| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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21 (1568) |
霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 22 一島攻撃 | 第二二章一島攻撃〔五一八〕 大空に雲立ち塞ぎ海原に霧立ち籠めて四方の国 神の恵の露もなく山川草木泣き干して 黒白も分かぬ暗の夜を今や照さむ瀬戸の海 百の神たち百人を松の神代の末長く 救はむために素盞嗚の神の御言を畏みて 思ひは積る深雪姫解くるよしなき真心の 誠一つの一つ島熱き涙の多気理姫 コーカス山に現れませる十握の剣の威徳にて 雲霧四方に切り払ひ醜の曲津を除かむと 高杉別の籠りたるこの神島に宮柱 太敷立てて世を偲ぶ瑞霊の深雪姫 吹き来る風も腥く人馬の音は絶間なく 矢叫びの声鬨の声世は騒がしく群鳥の 群れ立つばかり沖つ鳥沖の鴎の声さへも いと佗しげに聞ゆなりここは名に負ふサルジニヤ 神の守りもアルプスの鋼、鉄取り出でて 百の兵器造りつつ珍の御魂と仕へたる 心も猛き兵士は雲の如くに集まれり。 コーカス山の珍の宮に、御巫子として仕へたる、月雪花の姉妹の一人、深雪姫は、尚武勇健の気質に富み、十握の剣の威徳に感じて、アルプス山の鋼鉄を掘出し、種々の武器を造り備へて、国家鎮護の神業に奉仕せむと、天下の英雄豪傑を此島に集め、悪魔征討の準備に備へつつあつた。 宮殿の屋根は千木、勝男木を高く、千木の先は鋭利なる両刃の剣を以て造り、勝男木もまた両端を剣の如く尖らせ、館の周囲には剣の垣を繞らし、曲津の侵入を許さず用心堅固の金城鉄壁なりける。 武勇の神は先を争うてこの一つ島に集まり来り、天下の邪神を掃蕩し、遍く神人を安堵せしめむと昼夜間断なく武術の稽古に余念なく、剣戟射御に勤む声は瀬戸の海を越えて、遠く天教山に鎮まります撞の御柱の神、天照大神の御許にも、手に取るが如く轟き渡りぬ。 天照大御神は、善言美詞をもつて世の曲業を、見直し聞き直し詔り直すべき天地惟神の大道を無視して、殺伐なる武器を造り武芸を励むは弟神素盞嗚命の高天原を占領せむとする、汚き心のあるならむと、内心日夜不快の念に駆られ給ひつつあらせられた。 四五の勇士は武術の稽古を終り、眺望よき一つ島の山巓に登り、諸々の木実を漁り、瓢の酒を傾けながら雑談に耽り居る。 甲『我々はかうして昼夜の区別なく太刀打の稽古、槍の稽古に体も骨もグダグダになつて仕舞つた。太刀と槍との稽古が済めば、また弓の稽古、馬乗りの稽古をと強られるのだ。敵も無いのに此離島で、これだけ武芸を励まされるのは何のためだらう』 乙『平和の時に武を練るのが武術の奥義だ。サア戦争が勃発したからと云つて、俄に慌てたところが、何の役にも立たない。武士は国を護るものだ。常から武術の鍛練が必要だから、それで日々稽古をさせられるのだよ』 丙『かう毎日日日空は曇り、地は霧とも靄とも知れぬ物が立ち籠めて、一間先が碌々見えぬやうになつて来たのだから、此世の中が物騒で、安心して暮されぬやうになつたので、各自護身のために、大慈大悲の神様が武術を奨励なさるのだよ』 甲『三五教の教には……神は言霊をもつて言向け和すのであるから、武器をもつて征伐を行つたり、侵略したり、他の国を併呑するやうな体主霊従的の教でない。道義的に世界を統一するのだ……と仰せられて居るではないか、何を苦しむで武備を整へ、平地に浪を起すやうな事をなさるのだらう。まるでウラル教のやうぢやないか』 乙『さうだなア、三五教の教理とは名実相反して居るやり方だ。大声では言はれぬが、これや何でも深雪姫の神様に八岐の大蛇か、鬼が憑いて為せるのだらうよ』 丙『実際それだつたら我々は実に約らぬものだ。一生懸命骨身を砕くやうな辛い稽古をさせられて、天則違反の大罪を重ねるやうでは約らぬじやないか』 丁『神様が武を練り、数多の武器を蓄へ給ふのは変事に際して天下万民を救うためだよ。大慈大悲の神様が何しに好むで殺伐な修業を遊ばすものかい。悪魔は剣の威徳に恐れ、武術の徳によつて心を改め、善道に帰順するものだ。如何に善言美詞の言霊と雖も、曇り切つたる悪神の耳には入るものでない、そこで神様が大慈大悲心を発揮して、眼にものを見せて、改心させると云ふお経綸だ。素盞嗚命様は一寸見たところでは、実に恐ろしい、猛しい戦好きの神様のやうだが、決して殺伐な事はお好みにはならぬ。それ故に此世に愛想を尽かして、円満具足温和なる月の大神の世界へ帰り度いと云つて、日夜御歎き遊ばし、慈愛の涙に暮れて居られると、そこへ御父神が天よりお降りになつて、お前のやうな気の弱い事ではどうして此世が治まるか、勇気絶倫の汝を選むで、悪魔の蔓る海原の国を修理固成せよと命令を下してあるに、その女々しいやり方は怪しからぬ、と云つて大変に御立腹遊ばしたので、素盞嗚命様は、姉君の天照大神にお暇乞のために、高天原にお上りになつたと云ふ事だ。其御魂を受け継いだる珍の御子深雪姫様は、尚武勇健なる女神に在す故にまさかの時の用意に武を練つて居らるるのであらうよ。武術は決して折伏のためではない、摂受のためだ。悪魔を払ひ万民を救ふ真心から出でさせられた御神策に違ひないワ』 甲『お前はよく詳しい事を知つて居るなア、一体何処から来たのだ。此道場へ来てから未だ間もないに、武術は中々立派なものだなア』 丁『俺か、俺は元は百姓だ。御年村の虎公と云ふ男だよ』 甲『ヤア、お前があの名高い自称艮の金神だな、道理で大きな男だと思つたよ』 虎公『アア、確に夫とは分らぬが、何だか館は騒動がおつ始まつたやうだ。サア皆の連中、愚図々々しては居れない。早く館へ駆けつけよう』 と虎さまを先頭に一同は丘を下り、館を指して一散走りに駆けり行く。 (大正一一・三・一一旧二・一三加藤明子録) |
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22 (1574) |
霊界物語 | 12_亥_天の岩戸開き | 28 三柱の貴子 | 第二八章三柱の貴子〔五二四〕 神代の太古、伊邪那岐命よりお産れ遊ばした天照大御神様、この神様は日の大神様と申上げて、本部綾部に御祀りしてあります所の神様であります。このへんから申上げます。 伊邪那岐命が 『筑紫の日向の橘の小戸の阿波岐ケ原に於て禊身し玉ふ時、左の御目を洗ひ給ひて成りませる神の御名は天照大御神、次に右の御目を洗ひ給ひて成りませる神の御名は月読命』 といふことが書いて御座います。目といふものは吾々肉体から申しますると、右と左と両方に持ちて居りまして物を視るといふことの上に最も大切なものであります計りか、眼は心の窓と申します位重要なもので御座います。所が一歩進んで考へて見ますと、総てこの宇宙間に形を持つて居るものは森羅万象残らず目すなはち眼目といふものがなくてはならぬ。実際凡ゆるものに眼目があると云ふ事は吾人は常に之を認め得るのであります。姿こそ人間のやうな姿ではないけれど、他の動物に於てもこの眼をもつて居ります。禽獣虫魚草木の類に至るまで此眼のないものはありませぬ。また一つの文章を読みましても、この中にも必ず眼目といふものがあります。御勅語の中にも眼があります。 『皇祖皇宗国ヲ肇ムルコト宏遠ニ徳ヲ樹ツルコト深厚ナリ、汝臣民克ク忠ニ克ク孝ニ』 これが教育勅語の眼目であります。また戊申詔書には、 『淬礪ノ誠ヲ輸サバ国運発展ノ本近ク斯ニ在リ』 これが詰り眼になつて居る。その通り初め天地をお造りになるに当つても、この宇宙を治める為にはどうしても、眼といふものが必要であるといふので、そこで伊邪那岐命は天地の主をお創めになつたのであります。すなはち伊邪那岐命は、先づ天の主をこしらへたい、この霊界の主宰者をこしらへたいと思召しになりまして左の目を洗ひ給うた、この左の目といふのは日であります。太陽神であつて上である。右の目といふのが太陰神であつて下であります。言霊の天則から申しますと左は男、右は女と、これは既に神様の御代から定まつた掟である。然るにこの左の目を洗うてお生れになつたのが日の大神、天照大御神であつて、右の目を洗うてお生れになつたのが月読命、さうすると目からお生れになつたのは、変性男子女子でありました。左の目をお洗ひになつて直ぐお生れになつたのが変性男子の天照大御神でありました。これで詰り左を宇宙霊界とし、右を地球として、天上天下の君をお生みになつた訳であります。 『次に御鼻を洗ひ給ひしときに成りませる神の御名は建速須佐之男命』 はなは初めに成るの意義で即ち初めである。物質の元であります。花が咲いて而して後から実を結びます。人間の身体が出来るにつきましても、先づ胎内に於て人間の形の出来る初めは鼻である。それから眼が出来る。絵師が人間の絵を描きましても、その輪廓を描くのに何より先に鼻を描く、鼻は真中である。鼻を先へ描いて然る後に目を描き口を描いてそこで都合好く絵が出来るのである。この初めて出来た統治の位地にお立ちになるのが須佐之男命であります。俗に何でも物の完成したことを眼鼻がついたと申します。神様も此世界をお造りになつて、さうしてそこに初めて眼鼻をおつけになつたのであります。 『此時伊邪那岐命太く歓喜して詔り給はく』 愈天地が完全に出来たから、神様は非常にお喜びになつた。これまでに神様は随分沢山な御子達をお産みになつて居りますが衝立船戸の神様から十二柱ありました。その次に三柱お生れになつてをるので都合十五柱であります。男神様は我はかやうに沢山の子を産むだが、しかし今度の様な眼鼻になる所の子は初めてである。 『吾は御子生みて、生みの果に三柱の貴子得たり』 と仰せられまして、やがて、 『其御頸珠の玉の緒母由良に取りゆらかして』 即ちむかしの勾玉と申したやうな、高貴な人が飾りとしてかけて居つた頸珠であります。丁度今で申しますと大勲位章とか、大綬章とか、一等勲章とか云ふ意味の、曲玉のやうなのを掛けて居られたかと思はれます。 そこでこの玉を自分からお取り脱しになつて天照大御神にお渡しになつた。母由良にとりゆらかしてといふことは何でも非常に喜んで物を渡すときには、自然に手や身体が揺れる。一面から云へば揺つて渡す。頂くときにも亦揺つて頂く、今は然う云ふやうなことでは御座いませぬけれども、本当に嬉しいときには然うなつて来るのであります。さて之を揺りよい音鳴りをさせながら天照大御神に賜ひまして詔給はく、 『汝が命は高天の原を知らせ』 と高天原を主宰せよと仰せになつて珠をお授けになつたのであります。 『かれ其御頸珠の名を御倉板挙之神と申す』 此の御倉板挙之神といふことは、言霊学上から見ても、神様の方で申されまする暦――此世界には恒天暦、太陽暦、太陰暦の三つの暦が常に運行循環して居るのであります。で、此御頸珠をお授けになつたといふのは、所謂御倉板挙之神、即ち恒天暦、太陽暦、太陰暦をお授けになつたのであります。 『次に月読命に詔給はく「汝が命は夜の食国を知らせ」と事依さし給ひき』 右の眼よりお生れになつた月読命に夜の主宰をせよと仰せられた。知らせといふことは、大事に守護り能く治めよといふ意味で、太陰の世界を主宰せよと仰有つた。高天原は全大宇宙である。夜の食国は昼の従である。それで月読命はどこまでも天照大御神を扶けて宇宙の経綸に当れと、斯う云ふ詔であります。 『次に建速須佐之男命に詔給はく「汝が命は海原を知らせ」と事依さし給ひき』 須佐之男命は鼻からお生れになつた方であります。海原といふのは此地球上のことであります。地球は陸が三分の一しかありませぬ、三分の二といふものは海であります。で地球を総称して大海原と申すのであります。斯うして伊邪那岐命様は深いお考へから夫々其知ろしめす所を、各々にお分けになつて、汝は高天原を、汝は夜の食国を、汝は地球上即ち大海原を知ろしめせと、御神勅になつたのであります。今日は天照大御神の三代の日子番能邇々芸命が、どうも此お国が治まらぬといふので天から大神の神勅を奉じて御降臨になつて、地球上をお治め遊ばして、さうして我皇室の御先祖となり、其後万世一系に此国をお治めになつてあるのでありますが、それより以前に於きましては、古事記によりますと須佐之男神が此国を知召されたといふことは前の大神の神勅を見ても明白な事実であります。 『故各々依し給へる御言の随に、知らしめす中に、速須佐之男命、依さし給へる国を知らさずて、八拳髯胸前に至るまで啼いさちき』 須佐之男命は大神の仰に随つて地上に降臨遊ばされた。地上を治める為めに、お降りになりましたけれども、その時この地上は乱れて居つて、神代にも丁度今日のやうな世があつたものと見えます。で今日のやうに政治であらうが、宗教であらうが、教育であらうが、何から何まで一切のものが行き詰つて了うて、もう行きも戻りも上げも下しも出来ぬ様になつて居つた。それで須佐之男命様は、この世の中を安らけく平けく治めて大神を安堵させ奉る事が出来ないから非常にお歎きになつて、『八拳髯胸前に至るまで』長く長く髯が延びて胸前の所まで下つて来るまで御心配をなすつた。人といふものは髯を拵へたり髪を整へたり、いろいろのことをして、容貌を整へなくてはならぬけれども、此国を治めようといふ事に、余り御心配を遊ばしたのでありますから、知らぬ間にこの髯が八拳に長く伸びて居つたのであります。 『泣きいさちき』 といふのは、世の中の一切悉くのものが、もうどうしても、これから進むで行くとか、開けて行くとか、どうしたらよいかといふ方法がない、手のつけやうがないといふまでに非常に行き詰つて了つた状態を、お歎きになるさまに形容したのであります。 『其泣き給ふ状は』 どういふ工合であつたかといふと、 『青山を枯山なす泣き枯らし』 今まで山などの草木が青々と生ひ繁つて居たのに、世が行き詰つた為に枯れて了うた。枯らして了うた。山がすつかり一変して枯山となつてしまうた。これは今日の状態によつく似て居るではありませぬか。今まで十年計画、百年計画といふやうな風にいろいろな事業が企てられた。何会社が立つの、或は何事業が起されたと、無茶苦茶に四五年前から本年の春までは偉い勢で、好景気を謳歌して、青々とした山の如くに有頂天になつて居りましたが、青山がいつまでも天空につかへないが如くに、なんぼ木が伸びたつて天につかへる気遣ひのないやうに、一朝行きつまれば最早さう云ふ勢はすつくり枯れて了ふ。今年の春からこの方、元も子もなくなつて、青山は枯山になつた。どうしても伸びる方法もない、火の消えたるが如き有様になつて了つたのであります。 『河海は悉に泣き乾しき』 山が枯山となつたと同じく、河も海も悉く乾いて了うて、一滴の水もなくなつたといふのであります。今日の世の中に譬へて申しますれば、郵船会社とか、商船会社とか其他いろいろの海運業も追々と仕事がなくなつて二進も三進も行かなくなつた。すると此海河の労働仕事に従事して居るものは、稼殖の途のなくなるのは勿論、稼業に離れる、職に離れるといふことになつて来ると一家は子供に至るまで、悉く泣き乾しになる。最早や食ふ道がないやうになると、もう乾干になるより仕様がない。総て海に稼いで居る者も、河に従事して居る者も、其他一切のことに従事して居る者も、みんな泣き乾しになつて了うたのである。 『是を以て悪神の音なひ、狭蠅なす皆沸き、万の物の妖悉に発りき』 神代に於ても世が行き詰つて来れば、そこにいろいろの不祥なる事件が起つて来たものと見えます。 畏くも明治天皇陛下が、 『之ヲ古今ニ通ジテ謬ラズ之ヲ中外ニ施シテ悖ラズ』[※教育勅語の一節] と仰せられましたやうに、真理といふものは何れの時代にも適応するので御座います。既に古事記の明文にある所で御座います。今日の状態を考へて見れば、丁度此岩戸開き前の状態と克く似て居る。世がどん底に行き詰つて労働しようにも仕事がない、仕事がなければ妻子眷族を養ふことが出来ない。生活といふことが出来なくなるとそこで悪神の音なひとなり、いろいろの騒動が起つて来る、人間の心が荒んで来る。衣食足つて礼節を知る、今まで善い魂を持つて居つたものも、だんだん悪い魂の力に押へられて悪化して了ふ。食ふか食はぬか、死ぬか生きるか、喰うて死ぬか食はずに死ぬか、斯う云ふ苦しい立場になりますと、人心は日増しに悪化して善くないことが往々始まる。甚だしきは警察へ行つて御厄介になつた方が楽で、養なつて呉れて安全だといふものが出来る。監獄に入れば食はして呉れる、金銭はなくても可いといふ具合に自暴自棄的に悪神の音なひが始まる。此音なひといふのは、神様の御真意に背いた所の、いろいろの論説が出て来るといふので、あちらからも此方からも異端邪説が叢り起ることであります。然うした結果が、うるさい所の五月蠅のやうにブンブンブンといろいろの事が湧いて、 『万の物の妖悉に発りき』 一切のものに災禍が起つて来る。外交の上に於きましても、内治の上に於きましても、商工業の上にも、一切万事、何も彼にも、世の中のありと凡ゆるものに向つて、みな災禍が起つて来るのであります。そこで天から伊邪那岐大神が之を御覧になつて、 『速須佐之男命に詔給はく』 仰有るのには、 『何とかも、いましは、事依させる国を治さずて泣きいさちる』 そなたは、此大海原の国を治めよと言うてあるのに、何故それを治めぬのか、世の中を斯う云ふ難局に陥らせたのか、何うして騒がしい世の中として了うたのか、と大変にお責になつたのであります。すると須佐之男命は、誠に相済まぬ事であります。兎も角これは私に力が足らぬからであります。私が悪いのでありますとお答へになつた。併し斯うなつて来ては如何なる人が出て来ても、此時節には敵はない。治まるときには治めなくても治まるが、治まらぬときに之を治めるといふ事は難かしいものであります。人盛んなれば天に勝ち、天定まつて人を制す、悪運の強い時には如何なる神もこれを何うも斯うもする事が出来ない。艮の金神様も此時節の勢には敵はぬと仰せられて、それで三千年間あの世に隠れて、今日の神政成就の時節を待つて、現在に顕はれ天の大神様の御命令を奉じて、三千世界の立替立直しをなさらうといふのであります。大神様でさへもさう仰せに成るのでありますから、況して須佐之男命が大変に行き詰つた地上を治めようとなさつてもどうして治まらう筈がありませう。然らば何故須佐之男命御一人では治まらないのであるかと申せば、それは今日文武百官がありまして、亦た政党政派が互に相争ひ、一方が斯うすれば一方が苦情を持ち出して思ふやうにならぬ如く前に申しましたやうに既にいろいろの神様達が沢山あつて、其神々様が各自に天津神の御心を取り違へて、所謂体主霊従に陥つて居られたので、一人の須佐之男命がどれ程誠の途を開かうとなすつた所で、更に耳に入れるものがない、各自に勝手な真似をなさる。丁度強情な盲と聾との寄合のやうであります。そこに千仭の谷があつても盲は顛覆へるまでは知らぬ顔をしてをる。どれ程雷が鳴つても聾は足下に落ちるまでは平気である。それに強情を張つて誰が何と注意しても聴かない。神代の人もそのやうに体主霊従で、どうしても命の命令を聴かなかつた。それで須佐之男命は、これは取りも直さず自分の責任である、自分の不徳の致す所である、到底自分の力では及ばないのであると、自らをお責めになつて、 『あは妣の国、根の堅洲国に罷らんと思ふが故に泣く』 私はもうお暇を頂いて、母の国に帰らうと仰せられたのであります。根の堅洲国と申すのは母神の伊邪那美命がおいでになつてゐる所であります。尤もこれまでの或る国学者達は根の堅洲国といふのは地下の国であると云つて居りますが、併し一番に此伊邪那美命は月読命と同じく月界に御出でになつたのでありますから、月界を根の堅洲国と言つたのであります。で須佐之男命は自分の力が足らないのである、不徳の致す所であるからして自ら身を引いて、根の堅洲の国へ行かうと仰有つて、一言も部下の神々の不心得や、其悪い行状を仰せられなかつた。如何にも男らしい潔白なお方で御座います。所が伊邪那岐命は非常に御立腹になつた。 『然らばみまし此国にはな住みそ』 其方のやうな此海原を治める力量の無いものならば、二度と此国に住むではならぬ。勝手に根の堅洲国へ行つたがよからう。一時でも居つてはならぬぞとお叱りになつたけれども、伊邪那岐命は須佐之男命の心中は疾くに克く御存知である。自分の子がどうして此国を治める事が出来ないか、どうして自分の珍の児の言ふことを万の神々が聴かぬか、腹の底では充分に御存知でありますが、それを彼此仰有らない。心の中には千万無量のお悲しみを持つて居られまするけれども、他に多くの神々に傷をつけるといふことは考へ物である。それで須佐之男命に刑罰を与へて罪人としたならば、その他の八百万の神、これに随いて居る所の神等はそれを見て皆改心するであらう、その悪かつたことを悟るであらうと思召して大神様は自分の子を罰せられたのでありまして、普通の者の出来難いことで御座います。その広大なるお情深い御心は、誠に勿体ない次第でありませぬか。此須佐之男命を罪に問うたならば、あれこそ吾々の為めに罪せられたのである、誠に済まないことであるから、吾々は悔い改めて本当の政治をしなければならぬ、改心を早く致して命の罪を赦されむ事を八百万の神々が思ふであらうと思召して伊邪那岐命は此処置をお取り遊ばしたのであるが、矢張体主霊従に陥られた八百万の神達は容易にそれがお解りにならず、あれは当然である、政治の主権をあんな者が握つて居つては国の治まらう筈がない、あれが居なくなれば又善い神様が来るに違ひない、否吾々の力で充分に世を治めようといふやうな頗る冷淡な間違つた考へを有つて居つたのであります。寔にこんな世の中を治めようとするには並大抵の事ではないので御座います。 (大正九・一〇・一五講演筆録) (大正一一・三・五再録谷村真友録) |
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霊界物語 | 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) | 跋文 | 跋文 神の御諭を蒙りて述べ始めたる霊界の 奇しき神代の物語神代許りか幽界も また現界も押並べて神の随に随に口車 現幽神の三界の峠に立ちて三ツ瀬川 三ツ尾峠や四ツ尾の峰の麓にそそり立つ 黄金閣の蔭清き教主館に横臥して 三途の流滔々と瑞の御魂の走り書き 十四の巻のいや終にその真相を示すべし 三途の河は神界と現界又は幽界へ 諸人等の霊魂の行衛の定まる裁断所 八洲の河原とヨルダンの河とも唱ふ神聖場 悪の霊魂が行く時はその川守は鬼婆と 忽ち変じ着衣剥ぎ裸体となりて根の国や 底つ幽世へ落し捨て善の御魂の来る時は 川守忽ち美女となり優しき言葉を使ひつつ 旧き衣服を脱却し錦の衣服と着替へさせ 高天原の楽園へ行くべき印綬を渡す也 善悪未定の霊魂が来たれば川守また婆と 忽ち変り竹箒振り上げ娑婆へ追返し 朝と夕の区別なく川の流れの変る如 千変万化の活動をいや永遠に開き行く 善悪正邪を立別ける是ぞ霊魂の分水河 千代に流れて果もなし抑もこれの川水は 清く流るることもあり濁り汚るることもあり 清濁不定の有様は集まり来たる人々の 霊魂々々に映り行く奇しき尊とき珍らしき 宇宙唯一の流れなり激しき上つ瀬渉るのは 現実界へ生れ行く霊魂や蘇生する人許り 弱き下津瀬渉り行く霊魂は根の国底の国 暗黒無明の世界へと落ち行く悲しき魂のみぞ 緩けく強く清らけく且つ温かく美はしき 中津瀬渉り行くものは至喜と至楽の花開く 天国浄土に登る魂それぞれ霊魂の因縁の 綱に曳かれて進み行く神の律法ぞ尊とけれ 三途の川の物語外に一途の川もあり 抑も一途の因縁は現世に一旦生れ来て 至善至真の神仏の教を守り道を行き 神の御子たる天職を尽し了はせし神魂 大聖美人の天国へ進みて登る八洲の川 清めし御魂も今一度浄めて進み渉り行く 善一途の生命川渡る人こそ稀らしき 一旦現世へ生れ来て体主霊従の悪業を 山と積みたる邪霊の裁断も受けず一筋に 渉りて根底の暗界へ堕ち行く亡者の濁水に 溺れ苦しみ渡り行く善と悪との一途川 実にも忌々しき流れ也アヽ惟神々々 御霊幸へましまして三途の川や一途川 滑稽交りに述べ立てしこの物語意を留めて 読み行く人の霊魂に反省改悟の信念を 発させ給ひて人生の行路を清く楽もしく 歩ませ玉へと天地の神の御前に澄み渡る 大空輝く瑞月が天照し坐す大神の 遍ねく照す光明に照され乍ら人々の 身魂の行衛を明かに説き示し行く嬉しさよ 朝日は照るとも曇る共月は盈つとも虧くるとも たとへ大地は沈む共誠の神の御諭しは 万劫末代いつ迄も天地の続くその限り 変りて朽ちて亡び行くためしは永遠にあらざらめ アヽ惟神々々御魂幸はへましませよ。 ○ 神諭に『松の代弥勒の代神世に致すぞよ云々』とあり、弥勒は至仁至愛の意にして、宇宙万有一切の親也師也主也と説きたまへり。読者の中には、仏教の教典に由りて釈迦の説と引き合せ、ミロクは七仏出生説の中にある一仏にして、大本の神諭にある如き尊き位置にある仏又は神にあらずと云ふ人あり。仏書のみを読みたる人の意見としては、最も至極なる見解と謂ふべしである。王仁は、序を以て本巻の末尾に於て仏典に現はれたる弥勒の位置を茲に掲載して、読者の参考に供して見ようと思ふ。 法華経の序品第一に 前略 菩薩摩訶薩八万人あり。皆阿耨多羅三藐三菩提に於て退転せず、皆陀羅尼を得、楽説弁才あつて不退転の法輪を転じ、無量百千の諸仏を供養し、諸仏の所に於て衆の徳本を植ゑ、常に諸仏に称嘆せらるることを為、慈を以て身を修め、善く仏慧に入り、大智に通達し、彼岸に到り名称普く無量の世界に聞えて、能く無数百千の衆生を度す。その名を、 一文珠師利菩薩 二観世音菩薩 三得大勢菩薩 四常精進菩薩 五不休息菩薩 六宝掌菩薩 七薬王菩薩 八勇施菩薩 九宝月菩薩 十月光菩薩 十一満月菩薩 十二大力菩薩 十三無量力菩薩 十四越三界菩薩 十五跋陀婆羅菩薩 十六弥勒菩薩 十七宝積菩薩 十八導師菩薩 右の如き菩薩摩訶薩八万人と倶也 と記してある。この菩薩も霊界物語を全部通読されなば、何菩薩は何神何命に当たるやといふことは自ら判明することと思ひます。 釈提桓因その眷属二万の天子と与に倶なり。復 一名月天子 二普香天子 三宝光天子四大天王あり、其眷属万の天子と与に倶なり。 四自在天子 五大自在天子 その眷属三万の天子と与に倶なり。 娑婆世界の主 六梵天王 七尸棄大梵 八光明大梵 等その眷属万二千の天子と与に倶なり。 八の竜王あり、 一難陀竜王 二跋難陀竜王 三娑伽羅竜王 四和修吉竜王 五徳叉迦竜王 六阿那婆達多竜王 七摩那斯竜王 八優鉢羅竜王なり。 各若干百千の眷属と与に倶なり。 四の緊那羅王あり 一法緊那羅王 二妙法緊那羅王 三大法緊那羅王 四持法緊那羅王なり。 各若干百千の眷属と与に倶なり。 四の乾闥婆王あり。 一楽乾闥婆王 二楽音乾闥婆王 三美乾闥婆王 四美音乾闥婆王なり。 各若干百千の眷属と与に倶なり。 四の阿修羅王あり 一婆稚阿修羅王 二佉羅騫駄阿修羅王 三毘摩質多羅阿修羅王 四羅睺阿修羅王なり。 各若干百千の眷属と与に倶なり。 四の迦楼羅王あり、 一大威徳迦楼羅王 二大身迦楼羅王 三大満迦楼羅王 四如意迦楼羅王なり。 各若干百千の眷属と与に倶なり。 韋提希の子阿闍世王若干百千の眷属と与に倶なり云々。 と、示されてある。之を以て之を見る時は、大本教祖の筆先なるものは神の道とは云ひながら、最初より仏神一体の神理により、現代人の耳に入り易きやうに仏教の用語をも用ゐられてあることを覚り得らるるのである。明治二十五年正月元日に初めて艮の金神様が出口教祖に神懸された時の大獅子吼は、 三千世界一度に開く梅の花艮の金神の世になりたぞよ。須弥仙山に腰を懸け艮の金神世界を守るぞよ云々。 三千世界も仏教中の用語であり、艮の金神も神道の語ではない。須弥仙山は仏教家の最も大切にして居る霊山である。またミロク菩薩とか竜宮とか竜神とか、天子とか、王とか現はれて居るのは、悉く仏教の語を籍りて説かれたものであります。故に筆先にある王とは、八大竜王及諸仏王の略称であり、天子と云へば明月天子、普香天子、宝光天子、四大天王その他諸天子、諸天王の略称であることは勿論であります。自在天子、大自在天子、梵天王、その他王の名の付いた仏は沢山にあり、仏も神も同一体、元は一株と説いてある。また大自在天子のその眷属三万の天子と与に倶なりとあるを見れば天子とは即ち神道にて云ふ神子又は神使であります。要するに、神の道、仏の道に優れたる信者の意味になるのであります。天子は、また天使エンゼルとキリスト教では謂つて居ます。大本の筆先は教祖入道の最初より仏教の用語で現はせられたのであるから凡て仏教の縁に由つて説明せなくては、大変な間違ひの起るものであります。王仁は弥勒菩薩に因める五百六十七節を口述し了るに際し、仏教に現はれたるミロク菩薩の位置を示すと同時に筆先は一切仏の用語が主となりて現はれて居ることを茲に説明しておきました。 アヽ惟神霊幸倍ませ。 大正十一年十一月四日 (昭和一〇・三・一七於嘉義公会堂王仁校正) |
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霊界物語 | 15_寅_顕恩郷/スサノオの経綸/高姫登場 | 09 薯蕷汁 | 第九章薯蕷汁〔五七六〕 千早振る遠き神代のその始め、神の教に背きたる、天足彦や胞場姫の、醜の身魂の凝結し、八岐大蛇や、金毛九尾白面の悪狐となつて、天地の水火を曇らせつ、常世の国に現はれし、常世彦や常世姫、盤古大神の体に宿りて世を乱し、一度は神の御教に、服ひ奉り真心に、立帰りしも束の間の、いや次々に伝はりて、ウラル彦やウラル姫の、又もや体に宿りつつ、天地を乱す曲業の、力も失せて常世国、島の八十島八十国の深山の奥に立籠り、人の身魂を宿として、バラモン教やウラナイの、教を樹てて北山の、鳥も通はぬ山奥に、数多の魔神を呼び集へ、ウラナイ教と銘打つて、又もや国を乱し行く、其の曲業ぞ由々しけれ。 館の主高姫は、安彦、国彦、道彦の宣伝使に危難を救はれ、感謝の意を表はし館に迎へ入れて、鄭重に饗応せむと強て一行を迎へ入れた。 一行五人は美はしき一室に招ぜられ、手足を伸ばし悠々として寛いでゐる。高姫は此の場に現はれ、 高姫『コレハコレハ三人の宣伝使様、能うマア危き所を御救け下さいました。これと云ふも全く妾が日頃信仰するウラナイ教の御本尊大自在天様の御引合せでございませう。神様は三五教の宣伝使に憑依つて、妾の危難を御救ひ下さつたのです。謂はば貴方等は神の御道具に御使はれなさつただけのもの、貴方の奥には大自在天様が御鎮まりでございます。誠に以て御道具御苦労でございました。何もございませぬが悠々と御あがり下さいませ』 と言ひ棄てて徐々と次の間に姿を隠した。 国彦『ナンダ、怪体な挨拶じやないか。われわれは三五教の教理に依つて、敵を敵と致さず生命を的に危険を冒して救つてやつたのだ。それに何ぞや、大自在天の御道具に使はれなさつたなぞと、減ず口を叩きよつて何うも宗旨根性と云ふものは、何処迄も抜けぬものとみえるワイ』 道彦『マアマア何うでも好いぢやないか。彼奴を片端から三五教に兜を脱がしさへすれば好いのだ。何でも好いから言はすだけ言はして置けば、腹の底が自然に解つて来る。さう言葉尻を捉へて、ゴテゴテ言ふものでは無い。洋々たる海の如き寛容心を以て衆生済度に掛らねば、彼れ位なことに目に角を立てて鼻息を喘ますやうなことでは、到底宣伝使どころか、信者たるの価値さへもないと云つても然りだよ』 斯く話す折しも以前の高姫は、縁の欠けたる丼鉢に麦飯を盛り、粘々したものをドロリとかけ、三人の小間使に持たせて入り来り、 高姫『コレハコレハ皆サン、ご苦労でございました。山家のこととて何か御構ひを致さねばなりませぬが、麦飯に薯蕷汁が出来ました。これなりとドツサリ御あがり下さい。俄の客来で沢山の鉢の中から探しましたが、縁の欠けたのは漸く三つよりございませぬ。二人の御供は最前ソツとあがれとも音はぬのに、喜三郎をなさいましたから、どうぞ辛抱して下さいませ。貴方等に出すやうな器は漸う三つ見つかりました。後は立派な完全無欠の器ばつかりでございます。この様に見えても痰なぞは滅多に混入してゐる気遣ひはございませぬ。どうぞタントタント御あがり下さいませ。オホヽヽヽヽ』 と厭らしき笑ひと共に、白い出歯をニユツと出し、のそりのそりと又もや元の居室に姿を隠しける。 国彦『われわれを飽く迄侮辱しよる怪しからぬ奴だ。恰で一途の川の二人婆のやうな面をしよつて、モー堪忍袋の緒が切れた』 と云ひ乍ら、丼鉢の麦飯とろろを座敷一面に投げつける。座敷はヌルヌルととろろの泥田のやうになつて了つた。 又もや二人分の丼鉢を次の室に投げ付け、次の室も亦とろろの泥田となつた。 国彦『さアこれで溜飲が下つた。婆の奴滑り倒けよると一層御愛嬌だがナア』 安彦『オイ国彦、貴様は乱暴な奴だナア。三五教の宣伝使が喧嘩を買うと云ふことがあるものか、如何なる強敵に向つても飽く迄無抵抗主義で、誠で勝つのだよ。ナント云ふ情無いことをして呉れるのだ。今日限り破門を致すから、さう心得ろ』 国彦『それだから三五教は腰抜け教だと云ふのだよ。貴様の方から破門する迄に、こちらの方から国交断絶だ』 と自暴糞になり、捻鉢巻となつてドンドンと四股を踏み鳴らし、荒れ狂ふ此の物音に驚いて、高姫を始め数人の男女此場に現はれ、 高姫『コレハコレハ三五教の宣伝使様、誠に御立派な御教理には感心致しました。口では立派なことを仰有るが、其の行ひは一層見上げたもの、人の座敷に泊り乍ら、吾々一同が心を籠めた御馳走を座敷一面に撒き散らし襖を蹴倒し、障子の骨を折り、イヤもう乱暴狼藉、実に立派な御教理には、ウラナイ教の吾々も、あまり感心の度が過ぎてアフンと致します。開いた口が閉まりませぬ。三五教の御教通り手も足も踏込む所がございませぬ。オホヽヽヽヽ。コレコレ皆の者ども、この宣伝使様の立派な御教をお前達は、能く腹へ入れて置くがよいぞや』 もう一人の婆は口を尖らし、 婆『コリヤお前達は三五教の宣伝使だと云つて偉さうに天下を股にかけて歩く代物だらう。大方三五教は斯んな行ひの悪い宗教だと思つて居つた。やつぱり人の風評は疑はれぬワイ。屹度変性女子の世の乱れたやり方を見倣うて、其処中をとろろドツコイ泥だらけに穢して歩く悪の御用だらう。素盞嗚命は天の岩戸を閉める役だと云ふことだが、悪も其処まで徹底すれば反つて面白い。このウラナイ教は斯う見えても立派なものだぞ。変性男子の生粋の教を守つとるのだぞ。三五教も初めは変性男子の教で立派なものだつたが、素盞嗚命の身魂の憑つた肉体が出て来て、人の苦労で徳を取らうとしよつて、変性男子を押込めて世の乱れた行り方の、女子の教が覇張るものだから三五教もコンナ悪の教になつて了つたのだ。三五教の奴は二つ目には、ウラル教が何うだのバラモン教が悪だのと、お題目のやうに仰有るけれど、今の宣伝使の行ひは何うぢやな。これでも善の立派な教と云ふのかい。この高姫も元は変性男子の御血筋の肉体だ、日の出神の生宮ぢや。竜宮の乙姫さまもチヨコチヨコ御出でになつて、体主霊従国の悪神の仕組を、すつかりと握つてござるのぢや。変性女子と云ふ奴は胴体無しの烏賊上り、三文の大神楽のやうに頤太ばつかり発達しよつて、鰐のやうな口を開けて、其方此方の有象無象を噛んだり、吐いたりする大化物だ。お前達は其の大化物を神様だと思つて戴いて居る小化物ならよいが、小馬鹿者の薄馬鹿者だよ。これからちつとウラナイ教の教を聴きなさい。身の行ひを換へて誠水晶のやり方に立替へねば何時まで経つても五六七の世は来はせぬぞえ』 国彦『エーエ、ツベコベと能う八釜敷く吐す婆だな。貴様は偉さうにツベコベと小理窟を並べよるが、人を招待するに欠けた穢い鉢を選んで出すと云ふことがあるかい。これが抑も貴様の方から俺を焚きつけにかかつてゐよるのだ。三五教だつて、いらはぬ蜂はささぬぞ、釣鐘も叩くものが無ければ音なしいものだ、春秋の筆法で言へば、貴様が丼鉢を投げたのだ。イヤ大自在天がやつたのだ。俺は大自在天の道具に使はれたのだ。此処の大将が最前さう云つたぢやないか。ナント大自在天と云ふ神は乱暴な神だなア。ウラナイ教はコンナ悪魔の乱暴な神を御本尊にして居るのか苟くも三五教の宣伝使は、至粋至純の身魂の持主だぞ』 高姫『オホヽヽヽ、至粋至純の身魂の持主の為さること哩のー。自分のした責任を、勿体無い、大自在天様に塗りつけて、それで自分は知らぬ顔の半兵衛をきめこんでゐるのか。都合の好い教理だなア』 国彦『われわれの魂は水晶魂だ。真澄の鏡も同様だ。それだからウラナイ教の悪がすつかり此方の鏡に映つて居るのだ。アーア水晶の身魂も辛いものだワイ。アハヽヽヽ』 黒姫『団子理窟をこねる日には際限が無い。兎も角行ひが一等だ。立派な御座敷の真ん中に主人の好意で出した麦飯とろろを打ち開けるとは沙汰の限り、やつぱり悪の性来は何うしても現はれるものぢや。ソンナ馬鹿な教の宣伝使になるよりも、一つ改心してウラナイ教になつたら如何だい。誠の変性男子の教は此の高姫さまと、黒姫がチヤント要を握つてゐるのだよ。昔の神代の根本の身魂の因縁から、人民の大先祖のことから又万劫末代のこと、根の国、底の国、なにも彼も知つて知つて知り抜いた世界で、たつた一人の日の出神の生宮ぢや。この黒姫は竜宮の乙姫の守護だぞ。艮の金神様も元は此処から現はれたのだ。本が大事ぢや。「本断れて末続くとは思ふなよ。本ありての枝もあれば、末もあるぞよ」と三五教は教へて居るぢやないか。その根本の本の本の大本は、此日の出神がグツト握つて居るのぢや。神の奥には奥があるぞ。三五教の宣伝使のやうに理窟ばかり言つてこの頃流行る学の力を以て、神の因縁を説かうと思つても、それは駄目ぢや。千年万年経つたとて誠の神の因縁が判つて堪るものか。誠の神の御用が致し度くば、ウラナイ教に改心して随うがよかろう』 国彦『婆アサン、大きに御心配かけました。この国彦は三五教でも無ければ、ウラル教でもない、ウラナイ教では尚更ないのだ。あまり三五教の悪いことばつかり仰有ると、ウラナイ教の化けの皮が現はれるぞえ。左様なら、モシモシ三五教の二人の宣伝使サン御悠くりと下らぬ説教でも聴かして貰つて、眉毛を読まれ、尻の毛が一本も無いとこ迄抜かれなさるがよろしからう。コラ二人の皺苦茶婆、用心せーよ。何処に何が破裂致さうやら判らぬぞよ』 と尻をクリツと捲つて裏門から、一発破裂させ乍ら何処とも無く姿を隠して了つた。 道彦『アハヽヽヽ』 安彦『アーア道彦サン、彼様乞食を伴れて来るものだから、薩張り三五教と混同されて偉い迷惑をした。これから迂濶と何でも無い者を連れて歩くものぢやない』 道彦『アヽ左様ですな、モシモシ高姫サン、黒姫サン、三五教には彼の様な宣伝使は、一人も居りませぬよ。彼の男は途中から道案内に伴れて来たのですから、好い気になつて宣伝使気取りでアンナことを言つたのですよ。アハヽヽヽ』 黒姫『神様の宣伝使は嘘は言はぬもの、誠一つの教を樹てるのは、此のウラナイ教。三五教は矢張り嘘をつきますなア。彼の男は元は与太彦と云うて、貴方等と一緒に宣伝に歩いて居つた人でせう。違ひますかな』 安彦、道彦『サア』 黒姫『サア返答は』 安彦、道彦『サアそれはマアマアマア彼奴は俄に気が違つたのですよ。それだからアンナ脱線した行ひをやるのですワ。アハヽヽヽ』 黒姫『能う嘘をつく人だナ。今お前サンは道案内に途中から雇うて来たと云つたぢやないか。それだから三五教は駄目、ウラナイ教が誠の教と云ふのだ』 安彦『一体此処の館には盲人ばつかり居りますな』 と話を態と横へ転じた。 黒姫『誠の教を聴かうと思へば、目が開いて居つては小理窟が多くつて仕様がないから、みな盲目や聾ばかり寄せてあるのだ。見ざる、聞かざると言うて、盲目聾程よいものは無い。此処へ来る奴は、みな此高姫サンと黒姫が耳の鼓膜を破り、眼の球を抜いて、世間の事がなにも解らぬやうに、神一筋になるやうにしてあるのだ。お前も怪体な目をウラナイ教に、すつくり御供へしなさい。さうしたら本当の安心が出来るぢやらう。昔竜宮城に仕へて居つた小島別は、盲目であつたお蔭で、結構な国魂の神となつて神の教を筑紫の島でやつて居るといふことだ。目の明いた奴に碌な奴が居るものかい。盲目千人に目明き一人の世の中に、十目の視る所十指の指さす所、大勢の盲目の方に附くのが誠だ。サア、これからウラナイ教に帰順さしてやらう』 と高姫、黒姫の二人は、出刃庖丁をひらめかし、安彦、道彦の眼球目蒐けて突いてかかる。二人は、 安彦、道彦『コリヤ大変』 と逃げ出す途端に、座敷一面のとろろ汁に足を、辷らして、スツテンドウと仰向けになつた。 二人の婆も、とろろに足を滑らし、仰向けにドツと倒れた。婆の持つた出刃庖丁は道彦の眼の四五寸側に光つてゐる。 道彦、安彦は一生懸命逃げ出さうとすれど、ヌルヌルと足が滑つて同じ所にジタバタやつてゐる。百舌彦、田加彦は一室から飛んで出て、 百舌彦、田加彦『コラコラ婆の癖に手荒いことを致すな。その出刃渡せ』 と矢庭に引捉へむとして、又もやズルリと滑り、二人は尻餅搗いた途端に、道彦の顔の上に臀をドツカと下ろした。その痛さに気が付けば王仁は、宮垣内の茅屋に法華坊主の数珠に頭をしばかれ居たりける。 (大正一一・四・二旧三・六外山豊二録) (昭和一〇・三・二〇於彰化支部王仁校正) |
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霊界物語 | 15_寅_顕恩郷/スサノオの経綸/高姫登場 | 11 大蛇退治の段 | 第一一章大蛇退治の段〔五七八〕 『故、退はれて、出雲の国の肥河上なる鳥髪の地に降りましき』(古事記の大蛇退治の段) 出雲国は何処諸の国と云ふ意義で、地球上一切の国土である。肥河上は、万世一系の皇統を保ちて、幽顕一致、神徳無窮にして皇朝の光り晴れ渡り、弘り、極まり、気形透明にして天体地体を霊的に保有し、支障なく神人充満し、以て協心戮力し、完全無欠の神政を樹立する至聖至厳至美至清の日本国といふ事なり。 鳥髪の地とは、十の神の顕現地と云ふ事にして、厳の御魂、瑞の御魂が経と緯との神業に従事し、天地を修斎し玉ふ神聖の経綸地といふことなり。要するに世界を大改良せむ為めに素盞嗚尊は普く天下を経歴し、終に地質学上の中心なる日本国の地の高天原なる至聖地に降臨し玉ひたるなり。明治三十一年の秋八月に、瑞の御魂の神代として高座山より神退ひに退はれて綾部の聖地に降りたるは、即ち素盞嗚尊が、一人の選まれたる神主に憑依し給ひて、神世開祖の出現地に参上りて神の経綸地たることを感知されたるも同様の意味なり。古事記の予言は古今一貫、毫末も変異なく、且つ謬りなき事を実証し得るなり。 『此時しも箸其の河より流れ下りき』 ハシの霊返しはヒなり。ヒは大慈大悲の極みなり。ハシの霊返しのヒなるもの、ヒノカハカミより流れ来たると云ふ明文は実に深遠なる意義の包含されあるものなり。又箸は凡てを一方に渡す活用あるものにして、川に架する橋も、食物を口内へ渡す箸もハシの意味に於ては同一なり。悪を去り善に遷らしむる神の教のハシなり。暗黒社会をして光明社会に改善せしむる神教もハシなり。故に御神諭にも、綾部の大本は世界の大橋であるから、此大橋を渡らねば、何も分りは致さむぞよ云々とあるも、改過遷善、立替立直しの神教の意味なり。その箸は肥の河より流れ下りきとは、斯る立派な蒼生救済の神教も、邪神の為に情無くも流し捨てられ、日に日に神威を降しゆく事の意味なり。是を大本の出来事に徴して見るに、去る明治三十一年に瑞の御魂の神代として十神の聖地に降りたる神柱を、某教会や信者が中を遮り、以て厳の御魂、瑞の御魂の合致的神業を妨害し、瑞霊の神代を追返し、彼等の徒党が教祖を看板として至厳至重なる神教を潜め隠し、某教会を開設したる如き状態を指して『ハシ其の河より流れ下りき』といふなり。 『於是須佐之男命其の河上に人有りけりとおもほして尋ね上りて往まししかば老夫と老女と二人在りて童女を中に置きて泣くなり』 茲に顕幽両界の救世主たる須佐之男命は、肥の河上なる日本国の中心、地の高天原に神人現はれ、世界経綸の本源地有りと御考へになり尋ねて御上りありしが、変性男子の身魂現はれて、国家の騒乱状態を治めむと血涙を吐き乍ら昼夜の区別なく、世人を教戒しつつありしなり。二人といふ事は、艮の金神様の男子の御魂と、教祖出口直子刀自の女子の身魂とが一つに合体して神業に従事し玉へると同じ意義なり。ヒトとは霊の帰宿する意義で人の肉体に宇宙の神霊憑宿して天地の経綸を遂行し玉ふ、神の生宮の意なり。老夫と老女と二人とあるは女姿男霊の神人、出口教祖の如き神人を意味するなり。 『童女を中に置きて泣なり』とはオトメは男と女の意味にして、世界中の老若男女を云ふ。又老と若ともなり、現在の世界の人民を称して老若男女と云ふ。霊界にては国常立大神、顕界にては神世開祖出口直子刀自の老夫と老女とが、世界の人民の身魂の、日に月に邪神の為に汚され亡ぼされむとするを見るに忍びず、手を尽して足を運びて救助せむと艱難辛苦を嘗めさせられ、天地の中に立ちて号泣し給ふことを、童女を中に置きて泣くなりと云ふなり。 亦神の御眼より御覧ある時は世界の凡ての人間は、神の童子なり女子なり。故に世界の人民は皆神の童女なる故、人民の親がその生みし子を思ふ如くに、神は人民の為に昼夜血を吐く思ひを致して心配を致して居るぞよ、と御神諭に示させ給へる所以なり。亦オトメの言霊を略解する時は、 オは親の位であり、親子一如にして、大地球を包む活用であり。 トは十全治平にして、終始一貫の活用であり。 メは世を透見し、内に勢力を蓄へて外面に露はさざる意義なり。 之を約むる時は、日本固有の日本魂の本能にして、花も実もある神人の意なり。 『汝等は誰ぞと問ひ賜へば、其の老夫僕は国津神大山津見神の子なり、僕が名は足名椎、妻が名は手名椎、女が名は櫛名田比売と謂すと答す』 明治三十一年の秋瑞の御魂の神代に須佐之男神神懸したまひて綾部の地の高天原に降りまし、老夫と老女の合体神なる出口教祖に対面して汝等は誰ぞと問ひたまひし時に、厳の御魂の神代なる教祖の口を藉りて僕は国津神の中心神にして大山住の神也。神の中の神にして天津神の足名椎となり手名椎となりて、天の下のオトメを平かに安らかに守り助けむとして、七年の昔より肥の河上に御禊の神事を仕へ奉れり。又この肉体の女の名は櫛名田姫と申し、本守護神は禁闕要の大神なりと謂し玉ひしは、以上の御本文の実現なり。クシナダの クシは神智赫々として万事に抜目なく一切の盤根錯節を料理し、快刀乱麻を断つの意義なり。 ナは、万物を兼ね統べ、能く行届きたる思ひ兼の神の活用なり。 ダは、麻柱の極府にして大造化の器であり、対偶力であり、主従師弟夫妻等の縁を結ぶ神なり。 要するに、櫛名田姫の守護厚き天壌無窮の神国、大日本国土の国魂神にして、神諭の所謂大地の金神なり。 『亦、汝の哭由は何ぞと問ひたまへば、吾が女は八稚女在りき。是に高志の八岐遠呂智なも、年毎に来て喫ふなる。今その来ぬべき時なるが故に泣くと答白す』 以上の御本文を言霊学の上より解約すると、吾が守護する大地球上に生息する、息女即ち男子や女子は、八男と女と云つて、種々の沢山な神の御子たる人種民族が有るが、年と共に人民の霊性は、鬼蛇の精神に悪化し来り至粋至醇の神の分霊を喫ひ破られて了つた。高志の八岐の遠呂智と云ふ悪神の口や舌の剣に懸つて歳月と共に天を畏れず地の恩恵を忘れ、不正無業の行動を為すものばかり、人民の八分迄は、皆悪神の容器に為れて、身体も霊魂も、酔生夢死体主霊従に落下し、猶も変じて八岐の遠呂智の尾となり盲従を続けて、天下の騒乱、国家の滅亡を来しつつ、最後に残る神国の人民の身魂までも、喫ひ破り亡ぼさむとする時機が迫つて来たので如何にしてか此の世界の惨状を救ひ助け、天津大神に申上げむと、心を千々に砕き天下国家の前途を思ひはかりて、泣き悲しむなりと答へ玉うたと曰ふことなり。 高志といふ意義は、遠き海を越した遠方の国であつて、日本からいへば支那や欧米各国のことなり。海外より種々雑多の悪思想が渡来する。手を替へ品を替へて、宗教なり、政治なり、教育なりが盛んに各時代を通じて、侵入して来り敬神尊皇報国の至誠を惟神的に具有する、日本魂を混乱し、滅絶せしめつつある状態を称して、高志の八岐の遠呂智の喫ふなると云ふなり。亦外国の天地は、数千年来此悪神の計画に誑らかされて、上下無限の混乱を来し、国家を亡ぼし来たりしが、彼今猶其計画を盛んに続行しつつ、遂に日本神国の土地まで侵入し、天津神の直裔なる日本オトメの身魂まで、全部喫ひ殺さむとする、それが最近に迫つて居る、只一つ神国固有の日本魂なるオトメが後に遺つた許りである。之を悪神の大邪霊に滅ぼされては、折角天祖国祖の開き玉へる大地球を救ふ事は出来ない。どうかして之を助けたいと思つて艱難辛苦を嘗めて居るのである。実に泣くにも泣かれぬ、天下の状態であると云つて、之を根本的に救ふ事は出来ない。どうして良いかと途方に暮れ、天地に向つて号泣して居りますとの、変性男子の身魂の御答へなりしなり。 『其の形は如何さまにかと問ひたまへば、彼が目は赤加賀知なして、身一つに頭八つ尾八つあり。亦其の身に苔、及び桧、すぎ生ひ、其の長さ渓八谷、峡八尾を渡りて、其の腹を見れば、悉に常血爛れたりと答白す。(此に赤加賀知といへるは、今のほほづきなり)』 そこで其形は如何さまにかと、問ひたまへばと云ふ意義は、八岐の遠呂智なす悪思想の影響は如何なる状態に形はれ居るやとの須佐之男命の御尋ねなり。 そこで変性男子の身魂なる老夫と老女は、彼悪神の経綸の事実上に顕現したる大眼目は、赤加賀知なして身一つに、頭八つ尾八つありと云つて、悪神の本体は一つであるが、その真意を汲んで、世界覆滅の陰謀に参加して居るものは、八人の頭株であつて、此の八つの頭株は、全地球の何処にも大々的に計画を進めてをるのである。政治に、経済に、教育に、宗教に、実業に、思想上に、其他の社会的事業に対して陰密の間に、一切の破壊を企てて居るのである。就ては、尾の位地にある、悪神の無数の配下等が、各方面に盲動して知らず識らずに、一人の頭目と、八つの頭の世界的大陰謀に参加し、終には既往五年に亘つた世界の大戦争などを惹起せしめ、清露其他の主権者を亡ぼし、労働者を煽動して、所在世界の各方面に、大惑乱を起しつつあるのである。赤加賀知とは砲煙弾雨、血河死山の惨状や、赤化運動の実現である。実に現代は八岐の大蛇が、いよいよ赤加賀知の大眼玉をムキ出した所であり、既に世界中の七オトメを喫ひ殺し、今や最後に肥の河なる、日本までも現界幽界一時に喫はむとしつつある処である。要するに八つ頭とは、英とか、米とか、露とか、仏とか、独とか、伊とかの強国に潜伏せる、現代的大勢力の有る、巨魁の意味であり、八つ尾とは、頭に盲従せる数多の部下の意である。頭も尾も寸断せなくては成らぬ時機となりつつあるなり。 『亦其身に苔及び桧すぎ生ひ、其長さ、渓八谷、峡八尾を渡りて其の腹を見れば、悉に常も血爛れりと答白す』といふ意味は地球上の各国は皆この悪神蛇神の為に、山の奥も水の末も暴され、不穏の状態に陥り、終には尼港事件の如く、暉春事件の如く、染血虐殺の憂目に人類が遇つて、苦悶して居ることの形容である。また苔と云ふ事は、世界各国の下層民の事であり桧と云ふ事は上流社会の人民であり、すぎと云ふ事は国家の中堅たる中流社会である。要するに上中下の三流の人民が常に不安の念に駆られて居る事であつて、実に六親眷属相争ひ、郷閭相鬩ぎ戦ふ、悲惨なる世界の現状を明答されたといふ事である。御神諭に、『今の人民は外国の、悪神の頭と眷属とに、神から貰うた結構な肉体と御魂を自由自在に汚されて了うて、畜生餓鬼の性来になりて居るから、欲に掛けたら、親とでも兄弟とでも、公事を致すやうな悪魔の世になりて居るが、是では世は続いては行かぬから、天からは御三体の大神様がお降り遊ばすなり、地からは、国常立尊が変性男子と現はれて、新つの世に立替立直して、松の五六七の世に致して、世界の人民を歓ばし、万劫末代勇んで暮す神国の世に替へて了はねばならぬから、艮の金神は、三千年の間長い経綸を致して、時節を待ちて居りたぞよ。八つ尾八つ頭の守護神を、今度はさつぱり往生いたさすぞよ』云々と明示されてあるのも、要はこの御本文の大精神に合致して居る一大事実である。 『爾、速須佐之男命、其の老夫に是汝の女ならば、吾に奉らむやと詔たまふに、恐けれど御名を覚らずと答白せば、吾は天照大御神の同母男なり。故今天より降り坐つと答へたまひき。爾に足名椎、手名椎、然坐さば恐し立奉らむと白しき』 右御本文の老夫にとあるは艮の金神国常立尊神霊に対しての御言である。また足名椎手名椎神と並び称せるは、肉体は出口直子であつて手名椎の神であり霊魂は国常立尊の足名椎の意である。 茲に天より降り給へる須佐之男命は、老夫なる国常立尊の神霊に対し玉ひて、是は汝の守護し愛育する所の、至粋至醇の神の御子たる優しき人民であるなれば、吾に是の女の如き可憐なる万民の救済を一任せずやと、御尋ねになつた事である。そこで国常立尊は実に恐縮の至りではありますが、貴方は如何なる地位と、御職掌の在す神で居らせらるるや。御地位と御職名とを覚らない以上は御一任する事は出来ませぬと白し給ひければ、大神は至極尤もなる御尋ねである。然らば吾が名を申し上げむ、吾は天津高御座に鎮まり坐ます、掛巻も畏き天照大御神の同母弟であつて、大海原を知食すべき職掌である。されば今世界の目下の惨状を黙視するに忍びず、万類救護の為に、地上に降り来たのである。故に国津神たる汝の治むる万類万民を救はむが為に、吾に其の職掌を一任されよ然らば汝と共に八岐の大蛇の害を除いて天下を安国と平けく進め開かむと仰せになつたのである。茲に変性男子の身魂は、大変に畏み歓び玉うて、左様に至尊の神様に坐ますならば吾女なる可憐なる人民を貴神に御預け申すと、仰せられたのである。是は去る明治三十一年の秋に変性男子と変性女子との身魂が二柱揃うて神懸りがあつた時の御言であつて、実に重大なる意義が含まれて在るのである。然し乍ら是は神と神との問答でありまして、人間の肉体上に関する問題ではないから、読者に誤解の無いやうに御注意願つておく次第である。 『爾速須佐之男命、乃ち、其の童女を湯津爪櫛に取成して、御角髪に刺して、其の足名椎、手名椎神に告りたまはく、汝等、八塩折の酒を醸み、且、垣を造り迴し、その垣に八つの門を造り、門毎に八つの棧敷を結ひ、その棧敷毎に酒船を置きて船毎にその八塩折の酒を盛りて、待ちてよと、のりたまひき』 湯津爪櫛の言霊を略解すれば、 ユは、天地、神人、顕幽、上下一切を真釣合せ、国家を安寧に、民心を正直に立直す大努力の意であり、 ツは、日の大神の御稜威を信じ、大金剛の至誠心を振り起し、言心行一致の貫徹を期し、以て神霊の極力を発揮するの意である。 ツは、生成化育の大本合致し、大決断力を発揮し、実相真如の神民たりとの意である。 マは、人種中の第一位たる資格を保ち、胸中常に明かにして無為円満なる意である。 グは、暗愚を去つて賢明に帰し、万事神助を得て意の如く物事成功するの意である。 シは、信仰堅く、敬神尊皇報国の忠良なる臣民の基台なりとの意である。 以上の六言霊を総合する時は、霊主体従の真の日本魂を発揮せる神の御子と立直し玉ふ、神の経綸を進むると謂ふことである。 御角髪の言霊を略解すれば、 ミは、形体具足成就して、日本神国の神民たる位を各自に顕はし定めて真実を極め、以て瑞の御魂に合一する意である。 ミは、⦿の御威徳を明かに覚知し、惟神の大道を遵奉し実行し、以て玲瓏たる玉の如き身魂と成るの意である。 ツは、神の分身分霊として天壌無窮に真の生命を保全し、肉体としては君国を守り、霊体としては神と人民とを助け守るの意である。 ラは、言心行の三事完全に実現し、本末一貫、霊主体従の臣民と成りて、自由自在に本能を発揮するの意である。 以上の四言霊を総合する時は、愈日本魂の実言実行者となりて、其の霊魂は神の御列に加はるべき真の御子と成りたる意である。 要するに、瑞の霊魂なる速須佐之男命は、二霊一体なる神政開祖の神人より、男と女の守護と化育とを一任され一大金剛力を発揮して、本来の日本魂に立替へ立直し、更に進んで其の実行者とし賜ふた事を『其のオトメをユツツマグシに取成して御角髪に刺して』と言ふのである。 斯の如く、天下の万民の身魂の改良を遊ばして、足名椎、手名椎の御魂に御渡しになるに就ては、相当の歳月を要したのである。或は神徳を以てし、或は物質力を以てし、或は自然力を以てし、或は教戒を以てし、慈愛を以てし、種々の御苦辛を嘗めさせ玉ふ其神恩を忘れては成らぬのである。そこで速須佐之男命は、足名椎手名椎なる変性男子の霊魂に対つて告り給ふた御言葉は左の通りである。幸ひ残れるオトメは斯の如く、湯津爪櫛に取成し、御角髪に刺て立派に日本魂を造り上げたと云ふ事は、全く天津神の御霊徳と、吾御魂の活動と、汝命の至誠の賜であるから、第一に天地八百万の神に、精選した立派な美味なる、所謂八塩折の神酒を醸造し、且つ汚穢を防ぐ為に清らかな瑞垣を四方に作り廻して、其の垣毎に祭壇を設け(八つ門)て、祭壇毎に祝詞座を拵へ、酒を甕の戸高知り甕の腹満て並べて神々に報恩謝徳の本義を尽すべく、詔りたまふたのである。凡て酒と云ふものは、大神に献る時は、第一に御神慮を和げ勇ませ歓ばせ奉る結構な供へ物であるが、体主霊従的の人間が之を飲むと決して碌な事は出来ないのである。同じ種類の酒でも、人間は御魂相応に、種々の反応を来すものであつて、悪霊の憑つた人間が呑めば直ちに言語や、動作や精神が悪の性来を現はし、且つ酔ひ且つ狂ひ乱れ暴れるものである。或は泣くもの、笑ふもの、怒るもの、妙な処へ行きたくなるものなぞ、種々雑多に変化して、身魂の本性は現はし、吐たり倒れたり苦しみ悶えたりするものである。常に至誠至実の人にして、心魂の下津岩根に安定したものは、仮令酒を常に得呑まぬ人でも、少々位時に臨んで戴いた所が、決して前後不覚になつたり、倒れたり苦しんだり、動作や言舌や精神の変乱するもので無く、心中益々壮快を覚え、笑み栄え勇気を増し、神智を発揮するものである。故に酒は神様に献る所の清浄なる美酒と雖も、心の醜悪なるものが呑む時は、忽ち身魂を毒し弱らしむるものである。同じ酒を甲は一合呑んで酔ひ潰れて了ふかと思へば、乙は一升呑んでも酔はず、丙は三升位呑まなくては少しも酔うた如うな心持がしないと、云ふ区別の附くのは、乃ち身魂の性質に依りて反応に差異ある事の証である。甲は呑んで笑ひ、乙は怒り、丙は泣くと云ふ如うに、同じ味のある同じ種類の酒でも、区別の附くと云ふのは、実に不思議なもので、是はどうしても身と魂との性来関係に依るものである。 『故、告りたまへる随にして、如此設け備へて待つ時に、其の八岐大蛇、信に言ひしが如来つ。乃ち、船毎に、己々頭を垂入て、その酒を飲みき、於是、飲み酔ひてみな伏寝たり。爾ち速須佐之男命、その御佩せる十拳剣を抜きて、その大蛇を切散りたまひしかば肥の河、血に変りて流れき』 そこで変性男子の身魂は命の随々芳醇なる神酒を造りて、天地の神明を招待し、以て歓喜を表し賜ひ、神恩を感謝し給うたのである。八岐の大蛇の霊に憑依された数多の悪神の頭目や眷族共が大神酒を飲んで了つた。丁度今日の世の中の人間は、酒の為に腸までも腐らせ、血液の循環を悪くし、頭は重くなり、フラフラとして行歩も自由ならぬ、地上に転倒して前後も弁知せず、醜婦に戯れ家を破り、知識を曇らせ、不治の病を起して悶え苦しんで居るのは、所謂「飲み酔ひて皆伏寝たり」と云ふことである。爾に於て瑞の御霊の大神は、世界人民の不行跡を見るに忍びず、神軍を起して、此の悪鬼蛇神の憑依せる、身魂を切り散らし、亡ぼし給うたのである。十拳剣を抜きてと云ふ事は遠津神の勅定を奉戴して破邪顕正の本能を発揮し給うたと云ふことである。そこで肥の河なる世界の祖国日の本の上下一般の人民は、心から改心をして、血の如き赤き真心となり、同じ血族の如く世界と共に、永遠無窮に平和に安穏に天下が治まつたと云ふ事を「肥の河血に変りて流れき」と云ふのである。流れると云ふ意義は幾万世に伝はる事である。古事記の序文に、後葉に流へんと欲すとあるも、同義である。 『故其の中の尾を切りたまふ時、御刀の刄毀けき。怪しと思ほして、御刀の端もて刺割きて見そなはししかば、都牟刈之太刀あり。故此太刀を取らして、怪異しき物ぞと思ほして天照大御神に白し上げたまひき。是は草薙太刀なり』 中の尾と云ふ事は、葦原の中津国の下層社会の臣民の事である。其臣民を裁断して、身魂を精細に解剖点検し玉ふ時に、実に立派な金剛力の神人を認められた状態を称して、御刀の刄毀けきと云ふのである。アヽ実に予想外の立派な救世主の身魂が、大蛇の中の尾なる社会の下層に隠れ居るわい。是は一つの掘り出しものだと謂つて、感激されたことを、怪しと思ほしてと云ふのである。御刀の端もてと云ふ事は、天祖の御遺訓の光に照し見てと云ふ事である。 『刺割きて見そなはししかば都牟刈之太刀あり』と云ふことは今迄の点検調査の方針を一変し、側面より仔細に御審査になると、四魂五情の活用全き大真人が、中の尾なる下層社会の一隅に、潜みつつあつたのを初めて発見されたと云ふことである。都牟刈之太刀とは言霊学上より解すれば三千世界の大救世主にして、伊都能売の身魂と云ふ事である。故、此太刀なる大救世主の霊魂を取り立て、異数の真人なりと驚歎され、直ちに天照大御神様、及びその表現神に大切なる御神器として、奉献されたのである。凡ての青人草を神風の吹きて靡かす如く、徳を以て万民を悦服せしむる一大真人、日本国の柱石にして世界治平の基たるべき、神器的真人を称して、草薙剣と云ふのである。八岐大蛇の暴狂ひて万民の身魂を絶滅せしめつつある今日、一日も早く草薙神剣の活用ある、真徳の大真人の出現せむことを、希望する次第である。 また草薙剣とは、我日本全国の別名である。この神国を背負つて立つ処の真人は、即ち草薙神剣の霊魂の活用者である。 (大正九・一・一六講演筆録谷村真友) |
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霊界物語 | 16_卯_丹波物語1 大江山/冠島沓島/丹波村 | 19 文珠如来 | 第一九章文珠如来〔六〇九〕 ヤンチヤ婆アの黒姫は、性来の聞かぬ気を極度に発揮し、青彦、音彦其他に向つて舌端黒煙を吐き、一人も残さず紅蓮の焔に焼き尽さむと凄じき勢なり。 黒姫『コレコレ、最前から其処に、男とも、女とも、訳の分らぬ風をして居る三五教の宣伝使、良い加減に此世に暇乞ひをしても悦子姫の阿婆擦れ女、沢山の荒男を引きつれて、女王気取りで、傲然と構へて御座るが、チト此婆アが天地の根本の道理を噛みて啣める様に言ひ聞かしてやるから、ソンナ蓑笠をスツパリと脱いで、此処へ御座れ、滅多にウラナイ教の為に悪い様な事は申さぬ。問ふは当座の恥、知らぬは末代の恥だ、此山の中で結構な神徳を戴いて、又都会へ出たら、自分が発明した様に、宣伝使面を提げて歩かうと儘ぢや。何でも聴いて置けば損は往かぬ。サアサア婆アの渋茶でも呑みて、トツクリと身魂の洗濯をしなされ。チツト此頃はお前も顔色が悪い。此黒姫が脈を執つて上げよう。……どうやら浮中沈、七五三の脈膊が混乱して居る様ぢや、今の間に療養せぬと、丸気違になつて了ふぜ。今でさへも半気違ぢや。神霊注射を行つてあげようか。それが利かなくば、モルヒネ注射でもしてやらうかい。サアサアトツトと前へ来なさい』 悦子姫『それはそれは、何から何まで御心を附けられまして、御親切有難う御座います』 黒姫『有難いか、ウラナイ教は親切なものだらう。頭の先から足の爪先、神経系統から運動機関は申すに及ばず、食道、消化機関から生殖器、何から何迄、チヤンと気をつけて、根本から説き明かし、病の根を断る重宝な教ぢや。お前も神経中枢に多少異状があると見えて、三五教の木花姫の生宮の様に、女だてら、男の風采をして、男を同伴つて、そこら中を歩きまはすのは、普通ではない。此儘放つとくと、巣鴨行をせなければならぬかも知れやしない。………サアサア此黒姫は耆婆扁鵲も跣足で逃げると云ふ義理堅い義婆ぢや。世間の奴は訳も知らずに、黒姫を何の彼のと申すけれども、燕雀何ンぞ大鵬の志を知らむやだ。三千世界の立替立直しの根本を探ると云ふ、大望なウラナイ教を、三五教の宣伝使位に分つて堪るものか。お前が此処へ来たのも、みなウラナイ教を守護し給ふ、尊き大神様の御引合せぢや。躓く石も縁の端と言つて、世界には道を歩いて居ると、沢山な石が転がつて居る。其幾十万とも知れぬ石の中に、躓く石と云つたら、僅に一つか二つ位なものだよ。これも因縁が無ければ蹴躓く事も出来なければ、蹴躓かれる事も出来やしない。同じ時代に生れ、同じお土の上に居つても、コンナ結構なウラナイ教を知らずに、三五教にとぼけて一生を送る様な事は本当に詰らぬぢやないか。何事も神様のお引合せ、惟神の御摂理、縁あればこそ、斯うしてお前は此山の奥に踏み迷ひ……イヤイヤ神様に引つ張られて来たのだ。決して決して黒姫の我で云うと思つたら量見が違ひますデ、竜宮の乙姫さまが仰有るのだ。今迄永らく海の底のお住居で、沢山の宝を海の底に蓄へて居られたのぢやが、今度艮の金神様が世にお上りなさるに就て、物質的の宝よりも、誠の宝が良いと云つて、五六七神政成就の為に、惜しげも無く綺麗サツパリと、艮の金神さまに御渡しなされると云ふ段取りぢや。併し人間は誠の宝も結構ぢやが、肉体の有る限り、家も建てねばならず、着物も着ねばならず、美味いものも食はねばならず、あいさには酒もチヨツピリ飲みたいと云ふ代物だから、形のある宝も必要ぢや。三五教の奴は「この世の宝は、錆、腐り、焼け、溺れ、朽果つる宝だ、無形の宝を神の国に積め」なぞと、水の中で屁を放いた様な屁理屈を言つて、世界の奴を誤魔化して居るが、お前等も大方其部類だらう……イヤ其通り宣伝して歩くのだらう。……能う考へて見なされ。お前だつて食はず飲まずに、内的生活ばかり主張して居つて、堂して神の道の宣伝に歩行けるか。これ程分り切つた現実の道理を無視すると云ふ教はヤツパリ邪教ぢや。瑞霊の吐す事は、概して皆コンナものだ。言ふ可くして行ふ可らざる教が何になるものか。体主霊従と霊主体従の正中を言ふのが当世ぢや。当世に合ぬ様な教をしたつて誰が聴くものか。神の清き御心に合むとすれば、暗黒なる世の人の心に合ず、俗悪世界の人の心に合むとすれば、神の心に叶はず……なぞと訳の分り切つた小理屈を、素盞嗚尊の馬鹿神が囀りよつて、易きを棄て難きに就かむとする、迂遠極まる盲信教だから、根つから、葉つから、羽が生えぬのぢや。ウラナイ教は斯う見えても、今は雌伏時代ぢや。軍備を充実した上で、捲土重来、回天動地の大活動を演じ、それこそ開いた口が塞がらぬ、牛の糞が天下を取る、アンナ者がコンナ者になると云ふ仕組の奥の手を現はして、天の御三体の大神様にお目にかける、艮の金神の仕組ぢや。三五教は艮の金神の教を樹てとる様な顔して居るが、本当は素盞嗚尊の教が九分九厘ぢや。黒姫はそれがズンとモウ気に喰はぬので、変性男子の系統の肉体の、日の出神の生宮を力と頼み、竜宮の乙姫さまの生宮となつて、外国の行方を、隅から隅迄調べあげて、今度の天の岩戸開に、千騎一騎の大活動をするのぢや。お前も、三五教の宣伝使と云ふ事ぢやが、名はどうでもよい、お三体の大神様と艮の金神様の御用を聴きさへすれば宜いのだらう。サアサア今日限り化物の様な奴の吐す事を、弊履の如く打棄てて、最勝最妙、至貴至尊、無限絶対、無始無終の神徳輝く、ウラナイ教に兜を脱いで、迷夢を醒まし、綺麗サツパリと改心して、ウラナイ教を迷信なされ、悪い事は申しませぬ、ギヤツハヽヽヽ』 悦子姫『ホヽヽヽ、アハヽヽヽ、あのマア黒姫さまの黒い口、……妾の様な口の端に乳の附いてる様な者では、到底あなたの舌鋒に向つて太刀打は出来ませぬ。あなたは何時宣伝使にお成りになりましたか、随分円転滑脱、自由自在に布留那の弁、懸河の論説滔々として瀑布の落ちるが如くですナ』 黒姫『定つた事だよ。入信してからまだ十年にはならぬ。夫れでも此通りの雄弁家だ、是れには素養がある。若い時から諸国を遍歴して、言霊を練習し、唄であらうが、浄瑠璃であらうが、浪花節であらうが、音曲と云ふ音曲は残らず上達して鍛へたのぢや。千変万化、自由自在の口車、十万馬力を掛けた輪転機の様に、廻転自由自在ぢや、オホヽヽヽ』 加米彦『モシモシ悦子姫さま、コンナ婆アに、何時までも相手になつとると、日が暮れますで、一時も早く真名井ケ原に向ひませうか』 悦子姫『アヽさうだ、折角の尊いお説教を聞かして貰うて、お名残惜しいが、先が急きますから此処らで御免蒙りませうか』 鬼虎『アーア、最前から黙つて聴いて居れば、随分能く囀つたものだ。一寸謂はれを聞けば、根つから葉つから有難い様だが、執拗う聞けば、向つ腹が立つ……お婆アさま、ゆつくり、膝とも談合、膝坊主でも抱へて、自然に言霊の停電するまで、馬力をかけ、メートルを上げなさい。アリヨース』 黒姫『待つた待つた、大いにアリヨースだ、様子あつて此婆アは、此魔窟ケ原に仮小屋を拵へ、お前達の来るのを待つて居たのだ。往くと云つたつて、一寸だつて、此婆が、是れと睨みたら動かすものか』 鬼虎『まるで蛇の様な奴ぢやナア。執念深い……何時の間にか、俺達に魅入れよつたのぢやナ』 黒姫『さうぢや、魅を入れたのぢや、お前もチツト身入れて聞いたが宜からう、蛇に狙はれた蛙の様なものぢや、此処をかへると云つたつて、帰る事の出来ぬ様に、チヤーンと霊縛が加へてある。悪霊注射も知らず識らずの間に、チヤアンと行つて了うた。サア動くなら動いて見よれ』 鬼虎『アハヽヽ、何を吐すのだ。動けぬと云つたつて、俺の体を動かすのは、俺の自由権利だ。……ソレ……どうだ。これでも動かぬのか』 黒姫『それでも動かぬぞ。お前が今晩真名井ケ原に着いて、草臥れて、前後も知らず、寝ンだ時は、ビクとも体を動かぬ様にしてやるワイ』 鬼虎『アハヽヽヽ、大方ソンナ事ぢやろと思うた。……ヤイヤイ黒姫、三五教は起きとる人間を、目の前で霊縛して動けぬ様にするのぢやぞ。一つやつてやらうか、……一二三四五六七八九十百千万……』 黒姫『一二三四五六七八心地よろづウ……ソラ何を言ふのぢや、それぢやから三五教は体主霊従と云ふのぢや。朝から晩まで、算盤はぢく様に数を数へて、一から十まで千から万まで……取り込む事につけては抜目のない教ぢや。神の道は無形に視、無算に数へ、無声に聞くと云ふのぢやないか、…何ンぢや、小学校の生徒の様に、一つ二つ三つと勿体らしさうに、……ソンナことは、三つ児でも知つてるワイ。……大きな声を出しよつて、アオウエイぢやの、カコクケキぢやのアタ阿呆らしい、何を吐すのぢやい……白髪を蓬々と生やしよつた大の男が見つともない、桶伏山の上へあがつて、イロハからの勉強ぢやと云ひよつてな、……小学校の生徒が笑うて居るのも知らぬのか、…良い腰抜だなア、それよりも天地根本の大先祖の因縁を知らずに神の教が樹つものか、三五教の様な阿呆ばつかりなら宜いが、世の中には三人や五人、目の開いた人間も無いとは謂はれぬ。其時に、昔の昔のサル昔からの因縁を知らずに、どうして教が出来るか、馬鹿も良い加減にしといたが宜からう。鎮魂ぢや、暗魂ぢやとか云ひよつて、糞詰りが雪隠へでも行つた様に、ウンウンと汗をかきよつて、何のザマぢやい、尻の穴が詰つて穴無い教と云ふのか、阿呆らしい、進むばつかりの行方で、尻の締りの出来ぬ素盞嗚尊の紊れた教、何が夫程有難いのぢや、勿体ないのぢや、サア鎮魂とやらをかけるのなら、懸けて見い、……ソンナ糞垂腰で鎮魂が掛つてたまるかイ。グヅグヅすると、妾の方から、暗魂をかけてやらうか』 加米彦『ヤア時刻が移る、婆アさま、又ゆつくりと、後日お目にかかりませう』 黒姫『後日お目にかからうと云つたつて、一寸先は闇の夜ぢや。逢うた時に笠脱げと云ふぢやないか、此笠松の下でスツクリと改心して、宣伝使の笠を脱ぎ、蓑を除り、ウラナイ教に改悪しなさい。一時も早う慢心をせぬと、大峠が出て来た時に助けて貰へぬぞや』 加米彦『アハヽヽヽ、オイ婆アさま、お前さま本気で言つてるのかい、お前の言ふ事は支離滅裂、雲煙模糊、捕捉す可らずだがナア』 黒姫『定つた事だイ、広大無辺の大神の生宮、竜宮の乙姫さまのお宿ぢや、捕捉す可らざるは竜神の本体ぢや、お前達の様な凡夫が、竜宮の乙姫の尻尾でも捉へようと思ふのが誤りぢや、ギヤツハヽヽヽ』 音彦『アヽ是れは是れは、加米彦さま、久し振ぢやつたナア』 加米彦『ヤア聞覚えのある声だが、……その顔はナンダ、真黒けぢやないか、炭焼の爺かと思つて居た、……一体お前は誰だ』 音彦『音彦だよ、北山村より此婆アの後に従いて、ドンナ事をしよるかと思つて、ウラナイ教に化け込み伴いて来たのだ。イヤモウ言語道断、表は立派で、中へ這入ると、シヤツチもないものだ、伏見人形の様に、表ばつかり飾り立てよつて、裏へ這入ればサツパリぢや。腹の中はガラガラぢや。ウラナイ教は侮る可らざる強敵と思つて今日迄細心の注意を怠らなかつたが、噂の様にない微弱なものぢや、何程高姫や、黒姫が車輪になつても、最早前途は見えて居る。吾々もモウ安心だ。到底歯牙に掛くるに足らない教理だから、わしもお前の後に伴いて、今より三五教の宣伝使と公然名乗つて行く事にしよう。此婆アさまは、如何しても駄目だ。改心の望みが付かぬ、縁なき衆生は済度し難し、……エー可憐相乍ら、見殺しかいなア』 黒姫『アーア音彦も可憐相なものだナア。如何ぞして誠の事を聞かしてやらうと思ふのに、魂が痺れ切つて居るから、食塩注射位では効験がない哩、アーア気の毒ぢや、いぢらしい者ぢや……それに付けても青彦の奴、可憐相で堪らぬ。……コラコラ青彦モ一遍、直日に見直し聞直し、胸に手を当てて能う省みて、ウラナイ教に救はれると云ふ気はないか。此婆はお前の行先が案じられてならぬワイ』 青彦『アーア、黒姫婆アさま、お前の御親切は有難い、併し乍ら、個人としては其親切を力一杯感謝する、が、主義主張に於ては、全然反対ぢや、人情を以て真理を曲げる事は出来ぬ、真理は鉄の棒の如きもの、曲げたり、ゆがめたり、折つたりは出来ない、公私の区別は明かにせなくては、信仰の真諦を誤るからナア、……左様なら…御ゆるりと御休みなされませ、私は是れから、悦子姫様のお後を慕ひ、一行花々しく、悪魔の征討に向ひます。ウラナイ教が何程、シヤチになつても、釣鐘に蚊が襲撃する様なものだ。三五教は穴が無いから大丈夫だ。水も洩らさぬ神の教、御縁が有つたら又お目に掛りませう』 黒姫『アーア、縁なき衆生は度し難しか、……エー仕方がないワイ………ウラナイ教大明神、叶はぬから霊幸倍坐世、叶はぬから霊幸倍坐世、……ポンポン』 魔窟ケ原の黒姫が伏屋の軒に暇乞ひ 日は西山に傾いて附近を陰に包めども 四方の景色は悦子姫松吹く風の音彦や 秋山彦の門番と身をやつしたる加米彦が 顔の色さへ青彦を伴なひ進む九十九折 鬼の棲処と聞えたる大江の本城左手に眺め 鬼彦、鬼虎、岩、市、勘公引連れてさしも嶮しき坂路を 喘ぎ喘ぎて登り行く地は一面の銀世界 脛を没する雪路を転けつ転びつ汗水を 垂らして進む岩戸口折柄吹き来る雪しばき 面を向くべき由もなく笠を翳して下り行く 夜の帳はおろされて遠音に響く波の音 松の響も成相の空吹き渡る天の原 天の橋立下に見て雪路渉る一行は 勇気日頃に百倍し気焔万丈止め度なく 文珠の切戸に着きにけり。 青彦『アーア、日も暮れたし、前途遼遠、足も良い程疲労れました。アヽ文珠堂の中へ這入つて一夜を凌ぎ、団子でも噛つて休息致しませうか』 悦子姫『何れもさま方、随分御疲労でせう。青彦さまの仰有る通り、あのお堂の中で、兎も角休息致しませうか』 一同此言葉に『オウ』と答へて、急ぎ文珠堂に向つて駆けり行く。 鬼虎『ヤア此処へ来ると、何時やらの事を連想するワイ、恰度今夜の様な晩ぢやつた。此様に雪は積つて居らぬので、あたりは真暗がり、鬼雲彦の大将の命令に依つて、あの竜灯松の麓へ、悦子姫さま達を召捕に行つた時の事を思へば、全然夢のやうだ。昨日の敵は今日の味方、天が下に敵と云ふ者は無きものぞと、三五教の御教、つくづくと偲ばれます。其時に悦子姫さまに霊縛をかけられた時は、どうせうかと思つた。本当に貴女も随分悪戯好の方でしたなア』 悦子姫『ホヽヽヽヽ』 鬼彦『オイオイ鬼虎、貴様はお二人の中央にドツカリ坐りよつて、良い気になつて居たのだらう』 鬼虎『馬鹿言へ、何が何だか、柔かいものの上に、ぶつ倒れて、気分が悪いの、悪くないのつて、何分正体が分らぬものだから、ホーズの化物が出たかと思つて気が気ぢやなかつたよ、それに就けても、生者必滅会者定離、栄枯盛衰、有為転変の世の中無常迅速の感愈深しだ。飛ぶ鳥も落す勢の鬼雲彦の御大将は、鬼武彦の為に伊吹山に遁走し、吾々は四天王と呼ばれ、随分羽振を利かした者だが、変れば替はる世の中だ。あの時の事を思へば、長者と乞食程の懸隔がある。三五教の宣伝使の卵になつて悦子姫さまのお供と迄、成り下つたのか、成上がつたのか知らぬが、モ一度、あの時の四天王振が発揮したい様な気もせぬ事はない。アーア誠の道は結構なものの、辛いものだ。 あひ見ての後の心に比ぶれば昔は物を思はざりけり だ。善悪正邪の区別も知らず、天下を吾物顔に、利己主義の自由行動を採つた時の方が、何程愉快だつたか知れやしない、吁、併し乍ら人間は天地の神を畏れねばならぬ、今の苦労は末の為だ。アーアコンナ世迷言はヨウマイヨウマイ。神直日大直日に……神様、見直し聞直して下さい。私は今日限り、今迄の繰言を宣り直します。アヽ、惟神霊幸倍坐世』 青彦『因縁と云ふものは妙なものですな、同じ此竜灯の松の下蔭に於て、捉へようとした宣伝使を師匠と仰いで、お伴をなさるのは、反対に悦子姫様の擒となつた様なものだ。アハヽヽヽ、吾々も全く三五教の捕虜になつて了つた。それに就けても、執拗なのは黒姫ぢや、何故あれ程頑固なか知らぬ、どうしても彼奴ア改心が出来ぬと見えますなア』 音彦『到底駄目でせう。私もフサの国の北山のウラナイ教の本山へ、信者となり化け込みて、内の様子を探つて見れば、何れも此れも盲と聾ばつかり、桶屋さまぢやないが、輪変吾善と思つてる奴ばつかり、中にも蠑螈別だの、魔我彦だのと云ふ奴は、素的に頑固な分らぬ屋だ。高姫黒姫と来たら、酢でも蒟蒻でもいく奴ぢやない。どうかして帰順さしたいと思ひ、千辛万苦の結果、黒姫の荷持役とまで漕ぎつけ、遥々と自転倒島まで従いて来て、折に触れ物に接し、チヨイチヨイと注意を与へたが、元来が精神上の盲聾だから、如何ともする事が出来ない。私も加米彦さまに会うたのを限として、此処迄来たのだが、随分ウラナイ教は頑固者の寄合ですよ』 加米彦『フサの国で、あなたが宣伝をして居られた時、酒を飲むな酒を飲むなと厳しい御説教、私はムカついて、お前サンの横面を、七つ八つ擲つた。其時にお前サンは、痛さを堪へて、ニコニコと笑ひ、禁酒の宣伝歌を謡うて御座つた、その熱心に感じ、三五教を信じて、村中に弘めて居つた処、バラモン教の捕手の奴等に嗅付けられ、可愛い妻子を捨てて、夜昼なしに、トントントンと東を指して駆出し、月の国まで来て見れば、此処にもバラモン教の勢力盛ンにして、居る事が出来ず、西蔵を越え、蒙古に渡り、天の真名井を横断つて暴風に遭ひ、船は沈み、底の藻屑となつたと思ひきや、気が附けば由良の湊に真裸の儘横たはり、火を焚いて焙られて居た。「アーア世界に鬼は無い、何処の何方か知りませぬが、生命を御助け下さいまして有難う」と御礼を申し見れば秋山彦の御大将、生命を拾つて貰うた恩返しに、門番となり、馬鹿に成りすまし勤めて来たが、人間の身は変れば替はるものぢや、世界は広い様なものの狭いものぢや。フサの国で、あなたを虐待した私が、又あの様な破れ小屋でお目にかからうとは神ならぬ身の計り知られぬ人の運命だ…………アヽ惟神霊幸倍坐世、三五教の大神様有難う御座います、川の流れと人の行末、何事も皆貴神の御自由で御座います。どうぞ前途幸福に、無事神業に参加出来まする様、特別の御恩寵を垂れさせ給はむ事を偏に希ひ上げ奉ります』 悦子姫『サアサア皆さま、天津祝詞を奏上致しませう』 一同は『オウ』と答へ、声も涼しく奏上し終る。 悦子姫『サア皆さま、坊主は経が大事、吾々は又明日が大切だ。ゆつくりとお休みなされませ。妾は皆さまの安眠を守る為、今晩は不寝番を勤めませう』 鬼虎『ヤア滅相な、あなたは吾々一同の為には御大将だ。不寝番は此鬼虎が仕りませう。どうぞお休み下さいませ』 悦子姫『さうかナ、鬼虎さまに今晩は御苦労にならうか』 と蓑を纒うた儘、静かに横たはる。一同は思ひ思ひに横になり、忽ち鼾声雷の如く四辺の空気を動揺させつつ、華胥の国に入る。鬼虎は不寝番の退屈紛れに雪路をノソノソと歩き出し、何時の間にやら、竜灯の松の根元に着き、ふつと気が付き、 鬼虎『あゝ此処だ此処だ、悦子姫に霊縛をかけられた古戦場だ。折から火光天を焦して竜灯の松を目蒐けて、ブーンブーンと唸りを立てて遣つて来た時の凄じさ、今思つても竦然とするワイ。あれは一体何の火だらう。人の能く言ふ鬼火では有るまいか。鬼虎が居ると思つて、鬼火の奴、握手でもせうと思ひよつたのかナア。霊魂もお肉体もあの時はビリビリのブルブルぢやつた。どうやら空の様子が可笑しいぞ、真黒けの鬼が東北の天に渦巻き始めた。今度こそ遣つて来よつた位なら、一つ奮戦激闘、正体を見届けてやらねばなるまい。是れが宣伝使の肝試しだ。オーイ、オイ、鬼火の奴、鬼虎さまの御出張だ、三五教の俄宣伝使鬼虎の命此処に在り、得体の知れぬ火玉となつて現はれ来る鬼火の命に対面せむ』 とお山の大将俺一人気取になつて、雪の中に呶鳴つて居る。忽ち一道の火光、天の一方に閃き始めた。 鬼虎『ヤア天晴々々、噂をすれば影とやら、呼ぶより譏れとは此事だ。鬼虎の言霊は、マアざつと斯くの通りぢや。一声風雲を捲き起し、一音天火を喚起す。斯うなつては天晴れ一人前のネツトプライス、チヤキチヤキの宣伝使ぢや、イザ来い来れ、天火命、此鬼虎が獅子奮迅の活動振り……イヤサ厳の雄猛び踏み健び御覧に入れむ』 言下に東北の天に現はれたる火光は、巨大なる火団となりて、中空を掠め、四辺を照し、竜灯の松目蒐けて下り来る。 鬼虎『ヨウ大分に張込みよつたな、此間の奴の事思へば、余程ネオ的だとみえる。容積に於て、光沢に於て天下一品だ……否天上一品だ。サア是れから腹帯でもシツカリ締て、捻鉢巻でも致さうかい、腹の帯が緩むとまさかの時に忍耐れぬぞよと、三五教の神様が仰有つた。サアサア鬼虎さまの肝玉が大きいか、天火の命の火の玉が大きいか、大きさ比べぢや』 火団は竜灯の松を中心に、円を描き、地上五六尺の所まで下り来り、ブーンブーンと唸りを立て、ジヤイロコンパスの様に、急速度を以てクルクルと回転し居たり。 鬼虎『ヤイヤイ火の玉、何時までも宙にぶら下がつて居るのは、チツト、ノンセンスだないか、良い加減に正体を現はし、此方さまと握手をしたらどうだい。お前は天の鬼火命、俺は地の鬼虎命だ、天地合体和合一致して、神業に参加せうではないか。是れからは火の出の守護になるのだから、貴様のやうな奴は時代に匹敵した代物だ……イヤ無くて叶はぬ人物だ。サアサア早く、天と地との障壁を打破して、開放的にならぬかい。お前と俺と互にハーモニーすれば、ドンナ事でも天下に成らざるなしだ』 火団は忽ち掻き消す如く、姿を隠しけるが、鬼虎の前に忽然として現はれた白面白衣のうら若き美女、紅の唇を開き、 女『ホヽヽヽヽ、お前は鬼虎さまか、ようマア無事で居て下さつたナア』 鬼虎『何ぢやア、見た事も無い、雪ン婆アの様な真白けの美人に化けよつて、雪に白鷺が下りた様に、白い処へ白い者、一寸見当の取れぬ代物だナア。俺を知つて居るとは一体どうした訳だ、俺は生れてから、お前の様な美人に会つた事は一度も無い、何時見て居つたのだ』 女『ホヽヽヽヽ、モウ忘れなさつたのかいなア、覚えの悪い此方の人、お前は今から五十六億七千万年のツイ昔、妾が文珠菩薩と現はれて、此切戸に些やかな家を作り、一人住居をして居つた所へ、年も二八の優姿、在原の業平朝臣の様な、綺麗な顔をして烏帽子直垂で、此処を御通り遊ばしただらう。其時に妾は物書きをして居つたが、何だか香ばしき匂ひがすると思つて、窓から覗けば、絵にある様な殿御のお姿、ホヽヽヽヽおお恥し……其一刹那に互に見合す顔と顔、お前の涼しい……彼の時の眼、何百年経つても忘られようか、妾が目の電波は直射的にお前の目に送られた。お前も亦「オウ」とも何とも言はずに、電波を返した……。あの時のローマンスをモウお前は忘れたのかいなア。エーエ変はり易きは殿御の心、桜の花ぢやないが、最早お前の心の枝から、花は嵐に打たれて散つたのかい……、アーア残念や、口惜しや、男心と秋の空、妾は神や仏に心願掛けて、やつと思ひの叶うた時は、時ならぬ顔に紅葉を散らした哩なア、オホヽヽヽ、恥しやなア』 鬼虎『さう言へば、ソンナ気もせぬでも無いやうだ。何分色男に生れたものだから、お門が広いので、スツカリ心の中からお前の記憶を磨滅して居たのだ。必ず必ず気強い男と恨めて呉れな。是れでも血も有り、涙も有る。物の哀れは百も承知、千も合点だ。サア是れから互に手に手を取かはし、死なば諸共、三途の川や死出の山、蓮の台に一蓮托生、弥勒の代までも楽みませう』 女『ホヽヽヽ、好かぬたらしいお方、誰がオ前の様な山葵卸の様な剽男野郎に心中立するものかいナ。妾は今其処に、天から下りて御座つた日の出神様にお話をしとるのだよ。良い気になつて、お前が話の横取りをして、色男気取りになつて……可笑しいワ、ホヽヽヽ』 鬼虎『エーツ何の事だ。人を馬鹿にしよるな、まるで夢のやうな話だワイ』 女『ホヽヽヽ、夢になりとも会ひたいと云ふぢやないか。妾の様な女神を掴まへて、スヰートハートせうとは、身分不相応ですよ。馬は馬連れ、牛は牛連れ、烏の女房はヤツパリ烏ぢや。此雪の降つた白い世界に烏の下りたよな黒い男を、誰がラブする物好があるものか。自惚も程々になさいませ。オツホヽヽヽ、おかしいワ……』 鬼虎『エー馬鹿にするな、俺を何と思つて居る。大江山の鬼雲彦が四天王と呼ばれたる、剛力無双のジヤンヂヤチツクのジヤンジヤ馬、鬼虎さまとは俺の事だよ。繊弱き女の分際として、暴言を吐くにも程が有る。サアもう量見ならぬ。この蠑螺の壺焼を喰つて斃ばれ』 と力限りに、ウンと斗り擲り付けたり。 悦子姫『アイタタタ…誰だイ、人が休眠みてるのに、……力一杯頭を擲ぐるとはあまりぢやありませぬか』 鬼虎『ヤア、済みませぬ。悦子姫さまで御座いましたか。ツイ別嬪に翫弄にしられた夢を見まして、力一杯擲つたと思へば、貴女で御座いましたか。ヤア誠に済まぬ事を致しました。真平御免下さいませ。決して決して、悪気でやつたのぢや御座いませぬ』 悦子姫『ホヽヽヽ、三五教に這入つても、ヤツパリ美人の事は忘れられませぬなア』 鬼虎『ヤアもう申訳も御座いませぬ。世の中に女がなくては、人間の種が絶えまする。日の出神も素盞嗚尊も、世界の英雄豪傑は、みな女から生れたのです。 故郷の穴太の少し上小口ただぼうぼうと生えし叢 とか申しまして、女位、夢に見ても気分の良い者は有りませぬワ、アハヽヽヽ』 鬼彦『ナヽ何ンぢや、夜の夜中に大きな声で笑ひよつて、良い加減に寝ぬかイ。明日が大事ぢやぞ。貴様は、……今晩私が不寝番を致します……なぞと、怪体な事をぬかすと思つて居たが、悦子姫さまの綺麗な顔を、穴の開く程覗いて居よつただらう。デレ助だなア』 鬼虎『馬鹿を言ふない。俺は職務忠実に勤める積りで居つたのに、何時の間にか、ウトウト睡魔に襲はれ、竜灯松の下へ行つて別嬪に逢うた夢を見て居つたのぢや。聖人君子でなくてはアンナ愉快な夢は見られないぞ。貴様のやうな身魂の曇つた人間は、到底アンナ夢は末代に一度だつて見られるものかい』 鬼彦『アツハヽヽヽ、その後を聞かして貰はうかい。他人の恋女に岡惚しよつて、色男気取りになつて、肱鉄を喰つた夢を見よつたのだらう。大抵ソンナものだよ、アハヽヽヽ。早く寝ぬかい、夜が明けたら又、テクつかねばならぬぞ』 此の時天の一方より、今度は真正の火団閃くよと見る間に、竜灯松を目蒐けて、唸りを立て矢を射る如く降り来り、一同の前にズドンと大音響を発し、爆発したり。火光はたちまち、花火の如く四方に散乱し、数百千の小さき火球となつて、地上二三丈許りの所を、青、赤、白、紫、各種の色に変じ、蚋の餅搗する如くに浮動飛散し始めたる。其壮観に一同魂を抜かして見惚れ居る。吁、此火光は何神の変化なりしか。 (大正一一・四・一六旧三・二〇松村真澄録) |
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霊界物語 | 17_辰_丹波物語2 丹波村/鬼ケ城山 | 09 大逆転 | 第九章大逆転〔六二〇〕 比沼の真名井ケ原に現はれ給ふ豊国姫の瑞の宝座に詣でたる平助親子三人は、珍の聖地を踏みしめて心も勇み、意気揚々と帰り来る。雪積む道を苦にもせず、杖を曳きつつ漸う荒屋の門口に着きにけり。 平助『お蔭で無事に下向が出来た。サアサアお楢、早うお湯を沸かしてくれ、足でも洗つて悠くり休まうぢやないか』 お節『イエイエ、お爺さま、妾が湯を沸かします。お婆アさま、何卒お休み下さいませ』 お楢『イヤイヤ、お前は永らく彼の様な暗い穴の中に閉ぢ籠められて居つたのだから、火を焚いて目が悪くなるといかぬ、此婆が焚きますから、サアサア親爺どの、水を汲みて下され』 お節『お爺さま、妾が水を汲みます、何卒お休み下さい』 平助『イヤイヤお前は身体が弱つてる、此爺が汲みてやるから湯が沸く迄、マアマアゆつくりして居るがよい』 爺は撥釣瓶を覚束なげに何回も右左にブリンブリンと振り廻し漸う半分ばかり汲み上げ、汲み上げては手桶に移し又汲み上げては手桶に移し、 平助『サアサアお楢、水が汲めた、早う沸かしてくれ、アーア年が寄ると水も碌に汲めはせないワ』 お楢『老ては子に従へと云ふ事がある、何でお節に汲ましなさらぬのぢや、それだからお前は何時も我が強いと言ふのぢや、若し腰の骨でも折つたら如何なさる、お前の難儀許りぢや無い、婆もお節も総体の難儀ぢやないか』 平助『エー八釜しう云ふない、何程年が寄つても水位は提げえでかい』 と手桶に一杯盛つた水を、ヨロヨロと提げ乍ら、庭の滑石に滑つてスツテンドウと仰向にひつくり覆り、 平助『アイタヽ、ウンウン』 と呻つたきり庭の真中に打つ倒れける。お楢、お節は驚き、気も狂乱し、爺の頭部足部に走り寄り、 お楢『お爺さま、オーイオーイ、気をつけなさいのう』 お節も、 お節『お爺さまお爺さま』 と泣き猛る。 お楢『アーア、如何しても此奴はいかぬ、サアサアお節、もう斯うなつては神様をお願するより仕方がない、お前は三五教とやらの歌を知つてるさうぢや、何卒早く歌つて爺さまの息を吹き返して下され』 お節『ハイハイ、承知致しました、お婆さま早くお爺さまに気を注けて下さい、一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、百、千、万』 と三四回繰返せば、平助は漸く呼吸を吹き返し、 平助『アーア、えらい事ぢやつた、天は青く山も野も緑の色を帯び、種々の美しい花は処狭きまで咲き匂ひ、何とも云へぬ美しい大鳥小鳥は涼しい声を出して、常世の春を歌ひ、其辺処一面の花莚、何とも云へぬ綺麗な綺麗な田圃道を進み行くと、向ふの方に何とも云へぬ立派な三重の塔が見えた。其塔は上から下まで黄金作り、それに日輪様がキラキラと輝いて何とも云へぬ爽快な思ひに充され、一時も早く其処へ行き度い様な気がして杖を力に一生懸命に駆出すと、遠い遠い後の山より幽に聞ゆるお楢の声、続いて可愛らしいお節の声がフツと耳に這入つたので、アヽ折角コンナ綺麗な処に来て居るのに何故馬鹿娘が俺を呼び止めるのか、アヽ情ない奴ぢや、然し乍ら久し振りで会うた娘、何時もならば頑張つて呼び止めた位に後戻りする平助ぢやないが、あまり娘が可愛い声で悲し相に呼ぶものだから、フツと立ち止まり聞いて居れば、誰だか知らぬが俺の年を一つ二つ三と数へ出し、終には百千万と呼びて居る。アヽ俺は見慣れぬ結構な処へ来て居るが、之はヒヨツとしたら神界を旅行してゐるのではあるまいか、まだまだ七十や、そこいらで神界へ来るのぢやない、百千万の年を現界で苦労せなくてはコンナ結構な処へは来られぬのぢやと思ふ刹那に気がつけば、水だらけの庭に打つ倒れて居つたのか、アヽ情ない情ない、コンナ事なら後戻りをせなかつた方が良かつたに、又娑婆で一息苦労をせにやならぬかいな』 お楢『コレコレ親爺どの、それやお前何を云ふのだい、二世も三世も先の世かけても誓うた夫婦の仲、此婆一人を娑婆に残して置いて、お前ばつかり極楽へ行つて済むのかいなア』 平助『アヽさうだつたな、あまり結構な処でお前の事は何時の間にやら念頭を去つて居たよ、然し乍ら目をまはして夢を見て居つたのだ、夢物語を捉へてさう真剣に怒つて貰うては困るぢや無いか、ア、お節か、何卒二人寄つて俺の身体を介抱して寝床を敷いて休まして呉れ、何だか腰の具合が変だから』 お楢、お節は涙乍ら寝床を拵へ足の掃除もそこそこに平助を抱へて床に休ませたるが、それより平助は発熱し毎日日にち囈言を云ひ半月ばかり経て遂に帰幽したりける。お楢、お節は死骸に取り着き号泣し漸く野辺の送りも済ませ其後二人は日課の様に朝昼晩と三回常磐木の枝を折つては供へ水を持ち搬びて亡き人の霊を慰めて居たり。お楢婆アは爺に先立たれ、娘のお節を力に面白からぬ月日を送り居たりけり。 然るにお節は平助の帰幽した頃より身体益々痩衰へ又もや床にべつたり着き囈言さへ言ふ様になりければ、婆は堪まり兼ね一生懸命に真名井ケ原に跣参詣を初め彼の比治山峠を登りつめると例の黒姫が白壁の様に皺苦茶顔をコテコテ塗り立て花を欺く妙齢の照子、清子の二人と共に前方に立ち塞がり、 黒姫『これこれ、お婆さま、お前は此間此処を通つた親子三人連れの婆さまぢやないか。又しても又しても素盞嗚尊の悪神の教を迷信して真名井山へ詣るのだな』 お楢『ハイハイ左様で御座います、力と頼む親爺どのは神様に詣つて帰るが早いか庭で打ち倒けて、それが原因となり夜昼苦しみた揚句、到頭あの世の人となつて仕舞ひました、オーン、オンオン』 と泣き崩れる。黒姫はニヤリと笑ひ、 黒姫『さうぢやろさうぢやろ、アンナ処へ俺の親切を無にして詣るものだから、瑞の霊の悪神に大切な生命をとられて仕舞うたのぢや。ようまアお前胸に手を当てて考へて見なさい、神様へ詣るのは倒けて死ぬのが目的ぢやあるまい、千年も万年も長生して孫から曾孫、玄孫まで生みて、百年も二百年も長生出来る様に詣るのぢやないか、それに何の事ぢや、神様に詣つて帰るなりウンと、畳の上ならまだしもだが庭の真ン中に糞蛙を打つ付けた様にフン伸びて、おまけに水迄被つて寂滅する様な信心が何になるかいな、それぢやから彼れ程俺が親切に止めたのぢや、土台お前の親爺は屁の様な名でも仲々我が強いから罰は覿面ぢや。愚図々々して居るとお前の娘まで生命をとられ、終にはお前も死ンで仕舞ふぞや、メソメソと何程泣いたつて後の後悔先に立たずぢや、エーもう死ンだ爺は仕方が無いとして、お前丈けなりと長生するやうに綺麗薩張と改心して、三五教の神を河へでも流し、結構な結構なウラナイ教の誠の艮の金神様をお祭りなされ、何時迄も頑張つて居るとド偉い事が出来ますぜ、大方お前の娘も青い顔して居つたが、今頃は三つ児が痺疳を病みた様にヒーヒー云うて朝から晩まで、ひしつて居るだらう』 お楢『ハイハイ仰しやる通り爺さまと云ひ、大切の孫娘は何だか知らぬが日に日に身体は痩る、日向に氷が溶ける様に息の音まで細つて行きます。私も親爺どのに先立たれ、力と思ふ孫娘は何時死ぬやら分らぬ様な大病に罹り、其上耳は遠くなり腰は曲り、足は碌に動きませぬ。アヽコンナ事なら親爺どのと一緒に死ンだがましぢやつたと、昨夕も一人そつと墓へ参り「親爺どの、何卒私も早う呼びに来て下さい、浮世が嫌になつた、お前と一緒にあの世で暮したいから」と一生懸命に頼みて居りましたら、死ンでも正念があると見えまして、親爺の姿が墓の中からポツと現はれ「お前は女房のお楢か、能う云うて呉れた、ソンナラ俺が之から冥途へ連れて行つてやらう」と嫌らしい顔して云ひました。私も俄に死ぬのが嫌になり「今度の今度の其今度、十年二十年三十年、百年経つた其上に迎ひに来て下され」と吃驚して倒けつ転びつ吾家へ帰つて見れば、娘のお節が何だか知らぬが青彦々々と夢中になつて嫌らしい声を出して居ります。親爺どのの墓では青い火に蒼い面を見せられ生命からがら逃げて来れば、一人の娘は熱に浮かされて青彦々々と夢中になつて呻いて居る、如何して之が堪りませうかいな、アーン、アンアン、ウーン、ウンウン』 と泣き崩れ居る。 黒姫『何、お前の娘のお節が青彦々々と呼びて居るか、それは偉いものぢや、お前は俺の言ふ事を聞いてウラナイ教になりなさい、そしたら娘の病気は千に一も助かるかも知れませぬよ、お前も死に度い死に度いと云つても、サア今となれば矢張死ぬのが嫌だらう、千年も万年も長生の出来るウラナイ教の神様を信心しなさい、之から俺がお前の宅へ行つて、三五教の神様が祭つてあれば放り出し、ウラナイ教の大神様を祭つて上げよう』 お楢『イエイエ、まだ三五教の神様は祭つて御座いませぬ、娘のお節が助けられたと云ふので信心をして居るので御座います、恰度幸ひお前さまが来て祭つて下されば娘の病気は癒るだらうし、俺も長生が出来ませうから、一時も早く頼みますわいな、ウン、ウン、ウン(泣声)』 黒姫『よしよし祭つては上げるが、さう軽々しう結構な神様だから、荷物を持ち運ぶ様にはいけませぬ、マアお節どのにも篤り云ひ聞かし、三五教を思ひ断らした其上で祭つて上げ様かい、サアサ之より早く比沼の真名井の瑞の宝座とやらを拝みて来なさい、さうして又帰つて庭に大の字になつて……オホヽヽヽ』 お楢『イエイエ如何して如何して、貴女のお話を聞いた上は誰が真名井等へ詣りませうか、あの時にも俺はお前さまの話を聞いて耳を傾け改心しかけて居つたのだが、昔気質の親爺どのなり娘のお節が聞かぬものだから仕方なしに詣りました、あの時貴女の仰しやる通りにして置けば宜かつたのに、親爺どのも取り返しのならぬ下手をしたものぢやわいな、アーン、アンアン』 黒姫『サア婆さま、決心がきまつたら仕方がない、俺が特別待遇で出張してあげよう、お前は余程型の良いお方ぢや、俺に直接来て貰うと云ふ様な事は滅多に無いぞえ』 お楢『ハイハイ、お勿体ない、有難う御座います、お蔭様でお節の病気も本復致しませう、何分宜しくお頼み申します』 黒姫『アーア、生神様になると忙しいものだ、たつた一人の娘でも皆天地の神の分霊に違ひはない、一視同仁、至仁至愛の心を出して助けて上げようかい、サアサア照さま、清さま、お前も一緒に跟いて来るのだよ、これこれお楢さま、嬉しいかい』 お楢『ハイハイ、有難う御座います、ソンナラ之から私が御案内致しませう』 黒姫『よしよし行つてあげよう、お前は余つ程幸福者ぢや、もう之で真名井山を思ひ切つたぢやらうな』 お楢『ヘイヘイ、誰が真名井山なぞへ参りますものか』 と先に立つて行く。黒姫はしすましたりと北叟笑み乍ら二人の娘を伴ひ丹波村の婆が伏屋を指して意気揚々と進み行く。 (大正一一・四・二二旧三・二六北村隆光録) |
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霊界物語 | 17_辰_丹波物語2 丹波村/鬼ケ城山 | 10 四百種病 | 第一〇章四百種病〔六二一〕 真名井ケ原の珍の宝座に参拝せむと、息せき切つて進み行きたるお楢は、ゆくりなくもウラナイ教の鍵鑰を握れる女豪傑黒姫に説き伏せられ、くれりと心機一変し、手の掌足の裏を覆して、スタスタと黒姫一行を伴ひ、漸く丹波村の伏屋に着きにける。 お楢『モシモシ、ウラナイ教の大将様、此処が私の荒屋で御座います。サアサアどうぞお這入り下さいませ。嘸お疲労でせう』 黒姫『ナニ、これしきの雪道で疲労るやうな事で、三千世界の神界の御用が出来ますものか、ウラナイ教にはソンナ弱虫は居りませぬ、オホヽヽヽ』 お楢『どうぞ気をつけてお這入り下さい、大江山の鬼落しが掘つて御座いますから、ウカウカ這入ると大変な事が出来致します。サアサア私の通る処を足をきめて通つて下され、一足でも外を歩くと、陥穽へ落ち込みますから』 黒姫『ナント用心の良い事だナア、アヽ感心々々、何と云うても比沼の真名井に瑞の霊の悪神が現はれる世の中ぢやから、この位の注意はして置かななりますまい。サアサア、照さま、清さま、私の後を踏みて来るのだよ』 お楢『モウ大丈夫で御座います。サアサアどうぞお上り下さいませ』 黒姫『ハヽア、平助どのはこの井戸の水を汲みて倒けたのだな。ホンニホンニ危なさうな井戸ぢや。お婆アさま、お前も随分年をとつて居るから気を付けなされよ』 お楢『有難う御座います。娘も嘸喜ぶことで御座いませう』 お節は夢中になつて、 お節『青彦さま、青彦さま』 と呼ンで居る。 黒姫『ドレドレ、これから神さまへ御祈念をして上げよう。それについても一つ妾の話を篤りと聞いた上の事だ。お婆アさま、聞きますかな』 お楢『有難い神さまのお話、どうぞ聞かして下さいませ』 黒姫『この娘の病気は、全体けつたいな病ぢや。病気には四百種病というて沢山な病がある。其中でも百種の病は放つて置いても癒る。あとの百種は薬と医者とで全快する。又あとの百種は、神さまぢや無いと癒らぬのぢや。そして、あとの百種は神さまでも医者でも薬でも癒りはせぬ。これを四百種病と云ふのだ。この娘は第三番目に言うた神信心で無ければ到底癒らぬ。お医者さまでも有馬の湯でもと云ふ怪体な粋な病気ぢや、青彦々々と云ふのは、大方妾の使つて居るウラナイ教の宣伝使、今は三五教に呆けて、この間も音彦とやらの後についてウロついて居た男ぢや。この娘が快くなつたら青彦を養子に貰ひ、娘から青彦を説きつけて、又旧のウラナイ教に逆戻りさせる神様のお仕組の病気に違ひない。お婆アさま、これを良く承知して居て貰はぬと癒す事は出来ぬぞい』 お楢『ハイハイ、ドンナ事でも生命さへ助けて下されば承はります』 黒姫『サア、これから日の出神様のお筆先を頂くから聞きなされ、このお節の守護神にも読みて聞かして改心致させねば、三五教の悪守護神が憑いて居るから、追ひ出す為に結構な御筆先を聞かして上げよう。謹みて聞きなされや』 筆先『変性男子の系統の御身魂、日の出の神の生宮、常世姫命と現はれて、高姫の肉体を藉りて、三千世界の世の初まりの、根本の根本の、身魂の因縁性来から、大先祖がどう成つて居ると云ふ事を明白に説いて聞かす筆先であるぞよ。変性男子は経の御役、誠生粋の正真の大和魂、一分一厘違へられぬ御役であるぞよ。毛筋の横巾も変性男子の系統の肉体に憑つて書いた事は間違ひは無いぞよ。三千世界の大立替大立直しの根本の結構な御筆先であるぞよ。変性女子の身魂は緯の御用であるぞよ。緯はサトクが落ちたり、糸が切れたり、色々と致すから当にならぬ悪のやり方であるから、変性女子の書いた筆先も、申す事も、行状も真実に致すでないぞよ。一つ一つ審神を致さねば、ドエライ目に会はされるぞよ。女子の御役は悪役で、気の毒な御用であるぞよ。身魂の因縁性来で、善と思うて致す事が皆悪になるぞよ。善にも強い悪にも強い常世姫の筆先、耳を浚へて確り聞いて下されよ。毛筋も違はぬ誠一つの、生粋の大和魂の、日の出神の生宮の常世姫命の性来、金毛九尾の悪神を、一旦キユウと腹に締め込みて改心させる御役であるぞよ。それに就いても黒姫の御用、誠に結構な御役であるぞよ。竜宮の乙姫さまがお鎮まり遊ばして御座るぞよ。魔我彦には日の出神の分霊、柔道正宗が守護致すぞよ。蠑螈別には大広木正宗の守護であるぞよ。此神一度筆先に出したら、何時になりても違ひは致さぬぞよ。違ふ様にあるのはその人の心が違うからだぞよ。唐と日本の戦ひが始まるぞよ。日の出神の教は日本の教であるぞよ。変性女子の教はカラの教であるぞよ。変性男子の筆先と、日の出神の筆先とをよつく調べて見て下されよ。さうしたら変性女子の因縁がすつくり判りて来て、ドンナ者でも愛想をつかして逃げて去ぬぞよ。アフンと致さなならぬぞよ。常世姫の御魂の憑るこの肉体は、昔の昔のさる昔、またも昔のその昔、モ一つ昔の大昔から、此世の御用さす為に、天の大神が地の底に八百万の神に判らぬ様に隠して置かれた誠一つの結構な生身魂であるから、世界の人民が疑ふのは無理なき事であるぞよ。神の奥には奥があり、その又奥には奥があるぞよ。三千年の深い仕組であるから、人民の智慧や学では、ソウ着々と判る筈は無いぞよ。今迄の腹の中の塵埃をすつくりと吐き出して誠正真の生粋の大和魂に成りて下さらぬと、誠のお蔭を取り外すぞよ。アフンと致して眩暈が来るぞよ。何程変性女子が鯱になりて耐りても、誠の神には叶はぬぞよ。此の肉体は元を査せば、変性男子の生粋の身魂から生れて来た女豪傑、若い時分から男子女と綽名を取つた、天狗の鼻の高姫であるぞよ。今はフサの国の北山村のウラナイ教の太元の、神の誠の柱であるぞよ。此世を水晶に立直す為に、永い間隠してありた結構な身魂であるぞよ。世界の人民よ、改心致されよ。誠程結構は無いぞよ。苦労の花が咲くのであるぞよ。苦労無しにお蔭を取らうと致して、変性男子の系統を抱き込みて、我身の我で遣らうと致したらスコタンを喰うぞよ。開いた口がすぼまらぬ、牛の糞が天下を取るとは、今度の譬であるぞよ。神の申す事をきかずに遣つて見よれ、十万億土の地獄の釜のドン底へ落して了ふぞよ、神界、幽界、現界の誠の救ひ主は、変性男子と日の出神の生宮とであるぞよ。女子の身魂は此世の紊れた遣り方を見せるお役、天の岩戸を閉める御苦労なかけ替への無い身魂であるぞよ。これも身魂の因縁性来で、昔の因縁が廻つて来たのであるから、神を恨めて下さるなよ。吾身の因縁を恨みて置こうより仕方が無いぞよ。天にも地にもかけ替への無い日の出神の生宮が、三千世界の神、仏事、守護神、人民に気をつけて置くぞよ。改心さへ出来て、この常世姫の申す事が判りたら、如何な事でも叶へてやるぞよ。病位は屁でも無いぞよ。魂を磨いて改心なされ。常世姫が気をつけた上にも気を付けるぞよ。俄信心間に合はん。信心は正勝の時の杖に成るぞよ。一時も早く身魂の洗濯いたして、神に縋りて下されよ。昔は神はものは言はなかつたぞよ。時節来りて艮の金神世に現はれて、三千世界の立替へ立直しを遊ばすについて、第一番に、御改心なされたのが竜宮の乙姫様であるぞよ。この竜宮の乙姫様は、黒姫の肉体にお鎮まり遊ばして、日夜に神界の御苦労に成りて居るから、粗末に思うたら、神の気ざわりに成るぞよ。高姫の肉体は元の性来が勿体なくも天の大神様の直々の分霊であるから、日の出神が引つ添うて、世の立替の地となつて、千騎一騎の御活動を遊ばす御役となりたぞよ。金勝要の大神、坤金神も、一寸我が強いぞよ。早く改心なさらぬと、神界の御用が遅れるぞよ。神界の御用が遅れると、それ丈、神も人民も難儀を致すから、早く改心致して、変性男子と常世姫の御魂の宿りて居る日の出神の生宮の申す事を聞いて下されよ。きかな聞くやうに致して改心させるぞよ。三五教は神の気障りがあるから、神は仕組を変へて此の肉体に御用をさして居るぞよ。神力と智慧学との力比べ、常世姫の神力が強いか、変性女子の智慧学が強いか、神と学との力比べであるぞよ。神の道には旧道と新道と道が二筋拵へてありて、何の道へ行きよるかと思うて、神がジツと見て居れば、新道へ喜びて行きよるが仕舞にはバツタリ行当りて了うて、又もとの旧道へ復つて来ねば成らぬ様に成つて了うぞよ。大橋越えて未だ先へ、行方判らぬ後戻り、慢神すると其通り、早く改心致さぬと、青い顔してシヨゲ返り白米に籾が混つた様にして居るのを見るのが、此の常世姫が辛いから、腹が立つ程気を付けてやるが、変性女子が我が強うて、慢神致して居るから、神ももう助けやうが無いぞよ。もう勘忍袋がきれたぞよ。それにつけては皆の者、変性女子の申すこと、一々審神を致してかからぬと、アフンと致す事が出来致すぞよ。常世姫の憑る肉体を侮りて居ると、スコタン喰う事が出来るから、クドウ申して気をつけて置くぞよ』 と厳の御魂の筆先の抜萃した高姫の書いた神諭を、声高々と読み聞かして居る。 お楢は畳に頭を擦りつけ、ブルブルと慄ひ泣きに泣いて居る。お節は発熱甚しく、益々『青彦青彦』と夢中になつて叫びはじめたり。黒姫は清子、照子の二人に向ひ、 黒姫『サアサア妾が今お筆先を拝読いたから、今度はお前さまがウラナイ教の宣伝歌を謡ふのぢや、サアサア早う、言ひ損ひの無いやうに謡ひなされ』 二人はハイと答へて座を起ち、病に苦しむお節の枕辺に廻り、声張上げて、 清子、照子『朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むともウラナイ教は世を救ふ 常世の国の常世姫昔の神代のそのままの 大和魂の生粋で日の出神の生宮と 現はれ出でたる高姫の身魂にかかりて筆をとり 三千世界の梅の花一度に開くことのよし 委曲に詳細に説き諭すたとへ大地は沈むとも 月日は西から昇るとも日の出神の生宮が 書いた筆先言うたこと毛筋の横巾ちがはぬぞ 違うと思ふは其人の心間違ひある故ぞ 昔の神代の折からに世界のために苦労した 高姫、黒姫、魔我彦や高山彦や蠑螈別 いづの身魂と現はれて竜宮さまの御守護で 此世の宝を掘り上げて北山村にウラナイの 神の教の射場を建て世界の人を教へ行く 実にも尊き神の代の其の根本の因縁を どこどこ迄も説き諭す常世の姫のお筆先 昔々の神代から隠しおいたる生身魂 日の出神の生魂で唐も日本も悉く 悪の仕組をとり調べ四方の国々島々に 漏れなく知らす神の道いづの身魂の御教 変性男子の御身魂善の身魂の生粋ぞ 変性女子の瑞身魂悪の鏡と定まりた 善は苦労が永けれど悪の苦労は短いぞ 悪の道行きや歩きよい善の道程険しいぞ 険しい道を喜びて歩いて行けば末遂に 誠も開く神の国広い道をば喜びて 進みて行けば末つひにハタと詰つて茨むら 針に身体をひつ掻いて逆転倒を皆うつて ヂリヂリ舞をしたとてもあとの祭ぢや十日菊 誠の神の申すうち聞かずに行るならやつて見よ 善と悪との立別けの千騎一騎の大峠 変性女子をふり捨てて常世の姫の生宮と 現はれ出でたる高姫の日の出神の御経綸 万劫末代芳ばしき名を残さうと思ふなら ウラナイ教の神の道一日も早く片時も 先を争ひ歩めかし畏き神のウラナイの 誠一つの根本の毛筋も違はぬこの教 神の奥には奥があるその又奥には奥がある 大国常立大神の三千年の御仕組 隅から隅まで悟つたるあの高姫の生宮は 三千世界の宝物広い世界の人民よ 今ぢや早ぢやと早鐘を撞いて知らする常世姫 暗に迷うた身魂をば日の出の守護に助けむと 朝な夕なに一筋に誠の教伝へ行く 常世の姫の真心は善の鑑ぢや世の鑑 誠の鑑はここにある身魂を清めて出て来たら 三千世界が見えすくぞ鎮魂帰神をせい出して 変性女子に倣ふより神から出したこの鏡 一つ覗いて見るがよい三千世界の有様は 一目に見えるこの教ウラナイ教は世を救ふ 誠の道の神ばしら日の出神の生宮が 三千世界の太柱グツと握つて居る程に 世界の事は何なりと常世でなけりや判りやせぬ 真名井の神が何偉い瑞の身魂が何怖い 怖いと云うたら吾心心一つのウラナイ教 心も身をも大神に捧げて祈れよく祈れ 祈る誠は神心あゝ惟神々々 身魂幸倍坐しませよ』 と謡ひ了れば、お節は益々苦しみ悶え、遂にはキヤアキヤアと怪しき声を振り絞り、冷汗は滝の如く流れ出で、容態は刻々に危険状態に入りける。 お楢『モシモシ皆さま、御親切に拝みて下さいまして有難う御座いますが、お前さまが此処へ御座つてから、お節の病気は楽になるかと思へば、一息々々、苦しさうに成つて来る、コラマア何うしたら宜しいのだ。オーンオーンオーン』 黒姫『コレコレお婆アさま、勿体ない事を言ひなさるな。これ程結構な日の出神の生宮の御筆先を読みて聞かし、結構な結構な宣伝歌まで唱へて、夫れで悪うなつて死ぬ様な事があつたら、神さまのお蔭やと思ひなされ。妾ぢやとて何うして一刻も早う楽に仕て上げたい、生命を助けて上げたいと思へばこそ、コンナ山路を雪踏み分けて遥々と来たのぢやないか。コンナ繊弱い妙齢の娘を二人まで連れて此処へ来たのも、神から言へば浅からぬ因縁ぢや。何うなるも斯うなるも神様の思召、仮令お節さまが国替なさつた処が、別に悔むにも及ばぬ、如才の無い神さまが、結構な処へ遣つて下さつて、神界の立派な御用をさして下さるのぢや。お前さまの達者を守り、この家を守護する守り神として下さるのぢや。勿体ない、何を不足さうに、吠面をかわくのぢやい、何うなつても諦めが肝腎ぢやぞへ』 お楢『ハイハイ、有難う御座います。然し乍ら妾の生命を取つて、どうぞお節を助けて下さいませ。それがお願ひで御座います』 黒姫『ハテサテ判らぬ方ぢやなア。何程偉い神さまぢやとて、お前の生命とお節さまの生命と交換が出来るものか。ソンナ無茶な事を言ひなさるな』 お節の容態は益々危篤に成つて来る。黒姫は何とは無しに落ち着かぬ様子にて、 黒姫『コレコレ照さま、清さま、今日は神界に大変な御用がある。サア帰りませう。コレコレお婆アさま心配なさるな。気を確り持つて居なさいよ。私は神界の御用が急くから、今日はこれでお暇致します』 お楢『モシモシお節は助かりませうか、助かりますまいか』 黒姫『いづれ楽になるわいナ。屹度癒る、安心なされ』 お楢『楽に成るとはあの世へ往く事ぢやありませぬか、癒ると仰有るのは、霊壇へ御魂に成つて直ると云ふ謎ではありますまいか』 黒姫『アヽ神界の御用が忙しい。照さま、清さま、サアサアお出で』 と雲を霞と比治山の彼方を指してバラバラと走せ帰り行く。あとにお楢はワツと許り泣き伏しぬ。 (大正一一・四・二二旧三・二六東尾吉雄録) |
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29 (1726) |
霊界物語 | 18_巳_丹波物語3 玉照姫の誕生 | 15 遠来の客 | 第一五章遠来の客〔六四三〕 米価の騰貴る糠雨が、赤い蛇腹を空に見せて居る。八岐大蛇に憑依されしウラナイ教の頭株、鼻高々と高姫が、天空高く天の磐船轟かしつつフサの国をば後にして、大海原を乗越えて、由良の港に着陸し、二人の伴を引き連れて、大江の山の程近き、魔窟ケ原に黒姫が、教の射場を立てて居る、要心堅固の岩窟に勢込んでかけ来る。 梅公は目敏く高姫の姿を見て、叮嚀に会釈しながら、 梅公『ヤア、これはこれは高姫様、お達者でしたか、遠方の所ようこそ御飛来下さいました。黒姫様がお喜びで御座いませう、サアずつと奥へお通り下さいませ』 高姫は四辺きよろきよろ見廻しながら、 高姫『嗚呼大変に其辺あたりが変りましたね、これと云うのもお前さま達の日頃の丹精が現はれて、何処も彼もよく掃除が行届き、清潔な事』 梅公『エヽ、滅相な、さう褒めて頂いては実に汗顔の至りで御座います、サア奥へ御案内致しませう』 高姫『黒姫さまは在宅ですかな』 梅公『ハイ高山さまも、御両人とも朝から晩迄それはそれは羨ましい程お睦まじうお暮しで御座います』 斯る処へ黒姫はヌツと現はれ、 黒姫『マア高姫様、ようこそお出下さいました。何卒悠くりお休み下さいませ』 高姫『黒姫さま、久し振りでしたねえ、高山彦さまも御機嫌宜敷いさうでお目出度う御座います』 黒姫『ハイ、有難う御座います、頑固なお方で困つて居ります』 高姫『ヤア、人間は頑固でなければいけませぬ、兎角正直者は頑固なものですよ、変性男子式の身霊でなくては到底神業は成就致しませぬからな。時に黒姫さま、貴女は日々この自転倒島の大江山の近くに、紫の雲が立ち昇り、神聖なる偉人の出現して居る事は御存じでせうね』 黒姫『ハイハイ委細承知して居ります』 高姫『承知はして居ても又抜かりなく、其玉照姫とやらをウラナイ教に引き入れる手筈は調うて居ますか』 黒姫『仰しやる迄もなく、一切万事羽織の紐で、黒姫の胸にチヤンと置いて御座います。オホヽヽヽ』 高姫『ヤアそれで安心しました、愚図々々して居ると、また素盞嗚尊の方へ取られ仕舞つては耐りませぬからなア、私は夫れ許りが気にかかつて、忙しい中を飛行機を飛ばして態々やつて来ました。そうして肝腎の目的物はもう手に入りましたか』 黒姫『イヤ、今着々と歩を進めて居る最中なんです。それについては斯様斯様こうこうの手段で』 と耳に口寄せて、綾彦夫婦の人質に使用する事も打ち明けて、得意の顔を輝かす。 高姫『善は急げだ。如才はあるまいが一日も早くやらねばなりませぬぞえ、私もそれが成功する迄は気が気ぢやありませぬ、私も此処で待つて居ませう、玉照姫が手に入るや否や、飛行機に乗せてフサの国に帰りませう』 黒姫『高姫さま、お喜び下さいませ、一旦三五教に堕落して居た青彦が、神様の御神力に往生して帰つて来ました』 高姫『何と仰有る、あの青彦が帰りましたか、それはマアマアよい事をなさいました。遉は千軍万馬の功を経た貴女、いやもうお骨が折れたでせう、貴女の敏腕家には日の出神も感服致しました。時に夏彦、常彦は何うなりましたか、なんだか居ないやうですな』 黒姫『ヘイ、彼奴はたうとう三五教に眈溺して仕舞ひました。併し乍ら之も時間の問題です、きつと呼び帰して見せます。何か神界のお仕組でせう、ああして三五教に這入り、帰りには青彦のやうに沢山の従者を連れて帰るかも知れませぬ』 高姫『さう楽観も出来ますまいが、艮の金神様は何から何迄抜け目のない神様だから屹度深い深いお仕組があるのでせう』 黒姫『貴女にお目にかけ度い方が一人あります、それはそれは行儀と云ひ、器量と云ひ、知識と云ひ、言葉遣ひと云ひ、何から何まで穴のない三十三相揃うた観自在天のやうな淑女が信者になられまして、今は宣伝使の仕込み中で御座います、何うか立派な宣伝使に仕立てあげて、貴女様に喜んで頂かうと思つて日々骨を折つて居ります、まア一遍会うて見て下さい、幸ひ其方も青彦も、青彦の連れて来た鹿公も、馬公と云ふそれはそれは実に男らしい人物も来て居ります、真実に掘出しものです、きつとウラナイ教の柱石になる人物ですなア』 高姫『それは何より結構です』 と話す折しも高山彦は、羽織袴の扮装、此場に現はれて、 高山彦『ヤア高姫さま、久し振りで御座いました、ようマア遥々と御入来、御疲労で御座いませう、サアどうぞ悠くりして下さいませ』 高姫『ヤア高山彦さま、貴方は幾歳でしたいなア、大変にお若く見えますよ、奥さまの待遇が好いので自然にお若くなられますなア、私は此通り年が寄り、歯が抜けてもうしやつちもない婆アですが、貴方とした事わいなア、フサの国に居らした時よりも余程お元気な、お顔の色が若々として、私でも知らず識らずに電波を送るやうになりましたワ。オホヽヽヽ』 高山彦『高姫さま、何うぞ冷やかさずに置いて下さい、若い者ぢやあるまいし、いやもう斯う見えても年と云ふものは嘘を吐かぬ者で、気許り達者で体が何となしに無精になります』 高姫『余り奥さまの御待遇が好いので、いつも家に許り居らつしやるものだから、自然に体が重くなるのでせう、私も貴方のやうな気楽な身になつて見度う御座いますワ、オホヽヽヽ』 黒姫『今日は遠方からの高姫さまのお越し、それについては青彦、紫姫、其他一同の者を集めて貴女の歓迎会やら祝を兼ねて、お神酒一盃頂く事にしませうか』 高姫『何うぞお構ひ下さいますな、併し私の参つた印に皆さまにお神酒を上げて貰へば尚更結構です』 黒姫はツト立つて「梅梅」と呼んだ。 此声に梅公は慌ただしく走り来り、 梅公『何御用で御座いますか』 黒姫『今日は高姫様の久し振のお越しですから、皆々お神酒を頂くのだから、其用意をして下さい』 梅公『ハイ畏まりました、嘸皆の者が喜ぶことでせう』 といそいそとして納戸の方に姿を隠した。紫姫は青彦と共に此場に現はれ、叮嚀に手をつかへ、 紫姫『これはこれは高姫様で御座いますか、貴い御身をもつて能くも遠方の所入来られました。私は都の者、元伊勢様へ二人の下僕を連れて参拝致します折、黒姫さまの熱心なる御信仰の状態を目撃しまして、それから俄に有難うなり、三五教の信仰を止め、お世話になつて居ます。何うぞ今後は御見捨てなく宜敷く御指導をお願ひ致します』 青彦『私は御存じの青彦で御座います、誠に不調法許り致しまして、大恩ある貴女のお言葉を忘れ、三五教に眈溺致し、大神様へ重々の罪を重ね、何となく神界が恐ろしくなりましたので、再び黒姫様にお詫を申し、帰参を叶へさして頂きました、何うぞ宜敷くお願ひ致します』 高姫『ヤア紫姫さまに青彦さま、皆因縁づくぢやから、もう此上は精神をかへては不可ませぬぞえ、貴女は黒姫さまに聞けば、立派な淑女ぢやと仰有いましたが、如何にも聞きしに勝る立派な人格、日の出神の生宮も、全く感服致しました』 紫姫『さうお褒め下さいましては不束かな妾、お恥かしうて穴でもあれば這入り度くなりますワ』 高姫『滅相な、何を仰有います、貴女は身魂がよいから、もう此上御修業なさるには及びますまい、貴女は此支社に置いておくのは勿体ない、私と一緒に北山村の本山へ来て貰つて、本山の牛耳を執つて貰はねばなりませぬ。これこれ青彦、お前も確りして今度は私について来なさい、此処に長らく置いておくと剣呑だ、大江山の悪霊が何時憑依して又もや身魂を濁らすかも知れないから、今度は或一つの目的が成就したら、高姫と一緒にフサの国の本山に行くのだよ』 青彦『アヽそれは何より有難う御座います、私の変心したのをお咎めもなく、本山迄連れて帰つてやらうとは、何とした御仁慈のお言葉、もう此上は貴女の御高恩に報ゆるため、粉骨砕身犬馬の労を厭ひませぬ』 高姫『アヽ人間はさうなくては叶はぬ、空に輝く日月でさへも、時あつて黒雲に包まれる事がある。つまり貴方の心の月に三五教の変性女子の黒雲が懸つて居たのだ。迷ひの雲が晴るれば真如の日月が出るのぢや、アヽ目出度い目出度い、これと云ふのも黒姫さまのお骨折り』 と高姫は一生懸命に褒めそやして居る。かかる処へ、 梅公『モシモシ、準備が出来ました。皆の者が待つて居ます、何うぞ皆さま奥の広間へお越し下さいませ』 黒姫『ヤア、それは御苦労であつた。サア高姫さま、紫姫さま、高山さま、青彦さま参りませう』 と先に立つ。高姫は鷹の羽ばたきしたやうな恰好しながら、いそいそと奥に入る。一同は高姫導師の下に神殿に向ひ天津祝詞を奏上し、続いて日の出神の筆先の朗読を終り弥々直会の宴に移つた、高姫は歌を謡つた。 高姫『フサの御国の空高く鳥の磐樟船に乗り 雲井の空を轟かせ一瀉千里の勢ひで 西より東へ電の閃めく如くかけ来り 世人の胸を冷しつつ高山、低山乗り越えて 天の真名井も打ち渡り安の河原を下に見て 瞬くひまに皇神の日の出の守護の著く 由良の港に着陸し鶴亀二人を伴ひて 千秋万歳ウラナイの教の基礎を固めむと 東に輝く明星を求めて此処に来て見れば 神の経綸の奥深く凡夫の眼には弥仙山 山の彼方に現はれし玉照姫の厳霊 弥々此処に出現し三千年の御経綸 開く常磐の松の代を待つ甲斐あつて高姫が 日頃の思ひも晴れ渡る時は漸く近づきぬ アヽ惟神々々御霊幸倍坐し在して 誠の道にさやり来る頑固一つの瑞霊 変性女子が改心をする世とこそはなりにけり 月は盈つとも虧くるとも旭は照るとも曇るとも 仮令大地は沈むともウラナイ教の神の道 唯一厘の秘密をばグツと握つた高姫が 仕組の奥の蓋あけて腹に呑んだる如意宝珠 玉の光を鮮かに三千世界に輝かし 鬼や大蛇や曲津神三五教も立直し 金勝要の大神や木花姫の生宮を 徹底、改心さして置きグツと弱つた、しほどきに 此高姫が乗り込んでサアサア何うぢや、サアどうぢや 奥をつかんだ太柱弥改悟をすればよし 未だ分らねば帳切らうか変性男子の御血統 神の柱となりながらこんな事では、どうなるか 誠の事が分らねば早く陣引きするがよい 後は高姫、乗り込んで唯一厘の御仕組 天晴成就させて見せう斯うして女子を懲らすまで 一つ無くてはならぬもの弥仙の山に現はれた 玉照姫を手に入れて是をば種に攻寄れば 如何に頑固な緯役の変性女子も往生して 兜を脱ぐに違ひない一分一厘、毛筋程 間違ひ無いのが神の道三五教やウラナイ教 神の教と表面は二つに分れて居るけれど 元を糺せば一株ぢや雨や霰や雪氷 形変れど徹底の落ち行く先は同じ水 同じ谷をば流れ往く変性女子の御霊さへ グヅと往生させたなら後は金勝要の神 木花咲耶姫の神彦火々出見の神霊 帰順なさるは易い事邪魔になるのは緯役の 此世の乱れた守護神此奴ばかりが気にかかる アヽさりながらさりながら時は来にけり、来りけり 此世を造りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直し、宣り直す 三五教やウラナイの神の教の神勅 高天原に高姫が天晴れ表に現はれて 誠の道を説き明かしミロクの神の末長う 経のお役と立直し緯の守護を亡ぼして 常世の姫の生魂や世界の秘密を探り出し 日の出神や竜宮の乙姫さまの神力で 堅磐常磐の松の世を建つる時こそ来りけり アヽ惟神々々御霊幸倍坐ませよ』 黒姫も稍、微酔機嫌になつて低太い声を張り上げて謡ひ始めたり。 黒姫『遠き海山河野越え遥々此処に帰ります ウラナイ教の根本の要、掴んだ高姫さま よくもお出まし下されて昔の昔のさる昔 国治立の大神の仕組み給ひし大謨を 一日も早く成就させ世に落ちたまふ神々を 残らず此世に、あげまして三千世界の民草を 上下運否の無いやうに桝かけひいて相ならし 神政成就の大業をいよいよ進めたまはむと 出ます今日の尊さよ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令、天地を探しても こんな結構なお肉体日の出神の生宮が 又と世界にあるものかまた竜宮の乙姫が 憑りたまひて艮の金神様のお経綸で 骨身、惜まぬお手伝いこんな誠の神様が 又と世界にあるものかアヽ惟神々々 今迄、種々態々に神のお道を彼是と 要らぬ心配して見たが時節参りて煎豆に 花咲き実る嬉しさよ』 と謡ふ折しも表の岩戸の方に当つて、消魂しい物音聞え来たる。 嗚呼鼻の高姫さまよ、お色の黒い黒姫さまの長たらしい腰曲り歌や、青彦の舌鼓、紫姫の淑やかな声、馬公、鹿公、梅、浅、幾、丑、寅、辰、鳶、鶴、亀その他沢山の酒に酔うた場面を霊眼に見せられて、余り霊肉両眼を虐使した天罰、俄に眠くなつて来た。一寸これで切つて置きます。 (大正一一・四・二八旧四・二加藤明子録) |
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霊界物語 | 24_亥_豪州物語1(高姫と蜈蚣姫) | 06 アンボイナ島 | 第六章アンボイナ島〔七三六〕 高姫、蜈蚣姫を乗せたる船は、波のまにまに大小無数の嶋嶼を右に左に潜りつつ進み行く。俄に包む濃霧に咫尺を弁ぜず、此儘航海を続けむか、何時船を岩石に衝き当て破壊沈没の厄に会ふも知れざる破目になつて来た。流石の両婆アも船中の一同もはたと当惑し、何となく寂寥の気に充たされ、臍の辺りより喉元さして舞ひ上る熱き凝固は、螺旋状を為して体内を掻き乱すが如く、頭部は警鐘乱打の声聞え、天変地妖身の置き処も知らぬ思ひに悩まされた。何ともなく嫌らしき物音、鬼哭啾々として肌に粟を生じ心胆糸の如く細り、此上少しの風にも、玉の緒の糸の断絶せむ許りになり来たり。何処ともなく嫌らしき声、頭上に響き渡りぬ。 声『アヽヽ飽迄我を立て徹す高姫、蜈蚣姫の両人、天の八衢彦命の言葉を耳を浚へてよつく聞け。汝は悪がまだ足らぬ。悪ならば悪でよいから徹底的の大悪になれ。大悪は即ち大善だ。汝の如き善悪混淆、反覆表裏常なき改慢心の大化物、是こそ真の悪であるぞよ。悪と云ふ事は万事万端、神界の為めに埒があく働きを言ふのだ。 イヽヽ嫌らしい声を聞かされて慄ひ上り、意気銷沈の意気地無し。今此処で慣用手段の日の出神を何故現さぬか。大黒主命は如何したのだ。因循姑息、悪魔の我言に唯々諾々として畏服致すイカサマ宣伝使。てもいげち無い可憐らしい者だなア』 高姫は直ちに、 高姫『何れの神様か存じませぬが、 アヽヽ悪をやるなら大悪をせいとはチツトと聞えませぬ。善一筋の日本魂の生粋を立て貫く此高姫。 イヽヽいつかないつかな、変性女子的貴女の言葉には賛成出来ませぬ。なア蜈蚣姫さま、お前さまもチツト、アフンとしていぢけて居らずに、アヽヽイヽヽアイ共に力を協せ、相槌を打つたら如何だい。斯んな時こそ誠の神の御神力を現はさいで何時現はすのだ、アヽヽ、イヽヽ意気地のない人だなア』 空中より怪しき声、 声『ウヽヽ、煩さい代物だ。何処までも粘着性の強い高姫の執着、有為転変の世の中、今に逆とんぼりを打たねばならぬぞよ。言依別の教主に反抗致した酬い、眼は眩み波にとられた沖の船、何処にとりつく島もなく、九死一生の此場合に立ち到つて、まだ改心が出来ぬか。 エヽヽ偉相に我程の者なき様に申して世界中を股にかけ法螺を吹き捲り、誠の人間を迷はす曲津神の張本人、鼻ばかりの高姫が今日は断末魔、扨ても扨ても可憐想な者だ。浮世に望みはないと口癖の様に申し乍ら、其実、浮世に執着心最も深く、偉相に肩臂怒らし大声で嚇す夏の雷鳴婆ア……。 オヽヽ鬼とも蛇とも悪魔とも知れぬ性来に成りきりて居りても未だ気がつかぬか。恐ろしい執着心の鬼が角を生やして其方の後を追つ掛け来り、今此処で往生させる大神の御経綸、尾を捲いて改心するのは今であらう。返答は如何だ』 高姫は負けず、又もや、 高姫『ウヽヽ煩さい事を仰有るな。 エヽヽえたいの知れぬ声を出して、 オヽヽ嚇さうと思つても日の出神の生宮はいつかないつかな、ソンナチヨツコイ事に往生は致しませぬぞ。一つ島の女王と聞えたる黄竜姫を、お産み遊ばした蜈蚣姫の姉妹分とも言はれたる此高姫、何れの神か曲津か知らねども、チツトは物の分別を弁へたが宜からうぞ』 空中より、 声『カヽヽ重ねて言ふな、聞く耳持たぬ。蛙の行列向ふ見ず、此先には山岳の如き巨大な蛙が現はれて、奸智に長けたる汝が身も魂も、只一口に噛み砕き亡ぼして呉れる仕組がしてあるぞ。叶はん時の神頼みと言つても、モウ斯うなつては駄目だ。神は聞きは致さぬから左様心得たが宜からう。 キヽヽ危機一髪、機略縦横の高姫も最早手の下し様もあるまい。気違ひじみた気焔を吐いた其酬い、気の毒なものだ。聞かねば聞く様にして聞かすと申すのは此事であるぞよ。 クヽヽ黒姫と腹を合せ、変性男子の系統を真向に振り翳し、神界の経綸を無茶苦茶に致した曲者、苦労の凝りの花が咲くと何時も申して居るが、神の道を砕く苦労の凝りの花は今愈咲きかけたぞよ。 ケヽヽ見当のとれぬ仕組だと申して遁辞を設け、誤魔化して来た其酬い。 コヽヽ堪へ袋の緒がきれかけたぞよ。聖地の神々を困らしぬいた狡猾至極の汝高姫、我と我心に問うて見よ。心一つの持ち様で善にも悪にもなるぞよ。 サヽヽ探女醜女の両人、よくも揃うたものだ。サア是からは蜈蚣姫の番だ。逆様事ばかりふれ廻り天下万民を苦しめた蜈蚣姫の一派。 シヽヽ思案をして見よ。神の申す言葉に少しの無理もないぞよ。皺苦茶婆アになつてから、娑婆に執着心を発揮し、死後の安住所を忘れ、獅子奮迅の勢を以て種々雑多の悪計を廻らし乍ら、至善至美至真の行動と誤解する痴者。 スヽヽ少しは胸に手を当てて見よ。素盞嗚大神の御精神を諒解せぬ間は、何程汝が焦慮るとも九分九厘で物事成就は致さぬぞよ。 セヽヽ背中に腹が代へられぬ様な此場の仕儀、それでも未だ改心が出来ぬか。雪隠虫の高上り、世間知らずの大馬鹿者。 ソヽヽ其方達二人が改心致さぬと、総ての者が総損ひになつて、まだまだ大騒動が起るぞよ。早々改心の実を示せ。そうでなければ今此処でソグり立ててやらうか』 蜈蚣姫『ソヽヽそれは、マア一寸待つて下さい。それ程妾の考へが違つて居ますか。此蜈蚣姫は明けても暮れても、神様の為め、世界の為め、人民を助ける為めに、苦労艱難を致して居る善の鑑と堅く信じて居ります。それが妾の生命だ。何れの神か悪魔か知らねども、我々の心が分らぬとは実に残念至極だ。粗忽しい、観察をせずに、もうチツト真面目に妾の腹の底を調べて下さい』 空中より、 声『タヽヽ叩くな叩くな、腹の中をタヽヽ断ち割つて調べてやらうか。高姫も同様だぞ、汝の腹の中は千里奥山古狸の棲処となつて居る。日の出神と名乗る奴は銀毛八尾の古狐の眷族だ。大黒主と名乗る奴は三千年の劫を経たる白毛の古狸だ。又蜈蚣姫の腹中に潜む魔神はアダム、エバの悪霊の裔なる大蛇の守護神だ。 チヽヽ違ふと思ふなら、今此処で正体を現はさうか。地の高天原を蹂躙せむと、汝等両人の体内を借つて仕組んで居るのだ。汝はそれも知らずに誠一つと思ひつめ、自分の身魂に自惚し、最善と感じつつ最悪の行動を敢へてする、天下の曲津神となつて居るのに気がつかぬか。 ツヽヽつまらぬ妨げを致すより、月の大神の心になり、心の底より悔悟して。 テヽヽ天地の神にお詫を致せ。 トヽヽトンボ返りを打たぬうち、トツクリと思案を致し、トコトン身魂の洗濯を励むが肝腎だぞよ。 ナヽヽ何と申しても其方等は曲津の容器。弥勒神政の太柱は地の高天原に、神世の昔より定められた身魂が儼然として現はれ給ふ。何程其の方が焦慮つても、もう駄目だ。 ニヽヽ二階から目薬をさす様な頼りのない法螺を吹き廻るより、生れ赤子の心になつて言依別の教主の仰せを守れ。 ヌヽヽヌーボー式の言依別だと何時も悪口を申すが、其方こそは言依別の神徳を横奪せむとする、ヌースー式の張本人だ。 ネヽヽ熱心な信者を誤魔化し、蛇が蛙を狙ふ様に熱烈なる破壊運動を致す侫人輩。 ノヽヽ野天狗、野狐、野狸の様な野太い代物。喉から血を吐きもつて、折角作り上げた誠の魂を攪乱致す野太い代物。下らぬ望みを起すよりも良い加減に往生致したら如何だ』 高姫は、 高姫『もうもう十分です。 ハヽヽハラハラします。腹が立つて歯がガチガチしだした。早くしようも無い事は、もうきりあげて下さい。 ヒヽヽ日の出神の生宮が堪忍袋の緒を切らしたら、何程偉い神でも堪りませぬぞ。 フヽヽ不都合千万な、此方の行動を非難するとは何れの神だ。 ヘヽヽ屁でもない理屈を並べて閉口さそうと思うても……ン……此高姫さまは一寸お手には合ひませぬワイ。 ホヽヽほんに訳の分らぬ廻しものだ。斯んな海の中へ我々を引張り出し、一寸先も見えぬ様な濃霧に包んで置いて、暗がりに鶏の頸を捻ぢる様な卑怯な計略、其手は喰はぬぞ。 マヽヽ曲津の張本。 ミヽヽ身の程知らずの盲目神。 ムヽヽ蜈蚣姫と高姫が。 メヽヽ各自に神力のあらむ限りを発揮して。 モヽヽ耄碌神の其方を脆くも退治して見せよう。 ヤヽヽ八岐大蛇だの、狐だの、狸だのとは何たる暴言ぞ。 イヽヽ意地気根の悪い。 ユヽヽ油断のならぬ胡散な痴呆もの。 エヽヽえー邪魔臭い。 ヨヽヽよくも、ヨタリスクを並べよつたな、ようも悪魔の変化奴。 ラヽヽ乱臣賊子、サア正体を現はせ、勇気凛々たる日の出神の生宮、大自在天の太柱、グヅグヅ吐すと貴様の素首を引き抜いてラリルレロとトンボリ返しを打たしてやらうか』 空中より一層大きな声で、 声『ワヽヽ笑はせやがるワイ。我身知らずの馬鹿者共、手のつけ様のない困つた代物だ。 ヰヽヽ何程言うても合点の往かぬ歪み根性の高姫、蜈蚣姫。 ウヽヽ煩さくなつて来たワイ。艮の金神国治立尊の御前に我は是より奏上せむ。 ヱヽヽ襟を正して謹聴して待つて居らう。やがて御沙汰が下るであらう。 ヲヽヽ臆病風に誘はれてヲドヲドし乍ら、まだ。 ガヽヽ我の強い。 ギヽヽぎりぎりになる迄。 グヽヽ愚図々々致して居ると。 ゲヽヽ現界は愚か。 ゴヽヽ後生の為めに成らないぞ。 ザヽヽ態さらされて。 ジヽヽジタバタするよりも。 ズヽヽ図々しい態度を改め。 ゼヽヽ前非を悔い改心致して。 ゾヽヽ造次にも顛沛にもお詫を致せ。 ダヽヽ騙し歩いた。 ヂヽヽ自身の罪を。 ヅヽヽ津々浦々まで白状致して廻り、玉に対する執着心を只今限り綺麗薩張此海に流して仕舞へ。さうして仕舞へば又神の道に使つてやるまいものでもない。 デヽヽデンデン虫の角突き合ひの様な小さな喧嘩を致し。 ドヽヽ如何してそんな事で神界の御用が勤まると思ふか。 バヽヽ婆の癖に馬鹿な真似を致すと終には糞垂れるぞよ。 ビヽヽ貧乏揺ぎもならぬ様になりてから。 ブヽヽブツブツと水の中に屁を放いた様な小言を申しても。 ベヽヽ弁舌を何程巧に致しても。 ボヽヽ木瓜の花だ、誰も相手になる者はないぞよ。 パヽヽパチクリと目を白黒致して。 ピヽヽピンピン跳ねても、キリキリ舞ひを致しても。 プヽヽプンと放いた屁ほどの効力も無いぞよ。 ペヽヽペンペン跳ねても。 ポヽヽポンポン言つても、もう日の出神も通用致さぬから覚悟をしたが宜からう。汝果たして日の出神ならば、此濃霧を霽らし、天日の光を自ら浴びて船の方向を定め、アンボイナの聖地に渡れ。其時又結構な教訓を授けてやらう』 高姫、蜈蚣姫は返す言葉も無く、船の中に両手を合せ、負けぬ気の鬼に妨げられて謝罪り言葉も出さず、俯向いて謝罪と片意地との中間的態度を執つて居た。何時しか濃霧は霽れた。よくよく見れば船は何時の間にやら南洋一の聖地、竜宮島と聞えたるアンボイナの港に横着けになり居たりける。 (大正一一・七・二旧閏五・八北村隆光録) |
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霊界物語 | 24_亥_豪州物語1(高姫と蜈蚣姫) | 09 神助の船 | 第九章神助の船〔七三九〕 神が表に現れて善と悪とを立別ける 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも高姫生命を棄つるとも 島の八十島八十の国山の尾の上や川の末 海の底まで村肝の心到らぬ隈もなく 探さにや措かぬと雄猛びし矢竹心の矢も楯も 堪りかねたる玉詮議左右の目玉を白黒と 忙しさうに転廻し善と悪との瀬戸の海 牛に曳かれて馬の関狭き喉首乗り越えて 数多の島々右左眺めて越ゆる太平の 波を辷つてアンボイナ南洋諸島の其中で 珍の竜宮と聞えたる芽出度き島に漕ぎつけて 玉の所在を探す内綾の高天の聖地より 玉照彦の神言もて初稚姫や玉能姫 玉治別の三人は再度山の山麓に 生田の森にて足揃ひ船を準備へ高姫が 危難を救ひ助けむと潮の八百路を打渡り 漕ぎ来る折しも霧の中仄かに聞ゆる叫び声 唯事ならじと船を寄せよくよく見れば此は如何に バラモン教の宣伝使友彦初め清鶴や 武の四人が船を破り生命の綱と岩壁に 力限りにかぢりつき救けを叫ぶ声なりし 玉治別は快く四人の男を救ひ上げ 率ゐ来りし伴舟に友彦其他を救ひつつ 男波女波を打渡り雄滝雌滝の懸りたる 雄島雌島の合せ島アンボイナ島の竜宮へ 船を漕ぎつけをちこちと青葉茂れる山路を 濃霧に包まれ千丈の瀑布の音を知るべとし 近より見れば滝津瀬の漲り落つる音ばかり 一行七人滝の前に佇み此れの絶景を 驚異の眼をみはりつつ其壮烈を歎賞し 涼味に浴する折柄に濃霧を透して婆の声 常事ならじと近寄りて窺ひ見れば高姫の 腕は血潮に染りつつ団栗眼を怒らして 面をふくらせ何事か囁く側に蜈蚣姫 妖怪変化に擬ふなる化物面を曝しつつ 滝の麓に倒れ居る玉治別は驚いて 手負に向つて鎮魂の神法修し一二三四 五六七八九十百千万と言霊の 霊歌を頭上に放射せば幾許ならず蜈蚣姫 元の姿に全快し地獄で仏に遭ひし如 心の底より感謝しつ嬉し涙に暮れにけり 玉治別の一行は探ね来りし高姫の 所在を知つた嬉しさに真心こめていろいろと 言依別の命令を完全に委曲に宣りつれど 心ねぢけし高姫は情を仇に宣り直し 相も変らず減らず口叩いてそこらに八当り 憎々しげに罵れば流石無邪気の一行も 呆れて言葉なかりけりヤツサモツサの押問答 やうやう治まり一同は二隻の船に分乗し 玉治別の操れる船には初稚玉能姫 鶴武清の六人連波を乗り切り竜宮を 後に眺めて離れ行く残りの船は友彦が 艪を操りつ蜈蚣姫高姫貫州久助や スマートボールやお民等の一行を乗せてやうやうと 波ののた打つ和田の原西南指して進み行く 前後左右に駆けまはる海蛇の姿眺めつつ 轟く胸を押隠し心にも無き空元気 船歌うたひ友彦が力限りに炎天の 大海原に搾る汗ニユージランドの手前まで 進む折しも暴風に吹きまくられて浪高く 危険刻々迫り来る左手に立てる岩山の 影を目標に漕ぎ寄せて難を避けむと進み寄る 鬼か獣か魔か人か得体の知れぬ影二つ 猿の如く岩山を駆けめぐり居る訝かしさ 此世を造りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直し聞直し 身の過ちは宣り直す神の救ひの船に乗り 大海原に漂へる此岩島を一同が 生命の親と伏拝みここに小船を止めつつ アヽ惟神々々御霊幸はひましませと 祈る言霊勇ましく雷の如くに鳴り渡る 此神言を聞きしより二つの影は嬉しげに 此方に向つて下り来る神の仕組ぞ不思議なる。 友彦は怪しき二つの影を見て、 友彦『ヤア高姫さま、蜈蚣姫さま、愈願望成就の時節到来、お喜びなさいませ。貴女のお探ねになる代物は漸く此島に在ると云ふ事が、的確に分つて来ましたよ』 高姫吃驚した様な声で、 高姫『エヽ何と仰有る。あの玉が此島に隠してあると云ふのかい』 友彦『御覧の通り、真黒黒助の、ア…タマが二つ、如意宝珠の様にギラギラした目のタマが四つ、貴女方を歓迎し、上下左右に駆けめぐつて居るぢやありませぬか。ありや屹度玉の妄念ですよ。黄金の隠してある所には何時も化物が出ると云ふ事だ。彼奴はキツト如意宝珠の精が現はれ、人に盗まれない様に保護をして居た所、焦れ焦れた……言はば……玉の親のお前さまがやつて来たものだから、再び腹の中へ呑み込んで帰つて貰はうと思ひ、妄念が現はれて玉の所在を知らして居るのに違ひない。コンナ所に……さうでなければ黒ン坊が住居して居る筈はない。キツトさうですよ。女の一心岩でも突き貫くとやら、あの通り岩を突き貫いて玉の精が現はれたのでせうよ』 高姫は目をクルクルさせ乍ら、二つの影を凝視め、 高姫『如何にも不思議な影だ。どう考へてもコンナ離れ島に船も無し、人の寄りつく道理がない……サア蜈蚣姫さま、あなたはモウ玉に執着心は無いと仰有つたのだから、微塵も未練はありますまいな』 蜈蚣姫『妾はアンナ黒ン坊にチツトも執着心は有りませぬ』 高姫『さうでせう。それ聞いたら大丈夫、サア是れから貫州と二人此岩山を駆け登り、玉の所在を探して来う……イヤイヤ待て待て、腹の悪い連中、岩山の上へあがつて居る後の間に、蜈蚣姫さまに船でも盗られたら、それこそ大変だ。……サア貫州、お前は此船の纜をキユツと握つて放す事はならぬぞえ。……モシ蜈蚣姫さま、お付合に従いて来て下さいな』 蜈蚣姫『オホヽヽヽ、さう御心配なさらいでも、滅多に船を持つて逃げる様な事はしませぬ……とは請合はれませぬワイ』 高姫『サアそれだから険難だと云ふのだ。わしの天眼通は、お前さまの腹のドン底までチヤーンと見抜いてある。それが分らぬ様な事で、どうして日の出神の生宮が勤まるものか……アヽ仕方がない。貫州、お前御苦労だが、玉の所在を、あの黒ン坊に従いて探して来て呉れ。わしは蜈蚣姫さまの監督をして居るから……アーア油断も隙も有つたものぢやないワイ』 蜈蚣姫『オツホヽヽヽ、よう悪気の廻るお方ですな。お前さまは宝を見ると直にそれだから面白い。恰度、犬コロが三つ四つ一所に集まり、顔を舐めたり、尾を嘗めたりして互に睦まじう平和に遊んで居る、其処へ腐つた肉の一片を投げて与ると、忽ち争闘を始め、親の讐敵に出会うた様に喧嘩をするのと同じ事、お前さまは宝が……まだ本当に有るか無いか知れもせぬ前から、目の色まで変へて騒ぐのだから、本当に見上げた御精神だ。いつかな悪党な蜈蚣姫も腹の底から感服致しました。………スマートボール、お前は貫州さまと一緒に黒ン坊の側へ行つて、万々一玉が有ると云ふ事が分つたら、外の二つの玉は如何でも良いから、金剛不壊の如意宝珠を、非が邪でもひつたくつて来るのだよ。此蜈蚣姫ぢやとて、性来から善人でもないのだから宝の山へ入り乍ら手振りで帰る様な馬鹿ぢやない。今迄の苦労を水の泡にはしともないから、わしも犬コロになつて、力一杯争うて見ませうかい。オツホヽヽヽ』 高姫『一旦お前さまは小糸姫にさへ会へばよい、玉なぞに執着心は無いと、立派に仰有つたぢやないか。それに何ぞや、今となつて子と玉の変換をなさるのかイ』 蜈蚣姫『変説改論の持囃される世の中だから当然さ。……コレ、スマートボール、高姫さまが何程鯱になつても、味方と云へば貫州さま唯一人、あとは残らず蜈蚣姫の幕下計りだ。寡を以て衆に敵する事は到底不可能だ。何程多数党が横暴だと国民が叫んでも、何程少数党が正義だと云つても、矢張多数党が勝利を得る世の中だもの、泰然自若、チツトも騒ぐに及びませぬ。他人の苦労で徳とると云ふ事は恰度此事だ。高姫さま、御苦労乍ら貴女、玉の所在を査べて来て下さいな。同じ大自在天に献上するのだもの、誰が取つても同じ事、それに貴女は私に玉を取らそまいとする其心の底が分らぬ。大自在天様を看板に、ヤツパリ三五教の大神に献上する考へだらう。何程布留那の弁の高姫さまでも、心の中の曲者を隠す事は出来ますまい……あのマア迷惑相なお顔付、オツホヽヽヽ』 とワザと肩を揺り、高姫流の嘲笑振りをして見せる。斯かる所へ二人の黒ン坊、断崖絶壁に手をかけ足をかけ、大勢の前に下り来り、 チャンキー『わしはチヤンキー、も一人はモンキーと云ふシロの島の住人だが、三年前に鬼熊別の御娘小糸姫様を御送り申して、竜宮の一つ島へ渡る途中暴風に出会ひ、船を打割り、辛うじて此島に駆けあがり、生命を助かり、蟹やら貝などを漁つてみじめな生活を続けて来た者ですがどうぞお前さま、吾々二人を船に乗せて連れて帰つて下さいませ』 と手を合して頼み入る。毛は生え放題、髭は延び次第、手も足も垢だらけ、目のみ光らせて居る。二人の姿を間近く眺めた一同は、此言葉を半信半疑の念にかられ乍ら聞いて居る。蜈蚣姫は胸を躍らせ、 蜈蚣姫『ナニ、お前は小糸姫を送つて来て難船したと云ふのか。さうして小糸姫は何処に居りますか』 チャンキー『サア何処に居られますかな。私たちは男の事でもあり、漸く此島にかぢりついたのだが、あまりの驚きで如何なつた事やらトツクリとは覚えて居りませぬ。大方竜宮へでも旅立たれたのでせう』 蜈蚣姫『竜宮と云ふのはオーストラリヤの一つ島の事かい』 モンキー『サア其一つ島へ行く途中に難破したのだから、竜宮違に、乙米姫様の鎮まり玉ふ海底の竜宮へお出でになつたのでせう。本当に綺麗な女王の様な方で、今思ひ出しても自然に目が細くなり、涎が流れますワイ。アヽ惜しい事をしたものだ』 と憮然として語る。蜈蚣姫は今迄張詰めた心もガツタリと、其場に倒れ身震ひし乍ら船底にかぶりつき、忍び泣きに泣き居る。高姫は蜈蚣姫の此悲歎に頓着なく、チヤンキー、モンキー二人の胸倉をグツと取り、 高姫『これ、チヤン、モンとやら、お前は誰に頼まれて玉を隠したのだ。玉能姫か、言依別か、但は此処に居る連中の誰かに頼まれて隠したのだらう。よう考へたものだ。コンナ遠い岩山に埋没して置けば如何にも知れぬ筈ぢや。私も今迄立派な立派なアンボイナ島や、大島や、小豆島を探さうとしたのが感違ひ、アヽ時節は待たねばならぬものだ。サアもう斯うなつた以上は、お前が何と云つて弁解しても白状させねば置かぬ。何程隠しても、斯んな小つぽけな島、小口から岩を叩き割つても、発見するのは容易の業だ。隠しても知れる、隠さいでも知れるのだから、エライ目に遇はされぬうちにトツトと白状したがお前の得だよ』 チヤンキー、モンキーの二人は寝耳に水の此詰問に、何が何やら合点ゆかず頭を掻き乍ら、 チャンキー『今貴女は玉を隠したとか、どうとか仰有いますが、一体何の玉で御座いますか』 高姫『オホヽヽヽ、よう白ばくれたものだなア。それ、お前が玉能姫に頼まれた如意宝珠の玉だよ。それを何処に隠したか、キツパリと白状しなさい』 チャンキー『ソンナ事は一切存じませぬ』 モンキー『玉ナンテ名も聞いたこたアありませぬワイ』 高姫『ヨシヨシ強太い者だ。腹を断ち割つても、今度こそは白状させねば置かぬ。アヽ面倒臭い事だ。妾が自ら査べに行けば後が案じられる。蜈蚣姫さまは……ヘン……吃驚したよな顔をして船底にかぢりつき油断をさせて、此高姫が山へ往つたならば矢庭に船を出し、此島に放つとく積りだらうし、アヽ体が二つ三つ欲しくなつて来たワイ』 蜈蚣姫は漸くにして顔を上げ、 蜈蚣姫『わしも今迄恋しい一人の娘に会ふのを楽みに、心の合はぬ高姫と表面だけは調子を合して来たが、天にも地にも唯一人の娘が此世に居らぬと聞けば、モウ破れかぶれだ。……サア友彦、お前も憎い奴なれど、仮令一年でも私の娘の夫となつた以上は、切つても切れぬ親子の仲、キツト私に加勢をして呉れるだらうな』 友彦『ハイお母さま、よう仰有つて下さいました。貴女の命令なら、高姫の生首を引抜けと仰有つても、引抜いてお目にかけます』 蜈蚣姫『ヤア頼もしや頼もしや、親なればこそ、子なればこそ。何処にドンナ味方が拵へてあるか分つたものぢやない。「ほのぼのと出て行けど、心淋しく思ふなよ。力になる人用意がしてあるぞよ」……と三五教の神様が仰有つたと云ふ事だ。……(声に力入れ)サア高姫、モウ斯うなる以上は化の皮を引ん剥いて婆と婆との力比べだ、尋常に勝負をなされ』 高姫『ヘン、蜈蚣姫さまの、あの噪やぎ様……イヤ狂ひやう。誰だつて一人の娘が死んだと聞けば、自暴自棄も起るであらう。気が狂ふまいものでもない。併し乍ら其処をビクとも致さぬのが神心だ……女丈夫の大精神だ。小糸姫様が海へ沈んで竜宮行をしたと聞いて腰を抜かし、其愁歎振は何ですか。見つともない。此高姫は元来気丈の性質、流石は生宮丈あつて、小糸姫が海の底へ旅立をしたと聞いて、落胆どころか却て愉快な気分に充されました。ナント身魂の研けた者と、研けぬ者との心の持様は違うたものだナ。オホヽヽヽ』 と自暴自棄になつて減らず口を叩く。 蜈蚣姫『人情知らずの悪垂婆の高姫。……サア友彦、親の言ひ付けだ。櫂を持つて来て頭から擲りつけて下さい。一人よりない大事な娘が死んだのを、却て愉快だと言ひよつた。……サア早くスマートボール、久助、高姫を打ちのめし、海の竜宮へやつて下され。チヤンキー、モンキーさま、お前さまも無理難題をかけられて、嘸腹が立たうのう。一寸の虫にも五分の魂だ。チツトは敵討ちをしなさらぬかいな。敵は貫州と唯二人、モウ斯うなれば蜈蚣姫のしたい儘だ。……サア高姫、返答はどうだ』 と追々言葉尻が荒くなる。貫州は両手を拡げ、 貫州『蜈蚣姫さま、御一同さま、マア待つて下さい』 蜈蚣姫『此期に及んで卑怯未練な、待つて呉れも有るものか。お前も讐敵の片割れ、覚悟をしたが宜からう』 貫州『わしだつてコンナ没分暁漢の高姫に殉死するのは真平御免だ。お前さまの方に、貫州も一層の事応援するから、……どうだ、聞き届けて呉れるかな』 蜈蚣姫『お前はメラの滝でチラリと喋つた言葉に考へ合はすと、あまり高姫を信用しとりさうにもないから、赦してやらう。サアどうぢや高姫、舌噛み切つて死ぬるか、此場で海へ身を投げるか、それが厭なら皆の者が寄つて懸つてふん縛り、海へ放り込まうか。最早是までと諦めて、宣伝歌の一つも此世の名残に唱へたがよからうぞ。オツホヽヽヽ』 高姫は悪胴を据ゑ、腕を組み、涙をボロリボロリと零して俯向き沈む。 蜈蚣姫『オホヽヽヽ、高姫さま、嘘ですよ。あまりお前さまが我が強いから、一つ我を折つて上げようと思うて狂言をしたのだから、安心なされませ。天が下に敵もなければ他人もない。私も今迄の蜈蚣姫とは違ひます。玉能姫さまや初稚姫さまを、あれ丈ボロ糞に言つてもチツトも怒らず、親切計りで立て通しなさつた其心に感じ、善一つの真心に立帰つた此蜈蚣姫、どうしてお前さまを苦しめませう、安心して下さい。其代りお前さまも、玉能姫さまや初稚姫其他の方々を鵜の毛の露程でも恨む様な事があつては冥加に尽きまするぞ』 高姫『ヤアそれで高姫もヤツと安心を致しました。併し乍ら初稚姫や玉能姫の悪人計りは、如何しても思ひ切る事が出来ませぬワイ。人我れに辛ければ我れ又人に辛しとやら言つて、年をとつて是れだけ苦労艱難をするのも、みんな初稚姫や玉能姫のなす業、如何に天下の大馬鹿者、無神経者と云つても、此残念が如何して忘れられませうか』 蜈蚣姫『玉能姫様や初稚姫様は、神様の命令を受けて御用遊ばした丈ぢやありませぬか。元からお前さまを困らさうなどと、ソンナ悪い心はなかつたのでせう』 高姫『ソンナ小理屈は言うて下さいますな。例へば主人が下僕に対し藪の竹を一本伐つて来いと命令したと見なさい。竹を伐る時の竹の露は誰にかかりますか。ヤツパリ下僕にかかるぢやありませぬか。竹伐つた奴は玉能姫、初稚姫の両阿魔女だ。怨みが懸らいで何としようぞいの。アヽ口惜しい、残念や、オーンオーンオーン』 と前後を忘れ狼泣きに泣き始めける。 折しも海鳴の音、俄に万雷の一時に轟く如く聞え来り、波は刻々に高まる。一同はチヤンキー、モンキーの後に従ひ、最も高き岩上に避難した。船は纜を千切られ、何処ともなく、浪のまにまに流れて了つた。水量は追々まさり、最早足許まで浸して来る。山岳の様な浪は遠慮会釈もなく、頭の上を掠めて通る。殆ど水中に没したと思へば又現はれ、息も絶え絶えになり、各自覚悟の臍を極めて神言を奏上し、心の隔てはスツカリ除れて、唯生命を如何にして保たむやと是れのみに焦慮し、宣伝歌を泣声まぜりに声を嗄らして唱へ居る。 斯かる所へ波に漂ひつつ艪を操り、甲斐々々しく進み来る一隻の稍大なる船ありき。日は漸く暮れ果て、誰彼の顔も碌に見えなくなり来たり。一隻の船には二三人の神人が乗り居たり。船の中より、 神人『ノアの方舟現はれたり、サア早く乗らせ給へ』 と呼ばはり乍ら足許へ漕ぎ寄せ来る。一同は天にも昇る心地し乍ら、一人も残らず此船目蒐けて、天の祐けと飛び込めば、船は波を押分け悠々として西南指して進み行く。 斯く俄に鳴動し、水量まさり来りしは、南洋のテンカオ島と云ふ巨大なる島が、地辷りの為に海中に沈没した為、一時の現象として斯の如くなりしなりき。水量は追々常態に復しぬ。船は月に照され乍ら海上静かに走り居る。船の中の神人の爽かな声、 玉能姫『妾は玉能姫で御座います。高姫様、蜈蚣姫様、其他御一同様、危ない所で御座いましたが、神様のお蔭で先づ先づ御無事で、コンナ御芽出たい事は御座いませぬ。妾達は神様の御命令に依つて、貴女方が海神島にお着き遊ばす迄御保護申せとの言依別命の御命令で、見えつ隠れつお後を慕つて参りました。アヽ有難い、これで妾の使命も完全に勤まつたと申すもの、マアよう無事で居て下さいました。玉治別も居られます。初稚姫様もここに乗つて居られます』 高姫『是れと云ふのも全く日の出神様の御神徳ぢや。お前さまも其お蔭で言依別命に対して言ひ訳も立ち、完全に御用も勤まつたと云ふもの、コンナ事がなければお前さまが遥々此処まで出て来たのも無意義に終るとこだつた。アヽ神様は誰もつつぼに致さぬと仰有るが偉いものだなア。大神様は平等愛を以て心となし給ふ。お前さまもこれでチツトは我が折れただらう。手柄を横取して自分一人が猫糞をきめこみ、結構な神宝を隠して素知らぬ顔をして御座つたが、是れで神様の大御心が分つたでせう。サア玉の所在を綺麗サツパリと皆の前にさらけ出し、功名手柄を独占しようなぞと云ふ執着心を、此際放かしなさるのが御身の得だぞへ、オホヽヽヽ』 玉能姫、初稚姫は呆れて何の言葉もなく、黙然として俯むき居たり。玉治別は一生懸命に艪を操り乍ら高姫の言葉を聞いて少しくむかついたが、神直日大直日の宣伝歌を思ひ出し、吾と吾心を戒め、さあらぬ態に船唄を唄ひ、汗をタラタラ流し乍ら船を操り居たり。 高姫『コレお節さま、お初さま、お前さまもいい加減にハンナリとしたらどうだい。助けに来るのも、助けられるのも皆神様に使はれて居るのだよ。必ず必ず高姫其他を助けてやつたと慢神心を出してはなりませぬ。ハヤそれが大変な取違だ。九分九厘になつたれば神が助けるぞよと、チヤンと仰有つてる。家島で船を取られた時も、神がお節さまを御用に使ひ、船を持つて来さしました。アンボイナ島でも其通り、今又日の出神のおはからひで結構な御用を指して貰ひなさつた。此処で結構な御用をさして貰ひなさつたのも、ヤツパリ高姫があつたればこそ……一遍々々お前さまは手柄が重なつて結構だが、ウツカリ慢神すると谷底へ落されますぞや。大分に鼻が高うなり出した。チツト捻ぢて上げようか』 と二人の鼻を掴みかからうとする。貫州は其手をグツと握り、 貫州『コレ高姫さま、我が強いと云つても余りぢやないか。側に聞いて居る私でさへも憎らしうて、お前さまを殴りつけたうなつて来た。ようもようも慢神したものだなア、チツト胸に手を当てて考へて見なさい。生命を助けて貰ひ乍ら、又しても又しても減らず口を叩いて、よう口が腫れぬ事だナア』 高姫『貫州、神界の事はお前達の容喙すべき事ぢやない。どんなお仕組がしてあるか分りもせぬのに、出しやばつて囀るものぢやありませぬぞ。バラモン教の蜈蚣姫さまでさへも高姫の言葉に感心して、何とも仰有らぬのに、没分暁漢のお前が何を吐くのだい。お前も大分に鼻が高くなつた。一つ捻つてやらうか』 と稍高い鼻を掴みかかるのを、貫州は力をこめて撥ね飛ばした途端に、高姫はザンブと計り海中に落込みぬ。玉治別は驚いて、矢庭に棹を突き出す。高姫は一生懸命になつて棹に喰ひつき、漸くにして救ひ上げられけり。 高姫『コレ貫州、何と云ふ乱暴な事を致すのだい』 貫州『是れも神界の御都合でせう。肱出神様が肱ではぢかはりましたら、貴女が曲芸を演じてカイツムリとなり、皆の者一同に観覧さして下さいました。本当に抜目のない愛想のよい仁慈無限の高姫さまだと、云はず語らず、皆の者が舌を出して喜び居りましたワイな』 蜈蚣姫『高姫さま、お怪我は御座いませなんだか。お前さまも余りお口がよろしいからナア』 高姫『放つといて下され、口がよからうが悪からうが、妾の口は妾が自由に使用するのだ。お前さま等の改心が足らぬから、此高姫が千座の置戸を負うて此海へ飛び込み鹹い塩水を呑んで罪を贖ひ、助けて上げたのだ。何故一言の御礼を申しなさらぬ。……コレコレ、ムカデにお節、お初殿、分りましたかなア』 玉能姫『ハイ、どうもお元気な事には心の底から感心致しました。その勢なれば強いものです。大丈夫ですワ』 高姫『さうだらう。お前も大分に高姫の心の底が見えかけたよ、大分に身魂が研けたやうだ。モ一つ打解けて玉の所在さへ白状すれば、それこそ立派な者だ。高姫の片腕になれるべき素質は充分にある。モウそろそろ言はねばなるまい。言はねば云ふ様にして言はすぞよと大神様が仰有つた事を覚えて居ますか。誰が何と云つても艮の金神、坤の金神、金勝要神、一番地になるのが日の出神、四魂揃うて、誠の花が咲くお仕組、何程言依別が瑞の御霊でも、玉照姫が木花咲耶姫の分霊でも、玉照彦が三葉彦の再来でも、到底四魂の神には肩を並べる事は出来ますまい。お前さま達は今迄何でも彼んでも、言依別や其他の枝の神の申す事を聞いて居つたから、思ふ様にチツトも往きやせまいがな。四魂の中でも根本の土台の地になる日の出神をさし措いて、何結構な御用が出来るものか、此れを機会に改心が一等で御座るぞや』 と口角泡を飛ばし、誰も返辞もせないのに、独り噪やいで居る。 船中の人々は高姫を気違扱ひして相手にならず、言ひたい儘に放任し置きたりける。 蜈蚣姫は丁寧な言葉にて、 蜈蚣姫『玉能姫様、初稚姫様、玉治別様、アンボイナ島では大変な失礼な事を申上げましたが、どうぞ御赦し下さいませ。就きましては妾の娘小糸姫は魔島の麓で船を破り可哀や溺死を遂げました。夫は今は波斯の国に居りますなり。年老つた妾、夫婦別れ別れになり、一人の娘には先立たれ、最早此世に何の望みも御座いませぬ。どうぞ今迄の御無礼を海へ流して、どうぞ妾を貴方のお供になりと御使ひ下さいますまいか。実に立派な御心掛け、如何な悪に強い妾も感心致しました』 と袖に涙を拭ひ泣き伏す。玉能姫は合掌しながら、 玉能姫『如何致しまして、老練な蜈蚣姫様、どうぞ宜しく、足らはぬ妾の御指導をお願ひ致します。今承はれば小糸姫様は海の藻屑となつたと仰せられましたが、それは御心配なされますな。屹度オーストラリヤの一つ島に立派な女王となつて、羽振りを利かして居られます。妾は素盞嗚尊様の御娘、五十子姫様より小糸姫様の消息を聞きました。今は三五教の教を樹て黄竜姫と名乗つて立派に暮して居られます。やがて芽出たく親子の対面が出来ませう。どうぞ御心配をなさらぬ様、勇んで下さいませ』 蜈蚣姫『アヽ有難い、左様で御座いましたか。是れと云ふのも皆大神様の御神徳……』 と手を合せ、直に天津祝詞を奏上し、感謝の辞に時を移しけり。高姫は投げ出したやうな言葉付きで、 高姫『蜈蚣姫さま、どうでお節の云ふ事、当にやなりますまいが、仮令話にせよ、娘さまに会へると云ふ事をお聞きになつたら嘸嬉しいでせう。妾も虚実は兎も角、言霊の幸はふ国、刹那心でも芽出たいと思はぬこたアありませぬ。併しマア物は当つてみねば分りませぬ。どうも日の出神の観察では怪しいものだが、折角そこまでお前さまが喜びて居るのだから、妾も一緒にお付合に喜びて置きませう』 玉治別は立ち上り、 玉治別『サア向方に見えるのがニユージランドの沓島だ。皆さま少々波が荒くなるから、其覚悟して下さい』 (大正一一・七・三旧閏五・九松村真澄録) 此日午前六時二代様三代様も白山、月山に御登山の途に就かるとの電来たる。 |
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32 (1859) |
霊界物語 | 24_亥_豪州物語1(高姫と蜈蚣姫) | 神諭 | 神諭 大正五年旧十一月八日 大本の神の教の通りの誠の修業のでけてをる身魂は、安全に神界の御用が勤まるなれど、修業の出来て居らぬ身魂は辛くなるから、誠の神の道は修業した丈けの事より出来は致さぬぞよ。世に落ちて居りた身魂は、ドンナ辛い修業も致して居るから、サア爰といふ処では、ビクともせずに安心に御用が勤まるぞよ。世に出て居りて、今迄結構に暮して来た上流の守護神よ、一時も早く改心なされよ。モウ世が迫りて来たから、横向く間も無いぞよ。是からは悪の霊の利かぬ時節が廻りてきたから、今迄のやうな強いもの勝の世の持方は神が赦さぬぞよ。今迄は加美はドンナ忍耐も致して、此世の来るを待ちて居りたぞよ。日本は欲な人民の多い国、外国は学の世であるから、ドンナ事でも致すぞよ。日本の人民は神の国に生れ乍ら、神をおよそに思て、吾よしの強欲計りを考へて、金の事になりたら、一家親類は愚、親兄弟とでも公事をいたす、惨たらしい身魂に化り切りて居るぞよ。是では神国の人民とは申されぬぞよ。 神の初発に修理へた元の祖国は、世界中を守護する役目であるぞよ。世界の難儀を助けてやらねば、神国の役目が済まぬから、世界の国の人民を一番先に神心に捻直して一人も残らず、神心に復へてやらねば神の役が済まぬので、天の大神様へ、日々艮の金神が御詫をいたして、世の立替を延ばして貰うて、其間に一人でも多く、神国魂に致したさに、神は昼夜の気苦労を致して居るから、神国の人民なら、チトは神の心も推量致して身魂を磨いて、世界の御用に立ちて下されよ。モウ世が迫りて来て、絶対絶命であるから、何うする間も無いぞよ。神は急けるぞよ。人民が早く改心をいたして下さらぬと、世界中の難渋が激しくなりて、何も彼も総損害となるぞよ。神が経綸た世界の誠を、何も知らずに、吾物に致さうとして、エライ企みは奥が浅うて狭いから、ここまで九分九厘までは面白い程、トントン拍子に来たなれど天の時節が参りて、悪神の世の年の明きとなりて、悪の輪止りで、向ふの国には死物狂を致して居るなれど、何処からも仲裁に這入る事も出来ず、見殺しで神なら助けねばならぬなれど、余り我が強過ぎて何う仕様も無いぞよ。此方艮の金神も我が強くて、神々の手に合はいで押籠められて変化る事の無い所まで、ドンナ事にも変化て、ここへ成りたのであるから、モウ一種変化たいと思うたなれど、モウ変化る事が無い様に成りたぞよ。(終) |
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33 (1913) |
霊界物語 | 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 | 06 玉乱 | 第六章玉乱〔七八八〕 玉照姫、玉照彦は口を揃へて、 玉照姫、玉照彦『英子姫殿、紫の玉を我前に持来られよ』 と宣示された。英子姫は「ハイ」と答へて紫の玉を柳筥に納めた儘、恭しく捧持して二神司の前に奉らむとする時しも、高姫は、 高姫『一寸待つて下さい。又紛失すると大変だから、此玉は日の出神が保管致しておきます』 国依別『コリヤ高、又腹の中へ呑んで了ふ積りだらう。何程日の出神が偉くとも、玉照彦、玉照姫の御命令を反く訳には行くまい。……サア英子姫さま、お二方の御命令です、躊躇逡巡するに及びませぬ。早く献上なさいませ』 高姫『エー又しても又しても、邪魔計り致す男だ。今日只今限り、国依別を除名する』 国依別『エー又しても又しても、玉を呑まうと致す偽日の出神、今日只今より、国治立命、国依別の口を通し、高姫を除名する。ウンウンウン』 高姫『ヘン、おいて貰ひませうかい。何程国依別でも、国治立命様のお懸りなさる筈がありますかい。サア一時も早く国処立ち退きの命となつて帰つて貰ひませう』 玉照姫、高座より声しとやかに、 玉照姫『高姫、国依別両人共、お控へめされ』 国依別『ハハー』 と畏縮して其場に平伏する。高姫、 高姫『エーエ、日の出神の生宮さへあれば良いのに、無用の長物……でもない。何と言うても二つの頭が並んで居るのだから、行りにくいワイ。両頭蛇尾と云つて、善悪両頭使ひの高姫も芝居が巧く打てませぬワイ』 と小声で呟いて居る。 国依別『高姫さま、玉照姫様の御命令もだし難く、貴女の除名を、国依別茲に取消し致します』 高姫は舌をニヨツと噛み出し、あげ面し乍ら、二三遍しやくつて見せ、右の肩を無恰好に突起させ、 高姫『ヘン、……能う仰有いますワイ。日の出神が更めて国依別を外国行と定めるから、喜んでお受けをなさるがよからう』 国依別『お前さまに命令して貰はなくとも、言依別神様、杢助様、国依別は三人世の元となつて、チヤンと外国で仕組がしてあるのだ。七つの玉もお先に海外の或地点に隠してあるのだから、要らぬ御世話で御座います』 高姫『そんなら国依別、お前は早くから三人腹を合せて企んで居つたのだな』 国依別『どうでも宜しいワイ。虚実の程は世界の見えすく日の出神様が御存じの筈だ』 玉照姫『国依別、改めて申し渡すべき事あれば、暫く汝が館に立帰り、命を待たれよ』 国依別『ハハー、承知致しました』 と丁寧に挨拶をなし、終つて、 国依別『ヤア、テールス姫、玉能姫、玉治別、久助、お民さま、竜宮の女王黄竜姫、蜈蚣姫其他一統の方々、高姫、黒姫に対して、充分の防戦をなされませや。此国依別が此場を立去るや否や、そろそろと又吹き出しますからなア』 玉治別『ヤア有難う、あとは我輩が引受ける、安心して帰つて呉れ。さうして言依別様に宜しく申上げて呉れ。……オツト失敗つた、言依別様は最早どつかへ御不在になつた筈だなア』 高姫『今の両人が話振を聞けば、玉治別も同類と見える。お前もトツトとここを退場なされ。日の出神が命令する』 玉治別『高姫さま、大きに憚りさんで御座います。済みませぬが、私の進退は私の自由ですから、余り御親切に構うて下さいますな』 高姫、杢助の方にギヨロリと目を転じ、 高姫『お前さまは総務を辞職した以上は、そんな高い所に何時迄も頑張つて居る権利はありますまい。トツトと御下りめされ。サア是からは、言依別は逐電致すなり、杢助は辞職をするなり、ヤツパリ此八尋殿は高姫が教主となつて行らねばならぬかなア。時節は待たねばならぬものだ』 玉治別『コレハしたり、高姫さま、誰の命令を受けて貴女は教主になるのですか。誰もあなたを教主として尊敬し、且つ服従する者はありますまいぞ』 高姫『コレコレ田吾さま、お黙りなされ。天地開闢の初から系統の身魂、日の出神の生宮が教主になるのは、きまり切つた神界の御経綸だ。それだから日の出神の守護に致すぞよと、お筆先にチヤンと書いてあるのだ。……今までは悪の身魂に結構な高天原をワヤにしられて居たが、世は持切には致させぬぞよ。天晴れ誠の生神が表に現はれて日の出の守護となつたら、今迄上へあがりて偉相に申して居りた御方アフンとする事が出来るぞよ。ビツクリ致して逆トンボリを打たねばならぬぞよ。それを見るのが神は辛いから、耳がたこになる程知らしたが、チツとも聞入れないから是非なき事と諦めて下されよ。決して神を恨めて下さるなよ。我身の心を恨めるより仕様がないぞよ。……と現はれて居りませうがな。誰が何と云つても三五教は日の出神の生宮が表に立たねば、神界の仕組は成就致しませぬぞエ。誠の者が三人あれば立派に立替が成就すると仰有るのだから、イヤな御方は退いて下されよ。誠一つの生粋の水晶玉の大和魂の根本の、地になる日の出神の生宮と竜宮の乙姫の生宮と、高山彦と三人さへあれば、立派に神業は成就致しますワイな。グツグツ申すと帳を切るぞえ』 玉治別『アハヽヽヽ、よう慢心したものだなア。……コレコレ波留彦さま、秋彦さま、お前と私と三人世の元となつて、高姫軍に向つて一つ戦闘を開始したらどうだ』 波留彦『それは至極面白い事でせう。……なア、秋彦さま』 高姫『コレコレ滝、鹿、田吾作、お前達は何程三角同盟を作つても駄目だよ。モウ今日から宣伝使なんか、性に合はないことをスツパリ思ひ切つて、紫姫さまの門掃きになつたり、宇都山郷に往つて芋の赤子を育てたり、ジヤンナの郷へ帰つて土人にオーレンス、サーチライスと持てはやされる方が御互に得策だ。(高姫は逆上の余り滝と友と同うして喋つてゐる)いよいよ日の出神が教主となつた以上は何事も立替だ。今更めて教主より除名するツ』 玉照姫高座より、 玉照姫『三五教の教主は言依別命、神界の御経綸に依りて高砂島へ御渡り遊ばした。又杢助は神界の都合に依り筑紫の島へ出張を命ずる。淡路の島の人子の司東助を以つて三五教の総務に任じ、且つ臨時教主代理を命ずる。高姫、黒姫は特に抜擢して相談役に致す。玉治別、秋彦、友彦、蜈蚣姫、黄竜姫、玉能姫は以前の儘現職に止まるべし』 と宣示し玉うた。 高姫『玉照姫さまもチツと聞えませぬワイ。玉照彦様は何とも仰有らぬに、女のかしましい差し出口。何程結構な身魂でも、此三五教は艮の金神、坤の金神、金勝要神、竜宮の乙姫、日の出神の生魂で開いて行かねばならぬお道、お玉の腹から生れて出た変則的十八ケ月の胎生……言はば天下無類の畸形児ぢやないか。何と仰有つても今度計りは命令を聞きませぬぞ』 玉照姫『汝高姫、四個の麻邇の玉の所在を尋ね、それを持帰りなば、始めて汝を教主に任じ、高山彦、黒姫を左守、右守の神に任ずべし。誠日の出神又玉依姫の身魂なれば、其玉の所在をつきとめ我前に奉れ』 高姫『其お言葉に間違ひはありますまいな。宜しい。言依別と杢助の両人、腹を合せて隠しよつたに、間違ひない。証拠は……これ……此教主の書置き、立派に手に入れてお目にかけます。其代りにこれを持帰つたが最後御約束通り此高姫が教主ですから、満場の皆様もよつく聞いておいて下されや。日の出神の神力をこれから現はしてお目にかける。其時には玉能姫、蜈蚣姫、黄竜姫、玉治別、友彦、テールス姫、久助、お民、佐田彦、波留彦……其他の連中は残らず馘首するから覚悟なさいませ、とはいふものの、玉の所在を知つてる者があれば、そつと此高姫に云つて来い……でもよい。兎に角以心伝心無声霊話でもよいから……』 玉治別、両手を拡げ、体を前後ろにブカブカさせ乍ら、 玉治別『アツハツハヽ、アツハツハヽヽ』 と壇上で妙な身振をして笑ひ出した。 高姫『オイ田吾さま、そろそろ守護神が現はれかけたぢやないか。其態は何ぢやいな。コレコレ皆さま、御覧の通り、日の出神が表になると、皆の身魂が現はれて恥しい事が出来ますぞえ。今の所は言依別や東助さまが表面主権を握つて居る様だが、実際の所は床の間の置物だ。実地誠の権利は日の出神の生宮にあるのだから、取違をなされますなや。日の出神も中々大抵ぢやない。遥々と高砂島や筑紫の島まで行くのは並や大抵ぢや御座らぬ。魚心あれば水心だ。出世をしたい人は誰に拘はらず、我れ一とお働きなされ。お働き次第で日の出神が御出世をさして上げますぞえ』 波留彦一同を見まはし乍ら、 波留彦『皆さま、今高姫の仰有つた通り、手柄のしたい人はお手を上げて下さい……一、二、三……ヤア唯の一人も手を上げる人がありませぬなア』 玉治別『それで当然だよ。地位も財産も名誉も捨てて、一心に神界の為に尽さうと云ふ誠の人計りだから、そんな人欲に捉はれて、三五教へ入信つた者は一人もありませぬワイ。人欲の雲に包まれてるのは高姫さまに黒姫さま、高山彦位なものだなア』 一同手を拍つて「賛成々々」と呼ぶ。 高姫『口と心とサツパリ裏表の体主霊従計りがよつて来て、すました顔して御座るのが見えすいて可笑しう御座いますワイの、オツホヽヽヽ』 高山彦『高姫さま、私は今日限りお暇を頂きまして、竜宮の一つ島へ帰り、元のブランヂーとなつて活動致します。仮令貴女が目的を達して教主になられても、私はあなたの麾下につくのは真平御免ですよ。……黒姫もこれから充分竜宮の乙姫さまを発揮して、日の出神さまと御一緒に御活動なされませ。左様なら……』 と云ひすて、玉照彦、玉照姫の方に向つて丁寧に辞儀をなし、 高山彦『英子姫、五十子姫、梅子姫、初稚姫、其外御一同様、御機嫌よく御神業に御奉仕遊ばされん事を高山彦祈り上げ奉ります。御一同の方々、此高山彦は今日限り高姫様と関係を解き、皆様の前にて公然黒姫に暇を使はします。どうぞ其お心組で高山彦を可愛がつて下さいませ』 玉治別『それでこそ高山彦さまぢや。感心々々』 一同は「万歳」と手をあげて歓呼する。高山彦は、 高山彦『皆さま、左様ならば之より一つ島へ参ります。高姫殿、黒姫殿、さらば……』 と立出でんとする。黒姫は周章て裾をひき止め、 黒姫『マアマア待つて下さんせいな。最前からのあなたの御言葉、残らず承知いたしました。……とは云ふものの情なや、過ぎし逢う夜の睦言を、身にしみじみと片時も、思ひ忘るるひまもなう、年月重ぬる其内に、うつり易いは殿御の心と秋の空、もしや見捨はなさらぬかと、ホンにあらゆる天地の神さまや、竜宮さまに願かけて、案じ暮した甲斐もなう、今日突然離別とは、余りムゴイ御仕打、これが如何して泣かずに居られませうか、オンオン』 とあたりを構はず、皺くちや顔に涙を夕立の如くたらして泣沈む。 玉治別『悔んで帰らぬ互の縁、中をへだつる玉治川。……サアサア高山彦さま、思ひ切りが大切だ。グヅグヅして居ると、又もやシヤツつかれますよ。あとは此玉治別が、全責任を負うて引受けますから、一切構はず勝手にお越し遊ばせ』 高山彦『何分宜しく御頼み申す』 と立出でんとする。 黒姫『高山さまも聞えませぬ。お前と二人の其仲は、昨日や今日の事ではありますまい。私をふりすてて帰のうとは、余り聞えぬ胴欲ぢや。厭なら嫌で、無理に添はうとは言ひませぬ。生田の川の大水を渡つた時の私の正体[※第19巻第3章で黒姫は蛇体に還元して、水が氾濫した川を渡っているが、生田川ではなく白瀬川と呼ばれている。(どちらも由良川の別名と思われる)]、よもや忘れては居りますまいな』 高山彦『一度還元した以上は再び還元出来ぬ大蛇の身魂、もう大丈夫だ。日高川を蛇体になつて渡つた清姫[※平安時代の安珍・清姫伝説で、道成寺に逃げた安珍を追い駆け、清姫は蛇体に変じて日高川を渡ったことを指す。]の様に太平洋を横切つて、高山彦の色男を尋ねて来なさい。地恩の郷の大釣鐘を千代の住家として、高山彦は安逸に余生を送る考へだ。さうすれば極安珍なものだ。何程お前が地団駄ふんで道成寺かうせうじなどといつて、藻掻いた所でモウ駄目だよ。アハヽヽヽ』 と大きく肩をゆすり乍ら悠々として出でて行く。黒姫は夜叉の如く、あと追つかけんと、婆さまに似合はず捩鉢巻をし、裾を太腿の上あたりまで引あげて、大股にドンドンとかけ出しかけた。玉治別は追ひすがつて黒姫の後よりムンヅと許り帯をひつつかんで力に任せ、グツと引戻す。黒姫は金切声を出して、 黒姫『千危一機の此場合、どこの何方か知らねども、必ずとめて下さるな。妾にとつて一生の一大事、アヽ残念や口惜しや、そこ放しや』 と振向く途端に見合す顔と顔、 黒姫『ヤアお前は意地くね悪い田吾作殿、ここは願ぢや、放しておくれ』 玉治別『意地くね悪い田吾作だから放さないのだよ。雪隠の水つき婆うきぢやと人が笑ひますよ。まあチツと気をおちつけなされ。高山さま計りが男ぢやありますまい。男旱魃もない世の中に、コラ又きつう惚たものだなア』 黒姫は、 黒姫『エー放つといて』 と力限りふり放し、群衆の中を無理に押分け人を押倒し、ふみにじり乍ら、尻まで出して一生懸命高山彦の後を追つかけ走り行く。 (大正一一・七・二四旧六・一松村真澄録) |
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34 (1962) |
霊界物語 | 29_辰_南米物語1 鷹依姫と高姫の旅 | 07 牛童丸 | 第七章牛童丸〔八二九〕 高姫は長途の旅を思ひ切つて駆け出し、喉は渇き、身体は疲れ、止むを得ず、路傍の樹蔭に身を横たへ、細谷川に喉をうるほし、蔓苺をむしつて食ひ、一夜をここに明さむと、小声になつて、天津祝詞を奏上しゐたり。 常彦、春彦の二人は十丁計り遅れた儘、一生懸命に身体をはすかひに、余り広からぬテルの街道を南へ南へと走つて行く。里の童が夕暮に牛を川に入れ、其背に跨つて、横笛を吹き乍ら帰つて行く。常彦は一生懸命に吾前に牛の居ることも気がつかず、ドスンと牛の尻に頭突を持つて行つた。牛は驚いて飛び上り、背に乗つてゐた童は忽ち地上に顛落し、ムクムク起上り、牛の綱をグツと握り乍ら、 童児『オイ、どこの奴か知らぬが気をつけぬかい。貴様の目玉は節穴か』 と、小さき童に似ず大胆にも大の男に向つて呶鳴りつけたる。 常彦『これはこれは誠に日の暮の事と云ひ、チツと気が急きましたので、牛の尻餅を突きました。どうぞ御勘弁下さりませ』 童児『コリヤ謝つて事が済むと思ふか。人を牛々云ふ様な目に合はしやがつて、只一言の断り位で此場を逃ようとしても、牛叶はぬぞ。オイ、そこに一寸平太れ!』 常彦『ハイ、そんなら平太りますワ。どうぞこれで勘忍して下さい』 童児『お前計りでは可かぬ。モ一人の蜥蜴のような顔した奴、そいつも坐れ!』 春彦『なんとマア、小つぽけなザマして、大人に向ひ御託をほざく奴だなア。俺は別に突当つたのぢやない。俺迄が謝つてたまるかい』 童児『お前も同類だ。グヅグヅ云ふと牛にケシをかけ突殺してやろか。俺は身体は小つこうても、俺の家来の牛は大分に大きいぞ』 常彦『モ牛モ牛、童児さま、モウいゝ加減に了見して下さいなア』 童児『俺の正体を誰ぢやと思うてるか。それを当たら許してやらう』 常彦『ハイ、確かにお前は牛童丸さまぢや御座いませぬか。高砂島には、えてしては、牛童丸と云ふ神さまが現れて、牛に乗つて横笛を吹いてゐられると云ふことを聞きました』 童児『牛童丸は何神の化神か、知つて居るだらうなア』 常彦『ハイ、知つて居ります。御年村の百姓、自称艮の金神さま……とは違ひますか』 童児『私は百姓の神だ。大歳の神の化身だよ』 春彦『ハアそれで常彦があなたの牛にぶつかり、背中から童児を大歳の神さまですか、アハヽヽヽ。但は小つこいザマして、大きな人間をオウドシの神さまだらう』 童児『お前は春彦と云ふ男だなア、一寸ここへ来い。お前にやりたい物がある』 春彦『ハイ有難う。出すことなら、舌を出すのも、手を出すのも嫌だが、貰ふ事なら、犬の葬連でも、牛の骨でも頂きます』 と子供だと思ひ、からかひ半分に童児の前にすり寄つた。童児は横笛を逆手に持ち、春彦の横面を目蒐けて、牛の背中から、 牛童『大歳の神が横笛を以て、お前の横面を力一杯春彦だよ』 と首がいがむ程叩きつけ、 牛童『モ一つやらうか』 と平然として笑つて居る。 春彦『モウモウ沢山で御座います。随分お前さまは小さい癖に、エライ力だな。これ丈の腕があれば、大の男を捉まへて嘲弄するのも無理はないワイ。それだから神さまが何程小さい者でも侮ることはならぬ、どんな結構な方が化けて御座るか知れぬぞよ……と仰有つたのだ。……オイ常彦、モウいゝ加減にこらへて貰つて、行かうぢやないか』 常彦『さうだな。……モ牛モ牛牛童丸様、そんならこれでお別れ致します』 牛童『待て待て、お前達両人にモ一つ大きな物をやりたいのだ』 春彦『イヤもう結構で御座います。モウあれで沢山で御座います。此上頂きますと、笠の台が飛んで了ひます』 牛童『イヤ心配するな。此牛をお前にやるから、アリナの滝迄乗つて行け。大変に足も草疲れてゐる様だから……。そして高姫はこれから十丁計り南へ行くと、小川がある。其小川を左にとつて十間計りのぼると、そこに高姫が休んで居るから、此牛に乗つて、川をバサバサと上つて行け。左様なら……』 と云ふかと見れば、最早童児の姿は見えなくなり居たり。 常彦『オイ春彦、どうだ。俺が突当つた計りで、こんな結構な乗物を頂戴したぢやないか。サア是れから二人共此牛の背中に跨つて往かうぢやないか』 春彦『お前は結構だが、俺は横笛でなぐられ、痛くて仕方がないワ』 常彦『ナニ、神の恵の鞭だよ。牛童丸様になぐられたのだから、余程貴様も光栄だ。これが高姫にでも撲られたのだつたら、それこそ腹が立つてたまらぬけれど、何しろ神様が、春彦モウ別れるのか、おなぐり惜しいと云つて、お撲り遊ばしたのだよ。サア早く乗らう。牛と見し世ぞ今は恋しき……と云つて、今が一番結構かも知れぬぞ。据膳食はぬは男の中ぢやない。サア早く乗つたり乗つたり』 春彦『コシカ峠の弥次、与太の夢の様に又牛に乗つて、牛の奴から小言をきかされるやうな事はあろまいかな』 常彦『心配するな』 と云ひ乍ら、ヒラリと背に跨つた。春彦は牛の綱を引き乍ら、南へ南へと進み、遂に童児の教へた細谷川を左に取り、川を溯りて、高姫の休んでゐる二三間側まで進み、『オウオウ』……と牛を制し、ヒラリと飛び下り、 春彦『モシモシ牛さま、エライ御苦労で御座いました。モウどうぞお帰り下さいませ』 牛『ウンウンウンウウー』 と山もはぢける様な声を出して唸り立てる。高姫はウツラウツラ夢路を辿つてゐたが、此声に驚いて目を覚まし、巨大の牛の両側に常彦、春彦二人の立つてゐるを見て、 高姫『お前は常、春の二人ぢやないか。何だ、そんな大きな物を引つぱつて来て……又道中で百姓の宝を何々して来たのだらう。どこ迄も泥棒根性は直らぬと見えるワイ。さうぢやから此高姫がお前の様な者を連れて歩くと、神徳がおちると云うたのだよ。エヽ汚らはしい、トツトと帰つて呉れ。ツユーツユーツユー』 と唾を吐き出して、二人にかける真似をする。 常彦『高姫さま、心機一転もそこまで行けば、徹底したものですなア。モウ私はお前さまになんにも言ひませぬ。玉の所在もお前さまの心を見抜いた上で知らしてあげたいと思つてゐたが、さう猫の目のやうにクレクレクレと変るお方は険呑だから、これきり秘密は云ひませぬから、其の積りでゐて下さい』 高姫『オイ常、ソラ何を言ふのだい。大それた日の出神の生宮に向つて、言うてやるの、言うてやらぬのもあるものか。妾が知らぬやうな顔して気を引いて見れば、エラソウに恩に着せて、序文や総論計りを並べ、肝腎の中味は水の中で屁を放いたやうな掴まへ所のないことを云ふのだらう。日の出神様から、玉の所在はチヤンと聞いたのだ。モウお前さまに用はない、一生頼みませぬ。トツトと妾の目にかからぬ所へ往つてお呉れ』 常彦『高姫さま、さう啖呵を切るものぢやありませぬよ。腐り縄にも亦取得と云つて、私にでも頼まねばならぬことが、たつた今出て来ますから、余りエラソウなことは云はぬが宜しからうぜ』 高姫『エヽうるさい』 常彦『そんなら、此牛に乗つて、一口一両の、ア、リ、ナーへお先へ失礼致しますワ。私は途中で牛童丸さまに一伍一什教へられ、お前さまのここに居ることも、チヤンと知らして貰ひ、結構な四足の乗物まで頂戴して来たのだから、一寸も草疲れはせぬ。モウ十日計りアリナーまでかかるけれど、これで乗つて行けば三日計りで行ける。……ぢやお先へ、高姫さま……アバヨ』 又もや牛に跨がらうとする。高姫はコリヤ大変と、慌しく起上り、常彦の腰をグツと引掴み、 高姫『待つたり待つたり常彦、妾が悪かつた。さう腹を立てて下さるな。一寸お前が如何云ふか知らぬと思つて気を曳いて見たのだよ』 常彦『又何時もの筆法ですかな。其手は食ひませぬワ。……サア春彦、お前も乗つて呉れ。……高姫さま、お先へ、如意宝珠、其他の御神宝を頂いて帰ります。アリヨース』 高姫『コレ常公、春公、待てと言つたら、待ちなさつたら如何ぢや、さう高姫を嫌つたものぢやないぜ』 と円い目をワザと細うし、おチヨボ口を作つて機嫌をとる。月夜でスツカリは分らねど、言葉の云ひ方から、スタイルでそれと肯かれた。 高姫『モウ牛は帰つて貰つたら如何です。却て修業にならぬかも知れませぬで』 常彦『アヽさうだなア。そんなら牛さま、モウ帰つて下さい』 牛は常彦の一言に泡の如く其場に消え失せけり。高姫は之れを見て、稍安心の胸を撫で下し、ソロソロ又強いことを言ひかけた。 高姫『何程お前の足が達者でも、私には従いて来られますまい。それだから慢心はなさるなと始終教訓してゐるのだよ』 常彦『又高姫さまは弱味をつけ込んで、そんなことを仰有る。アヽこんな事なら、牛に帰つて貰ふのぢやなかつたに。……モシモシ牛さま、モ一遍こちらへ帰りて下さい。そして牛童丸の仰有つた様に、アリナの滝迄連れて行つて下さいな』 と当途もなく叫んだ。呼べど叫べど梨の礫の何の音沙汰もない。 常彦『アヽ折角牛さまに助けて貰うたと思へば、明日は又砂つぽこりの道を、親譲りの交通機関に油でもかけてテクらねばならぬかいな。……牛と見し世ぞ今は恋しき……と云ふ歌の心が、今は事実となつて来たワイ』 高姫『オツホヽヽヽ、そら御覧、驕る平家は久しからず、……と云つて、何時迄も柳の下に鰌は居りませぬぞや。お前のやうな人を連れてゆくのは手足纏ひだが仕方がない。そんならドツと張込んで、お供を許してあげよう。サアゆつくりと此処で休みなさい』 春彦『そんな事を言つて、俺達がグウグウ休んでる間に、ソツと高姫さまが抜け出し、先へ行つて、玉をスツカリ取つてしまはつしやるのだなからうかな』 常彦『ウン、まさか、そんなこともなさるまいかい。兎も角私の聞いて居るのは又外にあるのぢやから、さう心配したものぢやないワイ』 高姫『お前達はそれだから可かぬと云ふのぢや。心を疑ふといふ事は神界で大変な罪ですよ。疑を晴らして、綺麗さつぱりと改心なされ、改心が出来ねば御供は許しませぬぞや』 常彦『ハイ改心致します』 高姫『春彦もさうだらうな』 春彦『尤も左様で御座います』 斯く話す所へ大杉の枝の梢から何者とも知れず、 声『高姫々々、常彦コツコ、春ヒコツココ』 と梟鳥のような声でなき出した。 高姫うす気味悪くなり、スゴスゴと座を立ちて、元来し道へ逃出した。二人も薄気味悪く高姫の後に従ひ、テルの街道へ出て、三人は一生懸命に南へ南へと眠い目を俄にさまし、トボトボと歩み行く。 草を褥に木株を枕に芭蕉の葉をむしつて夜具に代用し乍ら、七日計りを経て漸く、猿世彦の奇蹟を残した蛸取村の海岸に出た。此時既に日は西山に没し、二日の月は西方の波の上近く浮いた様に見えてゐる。三人は月に向つて合掌し、天津祝詞を奏上し、天の数歌をうたひ乍ら、夜中をも屈せず、アリナの滝を目当にトボトボと進み行く。 (大正一一・八・一一旧六・一九松村真澄録) (昭和一〇・六・七王仁校正) |
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霊界物語 | 33_申_玉の御用の完了/高姫と黒姫の過去 | 19 報告祭 | 第一九章報告祭〔九三四〕 綾の聖地に於ける錦の宮の八尋殿には、七五三の太鼓の音が聞えて来た。今日は殊の外風清く、陰鬱なる霧も早朝より晴れ渡り、紺碧の空は愈高く、太陽は東の山の端より其雄姿を現はし、金色の光を地上に投げてゐる。今朝は太鼓の音も何となく冴え渡り、下界の邪気を万里の外に追ひ払うた様な気分が漂うてゐる。 東助、高姫を初め、秋彦、友彦、テールス姫、夏彦、佐田彦、お玉、高山彦其他の幹部は祭服厳めしく、報告祭を勤行するのであつた。高姫が久振りにて高砂島より帰り、又黒姫、玉治別が筑紫の島より遥々帰国し、鷹依姫、竜国別の宣伝使が無事に帰国して、麻邇宝珠の神業に無事奉仕せし歓びと、黒姫が三十五年振りに吾実子の発見せられし事の感謝を兼ねたる報告祭であつた。 一紘琴、二紘琴の嚠喨たる音楽の声と共に祭典は無事終了した。教主の英子姫を初め、玉照彦、玉照姫の神司並に紫姫も、神殿に深く進みて此祭典に列せられた。祭典終ると共に此四柱は教主の館を指して、悠々と四五人の信徒に送られ帰つて行く。 後には賑々しく直会の宴が開かれた。万代未聞の大慶事といふので、錦の宮の八尋殿も日頃の窮屈に引替へ、今日一日は気楽に直会の酒を飽く迄頂き、口々に歌ひ舞ひ、踊り狂ふ事を黙許されて居た。酒の酔が廻るにつれて、そろそろ雑談が始まつて来る。 甲『オイ虎公、時節は待たねばならぬものだなア。高姫の大将や、黒姫婆アさまが、寝ても醒めても、玉々と云つて随分玉騒ぎで、言依別命様や、大勢の者を手古摺らしたものだが、到頭一心を貫いて、玉の御用を首尾克く勤め上げたぢやないか。おまけに筑紫の島から玉を一つ持つて帰りよつたのは黒姫だ。本当に甘い事しよつたネー』 虎公『オイ、小さい声で言はぬか。あれ見よ、高姫さまや黒姫さまが正座に構へて御座るぞ』 甲『俺も一つ是から玉さがしに往つて来うかなア』 虎公『貴様捜しに往かなくても、宅に沢山あるぢやないか。よく考へて見よ。貴様ん所の猫は玉といふだらう。そして毛の色が真黒々助の黒姫だオツトドツコイ黒猫だ。おまけに貴様の嬶がおすみと云つて名詮自称の真黒々助、中低のお玉杓子のやうな顔をしてゐるだらう。そして小つぽけな肝玉を持つてゐるなり、団栗のやうな目玉も二つぶら下げてゐる。貴様の睾丸は名代の八畳敷狸が税金取りに来るやうな品玉だ。これ丈沢山に麻邇の宝珠や金の玉を持つてゐる癖に、此上玉騒ぎをせられちや皆の者がたまらぬから、モウ良い加減に諦めたがよからうぞ。のう狸の安公』 安公『コリヤ虎猫、何を吐すのだ。人の事を云ふよりも、自分の蜂から払うてかかれ。俺のは八畳敷ぢやない錦の信玄袋だ。奴狸野郎奴貴様は手力男神さまの様に、おれは猫の年に生れた寅公だけれど、ヤツパリ人の家に養はれる家畜だから、自称艮の金神よりも余程偉いと吐してゐやがるが、猫寅の金神と云ふ者がどこにあるか。よつ程よい馬鹿者だなア』 虎公『トラ何を吐す。丑と云ふ奴は庭のすみつこに置いて貰ひ、糞まぶれになつて草を喰つて暮して居る奴だ。猫と云ふ奴は、主人の膝へものり、同じ炬燵へも這入り、家庭の花となつて、優待される代物だぞ。それだから猫が一番偉いのだ。それだから猫虎の金神は丑寅の金神よりも位が上だと云ふのだ。 猫が三筋の手管の糸で 鰌や鯰を引きころす……… と云ふ事を知らぬか。何程鰌ひげを生やし、鯰ひげを生やしとるゼニトルメンでも、自由自在に引きまはす、万能力を持つてゐるのだから大したものだ。猫寅の金神さまに限るぞよ。………猫寅の金神が現はれて、三千世界の神、仏事、人民、鳥類、獣、虫族に至るまで守護致さぬぞよ。……コラ安、イヤ狸安、どうだい、豪勢な者だらう。オツホヽヽヽ』 と笑ふ。安公は立あがり、そこらをキヨロキヨロ見まはし、自分の加勢に来て呉れる友達はないかと、酔眼朦朧とあたりを調べてゐる。そこへ目についたのは竹公と云ふ友達である。安公は、 安公『オイ竹公、一寸来てくれ、加勢だ加勢だ』 此声に竹公は多勢の中をヒヨロリヒヨロリと千鳥足になり、徳利を蹴転がし、盃をふみ砕き、人の頭の上に尻餅をついたり、肩を押へたりし乍ら、やつとの事で安公の前にやつて来た。少し目が悪いので信仰を始めた近在の百姓男である。真珠の上に雑水をかぶせた様な目玉を、底の方からピカピカ光らせ乍ら、竹公は、 竹公『オイ安公、何をかせいするのだ。かせいと云つたつて、此頃はサツパリ懐が冬枯れだ。木の葉一枚ドンドン乍ら、持つてゐないのだから、反対にこつちへチツト許り貸せないかなア。俺も今日は斯うして目出たい酒を頂いたのだが、今日働いて今日食ふと云ふ江戸つ児気質の哥兄さまだから、今日は稼ぎが出来ない。三界の首枷となる餓鬼が二三匹、家にや嬶と一緒に鍋を洗つて待つてゐるのだから、俺やモウそれを思ふと、折角呑んだ酒がさめて了ひさうだ。おれのやうな者にカセカセ吐さずと、此猫寅に貸して貰つたら如何だい』 虎公『オイ竹公、猫虎とは余りぢやないか』 竹公『丑寅の金神さまよりも偉い名ぢやないか。今お前がさう言つて自慢して居ただらう。それだから此竹公が、力一杯尊敬して猫寅といふのだが、どこが悪いのだ、そんな事言はずにチツト俺に貸せ。今日は目出たい日だから、お前も人に頼まれて滅多に首を横にふるやうな事はしさうな筈もなし、俺も亦借つて呉れと頼まれて借つてやらぬと云つて、一口にはねるやうな拙劣な事はせないからなア』 安公『オイ竹公、こんな奴に金でも借らうものなら、それこそ大事だ。出会ふ度に、貸してやつた貸してやつたと、人の前だらうが何処だらうが構はずに、いつ迄も恥をかかしやがるから、措け措け、後の為が悪いぞ』 竹公『ナーニ、構ふものか。こちらの方から反対に、人に出会ふ度に借つてやつた借つてやつたと云つたらいいぢやないか。貸してられる奴よりも借る奴の方が、当世は力があるのだからなア。さうだから人間は借金をせなくては、男の幅が利かぬといふのだ。貴様のやうに金持の所へ行つては三文一文の世話にもならぬ癖に、追従タラダラ、旦那はん仏壇はん、ゼントルマンだとか吐しやがつて、お髭の塵を払ふよりも、俺達は自分の甲斐性でドツサリ金を借り、お髭の塵どころか、三文も払うてやらぬのだ。さうすると、借られた奴めが、反対に俺の機嫌を取りやがつて、逆さまに振うても虱一つおちぬ男を、道で出会ふと向ふの方からペコペコ頭を下げて、機嫌を取るのだから大したものだよ。モシも俺を怒らさうものなら、貸した金をふみつぶされちや堪らないと、執着心の欲にかられて弱くなるのだからなア、貴様の様に貸しもせねば、能う借りもせず、朝から晩まで碌な物も食はず、嬶アと睨みつこ計りして……あゝ今年もなんぼなんぼ食ひ込んだ、田が一町減つた。林が一つ飛んだ……と言つて、青息吐息で暮す代物とは、チツト種が違ふのだからなア』 虎公は酒にヅブ六に酔うて居る竹公の話を聞いて、何と思うたか、 虎公『オイ竹公、貴様の言草は中々面白い。今まで随分借倒されたが、到底返してくれる見込もあり相にない。一生貴様のいふ通り、俺は貴様の機嫌をとらねばならぬと思へば情なうなつて来た。どうぞおれに金を借つてやつたと云ふことを忘れてくれ。俺も亦貸したなんどといふ事は夢にも思はぬからなア。ここに金百両あるが、これも貴様に献上するから受取つてくれ。そして俺から貰うたといふ事もスツカリ忘れるのだぞ。俺も貴様にやつたといふ事を、今日限り忘れて了ふからなア』 竹公『ヨシ、特別を以て許してやらう。有難く頂戴いたせ……ぢやない、俺が頂戴いたす……オイ安公、どうだい、竹哥兄のお腕前を知つたか、アーン』 安公『チツト俺にも分配せぬかい。貴様一人、猫糞をきめるとは、余り虫がよすぎるぞ』 竹公『猫糞をきめこむのは当然だ。灰猫の猫寅から……オツトドツコイ、忘れるのだつた、貰つたか貰はぬか、曖眛模糊として、捕捉す可らざる活劇に依つて、捕捉したのだから、マア内の嬶アに御届けする迄は御免蒙らうかい。ウフヽヽヽ……時に黒姫さまの本当の子といふのは、あの……それ……何ぢやないか、本当に呆れたものだなア』 安公『玉治別さまが黒姫の若い時の伜だつたといの。何と黒姫も今こそ神さまだとか、教だとか、偉相に云つてゐやがるが、若い時や余程の淫奔娘だつたと見えるワイ』 竹公『さうだから、神さまが此八尋殿へ集つて来る者は、罪人計りだと仰有るのだ。一代で取れぬ罪を神の御用を命して、一代で取つてやらうと仰有るのだからなア。此聖地で偉さうにやつて居る東助総務でも、高姫でも、げほうさまでも、若い時に如何な事をやつて来やがつたか、知れたものぢやないぞ。上に立つて居る者程霊の悪い如何も斯うもならぬ奴が引寄せてあるぞよと、神さまが仰有るのだからなア』 虎公『オイ両人、余りな事を言つちや可けないぞ。今日は目出たい日だから、話をするのは良いが、人身攻撃になるやうな事は謹まねばならうまい。悪言暴語なく、善言美詞の言霊を以て普く神人を和め、天地の御子と生れ出でたる其本分を尽させ玉へ……と朝な夕なに祈る所の八尋殿ぢやないか。チツト場所を考へて見よ』 竹公『上に立つとる奴は、何奴も此奴もすました顔しやがつて、俺はゼントルメンだと吐してゐるが、神さまを松魚節にして、人の懐から銭取奴だ。まるで体のよい泥棒だよ。八尋殿が聞いて呆れら。ワツハヽヽヽ』 安公『銭取る奴といふ事は貴様の事だ。衆人環視の中で、猫寅の懐から、現に銭取る奴をやつたぢやないか。人の事だと思うて居つたら、皆吾事であるぞよと神さまの御教にあるのを貴様覚えて居るか』 竹公『そんな所は俺が覚える必要がないのだ。各自に心相応に取れる教だから、俺はおれで取る所があるのだ。貴様も貴様で、気に入つた筆先の文句があるだらう』 安公『さうだなア、俺だつて嫌ひな所もあれば好きな所もある。……艮の金神現はれて……と云ふ声を聞くと、俄に頭が痛くなりやがるなり……竜宮の乙姫が日の出神と現はれるぞよ……といふ文句になつて来ると、益々気分が悪くなつて逃げて帰りたくなつて了ふワ。さうだと思ふと……世におちぶれた者を侮る事はならぬぞよ、結構なお方が世におとしてあるぞよ、誠の人間ほど苦労が永いぞよ、神は上下運否のなき様に致すぞよ……といふ点になると、中々気に入るね。斯ういふ所を聞かされると、虎公なぞは頭の痛い口だらう。それだから其人々の心に取れる筆先だと神様が仰有るのだ』 虎公『俺は別にどこが好きだの嫌ひだのといふ事はない、神さまの教には無条件降服だ。何程人間が偉相に考へて見た所で神様のお詞が分るものぢやない。俺は変性男子に対しても変性女子に対しても絶対服従だ。無条件降服だ。それより取るべき途がないのだからなア』 安公『貴様も偉い迷信家だなア。筆先といふものは一々審神をせなくては、何もかも、貴様のやうに唐辛丸呑みの議論ではサツパリ駄目だ。辛いか甘いか苦いか、よくかみ分けるのが、吾々の務めだ』 竹公『もうゴテゴテいふな、今日は目出たい日だから、俺は兎も角筆先に有難いことがあるのだ。……難儀な者を助ける精神にならぬと、神の気かんに叶はぬぞよ……といふ所がある。其筆先のおかげで、猫寅が今迄の執着心をスツパリ捨てて了つて俺に現金で百両も、沢山借金がある上に、くれる様な善の心に立返りなされたぞよ。竜宮の乙姫殿は、誠に欲の深い神でありたなれど、此度艮の金神さまが表に現はれ遊ばして、三千世界をお構ひ遊ばすについて、乙姫さまも、これでは可かぬと御合点を遊ばし、今まで海の底にためておいた宝を、残らず艮の金神様にお渡し申して、今度の御用の片腕にお成りなされたぞよ。人民も其通り、欲にためて居りて万劫末代吾の物だとこばりて居りても、天地の物は皆神の物であるから、神に返さねばならぬぞよ。上下運否のなき世に致して、世界の人民を安心させるぞよ。早く改心致した者程結構になるぞよ……と云ふお筆先は俺達に取つては天来の大福音だ。猫寅でさへも竜宮の乙姫さまになりかけたのだからなア。ウツフヽヽ、ボロイボロイこんなボロイ事が世にあらうか。それだから信心の味が分らぬといふのだ』 斯く得意になつて、ベラベラ喋つてゐる所へ、伊助といふ竹公の身内の男、矢庭に走り来たり、『馬鹿ツ』と大声一喝、竹公の横面をなぐりつけた。 竹公『アイタヽ、コリヤ伊助、貴様は誰に断つて俺の面を擲つたのだ。伊け助ない餓鬼だ。今にドツサリ金を持つてお礼に行くから、さう思へ』 伊助『早くお礼に来てくれ、待つて居る』 と云ひ乍ら群集を押分け表へ駆出した。東助は高座に立現はれ、大声を張上げて、 東助『皆様、御苦労で御座いました。これで宴会を閉ぢますから、一先づ御退場を願ひます』 と宣示した。数千人の人々は東助の鶴の一声に、神殿に向ひ拍手再拝し、各上機嫌で住家を指して帰り行く。 (大正一一・九・一九旧七・二八松村真澄録) |
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霊界物語 | 36_亥_シロの島の物語 | 序文 | 序文 現代の学者は、『宗教は芸術の母なり』とか、『宗教が芸術を生むのだ』と謂つて居るさうである。私はそれと反対に『芸術は宗教の母なり、芸術は宗教を生む』と主張するものである。 洪大無辺の大宇宙を創造したる神は、大芸術者でなければならぬ。天地創造の原動力、之れ大芸術の萌芽である。宗教なるものは神の創造力や、その無限の意志の僅かに一端を、具体的に人の手を通し口を徹して現はされたものに過ぎない。さうでなくては、宗教が神や仏を仮想の下に描いたことになつて了ふ。ソンナ根拠の薄弱なる神又は仏なりとすれば、吾々は朝夕之に礼拝し奉仕する心がどうしても湧いて来ない道理だ。然るに天地の間には、何物か絶対力の存在する如く心中深く思惟さるるのは、要するにこの宇宙に人間以上の霊力者の儼存するものたる事を、朧気ながらも感知し得らるるからである。如何なる無神論者でも、地震、雷鳴、大洪水等の災厄に遭遇した時は、不知不識の間に合掌し、何ものかの救ひを求むるのは自然の人情である。裏の神諭に曰ふ 『雷鳴の烈しき時、地震の強く揺る時は、神を祈らぬものはなし。その時の心を以て、平常に神を求めよ祈れよ』 とある。どうしても宇宙には大芸術者たる神が儼存し玉ひて、万有一切を保護し給ふことは争はれぬ事実である。現代の人は神と云ふのを愧ぢて、自然とか天然力とかの雅号にかくれて、神と唱ふることを避けようとして居るものが多いのは、実に残念な事である。 出口直子刀自の筆先を一見して、低級な神だとか拙劣な文章だとか、到底神の言として見るに忍びないとか、筆先は怪乱狂暴一読の価値なきものだとか謂つて居る人もソロソロ現はれて来た様である。併し乍ら私は決してさうは思はない。茲に一つの例を挙げて曰ふならば、艮金神国常立尊は大海の潮水の如きものである。そして出口教祖は手桶の様なものである。其手桶に汲み上げられた一杯の潮水こそ、教祖の手になれる艮の金神の所謂筆先そのものである。併し乍ら大海の潮水も、手桶に汲み上げられた潮水も、其色に於て、鹹味に於て、少しも変化は無きはずである。さすれば如何なる卑近な言を以て表はされた筆先と雖も、神様の意志表示に就ては毫末も差支ないものである。筆先にも『出口直の落ぶれものに書かした筆先であるから、人民が疑うて誠に致さぬは無理なきことであるぞよ云々』と示されてある。落ちぶれたといふ言葉は物質的のみを指して仰せられたのではない。教育の程度にも神魂にも応用すべきものであります。水は方円の器に従つて其形を変ずる如く、神即ち大海の潮水も同様に、その器に由つて変化し、その容器の大小と形状に従つて、力と形に変化を来たすは自然の道理である。故に出口教祖の筆先が如何に拙劣なものでも艮の金神国常立尊の権威を傷つくべき道理は決してない。只今迄出口教祖の身魂を、全艮の金神、全国常立尊その儘の顕現と信じて居た人の小言に過ぎないのであります。それ故、筆先にも女子の身魂が克く調べてくれと断つてある所以であります。要するに筆先そのものは、神の芸術の腹から産れた所の宗教(演劇)の脚本を作るべき台詞書であることは、既に已に霊界物語第十二巻の序文に述べた通りであります。変性女子そのものも、決して瑞の御魂の全体ではない。矢張大海の潮水を手桶に汲みあげたその一部分であります。私は世人の見て、最も不可解なる筆先の台詞を茲に纏めて、嘗て神霊界を探険して見聞したる神劇に合せて、教祖の筆先の出所や、如何なる神の台詞なるやを明かにせむため、この物語を口述したのであります。この神幽二界の出来事を一巻の書物に綴つたのが霊界物語である。霊界の幾分なりとも消息が通じない人の眼を以て教祖の筆先を批評するのは、実に愚の至りであります。 あゝ惟神霊幸倍ませ。 大正十一年九月二十四日正午十二時於瑞祥閣 |
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霊界物語 | 37_子_出口王仁三郎自叙伝1 | 21 参綾 | 第二一章参綾〔一〇三三〕 旧六月の暑い最中であつた。老祖母や修業者に無理に別れを告げて、只一人穴太を離れ北へ北へと進み行く。道程殆ど二里ばかり来た処に、南桑田、船井郡の境界の標が立つて居る。其処には大井川の清流をひいた、有名なる虎天関と云ふのがある。虎天関の傍に枝振りよき並木を眺めて小さき茶店が建つて居た。喜楽は何気なく其茶店に立寄つて休息をして居た。 三十あまりのボツテリと肥えた妻君が現はれて渋茶を汲んで呉れた。さうして喜楽の異様な姿を眺めて、 女『貴方は神様の御用をなさる方ぢや御座いませぬか』 と云ふ。喜楽は即座に、 喜楽『私は神様の審神をする者で御座います。随分其処ら中の教会を調べて見ましたが、狐や狸のお台サンばつかりでした。アハヽヽヽ』 と手もなく笑つて居る。此女は畳みかけた様に、 女『モシ先生、私が一つ頼み度い事があります。私の母は今綾部に居りますが、元は金光様を信神して居ましたが、俄に艮の金神さまがお憑りなさつて沢山の人が御神徳を頂き、金光教会の先生が世話をして居られますが、母に憑つた神様の仰有るには、私の身上を分けて呉れる者は東から出て来る。其御方さへ見えたならば出口直の身上は判つてくると仰有いましたので、私等夫婦は態と此道端に茶店を開いて往来の人さまに休んで貰ひ、母の言つたお方を探して居りました。大方貴方の事かと思はれてなりませぬ。何卒一度母の身上を調べてやつて下さらぬか。これが母の神様がお書になつたお筆先で御座います』 と出して来たのが、バラバラの一枚書きの筆先であつた。 喜楽は此筆先を見て、高熊山の修業の中に於て霊眼にて見聞したる事の或部分に符合せるに驚き、婦人の依頼を受けて近々に上綾する事を約し、園部の広田屋と云ふ旅館に落着き、あちらこちらと知己を訪問して霊学の宣伝に従事しつつあつた。 旧八月二十三日[※明治31年(1898年)旧8月23日は新10月8日]、初めて綾部裏町の教祖の宅を訪問し、二三日滞在して居た。然るに金光教の教会の受持教師なる足立正信を始め、世話係の中村竹造[※霊界物語における中村竹造の名前に「竹造」と表記している場合と「竹蔵」と表記している場合があるが、霊界物語ネットでは「竹造」に統一した。詳しくはオニペディアの「霊界物語第37巻の諸本相違点」を見よ]、村上清次郎、西村文右衛門等に、極力反対運動をされ、時機未だ至らずとして教祖に暇を告げ、綾部の地を去つて園部村の字黒田、西田卯之助の座敷を借つて神の道を宣伝しつつあつた。種々の神憑りに関する面白き話は此地方に於ても沢山目撃したり遭遇したる事あれども、岐路に入る虞ある故此処には省略して置く。園部の上本町に奥村徳次郎と云ふ熱心な信者があつた。あまり沢山な信者が喜楽を訪ねて来るので、園部町の有志は信仰は兎も角土地繁栄の一策として園部の公園内に立派なる布教所を建設し、喜楽を、此処に永住せしめむと、土地の有志が東西に奔走し、話も大方纏まつて居る所へ、綾部から出口教祖のお使として、四方平蔵氏が遥々訪ねて来た。 其時喜楽は園部川の大橋の下流で漁遊びをして居た。其処へ平蔵氏がやつて来て、河の堤から、 平蔵『モシモシ、上田さまは此辺に居られませぬか、只今黒田のお宅へ参りましたら、園部の河原へ魚取りに行かれたとの話故、此川縁を伝うて此処迄来ました』 と云つて居る。喜楽は川の中から、 喜楽『ハイ、上田は私です。貴方は先頃手紙を呉れた綾部の四方サンですか。綾部はもう懲々しましたから行くのは止めますわ。今面白い最中だから、モチツと魚をとつて帰りますから、日の暮に来て下さい』 と云へば四方氏は堤の上から、 平蔵『そんなら仕方がありませぬ。私は園部の扇屋で今晩泊りますから、又お訪ね致します』 と云ひ乍ら、四方氏は大橋を渡つて扇屋をさして行つて了つた。喜楽は漁を終り、黒田の宅へ帰り着物を着換へ、園部の扇屋に四方氏を訪ねて見た。さうして今度は足立、中村其他の役員には極内々で、教祖と自分とが相談の上、喜楽を迎へに来た事が分つた。斯うなると自分も敵の中へ飛込む様なものである。余程の覚悟をせなくてはならぬと思ひ乍ら、早速綾部へ行く事を承諾し、往復八里の夜の道を穴太へ帰り、老祖母や母に愈綾部に行く事を云ひ、産土の大神に祈願をこらし、夜の明くる前漸く園部の扇屋へ帰つて来た。されど四方氏は喜楽が穴太へ帰つて来た事はチツとも分らなかつた。 それより四方氏と共に黒田の宅へ帰り、種々と支度をなし、五時頃から黒田を立ち出で、漸くにして檜山迄着いた。日はズツポリと暮れて来た。少し目の悪い四方氏は最早歩く事が出来なくなつて来た。止むを得ず樽屋と云ふ宿屋へ投宿した。忽ち大雨降り来り、雷鳴さへも轟いて実に物凄き天地となつて来た。樽屋の裏の離座敷を与へられ、喜楽と四方氏は四方山の話に耽り乍ら、夜の一時頃になつて漸く寝に就いた。朝の四時頃に四方氏は目を覚まし早くも天津祝詞を奏上して居た。喜楽は其声に目を覚まし、慌て起き出で見れば、相変らず車軸を流す様な大雨である。四方氏は、 四方『先生、お目覚めですか。早うから八釜しく申しましてお目を覚まして済みませぬ。昨夜は何とはなしに気が欣々しまして一睡も出来ませなんだ。神様が大変にお勇みだと見えます。併し乍ら昨夜から引き続いて偉い大雨です。これでも止みませうかな』 と心配相に尋ねる。喜楽は一寸目を塞ぎ伺つて見て、 喜楽『九時になればカラリと晴れます。それまで、マアゆつくり話を承りませう。貴方は綾部から来たといはれましたが、お宅は大変な山家の様に思ひますが違ひますか。家の裏に綺麗な水が湧いた溜池があり、前は一尺ばかりまはつた枝振りの面白き松の樹がある。さうして少し右前の方の街道に沿うて小屋の様なものがあり、其処に菓子なんかの店が出してあり、六十位のお婆アサンが見えますが違ひますか』 と尋ねて見た。四方氏は吃驚して、 四方『ハイ、其通りです。そんな事までよく見えますか。あんたは、さうすると稲荷でも使ふて居られるのですか』 と不思議相に顔を覗く。喜楽は首を振り、 喜楽『イエイエ、そんな事はありませぬ。霊学の一部、天眼通で見たのです。誰でも真心にさへなれば、天眼通位は直に判る様になりますよ』 四方『アヽそれで安心しました。私は金光教の古い信者で御座いましたが、こんな処から五里も六里もある処が見える様なものは、狐か狸だと金光教の先生が云ひました。モシ先生が綾部へ行つて、そんな事でもなさらうものならサツパリ狐使ひだと云つて、ボツ帰されて了ひますから、綾部へ御いでになつたら、其魔法だけは暫くやらぬ様にして下さい。疑を受けては貴方の御迷惑ですからなア』 喜楽『そんな分らぬ奴ばかり居る所なら、もう私は御免蒙つてこれから帰りますワ』 四方『そんな短気を出さずに兎も角教祖様の御内命で来たのですから、一度綾部を見ると思ふて来て下さい。此頃は和知川の鮎が沢山にとれますから、鮎食ひに行くと思うて、マアマア兎も角一遍来て下さい。私も今此処で先生に帰られては教祖様に対し申訳が御座いませぬ』 喜楽『第一貴方に霊学を諒解して貰ふておかなくてはなりませぬから、狐を使ふか、使はぬかと云ふ事を一遍此処で実地を見せませう。さうして貴方に承知が行つたら行く事にしませう。そんな処まで鮎食ひに行かなくても園部で沢山ですから……』 四方『私の様な素人にでも、そんな天眼通が行へますだらうか』 喜楽『マア其処に坐つて目を塞ぎ、両手を組んで見なさい』 四方『そんなら頼みます』 と四方氏は素直に座敷の真中に正座し、手を組み目を塞いだ。喜楽は、 喜楽『サアこれから四方サン、天眼通を授けます。今私が……ソレ見い……と云つたが最後、何かの姿が映りますから、それを話して御覧……』 四方『ハイ……』 と云ひ乍ら、一生懸命に目を塞ぎ早くも霊感者になつて、少し鼻息を荒くし体をピリピリと慄はせて居る。喜楽は、 『それ見い!』 と大喝一声した。 四方『ハイ、見えました。小さい古き藁葺の家が一軒、前横の方に又一つ汚い家があつて、其処に美しい水の湧いた池があります。さうして裏の方には榧の木や、椋の大木が見えます。細い綺麗な河が道の下を流れて居ます』 喜楽『アヽそれで愈天眼通が開けました。それは私の生れた家ですよ。もう宜しい』 と云へば、四方氏は組んだ手を離し目を開き、 四方『何とマア、結構な神様ですな。イヤもう感心致しました。流石教祖様も偉いわい。多勢の役員や信者に隠れてお迎へして来いと仰有つた丈けの価値があります。こんな事が分れば、三千世界一度に見え透くと仰有る神様の御用が充分に勤まりませう』 と無性矢鱈に喜んで居る。それから病気の伺ひや天眼通の試験を色々として、四方氏に先づ霊学の尊い事を悟つて貰ひ、朝飯を食ひ愈これから出立しようとする時、さしもの大雨もピタリと止まり、ガンガンと日本晴れの空に太陽が照り輝き出した。四方氏は、 四方『ヤア、仰有つた通り九時になつたらカラリと霽れました。ほんに霊学と云ふものは結構なものですな。これから綾部へ帰りましたら、金光教の先生や役員どもが愚図々々云ふと面倒で御座いますから、ソツと裏町の教祖さまの宅へ参りませう』 と云ひ乍ら六里の山坂を越えて其日の午後四時頃、漸くにして裏町の教祖の宅へ安着した。 誰が喋つたのか早くも信者の四方与平、黒田清子、四方すみ子、塩見じゆん子を始め七八人の信者が集まつて来て、 『平蔵サン、結構な御神徳を頂きなさつた。よい先生を迎へて来て下さいました』 などと喜び勇み、金光教の旧信者へ通知に各自廻つて了つた。此勢に足立正信氏は吃驚して中村竹造を裏町へ遣はし、色々と水をさし妨害を加へた。されど出口教祖を始め、四方平蔵氏の勢があんまり猛烈なので、到頭中村竹造も我を折り教祖の命に服従して了つた。 四方源之助、西岡弥吉、西村文右衛門、村上清次郎、西村庄太郎、四方伊左衛門等と云ふ世話係は裏町の宅へ集まり来たり、平蔵氏と教祖の説明によつて非常に共鳴し、艮金神様の金の字をとり、日の大神様、月の大神様の月日を合せて金明会と云ふ団体を組織し、信者は日に夜に遠近より集まり来り、裏町の狭い倉の中では身動きもならぬやうになつたので、本町の中村竹造の本宅へ金明会を移して了つた。四方氏は得意の天眼通を振りまはし神占をしたり、病気平癒を祈つたりして非常な人気である。只の一回位、霊学を教へて貰ふて、四方平蔵サンはあれ丈け御神徳を貰ふたのだから、修行さへしたら誰でも神徳が頂けるだらうと、幽斎修行の希望者が瞬く内に二十人あまりも出来て来た。喜楽は向側の西村庄兵衛と云ふ信者の裏の離家を借つて其処に寝泊りをしたり、世話方に色々と神の話を聞かして居た。金光教会の足立正信氏は最早策の施すべき所なく、村上清次郎、中村竹造、四方すみ、塩見じゆん、黒田清などの宅を訪問して、いろいろの反対運動を試みたけれども、到底効を奏する事が出来なくなつて来た。 教祖は足立氏の境遇を気の毒に思ひ、小遣銭や米等を贈つて金光教を脱退し、教祖の教に従へと信者を交る交る遣はして勧められた。けれども足立氏は頑固として応ぜず、陰に陽に反対の気勢を挙げ、 足立『上田と云ふ狐使ひをこんな処へ引張つて来て、山子を始め出したから騙されない様にせよ』 と中村竹造や村上房之助等を遠近の信者の宅に遣はし、色々と非難攻撃を始めた。中村は自分の家を金明会へ貸しておき乍ら、足立の命令に従つて反対運動を昼夜の区別なくやつて居た。併し乍ら時の勢には抗すべくもあらず、一人も信者が行かなくなり、手も足もまはらぬ破目に足立氏は陥つて了つた。そこで止むを得ず足立氏は我を折つて、 足立『何卒改心するから金明会へ使つて下さい』 と頼みに来た。金明会の役員連は速に協議会を開いた結果、 『足立正信氏は信者の受けも悪し、○○や○○と醜関係をつけ、神の名を汚して居るから、此際絶対に金明会へ這入る事は謝絶するがよい』 と云ふ事に協議が纏まつて了つた。足立氏が尾を振つて来たのは、心の裡から金明会へ心従して居るのではない。老母や子供が忽ち糊口に窮する処から、一時の窮策として表面心従したと見せかけ時機を見て金明会を転覆させ、喜楽先生を放り出す計略なる事は、今迄の足立氏の行動に徴して明白だから、今度の好い機会を幸ひに一切の関係を絶つ方が上分別だと、今まで同氏の熱心な教養をうけたものさへ、極力排斥を主張する様になつて来た。喜楽は足立氏の境遇を憐れみ、且又今迄金光教を信じて居た役員や信者の人情の浮薄冷酷なるに呆れ果て、 『今日は人の身の上、明日は吾が身の上と云ふ事がある。こんな薄情な人間の処へ居つては到底駄目だ。自分さへ此処を立ち去つたならば足立氏親子の困難は除かれるだらう。世人の困難を救ふべき神の取次が人を困らせてはならない』 と思つたから、四方氏を始め重なる役員に向ひ、 上田『私が此処へ来たために、足立氏親子が困難を来すべき結果を生じたのだから、私は同氏に対して済まないから今日から帰ります。何卒足立氏と仲良うして神様の御用をして下さい』 と申し込んだ。そこで数多の役員は大に狼狽し、鳩首謀議の結果、 役員たち『足立氏の処置に就いては上田先生に一任しますから、是非とも教祖様の側に居て、大本の宣伝に力を尽して下され』 と異口同音に頼み込む。 そこで喜楽は足立氏を金明会の副会長に任じ、金明会の名の許に仲良く神務に奉仕する事となつた。出口教祖も足立氏の身の上につき心密かに非常な心痛をして居られたが、喜楽の同情ある処置に対し、非常に安心をしたと云つて感謝せられた。足立氏は大変に喜び、役員信者も喜楽の赤誠に感じ、直に今迄の態度を改め、教祖に次いで喜楽を師匠と尊敬し出した。一時は大争乱が勃発しさうの模様のあつた金光教対金明会も、茲に円満な解決が出来て、双方とも心持克く勇んで和合の裡に神様の御用に尽す事を得たのである。 (大正一一・一〇・一二旧八・二二北村隆光録) |
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霊界物語 | 37_子_出口王仁三郎自叙伝1 | 22 大僧坊 | 第二二章大僧坊〔一〇三四〕 喜楽の入綾に先立ち茲に一つの珍話がある。明治三十一年の八月、八木の福島氏に二三回頼まれて、園部黒田の会合所から、はるばると山坂を越え、参綾して教祖に面会し、四方すみ子、黒田きよ子、四方与平氏などの大賛成を得、出口教祖と共に、艮の金神様のお道を広めようとした時、足立氏や中村氏の猛烈なる反対に遭ひ、教祖より……時機尚早し、何れ神様の御仕組だから、時節を待つて御世話になりますから、一先づ帰つて下さい……と云はれて、是非なく園部黒田の会合所へ帰り、それよりあちら此方と宣伝に従事して居た。 黒田を発つて北桑田の方面へ布教を試みようと思ひ、五箇庄村の四谷の少し手前の、二十軒ばかりの村に差かかつた。日もソロソロ黄昏時、どこかに適当の宿を求めようかと懐中を探つて見れば、懐にはたつた二十銭しかない。……ママよ、困つたら野宿をしてやらう……と腹をきめて疲れた足を引ずつて行くと、山から粗朶をかついで帰りて来る二三人の村人と途伴れになつた。ゆくゆく下らぬ話をしてゐる内にも、話は自然病人のことや憑者のことに移つて行つた。さうすると其中の一人が、 村人『あなたは憑者をおとす御方ですか、随分誓願寺の祈祷坊主や稲荷下げが来ますけれど、中々おちぬものです。此村にも不思議な憑者で困つて居る者があります』 と朴訥な村人は、行手に見える道の左側の可成り大きな一棟の家を指し乍ら、 村人『あすこの爺は小林貞蔵といひますが、どういふ訳か、十五六年前から、腹の中から大きな声が出る病気で、本人の知らぬことをズンズンと喋り立てます。貞蔵サンは何とかして声の出ない様にと骨を折るのだが、何うしても止らぬのが不思議ですよ。最初の間は自分から大変に警戒をしてゐましたが腹の中の憑者は……おれは立派な神さまだ……と名のるのを、いつのまにやら信じて了ひ、其声の指し図通りに相場をしましたが失敗の基で、田舎では可なりの財産を大方なくして了ひました。只今では駄菓子の小売をしたり、ボロ材木屋をして暮してゐますが、腹の声はまだ止まず、いろいろ雑多とつまらぬことを喋るので、貞蔵サンもこれには持て余してゐます』 と何気なく喋り立てる。喜楽は心の中で、……今夜のおれの御宿坊はここだなア……と自分ぎめにきめて了ひ、何食はぬ顔して其家の店先へ行つて見ると、一文菓子が少し計り並べてあり、店先には五十計りの額口のバカに光つた、鼻の高い丸顔爺が、厭らしい笑を湛へてすわつてゐた。喜楽は、 喜楽『一寸休ませて下さい』 と縁側に腰を卸して、ムシヤムシヤと駄菓子をつまんで食ひ出した。五銭十銭十五銭と菓子を平げ、貧弱な菓子箱はモウそれでおしまひになつて了つた。爺は呆れて喜楽の顔を見つめて居た。喜楽は、 喜楽『お菓子はこれで品切れですか、せめてモウ一円計り食ひたいものだ』 といつた。爺はますます呆れ、丸い目を剥き出し、 爺『お前サン、何とマアお菓子の好きな方ですな。何うしてそないに沢山あがられますか、お腹が悪うなりますで……』 と注意顔に云ふ。 喜楽『わしが食べるのぢやない、わしは元来菓子は嫌だが、皆私に憑いてゐる副守護神が食べるのぢや。サアお金を取つて下さい!』 と後生大事に持つて居た身上ありぎりの二十銭銀貨をポンと放り出した。 爺『ヘー』 と爺は益す目玉をまん丸うして、 爺『あんたにもヤツパリ憑者がゐますか、ふしぎな事もあるものぢやなア。私もドテライ憑者が居つて、困りますのぢや』 と云ひ乍ら、自分の身の上を打あけて、果ては、 爺『どうぞ此憑者を退かして頂く訳には行きますまいか』 と憑霊退散の相談を持ちかけて来た。喜楽はヤツと安心して爺の勧むる儘に、家に上りこんで、夕飯を頂き、そしてソロソロ鎮魂帰神の法を実施する段取となつた。 喜楽は審神者となり爺は神主となり、主客相対坐して奥座敷にすわり、懐から神笛を出して、ヒユーヒユーヒユーと吹き立て、天の数歌を二回唱へ上げ、『ウン!』と力をこめるや否や、元来ういてゐた霊の事だから、ワケもなく大発動を始めた。其発動状態が頗る奇抜なもので、青い鼻汁が盛に出る。ズルズルズルポトポトと際限なく膝の上に落ちる。爺サンはしきりにそれを気にして、組んで居た手を放して、懐から紙を出して、チヨイチヨイと拭きにかかる、又手を組む、ズルズルと鼻汁が出る、爺は手をはなして、 爺『一寸先生失礼』 といひ乍ら、懐から紙を出してツンとかむ、そして又手を組む、鼻汁がツルツルと出る、又手を放し、懐の紙を出してハナを拭く。そして大きな声で、 爺『ヴエー』 と唸り、うなつた拍子に、口が細く長くへの字になる。五六回もこんな事を繰返すのを、黙つて見て居たが、霹靂一声、 喜楽『コラツ!』 と喜楽は大喝してみた。爺は此声に驚いて、一尺許り手を組んだ儘飛上つた。 喜楽『モウ鼻汁をふく事は相成らぬ。何神か名を名乗れ!』 と問ひ詰めた。爺サンの鼻汁は依然として、遠慮会釈もなくツルツルと流れおつる。拭く事を禁ぜられたので、鼻汁が連絡して了ひ、鼻の穴から膝まで、つららのやうに垂れさがる。喜楽は委細かまはず、たたみかけて、 喜楽『早く名を言へ、早く早く』 とせき立つれば、爺の憑霊は肘をはり、口をへの字に結び、しかつめらしく、 爺『オーオ、俺は、俺は……のう』 と腹の底から途方途轍もない高い声が湧いて来る。そして又、 爺『おれはおーれはのう、おれはのう』 と連続的に『俺は』を続けてゐる。 喜楽『なんぢや辛気くさい、其先を言へ』 爺『俺はのう、ウツフン、アツハヽヽヽ』 喜楽『早く名乗らぬか、同じ事許り、何べんも何べんも、くり返しよつて、辛気くさいワイ』 爺『オヽヽ俺はのう、俺はのう、クヽヽヽ鞍馬山のダヽヽヽヽヽ大僧坊だワイ』 と芝居がかりの大音声、 喜楽『フヽン、何を吐すのだ。鞍馬山には大僧正なら居るが、大僧坊などと言ふ天狗がゐるものか、有のままに白状せい。果して鞍馬山の天狗なれば、鞍馬山の地理位は知つてゐるだろ。鞍馬山は何といふ国の山だ』 爺『アツハヽヽヽア、バカバカバカ、馬鹿者奴!鞍馬山の所在が知れぬ様な事で、審神者を致すなぞとは片腹痛いワイ。知らな、云つて聞かさうか、山城の国の乙訓郡であるぞよ』 喜楽『鞍馬山は乙訓郡ではないぞ[※乙訓郡ではなく、愛宕郡(おたぎぐん)にある]。自分の居る所さへ分らぬ様な者が、鞍馬山の大僧坊とは駄法螺を吹くにも程がある。其方は擬ふ方なき野天狗であらうがなア』 爺『見破られたか、残念やな、クヽヽ口惜やなア』 と鼻汁天狗は飽くまで芝居気取りで、切り口上で呶鳴つてゐる。 喜楽『畏れ入つたか、貴様はヤツパリ野天狗であらうがなア』 爺『オヽオウ、俺は俺は、ヤツパリ野天狗であつたワエ』 言ひも終らず、爺の体は宙に浮かんで、静坐せる審神者の頭の上を、前後左右縦横自在にかけり出した。そして隙をねらつて、目玉のあたりを足げにせうとの魂胆、実に険呑至極であつた。乍併これしきの事にビクツク様では審神者の役はつとまらないと、咄嗟に組んだ手をといて右の人差指に霊をかけ、爺の体に向けて、喜楽は指先を右に一回転した。それに従つてクルリと爺の体は宙に浮かんだまま、鼻汁迄が円を描いて、右に一回転する。続いて指を左にまはせば、爺の体はそれにつれて左に一回転する。指をクルクルクルと間断なくまはせば、爺の体もクルクルクルとまるで風車其ままであつた。此荒料理には流石の野天狗も往生したと見え、全身綿の如く疲れ切つてヘトヘトになり、とうとう畳に平太ばつて了つた。そして切りに首をふり乍ら、顔を畳にひつつけた儘、 爺『一切白状致します、御免下さいませ。モウ斯うなれば隠しても駄目だから……』 と以前の権幕はどこへやら、猫に追はれた鼠のやうにちぢこまつた。喜楽の質問につれ逐一自白したが、それはザツと左の通りであつた。 爺『此爺の叔父に一人の財産家があつた。それを此爺が十四五年前、悪辣なる手段でたらしこみ、財産全部を横領して了つた。叔父は憤怒と煩悶の余り、精神に虚隙が出来、其結果野天狗につかれ、とうとう山奥にいつて首を縊つて往生して了つた。死骸は永らく見つからず、二三年してから白骨となつて、山の奥にころがつてゐた。余りの悔しさ残念さに、叔父の亡霊は此爺が酒にくらひ酔うて、道傍に倒れてる隙を考へ、野天狗と一所に憑依し、そして鞍馬山の大僧坊と偽り、米が非常に下がるから早く相場をして売にかかれ、大変な金を儲けさしてやると云ふので、売方になると米が段々と上がつて来る。今度は又米があがるから買方になれと云ふので、其通りやつて見ると、大変な大下がりを喰ひ、何回となくたばかられて、大損害を重ね、折角叔父から手に入れた山林田畠も残らず売りとばして了ひ、駄菓子屋とヘボ材木屋とまで零落させて了つたのである、尚最後には何とかして命まで取る積で居つた所、今日計らずも、霊術非凡な審神者に看破されたので厶います』 と大体の自白をした。そして鼻汁が盛んに出るのはつまり首をくくつた時、鼻汁を垂れた其亡霊の所為である。白骨の主を手あつく葬る事を爺が約束したので、亡霊はヤツとのことで、爺の体から退散した。乍併退散したといふのは表向で、ヤツパリ此爺の体に潜み、時々妙な事をやらすのである。此爺さんは明治四十五年頃大本へ訪ねて来たことがある。今は家も何もかも売つて了ひ、大阪方面へ出稼ぎに行つたといふことである。 (大正一一・一〇・一二旧八・二二松村真澄録) |
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霊界物語 | 37_子_出口王仁三郎自叙伝1 | 25 妖魅来 | 第二五章妖魅来〔一〇三七〕 篠村から徒歩となつて、帰途を幸ひ八木の福島寅之助方へ立寄つて見た。所が主人の寅之助氏は綾部へ修業に行つた不在中で、妻君の久子サンと子供が居つたので、四方氏から綾部の様子や福島氏の神懸り[※校定版では「神憑り」]の次第まで逐一話して聞かした。されど久子は金光教の信者である所から、霊学の話などは半信半疑で、何を云ふても鼻の先であしらひ、腑におちぬやうな按配で面白くない。二人はソコソコにして、此家を立出で八木の大橋を渡つて、刑部といふ所に土田雄弘氏の寓居を訪ね、神の道の御話など互に語らふ所へ、京都から一本の急電が届いた。土田氏は何事ならむと早速開いて見れば、京都に居る従弟の南部孫三郎といふ人が、病気危篤であるからすぐ来てくれといふ電信であつた。土田氏は余り豊な生活でないから京都へ行く旅費もない。大に困つて喜楽に向ひ言ふよう、 土田『只今の電報は私の従弟の南部といふ者が、今まで金光教会の布教師をつとめて居ましたが、身の修まらぬ人物で、今迄京都から尾州、遠州、駿州あたり迄十三ケ所も金光教会所を開いては、婦女に関係をつけては失敗し、又土地をかへては教会を開き、同じく婦人に関係しては追出され、遂には金光教会の杉田政次郎氏から破門されて、今の所では妹の家に厄介になつて居りますが、二三年前より肺結核にかかりブラブラ致して居りました。とうとう神罰が当つたのでせうから、到底全快は覚束なからうと信じて居りますけれど、なる事なら今一度神様の御助けに預りたいものです。先生の御祈念で、ま一度助けてやつて下さる事は出来ますまいか』 と心配相に頼み込む。喜楽は気の毒がり、直に神界に伺うて見た。其神占によると、今後一週間目の日が此病人に取つて大峠である、九分九厘までは到底助かるまい……と云つた。そこで土田氏は…… 土田『モシ南部の命をお救ひ下さるなれば、私から彼を説いてあなたの弟子と致し、お道の為に誓つて尽力をさせませう』 と云ふ。喜楽は笑ひ乍ら、 喜楽『又金光教会の布教師時代の行方をくり返されますと困りますなア。併しここ三年の間、神様に願つて命を伸ばして貰ふやうに致します。神様は三年間の行状を見届けた上で、又々寿命をのばして下さりませう。此事を手紙に書いて南部サンへ知らしておやりなさい。さうすれば京都へ旅費を使うて行く必要はありませぬ』 土田氏は喜んでこまごまと手紙を書き京都行きも見合した。果して南部氏は七日目に一旦息が絶え、暫くして再び息を吹き返し、それから日に日に快方に向つた。土田氏は南部全快の砌に京都へ行つて会見した際、 土田『貴兄の今度の大病が全快したのは、全く綾部に現はれた艮の金神さまの御神徳と、上田といふ人の熱誠なる御祈念の賜物である』 と云つて喜楽に約束したこと及綾部に於ける神懸修行の実験談などを詳細に話して聞かせた。されど南部は、 南部『必しも綾部の艮の金神様の御神徳ではない。平素信ずる天地金の神さまと、金光教祖の御守護にて、吾大病を綾部の神や上田といふ男を使役してお助け下さつたのである。故に此御恩の九分九厘はヤツパリ金光さまにある』 と云つて、直に京都の島原の金光教会へ御礼参りをなし、綾部の方へは手もロクに合はさなんだのである。 それから後は『今まで金光教の布教師を拝命し乍らいろいろの醜行を敢てし、神様の御怒りにふれて一命すでに危ふき所を、お慈悲深き天地金の神や金光教祖の御威徳でおかげを被つた』とて、朝晩、母親や妹や自分が代る代る島原の教会所へ参拝して居つた。そした所が、一二ケ月たつと今度は又腹が烈しくいたみ出し、日を追うて重体に陥り、日参所か室内の運動も出来なくなつて了つた。それから母や妹が一生懸命に金光教会へお百度をふんでみたが少しも霊験が現はれぬ。大学病院へかつぎこんで診察して貰うと、非常に重い盲腸炎だから、切開手術を施さねばならぬが、病人の体の衰弱が甚しいから、生命は受合へぬとの医者の言であつた。そこで已むを得ず施術して貰ふのを見合せ、吾家へつれ帰り、成行に任せて、死期の至るを待つ外手段がなかつたのである。 益々重態に陥り、如何ともすることも出来なくなり命旦夕に迫つた。又もや従弟なる土田氏へ……病気危篤すぐ来れ……の電報をうつた。土田氏は例の刑部の寓居にありて、之を披見し「綾部に向つて手を合せ」の返電を打つておいて上京せなかつた。京都の南部氏の母と妹とは其電報を見て、叶はぬ時の神頼み、命さへ助けて下さらば何神様でもよい……と綾部の方に向つて「艮の金神様、今迄の取違と御無礼の段を御赦し下さいませ。孫三郎の一命を今一度お助け下さらば、彼の体も精神も差上げまして、艮の金神さまの御用をさして頂きます」 と一心不乱に祈願をこめた。ふしぎや忽ち感応あつて、南部氏の病床に一寸許りもあらうと思ふ大きな虻が、寒中にも抱はらずブンと音を立ててどこからともなく飛来り、病人の頭の上を三回舞ひ了るや、南部氏の腹部は岩でも砕けるやうな音がして、二三升許りも汚いものが肛門から排出すると共に、それより腹部の激痛も止まり、日を追うて快方に向つた。此れが南部氏が金光教を断念して綾部の大本へ入信した動機であつた。 それから二人は綾部へ帰つて見ると、上谷の修行場に邪神が襲来して、福島寅之助、村上房之助、野崎篤三郎其外一二名の神主は大乱脈となり、あらぬ事許り口走つて騒ぎまはつて居た。村上は近郷近在を昼夜の区別なくかけまはり、いろいろの事をふれまはつて、大本の名を悪くせむと一生懸命に妖魅がついて狂ひまはつて居る。福島寅之助は上谷の村中に響きわたるやうな大音声で、 福島『丑の年に生れた寅之助は、福島只一人であるぞよ。それぢやによつて此方が誠の艮の大金神であるぞよ。上田は未の年の生れ、出口直は申の年生れであるぞよ。漸く二人合はして坤の金神ぢやぞよ。二つ一つぢやぞよ。とても此福島寅之助には叶はぬぞよ。サア皆の者共、これから今までの取違をスツパリ改心致して、此方にお詫致せば今までの罪を許してやるぞよ。出口と上田は裏鬼門の金神ぢや、誠の丑寅の金神は出口直ではなかりたぞよ。これが分らぬ奴はきびしきいましめ致して、谷底へ放るぞよ。これからは福島寅之助を神が使うて、三千世界の立替立直しを致して、神も仏事も人民も餓鬼虫けらに至る迄勇んでくらさすぞよ。これが違うたら神は此世にをらぬぞよ。大の字逆様になりて居るぞよ。今に天地がでんぐり覆るぞよ。用意をなされよ。今に足許から鳥が立つぞよ。艮の金神は今まで悪神祟り神とけなされたが誠に結構な神でありたぞよ。神が表に現はれて善と悪とを立分けて世界の人民を改心さして松の神世にいたすぞよ。神は決してウソは申さぬぞよ。疑へば神の気障りになるぞよ。之から上田が帰つても相手になる事はならぬぞよ。誠の艮金神が気をつけるぞよ』 などと赤裸となり妖魅がうつつて、教祖の筆先の真似計りを、のべつ幕なしに呶鳴りちらして始末に了へない。喜楽は直に神界に祈願をこめ鎮魂を修した。其為一旦邪神の暴動が鎮定したが、又外の神懸にも沢山の妖魅の同類がうつつて福島の神に加勢をする。遂には神懸一同が口を揃へて、 一同『皆の者よ。シツカリ致さぬと、上田の曲津にごまかされて、ヒドイ目にあはされるぞよ。誠の艮の金神は福島大先生に違ひはないぞよ』 と叫ぶのを聞いた福島は、再び邪神におそはれて、黒い濃い眉毛を上げたり下げたり、目を剥いたり、腕をふり上げたり、飛んだりはねたり、尻をまくつてはねまはつたり、畳は穴があき床はおつる、ドンドンドンと響きわれるやうな音をさして、非常に大騒ぎを再演し出したので、田舎人が珍しがつて、四方八方から毎日々々弁当持で見物に来る。喜楽は一生懸命に鎮圧に力を尽しても、二十有余人の神憑の大部分に、不在の間に妖魅が憑つたのであるから、中々容易にしづまらない、こちらを押へばあちらが上る、丁度城の馬場で合羽屋が合羽を干してゐた所へ俄に天狗風が吹き合羽が舞ひ上り、一度に押へることが出来なくなつて、爺があわてて堀へはまつたやうな具合になつて来た。そして日一日と狂態が烈しくなつて来る。つひには修行者の親兄弟が怒つて来て、 『吾家の大事な伜を気違にしたから承知せない、吾妹を狐つきにしよつた……おれの子を巫子に仕立よとしよつた……狸をつけたのだろ、其筋に告訴してやる』 などと一斉にせめかくる。四方藤太郎は其中でも稍常識を持つてゐたから、陰に陽に気を配り、忠実に審神者の手伝ひをしてくれたので、喜楽も非常に力を得、千難万苦を排して一斉の反抗も妨害も頓着なく、あく迄審神者の職権をふりまはして漸く邪神を帰順せしむることを得た。 一方では金光教師たりし足立正信氏等は心機一転して、金明会を破滅せしむるは此好機を措いて他にある可らずとなし、数多の信徒をひそかに、以前の田中新之助といふ信者の内に集めて、鎮魂帰神の霊術の不成績なることを強調し、且つ喜楽を放逐すべく密議をこらしてゐた。折角固まりかけてゐた金明会の信徒は五里霧中に彷徨し、去就に迷ひ、四分五裂の状態になつて来た。えたり賢しと、中村竹造、四方春三の野心家等が、諸方へかけまはつて喜楽の神憑[※初版・愛世版では「神憑」、校定版では「神がかり」。]は有害にして無益だとか、狐使だとか、魔法師だとか力限り根限り下らぬことをふれ歩く。遂には教祖のことまで悪口するやうになつて来た。其時の有様は全く万妖悉く起るてふ古事記の天の岩戸がくれ式であつた。 幸にして四方平蔵、同藤太郎等の熱心と誠実なる調停で、一時は喜楽に対する猛烈な反抗も稍小康を得ることとなつた。そしてイの一番に叛旗をかかげたのは福島寅之助氏であつた。元来福島は正直の評判をとつてゐる、人間としては申分のない心掛のよい人である。妖魅といふ奴は中々食へぬ奴で、世界から…彼は悪人ぢや、不正直だと見なされてゐるやうな人間にはメツタに憑るものでない。たとへ憑つて見た所で其人物に信用がなければ、世人が信用せないことを知つてゐるからである。そこで悪魔は必ず善良なる人間を選んで憑りたがるものであるから、神憑[※初版・愛世版では「神憑」、校定版では「神がかり」。]の修行する者は余程胆力のある智慧の働く人でないと、とんだ失敗を招くものである。良き実を結ぶ木には害虫がわき易いものである。菊一本にても、大きい美しい花の咲くものには虫が却てよけいにわくやうなもので、正直だから善人だから、悪神がつく筈がないと思ふのは、大変な考へ違である。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一〇・一二旧八・二二松村真澄録) (昭和一〇・六・一〇王仁校正) |
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霊界物語 | 38_丑_出口王仁三郎自叙伝2 | 02 吉崎仙人 | 第二章吉崎仙人〔一〇三九〕 丹波何鹿郡東八田村字淤与岐といふ、大本に因縁深き木花咲耶姫命を斎られたる弥仙山のある小さき村に、吉崎兼吉といふ不思議な人があつて、自ら九十九仙人と称してゐる。 彼は七才の時、白髪異様の老人に山中に出会ひ種々の神秘を伝へられてから、其言行は俄然一変し、日夜木片や竹の端等にて、金釘流の筆先を書きあらはし、天のお宮の一の馬場の大神様の命令を受けて、天地の神々に大神の神勅を宣伝するのを以て一生の天職となし、親族、兄弟、村人よりは発狂者と見做され、一人も相手にする者がない、それにも屈せず、仙人は自分の書く筆先は、現代の訳の分らぬ人間に宣教するのではない、宇宙の神々様に大神の御心を取次ぐのであるから、到底人間の分際として、自分の書いたことが紙一枚だつて、分るべき道理がないのだと云つてゐる。二十五六才の頃から郷里の淤与岐を立出で、口上林村の山奥に忍び入り、平素は樵夫を職業となし、自分一人の食ふ丈のものを働いて拵へ、チツとでも米塩の貯へが出来ると、それが大方なくなるまで、山中の小屋に立こもつて、板の引わつたのに竹の先を叩き潰して拵へた筆で神勅を書きあらはし、日当りのよい場所を選んで、大空を向けて斜に立てて日にさらしておくのである。其仙人の書いた筆先は、大本の教祖のお筆先と対照して見ると、余程面白い連絡がある。其筆先の大要は先づザツと左の通りである。 『今日迄の世界は、吾々邪神等の自由自在、跳梁する世界であつたが、愈天運循環して、吾々大自在天派の世界はモウ済んで了つたから、これからは綾部の大本へ世を流して、神界の一切の権利を、艮の金神に手渡しせなくてはならぬ』 といふ意味の事が沢山に書いてある。又出口教祖の古き神代からの因縁などもあらまし書き現はしてある。 此九十九仙人の精霊が、上谷の幽斎修行場へ現はれて来て、当年十八才の四方春三に神懸し筆を取らして、 『此世一切の神界の事を、綾部の大本へ引つがねばならぬから、今度みえた霊学の先生と、足立先生、四方春三と三人至急に来て呉れ』 とスラスラと四方の手を通じて依頼文を書いた。そこで喜楽は霊学上の参考の為、一つ研究して見ようと思ひ、其翌日直様、口上林の山奥の仙人の許へ出張する筈であつたのが、折ふし綾部に急用が出来たので、帰らねばならなくなつた。さうしてゐると三日目の正午過に、上谷の修行場から四方祐助といふ老爺サンが慌だしく大本へ飛んで来て、 祐助『上田先生、大変なことが出来ました。今の先足立サンと春三サンが諜し合せ、上田先生にかくれて、九十九仙人に会見に行き、一切の神界の秘術を授けて貰ひ、帰つて来て、上田をアフンとさせてやらう、兎も角十分の神力を受けて居らねば、上田を放り出すことが出来ぬ。これは大秘密だから、決して上田には知らしてはならぬぞ……と云つて、二人があわてて出て行かはりました。あの人達二人が、先生に隠れて勝手に行くといふのは、何れ碌な事ぢやありますまい。又一つ何かよからぬことを企むのでせう。先生、グヅグヅして居つては大変ですから、サアこれから私が口上林の山の口まで御案内致しますから、今から二人の後を追つかけて行つて下さい、サア早よ早よ!』 と急き立てて居る。そこで喜楽は早速教祖に面会して、其報告通りの事を申上げると、教祖は、 教祖『そんなら一時も早う、御苦労乍ら仙人に会うて来て下さい』 と云はれた。祐助爺サンの案内で、口上林の仙人の居るといふ杉山の一里程手前まで送られ、そこから祐助爺サンに地理を詳しく教へられ、袂を分ち、雑草の生ひ茂る羊腸の小路を只一人登つていつた。 案内も知らぬ草深い峻坂を、一枚の紙に書いた、そそかしい地図を力に辿り辿りつつ、心を先に進んで行つた。半里ばかり登つたと思ふ時に路の傍の林の中に矮小な小屋があつて、其中には何か二三人の話声が聞えて居る。喜楽は聞くともなしに、小屋の傍に佇立して息を休めてゐると、六十余りの年よりの声で、 (老人)『一体お前達は神様の御用を致す者であるならば、なぜに世間の義務や人情を知らぬのか、そんなことで如何して衆生済度が出来る、口先計りの誠で、心と行ひが正反対だ。衆生済度所か、自分一人の済度も出来まいぞ。僅かに一銭や二銭の金が惜しいか、口先で甘いことをいうて、信者から金を取ること許り毎日日日考へてゐる神商売人だらう。此老人の労苦に酬ゆることを知らぬか。俺も一旦それ程惜しい金なら要らぬと云うた以上は、仮令此山奥でかつえて死んでもお前達の金は汚らはしい!』 とだんだん声高になつて罵つてゐる。一方の小さい声はよく聞いて見れば、聞覚えのある足立正信氏の声であつた。 足立『オイ爺サン、余り劫託をつくものでない。山路の修繕料をくれと云つたつて、どうしてそれがやれるものか。どこに修繕が出来て居る。道草一本刈つた形跡もなし、土一所動かした気配もないぢやないか。今先も道端の芒で足を此通り切り、高い石に躓いて生爪を起したり、これ丈難儀をして居る旅人に、山路の修繕費をよこせもないものだ。金の有余つた気違ひならいざ知らず、こんな山子のイカサマ爺イの山賊みたいな奴には、淵川へすてる金があつても、勿体なうてやれぬワイ。世間の人間をバカにするにも程があるぞ。お前もよい年しとつて、よい加減に改心をしたら如何だ。乞食のやうな真似をして、何の事だ』 と鼻先でからかつて居る。喜楽はつと其矮屋の入口を見ると、 『私は妻子眷族も親類もない憐な孤独者であります。年は六十七才、此奥山へ通ふ人々の為に、一年中ここに住居して山路を直し、往来のお方の便利をはかつて居る者であります。どうぞ御同情のあるお方は、乞食にやると思うて、一銭でも半銭でも宜しいから、お心持を投げてやつて下さい……世界の慈善者さま……年月日……矮屋主人』 と記してある。右の張札を見て、先程からの小屋の中の争論の理由も略推定することが出来た。喜楽はよい所で足立、四方の両人に出会うたと打喜び、直に其小屋へ、 喜楽『御免下さい』 と声をかけて這入り、爺イサンに、 喜楽『御苦労さまで御座います』 と云つて十銭銀貨一枚を与へた。老人は別に喜んだ顔もせず、喜楽を見て、 老人『ウンよし、大きな顔して通れ』 と只一言を放つたきり、穴のあく程喜楽の顔を見つめて居たが、やがて吾膝をうつて、 『ウンウン』 と何度となく諾いて居た。此老人こそ実に不思議なものである。虚構も修飾もない実際話であるから、此処に読者は注意して貰ひたい。要するに九十九仙人の守護神が、此老人に臨時憑依して、三人の心を試したのであつたと云ふことが後に分つて来たのである。 足立、四方の両人は、ヨモヤ後追つかけて来まいと思うて居た喜楽の姿が、眼前に現はれたのに一寸面くらつて、 足立『オヽ上田サンですか、只一人で此山路をどこへお越しですか。私は一寸急用で上林の某の宅へ行つて来ますから、マア御ゆるりとここで休まして貰うて結構な御話でも爺イサンから聞かして貰ひなさい。老人の云ふことは身の為になりますぞ』 と捨科白を残し、あわただしく矮屋を立つて、四方と共に山路を登つて行く。 喜楽はすぐ様後追つかけて行かうとしてゐる時、其老人は袖を引いて、 老人『一寸お待ちなさい、愚老が近路を案内して上げませう』 ときせる煙草を一二服グツと喫み、 老人『サアサアこうお出で』 と先に立ち、老人にも似ず、足も軽々しく仙人の隠れてゐる、杉山の麓の谷川の傍まで送り、 老人『サア此川を向うへ渡り、右に取つて一二丁進めば、そこが仙人の隠れ場所だ。左様なら……』 と云つたきり、早々帰つて行く。 喜楽はよく辷る谷川の急流を渡り、樵夫小屋をさして急いだ。五六丁も登つたと思ふ頃、九十九仙人は坂路の中央に立つて待つてゐる。そして喜楽に向ひ、顔色を和げ、さも愉快げに、 仙人『アヽ先生、此山路をはるばるとよく訪ねて来てくれましたなア。マアマアこちらへ来て一服なさい』 と自分の小さい小屋へ案内し、白湯を黒い土瓶から汲んですすめ、いろいろと神界の秘事を一夜間かかつて、諄々と説き諭した。喜楽は高熊山の第一次の修行や、第二回目の修行の時に、神界から見せられてゐた事実を思ひ出し、符節を合すが如きに益々感じ、自分の信念はいよいよ強くなつて来た。 喜楽は矮屋の老人の親切なる案内に依つて、恙なく九十九仙人の小屋に到着し、いろいろと有益な神界の経綸を聞かされ、非常に満足したが、足立、四方両人の、一日たつてもここへ出て来ぬのに心配し始め、仙人に向つて、 喜楽『両人はキツとここへ訪ねて来る筈だのに、まだ姿を見せぬのは如何なつたのでせう、山奥へでも迷ひ込んで居るのではありますまいか』 と尋ねてみた。仙人は笑つて答へて云ふ。 仙人『アハヽヽヽ、大変な野心を起し、お前さまを出しぬいて、大切なる神秘の鍵を握らうとした、腹の黒い人物だから、今日も到底ここへは来ることが出来ぬやうに、神界から垣をされてゐるのだから、明日の朝になつたら、ヤツとの事で来るであらう。憂慮するには及ばぬ。天のお宮の一の馬場のお父様も、天のお宮の二の馬場のお父様も、天のお宮の三の馬場の国族武蔵吉崎兼吉も、皆お前の体を守り、此神秘を伝へむ為に、彼等両人が居ると邪魔になるから、ワザとに遅れさして居るのだ』 といつて微笑して居る。喜楽は仙人の言を一伍一什聞き終り、余り教祖の筆先に符合せるに驚き、益々神界に対して一大責任の身にかかれることを覚悟し信念はますます堅くなつた。 一方の二人は喜楽の先を越さうとして、却て山路にふみ迷ひ、濃霧の為に方向を誤り、深い谷底へ転落し、身体の各所にすり傷さへも負ひ、迷ひ迷うて漸く又元の老人の小屋の前に到着し、今度は老人に目が剥けるほど呶鳴りつけられ、ブルブル震ひ乍ら、先の無礼を陳謝し、漸く老人の怒りも解け、老人の好意的案内に依つて、夜の十一時頃漸く杉山の麓の一軒の宿屋に着いた。其夜はそこで一泊し、翌日早朝登山して来たのである。二人は、 『余り心得違を致したから、神界から、お気付をされたと喜楽サンは思はれるか知らぬが、これも何か神様のお仕組でせう』 と負惜みの強い性質とて、表面平気を装うてゐたが、其顔には隠し切れぬやうな不安な血相が見えてゐた。仙人は足立に向ひ厳然として、 仙人『お前の面部には殺気が現はれてゐる。何となく心中不穏だ。一時も早く惟神の道に立帰つて、及ばぬ企図を止めなさい。今改心せなくては身の破滅を招きますぞよ』 と言強く言ひ放ち、又もや四方春三に向ひ、 仙人『お前は盤古の霊が守護して居る。甚面白くない、お前の大望は、丁度猿猴が水の月を捉へむとするやうなものだ。今に改めなくてはキツと身を亡ぼすことが出て来るぞ。今日只今限り良心に立ち復り、一心に真心を以て神界に仕へなさい。さうすれば昔からの霊の深い罪科を赦された上、天晴れ神界の御用に使つて貰へるであらう。併し乍ら今の心では駄目だ。早く改めないと、災忽ち其身に至る凶徴が、お前の顔に現はれて居る。此仙人の云ふことをゆめゆめ疑ふこと勿れ』 ときめつける様に言つた。二人は真青な顔をして一言もよう答へず、体をビリビリと震はせて居た。仙人は更めて言ふ。 仙人『いよいよ時節到来して、自分の役目は今日を以て終りをつげた。明日からは人界へ下つて、人場の勤めに従ひ、余生を送りませう。神場の用は今日で終結だから、再び訪ねて来て貰つても最早駄目だ。左様なら……』 と云ひすて、大鋸を肩にひつかけ、山奥深く其姿を没した限り、出て来ないので、やむを得ず、三人は帰途に就いた。 これから以後の四方春三は盤古の悪霊に憑依され、邪心日に日に募りて喜楽を排斥し、其後の御用を勤めむと数多の役員信者を籠絡し、いろいろ雑多の計画を立てて居たが、一年たつた後に、仙人の云ふた如く、大変な神罰を蒙りて悶死するに至つた。実に慎むべきは慢心と取違とである。 惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一〇・一四旧八・二四松村真澄録) |