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(2023)
霊界物語 31_午_南米物語3 国依別の旅 14 樹下の宿 第一四章樹下の宿〔八八〇〕 波に浮べる高砂のヒルとハルとの国依別が 険しき山をよぢ登り安彦、宗介両人を 従ひ登るブラジルの細き谷間を打渡り 夜を日についではるばるとハルの原野を打渉り アマゾン河の森林に思はず知らず迷ひ込み 鷹依姫の一行や高姫一行に巡り会ひ モールバンドの怪を言向け和し万民の さも恐ろしき災禍を除き清めし物語 いよいよ茲に述べ立つる。 国依別はキジに安彦といふ名を与へ、マチに宗介と云ふ名を与へ、道々三五の教を説き諭し乍ら、其昔淤縢山津見司が、木の花咲耶姫の化身なる蚊々虎と通過したる[※第8巻第15~16章参照]、ブラジル峠の山頂に息を休め、それより大原野に出づる事となつた。 国依別一行はブラジル峠の山麓にて日を暮らし、大木の根元に夜露を凌ぎ一夜を明かす事となりぬ。 国依別、安彦は他愛もなく旅の疲れに、よく眠つて居る。宗介は何となく、胸騒ぎがして、マンジリとも得せず、二人の間に挟まつて、横たはつて居た。忽ち聞ゆる猛の声、心飛び魂消ゆる計り、其厭らしさに宗介は、戦慄堪へ切れず、安彦の体にしつかり喰ひ付き、夜の明くるを一刻も早かれと祈つて居た。 夜明に間近くなつたと見え、猛の叫び声は何時とはなしに消えて了つた。折柄二人の男、大木の株に腰をかけ、ヒソビソ話に耽つてゐる。同じ一本の大木と雖も、五十丈許り[※1丈=約3mとすると50丈=約150mになる]も周つた幹、一方の方には三人が他愛なく横たはつて居るのも、一方に腰打かけてる二人の目には止まらうやうもなかつた。 どこともなくヒソビソ話が耳に這入つて来るので宗介は、ソツと空をすかし乍ら、声する方に近寄つて耳を立てて、一言も洩らさじと聞いて居る。 モリス『オイ秋……ここまで捜しに来たのだが、モウ駄目だぞ。日暮シ山では、ハル、ナイルの両人に追ひまくられ、様子を聞けば国依別は今朝程立つたと言ひよつたので、何人連れかと聞いて見れば、指を三本出して居やがつた。的切り、ク印とエ印を連れてノホホンで、宣伝をだしに天下を漫遊すると云ふ考へだ。俺も男の意地で、仮令命がなくなつても、彼奴の後をつけ狙ひ、国依別の隙を窺ひ、谷底へでも突き落し、二人のナイスを此方のものにせぬことには、阿呆らしうて、世間へ顔出しも出来ぬぢやないか。最早行方が分らぬと云つて此儘泣き寝入る訳にも行かず、何とか工夫はあるまいかなア、秋さま』 秋山別『モリ公、お前も中々執着心が深いねい。こんな所迄スタスタと尻を付けて来るのだから、こンな連中に狙はれた女こそ、蛇に魅入られた蟇のやうなものだよ。本当に思へば思ふ程、二人の女が可哀相になつて来た。俺もここまで心猿意馬の狂ひに引かされて、来るは来たものの、何時の間にか、心の猿も思ひの馬も、どつかへ、愛想をつかして、絶望を叫び、帰つて了つたやうな気分になつて来た。モウ仕方がない、是から後へ引返さうぢやないか』 モリス『勝手にせい、俺は何処迄もやり遂げるのだ。男がのめのめとどの面さげて、国許へ帰る事が出来ようかい』 秋山別『併し何程二人の女に懸想して居つても、国依別の居る以上は駄目ぢやないか。彼奴を如何かして……』 と云ひ乍ら小声で何か耳のはたで稍暫し囁いて居る。宗介は何うしても其声が余り低いので聞えなかつた。 モリス『……此処を一里計り先へ行くと、丸木橋がある。相当に深い谷川で、そこへ落ちようものなら、どんな太い男でも五体がメチヤメチヤになつて了ふと云ふ事だから、今の中に先へ廻つて、其橋のつつぱりを取り、国依別が一足跨げるや否や、バサツと落ちる様に工夫をせうぢやないか。藤蔓か何かで、橋の一方を括つておき、国依別が跨げるや否や、谷底へ隠れて居つて、其綱を引くのだ。さうすると、ズヽヽヽズドン、ウン、キヤア……とそれつきり、憐れなりける次第なりけりだ。さうせうぢやないか』 秋山別『それ程骨を折つたつて、国依別の通つた後だつたら、骨折損の草臥儲けになつて了うぢやないか』 モリス『ナアニ、大丈夫だよ。半日位先に出たと云つても、向うは足弱女を連れてるんだし、此方は健脚家計りのお揃だから、キツと俺の方が先へ勝つにきまつてる。彼奴はまだ二三里位後に女と意茶ついて居よるに違ひない。サア早く行かぬと、追ひつかれると大変だぞ。作業が済まぬ中に来よつたら何にもならぬからなア。もしも女が渡りよつたら、黙つて渡してやるのだ。国依別が足を二歩三歩かけよつたが最後一イ二ウ三ツで引張るのだ。何と秋さま、妙案だらう』[※御校正本・愛世版では「もしも女が渡りよつたら」以降を秋山別のセリフにしているが、それでは会話がおかしくなる。作戦を練っているのがモリスで、それに否定的なのが秋山別である。校定版ではそれを考慮して、区切り位置を「一人の女が」に変えたようである。また「何とモリ公」を「何と秋さま」に変えている。霊界物語ネットでも読者の混乱を避けるため、校定版と同じように修正した。] 秋山別『一人の女が先に立ち、国依別が中に立ち、又一人の女が後にあり、一時に単縦陣を作つて渡りよつたら、何うするのだ。それこそ虻蜂取らずの草臥もうけになつて了うぢやないか』 モリス『そこは又其時の風が吹くぢやないか。仮令落込ンだ所で、チツと位怪我をしても、三人が三人乍ら死ぬ気づかひはないワ。そこで国依別は目をまかす、そ知らぬ顔して放つとけばそれで仕舞だ。二人の女には水を呑ませ、介抱し……コレコレ旅の御女中……とか何とか云つて助けてやる。さうすれば紅井姫が、俺達に命の親様と云つて、秋波を送つてクレナイ事もあるまいぞ。現に国依別がラバーされたのも大地震の時に助けてやつたのが原因ぢやからのウ』 秋山別『それもさうだなア。サア早く往つて準備に取りかからうかい。グヅグヅして居ると六菖十菊、後の祭りで、何にもならないワ。オ一、二、三!』 と、細き谷路を、怪しげにすかし乍ら、進ンで行く。 宗介は二人の往つた後で、 宗介『何だか俺は今夜に限つて寝られないと思へば、秋山別、モリスの両人、あンな悪い事を企ンでゐやがるのだなア。それも天罰に俺達に聞えるやうにすつかり喋つて行きよつた。神様が彼等両人がこンな計画をして居るからと、俺に霊をかけ、ねかさなかつたのだナ。何と神様の恵はどこからどこ迄も行届いたものだ。誰も知るまいと思つて、悪い事を企むと、何事も此通りだ。天知る地知る吾れも知る、宗介迄が知ると云ふのだから、怖いものだなア。ドレドレ此秘密を聞き取つて手柄話を国依別様に報告せうかなア……イヤイヤ待て待てさう早く云ふと値打がない。橋の詰まで行つた所で、国依別さまが足をかけようとなさつたら……モシ御待ちなさい、私の天眼通で見れば、此橋は浮橋ですから険呑です。秋、モリの二人が綱を引張つて居りますから……と抱止めるのだ。さうすると国依別さまも喜びて、宗介と替へて下さつた名を又、昔の名の宗彦さまと替へて下さるかも知れぬ。おゝさうだ言はぬが花だ』 と調子に乗つて、何時の間にやら、高い声で囀つて居る。安彦は目をさまして、 安彦『オイ宗介、貴様は甘い事を考へて居よるなア』 宗介小声になつて、 宗介『オイ、お前聞いたのか。大将に内証だから其積りで居つて呉れよ』 安彦殊更大きな声で、 安彦『一本橋をどうしたと云ふのだい』 宗介『喧しう言はずに休まぬか。秋、モリの両人が、今頃にや丸木橋をおとす作業中だ。面白いぢやないか』 安彦『宣伝使様、あなた御存じですか』 国依別『初からスツカリ聞いて居る。宗彦と云ふ名に替へてやらうか』 宗介『イヤもう有難う御座います。どうぞ宜しうお頼み申します』 国依別『そんなら、一段位を上げて、只今から宗彦と名を与へる』 宗彦(宗介)『アヽ何とも御礼の申様が御座いませぬ……オイ安彦どうだい、只今から、お前も俺も同役だ。余り偉相に弟扱ひには出来ないぞ』 安彦『俺は彦を貰つてから三日になる。貴様は今貰つた所ぢやないか。双児が生れても兄弟の区別がつくのだ。現に三日も違ひがあるのだから、ヤツパリ弟だよ』 宗彦『エヽ仕方がないなア。ぢやドツと譲歩して表面だけ弟になつておかうかい。其代り兄は兄丈の甲斐性がなくてはならず、弟を可愛がつて大切にせねばならぬ責任がある。弟が弱つて居れば、手を引いてやつて労はり又負うてやらなきや、兄貴の値打がないからなア』 国依別『コラコラ喧しう云はずに休まぬか。まだ夜明にチツと間もある。ゆつくり茲で休ンで、夜が明けてからボツボツ行くのだ。何れ彼奴ら両人は谷底の木の茂みに隠れて居るに違ひないから、お前等両人は女の声色を使つて行くのだよ。さうして三人共甘く、渡つて了うのだよ』 宗彦『二人の女に三人が声色とは、チツと変ぢや御座りませぬか』 国依別『そこは二人になるのだ。国依別が紅井姫の声色を使ひ、安彦は弟の宗彦を背中に負ひ、さうしてエリナの声色になつて、渡りさへすれば大丈夫だ。渡つて了つてから、各自に男の声で大笑ひをし、ビツクリさしてやるのだ』 安彦『国依別さま、あなたは真面目な宣伝使に似ず、随分悪戯が御好ですなア。こんな男を、私だつて背中に負うて一本橋が渡られませうかなア』 国依別『あの様な悪い事を企む奴には、此方も一つからかつてやる位は良いぢやないか。まさか違へば生命を取られる所ぢやから……そしてお前は宗彦を背中へ括りつけ、もしも誤つて落ちた所で、国依別に於ては、痛い事もなければ痒い事もないのだ、アハヽヽヽヽ』 安彦首を傾け、国依別の顔を見詰め乍ら、 安彦『ヘーン、何とマア水臭い御方ですなア』 宗彦『何れ、谷川を渡り谷水の中へおちるのだもの。ちつたア、水臭からうかい。谷底には水の御霊が待つて居つて、はまつた所で、手を受けて助けて下さるから大丈夫だよ。そんな取越苦労はするものぢやないよ。あゝ待ち遠しい事だ。宣伝使様モウそろそろ出かけたら如何でせう』 国依別『今二人が行つたばかしぢやないか。あの深い谷川の橋杭を取つたり、蔓をつけて引つ張る用意するのは、一時や二時の猶予で出来るものぢやない。茲でゆつくりしてアフンとさしてやる方が面白いぢやないか。別に半日位遅れたつて、遅刻の罰金を取られるのでもなし、マア先を楽ンで、ゆつくり休ンで行かう』 と言ひ乍ら、大木の根を枕に寝て了つた。 安彦『何と宣伝使と云ふものは大胆な者ぢやないか、ナア宗彦。現在敵が落橋準備をやつてゐるのに、平気であの通り、横になるが早いか高鼾をかいて寝て了はれた。俺達はまだ執着心が離れぬので、命が惜しくて、敵が前に殺人準備をやつて居ると思へば、どこともなしに心気興奮して寝られないがなア』 宗彦『国依別さまと安物の安彦と比べやうとするから、そンな疑問が起るのだよ。活神さまと製糞器とは同じ様にはいかぬワイ』 安彦『俺が製糞器なら、お前も製糞器ぢやないか』 宗彦『お前は製糞器だよ、この宗彦は糞造器だ。同じ意味の様だが、そこに一寸違う訳があるのだ。アハヽヽヽ』 と笑ひ乍ら、大木の周囲をクルクルと繞りつつ夜明を待つ事にした。漸くにして、東は白み出し、百鳥の声、あたりの森林より、かしましく聞え来たる。青葉を渡る旦の風は、得も言はれぬ涼味を惜しげもなく、三人に向つて吹きつける。いよいよ一行三人は足仕度をなし、谷の細路を伝ひ、丸木橋に向ひ進み行く事とはなりにける。 (大正一一・八・一九旧六・二七松村真澄録)
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(2034)
霊界物語 31_午_南米物語3 国依別の旅 25 会合 第二五章会合〔八九一〕 国依別は安彦、宗彦両人と共に、樹木鬱蒼たる森林を越え、谷を渉り、小山を幾つか越えて、漸くに屏風山脈の最高所と聞えたる帽子ケ岳の頂上に登りつき、秋山別、モリス両人の此処に来り会するを待ちつつ、榧の木の根元に神言を奏上し乍ら待合せ居たりけり。 此時山の背後より宣伝歌の声聞え来たれり。 (言依別命)『神が表に現はれて善と悪とを立わける 此世を造り玉ひたる国治立大神は 豊国姫と諸共に豊葦原の瑞穂国 青人草を始めとし鳥や魚に虫 草の片葉に至るまで生たる命を与へつつ 各其処を得せしめて此世に清く美はしく 茂らせ玉ふ有難ささは去り乍らブラジルの 此神国は広くして高山三方に立ちめぐり 東に荒波狂ひ立つ大海原を控へたる 人跡稀なる国なれば酷の曲津は各自に 先を争ひ寄り来りアマゾン河を始めとし 時雨の森に集まりて牙を光らせ爪を研ぎ 時々山を乗り越えてアルゼンチンやテルの国 ヒル、カル其他の国々へ現はれ来り曲の業 青人草の安全を破りて此世を脅かす 其曲神を三五の清き御水火に言向けて 天が下には鬼もなく醜の大蛇や曲神の 影をば絶ちて千早振る神の依さしの神業に 清めむものと葦原の中津御国を後にして 荒波猛る海原を国依別と諸共に 進み進みてテルの国テル山峠を乗越えて 神素盞嗚大神の八人乙女の末子姫 鎮まりゐますウズ国の神の都に現はれて 暫し蹕を止めしが神素盞嗚大神は はるばる浪路を打わたりイソの館を後にして 珍の御霊の宇都の国現はれ来り宣たまはく 一日も早くアマゾンの河に沿ひたる森林に 汝言依別神二三の伴を引連れて 進めや進め早進め屏風の如く南北に 立ち並びたる青垣の大山脈の最高地 帽子ケ岳に国依別の教の司の一行が 来りて汝を待つならむ此神言を畏みて 数多の月日を閲しつつ山野を渡り川を越え 漸く此処に来りけりあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして国依別に巡り会ひ 力を合せ村肝の心を一つに固めつつ 神の依さしの神業に仕へ奉りてアマゾンの 時雨の森に迷ひたる鷹依姫の一行や 高姫、常彦、春彦の危難を救ひ森林に 蟠まりたる悪神を伊吹の狭霧に吹き散らし 生言霊の神力に悪魔を善に宣り直し 言向和し一日も早く神業成し遂げて 神素盞嗚大神の御前に復命させ玉へ 旭はてるとも曇るとも月はみつともかくるとも 時雨の森の悪神はいかに勢猛くとも 厳の御霊の大神が依さしの言をどこ迄も 楯に飽く迄戦はむあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 帽子ケ岳の東方を登り来る宣伝使は、此歌に現はれたる言依別命の一行にぞありける。 国依別は此宣伝歌を聞いて、大に喜び、百万の援軍を得たる如き心地して、襟を正して待ち居たり。安彦は嬉しげに、 安彦『宣伝使様、今の宣伝歌は何とも知れぬ清涼な言霊で、大変な強味のある音声では御座いませぬか。此様な高山へ三五教の宣伝使が出て来うとは夢にも思ひませぬが、誰がやつて来るのでせうかなア』 国依別『誰だかチツとも分らぬが、大方神様が御越しになるのだらう。サー行儀よくして、ここに坐つて、御迎へしたがよからうぞ』 安彦『ハイ、畏まりました。併乍ら、秋山別、モリスの両人は大変に遅いぢやありませぬか。大方一昨日の烈風に吹きまくられて、どつかへ散つて了つたのぢや御座いますまいかな。実に案じられた者です。宣伝使様は如何御考へなさいますか』 国依別『あの二人はまだ十分の改心が出来てゐないから、故意とに南の谷を登らせたのだよ。キツといろいろの神様の試練に会うて魂を研き、立派な人間になつて、ここへやつて来るから、お前達二人も余程しつかりせないと、恥しいことが出て来るよ』 宗彦『しつかりせいと仰有つても宗彦は、是以上如何したらよいのですか。あれ丈猛の声が聞えても、又襲来されても、レコード破りの大風が吹いてもビリともせず、一生懸命に御神力に依つて胴をすゑて来た吾々ぢや御座いませぬか』 国依別『まだどこやらに、胴のすわらない所が、国依別の目から見れば沢山あるよ。これから時雨の森へ行かねばならぬが、あれ位の事が何ともなかつたと云つて、自慢をするやうな事では、到底、ドエライ奴に出会した時には、怺へ切れないやうなことが出て来るよ。お前が胴をすゑて居つたといふのも、吾々が居つたからだよ。単独であの坂を越えて、胴が据わつてをつたなら、モウ大丈夫だが、三人の真中に立つて、やうやうここまでやつて来たお前の腕前、案じられたものだよ』 と話して居る折しも、モリスは秋山別の手を引いて漸く此処に登り来り、国依別の一行を見るや、余りの嬉しさに嗚咽涕泣久しうし、漸くに口を開いて、 モリス、秋山別『国依別様、誠に有難う御座いました。南の谷間を、汝等両人通つて行け……と仰せられた時は、何とも云へぬ淋みしさを感じ、又幾分か貴方を恨ンで居りましたが、イヤ実に結構なお神徳を頂きまして、始めて、神様や貴方の御仁慈の御心が分りました。吾々両人は未だ身魂に曇が多く、到底アマゾン河の言霊戦に参加する資格は御座りませなかつたが、どうやら、斯うやら、やツと及第点を得られた様な感じが致します。今更めて厚く感謝し奉ります』 と両人は土の上に手をついて、嬉し涙にくれてゐる。 宣伝歌の声は追々近付きしと見る間に、言依別命は先頭に、二三人の伴人と共に、国依別が端坐し待ち居たる榧の大木の側近く進み来る。 是より言依別命、国依別の両将はここを策源地となし、いよいよ時雨の森の魔神に対し、言向戦を開始することとはなりぬ。此物語は紙面の都合に依り、未の巻に口述する事とせり。 惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・二〇旧六・二八松村真澄録) (昭和九・一二・一九於北陸路王仁校正)
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(2037)
霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 総説 総説 言霊学応用の大要を説示し、且つ神の平等愛は洽く禽虫魚に至る迄均霑し給ふ事を、具体的に現はし、三五教の教主言依別命、国依別命が琉球の玉の霊光によりて、アマゾン河および南北の大森林に入りて舎身的大活動中、霊光に照らされて、漸くその効を奏し、一行十八人アルゼンチン(ウヅ)の都へ首尾よく凱旋し、神素盞嗚尊に親しく拝顔し、国依別は尊の末女なる末子姫と結婚の約成立したる際、例の高姫が清濁二本の霊魂上の見地より、極力妨害運動を開始せる面白き顛末を述べてあります。双方ともに真心の発動にて、其間に、毫末も私心私欲の混入することなく、唯々世を思ひ神の道を思ふの余り、種々意見の相違を来したる次第は明かに現はれて居ります。惟神霊幸倍坐世。 大正十一年八月二十四日旧七月二日 於伊豆湯ケ島
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 01 万物同言 第一章万物同言〔八九二〕 国治立大神が再び地上に現はれて 至仁至愛の五六七神真善美なる神の世を 堅磐常磐に樹て給ふ其経綸の神宝と 尊重されし珍宝金剛不壊の如意宝珠 紫色の霊玉や黄金の玉を三五の 神の聖地に納めつつ時待ちたまふ折柄に 錦の宮の黒姫が保管なしたる黄金の 珍の宝を紛失し日の出神と自称する 系統の身魂高姫に追放されて黒姫は 竜宮洲なるオセアニア一つの洲に打渡り 玉の所在を探ねむと進み行くこそ憐れなれ アルプス教を開きたる鷹依姫も高姫の 嫌疑を受けて止むを得ず竜国別を伴ひて 浪路を遥に浮びつつ数多の島を捜索し 心筑紫の果て迄も駆け巡りつつ探せども 行方は更に白波の舟漕ぎ渡りやうやうに そば立つ波も高砂の旭もテルの港まで テーリスタンやカーリンス二人を加へて四人連れ 漸々此処に安着しテル国街道をスタスタと 南に向つて行進し蛸取村を乗越えて アリナの滝の其ほとり鏡の池の岩窟に 一行四人は居を構へあらぬ知識を搾り出し テルの国をば振出しに夜昼なしにヒルの国 足許さへもカルの国ブラジル国の果て迄も 鏡の池の神霊に玉と名のつく物あらば 惜しまず隠さず献り宏大無辺の神徳を 早く受けよと宣伝の其効空しからずして 鏡の池の聖場は種々様々の厄雑玉 山の如くに積まれけるさはさりながら一として 鷹依姫の求め居る黄金の玉の神宝は 容易に現はれ来らずてテー、カー二人は張詰めし 心の箍もいつしかに緩みて厭気はさしにけり あゝ惟神々々神の心に叶はぬか 一日も早く此国を後に見捨ててハルの国 清き霊地を選択しふたたび玉の収集に 着手せばやと鷹依姫の教司に献策し いろいろ雑多と村肝の心を悩ます折柄に テーナの里の酋長が家の秘蔵の金玉を 御輿に乗せて献り神の御前に三五の 心の誠を捧げける鷹依姫の一行は 忽ち玉を取出し夜に紛れてアリナ山 駆登りつつウヅの国荒野ケ原に遁走し 神の化身に散々と不言実行の懲戒を 受けていよいよ改心し一行四人は荒野原 東へ指して進み行くアルの港を船出して 百の艱みに遇ひながらゼムの港に漂着し 天祥山に立向ひモールバンドの危害をば 救ひてチンの港より岩樟船を造りあげ アマゾン河を溯り時雨の森に潜みたる 八岐大蛇や醜鬼を言向け和し三五の 神の恵を照らさむと心をきはめて進み行く。 目の届かぬ許り川幅広く、うす濁りのした水底の深き大激流、飛沫を飛ばし、何物の制圧をも恐れざる勢を以て、自由自在に奔流するアマゾン河の河口に、鷹依姫の一行は、帆に風を孕ませ漸くに安着しぬ。 此処には水陸両棲動物のモールバンドと云ふ怪がすべての猛の王として覇を利かして居る。象の体を十四五許り集めた様な太さの長き図体をなし、爬虫族の様に四本の足の先に水掻きあり、爪の長さ七八尺にして、剣の如く光り且つ尖つて居る。頭部は鰐の如く、口は非常に大きく、鹿のやうな角を生し、角の尖より何時も煙のやうなものを噴出してゐる。目は常に血走り、尻は蜥蜴の尾の如く、必要に応じ四五十間迄伸ばす事が出来る。さうして尾の先には鋭利な両刃の剣の如き凶器を持つてゐる。此モールバンドに対しては、如何なる大蛇も猛も恐れ戦き、森林深く姿を隠して、モールバンドの害を免れむとして居る。 又此アマゾン河には長大なる蛇数多棲息し、或時は森林に或時は水底に潜んでを呑み且つ人々の此地点に迷ひ来る者あらば、先を争うて出で来り呑み喰はむと待ち構へ居るなり。 又外にエルバンドと云ふ、鰐でもなく大蛇でもなく、鱗は鉄の如く固く、竜の如き髯を生じ、四本の足ある動物あり。エルバンドの頭は玉の如く丸く、其目は比較的小さい。エルバンドは其丸い頭部を必要に応じ、細く長く伸ばし、動物の血を吸ひ生き居る怪物なり。 モールバンドは猛を取り喰ふにも、男性的に敵をグツと睨めつけ、尻尾を打振り、尾端の剣を以て敵を叩きつけ、切り殺し、其後に自分の腹に入れて了ふ。又エルバンドは之に反し、其働きは極めて女性的で、動物の寝てゐる隙を考へ、柔かき蛸のやうな頭を、どこ迄も細く長く延長し、動物の肛門に舌の先や口の先を当てがひ、生血を搾る恐ろしき動物なり。只モールバンドにしてもエルバンドにしても、彼の最も恐るる敵は、アマゾン河の畔に棲息してゐる巨大なる鰐の群ばかりなりといふ。 鷹依姫一行は、かかる怪物の棲息するアマゾン河の河口に辿り着き、危険刻々に身に迫り来る為に、船を乗り捨て、アマゾン河の南岸に上陸し、時雨の森に向つて宣伝歌をうたひながら、竜国別、テーリスタン、カーリンスを伴ひ、樹蔭を縫ひて、西へ西へと進み行く。 宇宙の森羅万象は一として、陰陽の水火によつて形成されざる物はない。従つて神人は云ふも更なり、禽虫魚、山川草木に至る迄、何れも言霊の水火を有し、言語を発せざるものはないのである。中臣の祓にも『草の片葉をも言止めて云々』の文句あり、古の人は凡て禽草木の言語迄も能く諒解したるものなり。 又禽は人語を解し、人は又禽草木の言葉を能く解する事を得たり。されど世は追々と降り、人の心は佞け曲り、遂に罪悪の塊となり、一切の語を解する能はざる迄、不便極まる人間と堕落し了せたるなり。又同じ人間の中に於ても、国々所々言語の相違するは、第一国魂神の霊魂の関係及風土寒暑の関係に依るものなるが、之を一々聞分け其意を悟る事が出来ぬまでに人間の耳が鈍り来りぬ。幸に言霊学を体得する時は、別に英語とか仏蘭西語、露西亜語などと、せせこましい語学を研究せなくとも、其声音の色並に抑揚頓挫等にて悟り得らるる筈なり。従つて禽虫魚山川草木の言葉も、容易に解し得べきものなり。 例へば無生機物たる三味線を引き鳴らして、いろいろの音律を発し、浄瑠璃、唄などに合はして物を言はしむるに、聞き慣れたる耳には、其音の何を語り居るやを弁別し得るが如し。其他縦笛、横笛、笙、ひちりき、太鼓、鼓に至るまで、僅かに五音、或は七八音を以て、能く其用を達する如く、禽虫魚等の声音は、其数少しと雖も、我耳を清くして聞く時は、禽草木の声を明かに悟る事が出来得る。例へば、喇叭は僅にタチツテトの五音を以て数多の軍隊を動かし、三味線はパピプペポ、タチツテトの十音を以て一切を語り、牛はマミムメモ、馬はハヒフヘホ、猫はナニヌネノ、犬はワヰウヱヲと云ふやうに、各特定の言霊を使用し、自分の意思を完全に表示し、尚及ばざる所は、目を働かせ体の形容を以て之を補ひ、且つ声の抑揚頓挫にて、其意思を明かに表示するものなり。 日本人は円満清朗なる七十五声を完全に使用し得る高等人種である。之れ全く国魂の秀れたる所以にして、人種として又優等なる所以である。人種に依つては二十四五声或は三十声内外より言語を使用し得ざるものあり。而して其声音は拗音、濁音、鼻音、半濁音、畜音等が混入してゐる。されど神と同じく七十五声を使用し得る人種も今は全く心の耳塞がり、心の眼閉ぢたれば、到底神諭にある如く、一を聞いて十を悟るが如き、鋭敏なる心の耳目を欠き、百言聞いて僅に一二言を悟り得る位の程度まで耳目活用の能率が低下し、他の動物と殆ど選ぶ所なき迄に到れるなり。実に天地経綸の司宰者たる人として浩歎すべきの至りならずや。 鷹依姫、竜国別、テー、カーの四人は此森林に進み虎、熊、獅子、狼、大蛇、鷲、狐、兎、其外一切の動物の声音を聞き、能く其意を諒解し、茲に猛を使役して森の王となり、モールバンド、エルバンドの征服に従事する事となりぬ。併し乍ら古の人は現代の如く、余り小ざかしき円滑な辞令を用ゐず、又数万言を並べて喋々喃々する必要もなし。それ故アとウとの息にて禽草木と能く其意思を交換する事を得たりしなり。 併し乍ら現代人は、到底簡単なる言語にて其意思を諒解する丈の能力なし。故に此口述も現代人の耳に諒解し易からしむる為、大蛇、熊、鹿、虎、狼、狐、兎、其他の鳥類に至るまで、現代の人間の言語を以て話したる如く訳して口述せむとす。古事記にも大己貴命、気多の岬にて因幡の白兎に出会ひ、いろいろと問答し給ふ神文がある如く、鳥草木の声音と雖も、真の神国魂に返りなば、よく諒解し得らるるものなり。 禽草木は今日に至る迄、朧げながら人語を解するに、人間として禽草木の声音を聞く事を得ざるは、実に万物の霊長たる権威はいづこにありや。斯かる不完全なる五感を以て、いかでか、神の生宮として万有に安息を与へ、天地経綸の司宰者たる其職責を全うする事を得む。思へば思へば実に遺憾の極みなり。 口述者は外国語を学びし事なく、又横文字を一字も解し得ない。されど各国人の談話を傍に在りて、耳をすませて聞く時は、其意の何たるかを、言霊の原則上、諒解し得らるるなり。此物語も亦古代の土人の言語を所々に羅列し、或は現代の外国語を使用したる所もあり。併し今日の世界の語学は、言霊学上其原則を乱しゐる為に、現代人の言語は諒解し難き点多々あり。如何なる国の言語と雖も、今の禽草木の如く言霊の原則を誤らざるに於ては、世界共通的に通ずべきが言霊の妙用、宇宙の真理なり。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 02 猛獣会議 第二章猛会議〔八九三〕 鷹依姫、竜国別の一行は宣伝歌をうたひ乍ら、数百万年の秘密の籠りたる南岸の森林に進み入る。併し乍ら人跡なき此森林も、思ひの外雑草少く、空はあらゆる大木に蔽はれて、日月の光を見る事甚だ稀であつた。 一本の大木と云へば周囲百丈余りもあり、高さ数百丈に及び、樹上には猩々、猅々、野猿の類群をなし、果物を常食として可なりに安心な生活をつづけ、其種族を益々繁殖させ、至る所に猿の叫び声は耳をつんざく許り怪しく聞えて居る。 二三尺許りの大蜥蜴は時々一行が路を遮り、開闢以来見た事もなき人の姿を見て、驚いて逃げ隠るるもあり、中には飛付き来るもあり、其他異様の爬虫族、先を争うて逃げ隠るる音、ザワザワと谷川の水流の如くに聞え来る。此時白毛の兎の一群、大なるは現代の牛の如きもの、ノソノソと一行の前に宣伝歌を尋ねて来り、両足を前に行儀よく並べて涙を流し乍ら、 兎『私は此森林に神代の昔より永住致しまする兎の長で厶います。此通り数多の種族を引連れ、あなた様一行の御降りを月の大神様より御示しに預り、ここに謹んでお迎へに参りました。あなたは三五教の宣伝使鷹依姫様、竜国別様の御一行で厶いませう。何卒この森林を御踏査下さいまして、吾々の安逸に一生を送り得らるる様、御守りの程偏に願ひ上げ奉ります』 と慇懃に頼み入るにぞ、竜国別は、 竜国別『ヤア始めて御目にかかります。あなたは此森林に長らく御住居なさると聞きましたが、大変に険呑な所で厶いますなア』 兎『ハイ御存じの通り、此時雨の森は、其昔吾々共の種族が月の大神様より千代の棲処として与へられたもので厶いますが、アダム、エバの霊より発生したる八岐の大蛇の一族を始め悪鬼悪狐の子孫益々跋扈して、遂にはモールバンドやエルバンドの如き怪と成り変り、吾々一同のものを餌食と致し、今は殆ど亡ぼされて了ひ、此数百里の大森林の棲処に於て、実に数千頭の影を止むるのみ、実に吾々は悲惨な生活をつづけ、戦々兢々として、一時の間も安楽に生活を送る事が出来ないので厶います。加ふるに、虎、狼、獅子、熊、大蛇、鷲などの連中が、常世の国のロツキー山方面より、常世会議のありし後、此森林に逃げ来り、吾等が種族を餌食と致し、暴虐無道の其振舞、実に名状す可らざる惨状で厶います。何卒あなた方の御神力を以て此森林の悪、悪蛇、悪鳥を言向和し、動物一切相和し相親しみ、天与の恩恵を永遠に楽しむ様、お執りなしを偏に希ひ奉ります』=兎は月神を祭る民族の意= 竜国別『委細承知致した。然らば、是より其方は吾々の先導になつて、第一に猛の棲処へ案内致せ。惟神の神法を以て、彼等を善に導き、悪を悔い改めしめ、此森林をして忽ち天国の楽園と化せしめむ。あゝ面白し面白し……母上様、妙なことになつて参りました。サア兎殿、案内召されよ』 兎『ハイ、早速の御承知、吾々一族は実に蘇生の思ひを致します』 と云ひ乍ら、大兎は数多の団体を率ゐ、鷹依姫一行の前後を警護しつつ森林深く進み行く。 数多の兎に送られて、鷹依姫一行は天を封じて樹てる森林の中を、意気揚々と半日許り進み行く。此処には稍展開された樹木のなき空地がある。殆ど十里四方の間は余り太き樹木もなく、針葉樹の小高き丘四方を包み、恰も青垣山の屏風を引廻せし如き安全地帯である。 兎の一族は僅に此地帯を永住処となして生活を続けてゐる。謂はば兎の都である。其殆ど中心に、聖地に於ける桶伏山の如き美はしき岩石を以て自然に造られたる霊場があり、そこには兎の最も尊敬する月の大神の宮が儼然として建てられてある。 此清き宮山を繞る清鮮の水を湛へた広き湖の辺には、大小無数の鰐=鰐は武人の群=が棲息し、鰐と兎の両族は互に相提携して天与の恩恵を楽んでゐる。つまり此鰐は森林の持主たる兎の眷属とも云ふべきものにして、兎の国の軍隊の如き用務に従事してゐるのである。 モールバンド、エルバンドの怪は兎を食する事を最も好み、日夜其事のみに精神を傾注して居る。されど兎は最早此安全地帯に集まりし事とて、巨大なる肉体を有するモールバンドは、数多の密生したる樹木に遮られて、ここに侵入するを得なくなつて了つた。如何にエルバンドと雖も、アマゾン河の岸より首を伸ばし、ここ迄届かす事は到底出来ない。それ故止むを得ず、余り好まざる肉ながら虎、狼、熊、獅子等を捕喰ひ、僅かに其餓を凌ぎつつあるのである。 或時モールバンドはエルバンドを使者として、猛の集まる森林の都、獅子の巣窟に向つて使ひせしめ、ここに談判を開始する事となつた。其談判の要領は左の通りである。 獅子王『あなたはモールバンド様の御使者エルバンド様、能くこそ御入来下さいました。就いては今日の御用の趣、何卒詳さに御話し下さいませ』 エルバンド『吾々今日使者として獅子王の都へ参りしは、余の儀では御座らぬ。吾統領のモールバンド様、アマゾン河に数多の眷族を御連れ遊ばし、兎を捉へて常食となし給ふ。吾々も亦、兎を以て最上の美味と致して居るもの、然るに此頃は兎の影も見せ申さず、甚以て吾々一族は困窮致して居る次第で御座います。就いては獅子王殿に一つの談判があつて、ワザワザここに使者として、エルバンド出張仕りました。其理由とする所は、獅子王の手を以て、熊、虎、狼を使ひ、兎の都に侵入し、彼等を生捕にし、日に数百の兎をモールバンド様に御献上ありたし。然らざれば熊、鹿、虎、狼、止むを得ざれば、獅子の一族をも、手当り次第捕喰ふべしとの厳命で御座いますれば、速かに否やの御返答を承はりたう御座います』 獅子王『これはこれは、何事かと思へば、思ひもよらぬ御仰せ、吾々一族は虎、狼、熊、獅子の区別なく、日夜モールバンド様の部下に捉へられ、日に幾百となく生命を断たれ、捕喰はれ、実に困憊の極に達して居りまする。就ては吾々四足一族は茲に大軍隊を組織し、北岸の森林の同志と相謀り、川を差挟んでモールバンド、エルバンドの軍隊を一匹も残らず殲滅し呉れむと日夜肝胆を砕き、今や協議の真最中で御座れば、早速に此返答は致し難し。御返事は、追つてアマゾン河の岸に使者を遣はし、御答へ申さむ。此場は一先づ御帰りあらむ事を希望致します』 エルバンド『然らば是非に及ばぬ。一時も早く協議を遂げ、御返事あらむことを希望致します』 と云ひ捨て、長大なる巨躯を蛭の如く伸縮させ、のそりのそりと獅子王の都を後に、アマゾン河のモールバンドの本陣と聞えたる寝覚の淵を指して帰り行く。 あとに獅子王は数多の四つ足族を獅子の都に召集し、一大会議を開催する事となりぬ。 獅子王はエルバンドの使者の帰つた後、直ちに使獅子を森林の各処に派遣し、熊王、狼王、虎の王、大蛇の頭、鷲の王などを代表者として召集し、獅子王の館に於て大会議を開く事となつた。日ならずして各の代表者は集まり来る。 山桃の林の下に大会議は開かれた。獅子王は先づ開会の挨拶をなし終つて、 獅子王『モールバンドの使者の齎した申込みに対し、各自の意見を吐露し、最善の方法を協議されむ事を望む』 と云ひ乍ら、諄々として一伍一什の経緯を物語れば、茲に熊王は進み出て、手に唾し憤然として雄猛びし、巨大なる目を瞠りつつ、 熊王『皆様、如何で御座いませう。吾々四つ足族は、今日迄互に反噬を逞しうし、優勝劣敗、弱肉強食の戦闘を続けて参りました。処が仁愛深き獅子王様の御威勢と御尽力に依り、互に其範囲を犯さず、熊は熊の団体、狼は狼、豹は豹、大蛇は大蛇、虎は虎と各部落を作り、此森林は漸く無事太平に治まり、辛うじて猿を捕り、兎を捕獲し、吾々族は漸く其生命を保つて来たのである。然るに此頃モールバンド、エルバンドの一族、アマゾン河より這ひ上り来り、吾等が部落を犯す事一再ならず、吾種族は夜も枕を高くし安眠する事も出来ない惨状で御座います。然るに何ぞや、悪虐益々甚だしく、日に数百頭の兎を貢せざれば、吾々が種族を捕り喰ふべしとの酷烈なる要求、どうして是が吾々として応じられませうか。吾々は仮令種族全滅の厄に遭ふとも、撓まず屈せず一戦を試み、勝敗を決せむ覚悟で御座る。皆様の御考へは如何で御座いますか』 と息も荒々しく述べ立つる。狼王は直ちに口を開き、 狼王『熊王様の御意見、実に御尤も至極では御座いまするが、どう考へても強者に対する吾々の如き弱者として、戦ふなどとは思ひも寄らぬ拙劣なる策では御座いますまいか。常世会議に於て吾祖先は翼をそがれ、最早空中飛行の自由を失ひし吾々四つ足族、如何に獅子奮迅の勢にて攻撃致すとも、暴虎馮河の勇あるとも、豺狼の奸策を弄するとも、到底及び難き議論だと考へます。若かず彼が要求を容れ部下を駆使して兎を捕獲し、モールバンドに日々これを貢ぎ、吾等一族の大難を免れるが、第一の策かと考へます。勝敗の数分かり切つたる此戦闘に従事するは策の得たるものではありますまい。皆様如何で御座いませうか』 と首を傾け、前足を腕の如くに組みながら、心配げに述べ立てる。 虎王は腕を組み、髭に露をもたせ、巨眼をクワツと見開き、言葉も重々しく、 虎王『吾々の考ふる所に依れば、如何に弱肉強食を恣にするモールバンドなればとて、吾々の種族を殲滅することは出来ますまい。吾々も天地の神の水火を以て生れ、神の精霊の宿りしものなれば、如何に悪虐無道のモールバンドなればとて、妄りに暴威を逞しうし、此森林を吾物顔に占領する事は到底不可能でせう。要するに彼等が如何なる事を申込み来るとも虎耳狼風と聞流し、相手にならず、打棄ておく方が獅子(志士)の本分で御座らう。……熊王殿、豹王殿、大蛇の頭殿、諸君の御意見は如何で御座りますか』 大蛇の頭『吾々如何に剽悍決死の勇ありとも、モールバンドの一族、完全無欠の武器を備へ攻来るに於ては到底敵する事は出来ますまい。飽く迄も豺狼の欲を逞しうし、獅子奮迅の勢を以て猛虎の如く攻め来る敵軍、何程準備は熊なく整ふとも、到底防戦する豺も覚束なき吾々の境遇、なまじひに強者に向つて弓を引くよりは、モールバンドの命に従ひ、兎の都に攻めのぼり、残らずこれを捕獲し、モールバンドの前に貢物として捧げなば、彼が歓心を買ひ且つ同情を得、吾等の種族を捕喰ふことを免じて呉れるでせう。弱を以て強に当るは吾々の虎ざる所、一刻も早く兎の都に進撃し、彼等を悉く捕獲して貢物となし、吾等種族の安全を保つに鹿ず、議長獅子王殿、御意見如何がで御座るか』 と詰めよる。獅子王は暫し首を傾け獅案にくれてゐたが、やがて頭を擡げ、大きく唸り乍ら、 獅子王『左様で御座る。到底勝算なき敵に向つて戦を挑み、部下の者共を亡されむよりは、弱小なる兎の都に攻め入り彼等を引虎へ、戦の危害を除くに若かず。鹿らば諸窘と共に時を移さず一族を引率し、兎の都を繞る四辺の山より一斉に攻め入り、鬼虎堂々として湖を渡り、兎の王を降服せしめ、一族が犠牲に供さむ』 と憤然として宣示する。一同は獅子王の宣示に返す言葉もなく、直に軍備を整へ数多の部下を引率し、兎の都を指して進撃することとなりぬ。 兎王は斯かる敵軍の襲来せむとは神ならぬ身の知る由もなく、鷹依姫、竜国別、テー、カーの四人の賓客に珍しき物を饗応し、数多の部下を集めて舞ひ踊り狂ひつつ四人の旅情を慰めむと全力を尽し居たりき。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 03 兎の言霊 第三章兎の言霊〔八九四〕 兎の都にては、一族此処に集まり来り、形ばかりの月の大神の宮の前に、芭蕉の葉を数多敷き並べて筵となし、バナナ、林檎、梨、山桃、苺などの果物を数多並べ立て、鷹依姫の一行を神の如くに敬ひつ、茲に歓迎の宴会を開きたり。 兎の王は立上がり、恰も天上より天津神の降臨せし如く打喜び、吾等を救ふ王者は現れたりと、歌をうたつて祝意を表しぬ。もとより兎の言語なれば、其真意は判然と分り兼ぬれども、其動作形容表情と言葉の抑揚頓挫に依つて、大体の意味は解さる。 其歌を訳すれば左の如し。 (兎の王)『昔の昔の其昔天に輝く月の大神様の 恵の露に霑ひてアマゾン河の北南 広袤千里の森林を吾等が千代の棲処ぞと 依さし給ひて永久に与へ給ひし楽園地 天津御空の星の如浜の真砂の数の如 吾等が種族は日に月に生めよ栄えよ育てよと 神の恵の言の葉は弥益々に幸はひて 時雨の森を吾々が玉の命の繋ぎ所と 喜び暮す折柄に天足の彦や胞場姫の 醜の魂より現れし八岐大蛇の成れの果て アダムの霊を受けつぎし大蛇の魂はモールバンド エバの霊を受けつぎし悪狐の霊はエルバンド さも恐ろしき悪神と生まれ変りてアマゾンの 河の上下隈もなく数多の子孫を生み生みて 蟠まりつつ吾々が種族を彼等が餌食とし 旦に五百夕べに五百日々に千兎を捕り喰ひ 吾等は悲しき今の身よ千代の棲処を失ひし 兎族一同止むを得ず仁慈の深き鰐族に 固く守られ青垣山を四方に繞らす此島に 清けき湖を隔てつつ僅に生を保ちけり。 さはさりながら吾々は此湖をうち渡り 鰐の子供に守られて青垣山を打越えて さも香しき餌食をば探ね求めつ行く度に モールバンドは来らねどさも恐ろしき獅子熊や 虎狼は云ふも更醜の大蛇や禿鷲に 貴き命を奪はれて日々に減り行く吾種族 心淋しき折柄に天津御空の雲わけて 神の使の神人が天の河原に船浮べ アマゾン河の河口に降り給ひて悠々と 貴き歌をうたはせつ上り来ませる嬉しさよ 吾等が救ひの神とます天津御空の月の神 汝が命を遣はして此苦みを救はむと 降させ給ひしものならむ思へば思へば有難し 恵の露は草の葉に浮びて月の御姿 宿らせ給ふたふとさよあゝ惟神々々 神の御霊の幸はひて此月島は永久に 神の守りの弥深く栄え栄えて瑞御霊 神素盞嗚大神の恵も開く教の花 紅緑こき交ぜて吾等が赤き心根を 神の御前に表白し救はせ給へ神司 鷹依姫よ竜国別よ御供の神と仕へます テーリスタンやカーリンス此四柱の御前に 兎一同代表し謹み敬ひ願ぎまつる 旭は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むともモールバンドは猛くとも 虎狼や獅子熊の醜の猛びは烈しとも なぞや恐れむ吾々は救ひの神を得たりけり 守りの王を得たりけり喜び勇めわが子供 これより後は永久に月の社と諸共に 尽きせぬ千代の喜びを味はひまつり神国の 其楽しみを味はひて此世を造り給ひたる 国治立大神はすべての罪を赦しまし 百の災打払ひ此世を洗ひ清めます 神素盞嗚大神の御稜威を尊み敬ひて 此世のあらむ極まで朝な夕なに神恩を 称へ奉らむ惟神御霊幸はひましませよ』 と歌ひ了り、兎の王は四人の前に平伏し、 兎の王『誠に不調法な不完全な歌をうたひ、舞曲を演じまして、さぞお困り遊ばしたで御座いませう』 と耳を打振り打振り、さも慇懃に挨拶をする。鷹依姫は立上り、兎の群に向つて、手を拍ち体を揺り、面白可笑しき身振りしながら、うたひ始めた。 鷹依姫『豊葦原の瑞穂国波に浮べる五大洲 何れの山も海河も皆大神の御水火より 生れ出でたるものぞかし神の宮なる人の身は 云ふも更なり鳥魚虫草木に至るまで 国治立大神や金勝要大神の 御水火に依りて世の中に現れ出でしものなれば 神の御目より見給へば何れも尊き貴の御子 恵に隔てあるべきや天津日光は人の身も 木草の上も鳥虫族までもおし並べて 光り輝き給ふなり天地の間に人となり となりて生るるも皆大神の御心ぞ 神の慈眼に見給へば尊き卑きの区別なし 吾も神の子汝も又神の尊き貴の御子 御子と御子とは睦び合ひ弱きを助け強きをば なだめすかして睦まじく此世を渡り祖神の 大慈悲心に酬ゆべしモールバンドは云ふも更 虎狼や獅子熊の猛きに至るまで 神の授けし言霊の恵の水火の幸はひば 服従ひ来らむ事あらむあゝ惟神々々 神の御子と生れたる汝の一族兎ども 天津神たち国津神国魂神の御恵を 朝な夕なに嬉しみて清き此世を送りつつ 凡ての曲に打勝ちて月の御神の依さします 汝が天職を尽すべしわれも一度は村肝の 心曇りて豹狼のに劣らぬ醜の道 朝な夕なに辿りたる人の衣を被りたる モールバンドとなりたれど尊き神の御光りに 照らされ今は執着の雲霧晴れて惟神 神の身魂となりにけり三千世界の梅の花 一度に開く時来り神の仕組か白波の 上漕ぎ渡り漸うに高砂島の土を踏み アリナの滝に身を浄め再び玉の執着に 心を濁り曇らせつ慈愛の笞に叩かれて 漸く神に立帰り大海原を乗り切りて やつと此処まで着きにけり広袤千里果てしなき 時雨の森の此霊地いや永久に鎮まりて 汝が一族云ふも更虎狼や獅子熊の 猛きを始めとし大蛇猩々禿鷲の 醜の魔神を言霊の清き御水火に服従はせ モールバンドに至る迄悪虐無道の行ひを 改めしめて神国の五六七の神世を建設し 所在生物親しみて常世の春を楽まむ あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 鷹依姫を始めとし竜国別やテー、カーの 神の司を悉く皇大神の御心に 叶はせ給へ天津神百千万の神等の 御前に祈り奉る旭は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも高砂島は亡ぶとも アマゾン河は涸くとも時雨の森は焼けるとも 神に従ふ真心は幾千代迄も変らまじ あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて これの兎のおとなしく服従ひまつりし其如く 猛毒蛇を始めとしモールバンドやエルバンド 其外百のをば尊き神の言霊に 言向け和せ給へかし黄金の玉は見えずとも 神に受けたる吾魂は金剛不壊の如意宝珠 紫玉か黄金の玉の如くに照り渡る 此御威徳をどこ迄も発揮し奉りて御恵の 露おく間なく禽の上に注がせ給へかし 神の恵に目醒めたる鷹依姫の此願ひ 完美に委曲に聞し召せあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終りて座に着けば、兎の王を始めとし、湖より此言霊歌を聞いて喜び勇み集まり来れる鰐の群は、嬉しげに耳を澄ませて聞き終り感謝するのみ。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 04 鰐の言霊 第四章鰐の言霊〔八九五〕 鰐の頭はツカツカと四人の前に現れ来り、さも嬉しげに頭を垂れ感謝の意を表し且つ歌ふ。 鰐の頭『仰げば尊し天地の神の恵は目のあたり 天の河原に棹さしてアマゾン河の河口に 降り給ひし神の御子鰐の一族喜びて 赤き心を捧げつつ茲に現はれ参ゐ来り 祝ぎ仕へ奉るあゝ惟神々々 尊き神の御恵吾等が上に降りけり 吾等のすさむ魂も一度に開く木の花の 薫るが如く栄えけり鷹依姫の神様よ 竜国別の神様よはるばる此処に天降りまし 吾等が王と仕へたる兎の君の鎮まれる 霊地に現れ給ひしは天地の神の御恵みか 譬方なき喜びにこれの湖水を包みたる 青垣山の草木迄色美しく生々と 甦りたる如き思ひなり吾等は月の大神の 貴の御子なる兎族尊み敬ひ朝夕に 心を尽し身を尽しモールバンドやエルバンド 虎狼や獅子熊の襲ひ来れる災禍を 防ぎて守る永の年さはさりながら吾々は 神の御水火を受けながら昔の罪の消えやらず げに浅間しき此境遇如何に心を尽すとも 神の御水火の言霊を照らす事さへ白波の 中に漂ふ悲しさに月日を送る甲斐もなく これの湖辺を棲処とし十里四方の霊地をば 僅に守る計りなりさはさりながら吾々が これの湖辺に棲む間は如何なる猛き類も 容易に犯し得ざるべしあゝさりながらさりながら 猛毒蛇と生れたる彼の身魂は憐れにも 神の御子にて御子ならず優勝劣敗罪重ね 弱肉強食日に月に行ひ続け生命を 僅に保てる憐れさよあゝ惟神々々 神の御霊の幸はひて天が下なる生物は 互に愛し助け合ひ争ひ猛ぶ事もなく 神の恵を平等に受けて身魂を磨き上げ 賤しき殻を脱ぎすてて再び魂は天国の 神の御許に立帰り万の物の長として 権威のこもる言霊を自由自在に使用する 神となさしめ給へかし鷹依姫の神司 竜国別の御前に鰐族一同を代表し 清く磨きし言霊の恵の光に天地の すべての生物救ひませあゝ惟神々々 神の司の御前に誠の限りを現して 慎み敬ひ願ぎ奉る』 と唄ひ終り、堅牢なる甲を以て包まれたる長大なる身体を左右に揺りながら、満足の意を表し、数多の鰐と共に前後左右に舞ひ踊り、歓迎の意を示したり。竜国別は立上り、兎と鰐の愛らしき群に向つて、さも嬉しげに歌をうたふ。 竜国別『天地の水火をうけつぎて生れ出でたる神司 三五教の宣伝使鷹依姫の体を借り 肉の宮をば建造し生れ出でたる神司 竜国別は今此処に大空伝ひ照り渡る 月大神の宮の前貴の神徳拝しつつ 兎や鰐のともがらに稜威の言霊宣り上げて 心の丈を宣べ伝ふあゝ惟神々々 神の恵を蒙りて稜威の聖地と聞えたる 綾の高天に聳り立つ錦の宮を後にして 黄金の玉の所在をば探ねむものと高砂の 島に渡りていろいろと心の駒のはやるまに 醜の企みを立てながら再び神の御声に 眼をさまして美はしき元津身魂となりにけり 神の恵は隈もなく青人草は云ふも更 鳥や魚に虫草木の片葉に至るまで 恵の露を垂れ給ふ公平無私の神心 漸う悟り今茲に現はれ来る吾々は 知らず識らずに大神の仕組の糸に操られ 進み来りし者ならむ誠の神の御使と 定められたる四人連れ今は汝が親となり 兄ともなりて天地の神の恵をこまやかに 時雨の森の果てまでも隈なく広め御恵みの 雨降り注ぐ楽園と堅磐常磐に守るべし あゝ惟神々々神の御霊に生れたる 兎や鰐の一族よ必ず歎く事勿れ 吾等四人の神人がここに現れ来た上は モールバンドは云ふも更如何なる猛き類も 神の恵の御水火より生れ出でたる言霊に 言向け和し敵もなく争ひもなく永久に 平和の森となさしめむあゝ惟神々々 神の御水火に生れたる吾等を始め汝が群 仮令天地は変るとも尊き深き御恵みを 一日も忘れず朝夕に神の御前にひれ伏して 其神徳を称へかし神は吾等と倶にあり 神は汝らの身を守る神の恵に開かれし 天が下なる生物は仮令如何なる曲者も いかでか恐るる事あらむ心を清め身を浄め 神のまにまに真心を尽せよ尽せ諸々よ 竜国別が改めて汝等が群に宣り伝ふ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 テーリスタンは面白き歌をうたつて興を添ふ。 テーリスタン『鷹依姫や竜国別の教の司の御後に カーリンスと諸共に広袤千里の荒野原 草を分けつつ進み来てアルの港に安着し 大海原を船に乗り渡つて来る折柄に 俄に烈しき荒風に浪立ち狂ひ鷹依姫は 真逆様に海中へザンブとばかり陥りて 姿見えなくなつて来た孝心深き竜国別は 吾身を忘れて海中に飛込み姿を失ひぬ テー、カー二人は驚いて最早叶はぬ百年目 殉死なさむと意を決し一イ二ウ三ツで飛込めば 後白浪に呑まれつつ竜宮海を探険と 思うた事の的外れ亀の背中に乗せられて ゼムの港に漂着し天祥山に立向ひ モールバンドに出会し吾言霊の神力に 「オツトドツコイ」こら違うた鷹依姫の言霊に 言向け和し荒男二人の命を救ひつつ 天祥山の谷を越え果てしも知らぬ荒野原 涼しき風に送られてチンの港に安着し 船を造りてアマゾンの河口さして進み来る 音に聞えしモールバンドエルバンドの此処彼処 怪しき頭を擡げつつ吾等一行の顔を見て 何が怖いか知らねども水勢強き河の瀬に 姿を隠し失せにけるあゝ惟神々々 神の恵を蒙りて教司の神力に 恐れ戦き逃げたるか何は兎もあれアマゾンの 河の岸をば攀上り此森中に来て見れば 幾千年とも限りなき年の老いたる兎の王 数多の眷族引きつれて吾等一行を慇懃に 迎へに来たる嬉しさよ広袤千里の森林の その中心に斯の如聖き霊地のあらむとは 夢にも悟り得ざりしが豈計らむや天伝ふ 空に輝く月の神形計りの宮居をば 清けき水を繞らせる此霊場に鎮祭し 兎の王の一族が朝な夕なに真心を 捧げて祈るゆかしさよあゝ惟神々々 神の宮居と生れたる人は尚更神の道 清く守りて天地の深き恵を感謝しつ 皇大神の御心に叶へ奉らであるべきや いよいよ茲に三五の神の司と現はれて 仮令と云ひながら其源を尋ぬれば 何れも同じ神の御子救ひまつらでおくべきか 兎の群よ鰐の群必ず心を悩めまじ 鷹依姫の一行が現はれ来りし上からは 如何なる魔神の災も旭に露の消ゆる如 払ひ清めて禍の根を絶ち神の御恵の 露に霑ふ花園と開き守らむ惟神 神の御稜威を嬉しみてこれの聖地を能く守れ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 とうたひ終り、社の前に端坐し、神恩を感謝し、且つ一時も早く此森林の災を除き、再び綾の聖地に帰し給へと祈願なしける。惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 05 琉球の光 第五章琉球の光〔八九六〕 カーリンスは三人の宣伝使の歌を聞き、吾も亦歌をうたひ、兎、鰐の一族に対し、巾を利かさねばなるまいと思つたか、直に立上り、妙な手附をして踊りながら、歌ひ始むる。 カーリンス『此処は名に負ふハルの国アマゾン河に沿ひて樹てる 大森林の時雨の森と人も言ふモールバンドやエルバンド 其外百のたち堅城鉄壁千代の棲処と 天日に怖ぢず地に憚らず月の光に恐れず 自由自在に咆哮怒号の魔窟ケ原 優勝劣敗弱肉強食の修羅の巷を 数百万年の昔より世界の秘密国として 汝が一族に与へられたる此森よ 森の主は兎の王と誇りし夢も何時しか消えて 今は悪魔の棲処と成り果てぬ 変れば変る現世の例に洩れぬ兎の身の上 鰐一族の淋しき生活広袤千里の森林に 十里四方の地点を選び要害堅固の鉄城と 頼みて暮す霊場も今は危くなりにけり 八岐の大蛇醜狐曲鬼共の霊の裔 激浪猛る奔流の深き河瀬に身を潜め 汝が一族悉く命の綱の餌食にし 根絶せむと附け狙ふモールバンドやエルバンド 斯かる仇敵のある中に虎狼や獅子に熊 大蛇禿鷲猿の群汝が一族狙ひつつ 眼を配る時もあれ国治立大神の 守り給へる三五の神の司鷹依姫を始めとし 竜国別の宣伝使テーリスタンやカーリンス 四人の貴の神の子が救ひの神と現はれて 此処まで降り来りしは枯木に花の咲きしが如く 大旱に雨を得たるが如くなるべし勇み喜べ兎よ鰐よ 吾等は是よりハルの国アマゾン河の森林を 神の御水火に言向け和し尚も進んで珍の国 旭のテルやヒルの国カルの国まで天降り 八岐大蛇の一族を言向け和し神の世の 畏き清き政事布き施すは目のあたり 仮令悪神アマゾンの河底深く潜むとも 猛きの徒に汝が群をば攻むるとも 吾等が此処に来りし限りビクともさせぬ神力を 固く信じて朝夕に喜び勇み神の前 瑞の御霊と現れませる月の御神の御前は 云ふも更なり国魂の神と現れます竜世の姫を 厚く祀れよ敬へよ吾も神の子亦汝も 同じく神の御子なれば何の隔てのあるべきや 神は万物一切に平等愛を垂れ給ふ あゝ惟神々々兎の都に現はれて 心も固き鰐の群集まり守る聖場に 三五教の神の国堅磐常磐に限りなく 基を建つる頼もしさあゝ惟神々々 神の恵を嬉しみて兎や鰐の群等よ 喜び勇め神の前森の谺の響くまで 歌へよ祈れ神の恩あゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 是より鷹依姫外三人は数多の兎を使嗾し、兎の都の王となつて、殆ど一年の日子を此別世界に楽しく面白く送りたり。 或夜、月皎々と光りを湖面に投ぐる折しも、四方の丘の上より、一斉に『ウーウー』と咆哮怒号突喊の声、耳も引裂くるばかり聞え来りぬ。兎の王は驚きて鷹依姫の前に走り来り、 兎の王『鷹依姫様に申上げます。只今四方の山々を取囲み、虎、狼、獅子、大蛇、熊王、数多の一族を呼び集め、雲霞のごとく此霊地を占領し、吾等が部下を捉へむと勢猛く攻め寄せました。鰐の頭は数多の眷族を呼びあつめ、死力を尽して闘つて居るでは御座いませうが、何を云つても目に余る大軍、容易に撃退することは不可能なれば、何とか御神力を以て彼等寄せ来る魔軍を言向け和し給はむ事を、偏に一族に代り御願ひ申上げます』 と慌ただしく息を喘ませ頼み入る。鷹依姫はウツラウツラ眠りつつありしが、忽ち身を起し、月の大神を祀りたる最も高き地点に登り、四辺をキツと見詰むれば、四方を包みし青垣山の彼方此方に炬火の光煌々と輝き、咆哮怒号の声、万雷の一時に聞ゆる如く、物凄さ刻々に激烈となり来る。 鷹依姫は直に拍手しながら天津祝詞を奏上し、天地に向つて言霊を宣り上げたり。 鷹依姫『天津神等八百万国津神等八百万 国魂神を始めとし取分け此世を造らしし 国治立大御神豊国姫大御神 天照らします大御神神素盞嗚大神の 貴の御前に三五の神の司と任けられし 鷹依姫が真心をこめて祈りを捧げます あゝ大神よ大神よ高砂島のハルの国 アマゾン河の両岸に幾万年の星霜を 重ねて樹てる大森林中に尊き此霊地 千代の棲処と定めつつ身魂も清く美はしき 兎の群や鰐の群いや永久に棲居して 神の恵を喜びつ天伝ひます月の神 朝な夕なに伏し拝み天地の恵を感謝する 尊き心を憐みて寄せ来る魔神を大神の 稜威の御水火に吹き払ひ安全地帯となし給へ あゝ惟神々々神の恵に包まれし 兎の都の此聖地千代も八千代も永久に 曲津の神の一指だも触るる事なく恙なく 常世の春のいつまでも喜び勇みの花咲かせ これの聖地を元として時雨の森に棲ひたる 猛きや大蛇まで神の恵に漏るるなく 救はせ給へ惟神神の御前に願ぎ奉る 旭は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 敵の勢猛くとも神より受けし言霊の 吾等四人が御稜威をば天津御空の日の如く 照らさせ給ひて功績を千代に八千代に永久に 建てさせ給へよ惟神神の御前にひれ伏して 言霊称へ奉る』 斯く歌ふ折しも、西南の隅に当つて、屏風山脈の最高地点、帽子ケ岳の方面より、二つの火光、サーチライトの如く輝き来り、四方を囲みし魔軍は光りに打たれて声を秘め、爪を隠し、牙を縮め、眼を塞ぎ、大地にカツパとひれ伏して、震ひ戦き居たりける。 竜国別は立上り、火光に向つて再拝し、拍手しながら歌ふ。 竜国別『青垣山を繞らせるこれの聖地に永久に 棲ひなれたる兎の子等が魔神の災遁れむと 朝な夕なに月の神斎きまつりて誠心の 限りを尽し仕へ居る其誠心に同情し 八尋の鰐は湖の辺に集まり来りて夜昼の 区別も知らず聖場を守り居るこそ畏けれ 時しもあれや三五の道を伝ふる神司 自転倒島を後にして現はれ来る吾々が 一行四人は恙なく神の仕組の経糸に 引かれて此処に来て見れば兎の都は永久に 八尋の鰐に守られて天国浄土を目のあたり 見るが如くに栄えけりあゝ惟神々々 神の恵と嬉しみて吾等はここに大神の 禽虫魚の端までも恵み給へる御心を 信仰ひまつりて王となり兎や鰐の一族に 神の恵を間配りつ守る折しも青垣の 山を踏み越え攻め来る虎狼や獅子熊や 大蛇の霊諸共にこれの霊地を蹂躙し 兎や鰐の一族を滅亡させむと迫り来る 其災害を遁れむと朝な夕なに言霊の 稜威の祝詞を奏上し漸く無事に来りけり 然るに又もや四方の山峰の尾の上に曲津神 雲霞の如く攻め来り此聖場を奪はむと 息まき来る物凄さ吾等四人は村肝の 心の限りを尽しつつ暗祈黙祷やや暫し 勤むる折しも西北の空を隔てし屏風山 帽子ケ岳の頂上より琉と球との霊光は 電火の如く輝きて魔神の咆哮一時に 跡形もなく止みにけりあゝ惟神々々 如何なる神の御救ひか如何なる人の救援か げに有難き今日の宵竜国別は謹みて 皇大神の御前に心を清め身を浄め 遥に感謝し奉るあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 斯く感謝の言霊を宣り上げ、再び月の大神の神前に向つて拍手を終り、兎の王に一先づ安堵すべき事を宣示した。兎の王は喜び勇んで此旨を部下に伝達せり。 鰐の頭此処に現はれ来り、大に勇みて、 鰐の頭『斯く天祐の現はれ来る限りは、吾等は湖辺に陣を取り、虎、狼、獅子、熊、大蛇の群、仮令幾百万襲ひ来るとも、これの湖水は一歩も渡らせじ、御安心あれ兎の王よ』 と勇み立ち、帽子ケ岳より輝き来る霊光に向つて感謝し、一同は歓声を挙げて天祐を祝し、其夜は無事に明かす事とはなりぬ。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 06 獅子粉塵 第六章獅子粉塵〔八九七〕 兎の王の側近く仕へたる左守の位置にある大兎は、立上つて感謝の意を表し、又もやうたひ始むる。 左守の兎『暗夜を照らす琉の玉吾等を救ふ球の玉 二つの玉は大空の月日の如く輝きぬ 青くしぼみし吾々の曇りし顔も忽ちに 二つの玉の御威光に喜び栄え輝きぬ あゝ惟神々々神の救ひか神人の 吾等を救ふ真心の魂の光の現はれか 南と北に立並ぶ屏風ケ峰の山脈に 雲を圧して聳え立つ帽子ケ岳の頂上より 瑞の御霊の神司言依別の大教主 国依別の真人が琉と球との神力を 発揮し給ひて吾々が此苦しみを詳さに 救ひ給ひし事の由月大神の御前に 額づく折しも示されぬいよいよ吾等は天地の 神の教を相守り互に他をば犯さずに 睦び親しみ皇神の大慈大悲の御心に 叶へまつらであるべきや皇大神の任けのまに 百の艱みを凌ぎつつ心の岩戸を打開けて 遥々此処に来りまし吾等が救ひの神となり 百の艱みを科戸辺の風に隈なく吹払ひ アマゾン河の急流に流し給ひし有難さ 神徳高き鷹依姫の貴の命の神司 竜国別を始めとし心の色もさやさやに テーリスタンの真人よ森に茂れる雑草を カーリンスなる神司茲に四柱並ばして 時雨の森の中心地十里四方の霊場に 降り給ひて湖の清き泉の御教を 開き給へる尊さよあゝ惟神々々 神の御徳を蒙りて吾等も早く執着の 衣を脱いで天津国神の御側に参ゐ詣で 幸ある人と生れ来て青人草は云ふも更 禽虫魚の端までも三五教の御教に 漏れなく落ちなく救ひ上げ功を樹てて神の子と 清く仕へむ惟神神の御前に願ぎまつる 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も現し世は直日に見直し聞直し 宣り直しませ天津神国魂神の御前に 兎一同を代表し救ひの御手の一時も 早く降らせ給ひましとおちし身魂をば 救はせ給へ惟神神かけ祈り奉る 旭は照るとも曇るとも仮令天地は変るとも 月は盈つとも虧くるともおのが身魂のある限り 皇大神や世の為に心を清めて三五の 大道に仕へ奉りなむ救はせ給へ天津神 恵み給へよ国津神国魂神の竜世姫 御前に願ひ奉るあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 斯かる所へ兎の一群、鰐の背に乗せられ、気息奄々として帰り来るあり。見れば四五の兎は手を咬まれ、傷つけられ、腹をえぐられ、殆ど瀕死の状態に陥れり。 之を見るより竜国別は忽ち側に寄り添ひ、天の数歌を声高く歌ひ上げながら、右の手を伸べて各自其傷所を撫でさすり、懇に労はり且つ天津祝詞を奏上し、一刻も早く傷所の痛みを止めさせ給へと、暗祈黙祷を続けたるに、不思議なるかな、神徳忽ち現はれて四五の兎は一斉に痛み鎮まり、疵口は見る間に癒えにける。兎は跪いて、竜国別に感謝の意を表し涙を流して俯伏せり。 兎の王は一同に向ひ、一刻も早く遭難の顛末を言上せよと迫れば、其中にて最も大なる兎は、兎王に向ひ、前膝をつき、詳さに戦況を物語る。 大兎『申すも詮なき事ながら吾々は一行五十の兄弟と共に ターリスの峰を越え獅子王の棲処近き アラスの森に進まむと峻しき坂を登る折しも 俄に聞ゆる猛隊の唸り声驚破一大事と 四辺の木蔭に身を忍び様子を窺ふ時もあれ 現はれ出でたる熊の群吾等が一隊に向つて 勢猛く攻め来り強力に任せて 或は生首引きぬき手足をもぎ取り 或は捕虜となし山のあなたに引立てて行く 吾等はもとより強力なる熊の群に向つて 対抗するの力もなく負傷をしながらも逃げまはる 今や吾等は熊の爪牙にかかりて 亡びむとする時しもあれ眩きばかりの霊光 帽子ケ岳の方面より鏡の如く射照らし給へば 流石強力無双の熊の一隊も眼眩みて忽ちに 其場に倒れて伏しました此機を窺ひ吾々一隊のもの共は 命カラガラ湖の畔に漸く逃げ帰り 湖辺を守る鰐共に救はれ此処に帰りました 此戦況を王様に完全に委曲に申上げ 敵に向つて膺懲の戦を起し悪神の 心を改め以後は必ず無謀の戦を起さざらしめむ事の用意を 遊ばされたしと心計りは張弓の 思ひ迫つて帰りましたしかるに尊や有難や 日頃尊み仕へたる三五教の神司 竜国別の神様に危き命を助けられ 痛みも忽ち全快しこれ程尊い嬉しこと 又と世界にありませうかあゝ惟神々々 神の恵を目のあたり授かりました吾々は 是より月の大神に感謝の祝詞を奏上し 兎の都の霊地をば堅磐常磐に守りませう 鷹依姫の神様よ竜国別の神様よ 其外二人の神司千代に八千代に此里に 鎮まりまして吾々の身魂を守り給へかし 海より深き大恩を感謝しまつり行末の 守りを茲に願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と嬉し涙を流しながら、心の底より神恩を感謝し、且竜国別の親切を打喜び、親の如くに慕ひける。 ○ 雲霞の如く押し寄せたる猛の一隊は、琉と球との霊光に照らされ、命カラガラアラスの森の獅子王が陣屋へ、転けつ輾びつ帰り行く。 獅子王は此度の兎の都攻めに対し、勝利は如何にと首を伸ばして待ちゐたり。かかる所へ速力早き禿鷲は、三丈ばかりの翼をひろげ、空中を翔つて矢の如く獅子王の前に翔せ帰り来る。獅子王は早くも之を認めて、 獅子王『汝は禿鷲の王ならずや。今日の一戦、味方の勝敗詳さに語れ!』 と待ちかねし如く慌しく問ひかくる。禿鷲は羽搏きしながら、さも恨めしげに獅子王に向つて戦闘の模様を陳弁する。 禿鷲『狼の王は青垣山の南より熊王北より進みより 虎王西より突進し豺王は東の谷間より 大蛇は巽乾より鷲の一隊艮や 坤に陣を取り兎の都を十重二十重 包みて一度に鬨の声ドツと挙げつつ進む折 湖辺に潜む数万の鰐は忽ち立上り 波を踊らせ水を吹き其勢は中々に 近寄り難く見えけるが獅子奮迅の勢を 発揮しながら驀地に命を的に攻めよつて 漸く兎の一部隊四十有五を捕獲して ヤツト一息それよりは尚も進んて湖を 一瀉千里に打渡り月の聖地に立向ひ 兎の王を捕虜となし愈目的達せむと 伊猛り狂ふ折柄に帽子ケ岳の頂上より 不思議の霊光現はれて吾等の軍を射照らせば 眼はくらみ手はしびれ足わななきて進み得ず 命カラガラ青垣の山を再び攀登り 東西南北一時に恨を呑んで引返し 味方は四方に散乱し熊王虎王狼王 大蛇の王の行方さへ今に至りて判明せず 無念ながらも只一機空中翔りてやうやうに 報告旁帰りし』と 語れば獅子王腕を組み悲憤の涙にくれけるが どこともなしに宣伝歌風のまにまに響き来る 其声聞くより獅子王は頭を抱へ目を塞ぎ 忽ち其場にドツと伏し悶え苦しみ居たりける あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 07 試金玉 第七章試金玉〔八九八〕 金剛不壊の如意宝珠紫色の宝玉や 黄金の玉を紛失し心いらちて高姫が 鷹依姫や黒姫は言ふも更なり傍人に 向つて怒り八当り玉の在処を探らむと 海洋万里を乗越えて捜し廻れど影さへも なみの上をば徘徊ひつ再び聖地に立帰り 八尋の殿に黒姫と麻邇の宝珠の玉しらべ これ又案に相違して面を膨らせ泡をふき 言依別の教主奴が三つの宝や麻邇の玉 盗み隠して聖地をば後に見すてて高砂の 島に渡りしものなりと思ひつめたる一心の 心猿意馬の狂ふまで春彦、常彦伴ひて 高砂島に打渡りテルの島国振出しに 鏡の池に立寄りて架橋御殿に侵入し 減らず口のみ並べ立て皇大神の戒めを 受けてやかたを飛び出しアリナの山を乗越えて アルゼンチンの大野原木の花姫の化身なる 日の出姫に廻り会ひいよいよ茲に悔悟して 荒野をわたり河を越え夜を日についでアル港 ここより船に身を任せゼムの港に上陸し 天祥山を乗越えてチンの港に辿りつき 鷹依姫の一行を救はむものと真心の 駒に鞭うち進み行くアマゾン河に来て見れば 半濁流は滔々と目さへ届かぬ広河を 勢猛く流れ居る波のまにまにモールバンド 怪しき頭を擡げつつ吾物顔に荒び居る 流石の高姫仰天しアマゾン河の北岸に 命からがら辿りつき天津祝詞を奏上し 宣伝歌をば歌ひつつ森林深く進み入る 遠き神代の物語いよいよここに述べ立つる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ。 高姫は常彦、春彦、ヨブと共に漸くアマゾン河の大森林、時雨の森の北の林に安着せり。此処は東西殆ど三百里、南北四百里位の際限もなき大森林なり。 高姫は此森林に鷹依姫の一行が迷ひ居るものと深く信じ、一日も早く救ひ出さむものと、鬱蒼たる樹木の間を右にくぐり左に抜け、草を分け、身を没する許りの笹原をくぐり、時々猛に脅かされ、毒蛇に追はれ、稍広き樹木稀なる原野に出ることを得たり。 世界第一の大森林のこととて名も知れぬ大木、風を含んでごうごうと吼え猛り、見慣れぬ美はしき果物は所々に稔りつつあり。一行は樹木まばらなる此原野に酷熱の太陽の光を浴びながら物珍らしげに日光浴を恣にせり。 此時前方より得も言はれぬ美はしき一人の女、悠々として高姫一行が前に進み来る訝かしさ。四人は顔を見合せて、妖怪変化の出現ならむと、腹帯を締め肝を据ゑて、女の近寄るを待ち居たる。 女は声しとやかに高姫の前に来り、お辞儀しながら、少しく顔を赤らめ、 女『エヽ一寸お尋ね致しますが、あなたは三五教の宣伝使、玉捜しの高姫様一行では御座いませぬか?玉が御入用ならば金剛不壊の如意宝珠、紫色の玉、黄金の玉、麻邇の宝珠は、数限りなく妾の館に遠き神代の昔より、神政成就の宝として数多蓄へて御座いますれば、どうぞ、御検めの上御受け取り下さいますれば、実に有難き仕合せに存じ奉ります』 一旦玉の執着をはなれたる高姫は、又もや此言葉を聞いて持病再発したるものの如く、目を丸くし、顔を妙に緊張させながら、 高姫『エヽ何と仰せられます。金剛不壊の如意宝珠は世界に一つよりなきものと存じて居りますが、貴女の御宅にはそれ程沢山に御持ちで御座いますか。ソリヤ大方偽玉では御座いませぬか?金剛不壊の如意宝珠と云へば世界に一つよりなき筈で御座いますが……』 と半信半疑の目を見張り、あわよくば此玉を得て帰らむとの野心にみたされながら、心欣々として尋ね返した。美人は打笑ひ、 女『ホヽヽヽヽ、高姫様貴女は妾の申す事をお疑ひ遊ばすので御座いますか?論より証拠、妾が宅へお出で下さいますれば、お分りになるでせう。如意の宝珠は只一個とのみ思召すのは、失礼な申分ながら、井中の蛙大海を知らざる譬も同様で御座います。マア一寸妾の宅までお出で下さいまして、お査べなさいませ』 高姫『ナンと妙なことを仰せられます。さうして又昔から人の来たことのない此森林に貴女が住んで居られるとは合点が参らぬぢやありませぬか?何神様かの化身では御座いますまいか?人間の住むべき場所ぢや御座いますまい』 女『ホヽヽヽヽ、此森林に人間が住めない道理がどこに御座いませう。現に三五教の宣伝使、鷹依姫さまの一行が御住居になつてゐるぢやありませぬか』 高姫『アヽ其鷹依姫、竜国別一行の在処を捜すべく、それが第一の目的で御座います。玉などは最早断念して居ります。併し乍ら貴女のお宅に其尊い玉があつて、私に受取れとの事なれば、別に否みは致しませぬ。そんなら参りませう。どうぞ御宅まで案内して下さい』 女『一寸待つて下さいませ。つい其処に妾の住家が御座いますれば、俄にお越し下さいますと余り散らかつて居りますので済みませぬ。どうぞ此処でゆるゆると休んでゐて下さい。其中に又お迎へに参ります。又鷹依姫様一行の在処を御探ねならば、妾が存じてゐますから、ゆつくりと妾が案内致します。此広い森を五年や十年当所もなく御探ねになつたつて、分る道理がありませぬから……』 高姫『何から何まで御親切なる御言葉、神様のなさることは抜け目のないもので……あなたにお目にかかるも神様のお引合せです。 ほのぼのと出て行けど心淋しく思ふなよ 力になる人用意がしてあるぞよ とお筆に出て居る。一分一厘神様の御言葉は違ひはありませぬワイ。これが違うたら神は此世に居らぬぞよと仰有るのだから、斯んな大丈夫なことは御座いませぬ。オホヽヽヽ』 女『暫く御免蒙ります。後してお迎へに……』 と云ひながら、足早にあたりの森林に消ゆるが如く姿をかくしける。 高姫は後見送つてニコニコ顔、 高姫『コレ常さま、春さま、ヨブさまえ、神さまと云ふ方はエライ力で御座いませうがなア。此様な東西南北果てしもなき大森林の中で、あんな美しき女に出会ふとは夢にも思はなかつたでせう。私でさへもこんな事があらうとは思はなんだのですよ。ついては改心位結構なものは御座いますまい。自転倒島に居つた時に、金剛不壊の一つの玉に現をぬかし、此宝がなければ神政成就は出来ない、又高姫が之を使用せなくては、神政成就は駄目だと思ひつめて、いろいろと心を砕きましたが、神様は有難い。苦労艱難を十分にさせておいて、こんな所で思ひがけなく如意宝珠の玉を下さるとは、何と有難いことぢや御座いませぬか。それだから魂を研いて改心なされと申すのだよ。コレ常さま、春さま、ヨブさまよ、お前は結構なお神徳を頂いて万劫末代名の残る御用が出来ますぞえ。これも全く日の出神の……オツトドツコイ、モウ日の出神は云はぬ筈だつた……神さま、うつかりと申しました、どうぞお許し下さいませ……高姫についてお出でたればこそ、こんな御用が出来ますぞえ。何を云うても変性男子の御系統……オツトドツコイ、之も云ふ筈ぢやなかつたが余りの嬉しさに、ツイこぼれました。ホヽヽヽヽ』 常彦『其玉が沢山手に入るからは、何程日の出神の生宮と仰有らうが、変性男子の系統と申されようが、差支はないぢやありませぬか。正々堂々と玉を携へて帰り、さすがは日の出神の生宮ぢや、変性男子の系統のなさることは、マアざつとこの通りだ。皆さま、ヘン済みませぬナ……と云ふやうな顔して帰つた所で、誰が何と云ふ者が御座いませうか。神さまだつて、これ丈の御用をあそばした高姫様に、少々の過ち位あつたとて、御咎め遊ばす道理も御座いますまい。イヤもう結構な事が到来致しました。お供に出て来た私さへ、余り嬉して嬉しうて、手が舞ひ、足が踊りますワイ。アハヽヽヽオホヽヽヽ』 と何が嬉しいのやら、手を拍つて踊りまはる其可笑しさ。春彦は余りすぐれぬ顔付にて、 春彦『モシモシ高姫さま、常彦さま、チツト御用心なされませや。あなたは又もや玉に執着心が出て来たやうな塩梅ですよ。今来た女は真の人間だと思うて居られますか。どうも私には腑におちぬ点が御座いますワ。能く能く見れば、あの娘の耳が時々ビリビリと動いたぢやありませぬか。人間の耳は不随意筋ですから、動く道理はありませぬ。に限つて随意筋が発達して、耳を手のやうに動かすものです。コリヤうつかりはして居られますまい』 高姫『人間の分際として、神さまの事が分るものですか。春さまは春さまらしうしてゐなさい……なア、ヨブさま、あなたどう思ひますか、あの御方を……』 ヨブ『左様ですなア。吾々にはちつとも見当が取れませぬ』 高姫『アヽさうだらうさうだらう、そこが正直な所だ。耳が動くの動かぬの、怪しいの怪しくないの、頭から疑つてかかつては神様の御仕組は分りませぬワイ。お前は余程悧巧な方だと思つたが、私の目はヤツパリ違ひませぬワイ、オホヽヽヽ』 春彦『そらさうかは知りませぬが、如何しても私には合点の虫が承認しませぬよ。よう考へて御覧なさい。こんな森林にあんな美しい女が住居して居る道理はないぢや御座いませぬか。そして又金剛不壊の如意宝珠の如き結構な宝が幾つもあつて、それを貰うてくれと云ふのが、それが第一理由が分らぬぢや御座いませぬか。又しても執着心を起して失敗なされましたら、今度は取返しが出来ませぬぞ。どうぞ胸に手を当ててトツクリと御思案なされませや』 高姫『コレ春さま、お前は年が若いから、何も知りさうな事がない。マア此高姫のすることを黙つて見て居なさい。年の効は豆の粉、豆の粉は黄ナ粉だ。浮世の波にさらはれて、千軍万馬の功を経た心の鏡の光明に映つた以上は、どうして間違ふ気遣ひが御座いませうかい。細工は流々仕上げを御覧じ、そんな分らぬ事を言ふと、たつた今アフンと致さねばなりませぬぞや。……コレ常彦、ヨブの両人さま、私の言ふことが違ひますかな』 ヨブ『違ふか違はぬか、そんなこと如何して分りませう』 高姫『お前もみかけによらぬ先の見えぬ御方ぢやなア。大概分りさうなものぢやないか。籔を見たら筍が生えて居る、池を見たら魚が住んで居る、果樹を見たら、コラ甘い果物がなつて居る位の事が分らねば、宣伝使になつて人を助けることは出来ませぬぞえ。お筆先には一を聞いて十を悟る身魂でないと、まさかの時の間に合はぬぞよと御示しになつてるぢやありませぬか』 ヨブ『さうだと云つて正直に告白してゐるのですよ。不可解の事を分つたとは申されませず、又断然分らぬとも云へぬぢやありませぬか。否定と肯定とのまん中に立つて御返事をしたので御座います。お気に障りましたら、真平御免下さいませ』 高姫『エヽ仕方のない御人足だな……コレコレ常彦、お前は余程悧巧さうな顔付だ。お前の考へは間違ひなからう、どう思ひますかなア』 常彦『誰が何と云つても、私は高姫さまの仰有ることを真と信じます。乍併あの娘の言つたことは実地に当らねば、愚鈍な私、確かな御返答は出来ませぬ』 高姫『扨も扨も困つた分らずや計り寄つたものだな。世界に此事を分ける者一人ありたら物事は立派に成就するものなれど、余り身魂が曇り切りて居るから、神も誠に骨が折れるぞよ……と大神様が仰有つた。思へば思へば大神様の御心がおいとしいわいのう……それはさうと、何故早くあの娘さまは出て来ないだらうか。余り広い座敷で御掃除に暇が要るのではなからうか』 春彦『高姫さまの天眼通で御覧になつたら、あの娘が何をしてゐる位は分らにやなりますまい』 高姫『千騎一騎の此場合、神政成就の御宝が手に入るか入らぬかと云ふ時に、そんな小理屈を言うておくれなや。さうだから大勢は入らぬ、大勢居ると邪魔が入りて物事は成就致さぬと御示しになつて居るぞえ』 春彦『そんなら私はこれからお暇申して帰りませうか』 高姫『肝腎の御用は一人ありたら勤まるのだから、勝手になさりませ』 ヨブ『今の御言葉によれば、一人ありたらよいとの事、そんなら私も春彦さまと一緒にお暇致しませうか、御邪魔をしては済みませぬからなア』 高姫『コレ気の早い、そら何を言はつしやるのだ。ヨブさまに帰つてくれとは申しませぬぞえ。春さまだとて、別に私が邪魔になると言つたのぢやない。神様の御言葉を参考の為に話して聞かした丈の事だよ。つまり誠のお道は大勢よりは一人の方が御用が出来よいものだと云ふ神様の御示しを話した丈ですから、今となつて、さう悪気をまはして貰つちや困りますワ。千騎一騎の此場合、如意宝珠の玉を何程欲に持つたとて、一人に三つ位より持てるものでない。そして四人居れば、三四十二の玉が手に入るぢやありませぬか。あゝ斯うなるとモ少しガラクタ人間でもよいから伴れて来るのだつたに、世の中は思ふやうに行かぬものだなア』 春彦『アハヽヽヽ、何とお口の達者な事、兎も角御手際拝見の上、お詫を致しませう』 常彦は口を尖らし、 常彦『コリヤ春彦、変性男子の御系統に、何と云ふ御無礼な事を申すか。日の出神の生宮ぢやぞよ』 春彦『ハイ恐れ入りました。乍併どうぞ不調法のないやうに、皆さま御願申します』 高姫『オホヽヽヽヽ、あのマア疑の深い事ワイのう』 斯く話す折しも、以前の娘、美々しき盛装をこらし、二人の侍女を従へて、悠々と此方に向ひ進み来る。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 09 岩窟女 第九章岩窟女〔九〇〇〕 三人の娘の後から高姫は期する所あるものの如く、体をゆすり、どことなく春駒の勇んだやうに、シヤンシヤンとして従いて行く。常彦、ヨブの二人はせう事なさに従いて行くといふ様な足元で、莽々と草の生え茂つた中を、一歩々々探る様にしてゐる。春彦は殿をつとめながら、何となく心の底より可笑しくなり、 春彦『時雨の森に現はれた魔性の女にだまされて 欲の熊高姫さまが又も持病を再発し 金剛不壊の如意宝珠数限りなく吾宿に 隠してあるから出ておいでお気に入るのがあつたなら いくらなりとも上げませうと茨に餅のなるやうな 甘い話を聞かされて心の中はうはの空 我欲の雲にとざされて一寸先は真の暗 旭が出てるが分らない月日の姿も目につかぬ 高倉暗の高姫がドツコイ一杯喰はされて 又も吠え面かわくだらうあゝ惟神々々 なぜにこれ程高姫の心がグラグラするのだらう 勢込んであの通り玉ぢや玉ぢやと勇み立ち 狐の穴につれ込まれコレコレまうし高姫さま 如意の宝珠はこれですとさらけ出したる玉手箱 開いて見ればこはいかに如意の宝珠と思ひきや 狸の睾丸八畳敷オツたまげたよたまげたよ コリヤたまらぬと尻からげ一目散にかけ出して 底ひも知れぬ谷川へドンブリコンと墜落し 水の泡程泡をふきアフンとするに違ひない それを見るのが春彦は気の毒さまでたまらない あれほど意見をしたけれど玉にかけたら魂を 奪はれ切つた高姫は口角泡をば飛ばしつつ 神の仕組は人民の容喙致す事でない 神の仕組は神が知るお前の様な人民が 神の仕組をゴテゴテと横槍入れるこたならぬ だまつて厶れとはねつけてありもせないに宝玉を 手に握らむと進み行く猿猴が水に映つたる 月の影をば掴むやうに水に溺れてブルブルと 泡を吹いては八当り二百十日に吹きまくる 風ぢやなけれど吾々は蕎麦の迷惑思ひやる そばに見てゐる俺達も高姫さまの吹く粟を 黍がよいとは思やせぬ狐の七化け、ド狸、豆狸 八化けと更に知らずして玉を手に入れ其上に 鷹依姫の在処をば知らして貰ふと暗雲に 糠よろこびの気の毒さ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 如意の宝珠の宝玉は高砂島にあるものか 言依別の大教主初稚姫や玉能姫 二人の身魂にコツソリと離れの島にかくさせて 誰も在処は分らないとは云ふものの自転倒の どつかの島に隠しある其事だけは確ぢやと 錦の宮の杢助が私に話してをつたぞや お気の毒なは高姫ぢやモウよい加減に諦めて 玉の執着捨てなさいお前が玉に執着し 心を曇らすものだからこんな苦労をせにやならぬ 日の出神の生宮か系統の身魂か知らねども 俺は愛想がつきて来た改心したかと思や又 又もや慢心あと戻り改慢心をくり返し 神さまだとて気の毒ぢやこんな身魂を元のやうに 研き直すは大変だ俺が神さまであつたなら 遠くの昔に棄ててをるホントにホントに気が長い 尊き神の思召し誠に感じ入りました 先へ出て行く三人は高倉稲荷を始めとし 月日、旭の明神だ神が姿を現はして 高姫さまの改心を試してござるも知らずして 従いて行くのか情ないあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして高姫さまの執着を 一日も早く晴らしませ私も真に困ります あんな御方の供をして居るものならば何時迄も 自転倒島へは帰れない鷹依姫の一行は アマゾン河の南岸兎の王にかしづかれ 尊き霊地を守りつつ高姫さまの到るのを 待つてゐるのに違ひない早く改心させてたべ 高姫一人の為ならず常彦、春彦、ヨブの為 神かけ念じ奉るあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひながら、後より厭々ついて行く。 高子姫は草路を分けつつ、此森林に見た事もない大岩石十町四面許り、洋館の如くに屹立し、岩の面には白苔が所斑に生えてゐる。そして岩の凹所には小さき樹木の割には年を寄つて、植木のやうな面白き枝振りで、彼方此方に点々として生えてゐる。其下の方に縦一丈横八尺許りの真四角な穴が穿たれ、入口には頑丈な岩の戸が閉てられてあつた。高子姫は高姫に向ひ、 高子姫『これが妾の住家で御座います。どうぞ皆さま、御遠慮なしに御這入り下さいませ。お茶なつと差上げますから、ゆるゆる御休息下され。鷹依姫様にも御面会下さらば、真に有難う存じます』 高姫は余り立派なる岩窟の入口に肝をつぶし舌を巻きながら、 高姫『これはこれは思ひがけなき立派な御住居、此岩窟は何時築造になりましたか。斯様な森林内に立派な館が立つて居らうとは夢にも知りませなんだ』 高子『何分此辺は大蛇や悪の跋扈甚だしく、夜分は斯様な処でなければ、到底安眠する事も出来ませぬので、天然の岩山を幸ひ、掘り付けまして、漸く此頃仕上つたばかりで御座います。貴女が始めてお客さまとして、御這入り下さるかと思へば、実に光栄に存じます』 春彦『モシモシ高姫さま、確りせぬと出られぬやうな目に会はされますよ。決して這入つちや可けませぬ。ここは立派な岩窟の様に見えて居つても、シクシク原の泥田圃で御座いますよ。チト確りなさらぬか』 高子『ホヽヽヽヽ』 高姫『コレ春!お前はどうかしてゐるぢやないか。曲津に憑依されて結構な御用をゴテゴテと邪魔する事計り考へてゐるのだなア』 春彦『アイタヽヽヽ、俄に足が引きつつて来ました。どうやら化石しさうになつて来たぞ。モシ高姫さま、鎮魂をして下さいな。こんな所で石仏になつちや堪りませぬからなア』 高姫『それ見なさい。余り御神業の邪魔計りするものだから、神罰が立所に当つて其通り固められて了つたのだ。マア暫くそこに門番を勤めて居なさい。此高姫は常彦、ヨブの二人と共に奥殿に案内され結構な玉を拝見し、其都合に依つて頂戴して来る考へだから、それ迄お前はそこに立番してゐる方がよからうぞ。又してもゴテゴテ差出られると、御主人の御機嫌を損ね、折角見せて貰へる玉まで拝む事が出来ない様になつちや困るから……あゝ神様といふ御方は何とした気の利いたお方だらう。実はお前を連れて、此館へ這入るのは真平だと思うてゐた所、都合よく神様が御繰合せをして下さつた。慢心致すと、にじりとも出来ぬやうになるぞよと、お筆先に出て居りませうがな。チト改心なされ。左様なら、春さま御苦労……』 と云ひ捨て、高子姫に手をひかれ岩窟内に潜り入らうとする。春彦は声を限りに、 春彦『高姫さま、シツカリしなさい、違ひますよ。オイ常彦、ヨブの両人、俺の言ふ事を聞いて高姫さまを引止めて呉れ。大変な目に遭はねばならないぞ。俺はかう見えても、天眼通が利いて居るのだから……』 高姫『エヽ喧しい、体も動かぬ癖に、天眼通もあつたものかい……サア常彦、ヨブ参りませう』 と三人の女に手を曳かれ、奥深く進み入る。後に春彦は呆然として三人の後姿を眺め、 春彦『ハテ困つた明盲ばかりだなア。高姫さまも是ではサツパリ駄目だワイ』 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 10 暗黒殿 第一〇章暗黒殿〔九〇一〕 外から見た割とは非常に広い岩窟と見え、二間幅の隧道が高く穿たれて居る。そこを二三丁許り雄大なる岩窟に呆れつつ、三人の後に従つて行く。 高子『ここが妾の住居で御座います。どうぞ御遠慮なく御上り下さいませ』 高姫『ハイ有難う。何とマア綺麗な青畳を敷きつめ、立派な壁掛がかかつて居りますなア。どうしてマア此不便な土地に、こんな立派な行届いたことが出来たでせう。熱心と云ふものは怖いものですね。こんな固い岩を穿つて、こんな館を拵へるには、随分時日が掛つたでせうな』 高子姫『ハイ、私の生れた時から、私の父がそろそろ開掘にかかりました。丁度今年で五十六億万年になりますよ、ホヽヽヽヽ』 高姫『何と仰有る。お前さまが生れた時に掘りかけた此岩窟、五十六億万年とは、チト勘定が合はぬぢやありませぬか。お前さまの年はまだ十七八才の花の蕾ぢやないか』 高子姫『イエイエ、私はそんな若い女では御座いませぬよ。芝居の役者ぢやないが、どないにでも女と云ふものは化けられますからなア。顔の皺に白粉を一杯埋めて、其上に鬢つけ脂をコテコテと蝋のやうにぬり、其上に又白粉を白壁のやうにぬつて一寸紅をあしらひ、白髪には黒い汁をぬつて、此通り若く見せて居るのですよ。ここは陸の竜宮で、妾は乙姫で御座います。そして私の夫日の出神は奥に高鼾をかいて休んで居ります。いつも貴女の御肉体を借用致しますさうで御座いますが、随分貴女も御困りでせう。私は貴女の家来の黒姫さまの体内をチヨイチヨイ拝借致す竜宮の乙姫で御座います。竜宮の乙姫はいつ見ても若い顔をして居ると、世界の人間が思うて居りますが、此通り化けて居るのですからなア。お前さまも大化物の容器だから、随分おめかしやうによつては若く見えますよ。ホヽヽヽヽ』 高姫『何と合点の行かぬ事を仰有るぢやありませぬか。チト私は合点が往きませぬがなア』 高子姫『そらさうでせう。此処は五里夢中郷といふ暗黒世界の中心地点、高姫村の黒姫御殿と名が付いて居る怪体な処ですよ』 高姫『貴女は私をこんな所へうまくだまし込んで、玉をやらうなぞと云つたのは、何か一つの企みがあるのでせう』 高子姫『ハイ、勿論のこと、大いに目的があつての事で御座いますワ』 高姫『其目的とは何ですか、聞かして下さい。返答次第に依つては、此高姫にも一つ了見がありますぞや。化物なんかに化されて、おめおめして居るやうな高姫とは違ひますぞや!』 と大声に呶鳴り立てた。お月、お朝の両人はおチョボ口を尖らし、 お月、お朝『ホヽヽヽヽ……』 と笑ひ嘲る。高子姫の姿は俄に白髪と変じ、皺だらけの渋紙のやうな面をヌツと前につき出し、尖つた牙を下唇より一寸許り、下まではみ出し、 高子姫『イヒヽヽヽ、イツ迄もイツ迄も執着心の取れぬ婆アさまだのー。 ウフヽヽヽ、ウロウロと世界中をうろたへまはる玉捜し、 エヘヽヽヽ、エヽ加減に諦めたらどうだ。改心したかと思へば、玉の声聞きや、すぐ慢心する困つた高姫婆アさま、 オホヽヽヽ、オソロしい負惜みの強い、疳のきいた婆アさまだのー、 カヽヽヽヽ、カんで食てやらうか。イヤサ、咬んで呑んで吐き出してやらねば、まだ本当の改心は致すまい。何と云つても常世姫の身魂の継承だから、しぶといのも無理はないわいのう』 高姫『如意宝珠の玉を見せると云つたぢやありませぬか。そんな婆顔をしてだまさうと思つたつて、だまされもおどろかされも致しませぬよ。サアこれから高姫が岩窟退治の幕開きだ。……オイ常彦、ヨブの両人、何をおぢおぢと慄うてゐるのか、千騎一騎の此場合、チツト気を付けなされ』 常彦『高姫さま、此草つ原で貴女何を一人、喋くつて居るのですか』 高姫『お前も余程好い呆け人足だなア。此立派な岩窟がお前の目にはつかぬのか』 ヨブ『高姫さま、向ふの森蔭にモールバンドのやうな怪が此方を向いて睨んで居ますよ。チトしつかりして下さい』 高姫『お前こそしつかりして呉れなくちや困るぢやないか。そんなとぼけた事、千騎一騎の場合になつて、云うてるやうなことではどうなりませう。何の為にお前をはるばる連れて来たのだい。こんな時に足手纏ひにならうとは、如何な高姫も思はなかつた。……オイオイ高子姫と吐す化物婆ア、早く金剛不壊の如意宝珠を出して来ないか。日の出神を偽ると、八万地獄へ落として、水責火責の成敗にあはしてやるぞよ。三千世界の救主を何と心得て居るか!』 高子『オホヽヽヽ、玉が見たければ、自転倒島の附近の小島を捜しなさい。さうして麻邇の宝は雄島雌島にかくしてあるぞえ。早く鷹依姫に廻り会ふて、麻邇の宝珠の御用を天晴れ勤め上げ、スツパリ改心致して、玉照彦、玉照姫様に心の底から御仕へ致し、我情我慢を出さぬ様にしなさいよ』 高姫『おいて下さい、お前さま等に意見を受けずとも、チヤンと此高姫が胸にあるのだ。雄島雌島に隠してあるなんぞと、そんな馬鹿を云ふものでない。何奴も此奴も云ひ合はした様に、麻邇の宝珠は、雄島雌島に隠してあると異口同音に言ひくさる。そんな古い文句はモウ聞きあいた。サア約束通り、玉がなければ許してやるから、鷹依姫に面会さしたがよからうぞ。それをゴテゴテ言ふならば、此高姫も千騎一騎の活動だ』 高子姫は白髪の醜き婆アさまの姿になつた儘、 高子姫『高姫さま、こちらへ御座らつしやれ。鷹依姫、竜国別、テーリスタン、カーリンスの四人の御方に面会させてあげませう』 と先に立つて岩窟を右に廻り左に廻り、うす暗い奥の方まで連れて行く。 高子『サア高姫さま、ここに四人共居られます。ゆつくり御話し下さいませ』 見ればガラスの如く透き通つた隔ての中に、鷹依姫を始め一同は兎と鰐に取巻かれ、嬉しさうに果物の酒を飲んだり、唄つたり、踊つたり、愉快さうに戯れて居る。高姫は之を見るより、隔てのガラスのあるとは知らず、 高姫『コレ鷹依姫さま、何の事だい。千騎一騎の此場合、お前さまは気楽さうに、こんな魔神の岩窟に這入つて、兎や鰐を相手に酒を飲んで、踊り狂うて居るといふ事がありますかいな。私はお前の後を尋ねて、お前の難儀を助けたいと思つたから、危険を冒してここまでやつて来たのだ。それ程気楽に暮して居るのなら、アタ阿呆らしい、ここまで来るのぢやなかつたに』 と飛び込み、鷹依姫、竜国別を引摺り出さうとする刹那、ガラスに顔を打ちつけ、 高姫『アイタヽヽヽ、此高姫と同じ奴が向方に一人這入つてゐる、コラ化物!』 と腕を振上げると、向ふも腕を振り上げる。此方が目を剥けば、向ふも目を剥く。高姫は初めて鏡を見たのである。 高姫『コレコレ常彦、ヨブさま、これ御覧!私に寸分違はぬ化物が居やがる。一寸も油断はなりませぬぞや。蜃気楼の様に私の姿をソツクリ其儘に現はして居やがる。油断のならぬ化物だぞ。一寸ここまでお出でなさい』 二人は『ハイ』と答へて、高姫の側にすりよつた。又もや常彦、ヨブの同じ姿が立つて居る。高姫は二人を見比べて又もや頓狂な声を出し、 高姫『又しても化けよつたなア。コレコレ常彦、ヨブさま、しつかりせぬか。お前迄が模型をとられて了つたぢやないか。是からキツト此化物奴、高姫、常彦、ヨブと姿を変じ、其処等あたりを、だまし歩くに間違ひないから、今の間に亡ぼしておかねばなりませぬぞや。サア高姫が力一杯、此奴と格闘してこらしめてやるから、お前はお前の模型と、一つ力比べをしなさい。……コレコレ鷹依姫、竜国別、お前は化物の後に居るのだから、一つ加勢をしてお呉れ。さうすりや、私の姿の化州を前と後からはさみ討ちに、こんな化物は一人と一人は到底互角の勢で勝負がつくまい。人が口を動かせば動かす真似をさらす、稀有とい奴、……コレコレ常彦、ヨブ、お前は後まはしにして、私の模型から叩きつけて御呉れ』 常彦、ヨブの両人は、 常彦、ヨブ『ハイ承知致しました』 と鏡に映つた高姫の頭を目がけて、力一杯になぐりつけた。高姫はビツクリ仰天、 高姫『アイタヽヽヽ、コレ両人何をする、私ぢやない、向方の化州ぢやがな』 二人は鏡の顔を目当に力一杯なぐりつける。 高姫『又しても私をなぐるのんかいな。ソレ向方の奴ぢや』 常彦『向方の奴を擲つて居るぢやありませぬか。あれを御覧なさいよ。化州をなぐると思へばお前が知らぬ間になぐられたのだ』 高姫『エヽ鈍な男だなア。それだから、まさかの時に間に合はぬと、何時も云ふのだ。……痛いがなア、モウおいておくれ』 常彦『そんなら措きませうか』 高姫[※初版、校定版、愛世版いずれも話者名が「ヨブ」になっているが文脈上「高姫」のセリフだと考えるのが妥当なのでそのように修正した。]『何だかチツとも合点が往かぬぢやないか。エヽ仕方がない、何と云つても、鷹依姫、竜国別の奴、酒に魂を取られやがつて、兎や鰐を相手に遊んで居やがる。モウかうなる上は第一の魔性の女を制敗致せ』 常彦、ヨブ『さうぢやさうぢや』 と両人は高子姫の後を追つかけて行く。高姫はブツブツ呟き乍ら、自分と同じ姿に向つて睨めつけ乍ら、サツサと岩窟の入口指して走せ帰る。外に仁王の如く立つて居る春彦は大口あけて、 春彦『アハヽヽヽ、オホヽヽヽ』 と哄笑してゐる。高姫は之を眺めて、 高姫『コレコレ春彦、お前は余程馬鹿ぢやなア。何を気楽さうに笑うてゐるのだい。常彦、ヨブの両人は、行方が分らなくなつて了つたよ。お前もチツトしつかりせないと、どんな事が此悪魔の岩窟には起るか知れぬ。エーエ腑甲斐なや、足が立たないのかや』 春彦『アハヽヽヽ、高姫さま、最前から随分泥水の葦原で能く踊りましたな。二人はあこに転げて居るぢやありませぬか』 斯かる所へ以前の三人の女、美しき姿となつて現はれ来り、 女『高姫さま、誠に済みませなんだねえ』 高姫『エヽ化物奴、思ひ知れ!』 と拳を固めて、三人目がけて、打たむとする其刹那、パツと三人は煙となつて消えて了つた。白狐の姿目の前に三つ、のそりのそりと這ひ出し、あなたの森林目がけて一目散に逃げ去り「コンコンカイカイ」と鳴き立てて居る。高姫は始めて気がつき、あたりを見れば、シクシク原に泥まぶれとなつて、立つて居る事が分つて来た。是より高姫は翻然として悟り、玉の執着心を悉く心の底より払拭し去り、遂に時雨の森の邪神を言向け和し、目出度く自転倒島をさして帰国の途に就けり。 (大正一一・八・二二旧六・三〇松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 11 人の裘 第一一章人の裘〔九〇二〕 アマゾン河の南岸に展開せる大森林は、猛毒蛇の公然として暴威を逞しうするのみなれば、却て之が征服には余り骨を折らなくてもよかつた。只表面的神力を発揮さへすれば獅子、狼其他の猛をも悦服させ得たのである。 鷹依姫、竜国別は兎の都の王となり、暫く此処に止つてゐた。然るに屡々、獅子、熊、虎、狼、大蛇、禿鷲、豺其他の、群をなして兎の都を包囲攻撃し、大いにそれが防禦に艱みつつありし処に、帽子ケ岳の山頂より危急存亡の場合は、不思議の霊光、猛の頭を射照らし、遂に流石の猛大蛇も我を折り、鷹依姫、竜国別の許に鷲の使を派遣し帰順を乞ひ、時雨の森の南森林は、全く鷹依姫女王の管掌する所となりぬ。 之に反し北の森林はすべての類、奸佞にして妖怪変化をなし、容易に其行動、端倪すべからざるものあり。そこへ動もすれば執着心を盛返し、心動き易き高姫を主として一行四人、鷹依姫を助けむと出で来りたるが、到底北の森林は、一通や二通で通過する事さへ出来ない事を大江山の鬼武彦が推知し、茲に白狐の高倉、月日、旭の眷族を遣はし、先づ第一に高姫の執着心を根底より除き、我を折らしめ、完全無欠なる神の司として、森林の探険を了へしめむと企画されたるが、果して高姫は玉と聞くや、執着心の雲忽ち心天を蔽ひ、斯の如き神の試みに遇ひたるぞ浅ましき。 ○ 高姫は泥田圃の葦の中にアフンとして、夢から醒めたやうな面をさらしてゐる。常彦、ヨブの両人は、鼈に尻をぬかれた様な、ド拍子の抜けた面をさげて、高姫の体を不思議さうに、頭の先から足の先まで、まんじりともせず眺めながら黙然として立つて居る。春彦は何時の間にやら、身体自由になつて居た。 春彦『高姫さま、私の云つた事は如何でした。違ひましたかなア』 高姫『違はぬ事もない、違ふと云つたら、マア違ふやうなものだ。チツトお前さま改心なさらぬと、私迄がこんな目に遇はなくちやなりませぬよ』 春彦『アハヽヽヽ、何とマア徹底的に強いこと、世間へ顔出しがならぬ様になりて来るぞよ、われ程の者はなき様に申して、慢心致して居ると、眉毛をよまれ、尻の毛が一本もない所迄抜かれて了うて、アフンといたし、そこになりてから、何程神を頼みたとて、聞済はないぞよ……と三五教の御教にスツカリ現はしてあるぢや御座いませぬか……スゴスゴと姿隠して逃げていぬぞよと』 高姫『コレコレ春彦、お前そりや誰に云つてるのだえ。そんなこた、チヤンと知つてゐる者計りだ。高姫はそんな事は百も千も承知の上の事だから、モウ何にも云うて下さるな。エヽこんな男の側に居つて、ひやかされて居るよりも、どつかの木の下で一つ沈思黙考と出掛けようか』 と云ひながら、一生懸命に尻ひきまくり、森林の奥深く駆入る。 常彦は高姫の姿を見失はじと、是亦尻ひつからげ、後を慕うて従いて行く。 春彦、ヨブの二人は、二人の姿を見失ひ、 春彦『又何れどつかで会ふ事があるだらう。吾々は鷹依姫一行を早く捜し求めて救ひ出し、自転倒島へ早く帰らねばならぬ』 と春彦は先に立つて高姫が走つて行つた反対の方向へワザとに歩を進めた。半時許り森林の中をかきわけて、西北を指して進み行くと、そこに真黒けの苔の生えた、目鼻口の輪廓も碌に分らぬ様な三尺許りの石地蔵が、耳が欠けたり、手が欠けたり、頭半分わられたりしたまま、淋しげに横一の字に立つてゐる。 ヨブ『春彦さま、一寸御覧、此石地蔵を……耳の欠けたのや、頭の欠けたの、手の欠けたのや、而も三体、能くも不具がこれ丈揃うたものですな。一寸此辺で一服致しませうか』 春彦『サアもう一休みしてもよい時分だ。併し此石地蔵は決して正真ぢやありますまいで。気をつけないと、又高姫さまの二の舞をやらされるか知れませぬワイ。神さまに吾々は始終気を引かれて修業をさせられますからな』 ヨブ『春彦さま、私はモウ三五教が厭になりましたよ。高姫さまの正直な態度に、船中に於て感歎し、本当に好い教だと思うて入信し、一切の欲に離れて財産迄人に呉れてやり、ここ迄発起してワザワザついて来ましたが、どうも高姫さまの執着心の深い事、あの豹変振り、ホトホト愛想がつきて、三五教がサツパリ厭になつて了つたのですよ』 春彦『あなたは神様を信ずるのですか、高姫さまを信じてるのですか……人を信じて居ると、大変な間違ひが起りますよ。肝腎要の大神様の御精神さへ体得すれば、高姫さまが悪であらうが、取違ひをしようが、別に信仰に影響する筈はないぢやありませぬか』 ヨブ『さう聞けばさうですなア。併し高姫さまの行ひに惚込んで入信した私ですから、何だか高姫さまがあんな事を言つたり、したりなさるのを実地目撃しては、坊主憎けら袈裟迄憎いとか云つて、神様迄が信用出来なくなつて来ましたよ』 春彦『そらそんなものです。大抵の人が百人が九十九人迄導いて呉れた人の言行を標準として信仰に入るのですから、盲が杖を取られたやうに淋しみを感ずるのは当然です。どうでせう、是から吾々両人が高姫さまに層一層立派な神柱になつて貰ふやうに努めようぢやありませぬか。神様から吾々に対する試験問題として提供されたのに違ひありませぬよ』 ヨブ『兎も角入信間もなき私ですから、先輩のあなたの御意見に従ひませう。私もあなたには感心しました。高姫さま以上の神通力をお持ちになり、吾々三人が今の今迄神様の試みに会ひ、泡を吹いて苦しむ事を、先へ御存じの春彦さま、高姫さま以上ですワ』 春彦『イエイエ、決して高姫さまの側へも寄れませぬ。併しながら如何したものか、私の体が余程霊感気分になり、あんな事を言つたのです。つまり神様から言はされたのです』 と話して居る。後の石地蔵はソロソロ歩き出し、二人の前に胡坐をかき始めた。ヨブはビツクリして、 ヨブ『アヽ春彦さま、大変ですよ。石地蔵奴、そろそろ動き出して、此処に胡坐をかいて笑つてるぢやありませぬか』 春彦『アハヽヽヽ是ですかいな。コリヤオホカミ様ですよ。としては優良品ですよ。一つの奴はアークマ大明神と云ふ奴、一つの奴はシシトラ大明神と云ふ化神さまだから、用心なさいませや』 ヨブ『何と能う化州の現はれる所ですなア』 春彦『元より妖怪の巣窟だから、いろいろの御客さまが現はれて、面白い芸当を見せてくれますワイ……オイ熊公、獅子、虎、狼、なんぢや猪口才な、石地蔵や人間の姿に化けやがつて、四ツ足は四ツ足らしうしたがよからうぞ。勿体ない、人間様の姿に化けると云ふ事があるかい、僣越至極にも程があるワ』 石地蔵『ホツホヽヽ、俺達が人間の姿や仏の姿をするのが、夫程可笑しいのかい。又夫程罪になるのか。よう考へて見よ、今の人間に四足の容器になつて居らぬ奴が一人でもあると思ふか。虎や狼、獅子、熊、狐、狸、鷲、鳶、大蛇、鬼は云ふも更なり、下級な器になると、豆狸や蛙までが人間の皮を被つて、白昼に大都市のまん中を横行濶歩して居る世の中だよ。 これはしも人にやあるとよく見れば あらぬが人の皮着る と云ふ様な今日の世界だ。そんな野暮な分らぬ事を云ふものでないよ。今の人間は神様の真似をしたり、志士仁人、聖人君子、学者、宗教家、教育家などと、洒落てゐやがるが、大抵皆四足のサツクだ。どうだ、チツト合点がいつたか』 春彦『お前がさう云ふとチツト考へねばならぬやうな気分がするワイ。全くの悪口でもないやうだ。併し、お前の目から俺の肉体を見ると、神さまのサツクの様に見えはせぬかな』 石地蔵『見えるとも見えるとも、スツカリ神様だ』 春彦『四足の容器のやうにはないかなア』 石地蔵『四足所かモツトモツト○○だ。神は神ぢやが渋紙の様な面をし、心の中は貧乏神、弱味につけ込む風邪の神、疱瘡の神に痳疹の神、おまけに顔はシガミ面、人情うすき紙の如き破れ神……と云ふ様な神様のサツクだなア』 春彦『そら、余り酷評ぢやないか』 石地蔵『どうでも良いワ。お前の心と協議して考へたが一番だ。お前は高姫を見棄てる精神だらうがな』 春彦『イヤア決して決して見すてる考へぢやない。一日も早く改心をして貰つて、立派な神司になつて欲しいのだから、それでワザとに高姫さまが苦労をする様に、二人こちらへ別れて来たのだ。此春彦が従いてゐると、高姫さまがツイ慢心をして、折角の改心が後戻りをすると約らないからなア』 石地蔵『アツハヽヽヽ、腰抜神の分際として、高姫さまに改心をして貰ひたいなどとは、よう言へたものだ。お前の心の曇りが、みんな高姫さまを包んで了ふんだから、折角改心した高姫が、最前の様な試みに遇うたのだぞよ。今高姫はモールバンドに取囲まれ、大木の幹を目がけて、常彦と共に難を避けてゐるが、上には沢山な猅々猿が居つて、高姫に襲撃して来る。下からはモールバンドが目を怒らして、只一打ちと狙つてゐる最中だ。オイ春彦、ヨブの両人、是から高姫を救ひに行くと云ふ真心はないのか』 春彦『そりやない事はないが、此春彦、ヨブの両人が往つた所で、モールバンドのやうな、強い奴が目を怒らして待ち構へとる以上は、吾々二人が救ひに行つた所で、駄目だ。否駄目のみならず、吾々の命迄、あの尻尾で一つやられようものなら、台なしになつて了ふ。人間の体は神様の大切なる御道具だから、さう易々と使ふ訳には行きますまい。何分にも、お前の云ふ通り、人情うすき紙の様な神や、腰抜神の容器だからなア』 石地蔵『アツハヽヽヽ、口計り立派な事を云つて居つても、まさかの時になつたら尻込みを致す、誠のない代物計りだなア。それでは三五教も駄目だよ』 春彦『喧しう云ふな。春彦の精神が石地蔵のお化けに分つて堪らうかい。俺は高姫さまの様に有言不実行ではないのだ。不言実行だ。どんな事をやるか見て居つて呉れい。モールバンドであらうがエルバンドであらうが、誠と云ふ一つの武器で言向け和し、見ン事二人の生命を助けて見ようぞ。サア、ヨブさま、春彦に従いてお出でなさい』 とあわてて、高姫の走つた方へ行かうとする。石地蔵は、 石地蔵『アツハヽヽヽ、たうとう俺の言に励まされて、直日の霊に省みよつたなア。人に言うて貰うてからの改心は駄目だよ。心の底から発根と改心した誠でないと役には立たぬぞよ。今にアフンと致して腮が外れるやうな事がない様に気をつけたがよいぞよ。石地蔵が気を付けておくぞよ。此方はアキグヒの艮の神、それに、良きの使はし女を沢山抱へて居る狼又アークマ大明神と云ふ立派な御方だ。ドレ、是から石地蔵に化けて居つても本当の活動は出来ない。うしろから、お前の腕前を、実地見分と出かけよう。口と心と行ひの揃ふやうな誠を見せて貰はうかい』 春彦『エヽ喧しい、化州、俺の御手際を見てから、何なと吐け。サア、ヨブさま行かう』 と尻ひつからげ、以前の谷川を兎の如くポイポイポイと身軽く打渡り、転けつ輾びつ、 春彦『オーイオイ、高姫さまはどこぢやアどこぢやア、モールバンドのお宿はどこぢや、春彦さまの御見舞だ、俺がこれ程ヨブのに、何故春彦ともヨブさまとも返答をせぬのか。高姫、お前は聾になつたのか。オーイ、オイ』 と声を限りに叫び乍ら、ドンドンドンと地響きさせつつ、草原を無性矢鱈に大木の茂みを指して走り行く。 (大正一一・八・二三旧七・一松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 12 鰐の橋 第一二章鰐の橋〔九〇三〕 春彦はヨブと共に高姫の危難を救はむと、大声に叫びながら密林の中に駆け入り、呼べど叫べど、森の木霊に吾声の反響するのみ、何の見当もつかず、已むを得ず大声に歌ひながら、森林を何処彼処となく循り始めたり。 春彦『吾等の師匠と頼みたる高姫さまが又しても 金剛不壊の如意宝珠其他の玉に魂ぬかれ アタ恥かしや森林の此正中で高倉や 月日、旭の明神に心の底を査べられ 散々脂を搾られて体は泥にまみれつつ 尚も取れない負惜みへらず口のみ言ひながら 吾等二人を振棄てて元来し路へ引返し 鷹依姫の在処をば捜さむものと出でましぬ 吾々二人は是非もなく西北指して進み行けば 道の片方の石地蔵耳が取れたり手が千切れ 頭の欠けた立ちすくみ黒い顔して道の辺に 罷り立つたる其前に暫く息を休めつつ 高姫さまの噂のみ為せる折しも石地蔵 ソロソロ立つて吾前に胡坐をかいてすわり込み 不思議や物をベラベラと喋り出したる可笑しさよ 化けた地蔵の言ふことにや高姫さまや常彦は モールバンドに取巻かれ大木の枝にかけ登り 避難してゐる最中に猅々の群奴がやつて来て 無性矢鱈にせめかけるモールバンドは木の下に 目を怒らして控へ居る進退茲に谷まりて 流石剛毅の高姫も常彦諸共抱き合ひ アヽアヽどうせう斯うせうと吐息もらして居るだらう 春彦、ヨブの両人はこんな話を耳にして 如何して見捨てておかれうか仮令大蛇の巣窟も モールバンドの棲処をも恐れず撓まず進撃し 救ひ出さねばおかれないあゝ惟神々々 皇大神の御光に高姫さまの在処をば てらして吾に見せ給へ高姫さまも是からは 心の底より改良し三五教の神柱 神の使と申しても恥かしからぬ魂となり キツト手柄を為さるだらう一時も早く胸の戸を 開いて在処を明かに春彦、ヨブの両人に 知らさせ給へ天津神国津神等国魂の 竜世の姫の御前に心清めて祈ぎまつる あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひながら、大樹の根元を一々巡視し、且つ空を仰ぎなどしつつ、奥へ奥へと捜し行く。 春彦、ヨブの二人は漸くにして、高姫の避難せる大樹の間近に辿りつけば、石地蔵のお化けの云つた通り、小山のやうな胴体をしたモールバンドが、森の樹立のマバラなる所を選み、目を怒らして高姫を睨めつけ、何とかして一打ちに打ちころさむと息まいてる其物凄さ。春彦は真蒼になり、ソロソロ慄ひ出し『惟神霊幸倍坐世』も天の数歌も千切れ千切れになり、一向美はしき言霊を発射することが出来なくなつて来た。 モールバンドは春彦、ヨブの間近に来りしに気付きしものと見え、小山のやうな胴体を徐ろに二人の方に向け直し、長大なる尾に撚りをかけ、今や一打ちに両人を打たむとする形勢を示して居る。二人は命カラガラ傍の大木目蒐けて漸く登りつめ、後は兎も角、暫時の避難所と常磐樹の頂上にしがみついて、誰か助けに来てくれる者はなからうかと期待して居る。樹の上にて春彦は声を慄はせながら、 春彦『コレコレ、ヨブさま、大変な事ぢや御座いませぬか。私も獅子、虎、熊、狼、大蛇位は、さうも恐れないのだが、どれ丈肝を放り出して見ても、あのモールバンド丈は如何することも出来ない。腹の底から自然に戦いて来て、自分の体がどこにあるやら、分らなくなつて来ました。お前さまは如何ですかな?』 ヨブ『私だとて同じ事ですよ。併しながら、何時迄もああしてモールバンドに狙はれて居らうものなら、何時ここを下つて逃げ帰ると云ふことも出来ず、困つたものですなア。幸に此樹に固い果物がなつて居りますが、これさへ食べて居れば、仮令十日や二十日、此樹の上に籠城したつて、別に困りもしませぬが、大風が吹いたり、大雨の時には実に困るぢやありませぬか。此頃の様に毎日日日二三回づつ大きな雨が降つて来ると、第一身体が持てませぬワイ。モウ斯うなる上からは神様におすがりして、運を天に任すより方法はないから、一つ此処で一生懸命に、モールバンドが退却する様に御祈念を致しませうかい』 春彦『ソリヤ結構です……併し、何だか、腹の底がワナワナして……声が円満に出て来ませぬ……』 と千切れ千切れに話して居る。斯かる所へ、又もや宣伝歌が聞え来る。 (安彦)『国依別の神司御供をなしてはるばると ヒルの国原立出でてブラジル峠を打ちわたり 果てしも知れぬ谷道を辿り辿りてシーズンの 川の片方に来て見れば恋の虜となりはてし 秋山別やモリスの司二人の男が激流に 浮きつ沈みつ流れ来るコリヤ大変と吾々は 国依別の命を受け衣類をすぐに脱ぎすてて ザンブと計り飛込めば流石に名に負ふシーズンの 速瀬の波に漂ひて溺れ死せむとせし所 思はぬ河中の岩石に二人の身体は引つかかり ヤツと息をば休めつつ岩の真下を眺むれば 秋山別やモリスの司二人の身体は渦巻に 巻かれて浮きつ沈みつつ人事不省の有様に 又もや身をば跳らして安彦、宗彦両人は 二人の身体をひつ抱へ弱き川瀬を選みつつ 彼方の岸に救ひ上げ介抱すればやうやうに 息吹返し両人は恋の虜の夢もさめ 国依別に従ひてアマゾン河の森林に 潜みて世間に災の霊を送る曲津見を 言向け和し世の中のなやみを払ひ清めむと 茲に五人の一行は帽子ケ岳の頂上を 目当に進み登り行く遠く彼方を見わたせば アマゾン河の急流は天津日影にてらされて 長蛇の如く光り居る南と北の森林は 緑紅こき交ぜて果てしも知らず茂り生ふ 此光景を眺めつつ言依別の神司 国依別と諸共に琉と球との神力を 遠く此方に照らしつつ吾等一行が言霊の 戦の勝を守らむと幽玄微妙の神策を 立てさせ給ふ有難さ此森林は名にし負ふ 妖怪窟と聞ゆれば八岐大蛇は云ふも更 虎狼に獅子や熊其外百の怪物が いろいろ雑多と身を変じ吾等を誑かる事あらむ あゝ惟神々々神の御霊を身に受けて 如何なる曲も恐れなく誠一つの神の道 撓まず屈せず進み行くモールバンドやエルバンド 仮令幾千来るとも吾言霊の神力に 言向け和し今よりはアマゾン河の底深く 潜みて百の災を思ひとまらせくれむぞと 言依別の御言もてやうやう此処に来りけり 高姫さまを初めとし常彦、春彦、今いづこ 果てしも知らぬ此森のいづこに彷徨ひ給ふらむ 神の御霊の幸はひて一日も早く高姫が 在処を教へ給へかし朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるともモールバンドは攻め来とも 虎狼や獅子熊の勢いかに猛くとも なにか恐れむ敷島の大和心の益良夫が 神の光りを楯となし神の恵を矛として 進みに進む森の中実に勇ましき次第なり あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひつつ、安彦を先頭に、宗彦、秋山別、モリスの四人は、神の引合せか、期せずして、高姫、春彦等が避難せる樹蔭近く進み来れり。 春彦、高姫の二組の避難者は樹上より此宣伝歌を聞き、未だ一度も聞きしことなき声なれども、必ず途中にて、言依別、国依別の教に感じ入信せし者ならむ、あゝ有難し辱なし、神の救ひの御手……と忽ち元気恢復し、拍手し終り、樹上より声高らかに、天津祝詞を奏上し始めた。春彦の祝詞の声に、はるか離れた樹の上に避難して居た高姫、常彦は、始めて春彦の所在を知り、非常に心強さを感じ、ますます元気を出して天津祝詞を力一杯、天地も震撼せよと許りに宣り上げた。 安彦、宗彦の一行は双方より聞え来る樹上の祝詞の声に、始めて高姫一行のここに居ることを悟り、歓喜斜ならず、尚も元気を出して天津祝詞を宣り始めた。モールバンドは少しも屈せず、目を怒らし、尾を振りしごき、縦横無尽に四人に向つて突進し来る。四人は忽ち傍の大木に辛うじて避難し、樹上より祝詞を頻りに奏上し、早く此怪の遁走して、吾等一行を救ひ給へと念じつつありぬ。 忽ち西北の空をこがして輝き来る琉、球の大火光、あたりは忽ち火の如く赤くなりぬ。これ言依別、国依別の神司が、帽子ケ岳より救援の為め発射する所の霊光なりき。モールバンドは驚いて、尾を縮め、首をすくめ、コソコソと森林を駆け出し、数十里の林を潜つて、アマゾン河に逃げ去りにけり。 安彦一行四人はヤツと胸をなでおろし、枝振のよい大木を下り来り、 安彦『高姫様々々々』 と呼ばはりながら、樹下を巡り、空を仰いで高姫の居所を捜して居る。 高姫は常彦と共にヤツと安心し乍ら下つて来た。春彦もヨブも亦一つの大木の空より此処に漸く下り来り、互に顔を見合せ、嬉し泣きに抱き合ひて泣く。 是より八人は互に手を取り、無事を祝し、且つ高姫一行は安彦一行に向ひ厚く感謝の詞を述べながら、アマゾン河の沿岸に向つて引返し、南岸の森林中に鷹依姫一行が猛の王として住ひ居ることを、安彦を以て国依別より伝達したれば、取る物も取り敢ず、河端に向つて進む。一行が一心をこめて奏上したる天津祝詞の声に、北の森林の猛共は争つて此処に集まり来り、八人の後に従ひ、これ亦アマゾン河の岸迄、幾百千とも知れず、列を作つて従ひ来る。 これより高姫は、アマゾン河の急流を眺め、一生懸命に、南岸に無事渡らせ給へ……と祈念した。忽ち川底より八尋鰐、幾千万とも限りなく現はれ重なり合うて、忽ち鰐橋を架けたり。高姫は大神の神徳と鰐の好意を一々感謝し、七人と共に南岸に辛うじて渡ることを得たり。此間何里とも分らぬ位、広き河幅なりけり。 北の森林に棲める猛は此処まで送り来り、此激流を眺めて稍躊躇の色ありしが、忽ち鰐橋の架りたるに力を得、一匹も残らず、南森林に打渡り、高姫一行を送りて兎の都に向ひ進み行く。 (大正一一・八・二三旧七・一松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 13 平等愛 第一三章平等愛〔九〇四〕 高姫外七人は鰐の橋を渡り、南の森林に数多の兎に迎へられ、漸くにして、青垣山を繞らせる森林の都、月の大神の鎮祭しある霊場に辿り着いた。鷹依姫は白髪の冠を頂き、凡ての猛を子の如くなつけ、普くの霊の済度に全力を尽してゐる。 高姫は久し振りに鷹依姫に面会し、固く手を握りものをも言はず、嬉しさと懐しさに涙を両頬より垂らしてゐる。ここに愈高姫一行八人と、鷹依姫の一行四人を加へ十二の身魂は、天地に向つて七日七夜の間断なき神言を奏上し、すべての猛を悉く言向け和し、肉体を離れたる後は必ず天国に到り、神人となつて再び此土に生れ来り、神業に参加すべき約束を与へ、所在猛をして歓喜の涙に酔はしめたり。 如何に猛悪なる獅子、虎、狼、熊、大蛇、豺、豹と雖も、口腹充つる時は、決して他の類を犯す如き暴虐はなさないものである。只飢に迫り、其肉体の保存上、止むを得ずして他の動物の生命を奪り食ふのみである。 然るに万物の霊長たる人間は、倉廩満ちても猶欲を逞しうし、他人を倒し、只単に自己の財嚢を肥し、吾子孫の為に美田を買ひ、決して他を憐み助くるの意思なき者、大多数を占めてゐる。併し乍ら、神代は社会上の組織、最も簡単にして、物々交換の制度自然に行はれ、金銭と雖も珍しき貝殻、或は椰子の実の種をいろいろの器になし、之を現今の金に代用し、又は砂金などを拾ひて通貨の代用にしてゐたのである。さうして一定の価格も定まつてゐなかつた。それ故神代の人は最も寡欲にして、如何に悪人と称せらるる者と雖も、只々情欲の為に争ふ位のものであつた。時には大宜津姫神現はれて、衣食住の贅沢始まり、貧富の区別漸く現はれたりと雖も、現代の如き大懸隔は到底起らなかつたのである。 大山祇、野槌の神などの土地山野を区劃して占領し、私有物視したる者も出で来りたれども、これ亦現代の如くせせこましき者にあらず、実に安泰なものであつた。 高姫、鷹依姫、竜国別は、茲に猛に対し、神に許しを受けて、律法を定め、彼等をして固く守らしめた。其律法の大要は、 一、熊は熊、虎は虎、狼は狼、獅子は獅子、蛇は蛇、兎は兎として或地点を限り、其処に部落を作り、互に他の住所を侵さざる事 一、各族は一切の肉食を廃し、木の実又は草の葉、木の芽などを常食とし、而も身体少しも痩衰へず、性質温良になり、互に呑噬の争ひをなさざる事 一、時々各団体より代表者を兎の都に派遣し、最善の生活上の評議をなす事 一、鰐をして、モールバンド、エルバンドの襲来に備へ、且つアマゾン河の往来の用に任ずる事 一、鰐を獅子王の次の位と尊敬し、年々、各、月の大神の社前に集まりて、懇談会を開き鰐を主賓となし、年中の労苦を犒ふ事 一、右の律法に違反したるものは、獅子王の命により、其肉体は取り喰はれ、其子孫永遠に類の身体を受得して、地上に棲息するの神罰を与へらるる事 等の数ケ条の律法を定め、獅子王を始め各の王をして、之を其種族一般に布告せしめた。 これより其律法を遵守し、月の大神の宮に詣でて赤誠を捧げたるものは、一定の肉体の期間を経て帰幽するや、直に其霊は天国に上り、再び人間として地上に生れ来ることとなりぬ。 又此律法に違反したる各は、其子孫に至る迄、依然として祖先の形体を保ち、今に尚人跡稀なる深山幽谷森林などに、苦しき生活を続けてゐるのである。あゝ尊き哉、月の大神の御仁慈よ。 国治立大神は、あらゆる神人を始め禽虫魚に至る迄、其霊に光を与へ、何時迄も浅ましきの体を継続せしむることなく、救ひの道を作り律法を守らしめて、其霊を向上せしめ給へり。故に禽虫魚の帰幽せし其肉体は、決して地上に遺棄することなく、直に屍化の方法に依つて天に其儘昇り得るは、人間を措いて他の動物に共通の特権である。猛は云ふも更なり。烏、鳶、雀、燕其外の空中をかける野鳥は、決して屍を地上に遺棄し、人の目に触るる事のなきは、皆神の恵に依りて、或期間種々の修業を積み、天上に昇り、其霊を向上せしむる故なり。只死して其体躯を残す場合は、人に鉄砲にて撃たれ、弓にて射殺され、或は小鳥の大鳥に掴み殺され、地上に落ちたる変死的動物のみ。其他自然の天寿を保ち帰幽せし禽虫魚は残らず神の恵によりて、屍化の方法に依り天上に昇り得る如きは、天地の神の無限の仁慈、偏頗なく禽虫魚に至る迄、依怙なく均霑し給ふ証拠なり。只人間に比べて、禽虫魚としての卑しき肉体を保ち、此世にあるは、人間に進むの行程であることを思へば、吾人は如何なる小さき動物と雖も、粗末に取扱ふ事は出来ない事を悟らねばならぬ。其精神に目覚めねば、真の神国魂となり、神心となることは到底出来ない。又人間としての資格もない。 斯く曰はば人或は云はむ、魚を捕る漁師なければ吾等尊き生命を保つ能はず、を捉ふる猟夫なければ日常生活の必要品に不便を感ず、無益の殺生はなさずと雖も、有益の殺生は又已むを得ざるべし。斯かる道を真に受けて遵守することとせば、社会の不便実に甚しかるべしとの反対論をなす者がキツト現はれるでありませう。併し各自にその天職が備はり、猫は鼠を捕り、鼠は人類の害をなす恙を捕り喰ひ、魚は蚊の卵孑孑を食し、蛙は稲虫を捕り、山猟師は獅子、熊を捕り、川漁師は川魚を捕り、海漁師は海魚を捕りて、其職業を守るは皆宿世の因縁にして、天より特に許されたるものである。故に山猟師の手にかかる禽はすでに天則を破り、神の冥罰を受くべき時機の来れるもののみ、猟師の手に掛つて斃れる事になつてゐるのである。海の魚も川魚も皆其通りである。 然るに現代の如く、遊猟と称し、職人が休暇を利用して魚を釣り、官吏その他の役人が遊猟の鑑札を与へられて、山野に猟をなすが如きは、実に天則違反の大罪と云ふべきものである。自分の心を一時慰むる為に、貴重なる禽虫魚の生命を断つは、鬼畜にも優る残酷なる魔心と云はなければならぬ。人には各天より定まりたる職業がある。之を一意専心に努めて、士農工商共神業に参加するを以て、人生の本分とするものである。 ペストが流行すると云つては、毒薬を盛り鼠を全滅せむと謀る人間の考へも、理論のみは立派なれども到底之を全滅する事は出来ない。又鼠が人家になき時は人間の寝息より発生する邪気、天井に凝結して小さき恙虫を発生せしめ、其虫の為に貴重の生命を縮むる様になつて了ふ。神は此害を除かしめ、人の為に必要に応じて鼠を作り給うたのである。鼠は恙虫を最も好むものである。故に其鳴声は常に『チウチウ』と云ふ。チウの霊返しは『ツ』となる。併し乍ら鼠の繁殖甚しき時は、食すべき恙少き為、止むを得ず、米櫃を齧り、いろいろと害をなすに至る。故に神は猫を作りて、鼠の繁殖を調節し給うたのである。猫の好んで食するものは鼠である。鼠の霊返しは『ニ』となる。猫の鳴声は『ニヤン』と鳴く、『ヤ』は退ふこと、『ン』は畜生自然の持前として、言語の末に響く音声である。故に『ニヤン』と云ふ声を聞く時は、鼠の『ニ』は恐れて姿を隠すに至るは言霊学上動かすべからざる真理である。人試みに引く息を以て、鼠の荒れ廻る時、『ニヤン』と一二声猫の真似をなす時、荒れ狂ひたる鼠は一時に静まり遠く逃げ去るべし。『ニヤ』の霊返しは『ナ』となる。故に猫の中に於て、言霊の清きものは『ナン』と鳴くなり。 すべて禽虫魚は引く息を以て音声を発し、神国人は吹く息を以て臍下丹田より嚠喨たる声音を発し、又引く息、吹く息の中間的言語を発する人種もあることを忘れてはならぬ。 又鳥の中にも、吹く息、引く息の中間的の声音を一二声発するものが、たまにはあるものである。馬は陽性の動物なれば、『ハヒフヘホ』と声音を発し、牛は陰性の動物なれば、『マミムメモ』の声音を発す。其他一切の動物、各特有の音声を有し、完全に其意思を表示することは発端に述べた通りである。 馬は陽性の類なれば、人其背に跨り、『ハイ』と声をかくれば、忽ち無意識に前進す。『ハ』は開き進むの言霊であり『イ』は左右の息である。即ち左右の脚を開きて進めと云ふ命令詞となる。牛は陰性の類なれば、人あり、後より『シイ』と言へば前進す。『シ』は水にして且つ俯むき流れ動くの意である。『イ』は前に述べた通りである。馬は頭をあげて、陽の息を示して進み、牛は頭を下げて陰の水火を示して進む。陽性の馬は『ドー』と言へば止まり、陰性の牛は『オウ』と云へば止まる。『ド』は陽的不動の意味であり、『オー』は陰的不動の言霊の意味である。 之を以て之を見れば、禽虫魚一切、惟神的に言霊によりて動止進退することは明白なる事実である。其他の禽皆然りである。 或古書にミカエル立ちて叫び給へば、山川草木、天地一切これに応ずとあるも、言霊の真意活用を悟りたる真人の末世に現はれて、天地を震撼し、風雨雷霆を叱咤し又は駆使し、山川草木を鎮定せしめ、安息を与ふる言霊の妙用を示されたものである。あゝ偉大なる哉、言霊の妙用! ○ 是より高姫、鷹依姫、竜国別、外九人は月の大神の御前に恭しく拝礼を了り、兎の王をして厚く仕へしめ、アマゾン河の畔に出でて、モールバンドを始めエルバンドの一族に向ひ、善言美詞の言霊を与へて、彼等を悦服せしめ、遂にモールバンド、エルバンドは言霊の妙用に感じ、雲を起し、忽ち竜体となつて天に昇り、風を起し、雨を呼び、地上の一切に雨露を与へ、清鮮の風を万遍なく与へて、神人万有を安住せしむる神の使となりたり。 併し乍ら、まだ悔い改めざる彼等怪及猛の一部は、今尚浅ましき肉体を子孫に伝へて、或は森林に或は幽谷に潜み、海底、河底に潜伏などして、面白からぬ光陰を送つてゐるものもあるのである。 古の怪しきは、今日に比ぶれば、其数に於て其種類に於て最も夥しかつた。併しながら三五教の神の仁慈と言霊の妙用によつて、追々に浄化し、人体となつて生れ来ることとなつた。故に霊の因縁性来等に於て、今日と雖も、高下勝劣の差別を来たすこととなつたのである。併しながら何れも其根本は天御中主大神、高皇産霊神、神皇産霊神の造化三神の陰陽の水火より発生したるものなれば、宇宙一切の森羅万象は皆同根にして、何れも兄弟同様である。 同じ人間の形体を備へ、同じ教育をうけ、同じ国に住み、同じ食物を食しながら、正邪賢愚の区別あるは、要するに霊の因縁性来のしからしむる所以である。 或理窟屋の中には、総ての人間は同じ天帝の分霊なれば、霊の因縁性来、系統、直系、傍系などの区別ある理由なしと論ずる人がある。斯の如き論説は、只一片の道理に堕して、幽玄微妙なる霊魂の経緯を知らざる人である。人の肉体に長短肥瘠、美醜ある如く、霊魂も亦これに倣ふは自然の道理である。要するに人間の肉体は霊魂のサツクのやうなものであるから、人間各自の形体は霊魂そのものの形体であることを悟らねばならぬ。霊魂肉体を離れ、霊界に遊ぶ時は、其脱却したる肉体と同様の形体を備へ居る事は、欧米霊学者の漸く認むる所である。 物質文明の学は泰西人に先鞭をつけられ、霊魂学の本場たる我国は亦泰西人に霊魂学迄先鞭をつけられつつあるは、天地顛倒、主客相反する惨状と云はねばならぬ。我々は数十年来霊魂学の研究につき、舌をただらし、声をからして叫んで来た。されど邦人は如何に深遠なる真理と雖も、泰西人の口より筆より出でざれば、之を信ぜざるの悪癖がある。故に如何なる高論卓説と雖も、一旦泰西諸国に輸出し、再び泰西人の手を借りて、輸入し来らざれば、信ずること能はざる盲目人種たることを、我々は大に歎く者である。此物語も亦一度泰西諸国の哲人の耳目に通じ、再び訳されて輸入し来る迄は、邦人の多数は之を信じないだらうと予想し、且つ深く歎く次第であります。惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・二三旧七・一松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 14 山上の祝 第一四章山上の祝〔九〇五〕 神代の昔高天にて五六七の神と現はれし 瑞の御霊の月神が大海原に漂へる 高砂島の秘密郷ブラジル国に名も高き アマゾン河の南北に聳り立ちたる大森林 広袤千里の中心に貴の聖地を形造り 月の御霊の天降りこれの聖地を悉く 兎の王に与へられ千代の棲処と定めつつ 月大神を朝夕に心の限り伏し拝み 斎き祀れる折柄に常世会議の其砌 武備撤回の制定に翼はがれし猛は 常世の国を後にしてブラジル国に打渡り 此森林に襲ひ来て心正しき兎の族を 虐げ殺して餌となし日に日に募る暴虐に 正しき兎は九分九厘彼等が毒牙にかかりつつ 種族も絶えむとする時に綾の聖地を後にして 現はれ来る三五の神の司の鷹依姫や 竜国別の一行が目無し堅間の船に乗り 大激流の氾濫し伊猛り狂ふアマゾン河を 溯りつつ南岸に辿りてここに一行は 兎の王に迎へられ月の御神を祀りたる 聖地にやうやう辿りつき虎狼や獅子に熊 大蛇禿鷲其外の禽虫魚に至る迄 神の恵の言霊に言向け和し今は早 時雨の森は天国の春を楽む真最中 鷹依姫の後を追ひはるばる探ね来りたる 三五教の神司高姫、常彦、春彦が 神の伊吹に服従ひて茲にいよいよ十二人 アマゾン河に立出でて天津御神の賜ひてし 貴の言霊宣りつればモールバンドやエルバンド 其他の怪悉く神の恵に悦服し 霊を清め天上に雲を起して舞ひ上り 尊き神の御使となりて風雨の調節に 仕へ奉るぞ尊けれテーリスタンやカーリンス 竜国別を始めとし心の空も安彦や 胸凪ぎ渡る宗彦が清き心の秋山別の 神の司と諸共に教を固くまモリスの 案内につれて屏風山果てしも知らぬ山脈の 空に秀でていと高き帽子ケ岳の霊光を 杖や力と頼みつつ神の恵に抱かれて 山河渡り谷を越え嶮しき坂をよぢ登り ここに十二の生身魂帽子ケ岳にをさまりて 時雨の森の神軍に光を与へ助けたる 言依別の大教主国依別の神司 二人が前に辿りつき宏大無辺の神恩を 感謝しながらウヅの国都を指して進み行く あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ。 十二人の一行はアマゾン河の魔神を言向け和し、各自に霊魂の行末を明かに諭し、且つ救ひの道を開き、琉と球との霊光に照らされ、意気揚々として宣伝歌を歌ひながら、山川渓谷を跋渉し、やうやくにして、帽子ケ岳に止り、種々の神策を行ひ、神軍応援に従事しゐたる教主言依別命、国依別命の前に帰り来り互に其無事を祝し、成功をほめ、感謝の涙を流しつつ互に打解け、喜び勇んで帽子ケ岳の頂上に、国魂神の神霊を祀り、感謝の祝詞を奏上し、凱旋の祝を兼ね、あたりの木の実を採収し来りて各其美味をほめ、ここに山上の大宴会は開かれにける。 然るに、時雨の森の北の森林に向ひたる正純彦、カール、石熊、春公の一隊は何の消息もなく、一日待てども二日待てども、帰り来るべき様子さへなかりける。 ここに言依別命が国魂神を厚く念じ、一同神楽を奏し、言霊歌をうたひて、正純彦一行が、無事此処に帰り来るべき事を十二の身魂を合せて、熱心に祈願をこめつつありぬ。 一行四人は大森林を右に左に駆巡り、高姫一行の在処を捜し求むれども、音に聞えし数百里の大森林、容易に発見すべくもあらず、殆ど絶望の淵に沈み、一行四人は双手を組んで、以前春彦、ヨブが暫し休息したる頭欠け石地蔵の傍に惟神的に引寄せられ、石地蔵より、高姫、鷹依姫以下十人、アマゾン河の魔神を言向け和し、今や帽子ケ岳に向つて凱旋の途中なることを詳細に解き諭され、喜び勇んで、帽子ケ岳さして、三日遅れた夕暮に漸く山上に辿りつき、言依別命以下の無事を祝し、ここに一行十八人となり、賑々しく屏風ケ岳の山脈を降りて長き原野をわたり、ブラジル峠を乗越え、暑熱の太陽に全身をさらしながら、漸くにしてウヅの都の末子姫が館に凱旋する事となりたり。 (大正一一・八・二三旧七・一松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 15 万歳楽 第一五章万歳楽〔九〇六〕 五六七の神世を松代姫心も直なる竹野姫 一度に開く梅ケ香姫の貴の命の御父と 現はれまして高砂のウヅの都に神館 開きて世人を導きし桃上彦の神司 五月の姫と諸共に神の御言を蒙りて 黄泉の島に出陣し親子夫婦が抜群の 功を立てて其ほまれ四方に輝き給ひたる 正鹿山津見神の主教の司の国彦に ウヅの館を任せつつ遠く海原打渡り 今は再度ヱルサレム貴の聖地にましまして 三五教の御教を完全に委曲に開きましぬ 心も清き国彦の長子と生れし松若彦は 父の言葉を畏みてウヅの館に謹みて 皇大神の正道を四方に伝ふる折柄に 神素盞嗚大神の貴の御子とあれませる 八人乙女の末子姫捨子の姫を伴ひて 潮の八百路を打渡り光り輝き降りまし 神の教は遠近に栄えて四方の国人は 神の恵と末子姫が尊き政治に悦服し 互に歓ぎ喜びつ松の神世を立てゐたる 時しもあれや三五の神の教の大教主 言依別の神司錦の宮を立出でて 玉照彦や玉照姫の貴の命の神勅を 守りてここに出でましぬ末子の姫を始めとし 松若彦や其外の神の司は喜びて 言依別の教主をば生きたる神と尊敬し 教の花は四方八方に匂ひ栄ゆる折柄に アマゾン河の森林に神を言向け和さむと 立向ひたる神司国依別を始めとし 鷹依姫や高姫が言霊戦を助けむと 正純彦の神司カール、石熊、春公の 三人[※初版や愛世版では「四人」だが、校定版や八幡版では「三人」になっている。第32巻第14章には「時雨の森の北の森林に向ひたる正純彦、カール、石熊、春公の一隊は」「一行四人は」と書いてあり、正純彦の供は3人であることは明白である。読者の混乱を避けるため、霊界物語ネットでは校定版と同様に「三人」に直すことにした。]の供を引率し夜を日についで山河を いくつか渉り屏風山大山脈の中央に 雲を圧して聳え立つ帽子ケ岳に立向ひ 国依別に面会し琉と球との宝玉の 珍の霊光発射して時雨の森に潜みたる 猛大蛇は云ふも更モールバンドやエルバンド 其外数多の曲神に向つて戦ふ神軍を 帽子ケ岳より射照らして言向け和し大勝利 雲の上迄立て給ふ其言霊の尊さに 高姫一行其外の数多の司は勇み立ち 帽子ケ岳を指してここに漸く寄り来り アマゾン河の水流が帯の如くに流れたる 景色を眺めて言霊の太祝詞言奏上し 言依別や国依別の琉と球との神人を 始めて外に十六の神の司と諸共に 末子の姫の守りますアルゼンチンの大都会 ウヅの館に悠々と凱歌を奏して帰ります 其御姿の勇ましさ末子の姫を始めとし 松若彦や捨子姫其外数多の神司は ウヅの都の国人を数多伴ひ出で迎へ 無事の凱旋祝しつつウヅの館に迎へ入る アルゼンチンの開けてゆかかる例しもあらたふと 此世を造り固めたる国治立大神や 豊国姫大御神金勝要大御神 日の出神や木の花の神の命も勇み立ち 五六七の神世は目のあたり開けましぬと喜びて 百の正しき神司これの聖地に遣はして 神の軍の凱旋を喜び祝ひ給ひけり 歓呼の声は天地に響き渡りて高砂の 島もゆるがむ許りなりあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして言依別や国依別の 高砂島の大活動神素盞嗚大神の はるばる此処に現れまして神世の仕組をなし給ふ 清き尊き物語完美に委曲に細やかに 言霊車遅滞なくころばせ給へ惟神 神の御前に瑞月が畏み畏み願ぎまつる。 末子姫は、言依別命一行の凱旋を祝し、金扇を拡げ、自ら歌ひ自ら舞ひ給ふ。 末子姫『世は久方のいや尊き綾の高天を立出でて 高砂島の民草を仁慈無限の大神の 貴の光りに照らさむと言依別の神司 国依別と諸共に目無し堅間の船に乗り 旭もテルの港まで海路を渡り来りまし ヒルとテルの国境三座の山[※御倉山のこと]の谷間に 瀕死に悩む国人を尊き神の御教に 霊肉共に救ひつつ国依別に立別れ あなた此方と廻りまし数多の国人救ひつつ 虎狼や熊獅子の伊猛り狂ふ荒野原 渉り給ひてやうやうにウヅの都に出でまして 玉照彦や玉照姫の神の教をま詳さに 開かせ給ふ時もあれ此世を洗ふ瑞御霊 父大神の御言もて捨子の姫の口を借り 宣らせ給ひし太祝詞畏みまつりて言依別の 神の命は神館立出で給ひ正純彦の 教司を始めとしカール、石熊、春公の 四人の供を従へてアマゾン河の南北に 展開したる大森林伊猛り狂ふ猛や モールバンドやエルバンド言向け和し給ひつつ 兎の都に祀りたる瑞の御霊の月の神 尊き御稜威を畏みて帽子ケ岳の頂上より 琉と球との霊光を照り合はしつつ永久に 百の霊を治めまし凱歌をあげて今ここに 帰り来ませる嬉しさよあゝ惟神々々 御霊幸はひましましてウヅの都は永久に 治まる常磐の松代姫清くすぐなる竹野姫 梅ケ香姫の一時に御稜威も開きて桃の実の 大加牟豆美と現れまして黄泉戦に大殊勲 立てさせ給ひし其如く末子の姫を始めとし 言依別や国依別の貴の命の御功績 天地と共に永久に月日の如く明かに 照らし給へよ天津神国津神たち八百万 国魂神の竜世姫月照彦の御前に 末子の姫が慎みて請ひのみまつり三五の 神の教はいつ迄もすぼまず散らず時じくの 香具の木の実の花の如薫りしげらせ給へかし あゝ惟神々々皇大神の御前に 言霊清く願ぎまつる』 と歌ひ終り、一同に会釈して、神素盞嗚大神の鎮まります奥殿さして進み入る。 (大正一一・八・二三旧七・一松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 17 悔悟の歌 第一七章悔悟の歌〔九〇八〕 松若彦は銀扇を拡げて、自ら歌ひ自ら舞ひ祝意を表しぬ。其歌、 松若彦『珍の都の神司時めき給ふ桃上彦の 神の命のみまつりを麻柱ひまつりし吾父の 後を襲ひて神館心を清め身を浄め 謹み守り来る折天の八重雲かき分けて 天降りましたる末子姫捨子の姫と諸共に これの聖地に来りまし神の教を遠近に 開き給ひて国人に恵の露を隈もなく 与へ給ひし尊さよ松若彦は素盞嗚の 神の尊の貴の御子末子の姫に朝夕に 仕へまつりて三五の教に侍らふ折柄に 言依別の神司自転倒島の中心地 高天の原より降りまし神の教はますますに 茂り栄えて木の花の一度に匂ふ如くなり かかる例しは古より夢にも聞かぬ瑞祥の 光は清く日月と御稜威を争ひ給ひつつ 再び降り来ります神素盞嗚大神の 清き御姿畏くも拝みまつりし嬉しさよ 松若彦は云ふも更百の司を始めとし 四方の国人喜びて御徳を慕ひまつりつつ 鼓腹撃壤の神の世を寿ぎまつる折柄に アマゾン河の曲神を神の教に言向けて 帰り来ませる言依別の瑞の命の一行を 目出度く迎へ奉り枯木に花の咲く如く 灸りし豆に紫の花咲き出でし如くなる 千代の歓び永久の春の楽み末永く 高砂島の永久にあらむ限りは忘れまじ あゝ惟神々々神の御水火の幸はひて 末子の姫の守りますアルゼンチンの神国は 大三災の憂ひなく小三災の曲もなく いや永久に松の世の五六七の神の御恵に うるはせ給へ惟神神の御前に千歳経る 松若彦が謹みて心の丈を立直し ひたすら念じ奉る只管祈り奉る あゝ惟神々々御霊の幸を賜へかし』 と歌ひ終り、蒼惶として一同に拝礼し、又もや奥殿に姿を隠しぬ。 鷹依姫は銀扇を開き、自ら歌ひ自ら舞ひ祝意を表する。其歌、 鷹依姫『豊葦原の中津国メソポタミヤの顕恩郷 バラモン教の本山に大国彦を奉斎し バラモン教を開きたる鬼雲彦に従ひて 教を四方に伝へつつ自転倒島に渡り来て 高春山の岩窟に又もやアルプス教を立て テーリスタンやカーリンス百の司を呼び集へ 紫色の宝玉を斎きまつれる折柄に 三五教の神司高姫、黒姫両人が 天の鳥船空高く轟かせつつ出で来り 給ひし折を奇貨として手段をめぐらし岩窟の 中に押し込めゐたる折玉治別や杢助が 国依別や竜国別を先頭に立てて出で来り 年端も行かぬ愛娘初稚姫の言霊に 厳しく打たれアルプスの教を棄てて三五の 神の教に服従ひつ竜国別は吾子ぞと 悟りし時の嬉しさよ綾の聖地に送られて 錦の宮に朝夕に謹み仕へ居たりしが 黄金の玉の保管役托されゐたる黒姫が 思はず玉を紛失しヤツサモツサの最中に 高姫司が現はれて思ひもよらぬ御難題 黒姫さまを始めとし鷹依姫は竜国別の 教司を伴ひて尊き聖地を立ちはなれ テーリスタンやカーリンス五つの身魂は名自に 黄金の玉の在処をばあく迄捜し求めむと 大海原を打渡り竜宮島や常世国 高砂島の果て迄もさまよひ巡りて探ぬれど 探ぬる由もなき寝入りアリナの滝に現はれて 四方の国より種々の大小無数の品玉を 手段を以て呼び集め時を待ちつつありけるが テーナの里より黄金の貴の御玉の納まりて ヤツト心を治めつつ黄金の玉を逸早く 錦の袋に納め込み一行四人は烏羽玉の 暗に紛れてアリナ山漸くわたりてウヅの国 荒野ケ原に来て見れば木の花姫の化身なる 神に出会ひて村肝の心の駒を立直し 広袤千里の大原野辿りてアルの港まで 駒を進むる膝栗毛折柄出で来る帆船に 身を任せつつ海原を渡る折しも過ちて 一度は海に陥落し大道別の分霊 琴平別の化身なる八尋の亀に救はれて ゼムの港に上陸し天祥山を乗越えて チンの港やアマゾンの河瀬を舟にて上りつめ 時雨の森の南側兎の王の都なる 珍の聖地に安着し月の大神まつりたる 清き湖水をめぐらせる霊地に足を止めつつ 数多の猛きを神の御水火の言霊に 言向け和しアマゾンの兎の司と成りをへて 恵のつゆを隈もなくうるほし与ふる折柄に アマゾン河を打渡り探ね来ませる高姫が 一行八人と諸共に不思議の再会祝ふ折 帽子ケ岳のあなたより無限の霊光発射して 霊を照らし給ひけり是より一同勇み立ち アマゾン河に立出でて醜の魔神を征服し 神の恵に言向けて一行喜び勇みたち 十二柱の神の子は不思議の霊光探ねつつ 帽子ケ岳によぢ登り言依別の瑞御霊 国依別と諸共に無事の凱旋ことほぎて 天地の神に太祝詞となへ了りて一行は 山野を渉り坂を攀ぢ清き流れの谷を越え 深き恵もアルゼンチンのウヅの都に恙なく 凱旋したる嬉しさよウヅの館に来てみれば 神素盞嗚大神や八人乙女の貴の子と 生れ出でませる末子姫松若彦と諸共に 神の尊き御教を世人に広く伝へつつ 鎮まりいます尊さよ心にかかる村雲も 拭ふが如く晴れわたり真如の日月心天に 輝き給ひて三五の誠を悟り一同が 皇大神の御前に額づきまつる今日の幸 あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 国治立大神や豊国姫大神の 仕組み給ひし松の世の錦の機の神業に 仕へまつりて天地の貴の御子と生れたる 清き務めを永久に尽させ給へ惟神 神の御前に願ぎまつり今日の喜び心安く 神の御前に祝ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終りて、座に着き、一同に向つて、叮嚀に挨拶をする。 次に高姫は金扇を開いて、自ら歌ひ自ら舞ふ。其歌、 高姫『われは高姫神司フサの国なる北山の 隠れし里に神館造り設けてウラナイの 神の教を立てながら瑞の御霊の大神の 御心疑ひ怪しみていろいろ雑多と気をいらち 国治立大神の経の教を主となし 緯の教をことごとく損ひ破り松の世の 五六七の神世を来さむと思ひし事も水の泡 瑞の御霊の真心を取違ひたる愚かさに 前非を悔いて三五の神の教に立帰り 変性男子の御教や変性女子の教をば 経と緯とに織りなして尊き神の神業に 仕へまつりし折柄に金剛不壊の如意宝珠 紫色の宝玉を失ひ心は顛倒し あらゆる島根をまぎ求め遂には竜宮の一つ島 地恩の郷迄あらはれて心を砕き身をくだき 捜しまはれど影さへも波の上渡り自転倒の 又もや島に立帰り執念深くもさまざまと 再び玉の行方をば捜し求むる時も時 竜宮島より現はれし玉依姫の御宝 天火水地と結びたる青赤白黄紫の 麻邇の宝珠の点検に又もや不審を起しつつ 言依別の後を追ひ高砂島に来て見れば 鏡の池の片畔架橋御殿に黄金の 玉は更なり如意宝珠紫玉や麻邇の玉 隠しあらむと気をひがみいろいろ雑多と争ひつ 常彦、春彦伴ひてテルとウヅとの国境 アリナの山を乗越えて荒野ケ原に来て見れば ポプラの上にブラブラと黄金の玉は輝きぬ 天の与へと雀躍し喜び勇む折もあれ 木の花姫の御化身日の出姫の現はれて 天地の道理をこまごまと教へ給ひし嬉しさに いよいよ迷ひの夢醒めて執着心を脱却し 荒野を渡り河を越え湖水をめぐりて漸うと アルの港に安着し折柄来る帆船に 乗りて海原渡る折ふとした事より船中の ヨブの真人に巡り会ひ師弟の約を結びつつ ゼムの港に上陸し天祥山やチン港 アマゾン河を横ぎりて時雨の森の北野原 鷹依姫の在処をば探ねてさまよひゐたりしが さも恐ろしきモールバンド勢猛く攻め来り 命からがら常磐樹の梢に難を避けながら 天津祝詞を奏上し厳の言霊宣る折に 秋山別を始めとしモリス、安彦、宗彦が 三五教の宣伝歌声も涼しく歌ひつつ 此方に向つて進み来る時しもあれや西北の 雲押分けて光り来る琉と球との霊光に モールバンドは驚きてスゴスゴ逃げ出す嬉しさよ 茲に一行八人は無事の奇遇を祝しつつ アマゾン河の岸の辺に森林分けて辿りつき 鰐の架橋打渡り南の森に現れませる 鷹依姫や竜国別の珍の住家に立向ひ ここに一行再会を祝し合ひつつ大神の 御前に祝詞を奏上し虎狼や獅子に熊 其外数多の禽に稜威の律法制定し 固く守らせおきながら再び岸辺に立出でて モールバンドやエルバンドさしもに猛き曲神を 言向け和し十二人琉と球との霊光を 目当てに進み帰り来る心の駒の勇ましさ 言依別や国依別の貴の命に迎へられ 感謝祈願も胸の中嬉し涙に暮れながら 一行ここに十八の神の司は勇み立ち 夜を日についでウヅの国これの館に立向ひ 数多の人に迎へられ八尋の殿に来て見れば 五六七の神世の救主神素盞嗚大神や 貴の御子なる末子姫その他数多の神司 天つ御空の星の如居並び給ふ尊さよ あゝ惟神々々神の恵を蒙りて 心曇りし高姫も真如の月日に照されて 身魂も清き増鏡伊照り輝く身となりぬ 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令天地は覆るとも天津御空に日月の 輝く限り大神の深き恵みは忘れまじ 尊き神の御教を朝な夕なに麻柱ひて 今迄犯せし罪科を悔い改めて惟神 尊き神の御前に功を立てむ永久に 松の五六七の末迄もあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひ終り、莞爾として座に着く。 (大正一一・八・二三旧七・一松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 18 竜国別 第一八章竜国別〔九〇九〕 竜国別は銀扇を開き、自ら歌ひ自ら舞ふ。其歌、 竜国別『われは竜国別司ウラナイ教の高姫が 教を尊み畏みて心の駒を立直し 高城山の麓なる松姫館の門番と 仕へまつりて朝夕に鉄門を守る折柄に 三五教の教の御子馬と鹿との両人が 訪ね来れる様を見て門番共は猛り立ち いろいろ雑多の乱暴を加へて懲せど両人は 忍耐強く何事も神の心に任せゐる 其真心に感動し傲慢無礼を恥ぢながら 忽ち竜の真似をなし奥殿深く這ひ込めば 神罰忽ちめぐり来て吾々一同は畜生の 体と忽ち変じけり神の御国に生れたる 凡ての人は言霊や身の行ひを慎みて 清き人格保てよと示させ給ふ神教に 迷ひの雲も晴れ渡り松姫、お節の目の前で 神の使の神人に天地自然の真理をば 説き示されて三五の神の教に入信し 竜若司と呼ばれたる昔の名をば改めて 竜国別と名を賜ひ茲に尊き宣伝使 玉治別や国依別の教の司と諸共に 高春山に捉はれし高姫、黒姫両人を 救ひ出さむと立向ひ杢助、お初の応援に アルプス教の神司鷹依姫を言向けて 紫色の宝玉や高姫、黒姫両人を 此方に受取り鷹依姫の神の司をよく見れば 思ひ掛なき垂乳根の生みの母ぞと判明し 驚き喜び神恩を感謝しながら親と子が 三五教の人々と手を携へて綾錦 高天原の霊場に大宮柱太知りて 建ち並びたる神床に赤き心を捧げつつ 朝な夕なに親と子が心の限り身の限り 仕へまつれる折もあれ黒姫さまの保管せし 黄金の玉はいつの間か行方も知らず消え失せぬ 黒姫さまに疑はれ高姫さまに追ひ出され 親子は悲しきさすらひの旅に上りて宝玉の 在処を捜し高姫の疑念をはらし清めむと 棚無し船に身を任せ当所も波の上を漕ぎ 広袤千里の海原を難行苦行の末遂に 高砂島のテルの国テーリスタンやカーリンス 茲に四人の一行は恙もあらず上陸し 玉の在処を捜せども果てしも知らぬ大国を 仮令百年探るともいかでか捜し得べけむや 親子は首を傾けつ千思万慮の其結果 見込はアリナの滝の上親子の心を照らすなる 鏡の池に現はれて猿世の彦の旧蹟地 岩窟の側に草庵を結びて神を祀りつつ 鷹依姫の吾母を岩窟深く忍ばせて 権謀術数の悪業と心を悩ませ痛めつつ 一つの策をねり出してわれは審神者の役となり 母は月照彦となりテーリスタンやカーリンス 二人を言触れ神となし高砂島の全体を 月照彦大神に玉を献ぜし者あらば すべての願を叶へむと宣らせ給ふと触れまはし 其効空しからずして遠き近きの国々の 種々の玉をば携へて詣で来れる可笑しさよ 心の底は何となくウラ恥かしく思へども 黄金の玉の行方をば探らむ為の此手段 吾真心を天地の神も照覧ましまさむ あゝ惟神々々広き心に宣り直し 善きに見直し聞直し黄金の玉を一日も 早く取寄せ給へよと祈る折しもヒルの国 テーナの里の酋長が献りたる黄金の 玉に喉をば鳴らしつつ夜陰に紛れてアリナ山 一行四人打ちわたり荒野ケ原に露の宿 借る折もあれ木の花の神の命の御化身に 戒められて改心し原野を渉り海を越え アマゾン河を溯り時雨の森の南森 兎の一族住まひたる青垣山の聖場に 立現はれて諸々の鳥に三五の 誠を諭し言霊の威力を示す折柄に 帽子ケ岳のあたりより輝き来る霊光に 吾等一同勇み立ち月大神の御前に 感謝祈願をなせる折三五教の高姫が 数多の司を従へて波立ち狂ふ激流を 鰐の族に助けられ厳言霊を宣りながら 進み来るぞ嬉しけれここに吾等は雀躍し 大森林の禽に神の教を蒙りて 一定不変の律法を制定しながらアマゾンの 河辺に潜む怪を言向け和し天国の 恵の光りを与へつつ茲に一行十二人 琉と球との霊光を目当となして西北の 雲間に近き大高山帽子ケ岳に駆け登り 言依別や国依別の神の命に面会し 嬉し涙に暮れながら互に無事を祝しつつ 前途の光明楽みて茲に一行十八の 身魂は山野を打渉り日数を重ねて漸くに ウヅの館に来て見ればげに有難き末子姫 捨子の姫と諸共に遠き浪路を打渡り ここに降臨ましまして治め給へる尊さよ 国彦司の貴の御子松若彦が忠実に いそしみ給ふ功績は月日の如く輝きて 怪しき雲の影もなく国人歓ぎ睦びつつ 高砂島の名に恥ぢずウヅの都の名も清く 栄えいませる其中に言依別の大教主 はるばる此処に下りまし神徳ますます赫灼に 輝きわたり給ひけりアマゾン河に迷ひたる 吾等一行助けよと神素盞嗚大神の 清き尊き神懸り[※初版・愛世版では「神懸り」、校定版では「帰神(かむがか)り」。]其御教を畏みて 自ら言依別神帽子ケ岳に登りまし 吾等一行は云ふも更アマゾン河や森林に 潜む曲津に無限なる仁慈の恵を垂れ給ひ 其神徳はいや高く帽子ケ岳の頂上に 光り輝き給ひけり頃しもあれや現世の 救ひの神と現れませる神素盞嗚大神は 高砂島に蟠まる醜の霊を言向けて 安きに救ひ助けむと天降りましたる尊さよ 思へば思へば罪深き吾等親子がはしなくも 尊き神にめぐり会ひ御影を拝する嬉しさは 仮令天地は変るとも千代に八千代に忘れまじ あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 今日の親子が喜びを幾千代迄も変りなく 恵ませ給へ惟神神の御前に願ぎまつる 神の御前に願ぎまつる』 と歌ひ終り、自席に着きぬ。 (大正一一・八・二四旧七・二松村真澄録)
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霊界物語 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 19 軽石車 第一九章軽石車〔九一〇〕 今までバラモン教の教主となり、高照山の山麓に宏大なる館を造り、其勢力を四方に拡充したる石熊は、乾の滝に禊をなす折柄、大蛇に魅入られ、身体強直し、今や危機一髪の際、末子姫の一行に言霊を以て救はれ、茲にいよいよ三五の教に帰順し、テル山峠を乗越え、巽の池の魔神を言向け和さむとして大失敗を演じ、腰を抜かし、一時は両脚の自由を失ひ困窮の折柄、カールの奇智によりて助けられ、カールの後を追つかけ、末子姫の御後を慕ひて此処に参ゐ詣で、バラモン教の信徒を悉く三五教に導き高照山の霊場をウヅの館の末子姫が出張所となし、捨子姫、カールの両人をして、此神館を守らしめ居たりしが、此度言依別命、ウヅの館へ降り来れるを機会に、石熊はカールを招き、春彦を伴ひ、言依別の教主に従ひ、アマゾン河に立向ひ、漸くにして一行一八人と共に、ウヅの都に凱旋し、見れば思ひもかけぬ神素盞嗚大神の御降臨と聞き、歓喜の念に堪へず、茲に祝歌をうたつて舞踏し始めた。其歌、 石熊『常世の国の自在天大国彦や大国別の 神の命の樹て給ふバラモン教の御教を 此上なき救ひの道となし心の限り身の限り 神の御前に仕へつつ沐雨櫛風の労を積み 教を四方に開きつつ三五教を目の上の 敵と思ひあやまりて教の御子をウヅの国 これの館に忍ばせていろいろ雑多と画策を めぐらし来りし愚かさよテル山峠の中腹に 高くかかれる大瀑布乾の池より降り来る 水に身魂を清めつつ天眼通の神力を 授け給へと祈る折吾身体は強直し 身動きならぬ不思議さに仰いで瀑布を眺むれば さも恐ろしき大蛇奴が眼を怒らしつ口開き 呑み喰はむと構へ居る其恐ろしさ身も震ひ 胸も轟き悩む折忽ち聞ゆる三五の 誠の道の宣伝歌近付き来る嬉しさに 以前の心を取直し私に感謝し居たりしが 三千世界の救世主神素盞嗚大神の 八人乙女の末子姫捨子の姫を伴ひて 吾側近く仕へたるカールの司を先頭に 悠々進み来りまし九死一生の危難をば 安々救はせ給ひつつ大蛇に向つて言霊の 恵も深き露の玉注がせ給へば流石にも 獰猛なりし曲神は涙を流し喜びて 執着心を解脱なし恵の綱に曳かれつつ 雲を起して天上に喜び勇み昇りゆく あゝ惟神々々神の恵の尊さよ 末子の姫に従ひてテル山峠の峻坂を 登りつ下りつ楠の樹蔭に一夜の雨宿り 末子の姫の一行と巽の池に立向ひ 世人を悩め喰ふなる大蛇を言向け和さむと 心も勇み進み行く神徳足らぬ石熊が 宣る言霊は忽ちに大蛇の怒を激発し 風吹き荒び浪猛り雨は車軸と降り来り 何と詮方なき儘に兜を脱いで三五の 神の司の御前に心の罪を謝しければ 末子の姫は忽ちに厳の言霊宣り上げて 雲霧四方に吹払ひ波をば鎮め雨を止め 稜威の神力目のあたり示させ給ふ尊さよ 忽ち大蛇は解脱して巽の池の波を割り 姿を此処に現はしつ感謝しながら空高く 雲を起して昇り行く末子の姫の一行は 神業終へて池の辺を後に眺めて去り給ふ いかにやしけむ石熊は両脚自由を失ひて 行歩も自由にならざればカールの司を呼びとどめ 救ひを求め鎮魂の其神業を頼めども カールは如何思ひけむ口を極めて嘲弄し 尻をからげて逃げ出す其無念さに腹を立て カールの司思ひ知れ仇敵を討たねばおかないと 雄健ぶ機に両脚は思ふが儘に活動し カールの後を追ひながらウヅの館に来て見れば 末子の姫や捨子姫松若彦の真心を こめさせ給ひし御待遇嬉し涙に暮れ果てて 殊恩を感謝し忽ちにバラモン教の信徒を 三五教に導きて帰順の誠を表しつつ 朝な夕なに神前に仕へまつりし折柄に げに有難き三五の言依別の神司 此処に現はれ給ひつつ尊き教を宣り給ふ あゝ惟神々々神の恵の有難や 辱なしと真心を捧ぐる折しも瑞御霊 神素盞嗚大神は捨子の姫の口を藉り アマゾン河の森林に立向ひたる高姫や 鷹依姫の応援に早く向へと宣り給ふ 其神勅を畏みて言依別の大教主 正純彦を始めとしカール、石熊、春公を 伴ひ館を立出でて千里の原野を打渉り 帽子ケ岳に立向ひ国依別の神司に 対面されて琉、球の玉の光りにアマゾンの 河の魔神や森林の猛きの荒びをば 言向け和し霊光に照らさせ給ふ有難さ 鷹依姫や高姫の神の司と諸共に 帽子ケ岳に相会し教主の君に従ひて 身も勇ましくウヅ館凱旋したる目出度さよ あゝ惟神々々神の恵みの浅からず 朝な夕なに恋ひしたふ瑞の御霊の救世主 神素盞嗚大神は斎苑の館を立出でて 自ら此処に降りまし汚れ果てたる吾々が 身魂を清め与へむと御幸ありしぞ有難き あゝ惟神々々神の恵を蒙りて 心きたなき石熊の重き罪をば赦せかし 千代に八千代に神恩の尊き限りを忘れずに 孫子に伝へていや固く仕へまつらむ惟神 瑞の御霊の大御神国魂神の御前に 神寿ぎ言を宣りあげて畏み畏み願ぎ申す あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と自分の懺悔や経歴を語り、且つ瑞の御霊の大神の降臨ありし事を感謝し、自席に復しぬ。 カールは又もや立上つて両手を拍ち、腰を振り、面白く踊りながら歌ふ。 カール『罪もカールの神司口もカールの神司 手足もカールの神司カールガール皆さまが 尊き歌を誦みながら踊つて舞うて来歴を 数千万言並べ立て最後に至つて救世主 神素盞嗚大神のウヅの館に天降り ましましたりと聞くよりも手の舞ひ足の踏み所 知らぬ許りの嬉しさを得意の言霊運転し 高尚優雅に述べ上ぐるあゝ惟神々々 カールも一つ驥尾に附し何か歌はにやなるまいと 此場にスツクと立上り得意の手踊りお目にかけ 言霊車押しませうバラモン教の神司 頭の固き石熊が高照山の山麓に 教の館を構へつつ猜疑の心深くして 三五教を邪魔助と朝な夕なに思ひつめ ウヅの館にまはし者信者に化かして入りこませ あらゆる手段をめぐらして漁夫の巨利をば占めむとす 其憎さげな行動を顛覆さしてくれむずと 松若彦の前に出で心の丈を打開けて 願へば松若彦の神暫し首を傾けて 吐息をもらし宣らすやうあゝ是非もない是非もない カールの勝手にするがよい石熊館に忍び込み 偵察するのはよけれども虜になつてくれるなよ お前の心はブカブカと信仰きまらぬ浮草よ 昨日はこちらの岸に咲き今日は向方の岸に咲く 安心ならぬと宣へばカールは左右に首をふり 私も男で御座ります石熊如何に弁舌を 揮つて籠絡しようともどうしてどうして動きませう 必ず心配遊ばすな細工は流々仕上がりを 見てゐて下されませいやとバラモン教に化けこんで 石熊さまにお気に入りお側の重き役となり 信任されたる苦しさよ頃しもあれや素盞嗚の 神の尊の貴の御子末子の姫や捨子姫 遠き波路を打渡りウヅの館に出でますと 天眼力かは知らねども石熊さまが前知して 吾々五人をテル山の峠を越えてハル港 二人の女を待伏せてものをも言はせずフン縛り 高照山に帰れよとさもいかめしき御命令 心そぐはぬ五人連れ黄昏過ぐる芝の上 息を休らふ折柄に片方の木蔭に怪しくも 細く聞ゆる怪声に伴れの奴等は肝つぶし バラバラバラと逃げて行くカールは後に只一人 木蔭に佇み伺へばこれこそ確に末子姫 捨子の姫と知つた故テル山峠の案内に 仕へまつりて登る折水音高き滝の声 末子の姫の命令に乾の滝に往て見れば 豈計らむや石熊の神の司は滝の下 化石の如く固まりて両眼計りキヨロつかせ 苦み居たる気の毒さ末子の姫の言霊に 大蛇の霊を解脱させ石熊さまを従へて テル山峠の急坂を節面白く歌ひつつ 降り降りて楠の森短き夏の一夜を 明かして巽の池の辺に迎への人と諸共に 一行七人立向ひ石熊さまの言霊に 大蛇の神は怒り立ち形勢不穏となりければ 末子の姫は厳かに貴の言霊宣り給ひ 大蛇を言向け和しつつ天に救はせ給ひける 石熊さまは腰抜かしアイタヽタツタアイタヽヽ どうしたものか俺の足一寸も云ふ事ききよらぬ 助けて呉れよと泣き出す妙なことをば云ふ人ぢや 耳なら如何に遠くても聞くであらうが足が又 耳の代りをするものか早く立て立て早立てと 言霊車を押しつれど躄になつた石熊は 身動きならぬ気の毒さ直してやらねばなるまいと 愛想づかしの数々を並べ立つれば石熊は 目を釣り上げて立腹しおのれカール奴馬鹿にすな 今にぞ思ひ知らせむと足の痛みを打忘れ 大地をドンドン響かせてカールの後について来る 足もカールの石熊は始めてカールの真心を 心の底より諒解し嬉し涙を流しつつ 御礼を云うて下さつたコレコレモウシ石熊さま 御礼は言うて下さるな私が直すぢやない程に 尊き神の御恵とお前の心が引立つて 足が立つたに違ない私にお礼を言ふよりは 三五教の神様に感謝祈願の太祝詞 奏上なさるがよからうと一寸教へてやつたれば 石熊さまは手を拍つてカールさまお前の云ふ通り 寔に感服しましたとニツと笑うた其顔は 今も吾目にちらついてどしても斯しても忘られぬ カール、石熊両人はいよいよ心を合せつつ 末子の姫や松若彦の教の司に能く仕へ 誠を励む折柄に言依別の大教主 突然此処に天降りまし尊き神の御教を 朝な夕なに宣り給ひ天の岩戸の開けたる やうに心も勇み立ちこれでいよいよ夜があけた 心にかかる雲もない嬉し嬉しと喜んで いそしみ仕ふる時もあれ神素盞嗚大神の 貴の教に言依別の瑞の命は吾々を 伴ひ給ひて屏風山帽子ケ岳に立向ひ 時雨の森やアマゾンの河に潜める曲神を 言向け和し悠々と再び館に凱旋し 喜び勇む時もあれ肉体持つた正真の 神素盞嗚神様が此処に現はれましますと 聞いたる時の嬉しさよあゝ惟神々々 賤しき吾等も天地の恵の露にうるほひて 瑞の御霊の救世主神素盞嗚大神に 間近く仕へまつるとは天地開けし始めより これに優りし喜悦なしあゝ惟神々々 嬉しき夢は何時迄も醒めずにあれやウヅ館 一度に開く木の花の匂ひめでたくいつ迄も 散らずにあれや惟神神の御前に祝ぎまつり 国魂神の御前に謹み敬ひ願ぎまつる 謹み敬ひ願ぎまつる』 と歌ひ終り、さも厳粛なる宴席をドツと許り笑はせける。 (大正一一・八・二四旧七・二松村真澄録)