるかかる汚き人々は 吾身の欲に絆されて表面に神を伏し拝み 棚から牡丹餅おち来る時節を待つよなやり方ぞ 世の立替や立直し今ぢや早ぢやと書くなれば 耳を聳て目を丸め口尖らして読むだらう そんな事のみ一心に待ち暮すのは曲津神 世の禍を待つものぞ大慈大悲の大神は 世界に何事無きやうと朝な夕なに御心を 配らせたまひ大本の教御祖は朝夕に 世界の難儀を救はむと赤心こめて祈りましぬ 其御心も知らずして世界の大望待ち暮す 人は大蛇か曲鬼か譬方なき者ぞかし あゝ惟神々々神の御前に平伏して 此聖場に寄り集ふ信徒達の魂に まことの光を与へつつ耳をば清め目を照らし 天の瓊鉾を爽かに研かせたまひて言霊の 御稜威を四方に輝すべく守らせたまへと朝夕に 体の骨を痛めつつ一心不乱に願ぎまつる あゝ惟神々々大国常立大御神 豊国姫の大御神天津御空に永久に 鎮まりたまふ日の御神月の御神の御前に 世の有様を歎きつつ密かに一人願ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸倍ましませよ。 (大正一二・五・二九旧四・一四於天声社加藤明子録) (昭和一〇・六・一六王仁校正) |
|
156 (2895) |
霊界物語 | 64_上_卯エルサレム物語1 | 19 祭誤 | 第一九章祭誤〔一六四八〕 高城山の峰つづき、小北山の松林を切り開いて沢山な小宮やチヤーチを建てたルートバハーの脱走教があつた。ここの主人を虎嶋久之助と云ひ、女房は虎嶋寅子と云ふ。生れつき自我心の強い女であつたが変性男子の系統と云ふのを奇貨としてユラリ教と云ふ変則的なる教団をたてユラリ彦命を祀つて、盛んにルートバハーの教主ウヅンバラチヤンダーに反抗的態度をとつてゐる。そして自分は底津岩根の大弥勒、日の出神と自称し、朝から晩まで皺枯声を出して濁つた言霊で四辺の空気を灰色に染て居る。ここへ集る信徒の中には随分色々な変り者があつて、中にも最も寅子の信任を得たのは、善も悪きも難波江の菖蒲のお花と云ふ、あまり色の白くない背の低い横太い年増婆アさまである。そして寅子の最も信任してゐるのは守宮別と云ふ海軍の士官上りの外国語をよく囀る男であつた。寅子は日の出神の生宮と自称し乍ら此守宮別と共に宅を外にして曲霊軍の襷を掛け、日の出島の東西南北を隈なく巡教し、軍艦布教までやつてヤンチヤ婆アさまの名を売つた、したたか者である。守宮別は日の出神と腹を合せ如何にしても変性女子のウヅンバラチヤンダーを社会の廃物となし、自分等がとつて代らむと苦心の結果、守宮別は四方八方に反対運動を開始し、終には六六六の獣を使つてウヅンバラチヤンダーの肉体の自由まで奪つた剛の者である。 目の上の瘤として居た人物を、うまく圧倒した上は、もはや天下に恐るべきものなしと、菖蒲のお花を筆頭に守宮別、曲彦、木戸口、お松等の連中と謀り小北山に拝殿を建て、一時も早く願望成就致しますやうと祈願をこらして居た。さうして地の高天原へ乗込んで一切の教権を握らむと聖地の古い役員をたらし込み、九分九厘と云ふ所へウヅンバラチヤンダーが帰つて来たので、肝をつぶしホウボウの態にて再び小北山へ逃げ帰り守宮別は海外に逃げ出し、後に寅子姫、お花、曲彦の三人は首を鳩めて第二の策戦計画にとりかかつた。先づ第一に日の出神の筆先を書いてルートバハーの信者を籠絡し、変性女子の勢力を失墜せむものと難波の里の高山某に軍用金を寄附させ、日出島全体の神社仏閣を巡回し、身魂調べと称し、口碑伝説を探つていろいろの因縁をつけ、筆先を作つて誠しやかに少数の信徒を誤魔かして居る。 今日は春季大祭の為五六十人の信徒が集つて来た。祭典は無事に済んで信者は各家に帰つた。あとには曲彦、寅子、菖蒲のお花、久之助、高山彦等が首を鳩めて協議を凝して居る。曲彦は先づ第一に口を開いて、 曲彦『皆さま、お神徳によりまして春季大祭も無事終了致し、さしもに広き霊場も立錐の余地なき迄に信者が集まらず、却て、込みあはずお神徳を頂きました。之も日頃熱心に御布教して下さる日の出神様を初め竜宮の乙姫様の御活動の結果と有難く感謝致します。就いては御存じの通り、吾々がかねて計画してゐた玉照彦、玉照姫の御結婚もたうとう此世を乱す悪神の憑つた瑞の霊の為に挙行されて了ひ、本当に苦辛した甲斐もなく誠にお目出度う御座いませぬわい。貴方はいつもいつも此結婚は変性女子には指一本さえさせぬ、此日の出神が許して天晴れ結婚をさし、ルートバハーの教を立直すと仰有いましたが、一体どうなつたので御座います』 寅子は、 虎嶋寅子『ソレハ神界の都合によつてお仕組を変へたのだよ。玉照彦、玉照姫もたうとう変性女子の悪霊に感染して了ひ、水晶魂が泥魂になりかけました。さあ之から吾々の正念場だ。グヅグヅしてゐては駄目ですよ。もはや期待してゐた玉照彦様、玉照姫様も駄目だから此日の出神の生宮が、もう一働きやらねば到底神政成就は出来ませぬぞや。神様は控えは何程でもあるぞよ、肝腎の事は系統にさしてあるぞよとお筆に出してゐられませうがな。その系統は誰の事だと思ひますか。金勝要神の身魂もサツパリ駄目だし、日の出神が居らなくては、もう此三千世界の立替立直しは出来ますまい。艮金神、坤金神、金勝要神、日の出神、四魂揃ふて御用を致さすぞよ、とお筆に出てゐるでせう。艮金神の御魂はもはや御昇天遊ばし、坤金神の生宮は悪霊にワヤにされて了ひ、金勝要神は我の強い神で役員達に祭り込まれて慢心致し、到底神政成就どころか、ルートバハーの維持も出来ませぬ。四魂の中、三魂迄役に立たねば、九分九厘の処で一厘の仕組でクレンと覆すとお筆に出てゐるでせう。それだから此の日の出神が一厘のところで掌をかへすのですよ。宜しいかな。取違ひを致しなさるなや』 曲彦『それほど変性女子の霊が曇つとるのなら、何故大祭毎に頼みさがして、変性女子に来て貰ふのですか。チツと矛盾ぢやありませぬか』 寅子『エー、分らぬ人ぢやな。変性女子さへ詣らしておけばルートバハーの信者が「ヤツパリ小北山の神殿は因縁があるに違ひない。あれだけ悪く云はれても変性女子が頭を下げに行くから、矢張偉い神様だ」と思はせる……一厘の仕組をしてるのだよ。神の仕組は人間に分りませぬよ。神謀鬼策の仕組を遊ばすのが日の出神の御神策だよ』 曲彦『ヤア、それで貴女の権謀術数、悪にかけたら抜目のない、やり方が分りましたよ。ヘン糞面白くもない』 とあとは小声で呟く。 寅子『ヘン、措いて下され、私が悪に見えますかな。神様のお仕組は悪に見えて善を遊ばすのだよ。何もかも昔からの根本の因縁を十万億土のドン底まで行つて調べて来た日の出神の生宮、何程お前さまは賢うても軍人上りぢやないか。軍人が神界の事が分りますかい。お前さまは早く女子の留守の中に拝殿を建て、事務所を建て、そして費用は何ぼでも出すと云ひ乍ら愈となれば、スツタモンダと云つて一円の金も出さぬぢやないか、そんな事でゴテゴテ云ふ資格がありますかい。スツ込んで居りなさい』 曲彦『ヤア、どうも日の出神様の御威勢には楯つく事は出来ませぬわい。何と云つても一寸先の見えぬ人民ですから、何と口答へする訳にも行かず、マア時節を待ちませう』 寅子『あ、それが宜いそれが宜い、何事も日の出神の生宮の申す通りに致さねば神界の仕組がおくれて仕方がない。これ久之助さま、お前さまも私のハズバンドなら、少しシツカリしなさらぬかい。菖蒲さまも何して御座る。曲彦にアンナ事を云はして黙つてる事がありますかいな』 菖蒲のお花『私も間がな隙がな、曲彦さまに御意見を申して居りますが、何と云つても若い人だから到底婆の云ふ事は聞いて下さいませぬ。然し乍ら寅子姫さま、私は一つ妙な事を聞きましたが、それが本当とすれば、かうしてグヅグヅしてゐる訳にも行きますまい』 寅子『お前さまの妙な事と云ふのは一体ドンナ事かいな。差支なくば云つて下さい。此方にも考へがありますから』 お花『それなら申しませうが、変性男子のお筆に西と東にお宮を建てて神がうつりて守護を致すぞよと出て居りませう。東と西のお宮とは、あなた一体どこの事だと思つて居りますか』 寅子『オツホヽヽヽヽ、お花さま、お前は何を恍けてゐるのだい。東のお宮といふのは小北山の神殿ぢやないか。人間の初り、五穀の初りは所謂此小北山ですよ。そして西のお宮と云ふのは聖地の桶伏山ぢやありませぬか。桶伏山の神殿はあの通り叩きつぶされましたが、東のお宮は旭日昇天の勢ひで誰一人指一本支へるものがないぢやありませぬか。これを見ても神徳があるかないか分るぢやありませぬか。ルートバハーの信者は馬鹿だから変性女子の為に騙され、壊された宮の跡へ集まつて、 壊たれる宮の為に 過ぎ去りし偉大のために 吾等は地に伏して泣く あゝ惟神霊幸倍坐世 なぞと、憐れつぽい声を出して毎日日日吠面かわいてゐるぢやありませぬか。それを見ても神様が居られるか、居られないか分るでせう。善の道の分るのはおそいと神は云はれますが、今は此小北山はルートバハーの信者からは馬鹿にされて居りますが、今に金色燦爛たるお宮が建つて桶伏山尻でも喰へと云ふ様になるのですよ。それだからお前さま等しつかりなされと云ふのですよ。イツヒヽヽヽヽ』 お花『寅子さま、西と東にお宮を建てると云ふのはチツと見当違ひぢやありませぬか。私は桶伏山の御神殿こそ東のお宮と思ひます。神様の御仕組はそんな小さいものぢやありますまい』 寅子『ホヽヽヽヽ、日輪様のおでましになるのが東、お隠れになる方を西と云ふ事が分つてるぢやありませぬか。小北山が西ぢやと思ひますか。貴女も分らぬ方だな。お前も桶伏山の山麓に蟄居してゐたので、女子の悪霊に憑られてソロソロ恍けかけましたね。ウツフヽヽヽヽ』 斯かる所へ洋服姿の守宮別が忙がしげに帰り来たるを見て一同は嬉しさうに、 一同『ヤア、守宮別さま、御苦労で御座いました。外国のお仕組はどうで御座りましたな。定めし日の出神様のお仕組も行渡つて居るでせうな』 守宮別『兎も角お酒を一杯出して下さい。お神酒を頂きもつて、守宮別がゆつくり物語りを致しませう』 (大正一二・七・一三旧五・三〇北村隆光録) |
|
157 (2922) |
霊界物語 | 64_下_卯エルサレム物語2 | 16 誤辛折 | 第一六章誤辛折〔一八二二〕 トルコ亭の細い路地の衝き当りに、お寅が設立しておいた五六七の霊城には、トンク、テクの両人が、お寅と共に、三人首を鳩めて、ヒソビソと話に耽つて居る。 お寅『コレ、トンクさま、一体あの守宮別さまとあやめのお花は、どこへ行つたのか、お前どうしても分らぬのかい』 トンク『ハイ、丸で煙のやうな、魔者のやうなお方ですもの、サーッパリ、見当がつきませぬがな。併し噂に聞けば、お花さまは守宮別さまと、夫婦約束をしられたとかいふ話ですよ。一昨日の晩或人から十字街頭で其話を聞きましたので、早速報告しようと思ひましたが、生宮様の御病中、お気をもませましては……と実は控えてをりました』 お寅は顔色を変へ、 お寅『ナニ、二人が結婚した。ソラ本当かいな、ヨモヤ本当ぢやあるまい』 トンク『イエイエ、実際の事云やア、貴方が、何でせう。二人よつて、何でせう。守宮別とお花さまと手を曳いてやつて来る所を、ペツタリ出会し、肚立紛れに卒倒なさつたのぢやありませぬか。噂で聞いたと云ふのは実はお正月言葉で、実際、私も睦まじ相にして歩いてる所を目撃したのですもの。なア、テク、さうだつたな』 テク『ウンさうともさうとも、あの時生宮さまがクワアッと逆上して、暈を遊ばし、大地に転倒されたぢやないか、警察医がやつて来る、群集は山の如くに出てくるし、もうエライ乱痴気騒ぎで、やつとの事生宮さまの気がつき、三台の俥で、生宮さまの警護をし乍ら、此処へ帰つて来たのですワ』 お寅『なる程、さう聞くと、夢のやうにボーッと記憶に浮んで来るやうだ。ハテナ、コンナ大問題を今迄スツカリ忘れて居たのかいな』 トンク『そらさうです共、エライ発熱でしたよ。昨日迄ウサ言計り仰有つて、吾々二人はどれ丈介抱したか知れやしませぬワ』 お寅『いかにも、憎い憎いあやめのお花奴、十年が間、懇篤な教育をうけ乍ら、師匠の私に揚壺をくはし、おまけに人の男を横領して出て行くとは、犬畜生にも劣つた代物だ。これが此儘見逃しておけるものか。仮令両人天を駆けり地をくぐる共、此生宮が命のあらむ限り、岩をわつても捜し出し、生首かかねがおくものか……』 と面色朱をそそぎ、握り拳を固めて、二つ三つ自分の胸をうち乍ら、又もやパタリと倒れ伏しけり。 トンク『オイ、テク何うせうかな。しまひにや気違ひになつて了やしまいかな』 テク『サ、さうだから、守宮別、お花の事はいふないふなと俺が注意するのに、トンク汝が軽はずみな事を言ふから、コンナ事になつたのだよ。男の口の軽いのも困るぢやないか』 トンク『それだと言つて、いつ迄もかくしてゐる訳にも行かず、モウ余程精神が安定したとみたものだから、一寸云つてみたのだよ。俺だつて、コンナになると思や、うつかり喋るのぢやなかつたけれどなア』 テク『兎も角、冷水でも汲んで、頭を冷してやらうぢやないか。コンナ所で死なれて見よ、俺達が殺した様に警察から睨まれたらつまらぬからな』 トンク『一層の事、今の内にトンクトンクテクテクと逃出したら何うだ、到底駄目だらうよ』 テク『馬鹿云ふな。ソンナ事をせうものなら、益々疑はれて了ふよ。一樹の蔭の雨宿り一河の流れを汲んでさへ、深い因縁があるといふぢやないか。仮令三日でも養つて貰つたお寅さまを見捨てて帰れるものか。そんな不義理な事をすると、アラブ一党の面汚しになるぢやないか。絶対服従を以て主義とする回教のピュリタンを以て任ずる吾々が、ソンナ事がどうして出来ようかい。お天道さまが御許し遊ばさないからの』 トンク『そらーあ、さうだ。天道様の御弔ひだ、空葬だ、大いに悪かつた。ヨシ、之からお前と俺と両人が力を併せ心を一にして、此生宮さまの命を助け、天晴全快して貰つて、此霊城を立派に開かうぢやないか。俺ア之から橄欖山へお寅さまの病気祈願の為参つて来るから、お前気をつけて介抱してあげてくれ』 テク『そら、可い所へ気がついた。サ、早く参つて来て呉れ。後は俺が引受けるからな』 トンク『ヨーシ、ソンナラ之からお参りして来うよ』 と云ひ乍ら、夕日を浴びて、橄欖山へと登り行く。山上の祠の前に来て見れば、ブラバーサが一生懸命に何事か祈願をこめてゐる。トンクは傍により、 トンク『もしもし貴方は三五教の宣伝使様ぢや厶いませぬか』 ブラバーサ『ハイ、左様で厶います。貴方はトンクさまぢやありませぬか。何時やらはエライ失礼を致しました』 トンク『イヤもう、御挨拶痛み入ります。全く私が悪かつたので厶いますから、どうぞモウソンナこたア云はないでおいて下さいませ』 ブラバーサ『時にお寅さまは御壮健にゐらつしやいますかな』 トンク『ハイ有難う厶います。実の所は、お寅さまと、お花さま守宮別さまが大喧嘩をせられまして、終局の果にや、守宮別さまはお花さまと一緒に結婚とか何とか云つて、手に手を取つて、面当に霊城を飛び出して了はれたものですから、生宮さまの御立腹と云つたら、夫れは夫れは言語に絶する有様で厶いました。そこへ受付にをつたヤクの奴、生宮さまの気のもめてる最中へ毒舌を揮つたものですから、生宮様がクワツとなり、ヤクを叩きつけようと遊ばした其刹那、ヤクの奴、庭箒をひつかたげて飛出し、途中で生宮さまの御面体を泥箒で擲りつけたり、いろいろ雑多の侮辱を加へたものですから、疳の強い生宮様はたうとう逆上して了ひ、それが元となつて、今では発熱し、ウサ言許り云つてゐられます。こんな塩梅では、生命もどうやら覚束なからうと存じ、テクに介抱させておき、私は此祠へ御祈願に参つた所で厶います。いやモウエライ心配で困りますワイ』 ブラバーサ『話を承れば、実にお気の毒な次第です。コンナ事を聞いて聞逃す訳にも行きませぬから、平常は平常として、私は霊城へ参りませう。そして一時も早く御全快なさる様に御祈願をさして貰ひませう』 トンク『ハイ、そら御親切有難う厶いますが、常平生から、貴方を敵の様に罵つてゐられますから、貴方がお出になつたのをみて、益々逆上し、上も下しもならないやうになつちや却て御親切が無になりますから、何ならお断りが致したいので厶いますワイ』 ブラバーサ『ハヽヽヽ非常な御警戒ですな。併し人間といふ者はさうしたものぢや厶いませぬよ。災難の来た時にや互に助け合ふのが人間の義務ですからな。何程我の強いお寅さまだつて、滅多に私の親切を無になさる道理はありますまい。キツと喜んで下さるでせう。そして之を機会にお寅さまの心を和らげ、同じ日出島から来た人間です。和合の曙光を認めたいと思ひますから、たつて御訪問を致します』 トンク『ヘーエ、誠に以て、お志は有難う厶いますが。併し乍ら私は知りませぬで、どうか生宮さまに、私から病気の次第を聞いた、なんて云つて貰つちや困りますからな。貴方が勝手に御越しになつた事にしておいて頂かねば、後の祟りが面倒ですから』 ブラバーサ『エ、それなら、私は之から霊城を訪問致しますから、トンクさま、貴方はゆつくり御祈願をなし、エヽ加減に時間を見計らつて何くはぬ顔で御帰りなさい。そすりやお寅さまだつて、貴方に小言はありますまいからな』 トンク『あ、さう願へば私も安心です。どうか宜しう頼みませぬワ』 ブラバーサは急いで山を降り、何くはぬ顔して、トルコ亭の細い路地を伝ひ、霊城へ来てみると、テクが甲斐々々しく頭を冷してゐる。 ブラバーサ『ヤ、これはこれは、テクさまで厶いますか。生宮さまは御不例にゐらつしやるのですかな』 テク『ハイ、左様です。そして又お前さまは何の御用で御出になりました。お前さまの顔見ると生宮さまの御機嫌が益々悪くなり、病気が又重くなりますから、トツトと帰つて下され』 ブラバーサ『帰らうと思へば、さう追立てられなくても返りますよ。併し乍ら同国人の病気と聞いて、宣伝使たる私、見逃す訳に行きませぬから…』 と云ひ乍ら、枕許にツカツカとより、熱誠籠めて天の数歌を三唱し、大国常立尊、神素盞嗚尊助け玉へ、許し玉へ…と祈願するや、今迄火の如き発熱に苦しみてゐたお寅は嘘ついた様に熱は去り、忽ち起き上り座布団の上にキチンと行儀よく両手をのせ、 お寅『ハ、これはこれは、何方かと思へば、ブラバーサさまで厶いましたか。ようマ御親切に来て下さいましたね。私も此間からチツと許り風邪の気で臥せつてをりましたが、夜前あたりからスツパリと全快致し、モウ寝てゐるのも何だか辛気臭くて堪らないのですが、日の出さまの御忠告に仍つて、養生の為、ねて居りました。決してお前さまの算盤の声で直つたのぢや厶いませぬから、ヘン、どうか恩に着せて下さいますなや。併し乍ら此霊城へお前さまが御参りさして頂いたのも、ヤツパリ神さまのおかげだよ。此お寅が病気だといふ噂をパーッと立たせておき、お前さまの心を引く為に、此生宮をチツと許り苦しめ遊ばしたのだから、必ず必ず仇に思つちやなりませぬよ。結構な結構な御霊城さまへお前さまが大きな顔で参拝出来たのも此お寅がチツと許り悪かつたおかげだ。神様の御仕組といふものは偉いものだな。サ、之からブラバーサさま、チツと我を折つて日出神の生宮を認めて下さい。いつ迄もいつ迄も変性女子のガラクタ身魂にトチ呆けて居つちやダメですよ。神政成就に近よつた此時節に、何の事ですいな。早く改心して、日の出神の片腕となつて、ウラナイ教を開き、天下万民を塗炭の苦より救つて下さいや』 ブラバーサ『ハイ、又考へておきませう。先づ先づ御病気の御本復と聞いて安心致しました。私一寸用が厶いますので、之から御暇を致します』 お寅『ホヽヽヽ、ヤツパリ心に曇りがあると、此霊城が苦しうて、ゐたたまらぬと見えますワイ。第一霊国の天人のお住居、どうして八衢人足がヌツケリコと居れるものかい、ウツフヽヽヽ』 ブラバーサ『お寅さま、余りぢやありませぬか。どこ迄も貴方は私を敵にする考へですか』 お寅『きまつた事ですよ、三千世界の救世主、底津岩根の大弥勒の生身魂、日出神の生宮を認めない様な妄昧頑固の身魂を何うして愛する事が出来ませうぞ。日の出様が一生懸命に艱難辛苦を遊ばして、立派な立派な、結構な、心易い、暮しよい、みろくの大御代を建てようと遊ばしてるのに、悪魂の変性女子にとぼけて、此世を乱さうと憂身をやつしてゐるお前さまだもの、之位な大きな敵は世界にありませぬぞや。此神は従うて来れば誠に結構な愛のある神なれど、敵対うて来る身魂には鬼か大蛇のやうになる神ざぞえ。お前さまの心一つで楽に立派に御用致さうと、苦しみてもがいて地獄落の悪魔の用を致さうと、心次第で何うでもなるですよ。コンナ事が分らぬやうで、ヘン、宣伝使などと、能う言はれたものですワイ。改心なされ、足元から鳥が立ちますぞや』 ブラバーサ『ハイ、有難う厶います。又後して伺ひますから左様なら』 お寅『ホヽヽヽたうとう、八衢人足奴、生宮さまの御威光に打たれて、ドブにはまつた鼠のやうに、シヨンボリとした、みすぼらしい姿で、尾を股へはさみて逃げよつたぞ。ホヽヽヽ、コラ、テク、ブラバーサなんて偉相に云つてるが、私にかかつたら三文の値打もなからうがな。丸で箒で押へられた蝶々の様に命カラガラ逃げていつたぢやないか、イツヒヽヽヽ』 テク『モシ生宮さま、ヒドイですな、テクも呆れましたよ』 お寅『ひどからうがな。いかなお前でも呆れただらう。耄碌魂のヒョロ小便使めが、あの逃げて行くザマつたらないぢやないか。それだから此生宮の神力を信じなさいといふのだよ』 テク『生宮さま、そら違やしませぬか。今の今迄人事不省に陥つて御座つたのを、ブラバーサさまがお出になり、指頭から五色の霊光を発射して、お前さまの病気を助けて下さつたぢやありませぬか。それに貴方は、昨夜から病気が直つてたナンテ、ようマア嘘が言へたものですな。私は其我慢心の強いお前さまの遣口に呆れた、といふのですよ』 お寅『お黙りなさい。アラブの黒ン坊のクセに神界の御経綸が分つてたまるかいな。ソンナ事いつて、此生宮に敵たふやうな人はトツトと帰つて貰ひませう。アタ気分の悪い。エーエーそこら中がウソウソとして来た。これ、テク、塩をもつてお出で、お前の体に悪魔が憑いてる、之からスツパリと払つて上げるからな』 テク『イヤもう結構です』 といつてる所へ、トンクはドンドンと露路口の細路を威嚇させ乍ら帰り来り、 トンク『ヤア、これはこれは、生宮様、いつの間にさう快くおなりなさいましたか。私は心配致しまして、テクに貴女の介抱を命じおき、エルサレムの宮へ御病気祈願の為に御参拝して来たのです。何と御神徳といふものは、アラ高いものですな』 お寅『それは大きに御親切有難う……とかういつたらお前さまはお気に入るだらうが、ヘン誰がそんな事お前さまに頼みました。大弥勒様の生宮、三千世界の救世主、日出神の生宮さまの肉体の、病気を直すやうな神様がどこにありますか、可い加減に呆けておきなさいや』 トンク『オイ、テク、チツと可怪しいぢやないか、病み呆けて厶るのだらうよ』 テク『マアマア喧しう言ふな、何時迄言つたつて限りがないからな。何と云つても三千世界の救世主様だから、維命、維従うてゐさへすりや可いのだ』 と云ひ乍ら、余り相手になるなといふ意味を目で知らした。お寅は布団を頭からひつかぶり、スヤスヤと眠に就きぬ。 (大正一四・八・二〇旧七・一於丹後由良秋田別荘松村真澄録) |
|
158 (2927) |
霊界物語 | 64_下_卯エルサレム物語2 | 21 不意の官命 | 第二一章不意の官命〔一八二七〕 カトリックの僧院ホテルの第三号室には、ヤクが身体の傷も八九分通り全快したのでチョコナンとして一人留守番をしてゐる。そこへ慌ただしく帰つて来たのは、あやめのお花であつた。 お花『ヤ、お前はヤク、よう、マア神妙に留守をしてゐて下さつたな。私の留守中に、お寅や綾子は来なかつたかな』 ヤク『ハイ鼠一匹、生物と云つては、来たものは厶いませぬ』 お花『守宮別さまは、どこへ行つたのだい』 『ヘー』とヤクは頭を掻き乍ら、 ヤク『奥様の御入院中、お寅さまがおいでになり、何だか嬉しさうにコソコソと話をして居られましたよ』 お花『ナーニ、お寅が来た?』 と早くも顔に血を上げて逆上しさうになる。 ヤク『もしもし奥さま、来るは来ましたがね、旦那さまに小ぴどく肘鉄を喰まされて、実は、コソコソと逃げて去にましたよ。ソリヤ、どうも気持がよいの、よくないのつて、溜飲が三斗許り下つたやうでしたがな』 お花『イエイエ、そら、嘘だよ。先の嬶は嘘つかぬと云つてな、お前が初めに云つた言葉が事実だらうがな。ソンナ気休め文句にごまかされて、機嫌を直すやうなお花ですかいな。ヘン、お前迄がグルになつて、人を馬鹿にして下さるなや』 ヤク『ハイ、トツト、モウ、ネツカラ、ハイ、何ですな。ソノ、アノ、それそれ、あの何ですわい』 お花『これ、ヤク』 と云ひ乍らお花は、煙管で火鉢の框をカンと叩き、 お花『お前のやうなガラクタ人間はトツトと帰つて下さい。月給をやる所か、ここの支払ひもチヤンとして帰りなさいや。もうお前には用はないからなア』 とツンとして横を向く。ヤクは俯向いて頭をガシガシとかいてゐると、階段をトントンと響かせ乍ら、帰つて来たのは守宮別である。お花は一目見るより武者振りつきグツと胸倉を取り、声をふるはせ乍ら、 お花『コヽヽこりや、真極道奴、人を馬鹿にするにも程があるぢやないか。こりやガラクタ、今日は、どこへ、うろついて居つた。あからさまに白状せぬかい』 守宮別『こりやこりや、お花、さうやかましう云つても仕様がないぢやないか。マアそこ放してくれ。俺やお前が橄欖山へ詣つたと聞いて、後を追つかけて来たのだが、ネツカラ姿が見えないので、ここへ帰つて来たのだ。それより外は、どつこへも行つては居ないのだからな』 お花は胸倉を一生懸命に掴み、こつき乍ら、 お花『こりや極道、人を盲にするにも程がある。お寅と自動車に乗り、宣伝歌を歌つてけつかつたぢやないか。エーエ、辛気臭い、私やもう之から国許へ帰る。お寅と意茶ついてお暮しなさい』 守宮別『そら、さうだ。俺も実は自動車に乗る事は乗つた。然し、之には曰く因縁があるのだ。お寅の奴、失敬千万な、俺とお前が結婚したのを遺恨に持ちよつてな、お前と俺との宣伝歌を作つて、歌つてるので、業腹で堪まらぬから、自動車からつき落してやらうとヒラリと乗つた所、お前の姿を見たものだから、町をあちこちと探して帰つて来たのだよ。さう悪気をまはしちや、俺だつてやりきれないぢやないか』 お花『成程、さう聞きやさうかも知れませぬね』 とパツと手を放す。 守宮別『ア、これで先づ先づ無罪放免だ。お花大明神、否々木花咲耶姫命様、ようマア助けて下さいました。有難う感謝致します』 お花『オホヽヽヽ、そしてその宣伝ビラは、お前さま持つてゐるのかい』 守宮別『イヤ、慌てて一枚も、ヨウ、とつて来なかつたのだ。然し歌の文句は覚えてゐるよ』 お花『何分記憶のよい守宮別さまだから、覚えてゐらつしやるのでせう。一寸ここで歌ふて聞かして下さいな』 守宮別『よしよし、腹立てなよ』 と云ひ乍ら、口から出鱈目の宣伝歌を謡つて見せる。 守宮別『打てよ懲せよ守宮別を、打てよ懲せよ、あやめのお花 彼奴二人のガラクタはこの世を乱す悪神だ と、このやうな事を吐しよるのだよ。怪しからぬぢやないか。一体お寅の奴、半狂乱になつてゐるのだからなア』 お花『成程、ひどい事を云ひますね、サアその次を聞かして下さいな』 守宮別『守宮別の大広木偽乙姫のお花奴が 大きな山子を企らみて新ウラナイの教をば 立てて誠のウラナイ教この霊城を覆へし 天下を取らうと企みゐる鬼より蛇よりひどい奴 覚めよ悟れよエルサレム老若男女の人々よ 誠の誠の神柱日の出神より外にない と、コンナ事を吐しよつてな、本当に腹が立つたものだから、一寸自動車に乗りこみ談判してゐたのだ。お寅の奴、挺でも棒でもいく奴ぢやないわ』 お花『挺でも棒でも、いかぬ、そのお寅さまが恋しいのだもの、私が知らぬかと思つてコツソリと密約を締結したのでせう。何程孫呉の兵法を用ゐて、お花さまをちよろまかさうと思つても、此一万円は一文の生中も渡しませぬよ。ホヽヽヽ。この宣伝ビラはどうです』 と懐から四五枚、放り出して見せる。 守宮別『成程、こりや……お寅の……撒いたのぢやなからう、文句が違ふぢやないか』 お花『お寅が撒いたのぢやありませぬよ。守宮別と云ふガラクタが撒いたのですよ。サアこれでも返答が厶いますかな、イヒヽヽヽヽ』 守宮別『イヤ、降参した、お前にやもう叶はぬわい。堪へてくれ、今日限り改心するからな』 お花『ヘン、どうなつと、勝手になさいませ。改心せうと慢心せうと、お前さまの魂だもの、私はもう愛憎が尽きました。以後はモウ関係は致しませぬ。これから国へ帰つて、お前やお寅さまの脱線振を、傘に傘をかけて吹聴しますから、その積りで居つて下さい、ホヽヽヽヽ』 守宮別は言句も出ず、当惑してゐると、そこへ自動車を横づけにして登つて来たのは、お寅である。お寅は一時気絶してゐたが、医師の看護によつて忽ち全快し、又もやお花が守宮別を捉へて、脂下つてゐないかと、取る物もとり敢ず、やつて来たのである。 お寅は此態を見て、 お寅『これはこれはお花さまで厶いますか、何とマアお仲のよいこと、ホヽヽヽ、実にお羨ましう厶いますわいな』 お花は悪胴を据ゑ、お寅を尻目にかけ乍ら、 お花『お寅さま、何程愛嬌をふりまいて下さつても駄目ですよ。一万両の金は私のものですから、御用に立てる訳には行きませぬわい。ようマア守宮別さまと、ここ迄深く企んで下さいましたね。流石は私の師匠に一旦なつて下さつた生宮様丈あつて、凄い腕前、実に感服致しました。サアサアこの動物を、勝手に喰わへて帰りて下さい、私には、チツとも未練が厶いませぬから』 守宮別は「この動物」と云はれたのを耳に、はさみ、ムツト腹を立て、 守宮別『コーリヤ、従順くしてゐればつけあがり、一人前の男子をば、動物とは何だ』 と拳固をかためて打つてかからむとする。お花は平然として、 お花『ホヽヽヽ、弥之助人形の空踊り、鬼の面を被つて人を驚かすやうな下手な真似はなさいますなや。アタ阿呆らしい。ソンナ事でヘコたれるお花ですかいな。お寅婆と一緒に企みた芝居も、かう楽屋が見えては、ヘン、お気の毒さま。むしろ私の方から同情の涙を注ぎますわいな。イヒヽヽヽヽ』 お寅『これ、お花さま、あまりぢや厶いませぬか。十年も私の側に居つて、まだ、私の心が分らないのですか』 お花『どうも分りませぬな。手練手管のあり丈を尽し、千変万化にヘグレてヘグレておへぐれ遊ばすヘグレ武者、へぐれのへぐれのヘグレ神社の生宮さまだもの』 斯く互に毒ついてゐる所へ、エルサレム署の高等係が二人の巡査と共に入り来り、 高等係(警察)『守宮別さまに、一寸お目にかかり度いから取次いで下さい』 階下にシヤガンでゐたボーイは、米搗バツタ宜しく、もみ手をしたり、腰を幾度も屈め乍ら、 ボーイ『ハイ、畏まりました』 と先に立ち三号室へ案内した。 高等係『エー、ン、お気の毒乍ら本署より守宮別さま、お寅さま、お花さまに対し、聖地の退去命令が出ましたから、どうか此書面に受印をして下さい』 守宮別『コリヤ怪しからぬ、退去命令を受けるやうな悪い事をした覚えは厶いませぬがな』 高等係『兎も角、この指令書を読んで御覧なさい。……聖地の風儀を紊し、治安に妨害ありと認むるを以て、三日以内に聖地を退却すべし。万一拒むに於ては刑務所に三年間投入すべきものなり。……と記されてあります。お気の毒乍ら用意をして貰はねばなりませぬ』 と三人から受印を取り、靴音高く階段を下りかへり行く。 (大正一四・八・二一旧七・二於由良秋田別荘北村隆光録) |
|
159 (2954) |
霊界物語 | 65_辰_虎熊山と仙聖郷の物語/七福神 | 23 義侠 | 第二三章義侠〔一六七九〕 仙聖郷の村人は、今迄土地の財産は全部バータラ家のものとなり、何れも悲惨な小作人となり、仙聖郷に住み乍ら、実に悲惨の生活を送つて居た。所が偶然の出来事より山林田畑を作れるだけ与へられて、嬉々として其業を楽しみ、又未亡人のスマナーを神の如くに敬つて居た。甲乙丙三人の男は山林に薪をからむと出で往き、木蔭に腰打ち卸し、雑談に耽つて居た。 甲『オイ、世も変れば変るものぢやないか。俺達は世界から羨まれる仙聖郷の住民であり乍ら、祖父の代からみじめな小作人の境遇に陥り、働いて作つた米の大部分はバータラ家に納め、肝腎の米は一粒も口に入らず、裏作の麦類を飯米として露命を繋いで来たが、今年から、お米を頂く事が出来るやうになつたのも、全く神様のおかげだよ。是でこそ仙聖郷相当の生活が出来る事だらう、本当に嬉しい事だなア。テーラの悪人も此頃すつかり改心するし、泥棒迄があのやうに田畑を耕すやうになつたのだから、世の中も変つたものだなア』 乙『何と云ふても天与の産物を独占する者があつた為め、吾々は苦しんで来たのだ。斯うなつたら村に苦情も起らず、愛神愛人の道も完全に行はるるであらう。何程信心せよと云ふても、今日食ふ飯も無いやうの事では信心も出来ず、人が何程困つとつても助ける事も出来ず、人の持つて居るものでも、叩き落して取りたいやうに思ふものだが、かうして平等になつた以上は、悪事悪念は断たれるであらう。テーラの奴、村中の憎まれ者だつたが、善悪不二と云ふて、あの奴が彼様悪事を企みよつたものだから、吾々はこんな結構に成つたのだ。悪人だつて憎めぬよ。悪が変じて善となり、善が変じて悪となると云ふのは、大方こんな事を云ふたのだらうよ』 丙『テーラの奴、随分俺達を今迄苦しめよつたが、彼奴もこれで一切の罪亡ぼしになるであらう。仲々気が利いた事をやつた。虎熊山の泥棒を引ぱつて来て、あんな荒い仕事をやり、又泥棒を役人に仕立てて、財産を横領しようとしたのは、吾々の到底考へ付かない芸当だ。泥棒だつて元からの悪人ではないと見えて、あの通り朝から晩迄神妙に働いて居るぢやないか、俺達も、も些し甲斐性があつたら、彼れ達の仲間に入つて居たかも知れないからなア』 甲『お前のやうな気の弱い男はまア乞食位のものだなア。俺だつたら屹度泥棒の親分位に、あのままでモウ一二年経つたなら成るかも分らなかつたよ。実の所は二三年前から考へて居たが、そんな事をウツカリ相談する訳にも行かず、一人の泥棒も心細いなり、泣き泣き今迄暮れて来たのだ。併し乍らテーラの奴、三五教の先生の前で、「村人の僕となつて尽しますから許して下さい」といつて置き乍ら、此頃少し見幕が荒いぢやないか。鼻をピコづかせ乍ら「お前達がこんな結構になつたのも俺のお蔭だ」と云ふて威張りやがる。番太のくせに俺達の頭をおさへようとするのだから業腹だ。一つ青年隊を召集して、テーラを元の通り番太にこき卸した方が慢心せいでよいかも知れないよ』 乙『馬鹿云ふな、四民平等とか、衡平運動とかが、盛に行はれて居る世の中に、いつ迄も怪体な思想に因へられて居るものぢやない。テーラは吾々の恩人見たやうなものだ。バータラ家があんな目に遇つたのも、何かの因縁だらう、吾々人民の膏血を絞り、贅沢三昧に暮して来た報いだ。仙聖郷三百人の恨が凝結してあんな惨事が突発したのだ。スマナー姫様も、元は貧民の腹から生れ、バータラ家に拾ひあげられて奥様になられたのだから、吾々貧民の味方をして下さつたのだ。人間と云ふものは自分が難儀をして来ねば同情の起るものではない。博愛だとか、同情だとか云つて居る者に、一人も博愛心や同情心を保つて居るものはない。世の中を博愛と、同情の仮面を被りて胡麻かす贋君子、贋聖人ばかりだ。あの比丘尼様こそは本当に吾々の救世主様だ』 斯く話す所へ、泥酔に酔ふてやつて来たのは、一たん恐さに改心したテーラであつた。テーラは丸い目をギヨロツと剥き出し、肩を聳やかし乍ら、口汚く、 テーラ『オイ、其処に居る餓鬼はダダ誰人だい。仙聖郷の救世主テーラ様のお通りだぞ。早く茲へ来て土下座を致さぬか。貴様達は此方様のお蔭によつて親類の財産を分けて貰ひ、何百年振りに地主となつたのぢやないか。俺が一つ頑張らうものなら、親類の此方の、皆物になるのだが、そこは救世主様だけあつて、お前たちの物になるやうに取計らつてやつたのだ。恩知らず奴、いつも俺を番太扱ひにしやがつて、碌に挨拶もせぬぢやないか』 甲『これや、テーラ、貴様は何を云ふのだ。不届き千万にも虎熊山の泥棒と腹を合せ、俺たち青年隊を騒擾罪で引張らうとしたでは無いか。吾々が地主となつたのは、先祖代々の恩恵が報うて来たのだ。恩に着せない。些と心得ないと村中が貴様を恨んで居るぞ。世の中に何が恐ろしいと言つても、恨と人気程恐ろしいものはないぞ。些と心得て酒を喰はぬやうにせねば、村中寄つて集つて、叩き払ひにせられて仕舞ふぞ。不心得者奴が』 テーラ『ナヽ何を吐しやがるんだい。此村に俺に指一本でもさへる奴があるかい。グヅグヅ吐すと、恐れ乍らと訴へてやらうか』 甲『ハヽヽヽ貴様の訴へる所は、虎熊山の泥棒の岩窟であらう。お気の毒乍ら虎熊山は半以上爆発し、貴様の親分も友達も、木端微塵になつて居るのを知らぬのか。貴様の悪行を村中が連判で上へ届けたならば、それこそ貴様は、どんな運命になるか分らぬのだ。今迄は吾々も財産が無いので、何を云つても官が取り上げて呉れなんだが、もはや、租税を納める公民となり、選挙権も獲得したのだから、官だつて屹度少々の無理だつて取り上げて呉れるのだ。何程貴様が威張つても、大勢と一人とは叶はぬから、好い加減に引込んだらよからう。貴様の偵羅もモウ駄目だ。そしてそんな憎まれる商売は止めて仕舞へ』 テーラ『グヅグヅ吐すと、キングレスの親分に貴様の悪口を報告して、フン縛つてやるぞ』 甲『こら、まだ昔の夢を見て居るのか。キングレスはもはや貴様の様な者を相手にする男ぢやないぞ。もう此頃は吾等の親切なる友達だ。此間も遇つたら貴様の事を云つて大変悔んで居た。今度グヅグヅ云つたら知らして呉れ。懲戒の為めに足を縛つて沙羅双樹の枝に俯向に吊るしてやらう。さうしたら些とは改心をするだらうと云つて居たぞ』 テーラ『ナヽ何を吐きやがるんだい。そんなことに驚く哥兄ぢやないぞ。グヅグヅ吐すと片ツ端から笠の台を張り飛ばしてやらうか』 と云ふより早く蠑螺の如き拳骨を固め、ブウブウと風を切つて撲りつけむと暴れ出した。三人は木の幹を盾に取り、右へ左へと避け乍ら、身を守つて居る。テーラは勢に乗じ怒り狂ひ、三人を逐ひかけ廻す。俄に現はれた大の男、矢庭に後からテーラの首筋をグツと握り、雷のやうな声にて、 男『これや、又しても貴様は暴れるのか。もう了見はせぬぞ』 テーラは此声に縮み上り、 テーラ『ハイ、マヽ誠に済みませぬ。チヨツ、チヨツ、チヨツと酒に喰ひ酔つたものだから脱線を致しました。キングレス様、どうぞ是限り酒も慎み、乱暴も致しませぬから、何卒許して下さい』 キングレス『イヤ、許す事は出来ぬ。幾ら云つても貴様は駄目だ。頭に穴をあけ、逆さに木に吊り上げ、ちと血を出してやらぬ事には性念が入るまい。これこれ三人の方、もう私が現はれた以上は大丈夫です。サア貴方方思ふ存分、此奴を撲つてやつて下さい』 三人は喜んで此場に走り来る。 甲『キングレス様、よう来て下さいました。別にこんな男を撲つた所で、何の効もありませぬから、苦しめてやらうとは思ひませぬが、どうぞ将来乱暴をせないやうに充分誡めてやつて下さいませ』 キングレスは、 キング『ハイ、承知致しました。これやテーラ、此後乱暴を致すと此通りだぞ』 と云ふより早く猫を掴む様に、強力に任せ抓み上げ、四五間向ふの田圃の中へ放りつけた。テーラは足を打ちチガチガし乍ら、四這になつて田の中を横ぎり、雲を霞と逃げて行く。是よりテーラは猫の如くにおとなしくなり、又キングレスは里人から強力と崇められ、悪人征服の役目となり、此仙聖郷に持て囃されて一生を無事に送つた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・七・一七旧六・四於祥雲閣加藤明子録) |
|
160 (2970) |
霊界物語 | 66_巳_オーラ山の山賊 | 10 八百長劇 | 第一〇章八百長劇〔一六九二〕 ヨリコ姫の大頭目を始め、シーゴー、玄真坊の三人は酒汲み交はし、いろいろと面白からぬ協議に耽つてゐた。そこへ慌ただしく手下の一人現はれ来り、 『親分に申上げます』 ヨリコ『慌ただしき其様子、何事が起つたのかなア、お前はコリぢやないか』 コリ『ハイ、左様で厶います。シーゴー親分様の御命令に依り、タライの村の里庄が家に十数人を率つれ、夜陰に乗込み、たうとう絶世の美人スガコ姫を引捉へて帰り、狼谷の入口に於て、吾々同僚が芝居をやつてゐる所で厶いますから、どうか救世主として、御一人現はれ下さいませ』 ヨリコ『ソリヤ可い事をした。あしこの娘ならば随分美人だらう。そして沢山の金も要求出来るだらう。ヤ、面白い面白い。オイ、コリ、あの娘をかつさらへるに付いての殊勲者は誰だ』 コリ『ハイ、兎も角私が引率して参つたのですから、誰がかつさらへても、ヤツパリ私の凡ての画策宜しきを得た結果で厶いますから、先づ月桂冠は此コリに帰すべきものと存じます』 ヨリコ『自分が生れた村の娘と聞けば、何だか恥しいやうだ。そして面を見られちや大変だから、妾は天王の社の床下なる地下室に住居を移さう。玄真坊、コリ、お前両人寄つて、よきに取計らうたが宜からう』 両人は『ハイ』と頭を下げ、能い椋鳥が捉まつた……と俯向いたまま、ホクソ笑んでゐる。 ヨリコ『コレ、シーゴー殿、吾居間に跟いて来て下さい。お前さまには又別の用があるから』 と云ひ乍ら、シーゴーを伴ひ、地下室に帰り行く。玄真坊は厳しき法服をつけ、錫杖をガチヤガチヤと響かせ乍ら、七つ下りの山路を法螺貝を吹立て吹立て降り行く。 狼谷の入口に十五六人の手下共が、一人の美人を中におき、 甲(ショール)『オイ、女、汝は今迄栄燿栄華に、何不自由なく、里庄の娘として暮して来た奴だが、最早汝の運命もツキの国だ。サア之から因果腰を定めて、此方の女房になるか、厭と吐さば、此方が刀の錆、性念をすゑてシツカリ返答を致すが可からうぞ』 女(スガコ)『お前さまは、此山に割拠してゐる小盗児サンだな。同じ人間に生れ乍ら、なぜ又こんな卑怯な商売をしてゐるのだい。自在天様の御冥罰が怖ろしくはありませぬか』 甲(ショール)『アツハヽヽヽ、大自在天がこはくつて、こんな商売が出来るか、馬鹿な事をいふな。どうだ一つ、改心して泥棒様の奥様になり、女盗賊の頭目として羽振を利かす気はないか』 女(スガコ)『エー、汚らはしい、小泥棒の分際として貴婦人に向つて何をいふのだ。さがりおらう!』 甲(ショール)『アツハヽヽヽ、チヨツクとやりよるワイ。流石は里庄の娘丈あつて、どこともなく魂が出来てゐる、ヤ、感心々々。其魂を見込んで、此方が惚たのだ。お前は俺を小盗児といふが、決して其様な者ではない。トルマン国のバルガン城下に生れたショールさまといふ立派な男だよ。男の中の男といはれた哥兄だ。俺が腮の振り方で、お前の命が助からうと助かるまいと、自由自在の権力をもつ男だ。どうだ、一つ考へ直して、俺の奥になる気はないか』 乙『ショールさま、エ、邪魔臭い、こんな尼ツチヨに相手になつてたら、日が暮れますよ。サ、たたんだりたたんだり。コリの親分が帰つて来たら、何と云つて小言をつかれるか分らぬ。こんな婦女の一疋や半疋に手古ずつたとあつちや男が立たねえ。オイ皆の奴やつつけろ』 『ヨーシ合点だ』と一同は柄物を取つて、一人の女に向ひ打つてかかる。女も強者、身構なし、柳眉を逆立て、 女(スガコ)『タカが小泥棒の十人や二十人、何の怖るる事あらむや。日頃覚えし柔術の妙技を現はすは此時だ。サア来い、来れ』 と大手を拡げて待つてゐる。 『何猪口才な』 と一同は、武者振ついて、手を取り足を取り忽ち地上に捻伏せて了つた。 ショール『コリヤ女、ジタバタしてもモウ駄目だ。サア俺の心に従ふか、何うだ、其方の一言に依つて、汝の生死が分るるのだ』 女(スガコ)『エー、汚らはしい、妾はタライの村の里庄が娘スガコ姫だ。汝が如き心汚れし小泥棒に靡く様な女ではないぞ。殺したくば殺したがよい。惜まれて散るのが花の値打だ。サア殺せ殺せ』 と呼ばはつてゐる。ショールも……早く玄真坊が来て呉れないかなア……と稍手持無沙汰の気味でまつてゐると、ブーブーと法螺を吹立て乍ら、ガチヤリガチヤリと急坂を下つて来る男がある。彼はコリの注進によりて、此芝居の処置をつけむ為、修験者の法服を纒うてやつて来た玄真坊である。玄真坊はあたりに響く大音声にて、 玄真『吾れこそは、天の命を受け、オーラ山に天降りたる玄真坊の大救世主だ。見ればかよわき女を拐かし、乱暴狼藉を働き居る、こわつぱの企みと見えたり。待てツ、今に神譴を加へくれむ、そこ動くなツ』 と呼ばはる声に、ショール初め部下の者共は、ヤレ幸と、蜘蛛の子を散らすが如く、バラバラバツと逃げ出し遠く姿をかくした。スガコ姫は余りの無念さ、残念さに白歯をくひしばり、嗚咽涕泣してゐる。玄真坊は側近くより来り、静に姫の頭や背中を撫で一入静なやさしみのある声で、 玄真『どこのお女中か知らぬが、えらい御災難で厶つたのう。最早拙僧の現はれた上は御安心なさい。テも偖も危い所で厶つたワイ』 スガコ『何れの方かは存じませぬが、妾の命の瀬戸際をお助け下さいまして有難う存じます。貴方は何れの神様で厶いますか、恐れながら御名を承りたう厶います』 玄真『拙僧は天を父となし、地を母となし、宇宙の主宰となり、トルマン国を救済の為、此オーラ山に聖蹟を止め、斯の如く修験者と変化して衆生済度を致す者、最早吾目にかかりし上は、如何なる曲神と雖、貴女が体に一指だもそへる事は出来ない。御安心なさい』 スガコ『どうも有難う厶います。貴方が噂に高きオーラ山の玄真坊様で厶いますか、これも全く神様の御引合せ、何かの御縁で厶いませう。妾はタライの村の里庄が娘、親一人子一人の憐な者で厶いますが、昨夜泥棒の団体に踏み込まれ、猿轡を篏められて広い原野を引廻され、今又この処に於て泥棒頭が無体の恋慕、彼が意に従はざる為、妾が命を取らむと致し、大勢寄つてかかつて捻伏せてをりました一刹那、尊き法螺貝の声が聞えたかと思へば、救世主様の御来臨、おかげで危い所を助けて頂きました、幾重にも御礼申上げます』 玄真『イヤ、御礼を言はれては困る。天が下の万民は皆吾子だ、吾弟子だ。親が子の危急を救ふのは当然だ、決して礼をいふにや及ばぬ。サア之から此方と共に、オーラ山の聖場へ行つて休まうぢやないか』 スガコ『ハイ御親切有難う厶いますが、吾家におきましては、父は申すに及ばず、家の子共が上を下へと、妾を探ねて心配をして居りませうから、何卒父の家迄送つて頂く訳には参りますまいか。そして十日も二十日も百日も御逗留下さいまして、里人に結構な恵みを御与へ下さいますまいか』 玄真『そなたの望み、聞いてやりたいは山々なれど、此玄真坊は七つ下ると、天地の神々と相談を致さねばならず、星は天より下り大杉の梢に止まつて、吾教説を聞きに来る……といふやうな次第であるから、今少時里方へ出る訳に行かぬ。さうだと云つて、お前を一人、此儘帰せば、又もや泥棒の難に会はぬとも保証し難い。それ故今少時、此方と共にオーラ山の聖場に詣でて、天王の社に感謝祈願の誠を捧げ、少時逗留致したが可からう。貴方の父上には、此方より人をつかはし、報告をしておくから軈て迎へにみえるだらう。救世主の言葉に二言はない。サアサア此方に従いてお出なされ』 スガコ『さう御親切に仰有つて下されば、否む訳には参りませぬ。左様なれば不束な妾、少時御厄介に預かりませう』 玄真『ウン、ヨシヨシ、流石は明察の淑女、否賢女だ』 とほめそやし乍ら、スガコの手を引いて、コツリコツリと急阪を登り、おのが住家へと帰り行く。早くも日は山の頂に没し、四辺は薄暗く、大杉の梢には燦爛なる妖星の光が輝いてゐた。玄真坊は頭上の光を指ざし、笑を満面に湛へ乍ら、 玄真『コレコレお女中、あの梢を御覧なさい、あの通り、日の暮れるが最後、天からお星様がお降りになり、救世主の教説を聞かんとお待ち兼だ』 スガコは頭上を打仰ぎ乍ら、目も眩き光の梢に散在せるを見て、且つ驚き且つ怪しみ乍ら、青い面して慄うてゐる。玄真坊は此態を見て高笑ひ、 玄真『アハヽヽヽ、流石は深窓に育つたお嬢さまだなア。天からお降りになつたお星様がこわいと見える。其青い顔……』 スガコ『玄真坊様、余りの御神徳の高さに、妾は肝をとられました。何と不思議な事があるもので厶いますなア。天地開闢以来お星様が降つて教を聞かれるといふ事は、言置にも書置にも厶いませぬ。思へば思へば貴方様は絶対無限の神権を備へて入らつしやる活神様の御化身で厶いませう、余り有難くつて御礼の申様も厶いませぬ』 玄真『お前は実に見上げた才媛だ、此方の魂の素性をよくもそこ迄看破したなア。お前は尋常の人間ではない。尊き或女神様の化身だよ』 スガコ『ホヽヽヽ、勿体ない、妾の如き賤しき女に向ひ女神の化身だなどとは、玄真坊さま、御冗談も程が厶いますよ、貴方も人が悪う厶いますな。さう揶揄て頂きますと、知らず知らずに慢心致しますからなア』 玄真『イヤ決して揶揄のではない、救世主の言葉には嘘詐りはない筈だ。拙僧の言葉は神の言葉だ。スガコ殿、安心をなされよ』 スガコ『ハイ有難う厶います、そんなら少時、魂の素性が分る迄、貴方のお側において頂きたいもので厶いますなア』 玄真『ヨシヨシ、それが可からう、お前は第一霊国の天人の天降りだ。八百万の神に云ひつけて、天国の身許調べをしてやらう。ここ一週間の中には、お前の素性が判然と分るだらう』 スガコ『ハイ、有難う御座います、何分宜しく御願ひ致します』 スガコは相当の教育もあり、凡人にすぐれた智慧も有つてゐた、そして天性の美人であつた。併し乍ら何程賢明な婦人でも思はぬ厄難に会ひ、九死一生の場合、思はぬ人に助けられ、其人から……お前は立派な女神さまだの、化身だの……と言はれては、如何なる明智の女でも迷はざるを得ないのである。スガコは到頭彼等悪人輩の待ち受けた穽に陥り、玄真坊を真の救世主と信じ、虎狼の窟に入るとは知らず、欣然として妖僧の後に従ひ、漸く大杉の下、玄真坊が居間に導かるる事となつた。あゝスガコの今後の身の上は何うなるであらうか。 (大正一三・一二・一六旧一一・二〇於祥雲閣松村真澄録) |