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(2211)
霊界物語 38_丑_出口王仁三郎自叙伝2 07 火事蚊 第七章火事蚊〔一〇四四〕 人盛なれば天に勝ち、天定まつて人を制すとかや、喜楽は一身一家を抛つて、審神者の奉仕に全力を尽すと雖も、何を云つても廿余名の、元より常識の欠けた人物の修行者が発動したこととて、どうにも斯うにも鎮定の方法がつかない。正邪理非の分別もなく、金光教会の旧信者計りで、迷信と盲信との凝結であるから、到底審神者の云ふ事は聞入れないのである。又神懸といふ者は妙なもので、金光教の信者が修行すれば金光教の神が憑つて来る。どれもこれも皆金神と称へる。天理教の信者が修行すれば、十柱の神の名を名告つて現はれる。妙霊教会の信者が修行すれば、又妙霊教会の奉斎神の名を名告つて現はれて来る。其外宗旨々々で奉斎主神の神や仏の名を名告つて、いろいろの霊が現はれ来るものである。上谷の修行場では金光教の信者計りであつたから、牛人の金神だとか、巽の金神、天地の金神、土戸の金神、射析の金神などと、何れも金神の名を名告るのであつた。又竜宮の乙姫だとか、其他の竜神の名を以て現はれる副守護神も沢山なものであつた。 今日の大本へ修行に来る人間は、大部分中等や高等の教育を受けた人が多いから、此時のやうな余り脱線的低級な霊は憑つて来ない。が大本の最初、即ち明治卅二年頃の神懸といつたら、実に乱雑極まつたもので、丸で癲狂院其儘の状態であつた。其上邪神の奸計で、審神者たる者は屡危険の地位に陥る事があつて、到底筆や口で尽せるやうな事ではなかつた。幽界の事情を少しも知らない人々が此物語を読んでも、到底信じられない様な事許りであるが、それでも事実は事実として現はして置かねば、今後の斯道研究者の参考にならぬから、有りし儘を包まず隠さず、何人にも遠慮会釈なく、口述する事にしました。 頃は明治卅二年、秋色漸く濃やかな時、金明会の広間では、例の福島、村上、四方春三、塩見、黒田を先頭に、日夜間断なき邪神界の襲来で、教祖のいろいろの御諭しも、喜楽の審神者も少しも聞き入れぬのみか、却て教祖や喜楽を忌避して、福島氏の如きは別派となり、広前の奥の間を占領し、四方、塩見、黒田三人の修行者と共に、奇妙な神懸を続行して居る。 『お父サン、久しぶりでお目にかかりました』 『ヤア吾子であつたか、会いたかつた……見たかつた……ヤア其方は吾妻か……』 『吾夫で御座んすか、艮の金神さまが世にお落ち遊ばした時に、私も一所に落されて、親子兄弟がチリヂリバラバラ、時節参りて、艮の金神さまのおかげで、久し振りで夫婦親子兄弟の対面を許して貰ひました。あゝ有難い勿体ない、オーイオーイオーイアンアンアン』 と愁歎場を演出してゐる。余りの狂態に、平素から忍耐の強い教祖も、已むを得ず箒を以て、福島の神懸を掃出し、 教祖『お前は金光教を守護する霊であらう。此大本をかき紊す為に、福島の肉体を借つて居る事は、初発から能う知つて居る。モウ斯うなつては許す事は出来ぬから、一時も早く退散せい』 と厳しく叱りつけられ、半分肉体の交つた神懸の福島は、大いに立腹し、 福島『此誠の艮の大金神さまのお憑り遊ばした福島寅之助を、能う見分けぬやうな教祖が何になる。勿体なくも艮の金神の生宮を、箒で掃出したぞよ。又上田も小松林のやうなガラクタ神が憑つてゐるから、此結構な大神を能う見分けぬとは困つたものであるぞよ。何の為の審神者ぢや、分らぬといふても程があるぞよ。サアサア皆の神懸共、これから丑の年に生れた寅之助の、艮大金神が神力が強いか、出口と上田の神力が強いか、白い黒いを分けて見せてやるぞよ。此方の御伴致して上谷へ来いよ。もし寅之助が負たら従うてやるが、此方が勝ちたら出口直も上田も、誠の艮の金神に従はして、家来に使うてやるぞよ。今日が天晴れ勝負の瀬戸際であるぞよ。皆の神懸よ、一時も早く上谷へ行けよ。出口と上田の改心が出来ぬから、今目をさまし改心の為に、神が出口の家を灰にして了うぞよ。それから町中も其通りぢやぞよ。噫誠に気の毒なものぢやぞよ。人民が家一軒建てるのにも、中々並大抵の事ではないが、神も気の毒でたまらぬぞよ。これも出口直が我が強うて、上田の改心が出来ぬからぢやぞよ』 と四辺に響く大音声にて呶鳴り散らす。喜楽は何程福島に神懸の正邪を説明しても、聞かばこそ……、自分は誠の艮の金神ぢや、上田の審神者が何を知るものか……と、肩を怒らし、肘をはり、威丈高になつて、神懸や役員一統を引連れ、韋駄天走りに一里余りの道を、上谷の修行場さして行つて了つた。 出口教祖と喜楽と澄子の三人を広前に残して、役員も神懸も悉皆、福島にうつつた邪神の妄言を固く信じて、上谷へ行つて了つた。喜楽は教祖の命に依りて、二三時間程経つてから、中村竹造[※霊界物語における中村竹造の名前に「竹造」と表記している場合と「竹蔵」と表記している場合があるが、霊界物語ネットでは「竹造」に統一した。詳しくはオニペディアの「霊界物語第38巻の諸本相違点」を見よ]の妻の中村菊子と只二人で、上谷の四方伊左衛門といふ人の家の修行場へ出張して見ると、役員も神懸も村の人達も、老若男女の分ちなく、悉皆福島について、高い不動山の上へ上つて了ひ、あとには黒田清子と野崎篤三郎とが修行場の留守をしてゐた。そして黒田には悪狐の霊が憑つて、喜楽の行つたのも知らずに、何事か一人でベラベラと喋り立てつつあつた。野崎は其傍に両手をついて、おとなしく高麗狗然として畏まつてゐた。喜楽の顔を見るなり、野崎は驚いて、黒田清子に耳打をすると、黒田は忽ちに仰向けになつて、 黒田『上田来たか、よく聞けよ。此方は勿体なくも素盞嗚尊であるぞよ。お前が改心出来ぬ為めに、気の毒乍ら綾部の金明会は灰にして了うぞよ。お前は何しに来たのぢや、一時も早う綾部へ帰つて、火事の消防にかからぬか。グヅグヅして居る時ではないぞよ、千騎一騎の此場合でないか』 とベラベラと際限もなく喋り立てる。喜楽はいきなり、 喜楽『コラ野狐、何を吐すか。そんな事があつてたまらうか。コリヤ野狐、正体をあらはせ!』 と後から手を組んで『ウン』と霊をかけると、清子は忽ち四つ這になつて、 『コーンコン』 と鳴き乍ら、家の裏山へ一目散に駆け出した。野崎はビツクリして、後追つかけ、漸く三町許りの谷間で引捉へ連れて帰つて見ると、清子は正気になつたやうに見せて、 黒田『あゝ上田先生、誠にすまぬ事を致しました。モウこれからは、福島大先生の事は聞きませぬ。私は余り慢心をしてゐましたので、不動山の狐がついてゐました。あゝ恥かしい残念な』 と顔を袂で押しかくす。喜楽は、 喜楽『そんな事にたばかられるものか、詐りを云ふな、其場逃れの言ひ訳だ。審神者の眼で睨んだら間違ひはあるまい。四つ堂の古狐奴!』 とにらみつくれば、又もや、 『コンコン』 と鳴き乍ら、一目散に不動山を指して逃げて行く。暫くすると、例の祐助爺イサンが、喜楽の前に走せ来り、 祐助『上田先生、あんたは又しても神懸サンを叱りなさつたさうだ。今黒田サンに素盞嗚尊さまがおうつりになつて、山へ登つて来て大変に怒つてゐやはりますで。大広前が御神罰で焼けるのも、つまり先生の我が強いからで御座います。爺イも一生懸命になつて、大難を小難にまつり代へて下さいと、お詫を致して、艮の金神さまや神懸さまに御願申して居りますのに、先生とした事が、お三体の大神さまのお懸り遊ばした結構な神懸サンを、野狐だなんて仰有るから、大神さまが以ての外の御立腹、どうしても今度は許しは致さぬと仰有ります。先生、爺イが一生の頼みで御座りますから、黒田サンの神さまにお詫を、今直にして下さりませ。綾部の御広前や町中の大難になつてはたまりませぬから……』 とブルブル震ひ乍ら、泣き声で拝んで居る。喜楽は、 喜楽『祐助サン、心配するな、決してそんな馬鹿な事があるものか。誠の神さまなら、そんな無茶な事はなさる筈がない。皆曲津神が出鱈目を言ふて居るのだ。万一綾部にそんな大変事があるものなら、自分が上谷へ来る筈がないぢやないか。ジツクリと物を考へて見よ』 と諭せば、爺イサンは少しは安心したと見え、始めて笑顔を見せた。喜楽は直に不動山へ登り、数多の神懸の狂態を演じて居るのを鎮定せむと、修行場を立出でた。爺イサン驚いて、喜楽の袖を控え、 祐助『先生、どうぞ山へ行くのはやめにして、これから直綾部へ帰つて下さい、案じられてなりませぬ。今先生が山へ登られたら、又々福島の神さまが、御立腹なさると大変で厶ります』 と無理に引止めようとする。喜楽は懇々と祐助をさとし、漸くの事で納得させ、中村菊子と同道にて、綾部へ立帰らしめ、喜楽は只一人雑木茂る叢をかきわけて不動山に登り、松の木蔭に隠れて、神懸[※初版・愛世版では「神懸」、校定版では「神憑り」。]連中の様子を覗つてゐた。 福島寅之助、四方平蔵、足立正信、其外一統の連中は、喜楽の間近に来てゐる事は夢にも知らず、一心不乱になつて、 『福島大先生さま、艮の大金神さま、一時も早く教祖さまの我が折れまして、上田が往生致しまして……綾部の戒めをお許し下さいませ、仮令私の命はなくなりましても、教祖さまが助かりなさりますように』 と一同が涙交りに頼んでゐる。四方春三の声で、 春三『皆の者よ、よく聞け。出口直は金光大神の反対役であるぞよ。上田のやうな悪い奴を引張り込んで、金光教会を潰したぞよ。あの御広間は元は金光の広間ぢやぞよ。それに出口と上田とがワヤに致したぞよ。誠の艮の金神が、今度は勘忍袋の緒が切れたから、上田の審神者を放り出さねば、何遍でも大広間は焼いて了ふぞよ。四方平蔵も又同類ぢや、出口直と相談を致して、上田をかくれて迎へに行きよつたぞよ。出口と上田と平蔵と三人が心を合して、金光の広間をつぶしたぞよ。今度は改心して、上田を穴太へ追ひかへせばよし、何時までも其儘に致してをるやうな事なら、此神が許さぬぞよ』 などと、もと金光教の信者計りが集まつて、神懸[※初版・愛世版では「神懸」、校定版では「神憑」。]の口で攻撃をやる。黒田きよ子が又口を切つて、 黒田『足立正信どの、其方は何と心得て居るのぞえ。金光教会の取次ではないか、今まで出口の神の側に二三年もついて居り乍ら、上田のやうなガラクタ審神者に、広間を占領しられて、金光どのへ何と申訳致すのか。上田の行状を見たかい。彼奴は、毎日々々朝寝は致す、昼前に起て来て、手水もつかはぬ、猫より劣つた奴ぢやぞよ。寝所の中から首丈出して飯を食つたり、茶を呑んだり、風呂へ這入つても顔一つ洗ふ事も知らず、あんな道楽な奴を、因縁の身魂ぢやから大切にしてやれ、と教祖が申すのは、チツと物が分らぬぞよ。教祖の目をさますのは、一番に上田を放り出すに限るぞよ。あとは金光教で足立正信殿が御用致せば立派に教が立つぞよ。あれあれ見やれよ、今綾部の金明会が焼けるぞよ。皆の者よ、あれを見やいのう』 と邪神が憑つて妄言を吐いてゐる。一同は目を遠く見はつて、綾部の方を覗く可笑しさ。折ふし綾部の上野に瓦屋があつて、窯に火を入れて居るのが、夕ぐれの暗を照して、チヨロチヨロと見え出した。さうすると、 黒田『サア大変ぢや大変ぢや、出口の神さまは誠に以てお気の毒ぢやぞよ。御心配をして御座るぞよ。今頃は上田の審神者が一生懸命になつて火傷をし乍ら火を消しにかかつて居るぞよ。大分にエライ火傷を致して居るから、今度こそは神罰で命を取られるぞよ。今出口の神が一生懸命に祈つてゐるぞよ、ぢやと申して此火は中々消えは致さぬぞよ。綾部の大火事となるぞよ。神の申す事は一分一厘違は致さぬぞよ。これが違うたら神は此世に居らぬぞよ。慢心は大怪我の元だぞよ。慢心致すと足許へ火がもえて来て……熱うなるまで気がつかぬぞよ。行けば行く程茨むろ、行きも戻りもならぬよになるぞよ。それそれあの火を見やいのう』 と三人の神懸[※校定版では「神がかり」]が口を切る。数多の村人も神懸[※初版・愛世版では「神懸」、校定版では「神憑」。]も泣き声になり、 『福島大先生様、中村大先生様、四方大先生さま、足立大先生さま、どうぞお詫をして下さいませ』 と手を合して拝んでゐる。時正に一の暗み、瓦屋の火も見えなくなつた。 四方平蔵『火事にしては火が小さ過る。余り消えるのが早かつた。これは福島大先生さま、どういふ訳で御座いませうか……』 と尋ねて居るのは四方平蔵氏であつた。福島は横柄にかまへ乍ら、 福島『ウン、神の御仕組で広前を一軒丈犠牲に焼いたぞよ。皆の者よ綾部へ帰つて、出口の我を折らして、上田を放り出して了へよ。其後へ誠生粋の艮の金神が、福島寅之助大明神と現はれて、三千世界の立替を致すから、天下太平に世が治まりて、大難を小難にまつり代へて許してやるぞよ。何程人民がエライと申しても神には勝てぬぞよ。疑を晴らせよ。誠の丑寅の金神の申す事は、毛筋の横巾程も間違ひはないぞよ。改心致さぬと足許から鳥が立ちて、ビツクリ致して目まひがくるぞよ。改心するのは今ぢやぞよ』 と呶鳴り散らしてゐる。暗の帳はますます深く下りて来た。鼻をつままれても分らぬやうに暗い。提灯もなければ、上谷まで帰る事も出来ぬ真の暗になつた。村中の者が家を空にして、残らず此処へ登つて了つて居つたが、山を下りるにも下りられず、途方に暮れて『惟神霊幸倍坐世』と合掌してゐる。其処へ暗がりの中から、喜楽の声として、 喜楽『汝等一統の者、余り慢心強き故に邪神にたぶらかされ、上田の審神者の言も用ひず、極力反対せし結果は、今汝等の云ふ如く、足許から鳥が立つても分るまい。喜楽は数時間以前から、此松の木蔭に休息して、汝等の暴言暴動を残らず目撃してゐた。汝等に憑つた邪神は、現在此処に居る喜楽を見とめる事も出来ない盲神だ。又綾部の広前は決して焼けてはゐないぞ。最前見えた火の光は、稍大にして火事の卵に似たれども、あれは火事ではない、上野の瓦屋が窯に火を入れたのだ。汝等は今此処で目を醒まし、悔ゐ改めねば、神罰忽ち下るであらう。現に此山上にさまようて、帰路暗黒、一寸も進む能はざるは神の懲戒である。汝等一同の者、よく冷静に考へ見よ。万一広前が焼けるものと思へば、何故大神の御霊の鎮座ある、広前につめきつて保護せないのか。なぜ面白さうに火事見物をし、村中が弁当や茶などを携帯して、安閑と見下ろそうとしてゐるその有様は何の事か、これでも誠の神の行ひか、チツとは胸に手を当て考へてみよ』 と呶鳴りつけた。サアさうすると……上田は綾部に居ると固く信じてゐた一同の者は、藪から棒をつき出したやうに、喜楽が現はれたのと、其説諭に面食つて、泣く者、詫びる者、頼む者が出来て来た。暗き山路を下りつつ、躓き倒れてカスリ傷をするやら、茨に引つかかつて泣き叫ぶやら、ヤツとの事で不動山から、命カラガラ上谷の伊左衛門方の修行場へ帰つたのはその夜の十二時前であつた。 何れの人を見ても、顔や手足に茨がきの負傷せぬ者は一人もなかつた。四方平蔵は、喜楽に手を引かれて下山したので、目の悪いにも拘はらず、かき傷一つして居なかつた。喜楽は一同の者が邪神の神告の全然虚言であつたので、各自に迷ふてゐた事を悟つたであらうと思ひ、急ぎ綾部へ只一人帰つて来た。其あとで又々相変らず邪神の神懸[※初版・愛世版では「神懸」、校定版では「神憑」。]を続行し、其結果一同鳩首会議を開き、其全権大使として足立氏と四方春三、中村竹造の三人が選まれた訳である。要するに甘く喜楽を追放するといふが大問題であつた。 審神者の役といふものは仲々骨の折れるもので、正神界の神は大変に審神者を愛されるが、之に反して邪神界の神は恐れて非常に忌み嫌ひ、陰に陽に審神者を排斥するものである。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一〇・一五旧八・二五松村真澄録)
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霊界物語 38_丑_出口王仁三郎自叙伝2 13 冠島 第一三章冠島〔一〇五〇〕 易に曰く、書は言を尽す能はず、言は意を尽す能はず、意は神を尽す能はず、然れども言に非ざれば意を現す能はず、書に非ざれば言を載す能はず、抑も聖賢の言、偉人君子の行、忠臣義士の偉挙、貞女節婦の美伝、悉く文字に依つて伝へらるるものである。喜楽は性来の人間として鈍根劣機至愚至痴到底教祖の心言行を述べむとするは、甚だ僣越の至りである。併し乍ら其一小部分にもせよ、教祖の実行された心言を伝へておかなくては、あたら教祖の心言を土中に埋没する如きものであるから、茲に教祖が冠島に始めて神命を奉じて御渡りになつた事実の大要を述べて見やうと思ふ。 世必ず非常の人あつて、而して後非常の事あり、非常の事ありて而して後に非常の功ありと司馬相丞が言つた。自分が茲に口述する出口直子も亦非常の人たるを信ずる。否貴き神の代表者たるを堅く信じて、茲に其一端を物語らむとするのである。 日清戦役の後独逸が膠州湾を占領し、露国が旅順大連を租借した行動は甚だ列強国の精神を刺激し、各其均霑を希望する結果、英国は威海衛を、仏国は広州湾を各占領し、露国が鉄道布設権を満洲に得たるに倣ひ、争うて鉄道布設権を清国各地方に獲得せむとし、各自に所謂勢力範囲を策定し、陰然支那分割の状勢を馴致し、東洋の危機正に此時より甚だしきはなしと思はれた。加之義和団と称する時勢の大勢を知らざる忠臣義士の一団、これを憤慨すること甚しく、遂に興清滅洋の旗幟を翻して、山東省の各地に蜂起し、所在キリスト教徒を虐殺し鉄道を破壊し、明治三十三年四月初旬、進んで直隷省に入り、忽ち清国の宗室端郡王を擁し、将軍董福祥を中堅とし、五月以来勢益す猩獗をきはめ、六月に及んで北京は全く重囲の中に陥り、独逸公使ケツトレル先づ惨殺せられ、我公使館書記生杉山某又殺害せられた。日本を始め列国は遂に独逸元帥ワルデルデーを総指揮官となし、聯合軍を組織して、太估より並進し、将に北京の団匪に迫らむとする間際であつた。 開闢以来未曾有の世界の力比べともいふべき晴れの戦争である。此檜舞台に立つて、神国神軍の武勇を現し、列国の侮りを防ぐ必要があるとの御神勅で、教祖は六十五才の老躯を起して、昔から女人の渡つたことのない丹後沖の無人島、冠島俗に大島へ、東洋平和の為、皇軍大勝利の祈願をなさむと、陰暦の六月八日を以て、上田会長、出口澄子、四方平蔵、木下慶太郎の四人を引連れ、五里半の路程を徒歩して、黄昏頃舞鶴の船問屋、大丹生屋に着し、渡島の船頭を雇ひ、これから愈漕ぎ出さうとする時しも、今まで快晴にして極穏かであつた青空が俄にかき曇り、満天墨を流した如く風は海面をふきつけ、波浪の猛り狂ふ声、刻々に激しく聞えて来た。大丹生屋の主人は、 『此天候は確に颶風の襲来なれば、今晩の舟出は見合はしませう。まして海上十里の荒い沖中の一つ島へ、こんな小さい釣舟にては到底安全に渡ることは出来ませぬ、一つ違へば、可惜貴重の生命を捨てねばならぬ、明日の夜明を待つて、天候を見きわめ、これで大丈夫といふことがきまつてから御参りなさい』 としきりにとどめる。又舟人も異口同音に、到底海上の安全に渡り得可からざることを主張して、舟を出さうとは言はぬのみか、一人減り二人減り、コソコソとどこかへ逃げて行つて了うのであつた。教祖は、 教祖『神様の御命令だから、そんなことを言つて一時の間も猶予することは出来ませぬ。是が非でも今から舟を拵へて出て貰ひたい。今晩海のあれるのは竜宮様が私等の一行を、喜び勇んでお迎へに来て下さる為に、荒い風が吹いたり、雨が降つたりするのだ。浪の高いのは当然だ。船頭サン、大丈夫だ、神さまがついて御座るから、少しも恐れず、早く舟を漕ぎ出して下さい。博奕ケ崎迄漕いで行けば、屹度風はなぎ、雨はやみ、波も静まります。天下危急の場合だから、一刻も躊躇することは出来ぬ。死ぬるのも生るのも皆神様の思召によるものだ。神様が死なそまいと思召すなら、どんなことがあつても死ぬものぢやない、信仰のない者は一寸したことに恐れるものだ、が今度は大丈夫だから、是非々々行つておくれ』 と雄健びして船頭の主人の言葉を聞き入れる気色もなかつた。大丹生屋の主人を始め、一同の舟人等は小さい声で、 『金もほしいが命が大事だ。こんな気違ひ婆アさんの命知らずの馬鹿者に相手になつて居つては堪らぬ』 と嘲笑的に囁き、只の一人も応ずるものが無い。一行五人は如何ともすること能はず、只管一時も早く出舟の都合をつけて下さいと橋の上に合掌して祈りつつあつた。木下は操舟に鍛練の聞えある漁師、田中岩吉、橋本六蔵の二人を甘く説きつけて帰り来り、 『只今より冠島へ連れて行てくれ』 と改めて頼み込むと、二人は目を丸うして、 『なんぼ神さまの命令でも此空では行けませぬ。私等も永らくの間、舟の中を家のやうに思ひ、海上生活をやつて居ります故、大抵の荒れならこぎ出して見ますが、此気色では到底駄目です。一体あんた等は何処の人ぢや本当に無茶な人ですなア』 と呆れて一行の顔を見つめて居る。教祖は切りに促し、 教祖『早く早く』 と急き立てられる。船頭は返事をせぬ。かくては果じと、二人の船頭に向つて、 『海上一町でも半里でもよいから、冠島までの賃金を払ふから、マア中途から帰る積りで往つてくれ』 と木下が云つた。二人の船頭は、 『お前さまたちが、そこまで強いて仰しやるのならば、キツと神様の教でありませう、確信がなければ、到底此気色に行くといふ気にはなれますまい。私も一寸冠島さまに伺つてみて決心します』 といひ乍ら、新橋の上に立つて、冠島の方に向ひ合掌祈願しつつ、俄作りのみくじを引いて見て、 『ヤツパリ神様は行けとありますから、兎も角行ける所まで漕ぎつけて見ませう』 と半安半危の気味で承諾の意を洩らしつつ、早速用意を整へ五人を乗せて潔く舞鶴港を後にして、屋根無し小舟を操り、雨風の中を事ともせず、自他七人の生霊を乗せ、舟唄高く漕ぎ出した。 海上二里許り漕ぎ出たと思ふ頃、教祖のさして居られた蝙蝠傘が如何した機みか、俄に波にさらはれ取おとされたと見る間に、舳に立つて艪を操つてゐた、舟人の岩吉が目ざとく見とめて、拾ひ上げた。時しも舟底に肱を枕にして、ウツウツ眠つて居た澄子は忽ち目を醒まし、 澄子『アヽ吃驚した、今平蔵サンが、誤つて海中に陥り、命危い所へ教祖さまのうしろの方から、威容凛然たる神様が現れて、平蔵サンを救ひ上げ、息を口から吹き込んで蘇生せしめられたと思へば、ヤツパリ夢であつたか』 と不思議相に語り出す。一行一層異様の思ひを為し、教祖の持つてこられた蝙蝠傘をよくよく調べて見れば、正しく平蔵サンの傘であつた。至仁至愛の大神は、教祖さまをして身代りの為に、平蔵氏の傘を海におとさしめて、其危難を救ひ、罪を浄め、新しい人間と生れ変はらして下さつたのでせう……と各自に感歎し乍ら、狭い舟の中に静座し、膝をつき合せ乍ら、一同が謝恩の祝詞を奏しつつ、勇み進んで、雨中を漕ぎ出した。 こんなことを述べ立てると、信仰なき人は、或は狂妄といひ迷信と誹り、偶然の暗合と笑ふであらう。神異霊怪なるものの世にあるべき道理はないと一笑に附して顧みないであらう。さり乍ら天地の間は、すべて摩訶不思議なものであることは、本居宣長の玉鉾百首にもよまれた通りである。 あやしきを非じといふは世の中の 怪しき知らぬしれ心かも しらゆべきものならなくに世の中の くしき理神ならずして 右の歌の意の如く、天地間は凡て奇怪にして人心小智の伺ひ知るべき限りではない。然るに中古より聖人などいふ者出で来りてより、怪力乱神を語らずとか、正法に不思議なしとか悟り顔に屁理屈を振りまはしてより、世人の心は漸次無神論に傾き、神霊霊怪を無視し、宇宙の真理を得悟らざるに至り、至尊至貴万邦無比の神国を知らざるに立到つたのである。又玉鉾百首に、 からたまのさかしら心うつりてぞ 世人の心悪しくなりぬる しるべしと醜の物知りなかなかに よこさの道に人まどわすも とよまれてあるのも実に尤もな次第である。却説舟人の一生懸命にこぐ舟は早くも博奕ケ岬についた。教祖の言あげせられた如く、ここ迄来ると、雨は俄に晴れ、風はなぎ波は静まつて、満天の星の光は海の底深く宿つて、波紋銀色を彩どり、雲の上も海の底も合せ鏡の如く、昔の男の子の、 棹はうがつ波の上の月を、 波はおそふ海の中の舟を を思ひうかべ実に壮快の気分に打たれた。 影見れば浪のそこなる久方の 空こぎわたる我ぞわびしき といふ紀貫之の歌まで思ひ出され、一しほ感興深く進む折しも、ボーツと海のあなたに黒い影が月を遮つた。舟人は、 『あゝ冠島さまが見えました』 と叫んだ時の一同の嬉しさは、沖の鴎のそれならで、飛立つ許り、竜神が天に昇るの時を得たる喜びも斯くやあらむと思はれ、得も言はれぬ爽快の念にうたれた。 暫くあつて東の空は燦然として茜さし、若狭の山の上より、黄金の玉をかかげたる如く、天津日の神は豊栄昇りに輝き玉ひ、早くも冠島は手に取る許り、目の前に塞がり、囀る百鳥の声は百千万の楽隊の一斉に楽を奏したるかと疑はるる計りであつた。かの昔語にとく所の浦島子が亀に乗つて、竜宮に往き、乙姫様に玉手箱を授かつて持ち帰つたと伝ふる竜宮島も、安部の童子丸がいろいろの神宝や妙術を授けられたといふ竜宮島も亦、古事記などに記載せられたる彦火々出見命が塩土の翁に教へられて、海に落ちたる釣針を捜し出さむと渡りましたる海神の宮も皆此冠島なりと云ひ伝ふる丈あつて、どこともなく、神仙の境に進み入つたる思ひが浮かんで来た。 正像末和讃にも末法五濁の有情の行証叶はぬ時なれば、釈迦の遺法悉く竜宮に入り玉ひにき。 正像末の三時には弥陀の本願広まれり、澆季末法の此世には諸善竜宮に入り玉ふとあるを見れば仏教家も亦非常に竜宮を有難がつて居るらしい、かかる目出たき蓬莱島へ恙なく舟は着いた。 翠樹鬱蒼たる華表の傍、老松特に秀でて雲梯の如く幹のまわり三丈にも余る名木の桑の木は冠島山の頂に立ち聳え、幾十万の諸鳥の声は教祖の一行を歓迎するが如くに思はれた。実に竜宮の名に負ふ山海明媚、風光絶佳の勝地である。教祖は上陸早々、波打際に御禊された。一同も之に倣うて御禊をなし、神威赫々たる老人島神社の神前に静かに進みて、蹲踞敬拝し、綾部より調理し来れる、山の物川の魚うまし物くさぐさを献り、治国平天下安民の祈願をこらす、祝詞の声は九天に達し、拍手の声は六合を清むる思ひがあつた。これにて先づ冠島詣での目的は達し、帰路は波もしづかに九日の夕方、舞鶴港の大丹生屋に立帰り、翌十日又もや徒歩にて、数多の信者に迎へられ、目出度く綾部本宮に帰ることを得たのである。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一〇・一七旧八・二七松村真澄録)
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霊界物語 38_丑_出口王仁三郎自叙伝2 28 金明水 第二八章金明水〔一〇六五〕 明治三十四年旧五月十六日[※新暦だと1901年7月1日]、出口教祖始め、上田会長、出口澄子、四方平蔵、中村竹造、内藤半吾、野崎宗長、木下慶太郎、福林安之助、竹原房太郎、上田幸吉、杉浦万吉ら一行十五人は、皐月の曇つた空を目当に徒歩にて出雲の大社へ神明を奉じて参拝することとなつた。此参拝が無事に済めば、何もかも神界の因縁が判り、大望が成就するものだと、役員一同の考へであつたらしい。 先づ立原で一宿し、それから十里程歩いては泊りなどして、漸く但馬の八鹿へ着いた。さうすると道々役員連の空想的談話が始まつて来た。そこで喜楽は、 喜楽『そんな事思うて居るとあてが違ふ』 と一口云つたら大変に役員の機嫌を損じ、喜楽に対して余程冷淡な扱ひをするやうになり、『ナアニお前等がそんなことが分るものか、御筆先に出雲へいつたら因縁が分ると書いてある』……と威張りちらす。教祖は教祖で、出雲へさへいつてくれば皆の改心が出来る……とすましたものである。途中で四方春三の亡霊が役員にうつつて、澄子と会長との間を不和ならしめやうとかかり、両人は其亡霊の為に非常に悩まされ、途々議論を衝突させ乍ら、日を重ねて鳥取に着いた。それから千代川を汚い舟に乗つて加露ケ浜に出で、加露ケ浜から舟に乗つて三保の関に着かうと計画したのである。 恰度海が荒れて三日間船を出す事が出来ず、加露ケ浜の旅館で一行十五人が泊り込み海上の凪ぎ渡るのを待つこととした。其時恰も海軍中将伊東祐亨氏が山陰沿海視察の為にやつて来て同じ宿屋に泊つてゐた。教祖が筆先を一枚書いて、伊東中将に宿屋の亭主の手から渡され、よく査べてくれ……といはれたが、それきりで何の返答も聞かなかつた。 喜楽は夜中頃に妙な夢を見た。それは海潮が際限もなき原野に立つてゐると、東の方から大きな太陽とも月とも分らぬが、昇られてだんだんこちらへ近付き、澄子の懐へ這入られた夢を見て目がさめた。此月すでに澄子は妊娠してゐたのである。それから翌年の正月二十八日[※新暦3月7日]に女子が生れたので、朝野に立つてゐた夢を思ひ出し、朝野と名をつけた。これは在朝在野の人々を済度する子になるだろうといふ考へと二つをかねて命けたのであつた。さうすると朝野が四つになつた年、自分から……わしは朝野ぢやない直日ぢやと言ひ出したので、直日と呼ぶやうになつたのである。三日目の朝、又もや磯端を伝ひに十里許り西へ進んで一泊し翌朝船を仕立てて、三保の関に渡り神社に参拝し、中の海宍道湖を汽船に乗つて平田に上陸し、徒歩にて大社の千家男爵の門前の宮亀といふ旅館に一行十五人投宿した。 二三日逗留の上神火と御前井の清水、社の砂を戴き、二個の火縄に火をつけて帰途につき、稲佐の小浜から松江丸といふ汽船に乗つて境港につき、それから徒歩にて米子に至り、一日計り歩いて又もや今度は帆船に乗り、加露ケ浜の少し東、岩井の磯ばたにつき、行がけに泊つた駒屋の温泉場に再一泊し、又もや山坂を越えて旧六月の四日福知山まで、数百人の信者に迎へられ、漸く綾部へ帰つて来た。途中澄子は産婦に免がれがたきツワリで非常に苦み、石原から時田や其外の大男の背中に負はれて帰つて来た。 それから其火を百日間埋み火として役員二人が昼夜保存し、百日目に十五本の蝋燭に火を点じ、天照大御神さまへ捧げることとした。又砂を本宮山や竜宮館の周囲に撒布し三四ケ所の井戸に水を注ぎ、大島の井戸へ天の岩戸の産盥の水を一所にしてほり込み、金明水と名をつけたのである。其水を竹筒に入れ其年の旧六月の八日[※新暦だと7月23日]に教祖は会長、澄子其他四十人計りの信者と共に沓島へ渡り、其水を海に投じ、此の水が世界中を廻つた時分には日本と露国との戦争が起るから、どうぞ大難を小難に祭りかへて貰ふやうに、元伊勢の御水と出雲の御水と、竜宮館の御水と一所にして竜神さまにお供へするといつて祈願をこめて帰つて来られたが、それから丁度三年目に日露戦争が起つたのである。 出雲参拝後は教祖の態度がガラリと変り、会長に対し非常に峻烈になつて来た。そして反対的の筆先も沢山出るやうになつて来た。澄子が妊娠したので、最早会長は何程厳しく云つても帰る気遣はないと、思はれたからであらうと思ふ。それ迄は何事も言はず何時も役員が反対しても弁護の地位に立つて居られたのである、いよいよ明治卅四年の十月頃から、会長が変性男子に敵対うといつて、弥仙山へ岩戸がくれだといつて逃げて行つたりせられたので、役員の反抗心をますます高潮せしめ、非常に海潮、澄子は苦心をしたのであつた。それから大正五年の九月九日まで何かにつけて教祖は海潮の言行に対し、一々反抗的態度をとつてゐられたが、始めて播州の神島へ行つて神懸りになり、今迄の自分の考が間違つてゐたと仰せられ、例の御筆先まで書かれたのである。 今日迄の経路を述べ立つれば際限がなけれ共只霊界物語を口述するに当り、大本の大要を述べておくのも強ち無用ではないと信じ、ここに其一端を古き記憶より呼び出し、述ぶることとした。まだまだ口述したきことは沢山あれ共、紙面の都合に依つて本巻にて止めおくことにする。後日折を見て詳しく発表するかも知れぬ。 惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一〇・一九旧八・二九松村真澄録) (昭和一〇・六・一〇王仁校正)
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霊界物語 39_寅_大黒主調伏相談会/言霊隊の出発 03 出師 第三章出師〔一〇六八〕 照国別の梅彦は日出別の教主より月の国のハルナの都へ向ふ事を許され、意気揚々として座につき、 照国別『有難し神の心に叶ひしか 月の国をば照国別と行く。 いざさらばこれより吾は幾代姫 やかたを清く後に守れよ』 幾代姫は歌ふ。 幾代姫『照国別の吾夫は日出別の教主より 月の御国に潜みたる大黒主の神司 其外百の醜神を尊き神の御教に 言向和し救ふべく斎苑の館を立出でて 出でます今日の雄々しさよ妾は後に止まりて 神の教を守りつつ力限りに世の人を 皇大神の大道に導き救ひまつるべし わが背の君よ一時も早く館を立出でて 天地百の神人の苦み悩む災を 払はせ玉へ惟神神の御前に願ぎまつる』 と歌ひ了るや、照国別は、 照国別『いざさらば曲津の運も月の国 頭ハルナの都に進まむ。 大黒主斎苑の館の神軍に 驚くならむ今日の出立ち。 八尋殿並びいませる司たちよ 吾はハルナの都に立たむ』 時置師神は立つて歌ふ。 時置師『照国別神の命はとく行かせ われは館に止まり守らむ』 これより黄竜姫、蜈蚣姫は、日出別命の承諾を得、数多の司に讃嘆され乍ら、母娘は普通の旅人に身を変じ、フサの国を横断し、フサの海より舟に乗りて、ハルナの都へ進み行くこととなつた。又梅彦は直ちに宣伝使の服装を整へ、照公、国公、梅公の従者と共に河鹿峠をこえ、フサの国を東南さして進み、月の国へ進むこととなつた。 此時玉国別の音彦は立上つて歌ひ出した。 玉国別『三五教に仕へたる玉国別の宣伝使 音に聞えし音彦はペルシヤの国を宣伝し 海に泛びて自転倒の島に渡りて遠近と 神の教を宣べ乍ら大江の山に立こもる バラモン教の大棟梁鬼雲彦や鬼熊別の 魔神に向つて言霊の戦を開き曲神を 追ひ散らしたる強者ぞ梅彦いかに勇あるも 音彦司に及ばむや日出別の大教主 照国別を遣はして大黒主の曲神を 言向和し玉はむと計り玉ふはいぶかしも いかに神徳充実し天地をゆるがす言霊を 身に受けゐるとは云ひ乍ら敵にも鋭き刃あり いかでかこれの大敵を一人や二人の力にて 言向和し了せむや此音彦の心中は 実に不安の雲掩ひ前途を案じやられけり あゝ惟神々々神の心に見直して 玉国別を今一人遣はし給へ真心を こめてぞ祈り奉る朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 三五教の御教を決して汚す事あらじ 月日の如く明けく道の光を現はして 神の御前に復言申しまつらむ惟神 早く許させ玉へかし』 と歌を以て希望を述べた。日出別神は、歌を以てこれに答ふ。 日出別『玉国別神の司は言霊の 清くいませば悩むことなし。 さり乍ら数限りなき八十の国 只一柱にてせむ術もなけむ。 玉国別神の司よ心して 曲津の荒ぶ月へ出でませ。 月照彦神命をあがめつつ 夜を日についで進みませ君』 玉国別は欣然として立上り、又も歌にて答ふ。 玉国別『千早ふる神の光の現はれて 玉国別の玉を照らさむ。 月照彦神命の御光に 暗路を安く渡らむと思ふ。 イソイソと斎苑の館を立出でて 進む吾こそ楽し嬉しき。 東野別司の前に物申す 守らせ玉へ妻の身の上』 東野別はこれに答へて、 東野別『五十子姫清く雄々しくましまさば 音づれなくも安く行きませ。 素盞嗚の神尊の愛娘 瑞の御霊とあれし君はも。 此君のこれの館にゐます限り 安く楽しく道は栄えむ。 村肝の心残さず印度の国 ハルナの都にとく進みませ』 音彦は又歌ふ。 玉国別(音彦)『有難し心にかかる雲もなく 道伝へ行かむ印度の御国へ。 時置師神命よ昼夜を 守らせ玉へこれの館を。 いざさらば並ゐる司を後にして 神の随々別れて行かむ。 五十子姫玉国別が勇ましく 復言する日をこそまてよ』 五十子姫は歌ふ。 五十子姫『勇ましき吾背の君の御姿を 隠るるまでに眺め守らな。 村肝の心を残し玉はずに 神のまにまに進みませ君』 玉国別は一同に向ひ会釈し乍ら宣伝歌を歌ひつつ、三人の随行と共に、これ又河鹿峠を踏み越え、フサの国の原野を渉りて、印度を指して進み行かむとする。 治国別の亀彦は立上つて歌もて自分の希望を述べた。 治国別『神素盞嗚大神の隠れ玉ひし斎苑館 教司と現れませる日出別に物申す ウラルの道を奉じたる醜の司の吾なれど フサの海にて巡り会ひ汝が命の薫陶を 受けて誠の人となり名さへめでたき宣伝使 喜び勇んで四方の国自転倒島まで打渡り 醜の魔神を言向けて再びこれの斎苑館 皇大神に従ひて功績を立てしわが身魂 見向きもやらず梅彦や音彦二人を抜擢し 大黒主をいましめの任務を依さし玉ひたり あゝ恨めしし恨めししわれも神の子神の宮 いかでか彼に劣らむや直日に見直し聞直し 宣直しまし亀彦を印度の御国へ遣はして 八岐大蛇のかかりたる醜の司を悉く 三五教の大道に救ひ助くる神使 任けさせ玉へ逸早く神の御前に伺ひて わが言霊の神力を照らさせ玉へ惟神 菊子の姫と諸共に謹み敬ひ祈ぎ奉る』 と歌ひ了つた。日出別命は、これに答へて、 日出別『勇ましき治国別の言あげを 心涼しく頼もしく思ふ。 いざさらば汝が命は印度の国 すみずみ迄も巡り救へよ。 言霊の幸はふ国の神司 勝鬨あげて早帰りませ』 と歌もて印度の国への出陣を許した。治国別は勇み立ち、 治国別『かけ巻も綾に畏き皇神の 御言のままに進みて行かむ。 日出別神の命よ今しばし わが復言待たせ玉はれ。 東野別司の前に物申す 百の司を恵ませ玉へよ。 われは今印度の国へと進みゆく 守らせ玉へ菊子の姫を。 残しおく妻の命もつつしみて 神の教を宣べ伝へせよ』 東野別は之に答へて、 東野別『みづみづし益良武夫の亀彦は 名を万世に伝へますらむ。 千代八千代万代までも亀彦が 治国別の名をや照らさむ。 治国別神の命のいさをしを 仰ぎて待たむ唐土の空』 菊子姫は又歌ふ。 菊子姫『けなげなる尊き便りを菊子姫 待つ間の永き真鶴の首。 一足の歩みも心配らせつ 進み行きませ吾背の君は。 山を越え荒野をわたり雨にぬれ 進み行く君見れば雄々しも』 初稚姫は立上り、金扇を開いて、自ら歌ひ自ら舞ひ、五人の神司が出陣を祝した。 初稚姫『久方の天津御空の限りなく照り渡るなる三五の 月の教に四方の国青人草や鳥獣 草の片葉に至るまで恵の露に霑ひて 尊き神の御光を仰ぎ楽しむ葦原の 八洲の国の其中に如何なる神の仕組にや 取残されし印度の国七千余りの国々に 王と現れます刹帝利八岐大蛇の醜霊に 惑はされつつ日に月によからぬ事のみ行ひつ 世の常暗となりて行く時しもあれやバラモンの 道に仕ふる神司大黒主が現はれて ハルナの都を根拠としバラモン族を庇護しつつ 刹帝利族を押込めて暴威を揮ふぞうたてけれ それに付いては毘舎首陀の三種階級の民族も バラモン族の暴虐に苦み悶へ国原は 怨嗟の声にみちみちぬあゝ惟神々々 神の御霊の幸はひて神素盞嗚大神は 時を計らひ瑞御霊発揮し玉ひて印度の国 ハルナの都へ三五の神の司を遣はして 世人を救ひ玉はむと御計り在りし尊さよ 日出別の教主より此大業を命ぜられ 黄竜姫や蜈蚣姫尊き司を初めとし 心も明き照国別神の命や玉国別 治国別の三柱をおのもおのもにこと任けて 神の御為世の為に遣はし玉ふぞ有難き われも初稚姫神年端も行かぬ身なれ共 神素盞嗚大神の遣はし玉ひし八乙女が 清き御業に神傚ひ大黒主の館まで 忍び参りて三五の誠の道に曲神を 言向和させ玉へかし日出別や東野別 神の司の御前に謹み敬ひ祈ぎまつる 父とあれます時置師神の司は初稚が 願を必ず許すべし神の御言の幸はひて われを遣はし玉ひなば如何なる悩みも堪へ忍び わが大神の御心をうまらにつばらに説きさとし 時節を待つて大黒主を誠の道に帰順させ 神の御前に復言申し奉らむいざ早く 許させ玉へ惟神神の御前に祈ぎまつる』 と歌つて、自分も単独にて、大黒主の館に忍び込み、曲神を帰順せしむべく、出陣を許されむ事を請願した。日出別は歌を以てこれに答ふ。 日出別『勇ましき初稚姫の言霊よ 聞く度毎に涙こぼるる。 さり乍ら初稚姫は独り御子 いかでか印度に遣はすを得む』 初稚姫はこれに答へて、 初稚姫『いぶかしき日出別の言霊よ 神に捧げし吾身ならずや。 時置師父の命も初稚が 誠の言葉を愛で許しませ』 時置師神は歌もて答ふ。 時置師『天地の御霊にあれし吾娘 神のまにまに仕へまつれよ。 時置師神の司は只一人 いでゆく汝を雄々しくぞ思ふ』 日出別命は又歌ふ。 日出別『勇ましき親子二人の心根を 神は喜び玉ふなるらむ。 いざさらば初稚姫の神司 神のまにまに進み行きませ』 東野別は立上りて歌ふ。 東野別『年若き初稚姫の御姿を 見るにつけても涙ぐまれつ。 さり乍ら尊き神の守ります 司にませば心痛めず。 いざ早く御言のままに出でまして 神の御前に復言せよ』 初稚姫は嬉しげに又歌ふ。 初稚姫『日出別東野別や垂乳根の 父の言葉は妾を生かせり。 有難き神の恵を受け乍ら 印度の御国へ吾が進みゆかむ』 かく歌ひて、一同に別れを告げ、瓢然として只一人供人をもつれず、万里の山河を越えて、印度の国へ進み行く。 神界の御経綸にて最初より印度の国のハルナの都に現はれたる大黒主を言向和す為出張を命ぜらるべき神司は、略決定されてゐたのである。併し乍ら神素盞嗚大神は吾娘の夫が三柱迄も加はり居る事とて、明さまに言ひ出でかね玉ひ、日出別神に命じて、相談会を開かせ、随意に此使に奉仕する事の手続をとられたのであつた。又初稚姫は神素盞嗚大神が八人の乙女を一柱も残さず、敵の牙城に使はし玉ひし尊き清き大御心に感激し、如何にもして、八人乙女の尽し玉ひたる如き神務に従事せばやと、時の至るを待ちつつあつたのである。時置師神の杢助も、初稚姫の健気なる心に感じ、吾子乍らも天晴れなる者よと、ひそかに感涙に咽んでゐた。 斯くの如くにして、愈印度の国の大黒主に対する言霊戦の準備は全く整うたのである。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一〇・二一旧九・二松村真澄録)
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霊界物語 39_寅_大黒主調伏相談会/言霊隊の出発 09 九死一生 第九章九死一生〔一〇七四〕 鬼熊別の部下に仕へたるガランダ国の刹帝利、親重代のハムの位を大黒主の部下にとり剥がれ、僅かに鬼熊別の部下となり、卑しき目付役に成り下り居たれども、彼の部下は数十人密かに彼の頤使に甘んじて忠実に仕へ、昔のハムの果てとして、相当に尊敬を国民より払はれて居た。 今しも鬼熊別が命によつて蜈蚣姫、小糸姫の所在を索ねる一方、三五教の宣伝使を一人にても多く捕縛し帰らば、もとのガランダ国の王に復しやらむとの契約の下に四人の小頭株を引き率れ、此河鹿峠に待ちつつあつたのである。然し乍ら四人の男は此ハムの素姓を知らず、何となく横柄な奴、虫の好かない奴と猜疑の眼を怒らし、何か失敗ある時は、これを嗅出し一々鬼熊別に内報し、目の上の瘤なるハムを失墜せしめむと心密かに諜し合せつつあつた。 かかる処へ母娘の巡礼、進み来るに出会し、何の容赦も荒縄に、縛つてハルナの都まで、立ち帰らむと四人に下知を下した。四人は吾劣らじと母娘に向つて武者振りつき、苦もなく谷間に投げ捨てられ、ハムも亦脆くも谷底に捨てられて了つた。流石刹帝利の直系とて何処となく身魂堅固なりしかば、イール、ヨセフの如く容易に失神せず谷底の真砂に埋められて痛さを堪へて自然の恢復を待つ折しも、レーブ、タールの両人は谷を渡つて近寄り来り、散々にハムの悪口を並べ立て、此際二人を助けハムを谷川へ投げ捨てやらむとの密談を聞くより憤怒のあまり病の苦痛を忘れて、 ハム『おのれ憎くき両人』 と立ち上ればレーブ、タールはイール、ヨセフを捨て、谷川伝ひに生命辛々逃げて行く。ハムは無念の歯を喰ひしばり、イール、ヨセフを介抱し居る折しも、頭上に聞ゆる宣伝歌『こりや堪らぬ』と韋駄天走りに岩を飛び越え浅瀬を渉り、漸く山道に攀上り片方の森を眺むれば、此処に一つの古き祠がある。一先づ此処に息休め、レーブ、タール両人が所在を探ね、懲らしめ呉れむと息まきつつ、社前の石に腰うち掛け息を休めむとする時しも、張り詰めたる勇気は茲にガタリと弛み、再び腰痛み足うづき、身動きならぬ苦しさに、レーブ、タールの両人が仕打ちを憤慨し怨み涙に暮れてゐる。忽ち祠の後より二人の巡礼の声、ハムは又もや二度吃驚、 ハム『アヽ彼は普通の巡礼ではなく、人を取り喰ふ鬼婆鬼娘であつたか』 と濃霧に包まれて怨みの的なるレーブ、タールの両人が作り声とは知らなかつた。レーブ、タールはハムの独言を聞き足腰立たぬにつけ込んで侮りきつて揶揄つて居たが、忽ち吹き来る山風に濃霧は晴れ其真相が暴露すると共に、怒り心頭に徹し、怒髪天を衝いて立ち上り苦しき病の身を忘れ、逃げゆく二人の後追うて、 ハム『逃しはせじ、思ひ知れや』 と言ひ乍ら握り拳を固めつつ、さしも嶮しき坂道をトントントンと地響きさせ阿修羅王の荒れし如く進み行くこそすさまじき。 ハムは痛さを忘れ、一足々々拍子をとり乍ら歌ひ出した。 ハム『時世時節と云ひ乍らガランダ国の刹帝利 親代々のハムの俺鬼熊別の部下となり 時待つ尊き身と知らず卑しきレーブやタール奴が 侮りきつたる其態度小癪に触る俺の胸 一度は懲らしめやらむずと思ひは胸に満ちぬれど 吾目的を遂ぐるまで怒つちや損だと辛抱して 知らぬ顔にて過ぎて来た河鹿峠の山道で テツキリ会うた母娘連此奴あテツキリ蜈蚣姫 小糸の姫と知つたれどさう言つたなら彼奴め等は 腐つた肉を犬の子が争ふ如くに啀み合ひ 互に手柄の取りやりをおつ始めるに違ひない 一つも取らず二も取らずチヤツチヤムチヤクになるだろと 思案を定めて空惚け婆と娘であつたなら ハルナの都へ連れ帰り鬼熊別の御前に 奉らうかとあやつりて彼等四人を誑かし 首尾よう目的達しなば途中に彼を追ひ散らし 愈此処で名乗り合ひ忠臣義士となりすまし 一人甘い事してやらうと思うた事も水の泡 ウントコドツコイアイタタツタ あんまり吾身の欲ばかり企んだおかげで罰当り 蜈蚣の姫や小糸姫二人の司に谷底へ 不敵の力で投げ込まれくたばりきつた果敢なさよ 後悔胸に迫り来て涙に暮るる折からに 悪運強い両人が虎口を逃れて谷底へ 尋ね来りて囁くを死んだ真似して聞き居れば 口を極めて罵りつイールヨセフは助けても ハムは助けちや堪らない人事不省を幸ひに 此谷川に水葬と無礼な事を吐かす故 あまりの事に立腹し痛さを忘れて立ち上り 拳を固めて睨まへば卑怯未練な両人は 親しき友の危難をば後に見捨てて逃げて行く 後に残りしハム公は二人の生命を助けむと 人工呼吸の真最中三五教の宣伝歌 雷の如くに聞え来る頭は痛み胸塞ぎ 身の苦しさは限りなく二人の奴を見殺しに レーブタールの後追うて祠の前に来て見れば グタリと弛んだ心持再び腰は痛み出し 足は痺れて動けない二人の奴が床下に 忍び居るとは知らずして愚痴の繰言並べたて 悔む折しも婆の声続いて娘の声聞ゆ 俺は鬼婆鬼娘喰つてやらうとの御挨拶 蜈蚣の姫や小糸姫二人と見たのは目のひがみ 人をとり喰ふ鬼母娘しまつた事になつたわい 何程強いハムさまも神変不思議の魔力ある 鬼に向つちや堪らない何とか云つて此場合 逃れにやならぬと色々の言葉を構へて宣りつれば 鬼婆益々図に乗つて無体の事を喋り出す 俺も今こそ身を落し捕手目付となりつれど 其源を尋ぬればガランダ国の刹帝利 国人達にハムさまと尊敬せられた身の上ぢや 心弱くちや堪らない仮令脛腰立たずとも 卑怯な最後を遂げむより玉と砕けて死なうかと 覚悟を極むる時も時俄に吹き来る山嵐 四辺を包みし雲霧も茲に漸く晴れ渡り よくよく見れば此は如何にレーブタールの両人奴 身体の不自由をつけ込んで刹帝利族のハムさまを 侮りきつて馬鹿にして居やがる態度の面憎さ 忽ち怒髪天を衝き腰の痛みも打忘れ 此処まで追つかけ来りしが又もや腰が痛み出し 足が怪しくなつて来たあゝ惟神々々 神の恵みを蒙りて何卒ハムが足腰を いと速かに健やかに治し給はれ惟神 お願申し奉るアイタヽタツタアイタツタ もう一歩も行かれない天地の神もバラモンの 百の神々一柱聞いて下さる神なきか 愚痴を云ふのぢやなけれどもこんな時こそ神様に 助けて欲しさに朝夕にバラモン教の御為に 尽して居るのぢや厶らぬか思へば思へば残念や もう一寸も進めない大方俺は野たれ死 不運な者は何処までも不運で終はらにやならないか 虎狼や獅子熊の餌食となつてしまふのか ガランダ国のハムの身も斯うなり行くとは白雲の 遠き異国の山の道空行く雲も心あらば 吾消息をガランダの妻の御許におとづれよ 頼みの綱もつきはてし悲惨至極の今日の身は 悪の鑑と天地の神の心に出でますか 遠津御祖の尽してし百の罪科身にうけて 此処で死なねばならないか思へば思へば残念ぢや これほど神に祈れどもしるしなければ是非もない 最早決心した上は死をも恐れぬ吾体 神の御手に任します屍は野辺に曝すとも 不老不死なる霊魂は高天原の都率天 尊き神の御前に救はせ給へ惟神 バラモン教の大御神御前に祈り奉る』 と涙の声を絞り山道にドツと倒れ、観念の目を瞬いて知死期を待つ事となつた。 此時何処ともなく微妙の音楽聞え来り、翩翻として白蓮華の花片、天より降り来ると見る間に、ハムの体は俄に清涼水を嚥下したるが如き気分に漂ひ瞬く間にもとの健全体となり変つた。ハムは喜びのあまり、天地に感謝し、今までの言心行の一致せざりし罪を謝し、悠々として坂道を下り行く。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一〇・二七旧九・八北村隆光録)
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霊界物語 39_寅_大黒主調伏相談会/言霊隊の出発 16 親子対面 第一六章親子対面〔一〇八一〕 セーム、シヤムの二人は三五教の宣伝使の尋ね来りしと聞くより、ポーロの命に依つて岩窟の入口に揉手し乍ら米つきバツタのやうに頭や腰をピヨコピヨコ屈め、 セーム『エーこれはこれは宣伝使様、よくこそ御入来下さいました。折角遠路の所、お越し下さつて、何とも早御礼の申上げやうも厶いませぬ。生憎主人は御不在で、大教主様の御命令を奉じ、デカタン高原まで出陣なさいました。其不在中は何人たり共、ここへ入れてはならぬとの厳しき命令、折角乍ら、どうぞお帰り下さいませ。なあシヤム、俺の言ふ事は決して嘘ぢやあろまい。セームが佝僂になる所まで頭をピヨコピヨコ、腰をペコペコさせて御願してゐるのだから、そこはどうぞ宣伝使の雅量を以てお帰り下さらば誠に有難う厶います。ヘヽヽヽ決して決して悪意で申すのでは厶いませぬ、又三五教の老夫婦は決して此岩窟の中に閉ぢ込めては厶いませぬから、折角お査べ下さいましても徒労で厶います。トツトと御退却を、偏に願ひ奉ります』 照国別『イヤ今日はどうしても此儘では帰る事は出来ないのだ。アーメニヤから樫谷彦樫谷姫といふ二人の夫婦が捉へられて来てゐる筈だ』 セーム『滅相もないことを仰有いませ。こんな山奥にアーメニヤなんぞからお出でる物好がどこに厶いませう、ソリヤ何かのお間違でせう』 菖蒲『何と言はれても、私は両親に会はねばならぬ。お邪魔なさると却てお為になりませぬぞえ』 セーム『ヤア此奴ア手ごはい談判だ、到底俺の一力では行きかねる。オイ、シヤム、奥へ行つて此由をポーロさまに早く注進せぬかい。そして今の何々を何々しておくのだぞ』 照国別『一刻の間も猶予はならぬ、罷り通るから案内を致せ』 セーム『一寸待つて下さいませ。不在師団長のポーロの御意見を伺つた上にして貰はねば岩窟侵入罪になりますから』 照国別『ハヽヽヽヽ大変なうろたへ方だな。此様子ではキツと碌な事ではあるまい。両親の身の上が案じられる。サア早く菖蒲殿、奥へ進みませう』 セーム『あゝモシモシ一寸待つて下さい、御夫婦は至極御健全に御安泰に御座遊ばします。決して虐待なんかしてはをりませぬ』 照国別『アハヽヽヽ、さうだらう。蚋一疋通はないやうな要心堅固な岩窟内へ御保護を申上げてゐると見えるワイ。イヤ御好意は後から御礼申す』 話変つて奥の一間では今迄酔ひつぶれてゐた酒も俄にさめ、蒼白な顔をして岩窟の戸をあけ、夫婦を引張り出すやら丼鉢を抱へて逃げ廻るやら、大乱痴気騒ぎの真最中である。そこへシヤムが飛んで来て、息を喘ませながら、 シャム『タヽヽヽ大変々々、これこれポーロの大将、レールさま、どうしたら宜からうか、思案を貸して下さい』 と頻りに地を両手でパタパタと叩きもがく。 ポーロ『何だ、あわただしい其騒ぎ方、どうしたといふのだ』 シヤム『何うも斯うもあつたものですか、息子が来たのですよ。ソレあの娘が、何うしても斯うしても、強つて入らうと致します』 ポーロ『立つて入らうと這うて入らうと、そんな事は頓着ないが、息子娘とは何の事だ』 シヤム『あの奥に隠してあつた老夫婦の伜と娘がやつて来たのですよ。カヽ敵討だと云つて、数十万の軍勢を引連れ、先頭に立つて立向ひました』 ポーロ『此の細谷路を数十万の軍勢がどうして来られるものか』 シヤム『何だか知りませぬが、随分沢山な白衣の軍卒が中空からやつて来ました。モシモシ大将、グヅグヅしてゐると岩窟退治が始まります。何とか用意をなされませ』 ポーロ『エヽ仕方がない、俺が一先づ表口に立向ひ、掛合つて見よう』 と言ひ乍ら、レールに何か囁きつつ、表口に駆け出し、叮嚀に腰を屈めて、 ポーロ『私は此岩窟を預つて居りまするポーロと申すはした者、何卒お見知りおかれまして今後御贔屓にお願いたします。サアどうぞ、お見かけ通の茅屋なれど、御遠慮なく、トツトとお入り下さいませ』 照国別『当岩窟内に樫谷彦樫谷姫の夫婦の方はお見えになつてをるか』 ポーロ『ハイお見えになつて居ります。それはそれは御機嫌麗しく、あなた方のお出でを、欣喜雀躍の体でお待ちかねで厶います。サア早くお通りあつて、御対面の程をお願致します』 照国別『何を言つても不案内なる岩窟、如何なる計略の罠に陥らむも計り難い、御苦労ながら、其夫婦の方をここ迄案内して来てくれ。吾々は此処にて御対面申上ぐるから』 ポーロ『それも御尤も乍ら、此頃は御大将の大足別様が、ハルナの都より、大教主のお召しにより、数万の軍卒を引率して、デカタン高原へ出陣された御不在中故、残りの人間は僅かに二十有余人、朝から晩まで留守事に酒を呑み、他愛なく酔ひ潰れて居りますから、決して計略などは致して御座いませぬ。どうぞお入り下さいませ』 菖蒲『モシ兄上様、ウツカリ進んではなりませぬぞ。コレコレここの番人とやら、早く妾が父母をここへお伴れ申して来るがよい。グヅグヅ致すと、お前さまたちの御為にはなりますまいぞや』 ポーロは頭をかき乍ら、 ポーロ『エー御説御尤もながら御夫婦は持病が起り、脚気が起つて、足に頭痛がすると仰有り、チヨツとも動けませぬ。又奥さまの方は産後の血の道とか、尾の道とかが目を出して、ウンウンキヤツキヤツ唸つてばかり、身動きもならぬ御不自由さ、どうぞあなたの方から進んで御面会を願ひたう存じます』 照国別『そんなら仕方がない、案内を致せ』 ポーロ『サア斯うお出でなさいませ』 と言ひ乍ら先に立つ。一行四人は後に従ひ、あたりに心を配りつつ、奥へ奥へと進み行く。忽ちカラクリ仕掛の板の間はクレンと引繰返り、四人はドツと一度に暗き陥穽に落ち込んで了つた。ポーロはしすましたりと、返し戸に錠を卸し、重き石を二つ三つのせて、ホツと一息胸撫でおろし、 ポーロ『オイ皆の奴、モウ安心だ。気をおちつけよ。彼奴は大足別様の恋慕して厶つた菖蒲といふナイスだ。そして一人は兄の照国別といふ三五教の有名な豪傑宣伝使だ。彼奴の言霊にかかつたが最後、手足も何もビリビリとしびれて了ふ無双の神力がある。併し乍らかうやつて奈落の底へおとして置けば、最早此岩窟内は無事安穏だ。モ一つ祝に二次会を開かうぢやないか』 とニコニコとして喚き立てる。レール、シヤム、ハールは嬉々として集まり来り、 レール『流石はポーロさま、留守師団長丈の資格は十分に具備してゐる。ヤア天晴れ天晴れかくなる上は何をか恐れむ、飲んで飲んで、飲み倒し、蛇の子になるか、虎になる所まで、お神酒をあがらうかい』 と、又もや酒徳利を穴倉より運び出し、一生懸命に歌を唄つて、悪事災難を逃れたる祝宴を張り出した。 一旦驚きの余り、さめかけてゐた酒は再まはり出した。其上に又もやガブガブとやつたものだから堪らない。何奴も此奴もグタグタになつて無我夢中に下らぬ事を喋舌り出した。 レール『コレコレポーロさま、随分ポーロい事が出来たぢやないか、酒は鱈腹呑めるなり、爺イ婆アの仇を討ちに来たと思うた息子娘は奈落の底へ落し込んだなり、最早天が下に恐るべき者は一人もなくなつて了つた。サアこれから爺イ婆アをここへ連れ出して来てお酌をさそうかい。オイ皆の奴、婆アでも女だぞ、男ばかりの此岩窟、滅多に不足はあろまいがな、アーン』 シヤム『何ぼ女だつて、婆アでははづまぬぢやないか。俺は今来た菖蒲とかさつきとかいふナイスを引張り出して、酌をさしたら如何だらうかと思つてるのだ』 レール『馬鹿を言ふな、あんな奴を引張り出して来ようものなら、丸で爆裂弾を投げたやうなものだ。恐ろしい代物だぞ。オイ、ヤツコス、何をグヅグヅしてるのだ。爺イ婆アをここへ引張つて来ぬかい』 ヤツコス『喧し言ふない、あんな目汁水ばなを垂れてる汚い爺婆をこんな所へ連れて来ちや、酒の御座がさめて了うぞ。それよりも俺が一つ品よう踊つて見せてやるからそれで辛抱せい』 と、早くも手拭を姐さんかぶりにして、一寸裾をからげ、手や尻をふりピシヤピシヤと時々手を叩き、 ヤッコス『私が在所はコーカス山の 麓の麓のその麓 ヤツトコセードツコイシヨ 樫谷の彦や樫谷姫 ウラルの神の御取次 こんな牢屋へ突つ込まれ ヨーイトサーヨーイトサー 朝から晩まで娘をくれいと責められる どうして娘がやられようか 鬼雲彦の眷族に ドツコイシヨードツコイシヨー』 レール『オイ貴様、人の代理をするのか、しやうもない、モツと気の利いた事を唄はぬかい』 ヤツコス『老人夫婦の守護神が憑つて唄つてゐるのだ。サアこれから、又一つ憑られてやらうかな。今度は大足別ぢや、ウツフヽヽヽ、 鬼雲彦の大将がイホの都を追ひまくられて ヤツトコサーヤツトコサーメソポタミヤの顕恩郷に ヤツとお尻をすゑた時ヤートサーヤートサー 三五教の宣伝使肝太玉の神司 家来をつれてやつて来て大きな目玉をむきよつた ドツコイシヨードツコイシヨー鬼雲彦の大将は 大蛇の姿を現はして一目散に自転倒の 大江の山へとつ走り又もやここを追ひまくられて 命カラガラフサの国逃げ帰りたる弱虫が 時世時節の力にて再び大黒主となり 羽ぶりを利かしてゐた所へ尾をふり頭を下げ乍ら 追従タラダラお髯の塵を払つてのけた利巧者 ヨーイトサーヨーイトサーそれが誰やと尋ねたら 清春山の岩窟に時めき玉ふ御大将 大足別の醜神だオツトドツコイコラしまうた 大足別の神司大樽あけて燗をして 何奴も此奴も呑むがよい呑めよ呑め呑め山も田も 家倉屋敷に至るまで呑んで並べたフラスコの 徳利トンのトントコトン面白うなつておいでたな 俺は酒は呑まないがけたいな匂ひで酔うて来た レールポーロの両人が尋ねてうせた神司 照国別といふ奴に肝を潰して陥穽 卑怯未練と知り乍ら甘くやつたる御手柄 天地の神も御照覧梵天王の自在天 大国彦の神様もさぞやさぞさぞ喜んで 泣いて厶るに違ない泣いたり笑うたり怒つたり お前ら一体酒食うて何が不足で怒るのか 泣いて明石の浜千鳥泣いた序に可哀相な さぞ今頃は菖蒲子が奈落の底でベソベソと 泣いて厶るに違ないそれを思へば俺だとて チツとは泣かずにや居られないウントコドツコイドツコイシヨ 呑めよ呑め呑め騒げよ騒げ一寸先は真の暗 後から月が出るけれど其月こそは運のつき うろつき間誤つきウソつきのヤクザばかりが寄り合うて バラモン教を開くとは呆れて物が言はれない ウントコドツコイドツコイシヨー照国別や菖蒲子を 甘くおとして喜んで酒にくらひ酔て居る内に 剛力無双の宣伝使又もや現はれ来たならば 何奴も此奴もうろたへて一泡吹くに違ない あゝ面白い面白い俺は高見で見物だ 大足別の腰抜がさぞ今頃は馬に乗り デカタン高原トボトボと数多の軍勢を引つれて 冥途の旅とは知らずして歩いて居るか情ない とは云ふものの俺達はチツとも苦しうない程に 其れの乾児と選まれたレールポーロやシヤムハール 其外百のガラクタがやりをる事が面にくい ホンに呆れた奴ばかり神の布教を楯となし 其内実は泥坊を本職とする奴ばかり 此岩窟は神様の聖場どころか狼や 獅子熊大蛇の跳梁場早く尊い神が来て 此奴ら一同悉く平げくれればよいものに あゝ叶はむからたまらないかんかんチキチンカンチキチン ドツコイドツコイドツコイシヨーホンに困つた奴ばかり 顔見てさへも腹が立つ』 レール『コラコラ怪しからぬ事を吐く奴だ。貴様は三五教の間者だらう、コーカス山のヤツコスの子孫だなんて吐してけつかつたが、貴様はウラル教をすてて、とうとう三五教に沈没してケツカルのに違ない。サア有体に白状せい、蛙は口からだ、大黒主様や大足別の大将の悪口ばかり吐きやがつたぢやないか』 ヤツコス『馬鹿だなア、俺の素性を今迄知らなかつたのか。俺は三五教の岩彦といふ宣伝使だ。神様の内命に依つて貴様等の行動を調査してゐるのを知らぬのかい。サア何ぼなつともがけ、アタいやらしい、ドツサリ盗み酒に喰ひ酔うて、脛腰も立たぬ態して、如何して俺に手向ふ事が出来ようか。丸で躄の病院へ来たやうなものだ。サアこれから此岩彦さまが、此出刃庖丁で、親ゆづりの裘を一人も残らず剥いでやらう、覚悟を致せ。アハヽヽヽ』 と出刃庖丁をグツと握つてレールの前に突き出した。レールは逃げようとすれ共、余りの泥酔に口ばかり達者で、手足の自由を失つてゐた。 レール『オイ、ポーロ、シヤム、ハール、何してゐるのだ。此ヤツコスを貴様等寄つて叩き殺して了へ』 ポーロ、ヘベレケになつて、 ポーロ『オイ、レール、貴様のいふこた、一体、一寸も分らぬぢやないか。殺すとか殺さぬとかぬかして居るが、あゝしておけば四人の奴ア、そんなに骨を折らなくても、ひとり木乃伊になつて了ふワ。マア酒でもゆつくり呑め、俺やモウ一足も立つ事も出来やしないワ、アーア苦しい、酒と云ふ奴ア、呑まれる時にや甘い味をしてゐやがるが、腹中に這入つてから盛に活動しやがるとみえて、何うにも斯うにも苦くて仕方がない。ゲー、ガラガラガラガラ、ウツプー』 レール『エヽ何奴も此奴も、酔どればかりぢやなア。さうぢやから酒を身知らずに食ふなというて聞かしてあるのだ』 シヤム『オイ、レール、偉相に言ふない、お前だつて、脛腰が立たぬとこまで酔うてゐるぢやないか』 レール『俺は俺で特別だ。俺の真似をすると云ふ事があるものかい。アーン、コレコレお化けのヤツコスさま、そんな出刃のやうな危いものをふりまはさずに早く陥穽の戸をあけ、早く四人の宣伝使を助けぬかい。そして俺達の代表者となつて、御無礼をお詫びしてくれないか。ナア、イワイワ岩彦の宣伝使、お前も中々ぬかりのない男だ。俺もカンチンした、流石は三五教の宣伝使だワイ。アーン』 ヤツコス『オヽ貴様のいふ通り、早く宣伝使様をお助け致さねばならぬ。シツカリ顔を見なかつたが、何でも梅彦によく似て居つたやうだ。ドレこれから四人を救ひあげて、貴様等一同を其後へほり込んでやらうか。此奴ア面白い』 と立上らうとするのを、レールは矢庭にヤツコスの足にくらひつき、 レール『俺はレール酔うたのだから、寝鳥の首を締めるやうな事をやられちや浮む瀬がないワ。マアマア一つ鍋を食た仲だから、其誼みで俺丈は免除してくれ。其代りにポーロ、シヤム、ハール、エルマ、エム等は一寸も遠慮いらぬから、ドシドシと放り込んでくれ。モウ斯うなると吾身が大事ぢや、人が死なうが倒れやうが、吾さへ良けらよい時節だ。コレ丈道理を解けて頼むのにお前は聞いてくれぬのか。アーン』 斯かる所へキルクは慌しくやつて来た。 キルク『オイオイポーロ、三五教の宣伝使がタール、ハム、イール、ヨセフを供としてやつて来ました。如何致しませうかな』 ポーロ『ナニ、又宣伝使がやつて来た?そしてハムの兄哥が居るといふのか、ソラ洒落てる、流石はハムだ。甘く引張り込んで来やがつたな』 キルク『イエイエ滅相もない。ハム、タール、イール、ヨセフはスツカリ三五教の味方をして、ここへやつて来よつたのだ』 ポーロ『ハハー彼奴ア鬼熊別さまの子分だけれど、同じ教だと思つて、俺達に手柄をさそうと連れて来たのだらう。本当に気の利いた奴だ』 ヤツコス『ナニ、三五教の宣伝使が来たか、其奴ア面白い、何奴も此奴も一人も残らず酔ひつぶれて居やがる、決して老人夫婦に対し後顧の憂ひがないから、俺が一つ出迎へに行て来う』 と、岩戸の入口に走り出で、 ヤッコス『これはこれは三五教の宣伝使様、お名は存じませぬが、マア奥へお入り下さい。照国別一行が今陥穽へおとされて困つてゐる所です。サア早く飛込んで岩窟征伐をして下さい。吾々もお手伝ひを致しませう』 国公『ハテ、合点のいかぬ事を云ふぢやないか、お前はバラモン教の眷族だらう』 ヤツコス『実の所は三五教の宣伝使岩彦命だ。大神様の内命に依つて、此岩窟へ信者と化けこみ、今迄時を待つてゐたのだ。お前もまだ新米と見えるが、ナーニ案じる事はない。トツトと這入つてくれ、随分面白い事が始まつてゐるから』 と鷹揚に言ひ放ち、ニコニコとして奥に入る。国公は合点行かず、四人を従へ奥深く進み入り、酔ひどれの姿を見て、顔をしかめ、 国公『アヽいやな匂がするぢやないか、何だムサ苦しい、そこら中に店出しをしよつて、オイ何か芳香水がないか、イヤ防臭液でもいい、チトふりかけてくれ』 岩彦『それは兎も角、照国別外三人を救ひ上げねばならぬ。そんな末梢的問題はどうでもいい、中々戸が重たくて俺一人では如何ともする事が出来ない。ヤイ、一同の連中さま、俺に力を貸してくれ、ここだ此丸い穴へ一人づつ指を突込んでグイと引上げてくれ』 国公は『ヨシ来た』と言ひながら六人力を併せて、非常に重たい板の戸を引きあけた。中には四人の男女が一生懸命に天津祝詞を奏上してゐた。国公は穴を覗いて、 国公『ヤア照国別の宣伝使様、危い所でありました。黄金姫様、清照姫様の命令に依つて、あなた方をお助けに参りました』 照国別『ヤアそれは御苦労だつた、曲津神奴、とうとうこんな所へおとしよつて流石の俺も如何なる事かと、聊か心配してゐた。持つべき者は家来なりけりだ。早く縄梯子でもおろしてくれないか』 岩彦は何処よりか縄梯子を持来り、バラリとかけ下ろした。照国別を初め、菖蒲、照公、梅公は猿の如く縄梯子を伝うてかけ上り、国公の前に首を一寸下げ、 『ヤア有難う』 と挨拶する。岩彦は照国別の背を二つ三つポンポンと叩き、 岩彦『ヤア梅彦、久し振だつたねい、こんな所で会はうとは夢にも思はなかつたよ』 照国別『ヨーお前は岩彦だつたか、何と不思議な所で会うたものだ。併し老人夫婦はどうしてゐるか、聞かしてくれ』 岩彦『心配すな、俺がいつもかくれ忍んで十分の御馳走を与へ、大切に守つてゐたから、お二人共至極健全だ。聞けばお前の両親だつたさうだねい』 照国別『両親はどこにゐられるか、案内してくれないか』 岩彦『ヨシ俺に従いて来い、陥穽はモウこれ丈だ』 と言ひつつ、牢屋の前に導いた。見れば牢獄の戸はパツと開いてある。照国別がここへ来た時にシヤムの奴、驚いて戸を開けておいたからである。されど老人夫婦は仮令此牢獄を出た所で、ヤツパリ岩窟の中だ、どんな目に会はされるか知れないと、小隅に夫婦は抱合つて、震うてゐた。 照国別は声をくもらせ、 照国別『モシお父さま、お母アさま、私は梅彦で御座います、妹の菖蒲もここに参つて居ります。どうぞ御安心下さいませ』 此声を聞くより老人夫婦は牢獄を飛び出で、樫谷彦は菖蒲に樫谷姫は照国別に抱つき、嬉し涙にかきくれ、暫しは無言の幕をつづけて、熱き涙を滝の如くに流すのみなり。 これよりポーロ、レールを初め一同の罪を赦し、照国別は両親を初め、妹菖蒲を国公に守らせ、タール、イール、ハム、ヨセフも前後を守つて、アーメニヤの故郷へ帰らしめ、自分は大神の使命を果すべく、照公、梅公及岩彦を伴ひ、岩窟を後にフサの国をさして、宣伝歌を歌ひつつ、勇み進んで出でて行く。惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一〇・二八旧九・九松村真澄録)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 緒言 緒言 大八洲彦命は再生して月照彦神となり、終には印度国に降誕して釈迦となつた。然るに肉体を具へた釈迦には、別に何らの奇異もなければ特徴もなかつた。言はば普通一般の人間の如く一の比丘である。否一の乞食である。或る時周那と言ふものの供養を受け、毒茸を喰はされて中毒を起し、下痢激しく終に恒河畔で倒れ死をしたのである。是今日の所謂行路病死者である。二十九歳で出家し三十五歳で成道し、爾来行脚遊説八十年にして入滅して了つた。その舎利の幾片かは今日も猶保存されてあるとは謂へ、兎に角二千有余年前既に普通人と同じく死し去つて今日に於ては跡形もない人間である。斯の如く人間としての釈迦は死んで了つた。されど如来様としての釈迦牟尼仏は今も立派に生存して居るのみならず、今後幾億万年の末に至るも決して絶滅する時機はないであらう。否独り絶滅の期がないのみならず、出生の始めもなく無始無終、永遠に生死を超越したものである。是が則ち生きた釈迦であつて、三宝が所謂其生命である。三宝とは仏法僧である。釈迦在世当時の仏は釈迦それ自身であり、法は説法宣伝であり、僧は弟子であつた。入滅後の仏は木仏金仏石仏画像仏であり、法は経蔵であり、僧は遺弟や又は其後進者である。而も此三宝は之を区別する時は三種となるが、その真実は唯一の仏宝に帰納すべきものであり、一体三宝である。今日に現存せる大蔵経は即ち釈迦である。我日本のみに現存する百万余の仏像や仏画は生きた釈迦である。十万余の僧侶も亦生ける釈迦である。釈迦滅後今日まで印度、支那、朝鮮、日本に於ける僧侶の累計は二千万人に上る多数であるが、何れもその時代々々に於ける生きた釈迦で、少くとも其の半数以上は説法や感化の仏徳を備へ、仏道の宣揚、下化衆生の動作を為ないものはない。斯の如く釈迦は仏法のあらむ限り、僧侶の存する限り、否木像も金像も寺院も僧侶も共に滅亡すると雖も、その経論所説の真理は学者哲人その他人類の脳裡に伝染し保留されて、人間のこの世界に存続する間は決して死滅するものではない。 出口教祖の教も、又瑞月の説法や著述も亦永遠に生存して、社会の光明となつて万霊の世界を照明するものと信じて居るのである。故に吾人が現代人に頻りに批難攻撃されて、邪教だ妖教だと罵られても構はぬ。長年月の間に於て無限なる民衆のために師範たるを得ればよいのである。之を思へば一時の圧迫や批難や攻撃なぞは余り苦にするに足りないと思ふ。 一体三宝即ち仏法僧が釈迦そのものである如く、神と法と弟子の三宝も亦出口教祖でなければならぬ。経糸の御役たる教祖が神ならば、緯糸の役も亦神であらねばならぬと信ずる。瑞月が『霊界物語』を編纂するのも、要するに法即ち経蔵又は教典を作るので、即ち神を生みつつあるのである。又自己の神を現はし、又宣伝使といふ神を生む為である。故にこの物語によつて生れたる教典も宣伝使も神言も皆神であつて、要するに瑞月そのものの神を生かす為であると確信して居る。『霊界物語』そのものは約り瑞月の肉身であり霊魂であり表現である。 前述の如く人間として肉体としての釈迦は滅亡した。そして禅学的抽象的に説けば三宝一体の釈迦は今後幾千万年を経るとも死滅せないことも述べた。一歩進んで不老不死の霊魂学の上より観じ見れば、釈迦の霊魂即ち霊体は永遠無窮の生命を保ち給ふ宇宙主宰神の御分霊、御分体、一部の御表現仏として永遠に生き通しである。随つて釈迦に従つて宣伝布教に仕へた諸々の菩薩も比丘も比丘尼も竜王も諸天子も諸天王も皆今に生き通しでなくてはならぬ。月照彦神も其他の諸神の霊魂も、矢張り過去現在未来に亘りて生き活き、天地万物の守り神となつてその神力仏徳を永遠無窮に輝かし給ふは勿論である。故にこの物語も、天地開闢の元始より死生を超越し給へる神々の神霊の幸ひに由つて口述編纂せしものなれば、過現未三界を通じて大生命を保ち、宇宙の宝典となると倶に、この物語の口述者も筆録者も浄写者も印刷者も、皆神の活動を永遠に為すものと謂つてもよいのである。アヽ惟神霊幸倍坐世。 大正十一年十月廿九日
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 総説 総説 印度の国の種姓は其実刹帝利(略して刹利とも曰ふ)、婆羅門、毘舎、首陀四姓の外に未だ未だ幾種姓もあつたが、余り必要もなければ、その中の重なる四姓のみを茲に表示しておきます。併し諸姓の多くあるなかに婆羅門種殊に大婆羅門とは豪族にして、勢力あるものの謂である。之を特に清貴と称へ、天地を創造せる大梵天王の子、梵天の苗胤にて世々その称を襲うて居るのである。義浄三蔵が『寄帰内法伝』に曰ふ、『五天之地、皆以婆羅門為貴勝凡有座席並不与余三姓同行、自外雑類故宜遠矣』[※底本では訓点が付いているが霊界物語ネットでは省略した。]とある三姓は即ち刹帝利、毘舎、首陀のことで、此の中でも刹帝利は王族なるにもかかはらず、同席同行せずと謂ふのを見ても印度にては貴勝族とされて居たことは明白であります。婆羅門と云ふ語は梵天の梵と同語なるが故に、貴勝と称へられたのである。印度とは月の意義であるが、印度全体を通じては月とは云はずして婆羅門国と謂つて居たのである。婆羅門教徒の主唱する所によれば、 『大虚空上に大梵天とも梵自在天とも大自在天とも称ふる無始無終の天界が在つて、その天界には大梵王とも那羅延天とも摩首羅天とも称する大主宰の天神があつて、これもまた無始無終の神様なるが故に、無より有を出生せしめて是の天地を創造し、人種は云ふも更なり、森羅万象一切の祖神である』 と語り伝へて来たのである。又曰ふ、 『所有一切の命非命は皆大自在天より生じ又大自在天に従つて亡滅す、自在天の身体は頭は虚空であり、眼は日月であり、地は肉体であり、河海の水は尿であり、山岳は屎の固まつたものであり、火は熱又は体温であり、風は生命であり、一切の蒼生は悉く自在天が肉身の虫である。自在天は常に一切の物を生じ給ふ』 と信じられて居たのであります。支那の古書にも、 『盤古氏之左右目為日月毛髪為草木頭手足為五岳泣為江河気為風声為雷云々』[※底本では訓点が付いているが霊界物語ネットでは省略した。] とあるに酷似して居ります。また婆羅門の説に、 『本無日月星辰及地。唯有大水。時大安荼生如鶏子。周匝金色也。時熟破為二段。一段在上作天一段在下作地。彼二中間生梵天名一切衆生祖公。作一切ノ有命無命物。』[※底本では訓点が付いているが霊界物語ネットでは省略した。] と謂つて居るが、支那の古伝に、 『天地渾沌如鶏子盤古生其中一万八千歳而天地開闢。清軽者上為天濁重者下為地盤古在其中一日九変神於天聖於地天極高地極深盤古極長此天地之始也』[※底本では訓点が付いているが霊界物語ネットでは省略した。『三五暦紀』の一節。天地渾沌として鶏子の如く。盤古その中に生じ、一万八千歳。而して天地開闢す。清軽なる者は上りて天と為る。濁重なる者は下りて地と為る。盤古その中に在りて、一日に九変し、天に於いて神なり、地に於いて聖なり。天極めて高く、地極めて深く、盤古極めて長す。此れ天地之始め也。] と謂へるによくよく似て居ります。又梵天王は八天子を生じ八天子は天地万物を生ず。故に梵天王は一切衆生の父と云ひ威霊帝とも謂はれて居る。然るに神示の『霊界物語』に依れば、大自在天は大国彦命であつて、其本の出生地は常世の国(今の北米)であり、常世神王と謂つてあります。大国彦命の子に大国別命があつて、この神が婆羅門の教を開いたことも、この物語に依つて明かである。常世国から埃及に渡り次でメソポタミヤに移り、波斯を越え印度に入つて、ハルナの都に現はれ、爰に全く婆羅門教の基礎を確立したのは、大国別命の副神鬼雲彦が大黒主と現はれてからの事である。それ以前のバラモン教は極めて微弱なものであつたのであります。このバラモン教の起元は遠き神代の素盞嗚尊の御時代であつて、釈迦の出生に先立つこと三十余万年であります。『霊界物語』(舎身活躍)は主として印度を舞台とし、三五教、ウラル教、バラモン教の神代の真相を神示のままに口述する事になつて居りますから、『舎身活躍』(卯の巻)の総説に代へて少しくバラモン神の由緒を述べておきました。 惟神霊幸倍坐世 大正十一年十月三十一日王仁識
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 07 文珠 第七章文珠〔一〇九一〕 照国別は照公、梅公、岩彦の宣伝使と共にクルスの森に休息する折しも、前方よりイソ館に向つて進撃する鬼春別の部将片彦の一隊の来るに会ひ、潜かに木の茂みに隠れて様子を窺ひつつあつた。片彦の一隊数十騎はライオン河を渡り、百丁余りの道を疾駆して、漸くクルスの森に到着し、人馬の休息をなさむと馬を乗り捨て、森の中に逍遥する者、又は横はつて雑談に耽る者もあつた。 此一隊はイソ館に向ふ攻撃軍の先鋒隊とも斥候隊ともいふべき重要の任務に就いてゐる隊列である。 暫く休息の上、片彦は再び馬にヒラリと飛乗り、人員点呼をなし、馬上より大音声を張り上げて下知して曰く、 片彦『之より先は三五教の勢力範囲ともいふべき地点である。清春山は大足別将軍、今やカルマタ国へ進軍の為不在中なれば、守り少く、到底力とするに足らず。本隊のランチ将軍は、後より進み来るべしと雖も、吾等は吾等としての任務あり。四辺に心を配り、左右を窺ひつつ、之より以北は最も注意を要す』 と命令しつつあつた。木蔭に隠れし照国別一行はイソの館に進軍の先鋒と聞き、仮令少数と雖も此儘通過せしむる事は出来ない。何とかして此先鋒隊を追ひ捲らねばならない。後より来る玉国別に対しても、照国別は敵に遭ひながら之を見のがし、ウブスナ山に近付かしめたりと言はれては、吾々の職務が尽せない…………と腕を組み思案に暮れてゐた。 岩彦は心を焦ち、 岩彦『照国別さま、大変な事になつて来ました。片彦の一隊と見えます。之を奥へ進ませてはなりませぬから、一つここで何とか方法を講じようではありませぬか。最前のお話に依れば、三五教は何処までも無抵抗主義と云はれましたが、敵は武力を以て進み来るもの、いかに言霊の妙用ありとて、十数倍の敵に向つて戦ふは容易の業ではありますまい。如何しても武力に訴へなければ駄目でせうから、あなたは宣伝歌を歌ひ魔神の霊を畏服させて下さい。此岩彦は得意の杖を使ひ、敵の真只中に躍り込んで、一歩も之より奥へは進入させない様に致しますから、決して敵を殺傷する様な事は致しませぬ。只敵を威喝して、元へ追つ返す迄の事ですから………』 照国『先鋒隊として黄金姫、清照姫が行つて居る筈だから、後へ追つ返せば、却て両人を後より攻め来る敵軍と共に挟み撃ちに遭はす様なものだ。ハテ困つたことが出来たものだ。吾々の目的はハルナの都の大黒主を帰順さすのが使命の眼目で、彼等如き木端武者を相手にすべきものではない。ぢやといつて、みすみすイソ館へ進撃する一隊と知つて、之を防止せざるは吾々の職務を果さざるといふもの。兎も角言霊を以て彼片彦が一隊に向ひ戦闘を開始してみよう。それでゆかない時は岩彦の考への通りに杖を使つて敵を散乱させる方法を採るより仕方はあるまい。先づ第一に神様のお力を借つて善戦善闘する事にせう。照公、梅公もその用意を致すがよからう』 照公『始めて敵の軍隊に出会し、こんな愉快な事はありませぬワイ。わが言霊の神力を試すは此時で厶いませう』 と潔く言つてのけたものの、何とはなしに其声は震うてゐた。 梅公『宣伝使様、万々一敵の馬蹄に踏み躙られ、命危くなつた時は抵抗するかも知れませぬから、それ丈御承知を願つておきます。私は岩彦さまのやうに武器を使ふ事は不得手です、が何とかして防衛をなし、一身を守らねばなりませぬ』 と大事の使命を忘れて只自分の安全に就てのみ心を痛めて居る様子であつた。岩彦は早くも杖をしごいて、弦を離れむとする間際の矢の如く、体を斜に構へて、照国別の命令を今や遅しと待つて居た。此時敵は已に馬首を並べて北進せむとする様子が見えて来た。 照国別は声も涼しく宣伝歌を歌ふ。 照国別『常世の国の自在天大国彦を祀りたる バラモン教の神館空照り渡る月の国 ハルナの都に現はれて鬼雲彦の又の御名 大黒主が郎党を呼び集ひつつ日に月に 再び勢盛り返し傲り驕ぶり今は早 自高自慢の鼻高く神素盞嗚大神の 鎮まりいますイソ館進撃せむと進み来る 其扮装の勇ましさ片彦いかに勇あるも 天地を揺がせ雷電や風雨を自由に叱咤する 三五教の言霊にいかでか敵し得ざらむや あゝ惟神々々神の心に見直して 無謀の戦を起すより一日も早く真心に 立復りませ片彦よわれも神の子汝も亦 尊き神の貴の御子御子と御子とは睦び合ひ 誠一つの天地の神の大道に叶ひつつ 天の下なる神人を救ひ助けて神国の 柱とならむ惟神神に誠を誓ひつつ 汝が軍に立ち向ひ言霊車挽き出す われは照国別の神此世を照らす照公や 神の御稜威も一時に開いて薫る梅公や 心も固き宣伝使岩彦司の四人連 イソの館を立出でてここ迄進みクルス森 木蔭に潜み横はり汝が一隊の物語 完全に委曲に聞終り覚りし上は如何にして 汝を此儘通さむや鬼春別の部下とます 汝片彦将軍よ言霊隊の神軍が 勇士と現れし三五の照国別の言の葉を いと平けく安らけく心の鏡にうつし見て 省み給へ惟神神に誓ひて宣り伝ふ』 俄に森の中より聞え来る宣伝歌の声に、片彦始め一同は案に相違し、暫し馬首を止め、稍躊躇の色が見えて来た。後に控へし四五人の騎士は言霊に討たれて、何となく怖気づき、早くも馬首をめぐらし、馳け出さむとする形勢さへ見えて来た。片彦はこの態を見て、気を焦ち、躊躇してゐては、却て味方の不統一を来し、不利益此上なしと声を励まし、 片彦『ヤアヤア一同の騎士、三五教の宣伝使の一行現はれたり、大自在天大国彦神の神力を身に受けたる吾々神軍の勇士は、彼等に躊躇することなく、馬蹄にかけて踏み殺せよ』 と厳しく下知すれば、駒に跨り、照国別の方に向つて、鞭をきびしく馬背に当てながら踏砕かむと進み来る。照国別は泰然自若として天の数歌を奏上し、又もや宣伝歌を歌ひ出した。されど心の曇り切つたる曲神には、宣伝歌の力も充分に透徹せず、敵は命限りに攻め来る。其猛勢に腕を叩いて待構へてゐた岩彦は『照国別殿お許しあれ』と言ひながら弦を放れた矢の如く、金剛杖を上下左右に唸りを立てて振り廻しながら、敵に向つて突撃し、瞬く間に馬の脚を片つ端から擲り立てた。馬は驚いて立上り、馬上の騎士は真逆様に地上に転落し、馬を乗り捨て四方八方に逃げ散りゆく。片彦は騎馬の儘、一目散に南方さして駆け出すを、岩彦は敵の馬に跨り杖にて馬腹を鞭ちながら片彦の後を追うて一目散に駆り行く。 照国別は泰然自若として尚も宣伝歌を歌ひつつあつた。数多の騎士は思ひ思ひに四方八方に転けつ輾びつ散乱した。されども北へは一人も恐れてか逃げ行く者はない。岩彦に膝頭を打たれて倒れてゐる馬匹は七八頭、彼方此方に呻き声をあげてゐる。馬から転落する際、首を突込み、肩骨を外して九死一生の苦みを受け呻吟してゐる二人の敵を、照公、梅公が手分けして介抱してゐる。照国別は敵の負傷者に向つて一生懸命に鎮魂を与へた。漸く首の骨は二人の介抱に依つて元に復し、外れた肩胛骨も元の如く治まつた。 三人の介抱を受けて漸く元に復したる二人の騎士は、味方は一人もあたりに居らず、三人の三五教の宣伝使や信者の顔を見て大に驚き、 二人の騎士(ケーリス、タークス)『私は片彦将軍の見出しに預かり、バラモン教の宣伝使となつてゐるケーリス、タークスといふ二人の者で厶います。どうぞ今日只今より三五教に帰順致しますから、命ばかりはお助けを願ひます』 とハラハラと涙を流して頼み込んだ。照国別は言葉を改めて、いと慇懃に労はりながら、 照国別『あなた方は矢張バラモンの宣伝使で厶つたか。世の中は相見互だ、互に助け助けられ、持ちつ持たれつの世の中、三五教は決してバラモン教の如く敵を殺傷するといふやうな非人道的なことはやらないから安心してゐるがよい。就ては汝等両人に申付くることがある。之より清春山へ立寄り、イソの館へお使に行つてはくれまいかなア』 二人の騎士(ケーリス、タークス)『ハイ最早貴方のお弟子となつた以上は如何なることも承はりませう。併し乍らイソの館へ参るの丈は何だか恐ろしい心持が致します』 照国別『決して三五教は敵でも助ける役だから、汝等を苦めるやうなことはない。又照国別の弟子だといへば屹度大切に扱つて下さるであらう。今手紙を書くから、之を持つて清春山へ立寄り、其次にはイソの館に行つて日の出別神様に面会し、暫くイソ館にて三五の道の修業を致すやう取計らうてやらう』 二人は、 『ハイ』 と云つたきり有難涙にくれ、再び馬に跨り北へ北へと進むこととなつた。一通の手紙は清春山のポーロに宛て、帰順を促す文面であり、一通は照国別が出陣の途中遭遇したる一伍一什を日の出別神に報告し、且つ此両人をして三五教の教理を学ばしめ、将来宣伝使として用ひ給はば、相当の成績をあぐる者なるべし、何分宜しく頼み入るとの文面であつた。二人は心の底より照国別の慈愛に感じ、遂に清春山に立寄り、ポーロに手紙を渡し、次いでイソ館に進んで教理を学び、且又バラモン教のイソ館を攻撃する一伍一什の作戦計画を残らず打開けて物語り、非常な便宜を与へたのである。 清春山に二人が立寄り、ポーロ其外を帰順せしめたる一条や其他の面白き経路は項を改めて述ぶることとする。 話は元へ返つて、岩彦は駿馬に跨り、逃げゆく片彦の後を、己も馬に跨つて一目散に西南指して駆け行く。ライオン河の近くまでやつて来ると、釘彦将軍の一隊又もや数十騎、片彦と共に岩彦一人を目がけて弓を射かけ、攻めかくる。岩彦は一隊の的となり、身体一面矢に刺され、蝟の如くなつて了つた。されど生死の境を超越したる岩彦は獅子奮迅の勢を以て、馬の蹄にて一隊を踏み躙らむと、前後左右をかけ巡りつつあつたが、身体の重傷に疲れ果て、ドツと馬上より地上に転落し、人事不省となつて了つた。片彦、釘彦将軍は今此時と、馬を飛び下り、岩彦の首を刎ねむとする時、何処ともなく山岳も崩るるばかりの大音響と共に数十頭の唐獅子現はれ来り、其中にて最も巨大なる獅子の背に大の男跨り、眉間より強烈なる神光を発射しながら、釘彦の一隊に向つて突込み来る、其勢に辟易し、得物を投げ棄て、或は馬を棄て、四方八方に散乱して了つた。獅子の唸り声に岩彦はハツと気が付きあたりを見れば、巨大なる獅子の背に跨り、眉間より霊光を発射する神人が側近く莞爾として控へてゐる。岩彦は体の痛みを忘れ起直り、跪いて救命の恩を謝した。よくよく見れば嵩計らむや、三五教にて名も高き英雄豪傑の時置師神であつた。岩彦は驚きと喜びの余り、 岩彦『ヤア貴神は杢助様、如何して私の遭難が分りましたか、よくマア助けて下さいました』 杢助はカラカラと打笑ひ、 杢助『イヤ岩彦、今後は決して乱暴なことは致してはなりませぬぞ。苟くも三五教の宣伝使たる身を以て暴力に訴へ敵を悩まさむとするは御神慮に反する行動である。飽迄善戦善闘し、言霊の神力を発射し、それにしても行かなければ、隙を覗つて一時退却するも、決して神慮に背くものではない。汝は之より此獅子に跨り、ライオン河を渡り、黄金姫、清照姫の遭難を救ふべし、さらば』 といふより早く杢助の姿は煙と消え、数多の獅子の影もなく、只一頭の巨大なる唐獅子のみ両足を揃へ、行儀よく坐つてゐた。今杢助と現はれたのは、其実は五六七大神の命に依り、木花姫命が仮りに杢助の姿を現はし、岩彦の危難を救はれたのである。岩彦は之より只一人唐獅子に跨り、ライオン河を打渡り、黄金姫の危急を救ふべく、急ぎ後を追ふこととなつた。 此時、岩彦の姿は何時の間にやら透き通り、恰も鼈甲の如くなつてゐた。仏者の所謂文珠菩薩は岩彦の宣伝使の霊である。之より岩彦は月の国を縦横無尽に獅子の助けに依りて、所々に変幻出没し、三五の神軍を、危急の場合に現はれて救ひ守ることとなつたのである。 惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一一・二旧九・一四松村真澄録)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 09 雁使 第九章雁使〔一〇九三〕 フサと月との国境アフガニスタンの北方に 雲を圧してそそり立つ清春山はバラモンの 教に取つて第一の要害堅固の関所ぞと 名も遠近に轟きぬ大黒主の命に依り 清春山の神柱大足別は軍卒を 数多率ゐてカルマタの国の都に蟠まる ウラルの彦の魂の末常暗彦の集団を 只一戦に相屠りバラモン教の安泰を 守らむ為に出でゆきし後は藻ぬけの殻となり 難攻不落の絶所をば力となしてポーロをば 臨時岩窟の司とし出でゆきし後の岩窟は 制度も秩序も紊れはて夜を日に次いで十数の 番卒共は腸を腐らす牛飲馬食会 盛んに行ひ居たりしが三五教の神司 照国別の一行に言霊線を放射され 右往左往に逃げ惑ふ其惨状を見のがして 先を急ぎし宣伝使両親妹を守りつつ 帰りし後は又元の牛飲馬食の会となり 飲めよ騒げよ歌へよ舞へよ一寸先は暗の夜ぢや 暗の後には月が出る月は月ぢやが運の尽 キヨロつき、マゴつき、ウソつきのバラモン教の神柱 戦に勝たうが負けようが国家の興亡は吾々の 敢て関するとこでない朝から晩まで酒を呑み 甘い物食て楽々と暮して其日を送るのが 文明人種の行方とウラル教もどきに悪化して ポーロ、レールを初めとしハール、エルマやシヤム、キルク 其外残りの信徒は飲まな損ぢやと争うて ヘベレケ腰になりながら岩窟の中を這ひまわり 大蛇の正体現はして騒ぎ狂ふぞ可笑しけれ。 ポーロはもつれ舌を無理に動かせながら、 ポーロ『オイ、レール、とうとう爺イと婆アを取返され、折角陥穽へ落した三五教の宣伝使一行も亦、ヤツコスの裏返りに依つて、サツパリ掠奪され、最早俺達の使命はこれで尽きたと言ふものだ。こんな淋しい岩窟に頑張つて居つたのも、あの夫婦を押込め、彼奴の口から菖蒲を口説き落させ、大足別さまの女房にする為に勤めてゐたのだが、モウ斯うなつちやア仕方がない。本館へ立帰らうぢやないか。大足別さまは不在でも、小足別の神司がまだ沢山の部下を伴れて守つてゐるから、そこまで一つ退却しようかい。グヅグヅしてゐるとあの宣伝使奴がむし返しにやつて来よつたら、それこそ今度はポーロもボロクソにやられて了はねばならぬかも知れない。さうだから今の間にポーロい汁を吸うて、後に未練のないやうにしておかうと思つて、特別破格を以て、貴様たちに勉強さして牛飲馬食を勤めさしてゐるのだ。此頃は貴様も一向不勉強ぢやないか。初めの間は僅かに十六人を以て四斗も五斗も飲んでくれたが、何だ、此頃は十七八人も寄つて僅かに一斗五六升の酒にヘベレケになりよつて、そんな事で此岩窟の酒が何時なくなるか分つたものぢやないぞ。レール、ちつと皆の奴を鞭撻して、モ少し活動させたら如何だい』 レール『俺だつて何時もレールから脱線する所まで奨励してるのだから、モウこの上勉強せいと云つても仕方がないワ。ウラル教の奴でもゐよると、五六人新手を加へて、呑ましてやつたなら、それはそれは随分はかがゆくのだけれどなア。酒を呑むなら薬鑵で呑めよ、薬鑵がいやなら壺口で呑めよ。壺口がいやなら飛込んで呑めよ、猩々の奴めが胆つぶし、呆れ返つて逃げるよに呑めよ、呑めよ呑めよドツサリ呑めよ、呑めば呑む程身の徳利だ。デカタンシヨウデカタンシヨウ……とやつたら、随分面白からうがな。アーン』 ポーロ『オイ、シヤム、貴様は此頃は一向酒に勉強をせぬぢやないか。何だか口汚ないシヤムシヤムと飯ばかり食ひやがつて、そんなことで牛飲党の幹部になれるか。グヅグヅしてゐると酒のなくならぬ間に三五教がやつてくるかも知れぬぞ。さうなつたら俺達は三五教ぢやないが、無抵抗主義だから、甘い酒が残つてると、後に執着心が残つて潔う逃げられぬからなア。敵に酒を呑ますも余り気が利かぬぢやないか』 シヤム『ナアニ、三五教だつてヤツパリ人間だ。彼奴が呑んでもヤツパリ甘い酒は甘いのだ。ウラル教の奴に手伝はすより、余程ハカが行くかも知れぬぞ。何ぼ呑んでも三五教だから、腹にたまる気遣もなし、俺達のやうに、直にづぶ六メンタルになる虞はなからうぞ。なあ、ハール、三五教がやつて来たら………これはこれはようこそ御入来下さいました。何分悪の御大将が不在で厶いますから、結構な毒酒をあげる訳にもゆかず、とつときのよい酒で済みませぬが、一献どうでげせう……とかますのだ。さうすると、酒見て笑はぬ奴アないから、何程三五教だつて、すぐに相好をくずし、喉をグルグル言はして……ヤアこれはこれは思ひがけなき御馳走を頂戴致しました……といつて、目を細うしてグツと一杯やつたらモウ大丈夫だ。一杯のんでも甘い、二杯のんでも亦甘い、三杯のんでもまだ甘い、四杯五杯、百杯千杯と、しまひの果にや土手を切らし、三五教も何も忘れて了ひ、キツと牛飲馬食会の会員になるにきまつとる。さうなると、余り俺達は酒を呑まぬやうにするのだ。向方が十分酔うた潮合を計つて、来る奴来る奴をあの陥穽へ埋葬さへすれば、三五教の百匹や二百匹来たつて、さまで驚くには及ばぬよ。何と妙案奇策ぢやないか』 かく話す時しも、エルマ、キルクの両人は今迄酔ひ倒れてゐたが、何に感じたかムクムクと起上り、 エルマ、キルク『コーリヤ、どいつも此奴も、計略を以ておれ等両人を殺そうとしたなア。俺も死物狂ひだ』 と夢を誠と思ひ僻め、矢庭に奥の間に駆け入り、両人は長刀をスラリと引抜いて、ポーロ、レール、シヤム、ハール其他十二三人の群に向つて、無性矢鱈に切込んだ。頬の肉をけづられた奴、鼻の先を切られた奴、耳を落された奴、腕を切られ、指を飛ばされ、 『コラコラ何をする』 といひながら徳利や鉢や盃や膳を以て防ぎ戦ふ。徳利や鉢の破れる音パチパチガチヤガチヤ、ウン、キヤア、アイタと咆吼怒号の声一時に起り来り、岩窟の外迄聞えて来た。ケーリス、タークスの両人は何事の変事突発せしやと、足許に注意しながら奥深く進み入れば、岩窟の中は阿鼻叫喚、修羅の巷と激変してゐる。ケーリスは矢庭に雷の如き声を張り上げ、 ケーリス『コラツ』 と一喝した。どこともなく其言霊に三五教の威力備はつてゐたと見え、エルマ、キルクは其声と共に刀をバタリと落して尻餅をつき、仰向けに倒れる。ポーロ以下の連中も手に持つた得物を悉く其声と共にパタリと落し、同じく仰向けに、残らず倒れて了つた。何れもケーリスの言霊の威力に打たれて身体強直し、首から上のみをクルクルと廻転させ、蒼白な顔して呻いてゐる。 タークスは声も涼しく宣伝歌を歌ひ出した。 タークス『大黒主の命を受けイソの館へ立向ふ 鬼春別の将軍が先鋒隊と仕へたる 片彦さまに従うてライオン河を打渡り 駒に跨り堂々とクルスの森に来る折 三五教の宣伝使照国別の一行に 思はぬ所で出会し互に挑み戦ひつ 味方は脆くも敗北し吾等二人は言霊に 打たれて馬より転落し命危くなりけるが 仁慈無限の三五の神に仕へし神司 照国別は照、梅の二人の供と諸共に 吾等を助け労はりて尊き教を宣り給ひ 三五教の信徒と許され給ひし身の上ぞ あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて 吾等二人は勇み立ち栗毛の駒に跨りて 清春山の麓まで風に髪をば梳り 進み来りし者なるぞここに駒をば乗捨てて 汝ポーロに会はむ為照国別の信書をば 齎し来る吾が一行岩窟の外にて窺へば 阿鼻叫喚の惨状は手にとる如く聞えたり 只事ならじと吾々は進み来りて眺むれば 落花狼藉ここかしこ血潮の雨は降りしきり 丼鉢は舞ひ狂ひ徳利は宙に飛上がり さながら戦場の如くなりポーロ、レールよシヤム、ハール エルマやキルク其外の神の司よ、よつく聞け 人は神の子神の宮一つの神の造らしし 同胞なれば村肝の心を合せ睦じく 天地の神の御使となりて仕ふる身なるぞや 汝等一同神柱大足別の出でましし 不在を幸ひ甘酒に酔ひくづれつつ此様は 神の司と任けられし人のなすべき事ならず 一日も早く心をば改め直せ惟神 神に誓ひてタークスが汝を戒め諭すなり あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ 一二三四五つ六つ七八九つ十百千 万の神の御恵にポーロを始め一同の 心の園に花開き正しき教の御柱と 救はせ給へ惟神神の御前にねぎまつる』 と歌ひ了るや、ポーロを始めレール其他一同はムクムクと漸くにして起上り、二人の前に恐る恐る手をつかへ、あやまり入るのであつた。 ポーロ、レールは同じバラモン教にて顔を見知つたるケーリス、タークスの両人が俄に不可思議の神力を身にそなへ、且つ三五教式の宣伝歌を歌ひたるに胆を潰し、其霊徳に打たれて一言も発せず又反抗的態度もとらず、唯々諾々として両人のなすが儘に服従せむと、期せずして互の心は一致してゐた。 ケーリス『コレ、ポーロさま、大将の不在中だと思つて、随分活躍したものですな、少しタガがゆるんでゐるやうですよ。かかる忠臣に留守を守らせておけば、大足別様も御安心でせう、アハヽヽヽ』 タークス『きまつた事よ。鬼の居ぬ間に心の洗濯を遊ばしたのだ。誰だつて今の人間は面従腹背とかいつて、本人の前ではペコペコと頭を下げ………お前さまのことなら命でも差上げますと、二つ目には巧妙な辞令を使つてゐるが、其前を離れると、すぐに打つて変つて悪口を言つたり反対的の行動を執るものだ。それが所謂現代思潮だ。いはば時勢に忠実な行方と言はば云へぬことはない。何事も神直日、大直日に見直し聞直し、善意に此場は解釈しておく方が穏かであらうよ。俺だつて、昨日までならキツトさうだ。ポーロさまに決して負けるものぢやない。吾々だつて片彦将軍に何といつた………仮令三五教の宣伝使幾万騎押寄せ来るとも、命の限り奮闘を続け、不幸にして命がなくなれば、七度生れ変つて、バラモン教の為に三五教の司を殲滅致さねばおきませぬ………と誓つた間もなく直に此通り三五教へ帰順して了つたのだから、人間のやる事は如何しても矛盾は免がれない。オイポーロさま、実は俺達は最早三五教の信徒だ。これからイソの館へ修行に参る所だ。其途中に於て三五教の宣伝使………つまり俺達の親分、照国別命から信書をことづかつて来たから、何が書いてあるか知らぬが、よく検めて読んでくれ』 ポーロは照国別と聞いて、胸をビクつかせながら信書を受取り、封おし切つてソロソロと読み下した。信書を持つ手は頻りに慄へてゐる。其文面は左の通りである。 『一、三五教の宣伝使照国別より清春山の岩窟の留守職ポーロに一書を送る。吾両親は、永らく汝の手厚きお世話になり、安楽に月日を送り、あらゆる世の艱難を嘗めた為、漸くにして尊き神の恩恵を悟り、又吾妹も同じく神徳の広大無辺なるを悟り、正しき三五の信徒となりしも、要するに汝等が迫害的同情の賜物たることを深く信じ深く感謝する。又岩彦の宣伝使はヤツコスと名を変じ、汝が岩窟の館に忍び込み、種々雑多のバラモン教の教理を探り得たるは、向後に於ける彼が活動上、最も便宜を得たるものと確信し、これ又謹んで感謝する次第である。 次に吾々始め一行の者、暗黒なる陥穽に放りこまれ、否陥落したるより、不注意の最も恐るべきを悟りたるは、今後の吾々が活動上に於ける良き戒めにして、全く汝等の恩恵に依るものと、これ又謹んで感謝する。人は凡て尊き造物主の分霊分体なれば、狭隘なる教の名を設けて、互に信仰を争ひ、主義を戦はすは、大慈大悲の元つ御祖の神に対し、不孝の罪、これより大なるはなかるべし。 ケーリス、タークスの両人は直ちに三五の教理を悟り、速かに入信したれば、今よりウブスナ山のイソ館に遣はし、天晴れ誠の神柱となさむ為に差遣はす途中、此手紙を汝に謹んで呈する。万一汝等にして照国別の言を肯定するならば、此二人と共にイソの館に参り、日の出別の神始め其他の神司より教を受けられよ。恐惶頓首』 と記してあつた。ポーロは涙を流して感歎し、再び此神文を読み上げ、一同に聞かせた。レール、シヤム其他一同は異口同音に照国別の宣伝使を称讃し、且三五教の教理の十方無礙、光明赫灼たるに打驚き、心を改め、二人に従つてイソ館へ参進することとなつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一一・二旧九・一四松村真澄録)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 11 三途館 第一一章三途館〔一〇九五〕 四面寂寥として虫の声もなく際限もなき枯野原を 形容し難き魔の風に吹かれながらに進み行く。 道の片方の真赤な血の流れたやうな方形の岩に腰打掛け、息を休めてゐる一人の男がある。そこへ『ホーイホーイ』と怪しき声を張上げながら、杖を力にトボトボと足許覚束なげにやつて来る七八人の男、何れの顔を見ても、皆土の如く青白く、頭に三角の霊衣を戴いてゐる。之は言はずと知れた幽界の旅をしてゐる亡者の一団であつた。先に腰打掛けて休んでゐたのは、玉山峠の谷底から、春造に投込まれて気絶したレーブである。後から来るのが、カルを始め七八人のバラモン教の家来であつた。カルは黄金姫に投込まれて気絶し[※第10章でカルは黄金姫ではなくレーブに投げ飛ばされたと記されている。]、其他の亡者は残らずレーブの為にやられた連中ばかりである。 カルはレーブの姿を見て、 カル『ヨー、お早う、お前も矢張こんな所へやつて来たのかなア、附合のいい男だな。死なば諸共死出三途、血の池地獄、針の山、八寒地獄も手を曳いて、十万億土へ参りませう。モウ斯うなつちや現界と違つて、幽界では名誉心も要らねば、財産の必要もない。従つて争ひも怨恨も不必要だ。只恨むらくは、生前にバラモン神様を信じてゐたお神徳で、至幸至楽の天国へやつて貰へるだらうと期待してゐたのが、ガラリと外れて、こんな淋しい枯野ケ原を渉つて行くだけが残念だが、これも仕方がない。サア、レーブさま、一緒に参りませう』 レーブ『ヤア皆さま、お揃ひだなア。カルさまは根つから俺に覚えがないが、はたの御連中は残らず俺が冥途の旅をさしてやつたやうなものだ。併し俺はまだ死んではゐないのだから、亡者扱ひは御免だ。千引の岩の上に於て激戦苦闘をつづけた英雄豪傑のレーブさまが、年の若いのに今頃死んで堪るかい。此レーブさまには生きたる神の御守護があるから、メツタに死んでる気遣はないのだ。お前達は甘いことをいつて、俺を冥途へ引張りに来よつたのだな。扨ても扨ても肚の悪い男だ、モウいいかげんに娑婆の妄執を晴らさないか。斯様な所へふみ迷うて来ると結構な天国へ行かれないぞ。南無カル頓生菩提、願はくば天国へ救はせ給へ。惟神霊幸倍坐世』 と手を合す。 カル『オイ、レーブ、貴様何呆けてゐるのだ。ここは娑婆ぢやないぞ。幽冥界の門口、枯野ケ原の真中だ。サア之から前進しよう。何れいろいろの鬼が出て来て、何とか彼とか難題を吹つかけるかも知れないが、それも自業自得だ、各自に心に覚えがあることだから何が出ても仕方がない。皆俺たちが心の中に造つた御親類筋の鬼に責められるのだから、諦めるより道はなからうぞ』 レーブ『ハヽヽヽヽ亡者の癖に、何を吐すのだ。気楽さうに、青、赤、黒の鬼が鉄棒を持つてやつて来たら、貴様それこそ肝玉を潰して、目を眩かし、二度目の幽界旅行をやらねばならなくなるぞ。此レーブさまは何と云つても死んだ覚えはない』 カル『マアどうでも可いワ。行くとこ迄行つてみれば、死んでゐるか生きてるか、能く分るのだからなア』 斯く話す折しも、枯草の中から忽然として現はれた、仁王の荒削りみたやうな、真赤の角を生した裸鬼、虎の皮の褌をグツと締め、蒼白い牡牛のやうな角、額から二本突き出しながら、 鬼『オイ亡者共』 と大喝一声した。レーブは初めて、自分が冥途へ来てゐるのだなア……と合点した。されど自分は誠の神様のお道を伝ふる真最中に死んだのだから、決して斯様な鬼に迫害されたり虐げらるるものではない。善言美詞の言霊さへ使へば即座に消滅するものだと固く信じて、外の亡者のやうに左程に驚きもせず、平然として鬼共の顔を打眺めてゐた。鬼はレーブ、カルの二人に一寸会釈して、比較的優しい顔で、 鬼『エー御両人様、貴方等は之から私が御案内しますから、三途の川の岸まで来て下さい。外の奴等は……オイ黒赤両鬼に従つて、此処を右に取つて行くがよからう。サア行けツ』 と疣々だらけの鉄棒を持つて追つかける様にする、八人の亡者はシホシホと赤黒の鬼に引かれて茫々たる枯野ケ原の彼方に消え去つた。 青鬼はレーブ、カルを送つて、漸くに水音淙々と鳴り響いてゐる広き川辺に到着した。川辺には何とも知れぬ綺麗な黄金造りの小ざつぱりとした一軒家が立つてゐる。青鬼は鉄門をガラリとあけ、中に這入つて、 青鬼『只今、娑婆の亡者を二人送つて来ました。どうぞ受取り下さいませ』 と叮嚀に挨拶してゐる。レーブ、カルは互に顔を見合せ、小声で、 レーブ『オイ、コリヤ怪体な事になつて来たぢやないか。此大川を渡れといはれたら、それこそ大変だぞ。今鬼が……二人の亡者を送つて来ました、受取つて下さい………なんて言つてるぢやないか。一寸見ても強さうな小面憎い鬼が、あれ丈叮嚀に挨拶してるのだから、余程強い大鬼が此処に居るに違ひないぞ。今の間に元の道へ逃げ出さうかなア』 カル『逃げ出すと云つたつて、地理も分らず、何一つ障碍物がない此枯野原、直に見つかつて了ふワ。それよりも神妙にして甘く交渉を遂げ、よい所へやつて貰ふ方が何程得かも知れないぞ』 かく話す時しも、青鬼は二人に向ひ、叮嚀に頭をピヨコピヨコ下げて、 青鬼『私は之からお暇を申します。館の主人さまに何も彼も一伍一什申上げておきましたから、どうぞ御勝手に入つて、悠くりお話をなさいませ』 と云ひながら大股にまたげて、鉄棒を軽さうに打振り打振り元来た道へ引返すのであつた。 後に二人は怪訝な顔しながら、 レーブ『オイ、如何やら此処は三途の川らしいぞ、何と妙な川ぢやないか。三段に波が別れて流れてゐる。まるで縦に流れてゐるのか、横に流れてゐるのか見当が取れぬやうな川だのう』 カル『オイ、そんな川所かい、此館はキツと三途川原の鬼婆の番所かも分らぬぞ。ここで俺達はサツパリ着物を剥がれて了ふのだ。さうすればこれから前途は追々冬空に向くのに赤裸になつて、八寒地獄に旅立といふ悲劇の幕がおりるかも知れぬぞ。困つたことが出来たものだなア』 かく話す所へ館の戸を押開いて現はれて来たのは十二三才の美しい娘であつた。 レーブ『ヤア偉い見当違をしてゐたワイ。三途の川の脱衣婆アといへば、エグつたらしい顔をした、人でも喰ひさうな餓鬼が控へてゐるかと思へば、まだ十二三才の肩揚の取れぬ少女が而も二人、優しい顔して出て来るぢやないか。矢張現界とは凡てのことが逆様だといふから、現界の所謂小娘が幽界の婆アかも知れぬぞ。娘と云つたら幽界では婆アのことだらう。婆アと云つたら幽界では少女のことだらう。娘と云つたら……』 カル『コリヤコリヤ同んなじことばかり、何をグヅグヅ言つてるのだい。娘が聞いたら態が悪いぞ』 レーブ『余りの不思議で、ツイあんな事が言へたのだ』 二人の少女は叮嚀に手をつかへ、 少女『あなたはレーブさまにカルさまで厶いますか。サアどうぞお姫さまが最前からお待兼で厶います。お弁当の用意もして厶いますから、どうぞトツクリとお休みの上お食り下さいませ』 レーブ『イヤア、洒落てけつかるワイ、さうすると矢張ここは現界だな。此風景のよい川端でどこの奴か知らねども沢山のおチヨボをおきやがつて、茶代をねだつたり御馳走を拵へて高く代価を請求し、剥取りをしやがるのだな。オイ気を付けぬと着物位ならいいが、魂まで女に抜取られて了ふかも知れぬぞ。鬼婆よりも何よりも恐ろしいのは美しい女だからなア』 少女『モシモシお客さま、そんな心配は要りませぬ、どうぞ早くお入り下さいませ』 カル『ヤツパリ夢だつたかいな。ネツからとんと合点がゆかぬやうになつて来たワイ。どこともなしに娑婆臭くなつて来たぞ』 レーブ『それだから、貴様が亡者気分になつてゐやがつた時から、俺はキツト死んでゐるのぢやないと言つただらう。兎も角警戒して女に魂を抜かれぬやうに入つて見ようかい。併し此家を見るだけでも大変値打があるぞ。屋根も瓦も壁もどこも黄金造りぢやないか。こんな所に居るナイスはキツト世間離れのした高尚な優美な頗る……に違ひない』 といひながら少女に引かれて二人は閾を跨げた。外から見れば金光燦爛たる此館、中へ入つてみれば、荒壁が落ちて骨を剥きだし、まるで乞食小屋のやうである。そして其むさ苦しいこと、異様の臭気がすること、お話にならぬ。二人は案に相違し、思はず知らず、 カル、レーブ『ヤア此奴ア堪らぬ、エライ化家だなア。こんな所にゐやがる奴ア、どうで碌なものぢやあるまいぞ。オイ気を付けぬと虱が足へ這上るぞ、エーエ気分の悪いことだ』 と口々に咳いてゐる。破れた襖障子をパツとあけて奥からやつて来たのは、こはそもいかに、汚い座敷に似合はぬ、立派な衣裳を着した妙齢の美人、襠姿の儘、破れた畳の上を惜気もなく引きずりながら、現はれ来り、 女『あゝ、これはこれはお二人様、待つて居りました。大変早うお越しで厶いましたなア。奥に御馳走が拵へてありますから、一つ召上つて下さい』 と打解けた言ひぶりである。レーブは合点ゆかず、家の中をキヨロキヨロ見上げ見下し、隅々迄も見廻しながら、 レーブ『何と隅から隅迄完全無欠なムサ苦しい家だなア、何程山海の珍味でも、此光景を眺めては、喉へは通りませぬワイ。コレコレお女中、一体此処は何といふ所ですか』 女『ここは冥途の三途の川といふ所で厶いますよ』 レーブ『さうすると矢張私は亡者になつたのかいなア』 女『ホヽヽヽヽ亡者といへば亡者、生きてゐるといへば少し息が通うてゐる。三十万年後の二十世紀の人間の様な者だ。半死半せう泥棒とはお前さまのことですよ。私は三途川の有名な鬼婆で、辞職の出来ぬ終身官だよ。ホツホヽヽ』 レーブ『オイオイ馬鹿にすない、そんな鬼婆があつてたまるかい、年は二八か二九からぬ、花の顔容月の眉、珂雪の白歯、玲瓏玉の如き其肌の具合、如何して之が鬼婆と思へるものか、あんまり揶揄ふものではありませぬぞ、お前さまは丁度二十一世紀のハイカラ女の様なことを言ふぢやないか。こんな娘が婆アとはどこで算用が違うたのだらうなア』 女『ホヽヽ訳の分らぬ男だこと、百年目に二三年づつ人の寿命が縮まつてゆくのだから、二十一世紀の末になると、十七八才になれば大変な古婆だよ。モ三歳になると夫婦の道を悟るやうになるのだから……お前さまも余程頭が古いね』 カル『さうすると、ここは二十一世紀の幽界の三途の川だな』 女『三途の川は何万年経つても、決して変るものではない。此婆アだつて、何時迄も年も老らず、いはば三途の川のコゲつきだ。サア早く奥へ来て、饂飩でも喰べたがよからうぞや。大分に玉山峠で活動して腹がすいてゐるだらう』 レーブ『それなら兎も角も奥へ通して貰はう。オイ、カル、俺一人では何だか気分が悪い、貴様もついて来い』 カル『ヨシヨシ従いて行かう、此女はバの字とケの字に違ひないから油断をすな。そして一歩々々探り探りにゆかぬと、陥穽でも拵へてあつたら大変だぞ。亡者でも矢張命が惜しいからなア』 と云ひながら美人の後に従いて行く。奥の間かと思へば草莽々と生えきつた川の堤であつた。其向方を三途の川が滔々とウネリを立てて白い泡を所々に吐きながら悠々と流れてゐる。 レーブ『コレコレ婆アさまとやら、お前の所の奥の間といふのは、こんな野つ原か。矢張冥途といふ所は娑婆とは趣が違ふものだなア。娘を婆と云つたり、野原を奥と言つたり、サツパリ裏表だ。なア、カル公、ますます怪しくなつたぢやないか』 女『ここはお前さまの仰有る通り野ツ原だ、奥の間といふのは次の家だ。此向方に立派な奥の間が建つてゐるから、そこへ案内を致しませう』 レーブ『又外から見れば、金殿玉楼、中へ入つて見れば乞食小屋といふやうなお館へ御案内下さるのですかなア。イヤもうこれで結構で厶います』 カル『何で又これ丈外に金をかけて、立派な家を建てながら、中はこんなにムサ苦しいのだらう。なアお婆アさま、コラ一体何か意味があるだらうな』 女『ここは三途の川の現界部だから、こんな家が建ててあるのだ。現界の奴は表面計り立派にして、人の目に見えぬ所は皆こんなものだ。口先は立派なことを言ふが、心の中は丁度此家の中見るやうなものですよ。私だつて斯んなナイスに粉飾してるが、此家と同様で肝腎要の腹の中は本当に汚いものだよ。お前さまもバラモン教だとか、三五教だとかのレツテルを被つて、宣伝だとか万伝だとか言つて歩いてゐただらう、腐つた肉に宣伝使服を着けて糞や小便をそこら中持ち歩いて、神様をだしに、物の分らぬ婆嬶に随喜渇仰の涙をこぼさしてゐたのだらう。私も此着物を一つ剥いたら、二目と見られぬ鬼婆アだよ。白粉を塗り口紅をさし白髪に黒ンボを塗り、身体中に蝋の油をすり込んで、こんなよい肉付にみせてゐるが、一遍少し熱い湯の中へでも這入らうものなら見られた態ぢやない。サア是から本当の家の中へ伴れて行つてあげよう。イヤ奥の間へつれて行きませう』 レーブ『何と合点のいかぬことをいふ娘婆アさまぢやなア。何だか気味が悪くなつて来た。斯う言はれると自分等の腹の中を浄玻璃の鏡で照らされたやうな気分になつて来たワイ。のうカル公』 カル『さうだな、丸切り現代の貴勝族の生活の様だなア。外から見れば刹帝利か浄行か何か貴い方が住んでゐるお館のやうだが、中へ這入つてみると、毘舎よりも首陀よりも幾層倍劣つた旃陀羅の住家の様だのう』 女『せんだら万だら言はずと早く此方アへ来なされよ。サア此処が神界の人の住む館だ、かういふ家に住居をするやうにならぬとあきませぬぞや』 レーブ『どこに家があるのだい、野原計りぢやないか。向ふには川が滔々と流れてる計りで、家らしいものは一つもないぢやないか』 カル『オイ、レーブ、貴様余程悟りの悪い奴ぢやなア。神界の家といつたら娑婆のやうな木や石や竹で畳んだ家ぢやない、際限もなき此宇宙間を称して神界の家と云ふのだ』 レーブ『こんな家に住んで居つたら、それでも雨露を凌ぐ事が出来ぬぢやないか。神界の家といふのは所謂乞食の家だな。何がそんな家が結構だい。貴様こそ訳の分らぬことを言ふぢやないか』 女『コレコレお二人さま、何をグヅグヅいつてらつしやるのだ、此家が見えませぬか。水晶の屋根、水晶の柱、何もかも一切万事、器具の端に至る迄水晶で拵へてあるのだから、お前さまの曇つた眼力では見えませうまい。私の体だつて神界へ這入れば、これ此通り、見えますまいがな』 と俄に透き通つて了つた。 レーブ『目は開いてゐるが家の所在が一寸も分らぬ、これでは盲も同然だ。何程結構でも家の分らぬやうな所へやつて来て、水晶の柱へでもブツカツたら、大変だから、ヤツパリ俺は、最前の現界の家の方が何程よいか分らぬわ。コレコレ娘婆アさま、どこへ行つたのだい。お前の姿丈なつと見せてくれないか』 耳のはたに女の声、 女『ホヽヽ何とまア不自由な明盲だこと、モ少し霊を水晶に研きなさい。そしたら此立派な水晶の館が明瞭と見えます』 レーブ『どうしても見えないから、一つ手を引いて案内して下さいな』 女『それなら案内して上げませう』 と言ひながら、水晶の表戸をガラガラガラと音をさせて開けた。 カル、レーブ『ヤア顔は見えぬが、確に戸のあいた音だ』 といひながら二人は手をつなぎ、レーブは女に手を引かれて、水晶の館に這入つて了つた。 レーブ『何だ家の内か家の外か、ヤツパリ見当が取れぬぢやないか。アイタタ、とうとう頭をうつた、ヤツパリ家の内と見えるワイ、コレコレ娘婆アさま、こんな所に居るのはモウ嫌だ。モ一遍手を引張つて出して下さいな』 女『お前さま等二人勝手に出なさい。這入つたものが出られぬといふ筈がない』 カル『何とマア意地の悪い女だなア。そんなことを言はずに一寸の手間ぢやないか、出口を教へて下さいな』 女『お前さまの身魂さへ研けたら、出口は明瞭分りますよ。自然に霊の研ける迄、千年でも万年でもここに坐つてゐなさい、こんな綺麗な所はありませぬからなア』 レーブ『余り汚い霊が水晶の館へ入つたものだから、とうとう神徳敗けをしてしまつて、出口が分らなくなつて了つた。エヽ構ふこたない、盲でさへ一人道中をする世の中だ。頭を打たぬ様に手で空をかきながら、出られる所へ出ようぢやないか』 カル『さうだな、なんぼ広い家だつて、さう大きうはあるまい。小口から撫で廻したら出口はあるだらう。本当に盲よりひどいぢやないか。外が見えて居りながら出られぬとは、何うした因果なことだらう。コラ大方あの娘婆アの計略にかかつてこんな所へ入れられたのかも知れぬぞ……ヤア同じ女が沢山に映り出した。ハハア此奴ア鏡で作つた家だ、一つの影が彼方へ反射し、此方へ反射し、沢山に見え出しよつたのだ。ヨーヨー俺達の姿も四方八方に映つてるぢやないか、此奴ア閉口だ。コレ娘婆アさま、そんな意地の悪いことを言はずに出して下さいな』 女『ホヽヽ娑婆亡者とはお前のことだ。それならモウ好い加減に出して上げませう、折角の水晶の館が汚れて曇つて了ふと、あとの掃除に此婆アも困るから』 と云ひながら、二人の手をつないで、外へ出した手を引張つてくれた感覚はするが、声が聞えるばかりで、少しも姿は見えなかつた。 女『サア此処が外だ。モウ安心しなさい』 レーブ『ヤア有難う、おかげで助かりました。ヤアお婆アさま、そこに居つたのか』 女『サア之から幽界の館を案内しませう、私について来るのだよ』 レーブ『神界現界の立派なお家を拝見したのだから、幽界も矢張序に見せて貰はうか。のうカル公』 カル『定つた事だ。ここ迄やつて来て幽界丈見なくては帰んで嬶アに土産がないワイ』 女『ホヽヽお前さま達、帰なうと云つても、モウ斯う冥途へ来た上は、メツタに帰ることが出来ませぬぞや、ここは三途の川の渡場だ。それ、ここに汚い藁小屋がある、これが幽界のお館だ』 と言ひながら俄に白髪の婆アになつて了つた。 レーブ『ヤア、カル公、あの娘は本当の婆アになりよつたぞ。いやらしい顔をしてゐるぢやねえか』 婆『いやらしいのは当然だ。亡者の皮を剥ぐ脱衣婆アだから、サアこれからお前さまの衣をはがすのだ』 カル『エヽ洒落ない、なんだ此小つぽけな雪隠小屋のやうな家を見つけやがつて、モウ俺は止めた。矢張現界の家の方へ行つて休まう』 と踵を返さうとすれば、婆アはグツと両の手で二人の首筋を掴んだ。二人はゾツとして、 カル、レーブ『オイ婆アさま、離した離した、こらへてくれ、こらへてくれ』 婆『何と云つても離さない。ここは幽界の関所だから、お前を赤裸にして、地獄へ追ひやらねばならぬのだ。此三途の川には神界へ行く途と、現界へ行く途と、幽界へ行く途と三筋あるから、それで三途の川といふのだよ。伊弉諾尊様が黄泉国からお帰りなさつた時御禊をなさつたのも此川だよ。上つ瀬は瀬強し、下つ瀬は瀬弱し、中つ瀬に下り立ちて、水底に打ちかづきて御禊し給ひし時に生りませる神の名は大事忍男神といふことがある。それあの通り、川の瀬が三段になつてるだろ。真中を渡る霊は神界へ行くなり、あの下の緩い瀬を渡る代物は幽界へ行くなり、上の烈しい瀬を渡る者は現界に行くのだ。三途の川とも天の安河とも称へるのだから、お前の霊の善悪を検める関所だ。サアお前はどこを通る心算だ。真中の瀬はあゝ見えてゐても余程深いぞ。グヅグヅしてると、沈没して了ふなり、下の瀬の緩い瀬を渡れば渡りよいが其代りに幽界へ行かねばならず、どちらへ行くかな。モ一度娑婆へ行きたくば上つ瀬を渡つたがよからうぞや』 レーブ『何程瀬が緩いと云つても幽界の地獄へ行くのは御免だ。折角ここまでやつて来て現界へ後戻りするのも気が利かない。三五教に退却の二字はないのだから……併しカルの奴、マ一度現界へ帰りたくば婆アさまの言ふ通り、あの瀬をバサンバサンと渡つてみい。俺はどうしても神界行だ、虎穴に入らずんば虎児を得ずといふから、一つ運を天に任し、俺は神界旅行に決めた。時に途中で別れた連中はどこへ行つたのだらうか、婆アさま、お前知つてるだらうな』 婆『あいつかい、あいつは一途の川を渡つて、八万地獄へ真逆様に落ちよつたのだよ』 カル『一途の川とは今聞き始めだ。どうしてマア彼奴等はそんな所へ連れて行かれよつたのだらう』 婆『一途の川といふのは、善一途を立てたものか、悪一途を立てた者の通る川だ。善一途の者はすぐに都率天まで上るなり、悪一途の奴は渡しを渡るが最後八万地獄に落ちる代物だ、本当に可哀相なものだよ。カルの部下となつてゐたあの八人は今頃はエライ制敗を受けてるだらう。それを思へば此婆アも可哀相でも気の毒でも何でもないわい。オホヽヽヽ』 カル『コリヤ鬼婆、俺の部下がそんな所へ行つているのに、何だ気味がよささうに、其笑ひ態は…貴様こそよい悪垂婆だ。何故一途の川をこんな婆が渡らぬのだらうかな、のうレーブ』 婆『何れ幽界の関所を守るやうな婆に慈悲ぢやの情ぢやの同情などあつて堪るかい、悪人だから三途の川の渡守をしてゐるのだ。善人が来れば直に最前のやうな娘になり、現界の奴が来れば上皮だけ綺麗な中面の汚い娘に化ける。悪人が来ればこんな恐ろしい婆になるのだ。約りここへ来る奴の心次第に化ける婆アだよ』 レーブ『それなら俺はまだ一途の川へ鬼が引張つて行きよらなんだ丈、どつかに見込があるのだな。ヨシヨシそれなら一つ奮発して神界旅行と出かけよう。オイ、カル、貴様も俺について中つ瀬を渡れ』 カル『ヨシ、どこ迄もお前とならば道伴れにならう』 両人『イヤお婆アさま、大変なお邪魔を致しました。御縁があつたら又お目にかかりませう、左様なら、まめで、御無事で、御達者で……ないやうに、早くくたばりなされ、オホヽヽヽ』 婆『コリヤ貴様は霊界へ来てまで不心得な、悪垂口を叩くか、神界へ行くと云つても、やらしはせぬぞ』 と茨の杖を振り上げて追つかけ来る其凄じさ。二人はザンブと計り中つ瀬に飛込み、一生懸命抜手を切つて、あなたの岸に漸く泳ぎついた。 (大正一一・一一・二旧九・一四松村真澄録)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 12 心の反映 第一二章心の反映〔一〇九六〕 秋風切りに吹きすさぶ玉山峠の谷間で バラモン教の大棟梁イソの館の征討に 上りしランチ将軍の部下に仕へしカル司 鬼熊別の家の子と仕へて名高きレーブ等と 衡突したる其結果互に谷間に墜落し 人事不省に陥りていつとはなしに幽界の 枯野ケ原を歩みつつ野中の巌に休む折 カルの部下なる八人は赤黒二人の鬼共に 引つ立てられて枯草の莽々茂る野原をば 一途の川を指して行くレーブとカルの両人は 青き鬼奴に誘はれ三途の川の渡場に 漸く辿り来て見れば果しも知らぬ広い川 清き流れは滔々と白き泡をば吐きながら 大蛇のうねる如くなり川の畔の一つ家は 金光きらめく玉楼の眼まばゆきばかりなり 金門をあけて青鬼は館の中に身を隠し 二人の男をやうやうとここ迄誘ひ参りしぞ 受取りめされと云ふ声の聞えて暫し経つ間に 以前の鬼は会釈して何処ともなしに消えにける 二人は川辺に佇みて思はぬ美しき此家は 土地に似合はぬ不思議さと囁く折しも金鈴を 振るよな清き女声早く来れと呼びかくる 不思議の眼をみはりつつ近づき見れば鬼婆と 思うた事は間違か花も恥らふ優姿 年は二八か二九からぬ神妙無比の光美人 いとニコニコと笑ひ居る二人は驚き川端の 女と暫し掛合ひつ一間を奥へと入りみれば 奥の一間は草野原三途の川の滔々と 以前の如く鳴りゐたり水晶館に導かれ 鏡の如く透きとほる館の中で出口をば 失ひ互に辟易し千言万語を並べつつ 救ひを乞へば川端の美人は二人の手を取つて 醜けき小屋の其前に立ちあらはれて言ひけらく 今迄汝の立入りし家屋は娑婆と神界の 住居の姿の模型ぞや此茅屋は鬼婆の 弥永久に鎮まりて娑婆にて重き罪かさね 十万億土の旅立を致す亡者の皮を剥ぐ 脱衣婆さまの関所ぞといふより早く忽ちに 娘は醜き婆となり痩せからびたる手を伸べて 二人の素ツ首引つ掴む其いやらしさ冷たさに 三途の川の中つ瀬に身を躍らして両人は ザンブとばかり飛び込んで抜手を切つて向ふ岸 やうやう渡り着きにけり。 二人は着衣の儘、際限もなき広い川を、意外にも易々と無事に渡つたのを、非常な大手柄をしたよな気分になり、爽快の念に堪へられず、川の面を眺めて、紺青の波を見入つてゐた。 レーブ『鬼婆アさまに首筋を掴まれ、生命カラガラ此川へ飛込んだものの、これだけ広い川、到底無事には渡れまいと真中程で思うたが、此激流にも似合はず、弓の矢が通つたやうに、一直線に易々と、而も匆急に渡られたのは何とも知れぬ不思議ぢやないか』 カル『そこが現界と神界との異る点だ。ヤアあれを見よ。何時の間にか川はどつかへ沈没して了ひ、美はしい花が百花爛漫と咲き匂うてるぢやないか。アヽ何とも知れぬ芳香が鼻をついて来る。あれ見よ。川ぢやないぞ。エデンの花園みたいだ』 レーブ『ヤアほんにほんに、何とマア不思議な事ぢやないか。ようよう白梅の花が大きな木の枝に所々に咲いてゐる。バラの花に牡丹の花、紫雲英に白連華其外いろいろの草花が所せき迄咲いて来た。ヤツパリ天国の様子は違つたものだ。モウこんな所へ来た以上は虚偽ばかりの生活をつづけてゐる現界へは、万劫末代帰りたくないワイ。なあカル公、お前と俺とは、少しばかりの意地から、忠義だとか義務だとかいつて主人の為に互に鎬を削り、名誉を誇らうと思つて、猟師にケシをかけられた尨犬の様にいがみ合ひ、恨も何もない者同士が、命の取りやりをやつてゐたが、竜虎互に勢全からず、とうとう玉山峠の谷底で寂滅為楽急転直下、神界の旅立となつたのだ。が之を思へば現界の奴位可哀相な者はないのう』 カル『併し乍ら、お前と俺と偽善の行り比べをやつたおかげに、互に娑婆の苦を逃れ、こんな天国浄土へ来られるやうになつたのだから、何が御都合になるとも分らぬぢやないか。昨日の敵は今日の味方、虎狼の唸り声も極楽の花園を渡る花の薫風となりにけりだ。モウ斯うして神界へ来た以上は、名位寿福の必要もなければ互に争ふ余地もない。勝手に広大無辺な花園を逍遥し、自由自在に木の実を取つて食ひ、一切の系累を捨てて単身天国の旅をするのだから、これ位愉快な事はないぢやないか。併し乍ら善因善果、悪因悪果といふからは、斯様な所へ来られる様になるのは余程現界に於て善を尽したものでなければならぬ筈だ。俺達の過去を追懐すれば、決してかやうな所へやつて来られる道理はない。ヒヨツとしたら、神様が人違を遊ばしたか、感違をなさつたかも知れぬぞ。モシそんな事であつたなら、俺達は大変だ。此美はしき楽しき境遇が忽ち一変して、至醜至苦の地獄道へ落されるかも知れない。之を思へばヤツパリ執着心が起つて来る。何程執着心をとれと云つても、此天国に執着が残らいでたまらうか。あゝ惟神霊幸倍坐世。どうぞ神様、夢でも構ひませぬから、どこ迄も此境地において下さいますやうに』 と手を合して一生懸命に天地を拝んでゐる。何時の間にか、二人の立つてゐた地面は二十間ばかり持上り、左右の低い所に坦々たる大道が通じて、種々雑多の人物や禽獣が右往左往に往来してゐるのが見えて来た。 レーブ『ヤア俄に又様子が変つて来たぞ。オイ、カル、気をつけないと、どんな事になるか知れぬぞ、チツとも油断は出来ないからな』 かく話す折しも、二三丁前方に当つて猿をしめる様な悲鳴が聞えて来た。二人は物をも言はず、其声を尋ねて何人か悪魔に迫害され居るならむ、救うてやらねばなるまいと、無言のまま駆出した。近よつて見れば、白衣をダラリと着流した丸ポチヤの青白い顔をした男が、右手に血刀を持ち、左手に四五才ばかりの美はしき童子の首筋を引掴み、今や胸先へ短刀を突き刺さむとする間際であつた。 レーブ、カルの二人は吾を忘れて、其男に飛びかかり、血刀を引つたくり、童子を助けむと、力限りにもがけども、白衣の男は地から生えた岩のやうに、押せども突けどもビクとも動かぬ。みるみる間に其童子を無残にも突き殺して了つた。 レーブ『コリヤ悪魔奴、此処は何処と心得てゐる、勿体なくもかかる尊き天国に於て、左様な兇行を演ずるといふ事があるか』 男『アハヽヽヽ阿呆らしいワイ。悪魔の容物の分際として、此方を悪魔呼ばはりするとは何の事だ。糞虫は糞の臭気を知らぬとは貴様の事だ。サアこれから其方の番だ、そこ動くな。イヒヽヽヽ、なんとマアいぢらしいものだなア、いかさま野郎のインチキ亡者奴、身魂の因縁に依つて、此天来菩薩が之から汝を制敗致すから、喜んで此方の刃を受けたがよからうぞ』 レーブ『アハヽヽヽ天来菩薩とはソラ何を吐かす、苟くも菩薩たる者が凶器をふりまはし、天国の街道に於て殺生をするといふ事があるか。況して罪のない童子を殺害するとは、以ての外の代物だ。コリヤ悪魔、イヤ天来、よつく聞け、此方こそはバラモン教にて英雄豪傑と世に謳はれた武術の達人、カル、レーブの両人だ。汝の如き小童共、仮令幾百万人一団となつて武者ぶりつくとも、千引の岩に蚊軍の襲撃した様なものだ。サア今に此方の武勇を現はし、汝が剣をボツたくり、寸断にしてくれむ、覚悟を致したがよからうぞ。神界の名残に神文でも称へたがよからう』 男『ウツフヽヽヽうろたへ者奴が、神界の法則に依つて、此方が使命を全くする為、此童子を制敗してゐるのだ。汝はいつも現界でホザいて居るだらう、神が表に現はれて、善と悪とを立別ける、神でなくて、身魂の善悪が分るものか。貴様達の容喙すべき限でない、人間は人間らしく黙つて自分の行くべき所へ行けばいいのだ。訳も知らずに安つぽい慈悲心だとか、義侠心を発揮しようと思つても、そんな事は、鏡の如き明かな神界に於ては通用致さぬぞ』 レーブ『仮令此童子に如何なる罪があらうとも、神界に於ては何事も善意に解し、神直日大直日に見直し聞き直し宣直し給ふのが大慈大悲の神様の御恵だ。其方は使命だと申すが、娑婆地獄ならば知らぬこと、天地の神の分霊たる人間を自ら手を下して制敗するといふ道理があるか』 男『エヘヽヽヽぬかしたりなぬかしたりな、それ程よく理屈の分つた其方なれば、此方を神直日大直日に見直し聞き直し宣直さぬか。娑婆で少しく覚えた武勇を鼻にかけ、吾々を悪魔呼ばはりになし、此方の刀を掠奪して盗賊の罪を重ね、又此方を寸断せむとは自家撞着も甚だしいではないか。そんな事で如何して神界の旅が出来るか。テもさても分らぬ奴だな。オツホヽヽヽ鬼の上前を貴様ははねようと致すのか、何と恐ろしい我の強い代物だなア』 カル『コリヤ悪魔、ここは神界だぞ、貴様の居る世界は幽界だらう。かやうな所へやつて来るといふ事があるか、早く立去れ。グヅグヅ致して居ると、神界幽界の国際談判が始まり、遂には談判破裂して、地獄征伐の宣示が渙発されるやうになるかも知れぬぞ』 男『イツヒヽヽヽ其方は現界に於て一つの善事もなさず、まぐれ当りに神界へふみ迷うて来よつて、一角善人面をさらして、ツベコベと理屈を囀つてゐやがるが、此悪魔も此血刀も、皆貴様の心の反映だ。貴様は八岐大蛇の悪魔の憑いた大黒主の部下に仕ふる鬼春別の乾児の乾児の其乾児たる小悪人で居ながら、三才の童子に等しき天の下の青人草の生血を吸ひ、少しの武勇を鼻にかけ、修羅の戦場に疾駆した其罪が今ここに顕現してゐるのだ。要するに此方は貴様の罪が生んだ悪魔だから、貴様が本当に神直日大直日に見直し宣直し、発ごんと改心を致したならば、かかる尊き神界の大道に如何して俺が現はれる事が出来ようか。俺が亡ぼしたくば、貴様の心から改心したがよからう。人が悪魔だと思うて居れば、みんな自分の事だぞ。コリヤ、レーブ、其方は今の先黄金姫に出会ひ、三五教の教理を聞いたであらう。人が悪いと思うてゐると皆われの事ぢやぞよ………と玉山峠の岩蔭で聞かされたぢやないか』 レーブ『成程さうすると、お前は俺の言はば副守護神だなア。何と悪い副守が居やがつたものだなア』 男『アハヽヽヽ都合のよい勝手な事をいふな。副守護神所か、貴様の本守護神の断片だ。トコトン改心致さぬと、まだまだ此先で貴様の生んだ鬼が貴様に肉迫して、どんな目に会はすか知れぬぞ。己が刀で己が首切るやうなことが出来致すから、早く改心致したがよからう。レーブばかりでない、カルも其通りだ、此童子はヤツパリ、カルの身魂の化身だ。どうだ判つたか』 レーブ『ヤア判つた、斯うして二人仲よくして神界の旅行をやつてゐるものの、本当のことを言へば、おれも淋しくて仕方がないから、道伴れにしようと思ひ、表面こそ親切に打解けたらしくしてゐるものの、行く所まで行つたならば斯様な悪人は此下に見ゆる地獄道へつき落してやらうと、心の端に思うてゐたのだ。ヤア悪かつた、オイ、カル公、俺は本当に済まなかつた。心の罪を赦してくれ』 カル『あゝさうか、おれも実はお前と打解けて歩いて居るものの、何時お前が俺の素首を引抜くか知れぬと思うて、戦々兢々と心の底でしてゐたのだ。さうするとあの童子は俺の恐怖心が塊つて現はれたのだな。お前がさう改心してくれる以上は、最早お前も恐れはせぬ。互に打解けて心の底から仲よくして、此天国を遊行しようぢやないか。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と両手を合せ、両人は目をとぢて天地に祈願をこめた。暫くあつて、目を開きあたりを見れば、男の影も童子の影もなく、大地に流れた血潮と見えしは紅の花、紛々と咲き匂ひ、白黄紫青などの美はしき羽の蝶翩翻と花を目がけて舞ひ遊んでゐる。両人は初めて心の迷ひを醒まし、天津祝詞を奏上しながら、北へ北へと手をつなぎつつ、いと睦じげに進み行く。 (大正一一・一一・三旧九・一五松村真澄録)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 16 春駒 第一六章春駒〔一一〇〇〕 春公は宣伝使に重病を助けられ、命の恩人と感謝し、茲に全く三五の神徳に帰順して、一行に従ひ月の都へ道案内として進み行くことになつた。春公はテームス峠の急坂を下りながら足拍子をとつて歌ひ出した。 春公『私の生れはアーメニヤウラルの彦の御教を 親の代から奉じたる尊き清き家柄だ 二人の親は世を去りて後に残りし兄弟は 浮世の風にもまれつつ離れ離れとなりはてて 兄の行方はまだ知れぬウラルの神の御教を 大和田中に漂へる竜宮島に開かむと 神の司と任けられて進み出でたる岩彦ぞ 兄の所在を尋ねむとフサの国までやつて来て 小舟を操り和田中を渡り行かむとする時に 大足別の神司タルの港に現はれて バラモン教の御教をいと細々と説諭す 群衆に紛れて御教を聞くともなしに聞き居れば どこともなしに味ありと思ひ込んだが病み付きで ウントコドツコイきつい坂皆さま用心なされませ バラモン教に辷り込み遂には大黒主神 御許に仕ふる身となりて元の名前の春公を 名乗りて茲に関守と抜擢されてバラモンの 鬼熊別の妻や子の所在を探ね三五の 教司を悉く捕へて月の都まで 送る使となりましたテームス山は峰高く 吹来る風は荒くして人の通らぬ難所なり さはさりながらイソ館ウブスナ山へ進むには ここが第一近道ぢや三五教の司等は 大半ここを越えるだらう峠の上に関所をば 作つて待てとの命令を遵奉しつつ朝夕に 酒に心をとろかして肝腎要の関守は つまり私の副事業お酒を呑むのが本職と 勤めて暮す折もあれバラモン教の蜈蚣姫 小糸の姫は駒に乗りハイハイハイと登りくる よくよく見ればどことなく威厳備はる勢に 辟易なして知らぬ顔一大雅量を発揮して やすやすと関所を通しけりかかる所へ三五の 教の道の杢助がさも恐ろしき獅子に乗り 数多の群を引連れて登り来りし其時は 心をののき身はふるひ生きたる心地はなかりけり アイタタタツタ躓いたウントコドツコイこれわいな それから一同自暴になりこんな危険な山の上 素面でどうして勤まらうお酒の酔に紛らして 一時なりと恐怖心ごまかし呉れむとガブガブと 木の実の酒に酔ひつぶれ風吹く峠に大の字と なつて倒れた其結果風邪の神めがやつて来て ウントコドツコイドツコイシヨ私の体に侵入し 忽ち起る頭痛カンカンカンと鉄鎚で 脳天くだくよな苦しさに悶え居たりし折もあれ 三五教の神司照国別の生神が 現はれまして命をば助けてドツコイ下さつた こんな尊い神の道如何して外にあるものか バラモン教やウラル教何程尊い道ぢやとて 朝から晩まで真心をこめて祈れど寸効も 現はれ来ない馬鹿らしさ私は嫌になりました 照国別の神様よこれから先にライオンの 水勢激しき川があるとは云ふものの易々と 渡れる個所が一所あるのを私は知つてゐる 流れはゆるく瀬は浅く恰好の場所で厶います 少しく道はまはれども唯一の安全地帯なら 急がば廻れといふ比喩そこを選んで渡りませう それから先は玉山のチヨツと小さい坂がある 地理に詳しい春公が先頭に仕へまつりなば 月の御国へ易々と知らず知らずに行けませう 私を信じて下さんせウントコドツコイドツコイシヨ さつき行かれた蜈蚣姫小糸の姫は今頃は どこに如何して厶るだろお供に仕へたレーブさま 定めて原野にふみ迷ひ一泡ふいてゐるだろと 思へば俄に気がもめる心の駒に鞭つて 一時にかけ出す膝栗毛あゝ惟神々々 神の御霊の幸はひて此一行を恙なく 勝利の都へ易々と進ませ給へ天地の 神の御前に春公が真心こめて願ぎまつる ウントコドツコイドツコイシヨそこには平坦い路がある 照国別の宣伝使一つ休んで行きませうか 甘そな木の実がなつてますあんまりきつい坂路で 喉奴が笛をふきかけたお酒の酔がさめて来て 頭の具合が何となくボンヤリしたよな心地する ウントコドツコイ、ヤツトコシヨ』 と勢よく歌ひながら、テームス峠を一行四人潔く下りゆく。 坂の七八分下つた所に稍緩勾配の広き道がついてゐる。そこには無花果が柘榴のやうにはじけて、人待顔である。 春公『モシ宣伝使様、ここの無花果は有名なもので、善人が通ればあの通り柘榴のやうに大きくなり、紫赤の顔色をして、通行人に接待を致しますなり、悪人が通れば小さくカンカンの莟になり、人の目につかないやうに隠れて了ふ妙な無花果です。私は前から噂は聞いて居りますが、何時通つても今日のやうに口をあけ、甘そな顔をしてゐた事はありませぬ。キツト誠の生神様がお通りだから、あんな姿をして現はれたのでせう。ここで一つ一服して腹を拵へ、喉をうるほし、無花果さまの御厄介に預つたら如何でせうかなア』 照国『大分里程も来た様だから、一つ休息する事にしよう。春さま、お前御苦労だが、あの無花果を少しばかり頂いて来てくれないか』 春公『ハイ承知致しました。モシモシお二人のお供、私と一緒に参りませう』 梅公『そりや面白からう』 照公『私も春さまと一緒に往つて来ます。宣伝使様、どうぞ此処に待つてゐて下さいませ』 照国『ウン、ヨシヨシ一人待つてゐるから、早く頂いて来てくれ』 ここに三人はイソイソとして、辛うじて細い谷川を渡り、甘さうな無花果を懐に一杯むしつて帰り来り、四人は喉をならしながら、天の恵と押戴いて腹につめ込んだ。 照国『春さま、最前お前の道々の歌によると、兄があるさうだが、其兄は岩彦といつたやうだなア』 春公『ハイ、私の兄は岩彦と申しまして、少し腰の屈んだ男で厶います。ウラル彦の神様の命令に依つて、音彦、梅彦等といふ神司と竜宮島へ渡つたきり、今に何の消息も厶いませぬ。アーメニヤの本山は今は孤城落日、昔の勢もなく、僅に残つた信者が神館を守つてゐるばかり、何でも月の国のカルマタ国とか云つて、地教山の西南麓の可なり広い国の都へ神館が移つたさうで厶います。そしてウラル彦様の子孫たる常暗彦様が教主となつて、再び昔日の勢をもり返してゐられるといふ事で厶います。私は兄の岩彦に俄に会ひたくなり、大胆にも小舟に乗つて竜宮の一つ島へ渡らうとする時、バラモン教の大足別の神司がタルの港でバラモンの宣伝をしてゐられたのを聞き、俄に有難くなつて、とうとうバラモン教へ入信しました。併し乍ら月日が経つに従つてバラモン教の金箔がはげ、生地が分つて来て面白くなく、とうとう焼糞になつて大酒呑になつて了ひ、テームス山の関守の長を任けられてゐた所、性の悪い風邪にかかり、蜈蚣の霊に憑かれて、九死一生の場合を神様の御引合せ、あなたの御手を以て救はれたので厶います』 照国別『それならお前は岩彦の弟であつたか。私は其時の梅彦である。岩彦はクルスの森で別れ、バラモン教の騎馬隊の中に躍り入つたきり、まだ顔を見せないのだが、何れ近い中に会ふやうな心持がしてゐるから、マア楽しんでついて来なさい』 春公『あなたが、それなら梅彦さまで厶いましたか。さう仰有ると何処とはなしに見覚えがあるやうに思ひます。兄の岩彦は貴方と一緒に今日迄活動して居りましたか』 照国別『岩彦さまは実に立派な宣伝使だ。今日迄バラモン教の大足別が本拠たる清春山の岩窟に化け込み、ヤツコスと名乗つて居つた男だ』 春公『あのヤツコスは私の兄の岩彦で厶いましたか。噂は聞いて居りましたが、まだ会つた事はありませぬ。同じバラモンの内に居りながら、余り所を隔てて居るので、それとは知らずに居りました。あゝ有難い、兄の行方が分つたのも全く神様の御引合せで厶いませう。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と合掌し、感涙に咽んでゐる。 照公『春さま、お前も日頃の望みの達する時が来たのだよ、三五教の神様は有難いだらう。モウ滅多にウラル教へ裏返つたり、バラモン教へ後戻りするこたあろまいなア』 春公『如何して如何して、そんな事が出来ませう。どうぞ一日も早く神様のおかげで岩彦に会はして貰ひたいもので厶います。そして兄弟が三五の教に尽したいと思ひます』 梅公『モウ、ウラル式の大酒飲みはやめますかな』 春公『余り好でもない酒だけれど、世の中が淋しくて堪まらないので、やけ酒を煽つて居たのですから、今後は一滴も飲みませぬ。大体が余り好きな酒ではありませぬから』 照国別は路傍の石に腰打掛けながら、 照国別『天津神国津御神の御恵に 兄の行方を知りし今日哉。 三五の神の教の幸はひて ライオン川も安く渡らむ。 テームスの峠を守る関司 春公さまの病いやしつ。 身の病直すばかりか魂の 病を直す三五の道。 風吹かばさぞ寒からむテームスの 峠にたてる春の関守。 あらし吹く風に身魂をもまれつつ 今は誠の人となりぬる』 と口ずさめば、春公は之に答へて、 春公『三五の神の司の来まさずば われはあの世に旅だちしならむ。 玉の緒の命も魂も助けられ いかで背かむ三五の道。 朝夕に大酒あふり曲神の すみかとなりし吾ぞ忌々しき。 蜈蚣姫醜の司を捉へむと あせる心に蜈蚣すみけり。 小糸姫神の小糸に結ばれて 三五教の道を悟りぬ。 岩彦の兄の所在を聞きし時 生れかはりし心地しにけり。 惟神神の御為世の為に 尽さにやおかぬ春の魂』 と歌ひをはり、照国別に従つて、一行四人は又もや宣伝歌を歌ひながら、テームス峠を西南指して下り行く。 (大正一一・一一・四旧九・一六松村真澄録)
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霊界物語 41_辰_黄金姫&清照姫の入那の国の物語1 総説 総説 神の道にては高天原の天国なれども、仏の道にては清浄国土又は略して浄土といふ。又神道にては唯一の主宰者を天之御中主大神と称し、無始無終の霊力体三大の原霊神と云ひ、仏教にては無量寿仏又は阿弥陀仏と唱へて居る。無量寿仏に種々の別名があります。即ち、 無量光仏 無辺光仏 無礙光仏 無対光仏 炎王光仏 清浄光仏 歓喜光仏 智慧光仏 不断光仏 難思光仏 無称光仏 超日月光仏 と号されて居る。一切の衆生あつて斯の光に遇はむものは、三垢消滅し身意柔軟に歓喜踴躍して善心生ずべし。若し三塗勤苦の処にあつて此の光明を見たてまつらば、皆休息を得てまた苦悩なく寿終の後みな解脱を蒙らむ。無量寿仏の光明顕赫にして十方を照耀す云々とあるのは、神道に謂ふ独一真神の御洪徳を説いたものであります。 又浄土の有様を左の如く説いて居る。今私は仏典に依つて浄土即ち高天原の真相を示すのも、余り読者に対して徒労でもないと思ひまして、本巻の総説欄に附記することと致しました。曰く、 『その国土には七宝の諸樹世界に周満せり。金樹、銀樹、瑠璃樹、玻璃樹、珊瑚樹、瑪瑙樹、しやこ樹あり。(以下何れもその荘厳優美の比喩辞也) 或は二宝乃至三宝乃至七宝うたた共に合成せるあり。 或は金樹の銀葉華果なるあり。 或は銀樹の金葉華果なるあり。 或は瑠璃樹あり玻璃を葉とす華果また然なり。 或は水精樹あり瑠璃を葉とす華果また然なり。 或は珊瑚樹あり瑪瑙を葉とす華果また然なり。 或は瑪瑙樹あり瑠璃を葉とす華果また然なり。 或はしやこ樹あり衆宝を葉とす華果また然なり。 或は宝樹あり、紫金を本とし白銀を茎とし瑠璃を枝とし水精を条とし珊瑚を葉とし瑪瑙を華とししやこを実とす。 或は宝樹あり、白銀を本とし瑠璃を茎とし水精を枝とし珊瑚を条とし瑪瑙を葉とししやこを華とし紫金を実とす。 或は宝樹あり、瑠璃を本とし水精を茎とし珊瑚を枝とし瑪瑙を条とししやこを葉とし紫金を華とし白銀を実とす。 或は宝樹あり、水精を本とし珊瑚を茎とし瑪瑙を枝とししやこを条とし紫金を葉とし白銀を華とし瑠璃を実とす。 或は宝樹あり、珊瑚を本とし瑪瑙を茎とししやこを枝とし紫金を条とし白銀を葉とし瑠璃を華とし水精を実とす。 或は宝樹あり、瑪瑙を本とししやこを茎とし紫金を枝とし白銀を条とし瑠璃を葉とし水精を華とし珊瑚を実とす。 或は宝樹あり、しやこを本とし紫金を茎とし白銀を枝とし瑠璃を条とし水精を葉とし珊瑚を華とし瑪瑙を実とす。 此の諸々の宝樹行々あひ値ひ、茎々あひ望み、枝々あひ準へ、葉々あひ向ひ、華々あひ順ひ、実々あひ当り、栄色光耀として視るにたふべからず。清風時に発りて五音の声を出す。微妙の宮商自然に相和せり』 と示してある。是ぞ全く瑞の御魂豊国主神の分霊なる和魂の神大八洲彦命が一旦月照彦神と現じ再生して釈迦となり、天極紫微宮より降り来りて天国浄土のその一部の真相を抽象的比喩的に説示されたものであります。読者は右の仏説に由りて神道に謂ふ高天原又はキリストの天国、仏教の兜率天、清浄国土は皆同一にして、且つ至微至清荘厳の神境霊域たることを覚らるる事と思ひます。 瑞月は印度地方の太古の物語を説くに当り、天国の真相を仏の教を藉りて示すことの近道なるを思ひ、『舎身活躍』(辰の巻)の総説に代へ茲に引用した次第であります。 惟神霊幸倍坐世 大正十一年十一月七日王仁識
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霊界物語 41_辰_黄金姫&清照姫の入那の国の物語1 01 入那の野辺 第一章入那の野辺〔一一〇五〕 木枯すさぶ秋の空野辺の木草も黄金姫の 神の命の神司四方に清照姫命 レーブやカルを従へて天津日の神西山に 入那の国の小都会ヨルの都へ進み行く 暗の張はおろされて森の小烏がやがやと 鳴く音も寂しき田圃路脚下みたり四人が こころいそいそ進み行く忽ち森の木蔭より 現はれ出でし黒い影母娘二人を引抱へ 暗に紛れて何処となく足音忍ばせ矢の如く 忽ち姿を隠しけりレーブとカルの両人は 母娘の姿の消えしより打驚きて忍び足 声もひそかに彼方此方と宵暗の空すかしつつ 力泣く泣く探しゆく。 レーブ『オイ、カル、困つたなア、こんな処でお二人様を見失ひ、どうしてハルナの都の鬼熊別様に申訳が立つものか。われわれ両人は草を分けてもお後を慕ひ、その御在処を尋ねて、御主人様にお渡し申上げねばならぬぢやないか』 カル『そりや貴様の言ふ通りだ。吾々も斯うして依然として手を束ね惟神に任すと云ふ訳には行かないなア。神界旅行の際にも生魂姫命様から惟神中毒をしてはならないといふことを大変に戒められたのだからなア』 レーブ『オイ、カルよ、熟々考へて見ると黄金姫様、清照姫様は吾々から見れば幾十段とも知れない神格者でもあり、神様の直接の御神力を戴いて居られるのだから、余り心配は要るまいと思ふよ。併し乍ら此の儘放任して置く訳には行かないから、吾々としてのベストを竭して見ようぢやないか。あの黒い影は、どうやら狼か獅子の群のやうだつたが、それならば吾々は、決して心配は要らない。御両人様には狼が守護して居るのだから大丈夫だよ』(狼、獅子は皆比喩なり。蔭武者又は強者の意) カル『何は兎もあれ、神様に祝詞を奏上して、御両人様の御無事を祈ることに致さうぢやないか』 レーブ『アヽそれが善からう』 と茲に両人は森蔭の暗に跪坐して天地の神明に祈願を凝らし、夜の明くるを待つこととせり。何処ともなく空中に声あり、 声『レーブ、カルの両人、必ず心配致すに及ばぬ。黄金姫、清照姫は神の都合に依つて二三日の間神界から御用に使うて居るから、汝は明朝未明にここを出立いたして入那の都へ一足先へ参れ。母娘両人は後より追付くべければ、両人に心配なく今夜は此処で夜を明かしたが宜からうぞよ』 と雷の如き声聞え来る。両人はこの声こそは全く天声なり、神の御示しなりと、喜び勇み森の大木の根に腰打ちかけて、四方山の話に夜を更かし、取留もなき雑談の花を咲かしつつありけるが、レーブはそろそろカルに向ひ揶揄ひ始めたり。 レーブ『オイ、カル、貴様は大切な女房に肱鉄の乱射を浴せかけられた挙句の果は、近所のセムの背虫男に横奪りされたといふ評判を薄々聞かぬでもないが、其後どうしたのだい。あの儘に泣き寝入りらしいが、それではカルの男振も駄目ぢやないか。何故貞操蹂躙の訴訟を提起せないのか』 カル『ソンナ事が何ぼ何でも男として出来るものかい。貞操蹂躙の訴訟は女からするものぢやないか』 レーブ『女に限つて貞操蹂躙の訴へを起すことを得た時代は、今後三十余万年後の廿世紀の体主霊従の時代の事だ。今日は最早廿世紀より三十余万年の過去の神代だ。男子だつて貞操蹂躙の訴訟が提起出来ない道理があるかい。貴様は未来の法律のみに迷従して、現代の法律を忘れて居るのか、アーン』 カル『それでも婆羅門教では女子の貞操といふことはあるが、男子の貞操といふ事は聞かないからのう』 レーブ『婆羅門教では教主の大黒主さまから一夫多妻主義ぢやから、婦人は丸切り機械扱ひにされて居るやうなものだよ。婦人の立場として貞操蹂躙の訴へでもする権利がなくては堪らないからだよ。然し一夫一婦の道を奉ずる三五教では妻の方から貴様の女房のやうに夫を捨て他の男と情を通じたり、夫を盲目にしよつた時は、男だつて矢張貞操を蹂躙された事になるのだ。男の方からその不貞腐れの女房に対して、貞操蹂躙の訴訟を提起するのは当然だ。女ばかりに貞操蹂躙の訴訟権があるのは未来の廿世紀といふ世の中にて行はれる制度だ。併し婆羅門教は文明的進歩的宗教だと見えて、三十五万年も凡ての規則や行り方が進歩して居るわい。アハヽヽヽヽ』 カル『さうすると、鬼雲姫様は永らく夫の大黒主様と苦労艱難して、彼処までバラモンの基礎を築き上げ、ヤレもう楽ぢやといふ間際になつて、大黒主さまから追出され、其後へ立派な若い石生能姫さまを女房に入れられて、自分は年を老つてから、アンナ残酷な目に合されて居ながら、何故貞操蹂躙の訴訟を提起なさらないのだらうかなア』 レーブ『そこが強食弱肉の世の中だよ。大黒主さまより上のお役もなし、之を制御する法律もないのだから、是計りは致し方がない。司法、行政、立法の三大権力を握つて居るのが大黒主だから、これを制御し懲戒する権利ある者は大自在天様より外にはないのだ。思へば下の者はつまらぬものだよ。鬼雲姫様は随分お道の為には沐雨櫛風、東奔西走して、漸くあれだけの土台を築き上げ、今一息といふ所で放逐とは余り残酷ぢやないか。それだから婆羅門教は無道の教団だといふのだ。是が○○教であつたら大変ぢやないか。部下の宣伝使や信徒が承知せないからなア』 カル『それでも三五教の神柱神素盞嗚尊様は一夫多妻ぢやないか。八人同じやうな年配の女の子があつたぢやないか』 レーブ『神素盞嗚尊様は月の大神様ぢや。元より女房はない。八人乙女の出来たのは肉体の御子ではない。霊魂の美はしき乙女を八人も方々から拾ひ集めて、その乙女の霊魂に対し自ら厳の御息を吹きかけて我子と為したまうたのだ。吾々のやうに暗がりで夫婦が拵へたのとは違ふのだ』 カル『それならあの八人乙女を生んだ肉体の親はあるだらうな』 レーブ『ソリアあるとも、併し乍ら八人乙女とも皆捨児を拾つて自分の子に遊ばしたのだから、両親は尊様には御分りになつて居ても、八人乙女の方では矢張真の父上と思つて居られるやうだ。肝腎要の御精霊を分与されて居るのだから、仮令肉体の児でなくとも肉体以上の近い親しい御児になるのだ。おれ達も矢張神素盞嗚尊様の孫位なものだ。今迄は大黒主の孫だつたが俺も今度いよいよ尊様の孫になつたのだ。貴様も昨日あたりから尊様の曾孫位になつて居るかも知れないよ』 カル『さうか、有難いなア、アヽ惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 レーブ、カルの両人は森林に囀り始めた諸鳥の声に目を覚まし、あたりの明くなつたのに打驚いて、 レーブ『オヽ、カル、もう夜明けだ。よく草臥れてグツと一寝入りやつてしまつた。サア是から両人が力を合はして奥様等の所在の捜索しようぢやないか』 カル『さう慌るには及ばぬぢやないか。たつた今主人になつた所だ。言はば二日月さまのやうなものだよ………。現はれて間もなく隠るる二日月………そんな水臭い主人を捜した所で仕方がないぢやないか。来るものは拒まず、去る者は追はず式で此世を渡つて行かねば、何程石に根つぎをするやうな案じ方をしたつて、会ふ時が来な会はれるものぢやないワ。マアマア気を落付けて惟神に………オツトドツコイ、此奴は言はれぬワイ………お目にかかる時を待つことにしようかい』 レーブ『貴様最早変心しかけよつたな。怪しからぬ奴だ。さういふ冷やかな根性で居ると、又今度は八万地獄へ真逆様に落ちるぞ』 カル『冷やかなといふが、晩秋初冬の境目だ。冷やかなのは当然だ。人は天地に習ふのが惟神ぢやないか。男心と秋の空、曇るかと思へば直に照る、照るかと思へば曇る、天地を以て教となし、日月を以て経とするのだから、貴様のやうな偽善者とは此カルさまはチツと違ふのだ』 レーブ『貴様は森で転寝をして居る間に、又もや大黒主の眷族共に憑依されたのだな。何程秋の空だと云つても、余りキツイ変り様ぢやないか』 カル『代と云ふ字はかはると書くから、刻々に変るのが世の中だ。道端の岩のやうに常磐に堅磐に動かなくては、世界の進歩も天地の経綸も出来るものぢやない。世の中は三日見ぬ間に桜哉………と云ふだらう。それが天地の真理だ』 レーブ『さうするとカル、貴様は大黒主の孫に逆転したのだな』 カル『別に逆転したのでも何でもないよ。鞘を抜き出た刀がキチンと元の鞘へ納まつただけのものだ。矢張俺はかうなつて来ると大黒主の方が偉いやうな気がするワイ』 レーブ『ハハア、さうすると貴様は黄金姫様、清照姫様が側にゐられる間だけは、野良犬のやうに尾を振つて居よつて、表面帰順を装ひ、お二人が何者かに攫はれて見えなくなつたので、又もやそんなズルイ考へを起しよつたのだなア』 カル『面従腹背、長いものにまかれるのが当世だよ。ウツフヽヽヽ』 レーブ『ハハー、此奴ア、ヤツパリ大黒主の眷族が憑依しよつたと見えるワイ。どうやら俺も大黒主気分になつて来よつたぞ。吾ながら吾の心がテンと善か悪か分らなくなつて来たワイ。それなら俺もこれから大黒主様に服従し、黄金姫母娘の所在を注進して、入那の国のセーラン王様の御前に手柄を立てようかなア』 と両人は目と目を見合はしながらワザと大声に呶鳴つてゐる。道端の草の中からムクムクと近よつて来た七八人の男、其中の頭と覚しき目のクルツと光つた、どこともなしに威厳のある男は、セーラン王の左守の司と仕へてゐるクーリンスの家来で、テームスといふ男である。 テームス『今ここに於て様子を聞けば、其方等両人はバラモン教の大黒主様の御家来と見えるが、黄金姫、清照姫の所在を知つてゐるさうだが、吾々に言つてくれまいかなア。左守の司クーリンス様の命令に依つて、吾々は数多の家来を引連れ、黄金姫母娘がここを通過するとの或者の注進に依つて、土中の関所に待つてゐたのだ』 レーブ『ハイ、実の処は其黄金姫母娘に甘く取入り、入那の森まで何とか彼とか云つて連れて参り、セーラン王様に御手渡しして、王様の御手柄にしたいと存じ、イヤ王様の力を借り、共々に手柄をさして頂かうと思ひまして参りました処、狼の群が沢山やつて来て、二人を喰へてどつかへ参りました。併しながらこれには深い秘密があります。只今此処で申上げる訳には行きませぬ。クーリンス様の御前に於てハツキリと申上げますから、どうぞ案内して下さい』 テームス『秘密とあらば強つて聞かうとは申さぬ。それなら入那の都まで案内するから従いて来て下さい』 カル『オイ、レーブ、甘くやつたなア』 と言ひかけて、俄に自分の口を押へ、 カル『イヤ、レーブ、甘いことになつて来たなア。吾々両人の手柄の現はれ時、アヽ勇ましし勇ましし、宝の山は眼前に横はつて来た様なものだ。モシ、テームスさま、吾々両人を大切にせなくちや、黄金姫母娘の所在は口を噤んで申しませぬぞや。吾々の口を開くか開かぬかに依つて、お前さま達や左守の司様の成功不成功が分るるのだから、御機嫌を損ねない様に特別待遇を願ひますよ』 テームス『よくマア恩にきせる男だなア。エヽ仕方がない、余り威張られてもチツとは迷惑だけれど、クーリンス様の命令には代へられない』 レーブ『今は兎も角、何とでも云つて此奴等両人をたらかし、館へつれて帰るが最後、四方八方から槍襖の垣を造り、両人を否応なしに白状さしてやろといふお前さまの下心だらうがな。アハヽヽヽ』 テームス『何と悪気のまはる男だなア。マアどうでも良い。来る所まで来てみなくては分らぬぢやないか』 カル『何せよ、騙し合ひの狸ばかりの世の中だから、このレーブだつてカルだつて、何を吐してるか分りませぬぞや。ウツフヽヽヽ本当のこと言へば、レーブ、カルの両人は、お前さま等の為にドテライ目に会はされるのが怖さに、三五教で居ながら俄にワザと聞えよがしに、お前さまが岩窟にゐるのを前知して喋つたのだから当にはなりませぬぞや。イツヒヽヽヽ』 テームスは声を尖らし、 テームス『コリヤコリヤ両人、今からそんなことを申しても駄目だぞ。偽りを申すな、三五教だと云へば此テームスが驚くかと思うて、左様なことを申すのだろ。そんなことに一杯喰はされるやうな此方ぢやないワイ。自分の心の秘密を吾々に喋る奴があらう道理がない。貴様はヤツパリ、バラモン教の生粋だ。左様なことを申して此テームスやクーリンスに揚壺を喰はせ、直接セーラン王様の前に出て、自分等二人の手柄にしようと思ふのだろ。其手は喰はぬぞ』 と目を剥き出し呶鳴りつける。 レーブ『ハヽヽヽヽ、何が何だか、レーブもサツパリ混線してしまつた。それならマア黄金姫母娘の行方を知つてゐることにしておかうかい』 テームス『ナマクラなことを申すな、正直に申上げるのだぞ。クーリンス様の前で今の様な訳の分らぬことを申すと、お赦しはないぞ』 レーブ『お赦しがなければなくていいワ。肝腎要の三五教の秘密や黄金姫の所在を申し上げぬまでのことだ。アハヽヽヽ、それよりも俺達が直接に大黒主様へ注進致したら、すぐに一国の王位にはして貰へるのだからなア、イツヒヽヽヽ、ボロイボロイ、甘い物は小人数で食へだから、こんな所で博愛慈善主義を振りまいて居つても、あまり引き合ないワ、のう、カル公』 カル『オイ、レーブ、いい加減に意茶つかしておかぬか、テームス様は吾々とは違つて左守の司様の秘書役だから、御機嫌をとつておきさへすれば、どんな出世をさして下さるかも知れないぞ。ねえテームスさま、さうでげせう』 テームス『カルの申す通り、魚心あれば水心あり、水心あれば魚心ありだ。決して悪くは取計らはないから、安心して来てくれ』 レーブ『それなら一つ、どつと安心して、来て呉れてやらうかな。イヤ、テームスさま、何分宜しく御頼み致しやす』 テームス『それなら、左守の司様も大変にお急きだから、サア急いで都へ帰らう』 かく話してゐる所へ、テク、アルマ、テムの三人捻鉢巻をしめ、足腰の痛みも直つたと見え、大変な勢で、 三人『エーサツサエーサツサエーサツサエーサツサ』 と掛声しながら通り過ぎようとする。テームスは之を見て、 テームス『オイオイ、三人の奴共、暫く待てえ』 此声に驚いて三人は立ち止まり、 テク『あゝテームス様で厶いましたか。余り急いだので、ここのお関所も気がつかず通り越さうと致しました。あゝ余り走つたので息苦しい、目がまはるのか天地が廻転するのか知らないが、貴方のお声を聞くにつけ、ガタリと気が弛んで参りました。どうぞ一つ背中を打つて下さいな。ハアハアハア』 と三人はグタリとなつて深傷を負うた軍人のやうに道の上にベタリと平太つてしまつた。 テームス『大声で呶鳴りつけ、叱りつけてやらねば気が弛んでは駄目だ。ヤア家来の者共、三人の気をつけてやれ』 七八人の捕手はバラバラと三人の側に寄り、背中を打つやら、頭から水をぶつかけるやら、大変な大騒動をやつてゐる。漸くにして次々に正気づき、テクは息も苦しげに物語る。 テク『テームス様の仰せにより、吾々三人は猛獣荒ぶ荒野原を入那の森まで進み行く折しも、祠の中に怪しの物音、ハテ不思議と立寄り、様子を窺ひ見れば、当の目的物たる恐ろしき武勇の聞えある黄金姫、清照姫、それに従ふレーブ、カルの両人、吾等一行に打向ひ言霊戦を開始し、吾々三人は息ふさがり、足はなえ、腰を抜かして大地にドツと倒れ伏す、進退維れ谷まり居る折しも、雲押分けて現はれ来る大空の月の影、大自在天大国彦命、天馬に跨がり、悠々として入那の森近く下り給へば、流石の黄金姫、清照姫は其神徳に辟易し、雲を霞と南方指して逃げゆく可笑しさ。レーブ、カルの両人は、吾々三人が神徳に怖ぢ恐れ、ウンと一声其場に倒れ、敢なき最後を遂げにけり。かかる小童武者には目もかけず、黄金姫、清照姫の後を追ひかけ、ここまで来り候。母娘二人は既に既に此一筋道を通りしならむ、テームス様、キツと掴まへ遊ばしたで厶いませうなア。それさへ承はらば吾々三人は仮令此場で相果つるとも、決して恨とは存じませぬ』 と息もせきせき述べ立つる。 レーブ『オイ、テク、随分駄法螺を吹きよるなア。レーブさまもカルさまも貴様より一足お先に此処へ来て居るのだ。テームス様と万事交渉を遂げ、目出度く締盟の済んだ所だ、確かり致さぬか。其方は驚きの余り狂気致したなア』 テク『ヤア、貴様はレーブ、カルの両人か。何時の間に生返りよつたのだ』 カル『オイ、テク、何を言つてるのだ。ソリヤ俺の方から言ふべきことだよ。貴様こそ何時の間に生返つたのだ』 テク『あゝカルか、さうすると貴様はヤツパリ此方の味方だつたのかなア』 レーブ『見方に依つては味方でもあり、敵でもあるワイ。敵の中に味方あり、味方の中に敵のある世の中だ。自分の心の中でさへも敵味方の衝突が絶えず起つてゐるのだからなア。アハヽヽヽ』 テームスは立ち上り、 テームス『何は兎もあれ、左守の司様の館まで急ぐことに致さう』 茲に一行十三人膝栗毛に鞭ちながら入那の都を指して進み行く。 (大正一一・一一・一〇旧九・二二松村真澄録)
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霊界物語 41_辰_黄金姫&清照姫の入那の国の物語1 13 夜の駒 第一三章夜の駒〔一一一七〕 イルナの都、セーラン王の館の奥の間には、王を始め黄金姫、清照姫、テームス、レーブ、カルの六人、上下の列を正し、対坐しながら、ひそびそ話が始まつてゐる。 王『黄金姫様、遠方の所夜中にも拘らず、よくお越し下さいました。これで私も一安心致します。貴女は鬼熊別様の奥様蜈蚣姫様、小糸姫様で厶いますなア』 黄金姫『ハイ、恥しながら運命の綱にひかれて、とうとう夫と別れ、神様の為に三五教の宣伝使になりました。世の中は思ふ様にゆかないもので厶います』 セーラン王『左様で厶いますなア、私も夫婦の道に就いて、非常に悲惨な境遇に陥つて居ります。これでも何時か又神様の御恵に依つて、思ふ様に身魂の会うたもの同士添ふ事が出来ませうかなア。貴女様は最早鬼熊別様と仲よく元の夫婦となつて、神界にお仕へ遊ばすことが出来ませう。私は到底望みがありますまい』 黄金姫『親子夫婦が一緒に神界に仕へる位、結構な事はありませぬが、私の夫は御存じの通り、バラモン教の柱石、私始め娘は三五教の宣伝使、何程神様は一つだと申しても、むつかしい仲で厶います』 セーラン王『決して御心配なさいますな。鬼熊別様は、キツト貴女のお説に御賛成遊ばすで厶いませう。私の今日の身の上は実に言ふに言はれぬ境遇に陥つて居ります。許嫁のヤスダラ姫は奸臣の為に郤けられ、心に合はぬ妻を押付けられ、一日として楽しく暮した事はありませぬ。其上奸者侫人跋扈し、私の身辺は実に危急存亡の場合に陥つて居ります。就いては貴女様をお迎へ申上げ、此危急を救うて頂きたいと存じまして、北光の神様の夢のお告げに依つて、数日前より貴女様の此方へお出ましになるのをばお捜し申して居りました。よくマア来て下さいました。今後は貴女のお指図に従ひ身を処する考へですから、何分宜しく御願ひ致します』 黄金姫『貴方は三五の教を信じますか』 セーラン王『ハイ、別に信ずるといふ訳では厶いませぬが、大自在天様も世界の創造主、国治立尊様も矢張り世界の創造主、名は変れども元は同じ神様だと信じて居ります』 黄金姫『国治立尊様は本当の此世の御先祖様、盤古神王や自在天様は人類の祖先天足彦、胞場姫の身魂から発生した大蛇や悪狐悪鬼の邪霊の憑依した神様で、言はば其祖先を人間に出して居る方ですから、非常な相違があります。神から現はれた神と、人から現はれた神とは、そこに区別がなければなりませぬよ』 セーラン王『あゝさうで厶いますかなア。私は三五教の奉斎主神たる国治立大神様も、盤古神王様も、大自在天様も同じ神様で、名称が違ふだけだと聞いて居ります。私も固くそれを信じて居りましたが、さう承はれば一つ考へねばなりますまい。チヨツト貴女様母娘に見て頂きたいものが厶りますから、どうぞ私の籠り場所へお越し下さいませ。妻でも左守の司でも誰一人入れたことのない神聖な居間で厶います。テームスよ、レーブ、カルと共にここに暫く待つてゐてくれ』 テームスは、 テームス『ハイ畏まりました』 とさし俯むく。王は母娘を伴なひ、籠りの室へ進み行く。行つて見れば、可なり広い室が二間並んでゐる。そこには立派に斎壇が設けられ、いろいろの面白き骨董品などが、陳列されてあつた。床の間の簾を王はクリクリと捲上げ、手を拍ち、祝詞を奏上し始めた。母娘も同じく頭を下げ、小声に祝詞を奏上し、終つて斎壇をよくよく見れば、一幅の掛軸が床の間の正面にかけられ、神酒、御饌、御水等がキチンと供へられてある。これは常に王が潔斎して神慮を伺ふ秘密室であつた。 掛物の神号をよく見れば、天一神王国治立尊……と正面に大字にて記し、其真下に教主神素盞嗚尊と記し、中央の両側に盤古神王塩長彦命、常世神王大国彦命と王の直筆で記されてあつた。黄金姫母娘は此幅に目をとめ、何とも言へぬ爽快さと驚きの念にうたれ、呆然として其神号を眺めてゐる。 セーラン王『私の信仰は此通りで厶います。お分りになりましたか』 黄金姫『思ひもよらぬ御神徳を頂きました。これではイルナの城も大丈夫、御安心なさいませ。併し乍ら此世の御先祖様でも時世時節には対抗し難く、一度は常世彦、常世姫一派の為に、根底の国までお出でなさつた位だから、決して油断は出来ませぬ。貴方の信仰が大黒主の方へでも分らうものなら大変だから、今暫くは発表せないが宜しいぞや』 セーラン王『ハイ、左守の司にさへも此室は覗かせた事はありませぬ。誰も知る者はないのですから、大丈夫で厶います』 黄金姫『仮令此室を覗かぬとも、貴方の信仰が斯うだとすれば、何時とはなしに、貴方の声音に現はれ、皮膚に現はれ、遂にはかん付かれるものです。如何しても心の色は包む事は出来ませぬから』 セーラン王『貴女様が此処へお越し下さつた以上は、余り心配する事も要りますまい。一寸これを御覧下さいませ』 と次の間に二人を導く。見ればここにも一寸した床の間があつて、二幅の絵像が掲げられてあつた。黄金姫、清照姫はアツとばかり驚かざるを得なかつた。それは日頃心にかけてゐる夫鬼熊別の肖像と一幅は神素盞嗚尊の御肖像であつた。清照姫は思はず、 清照姫『あゝこれはお父様、大神様』 と言はうとするを、黄金姫は口に手を当て、 黄金姫『コレコレ清照姫殿、何を仰有る。これはキツト大黒主様と自在天様の絵姿だ。そんな大きな声を出すと、悪魔の耳に這入つては大変ですよ』 清照姫『父上によう似た御肖像で厶いますなア。ホヽヽ』 セーラン王『私は今までバラモン神を信仰して此国を治めて居りましたが、或夜の夢に神素盞嗚大神様、鬼熊別命様と二柱現はれ給ひ、いろいろ雑多の有難き教訓を垂れさせ下さいまして、それより神命に従ひ、私一人信仰を励み、時の到るを待つて居りました。私の夢に現はれたお姿を思ひ出して、自ら筆を執り、ソツとお給仕を致して居ります。鬼熊別様は神界にては神素盞嗚尊様のお脇立になつてゐられます。キツト其肉体も三五のお道へお入り遊ばすでせう。只時間の問題のみが残つてゐるのだと感じて居ります』 黄金姫母娘は物をも言はず感に打たれ、嬉し涙にかきくれてゐる。セーラン王は、 セーラン王『天地の神の恵を目のあたり 拝みし今日ぞ尊かりけり。 素盞嗚神の尊に服ひて 教を守る鬼熊別の神司よ。 鬼熊別神の命は今暫し ハルナの都に忍びますらむ。 時機来ればやがて表に現はれて 三五教の司となりまさむ。 あゝ嬉し黄金姫や清照姫 神の司に会ひし今宵は』 黄金『来て見れば思ひもよらぬ王の居間に わが背の君の姿拝みし。 バラモンの教の御子と思ひしに 摩訶不思議なる今宵なりけり』 清照『千早振る神の光の強ければ 父の命の心照りつつ 吾父は最早国治立神の 教の御子となりましにけむ。 セーランの王の命よ今暫し 時を待ちませ神のまにまに。 清照姫教の司も今宵こそ 積る思ひの晴れ渡りける』 黄金『北光の神の命のかくれます 高照山にとく進みませ。 高照の山は世人の恐ろしく 噂すれども貴の真秀良場。 百千々の狼の群従へて 北光の神は王を待ちつつ。 いざさらばテームス、レーブ、カル三人 後に従へとく出でませよ』 王『黄金姫神の御言に従ひて とく立出でむ高照山へ。 吾行きし後の館は汝命 暫し止まり守り給はれ』 清照『大神の稜威の光に照らされて 道も隈なく安く行きませ。 母と娘が心を協せ身を尽し 入那の城を暫し守らむ』 王『鬼熊別神の命の賜ひてし 生玉章を汝に奉らむ。 心して披き見給へ鬼熊別 神の命の真心の色を』 と言ひながら、鬼熊別より王に遣はしたる密書を黄金姫に恭しく手渡した。黄金姫は手早く封じ目を切り、押披いて読み下せば、左の文面であつた。 『鬼熊別よりセーラン王に密書を送る。 一、これの天地は天一神王大国治立尊の造り給ひし神国にして、決して大国彦、塩長彦の神等の創造せし天地にあらず。又大黒主はバラモン教の大棟梁として兵馬の権を握り、大教主の仮面を被り居らるれども、天は何時迄も斯かる虚偽を許し給はず、必ずや本然の誠に立ち返り、三五教を信従する時あるべし。それに付いては神素盞嗚大神の御摂理に依り、吾妻子近々の中に王が館に訪問すべければ、一切万事を打明け、国家の為に最善の努力をなさるべし。ハルナの都は今や軍隊の大部分は遠征の途に上り、守り最も少なくなり居れり。然るに王に仕ふる右守より王を廃立せむとの願書、大黒主の許に来り、大黒主は数千の騎士を近々差向くる事となりをれば、イルナ城は実に風前の灯火なるを以て、貴王は吾妻子と共に善後策を講じ、一時何れへか避難さるべし。鬼熊別はハルナの都に止まつて、大黒主を悔ひ改めしめ、其身魂をして天国浄土に救はむと朝夕努めつつあり。吾妻子に面会の日を期し、一刻の猶予もなく、安全地帯へ一時身をかくさるべく呉々も注意致します。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と記されてあつた。黄金姫、清照姫は久しぶりに鬼熊別の肉筆の手紙を見て、夫に直接会ひし如く、父に面会せし如く、心勇み、感涙を落しながら、 黄金『あゝ之にて何もかも分りました。北光の神様が一時も早く貴方を狼の岩窟へ誘ひ来れとの御命令も、此手紙の文面にて氷解しました。あゝ、何と神様はどこまでも注意周到なお方だなア』 清照『お父様に直接お目にかかつた様な心持が致します。神様、有難う厶います』 と両手を合せ、神素盞嗚尊の聖像に向つて、感謝の詞を捧げた。 黄金『サアかうなる上は、一刻も早く高照山へ夜の明けない中にお越し遊ばせ。申上げたき事は山々あれど、今はさういふ余裕も厶いませぬ。サア早く早く』 とせき立つれば王は、 セーラン王『左様ならば、万事宜しく願ひます』 と先に立ち、テームス等が控へてゐる居間に姿を現はした。王は母娘と共に表の居間に立現はれ、テームスに打ち向ひ、 セーラン王『テームス、御苦労だが、早く駒の用意をしてくれ。これから高照山へレーブ、カルを伴ひ、出発致すから』 テームス『ハイ承知致しました。併し乍ら黄金姫様の御命令に依り、馬の用意はチヤンと整へておきました。何時なりともお供を致しませう』 セーラン王『あゝそれは有難い。それなら、黄金姫様、清照姫様、あとを宜しく御願ひ致します』 黄金『君ゆきて如何にけながくなるとても われは館を守りて待たむ。 うら安く進み出でませ高照の 山の岩窟に神は待たせり。 三五の教司の北光の神は 君のいでまし待たせ給はむ』 王『いざさらば黄金姫や清照姫 神の命よ惜しく別れむ』 と歌ひながら、慌しく表に出で、裏門口より駒引き出し、暗の道を辿りて、高照山の岩窟指して一行四人は雲を霞と駆り行く。 (大正一一・一一・一二旧九・二四松村真澄録)
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霊界物語 42_巳_黄金姫&清照姫の入那の国の物語2 総説に代へて 総説に代へて ○霊界には神界、中界、幽界の三大境域がある。 ○神界は神道家の唱ふる高天原であり、仏者の謂ふ極楽浄土であり、耶蘇の曰ふ天国である。 ○中界は神道家の唱ふる天の八衢であり、仏者の謂ふ六道の辻であり、キリストの曰ふ精霊界である。 ○幽界は神道家の唱ふる根の国、底の国であり、仏者の謂ふ八万地獄であり、キリストの曰ふ又地獄である。 故に天の八衢は高天原にもあらず、また根底の国にもあらず、両界の中間に介在する中程の位置にして即ち情態である。人の死後直に到るべき境域にして、所謂中有である。中有に在ること稍久しき後、現界に在りし時の行為の正邪により、或は高天原に上り或は根底の国へ落ち行くものである。 ○人霊中有の情態(天の八衢)に居る時は、天界にもあらず又地獄にもあらず。仏者の所謂六道の辻又は三途の川辺に立つて居るものである。 ○人間に於ける高天原の情態とは、真と善と美の相和合せし時であり、根底の国の情態とは、邪悪と虚偽とが人間にありて合致せる時を云ふのである。 ○人の霊魂中に在る所の真と善と美と和合する時は、その人は直ちに天国に上り、人の霊魂中に在る邪悪と虚偽と合致したる時は、その人は忽ち地獄に落つるものである。斯の如きは天の八衢に在る時に於て行はるるものである。 ○天の八衢(中有界)に居る人霊は頗る多数である。八衢は一切のものの初めての会合所であつて、此処にて先づ霊魂を試験され準備さるるのである。人霊の八衢に彷徨し居住する期間は必ずしも一定しない。直ちに高天原へ上るのもあり、直ちに地獄に落ちるのもある。極善極真は直ちに高天原に上り、極邪極悪は直ちに根底の国へ墜落して了ふのである。或は八衢に数日又は数週日、数年間居るものもある。されど此処に三十年以上居るものは無い。此の如く時限に於て相違があるのは、人間の内外分の間に相応あると、あらざるとに由るからである。 ○人間の死するや、神は直ちに其霊魂の正邪を審判し給ふ。故に悪しき者の地獄界に於ける醜団体に赴くは、其人間の世にある時、その主とする所の愛なるもの忽ち地獄界に所属して居たからである。又善き人の高天原に於ける善美の団体に赴くのも、その人の世に在りし時の其愛、其善、其真は正に天国の団体に既に加入して居たからである。 ○天界、地獄の区劃は、斯の如く判然たりと雖も、肉体の生涯に在りし時に於て、朋友となり知己となりしものや、特に夫婦、兄弟、姉妹と成りしものは、神の許可を得て天の八衢に於て会談することが出来るものである。 ○生前の朋友、知己、夫婦、兄弟、姉妹と雖も、一旦この八衢に於て別れた時は、高天原に於ても根底の国に於ても、再び相見る事は出来ない、又相識ることもない。但同一の信仰、同一の愛、同一の性情に居つたものは、天国に於て幾度も相見相識ることが出来るのである。 ○人間の死後、高天原や根底の国へ行くに先だつて、何人も経過すべき状態が三途ある。そして第一は外分の状態、第二は内分の状態、第三は準備の状態である。此状態を経過する境域は天の八衢(中有界)である。然るにこの順序を待たずに、直に高天原に上り根底の国へ落つるものもあるのは、前に述べた通りである。 直ちに高天原に上り又は導かるるものは、其人間が現界に在る時、神を知り、神を信じ、善道を履み行ひ、其霊魂は神に復活して、高天原へ上る準備が早くも出来て居るからである。また善を表に標榜して内心悪を包蔵するもの、即ち自己の兇悪を装ひ人を欺く為に善を利用した偽善者や、不信仰にして神の存在を認めなかつたものは、直ちに地獄に墜落し、無限の永苦を受くる事になるのである。 ○死後高天原に安住せむとして霊的生涯を送ると云ふことは、非常に難事と信ずるものがある。世を捨て、その身肉に属せる所謂情欲なるものを一切脱離せなくてはならないからだ、と言ふ人がある。此の如き考への人は、主として富貴より成れる世間的事物を斥け、神、仏、救ひ、永遠の生命と云ふ事に関して、絶えず敬虔な想念を凝らし、祈願を励み、教典を読誦して功徳を積み、世を捨て、肉を離れて、霊に住めるものと思つて居るのである。然るに天国は斯の如くにして上り得るものではない。世を捨て、霊に住み、肉に離れようと努むるものは、却て一層悲哀の生涯を修得し、高天原の歓楽を摂受する事は到底出来るものでない。何となれば、人は各自の生涯が死後にも猶留存するものなるが故である。高天原に上りて歓楽の生涯を永遠に受けむと思はば、現世に於て世間的の業務を執り、その職掌を尽し、道徳的民文的生涯を送り、かくして後始めて霊的生涯を受けねばならぬのである。これを外にしては、霊的生涯を為しその心霊をして、高天原に上るの準備を完うし得べき途はないのである。内的生涯を清く送ると同時に、外的生涯を営まないものは、砂上の楼閣の如きものである。或は次第に陥没し或は壁落ち床破れ崩壊し傾覆する如きものである。 あゝ惟神霊幸倍坐世 大正十一年十一月十四日 口述者識
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霊界物語 42_巳_黄金姫&清照姫の入那の国の物語2 01 北光照暗 第一章北光照暗〔一一二六〕 神の御稜威も高照山の堅磐常磐の岩窟に 天降り坐したる北光彦の天の目一つ神司 さしもに猛き獣族まで伊豆の慈眼に救ひつつ 瑞の教を遠近に開かせたまふ尊さよ その妻神と現れませるこころも直なる竹野姫 朝な夕なの起ふしに諸の獣族を愛くしみ 美都の御霊の御教を体現しますぞ畏けれ 神の御綱に曳かれつつここに耶須陀羅姫の命 テルマン国の毘舎の家シヤールの夫の暴状に 堪り兼ねたる時もあれ忠誠無比の下男 リーダーの誠に助けられ夜を日に次いで入那国 蓮の川辺に来る折右守の司の放ちたる 数十人の手下等に取り囲まれて主従は 進退茲に谷まりしその一刹那後方より 声も涼しく宣伝歌聞え来ると思ふうち 諸国巡修の竜雲が此処に現はれ主従が 危難を救ひ寄手をば彼方の野辺に追ひ退りぬ 耶須陀羅姫とリーダーは危救の恩を謝しながら 竜雲司に守られて照山峠の麓まで 進みて来る折もあれ三五教の宣伝使 黄金姫や清照姫のその一行に邂逅して 北光神の伝言を聞きて歓び勇みつつ 袂を別つ右左狼巣ぐふ高照の 深山を指して三人は膝の栗毛に鞭を打ち 漸く谷を数越えて北光神の鎮まれる 岩窟館に着きにけり天の目一つ神司 竹野の姫も歓びてこの珍客を優待しつ 誠一つの三五の教を諭す時も時 黄金姫や清照姫の貴の命の計らひに 入那の城主と時めきしセーラン王はカル、レーブ その他の従者と諸共に駒に鞭打ち出で来り 又もや不思議の対面に日頃慕ひし相愛の 目出度き男女の語り合ひ実にも割無く見えにける 北光神は慇懃に天地の神の経綸を 心を籠めて宣り伝へさしもに寂しき岩窟も 萎れ切つたる夏草の白雨に蘇生せし如く 天国浄土の花咲きぬアヽ惟神々々 御霊幸はへましまして四十二巻の物語 車の轍もすらすらと進ませたまへ世を守る 畏き神の大前に謹み敬ひ願ぎ奉る。 北光の神なる天の目一つの神は白髯を撫でながら、セーラン王や耶須陀羅姫、竜雲その他を集めて、神界の御経綸や神示に就て綿密なる解釈を与へつつあつた。 セーラン『昨日より承はりました世界の終焉に就て、今一応詳細なる説明を御願ひ申上げ度きもので御座ります。瑞の御霊の御神示の中に、世の終りの来る時は其日の患難の後、直ちに日は暗く月は光を失ひ、星は空より墜ち、天の勢ひ震ふべし。其時、人の子の徴天にあらはる。又地上にある諸族は哭き哀しみ、且つ人の子の権威と大なる栄光とを以て天の雲に乗り来るを見む。又その使等を遣はし、ラツパの大なる声を出さしめて、天の彼の極みより此の極みまで、四方より其選ばれし者を集むべし……とあるのは、其言葉の通りに解すれば如何なもので御座りませうか、文字通りに解すべきものとすれば、最後の神の審判と云はれてある世界終焉の時に、是等の恐るべき事件が出現すると見なくてはなりませぬなあ』 北光神『この予言を以て教示の文字通りに解するものは可成沢山あるさうです。是等の人は日月光を失ひ、星は空より墜ち、主なる神の徴天に現はれ、又雲の中よりラツパを持つた天使は、瑞の御霊の救世主と共に、現実的に天より降り給ふものと思考して居るのみならず、見る限りの世界は悉く滅びて、茲に始めて新しき天地の出現を見得らるるものと早合点して居るのである。三五教の宣伝使の中に於ても、此の如く信じて居る人があるやうです。斯の如く信じて居る人は、神諭の微細なる所に至るまで密意の存在しある事を知らないのである。神諭の裡には文字の如く解すべき自然的世間的の事では無くして、心霊的、神界的の秘事を包含されて居る。一文一句のうちにも、一々内義を含ましめむために、悉く相応の理に由りて示諭されてある。故に神諭は、普通の知識や学問の力では、到底真解さるるものでは無い。是即ち神聖なる神諭たる所以である。 主なる神、大空の雲に乗りて来るとの神示も亦此内義に由つて、解釈すべきものである。 即ち暗くならむといふ日は 愛の方面より見たる救世主厳の御魂を表はし、 月は信の方面より見たる 救世主瑞の御魂を表はし、 星は 善と信との知識又は 愛と信との知識を表はし、 天上に於ける人の子の徴は 神真の顕示を表はし、 地上に於て哭き哀まむと云ふ諸族は 真と善、又は 信と愛とより来る万事を表はし、 天の雲に乗りて権威と栄光とを以て主即ち救世主の来らむといふのは、 神諭の中に救世主の現存することを表はし、 かねて其の黙示を表はし、 雲は 神諭の文字に顕はれたるを表はし、 栄光は 神諭の内に潜める意義を表はし、 天人のラツパをもちて、大なる声を出すというてあるのは、 神真の由りて来るべき天上界を表はしたものである。 この故に救世主の宣へる如上の言葉は、何の意義なるかと云へば、 教の聖場の終期に当りて 信と愛とまた共に滅ぶる時 救世主は神諭の内意を啓発し、神界の密意を現はし給ふといふ事である。目下の婆羅門教徒もウラル教徒も亦三五教徒も、殆ど全部知るものなしと謂つても良い位だ。実に宣伝使の職にあるものすら、神諭のわが解釈を否まむとする者計りだ。そして彼等の多くは曰ふ。『何者か、能く神界を探査し来りて、是等の事を語り得るものぞ』と。斯の如き説を主張する者、特に世智に長けたる人々の中に多々あるを見る。其害毒の或は真率純真の人に及ぼし、遂に其信仰の壊乱を来すの恐れあるを歎き、我は常に霊魂を浄めて天人と交はり、之と相語り合うたのである。天人と言語を交換する事、人間界と同様に神界より許されて、親しく天界に起る諸多の事件や地獄の有様をも見ることを許され、神界の真相を天下万民に伝へ示し、説き諭すに努めて居るのは、無明の世界を照破し、不信の災を除き去らむが為である。例へ神諭に天地が覆へると示してあつても、泥海になるとあつても、人間が三分になると示されてあつても、眩舞が来るとあつても、決して之を文字其儘に解すべきものでない。凡て内義的、神界的、心霊的に解すべきものである。さうで無くては、却て天下に大なる害毒を流布し、神慮を悩ませ奉る事になるものである事を承知せなくてならぬと思ふ。併し乍ら、是は北光一家の私言だ。脱線して居るかも知れぬ、アハヽヽヽ』 セーラン王『御懇篤なる御教示を蒙りまして、吾々も漸くにして迷夢を醒ましました。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と感涙に咽ぶ。ヤスダラ姫も竜雲も、其他の一同も息も継がず、北光神の示教を聴聞し、感謝の涙に暮れつつあつた。 北光神『サアサアセーラン王様、ヤスダラ姫様、レーブ、カル殿、是より入那の城に乗り込み、邪神を言向和すべく時を移さず出陣されよ。時遅れては大変だ。黄金姫、清照姫様も待つて居られます』 と平素落着き払つた神に似ず急き立てる。セーラン王は此の言葉に立上り、 セーラン王『重々の御親切に預かりました。然らば、是より三五教の言霊を以て、悪人を善道に導く首途に際し、神様に宣伝歌を奏上致しませう』 と銀扇を開いて、声も涼しく歌ひ始めた。その歌、 セーラン王『神が表に現はれて善神邪神を立別ける 天地を造りし神直日霊魂も広き大直日 只何事も人の世は神の御旨に任すのみ 怪しき卑しき人の身のいかでか正邪を覚り得む 大黒主の神司八岐大蛇の表現と 吾は心に思へども尊き神の摂理の下に 弱き身魂を救はむと邪神と顕現ましまして 試させ給ふも計られず他人を悪しと思はずに 吾身の罪を省みて日に夜に感謝の生活を 楽しむならば天地の神は必ず守るべし 吾身の罪悪の有様が写り給ひしものならむ あゝ惟神々々無抵抗主義の御教に 刃向ふ敵はあらざらめあらゆる曲津も醜神も 大蛇も凡て他にあらず執着心の雲深き 穢なき身魂に憑依して吾身の罪が自ら 吾身を苦しめ攻むるなりあゝ惟神々々 ヤスダラ姫と諸共に心の駒を立直し 邪神と悪みしカールチンテーナの姫は言ふも更 サマリー姫を憐れみて吾等に与へし無礼をば 直日に見直し聞き直し広き心に宣り直し 入那の国の民草を安く楽しく神国の 花咲く春の歓びに救ひて天津神国の 貴の消息や福音を導き諭し麻柱の 誠一つの御教に習はせ上下親しみて 常世の春を楽しみつ地上に降りし天国の 神の柱と仕ふべし北光神よ竹野姫 いざいざさらばいざさらば是よりお暇申し上げ 入那の都へ堂々と轡を並べて立帰り 国人等の心をば安んじ救ひ大神の 誠の教を伝ふべしあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 と歌ひ了り、用意の駒にヒラリと跨がり、一行七人は北光神夫婦に別れを告げ、手綱かいくり、山路を狼の群に送られ、ハイハイハイと駒を警しめながら高照山を降り、入那の都をさして進み行く。 (大正一一・一一・一四旧九・二六加藤明子録)
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霊界物語 42_巳_黄金姫&清照姫の入那の国の物語2 20 入那立 第二〇章入那立〔一一四五〕 サマリー姫は父カールチンの夜更けて帰り来らざるに心を痛め、サモア姫、ハルマン其他二三の家僕を従へ、イルナ城の表門を潜つて広庭迄やつて来た。東雲の空漸く紅く、霜柱の立つてゐる庭の芝生や土の上にぶつ倒れて、カールチン始め十数人の家の子はふんのびてゐる。サマリー姫は眉をひそめながら、 サマリー姫『エヽ情ない、何として又斯様な処に、父を始めユーフテス、マンモスが倒れてゐるのだらう。ハルマン、一つ揺り起してくれないか』 ハルマン『ハイ承知致しました』 と云ふより早く、捻鉢巻に襷をかけ、まづ第一にカールチンを抱き起した。カールチンは目をこすりながら、あたりをキヨロキヨロ見廻し、 カールチン『ヤア其方はサマリー姫、サモア、一体ここは何処だ。俺が酒に酔つたと思つて、屋外へ放り出しよつたのだなア。怪しからぬ事を致す、ヨーシ、此方にも考へがある』 と立上らうとする。何人の悪戯か知らぬが、庭先の巨大なる捨石に紐を以て腰から括りつけられ、動く事が出来ぬ。 サマリー姫『カールチンさま、しつかりなさいませ。ここは入那城内の大広庭で厶いますよ。貴方は昨夜よからぬ事を考へて、城内へ闖入し来たのでせう。神罰立所に当つて、こんな態の悪い乞食のやうに野天で倒れてゐたのでせう。コレ、ユーフテス、お前もシツカリせないか、何といふ黒い顔をしてゐるのだ。顔中墨が一杯ぬつてあるぢやないか』 ユーフテス『ヘー、兎も角、旦那様のお供を致しまして、うまく敵を殲滅し、いよいよ刹帝利になられた御祝にお酒を頂戴致し、余り酔うた揚句、こんな所まで、副守護神が肉体を伴れて、酔ざましに出張したと見えます。イヤもう、ラツチもないことで厶いました。アツハヽヽヽ』 サマリー姫『ナニ、其方はカールチンと共に、セーラン王様を暗殺しよつたのだなア。モウかうなる上は王様の仇敵、覚悟をしたがよからう』 と懐剣をスラリと抜いて逆手に持ち、ユーフテスに向ひ斬つてかかるを、ハルマンは後より姫の両腕をグツとかかへ、 ハルマン『先づ先づお待ちなさいませ。これには何か様子のある事で厶いませう。狼狽て仕損じてはなりませぬ』 マンモス『ヤアここは城の馬場だつた。サツパリ狐にやられたと見えるワイ。モシモシカールチン様、陰謀露顕に及んでは大変です、サア早く逃げませう。オイ、ユーフテス、お前も早く逃げたり逃げたり』 カールチン『コリヤコリヤ、両人、何も騒ぐ事はない。先づ俺の綱をほどいて、俺が逃げたあとで逃げるのだ。主人を捨てて、貴様ばかり自由行動をとるといふ事があるか、エーン』 サマリー『オホヽヽヽヽ、何とマア、とぼけ人足ばかり集つたものだなア』 サモア『見れば旦那様にユーフテスにマンモスの三人、失恋党の領袖連ばかりが、お揃ひで………何と面白い夢を見られたものですなア』 カールチンは目に角を立て、 カールチン『コリヤコリヤサモア、失恋党とは何だ。マ一度言つて見よ。了簡致さぬぞ』 サモア姫『誠に御無礼なことを申しましたなア。余り可笑しいものですから、ツイ脱線しました。オホヽヽヽ』 かかる所へ竜雲、レーブ、カル、テームスの四人、館の玄関をパツと開き現はれ来り、 竜雲『ヤア、カールチン殿、サマリー姫様、先づ奥へお越し下さいませ。王様がお待兼で厶います』 サマリー姫は嬉しげに、 サマリー姫『ハイ、お前さまは竜雲さまとやら、此カールチンの悪人をよく戒めて帰して下さい。妾は一時も早く王様に御面会を願ひませう。コレ、ハルマン、案内をしておくれ』 と云ひながら、サマリー姫は王の居間をさして、ハルマンと共に進み行く。 カールチン『到頭酒に食ひ酔うて、知らず知らずに登城の途中、斯様な所でくたばつたと見える。何者か悪戯をしよつて、某が腰に紐を括りつけよつたと見える。兎も角も竜雲殿、拙者の紐をほどいて下され。手も一緒に括られてゐるやうだ』 竜雲『アハヽヽヽ、念の入つた泥酔だなア』 と云ひながら、手早く縛めをほどいた。これはレーブが昨夜ソツと悪戯をしておいたのである。ユーフテスの顔の黒くなつたのも、矢張りレーブの副守の悪戯であつた。 カールチン『ヤア有難い、サア、是から館へ帰らう。オイ、ユーフテス、マンモス、後につづけ』 テームス『待つた待つた、さうはなりませぬぞ。今王様が右守司に面会したいと仰有つて奥に待つてゐられます。一つ御礼を申上げたい事があると言はれますから、サア遠慮なしに奥へお通りなされませ。ユーフテスさまも手水を使つて一緒に拝謁をなさいませ。マンモスも同様だ』 ユーフテス『イヤ、滅相もない、王様に御礼を云はれるやうな悪い事は致して居りませぬワイ。此場はこれで御見逃しを願ひます』 テームス『さう心配を致すな、案じるより生むが易い。マア行く所まで行つて見な、善か悪か吉か凶か分つたものぢやない。一つ悪い気がした所で、たつた一つの首をとられると思やいゝぢやないか。首の一つ位何ぢやい。アーン』 ユーフテスは首のあたりを手で探りながら、 ユーフテス『ヤア、ヤツパリ俺の首は依然として密着してゐるワイ、どうぞ今日は大目に見逃してくれ。命の親だから』 テームス『何と云つても勅命だ。綸言汗の如し。一度出づれば之を引込める訳には行かぬ。サア行かう』 と素首をグツと引掴んだ。ユーフテスは弥之助人形のやうに、ビツクリ腰をぬかし、手も足もブラブラになつた儘、テームスに引張られて、奥殿へ運ばれた。竜雲はカールチンを引抱へ、これ亦奥へ進み入る。レーブ、カルはマンモスを二人して引担ぎながら、これ亦奥殿へ運び入れた。 失恋党の三人は王の前に引出され、色青ざめ、唇を紫色に染めてガチガチと歯を鳴らしてゐる。 セーラン王『右守司殿、随分昨夜は御愉快で厶つたらうなア』 カールチン『ハイ、夢の中で夢を見まして、イヤもう何とも申上げやうが厶いませぬ』 と訳の分らぬ事を恐る恐る答へた。 セーラン王『アハヽヽ、天下をとると云ふ事は、随分愉快なものだらうなア。どうだ、是から其方は刹帝利の後をついでくれる気はないか』 カールチン『メヽ滅相もない、何事も王様の御意に任します。王様のお言葉とあらば、一言も背きは致しませぬ』 セーラン王『余が言葉ならば一言も背かぬと申したなア。それに間違はないか』 カールチン『ハイ、武士の言葉に二言は厶いませぬ』 セーラン王『然らば汝右守司、叛逆未遂の罪に依つて割腹仰せ付ける』 カールチンは此言葉に肝を潰しひつくり返り「アツ」と叫んだ。 セーラン王『割腹仰せ付けるといふは表向き、其方は今日限りテーナ姫が凱旋あるまで、閉門仰せ付ける。有難く思へ』 カールチンはヤツと胸を撫で下し、 カールチン『ハイ、割腹に比ぶれば、閉門位は何とも厶いませぬ。私一人で厶いますか』 セーラン王『イヤ、ユーフテス、マンモスも同様だ。一人々々別個に閉門する時は、妙な心を出し、悲観に陥つては却て為にならぬから、其方等三人は右守の館に同居閉門を命ずる。勝手に酒でも飲んで失恋会議でも開いたがよからうぞ』 ユーフテス『ハイ、何と粋の利いた王様、誠に以て重々の御厚恩、御礼の申上げやうも厶いませぬ』 セーラン王『汝等三人、男ばかりにては炊事其外万端に支障を来すであらう。これよりヤスダラ姫、セーリス姫、サモア姫をお給仕として百日間共々に汝の側に侍らすから、有難く思へ』 カールチンは不思議さうな顔をして、王の面体を打眺め、呆然としてゐる。 セーラン王『アハヽヽ、今日より、この入那城は三五教の教理を遵奉し、喜ばして改心をさせる方針だから、汝等も満足であらう。イヤ清照姫殿、セーリス姫殿、サモア姫殿、御苦労ながら百日間閉門を致す、三人の失恋党を満足させてやつて貰ひたい』 清照『王様、お戯談を仰有るも程があります。苟くも王者として、戯談を仰有るといふ事はありますまい』 セーラン王『決して戯談は申さぬ。清照姫殿は王の危難を救ひ、入那城の安泰を計つて下さつた殊勲者である。さりながら三五教の道に在りながら、権謀術数を以て敵を籠絡するは大道に違反するもの、是非々々カールチン、ユーフテス、マンモスの仮令百日なりとも、閉門中の世話をなし、彼等三人を心の底より満足して改心致すやうになさるのが、そなたの罪亡ぼしだ。黄金姫殿、左様では厶らぬか』 黄金姫『オホヽヽそれ見なさい、清さま、余り智慧が走ると、こんな天罰を受けねばなりませぬぞや。これだから誠正直で行かねばならぬといふのだ、自分の美貌を看板に男をチヨロまかし、王の危難を救ふのはよいが、其権謀術数が宣伝使としての行ひに反してゐるのだから仕方がありませぬ。サア清さま、セーリス姫さま、サモアさまも、男をチヨロまかした神罰が酬うて来たのだから、百日の閉門の間、三人の方に虫の得心する所まで親切を尽すのだよ。オツホヽヽ、エライことになつたものだ。王様のお言葉には、一言も反かうと思うても、背く余地がありませぬワイ』 清照『ハイ有難う厶います。三人閉門の処へ又三人の女が附添ふとは、何とマア都合の好い事でせう。お母アさま、百日も一緒に居りますと、どんな気になるかも知れませぬから予め御承知を願つておきますよ。なア、セーリス姫さま、貴女だつて、フトした機みから、本当にユーフテスさまがゾツコンお好きになられるかも知れませぬわねえ。サモアさまだつて其通りでせう。オホヽヽ』 黄金姫『エヽ仕方がない、男女の道は何程親が目を光らして居つても、防ぐことは出来ない、まして百日も離れて居れば、如何ともすることが出来ないから、清さまの自由意思に任しませう』 セーラン王『右守司殿、サア三人の女と共に男女六人、早くここをお立ちなされ』 カールチン『閉門は確にお受け致しました。併しながら、今の王様のお言葉にて満足致しました以上は、清照姫様のお附添ひは御無用で厶います。私が悪いので厶いますから、清照姫様が私をいろいろと操り遊ばしたのも、決して恨みとも無理とも思ひませぬ。かへつて清照姫様に来て貰つては迷惑を致します。又百日の閉門中に心の悪神を放り出し、誠の精神に立復りたく存じますれば、異性が側に居りましては、満足に修行も出来ませぬから、何卒こればかりは御取消を願ひます。ユーフテス、マンモスも私と同意見だと思ひますから、何卒宜しくお取上げを願ひます』 セーラン王『然らば汝の望みに任す』 カールチン『ハイ有難う厶います。心の曇つた吾々、悪逆無道をお咎めもなく、閉門位でお許し下さるとは御礼の申し様も厶いませぬ。今後は何処までも誠を尽し、王様の御恩に報ずる考へで厶いますれば、何卒々々御見捨てなく、百日後は下僕の端になりとお使ひ下さらば有難う存じます』 サマリー姫は声も涼しく三十一文字を歌ふ。 サマリー姫『大君の恵の露にうるほひて 野べの醜草も甦りける。 重々の罪汚れをもカールチン 宣直します君ぞかしこき。 カールチン父の命よ今よりは 二心なく君に仕へませ』 カールチン『有難しセーラン王の勅言 千代も八千代も忘れざらまし。 罪深き吾を見直し聞直し 宣り直します三五の神。 恋雲も今や全く晴れにけり 三五の月の光見しより』 ユーフテス『いろいろと恋の魔の手にあやつられ よからぬ事を企みてし哉。 村肝の心に住める鬼大蛇 今は全く消え失せにけり』 セーリス『ユーフテス神の司よ聞し召せ 恋と欲との二道は立たず。 欲に迷ひ恋に迷ひていろいろと あやつられたる人ぞいぢらしき。 われも亦よからぬことと知りながら 君迷はせし心は恥し』 サモア『マンモスを舌の先にていろいろと 弄びたる吾ぞうたてき』 マンモス『恥しや恋の囚となり果てて 思はず恥をさらしける哉。 大君の恵の露の深くして 重き罪科赦されにけり』 竜雲『月も日も入那の城の暗雲も 晴れて日の出の御代となりけり』 黄金『三五の神の光の現はれて 入那の城に旭かがやく』 セーラン『有難き神の御稜威に守られて 入那の城に月は輝く』 ヤスダラ『はるばるとテルマン国を逃げ出して 尊き君に会ひにけるかな。 さりながら神の光に照らされて 吾恋雲は消え失せにけり。 サマリー姫貴の命よ今よりは セーラン王に仕へましませ。 ヤスダラ姫貴の命は黄金姫の 教に従ひ神の道行かむ』 テームス『四方八方を深く包みし雲霧も はれて嬉しき今日の空哉』 カル『足曳の山野も清く晴れにけり 入那の城の神の伊吹に』 レーブ『何事もなくて治まる君が代は さながら神代の心地せらるる。 われも亦黄金姫に従ひて ハルナの空に向ふ嬉しさ』 茲にいよいよヤスダラ姫は神の教に照らされて、セーラン王を恋ひ慕ふ心を転じ、天下万民の為に誠の道を四方に宣伝せむことを誓ひ、黄金姫の一行と共にハルナの都に進むこととなつた。セーラン王は今まで忌み嫌うてゐたサマリー姫を深く愛し、夫婦相並びて入那の城に三五の教を布き、国家百年の基礎を固むる事となつた。そしてカールチンは改心の結果、右守司と元の如く任ぜられ、テーナ姫の凱旋を待つて夫婦睦じく王に仕へた。セーリス姫は王の媒酌によつてユーフテスの妻となり、又サモア姫も王の媒酌に依つてマンモスの妻となり、入那城に仕へて子孫繁栄した。黄金姫は清照姫、ヤスダラ姫及びハルマンと共にハルナ城に向つて進むこととなり、レーブ、カル、テームス、竜雲は別に一隊を組織し、三五教の宣伝歌を歌つて各地を巡教しつつ、ハルナの都を指して進み行くこととなつた。リーダーは王の忠実なる臣下となつて側近く仕ふる事となつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一一・二五旧一〇・七松村真澄録)
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霊界物語 42_巳_黄金姫&清照姫の入那の国の物語2 26 宣直歌 第二六章宣直歌〔一一五一〕 竜山別『常暗の曇り果てたる世の中は 竜山別の頭尊き。 身も魂も光る印に頭まで 清く照るなり竜山別は』 テームス『有難し頭まで照る神司 吾に与へし神ぞ畏き。 レーブ、カル汝も喜べ頭照る 神の御供に仕へし身をば』 清照『面白し竜山別の神司 常世の国まで照らしたまはむ』 黄金『照り渡る竜山別の頭こそ 機動演習の道場なるらむ。 月も日も皆てり渡る頭こそ 天と地とをわがものにせむ』 竜山別『月も日も星も照るなる吾頭に なほも宿らす天地の神。 正直の頭に神は宿るてふ その神柱いとど目出度き』 カル『月も日も星さへ宿をカル頭 竜山別は神にまします』 竜山別『アハヽヽヽあきれ果てたる人々の その言の葉に吾顔照れるも』 サマリー『お頭りは光りて老人と見えぬれど 赤らむ顔に若きをぞ知る』 竜山別『若がへり若がへりして現し世に 生れ来りし竜山別よ。 吾こそは言霊別の御子なりし 竜山別の生れ変りぞ。 顕幽に幾度となく出入して 又も此世で恥をかきしよ。 わが霊は神代の昔エルサレム 醜原別に従ひし曲。 国照の姫の命に背きたる 竜山別の霊の御末ぞ。 さりながら神は許させたまひけむ 今日改めて司となりぬ。 ここだくの罪や汚れも荒磯の 浪に捨てたる吾ぞ嬉しき』 テームス『いざさらば君の御前を竜山別の 司と共に首途せむかな』 竜山別『レーブ、カル、テームス三人吾と共に 三五の道開きゆくべし』 清照『いざさらば右守の司のカールチン 縁は尽きじ又も会はなむ。 くれぐれも許したまはれ吾罪を 恨みたまはず憎みたまはず』 カールチン『清照の姫の司をヤスダラ姫の 司と思ひし吾の愚かさ。 心から思はれ恋はれ居るものと 笑壺に入りし吾の愚かさ。 いざさらば清照姫よ大神の 道にまさしく進みましませ』 セーリス『心にもなき恋衣着飾りて 化け終せたる吾ぞうたてき。 大君のみこと畏みユーフテスを わが背の君と仰ぎまつらむ。 はしたなき女とおぼし給ふまじ まことより出し嘘の悪戯。 嘘ごとも今はまこととなりにけり 操りし人に今は添ひつつ』 ユーフテス『何事も神の任さしのままならば 心安かれセーリスの姫。 恋衣幾重かさねて今ははや 脱ぎ捨て難き身とはなりぬる』 サモア『吾とても神の大道に背きたる 醜の醜業敢てせしかな。 厭ひてし人と夫婦の契をば 結ぶも神の心なるらむ。 今はただ恋しくなりぬマンモスの わが背の君と千代を契らむ。 マンモスよ許させたまへ偽りの 心汚き吾行ひを』 マンモス『何事も晨の露と消え果てし 今日は心に朝日照るなり。 朝日影漸く西にイルナ城 夕の契り頼もしきかな。 常暗の夜に睦びあふ恋の道に しばしば雲のかからざらめや』 サモア『頼もしきわが背の君の言の葉は 花咲く春に逢ふ心地せり。 千代八千代変らず睦び親しみて 世人のために道を開かむ』 北光『天地を包む雲霧くまもなく 晴れ渡りたる今日ぞ尊き』 セーラン『常夜行く暗は晴れけり三五の 月の光に照らされし身は』 黄金『月も日も西にイルナの城の上に 千代を寿ぐ群烏かな』 清照『大神の光隈なく照り渡り イルナの城は魔の影もなし』 竜山別『いざさらば吾大君に暇乞ひ 月の山路を照らしゆくべし』 ハルマン『駒彦が心の駒にむちうちて ハルナの都へかけりゆくかも。 春駒の勇み進んで三五の 道伝へゆく吾ぞ嬉しき』 ヤスダラ『大君に悲しき袂を分ちつつ 嬉しき道の旅をなすかな』 カールチン『いざさらば百の司よ恙なく 神の大道に進み行きませ』 クーリンス『常闇の夜は晴れ渡るイルナ城 左守の司も心勇めり。 ヤスダラの姫の命よ心して 虎伏す野辺を進み行きませ。 惟神神の教をよく守り 安く往きませハルナの都へ』 ヤスダラ『いざさらば父の命よまめやかに 命ながらへ君に仕へませ』 かく各歌を詠み交し、惜しき別れを告げて、宣伝の旅に出立する事となつた。冬の太陽は煌々として斜に宣伝使の頭上を照らさせ給うた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一一・二五旧一〇・七加藤明子録)