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霊界物語 36_亥_シロの島の物語 19 紅蓮の舌 第一九章紅蓮の舌〔一〇〇七〕 門番のベスは再び竜雲、ケールス姫の居間へ慌しく伺候し、恭しく両手をつかへ、 ベス『畏れながら申上げます。只今門前に現はれました、白髪異様の老人が、老人かと思へば平たくなつたり、長くなつたり、顔が四つも五つもあり、身体が背継ぎしたやうに見えたり、眼も鼻も随分沢山持つた化物が現はれました。何と云つても頑張つて帰らうとは致しませぬ。到底吾々門番の非力では追払ふ訳には行きませぬ。併し乍ら、飲めよ騒げよ一寸先は暗よ、暗の後には月が出る……と、ヘヽヽヽヽ随分気に入る事を云ひます。屹度あれはウラル教の神様が化けて御座つたのかも知れませぬ。善とも悪とも、たとへ方なきもので御座います』 竜雲はベスの言葉を聞き、暫く首を傾げて居たが、俄に口を尖らして、 竜雲『ベス、お前は大変に酩酊して居るではないか。目がチラチラして居るぞ。お前の酔うた眼で見たものだから、さう種々と姿が変つて見えたのであらう。決して化物ではあるまい』 ベス『ハイ、些し許り聞し召したもので御座いますから、眼の調子が狂つても居りませうが、何は兎もあれ、一風変つた人物で御座います。何卒お目通りをお許しになつて篤とお調べ下さいませ』 ケールス姫は傍より静な声にて、 ケールス姫『何は兎もあれ、其男を此処へ案内して来たがよからう』 ベス『ハイ、畏まりました』 とベスは座を立ち、ヒヨロリヒヨロリと廊下を危く踏み鳴らしながら表へ出て行く。暫くありて以前のベスは白髪の老人を導き、竜雲の前に恐る恐る現はれ、 ベス『唯今申上げました化物とは、これで御座います。どうぞ篤とお調べの上、ウラル教の神力をもつてお退治下さいませ。彼様なものが徘徊致すと吾々は門番も碌に勤まりませぬ』 竜雲『オイ、ベス、余計な事を申すな。早く立ち去れ!』 ベス『ハイ、オイ化州、確りやらないと駄目だぞ』 と口汚く罵りながら此場を立ち去つた。 老人『神地の都の城主、サガレン王の後を襲うて政治を執る竜雲とは其方の事か?』 と雷の如き大声を発して問ひかける。どこともなく底力のある声に、遉の竜雲も面喰つて後へ二足三足タヂタヂと退き、 竜雲『ハイ、仰せの通り竜雲は私で御座る。貴方は此竜雲に対し御訪問下さつたのは、如何なる御用で御座るか。さうして其御姓名は何と申さるるか、お聞かせを願ひ度い』 老人(天の目一つの神)『吾こそは三五教の宣伝使、天の岩戸開きの神業に仕へたる天の目一つの神で御座る。汝に対し訓誡を与へ度き事あれば、老駆ををかし遥々と此処に参りしものぞ』 竜雲は三五教と聞いて、些しく顔色を変じたが、何となく犯し難き其威貌に度肝をぬかれ、 竜雲『音に聞えし天の目一つの神様で御座いましたか。これはこれは遠路の処、ようこそ御入来下さいました。何卒々々至らぬ竜雲、宜敷く御指導をお願ひ申す』 天の目一つの神『アハヽヽヽ、随分其方も外交的手腕は立派なものだ、余程現代化して御座ると見える。併し乍ら竜雲殿にお尋ね致したい事が御座る。其尋ねたいと申すのは外でもない、サガレン王の今日の境遇だ。苟くもバラモン教の教司、一国の王者の身をもつて、山野に流浪し給ふやうになつたのは、何かの理由がなくては叶はぬ。此経緯を詳細に吾前に告白されたい』 竜雲『ハイ、これには種々の訳も御座いまするが、あまり込み入つての御干渉は迷惑千万、何卒此話は打ち切つて、三五教の教理を御教示あらむ事を希望致します』 天の目一つの神『ハヽヽヽヽ、吾々の干渉地帯でないから問うて呉れなと云はるるのかな。イヤ尤もだ、秘密の暴露を恐るるは人情の常だ。たつて辞退せらるるものを無理には強要致さぬ。併し乍らよく考へて御覧なされ!もしも此処に或王者があり、其王者には后があつて、夫婦相並び神を敬ひ政治をとり、円満に民を治めて居る。其処へ何処ともなく一人の妖僧が現はれ来たつて、其后を誑惑し、変つた信仰を強ひ、漸次にして其后の心を奪ひ、遂には畏れ多くも夫たり国王たる神司を、妖僧と共に腹を合して放逐し、後に晏然として其后を妻となし、自らは王者然として控へて居る悪逆無道の怪物ありとすれば、竜雲殿は如何思召さるるか。神の教を宣伝する宣伝使として是が黙過する事が出来ようか、如何で御座るアハヽヽヽ。之は要するに譬で御座れば、決してお気にさへられな。竜雲殿の明敏なる頭脳によつて、其解決を与へて貰ひたいのだ』 竜雲『ハイ、成る程六かしい問題で御座る』 天の目一つの神『六ケ敷き問題は問題だ。併し如何解決をつけたらよいかと聞いて居るのだ。イヤそこに俯むいて居るのはケールス姫殿で御座らう。其方の意見を承はらう』 ケールス姫『ハイ誠に恐れ入つた次第で御座います。何ともお答への致しやうが御座いませぬ。貴方の御判断にお任せ申すより、もはや手段は御座いませぬ』 天の目一つの神『今の中に心を改め、其方両人が、計略をもつて逐出したるサガレン王を探ね出し、茨の鞭を負うて王に心の底より謝罪をなし、其罪を清めなければ、天罰立所に至り、地震雷火の雨の誡めに遇ふは最早眼前に迫つて居る。両人早く決心をなさらぬと、其方が身辺の危険は刻々に迫りつつありますぞ。いらざる目一つの神が差出口とけなさるるならばそれ迄だ。目一つの神は此上両人に対して忠告すべき事はない。よく良心に尋ねて、最善の方法を取られたがよからう。縁あらば又もやお目にかからうも知れない。左様なら……』 と云ふより早く、コツンコツンと廊下に杖の音を響かせ、表を指して帰り行く。 竜雲、ケールス姫は、目一つの神の後姿を見送り、茫然自失為す処を知らず、顔色忽ち蒼白に変じ、太き溜息を吐いて居る。 三五教に仕へたる北光彦の宣伝使 天の目一つ神司松浦の郷を後にして 河森河を遡り神地の都に現はれて 心汚き竜雲やケールス姫に打向ひ 悪逆無道の行動を悔悟せしめて天国の 園に導き助けむと老の歩みもトボトボと 恐れげもなく進み来る門番ベスに伴はれ 奥殿深く進み入り竜雲ケールス両人に 向つて真理を説き諭し其改心を迫りおき 悠々として長廊下コツリコツリと杖の音 次第々々に遠ざかり何時の間にやら崇高な 神の姿は消えにけるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよサガレン王を初めとし 服ひまつる忠誠の神の司や信人を 誠の道にまつろひて天授の真理を悟らしめ 八十の曲津につかれたる竜雲ケールス両人を 尊き神の正道に眼を醒まさしめ朝夕に 神の教にまつろはせ百の司の御魂まで 洗ひやらむと雄々しくも守りも固き此城に 単身進み入りにける神の御霊の幸はひて 醜の曲津も影隠し天津御神のたまひたる 元つみたまに立ち帰り神人和合の天国を 神地の城の棟高く照らさせたまへ惟神 神のみ前に願ぎまつる。 二人は目一つの神の立ち去りし後にて、又もやひそひそと話に耽り居る。 ケールス姫『モシ竜雲さま、今見えた目一つの神様は三五教の宣伝使だと云はれましたが、何とマア御神徳の高い方でせう。お顔は目つかちで、何とはなしに見劣りがするやうですが、どこともなしに犯すべからざる威厳が備はつて居ました。かういふと済みませぬが、常々神徳高き竜雲様だと思つて居ましたが、傍に寄せるとまるで比べものにはなりませぬ。象の傍によつた猫のような気分が致しましたワ』 竜雲『是はしたり、余りと云へば余りの無礼ではないか。吾々を猫にたとへるとは不埒千万、それ程此竜雲が小さきものに見えるならば、なぜ其方は目一つの神を引き止めて夫となし、此竜雲を放逐せないのか』 と声を尖らせてゐる。 ケールス姫『何も貴方を疎外したのぢや御座いませぬ。目一つの神様の御神徳を讃へたので御座いますワ。貴方は見れば見る程、交際へばつきあふ程小さくなり汚くなり、弱くならつしやるやうですワ。こんな事なら、なぜ神徳高きサガレン王に背いたであらうかと、今更悔悟の念に堪へませぬ。此館は妾が住家、今はいい気になつて王者然と構へて居られますが、実際を云へば私の館、お気に召さねば何時なりと帰つて下さい』 竜雲『これケールス姫殿、其方は狂気したのか、其言霊は何で御座る』 ケールス姫『ハイ、一たん悪魔に誑惑され、大蛇のかかつた竜雲様に従つて居ましたが、今漸く病気全快しまして正気に立ち帰りました。もはや正気に立ち帰つた上は、今迄の罪が恐ろしく、又竜雲の悪心が憎らしくなつて来ましたよ』 竜雲『心機一転も甚だしいぢやないか。これケールス姫、よい加減に此竜雲を揶揄つて置くがよい。下らぬ事を云つてさう気を揉ますものではないよ』 ケールス姫『妾はもはや此世に生きて居る事は出来ませぬ。大罪を犯した者で御座いますから、潔く自殺を致します。仮令三日でも五日でも、縁あればこそ不義の契を結んだ妾、臨終の際にのぞんで一口忠告を致して置かねばなりませぬ。悪は何時迄も続くものではありませぬよ。貴方はこれから男らしく割腹して、サガレン王様に罪を謝すか、但は世捨人になつて再び難業苦業をなし誠の神の司とおなりなさるか、それは貴方の自由意志に任しませうが、たとへ如何なる事があつても、悪を企んだり策略を廻らしたり、今迄のやうに嘘をいつてはなりませぬよ。これが私の竜雲に対する忠告だ。此世に生きて何の詮もなし、左様ならば竜雲殿、お別れ致しますぞや』 と云ふより早く、懐中より懐剣をとり出し、今や喉にガバと許り突き立てむとす。竜雲は慌てて姫の手を確りと押へ、声を慄はせて、 竜雲『ケールス姫殿、暫し待たれよ。短気は損気、死なうと思へばいつでも死ねる。此竜雲も唯今限り改心を致すから、どうぞ死ぬ事だけは止めて下さい。可惜神地の城の名花を散らすは誠に惜しい、先づ思ひ止まつて下され』 と姫の手を力限りに握りしめて居る。 ケールス姫『イエイエ、何と云つて下さつても罪多き此体、死を選ぶより外に道はありませぬ。どうぞ其手を放して下さい!』 と身を藻掻く。其騒動を聞きつけて走り入つたる右守の神のハルマは、此体を見て打驚き、 ハルマ『竜雲様、姫様、尊き御身を持ちながら、何の不自由もなきに夫婦喧嘩をなさるとは、盤古神王様に対し畏れ多いでは御座らぬか。苟くも王者の身をもつて、俗人輩のなすが如き刃物三昧とは何事で御座るか』 ケールス姫は泣き声を絞りながら、 ケールス姫『ヤア其方は右守の神のハルマであらう。吾は決して竜雲殿と争ひはして居ない。余りの罪の恐ろしさに、自害をしようとして居るのだ。それを竜雲殿が執念深くも止めようとなさるのだから、どうぞ其方、私の頼みだ、竜雲殿の手を放させてお呉れ!』 ハルマ『これこれ姫様、自殺は罪悪中の大罪悪と申すぢやありませぬか。如何なる事情かは存じませぬが、私が此処へ現はれた以上は、決して死なしは致しませぬ』 と云ひながら、強力に任せて姫の手より剣を奪ひ、手早く窓を開けて眼下の谷川へ投げ捨つれば、竜雲はやれ安心と吐息を吐く時しも、慌だしく此場に馳来るテールは両手を仕へ、 テール『モシモシ、此城内に火災起り、非常な勢で火は風に煽られ、火炎の舌は瞬く間に城の大部分を舐尽し、早くも此館に延焼しました。サア早く、立退きを願ひます』 と云ふ間もあらず、黒煙濛々として四辺を包み、竜雲、ケールス姫、ハルマは、見る見る黒煙に包まれにける。 (大正一一・九・二三旧八・三加藤明子録)
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霊界物語 36_亥_シロの島の物語 22 春の雪 第二二章春の雪〔一〇一〇〕 神地の城は、天恵的に火の洗礼を施され、城内の悪魔は残らず退散し、すべての建造物は烏有に帰し、天清く風爽かに、土また総ての塵芥を焼き尽し、天清浄、地清浄、人清浄、六根清浄の娑婆即寂光土を現出した。 サガレン王の率ゐ来れる正義の人々をはじめ、城内に止まりて竜雲の頤使に甘んじ、知らず知らず邪道に陥り居たる数多の人々も残らず目を醒し、広き城の馬場に集まつて、何れも身に微傷だにも負はざりし神徳に感謝の涙を流しつつ、天の目一つの神の導師の下に、国治立大神、塩長彦大神、大国彦大神を斎くべく、俄作りの祭壇の前に、天津祝詞を奏上し、神徳を讃美し、悔い改めの祈願を凝らし、敵と味方の障壁もなく、宗教の異同も忘却して只管神恩を感謝するのみにして忽ち地上の天国は築かれけり。 神地の城は火の洗礼によりて、地上に一物も止めず烏有に帰したれども、サガレン王がまさかの時の用意にと、新に造り置きたる河森川の向岸の八尋殿は、未だ一人の住込みたるものもなきままに、完全に残されありしかば、サガレン王は一同の人々を率ゐて新しき八尋殿に立入り、都下の人々が先を争うて、火事見舞として奉りたる諸々の飲食を並べ一同を饗応し、且つ天の目一つの神、君子姫、清子姫を主賓として、感謝慰労の宴会を開く事とはなりぬ。 ケールス姫も竜雲も亦悄然として、此席に恥かしげに小さくなつて片隅に控へ居る。人の性は善なりとは宜なるかな、ケールス姫は一時、妖邪の気に迷はされ、心汚き竜雲が計略の罠に陥り、恐れ多くもわが夫たり君たる国別彦の神司を無視し、且つ放逐したる其悪業を心の底より悔い、身も世もあられぬ思ひにて、良心に責められながら、つつましやかに片隅に息を殺して畏まり居る。又竜雲も一時の欲に搦まれ、悪鬼邪神の捕虜となり、悪逆無道の醜業を繰返したることを深く悔い、今迄犯せし罪の恐ろしく心の呵責に身の置き処もなく、人々に顔を向ける勇気もなく、頭を下げて片隅に縮こまり居る。今迄の竜雲は大兵肥満にして、一見温良の神人の如く見え居たりしが、己が悪事を悔悟すると共に、深く身魂に浸み渡り居たる曲神の、身内より脱出し終りたる彼の身は、忽ち縮小し、萎微し、以前の如き気品もなければ、打つて変つた痩坊主の見るもいぶせき姿となりしぞ憐れなり。 これを思へば、総ての人は憑霊の如何によつて其身魂を向上せしめ、或は向下せしめ、善悪正邪、種々雑多の行動を知らず知らずに行ふものなるを悟らるるなり。神諭にも、 『善の神が守護致せば善の行ひのみをなし、悪の霊が其肉体を守護すれば悪の行ひをなすものだ』 と示されてあるは宜なりと謂ふべし。又悪魔は決して悪相をもつて顕現するものではなく、必ず善の仮面を被りて人の眼を眩ませ、悪を敢行せむとするものである。一見して至正至直の君子人と見え、温良慈悲の聖者と見ゆる人々にも、また柔順にして女の如く淑やかに見ゆる男子の中にも、悪逆無道の行ひをなすものがあるのは、要するに悪神の憑依して、其人の身魂を自由自在に使役するからである。又一見して鬼の如く、悪魔の如く恐ろしく見ゆる人々の中に、却て誠の神の身魂活動し、善事善行をなすものも非常に沢山あるものである。故に人間の弱き眼力にては到底人の善悪正邪は判別し得らるるものでない。人を裁くは到底人の力の能くし能はざる処、これを裁く権力を享有し給ふものは、只神様計りである。故に三五教の宣伝歌にも、 『神が表に現はれて善と悪とを立て別ける』 云々と宣示されてあるのである。漫りに人の善悪正邪を裁くは所謂神の権限を冒すものであつて、正しき神の御目よりは由々しき大罪人である。又心魂の清く行ひの正しき人が一見して其心の儘が現はれ、至善至美至直の善人と見ゆる事もある。又心の中の曲り汚れて悪事をなす人の肉体が、一見して悪に見え卑劣に見える事もある。総ての人の容貌は心の鏡であるから諺にも云ふ通り、 『思ひ内にあれば色必ず外に現はる』 の箴言に漏れないものも沢山にある。然るに凶悪獰猛なる邪神は容易に其醜状を憑依せる人の容貌に現はさず、却つて聖人君子の如き面貌を表はし、悪を行ひ世人を苦しめ、以て自ら快しとする者も沢山にある。故に徒に人の容貌の善悪美醜を見て其人の善悪や人格を品評する事は到底不可能なる事を考へねばならぬ。 千変万化、変幻出没極まりなく、白昼に悪事を敢行するは悪魔の得意とする処である。悪魔は清明を嫌ひ、暗黒を喜び、暗にかくれて種々雑多の罪悪を喜んで行ふものである。然しこれは一般的悪魔の為すべき働きである。大悪魔に至つては然らず、却つて清明なる天地に公然横行し、万民を誑惑し、白日の下正々堂々と其悪事を敢行し、却つて心暗き人々より、聖人君子英雄豪傑の尊称を与へられ、得々として誇り、世人与し易しと蔭に廻つて、そつと舌を吐き出す者も沢山ないとは云へない世の中である。 一旦悪魔の容器となつて縦横無尽に暴威を振ひ、旭日昇天の勢を以て数多の部下に臨みたる竜雲も、悪霊の神威に恐れて雲を霞と脱出したるより、今迄威風堂々たりし彼も今は全く別人の如く、身体の各部に変異を来し、非力下劣の生れながらの劣等人格者となつてしまつた。されどもこの竜雲にして、再び正義公道を踏み、信仰を重ね、神の恩寵に浴しなば、以前に勝る聖人君子の身魂を授けられ、温厚篤実の君子人と改造さるるは当然である。ケールス姫は竜雲に一歩先んじて心の妖雲を払ひ、心魂に真如の日月を輝かし、前非を悔ゆるに至りしかば、今此場になつても比較的身魂を動揺せしめず、自若として神に一身を任せつつあつた。 竜雲は恥かしげに立ち上り一同に向つて懺悔の歌を謡ひ、天地の神明に謝罪の誠を尽した。其歌、 竜雲『天と地とは古の無限絶対無始無終 神徳無辺の大神が陰と陽との息をもて 造り固めし御国なり国治立大神は 天津御神の勅もて尊き御身を顧みず 豊葦原の瑞穂国下津岩根にあもりまし 大海原に漂へる島の八十島八十国を 完美に委曲に造り終へ百の神人悉く 守らせたまふ有難さ神世はやすく平けく 治まりまして吹き荒ぶ醜の魔風の跡もなく 罪も汚れも無かりしが神の御息に生れたる 蒼生の親とます天足の彦や胞場姫の 天地の道を踏み外し皇大神の御心に 背きたるより天ケ下四方の国には汚れたる 妖邪の息は充満し其息凝りて鬼となり 八岐大蛇や醜狐醜女探女を発生し 世は常闇となりにけりそれより漸く世の中に 悪魔は盛に蔓りて天地曇らせ現身の 世人の身魂を蹂躙し尊き神の生宮と 生れ出でたる人の身をいつとはなしに曲神の 珍の住家となし終へぬ吾も神の子神の宮 恵に漏れぬ身なれどもいつとはなしに曲神に つけ狙はれて由々しくも天地容れざる大罪を 重ね来りし恐ろしさ至仁至愛の大神は 吾等が汚き行ひを憐みたまひて忽ちに 各自に洗礼与へまし心に潜む曲神を 苦もなく追ひ出し給ひけりあゝ惟神々々 御霊幸倍ましましてサガレン王に背きたる 吾等が罪を許させよケールス姫を朝夕に 汚しまつりし醜業は天地容れざる罪なれど 神の尊き御心に清く見直し聞き直し 宣り直しませ天地の尊き百の神の前 罪に沈みし竜雲が今迄犯せし罪を悔い 心を清めて大前に慎み敬ひ詫びまつる 天の目一つ神司君子の姫や清子姫 其外百の人々の尊き今日の働きを 喜びゐやまひ心より慎み讃美し奉る 斯くなる上は竜雲が今迄悩みし村肝の 胸の曇りも晴れ渡り黒雲遠く吹き散りて 大空渡る日月の光を拝む心地よさ 国別彦の神様よケールス姫よ竜雲が 今迄汝に加へたるきたなき罪や曲業を 広き心に宣り直し許させ給へ惟神 神に誓ひて将来のわが改心を開陳し 身を退きて天の下四方の国々駆廻り 命の限り身の限り世人を救ひ身の罪を 亡ぼしまつるわが覚悟安く諾ひたまへかし あゝ惟神々々神の御前に願ぎまつる』 ケールス姫は又謡ふ。 ケールス姫『醜の魔神に迷はされ神の末裔と現れませる 国別彦の神司わが背の君に相背き 曲のかかりし醜人に心の限り身の限り 媚び諂ひて何時となく罪の淵へと沈淪し あらむかぎりの罪悪を尽し来りし恐ろしさ 大慈大悲の大神の霊の光りに照らされて 曇りし胸も晴れ渡り眩みし眼も明かに 輝き渡りて身の罪を直日に見直し聞き直し 顧みすれば恐ろしや天地の神の許さざる 重き罪をば知らずして重ね来りしうたてさよ あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 日の出神や木の花の咲耶姫の神言もて 神素盞嗚大神が世人を普く救はむと 三五教の御道を四方の国々島々に 開かせ給ふ神司数ある中に取りわけて 清き尊き北光の神の司や君子姫 清子の姫を下しまし火の洗礼を施して 神地の都に蟠まる醜の魔神を吹き払ひ 清めたまひし尊さよ心の闇は晴れ渡り 元つ御霊に嬉しくも立ち帰りたる吾なれど 一度魔神に汚されし吾身体を如何にせむ 寄辺渚の捨小舟取りつく島もなく涙 いづれに向つて吐却せむサガレン王の御心は 仮令吾等を許すとも重ねし罪の吾が体 如何でか元に帰るべき妾は是より聖城を 後に眺めて葦原の瑞穂の国を隈もなく 風雲雷雨をしのぎつつ三五教の御教を 開きて世人を善道に導きまつり皇神の 恵の露の万分一報いまつらむ吾心 許させたまへ天津神国津神達八百万 国魂神の御前にケールス姫が誠心を 誓ひて願ひ奉るあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と謡ひ終り、恥かしげに片隅に身を潜めて蹲まり居る様、人の見る目も哀れげに感ぜられ、一同は期せずして同情の涙にかき暮れにける。 (大正一一・九・二四旧八・四加藤明子録)
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霊界物語 39_寅_大黒主調伏相談会/言霊隊の出発 07 都率天 第七章都率天〔一〇七二〕 紫色の丈の短い芝草一面に大地に生え茂り、岩もなければ高い木もない茫々たる大原野に、赤白黄などの小さき花が星のやうに咲き満ちてゐる。空は紺碧の雲漂ひ、太陽の影も、太陰の姿も見えねども、何とはなしに爽快な気分の漂ふ、露の玉光る野原をヒヨロリヒヨロリと通つてゐる二人の男、四辺の光景の現界とはどこともなく違つてゐるに不審を起し、茫然として足を止め、 イール『オイ、ヨセフ、何時の間にこんな所へ吾々両人はやつて来たのだらうか、河鹿峠の細谷路で母娘二人の女巡礼に出会ひ、谷底へ取つて放られたと思つたが、あとは夢現、如何してこんな所へ如何いふ手続きをしてやつて来たのか合点がいかぬ。貴様何か記憶に残つてはゐはせぬかな』 ヨセフ『俺の記憶に残つてゐるのは外でもない、夢ばかりだ。河鹿峠で母娘の巡礼に会うたと思つたのは、あれこそ本当の夢だ、ここが本当の現実世界だ、現界は夢の浮世といふのだから、現界にあつた事は皆夢だよ。愈吾々の魂の故郷現実世界へ帰つて来た、こんな結構な所へ出て来て極楽の余り風をソヨソヨとうけ乍ら、誰に憚る所もなく気儘に旅行してるのは愉快ぢやないか。現界のやうに此処は誰の領分だ、何某の土地だとせせつこましい区劃をうけてるよりも、何の制縛もないこんな花園に逍遥するのは、到底現界人の夢にだも知らざる所だ。アヽ有難い、仮令夢にしても此夢は千年も万年も去らせ度くないワ』 イール『オイあれを見よ、向ふの空を、何だか妙な雲が出たぢやないか。一分間先にはホンの毬のやうな斑点が西北の空にパツと現はれたと思ふ間もなく、追々あの通り膨脹し、五色の雲が鮮かになつて来て、俺達の顔までに五色の光彩が輝き初めたぢやないか』 五色の雲は見る間に満天に拡がり、美はしき衣裳を着けたる二人の女神、一人は年老い一人は若く、五色の盛裳をこらして、雲に乗つて此方に向つて降り来る様子であつた。二人の立つてゐる紫野の原野はいつとはなしに天へ浮上つた如く感ぜられ、雲が下つたか地が上つたか、区画のつかないやうな塩梅で、いつのまにか二人の女神は二人の前に立現はれた。よくよく見れば河鹿峠で谷底へ投げすてて行つた、二人の母娘である。イール、ヨセフは不意の対面に打驚き、頭を下げ、 イール『これはこれは黄金姫さま誠に御無礼を致しました。どうぞお許し下さいませ』 ヨセフ『あなたは清照姫さま、こんな尊き神さまとは知らずに御無礼を致しました。どうぞ許して下さいませ』 黄金姫『其断りを言はれては困ります。私こそ女のくせに、あられもない荒男を谷川へ放り込んだり、イヤもう御無礼ばかり致しました』 清照姫『私も若い女の身を以て、荒男を放り込むなどと乱暴なことを致しましたが、どうぞ許して下さい』 イール『ハイ有難う御座います。併し乍らここは何といふ所で御座いますか、一向合点が参りませぬが』 黄金姫『ここは未来の夢想国ですよ。あなたが此処へ来たのは、娑婆に於て神さまの為に大活動をなし、神の恵に依つてかやうな天国浄土へ救はれたのです。お互にこんな結構なことはありませぬ、お喜び申します』 イール『吾々両人は現界に於て、ロクなことは一つもやらず、何一つ神さまの為にお役に立つた事はありませぬ。それに斯やうな所へ救はれるとは合点が行きませぬ、ヨモヤ人違では御座いますまいかな』 黄金姫『まだお前さまは、今日の所では、これといふ手柄は一つもしてゐない。どちらかと云へば悪い事の方が多いので、公平な神さまのお審きに会へば、こんな所へ来る身分ぢやない、吾々だつて其通りです。併し乍ら神さまは過去現在未来をお見透しだから、お前さまがこれから現界にをつて、善の行ひをなし、現界を去つてから後に来るべき世界を一寸のぞかして貰うてゐるのですよ』 ヨセフ『まだこれから善をなす為に、斯やうな所へよせて頂くとは、合点が往きませぬ。天晴れ世の中に功を立てた上のことなれば、いざ知らず、吾々のやうな汚れた霊が斯やうな所へ来るとは、如何しても合点がいきませぬ、コリヤ夢ではありますまいかな』 黄金姫『夢所か現実です。それでもお前さまが、これから先へ善くない事をしようものなら、キツとこんな結構な所へは来られない、これと反対の所へ行かねばなりませぬ。サアこれから私が、都率天の世界を案内して上げよう』 両人『ハイ有難う』 とさしうつむく。自分の立つてゐた地上は、フワリフワリと何処ともなく浮上るやうになつて来た。そして四人の一行は立つた儘、青雲の空を目がけて昇り行く。 見れば、忽ち眼前に現はれた朱欄碧瓦の美はしき殿堂、まはりは紅色の玉垣をめぐらし、金銀の砂が一面に敷きつめられ、ダイヤモンドの砂が所々に交つて、銀河の如く輝いてゐる。二人は夢かとばかり顔見合せ、呆気にとられて居た。 清照姫『コレ両人さま、ここは都率天の月照彦さまのお宮で御座います。これからは何も云ふことは出来ませぬぞえ、吾々二人の後についてお出でなさい。神さまが何と仰有つても、お返事をしてはなりませぬ。神さまと人間とは階級が違ひますから、神さまの思召を聞くばかりで一口も御返事することはなりませぬ。物が言ひたくば此門をくぐる迄に言うておきなさい。此門をくぐるや否や、仮令如何なる者に会うても只俯むいてお辞儀さへして居れば良いのだから』 イール『ハイ畏まりました。何と思うても本当にはしられませぬワ。本当に私は斯様な所へ、未来とやらに救はれるでせうか』 黄金姫『只神さまの仰せを承はり、其通り遵奉して居りさへすれば、未来は斯様な結構な所へお参りが出来ます。何事も言つちやなりませぬぞえ』 イール『ハイこれ限り申しませぬ。オイ、ヨセフお前も今の内にお尋ねしておくがいいぞ。此門内へ這入れば最早言論機関を使用することは出来ないから』 ヨセフは畏まり、静に首を傾けたきり、一言も発しない。黄金姫、清照姫は無言の儘、門番に目礼し、静に奥へ奥へと進み入る。 嚠喨たる音楽の響き何処ともなく聞え来り、芳香四辺に薫じ、門内の内庭には白蓮華の花咲きほこり、牡丹白梅薔薇等の垣は其艶を競ひ、現界で見たこともないやうな美しき羽の小鳥は、爽かな声を出して、天国の春を歌うてゐる。黄金の玉盃を手にして黄金色の衣類を着けた美はしき女神、白装束に紅の袴にて、四人しづしづと出で迎へ玉盃より紫の色したる水を指にぬらして、一人々々、唇にひたす。其味と云ひ香りと云ひ、何とも譬へやうのなきものである。四柱の女神は四人を導いて奥深く進み入る。 奥殿深く進み入り、正面を眺むれば、金銀を以てちりばめたる須弥壇の上に、紫磨黄金の肌をあらはし、儼然として控へ玉ふ一柱の神があつた。やさしみのある内にどこともなく威厳備はつて、面を向けるもまばゆいやうな心持がすると共に、何ともいへぬ懐かしみがした。此神は月照彦命であつた。四人をゆかしげに見やり、黄金の御手を伸べて、膝元に来たれと招かれる。左右に控へたる沢山の童子は手に種々の花を携へ、無言のまましとやかに須弥壇の前に舞ひ狂うてゐる。馥郁たる芳香に美妙の音楽はたえず鼻耳をつき、燦爛たる殿内の光は目を新しく照すのみである。 黄金姫は後振返り、三人を手招きする。三人は無言のまま黄金姫の後に従ひ行けば紫の色漂ふ丸い穴が、殿堂の裏より、斜に低く穿たれ、紫の階段がついてゐる。黄金姫はつかつかと階段を降り行く。三人も其後に従つて際限もなく下り行けば、そこに雑草の茂る葦の生えた沼が横たはつて居る。 二人は何時の間にか此沼の中におち込んでゐた。余り深からね共、直立して口のあたり迄水がついて来る。少しく風が吹いて浪高くなれば、鼻をおそひ、息苦しくなつて来る。黄金姫、清照姫は如何にと、四辺を見れ共、其姿だになく、今迄美はしかりし殿堂は煙の如く消え失せ、只葦の生ひ茂る沼の上を秋風が吹きわたる其淋しさ。 斯かる所へ何処ともなく、レーブ、タールの両人あわただしく走り来り、沼のまはりに立つて、二人の名を呼び、 レーブ、タール『早く此方に来れ』 と差招く。イール、ヨセフの両人は身を踠き、二人の側に泳ぎ行かむとすれ共、如何したものか二人の足は沼底に漆喰の如く吸ひつけられ、身動きもならず、風に煽られて、時々高き波鼻目のあたりをおそひ来り、苦さ限りなし。二人は声もえ上げず、苦み悶えて居ると、何処ともなく、ハムはレーブ、タールの前に現はれて、三人はここに何事か口論を始め出した。イール、ヨセフの両人は沼の中にて懶げに三人の争ひを眺めてゐる。ハムの後には口耳まで裂けた赤裸の赤鬼がついてゐた。暫くすると、レーブ、タールの両人は沼の堤を一目散に東南さして走りゆく。ハムは二人の沼の中に苦んでゐるのを見て、助けやらむと、赤裸となり沼の中に飛びこまむとすれ共、後に立つた赤鬼が、グーツと首筋を掴んで離さないので、ハムは一生懸命に身をもがいてゐる。イール、ヨセフの両人は、息もたえだえになつて、早く助けてくれよ………と叫ばむとすれ共、如何にしけむ、一言も声が出なかつた。何処ともなしに宣伝歌の声が中空に聞えて居る。此声を聞くと共にハムについてゐた鬼の姿は煙と消えた。ハムはレーブ、タールの逃げ去つた後を追うて、地響させ乍ら帰り行く。 二人は此宣伝歌の声を聞くと共に身体軽く浮き上り、いつの間にやら沼の畔についてゐた。そして濡れた着物は何時の間にか乾いてゐる。ハテ不思議なことがあるものだなア………と両人は顔を見合せつつ、ハムの走つた後を追うて駆出すと、一本の大きな松の木が枝振よく立つてゐて、沼の上に枝を垂れてゐる。其松の木を見上ぐれば、えもいはれぬ恐ろしき大蛇が三間ばかりの首を伸ばして樹下を眺め、大口を開いて何者か呑まむとしてゐる。二人は初めて口を開き、 イール『オイ、ヨセフ、大変ぢやないか』 ヨセフ『如何にもイールの云ふ通り、此松の木には妙な奴が居るではないか。大方最前の三人は此大蛇に呑まれて了うたのだろ。コリヤ、グヅグヅしてはゐられまいぞ』 と言ひ乍ら、松の根元をよくよく見れば、土の中から首が生えてゐる。上には大蛇下には生首、ハテ厭らしやと、逃げ出さうとすれ共、如何したものか、身体強直してビクともならぬやうになつてゐる。 二人は因果腰を定め、地中から生えた首をよく見れば、豈計らむや、バラモン教の大棟梁大黒主である。二人はビツクリして顔色をかへ乍らあわただしく、 イール『アヽ、あなたは大黒主の神さまぢや御座いませぬか。如何してマアこんな所へ首ばかり出してゐられます。あれ御覧なさいませ、此松の枝には大蛇が蟠つて、今や一口に呑まむとしてゐるぢや御座いませぬか、サア早くここを私と一緒に逃げませう』 大黒主『ヨウ其方はイール、ヨセフの両人、こんな所へ来るものではない。今の内に後へ引返したがよからうぞ』 ヨセフ『引返さうと申して、何処へ行つてよいやら、訳が分りませぬ。して又あなたの首から血がにじんで居りますが、コリヤまあ如何した訳ですか』 大黒主『私は天地の大神の罰をうけ、此松の木の下に於て、手足を縛られ、自分の作つた配下の鬼共に土中に埋められ、此通り首のみ地上に現はし、鷹や烏に頭をこつかれ、毒虫に首を咬まれ、こんな苦しい目に会うてゐるのだ。お前も早く改心いたして、誠の道に立返つたがよからうぞ、私の如くなつて了へばモウ駄目だ。まだまだこれから沢山の苦労をいたして罪を赦して貰へるか貰へぬか分らぬ所だ。早く三五教の神文を唱へて此急場をのがれよ』 イール『コレは又、異なることを承はります。あなたはバラモン教の大教主であり乍ら、何を以て三五教の神文を唱へと申されますか、少しも合点が参りませぬ』 大黒主は苦しげに、 大黒主『現界に於ては今は時めく勢なれども、未来の吾霊魂は此通り、松の下に於て無限の責苦をうけねばならぬことになつてゐるのだ。三五教は神より出でたる教、其他の教は皆枝神や人間の作つた教であるから、御神慮の程が分からない。否々神慮に違反した教を致して居るから、バラモン教の代表者たる此方が斯やうな責苦に会うてゐるのだ。とはいふものの、吾の肉体は副守護神の勢ひ中々猛烈にして到底容易に改心は致さない。改心さへ致したらこんな苦悩は免るるのだが、大黒主の肉体がどうしても改心してくれぬので、本尊の此方がこんな責苦にあふのだ。百年後の大黒主の行末は、即ち今の有様であるぞ。サア、早くここを立去れ』 斯かる所へ、又もや三五教の宣伝歌がかすかに聞え、宣伝使が三人の供人と共に沼の辺に現はれて来た。此声を聞くと共に、大黒主の体は地上へガワとばかりに浮上つた。樹上の大蛇は大黒主を大口開けて、グツと一口に呑んだまま、黒雲を呼起し、一目散に中天に姿をかくして了つた。 二人の宣伝使の姿を見るより、フツと気が着きそこらあたりを見れば、河鹿峠の谷底に陥り、舞埃の砂の中に半身を埋めてゐたことが分つた。谷の流れはゴウゴウと四辺に響いてゐる。気をおちつけてよくよく見れば、照国別の宣伝使を始め、梅公、照公、国公の三人は二人の身体を介抱し、一生懸命に、魂呼びの神業を修してゐたことに気が着いた。 イール、ヨセフの両人は宣伝使一行に向ひ黄金姫一行に無礼を加へて、此谷底に投げ込まれた一条より、鬼熊別に雇はれて、蜈蚣姫、小糸姫の所在を尋ね求めつつあることを詳に物語り、ここに翻然として悟り、宣伝使に従つて、谷を下り、山路に出で、トボトボと後に従ひ行く。二人は何となく、宣伝使の威光に打たれて、恐ろしくなり、あたり暗に包まれし頃、隙を窺うて逃げ失せて了つた。 照国別は道端の古き祠の前に、三人の供人と共に一夜を明かすこととした。 (大正一一・一〇・二二旧九・三松村真澄録)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 01 大雲山 第一章大雲山〔一〇八五〕 空すみ渡る初秋の風も涼しき月の国 花は散れどもハルナの都バラモン教を開設し 大雲山の岩窟に館を構へて鬼雲彦は 大黒主と改名し梵天王の直胤と 此世を偽る曲津業数多の軍隊引連れて 左手に教書を捧げつつ右手に剣をぬきかざし 七千余国の印度の国刹帝利族の大半を おのが幕下に従へつ飛ぶ鳥さへも落すよな 其勢の凄じさ時しもあれやウラル彦 ウラルの姫の御教を宣伝しゆく神司 常暗彦は月の国デカタン高原に現はれて 教の旗をひらめかしこれ又左手にコーランを 捧げつ右手に剣持ちバラモン教の向ふ張り 勢やうやう加はりてバラモン教の根底は 危殆に瀕し来りけりかてて加へてウブスナの 山に建てたるイソ館神素盞嗚大神の 教を伝ふる日の出別八島の主の声望は 東の空に天津日の豊栄昇る如くにて 気が気でならぬバラモンの教司は岩窟に 集まり来りいろいろと対抗戦を開かむと 鳩首謀議の折柄に早馬使ひのテルヂーが 勢込んで馳せ帰り神素盞嗚大神の 部下の面々イソ館味方を集めて迫り来る 其勢はライオンの速瀬の如く急がしく 旗鼓堂々と攻め来る気配と確に覚えたり 今此時に躊躇して月日を仇に送りなば 臍をかむとも及ぶまじ早く精鋭の軍卒を さし向け彼が計画を根本的に覆へし 一泡吹かしてこらさねばハルナの都は忽ちに 土崩瓦解の虞あり用意めされと息早め 虚実交々取混ぜて注進すれば神司 大黒主は驚いて左守右守に相対し 如何はせむと謀る折又もや入り来る足音に 何人ならむと眺むればカルマタ国に遣はせし 斥候隊のケリスタン汗をタラタラ流しつつ カルマタ国に割拠する常暗彦は日に月に 猛虎の勢加はりつ数多の軍勢を引率し 山野をわたりはるばると月の都に攻めよせて 一挙に城を覆へしバラモン教を根底より 絶滅せむと計りゐる其計画はありありと 手に取る如く見えにけり今此時に此時に 一挙に彼を討ちすてて国の災払はねば 臍をかむとも及ぶまじ一日も早く片時も 勇敢決死の軍卒を差向け給へと汗拭ひ 風声鶴唳におぢ怖れ注進するこそ可笑しけれ 大黒主は色を変へ大足別に打向ひ 如何はせむと尋ぬれば大足別は肱を張り われは武勇の神将ぞ神素盞嗚大神や 常暗彦が現はれて獅子奮迅の勢に 本城に攻めかけ来るとも何かは恐れむバラモンの 教の神力身に受けて刃向ふ奴輩ことごとく 追つかけちらし薙ぎ倒し敵を千里に郤けて 君の危難を救ふべし何は兎もあれ諸々の 神の司と謀らひて其上着否を決せむと 苦り切つたる顔付にドカリと其場に胡坐かき 豪傑笑ひに紛らしぬ。 鬼雲彦を始め左守の鬼春別、右守の雲依別、石生能姫、鬼熊別其他四五の幹部連、大雲山の岩窟、大黒主の隠家に集まつて、三五教、ウラル教に対し取るべき手段を首を鳩めて謀議しつつあつた。鬼雲彦は鬼熊別の其妻子が[※初版・三版・愛世版は「鬼熊別は其妻子が」だが、校定版・八幡版では「鬼雲彦は鬼熊別のその妻子が」に直してある。主語が鬼熊別だと、それ以降の文章の意味が通じなくなるため、霊界物語ネットでも校定版と同じように直した。]三五教に帰順し、宣伝使となつてバラモン教の教線を攪乱せりとの急報を屡々耳にし、猜疑の眼を怒らし、いつとはなしに二人の中には大障壁が築かれ、大溝渠が穿たれ、鬼熊別も怏々として楽まず、遂には自ら左守の職を辞し、部下の神司と共に、己が館に潜みて、梵天王を祀りたる神殿に端坐し、何卒一日も早く大黒主の教主が善道に立帰り、大自在天の教を完全に発揮し、且つ大国別の御子国別彦の所在の分りて、ハルナの都に大教主として臨まるる日の一日も早かれ……と祈りつつ、一方には妻子の所在を探ねむと、日夜祈願に余念なかつたのである。然るに今日は大黒主の珍しき使に依つて、心ならずも主命もだし難く、此席に面を現はしてゐたのである。今此処に集まれる幹部は、何れも大黒主の股肱と頼む部下のみで、信任最も厚き人物ばかりであつた。そこへ鬼熊別が列席したのは恰も白米に籾の混つた如く、油に水を注したやうなもので、何とはなしに意思の疎隔を来したのも免れ難き所であつた。 大黒主は立上つて一同に向ひ、 大黒主『今日一同をここに召集したのは一日も看過す可らざる緊急事件が突発したからである。抑も吾バラモン教は常世の国の常世城より、大国別は神命を奉じて埃及に渡り、神徳を四方に輝かし給ふ際、憎き三五教の宣伝使、吾本城を攻撃して、神の聖場を蹂躙し、吾等も衆寡敵せず、大国別の教主と共に、メソポタミヤの顕恩郷に居を転じ、漸く神業の端緒を開きし折、執念深き三五教の宣伝使輩は、言霊軍を引率し、神素盞嗚尊の命と称し、短兵急に攻めよせ来り、内外相応じて、再びバラモンの本城を破壊し去り、吾等は已むを得ず、涙を呑んで親子夫婦の生別れ、漸く忠勇義烈なる部下と共に自転倒島に渡り、又もや神業を開始する折しも、三五教の神司の言霊に破られ、無念やる方なく再び残党を集めて、此都に来り、月の国の七千余ケ国の大半を征服し、今や旭日昇天の勢となり、神業を葦原の瑞穂国全体に拡充し、バラモンの威力を示さむと致す折しも、天の岩戸を閉鎖したると云ふ悪神の張本素盞嗚尊、再び部下をかりあつめ、黄金山、コーカス山、イソ館と相俟つて、再び吾本城を覆へさむず計画ありと聞く。今に及んで敵の牙城に迫り、之を殲滅せざれば、バラモン教は風前の灯火の如し。汝等の忠勇義烈に依頼して、吾は此災を芟除せむと欲す。左守を始め、一同は吾旨を体し、最善の方法を講究すべし』 と宣示し、軽く一瞥を与へて、奥の間に姿を隠した。 石生能姫は、大黒主の立去りし後の席に儼然として立現はれ、いとおごそかに、 石生能姫『只今大教主の仰せの如く、本教は危急存亡の機に瀕せり、速に評議を凝し、至誠を吐露して、大教主の御心に応へ奉れよ』 と宣示するや、左守は立上つて、 鬼春別『吾々はバラモン教の為、大黒主の御為ならば素より身命を惜まぬ覚悟で厶る。就ては慎重に審議を致さねば、此大問題を軽々に決することは出来ませぬ。私は断言します。今に至りて考ふれば、此城内には二心ある有力なる幹部の伏在して、三五教やウラル教に款を通じ、内外相応じて本教を転覆せむとたくらむ曲者が厶います。第一此悪人を取調べなくては、如何なる妙案奇策も敵に漏洩する虞があり、到底目的は達せられますまい』 と目を瞋らし、ワザとに鬼熊別の面体を睨みつけた。鬼熊別は平然として顔の色をも変へず控へてゐる。 右守の雲依別は立上り、卓を叩いて声を励まし、 雲依別『鬼春別様の仰せの如く、敵の巨魁は此城中に潜み居るは一目瞭然たる事実で厶いませう。さうでなくては今日まで世界の秘密国として自由自在にバラモンの教を拡張し、無人の野を行く如き有様でありしもの、俄に各地方の刹帝利は反旗を翻し、尊きバラモン神に向つて不順の色あり、人心恟々として安からず、天下の騒擾将に勃発せむとする兆ある時、ウブスナ山、カルマタ城より、数多の神軍を引連れ押寄せ来らむとの注進は、決して虚言ではありますまい。いざこれより、城内に潜む巨魁を誅伐し、首途の血祭となして、怨敵調伏の出師をなさむ、列座の面々如何思召さるるや』 鬼熊別は立上り、 鬼熊別『怪しき事を承はるものかな。バラモン教の本城に敵に款を通ずる巨魁ありとは、そは何人の事で厶るか。左様な悪神は一時も早く誅伐し、国家の災を根底より除かねば、バラモン教は、いかに神力強くとも未だ安心する所へは参りますまい。左守殿のお言葉によれば、確に其巨魁は此城中に潜みゐる事を御承知のやうに聞きました。其悪人は何人なるか、速に御発表を願ひます』 と言はせも果てず、鬼春別はクワツと目を見ひらき、声を荒らげ、顔を真赤に彩どりながら、 鬼春別『お黙り召され、鬼熊別どの、其張本人と申すは鬼熊別といふ悪虐無道の侫人ばらで厶る。言はずと知れた、鬼熊別は此城内に一人より厶るまい。速に事情を逐一白状致して其赤誠を現はすか、さなくば吾々が面前に於て男らしく切腹めされよ』 鬼熊『こは心得ぬ左守殿の御言葉、何を証拠に、左様な事を仰せらるるか。痩せても枯れても、バラモン教の柱石鬼熊別、めつたな事を申さるると、聞き捨はなりませぬぞ』 鬼春『アハヽヽヽ悪人猛々しいとは此処の事、よくもマア、ヌツケリと白々しい其言葉、ハルナの城には盲は一人も居りませぬぞ。左様な事が看破出来ないやうな事で、如何して大切な左守が勤まらうか』 鬼熊別『確な証拠あつての仰せか。サアそれが承はりたい。サア如何で御座る』 鬼春別『サアそれは』 鬼熊別『サアサア如何で厶る、御返答を承はりませう』 鬼春別『サアそれは』 『サアサアサア』 と二人は両方より意気まいてゐる。右守はツと立つて、 雲依別『アイヤ両人暫らく待たれよ』 と制すれば、二人は不承々々に己が座につき、互に睨み合つてゐる。 雲依『左守の仰せは数多の斥候どもの種々の注進を綜合して、これは正しく鬼熊別が、敵方に款を通ずる者ならむとの推定に過ぎますまい。私が考へますには鬼熊別様の斯かる嫌疑を受けられたのも二三の原因があるだらうと思ひます。今茲に羅列すれば、先づ第一に鬼熊別殿の妻蜈蚣姫殿は今は三五教に帰順し、堂々たる宣伝使となつて天下を布教し居らるる事、これが第一大黒主さまの御気勘に叶はぬ点で疑惑の起る導火線で厶る。……又第二は小糸姫殿が竜宮の一つ島へ渡り、地恩城に於て女王となり三五教を拡め、部下の友彦までも三五教に帰順せしめたるとの噂、これが第二の疑の原因。次には妻子は三五教に心酔し、最早バラモン教に復帰する形勢もなきに、何時までも独身生活を続け、悪虐無道の妻子と再び家庭を作らむとの御所存と見える、これが第三の疑をまく種。次には大黒主さまが鬼雲姫さまの不都合を詰り、別宅を造りて退隠を命じ給うた時、之に対して極力反抗的態度を用ひ、新夫人の石生能姫に対し悪感情を抱き居らるる事、これも亦疑惑の種。大黒主と鬼熊別との間には深き溝渠が穿たれ、意思の疎通を欠きし事。……次には兵馬の権を握り、片手に教権を掌握し玉ふ大黒主よりも、武力なき身を以て、数多の国人の信用を受け居らるる事。これ亦疑惑の種となつて居るのだらうと私は推察致します。併し乍ら神に仕へ給ふ身を以て左様な疑惑の種を蒔く如き御精神では厶いますまい………と私は信ずるのであります。今は斯様な内紛を繰返す時では厶らぬ。一時も早く外に向つて敵の襲来に備へ、且つ敵を根底より滅亡させねばならぬ国家の危機だから、小異を棄て、大同に合し、協心戮力して此国家の大事に備へようではありませぬか。これ右守が偽らざる至誠の告白否忠告で厶る』 と堂々として鬼熊別の寃罪を弁護しつつ説き来り説き去り座に着いた。鬼春別は不機嫌顔にて再び立上り、 鬼春別『如何にも心得ぬ右守の御言葉、吾々は一向合点が参らぬ。然らば右守どの、鬼熊別の一身に就ては、貴殿に一任しますから、キツト過ちのなき様に御監督を願ひます』 雲依『神徳高き鬼熊別さまの御監督とは思ひもよらぬ大役なれど、今日の場合止むを得ませぬ、仰に従つて監督を承はりませう』 鬼熊『これは心得ぬ、御両人の御言葉、悪虐無道の叛逆者ならばいざ知らず、吾々如き忠臣義士に対して、何の為に御監督を遊ばすか。あらぬ嫌疑をかけられ、憤慨の至りに堪へねども、国家の一大事を慮り、陰忍自重しつつある吾に、其心遣ひは御無用に願ひませう』 石生『此問題はどうぞ妾に任して貰ひませう。イヤ鬼熊別さま、エライ気を揉ませました。今の世の中は誠の者が虐げられ、疑はれ、大悪人の時めく時代なれば、あなたもそれだけの御疑を受けさせられる半面にはキツト善い事があるでせう。どうぞ御機嫌を直して、今日以後は日々国家の為に、教の為に、御登城御出勤を願ひますよ』 鬼熊別は石生能姫の言葉に感謝の涙を秘かに流しながら、 鬼熊別『ハイ有難う厶います。然らば御言葉に従ひ、明日より出勤致すことにきめませう。今迄の不都合は平にお赦しを願ひます』 石生能姫は儼然として言葉を改め、 石生能姫『イソの館へは左守鬼春別殿、部下の軍卒を引連れ出発さるべし。又大足別は軍勢を引率して、カルマタ国のウラル教が本城へ向つて攻め寄せらるべし。鬼春別が目出度く凱旋ある迄は元の如く鬼熊別殿、左守となつて奉仕されたし。右守は従前のまま、何れも神妙に心を併せ、手を引合ひ神務に従事されよ。大教主の命に依りて、石生能姫、代理権を執行致す』 一同は此言葉に、 一同『ハハア』 と首を傾け、承諾の意を示した。 因に右守の雲依別は時の勢に抗し難く、左守と表面バツを合せてゐたが、其実鬼熊別の美はしき心と日夜の行動に感激し、心中潜かに鬼熊別を畏敬尊信してゐた。それ故鬼熊別の無辜を憐れみ弁解的弁論をまくしたてたのである。又石生能姫は鬼熊別のどこともなく男らしく、威儀備はる容貌に、心私かに恋着してゐた。それ故大黒主の余り好まぬ鬼熊別を代理権を執行して左守となし、鬼熊別に同情をよせつつある右守を止め、常に鬼熊別を讒言する鬼春別、大足別を出陣させて了つたのであつた。女の美貌は城を傾くるとか云ふ。実に女位恐ろしきものはない。大黒主も此石生能姫には恋愛の雲に包まれて、善悪に関らず、一言半句も背いた事はなかつたのである。 (大正一一・一一・一旧九・一三松村真澄録)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 02 出陣 第二章出陣〔一〇八六〕 バラモン教の神司鬼春別は大教主 大黒主や石生能姫二人の旨を奉戴し 片彦、ランチ二将軍左右の翼となしながら 三千余騎に将としてハルナの都を出発し 陣鐘太鼓を打ちながら法螺貝ブウブウ吹きたてて 旗鼓堂々と三五教イソの館へ進み行く 其勢ひの勇ましさ鬼神も肝を挫がれて 絶え入るばかり思はれぬ軍の司と仕へたる 大足別も同様に釘彦、エールの二将軍 三千余騎に将として旗鼓堂々とウラル教 立籠りたるカルマタの根城をさして攻めて行く 何れ劣らぬ勇士と勇士山野の草木も自ら 靡き伏しつつ虎熊や獅子狼もおしなべて 戦き逃ぐる思ひなり実に勇ましき進軍の 駒の嘶き轡の音蹄の音も戞々と 鬨を作つて攻めて行く実に勇ましき次第なり。 出陣の用意は急速に整うた。大黒主、石生能姫、鬼熊別、雲依別其他の幹部は出陣を見送り成功を祝し、終つてハルナの本城の奥殿に進み入り此処に簡単なる酒宴を催し、鬼熊別は一先づ吾館へ立帰る事となつた。雲依別も亦其日は己が館に帰り、神前に戦勝祈願の祝詞を奏し寝に就いた。 夜は深々と更け渡り、咫尺暗澹として閑寂な気に包まれ、夜嵐吹き荒ぶ丑満の頃迄、大黒主は石生能姫と共に来し方行末の事等語らひ夜を更かしつつあつた。 大黒『あゝあ、吾こそはバラモン教の大教主となつて以来、世の為、道の為にあらゆる艱難辛苦を嘗め尽し、漸くにして月の国に根城を定め、稍安心と思ふ間もなく好事魔多しとやら、三五教、ウラル教の奴輩吾教の隆盛を妬み、今や双方より此本城を攻撃し吾等を亡ぼさむと致す憎くき奴、余りの事に神経過敏となり、夜も碌々に此頃は寝た事もない。せめて石生能姫の優しき言葉を心の頼みとして日夜を送る苦しさ。あゝあ世の中は如何してこれほど災の多きものだらうか。思へば思へば浮世が嫌になつて来たわい。早く大教主の役を伜に継承さして其方と共に山林に隠れ、光風霽月を楽しみ余生を送りたいと思ふ心は山々なれど、伜はあの通り文弱に流れ世間知らずの坊んちやん育ち、実に前途は心細いものだ。何とか致して此苦艱を免るる道はあるまいかな』 とハアハアと吐息をつき悄げ返る。石生能姫は打笑ひ、 石生能姫『ホヽヽヽ旦那様の其お言葉、何とした弱音をお吹き遊ばすのでせう。そんな弱い事で如何して此月の国を背負つて立つ事が出来ませうか。神様は此チツポケな月の国ばかりか、豊葦原の瑞穂国全体をバラモンの教に帰順せしめ、恵みの露をば万民に霑し与へむとの御神慮では御座りませぬか。左様な意志の薄弱な事では月の国さへも保つ事は出来ますまい。チト心を取り直して元気を出して下さいませ。一国の王者たる身を以て妾の如き卑しき女に心魂を蕩かし、偕老同穴を契り給ひし鬼雲姫様、特に内助の功多き奥様をあの通り退隠させ、日夜涙の生活を続けて御座るのを他所にして、旦那様は妾の様な女を弄び給ふは御神慮に叶はぬ事ではありますまいか。それを思へば妾も安き心は厶りませぬ。何卒一日も早く奥様を本城に招き入れ、夫婦睦まじく神業に参加して下さいませ。そして妾の位置を下して婢女となし下されば、御夫婦に対し力限りの忠勤を励む石生能姫の覚悟、何卒許して下さいませ。これが妾の一生の願ひで御座います』 大黒主『ハヽヽヽヽ其方は此大黒主を気が小さいと申すが、あまり其方も気が小さ過ぎるぢやないか。其方が始めて吾と褥を一つにした時、其方は云つたぢやないか。旦那様が妾のやうな不躾なものを斯うして可愛がつて下さるのは実に有難涙にくれますが、然し乍ら奥様の事が気になつて心も心ならず、そればかりが心配だと申したではないか。それ故、永らく連れ添うて共に苦労を致した鬼雲姫を別家させ、其方の希望通りにしてやつたではないか。今となつて左様な事を云つてくれては大黒主も困つてしまふ。俺が許した女房、誰に遠慮は要らぬ。大きな顔をして本城の花となり女王となつて、吾神業を陰に陽に極力助けてくれなくては困つてしまふよ』 石生能姫『旦那様、妾は奥様の事が気にかかると云つたのは勿体ない、奥様を放り出して欲しいと願つたのぢや御座りませぬ。奥様のある旦那様に可愛がられては誠に済まない。奥様に会はす顔がないと云つたまでで御座ります』 大黒主『さうだから其方の心配の種を除くために鬼雲姫を遠ざけたのではないか』 石生能姫『それはチト了簡が違ひませう。何程奥様が遠ざかつて居らつしやいましても妾の心は如何しても済みませぬ。今までよりも一層お気の毒で堪りませぬ。数多の部下や国民には妖女ぢや、鬼女ぢや、謀叛人だと口々に罵られ、如何して之で妾の胸が安まりませう。御推量なさつて下さりませ。貴方は如何しても、口先で私を愛して下さるが、本当の妾の心を汲みとつて下さらぬ故、つまり妾を苦しめ憎み給ふ事となるので厶ります』 と袖を顔にあてサメザメと泣き沈む。 大黒主『其方の云ふ事ならば何一つ背いた事はないぢやないか。今日も今日とて鬼熊別の如き教の道の妨害になる、蟄居を命じてある男を俺に相談もせず代理権を執行すると申して、人もあらうにあれほど俺の嫌ひの鬼熊別を左守に任じ城内の権を一任したではないか。俺にとつては天下の一大事、承諾致す限りではなけれども、其方の言ひ分をたて、其方の機嫌を損じまいと憤りを抑へて辛抱をしてるではないか。万一此国が外教の手におちる様の事あらば、俺は到底此処に安心して居ることは出来ない。吾等にとつての一大事を忍んで居るのも其方が可愛いばつかりだ』 石生能姫『あの鬼熊別は貴方の目からは、それ程悪い人と見えますか。貴方はお人がよいから悪人輩の讒言を一々御採用遊ばし智者賢者の言を用ひ給はず。あれほどバラモン教を思つて厶る神司は何処に厶りませう。それは貴方の一大事、又私の一大事に関する事、さう易々と少しの感情や気まぐれ位に、そんな大事がきめられますか。何卒心の雲を取り払ひ、正しく鬼熊別の心を汲みとつてやつて下さいませ』 大黒主『さう聞けばさうかも知れないが、鬼熊別の女房は到頭三五教に寝返りをうち、娘の小糸姫も矢張り三五の道の立派な宣伝使となつてバラモン教の畑を蚕食し、色々雑多と道の妨害を致す奴、ハルナの都の内幕は何も彼も三五教に知れ渡つて居るのも、側近く仕ふる者の中に内通するものがなくてはならぬ。若し内通するものありとすれば、鬼春別の言葉の如く鬼熊別の外にはない道理、石生能姫、其方は之でも鬼熊別を信用致すか』 石生能姫『そりや貴方お考へ違ひでせう。あの方に限つて左様な卑しい根性をお有ち遊ばす道理は厶りませぬ。人を疑へば何処までも限りのないもの、人の善悪正邪は神様が直接にお審き遊ばしませう。仮令貴方は神の代表者としても矢張り人間の肉体を有つた神様、如何して人の心の善悪正邪が判りませう。一切の心の雲霧を払拭し惟神の心に立ち帰り、胸に手をあててお考へ遊ばしたらチツと御合点が参りませう。もしも鬼熊別さまに左様な野心がありとすれば、あれだけ国民の信用を一身に担うたお方、どんな事でも出来ませう。貴方は兵馬の権を握つておいで遊ばす故、国王とも大教主とも仰いでゐるものの、人心は既に離れて居りますよ。髭の塵を払ふものばかりお側に近寄つて貴方を益々深い淵に陥れるものばかり、本当に貴方の力になる誠の者は此沢山な御家来の内、妾の公平なる目より見れば鬼熊別様より外に只の一人もありませぬ。何卒一時も早く鬼熊別と胸襟を開いてお道の為、国の為、最善の力をお尽し遊ばす様に石生能姫が真心をこめてお願ひ致します』 大黒主は石生能姫の云ふ事ならば一旦は拒んで見ても、徹底的に排除する事は恋の弱味で出来なかつた。大黒主は遂に我を折つて、 大黒主『それなら鬼熊別の身の上は其方に任す。随分気を付けて彼に謀られぬ様、此方のために力を尽すやうに云ひ聞かしてくれ』 石生能姫『早速の御承知、石生能姫満足致します。左様ならば明日早朝妾より彼が館を訪ね充分に其意中を探り果して善人ならば日々登場を命じ旦那様の相談柱と致しますなり、もしも心に針を包む様な形跡が鵜の毛の露程でもありますなら、それこそ断乎たる処置を執らねばなりますまい。それなら明日の早朝鬼熊別の館に参りますから御承知を願つておきます』 大黒主『其方が態々行かないでも此処へ呼び寄せて調べたら如何だ。女と云ふものはさう易々と門を跨げるものではない』 石生能姫『オホヽヽヽ旦那様の今のお言葉、今日の女は、社交界の花と謳はれねば女ではありませぬ。夫の成功は凡て女の社交の上手下手にあるもので厶います。妾が鬼熊別の屋敷へ参つたとて、決して旦那様のお顔にかかはる様な汚れた事は致しませぬから、そこは御安心下さいまして、鬼熊別の真の精神をトコトン探らして下さいませ』 大黒主『それなら何事も其方に一任する。明日は早朝よりソツと余り人に判らぬやうに彼の館に訪ね行き篤と心中を見届けてくれ。サア夜も大分に更けたやうだ。就寝致さうか』 石生能姫『はい』 と答へて石生能姫は寝具をのべ、夫婦は茲に漸く久し振りで心を落着け、安々と寝に就いた。 (大正一一・一一・一旧九・一三北村隆光録)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 03 落橋 第三章落橋〔一〇八七〕 空一面にドンヨリとかき曇り、あたり陰鬱として風もなく蒸暑き秋の夕べ、内地の秋とは事変はり、初秋の今日此頃は松虫鈴虫の声もなく、梢にとまつて千切れ千切れに鳴く蝉の声、轡虫等喧しく騒ぎ鳴きたつる有様は、月の都のハルナ城の内外に穏かならぬ事の勃発する前兆にはあらずやと思はるるばかりであつた。館の主鬼熊別は大雲山の岩窟に於ける会議を終へて、悄然として吾家に帰り、奥の一間に座をしめて、双手をくみ、青息吐息の体であつた。 斯かる所へ家老職を勤めてゐた熊彦は襖を押しあけ入り来り、叮嚀に会釈しながら、 熊彦『モシ旦那様、承はりますれば、貴方様に大変な嫌疑がかかり、大黒主様が近侍の誰彼を遣はして、夜陰に紛れ、旦那様の命を取りに来るとの急報を自分の親友よりソツと聞きました。どうぞ御用心下さいませ。今にも刺客が参るかも知れませぬから……』 鬼熊別は平然として打笑ひ、 鬼熊別『アハヽヽヽ風声鶴唳に驚いてはならぬ。真心を以て真心の神に仕ふる鬼熊別に如何して不義の刃が当てられようか。決して心配は致すものではない。かやうな騒々しい時にはいろいろの噂の立つものだから、お前も冷静に物を考へ、決して騒いではならないぞ』 熊彦『私も大抵の事ならば騒ぐ男では厶いませぬが確な証拠が厶います。大黒主様の近侍に仕へてゐる友行といふ男、実は私の義理の兄弟で厶いますが、彼がソツと私まで耳うちをしてくれました。グヅグヅしては居られませぬ。キツと今夜攻寄せて来るに間違ひはないので厶います。これが違うたら、此熊彦は二度とあなたのお目にはかかりませぬ』 鬼熊別『現に俺は今、大雲山の岩窟に集会に参り、大黒主様の面前に於て議論を戦はし、種々雑多の疑惑を解き、漸く氷解されて、遂には石生能姫の推薦に依り、元の如く左守に任ぜられ帰つて来た所だ。決して左様な事はあるまい。大方何らかの間違ひだらう』 熊彦『イヤ其事は友行から能く聞いて居ります。併しそれが今晩の大事変を起した原因です。大黒主は嫉妬の深い人物、そこへ寝ても醒めても忘れられぬ惚れ切つた石生能姫さまが、旦那さまの肩を持ち、大黒主の最も嫌ひ給ふ旦那さまを左守に任じ、城内一切の教務及び国務を総括せしめむとされたので、大黒主は気が気でならず、ぢやと云つて最愛の女房石生能姫の言を打消す訳にもゆかず、イヤイヤながら承諾したので厶います。それより大黒主は一時も早く旦那さまを亡き者に致さねば大変だと考へ、石生能姫さまに極内々で今夜の内に鬼熊別をやつつけて了へと、数多の近侍に命じて今宵御館へ襲来することになつたので厶います。其中の一人なる友行がソツと密書を以て私迄知らしてくれたので厶いますから、メツタに間違ひは厶いますまい。サア旦那さま、さう安閑としてゐる時ぢや厶いませぬ。一時も早く防戦の用意を致されるか、但は今の内に此館を逐電なさらねば、呑噬の悔を残すとも及びませぬ。及ばぬながらも熊彦がどこ迄もお供を致し、苦労艱難を共々に嘗めても、旦那様の御身辺を守らねばなりませぬ。サア早く御決心を……』 と促せば、鬼熊別は高笑ひ、 鬼熊別『アハヽヽヽ何とマア世の中は面白いものだなア。昨日の敵は今日の味方、今日の味方は明日の敵、昨日に変る大空の雲、千変万化は世のならひ、どうなり行くも宿世の因縁だ。騒ぐな、あはてな。只何事も此世を造り給ひし梵天帝釈自在天の御心に任すより外に取るべき手段はない』 熊彦『それはさうでも厶いませうが、ミスミス敵に襲撃されるのを前知しながら傍観してゐるのは余り気が利かぬぢやありませぬか。何とかそれに対する方法手段を講ぜねば、如何してあなたの善が世の中に分りませう。今宵やみやみと彼等に亡ぼされなば、何時の世にかあなた様の恨が晴れませう……否疑ひがとけませう』 鬼熊別『吾々は人も恨まない、又敵も憎まない。妻子には離れ、何程結構な身の上になつたとて、一寸先は分らぬ人の身の上、ただ何事も神に任すより手段がない。神さまが吾々を殺さうと思へば、人の手をかつてお殺し遊ばすだらうし、まだ娑婆に必要があると思召したら、殺さずにおかれるだらう。一寸先は人間の目からは暗だ。只刹那の心を楽しみ、神司としての最善のベストを尽せばいいのだ』 熊彦『エヽこれ程申上げても、旦那さまはお聞き下さりませぬか。最早是非には及びませぬ。誠にすまぬ事ながら、旦那さまのお痛はしい姿を見ぬ間にお暇を賜はり、ここにて切腹仕ります。左様ならば旦那様』 と涙を夕立の如くパラパラとこぼしながら、早くも懐剣を引抜き、腹十文字に掻切らむとするを、鬼熊別はグツと其手を握り、 鬼熊別『アハヽヽヽ、何と気の早い男だなア。暇をくれと云つても暇はやらぬ、死なしてくれと申しても決して死なしはせぬぞ。主従の間柄といふものは左様な水臭いものではない。お前が死にたければ、俺の先途を見届けて其後に死んだがよからう。主人より先に勝手気儘に自殺するとは不心得千万だ』 ときめつけられて、熊彦は気を取り直し、 熊彦『これはこれは若気の至り、血気にはやり、誠にすまない事を致しました。主人の意志に従ふのは下僕の役、モウ此上は何事も申しませぬ。どうぞ主従の縁切ること丈は赦して下さいませ。決して旦那さまより先へは早まつた事は致しませぬ。同じ死ぬのならば、寄せ来る敵と渡り合ひ、旦那さまの馬前に於て、斬死を致します』 鬼熊別『コリヤコリヤ斬死などとは不穏当きはまる。如何なる敵が来るとも、彼がなすままに任しておけ、神さまがよきやうにして下さるだらうから……』 熊彦は、 熊彦『ハイ』 と答へてさし俯むき、左右の肩を上げ下げしながら、声を忍ばせ、しやくり泣きつつあつた。 ○ 大黒主の側近く仕へたる侍従の面々は、丑満の刻限を伺ひ、裏門よりソツと脱け出し、檳榔樹の林に包まれたる鬼熊別が館を指して、黒装束に身をかため、草鞋脚絆を穿ちながら手槍を提げ進み行く。如何はしけむ、如時の間にやら横幅五間ばかりの深溝の橋梁が苦もなく墜落して居た。一同は立止まり、 甲『ヤアこりや大変だ。鬼熊別の奴、早くも俺達の行くのを天眼通力にて前知したと見え、橋を落して了ひよつた。下手の橋へまはれば、これより一里半ばかり、さうかうしてる間に夜が明けて了ふ。困つたことが出来たワイ』 と呟いてゐる。これは熊彦がひそかに部下数人に命じ、主人の危難を救ふべく落させておいたのであつた。 乙『オイ、橋を落して用意をして居るくらいなれば、先方にも準備をして居るだらう。何程鬼熊別に部下がないと云つても館の中に抱へてある部下の者は七八十人は確に居る。何奴も此奴も皆命知らずの強者ばかりだ。到底吾々の力では及ぶまい。騙討ならば彼奴等の眠つてゐる内に、奥の間へふみ込んで仕止められぬ事もないが、モウ斯うなつては公然の戦ひだ。オイ今晩はモウ中止したら如何だ。そして敵に油断をさせ、二三日経つた所で、ソツと夜襲を試みることにしようかい』 甲『それだと云つて、御主人様が俺達を御信任遊ばし、是非お前達の手をからねばならぬと、涙を流して仰有つたでないか。沢山な強者もあるに、俺達のやうな奥勤めをする者に御命令が下つたのは、実に光栄といはねばらぬ。御信任が厚ければこそ、こんな秘密の御用に立たして下さつたのだ。其御信任に対してもノメノメと引返す訳には行くまいぞ』 乙『何程御命令だと言つても、橋は落され、敵は数倍の勢力、到底駄目だ。何とか口実を設けて、今晩はゴミを濁しておかうぢやないか』 甲『怪しからぬことをいふな。家来の分際として、旦那様を詐るといふことがあるか。仮令命はなくなつても、此使命を果すのが吾々の勤めだ。事の成否はさておき、如何しても良心が承知をせぬ。何とかして此橋を向方へ渡り、吾良心に満足を与へ、精忠無比の奴と褒められねばならないではないか』 乙『ハヽヽヽヽ、良心や精忠無比が聞いて呆れるワイ。とは云ふものの、俺も主人の為、身を粉にしてでも此目的を達したいのだが、翼なき身を如何にせむ、此橋を渡ることが出来ねば何と云つても駄目だ。見よ、大雲山より流れ来る此激流、もし過つて水中に陥りなば、それこそ一もとらず二もとらず、犬に咬まれたやうなものだ』 甲『イヤ実の所、俺もかうはいふものの、俺の良心も良心だ。チツとは怪しくなつて来たよ。不精忠無比の副守護神が、ソロソロ頭をもたげて来さうで……ないワイ。斯うしてゐる内に夜も明方に近くなる。さうすりや、却て俺達の言訳が立つ、あの橋が落ちてゐた為に、架橋工事に暇取り、とうとう夜があけて了つたから、又出直して夜襲に参りませうと、甘い口実が出来たぢやないか。これ全く大自在天様が吾々を愛し給ふ慈悲の大御心、あゝ有難し勿体なし、願はくは自在天様、此橋はいつ迄もかからずに居ります様に……とは申しませぬ。それは鬼熊別の申す言葉、どうぞ一時も早く完全な橋が架り、旦那様の恨みの敵が亡びますやう、御守護を偏に希ひ上げ奉ります』 乙『ウフヽヽヽ』 一同『イヒヽヽヽ』 (大正一一・一一・一旧九・一三松村真澄録)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 06 仁愛の真相 第六章仁愛の真相〔一〇九〇〕 照国別は岩彦、照公、梅公を従へ清春山の岩窟を立出でて、西南の原野を跋渉しながら漸くにしてライオン河の二三里手前のクルスの森まで進み来り、爰に一行は足を休めながら神徳の話に時を移し、照、梅二人の問に答へむと身を起して厳かに至仁至愛の真相を歌ひ始めた。 その歌、 照国別『三千世界の救世主五六七神の真実は 大慈大悲の大聖者垢なく染なく執着の 心は卯の毛の露もなし天人象馬の調御師ぞ 道風徳香万有に薫じ渡りて隈もなし 智慧恬かに情恬か慮凝いよいよ静なり 意悪は滅し識亡じ心は清く明かに 永く夢妄の思想念断じて水の如くなり。 ○ 身は有に非ず無に非ず因にもあらず縁ならず 自他にもあらず方に非ず短長に非ず円ならず 出にも非ず没ならず生滅ならず造ならず 為作にあらず起に非ず坐にしも非ず臥にあらず 行住に非ず動ならず閑静に非ず転に非ず 進にも非ず退ならず安危にあらず是にあらず 非にしもあらず得失の境地に迷ふ事もなし 彼にしもあらず此にあらず去来にあらず青にあらず 赤白ならず黄ならず紅色ならず紫にあらず 種々色にもまた非ず水晶御魂の精髄を 具足し給ひし更生主是ぞ弥勒の顕現し 世界を照らす御真相仰ぐもたかき大神の 絶対無限の御神徳蒙る神世こそ楽しけれ ○ 戒定慧解の神力は知見の徳より生成し 三昧六通は道品より慈悲十方無畏より起る 衆生は善業の因より出す之を示して丈六紫金 無限の暉を放散し方整に照らし輝きて 光明遠く明徹す毫相月の形の如 旋りて項に日光あり旋髪色は紺青に 項に肉髻湧出し眼は浄く明鏡と 輝き上下にまじろぎつ眉毛の色は紺に舒び 口頬端正唇舌は丹華の如く赤く好く 四十の歯並は白くして珂雪の如く潔らけし 額は広く鼻脩く面門開けてその胸は 万字を表はす師子の臆手足は清く柔かく 千輻の相を具へまし腋と掌とに合縵ありて 内外に握り臂脩く肘も指も繊く長し 皮膚細やかに軟かく毛髪何れも右旋し 踝膝露はに現はれて陰馬の如くに蔵れたり 細けき筋や銷の骨鹿の膊腸の如くなり 表裏映徹いと浄く垢なく穢なく濁水に 染まることなく塵受けず三十三相八十種好 至厳至聖の霊相なり相や非相の色もなく 万有一切有相の眼力対絶なしにけり 五六七は無相の相にして而して有相の身に坐まし 衆生の身相その如く一切衆生の歓喜し礼し 心を投じ敬ひを表して事を成ぜしむ 是ぞ即ち自高我慢祓除されたる結果にて かくも尊き妙色の躯をこそ成就し給ひぬ 一切衆生悉くその神徳に敬服し 帰命し信仰したてまつり無事泰平の神政を 歓喜し祝ひ舞ひ狂ひ千代も八千代も万代も 栄ゆる神世を仰ぐなる原動力の太柱 仰ぐも畏き限りなり三五教は神の道 仏の道の区別なく只々真理を楯となし 世人を救ふ道なれば神の教に表はれし 弥勒の神の真実を仏の唱ふる法により 爰にあらあら述べておくあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして三五教の御教は 古今を問はず東西を区別せずして世の為に 研き究めて神儒仏その他の宗教の真諦を 覚りて世の為人の為誠を尽せ三五の 教司はいふも更信徒たちに至るまで あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ 神素盞嗚大御神厳の御前に願ぎ奉る』 照公『宣伝使様、今の歌は五六七大神様の御真相ぢやなくて木の花姫の神様の様ですなあ』 照国『木花姫の神様も矢張り五六七大神様の一部又は全部の御活動を遊ばすのだよ。又天照大御神と顕現遊ばすこともあり、棚機姫と現はれたり、或は木花咲耶姫と現はれたり、観自在天となつたり、観世音菩薩となつたり、或は蚊取別、蚊々虎、カール、丹州等と現はれ給ふ事もあり、素盞嗚尊となる事もあり、神様は申すに及ばず、人間にも獣にも、虫族にも、草木にも変現して万有を済度し給ふのが五六七大神様の御真相だ。要するに五六七大神は大和魂の根源神とも云ふべき神様だ』 照公『大和魂とはどんな精神を云ふのですか、神心ですか、仏心ですか』 照国別『神心よりも仏心よりも、もつともつと立派な凡ての真、善、美を綜合統一した身魂を云ふのだ。これを細説する時は際限がないが大和魂と云ふのは、仏の道で云ふ菩提心と云ふ事だ』 照公『神と仏との区別は何処でつきますか』 照国別『神と云ふのは宇宙の本体、本霊、本力の合致した無限の勢力を総称して真神と云ふのだ。仏と云ふのは正覚者と云ふ事で、要するに大聖人、大偉人、大真人の別称である』 照公『大和魂について大略を聞かして下さい』 照国別『大和魂は仏の道で云ふ菩提心の事だ。此菩提心は三つの心が集つて出来たものだ。其第一は神心、仏心又は覚心と云つて善の方へ働く感情を云ふのだ。要するに慈悲心とか、同情心とか云ふものだ。第二は勝義心と云つて即ち理性である。理性に消極、積極、各種の階級のある事はもとよりである。理性の階級については到底一朝一夕に云ひ尽されるべきものでないから略する事として、第三は三摩地心と云ふのだ。三摩地心とは即ち意志と云ふ事である。尚よき感情とよき意志とよき理性と全然一致して不動金剛の大決心、大勇猛心を発したものが三摩地心であつて、以上三者を合一したものが菩提心となり大和魂ともなるのだ。何程理性が勝れてゐても知識に達してゐても、知識では一切の衆生を済度する事は出来ない。智識あるもの、学力ある者のみ之を解するもので、一般的に其身魂を救ふ事が出来ない。これに反して正覚心所謂神心、仏心は感情であるから、大慈悲心も起り、同情心もよく働く。此慈悲心、同情心は智者も学者も鳥獣に至るまで及ぼすことが出来る。これ位偉大なものはない。ウラル教は理智を主とし、バラモン教は理性を主とする教だ。それだから如何しても一般人を救ふ事は出来ないのだ。三五教は感情教であるから、一切万事無抵抗主義を採り、四海同胞博愛慈悲の旗幟を押立てて進むのであるから、草の片葉に至るまで其徳に懐かぬものはない。今日の如く武力と学力との盛んな世の中に慈悲心のみを以て道を拓いて行かうとするのは、何だか薄弱な頼りないものの様に思はるるが、決してさうではない。最後の勝利はよき感情即ち大慈悲心、同情心が艮をさすものだ。それだから清春山の岩窟に行つた時もバラモン教の悪人どもを赦したのだ。これから先へウラル教、バラモン教の連中と幾度衝突するか知れないが、決して手荒い事をしてはなりませぬぞ。どちらの教派も左手に経文を持ち、右手に剣を持つて武と教と相兼ねて居るから、余程胆力を据ゑて居らぬと、無事に此目的は達成しないのだ』 岩彦『おい梅彦、オツトドツコイ照国別様、随分醜の岩窟の探険時代とは変りましたね。言依別様のお側近くゐられたと見えて、実に立派なお話が出来るやうになりましたなア。序に一つお尋ね申したいのは、此岩彦が何時も心の中に往復してゐる疑問がある。それはバラモン宗と云つたり、時によつてはバラモン教と云つたり、或はバラモン蔵とか、乗だとか部だとか云ひますが、此区別はどう説いたら宜いのですか』 照国『教と云ふのも、宗と云ふのも、乗と云ふも、蔵と云ふも、部と云ふも、矢張り教と云ふ意味だ。如何云つても同じ事だ』 岩彦『いや有難う。それで諒解しました。然し乍ら仏教の教典を経文と云ひますが、其経文の経は教の教とは違ひますか』 照国別『それは少しく意味が違ふ。経と云ふ字は、経糸と云ふ字だ。今迄の教は凡て経糸ばかりだ。緯糸がなければ完全な錦の機が織れない。それだから既成宗教はどうしても社会の役に立たない。経糸ばかりでは自由自在に応用する事が出来ぬ。三五教は国治立尊様の霊系が経糸となり、豊国姫尊様の霊系が緯糸となり経緯相揃うて完全無欠の教を開かれたのだから、如何しても此教でなくては社会の物事は埒があかない。要するに今迄の凡ての教は未成品だ、未成品と云つても宜い様なものだ。故に三五教では教典を経文ともコーランとも云はず、神諭と称へられてゐるのだ』 岩彦『やあ、それで胸の雲がサラリと晴れ渡つて、真如の日月が身辺に照り輝く様な気分となつて来ました。流石は照国別と云ふお名前を頂かれた丈あつて変つたものですな』 斯く話す折しも、向ふの方より数十騎の人馬の物影、此方に向つて蹄の音勇ましく一目散に駆来るのであつた。照国別は三人に目配せし、木の茂みへ姿を隠し、乗馬隊の何者なるかを調べむと、息を凝らして窺ひゐる。先鋒に立つた馬上の将軍はバラモン教にて可なり名の聞えた片彦であつた。彼等の一隊は今やライオン河の激流を渡り、急速力を以てウブスナ山のイソ館へ進撃せむとする途中であつた。躰の疲れを休めむと四人が潜む此森林に馬を乗り捨て、暫し腰を卸して雑談に耽つてゐる。 (大正一一・一一・一旧九・一三北村隆光録)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 12 心の反映 第一二章心の反映〔一〇九六〕 秋風切りに吹きすさぶ玉山峠の谷間で バラモン教の大棟梁イソの館の征討に 上りしランチ将軍の部下に仕へしカル司 鬼熊別の家の子と仕へて名高きレーブ等と 衡突したる其結果互に谷間に墜落し 人事不省に陥りていつとはなしに幽界の 枯野ケ原を歩みつつ野中の巌に休む折 カルの部下なる八人は赤黒二人の鬼共に 引つ立てられて枯草の莽々茂る野原をば 一途の川を指して行くレーブとカルの両人は 青き鬼奴に誘はれ三途の川の渡場に 漸く辿り来て見れば果しも知らぬ広い川 清き流れは滔々と白き泡をば吐きながら 大蛇のうねる如くなり川の畔の一つ家は 金光きらめく玉楼の眼まばゆきばかりなり 金門をあけて青鬼は館の中に身を隠し 二人の男をやうやうとここ迄誘ひ参りしぞ 受取りめされと云ふ声の聞えて暫し経つ間に 以前の鬼は会釈して何処ともなしに消えにける 二人は川辺に佇みて思はぬ美しき此家は 土地に似合はぬ不思議さと囁く折しも金鈴を 振るよな清き女声早く来れと呼びかくる 不思議の眼をみはりつつ近づき見れば鬼婆と 思うた事は間違か花も恥らふ優姿 年は二八か二九からぬ神妙無比の光美人 いとニコニコと笑ひ居る二人は驚き川端の 女と暫し掛合ひつ一間を奥へと入りみれば 奥の一間は草野原三途の川の滔々と 以前の如く鳴りゐたり水晶館に導かれ 鏡の如く透きとほる館の中で出口をば 失ひ互に辟易し千言万語を並べつつ 救ひを乞へば川端の美人は二人の手を取つて 醜けき小屋の其前に立ちあらはれて言ひけらく 今迄汝の立入りし家屋は娑婆と神界の 住居の姿の模型ぞや此茅屋は鬼婆の 弥永久に鎮まりて娑婆にて重き罪かさね 十万億土の旅立を致す亡者の皮を剥ぐ 脱衣婆さまの関所ぞといふより早く忽ちに 娘は醜き婆となり痩せからびたる手を伸べて 二人の素ツ首引つ掴む其いやらしさ冷たさに 三途の川の中つ瀬に身を躍らして両人は ザンブとばかり飛び込んで抜手を切つて向ふ岸 やうやう渡り着きにけり。 二人は着衣の儘、際限もなき広い川を、意外にも易々と無事に渡つたのを、非常な大手柄をしたよな気分になり、爽快の念に堪へられず、川の面を眺めて、紺青の波を見入つてゐた。 レーブ『鬼婆アさまに首筋を掴まれ、生命カラガラ此川へ飛込んだものの、これだけ広い川、到底無事には渡れまいと真中程で思うたが、此激流にも似合はず、弓の矢が通つたやうに、一直線に易々と、而も匆急に渡られたのは何とも知れぬ不思議ぢやないか』 カル『そこが現界と神界との異る点だ。ヤアあれを見よ。何時の間にか川はどつかへ沈没して了ひ、美はしい花が百花爛漫と咲き匂うてるぢやないか。アヽ何とも知れぬ芳香が鼻をついて来る。あれ見よ。川ぢやないぞ。エデンの花園みたいだ』 レーブ『ヤアほんにほんに、何とマア不思議な事ぢやないか。ようよう白梅の花が大きな木の枝に所々に咲いてゐる。バラの花に牡丹の花、紫雲英に白連華其外いろいろの草花が所せき迄咲いて来た。ヤツパリ天国の様子は違つたものだ。モウこんな所へ来た以上は虚偽ばかりの生活をつづけてゐる現界へは、万劫末代帰りたくないワイ。なあカル公、お前と俺とは、少しばかりの意地から、忠義だとか義務だとかいつて主人の為に互に鎬を削り、名誉を誇らうと思つて、猟師にケシをかけられた尨犬の様にいがみ合ひ、恨も何もない者同士が、命の取りやりをやつてゐたが、竜虎互に勢全からず、とうとう玉山峠の谷底で寂滅為楽急転直下、神界の旅立となつたのだ。が之を思へば現界の奴位可哀相な者はないのう』 カル『併し乍ら、お前と俺と偽善の行り比べをやつたおかげに、互に娑婆の苦を逃れ、こんな天国浄土へ来られるやうになつたのだから、何が御都合になるとも分らぬぢやないか。昨日の敵は今日の味方、虎狼の唸り声も極楽の花園を渡る花の薫風となりにけりだ。モウ斯うして神界へ来た以上は、名位寿福の必要もなければ互に争ふ余地もない。勝手に広大無辺な花園を逍遥し、自由自在に木の実を取つて食ひ、一切の系累を捨てて単身天国の旅をするのだから、これ位愉快な事はないぢやないか。併し乍ら善因善果、悪因悪果といふからは、斯様な所へ来られる様になるのは余程現界に於て善を尽したものでなければならぬ筈だ。俺達の過去を追懐すれば、決してかやうな所へやつて来られる道理はない。ヒヨツとしたら、神様が人違を遊ばしたか、感違をなさつたかも知れぬぞ。モシそんな事であつたなら、俺達は大変だ。此美はしき楽しき境遇が忽ち一変して、至醜至苦の地獄道へ落されるかも知れない。之を思へばヤツパリ執着心が起つて来る。何程執着心をとれと云つても、此天国に執着が残らいでたまらうか。あゝ惟神霊幸倍坐世。どうぞ神様、夢でも構ひませぬから、どこ迄も此境地において下さいますやうに』 と手を合して一生懸命に天地を拝んでゐる。何時の間にか、二人の立つてゐた地面は二十間ばかり持上り、左右の低い所に坦々たる大道が通じて、種々雑多の人物や禽獣が右往左往に往来してゐるのが見えて来た。 レーブ『ヤア俄に又様子が変つて来たぞ。オイ、カル、気をつけないと、どんな事になるか知れぬぞ、チツとも油断は出来ないからな』 かく話す折しも、二三丁前方に当つて猿をしめる様な悲鳴が聞えて来た。二人は物をも言はず、其声を尋ねて何人か悪魔に迫害され居るならむ、救うてやらねばなるまいと、無言のまま駆出した。近よつて見れば、白衣をダラリと着流した丸ポチヤの青白い顔をした男が、右手に血刀を持ち、左手に四五才ばかりの美はしき童子の首筋を引掴み、今や胸先へ短刀を突き刺さむとする間際であつた。 レーブ、カルの二人は吾を忘れて、其男に飛びかかり、血刀を引つたくり、童子を助けむと、力限りにもがけども、白衣の男は地から生えた岩のやうに、押せども突けどもビクとも動かぬ。みるみる間に其童子を無残にも突き殺して了つた。 レーブ『コリヤ悪魔奴、此処は何処と心得てゐる、勿体なくもかかる尊き天国に於て、左様な兇行を演ずるといふ事があるか』 男『アハヽヽヽ阿呆らしいワイ。悪魔の容物の分際として、此方を悪魔呼ばはりするとは何の事だ。糞虫は糞の臭気を知らぬとは貴様の事だ。サアこれから其方の番だ、そこ動くな。イヒヽヽヽ、なんとマアいぢらしいものだなア、いかさま野郎のインチキ亡者奴、身魂の因縁に依つて、此天来菩薩が之から汝を制敗致すから、喜んで此方の刃を受けたがよからうぞ』 レーブ『アハヽヽヽ天来菩薩とはソラ何を吐かす、苟くも菩薩たる者が凶器をふりまはし、天国の街道に於て殺生をするといふ事があるか。況して罪のない童子を殺害するとは、以ての外の代物だ。コリヤ悪魔、イヤ天来、よつく聞け、此方こそはバラモン教にて英雄豪傑と世に謳はれた武術の達人、カル、レーブの両人だ。汝の如き小童共、仮令幾百万人一団となつて武者ぶりつくとも、千引の岩に蚊軍の襲撃した様なものだ。サア今に此方の武勇を現はし、汝が剣をボツたくり、寸断にしてくれむ、覚悟を致したがよからうぞ。神界の名残に神文でも称へたがよからう』 男『ウツフヽヽヽうろたへ者奴が、神界の法則に依つて、此方が使命を全くする為、此童子を制敗してゐるのだ。汝はいつも現界でホザいて居るだらう、神が表に現はれて、善と悪とを立別ける、神でなくて、身魂の善悪が分るものか。貴様達の容喙すべき限でない、人間は人間らしく黙つて自分の行くべき所へ行けばいいのだ。訳も知らずに安つぽい慈悲心だとか、義侠心を発揮しようと思つても、そんな事は、鏡の如き明かな神界に於ては通用致さぬぞ』 レーブ『仮令此童子に如何なる罪があらうとも、神界に於ては何事も善意に解し、神直日大直日に見直し聞き直し宣直し給ふのが大慈大悲の神様の御恵だ。其方は使命だと申すが、娑婆地獄ならば知らぬこと、天地の神の分霊たる人間を自ら手を下して制敗するといふ道理があるか』 男『エヘヽヽヽぬかしたりなぬかしたりな、それ程よく理屈の分つた其方なれば、此方を神直日大直日に見直し聞き直し宣直さぬか。娑婆で少しく覚えた武勇を鼻にかけ、吾々を悪魔呼ばはりになし、此方の刀を掠奪して盗賊の罪を重ね、又此方を寸断せむとは自家撞着も甚だしいではないか。そんな事で如何して神界の旅が出来るか。テもさても分らぬ奴だな。オツホヽヽヽ鬼の上前を貴様ははねようと致すのか、何と恐ろしい我の強い代物だなア』 カル『コリヤ悪魔、ここは神界だぞ、貴様の居る世界は幽界だらう。かやうな所へやつて来るといふ事があるか、早く立去れ。グヅグヅ致して居ると、神界幽界の国際談判が始まり、遂には談判破裂して、地獄征伐の宣示が渙発されるやうになるかも知れぬぞ』 男『イツヒヽヽヽ其方は現界に於て一つの善事もなさず、まぐれ当りに神界へふみ迷うて来よつて、一角善人面をさらして、ツベコベと理屈を囀つてゐやがるが、此悪魔も此血刀も、皆貴様の心の反映だ。貴様は八岐大蛇の悪魔の憑いた大黒主の部下に仕ふる鬼春別の乾児の乾児の其乾児たる小悪人で居ながら、三才の童子に等しき天の下の青人草の生血を吸ひ、少しの武勇を鼻にかけ、修羅の戦場に疾駆した其罪が今ここに顕現してゐるのだ。要するに此方は貴様の罪が生んだ悪魔だから、貴様が本当に神直日大直日に見直し宣直し、発ごんと改心を致したならば、かかる尊き神界の大道に如何して俺が現はれる事が出来ようか。俺が亡ぼしたくば、貴様の心から改心したがよからう。人が悪魔だと思うて居れば、みんな自分の事だぞ。コリヤ、レーブ、其方は今の先黄金姫に出会ひ、三五教の教理を聞いたであらう。人が悪いと思うてゐると皆われの事ぢやぞよ………と玉山峠の岩蔭で聞かされたぢやないか』 レーブ『成程さうすると、お前は俺の言はば副守護神だなア。何と悪い副守が居やがつたものだなア』 男『アハヽヽヽ都合のよい勝手な事をいふな。副守護神所か、貴様の本守護神の断片だ。トコトン改心致さぬと、まだまだ此先で貴様の生んだ鬼が貴様に肉迫して、どんな目に会はすか知れぬぞ。己が刀で己が首切るやうなことが出来致すから、早く改心致したがよからう。レーブばかりでない、カルも其通りだ、此童子はヤツパリ、カルの身魂の化身だ。どうだ判つたか』 レーブ『ヤア判つた、斯うして二人仲よくして神界の旅行をやつてゐるものの、本当のことを言へば、おれも淋しくて仕方がないから、道伴れにしようと思ひ、表面こそ親切に打解けたらしくしてゐるものの、行く所まで行つたならば斯様な悪人は此下に見ゆる地獄道へつき落してやらうと、心の端に思うてゐたのだ。ヤア悪かつた、オイ、カル公、俺は本当に済まなかつた。心の罪を赦してくれ』 カル『あゝさうか、おれも実はお前と打解けて歩いて居るものの、何時お前が俺の素首を引抜くか知れぬと思うて、戦々兢々と心の底でしてゐたのだ。さうするとあの童子は俺の恐怖心が塊つて現はれたのだな。お前がさう改心してくれる以上は、最早お前も恐れはせぬ。互に打解けて心の底から仲よくして、此天国を遊行しようぢやないか。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と両手を合せ、両人は目をとぢて天地に祈願をこめた。暫くあつて、目を開きあたりを見れば、男の影も童子の影もなく、大地に流れた血潮と見えしは紅の花、紛々と咲き匂ひ、白黄紫青などの美はしき羽の蝶翩翻と花を目がけて舞ひ遊んでゐる。両人は初めて心の迷ひを醒まし、天津祝詞を奏上しながら、北へ北へと手をつなぎつつ、いと睦じげに進み行く。 (大正一一・一一・三旧九・一五松村真澄録)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 15 氷嚢 第一五章氷嚢〔一〇九九〕 照国別の宣伝使仁慈無限の大神の 教を四方に伝へつつ月の都にバラモンの 教を開き世を乱す大黒主の神司を 三五教の御教に言向和し照国の 尊き御代と立直し一切衆生の身魂をば 救はむものと勇み立ち険しき山を打渉り 荒野ケ原を踏み越えて岩彦、照公、梅公の 三人と共にクルスの森進み来りて疲れをば 休むる折しも向ふよりイソの館に攻め上る 鬼春別の一部隊片彦、久米彦両将が 先頭に立ちて進み来る此は一大事と一行は 森の茂みに身をかくし敵の様子を窺へば 大胆不敵の命令を采配振つて号令する それの態度の忌々しさに照国別は木影より 声張りあげて宣伝歌涼しく清く宣りつれば 敵は驚き照国の別の命に四方より 攻めかけ来る猪口才さ無抵抗主義の三五の 教を伝ふる神司善言美詞の言霊に 成るべくならば言向けて悔悟させむと思へども 暴逆無道の敵軍は何の容赦も荒風の 吹きまくる如迫り来る正当防衛と云ひながら 清春山より現はれし岩彦司は杖を振り 縦横無尽に敵軍に阿修羅の如く打込めば 負傷者を残し馬を棄て皆散々に逃げて行く 照国別は敵軍の手傷を負ひて倒れたる 二人の男を介抱し信書を認め清春の 醜の岩窟を守り居るポーロ司を戒めつ イソの館に三五の教の道を学ぶべく 遣はしやりて照、梅の二人と共に駒に乗り 轡を並べてシトシトとテームス山にさしかかる 折から吹き来る凩の風に面を吹かれつつ これぞ尊き神風と勇気日頃に百倍し 蹄の音も戞々と険しき坂を登り行く あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ。 照国別は岩彦の所在を失ひ、彼が行衛を求めて、森の小蔭や薄原隈なく探り、一行は漸くにしてテームス山を登りつめ、頂上の関所に着いた。ここには大黒主の命を奉じて春公、雪公、紅葉他二人が小さな庵を構へて名ばかりの関守をやつてゐる。大酒を煽つては大地に倒れ、風に吹かれ酔醒めの風を引いては熱を出し、手拭で鉢巻をしながら狐の泣き声の様な百日咳に悩んで居る。何奴も此奴もコンコンカンカンの言霊の競争をやつて居た。風の神を追ひ出すのは、磐若湯に限ると云ふので捻鉢巻をしながら、酒の勢で昼夜風の神と競争をやり、薬鑵から熱を出し汗をタラタラと流しながら格闘してゐる真最中であつた。 春公『ウンウン、痛い痛い、風の神の奴、暴威を逞しうしやがつて、此春さまの頭蓋骨を鉄鎚でカンカンと殴りやがるやうな痛さだ。腹の中へは狐でも這入りやがつたと見えて、コンコンと吐すなり、テームス山の関守も中から斯う咳が出ては副守の奴、関守に早変りしやがつたと見える。本当に咳がチツとやソツとぢやない、痰と出やがつた。アハヽヽヽイヒヽヽヽ、痛い痛い、こりや雪公、一つ天眼通で風の神の正体を透視してくれないか』 雪公『あまり酒を喰つて寒風にあたると凍死するものだ。何卒凍死してくれと云つても、俺は凍死ばかりは御免だ。それよりも万劫末代生とほしになりたいからなア』 春公『こりや、貴様も余程訳の分らぬ唐変木だな。俺の云ふ透視と云ふのは、そんな怪体の悪い凍死ぢやないわい。腹の底まで何が憑いて居るか透視してくれと云ふのだ。アイタヽヽヽオイ早く透視せぬかい』 雪公『おれは雪さまだから、あまり雪さまばかりに溺れて居ると凍死する虞があるぞ。貴様の腹の中を一寸見ると大変な腹通しだ。上げる下す、まるで此テームス峠の頂上の関守には持つて来いだ。貴様も生命の大峠が来たのだから、これ迄の因縁と諦めて潔く成仏せい。風声鶴唳にもド肝を冷し微躯付いて居る様な関守では到底生存の価値がない。よい加減に娑婆塞ぎは冥土参りした方が社会の為だからなア』 春公『こりや雪、貴様は何と云ふ冷酷な事を云ふのだ。ド頭をポカンとハル公にしてやるぞ』 雪公『雪と云ふものは火のやうに温かいものでも、熱いものでもない。冷酷なのが当り前だ。冷然として人の病躯を冷笑するのが雪さまの特性だ。然しそれだけ熱があつては貴様も堪るまい。氷嚢の代りに此雪公さまの冷たい尻を貴様の薬鑵頭に載せてやらうか。さうすれば、少しは熱が減退するかも知れないぞ』 春公『斯う熱が高うては仕方がない。貴様の尻で俺の熱が下る事なら臭うても幸抱せうかい』 雪公『よし、時々風が吹くかも知れぬが、前以てお断りを云うておく』 と云ひながら冷たい尻をまくつて春公の頭の上にドツカと載せた。 雪公『おい、随分冷い尻だらう。血も涙もない冷ケツ動物だから……熱病の対症療法には持つて来いだ。実にケツ構な療治法だ、アハヽヽヽ』 春公『こりや、俺の鼻の上に何だか袋を載せたぢやないか。冷いやりするが、怪体な香がするぞ』 雪公『これは豚の氷嚢代理に睾嚢を張り込んでやつたのだ。イヒヽヽヽ』 春公『あゝ苦しい、重たいわい。チツと重量を軽減する様に中腰になつてくれないか』 雪公『雪隠のまたげ穴をふん張つたやうな調子で中心を保つて居るのだから重たい筈はない。熱病と云ふものは頭の重いものだ。おもひおもひにお神徳をとつたが宜からうぞ。(義太夫)あゝ思へば思へば前の世で如何なる事の罪悪を、やつて来たのか知らねども、そりや人間の知らぬ事、現在テームス山の関守を仰せ付けられながら、其職責を完うせず、肝腎要の蜈蚣姫、小糸姫を知つて見逃した其天罰が報い来つて、今ここに臆病風の神様に襲はれたるか、いぢらしやア……悪い事とはしりながら、しりのつぼめが合はぬよな、しり滅裂の報告が、如何してハルナの神館に、鎮まりゐます大黒主に、致されうか……許して下されバラモン天王様、お願ひ申すと計りにて、コンコンコンとせき上げて、苦し涙にくれにける。シヤシヤシヤンシヤンシヤン』 春公『ウンウンウン、こら雪公、そんな気楽な事どこかい。俺や、もう生命のゆきつまりだ。もちとシツカリ尻をあててくれぬかい』 雪公『(義太夫)「ゆきつ、戻りつ、とつおいつ、又もや咳の声すれば、これがお声の聞きをさめと……思へば弱る後が……み……寂滅為楽も近づきて、無情の風は非時に、吹き荒ぶこそ哀れなり、トテチントテチントツトツチン、テンテン」いやもう瀕死の病人に対し応急療法も最早駄目だ。お前の一生も最早けつ末がついた。けつして決して娑婆に執着心を残し、踏み迷うて来てはならぬぞ。大黒主様の御目が届かぬと思うて慢心を致し、神を尻敷きにした天罰で、此清明無垢の雪のやうな身魂の雪さまに尻敷きにしられるのだ。因果応報、罰は覿面、憐れなりける次第なり。エヘヽヽヽ』 紅葉『こりや雪、貴様は俺が最前から聞いて居れば、春公さまに対し親切にして居るのか、不親切にして居るのか、或は介抱するのか、虐待するのか、テンと訳が分らぬぢやないか』 雪公『かうゆきつまつた世の中、訳が分らぬのはあたり前だ。俺はゆきつまつた社会の反映だから、これで普通だよ。親切さうに見せて不親切の奴もあり、善の仮面を被つて悪を行ふ奴もあり、人を助けてやらうと云つて甘くチヨロまかし、其実人は死なうが倒れやうが吾不関焉だ。自分さへ甘い汁を鱈腹吸うて自分が助からうとする奴ばかりだ。こんな悪魔横行の世の中に如何して真面目な事が出来ようか。俺の天眼通だつてその通りだ。当る時もあれば外れる事もある。社会の利益になる事もあれば社会の害毒になる事もある。それだから善悪不二、正邪一如と云ふのだわい。オツホン』 紅葉『人の難儀を見て貴様は平気で居やがるが、本当に怪しからぬ奴ぢやないか』 雪公『貴様何だい、袖手傍観してるぢやないか。貴様こそ本当に友人に対し冷酷な代物だ。大方触らぬ神に祟なしと云ふ猾い考へを持つて俺ばつかりに介抱させ、さうして善だの悪だの親切だの不親切だのと小言を垂れやがるのだな。尻でも喰つたがよいわい。屁なつと吸へ』 紅葉『俺は貴様等の二人の手が塞がつてゐるなり、あと二匹の奴はズブ六に酔ひやがつて役に立たぬなり、仕方がないから貴様の代りに関守を勤めて居るのだ。もしも斯んな処へ三五教の宣伝使が堂々とやつて来よつたら如何するのだ』 雪公『そりや、その時のまた風が吹くわい。春公の風邪ぢやないがコンコンと懇談して関守としてのベストを尽すだけのものだ。これだけ熱が多いと此春公も黒死病になりやせぬか知らぬて、困つたものだ。俺の尻がソロソロ焼けて来だしたぞ。大変な熱だ』 紅葉『おい、あんまり貴様が大きな尻で志士仁人たる春公を圧迫するものだから、如何やら息が絶れたと見え、呼吸が止まつたぢやないか』 雪公『俺は智慧の文珠師利菩薩だ。今朝も文珠師利菩薩が獅子に乗つて、此処を大変な勢で通つたぢやないか。それだから俺も春公の頭に腰掛け、尻からプン珠利菩薩となつて、あらゆる最善の知識を傾けて治療に従事してるのだ。此辛い時節に薬礼も貰はず、これだけ親切に介抱するものが何処にあるかい』 かく話す処へ関所の押戸をポンポンと叩くものがある。紅葉は慌てて戸外に飛び出し仰ぎ見れば照国別一行であつた。 照国『此処はテームス山の大黒主の関所だと聞いて居るが、関守の頭に一寸お目にかかりたい』 紅葉『ハイ、関守の大将は、……実は……今年の今月の始めから……今日今夜に至るまで臆病風を引きましてコンコンとせきをやつて居ますので、生憎こん回はお目にかかる事は出来ますまい』 照国別『それは気の毒な事だ。斯様な峠の吹きはなしでは風も引きませう。吾々が一つ神様にお願ひ致して鎮魂をやつて上げませうかな』 紅葉『エー滅相もない。貴方は三五教の宣伝使、左様なお方に鎮魂とやらをやられましては、サツパリコンと駄目になつて了ひます。何卒こん度に限つてお断わりを申します。サアお通りなさい』 照国別『決して吾々は貴方等がバラモン教の関守だからと云つて、悪くするのではない。よくして上げたいと思ふからだ』 紅葉『何程御こん切に仰有つて下さつても、三五教のお方にお世話になるのは一寸こん難で厶います』 照国別『お前は同僚が九死一生の場合を助けたい事はないのか』 紅葉『晨の紅顔、夕べの白骨、どうで一度は死なねばならぬ人生の行路、夢の浮世で厶いますから、春公も一層の事ここで死んだ方が、彼の為めには好都合かも知れませぬ。親切が却つて無になりますから、何卒鎮魂ばかりは平に御容赦を願ひます』 照国別『何とバラモン教は友人に対してさへも随分冷淡なやり方ですなア。一切衆生に対しては尚更冷酷なと云ふ事は此一事にても看取される、かう云ふ事を聞くと如何してもバラモン教を改造してやらねばなるまい』 紅葉『実は此通り五人の関守が四人まで手抜きが出来ませぬので、困つて居る所で厶います。何卒御存じの通り取り込んで居りますから、御用があれば又明日来て下され』 照国別『アハヽヽヽ、まるで吾々を乞食扱ひにして居よるわい。然し乍ら仮令バラモン教にもせよ、人の困難を見て之を救はずに素通りする事は出来ない。照公さま、梅公さま、お前は奥へ這入つて此処に屁垂つてゐる病人を鎮魂してやつて下さい』 紅葉『メヽヽ滅相な、病人は春公一人で厶います。外の奴は風を引いたといつてもホンの鼻腔加答児をやつただけ、風の神をおつ払ふとてスヤスヤと寝んで居るのですから、何卒お構ひ下さるな』 照公、梅公は委細構はず奥に入り、両方より天の数歌を歌ひあげた。雪公は驚いて春公の頭の上にのせて居た尻をあげ、番小屋の小隅に蹲んで震うて居る。天の数歌を二三回唱へた時、春公はカツカツと大きな咳を二つした。その途端に小さい百足虫が二匹飛んで出た。見る間に五六尺の大百足虫となり一目散にテームス峠を矢の如くに逃げ下り行く。春公は初めて熱もさめ、身体元の如くなり汗を拭きながら、 春公『何れのお方か知りませぬが九死一生の場合、よくまあ助けて下さいまして、誠に有難う厶いました』 と感謝の声と共に不図見あぐれば、三五教の宣伝使照国別一行の三人であつた。春公は生命の親の宣伝使様と喜び勇み、これより四人を後に残し照国別に従つて心の底より悔い改め、案内役として月の御国へ従ひ行く事となつた。 (大正一一・一一・四旧九・一六北村隆光録)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 余白歌 余白歌 月の影山にかくれて曲神のさやぎ一入高くなるなり〈序文に代へて(初版)〉 打ち寄する醜の荒波高くともやがては和がむ心安の海は〈序文に代へて(初版)〉 桶伏の山に神霊を止めつつ西行く月の影は清けし〈緒言(初版)〉 高山の醜の嵐は強くとも時さへ待たば静まり行かむ〈緒言(初版)〉 月入りて再び出づる松の代を憧憬れ暮す信徒の群〈緒言(初版)〉 神のため世人のために聖場を離れて高き神国に住むも〈総説(初版)〉 曲神の舌の剣に悩まされ出で行く吾は神と倶なり〈総説(初版)〉 日の本の人の心に飽き果てて進み行くかも青山の空に〈総説(初版)〉 ともすれば昔の御魂のあらはれて乱さむとする○役の魂〈一章(初版)〉 固陋なる頭脳の持主大本に一人あるため道は進まず〈一章(初版)〉 曲彦や醜原別の精霊は今に残りて神に刃向かふ〈一章(初版)〉 草枕旅に出でたる人の身を悲しみ歎く真人愛しき〈三章(初版)〉 真明の光は東の大空ゆ輝き初めむ常世の野辺に〈四章(初版)〉 三千年の永き年月待ちあぐむ君とし知らば世人勇まむ〈四章(初版)〉 天の下四方の民草守らむと神と倶なる吾は出で行くも〈六章(初版)〉 善のため善を行ひ愛のため愛を行ふは真人なりけり〈七章(初版)〉 愛善の徳に住する真人はこの世ながらの天人なりけり〈七章(初版)〉 常世なる曲神等に聖場を汚され吾は神に泣謝す〈八章(初版)〉 天の下四方の国々人草を救はむとして雲に隠るる〈九章(初版)〉 わが姿目に見えずとも驚くな真の神に姿なければ〈九章(初版)〉 春の花秋の紅葉も今よりは光さやかに見え初めにけり〈十一章(初版)〉 月雪も花も忘れて神のため尽し来たりし吾は嬉しき〈十一章(初版)〉 天地の秘密も人の運命も落つる桐葉の中に潜める〈十四章(初版)〉 曲神の醜の猛びの強くして神の柱を打ち倒しける〈十四章(初版)〉 省みる事をば知らぬ八十曲霊群がり住める聖場の庭〈十四章(初版)〉 わが曲を覆ひかくして罪科を瑞の御魂に負はす醜神〈十六章(初版)〉 黄金の光出づると聞きしより伊寄り来るかも欲の醜神〈十六章(初版)〉 吾が出でし後の聖地は皇神の恵の露は一入注がむ〈二十章(初版)〉 しばしの間嵐吹けども皇神の御水火に触れて安く和ぐべし〈二十章(初版)〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました]
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霊界物語 41_辰_黄金姫&清照姫の入那の国の物語1 08 無理往生 第八章無理往生〔一一一二〕 中央印度のデカタン高原の南方に当るテルマン国と云ふ、住民殆ど十万に近き、印度では相当な大国があつた。テルマンの都に富豪の聞え高き毘舎族にシヤールと云ふ男があつた。其邸宅は都の東方最も風景佳き地を選み、邸の周囲一里四方にあまり、深き広き濠を囲らし、其勢ひ王者を凌ぐばかりの豪奢振りを発揮してゐる。富力に任せて数多の美人を買ひ求め来り之を妾となし、本妻のヤスダラ姫に対しては極めて冷酷な取扱をしてゐた。ヤスダラ姫は入那の国のセーラン王が従妹に当る刹帝利の生れで、セーラン王の許嫁であつた事は前節已に述べた通りである。ヤスダラ姫はシヤールの広き邸の中に可なり美はしき家宅を与へられ、二人の侍女と共に面白からぬ月日を送りつつあつた。ヤスダラ姫館の取締にリーダーと云ふ年若き綺麗な万事抜目なく立廻る利口な男があつた。ヤスダラ姫は此リーダーを此上なきものと愛し時々琴等を弾じさせ其日の鬱を慰めてゐた。或時ヤスダラ姫は一間に閉ぢ籠り、一絃琴を弾じながら述懐を歌うてゐる。 ヤスダラ姫『水の流れと人の行末定めなき世と云ひながら 夢の浮世に生れ来て妾は尊き刹帝利 セーラン王の従妹と生れ年端も行かぬ幼き頃より 親と親との許嫁吾行末はイルナの国 治統ぎ給ふセーラン王の后と仕へまつる身の 今は果敢なきヤスダラ姫遠き山野を隔てたる テルマン国の毘舎と在すシヤールの妻と下されて 朝な夕なに現世をはかなみ暮す悲しさよ 空ゆく雲を眺むれば西へ西へと流れ行く 御空をかける鳥見れば之また西へ進み行く 空行く雲や飛つ鳥の人の哀れを知るならば イルナの国に在れませるセーラン王の御許へ 切なき妾が思ひねを完全に詳細に訪れよ 朝な夕なに吾恋ふる聖の王の身の上を 案じ過して夜も昼も心痛むるヤスダラ姫 思ひ廻せば吾身ほど因果なものが世にあらうか 月の国にて刹帝利の尊き家に生れあひ 貴勝の地位にありながら今は卑しき毘舎の妻 神も仏も世の中にお在しまさずや、あゝ悲し 情なの娑婆に永らへて胸の炎を焦しつつ 消す術もなき苦しさよシヤールの夫は朝夕に 富の力に任せつつ毘舎の娘や首陀の子を 彼方此方と狩り集め吾物顔に女子を 弄びつつ妹と背の尊き道を打ち忘れ 妾に対して一度も情をかけし事もなし バラモン教を守ります梵天帝釈自在天 大国彦の神様よヤスダラ姫の境遇を 憐れみ給ひて一時も早く恋しきセーラン王に 一目なりとも会はせかし仮令吾身は朽つるとも 神より受けし吾魂は王の御側に通ひつつ 朝夕御身を守るべしテルマン国は広くとも シヤールの家の瑞垣は山より高く築くとも 邸を囲る濠水は何程深く広くとも 王を慕へる吾心如何でか通はぬ事やあらむ あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 御魂の清き人の来て吾身を救ひ夜に紛れ 父のまします入那の国に送らせ給へ自在天 尊き神の御前に心も常に安からぬ ヤスダラ姫が真心を籠めてぞ祈り奉る あゝ惟神々々此世を造り給ひたる 皇大神の御前に慎み敬ひ願ぎ奉る』 と淑かに歌つてゐる。かかる所へ邸の内外の掃除を済ませ身禊をなし、正服と着換へて姫の室を訪ねて来たのは忠僕のリーダーである。姫は琴の手をやめてニツコと笑ひ、 ヤスダラ姫『あゝ其方はリーダー殿、大変早いぢやありませぬか。大層お掃除が……今日は又特別によく出来たやうですな』 リーダー『ハイ、今日は旦那様から御命令が厶りましたので、早朝より室内の掃除を致し、門の隅々まで竹箒がバイタになる所まで掃きちぎつて置きました。大変美しくなつたでせう。破れ草鞋の様に隅から隅まではきちぎつて置きました。アハヽヽヽ』 ヤスダラ姫『ホヽヽヽヽ、掃きちぎつて置いたのは結構だが、今日に限つて特別の御命令を遊ばすとは、何かのはき違ひでも出来たのぢやありませぬか』 リーダー『ハイハイ何分僕のことで姫様が御存じない位ですから、吾々にはハキハキと何御用か分りませぬ。兎も角履物の位置をキチンと揃へて置きました。これで旦那様がお見えになつても、家内しめて四名と云ふ事が分りますやうに、履物が玄関口にお迎へを致して居りますわ』 ヤスダラ姫は少しく頭を傾け、 ヤスダラ姫『ハテナ、いつもお見えになつた事のない旦那様が御入りなのか知らぬ。どうせ碌なことではあるまい』 と独語ちつつ心配さうに考へ込んでゐる。そこへ二三人の供人を従へ足音高くやつて来たのはシヤールである。ヤスダラ姫は一絃琴を手早くとつて床の間にキチンと直し、襟を正し満面に愛嬌を湛へながら、言葉優しく、 ヤスダラ姫『あゝ貴方は旦那様、よくまあ入らして下さいました。今日は何か変つた御用向でも出来ましたか』 と慇懃に尋ぬればシヤールは木訥な声で、 シャール『何、別にこれと云ふ用はないのだが、今日はお前に一つ聞き訊さねばならぬ事が出来たのだから、其積りで包まず隠さずハツキリと返答をしてもらはねばならぬよ』 と面膨らし不機嫌の体である。ヤスダラ姫は胸を轟かせながら、 ヤスダラ姫『それは又変つた御用向、何か妾の一身上に就いて嫌疑がおありなさるのですか』 シャール『あればこそ、忙しい中を一日の暇を割いてお前の館へ出て来たのだ。暫く待つて居ろ。入那の都からカールチンの奥様テーナ姫様がお前の身の上に就いてお越しになつたのだ。お前は夫の目を忍び、入那の国のセーラン王の御許へ艶書を送つたではないか』 ヤスダラ姫は打驚き顔色を変へて、 ヤスダラ姫『な……何と仰せられます。まるで寝耳に水のやうなお話ぢや厶りませぬか』 シヤールはあげ面をしながら嫌らしく笑ひ、 シャール『エヘヽヽヽ寝耳に水とは俺の事だ。お前は幼少より左守の司の娘として深窓に育てられ、純粋な淑女だと思つてゐたのに、夫の目を忍んで艶書を送るとは何と云ふ不貞腐れ女だ、見下げ果てたる莫蓮者奴、今に面の皮をヒン剥いてやるから楽しんで待つてゐるが宜からうぞ』 ヤスダラ姫は悲しさ身に迫り、声を立ててワツと其の場に泣き伏した。シヤールは此体を見て冷やかに笑ひながら、 シャール『アハヽヽヽ、何とまあ、劫を経た古狸だな。女の涙は城を傾け五尺の男子を手鞠の如くに翻弄すると聞く。併し乍ら此シヤールは幾百人とも知れぬ女性に接し居れば、女の慣用手段たる泣き声や涙には決して驚かないぞ。此道にかけては天下無双の勇士、シヤールに向つてはバベルの塔を蝶が襲撃する程にも感じないのだから、そんな古手な事は止めて貰はうかい。あた八釜しい』 ヤスダラ姫『旦那様、貴方はどこ迄も妾をお疑ひ遊ばすのですか。此頃入那の国には悪人蔓り王様を廃立せむと企らむ一派と、これを助けむとする一派とが始終暗闘を続けてゐるさうですから、大方反対党の方から何かの策略で妾を犠牲にすべく中傷讒誣の声を放つたのでせう。何卒冷静に御熟考を願ひます』 シャール『何処までも渋太い阿女奴、汝の弁解は聞く耳持たぬ。今テーナ姫を此処へお迎へ申し黒白を分けて見せてやるから、赤恥をかかない様に致したが宜からう』 ヤスダラ姫はシヤールの暴言に呆れ果て、心弱くては叶はじと気をとり直し、眼を据ゑ坐り直して襟を正し、儼然として、 ヤスダラ姫『妾はいやしくも入那の国の刹帝利左守の司のクーリンスが娘、左様な穢はしき事が如何して出来ようぞ。テーナ姫とやら、証拠に立つと申すなら、一刻も早く此処へお招きなさいませ。屹度妾が悪者共の謀計を暴露し懲しめてくれませう』 と形相物凄く稍声を尖らせて言ひきつた。シヤールも名代の富豪、テルマン国の有力者の中に数へらるる身なれども、生れは卑しき毘舎の種、ヤスダラ姫の此言葉に何となく恐れを抱き、次第々々に尻込みなして引下る。かかる所へ二三の供に送られて肩で風を切りながら、絹ずれの音サヤサヤと上使気取りでやつて来たのは右守の司カールチンの妻のテーナ姫である。 テーナ姫は鷹揚に玄関口を上り、少しくフン反り返つて裾を長く引きずりながら、身体一面に瑠璃、しやこ、珊瑚、金、銀、瑪瑙等で飾り立て、棚機姫の降臨か、松代姫の再来かと言ふやうな満艦飾で奥の間に遠慮会釈もなく進み入り、シヤールに打ち向ひ、 テーナ姫『シヤール殿、其方の第一夫人ヤスダラ姫は此方で厶るかな』 と鷹揚にヤスダラ姫を睨めつけながら故意とに問ひかける。シヤールは頭を下げ、 シャール『ハイ、問題のヤスダラ姫はこれで厶ります。何卒十分にお取調を願ひます。貴女の御言葉の通りならば如何しても此儘にして置く訳には参りませぬ』 テーナ姫は皺枯れた声を出して、さも憎々しげに、 テーナ姫『此方が問題のヤスダラ姫で厶るかな。如何にも虫も殺さぬやうな淑女面をさらし、大それた事を致さるるものだな。外面如菩薩内心如夜叉、善の仮面を被つてシヤールの家庭を紊乱し、次いでイルナの国を攪乱致す金毛九尾の悪狐の再来、一日も早く妾の申す通り堅牢なる座敷牢を造り、外間の交通を絶ち幽閉なさらねば、カールチンの右守様に対し申訳が立ちますまいぞ。此テルマン国はイルナの国の属邦なれば、当時大黒主の信任厚き右守の司の命令に背かむか、シヤールの家は忽ち闕所の憂目に遇ひますぞ。早く決行なさるが宜からう』 と目に角を立て厳かに宣示するを、シヤールは縮み上り「ハツ」と畳に頭をすりつけながら、 シャール『仰せに従ひ其準備に取りかかるで厶いませう』 ヤスダラ姫は夫シヤールの不甲斐なき態度にグツと腹を立て、声を震はせながらテーナ姫に向ひ、 ヤスダラ姫『其方は右守の司の妻テーナ姫ではないか。汝が夫カールチンは卑しき首陀の生れ、吾父クーリンス殿より引き立てられ、今は右守の司の地位に迄進み、漸く世に認めらるる様になつたのは誰のお蔭だと思うて居るか。汝は吾幼少の時の子守役を勤めて居つた卑しき婢女、今は右守の司の妻となりたればとて、妾に対し無礼の雑言、最早聞棄てはなりませぬぞ』 と睨めつくればテーナ姫は平然として打笑ひ、 テーナ姫『オホヽヽヽ、愈以てヤスダラ姫は狂気致したと見ゆる。妾の夫はイルナの国にて其名も高き刹帝利の生れ、妾は又貴勝族の生れで厶る。ヤスダラ姫が父クーリンスこそ卑しき首陀の生れ、吾夫カールチンの引立によりて今日の地位を得ながら、其大恩を忘れ、反対に妾の夫を卑しき首陀族と申すは何たる暴言、こりや屹度正気ではあるまい。早く牢獄に打ち込めよ』 と勢に任して反対的の捏論をまくしたて、無理往生にヤスダラ姫を幽閉せしめむと焦慮つてゐる。カールチンがテーナ姫をシヤールの館に、ヤスダラ姫に難癖をつけて幽閉せしむべく、使者に遣はしたのは深き考へがあつての事である。カールチンは大黒主の後援の下にセーラン王、クーリンスを放逐し其野心を達せむとする折、ヤスダラ姫のありては後日の大妨害となる事を慮り、難癖をつけて姫を幽閉し置かむとの策略である。又一つには娘のサマリー姫とセーラン王との交情あまり面白からざるは、ヤスダラ姫此世に生存して何時とはなしにセーラン王に思ひを通じるを以て、セーラン王の斯くも吾娘を冷遇するならむとの僻みより、犬糞的にシヤールの館へ頭抑へにテーナ姫が夫の使者として遥々やつて来たのである。ヤスダラ姫は心汚きカールチン、テーナの計略によつて、シヤールの邸内に堅牢なる牢獄を造り其中に不愍にも残酷にも幽閉さるる身となつて了つた。 風雨雷電の烈しき夜、ヤスダラ姫によく仕へたるリーダーは堅牢なる牢獄を打ち破り、ヤスダラ姫を救ひ出し暗に紛れてシヤールの館を脱出し、夜を日についで入那の国、父の館をさして逃げ帰る準備にかかれり。 (大正一一・一一・一一旧九・二三北村隆光録)
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霊界物語 41_辰_黄金姫&清照姫の入那の国の物語1 13 夜の駒 第一三章夜の駒〔一一一七〕 イルナの都、セーラン王の館の奥の間には、王を始め黄金姫、清照姫、テームス、レーブ、カルの六人、上下の列を正し、対坐しながら、ひそびそ話が始まつてゐる。 王『黄金姫様、遠方の所夜中にも拘らず、よくお越し下さいました。これで私も一安心致します。貴女は鬼熊別様の奥様蜈蚣姫様、小糸姫様で厶いますなア』 黄金姫『ハイ、恥しながら運命の綱にひかれて、とうとう夫と別れ、神様の為に三五教の宣伝使になりました。世の中は思ふ様にゆかないもので厶います』 セーラン王『左様で厶いますなア、私も夫婦の道に就いて、非常に悲惨な境遇に陥つて居ります。これでも何時か又神様の御恵に依つて、思ふ様に身魂の会うたもの同士添ふ事が出来ませうかなア。貴女様は最早鬼熊別様と仲よく元の夫婦となつて、神界にお仕へ遊ばすことが出来ませう。私は到底望みがありますまい』 黄金姫『親子夫婦が一緒に神界に仕へる位、結構な事はありませぬが、私の夫は御存じの通り、バラモン教の柱石、私始め娘は三五教の宣伝使、何程神様は一つだと申しても、むつかしい仲で厶います』 セーラン王『決して御心配なさいますな。鬼熊別様は、キツト貴女のお説に御賛成遊ばすで厶いませう。私の今日の身の上は実に言ふに言はれぬ境遇に陥つて居ります。許嫁のヤスダラ姫は奸臣の為に郤けられ、心に合はぬ妻を押付けられ、一日として楽しく暮した事はありませぬ。其上奸者侫人跋扈し、私の身辺は実に危急存亡の場合に陥つて居ります。就いては貴女様をお迎へ申上げ、此危急を救うて頂きたいと存じまして、北光の神様の夢のお告げに依つて、数日前より貴女様の此方へお出ましになるのをばお捜し申して居りました。よくマア来て下さいました。今後は貴女のお指図に従ひ身を処する考へですから、何分宜しく御願ひ致します』 黄金姫『貴方は三五の教を信じますか』 セーラン王『ハイ、別に信ずるといふ訳では厶いませぬが、大自在天様も世界の創造主、国治立尊様も矢張り世界の創造主、名は変れども元は同じ神様だと信じて居ります』 黄金姫『国治立尊様は本当の此世の御先祖様、盤古神王や自在天様は人類の祖先天足彦、胞場姫の身魂から発生した大蛇や悪狐悪鬼の邪霊の憑依した神様で、言はば其祖先を人間に出して居る方ですから、非常な相違があります。神から現はれた神と、人から現はれた神とは、そこに区別がなければなりませぬよ』 セーラン王『あゝさうで厶いますかなア。私は三五教の奉斎主神たる国治立大神様も、盤古神王様も、大自在天様も同じ神様で、名称が違ふだけだと聞いて居ります。私も固くそれを信じて居りましたが、さう承はれば一つ考へねばなりますまい。チヨツト貴女様母娘に見て頂きたいものが厶りますから、どうぞ私の籠り場所へお越し下さいませ。妻でも左守の司でも誰一人入れたことのない神聖な居間で厶います。テームスよ、レーブ、カルと共にここに暫く待つてゐてくれ』 テームスは、 テームス『ハイ畏まりました』 とさし俯むく。王は母娘を伴なひ、籠りの室へ進み行く。行つて見れば、可なり広い室が二間並んでゐる。そこには立派に斎壇が設けられ、いろいろの面白き骨董品などが、陳列されてあつた。床の間の簾を王はクリクリと捲上げ、手を拍ち、祝詞を奏上し始めた。母娘も同じく頭を下げ、小声に祝詞を奏上し、終つて斎壇をよくよく見れば、一幅の掛軸が床の間の正面にかけられ、神酒、御饌、御水等がキチンと供へられてある。これは常に王が潔斎して神慮を伺ふ秘密室であつた。 掛物の神号をよく見れば、天一神王国治立尊……と正面に大字にて記し、其真下に教主神素盞嗚尊と記し、中央の両側に盤古神王塩長彦命、常世神王大国彦命と王の直筆で記されてあつた。黄金姫母娘は此幅に目をとめ、何とも言へぬ爽快さと驚きの念にうたれ、呆然として其神号を眺めてゐる。 セーラン王『私の信仰は此通りで厶います。お分りになりましたか』 黄金姫『思ひもよらぬ御神徳を頂きました。これではイルナの城も大丈夫、御安心なさいませ。併し乍ら此世の御先祖様でも時世時節には対抗し難く、一度は常世彦、常世姫一派の為に、根底の国までお出でなさつた位だから、決して油断は出来ませぬ。貴方の信仰が大黒主の方へでも分らうものなら大変だから、今暫くは発表せないが宜しいぞや』 セーラン王『ハイ、左守の司にさへも此室は覗かせた事はありませぬ。誰も知る者はないのですから、大丈夫で厶います』 黄金姫『仮令此室を覗かぬとも、貴方の信仰が斯うだとすれば、何時とはなしに、貴方の声音に現はれ、皮膚に現はれ、遂にはかん付かれるものです。如何しても心の色は包む事は出来ませぬから』 セーラン王『貴女様が此処へお越し下さつた以上は、余り心配する事も要りますまい。一寸これを御覧下さいませ』 と次の間に二人を導く。見ればここにも一寸した床の間があつて、二幅の絵像が掲げられてあつた。黄金姫、清照姫はアツとばかり驚かざるを得なかつた。それは日頃心にかけてゐる夫鬼熊別の肖像と一幅は神素盞嗚尊の御肖像であつた。清照姫は思はず、 清照姫『あゝこれはお父様、大神様』 と言はうとするを、黄金姫は口に手を当て、 黄金姫『コレコレ清照姫殿、何を仰有る。これはキツト大黒主様と自在天様の絵姿だ。そんな大きな声を出すと、悪魔の耳に這入つては大変ですよ』 清照姫『父上によう似た御肖像で厶いますなア。ホヽヽ』 セーラン王『私は今までバラモン神を信仰して此国を治めて居りましたが、或夜の夢に神素盞嗚大神様、鬼熊別命様と二柱現はれ給ひ、いろいろ雑多の有難き教訓を垂れさせ下さいまして、それより神命に従ひ、私一人信仰を励み、時の到るを待つて居りました。私の夢に現はれたお姿を思ひ出して、自ら筆を執り、ソツとお給仕を致して居ります。鬼熊別様は神界にては神素盞嗚尊様のお脇立になつてゐられます。キツト其肉体も三五のお道へお入り遊ばすでせう。只時間の問題のみが残つてゐるのだと感じて居ります』 黄金姫母娘は物をも言はず感に打たれ、嬉し涙にかきくれてゐる。セーラン王は、 セーラン王『天地の神の恵を目のあたり 拝みし今日ぞ尊かりけり。 素盞嗚神の尊に服ひて 教を守る鬼熊別の神司よ。 鬼熊別神の命は今暫し ハルナの都に忍びますらむ。 時機来ればやがて表に現はれて 三五教の司となりまさむ。 あゝ嬉し黄金姫や清照姫 神の司に会ひし今宵は』 黄金『来て見れば思ひもよらぬ王の居間に わが背の君の姿拝みし。 バラモンの教の御子と思ひしに 摩訶不思議なる今宵なりけり』 清照『千早振る神の光の強ければ 父の命の心照りつつ 吾父は最早国治立神の 教の御子となりましにけむ。 セーランの王の命よ今暫し 時を待ちませ神のまにまに。 清照姫教の司も今宵こそ 積る思ひの晴れ渡りける』 黄金『北光の神の命のかくれます 高照山にとく進みませ。 高照の山は世人の恐ろしく 噂すれども貴の真秀良場。 百千々の狼の群従へて 北光の神は王を待ちつつ。 いざさらばテームス、レーブ、カル三人 後に従へとく出でませよ』 王『黄金姫神の御言に従ひて とく立出でむ高照山へ。 吾行きし後の館は汝命 暫し止まり守り給はれ』 清照『大神の稜威の光に照らされて 道も隈なく安く行きませ。 母と娘が心を協せ身を尽し 入那の城を暫し守らむ』 王『鬼熊別神の命の賜ひてし 生玉章を汝に奉らむ。 心して披き見給へ鬼熊別 神の命の真心の色を』 と言ひながら、鬼熊別より王に遣はしたる密書を黄金姫に恭しく手渡した。黄金姫は手早く封じ目を切り、押披いて読み下せば、左の文面であつた。 『鬼熊別よりセーラン王に密書を送る。 一、これの天地は天一神王大国治立尊の造り給ひし神国にして、決して大国彦、塩長彦の神等の創造せし天地にあらず。又大黒主はバラモン教の大棟梁として兵馬の権を握り、大教主の仮面を被り居らるれども、天は何時迄も斯かる虚偽を許し給はず、必ずや本然の誠に立ち返り、三五教を信従する時あるべし。それに付いては神素盞嗚大神の御摂理に依り、吾妻子近々の中に王が館に訪問すべければ、一切万事を打明け、国家の為に最善の努力をなさるべし。ハルナの都は今や軍隊の大部分は遠征の途に上り、守り最も少なくなり居れり。然るに王に仕ふる右守より王を廃立せむとの願書、大黒主の許に来り、大黒主は数千の騎士を近々差向くる事となりをれば、イルナ城は実に風前の灯火なるを以て、貴王は吾妻子と共に善後策を講じ、一時何れへか避難さるべし。鬼熊別はハルナの都に止まつて、大黒主を悔ひ改めしめ、其身魂をして天国浄土に救はむと朝夕努めつつあり。吾妻子に面会の日を期し、一刻の猶予もなく、安全地帯へ一時身をかくさるべく呉々も注意致します。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と記されてあつた。黄金姫、清照姫は久しぶりに鬼熊別の肉筆の手紙を見て、夫に直接会ひし如く、父に面会せし如く、心勇み、感涙を落しながら、 黄金『あゝ之にて何もかも分りました。北光の神様が一時も早く貴方を狼の岩窟へ誘ひ来れとの御命令も、此手紙の文面にて氷解しました。あゝ、何と神様はどこまでも注意周到なお方だなア』 清照『お父様に直接お目にかかつた様な心持が致します。神様、有難う厶います』 と両手を合せ、神素盞嗚尊の聖像に向つて、感謝の詞を捧げた。 黄金『サアかうなる上は、一刻も早く高照山へ夜の明けない中にお越し遊ばせ。申上げたき事は山々あれど、今はさういふ余裕も厶いませぬ。サア早く早く』 とせき立つれば王は、 セーラン王『左様ならば、万事宜しく願ひます』 と先に立ち、テームス等が控へてゐる居間に姿を現はした。王は母娘と共に表の居間に立現はれ、テームスに打ち向ひ、 セーラン王『テームス、御苦労だが、早く駒の用意をしてくれ。これから高照山へレーブ、カルを伴ひ、出発致すから』 テームス『ハイ承知致しました。併し乍ら黄金姫様の御命令に依り、馬の用意はチヤンと整へておきました。何時なりともお供を致しませう』 セーラン王『あゝそれは有難い。それなら、黄金姫様、清照姫様、あとを宜しく御願ひ致します』 黄金『君ゆきて如何にけながくなるとても われは館を守りて待たむ。 うら安く進み出でませ高照の 山の岩窟に神は待たせり。 三五の教司の北光の神は 君のいでまし待たせ給はむ』 王『いざさらば黄金姫や清照姫 神の命よ惜しく別れむ』 と歌ひながら、慌しく表に出で、裏門口より駒引き出し、暗の道を辿りて、高照山の岩窟指して一行四人は雲を霞と駆り行く。 (大正一一・一一・一二旧九・二四松村真澄録)
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霊界物語 41_辰_黄金姫&清照姫の入那の国の物語1 14 慈訓 第一四章慈訓〔一一一八〕 狼守る高照山の岩窟には主客五人膝を交へて何事か話に耽つてゐる。北光の神は宣伝使の傍鍛冶の名人なれば、数多の精巧なる機械を閑暇ある毎に製造し、鑿、槌、鶴嘴、鍬等を造つて岩窟を穿ち、今や八咫の大広間は幾つとなく穿たれ、難攻不落の金城鉄壁となつたのである。それに数百千の狼は北光の神の恩威に服し、恰も飼犬の如くよく其命を守り、且つ人語を解する様になつてゐた。岩窟の一間には天の目一つの神を上座に、其右側には竹野姫、少し下がつてヤスダラ姫、竜雲、リーダーの順に湯をすすりながら神話に耽る。 竜雲『北光の神様、私も悪逆無道の悪魔に憑依され、サガレン王に対し不臣の罪を重ね、已に霊魂は根底の国へ投げ込まるる所で御座りましたが、貴神の御親切なる御教訓によつて、貪瞋痴の夢も覚め、漸く真人間にして頂きました。一時勢に乗じ、サガレン王の後を襲うて権利を揮うた時の苦しさに比ぶれば、今日の気楽さ楽しさは、天地の相違で御座ります。体主霊従の欲望にかられ、知らず知らずに身魂を地獄に落してゐるものは、決して竜雲ばかりでは御座りますまい。何とかして其迷ひを醒まさせ、身魂を安楽にさせてやりたいもので御座りますワ』 北光『其方は月の国を巡回して来たのだから、最早天下の人情はよく分つただらう。随分世の中は憐れむべきものが多いだらうな』 竜雲『ハイ、仰せの通り何処の国へ参りましても宗教争ひや名利の欲に搦まれて、互に鎬を削る惨状は、まるで地獄餓鬼畜生道其儘の出現で御座ります。丁度以前のセイロン島に於ける竜雲の雛形は到る所に散見せられます。併し乍ら不思議な事には三五教の少しでも息のかかつた地方は、極めて人心平穏、寡欲恬淡にして、上下相親しみ、小天国が築かれてゐるのを目撃致しまして、最も愉快に感じた事も御座ります』 北光神『其方が七千余ケ国を巡つた中、比較的治まり難い処は何処々々だと思ひましたか』 竜雲『ハイ、随分沢山で一々申上げる訳には参りませぬ。併し乍ら第一にカルマタ国、第二にイルナの国などは今や大騒乱の勃発せむとする間際になつてゐる様で御座ります。カルマタ国は東北に地教山を控へ、地教山には三五教の神柱が誠の道を守つて附近の人民を教養して居られる。そこへウラル教の常暗彦が現はれて本拠を構へ、間隙あれば地教山を併呑せむと企んでゐる。此頃は又ウラル教の勢ひがあまり盛なと云うて、ハルナの都の大黒主が、大足別将軍に数多の軍隊を引率せしめ攻め来るとの飛報頻りに来り、人心恟々たる有様で御座ります。次にはイルナの国のセーラン王に対する嫉視反目日に月に加はり、正義派と不正義派とが断えず暗闘をつづけ、今にも右守の司は大黒主の威勢を頼みイルナの王を放逐し、自らとつて代らむとの計画中だとの城下の人々のとりどりの噂、何時イルナの都は戦塵の巷と変るやも知れぬとの事で御座ります。何とかして此惨状を未発に防ぎたいと存じ、竜雲も都下を徘徊致して宣伝歌を歌ひ廻りました所、右守のカールチンが部下に圧迫され、已に生命までとられむとせし所、不思議にも何処ともなく狼の群、白昼に現はれ来り、咆哮怒号して敵を追散らし、煙の如く姿を隠しました。その機を窺ひ一目散に都を逃げ出し、照山峠を越えてスタスタ帰り来る途中、蓮川の辺に於てヤスダラ姫様主従に出会ひ、お二人様の危難を救ひ、後になり前になり、見えつ隠れつ照山峠の麓まで送つて来ました所、三五教の黄金姫様母娘に出会ひ、一時も早く北光彦の神様の御命令だから高照山へ参れとのお言葉、取るものも取りあへず姫様のお供をして此処迄参つたもので御座ります。実に危険至極の世の中となつて参りました』 北光神『成る程、それは御苦労。此館は猛獣の眷族数多守り居れば、天下第一の安全地帯だ。ヤスダラ姫殿も御安心なされませ』 ヤスダラ姫『ハイ有難う御座ります。女の道を踏み外した妾をお咎めもなくお助け下さいまして何とも恐れ多くて申上げやうも御座りませぬ。何卒宜しく今後の御教養を、偏にお願ひ申します』 北光神『随分ヤスダラ姫様、貴女も悪人共の欲望の犠牲となつて苦しみましたな。身魂の合はぬ夫を持たされ、嘸日々不愉快をお感じになつたでせう。御心中お察し申します』 と情ある言葉に、ヤスダラ姫はヤツと安心し、嬉し涙を袖に拭ひながら、 ヤスダラ姫『思ひもよらぬ御親切な御言葉、有難う御座ります。何を隠しませう、妾はイルナの都の左守クーリンスの長女と生れ、セーラン王様の許嫁で御座りました所が、ハルナの都の大黒主様に諂び諛ふ右守カールチンの為めに遮られ、種々と難癖をつけられた挙句、テルマン国の毘舎が妻とせられ、今日まで面白からぬ月日を送つて来ました。今貴神のお言葉の通り身魂が合はないのか存じませぬが、夫のシヤールに対して少しも愛の念が起らず、夫も亦妾に対して至極冷淡、路傍相会ふ人の如く、夫婦としての暖味は夢にも味はつた事は御座りませぬ。妻として夫に対して愛を捧げるが道なれども、如何したものか其心が湧いて来ませぬ。勿体ない事ながら、明けても暮れても親の許嫁の夫セーラン王様の事が目にちらつき、お声が耳に響き、王様の事のみ夢現に恋ひ慕ひ心に罪を重ねて居りました。所へ右守の妻テーナ姫が夫の館に右守の使者として現はれ来り、妾に対し無理難題を吹きかけ、夫のシヤールを威喝して遂に獄舎を造り妾を投げ込み、非常な虐待を致すので御座ります。妾は最早運命つきたりと覚悟を極め、涙にくるる折しも、雨風烈しき夜半、これなる忠僕リーダーが獄舎を打破り、妾を背負ひ暗に紛れて此処まで漸う連れて来てくれました。之も全く神様のお蔭と竜雲殿の御保護で御座ります。最早此世に望みは御座りませぬが、せめて一度父のクーリンスや妹のセーリス姫に面会したう御座ります。又成る事ならば一目なりとも王様のお姿を拝みたく存じます。それさへ出来れば最早死んでも怨みは御座りませぬ』 と身の上話にホロリと涙を落し差俯むく。 北光神『それでスツカリ事情は分りました。やがて親兄妹は申すに及ばず、セーラン王様に会はせませう。さうして屹度身魂同士の夫婦だから肉体の上でも夫婦となつて、イルナの都の花と謳はれ遊ばす様に守つてあげませう。此手筈は已に此方に於て神示の下に行はれつつありますから御安心なさいませ』 ヤスダラ姫『左様な有難い事になりませうかな。そんな事が出来ますならば、妾を初め親兄妹はどれほど喜ぶか知れませぬ。王様も嘸御満足を遊ばすで御座りませう』 竹野『ヤスダラ姫様、貴女もこれから神様のために余程御苦労を遊ばさねばなりませぬぞや。妾も随分若い時は両親に別れ、淋しい月日を送りましたが、風の便りに父の命は高砂島に在しますと聞き、姉妹三人が色々と艱難苦労を致しまして、珍の都を立ち出でてエデンの川辺へ進み行く折しも、悪者共に取巻かれ、困りきつて居る所へ、月照彦様の御化身照彦と云ふ館の僕が追つ掛け来り危難を救ひ呉れられました。それより父の在します珍の都へ、主従四人訪ねて参り、ヤレ嬉しやと思うたのも束の間、木花姫命様の化身なる珍山彦の神に導かれ恋ひしき父の都を後に、テルの国にて照彦に別れ、それより船に乗つてアタルの港へ上陸し、ヒル、カルの国々を姉妹三人離れ離れに宣伝を致し、ウラル教の魔神鷹依別の目付に追ひ捲られ、情ある春山彦の館に隠され漸く危難を免れ、黄泉比良坂の戦ひに参加致しましたが、随分種々の神様のお試しに会ひました。それより又アジヤに渡り所々方々と宣伝に廻るうち、神素盞嗚大神様のお媒酌によつてコーカス山に於て北光の神様と結婚式を挙げましたが、それから長い間夫婦同居した事もなく、お道の為め活動をつづけ、此頃漸く夫婦が一緒に斯うして御用を勤める様になりました。最早夫も年が寄り、妾もこんな婆になつて了ひました。オホヽヽヽ』 と涙をかくして笑ひに紛らす。 ヤスダラ姫は竹野姫の話に感じ、且つ自分の苦労の足らぬのを恥かしく顔赤らめてオゾオゾしながら、 ヤスダラ姫『左様で厶りましたか、人間と云ふものは中々容易な事で一生を送る事は出来ませぬな。妾等は貴女の事を思へばお話になりませぬ。少しの忍耐もなく夫の牢獄を脱け出し、ノメノメと親兄妹や思ふ夫を慕うて帰つて来た心のきたなさ、恥かしさ、実に汗顔の至りで厶ります』 北光神『ヤスダラ姫様、御心配なさいますな。貴女はこれから神界のため御活動遊ばすのだ。人の一生は重荷を負うて険しい山坂を登るやうなものです。何時険呑な目に遭ふやら、倒れるやら分りませぬ。そこを神様の御神力で助けられ、波風荒き世の中を安々と渡るのですよ。さうして自分の身を守りながら神様の貴の御子たる天下の万民に誠の道を教へ諭して、天国に救ひ、霊肉ともに安心立命を与へるのが神より選まれたる貴女等の任務だから、如何なる艱難辛苦に遭ふとも決して落胆したり怨んだりしてはなりませぬ。何事も此世の中は人間の自由には木の葉一枚だつてなるものではない。みんな神の御心のまにまに操縦されて居るのだから、如何なる事が出て来ようとも惟神に任し、人間は人間としての最善の努力を捧ぐれば宜いのです。此竜雲さまだつて始めは随分虫のよい考へを起し得意の時代もあつたが、忽ち夢は覚めて千仭の谷間へ身を落した様に見すぼらしい乞食とまでなり果て、此処に翻然として天地の誠を覚り、諸国行脚をなし、今は完全な神司となり、御神力を身に備ふるやうにおなりなさつたのですから、人は如何しても苦労を致さねば誠の神柱にはなる事は出来ませぬ。此北光の神が都矣刈の太刀を鍛ふるにも、鉄や鋼を烈火の中へ投げ入れ、金床の上に置いて、金槌を以て幾度となく錬り鍛へ叩き伸し、遂には光芒陸離たる名刀と鍛へる様なもので、人間も神様の鍛錬を経なくては駄目です。一つでも多く叩かれた剣は切れ味もよく匂も美はしき様なもので、人間も十分に叩かれ苦しめられ、水火の中を潜つて来ねば駄目です。これから此北光の神が貴女の恋ふるセーラン王に面会させますが、決して安心をしてはなりませぬぞ。吾々夫婦の如く互に手配りをして誠の道に尽さねばなりませぬ。いつ迄も若い身を以て天下擾乱の此場合、夫婦が安楽に情味を楽しむと云ふ事は出来ませぬ。生者必滅会者定離、別離の苦しみは人間は愚か、万物に至るまで免れ難き所、此点を十分に御承知を願つておかねばなりませぬ。やがてセーラン王は二三の忠誠なる僕に守られ、此処にお出でになりませう』 ヤスダラ姫『ハイ、有難う厶ります。何から何まで御親切の御教訓、屹度肝に銘じて忘却致しませぬ。否何事も神様の仰せを遵奉致しまして、天晴れ神柱と鍛へて頂く覚悟で厶ります』 竹野『ヤスダラ姫貴の命の言の葉を 聞くにつけても涙ぐまるる。 勇ましき汝が御言を聞きしより 竹野の姫の胸も輝く』 ヤスダラ『有難し北光神や竹野姫 御言のままに道に仕へむ。 セーラン王貴の命の今此処に 来ますと聞きて胸轟きぬ。 相見ての後の心に比ぶれば 今の吾こそ楽しかるらむ』 北光『セーラン王貴の命は今此処に 北光神の住家訪ねて。 惟神神の御手に導かれ 妹背の山の谷間を行きませ』 竜雲『打仰ぎ空行く雲を眺むれば 人の行末思ひやられつ。 高照の山に棲まへる狼も 夫婦の道は忘れざるらむ。 妻となり夫となるも天地の 神の結びし縁なるらむ』 リーダー『はるばるとテルマン国を立出でて 姫を守りつ今此処にあり。 テルマンのシヤールの館を出でし時 行末如何にと思ひなやみしよ。 かくばかり尊き神に会ひし上は 世に恐るべきものあらじとぞ思ふ。 惟神神の御言を畏みて 世人の為めに身をや尽さむ』 斯く歌ひ終る時しも、俄に聞ゆる蹄の音カツカツと岩窟内まで響き来る。 北光『ヤア、あの足音はセーラン王の一行ならむ。竜雲殿、お出迎へ頼み入る』 ヤスダラ『えツ!』 竜雲『畏まりました』 と身を起し岩窟の入口指して一目散にかけり行く。 (大正一一・一一・一二旧九・二四北村隆光録)
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霊界物語 42_巳_黄金姫&清照姫の入那の国の物語2 09 狐狸窟 第九章狐狸窟〔一一三四〕 ユーフテスは外から呼んだ女の声に不審の念晴れやらず、腕を組んで暫く「ウーン」と溜息をついてゐる。外より以前の女の声、 外の女(別のセーリス姫)『もしもしユーフテス様、セーリス姫で厶います。這入りましてもお差支は厶いませぬかな』 ユーフテス『差支がないとは申さぬ。二人もセーリス姫があつて堪るかい。ばヽヽヽ化物奴、早く退却せい。ユーフテスには腕があるぞ』 外の女『オホヽヽヽ御両人さまが密約御成立の間際に、白首が参りましては、嘸御迷惑でせう。然しながら、あたえは本当のセーリスですから、何と仰有つても侵入致しますよ』 ユーフテス『主人の許可もないのに無断で闖入すると、治警法嘘八百条によつて告発してやるぞ。それでも承知なら、闖入なつと乱入なつと、やつたら宜からう。アーン、オホン』 セーリス姫『何方か知りませぬが、何卒お這入り下さいませ。あなたも矢張セーリス姫さまで厶いますか。妙な事もあるものですな』 外の女『ハイ、有難う厶います。同名同人のセーリス姫ですよ』 ユーフテス『こりやこりや女房、オツトセーの俺に答へもなく、勝手に女を吾居間へ引き入れると云ふ事があるか。婦人道徳をチツトは考へたがよからうぞ』 セーリス姫『オホヽヽヽヽようそんな事仰有いますな。女の居間へ女が来るのが、何がそれ程悪いのですか。貴郎如何です、私一人の女の居間へ何時もニヨコニヨコやつて来るぢやありませぬか。外のセーリス姫さまが御入来になるのが不道徳ならば、貴郎の方が余程不道徳ですわ、あゝもう貴郎の御面相が俄に怪体になつて来て、私は兎も角、腹の虫が排日運動をやりかけました。国際問題の起らぬうちに早く退却して下さい。ねえ、オツトセーのユーフテスさま』 ユーフテス『こりやこりや女房、何と云ふ暴言を吐くのだ。千年も万年も添うて呉れと云つたぢやないか。心機一転と云ふも実に甚だしい』 セーリス姫『手を翻せば雨となり、手を覆へせば風となる、君見ずや管鮑貧時の交、此道近人すてて土の如し、オホヽヽヽヽ』 ユーフテス『女と云ふものは本当に分らぬものだな。八尺の男子を三寸の舌鋒で、肉を剔り骨を挫き、血を搾るやうな目に遇はしやがる。貴様は大方化州だらう。アーン』 セーリス姫『ホヽヽヽヽ貴郎も余程頓馬ですな、開闢以来女は化物と云ふぢやありませぬか。そんな訳の分らぬ様な野呂作では、婦人に対し彼是云ふ資格はありますまい。ねえ外からお出でやしたセーリス姫さま、どつちが化物だか分つたものぢやありませぬねえ』 外の女『どうせ化物ばかりの跳梁跋扈する世の中ですもの、このユーフテスさまだつてヤハリ化物ですわ。恋と云ふ曲者の魔の手に誑惑されて、三代相恩の主人の陰謀を残らず相手方へ密告なさる様な世の中ですもの、百鬼昼行は現代の世相だから、如何ともする事は出来ますまい。是から二人の女が両方から膏を搾つてあげませうか。女と云ふ字を二つ書いて真中に男の字をはさむと嫐られるとか読むさうですな。オホヽヽヽヽ』 セーリス姫『男の字を二つ並べて女を一字はさめると嬲るとか読むさうですわ。何れ恋とか鮒とかに嫐られてゐる天下の色男だから、嬲るのも嫐られるのも光栄でせう。サア遠慮は要りませぬ。外のセーリス姫さま、お這入り下さい』 ユーフテス『何が何だか狐に魅されてる様だ。ハテ、如何したら此真偽が分るだらうかな』 と頻りに首を捻る。其間に外の女は襖をガラリと引き開け、転け込む様にしてユーフテスの前にドスンと音を立てて坐り込んだ。其反動でユーフテスは一尺ばかり大の図体を撥ね上げられ、惰力が余つて二つ三つ餅搗きの演習をやつてゐる。 女『これ、ユーフテスさま、お怪我は如何ですか。あてえ、本当に心配しましたわ』 ユーフテス『こりやこりや女、何を吐かしやがる、セーリス姫の真似をしやがつて、馬鹿にするな。そんな事でちよろまかされる様なユーさまぢやないぞ』 女『ホヽヽヽヽ已に已に騙されてゐるぢやありませぬか。ユーさまの舌が俄に直つたのは何とお考へです。本当の人間なれば、さう即座に神言を称へたつて直るものぢやありますまい。セーリス姫ぢやと思うて居なさるのは、其実は狐々さまですよ。ねえセーリス姫さま、さうでせう』 セーリス姫『お察しの通り狐々さまかも知れませぬ。あたい何だか肌に薄い毛がモシヤモシヤ生え出した様な気が致しますわ。オホヽヽヽヽ、イヤらしいわいの。こんな毛の生えたものを、それでも女房にしてくれると仰有る、涙もろい慈悲深い頓馬野郎があるのですからね。まるつきり女でも捨てたものぢやありませぬわ。イヒヽヽヽ』 ユーフテス『こりやこりや、セーリス、到頭貴様は発狂しよつたな。オイ、ちつとシツカリして呉れぬかい』 セーリス姫『あなた、チツとシツカリなさいませや。あてえ今までセーリスさまになつて化けてゐたのよ。ユーさまの睫の毛が何本あると云ふ事も、みんな知つてゐますわ。そして気の毒ながら、お尻の毛は一本もない様に頂戴しておきました。ウフヽヽヽヽ』 ユーフテスは俄に懐から手を伸し、尻に手をあて、尻毛の有無を調べて見、指でクツと毛を引つ張つて見て、 ユーフテス『アイタヽヽヤツパリ毛は依然として蓬々たりだ。オイ、セーリス姫、憚りながら一本だつて紛失はして居ないぞ』 セーリス姫『オツホヽヽヽ、いつも肛門から糞出さして御座るぢやありませぬか。フヽーン』 ユーフテス『えー糞面白うもない。糞慨の至りだ。オイ、外から来た女、貴様は早く去んでくれ、俺の家内が貴様の邪気にうたれてサツパリ発狂して了つた。アーン、さあ早く去なぬかい』 女は涙をホロホロと流し、悲しさうな声で、 女『これ旦那さま、否オツトセー様、チツト確りして下さいませ。あたいは本当のセーリス姫ですよ』 セーリス姫『これ旦那様、チツト確りして下さいや。あてえこそ本当のセーリス姫よ』 と右左よりユーフテスの袖に取りすがり、両手を一本づつ握つて「ヤイノヤイノ」と言ひながら変つた方面へ力限りに引張る。ユーフテスの腕は関節の骨が如何かなつたと見えて、パチンと怪しき音を立てた。 ユーフテス『アイタヽヽヽ待つた待つた、さう両方から腕を引張られちや男が立たぬぢやないか、いや俺の体が立たぬぢやないか。許せ許せ、色男と云ふものは叶はぬものぢや。何故かう女に惚れられる様に生れて来たのだらう。二人の美人に攻められて、判別も付かず、烏の雌雄を何うして識別し得むやだ。五里霧中に彷徨するとはこんな事をいふのかな』 セーリス姫『ホヽヽヽ、五里霧中所か無理夢中ですわ。それも一理ありませう。エヘヽヽヽ、さあ後のセーリスさま、力一杯可愛い男を引張つて下さい。あたいも引張りますから……』 ユーフテス『アヽヽアイタツタヽヽ待つた待つた、待てと申さば、二人の女房、暫らく待ちやいのう』 女『もしユーさま、両手に花、右と左に月と雪、貴郎も今が花ですよ。男と生れたからは一度はこんな事もなくては、この世に生れた甲斐がないぢやありませぬか』 ユーフテス『何程、甲斐があると云つても、さう引張られちや腕がなくなるぢやないか。もうもう女は懲り懲りだ。只今限り綺麗サツパリと断念する。さう心得たがよからうぞよ』 セーリス姫『オホヽヽヽ、何と気の弱い男だこと。僅か二人や三人の女に嫐られて弱音を吹くとは見下げはてたる瓢六玉だな。さうだと云つて、一旦思ひ詰めたユーさまを如何して思ひきる事が出来ませうぞ。ねえ、後から御出でたセーリスさま、さうぢやありませぬか』 女『本当に意志の薄弱なユーさまには、あたいも唖然と致しましたよ。女にかけたら男と云ふ奴ア話にならぬ程弱いものですな。私だつて一旦約束したユーさまには如何しても離れませぬわ。今更別れる様な事なら、潔う睾丸噛んで死んで了ひますよ。オホヽヽヽ、これユーさま、此中で一人は本真物、一人は化物だが、どつちが本真物か調べて下さい』 ユーフテス『どちらを見ても何処一つ変つた点がないのだから、俺は実は、その真偽判別に苦しんでゐるのだ』 女『それなら、その真偽の分る方法を教へてあげませう。貴郎の頬辺を二人の女に抓らして御覧、痛さのひどい方が本物ですわ。何程よく似たと云つても、ヤハリ妖怪は妖怪、肝腎の時に力がありませぬからね』 ユーフテス『うん、そりやさうだ。よい事を聞かして下さつた。それなら両方の頬辺を一時に抓つて見い』 女『力一杯あてえも抓りますから、セーリス姫さまも抓つておあげやす。一二三つ』 と云ひながら二人の女はユーフテスの両方の頬を力一杯捻ぢる。 ユーフテス『おー随分痛いものだな。あんまり痛くて度が分らぬわい。どちらも同じ様な痛さだよ。オイも一つ気張つて抓つて見い』 二人は顔見合せながら、又グツと抓る。 ユーフテス『いゝゝゝ痛いわい。あゝゝゝゝもういゝもういゝ、さつぱり分らぬ。意地の悪い、どつちも同じやうに痛いわい。こりやヤツパリ、先の嬶嘘つかぬと云ふから、前のが本当だらう。オイ後の奴、今日から暇をくれてやるからトツトと帰れ』 女『いえいえ、何と仰有つても、これが如何して帰られませうか。姉のヤスダラ姫様に対しても合す顔がありませぬ。お父様の前にも大きな顔して帰られませぬ。それなら何卒あなたの手にかけて殺して下さい。それがせめても貴方の御親切で厶います。オホヽヽヽヽ』 ユーフテス『益々分らぬ様になつて来よつた。オイ一寸待つてくれ、両人、之から手水を使つて来て、沈思黙考せなくちや真偽の審神が出来ないわ』 セーリス『あなた今まで活動なさつた事に就て最善を尽したと思つて居ますか。或は横道を通つたとお考へにはなりませぬの。それを一寸聞かして下さいな』 ユーフテス『縦横無尽に活動するのが智者の道だ。縦も横もあつたものかい。正邪不二、明暗一如だ。兎も角善の目的を達しさへすれば、それが神様へ対して孝行となるのだ。此ユーフテスは悪逆無道の右守の司の陰謀を探査して、王様の為に獅子奮迅の活動をやつてゐるのだから、決して悪い行動をとつたとは微塵も思つて居ないよ。忠臣の鑑と云ふのは、天下広しと雖も此ユーフテスより外にはないからな。是から三十万年の未来になると、晋の予譲だとか、楠正成とか大石凡蔵之助とかが現はれて、忠臣の名を擅にする時代が来るが、今日では正に俺一人だ。此忠臣を夫に持つセーリス姫は余程の果報者だ。(義太夫)「女房喜べユーフテスは王様のお役に立つたぞや…………とズツと通るは松王丸、源蔵夫婦は二度ビツクリ、夢現か夫婦かと呆れはてたるばかりなり」と云ふ次第柄だ。ウツフヽヽヽ』 セーリス姫はユーフテスの横面を平手でピシヤピシヤと殴りながら、 セーリス姫『これユーさま、おきやんせいな。何をユーフテスのだい。好かぬたらしい』 女『イツヒヽヽヽ、それなら化物のセーリスさまは一先づ化を現はして退却致します。ユーフテスさま、目を開けて御覧、あてえ、こんな者ですよ』 と花も羞らふ様な美人が忽ちクレツと尻を捲り、ユーフテスの目の前につき出した。見れば真白の毛が密生し、太い白い尻尾がブラ下つてゐる。ユーフテスは「アツ」と叫んで其場に顛倒した。女は忽ち巨大なる白狐と化し、セーリス姫に叮嚀に辞儀をしながら、ノソリノソリと此場を立つて何処ともなく姿を隠した。 セーリス姫『オホヽヽヽ、まアまア旭さまのお化の上手な事、斯うなると自分も白狐になつて見たいわ。どれどれユーフテスの倒れてる間に、一つ化けて見ようかな』 と云ひながら俄に鏡台の前に坐り、狐の顔に作り変へ、ユーフテスの面部に清水を吹きかけた。ユーフテスはウンウンと呻くと共に起き上り、目をパチつかせてゐる。セーリス姫は狐に作つた顔をニユツと出し、 セーリス姫『これユーさま、気がつきましたか。ホヽヽヽヽ』 ユーフテスはセーリス姫の姿を見て二度ビツクリし、 ユーフテス『やあ此奴あ堪らぬ』 とノタノタノタと自分も狐の様に這ひ出し、長廊下をさして己が館へ逃げて行く。 (大正一一・一一・一五旧九・二七北村隆光録)
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霊界物語 43_午_玉国別と治国別1(玉国別の失明) 01 烈風 第一章烈風〔一一五二〕 天地にさやる雲霧を伊吹払ひて世を救ふ 三五教の神柱神素盞嗚大神の 神言畏み音彦は玉国別と名をかへて 道公伊太公純公の三人の信徒を引率し 斎苑の館を立出でて凩すさぶ秋の空 河鹿峠の急坂を登りつ下りつ進み行く 目指すは印度の月の国ハルナの都に蟠まる 八岐大蛇や醜狐曲鬼醜の曲魂を 誠の道に言向けて至仁至愛の神国を 此地の上に建設し神の御稜威を照さむと 勇み進んで斎苑館後に眺めて出でて行く あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 玉国別の宣伝使三人の従者と諸共に はるばる進む首途を完全に委曲に守りまし 千変万化の活動を漏れなく落ちなくすくすくと 述べさせ玉へ惟神神の御前に瑞月が 畏み畏みねぎまつる。 玉国別の宣伝使は三人の供人と共に、黄金姫、照国別一行の後より言依別命の谷間に転落して、第一天国を探検したりといふ、河鹿峠を膝栗毛に鞭ち、石車の危難を避け乍ら、声も涼しく宣伝歌を歌ひつつ、山の尾の上を渡り行く。折から吹き来る暴風はライオンの数百頭一時に吼えたけるが如く、唸りを立てて、遠慮会釈もなく岩石も飛べよ、草木も根底より抜け散れよと言はむ許りに吹きまくる。玉国別は『何これしきの烈風に辟易してなるものか、暴風何者ぞ、雷霆強雨何ぞ恐れむや』と勇気を鼓し、向ふ風に逆らひ乍ら、急坂を登り行く勇ましさ、壮烈は、鬼神も驚く許りに思はれた。漸くにして山上の稍平坦なる羊腸の小路に登り着いた。 道公『玉国別様、板を立てたやうな胸突坂を登る真最中、弱味につけ込む風の神の奴、滅多矢鱈に暴威を揮ひ、吾々を中天に巻上げむとして、力一杯努力してゐやがつたぢやありませぬか。一つここらで風の歇んだのを幸ひ休養をやつたら如何でせう』 玉国別『アハヽヽヽ今からそんな弱音を吹いてたまるものか、モウちつと度胸を据ゑなくちやなるまい』 道公『決して私が弱音を吹くのぢやありませぬ。風の神の奴、滅多矢鱈に吹きやがるものだから、私も一寸吹いてみたのです。かうして木々の木の葉を無残にも吹散らし、まるで雑巾以ておさん奴が縁の埃を拭いたやうに綺麗サツパリふきやがつたぢやありませぬか』 伊太公『オイ道公、弱音を吹くより法螺なと吹いたら如何だ』 道公『エヽ伊太公、貴様の鼻はまるで鍛冶屋の鞴のやうにペコペコさして、フースーフースーと泡まで吹いてるぢやないか。気息奄々、呼吸促迫、体熱四十三度といふ弱り方ぢやないか。他の事をゴテゴテ言ふ所かい、自分の蜂から払うてかかれ』 伊太公『これはこれはイタみ入つたる御挨拶、伊太公もサツパリ頓服致しました』 道公『頓服とは何だ。インフルエンザの風邪を引いて、キニーネでも飲んだやうなことを吐くぢやないか』 玉国別『コリヤコリヤ両人、幸先の悪い、悪魔征討の道行の始めに当つて、争論をやるといふことがあるか、チと沈黙致さぬか』 道公『ハイ、レコード破りの烈風でさへ沈黙したのですから、時刻が廻つて来れば、自然に発声器の停電を来すでせう。出かけた声だから、出す丈出さねば中途に止めると、又もや痳病をわづらひますからなア、アハヽヽヽ』 玉国別『あの純公を見よ。貴様のやうに鳴子か鈴のやうにガラガラ言はず、沈黙を始終守つてゐるぢやないか。男といふ者はさうベラベラと下らぬことを喋つたり、白い歯をさうやすやすと人に見せるものぢやない。人間は黙つてゐる位床しく見えるものはないぞ……口あけて腹綿見せる蛙哉……といふことを忘れぬやうにしたがよからうぞ』 道公『ハイ承知致しました。純公は貴方のお目からそれ程床しく見えますかな。さうすると此奴も矢張、スミにもおけない代物ですなア。アハヽヽヽ』 玉国別『いらぬことを言ふものでない。沈黙が男の値打だ。まるで貴様と旅行をして居ると雲雀や雀の飼主みたやうだ。困つた奴だなア』 伊太公『時に玉国別様、随分此河鹿峠はキツイですが、どうぞ無難に風の神の鋭鋒を避けて通過したいものですなア。暫く沈黙したと思へば、秋の風だから再び低気圧が襲来して、一万ミリメートルの速力でやつて来られちや、何程押しけつの強い貴方でも堪りつこはありませぬぜ』 玉国別『オイ、それ程発声器を虐使すると、レコードの寿命が短縮するぞ。少しは大切に使用せないか』 伊太公『何分秋漸く深く、木々の木の葉がバラバラバラと遠慮会釈もなく落ち行く時節ですから何とはなしに寂寥の気分に打たれて沈黙してゐる事が出来ませぬワイ。チツとは喋らして貰はぬと、心細いぢやありませぬか』 玉国別『そんな馬鹿口を喋る暇があつたら、宣伝歌を歌つたら如何だ。歌は天地神明の心を感動させ、山河草木を悦服させる神力のあるものだ』 伊太公『宣伝歌を歌つても宜しいか。そんならこれから歌ひませう。オイ道公、純公、チツとは粗製濫造品だが、後学の為に耳をすまして聞くがよからう。伊太公の当意即妙の大宣伝歌を……エヘン……』 道公『早く歌はぬかい。前置ばかりダラダラとひつぱりよつて、辛気くさいわい』 伊太公『足曳の山鳥の尾のしだり尾の長々し夜を独りかもねむ……といふ歌があるだらう。それだから、足曳の山の上で歌ふ歌はチツとは足が長いぞ、エツヘン。それ聞いた』 道公『何を聞くのだ。無言の歌が聞けるかい』 伊太公『不言実行、言外の言、歌外の歌、隻手の声、といふ事があるだらう。風が吹く音も、鳥の囀る声も、虫の鳴く音も、皆自然の歌だぞ。俺がかう囀つてをるのもヤツパリ恋欲歌の一種だ。ウタウタと云はずに俺の奇妙奇天烈な大宣伝歌を聞いたら貴様のウタがひも晴れるだらう…… 神が表に現はれて善と悪とを立別ける 此世を造りし神直日直日の眼で見渡せば 伊太公さまは善の神道公さまは悪神だ 玉国別は宣伝使一寸お偉い方ぢやぞえ 黒い顔して墨のよに燻つて居るは純公か あゝ惟神々々叶はないから止めておかう』 道公『コリヤ伊太、何を云ふのだ。何と下手な歌だのう』 伊太公『イタれり尽せりといふ迷歌だらう。歌といふものは余り上手にいふと、風の神奴が感動して、又暴威を揮ふと困るからなア。そんな事に抜目のある伊太公ぢやないぞ。風の神が呆れて蟄伏するやうに、ワザとに拙劣な歌を歌つて風の神奴を遠ざけたのだ。或る人の狂歌にも…… 歌よみは下手こそよけれ天地の 動き出してたまるものかは。 ……といふ事を知つてゐるか、エーン』 と無暗矢鱈に喋りちらし、うつつになつて細路を前後左右に飛びまはり、踏み外して一間ばかり岩道から辷り落ち、向脛をすりむき、 伊太公『イヽイタい』 と目を顰め、鼻にまで皺をよせ、向脛をさすり『エヘヽヽ』と笑ひ泣く其可笑しさ。 道公『そら見よ、余りアゴタが過ぎると其通りだ。腰抜歌計り詠むものだから、とうとう足曳の山の上で足を引かき、すりむいて、イタイタしくも、伊太公の其ザマ、それだから伊太公なんて言ふやうな名は、つけぬがいゝのだ。のう純公、さうぢやないか、伊太公は丸で鼬のやうな奴だ。とうと、最後屁をひつて、伊太張つた、イヤイヤくたばつたぢやないか、ウツフヽヽ』 純公『いた立てたやうな坂道ふみ外し 伊太々々しげに伊太さまが泣く。 すみずみに心を配る純公は どこもかしこもすみ渡りける』 道公『神の道、ふみ外したる伊太公の 泣き苦むは道さまの罰。 道々にさやる曲津を言向けて 進み出でます道公司』 伊太公『道公よ、純公、貴様は何をいふ どの道此儘すみはせぬぞよ。 伊太公が、今にイタい目見せてやる 鼬の最後屁ひらぬよにせよ』 玉国別『道公の道をたがへず伊太公の 威猛り狂ふ舌もすみ公』 純公『玉国の別命に従ひて 今日は不思議な芝居見る哉』 道公『又しても風の神奴がソロソロと 山の横面なぐり相なる。 サア行かう、早行きませう宣伝使 風の神奴が追ひつかぬ内』 玉国別『又ソロソロと行かうか、モウ此先は下り坂だ。併し乍ら下り坂は用心をせなくては、石車に乗つて転落する虞があるから、暫く口を噤へて、足の先に力を入れ、コチコチとアブト式に下るのだ。余り喋つてゐると、外へ気を取られて、足許がお留守になるから、一同に注意を施しておく』 道公『ハイ畏まりました。オイ皆の奴、大将軍の命令だ。沈黙だぞ』 伊太公『喋れと云つたつて、かう向脛をすり剥いては痛くつて、喋る所かい。足計りに気を取られて仕方がないワ』 純公『そんなら伊太公、お前は道公さまの後から行け、おれが後から気をつけてやる。宣伝使の命令には、決して今後違背伊太さんと誓ふのだぞ』 道公『ヤアそろそろと純公の奴三千年の沈黙を破つてシヤシヤり出したなア。沈黙々々』 といひ乍ら、玉国別を先頭に一足々々爪先に力を入れて降り行く。伊太公は足をチガチガさせ乍ら、又もや沈黙の封じ目が切れて、雲雀のやうに囀り出した。 伊太公『玉国別の宣伝使此急坂を下る時や 決して頤を叩くなと誠に厳しき御命令 さはさり乍ら伊太さまは足の痛みに堪へかねて どしても沈黙守れないウンウンウンウンアイタタツタ 痛いわいな痛いわいな痛いわいなそんなに痛くば一寸ぬかうか イエイエさうではないわいな朝から晩まで居たいわいな アイタタタツターアイタタツタ板を立てたよな坂路に 尖つた小石がガラガラとおれを倒さうと待つてゐる 此奴あヤツパリ月の国大黒主の眷族が 玉国別の征途をば邪魔してやらむと待ち構へ 小石に化けて居るのだろコリヤコリヤ道公気をつけよ これ程キツい道公のどうまん中にガラクタの 腐つた石めが並んでるこれはヤツパリ道公の 身魂の性来が現はれて道にさやるに違ない あゝ惟神々々ガラガラガラガラアイタヽツタ それそれ俺をばこかしよつた向脛すりむいた其上に 又もやおけつをすりむいた前と後に傷をうけ どうしてこんな急坂がさう易々とテクられよか 向ふの空を眺むれば又もや怪しい雲が出た あの一塊の妖雲は風の鞴に違ない 皆さま気をつけなされませ又もや前のよな烈風が 吹いて来たなら何としよう空中滑走の曲芸を 演じて谷間へ転落し頭も手足もメチヤメチヤに 木端微塵となるだらう思へば思へば此峠 劔の山か針の山血を見にやおかぬと見えるわい 旭は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 星は天より落つるとも海はあせなむ世ありとも 神の恵のある限り怪我なく此山スクスクと 通らせ玉へ伊太公がウントコドツコイ、アイタタツタ 又々石に躓いた神も仏もないのかと 心淋しくなつて来たこんな事だと知つたなら お供をするのぢやなかつたにコラコラ道公純公よ 貴様は唖になつたのか俺ばつかりに物言はせ 返答せぬとは余りぞよオツト待て待てコリヤ違うた 玉国別の宣伝使篏口令をウントコシヨ 布かれたことをウントコシヨサツパリ忘れて居りました 広き心の神直日大直日にと見直して どうぞお赦し下さんせあゝ惟神々々 叶はぬ時の神頼みチツとは聞いてくれるだろ コリヤ又きつい坂だなアアイタタタツタ又こけた』 と言ひながら、河鹿峠の大曲りの山の懐に進んだ。天地もわるる許りの強風、又もや猛然として吹起り、流石の玉国別も最早一歩も進む能はず、木の根にしがみつき、神言を奏上し乍ら、風の渡り行くを待つ事とした。三人も玉国別に傚つて、木の根にしがみつき、ふるひふるひ目をつぶつて、風の過ぐるのを待つてゐる。 (大正一一・一一・二六旧一〇・八松村真澄録)
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霊界物語 43_午_玉国別と治国別1(玉国別の失明) 06 祠前 第六章祠前〔一一五七〕 山猿どものつどひたる懐谷を後にして 片目を取られし神司玉国別の一行は 岩石崎嶇たる急坂を一足一足力入れ 南をさして下り行く又もや吹き来る烈風に 笠をむしられ裳裾をば捲くられながらしとしとと 眼を据ゑてアブト式にどんどんどんと膝栗毛 吾物顔に下りゆく御供に仕へし伊太公は 皺枯声を張り上げて一足一足拍子取り 汗をタラタラ流しつつ冷たき風を苦にもせず 伊太公『「ウントコドツコイドツコイシヨ」玉国別に従ひて 斎苑の館を出立し意気揚々と膝栗毛 上りつ下りつ進み来る今吹く風よりひどいやつ どつと許りにやつて来て俺等の体を中天に 遠慮会釈も荒風奴吹き散らさむとした故に 用心深い宣伝使吾師の君は吾々を 労はりたまひ道端の木の根に確としがみつき 「ウントコドツコイ危ないぞ」又もや風が吹いて来た うつかりしてると散らされるこれこれ二人の供の者 確り木の根に喰ひつき風の通るを待つがよい などとドツコイ仰有つたこれ幸ひと三人は 轟く胸を撫でながら慄ひ戦き夜を明かし 又もや吹き来る荒風に吾身大事と一散に 懐谷に駆けつけて避難なしける折柄に 「アイタヽヽタツタコン畜生」高い石めに躓いた 猿公の奴めがやつて来て畜生だてら吾々に 揶揄ひやがる「ウントコシヨ」それ見る度に「ウントコシヨ」 癪に触つて耐らない遠慮会釈も知らぬ奴 とうとう側へやつて来た伊太公さまは「ウントコシヨ」 腕に力を籠めながらお猿を一匹突き倒す キヤツキヤツキヤツキヤツと吠乍ら縦横無尽に「ウントコシヨ」 群がり掛る恐ろしさ大猿の奴めが飛んで来て 吾師の君の両眼をキヤツとも何とも吐かずに 背中の方から掻きむしりドテライ羽目に落しよつた 俺は谷川へ水汲みにいつた所が「ドツコイシヨ」 肝腎要の水筒を小柴の中へ「ヤツトコシヨ」 落した時の阿呆らしさ道公さまにクドクドと お小言計り頂戴し俺の立つ瀬はあるものか アタ阿呆らしい「ドツコイシヨ」純公さまの手を引いて 水筒の所在を尋ねむと下つて往けば草の上 平気の平左で水筒奴が素知らぬ顔して寝て居よる 確りせぬかと尻たたき純公さまがひん握り 深き谷間に下りたつて突つ込む水筒ブルブルブル 屁のよな泡を吹き乍ら腹一杯に飲みよつた 今度は落しちやならないとグツと素首ひん握り 吾師の君の御前に持ち帰り来て両眼を 洗へば「ドツコイドツコイシヨ」俄に止まる眼の痛み 瑞の御霊の御神徳あゝ有難や尊やと 両手を合せ拝む折脚下に聞ゆる宣伝歌 こいつはテツキリ三五の神の司に相違ない これより後を追つかけて「ウントコドツコイ」鎮魂を 願つて眼病の全快を祈つて貰はふと願うたら 律儀一方の宣伝使なかなか縦に首ふらぬ 吾は天下の宣伝使心の油断につけ込まれ 畜生原に目をとられ何の顔色あるものぞ 頼むでないと「ウントコシヨ」「ヤツトコドツコイ」危ないぞ なかなか許して下さらぬ俺も因果の腰を据ゑ もう此上は神様にお願ひするより道はない 枯草の上にどつと坐し両手を合せ惟神 御霊幸はへましませと祈りし甲斐もありありと パツと開いた左の目あゝ惟神々々 神の恵は目のあたり「ウントコドツコイドツコイシヨ」 これから先はだんだんと坂がはげしくなるやうだ 純公気をつけ道公さまお前の足許危ないぞ 俺もなんだか膝坊子キヨクリキヨクリと吐しよる ほんに困つた坂だなアアイタヽヽヽつまづいた 躓く石も縁のはし一樹の影の雨宿り 一河の流れを汲むさへも深き縁と聞く上は 「ウントコドツコイ躓いた」憎い石でも「ドツコイシヨ」 余り捨てたものぢやないあゝ惟神々々 御霊幸倍ましまして一日も早く月の国 ハルナの都へドウドウと進ませ給へ三五の 皇大神の御前に慎み敬ひ願ぎまつる 「アイタタツタ又倒けた」』 純公は又唄ふ。 純公『河鹿峠の山の尾を吹く木枯に木々の葉は 敢なく散りて羽衣を脱いで捨てたる枯木原 冬野の如くなりにけり秋の山野を飾りたる 黄金姫の紅葉も夕日に清照姫の木も 今は全く「ドツコイシヨ」憐れ果かなくなりにけり 小猿の奴に目の玉を「ウントコドツコイ」引抜かれ 吾師の君は嘸やさぞ残念だらう無念だらう 「ヤツトコドツコイドツコイシヨ」足許用心するがよい 高い石奴が並んで居る小面の憎い猿の奴 天と地との経綸者万の物の霊長と 生れ出でたる人間を馬鹿にしやがる「ドツコイシヨ」 どうしてこれが世の人に話がならうか恥かしや 三人の供がありながら肝腎要のお師匠を 「ウントコドツコイ」むごい目に遇はして何と申し訳 神素盞嗚大神の御前に申し上げられよか 思へば思へば腑甲斐ない話にならぬ御供達 これから何れも気をつけて吾師の君の身辺を 守らにやならぬ道公よ伊太公も確りするがよい アイタヽタツタ躓いた厄介至極の坂道だ うかうかしとれば玉の緒の命も取られて仕舞ふぞよ こんなところで斃ばつてどうして天地の神様へ 何と云ひ訳立つものか「ウントコドツコイコレワイナ」 又々きつい風が吹く頭の先から爪の先 腰の廻りに気をつけて一歩々々力籠め 「ウントコドツコイ」此坂をエンヤラヤツと下らうか 黄金姫や清照姫の貴の司は此坂を どうして下つて往かれたかその御艱難こそ思ひやる 照国別の宣伝使三人の供と諸共に 此所を通らせたまうたに違ひあるまい「ウントコシヨ」 キツト功名お手柄を七千余国の国々で お立てなさるで厶らうぞ何程大将が偉うても 附き添ふ奴が悪ければ力一ぱい動けない 純公さまの云ふ事がお前のお気に触つたら 直日に見直せ聞直せ決して決して悪い事は 「ウントコドツコイ」云はぬぞよ』 斯く歌ひ乍ら、八分許り毀れた祠の前に下りついた。 玉国別『お蔭で目の痛みも余程軽減したが何だか些し許り頭がメキメキして来た。幸ひ此処に広場があり、毀れた祠が立つて居る、何神様がお祭りしてあるか知らぬが、此処で一息して往かうぢやないか』 道公『ハイ、それが宜敷う厶いませう、貴方は御病症の御身の上、無理をなさつてはいけませぬ。今日計りでない明日も明後日もあるのですから、緩りと御休息なさいませ。道公も大変疲れましたからおつきあひを致しませう』 玉国別は諾き乍ら蓑を大地にパツと敷いて其上にドツカと腰を下し、古祠の前に両手を合せ、天津祝詞を奏上し初めた。三人も同じく祝詞を奏上する。 玉国別『何神を祭りし祠かしらねども いたいたしくもなりましにける。 よし宮は毀れたりとも神実は 常磐堅磐に鎮まりまさむ。 国治立神の命も時を得ず 根底の国に隠れましぬる。 あゝ吾は神の御恵蒙りて 此地の上に勇み居るかな。 神様の国に生れて神様を 斎かぬ奴ぞ醜の曲津見。 この社見るにつけても思ふかな 天の日澄みの宮は如何にと。 エルサレム昔の姿消え果てて 今は淋しき凩の吹く。 惟神神が表に現れまして 世を治めます時ぞ待たるる。 吾思ふ心の儘になるならば 千木高知れる宮居を建てむ。 たてとほす誠の道の強ければ 珍の宮居もやがて建つべし。 伏し拝む祠の前に涙して 我大神の行方しのばゆ。 世をしのび人草を救ふ素盞嗚の 神の命ぞ尊かりけり。 自凝の島にまします国武彦の 神の命の慕はしきかな。 玉照彦貴の命や玉照姫 如何まさむと空を仰ぎつ』 道公『神の道朝な夕なに進む身は やがて届かむ勝利の都へ。 瑞御魂厳の御魂と諸共に 三五教を築きましけり。 三五の道に仕へし吾なれば 醜の曲津の如何で襲はむ。 惟神神より外に何もなし 親も子もなき吾身なりせば』 伊太公『吾は今神の司に従ひて 神の大路の坂歩むなり。 此祠如何なる神のましますか 知らずながらも祈りたくなりぬ。 いろいろと神の御名はかはれども 国治立のみすゑなるらむ。 皇神よ行先幸く守りませ 吾師の君の御身はことさら。 行く先に如何なる曲のさやるとも 神の息吹に払はせたまへ』 純公『村肝の心の月の清ければ 如何なる曲もさやらざらまし。 三五の月の教を守りつつ 月の御国へ吾進むなり。 月の国ハルナの都に蟠る 八岐大蛇を如何に救はむ。 曲神も皆皇神の御子ならば 吾等は如何で憎むべしやは』 玉国別『玉国別神の司は今日よりは 神のまにまに進み往くべし。 斎苑館神の御言を蒙りて 吾等四人は大道ゆくなり。 河鹿山峰の嵐は強くとも 如何で恐れむ神の兵士。 吹く風に煽られながら進み行く 神の司ぞ雄々しかりけり。 バラモンの軍の司行く先に 攻め来るとも刃向ふなゆめ。 さり乍ら千騎一騎の時来れば 神のゆるしを受けて動かむ。 動きなき玉の御柱撞固め 愛善の道伝へ行くなり』 道公『皇神の道にさやりし曲神を 言向け進む身の幸楽しも。 此森の千歳の松に言とはむ 国治立の神の昔を。 此森の千歳の松の物言はば 神代の昔聞かましものを。 過ぎ去りし昔の夢を辿りつつ 夢の浮世に長らへてゆく。 現世も又幽世も神の世も すべ守ります国の祖神。 三五の道を立てたる神柱 神素盞嗚の尊畏き。 素盞嗚の瑞の御魂にかなひなば 如何なる曲も背かざるらむ。 吾は今神の恵に守られて 師の君に従ひ宣伝の旅行く。 ゆく先は空照り渡る月の国 ハルナの都と聞くは勇まし』 伊太公『暫くは嵐吹けどもやがて又 花咲く春に遇はむと楽しむ。 山々の諸木の末に至るまで 冬ごもりして時をまつなり。 田鶴巣ふ此の松ケ枝は夏冬の わかちも知らに栄えけるかも。 鶯の谷の戸あけて出る春を まつも嬉しき宣伝の旅。 杜鵑八千八声を鳴き涸らし 黄金花咲く秋をまちぬる。 冬来ぬと目にはさやかに見えねども 空吹く風にそれと偲ばる。 此森に常磐堅磐に在す神 吾等を永久に守らせ給へ』 純公『澄み渡る秋の大空眺むれば 忽ち起る醜の黒雲。 時雨して晴れ往く後に初冬の 月は御空に輝きにけり。 日は既に西山の端に舂きて うら淋しくもなりにけらしな。 さりながら神の心にかへりなば 夜昼しらに賑しと思ふ。 いざさらば吾師の君よ立ち給へ やがては広き道に出でまさむ』 玉国別『有難し眼の痛み今は早 うち忘れたり神の恵みに。 いざさらば三人の供よ神の前に 祝詞捧げて立ち出で往かむ。 有り難し尊き神の御前に 息やすめたる恵を嬉しむ。 御恵の露は木の葉の末までも きらめき渡る月の夜半なり。 望の夜の月は御空に出でましぬ 山蔭あかくなりしと思へば』 斯く歌ひ終り祠の神に別れを告げ、立ち出でむとする時しもあれ、前方より駒の蹄の音騒々しく聞え数百騎の兵士時々刻々此方をさして進み来る。玉国別外三人は此物音に耳をすませ何者ならむと双手を組み思案に暮れて居た。今の物音は大黒主の部下鬼春別将軍の先鋒隊が斎苑の館に向つて進軍し来るのである。あゝ玉国別一行の運命は如何に成り行くならむか。 (大正一一・一一・二六旧一〇・八加藤明子録)
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霊界物語 44_未_玉国別と治国別2 08 光と熱 第八章光と熱〔一一七七〕 天王星の精霊より降り玉ひし自在天 大国彦を主神とし霊主体従の御教を 普く宇内に輝かし世人を救ひ守らむと 計りて立てるバラモンの教は元より悪からず さは去り乍ら現幽の真理を知らず徒に 軽生重死の道を説き有言不実行に陥入りて 地上の人は艱難に耐へ忍びつつ生血をば 出して神に供物なす時や神の御心に 叶ふものぞと誤解して知らず知らずに曲つ神 八岐大蛇に迷はされ人を救はむ其為に 却て人を根の国や底の国へとおとしゆく 其惨状を憐みて高天原の主の神と 現はれ玉ふ厳御霊国治立の大神は 天上地上の別ちなく大御宝の霊をば 永遠無窮に救ひ上げ慈愛と信仰の正道に 導き恩頼をば与へむものと日に夜に 心を配らせ玉ふこそ実に有難き次第なり 常世彦神常世姫これ亦悪魔に魅せられて ウラルの教を建設し盤古神王を主の神と 仰いで世界を開き行く其勢ひの凄じさ 至仁至愛の大神はいかでか許し玉はむや 神の御子たる人草の身魂を清く美はしく 洗ひ清めて天国の御苑を開かせ玉はむと 厳の御霊の神柱瑞の御霊の御柱を 此世に降し玉ひつついろいろ雑多に変化して 埴安彦や埴安姫神の命と現はれつ 三五教を建設し黄金山は云ふも更 ウブスナ山や万寿山コーカス山や霊鷲山 自凝島に渡りては綾の聖地に天国の 姿を映し玉ひつつ世人を誠の大道に 救はせ玉ふぞ有難き瑞の御霊とあれませる 神素盞嗚の大神は現幽神の三界の 身魂を残らず救はむと尊き御身を世に下し 千座の置戸を負はせつつ天が下をば隅もなく 人の姿と現はれて沐雨櫛風氷雪を 凌ぎて此世の熱となり光ともなり塩となり みのりの花と現はれて暗に迷へる諸々の 身魂を救ひ玉ふこそ実にも尊き限りなれ 神の教の宣伝使治国別の一行は 厳の御言を蒙りて元つ御神の祭りたる 斎苑の館を後にして荒風すさぶ荒野原 険しき山坂乗越えて祠の森に到着し 玉国別の一行に思ひ掛なく出会し 茲に二夜を明かしつつ別れて程経し弟の 松公其他に巡り会ひ驚喜の涙抑へつつ 又もや神の御宣示に五人の伴を引きつれて 河鹿峠の峻坂を世にも目出度き宣伝歌 歌ひてやうやう山口の老樹茂れる森かげに 安全無事に着きにけりあゝ惟神々々 神の御霊の幸はひて治国別の一行は 神の使命を恙なく実行なして復り言 神の御前に申すべく守らせ玉へと瑞月が 旭の光を浴び乍ら竜宮館に横臥して 東枕に述べ立つるあゝ惟神々々 尊き神の御恵に此物語遅滞なく 進ませ玉へ天地の元つ御祖と現れませる 国治立の大神や豊国姫の大御神 神素盞嗚の大神の御前に謹み願ぎまつる。 治国別一行は老樹鬱蒼たる河鹿山の南麓山口の森に黄昏時漸く到着し、昼猶暗き此森に一夜を明かす事とはなりぬ。茲には古き社殿の跡が礎石計り残つてゐる。昔は山神の祠と云つて、大山祇神が祀られてあつた。自然の風雨に晒らされ荒廃に任され、乞食の焚き火の為に祝融子の災にかかりしまま、再建するの機会もなく、又熱心なる信仰者もなく、憐れ果かなき残骸を止めてゐたのである。それ故に此森は何神の祀られありしやを知る者は殆ンどなかつた。併し乍ら此森は相当に広く足を踏み入れた者はない。もし誤つて森林深く進み入りし者は、再び帰り来ることなきを以て、一名魔の森とも称へてゐた。何でも巨大なる蛇潜み居りて、人を呑むとさへ称へられ人々に恐れられてゐた。 河鹿峠の祠の森は、実際は大自在天を祀つたものであるが、いつとはなしに山神の祠と称へらるるやうになつた。それは此山口の森の神と混同されて了つたのである。すべて古き神社の祭神の不明になるのは、右様の理由に依るものが甚だ多いやうである。 万公は鼻をつままれても分らぬ様な暗さに、空を打仰ぎ、梢をすかして星の半片だも見えざるやと、憧憬の心を以て、上方を眺めて居る。 万公『何とマア暗いと云つてもこれ位暗い森はありませぬなア。月も星も太陽も、一つも残らず、大蛇の様に呑ンで了つたと見えますワイ。此奴ア山口の森といふから、山位呑むのは何でもないと見える。天の星さへ一個も残らず呑ンで了うといふ怪しい森だからなア。オイ、晴公、気をつけないと、此森の奴、俺達の身体も一緒に呑みよるか知れぬぞ。万公が気を付けるぞよ』 晴公『ナアニ、曇つてゐるのだよ。やがて此晴さまがお這入りになつたのだから、すぐに空が晴るるのは受合ひだ』 松公『そら何を言ふ。何程晴れたつて、此密樹の蔭をすかして、如何して人間の目で、天の星が見えるものかい』 晴公『ナアニ松公さま、心配御無用だよ。晴公の生言霊の神力に依りて、大蛇も悪魔も千里の外に卻け、天津御空を水晶の如く晴らして御覧に入れる、さうすればお前も疑を晴らすだろ』 万公『お前の言霊も怪しいものだ。先生の言霊はすぐに神力が現はれるが晴公の言霊と云つたら、ダミ声の皺枯れ声、晴れる所か俺達の心迄陰欝になり、耳が痛くつて、根底の国へ落ちるやうな気分がするよ、この万公さまにはよ』 晴公『ナアニ、先生の言霊だつて、晴公さまの言霊だつて、言霊に違があるか、信仰に古い新しの区別がないと、神さまは仰有るぢやないか』 万公『それなら一つ言霊を以て、万よく此暗をチツとでも明かくしてみたらどうだ、それが現実の証拠だから、それ見た上で万公さまも満足するからナ』 晴公『先生がアオウエイと仰有る言葉も、晴公さまのアオウエイと云ふ言葉も別に違ひはないぢやないか、言霊といふものは円満清朗スラスラと楽に出さへすれば、天地の神明が感動遊ばすのだ、俺達は百遍位言霊を繰返してもチツとも苦しうないが、かう云ふと先生にお目玉を頂戴するか知らぬが、此間も先生がアオウエイの言霊を発射された時、ズツポリと汗をかき、半巾を以てソツと顔を拭いてゐらつしやつたぞ。年が老るとヤツパリ腹に力がないと見えるワイ。なア先生、さうでしたねエ』 治国別『ウン、俺も若い時や、言霊の百遍や千遍言つた所で、チツともエライとも苦しいとも思はなかつたが、此頃はお前の言ふ通り年の為か、天津祝詞を一回奏上しても、身体中が厳寒の日でもビシヨぬれになるのだ。併し乍ら、若い時の千遍よりも今の一遍の方が効能があるのだから、不思議だよ』 万公『オイ、晴公、お前の言霊は暗に鉄砲だ。的の方向も知らずに、安玉を乱射してゐるのだらう。一寸涼し相な浪花節のやうな声を出しよるが、根つから利いたことはないぢやないか、きくといふのは俺達の耳丈だ。チツトも言霊の功能が現はれて来ぬのだから、何と云つても、ヤツパリ木つ端武者は木つ端武者だよアツハヽヽ』 晴公は躍気となり、少しく鼻息を荒くし乍ら、 晴公『コレヤ万州、余り馬鹿にするない。人は見かけによらぬ者だ。どンな隠芸があるか分つたものぢやないぞ。待て待て一つ言霊の神力を現はして、万公の奴に万々々と驚異の歎声を連発さしてやらう。捻鉢巻をして頭のわれぬやうに、臍の宿替をせぬやうに、腹帯をしつかりしめて居れ。四十八珊の巨砲を打出したやうな言霊だから、聴音器を破損せぬやうに用意をしておけよ。サア、いよいよ言霊発射の筒開きだ。一二三ン』 と言ひ乍ら、臍下丹田に息をつめ、左右の手で、帯のあたりをグツと握り、身体を直立になし、 晴公『烏羽玉の暗打ち払ふ吾なるぞ 御空を晴らせ天津神たち。 ウ…………ン』 万公『アハヽヽヽ。暗がりで雪隠へ行つた様な按配式だ、何だウンウンと、きばり糞をたれるやうな、蛮声をこき出しよつて、チーツとも明かくならぬぢやないか。万公さまの目にはだんだん暗黒の度が増して来た様だよ』 晴公『天の神様にも準備がある。今いうて今といふ事があるかい。明かくなる前には一旦暗くなるものだ、光明の前の暗黒だ。ウラル教ぢやないが……一寸先や暗夜、暗の後には月が出るのだからマア二時計り待つてゐよ、さうすれば俺の言霊で月がパツと東天から輝いて来るワ、それを証拠に疑を晴らすのだよ』 万公『アハヽヽ今夜は十八日、四ツ時になれば月の上るのはきまつてゐるワイ。貴様の言ひ草は春になつたら花を咲かしてやろと云ふやうなものだ。サツパリ言霊戦も零敗だ。アハヽヽヽヽ、さすがの万公さまも呆れ返るよ』 晴公『貴様が交つ返すものだから、晴公と思つた空が段々曇つて来る。余程神様の御機嫌を損ねたとみえるワイ。コレ見ろ、俺の言霊が逆に利いていよいよ益々暗くなつて来た、偉いものだろう、兎も角どちらなりと変化さへあれば言霊の利いた印だよ』 万公『先生、斯うなつちやたまらぬぢやありませぬか、どうぞ貴郎の言霊で面影位見えるやうにして下さいな。暗くなつた計りか、何となく陰鬱の気が漂ひ、鬼哭愁々墓場の如き感がするぢやありませぬか』 治国別『さうだなア。余り言霊が利き過ぎたと見える。そンなら私が一つ神様に願つて見やうかな』 と云ひつつ恭しく拍手をなし、臍下丹田に水火をつめ、無我無心の境に入つて、音吐朗々と天津祝詞を奏上し終つて、 治国別『面影も見分けかねたる暗の森を 晴らさせ玉へ天地の神』 と歌ひ了はるや、真黒なる暗の帳はうすらいで朧月夜の如き明かりが漂ふた。治国別は再び神言を奏上し、吾言霊の神力の言下に現はれし事を神に向つて感謝した。 万公『何とマア黒白の違といふのは此事だなア。先生、エヽ神さまの聖言に、初に道あり、道は神也、神は道と共にあり、万の物之に依つて造らる云々と云ふことがありましたなア。実にことばといふものは不可思議力を持つたものですなア』 治国別『ウン、道は万物の根元だ。造物主だよ』 万公『併し乍ら先生、言葉で万物が出来るのならば、貴方が今茲で、人間一人生れよと仰有つたら、茲に現はれ相なものですなア。それが現はれないことを思へば、何うも言葉の正体が万公には解しかねます。詳細の説明を承はりたいものですなア』 治国別は歌を以て之に答へける。 治国別『高天原の天国に住む天人は人の如 智性と意志とを皆有す智性的生涯を作り出す ものは天界の光なりそはこの光は神真の 中より出づる神智ぞやその意志的生涯作り出す ものは天界の熱と知れそもこの熱は神の善 これより神愛出る也 ○ 扨て天人の生命は神の善なる熱よりす 生命の熱より来ることは熱なきものは生命の 亡ぶを見ても明けし無愛の真と無善真 これ亦生命亡ぶべし真は信真の光にて 善は愛善の熱ぞかしこれ等の事物は神界の 熱と光りに相応する一定不変の力なり 地上を守る熱または光を見れば明瞭に これ等の道理を覚り得む世間の熱は光と和し 地上の万物を啓発し残る隅無く成育す 熱と光とが相和すは春夏の両期に在るものぞ 熱なき光は万物を活動せしむることを得ず 却て死滅に到らしむ冬期は熱と光との和合なく 光のみにて熱はなし高天原の天界を 楽園なりと唱ふるは熱光の相応あればなり 真と善とが相合し信と愛との合するは 地上の春期に当るとき光熱和合する如し ○ 天地の太初に道あり道は神と共にあり 道は即ち神なるぞ万物これにて造らるる 造られたるもの一として之に由らずして造られし ものは尠しもあらじかし之には清き生命あり 生命は人の光なりかれ世に在まし世は彼に 全く造り上げられぬ蓋し道は肉体と なりて吾曹の間に宿る吾その光栄を見たりてふ 聖者の道は主の神の力を意味するものぞかし 如何となればそは道肉体となれりと云ふに由る されど道は殊更に何を表はすものなるか 知るもの更に無かるべしこれより進むで亀彦は いと細やかに説示せむ道といふは聖言ぞ 聖言即ち神真ぞこの神真は主の神に 存し玉へば主神より現はれ来る光なり 光は主神の神真ぞ高天原にて一切の 力を有つは神真ぞ神真なくば力無し 故に一切の天人を呼びて力と称ふなり 実に天人は神力の所受者なるのみならずして 神力を収むべき器なり如上の如く観ずれば 天人即ち力なり此神力を有つ故 地獄界まで制裁しそれに反抗するものを 全く制禦し得らる也たとひ数万の叛敵の 現はれ来る事あるも高天原の神光と 称へまつれる神真ゆかがやき来る一道の 光明に遭ひしその時は直に戦慄するものぞ 以上の如く天人の天人たるは神真を 清けく摂受し得る故に全天界の根元を 組織するものは神真の光に決して外ならず そは天界を組織するものは天人なればなり ○ 神真中に斯の如く偉大無限の神力の 潜み居るとは現界の真理を以て只思想 又は言語に外なしと思ふ学者の中々に 信じ能はぬ所なり思想や言語は自身にて 力を有するものならず主神の命に従ひて 活動する時始めてぞ力を生ずるものとなす されど神真はその中に自らなる力ありて 天界こそは造られぬ地上の世界もその中の 万物併せて悉く之にて造られたるものぞ 斯くも尊き神力の神真の中にあることは 二個の茲に比証あり即ち人間にある善と 真との力その次に世間よりする太陽の 光と熱との力にて神の稜威を明かに 覚り得らるるものぞかしアヽ惟神々々 神のまにまに答へおく』 万公『イヤどうも有難う御座いました。万公マンマン満足致しました』 治国別『万公、お前、本当に私の云ふことが分つたのか』 万公『マンマン、半解位なものですなア。併し乍ら半開の花はキツと満開します。与ふるに時間を以てして下さい。万公の了解した時が、即ち花の満開ですからなア。モウ少し、細かく分解的に仰有つて貰へますまいかナ』 治国別『此事が略了解がついた上で、又教ることにしよう。此解決をお前達の兼題としておくから次が聞たくば、此歌を繰返し繰返し霊魂に浸み込ますが良い、読書百遍意自ら通ずと云ふからな、余り一時に餌を与へると霊魂が食傷し、腹痛下痢を起しちや、俺も厄介だから、モウチツとといふ所で止めておかう。腹に一杯与へては、折角の御馳走が御馳走にならぬからなア。アハヽヽヽ』 万公『サア、一同の方々、万公が導師で之から天津祝詞を奏上致しませう』 晴公『其次に天地の神、其次に神言の奏上といふ段取だな、オイ万公、人の真似ならこの晴公さまでも出来るよ。ウツフヽヽヽ』 (大正一一・一二・八旧一〇・二〇松村真澄録) (昭和九・一二・二七王仁校正)
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霊界物語 44_未_玉国別と治国別2 18 一本橋 第一八章一本橋〔一一八七〕 松彦一行は野中の森を後にして、宣伝歌を歌ひながら浮木ケ原をさして進み往く。此処には河鹿川の下流が横たはつて居る。此の河は、ライオン川に注ぐと伝へられて居る。 可なり広い河に、天然の河の中の岩を土台として、一本橋が架けられてある。橋を渡つて帰つて来る二人の女があつた。一人は中年増、一人は十五六才の少女である。一行六人は橋の詰めに立つて清らかな激流を眺めて息を休めて居た。万公は二人の女に向ひ、 万公『随分、烈しい流れだが、こンな一本橋を女の身としてよく渡れたものだなア、一体お前さまは、何処から来たのだイ』 女(お寅)『ハイ私は浮木の里の者で厶いますが、此間から沢山の軍人が私の村に陣取り、女と云ふ女を軒別に徴集して炊事をさせたり、いろいろと辱たりするので、誰も彼も皆逃げて仕舞ひました。私は婆の事なり、相手にはして呉れませなンだが、段々と女が減るにつけ、婆でも少女でも構はぬ、女でさへあれば引張つて帰りますので吾村を逃げ出し、此橋を渡つて小北山の神様のお館へ身を隠して居りましたが、あまり沢山の女で寝る所もなく断られて、親子二人が此処迄帰つて来たので厶います』 アクは言葉せはしく、 アク『ウン、女計りが小北山に隠れて居るとは一体幾十人程居るのだい』 女(お寅)『ハイ、一寸百人計り集まつて居りますが、私は後から行つたものですから、部屋と云ふ部屋は酢司詰の有様で軒下にも寝る所がないので厶ります。それ故帰つて参りました。此先何うしたらよからうかと思案に暮れて居ます。貴方の笠には十曜の紋がついて居ますが、不思議の事には小北山の神様にも十曜の紋がつけてありました』 アク『さうして何といふ神様が祭つてあるのだ』 女(お寅)『ハイ国治立命様とか承はりました』 アク『ハテ国治立命様を祭つてあるとは合点が往かぬ。三五教の一派ではあるまいかなア』 女(お寅)『何だか知りませぬが、小北山の神様と云うて参つて居ります。一寸外からは分りませぬが、あれ御覧なさい、細い煙が立ち上つて居りませう、あすこが神様を祭つてある所です。そして門もあり、沢山の神様も祭つてあつて一々名は覚えて居ませぬが何でも六ケ敷名のついた神様計りで厶います』 アク『松彦さま、此婆さまの話は耳寄りぢやありませぬか。国治立神様が祭つてあると云ひ十曜の紋がついて居ると云つたでせう。ひよつとしたら治国別の先生が、其処へ往かれたのではありますまいかな』 松彦『さうでもあるまいが、松彦もその小北山とやらへ一寸立寄つて様子を考へて見度いものだなア』 アク『そンならお伴致しませうか。オイ、五三さま、万公さま、タク、テク、お前等も賛成だらうなア』 四人一度に「賛成々々」とばつを合した。 アク『ヤア小生の提案を満場一致賛成下さいまして、アクの身に取り有り難う厶います』 松彦『ハヽヽヽヽ、アクさま、この二人の女は見殺にする積りかな、何とかして連れて往つてやらねば、可愛さうぢやないか。百人も居る処へ二人位融通のつかぬ筈はあるまい。此婆さまは何か万びきでもやつたのぢやあるまいかな』 アク『さうだなア、やりよつたのだらう。随分手癖の悪い奴が、女の中にもあるからなア』 女(お寅)『これこれあなた方、私を手癖が悪いと仰有つたが、さうどんどんと仰有るからには何ぞ証拠がありますかな、サアそれを聞かして貰はう、こンな事を聞いては、何程女だと云うて聞き捨てになりませぬ、盗人の名をきせられて、先祖に対して申訳がありますか、娘にだつて合す顔がない。何を証拠にそンな事を仰有いますか』 と眉を逆立て、睨みつける。 アク『ヤアこいつは失敗つた、まことに粗疎千万アク言を申上げました。つい口が辷りましてなア』 女(お寅)『口が辷つたの、足が辷つたのと、そンな事で云ひ訳が立ちますか。私に着せた濡れ衣をサアどうして乾かして下さる。お前さまも世界の人を導いて歩くお方だと見えるが、そンな事でどうして神様の御用が出来ますか』 アク『イヤ誠に閉口頓首だ、アクの身魂はやられた哩』 万公『オイ、アクさま、態を見ろ、余り言霊を使ひ過ぎると、七尺以上の男が女に屁古まされるやうな事が起るのだよ。アハヽヽヽ万の悪い代物だなア』 女(お寅)『さうするとお前はアクと云ふのかい、道理で万引の様な面をして厶るわい。オヽ恐ろしい恐ろしい、こンな所で追剥せられては大変だ、サア菊、長居は恐れ、早く帰りませう』 お菊『お母さま、浮木の里へ帰ればバラモンの軍人に追剥をされたり、念仏講に合はされたりしては耐りませぬから、一層此処へ身を投げて死にませうか。小北山へ行つても放り出される、ここへ来れば追剥にせられる。家へ帰れば軍人に訶まれる、何うする事も出来ぬぢやありませぬか』 五三公『これこれ母子御両人さま、私は五三公と申すもの、決して盗人ぢやありませぬ。三五教の宣伝使のお伴だ。決して人を難めたり、追剥なンどはして呉れと云はれても致しませぬから安心して下さい。大切な命をこンな所で果すとは悪い了見だ。気の短いにも程がある。これお菊さま、この叔父さまはそンな怖い者ぢやない、まア安心してお呉れ』 お菊『イエイエお前さまは泥棒だよ。そこに厶る三人のお方は、此間私の村へ出て来て「女徴集だ」と云つて、掻つ攫ひに来たお方ぢや。顔に見覚があります。そんな事を仰有つても私は承知は出来ませぬよ。なアお母さま、さうでせう』 母(お寅)『成る程、そこの三人の男は家へもやつてきた男だ。隣のお亀を攫へよつたのはそこの三人だ。バラモン教の目付けだと云つて威張りよつた。こら三人の奴、此婆はかう見えても浮木ケ原のお寅と云つて若い時には賭場を開張して居つた白浪女だ。もはや娘が命を捨てると覚悟した以上は、このお寅も足手纏ひがなくて力一ぱい活動が出来る。サア小童共このお寅が河へ投げ込ンで村の人の仇を打つてやらう。サアどうぢや』 と目を釣上げ、偉い剣幕で睨めつけた。アク、タク、テクの三人はお寅婆の勢に辟易し、後ずさりして頭を掻いて居る。 万公『ハヽヽヽヽ、オイ、アク、貴様等三人偉さうに云つて居るが随分悪い事をしよつたなア、年貢の納め時だ。一つ婆アサンとこの激流に投げ込まれて見よ、俺も何なら婆アさまの助太刀をせぬ事もないワ、万公末代の善の鏡だから』 アク『これこれお婆さま、さう怒つて呉れては困る、アクの俺は役目で止むを得ず女徴集と出たのだ。役目だと思うてまア見直して呉れ』 お寅『何と云つてもお寅婆が死物狂ひ、許すものかい。これや万公とやら貴様も同類であらう。これお菊、お前は死ぬと覚悟を極めた上は一人死ぬのも勿体ない。これ等六人を残らず河へ投げ込ンで、大活動をし、天晴れ勇者となつて、冥途に行つた時に其勇名を誇らうぢやないか』 お菊『お母さまそンなら一つ私も死物狂の活動を致しませう。仮令一人でも道連にしてやらねば腹が癒へませぬからなア』 松彦は初めて口を開き、 松彦『もしもし、お寅さま、お菊さま、先づお静まりなさい、決して吾々は悪人ではありませぬよ。バラモン教の中にもたまには善人が混つて居りますからなア。此三人は成る程女徴集に往つたのは事実でせう。併し今日は最早改心をして三五教の宣伝使のお伴して歩いて居るのだから、どうぞ許してやつて下さい』 お寅『お前さまは一寸賢さうな顔をして居るだけに一寸分つた事を仰有る。許し難き餓鬼なれども、今日は見逃しておきませう。そのかはり三人の餓鬼に「どうも悪かつた」と犬蹲ひになつてお詫をさせにや承知しませぬよ。命だけは助けてやります』 万公『オイ、アク、テク、タク三人薩張顔色無しだナ、女の一人や二人にこみわられて慄つて居るやうな事で、どうして男の顔が立つか。是を思へば悪い事は出来ぬものぢやなア。万公末代万年の恥だよ。アハヽヽヽ』 アク『何も俺は此婆さまにあやまりの条がないのだ。婆さまや娘の体に指一本さへたのでもない、隣の家まで往つたのみだ。オイ婆さま、隣の家の敵打だなンて旧いぢやないか。お前も随分頭が旧いなア』 お寅『エヽつべこべと今の奴は青表紙や蟹文字を噛つてけつかるから、そンな小理屈を吐すのぢや、強太う致して謝罪らぬなら謝罪らないでもよい。此方にも覚悟があるのだから』 アク『ハヽヽヽヽ剛情な婆だな、江戸の敵を長崎で打たうとして居る。オイ、俺達三人はこの一本橋を向ふへ渡つて、婆の来ぬやうに、この橋を落してやらうぢやないか、タク、テク、サア来い』 と尻を引き捲り一本橋を無性矢鱈に渡らむとし慌てアクは渦まく激流にドブンと落ち込ンだ。タク、テクの両人は辛うじて向ふへ渡る。お寅とお菊は両手を上げて、ウワイウワイとぞめいて居る。 松彦は驚き、 松彦『オイ、万公、五三公、これやかうしては居られない。婆さまも婆さまだがアクを助けてやらねばなるまい、サア渡らう』 と云ひながら松彦は先に立つて一本橋を渡り初める。続いて五三公も渡り出した。万公は、 万公『アクを助けるとは妙だなア、俺だつたら善を助けるがなア』 とほざいて居る。後からお寅は万公の首筋をグツと引き、お菊は足を浚へ、ドスンと河端に倒して仕舞つた。 万公『バヽヽヽ婆さま、ナヽヽ何をするのだ。俺はスヽヽ些しもシヽヽ知らぬぢやないか』 お寅『知つても知らぬでもよいわ。貴様は敵の片割れだから親子寄つて集つて命を取つてやるのだ』 万公は吃驚して、 万公『オイ松彦さま、五三公さま、人殺だ、救けて呉れ』 と声を限りに叫び居る。激流の音に遮られて向ふ岸には聞えなかつた。四人はアクを助けむと右往左往に周章へ廻つて居る。アクはどうしたものか二三町下手の岸に漸く泳ぎつき、真裸体となつて濡れた着物を圧搾し初めた。 松彦『アーもう大丈夫だ、矢張アクは偉い奴だ。松彦も感心した。悪運強いとは此事であらう、ハヽヽヽヽ』 五三公『もし松彦さま、万公が居らぬぢやありませぬか』 松彦『何、五三公、万公が居らぬか』 と云ひながら向ふの岸を見ると、二人の女に押へられ藻掻いて居る。 松彦は言せはしく、 松彦『オイ、タク、テクの両人はアクの方へ往つて世話をしてやつて呉れ、五三公は御苦労ぢやが一本橋を渡つて万公を助けて来い』 五三公『ヘイ承知致しました、併し貴方はどうなさるお積りです』 松彦『私は宣伝使代理だから先づ中央に坐を占めて両軍の戦闘振を講評する積りだ、サア早くゆかないか』 五三公『エヽ仕方がない』 と五三公は一本橋を又もや渡り、 五三公『これやツ!!』 と呶鳴りつけるを、お寅にお菊は平気なもので、 お寅『これお前さま何を邪魔をするのだイ。向ふに先生が待つて厶るぢやないか、とつととあちらに往かつしやれ。此奴は万公と云つてな、私の娘をチヨロマカした奴だよ。お菊の姉のお里が野良へ往つた処を待ち伏して野倒しをやり、たうとう夫婦気取りで、一年計りも私の家で暮して居つた奴ぢや。お里は悪縁で腹が膨れ、其ために難産をした揚句に死ンで仕舞ひよつた。さうするとこの薄情男奴後足で砂をかけて逃げてしまひよつたのだ。どこへ往つたかと探して居たが、天命遁れず此処で廻り合つたのだ、娘の敵だ、どうしても殺さねや承知しないのだ。目が悪いと思うて万公の奴知らぬ顔して居るが、そンな事の分らぬ婆さまぢやない。娘の敵この鉄拳でも喰へ』 と握り拳をふり上げてコンコンと叩く。 万公『アイタヽヽヽ万々々どうぞ勘弁へてお呉れ』 お菊『姉さまの敵承知しないぞ』 と又拳を固めてコンコンと打つ。 万公『オイ五三公の奴、助けて呉れないか。私も三人や四人の女に弱るやうな男ぢやないが、お寅婆アさまは柔道百段だから、グツと掴まれたら、どうする事も出来ないのだ』 お寅『オホヽヽヽ、これ五三公とやらこの婆に指一本でもこの体にさへたら承知せぬぞ』 五三公『これや五三公も手の出しやうがないわい、滅多に命を取るやうな事もあるまいから、精出して叩いて貰へ。なアお婆さま何うぞ強つく、柔かう頼みますよ』 お菊『お母さま、こンな腰抜け男を叩いても仕方がない。もう勘忍してやりませうか。それよりも浮木ケ原へ帰り、ランチ将軍の陣営に飛び込み、斬つて斬つて斬り死をした方が死甲斐があるかも知れませぬぜ』 お寅『さうだ、こンな蠅虫の二匹や三匹相手にしたつて仕方がない、許してやらう。命冥加の奴だ。今後はきつと慎め、万公奴』 万公『ハイ謹みます』 お寅『私の云ふ事を何時迄も覚えて居つて、あの先生の云ふ事を好う聞いて善心に立ち帰るのだよ。サア三千世界の放ち飼ひ、何処へなりと万公勝手に往け』 と掴むで居た手をパツと放した。万公はムクムクと起き上り、 万公『婆さま大きにお世話になりました。お蔭で肩の凝りが癒りました』 と捨台詞を残して逃げて行く。 お寅『仕方のない男だな。彼奴はまだ、どせう骨[※土性骨]が直つて居ないと見える。後より追つついて、も一つ折檻してやらう、サアお菊』 と一本橋を渡らうとする。五三公は両手を拡げ、 五三公『お婆さま、まあまあ待つて下さい、私がとつくと言うて聞かしますから、もうこれ切り許してやつて下さい。貴女も一旦許すと仰有つたのだから、もう、これ切り許して下さい。さう執念深く追駆ないでもよいぢやありませぬか』 お寅『憎い奴ではあるけれど、たとへ一年でも可愛娘の可愛がつて居た男だから、十分言うて聞かして懲してやり、一人前の男にしてやりたい計りに、かうして母子が手荒い事をしたのだ。万公を打擲したのは矢張可愛いからだよ。何しに憎うて頭の一つも叩かれやうぞ』 と云ひながら涙を袖に拭ふ。お菊も顔を隠し涙をそつと拭いて居る。 五三公『アヽ親の恩と云ふものは有り難いものぢやなア。お婆さま左様なら』 と云ひ捨て、五三公は又もや一本橋を慌しく渡つて仕舞ひ、小北の霊場へと急ぎける。 (大正一一・一二・九旧一〇・二一加藤明子録) (昭和九・一二・二九於湯ケ島王仁校正)
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霊界物語 45_申_小北山の宗教改革1 総説 総説 神霊界には正神界と邪神界との二大区別がある。そして正神界は至善至美至真なる神人の安住する聖域であり、邪神界は至悪至醜なる鬼畜の住居する暗黒界である。邪神界は常に正神界の隆盛を羨み、之を破壊し攪乱せむと所在力を竭すものであり、且又正神界を呪ひ、自らの境遇を忘却して、邪神界に居ながら自ら正神界の神業を立派に奉仕して居るものの如く確信してゐるものである。自ら邪神界に墜落せりといふことが悟り得られたなれば、必ず改心する端緒が開けて来るものであるけれども、邪神なるものは其霊性暗愚にして他を顧みるの余裕なく、世人皆濁れり、吾のみ独り澄めり、一日も早く此暗黒なる世界を善の光明に照し以て至善至美なる天国を招来せむと焦慮しつつあるものである。何程海底をして不二山頂たらしめむとして焦慮するとも、到底不可能なるが如く、仮令幾百万年かかる共海底は不二山頂たることは望まれない。それよりも其海底を一日も早く浮かび出で自ら歩行の労を積み徐に山頂に登るに如くはないのである。 邪神界にあるものは到底真の天国を解するの明なく、又神の福音を聞くことは出来ぬ。小北山のウラナイ教の神域に集まつてゐる諸霊や人間の霊身は既に已にその身を根底国に籍を置き邪神の団隊に加入してゐるのであるから、何程言を尽して説示しても駄目である。覚せばさとす程反対に取り何処までも自分が実見したる天の八衢や地獄の外には霊の世界は無いものと考へてゐるものである。本巻の物語を読んで大本の信者の或る部分の人々は少しく反省されることがあらば瑞月に取つて望外の歓びとするところであります。 大正十一年十二月十三日
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霊界物語 46_酉_小北山の宗教改革2 序文 序文 現代の天文地文学、物理学、化学、幾何学、機械学、解析学、心理学、哲学、歴史、文学、批評、言語等、所謂科学の眼から見れば、この物語は実に文厘の価値もなきものと見えるでせう。十悪無一善の凡夫心から観察する時は、不道理と矛盾と撞着で充満してゐるでせう。ベルグソン、オイケンの流行で、生命や生活又は生だのと色々論議され、近頃はまたプロレタリヤにブルジヨアに文化生活、相対性原理説など頻りに主唱さるる世の中だから、現代人の耳に入りさうなことはないと思ふ。然しながら、槿花一朝の夢にも等しき現代の流行書『死線を越えて』とか『新約』『旧約』『復活』『出家と其弟子』『懺悔の生活』等の如く、現代人、而も二三年未満の愛読者を求むるのではない。幾千万年の後までも言葉の光を輝かすのが真の目的なのである。故に現代人に容れられむことを望むのでない、唯々一人なりとも多く読んで神界の真相を悟り、大にしては治国平天下のために、小にしては修身斉家の基本となすに致らば、口述者に取つて望外の喜びなるのみならず、世道人心に裨益する所大なるべきを思うて止まぬのみであります。 大正十一年十二月十五日王仁識