| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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霊界物語 | 67_午_ハルの湖/タラハン国の国政改革1 | 10 スガの長者 | 第一〇章スガの長者〔一七一二〕 港の家々の点燈は湖水に映り、恰も不夜城の如くにみえた。天空冴え渡り、星光きらめき亘つて、えも云はれぬ清新の空気が漂うた。数百人の乗客は先を争うて棧橋を渡り、各家路に帰る者、宿を求めて行く者、一時は非常な雑鬧を極めた。梅公一行は今や船をおりむとする時、船長のアリーはあわただしく梅公司の前に跪き、熱い涙を流し乍ら、 アリー『宣伝使様、思はぬ御縁によりまして、天国の福音を聞かして頂き、又日頃の妄執もサラリと晴れました。之よりは父の仇を報ずる代りに、往来の人を吾子の如くに愛護し、善一筋に立返ります。どうか私たちの身の上に平和と喜びの幸あらむ事をお守り下さいませ。此船が無ければ、私は何処迄もお伴が願いたいので厶いますが、今日の事情許しませぬから、残念乍らお別れ申します。どうぞ途中無事に神業成就して、斎苑の館へ凱旋遊ばすやう、私も朝夕お祈り致して居ります。次にダリヤさま、イルクさま、私は今迄あなたの家庭を仇敵として附け狙つてをりましたが、最早今日となつては三五の神風に吹き払はれ、心中一点の塵も止めない清浄無垢の霊身に立返つたやうな精神が致します。恨み、妬みも憤怒の念も厶いませぬから、どうぞ御安心下さいませ。そしてダリヤさまは私と同じ母の胎内より生れた、いはば私の妹も同様ですから、どうか今後は親しく御交際を願ひたう厶います。お父さまにも宜しく仰有つて下さいませ』 イルク『何事も因縁事で厶いませう。私も今の貴方のお言葉を聞いて安心致しました。実の所は、今迄貴方が私の父を附狙つてゐられるといふ事を、方々の人々から内聞致しまして、内々心配してゐた所で厶いますが、最早其お言葉を聞く上は、私も此世の中が広くなつたやうな心持が致します。ダリヤに対して貴方は兄上さま、又私もダリヤに対しては兄で厶いますから、どうか三人兄妹となつて、仲能う神様の恵に抱かれて、世の中を渡らうぢや厶いませぬか』 アリ『ハイ有難う厶います。こんな嬉しい事は、生れてから一度も味はつた事は厶いませぬ。どうか親子兄妹仲よう暮らして下さいませ。時にダリヤさま、私は月に一回づつ此港へ参りますから、又どうぞ遊びに来て下さい』 ダリ『ハイ、有難う厶います。貴方も此港へお着きになつたならば、キツト私の宅をお訪ね下さいませ。私は本当の兄さまのやうに存じて居りますから』 アリー『有難し皇大神の御恵に 日頃の胸の雲霧はれぬる』 ダリヤ『一度は恐はしと思ひ一度は 恋しと思ひし人に別るる。 恋雲も吾兄上と聞きしより 拭ふが如く晴れにける哉』 アリー『胤違ひ吾妹と知り乍ら 恋のきづなに縛られにける。 あゝされど神の教の畏ければ 道ならぬ道行くすべもなし』 梅公『大空の星冴えわたり両人が きよき心を照りあかしぬる』 ヨリコ姫『いざさらばアリーの君に別れなむ 安くましませ湖の浪路を』 アリー『ヨリコ姫珍の言霊おだやかに 吾魂を打ぬきにける』 花香姫『惟神厳の道芝ふみしより いとさまざまの色をみる哉』 かく互に別れの歌を歌ひ乍ら、軒燈輝くスガの港の市中をイルクが館を指して、宣伝歌を歌ひ乍ら進み行く。 スガの港の百万長者と聞えたるアリスの館は広大なる土塀をめぐらし、数十棟の麗しき邸宅や倉庫が建並び、天を封じて鬱蒼たる庭木が彼方此方に立並び、自然の森をなしてゐた。表門には二人の門番が若主人や姫君の帰宅なきに心を痛め、酒を呑み乍ら小声に囁いてゐる。 甲(カル)『オイ、アル、嬢様は今日で半月許りになるのに、未だお帰りにならないが、一体何うなさつたのだらう。離れ島へ御遊覧の帰り路に海賊にさらはれ遊ばしたきり、何の音沙汰もないのだから、親旦那も此頃の御心配相な顔と云つたら、見るもお気の毒のやうだ。それに若旦那は又十日前から、お嬢さまの行方を探して来ると云つて行かれたきり、之も何の音沙汰もないぢやないか。丸で木乃伊取りが木乃伊になつたやうなものだなア』 アル『何と云つても、目付役が無能だからね。まして海賊に捉はれたなんて云はうものなら、真青な顔をして慄うてゐるのだから、たまつたものだないワ。鼠取らぬ猫は飼うとく必要はないのだけれどなア』 カル『本当に汝のいふ通りだよ。去年の春だつたが、此珍館へ泥棒が忍び込んだ時、俺が一目散に目付役へ飛込んで、目付役に、今泥棒が這入つてゐますから、今すぐに来てしばつて下さいと云つたら、目付役の奴、真青の面しやがつて、地震の孫のやうにビリビリとふるうて斗りゐやがつて、早速に出て来ようとしやがらぬ。そこに七八人の部下の目付がコクリコクリと夜舟をこいでいたが、俺が泥棒が入つたといふ声を聞いて、ビツクリ目をさまし、梟のよな目をさらし、泥棒の人相はどうだ、何人連れか、年はいくつ位だ、どこから入つたか、着物の縞柄はどうだ、男か女か、老人か子供か、跛か眼つかちかなど聞かいでもよいことを聞きやがつて、グヅグヅ時間をのばし、可いかげん泥棒が帰つた頃、ブリキをちやらつかせてやつて来ようと云ふ算段だ。案の定、帰つて来ると、泥棒がグツスリ仕事をして帰つて了つた跡だつた。本当に盲目付の状態だ。到底吾々はこんな泥棒の蔓延する世の中に、安心して暮すこた出来ないワ、目付といふ者は間に合はぬ者だね』 アル『それもさうだらうかい。僅な月給を貰つて、夜も昼もこき使はれ、命がけの仕事をせいと言はれちや、誰だつて尻込みするよ。目付になる奴ア、何奴も此奴も社会の落伍者斗りだからな。チツト斗り気骨のある者なら、誰がそんなつまらぬ役を勤めるものかい、小学校の教員には学が足らずしてなれず、商売せうにも資本はなし、働くのは厭なり、つまり堕落書生上りが食はむが悲しさに奉職してゐるのだから、チツタ、大目に見てやらねばなろまいよ』 カル『併し、目付は月給が安いから、先づ大目にみるとした所で、目付頭の奴、エラ相に大将面をさげて居り乍ら、泥棒と聞いて、腰を抜かさん計りに驚くのだから恐入るぢやないか。今時の役者にロクな奴が有相なこたないけれど、人民保護の任にある目付役がこんなザマでは、天下は益々紛乱する斗りだ。呑舟の魚は法網を破つて逃れ、小魚やモロコは皆ふん縛られて獄中に呻吟してゐる世の中だから、到底お規定を便りに、吾々は安閑と暮す訳には行かぬ。自守団でも組織して自ら守るより途はないだないか』 などと目付役の悪口をついてゐる。そこへイルク、ダリヤの兄妹は宣伝使に送られて悠々と帰つて来た。アル、カルの両人は夢かと許り狂喜し乍ら、 アル『これはこれは、若旦那様、お嬢さま、待かねまして厶います』 カル『マアマアマア無事で能う帰つて下さいました。これで私達も睾丸のしわが伸びました。親旦那様のお顔のしわも今日からのんびりとする事で厶いませう。ヤ、沢山なお連さまで厶いますな』 イルク『さぞお父さまが待つてゐられただらうな。サア早く案内してくれ。イヤ、お父さまに二人が無事に帰つたと申上げてくれ。其間に足でも洗つてゐるから』 『ハイ畏まりました』とカルを門に残しおき、アルはアリスの居間に急ぎかけ込んだ。主人のアリスは奥の一間にウラル彦の神を念じ終り、煙草をくゆらし乍ら、首を傾け、独り言をいつてゐる。 アリス『あゝ私程型の悪い者が世にあらうか。親代々から沢山な財産は譲られて、生活上の困難は少しも感じないが、肝腎の女房はイルクを生んだまま、産後の肥立悪く、冥土黄泉の客となり、三年が間空閨を守つて妻の菩提を弔うてゐた。思ひまはせば吾家へ古くより出入する売薬行商人の女房が自分の亡くなつた妻に其容貌そつくりなので、忽ち煩悩の犬に逐はれ、道ならぬこととは知り乍ら、女房の側へ主人の不在を考へて、幾度となく言いよつてみたが、どうしても頑として応じてくれぬ。恋の炎は吾身をこがさん計りに燃え立つて、到底こばり切れないので、無理と知りつつ彼の女房アンナを手だてを以て、吾館へ引張り込み、倉の中へ閉ぢこめておいて、無理往生に女房となし、遂に妹のダリヤを生んだが、又もやアンナは先妻と同様産後の肥立が悪く、先妻の命日に亡くなつて了つた。そして彼の夫は女房を捕られたのが残念さに、ハルの湖水に身を投げて死んで了つた、思へば思へば自分の運の悪いのも天の為す業であらう。杖とも力とも柱とも頼む二人の愛児は、又もや行方不明となり、只一人巨万の富を抱へて、此世に残つてゐても、何一つの楽みもなく、それだと云つて、死ぬにも死なれず、現世に於て犯した罪の報ひによつて、死後は必ず地獄のドン底に落されるだらう。それを思へば淋し乍らも、一日でも此世に永らへて居りたいやうな気もする。あゝ何うしたら、此苦患から逃れる事が出来るだらう。ウラル彦の神様を念じ乍ら、心の底を神様に見透かされるやうな気がして何だか恐ろしいやうだ。神様の前へ出るのでさへもオヅオヅして来る。あゝ淋しい事だ。最早二人の吾子は、無事に帰つて来る気遣ひはあるまい。あゝ何うしたら可からうかなア』 と首をうな垂れて、悔み涙にくれてゐた。そこへ門番のアルが慌ただしく、ニコニコとして現はれ来り、 アル『大旦那様、お喜びなさいませ。お二人様が無事お帰りになりました』 アリス『ナニ、二人が帰つたか。そしてどちらも機嫌ようしてゐるか』 アル『ハイ、シヤンシヤンしてゐられますよ。何だか四人許りお伴れがあるやうで厶います。詳しいことは存じませぬが、若旦那様もお嬢様も、あの方々に助けられてお帰りになつたのぢやなからうかと思ひます。今お足を洗つてゐられますから、軈てここへお出でになりませう』 アリス『それは何より嬉しい事だ。私は之からウラルの神様へ御礼を申上げるから、お前たちは番頭や下女にさう云つて呉れ。早く夕飯の用意をせよ』 アル『ハイ、畏まりました。左様ならば旦那様』 と云ひ乍ら、勝手元をさして急ぎ行く。アリスは神殿に向ひ感謝の祝詞を奏上してゐる。 アリス『天地万有の大司宰神たるウラル彦の大神の御前に、スガの里の薬屋の主人、アリス謹み敬ひ、感謝の辞を捧げます。日に夜に罪悪を重ね来りし、悪魔に等しき吾々が身魂をも見すて給はず、最愛なる吾倅、吾娘を安全無事に、吾家に帰させ給ひし、其広き厚き御恩徳を、有難く感謝致します。今日迄、吾身は貪瞋痴の三毒にあてられ、五逆十悪の巷に迷ひ、人の貧苦困窮を意に介せず、利己一片の利に走り、大神の御子たる数多の人民を苦めまつり、加ふるに人の妻女を奪ひ、悪逆無道の限を尽して参りました。極重悪人の私をも見すて給はず、御恵み下さいました其広大無辺の御仁慈に対し、感謝にたへませぬ。あゝ神様、私は今日より前非を悔改め、祖先より伝はりし一切の財産をあなたに奉り、スガ山の山元に清浄の地を選み、荘厳なる社殿を営み、吾罪悪の万分一をつぐない、来世の冥福を与へられむ事を祈り奉ります。どうか吾願を平けく安らけく、相うべなひ下さいまして、子孫永久に立栄え、大神の御恩徳に永久に浴し得る様、御守護あらむ事を、ひとへに願ひ奉ります。惟神霊幸倍ませ』 と悔悟の涙をこぼし乍ら、感謝と哀願の祈願をこめてゐる。そこへ兄のイルクを先頭にダリヤ姫、梅公、ヨリコ姫、花香姫、シーゴーの六人連れ、悠々として這入つて来た。 アリス『ヤ、其方は倅か、……娘か、能うマア無事で帰つて来た。父はここ半月の間、夜の目もロクに寝ず、神様におすがり申してゐた。其おかげで、今日はお前達の無事な顔を見ることを得たのだ。モウ私はこれつきり、此世を去つても心残りはない。……何れの方かは知りませぬがよくマア吾子を送つて来て下さいました。謹んでお礼を申上げます』 梅公『始めてお目にかかります、私は三五教の宣伝使のお伴に仕へる梅公と申す者で厶いますが、波切丸の船中に於て、イルクさまと眤懇になり、一夜の宿を御無心にあがりました。どうか宜しうお願致します』 アリス『それは能うこそお出下さいました。御存じの通り、茅屋で厶いますが、家は広う厶いますから、幾人さまたり共お泊り下さいませ』 ダリヤ『お父様、此神司様に妾は助けて頂いたのですよ。此方の御神徳に仍つて、妾は危い所を助けられたやうなものですから、どうぞお礼を申して下さい。それから、此奇麗なお方は、宣伝使様のお伴で、ヨリコ姫さま花香姫さまといふお方で厶います。又白髪のお方はシーゴー様といふ俄道心様で厶いますが、本当に心意気のよい方ですから、無事に吾家へ帰られた喜びを兼ね、家の祈祷をして頂かうと思つて、お伴したので厶います』 アリス『それはそれは、何れも方様、ようこそお越し下さいました。サアどうぞ、くつろいで下さいませ。御遠慮は少しもいりませぬから』 梅公『ハイ有難う厶います。お言葉に従ひ、性来の気儘者、自由にさして頂きます。サア皆さま、御主人のお許しが出たのだから、体の疲れを癒する為横におなりなさい』 ダリヤ『お父さま、此方々は本当の活神様ですから、粗忽があつては可けませぬ。どうぞ私にお世話を任して下さいませぬか』 アリス『よしよし、私もお前達の帰つたのを見て、俄に体がガツカリと草労て来たやうだ。皆さまに失礼だけれど、離室へ行つてゆつくり休まして頂くから、手落のないやう、御無礼のないやう、おもてなしをしておくれや』 と云ひ乍ら、エビの様に曲つた腰を右の掌で二つ三つ打ち乍ら、 アリス『皆様、左様なら、失礼致します』 と一言を残し、離室の座敷に身をかくした。此時南方の空に向つて鬧の声が聞えて来た。梅公はヨリコ姫と共に庭先に立出で、音する方を眺むれば、大空は大変な雲焼がしてゐる。之れはバルガン城へ大足別将軍の軍隊が攻め入つて、市街を焼払うた大火焔が、空の色を染てゐたのである。 (大正一三・一二・二新一二・二七於祥雲閣松村真澄録) |
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82 (3023) |
霊界物語 | 68_未_タラハン国の国政改革2 | 15 破粋者 | 第一五章破粋者〔一七三九〕 那美山の南麓、秋野ケ原の片隅に古ぼけた茅葺の水車小屋が建つてゐる。附近に人家もなく、見わたす限り、東南西の三方は原野の萱草が天に連なつてゐる。此水車小屋は水車の枠も損じ杵も折れ、所々に雨もりがして、今は全然活動を中止してゐる。カーク、サーマンの二人は何事か此茅屋に秘密の蔵するものの如く、お勤め大事と蛙面をさらして仁王の如く仕へ乍ら、雑談に耽つてゐる。 カーク『オイ、サーマン、此間は随分骨が折れたぢやないか。彼の古寺へ十人づつの手下を引つれ、つかまえに行つた時や、俺も「到底此奴ア駄目かなア……」と一時は匙を投げたが、断じて行へば鬼神も之を避くとかいつて、たうとう物にした。あの時に俺の勇気が途中に挫けやうものなら、サツパリ目的物は取逃し、百円づつの懸賞金は駄目になる所だつた。汝等も俺のお蔭で、百円の大金にありついたのだから、チツとは俺の恩恵も知つてゐるだらうな』 サーマン『ヘン、偉相に云ふない。汝は太子の一瞥に会うて、ビリビリと震ひ出し、地上へ平太張つて、息をつめ、物さへ碌によう云はなかつたぢやないか。其時、俺が「オイ、カーク、しつかりせぬかい」と靴で汝の尻を蹴つてやつたので、漸く輿を上げよつたぢやないか。行きなり、女つちよに睾丸をつかまれて悲鳴をあげて青くなり、歯をくひしばり白目許りにしやがつて、フンのびた時のザマつたらなかつたよ、余り偉相に云ふものぢやないワ』 カ『それだつて、太子のカークれ場所は此古寺だと、カーク信を以て報告したのは俺ぢやないか。それだから何と云つても俺は功名手柄の一番槍、誉れは天下にカークカークたるものだ』 サ『何程発見者だと云つても、ヤツパリ俺の勇気がなかつたら、汝はあの山奥で冷たくなり、狼共の餌食になつてゐる代物だ。命の親のサーマンさまだぞ。オイ百両の内五十両位俺にボーナスを出しても、余り損はいくまいぞ。五十両で命が助かつたと思へば安いものだ。俺の名を聞いても一切衆生が成仏するんだからなア』 カ『ヘン、欲な事をいふない。此方の方へ五十両よこせ。右守の大将、誰も誰も平等に、皆百円づつ渡しやがつたものだから、論功行賞の点に於て、非常に不公平があるのだ。俺やモウこんな淋しい所で、一ケ月僅十円やそこらの月給を貰つて居るこた厭になつた。俺やモウ明日から辞職するから、汝一人で番するがよからう。汝は自ら称して救ひの神だと云つてゐやがるから、虎が来たつて、狼が来たつて大丈夫だらう、ウツフフフ。とつけもない救世主が現はれたものだ、イツヒヽヽヽ』 サ『コリヤ、カーク、余り馬鹿にするない。お経の文句にも、「曩莫三満多」といふ事があるぢやないか。「三満多」さへ唱へたら、三災七厄も立所に消滅し、豺狼毒蛇盗人の難も火難水難剣の難も一遍に逃れるという結構なお経だよ。その名をつけてるサー満だから、俺は即ち天下の救世主サーマンといふのだ、エツヘヽヽヽ』 カ『併し地下室の太子は何うしてゐるだらう。舌でも噛んで死によつたら大変だがなア。「どこ迄も殺さないやうにせ、飲食物を与へず、干殺せ」と、右守司の御内命だから、自殺でもやられちや、忽ち俺等の首問題だぞ』 サ『そんな心配はすな。何というても隣室に古今無双の美人が這入つてゐるのだもの、あの細い窓の穴から互に顔を覗き合うて、甘い囁きをつづけ、楽く面白く平然として日夜を送られるかも知れぬ。吾々下司下郎の心理状態とは又、格別違つたものだからのう』 『何程太子だつて美人の面許り見て居つても腹は膨れないよ。諺にも……腹がへつては戦争が出来ぬ……と云ふぢやないか。饑渇に迫つて恋だの鮒だのと、そんな陽気な事思うてゐられるか。汝も余程理解のない奴だなア』 サ『ナアニ、「兎角浮世は色と酒」と、俗謡にもある通り、飯よりも酒が大事だ、酒よりも大切なは色だ。其色女と仮令隔てはあるにしても、毎日顔見合はして、甘つたるい事いつて楽しんでゐる太子の胸中は、暖風春の野を渡るが如き心持でゐられるだらうよ。恋は生命の源泉だと云ふぢやないか。俺だつてあんな美人に恋されるのなら、百日や千日、一杯の水を呑まいでも、一椀の食をとらいでも得心だ。何と云つても天下の名誉だからなア』 カ『アツハヽヽヽ、法外れの馬鹿野郎だなア。飲食物を断てば人間は死ぬぢやないか……死んで花実が咲くものか……といふ俗謡があるだらう。世の中は命が資本だ。人間は飲食物を取り命を完全に保つてこそ、恋といふものの味はひが分るのだ。筍笠のやうに骨と皮と筋とになつて痩衰へ胃病薬の看板の様に壁下地が現はれ、手足は筋骨立つて竹細工に濡れ紙をはつたやうなスタイルになつては恋も宮もあつたものかい』 サ『恋でも宮でもないよ。海魚の王たる鯛子様だ。それだから太子霊従の行動を遊ばすのだ。政治なんか如何でも可い、親なんか如何でも可い、自分の恋の欲望さへ遂げれば人生はそれで可いのだ……などと云つて、あらう事か、あろまい事か、山海に等しき養育の恩を受けた父親の難病を見捨てて、好いた女と手に手を取つて随徳寺をきめこむといふ粋なお方だからなア』 カ『それだから親の罰が当つて、こんな所へ投込まれたのだ。つまり吾身から出た錆だから、気の毒でも仕方がないぢやないか。……天のなせる災は或は避くるを得べし。自らなせる災はさく可らず……といふ教がある。丁度それにテツキリ符合してゐるぢやないか。虎か山犬のやうに、檻の中へ放込まれて、飲食物を与へられず、悶え苦んでゐるとは、実に気の毒千万だ。併し乍ら之も自業自得だから仕様がないワ』 サ『さう悪口を云ふものぢやない。汝だつて俺だつて百円の大金にありつき、女房に立派な着物の一枚も買つてやれたのは、体主霊従様が、あゝいふ事をして下さつたお蔭ぢやないか。余り粗末にすると冥加が悪いぞ。オイ汝、何とかして焼芋のヘタでも買つて来て、ソツと放込んだら何うだ。其位な人情はあつても、余り罰ア当るまいぞ』 カ『馬鹿いふな、そんな事をしようものなら、俺等の身の破滅だ。何と云つても自己愛世間愛の尊重される世の中に、そんな宋襄の仁は止めたが可からう。吾身の保護上険呑至極だぞ』 サ『それでも汝、万々一太子が再び世に出られ、王者に成られた時は如何する積りだ。俺を苦しめよつたと云つて、首をうたれても仕方あるまい。さうだから今の内にチツと位同情の涙を払つて、焼芋のヘタ位は恵んでおく方が、自己愛の精神上最も賢明な行り方ぢやないか』 カ『ヘン、モウ斯うなつた以上は籠の鳥だ。天が地になり、地が天となり、太陽が西から上る事があつても、……………世に出るやうな事があるものか。兎も角長い者にはまかれ、強い者の前には尾をふつて従ふのが、自己保存上唯一の良法だ。俺は断じて何物も与へない積だよ』 サ『汝、さういふけれど、太子の死な無い内に右守の司の陰謀が露顕し、太子の在処が分つて、立派な役人共がお迎へに来たとすれば、「其時や大切にしておきやよかつたに」と、地団駄踏んで悔むでも、最早及ばぬ後の祭りだ。六日の菖蒲十日の菊だ。それだから汝の利益上、俺がソツと忠告するのだ』 カ『俺は断じてそんな女々しい卑屈な事はせないよ。時の天下に従へといふぢやないか。権威赫々として、月日の如く輝き亘る右守の君にさへ、お気に入れば可いのだ。オイ汝、地下室へ行つて、一寸査べて来い。俺や此処で外面の看視に当るから……』 太子は地下室の牢獄に投げ込まれて今日で三日、一飲一食もせず、細い狭い窓を覗いて、スバール姫の顔を幽に眺め、それをせめてもの慰となし、死期の至るを従容として待つてゐた。其処へ看視役のサーマンがやつて来て、 サ『モシモシ太子様、貴き御身を以つて、かやうな処に断食の御修業を遊ばすとは実に恐れ入りまして厶います。私もタラハン国の国民の一人で御座いますれば、何とかして殿下に対し御恩報じが致したい考へで厶いますが、何分相棒のカークといふ奴、無情冷酷なる鬼畜の如き動物で厶いますから、私の申す事を聞入れず、何かお腹にたまる物を差上げたいと焦慮して居りますが、もしもそんな事を致しまして、右守司の耳へ入れば忽ち私の首は一間先へ転り、ヤツと叫ぶ間も無く死出の旅立と、約らない事になつて了ひますなり、殿下の御境遇は察し参らして居りますが、今日の場合如何ともする事が出来ませぬから、どうぞ因縁づくぢやと諦めて姫様の顔を見て、心をお慰めなさいませ。暗があれば明りもある世の中、殿下だつて何時までもかやうな不運が続くものぢや厶いますまい。屹度元の貴い御位にお上り遊ばす事が無いとも限りませぬ、其時には何うぞ私を御引立て下さいませ。お馬の別当でも、お馬車の馭者にでも結構で厶いますから……』 太子『ハヽヽヽ随分辞令の巧な野郎だなア。それ程親切があるなれば、何故余を捕縛したのだ。汝が二十人の悪人輩を指揮して、予を斯様な所へ投込む様に致しただ無いか。そんな偽善的同情の詞は聞くも汚らはしい、そちらへ行け』 サ『それは殿下の誤解と申すもので厶います。私は決して殿下をお苦め申さうなどの悪心は厶いませぬ。元より殿下に対し、何の怨みもない私で厶いますから』 太『アツハヽヽヽ怨みはなからうが恩恵は味はつただらう。予を捕縛した為に百円の懸賞金を貰つたぢやないか』 サ『ハイ、ソリヤ受取ましたけれど、女房の着物を買つたりなど致しまして、私の身には一文もつけた覚えは厶いませぬ。甘い酒の一杯も呑んだ事もなく、つまり全部嬶の奴にふんだくられて了ひました。どうか恨があるなら内の嬶を恨んで下さい。一文も儲けてゐない私に対し、そんな事仰有るのは余り御無理ぢや厶いませぬか』 太『ハヽヽヽ、妙な団子理窟を捏る奴だな。汝は常識をどこへやつたのだ』 サ『ハイ、情色は女房が内に大切に保護致して居ります。何程夫婦の間柄でも、斯う所を隔つて住まつて居りますれば、情色の楽しみも到底味う事は出来ませぬ』 太『テモ扨ても情ない野郎だなア。サ早く此場を立去れ』 サ『殿下さうポンポンいふものぢやありませぬよ。生殺与奪の権は、言はば間接に吾々が握つてる様なものですから、チツとは監視役の私に対しては、もうチツと許り丁寧に仰有つても、余り御損にもなりますまい。余りポンつき遊ばすと、貴方の御為になりませぬぞや』 と堅固なる檻に、猛悪なる虎を押込めて、外から苛責でゐるやうな心持になつて、下司下郎が威張つてゐる。隣の室よりスバール姫は窓をさし覗き乍ら、 『あの太子様、左様な獣に相手におなりなさいますな。妾は残念で厶います』 太『成程、其方のいふ通りだ。今後は何も云はうまい。オイ野郎共、邪魔になる、早く上へ上つて、水車小屋の立番でも致せ』 と大喝され、流石のサーマンも首をすくめ乍ら、鼠のやうに此場を逃去つた。カークは此間に頬杖を突き乍ら、コクリコクリと居睡つてゐた。 サ『コリヤコリヤ、カーク、職務を大切にせぬか、白昼に居睡るといふ事があるかい』 カ『ヤア、サーマンか、俺やチツとも居睡つてはゐないよ。俯むいて沈思黙考、哲学の研究をやつてゐたのだ』 サ『ヘーン、うまい事いふない。鼾をかいてゐたぢやないか』 カ『きまつた事だ。哲学上鼾の原理は如何なるものなりやと、実地の研究をやつてゐたのだ。無学文盲な汝に哲学の研究が解るか。それだから常識がないといふのだ』 サ『エー、太子にも、情色がないと誹られ、又汝にも情色がないと誹られ、本当に男の面は丸つぶれだ。併し乍ら余りいうて貰ふまいかい。女房がある以上情色はあるぢやないか。汝こそ鰥暮しだから、情色なんか味はつたこたあるまい』 カ『ハヽヽヽ、色情と常識と間違へてゐやがるな。オイ、コラ、此カークはな、天下一の男地獄、色魔の先生と謳はれて来たものだよ。汝等のやうな唐変木の敢て窺知し得る範囲ぢやない。鼠とる猫は爪隠すと云つてな。女の無いやうな面してる奴に、却て女が沢山あるものだ。汝は此間の消息を知らないから、恋や情を語るに足らない人物だ』 サ『ヘン、仰有いますワイ、汝のやうな、鳶の巣と間違へられるやうな頭の毛をモシヤモシヤと生え茂らせ、和布の行列然たる着物を着やがつて、色魔だの、男地獄だのと、そんな事吐す柄ぢやあるまい。ヤツパリ睡呆けてゐやがるな。オイ、そこの小溝で手水でも使うて来い』 カ『そこが汝らたちの解らない所だ。……恋の上手は窶れてかかる……と云つてな、俺の様な者が却て女に惚られるのだ。汝の様に女子の真似をして、頭にチツクをつけたり、石灰の粉を塗つたり、嬶の月経を頬辺に塗つて、色男然と構へてる奴にや女の方から愛想をつかし、唾でも吐つかけ逃て了ふものだ。尻の大砲や肱の鉄砲を打かけられ、鳩が豆鉄砲を喰つたやうな面で指を喰はへて、女の後姿を怨めしげに眺めてゐる代物は、汝のやうな柔弱男子の身の果だ。ヘン馬鹿々々しい』 サ『ほつといてくれ、女房のある立派な人間と嬶なしとは到底間が合はぬからのう。汝は最前俺を無学文盲だと云ひよつたが、汝位無学文盲な奴はあるまいよ。無学の奴を称して、ヨメないカカないと云ふぢやないか、ザマア見やがれ。之にや一句もあるまい、イツヒヽヽヽ』 カ『コリヤ、そんなこたどうでもよい。地下室の様子はどうだつたい。隊長に報告せぬかい』 サ『何も報告すべき原料がないぢやないか』 カ『ハハア、汝は太子に叱りつけられ、謝罪つて帰つて来やがつたな。どうも汝の素振が怪しいと思つてゐたよ』 サ『然り然り、然り而うして俺の方から叱りつけて来たのだ。流石の太子もオンオンと声をあげて泣いてゐたよ。何と云つても偉い者だらう。畏れ多くもタラハン城の太子を一言の下に叱咤するといふ蘇如将軍のやうな英雄だからなア』 カ『ヘン、そんな事が何自慢になるか。堅固な檻の中へ這入つてゐる以上は太子だつて、虎だつて、狼だつて、何うする事も出来ぬぢやないか。誰だつて叱る位は屁のお茶だ』 サ『ナニ、理窟からいへばそんなものだが、実地に臨んでみよ。どこ共なく威厳が備はつてゐて、其前へ行くと体はビリビリ慄ひ、目はまくまくし、舌は上腮の方へひつついて固くなり、胸はドキドキ、足はフナフナ、仲々叱る勇気は容易に出て来ないよ。俺ならこされ、一口でも叱りつける事が出来たのだ』 カ『アツハヽヽヽ、手厳しく反対に、叱りつけられよつたのだらう』 かく話す折しも吹来る西風に送られて、幽かに宣伝歌の声聞え来たる。 (大正一四・一・七新一・三〇於月光閣松村真澄録) |
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霊界物語 | 70_酉_トルマン国の国政改革 | 01 信人権 | 第一章信人権〔一七六八〕 往古文化の中心、仏祖の出現地なる七千余ケ国をかためて一団となしたる印度は浄行、刹帝利、首陀、毘舎其他各種の階級が設けられて居た。殊に印度はバラモン教の根元地とも云ふべき国である。さうしてウラル教はデカタン高原の一角に、相当に勢力を保ち、バラモン教の本城ハルナの都に向つて、ややもすれば教線を拡張し、大黒主の根底を覆へさむとするの慨があつた。茲に大黒主は宣伝将軍を四方に遣し、殊にこの方面は大足別将軍に数千の兵を与へて討伐のみを主たる目的にて出発せしめたのである。扨てデカタン高原内の最も土地肥たるトルマン国は余り大なる区域ではないが、相当に沢山な人が住んで居る。さうして地理上の関係からウラル教を奉じて居た。トルマン国の王の名はガーデンと云ふ。ガーデンはウラル教を信ずるでもなく、又排斥するでもなく、祖先伝来の宗教として、弔ひの儀式にのみ用ふる位の観念を持つて居た。然るに国民の過半数はウラル教を奉じ、一部分はバラモン教に入り、二三分通りはスコブツエン宗に新に入信する事となり、其勢ひは燎原を焼く火の如くであつた。ハルナの都の大黒主はバラモン教の宣伝使を遣はして、トルマン国を全部バラモンの勢力範囲になさむものと、いろいろ苦心の結果、到底バラモンの名にてはこの国の人心に投じない事を悟り、狡猾にして万事抜目のない大黒主は、日頃手慣けおいた、寵臣のキユーバーに命じ、バラモン教の名を避けて、スコブツエン宗と云ふ、変名同主義の宗教を築かせ、先づ第一にトルマン王を帰順せしめむと百方尽力して居たのである。トルマン王のガーデンには千草姫と云ふ王妃があり、太子はチウイン、王女はチンレイと云つた。左守の司をフーランと云ひ、妻モクレンとの中にテイラと云ふ一人娘があつた。右守の司はスマンヂーと云ひ妻は已に此世を去り、ハリスと云ふ一人の娘をもつて居た。然るに王を初め、左守右守はバラモン教はもとより、スコブツエン宗には何程勧められても入信せず、体的方面の政治のみに没頭して居たのである。茲にバラモン軍の大足別が、俄にトルマン城の攻撃を開始した経緯について、其大略を述べて見ようと思ふ。 トルマン城を去る十数里を隔てた、或小さき山里の古ぼけた祠の前で、二人の首陀が何事か頻に囁き合つて居た。春の初とは云へど、未だ風は寒く青草の芽は去年の記念物たる長い枯草の間から細長く空を覗いて居る。 レール『信仰的に自覚した吾々の擡頭を見て、バラモン階級の鬼畜どもは周章狼狽し、尠からず戦慄し恐怖を感じたものと見える。彼奴等は自分等の占有せる支配の地位たる宗教上、経済上より顛覆しつつある己れ自身を解し、哀れ至極にも泣き面をかわき、勃興せる三五運動の大征伐に向つて今や死物狂ひになつて居る。溺れむとするものは毒蛇の尻尾でも生命限りに掴まむとするものである、諺通りの彼奴等の狂態は、噴飯の価値以外には全くゼロだ』 マーク『さうだねー、浪速節語の屁放爺……………に奏任待遇を与へたり、若衆に僧服を纒はせたり、老衆に民風作興を卸売りしたり、糞造機の似而非宗教家に思想善導の元売捌きを許したのを見ても、愈彼奴等が境遇を暴露せるもので、思へば実に哀れな次第ではないか。是を見ても今迄に虐げられた吾々三五教徒に取つては溜飲が下がる様だ、痛快千万だアハヽヽヽ。併し乍ら今日の場合吾々は毫も油断は出来ない。尚ほ層一層この運動に大努力を要する天下別目の時期だ。バラモン教徒の滅亡は自業自得の結果として拱手傍観すべきでは無い。自業自得の必然性を認むればこそ、且つ鼬の最期屁の害毒の甚大なるを悟ればこそ、吾々は最善の戦法を選んで一刻も早く宗教戦の勝利を得るやうに、奮闘努力せなければならぬ。彼奴等のこの自業自得の収獲こそ人類史上、最大罪悪の裁判の結果で、一点の恕すべき所はないのだ。只吾々は彼奴らの滅亡を一日も早く断行し、促進することが寧ろ彼奴等に対してせめてもの優遇だ、弔ひだ、ハナムケともなるべき慈善だ。アハヽヽヽ』 レ『俺等仲間の第一癪に障る事は暴利の権化とも云ふべきブル的宗教家の今日のやり方だ。好景気時代に、己れ先づシコタマ信徒の油を搾り懐中をふくらせやがつて、最後にお義理的に申訳的に、渋々吾々三五教信者へホンの鼻糞ほどのお守り札を呉れよつて、恩情主義だの何のと臆面もなく誤託を吐き、俺等の汗や油を搾つて妾宅を造り、栄華の夢に酔ひ潰れ、一朝不景気風が吹き初めると、何は扨て置きイの一番にお札の値下げだの、お払ひ箱だのと大鉈を振り上げ、人間の生命を制し、ミイラを製造しておき乍ら、己れは依然として甘い汁をシコタマ吸収し、そして吐すことを聞けば………宗教界に不景気風が吹き荒み、真価は日を追ふて暴落として来た。こんな悪現象を招来した原因は信仰律低下と、教義の余りに高尚に過ぐるからだ………と吐きやがるのだ。そして洒々として澄まし込んで居やがる。ブル宗教家連中も矢張り吾々同様に白い米を喰つて黄色い糞を垂れる人間の片割れだ。こんな奴が覇張つて居る宗教界は何時になつても駄目だないか』 マ『そりや其の通りだ、俺も同感だ。併し今日の僧侶共は実に怪しからぬ代物ではないか。俺等の仲間に対して吐すことには、「お前等の如うな悪信仰の没分暁漢連が八釜敷云つて飛び廻るものだから、宗教は日に月に悪化し混乱状態に陥るのだ」と吐きやがる。こんな僧侶の盲目共は、梵鐘を鳴らしたから火事が起つたと吐かす没分暁漢だ。更に又「人間社会に貧乏と云ふ怪物が現はれるのは、食物の生産力に比して人口の加増率が一層多き為だから、是を救済する唯一の良法は貧乏人等が節制して、余り沢山な子を産まない様にするのが、社会救治策の最善なる方法手段だ」と主張する馬鹿な学者も現はれて来た。さて何れも理窟は抜きにして、斯の如き坊主が社会に公然として生存し得るのも、畢竟宗教家第一主義の社会なればこそだ、思へば涙の溢れる程有難きお目出度き次第だ。 バラモン主義の現代の社会に於て横綱たる、ブル宗教家力士の土俵入りに従ふ雑僧の太刀持や、露払ひを勤むる御用学者の出場なぞは、実に見物人の吾々に取つては立派で見事である。此土俵入りを拝見する為には、随分種々の美はしい名目で、過重な見料を否応なしに徴集されるのだから、吾々の貧弱な骨と皮との痩肉には錦上更に花を飾ると云ふお目出度い状態だ。アヽ吾々信徒はこのお目出度に対して祝福の言を述べねばならぬ。一層声を大きくして、横綱力士の今に土俵の外に転げ出て、手足を挫き吠面を曝らす幕切りを見たいものだ、アハヽヽヽ』 レ『一日も早くその土俵入りの盛観と幕切りを拝見したいものだ。腕を撫し固唾を呑み拳骨でも固めて………』 マ『それはさうとして、僕の友人なる首陀のバリー君に大喇嘛が「貴様は首陀の分際であり乍ら、浄行の言語を使用し、頭髪を長くしやがつて怪しからぬ奴だ」と云ふ罵詈雑言の末、如意棒をブラ下げた髯のある立派な番僧に散々つぱら毒付かれたのだ、「首陀のくせに浄行の語を使ひくさる」とは、首陀と浄行とは別国人だ。印度人では無いと云ふ以上に軽蔑の意味が充分に含まれて居るのだ。此番僧が大喇嘛から「浄行語を使ふ首陀は用捨なく蹴り倒せ、擲り付けよ」との命令を受けて居たか否かは別問題として、首陀向上運動の煽動者であることだけは君も知つて居るだらう。故に吾々は不逞首陀団と目されて居る憐れな運動者よりも、先づ所謂番僧連を、信徒安定の上から見て厳粛に取締らねば成るまいと思ふのだ。実に思ふても馬鹿々々しい問題だが、番僧連は片手で浄首融和会と云ふ魔酔薬を突出し、片手では「浄行語をエラソウに使ひくさるから」とて拳骨を突出して居るのだ。併し首陀向上団の連中から聞いて見ると、幸か不幸か魔酔薬も拳骨も余り好感を以て迎へられて居ないさうだ』 レ『僕はそれだから、近頃途上では成るべく浄行の番僧には会はない様にと注意してゐるのだ。「貴様は首陀階級の癖に俺の顔を見るとは生意気千万な奴だ」と直ぐに擲られるのが嫌だからだ。ホントに馬鹿々々しいぢや無いか』 マ『馬鹿らしい事と云つたら、一夕俺の亡妻の追悼会を催した事があつたが、数日の後に婆羅門総本山から、番僧が御出張遊ばされて「お宅の追悼会を少しも知らなかつた所、今日本山から散々に小言を云はれ、大に目玉の飛び出る程叱られた。それでお宅様の追悼会には誰々が集まつたか、どんな弔辞があつたか聞かして呉れろ」との仰せだ。僕は葬婚の礼儀さへ弁へ知らぬ番僧連にはホトホト呆れ返つて、開いた口が早速に閉まらなかつた。そこで余り業腹が立つので「幾ら番僧だつて葬式や婚儀にまで干渉する権利はありますまい。宗権を蹂躙するものだから、そんな事は答弁の限りでは御座らぬ」とキツパリ温順に云つて退けてやつた。さうすると斯の頓馬番僧、其翌朝から毎日六ケ敷御面相を遊ばして宅の表に如意棒をブラ下げ乍ら頑張つて御座るが、何れの目的がお在り遊ばすのか俺には合点が行かない。又その番僧の非常識なやり方を遊ばすのは、何の理由だか知る由もないが、大喇嘛から叱られた時は尚ほ「一層酷しく首陀向上会をヤツつけろ」と云ふ約束が番僧間の金科玉条とされて居るのか、兎にも角にも不都合な話だ。実に吾々には迷惑の至りだ。ウラナイバラニズムの好い見本だ。キヽヽヽだ』 レ『兎も角一日も早く吾々の向上運動を進めて、根本的に大運動、否荒料理のメスを振はなくては駄目だ。吾々首陀信徒は自滅するより外に進むべき道は無いのだ。何と云つても黴菌を怖れ、難病を避ける医学博士、毒蛇や毒草を避けて通る博物学者、テンデ貧乏人には接近しない活仏や、弱い者を虐める牧師の公々然として頭を擡げる暗黒世界だもの、況んや俗の俗たる婆羅門僧侶に於てをやだ。吾々は飽くまでも婆羅門どもの根城を根本の土台から転覆させん事には、信仰独立権を保持することさへ六ケしからうよ』 二人の三五信者なる首陀が盛に森蔭に腰を下ろして談じて居る所へ、錫杖をガチヤつかせて悠然と現はれたのは、婆羅門教の宣伝使キユーバーであつた。二人は宣伝使の姿を見るより又もやバラスパイが来よつたなーと、俄に話頭を転じて、 レール『この間死んだ俺の倅から幽冥通信があつたが、その音信に「地獄界は僧侶や牧師ばかりで満員だ。普通の人間では殺人、放火ぐらいなもので、余り罪が軽すぎて滅多に地獄に入れては呉れない。併し坊主や牧師なら其名称だけでも幾人でも割り込む事が出来る」とのことだつたよ』 キユーバー『君たちは今何を話して居ましたか、穏かならぬ事を喋つて居た様だなア。お前の姓名は何と云ふか、聞かして貰ひたいものだ』 レール『俺の名は俺だ、友人の名は友人だ。坊主は何処までも坊主だ。オイ兄弟、サア行かう』 と尻に帆かけて一目散に逃げ出した。キユーバー(急場)に迫つた時は三十六計の奥の手だと、頭を抱へてトントントンと畔路を倒けつ転びつ走り行く。 彼れ婆羅門教の宣伝使はスコブツエンと云ふ一派の宗旨を開いた新婆羅門の教祖であつて、婆羅門の大棟梁大黒主が意を承け、私に第二の準備に取りかかつたのである。大黒主は万々一婆羅門教が、ウラル教又は三五教に潰された時は、スコブツエン教に身を托すべく、彼れキユーバーに数多の機密費を与へ、且つ特殊の権利と地位を与へて、隠密の役目を申付けて居たのである。故に彼れキユーバーは何の不自由も感ぜず、傲然として高く止まり、官民を睥睨しつつ天下を横行濶歩して居たのである。大足別将軍も、彼れが特殊の地位に居ることと、絶大なる権威を大黒主に授与されて居る事を知つて居るので、抜目の無き大足別はキユーバーに対しては色々と媚びを呈し、且つ彼の前に出でては、殆ど従僕の如き態度を以て望み、維れ命維れ従ふのみであつた。 扨てキユーバーが東地の都の大黒主の内命を受けて開いて居る婆羅門教の別派、スコブツエン宗は由来難行苦行を以て神に奉仕の誠を捧ぐるものと為し、聞くだに恐ろしき苦行の教団である。百千の苦行を信徒に向つて強る点は、婆羅門教と少しも異りはないが、殊に甚だしき苦行は婦人がヱマスキユレート即ち男性化の修業で、変性男子の願を立てて女性たることを脱せむとする事が、最も重要とされて居る。其方法には卵巣除去法と乳房除却法とがあつて、卵巣除去法の修業になると、百人の中九十九人迄生命を殞すに至る、実に惨酷なる修業であり、乳房除却法に至つては、白熱せる火箸を以て婦人の乳房を焼き切るのである。斯くした者に対して教主及び重役人が婆羅門大神へ奉仕を標章するため焼印を押す。之を熱火の洗礼と称へて居る。斯くして切り落された乳房は聖壇に供へられ、之を捧げたる犠牲者は聖座に安置されて、神の如くに崇敬されるのである。そして聖晩餐の食物中には、乳房の断片が混ぜられ、会衆一同之を喫し終るや、犠牲者の周囲に熱狂せる舞踏が演ぜられるのである。その光景は実に凄惨極まるもので、正しき神々の所為でないことは之を見ても判るのである。抑も乳房は女性のシンボルであり、美のシンボルであり、又婦人生殖器の一部とさへ考へられて居た。畢竟、婦人を代表さるものは乳房だと云ふ観念の下に立てられた邪教なのである。印度に興つた宗教の説は概して、自我の世界は纒綿の世界であるとか、出纒の行と述ひ、無我と道ひ、空と謂ひ、解脱と曰ひ、涅槃と説つて所謂転迷開悟に専らなる諸々の宗教が発生するだけあつて、土地と気温の関係の然らしむる為か、印度と曰ふ国は恐ろしく美しい、且つ物凄く壮大な自然に包まれた、何百種かの人間が幾百種の階級を作り、幾百種の言語を使つて居る国だけあつて、樹上に三年、石の上に十年も立つたり坐つたりして居たり、穴の中の逆立を三ケ月間も続けて修行するとか、水ばかり呑んで生きるだけ生きるとか、木乃伊となるために氷雪の裡、岩角の上に飲食物を絶つて坐つて修行すると云ふやうな迷信、妄信、愚信、悪邪信の醗酵地であり、持戒、精進、禅定、忍辱などと八釜敷く叫び乍らも、淫靡、不浄、惰弱で始末に了へない国民性である。それ故に自然の結果としてスコブツエン宗の如きものが発生し得たのである。 彼れ教祖のキユーバーは凄い眼をギヨロつかしながら、レール、マークの二人の談話を耳敏くも聴き取つて、大黒主の国家を覆へすものと憂慮し、二人の逃げ行く姿を追跡せむと金剛杖を力に、一生懸命に焦慮出したのである。然るに彼の二人は逸早くも山林に姿を隠し、谷川の水を掬つて咽喉を潤しながら、 レール『オイ、マーク大変な奴に出会したものだないか。彼奴は大黒主の邸内に数年前まで出入して、大黒主の御覚え目出度かつたと云ふスコブツエン宗の親玉ぢやないか、下手に魔誤付いて居たら大黒主より重罰に処せられる危ない処だつた。彼んな坊主が何故あれほど威張り散らしよるのだらう。何故あんな不完全極まる宗教が亡びないのだらうか』 マーク『印度七千余国には幾百の小さい宗教があるが、何れの宗教も完全なものは一つも無いにきまつて居るよ。殊に彼の宗教は殊更不完全極まる未成品宗だから、命脈を保つて居るのだ。凡て不完全なものには将来発達すべき余地があり、未来があるのだ。完全は行詰りを意味し、結局滅亡の代名詞に外ならないのだ、アハヽヽヽ』 レ『さうすると吾々の運動も成功せない未完成の間が、花もあり、香もあり、実もあり、世人からも注目されるのだな。アハヽヽヽ』 マ『ナアニ俺達はブルジョア宗教やラマ階級に圧迫され苦しめられ、明敏な頭脳が滅茶苦茶になつたので、チツト許り小理窟を覚えて居るのを利用して、実は滅茶苦茶な革正運動をやるやうに成つたのだ。然し斯う曰ふ頭悩でなければ、創意創見は生れて来ないのだ。復古を叫ぶ人間は必ず覚明家だ。石火坊子団は即ち石下坊主団だ。日露協約の結果は白雪までも赤化したぢやないか、アハヽヽヽ。それだから吾々は天の表示を確信して驀地に進まむとするのだ。アヽ一日も早く吾々の目的を達成せなくては、到底吾々三五信者兼首陀向上会員は身の置き所がなくなつて了ふわ。「白雪も日露協約で赤く化し」』 かくて両人は又もやキユーバーの悪口に花を咲かせ、不平の焔を燃やす折しも、執念深いキユーバーの窺ひ寄る姿が木の間を透かしてチラチラと見え出したのに肝を潰し、尻はし折つて山林深く逃げ出して了つた。 (大正一四・二・一三旧一・二一加藤明子録) |
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霊界物語 | 70_酉_トルマン国の国政改革 | 07 妻生 | 第七章妻生〔一七七四〕 軒は傾き屋根は破れ、蝶も蜻蛉も蜂も雀も雨も、屋根から降つて来る所迄茅葺の屋根が煤竹の骨を出して居る。雨戸は七分三分に尻からげたやうに風に喰ひ取られ、障子はづづ黒く棧毎に瓔珞を下げ、風吹く度に自由に舞踏をやつて居る。湿つぽい畳は、表はすつかり破れ、赤ずんだ床許りが僅に命脈を保ち足踏み入るるも身の毛のよだつやうに見苦しい。さうして何とも仮令やうのない異様な臭気が鼻を衝く。されど、高姫やキユーバーの目には此茅屋が金殿玉楼の如くに見え、異様な臭気は麝香の如くに、想念の情動によつて感じ得らるるのも妙である。牛糞の味も牡丹餅の如く感じ、馬糞の臭もお萩の如く、いと満足に喉を鳴らしてしやぶるのだから耐らない。口の欠けた燻ぼつた土瓶に籐の蔓の柄をつけ、屋根から釣るした煤だらけのてんどりに引つかけ、牛糞を焚いて茶を温め乍ら、二人は嬉々として他愛もなくふざけて居る。御霊の相応と云ふものは実に不思議なものである。 此高姫さまは、キユーバーの目には、一寸見た時には婆さまのやうに見えたが、何時の間にか、トルマン国の王妃千草姫のやうな美人に見えて来た。又高姫の目では団栗眼の烏天狗のやうな、口の尖つた不細工なキユーバーの顔が何とも知れぬ凛々しい、時置師の杢助に見えて耐らない。高姫は鼠髯のやうに皺のよつた口をつぼめ乍ら、しよなしよなと体をゆすり、 高『これ杢助さん、否高宮彦殿、ようまあ化けたものですなあ。あの四つ辻で会つた時は、左程でもない遍路だと思ふて居たに、かうさし向うて篤くりとお顔をみると、まぎれもない高宮彦様だわ。もし私は高宮姫で御座いますよ。何ですか他々しい。他人らしい其振舞は措いて下さい。何程貴方が出世して偉くなつたつてやつぱり私の夫ですよ』 キユ『お前は高宮姫と改名したのか、何でも千草姫と云ふ名だつたと思ふがな』 高『あのまあ杢チヤンの白々しい事。それ貴方とあの御殿でお約束して高宮姫と改名したぢやありませぬか。貴方だつて其時高宮彦と改名されたでせう』 キユ『ハテナ、お前はどうしても千草姫に違ひない。妙な事を云ふぢやないか。併し乍ら、名はどうでもよい。心と心さへぴつたり合うて居ればそれで十分だ』 と二人は互ひ違ひに主をかへ、嬉々として意茶つき始めた。 高『もし貴方、あれから私に別れて何処を歩いてゐらしたの。私どれ程尋ねて居たか知れませぬわ』 キユ『私はな、デカタン高原のトルマン国へ根拠を構へ、お前を一目見てから目にちらついて耐らず、何とかして会ひたい会ひたいと心を焦して居る矢先、お前がトルマン王の妃になつて居るものだから手の附やうがなく、百方手段をもつてたうとうお前に近よる事が出来、永らくの恋の暗を晴らす事を得たのだ。サアこれからお前と私と心を合せ、トルマン国を手に入れ、七千余国の月の国を蹂躙して見ようぢやないか。到底科学的文明の極点とも云ふべき現代を救ふのには、単なる説教や演説や祈祷のみにては功を奏しにくい。自ら王者の位置に立ち軍隊を片手に握り、一方には剣、一方にはコーランをもつて人心を治めなくては宗教も政治も嘘だ』 高『成程、貴方のやうな智勇兼備の神人は世界に御座いますまい。あゝ三年が間、此の山のほてらで苦労したのも貴方に会ひたい許り、いよいよ時節が来たのかなあ』 と互に辻褄の合はぬ勝手な応答をし乍ら、八味の幕を下して抱擁したまま睡りについて了つた。外に立つて居たトンボはやけて耐らず、小石を拾つて戸の破れから幾つともなくボイボイと投げ込んだ。小石は釣り下げてある土瓶の腹を割つて、二人の寝て居る足の上にパツと小便を垂れた。高姫は驚き跳起き乍ら声を震はせて、 『これや、天下の救世主が種を蒔きよるのに何をするか。何者だ、名を名乗れ』 と呶鳴り立てる。トンボは外から、 『ワハヽヽヽヽヽ石を投げたのは此トンボさまだ。これや婆々、今にこの家を叩き壊してやるからさう思へ。俺も一つは性念が有るぞ』 と又もや雨の如く両手に小石を掴んで投げ込む危ふさ。石は戸棚や水屋にぶつかつて、カチヤカチヤパチパチガランガランと瀬戸物迄が滅茶々々になる。高姫、キユーバーの二人は危くて成らず、表戸を引きあけ『コレヤー』と呶鳴る勢に、トンボは骨と皮との体を、尻をまくりながら、ドンドンドンと逃げ出す。高姫とキユーバーは追ついて素首引掴み懲して呉むと真裸の儘、トンボの後を息をはづませ、青い火の玉となつて追つかけ行く。 トンボは八衢の関所の門口に来り、慌てて黒門にどんとつきあたり、アツと云つた儘其場に倒れた。キユーバー、高姫の二人は皺枯声を張上げ乍ら、ホーイホーイ、ホイホイホイとド拍子もない声を張上げて追かけ来り、トンボの倒れて居る姿を見て痛快がり、 高『ホヽヽヽヽヽこれ杢チヤン、天罰と云ふものは怖ろしいものでは御座いませぬか、ねえ貴方。私と貴方が神代から伝はつた、青人草の種蒔の御神楽を勤めて居るのを岡焼して、石を投げ込んだトンマ野郎ぢや御座いませぬか。これやトンマ、確りせぬかい、生宮さまの御神力には畏れ入つたか』 トンボは漸く気がつき、 『お前さまは生宮さまぢやないか。こんな役所の門前迄来て人の恥をさらすものぢやありませぬぞや。何卒悪口だけは耐へて下さい。私だつてまだ末の長い人間、これからまた世に立つて一働きせなくてはなりませぬ。お役人の耳へ私の悪口が入つたら最後、何処へ行つても頭は上りませぬからねえ』 高『ヘン、これやなーにをぬかして居るのだい。自業自得ぢやないか。お前のやうなものを此世の中に頭を上げさせておこうものなら、世界は暗雲になつて了ふぢやないか。それだからお役人に聞えるやう、一入大きな声で云つたのだよ。何とまあ情なささうな顔わいのう』 ト『これや婆々、もう俺も破れかぶれだ、何なりと悪口をつけ。その代り貴様の秘密をお役人の耳に入るやう大声で素ツ破ぬいてやる』 キユ『これやこれやトンボとやら滅多な事は云ふまいぞ。貴様のやうな三文やつこなら、仮令よく云はれても悪く云はれても余り影響はない筈だ。然し乍ら吾々如き救世主の、仮令嘘にもせよ悪口を申すと、世界救済の事業の妨害になるのみならず、其罪は忽ち廻り来つて吊釣地獄に墜ちるぞや』 ト『ヘン放つといて下さい。お前さまは此婆々と炉の辺で、とんでもない種蒔行事を演じて居たぢやないか。それあの醜体を……もしもしお役人様、此奴等二人は天則違反の大罪人で御座います。何卒か御規則に照し、地獄へ打ち込んで下さい。さうしてウラナイ教とか、スコ教とか云つて悪神の教を天下に拡めようとする餓鬼畜生で御座います。私が証拠人になります。何卒此奴等二人を厳しく調べて下さい』 と力一ぱい呶鳴り立てる。 キユ『これやこれやトンボとやら、教主や生宮を罵る罪は軽けれど、教の道を罵る罪は万劫末代許されないぞ。謗法の罪の重い事を知つて居るか』 ト『ヘン偉さうに云ふない。謗法の罪なんて俺やどこでもやつた事は無いわ。貴様等両人こそ方々で悪い事をやつて来た代物だ。もしお役人様、大罪人を二人茲へ引張つて来ました。早く来て下さらないととんぼう(遁亡)致します。早く早く』 と呶鳴つて居る。赤白両人の守衛は此声に訝り乍ら、門を左右に開き外に出て見るとこの体裁、 赤『これやこれや今日は公休日だ。なぜ矢釜しく申すか。訴へ事があるなら明日出て来い、聞いてやらう』 ト『もしお役人さまに申し上げます。天下を乱す彼様な大悪人を現在目の前に眺め乍ら、公休日だから調べないなぞと、そんなナマクラな事を云うてお役人が勤まりますか。日曜迄月給は頂いて居られませう。一寸でよいからお調べ下さいませ』 赤『や、お前はバラモンのリユーチナントではないか。未だ修養も致さず、八衢に迷ふて居るのか、困つた奴だなあ』 ト『もしお役人さま、面白い事を仰有いますなあ。冥途かなんかのやうに現界に八衢が御座いますか』 赤『ここは冥途の八衢だ。其方は鬼春別将軍の一旦部下となり、軍隊解散の後、泥棒となつて四方を徘徊致し、或勇士の為に殺され、精霊となつて此所へ来て居るのだ。それが未だ気が附かぬのか』 ト『ヘン、余り馬鹿にしなさるな。些と真面目になつて下さい。私は狂者ぢや御座いませぬよ。死んだ者がこの如うにものを云ひますか。目も見えず耳も聞えず、口もたたけず、手足も動けなくなつてこそ死んだのでせう。ヘン馬鹿にして居る。こんな酒を喰つて顔色迄まつ赤にした奴の酒の肴になつて居てもつまらない。今日は帰つてやらう。その代り明日は見ておれ、貴様の上官に今日の事を一伍一什訴へるぞ。さうすると貴様は忽ち足袋屋の看板足あがり、妻子のミイラが出来るぞや、ハヽヽヽヽヽ』 と捨台詞を残し、道端の石を掴んでキユーバー、高姫目当に打かけ乍ら、入陽の影坊師見たやうな細長い骸骨を宙に浮かせ、北へ北へと逃げて行く。 赤『ヤ、そこに居るのは高姫ぢやないか。お前は時置師の杢助さまに頼まれ、三年間この八衢に放養して置いたが、未だ数十年の寿命が現界に残つて居る。到底霊界の生活は許されない。お前の宿る肉体はトルマン王の妃千草姫の肉体だ。サ一時も早く立ち去れ。又キユーバー、汝は天下無比の悪党であるが、まだ生死簿には寿命がのこつて居る。一時も早く現界へ立ち帰れ。グヅグヅ致して居ると肉体が間に合はなくなるぞ』 と厳しく言ひ渡した。二人はハツと思ふ途端に気がつけばトルマン城内、千草姫の一室に錠前を卸して倒れて居た。どことも無く騒々しい人馬の物音、矢叫びの声、大砲小銃の音手に取る如く聞え来る。是より千草姫の言行は一変し、又もや脱線だらけの行動を取る事となつた。八衢に居た高姫の精霊は己が納まるべき肉体を得て甦つたのである。 (大正一四・八・二三旧七・四於由良海岸秋田別荘加藤明子録) |
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霊界物語 | 70_酉_トルマン国の国政改革 | 16 天降里 | 第一六章天降里〔一七八三〕 シグレ町の貧民窟の九尺二間にはレール、マークの両人が俄にテイラ、ハリス、チウイン、チンレイの新しい四人の珍客を迎へ、どことはなく大活気が漲つて来た。新来の珍客は何れも古ぼけた労働服を身に纏ひ、之が太子か、貴婦人かと見まがふ許り、服装を落して了つた。それ故七軒長屋の隣りの婆嬶連も、夢にも太子や王女の変装とは知る由もなかつた。 朝も早うから女議員が、カバンの代りに手桶をさげて、井戸端会議を燕の親方よろしく開催してゐる。 甲『これ、お梅さま、レールさま処へ此頃妙な、落ちづれものが、やつて来てゐるぢやないか。あら、大方、乗馬下しの貴婦人かも知れんが、長屋の規則を守つて、饂飩一杯づつ配りさうなものだのに、まだ挨拶にも出て来ぬぢやないかい』 乙『お竹さま、饂飩か蕎麦の一杯貰ふやうな事があつたら、それこそ大変ですよ。あとが煩さいからな』 竹『それでも、私が去年の暮に此長屋へ流れ込んで来た時、お前さま等が率先して、何かと世話をして下さつた際に、長屋の規則だから、饂飩か蕎麦を一杯づつ向ふ三軒両隣りへ配れと云ひなしたものだから、親爺のハツピを質において饂飩を一杯づつ配りましたよ』 梅『そら、さうですとも、普通の人間なら、互に仲ようして、お交際をして貰はなくちやなりませぬが、あのレールさま、ま一人のマークさまの二人はラマ本山のブラツクリストとか云ふものについて居る人物で、いつも番僧さまが如意棒をブラ下げて調べに来るぢやないか。あの人は向上会員とか、黒い主義者とか云ふぢやないか。そんな人と交際でもしようものなら、番僧さまにつけねらはれ、誰もいやがつて日傭者にも雇うて呉れませぬワ。さうすりや忽ち親子の腮が乾上つて了ふぢやありませぬか。親爺さまは毎日土方をやり、私等はマツチの箱貼をして会計を助けては居るものの、雨が三日も降りや忽ち土方も出来ず、親子が飢ゑ死せねばならぬと云ふ境遇だもの、番僧さまなんかに睨まれちや堪りませぬわな』 お竹『何とマア怖ろしい人が此路地へ這入つて来たものぢやないか。此頃はあんな人がうろつくので寺庵異持法だとか、国士団、………法とか、難かしい法律が発布され、三人寄つて話をして居つても、直に引張られるさうだから、かう五人も六人も一緒に水汲みをやるのは剣呑ですぜ』 お梅『タカが女ぢやありませぬか。本来裏長屋の嬶連が、何人寄つて雀会議をやつた処で何一つ出来やしないわ。何程盲の番僧さまだつて、女まで引張つて帰るやうな無茶な事はしますまいよ』 お竹『何、女でも仲々手に合はぬ連中さまがありますよ。今時の女性は皆、高等淫売教育とか、云ふものを受けてゐる人だから、女権拡張とか女子参政論だとか、いろいろのオキャンや、チャンピオンが現はれて、ラマ本山の頭を痛めるものだから、此頃は女でも容赦なく、番僧さま、一寸怪しいと見たら直に引張つて行くさうだよ。あの向上会員さまの中にも、どうやら高等淫売らしい、綺麗な女が三人まで、やつて来てゐるのだもの、何時番僧さまがやつて来るか知れないわ。蕎麦の御馳走所か、此方が側杖を喰はされちや堪りませぬな。サアサア帰りませう』 と五六人の婆嬶が手桶をヒツ下げて各自小さい破れ戸をくぐつて姿を隠して了つた。 チウインは共同井戸の側にある穢しい共同便所に這入つて居つたが、此女連の話を一伍一什聞き終り、そしらぬ顔をして帰り来り、 チウ『オイ、レールの兄貴、僕は妙な事を聞いて来たよ。イヤ、もう大に社会教育を得た。人間と云ふものはホンに生活上に大変な懸隔があるものだな』 レ『長屋の雀や燕が云ふ事ア大抵極つてゐますよ。私を向上会員だと云つて、いつも口を極めて悪口を云ひ、テンで怖がつて交際をせないのです。随分、悪垂れ口を叩いたでせう』 チウ『ハヽヽヽ仲々面白いわ、イヤ然し面白いと云うては済まぬ。此トルマン国には一人も貧民のないやうに、何とかして骨を折らねばなるまい』 レ『タラハン国のスダルマン太子は、アリナ、バランスと云ふ賢明な棟梁の臣下を得て、教政の改革を断行されたと云ふ話ですが、屹度よく治まるでせう。まだ今々の事ですから、その結果は分りませぬが、今日の場合あゝするより外に道は御座りますまい。トルマン国も今は改革の時期だと思ひます。どうか太子様の英断を以て一日も早く教政の改革を断行し、国民の信望をつなぎ、天下の名君と仰がれ玉ふやう、吾々は努力したいと思ひます』 チウ『ヤ、実は僕もスダルマン太子のやり口には感服してゐる。どうしても思ひきつて決行せなくちや駄目だ。兎も角、やれる丈けやりたいものだな』 レ『今度の宰相は余程分つてゐるやうですが、浄行の古手や首陀の大将や毘沙頭の古手が、いくら頭を悩まし、教政内局を組織した処で、その寿命は長くて一年半、短い奴は三月位で倒れて了ふのだから、吾々教徒はいい面の皮ですよ。今日は最早、人文発達して人民が皆自覚して居りますから、古疵物は信用しませぬ。兎も角、清浄無垢の民間から出たものでないと、大衆の信望をつなぐ事はむつかしいですな』 チウ『そらさうだ。会衆の古手や首陀頭や浄行や金持会衆が、何遍出直した所で、まるで子供が飯事をしてゐるやうなものだ。亡宗政治、骸骨政治、幽霊政治、日暮し政治、軟骨政治、章魚政治、圧搾宗政ばつかりやられて居つちや、大衆は到底息をつく事は出来まい。僕もどうかして此際、かくれたる智者仁者を探し求め、善政を布いて見たいと思ふのだ。然し乍ら、まだ自分は部屋住の事でもあり、両親の頭が古くつて時代の趨勢が分らないものだから、実は困つてゐるのだ。何とか一つ大きな目覚しが来るといいのだけれどな』 レ『太子様、必ず心配して下さるな。吾々は王室中心向上主義ですが、現代の大衆は何時でも一撃の梵鐘の響と共に起つやうになつて居ります。テイラさまや、ハリスさまの前で、こんな事を云ふのはチツト許り云ひにくいけれど、今度の戦争がなかつたなら、吾々は已に已に左守、右守の両人を斃し、宗政の改革を太子様にお願ひする処だつたのです。既に既に矢は弓の弦につがへられて居つたのです。左守、右守の浄行も戦争の為に斃れたのだから、御本人にとつては非常に光栄だつたのでせう。さうでなくつても今日まで二つの首はつながれて居ない筈ですから』 テイラ、ハリスの両人は平気な顔して笑つてゐる。 レ『もしテイラさま、ハリスさま、貴女はお父さまの事を云はれても、何ともないのですか』 テイ『ハイ、子として父の死を悲しまぬものはありませぬ。然し乍ら大衆の怨府となり、非業の最後を遂げられやうなものなら、それこそ子として堪りませぬが、危機一髪の場合になつて、王家のため国教のために戦つて死んだのですもの、全くウラルの神さまの御恵だと思つて有難う感じて居りますわ。ネー、ハリスさま、貴女だつてさうお考へでせう』 ハリ『何事も皆、因縁事ですもの、仕方がありませぬわね』 レ『イヤお二人とも、立派なお心掛、向上会の私も今日の上流に、こんな考への人があるかと思へば聊か心強くなつて来ました。オイ、マーク、トルマンの国家も心配は要らないよ、喜び給へ、此若君を頂き、此賢明な左守右守のお嬢さまが上にある以上は、国家は大磐石だ。俺等も今迄十年の間、国事と改宗に奔走した曙光が現はれたやうなものだ』 マ『本当にさうだ。僕も何だか、死から甦つたやうな晴々した爽快な気分になつて来たよ。何と云つても年若き貴婦人の身として、駒に鞭韃ち砲煙弾雨の間を、三軍を指揮して奔走された女丈夫だもの。僕等の如き痩男は姫さまの前ではサツパリ顔色なしだ、ハツハヽヽヽ』 かく話してゐる所へ如意棒の音がガラガラと聞えて来た。 レ『ヤ、又番僧がやつて来よつたな。チウインさま、どうか本名を云つちや、いけませぬよ。皆さま、そのつもりでゐて下さい。屹度人員調査にやつて来たのでせうから』 チウ『よしよし、心配するな』 番僧『レールさま、一寸戸を開けて下さい』 レールは入口の破れ戸をガラリと押開けニコニコし乍ら、 『ヤア、これはこれは、朝も早うから御苦労で御座ります。何の御用か知りませぬが、トツトと御這入り下さい。拙宅も此頃はお客が殖えまして大変賑かう御座ります。俄に六人家内となつたものですから、懐の寒いレールにとつては聊か困つて居りますわい。貴方も此頃は物価騰貴で、さぞお困りでせうな』 番『君の云ふ通り僕も大変生活難に襲はれてゐるのだ。女房の内職で、どうなりかうなり、ひだるい目はせずに暮してゐるが、随分辛いものだよ。君はこれと云ふ仕事もしてゐないやうだが、随分裕福な暮しをしてゐるらしいね。鶏が叩いてあるぢやないか。然し此四人の方は何処から来られたのだ。実は此長屋の嬶が本山へ密告して来たものだから、職務上調べぬ訳にも行かず、又君に苦い面をしられるのを知り乍ら、之も職務上やむを得ないのだから、一応取調べに来たのだ。どうか悪く思はないやうにして下さい』 レ『久し振りで郷里の友人や、私の女房や、マークの女房が尋ねて来てくれたのですよ。明日はどうして喰はうかと兵糧がつきたので頭痛鉢巻をやつてゐた所、郷里からこの通り鶏と米と酒を持つて来たものだから、久し振りで御馳走にありつかうと思つて、朝から立働いてゐた所ですよ』 番『成程、どうも田舎の人らしいね。然し乍ら田舎にしては、云ふと済まぬが、垢抜けのした方許りだな』 レ『此友人はバクシーと云つて、チツト許り財産を持つて居ります。吾々二人は国士として国家の為、身命を賭して活動してゐるものだから、妻子を養ふ事が出来ないので、此バクシーさまの家へお世話になり、下女奉公に使つて貰つて居つた所、女房が一度夫の顔が見たい顔が見たいとせがむものだから、遙々と女房を連れて、バクシー夫婦が昨日来てくれたのです。マアお前さま久し振りだ、一杯やつたらどうですか。別に貴方の職掌にも影響するやうな事はありますまい』 番『イヤ、有難う。それでは一杯頂戴しようかな。僕だつて同じトルマン国の人民だ。如意棒をブラ下げて居る丈けの違ひだ。一つ上司の機嫌を損じたが最後、忽ち丸腰になつて労働者の仲間へ入れて貰はなくちやならないのだから、今の間に君等と懇親を結んでおかなくては、忽ち自分の前途が案じられて仕方がないからな。どうかレールさま、よろしく頼みますよ』 レ『今の高級僧侶等は、何奴も此奴も皆賄賂をとつたり、御用商人と結託して、甘い汁をしこたま吸ふてゐやがる餓鬼許りだ。役僧の中でも比較的潔白なのは君等番僧仲間だ。それでも小ラマ位になると随分予算外の収入があると云ふ事だ。君等も労働者の前で如意棒を見せて威張り散らす位が役得では詰らぬぢやないか。普選が間もなく実行される世の中だ。君も吾々仲間に這入つて向上運動の牛耳をとり、会衆にでも選出されて、国政と宗政の大改革を断行し玉へ。月給の安い番僧なんかやつて居つた処で、つまらぬぢやないか。何程出世したと云つた処で、番僧の出世は小ラマが関の山だ。それも三十年位勤続せなくちや、そこ迄漕ぎつける訳にや行かないからな、ハヽヽヽ』 番『ウン、そらさうだな。会衆にでも出て、うまく立働けば伴食浄行位はなれるかもしれない。悪くした所で首陀頭の椅子位には有りつけるかも知れぬ。生活の保証さへしてくれる者があつたら、僕は今日からでも辞職して君等と一緒に活動するつもりだがな』 レ『そりや面白い、番僧の中でも、君はどつか違つた所があると向上会員の仲間からも云はれてゐるのだ。思ひきつて番僧なんか棒にふり玉へ。君の生活は、このバクシーさまが屹度保証して下さるよ。さうしてバクシーさまに附てさへ居れば、最早大磐石だ。寺庵異持法、国士団、…………法も、何も、へつたくれも、あつたものぢやない』 チウ『こいツア面白い番僧さまだ。オイ君、僕は実の所、打割つて云ふがチウイン太子だ。教政を改革せむために向上会員の仲間へ偵察に変装して来てゐるのだよ。君もどうぢや、今日限り番僧をやめて向上運動に没頭する気はないか。浄行位にや屹度僕がしてやるよ』 番『本当ですか、腹の悪い、人を嬲るのでせう。恐れ多くも太子様が、かやうな処へおいでなさる道理はありますまい』 チウ『因習に囚はれた現代人は、太子と云へばどつか特種の権威でもあるやうに誤解してゐるが、太子だつて神柱だつて白い米を食つて黄い糞を垂れる代物だ、ハツハヽヽヽ』 番『イヤ分りました、間違ひ御座りますまい。何だかどこともなしに気品の高い人と思つてゐましたが、さうすると此御婦人達は何れも雲の上に生活を遊ばす貴婦人でせう。私はテルマンと申す小本山の番僧で御座ります。どうか宜しう今後は御指導を願ひます。如何なる御用でも犬馬の労を惜みませぬ』 チウ『ハ、よしよし、これで新人物を一人見つけた。早速の穫物があつた、ハヽヽヽ』 戸の隙間から太陽の光線が五条六条黒ずんだ畳の上に落ち、煙のやうな埃がモヤモヤと輪廓を描いて浮游してゐる。豆腐屋のリンが微に聞えて来る。新聞配達のリンが一入高く響く。 (大正一四・八・二五旧七・六於由良海岸秋田別荘北村隆光録) |
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霊界物語 | 70_酉_トルマン国の国政改革 | 22 優秀美 | 第二二章優秀美〔一七八九〕 教務総監のジヤンクは一室に立籠り、千草姫の行動の常ならぬのに心を悩め、且チウイン太子、王女、テイラ、ハリスの行方不明となりしことも亦ジヤンクが心配の種となつた。いつとはなく、うつらうつらと眠につく。時しもあれ、容色端麗なる異様の神人、何処ともなく現はれ来り、 『ジヤンクジヤンク』 と肩をゆすり玉ふ。ジヤンクはハツと驚き目をさませば、夢にみしと同様の神人が厳然として、吾目の前の椅子に腰うちかけ、ニコニコし乍ら、 神人『我は第一霊国の天人言霊別のエンゼルであるぞよ。汝はトルマン国の現状を憂慮し、心胆を悩ませ居る段、実に感服の至りだ。汝の至誠天に通じ、今やエンゼルとして汝の神業を輔くべく降り来れり、ゆめゆめ疑ふな』 ジヤンク『ハイ、何事も愚鈍の私、進退維谷まつて、憂愁に沈み居ります際、尊き神様の御降臨、実に有難う存じます。何卒々々御守護あらむ事を偏に希ひ上げ奉ります』 エンゼル『汝が心配致して居るチウイン太子を始め、王女チンレイ、テイラ、ハリスの面々は神の守護に仍り、少時或所に囲まひおきしが、いよいよ教政改革断行の時期到来したれば、今に会はしてやらう。汝は飽く迄もトルマン国の教務総監となり、チウイン太子を輔けて、正しき教化を行へ。又左守、右守はチウイン太子、既に定め居れば、太子の意見に従ふべし。王女チンレイは照国別の弟子春公なる者を夫となし、ハリマの森の神殿に三五の大神とウラルの神と併せ祭り、春公を神主となし、チンレイと共に永遠に奉仕せしめよ』 ジヤ『ハイ、何から何迄、御指導下さいまして有難う存じます。神様……エンゼル様に恐れ乍ら御伺ひ致しまするが、ガーデン教王様は精神に御異状ありとみえ、言行頓に一変し、此老臣も実に困難致して居りまするが、教王様は元の正気に御返り遊ばすで御座りませうか』 エンゼル『彼は八岐大蛇の片割の悪霊に憑依され、精神惑乱しをれば、暫く閑地に静養せしめよ。又千草姫はすでにすでに此世を去り、其遺骸に高姫の霊憑依し、日の出神の生宮と称し、所在醜態を演じ、乱暴を働き居るは、全く金毛九尾の悪狐の霊の致す所、随分注意すべし』 ジヤ『ハイ、心得まして御座います。千草姫様でないとすれば、此老臣も大に考ふる所が御座います。何卒々々過ちなきやう、御守護願ひ奉ります』 エン『彼れ高姫の再来たる千草姫は常に特に気を付けよ。さらば』 といふより早く、忽ち其神姿を消させ玉ふた。ジヤンクは神恩を感謝し、讃美歌を歌ふ。 『日はくれはてて道もなし雪は野山に堆く 積りて歩まむ由もなし行手に悩む旅人の 頭上を照し日の神は暗をば晴らし積む雪を 解かせ玉ひて己が行く大道を開かせ玉ひけり あゝ有難や有難や御国に尽す赤心を 神は諾なひ玉ひけむ困り切つたる今日の宵 吾枕辺におごそかに現はれ玉ひ宣り玉ふ 其御言葉は夢ならず誠の神の御出現 仰ぐも高し須弥の山守らせ玉ふ木の花の 姫命にましますか但しは言霊別神か 何れにますかは知らね共姿雄々しき瑞御霊 乾ききつたる吾霊をうるほし玉ひ清鮮の 血汐を吾身に漲らし救はせ玉ひし嬉しさよ あゝ惟神々々主の大神の御前に 謹しみ感謝し奉る喜び感謝し奉る』 斯く歌ひ居る時しも、チウイン太子は照国別、照公、レール、マーク、テイラ、ハリス、及び王女チンレイ、テルマン、春公の面々を引伴れ、意気揚々と帰り来る。ジヤンクは太子を見るより抱きつき、涙の声を絞り乍ら、 『あゝ太子様、能くマア御帰り下さいました』 といつたきり、後は余りの感激に打たれて、一言も出し得なかつた。太子も此老臣が只一人、悪魔の中に孤城を守つてゐたかと思へば、そぞろ涙を催し、嬉し涙にむせ返り、ハンカチにて両眼を拭ひ乍ら、少時言葉も得出さず俯むいて了つた。 照国別『ジヤンク様お喜びなさりませ。太子様は此通り御壮健で居らせられます。そして教政大改革の準備として、既に棟梁の臣をお定めになり、御帰りになつたので御座いますから、どうか貴方様は、太子様を新教王と仰ぎ、教王様に退隠を願ひ、千草姫の悪霊を追ひ出し、教政に御尽瘁あらむ事を希望致します』 ジヤンク『ハイ、何から何迄有難う御座います。只今も尊きエンゼルが吾枕辺に出現遊ばし、いろいろさまざまと教化の大本につき、御諭しを頂きました。何分宜しく御願ひ申します』 照国『此度、大英断を以て仁恵令を発布されましたのは、人心を新にする上から見ても、誠に結構な事と存じます。就ては荒井ケ嶽の岩窟に、チウイン教王様が押込めおかれたる妖僧キユーバーを、速に解放されむ事を希望します』 ジヤ『成程、実の所はキユーバーの所在が分りませぬので、何の処置も取つて居りませぬが、所在が分りました以上は、速に解放致しませう』 照国『チウイン教王様の御継職に就て、目出度くこれで、国内の風塵は掃浄められました。サア之から千草姫の審神を致しませう。ジヤンク殿、御一同、拙者と共に千草姫の居間迄御越しを願ひませう』 一同は頷き乍ら照国別の後より、足音を忍ばせ、千草姫の居間にと進み寄つた。室内には女の声、 『王妃様、どうか、之許りは御助け下さいませ』 千草姫『何と云つても、其方は絶対服従を誓ふたではないか。お前の乳房を此焼金で切り取り、大神様に御供へ致し、キユーバーの所在を知らして頂かねばならぬのだ。モクレンともあらう者が、今はの際に卑怯未練な命が惜しいか、テモ偖も悲し相な面わいの。何程逃げても、走つても、此一室に閉ぢ込めた上は助かりは致さぬぞや。サ、観念の眼を閉ぢなさい。神の贄になるのだつたら、其方も光栄だらう』 モク『如何なる御用も承はりまするが、どうか娘のテイラに一目会はして下さいませ。其上にて如何なる御用も勤めまする』 千草『ホヽヽヽそんな事を云つて、此場を逃出し、千草姫の悪口をふれ歩き、吾神徳をおとそうと致す考へだらう。さやうな計略に乗る千草姫では御座らぬぞや』 と優しい面に殺気を帯び、金火箸を白くなる所迄焼き、キヤアキヤアと泣叫ぶモクレンの乳房に今やあてがはむとする時しも、照国別は力限り、外よりドアを打破り、『ウーン』と一声、睨みつくれば、千草姫は慌てふためき、尻のあたりより狐の尻尾の八岐になつたのをブリンブリンと振り乍ら、天窓を伝ひ、何処ともなく姿をかくしける。 因にテルマンは新教王の見出しに仍つて、番僧頭に任ぜられ、新教王の神政を国民は謳歌し、今迄乱れ切つたるトルマン国も、小天国を現出するに至つた。あゝ惟神霊幸倍坐。 (大正一四・八・二五旧七・六於丹後由良秋田別荘松村真澄録) (昭和一〇・六・二四王仁校正) |
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霊界物語 | 71_戌_玄真坊と千種の高姫 | 06 達引 | 第六章達引〔一七九五〕 恋に狂ふた妖僧の天真坊はどこ迄も ダリヤの行方を探らむとコブライ引きつれ夜の道 普門品をば唱へつつ毒蛇の禁厭しながらに スタスタ行けば山の根にいつの間にやら突き当り 行手の道を失つて止むを得ざれば立往生 明くなる迄待ち居たるかかる所へ向ふより 一人の男がすたすたと息せききつてはせ来り 小石につまづきバツタリと二人が前に倒れける 玄真坊は怪しみてよくよく見ればこは如何に 岩窟の中に見覚えの泥棒の顔と見るよりも 得たりと矢庭にひつ掴みこぶしを高くふりあげて これやこれや貴様はバルギーと喋し合せてダリヤ姫 逃がした奴に違ひない早く白状致さねば 貴様の命は朝のつゆ忽ち消て後もなく なるが承知かこれや如何ぢやすつぱりこんと白状せよ 云へば男は顔をあげアイタタタツタアイタタツタ お前は名高き天真坊三千世界の隅々も 一目に見通す神様だお前さまの為に頼まれて ダリヤの行方を探すもの見違へられては堪らない 真偽の程は云はずとも神さまならば知れませう どうぞ許して下さんせ決して神の御前で 毛頭嘘は云ひませぬ云へば玄真うなづいて 顔色和げ声低うそんならお前はダリヤをば 探しに行つて呉れたのかこれやこれやコブライ間違ひは なからうか調べて呉れよ云へばコブライ首をば 上と下とに振り乍らこいつはバルギーの配下だが シヤカンナさまに頼まれてダリヤとバルギーを探すべく 先頭一に出た奴だ決して嘘ではありませぬ 安心なさるが宜しかろ云へば玄真諾いて なる程貴様の云ふ通り此奴の言葉は真だらう ダリヤの行方は分つたかバルギーの様子は探つたか 早く知らして呉れないか気が気でならぬ此場合 云へば盗人は首を振り私はコオロと云ふ男 一番槍の功名を致さんものと取るものも 取りあへずして飛び出し神谷村をのり越えて ハル山峠の頂上に登つて見れば行く人の 話の中にダリヤ姫バルギーによう似た二人連れ 神谷村の神の家に匿れて居ると云ふ事を 敏くも耳に入れましたそれ故後へすたすたと 引き帰したる次第です屹度二人は神谷の 村に匿れて居るでせうアイタタタツタアイタタツタ 向ふ脛をばすりむいてこれこの通り血糊めが ぼとぼと流れて居りまする早く助けて下しやんせ お前の為めにこんな目に遇ふた私を捨てたなら 忽ち神の罰当りダリヤの姫は手に入らず 貴方も終にや谷底へスツテンドウと転げおち 偉い目見るに違ひない嗚呼叶はぬ叶はぬかなはない 目玉とび出すやうだわいアイタタタツタアイタタツタ 玄『エイ、碌でもない役にも立たぬ蠅虫めツ、こればかりの創に泣き面をする奴があるかい。よう今迄泥棒を稼いで居つたものだなア、これやコブライ、貴様がしやうもない小供の云ふた事を真に受けて飛び出さうとするものだから、こんな目にあつたのだ。エヽもうかうなりや仕様がない、どうせ此処を通らにやならぬ一筋道だ。神谷村に居るとすりや、いづれ此処にうせるだらう、ほんとに訳のわからぬ野郎だなあ』 コブ『勝手になさいませ、天来の救世主天帝の化身と大看板を打つたお前さまが、ダリヤ姫の所在位分らぬと云ふのはテツキリ此世を騙る売僧坊主だ。お前さまも、もつとは天眼通が利いて居るかと思つたに交際へばつき合ふ程金箔が剥げておまけに鼻持のならぬ糞坊主だ。もうこんな事は止めますわ、サア今迄の日当をどつさり下さいませ、のうコオロお前も確りして立ち上がれ、此奴の懐中の金をぼつたくらうぢやないか。泥棒はお手のものだからのう』 コオ『それやさうだ、俺ももつと気の利いた坊主だと思つて居たに愛想がつきた。慈悲も情も知らぬ糞坊主だ。俺がこの通り向ふ脛をやぶつて苦んで居るのに、お経の一口も云ふて呉れるぢやなし、悪口を叩くと云ふ不敵の悪僧だ。どうだ二人してバラしてやらうぢやないか』 コブ『エン、こんな悪僧をバラす位は箒で蝶を押さへるよりも容易い事だ。お前は其処へ立つて見てをれ、俺が荒料理してやる。もう斯うなりや破れかぶれぢや、ヤイ売僧坊主、きりきり懐中物をすつかり渡せ、四の五の云ふと六な事は出来ないぞ。七転八倒九るしみもがいて十(渋)面つくつてももはや百年目だ、何程迷惑千万な顔をしても此の儘にしてをく(億)と云ふ訳にや行かぬ。サア懐中物を残らずちよう(兆)戴せうかい』 玄『アハヽヽヽ。おい小盗人野郎俺をどなたと心得て居る。オーラ山に於て三千の部下を擁し、泥棒の大頭目として其名も高き玄真坊だぞ。名を聞いてさへ驚くシーゴー、ヨリコ姫は俺の部下だ、見事お前等の細腕で盗れるなら取つて見よ。或時は泥棒となり、或時は救世主となり、千変万化の活動を致す天真坊だ。素より天眼通なんか分つて堪らうかい』 コブ『ヤアそいつは一寸気が利いて居る、ヤ大に分つて居る、そんなら追撃は一段落をつけて、改めて玄真坊頭目の片腕とならうぢやないか、のうコオロ、お前だつて泥棒より外にする所作がないのだから、よもや不足はあるまい』 コオ『何分兄貴宜敷う頼むわ、玄真坊頭目の前、お取なしを願ひます』 玄『アハヽヽヽ、面白からう、併し乍ら茲暫くは猫を被つて天帝の化身で澄し込んで居なくては仕事が出来ないからのう。ダリヤ姫をどうしても吾手に入れなくては肝腎の仕事が出来ない。彼奴はスガの港の富豪の娘だから甘く彼奴をひつつかまへ、ウンと云はしたが最後、一躍して長者の主人だ。さうなりや貴様等は一の番頭二の番頭に抜擢してやらう。あゝ云ふ富豪のレツテルを被つて泥棒をして居りや滅多に足のつく事はないからのう』 コブ『成程お説御尤も、如何にも左様候へ、名案々々』 玄真坊は両手を振り握り拳で胸板を交る交る打ちたたき雄猛びしだした。 『アハヽヽハツハアハヽヽヽ幼少の時からこの俺は どてらい事が大好きで何か大きな芝居をば 打つてやらうと朝夕に思ひ込んだがやみつきで ヨリコの姫をちよろまかしオーラの山に三年ぶり 岩窟を構へていろいろの手段を廻らし三千の 部下を集めて月の国七千余国を己が手に 掌握せむと企みし其魂胆も水の泡 三五教の梅公に肝腎要の牙城をば 荒され今は是非もなく第二の策戦計劃を 遂行せむとハルの湖浪押しわけて打ち渡り スガの港の富豪が娘のダリヤに目をかけて 一旗挙げむ吾企み色と恋との二道を かけたる俺の目算は肝腎要の処になり どうやら画餅となりさうだとは云ふものの人間は 七転八起と云ふぢやないか一度や二度や三度四度 失敗したとて構はない飽迄初心を貫徹し 行く処まではやつて見るそれが男子の本領だ コブライ、コオロの両人よ天下無双の英雄は 玄真坊より他にない世の諺に云ふ通り 勇将の下に弱卒は決して無いのはあたりまへ お前はこれから強卒となつて一肌脱いでくれ 俺の天下になつたなら貴様の要求は何なりと 二つ返事で聞いてやろ吾成功の暁を 指折り数へ楽しんで涎を手繰つて待つがよい あゝ勇ましや勇ましや人は心の持ちやうだ 何程失敗したとても心の土台が確りと 据つて居れば構はないあゝ惟神々々 梵天帝釈自在天大国彦の御前に 畏み畏み願ぎまつるエヘヽヽヘツヘエヘヽヽヽ 愉快の事になつて来た既に天下を取つたよな 何とはなしに心持ちダリヤとバルギーが出て来ら 此度はぬからず引つ捕へウンと云はしてくりよ程に バルギーの奴は懲戒に手足も指もバラバラに バラしてしまはにや後の為め吾目的の邪魔になる そこをぬかるな合点かエヘヽヽヘツヘ面白い いよいよ面白なつて来た』 なぞと、元気よく大法螺を吹いて居る。そこへバルギーは村人に腰骨を叩かれた痛さに竹杖をつき乍ら、ヒヨロリヒヨロリとやつて来た。玄真坊は大喝一声、 『コリヤ泥棒奴、ダリヤ姫をどう致した。早く白状致さぬと貴様の命がないぞよ』 バル『ヤアこれは天帝の御化身様ようまあお迎ひに来て下さいました。ダリヤ姫ですかい、彼奴はさつぱりです。私ももう諦めました、安心して下さい』 玄『こりや、バルギー、何を云つて居るのだ。俺の女房を連れ出しやがつて、何処へ匿したのだ。さあすつぱりと白状せい』 バル『俺は又、天帝の御化身様に女房があるとは知らないものだから、ダリヤ姫に頼まれてスガの港に送るべく途中迄やつて来た処、神谷村の村端迄出て来ると、白い煙となつて天へ上つて仕舞ひ、何程喚いたとて呼だとて、春風の梢を渡る声ばかりだ。本当にあのダリヤと云ふのは人間ぢやなかつたらしいよ』 玄『馬鹿申せ、左様の事を云つて何処かに匿しておいたのだらう、白状せないと貴様の命を取らうか』 バル『何程命を取られても恩人の行方を貴様らに知らしてなるものか、男の口から一旦云はぬと云ふたら舌を抜かれても云はないのだ。そんな安つぽい男と思つて貰つては此バルギーさまも聊か迷惑だ。こりや売僧坊主、それに不足があるのならどうなりと勝手にしたがよい。こりや其処に居るのはコオロにコブライぢやないか、未だこんな売僧について居るのか、もうよい加減に目を醒せ』 コブ『俺も売僧だ売僧だと思つたが、今聞て見れば大変な抱負をもつた偉丈夫だから今親分乾児の約束をしたのだ。もう此上親分に毒づいて見よ、命令一下、貴様の命は貰ふてやるぞ』 バル『ハヽヽヽヽ、猪口才千万な、サアかかるならかかつて見よれ。俺は斯うして腰骨を打つて杖に縋つて居るものの、貴様等の三匹や五匹は物の数でもない。さあどうなりと為たがよいワ。首から斬るか腕から斬るか、さあ何処からなつと斬つて見よ』 と体一面竜の刺青をした肌を脱ぎ叢の上にどつかと坐し三人の面を瞬きもせず睨めつけて居る。 (大正一四・一一・七旧九・二一於祥明館加藤明子録) |
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霊界物語 | 71_戌_玄真坊と千種の高姫 | 07 夢の道 | 第七章夢の道〔一七九六〕 空一面に漲つた灰色の雲は所々綻びて落ちさうな紅い雲が、所斑ら覗いてゐる。山下の破れ寺の軒には槻の大木が凩に吹かれて、一枚々々羽衣を剥がれ慄ふてゐる。白黒斑の烏が二三羽、縁起の悪相なダミ声でガアガアとほえてゐる。赤茶気になつた瓦や壁の落ちた高い塔が、あたりの全景を独占してゐる。諸行無常を告ぐる梵鐘の声は、此寺からとも見えず遠く遠く響いてゐる。霜柱の立つた半ば朽ちたる木造りの土橋をトボトボ渡る一人の男、青竹の杖をつき乍ら、腰を屈めて、「頼も頼も」と力なげに呼はつてゐる。破れ障子をサラリと引あけ、ニユツと面を出したのは、形相の凄じい尼僧であつた。尼僧は汚な相に面をしかめ乍ら、 『お前は何処の者だい、何用あつて此処へふん迷ふて来たのだ。お前さまの来る処ぢやない、とつとと帰つて下さい』 男『私はバルギーと申しまして、チツと許り名の知られた男です。お尋ねしたい者があつて此処迄やつて参りました。玄真坊といふ和尚は此寺に参つて居りませぬか』 尼『そんな方は知りませぬよ。とつとと帰つて下さい。お前さまは此処を何処だと思つてゐるか、尼許りの住んでゐるお寺で、男禁制の場処だ。男子不可入と立札が立つてゐるのに気が付かないのかい』 バル『あゝ左様で御座いましたか、つい、日の暮まぐれに、慌てたものですから、つい見当りませず、失礼な事を致しました。然し乍ら斯様に日は暮れはて、あたりに人家はなし、男禁制かは存じませぬが、どうかお庭のスミでも宜しいから、一夜の宿を願ひたいもので御座います』 尼『絶対になりませぬ。男子にものを云つてさへも仏の冥罰を被りますから、お前さまの目には何う見えるか知らぬが、此処は極楽の浄土寺といふ立派なお寺で御座いますよ、サアサア早くお皈りなさいませ』 と云ひ乍ら、ピシヤリと破れ障子をしめ、プンプンとして姿を隠した。バルギーは又もや橋を渡り、力なげに何処を当ともなく、ヒヨロリヒヨロリと歩んでゆく。半時許り北へ北へと進んだと思ふ時、後の方から「オーイオーイ」と皺枯声を張上げ乍ら、髪をサンバラに振り乱し、八十許りの黒い面した婆アが飛んで来る。バルギーはツと立止り、怪訝な面をし乍ら、 バル『私を呼んだのはお前さまかな、何用あつて呼び止められたか』 婆『私はあの薮の畔に、グレ宿をしてゐるお熊といふ婆アだ。どうか今晩は私の所へ来て泊つて下さる訳には行こまいかな』 バル『ヤア其奴ア有難い、併しお婆さま、小さいと云つても宿屋をしてる以上は、二間や三間はあるのだらうな』 婆『御心配なさるな、小さいと云つても木賃ホテルだ。お前の一人や二人は、どこの隅でも泊めて上げる』 バル『宿賃は幾らだな』 婆『幾らでも可いから、お前のやろうと思ふだけ下され、別に欲なこた言はないからな』 バル『ヤア、そんなら、宿屋がなくて困つてた所だ、泊めて頂かう』 と婆アの後について、雑草茂るシクシク原を四五丁許り従いて行くと、家のぐるりには牛馬の糞が堆く積み上げられ、臭気紛々として鼻をついて来る。 バル『婆さま、どうも臭い家だな。牛馬もゐないのに、なぜ此様に沢山牛糞や馬糞がたまつてゐるのだい』 婆『毎日泊らつしやるお客さまが、牛糞や馬糞をドツサリたれて帰るものだから、これ此通り……塵も積れば山となる……といつて、糞の山が出来たのだよ』 バル『フヽン、此奴ア妙だ、人間が牛グソをたれ馬糞をたれるとは聞き初だ。そんな人間の面が見たいものだなア』 婆『今の人間は皆獣だよ、それだから狐グソもたれる、馬糞もたれる、狸のタメ糞も裏の方に沢山放りたれてあるから、何なら御案内せうかな』 バル『イヤお婆さま、モウ結構です。兎に角雨露さへ凌がして頂けば結構だから、どうか門の戸をあけて下さいな』 婆『ヨシヨシあけて上げよう、ビツクリをしなさるなや』 と破れ戸をガタつかせ、パツと開けた。見れば牛頭馬頭の妖怪が何十とも知れず、庭一面に荒蓆を敷き、胡座をかき、人間の太腿や腕の血のたれる奴を甘相に齧つてゐる。此奴アたまらぬと、バルギーは逃げ出さうとすると、お熊は俄に真黒けの大熊となり、黒い太い爪でバルギーの頭をグツと握り、 熊『コリヤコリヤ泥棒、逃げようと云つたつて、いつかないつかな、逃がしはせぬぞ。汝も味の悪いやせつぽしだけれど、まだチツと許り血が通ふて居るやうだから、ここで一つ荒料理をして食つてやろ。あの通り沢山なお客さまが泊つて御座るけれど、まだ一人前足らぬので、あれあの通り、大きな口をパクつかせて待つてゐらつしやる、汝がよい餌食だ、イヒヽヽヽ、何とマア、バカ野郎だな、尼寺では突き出され、木賃宿へ泊つたと思へば体を食はれる、何と云ふお前は頓馬だろう、憐な代物だらう、然し乍らここにゐる牛頭馬頭のお客さまは何れも汝に金と命を奪られ、畜生道へおち込んで、行く所へも行けず飢渇に迫り、此木賃宿で虱だらけになつて逗留して御座るのだ。かうなるも皆汝が作つた罪業の報いだから、誰に不足はあらうまい』 バル『モシモシお熊さま、そんな殺生な事を云はずに、どうぞ見逃して下さいな。一生のお願ですから、キツと御恩は酬いますから』 熊『バカを云ふない、泥棒をするやうな奴に、そんな徳義心があつてたまらうかい。お前はスガの里のダリヤ姫に恋慕の心を起した揚句、彼が歓心を得むとして、杢兵衛の家へ泥棒に入り込み、家内中をふん縛り、有金を残らずひつ攫へ、門口の深井戸へ落ち込み、袋叩きに会ふて、追放された代物だらうがな。そんな奴は万古末代助ける訳には行かぬのだ。此婆がそんな事をせうものなら、悪魔の大王様よりヒドいお目玉を頂戴せなくちやならないのだ』 バル『いかにも、せぬとは申しませぬ、泥棒に入りました。併し乍ら盗つた物はすつかり返したのですから、返した後迄罰せられちや耐りませぬワ、返せば元々ぢやありませぬか』 熊『此問題は問題として、汝は之迄随分沢山な女を強姦し、人を殺し、金を盗つたであらうがな、あの牛頭馬頭のお客さまをみよ、皆覚えがあらうがな。ここは汝の作つた地獄だから観念したが可からうぞや』 牛の如うな角を生やした真黒けの毛だらけの男、のそりのそりと、お熊、バルギーの前ににじり来り、カラカラカラと大口をあけて打笑ひ、 男『コーリヤ、バルギー、俺の面を見知つてゐるか、ヨモヤ忘れは致そまいがな。二十三夜の月待の夜、俺の大事の娘を二三人の小盗人と共に奪ひ取りにふん込んだ矢先へ、俺は娘を渡さじと力限り抵抗したら、汝は牛刀を引抜いて、俺の腹をグサツとつき、苦む俺を尻目にかけ、悪口を叩いて帰つた事があらうがな。サ、可い所へ来た。これから俺が其恨をはらす為に嬲殺にした上、肉も骨も叩いて、此牛腹に葬つてやる積だ。俺も折角人間と生れて、汝の為に命を奪られ、其怨恨が重なつて、牛頭の魔王とまで成り下つたのだ、修羅の妄執をはらすのは今此時だ。イヤイヤ俺許りでない、此処にゐる連中は、どれもこれも汝の毒手にかかつた憐れな人間の成の果許りだ。ジタバタしても、モウ逃れつこはないぞ、念仏でも唱へて覚悟をしたが可からう。てもさても小気味のよい事だな、アハヽヽヽ』 と一同の牛頭馬頭の怪物は声を揃へて、天地もわれむ許りに鯨波の声をあげた。 バルギーは進退維谷まり、一生懸命にダリヤ姫から聞覚えた三五教の数歌を、細いかすつた声を絞つて、一二三四五六七八九十百千万と、やつとの事で唱へ上げた。牛頭馬頭及びお熊等、一同の妖怪は次第々々に影うすくなり、遂には跡型もなく消失せた。あたりをみれば、枯草生え茂る細路の傍に自分は着衣を泥まぶれにして倒れてゐた。バルギーは漸くにして立上り、 『ヤーア、大変な夢を見たものだ、コラ一体何処だろう、暗さは暗し、斯様なシクシク原にねる訳にも行かず、道通る者はなし、困つたものだな。エー仕方がない、コンパスの続く所まで行つてみよう。又此様な所に横はつてゐて、あんな恐しい夢を見ては仕方がない』 と呟き乍ら屠所に曳かるる羊の如くヨボヨボとコンパスの運転を始めかけた。道の傍に以前古寺で出会つた尼僧が只一人、青黒い面をニユツと枯草の中から現はし乍ら、 『モシモシ』 と呼んでゐる。バルギーはギヨツとし乍ら、 『ヤア、お前さまは最前お目にかかつた尼僧ぢやないか、こんな所に何して御座るのだい』 尼『私ですかいな、貴下よく御存じでせう、ダリヤ姫で御座いますよ』 バル『ヘーン、馬鹿にしなさんな、ダリヤさまはそんな青黒いしなびたお面ぢやありませぬわ。お前さまは大方豆狸だらう、最前の尼僧に化けてゐるのだらう』 尼『イエイエ、決して決して、私は豆狸でも何でも御座いませぬ。タニグク谷の泥棒の岩窟に玄真坊が為におびき出され、其急場を遁れむと鬼心を出して、自分の美貌を楯に、お前さまに惚たと見せかけ、吾家迄送らさうとした悪念の強い、私は副守の霊で御座います。どうぞ一言許してやると仰有つて下さい。さうでないと私は浮ばれませぬから、神様の世界はチツとの不公平も御座いませぬ、貴方を欺いた丈の罪はどうしても償はねばなりませぬので、斯様な所にウロついて居りまする』 バル『いかにも、よくよく見ればどつか似た所がある様だ。ヤ、私も貴女に対しては実に済まない無礼な事を申しました。然し乍ら許すも赦さぬもありませぬ、どうぞ安心して下さいませ』 尼『妾は貴下をウマウマと騙した上、畏れ多くも罪の身を有ち乍ら、貴下に御意見を申す積で神様の宿り玉ふお頭を三つ許り叩いたで御座いませう、其罪で頭は此通り禿テコとなり、かやうな所にウロついて居るので御座います。頭を打つべき資格なくして頭を打つたのが大変な罪となつたので御座います』 バル『何とマア、神様の規則といふ者は難しいものですな、そんなら畏れ乍ら、私に加へた無礼の罪を、更めて赦しませう』 尼『ハイ有難う御座います。どうぞ貴下のお手で此扇子を以て私の頭を三つ打つて下さい』 バル『ヤア、これはこれは御均等さまに、左様ならば仰せに従ひ御免を蒙りませう』 といひ乍ら、軽くポンポンポンと扇子の胸で三度打つた。これつきり尼僧の姿はパツと煙の如く消えて了つた。「オーイオーイ」と向方の山の端から吾名を呼とめる者がある。其声に何となく聞覚があるので、バルギーは引ずらるる如き心地し乍ら、声する方に何時とはなしに進んで行つた。忽ち天を焦して東方より一大火光が現はれ、バルギーの面前に落下し、ドンと地響うつて爆発した途端に気がつけば、自分はハル山峠の麓の草原に雁字搦に縛られて倒れてゐた事が分つた。バルギーは縛められた儘、漸くにして身を起し、草の上に胡座をかき、空ゆく雲を眺めてゐると、そこへスタスタとやつて来たのは、ダリヤ姫、玉清別、及び数人の村人であつた。 ダリ『オヤ、バルギー様、おいとしや、何者にさう縛られたので御座いますか、サアサア皆さま、早く縛めを解いて上げて下さい』 バル『ハイ有難う御座います、思はぬ奴と諍ひをやり、何分腰骨を打つて弱つてゐたものですから、脆くも敵にくくられ、気を取失つて居たやうです、ようマアー来て下さいました』 ダリ『バルギーさま、貴方は本当に義の固い方ですね、玉清別の神司に神素盞嗚大神降らせ玉ひ、ハル山峠の麓に於て、玄真坊其他の者に責られ、妾の在所を詰問され乍ら、命を的にお隠し下さつた其義侠心、神様も大変おほめ遊ばし、一時も早く助けに行けよとの御宣示、取るものも取り敢ずお助けに参りました。どうか御安心下さいませ』 バル『イヤ、これはこれは恐入りまする。御礼の申し上様も御座いませぬ。只此通りで御座います』 と落涙し乍ら合掌する。 玉清『バルギー様、貴方の男気には感心致しました。どうか私の家へ引き返し、腰の傷が癒る迄御養生なさつたら如何ですか、今に駕が参りますから』 バル『私のやうな悪人をそこ迄思ふて下さいますか、ヤ、モウ之限り悪い事は致しませぬ。天性の善人に返り、社会の為お道の為に一生を捧げる考へで御座います。何分宜しう御願申ます』 之よりバルギーは村人に担がれ、ダリヤ姫と共に玉清別の神館に病を養ひ、ダリヤ姫の手厚き介抱を受け乍ら、一ケ月許り逗留する事となつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一四・一一・七旧九・二一於祥明館松村真澄録) |
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霊界物語 | 72_亥_スガの港(宗教問答所) | 03 厳の款乃 | 第三章厳の欵乃〔一八一二〕 豊栄昇る旭影厳の光も照国別の 司の一行朝まだき眼を醒し凪ぎ渡る 清けきハルの湖の岸入江の港を舟出して 珍の教も照公や一度に開く梅公別 玄真坊と諸共に名さへ芽出度き常磐丸 松の教の一行は艪櫂を操り悠々と ハルの港を辷り行く魚鱗の波を湛へたる ハルの海原影清く彼方此方にアンボイナ 信天翁や鴎鳥飛び交ふ様の美はしさ 照国別は立ち上り天津日影を伏し拝み 声朗かに太祝詞唱ふる声は海若を 驚かしつつ船端に波の皷を打ちそへて 神国来を叫びつつ進み行くこそ勇ましき。 照国別『神代の昔天教の山に現れます元津神 木花姫の神勅もて厳の御霊や瑞御霊 教を四方に開かむと数多のエンゼル任け玉ひ 白雲棚引く其極み青雲堕居向伏せる 極みも知らず皇神の尊き教を伝へ行く その御諭に従ひて斎苑の館に現れませる 瑞の御霊の神柱神素盞嗚の大神は 千座の置戸を負ひ乍ら雨に体はそぼち濡れ 御髪は風に梳り手足は霜にやけただれ 食物着物乏しくて身をきる寒き夕の夜も やけるが如き夏の日も撓まず屈せず道のため 世人の悩みを救はむといそしみ玉ふぞ尊けれ ウブスナ山の聖場に斎苑の館を建て玉ひ 曲の霊魂に犯されし人の心を清めつつ 真人と生れ代らしめ罪科深き吾々に 名さへ目出度き宣伝使称号さへも賜りて 浮瀬に落ちて苦める世の諸人を救ふべく ハルナの都に蟠まる曲津の神を言向けて 神の御国を永久に建てむと図り玉ひつつ 四方に遣はす神司青雲高し久方の 高天原より降ります天人天女の精霊を 吾等の身魂に下しまし守らせ玉ふぞ有難き あゝ惟神々々神の任さしのメツセージ 仕遂げおほせし暁は再び斎苑の神館 ウブスナ山の聖場に復命なして大神の いと美しき尊顔を拝し奉りて玉の声 かからせ玉ふ暁を待つも嬉しき神の道 踏みて行く身ぞ楽しけれ吾行く道は皇神の 御守り厚く坐せば如何なる枉の襲うとも 如何で恐れむ敷島の神国魂の丈夫は たとへ天地は覆るとも月落ち星は沈むとも 如何で撓まむ真心の心揺がぬ梓弓 ハルの海原渡り行く吾一行に幸あれや あゝ惟神々々神の恵ぞ畏けれ 神の恵ぞ畏けれ』 照公『照国別の師の君の御名の一字を賜りて 神の御稜威も照公別名を負ふ吾ぞ尊けれ ウブスナ山を立ちしより吾師の君と諸共に あらゆる悩みを凌ぎつつ彼方此方の曲神を 言向和し諸人の艱難を救ひ恙なく 此処迄来りし宣伝の旅の空こそ楽しけれ 此処は名に負ふハルの湖波こまやかに風清く 真帆を孕ませ進み行く常磐の丸は神の船 あまねく世人を天国に導き渡す神の船 あらゆる罪や穢をば乗せて千里の海原に 彷徨ひ失ふ神の船あゝ勇ましや勇ましや 波よ立て立て風も吹け一瀉千里の勢で 吾乗る舟は逸早くスガの港へ走れかし あゝ惟神々々神の教の旅立ちは 世の人々の夢にだに知らぬ楽しき節ぞある 伏しては地に幸祈り天を仰いで国々の 民安かれと祈りつつ草の褥に石枕 木々の梢を屋根として月照る空を眺めつつ 幾夜の野辺の仮枕実にも楽しき旅出かな あゝ惟神々々御霊幸ひ坐せよ』 梅公『吾師の君に従ひて神素盞嗚の大神の 任さしのまにまに斎苑館後に眺めて出でて行く 吾一行は恙なく河鹿の難所を乗り越えて 祠の森や小北山浮木の森には目も呉れず テームス峠を打渡り葵の沼に辿り着き 月の光も黄金の姫の命の宣伝使 沼に輝く清照の姫の命と袂をば 右と左に別ちつつトルマン国の危急をば 神の恵みに救ひつつ吾師の君に再会し 漸く此処に来りけりあゝ惟神々々 神の恵ぞ畏けれ神の恵ぞ畏けれ』 玄真坊は歌ふ。 『オーラの山に立籠り悪逆無道の企みをば 敢行したる吾こそは八岐大蛇の片腕か たとへ方なき人非人ヨリコの姫を唆かし オーラの山を根拠とし泥棒頭のシーゴーを 謀主と仰ぎオーラ山高く聳ゆる大杉の 梢に仕掛けた星下し良家の婦女を拐かし 善男善女を迷はして金穀物品奪ひとり 七千余国の月の国横領せむと企める 時しもあれや三五の教の道の神司 梅公別に踏み込まれ吾計画も画餅となり よるべなくなく三百の不良分子を選抜し ハルの湖原打渡りタラハン城に忍び込み 様子を聞けば左守なる智勇兼備のシヤカンナは 十年の昔追放され山林深く姿をば 隠して再挙を図るてふ噂を聞いて雀躍し 天帝の化身と化け込んで夢寐にも忘れぬダリヤをば 吾が夜の伽にせむものと色と欲との二道を かけて踏み込む山の奥タニグク山の岩窟に 小盗人共に導かれ一夜を明かす折もあれ 命と頼むダリヤ姫吾が酔ふ隙を窺ひて 忽ち水沫と消えしよりシヤカンナも糞もあるものか 二百の手下を借り受けてダリヤの行衛を探しつつ 神谷村の村長の家に潜むをつきとめし その暁の嬉しさは天にも上る心地しぬ 天に叢雲花に風吹く世の中は是非もなし 掴むに由なき水の月心残して渋々に 暗路を辿り進み行く上れば高きタラハンの 峠の岩に腰かけて前方遥かに見渡せば 野中に建てる城廓は吾の住居に適へりと 雄猛びし乍ら小泥棒二人と共に進み行く 道の行く手もいろいろに恋路の雲に包まれつ 果し終せぬ果無さに心を苛ちてタラハンの 城下に忍び待つ程にタラハン城下の大火災 天の時こそ到れりとタラハン城に乗り込んで 宝の倉に忍び入り軍用金をせしめむと 逸る折しも捕へられ一度獄に繋がれて 少時憂目は見たれども泥棒頭のシヤカンナが 左守の司となりすまし国政を握ると聞くよりも 悪口憎言並べ立て遂には左守に腹切らせ 黄金数万貢がせて踏みも習はぬ谷川に 沿へる細路走る折追手に追はれ是非もなく 運命を天に任しつつザンブとばかり谷川に 身を躍らして飛び込めば人事不省となり果てて 忽ち幽界の旅枕百の責苦に遇ひ乍ら 人の情に救けられ再び悪を企みつ 入江の浜屋に泊り込みホロ酔ひ機嫌の折もあれ 花に嘘つく絶世の美人千草の高姫が 色香に迷ひ涎くり巾着迄も締められて 所持金スツカリ奪ひ取られ命危くなりし折 照国別の師の君にヤツト救はれ今此処に 法の友船常磐丸松の心に立直し 心に匂ふ梅公別日も麗かに照公の 神の司と諸共に涼しき風を浴び乍ら 縮緬皺の漂へる大湖原を進み行く 吾身の幸ぞ楽しけれ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令天地は覆るとも 神に誓ひし真心は幾千代かけても違ふまじ 松のミロクの末迄も守らせ玉へ惟神 神の御前に謹みて吾身の行末祈ぎ奉る』 照国別『梓弓ハルの湖原乗り行けば 百鳥千鳥大空に飛ぶ。 天国の春にも擬ふハルの湖 乗り行く吾の幸多きかな』 照公別『大空に日は麗かに照公の 湖路静に進む楽しさ。 風清く波穏かに吾乗れる 船端波の皷打ち行く』 梅公別『御教の一度に開く梅の花 三千世界に匂ふなるらむ。 梅薫る春の景色に酔ひ乍ら ハルの湖渡り行くかな』 玄真坊『吾為せし昔の枉を思ひ出でて 神の御船もいとど苦しき。 今よりは誠の神の大道に 進み行かなむ仮令死すとも』 斯く各自に歌を詠み乍ら波静かなるハルの湖面を進み行く。時しもあれや、一天俄に掻き曇り、暴風吹き荒び、激浪怒濤は山岳の如く押し寄せ来り、常磐丸は木の葉の風に散る如く実に危き光景となつた。彼方の海面を遠く見渡せばハルの湖面にて名も高き高砂丸の船体は木端微塵に打砕け、乗客の一同は激浪怒濤に翻弄され、命限りに救ひを叫ぶ声、恰も叫喚地獄の状態を現出したるが如くであつた。照国別は吾身の危難を忘れ高砂丸の遭難を救はむと船頭を励まし八梃艪を漕ぎ乍ら、高砂丸の難船場目蒐けて力限りに漕ぎつける。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一五・六・二九旧五・二〇於天之橋立なかや別館北村隆光録) |
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霊界物語 | 72_亥_スガの港(宗教問答所) | 17 六樫問答 | 第一七章六樫問答〔一八二六〕 懺悔生活の偽君子、スコブッツエン宗の教祖と名乗る妖僧キユーバーはダリヤ姫に対する恋衣のすげなくも破れしより、もとより心の汚い便所掃除、糞度胸を据ゑ、捨台詞を残して問答所より屁の如く消え去つた。あとはヨリコ、花香、ダリヤの三人、何程女丈夫でも男の受持つべき掃除は永く続かないとて、薬種問屋の主人イルクに掛合ひ門番のアル、エスを臨時掃除番として、手伝はしむることとなつた。朝も早うから、新参者の掃除番はキユーバー、ダリヤが奮戦苦闘の古戦場、上雪隠の掃除しながら、 アル『オイ、エス、主人の言付だから是非もなく、エースと云つて返事はしたものの、本当に糞忌々しい、バカ臭い目に遇ふぢやないか、エー、これだから人に使はれるのは辛いと云ふのだ』 エス『何程辛いと云つても仕方がないぢやないか、何一つ人に勝れた芸能がアルと云ふでもなし、雪隠の虫のやうに、ババの尻斗り狙つてゐるやうな事で、気の利いた大役も勤まりさうな事がないぢやないか。いつも雪隠と云ふやつは、紛擾の種を蒔く奴だ。昨日もスコブッツエン宗の小便使、キユーバーとかキユーフンとか云ふ糞坊主がダリヤさまに糞糟にこきおろされ、犬の糞のやうに云はれ、終ひの果にや糞然として屁つ放り腰で雲を霞と逃げ散つたりと云ふ為体、その跡釜に据ゑられた俺達アまるつきり雪隠虫だ、然し雪隠虫だつて落胆するにや及ばないよ、少時糞壺の中でウヨウヨしてる間に羽が生え、立派な金襴の衣を着けて、金蠅となり、ヨリコ姫の頭へでも止つて糞小便を放りかけるやうになるのだからのう』 アル『門番も今日はお尻の門番と 成り下りけり糞忌々し。 仰ぎ見て穴恐ろしと雪隠虫 泣くに泣かれぬ糞を被りつ。 世の中の臭い味ひしりの穴 やがて羽衣着くる雪隠虫。 金襴の衣まとへば糞虫も 人の頭にとまり糞放る』 エス『ヨリコ姫ダリヤとしり(知)合の穴なれば 肥え(光栄)ならむと糞虫云ふらむ。 美はしき乙女の尻はよけれども 糞婆の尻いと臭きかな。 天香は雪隠空しうせぬと云ふ 日に三回の飯礼ありせば』 斯く話してゐる所へヨリコ女帝が盲腸、結腸、直腸辺りの大清潔法を施行すべく、やつて来た。アルはこれを見て、 アル『あな尊とひしりの君の御降臨 アルにあられぬ恥を見しかは』 ヨリコ『雪隠と云ふ字は雪に隠るなり 白妙の衣まとふ糞虫』 エス『白妙の衣をまとひて糞虫は 黄金の餌朝夕に喰ふ』 ヨリコ『アル、エスの二人の君よ心して 黄金仏にならぬやうにせよ』 アル『アル望み抱へし吾は糞度胸 すゑてかかりぬ便所掃除に』 エス『アル望みなどとしり顔するでない 糞奴めがいばり散らすな』 ヨリコ『アル、エスの二人の君よ今少時 はばかり玉へ吾帰るまで』 アル『はばかりの掃除はすれどこの男 はばかり乍ら腕に骨あり』 エス『えらさうにしり顔なしてブツブツと 口先過ぎてババ垂れるなよ』 両人はヨリコ姫の用を足す間、便所遠く庭の隅のパインの下にクルツプ砲の難を避けた。 アル『いか程に容姿美はしき女帝さへ 下から見れば愛想やつきむ』 エス『裏門を開いて出づる兵卒の ラツパの声も勇ましきかな』 アル『バカ云ふなばば垂れ腰を眺めたら かたい約束も小便し度くならむ』 エス『草木もゆる谷の流れをピユーピユーと 鵯越の進むよしなし。 谷の戸を開いて出るは鶯の 声ならずして鵯の声』 アル『思うたよりヨリコの姫の長雪隠 心短き俺は堪らぬ』 エス『こんなことヨリコの姫に聞えたら 糞腹立てて尻や持て来む。 何事も皆しりの穴ヨリコ姫 尻もて来れば猫婆きめる。 猫婆をきめる積りでキユーバーが 便所掃除請合しならむ。 こつぴどくこき卸されて糞腹立て 糞垂れ腰の糞坊主去ぬ』 ヨリコ姫は便所から、しとやかに出て来た。アル、エスは先を争うて手洗鉢の前により、柄杓の柄をとり水を無暗矢鱈にかけながら、 アル『弁天の化身のやうな女帝様の お手洗ふさへしやくの種なる』 エス『このやうな美人を妻にする男 面見るさへも小しやくにさはる』 ヨリコ『八尺の二人の男が漸くに 五勺許りの水を呉れたり。 雪隠の掃除も神の御恵みよ 天香さまの出世見給へ』 アル『何程に出世したとて何時迄も 尻掃除とはバツとしませぬ』 ヨリコ『左様ならアルさまエスさま別れませう 又明日の朝会ふを楽しみに』 と云ひ乍らヨリコ姫は吾居室に帰つて行く。 ○ ヨリコ姫、花香、ダリヤ、アル、エスの聯合家族は食堂に集つて四方山の話に耽り乍ら朝飯を喫してゐると、表の玄関に向つて甲走つた女の声が聞えて来た。 高姫『ハイ、御免なさいませ、一寸物をお尋ね申します。ヨリコさまと云ふ無冠の女帝さまはお宅で御座いますかな、宗教問答のためにウラナイ教の教主、千草の高姫が参りました。別に驚くやうな女ぢや御座いませぬ、第一霊国の身魂、日出神の生宮、下津岩根の大弥勒の化身で御座いますよ』 と呼はつてゐる。 ヨリコ『ホツホヽヽヽ、朝つぱらから、何処の狂人か知らないが、妙な事を云うて来よつたものだ。ダリヤさま、妾の代理となつて少時相手になつてやつて下さいな』 ダリヤ『女帝様の仰せでは御座いますが、狂者を相手にする事は真平御免を蒙り度う御座います』 ヨリ『第一線に貴女出て下さい、もしも戦況危しと見た時は第二線として花香に行つて貰ひます。その第二線が破れました時、殿として此ヨリコが大獅子吼を致しますからね』 アル『もしもし女帝様、あんな狂者にダリヤ姫さまなんか、出すのは勿体ないぢやありませぬか、先陣は私が勤めますから何卒此役目をアルに譲つて下さいませ、タカガ知れた狂者ぢやありませぬか』 ヨリコ『お前さまは決して相手になつちやいけませぬよ、いくつ位の女か一寸様子を調べて来て貰ひさへすれば宜しい』 アル『ハイ、承知致しました、オイ、エス、お前は俺の副将軍だ、ソツト後から従いて来い』 と云ひ乍ら、早くも玄関口に立塞がり、 アル『イヨー!何とマアチツト許り年はよつて居るが、ステキなものだなア』 高『これ奴さま、ナーンぢやいな、失礼な、お客さまの前で立はだかつて、挨拶一つ知らない穀潰しだな、僕のやり方を見りや大抵主人の性質が分るものだ。此下駄の脱ぎ方と云ひ、乱離骨灰、まるつきりなつちやゐないぢやないか。ヘン偉相に宗教問答所なんて、まるつきり狂者の沙汰だ』 アル『オイ、高姫とか云ふ中婆さま、人の所の宅へ出て来て、履物の小言まで云うてくれな、俺方の悪口をつくのならまだ虫を堪へておくが、天下無双の才女、ヨリコ姫女帝の悪口まで吐かすに於ては、断じて此玄関は通さない。エー糞忌々しい、婆の来る所ぢやない、屁なつと嗅いで去んでくれ』 高『ホツホヽヽヽ、お前がさう云はいでも、此高姫がヨリコ姫の膏を絞り、蛸を釣り灸をすゑ、鼬の最後屁を放らして往生さしてやるから臭い顔して待て居なさい、ド奴の糞奴め。こんなガラクタ男を使うて、えらさうに構へ込んでゐるとは誠に以て噴飯の至りだ、ホツホヽヽヽ』 アル『エー、とても、こんな気違婆は俺方の挺棒に合はない、サア第一線だ第一線だ』 と云ひ乍ら奥に飛び込み、 アル『もしもし女帝様、竹に鶯、梅に雀と云ふやうな婆が来ましたよ』 ヨリコ『ホツホヽヽヽそれは木違ひ鳥違ひと云ふのだらう、サア之から梅に雀の婆さまに向つて、戦闘開始をやつて下さい』 ダリヤ『ハイ、及ばず乍ら第一線に立ちませう、どうか後援を頼みます』 と云ひ乍ら玄関口に出た。 ダリヤ『玉鉾の道の問答せむものと 遥々尋ね来りし君はも。 いざさらば問答席へ通りまし 及ばずながら案内申さむ』 高『むづかしき歌よみかけて高姫を 困らさむとす猾さに呆れし。 兎も角も此家の奥へ踏ん込んで 狸の化の皮むいて見む』 と云ひ乍ら、ダリヤ姫に従ひ問答席についた。 ダリ『いざさらば寛ぎ給へ椅子の上に 世の悉はしりの穴の君』 高『賢しげな事を云へども何処やらに 息のぬけたる汝の顔かも。 汝こそはヨリコの姫の身代りと 吾慧眼に見えたり如何にや』 ダリ『妾こそヨリコの姫の妹よ ダリヤの花の名を負ひし姫。 何なりと問答遊ばせ立板に 水の流るる如く答へむ』 高『美はしき女にも似ず出し抜けに 大法螺を吹くしりの太さよ。 いざさらば吾問ふことに答へかし 今日こそ汝が生死の境ぞ』 ダリ『如何ならむ賢き人の来るとも 後へはひかぬ弦離れたる征矢』 高姫いかい目をむいてダリヤの姫の面上を ハツタと睨み大口を斜に開き白歯をば むき出し乍ら手を振つて演説口調で語り出す 高『お前はヨリコの妹と名乗つたからは高姫が 宣る言霊を一々に川瀬の水の流る如 答へて裁くで御座らうなよしよしそんなら高姫が 一つの問題出しませうこの世の中を造りたる 誠の神は何神か何卒聞かして貰ひませう それが分らぬやうな事で問答所の役員と云へませうか サアサア如何に』と詰寄ればダリヤはニツコと打笑ひ ダリ『如何なる難しいお尋ねと思つてゐたのに何のこと この世の御先祖は云はいでも世界に知れた厳霊 国常立の神様よこの神様は泥海を 造り固めて山川や草木の神迄生みました 吾方の誠の親です』と云へば高姫反かへり フフンと笑ふ鼻の先 高姫『三五教のトチ呆け大根本の根本の 誠の神は大弥勒底津岩根の神様よ 人間姿の分際で誠の神は分らうまい そんな下らぬ事云うて沢山の人を欺すより 早くすつこんで居りなされお前ぢや事が分らない 肝腎要の当の主ヨリコの姫を呼んでおいで 余りに相撲が違ふので阿呆らしくて話になりませぬ』 云へばダリヤはうつ向いて顔を真赤に染め乍ら すごすご立つて奥に入るつづいて出て来る美婦人は 天女に擬ふ花香姫千草の高姫見るよりも いと慇懃に会釈して静に梅花の口開き 声しとやかに『妾こそヨリコの姫に仕へたる 梅の花香と申します何卒お見知りおかれませ いかなる問答か知らねども即座にお答へ申しませう 遠慮会釈は要りませぬ何なとお尋ねなさいませ』 云へば高姫反りかへり 高『妾こそ誠の救世主高天原の霊国の 第一天人の霊魂ぞや下津岩根の大弥勒 三千世界の救世主日出神と現はれて トルマン国のスガの町天降りたるウラナイの 教の道の神柱必ず粗相のないやうに 謹み敬ひ吾言葉胸にたたんでトツクリと 考へなされよ花香さまサアサアこれから高姫が 貴女に質問致すぞや抑々天地の根本の 大根本の根本のその又根本の根本の まだまだ根本の根本の昔の昔のさる昔 ま一つの昔の又昔ま一つの昔の大昔 又も昔のその昔ドツト張込んでその昔 猿が三匹飛んで来て三千世界を掻きまはし この世に暗と明りと雨降りを来した訳は如何ですか この訳聞かして貰ひませう』云へば花香は噴き出し 花『弥勒の弥勒のまだ弥勒ま一つ弥勒のその弥勒 日の出の日の出のまだ日の出も一つ日の出のその日の出 昔の昔の大昔猿が六匹飛んで来て 一つは雪隠を掻きまはす一つは頭をかきまはす 一つは恥をかきまはす一つは借用証文書きまはす 一つはお粥をかきまはす一つはそこらをかきまはす も一つお尻をかきまはす此奴の謎がとけたなら お前さまの問題に答へませう』等と分らぬ予防線 鉄条網を張りまはし用心堅固に備へしは 流石はヨリコの妹と生れし甲斐ぞ見えにける 高姫拳を固めつつ力限りに卓を打ち 高『これやこれや女つちよ痩せ女郎そんな事云うて高姫を 煙りに捲かうとはづうづうしいお前のやうな分らない 女を相手にやして居れぬ当の主人のヨリコ姫 早く此の場へ引出せよこの高姫の弁舌で 道場破りをして見せるあゝ面白い面白い いよいよ之から正念場気の毒なのはお前達 折角建てた神館城明け渡しスゴスゴと 逃げねばならぬ断末魔いよいよこれが悪神の 世の持ち終りとなつたのだあゝ惟神々々 ウラナイ教の御神徳今更感じ入りました』 花香姫は高姫のあまりの強情に呆れ果て、暗に打ち出す鉄砲玉に持てあましつつ匆々としてヨリコの居室に駆け込んで了つた。 (大正一五・七・一旧五・二二於天之橋立文珠なかや別館北村隆光録) |
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霊界物語 | 72_亥_スガの港(宗教問答所) | 22 妖魅帰 | 第二二章妖魅帰〔一八三一〕 スガの宮の神司玉清別を初め、天人のやうな三人の美人が千草の高姫と問答の結果、放逐されたと云ふ評判が、スガの町を初め近在近郷迄電の如く俄に拡がつて了つた。それ故スガの神館は押な押なの大繁昌、立錐の余地なき迄参詣者が集まつて来た。宗教問答所の看板は矢張り以前のまま掲げられ、唯違つた所はヨリコ姫の名が千草の高姫と書き替へられた許である。智仁勇の三徳を備へたと許り町人の評判になつて居たヨリコ姫を、説き伏せるやうな千草の高姫は、どんな偉い奴かも知れないと云ふので、看板はあつても問答せうと云ふものは一人もなかつた。妖幻坊は例の如く離棟の室に固く錠を卸して昼の中は眠つて居る。 コオロ、コブライの二人は偵察隊として朝未明より入り来り玄関に立ち塞り、「頼まう頼まう」と呼はれば、悠然として現はれ来る千草の高姫は、 『玄関に頼むと声をかけゐるは 誰が命か聞かまほしさよ』 コオ『吾こそはスガのお宮に詣で来て 看板を見て問答せむと思ふ』 コブ『吾とても宗教問答所の看板を 見て腹が立ち君を訪ひけり』 高『面白し睡けさましに汝二人 吾言霊に薙ぎふせて見む』 コオ『偉さうに仰有りますな照月に 黒雲かかるためしこそあれ』 コ『如何ほどに智慧さかしとも女の身 太い男に勝ち得べきかは』 高『男てふ衣被りしこけ女 なにかはあらむ一時に来よ』 コオ『今暫し待つて御座れよ眩ひする やうな珍事が突発するぞや』 コ『何なりと吐いてござれ今暫し 汝が断末魔近くありせば』 高『見る影もなき木わつ葉が玄関に 立ちてたはごと吐くをかしさ』 コオ『高姫よ暫く待てよ汝こそは 見る影もなきやうにしてやる』 コ『偉さうに云つても一寸先見えぬ 曲津の盲哀れなるかな』 高『朝早く神の館に乗込んで 縁起の悪い口を開くなよ』 コオ『己が尻つめつて人の痛さをば 知らぬ愚者あはれなりけり』 コ『身も魂も痺れ果てたる曲津身は 刃にさすも耐へざるらむ』 高『訳もなき事をベラベラ吐くより 便所の掃除なりとせよかし』 コオ『スガ山の塵吹き払ふ大掃除 日のある中に初めて呉れむ』 コ『神々がいよいよ表に現はれて 狸の尻尾露はして見む』 高『何を云ふ狐狸の身魂奴が 誠の神の前恐れぬか』 コオ『間男か真の神か知らねども どこやら臭い糞の香ぞする』 コ『臭い筈千草の姫と云ふぢやないか 鼻高姫よ鼻を折られな』 高『吾こそは高天原より下りしゆ 名を高姫と云ふぞ尊き』 コオ『何吐す訳も知らずに偉さうに 頬桁たたく事のをかしさ』 コ『この女郎妖幻坊の妖怪に 現をぬかす馬鹿女かも』 高『やかましい玄関先でつべこべと 恥を知らぬか木わつ葉武者共。 神館訳の分らぬ奴が来て 吾魂を汚がさむとぞする』 と云ひ乍らスタスタと踵を返し奥に入る。 コオ『これや女俺が怖くて逃げるのか どこどこ迄も追つて往くぞや』 コ『面白いとうと尻尾をまきやがつた 奥の一室にふるて居るだろ』 二人は執念深くも玄関をつかつかと上り、問答席に入つて見ると高姫は怪訝な顔して問答席に控へ居しが、二人の姿を見るより、 『どこ迄も礼儀を知らぬ馬鹿男 許しも得ずに奥に入るとは』 コオ『天地の神の道をば知らずして 図々しくも聖地に居るとは。 魂消たよおつ魂消たよ千草姫 見ると聞くとは大違ひなる』 高『何なりと勝手な熱を吹くがよい 分らぬ奴は相手にはせぬ』 コオ『甘い事云うて逃げるか千草姫 どこどこ迄も調べにやおかぬ』 コ『今日の中金毛九尾の正体を 現はし呉れむあら頼もしや』 高『奴共早く帰れよ神館 汚せば神の冥罰うけむ』 コオ『甘い事云うておどすか千草姫 尻があきれる雪隠がおどる』 コ『糞婆の癖にお白粉べつたりと 化けて居やがる金毛九尾奴』 高『貴様等は館を汚しに来たのだろ 何とも云へぬ臭い香がする』 コ『知れた事道場破りをおつ初め 尻尾出すまで戦ひ止めぬ』 高『是はまた困つた奴が来たものだ 青大将奴線香立てよか』 コオ『蛇が蛙狙つた時の如く 呑んで仕舞はにや帰りやせないぞ』 コ『山鳩が豆鉄砲を食つたよな 面してふるふ高姫をかし』 高『何なりと悪口雑言つくがよい 言霊幸はふ国と知らずに』 コオ『言霊の幸ふ国と知ればこそ 悪の言霊打ちやぶるなり』 コ『言霊を打ち出しつつ高姫の 醜の肝玉うち抜きて見む』 高『笑はせる線香のやうな腕をして 打つも打たぬもあつたものかい』 コオ『なかなかに俺は容赦は線香の 煙となつて燻べてやらう』 コ『煙たげな顔して慄ふ千草姫 灸すゑられ汗をぶるぶる』 高『胡麻の蠅見たよな奴がやつて来て 酒手貰をうと息まいて居る』 コオ『汝こそは逆手使うて聖場を 奪い取つたる曲者ぞかし』 コ『逆さまになつて謝る所まで 動きはせぬぞ二人の男は』 高『此やうな訳の分らぬ代物に 問答するのは嫌になつたり』 コオ『否応を云はさず館につめかけて 荒肝取らねば帰るものかい』 コブ『それやさうぢやコオロお前の云ふ通り 膏を取つて誡めてやらう』 高『油虫朝も早から這うて来て 神の燈明消さむとぞする』 コオ『お前こそ神の燈明消す奴よ 暗い心の醜神司』 コ『此やうな訳の分らぬ妖婆をば 相手にせずにもう去のうかい』 高『これや奴たうとう往生しよつたな 高姫さまの威勢に怖ぢて』 コオ『もう帰のと思へば又も貴様から 小言云ふ故又一戦せむ』 コ『瓢箪で鯰おさへるやうな奴 いつ迄居ても果しあるまい』 高『そろそろと奴が弱音吹きかけた 智慧の袋の底も見えたり』 コオ『何吐かす智慧は幾何もあるけれど 受取る力汝にない故』 コ『相応の道理によつて馬鹿者には 馬鹿を云ふより道もなければ』 高『負け惜み強いと云つても程がある 餓鬼畜生さへ呆れて逃げむ』 斯く、くだらぬ掛合をやつて居る所へ、大勢の老若男女が捻鉢巻して歌を歌ひ乍ら、神前に奉ると称し山車を曳いて登つて来る。高姫は此光景を見て鼻動めかし、得意満面の体で表を眺めて居ると、一昨日叩き出したヨリコ姫、玉清別、花香、ダリヤ、アル、エス及イルク、其他三五教の宣伝使の一行が、美々しく衣服を着かざり、鬱金の捻鉢巻をしながら、問答所の広庭へ山車を留め、どやどやと玄関口に上り、 ヨリコ『これはこれは千草の高姫様、一昨日は妾に取つて終生忘るべからざる結構な御教訓を賜はり、翻然として蓮の花の開くが如く、天地の道理を悟らして貰ひました。汚れ果てたる身で御座いますがお礼の為、この通り山車に供物まで満載して参りました。花香もダリヤもどうか妾から宜しく申上げて呉れとの事で御座います』 高姫は傲然として、 『善哉々々、改心が何より結構ですよ。お前さまも折角此処迄聖場を造り上げおつ放り出されて、嘸残念で御座いませうが、一旦創のついた体は至粋至純な大神様の御用は出来ませぬから、お気の毒とは思へ共、これも前世の因縁でせう』 ヨ『重ね重ねの御教訓有難う御座います。一寸妙な事をお尋ね申しますが貴女はこの聖地の神司とおなり遊した以上、一点の身に曇りは御座いますまいね』 高『お尋ねにも及びますまいよ。この高姫の身に兎の毛で突いた程でも悪事欠点があつたら、此聖地に安閑と御用をして居る事は出来ませぬ。それは天地の規則ですからねえ』 ヨ『失礼な事を申上ますが、人間と云ふものは知らず識らずに罪を犯して居るものです、もし貴女に欠点を発見した時は、この聖場をお立ち退き遊すでせうね』 高『神の言葉に二言はありませぬ。どうか妾の素性に欠点があるならお調べ下さい。何時でもこの聖場を立ち退きますから』 ヨ『そのお言葉を承はつて、百万の味方を得たやうな心地がします。ホヽヽヽ、花香、ダリヤさま、玉清別さま、アルさま、エスさまイルクさま、又再び此お館に勤めてもらはねばなりますまい、オホヽヽヽヽヽ』 と飽迄大胆不敵な態度をして見せる。 照国別はつかつかと高姫の傍に寄り、 『ヤ、高姫さま、暫くお目に掛りませぬ、私は照国別の宣伝使で御座います』 高『ナニ照国別の宣伝使。ヤアお前はウラル教から脱走して来た、ヘボ宣伝使の梅彦さまぢやないか。マアマアマア、出世したものだなア。腐縄でも三年すりや役に立つ、乞食の子でも三年すりや三つになる。お前と別れてから最早十三四年にもなるだらう。まあ結構々々これから改心して神妙に御勤めなさい。此高姫が弟子に使つて上げまいものでもない』 梅公『ヤ、千草の高姫さま、トルマン城でお目にかかりました者ですよ』 高『ハイ、如何にもお前さまは梅公別とか云ふ方だつたな、いつ見ても綺麗だこと、どうかお前さまは何処へも行かずこの神館の役員となつて勤めて下さいな』 梅公『ハイ、思召は有難う御座います、何分宜しうお願ひ申します。湖上でお目にかかりました貴方の夫、杢助さまはどちらに居られますか、一寸お目にかかり度いもので御座います』 高『ハイ杢助さまは一寸お疲れて離棟の別館でお寝みになつて居られます』 梅公『実は貴女の御成功を祝し御祝を持つて参りました。この沢山の箱包は杢助様へのお土産、この葛籠は高姫さまへの土産ですから何卒受取つて下さい』 高『ヤアどうも有難う、マア何と沢山のお土産だこと。随分沢山のお金がかかつたでせうなア』 梅公『いやどう致しまして、サア、イルクさま、玉清別さま、この箱包は全部皆の方に手伝つて貰ひ、杢助さまの別館の前迄運んで置いて下さい。そして合図をしたら一斉に蓋を開けるのですよ』 『ハイ畏りました』 と村の若者十数人はイルクが監督の下に別館にエチエチ運んで仕舞つた。梅公別は、高姫の前に葛籠を置き、 『サア、高姫さま、この葛籠を開けてお目にかけませう、貴女に取つて大変な意味あるものかも知れませぬ』 と、意味ありげに笑ひながらパツと蓋を取れば太魔の島にて真裸となし、追剥をなし、蟻の巣に投り込んだフクエ、岸子の両人が白装束を着て矗くと立上つた。高姫は打ち倒れむばかり驚いたが、遉は曲者、気を取り直し、度胸を据ゑ、 『オー、何かと思へば白鷺が一番、妾の為には此上もない贈り物、今晩の酒の肴に料つて頂きませう』 梅公はきつとなり、 『これ高姫殿お呆けなさるな、此女は太魔の島の銀杏に祈願を籠むる折、貴女が銀杏姫と名乗り、追剥なさつた事があらうがな、それのみならず計略をもつて二人を蟻の森へ追込み喰ひ殺させむと計つたでせう。まだ其上此梅公迄もたばかり、蟻に殺させようとしたではありませぬか。これでも貴女は身に欠点がないと云はれませうか、サア返答承はりませう』 高姫は答ふる言句もなく忽ち顔色蒼白となり、唇迄もふるはせて居る。 ヨ『モシ高姫さま、貴方も矢張追剥強盗をなし、謀殺を企らみ、随分善からぬ事をなさいましたね、サア如何です、之でも貴女は完全無欠の身霊と仰有いますか』 梅公は合図の口笛を吹けば、如何はしけむ数十頭の猛犬現はれ出で、ワツウワツウワツウワツウと百雷の一時に轟く如き犬の声、妖幻坊の杢助は耐り兼ね、正体を現はし、何処ともなく雲を霞と消え去つて仕舞つた。高姫は進退これ谷まり、白衣をパツと脱ぐや否や、忽ち金毛九尾白面の悪狐と還元し、雲を呼び雨を起し、大高山の方を目がけ電の如く中空を駆り姿を消して仕舞つた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 因に云ふ。玉清別は元の如くスガの宮の神司を勤め、ダリヤ姫は大道場の司となり、アル、エスの両人を掃除番となし置き、ヨリコ姫、花香姫は、照国別一行と共に聖地を去つて宣伝の旅に赴く事となりける。 (大正一五・七・一旧五・二二於天之橋立なかや別館加藤明子録) (昭和一〇・六・二五王仁校正) |
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霊界物語 | □_特別編-入蒙記 | 02 神示の経綸 | 第二章神示の経綸 明治の末葉大正の初期にかけ、思想混乱の極に達せる現実界に向つて、一大獅子吼をなし、神教を四方に伝達したる結果、恰も洪水の氾濫して大堤防を破壊するが如き勢を以て勃興したる天授の聖教、三五の聖団、其大本所在地と聞えたる綾の聖地──仏徒の所謂霊山会場の蓮華台、キリスト教徒の最も憧憬して已まざるパレスチナの聖場、オレブ山、エルサレムの聖地にも比すべき──神の本宮、桶伏山を中心とし、宏壮なる殿堂、錦の宮を建設し、四百四十四坪の八尋殿に於て、盛に主神の聖教を伝達し、既成宗教の上に卓越して、世界万有愛の教旗を飜へし、自転倒島を初め、地上の世界に無数の崇信者を有する三五教の根源地、八尋殿に於て、恆例の節分祭が執行された。此節分祭はキリスト教の所謂逾越祭の如きものである。此殿堂は五六七神政に因みて五六七殿と称へられてゐる。国照姫は地上に肉体を以て生存すること八十余年、大正七年陰暦十月三日神諭を書き了つて昇天し、其聖霊は稚姫君命と復帰し、天界に於て神政を行ひ、其遺骸は天王平の奥津城に永眠してゐる。国照姫の後継者はすでに二代三代と立並び、神教を伝達することとなつてゐる。 源日出雄は神示によつて、明治三十二年聖地に来り、水洗礼の教務を補佐し、大正十年迄神業を続けてゐた。此間殆ど二十四年、高姫の精霊の宿りたる徳島お福、菖蒲のお花、高村高造、四方与多平、鷹巣文助、其他数多の体主霊従派に極力妨害されつつも、凡ての障壁を蹴破して、十年一日の如く、神教に従事した。 梅村信行、湯浅仁斎、西田元教などの輔けはあつたが、分らずやの妨害最も甚だしく、大いに神業の進展を阻害した。 大正五年の末頃から鼻高学者等が続々と聖地に来り、大正十年に世界全滅の却託を並べ、一夜作りの霊学を称導し、三五の声望をして、一時は天下に失墜せしめた。其結果は大正十年に於て、有名なる大本事件を勃発し、次いで桶伏山、錦の宮の、乱暴至極な取毀ちとなり、源日出雄等は一時獄に投ぜられ、いかめしき閻魔の庁に引出されて、善悪邪正を審判さるることとなつた。此事件に肝をつぶし睾丸の宿換さした学者連は、数十万円の負債を投付け、日出雄以下の純真なる神の子を、千丈の谷間につきおとし、知らぬ顔の半兵衛をきめこみ、第二の計画を立て、迷へる少年をかり集めむとし、心霊会なるものを組織したが、天は斯かる暴虐を許さず、一時其傘下に集まれる猛者連は四方に散逸し、今や孤立無援の境地に立ち心霊と人生なる孤城に隠れて、切りに三五の本城に向つて征矢を放つてゐる。此間日出雄は桶伏山の山下、祥雲閣に於て、万有愛の教旗を飜し、三五の神教を伝ふべく、神示の霊界物語を口述発行し、天下に宣伝せしより、教勢頓に回復し、何れも其教理に歓喜雀躍し、洋の内外を問はず信者は日に月に蝟集し来り、昔日に優る大勢力を醸成した。 源日出雄は節分祭の済んだ後、壇上に立ちて一場の演説を試みた。 源日出雄『天地万有を創造し玉ひし独一真神主の神を斎きまつる今日は、一年一回の最も聖き祭典日であります。殊に大正十三年二月四日の節分祭は、天運循環して、甲子の聖日でありまして、吾々人間としては、十万年に一度より際会することの出来ない、最も意義ある主日であります。大神の愛善の徳と信真の光に充たされたる各国各地の役員信徒諸氏が、神縁相熟して、此八尋殿にお集まりになり、吾等と共に芽出度き大祭典に、奉仕さるることを得られましたのは、至仁至愛の主の神様の御恵みに外ならないことを、皆様と共に感謝せなくてはなりませぬ。御承知の通り、教祖国照姫命に懸らせ玉うた神様は、宇宙の創造者、天地の祖神大国常立尊でありまして、明治廿五年正月元旦、心身共に浄化したる教祖は稚姫君命の精霊を宿され、前後未曾有の聖教を、一切の衆生に向つて伝達されたのは、吾々人類の為には、実に無限絶大の賜物であります。主の神様は厳霊稚姫君命の御精霊に其神格をみたされ、地上の神人たる清浄無垢の霊身三五の教祖の肉体を終局点として来らせ玉ひ、間接内流の形式に仍つて、大地の修理固成の神業を、三界の衆生に対し洽く伝達すべく現はれ玉うたのであります。其初発の神諭には『三千世界一度に開く梅の花、艮の金神の構ふ世になりたぞよ、須弥仙山に腰をかけ、三千世界を守るぞよ』と大獅子吼をされてゐます。此神示を略解すれば、三千世界とは、神界幽界現界の三大境界であり、過去現在未来をも指して居ります。梅の花の梅は言霊学上、エと云ふことになる、エは万物の始、生命の源泉であり、用はスといふことになり、スは一切統一の意味であります。又スは清浄潔白スミキリの意味ともなる。花とは初めて成るの意であり、最初の意味であり、教祖の意味ともなる。主の神が空前絶後の大神業をいよいよ開始し、最初の御理想たる黄金世界を地上に完全に建設し玉ふといふ芽出度き意味であります。艮といへば東北を意味し神典にては日の若宮の方位であり、万物発生の根源であつて太陽の昇り玉ふ方位であります。又艮といふ字義は艮めとなり初となり固めとなり永しとなり、世の終りの世の初まりの意味となります。金神といふ意味は売卜者の云つてゐる方除けをせられたり、祟り神として排斥せられてゐるやうな人間の仮りに造つた神の意味ではなく、尊厳無比金剛不壊の意味を有し、三界をして黄金世界に完成し玉ふ救ひの神といふ、約り言葉であります。 須弥仙山といふのは、仏経にある仮想的の山であつて所謂宇宙の中心を指したものであります。日月星辰が此須弥仙山を中心に進行し、須弥仙山には三十三の天があるといつてゐるのを見ても、無限絶対なる大宇宙の意味であることが明瞭となつて来ます。此須弥仙山に腰をかけ艮の金神が守ると宣示されたのは、実に驚嘆すべき大神業の大完成を予示されたもので、万有一切は此大神の愛善の徳と信真の光に浴し、現幽神三界に亘り、永遠無窮に真生命を保ち、歓喜に浴することを得るのであります。太古に於ける現世界の住民は何れも、清浄無垢にして、智慧証覚にすぐれ、愛の善と信の真をよく体得し、直接天人と交はり、霊界も現界も合せ鏡の如く、実に明かな荘厳な世界であつたのであります。それより追々と世は降つて白銀時代となり、八岐大蛇や醜狐が跋扈し始め、智慧証覚は漸くにしてにぶり出し、降つて赤銅時代黒鉄時代と益々現実化し、妖邪の空気は天地に充満し、三界に紛争絶間なく、今や泥海時代と堕落して了つたのです。仏者は之を末法の世といひ、基督教は地獄といひ、神道家は常暗の世と称へてゐます。地上一切の民は仁慈無限の大神の恩恵を忘却し、自己愛的行動を敢てなし、互に覇を争ひ、権利を獲得せむとし、排他と猜疑と、呪咀と悪口のみを之れ事とし、仏者の所謂地獄餓鬼畜生修羅の惨状を現出することとなりました。此に於て国祖の神霊は此惨状を座視するに忍びず、神より選まれたる清浄無垢なる霊身国照姫命をして神意伝達の機関となし、万有救済の聖業を托されたのであります。故に三五の教は根本の大神の聖慮を奉戴し、神界より此地上に天降し玉へる十二の神柱を集め、霊主体従的国土を建設し、常暗の世をして最初の黄金世界に復帰せしむる御神業に仕へまつるべき大責任をお任せになつたのであります。今や天運循環の神律によつて、世界各地に精神的救世主が現はれてをります。就いては日出雄も主の神の神示に従ひ、到底此小さき教団のみの神柱となつてゐることは出来ない様になりました。今日の人間は口先では実に勇壮活溌な、鬼神も跣足で逃げるような大気焔をはき、メートルを上げてる者もありますが、愈々実地となつた時は竜頭蛇尾に終るのが一般の傾向であります。今日の人間は凡てが卑劣で柔弱で、小心で貪欲で、我利々々亡者で、排他的で、真の勇気がありませぬ。かかる汚穢陀羅昏迷の極度に達した人心に活気を与へ、神の聖霊の宿つた活きた機関として、天晴れ活動せしめむとするには、先づ第一に勇壮活溌なる模範を示し、各人間の心の岩戸を開いてやる必要がありますので、国照姫命は荒波猛る絶海の孤島冠島沓島などに、小舟で渡り、荒行をなし、或は鞍馬山の幽谷其他の霊山霊地へ自ら出修して、信徒の肝を大ならしめ、有為なる信者を作り、社会の為に至誠を尽さしめむと努められたのであります。乍併元来臆病神の巣窟となつてゐる人間は盲聾同様で、国照姫命の聖跡をふんで、其実行を試みた者は一人もなかつたのであります。勿論開祖の行かれた冠島沓島や鞍馬山へ参拝して御神業が勤まつたと思つてゐる分らずやは相当にありました。けれども其精神を汲取つて其道に大活動を続けようとする勇者は一人も出なかつたのであります。此体をみて憤慨した日出雄は三五の信徒を始め自転倒島の人間及世界の人間に模範を示す為に、神示を畏み、蒙古の大原野を先づ第一に開拓すべく、大正六年の春より、秘かに其準備に着手して居りました。古語にも南船北馬といふ語があります。どうしても東北に進むのには馬に乗ることが必要である。故に日出雄は此年より準備の一端として、四頭の馬を飼育し、背の高き馬、低き馬、おとなしき馬、はげしき馬を乗こなし、時の到るを待ちつつあつた。そこへ神示の如く、大正十年辛酉の年に至つて、事件の為再び天下の大誤解をうけ、行動の自由を失つたので、意を決し、此世界の源日出雄として活動せむと思つてゐます。どうか諸子は其の考へを以て神業に奉仕されむことを希望致します。』 と結んで降壇した。源日出雄の心中には既に既に神命を奉戴し、空前絶後の大神業を今や企てむとし、満月の如く絞つた弓の矢は近く放たれむとしてゐたのである。 (大正一四、八、一五、松村真澄筆録) |
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霊界物語 | 80_未_予讃の国の水奔鬼の物語 | 08 月と闇 | 第八章月と闇〔二〇一二〕 月見ケ丘以南は、譏り婆の水奔鬼が縄張とも称すべき魔の原野なり。譏り婆は此入口に現はれ、一行の出発を妨げむとして、小手調べの為全力を尽し、黒雲を起し、天心の月を包みて闇となし、且一行の心胆を奪はむと極力譏り散らしけるが、秋男の生言霊に打ちまくられ、旗を巻き鉾を納めて退却したりける。 再び大空の雲は、科戸の風に吹きまくられ、以前の如き明鏡の月皎々と輝き渡りて、月見ケ丘の清地は、蟻の這ふさへ見ゆるまで明くなりける。 秋男は勇みたち歌ふ。 『面白や醜の司の譏り婆は わが言霊に雲と消えたり。 魔力の限りつくして大空に 黒雲起せし婆もしれ者よ。 全力を尽せし婆の計略も 生言霊に脆く消えたり。 月見ケ丘の虫の影さへ見ゆるまで 晴れ渡りたる今宵めでたし。 譏り婆の言葉によれば弟は 笑ひ婆アに殺されしとや。 さりながら悪魔の言葉は当にならじ われを謀るの手段なるらむ。 悪神の力の底も見えにけり わが魂はいよいよかがよふ。 大空の月の鏡に照らされて 悪魔は霧と消え失せにけむ。 女郎花匂へる丘に休らひて 譏り婆アの荒び見しかな。 影かくし声のみかくる婆なれば その魔力の底も見ゆめり。 いやらしき声を張りあげ吾等をば 嚇す婆アの浅はかなるも。 これよりは二人の婆を相手とし いむかひ行かむ高光の山へ。 面白き夢の世なるよ月を見る 丘に曲津は闇の幕張る。 闇の幕はもろく破れて鬼婆は 生命からがら逃げ失せにける。 萩桔梗女郎花咲く丘の上に うつろふ月は鏡なるかも。 萩の露むすびて喉を潤ほさむ 川水ことごと毒の混れば。 水奔草の葉末の露のしたたりて 川となりぬる水は恐ろし。 葭原のよし草の間に生ひ茂る 水奔草はいまはしき草よ。 草の間に忍び棲まへる毒竜や イヂチに心注ぎて進まむ。 兎も角も天地一度に晴れし夜の 月の鏡を力に進まむ。 秋さりて野辺吹く風は涼しけれど 心せよかし毒の混れば。 果敢なくも鉾を納めて逃げ去りし 譏り婆アの卑怯なるかな』 松は歌ふ。 『松に澄む月の光はさゆらげり 野辺吹く風のすがたなるらむ。 風の道夜目にも見えて丘の上の 茂樹の梢波うちにけり。 面白き譏り婆アのわざをぎを 暗闇の幕透して聞きぬ。 一時はわが魂も戦きぬ 二十重の闇に包まれしより。 闇の幕われを包みしたまゆらに 魂はをののき消えむとせしも』 竹は歌ふ。 『心弱き松の君かなわれはただ 空吹く風とうそぶきて居し。 闇の声目当に突かむと竹槍の 穂を磨きつつわれは待ち居し。 上下に右に左に聞え来る 婆の在処を分けがてに居し。 わが君の生言霊にうち出され 脆くも鬼は破れけるかな。 魔力のあらむ限りのはたらきは かくやと思ひわれは勇むも。 肝むかふ心かためて進むべし 水奔草のしげれる野辺を。 月光はさやかなれども夜の明くるを 待ちて進まむ醜の草原』 梅は歌ふ。 『面白き譏り婆アが現はれて 泥を吐きつつ逃げ帰りけり。 暗闇の中にまぎれて譏り言 ぬかす婆アの卑怯なるかな。 笑ひ婆、譏り婆アと面白き 鬼の棲むなる醜の葭原よ。 葭原の広きに曲津は潜むとも われは飽くまで征討めでおくべき。 吾君の生言霊に怖ぢ恐れ さすがの譏り婆アも消えたり。 一度は姿消ゆれど何時か亦 譏り婆アは現はれ来らむ。 われも亦譏り散らして鬼婆の 度肝を抜いてくれむとぞ思ふ。 譏る事ならばひるまじ何処までも 人の悪口好きな吾なり。 譏り婆いくらなりとも譏れかし 悪たれ婆アの寝言と聞かむ。 ざまを見ろ生言霊にやらはれて 影も形もなきつつ逃げ行く。 どこまでも婆アの後を追跡し 譏り殺してやらねば置かぬ。 籠り木の梢に婆は小さくなりて わが言霊を震ひ聞くらむ。 彼も亦しれものなれば其姿 虫と変じて忍び居るらむ。 面白き婆アの荒びを見たりけり 姿なけれどくだけたる声』 桜は歌ふ。 『わが君の生言霊に大空の 黒雲晴れて月は覗けり。 望の夜の月を頭に浴びながら 月見ケ丘に雄猛びするかな。 虫の音も俄かに高く冴えにけり 月のしたびに露をなめつつ。 瑠璃光のひかり照して草の葉の 露はあちこち輝きそめたり。 此清き月見ケ丘におほけなくも 譏り婆アは現はれにけり。 さりながら姿かくせる鬼婆の その卑怯さにあきれかへりぬ。 ギヤハハハハとさもいやらしき声絞り われ等が肝を冷さむとせし。 曲鬼の言葉は弱く力なし 如何でひるまむ大丈夫われは。 鬼婆の力の底は見えにけり いざや進まむ亡び失すまで。 萩桔梗女郎花咲く此丘に 一夜の露の宿りたのむも。 はろばろと醜の大野を渉り来て 鏡と冴ゆる月に親しむ。 兎も角も今宵は眠らず暁を 待ちて火炎の山に進まむ。 音に聞く火炎の山は鬼婆の 手下集むる元津棲処と』 秋男は歌ふ。 『月明の夜なれば秋の百草の 花の色香もさやに見えけり。 明くるまで吾等は此処に休らひて 花と月とを賞めて待つべし。 丘の上に風に靡ける穂薄の 露にかがよふ月のさやけさ。 花薄風にゆれつつ打ち靡く 月見ケ丘の夜は静けし。 これといふ人もなき夜に穂薄の 誰を招くか聞かまほしけれ。 吹く風の吹きのままなる穂薄の 姿は弱き人に似しかも。 露しげく保つ尾花の頭重み 地にうつぶして涙垂らせり。 かくの如譏り婆アもいづれかの 野辺にうち伏し泣き伏しにけむ。 穂薄の右に左にさゆれつつ 涙の露を散らす夜半なり。 穂薄は此丘のみか道の辺に 露を浴びつつ招き居るらむ。 心地よき此秋空を穂薄の 風に靡きて暮れ行く惜しさよ。 小夜更けてわびしき丘に穂薄は いと淋しげに吾を招けり。 花薄風になびける優姿を 見つつ思ふも家なるつまを。 虫の声いとも冴えたる丘の上に 花波寄する夜半の穂すすき。 夜半の風松をそよがす度毎に 丘の尾花は袖かへすなり。 吹き払ふ風に袂を靡かせつ なほ露しげき穂すすきの花』 松は歌ふ。 『咲き匂ふ小草の花に置く露も 今宵は月の光にかがよふ。 八千草の茂みにすだく虫の音は いよいよ高く月も聞くらむ。 夜の露にぬるる袂を絞りながら 尾花を分けてのぼり来しはや。 夕さりて秋風そよぐ此丘に のぼれば松に月はさゆるる。 吹く風の音につくづく秋を知る 月見ケ丘の露のやどりに。 淡く濃く染め出したる紅葉の かげ一色に見ゆる月の夜。 黒雲に包まれたれどしら百合の 花は真白く見えにけらしな。 鬼婆も月見ケ丘の風光に 憧れて夜な夜な来り見るらむ』 竹は歌ふ。 『吹き荒ぶ風に葉末の露ちりて わが裳裾まで湿らひにける。 鬼婆の涙の露か知らねども わが衣手は重くなりぬる。 はかなきは露の生命か風吹かば ただに散りゆく鬼婆の影。 此丘の月のしたびに輝ける 露の白玉見るもさやけし。 鬼婆に唆されて是非もなく 月見ケ丘に夜を明しける』 梅は歌ふ。 『葭原の葭の葉末を吹きて来し 風の響きは濁らへるかも。 丘の上に一本老松くつきりと 月下にたちて葉の色黒めり。 丘の上の赤土の上に松の影 描きて月は西渡り行く。 明日の日は醜の大野をのり越えて 岩の根木の根踏みさくみ行かむ。 葭草の生ひ茂りたる低所 さけて通らむ薄生ふる野を。 高き地は穂薄なびき低き地は しめりて葭草茂らへるかも』 桜は歌ふ。 『ほのぼのと東の空は白みけり 西行く月のかげうすらぎて。 やがて今豊栄のぼる日の光を 力とたのみ南に進まむ。 南の空に聳ゆる火炎山は ほのかに見えて霞棚引く。 火炎山かすみの帯をしめながら 曲鬼数多かかへ居るらし。 東の御空つぎつぎ明らみて 数多の星はかくろひにけり』 これより一行は、火炎山方面さして、やや高き原野を伝ひながら、宣伝歌をうたひ南進する事となりぬ。 (昭和九・七・二七旧六・一六於関東別院南風閣白石恵子謹録) |
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大本神諭 | 神諭一覧 | 大正4年旧6月22日 | 大正四年旧六月二十二日 綾部の大本は初発から何ンな鑑も出て居る気遣いな所であるぞよ。善い鑑と悪い鑑と向後は立別るから、従来に厳しき鑑が出て居るのに、身の慎みの悪い守護神に使はれて居る肉体は悪るい鑑に成りて居るぞよ。此内部は今では和光同塵にあるなれど、斯ンな行方でない、まだまだ厳しう成るから、何彼の事を心得て居らんと、何ンな辛抱でもして、天地の御恩といふ事を、世界へ知らせな置くものかといふ、誠心のある守護神に使はれて居らんと、今の世の行方の守護神では肉体が間に合はんぞよ。初発に何ンな鑑も出してあるから、今から気の弛むやうな守護神に使はれて居ると、整理陶汰が始まると逃げて去な成らん様な事の無いやうにして貰はんと………。初発に些と行したと申して偉さうに申しても、真正の行が出来て居らんから、途中に楽な遣り方でやりて、他を誹りて………。自己の行が出来て居らんから、他を悪口言ふのが、一番神は気に損るから、悪い事は親切があるなら蔭で申さんと、当人に気を附けてやるのが、真正の親切である。 |
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伊都能売神諭 | 神諭一覧 | 大正8年1月2日 | 大正八年一月二日 釈迦は照寺、五十鈴川曇る、愛の月照弥満朝雨が降る。仏が栄えて、何処も彼所も寺ばかりで、肝腎の天照皇太神宮の御宮まで、一旦は奥の院に阿弥陀仏を祭り込み、大神様を有る甲斐なしに致して、日本の国魂までも曇らして了ふて、其の国魂の精を享けて生れた神国の人民は、大神の御神体なる八咫御鏡言霊までが曇りて来たので、其れから生れた人民が天気の小言を申すやうに成りて、段々と天地を曇らして来たから、何時も天災地変の起り詰であるぞよ。天地の変災は皆人民の心と言霊が濁りて居るから、一年増しに多くなる斗りであるから、日本の言霊の幸ひ天照る国の人民は、第一番に心の立替立直しを致して言霊を清め、善言美詞を用ふて、天地の神様と人民の心を和げん事には、何時迄も天災地変が治まると云ふ事はないぞよ。今の人民は一人も善言美詞を使ふものは無い斗りか、日夜に人の悪口斗り申して歓こび勇み、何んど悪事醜行が新聞にも出ては来んかと、夫れ斗りを待ちて居る曇りた人民斗りで、外国人よりも精神が悪く汚れて居るから、天に坐します大神様が堪忍袋を切らし遊ばして、何うしても世の立替を一度に致さねば成らぬと申されるのを、艮の金神が是まで開けた世界を潰されては、何にも知らぬ人民が可愛相なり、一人なりとも改心さして残してやりたいと思ふて、天の御先祖様に日時を延ばして戴き、斯世を潰さずに大難を小難に祭り替て下さるやうに、大出口直の体内に憑りて今迄御詫をいたして居りたなれど、今の守護神人民が一寸も聞いて下さらぬから、止むを得ず艮の金神変性男子大出口の神は、手を曳きて天へ帰りて守護を致すやうに成りたから、世界に何事が出来致しても、艮の金神と大出口の神に不足は申されまいぞよ。二十七年に渡りてクドウ気を付けておいたぞよ。いよいよ仁愛神様の御出ましに成りて、月の大神様の御守護と相成りて、瑞の御魂の御用が廻りて来たから、月の大神様が暗の世を隅々まで御照遊ばして、日の出の守護となると、罪悪の深い国々、所々、家々、人々に火の雨が降ると申して、昔から愛の土山雨が降ると申して謳を作りて、神から気が付けて有りたなれど、盲目聾に化り切りた日本の人民が、能う解けんから、艮の金神が日本の守護神や人民に、説いて聞かして改心さして、身魂を助けてやり度いと、一心に心を砕いて、明治二十五年から変性男子の体内を借りて知らしたなれど、今に一寸も解らぬやうな守護神人民は、気の毒でも止むを得ずの惨事が出来いたすなれど、誰を恨める様も無い事に成りて居るぞよ。昨年の十二月二十七日には、東京で蛙の集会が初まりたが、今度の集会は何年とは変りて居ろうがな。其日に綾部の大本へは神界の経綸の世界の国魂が集りて、千秋万歳楽の基礎が定まりたのも、五六七の大神様の御命令であるぞよ。結構な国の基になる十二の宝が集りて来たから、モウ此の先は何彼の事が迅くなりて、経綸が段々と人民の眼にも判るやうになりて来るぞよ。是から世界は十二ケ国に約まりて日本の一つの王で治まるのであるが、其所へ成る迄には世界に大混雑が湧いて来るから、余程確りと腹帯を締ておかんと、途中で腹が破れるやうな事が出来いたすぞよ。 大正八年一月二日、旧十二月一日、甲寅の日竜宮館に艮の金神変性女子に憑りてしるしおく。 |