| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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61 (1848) |
霊界物語 | 24_亥_豪州物語1(高姫と蜈蚣姫) | 08 島に訣別 | 第八章島に訣別〔七三八〕 (玉治別)『神の経綸も白浪の三つの御玉を探らむと 執着心の何処までも深き海原に浮びつつ 此世の瀬戸の海越えて家島高島小戸島 国城山の岩窟に砦を構へて瑞宝の 所在を探す蜈蚣姫心も同じ高姫が やうやう妥協を整へて再び船に棹をさし 梅島竹島桜島馬関の海峡乗越えつ 神の恵も大島や栗島岩島竹野島 尚も進んで琵琶の島南洋一の霊場と 噂に高き竜宮島玉の所在を探るべく 尋ね来るぞ果敢なけれ吾は聖地に現れませる 言依別の神司稜威の御言をかかぶりて 再度山の山麓に尋ねて来る折柄に 玉能の姫の物語三五教の高姫は 玉に心を奪はれて荒き海路を渡りつつ 南洋さして出で行きし話を聞くより矢も楯も 耐り兼ねたる玉治別の天地に通ずる真心は 玉能の姫を動かせて新に堅き船造り 御後を慕ひ来りけり馬関の瀬戸を過ぐるとき 波に漂ひ船を破り岩に喰ひつき泣き叫ぶ 二三の人の影を見て船を近寄せ眺むれば バラモン教の宣伝使友彦初め三五の 神の教の信徒と仕へ奉りし鶴さまや 清さま武さま四人連九死一生の有様を 救うて漸く此島に来りて見れば海端に 落ちたる笠は高姫の此処に居ませる印ぞと 心も勇み身も勇み青葉茂れる木の間をば 潜りて此処に来て見れば雄滝雌滝と相並び 天下に無比の絶景と憧憬れ居たる折もあれ 忽ち包む深霧に咫尺を弁ぜず一行は 雄滝の前に佇みて様子窺ひ居たりしが 雌滝の方より聞え来る怪しき女の叫び声 何事ならむと気を苛ち助けむものと思へども 咫尺弁ぜぬ霧の中手を下すべき由もなく 心をいらつ一刹那忽ち吹き来る科戸辺の 神の伊吹に払はれて一望千里の晴れの空 小路を伝ひ来て見れば高姫さまの一行が 愈此処に立籠り禊の修業の最中と 覚りし時の嬉しさよあゝ惟神々々 御霊幸ひましまして高姫さまの胸の中 一日も早く晴らせかし吾は玉治別の司 玉能の姫や初稚姫の誠の御言に従ひて 汝が命を救はむとやうやう此処に来りたり 嗚呼高姫よ其外の神の大道を歩む人 心平に安らかに吾一行の真心を うまらに詳細に聞召せ』 と歌ひつつ男女七人、高姫の前に立ち現はれ、歌に装ひて来意を述べ立てたり。 高姫は一行の姿を眺め、 高姫『ヤアお前は玉能姫と初稚姫さま、それに玉治別の田吾作どの、何用あつて執念深く高姫の後を付け狙うてお出でたのだ。矢つ張り玉の所在を探されてはならないと思つて、夜も碌々寝られず、こんな所迄調べに来たのだらう。遥々と御遠方の処御苦労様。よもや高姫が此島に居るとは思はなんだでせう。サアかうなる以上は玉を隠したのは、此竜宮島に間違ひない。百日余りも探して見たが、何分大きな島だから充分に調べる訳にも行かず、サアよい処へ来た。今度は玉の所在を明瞭言ひなされ』 玉能姫は静かに、 玉能姫『高姫さま、何程お探し遊ばしても、三十万年の未来でなければ、三つの神宝は現はれませぬ。妾は決して貴女方の玉探しを、気に懸けて参つたのではありませぬ。初稚姫様が教主言依別命様の命を奉じ、高姫さまは玉に心を奪はれ、いらぬ苦労をなさるのが気の毒だから、お迎ひ申して来いとの御命令、船は流され嘸お困りだといふ事を、神様が先にお分りだから、二つの船を持つてお迎ひに来たのです。どうぞ吾々の此処へ来た事を善意に解して下さい』 高姫『これはこれは何から何まで抜け目のない言依別命。……初稚姫、玉能姫さま、船を二艘も持つてようマア来られました。誠に御親切有難いと申したいが、さう安々とお礼を申されぬ理由が……ヘン御座いますワイ。あれだけ此高姫に揚壺を喰はし、喜んで居る言依別命に海洋万里の此島迄私を助けに来る親切があれば、玉隠しをしたりして我々を苦しめる道理がない。元をただせば此高姫がコンナ処まで来て、あらゆる艱難苦労するのも、みな言依別命、初稚姫、杢助、玉能姫様のお賢い悪智慧のお蔭ですワイ。ようマアこれ丈人に心配をかけて下さつた。何程高姫の機嫌をとらうと思つても其手には乗りませぬぞえ』 玉治別は口を尖らせ、 玉治別『何とマア執念深き訳の分らぬ高姫だなア、命からがら小舟に乗つて、万里の波濤を渡り助けに来ながら、こんな小言を聞かうとは思はなかつた。……高姫さま、お前さま、本当に没分暁漢だなア』 高姫『コレ田吾作どの、何をツベコベと横槍を入れるのだイ。お前は宇都山村で、芋の赤子さへ大切に育てて居れば性に合ふのだ。言依別の珍らしもの喰ひに抜擢されて宣伝使になり、玉治別の名を戴いたと思うて、変性男子の系統の生宮に、何をツベコベほざくのだ、スツコンで居なさい。あまり偉相に云ふと此島の熊蜂が遣つて来て……それ其処に居る蜈蚣姫の様な目に遭はされますよ』 と言葉尻をピンとはねて体を揺り、蜂を払ふ様な態度にてパタパタと羽ばたきして見せる。玉治別は初めて其処に蜈蚣姫の倒れて居るに気付き、一生懸命に神言を奏上し、言霊を唱へ鎮魂を施した。不思議や蜈蚣姫の腫は刻々にひすぼり、忽ち元の姿に復り、玉治別に向ひ両手を合せ、涙を滝の如く流し感謝の意を表して居る。 高姫『コレハコレハ蜈蚣姫さま、お仕合せな事、妾が今救けて上げようと思つて、色々神様に願つて居つた所、半時ばかりの間に全快させてやらうと、日の出神が仰有つて恰度今半時許り経つた所だ。其処へ玉治別がやつて来て烏のおどしの様な恰好して鎮魂をしてそれで癒つたと思ふと大きな間違ひ、恰度好い時刻に来よつて自分が癒した様に思うて、お前さまの感謝の言葉を手柄顔に偉相に、……蚯蚓切りの蛙飛ばしの癖に、鎮魂に、神力があつてたまりますか。コンナ男に病気が癒せる位なら、妾は既に神様の宣伝使はやめて居りますよ』 蜈蚣姫『ドチラのお蔭だか知りませぬが、有難う御座います。然し高姫さま、貴女の最前濃霧に包まれた時、……貫州だけ助けて下され、蜈蚣姫は御都合でドウなとして下さい……と祈つて居ましたねエ。随分水臭いお方ですワ』 高姫は無言。 玉能姫『貴女が噂に聞きました蜈蚣姫様で御座いますか。これは珍らしい所でお目にかかりました。妾は生田森の玉能姫で御座います。此小さい女の方は聖地に於て有名な初稚姫様で御座います』 蜈蚣姫『さうかいナア。……お前がアノ梃でも棒でも動かぬ玉能姫だな。さうして頑固者の杢助の娘と云ふのは此奴かいなア。ホンニ一寸小賢しい悪気の有りさうな、無ささうな顔をして居るワイ、オホヽヽヽ。……ヤアお前は糞まぶれになつて逃げて来た友彦ぢやないか。大方妾の後を追ひ、娘に逢はうと思つて来たのだらう。エヽ穢らはしい。友彦の糞彦、サア、トツトと帰らつしやれ』 友彦『私は決して小糸姫に未練があつて参つたのではありませぬ。淡路島の酋長東助様が、私の大罪を赦して下さいまして、其代り御一同をお助けする為めに船を持つて行けと命ぜられ、清さま、武さま、鶴さまと一緒に後を追うて参つたのです。東助様に神様がお告げ遊ばしたには、お前さまは南洋のアンボイナ島で船をとられるに違ひないから、船を持つて迎ひに行つて来いと仰有られて、情深い東助様が、お前を助ける様に私をお遣はしになつたのだ。東助さまにお礼を申さねばなりませぬぞえ。高姫さま、蜈蚣姫さま、どうです。これでも不足を云ふ処がありますかい』 高姫『友さま、イランお世話だ。誰が助けて呉れと頼みました。自分が勝手に口実を設けて、玉の所在を探さうと思ひよつて来たのだらう。ヘン阿呆らしい。誰がお礼を云ふ馬鹿があるものかい。いい加減に人を馬鹿にして置きなさい。余人はイザ知らず、此高姫に限つて、ソンナ巧妙な嘘を喰ひませぬわいなア。オホヽヽヽ』 と一言々々肩から胴体を揺つて嘲弄する。友彦は疳筋を立て、 友彦『私は何程嘲笑されても不足を云はれてもかまはぬが、さういふ挨拶をされて東助様に対して、ドウいふ返事をしてよいか分りませぬ。何とか其処は人情を弁へての御挨拶が有りさうなものですなア』 高姫『ヘン、巧い事を仰有いますワイ。人を家島に放つたらかして、東助の野郎、清、武、鶴の三人を引捉へ、気楽さうに追分を歌つて帰んだぢやないか。それ丈け親切があるなら、ナゼ私を家島へ放つて帰んで仕舞つた。ナント巧い事を云うても、事実が事実だから仕方がありますまい。オー恐や恐や、虫も殺さぬ様な面をして居るチツペの初稚姫や玉能姫が、此年寄に素破抜きを喰はして、玉隠しをやると云ふ世の中だから、油断も隙もあつたものぢやないワイなア。何程親切にして見せて下さつても、心から親切でない以上は、有難いともナントモ思ひませぬ。却て其仕打が憎らしい。イヒヽヽヽ』 と上下の歯をけたりと合はせ唇を四角にして、前に突出して見せる。 友彦『高姫さま、あまりぢやありませぬか。東助さまはアヽ見えても、親切な方ですよ』 高姫『親切ぢやと云つて船頭位をして居る奴が何になるか。日の出神の天眼通でチヤンと調べてある。船頭社会のヤンチヤで家も何も無い奴だらう。偉さうに国城山に清、鶴、武を来させよつて、一廉酋長だとか金持だとか吐しよつて、態とに八百長で友彦を引縛つて帰り、其後を追かけて来たのだらう。船頭が賃銭なしに誰がお前達をよこすものか。又お前達も日頃の泥棒根性を発揮して、高姫が玉を発見したら、フンだくつて帰らうと思うて来たのに違ひない。三百両フンだくつたり、人の女房を狙ひそこねて、雪隠を潜つて逃げ出したりする様な男が、何んな巧い言を云うても駄目だ。モツト人格のある男が云ふのなら、一つや半分は承知をせまいものでもないが、お前の様な泥棒根性の男や、清、鶴、武の様な裏返り者の云ふ事が、ドウして、……ヘン信じられますか。初稚姫、玉能姫、田吾作だとて其通りだ。七人が腹を合せ、高姫や蜈蚣姫の手柄を横取りしようと思つてやつて来た其計略、仮令千万言を尽し弁解しても……ヘン、だアめですよ』 と両手を前の方にニユウと突き出し、腰を曲め、尻を縦に振つて、蛙の如く二三間前にピヨンピヨン飛んでキヨクツて見せる。 蜈蚣姫は気の毒がり、 蜈蚣姫『高姫様が何と仰有ろうとも、どうぞお気に障へて下さいますな。あの方は一寸変つて居ますから、妾は船を持つて来て下さつたのが何より有難い。玉能姫様、初稚姫様有難う。此通りお礼を申します』 と涙を流しながら両手を合して心の底より感謝する。 玉能姫『何これしきの事に、お礼を仰有つて下さつては、玉能姫一行、却て恥かしい様な気が致します。世の中は相身互ひで御座います。天が下に他人だの敵だのと云ふ者が有らう道理が御座いませぬ。サア何時迄も斯様な所に居られましても、玉は決して出ては参りませぬ。早く帰りませう』 蜈蚣姫『ハイ有難う。ソンナラ船を持つて来て下すつたのを幸ひ、妾は娘の小糸姫に逢ひたくてなりませぬから、竜宮の一つ島に渡りますから、どうぞ一艘の船をお貸し下さいませ』 玉能姫『二艘持つて参りましたから、一艘丈はどうぞ、御自由にお使ひ下さい。……サア高姫様、妾と一緒に聖地に帰りませう。お供致しますから』 高姫『ナント云つても此処は一寸も動きませぬぞへ、高姫は』 玉治別は、 玉治別『ソンナラお前さまの御勝手になさいませ。……サア皆さま、帰りたい方は船に乗つて帰りませぬか。居りたい方は手を上げて下さい。一、二、三……ヤア何方も帰りたいと見えます。一人も居りたい人はないと見えます。一寸も動かないと仰有つた高姫さまでさへも手を上げなさらぬワイ』 高姫『誰が田吾作の命令に服従して、この尊い手を安々と上げたり下げたりしますかいナア。ササ早う往つて丈夫な船に乗りませうかい』 とムクムクと起上り、浜辺を指して一目散に走つて行く。一同は高姫のあとに付き添ひ浜辺に向ふ。高姫は早くも一艘の船に飛び乗り大勢を残し、只一人海の中に遠く漕いで走り行く。 玉治別は舌をまきながら、 玉治別『ヤア高姫の奴、怪しからぬ事をしよる。大きい好い船に只一人乗りよつて此小船に是丈けの者が乗るのは大変に険難だ。波の静かな時は好いが、チツトでも波が立つたら遣り切れない。困つた事になつたものだ』 と磯端に地団駄踏んで口惜しがつて居る。一方高姫はメラの滝の麓に肝腎要の印籠を忘れた事を思ひ出し、イヤイヤ乍ら再び船を漕いで此方へ帰り来る。 玉治別は手を拍つて、 玉治別『ヤア、さすがの高姫も沖まで出て恐くなつたと見え、後戻りして来をる。偉さうに云つても流石は女だ。これでは日の出神の生宮も好い加減なものだなア。アハヽヽヽ』 一同『オホヽヽヽ』 大勢一度にドツト笑ふ。此時長途の航海に馴れた手で、艪を操り矢を射る如く戻つて来た高姫は、 高姫『皆さま、一寸漕いで見たが随分面白いものだ。是なら仮令百里千里漕いだところで大丈夫だよ。妾はメラの滝に落し物をしたから、五六丁の所だから往つて来るよつて待つて居て下さいよ。……コレコレ貫州、玉治別さま、妾に付いてお出で、若し船を出されちや大変だから……』 貫州、玉治別は口を揃へて、 玉治別、貫州『滅相な、吾々両人は揃ひも揃うて足の裏を竹の切り株に突き、一歩も歩けないのだよ。吾々一同は此海の景色を眺めて待つて居るから、貴女一人行つて来て下さい、決してお前さまのやうに意地の悪い事はせぬからなア』 高姫は慌しくメラの滝の方に向つて、青葉を縫うて姿を隠したり。其間に玉能姫、初稚姫、玉治別、清、鶴、武の六人は新しき船に乗り込みぬ。蜈蚣姫、友彦、久助、スマートボール、お民其の他二人は、稍古き小船に身を寄せたり。さうして手早く纜を解き、十間ばかり陸をはなれて面白可笑しさうに笑ひさざめき居る。そこに高姫は印籠を引掴み、スタスタと走り来り、 高姫『妾に応答もなしに…………何故船を出したのだい。サア、早く船を漕いでこちらへ寄せなされよー』 玉治別は新船を、友彦は古船を一生懸命に漕ぎ出す。一刻々々陸地を遠ざかる。高姫は声を限りに、 高姫『オーイその船、此方へ寄せるのだー』 友彦『ナンダか知らぬが、友彦が漕げば漕ぐほど船が先へ行くのだよ』 と歌を謡ひながら、意地悪く沖に向つて漕ぎ始めける。高姫は赤裸になり、印籠を口に銜へ、着物を頭にくくりつけ、抜手を切つて蜈蚣姫の乗つた古船に向つて泳ぎ行く。友彦は相変らず急いで艪を漕ぐ。蜈蚣姫は、 蜈蚣姫『コレコレ友彦、ソンナ意地の悪い事をするものでない。高姫さまの心にもなつて見たがよからう』 友彦『余り口が好いから改心の為めに、友彦が一寸いちやつかしてやつたのです。ソンナラ待ちませうか』 と艪の手を休める。高姫は命カラガラ漸くにして船に喰ひつきぬ。スマートボール、貫州は高姫の両手を持つて、やつとの事で船の中に引上げた。 玉治別は艪を操つりながら此場を見捨てて何処ともなく帰り行く。……高姫、蜈蚣姫一行を乗せた船は友彦に操られ、西南の縹渺たる大海原を指して進み行く。 (大正一一・七・二旧閏五・八谷村真友録) |
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62 (1849) |
霊界物語 | 24_亥_豪州物語1(高姫と蜈蚣姫) | 09 神助の船 | 第九章神助の船〔七三九〕 神が表に現れて善と悪とを立別ける 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも高姫生命を棄つるとも 島の八十島八十の国山の尾の上や川の末 海の底まで村肝の心到らぬ隈もなく 探さにや措かぬと雄猛びし矢竹心の矢も楯も 堪りかねたる玉詮議左右の目玉を白黒と 忙しさうに転廻し善と悪との瀬戸の海 牛に曳かれて馬の関狭き喉首乗り越えて 数多の島々右左眺めて越ゆる太平の 波を辷つてアンボイナ南洋諸島の其中で 珍の竜宮と聞えたる芽出度き島に漕ぎつけて 玉の所在を探す内綾の高天の聖地より 玉照彦の神言もて初稚姫や玉能姫 玉治別の三人は再度山の山麓に 生田の森にて足揃ひ船を準備へ高姫が 危難を救ひ助けむと潮の八百路を打渡り 漕ぎ来る折しも霧の中仄かに聞ゆる叫び声 唯事ならじと船を寄せよくよく見れば此は如何に バラモン教の宣伝使友彦初め清鶴や 武の四人が船を破り生命の綱と岩壁に 力限りにかぢりつき救けを叫ぶ声なりし 玉治別は快く四人の男を救ひ上げ 率ゐ来りし伴舟に友彦其他を救ひつつ 男波女波を打渡り雄滝雌滝の懸りたる 雄島雌島の合せ島アンボイナ島の竜宮へ 船を漕ぎつけをちこちと青葉茂れる山路を 濃霧に包まれ千丈の瀑布の音を知るべとし 近より見れば滝津瀬の漲り落つる音ばかり 一行七人滝の前に佇み此れの絶景を 驚異の眼をみはりつつ其壮烈を歎賞し 涼味に浴する折柄に濃霧を透して婆の声 常事ならじと近寄りて窺ひ見れば高姫の 腕は血潮に染りつつ団栗眼を怒らして 面をふくらせ何事か囁く側に蜈蚣姫 妖怪変化に擬ふなる化物面を曝しつつ 滝の麓に倒れ居る玉治別は驚いて 手負に向つて鎮魂の神法修し一二三四 五六七八九十百千万と言霊の 霊歌を頭上に放射せば幾許ならず蜈蚣姫 元の姿に全快し地獄で仏に遭ひし如 心の底より感謝しつ嬉し涙に暮れにけり 玉治別の一行は探ね来りし高姫の 所在を知つた嬉しさに真心こめていろいろと 言依別の命令を完全に委曲に宣りつれど 心ねぢけし高姫は情を仇に宣り直し 相も変らず減らず口叩いてそこらに八当り 憎々しげに罵れば流石無邪気の一行も 呆れて言葉なかりけりヤツサモツサの押問答 やうやう治まり一同は二隻の船に分乗し 玉治別の操れる船には初稚玉能姫 鶴武清の六人連波を乗り切り竜宮を 後に眺めて離れ行く残りの船は友彦が 艪を操りつ蜈蚣姫高姫貫州久助や スマートボールやお民等の一行を乗せてやうやうと 波ののた打つ和田の原西南指して進み行く 前後左右に駆けまはる海蛇の姿眺めつつ 轟く胸を押隠し心にも無き空元気 船歌うたひ友彦が力限りに炎天の 大海原に搾る汗ニユージランドの手前まで 進む折しも暴風に吹きまくられて浪高く 危険刻々迫り来る左手に立てる岩山の 影を目標に漕ぎ寄せて難を避けむと進み寄る 鬼か獣か魔か人か得体の知れぬ影二つ 猿の如く岩山を駆けめぐり居る訝かしさ 此世を造りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直し聞直し 身の過ちは宣り直す神の救ひの船に乗り 大海原に漂へる此岩島を一同が 生命の親と伏拝みここに小船を止めつつ アヽ惟神々々御霊幸はひましませと 祈る言霊勇ましく雷の如くに鳴り渡る 此神言を聞きしより二つの影は嬉しげに 此方に向つて下り来る神の仕組ぞ不思議なる。 友彦は怪しき二つの影を見て、 友彦『ヤア高姫さま、蜈蚣姫さま、愈願望成就の時節到来、お喜びなさいませ。貴女のお探ねになる代物は漸く此島に在ると云ふ事が、的確に分つて来ましたよ』 高姫吃驚した様な声で、 高姫『エヽ何と仰有る。あの玉が此島に隠してあると云ふのかい』 友彦『御覧の通り、真黒黒助の、ア…タマが二つ、如意宝珠の様にギラギラした目のタマが四つ、貴女方を歓迎し、上下左右に駆けめぐつて居るぢやありませぬか。ありや屹度玉の妄念ですよ。黄金の隠してある所には何時も化物が出ると云ふ事だ。彼奴はキツト如意宝珠の精が現はれ、人に盗まれない様に保護をして居た所、焦れ焦れた……言はば……玉の親のお前さまがやつて来たものだから、再び腹の中へ呑み込んで帰つて貰はうと思ひ、妄念が現はれて玉の所在を知らして居るのに違ひない。コンナ所に……さうでなければ黒ン坊が住居して居る筈はない。キツトさうですよ。女の一心岩でも突き貫くとやら、あの通り岩を突き貫いて玉の精が現はれたのでせうよ』 高姫は目をクルクルさせ乍ら、二つの影を凝視め、 高姫『如何にも不思議な影だ。どう考へてもコンナ離れ島に船も無し、人の寄りつく道理がない……サア蜈蚣姫さま、あなたはモウ玉に執着心は無いと仰有つたのだから、微塵も未練はありますまいな』 蜈蚣姫『妾はアンナ黒ン坊にチツトも執着心は有りませぬ』 高姫『さうでせう。それ聞いたら大丈夫、サア是れから貫州と二人此岩山を駆け登り、玉の所在を探して来う……イヤイヤ待て待て、腹の悪い連中、岩山の上へあがつて居る後の間に、蜈蚣姫さまに船でも盗られたら、それこそ大変だ。……サア貫州、お前は此船の纜をキユツと握つて放す事はならぬぞえ。……モシ蜈蚣姫さま、お付合に従いて来て下さいな』 蜈蚣姫『オホヽヽヽ、さう御心配なさらいでも、滅多に船を持つて逃げる様な事はしませぬ……とは請合はれませぬワイ』 高姫『サアそれだから険難だと云ふのだ。わしの天眼通は、お前さまの腹のドン底までチヤーンと見抜いてある。それが分らぬ様な事で、どうして日の出神の生宮が勤まるものか……アヽ仕方がない。貫州、お前御苦労だが、玉の所在を、あの黒ン坊に従いて探して来て呉れ。わしは蜈蚣姫さまの監督をして居るから……アーア油断も隙も有つたものぢやないワイ』 蜈蚣姫『オツホヽヽヽ、よう悪気の廻るお方ですな。お前さまは宝を見ると直にそれだから面白い。恰度、犬コロが三つ四つ一所に集まり、顔を舐めたり、尾を嘗めたりして互に睦まじう平和に遊んで居る、其処へ腐つた肉の一片を投げて与ると、忽ち争闘を始め、親の讐敵に出会うた様に喧嘩をするのと同じ事、お前さまは宝が……まだ本当に有るか無いか知れもせぬ前から、目の色まで変へて騒ぐのだから、本当に見上げた御精神だ。いつかな悪党な蜈蚣姫も腹の底から感服致しました。………スマートボール、お前は貫州さまと一緒に黒ン坊の側へ行つて、万々一玉が有ると云ふ事が分つたら、外の二つの玉は如何でも良いから、金剛不壊の如意宝珠を、非が邪でもひつたくつて来るのだよ。此蜈蚣姫ぢやとて、性来から善人でもないのだから宝の山へ入り乍ら手振りで帰る様な馬鹿ぢやない。今迄の苦労を水の泡にはしともないから、わしも犬コロになつて、力一杯争うて見ませうかい。オツホヽヽヽ』 高姫『一旦お前さまは小糸姫にさへ会へばよい、玉なぞに執着心は無いと、立派に仰有つたぢやないか。それに何ぞや、今となつて子と玉の変換をなさるのかイ』 蜈蚣姫『変説改論の持囃される世の中だから当然さ。……コレ、スマートボール、高姫さまが何程鯱になつても、味方と云へば貫州さま唯一人、あとは残らず蜈蚣姫の幕下計りだ。寡を以て衆に敵する事は到底不可能だ。何程多数党が横暴だと国民が叫んでも、何程少数党が正義だと云つても、矢張多数党が勝利を得る世の中だもの、泰然自若、チツトも騒ぐに及びませぬ。他人の苦労で徳とると云ふ事は恰度此事だ。高姫さま、御苦労乍ら貴女、玉の所在を査べて来て下さいな。同じ大自在天に献上するのだもの、誰が取つても同じ事、それに貴女は私に玉を取らそまいとする其心の底が分らぬ。大自在天様を看板に、ヤツパリ三五教の大神に献上する考へだらう。何程布留那の弁の高姫さまでも、心の中の曲者を隠す事は出来ますまい……あのマア迷惑相なお顔付、オツホヽヽヽ』 とワザと肩を揺り、高姫流の嘲笑振りをして見せる。斯かる所へ二人の黒ン坊、断崖絶壁に手をかけ足をかけ、大勢の前に下り来り、 チャンキー『わしはチヤンキー、も一人はモンキーと云ふシロの島の住人だが、三年前に鬼熊別の御娘小糸姫様を御送り申して、竜宮の一つ島へ渡る途中暴風に出会ひ、船を打割り、辛うじて此島に駆けあがり、生命を助かり、蟹やら貝などを漁つてみじめな生活を続けて来た者ですがどうぞお前さま、吾々二人を船に乗せて連れて帰つて下さいませ』 と手を合して頼み入る。毛は生え放題、髭は延び次第、手も足も垢だらけ、目のみ光らせて居る。二人の姿を間近く眺めた一同は、此言葉を半信半疑の念にかられ乍ら聞いて居る。蜈蚣姫は胸を躍らせ、 蜈蚣姫『ナニ、お前は小糸姫を送つて来て難船したと云ふのか。さうして小糸姫は何処に居りますか』 チャンキー『サア何処に居られますかな。私たちは男の事でもあり、漸く此島にかぢりついたのだが、あまりの驚きで如何なつた事やらトツクリとは覚えて居りませぬ。大方竜宮へでも旅立たれたのでせう』 蜈蚣姫『竜宮と云ふのはオーストラリヤの一つ島の事かい』 モンキー『サア其一つ島へ行く途中に難破したのだから、竜宮違に、乙米姫様の鎮まり玉ふ海底の竜宮へお出でになつたのでせう。本当に綺麗な女王の様な方で、今思ひ出しても自然に目が細くなり、涎が流れますワイ。アヽ惜しい事をしたものだ』 と憮然として語る。蜈蚣姫は今迄張詰めた心もガツタリと、其場に倒れ身震ひし乍ら船底にかぶりつき、忍び泣きに泣き居る。高姫は蜈蚣姫の此悲歎に頓着なく、チヤンキー、モンキー二人の胸倉をグツと取り、 高姫『これ、チヤン、モンとやら、お前は誰に頼まれて玉を隠したのだ。玉能姫か、言依別か、但は此処に居る連中の誰かに頼まれて隠したのだらう。よう考へたものだ。コンナ遠い岩山に埋没して置けば如何にも知れぬ筈ぢや。私も今迄立派な立派なアンボイナ島や、大島や、小豆島を探さうとしたのが感違ひ、アヽ時節は待たねばならぬものだ。サアもう斯うなつた以上は、お前が何と云つて弁解しても白状させねば置かぬ。何程隠しても、斯んな小つぽけな島、小口から岩を叩き割つても、発見するのは容易の業だ。隠しても知れる、隠さいでも知れるのだから、エライ目に遇はされぬうちにトツトと白状したがお前の得だよ』 チヤンキー、モンキーの二人は寝耳に水の此詰問に、何が何やら合点ゆかず頭を掻き乍ら、 チャンキー『今貴女は玉を隠したとか、どうとか仰有いますが、一体何の玉で御座いますか』 高姫『オホヽヽヽ、よう白ばくれたものだなア。それ、お前が玉能姫に頼まれた如意宝珠の玉だよ。それを何処に隠したか、キツパリと白状しなさい』 チャンキー『ソンナ事は一切存じませぬ』 モンキー『玉ナンテ名も聞いたこたアありませぬワイ』 高姫『ヨシヨシ強太い者だ。腹を断ち割つても、今度こそは白状させねば置かぬ。アヽ面倒臭い事だ。妾が自ら査べに行けば後が案じられる。蜈蚣姫さまは……ヘン……吃驚したよな顔をして船底にかぢりつき油断をさせて、此高姫が山へ往つたならば矢庭に船を出し、此島に放つとく積りだらうし、アヽ体が二つ三つ欲しくなつて来たワイ』 蜈蚣姫は漸くにして顔を上げ、 蜈蚣姫『わしも今迄恋しい一人の娘に会ふのを楽みに、心の合はぬ高姫と表面だけは調子を合して来たが、天にも地にも唯一人の娘が此世に居らぬと聞けば、モウ破れかぶれだ。……サア友彦、お前も憎い奴なれど、仮令一年でも私の娘の夫となつた以上は、切つても切れぬ親子の仲、キツト私に加勢をして呉れるだらうな』 友彦『ハイお母さま、よう仰有つて下さいました。貴女の命令なら、高姫の生首を引抜けと仰有つても、引抜いてお目にかけます』 蜈蚣姫『ヤア頼もしや頼もしや、親なればこそ、子なればこそ。何処にドンナ味方が拵へてあるか分つたものぢやない。「ほのぼのと出て行けど、心淋しく思ふなよ。力になる人用意がしてあるぞよ」……と三五教の神様が仰有つたと云ふ事だ。……(声に力入れ)サア高姫、モウ斯うなる以上は化の皮を引ん剥いて婆と婆との力比べだ、尋常に勝負をなされ』 高姫『ヘン、蜈蚣姫さまの、あの噪やぎ様……イヤ狂ひやう。誰だつて一人の娘が死んだと聞けば、自暴自棄も起るであらう。気が狂ふまいものでもない。併し乍ら其処をビクとも致さぬのが神心だ……女丈夫の大精神だ。小糸姫様が海へ沈んで竜宮行をしたと聞いて腰を抜かし、其愁歎振は何ですか。見つともない。此高姫は元来気丈の性質、流石は生宮丈あつて、小糸姫が海の底へ旅立をしたと聞いて、落胆どころか却て愉快な気分に充されました。ナント身魂の研けた者と、研けぬ者との心の持様は違うたものだナ。オホヽヽヽ』 と自暴自棄になつて減らず口を叩く。 蜈蚣姫『人情知らずの悪垂婆の高姫。……サア友彦、親の言ひ付けだ。櫂を持つて来て頭から擲りつけて下さい。一人よりない大事な娘が死んだのを、却て愉快だと言ひよつた。……サア早くスマートボール、久助、高姫を打ちのめし、海の竜宮へやつて下され。チヤンキー、モンキーさま、お前さまも無理難題をかけられて、嘸腹が立たうのう。一寸の虫にも五分の魂だ。チツトは敵討ちをしなさらぬかいな。敵は貫州と唯二人、モウ斯うなれば蜈蚣姫のしたい儘だ。……サア高姫、返答はどうだ』 と追々言葉尻が荒くなる。貫州は両手を拡げ、 貫州『蜈蚣姫さま、御一同さま、マア待つて下さい』 蜈蚣姫『此期に及んで卑怯未練な、待つて呉れも有るものか。お前も讐敵の片割れ、覚悟をしたが宜からう』 貫州『わしだつてコンナ没分暁漢の高姫に殉死するのは真平御免だ。お前さまの方に、貫州も一層の事応援するから、……どうだ、聞き届けて呉れるかな』 蜈蚣姫『お前はメラの滝でチラリと喋つた言葉に考へ合はすと、あまり高姫を信用しとりさうにもないから、赦してやらう。サアどうぢや高姫、舌噛み切つて死ぬるか、此場で海へ身を投げるか、それが厭なら皆の者が寄つて懸つてふん縛り、海へ放り込まうか。最早是までと諦めて、宣伝歌の一つも此世の名残に唱へたがよからうぞ。オツホヽヽヽ』 高姫は悪胴を据ゑ、腕を組み、涙をボロリボロリと零して俯向き沈む。 蜈蚣姫『オホヽヽヽ、高姫さま、嘘ですよ。あまりお前さまが我が強いから、一つ我を折つて上げようと思うて狂言をしたのだから、安心なされませ。天が下に敵もなければ他人もない。私も今迄の蜈蚣姫とは違ひます。玉能姫さまや初稚姫さまを、あれ丈ボロ糞に言つてもチツトも怒らず、親切計りで立て通しなさつた其心に感じ、善一つの真心に立帰つた此蜈蚣姫、どうしてお前さまを苦しめませう、安心して下さい。其代りお前さまも、玉能姫さまや初稚姫其他の方々を鵜の毛の露程でも恨む様な事があつては冥加に尽きまするぞ』 高姫『ヤアそれで高姫もヤツと安心を致しました。併し乍ら初稚姫や玉能姫の悪人計りは、如何しても思ひ切る事が出来ませぬワイ。人我れに辛ければ我れ又人に辛しとやら言つて、年をとつて是れだけ苦労艱難をするのも、みんな初稚姫や玉能姫のなす業、如何に天下の大馬鹿者、無神経者と云つても、此残念が如何して忘れられませうか』 蜈蚣姫『玉能姫様や初稚姫様は、神様の命令を受けて御用遊ばした丈ぢやありませぬか。元からお前さまを困らさうなどと、ソンナ悪い心はなかつたのでせう』 高姫『ソンナ小理屈は言うて下さいますな。例へば主人が下僕に対し藪の竹を一本伐つて来いと命令したと見なさい。竹を伐る時の竹の露は誰にかかりますか。ヤツパリ下僕にかかるぢやありませぬか。竹伐つた奴は玉能姫、初稚姫の両阿魔女だ。怨みが懸らいで何としようぞいの。アヽ口惜しい、残念や、オーンオーンオーン』 と前後を忘れ狼泣きに泣き始めける。 折しも海鳴の音、俄に万雷の一時に轟く如く聞え来り、波は刻々に高まる。一同はチヤンキー、モンキーの後に従ひ、最も高き岩上に避難した。船は纜を千切られ、何処ともなく、浪のまにまに流れて了つた。水量は追々まさり、最早足許まで浸して来る。山岳の様な浪は遠慮会釈もなく、頭の上を掠めて通る。殆ど水中に没したと思へば又現はれ、息も絶え絶えになり、各自覚悟の臍を極めて神言を奏上し、心の隔てはスツカリ除れて、唯生命を如何にして保たむやと是れのみに焦慮し、宣伝歌を泣声まぜりに声を嗄らして唱へ居る。 斯かる所へ波に漂ひつつ艪を操り、甲斐々々しく進み来る一隻の稍大なる船ありき。日は漸く暮れ果て、誰彼の顔も碌に見えなくなり来たり。一隻の船には二三人の神人が乗り居たり。船の中より、 神人『ノアの方舟現はれたり、サア早く乗らせ給へ』 と呼ばはり乍ら足許へ漕ぎ寄せ来る。一同は天にも昇る心地し乍ら、一人も残らず此船目蒐けて、天の祐けと飛び込めば、船は波を押分け悠々として西南指して進み行く。 斯く俄に鳴動し、水量まさり来りしは、南洋のテンカオ島と云ふ巨大なる島が、地辷りの為に海中に沈没した為、一時の現象として斯の如くなりしなりき。水量は追々常態に復しぬ。船は月に照され乍ら海上静かに走り居る。船の中の神人の爽かな声、 玉能姫『妾は玉能姫で御座います。高姫様、蜈蚣姫様、其他御一同様、危ない所で御座いましたが、神様のお蔭で先づ先づ御無事で、コンナ御芽出たい事は御座いませぬ。妾達は神様の御命令に依つて、貴女方が海神島にお着き遊ばす迄御保護申せとの言依別命の御命令で、見えつ隠れつお後を慕つて参りました。アヽ有難い、これで妾の使命も完全に勤まつたと申すもの、マアよう無事で居て下さいました。玉治別も居られます。初稚姫様もここに乗つて居られます』 高姫『是れと云ふのも全く日の出神様の御神徳ぢや。お前さまも其お蔭で言依別命に対して言ひ訳も立ち、完全に御用も勤まつたと云ふもの、コンナ事がなければお前さまが遥々此処まで出て来たのも無意義に終るとこだつた。アヽ神様は誰もつつぼに致さぬと仰有るが偉いものだなア。大神様は平等愛を以て心となし給ふ。お前さまもこれでチツトは我が折れただらう。手柄を横取して自分一人が猫糞をきめこみ、結構な神宝を隠して素知らぬ顔をして御座つたが、是れで神様の大御心が分つたでせう。サア玉の所在を綺麗サツパリと皆の前にさらけ出し、功名手柄を独占しようなぞと云ふ執着心を、此際放かしなさるのが御身の得だぞへ、オホヽヽヽ』 玉能姫、初稚姫は呆れて何の言葉もなく、黙然として俯むき居たり。玉治別は一生懸命に艪を操り乍ら高姫の言葉を聞いて少しくむかついたが、神直日大直日の宣伝歌を思ひ出し、吾と吾心を戒め、さあらぬ態に船唄を唄ひ、汗をタラタラ流し乍ら船を操り居たり。 高姫『コレお節さま、お初さま、お前さまもいい加減にハンナリとしたらどうだい。助けに来るのも、助けられるのも皆神様に使はれて居るのだよ。必ず必ず高姫其他を助けてやつたと慢神心を出してはなりませぬ。ハヤそれが大変な取違だ。九分九厘になつたれば神が助けるぞよと、チヤンと仰有つてる。家島で船を取られた時も、神がお節さまを御用に使ひ、船を持つて来さしました。アンボイナ島でも其通り、今又日の出神のおはからひで結構な御用を指して貰ひなさつた。此処で結構な御用をさして貰ひなさつたのも、ヤツパリ高姫があつたればこそ……一遍々々お前さまは手柄が重なつて結構だが、ウツカリ慢神すると谷底へ落されますぞや。大分に鼻が高うなり出した。チツト捻ぢて上げようか』 と二人の鼻を掴みかからうとする。貫州は其手をグツと握り、 貫州『コレ高姫さま、我が強いと云つても余りぢやないか。側に聞いて居る私でさへも憎らしうて、お前さまを殴りつけたうなつて来た。ようもようも慢神したものだなア、チツト胸に手を当てて考へて見なさい。生命を助けて貰ひ乍ら、又しても又しても減らず口を叩いて、よう口が腫れぬ事だナア』 高姫『貫州、神界の事はお前達の容喙すべき事ぢやない。どんなお仕組がしてあるか分りもせぬのに、出しやばつて囀るものぢやありませぬぞ。バラモン教の蜈蚣姫さまでさへも高姫の言葉に感心して、何とも仰有らぬのに、没分暁漢のお前が何を吐くのだい。お前も大分に鼻が高くなつた。一つ捻つてやらうか』 と稍高い鼻を掴みかかるのを、貫州は力をこめて撥ね飛ばした途端に、高姫はザンブと計り海中に落込みぬ。玉治別は驚いて、矢庭に棹を突き出す。高姫は一生懸命になつて棹に喰ひつき、漸くにして救ひ上げられけり。 高姫『コレ貫州、何と云ふ乱暴な事を致すのだい』 貫州『是れも神界の御都合でせう。肱出神様が肱ではぢかはりましたら、貴女が曲芸を演じてカイツムリとなり、皆の者一同に観覧さして下さいました。本当に抜目のない愛想のよい仁慈無限の高姫さまだと、云はず語らず、皆の者が舌を出して喜び居りましたワイな』 蜈蚣姫『高姫さま、お怪我は御座いませなんだか。お前さまも余りお口がよろしいからナア』 高姫『放つといて下され、口がよからうが悪からうが、妾の口は妾が自由に使用するのだ。お前さま等の改心が足らぬから、此高姫が千座の置戸を負うて此海へ飛び込み鹹い塩水を呑んで罪を贖ひ、助けて上げたのだ。何故一言の御礼を申しなさらぬ。……コレコレ、ムカデにお節、お初殿、分りましたかなア』 玉能姫『ハイ、どうもお元気な事には心の底から感心致しました。その勢なれば強いものです。大丈夫ですワ』 高姫『さうだらう。お前も大分に高姫の心の底が見えかけたよ、大分に身魂が研けたやうだ。モ一つ打解けて玉の所在さへ白状すれば、それこそ立派な者だ。高姫の片腕になれるべき素質は充分にある。モウそろそろ言はねばなるまい。言はねば云ふ様にして言はすぞよと大神様が仰有つた事を覚えて居ますか。誰が何と云つても艮の金神、坤の金神、金勝要神、一番地になるのが日の出神、四魂揃うて、誠の花が咲くお仕組、何程言依別が瑞の御霊でも、玉照姫が木花咲耶姫の分霊でも、玉照彦が三葉彦の再来でも、到底四魂の神には肩を並べる事は出来ますまい。お前さま達は今迄何でも彼んでも、言依別や其他の枝の神の申す事を聞いて居つたから、思ふ様にチツトも往きやせまいがな。四魂の中でも根本の土台の地になる日の出神をさし措いて、何結構な御用が出来るものか、此れを機会に改心が一等で御座るぞや』 と口角泡を飛ばし、誰も返辞もせないのに、独り噪やいで居る。 船中の人々は高姫を気違扱ひして相手にならず、言ひたい儘に放任し置きたりける。 蜈蚣姫は丁寧な言葉にて、 蜈蚣姫『玉能姫様、初稚姫様、玉治別様、アンボイナ島では大変な失礼な事を申上げましたが、どうぞ御赦し下さいませ。就きましては妾の娘小糸姫は魔島の麓で船を破り可哀や溺死を遂げました。夫は今は波斯の国に居りますなり。年老つた妾、夫婦別れ別れになり、一人の娘には先立たれ、最早此世に何の望みも御座いませぬ。どうぞ今迄の御無礼を海へ流して、どうぞ妾を貴方のお供になりと御使ひ下さいますまいか。実に立派な御心掛け、如何な悪に強い妾も感心致しました』 と袖に涙を拭ひ泣き伏す。玉能姫は合掌しながら、 玉能姫『如何致しまして、老練な蜈蚣姫様、どうぞ宜しく、足らはぬ妾の御指導をお願ひ致します。今承はれば小糸姫様は海の藻屑となつたと仰せられましたが、それは御心配なされますな。屹度オーストラリヤの一つ島に立派な女王となつて、羽振りを利かして居られます。妾は素盞嗚尊様の御娘、五十子姫様より小糸姫様の消息を聞きました。今は三五教の教を樹て黄竜姫と名乗つて立派に暮して居られます。やがて芽出たく親子の対面が出来ませう。どうぞ御心配をなさらぬ様、勇んで下さいませ』 蜈蚣姫『アヽ有難い、左様で御座いましたか。是れと云ふのも皆大神様の御神徳……』 と手を合せ、直に天津祝詞を奏上し、感謝の辞に時を移しけり。高姫は投げ出したやうな言葉付きで、 高姫『蜈蚣姫さま、どうでお節の云ふ事、当にやなりますまいが、仮令話にせよ、娘さまに会へると云ふ事をお聞きになつたら嘸嬉しいでせう。妾も虚実は兎も角、言霊の幸はふ国、刹那心でも芽出たいと思はぬこたアありませぬ。併しマア物は当つてみねば分りませぬ。どうも日の出神の観察では怪しいものだが、折角そこまでお前さまが喜びて居るのだから、妾も一緒にお付合に喜びて置きませう』 玉治別は立ち上り、 玉治別『サア向方に見えるのがニユージランドの沓島だ。皆さま少々波が荒くなるから、其覚悟して下さい』 (大正一一・七・三旧閏五・九松村真澄録) 此日午前六時二代様三代様も白山、月山に御登山の途に就かるとの電来たる。 |
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霊界物語 | 24_亥_豪州物語1(高姫と蜈蚣姫) | 10 土人の歓迎 | 第一〇章土人の歓迎〔七四〇〕 南洋一の竜宮島アンボイナをば後に見て 救ひの船に身を任せ進み来れる高姫や 蜈蚣の姫の一行は夜を日に継いでオセアニヤ 一つ島根に渡らむと心勇みて漕ぎ来る 時しもあれや海中にすつくと立てる岩島を 左手に眺めて進み行く俄に海風吹き荒び 浪高まりて船体を操る術も無きままに 浪を避けむと岩島の蔭に漕ぎつけ眺むれば 怪しき影の唯二つ何者ならむと立ち寄つて 素性を聞けば錫蘭島のチヤンキーモンキー両人が 顕恩城の小糸姫竜宮城[※校定版・八幡版では「竜宮洲」に修正されている。]へ送る折 俄の時化に船を破り茲に非難し居たりしを 漸く悟り高姫は日頃探ぬる神宝の 匿せし場所は此島と疑惑の眼光らせつ 二人の男を引つ捉へためつ賺しつ尋ぬれど 元より訳は白浪の中に漂ふ二人連れ 取つく島も泣き寝入り蜈蚣の姫は両人が 話を聞いて仰天し小糸の姫は世の中に もはや命は無きものと悲歎の涙に暮れながら 船底深くかぢりつくころしもあれや南洋に 其名も高き一巨島テンカオ島は海中に 大音響と諸共に苦もなく沈みし勢に 海水俄に立ち騒ぎ水量まさりて魔の島を 早一呑みに呑まむとす高姫其他の一同は 九死一生の苦しみに生きたる心地も荒浪の 肝を潰せる折柄に黄昏時の海原を 声を目当に進み来る救ひの船に助けられ やつと安心胸を撫で進む折しも玉能姫 初稚姫や田吾作の助けの船と悟りてゆ 高姫持病は再発し竹篦返しの減らず口 頤を叩くぞ憎らしきあゝ惟神々々 神の恵は何処までも悪の身魂も懇に 誠の教に導きて救ひ給ふぞ有難き 玉治別の漕ぐ船は夜に日を重ねてやうやうに ニユージランドの沓島の磯端近く着きにけり 浪打ち際に近づけば思ひもよらぬ高潮の 寄せては返す物凄さ船の操縦に悩みつつ スマートボールや貫州やチヤンキーモンキー諸共に 汗を流して櫂を漕ぎ漸く上陸したりける あゝ惟神々々御霊の幸ぞ尊けれ 神の恵ぞ畏けれ。 物珍らしげに島の土人は小山の如く現はれ来り、口々に手を打ち「ウツポー、クツタークツター」と叫びゐたり。これは「珍しき尊き神人来り給へり」と云ふ意味なり。一同は「ウツポー、クツタークツター」の諸声に送られ、禿計りの島に似合はず、樹木鬱蒼たる大森林の樹下に導かれ、珍しき果物を饗応され、神の如くに尊敬されたりける。 友彦は得意満面に溢れ、言語の通ぜざるを幸ひ、猿の如く大樹の枝にかけ登り、懐より麻を取り出し左右左に打ち振りながら、 友彦『ウツポツポーウツポツポー、テンツルトウテンツルトウ、チンプクリンノチンプクリン、プクプクリンノプクプクリン、ペンコペンコ、チヤツクチヤツク、ジヤンコジヤンコ、テンツルテンノテンツルトウ、トコトンポーリートコトンポーリー、カンカラカンノケンケラケン、高姫さまのガンガラガンノコンコロコン、蜈蚣姫のパーパーサン、コンコンチキチン、コンチキチン、小糸の姫の婿様は、トントコトンの友彦が、ウツパツパーウツパツパー、シヤンツクテンテンツクテンテン、キンプクリンノフクリンリン』 と囀り初めたり。数多の土人は一行中の最も貴き神と早合点し、随喜の涙を零し合掌しゐたり。スマートボールは又もや駆け登り、矢庭に木の枝を手折り、左右左に打ち振り、 スマートボール『ウツポツポーウツポツポー、キンライライノクタクタライ、キンプクリンノキンライライ、ウツポツポーウツポツポー』 と囀り出したり。スマートボールは自分の云うた事を自分ながら些とも解して居ない。されど土人の胸には、先に上つた友彦よりも最上位の神たる事を悟りたり。友彦は又もや、 友彦『ウツポツポー、ペンペコペン、ウツポツポ、パーパーサン、エツポツポー、エツポツポー』 と囀り出したり。是は土人の言葉に対照すると、 『二人の女は真の平和の女神だ。さうして若い方の婆アは悪党だ。色の黒い婆アは一つ島の女王の母上だ』 と云ふ意味になる。数多の土人は蜈蚣姫の前に跪き、手を拍ち嬉し涙に暮れながら恭敬の意を表し、踊り狂ひ、其次に玉能姫、初稚姫を胴上げにし「エイヤエイヤ」と声を揃へて森の木蔭を舁ぎ廻り、踊り狂ふ其可笑しさ。玉能姫、初稚姫は様子分らねど、兎も角も自分等を尊敬せしものたる事は、其態度に依つて悟る事を得たりける。 森林の最も高き所に七八丈許りの方形の岩が、地の底から湧き出たやうに現はれ居たり。其上に玉能姫、蜈蚣姫、初稚姫の三人を舁ぎ往き、種々の果物を各自に持ち来り、所狭き迄並べ立て、此岩を中心に踊り狂ひ廻つた。残りの一隊は大樹の下に移り往き、何事か一生懸命に祈願し初めたり。 玉治別は一向構つて呉れないのに稍悄気気味となり、又もや樹上に駆け登り木の枝を手折つて、前後左右に無精に打ち振り、 玉治別『ウツパツパーウツパツパー、キンライライノクタクタライ、ラーテンドウラーテンドウ』 と幾度も繰返しける。此意味は、 『吾は海底の竜神、今此島を平安無事ならしめむために現はれ来り』 と云ふ事になる。又もや土人は玉治別を一生懸命に拝み初めたり。スマートボールは、 スマートボール『パーパーチンチン、パーチンチン』 と囀りぬ。数多の群集は各尻をまくり、高姫の身辺近く取り巻き「我臀肉を喰へ」と云ふ意味にて、 土人『パーパーキントウ、キントウ、パーパーキントウ、キントウ、パースパース』 と云ひながら御丁寧に一人も残らず尻をまくりて、三間許り四つ這になり、各此場を捨てて、初稚姫等が坐せる石の宝座の方に、先を争うて進み行く。 樹下に蹲踞み、感涙に咽んで居る数十人の、残つた土人の敬虔の態度を眺めた高姫は、そろそろむかづき初め、 高姫『これこれ此処の土人さま、お前は何と思つて居るか。あの先に登つた奴は友彦と云ふ、それはそれは恐ろしい、人を騙して金を奪り、嬶盗人をやつた悪い悪い男だよ。そして後から上つた細長い猿の様な男はスマートボールと云ふ、最前行つた蜈蚣姫の乾児の中でも一番意地くねの悪い代物だ。三番目に登つた奴は神でも何でもない。自転倒島の宇都山の里に、蚯蚓切りの蛙飛ばしを商売にする、田吾作と云ふ男だ。如何に盲千人の世の中だと云うても、取違ひするにも程がある。此中で一番尊い御方は日の出神の生宮たる此高姫だよ、取り違ひをするな』 と癇癪声を張り上げながら、自分の鼻先をチヨンと押へて見せたれど土人には何の事か一つも通ぜず、歯脱け婆が気を焦つて、尻をかまされた腹立紛れに怒鳴つて居るのだ位に解され居たり。一同の土人は高姫に向ひ、両手の食指を突き出し、左右の指を交る交る鼻の前に突出し、しやくつて見せたり。高姫も何事か訳が分らず、同じやうに今度は指を外向けにして、水田の中を熊手で掘るやうに空中を掻いて見せる。其スタイルは蟷螂の怒つた時の様子に似たりける。数十人の土人は何故か一度に頭を大地につけたり。高姫は調子に乗つて幾回となく空中を掻く。樹上の友彦は又もや、 友彦『エツポツポーエツポツポー、パーパーチクリン、パーチクリン、ポコポコペンノポコポコペン、ペンポコペンポコ、チンタイタイ』 と叫べば、一同はムクムクと頭を上げ、日に焦けた真黒な腕をニウと前に出し、一斉に高姫に向つて突きかかり来る。此時玉治別は樹上より、 玉治別『エイムツエイムツ、ツウツウター』 と叫ぶ。一同は俄に腕をすくめ、力無げに又元の座に平伏し、樹上の三人に向つて合掌し、何事か声低に祈り居る。 暫くありて玉能姫は、蜈蚣姫と共に初稚姫を中に置き、後前を警固しながら数多の土人に送られて、大樹の下に引き返し来りぬ。玉治別は調子に乗つて口から出任せに、 玉治別『ダールダール、ネースネース、ツツーテクテクテレリントン、ニウジイランドテテーポーポー、ツツーポーポ、タターポーポー、エーポーポー、エーツクエーツク、エーポーポー、エーツクエーツク、エーテイテイ』 と叫ぶや否や、土人の大多数は蜘蛛の子を散らすが如く此場を立ち去りにける。玉能姫は樹上を見上げながら、 玉能姫『玉治別さま、スマートボールさま、早く下りて下さい、玉能姫は一つ島に往かねばなりますまい。サア早く早く』 と手招きするにぞ、三人は此声に応じて、ずるずると樹下に苦もなく下り来たりぬ。暫くありて土人は満艦飾を施したる立派な船を一艘と、其他に堅固なる船十数艘を率ゐ来り、中には至つて見苦しき泥船一艘を交ぜて居た。最も麗しき船に玉能姫、初稚姫、蜈蚣姫を丁寧に寄つて集つて舁ぎながら、恭しく乗せた。玉治別は我乗り来りし船に、スマートボール、友彦と三人分乗した。久助、お民は土人と共に麗しき船に乗せられた。チヤンキー、モンキー及び高姫は泥船に無理に捻込まれ、艫を漕ぎながら、数百人の土人は大船に満乗して、一つ島目蒐けて送つて行く。高姫は不平で堪らず、種々と言葉を尽して……日の出神の生宮を最も立派な船に乗せるのが至当だ、玉能姫ナンカは普通の船でよい……と身を踠いて喋り立てたが、土人には一向言葉も通じないと見えて、 土人『エツポツポーエツポツポー、パーパーチツク、パーチツク』 と云ひながら、一つ島目蒐けて進み行く。玉治別は船中にて宣伝歌を歌ひ初めたり。 玉治別『コーツーコーツーオーリンスセイセイオウオウオウセンス チーサーオーサーツウツクリンコモトヨコモト、カンツクリン ターツーテーツーテーリンスノウミスノウミスヨーリンス メースヤーツノーブクリン』 と歌ひ出しぬ。土人は此声に随喜の涙を澪し、手を拍つて合掌したり。この意味は、 『神が表に現はれて、善と悪とを立て別ける、此世を造りし神直日、心も広き大直日、唯何事も人の世は、直日に見直せ聞き直せ、身の過ちは宣り直せ』 と云ふ宣伝歌の直訳なり。玉治別は此島の神霊に感じ、俄に南洋の語を感得したるなりき。其他の一同も、残らず此島に上陸して神霊に感じ用語を悟りぬ。されど我慢にして猜疑心深き高姫には、一語も神より言葉を与へ給はざりしなり。船中は残らず南洋語で持ち切り、恰も燕の巣の如く「チーチーパーパー、キウキウ」の声に満たされ、漸くにして一つ島のタカ(テーク)の港に無事上陸したりける。 土人の中にても最も羽振の利いた酋長のカーチヤンは、二三人の供人と共に辛うじて港に上陸するや否や、黄竜姫の鎮まる王城の都を指して、蜈蚣姫一行の到着を報告すべく、一目散に島内深く姿を隠しけり。 初稚姫、玉能姫、蜈蚣姫は土人の手車に乗せられて、之を舁ぐやうな体裁で、「エツサアサアエツサアサア」と云ひながら都をさして送られて行く。玉治別は驢馬に跨がり、友彦其他を従へ悠々として土人の一隊に守られ進み行く。高姫は非常の侮辱と虐待を受けながら意気銷沈の体にて、恨めしげにとぼとぼと、どん後から随従て往く。往く事数十丁、前方より麗しき輿を舁ぎ、騎馬の兵士数十人、前後につき添ひ、威風堂々として来る真先に立てる勝れて背の高い男、馬上より、 ブランジー『我こそは黄竜姫の宰相、ブランジーと申すもの、今日は女王の御母上蜈蚣姫様御来臨と承はり、これ迄お迎ひのため罷り越したり。……サア蜈蚣姫様、この輿にお乗り下さいませ』 とすすむるにぞ、蜈蚣姫は意外の待遇に嬉しさ余つて言葉も得出さず差俯むき居る。群衆は何の容赦もなく手車の儘輿の傍に近づき、御輿の戸を開けて、蜈蚣姫を乗らしめたり。初稚姫、玉能姫は土人の手車に乗りしまま輿の後に従ひ行く。 行く事数十丁、忽ち黄竜姫の城内に一同迎へ入れられ、御輿は玄関の前に据ゑられける。此時黄竜姫はクロンバーを従へ玄関に立ち現はれ、輿より出づる蜈蚣姫の手を取り、嬉し涙を湛へながら奥深く姿を匿しけり。クロンバーは玄関に佇み、一行の姿を見やりながら、 クロンバー『ヤアお前はお節ぢやないか。お初、何ぢや偉さうに手車に乗つて……慢神するにも程がある。ヤア田吾作、スマートボールに鼻の先の赤い男、ヤア何とした今日は怪態な日だらう。高山さまも高山さまだ、なぜコンナ代物を迎へ入れたのだらう……それにつけても高姫さま、酷い事を仰有つて私を追ひ出しなさつたが、嘸や今頃は心細く思うて居なさるだらう、アヽお哀憫しい。コンナ連中に遭ふのも嫌だが、高姫さまに何うかして一目遭ひたいものだ』 と独り呟き居る。玉能姫、初稚姫はクロンバーに向ひ、 初稚姫『ヤア貴女は三五教の黒姫さまでは御座いませぬか、妾は初稚で厶います』 黒姫『ハイ、左様で御座います。世間は広いもの、自転倒島に居つて、皆さまに笑はれ譏られ、邪魔計りしられて居りましては真実の神力が出ませぬが、此広い島に渡つて来て自由自在に神力を発揮し、今では此通り立派な一国の宰相の北の方となりました。お前さまは矢張言依別命について自転倒島を宣伝に廻り、失敗の結果、又ボロイ事があらうかと思つて、南洋三界迄彷徨うて来なさつたのだな。ウンよしよし、世界に鬼は無い。改心さへ出来れば黒姫が助けて上げよう。窮鳥懐に入れば猟師も之を取らずと云ふ事がある。もうかうなつては今迄のやうに我を張らずに、お節……ハイ、……お初……ハイ……と云うて黒姫に絶対服従をなさるのが身の為めぢやぞエ。……お前は田吾作ぢやないか。矢張周章者は周章者ぢや。自転倒島ではもう相手が無くなつたかや。オホヽヽヽ、気の毒な事いのう』 玉治別は余りの侮辱にむツとしたが、堪忍袋を押へて素知らぬ顔にて笑ひ居る。ブランジーの高山彦は馬に跨がり乍ら、 高山彦『ヤアヤア数多の人々、遥々御苦労なりしよ。城の馬場に沢山の酒肴の用意もしてあらば、自由自在に飲み食ひしてお帰り下さい』 群衆はウローウローと云ひながら、雪崩を打つて城門を駆出し、広き馬場に列べられたる酒肴に舌鼓をうち、酔が廻るに連れて唄ひ舞ひ、踊り狂ひ、歓喜の声は天地も揺ぐ許りなり。 高姫は悄々として、漸く玄関に現れ来り、黒姫の姿を見るより、矢庭に飛び込み獅噛みつき、 高姫『アヽ貴女は黒姫様、お久しう御座います』 また黒姫は、 黒姫『アヽ貴女は高姫様、会ひたかつた、懐かしや』 と他所の見る目も憚らず、互に抱きつき嬉し涙に掻き曇る。 高山彦は馬を乗り捨て其場に現はれ、 高山彦『高姫さまですか、私は高山彦ですよ。ようまア来て下さいました』 と涙含み乍ら、二人の手を取り奥深く進み入る。玉治別、初稚姫、玉能姫其他の一同は裏門より密に逃れ出で、裏山の森林に姿を隠し息を休め居たりける。 (大正一一・七・三旧閏五・九加藤明子録) |
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霊界物語 | 24_亥_豪州物語1(高姫と蜈蚣姫) | 12 暴風一過 | 第一二章暴風一過〔七四二〕 高姫は高山彦、黒姫に誘はれ、広大なる宰相室に導かれ、懐旧談に時を移しける。 黒姫『高姫様、ようまア、はるばると訪ねて来て下さいました。黄金の玉の所在は分りましたか。妾も此島に渡つて宰相の妻となつたのを幸ひに、国人を使役し、此広大なる島の隅々まで探させましたなれど、玉らしいものは一つもありませぬ。定めて貴女が是へお越し遊ばしたのは、妾に安心させてやらうと思召して、お出で下さつたらうと信じます』 高姫『誠に申し訳がありませぬ。あの玉の隠し人は、正しく言依別命らしう御座います。黄金の玉ばかりか、妾の保管して居つた如意宝珠の玉を始め、紫の玉まですつかり抜き取られ、妾はそれが為め種々雑多の艱難苦労を嘗め、玉の所在を探す内、言依別の教主は我々を出し抜き、貴女の御存じの丹波村のお節や、杢助の娘のお初に、玉を何処かへ隠させて仕舞つたのですよ。それが為めにお節、お初を厳しく訊問すれども、三十万年の未来でなければ申し上げぬと我を張り、大方此島に隠して置いたのではあるまいかと、荒波を渡つて此処まで参りました。未だ一つも玉の所在は妾は分らないのです』 黒姫は眉を逆立て、 黒姫『不届き至極の言依別にお節にお初、此恨みを晴らさいで措きませうや』 と拳を握り、思はず卓を三つ四つ叩いて雄健びをする。高山彦は傍より、 高山彦『何時までも玉々と云ふには及ばぬぢやないか。言依別命がどうなさらうと、神界のお経綸に違ひあるまい。モウ玉の事は断念して貰ひたい。黒姫の玉詮索には私もモウウンザリしたよ。間がな隙がな寝言の端にまで、玉の事ばかり、タマつたものぢやない。それに又高姫さままでが、玉を盗られたとか、イヤもう、うるさい事でコリコリしますワイ』 黒姫『コレコレ高山さま、お前さまは何んと云ふ冷淡な事を仰有るのだい。三千世界の御宝、それを日の出神の生宮として、又竜宮の乙姫の生宮として手に入れずして、ドウして天下万民が救へませうか。お前さま、時々利己主義を発揮するから困る。誰が何と云つても此玉の所在を白状させねば措くものか。……時に高姫さま、其お節にお初は今何処に居りますか』 高姫『ハイ、たつた今……偉さうにニユージランドの土人のお手車に乗せられ、此玄関先までやつて来ましたが、大方蜈蚣姫と一緒に奥殿に進み入り、黄竜姫様の前で自慢話でもやつて居りませうよ、本当に劫腹の立つ……ニユージランドの玉の森で、大変な、妾に侮辱を加へました。元の小糸姫様を誘拐した友彦や、スマートボールに田吾作の玉治別、それにお節にお初、いやモウサンザンの目に会はしよつた。如何に……神様の道ぢや、見直し聞直せ……と思つても、口惜し残念をこばりつめようと思つても、是がどうして耐らせませうかい。大勢の人の中に面を晒され、生れてからコンナ残念な目に会はされた事は御座いませぬワイなア』 と耐へ耐へし溜涙、一度に堤防の崩れし如く声を放つて泣き立てける。 黒姫『お節にお初、田吾作の奴、屹度当城内の何処かに居るに違ひない。サア是れから探し出して、締木に架けても白状させねば措くものか。……ヤア家来共、最前参りし男女の一同召捕つて此場へ連れ来れよ』 との黒姫の下知に隣室に控へ居たる七八人の下男は、 『ハイ』 と答へて捻鉢巻、襷十字に綾取り、突棒、刺股、手槍なぞを提げて、城内隈なく捜索し始めたり。されど裏山の森林に手早く姿を隠したる玉能姫其他一同は山又山を越えて、遥か向ふの山頂に避難し時の移るを待ち居たりける。 かかる所へ侍女の一人出で来り、 侍女『宰相様、其他の御客様に、女王様がお目にかかりたいと仰せられます。どうぞ直様お越し下されませ、御案内致しませう』 と先に立つ。ブランジー、クロンバーの後に従いて高姫は、首を頻りに振りながら、半神懸[※三版・御校正本・愛世版では「神懸」、校定版では「神憑り」。]の態にて奥深く進みつつ、やうやう黄竜姫の居間に通されける。 高山彦は黄竜姫に向ひ両手をつき、 高山彦『今日は御母上に御対面遊ばされ、吾々も共に大慶至極に存じまする。……蜈蚣姫様、ようこそ、御入来下さいました。私は当国の宰相を承はる高山彦と申す者、ブランジーとは仮の名、又此クロンバーと申すは私の妻、本名は黒姫と申すもの、何卒御見知り置かれまして御引立の段、偏に願ひ奉りまする』 蜈蚣姫『コレハコレハ高山彦様、黒姫様とやら、予て高姫さまより承はつて居りました、何分宜しう御願ひ致します。……コレ高姫さま、貴女も随分意地悪いお方で御座いましたなア、ニユージランドの玉の森にては貴女も随分お困りでしたやうですワ』 高姫『蜈蚣姫さま、お前さまの娘御が、此国の女王になつたと思つて俄に偉い御見識、何程偉い女王様でも、世界統一の太柱、三千世界の御宝、日の出神の生宮に比ぶれば、竜宮の一つ島位手に握つたとて、アンマリ立派なお手柄でも御座いますまい。三千世界に二人とない世の立替立直しの基礎の身魂は、……ヘン此高姫で御座いますワイ。盲千人の世の中、誠の者は一寸やそつとに分りますまい。此黒姫さまだとて、黄竜姫の幕下に神妙に仕へて御座るが、実の素性を申せば、驚く勿れ……竜宮の乙姫様の生宮で御座るぞや。高山彦は夫顔をして偉さうにして御座るが、実際の身魂を云へば、青雲山に棲ひを致す大天狗の身魂、何と云つても高姫、黒姫の二人が居らねば、神国成就は……ヘン致しませぬワイ。人民に対して一つ島の女王さまでも、天地根本の神の生宮、神界では是位立派な権威のある身魂はありますまい。……黄竜姫殿、暫く日の出神に席をお譲りめされ』 とツンツンし乍ら、上座にドンと坐り見せたり。 蜈蚣姫『何とマア我の強い執拗い身魂だらう。仮令日の出神でも竜宮の乙姫でも、此城内は黄竜姫の権利、上座に坐るのが御気に召さねば、トツトと帰つて貰ひませう』 高姫『別に妾は女王にならうと云ふのではない。女王さまの坐つて御座る尻の下が一遍調べて見たいのだ』 蜈蚣姫『オホヽヽヽ、疑ひの深いお方だ事、女王さまの坐つて御座る床下に、三つの玉でも隠してある様に疑うていらつしやるのだな』 高姫『疑ふも疑はぬもありますかい。日の出神がチヤンと天眼通で調べてあるのだ、お前さまが意地張れば意地張るほど、此方は疑はざるを得ませぬ。黒姫さまも好い頓馬だなア。何の為めに暫く宰相神に化けて御座つたのだな。サヽ女王さま、一寸立つて下さい』 黄竜姫『苟くも一国の女王たるもの、仮令日の出神の生宮の言葉と雖も、吾意に反して一分も動く事は出来ませぬぞ』 高姫は横手を拍ちニヤリと笑ひ、 高姫『ソレソレ矢張隠し終ふせますまいがな。此方が現さぬ内に素直に白状なされ。さうすれば永遠無窮に一つ島の女王として、驍名を天下に輝かす事が出来る。成る事なら此儘にして蓋を開けずに助けて遣りたいのが、高姫の胸一杯だ。此大慈悲心を無にして、何処迄も隠すのなら隠してよからう。蜈蚣姫と親子心を合せ、聖地の宝を隠さうと思うても、隠し終ふせるものでは御座いませぬぞや』 黄竜姫は稍不機嫌の態にて無言の儘此場をツツと立ち、風景よき次の間に蜈蚣姫を伴ひ進み入りけり。 高姫『オホヽヽヽ、トウトウ尻こそばゆなつて座を立つて、お脱け遊ばしたワイ。……高山彦さま、黒姫さま、高姫の御威勢には敵ひますまい。サアサ尻の下の板をめくつて調べて御覧、お前さまの目では実物を見なければ分るまい。妾はチヤンと天眼通で床板を透して知つて居るのだ。……ヤレヤレ愈大願成就の時到れりだ。アーア惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 と双手を合せ、まだ見ぬ先から手に入つたやうな心持に、感謝の祝詞を頻りに奏上する。 高山彦『高姫さま、此床下には決してソンナ物はありませぬよ。此葢を開けるが最後、蜿蜒たる黄竜が潜んで居りますから、毒気に当てられては大変な目に逢はねばなりますまい。開けるのなら、お前さま手づから開けて下さい』 高姫は………「甘い事を云ふ、高山彦さまもお人がよいから、黄竜姫に誤魔化されて居るワイ」……と云ふ様な顔付をし乍ら、床板を一枚グツとめくり、床下の深い穴を覗き込み「アツ」と云つたきり、蟹の様な泡を吹き目をまはし打ち倒れけり。 黒姫、高山彦の両人は高姫の身体を引抱へ、吾居間に担ぎ込み水よ薬よと介抱し、一生懸命に祝詞を奏上したるに、漸くにして高姫は息を吹き返し、 高姫『アーア、日の出神も全く疑ひが晴れました。かうなる以上は黄竜姫に対し恥かしくて、半時の間も居られはしない。高山彦御夫婦の御所存は如何に、妾と一緒にお節の所在を探し、今度は千騎一騎に調べて見ようぢやないか』 高山彦は気のりのせぬ風にて、 高山彦『アマリ急ぐに及びませぬワイ』 黒姫『コレ高山彦さま、何といふ冷淡な事を仰有る。天下国家の為にどうしても彼の玉を手に入れねばなりますまい』 高姫『黒姫さま、一つ覚悟を遊ばさねばなりませぬぞ。日の出神が今申し付ける』 黒姫『竜宮の乙姫の生宮、確に承知仕りました』 かかる所へ七八人の男ドヤドヤと入り来り、 男『宰相様に申し上げます。城内隈なく探しましたが、宣伝使らしき者は一人も居りませぬから、屹度裏門から逃げ去つたに相違ありますまい。一足なりと逃げ延びぬ内に、サア皆さま捜索に参りませう』 と促す。三人はツト此の城を立出で、傍の山より峰伝ひに、玉能姫、初稚姫、玉治別一行の捜索に立向ひける。 高山彦も終に顕要の地位を棄てて高姫、黒姫と共に「タカ」の港に現はれ、一隻の船に身を委せ、浪のまにまに玉能姫一行の後を追はむと漕ぎ出したり。 玉能姫、初稚姫、玉治別其他の一行は、遥かの山上より霊眼を以て三人が此島を後に帰り行くのを眺め、ヤツト胸撫で下ろし、再び城内に悠々として帰り来たりぬ。初稚姫一行は、蜈蚣姫のアンボイナ島に於ける危難を救ふ可く船を与へたる其好意を黄竜姫より感謝され、山海の珍味を饗応され、愈茲に三五教を確立し、黄竜姫を女王兼全島の教主と定め、各自に手分けをなし、梅子姫、宇豆姫諸共に、全島隈なくあらゆる生霊に三五の大道を宣伝し、自転倒島の聖地に向つて凱旋する事となりにける。 (大正一一・七・三旧閏五・九谷村真友録) |
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65 (1877) |
霊界物語 | 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) | 15 改心の実 | 第一五章改心の実〔七六一〕 黄竜姫、梅子姫、友彦、テールス姫、蜈蚣姫の五人は共に、地恩城を後に数百里、山路を越えて玉野原の諏訪の湖の竜宮城に進むこととなつた。後には左守、スマートボール夫婦を初め右守鶴公、貫州、武公、マール、ミユーズの幹部連をして留守師団長とし、草の蓑、竹の小笠の軽き扮装、タロの木の枝をつきながら、岩石起伏せる羊腸の小径を上りつ下りつ、谷を飛び越え谷間を伝ひ漸くにして、ジヤンナの友彦が割拠せし郷に着いた。 鬼の様な荒男、赤銅の様な顔に青い黥を、顔一面に彩りし者を先頭に、老若男女が六ケ敷い顔して黄竜姫の一行を『ウワーウワー』と鬨の声を挙げ乍ら歓迎した。昼尚暗き森林に包まれたる此郷は、一見鬼の様な人種計りであるが、至つて質朴で且つ正直で信仰心に富んで居た。曲つた鼻の赤い友彦を、天来の救世主と仰いで、尊敬した程の郷人は、天女の如き黄竜姫、梅子姫の玉を欺く清き姿を眺めて、天の河原よりネルソン山に鳥船に乗じ天降り給ひしを、ジヤンナの郷の救世主友彦夫婦が奉迎して帰りしものと固く信じ、一斉に砂糖屋の十能見た様な、大きな黒い手を拡げ、 土人『ウツポツポウツポツポ、オーレンス、サーチライス、ターレンス、チーターチーター』 と叫び乍ら歓迎の意を表した。此意味は、『神様か、天の御使か、但は吾等を救ふ光明の神か、実に立派な大救世主が、此郷に御降り遊ばした。吾々は最早絶対に悩みに遇ふこともなく、永遠無窮に天国浄土の楽みを味はうことが出来るであらう。木の実は豊に実り、鼓腹撃攘の恵みに浴することは火を睹るよりも明瞭だ。有難い、勿体ない、貴い、嬉しい。吾々郷人は力の限り心の極みを、此生神様に捧げませう』と言ふ事である。……ジヤンナの郷の救世主と仰がれたる友彦は、郷人に向ひ、 友彦『ターリスト、テールターイン、ハールエース、オーレンス、サーチライス、カーテル、ライド』 と叫ぶ。此声に一同は大地に平伏し嬉し涙を流して歓喜した。友彦は又もや、 友彦『ハールハール』 と手を挙げて叫ぶや、大勢の土人は一行を手車に乗せ、三五の神を祭りし稍広き館の中に、御輿を舁ぐ様な塩梅式で何事か分らぬ事を喋り乍ら奥深く送り行く。 黄竜姫一行は友彦の館の奥深く招かれ、色々珍らしき果物を饗応され、且つバナヽの味に舌鼓打ち乍ら、一二日此処に逗留し、郷人に対して黄竜姫、梅子姫よりバプテスマを施し、宣伝歌を教へた上、数十人の郷人に送られ、一行五人は漸くにして玉野ケ原の広場に無事安着することとなつた。 途々木の実を喰ひ、谷水を飲み、芭蕉の葉を褥となし乍ら、猛獣、大蛇の群に言霊を授け帰順悦服させつつ愈此処に金銀の砂輝く広野ケ原に辿りつく。一行は諏訪の湖の畔に建てたる小さき祠の前に端坐し、天津祝詞を奏上し、傍の椰子の樹の森に一夜を明かすこととなりぬ。 エスタン山の後方を覗いて現はれたる大太陽は、諏訪の湖水の魚鱗の波に映じ、金銀の蓆を敷き詰めたる如く、其麗しさ譬ふるにものなく、一行五人は湖水に身体を清め、七日七夜此処に禊を修し神恩を感謝せり。 早や夕陽も傾いて得も言はれぬ麗しき鳥の声、塒を求めて各密林に帰り行く。純白の翼の大鳥は暗を縫うて低く黄昏時より現はれ来り、湖面を縦横無尽に翺翔する。其数幾千万羽とも数へ難く、月無き夜半も明るき許りの光景なり。是は信天翁の祖先でアンボリーと言ふ大鳥なりける。 一行五人は椰子の樹下に身を潜め、天津祝詞を奏上し夜の明くるを待つ。夜明けに間近くなりたる時しも、頭上にバタバタと鳥の羽ばたき激しく聞え来たる。見れば両翼の長さ三丈許りのアンボリー、椰子の樹上にとまつて、一同の頭を被ふて居る、それが夜明けに間近くなつたので一時に立ち上つた音である。一同は鳥の飛び行く方面を目も放たず打看守れば、ほんのりと薄紅くうす白く大空を染めながら、際限もなき大原野を西北の空を指して、一羽も残らず飛去れり。 ○ ジヤンナの郷に三五の神を祀りし友彦が 館に一行夜を明かし一日二夜を逗留し タイヤ、ブースを初めとし数多の土人に皇神の 誠の道を説き諭し鎮魂やバプテスマ 一人も残らず施して昼なほ暗き森林の 小径を伝ひ郷人に賑々しくも送られて 漸くセムの谷間に辿り来れる折柄に 黄竜姫は皇神の珍の命の霊借りて 送り来りし郷人に厚く言葉をかけながら 東と西に別れつつ露の枕も数多く 重ねて此処に玉野原金銀輝く途の上 勇み進んで諏訪の湖の辺にやうやう安着し 祠の前に端坐して一行五人が安穏に 訪ね来りし神恩を感謝し終り清鮮の 湖水に身をば浸しつつ七日七夜の魂洗ひ 椰子樹の蔭に身を潜め夜明けを待てる折柄に 樹上に聞ゆる羽ばたきの音に驚き眺むれば 雪を欺く白翼のパツと開いた大鳥の 空を封じて数多く西北指して飛んで行く 一行五人は空中を仰ぎ見つむる折もあれ 黄金の翼に乗せられて此方に向つて飛び来る 四五の神人悠々と湖水を目蒐けて降り来る 其光景の崇高さに五人は思はず手を合せ 祝詞を唱へつ眺め居る黄金の鳥に乗せられし 男女五人の神人は波の上をばスレスレに 北に向つて進み行くこれぞ玉治別宣使 初稚姫や玉能姫久助お民の五人連 神の御言を畏みて貴の教を隈もなく 伝へ導く神の業𪫧怜に委曲に宣り了せ 玉依姫の御使の黄金色の霊鳥に 救はれ御空を翔りつつ帰り来れる生神の 通力得たる姿なり嗚呼惟神々々 神の教の尊さよ。 翼を一文字に拡げた金色の霊鳥は、神の使の八咫烏である。玉治別一行を乗せた五羽の八咫烏は、日光に照り輝きて中空にキラリキラリと光を投げながら、地上までも金光を反射させ、諏訪の湖辺に飛び来り、紺碧の波の上を辷つて際限もなき湖水を、北へ北へと進み行く。 梅子姫、黄竜姫は飛び立つばかり此姿を見て驚き且つ喜べり。一行の胸の裡は譬へがたなき崇高にして且壮快の思ひが漂うたからである。 友彦『黄竜姫様、梅子姫様、地恩城に於て園遊会の時、天空高く現はれた蜃気楼の光景、紺碧の湖水現はれ、四方を包む青山の崇高なる姿は、今此湖面を見ると寸分の差も無い様ですな、大方清公、チヤンキー、モンキー等の、女神に導かれ結構な御用を仰せつけられて居た所も、此聖地で御座いませうかなア』 黄竜姫『妾もそれに間違ひないやうな感じが致します。昔から人跡絶えしオセアニアの秘密郷、斯様な立派な湖があらうとは、夢にも知りませなんだ。何とかして神様の御力を借り、此湖水を渡つて見たいものですなア』 梅子姫『蜃気楼で拝見した時には純白な白帆が沢山に航行して居ましたが、船は一隻も見えないぢやありませぬか。大方アンボリーの飛交ふ影が船のやうに見えたのでせうかな』 友彦『サアさうかも知れませぬ。……黄竜姫様、船が無ければ渡る訳には行きませぬ。玉治別や初稚姫様の様に、黄金の鳥が迎ひに来て下さらば実に結構だが、船も無ければ鳥船もなく未だ吾々は御神慮に叶ふ所迄身魂が磨けて居ないのでせう』 黄竜姫『神様は一点の曇りなき水晶魂でなければ、肝腎の神業にはお使ひ下さいませぬ。折角此浜辺まで参つたものの、斯の如く三方は壁を立てた様な岩山、何程足の達者な者でも鳥類でない以上は越す事は出来ますまい。然しながら此処まで無事に着いたのも全く神様のお恵み、此処でもう一層徹底的の心の修業を励みませう。地恩城の女王だとか、ジヤンナの郷の救世主などと言はれて得意になつて居るのが、これが第一神様の御心に叶はないのでせう。同じ天地の恵に生れた人の子、善悪美醜の区別はあつても神様の愛には些つとも依怙贔屓はありますまい。こりやもう一つ身魂を立て直さなくては駄目でせうよ。勿体なくも神素盞嗚大神様の御娘御、梅子姫様を蔭の御守護とし、賤しき妾の身を以て地恩城の女王と呼ばれ、神司と言はれて、勿体なくも直々の御血筋の上位に立つて居たのは、恰度頭が下になり、足が上になつて居るやうな、矛盾撞着の遣り方であつた。……アヽ梅子姫様今までの御無礼を何卒お赦し下さいませ。決して貴女を押込め私が上に立つて覇張らうなどと云ふやうな、賤しい心はチツトも持つて居ませなんだ。然し乍ら名誉心に駆られ、本末自他公私の別を、不知不識の間に犯して居りました。貴女と吾々は天地霄壌の懸隔がございます。尊卑の別も弁へず甚だもつて不都合の至り、今改めてお詫を仕ります。さうして地恩城の女王たる地位を神様にお返し申し、生れ赤子の平の信者となつて御神業に奉仕し、貴女様を女王とも教主とも仰いで、忠実にお仕へ致しますから、不知不識の御無礼御気障、何卒神直日大直日に見直し聞直し下さいますように、黄竜姫が真心よりお詫仕ります』 と涙を滝の如く両眼より滴らし、悔悟の念に堪へざるものの如く涕泣嗚咽終に其場に泣き伏した。梅子姫は儼然として、 梅子姫『黄竜姫どの、貴方は結構な御神徳を頂きました。妾は神素盞嗚大神の生みの子と生れ、木の花姫の生宮として今日迄、貴方のお傍に身を下し、神業を輔佐して参りました。貴方の御言葉を今日只今迄、実の所は待つて居たのでございます』 と微笑を浮かべて曰りつれば、友彦は又もや両眼に涙を浮かべ乍ら、 友彦『私は生れついての狡猾者、到る所に悪事を働き、まぐれ当りに鼻の赤きを取得にてジヤンナの郷に持て囃され、救世主と呼ばれ乍ら好い気になり、心にも無き尊敬を受け、天来の救世主と化け済まして居た心の汚さ、イヤもう塵埃に等しき吾等の身魂、どうして肝腎要の御用にお使ひ下さいませう。……何卒々々梅子姫様、貴女様より大神様に重々の罪お赦し下さいます様お取成し願ひ上げ奉ります。又私は決して今後は、人様以上に結構な御用をさして頂かうとは夢にも思ひは致しませぬ。如何なる事にても構ひませぬから、どうぞ神様のお綱の切れぬ様に、大神様にお詫のお取次偏に希ひ上げ奉ります』 梅子姫『貴方の心の園の蓮花、転迷開悟の音を立て開き初めました。アヽいい所で改心して下さいました。これで梅子姫も父大神より命ぜられたる御用の一端が出来たと申すもの、私の方より貴方に対して感謝致します』 と嬉し涙を両眼に浮かべ、述べたつれば友彦は嬉しさ身に余り、大地にひれ伏し顔も得上げず、歓喜と悔悟の涙に咽び返つて居る。 蜈蚣姫は梅子姫の前に手をつかへて、 蜈蚣姫『梅子姫様、今迄の御無礼何卒々々お許し下さいませ。私は貴女様の御存じの通り悪逆無道の限りを尽した、鬼婆の様な悪人で御座いました。地恩城に参りまして娘の出世を見るにつけ、不知不識に高慢心が起り、且つ愛着の念に駆られ、肝腎の大神を第二に致し、且つ貴女様に対し、平素軽侮の目を以て向つて居りました心盲で御座います。地恩城に於て友彦が為め園遊会を開いた折、貴女様は紫の蓮華岩の上に立たせ給ひ、私の素性を歌つて下さつた時の私は、心の中にて非常な不満を抱きました。今思へばあの時のお言葉の中には、大神様の大慈大悲の救ひの御心……なぜ其時に私は気が附かなかつたでございませう。森羅万象に対し一切色盲の私、不調法ばかり致しまして神様に対し、又貴き貴女様に対してお詫申上げる言葉もございませぬ。どうぞ母子の者も憫み下さいまして、今迄大神様に敵対申した深い罪を、お詫下さいますようにお願ひ申します』 とワツとばかりに声をあげ泣き伏するにぞ、梅子姫は莞爾として、 梅子姫『アヽ蜈蚣姫様、貴女は今日只今初めて誠の神柱になられました、結構でございます。どうぞ此後とても妾と共に三五の大神様の御用に誠心誠意御尽力あらむことを希望致します。如何なる罪穢れ過も梅子姫が代りて千座の置き戸を負ひますれば御安心下さいませ』 蜈蚣姫は『有難うございます』と言うたきり、大地にかぶりつき有難涙に咽び入る。テールス姫は又もや梅子姫の前に両手をつき、 テールス姫『何分罪多き私、不知不識の御無礼お気障が何程ございませうとも、何卒お赦し下さる様、神界へお願ひ下さいませ』 と合掌して頼み入る。 梅子姫『貴女は此中でも最も罪軽き、身魂の清らかな神の子です。今日神界に対し差したる不調法もございませぬ。今後も今迄通り過ち無き様、神の御用に御奉仕あらむことを希望致します』 と答ふれば、テールス姫も梅子姫が慈愛の言葉に、有難涙をしぼるのみであつた。 梅子姫は湖面に向ひ合掌しながら何事か暗祈黙祷する事暫し、忽ち何処ともなく微妙の音楽聞え、西北の空を封じて、此方に向つて一瀉千里の勢にて飛び来る以前のアンボリー、幾百ともなく、翼を並べ、湖上目蒐けて飛び帰る其麗しさ、絵にも写せぬ眺めなり。 (大正一一・七・一一旧閏五・一七谷村真友録) |
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霊界物語 | 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) | 17 森の囁 | 第一七章森の囁〔七六三〕 黄金の玉を紛失し、高姫に追放されて、オセアニヤの一つ島に玉の所在を探らむと艱難辛苦を冒して立向うた黒姫は、夫高山彦と共に、一つ島の酋長格となり、数多の土人を手なづけ、一時は武力を以て東半分の地に勢力を扶植しつつあつた。 其処へ小糸姫、五十子姫、梅子姫、今子姫、宇豆姫の容色端麗なる美人現はれ来り、土人の崇敬殊に甚しく、高山彦、黒姫も之を排斥するの余地なきを悟り、抜目なき両人は直に猫を被つて小糸姫が部下となり、遂には心より小糸姫に悦服し、地恩城にブランジー、クロンバーの職を務め、二年三年一意専心に玉の所在を、土人を以て捜索せしめつつあつた。されども玉らしき物は何一つ手に入らず、殆ど絶望の思ひに沈む時、高姫其他の一行が此島に来るに会し、最早本島に用は無し、仮令オセアニヤ全島を我手に握る共、三千世界の宝たる三つの神宝には及ぶ可らず。躊躇逡巡せば、又何人にか宝玉の所在を探られむと、高姫、黒姫、高山彦は、日頃手撫づけ置きたるアール(愛三)、エース(栄三)の二人を引連れ、稍広く大なる樟製の船に身を任せ、タカの港を秘に立出で、後白浪と漕ぎ出す。 やうやうにして太平洋の波濤を横断り、数多の島嶼を縫うて馬関を過ぎり、瀬戸の海に帰還し、淡路の洲本(今の岩屋辺り)に漸く船を横たへ高姫を先頭に一行五人、洲本の酋長東助が館を指して進み行く。見れば非常に宏大なる邸宅にして、表門には二人の門番阿吽の仁王の様に儼然と扣へて居る。よくよく顔を眺むれば、生田の森の杢助館に於て出会した虻公、蜂公の両人である。 高姫『オヽお前は虻公、蜂公……如何してマア泥棒がそこまで出世をしたのだい。日の出神の御入来だから、一時も早く館の主東助殿に、日の出神御光来だと報告をしてお呉れ』 と横柄に命令する様に云ふ。 虻公『此頃は御主人はお不在で御座いますから、何人がお入来になつても、此門を通過さしてはならないと言はれて、斯う我々両人が厳重に固めて居るのだから、日の出神さまであらうが、仮令国治立尊様であらうが、通す事は罷りなりませぬワイ。主人の在宅の時は門番は誰も居ないのだが、主人が一寸神様の御用で、何々方面へ御越し遊ばし、其不在中に戸惑ひ者……何々が四五人連でやつて来るから、決して入れてはならぬぞ。若し我命令を破つて門内に通す様な事があつたら、其方は直に暇を呉れる。さうすれば貴様も虻蜂取らずになつて了ふぞよ……と厳しき御命令だ絶対に通す事はなりませぬ……なア蜂公、さうぢやないか』 蜂公『さうだ、国依別さまが生田の森からお迎へにお出でた時、鷹姫とか、鳶姫とか、烏姫とか、黒姫とか云ふ奴がキツと此館へゴテゴテ言うて来るに違ひないから、一度でも顔見知つた虻公、蜂公を門番にして置くがよからう……と云つて、東助さまと相談の上、臨時門番を勤めて居るのだ。神様と云ふものは偉いものだ。チヤンと日の出神様の様に、前に知つて御座るのだから堪らぬワイ、アツハヽヽヽ』 高姫少しく声を尖らし、 高姫『泥棒上りの虻蜂の分際として、此結構な神柱を鷹だの、鳶だの、烏だのと、何と云ふ口汚い事を申すのだ。大方言依別の奴ハイカラから聞かされたのだらう』 虻公『そんなこたア如何でもよい。誰が言つたのか知らぬが、世界中知らぬ者はありますまい。つひこの近くに結構な玉が隠してあるのに、オーストラリヤ三界まで飛んで行くと云ふ羽の強いお前共だから、鳥に譬られても仕方があるまい。グヅグヅして居ると国依別や東助さまが玉の所在を嗅ぎ出して、又お前さまに取られぬ様にと宝の埋換を遊ばすと見え、何でも立派な玉が聖地へ納まるから、お迎へとか、受取りとかに行かはりました。お前さまの居らぬ間に聖地には……噂に聞くと、何でも近い内、五色の玉が納まると云ふ事、それなつと受取つて、又お前さまに隠さしたら、チツトは高姫、黒姫の病気も癒るだらうと、国依別さまが笑ひ半分に言つてましたよ。アハヽヽヽ』 黒姫『あの三つの御宝を、言依別が又埋けなほすと云ふのかい、エーエ胸がスイとした。初稚姫の様な小チツペや、玉能姫などが末代の御用をしたと思つて……三十万年未来までは何と仰有つても申し上げられませぬ……なんて威張つて居つたのが……思へば思へば可憐らしいわいの。……それはさうと言依別の奴ハイカラ、クレクレと猫の目程精神が変るのだから、今度は又国依別のヤンチヤや、船頭あがりの東助に御用をさすのらしい。コリヤうつかりとして居られますまい。……サア虻、蜂の御両人、そこまで聞いて居る以上は、モツと詳しい事を御承知だらう。お前は中々正直者だ、それでこそ御神業が勤まると云ふもの、サア私と一緒に聖地へ帰り様子を偵察して、末代の御神業に仕へませう。其代り此高姫、黒姫の御用を聞けば、立派な御出世が出来まする。宜しいかな、分りましたか』 と三歳児をたらす様に、甘つたるい声を出して抱き込まうとする。 蜂公『グヅグヅして居ると、国依別が肝腎の御用をしますで、早うお帰りなされ。悪い事は言ひませぬ……(小声)と斯う言うて門を潜らさぬ様に、追ひまくる様にする俺の計略だ』 と小さい声で呟くのを、高姫は耳敏くも、半分計り聴き取り、 高姫『コリヤ門番の古狸奴が、黒姫さまはお前にチヨロまかされても、世界の大門開きを致す日の出神の生宮は東助の門番位に誤魔化されはせぬぞ。黙つて聞いて居れば何を云ふか分つたものぢやない。察する所家島(絵島)か、神島四辺に隠し置いたる三個の宝玉を、我々が遠い所へ往つたのを幸ひ、ヌツクリと取り出し、初稚姫や玉能姫に揚壺を喰はし、此館に言依別、国依別、東助が潜んで、玉相談をやつて居る事は、日の出神の天眼通にチヤンと映つて居る。どうだ、虻、蜂、恐れ入つたか』 虻、蜂一度に、 虻公、蜂公『アハヽヽヽ、エライ日の出神さまだなア。何も彼もよう御存じだワイ』 高姫『定まつた事だ。世界見えすく水晶身魂の日の出神様の仰有る事に間違ひがあつてたまらうか。……サアサア高山彦さま、黒姫さま、アール、エース、……虻、蜂両人を取押へてフン縛り、我々は奥へ進み入つて、三人の面の皮を剥いてやりませう』 高山彦『高姫さま、コリヤ……一つ考へ物ですな。多寡が知れた虻、蜂の門番、そんな秘密が分らう筈がない。グヅグヅして居ると、良い翫弄物にしられるかも知れませぬぞ』 高姫『そら何を仰有る高山さま、千騎一騎の此場合、チツト確乎なさらぬかいな。……黒姫さまも余程耄碌しましたね』 虻公『俺を取り押へるの、フン縛るのと、そりや何を言ふのだ、這いるなら這入つて見よ。危ない事がして有るぞ。忽ち神の罰が当つて、虻蜂取らずの目に会つても良けら、ドシドシとお通りなさい……と云ひたいが、金輪奈落此門を通しちやならぬと云ふ厳命を受けて居るのだから、表門は俺の責任があるから、入口は一所ぢやない。貴様勝手に這入つたがよからうぞ。此前にやつて来たお前に似た様な宣教師は廁の中からでも逃げ出たのだから、裏の方へそつと廻つて、廁の下から糞まぶれになつて這入らうと這入るまいと、ソラお前の勝手だ。此門だけは、絶対に通る事は罷りならぬのだ。ウツフヽヽヽ。……三つの玉とか、五つの玉とか、今頃には聖地は玉の光で美しい事だらうな。初稚姫さまも、玉能姫さまも、余り欲が深過ぎるワイ。三つの玉の御用をし乍ら、今度又竜宮の一つ島で結構な玉を五つも手に入れて八咫烏とかに乗つて帰つて御座るとか、御座つたとか云ふ無声霊話が、頻々と東助さまの館へかかつて来た。アヽさうぢや、杢助さまも結構な生田の森の館を棄てて聖地へ行かつしやる筈だ。初稚姫、玉能姫さまは、年は若うても、流石は立派な方だ。一度ならぬ、二度ならぬ、三千世界の御神業の花形役者だ。心一つの持様で、あんな結構な御用が出来るのだからなア。そこらの人、爪の垢でも煎じて飲んだら薬になるだらう。ウツフヽヽヽ』 高姫『誰が何と云つても聞くものか。そんな巧い事云つて、此館に高姫を入れまいと防禦線を張るのだらうが。そんな事を……ヘン喰ふ高姫で御座いますかい。そんなら宜しい。裏門から這入つてやらう。さうすればお前の顔も立つだらう』 と掛合ふ所へ、東助の妻お百合は門口の喧しき声に気を取られ、座を立ちて一人の侍女と共に此場に現はれ来る。 虻公『これはこれは奥様、よう来て下さいました。三五教のヤンチヤ組の高姫一行がお出でになりやがつて、此門を通せと仰有りやがるのです。如何言つて謝絶つても、帰らうと仰有りやがらず、それ程這入りたければ、友彦の様に廁の穴からでも這入れと云つてゐる所で御座います。此御館は表門計りで、裏門と云へば雪隠の穴計り、そこからでも這入らうと云ふ熱心な方ですから……どうでせう、御主人はあれ丈厳しくお戒めになつて居ますけれども、そこは又臨機応変、どつと譲歩んで通してやつたら如何でせう』 お百合『これはこれは高姫様御一行で御座いますか、噂に承はつて居りましたが、ホンに立派なお方計り、ようお入来なさいました』 高姫『私は仰有る通り、高姫、高山彦、黒姫の三人で御座います。何時やらは御主人の東助どんに、家島まで送つて貰ひ、アタ意地くねの悪い、私の家来の清、鶴、武の三人を自分の船に乗せ、私を家島に島流しも同様な目に会はし、其後と云ふものはイロイロ雑多と此高姫を苦めて下さいまして、実に有難う御座います。其お蔭で余程私は身魂磨きをさして頂きました』 お百合『どう致しまして、お礼には及びませぬ。苦労の塊の花の咲く三五教で御座いますから、貴方の様な肝腎のお方を改心させる御用を勤めた私の主人は、謂はば高姫のお師匠さま格ですな。オツホヽヽヽ』 高姫『何と、理窟も有れば有るものだな。海賊上りの東助の女房丈の事あつて、巧い逆理屈をお捏ね遊ばす。斯んな立派な館を建てて、酋長々々と言つて居つても、人品骨柄の下劣な事、破れ船頭が性に合ふとる。海賊をやつて沢山な宝を奪ひ取り、財産家となつて、栄耀栄華の有りたけを尽し、今度は三つの御神宝にソロソロ目を付け出した大泥棒の計画中だらう。何と云つても奥へ踏み込み、言依別、国依別を助けて失敗をさせない様に注意するのが男子の系統の高姫の役だ。サア案内をなされ』 お百合『そんなら開放致しませう。自由自在御勝手にお探し遊ばせ。此館は四方八方蜘蛛の巣の如く、到る所に暗渠が掘つて御座いますから、うつかりお這入りになると生命がお危なう御座いますぞ。これ程広い屋敷でも、安心して歩行ける所は、ホンの帯程より有りませぬ。それも生憎東助殿が絵図面を持つて出て居られるものですから、私達は庭先だとて迂濶り歩けないので御座います。それ丈前に御注意申し上げておきます』 虻公『日の出の神の天眼通様、貴女はよく御存じだらう。サア、トツトと早くお入りなされ』 高姫は双手を組んで思案に暮れ乍ら、一生懸命に祈願を凝らし出した。稍あつて高姫は、 高姫『あゝ此処にはヤツパリ居りませぬワイ。……サア黒姫さま、高山彦さま、一時も早く生田の森へ参りませう。彼の方面に三箇の宝玉が現はれました。私の天眼通にチヤンと映つた。早く往かないと又チヨロまかされると大変だ』 お百合『どうぞ、さう仰有らずと、御ゆつくり遊ばしませ』 高姫『ヘン京のお茶漬は措いて下されや』 とプリンプリンと肩や尻を互交ひに揺り乍ら、磯端の船に身を任せ、アール、エースの両人に艪櫂を操らせ、一目散に再度山の峰を目標に漕いで行く。 執着心に搦れて玉を抜かれた高姫や 黒姫二人の玉探し太平洋の彼方まで 心焦ちて駆け出だしどう探しても玉無しの 力も落ちて捨小舟高山彦等と五人連れ 折角永の肝煎りも泡と消えゆく波の上 誠明石の向岸浪の淡路の島影に 船を漕ぎつけ東助が館の門に走せついて 虻と蜂との門番に上げつ下しつ、揶揄はれ 心を焦ちて高姫は又もや玉に執着を 益々強く起こしつつ再度山の山麓の 生田の森へと急ぎ行く。 生田の森の杢助館には、国依別、秋彦、駒彦の三人が、臨時留守居役として扣へて居た。 国依別『玉能姫さまも此館をお立ちになつてから、随分月日も経つたが、どうやら今度は竜宮の一つ島から結構な宝を受取つて、聖地へお帰りになると云ふ事だ。何れ初稚姫様、玉治別も一緒だらう。何時までも私も斯うしては居られないから、聖地へお迎へに行かねばならぬから、……秋彦さま、駒彦さまと両人で此館を守つて居て下さい。直に又帰つて来ますから、……』 秋彦『ハイ承知致しました。併し乍ら万々一、例の高姫一行が帰つて来て、国依別さまは何処へ行つたと尋ねた時には、何と云つて宜しいか、それを聞かして置いて貰ひたいですなア』 国依別『滅多に高姫は帰つて来る様な事はあるまい。併し万一来たならば、一層の事、事実を以て話すのだな』 秋彦『そんな事話さうものなら、高姫は気違になつて了ひますよ。三つの玉の所在は分らず、それが為一生懸命になつて居る矢先、又もや結構な五つの玉を、同じ竜宮島から、初稚姫様や玉能姫さまが頂いて帰つたのだと言はうものなら、大変ですからなア』 駒彦『オイ秋彦、取越し苦労はせなくても良いよ。其時は其時の事だ。……国依別さま、何事も刹那心で我々はやつてのけますから、御安心下さつて、どうぞ一時も早く聖地へお迎へに行つて下さいませ』 国依別『それぢや安心して参りませう』 と話して居る。窓を透かしてフト外を見れば、夜叉の様な顔した高姫、黒姫、高山彦外二人、此方に向つて慌しく進んで来る。 駒彦『ヤア国依別さま、秋彦、あれを見よ。呼ぶより誹れだ。高姫が血相変へて帰つて来よつた。三人が斯うして居ると面倒だから、先づ此駒彦が瀬踏みを致します。あなた方二人は奥へ這入つて、様子を考へて居つて下さい。私が一つ談判委員になりますから……サアサア早く、見つけられぬ内に……』 と促せば、国依別、秋彦はニタリと笑ひ乍ら、次の間に入り、火鉢を中に松葉煙草を燻べて様子を考へて居た、漸く近付いて来た高姫、表の戸を叩いて、 高姫『モシモシ頼みます』 中より駒彦はワザと婆アの作り声をし、 駒彦『此山中の一つ家を叩くは、水鶏か、狸か、狐か、高姫か……オツトドツコイ鳶か真黒黒姫の烏の親方か、ダ……ダ……ダ……誰だい』 外から高姫、婆声を出して、 高姫『誰でもない、日の出神の生宮だ。早く戸を開けぬか』 駒彦『今は日の暮だ、日の出神は朝方に出て来るものだ。蝙蝠の神なれば戸を開けてやるが、日の出神なればマアマア御免コウモリだよ。オツホヽヽヽ』 高姫『此館には国依別と云ふ奴ハイカラが留守番をして居る筈だが、お前は一体、何と云ふ婆アだ。根つから聞き慣れぬ声だが、誰に頼まれて不在の家を占領して居るのだ』 駒彦『オツホヽヽヽ、私かいな。私は国依別の妾だ。雀百まで牡鳥忘れぬと云うて、棺桶へ片足を突込んで居る鰕腰の婆アでも、姑の十八を言ふぢやないが、昔は随分あちらからも此方からも袖を引かれ、引く手数多の花菖蒲、それはそれは随分もてたものだよ。残りの色香は棄て難く、どこやら、好い匂ひがあると見えて、色の道には苦労をなされた国依別さまが、ゾツコンわたしに惚込んで五十も違ふ年をし乍ら朝から晩まで大事にして下さるのだ。思へば思へば私の様な運の好い者が何処にあらうか。男やもめに蛆が湧くと云ふが、女やもを程結構なものはないワイの。お前はどこの婆アだか知らぬが、余程よい因果者と見えて、其面は何だい。汐風に吹かれ顔の色は真黒け、何方が黒姫だか、アカ姫だかテント見当の取れぬお仕組だ。オツホヽヽヽ。お気の毒様乍ら、婆ア一人暮し、お茶一つ上げる訳には行かぬから、トツトと帰つて下され』 高姫は戸の節穴から一寸中を覗き、 高姫『日の暮れの事とて確実は分らぬがお前は婆アの仮声を使つて居るが男ぢやないか。チツと怪しいと思つて居た。白状せぬかい。日の出神の眼を晦ます事は出来やしないぞ』 駒彦ヤツパリ婆の仮声を出して、 駒彦『言霊は女で体は男だ。変性男子の根本の生粋の神国魂の御身魂だよ』 高姫『ヘンお前は元は馬公と云つた駒彦だらう。馬い事言つて私達を駒らさうと思つても、日の出神は……ヘン、そんな事では困りませぬワイ。グヅグヅ申さずに、サツサと開けなされ』 駒彦『アツハヽヽヽ、とうと日の出神に発見せられました。……叩けば開く門の口。叩いて分る俺の口。サツパリ化けが現はれたか。三千世界の大化物も薩張駄目だ』 と無駄口を叩き乍ら、ガラリと戸を押開け、駒彦は腰を屈め、揉み手をし乍ら女の声を使ひ、 駒彦『これはこれは三五教にて隠れなき御威勢の高き、変性男子の系統の高姫様、黒姫様、高山彦様の御一行、よくよくお訪ね下さいました、私は若彦の妻玉能姫と申す者、何時も何時も結構な御教訓を賜はりまして有難う御座ります。紀州に於て高姫様に夫婦対面の所を見付けられ、イヤモウ赤面を致しました。オツホヽヽヽ』 高姫『コレ駒彦さま、人を馬鹿にするのかい。大きな口を無理におチヨボ口にしたり、玉能姫の仮声を使つて何の態だ。婆になつたり、娘になつたり、此頃はチツとどうかしとりますな』 駒彦『ハイ、大にどうかしとります。何分三箇の玉は紛失致し、玉能姫に、折角御用を承はり乍ら、蛸の揚壺を喰はされ、此頃又五つの玉が聖地に這入つたとやら云ふ事、それで此駒彦も気が気でならず心配をして居ると、最前の様に黒姫とか云ふ婆アの霊が憑つたり、玉能姫の霊が憑つたり、時々刻々に声までが変ります。ハイハイ誠に面目次第も御座りませぬワイ。アツハヽヽヽ』 と肩を揺る。黒姫は、 黒姫『お前さまは黒姫の霊が憑つたと仰有つたが、それは誰の事ですか。聞捨ならぬ今のお言葉…』 と鼻息を荒くする。 駒彦『駒彦の身魂は神が御用に使ふて居るから、イロイロの霊魂が憑るぞよ。駒彦が申しても駒彦が云ふのでないぞよ。口を借る計りであるぞよ。駒彦を恨めて下さるなよ。何事も神の仕組であるぞよ。駒彦は何にも知らず…ウンウン』 ドスン、バタンと飛びあがつて見せた。 黒姫『エー馬鹿にしなさるな。併し此館はお前一人かな』 駒彦『一人と言へば一人、大勢と言へばマア大勢だ』 黒姫『其大勢は何処に居るのだい』 駒彦『何を言うても神様の容器に造られた此肉体、天津神、国津神、八百万の神が出入り遊ばす駒彦の肉の宮、チヨコチヨコ日の出神もおいで遊ばすなり、竜宮の乙姫さまもチヨコチヨコ見えますぞよ。真の乙姫は此頃は駒彦の肉の宮に宿換を致したぞよ……と仰有つて結構な玉を見せて下さいますワイ。ここにも現に天火水地結の五つの玉が、ヤツパリ……ヤツパリぢやつた。マア言はぬが花ですかいな』 高姫得意顔になり、 高姫『それ、黒姫さま、高山彦さま、私の天眼通は違ひますまい。キツと生田の森に隠して有るに違ひないと言つたぢやありませぬか。東助館にグヅグヅして居ようものなら又後の祭になる所だつたが、斯う自分の口から白状した以上は、てつきり玉の所在は此館に間違ない。……サア駒彦、モウ叶はぬ。綺麗サツパリと其玉の所在を系統の肉体にお明かしなされ』 駒彦『玉の所在は竜宮島の諏訪の湖、玉依姫命さまが、モウ時節が到来したから、身魂の立派な守護神に渡したい渡したいと仰有るので、玉照姫様の御命令に依り、言依別神様から、東助さまや国依別さまに……お前受取りに往つて来んか……と云つて御命令が下つたさうです、私も御用に行きたいのだが怪体の悪い、留守番を命ぜられ、指を啣へて人の手柄を遠い所から傍観して居るのだ。本当に羨ましい事だワイな』 高姫『そりや又本当かい。モウ既に聖地へ納まつたと云ふぢやないか』 駒彦『何分、時間空間を超越した神界の御経綸だから、過去とも未来とも現在とも、サツパリ凡夫の我々にや分りませぬワイ。アツハヽヽヽ』 高姫『どうやら奥の間に人の気配がする。煙草を吸うて居るのか、煙管で火鉢をポンポン喰はして居るぢやないか。松葉臭い薫がして来出した。誰が居るのだ、白状なされ』 駒彦『ハイ鼠が二三匹奥の間に暴れて居るのでせう』 高姫『それでも煙が出るぢやないか』 駒彦『鼠が煙草を吸うて居るのでせうかい』 高姫はスタスタと奥の間の襖を引き開けて飛びこみ、二人の姿を見て、 高姫『これはしたり、国依別、秋彦の両人、卑怯千万にも不在を使ひ、奥の間に姿を隠し、我々を邪魔者扱になさるのかーツ』 と言葉尻に力を入れ、角を立てて呶鳴りつけた。国依別は杢助流にグレンと仰向けにひつくり返り、手と足を上の方にニユウと伸ばし、 国依別『チユウチユウチユウ』 と鼠の鳴き声をして見せる。秋彦は亦グレンと転倒り、同じく手足を天井の方へニユウと伸ばし、 秋彦『クツクツキユツキユツキユツ』 と脇の下に笑ひを抑へて居る。高姫は、 高姫『何と云ふ不作法な事をなさるのだ。四足の真似をしたりして、本守護神が現はれたのだ。アヽ隠されぬものだ。身魂と云ふものは……日の出神の御威光に照らされて、此憐れな態、斯んな身魂を言依別の奴ハイカラが信用して居るのだから……本当に悲しくなつて来た。幹部の奴は色盲計りだから、人物を視る目が無いから困つたものだ。誠のものは排斥され、斯んな者が雪隠虫の高上りをするのだからなア』 国依別『チウチウチウ』 秋彦『クウクウクウ』 国依別『サツパリ………身魂がチウクウに迷うて居るワイの、ウツフヽヽヽ。キユツキユツキユツキユツ』 と体一面に笑ひを忍んで、波を打たせて居る。 高姫『コレコレ黒姫さま、高山彦さま、一寸来て御覧、大変な事が出来致しました。天が地となり、地が天となり、サツパリ身魂の性来が現はれて、足が上になつて歩く人間が現はれました。どうぞ皆さま、やつて来て天津祝詞を奏上し、元の人間になる様に拝んでやつて下さい。あゝ惟神霊幸倍坐世、惟神霊幸倍坐世』 と気の毒さうな顔して、一生懸命に祈願をこめて居る。 (大正一一・七・一二旧閏五・一八松村真澄録) |
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67 (1880) |
霊界物語 | 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) | 18 玉の所在 | 第一八章玉の所在〔七六四〕 高姫の言葉に従ひ、黒姫、高山彦、アール、エースは一生懸命汗みどろに成つて、両人の身魂の救はれむ事を祈願し始めた。国依別、秋彦両人はムツクと起き上り手を組み、ドスンドスンと座敷の真中に床がぬける程、飛び上り揶揄ふ。 高姫『皆さま御覧なさい。日の出神の御神力と言ふものは偉いものでせう。あの通り生き乍ら畜生道に陥ち込み、足をピンと上にあげて、如何する事も出来ずに鼠の霊に憑られて……チユウチユウ、クウクウ……と泣いて居りましたが、日の出神の反魂力に依りて此通り元の様になりました。座敷中飛び上つて居つたのも、此の日の出神の御神力に恐れての事、サア皆さま、寄つて集つて四方八方から鎮魂攻めにあはせ、国依別等を霊媒として、誠の玉の所在を白状させようぢやありませぬか』 黒姫『そりや、至極結構でせう』 駒彦『もしもし、高姫さま、黒姫さま、何卒御心配下さいますな。彼奴ア、あんな事をして貴方等を揶揄つて居るのですよ。本当にして居ると馬鹿を見ますよ』 高姫『お黙りなさい。お前さま等に分つて堪りますか。此方には日の出神と竜宮の乙姫とが憑いて居ります。揶揄つて居るのか、本当か、邪霊が憑つて居るのか、そんな事が分らずに如何して神界の御用が出来ますか。お前さまのやうに、婆になつたり娘になつて誤魔化さうとしても、日の出神の此高姫が……ヘン……見れば直ぐ化が現はれる。お前さまはゴテゴテ言ふ資格はないから、其辺辺のペンペン草でも引きなさい。それが性に合うて居りますワイ、オホヽヽヽ』 駒彦『高姫さま、お前さまの仰有るのも一応御尤もだが、よく泳ぐ者はよく溺ると言ふ事がありますぜ。神懸りの道を知らぬ者は神懸り[※初版・三版・校定版では「神懸」、愛世版では「神憑」。]に騙される事は無いが、お前さまの様に神懸りに不徹底して居ると、却つてアフンと言ふ目に遭はされるか知れませぬよ。此処は例のアフン鉄道の終点、ビツクリ駅だからなア』 高姫『エー、八釜しいワイな。まア黙つて此生宮の審神を見て御座れ。今に此両人に口をきらして、お前達の一切の素性を素破抜かすから……。アーア、竜宮の一つ島から帰つて来る途中随分苦労をしたが、一つ試験の為め霊をかけて聞いて見よう』 と両手を組み、 高姫『大将軍様、十悪道様、地上大神様、地鎮荒神様、大黒主神様、鷹鳥神様、何卒々々此両人にお憑り下さいまして、玉の所在を一伍一什お示し下さいませ。天下国家の一大事、決して高姫や黒姫の私有物に致すのでは御座いませぬ。惟神霊幸倍坐世。一、二、三つ此玉が一時も早く出ます様に、一、二、三、四、五つの玉が又もや現はれたと言ふ事、それが真実ならば、今度こそは高姫、黒姫、高山彦の三人にお渡し下さい。一、二、三、四、五つの玉が早く発見致しまするやう……六、七、八、九、十、百、千、万、仮令何処の果に隠しあるとも、大神様の御眼力を以て御発見遊ばし、此肉体の口を借つて直接に御示し下さいませ』 とウーンウーンと霊を送る。国依別は組んだ手を頭上高くさし上げ、弓の様に反り身になつて、 国依別『ウヽヽヽ運命の綱に引かれて、竜宮の一つ島まで彷徨ひ歩く汝の心の可憐しさ、オホヽヽヽおれは……俺は、俺は、俺は、俺は、フヽヽヽ再度山の大天狗であるぞよ。高山彦や黒姫の心事を憐み、聖地の神には済まぬなれども、玉の所在を知らして遣はす。それに就いては意地くねの悪い高姫が、此処に居つては絶対に言ふ事は出来ぬぞよ』 高姫『再度山の大天狗、そりやチツと量見が違ひはしませぬか。高山彦や黒姫に知らして此高姫に知らさぬと言ふのは、そりや又如何言ふ理由ぢや。それを聞かして下され』 国依別『それは…それは…それは我眷族の小天狗が、秋彦の肉体に憑つて居るから、それに聞いたが宜からうぞ。俺はもう引き取るぞよ』 高姫『引き取ると言うても此事解決をつける迄、霊縛を加へて引き取らせませぬぞ。サア高姫に言はれぬと云ふ其理由から判然と聞かして貰ひませう』 国依別『日の出神は世界中見え透く神ぢやから、玉の所在は大天狗が知らさずともよく御存じの筈だ。申上ぐるも畏し、釈迦に説教を致す様なものだ。高姫に対し玉の所在を明かさぬのは、畢竟敬意を払つて、日の出神の御神力を輝かさむと思ふ大天狗の真心で御座る』 高姫『御心遣ひは御無用に成されませ。さあチヤツと日の出神様の様な尊い神に御苦労をかけるのも畏れ多い、お前さま、知つてるのなら小さい声でソツと言つて下さい。黒姫や高山彦は、言はばお添物だから如何でも宜しいのだ』 と耳の端に口を持つて行き、小さい声で囁く。国依別は故意と大きな声で、 国依別『それは高姫、一寸量見が違ひは致さぬか、今耳の端で……高姫さへ玉を手に入れたら宜い、高山彦や黒姫などは添物だ、如何でもいい……と囁いたであらうがな。そんな二心で黒姫、高山彦を扱つて居るのか。ヤイ、高山彦、黒姫、よう今迄高姫に馬鹿にしられよつたな。もう神懸りは嫌になつた。俺は斯う見えて居つてもチツとも霊は懸つては居らぬぞ。国依別は肉体で申して居るぞよ。それに間違ひは無いぞよ。よく審神して下されよ』 高姫『悪神と言ふものはよく嘘言をつくものだ。コラ大天狗、其手は喰はぬぞ。国依別の肉体が言うた等と巧く逃げ様と思つても、いつかないつかな此日の出神が睨んだ以上は逃がしはせぬ。サア綺麗サツパリと、高姫、黒姫、高山彦の三人の前で玉の所在を白状致すが宜からう』 国依別『三つの玉の所在を知らせませうか、但し五つの玉の所在からお知らせ致しませうか』 高姫『何卒三つの玉の所在は申すも更なり、五つの玉の所在も一緒に仰有つて下さい。さうすれば再度山に立派なお宮を建て、其上大天狗の遊ぶ公園を造つて上げますから……何卒仰有つて下さい』 国依別『そんなら是非に及ばず、知らしてやらう。三つの玉は二三日中に聖地へ八咫烏に乗つて来るぞよ。一つの玉は玉治別、も一つは玉能姫、も一つはお玉の方、これが三つの生魂であるぞよ。又も玉照彦、玉照姫を合せて五つの御魂となるぞよ。アハヽヽヽ』 高姫『エー、合点の悪い。それは人間の名ぢやないか。本当の宝玉は何処にあるのだ、それを言ひなさい』 国依別『実の処は此国依別も、秋彦、駒彦も聖地へ行き度いのが胸一杯なれど、折あしく其方等がやつて来たものだから行くに行かれず、迷惑致して居るぞよ。それに就いて玉の所在は此処ぞと嘘言を言ひ、高山彦の一行を或地点へ玉探しにやつて置き、其ままコツソリと三人が聖地に行つて秘密の神業に参加する積りであつたが……アヽ如何したら宜いかなア』 高姫『それ見たか、矢張り国依別では無い。大天狗の神懸りだ。国依別が如何して自分の秘密を自分の口で言ふものか。これ大天狗、そんな嘘言云うた処で此高姫は承知しませぬぞ。早く玉の所在を知らして下さい。大天狗なら何でも知つてる筈だ』 国依別『そんなら玉の所在を詐つて騙してやらうか。間違つても決して国依別の肉体に対して不足は申さぬか』 高姫『決して不足は申さぬ。嘘言から出た誠、誠から出た嘘言と言ふ事がある。嘘実不二表裏一体だ。何でも宜いから言つて下さい。物も研究だ。オーストラリヤ三界まで調べに行つて来た熱心な我々一同、仮令一日二日遅れても構ふものか、なるべく本当の事を嘘言らしく言ふのだよ』 国依別『本当の嘘言の事を本真らしく申してやらう。神の奥には奥があり、其又奥には奥があるぞよ』 高姫『エーそんな事は妾の言ふ事だ。奥の奥の其奥は羽織の紐ぢやないがチヤンと胸にある。サア言つて下さい』 国依別『オヽヽヽ俺は、俺は大天狗の事であるから、言依別命の為さる事はチツとも分らぬぞよ。実の処は知らぬと申すより外は無いぞよ』 高姫『エー、意茶つかさずに置いて下され。あた辛気臭い、早く言ふのだよ。何時までも人を暇さうに焦慮らすものだない。時機切迫の今日の神界、仮令一分間でも空に光陰を費やす事は出来ませぬ』 国依別『此大天狗が知らぬと言うたら何処迄も、シヽ知らぬぞよ。ウフヽヽヽ』 黒姫『もしもし高姫さま、此奴ア駄目ですよ。あんまり玉々と言つて玉に魂を抜かして居るものだから、大天狗の鼻高が我々を嬲るのですから、よい加減になつて置きなさいませ』 高姫『これ黒姫さま、そりや何を仰有る。掃溜の中にも金玉が隠される事がある。斯う言ふ低い神に聞いた方が却て都合が好いのだ。少し腹のある神は中々秘密は申さぬが、斯う言ふ低い神は責めて責めて責め倒すとツイ白状するものだ。お前さまも来てチツト鎮魂攻めを手伝つて下さい。何処までも責めて、白状させねば措きませぬぞえ』 国依別『アーア、悪戯が本当になつて来た。二進も三進も方法がつかぬワイ、……もし高姫さま、何も憑つては居りませぬ。国依別が出放題を申したのですから、何卒神直日大直日に見直し聞直し、一座の興だと思つて諦めて下さい』 高姫は首を振りウンと息をかけ、 高姫『一座のけふも明日もあつたものかい。何処までも調べて調べて、調べ上げねば措きませぬぞ。仮令百日かかつても千日かかつても白状させねば措くものか、サア大天狗、もう好い加減に白状したら如何だい』 国依別『アヽ困つたな。実の処は早く聖地に行かねば、言依別神様にお目玉を頂戴するのだ。然し高姫と一緒に帰つては困るなり、実際は嘘言だから何処に玉が隠してあるか、そんな事が分るものか。国依別の肉体に間違ひないから、何卒疑ひを晴らして下さい』 高姫はキツとなり、 高姫『こりや、再度山の大天狗奴、何と言つても白状させねば措くものか』 と又もや汗をたらたら流し、『ウンウン』と霊を送る。側に目を塞ぎ手を組んで坐つて居た秋彦の方は根つから、相手になつて呉れぬので、 秋彦『アーア、偽神懸りも辛いものだ。誰も相手になつて呉れない。本当に玉なしだ。アヽもう廃めとこかい』 高姫『これ、小天狗、巧い事化けやがるな。何と言つても肉体ぢや無い。サアお前はチツとでよいから何方の方面だと言ふ事位は知らして呉れ。さうしたら公園を拵へお宮を建てて祀つてやる』 秋彦『公園も何も要りませぬ。あゝ足が痛くなつて来た』 と立ち上らうとする。 高姫『これ黒姫さま、高山彦さま。秋彦の両方の手をグツと握つて下さい。小天狗の奴、何処へ肉体を連れて行くか分りませぬぞ。白状させる迄は此肉体を外にやる事は絶対になりませぬぞ』 国依別『そんなら、エー、白状致します。再度山の大天狗に間違ひはありませぬ。又此秋彦の肉体に憑つて居るのは私の眷族小天狗です。何卒しつかり手足を掴まへて立つて去なぬ様にして下さい』 秋彦『これこれ国依別さま、殺生な事を言はないで下さい。足が痛んで仕方がありませぬ。お前さまがするから真似したのが病付きだ。……もしもし御両人様、どうぞ手を放して下さい。お前さまも肉体か神懸りか分らぬ事はあるまい。本当によく調べて下さい』 黒姫『何と仰有つても小天狗は小天狗だ。国依別は平常から鼻が高いから大天狗が憑るのは当然だ。お前も鼻高だから身魂相応の小天狗が憑るのだ。巧い事肉体に化けてもあきませぬぞよ』 国依別『アハヽヽヽ、暁没漢ほど困つたものは無いワイ。そんなら偽の神懸りで、大天狗が高姫に玉の所在のスカタンを知らして上げようかい。其代りに知らしてやつたら此処を立ち退くだらうなア』 高姫『何処迄もお前を引張つて行つて神懸りをさせて玉を探させ、土の中でも何尺下と言ふ事を透視さすのだから、玉が出る迄放しませぬぞえ』 国依別『こいつは困つたなア。俺も自分乍ら肉体だか神懸りだか分らぬ様になつて仕舞つた』 高姫『それ見なさい。何処だかハツキリと白状しなさい、事と品とに依つたら此場で開放してやるかも知れませぬ』 国依別『別に開放して貰はなくてもよい。霊縛されたのでも無し、自由自在に行き度い処に行けるのだが、一つ困るのはお前さまが跟いてくる事だ。跟いて来さへせねば国依別は国依別としての御用が勤まるのだ。二三日遅れて聖地へ帰るなら帰つて下さい。それ迄にチヤンと秘密の相談をして、お前さま達にアフンとさせる仕組をさせねばならぬからなア』 高姫『何と言つても国依別が其んな自分の不利益な事を喋るものか。再度山の大天狗に間違はあるまいがな』 と後程大きな声で呶鳴りつける。 国依別『そんなら三つの玉の所在を一人々々一ケ所づつ申し上げるから、互に秘密を守つて下さい。三人が三人乍ら分らない様にするといふお約束になれば、実際の事を大天狗が申し上げませう。実の処は言依別命様が明日の朝早く掘り出しに御出になり、又外へお隠し遊ばすのだから、玉を手に入れるのなら今の内ですよ』 高姫、首を縦に三つ四つ振り乍ら、 高姫『あ、さうだらうさうだらう、そんなら高山彦さま、黒姫さま、妾は如意宝珠の玉の所在を聞きますから、貴方達は彼方へ行つて下さい。順番が廻つて来たら知らせますから……』 黒姫『エー、仕方が無い。そんなら順番が来る迄待つて居ませう』 と次の間に下がる。 国依別『此家を遠く離れて森の中まで行つて下さい。さうでないとお前さまの副守護神が立聞きすると困るから……』 黒姫『ハーイハーイ』 と長い返事をし乍ら黒姫は出でて行く。 高姫『さア御註文通り誰も居りませぬ。チヤツと仰有つて下さいませ』 国依別『金剛不壊の御玉は、杢助の娘、初稚姫、言依別の手より受取り給ひ、近江の国の竹生島の社殿の下に三角石を標として匿し置かれたぞよ。その方は只今より黒姫に姿を隠して、一時も早く竹生島に向つて玉取りに行くが宜からう。愚図々々致して居ると言依別の使者に先に掘出されて仕舞ふぞよ』 高姫『何でも妾の霊眼に映じたのは島ぢやと思うて居た。お礼は後で申し上げる。又国依別の肉体も良い御用をしたのだから、肉体に対しても後で御礼を申すから……』 と欣々と杢助館の裏口より駆出して仕舞つた。 国依別『オイ秋彦、駒彦、如何だ。俺の狂言は余り巧くやり過ぎて、本当の大天狗にしられて仕舞つたぢやないか。アハヽヽヽ』 秋彦『然し国依別さま、本当に金剛不壊の玉は竹生島に隠してあるのですか。俺は初めて聞きましたよ』 国依別『大きな声で言ふな。疑ひ深い高姫がソツと俺達の話を立聞きしてるか知れぬぞ……オイ、駒彦、家の周囲を見て来い』 駒彦『イヽエ、高姫は雲を霞と走つて行きましたよ』 国依別『サア、之から此大天狗が黒姫、高山彦を何とか撒かねばならぬ。今度は何処に隠したと言はうかな。エー、よしよし、其時の塩梅ぢや、……オイ駒彦、黒姫さま唯一人来いと言うて呼んで来い』 駒彦『承知しました』 と尻引からげ、森の中に控へて居る黒姫を迎へて来た。黒姫はイソイソとして足も地に着かず此場に現はれた。 国依別『今改めて大天狗より黒姫に黄金の玉の所在を知らしてやらう。高姫は既に宝の所在を教へられ掘出しに出立致したぞよ。サア秋彦、駒彦、其方は門外へ出て仕舞へ、秘密が洩れると大変だから……』 二人は笑ひ乍ら門口へ飛び出す。 国依別『再度山の大天狗が今改めて黒姫に黄金の玉の所在を知らしてやる程に、仮令高山彦になりとも口外せぬと言ふ事を誓ふか、如何だ』 黒姫『ハイ、決して秘密は漏らしませぬ』 国依別『そんなら確に聞け。近江の国は琵琶の湖、竹生島の弁天の祠の下に、三角形の石を標として三尺下に黄金の玉は隠されてあるぞよ。早く参らぬと言依別の使の者が掘出して、後でアフンとせねばならぬぞよ。一時も早く行つたが宜からう』 黒姫『それはそれは、有難い貴方のお示し、そんなら之から参ります』 と裏口より夜叉の如く尻引からげ、雲を霞と駆け出しぬ。続いて高山彦も此処に招かれて又もや国依別の居間に入り来る。 国依別『ヤア其方は高山彦で御座つたか。今大天狗が知つた丈の事を教へて遣はす。高姫には金剛不壊の如意宝珠の玉の所在を示し、黒姫には黄金の玉の所在を知らした処、両人は時おくれては一大事と、玉の隠し場所へ走つて行つたぞ。紫の玉の所在は瑞の御魂の佩かせ給ふ十握の剣より現はれ出でたる、三女神の鎮まり給ふ近江の国は竹生島、弁天の祠の下に、三角形の石を乗せて三尺ばかり底の方へ隠してあるぞよ。一時も早く取りに行かぬと聖地より掘出しに行くぞよ。如何ぢや、ありがたいか』 高山彦『ハイ、有難う。三人共願望成就、御礼は後から、ゆつくり……左様なら……大天狗様、之にてお別れ致します』 国依別『汝は裏口より走つて行け。さうしてアール、エースの二人を伴ひ、刻を移さず走つて行くが宜いぞよ』 高山彦『何から何まで御注意下さいまして有難う御座います。御礼は後より……』 と言ひ捨てて、長いコンパスを大股に踏張り乍ら地響き打たせて、ドスンドスンと床を鳴らして進み行く。国依別は後見送つて、 国依別『アハヽヽヽ、三五の神の道にはチツとも嘘言は申されぬのだが、アア責められちや仕方がない。玉はなくても弁天様へ参拝して結構な悟を開き、玉以上の御神徳を頂くと思つて、竹生島詣りをさしてやつたのだ。知らず知らずに瑞の御魂に頭を下げさすと言ふ俺の仕組だ、何と妙案だらう』 秋彦『其奴ア上出来だつた。然し駒彦さま、お前しつかり留守して居て呉れ。愚図々々して居ると初稚姫様や玉能姫様が聖地へお帰り遊ばした後になつては大変だから、俺達二人は之から聖地へ参拝するから……あと宜しく頼むよ』 駒彦『ヨシ、承知した。サア早く行つたが宜からう。東助さまも、モウ今頃は聖地へ安着されてる時分だ。お前達両人の帰るのを首を長うして待つて居られるだらう。サア後は俺が引受けるから、心配せずに早く足の用意に掛つて呉れ』 国依別、秋彦は急ぎ旅装を整へ、館を後に聖地を指して進み行く。 (大正一一・七・一二旧閏五・一八北村隆光録) |
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68 (1881) |
霊界物語 | 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) | 19 竹生島 | 第一九章竹生島〔七六五〕 駒彦『金剛不壊の如意宝珠黄金の玉や紫の 珍の宝に魂を抜かれて胸もどきどきと 浪高姫や黒姫が高山彦と諸共に 高山低山野の末や河の中迄村胆の 心を配り気を配り探して見れど影さへも 見えぬみたまの苦しさに又も竜宮を後にして 現界幽界の瀬戸の海命を的に淡路島 洲本の郷に名も高き東助館に立ち向ひ 虻蜂取らずの問答にやつさもつさと時移し 争ふ折しも女房のお百合の方にうまうまと 揺り落されて荒浪の打ち寄せ来る汀より 又もや船を操りて再度山のふもとなる 生田の森に着きにける高姫黒姫始めとし 高山彦は黒ン坊のアール、エースを随へて 教の館に来て見れば夕陽西に傾きて 烏の声も悲しげに塒求むる宵の口 門に佇み戸を叩きモウシモウシと訪へば 中より聞ゆる婆の声訝かしさよと高姫は 戸の隙間より打ち覗き老婆の声の持主は 的切男と判明しお前の声は駒彦か 馬鹿にするのも程がある早く開けと打ち叩く 是非に及ばず駒彦は中よりガラリと戸を開けて 俄に作るおチヨボ口揉手しながら腰屈め 優しき女の作り声高姫さまや御一同 ようまアお越し下さつたサアサアお入りなされませ 私の体は駒彦ぢや俄に体が変になり 慄ひ出したる折もあれ黒姫さまの霊が来て 重い体を自由自在婆さまの声を出しました 続いて憑つた玉能姫以前に変る淑やかな 惚れ惚れするよな涼し声我と我が手に惚ました 高姫司は横柄に然らば御免と云ひ捨てて 高山彦や黒姫を伴ひ一間に座を占める 国依別や秋彦はこりや耐らぬと奥の間へ 一時逃れに身を隠し火鉢を前に長煙管 松葉の粉煙草吸ひながらカンと叩いた煙管の音に 高姫一行耳を立てつかつか奥へ進み入る こりや大変と両人は杢助司の真似をして ごろりと転けて足を上げチウチウクウクウキウキウと 天井の鼠の真似をする此処へ高姫やつて来て ほんに可愛や両人は霊肉共に四足に なつて仕舞うたか神様にお詫申して助けむと 日の出神の生宮が竜宮の乙姫諸共に ウンとばかりに霊をかけ天津祝詞を宣りつれば 国依別は起き上り坐つた儘の神懸り ドスンドスンと飛び上り座敷の中にて餅を搗く 鹿公迄が同じよに猿の人真似飛び上り 餅と団子を搗き交ぜて高姫司を相手取り 手持無沙汰な顔をして団子理窟を捏ね廻し 嘘から生れた大天狗たうとう真実の鼻高に しられて仕舞ひ両人は引くに引かれぬ当惑の 締木にかかつた可笑しさよ駒彦様子を窺へば 真面目な顔で高姫や高山彦や黒姫が 押問答のいがみ合ひ吹き出す許り思はれて 臍茶を沸す苦しさに外の景色を眺めやり 可笑しさ紜らす窓の口セツパ詰つた国依別は たうとう天狗になり済まし高姫司をチヨロまかし 近江の国の竹生島瑞の御魂の聖場へ 高山彦も黒姫もやつて仕舞うた御手際に 駒彦胸を撫で下し生田の森の留守番を 仰せつけられました故確り後を守ります 国依別や秋彦の三五教の宣伝使 何卒御無事でお達者で綾の高天に恙なく 早く安着遊ばせよ孰れ高姫一行は 綾の聖地に帰りませうその時こそは国依別と 高姫さまの争の立派な花が咲くであろ 今から思ひやられますあゝ惟神々々 御霊幸倍ましまして国依別や秋彦に 敗北を取らして下さるな三五教の大神の 宇都の御前に駒彦が心を正し身を正し 慎み敬ひ願ぎまつる』 と別れの祝歌を歌つて両人が聖地へ参向の首途を見送るのであつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・七・一二旧閏五・一八加藤明子録) |
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69 (1898) |
霊界物語 | 26_丑_麻邇宝珠が錦の宮に奉納 | 13 三つ巴 | 第一三章三つ巴〔七七八〕 炎熱火房に坐す如く恰も釜中に居る如し 酷暑の空に瑞月が身を横たへて述べ立つる 廻すハンドル力なく半破れしレコードも 針の疲れにキシキシと鳴り出で兼ねしかすり声 妙音菩薩の山上氏傍に現はれましませど 泣き嗄したる時鳥八千八声も尽き果てて 唇加藤明きかぬる珍の言霊松村氏 真澄の空を眺めつつ此処迄述べて北村の 錦の宮の隆光る三五の月の神教を 守る神人言依別の瑞の命を始めとし 玉照彦や玉照姫の瑞の命の聖顔は 外山の霞掻き分けて豊二昇る朝日子の 日の出神の如くなり五六七太夫の谷村氏 真の友と水火合せ汗に眼鏡を曇らせつ 万年筆と口の先素的滅法に尖らせて 松雲閣の中の間で鼻高姫や黒姫が 御玉探しの大騒ぎ神素盞嗚大神が 帯ばせ給ひし御佩刀の三段に折りし誓約より 現はれませる三女神市杵嶋姫、多紀理姫 多岐都の姫を祀りたる御稜威輝く竹生島 社殿の下に瑞宝の匿されありと国依別の 俄天狗にそそられて此処に三人の玉抜けや ヤツサモツサの経緯を筆に写して止め置く あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ。 ○ 三五教の宣伝使変性男子の系統を 唯一の楯と頼みたる日の出神の肉の宮 嘘か真か知らねども天狗の鼻の高姫が 尊き御魂を持ちながら肝腎要の神業に 取り除かれし妬ましさ言依別が匿したる 玉の在処を何処迄も仮令火になり蛇になり 骨になるとも執拗に探り当てねば置かないと 執着心の鬼大蛇醜の曲津に誘はれて 自転倒島は云ふも更明石の海や淡路島 家島を越えて小豆島波濤に浮ぶ南洋の 蘇鉄の茂る大島やバナヽの薫り香ばしき 南洋一のアンボイナ谷水清く苔青く 竜宮島と聞えたるこれの聖地を後にして 流れ流れて一つ島黄金の島に上陸し 地恩の城に現はれて黄竜姫に玉抜かれ 流石剛気の高姫も胸轟かし黒姫や 高山彦を伴ひて潮の八百路の八潮路の 潮の八百会漕ぎ帰り淡路の島の東助が 鉄門を守る虻蜂に鼻を折られて再度の 山を目蒐けて漕ぎ帰り生田の森に名も高き 玉能の姫の神館執念深くも訪ぬれば 国依別や秋、駒の思ひも寄らぬ三人連れ やつさもつさと争論ひ揚句の果は竹生島 憑依もしない天狗の口に鼻高姫は勇み立ち 今度は願望成就と館の裏口走りぬけ 闇に紛れて細道を進み行くこそ可憐らしき 上野、篠原乗り越えて秋の御空も住吉の 郷に漸く辿り着き東の空を眺むれば 金剛不壊の如意宝珠光争ふ朝日子の 日の出神の御姿両手を合せ伏し拝み 中野の郷もいつしかに葭と芦屋の忙しく 運ぶ歩みも立花や小田郷、柴島、淀の川 漸く道も枚方やいつしか廻り大塚の 此坂道も高槻や山崎越えて美豆の郷 河の流れも淀の町銀波漂ふ巨椋池 宇治の流れに下り立ちて飲み干す水は醍醐味や 小山、大谷早越えて逢坂山の真葛 人に知らされ来る由も嬉しき玉を三井の寺 ミロクの神世に大津辺の幾多の船の其中に 殊更堅固な船を選り高姫艪をば操りて 心は後に沖の島波を辷つて進み行く 向ふに見ゆるは竹生島月西山に傾きて 闇の帳は水の面四辺を包む大空に 閃き渡る星の影船漕ぎ浪を砕きつつ 浅黄に星の紋つけた黒い婆さまがやつて来る 又もや続いて来る船は頭の光る福禄寿さま 弁天さまの此島に女布袋や大黒が 黄金の槌はなけれども土の中より瑞宝を 探り当てむと執着の心の暗に塞されて 星影映る湖の上互に息を凝らしつつ 進み寄るこそ訝かしき。 近江の国の琵琶の湖水は、其形楽器の琵琶に似たるをもつて、此名ありと巷間伝へらる。併し乍ら此湖中に浮べる竹生島に、神素盞嗚大神の佩かせ給ひし十握の剣を、天の安河に於て誓約し給ひし時、瑞の御霊の表徴として、温順貞淑の誉高き三女神現はれ給ひ、此処に其御霊を止めさせられ、時々竜神来りて、姫神の御心を慰め奉るため、琵琶を弾じたるより琵琶の湖と称ふるに至つたのである。又一名天の真奈井とも言霊学者は称へて居る。今の竹生島は湖水の極北にあれども、此時代は湖水の殆ど中央に松の島、竹の島、梅の島の三島嶼相浮び三つ巴となつて其雄姿を紺碧の波上に浮べて居たのである。松の島には多紀理姫神鎮座在まし、竹の島には市杵島姫神鎮まり給ひ、梅の島には多岐都姫神鎮まらせ給ひ、各島各百間許りの位置を保つて行儀よく配列されてあつた。高姫は先ず竹の島の市杵島姫を祀りたる社を指して漕ぎつけた。 黒姫、高山彦も期せずして闇夜の悲しさ、同じ竹の島に船を寄せ、同じ社の床下に玉探しの為め頭を集めた。 神素盞嗚の貴の子と生れ給ひし英子姫 万世祝ふ亀彦は神素盞嗚大神の 厳の神業詳細に遂げさせ給へと朝夕に 天津祝詞を奏上し天の数歌潔く 一二三四五つ六つ七八つ九つ十たらり 百千万と村肝の心を籠めて祈る折 磯の彼方に船繋ぎしとしと来る黒い影 気にも止めずに一向に祈る最中に神の前 忽ち現はれ額きて天津祝詞を奏り上ぐる 暗に確とは分らねど皺嗄れ声は高姫か 執着心に搦まれて当所も知らぬ玉探し 見るも無残と英子姫そつと此場を立ち出でて 己が館に静々と星の光を力とし 闇路を分けて島影の清き館に帰りけり 後に亀彦唯一人声を密めて御扉を そつと開いて中に入り様子如何にと窺へば 神ならぬ身の高姫は社の中に人ありと 知らぬが仏一心に無事の安着感謝しつ 拍手の音も湿やかに金剛不壊の如意宝珠 黄金の玉や紫の珍の宝珠を高姫の 両手に授け給へよと声を震はせ祈り居る 暫くありて高姫は珍の社の床下に 鼠の如く這ひ寄つて黒白も分かぬ闇の中 小声に神名唱へつつ探り居るこそ可笑しけれ 又もや近づく足音は社の前に手を拍つて 心の秘密を語りつつ暗祈黙祷稍暫し 心いそいそ御社の四辺を密かに窺ひつ 土竜の如く床下に又もや姿を匿しける 月の光は無けれども星の光に照らされて 長い頭の唯一つ闇を掻き別け進み来る 入日の影か竿竹か見越入道の大男 又もや社前に手を拍つて感謝の声も口の中 何か細々願ぎ終へて忽ち社殿の床の下 長き頭を匿しけるあゝ惟神々々 迷ふ身魂の三つ巴誠の仕組も白浪の 沖に浮べる神島に胸に荒波打たせつつ 心の鬼に爪立てて無暗矢鱈に掻き廻し 汗をたらたら三人が時々頭を衝突し ピカリピカリと火を出して四辺の闇を照らせども 心の闇は晴れやらず互に顔を不知火の 心砕くる思ひなり高姫心に思ふやう 国依別の云うたには言依別のハイカラが 二人の使を遣はして肝腎要の神宝を 掘り出させてうまうまと再びどこかに埋め置き 初稚姫や玉能姫可愛や二人に鼻明かせ 折角立てた功績をオジヤンにしようとの悪戯か 憎さも悪い言依別の醜の命のドハイカラ 初稚姫や玉能姫思へば思へばお気の毒 吾子の功績を鼻にかけ高天原に参上り 総務々々と敬はれ威張つて御座つた杢助も 今度はアフンと口あけて吠面かわくも目のあたり 嗚呼面白い面白いさはさりながら何者か 此場に二人もやつて来て玉を掘り出し帰らうと 一生懸命探し居る何処の奴かは知らねども 愈玉の出た時は変性男子の系統や 日の出神を楯に取り此高姫が恙なく 大きな顔で受け取らうそれにつけても黒姫や 高山彦は今何処黄金の玉や紫の 宝はもはや分りしか心もとなき吾思ひ 仮令小爪は抜けるとも金輪奈落土の底 土竜蚯蚓にあらねども土掻き分けて探し出し 吾手に取らねば措くものかあゝ惟神々々 叶はぬ時の神頼み南洋諸島へ遥々と 危険を冒して玉探し往た事思へば一丈や 二丈三丈掘つたとて何の手間暇要るものか 国依別の云うたには三角石を取り除けて 下三尺の深さぞと天狗に急かれて已むを得ず 白状致した面白さ天狗の申した其如く 三角形の石はある早三尺も掘り終へて もはや四五尺掘りぬいたされども玉は現はれぬ 是はてつきり三丈の深さのきつと間違ひだ 三丈四丈はまだ愚仮令地獄の底迄も 掘つて掘つて掘り抜いて探し当てねば措くものか 苦労と苦労の塊で尊い花の咲くと云ふ 神の教を聞くからは仮令百年かかるとも 掘らねば措かぬ吾心女の誠の一心は 岩をも射貫くためしありきつと掘り出し見せてやろ 目出度く玉が手に入らば意気揚々と立ち帰り 言依別を始めとし杢助お初やお節等の 顔の色迄変へさせて改心さして救はねば 日の出神の生宮のどうして顔が立つものか あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ。 と心の底に迷ひの雲を起しながら、一生懸命汗を流して火鼠か土竜のやうに砂混りの土を掻き上げて居る。 ○ 黒姫心に思ふやう再度山の大天狗 国依別の口借つて黄金の玉の匿し場所 近江の国の竹生島弁天社の床下と 確に確に云ひよつた国依別が云ふのなら 些しは疑ふ余地もある天狗は心潔白で 些とも嘘は云はぬもの間違ふ気遣ひあるものか 天狗の仰せの其如く言依別のハイカラが あらぬ智慧をば絞り出し此処に匿して置きながら 高姫さまや黒姫の昼夜不断の活動に 肝を潰して狼狽し見付けられない其中に 外へこつそり匿さうと猿智慧絞つて態人を 一足先に此島へ掘らしに来したに違ひない あの熱心な探しやう如何に剛気な黒姫も 呆れて物が云はれない宝探しの神業は 唯一言も言霊を使つちやならない神の告 迂濶言葉を出すならば折角見つけた宝玉も 煙となつて消え失せむ嚔一つ息一つ ほんに碌々出来はせぬ苦しい時の神頼み 祝詞を唱へて神様にお願ひする事は知つて居る 云ふに云はれぬ玉探しこんな苦しい事あらうか 言依別の使等が黄金の玉を発見し 持ち帰らうとした所で竜宮に在す乙姫の 鎮まりいます肉の宮千騎一騎の此場合 黒姫中々承知せぬ仮令地獄の底までも 掘つて掘つて掘つて掘り抜いて光眩き金玉を 再び吾手に納めつつ綾の聖地に持ち帰り 言依別や杢助をアフンとさせてやりませう あゝ惟神々々叶はぬ時の神頼み 頼りもならぬ口無しの息をつまへる鴛鴦の 番離れぬハズバンド高山彦は今何処 紫色の宝玉は何処の島か知らねども もはや手に入れ給ひしか高姫さまは今何処 金剛不壊の如意宝珠首尾よく御手に返りしか あちらこちらと気が揉めるあゝ惟神々々 叶はぬ迄も探し出し初心を貫徹せにやおかぬ 苦労と苦労の塊の花の咲くのはこんな時 又と出て来ぬ此時節琵琶の湖水は深くとも 闇の帳は厚くとも三五教の神司 高山彦や黒姫が言依別に着せられた 恥の衣を脱ぎ捨てて神国魂をどこ迄も 見せねばならぬ此立場何処の奴かは知らねども 高山さまに好く似たる茶瓶頭がやつて来て 又もやがさがさ探し出す欲と欲とのかちあひで 玉の詮議に頭うち火花を散らす苦しさよ 仮令天地が覆るとも黄金の玉は何処迄も 探し当てねば措くものか岩をも射貫く一心は 女たる身の天性だあゝ惟神々々 御霊幸倍ましませよ。 とひそかに思ひ、ひそかに念じながら、汗をたらたら搾り出し、一生懸命に砂を掻き上げて居る。 ○ 高山彦は訝かりつ心の中に思ふやう 再度山の大天狗国依別の口借つて 竹生の島の神社其床下に三角の 石を蓋せて紫の宝玉深く荒金の 土中に埋没せしと聞く三角石は此処にある さはさりながら訝かしや言依別の使とも 思へぬ節が一つある闇の帳は下されて さだかにそれとは分らねど体の恰好動きやう 頭をぶりぶり振る所高姫さまや黒姫に どこやら似て居る気配ぢやぞ天狗は至つて正直と 昔の人も云うて居る滅多に嘘は申すまい 高姫さまや黒姫によく似た者は世の中に 一人や二人はあるだらう何を云うても鴛鴦の 名乗もならぬ玉探し実際俺は言依別の 神の命が神界の仕組によりて匿されし 宝の在処を探そとは夢にも思うた事はない さはさりながら高姫や黒姫までが焦ら立つて 玉よ玉よとやかましく騒ぎ廻るが煩さに 己も何とか工夫して玉の在処を探し出し 二人の婆に執着の雲を晴らさしやらうかと 牛に牽かれて善光寺心ならずも竜宮の 一つ島迄駆廻り地恩の城にブランヂー クロンバー迄も勤めつつ数多の国人使役して 玉の在処を探したがこれ程広い世の中を 土中に深く隠されし玉の分らう筈がない 高山彦も今日限り此処で失敗したならば これきり思ひ切りませう日の出神や竜宮の 乙姫さまかは知らねども俺にはチツと腑に落ちぬ 真日の出神なれば玉の在処は何処其処と ハツキリ知らして呉れるだらう竜宮の乙姫さまならば 猶更玉の匿し場所知らない道理がどこにあろ 同じ名のつく神様も沢山あると見えるわい 高姫さまや黒姫に憑つて御座る神さまは 神力足らぬ厄雑神それでなければどうしても 俺の心にはまらない六十路の坂を見ながらも 五十女に操られ玉を探しに何処迄も 往かねばならぬか情ないあゝ惟神々々 叶ひませぬから高姫や黒姫二人の執着を 科戸の風に吹き払ひ生れ赤子に立てかへて 何卒助けて下しやんせ竹生の島の御神に 心を籠めて願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ。 と心の中に呟きながら、高姫、黒姫の改心を専一と祈願し、紫の玉は殆ど念頭に置かぬものの如くであつた。 (大正一一・七・一九旧閏五・二五加藤明子録) |
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70 (1899) |
霊界物語 | 26_丑_麻邇宝珠が錦の宮に奉納 | 14 大変歌 | 第一四章大変歌〔七七九〕 折から吹き来る夜嵐に湖水の面は波高く 島の老木の根本より吹きも倒さむ勢に 神さび建てる神社風にゆられてギクギクと 怪しき音を立て初めぬこれ幸ひと亀彦は 社の扉を打開きそろそろ階段下り来て 玉に魂をばぬかれたる三つ巴の玉奴 身辺近く進み寄り白衣の着物を頭より フワリと被り吹く風に長き袖をばなぶらせつ 声も女神の淑かに宣り出せるぞ面白き 天教山に現はれしわれは木花姫神 その御心を汲みとりて汝等三人の迷人に 玉の在処を説き示すあゝ惟神々々 御霊幸はへましまして三五教やバラモンの どちらか知らぬが宣伝使三人ここに現はれて 憑依もせない天狗の宣示を誠と思ひつめ 長途の旅をエチエチと暗かき分けて波の上 三つの御霊の鎮まれる竹生の島に漕ぎつけて 隠してもない神宝を下らぬ意地に絡まれて 探しに来る愚さよ鼻高姫や村肝の 心の暗の黒姫や頭の光る福禄寿面 揃ひも揃うた大馬鹿の社殿の下の玉探し たとへ百丈掘つたとて金輪奈落その玉は 出て来る気づかひあるまいぞ日の出神や竜宮の 乙姫さまの生宮と威張つて居たが何の態 女神の癖に荒い事吐くと思ふか知らねども 決して女神が云ふでない三人の心に憑りたる 副守の鬼が吐くのだ要らぬ苦労をするよりも 吾身の行ひ省みて玉の詮索思ひ切り 一日も早く大神の誠の道を世の中に 懺悔さらして仕へ行け先に来たのは高姫ぢや 次に出て来た黒姫が言依別の遣はせし 玉掘神と誤解して吾劣らじと暗雲で 指の先まですりむきつオチヨボのやうに砂を掘り いよいよ味噌を摺鉢の糠喜びの砂煙 何時迄お前が掘つたとて隠してないもな出ては来ぬ 高山彦のハズバンド婆さまのお尻をつけ狙ひ 六十面を下げながらようも天狗に欺された あゝ惟神々々訳の解らぬ奴ばかり こんなお方が三五の教の幹部に坐るなら それこそ勿ち聖場は地異天変の大騒動 亀彦ドツコイ亀の背に乗つて波間に浮び来る 木花姫の御心を承はりて現れた 玉の在処を守り居るわしは誠の女神ぞや 三つの玉は神界の御経綸なれば高姫が 何程日の出神ぢやとて現はれ来る筈はない そんな謀反は諦めて一時も早く三五の 綾の聖地に立帰り神に御詫をするがよい 九月八日の秋の空黄金花咲く竜宮の 一つ島なる諏訪の湖玉依姫の御宝 天火水地と結びたる麻邇の宝珠は由良港 秋山彦の庭先に鳩の如くに下りまし 言依別を始めとし梅子の姫や五十子姫 お前の嫌ひな玉能姫初稚姫も諸共に 神輿に乗せて悠々と由良の川瀬を遡り 嬉しき便りを菊の月今日は九日四尾の 山の麓の八尋殿たしかに納まる日なるぞや お前もグヅグヅして居ると後の祭の十日菊 恥の上塗りせにやならぬ生田の森の館から 直様聖地に帰りなば前代未聞の盛典に 首尾よく列して五色の麻邇の宝珠を拝観し 尊き神業の末端に奉仕出来たであらうのに 執着心に煽られて憑依もせない天狗に だまされぬいて遥々と探ねて来る盲神 気の毒なりける次第なりあゝ惟神々々 それが叶はぬと思ふなら一時も早く立帰れ 玉守姫が親切で一寸誠を明し置く そろそろ風も強なつた嵐に吹かれて何時迄も ここに居つては堪らないウントコドツコイ高姫さま ヤツトコドツコイ黒姫さま高山彦の福禄寿さま そんならお暇申しますドツコイシヨのドツコイシヨ ウントコドツコイドツコイシヨヤツトコセーのヨーイヤナ アレはのせーコレはのせーヤツトコドツコイ玉探せ。 と歌ひ了り、暗に紛れてクツクツ噴出しながら英子姫の館を指して帰り行く。 ○ ここに三人の玉探し汗をタラタラ流しつつ 無言のままで一心に側目もふらず土掘りの 真最中に亀彦が俄に女神の作り声 高姫、黒姫、高山彦の福禄寿頭の三人と 図星を指されて高姫はハツと驚き立上り よくよく見れば黒姫や高山彦の二人連れ アヽ残念や口惜しや国依別の極道奴 日の出神や高姫や竜宮さまの生宮を マンマとよくも騙したな馬鹿にするのも程がある 十里二十里三十里痛い足をば引ずつて いよいよ今度は如意宝珠その外二つの宝をも うまく手に入れ年来の願望成就と思ひきや 又だまされて玉探しわしより若い奴輩に 馬鹿にしられて口惜しい黒姫さまもこれからは チツとしつかりするがよい高山彦も余りぢや 朝から晩までニヤニヤと黒姫さまの面計り 眺めて居るからこんな事流石に尊い竜宮の 乙姫さまも腹を立て遠くの昔に魂ぬけの あとは盲の守護神今までお前を生宮と 思うて居たのが情無い思へば思へば腹が立つ それぢやに依つて初から神の誠の御道は 夫婦あつては勤まらぬわしがあれ程言うたのに 馬耳東風と聞き流し肝腎要の竜宮の 乙姫さまにぬけられてその面付は何の事 暗夜でお面は分らねど定めて夜食に外れたる 梟のやうな面付でアフンとしてるに違ひない 私も愛想がつきました何程日の出神ぢやとて こんな分らぬ守護神憑いた御身を伴にして どうして神業が勤まらうチツとは改心なされませ 性懲もなく又しても油揚鳶にさらはれた 高山彦の親爺さま六日の菖蒲十日菊 きくさへ胸が悪くなる再度山の大天狗 身魂の曇つた国公にサツと憑つて世迷言 吐いた言葉を真にうけてここ迄来たのは情無や あゝ惟神々々神の御都合と諦めて これから大きな面をして正々堂々陣を張り 言依別のハイカラに恨みを晴らす逆理屈 御二人しつかりしなされよ神の教を次にして 親爺の事や女房の身の上計り気にかけて 現を吐すと此通りこれこそ神の御戒め これで改心なさつたか思へば思へば馬鹿らしい お前のやうな没分暁漢黄金の玉を盗まれて 在処探ねてはるばると竜宮島に二三年 留まりながら何の態お前の帰つたその後で 初稚姫や玉能姫玉治別や友彦に 又もや麻邇の如意宝珠尊い御用を占領され 天地の神の御前に何うして顔が立ちますか 胸に手を当てつくづくと考へなさるがよからうぞ 何程泣いて悔んでももう斯うなれば是非は無い サアサア皆さま帰りませう一度に開く梅の花 開いて散りて実を結ぶ平助お楢の両人が 腹から生れたお節等に馬鹿にしられて堪らうか 高姫ぢやとて骨があるお前のやうなグニヤグニヤの 蒟蒻腰では無い程に見違ひなさるな高姫が 岩より堅い大和魂日の出神の生宮に お前のやうな盲神何うしてついて来たであろ うまい果実にや虫がつく賢い人には魔が来る お前の忠告真に受けて今迄出て来た高姫も 余り偉そにや言はれねど大将は素より看板ぢや 側に付添ふ副柱こいつに力の無い時は 何程偉い生宮も策を施す余地がない 持つべきものは家来ぢやが持つて困るは馬鹿家来 こんな事なら初からお前を使ふぢや無かつたに 悔みて返らぬ今日の首尾諦めようより仕様が無い あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ。 と、流石の高姫も焼糞になつて、黒姫、高山彦に八当りの歌をうたひ、胸の焔を消さむとして居る。 ○ 星の明りに黒姫は高慢強き高姫の 歌を聞くより腹を立て暗をすかして眺むれば 前歯のぬけた膨れ面汗をブルブルかきながら 蟹の様なる泡を吹き眼を怒らして睨み居る 黒姫見るより腹を立てこちらも劣らぬムツと顔 声の色まで尖らして日の出神の生宮と 当てすつぽうな名をとなへ世界が見え透く見え透くと 何時も仰有るその癖にたかの知れたる再度の 山に隠れた野天狗にうまく騙され泡を吹き 何程腹が立つたとて私に当るといふ事は お前さまそれはチト無理ぢや口に税金要らぬとて 業託言ふにも程がある私も女の端くれぢや 日の出神の生宮が高姫さまなら黒姫は 矢張竜宮の乙姫ぢや日の出神と引添うて 竜宮さまの御手伝これで無ければ神界の 経綸は成就せぬぢや無いかあなたは何時も言うただろ その言霊を夢の如ケロリと忘れて黒姫に 熱を吹くとは余りぢや私もチツトは腹が立つ 私丈なら何うなりと悔しい残念堪らうが 二世を契つたハズバンド高山さままで引出して 悪口言ふとは虫がよい神のお道を世の中に 伝へて歩く高姫の仰有る事とは受取れぬ 真の日の出神さまは余り偉い慢神に 愛想をつかして御帰りのあとに曲津が巣をくみて お前の御口を自由にしそんな悪口吐くのだろ 油断も隙も無い御道一寸慢神するや否 八岐の大蛇の醜魂にのり憑られて眼はくらみ 魂は捻けて此の通り国依別や秋彦の 身体に憑つた野天狗にチヨロマカされてはるばると 夜を日についで三十里琵琶の湖までやつて来て 寄辺渚の離れ島隠してもない玉探し お腹が立つのは尤もぢやさはさりながらお前さま 胸に手をあてトツクリと考へなさるが宜しかろ 真の日の出神ならば玉の在処は居ながらに 判然分らにやなるまいに海洋万里の島々を うろつき廻る玉探しそれから可笑しと思て居た 何うしても斯うしても腑に落ちぬ口先ばかり偉さうに 頬桁叩くやくざ神早く帰すがよいわいな これから心改めて三五教の神司 言依別の命令にハイハイハイと箱根山 痩馬追うて登る様に神妙に御用を聞きなされ 私はこれで三五の神の御道は止めまする 聖地へ帰つて人々に何うして面が合はされよう 鉄面皮なる黒姫も今度計りは何うしても 面向け致す術が無い変性男子の筆先に 慢神致すと面の皮引きめくられて家の外 歩けぬやうに成り果てて頭抱へて奥の間に 潜みて居らねばならないと御示しなさつてあるものを 日の出神の生宮を無性矢鱈に振り廻し せつぱつまつた今日の空思へば思へば御気の毒 私は同情いたしますこれから聖地へ立帰り 心の底から改めて今迄とつたる横柄な 態度をすつかり止めにして小猫のやうになりなされ 仁慈無限の神様の尊き試練に遇ひました あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ 叶はぬから帰りませう。 ○ 高山彦はムツとして薬鑵頭に湯気を立て ドス声頻りに張りあげて高姫さまよ黒姫よ 日の出神や竜宮の乙姫さまを楯にとり 一丈二尺の褌を締めた男を馬鹿にした 俺は元からお前等の言うとる事が怪しいと 思うて居たがまさかにもこんな馬鹿とは知らなんだ 男の顔に泥を塗り返しのつかぬ恥かかせ 日の出神もあるものか尻が呆れて屁も出でぬ お前の様な年寄を女房に持つのは厭なれど 尊い竜宮の乙姫が肉の宮ぢやと聞いた故 高姫さまの媒介で波斯の国から遥々と 天の鳥船空高く乗つて来たのは馬鹿らしい 白い頭に黒い汁コテコテ塗つて誤魔化して 枯木に花の咲きほこりこんな事だと知つたなら お前と添ふのぢや無かつたに日の出神も竜宮の 乙姫さまも此頃はねつから当にはならないぞ 執着心にそそられて国々島々かけめぐり 玉の在処を探し行く二人の婆の馬鹿加減 俺は愛想が尽きたぞよ国依別や秋彦の 若い男の憑霊に眉毛をよまれてこんな態 どうして聖地へ帰られうか女子供に到る迄 俺の顔見りや馬鹿にするかうなり行くも高姫や 黒姫二人の為す業ぞあゝ惟神々々 玉の詮議は今日限りすつぱり思ひ諦めて 誠心に立帰り三五教の神司 玉照彦や玉照姫の貴の命の神人が 御言畏みよく仕へ必ず自我を出すでない 高山彦が両人に真心こめて気を付ける あゝ惟神々々神のまします此島に 何時迄居つても仕様がない恥をばしのび面被り 兎も角聖地へ立帰り心の底から今迄の 誤解慢神悉く神の御前に御詫して 赤恥さらせばせめてもの罪滅しとなるであろ それが嫌なら高姫も女房の黒姫今日限り 三行半の離縁状すつぱり書いて渡さうか 今迄男を馬鹿にした天罰忽ち報い来て こんな憂目に遇うたのだ改心するのは結構だ 高天原の門開き慢心すると此通り 世間の人に顔向けのならない様な事が来る 今日からサツパり心をば洗ひ直して惟神 うぶの心になるがよいサアサア帰のうサア帰のう 吹き来る風は強くとも高波如何に猛ぶとも 仁慈無限の大神の大御守を力とし 杖と頼みて帰らうぞあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ。 (大正一一・七・一九旧閏五・二五外山豊二録) |
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霊界物語 | 26_丑_麻邇宝珠が錦の宮に奉納 | 15 諭詩の歌 | 第一五章諭詩の歌〔七八〇〕 高姫、黒姫両人は高山彦と諸共に 神の社を伏し拝み顔赭らめてスゴスゴと 乗り来し船を繋ぎたる磯辺に行きて眺むれば 東の空は茜して浪に閃めく美はしさ 湖水の底に潜みたる竜神様の為す業か 水茎文字の此処彼処アオウエイカコクケキ サソスセシと現はれぬ三人は船に飛び乗りて 艪櫂を操りシヅシヅと浪に浮んで帰り来る 湖水は二つに立別れ現はれ出でし大竜の 姿は殊に厳めしく黄金の鱗に太刀の膚 雲を起して大空に忽ち昇る凄じさ 三人は空を打ち仰ぎ眺むる間に大竜の 姿は直に雲と消え涼しき風の共響き 幽遠微妙の音楽は何処ともなく聞え来る 四辺は忽ち芳香に包まれ心は清々と 甦りたる思ひして船を進むる折柄に ヒラリヒラリと蓮花雪の如くに降り来り 三人が船に堆高く積り積ると見る間に 蓮の花は何時しかに姿変じて美はしき 平和の女神となり了へぬ三人はここに合掌し 欣求浄土の弥陀如来弥勒菩薩の来迎か 木花姫の出現か但は竜宮の乙姫か 崇高き姿と村肝の心の底より恭敬し 思はず頭を下げつれば女神は言葉淑やかに 三人に向つてさやさやと神勅を伝へ給ひけり。 ○ 天教山に永久に千木高知りて鎮まれる 我は木花姫神汝は高姫、黒姫か 高山彦よよつく聞け神が表に現はれて 善と悪とを立別ける此世を造りし神直日 心も広き大直日只何事も人の世は 直日に見直し聞直し身の過ちは宣り直せ 神は汝と倶にあり神の分霊を享けながら 小さき欲にからまれて在処も知れぬ玉探し 玉を探すは良けれども天地の神の賜ひたる 汝が霊魂を何時しかに八十の枉津に抜きとられ 見るも穢き醜魂とスリ変へられて居ながらも 誠の霊を他所にして形の玉に目も眩み 遠き海原乗りきりて彷徨ひ廻る憐れさよ 汝高姫、黒姫よ高山彦よ今よりは 生れ赤子の魂に研き返して三五の 神の教をよく悟り天地に轟く言霊の 貴の宝を身に持ちて天地百の神等や 百千万の民草を安きに導き救はむと 神より出でし神霊研き澄まして松の世の 五六七の神業に尽せよや厳の御魂の系統と 心驕れば忽ちに又もや今日の玉騒ぎ 繰返しつつ拭はれぬ恥を掻くのは目のあたり 竜の宮居の乙姫と曲津の神の囁きを 大和魂の生粋と思ひ詰めたる執着の 心の鬼に責められて苦しみ悶ゆる可憐らしさ 木花姫の神言を真に受けて聞くならば 天ケ下には仇もなく枉津の襲ふ術もなし 神は汝と倶にあり神の造りし神の宮 心を正しく清めなば如何でか枉津の潜むべき あゝ惟神々々神の御言を畏みて 一日も早く片時も誠の心に帰れかし 仕組は深し琵琶の湖浪に漂ふ竹生島 神素盞嗚大神の肉の御宮より生れませる 神徳高き英子姫万代祝ふ亀彦の 三五教の宣伝使竹生の島にましませど 汝が身の心闇くして其御舎も得知らず やみやみ帰る哀れさよあゝ惟神々々 尊き神の御言もて木花姫が今此処に 汝が身の上憐れみつ天と地との道理を 完全に詳細に説き諭す朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 我言の葉は変らまじ三千世界の梅の花 一度に開く言霊の清きは神の心なり 清きは神の心なり瑞の御霊の永久に 鎮まりいます神島に神の縁に繋がれて 詣で来れる三人連れ汝が望みし三つの玉 神の仕組で永久に匿されあれば今よりは 心の底より諦めて玉に魂をば抜かれなよ 汝が身の此処に来りしは国依別や秋彦の 魂に憑りし天狗の業にはあらじ皇神の 尊き珍の御仕組心を平らに安らかに 綾の高天にたち帰り悔い改めて真心の 証をなせよ三身魂三五の月の輝きて 錦の宮の棟高くきらめき渡る十曜の紋 神の光と拝みて心を乱す事勿れ あゝ惟神々々御霊幸はへましませと 雲霧わけて大空に何時しか貴の神姿は 消えさせ給ひし訝かしさあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ。 ○ 転迷開悟の蓮花天教山をたち出でて 三人の心を照らさむと木花姫の御神が 心を籠めし御教も執着心の雲深く 容易に晴れぬ高姫は木花姫が何偉い 日の出神や竜宮の乙姫さまに比ぶれば 物の数にも当らないお釈迦に経を説く様な 矛盾だらけの宣言を他人は知らねど高姫は 如何して之が聞かれうか馬鹿になさるも程がある 木花姫の御言葉を今に至つて聞く様な 優しい身魂の高姫と思召すかや情ない 変性男子の系統ぢや日の出神を何処迄も 金輪奈落の底深く信じ奉つた高姫は そんなヘドロイ霊でない金剛不壊の如意宝珠 何処に匿しありとても探し当てずに措くものか 木花姫の男女郎富士の山から飛んで来て 三人の者にツベコベと訳の分らぬ事吐き 雲を霞と逃げ去つた其醜態さはなかなかに 見るも憐れな次第なり黒姫さまよ高山彦の 長い頭の福禄寿さまこの様な事に肝潰し 心を変へちやならないぞトコトン迄も耐りつめ 変性男子の系統が日の出神と諸共に 天晴れ表になる迄は私の側を離れなよ 高姫司のへらず口聞き度うないかは知らねども 袖振り合ふも多生の縁躓く石も縁の端 同じ教の友舟に乗つた以上は波も立つ レコード破りの風も吹く間にや暗礁に突きあたる 時には沈没逃れないそれが恐くて三五の 神の教が開けよか臆病風に誘はれて 腰を抜かしちやならないよ心の弱い黒姫や 高山彦の友舟はなんだかちつとも気乗りせぬ 比叡山颪に吹かれつつ伊吹の山を仰ぎ見て 荒波猛る湖面を渡つて帰る勇ましさ 仮令何事あらうとも日の出神の生宮が 此世にあれます其限り鬼が出ようとも大丈夫 鬼に鉄棒大船に乗り込む様な心地して 跟いて御座れよ何処迄も今は言依別神 有象無象に抱へられ翔つ鳥さへも落す様な 偉い勢であるなれど驕る平家は久しうない 桜の花は何時までも梢に留まるもので無い 一度嵐が吹いたなら落花狼藉花莚 見上げた人の足許に踏み蹂られて亡び行く 此処の道理を弁へて今は冬木の吾なれど 軈て花咲く春が来る私の出世を楽しみに 真心尽して来るならば仇には捨てぬ高姫が 肝腎要の片腕と屹度重く使ひます 何と言うても系統ぢや高姫さまには叶はない 是程見易い道理が賢いお前に何として 分つて来ぬのか妾や不思議神の奥には奥がある 其又奥には奥がある十五の空には片割れの 月は如何して出るものか世間の亡者は種々と 理屈ばかりを言ふけれど三五の月の神教は 日の出神の生宮を抜いたら片割れ月ぢやぞえ 雲に深くも包まれて其半分はここにある 片割れ月を喜んで言依別を始めとし 杢助親娘や玉能姫国依別や秋彦の 訳の分らぬ幹部連今に高姫帰りなば ビツクリ仰天尻餅を搗いてアフンとするであらう 必ず気をば腐らさず夫婦仲良く手を曳いて 竜宮さまの生宮とそれが違ふが違ふまいが 初めの言葉を立て通し途中で屁太つちやなりませぬ 高山さまは立派なる男の癖に又しても 弱音を吹いて高姫の心を曇らす弱い人 黒姫さまも是からはヘイヘイハイハイ何事も 親爺の言葉に従はずちつとは意見をなさいませ あまり男を大切に思ひ過ごして神の道 チト疎かになりかけた此高姫が見て居れば 真に目倦い事ばかり終にや歯痒うなつて来る 女房の決心一つにて男は如何でもなるものだ 甘い顔して見せる故高山さまが駄々捏ねて 高姫までも困らせるチツトはお気を付けなされ チツトやソツトで神の道さう易々と行くものか 日の出神が気を付ける妾の意見と茄子の花は 千に一つもあだはないあだに聞いてはなりませぬ 七重や八重や九重と花は匂へど山吹の 結実の致さぬあだ花に現を抜かして言依別の ハイカラ命の花心盛り短いあだ花に 心移しちやなりませぬ苦労の長い梅の花 冬の寒さを能く忍び雪の晨や霜の宵 堪へ忍んで春を待ち万の花に魁て 匂ひ出でたる花の香は天より高い高姫の 言葉の花に如くはない黒姫さまよ高山の 峰に咲いたる松の花手折る由なき高望み スツパリやめて高姫の日の出神の生宮に 心を委ね身を任せ昨夜の様な馬鹿な事 決して言ふちやなりませぬ三歳児に説教する様な 気分が致して頼りない頼りに思うた黒姫や 高山彦の弱腰に妾も一寸泡吹いた 幸ひ此処は湖の上四辺に人の居らざるを 見すまし誠を説いて置くあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ。 漸くにして船は大津辺に安着した。アール、エースの二人は高山彦の帰り来るを今や遅しと湖辺を眺めて待ち倦みつつあつた。 アール、エースの両人は永らく湖辺に待たされて 高山彦のお帰りを頸を伸ばして待ち居たる そこへ荒浪乗り切りつ恐い顔した高姫が 漸う此処に帰り来るアール、エースの両人は 直ちに側に走り寄り高姫様かお目出度う 金剛不壊の如意宝珠何処に置いて御座りますか 根つから其処等に影もない大方貴女はお宝を 丸呑みしたのに違ひない道理でお腹が膨れてる サアサア早く帰りませう私も永らく待ち佗びた 黒姫さまは黄金の尊い玉を手に入れて 何処へお匿し遊ばした高山さまも紫の 玉を首尾よう手に入れてお帰りましたでありませう サアサア一同打ち揃ひ逢坂山を乗り越えて 淀の川瀬を川上り嵐の山や保津の谷 神の御稜威も大井川観音峠を乗り越えて 聖地を指して帰りませうあゝ惟神々々 神の御霊の幸はひてこんな嬉しい事はない 高山さまのお供して跟いて参つた其酬い 私の肩まで広うなるアール、エースの両人は 綾の高天に馳せ上り日の出神のお脇立 立派な神と謳はれて聖地の花と咲き匂ふ 思へば思へば有難し忝なしと伏し拝む 其有様の可憐しさ高姫答ふる言葉なく 黙然として居たりしが黒姫忽ちシヤシヤり出で お前はアール、エースさま神の奥には奥がある お前の知つた事ぢやない構ひ立てをばして呉れな 由縁を言うては居られない執拗う言へば腹が立つ 言はぬは言ふに弥勝る物は言ふまい物言うた故に 父は長良の人柱雉子も鳴かねば撃たれまい お前はお黙り居りなさい神が表に現はれて 善と悪とを立て別ける此世を造りし神直日 心も広き大直日只何事も黒姫が 羽織の紐ぢや胸にある何にも言はずについて来い あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ。 ○ 浪に浮べる竹生島神素盞嗚大神の 隠れ給ひし仮館守り給へる英子姫 三五教の神司亀彦諸共弁天の 神の社に拝礼し綾の聖地に向はむと 艪櫂を操る舟の上伊吹颪に吹かれつつ 心は高天原に沖の島左手に眺めて漕ぎ渡る 琵琶の湖水の浪高く風は俄に吹き荒び 御舟は将に覆らむとする時忽ち天空を 照らして下る一団の火光は美々しき神となり 二人が舟に現はれて声朗かに言霊を 宣らせ給へばアラ不思議波は忽ち凪ぎ渡り 荒風俄に鎮まりて鏡の如き湖の面 辷り行くこそ勇ましき今現はれし神人は 日の出神の御化身大津の浜に着くや否 烟の如く消え給ひ何処ともなく帰ります 英子の姫は伏し拝み神の恵を感謝しつ 亀彦伴ひ唐崎の松に名残を惜みつつ 清き神代を三井の寺五六七の神に逢坂の 関路を越えて大谷や伏見、桃山何時しかに 後に眺めて進み行く花の都の傍辺 浮名を流せし桂川二人の身魂も堅木原 足に穿てる沓掛の関所を越えて大枝山 子安の地蔵を右に見て罪も穢も梨の木の 峠を下り三間坂夜は明けはなれ明けれど 名は暗の宮越えて青草茂る篠村や 広道、馬堀、柏原高熊山の霊山を 左手に眺めてシトシトと大井の流れに沿ひながら 羽は無けれど鳥羽の駅流れも清き室河原 小山、松原早越えて花の園部や小麦山 三十三相名に負ひし観音峠の頂上に 息を休めて二人連れ須知、蒲生野や檜山 神に由縁の三の宮榎枯木の峠越え 大原、台頭、須知山の谷道下り漸々に 風光絶佳の並松に二人は目出度く着きにけり 流れも清き小雲川並木の老松色深く 水に影をば映しつつ松の梢に魚躍る 綾の大橋右に見て愈聖地に着きにけり あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ。 (大正一一・七・一九旧閏五・二五北村隆光録) |
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霊界物語 | 26_丑_麻邇宝珠が錦の宮に奉納 | 17 帰り路 | 第一七章帰り路〔七八二〕 執着心に煽られて玉の在処を執拗に 発見せむと再度の山の天狗の囈言に 心を焦ちて高姫が黒姫、高山彦を伴れ 思ひ思ひに竹生島古き社の床下に 三角石を取り除けて掘つても掘つても玉無しの 無駄働きに眼まで三角形に尖らせて 肩を四角に揺りつつ暗の帳を押分けて いよいよ茲に断念し屋根無し小舟に身を任せ 琵琶の湖水を横切りて大津の浜に安着し 高山彦や黒姫の魂ぬけ男女と諸共に アール、エースを引連れて力の抜けた旅の空 路傍に立てる柿の木に渋い顔して村鴉 高姫一行を頭上より瞰下しながら声限り アホーアホーと鳴き立てる高姫小癪にさへながら 空ふり向いて独り言あゝ馬鹿らしい馬鹿らしい 烏の奴まで笑ひやがるこれもヤツパリ黒姫が 気が利き過ぎて間がぬけた神策実行の報酬ぢや 偉い家来は欲しいものほしは星ぢやが夜這星 何処の空か暗雲に脱線するか分らない 高山低山数越えて足許危き老の坂 何の力も梨の木の愛想つかした胸の暗 王子暗がり宮の下明かして通る恥しさ 向ふに見えるは亀山か雲に聳えた森林の 中にキラキラ十曜の紋あれこそ確に月宮殿 あこには梅照彦司鹿爪らしい顔をして 扣へて居るに違ひない一寸立寄り高姫が 日の出神と現はれて三千世界の御仕組の 変性男子の御教旨を聞かして改心さしてやろ 道に迷うた亡者をば見すてて素通り出来はせぬ これも神業の一端だ黒姫さまはどう思ふ 高山彦の福禄寿さま御意見あらば今此処で 遠慮会釈は要りませぬ包まず隠さずサツパリと 意見をお吐きなされませ言へば黒姫肯いて 実に尤もぢや尤もぢや高姫さまのお言葉に 迎合盲従致します高山彦のハズバンド 貴方も一緒に参りませう三人世の元結構ぢや アール、エースは供の役これは身魂の数でない 三人寄れば昔から文殊の智慧が出ると聞く 弁天さまの床下で馬鹿にされたる腹いせに 文殊菩薩となりすまし普賢勢至の三人が 只一厘の御経綸真向上段に振りかざし 言依別に盲従する梅照彦を言向けて 聖地へ帰る案内の猿田彦神としてやらう あゝ惟神々々御霊幸はへましませと 徳利膝頭に大地をばドンドンドンと威喝させ 大道狭しと横柄面月宮殿の片ほとり 梅照彦の神館目指して進む可笑しさよ。 ○ 梅照彦の神館門に佇み高姫は もしもし此処を開けとくれ日の出神の御入来 竜宮海の乙姫が憑りなされた肉の宮 梅照彦は在宅かこんな結構な神人が 来訪あるのを知らずして奥に居るとは情ない 天眼通も此頃は曇つて来たと見えるわい 執着心に搦まれて吾身よかれの信心者 言依別にハイハイと迎合盲従した罰で 折角覚えた天眼通ゼロになつたか情ない 一時も早く村肝の胸の岩戸を押し開けて 日の出神を迎へ入れ空前絶後の神界の 誠の花咲くお仕組を聞かして貰はうとせないのか ホンに身魂の因縁は争はれないものぢやなア 梅照姫も亦さうぢやよくよく揃うた盲共 爺も爺嬶も嬶早う開けぬか開けぬかと 皺嗄れ声を張りあげて力限りに訪へば 仏頂面した門番は不承不性に現はれて 主人の不在の此家に門戸を叩くは何人か トツトと帰つて下さんせ聞くより高姫声をかけ お前は此家の門番か梅照彦は何処へ行た 日に日に神界切迫し千騎一騎の此場合 世界の難儀を他所に見て夫婦二人が気楽相に 紅葉見遊山に往たのだろ親の心は子知らずだ 神の心は人知らずそれも俗人ならばよい 宣伝使たる身を以て館を空にとび歩く これもヤツパリ言依別の醜の命のドハイカラ 深き感化の映像か不在なら不在で仕方ない 早く此門開けてくれ一度館を検めて 善か悪かを調べあげ神に報告せにやならぬ グヅグヅしてると日が暮れる日の暮神ではない程に 早く開けたが宜からうぞ開けよ開けよと急り立てる 中より門番尖り声どこの奴かは知らねども 無理に此門開けよとは礼儀を知らぬ馬鹿女 梅照彦の御夫婦はお前の言ふよな人でない 言依別神さまが竜宮の島の麻邇宝珠 立派な立派な五色のお宝物が納まつて 其お迎へやお祝を兼ねて一同参れよと 実にも目出度い御知らせに千騎一騎の神業に 仕へ奉るは此時と勇み進んで行かれたぞ それに就いても高姫や黒姫さまや高山彦の 長い福禄寿の神司三つの玉に魂抜かれ 阿呆が足らいで近江路の琵琶の湖水の竹生島 影も形もない玉を掴みに往つた其後で 肝腎要の神業が綾の聖地で行はれ 万事是にて鳧がつきアフンとするのは高姫や 黒姫さまぢやと云ふ事だお前は誰かは知らねども 長い道中する間に高姫さまに出会うたら 分りもせない玉探し心の底から思ひ切り 早く聖地へ帰れよと梅照彦の門番が 言づけしたと言うてくれあゝ惟神々々 私は叶はぬ秋の空飯が焦げつく気が紅葉 どれどれ早う奥へ行き梅照彦の不在事に ゆつくり御馳走食べませうあゝ惟神々々 叶はぬなれば立帰れこれで御免と門番は いそいそ奥へ隠れゆく。 ○ 梅照彦の門番が話を聞いて高姫は 電光石火雷の轟く如く胸躍り 心に荒浪立ち騒ぐ猪喰た犬の高姫は さあらぬ態に胸押へ言葉もいとど淑やかに 打つて変つた猫撫でのいやらし微笑を浮べつつ ホンに浮世は儘ならぬヤツパリ竜宮の御宝 時節参りて綾錦高天原に納まつて 神政成就待ち給ふそれに就いては竜宮の 乙姫さまの肉の宮ここでしつかりなされませ 天火水地と結びたる麻邇の宝珠は竜宮の 乙姫さまの御宝初稚姫や玉能姫 国依別が喜んで上を下へと立ちさわぎ 勇むはヤツパリ黒姫の身魂の御蔭である程に 日の出神は神としてこれからお前が片肌を 脱いで掛らにやなりませぬ肝腎要の性念場 三五教の黒姫の肉の宮にと納まつて 修業なされた玉依姫の貴の命はわしぢやぞえ 永らく竜宮の一つ島に住みて居たのは外でない 今日の慶事を前知してわしの身魂が活動し 五つの玉を授けたと甘く言ふのは今ぢやぞえ 肝腎要の性念場空前絶後の神業だ 必ず抜かつちやなりませぬ高山さまも其心算 四角い肩をなめらかに丸い目玉を細うして 険を隠した地蔵顔そこは体よくやるがよい 此高姫も一か八此手で行かねばあれの手で 早速の頓智やつて行くこれが全く朝日子の 日の出神の御働き只何事も神直日 心も広く大直日直日に見直し宣り直し 身の過ちは打消して正々堂々神の為 世人の為に少々の瑕瑾はうまく葬つて 空前絶後の神業を完成したる暁は それこそ誠の神柱四方に薫れる梅の花 かう宣り直し見直せば今迄嘗めた失敗も 琵琶の湖水の泡と消え伊吹の山の白雲と なつて煙散霧消する心一つの持ちやうで いつも気楽に暮される笑うて暮すも一生ぢや 悔んで暮すも亦一生人の手柄を横取し ずるい奴ぢやと言はれうが構うて居れない今の首尾 勝てば善なり負ければ悪ぢや勝つて甲の緒をしめりや あとは天下は泰平ぢやあゝ本当に本当に面白い 結構な智慧が湧いて来たこれも全く竜宮の 乙姫さまの御手伝ひ日の出神の御働き 天晴れ表に現はれたヤツパリ辛抱はせにやならぬ 誠の力のある神はトコトン迄も気を引くと 変性男子の筆先に立派に立派に書いてある 筆先活かして使ふのも心一つの使ひ方 筆先殺して使ふのはあつたら宝の山に入り 裸跣で怪我をして吠面かわいてメソメソと 帰つて来る馬鹿の所作ヤツパリ表の筆先を 真解するのはわしぢやぞえ変性女子のハイカラが どうしてお筆が解けますか日の出の守護と云ふ事は 日の出神の生宮が天晴れ高天に現はれて 何から何まで落ちもなく筆先通りに気を配り 指揮をせいと云ふ事ぢやここの道理をよく腹へ 締め込みおいて下されや聖地へ帰つてこんな事 ゆつくり話す暇はない道々誠の御仕組を お前の腹に詰めておくあゝ惟神々々 日の出の曙光が見えて来たいよいよ今日から高姫は 千人力の経の役瑞の御霊を頭から ウンと一口噛みつけて経のお筆をふりかざし 言向け和して神界の誠の御用をせにやならぬ 是を思へば何となく重たい足も軽うなり 沈んだ心も欣々と俄に浮いて来た様だ あゝ潔し潔し千軍万馬の功を経し 高姫司のある限り三五教は千代八千代 磐石の如動かない誠のお方が現はれて 誠の事を説いたなら体主霊従の身魂等が アフンと致して後へより指を啣へて見てをると 経のお筆に出してある尊きお筆が実現し 瑞の御霊が屁古垂れて日の出神の生宮が 天晴れ表に現はれる之を思へば頼もしい あゝ惟神々々御霊幸はへましませと 高姫一行勇み立ち足音高く大地をば 威喝させつつ帰り行く万代祝ふ亀山の 貴の館を後にして船井へ渡る千代川の 流れも清き川関や音に名高き鳴石の 旧趾を左手に眺めつつ猫を被つて虎天の 堰所を越えて松並木高城山に立寄りて ウラナイ教の松姫が幅を利かした表門 馬と鹿との両人が身魂の性来現はれて 四つ這姿で這ひ込んだ此処が名高い古戦場 平助、お楢の両人が腹から生れたお節奴が 玉能の姫と偉相に松姫さまの後をとり 坐つて居たのは憎らしいあゝ惟神々々 思へば胸が悪くなるサアサア早く帰りませう 八十八字の郷を過ぎ道の広瀬の川伝ひ 翼なければ鳥羽の宿小山松原縫ひながら 花の園部の大橋をスタスタ渡り桐の庄 観音峠の急坂を爪先上りの高姫が 一行五人汗垂らし錦染めなす四方の山 眺めもあかぬ此景色日の出神の生宮の 清き心は目のあたり山は錦の衣を着て 錦の宮に帰り行く吾等一行歓迎する 御空は清く澄み渡り大地は錦の山屏風 これぞ晴天白日の高姫さまの真心が 現はれました兆候ぞや黒姫続けと先に立ち 須知山峠をスタスタと下りて来る綾の口 小雲の川の松影に釣する男に目をつけて これこれお前は何処の人三五教に仕へたる 神の司ぢやあるまいか千騎一騎の此場合 日の出神の御帰りを余所に眺めて気楽相に 魚釣り三昧何の事そんな殺生はやめなさい 諸行無常是生滅法生滅滅已の理を 知らずに魚の命取り楽しみ暮らす悪神の 憑つた悪い守護神其肉体は何人ぞ あゝ忌はしやと側に寄り釣する男の笠を取り 顔を眺めて仰天し国依別か国州か 宗彦、お勝の其昔巡礼姿となり終せ 宇都山郷の川の辺で太公望気取の松鷹彦に 意見した事忘れたか曲つた針に餌をつけて 世界の亡者を釣らうとは余り虫がよすぎるぞ 改心なされ国さまよ再度山の山麓で 身魂の曇り切つたる野天狗に憑かれた時の面付は まだ消えやらぬありありとどこかの端に残つてる 吾等三人うまうまと欺して近江へ追ひ下し エライ憂目に遇はしたな此高姫をうまうまと 竹生の島へ追ひやれば万劫末代帰らぬと 思うて居たのが運の尽き高姫ぢやとて足がある 石の地蔵なら知らぬこと時節がくれば帰り来る サアサア早う帰りやんせお前に向つていろいろと 言はねばならぬ事があるサアサア帰のうと促せば 国依別は微笑して頭を軽く下げながら お前は高姫黒姫か高山彦かよう無事で 早く帰つて下さつたあなたが御帰り遊ばすと 国依別の天眼通早くも悟つて御馳走の 用意をしようと勇み立ち小雲の川に竿たれて 勢鋭き真鯉をばせめて四五尾釣りあげて 刺身にしたり煮〆あげお前等一行三人を 招待せむとの魚釣り悪くは思うて下さるな 国依別はお前から悪の身魂と見えるだろ 心の奥の其奥に誠の血潮が流れてる そこをば買つて貰はねば国さま立つ瀬がないわいな あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 頑迷不霊の高姫がスツパリ転迷開悟して 誠を悟り今日よりは憎まれ口を叩かずに 神前奉仕をさせてたべ東の空を眺むれば 瑞雲棚引き澄みわたる今日は菊月十五夜の 瑞月空に皎々と下界を照らす瑞光は 綾の聖地の瑞祥を寿ぎ給ふ如くなり 厳の御霊や瑞御霊三五の月の神教は 豊葦原の瑞穂国島の八十島八十の国 大海原の果てまでも輝き渡れ惟神 御霊幸はへましませよ。 |
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73 (1903) |
霊界物語 | 26_丑_麻邇宝珠が錦の宮に奉納 | 跋 | 跋 日輪様の御親切 あつい情に包まれて 小田の稲木はむくむくと 生ひ立ち茂る三伏の 暑さに弱りむぐらもち 日見ずの今日も家の内 蚤には刺され蚊に喰はれ 汗をたらたら拭ひつつ 横に立ちつつ二十余り 六つ目の巻の物語 瑞月現代流行の 怠業気分に襲はれて 口述代用の歌口調 吐き出す糸は蜘蛛の如 尻からブウブウ口からも ブツブツ繰出す花詩歌の 止め度も知らぬ口車 全巻残らずウタウタと 夢かうつつか寝言の余り 暑中休暇の覚悟して 三つの神宝や五つ神宝 高天原に納まりて 言依別の神司 千々に心を砕きつつ 日の出神の生宮と 自称自認の高姫が 執着心の雲深く 迷うて進む竹生島 元より玉なき神殿の 床下深く掘り上げて 性凝りもなき玉探し 述ぶるも悲惨の極みなれど それの経緯の大略を 月照彦の御守りに 写す神代の語り草 花も実もある三五教の 尊き神の大精神 うまらに具らに汲みあげて 水の御魂の神業に 仕へ奉らむ信徒の 一人も多く生れかしと 祈るは瑞月のみならず 国常立の大御神 豊国主の大神の 仁慈無量の御心ぞ 卑近な文句言の葉も 婦女子小児に成るべくは 徹底させたき真心ぞ 如何に名文卓説も 数多の人に解らねば 夏木に囀る蝉の声 何の効果もあらざらむ あゝ惟神々々 御霊幸はへましまして 瑞月霊界物語 厳の御霊の御諭しを 並べて一々読み行けば 忽ち迷夢は醒め渡り 瑞の御霊の世を救ふ 清き神慮を悟るべし 団扇片手に採りながら 膝をたたいてバタバタと 巻の終りに喋舌り置く。 (大正一一・七・二〇旧閏五・二六松村真澄録) |
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74 (1908) |
霊界物語 | 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 | 01 高姫館 | 第一章高姫館〔七八三〕 五六七の神世の経綸地青垣山を繞らせる 霊山会場の蓮華台桶伏山の東麓に 旭を受けて小雲川清き流れを瞰下する 風景絶佳の岩が根に丸木柱に笹の屋根 厚く葺いたる神館静かに建てる冠木門 天然石を敷き並べ梅と松との庭園を 可なりに広く繞らして建てる館は四間造り 奥の離れの一棟は高姫さまが書斎の間 萩の小柴を編み立てて造り上げたる文机 天然石の硯をばお鍋が味噌を摺る様に 焼木杭をクリクリと連木の様に摺り減らし 竹の篦にて造りたる筆に墨をば染ませつつ 青く乾きし芭蕉葉に何か知らねどスラスラと 書き記し居る時もあれ門を開いて入り来る 高山彦や黒姫の姿眺めて下男 勝公安公両人は竜宮様の御入来と いと丁寧に腰屈め敬意を表せば黒姫は 高姫様は在宅か高山彦の夫婦連れ 参りましたと奥の間へ伝へてお呉れと促せば ハイハイと答へて勝公はコレコレ安公門の番 しつかり頼むと言ひ捨てていそいそ奥へ駆けて行く 暫くありて勝公は二人の前に腰屈め 高姫さまの仰せには待兼山の時鳥 お二人共に奥の間へ早くお進み下さんせ 以ての外の御機嫌と話せば黒姫羽撃きし 高山彦も教服の塵打払ひ悠々と 細き廊下を伝ひつつ奥の間さして忍び入る 高姫は別棟の書斎から廊下伝ひに袴も着けず、板縁をめきめき云はせ乍ら、稍空向き気味になつて奥の間に現はれ、木の株を切抜いた火鉢を前に据ゑ、煎餅の様な薄い座蒲団の上に四角張つて、 高姫『コレハコレハ高山彦さまに黒姫さま、お仲の良いこと。独身者の高姫の前にそんなお目出度いとこを展開して貰ひますと、堪りませぬワ。オホヽヽヽ、まあまあ御遠慮は要りませぬ。ズツと奥へ御通り下さい。………さう遠慮をして貰うと、肝心要の話も見えず、お顔も聞えず、大変に都合がよくありませぬワ』 と態とに顔が聞えぬの、話が見えぬのと、脱線振を発揮して、高山彦夫婦に対し大日の照るのに、昼日中気楽相に夫婦連れでやつて来たのは、チツト脱線ぢやないかとの意味を仄かして居る。 黒姫の顔はサツと変り、高山彦の袂をチヨイチヨイと引張り、早く気を利かして貴方はお帰りと云ふ意味を私かに示した。 高山彦『コレ黒姫、お前は何時も人の袂をチヨイチヨイ引張るが、唖でもあるまいに、何故明瞭と言はないのだ。わしはそんな、狐鼠々々と手真似や仕方で以心伝心の使分けは嫌ひだからなア』 黒姫『エー気の利かぬ……瓢六爺だなア。高姫さまが最前の御言葉、貴方は何と聞きましたか。竹生島でも仰有つた通り、夫婦ありては御用の出来ぬ御道だのに、高山さまを貰うてから、私の間が抜けたとキツパリ仰有りましたでせう』 高山彦『オホヽヽヽ、いやもう恐れ入りました。此高山彦も高姫様の御精神に、大賛成です』 黒姫目に角を立て、少しく口角より泡を滲ませ乍ら、 黒姫『それ程何々さまがお気に入りますれば、どうぞ御好きな様になさいませ。何と云つても何時も貴方の仰有る通り、色の黒い烏の嫁に、首や手足の長い鶴の婿さまは釣合ひませぬ。ヘン……此頃の空と男の心、折角御邪魔を致しましたが、私は是で御免を蒙ります。高山彦に鷹鳥姫様、高と鷹との情意投合、私も是にて断念致します。こんな厄介な爺を誰が好き好んでハズバンドにしたい者が御座いませうか。高姫さまの御紹介だと思つてお道の為、国家の為に今迄辛抱して参りました。男鰥に蛆が湧く、女鰥夫に花が咲く、ヘン…済まないが私だつて……ヘーン』 高山彦『大変な所へ鋒鋩を向けるのだなア。ここを何と心得てる』 黒姫『ヘン、仰有いますな、そんな事の分らぬ様な黒姫ですかいな。擬ふ方なき高姫さまの御館、桶伏山の朝日の直刺す景勝の地、小雲川の畔で御座んすぞえ』 高姫『オホヽヽヽ、随分御気楽なことですな。私等は春の花も仲秋の月も、楽しむ暇は無く、何だか神様の為にかうヂツとして居ても、気が焦々し、忙しくつてなりませぬワ。小心者の高姫に比べては、余裕綽々たる御夫婦仲、実にお羨ましう御座います。ホツホヽヽ』 黒姫『今日は左様な貴女の嘲罵的御話を聞きに参つたのぢや御座いませぬ。国依別が高姫さまに進上して呉れと云つて、妙な物を持つて来ました。開けて見れば大変な立派な重の内、上に一つの短冊が載つてゐる。其文面には………鮒もろこ、鯰からかぎ鯉に鱒、酒の肴に鰌ニヨロニヨロ、ふんぞくらいに砂くぐり、石食ひ魚に釜掴み、直におあがり下さらねば、直に石に変化する虞あり………と書いてありました。こら妙だと開けて見れば、不思議も不思議、上の重も中の重も下の重も残らず石ばつかり、何程国依別が悪戯好きだと云つても、まさか石を初から持つては来ますまい。貴女に怒られると大変だと思ひ、一寸私の宅に其儘預つておきました。どう致しませうかな』 高姫俄に面を膨らし、 高姫『黒姫サン』 と言葉尻をピンと撥ね、 高姫『お前さまは余程良い馬鹿ですね』 黒姫『ヘー……』 高山彦『何分にも竜宮の乙姫様が一つ島とやらへ、御旅行遊ばした不在宅のガラン洞ですからなア、アハヽヽヽ』 黒姫『情意投合のお二人様、どうなつと仰有りませ。あなたは何時もサカナ理屈を言うておイシが悪いから、意趣返しに団子理屈………オツトドツコイ団子石を国依別が態と持つて来たのでせう。そんな事の気の付かぬ様な黒姫ぢや御座りませぬ。金剛不壊の宝珠でさへも御呑み遊ばす高姫さまだから、今度はお生憎様、堅い玉がないから、これなつと御あがり遊ばして、腹の虫を御癒やしなされと云ふ、国依別の皮肉な謎ですよ』 高姫『兎も角国依別を招んで来ませうか。本人に直接承はれば一番近道だから………コレコレ安公さま、お前ちよつと御苦労だが、杢助館の隣の豚小屋の様な小さい家に、国依別が今頃は昼寝の夢でも見て居るに違ひないから、高姫さまが此間の御礼に御馳走をあげたい。就いては折入つて御頼みしたい事があるから、最大急行で御出で下さいと、呼んで来るのだよ』 安公『ハイ、さう御註文通り、国依別さまが来て呉れませうかな』 高姫『来いでかい。もし来なかつたら……系統の生宮の命令を何故聞かないか、日の出神を何と心得て御座る……と一本、槍を突つ込んでおくのだ。さうすると国依別は取るものも取り敢ず、スタスタとやつて来るよ。サア早く往つてお呉れ』 安公『アイ』 と一声後に残し、国依別の矮屋の前に走り着いた。 安公『もしもし、国の大将さま、大変だ。高姫さまの御居間で高山彦と黒姫が夫婦喧嘩をおつ始め、組んず組まれつ、乱痴気騒ぎ、イヤもう大変な事ですよ。それに就て、国依別が愚図々々吐すと、日の出神の生宮だ、系統の身魂を何と心得てる……と云うて剣突を……ドツコイ違うた。槍を一本突つ込んで帰れと仰有つた。もう邪魔臭いから何も彼も一緒に申し上げますワ』 国依別『アハヽヽヽ、夫婦喧嘩ぢやあるまい、石の問題だらう、此頃は陽気が悪いで、早く料理するか、煮しめん事にや、石に変化して了ふさうだ。山の芋が鰻になつたり、鮒が化石したり、青雲山ぢやないが、木の枝に魚が実つたり、川の瀬に兎が泳いだりする例しもあるからなア』 安公『国さま、最大急行だよ。早う来て貰はないと、高姫館は地震雷火の車、地異天変のガラガラ、ドタンバタンの幕が下りる。急行々々』 と国依別の手を取りて無理に表へ引摺り出す。 国依別『オイ安公、手を放せ。コレから往つてやらう』 と先に立ち高姫の館に行かんとする時、秋彦は後より走り寄つて、 秋彦『国依別さま、どこへ御出で遊ばす、高姫館ぢやありませぬか』 国依別『オウさうだ。これから一談判始まる所だ。お前も来ぬか、随分面白いぞ』 秋彦『有難う、サア参りませう。……オイ安公、しつかり案内せいよ。何分天地暗澹、黒姫の世の中ですから、道路の石の高姫に躓いて、鼻の高山彦を台無しにしちや堪らないからなア、アツハヽヽヽ』 と嘲笑ひ乍ら、スタスタと高姫の門前迄立向うた。秋彦は形計りの門を開いて先へ飛び込み、少しく腰を曲げ、右の手指を固めて細くし乍ら、 秋彦『コレハコレハ国依別の宣伝使様、妾が如き見窄らしき茅屋へよくこそ御入来下さいました。日の出神の生宮、心の底より光栄に存じます。又先達ては黒姫様の御手を通し、結構な結構な堅いお魚を沢山に頂戴致しまして有難う厶います。何か御返礼をしたいと思ひましても、御存じの通り貧家に暮す高姫、御礼の仕様も厶いませぬ。併し乍ら折釘のかます子に、最後屁のかます、手製の左巻き、かいちう虫の饂飩、雪隠虫の汁の子、青菜に塩の蛭の素麺、蛇の蒲焼、蛙の吸物、なめくじの胡瓜揉み、どうぞ御遠慮なく、サア奥へチヤツと行つて腹一杯おあがり下さいませ。ホツホヽヽヽ、あのマア国依別さまの御迷惑相な御顔付…』 国依別『コレコレ鹿さま……ではない……お鹿さま。いい加減に戯談仰有いませ』 秋彦『お鹿さまが申すのでは厶いませぬ。高姫さまの副守護神が此門を入るや否や神憑り[※初版・校定版では「神憑り」、愛世版では「神懸り」。]されまして、斯様な事を仰有ります。決して秋彦のお鹿が言うたとは思つて下さいますな、オホヽヽヽ』 と出歯の口を無理にオチヨボ口にしようと努むる可笑しさ。 国依別『左様ならば、遠慮なしに罷り通るツ。出歯鹿殿、案内召され』 安公『アハヽヽヽ、門芝居がお上手な事、高姫さまが御覧になつたら嘸御笑ひでせう…イヤ腮を外してひつくり返り、又もや外科医者を頼みに行かねばならない様なことが突発したら、又候……安公さま、御苦労乍ら、お前一寸外科医の山井養仙さま所へ、最大急行で頼みに往つて呉れ……なんて仰有るのは目のあたりだ、腮阿呆らしい。ワツハヽヽヽ』 国依別『汝安公とやら、今日只今より国依別が直接の家来となし、名を安彦と授くる。其積りで国依別に随いて来るがよからう』 安公『コレハコレハ思ひもよらぬ御恩命、安彦の宣伝使、確かに御恩命を拝しませぬ、アタ阿呆らしい、言依別神様から頂くのなら、結構だが、巡礼上りの胸の悪い宗彦に宣伝使を任命されて堪らうかい』 秋彦『どうでも良いぢやないか。兎も角頂戴しておけ。お前は松鷹彦になるのだよ。さうしておれはお勝になつて、此宗彦さまと巡礼に歩くのだ。少し川は届かぬけれど、あの小雲川を宇都山川と見做し、高姫館を松鷹彦の茅屋に擬し、茲で一つ面白い芝居をやるのだな』 安公『そんな事言つたつて、松鷹彦がどうするのか、ちつとも分らぬだないか』 国依別『そこは臨機応変だ。そこは……此方から言ふのに応じて答へればよいのだ。お前は霊界物語の如意宝珠の未の巻を読んで居ないから、其間の消息が分るまいが、其時は又其時の絵を書くのだ』 安公『よし、棹が無いが、茲にチツと太いけれど物干し竿がある、これでマア鷹や鴉を釣ることにしようかい。サア早く巡礼御夫婦、やつて来なさいや』 国依別『よし、ここを川辺と見做し、向ふから宣伝歌を歌ひつつやつて来るから、お前は太公望気取りで竿を垂れて居るのだ』 と云ひ乍ら国依別、秋彦は門を出て一二丁後返りをなし、出鱈目の歌を歌ひ乍ら進んで来る。 安公は庭先の飛石を川の瀬と見做し、物干し竿の先に藤蔓を糸の代りに付け、太公望気取りで魚釣りの真似をして居る。そこへ勝公が飛んで来て、 勝公『オイ安、貴様何して居るのだ。最前から高姫さまが大変に御待兼だ、まだ使に行かぬのか』 安公『喧しく云ふない、無声霊話をかけて招んであるのだ。俺は武志の宮の松鷹彦だぞ。まあグヅグヅして居るより見てをれ、かうして居れば国依別や秋彦が引つかかつて来るのだよ。俺が此竿を振るや否や、妙な宣伝歌を歌つてツルツルツルと引摺られて来るのだ』 勝公『そんな馬鹿な事があるものか。是から高姫様に注進するぞ』 と云ひすてて、屋内に隠れた。国依別はどこで寄せて来たか、蓑笠を被り、俄作りの金剛杖を突き、 国依別『嬶が表に現はれて善ぢや悪ぢやと立騒ぐ 此世の困つた娑婆塞ぎ乞食心の高姫が 只玉々と朝夕に心を焦つ気の毒さ われは宗彦バラモンの神の教の修験者 殺生するのは善くないと高姫さまが言うた故 小雲の川におり立つて生物擁護の実行と 無心無霊の団子石魚と見做して釣り上げる 手間暇要らぬ漁りは経済上の大便利 刃物も要らねば煮る世話も一寸も要らぬ石の魚 さざれ石さへ年経れば巌となりて苔が蒸す 瓢箪からも駒が出る団子石とて馬鹿にはならぬ 如意の宝珠や紫の玉に変るか分らない サア是からは是からは宇都の河原の川辺に 松鷹彦の庵を訪ひ一つ談判してやらう 秋公来れ早来れオツと違うた妻お勝 教の道の兄弟が夫婦気取で面白く 高姫川の川堤やつて来たのは安公が 芝居気取の太公望もうしもうしお爺さま お前は古い年をして水なき川に竿を垂れ 何を釣るのか気が知れぬ諸行無常や是生滅法 高姫さまの目的は寂滅為楽となるであろ 黒姫さまや高山の女大黒福禄寿面 欲の川原に竿たれて金剛不壊の玉の魚 釣らむとするも辛からう欲につられて高姫が 南洋三界駆け巡り黒くなつたる面の皮 つらつら思ひ廻らせば燻り返つた釣られ鯛 睨み合うたる二人仲恵比須でさへも尾を巻いて 跣足でサツサと逃げて行くあゝ気の毒や気の毒や 安公までが国さまの言葉に釣られて欲の川 物干竿に綱をつけ宗彦お勝の巡礼が 茲に来るを待暮すあゝ惟神々々 叶はん事が出来て来た高姫さまが腹を立て コレコレ国よ国公よ日の出神の生宮を 馬鹿にするのも程がある何程呑み込みよい妾も 歯節の立たぬ団子石団子理屈を捏ねやうと 二重三重に封をして持つて来たのが憎らしい 此因縁を聞かうかと面ふくらして飛びかかり 胸倉とつて一騒ぎおつ始まるに違ない スワ一大事と言ふ時に逃げる用意をしておかう 秋公横門開けておけまさか厠の股げ穴 脱け出す訳にも行かうまい太公望の安公よ もう釣竿は流すのだ是から釣るのは高姫ぢや もうしもうし高山の福禄寿爺と黒さまは 当家におゐで遊ばすか一寸お尋ね致します』 此声聞いて勝公は戸口をガラリ引あけて 勝公『賤しき巡礼の二人連国依別や秋彦に よう似た声を出しやがつて瞞しに来てもそりやあかぬ スツカリ駄目だと諦めて早く帰つて下さんせ 巡礼なぞのノソノソと出て来る場所ではない程に 高姫さまが見付けたら長い柄杓に水汲んで 頭の上からザブザブと熱吹きかけるに違ない 犬ぢやなけれど尾を振つて一時も早くイヌがよい ワンワンワンといがみ合ひ喧嘩をされては堪らない 巡礼に化けた国さまや秋さま二人の宣伝使 危険区域を逸早く逃れてお帰り下さんせ 奥に高姫黒姫が額の静脈血を充たし 青筋立てて控へ居る』早く早くと手を拡げ つき出す様な真似をする。 高姫は門口の怪しき声に、黒姫、高山彦を奥の間に残し、自ら茲に現はれ、 高姫『勝公さま、お前今何を言つて居たの、どこに私が青筋を立てて居ますか』 勝公『イイエ滅相もない、そんな事は申した覚えはテンで厶いませぬ。今そんな男が一寸やつて来ましたので、高姫さまのお目にかけたら、嘸お笑ひ遊ばすだらうと云つて居たので厶います……それ、そこに乞食巡礼が二人立つて居ませうがなア。一人は宗彦、一人はお勝、もう一人は松鷹彦、欲の川で竿をたれ、鷹とか鴉とかつるとか言つて居ました。……ヘーまあ、何で厶います、ザツと此通りで』 とモヂモヂして頭を掻く。 高姫『お前は国依別さま、秋彦の両人でせう。大それた悪戯をなさつて、此高姫に合す顔がなくなり、蓑笠を被つて元の宗彦時代に立返り、心の底から改心を致しました、と云ふ証拠でやつて来たのだらう。そんな芸当は世界の見え透く日の出神の前では通用致しませぬぞえ。サアサア早く正体を現はして這入つて下さい』 国依別『幽霊の正体見たり枯尾花。 たそがれて山低う見る薄かな』 高姫『俄に風流人めいた事を言つて、誤魔化さうと思つてもあきませぬぞや。サアサアとつとと這入つて下さい。お前さまに尋ねたい因縁があるのだから……』 国依別『因縁の玉を集むる此館……因縁つける高姫大根…… 旅役者大根と聞いて顔しかめ。 大根役者どこやらとなく魂が脱け。 玉おちのラムネぶつぶつ泡を吹き。 今抜いたラムネの泡や高姫……オツト高く飛び。 黒姫の様な葡萄酒萩の茶屋。 高山も低う見ゆるや萩の花。 如意宝珠空に輝く秋の月。 秋彦の空高くして馬は肥え』 高姫『コレコレ、国さま、何を愚図々々言つて居るのだ。這入れと云つたら、這入りなさい』 国依別『這入れよと言はれて躊躇ふ熱い風呂。 風呂吹を喰はぬ役者の子供哉。 大根の役者の芝居チヨボ葱』 高姫『エー、辛気臭い。気が咎めて閾が高いのだな』 国依別『高姫の敷居の欲に股が裂け。 股裂けた五つの玉は不在の間に。 黒姫は酒より男好きと言ひ。 高山に黒雲起り日は隠れ。 東天に日の出の光暗は晴れ。 堂々と国依別は進み入り』 と言ひ乍ら秋彦を伴ひ、高姫に先立つて奥の間に進み入る。 高姫、黒姫、高山彦、国依別、秋彦の五つの頭は火鉢を中に置いて、五弁の梅の花の開いた様に行儀よく並んだ。 国依別『明月や高山頭に照り渡り。 高山を透かして見れば星低し』 高姫『国依別さま、此間は御心を籠められた沢山な魚を頂戴致しまして、有難う御座います。これには何か御意趣のあることで御座いませう。サア其因縁から包まず隠さず聞かして下され』 国依別『和知川に洗ひ曝した石の玉、我は尊き人に捧げつ。 身魂相応堅くなつたる石の玉。 石よりも堅い決心感じ入り。 激流に揉まれて石は円くなり。 瀬を早み岩に堰かれて石の魚』 高姫『エーもどかしい。そんなむつかしい事を言つて分りますかいな。救世軍のブース大将が言つた事を知つて居ますか。例へば一軒の家でも一番小さい三つ児か、無学な下女に分る言葉でなければ名語ぢやありませぬぞ。俳人気取りで何を駄句るのだ。お前さまチツト此頃はどうかしとりますねえ。小雲川で一つ顔を冷し目を醒まして来なさい』 国依別『底までも澄みきりにけり秋の水。 秋の水腐つて居れどいと清し。 清らかな水には棲まぬ鮒もろこ。 濁江の深きに魚は潜むともなど川蝉の取らでおくべき』 高姫『おきなさんせ、大石内蔵之助の真似をしたり、何も知らぬと言へば調子に乗つて、人の歌まで自分が作つた様な顔をしようと思つて……本当にお前は歌泥坊だ』 国依別『床の下深きに玉は隠すとも など高姫の取らでおくべき。アツハヽヽヽ』 高姫『コレ国さま、どこまでも人を馬鹿にするのかい』 国依別『馬鹿野郎夜這の晨狼狽しゆき詰りては胸も高姫。………動悸は玉の置所。 竜宮へおと姫したかと気を焦ち世界隈なく探す馬鹿者』 高姫『コレ黒姫さま、国さまに是丈馬鹿にされてお前さま何ともありませぬか。チツト日頃の弁舌をお使なさつたらどうですかい』 黒姫『何だか人間らしうないので、話の仕様がありませぬもの』 国依別『人間を超越したり神司。 黒雲に包まれ星は影潜め。 高山に黒雲懸り雨は降り。 涙川忽ち濁る玉の雨』 黒姫『コレ高山さま、今国さまがどうやらお前さまや妾の事を、俳句とやらで罵倒して居るやうだ。お前さまも立派な男だないか、何とか一つ言霊で遣り返し、国を遣り込めて了ふ丈の甲斐性は無いのかい』 高山彦『苦にするな国依別けて大切な げほう頭は如意宝珠……光は玉の如くなりけり』 黒姫『高山さま、自分の事を言つてるのだないか。国さまに対して言ふのだよ。エーエ、鈍な男に緞子の羽織、女房も随分気の揉める事だなア。そんなら妾が代つて言ひませう。聞いて居なされ、斯う云ふのだよ。…… 黒姫の黒い眼で睨んだら 神の国依別もなく散る 桜の花は神風に 吹かれてバラバラバラモン信者 聞いてもムネ彦悪くなる 負てもお勝の尻を追ひ 肥桶担ぎの玉治別に 玉を取られし気の毒さ 泣面に蜂 止まつて咬んだ如くなりけり』 国依別『アハヽヽヽ、ウフヽヽヽ、此奴ア面白い。始めて聞いた名歌だ。柿本人麿も丸跣足だ。与謝野晶子の所へ持つて往つたら、屹度秀逸点を呉れるだらう。イヒヽヽヽ、エヘヽヽヽ、オホヽヽヽ…… 黒姫の歌にお臍が宿替へし。 脇の下キユウキユウキユウと鼠鳴き。 名歌の徳床板迄が動き出し。 睾玉の皺まで伸ばす此名歌』 高姫『黒姫さま、こんな男にかかつちや、口八丁手八丁の高姫だつて、三舎を避けねばなりませぬワ。もうそんな歌などで話しちや駄目ですよ。……コレ国さま、お前さまは何の為にあの様な物を、私に贈つたのだ。失礼ぢやありませぬか。何程物喰のよい豚だつて石は喰ひませぬよ』 国依別『豚よりも物喰ひのよき人もあり。 如意宝珠玉さへ噛る狂女哉。 今の世は砂利さへ喰ふ人もあり。 嫁入の祝ひに据ゑる石肴二世を固めの標なるらむ。 マアざつと斯う云ふ精神で、貴方の堅固な精神をお祝ひ申し、お賞め申した国依別の真心。 岩さへも射貫く女の心哉。 と云ふ様なものですワイ。悪気を廻して貰つちや、折角の国依別の志が水泡に帰しまする。魚だつて……魚が水に棲めば、此石だつて綺麗な流水にすみきつて、神世の昔から永久に川底に納まりきつて居つた石肴ですよ。別に喰つて下されと云つて贈つたのぢやありませぬ。お目にかけると云つたのだから、食へる食へぬはお前さまの御勝手、そんな問題は些いと的外れでせう』 高姫『流石はドハイカラの仕込み丈あつて、巧いものだワイ。オホヽヽヽ。コレコレ黒姫さま、高山彦さま、お前も随分鉈理屈が上手だが、国さまにかけちや側へも寄れますまい。言霊の幸はふ世の中だ。チツト是から言霊の練習をなされませ』 斯かる所へ夏彦、常彦両人は、言依別の目を忍び系統の高姫に御機嫌伺ひの為、太平柿を風呂敷に包み、やつて来た。勝公は直に奥の間に進み入り、 勝公『もしもし高姫さま、夏彦、常彦の両人が御機嫌伺ひだと云つて今見えました。如何致しませう』 高姫したり顔に、嫌らしく笑ひ乍ら、国依別、秋彦に目を注ぎ、 高姫『勝公さま、どうぞ御両人様、ズツと奥へ御通り下さい、と丁寧に御迎へ申してお出で………アーアやつぱり身魂の良い者は分るワイ。 落魄れて袖に涙のかかる時人の心の奥ぞ知らるる だ。妾が聖地へ帰つてから今日で三日目だ。それに言依別を始め、杢助迄が不心得千万な、系統のお帰りを邪魔者扱に致して、馬鹿にして居る………エー、今に見ておぢやれよ、アフンと致さして見せるぞよと、日の出さまが仰有るので、先づ神様にお任せして辛抱して居るのだ。人間と云ふ者は薄情なものだ。冷酷無惨の浮世とは云ひ乍ら、人情薄きこと紙の如しだ』 国依別『此国さまは人情厚きこと神の如しでせう』 高姫『さうでせうとも、偶の挨拶に団子石を贈つて来る様な、無情……オツトドツコイ親切なお方ですからな』 国依別『イヤその御礼には及びませぬ。沢山なもので厶いますから……』 斯る所へ勝公に導かれ、夏彦、常彦は目をギヨロつかせ乍ら、此場に恐る恐る現はれ来り、国依別や秋彦の其場に端坐せるを見て、聊か手持無沙汰な顔付にて、ドギマギして居る可笑しさ。夏、常両人、丁寧に高姫の前に手をつかへ、 両人『是は是は高姫様、御遠方の所永らく御苦労様で厶いました』 高姫『イヤもう御挨拶痛み入ります。何分身魂が研けぬもので厶いますから、不調法計り致して居ります』 両人『滅相もない、貴方は決して無駄では厶いませぬ。神様の御筆にも、人民から見れば何でもないやうだが、神の方からは大きな御用が出来て居るぞよ……と現はれて居りますから、屹度結構な御用が出来てをるに違ひありませぬ。兎角神界のことは人民では分りませぬから、形の上で彼此申すのは、申す人が分らぬので御座いませう』 高姫『ハイ、有難う』 と涙含む。 両人『是は是は高山彦様、黒姫様、つい申し遅れました。あなたも永らく神界の為に御苦労様で厶いました。直様御伺ひ致すのが本意で厶いますけれど、二三日前から杢助さまに………エー、一寸…何で厶いますので………つい遅れまして厶います。マア御無事で御両所共御帰り下さいまして、聖地は益々御神徳が上がるであらうと、一同影から御喜び申してをる様な次第で厶います』 高山彦『ヤア常彦さま、夏彦さま、あなたも御無事で御目出度う』 黒姫『ヨウ親切に此婆アを訪ねて下さいました。年がよると腰が屈む、目汁鼻汁……イヤもう醜くるしいもので、誰もふりかへつて呉れるものは御座いませぬワイ。力と頼むは大神様と、日の出神様、竜宮の乙姫様計りで厶います。人情紙の如き軽薄な世の中に、ようマア御訪ね下さいました。あなたも御無事で結構で厶いますなア』 両人『ハイ、有難う。……ヤア国依別さま、秋彦さま、あなたは何時御越しになりましたか』 国依別『………』 秋彦『つい、最前参りました。お三方が久し振で御帰りになつたので、我々も何となく心勇み、御祝ひ旁お訪ねしたのですよ』 国依別『来客に其場を外す悧巧かな。 心から除けて見たきは襖かな。 石よりも堅き心の集ひかな。 鐘一つ年は二つに分かれけり』 と口吟み、一同に、 国依別『御密談の御邪魔になりませうから、我々両人は御遠慮致します』 との意を示し、目礼し乍らスタスタと帰つて行く。門をくぐり出た両人、互に顔を見合せ乍ら、ニタリと笑ひ、 国依別『高姫も大分に我が折れたねえ。あれなればもう気遣ひあるまいね』 秋彦『さうでせう。黒姫も、高山彦も余程変つて来ましたよ。何時もなら、あんな石でも贈らうものなら、忽ち低気圧が襲来して雷鳴轟きわたり、地異天変の勃発するところですが、矢張苦労はせんならぬものですなア』 国依別『アヽ是で杢助さまに対し、相当の報告が出来るワイ。神様の御経綸は到底我々には分るものでない。それにつけても貧乏籤を引いたのは此国依別だ。いつとても揶揄役を仰せ付けられて居るのだから、堪つたものぢやない』 秋彦『身魂の因縁で善の御用をするものと、悪の御用をするものとあるのだから、御苦労な…あなたも御役ですな』 国依別『三千世界改造の大神劇の登場役者だから、仕方がない。併し乍ら悪役ばつかりは御免蒙りたいワ』 秋彦『末になりたら、皆一所に集まつて互に打解け合ひ、あゝ斯うであつたか、さうだつたかと云つて、力一杯神様に使はれて、こんなことを思つて居つたのかと、笑ひの止まらぬ仕組ださうですから、さう気投げをしたものぢやありますまいで、常彦や夏彦が忠義顔して、高姫の前で味噌を摺つて居るのも、あれも何かの御仕組の一端でせう。一寸聞くとムカツキますがなア。よく考へて見ると、どんな仕組がしてあるか分りませぬからなア』 国依別『そらさうだ。マア細工は流々仕上げを御覧うじと仰有るのだから、改造鉄道の終点迄行かねば分らぬなア。ヤアもう何時の間にか、国依別館の門前まで来て了つた』 秋彦『ハヽヽヽヽ、何処に門があるのですかい』 国依別『有つても無うても、有ると思へばある、無いと思へば無いのだ。俺の居宅は九尺二間の豚小屋の様に、お前の眼では見えるだらうが、国依別の天空海濶なる霊眼を以て見る時は、錦の宮の八尋殿同様に広く見えるのだからな。これ丈広い世界も心の持様一つで、我七尺の体を置く所もない様に見えたり、又こんな小さい居宅が宇宙大に見えたりするのだから、色即是空、空即是色だ。娑婆即寂光浄土の真諦はこんな小さい家の中に居つて、魂を研くとよく了解が出来るよ。アハヽヽヽ』 秋彦『そんなものですかいな。私の眼には如何しても八尋殿と同じ様には見えませぬワイ。裏口出た所に厠が附着いたり、小便壺が有つたり、その横に井戸が在つたり、走りに竈、何だか醜くるしい様な気分がするぢやありませぬか。一寸聞くと、あんたの御言葉は痩我慢を言つてるやうに聞えますで。何程無形的に広いと云つても、現実が斯う矮小醜陋では、余り大きなことも云へますまい。これから国依別さま、私になら何を言つてもよろしいが、人の前でそんなことを仰有ると、皆が取違して、国依別は負惜みの強い奴だ、減らず口を叩く奴だと却て軽蔑しますよ』 国依別『形ある宝は錆び、腐り、焼け、亡び、流れ壊るる虞がある。起きて半畳寝て一畳だ。広い館に住んで居れば、あつたら光陰を掃除三昧に空費し、肝腎の神業の妨害になるだないか。小さいのは結構だ、何かに都合が好い。第一経済上から云つても得策だからなア』 秋彦『あなた掃除をなさつた事があるんですか。雪隠の虫が竈の前に這うて居るぢやありませんか』 国依別『……ここ暫し家の美醜は忘れけり神大切に思ふ計りに…… と云ふ様なものだな』 秋彦『ヘーエあなたも余程高姫化しましたねえ。弁舌滔々風塵を捲く。実に揶揄役のあなたは、高姫さまに接するの度が多いから余程の経験が積んだと見えますワイ。都合の悪い時には、発句か川柳か、鵺式の言葉を使つて駄句り続け、腰折歌を並べ随分側から聞いてると苦さうでしたよ』 国依別『苦中楽あり、楽中苦ありだ。それも見やうによるのだよ。一葉目を蔽へば、大空一度に隠れ、一葉を掃へば、大空我目に映ずと云つて、凡て物は見方に依るのだ、見方が大切だ』 秋彦『味方計り大切だと云つて愛する訳には行きますまい。神様は敵する者を愛せよと仰有るぢやありませぬか』 国依別『それだから高姫さまに対し、私は何時も適対ふのではない、適当の処置を取つて居るのだ。ヤツパリ見方によつては味方に見えるだらう』 秋彦『何程贔屓目に見ても、あなたが高姫さまに対して為さることは、余り同情のある遣り方とは見えませぬぜ。何時も高姫さまの鼻をめしやげたり、手古摺らしては痛快がつてるぢやありませぬか』 国依別『……心なき人は何とも言はば言へ世をも怨みじ人も恨みじ…… 燕雀何ぞ鴻鵠の志[※「鴻鵠」は一般には「こうこく」と読むが、ここでは「こうこう」とフリガナが付いている。誤字か?]を知らんやだ。紫蘭満路に咲く、芳香何ぞ没暁漢の知る所ならんやだ。アハヽヽヽ』 (大正一一・七・二二旧閏五・二八松村真澄録) |
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霊界物語 | 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 | 02 清潔法 | 第二章清潔法〔七八四〕 西に円山東に小雲山と川とに挟まれし 並木の松の片傍り桧、松、杉、柏木の 丈余にあまる大木は天を封じて立ち並ぶ それの木蔭に瀟洒たる丸木柱に笹の屋根 青、白、赤の庭石もどことは無しに配置よく 敷き並べたる庭の奥幽かに聞ゆる話声 聞くともなしに友彦は思はず門をかい潜り 何かの綱に曳かれしごと何時の間にやら門の口 此処は高姫御館奥には幽かな人の声 何処の客かは知らねども何は兎もあれ戸を叩き 主人の様子を窺はんさうぢやさうぢやと独言 忽ち表戸打ち叩き『教の道の友彦が 久方振にお館へ帰り来ませる高姫に 敬意を表して御挨拶申さんものと取る物も 取らずに尋ね来ましたぞお構ひなくば表戸を 早く開けさせ給へかし』呼べば中より安公が 『折角乍ら友彦よお前は意地久根悪い故 高姫さまの気に合はぬ今も今とて国さまや 秋彦さまがやつて来て何ぢや彼んぢやと駄句りつつ 形勢不穏と見済まして尻を紮げて去にました お前も立派な男なら些とは考へなされませ 奥の一間に高姫や高山彦や黒姫が 夏彦、常彦前に置き秘密の話をして御座る 秘密は何処迄秘密ぢやと高姫さまの常套語 今日は風向悪い故去んだがお前の得だらう 男を下げて帰るより貞操深きテールスの 姫の命と親密に尊き神の御言葉を 調悟つた其上で喧嘩の材料を蓄へて 此場を出直し堂々と捲土重来するがよい 七尺男が高姫や黒姫さまに凹まされ 泡を吹くのも見ともないお前は私の好きな人 お鼻の赤い愛嬌者木花姫の再来と 勝公さまが云うて居た一度に開く蓮花 此処は聖地の蓮華台それの麓の神館 嘘か誠か知らねども系統の身魂に憑られし 日の出神が御座るぞや竜宮海の乙姫も 黒姫さまを機関とし天狗の身魂も引き添うて 高山彦の夫婦連れ三人世の元結構と 済ました顔で御座るのに赤鼻天狗がやつて来て 鼻と鼻とが衝突し又もや悶着起りなば 安公さまも勝公も何うして傍に居られよか 地震雷火の雨もさまで恐れぬ豪傑の 安公さまも高姫のその鼻息にや耐らない 男一匹助けると思うて帰つて下さんせ 肝腎要の性念場秘密話の最中に お前が来たと聞いたなら忽ち起る暴風雨 柱は倒れ屋根剥れ険難至極の修羅場裏 あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 白い玉をば預かつたジヤンナの郷の救世主 此処では詮らぬ宣伝使神の上には上がある 口が悪いと腹立てて怒つて呉れなよ高姫が 今日も今日とて云うて居た俺が云うので無い程に 日の出神の生宮の御霊が憑つて説き明す 斯う云ふ中にも高姫のお耳に入れば大変だ 地異天変は目のあたり早く帰れ』と促せば 友彦フフンと鼻で息『魂ぬけ婆さまの高姫が 四股の雄健び踏み健び何程勢強くとも バラモン教の友彦と世に謳はれた俺だもの 高姫位が何怖い女の一人や十人が 怖くて此世に居られよか腰抜け野郎』と云ひながら 力の限り表戸を押し分け入らんとする所 『千騎一騎の此場合友彦如きに這入られて 何うして門番勤まろか後でゴテゴテ高姫の お小言聞くのが耐らない友彦お前は夫程に 物の道理が分らぬか荒浪凪いだ明朝 又出直して来てお呉れ其時こそは喜んで 𧘕𧘔つけて門口へ私が出迎へ致します 頼む頼む』と泣き声を放てば友彦立ち止まり 平地に浪を起すよな悪戯しても済まないと 心を柔げ声を変へ『お前の云ふのも尤もだ そんなら今日は帰ります高姫さまや黒姫に 友彦さまがやつて来て秘密の話があるさうぢや お邪魔をしてはならないと賢いお方の事なれば 先見つけて我館いそいそ帰つて往きました 万一明日来たなれば高姫さまも黒姫も 高山彦も安公も𧘕𧘔姿でお出迎ひ 必ず粗相あるまいぞ呉れ呉れ申て置く程に 沢山さうに友彦とお前は思うて居るだらう 黄金花咲く竜宮の一つ島にて名も高き ネルソン山の峰続きジヤンナの郷の救世主 小野の小町か衣通かネルソンパテイか楊貴妃か テールス姫かと云ふやうな古今無双のナイスをば 女房に持つた果報者必ず必ずこの言葉 忘れちやならぬぞ高姫に頭を低ふ尻高く 犬蹲踞に身構へし申伝へて呉れよかし 高姫さまも友彦の光来ありしと聞くならば 忽ち顔色青くして待ち兼ね山の友彦が 訪ねて来たのを素気なくも主人の我に無断にて 帰すと云ふ事あるものか気の利いた割に間の脱けた 安公の野郎と頭から雷さまが落ちるだろ 夫を思へば安公がお気の毒にて耐らない 減らず口ぢやと思ふなよ武士の言葉に二言ない 研き悟りし天眼通鏡に映したその如く 一切万事知れて居るあゝ惟神々々 御霊幸倍坐ませよ青垣山は裂けるとも 和知の流は涸れるとも友彦さまの云つた事 一分一厘違はない大地を狙つて打ち下ろす 此棍棒は外れても我一言は外れない 頤が外れて泡吹いて吠面かわいて梟鳥 夜食に外れた時のよな妙な面つきせぬやうに 親切心で友彦が一寸お前に気をつける 教の道の友達の好誼ぢや程に安公よ 決して仇に聞くでない天が下には敵も無く 一人も悪は無い程に心の隔ての柴垣を 早く取り除け世の中の人を残らず仁愛の ミロクの眼で見るならば尊き神の御子ばかり 高姫さまに此事を重ねて云うて置くがよい 別れに望んで友彦が一寸憎まれ口叩く あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と歌ひ乍ら夕焼の空を打ち仰ぎつつ、いそいそと我家をさして帰り往く。 友彦の帰り往く後姿の見えぬ迄見送つた安公は、 安公『アヽとんでも無い奴がやつて来やがつて、いらぬ気を揉ましやがつた。褒めて去なさうと思へば調子に乗つて這入らうとする。仕方が無いから悪く云つて帰さうと思へば、無理やりに戸を押し開けて這入らうとする。困つた奴だ。あんな男を此の結構な日の出神のお館へ入れやうものなら、又高姫さまが四足身魂が来たから、此辺が汚れたから、塩をふれ、水を撒け、其辺を掃けと矢釜しく仰有るに違ひない。此広い庭前を俺達二人が何程鯱んなつても、お気に入るやうな事は出来はしない。マアマア高姫さまに分らいで掃除だけは助かつた。友彦の奴減らず口を叩きやがつて、𧘕𧘔姿でお出迎ひせよと馬鹿にしやがる。併し俺が一寸其場逃れにお仕着せ言葉を使つたのが誤りだ。……何、変説改論の世の中、日進月歩だ。今日の哲学者の以つて真理となす所、必ずしも明日は真理でない。又夫以上の大真理が発見せられたら、今日の真理は三文の価値も無く社会から葬られて仕舞ふのだ。エヽそんな事考へて取越苦労をするのは馬鹿らしい。刹那心を楽しむのだ。あゝ今と云ふ此刹那の心配と云うたら有つたものでない。併しマア無事に帰つて呉れたので、俺も今晩は足を長うして寝られるワイ』 と口の中で呟いて居たが、いつしか声高になり、高姫が小便に往つた帰りがけ、フト耳に入り、 高姫『これこれ安公さま、お前今大きな声で何を云つて居たの』 安公『ハイ、眼下に瞳を放てば淙々たる小雲の清流老松の枝を浸し、清鮮溌溂たる魚は梢に躍る。実に天下の絶景だ。それにつけても此お庭先、勝公と安公さま両人の丹精により、実に清浄なものだ。実に一点の塵もなく汚れも無い。まるで御主人の身魂に好く似た綺麗な庭先だと、感歎して居た所で御座いますワイ』 高姫『友彦が何とか、……云うて居たぢやないか』 安公『ヘー、……ヘヽヽヽー、左様で御座います。舳解き放ち艫解き放ち、あの水面を漕ぎ渡る船の美しさ。兎も角も何ともかんとも云はれぬ、結構な眺めだと云つて居ましたのですよ』 高姫『これ安公さま、お前は掃除するのが嫌ひだらう』 安公『ハイ、決して決して、身魂の洗濯、心の掃除するために此聖地へ修業に参り、貴女のお館の掃除番をさして頂き、日々身魂を結構に研かして貰うて居ます』 高姫『何うも糞彦の匂ひがする。厠の穴から抜け出た男の友彦が来たのぢやないかな』 安公『何とまア貴女の鼻は能う利きますね。恰でワンワンさまのやうですわ』 高姫『私の云ふ事なれば聞いて下さるかな』 安公『ハイハイ如何なる事でも聞きまする。仮令貴女が死ねと仰有つても背かずに聞きまする』 高姫『耳だけ聞くのぢやないよ。聞くと云ふのは行ひをする事ぢや。サア是から屋敷中隅から隅まで箒で掃き浄め、塩をふり、水を一面に打つて下さい。さうして此雨戸にも何うやら四足の手で押したやうな臭がする、此戸の薄くなる程砂で磨いて擦つて置きなさい』 安公『それや……些と……ぢや御座いませぬか』 高姫『些とで不足なら座敷から厠の中迄掃除をさして上げやう。人間は苦労せなくては神様の事は分りませぬぞエ』 安公『チー……、チツト……、ムヽヽヽですな』 高姫『そんならとつとと今日限り帰つて下さい』 安公『勝公さまと二人で掃除をさして頂くのでせうなア』 高姫『勝公さまは炊事万端、座敷の用もあるし、一息の間も手が抜けませぬ。エヽ何だか汚い臭がする。是から夜が明けても構はぬ、掃除をするのだよ』 安公『アヽ掃除ですか』 と力無げに頸垂れる。 高姫『安公さま、間違無からうなア』 安公『ヘエー……』 と長返辞し乍ら水桶を持つて井戸端に、のそりのそりと進み行く。高姫は細い廊下を伝つて奥の間に姿を隠した。 安公はブツブツ云ひ乍ら、十三夜の月の光を幸に、さしもに広き庭の面に、深い井戸から撥釣瓶に汲み上げては手桶に移し、撒布しながら、小言を云つて居る。 安公『アヽ大変な事が起つて来た。天変地異よりも何よりも俺に取つては大問題だ。大国治立尊様が三千世界をお立替へ遊ばし、綺麗薩張水晶の世になさる以上の大神業だ。併し乍ら折角ちやんと掃除を済まし、高姫衛生委員長の試験にやつと合格して、やれやれと息を入れる時分に、又もや友彦が明日になるとやつて来よる。さうすりや又同じ事を繰返さねばなるまい。高姫も高姫じや、友彦も友彦ぢや、鷹とも鳶とも、鬼とも、蛇とも、馬鹿とも、何とも訳の分らぬ代者の寄合だ。さうぢやと云つて此儘掃除をせずに置く訳にも往かず、是非とも皆やらねばならぬ。旭は照るとも曇るとも、月は盈つとも虧くるとも、仮令大地は沈むとも、友彦の命のある限り、やつて来ぬとも分らない。困つたものだ。同じ神さまの道に居ながら、何故犬と猿のやうに仲が悪いのだらう。共に手を引き合うて往かねばならぬ神のお道、とも角も困つたものだなア、エヽ焼糞だツ。 (安公)『今日は九月の十三夜俺の副守よ能つく聞け 必ず忘れちやならないぞこんな苦しい目に遭ふも 鼻赤男の友彦が来やがつたばかりに肉体も お前も共に苦労する苦労するのがイヤなれば 俺の体を一寸放れ鼻赤天狗に憑依して 又しても友彦が来ぬやうに頭を痛め足痛め 鉄条網を張つて呉れ毎日日日来られては 俺の肉体がつづかないあゝ惟神々々 叶はん叶はん耐らない叶はん時の神頼み 同じ主人を持つならば言依別神さまや 杢助さまのやうな人神さま持たして下しやんせ 鼻高姫の頑固者偏狭な心を出しよつて 気に喰はぬ奴が来たと云ひ汚れて臭いとは何の事 我儘気儘も程がある人を使はうと思つたら 一度は使はれ見るがよい高姫さまのやうな人 弥嫌になつて来た是から此家を夜抜けして 国依別か秋彦の館を指して逃げ込まうか 宇都山郷の破屋の松鷹彦の真似をした 俺は矢張国さまの親の御霊か知れないぞ エヽエヽ思へば高姫が小癪に触つて耐らない 小癪に触つて耐らない小杓を握つた此手さへ びりびり震ひ出して来たエヽ邪魔くさい邪魔くさい』 云ふより早く水桶を頭上に高く差し上げて 庭に並んだ捨て石を睨んでどつと打ちつける 桶は忽ちめきめきと木つ端微塵に潰滅し 水は一度に飛び散つて高姫黒姫其外の 居間の障子に打つ突かる高姫驚き外面をば 眺める途端に安公は『お前は高姫黒姫か 長らくお世話になりましたお前のやうなえぐい人 誰がヘイヘイハイハイと粗末な粗末な椀給で 御用聞く奴がありませうか一先づ御免候へ』と 後を振り向き振り向いて月の光を浴びながら 黍畠深く隠れける。 高姫『エヽ仕方のないものだ。とうとう彼奴は国依別の悪霊に憑かれて仕舞つたな。是から国依別の館に行くと、独言を云うて居た。四つ足身魂が出て来ると、碌な事は一つも出来はしない。……なア黒姫さま、確りしないと貴方も何時悪神に憑依せられるか分りませぬぜ』 黒姫『オホヽヽヽ』 斯かる所へ勝公は、 勝公『もしもし御一同さま、大変に御飯が遅れて済みませぬ。どうぞ此窓を開けて、お月さまを見乍ら、悠くりとお食り下さいませ』 高姫『あゝ夫は御苦労だつた。お前も早う御飯をお食り、安公のやうに飛び出さぬやうにして下されや』 勝公『ヘエ、もう彼奴は飛び出しましたかな。ヤヽ仕舞つた。先立たれたか、残念だ』 高姫『これこれ勝公さま、お前は何を云ふのだ。高姫館が嫌になつたので、抜け出す積りで居たのだらう』 勝公『何だか聖地の方々に対しても肩身が狭いやうな気が致しましてなア。立寄れば大木の蔭とやら、何程此お館に大木が沢山あつても、箸と親分は丈夫なのがよいとか申しましてな。実は一寸思案をして居りますので御座いますワイ』 高姫『宜敷い、旗色のよい方につくのが当世だ。体主霊従の杢助さまにでも引き上げて貰ひなさい』 勝公『今日から此処を出されては実は困ります。何と云つても、○○の留守をして居つた奴だからと云つて、誰も彼も排斥して使つて呉れませぬから、止むを得ず貴方のお宅にお世話になつて居ました。よい口があれば誰がこんな所へ半時でも居りませうか。私の口が出来る迄一寸腰かけに置いて下さい』 高姫『エヽ汚らはしい。そんな心の人はトツトと去んで下さい、反吐が出る』 勝公『神様は反吐の出るやうな汚い者を集めて洗濯をなさるのぢやありませぬか。清らかな者計りなら、別に教を立てる必要はありますまい。高姫さまもよい洗濯の材料が出来たと思つて、も少し私の身魂を洗濯して下さいな』 高姫『もう洗濯屋は廃業しました。洗濯がして欲しければ一本木迄いつて来なさい。サアサアトツトと帰つた帰つた……とは云ふものの、明日から誰が飯を炊いて呉れるだらう。チヨツ、いまいましいが、そんなら暫く置いて上げよう』 勝公『何だか安公が出やがつてから俺も出たくなつた。何ぼう置いてやると云うても居る気もせず、あゝ仕方がないなア』 と小さい声に呟きながら、納戸の方に姿を隠した。 (大正一一・七・二二旧閏五・二八加藤明子録) |
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霊界物語 | 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 | 03 魚水心 | 第三章魚水心〔七八五〕 高姫、黒姫、高山彦、夏彦、常彦の五人は、四方山の話に耽り乍ら晩餐を済ませ、窓を開けて月を拝し乍ら、ヒソヒソ話に耽つてゐる。 高姫『夏彦、常彦さま、お前さまは言依別の教主に随いて、五色の御玉を御迎へに秋山彦の館まで往つたぢやありませぬか』 夏彦『ハイ行きました。それはそれは御立派な事で御座いましたよ。なんでも初稚姫、玉能姫、玉治別、久助、お民の五人さまが、竜宮の一つ島の諏訪の湖の竜の宮居とかで、乙姫さまから五色の結構な玉を御頂きなされ、それを自分の手柄にするのも勿体ないと云ふ御精神から、初稚姫さまは紫の玉を梅子姫様に御渡し遊ばされ、それに倣うて四人の御方は黄竜姫、蜈蚣姫、友彦、テールス姫にその玉を無言の儘渡されたといふ事です。人間も、アー云ふ工合に私を捨て譲り合つて行けば、何事も円満に行くのですがなア』 高姫『何ツ、黄竜姫や蜈蚣姫、彼の友彦にテールス姫、彼んな輩がそんな御用をしましたかい。何程人物払底だと云つても、あんまり酷いぢやありませぬか。さうしてその玉は今聖地に納まつてあるだらうな。竜宮の乙姫さまの肉の宮、黒姫さまが此処に御座るのだから、謂はば黒姫さまが二三年も竜宮の島に渡つて御仕組をして置かれたのだ。それも此の高姫が神様の御都合で、黒姫さまを聖地から追出したのが矢張御用になつて居るのだ。そんな事の分つた奴は一人も有りますまい。何を云つても杢助のやうな没分暁漢が総務さまだからね』 夏彦『それは誰もよく存じて居ります。これは全く日の出神さまや、竜宮の乙姫様の御蔭で授かつたのだと云つて居ますで』 高姫『それは定つて居るぢやないか。併し日の出神の肉の宮と、竜宮の乙姫さまの肉の宮は、何方ぢやと云ふ事が分つて居らねば駄目ですよ』 常彦『それは云はいでも定つてゐますがな。系統の肉体に憑らいで何処へ憑らはりませう。乙姫さまだつて、依然日の出神さまの生宮に引添うて御座る御方に定つとるぢやありませぬか。それで言依別神様が信者一同に玉を開けて一度拝まし度いのだけれど、肝腎の系統の生宮さまが御帰りになる迄、吾々は開ける事は出来ないと云つて、御自分で何処かへ御納めになりました。貴方が些とも言依別さまの御館へ顔出しをなさらぬものだから、待つてゐられるのですよ』 高姫『言依別も大分此頃は改心が出来たと見えますワイ。此の肉体が日の出神の生宮ぢやと云ふ事が徐々と気が付いたらしい。なア竜宮の乙姫さま、それに就いても、些と分らぬぢやありませぬか。吾々が訪ねに行かずとも、それが分つた以上は日の出神や竜宮の乙姫様へ御礼に来ねばならない筈だ。本末顛倒も実に甚しい』 夏彦『決して決して、言依別様はそんな御考へは些とも無いのですが、貴方は何時も言依別の奴灰殻だとか、四足身魂だとか仰有るものだから言依別様は、貴方の御宅を御訪ねなされ度いのは胸一杯になつて居らつしやるのですが、人手の少いのに、又々秋季大清潔法をなさらんならぬ様な事が起ると、御気の毒だと云つて控へて御座るのですよ』 高姫『そんな御心配は要りませぬわ。日の出神や竜宮の乙姫の生宮が分る丈の身魂なら、最早四足身魂は退散して居るに違ひないから、高姫、黒姫が待ちかねてゐるから一遍御出でなさいと云つて下さい。いろいろと言うて聞かしたい事もある。何程賢い教主だと云つても年の若い経験の無い社会大学を卒業せない人だから、言はねばならぬ事が山程あるのだけれど、又煩さがられると思うて今迄云はずに居つたのだよ。それが本当なら言依別も見上げたものぢや。オツホヽヽヽ』 夏彦『折角立派な御玉が納まつて皆の信者が拝観したいと云つて待つて居ります。何卒その玉を貴女の御手で開いて貰はなければ誰も開く事が出来ぬのですから、何卒早く御機嫌を直して錦の宮へ御参詣の上、言依別様と御相談して下さいな』 高姫『ソリヤ道が違ひませう。言依別は教主だと云つても、それは人間が定めたもの、誠生粋の日の出神様や竜宮の乙姫様の御鎮まり遊ばす肉の宮へ、一度の面会にも出て来ぬと云ふ失礼な事がありますかい』 夏彦は言ひ憎さうに一寸頭へ手を上げて、 夏彦『あなたの仰有る事も一応は御尤ものやうに考へますが、そこはさう四角張らずに、言依別様は言依別様として、教主と云ふ名に対し貴方から御訪問なさるが至当だと思ひます。それも亦直接に御会ひになつてはいけませぬ。何程御嫌ひになつても総務の杢助さまの手を経て御面会をなさいませ。それが至当だと此の夏彦は御神徳を頂いてゐます』 高姫『あんな杢助や国依別のやうな行儀知らずに、阿呆らしくて面会が出来ぬぢやありませぬか。二つ目には四足かなんぞのやうにゴロンと横になり、不作法な…生宮の前でも寝て話をすると云ふ代物だから、国依別までが同じ様に猿の人真似をしよつて、好いかと思つてグレンと仰向けになり応対をして居るから、この高姫が「些と心得なさい、失礼ぢや無いか」とたしなめてやれば、霊界物語でさへも仰向けになつて、足をピンピン上げ以て結構な神界の因縁を説かれるぢやないかと、屁理屈をこねる仕方の無い奴だ。そんな奴を又言依別さまも人間が好いものだから、悦んで使つてゐると云ふ御目出度さ。第一これからが退けて了はなくちや、三五教も何時になつても駄目ですよ』 夏彦『あなたの御言葉は実に御尤もです。私も時々杢助さまが仰向けになつて、私達にいろいろの事を御指図をなさるので時々ムツとしてその訳を詰問すると杢助さまの言草が面白い。「今のやうな百鬼昼行の世の中の人間は、みんな鬼や蛇や悪魔が人間の真似をして立つて歩いて居るのだ。さうして蟹が行く横さの道計り平気でやつてゐるから耐らない。今日の世の中を革正しようと思へば、何うしても人のようせぬ事を致さねば立替、立直しは出来ない。今日の社会を見なさい、その潮流は滔々として横へ横へと流れてゐるぢやないか。それが所謂天地自然の道だ。川の水でも潮水でも横に流れて居るべきものだ。数多の人命を乗せて走る汽車も矢張横に長うなつてゐる。レールでさへもさうぢやないか。もしもレールがチヨコンと坐つたり、立てつて見なされ、汽車は忽ち転覆するぢやないか。横に流れて居る河川は洋々として少しも淹滞なく、又愛らしい雛を育てる牝鳥は翼の中へ大切に抱えて巣の中へ寝てゐます。卵を孵すのだつて寝て居らねば孵りはしない。ノアの方舟だつて矢張り水面を横に進んで流れてゐる、水平社の運動でも……」と仰有いましたよ』 高姫『そんな屁理屈がありますか。この庭先の松や篠竹を見なさい。皆地から真直に上へ向つて立つてるぢやありませぬか。横になつてる奴は幹が腐つて風に吹き倒された木許りぢや。又本打切り末打断ちて皮を剥かれた枯木の材木ばつかりだ。横になつてる奴に碌なものがありますか。さうだから杢助では駄目だと云ふのですよ』 と力をこめて握拳で閾を思はずポンと叩き、『アイタヽヽ』と云はんとしたが、『アイ……』と云つた限り顔を顰めて左の手でコツソリと撫でてゐるその気の毒さ。 常彦『なんと理屈は何方へでもつくものですな。火中水あり、水中火あり、火は水の力を借つて燃え上り、水は火の力に依つて動かされる道理で、何方から聞いても理屈は合ひますワイ。それで経が変性男子、緯が変性女子と神様が仰有るのでせう。経糸計りでは所詮駄目で、矢張り緯糸が無ければ錦の機は織る事は出来ませぬ』 高姫『その緯がいかぬのですよ。緯は梭が落ちたり、糸が切れたり致すから、それで変性女子の行方は駄目だと云ふのだよ…… 機の緯織る身魂こそ苦しけれ一つ通せば一つ打たれつ なんて弱音を吹いて居るやうな言依別に何が出来ますかいな。イヤイヤ矢張言依別は出来ぬとも限らぬ。此頃は大分に改心をしかけたから、変性男子の経糸に対して、私がサトクとなつて立派な機を織つて見せませう。緯糸になる緯役さへサトクの言ふ通り従いてくれば好いのだ。……ナア黒姫さま、さうぢやありませぬか』 黒姫『左様々々、貴方の仰有る通り一分一厘毛筋の横巾程も違ひはありませぬ。何卒一時も早う杢助さまが改心さへしてくるれば、何にも云ふ事はありませぬがなア』 常彦『杢助さまの方では何卒一日も早く高姫さまや黒姫が改心さへしてくれれば何も云ふ事はないがなア…と首を傾げて大変に考へてゐましたよ。国依別だつてあんたの敵対役に実際の所はこしらへてあるのですよ。此間もお肴だと云つて石を持つて来たでせう。それは大きな声では云へぬが全く言依別様の御指図ですよ』 高姫『ナニ、言依別が……あんまりぢやないか』 常彦『言依別様は深い思召しがあつて国依別にあーいふ事をさせて、お前さまが怒るか怒らないか、怒るやうでは玉の御用をさす時機がまだ来て居らぬのだし、それを耐へ忍ぶやうな高姫さまなら、モウ大丈夫だからと云つて気を御引きなさつたのですよ。お前さまは矢張腹が立ちませうね』 高姫『エー腹が立つといふやうな、そんな小つぽけな精神で、大和魂と云はれますかい。大海は塵を選まず、百川の濁流を呑んで濁らずと云ふ高姫の態度ですからなア。天の高くして諸鳥の飛翔するに任するが如く、海の濶く深くして魚鼈の躍るに任すが如しといふ広大無辺の大精神ですから……ヘン……あんまり見損ひをして貰ひますまいかい。妾を試すなんて猪口才過ぎる。矢張自分の心が小さいからだよ。自分の心の尺度を以て、生神様の大精神を測量しようと思ふのが、テンから間違つてゐる。併し乍らそこまで言依別もなつたか、ホンに可愛いものだ。……そんなら常彦さま、お前、言依別さまに逢つて、高姫さまは彼の位な事は、何処を風が吹くらんといふやうな態度で、余裕綽々、泰然自若として笑つて御座つたと、実地正真らしく……オツトドツコイ……実地正真の立派な態度を、よく腹へシメこんで置いて申上げるのだよ』 常彦『兎も角今日の有りの儘を申上げたら好いのですか。嘘は一寸も云はれぬ御道ですからなアー』 高姫『エー矢張モウ云うて下さるな。妾が直接に御目にかかつてその寛大振を見せて来るから、今日の事は何にも云ひつてはなりませぬぞ』 常彦『魚心あれば水心あり、打てば響くとやら……、ナア夏彦、さうぢやないか。チツトはコンミツシヨンとか、ボーナスとか有りさうなものだなア』 黒姫『オホヽヽヽ、何と現金なお方だこと』 常彦『何分此肉体は融通の利く人間ですが、三五教の誠の教を守護神の奴、腹中で、すつかりと聞き居つたものだから、相手の通り云ひたがつて仕様がありませぬ。この肉体は何も云ひませぬ。副守の奴に何か気をつけてやつて下さい。袂が重ければ重い程都合が宜しいで。少々の重味位乗せた所で、中々の強い奴ですからなア』 高姫『マアマア成功の後、御注文通りボーナス(棒茄子)なつと、ボーウリ(棒瓜)なつと、干瓢なつと上げませうかい』 常彦『そいつはなりませぬぞ。何事も前銭を出して註文して置かねば、何程変換されても仕方がありますまい。証拠金とか手付金とか先へ頂いて公証役場へ行つて、公正証書でも取つて置きませうかな。アハヽヽヽ』 高姫『コレ常彦さま、冗談もよい加減にしなさい。……千騎一騎の此場合ぢやありませぬか』 常彦『ソラさうでせう。あなたにとつては千騎一騎、吾々は及ばず乍ら麻邇宝珠の御迎へを御勤め申し、一寸休養を賜はつて居るところですから、極めて悠々閑々たるものです。兎も角他の苦労で徳をとらうと云ふのは、却て骨が折れるものですワイ。併しこれは世間の話しですよ。お前さまは気が早いから直に自分の事に取つて怒る癖があるから剣呑だ』 高姫『何を仰有る。それは大きな声で云はれぬが、言依別命の事でせうがなア』 常彦『あんたはさう思つてますか。それで安心だ……。なア夏彦さま』 夏彦『オホヽヽヽ、イヤモウ何うも感心いたしました』 斯かる処へ夜の閑寂を破つて宣伝歌の声が聞えて来た。 (亀彦)『神が表に現はれて善と悪とを立別ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直せ聞直せ 身の過ちは宣り直せ頑迷不霊の高姫も 執着深き黒姫も天と地との御水火より 現はれませる神の御子神素盞嗚大神の 仁慈無限の御心を酌みとりまして言依別の 瑞の御魂は八尋殿麻邇の御珠を奥深く 納め給ひて高姫や黒姫さまの帰るまで 拝観する事ならないと言葉厳しく宣り伝へ 高姫さまの一行が聖地を指して帰り来る その吉日を待ち玉ふ思へば深し神の恩 仰げば高し御恵み露だも知らぬ高姫が 聖地に帰り来乍らも錦の宮の大前に 未だ詣でし状も無し玉照彦や玉照姫の 神の柱は言ふも更神素盞嗚大神の 珍の御子とあれませる五十子の姫や梅子姫 わけて尊き英子姫言依別の教主等に 未だ一度も挨拶の便りもきかぬうたてさよ あゝ惟神々々御霊幸倍ましまして 執着心と片意地にとりからまれし両人や 高山彦の身魂をば神の御稜威にさらさらと 清め玉ひて片時も疾く速けく大前に 詣で来りて神業に参加なさしめ玉へかし 如何に高姫黒姫が頑強不霊と云ひ乍ら 神の御裔の方々に無礼の罪を重ぬるは 実に悲しき事ぞかし教の道の友彦を 一度遣はし見たれども金門を守る安公に 追ひ退はれて減らず口叩いて館へ立帰り 面を膨らせブツブツと小言の限り列べ立て とりつく島もなき別れわれは亀彦宣伝使 英子の姫の御言もて高姫黒姫両人を 今や迎へに来りけり月は御空に皎々と 輝き渡り万有に恵みの露を賜へども 心の空の村雲に十重に二十重に包まれて 黒白も分かぬ胸の闇晴らし玉へよ天津神 国津神達八百万三五教を守ります 皇大神の御前に万代祝ふ亀彦が 謹み敬ひ祈ぎ奉るあゝ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 と歌ひつつ高姫館を指して次第々々に近づき来る。 亀彦は門の開きあるを幸ひ、つかつかと進み来り、 亀彦『モシモシ夜中にお邪魔を致しまするが、私は亀彦の宣伝使で御座りまする。江州の竹生島より英子姫様と同道にて聖地へ参つて居りまする。承はりますれば高姫様、黒姫様、高山彦と共にお帰り遊ばしたとのこと、御機嫌をお伺ひに参りました。お差支なくばお通し下さいませ』 高姫『ヤア貴方は亀彦さまか。よくマア竹生島に於て国依別さまと東西相応じ、御親切に何から何まで御注意下さいまして有難う御座います。私も一度英子姫様始め、貴方達にもお礼のためにお伺ひ致したいと思つて居ましたが、何とは無しに貧乏暇なしで御無礼を致して居りまする。併し乍ら今日は来客がありますので、失礼乍らお帰り下さいませ。只今の宣伝歌を拝聴いたしましたが、随分立派なお声でお節もお上手になられました。丁度竹生島の社の後に現はれ玉うた女神様のお声その儘でしたよ。オホヽヽヽ』 亀彦『御差支とあれば是非が御座いませぬ。左様ならば、お暇致しませう』 と云ひつつ月の光を浴び乍ら足早に帰り行く。後見送つて高姫は、 高姫『オホヽヽヽ、やつぱり気が咎めると見えますワイなア。……黒姫さま、高山彦さま、あの亀彦が恐相な帰り様、計略の裏をかかれて、コソコソと鼠のやうになつて逃げたぢやありませぬか』 黒姫『ウフヽヽヽ』 高山彦『アハヽヽヽ』 (大正一一・七・二二旧閏五・二八外山豊二録) |
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77 (1911) |
霊界物語 | 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 | 04 教主殿 | 第四章教主殿〔七八六〕 松の老木、梅林楓の紅葉、百日紅 木斛、木犀、樅、多羅樹や緑紅こきまぜて 幽邃閑雅の神苑地魚鱗の波を湛へたる 金竜池に影映す言霊閣は雲表に 聳りて下界を睥睨し神威は四方に赫々と 轟き亘る三五の神の教の教主殿 八咫の広間に寄り集ふ梅子の姫を始めとし 神の大道に朝夕にいそしみ仕ふる五十子姫 闇をはらして英子姫万代寿ぐ亀彦や 五十鈴の滝の音彦や心も光る玉能姫 玉治別を始めとし初稚姫や杢助は 言依別と諸共に奥の広間に座を占めて 玉依姫の賜ひたる麻邇の宝珠の処置につき 互に協議を凝らし居る時しもあれや玄関に 現はれ来る三人連れ御免々々と訪へば 玉治別は出迎へ一目見るより慇懃に 笑顔を作り腰屈め高姫さまか黒姫か 高山彦の神司ようこそお入来下さつた 言依別の神司其他数多のお歴々 今朝からひどう御待兼ねサアサア御通りなさいませ 高姫軽く会釈してそれは皆さまお待兼ね 奥へ案内願ひませう黒姫さまや高山彦の 神の司のお二方サアサア共に参りませう 黒姫夫婦は黙々とものをも言はず足摺りし 静々あとに従うて奥の間さして進み入る。 高姫『ヤア是は是は言依別様を始め、英子姫様其他のお歴々様方の御前も憚らず、賤しき高姫、恐れ気もなく御伺ひ致しまして、さぞ御居間を汚すことで御座いませう。何事も神直日大直日に広き御心に見直し聞直しまして、此老骨をお咎めなく可愛がつて下さいませ』 一同は一時に手をついて、礼を施した。 言依別『高姫様、そこは端近、ここにあなた方お三人様のお席が拵へて御座います。どうぞこちらへお坐り下さいませ』 高姫『何分にも身魂の研けぬ、偽日の出神の生宮や、体主霊従の身魂計りで御座いまするから、そんな正座につきますのは畏れ多う御座います。庭の隅つこで結構で御座いますが、御言葉に甘えて、お歴々様の末席を汚さして頂くことになりました。どうぞ左様な御心配は下さいますな』 玉能姫『高姫様、さういふ御遠慮には及びますまい。教主様の御言葉、どうぞお三人様共快くお坐り下さいませ』 高姫『コレお節、御歴々様の中も憚らず、何をツベコベと……女のかしましい……口出しなさるのだ。チツと御慎み遊ばせ。もう少し神様の感化に依りて淑女におなりなさつたかと思へば、ヤツパリお里は争はれぬもの、平助やお楢の娘のお節丈あつて、名は立派な玉能姫さまでも、ヤツパリ落付きがないので、かういふ時には醜態もない。高姫がかう申すと、猜疑心か、意地悪かの様に思ふでせうが、決して私はそんな心は毛頭も持ちませぬ。お前さまの身魂を立派なものに研き上げて、神業に参加なさつた手前、恥しくない様に、終始一貫した神司にして上げたい計り、お気に障る様なことを申しますワイ。必ず必ず三五教の教は、悪意に取つてはなりませぬぞ。序に初稚姫にも云うておきますが、お前もチツとは我慢が強い。何程杢が総務ぢやと云つて、親を笠に被り年端も行かぬ癖に肩で風を切り、横柄面を曝してはなりませぬぞ。金剛不壊の如意宝珠を何々したと思つて慢心すると、又後戻りを致さねばなりませぬから、慈母の愛を以て行末永きお前さまに注意を与へます』 玉能姫『ハイ何から何まで御心をこめられし御教訓、猜疑心などは少しも持ちませぬ。此上、何事も万事足らはぬ玉能姫、御指導を御願ひ致します』 高姫『お前さまはそれだから可かぬのだ。ヘン、言依別の教主さまから、紫の玉の御用を仰せつけられ、何々へ何々したと思つて、鼻にかけ、玉能姫なんて、傲慢不遜にも程があるぢやありませぬか。そんな保護色は綺麗サツパリと払拭し去り、何故お節と仰有らぬのだ。かう申すと又お前さまは平助でもない、お楢でもない様な、お節介ぢやと御立腹なさるだらうが、人は謙遜と云ふ事が肝腎ですよ。今後はキツと玉能姫なぞと大それた事は御遠慮なさつたがよからう。何から何まで、酢につけ味噌につけ、八当りに当つて根性悪を高姫さまがなさるなぞと思つちや大間違ですよ。……これお節さま、わたしの申すことに点の打ち所がありますかなア』 玉能姫『ハイ、実に聖者のお言葉、名論卓説、玉能姫……エー否々お節、誠に感服仕りました。其剛情……イエイエ御意見には少しも仇は御座いませぬ、併し乍ら個人としてはお節でも、お尻でも少しも構ひませぬが、神様の御用を致します時は、教主様から賜はつた玉能姫の職掌に奉仕せねばなりませぬから、公の席に於ては、どうぞ玉能姫と申すことをお許し下さいませ』 高姫『女と云ふ者はさう表に立つて、堂々と神業に参加するものではありませぬ。オツトドツコイ……それはエー、ある人の言ふ事、私とても女宣伝使、女でなくちや、天の岩戸の初から夜の明けぬ国、言依別の教主様もヤツパリ女に……綺麗な女の言葉は受取易いと見えますワイ。オツホヽヽヽ、もう斯う皺が寄つて醜うなると、到底若い教主様のお気に入らないのは尤もで御座います。こんなことを申すと、又高姫鉄道の脱線だと仰有るかも知れませぬが、決して脱線でも転覆でも御座いませぬぞ。皆日の出神さまが私の口を借つての御託宣、冷静に聞き流されては高姫聊か迷惑を致します。お節計りでない、お初も其通り、初稚姫なぞと大それたことを言つちやなりませぬぞ。本末自他公私を明かにせなならぬお道、神第一、人事第二ぢやありませぬか。私は系統の身魂、四魂の中の一人、日の出神の生宮、言依別さまが何程偉くても人間さまぢや。人間の言ふことを聞いて、此生神の言葉を冷やかな耳で聞き流すとは、主客転倒、天地転覆も甚しいと云はねばなりませぬぞえ。……コレ田吾作、お前も余程偉者になつたなア。竜宮の一つ島へ行つて、玉依姫様に玉を頂き乍ら、スレツからしの黄竜姫に渡したぢやないか。ヤツパリ田吾作はどこ迄も田吾作ぢや、どこともなく目尻が下つて居る。何程顔が美しくても……其声で蜴喰ふか時鳥……、心の奥の奥まで、なぜ見抜きなさらぬ。そんな黄竜姫の様な若い方に渡すのならば、なぜスツと持つて帰つて、立派な生宮にお渡しせぬのぢやい。お節だつて、お初だつて、皆量見が間違つて居るぢやないか。あんまり甚しい矛盾で、開いた口が塞がりませぬワイな。……コレコレ英子姫さま、梅子姫さま、五十子姫さま、お前さまは変性女子の系統、天の岩戸を閉めた身魂の血筋だから、よほど遠慮をなさらぬと可けませぬぞえ。人がチヤホヤ言うと、つい好い気になるものだ。何程立派な賢い人間でも、悪くいはれるのは気の好くないもの、寄つてかかつて持上げられると、つい好い気になり、馬鹿にしられますぞえ。表で持上げておいて、蔭でソツと舌を出す世の中で御座いますからな』 英子姫『ハイ、有難う御座います。御懇切な御注意、今後の神界に奉仕する上に於ても、あなたのお言葉は私の為には貴重なる羅針盤で御座います。併し乍ら面従腹背的の人間は、此質朴なる今の時代には御座いますまい。善は善、悪は悪とハツキリ区劃が立つて居りまする。左様な瓢鯰的の行動をとる人間は、三十万年未来の二十世紀とか云ふ世の中に行はれる人間同志の腹の中でせう』 高姫『過去現在未来一貫の真理、そんな好い気な事を思つて居らつしやるから、無調法が出来ますのだ。エ、併し大した……あなた方に不調法は出来て居らないから、先づ安心だが、併し三五教は肝腎要の日の出神の生宮は誰、竜宮の乙姫即ち玉依姫の生宮は誰だと云ふ事が分らなければ、どこまでも御神業は成就致しませぬぞ。それが分らねば駄目ですから、今後は私の云ふ事を聞きますかな』 玉治別『モシ英子姫様、決して何事も高姫さまが系統だと云つて、一々迎合盲従は出来ませぬぞ。婆心乍ら一寸一言申上げておきます』 英子姫『ハイ有難う御座います』 高姫『コレ田吾、お前の出る幕とは違ひますぞ。日の出神が命令する。此場を速に退席なされ』 玉治別『ここは言依別様の御館、御主人側より退席せよと仰せになる迄は、一寸も動きませぬ。我々は神様の因縁はチツとも存じませぬ。只言依別の教主に盲従否明従して居るのですから、御気の毒乍ら貴女の要求には応じかねます。何分頻々として註文が殺到して居る、今が日の出の店で御座いますから、アハヽヽヽ』 高姫『コレ黒姫さま、高山彦さま、お前さまは借つて来た狆の様に、何を怖ぢ怖ぢしてるのだ。日頃の鬱憤………イヤイヤ蘊蓄を吐露して、お前さまの真心を皆さまの前に披瀝し、諒解を得ておかねば今後の目的……否神業が完全に勤まりますまい』 黒姫『あまり貴女の……とつかけ引つかけ、流暢な御弁舌で、私が一言半句も申上げる余地がなかつたので御座います』 高姫『アヽさうだつたか、オホヽヽヽ。余り話に実が入つて気がつきませなんだ。そんなら黒姫さま、発言権を貴女にお渡し致します』 黒姫『ハイ有難う御座います。私としては別にこれと云ふ意見も御座いませぬが、只皆様に御了解を願つておきたいのは、竜宮の乙姫様即ち玉依姫様の肉のお宮は、黒姫だと云ふことを心の底より御了解願ひたいので御座います』 杢助『アハヽヽヽ』 黒姫『コレ杢さま、何が可笑しいのですか。チト失敬ぢやありませぬか』 と舌鋒を向けかける。 杢助『黙して語らず……杢助の今日の態度、さぞ貴女にも飽き足らないでせう。杢助は総務として、責任の地位に立つて居る以上、成行きを見た上で、何とか申上げませう』 黒姫『コレ玉治別さま、玉能姫さま、一番お偉い初稚姫さま、お前さまはあの玉を誰に貰つたと思うて居ますか』 初稚姫『ハイ、竜の宮居の玉依姫様から……』 玉能姫『竜宮の乙姫さまから………』 黒姫『そらさうに違ひありますまい。そんなら私を何とお考へですか』 初稚姫『あなたは怖いお婆アさまの黒姫さまだと思ひます。違ひますかな』 玉能姫『竜宮の乙姫様の生宮だと聞いて居りまする』 黒姫『さうか、お前さまはヤツパリ年とつとる丈で、どこともなしに確りして居る。併し乍ら聞いた計りで、信じなければ何にもなりませぬぞ。信じて居られますか、居られませぬか、それが根本問題です』 玉能姫『ハイ、帝国憲法第二十八条に依つて、信仰の自由を許されて居りますから、信ずるも信じないも、私の心の中にあるのですから……』 黒姫『成るべくはハツキリと言つて貰ひたいものですな』 玉能姫『ハツキリ言はない方が花でせう。……ナア初稚姫さま、あなた如何思ひますか』 初稚姫『私は黒姫さまを厚く信じます。併し乙姫様の生宮問題に就ては不明だと信ずるのです』 黒姫『誰も彼も歯切れのせぬ御答弁だな。女童の分る所でない、神界の御経綸、どんな人にどんな御用がさせてあるか分らぬぞよ……とお筆に出て居ります。マアそこまで分れば結構だ。……コレコレ玉治別さま、お前さまの御意見はどうだな』 玉治別『私の御意見ですか。私の御意見はヤツパリ御意見ですな。灰吹から蛇が出たと申さうか、藪から棒と申さうか、何が何だかテンと要領を得ませぬワイ』 黒姫『さうだろさうだろ、分らな分らぬでよい。分つてたまる事か。広大無辺の神界のお仕組を、田吾作さま上りでは分らぬのが本当だ。これから私が神界の事を噛んで啣める様に教へて上げるから、チツと勉強なされ』 玉治別『お前さまに教へて貰ひますと、竹生島の弁天の床下に隠してある三つの宝玉が出て来ますかな。私も其所在さへつきとめたら、竜宮の乙姫の生宮だと云つて、羽振を利かすのだけれどなア。序に日の出神にも成り澄すのだが、……黒姫さま教へて下さいますか』 高姫『コレコレ黒、黒、黒姫さま、タヽ田吾に相手になんなさんな。……コレ田吾さま、お前さまは我々を嘲弄するのですか』 玉治別『滅相もない、神様から御神徳をタマハルワケを聞かして下さいと言つて居るのですよ。何分私の身魂が黒姫で、慢心が強うて、鼻が高姫で、おまけに頭が高うて、福禄寿の様に延長し、神界の御用だと思つて一生懸命になつてお邪魔を致して居りまする田吾作で御座いますから、どうぞ宜しく執着心の取れますよう、慢心の鼻が折れますやう、守り玉へ幸ひ玉へ、アヽ惟神霊幸倍坐世』 高姫『ヘン仰有るワイ。黒姫さま、高山彦さま、サア帰りませう。アタ阿呆らしい。お節やお初、田吾や杢に馬鹿にせられて、日の出神様も、竜宮の乙姫さまも、涙をこぼして居やはりますぞえ。何と云つても優勝劣敗、弱肉強食だ。善の分るのは遅いぞよ、其代り立派な花が咲くぞよとお筆に出て居ります。皆さま、アフンとなさるなツ。是から是からサア是れから獅子奮迅の勢を以て、三五教を根本から立替いたすから、あとで吠面かわかぬようになされませや。ヒン阿呆らしい』 と座を立つて帰らうとする。英子姫は、 英子姫『モシモシ高姫様、一寸お待ち下さいませ。それは余りの御短慮と申すもの、十人十色と申しまして、各自に解釈が違つて居りまするが神様は一つで御座います。さうお腹を立てずに、分らぬ我々、充分納得のゆく様にお示し下さいませ。誠の事ならばどこまでも服従いたします』 高姫はニヤリと笑ひ乍ら、俄に機嫌をなほし、 高姫『流石は八乙女の随一英子姫様、お前さま丈だ。目のキリツとした所から口元の締つた所、ホンにお賢い立派な淑女の鏡だ。お前さまならば、此高姫の申すことの分るだけの素養はありさうだ。そんならモ一度坐り直して、トツクリと御意見を伺ひませう』 と一旦立つた膝を、又元の座にキチンと帰つた。 英子姫『私は御存じの通り、まだ世の中に経験少き不束者、どうぞ何から何まで御指導をお願ひ致します。就きましては御聞き及びでも御座いませうが、此度竜宮の一つ島、諏訪の湖より五色の貴重なる麻邇の宝珠が無事御到着になりまして、言依別様が兎も角お預り遊ばして、一般の信徒等に拝観をさせ、それから一々役を拵へ、大切に保管をいたさねばなりませぬ。何分……貴女始め黒姫さま、高山彦さまの肝腎の御方が御不在でありましたので、今日まで拝観を延期して居りました次第で御座います。先づ第一に其玉の御点検を、高姫様、黒姫様に御願ひ致しまして、それぞれ保管者を定めて頂かねばなりませぬ。……今日は言依別様始め皆様と御協議で御足労を煩はした様な次第で御座いますから、どうぞ日をお定め下さいまして、御点検を願ひ、其上で保管者をお定め願はねばなりませぬ』 高姫ニツコと笑ひ、 高姫『流石は英子姫さま、言依別さまも大分によく分つて来ました。併し乍ら、梅子姫様、五十子姫、杢助さまの御意見は……』 英子姫『何れも私と同意見で御座います』 高姫『それならば頂上の事、日の出神の生宮が先づ麻邇の宝珠を受取り、竜宮の乙姫の生宮が玉を検めて、其上、各自日の出神、竜宮の乙姫の指図に従つて一切万事取行ふことと致しませう。此玉が無事に納まつたのも、此高姫が神界の命に依つて、黒姫さまを一つ島へ遣はしたのが第一の原因、次に黒姫は高山彦さまと共に竜宮島の御守護を遊ばされ、肝腎要の結構な玉を他に取られない様に、其身魂をお分け遊ばして玉依姫命となし、此玉を大切に保管しておかれたからだ』 英子姫『ハイ………』 玉治別『黒姫さまの分霊は又大変に立派なものだなア。其神格と云ひ、御精神といひ、容色と云ひ、御動作と云ひ、実に天地霄壤の相違があつた。これが本当なら、雀が鷹を生んだと云はうか、途方途徹もない事件だ。此玉治別も竜宮の玉依姫様から玉を受取つた時の心持、一目拝んだ時の気分と云ふものは、中々以て黒姫さまの前へ行つた時とは、月と鼈ほど違つた感じが致しましたよ』 高姫『コレ田吾さま、黙つて居なさい。新米者の分る事ですかいな』 玉治別『さうだと云つて、其玉に直接に関係のあるのは私ですからなア』 五十子姫『玉治別さま、何事もお年のめしたお方の仰有ることに従ひなさる方が宜しからう』 玉治別『ヘーエ、そらさうですな』 と煮え切らぬ返事をし乍ら頭をかいて居る。 梅子姫『今迄の経緯は何事もスツパリと川へ流し、和気靄々として御神業に奉仕することに致しませう。……高姫様、黒姫様、高山彦様、従前の障壁を除つて、層一層神界のため、親密な御交際をお願ひ致します』 高姫『ヨシヨシ、結構々々』 黒姫『お前さまも少々話せる方だ』 玉治別『何だか根つからよく分りました。何は兎も有れ、日をきめて頂きませう。信者一般に報告する都合がありますから……』 言依別は杢助の方を看守つた。杢助は厳然として立上り、 杢助『かくも双方平穏無事に了解が出来ました以上は、来る二十三日を以て、麻邇の宝珠を一般に拝観させることに定めたら如何でせう。先づ第一に高姫様、黒姫様の御意見を承はりたう御座います』 高姫ニコニコし乍ら立上り、 高姫『何事も此件に付ては、杢助さまの総務に一任致しませう』 黒姫『私も同様で御座います』 高山彦『どちらなりとも御都合に願ひます』 杢助『左様ならば愈九月二十三日と決定致します。皆さま、御異存あらば今の内に御遠慮なく仰有つて下さい』 一同『賛成々々』 と言葉を揃へる。折柄吹き来る秋風に十二分の涼味を浴び乍ら各自に退場する事となつた。アヽ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・七・二三旧閏五・二九松村真澄録) |
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78 (1913) |
霊界物語 | 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 | 06 玉乱 | 第六章玉乱〔七八八〕 玉照姫、玉照彦は口を揃へて、 玉照姫、玉照彦『英子姫殿、紫の玉を我前に持来られよ』 と宣示された。英子姫は「ハイ」と答へて紫の玉を柳筥に納めた儘、恭しく捧持して二神司の前に奉らむとする時しも、高姫は、 高姫『一寸待つて下さい。又紛失すると大変だから、此玉は日の出神が保管致しておきます』 国依別『コリヤ高、又腹の中へ呑んで了ふ積りだらう。何程日の出神が偉くとも、玉照彦、玉照姫の御命令を反く訳には行くまい。……サア英子姫さま、お二方の御命令です、躊躇逡巡するに及びませぬ。早く献上なさいませ』 高姫『エー又しても又しても、邪魔計り致す男だ。今日只今限り、国依別を除名する』 国依別『エー又しても又しても、玉を呑まうと致す偽日の出神、今日只今より、国治立命、国依別の口を通し、高姫を除名する。ウンウンウン』 高姫『ヘン、おいて貰ひませうかい。何程国依別でも、国治立命様のお懸りなさる筈がありますかい。サア一時も早く国処立ち退きの命となつて帰つて貰ひませう』 玉照姫、高座より声しとやかに、 玉照姫『高姫、国依別両人共、お控へめされ』 国依別『ハハー』 と畏縮して其場に平伏する。高姫、 高姫『エーエ、日の出神の生宮さへあれば良いのに、無用の長物……でもない。何と言うても二つの頭が並んで居るのだから、行りにくいワイ。両頭蛇尾と云つて、善悪両頭使ひの高姫も芝居が巧く打てませぬワイ』 と小声で呟いて居る。 国依別『高姫さま、玉照姫様の御命令もだし難く、貴女の除名を、国依別茲に取消し致します』 高姫は舌をニヨツと噛み出し、あげ面し乍ら、二三遍しやくつて見せ、右の肩を無恰好に突起させ、 高姫『ヘン、……能う仰有いますワイ。日の出神が更めて国依別を外国行と定めるから、喜んでお受けをなさるがよからう』 国依別『お前さまに命令して貰はなくとも、言依別神様、杢助様、国依別は三人世の元となつて、チヤンと外国で仕組がしてあるのだ。七つの玉もお先に海外の或地点に隠してあるのだから、要らぬ御世話で御座います』 高姫『そんなら国依別、お前は早くから三人腹を合せて企んで居つたのだな』 国依別『どうでも宜しいワイ。虚実の程は世界の見えすく日の出神様が御存じの筈だ』 玉照姫『国依別、改めて申し渡すべき事あれば、暫く汝が館に立帰り、命を待たれよ』 国依別『ハハー、承知致しました』 と丁寧に挨拶をなし、終つて、 国依別『ヤア、テールス姫、玉能姫、玉治別、久助、お民さま、竜宮の女王黄竜姫、蜈蚣姫其他一統の方々、高姫、黒姫に対して、充分の防戦をなされませや。此国依別が此場を立去るや否や、そろそろと又吹き出しますからなア』 玉治別『ヤア有難う、あとは我輩が引受ける、安心して帰つて呉れ。さうして言依別様に宜しく申上げて呉れ。……オツト失敗つた、言依別様は最早どつかへ御不在になつた筈だなア』 高姫『今の両人が話振を聞けば、玉治別も同類と見える。お前もトツトとここを退場なされ。日の出神が命令する』 玉治別『高姫さま、大きに憚りさんで御座います。済みませぬが、私の進退は私の自由ですから、余り御親切に構うて下さいますな』 高姫、杢助の方にギヨロリと目を転じ、 高姫『お前さまは総務を辞職した以上は、そんな高い所に何時迄も頑張つて居る権利はありますまい。トツトと御下りめされ。サア是からは、言依別は逐電致すなり、杢助は辞職をするなり、ヤツパリ此八尋殿は高姫が教主となつて行らねばならぬかなア。時節は待たねばならぬものだ』 玉治別『コレハしたり、高姫さま、誰の命令を受けて貴女は教主になるのですか。誰もあなたを教主として尊敬し、且つ服従する者はありますまいぞ』 高姫『コレコレ田吾さま、お黙りなされ。天地開闢の初から系統の身魂、日の出神の生宮が教主になるのは、きまり切つた神界の御経綸だ。それだから日の出神の守護に致すぞよと、お筆先にチヤンと書いてあるのだ。……今までは悪の身魂に結構な高天原をワヤにしられて居たが、世は持切には致させぬぞよ。天晴れ誠の生神が表に現はれて日の出の守護となつたら、今迄上へあがりて偉相に申して居りた御方アフンとする事が出来るぞよ。ビツクリ致して逆トンボリを打たねばならぬぞよ。それを見るのが神は辛いから、耳がたこになる程知らしたが、チツとも聞入れないから是非なき事と諦めて下されよ。決して神を恨めて下さるなよ。我身の心を恨めるより仕様がないぞよ。……と現はれて居りませうがな。誰が何と云つても三五教は日の出神の生宮が表に立たねば、神界の仕組は成就致しませぬぞエ。誠の者が三人あれば立派に立替が成就すると仰有るのだから、イヤな御方は退いて下されよ。誠一つの生粋の水晶玉の大和魂の根本の、地になる日の出神の生宮と竜宮の乙姫の生宮と、高山彦と三人さへあれば、立派に神業は成就致しますワイな。グツグツ申すと帳を切るぞえ』 玉治別『アハヽヽヽ、よう慢心したものだなア。……コレコレ波留彦さま、秋彦さま、お前と私と三人世の元となつて、高姫軍に向つて一つ戦闘を開始したらどうだ』 波留彦『それは至極面白い事でせう。……なア、秋彦さま』 高姫『コレコレ滝、鹿、田吾作、お前達は何程三角同盟を作つても駄目だよ。モウ今日から宣伝使なんか、性に合はないことをスツパリ思ひ切つて、紫姫さまの門掃きになつたり、宇都山郷に往つて芋の赤子を育てたり、ジヤンナの郷へ帰つて土人にオーレンス、サーチライスと持てはやされる方が御互に得策だ。(高姫は逆上の余り滝と友と同うして喋つてゐる)いよいよ日の出神が教主となつた以上は何事も立替だ。今更めて教主より除名するツ』 玉照姫高座より、 玉照姫『三五教の教主は言依別命、神界の御経綸に依りて高砂島へ御渡り遊ばした。又杢助は神界の都合に依り筑紫の島へ出張を命ずる。淡路の島の人子の司東助を以つて三五教の総務に任じ、且つ臨時教主代理を命ずる。高姫、黒姫は特に抜擢して相談役に致す。玉治別、秋彦、友彦、蜈蚣姫、黄竜姫、玉能姫は以前の儘現職に止まるべし』 と宣示し玉うた。 高姫『玉照姫さまもチツと聞えませぬワイ。玉照彦様は何とも仰有らぬに、女のかしましい差し出口。何程結構な身魂でも、此三五教は艮の金神、坤の金神、金勝要神、竜宮の乙姫、日の出神の生魂で開いて行かねばならぬお道、お玉の腹から生れて出た変則的十八ケ月の胎生……言はば天下無類の畸形児ぢやないか。何と仰有つても今度計りは命令を聞きませぬぞ』 玉照姫『汝高姫、四個の麻邇の玉の所在を尋ね、それを持帰りなば、始めて汝を教主に任じ、高山彦、黒姫を左守、右守の神に任ずべし。誠日の出神又玉依姫の身魂なれば、其玉の所在をつきとめ我前に奉れ』 高姫『其お言葉に間違ひはありますまいな。宜しい。言依別と杢助の両人、腹を合せて隠しよつたに、間違ひない。証拠は……これ……此教主の書置き、立派に手に入れてお目にかけます。其代りにこれを持帰つたが最後御約束通り此高姫が教主ですから、満場の皆様もよつく聞いておいて下されや。日の出神の神力をこれから現はしてお目にかける。其時には玉能姫、蜈蚣姫、黄竜姫、玉治別、友彦、テールス姫、久助、お民、佐田彦、波留彦……其他の連中は残らず馘首するから覚悟なさいませ、とはいふものの、玉の所在を知つてる者があれば、そつと此高姫に云つて来い……でもよい。兎に角以心伝心無声霊話でもよいから……』 玉治別、両手を拡げ、体を前後ろにブカブカさせ乍ら、 玉治別『アツハツハヽ、アツハツハヽヽ』 と壇上で妙な身振をして笑ひ出した。 高姫『オイ田吾さま、そろそろ守護神が現はれかけたぢやないか。其態は何ぢやいな。コレコレ皆さま、御覧の通り、日の出神が表になると、皆の身魂が現はれて恥しい事が出来ますぞえ。今の所は言依別や東助さまが表面主権を握つて居る様だが、実際の所は床の間の置物だ。実地誠の権利は日の出神の生宮にあるのだから、取違をなされますなや。日の出神も中々大抵ぢやない。遥々と高砂島や筑紫の島まで行くのは並や大抵ぢや御座らぬ。魚心あれば水心だ。出世をしたい人は誰に拘はらず、我れ一とお働きなされ。お働き次第で日の出神が御出世をさして上げますぞえ』 波留彦一同を見まはし乍ら、 波留彦『皆さま、今高姫の仰有つた通り、手柄のしたい人はお手を上げて下さい……一、二、三……ヤア唯の一人も手を上げる人がありませぬなア』 玉治別『それで当然だよ。地位も財産も名誉も捨てて、一心に神界の為に尽さうと云ふ誠の人計りだから、そんな人欲に捉はれて、三五教へ入信つた者は一人もありませぬワイ。人欲の雲に包まれてるのは高姫さまに黒姫さま、高山彦位なものだなア』 一同手を拍つて「賛成々々」と呼ぶ。 高姫『口と心とサツパリ裏表の体主霊従計りがよつて来て、すました顔して御座るのが見えすいて可笑しう御座いますワイの、オツホヽヽヽ』 高山彦『高姫さま、私は今日限りお暇を頂きまして、竜宮の一つ島へ帰り、元のブランヂーとなつて活動致します。仮令貴女が目的を達して教主になられても、私はあなたの麾下につくのは真平御免ですよ。……黒姫もこれから充分竜宮の乙姫さまを発揮して、日の出神さまと御一緒に御活動なされませ。左様なら……』 と云ひすて、玉照彦、玉照姫の方に向つて丁寧に辞儀をなし、 高山彦『英子姫、五十子姫、梅子姫、初稚姫、其外御一同様、御機嫌よく御神業に御奉仕遊ばされん事を高山彦祈り上げ奉ります。御一同の方々、此高山彦は今日限り高姫様と関係を解き、皆様の前にて公然黒姫に暇を使はします。どうぞ其お心組で高山彦を可愛がつて下さいませ』 玉治別『それでこそ高山彦さまぢや。感心々々』 一同は「万歳」と手をあげて歓呼する。高山彦は、 高山彦『皆さま、左様ならば之より一つ島へ参ります。高姫殿、黒姫殿、さらば……』 と立出でんとする。黒姫は周章て裾をひき止め、 黒姫『マアマア待つて下さんせいな。最前からのあなたの御言葉、残らず承知いたしました。……とは云ふものの情なや、過ぎし逢う夜の睦言を、身にしみじみと片時も、思ひ忘るるひまもなう、年月重ぬる其内に、うつり易いは殿御の心と秋の空、もしや見捨はなさらぬかと、ホンにあらゆる天地の神さまや、竜宮さまに願かけて、案じ暮した甲斐もなう、今日突然離別とは、余りムゴイ御仕打、これが如何して泣かずに居られませうか、オンオン』 とあたりを構はず、皺くちや顔に涙を夕立の如くたらして泣沈む。 玉治別『悔んで帰らぬ互の縁、中をへだつる玉治川。……サアサア高山彦さま、思ひ切りが大切だ。グヅグヅして居ると、又もやシヤツつかれますよ。あとは此玉治別が、全責任を負うて引受けますから、一切構はず勝手にお越し遊ばせ』 高山彦『何分宜しく御頼み申す』 と立出でんとする。 黒姫『高山さまも聞えませぬ。お前と二人の其仲は、昨日や今日の事ではありますまい。私をふりすてて帰のうとは、余り聞えぬ胴欲ぢや。厭なら嫌で、無理に添はうとは言ひませぬ。生田の川の大水を渡つた時の私の正体[※第19巻第3章で黒姫は蛇体に還元して、水が氾濫した川を渡っているが、生田川ではなく白瀬川と呼ばれている。(どちらも由良川の別名と思われる)]、よもや忘れては居りますまいな』 高山彦『一度還元した以上は再び還元出来ぬ大蛇の身魂、もう大丈夫だ。日高川を蛇体になつて渡つた清姫[※平安時代の安珍・清姫伝説で、道成寺に逃げた安珍を追い駆け、清姫は蛇体に変じて日高川を渡ったことを指す。]の様に太平洋を横切つて、高山彦の色男を尋ねて来なさい。地恩の郷の大釣鐘を千代の住家として、高山彦は安逸に余生を送る考へだ。さうすれば極安珍なものだ。何程お前が地団駄ふんで道成寺かうせうじなどといつて、藻掻いた所でモウ駄目だよ。アハヽヽヽ』 と大きく肩をゆすり乍ら悠々として出でて行く。黒姫は夜叉の如く、あと追つかけんと、婆さまに似合はず捩鉢巻をし、裾を太腿の上あたりまで引あげて、大股にドンドンとかけ出しかけた。玉治別は追ひすがつて黒姫の後よりムンヅと許り帯をひつつかんで力に任せ、グツと引戻す。黒姫は金切声を出して、 黒姫『千危一機の此場合、どこの何方か知らねども、必ずとめて下さるな。妾にとつて一生の一大事、アヽ残念や口惜しや、そこ放しや』 と振向く途端に見合す顔と顔、 黒姫『ヤアお前は意地くね悪い田吾作殿、ここは願ぢや、放しておくれ』 玉治別『意地くね悪い田吾作だから放さないのだよ。雪隠の水つき婆うきぢやと人が笑ひますよ。まあチツと気をおちつけなされ。高山さま計りが男ぢやありますまい。男旱魃もない世の中に、コラ又きつう惚たものだなア』 黒姫は、 黒姫『エー放つといて』 と力限りふり放し、群衆の中を無理に押分け人を押倒し、ふみにじり乍ら、尻まで出して一生懸命高山彦の後を追つかけ走り行く。 (大正一一・七・二四旧六・一松村真澄録) |
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霊界物語 | 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 | 13 竜の解脱 | 第一三章竜の解脱〔七九五〕 大海中に浮びたる誉も高き琉球の 玉の潜みし神の島三千世界の梅の花 一度に開く時来り綾の聖地に宮柱 太敷立てて千木高く鎮まりゐます厳御霊 瑞の御霊の神勅を玉照神の二柱 完全に詳細に受け給ひ瑞の御霊の御裔なる 言依別に言依さし潮満玉や潮干の 珍の宝を索めんと教主自ら国依別の 教の司を引き率れて浪路を遥に乗り渡り 漸う此処に来て見れば我より前に紀の国の 若彦始め常楠が又もや神の御勅宣 正しく受けて逸早く来り居ませる尊さよ 天を封じて立ち並ぶ欅の楠の森林に 勝れて太き槻の幹天然自然の洞穴に 若彦、常楠両人は木俣の神と現はれて 島人等を大神の稜威に言向け和しつつ 時の来るを待つ間に言霊清き言依別の 瑞の命の大教主国依別と諸共に 来りましたる嬉しさに若彦、常楠勇み立ち ハーリス山の山奥に心も勇む膝栗毛 鞭撻ち進む谷の奥湖水の前に着きにける 四辺は闇に包まれて礫の雨は降りしきり 物凄じき折もあれ闇の帳を引き開けて 波上を歩み進み来る怪しの影を眺むれば 髭蓬々と胸に垂れ雪を欺く白髪は 長く背後に垂れ下り眼は鏡の如光り 朱を濺ぎし顔の色耳迄裂けた鰐口に 黄金の色の牙を剥き四五寸許り金色の 角を額に立て乍らガラガラ声を張りあげて 怪しき舌をニヨツと出し言依別の一行に 向つて叱言を言ひ掛ける叱言の条は竜神の 守ると聞えし太平柿国依別が畏くも 盗んで食つたが罪なりと執着心の鬼神が 力限りに罵倒して琉と球との宝玉を 渡さじものと縄を張る魔神の張りし鉄条網 手も無く切つて呉れんずと磊落不覊の神司 国依別が言霊の打ち出す誠の砲撃に 流石の魔神も辟易しおひおひ姿を縮小し 豆の如くになり果てて遂にあえなく消えにける。 『あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 金剛不壊の如意宝珠国依別が丹田に 秘め隠したる言霊の力に刃向ふ楯はなし 我は正義の鉾とりて天地の神の大道を 高天原の神の国豊葦原の瑞穂国 大海原の底までも照らし渡さにや置くべきか 国依別の言霊は筑紫の日向の橘の 小戸の青木ケ原と鳴る神伊邪那岐大神が 珍の伊吹になりませる祓戸四柱大御神 瀬織津姫や伊吹戸主珍の大神始めとし 速秋津姫神速佐須良姫神 此処に四柱宣伝使此神等の生宮と なりて現はれ来りけり大竜別や大竜姫の 珍の命の竜神よ是の天地は言霊の 助くる国ぞ生ける国幸はひゐます国なるぞ 天の岩戸の開け放れ根底の国も明かに 澄み照り渡る今の世に潮満珠や潮干の 二つの珠を何時までも抱きて何の益かある 此世を救ふ瑞御霊神の任しの両人に 惜まず隠さず矗々と汝が姿を現はして はや献れ惟神神は我等と倶にあり 仮令千尋の水底に何時迄包み隠すとも 三五教の我々が此処に現はれ来し上は 只一時も一息も躊躇ひ給ふ事勿れ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ 一、二、三、四、五、六七、八、九、十たらり 百、千、万の神人を浦安国の心安く 堅磐常磐に守らんと神の任しの此旅路 諾なひ給へ逸早く』早く早くと宣りつれば 今迄包みし黒雲は四辺隈なく晴れ渡り 浪を照らして一団の火光は徐々両人が 佇む前に近づきて忽ち変る二柱 尊き女神と相現じ満面笑を含みつつ 言依別や国依別の二人の前に手を束ね 地より湧き出る玉手箱各一個を両の手に 捧げて二人に献り綾羅の袖を翻し 忽ち起る紫の雲に乗じて久方の 大空高く天の原日の稚宮に登り行く 執着心の深かりし大竜別や大竜姫の 珍の命の両神も愈茲に三千年の 三寒三熱苦行を終へ神の恵みに救はれて 茲に尊き天津神皇大神の御右に 坐まして清き神国の常世の春に会ひ給ふ 実にも尊き物語語るも嬉し今日の宵 陰暦六月第二日松雲閣に横臥して 団扇片手に拍子とりさも諄々と述べて置く 筆執る人は北村氏神の稜威も隆光る 三五教の御教の栞となれば望外の 喜びなりと記し置くあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ。 国依別の言霊に竜若彦と称する怪物は忽ち雲散霧消し、再び現はれ来る大竜別、大竜姫は各手に琉、球の玉を納めたる玉手箱を、言依別、国依別の手に恭しく捧げ三千年の三寒三熱の苦行を茲に終了し、一切の執着を去つて、悠々として紫の雲に乗り、天津日の稚宮に上り、大神の右に座し、天の水分神となつて降雨を調節し給ふ大神と成らせ給うたのである。 清き正しき言霊は一名金剛不壊の如意宝珠とも言ふ。此天地は言霊の幸はひ助け、生き働く国である。宇宙間に於て最も貴重なる宝は声あつて形なく、無にして有、有にして無、活殺自由自在の活用ある七十五声の言霊のみである。之を霊的に称ふる時は即ち金剛不壊の如意宝珠となる。天照大御神の御神勅に「言向け和せ、宣り直せ」とあり、之は神典古事記に明かに示されてある。天の下四方の国を治め給ふは五百津美須麻琉の玉にして、此玉の活働く時は天ケ下に饑饉もなく、病災も無く戦争も無し又風難、水難、火難を始め、地異天変の虞なく、宇宙一切平安無事に治まるものである。 又、今此処に言依別、国依別の二柱の竜神より受取りたる琉、球の二宝は、風雨水火を調節し、一切の万有を摂受し或は折伏し、よく摂取不捨の神業を完成する神器である。 ここに言依別命を始め、一同は湖水に向つて天津祝詞を奏上し、天の数歌を歌ひ上げ宣伝歌を歌ひ乍ら、心地よげに元来し道を下りつつ、槻の洞穴に一先づ帰る事となつた。 言依別の一行は竜の湖水を後にして 千畳岩の碁列せる奇勝絶景縫ひ乍ら 足に任せて降り行く登りに引き替へ下り坂 思うたよりも速かに何時の間にかは竜神の 守り居たると伝へたる太平柿の辺まで 帰り来れば常楠はフト立ち留り一行を 顧み乍ら『教主さま国依別神さまが 大蛇の群に襲はれて太平柿の頂上より 身を躍らして青淵にザンブと許り飛び下り 仮死状態となり果てて渦に巻かれて流れたる 改心記念の霊場ぞ負ぬ気強い国依別の 神の司は反対に竜若彦に逆理屈 いとも立派に喰はして凹ませ給ひし健気さよ あゝ惟神々々斯うなる上は常楠も 神の心が分らない善悪正邪の標準を 如何して分けたら宜からうかお裁き頼む』と宣りつれば 言依別は打ち笑ひ『国依別の言霊は 天地の道理に適ひたり善に堕すれば悪となり 悪の極みは善となる善悪同体此真理 胸に手を当てつらつらと直日に見直し聞直し 人の小さき智慧もちて善悪正邪の標準が 分らう道理のあるべきや此世を造りし大神の 心に適ひし事ならば何れも自然の道となり 其御心に適はねば即ち悪の道となる 人の身として同胞を裁く権利は寸毫も 与へられない人の身は只何事も神の手に 任せ奉るに如くはない』いと細やかに説きつれば 国依別や若彦も常楠翁も勇み立ち 心欣々一行は黄昏過ぐる宵の口 楠と槻との森林に極めて広き天然の ホテルにこそは帰りけりあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ。 (大正一一・七・二五旧六・二北村隆光録) |
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霊界物語 | 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 | 15 情意投合 | 第一五章情意投合〔七九七〕 虻、蜂の両人は生田の森に立寄り、駒彦に面会して、言依別の教主が国依別と共に高砂の島に神務を帯び、急遽聖地を立ちて出発せられ、瀬戸の海を、西南指して行かれたりと云ふ消息を、例の高姫が聞きつけ、春彦、常彦の一行三人、言依別の後を追ひしと聞きしより、茲に虻、蜂の二人は、取る物も取敢ず、一隻の軽舟に身を任せ、高姫が教主に対し、如何なる妨害を加ふるやも計り難しと、一生懸命に高姫の後を探ねて漕ぎ出し、児島半島の沿岸に差かかる時、暗礁に乗り上げたる一隻の船を見付け、何人ならんと星の光に透かし見れば、比沼の真奈井の宝座に仕へ居たる、清子姫、照子姫の二人であつた。 茲に二人を我舟に救ひ上げ、半破れし其舟を見棄て、荒波を勢よく漕ぎつけて、漸く琉球の那覇の港に安着し、一行四人は何者にか引かるる様な心地して、其日の夕べ頃常楠、若彦両人が一時の住居となしたる槻の木の洞窟の前に辿りついた。 虻公は既に言依別命より清彦と云ふ名を賜り、蜂公は照彦と云ふ名を賜つて、准宣伝使の職に就いて居たのである。二人は思ひ掛なく言依別命に抜擢されたのを、此上なく打喜び、其師恩に酬いん為、言依別命に対しては、如何なる苦労も、仮令身命を抛つても惜まざるの決心をきめて居たのであつた。 当の目的物たる高姫一行を、海上にて見失ひたれ共、照子姫、清子姫の遭難を救ひたるは、全く神の御摂理として稍満足の体であつた。 此照子姫、清子姫は其祖先は行成彦命であつて、四代目の孫に当つて居る。神勅を受けて、比沼真奈井に豊国姫出現に先立つて現はれ、比治山に草庵を結び、時を待つて居たのである。そこへウラナイ教の黒姫に出会し、いろいろとウラナイ教の教理を説き聞かされ、半之れを信じ、半之を疑ひ、何程黒姫が弁舌を以て説きつくる共、清子姫、照子姫は魔窟ケ原の黒姫が館には一回も足をむけず、又高姫などにも会はなかつた。只黒姫の言葉を反駁もせず、善悪を取捨して表面服従して居たのみであつた。此二女の黒姫に対する態度は、其時の勢上已むを得ず、之れ以上最善の態度を執ることが出来なかつたのである。 時に豊国姫命の神勅、此二人に降り、諏訪の湖の玉依姫より麻邇宝珠を受取り、梅子姫其他一行が、由良の港の秋山彦が館に帰り来り、神素盞嗚大神、国武彦命の出でますと聞きて、二人は旅装を整へ、由良の港の秋山彦の館に出で来りし頃は、最早麻邇宝珠は聖地に送られ、神素盞嗚大神、国武彦命の御行方も分らなくなつた後の祭りであつたから、二人は時を移さず、陸路聖地に向ひ、錦の宮の玉照彦、玉照姫の神司に謁し、琉球の島に渡るべく、再び聖地を立ちて、玉照彦命の出現地なる高熊山に立籠もり、三週間の改めて修業をなし、木花姫の神教を蒙りて、意気揚々と山坂を越え、生田の森に立寄り、それより兵庫の港を船出して、琉球に向はんとし、神の仕組か、思はずも児島半島の手前に於て暗礁に乗りあげ、危険極まる所へ、三五教の新宣伝使、清彦、照彦の舟に助けられ、漸く那覇港に四人連れ安着し、槻の洞穴の前迄進んで来たのである。 四人の男女は小さき船にて長途の航海をなす間、何時とはなしに意気投合し、互に意中の人を心に深く定めて居た。清子姫は清彦に、照子姫は照彦に望みを嘱して居た。然るに清彦は又照子姫に、照彦は清子姫に望みを嘱し、将来夫婦となつて神業に参加し度く思つて居たのである。清彦は四十四五才、照彦は四十二三才の元気盛り、清子姫は二十五才、照子姫は二十三才になつて居た。年齢に於て二十年許り違つて居る。されど神徳を蒙りて誠の道を悟りたる清彦、照彦は、全身爽快の気分漲り、血色もよく比較的若く見え、夫婦として一見余り不釣合の様にも見えなかつたのである。 四人は一夜を此処に明かさんと、洞穴の奥深く進んだ。サヤサヤした葦莚の畳、土間に敷きつめられ、食器など行儀よく並べられてあつた。 清彦『あゝこれは何人の住家か知らぬが、穴居人種の多い此島に、木株のこんな天然の館があるとは、大したものだ。何でもこれは此辺りの酋長の住家か分らないぞ。斯様な所にうつかりと安眠して居る所へ、沢山の眷族を連れ、帰り来つて立腹でもしようものなら、どんな事が突発するか知れたものだない。入口は一方、グヅグヅして居ると、徳利攻めに会うて苦しまねばならぬ。コリヤ一人宛、互に入口に立番をし、もしも怪しき奴がやつて来たら合図をすると云ふ事にしようかなア』 照彦『それもさうだ。併し乍ら先づ路々むしつて来た此の苺を夕食に済ませ、其上の事にしても余り遅くはあるまい。そろそろそこらが暗くなつて来たようだ』 と懐より火燧を取出し、そこらに積み重ねたる肥松の割木に火をつけ明りを点じ、夕食を喫し、家へ帰つた様な気分になつて、四人は奥の方に安坐し、種々と感想談に耽つて居た。 清彦『こうして我々男女四人、此島に渡つた以上は、何れも独身生活は不便なものだ。恰度諾冊二尊が自転倒島に天降り玉うた様なものだ。此大木を撞の御柱と定めて、……あなにやしえー乙女……とか…えー男…とか云つて、惟神の神業を始めたら如何でせう。……照彦さま、私は媒酌人となつて、清子姫様と結婚の式をあげられたらどうです。ナア清子姫さま、あなたも以時迄も独身で斯様な蛮地に暮す訳にも参りますまい』 清子姫『ハイ、有難う御座います。併し乍ら少し考へさして頂きたう御座います』 清彦『清子さま、あなたは照彦さまがお気に入らぬのですか』 清子姫『イーエ、勿体ない、左様な訳では御座いませぬ』 と涙ぐまし気に俯むく。 照彦『コレコレ清彦、御親切は有難いが、モウ結婚の事は言つて呉れな。清子さまは此照彦がお気に召さぬのだよ。無理押しに決行した所で、うまの合はぬ夫婦はキツと後日破鏡の歎きに会はねばならぬから、此話は止めて貰はう。就いては照子姫さまを、お前の奥さまに御世話したいと思ふのだが、どうだ』 清彦『それは実に有難い、併し乍ら照子姫さまの御意見を承はりたい。其上でなくば、何とも返答する事が出来ないワ』 照子姫『照彦さまの御親切は有難う御座いますが、妾は何だか……どこが如何といふ事はありませぬが、清彦さまは虫が好きませぬワ。妾の意中の人は露骨に言ひますが、照彦さまで御座います。あなたならばどこまでも、偕老同穴の契を結んで頂きたう御座います』 照彦『コレハコレハ大変な迷惑で御座る。実の所は此照彦、清子姫様と夫婦の約束が結びたいのです。それに清子さまは何とか、かんとか仰有つて、私を御嫌ひ遊ばす様な形勢です』 清子姫は『ホヽヽヽヽ』と袖で顔をかくし、 清子姫『妾も本当は清彦さまと夫婦になつて、神界の御用が致したう御座います。照彦さまと夫婦になるのは、何だか身魂が合はない様な気分が致します』 清彦『互に目的物が斯う複雑になつて居ては仕方がない。ハテ困つたな。此方が好だと言へば向ふが嫌ひだと云ふ、此方が嫌ひだといへば一方が好だと云ふ。此奴アどうやら人間力で決める事は出来ないワイ。言依別命様でも御座つたならば、判断をして定めて貰ふのだけれど、斯様な結構な洞穴館に、誰も居らぬことを思へば、言依別の神様は、琉、球の宝玉を手に入れ、早くも出発された後と見える。ハテ……困つたなア』 四人は互に顔を見合せ、青息吐息の真最中、洞穴の入口に二三人の声が聞えて来た。清彦は耳敏くも之を聞付け、 清彦『ヤアあの声はどうやら、高姫の声らしいぞ。一寸査べて来るから、三人仲よく待つて居て下さい』 と早くも洞穴の入口に立つた。 外には高姫、春彦、常彦と共に怖相に洞穴を覗いて居る。月明かりに三人の顔はハツキリと見えた。されど高姫の方からは、清彦の姿は少しも見えない。清彦は傍の小石を拾ひ、左右の手に持つて中よりカチカチと打つて見せた。 高姫『大変な大きな洞空であるが、何か此中に獣でも棲まつてゐるやうな気配が致しますぞ。……常彦、一寸お前、中へ這入つて調べて来て下さらぬか』 清彦中より『カチカチカチ』、 常彦『ハハー、ここはカチカチ山の古狸が住居して居る洞穴と見えますワイ。……オイ春彦、お前、斥候となつて一つ探険して来たら如何だ』 春彦『お前に命令が下つたのだ。狸の巣窟へキ常彦が這入るのは当然だよ。マア君子は危きに近よらずだ。命令も受けないことを、危険を冒して失敗しては、それこそ犬に喰はれた様なものだ』 高姫『春彦、お前も一緒に探険に這入つて来るのだよ』 春彦『たかが知れた此洞窟、さう二人も這入る必要はありますまい』 高姫『アヽさうだらう。そんなら一人で良いから、春彦さま、お前豪胆者だから這入つて下さい』 春彦頭をかき乍ら、 春彦『ヘー……ハイ』 とモジモジして居る。『カチカチカチカチウー』と唸り声が聞えて来る。 春彦『モシモシ高姫さま、此奴ア一人では如何しても往きませぬワ。あの声を聞いて御覧、数十匹の猛獣がキツと潜んで居ますよ。グヅグヅして居ると、一も取らず二も取らず虻蜂取らずになつて了ひますぜ』 高姫『其虻蜂で思ひ出したが、彼奴は何でも言依別命から、清彦、照彦と云ふ名を頂き宣伝使になり、飽迄も我々に反抗的態度を執ると云つて居たさうだが、今どこに如何して居るだらう。言依別命が此琉球へ渡り、琉と球との宝玉を手に入れ、自分の隠した七個の玉と共に、高砂島へ持ち渡つて、高砂島の国王となる計画だと聞いて居る。自転倒島では此高姫の日の出神の生宮が、目の上の瘤となつて思はしく目的が立たぬので、高姫の居ない地点で野心を遂行すると云ふ考へで、大切な宝玉を盗み出し、自転倒島を立去つたのだから、仮令言依別、天を翔けり地を潜るとも、草を分けても探し出し、宝玉を取返し、さうして彼が面皮を剥いて、心の底より改心さしてやらねば、我々の系統としての役目が済まぬ。アヽ年が寄つてから、又しても又しても海洋万里の波を渡り、苦労を致さねばならぬのか。これも全く言依別の肉体に悪の守護神の憑依してゐるからだ。……アヽ惟神霊幸倍坐世。一時も早く言依別の副守護神を退却させ、誠の大和魂に立返つて、日の出神の命令を聞く様にして下さいませ』 と半泣声になり、鼻を啜つて両手を合せ、一生懸命に祈願して居る。清彦は此態を見て俄に可笑しくなり「プーツプーツ」吹き出し、終ひには大声をあげて、 清彦『ワツハヽヽヽ』 と笑ひ転けた。 高姫『誰だ。日の出神の生宮が神界の為、一生懸命御祈願を申し上げてるのに、ウフヽアハヽヽヽと笑ふ奴は……よもや狸ぢやあるまい。何者だ。サアこうなる上は高姫承知致さぬ。此入口を青松葉でくすべてでも往生さしてやらねば措かぬ。……コレ常彦さま、春彦さま、そこらの、青いものを持つて来なさい。コラ大変な劫経た古狸が居るのだ。四つ足が劫経ると人語を使ふやうになるからなア』 清彦俄に女の声を出し、 清彦『コレハコレハ高姫様、常彦、春彦の御両人様、遠方の所遥々と能くこそ御越し下さいました。ここは琉球王の仮館、木の丸殿と云ふ所で御座います。王様は……言依別神様とやらが、自転倒島から遥々御越しになり、琉と球との宝玉を御受取り遊ばし、台湾に一寸立寄り、それから南米の高砂島へ御越しになりました不在中で御座います。妾は虻……オツトドツコイ、危い猛獣毒蛇の沢山に棲息する此島に留守を守つて居る大蛇姫と云ふ、夫は夫は厭らしい女で御座います。サア御遠慮は要りませぬ。此洞穴には沢山な古狸や大蛇が住居を致し、今日の所綺麗な男が二人、綺麗な女が二人、四魂揃うて守護を致してをります。併し乍ら何れも本当の人間では御座いませぬ。皆化物で御座いますから、其お心算で御這入りを願ひます。メツタにあなた方を塩をつけて頭から咬んだり、蛇が蛙を呑むやうにキユウキユウと呑み込むやうな事は御座りませぬ。如意宝珠の玉でも呑み込むと云ふ不可思議力を備へた貴女、早く御這入り下さいませ』 高姫『這入れなら這入つてもあげませう。併し一遍外へ姿をあらはし、案内をなさらぬか』 清彦『外へ出るが最後、虻公の正体が現はれますワイ。アツハヽヽヽ』 高姫『最前から何だか可笑しいと思つて居つた。お前は淡路の東助の門番をして居つた泥坊上りの虻公ぢやないか。如何して又斯んな所へやつて来たのだ。お前はドハイカラの教主から、清彦と云ふ名を貰うたぢやないか。自転倒島では最早泥坊が出来ないと思うて、こんな所まで海賊を働き漂着して来たのだらう。サアお前一人ではあるまい、大方蜂も来て居るだらう。其他の同類は残らず此処へ引張つて来なさい。天地根本の誠の道を説いて聞かせ、大和魂をねりなをして助けて上げよう。事と品によつたら此高姫が家来にしてやらぬ事もない』 清彦『今お前さまに這入られると、実は困つた事があるのだ。今日は情意投合……オツトドツコイ情約履行をしようと云ふ肝腎要な吉日だ。お前さまのやうなお婆アさまは我々壮年者の心理は分るまい。あゝエライ所へエライ奴が来たものだ。月に村雲花に嵐、美人の前に皺苦茶婆ア……』 と小声に呟いた。高姫は此言葉の一端を耳に入れ、 高姫『ナニ、美人に皺苦茶婆アと言つたなア。コリヤ何でも秘密の伏在する此洞穴、モウ斯うなる以上は強行的に押入り、隅から隅まで調べてやらねばなるまい。ヒヨツとしたら天火水地の宝玉も隠してあるか分らない。…常彦、春彦、妾に続け』 と言ひ乍ら、清彦が「待つた待つた」と大手を拡げて遮るのも聞かず、むりやりに飛び込んで了つた。 奥には肥松の明りが瞬いて居る。三人の顔はハツキリと輪廓まで現はれて居る。 高姫『コレハコレハ皆さま、御楽しみの最中、御邪魔を致しまして申訳のない事で御座いました。花を欺く美男子と美人、そこへ白髪交りの歯脱婆アが参りまして、嘸、折角の興がさめた事で御座いませう。此洞穴に似合はぬ……お前さまは美しい方だが、此島の方か、但は、虻、蜂の両人に拐かされてこんな所へ押込められたのか、様子がありさうに思はれる。サア包まずかくさず仰有つて下さい。日の出神の生宮が此場へ現はれた以上は、虻、蜂の両人位何と云つても駄目ですよ』 清子姫、照子姫両人は行儀よく両手をつき、 両女『ハイ有難う御座います。聖地に於て御高名著しき、あなた様が高姫様で御座いましたか。妾は比沼の真奈井の宝座に仕へて居りました清子姫、照子姫の両人で御座います』 高姫『かねがね黒姫さまから承はつて居つた、比治山の隠家に厶つた淑女はお前さまの事であつたか。如何して又かやうな所へお越し遊ばしたのだ。大方虻、蜂両人の小盗人に拐はかされて、斯んな所へ来なさつたのだらう。グヅグヅして居ると此奴ア○○をしかねまい代物です。最前も小声に情約履行の間際だとか何とか吐いて居ました。サア、妾が来た以上は最早大丈夫、高姫と一緒に此琉球の島を探険し、結構な宝玉の所在を求め、言依別の後を追うて、其七つの宝玉を手に入れて聖地に帰り、大神様の御神業をお助けしようではありませぬか』 二人は顔赭らめて、無言の儘俯いて居る。清彦は高姫の胸倉をグツととり、 清彦『コラ婆ア、小盗人とは聞捨ならぬ。三五教の宣伝使清彦、照彦の両人だ』 高姫『ヘン、馬鹿にするない。お前達が胸倉を取つて威喝した所で、そんな事にビクとも致す高姫ぢやありませぬぞ。虻、蜂の小泥坊が恐ろしくて、こんな所まで活動に来られますかい。今は宣伝使でも、昔はヤツパリ泥坊をやつて居たぢやないか』 清彦『昔は昔、今は今だ。改心すれば其日から真人間にしてやらうと神様が仰有るぢやないか。俺が泥坊なら高姫は大泥坊だ』 高姫『オイ常彦、春彦、何をグヅグヅして居るのか、高姫が此通り胸倉を取られて居るのに平気で見て居ると云ふ事がありますか』 常彦『左様で厶います。あなたも余り我が強いから、神様が清彦さまの手を借つて身魂研きをなさるのだと思つて、ジツとして御神徳を頂いて居ります。……なア春彦さま、キツと善が勝つと神さまが仰有いますから、今善悪の立別けが始まるのですで……高姫さま、シツカリやりなさい。……清彦さま、何方も負けて下さるなや』 照彦はムツクと立上り、行司気取りになつて、そこにあつた芭蕉の葉の端をむしり唐団扇の様な形にして、右の手に捧げ、 照彦『東西……東は高姫山に、西イ清彦川……何れも一番勝負、アハヽヽヽ』 と笑つて居る。高姫は金切声を出して、爪を立て、一生懸命に掻きむしらうとする。強力な清彦に両方の手首をグツと握られ、如何ともすること能はず、目計り白黒させ前歯のぬけた口から、臭い息と唾とを盛に吐き出して、清彦の顔に注いでゐる。清彦も堪りかねて両方の手をパツと放した。照彦は中に割つて入り、 照彦『御見物の方々、此勝負は照彦が来年迄お預かりと致します』 高姫『清子姫さま、照子姫さま、お前さまは、斯んな乱暴な男を何と思うてゐられますか』 清子姫『ハイ、御二人共申分のない、立派なお方で御座います。中にも清彦さまはどこともなしに虫の好く御方ですよ。なア照子姫さま』 照子姫『あなたの御言葉の通り、御二人とも本当に立派な方ですワ。妾は何だか照彦さまの方が、中でもモ一つ立派な方だと思ひます、ホヽヽヽヽ』 と俯むく。 高姫『清彦が妾の胸倉を取つたのも道理、二人の男に二人の女、好いた同志が今晩こそは、此離れ島で何々しようと思うてる所へ、此婆アがやつて来たものだから腹が立つたでせう。御無理もありませぬ。併し乍ら縁と云ふものは汚いものぢやな。行成彦命の系統をうけた御両人さまが、人もあらうにこんなお方の女房にならうとは、イヤモウ理外の理、高姫感じ入りました。併し言依別命さまは此処へ来られたか、御存じでせうな』 清子姫、照子姫一時に、 両女『ハイ、おいでになつた相で御座います』 清彦『おいでになるはなつたが、竜の腮の二つの玉を手に入れ、意気揚々として、遠の昔台湾島へ行き、それから南米の高砂島へ渡られたといふことだ。我々もその琉と球との二つの玉を手に入れる為にやつて来たのだが、一足遅れた為に、後の祭り、せめても腹いせに男女四人が、撞の御柱を巡り合ひ、美斗能麻具波比をなせと宣り玉ひ、此島の守り神とならうと思つて居る所ですよ』 高姫『何とお前は男にも似合はぬ、チツポけな肝玉だな。此広い世界に斯んな島を一つ治めて満足してゐる様な事では、到底三千世界の御用は出来ませぬぞや。併し乍ら身魂相応な御用だから、何程烏に孔雀になれと言つたつてなれる気遣ひはなし、仕方がないなア』 と揚げ面し、冷笑を浮べて居る。 照彦『高姫さま、余り見下げて下さいますな。私だつて琉と球との玉を手に入れ、言依別さまの隠された七つの玉を、仮令半分でも探し出し、そして、高砂島は申すに及ばず、筑紫の島から世界中の覇権を握る位な考へは持つて居るのだが、肝腎な琉と球との宝玉を言依別に取られて了つたのだから、後を付け狙うと云つても見当がつかぬだないか。それだから百日百夜水行でもして、二夫婦の者が玉の所を探しに行かうといふ考へだ。百日の水行をすれば世界が見えすくと三五教の神様が仰有るのだから、玉の所在はもとより、言依別の行方も分るのだ。あなたは日の出神の生宮なら、猶更分るでせう』 高姫『きまつた事だよ。分かればこそ、ここ迄従いて来たのだ……サア言依別命、余り遠くは行くまい。グヅグヅしてると又面倒だ。……常彦さま、春彦さま、早く参りませう。なる事ならば、照子姫さま、清子姫さま、あなた丈は私のお供なさいませぬか。虻、蜂両人の女房になるのは一つ考へ物ですで』 清彦『エー又婆アの癖に構ひやがる。サア早く出て行け』 高姫『出て行けと言はなくても、こんな所にグヅグヅしてをれるか。……サア常彦、春彦、早く早く』 とせき立てて、立ち去らうとする。 常彦『モシモシ高姫さま、何程急いだつて、なる様により成りませぬで。今夜はここで宿めて貰つて、明日の朝ゆつくり行きませうか……ナア春彦、お前も大分に草臥れただらう』 春彦『草臥れたと云つた所で、船の中に浮いて居るのだ。目的が立つてから、何程ゆつくり休まうとままだ。サア行かう』 と厭さうにしてる常彦の手を取り、引摺るやうにして、高姫と共に此洞穴を脱け出し、路々祝詞を奏上し乍ら、苺や石松の茂る珊瑚岩の碁列せる浜辺を指して一目散に駆つけ、乗り来し船に身に任せ、一生懸命南を指して大海原を漕ぎ出した。 (大正一一・七・二七旧六・四松村真澄録) |