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(1721)
霊界物語 18_巳_丹波物語3 玉照姫の誕生 10 赤面黒面 第一〇章赤面黒面〔六三八〕 谷川に禊を済まして、梅公一行は再び地底の館に帰り来たり、 梅公『高山彦様、黒姫様、お蔭で大江山の悪霊も、スツカリ退散致しました。そこら中が何ともなしに軽くなつた様で、明晰な頭脳が益々明晰になり、モウ是れで大宇宙の根本が、現界、神界、幽界の、万事万端手に取る如く明瞭に、梅が心鏡に映ずる様になつて来ました。随分御禊と云ふものは結構なものですなア』 黒姫『さうだろさうだろ、何時もそれぢやから、朝と晩と昼と、間さへあれば、お水を頂きなさいと云うとるのぢや。火と水とお土の御恩が第一ぢや。何時も水を被るのは、蛙の行ぢやと言つてブツブツ叱言を云つてらつしやるが、今日は合点がいつただらう』 梅公『ヤアもう徹底的に分りました。有難い事には、日の出神様と竜宮の乙姫さまが私の肉体にお懸り下さいまして、結構で御座いました』 黒姫『これこれ梅公、何と云ふ傲慢不遜な事を言ひなさる。日の出神様は、誠水晶の生粋の根本の元の身魂でなければお憑りなさらず、又竜宮の乙姫さまは、因縁の身魂でなければ、誰にも、彼れにもお憑りなさる筈がない。「昔から神はものを言はなンだぞよ。世の変り目に神が憑りて、世界の人に何かの事を知らせねばならぬから、因縁の身魂に神が憑りて、世界の初まりの事から、行末の事、身魂の因縁性来を細かう説いて聞かして、世界の人民を改心さすぞよ。稲荷位は誰にも憑るが、誠の大神は禰宜や巫子には憑らぬぞよ」と変性男子の身魂が仰有つて御座る。それに何ぞや、下司の身魂にソンナ結構な神様が憑りなさる筈があるものか。日の出神の生宮が、さう二つもあつたり、竜宮の乙姫さまの生宮が、さう彼方にも此方にも出来て堪るものか。お前は一寸良いと直によい気になつて、慢心をするなり、一寸叱られると、直に青くなつてビシヨビシヨとして了ふ。それと云ふのも、モ一つ腹帯が締つて居らぬからぢや。身魂相応の御用をさされるのぢやから、慢心をし、高上りをしてブチヤダレヌ様にしなされや、灯台下はまつ暗がり、自分の顔の墨は分るまい。空向いて世の中を歩かうと思へば、高い石に躓いて、逆トンボリを打たねばならぬぞよ。開いた口がすぼまらぬ様なことのない様に、各自に心得たが宜いぞ』 梅公『ヤア承知致しました。併し乍ら、臨時御降臨遊ばしたのだから仕方がありませぬ』 黒姫『そら何を云ひなさる。神憑には公憑、私憑と二つの種類がある。其中でも私憑と云ふのは、因縁の身魂丈によりお憑りなさらぬと云う事ぢや。国治立命は変性男子の肉体、日の出神は系統の肉体、竜宮の乙姫は又その系統の肉体と、チヤンと定つて居るのぢや。公憑と云うて、上の方の身魂にも、中の身魂にも、下の身魂にも臨機応変に憑ると云ふ様な、ソンナ自堕落な神さまとは違ひまつせ。竜宮の乙姫さまを、何と思うて居りなさる。チツトお筆先でも拝読きなさい。お筆さへ腹へ締め込みておきたら、目前の時に、ドンナ神力でも与へて下さる。兎角お前達は、字が悪いとか、読み難いとか、クドイとか、首尾一貫せぬとか、肉体が混つとるとか、ここは神諭ぢや、此点は人諭ぢやと、屁理屈ばつかり仰有るから、サツパリ訳が分らぬ様になつて了うのだ。日の出神の生宮のお書き遊ばしたお筆先を審神したり、しやうとするから間違ふのだ。是れから、絶対に有難いと思うていただきなさい』 梅公『私はお道を開く因縁の身魂ぢやありませぬか』 黒姫『きまつた事ぢや。因縁なくて、此結構なウラナイ教へ来られるものか』 梅公『因縁の身魂の中でも、私は最も因縁の深いものでせう。高姫さまは高天原に因縁のある名ぢやし、黒姫さまは、くろうの固まりの花が咲くとお筆先に因縁があるなり、私は三千世界一度に開く梅の花と云ふ、変性男子の初発のお筆先に出て居る因縁の名ぢやありませぬか。何と云つても梅は梅、一度に開く役は梅公の守護神のお役でせう』 黒姫『此広い世界に、梅の名のつくのは、お前ばつかりぢやないわいな』 梅公『それでも、今あなた、因縁の身魂ばつかり引き寄せて有ると仰有つたぢやありませぬか。ウラナイ教へ引寄せられた人間の中に、梅の名の付いた者が、一人でもありますか。松で治めると云ふ、松に因縁のある松姫さまは、高城山であの通り羽振りを利かし、なぜ此梅公は、さうあなたから軽蔑されるのでせう』 黒姫『もうチツと修業しなされ。さうしたら又、松姫と肩を並べる様にならうも知れぬ。併し今日は初めて綾彦、お民に、宣伝を、竜宮の乙姫の肉体が、直接にしてあげるから、お前もシツカリ聴きなされ。そして此肉体の宣伝振をよく腹へ締め込みて、世界を誠で開くのぢやぞえ』 梅公『それは有難う御座います。吾々も傍聴の栄を得まして……』 黒姫『コレコレあまり喋るものぢやない……男だてら……口は禍の門ぢや。黙つて謹聴しなさい』 と押へつけ乍ら、少し曲つた腰付をして底太い声を張上げ歌ひ始めたり。 黒姫『昔の昔その昔遠き神代の初めより 国治立の大神は千座の置戸を負ひ給ひ 世を艮に隠れまし三千年の其間 苦労艱難遊ばして此世を永久に開かむと 種々雑多と身をやつし蔭の守護を遊ばされ ミロクの御代を待ち給ふ時節参りて煎豆に 花咲く御代となりかはり変性男子の御身魂 道具に使ふて昔から末の末まで見通され 尊きお筆を出しまし世に落ちぶれた神々を 今度一緒に世にあげてそれぞれお名を賜ひつつ 神の御用に立て給ふ時節来たのを竜宮の 乙姫様は活溌な御察しの良い神故に 今まで生命と蓄へた金銀、珠玉、珊瑚珠も 残らず宝投げ出して大神様へ献つり 穢ない心をスツパリと海へ流して因縁の 身魂と現れし黒姫を神政成就の機関とし 現はれ給うた尊さよ今まで竜宮の乙姫の 醜しかつた御霊丈系統の身魂に憑られて 懺悔遊ばし一番に改心なされた利巧者 三千世界の世に落ちた神々さまは竜宮の 乙姫さまを手本とし力一杯身魂をば 磨いて今度の御大謨にお役に立つた其上で それぞれお名を頂いて結構な神と祀られる 三千世界の梅の花一度に開くと云ふ事は 永らく海の底の底お住居なされた竜宮さま 肉のお宮にをさまりて広い世界の民草に 誠一つのお仕組を現はしなさるお働き 日の出の神と引つ添うて今度の御用の地となり 神の大望成就させ天にまします三体の 大神様へ地の世界斯うなりましたとお目にかけ お手柄遊ばす仕組ぞや此お仕組は三五の 神の教を厳御霊変性男子の筆先に くまめる様に書いてある其筆先の読み様が 足らぬ盲のミヅ御霊変性女子が混ぜ返し 蛙の行列向ふミヅ瑞の御霊と偉相に 日の出神の筆先を何ぢや彼ンぢやとケチをつけ 黒姫までも馬鹿にするされ共此方はどこまでも 耐り耐りて出て来たが余り何時まで分らねば 是非に及ばず帳を切り悪の鑑と現はして 万劫末代書き残す変性男子は唯一人 変性女子も亦一人それに何ぞや三つ御霊 三つもあつてたまるかい此事からが間違ひぢや 変性男子は経の役変性女子は緯の役 経と緯とを和合させ錦の機を織る仕組 日の出神が地となりて竜宮様のお手伝ひ 今度一番御出世を遊ばす事を知らないか 必ず必ず三五の緯の教に迷ふなよ 経が七分に緯三分これでなければ立派なる 誠の機は織れないに三五教の大本は 次第々々に紊れ来て経が三分に緯七分 変性男子は先走り変性女子は弥勒さま 何ぢや彼ンぢやと身勝手な理屈を並べて煙に巻く 此儘棄てて置いたなら変性男子の永年の 艱難苦労も水の泡水の泡にはさせまいと 系統の身魂を選り抜いて日の出神が現はれて 誠の筆先書きしるし一度読めよと勧むれど 変性女子の頑固者どうして此れが読まれよかと 声を荒立て投げつけるそれ程厭なら読までよい 後で吠面かわくなと言うて聞かしてやつたれど 訳の分らぬ頑固者神の恵を仇に取り 何ほど親切尽してもモウこの上は助けやうが 無いと悔みて高姫が何時も涙をポロポロと 零して御座るお慈悲心それに続いて分らぬは 金勝要の大御神この肉体もド渋とい まだまだ渋とい奴がある仮令大地は沈むとも 生命の綱が切れるとも日の出神の筆先は 当にならぬと撥ねつける木の花姫の生宮と 嘘か本真か知らねども現はれ出でた男女郎 火が蛇になろがどうしようが改心させねば置くものか 縦から横から八方から探女醜女を遣はして いろいろ骨を折るけれど固より愚鈍な生れつき 石の地蔵に打向ひ説教するよな塩梅で どしても聞かうと致さない木の花姫の肉体を 改心させねば何時までも神の仕組は成就せぬ ウラナイ教も栄やせぬサア是れからは黒姫の 指図に従ひ身をやつし千変万化に活動し 一日も早く因縁の身魂を改心さす様に 祈つて呉れよ黒姫もこれから百日百夜は 剣尖山の谷川の産のお水で身を清め 一心不乱に祈念するアヽ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と汗をブルブルに掻き、身体一面ポーツポーツと湯気を立て、 黒姫『アーア苦しいこと。……世界の人民を助けようと思へば、並大抵ぢやない、変性男子や高姫さまの御苦労が身に浸みて、おいとしう御座るわいの、オンオンオン』 と泣き崩れる。 これより黒姫は、百日百夜、宮川の滝に水行をなし、高山彦の懇望もだし難く、一旦数多の信徒を宣伝使に仕立てて、自転倒島の東西南北に間配り置き、手に手を把つて、フサの国へ渡り、高姫の身許に着きける。高姫は三五教の勢力侮り難きを黒姫より聞き、黒姫を北山村の本山に残し置き、自らは二三の弟子と共に、自転倒島に渡り、再び魔窟ケ原に現はれ、衣懸松の下にて庵を結び、三五教覆滅の根拠地を作らむとして居たのである。又もやそれより由良の湊の人子の司、秋山彦が館に於て、冠島、沓島の宝庫の鍵を盗り、遂には如意宝珠の玉を呑み、空中に白煙となりて再び逃げ帰りしが、それと行違に黒姫は、又もや魔窟ケ原に現はれ、草庵の焼跡に新に庵を結び、前年高姫と共に築き置きたる地底の大岩窟に居を定め、極力宣伝に従事して居たりしなり。然るに黒姫の部下に仕ふる夏彦、常彦、其他の弟子共は、フサの国より扈従し来り乍ら、少しも黒姫に夫ある事を知らざりける。黒姫は独身主義を高唱し、盛ンに宣伝をして居た手前、今更夫ありとは打明け兼ね、私に高姫に通じて、神界の都合と称し、始めて夫を持つた如く装ひける。高山彦の表面入婿として来るや、以前の事情を知らざりし弟子達は、黒姫の此行動に慊らず、遂にウラナイ教を脱退するに至りたるなり。夏彦、常彦以下の主なる者は、此時高城山に立籠り、東南地方を宣伝し居たれば、梅、浅、幾などの計らひに依りて、新に入信したる綾彦の事は少しも知らざりける。また高城山の松姫が侍女として仕へ居るお民の素性も、気が付かず、唯普通の信者とのみ思ひて取扱ひ居たりしなり。黒姫は又もや剣尖山の麓を流るる宮川に、綾彦外一人を伴ひ、禊の最中、紫姫、青彦の一行に出会し、青彦が再びウラナイ教に復帰せしと聞き、喜び勇みて、この岩窟に意気揚々として帰り来たりしなり。 ○ 黒姫『サアサアこれが妾の仮の出張所だ。大江山の悪魔防ぎに地下室を拵へて有るのだから、這入つて下さいませ。……青彦、お前は勝手をよく知つてる筈ぢや。どうぞ皆さまを叮嚀に案内をしてあげて下さいな』 鹿公『ヤアこれは又奇妙なお住居ですな、三五教の反対で、穴有教だなア、ヤア結構結構、穴有難や穴たふとやだ』 と一人々々、ゾロゾロと辷り込む。 黒姫『モシモシ高山彦さま、極道息子が帰つて来ました。どうぞ勘当を赦してやつて下さい』 高山彦『ヤアお前の常々喧しう言つて居つた……これが青彦だらう』 青彦『ハイ始めてお目にかかります。どうぞ宜しう御願ひ致します』 高山彦『ハイハイ、もう是れからは、あまりグラつかぬ様にして下さい』 青彦『決して決して、御心配下さいますな』 高山彦『ヤアなンと綺麗な娘さまがお出になつたぢやないか』 青彦『此お方は由緒ある都の方で御座いますが、お伊勢様へ御参拝の折、黒姫様の言霊を聞いて、大変感心遊ばし、「どうぞ妾も入信が致したう御座いますから、青彦さま、頼みて下さいな」ナンテ、それはそれはお優しい口許でお頼みになりました。私もコンナ綺麗な方が、男ばつかりの所へお出になつては、嘸御迷惑だらうと思ひましたけれども、折角のお頼み、無下に断る訳にもゆかず、黒姫様に御取次致しました。黒姫さまは二つ返辞で承知して下さいました』 紫姫『ホヽヽヽヽ』 と袖に顔を隠す。 黒姫『コレ青彦、チツと違つては居らぬかな』 青彦『アーさうでしたかなア。あまり嬉しかつたので、精神錯乱致しました。どうぞ見直し聞直しを願ひます』 黒姫『青彦お前は久振で親の家へ帰つたのだから、気を許して奥でゆつくりと寝なされ、今は新顔ばつかりで、お前の知つて居る者は、みなフサの国の本山へ往つたり、高城山へ行つて居る、馴染がなくて寂しいだらうが、気の良い者ばつかりだから、気兼なしにユツクリと休まつしやい。馬公鹿公も、トツトとお休み、又明日になつたら結構な話を聞かしてあげる。……サテ紫姫さまとやら、あなたは三五教の宣伝使におなりになつたのは、何を感じてですかなア。何か一つの動機がなければ、あなたの様な賢明な淑女が、あの様な瑞の御霊の混ぜ返し教に入信なさる道理がない。みな奥へ行つて睡眼みて了つたから、誰も聞く者もないから、遠慮なしに話して下さいな』 紫姫『ハイ有難う御座います、別に是れと云ふ動機も御座いませぬ。国家の為社会の為に舎身的の活動をなさる瑞の御霊の大神さまに同情を表しまして、つい何とはなしに宣伝使になりました』 黒姫『それはそれは結構な事だ。身魂の因縁がなくては、到底尊い宣伝使にはなれませぬ。三五教もウラナイ教も、みな変性男子、変性女子と、経と緯との身魂が現はれて錦の機の仕組をなさるのぢやが、併し乍ら、素盞嗚尊は天の岩戸を閉めるお役で、大神様が、此世の乱れた行方がさしてあると仰有る。ナンボ神様の仰有る事でも……これ丈乱れた世の中を、治める事を措いて、乱れた方の御守護をしられて堪りますか。そこで吾々は元は三五教の熱心な取次だが、今では変性女子の行方に愛想をつかし、已むを得ず、ウラナイ教と名をつけて、神様の御用をして居りますのぢや。同じ事なら三五教の名が附けたいけれど、高姫や黒姫は、支部ぢやとか、隠居ぢやとか言はれるのが癪に障るので、已むを得ず結構な結構なウラル教の「ウラ」の二字を取り、アナナイ教の「ナイ」の二字をとつて、表ばつかり、裏鬼門金神の変性女子の教は一寸も無いと云ふ、生粋の日本魂のウラナイ教ぢや。お前も、同じ宣伝使になるのなら、喰はせものの三五教を廃めてウラナイ教になりなされ。あなたのお得ぢや。否々天下の為ぢや』 紫姫『素盞嗚尊さまは、それ程悪いお方で御座いますか。世界万民の為に千座の置戸を負うて、世界の悪を一身に引受け、人民の悪い事は、みな吾が悪いのぢやと言つて、犠牲になつて下さる神さまぢや有りませぬか』 黒姫『それはさうぢやけれども、モ一つ我が強うて改心が出来ぬものぢやから、神界のお仕組が成就しませぬ。何と言うても、高天原から、手足の爪まで抜かれて、おつ放り出される様な神ぢやから、大抵云はいでも分つとる。お前も能う胸に手を当てて御思案なさいませ』 紫姫『ウラナイ教には、ちツとも……仰有る通り裏がないので御座いますか』 黒姫『勿論の事、見えた向きの、正真正銘、併し乍ら、神様のお仕組は奥が深いからなア、一寸やそつとに、人間の理屈位では分りませぬ。マアマア暫く絶対服従で信神して見なさい。御神徳が段々分つて来るから』 斯く話す折しも、慌ただしく走り帰つた二人の男。 黒姫『ヤアお前は滝と板とぢやないか』 滝公、板公『ハイ左様で御座います』 黒姫『昨日から此処を飛び出した限り、どこをウロウロ迂路ついとつたのだい』 滝公『ハイ昨日遅がけに、一人の女が通りましただらう。それをあなたが捉まへて来いと仰有つたものだから、此奴ア又、梅公の故智に倣つて、一つ大手柄を現はし、あの女を入信させてやるか、あまり諾かねば、何れ三五教の奴だから、叩き潰してやらうかと思うて、あなたの御命令で追ひかけて行きました』 黒姫『誰が叩き潰せと言つたのか。丹波村のお節に違ひないから、捉まへて来いと言つたのだ、そして其お節を如何したのぢやい』 滝公『板公と二人、尻引き捲つて……お節は走る、二人は追ひかける、船岡山の手前までやつて来ると、日は暮れかける。お節は石に躓きパタリと倒れたので、其間に追ひつき、無理無体に手足を括り、暗の林に連れ往つて、グツと縛りつけ、猿轡を箝ませ、再び姿を改ため、……コレコレどこのお女中か知らぬが、コンナ所に悪者に括られて可愛想に……と云つて助けてやる。さうすれば如何なお節もウラナイ教の親切に感じて、三五教を思ひ切るだらう……と思ひまして、一寸智慧を出しました。さうした所が、お前さまがやつて来て、種々と仰有るものだから、暗がり乍ら御案内しました。……あなた覚えが御座いませう……忽ちお節は息が切れ、厭らしい声を出して、化けて出よつた、其途端に私は尻餅を搗いて、暗さは暗し、傍の谷川へサクナダリに落ち滝つ、腰イタツ磐根に打据ゑて、それはそれは酷い目に遭ひました。暫くは気を取り失うて、半死になつて了ひ、苦みて居るのに、あなたは側へ来て居り乍ら私を見殺しにして帰りなさつたぢやないか。何時も人を助ける助けると仰有るが、アンナ時に助けて貰はねば、常に御大将と仰いで居る甲斐がありませぬワ』 黒姫『そら何を云うのだ、妾が何故ソンナ所へ行く必要があるか、又何とした乱暴な事をするのだい。ソンナ事がウラナイ教の教にありますか。モウ今日限り、破門するツ、サア出て行け出て行け』 滝公『悪人は悪人とせず、鬼でも、蛇でも、餓鬼虫けらでも助けるのが、ウラナイ教ぢや有りませぬか。出て行けとはチツと聞えませぬワ』 黒姫『モシ紫姫さま、斯う云ふ取違する者がチヨコチヨコ出来ますので、誠に困ります。併し乍ら、コンナ者ばつかりぢや御座いませぬ。これは大勢の中でも、選りに選つて一番悪い奴で御座います。そして又入信してから、幾らもならぬものですから、つい脱線をしましてナ』 板公『モシモシ黒姫さま、余り甚いぢやありませぬか、私が悪人なら、モツとモツと大悪人が沢山居りますで……綾彦だつて、お民だつて、改心さしたのは、あなた知らぬか知らぬが、それはそれは大変な酷い事をやつて入信させたのだ。私も兄弟子の兵法を倣つて巧くやらうと思つたのが当が外れた丈のものですよ、あれ程喧しう下の者が噂をして居るのに、あなたの耳へ這入らぬ筈はない、一年からになるのに、世界が見え透くと云ふあなたが、知つとらぬとは言はれませぬ。腹の底を叩けば、「権謀術数的手段は用ゐるな。併し俺の知らぬ所では都合よく行れ、勝手たるべし」と云ふ、あなたの御精神でせう』 滝公『ソンナこたア、言はなくても定まつて居るワイ。あれ程、神の取次する者は、独身でなければ可かぬと仰有つた黒姫さまでさへも、ヤツパリ言うた事をケロリと忘れて因縁だとか、御都合だとか理屈を附けて、ハズバンドを持たつしやるのだもの、言ふ丈野暮だよ』 黒姫『何を言ふのだ。早う出て下さい』 滝公『都合が悪うおますかなア……初めての入信者の前ですから、成るべくは、コンナ内幕話は言ひたくはありませぬが、お前さまが今日から除名すると仰有つた以上は、今迄の師匠でもなければ、弟子でもない。力一杯奮戦して、どこまでも素破抜きませうか』 黒姫は唇を震はし、目を逆立て、クウクウ歯を喰ひしばつて、怒つて居る。 滝公『モシ黒姫さま、怒る勿れ……と云ふ事がありますなア。怒つて居るのぢやありませぬか。チツと笑ひなされ』 黒姫『ウームウーム』 と歯を喰ひしばり、目を剥いて居る。 紫姫『これはこれは滝さまとやら、板さまとやら、良い加減にお静まりなさいませ。夜前あなたがお節さまを悩めて御座る所を、妾外三人の者がよく見て居りました。黒姫さまは決してお出でぢやありませぬ。妾の連の鹿と云ふ男が黒姫さまの……暗を幸ひ……声色を使つたのですよ。それに黒姫さまがお出でになつたなぞと仰有つてはお気の毒ですワ、お節さまはこの奥へ来て、スヤスヤ寝みてゐらつしやいますよ』 滝公、板公『エー何と仰有る、お節さまが……そいちやア大変だ』 紫姫『さう御心配なされますな、青彦さまも見えて居ります』 滝公『ヤアうつかりして居ると、ドンナ目に合ふか分らぬぞ。仇討に……岩窟退治に来よつたのだなア。……オイ板公、黒姫さまはどうでも良い。生命あつての物種だ、見付からぬ間に、一刻も早く此場を退却だ』 と滝は駆出す。板も続いて、 板公『オイ合点だ』 と後を追ふ。黒姫は、 黒姫『オイこれこれ、滝公、板公、待つた待つた、言ひたい事がある』 滝板の両人は、岩穴の外から内を覗いて、 滝公、板公『黒姫さま、左様なら、ゆつくりと、青彦やお節に、脂を搾られなさつたが宜からう、アバヨ、アハヽヽヽ、ウフヽヽヽ』 と云つた限り、何処ともなく……それ限りウラナイ教には姿を見せなくなりにけり。 紫姫は気の毒がり、 紫姫『モシモシ黒姫さま、お腹が立ちませうが、若い人の仰有る事、どうぞ宥して上げて下さいませ、……イヤもう人を使へば苦を使ふと申しまして、御苦心の程、お察し申します』 黒姫『これはこれは、ご親切によう言うて下さいました。無茶ばつかり申しまして困ります。これと言ふのも、決して決して、滝や板が申すのぢや御座いませぬ。又さう云ふ様な悪い事をする男ぢや有りませぬが、素盞嗚尊の悪神の眷属が憑つて、吾々を苦めやうと思うて、アンナ事を言つたり、したりするのです。チツとも油断はなりませぬ。悪神に使はれた、滝公板公こそ不憫な者で御座います、オンオンオン』 と泣き真似をする。 紫姫『黒姫さま、モウお休みなさいましたらどうでせう。大分夜も更けた様です』 黒姫『ハイ有難う、ソンナラお先へ御免蒙りませう。明日又ゆつくりと、根本のお話を聴いて貰ひませう』 紫姫『ハイ有難う』 と互に寝に就きにける。 (大正一一・四・二六旧三・三〇松村真澄録)
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(1735)
霊界物語 19_午_丹波物語4 玉照姫と玉照彦 02 交嘴の嘴 第二章鶍の嘴〔六四七〕 足踏む隙も夏草の、生茂りたる魔窟ケ原、山時鳥悲しげに、血を吐く思ひの岩窟の中、高姫、高山彦、黒姫の三人は、奥の一室に鼎坐して、紫姫や青彦の、消息如何にと待ち居たる。頃しもあれや梅公は、辰、鳶二人を従へて、息せき切つて馳せ帰りきぬ。 寅若『ヨオ、梅公ぢやないか、何処へ行つて居たのだ。甚う顔の色が晴れ晴れして居ないぢやないか、何時も快活なお前に似合はず、どこともなく影が薄う見えて仕方がないワ』 梅公『エヽ、何でもない、お前の出る幕ぢやないから柔順しく待つて居ろ』 寅若はニタリと笑ひ、 寅若『ヘン、やられよつたな、鼈に尻をやられたと云はうか、嘘を月夜に釜を抜かれたと云ふ為体、又も違つたら梟鳥が夜食に外れたと云ふ塩梅式だな、黒姫さまもよい家来をお持ちになつて仕合せだワイ、イヒヽヽヽ』 梅公『エヽ喧敷う云ふな、其処退け、ソンナ狭い入口に貴様が立つて居ては這入る事も出来やしないワ』 寅若『ハヽヽヽ、可成這入らぬが好からうぜ、御注進申上げるや否や形勢不穏、大地震でも勃発してみよ、此岩窟はガタガタだ。此寅若は御信任が無いから駄目だが、併し紫姫さまや、青彦さま、それに次で梅公と来たら豪いものだよ。一つ今回の失敗、否、お手柄話を聞かして貰はうかい、何時も黒姫は目が黒いと仰有る、間違ひはあるまい、此眼で一目睨みたら些とも違はぬと仰せられるのだからなア、アハヽヽヽ』 と頤をしやくつて入口に立ち塞がり、きよくつた[※「きよくつた」は「曲(きょく)った」か?「曲(きょく)る」とは、冷やかすとか、からかうという意味。]やうな笑ひをする。奥の一室には高姫、高山彦、黒姫三人、鳩首謀議の真最中なりける。 高姫『これ黒姫さま、紫姫や青彦が出立してから、もう一週間にもなるぢやありませぬか、それに今になつて、猫が嚔をしたとも、膿ンだ鼻が潰れたとも云ふ便りが無いぢやありませぬか、貴女のお眼識に叶つた許りか、選抜してお遣りになつたのだから、如才はありますまいが、万一あつては大変だと気に懸つてなりませぬワ』 黒姫は稍不安の面持にて、 黒姫『何分突飛な談判に遣つたものだから、摺つた揉ンだと、毎日問題が次から次へと提出され、家庭会議でも開いて連日連夜小田原評定に時を費やして居るのでせう。早く成るものは破れ易く、遅く成るものは破れ難し、大器晩成と云つて暇の要る程脈があるのですよ、一年にすつと伸びて花の咲く草木は秋が来れば萎れて仕舞ひます。梅桜、桃椿などの喬木になると、二年や三年に花は咲かない代りに、天を衝くやうに其幹は成長し、毎年々々花も咲く、私の眼識に叶つた紫姫、青彦の事ですから、よもや寝返りを打つと云ふ事はありますまい、ナア高山彦さま』 高山彦『サア、何とも保証の限りではないなア』 黒姫、目に角を立て、 黒姫『エヽ何と仰有る、高山彦さま、余り紫姫や、青彦を見損つてはいけませぬよ。お前さまの身魂は昔鬼城山にあつて木常姫さまに悪い事を教へ、今度は南高山の宝取りには道彦の為に大失敗を演じ、今又ウラナイ教へ帰つてくると云ふ身魂だから、ソンナ考へが出るのだよ、自分の心を標準として青彦や紫姫の心を測量なさるとは、些と残酷と云ふものだワ』 高山彦は少し声を高うして、 高山彦『昔は昔今は今ぢや、身魂に経験を積みて来て居るから、大概の人の心の底はよく分つて居る。何時も俺は柔順しくして不言実行主義を採つて居れば、貴様は何時も先に出て何から何迄、掻いて掻いて掻き廻し、一言云へば直ちに眉を逆立て鼻息を荒くし、口から泡を飛ばすぢやないか、俺は五月蠅いから何時も黙つて居るのだ。今日は幸ひ高姫様の前だから、俺の思つて居る事を忌憚なく吐露したのだ』 黒姫『そりや何を云ひなさる、貴方は此家の主人ぢやないか、私の云ふ事を聞くやうな素直な身魂ですかいな、何でも彼でも一つ一つケチをつけねば置かぬ因果な身魂だから』 高山彦『今度の青彦、紫姫を派遣したのはお前の発案だらう、其時俺は貴様に剣呑だからそつと寅若でもつけてやつたら何うだと云うたぢやないか、其時貴様は首を振り、大変な荒びやうだつた、アヽ、又毎度の病気が出た哩と思つて辛抱して居たのだ。此奴は屹度不成功、否不成功のみならず、青彦、紫姫は三五教の間諜だつたに違ひない』 黒姫『何を云ひなさるのだい、マア見て居なされ、屹度今に分る。玉照姫を連れて青彦が帰つて来ますよ。若し連れて帰つて来なかつたら、二度とお前さまにも高姫さまにもお目にかかりませぬ哩なア』 と頤をしやくり、上下の歯をぐつと噛みしめ、前に突き出して見せける。高山彦はムツとしたか蠑螺のやうな拳骨を固めて黒姫の横面を撲らむとする。スワ一大事と高姫は仲に割つて入り、 高姫『ヤア待つた待つた、犬も食はぬ喧嘩をすると云ふ事がありますか、些と心得なさい。お前さま二人はウラナイ教の柱石たる重要人物ぢやないか、ソンナ事で皆の者に教訓が出来ますか』 黒姫『ハイハイ、左様で御座います、何分宅のがヒヨツトコですから』 高山彦『こりや黒、ヒヨツトコとは何だ。俺がヒヨツトコなら貴様はベツトコだ』 高姫『コレコレ、お二人とも詔直しだ詔直しだ、言霊をお慎みなさらぬか』 斯かる所へ寅若を先頭に、梅、辰、鳶の三人は現はれ来り、 寅若『黒姫様、三人の、私へ隠してのお使が偉い勢なくして帰つて参りました、何卒詳しくお聞き取り下さいませ』 黒姫『お前は梅公、辰公、鳶公、首尾は何うだつたな、紫姫、青彦を旨くやつたらうなア?』 梅公『ヘエヘエ、流石の青彦、紫姫で御座います、梅いことをやつて、此三人ぢやないが鳶辰やうにトツトと凱歌を奏して、何々の何へ向つて帰りましたワ』 黒姫『アヽ、さうかさうか、それは御苦労であつた。サア早く玉照姫様のお居間のお掃除を為し、皆様の御飯やお酒の用意をして置きなさい』 梅公『ヘイ、根つから其必要は認めませぬがなア』 黒姫『そりや梅公、お前何と云ふ事を云ふのぢや、必要を認めるの認めないのと何故私の云ふ事を聞かないのかい、これこれ辰公、鳶公、お前も御苦労ぢやつた。どうぞ詳しく高姫さまの前で、青彦や紫姫さまの天晴功名した事を聞かして下さい』 鳶公『エー、もう余りの事で申上げます事も出来ませぬ』 辰公『何と云つても六日の菖蒲、十日の菊、何が何ンだやら薩張神様の御都合を頂いて来ました』 寅若『アハヽヽヽ、此奴余程弱つて居やがるな、御都合と云ふのは卑怯者の適当な遁辞だ。モシモシ黒姫さま、こいつは屹度ものにならなかつたのですよ、蛸の揚壺を食つて帰つたとより見えませぬな』 黒姫『これ寅若、お前に誰が物を尋ねたかい、弥仙山へ往つて失敗をして帰つて来たやうな男だから、今度の事は彼是云ふお前には資格がない、一段下りて庭へ下がつて其処の掃除でもしなさい。これこれ梅公早く云ひなさいよ』 梅公は左の手で頭を三遍ばかりも、つるつると撫でながら、 梅公『ハイ、私は紫姫、青彦その他一行の後を見え隠れに監視して参りました。さうした処流石の青彦さま、綾彦お民の両人を前に出して豊彦爺をアツと云はせ、ヤアお前は綾彦であつたか、お民であつたか、ヤア父さまか、母さまか、妹か、兄さまかと一場の悲喜劇が現はれ、其処へ平和の女神然たる紫姫さまが、おチヨボ口をぱつと開いて仰有るには、何事も皆神様のなさる事、豊彦さまも斯うして若夫婦が帰つて御座つた以上は、神様へ御恩返しにお玉さま始め、玉照姫様を神様に奉らねばなりますまいと、さも流暢な弁で談判になりますと、豊彦爺は、喜ぶの喜ばないのつて、首を滅多矢鱈に振つて振つて振りさがし、千切れはせぬかと思ふ程首肯いて、仕舞の果にはドンと尻餅を搗き、眼を暈しかけました。マアさうして爺の云ふのには、アヽ結構な事だ、嬉しい時には欣喜雀躍、手の舞ひ足の踏む所を知らずと云ふ事だが、俺は余り嬉しくて目のまひ、家のまひ、身体の居る所を知らずぢや、と云ひまして、それはそれは大変喜びましたよ。あれ位喜びた事は生れてから見た事も、聞いた事もありませぬワ』 黒姫『アヽ、さうだらうさうだらう、喜びたらうな、これ高山さまどうですかい、これでも文句がありますかい、高姫さま、もうこれで、大きな顔で本山に帰つて貰はうと儘ですワイ、オホヽヽヽ、サア其次を梅公云ひなさい、瞬く間も待ち遠しいやうな心持がする』 梅公『サア、これから先は時間の問題ですな、云はぬ方が却つて先楽しみで宜しからう。オイ鳶、辰、貴様も些と云はぬかい』 辰公『ヘン、よい所ばつかり食つて糟粕ばつかり人に食はさうと思つたつて駄目だよ、貴様が報告した後に……サアサア其次を諄々と掛け値の無い所を申上げてお目玉を頂戴するのだな』 梅公『エヽ何も彼も大将になると責任が重い、エイエイ仕方がない、ソンナラ私が申上げます、黒姫さま喫驚なさいますな』 黒姫『何喫驚するものか、喫驚するのは高山さまぢや、余り嬉しいて喫驚する者と、余り阿呆らしくて会はす顔がなくて喫驚する者と出来ませうぞい』 梅公『エヽ、紫姫、青彦はお玉、玉照姫様を連れて意気揚々と、吾々を何々し、何々の何々へ何々して仕舞ひました』 黒姫『これ梅公、アタもどかしい、早く云はぬかいナ、いつ迄私を焦らすのだい』 梅公『イエイエ、決して焦らすのぢやありませぬ、知らすのですよ、知らず識らずの御無礼御気障、知らぬ神に祟りなし、どうぞ私だけは今日の所は帳外れにして下さいませ』 黒姫『怪体な事を云ふぢやないか、さうして青彦の一行はいつ帰つて来るのだい』 梅公『それはいつになるとも判然お答へが出来ませぬなア、是も矢張時の力でせう』 高姫『黒姫さま、青彦初め、紫姫は三五教へ帰つたのですよ』 梅公『マアマア、高姫さまの天眼力にて御観察の通り、誠に以てお気の毒千万、青彦、紫姫其他は共にグレンをやりました。今頃は世継王山の麓で祝ひ酒でも呑みて居るでせう』 と頭を抱へ小隅にすくみける。 黒姫『エヽソンナ青彦ぢやない、又紫姫も紫姫ぢや、三五教へ行くなぞと、そりや大方副守護神を放かしに往つたのだらう、屹度戻つて来る確信がある』 高姫『黒姫さま、もう駄目だ。高山彦さま、お前さまも立派な奥さまを持つて御満足でせう、この忙しいのに永らく逗留してお邪魔をしました。エライ馬鹿を見せて下さいましたナ、アーア、併しこれも何かの御都合だ。左様なら、帰ります』 高山彦『どうぞ私も連れて帰つて下さい』 高姫『お前さまの勝手になされ、黒姫さまを大切にお守りなさるがお徳だらう、左様なら』 と、大勢の止むるをも聞かず、額に青筋を立て、偉い気色で表へかけ出し、鶴、亀来れと二人を伴ひ魔窟ケ原を驀地に、由良の港を指して走り行く。 高山彦『こりや大変』 と捻鉢巻、七分三分に尻からげ、細長いコンパスに油をかけ、飛び出さうとする。黒姫はグツと袂を握り、 黒姫『高山さま、血相変へて何処へお出るのだえ』 高山彦『定つた事だ。肝腎の玉照姫は申すに及ばず、青彦、紫姫迄三五教に取られて、どうして高姫さまに申訳が立つか、是より此高山彦が世継王山の悦子姫の館にかけ込み、玉照姫を小脇にヒン抱き帰らで置かうか、愚図々々致せば高姫さまは飛行機に乗つてフサの国へお帰りだ、それ迄に玉照姫様を手に入れてお詫をせにやならぬ、邪魔ひろぐな』 と蹶飛ばし、突飛ばし、一生懸命にかけ出したり。黒姫も声を限りにオーイオーイと髪振り乱し、帯を引きずり乍ら高山彦の後を追ひ、足に任せて走り行く。 (大正一一・五・六旧四・一〇加藤明子録)
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(1834)
霊界物語 23_戌_木山の里/竜宮島へ出発 16 蜈蚣の涙 第一六章蜈蚣の涙〔七二八〕 バラモン教の御教を自転倒島に広めむと はやる心の鬼ケ城鬼熊別の妻となり 朝な夕なに仕へてし蜈蚣の姫は一心に バラモン教の回復を心に深く誓ひつつ 三国ケ岳に立籠り千々に心を悩ませて 三五教の神宝黄金の玉を奪ひ取り 筐底深く納めつつ得意の鼻を蠢かせ 又もや第二の計画に取りかからむとする時に 天の真浦の宣伝使お玉の方に看破され 難攻不落と誇りたる三国ケ岳の山寨も 木端微塵に砕かれて無念の涙遣る瀬なく 瞋恚の炎を燃やしつつ心も固き老の身の 企を通す魔谷ケ岳スマートボールを始めとし 数多の教徒を呼集へ鷹鳥山に立て籠る 三五教の宣伝使鷹鳥姫の神策を 覆さむと朝夕に心を砕き身を砕き 尽せし甲斐も荒風に散りて果敢なき夢の間の 願は脆くも消え失せて歯がみしながら執拗に 又もや此処を飛出し曇りし胸も明石潟 朝夕祈る神島や家島を左手に眺めつつ 身も魂も捨て小舟此世の瀬戸の浪を越え 大島、小島、小豆島浪打ち際に漂着し 三つの宝の所在をば探らむものと国城の 山を目蒐けて一行の頭の数も四十八 醜の岩窟に陣取りて手下を四方に配りつつ 山の尾上や河の瀬を隈なく探し求めつつ 此岩窟を暫時の間仮の住家と繕ひて 時待つ折しも高姫が神の仕組も白浪の 上を辷つて上陸し又もや此処に出で来る 不思議の縁に蜈蚣姫心の角を生しつつ 肩肱怒らし剛情の日頃の固意地どこへやら 解けて嬉しきバラモンの道の友なる高姫と 聞くより顔色一変し打つて変つた待遇に 仕済ましたりと高姫は後を向いて舌を出し 素知らぬ顔にて奥の間へ進み入るこそ可笑しけれ 高姫『久し振で御座いましたなア。貴女が魔谷ケ岳に時めいて居られました時、妾も鷹鳥山に庵を結び、バラモン教に最も必要なる、如意宝珠の玉を尋ねあてむものと、三五教の馬鹿正直の信徒を駆使し、一日も早く手に入れて、大自在天様に献納仕度いと明けても暮れても心を悩ませ、何うかして貴女に面会の機会を得度いものと考へて居りましたが、何を云うても人目の関に隔てられ、思ふに任せず、遇ひたさ見たさを耐へて今日が日迄暮して来ました。天運循環と云ひませうか、今日は又日頃お慕ひまうす貴女に、斯様な安全地帯で拝顔を得たと云ふのは、是全く大自在天様の高姫が誠意をお認め遊ばして、こんな嬉しい対面の喜びを与へて下さつたのでせう。妾は余り嬉しうて何からお話をしてよいやら分りませぬ』 蜈蚣姫『時世時節で、今日はバラモン教となり、明日は三五教と変ずるとも、心のドン底に大自在天様を思ふ真心さへあれば、人間の作つた名称雅号は末の末です。大神様はキツとお互の心を鏡にかけた如く御洞察遊ばして、目的を遂げさせて下さるでせう「雪氷、雨や霰と隔つとも、落つれば同じ谷川の水」とやら、機に臨み変に応じ円転滑脱、千変万化、自由自在の活動をなすだけの用意がなければ到底神業に参加する事は出来ませぬ。メソポタミヤの本国には綺羅星の如く立派な神司は並んで居りますが、何れも猪突主義の頑愚度し難き、時勢に合ない融通の利かぬ者計りで、お前さまのやうな豁達自在の活動をする人は一人もありませぬので、あゝバラモン教も立派な教理はありながら、之を活用する人物がないと明け暮れ心配して居りました。然るに貴女のやうな抜目のない宣伝使が、バラモン教の中に隠れて居たかと思へば、勿体なくて嬉し涙が零れます。神様は何時も経綸の人間を拵へて神が使うて居るから、必ず心配致すな、サアと云ふ所になりたら、因縁の身魂を神が引き寄せて御用を勤めさせて、立派に神政成就をさして見せる程に、何処に何んな者が隠してあるか分りは致さぬぞよ。敵の中にも味方あり味方の中にも敵があると仰有つた神様の御教示は争はれぬもの、もう此上は何事も心配致しませぬ。何卒高姫さま、是からは打ち解けて姉妹となり、神業に参加しようではありませぬか』 高姫『何分不束な妾、行き届かぬ事ばかりで御座いますから、何卒貴女の妹だと思うて、何かにつけて御指導を願ひます』 蜈蚣姫『互に気の付かぬ事は知らせあうて、愈千騎一騎の活動を致し、夫の汚名を回復致さねば、女房の役が済みませぬからなア。高姫様、貴女の夫美山様に対し申訳がありますまい』 高姫『妾の夫美山別は御存知の通り人形のやうな男で、妾が右へ向けと云へば「ハイ」と云うて右を向き、左と云へば左を向くと云ふ、本当に柔順しい結構な人ですから、妾が願望成就、手柄を表はして見せた所で、余り喜びも致しますまい。その代り失敗しても落胆もせず、何年間斯う妾が家を飛び出し、神様の御用をして居ましても、小言一つ云はないと云ふ頼りない男ですから、まどろしくて最早相手には致しませぬ、生人形を据ゑて置いたやうな心組で居りますよ、ホヽヽヽヽ』 蜈蚣姫『妾もそんな柔順な夫に添うて見度う御座いますわ。なんと高姫さま、貴女は世界一のお仕合せ者、さういふ柔順な男計り世の中にあつたら、此頃のやうな女権拡張だの、男女同権だのと騒ぐ必要はありませぬ。妾の夫も柔順しい事は柔順しいが、柔順やうが些と違ふので困ります、オホヽヽヽ』 高姫『斯んな所で旦那様のお惚気を聞かして貰うちや遣り切れませぬわ、ホヽヽヽヽ』 と嫌らしく笑ふ。 蜈蚣姫『高姫さま、笑ひ所ぢやありませぬ。此長の年月、妾は今日迄笑ひ声を聞いた事もなし、妾も嬉しいと思うた事は唯の一ぺんも御座いませぬ。メソポタミヤの顕恩郷は、素盞嗚尊の家来太玉神や、八人乙女に蹂躙され、止むを得ず鬼雲彦の棟梁様は遥々海を渡り、大江山に屈竟の地を選み館を建て、立派に神業を開始し遊ばした所、部下の者共が余り心得が悪いのと利己主義が強いため、丹波栗ぢやないが、内からと外からと瓦解され、お痛はしや折角心を痛めて造り上げた立派な大江城を捨て、伊吹山に逃げ去り、此処で又もや素盞嗚尊の一派に悩まされ、やみやみとフサの国へ逃げ帰り、素盞嗚尊の隠れ家を脅かさむと、鬼雲姫の奥さまと共に帰られました。アヽ思へば思へばお気の毒で堪りませぬ。それにつけても妾の夫の鬼熊別は、副棟梁として鬼ケ城に砦を構へ、鬼雲彦様の御神業を誠心誠意お助け致して居りましたが、是れ又脆くも三五教の宣伝使や、味方の裏返りの為、破滅の厄に遇ひ、アヽ痛ましや鬼熊別の我夫は、棟梁の後を追うて波斯の国に帰つて仕舞ひました。其時夫は妾の手を握り「これ女房、私は棟梁様の御為に波斯の国へ別れて行くが、何卒お前は三国ケ岳に立て籠り、会稽の恥を雪ぎ宝の所在を探し出し、功名手柄を現はして帰つて呉れ」と云うて、涙をホロリと流された時は、妾の心は何んなで御座いましたらう。天にも地にも身の置き所が無いやうな心持が致しました。人間として難き事天下に二つある。其一つは天国に昇る事、も一つは立派な家来を得る事で御座います。バラモン教もせめて一人立派な家来があれば、斯んな惨めな事にはならないのですが、アヽ思へば思へば残念な事だ』 と皺面に涙を漂はせ、遂には声を放つて泣き伏しにける。 高姫『そのお歎きは御尤もで御座います。併し乍ら日の出神の生宮、オツトドツコイ大自在天様の御眷族の憑らせ給ふ真の生宮高姫が現はれて、貴女と相提携して活動する上は、最早大丈夫で御座います。何卒お力を落さず、もう一働き妾と共に遊ばして下さいませ。あの玉さへ手に入らば、バラモン教は忽ち暗夜に太陽の現はれた如く、世界に輝き渡るは明かで御座いますから……、蜈蚣姫さま、此岩窟は大江山の鬼ケ城とはどちらが立派で御座いますか』 蜈蚣姫『とても比べものにはなりませぬ。三国ケ岳の岩窟に比ぶればまアざつと三分の一位なものです。妾も立派な鬼ケ城を追はれ、だんだんとこんな狭い所へ入らねばならないやうに落ちて仕舞ひました。思へば思へば残念で耐りませぬ。それでも何とかしてこの目的を遂げたいと朝夕神様を祈り、何卒御大将御夫婦が御健全で此目的を飽迄も遂行遊ばすやうに、又我夫の無事に神業に奉仕するやうにと、夢寐にも忘れずに祈願致して居ります。是からは貴女と二人で腹を合せ、飽迄も初志を貫徹せねばなりませぬ』 高姫『左様で御座います。何分に宜敷く御指導を願ます。併し乍ら此立派な岩窟に似ず今日はお人が少い事で御座いますな』 蜈蚣姫『ハイ、今日は神前の間で祭典を致して居りますので、誰も此処には居りませぬ。あの通り音楽の声が聞えて居るでせう。あれが祭典の声です』 高姫『妾も一度参拝させて頂き度いもので御座います』 蜈蚣姫『何卒後で緩りと参拝して下さいませ。中途に入りますと皆の者の気が散り、完全にお祭が出来ませぬから、……時に高姫さま、貴女のお連れになつた二人の男は、ありや一体何者で御座いますか』 高姫『ついお話に身が入つて貴女に申上げる事を忘れて居ましたが、彼はバラモン教の宣伝使の友彦と云ふ男、も一人は妾の召使の貫州と云う阿呆とも賢いとも、正とも邪とも見当の付かない男で御座います』 蜈蚣姫『何と仰せられます。バラモン教の友彦が来たとは、それは又妙な神様のお引合せ、……余り姿が変つて居るので見違へて居つた。アヽさう聞けば鼻の先に赤い所があつたやうだ。彼奴は私の一人娘をチヨロまかし、手に手を取つて何処ともなく姿を隠した男、廻り廻つてこんな所へ来るとは是又不思議、あれに尋ねたら定めて娘の消息が分るであらう。……コレコレ高姫さま、此事は秘密にして置いて下さい。妾が直接に遠廻しに聞いて見ますから』 と心臓に波を打たせながら、そはそはとして居る。高姫は此場を立つて次の間に現はれ両人に向ひ、 高姫『友彦さまに貫州、退屈だつたらう。蜈蚣姫さまが一寸奥へ通つて呉れと仰有るから通つて下さい。此処もバラモン教の射場だから……、友彦さま、お前は親の家へ戻つたやうなものだ。久し振りで蜈蚣姫様に御面会が出来るから喜びなさい』 友彦『何と仰有る。此処が蜈蚣姫様のお館ですか、そりや違ひませう。世界に同じ名は沢山御座います。まさか本山に居られた、副棟梁の鬼熊別の奥さまの蜈蚣姫さまではありますまい』 高姫『さうだともさうだとも、チツとは不首尾な事があらうが辛抱しなくては仕方がない。逃やうと云つたつて逃げられはせぬワ。お前も可愛い娘の婿だから、さう酷くも当らつしやるまい。安心して妾に伴いて御座れ』 友彦は顔色忽ち蒼白となり、恐る恐る高姫の後について奥の間に進み往く。 (大正一一・六・一三旧五・一八加藤明子録)
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(1912)
霊界物語 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 05 玉調べ 第五章玉調べ〔七八七〕 仰げば高し久方の高天原の若宮を 地上に写し奉り大宮柱太知りて 高天原に千木高く仕へ奉りし珍館 錦の宮に連なりし稜威も広き八尋殿 英子の姫を始めとし梅子の姫や五十子姫 初稚姫や玉能姫音彦亀彦始めとし 杢助総務其外の役員信者は粛々と 八尋の殿に寄り来り早くも殿の内外に 溢るるばかりなりにけり。 かたの如く祭りも無事に終了した。上段の間には杢助の総務を始めとし、英子姫、五十子姫、梅子姫、初稚姫、玉能姫、お玉の方、最高座には玉照彦、玉照姫扣へられ、亀彦、音彦、国依別の幹部連、秋彦、夏彦、常彦を始め、英子姫と相並んで黄竜姫、蜈蚣姫、テールス姫末端に扣へ、友彦は幹部の上席に顔を並べて居た。群集を分けて意気揚々と登り来る高姫、黒姫、高山彦の三人は、今日玉調べの神務奉仕の役として、盛装を凝らし、英子姫よりも一段と上座に着いた。 杢助『私は素より鈍魂劣器至愚至痴なる身魂の持主で御座いまして、総務なぞをお勤め申す柄ではありませぬが、神命黙し難く心ならずも拝命致し、皆様のお助けに依つて御用の一端を勤めさして頂いて居りますは、是れも全く皆様の御同情のお蔭と厚く感謝致します。就ては私も少しく思ふ所あつて、神界の為めに、もう一働き致したう御座いまするので、後任者を推薦致して置きました。教主様は今日は急病でお引籠もりで御座いますから、御意見を伺ふ事は出来ませぬが、私の後任者として淡路島の東助様を、御苦労に預りたいと思うて、内々伺ひは出して御座います。就きましては、今日は実にお目出度い日柄で御座いまして、竜宮島より、お聞及びの通り、五色の麻邇宝珠納まり、言依別命様が兎も角御主管なされて居られましたが、今日、高姫、黒姫のお取調を願ひ、信者一同に拝観をさせよと、教主のお言葉で御座いますから、其お心算で、ゆつくりと御拝観を願ひます。再び拝観する事は出来ぬので御座いますから、此際充分御神徳を戴かれる様に、一寸一言申上げて置きます』 一同は雨霰のごとく拍手する。杢助は初稚姫、玉能姫、五十子姫、梅子姫を伴ひ、社殿の奥深く進み、黄金の鍵をもつて傍の宝座を開き、各一個の柳筥を、頭上高く差し上げながら、静々と八尋殿の高座に現はれ、五個の柳筥は、段上に行儀好く据ゑられた。 高姫は段上にスツクと立ち、一同を見廻し乍ら、 高姫『皆さま、今日は誠に結構なお日柄で御座います。今迄は瑞の御霊の三種の神宝此処に納まり、今日又厳の御霊の五色の神宝無事に納まり、皆様が拝観の光栄に浴さるる空前絶後の第一吉祥日で御座います。神様は引掛け戻しのお経綸をなさいますから、肝腎の厳の御霊の経を後に出し、瑞の緯を先に出したり、変幻出没究極す可らざる事を遊ばすのは、皆様御承知の事で御座いませう。今日迄三つの御玉を私共南洋あたりまで、捜索に行つたと申すのは、決して左様な緯役の玉を求めに行つたのではありませぬ。玉には随分モンスターの憑依するものでありますから、此高姫等は三つのお宝を探す様に見せて、其方に総ての精神を転じさせ、其時に日の出神、竜宮の乙姫の礎になるお方様が、一つ島に人のよう往かない如うな秘密郷の諏訪の湖に深く秘し、さうして仕組を遊ばして御座る事は、最初から我々両人の熟知する所、否仕組んで居る所で御座います。今日初稚姫、玉能姫、黄竜姫、梅子姫、蜈蚣姫其他五人の神司に、此御用をさせたのも日の出神の仁慈無限のお取計らひと、竜宮の乙姫様の御慈悲ですよ。それが分らぬ様では、三五教の五六七神政の仕組は到底、分るものではありませぬ。幸ひに賢明なる英子姫、稍改心の出来た言依別命の神務奉仕の至誠が現はれて、竜宮の麻邇の宝珠が聖地へ納まる事が出来る様になり、夫を受取り且つ調べるお役は特に此高姫、黒姫両人が致すべきもので御座います。依つて只今より御玉の改めを致しますから、皆さま、謹んで拝観なさるが宜しい。三つの御玉はどうならうとも私は知りませぬ。今度の五つの御玉こそ肝腎要な大望な御神業大事のお宝、就ては玉治別や其他の半研けの身魂が取扱つたのですから、少しは穢れて居ないかと心配を致して居るので御座います。身魂相応に玉の光が現はれるのですから、実に恐いもので御座いますよ。サアサ是れから、お民が預つてテールス姫に手渡した、黄色の玉を函から出して調べる事と致しませう。……黒姫さま、御苦労ながら一寸これへお越し下さい。さうしてお民さま、テールス姫さま、貴女は直接の関係者、此処にお扣へなされ』 『ハイ』と答へて両人は高姫の傍に立寄る。高姫は口をへの字に結び、柳筥の桂馬結びの紐を解き、恭しく玉函を捧げ、八雲琴の調子に合して体躯を揺り、手拍子を取りながら、機械人形の如うに柳筥の蓋を、シヤツチンシヤツチンと取つて見た。黄色の玉が出るかと思ひきや、中より団子石がゴロリと出た。よくよく見れば何か文字が記してある。高姫は眉を顰め光線にすかし見て「高姫、黒姫の身魂は此通り、改心致さねば元の黄金色の玉にはならないぞ」と記されてあつた。高姫は顔色烈火の如く、声を震はせ、 高姫『コレお民さま、テールス姫さま、お前さま達は偉さうな面をして、海洋万里の一つ島まで何しに往つて居つたのだ。アタ阿呆らしい。コンナ玉なら小雲川には邪魔になるほどあるぢやありませぬか』 お民『ハイ、何んな玉で御座います』 高姫『何んな玉もこんな玉もありますかい。お前の身魂の感化に依つて、折角の玉もこんな事になつて仕舞つた。……コレ、ジヤンナの土人の阿婆摺女テールス姫とやら、何の態だ、これは……阿呆らしい、早く改心なされ』 テールス姫『ハイハイ改心を致します。どうしてマアこんな玉になつちやつたのだらう、いやな事』 黒姫『それだから瑞の御霊は憑り易いと言ふのだ』 玉治別『瑞の御霊は憑り易いと仰有つたが、これは五の御玉ぢやありませぬか』 黒姫『何れも憑り易い身魂だ』 玉治別『そんなら貴女の身魂が憑つたのでせう。どれどれ、私が調べて見ませう』 高姫『お構ひなさんな。お前さまの如うな瓢六玉が見ようものなら、ただの玉になつて終ひます』 群集はワイワイと騒ぎ出した。 国依別は段上に立つて、 国依別『皆さま、お騒ぎなさるな。今日の玉調べは高姫さま、黒姫さまの身魂調べも同様ですから、決してテールス姫やお民さまの身魂が黒いのではありませぬ。最前も高姫さまが仰有つた通り、何と云うても御両人が、自分でお仕組なさつたのですから心配は要りませぬ。皆見る人の心々に写りますから……如意宝珠、又見る人の随意々々替はるから麻邇の宝珠といふのです。之が本物に違ひありませぬ。どうぞお騒ぎなさらない様に願ひます。一度高姫さまのメンタルテストをやる必要がありますからなア』 高姫『コレ国さま、お前さま、ゴテゴテ言ふ資格がありますか』 国依別『ありますとも、そんなら何故私に生田の森で、玉の所在を知らせ知らせと云つたのですか』 高姫『お前さまの言ふ事は、チツトより信用が出来ぬ。ブラツクリストに登録されて居る注意人物だ。お黙りなさい』 国依別『高姫署のブラツクリストに記されて居る私でも、チツト位信用が出来るのですか。私は又大いに信用が出来ぬと仰有ると思つたに……それはさうとして次の白色の玉を早く調べて見せて下さい』 高姫『八釜しう云ひなさるな。お前さまがツベコベ嘴を容れると、又玉が変化するかも知れませぬぞ。エヽ穢はしい。其方に往つて下さい。……サア今度は久助さま、友彦さま、お前さま達の責任だ。早く此処へお入来なさい』 両人は「ハイ」と云ひながら高姫の左右に寄り添うた。高姫は又もや以前の如く、恭しく柳筥を開いて見た。中には前同様の団子石に同様な事が書いてある。高姫はへの字に結んだ口をポカンと開けて暫し見詰めて居た。群集は又もやワイワイ騒ぎ出した。国依別は又もや段上に押し上り、 国依別『皆さま、お騒ぎなさいますな。コリヤこれも屹度以前の通り団子石ですよ。丸で狐につままれた如うですが、これも心の随意々々変化する玉ですから、驚くに及びませぬ。小人玉を抱いて罪ありと云うて、どんな立派な玉でも小人物が扱うと、其罪が直に憑つて団子石になるのですから、団子石だと言うて力を落してはなりませぬぞ。これでも身魂の磨けたお方が見れば本真物になります』 黒姫『コレコレ国さま、いらぬ事を仰有るお前こそ小人だ。お前の様な小人が居るものだから、此通り玉が変化する。私が竜宮で久助に渡した時は、こんなものぢや無かつた。久助と友彦の慢心の身魂が憑つてこんなに変化したのですよ。大勢の前に、此様身魂ですと曝されて、誠に誠にお気の毒様ですけれどもお諦めなされ』 友彦は大いに怒り目をつり上げながら、黒姫の頸筋をグツと握り締め、 友彦『コラ黒姫、失敬な事を言ふか、大勢の前で人の身魂の悪口を云うと言う事があるものか』 爪の延びた手で頸筋をグツと喰ひ入る程掴み押へつける。黒姫は「キーキー」と言ひ乍ら其場に蹲踞む。側に居た高山彦は友彦の襟髪をグツと取り、段上から突き落さうとした途端に、友彦は体をパツとかはした。高山彦は二つ三つ空中廻転をして、群集の中に唸りを立てて落ちて来た。「サア大変」と大勢は寄つて掛つて介抱をし乍ら、痛さに唸く高山彦を担いで、黒姫館にドヤドヤと送つて行く。 国依別『黒姫さま、誠にお気の毒な事で御座いました。貴女も嘸お腹が立ちませう。又高山彦も思はぬ御災難で誠に御心配でせう。然し乍ら此処は神様の前、滅多な事は御座いませぬから御安心なさいませ』 黒姫『何から何まで、何時もお構い下さいまして、……ヘン……お有難う御座いますワイなア』 と肩と首をカタカタと揺つて居る、其容態の憎らしさ。 杢助『友彦殿、今日は職権を以て退場を命じます』 友彦『仕方がありませぬ。御命令に従ひ自宅へ控へ命を待ちまする。立腹の余り、ツイツイ粗怱を致しました』 と帰り行く。後見送りて黒姫は肩の中に首を耳の辺りまで石亀の如に突込んで仕舞ひ、頤を出したり引込めたり、舌を唇でチヨツと噛んで、何とは無しに嘲弄気分を表はして居た。 高姫『杢助さま、どうも怪しからぬぢやありませぬか。折角の如意宝珠の玉をこんな事にして仕舞うとは、一体全体訳が分らぬぢやありませぬかい。此責任は誰にありますか。……久助さま、お民さま、テールス姫さま、こんな不調法をして置いて、よう安閑として居れますな。此高姫が三人に対し退場を命じます。よもや杢助さま、是に向つて違背は有りますまいな』 杢助『何事も責任は私に有りますから、三人のお方はどうぞ此処に動かずに居て下さい』 三人一度に「ハイ」と俯向く。 高姫『エヽそんなら時の天下に従へだ、もう何も言ひますまい。是から青玉だ。……サア玉治別、黄竜姫様、此処にお出でなさい。さうして久助さま、元の座にお帰りめされツ』 と稍甲声を張り上げながら、又もや例の如く調査し、恭しく玉筥の蓋を取つて見た。高姫の顔は又もや口が尖り出した。舌を中凹に巻いて二三分ばかり唇の外に出し、首を右の方に傾げて目を白黒させ、両手を開いて乳の辺りで行儀好く、扇を拡げた様にパツとさせ、腰を二つ三つ振つて居る。玉治別は是れを眺めて、 玉治別『これ高姫、黒姫、矢張お前さまお二人は改心が足らぬ。海洋万里の竜宮の一つ島の、秘密郷の諏訪の湖水から聖地高天原迄、万里の天空を八咫烏に乗せられ捧持して帰つた結構な玉を、黒鷹の身魂が憑つて斯んなに変化さしよつたのだ。玉治別承知致しませぬぞツ』 と今度は反対に高姫に喰つて掛る。 高姫『へー甘い事を仰有いますワイ。肝腎要の水晶玉の高姫が覗いて、玉が変化する道理が何処に有りますか。お前さまがあんまり慢心して御用した御用したと、法螺を吹くものだから斯んな事になつたのだ。……コレ小糸どん、此醜態は何だいな。これで立派に御用が勤まつたのですかい。本当に呆れてものが言へませぬワイ。これ小糸どん、どうして下さる。結構な玉に悪身魂を憑して、お前さまは神界のお邪魔を致す曲者だよ。童女の癖に大の男をアフンとさせる様な悪党者だから、玉の御用が出来さうな道理がない。妾は初めから、お前が玉の御用をしたと聞いた時、フフーと惟神的に鼻から息が出ました。日の出神が腹の中から笑うて御座つたのだ』 黄竜姫は屹となり、『高姫さま』と声に力を入れ、 黄竜姫『ソレは余りの御言葉ではありませぬか。貴女の御身魂さへ本当にお研けになれば、本当の玉がお手に入るのですよ。屹度、神様がお隠しになつたのだが、御自分の心から御立替遊ばせ。さうすれば、本当の麻邇の宝珠がお手にお入り遊ばすのでせう』 高姫『何と云つても立派な御弁舌、高姫も二の句が次げませぬ。オホヽヽヽ』 と肩を揺り又も腮をしやくる。 玉治別『モシモシ黄竜姫さま、斯様な没分暁漢のお婆アさま連に相手になつて居つても詰りませぬから、もう止めて置きませう』 黄竜姫はニタリと笑ひながら、 黄竜姫『ハイ、さう致しませう』 と元の座に帰る。 高姫『アノマアお仲の好い事ワイの。ホヽヽヽヽ、若い男と女には監視を付けて置かにや険難だワイ』 杢助は苦虫を噛み潰した如うな顔をして、厳然として無言の儘扣へて居る。 高姫『コレ杢助さま、お前も偉さうに総務面をして御座つたが、今日は目算ガラリと外れただらう。アノマア恐い顔ワイなア』 杢助『アハヽヽヽ、何だか知らぬが面白い事で御座るワイ。アハヽヽヽ』 高姫『コレ黒姫さま、確りなさらぬかいな。一向元気が無いぢやないか。お前の竜宮の乙姫が玉の持主ぢやないか。此奴等に三つまで此様な事にしられて、それを平気でようまア、居られますな』 黒姫『ハイ何分心配が御座いますので』 高姫『ウン、さうだともさうだとも、高山彦さまがエライお怪我をなさつたから、御心配になるのも御無理と申しませぬが、もう暫らくだ、辛抱して下さい。さうしたら無事解放して上げます。……コレコレお節、お前の持つて帰つた赤玉を是から調べるのだから、蜈蚣姫さまも此処へ御出でなさい。お前さまも随分魔谷ケ岳で私に対して弓を引いたり、国城山で悪口を言ひました。先へ申して置きますよ。若し此赤玉が団子石になつて居つたら、どうなさいますか』 蜈蚣姫『何事も惟神に委した私、どうすると云ふ訳に行きませぬ。神様の御処置を願う迄です。乍併高姫さまの指図は断じて受けませぬ。左様御心得を願ひます』 と一つ釘を刺す。高姫は又も口をへの字に結び桂馬結びの紐を解き、 高姫『サアお節、地獄の釜の一足飛だ。お前が長らくの苦労も花が咲くか、水の泡になつて了うか、禍福吉凶幸禍の瀬戸の海ぢやぞい。瀬戸の海で思ひ出したが、ようも馬鹿にして下さつた。助けてやつたなぞと決して思つては居ますまいな。エー何をメソメソと吠えて居るのだ。善い後は悪い、悪い後は善いと云う事があるから、何月も月夜計りは有りませぬぞ。チツとばかし都合が悪いと言つて顔を顰める様では、どうして立派に玉能姫と言はれますか』 と口汚く罵り乍ら、柳筥の蓋をパツと開けた。 高姫『黒姫さま、一寸御覧、何だか此玉は黒いぢやありませぬか』 黒姫は一寸覗き込む。 黒姫『ホンニホンニ、蜈蚣姫さまの如うに黒い玉だなア。コリヤ大方蜈蚣の身魂が憑つて、赤い筈の玉が黒くなつたのだらう』 玉能姫『黒姫さまも随分お白くありませぬから、どちらのがお憑り遊ばしたか分りますまい。オホヽヽヽ』 高姫『又しても又しても碌でもない、コリヤ消炭玉だ。道理で、ちと軽いと思つて居つた。アカ阿呆らしい。モウ玉調べは御免蒙りませうかい』 とプリンプリン怒つて居る。 杢助『御苦労ですがモウ一つ紫の玉をお調べを願ひます』 高姫『エー杢助さま、又かいなア』 と煩さ相に言ひ乍ら、万一の望みを最後の紫の玉に嘱して居た。国依別は一同に向ひ、 国依別『モシモシ皆さま、モウ一つになりました。何を言つても手品上手の高姫さまで御座いますから、水を火にしたり火を水にしたり、石を玉にして呑んだり吐いたり、終ひには天を地にしたりなさいます。天一の手品よりはお上手ですから、其お心算で確りとお目にとめられます様に願ひまアす。東西々々』 高姫はクワツと怒り、 高姫『神聖なる八尋殿に於て何と言ふ事を言ふのか。此処は寄席では有りませぬぞい。尊き尊き神様のお鎮まり遊ばす錦の宮の八尋殿では有りませぬか』 国依別『八尋殿だからといつて、手品が悪い道理が有りますか。現にお前さま手品をして居る途中です。そんな事を言うと自縄自縛に落ちますぞ。二十世紀頃の三五教の五六七殿でさへも劇場を拵へてやつて居るぢやありませぬか。訳の分らぬ事を言ふものぢや有りませぬ』 高姫『それだから瑞の御霊の遣り方は、乱れた遣り方だと神様が仰有るのだよ。アアモウ此玉は調べるのが嫌になつた。又初稚姫や梅子姫さまに恥をかかすのが気の毒だから、こりやもう開けない事にして置かう』 杢助『此玉は是非調べて頂きたい。神様は我子、他人の子の隔ては無いと仰有るのだから、神素盞嗚尊の御娘御の梅子姫様と、杢助の娘の初稚姫、依估贔屓したと言はれてはなりませぬから、どうぞ此場でお調べを願ひませう』 高姫『エーエー仕方がないなア。本当にイヤになつちまつた。そんなら、マアマも一苦労致しませう。……梅子姫さま、お初さま、サア早く此処へ来るのだよ』 と稍自棄気味になり言葉せはしく呼び立てる。言下に梅子姫、初稚姫は莞爾として高姫の側に寄り添うた。高姫は又もや柳筥の蓋をチヤツと開いた。忽ち四方に輝くダイヤモンドの如き紫の光り、流石の高姫もアツと驚いて二足三足後に寄つた。黒姫は飛び上つて喜び、思はず手をうつた。一同の拍手する声、雨霰の如く場の外遠く響いた。 高姫『お初、イヤ初稚姫さま、梅子姫さま、お手柄お手柄。矢張りお前等は身魂が綺麗だと見えますワイ。……杢助さま、お前さま中々好い子を持つたものぢや。ヤレヤレ是で一つ安心、後の四つは四足魂に汚されて了うた。瑞の御魂のやうに憑る麻邇の珠だから、田吾作、久助、お民、友彦、黄竜姫、蜈蚣姫、テールス姫、お節も是から、百日百夜小雲川で水行をなさい。さうすれば元の玉に還元するだらう。嫌といつても此高姫が行をさせて元の光りを出さねば措くものかい』 七人はアフンとして頭を掻いて居る。其処へ走つて来たのは佐田彦、波留彦両人であつた。 佐田彦『杢助さまに申上げます。今朝より言依別命様は御病気と仰有つて、御引籠りになつておいでなさいましたが、余りお静かですから、ソツと障子を開けて中へ這入つて見れば、萩の机の上に斯様な書き置きがして御座いました』 と手に渡す。杢助開いてこれを見れば、 『此度青、赤、黄、白の四個の宝玉を始め三個の玉、三つ四つ併せて都合七個、言依別命都合あつて、或地点に隠し置いたり、必ず必ず玉能姫、玉治別、黄竜姫其他此玉に関係者の与り知る所に非ず。然し乍ら杢助は願ひの如く総務の職を免じて、淡路の東助を以て総務となす。言依別は何時聖地に帰るか、其時期は未定なり。必ず我後を追ひ来る勿れ』 と書いてあつた。杢助は黙然として涙をハラハラと流し、千万無量の感に打たるるものの如くであつた。 (大正一一・七・二三旧閏五・二九谷村真友録)
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(1955)
霊界物語 29_辰_南米物語1 鷹依姫と高姫の旅 端書 端書 霊界物語『海洋万里』(辰の巻)より未の巻に至り、南米太古の物語を口述しておきました。今日は人文大いに開けたる結果、国を建つるもの十数ケ国になつて居ります。中にも南米第一の富源を擁して居るにも拘はらず、国民は遊惰にして何時も外国の厄介にばかりなつてゐるのは秘露の国であります。故に英米人は此国を評して『黄金の床に寝て居る乞食の国』と謂つて居ります。この文章は現今南米諸国の状況を示したもので、決して三十余万年前の太古の事では有りませぬ。只物語の参考として茲に引用した迄であります。 秘露はこの物語にはヒルの国と称してあります。此国に無尽蔵の富源を抱いて居ること、其の北隣なるコロンビヤ(物語にはカル)と共に第一に置かれて居ります。このヒルの国は現今でこそ南米中の二等国に沈淪したものの、昔インカ帝国としての全盛時代は、その文明の程度は上代の希臘、羅馬の隆盛なりし折に比すべきもので、現今の智利(物語にはテル)エクアドル、ボリビヤ等の諸国は皆『太陽の子』インカ王の配下にあつたもので、今を距る四百年前、彼の西班牙の奸雄ビサロが、アタワルバを殺害して国を奪ひ、西班牙の植民地と為してから三百年間は、西班牙は戦慄すべき暴政を行つたので、国土が荒廃し文化は退歩したのであります。ビサロがアタワルバ王家から奪つた金塊でも、現今の価格で十億円のものであると言はれた程に、此国は貴重な礦物を沢山に包蔵して居ります。 この国を地理的に区別すると、南北に縦走するアンデス大山脈にて海岸、山嶽、森林の三地帯に区分されますが、海岸地帯は無雨地帯と称せられ(物語参照)、時々霏雨は降りますが、雨らしい雨は無いから土地が砂漠的に見えますが、其間にはアンデス山(高照山)より発する五十余の河川があり、その流域には数十の沃野があつて、良質の綿や、甘蔗の耕作が盛に行はれて居ります。此地域は昔インカ帝国時代には現在の数倍も耕作されて居たもので、今日も猶壮大なる昔時の灌漑工事の跡が方々に残つて居るのです。 此地帯は一見した所不毛の土地でありますが、水さへ引けば忽ち青々たる草野に変り、地味は非常に肥沃であります。また此地帯に於ける農業の特色は、異常な確実性を有し、害虫は殆ど無く、又風水の害も絶無でありますから、その収穫も安全を期待されて居ます。一万人余を計上されて居る日本移民の大部分は皆この地帯の耕耘に従事して居るのです。 気候は又一年中、日本内地の五六月の気候で実に理想的であります。目下白人は約十万町歩を耕して居りますが、灌漑に堪ゆる土地が尚二十万町歩は残存して居ります。山嶽地帯は一名礦山地帯とも云はれ、礦産は無類無量であります。バナデユームは世界第一位、金と銀とは同第四位、銅と鉛とは同第六位で、石炭も到る処に埋蔵されて居りますが、何分不便の為に発掘量が少いのです。 次に特記すべき事は森林地帯で是が所謂極楽郷であります。この地帯はアンデス山脈の東方で長さ南北約一千哩、幅は二百哩乃至七百哩を出入する広い地面で、海抜は二三千尺から一百尺の低地に及んで居る。秘露の行政区劃上、この地帯は八県に分たれて居ますが、実に全国の三分の二の地積を占め、アマゾン河本流及び其支流の上流を為す大小数千の河川は、皆この地帯に発して東走するのでありますから、将来に於て河川を利用する交通機関を起すには地勢上甚だ便利があるのです。この地帯の気候はコロンビヤ、ボリビヤ、ブラジル(物語にはハルの国)国境近くは熱帯の暑熱で年中華氏九十度位の平均であるが、アンデス山系の斜面地及び海抜二千尺以上の地域は亜熱帯や温帯の気候で、伊太利の南部に似て居るのです。旅行するものは実に良好な気持を感ずるものです。其フツクリとして柔かな何とも言へない身は、まつたく植物の吐く香気に埋れた温室の中でソヨソヨと微涼に吹かれる様な具合で、古来この地帯を通過した人は凡て極楽の気候だと感ずるものであります。 雨量は豊で一年を二期に区別し、十一月から翌年四月が最も多く(冬季)、五月より次第に少くなり、十月には最も少ない(夏季)。而して、地味の肥沃なることは無比である。 この地帯に足を入れた人の先づ驚嘆するのは、植物の発育の旺盛な情態であります。天を摩する巨木は到る所に見出され、香高き蘭科植物の多種なること、人間が乗れさうな巨大なる花、大蛇の如き大蔓草、人間の頭ほどある種々の美味なる果物、日本の如うな貧弱な植物界を見馴れた眼には胆を奪はれる位であります。又エボニー、マホガニー等の貴重なる材は到る所に見出され、薬草の豊富なることも、世界一と言はれて居ります。其の他染料、繊維、香料、ゴム樹等も頗る多く、一哩平方の地面に、植物の種類、凡そ一百万種に近い位で、実に植物の豊富なるには驚くの外は無いのであります。 次に此地帯に棲む動物も頗る多種類で、アマゾン河中に在る魚貝のみでも地中海に棲むものの種類に匹敵するのであります。 最近この地帯の河川、湖沼で蒐集された珍奇なる魚介の種類は、一万五千余種に及び、その中八百余種は全く新しい発見に係るものである。又アマゾン河の上流ワヤガ河附近には、握り拳ほどの大蝸牛や団扇程の蝶が居る。現今では猛獣毒蛇は少く虎と豹などが棲んで居るが、姿は却て小さく、左程怖るるに足らない。この森林地帯にも埋蔵の礦物は極めて多量であれども、交通不便の為に発掘されて居ないのです。元来この地帯は地質上カルの国からボリビヤに至る石油及び黄金の大地脈であつて、英米の専門家は近年来熱心に調査を進めて居るのである。既に英国の石油業者はこの地帯のバチラヤ、ワヤガ河、サクラメントバンバ附近まで五百万町歩、マドレヂオス河附近で一千万町歩、マラニヨン河附近で五百町歩に亘る石油コンゼツシヨンを獲得せむと、秘露政府に交渉して居るのであります。現に加奈陀人のロバートダンスミールと云ふのが、秘露政府との間に、同国の森林地帯を貫通さす二千四百哩の一大鉄道建設の契約を結び、四十五ケ年間の経営権を握つたのも、実に此地帯の礦物運搬が主なる目的であるとさへ見られて居る位であります。そして其目的は貴金属よりも発掘の容易なる石油にあるのは当然でせう。此国の石油は七八百年前インカ帝国時代に発見されて採取利用されたが、欧洲人の来るに及び、小規模乍らも各所で採掘事業が営まれた。将来は世界一の石油産地として著明になるでありませう。 又ヒル(秘露)、カル(古倫比亜)との間に聳立せる日暮山(アンデス山)山脈は海抜二万五六千尺もあり、其頂上には一大湖水があり、山の中腹には今も猶邪気の籠もれる死線と云ふものが横たはり、知らずに登るものは水腫病を起し、直に死亡するといふ危険な箇所があります。概して此地方は薬草の多い所で又年中降雨の無いのが特徴となつてをります。 大正十一年八月十三日
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霊界物語 35_戌_黒姫のアフリカ物語2 07 乱舞 第七章乱舞〔九七一〕 八公は徳公の歌にそそられて、覚束なくも謡ひ初めたり。 八公『武野の村の玉公が親の代から伝へたる 水晶玉が如何してか俄に黒く曇り出し 心をひそめて伺へば筑紫の島に黒姫が 泥をば吐きに来よつたにてつきり違ひはないものと 大当外れの判断に親方さまを頼み込み 無花果取るは表向き高山峠を登り来る 黒姫司を捉まへて改心ささねばならないと 新、久、八の三人も親分さまの言ひ付で 嶮しき山をよぢ登り峠の絶頂に車座と なつて白黒石卜を初める時しも黒姫が てつきり此処にやつて来たいきり切つたる吾々は 黒姫司を見るよりも俄に心機一転し どことはなしに具はりし其神徳に敬服し 建日の館の神司建国別の許にゆき 親子の対面させむとて山坂越えて進み行く さはさりながら黒姫やこちらの目算相外れ 親でもなければ子でもない肉体上から言うたなら あかの他人と知れた故是非なく此処を立ち出でて 九十九曲りの坂路を親分さまの後につき 火の国街道の山口に下りて見れば六公が 数多の乾児を引きつれて喧嘩装束いかめしく 捩鉢巻で待つてゐたさすがに偉い虎公は 皆の奴をば追つ払ひお愛の方の遭難を 助けてやらねばならないと一目散に走り行く 深谷川の丸木橋渡つた所で黒姫や 案じて居つたお愛さまお梅さまにも出会して やつと安心する間なく屋方の村の三公を 三五教の大道に救ひやらむと勇み立ち 向日峠の坂路を「ウントコドツコイドツコイ」と 拍子を取りつつ下り来るいつの間にやら「ドツコイシヨ」 水晶の玉がなくなつたいやいやさうではない程に 水晶玉を持つた主玉公の奴が雲がくれ 分らぬ奴は放つとけと大地をドンドン響かせつ 波布や蜈蚣の横たはる恐ろし道をふみ越えて 屋方の村に来て見れば思ひがけなき三公の 鬼は忽ち神となり大蛇は逃げて神の宮 尊き人となつてゐたあゝ惟神々々 神の恵は目のあたり若しも大蛇の三公が 昨日の心で居つたならさぞ今頃は親方と ヤツサモツサの腕比べ剣光閃き雷の 鳴り轟きて血煙の雨が降つたに違ひない グヅグヅしてゐりや俺までが笠の台までむしられて いやな冥途へ死出の旅三途の川の渡場で 婆さまに叱られ居るだらう同じ婆さまと言ひながら 三五教の神司黒姫司の御前で 結構な結構な酒を呑み一同揃うて睦まじう 喧嘩和合の大酒宴こんな目出度い事あろか 案に相違の今日の首尾私は嬉して飛び上り 手が舞ふ足が踊り出す何とはなしにブカブカと 体一面浮いて来た浮く奴ア瓢箪のみぢやない 八公の体も今ういたサアういたりういたり酒のんで うき世を渡れ皆さまようきに沈んで暮すのは 其奴は悪魔の仕業ぞや夢のうき世といふからは 人はうくのに限るぞや火の国川の筏さへ 朝から晩迄ういてゐるヨサミの池のかいつぶり をしどりさへも夫婦連仲よう暮してういてゐる うけよ、うけうけ皆の奴大海原の舟のよに 「ウントコドツコイ」人の世はうき世三分といふぢやないか 朝から晩まで修羅もやし何の彼んのとうき苦労 する馬鹿者の気が知れぬ酒さへ飲めばいつもかも 心がういて掛取の矢の催促も梅の花 鶯とまつて鳴くやうな程よい声に聞え来る 人は心が第一だ心一つの持様で ういて暮すも一生なら沈んで暮すも一生だ 「ウントコドツコイ」浮沈み七度あるのが人間と どこの奴だか知らないが吐いた奴は馬鹿者だ 七度八度九度百度千度万度 ういて暮すがうき世ぞや石や瓦ぢやあるまいし 神の御霊を授かりし人の身としてやすやすと 沈んで暮して堪らうかあゝ惟神々々 冷の酒より燗がよい「かんかんカラケツかあんかあん」 「カンカラベラ棒ドツコイシヨー」坊主鉢巻リンと締め 威張つて見たとて支柱がないさはさりながら酒のめば 如何しても一度はヅブ六になつた揚句は茹蛸だ 顔も手足も真赤いけ骨はやはらぎグニヤグニヤと 蒟蒻見たよになつて了ふ体も心もやはらいで 初めて天下は泰平だ俺の内でも嬶天下 酒さへ呑ましておいたなら暫く泰平無事の夢 貪る事が出来るぞや無料の酒ならかまやせぬ 皆さまドツサリよばれませう未熟者奴と思はずに 冷酒ならぬカン直日御馳走の数も大直日 何卒見直し聞直し無礼を許して下さんせ 世の諺にいふ通り主人の好を悉く 出て来る客にふれまふとうまい理屈をつけながら 頂く御神酒の味のよさ長い山坂飛んで来て 心がホツとしたとこへ思ひもよらぬ御馳走に 舌の鼓をうちならしお腹は忽ち布袋さま 七福神の楽遊び弁財天のお愛さま 大黒みたよな顔をした三五教の黒姫さま 与三公どんの寿老面頭ビシヤモン福禄寿 七お多福の寄り合うて面白可笑しう酒を呑む あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 と口から出任せに歌ひ踊り狂ふ。 高公は又もや歌ひ出す。 高公『八公よ八公よよつく聞け俺はお前の知る通り 武野の村の杢平が伜と生れたならず者 爺の宝をぬすみ出し朝から晩まで酒くらひ 人の意見もうはの空父と母とに追ひ出され よるべ渚の捨小舟取りつく島もなき儘に 火の国峠をブラブラと涙ながらに通る折 驍名轟く男達大蛇の親分三公に ヤツと拾はれ息をつぎ朝な夕なに草履取り 雪隠の掃除も精出して勤めて居つたら親分が 貴様はわりとはえらい奴兄弟分にしてやろと 異数の抜擢有難く羽振を利かす身となつて 肩で風切り遠近と勝負に歩いた面白さ さうだと云つて俺は今改心したとは言ふものの 朱に交はれば赤くなる元から悪い親分の 手下になつて何として誠の心になるものか よくない事を朝夕によい気になつてやつてゐた さうした処此度の向日峠の大騒動 死んだと思うたお愛さま兼公迄がやつて来て ヒユードロドロとおびやかし俺の荒肝取りよつた 酒でも呑んでゐなんだらなに猪口才な幽霊奴と 握り拳を固めつつ兼公の奴を初めとし 残らず亡者を打ちすゑて打ちこらすべき所だつた 酒に酔うたる其為に足腰立たぬ悲しさに 恨みを呑んで見てゐたら正真正銘の真人間 亡者と云つたは嘘の皮之を思へば高公が お酒に酔うてゐた為に大騒動も始まらず 無事に解決相告げた之を思へば酒呑んで 腰をぬかすも惟神何が仕組になるぢややら 分つた事ではない程に皆さまドツサリ酒呑んで 腰をぬかすが宜しかろ酒呑む時には酒を呑み 働く時には働いて苦楽を共にするがよい 苦中楽あり楽中に苦ありと云ふのは此事だ あゝ惟神々々燗酒の方が味がよい モウシモウシ黒姫さま何卒一献召しあがれ 私がお酌を致しますそんな六かし顔をして 睨んで御座ると閻魔さま冥途の国からやつて来て ドツサリ科料を取りますぞあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と嬉しさ余つて、脱線だらけの酒の讃美歌を謡ひ、ウラル教式になつて了つた。されども互に心打ちとけた目出度き酒宴であるから、黒姫も別に咎めず、虎公、三公も、お愛の方も、今日ばかりは治外法権だと、臍をかためて乾児共の自由の乱舞に任してゐる。 (大正一一・九・一五旧七・二四松村真澄録)
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霊界物語 36_亥_シロの島の物語 08 悪現霊 第八章悪現霊〔九九六〕 アナン、セールの一隊は館に向ひ、サール、ウインチはタールチン、キングス姫、ゼム、エール、シルレング、ユーズを救ひ出さむと、牢獄の方に猛進した。 ベールは部下の獄卒と共に死力を竭して戦うたが、つひにコリヤ叶はぬと思ひしか雲を霞と姿を隠して了つた。 サール、ウインチは一同の忠臣を首尾よく救ひ出だし、次にアナン、セールの隊に合すべく王の館を指して進み行く。竜雲、ケールス姫は奥の間に顔の色を変へ、手鎗を小脇に抱へ、寄らば突かむと身構へしてゐる。 真先に進んだアナン、セールを始め、シルレング、ユーズは不運にも、館の中の俄作りの深き陥穽におち込んで了つた。 サール、ウインチを始め、タールチン、キングス姫、ゼム、エールは、此上深入りするは如何なる羽目に陥るやも計り難しと、大事をふんで後へ引返し、表に出でて再び戦ひを継続しつつあつた。 ケリヤ、ハルマは采配を打ふり打ふり、所在精鋭の武器を揃へて、命限りに防ぎ戦ひ寄せ手の人数は殆ど三分以上瞬く間に斬り倒されて了つた。サール、ウインチは止むを得ず、タールチン、キングス姫、其他と共に一先づここを退却し、再び捲土重来の策を構ぜむと、バリーの館に軍を返した。 竜雲は味方の将卒を集め、今日の防戦の偉勲を口を極めて賞揚し、城の外部を念入りに警護せしめた。そしてサガレン王を始め、信用し切つたるエームス、テーリスの姿の見えざるに驚き、再びケリヤ、ハルマに命じ、捕手を四方に遣はして、王、外二人の所在を厳しく捜索せしめた。併し乍ら、王の行方は到底分らなくなつて了つたのである。 竜雲は部下の将卒を労ふべく、城の広庭に草蓆を布き、四方を警戒し乍ら、大祝宴を開いた。其席上にて竜雲は声高々と歌ふ。 竜雲『此世の御祖とあれませる塩長彦大神の 御稜威は今や輝きてウラルの教の世となりぬ 大国彦の系統と世に誇りたるサガレン王の 醜の魔神は竜雲が広大無辺の神徳に 吹き払はれて影もなく煙となつて消え失せぬ われは是よりシロ島の司となりて百司 百人達を悉くウラルの神の御教に まつろひ合せ御恵の露を普くうるほさむ あゝ惟神々々塩長彦の御威勢は 今に始めぬ事乍ら四方の草木も悉く 片葉もとめず伏しなびくかかる尊き大神の 教にまつろふ竜雲は天津神たち八百万 国津神たち国魂の神の力を身に受けて 月日の如く永久に輝きわたるわが御稜威 称へまつれよ百司ケールス姫を始めとし 左守右守の神司ケリヤ、ハルマは云ふも更 ベールやメール、ヨール迄吾神徳にまつろひて 清く仕へよ吾前にわれは此世を平けく 治むる救ひの神なるぞ此シロ島に竜雲の 納まる限り鬼大蛇いかなる曲津の攻め来共 恐るる事はなき程に上と下とは睦び合ひ 心を合せ力をば一つになしてわが治らす 此神国を守れかしあゝ惟神々々 神の御前に真心をささげて祈り奉る』 と悪にも三分の理屈があるとやら、一かどよい気になつて、臆面もなく大勢の前に厚かましくも其千枚張りの面の皮をさらし、得々としてゐる。 ケールス姫は其尾に付けて機嫌よく自ら歌ひ、自ら舞ひ、竜雲の武運と其幸福を祈りたる、其歌。 ケールス姫『高天原に現れませる塩長彦の大神の 守り玉へるウラル教神の司の竜雲師 広大無辺の御神徳現はれまして今ここに シロの島をば平けくいと安らけく治めます 聖の世とはなりにけり喜び勇めよ百司 国人達も諸共に竜雲司の神徳を 心の底より喜びて称へまつれよ惟神 神の力は目のあたり心の弱きサガレン王の 君の命は汚れたるバラモン教を朝夕に 命の如く崇めつつ此世を紊し玉ひけり 曲津の神の猛びにて神地の城は日に月に 衰へ行きて刈ごもの乱れ果てたる有様を 治むる由も泣きね入り苦み切つたる折柄に ウラルの道の神司神徳高き竜雲が 天津御空の雲にのりはるばる茲に下りまし 千変万化の神力を現はし玉ひて吾々を 神の大道に導きつ尊き神の御国に 救ひ玉ふぞ尊けれあゝ惟神々々 妾はいかなる仕合せか今まで曇りし胸のやみ 科戸の風に影もなく吹き払はれて村肝の 心の空に月は照り星の光はキラキラと 輝きわたる身となりぬケリヤ、ハルマを始めとし 其他の百の司たち吾言霊を諾なひて 今より先は真心の限りを尽し身を尽し 竜雲司の御教を心に放さずよく守り 天ケ下なる民草を救ひ助けて永久に ゆるがぬ朽ちざる御世となし天津誠の大道に まつろひまつれよ惟神塩長彦の御前に ケールス姫が真心のあらむ限りを打あけて つつしみ敬ひねぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と陽気になつて歌ひ舞ひ納め、竜雲の手を曳いて、奥の間深く進み入る。 ケリヤは一同の司及び雑役等に向つて、鼻高々と歌を以て宣り伝へた、其歌。 ケリヤ『げにも目出たき御世なるか天の河原にさをさして あもりましたる竜雲師広大無辺の神力を 発揮し玉ひて今ここに神地の都の君となり ケールス姫と諸共に普く仁政を布かむとて 言あげ玉ひし尊さよ尊き君に見出だされ 吾は左守神となり此城内の一切は わが身一つに責任を負はせ玉ひて天ケ下 四方の民草撫で玉ふげに有難き珍の御代 われ等は尊き御恵の万分一に報いむと 心の限りを尽しつつ朝な夕なに大神と 君の御前にいそしみて仕へまつらむ覚悟なり 右守神を始めとし其外百の司たち 青人草に至る迄天より降りし此君の 御稜威を畏み敬ひて只一言も叛くなよ さはさり乍ら腹黒きタールチンやエームスや テーリス、ゼムやエール等が再び軍を整へて 攻め来らむも計られず其時汝等一同は 怯めず臆せず大神の力を楯に君の為 世人の為に玉の緒の命を惜しまず戦へよ 仮令生命はすつる共神の御為君の為 捨てし生命は天国の神の御前に行きし時 珍の宝座を与へられ其魂は永久に 安く楽しく喜びの園に楽しく救はれむ あゝ惟神々々神の御前に真心を 捧げてケリヤが今ここに心の丈を誓ひおく われと思はむ人々は一日も早く村肝の 心を研き体を練り此土を守るつはものと なりて尽せよ惟神神は汝を守りつつ 千代に八千代に亡びなき高きほまれを現はして 栄えの身魂となさしめむケリヤが今宣る言霊を 心に刻みて片時も決して忘るる事勿れ 左守神が今茲に竜雲司に成り代り 一同に向つて述べておくあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と宣示し、悠々として座につく。 右守神のハルマを始め、其他の人々の脱線的歌は沢山あれ共、余りくだくだしければ省略する事とする。 (大正一一・九・二一旧八・一松村真澄録)
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霊界物語 36_亥_シロの島の物語 13 恵の花 第一三章恵の花〔一〇〇一〕 無住居士と自称する白髪の老人が蒼惶として立去りたる後に、テーリスは腕を組み、さし俯向いて何事か考へ込んで居る。今の今まで勇壮活溌にして孤骸胡羯を呑む的武勇の気に満たされたるテーリスの耳にも「ヤー、エー、トー」と打ち合ふ竹刀の音、何となく物憂げに響くやうになつて来た。広大無辺の神の力に比ぶれば、一人対一人の撃剣術に対し何となく力なく、自ら軽侮の念の漂はざるを得なかつた。テーリスは四辺を見廻し人無きを見て独言。 テーリス『アヽ今此処に飄然として現はれたまひし宣伝使と称する白髪の老人は、果して何神の化身であつたか。但は何教の有力なる宣伝使であつたか。実に其教訓は大神の示現の如くに感じられた……思へば思へば吾は今まで、何と云ふ誤解をして居たのであらう。幼年の頃より無抵抗主義の三五教の道を聞きながら、神の大御心を忘却し、暴に対するに暴をもつてし、悪魔の憑依せる竜雲を討伐せむとしたる吾心の愚さよ、否無残さや。兵は所謂凶器である。先頃も一挙にして彼竜雲を討伐せむとし、数多の部下に武装を凝らさせ、神地城の表門より闖入し、敵を打ち悩まさむとして却て味方を傷つけ殺したる事、返す返すも迂愚の骨頂、拙の拙なるもの、悔いても及ばぬ殺生をしたものだ。如斯部下の人命を損し、天地の神の愛児を殺したる大罪人、如何でか彼竜雲を討伐する事を得む。竜雲如何に無道なればとてタールチン、キングス姫其他の人々を牢獄に投じ苦しめたれども、相当の飲食を与へ、且つ身体に危害を及ぼさざりしは実に見上げたやり方である。吾は彼に勝りて豺狼の心深く、王を思ひ、彼を憎むの余り、竜雲に従ふ悪人どもを片端より鏖殺し国家の禍を絶たむとして、却つて敵の一人をも傷つくる事を得ず、味方の三分迄死傷を生じたるは全く天の誡めならむ。神が表に現はれて善と悪とを立て別けたまふとは此事であらう。竜雲も亦天地容れざる大罪人なれども吾も亦彼に劣らざる大罪人なり。然るに忠臣義士と自任して討伐を企てたる吾心の浅はかさよ。彼老人の言葉の中に自負心を脱却せよ!と力を込め教へられたのは此事であらう。神は一片の依怙贔屓もない。総て世界の人類を初め、森羅万象を平等的に愛したまふ、斯かる仁慈の大御心を悟らず、自分免許の誠を楯に、竜雲にも劣る罪悪を行はむとし、得々として兵を養ひ武を練り居たる此恥かしさ。サガレン王を初め、吾等にして真に神の大御心を悟り、神に叶へる誠を尽さば、無限絶対力の神は如何でか是を助けたまはざらむや。アヽ誤れり誤れり……国の大御祖国治立大神、豊国姫大神、神素盞嗚大神、許させたまへ!惟神霊幸はへませ……』 と涙にかき暮れながら祈願に時を移す。 斯かる処へエームスは危険極まる岩壁を伝ひ、サガレン王に従ひ、此館の前にいそいそとして入り来り、四辺をキヨロキヨロ見廻し、以前の老人の姿の見えざるに不審を抱きながらテーリスに向ひ、 エームス『オー、テーリス殿、王様をお迎へ申して参つた。彼の老人はどこに居られますかな』 テーリスは今迄万感交々胸に浮んで悔悟の涙にくれ、吾身の此処にあるをも殆ど忘れて居たが、エームスの此声に、ハツと気が付いたやうに四辺を見廻し、サガレン王を見て恭しく頭を下げ一礼し終つて、 テーリス『サガレン王様、アーよくこそ御光臨下さいました。異様の老人飄然として此処に現はれ、種々と尊き教訓を垂れさせられ、テーリスも今迄の愚を今更の如く悔悟致しました……唯今王様が御出臨になるから、しばらく待つて下さい……と百方礼を尽してお願ひ致しましたが、無住居士と名乗る老人は……吾は天下の宣伝使だから、一刻のタイムも空費する訳には往かない……と云つて、何程お止め申してもお聞き入れなく、袖を払つて電光石火の如く立ち帰つて仕舞はれました。折角此処迄お越し下さいまして、誠に申上げやうもなき不都合なれども、何卒お許しを願ひ上げまする』 サガレン王『老人の言葉に汝は得る処があつたか、参考のためわれに詳細を伝へて呉れないか』 テーリス『お言葉迄も御座いませぬ』 と、以前の老人の教を諄々として、一言も漏らさず王の前に上申するに、王は頭を傾け腕を組み、しばし思案に暮れけるが、漸くにして頭を上下に幾度となくふり、 サガレン王『成る程!成る程!』 と云ひながら、落涙滂沱として腮辺に伝ふ。 エームス『吾等は老人の教を聞いて、心の底より悔悟せし上は、もはや物々しき武術の修練も必要なし。唯天地惟神の大道に則り、皇神の仁慈無限なる大御心に神倣ひ、愛と誠とを第一の武器として戦はむ。テーリス殿、如何思召さるるや』 テーリス『王様にして御同意下さらば、唯今限り武術の練習を廃止し、先ず第一着手として御魂磨きにかかりませう』 と憮然として語る。サガレン王は莞爾としてエームスを伴ひ、再び元の岩窟の間に帰り往く。 後にテーリスは、武術修練場に立ち現はれ、稍高き処に直立して一同に向ひ、 テーリス『今日唯今より武術の修練を全廃すべし。汝等は王の命に従ひ、今日唯今より心を清め、身を清め、仁慈無限の大神の大御心を拝戴し、誠一つの修業をなせ!』 と厳然として云ひ渡したるに、一同の中より最も撃剣に上達したる、チールと云ふ男、テーリスの前に現はれ来り、 チール『これはこれは、お師匠様のお言葉とも覚えず、大敵を前に控へながら、肝腎要の武術を廃止したまふは何故ぞ。武術はもつて国を守るもの、国家の実力は武術をもつて第一とす。然るに何を血迷つてか、斯の如き命令を発せらるるや』 と、息を喘ませ、些しく怒気を帯びて言葉せはしく詰め寄つた。テーリスは冷然として答ふるやう、 テーリス『つらつら考ふれば、天の下には敵もなければ味方もなし。総ての敵は皆吾々の心より発生し、次第に成長して遂には吾身を亡ぼすに至るものである。心に慈悲の日月輝き渡る時は、天地清明にして一点の暗雲もなければ混濁もない。凡て敵と云ひ味方と云ふも、心の迷ひから生ずるのだ』 と事も無げに云ひ放つを、チールは、 チール『仰せの如く個人としての敵は、心の持ちやう一つに依つて自然と消滅するでせう。さりながら、恐れ多くも神地の都の神司、サガレン王に向つて反逆を企てたる大悪人竜雲なるものは、王の敵ではありませぬか。吾々は王の忠良なる臣下として、どうして是を看過する事が出来ませうか。何卒御再考をお願ひ致します』 テーリス『成る程汝の云ふ如く、竜雲は実に悪逆無道の曲者にして、主君の為には大の仇敵だ。臣下の分際として之を看過するは所謂臣の道に背くものである。とは云へ、如何に竜雲暴悪非道なりとは雖も、此方より大慈大悲の至誠をもつて彼に当らむか、必ずやその仁慈の鞭に打たれて、心の底より王に服ひまつり、今迄の罪を謝し忠実なる臣下となりて仕ふるは決して難事ではない。吾々にして彼竜雲如き悪人を言向け和し、悔悟せしむる事を得ずとすれば、これ全く誠の足らざるものである。如何なる悪魔といへども、大慈大悲の大神の御心を奉戴し、至誠至実を旨とし打ち向ふ時は、必ずや喜び勇んで、感謝とともに従ひまつるは、火を睹るよりも明かならむ。先づ先づ武術を思ひ止まり、一刻も早く魂を磨けよ』 と再び宣示した。 チール『何は兎もあれ、知識に暗き吾々、長者の言に従ふより道はありませぬ。何卒十二分の御注意をもつて、王の為に尽されむ事を希望致します』 テーリス『然らばいよいよ唯今限り、此道場は稽古を廃止して、御魂磨きの神聖なる道場と致します。ついては、今此列座の中に竜雲の密使として、王其他の有志を捕縛せむと表面帰順を装ひ来れるヨール、ビツト外三人に対し、今夜の子の刻を期して誅戮を加へむ計劃なりしも、至仁至愛の大神の大御心に神倣ひ、唯今限り其罪を許すべし。ヨール、ビツト以下三人、早く此場を立ち去つて神地の館に立帰れ』 と宣示するや、ヨール外四人はテーリスの前に恐る恐る現れ来り、大地に平伏し、 ヨール『唯今の無抵抗主義の御教、仁慈のお心に感じ、吾々はもはや竜雲に仕ふる事は断念致しました。罪深き悪人なれども、何卒広き心に見直し聞き直し下さいまして、貴方がたの弟子の中に御加へ下さらば、此上なき有難き仕合せに存じます。嗚呼何として吾々は斯る悪人に媚び諂ひ、恩顧を受けし王様に刃向はむとせしや。思へば思へば実に吾心の汚さが恥かしくなつて参りました。何卒今迄の御無礼はお許し下さいまして、お引き立ての程を偏に希ひ上奉ります』 と誠心を面に現して、涙ながらに懺悔する其しをらしさ。ヨールは立ち上り、一同の中に立つて述懐を謡ふ。 ヨール『神が表に現はれて善神邪神を委曲に 立て別けたまふ時は来ぬ邪非道の竜雲が お鬚の塵を払ひつつ身の栄達を一向に 急ぎし余り畏くも恩顧を受けし神司 サガレン王の御前に汚き心を現して 罪さへ深き谷道に行幸を待ちて捕へむと 勢ひこんで来りたる曲の心の恐ろしさ 斯かる尊き仁愛の神の司と知らずして 心汚き曲神に媚び諂ひし浅はかさ 万死に比すべき吾罪を罰めたまはず惟神 誠の道を説き示し許したまひし有難さ かかる尊きバラモンの神の司と現れませる 君をば捨てていづくんぞ曲津のかかりし竜雲に 従ひまつる事を得む神の司のテーリスよ 吾等五人は心より悔い改めてバラモンの 神の教に神倣ひサガレン王に真心の 限りを尽し身を尽し骨を粉にし身を砕き 此御君の為ならば仮令屍は風荒ぶ 荒野ケ原に曝[※愛世版「曝」]すとも海の藻屑となるとても などか厭はむ敷島の誠の心を現して 清く正しく仕ふべしあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして吾等に宿る曲神を 伊吹の狭霧に吹き払ひ救はせたまへ天津神 国津御神の御前に謹み拝み奉る 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも皇大神の御道に 仁慈の君の御為に尽しまつらむ神の前 確に誓ひ奉るあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と謡ひ終り、テーリスに向つてわが改心の次第を述べ立てる。 テーリスはさも愉快げに、ヨール外四人に向ひ慇懃に誠の道を説き諭し、一同の部下に対しても一場の訓戒を垂れ、これより日夜魂磨きに浮身を窶し、神の救ひを求むる事となりぬ。 (大正一一・九・二二旧八・二加藤明子録)
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霊界物語 38_丑_出口王仁三郎自叙伝2 03 帰郷 第三章帰郷〔一〇四〇〕 心なき人の誹も何かあらむ 神に任かせし吾身なりせば 上谷の修業場で、二十有余人の幽斎修業者の審神者に奉仕しつつある処、自分の郷里から『老母危篤すぐ帰れ』との電信が着いた。祖母の急病と聞いた以上は、是非共一度は帰つて見舞うて来ねばならぬ。併しながら一方の修業者の様子を見れば、一日片時も目をはなすことが出来ぬことになつてゐる。ぢやと云つて祖母の病気を孫として、そ知らぬ顔に打すてておく訳にも行かず、修業者を見放しすれば、又しても以前の如く邪神が襲来して、修行場をかき乱すに違ひない、喜楽が失敗するのを、鵜の目鷹の目で待構へ、欠点を捜して、機会だにあらば放逐せむとして居る某々がある。喜楽は神さまの御道と祖母の危急の場合を思ふと、如何決心したら良いか、進退谷まつて途方に暮れてゐた。兎にも角にも神界へ伺つて見た所、神様のお告に依れば、 『ここ四五日の間に修業場へ帰つて来れば余り大した邪魔は在るまい……』 との事であつた。そして、 『祖母の病気は余程重態ではあるが、生命には別状はない、とは言ふものの祖母のことであるから、近所の人々に対しても、帰らずにはおかれまい、早く行つて来るがよい、一心になつて鎮魂をすれば、八九分通りは平癒する』 とのことであつた。無論出口教祖さまのお口を通してのお示しである。そこで四方藤太郎を不在中の審神者に依頼しおき、喜楽の帰郷中、修行者一同を托して、一先づ穴太へ行くことになつた。喜楽は出立に際し、四方氏に命じたのは、 喜楽『不在中に、綾部から教祖さまが迎へに来られても、福島が来ても、又誰が何と云つて来ても此処の修行者は一人も綾部へやつてはならぬ。わけて四方春三、塩見せい子、黒田きよ子には十分気をつけて貰ひ度い』 と頼んでおいた。四方藤太郎氏は喜楽の言をよく守つて厳格に審神者を奉仕してゐた。さうすると二三日たつて、教祖さまから神の御命令だからと云つて、右三人の修行者を綾部の金明会へ連れて帰られた。四方氏も教祖の命令には抗弁しかねて、やむを得ず三人を渡して了うた。三人の修行者は、教祖がワザワザ自分でお迎いに来られる位だから、自分等三人は大変に神界の思召に叶うてゐるに相違ないと、直様慢心をした為に、又もや妖魅が急激に襲来して、恰も気違芝居のやうなことを演じ出し、金明会の広間は、発狂者の巣窟の様になつて了つたのである。 ○ さて喜楽は綾部から只一人で、十四里の山路をボツボツ徒歩で行つて見ると、吾家の軒まで差かかつた時、何とも形容の出来ない一種の悲哀の感じが胸に浮かんで来た。 『あゝ祖母の身の上は如何だらう。まだ玉の緒の命は切れずにあるだらうか。母は如何して居るだらう……』 とくさぐさの思ひに胸は張裂けるやうであつた。急いで吾家に入り見れば、母は縁先の障子を一枚開けて涼しい風を入れつつ、今年八十六歳になつた祖母の看病をしてゐる処であつた。祖母も今日は殊の外気分が良いといつて、庭の若い松の木を眺めて、勢のよい枝振りなどを褒めて居られた。喜楽の妹の君といふ八歳の幼女が学校から帰つて来て枕許で何だか無理を言つて、母を困らして居る所であつた。 祖母は喜楽の帰つて来たことを知らずに、又何時とはなしにスヤスヤとよく寝入つて居られた。折角寝て居られるのを、目をさましては却て病気の障りになつてはならぬと、母は自然に目のさめる迄、喜楽の帰つて来たことを知らさぬ様にしてゐた。喜楽は先づ母に不在中の辛労を謝したり、祖母の病気の様子などを尋ねて居た。 折しも今迄楽相に眠つて居られた祖母は、何者にか襲はれたやうに、恐ろしい悶絶の声を出し、稍苦みの心が見えた。母も喜楽もあわてて側へ寄り、よくよく見れば、祖母は今正に何者にかうなされて居る様子である。母と喜楽とが左右の手を取つて、静かに起し、背をなでさすりなどして居ると、やうやう目をさまし、正気にかへられた。老の身のやせ衰へた病人の事とて、額も足も手も冷汗にビシヨぬれになつて、見るからにいぢらしく、自然に喜楽の目にも涙が一杯にあふれて来た。稍あつて祖母は力なき目を見ひらき、 祖母『あゝ不思議な夢をみたものだ。お米、そこにゐるか。よう聞いてお呉れ、吾家の御先祖様が、只今の先、孫の喜三郎を殺して了うと仰有つて、長い刀を引ぬいて追かけまはして居られる。喜三郎は一生懸命に逃げまはす。見るに見かねて私が御先祖様に対し、暫くの御猶予をと、泣いてお頼みしたら、御先祖さまも少し顔色を和らげて、……そんならお前から喜三郎に諭してやるがよい。上田の家は藤原の鎌足の末である。うつり行く世の慣ひ、家の系図は幾つにも別れてゐるが、中には今に歴然として時めいてゐる子孫もあり、大商人になつてゐる子孫もあり、百姓になつたのも沢山ある。又中途にして家の断絶したのもあるが、吾家こそは百姓になつた人の家筋で、先祖から代々お国の為になることを勤めて来たのである。併しモウ斯う百姓に成り下つて了うては、如何することも出来ぬと幽界から歎いてゐたのである。併しながら有難き御代になつて、百姓でも誠があり力さへあれば、どんなことでも出来るやうになつたのだから、どうかして吾子孫から世の為になる者を現はしたいと思ひ、神界の御許しを受けて、神様の尊きお道を明かに世界へ現はし、此世を安楽な神の世にしたい為に、喜三郎を神様のお使として、一身を捧げて世の為に尽さしたいと思ひ、其身辺を昼夜に守護致して居るのである。かかる重き使命を有つてゐる者が、祖母の病気のために心を紊し、肝賢の神界の御用をすてて、のめのめと吾家に帰り来るとは不届き千万な奴だ。神界へ対して申訳が立たぬから、一層のこと切り捨てて了ふと仰有つて、大変な御立腹、そこで私がいろいろとお詫をして、暫くの御猶予を願うたと思ふ折、不意に誰にか揺起されたと思ふたら、ヤツパリ夢であつた。アー併し乍ら御先祖さまのお言葉は夢とはいふものの、等閑にすることは出来ぬ。喜三郎も其心得で世の為に、神さまの御用を一心に勤めて貰へば、先祖さまに対して申訳が立つから、中途に気をくぢかぬやうに頼むぞ。妾は老木の末短き身の上、お前はまだ血気盛り、半時の間も無益に日を送ることは出来ぬから、妾に構はずお道の為に潔く尽して呉れ。併し乍ら人間は老少不定だから、これが別れになるかも知れぬ。ズイ分身体を大切にせよ』 と後は言葉もなく、其目には涙が泛んでゐた。喜楽の目にもいつの間にやら涙が漂ひ、腮辺を伝ふのを押かくし、 喜楽『お祖母アさま、そんならこれから綾部へ行つて来ます。どうぞ達者にしてゐて下さい』 と門口を出やうとする時、いつの間にか母は株内の次郎松やお政後家サンを伴うて帰り来り、 母『喜三郎、お前に一寸相談があるから、今帰ることは出来ぬ。どうぞ二三日待つて貰はねばならぬ』 と引とめられた。……サア了つた。モウ仕方がない。せめて二三分間母の帰宅が遅かつたならば、甘く此場をぬけて帰られたのに、又もや母や次郎松サンから、沢山の苦情をかまされることだらう……と思ふたが、最早仕方がない。先づ二人に時の挨拶や、不在中お世話になつた好意を陳謝し、座につくや否や、次郎松サンがいきなり、目をむいて、 次郎『コレ喜三ヤン、お前は一体全体、何をト呆けて居るのだ。こんな老人や母親を見すてて、如何に百姓が嫌ぢやとて、勝手気儘にいなごの様に、朝夕そこらを飛あるくとは、余り物が分らぬすぎるぢやないか。それとも如何しても内を出て極道がしたいと思うなら、毎月金を送つて来なさい。其金でお前の代りに人足を雇うて百姓さすから、如何ぢや、分つたかなア。一体お前が家を出てから、一年余りになるが、金一文送つて来るでもなし、たより一ぺんするでもなし、生きて居るのか死んで居るのか、但は家を忘れて帰つて来る処が知れなんだのか、訳が分らぬといふても余りぢやないか。私は上田家の為に先祖に成り代つて意見しに来たのだから、私の忠告をも聞かずに、綾部へ行くなら行つて見なさい。不在中の此家の御世話は私はお断り申す。私計りか株内も近所も皆其通りだ。どんなことが出来しても構はぬから、今ここでキツパリと返答をしてくれ』 と真赤な顔して呶鳴つて居る。又一人の別家のお政といふ後家サンが、喧しう泣くやうに綾部へ行くなと口説きたてる。二人共神界のことはテンで頭にない。只肉体上から見て、上田家の前途を案じての親切から云ふてくれるのであるから、二人の心情を察してみると、帰りもならず、それぢやと言ふて穴太に居る訳にも行かず、退引ならぬ仕儀となり閉口をした。 (大正一一・一〇・一四旧八・二四松村真澄録)
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霊界物語 38_丑_出口王仁三郎自叙伝2 20 元伊勢 第二〇章元伊勢〔一〇五七〕 明治三十四年旧三月八日、元伊勢の御水の御用があつた。世界広しと云へども、生粋の水晶の御水と云ふのは、実に元伊勢の天の岩戸の産盥産釜の御水より外には無いので、其水晶の御水を汲んで来ねばならぬと云ふ御筆先が旧三月一日に出たのである。 『艮の金神の指図でないと此水は滅多に汲みには行けぬのであるぞよ。此神が許しを出したら何処からも指一本さへるものもないぞよ』 と云ふ意味の御筆先である。極めて大切な御用であるから、六日前に木下慶太郎が調べに行つて来た。此水は昔から汲取禁制の御水で万一禁を犯した場合は必ず大風大洪水が起ると伝へられ、何人も触れる事の出来ぬ様に特に神官が見張をして居るのみならず、上の方から見下した処では小さい流れがあつて、二間ばかりの板を渡さねば行かれないと云ふ事まで確めて帰つて来たのである。愈当日になつて、教祖の外海潮、澄子を初め一行四十二名、菅笠、茣蓙蓑の扮装、御水を汲み取る為に後野市太郎が拵へし青竹の一節の筒二本を携帯して出発した。丹後の内宮の松代屋に着いて一行は打ち寛ろぎ、前に木下が調べし通り神官が見張つて居つては汲む事が出来ないから、先づ森津由松に命じて様子を見届けにやつた。日が暮れかけたので、見張の神官が内へ引上げるのを見届けて森津は早速報告に引返した。草鞋もとかずに森津の報告を待ち兼て居た、木下慶太郎は例の用意して置いた青竹の筒二本を携へて大急ぎで岩戸へ駆けつけた。六日前に調べた時に見て置いた小さな流には大きな朽木が流れ寄つて横はつて居つたので、これ幸ひと渡つて行つた。そして産盥と産釜の水を青竹の筒の中へ杓子で汲取るのであるが筒の穴が小い為、仲々手早く済まず、愚図々々して邪魔が這入つては今度の大切の御用が勤まらぬと心得た木下は、二本の筒を両手に持つて矢庭にヅブヅブと突込んで、漸く水が一杯になつたので、安心して松代屋へ引揚げた。一行は風呂から上つて夕食の最中であつたが首尾よく御用を勤めた事を申し上げると、教祖は非常に喜ばれた。そして木下は大きな朽木の橋の事を申上げると教祖はそれは正しく竜神様であると云はれた。翌日は御礼参りに行つて夕方五時出立、夜徹し歩いて帰つたが、綾部へ帰るまで何の御用をして来たか知らぬ者さへ多かつた。 汲んで来た生粋の水晶の御水は神様に御供へして其御下りを皆で少しづつ戴き、大本の井戸と元屋敷の角蔵氏方の井戸と四方源之助氏宅の井戸とへ五勺ほどを残りは丹後の沓島冠島の真中即ち竜宮海へさせとの教祖の吩咐であつた。第一着に大本の井戸に入れたが、教祖は、 教祖『今に京都大阪あたりから此お水を頂きに来る様になる』 と云はれたが今日では已に実現して居るのである。 元屋敷の井戸と云ふのは、西の石の宮の処の井戸で出口の元屋敷であるが、角蔵に売つたのであるから勝手にさす訳には行かぬので木下慶太郎の計らひで釣瓶縄が切れたから水を貰ひに来たのだと云つてさし込んで来たのである。元屋敷は後に角蔵から買ひ戻して大本の所有になり、今日では石のお宮が立ててある。四方源之助の内の井戸にも木下が同一筆法でさし込んで来た。これは今統務閣の側の井戸で現今では三つとも大本の有となつて居る。 此御水の御用が出来た頃、大本で三つの火の不思議があつた。お広前のランプが落ちて大事になる所を漸く消し止めたが、それからまだ二三分間も経たぬ内に風呂場から火が出て、これ亦大事になる所を海潮が見付けて大騒ぎとなり漸く消し止めた。すると又役員の背中へランプが落ちて危い所を無事に消しとめた。僅二三分の間に三つも火事沙汰が起つたので何か神慮のある事だらうと思つて居ると海潮は神懸りとなつて深い神慮を洩らされたのである。御水は後になつて教祖様が役員信者の大勢と共に竜宮海へさしに行かれた。此水が三年経てば世界中へ廻るから、そしたら世界が動き出すと云ふ事であつたが果して三年後には日露戦争が始まつたのである。 (大正一一・一〇・一八旧八・二八北村隆光録)
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霊界物語 38_丑_出口王仁三郎自叙伝2 21 凄い権幕 第二一章凄い権幕〔一〇五八〕 明治卅七年になつてから、日露戦争が勃発したので、ソロソロ四方平蔵、中村竹造、村上房之助、木下慶太郎、田中善吉、本田作次郎、小島寅吉、安田荘次郎、四方与平、塩見じゆん、などの連中が俄に鼻息が荒くなり、六畳の離れに喜楽が閉ぢ込められ、隠れて古事記を調べたり、霊界の消息を書いてゐると、中村竹造が二三人の役員と共に大手をふつてやつて来た。そして喜楽に向ひ、 中村『会長サン如何です、大望が始まつたぢやありませぬか、早く改心をなさらぬと、今年中に世界は丸潰れになりますぞ、露国から始まりてもう一戦があるとお筆先に出て居りますだないか、ヘンこれでも筆先がちがひますかな、霊学三分筆先七分にせいと、お筆先に出て居るのに、一寸も筆先をおよみにならぬから、露国から戦が始つても何も分りますまいがな、この先はどうなるといふ事を御存じですか、早く教祖さまにお詫をなされ』 と威丈高になつて、説諭するやうな気分で喋り立た。丁度宣戦の詔勅が下つた三日目である。そこで喜楽は自分の随筆と題した一冊の書物を出して、中村に示し、 喜楽『そんな事はとうから分つてゐるのだ、これを見てくれ、明治卅五年の一月にチヤンと明治卅七年の二月から日露戦争が起るといふ事が自分の筆でかいてある』 とそこを広げてつき出して見せると、中村は妙な顔をして、 中村『そんな角文字をまぜて、外国身魂で何程書いても、そんな事はここでは通用しませぬ、何にも知らぬ学のない神力ばかりの教祖のお筆先が尊いのです』 と木で鼻をこすつた様に、冷笑的に云ふ。そこで喜楽は、 喜楽『お前は明治卅三年にも今年に日露戦争が起るといひ、三十四年にも三十五年にも毎年、今年は日露戦争が起る、立替が始まる、目も鼻もあかぬ事が出来るというて居つたぢやないか、そんな予言でもしまひには当るもんだ』 といふと中村は威丈高になり、 中村『私は自分が言ふたのではない、勿体なくも艮大金神変性男子出口の神さまのお筆先に……今年は立替が始まる、露国との戦ひがある……と現はれて居るので、さういふたのです、つまり会長サンは教祖ハンの仰有つた事や神さまの御言をこなすのですか、あなたの御改心が遅れた為に御仕組がおくれたので御座いますぞ。会長サンが明治卅三年に改心が出来て居つたら、神さまは三十三年に立替をなさるなり、三十四年に改心が出来て居つたら、ヤツパリ三十四年に立替を遊ばす御仕組にチヤンと三千年前から決まつて居ります、自分の改心がおくれて神さまに御迷惑をかけ、御仕組を延ばして、世界の人民を苦しめておき乍ら、神さまがウソを言ふたよに仰有るのですか、そんな事を仰有ると、綾部には居つて貰へませぬ、何というても露国と日本との戦争が始まつたのですから、きつと日本は九分九りんまで、サア叶はぬといふ所まで行ますぞ、そうなつた所で綾部の大本から艮金神変性男子の身魂が大出口の神と現れて、艮めをさして三千世界をうでくり返し、天下太平に世を治めて、後は五六七の世松の世と遊ばすのですから、早く改心をして貰はぬと、お仕組の邪魔になりますぞや、三千世界の立替立直しの御用の邪魔を致した者は、万劫末代書きのこして、見せしめに致して其身魂を根の国底の国へおとすぞよ………と神さまがお筆先にお示しになつて居りますぞや、会長サンの改心が一日遅れたら世界の人民が一日余計苦しむといふ、あんたの身魂は極悪の身魂の因縁性来だから、何事も改心が一等ぞやとお筆に出て居ますぞえ』 と脱線だらけの事を云ひ並べて攻め立てる。会長は可笑しさをこらへて、 喜楽『自分が一日早く改心した為に三千世界の人間が一日早く助かるといふよな、善にもせよ悪にもせよ、そんな人物なら結構だが、自分等一人が如何なつた所で、世界に対して何の関係があるものか、余り訳の分らぬ事を云ふもんぢやない、そんな事を云ふから、綾部の大本は、気違の巣窟だとか、迷信家の寄合だとか、世界から悪罵されて、はねのけ者にされるのだ、チツとは考へて貰はぬと困るぢやないか』 と言へば中村は口をとがらし、 中村『おだまりなされ海潮サン何程うまく化けても駄目です。世間から悪くいはれるのがそれ程気にかかりますかな、何と気の小さい先生ですな、それだから変性女子は反対役だと神さまが仰有るのだ、世界中皆曇つて昼中に提灯を持つて歩かなならぬ暗がりの世の中になつてゐるのぢやから、世界の人民にほめられるよな教がそれが誠ですかい、トコトン悪くいはれてトコトンよくなる仕組ですよ、余りあんたは角文字や外国の教にこるから、サツパリ霊がねぢけて了うて、お筆先が分らぬのだ。チツとお筆先を聞きなされ』 と呶鳴りつけ乍ら、恭しく三宝にのせて来た七八冊の筆先をよみ始め出した。 喜楽は頭が痛くなつて来て、気分が悪くて仕方がない。そこで、 喜楽『其筆先なら何べんも聞いて居るから、聞かして貰はいでもよい、何もかも知つてゐる』 というや否や、 中村『コラツ小松林、お筆先が苦しいか、サア是からお筆先攻にして退かしてやろ、サア早く小松林、此お筆先を聞いて、トツトと会長サンの肉体を立去れ、そして其後へ変性女子の身魂坤の金神さまがお鎮まり遊ばすのだ、会長サンの肉体は、貴様のよな四足の這入る肉体だないぞ、コラ退かぬか』 と呶鳴りつける。村上や四方平蔵が傍から、 村上『コラ小松林、何を愚図々々してゐるのだ、早く会長の肉体を飛出して、園部の内藤へしづまらぬか、悪の霊の年の明きだぞ』 と三方から攻めかける。四方平蔵は口を尖らして、 四方『コレ小松林サン、お前サンもよい加減に改心をなさつたら如何どすか、お前サンの改心が出来ぬ為に、教祖さまが有るに有られぬ苦労をなされて厶るなり、役員信者が日々心配をいたし世界の人民が大変に苦しんで居るぢやないか、サア早く駿河の稲荷へ帰りなさい、ここは稲荷のよな下郎の寄る所ぢや厶いませぬぞや、水晶魂の誠生粋の身魂斗り集まつて御用を致す竜門館の高天原で厶いますぞや』 ウンウンと手を組で、三方から鎮魂をする、どうにも斯うにも仕方がないので、会長は、 喜楽『そんなら仕方がないから、小松林は今日限り、いんで了ふ、そして坤の金神さまに跡へ這入つて貰うて御用をして貰ひませう』 といふと、竹造が、 中村『コレ平蔵サン、用心しなされや、又園部のよにだまされるかも知れませぬで。悪神といふ奴は何処までもしぶとい奴だから、ウツカリしとると馬鹿にしられますで。本当に小松林は改心しとるのだない、偉相に笑うて居るぢやありませぬか、コラ小松林、そんな甘い事吐して、会長の肉体を使はうと思つても、此中村が承知をせぬぞ、サア何ぞ証拠を出せ、いよいよ会長の肉体を離れたといふ事を明かに示して、教祖にお詫を致さぬと、どこまでも許さぬのだ。モウ斯うなつた以上は三日かかつても、十日かかつても、会長の肉体から放り出さなおかぬのだい』 と四股をふんで雄健びをする、千言万語を尽して諭せば諭す程反対にとり、どうにも、かうにも始末がつかぬやうになつて来た。そこへ八木から福島久子がやつて来て、教祖さまに挨拶をし、終つて慌ただしく喜楽の前に来り、 久子『何とマア平蔵サン、お筆先は恐れ入つたもので厶いますな。とうとう露国と戦争が起つたぢやおへんか、まだ会長サンは御改心が出来ませぬのかい』 中村『コレはコレは福島ハンどすか、よう来て下さつた、神さまのお筆先は恐れ入つたもんどすな、こんな御大望が始つて居るのに、まだ小松林が頑張つて、会長サンの肉体を離れぬので、今皆の役員がよつて説諭をしとるのどすが、中々ど渋太うて聞いてくれませぬワ、どうぞあんたも一つ言うてきかして下さいな』 と福島の弁舌家に応援をさせようとかかつてゐる。又こんな口喧しい女にとつつかまつては大変だと思ひ、便所へ行くやうな顔して、ソツと裏口から飛出し、西町の大槻鹿造の宅へ一目散に逃て行つた。 大槻鹿造とお米サンとの二人が喜楽の走つて行つたのを見て、 大槻『会長サン、又喧嘩が始まつたのかな』 と笑うてゐる。 喜楽『八木の福島が今やつて来よつたので、うるさいから逃げて来たのだ』 といふと大槻鹿造は、 大槻『アハヽヽ又例の小松林サンかな、まアここに久子が八木へ帰る迄、ゆつくり泊りなさい。新宮の婆アさまも婆アさまだ、立替だの立直しだのと、第一それが私は気に食はぬのだ、大槻鹿造は大江山の酒呑童子のみたまだなんて、婆アさまが吐かすので、何奴も此奴も人を鬼扱ひにしやがつて、むかつくのむかつかぬのつて、外の婆アぢやつたら、此鹿造も承知をせぬのだけれど、何と云うてもお米や伝吉の母親なりするもんだから、辛抱してゐるのだ、本当にトボケ人足計り集まつたもんぢや、それよりも牛肉でもここでたいて食ひなさい、何れ久子か平蔵か中村が捜しに来るに違ないから、牛肉の臭で往生さしてやるのも面白かろ』 と幸ひ牛肉屋を開業してゐるので、店から三百目[※目は匁(もんめ)の略。300匁≒1125g]ほど上等を持つて来て、裏の離れでグヅグヅと煮いて食ひ始めた。そこへ中村が、 中村『大槻サン、会長サンはもしやここへ見えては居りませぬかな』 と裏口の方から尋ねて居る。鹿造はチツと耳が遠いので、明瞬分らなんだが、お米サンが、 お米『中村ハンか、マア這入つて牛肉でも食ひなさい、今会長に牛肉をすすめて食はしてる処ぢや、樫の実団子を食つたり、芋の葉のお粥を食つとるより、余程気がきいてるで、ここは大江山の酒呑童子と蛇との因縁の身魂の夫婦の所へ鬼三郎ハンが来て居るのだから、みたま相応で牛肉を食て居るのだから、お前もチと鬼の仲間入したらどうぢや』 と揶揄うてゐる。中村は鼻をつまみ乍ら、顔しかめて這入つて来て、 中村『御免なはれ、大槻サン、あんたは教祖ハンの御総領娘を女房に持つたり、結構な御子を貰うて居り乍ら会長サンにそんな事を勧めて済みますか、四ツ足を食はしたり、余りぢやおへんか』 と不足らしく呶鳴つてゐる。鹿造は笑ひ乍ら、 大槻『今の世の中は一日でも甘い物喰て、好きな事をするのが賢いのぢや、お前もチと改心して牛肉でも食て、元気をつけ、古物商でもやつて金儲けをし、立派な着物を着て甘いものでも食つたらどうだ、何程善ぢや善ぢやというてお前等一人位がしやちんなつても、誰も相手にする者がないぞ、会長サンは流石は能う分つとるワ、此時節に四足の肉が食へぬの何のと、そんな馬鹿な事をいふ奴がどこにあるものか、余程よい阿呆だなア』 とからかひ半分に呶鳴つてゐる。お米サンは又お米サンで、 お米『コレ中村ハン、お前は播磨屋の竹ハンというて、随分博奕もうち、女も拵へ、肉もドツサリ食た男ぢやが、さう俄に神さまにならうと思うたて、到底成れはせぬぞえ、あんな新宮の気違婆アさまにトボけて居らずに、チト明日から牛肉でもかついで、そこら売りに往つたら如何だい、誰か売りにやらさうと思うてる処ぢやが、五円がとこ売つて来ると一円位儲かるから、そしたらどうだな』 と厭がるのを知りつつ態とにからかうてゐる。中村は蒼白な顔になり、 中村『兎も角会長サンを返して下され、大本の御用をなさる因縁の身魂だから、こんな所へ来て貰ふと、だんだんに身魂が曇つて仕方がないと教祖さまが仰有りました、サア会長サン早う去にませう』 と引張らうとする。会長は、 喜楽『コレ中村はん、最前から牛肉を三百目かけて貰うて一人で食つて了うた、これは小松林が食たのだから、これから坤の金神さまに三百目程お供へしてから帰ぬから、教祖ハンや、お久ハンや、平蔵サンに宜しうというといてくれ』 とワザとに劫腹が立つので、からかうてみると中村は躍気となり、 中村『どうも身魂の因縁といふものは仕方のないもんぢやな、悪の霊の所へはヤツパリ悪がよりたがると見えます』 といふのを聞咎めて、鹿造は、 大槻『コレ中村、おれを鬼とは何だ、貴様に三文も損をかけた事もなし、貴様等に悪といはれる筋があるか』 といふより早く、二つ三つポカポカと拳骨をくれた。中村は、 中村『ナアに大和魂の生粋の、おれは身魂だから、酒呑童子の霊位に恐れるものか』 と言ひ乍らスタスタと新宮さして帰つて了つた。さうかうして居る所へ、園部の浅井みのといふ支部長がやつて来て、それから此処にグヅグヅして居つては又うるさいといふので、お米サンに何事も頼んでおき、日の暮頃から、園部へ行つて隠れて布教することになつた。 (大正一一・一〇・一八旧八・二八松村真澄録)
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霊界物語 42_巳_黄金姫&清照姫の入那の国の物語2 01 北光照暗 第一章北光照暗〔一一二六〕 神の御稜威も高照山の堅磐常磐の岩窟に 天降り坐したる北光彦の天の目一つ神司 さしもに猛き獣族まで伊豆の慈眼に救ひつつ 瑞の教を遠近に開かせたまふ尊さよ その妻神と現れませるこころも直なる竹野姫 朝な夕なの起ふしに諸の獣族を愛くしみ 美都の御霊の御教を体現しますぞ畏けれ 神の御綱に曳かれつつここに耶須陀羅姫の命 テルマン国の毘舎の家シヤールの夫の暴状に 堪り兼ねたる時もあれ忠誠無比の下男 リーダーの誠に助けられ夜を日に次いで入那国 蓮の川辺に来る折右守の司の放ちたる 数十人の手下等に取り囲まれて主従は 進退茲に谷まりしその一刹那後方より 声も涼しく宣伝歌聞え来ると思ふうち 諸国巡修の竜雲が此処に現はれ主従が 危難を救ひ寄手をば彼方の野辺に追ひ退りぬ 耶須陀羅姫とリーダーは危救の恩を謝しながら 竜雲司に守られて照山峠の麓まで 進みて来る折もあれ三五教の宣伝使 黄金姫や清照姫のその一行に邂逅して 北光神の伝言を聞きて歓び勇みつつ 袂を別つ右左狼巣ぐふ高照の 深山を指して三人は膝の栗毛に鞭を打ち 漸く谷を数越えて北光神の鎮まれる 岩窟館に着きにけり天の目一つ神司 竹野の姫も歓びてこの珍客を優待しつ 誠一つの三五の教を諭す時も時 黄金姫や清照姫の貴の命の計らひに 入那の城主と時めきしセーラン王はカル、レーブ その他の従者と諸共に駒に鞭打ち出で来り 又もや不思議の対面に日頃慕ひし相愛の 目出度き男女の語り合ひ実にも割無く見えにける 北光神は慇懃に天地の神の経綸を 心を籠めて宣り伝へさしもに寂しき岩窟も 萎れ切つたる夏草の白雨に蘇生せし如く 天国浄土の花咲きぬアヽ惟神々々 御霊幸はへましまして四十二巻の物語 車の轍もすらすらと進ませたまへ世を守る 畏き神の大前に謹み敬ひ願ぎ奉る。 北光の神なる天の目一つの神は白髯を撫でながら、セーラン王や耶須陀羅姫、竜雲その他を集めて、神界の御経綸や神示に就て綿密なる解釈を与へつつあつた。 セーラン『昨日より承はりました世界の終焉に就て、今一応詳細なる説明を御願ひ申上げ度きもので御座ります。瑞の御霊の御神示の中に、世の終りの来る時は其日の患難の後、直ちに日は暗く月は光を失ひ、星は空より墜ち、天の勢ひ震ふべし。其時、人の子の徴天にあらはる。又地上にある諸族は哭き哀しみ、且つ人の子の権威と大なる栄光とを以て天の雲に乗り来るを見む。又その使等を遣はし、ラツパの大なる声を出さしめて、天の彼の極みより此の極みまで、四方より其選ばれし者を集むべし……とあるのは、其言葉の通りに解すれば如何なもので御座りませうか、文字通りに解すべきものとすれば、最後の神の審判と云はれてある世界終焉の時に、是等の恐るべき事件が出現すると見なくてはなりませぬなあ』 北光神『この予言を以て教示の文字通りに解するものは可成沢山あるさうです。是等の人は日月光を失ひ、星は空より墜ち、主なる神の徴天に現はれ、又雲の中よりラツパを持つた天使は、瑞の御霊の救世主と共に、現実的に天より降り給ふものと思考して居るのみならず、見る限りの世界は悉く滅びて、茲に始めて新しき天地の出現を見得らるるものと早合点して居るのである。三五教の宣伝使の中に於ても、此の如く信じて居る人があるやうです。斯の如く信じて居る人は、神諭の微細なる所に至るまで密意の存在しある事を知らないのである。神諭の裡には文字の如く解すべき自然的世間的の事では無くして、心霊的、神界的の秘事を包含されて居る。一文一句のうちにも、一々内義を含ましめむために、悉く相応の理に由りて示諭されてある。故に神諭は、普通の知識や学問の力では、到底真解さるるものでは無い。是即ち神聖なる神諭たる所以である。 主なる神、大空の雲に乗りて来るとの神示も亦此内義に由つて、解釈すべきものである。 即ち暗くならむといふ日は 愛の方面より見たる救世主厳の御魂を表はし、 月は信の方面より見たる 救世主瑞の御魂を表はし、 星は 善と信との知識又は 愛と信との知識を表はし、 天上に於ける人の子の徴は 神真の顕示を表はし、 地上に於て哭き哀まむと云ふ諸族は 真と善、又は 信と愛とより来る万事を表はし、 天の雲に乗りて権威と栄光とを以て主即ち救世主の来らむといふのは、 神諭の中に救世主の現存することを表はし、 かねて其の黙示を表はし、 雲は 神諭の文字に顕はれたるを表はし、 栄光は 神諭の内に潜める意義を表はし、 天人のラツパをもちて、大なる声を出すというてあるのは、 神真の由りて来るべき天上界を表はしたものである。 この故に救世主の宣へる如上の言葉は、何の意義なるかと云へば、 教の聖場の終期に当りて 信と愛とまた共に滅ぶる時 救世主は神諭の内意を啓発し、神界の密意を現はし給ふといふ事である。目下の婆羅門教徒もウラル教徒も亦三五教徒も、殆ど全部知るものなしと謂つても良い位だ。実に宣伝使の職にあるものすら、神諭のわが解釈を否まむとする者計りだ。そして彼等の多くは曰ふ。『何者か、能く神界を探査し来りて、是等の事を語り得るものぞ』と。斯の如き説を主張する者、特に世智に長けたる人々の中に多々あるを見る。其害毒の或は真率純真の人に及ぼし、遂に其信仰の壊乱を来すの恐れあるを歎き、我は常に霊魂を浄めて天人と交はり、之と相語り合うたのである。天人と言語を交換する事、人間界と同様に神界より許されて、親しく天界に起る諸多の事件や地獄の有様をも見ることを許され、神界の真相を天下万民に伝へ示し、説き諭すに努めて居るのは、無明の世界を照破し、不信の災を除き去らむが為である。例へ神諭に天地が覆へると示してあつても、泥海になるとあつても、人間が三分になると示されてあつても、眩舞が来るとあつても、決して之を文字其儘に解すべきものでない。凡て内義的、神界的、心霊的に解すべきものである。さうで無くては、却て天下に大なる害毒を流布し、神慮を悩ませ奉る事になるものである事を承知せなくてならぬと思ふ。併し乍ら、是は北光一家の私言だ。脱線して居るかも知れぬ、アハヽヽヽ』 セーラン王『御懇篤なる御教示を蒙りまして、吾々も漸くにして迷夢を醒ましました。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と感涙に咽ぶ。ヤスダラ姫も竜雲も、其他の一同も息も継がず、北光神の示教を聴聞し、感謝の涙に暮れつつあつた。 北光神『サアサアセーラン王様、ヤスダラ姫様、レーブ、カル殿、是より入那の城に乗り込み、邪神を言向和すべく時を移さず出陣されよ。時遅れては大変だ。黄金姫、清照姫様も待つて居られます』 と平素落着き払つた神に似ず急き立てる。セーラン王は此の言葉に立上り、 セーラン王『重々の御親切に預かりました。然らば、是より三五教の言霊を以て、悪人を善道に導く首途に際し、神様に宣伝歌を奏上致しませう』 と銀扇を開いて、声も涼しく歌ひ始めた。その歌、 セーラン王『神が表に現はれて善神邪神を立別ける 天地を造りし神直日霊魂も広き大直日 只何事も人の世は神の御旨に任すのみ 怪しき卑しき人の身のいかでか正邪を覚り得む 大黒主の神司八岐大蛇の表現と 吾は心に思へども尊き神の摂理の下に 弱き身魂を救はむと邪神と顕現ましまして 試させ給ふも計られず他人を悪しと思はずに 吾身の罪を省みて日に夜に感謝の生活を 楽しむならば天地の神は必ず守るべし 吾身の罪悪の有様が写り給ひしものならむ あゝ惟神々々無抵抗主義の御教に 刃向ふ敵はあらざらめあらゆる曲津も醜神も 大蛇も凡て他にあらず執着心の雲深き 穢なき身魂に憑依して吾身の罪が自ら 吾身を苦しめ攻むるなりあゝ惟神々々 ヤスダラ姫と諸共に心の駒を立直し 邪神と悪みしカールチンテーナの姫は言ふも更 サマリー姫を憐れみて吾等に与へし無礼をば 直日に見直し聞き直し広き心に宣り直し 入那の国の民草を安く楽しく神国の 花咲く春の歓びに救ひて天津神国の 貴の消息や福音を導き諭し麻柱の 誠一つの御教に習はせ上下親しみて 常世の春を楽しみつ地上に降りし天国の 神の柱と仕ふべし北光神よ竹野姫 いざいざさらばいざさらば是よりお暇申し上げ 入那の都へ堂々と轡を並べて立帰り 国人等の心をば安んじ救ひ大神の 誠の教を伝ふべしあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 と歌ひ了り、用意の駒にヒラリと跨がり、一行七人は北光神夫婦に別れを告げ、手綱かいくり、山路を狼の群に送られ、ハイハイハイと駒を警しめながら高照山を降り、入那の都をさして進み行く。 (大正一一・一一・一四旧九・二六加藤明子録)
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霊界物語 43_午_玉国別と治国別1(玉国別の失明) 13 軍談 第一三章軍談〔一一六四〕 数十年の雨風に弄ばれて、屋根は飛散り柱は歪み、見るかげもなき古祠の前に、薄雲を被つてボンヤリ輪廓を不明瞭に現はした月の光を浴び乍ら、話に耽る七人の男があつた。これは勿論治国別、玉国別の一行である。 玉国別『治国別さま、昨日来の大風には随分お艱みでしたらうなア。それに又バラモン教の軍勢がやつて来たので、一段と御骨の折れたことでせう』 治国別『河鹿峠を此方へ下る折しも片彦、久米彦の軍勢と出会し、兎も角も屈竟の難所に陣を構へ、徐に言霊を打出した所、昨日の暴風に木々の木の葉が散る如く、隊伍を乱し、這々の体で逃げ散つて了ひましたよ。貴方は此森蔭に於て、キツと敵の潰走を待受け、言霊を打出しなさるだらう、両方より言霊の挟み打も面白からうと考へて居りました。そしてさぞ祠の森の前には沢山な帰順者が居るだらうと、イヤもう楽んで参りました。敵は此谷道を通らなかつたですか』 玉国別『ヤアもう残念なことを致しました。神様に神罰を蒙り、大怪我を致し、心気沮喪したと見え、雪崩の如く逃げくる敵を無念乍らも、皆取逃がして了ひました』 治国別『それは何とも仕方がありませぬ。何事も神界の御都合でせう。併し乍ら大怪我をなさつたとは……』 玉国別『ハイ猿の奴に両眼をかきむしられ、一旦は失明致しましたが、有難き御神徳によつて漸く片目を救はれ、此森蔭に休息して頭痛や目の痛みの癒るのを待つて居りました』 治国別『それは誠に気の毒千万、月夜とはいへ、余りボンヤリとしてゐて、お顔が見えませなんだが、ドレ一寸見せて下さい』 と云ひ乍ら、玉国別の顔を覗き込んだ。 治国別『ヤア大変だ。目のまはりがただれて居ります。余程きつく掻いたものと見えますなア』 玉国別『吾々が心の油断より自ら災を招いたのです。実に宣伝使として顔がありませぬ』 治国別『ここでは何だかきまりが悪いやうですが、どこぞ良い場所でゆつくり話さうぢやありませぬか』 玉国別『一町許り此森を登つて行きますると、恰好な休息所があります。実の所は今宵も其森蔭で養生がてら、敵軍の進むのを眺めて居りました』 治国別『そんなら、其森蔭の休息所までお供を致しませう』 玉国別『何れ又敵の残党が通過するやら、再び蒸し返しに来るやら分りませぬから、此処に二人程見張をさしておいて参りませうかなア』 治国別『オイ五三公、お前御苦労だが、此祠の前で暫く関所守をやつてくれないか』 五三公『ハイ承知致しました。玉国別さまの部下の方を一人拝借したいものですなア。なることならば私と能く馬の合ふ伊太公と関守を勤めませう』 玉国別『残念ながら伊太公は貴方にお渡しする訳には参りませぬ』 五三公『誰だつて同じことぢやありませぬか。私の先生も斯うして一人留守番をお命じになつたのだから、貴方だつて、伊太公の一人位ここにお残しになつても宜かりさうなものですなア』 道公『実の所は伊太公の奴、敵の捕虜となつて了つたのだ。これから吾々両人は伊太公を取返しに敵中へ飛込まふと思つてゐるのだが、何分先生が目を痛め、頭を痛めて厶るものだから行くことも出来ず、気が気でないのだ』 五三公『ヤアさうか、そりや大変だ。俺も先生の許しさへあれば伊太公の所在を尋ねに行きたいものだなア』 治国別『ヤア、玉国別さま、伊太公が敵の捕虜になつたのですか』 玉国別『残念ながら……』 治国別『ヤアそりや困つたことが出来たものだ。マアマアゆつくりと森蔭で御相談を致しませう。そんなら五三公、御苦労だが、お前一人ここに関守をやつてゐてくれ』 五三公『ハイやらぬことはありませぬが、何だか私一人捨てられた様な気分になりますワ。どうぞ晴公なりと残して下さいなア』 玉国別『イヤ宜しい、純公を此処に残して置きませう。オイ純公、お前御苦労なれど、五三公さまと臨時関守を頼む』 純公『承知致しました。どうしても私は雑兵だとみえて、将校会議に参列は許されないのですなア、敵を遠くに追ひちらし、稍小康を得たる此場合、仕方がありませぬから、私は五三公さまと又別働隊を造つて、将校会議を開設致しませう。サア、両先生初め道公、晴公、万公、ゆつくりと休んでおいでなさいませ』 玉国別『確り頼む。変つたことがあれば手を拍つて合図をしてくれ』 純公『万事呑込んで居ります』 玉国別『そんなら宜しう頼む』 と玉国別は先に立つて、以前の森蔭に登つて行く。 両宣伝使及び三人は木の葉の堆く積んだ上に蓑を敷き、言霊戦の状況や、懐谷の遭難の顛末などを包まず隠さず互に打明けて談じ合うてゐる。 此方は古祠の前、純公、五三公は近い西山に隠れた月を見送り乍ら、 純公『ヤア月様もとうとうアリヨースとお帰り遊ばした。どうも俄に山影が襲うて来たと云ふものか、暗黒界になつたぢやないか』 五三公『どうせお月さまだつて、同じとこに止まつていらつしやる道理がない。やがて又夜計りぢやない、夜明けも近付いたのだから、暫くグツとここで横はり、バラモン征伐の夢でも見ようぢやないか』 純公『お前寝たけら寝てくれ、関守がそんなことぢや勤まらないから、俺は此処に目をあけて職務忠実に勤めてゐる。ヤア言霊戦で随分お前も疲労れただらう、無理もない俺の蓑も貸してやるから、サア寝たり寝たり』 五三公『お前の寝られないのは、モ一つ原因があるのだらう。伊太公の行方が気にかかつてゐるのだらうがなア』 純公『それが第一の心配だ。一秒間だつて彼奴の事を忘れやうたつて、忘れられるものか。俺は斯うして安閑とここに関守を勤めてゐるものの、伊太公はエラい責苦に会はされてゐるかと思へば、如何して眠ることが出来ようぞ』 五三公『アハヽヽヽそれ程苦になるか。人の一人位如何なつてもいいぢやないか、貴様さへ安全にあつたら何よりも大慶だらう。たつた今迄ピチピチして居つた人間が死といふ魔風に吹かれて、ウンと一声冥土へ旅立ちする奴もあるのだ。何程貴様がハートに波を立ててもがいた所で如何する事も出来ぬぢやないか。そんな人の疝気を頭痛に病むやうな馬鹿な事は思はぬが良いぞ。終ひにや貴様の体まで毀して了ふぢやないか』 純公『貴様は余程良い冷血漢だなア。何程吾身が大事だといつて、友の危難を平気で見遁すことが出来ようかい。それが朋友の義務だ。否義務どころか情ぢやないか』 五三公『さう心配するな。伊太公は決して嬲殺になつたり、虐待されたりするやうな男ぢやない。彼奴はじゆん才な男だから、そこは甘く合槌を打ち、敵でさへも可愛がるやうな交際振を発揮してゐるよ。キツと敵に同情を受けてゐるに定つて居るワ』 純公『さうだらうかなア、それが本当ならば、俺もチツと許り安心だ』 五三公『伊太公はまた如何して捕虜になりよつたのだ。其顛末をチツと聞かして呉れないか』 純公『ウーン、俺達が先生とあの森蔭で休息してゐると、バラモン教の軍勢が此祠の前で休息し人員点呼までやつてゐやがるぢやないか。そして素盞嗚大神様を征伐すると云つて、ヒドイ進軍歌を歌つてゐやがるのだ。それを聞いて吾々三五教の信者が如何して堪へて居ることが出来ようか。……不意に飛んで出て、一人も残らず打懲してやらうと思つたが、何分先生の目が悪いものだから、一息も離れる訳に行かず、切歯扼腕悲憤の涙を流してゐると伊太公の奴堪りかねて、金剛杖を縦横無尽に打振り、命を的に敵中へ只一人飛び込んだきり、帰つて来ないのだ。実に残念なことをしたワイ。先生様のお止めなさるのも聞かずに行つたものだから、神様の罰で敵に捕はれよつたのだ。アヽ思へば思へば又悲しくなつて来たワイ』 五三公『何とした向意気の強い男だらうなア、後前も考へず、匹夫の勇を揮ふと、そんな目に会はねばならぬ。何事も先生の命令さへ、神妙に聞いて居れば良いのだのになア』 純公『久方の空に消えたる月みれば 友の身の上慕はるる哉。 吾友は今やいづくの何人に 救はれゐるか心許なし』 五三公『惟神尊き神に仕へたる 神の子ならば安くいまさむ』 純公『アーア、余りの心配で、歌を詠んでみようと思うたが、歌もハツキリ出ては来ないワ。先生はあの通り目をわづらひ、頭を痛め、伊太公は行方不明となり、何とした俺達の一行は、運の悪いものだらう、神様に見離されたのぢやあるまいかなア』 五三公『そんな事は吾々にや分らないワイ。善悪正邪を区別するのは神ばかりだ。それだから神が表に現はれて、善と悪とを立別けると、基本歌に出て居るのだ。兎も角も伊太公の為に、何神の祠か知らぬが、ここで祈ることにしようかい』 純公『ヤアそりや有難い、伊太公の為に祈つてやらうと云ふのか』 と涙声を出し乍ら、手を合せて暗祈黙祷をなすこと稍暫し、漸くにして夜はカラリと明けた。 慌てて谷間に落ちた二三頭の馬、主人の所在を索めてノソリノソリと急坂を下つて来た。 純公『ヤア敵の馬が逃げそそくれたと見えて、今頃にやつて来よつた。ヤア此奴ア、何奴も此奴も足を痛めてゐる塩梅だ。畜生といひ乍ら可哀相だなア。一つ神様に願つて馬の脚を直してやらうかなア』 五三公『俄に獣医でも開業する積りかなア、免状を持つてゐるか。今の時節は何程技能があつても免状がなければ駄目だぞ。どんな筍医者でも、開業試験といふ関門を何うなり斯うなり通過さへしておけば、立派なドクトルだ。何を云つても規則づくめの杓子定規の行方だからなア』 純公『アヽ馬の奴……皆さまお早うとも何とも吐さずに、俺達の好意を無にして通過して了ひやがつた、ヤツパリ畜生は畜生だなア』 五三公『純公、馬も助けてやるのは良いが、馬よりも大切な者があるだろ』 純公『いかにも、馬も助けねばなるまいが、第一先生の御病気を癒す様に鎮魂をせなくてはならなかつたなア。併し俺は畜生の鎮魂位が性に合うてゐるのだ。到底先生の御病気を鎮魂で癒すといふやうなこたア出来やしないワ』 五三公『誠心さへ天に通じたら、先生の病気だつてキツと癒るよ』 純公『さう聞けばさうかも知れぬなア、何だか知らぬが、気が落ちつかないワイ。斯う夜がカラツと明けては、此の坂路は稍安心だが、併し乍ら昨夜逃去つた敵の集団が、此谷路に吾々の前途を閉塞して、一人も残らず、虜にせむと、待構へてゐるやうな気がしてならないワ』 五三公『そりやキツトさうだらうよ。面白いぢやないか、エヽー。これからが吾々の真剣の舞台となるのだ、そんな弱々したこと言はずにチツと確りせぬかい』 斯く話す時しも、馬から転落し、足を傷つけた逃げ遅れのバラモン教の男、槍を杖につき、二人連でヒヨクリヒヨクリと跛をひき乍ら、此処へ現はれて来た。此二人は片彦将軍の秘書役ともいふべき、マツ、タツの両人であつた。二人は純公、五三公の祠の前に狛犬然と坐つてゐるのに気が着き、馴々しく、 マツ公『ヤア三五教の大先生、お早うさまで厶います。夜前は大変御苦労で厶いましたなア。随分御疲労になつたでせう。私も大変お疲労になりました。これ御覧なさいませ、一方のコンパスがチツと許り破損致しまして、此手槍をコンパス代用に、無理槍にここ迄下つて来た所です、此処でゆつくりと休んで行かうと思つて楽んで参りました。良い所でお目にかかりました。世の中は相身互だから、貴方も赤十字班の衛生隊と思召して吾々両人の看護をして下さいな。見れば貴方のお召物には丸に十がついてゐる。キツと白十字社の救護班と思ひますが、違ひますかな』 五三公『アハヽヽヽ此奴ア面白い吾党の士だ。オイ、コンパスの破損先生、ドクトルが一つ診察をしてやらう』 マツ公『イヤ其奴ア有難い、何分宜しう頼みます。敵と云ひ味方といふのも、人間が勝手につけた名称で、ヤツパリ神様の目から見れば皆兄弟だからなア』 純公『ヤアま一人負傷者があるぢやないか』 マツ公『ハイこれはタツと言ひまして、片彦将軍の秘書役ですよ。私も一寸新米ではあるが、夏でもないのに、ヒシヨ(避暑)をやつて居ります。アハヽヽヽ、まだまだ七八人の負傷者が谷底に呻吟してゐますから、一つ担架隊でも出して、此処まで持ち運び、此祠を臨時野戦病院として、治療を与へてやつて貰ひたいものですなア。三五教は敵でも助けるといふ教だと聞いたから、此マツ公もスツカリと気を許し、親の側へ帰つて来たやうな気分になりました』 何程憎い敵でも悪人でも、向ふの方から打解け、開けつ放しでやつて来られると人間といふものは妙なもので、何となく贔屓がつき、吾身を忘れて助けてやりたくなるものである。バラモン教のマツ公、タツ公は流石に片彦将軍の秘書を勤むる丈あつて、先んずれば人を制するといふ筆法を能く呑込んでゐた。其実は酢でも蒟蒻でもいかぬしれ者なのだ。五三公、純公もそんなことを知らぬ様な馬鹿ではないが、敵の方から斯う出られると、知らず識らずの間に受太刀にならざるを得ないのであつた。 五三公『三五教独特の鎮魂の妙術を施してやるから、先づそこで横になつて見よ』 マツ公『イヤ有難う、三五教の信者はさうなくてはならぬ。如何にも良い教だなア。博愛主義だ。あゝ敵乍ら霊幸倍坐世、カタキ乍ら霊幸倍坐世』 五三公『アハヽヽヽ此奴ア面白い奴だ。遺憾乍ら霊幸倍坐世。イヤイヤ乍ら霊幸倍坐世。仕方がない霊幸倍坐世』 マツ公『アハヽヽヽアイタヽヽヽ、余り笑ふと、骨に響いて痛くて仕方がないワ。オイ、タツ公、貴様も一つ治療を受けないか、何程大治療を受けても薬礼も要らず、入院料も要らぬのだから、嬶の湯巻まで六一銀行へ無期徒刑にやる必要もなし、極めて安全なものだぞ』 タツ公『俺の傷は余程深いのだから、さう直に治らうかなア』 五三公『さう心配をするな。俺の技術を信用してくれ。白十字病院長、死学博士だ、千人の患者を扱つたら、九百九十九人までは皆霊壇へ直し、墓場へ送るのだから、死学博士といふのだよ、随分偉い者だらう。そして天国へ復活さしてやるのだ。生かさうと殺さうと自由自在、耆婆扁鵲も跣足で逃げるといふ大博士だからなア。ウツフヽヽヽ』 マツ公『いい加減に洒落をやめて、早く俺の苦痛を助けて呉れないか。白十字病院の金看板を掲げ乍ら俺の苦痛を外にみて、仁術者の身分としてクツクツと笑ふ奴があるかい、エーン、余程此医者は筍と見えるなア』 純公『副院長の俺がタツ公の治療をするから、五三公さま否院長さま、貴方はマツ公を受持つて、完全無欠なコンパスにしてやつて下さい。どちらが早く癒るか一つ競走をやつて見ませうかなア。有名な死学博士計りがよつて居るのだからなア、アハヽヽヽ』 マツ、タツ一度に『ウツフヽヽヽ、アイタヽヽヽ、アハヽヽヽ、アイタヽヽヽ』 マツ公『コリヤ余り笑はして呉れない』 純公『笑ふのは病気の薬だ。笑ふ門には恢復来るといつてな、俺は笑はすのが得意だ。それが医術の奥の手だよ。イヒヽヽヽ』 マツ公『モシモシ院長さま、どうぞ早う治療にかかつて下さいな』 五三公『貴様の内には家もあるだろ。田地も倉も林もあるだらうなア』 マツ公『俺だつて片彦将軍の秘書役を勤める位だから、相当の地位も名望も財産も持つてゐるわい』 五三公『ウンさうか、其奴ア掘出し者だ。早速癒すと俺の商売が干上つて了うワイ。コーツと、いつやらの話だ……或所に医者があつた、大変ようはやる医者で、山井養仙さまといつて名高いものだつた、其奴に一人の山井養洲といふ弟子があつた。そこへ土地の富豪が病気に罹り養仙の薬を服用してゐた。少し快くなると又悪くなる、又快くなる又悪くなる。三年許りもブラブラして、養仙の薬を神のやうに思つて服薬してゐた。或時養仙が二三日急用が出来て、他行した不在の間に、書生の養洲奴其男を留守師団長気分で診察し、薬をもり与へた所、三日目にスツカリ全快してお礼にやつて来よつた。四五日たつと、養仙先生が帰宅したので、書生の養洲奴、したり顔で……先生あの松兵衛を、貴方の不在中私が診察して薬をもりましたら、三日目にスツカリ全快し、最早薬に親しむ必要がないから、お礼に来ましたと云つて、薬価を勘定し、チツと許り菓子料を置いて帰りました。これが菓子料で厶いますと差出し、褒められるかと思ひの外養仙は目に角を立て……大馬鹿者ツ、貴様は医者の資格はない……と呶鳴りつけた。そこで養洲がむきになり……医者は仁術といつて、人の病気を助けるのが商売ぢやありませぬか、何故お叱り遊ばすか……といへば、養仙は一寸ダラ助をねぶつたやうな顔して……貴様は馬鹿だなア。松兵衛の内にはまだ倉もある、家も山林田畑も残つて居るぢやないか、エーン、さう早く癒して何うなるか、彼奴の財産が全部俺の懐へ這入るまでは癒されぬのだ、バカツ……と言つたさうだ、実に偉い医者だ。其心得がなくては、如何しても院長にはなれないワ。さうだから俺も其養仙さまに做つて、貴様の負傷を如何ともヨウセンのだ、アハヽヽヽ、イヒヽヽヽ』 マツ公『エヘヽヽヽ、イヽイタイイタイイタイイタイ、ウツフヽヽアイタヽヽヽ』 タツ公『エヘヽヽヽアイタヽヽヽ』 純公『それ丈笑つたら、やがて本復するだらう。マア安心したがいいワ』 タツ公『オイ藪医先生、何時になつたら癒るだらうかなア』 純公『マアマア一寸予後不良だから、計算がつかぬワイ。すべて病には……エヘン……二大別がある。一を先天性疾病といひ、一を後天性疾病と云ふ。而して予後良あり不良あり、良不良を決し難きものありだ。治すべき病と、治すべからざる病と、治不治を決し難き病と、自然に放擲して置いて癒る病と四種類ある。それから内科外科産科と分れてゐる。又婦人科小児科といふのも此頃はふえて来た。そして薬には内服用外用と大別され、頓服剤も必要があり、食塩注射にモルヒネ注射、此頃は六〇六注射迄開けて来たのだ、エーン。随分医者になるのも学資が要るよ。(狂歌)千人を殺して医者になる奴は、己一人の口すぎもならず……といふのだから、俺だつて今まで九百九十九人まで殺してきたのだ。モ一人殺せば一人前の医者になるのだ。それだから丁度貴様を一人霊前に直す、有体にいへば殺すのだ。そこで始めて此純公も一人前のドクトルになるのだからなア。何とよい研究材料が出来たものだ。アハヽヽヽ』 マツ公『アハヽヽヽ何時の間にか俺の足痛は尻に帆かけて遁走したと見えるワイ。オイ、タツ公貴様もいい加減に癒つたら如何だ。イヒヽヽヽ』 五三公『コリヤなまくらな、足痛の真似をしてゐたのだな。仕方のない奴だ』 マツ公『さうだから、痛いか痛くないか診察してくれと云つたぢやないか。実の所は負傷者だといつて、お前達の同情を買ひ、ここを無事に通過する積りだつたが、余り貴様の言分が気にいつたから、何もかも白状するワ。実は全軍の逃走した後始末をつけて帰つて来たのだ。足はかうして繃帯で巻いてゐるが、チツとも怪我してゐないのだよ、のうタツ公、アハヽヽヽ』 五三公『アハヽヽこいつア誤診だつた』 マツ公『誤診か御親切か知らぬが、打診もないやうだつたね』 五三公『随分聴診にのつて大変な失敗をした。サア之から貴様も望診々々と行つたらどうだ。問診も道で片彦に会うたら、死学博士が宜しう言つて居たと言うて呉れ、アーン』 マツ公『オイオイ院長さま、なぜ鼻の下をさう撫でてゐるのだ。妙な恰好ぢやないか』 五三公『ウン之かい。髭はないけれど、気分だけは八の字髯を揉んでゐる積りだ。アハヽヽ』 純公『オイ、モウ病院遊びはやめにしようかい。そしてゆつくりと軍話でもしたらどうだ。随分面白いだらうよ』 マツ公『敗軍の将、兵を語る……かな。葬礼すんで医者話と同じ事だが、これも成行だ。ここで一つ物語をやつてみよう。随分潔いぞ、エツヘヽヽヽ』 五三公『何と気楽な奴が揃うたものだなア。丁度祠の前で四人打揃ひ、軍談を始めるのも面白からう。アヽ愉快だ愉快だ』 マツ公は講談師気取になつて長方形の岩の前に坐り、鉄扇にて岩をビシヤビシヤ叩き乍ら唸り出した。 マツ公『ハルナの都に名も高き、梵天帝釈自在天、大黒主といふ智勇兼備の勇将あり。それに従ふ英雄豪傑、綺羅星の如く立ち並び、中にもわけて大黒主の三羽烏と聞えたる鬼春別将軍、大足別将軍、マツ公将軍こそは英雄中の英雄なり。此度斎苑の館に天地に輝く神徳高き、酒の燗素盞嗚尊、数多の軍勢を引つれ、アブナイ教を組織して、大黒主の守らせ給ふ、天に輝く月の国、五天竺をば蹂躙し勢益々猖獗を極め天下は騒然として麻の如くに乱れ、人民塗炭の苦に陥りぬ。然る所へ、又もやデカタン高原の北方なるカルマタ国に、盤古神王塩長彦を奉じて現はれ出でたる、ウラル教の常暗彦が軍勢、雲霞の如く、地教山を背景とし、集まりゐる。今や天下は三分せむとするの勢なれば、何条以て大黒主の許し給ふべき、三羽烏を征夷大将軍に任じ、大足別はカルマタ国へ、鬼春別は斎苑館へ、テンデに部署を定め、進軍の真最中なり。秋は漸く深くして木々の梢はバラバラバラバラ、散りゆく無残の光景を心にもとめず、数多の軍勢率つれて、先鋒隊には片彦久米彦両将軍、あとから出て来る一部隊は、ランチ将軍、数千騎を率ゐ、最後の本隊は鬼春別将軍、全軍を指揮し、秋風に三つ葉葵の旗を林の如く翻し乍ら旗鼓堂々と攻め来る其物々しさ鬼神も驚く許り也。先陣に仕へし片彦将軍は今や河鹿峠の絶頂に、全軍を指揮し轡を並べ、蹄の音カツカツカツ、鈴の音シヤンコシヤンコと、威風堂々あたりを払ひ天地を圧して登り行く。百千万の阿修羅王が進軍も斯くやと思はれにける。然る所に豈計らむや、思ひがけなや、アタ恐や、三五教の宣伝使治国別、万公、晴公、五三公の木端武者を引つれ、一卒之を守れば万卒進む能はざる嶮路を扼し、神変不思議の言霊を速射砲の如く打かけ、向ひ来る其勢の凄じさ。不意を喰つて味方の軍卒、忽ち総体崩れ、狼狽へ騒いで、元来し道へと、馬を乗り棄て、風に木の葉の散る如く、バラバラバツと、群ゐる千鳥群千鳥、あはれ果敢なき次第也。無念の涙を押へ乍ら、バラモン軍の武運のつたなきを嘆き悲しみ、片彦将軍の秘書官、マツ公タツ公両人は、騒がず、焦らず悠々然として、戦場の後を片づけ、負傷者と詐つて、ここ迄やうやう帰りける。アハヽヽヽ、エー後は如何なりまするか、実地検分の上ボツーボツと講談仕りますれば、明晩は何卒十二分の御ヒイキを以て、賑々しく御来聴あらむことを希望いたします。チヨンチヨンチヨンだ』 五三公、純公、タツ公一度に大口をあけ、 五三公、純公、タツ公『アハヽヽヽ』 と腹を抱へ、転げて笑ふ。 (大正一一・一一・二八旧一〇・一〇松村真澄録)
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霊界物語 44_未_玉国別と治国別2 04 滝の下 第四章滝の下〔一一七三〕 初冬の空に輝く月の光は、河鹿川の谷間を落つる屏風の様な滝に懸つて、玉の如き飛沫をとばし、其飛沫には一々月が宿つて、星の飛ぶ様に見えて居る、ここは祠の森から三町許り下手である。滝の音を圧して、大声に笑ひさざめいてゐる三人の男ありける。 イル『オイ、イクにサール、今晩は怪体な晩ぢやないか。松公さまが兄貴に会ひ、根本の根本から三五教に帰順して了ひ、俺と一緒に巻込まれて了つたが、併し考へてみれば危ないものだぞ。何程三五教が、神力が強いと云つても、玉国別、治国別の一行〆て十人以内だ。ランチ将軍の率ゆる、数多の軍勢に進路を遮られ、何時迄も袋の鼠の様に祠の森近辺に退嬰して居つた所で、さう兵糧は続くまいし、今度は計画をかへて、捲土重来と、ランチ将軍が指揮の下に登つて来ようものならそれこそ大変だよ。俺達ア敵に帰順したと云つて、キツと槍玉にあげられるに違ない。三五教に帰順すればバラモン教から睨まれる。バラモン教の方へ行けば三五教から攻められるだらうし、イクにも行かれず、逃げるにも逃げられず、エライ、ヂレンマに係つたものだ。お前達は如何する考へだ』 イク『此イクさまの肚の中にはイクラも妙案奇策が包蔵してあるのだから、さう悲観したものぢやない。キツと三五教に帰順して居れば活路は開けるよ。此河鹿峠は敵味方勝敗の分るる所だ、が併し乍ら、此喉首を三五教に扼されて了つたのだから、仮令百万の兵士を引つれて、ランチ将軍が登つて来た所で、さう一度に戦へるものでなし、小口から将棋倒しにやられて了ふのは当然だ。それだから身の安全、霊の健全を保つ為に三五教にスーツパリと帰順したのだ。貴様はまだ迷うてイルのか、信仰心の足らない奴だなア。風呂の蓋でイル時にイラン、入らぬ時に入る代物だよ』 イル『それだと云つてヤツパリ人は先の事も考へておかねば、サア今となつて周章狼狽した所が、後の祭で仕方がないからのう』 サール『兎も角も吾々三人をお疑もなく、そこらを遊ンで来いと云つて解放してくだサールような寛大な度量のひろい宣伝使だから、キツと確信があるのだ。モウそンな馬鹿な事はいはずに神様に任しておく方が何程安心だか知れないなア。此滝水を見い、実に綺麗ぢやないか。此真白に光つた清らかな水で心の垢をサールと洗ひきよめ、月の光に照されて、自然の境に逍遥し、三人の親友が仮令半時でも、かうしてゐられるのは全く貴き神様の御恵だよ。あゝ有難い有難い。バラモン教であつたならば、何うして今に帰順した者に対し、自由行動をとらしてくれるものか、之を見ても教の大小が分るぢやないか。第一世の中を刃物を以て治めようなぞとは実に危険千万だ。おりや最う、バラモンのバの字を聞いても厭になつたよ。バのついたものに碌なものはありやしないよ。ババアにババにバケモノ、バクチにバンタ、バリにバカと云ふよなもので、穢い物計りだ。皆穴(欠点)のある奴ばかりがかたまつて居るのだからなア、俺だつてバラモン教へ這入つてから、世間の奴や友達に大変に擯斥されたよ。今ぢやバラモン教以外の奴アサール神に祟りありとか云つて、交際つてくれないのだからなア』 イル『バラモン教へ入信つてから人が附合はぬようになつたのぢやない、貴様は呑んだくれのバクチ打のババせせりのバカ者だから、世間の奴から排斥され、行く所がなくなつてバラモンへ入信つたのだろ。どうせ、バラモンへ入信るやうな奴ア、皆行詰り者だ。行詰つて約らぬようになつてから、つまらぬとは知り乍ら入信るのだからなア』 サール『さういへば、幾分かの真理がないでもないでごサールワイ。併し乍らイルだつて、さうだろ、世の中からゲジゲジの様に厭がられ、相手がなくて、バラモンへ沈没したのだから、余り大きな声で人の批評はせぬがよからうぞ。此世に用のない人間はバラモンへでも入信つて、日を送らねば仕方がないからなア』 イル『俺だつて、まだ世の中に必要があるのだ。イル代物だ。それだからイルと名がついてるのだよ。弓もイル、風呂にもイル、人の為には肝もイル。足の裏に豆をイル。……といふ重宝な哥兄さまだ。余りバカにして貰うまいか、こンな事を嬶が聞いたら一遍にお暇を頂戴しなくちやならないワ、なア、イク公』 サール『貴様偉相に言つてるが、女房がそれでもあるのか、サール事実ありとは根つから噂にも聞いた事がないぢやないか』 イル『女房が内に要るからイルと言ふのだ。嫁がイル婿がイルといつて、一軒の内にはなくてならぬのだ。併し乍ら俺はまだ年が若いから、女房の候補者はザツと二打ばかりあるのだが、まだ金勝要の神とやらが決定を与へてくれないので待命中だ』 サール『待命中なら月給の三分の二はくれるだらう。チツとサールにも分配したらどうだい』 イル『イヅレ金勝要神さまだから、金は沢山に持つて厶るよ。俺のは一遍にチヨビチヨビ貰ふのは邪魔臭いから、一時金として頂くように、天国の倉庫に預けてあるのだ。欲しければ貴様勝手に働いて力一杯取つたがよからう、イルだけ取らしてやらう』 かく話す所へ覆面の男二人、手槍を杖につき乍ら木蔭よりノソリノソリ現はれ来たり、黒頭巾は大喝一声「コラツ」と叫ぶを、三人は思はず声の方に視線を注げば二人の大男が立つてゐる。 イル『コレヤどこの奴か知らぬが、イル様が機嫌よく夜遊びをしてるのに、コラとは何だ、一体貴様は誰だい。大方三五教の目付だろ、俺は勿体なくも大自在天様の子分だ。清春山の番をしてゐる、イル、イク、サールのお三体様だぞ。サア是から貴様等両人をふン縛り、ランチ将軍の前へ連れて行くから、覚悟を致せ』 男(アリス又はサム)『今木蔭に於て汝等三人の話を聞けば、最早三五教に帰順しよつた反逆人、そンな言訳を致して、あべこべに此方を三五教の捕手呼ばはり致すとは、中々以て世智に丈けた代物だ、サアかうならば最早了見は致さぬ。此方はランチ将軍の目付役アリス、サムの両人だ。俺の武勇は天下に聞えて居るだろ。一騎当千の英傑はアリス、サムの事だ。サア覚悟をせい』 イル『アハヽヽヽ吐したりな吐したりな。アリス、サムの野郎、グヅグヅぬかすと、生言霊の発射をしてやらうか、モウ斯うなつてイル以上は隠すに及ばぬ、吾々三人は三五教宣伝使治国別の三羽烏だ。グヅグヅぬかすと手は見せぬぞ』 アリス『何と俄に噪ぎ出したものだのう。そして貴様等三人ばかりここにゐるのか。何か後押する者がなくては、貴様の口からそンな強い事が言へる筈がない。サア其事情を、ハツキリと申上げるのだぞ』 イル『大に後援者がアリスだ。イル丈イクらでも加勢をして下サールのだから、大丈夫だ。貴様のやうな弱将の下に仕へてゐるイルさまぢやない、サア美事生捕れるなら生捕つてみよ。今俺が呼子の笛を一つ吹いたが最後、数百万の獅子は唸りを立てて此場に現はれ、汝等が如き弱武者を木端微塵に噛み砕き、谷川を紅に染なす迄の事だ。サア吾々三人に指一本でもさへられるものならさへてみよ』 と捻鉢巻をし乍ら大の字に立はだかり、槍の切先も恐れず頬桁を叩いてゐる。 谷道の遥下方より坂を上り来る人声聞え来たるにぞ、アリス、サムを始め、イル、イク、サールの彼我一行は期せずして、其声に耳をすましける。 (ヨル、テル、ハル)『高天原の大空に常磐堅磐に輝ける 天王星の御国より下りましたる神柱 梵天帝釈自在天大国彦の大神を いつき祭つたバラモンの神の司の此処彼処 ハルナの都の神柱大黒主の御言もて 逍ひ巡る軍人斎苑の館に現れませる 神素盞嗚尊をば屠らむものとハルナ城 都を後に鬼春別の大将軍を始めとし ランチ将軍其外の表面ばかりは錚々と 強さうに見える軍師らが猛虎の如き勢で 河鹿峠の急坂を上りてウブスナ山脈の 大高原の斎苑館占領せむと思ひ立ち 片彦久米彦二柱先鋒隊の将軍と 選まれイソイソ進み行くモウ一息といふ所で 治国別の言霊に打たれて脆くも潰走し 今は是非なく山口の浮木ケ原の真中に 俄作りの陣営を構へて敵を捉へむと 手具脛引いて待ち居れり吾れは片彦将軍の 部下に仕へしテル、ハルよ負た戦の門番を 任され酒に酔ひ狂ひ思はず知らず脱線し 大黒主の身の上を口を極めて誹謗する 其場へヌツと現はれた大監督のヨル司 団栗眼を怒らして片彦下へわれわれを 引立て行かむと威しよる此奴ア鰌ぢやなけれ共 酒でいためてくれむぞと仁王の如く立つてゐる ヨルの左右に葡萄酒の瓶を見せつけつめよれば 流石のヨルも辟易しコローツと参つて了ふたり 二打ばかりの葡萄酒を瞬く内に平らげて 足もよろよろヨルさまはヨル辺渚の捨小舟 殺そと生かそとテル、ハルの瞬く内に掌中に 其運命を握られてくたばり返つた面白さ 流石のヨルもそろそろと酒に誘はれ本音をば 吹出し心の奥底を物語りたる其時の 吾等二人の驚きは譬ふる物もなかりけり いよいよこれから急坂だテルさまシツカリしておくれ オイオイ、ヨルさま気をつけて紐にしつかり取縋り 身の安定を保てよやづぶ六さまに酔ひつぶれ 二人に舁れて山坂を登つて行くとはこれは又 開闢以来の大珍事アイタタタツタ躓いた オイオイ、テルさまモウここでヨルをおろしたらどうだろう これから先は馬だとて容易に登ることは出来ぬ あゝ惟神々々御霊幸ひましませよ 旭は照る共曇る共月は盈つ共虧くる共 大黒主は強く共三五教の御道に 進みし上は千万の艱難苦労が迫る共 などや恐れむ敷島の清き涼しき神心 滝の流れに身を洗ひ霊を浄めて休息し 祠の森に隠れます神の司の御前に 進みて行かむ面白や祠の森に祀りたる 梵天帝釈自在天許させ玉へ吾々の 清き願を一言もおとさず洩らさず諾ひて 誠の道に進むべく守らせ玉へ惟神 世の大元の皇神の御前に感謝し奉る あゝ惟神々々御霊幸ひましませよ』 ヨル、テル、ハルの三人はランチ将軍の陣営を脱け出し、治国別一行に会ひ、バラモン教の策戦計画を密告し、自分も亦三五教の為に尽さむと、酒に酔ひつぶれた監督のヨルを山駕籠にて舁つぎ乍らやうやう滝の下まで登つて来た。此歌を聞くや否や、アリス、サムの両人は道なき山を駆け上り、何処ともなく姿を隠した。ここに彼我六人は暫し休息の上、祠の森を指して登り行く。 (大正一一・一二・七旧一〇・一九松村真澄録) (昭和九・一二・二二王仁校正)
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霊界物語 44_未_玉国別と治国別2 10 奇遇 第一〇章奇遇〔一一七九〕 万公、晴公、竜公はやつと胸撫で卸し、瘧の落ちたやうな顔をして女の顔を不思議さうに見守つて居る。松彦は何呉となく親切に女を労り、いろいろと慰安の言葉を与へて居る。治国別は気の毒さに頭を垂れ、目を瞬き涙をそつと拭ひながら、 治国別『承はれば貴女の家庭には悲惨の幕が下りたものですなア。そして黄金姫様に神様の話を聞かして頂き三五教の祝詞を奏上して居たために、バラモンに捕へられなさつたとは実に気の毒な事だ。併し乍ら御安心なさいませ。キツと貴女の両親は命に別条ありませぬよ。これから私が何とかして救ひ出して貴女にお渡し致しませう』 女は、嬉し涙を拭ひながら、 女(楓)『ハイ御親切によう云つて下さいました、あり難う厶います。神様に遇ふたやうに存じます。何卒憐れな私の境遇、お助け下さいませ。両親はキツと助かりませうかなア』 治国別『キツと助けてみせませう。御心配なさいますな。さうして貴女の両親の名は何と云ひますかな』 女(楓)『ハイ父の名は珍彦、母は静子と申します。そして私の名は楓と申します』 治国別『さうしてお前の尋ぬる兄の名は何と云ふのかなア』 楓『ハイ、兄の名は俊と申しました。其兄に廻り会ひたいばかりに、親子三人が広いフサの国を彷徨ひ、漸くライオン河の辺まで参つて……両親は老い、足の歩みも、はかばかしくないので、つひそこへ住居を定めて居たので厶います』 晴公は此女の物語を聞き、太き息をつき、口をへの字に結び、目を閉いで、頻りにウンウンと溜息を吐きながら、何か深き考へに沈ンで居る。 万公は勢ひよく、 万公『オイ晴公、何だい、こくめいな顔をしよつて、貴様が生ンだナイスぢやないか。仕様もない言霊を出して鬼女を生ンだと思へば何の事はない、天下無双のナイスだ。ちつと噪がぬかい、こンな時こそ貴様の威張る時だよ。 思ひきや鬼女と思ひし其影は 譬へ方なきナイスなりとは だ。本当に貴様は今夜の言霊戦の殊勲者だ。この女を発見して一つ手がかりを得、ランチ将軍の陣営を根底より覆へし神力を現はす機運が向いたのだ。何をウンウンと溜息をつくのだ。ちつと確りせぬかい、エーン』 晴公は力なげに、 晴公『アヽ済まぬ。如何したらよからうかなア』 と云ひながら豆のやうな涙をパラパラと降らして居る。折から十八夜の月は、河鹿山をかすめて上り初めた。森の中とは云へ全体的にホンノリと四辺は明くなつて来た。蝋燭の火はつぎ換へられた。 万公は元気よく、 万公『何だ晴公、貴様は泣いて居るのだな。三五教の宣伝使の卵が何だ、メソメソと吠面をかわくと云ふ事があるかい。俺が一つ活を入れてやらう確りせい』 と云ひながら拳を固めて二つ三つ晴公の背をつづけ打ちにした。 晴公『今あの楓の云つた兄と云ふのは俺だよ、この晴公だよ』 万公『何、お前があのナイスの兄貴か、ヨウさう聞くと、どこともなしに似よつた処があるやうだ。もし先生妙な事があるものですな。これもやつぱり神様のお引き合せでせう。晴公がしやうもない言霊を寝もせずに上げて居つたのを見て怪体な男だと怪しみながら寝て居ましたが、矢張り虫が知らしたので寝られなかつたのですな。兄妹の霊魂が交通したのでせうかな。ヤア晴公さまお目出度う。楓さまお目出度う。お祝ひ申します。私の先生もこの松彦さまと久し振りで兄弟の御対面なさつたのだ、何と人間の運命は分らぬものだなア、先生、本当に不思議ぢや御座いませぬか』 治国別『さうだなア、不思議な事もあればあるものだ。何れ宣伝使になるものは親兄弟に生き別れたり、再び世に立つ可からざる運命に陥つた者ばかりが神の恵に救はれて御用をして居るのだから、誰だつて其来歴を洗ひ曝せば、皆悲惨な者ばかりだよ。人間心に立ち帰つて考へ出した位なら一時も心を安むずる事は出来ないのだが、愛と信と神様の光明に照らされて地上の憂さを忘れて居るのだからなア』 と悄然として首垂れる。万公は涙声を態と元気らしく、 万公『先生貴方からそう悄気て貰つては、吾々は如何するのです。人の心霊は歓喜のために存在すると何時も仰有つたぢやありませぬか。どうやら貴方は歓喜去つて悲哀来ると云ふ状態ですよ。ちつと確りして下さいな』 治国別『イヤわしは歓喜余つての悲哀だ。つまり有難涙に暮れて居るのだ。神様の御恵を今更の如く感謝して居る随喜の涙だからさう心配をして呉れるな』 万公『私も歓喜の涙がアンアンアン溢れますわい。オンオンオンオイ晴公、いや俊さま、お前も嬉し涙が溢れるだらう。歓喜の涙なら堤防が崩れる処迄流したらよからう。アンアンアン余り嬉しくて泣き堪能が仕度いわい』 晴公は又涙声にて、 晴公『治国別の先生様有り難う厶います。何卒妹の身の上を宜しくお願ひ致します』 治国別『ウン私も満足だが、お前も嘸満足だらう』 楓『あなたは兄上で厶いましたか、妾は楓で厶ります。ようまあ無事で居て下さいました。どうぞお父さまやお母さまの命を救うて下さいませ。貴兄にこの事さへ知らして置けば楓は此儘死すとも此世に思ひは残りませぬ、あゝ惟神霊幸倍坐世』 晴公『妹随分苦労をしたであらうなア、俺だとて親兄妹の事を一時も忘れた事はない。雨の晨風の夕アーメニヤの空を眺め、両親は如何に、妹は如何にと、涙の種がつきる程どれ丈泣き暮らしたか知れない。治国別の宣伝使に拾はれて神様のお道に入り、歓喜の雨に浴し、「かへらぬ事を思ふまい」といつも心を紛らし、馬鹿口ばかりたたいて浮世三分五厘で表面は暮らして居るものの、恩愛の覊はどうしても切る事は出来ぬ。妹、俺も会ひたかつた』 と人目も構はず楓の体を抱きかかへ、一言も発し得ず泣き崩れて居る。勇みをつけむと治国別は立ち上り声も涼しく歌ひ出しぬ。 治国別『朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも曲津の神は荒ぶとも 誠一つの三五の教の道は世を救ふ 神が表に現はれて善神邪神を立て分ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 唯何事も人の世は直日に見直せ聞き直せ 身の禍は宣り直せ天地を造りたまひたる 誠の神のます限り信と愛との備はりし 誠の氏子の身の上を守りたまはぬ事やある 晴公楓の両人よ心安けく平らけく 神に任せよ千早振る尊き神の御恵に 親子兄妹廻り会ひ天国浄土の楽しみを 摂受し得るは目のあたり治国別は三五の 神の力を頼りつつ汝等二人の望みをば 必ず叶へ与ふべし神は汝と共にあり 吾等も神の子神の宮神に任せし身の上は 如何に悪魔の荒ぶとも如何でか恐れむ敷島の 大和心を振り興し四方の醜草薙払ひ 天地に塞がる叢雲を生言霊の神力に 吹き払ひつつ天つたふ月の光の清きごと 天津日かげの照る如く吾が神力を輝かし バラモン教の曲神を言向け和し歓楽の 海に真如の日月を浮べて歓喜の小波に 此世を渡す法の船心安けくおぼされよ いざこれよりは曲神の軍の砦に立ち向ひ 天津御神の給ひてし生言霊を打ち出して 天地清浄山川も木草の端に至るまで 歓喜の雨に浴せしめ救ひて往かむ惟神 神の御前に亀彦が治国別と現はれて 偏に願ひ奉るあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ。 今のぼる月の御光親と子の 身の行末を守らせたまへ。 今暫し時をまたせよ楓姫 珍彦静子の親に遇はさむ。 たらちねの親の恵は日月の 空に輝く光なるかも。 七里を照らすと云へる垂乳根の 親の光ぞめでたかりけり。 治国別神の命は村肝の 心の限り汝をたすけむ』 楓は唄ふ。 楓『たまちはふ救ひの神に遇ひしごと 吾は心も勇み来にけり。 有難き神の恵に照らされて 吾父母に遇ふ日待たるる。 吾兄に思はぬ処で廻り会ひ 嬉し涙のとめどなきかな。 三五の神を恨みし吾こそは 身の愚さを今ぞ悔いぬる。 垂乳根の親は如何にと朝夕に 胸迫りつつ神詣でせし。 父母を奪ひ去りたる曲神を 憎みしあまり醜業せしかな。 大空を照らして登る月影を 見るにつけてもうら恥かしき』 晴公『三五の恵の露に浴しつつ 浮世の夢を覚しけるかな。 妹と聞くより心飛び立ちて 抱きつきたくぞ思ひけるかな。 バラモンに捕へられたる父母の 身の行末を果かなくぞ思ふ。 さりながら神の恵は垂乳根の 身を隅もなく守りたまはむ。 垂乳根の父珍彦よ母の君よ 今兄妹が救ひまつらむ。 さは云へどか弱きわれの力ならず 産土山の神の恵みに。 治国別神の司に助けられ 吾垂乳根を救ふ嬉しさ。 曲神の如何程せまり来るとも 神の力におひ退けやらむ。 妹よ心安かれ三五の 神は吾等を見捨てたまはじ』 楓『有難し兄の命の言の葉を 胸にたたみて守りとやせむ。 アーメニヤ恋しき家をふり捨てて 逍ひし親子の身の果なさよ。 黄金姫神の司に助けられ またもやここに救はれにけり。 何事も皆神様の御経綸 見直し見れば憂き事もなし。 憂き事のなほ此上に積るとも 何か恐れむ神のまにまに』 松彦『月も日も大空に照る世の中は 曲のかくらふ隙はあらまし。 ランチてふ軍の司の前に出て 生言霊をたむけてや見む。 愛信の誠の剣振りかざし 曲のとりでを切りはふりなむ。 面白しあゝ勇ましき門出かな 神に仕へし軍司の』 万公『世の中に吾子に勝る宝なし 珍彦静子の心しのばゆ。 珍彦よ静子の姫よ待てしばし 救の神と現はれゆかむ。 ゆくりなく廻り会ひたる山口の 森は結びの神にますらむ』 竜公『常暗の森を照らして進み来る 怪しき影に驚きしかな。 さりながら世にも稀なるナイスぞと 悟りし時の心安けさ。 今となり身の愚かさを顧みて 顔の色さへ赤くなりぬる。 吾胸に醜の曲津の潜むらむ 正しき人をおぢ怖れけり。 村肝の心に潜む曲神を 払はせたまへ三五の神。 治国別神の司に従ひて 言霊戦に向ふ嬉しさ』 治国別『山口の森に休らひ兄妹の 名乗りあげたる事の床しさ。 片彦やランチ将軍何者ぞ 彼は人の子人の身なれば。 吾こそは神の御子なり神の宮 いかで恐れむ人の御子らに。 さりながら心高ぶる事勿れ 言霊戦に向ふ人々。 たらちねの親子兄妹廻り会ひ 抱き喜ぶ時の待たるる。 夜や更けぬ月は御空に上りましぬ いざいねませよ百の人達』 晴公『神司宣らせたまへる言の葉も 守るよしなき今日の嬉しさ。 村肝の心勇みて森の夜の 明けゆく空を待ちあぐむなり』 楓『なつかしき兄の命よ治国別の 神の司の御言守りませ さりながら妾も心勇み立ち ねるに寝られぬ今宵ばかりは』 治国別『兄妹の心はさもやあるべしと 直日に見直し聞き直しおく いざさらば万公五三公竜公よ 松彦共に一ねむりせよ』 松彦『吾兄の言葉にならひ人々よ よくねむりませ寅の刻まで』 斯く歌ひて治国別一行は、やすやすと眠りについた。晴公、楓の兄妹は嬉しさの余り一睡もせず辺りを憚り、ひそびそと長物語を涙とともに語り明かさむと此場を立出で兄妹は月光を浴びて森の外を逍遥する真夜中、初冬の月は皎々として満天に輝き、此森の外面は白く光つて居る。 (大正一一・一二・八旧一〇・二〇加藤明子録) (昭和九・一二・二七王仁校正)
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霊界物語 46_酉_小北山の宗教改革2 06 千代心 第六章千代心〔一二一六〕 竹公は立上り、演壇に登つて面をふくらし、錫の瓶からコツプに水を、ついでは飲みついでは飲み、オホン徳利の様な面をさらし、顎を斜に前の方へニユツとつき出し、両手で卓をグツと押へ、腰を弓に曲げながら、述懐を述べ始めた。 竹公『浮木の村に生れたる竹公さまとは私のこと 親の代から蓄へた資産は余り多くない さはさりながら夫婦等が一生遊んで暮すだけ 物質的の財産があつた所へお寅さま 朝も早うから飛んで来てウラナイ教の祝詞をば 声高々と唱へ上げコレコレモウシ竹さまよ 此世の立替始まつて悪の世界は滅亡し 世界は三分に減りますぞさうした後へ世を救ふ 五六七菩薩が現はれて結構な神世を立てなさる 之を神政成就と教祖のきみが申された 結構な事ではないかいなこんな時代に生れ来た 私は云ふも更なれどお前等夫婦のお霊は 昔の昔のさる昔此世の先祖とあれませる 国治立の神様の根本の根本の御系統 五六七成就の大神の霊がうつつて厶るぞや 物質的の財産を皆神様に献り 家をたたんで小北山大聖場に参上り 朝から晩まで結構な御用を遊ばす気はないか お前の家のお福さまこなたも結構なお霊だ 旭の豊栄昇り姫五六七神政成就の 尊き神の奥様だなぞと甘い事並べたて 枯木に餅がなるやうによい事づくめで云ふ故に 首を傾け思案する間もなくお福が手をふつて 突然起つた神憑旭の豊栄昇り姫 神の憑つた因縁の霊のお福ぢや竹公よ お前は五六七成就の皇神様の生宮ぞ 旭の申す神勅をもしも疑ひ反くなら きつい神罰当るぞや七生までも祟るぞと 現在女房の口をかりなだめつおどしつ言ふ故に 神はウソをば云はないと思ひ込んだが病みつきで 近所隣や親族のとめるも聞かず家倉を 二足三文に売飛ばし残らずお金にとりまとめ 何れ此世が替るのだ物質的の財宝は ガラガラガラガラメチヤメチヤと今になるのは知れてゐる 結構な神の御教を人より先に聞いたのは ヤツパリ身魂のよい故だコリヤ斯うしては居られぬと お寅婆さまのお言葉を一も二もなく承諾し 夫婦は茲にウラナイの信者の中の世話役と 選まれ朝から日暮まで碌でないもの食はされて 蕪大根芋牛蒡これを唯一の御馳走と 今まで勤めて来ましたがタク、テクさまやお菊さまの 今の話を聞くにつけどうやら眼がさめかけた 五六七成就の大神と得意になつてゐたけれど どうやら此奴ア怪しいぞ小北の山の古狸 俺の体を宿として巣ぐつてゐるに違ひない 女房お福の体にも古い狸が巣をくんで 天眼通だといひながら女房の眼をくらませつ 妙な所を見聞きさせ馬鹿にしてるに違ひない 思へば思へば恥しや騙したお寅さまは憎けれど これもヤツパリ昔から悪を働いた其酬い 今に現はれ来たのだろこんな事にて今迄の 罪や汚れがスツパリと払はれ清まる事ならば 真に安い代償だかうなる上は三五の 誠の神の御教を遵奉なして道の為 世人の為に真心を捧げまつらむ惟神 神の御前にねぎまつるお福よお前もこれからは 心をスツパリ立直し旭の豊栄昇り姫 なぞといふよな慢心を致しちやならない惟神 神に目ざめて竹公が一寸お前に気をつける あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 お千代は壇上に登り、小さき顔に笑を湛へながら歌ひ出した。 お千代『天地を造り給ひたる尊き誠の神様の 智慧と力に比ぶれば神の生宮人間の 知識と力は大海の水一滴に如かざらむ そは云ふものの人は又万の物の霊長だ 尊き神が守護して守り給へる上からは 決して曲の犯すべき道理はなかろ、あの様に 一心不乱に真心をこめて天地の神様を 祈り遊ばす上からは其信仰の力にて 八岐大蛇も醜鬼も金毛九尾も如何にして 犯さむ由もなかるべしこれの御山に集まれる 人は残らず世の中にすぐれて正しき人ばかり ちつとは理解のある方と思うて居たに情なや 子供の私の目にさへも分り切つたる詐りが 欲に迷うた魂にやてつきり誠と見えるそな 尊き誠の神様を朝から晩まで誹謗して 名もなき詐り神どもを立派なお宮の中に入れ 鬚面男が嬉しそに十能のやうな手を合せ 一生懸命に祈るさま横から眺めた其時は フツと吹出し笑ひこけ尻餅ついてべべよごし 松姫さまにお叱言を頂戴致した事もある ホンに人間といふものは身欲に迷うた其時は 二つの眼もくらみはて耳は塞がり曲事が 神の慈言に響くのか五官の作用は忽ちに 大変調を来しつつ肝腎要の心霊まで ねぢけ曇りてあとさきの見えぬ心の盲目と なつて憐れな生涯を送るに至るあはれさよ 松姫さまは朝夕に皆さま方の迷信を 払ひて誠の大道に救はむものと心をば 配らせ給ひ皇神の真の御名を讃へむと 心を焦ち給へども神素盞嗚大神や 豊国姫大御神かかる尊き神名を 公然唱ふるものならば蠑螈別が目をむいて 御機嫌殊に斜なり婆アさままでが尾について いかい小言を云ふ故にこらへ忍んで今日迄も 館を別になされつつ人に聞かさぬやうにして 誠の神を一心に祈つて厶つた甲斐あつて 今日はいよいよ天地を包んだ雲は晴れ渡り 誠の日の出神様が輝き給ふ如くなる 目出度き道の開け口謹みここに祝します 只何事も神様の深き仕組にあやつられ 曲津の神の手をかつてよせられ来たのに違ひない 心の曇つた人間を初めの中から正直な 誠ばかりを教へたら中々容易によりつかぬ それ故天地の神様は曲津のなすが儘にして 御目をとぢて黎明の来る時をば待たせつつ 迷へる魂を天国にお救ひ下さる有難さ これを思へば皆さまが今まで神に尽したる 事に一つも仇はない皆神様の御神業 立派に仕へまつりたる殊勲者なれば力をば 落さずとみに弱らさず益々勇気をほり出して 今日から身魂を立直し小北の山の神殿に 誠の神の御光が輝き渡るを待ちませう あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 喜久公は壇上に登り述懐を歌ふ。 喜久公『蠑螈別や魔我彦の神の司に従ひて 北山村を出立しやうやう此処に来てみれば 坂照山の急坂をコチコチコチと穿ちゐる 二人の親子がありました不思議と側に立ちよつて あなたは何れの神様かお名告りなされて下されと いと慇懃に尋ぬれば坊主になつた鶴嘴を 巌の上に投げ出して滴る汗をふきながら わしは丑寅金の神世におちぶれて今は早 いやしき賤の野良仕事そのひまひまに此山へ 登つて岩を打砕き尊き神の鎮座ます 下津岩根を親と子が朝夕穿つて居りまする わたしも卑しき首陀なれど大将軍の生宮だ 此子の霊は地上丸何だか知らぬが自ら 一人腕がうごき出しこれ程堅い岩山が いつとはなしに平坦な場所が沢山出来ました ここに神さまを祀つたらさぞや結構になりませう 此御言葉に蠑螈別魔我彦さまは手を拍つて 実に感心々々だこれが人間だつたなら どうしてここまで開けよぞてつきりここは聖地だろ 一先づ神に伺うて実否を尋ね探らむと 私の女房のお覚をば神のうつらす生宮と 定めて祝詞を奏上しうやうやしくも伺へば 女房のお覚は手をふつて声の色まで変へながら 喜久公しつかり聞くがよいお覚はお前の女房だが 木曽義姫の生宮ぞこれから神がかる程に 此聖場に立派なる神の御舎建つまでは 決して女房と思ふなよ夜のしとねも別にして 河鹿の川で水垢離夫婦が取つて御神業に 仕へてくれる事ならば喜久公さまの守護神を 天晴現はしやりませうといと厳かに宣り給ふ 八岐大蛇の守護神か金毛九尾の身魂かと 案じ煩ふ折もあれリントウビテン大臣の 因縁深き生宮と聞いたる時の嬉しさよ それより夫婦は朝夕に普請万端気を付けて 夜の目もロクに寝もやらず御用をつとめて参りました タク、テク、お寅さまの言ふ事を真とすれば吾夫婦 話にならぬ呆け方バカの骨頂を尽したと そろそろ腹が立ち出して神のお宮を小口から こはしてやらうと思ふ折年端もゆかぬお千代さまが 清明無垢の魂に尊き神がかかられて 善悪不二の道理をば教へ給ひし嬉しさよ モウ此上は何事も皇大神の御心に 従ひまつり一言も決して不足は云ひませぬ 其日々々を楽んでしつかり御用を致しませう ここに並みゐる皆さまよ定めて私のやうな事 思うて厶つたでありませう私にならひ之からは 只何事も神のまま謹み敬ひ御奉公 身もたなしらに励みませうあゝ惟神々々 神の御前に喜久公が迷ひの雲霧ふき分けて リントウビテンの称号を御返し申し民草の 一つの数に加へられ心の限り身のきはみ 尽しまつるを平けくいと安らけく聞しめせ 偏にこひのみ奉る』 (大正一一・一二・一五旧一〇・二七松村真澄録)
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霊界物語 47_戌_治国別の天国巡覧1 総説 総説 最上天界即ち高天原には、宇宙の造物主なる大国常立大神が天地万有一切の総統権を具足して神臨し給ふのであります。そして大国常立大神の一の御名を天之御中主大神と称へ奉り、無限絶対の神格を持し、霊力体の大原霊と現はれ給ふのであります。この大神の御神徳の完全に発揮されたのを天照皇大御神と称へ奉るのであります。そして霊の元祖たる高皇産霊大神は、一名神伊邪那岐大神又の名は日の大神と称へ奉り、体の元祖神皇産霊大神は一名神伊邪那美大神又の名は月の大神と称へ奉るのは、此物語にて屡述べられてある通りであります。又高皇産霊大神は霊系にして厳の御霊国常立大神と現はれ給ひ、体系の祖神なる神皇産霊大神は、瑞の御魂豊雲野大神又の名は豊国主大神と現はれ給うたのであります。この厳の御魂は再び天照大神と顕現し給ひて天界の主宰神とならせ給ひました。因に天照皇大御神様と天照大神様とは、その位置に於て神格に於て所主の御神業に於て大変な差等のある事を考へねばなりませぬ。又瑞の御魂は、神素盞嗚大神と顕はれ給ひ、大海原の国を統御遊ばす神代からの御神誓である事は神典古事記、日本書紀等に由つて明白なる事実であります。然るに神界にては一切を挙げて一神の御管掌に帰し給ひ宇宙の祖神大六合常立大神に絶対的神権を御集めになつたのであります。故に大六合常立大神は独一真神にして宇宙一切を主管し給ひ厳の御魂の大神と顕現し給ひました。扨て厳の御魂に属する一切の物は悉皆瑞の御魂に属せしめ給うたのでありますから、瑞の御魂は即ち厳の御魂同体神と云ふ事になるのであります。故に厳の御魂を太元神と称へ奉り、瑞の御魂を救世神又は救神と称へ又は主の神と単称するのであります。故に此物語に於て主の神とあるは、神素盞嗚大神様の事であります。主の神は宇宙一切の事物を済度すべく天地間を昇降遊ばして其御魂を分け、或は釈迦と現はれ、或は基督となり、マホメツトと化り、其他種々雑多に神身を変じ給ひて天地神人の救済に尽させ給ふ仁慈無限の大神であります。而して前に述べた通り宇宙一切の大権は厳の御魂の大神即ち太元神に属し、この太元神に属せる一切は瑞の御魂に悉皆属されたる以上は神を三分して考へることは出来ませぬ。約り心に三を念じて口に一をいふことはならないのであります。故に神素盞嗚大神は救世神とも云ひ、仁愛大神とも申上げ、撞の大神とも申し上げるのであります。この霊界物語には産土山の高原伊祖の神館に於て神素盞嗚尊が三五教を開き給ひ数多の宣伝使を四方に派遣し給ふ御神業は、決して現界ばかりの物語ではありませぬ。霊界即ち天国や精霊界(中有界)や根底の国まで救ひの道を布衍し給うた事実であります。ウラル教やバラモン教、或はウラナイ教なぞの物語は、大抵顕界に関した事実が述べてあるのです。故に三五教は内分的の教を主とし其他の教は外分的の教を以て地上を開いたのであります。故に顕幽神三界を超越した物語と云ふのは右の理由から出た言葉であります。主の神たる神素盞嗚大神は愛善の徳を以て天界地上を統一し給ひ、又天界地上を一個人として即ち単元として之を統御したまふのであります。譬へば人体は其全分に在つても、其個体にあつても千態万様の事物より成れる如く天地も亦同様であります。人間の身体を全分の方面より見れば肢節あり機関あり臓腑あり、個体より見れば繊維あり神経あり血管あり、斯くて肢体の中にも肢体あり部分の中に部分あれども個人の活動する時は単元として活動する如く、主神は天地を一個人の如くにして統御し給ふのであります。故に数多の宣伝使も亦主神一個神格の個体即ち一部分として神経なり繊維なり血管なりの活動を為しつつあるのであります。天人や宣伝使のかく部分的活動も皆主神の一体となりて神業に奉仕するのは恰も一個の人体中に斯の如く数多の異様あれども、一物としてその用を遂ぐるに当り、全般の福祉を計らむとせざるはなきに由る如きものであります。即ち全局は部分の為に、部分は全局の為に何事か用を遂げずと云ふ事はありませぬ。蓋し全局は部分より成り部分は全局を作るが故に、相互に給養し相互に揖譲するを忘れない。而して其相和合するや部分と全局とに論なく何れの方面から見ても統一的全体の形式を保持し且つ其福祉を進めむとせないものはない。是を以て一体となりて活動し得るのである。主神の天地両界に於ける統合も亦之に類似したまふのである。凡て物の和合するは各其為す所の用が相似の形式を踏襲する時であるから、全社会のために用を為さないものは天界神界の外に放逐さるるのは当然である。そは他と相容れないからであります。用を遂ぐると云ふ事は総局の福祉を全うせむために他の順利を願ふの義であり、そして用を遂げずと云ふは、総局の福祉如何を顧みず、只自家の為の故に他の順利を願ふの義である。此はすべてを捨てて只自己のみを愛し、彼はすべてを捨てて只主神のみを愛すと云ふべきである。天界にあるもの悉く一体となりて活動するは之が為である。而して斯の如くなるは主神よりするのであります。諸天人や諸宣伝使自らの故ではない。何となれば、彼等天人や宣伝使は主神を以て唯一となし、万物の由りて来る大根源となし、主神の国土を保全するを以て総局の福祉と為すからであります。福祉といふは正義の意味である。現世に在つて、国家社会の福祉(正義)を喜ぶこと私利を喜ぶより甚しく、隣人の福祉を以て自己の福祉の如くに喜ぶものは、他生に於ては主神の国土を愛して之を求むるものである。そは天界に於ける主神の国土なるものは、此世に於ける国家と相対比すべきものだからである。自己の為でなく、只徳の故に徳を他人に施すものは隣人を愛することに成るのである。天界にては隣人と称するは徳である。すべて此の如きものは偉人であつて、即ち高天原の中に住するものである。三五教の宣伝使は皆、善の徳を身に備へ、且つ愛の善と信の真とを体現して智慧と証覚とを本具現成してゐる神人計りである。何れも主の神の全体または個体として舎身的大活動を不断に励みつつある神使のみで、実に神明の徳の広大無辺なるに驚かざるを得ない次第であります。願はくは大本の宣伝使たる人は神代に於ける三五教の宣伝使の神業に神習ひ、一人たりとも主の神の御意志を諒解し、国家社会の為に大々的活動を励み、天国へ永住すべき各自の運命を開拓し、且つ一切の人類をして天国の楽園に上らしむべく、善徳を積まれむことを希望する次第であります。太元神を主神と云つたり、救世神瑞の御魂の大神を主神と云つたりしてあるのは前に述べた通り太元神の一切の所属と神格そのものは一体なるが故であります。読者幸に諒せられむことを。 附けて言ふ 主の神なる神素盞嗚大神は神典古事記に載せられたる如く大海原を知食すべき御天職が在らせらるるは明白なる事実であります。主の神は天界をも地の世界をも治め統べ守り給ふと言へば、大変に驚かるる国学者も出現するでせう。然し乍ら天界と言つても天国と云つても矢張り山川草木其他一切の地上と同一の万類があり土地も儼然として存在して居るのであるから、天界地球両方面の守宰神と言つても余り錯誤ではありますまい。天界又は天国と云へば蒼空にある理想国、所謂主観的霊の国だと思つてゐる人には容易に承認されないでせう。天国とは決して冲虚の世界ではありませぬ。天人と雖も亦決して羽衣を着て空中を自由自在に飛翔するものとのみ思つてゐるのは大なる誤解であります。天国にも大海原即ち国土があるのです。只善と真との智慧と証覚を得たる個体的天人の住居する楽土なのであることを思考する時は、主の神の天地を統御按配し給ふといふも決して不可思議な議論ではありませぬ。故に大海原の主宰たる主の神は天界の国土たると地上の国土たるとを問はず守護し給ふは寧ろ当然であります。 大正十二年一月八日 王仁識
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霊界物語 47_戌_治国別の天国巡覧1 18 一心同体 第一八章一心同体〔一二五一〕 高天原の霊国及天国の天人は、人間が数時間費しての雄弁なる言語よりも、僅に二三分間にて、簡単明瞭に其意思を通ずることが出来る。又人間が数十頁の原稿にて書き表はし得ざる事も、只の一頁位にて明白に其意味を現はすことが出来る、又それを聞いたり読んだりする処の天人も能く会得し得るものである。凡て天人の言語は優美と平和と愛善と信真に充ちて居るが故に、如何なる悪魔と雖も、其言葉には抵抗する事が出来ない。すべて天国の言葉は善言美詞に充たされてゐるからである。さうして何事も善意に解し見直し聞直し宣直しといふ神律が行はれてゐる。それから日の国即ち天国天人の言語には、ウとオとの大父音多く、月の国即ち霊国天人の言語にはエとイの大父音に富んでゐる。而して声音の中には何れも愛の情動がある。善を含める言葉や文字は多くはウとオを用ひ、又少しくアを用ふるものである。真を含んでゐる言葉や文字にはエ及びイの音が多い。そして天人は皆一様の言語を有し、現界人の如く東西洋を隔つるに従つて、其言語に変化があり、或は地方々々にいろいろの訛がある様な不都合はない。されども、ここに少し相違のある点は証覚に充された者の言語は、凡て内的にして、情動の変化に富み且つ想念上の概念を最も多く含んでゐる。証覚の少い者の言語は外的にして、又しかく充分でない。愚直なる天人の言語に至りては、往々外的にして、人間相互の間に於けるが如く、語句の中から其意義を推度せなくてはならぬ事がある。又面貌を以てする言葉がある。此言語は概念に依つて抑揚頓挫曲折の音声を発すが如きものにて其終局を結ぶものもある。又天界の表像を概念に和合せしめたる言葉がある。又概念を自らに見る様、成したる言葉もある。又情動に相似したる身振を以てなす語もある。此身振は其言句にて現はれる事物と相似たるものを現はしてゐる。又諸情動及諸概念の一般的原義を以てする言葉がある。又雷鳴の如き言葉もあり其外種々雑多な形容詞が使はれてある。 治国別、竜公は団体の統制者に導かれ、種々の花卉等を以て取囲まれた相当に美はしき邸宅に入る事を得た。此処は此団体の中心に当り他の天人は櫛比したる家屋に住んでゐるにも拘らず、一戸分立して建つてゐる。現界にて言へば丁度町村長の様な役を勤めてゐる天人の宅である。二人は案内されて奥の間に進むと、真善美といふ額がかけられ、そして床の間には七宝を以て欄間が飾られ、玻璃水晶の茶器などがキチンと行儀よく配置され、珊瑚珠の火鉢に金瓶がかけられてある。ここは第二天国に於ても最も証覚の秀れたる天人の団体であり、主人夫婦の面貌や衣服は特に他の天人に比して秀れて居る。治国別は恐る恐る奥の間に導かれ、無言の儘行儀よく坐つてゐる。此天人の名は珍彦といひ、妻は珍姫と云つた。珍彦は治国別の未だ現界に肉体があり精霊として神に許され、修業の為に天国巡覧に来りし事を、其鋭敏なる証覚に仍つて吾居間に通すと共に悟り得たのである。ここに珍彦は始めて治国別の知れる範囲内の言語を用ひて、いろいろの談話を交ゆることとなつた。 珍彦『治国別さま、あなたは未だ精霊でゐらつしやいますのですな。実の所は天国に復活なされた方と存じまして、其考へで待遇致しましたので嘸お困りで厶いましただらう』 治国別『ハイ、実の所はイソの館から大神様の命を奉じ、月の国ハルナの都に蟠まる八岐大蛇の悪霊を言向和すべく出陣の途中、浮木ケ原に於て、吾不覚の為ランチ将軍の奸計に陥り、深き暗き穴に落され、吾精霊は肉体を脱離して、いつとはなしに八衢に迷ひ込み、大神の化身に導かれ、第三天国の一部分を覗かして頂き、又もや木花姫の御案内に依つて、ここ迄昇つて来た所で厶います。何分善と真が備はらず、智慧証覚が足らない者で厶いますから、天人達の言語を解しかね、大変に面喰ひましたよ。丸で唖の旅行でしたワ。アハヽヽヽ』 珍彦『どうぞ、ゆるりと珍彦館で御休息下さいませ。今日は幸ひ、大神様の祭典日で厶いますれば、やがて団体の天人共が吾館へ集まつて参るでせう。其時は此団体に限つて、あなたの精霊にゐらせられる事を発表致します。さうすれば、吾団体の天人は其積りで、あなたと言葉を交へるでせう』 治国別『ハイ、有難う厶います。何分勝手を知らない愚鈍な人間で厶いますから……』 竜公『これはこれは珍彦様、偉い御厄介に預かりました。先生を何分宜しく御願致します』 珍彦『イエイエ、決して私があなたの御世話をしたのぢや厶いませぬ。又御厄介になつたなぞと礼を言はれては大変に迷惑を致します。何事も吾々は大神様の御命令のままに、機械的に活動してゐるので厶いますから、もし一つでも感謝すべき事があれば、直様大神様に感謝して下さいませ。すべて吾々は大神様の善と真との内流に依つて働かして頂くばかりで厶います。吾々天人として何うして一力で虫一匹助けることが出来ませう』 治国『成程、さすが天国の天人様、真理に明るいのには感服の外厶いませぬ』 珍彦『神様の御神格の内流を受けまして、実に楽しき生涯を、吾々天人は送らして頂いて居ります』 竜公『モシ珍彦様、此団体の天人は、何れも若い方ばかりですな。そしてどのお方の顔を見ても、本当に能く似てゐるぢやありませぬか』 珍彦『左様です、人間の面貌は心の鏡で厶いますから、愛の善に充ちた者同士同気相求めて群居してゐるのですから、内分の同じき者は従つて外分も相似るもので厶います。それ故天国の団体には余り変つた者が厶いませぬ。心が一つですからヤハリ面貌も姿も同じ型に出来て居ります』 竜公『成程、それで分りました。併しながら子供は沢山ある様ですが、三十以上の面貌をした老人は根つから見当りませぬが、天国の養老院にでも御収容になつてゐるのですか』 珍彦『人間の心霊は不老不死ですよ。天人だとて人間の向上発達したものですから、人間の心は男ならば三十才、女ならば二十才位で、大抵完全に成就するでせう、而して仮令肉体は老衰しても其心はどこ迄も弱りますまい。否益々的確明瞭になるものでせう。天国は凡て想念の世界で、すべて事物が霊的で厶いますから、現界に於て何程老人であつた所が天国の住民となれば、あの通り、男子は三十才、女子は二十才位な面貌や肉付をしてゐるのです。それだから天国にては不老不死と云つて、いまはしい老病生死の苦は絶対にありませぬ』 治国別『成程、感心致しました。吾々は到底容易に肉体を脱離した所で、天国の住民になるのは六ケしいものですなア。いつ迄も中有に迷ふ八衢人間でせう。実にあなた方の光明に照らされて、治国別は何とも慚愧に堪へませぬ』 珍彦『イヤ決して御心配は要りませぬ。あなたはキツト或時機が到来して、肉体を脱離し給うた時は、立派なる霊国の宣伝使にお成りなさいますよ。如何なる水晶の水も氷とならば忽ち不透明となります。あなたの今日の情態は即ち其氷です。一度光熱に会うて元の水に復れば、依然として水晶の清水です。肉体のある間は、何程善人だといつても証覚が強いと云つても、肉体といふ悪分子に遮られますから、之は止むを得ませぬ。併し肉体の保護の上に於て、少々の悪も必要であります。精霊も人間もヤハリ此体悪の為に現界に於ては生命を保持し得るのですからなア』 治国別『ヤ有難う、其御説明に仍つて、私も稍安心を致しました。あゝ大神様、珍彦様の口を通して、尊き教を垂れさせ給ひ、実に感謝に堪へませぬ。あゝ惟神霊幸はへませ』 竜公『天国に於ては、すべての天人は日々何を職業にしてゐられるのですか。田畑もある様なり、いろいろの果樹も作つてある様ですが、あれは何処から来て作るのですか』 珍彦『天人が各自に農工商を励み、互に喜び勇んで、其事業に汗をかいて、従事してゐるのですよ』 竜公『さうすると、天国でも随分現界同様に忙しいのですなア』 珍彦『現界の様に天国にては人を頤で使ひ、自分は金の利息や株の収益で遊んで暮す人間はありませぬ。上から下迄心を一つにして共々に働くのですから、何事も埓よく早く事業がはか取ります。丁度一団体は人間一人の形式となつて居ります。例へばペン一本握つて原稿を書くにも、外観から見れば一方の手のみが働いてゐるやうに見えますが、其実は脳髄も心臓肺臓は申すに及ばず、神経繊維から運動機関、足の趾の先まで緊張してゐる様なものです。今日の現界のやり方は、ペンを持つ手のみを動かして、はたの諸官能は我関せず焉といふ行方、それでは迚も治まりませぬ。天国では上下一致、億兆一心、大事にも小事にも当るのですから、何事も完全無欠に成就致しますよ。人間の肉体が一日働いて夜になつたら、凡てを忘れて、安々と眠りにつく如く、休む時は又団体一同に快よく休むのです。私は天人の団体より選まれて、団体長を勤めて居りますが、私の心は団体一同の心、団体一同の心は私の心で厶いますから……』 治国『成程、現界も此通りになれば、地上に天国が築かれるといふものですなア。仮令一日なりとも、こんな生涯を送りたいものです。天国の団体と和合する想念の生涯が送りたいもので厶います』 珍彦『あなたは已に天国の団体にお出でになつた以上は、私の心はあなたの心、あなたの智性は私の智性、融合統一して居ればこそ、かうして相対坐してお話をすることが出来るのですよ。只今の心を何時迄もお忘れにならなかつたならば、所謂あなたは、仮令地上へ降られても天国の住民ですよ。併しながら、あなたは大神様より現界の宣伝使と選まれ、死後は霊国へ昇つて宣伝使となり、天国布教の任に当らるべき方ですから、到底其時は、吾々の智慧証覚はあなたのお側に寄り付く事も出来ない様になりますよ。あなたが霊国の宣伝使にお成りなさつた時は、吾団体へも時々御出張を願ふ事が出来るでせう』 治国別『成程、さう承はればさうに間違ひは厶いませぬ』 竜公『先生、慢心しちや可けませぬよ』 治国別『イヤ、決して慢心でない、珍彦様の心は治国別の心と和合し、治国別の心は珍彦様と和合し、珍彦様は大神様の内流を受け、大神様と和合して厶るのだから、少しも疑ふ余地はない。お言葉を信ずればいいのだ。高天原には愛善と信真とより外には無いのだ。疑を抱くのは中有界以下の精霊の所為だ』 竜公『さうすると、あなたは已に天人気取りになつてゐるのですか、まだ精霊ぢやありませぬか』 治国別『已に天人となつてゐるのだ。珍彦様も同様だ』 竜公『ヘーン、さうですか、そら結構です、お目出度う、そして此竜公は何うですか、ヤツパリ天人でせうなア』 治国別『無論天人様だ。大神様の御内流を受けた尊き天人様だよ』 竜公『何だか乗せられてゐる様な気が致しますワ。モシ、先生、からかつちや可けませぬよ』 珍彦『アハヽヽヽ』 治国『ウツフヽヽヽ』 竜公『オホヽヽヽ』 治国別『コレ竜公、オホヽヽヽなんて、おチヨボ口をして女の声を出しちや、みつともよくないぢやないか』 竜公『木花姫様の御神格の内流によりまして、善と真との相応に依り、忽ち神格化し、竜公は何も知らねども、内分の神音が外分に顕現したまでですよ。オツホヽヽヽ』 三人の笑ひ声に引つけられて、勝手元に在つた珍姫は此場に現はれ来り、三人の前に手を仕へ、 珍姫『遠来のお客様、よくもゐらせられました。私は珍彦の妻珍姫と申します』 治国『何と御挨拶を申してよいやら、天国の様子は一向不案内、併しながら今珍彦様に承はれば、同気相求むるを以て、かく和合の境遇にありとのこと、さすればあなたの心は私の心、私の心は貴女の心、他人行儀の挨拶も出来ず、又自分と同様とすれば、自分に対しての挨拶も分らず、実は困つてをります』 珍姫『ハイ私も其通りで厶います。現界的虚礼虚式は止めまして、万年の知己、否同心同体となつて、打解け合うて、珍らしき話を聞かして頂きませう』 治国別『どうも現界の話は罪悪と虚偽と汚穢にみち、かかる清浄なる天国へ参りましては、口にするも厭になつて参りました。それよりも天国のお話を承はりたいもので厶います』 珍姫『ハイ、惟神の許しを得ましたならば、あなたが何程喧しいと仰有つても、如何なることを申上げるか分りませぬ。弓弦をはなれた矢のやうに、当る的に当らねばやまないでせう、ホツホヽヽヽ』 竜公『モシ珍姫さま、あなたは珍彦さまと服装が違ふ丈で、お顔はソツクリぢやありませぬか。ヨモヤ現界に於て双児にお生れになつたのぢやありますまいかなア』 治国別『コレ竜公、何といふ失礼なことを仰有る。チツトたしなみなさい』 竜公『それでも私の心に浮んだのですよ。思ふ所を言ひ、志す所をなすのが天国ぢやありませぬか。そんな体裁を作つて、現界流に虚偽を飾るやうなことは天国には用ひられますまい。天国は信の真を以て光とするのですからなア』 治国別『ヤ、恐れ入りました、アハヽヽヽ、天国へ出て来ると、治国別も失敗だらけだ。かうなると純朴な無垢な竜公さまは実に尊いものだな』 竜公『ソリヤ其通りです、本当に清らかなものでせう。ホツホヽヽヽ』 治国別『又木花姫の御神格の内流かな』 竜公『これは竜公の副守の外流ですよ。モシ珍彦さま、どうぞ私の今の言葉が天国を汚す様なことが厶いますれば直に宣り直します』 珍彦『滑稽として承はれば、仮令悪言暴語でも其笑ひに仍つて忽ち善言美詞と変化致しますから、御心配なさいますな。天国だつて滑稽諧謔が云へないといふことがありますか、滑稽諧謔歓声は天国の花ですよ』 竜公『ヤア有難い、先生、これで私も少し息が出来ますワイ』 治国別『ウン、さうだなア、何だか私は身がしまる様にあつて、何うしてもお前の様に洒脱な気分になれないワ』 竜公『ソラさうでせう、娑婆の執着がまだ残つて居りますからな。あなたは再び肉体へ帰らうといふ欲があるでせう。私は第三天国でいつたでせう、最早娑婆へは帰りたくないから、此処に居りたいと言つたことを覚えてゐらつしやいませう。私は仮令再び現界へ帰るものとしても、刹那心ですからなア。過去を憂へず未来を望まず、今といふ此瞬間は善悪正邪の分水嶺といふ三五教の真理を体得してますからなア』 治国別『大変な掘出物を、治国別は捉まへたものだなア』 竜公『本当に掘出物でせう。先生もこれだけ竜公に証覚が開けてるとは思はなかつたでせう。それだから人は見かけによらぬものだと現界でも言つてませう』 治国別『ハイ有難う、何分宜しう願ひます』 竜公『口先ばかりでは駄目ですよ。心の底から有難う思つてゐますか、まだ少しあなたの心の底には、竜公に対し稍軽侮の念が閃いてゐるでせう』 治国別『ヤ恐れ入りました、あなたは大神様で厶いませう』 竜公『大神様ぢや厶いませぬ。吾精霊に大神様の神格が充ち、竜公の口を通して、治国別にお諭しになつてゐるのですよ。時に珍彦さま、奥さまとあなたと双児の様に能く似た御面相、其理由を一つ説明して頂きたいものですなア』 珍彦『夫婦は愛と信との和合に依つて成立するものです。所謂夫の智性は妻の意思中に入り、妻の意思は夫の智性中に深く入り込み、茲に始めて天国の結婚が行はれるのです。言はば夫婦同心同体ですから、面貌の相似するは相応の道理に仍つて避くべからざる情態です。現界人の結婚は、地位だとか名望だとか、世間の面目だとか、財産の多寡によつて婚姻を結ぶのですから、云はば虚偽の婚姻です。天国の婚姻は凡て霊的婚姻ですから、夫婦は密着不離の情態にあるのです。故に天国に於ては夫婦は二人とせず一人として数へることになつてゐます。現界の様に、人口名簿に男子何名女子何名などの面倒はありませぬ。只一人二人と云へば、それで一夫婦二夫婦といふことが分るのです。それで天国に於て百人といへば頭が二百あります。これが現界と相違の点ですよ。君民一致、夫婦一体、上下和合の真相は到底天国でなくては実見することは出来ますまい。治国別様も竜公様も現界へお下りになつたら、どうか地上の世界をして、幾部分なりとも、天国気分を造つて貰ひたいものですなア』 治国『ハイ微力の及ぶ限り……否々神様の御神格に依つて吾身を使つて戴きませう。あゝ惟神霊幸倍坐世』 かく話す所へ、玄関口より一人の男現はれ来り、 男『珍彦様、祭典の用意が出来ました、サアどうぞ皆が待つて居ります。お宮まで御出張下さいませ』 珍彦『あゝ御苦労でした。直様参りませう。お二人さま、どうです、之から天国の祭典に加はり拝礼をなさつたら……』 治国別『お供致しませう』 竜公『天国の祭典は定めて立派でせう。竜公もお供が叶ひますかなア』 珍彦『ハイ、さうなされませ』 治国『もし叶はなかつたら、木花姫の神格の内流によつて、参拝すれば良いぢやないか、アハヽヽヽ』 竜公『ウーオーアー』 珍彦『竜公さま、どうぞお供をして下さい』 竜公『ハイ有難う』 (大正一二・一・一〇旧一一・一一・二四松村真澄録)
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霊界物語 48_亥_治国別の天国巡覧2 01 聖言 第一章聖言〔一二五五〕 宇宙には霊界と現界との二つの区界がある。而して霊界には又高天原と根底の国との両方面があり、此両方面の中間に介在する一つの界があつて、これを中有界又は精霊界と云ふのである。又現界一名自然界には昼夜の区別があり寒暑の区別があるのは、恰も霊界に天界と地獄界とあるに比すべきものである。人間は霊界の直接又は間接内流を受け、自然界の物質即ち剛柔流の三大元質によつて、肉体なるものを造られ、此肉体を宿として、精霊之に宿るものである。其精霊は即ち人間自身なのである。要するに人間の躯殻は精霊の居宅に過ぎないのである。此原理を霊主体従といふのである。霊なるものは神の神格なる愛の善と信の真より形成されたる一個体である。而して人間には一方に愛信の想念あると共に、一方には身体を発育し現実界に生き働くべき体欲がある。此体欲は所謂愛より来るのである。併し体に対する愛は之を自愛といふ。神より直接に来る所の愛は之を神愛といひ、神を愛し万物を愛する、所謂普遍愛である。又自愛は自己を愛し、自己に必要なる社会的利益を愛するものであつて、之を自利心といふのである。人間は肉体のある限り、自愛も又必要欠くべからざるものであると共に、人は其本源に遡り、どこ迄も真の神愛に帰正しなくてはならぬのである。要するに人間は霊界より見れば即ち精霊であつて、此精霊なるものは善悪両方面を抱持してゐる。故に人間は霊的動物なると共に又体的動物である。精霊は或は向上して天人となり、或は堕落して地獄の邪鬼となる、善悪正邪の分水嶺に立つてゐるものである。而して大抵の人間は神界より見れば、人間の肉体を宿として精霊界に彷徨してゐるものである。而して精霊の善なるものを正守護神といひ、悪なるものを副守護神と云ふ。正守護神は神格の直接内流を受け、人身を機関として天国の目的即ち御用に奉仕すべく神より造られたもので、此正守護神は副守護神なる悪霊に犯されず、よく之を統制し得るに至れば、一躍して本守護神となり天人の列に加はるものである。又悪霊即ち副守護神に圧倒され、彼が頤使に甘んずる如き卑怯なる精霊となる時は、精霊自らも地獄界へ共々におとされて了ふのである。此時は殆ど善の精霊は悪霊に併合され、副守護神のみ我物顔に跋扈跳梁するに至るものである。そして此悪霊は自然界に於ける自愛の最も強きもの即ち外部より入り来る諸々の悪と虚偽に依つて、形作られるものである。かくの如き悪霊に心身を占領された者を称して、体主霊従の人間といふのである。又善霊も悪霊も皆之を一括して精霊といふ。現代の人間は百人が殆ど百人迄、本守護神たる天人の情態なく、何れも精霊界に籍をおき、そして精霊界の中でも外分のみ開けてゐる、地獄界に籍をおく者、大多数を占めてゐるのである。又今日のすべての学者は宇宙の一切を解釈せむとして非常に頭脳をなやませ、研究に研究を重ねてゐるが、彼等は霊的事物の何物たるを知らず、又霊界の存在をも覚知せない癲狂痴呆的態度を以て、宇宙の真相を究めむとしてゐる。之を称して体主霊従的研究といふ。甚だしきは体主体従的研究に堕して居るものが多い。何れも『大本神諭』にある通り、暗がりの世、夜の守護の副守護神ばかりである。途中の鼻高と書いてあるのは、所謂天国地獄の中途にある精霊界に迷うてゐる盲共のことである。 すべて宇宙には霊界、現界の区別ある以上は、到底一方のみにて其真相を知ることは出来ない。自然界の理法に基く所謂科学的知識を以て、無限絶体無始無終、不可知不可測の霊界の真相を探らむとするは、実に迂愚癲狂も甚しといはねばならぬ。先づ現代の学者はその頭脳の改造をなし、霊的事物の存在を少しなりとも認め、神の直接内流に依つて真の善を知り、真の真を覚るべき糸口を捕捉せなくては、黄河百年の河清をまつやうなものである。今日の如き学者の態度にては、仮令幾百万年努力するとも、到底其目的は達することを得ないのである。夏の虫が冬の雪を信ぜない如く、今日の学者は其智暗く其識浅く、且驕慢にして自尊心強く、何事も自己の知識を以て、宇宙一切の解決がつくやうに、否殆どついたものの様に思つてゐるから、実にお目出度いといはねばならぬのである。天体の運行や大地の自転運動や、月の循行、寒熱の原理等に就いても、未だ一として其真を得たものは見当らない。徹頭徹尾、矛盾と撞着と、昏迷惑乱とに充たされ、暗黒無明の域に彷徨し、太陽の光明に反き、僅かに陰府の鬼火の影を認めて、大発明でもしたやうに騒ぎまはつてゐるその浅ましさ、少しでも証覚の開けたものの目より見る時は、実に妖怪変化の夜行する如き状態である。現実界の尺度はすべて計算的知識によつて其或程度までは考察し得られるであらう。併し何程数学の大博士と雖も、其究極する所は、到底割り切れないのである。例へば十を三分し、順を追うて、追々細分し行く時は、其究極する所は、ヤハリ細微なる一といふものが残る。此一は何程鯱矛立になつて研究しても到底能はざる所である。自然界にあつて自然的事物即ち科学的研究をどこ迄進めても、解決がつかないやうな愚鈍な暗冥な知識を以て、焉んぞ霊界の消息門内に一歩たりとも踏み入ることが出来ようか。口述者が霊界より大神の愛善と信真より成れる神格の直接内流や其他諸天使の間接内流に仍つて、暗迷愚昧なる現界人に対し、霊界の消息を洩らすのは、何だか豚に真珠を与ふる様な心持がする。かく言へば瑞月は癲狂者或は誇大妄想狂として、一笑に附するであらう。併し乍ら自分の目より見れば、現代の学者位始末の悪い、分らずやはないと思ふ。プラス、マイナスを唯一の武器として、絣や金米糖を描き、現界の研究さへも未だ其門戸に達してゐない自称学者が、霊界のことに嘴を容れて審神者をしようとするのだから、実に滑稽である。故に此『霊界物語』も之を読む人々の智慧証覚の度合の如何によつて、其神霊の感応に応ずる程度に、幾多の差等が生ずるのは已むを得ないのである。 宇宙の真理は開闢の始めより、億兆万年の末に至るも、決して微塵の変化もないものである。併し乍ら之に相対する人間の智慧証覚の賢愚の度によつて、種々雑多に映ずるのであつて、つまり其変化は真理そのものにあらずして、人間の知識そのものにあることを知らねばならぬのである。もし現代の人間が大神の直接統治し給ふ天界の団体に籍をおき、天人の列に加はることを得たならば、現代の学者の如く無性矢鱈に頭脳を悩まし、心臓を痛め肺臓を破り、神経衰弱を来さなくても、容易に明瞭に宇宙の組織紋理が判知さるるのである。 憎まれ口はここらでお預かりとして、改めて本題に移ることとする。茲に霊界に通ずる唯一の方法として、鎮魂帰神なる神術がある。而して人間の精霊が直接大元神即ち主の神(又は大神といふ)に向つて神格の内流を受け、大神と和合する状態を帰神といふのである。帰神とは、我精霊の本源なる大神の御神格に帰一和合するの謂である。故に帰神は大神の直接内流を受くるに依つて、予言者として最も必要なる霊界真相の伝達者である。 次に大神の御神格に照らされ、知慧証覚を得、霊国に在つてエンゼルの地位に進んだ天人が、人間の精霊に降り来り、神界の消息を人間界に伝達するのを神懸といふ。又之を神格の間接内流とも云ふ。之も亦予言者を求めて其精霊を充たし、神界の消息を或程度まで人間界に伝達するものである。 次に、外部より人間の肉体に侵入し、罪悪と虚偽を行ふ所の邪霊がある。之を悪霊又は副守護神といふ。此情態を称して神憑といふ。 すべての偽予言者、贋救世主などは、此副守の囁きを人間の精霊自ら深く信じ、且憑霊自身も貴き神と信じ、其説き教へる所も亦神の言葉と、自ら自らを信じてゐるものである。すべてかくの如き神憑は自愛と世間愛より来る凶霊であつて、世人を迷はし且つ大神の神格を毀損すること最も甚しきものである。斯の如き神憑はすべて地獄の団体に籍をおき、現界の人間をして、其善霊を亡ぼし且肉体をも亡ぼさむことを謀るものである。近来天眼通とか千里眼とか、或は交霊術の達人とか称する者は、何れも此地獄界に籍をおける副守護神の所為である。泰西諸国に於ては今日漸く、現界以外に霊界の在ることを、霊媒を通じて稍覚り始めたやうであるが、併し此研究は余程進んだ者でも、精霊界へ一歩踏み入れた位な程度のもので、到底天国の消息は夢想だにも窺ひ得ざる所である。偶には最下層天国の一部の光明を遠方の方から眺めて、臆測を下した霊媒者も少しは現はれてゐる様である。霊界の真相を充分とは行かずとも、相当に究めた上でなくては、妄りに之を人間界に伝達するのは却て頑迷無智なる人間をして、益々疑惑の念を増さしむる様なものである。故に霊界の研究者は最も霊媒の平素の人格に就てよく研究をめぐらし、其心性を十二分に探査した上でなくては、好奇心にかられて、不真面目な研究をするやうな事では、学者自身が中有界は愚か、地獄道に陥落するに至ることは想念の情動上已むを得ない所である。 さて帰神も神懸も神憑も概括して神がかりと称へてゐるが、其間に非常の尊卑の径庭ある事を覚らねばならぬのである。大本開祖の帰神情態を口述者は前後二十年間、側に在つて伺ひ奉つたことがある。開祖は何時も神様が前額より肉体にお這入りになると云はれて、いつも前額部を右手の拇指で撫でてゐられたことがある。前額部は高天原の最高部に相応する至聖所であつて、大神の御神格の直接内流は必ず前額より始まり、遂に顔面全部に及ぶものである。而して人の前額は愛善に相応し、顔面は神格の内分一切に相応するものである。畏多くも口述者が開祖を審神者として永年間、茲に注目し、遂に大神の聖霊に充たされ給ふ地上唯一の大予言者たることを覚り得たのである。 それから又高天原には霊国、天国の二大区別があつて、霊国に住める天人は之を説明の便宜上霊的天人といひ、天国に住める天人を天的天人といふことにして説明を加へようと思ふ。乃ち霊的天人より来る内流(間接内流)は人間肉体の各方面より感じ来り、遂に其頭脳の中に流入するものである。即ち前額及び顳顬より大脳の所在全部に至る迄を集合点とする。此局部は霊国の智慧に相応するが故である。又天的天人よりの内流(間接内流)は頭中小脳の所在なる後脳といふ局部即ち耳より始まつて頸部全体にまで至る所より流入するものである、即ち此局部は証覚に相応するが故である。 以上の天人が人間と言葉を交へる時に当り、其言ふ所は斯の如くにして、人間の想念中に入り来るものである。すべて天人と語り合ふ者は、又高天原の光によつて其処にある事物を見ることを得るものである。そは其人の内分(霊覚)は此光の中に包まれてゐるからである。而して天人は此人の内分を通じて、又地上の事物を見ることを得るのである。即ち天人は人間の内分によつて、現実界を見、人間は天界の光に包まれて、天界に在るすべての事物を見ることが出来る。天界の天人は人間の内分によつて世間の事物と和合し、世間は又天界と和合するに至るものである。之を現幽一致、霊肉不二、明暗一体といふのである。 大神が予言者と物語り給ふ時は、太古即ち神代の人間に於けるが如く、其内分に流入してこれと語り給ふことはない。大神は先づおのが化相を以て精霊を充たし、此充たされた精霊を予言者の体に遣はし給ふのである。故に此精霊は大神の霊徳に充ちて其言葉を予言者に伝ふるものである。斯の如き場合は、神格の流入ではなくて伝達といふべきものである。伝達とは霊界の消息や大神の意思を現界人に対して告示する所為を云ふのである。 而して此等の言葉は大神より直接に出で来れる聖言なるを以て、一々万々確乎不易にして、神格にて充たされてゐるものである。而して其聖言の裡には何れも皆内義なるものを含んでゐる。而して天界に在る天人は此内義を知悉するには霊的及び天的意義を以てするが故に、直に其神意を了解し得れども、人間は何事も自然的、科学的意義に従つて其聖言を解釈せむとするが故に、懐疑心を増すばかりで到底満足な解決は付け得ないのである。茲に於てか大神は、天界と世界即ち現幽一致の目的を達成し、神人和合の境に立到らしめむとして、瑞霊を世に降し、直接の予言者が伝達したる聖言を詳細に解説せしめ、現界人を教へ導かむとなし給うたのである。 精霊は如何にして化相によつて大神より来る神格の充たす所となるかは、今述べた所を見て、明かに知らるるであらう。大神の御神格に充たされたる精霊は、自分が大神なることを信じ、又其所言の神格より出づることを知るのみにして、其他は一切知らない。而して其精霊は言ふべき所を言ひ尽す迄は、自分は大神であり、自分の言ふことは大神の言であると固く信じ切つてゐるけれども、一旦其使命を果すに至れば、大神は天に復り給ふが故に俄に其神格は劣り、其所言は余程明晰を欠くが故に、そこに至つて、自分はヤツパリ精霊であつたこと、又自分の所言は大神より言はしめ給うた事を知覚し、承認するに至るものである。大本開祖の如きは始めより大神の直接内流によつて、神の意思を伝へ居ること及び自分の精霊が神格に充たされて、万民の為に伝達の役を勤めてゐたことを能く承認してゐられたのである。其証拠は『大本神諭』の各所に明確に記されてある。今更ここに引用するの煩を省いておくから、開祖の『神諭』に就いて研究さるれば此間の消息は明かになることと信ずる。 開祖に直接帰神し給うたのは大元神大国治立尊様で、其精霊は、稚姫君命と国武彦命であつた。故に『神諭』の各所に……此世の先祖の大神が国武彦命と現はれて……とか又は……稚姫君の身魂と一つになりて、三千世界(現幽神三界)の一切の事を、世界の人民に知らすぞよ……と現はれてゐるのは、所謂精霊界なる国武彦命、稚姫君命の精霊を充たして、予言者の身魂即ち天界に籍をおかせられた、地上の天人なる開祖に来つて、聖言を垂れさせ給うことを覚り得るのである。 前巻にもいつた通り、天人は現界人の数百言を費さねば其意味を通ずることの出来ない言葉をも、僅かに一二言にて其意味を通達し得るものである。故に開祖即ち予言者によつて示されたる聖言は、天人には直に其意味が通ずるものなれども、中有に迷へる現界人の暗き知識や、うとき眼や、半ば塞がれる耳には容易に通じ得ない。それ故に其聖言を細かく説いて世人に諭す伝達者として、瑞の御霊の大神の神格に充たされたる精霊が、相応の理によつて変性女子の肉体に来り、其手を通じ、其口を通じて、一二言の言葉を数千言に砕き、一頁の文章を数百頁に微細に分割して、世人の耳目を通じて、其内分に流入せしめむ為に、地上の天人として、神業に参加せしめられたのである。故に開祖の『神諭』を其儘真解し得らるる者は、已に天人の団体に籍をおける精霊であり、又中有界に迷へる精霊は、瑞の御霊の詳細なる説明に依つて、間接諒解を得なくてはならぬのである。而して此詳細なる説明さへも首肯し得ず、疑念を差挟み、研究的態度に出でむとする者は、所謂暗愚無智の徒にして、学で知慧の出来た途中の鼻高、似而非学者の徒である。斯の如き人間は已に已に地獄界に籍をおいてゐる者なることは、相応の理によつて明かである、斯の如き人は容易に済度し難きものである。何故ならば、其人間の内分は全く閉塞して、上方に向つて閉ぢ、外分のみ開け、その想念は神を背にし、脚底の地獄にのみ向つてゐるからである。而して其知識はくらみ霊的聴覚は鈍り、霊的視覚は眩み、如何なる光明も如何なる音響も容易に其内分に到達せないからである。されど神は至仁至愛にましませば、斯の如き難物をも、種々に身を変じ給ひて、其地獄的精霊を救はむと、昼夜御心を悩ませ給ひつつあるのである。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・一・一二旧一一・一一・二六松村真澄録)
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霊界物語 53_辰_ビクの国1(ヒルナ姫とカルナ姫) 14 女の力 第一四章女の力〔一三七七〕 久米彦将軍は、不性不精ながらもカルナ姫を吾事務室に引入れ、葡萄酒を出して互につぎ交し、軍旅の憂さを慰めて居る。総て陣中は女の影無きをもつて、如何なるお多福と雖も、女と云へば軍人は喉を鳴らし、唯一の慰安として尊重するものである。久米彦はヒルナ姫と見較べてこのカルナがどこともなく劣つて居るやうに思ひ、何だか鬼春別に負を取つたやうな心持がして、女の争奪に抜剣迄して大騒ぎをやつて居たが、事務室に帰つて来て二人差向ひ、互に意見を語り合つて見ると、贔屓か知らねども別にヒルナ姫と何処が一つ劣つたやうにも見えない、否却て優みがあり品格が備はり、どこともなく優れて居るやうに思はれて来た。久米彦は現になつて穴のあく程カルナの優しき顔を凝視め笑壺に入つて居る。 カルナ姫『もし将軍様、不思議な御縁で貴方のお傍にお仕へするようになりましたのは、全く神様のお引き合せで厶いませうねえ』 久米彦『ウン、さうだなア、お前のやうな愛らしいナイスとこんな関係になるとは、遉の俺も夢にも思はなかつたよ。実にお前は平和の女神だ、唯一の慰安者だ。否々唯一の救世主だ。益良雄の心を生かし輝かし、英雄をして益々英雄ならしむるものは、矢張女性の力だ』 カルナ姫『何と云つても女は気の弱いもので厶います。どうしても男には隷属すべきものですなア。何程恋愛神聖論をまくし立てて居つても、男の力にはやつぱり女は一歩を譲らなくてはなりませぬわ。併し乍ら女は男子に服従すべきものだと云つても程度の問題で厶いまして、理想の合はない男に添ふのは生涯の不幸で厶いますからな、どうかして自分の意志とピツタリ合つた男と添ひたいものと、現代の女は挙つて希望致して居ります』 久米彦『如何にも其方の云ふ通りだ。男のデヴアイン・イドムは女のデヴアイン・ラブに和合し、女の聖愛は男の聖智と和合した夫婦でなければ、真の夫婦とは云へないものだ』 カルナ姫『左様で厶います。意志投合した夫婦位世の中に愉快なものは厶いませぬなア。時に将軍様は戦争がお好きで厶いますか』 久米彦『イヤ戦争の如き殺伐なものは心の底から好かないのだ』 カルナ姫『それならお尋ね致しますが、将軍様は何故心にない軍人におなり遊ばしたので厶います。其点が妾には些とも合点が参りませぬわ』 久米彦『イヤ実は拙者もバラモン教の宣伝将軍で、神の仁慈の教を説くものだ。此度大黒主様の命令によつて、止むを得ず出陣致したのだ。実に軍人なんぞはつまらないものだよ』 カルナ姫『貴方は今宣伝使だつたと仰せられましたねえ』 久米彦『ウン其通りだ』 カルナ姫『それなら貴方は人を助けるのをもつて唯一の天職と遊ばすのでせうねえ』 久米彦『それや其通りだ。斯うして戦争を致すのも決して民を苦しむるためではない、天国浄土を地上に建設せむためだ』 カルナ姫『それでも貴方の率ゆる軍隊は民家を焼き人を殺戮し、ビクトリヤ城迄も滅し、王様を虜となさつたではありませぬか。ミロクの世を建設する所か、妾の浅き考へより見れば貴方は破壊者としか見えませぬがなア』 久米彦『アハハハ、建設のための破壊だ。破壊のための破壊ではない。そこをよく考へねば英雄の心事は分らないよ』 カルナ姫『貴方のお言葉が果して真ならば、ビクトリヤ城を一旦破壊されたる上は又建設なさるのでせうなア』 久米彦『尤もだ、直様建設を試み、国民を塗炭の苦しみより救ひ、至治泰平の世を来たす考へだ』 カルナ姫『そんなら貴方は、ビクトリヤ城の刹帝利や従臣などを捕虜になさつたさうですが、戦ひが治まつた以上は屹度解放なさるでせうなア』 久米彦『勿論の事だ。併し乍ら刹帝利其他の従臣を生かして置けば、又もや何時復讐戦を致すやら知れないから、気の毒乍ら王を遠島に送るか、末代牢獄に放り込むか致さねばなるまい、これも天下万民の為だ』 カルナ姫はハツと驚いたやうな振りをしてウンと仰向けに倒れて仕舞つた。久米彦は驚いて抱き起し顔に水を注いだり、耳許に口をよせて、オーイオーイと呼びかけて居る。カルナ姫は故意と息の止まつて居るやうな振を装ひ、暫くして目を開き四辺をキヨロキヨロ見廻し乍ら、 カルナ姫『アア偉い夢を見て居りました。貴方は久米彦将軍様、ようマア無事で居て下さいました。妾は本当に怖い夢を見たのですよ』 久米彦はこの言葉が何だか気にかかり、言葉急はしくカルナに向ひ、 久米彦『ああカルナ姫、お前は気絶して居たのだよ。まアまア結構々々、併し乍ら怖い夢を見たとはどんな夢だつた、一つ聞かして呉れないか』 カルナ姫『ハイ、申上げ度きは山々なれど、夢の事で厶いますから、お気を悪くしてはなりませぬから、これ計りは申上げますまい』 久米彦『これカルナ姫、さうじらすものではない。何でも構はないから云つて見よ』 カルナ姫『キツトお気にさへて下さいますなや、夢で厶いますからな』 久米彦『エエどうしてどうして夢なんかを気にさへるやうな馬鹿があるか、早く云つて見よ』 カルナ姫『そんなら申上げます、妾が気絶致しましてから随分時間が経つたでせうなア』 久米彦『何、今お前が卒倒したので直様、水をかけて介抱したのだ。先づ二分か三分間位のものだよ』 カルナ姫『そんな道理は厶いますまい、妾は少くとも、五六時間はかかつたやうに思ひます』 久米彦『それやお前、気絶してお前の精霊が霊界に行つたのだらう。霊界は想念の世界だから、延長の作用によつて五六時間だつたと思うたのだらう。実際は二三分間だ。サア早う云つて見やれ』 カルナ姫『妾は何処ともなく雑草の原野を唯一人トボトボ参りました。さうすると天の八衢と云ふ関所が厶いまして、そこには白い顔をした守衛と、赤い顔をした守衛とが厳然として目を光らして居りました。そこへ不思議な事には鬼春別様、貴方様の御両人が軍服厳めしくお越しになり、八衢の門を潜らうとなさつた時に、赤の守衛は「暫く待て」と呼止めました。さうすると両将軍は立ち止まり、「拙者はバラモン軍の統率者、鬼春別将軍だ、久米彦将軍だ」と、夫は夫は偉い元気で仰せになりました。さうする中に牛頭馬頭の沢山の冥官が現はれ来り、貴方方を高手小手に縛め一々罪悪の調を致しました。妾は其傍で慄ひ慄ひ聞いて居ると、先づ貴方様から訊問が始まりました。貴方も随分女を弄びなさいましたなア。さうして斎苑の館へ進軍なさつた事や、ビクトリヤ王を軍隊を向けて捕虜となし苦めたことや、数多の従臣を縛り上げ苦しめた事や、民家を焼き、且つ人を殺しなさつた事が調べ上げられましたよ。貴方は一々「其通りで厶います」と、大地に頭を下げ詫び入つて居られました。怖ろしい顔をした冥官は、節だらけの鞭をもつて頭部、面部、臀部の嫌ひなく、打ち据ゑます、貴方は、悲鳴をあげて叫んで居られます。それはそれは何とも云はれない惨酷い目に遇はされて居ましたよ。それから衡にかけられ、愈地獄行と定つた時の貴方の失望したお顔、私は見るも御気の毒に存じました。さうすると白の守衛が仲に入つて、「この男は今迄罪悪を犯して来たけれど、肉体はまだ現界に居るのだから、今地獄に堕す訳には往かぬ。命数つきて霊界に来るまで待つがよい」との事で厶いました。そこで貴方は非常に冥官に向つてお詫なさいました。そして其条件は「ビクトリヤ王をお助け申し、其他の従臣を解放し、刹帝利様を元の王位に据ゑ、自分はビクトリヤ王の忠良なる臣下として仕へますから」と仰有いましたら、冥官は忽ち顔を柔げ、「汝果して改心致すならば、今度来る時地獄往きを赦して、花咲き実る天国に遣はす程に、もしこの約に背いたならば剣の地獄に落すぞよ」と、夫は夫は厳しい云ひ渡しで厶いました。私は身も世もあられぬ思ひで慄ひ戦いて居ると、どこともなしに貴方の声が遠い遠い方から聞えて来たと思つたら目が醒めました。やつぱり夢で厶いました。何と不思議な夢では厶いませぬか』 久米彦『何と不思議な事を云ふぢやないか、自分の精霊は何時の間にか八衢に往つて居たと見える。いやそれが事実かも知れない、困つた事ぢやなア』 カルナ姫『どうぞ気にして下さいますな、夢の事で厶いますからな、併しあんな事が本当なら最愛の夫の身の上、悲しい事で厶います』 と目に袖を当て差俯向いて泣き出した。久米彦は双手を組み深い息を洩らし思案に暮れて居る。カルナは心中に仕済ましたりと喜びながら左あらぬ態に、 カルナ姫『もし将軍様、貴方は大層お顔の色が悪くなつたぢや厶いませぬか、妾の夢の中で見たお顔とそつくりで厶います。仕様もない夢の事を申上まして、御気分を悪くしてどうも相済みませぬ。お許し下さいませ』 と又もや泣声になる。 久米彦『イヤ俺も些と考へなくちやならぬ。お前の夢はきつと正夢だ。あまり勢に乗じて、部下の奴が余り乱暴をやり過ぎたと見える。併し部下の罪悪は将軍の責任だ。罪は将軍が負はねばならぬ。困つた事ぢやなア』 カルナはどこ迄も気を引くつもりで、 カルナ姫『もし将軍様、貴方は堂々たる三軍の指揮者、かやうな夢問題に御心配なさるには及びますまい、将軍は職責として或場合には民家を焼き、人を殺し、城を屠るのは止むを得ないぢや厶いませぬか。こんな事に心配しておいでなさつては、将軍として役目が勤まりますまい』 久米彦『お前は夢を見てから俄に鼻息が荒くなつたぢやないか、妙だなア。俺はお前の話を聞いて俄に未来が怖ろしくなつた。これや一つ考へねばなるまい、併し乍ら吾頭の上には鬼春別将軍が控へて居る。何程久米彦が善に立ちかへり、刹帝利を助けむと致しても、上官が首を横に振つたが最後、到底駄目だ。ああ引くに引かれぬ板挟みとなつた。どうしたら此解決がつくだらうかなア』 と又もや思案に沈む。 カルナ姫『貴方さう御心配には及ばぬぢや厶いませぬか、御決心さへ定まればその位の事は何でも厶いますまい。鬼春別様は妾の主人を妻に持つて居られますから、妾よりヒルナ様に申上げ、ヒルナ様より将軍様に申上げるようにすれば、比較的この問題は解決が早いでせう。それより外方法は厶いますまいなア』 と心配さうに故意と首を傾ける。 久米彦『遉はカルナ姫だ。よい所に気がついた。そんならこの問題は其方に一任する事にしようかなア。併し乍ら拙者は鬼春別将軍と何処ともなしに意志が疎隔して居る最中だから、何程ヒルナ様の諫言と雖も容易に聞くまい。ああ心配な事が出来て来たものだなア』 カルナは久米彦の顔を見て、稍嬉し気に打笑ひ、 カルナ姫『アア貴方のお顔は俄に輝いて来ました。何とまアよいお顔だこと、やつぱり貴方の霊に光が顕れて来たので厶いますなア。人間の顔は心の索引だと云ひますから、心に悪心あれば悪相を生じ、善心あれば、善美の相を現ずるものだと聞きましたが、今貴方のお顔の変相によつて、的確に聖哲の言葉を認識致しました。ああ益々麗しきお顔になられますよ。ああどうして妾はかかる尊い美しい夫に添うたのだらうか、盤古神王様、大自在天様、有難う存じます。何卒妾等夫婦を貴神の鎮まります高天原に、霊肉共にお助け下さいまして、現世も未来も、久米彦様と睦じく暮せますやう偏にお願ひ申上げます』 と誠しやかに祈願する。久米彦将軍はすつかりカルナ姫の容色と弁舌に巻込まれ、最早何事もカルナ姫の言とあれば、利害得失を考へず、正邪の区別も弁へず、喜んで聴従するやうになつて来た。実に女の魔力と云ふものは怖るべきものである。武骨一片のバラモンの名将軍も、美人の一瞥に会つては実に一耐りもなく参つて仕舞うたのである。ああ男子たるものは心を潜めて、女に注意せなくてはならぬものである。女は俗に魔物と云ふ、金城鉄壁をただ片頬の靨に覆へし、柳の眉、鈴の眼に田畑を呑み、家倉を跳ね飛ばし、男の命を取り、さしもに威儀堂々たる将軍を初め、数千の軍隊の必死の努力も、容易にメチヤメチヤに壊すものである。世の青年諸氏よ、敬愛なる大本の信徒よ、此物語を読んでよく顧み、虚偽的恋愛に身心を蘯かし、一生を誤る事なきやう注意されむ事を望む次第である。ああ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・二・一三旧一一・一二・二八於教主殿加藤明子録)