| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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霊界物語 | 47_戌_治国別の天国巡覧1 | 16 霊丹 | 第一六章霊丹〔一二四九〕 天教山にあれませる木花姫の御化身に 案内されて第三の天国界を後にして 五色の雲を踏み分けつ東をさして上り行く 治国別や竜公は如何はしけむ目は眩み 頭は痛み足はなえ胸は轟き両の手は 力も落ちてブルブルと慄ひ出すぞ是非なけれ 木花姫の御化身は順風に真帆をかかげたる 磯の小舟の進むごと何の故障もあら不思議 とんとんとんと上ります治国別や竜公は 吹く息さへも絶え絶えに命限りの声しぼり (治国別、竜公)『これこれもうし木花の姫の命の神司 暫く待たせ給へかし如何なる訳か知らねども 何とはなしに目は眩み意識は衰へ力落ち 進退茲に極まりて最早一歩も進めない 何卒お慈悲に両人をも一度後に引返し お助けなさつて下されや偏に願ひ奉る 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも尊き神の御恵は いつの世にかは忘れませう抑天国の存在は 神の慈愛を善真の其高徳に構成され 愛と善とに満ち満ちし神の国土で御座いませう 貴神も尊き神なれば吾等二人の苦みを 決して見捨て給ふまじかへさせたまへ惟神 木花姫の御前に命限りに願ぎまつる 嗚呼惟神々々御霊幸はへましませよ』 と歌ふ声も切れ切れに第二天国の入口迄来てバタリと平太り込んで了つた。竜公は唯一言も発し得ず、痴呆の如く口をポカンと開いたまま僅かに指先を間歇的に動かして居る。木花姫は後ふり向きもせず巨大なる光と化して、天の一方に姿を隠させ給うた。治国別は後打ち眺め、 治国別『あゝ、過つたりな過つたりな。自愛の欲に制せられ、吾身の苦しさに木花姫様の救助を求めた愚かしさよ。「師匠を杖につくな、人を頼りにするな」と云ふ御教を、正勝の時になつて忘れて居たか。あゝ人間と云ふものは、何と云ふ浅ましいものであらう。竜公はもはや虫の息、かかる天国に於て、精霊の命までも捨てねばならぬのか、あゝ何うしたらよからうな。国治立大神様、豊国主大神様、神素盞嗚大神様、何卒々々此窮状を、も一度お救ひ下さいませ』 と色蒼ざめ、殆ど死人の如くなつて、合す両の手もピリピリ慄ひ戦き、実に憐れ至極の有様となつて来た。願へど、祈れど、呼べど、叫べど唯一柱の天人も目に入らず、神の御声も聞えず、四辺寂然として物淋しく、立つても居ても居られなくなつて来た。竜公はと顧みれば、哀れにも大地に蛙をぶつつけた如く手足をのばし、殆ど死人同様になつて居る。されど治国別は何処迄も神に従ひ神に頼り、神の神格を信じ、斯かる場合にも微塵も神に対し不平又は怨恨の念を持たなかつた。治国別は決心の臍を固め、 治国別『あゝどうなり行くも神の御心、吾々人間の如何ともすべき限りでない。神様、御心の儘に遊ばして下さい。罪悪を重ねたる治国別、過分も此清き尊き天国に上り来り、身の程をわきまへざる無礼の罪、順序を乱した吾等の罪悪を、何卒神直日、大直日に見直し下さいまして、相当の御処分を願ひます』 と祈る声も細り行き、最早絶体絶命となつて来た。此時俄に天の戸開けて天上より金色の衣を纏ひたる目も眩きばかりの神人、二人の脇立を従へ、雲に乗つて二人の前に悠々と下らせ給ひ、懐より霊丹と云ふ天国の薬を取り出し、二人の口に含ませたまへば、不思議なるかな二人は正気に返り、勇気頓に加はり、痩衰へた体は元の如く肥太り、顔色は鮮花色と変じ、得も云はれぬ爽快の気分に充されて来た。二人は恐る恐る面を上ぐれば、威容儼然たる男とも女とも判別し難き優しき天人、その前に莞爾として立たせたまふのであつた。治国別は思はず手を拍ち、 治国別『あゝ有難し有難し、大神の御仁慈、罪深い吾々をよくもお助け下さいました。有難う存じます』 とよくよくお顔を見れば、以前に別れた木花姫命が、二人の侍女を連れ立たせ給ふのであつた。 治国別『ヤア、貴神は木花姫命様で厶いましたか。誠に誠に御仁慈の段感謝の至りに堪へませぬ』 竜公『神様、能くまアお助け下さいました。竜公は既に既に天国に於て野垂れ死をする所で厶いました。天国と云ふ所は、真に苦しい所で厶いますなア』 木花姫『総て天国には善と真とに相応する順序が儼然として立つて居りますから、此順序に逆らへば大変に苦しいものですよ。身霊相応の生涯をさへ送れば、世の中は実に安楽なものです。水に棲む魚は、陸に上れば直に生命がなくなるやうなもので厶ります』 治国別『成程御尤もで厶います。八衢に籍を置いて居る分際をも顧みず、神様のお言葉に甘え、慢心を起し、天国の巡覧などを思ひ立つたのは、吾々の不覚不調法の罪、何卒々々大神様にお詫を願ひ上げます』 木花姫『治国別殿、其方は媒介者によつて天国の巡覧に来られたのだから、決して身分不相応だとは申されますまい。貴方は宣伝使としての肝腎要の如意宝珠を道で落しましたから、それで苦しかつたのですよ。殆ど息が絶えさうに見えましたので、妾は急ぎ月の大神様の御殿に上り、霊丹を頂いて再び此処に現はれ、貴方等の御生命をつなぎ留める事を得たので厶りますよ。まア結構で厶いましたなア』 治国別『ハイ、吾々が命の親の木花姫様、此御恩は決して忘れは致しませぬ』 木花姫『妾は貴方の命の親ではありませぬ。貴方の命の親は月の大神様ですよ。妾は唯お取次をさして頂いたのみですよ。左様にお礼を申されては、何だか大神様の御神徳を妾が横領するやうに思はれて、何となく心苦しう厶います。宇宙一切は月の大神様の御神格に包まれて居るので厶います。吾々には御神徳を伝達する事は出来ても、命をつないだり御神徳を授ける事は出来ませぬ。此後は何事がありても、仮令少しの善を行ひましても、愛を注ぎましても、決して礼を云うて貰つては迷惑に存じます。何卒神様に直接にお礼を仰有つて下さい』 治国別『ハイ、理義明白なる御教、頑迷なる治国別も貴神の御伝教によつて、豁然と眠りより醒めたるやうで厶います。あゝ国治立大神様、月の大神様、最高天国にまします天照大御神様、唯今は木花姫様の御身を通して吾等に命と栄えと喜びを授け給ひし事を、有難く、ここに感謝致します』 木花姫『貴方は途中でお落しになつたものを未だ御記憶に浮かびませぬか、如意宝珠の玉ですよ』 治国別『ハイ、私は高姫さまのやうに如意宝珠の玉などは一度も拝んだ事もない、手に触れさせて頂いた事も厶いませぬから、従つて落す理由も厶いませぬ。何かの謎では厶いますまいかな。心愚なる治国別には、どうしても此謎が解けませぬ』 木花姫『高姫さまの執着心を起された如意宝珠は、あれは自然界の形態を具へた宝玉です。天界の事象事物は総て霊的事物より構成されて居りますれば、想念上より作り出す如意宝珠で厶いますよ。先づ御悠りとお考へなさいませ。妾が申上げるのはお易い事で厶いますけれど、これ位の事がお分りにならない位では、到底中間天国の天人に出会つて、一言も交へる事が出来ませぬ。神の愛と神の信に照され、神格の内流をお受け遊ばし、智慧と証覚を得れば、何でもない事で厶います』 治国別は、 治国別『ハイ』 と答へた儘双手を組み、眼を閉ぢ暫く考へ込んで居る。遉鋭敏の頭脳の持主と聞えて居る治国別も、霊界へ来ては殆ど痴呆の如く、何程思索を廻らしても容易に此謎が解けなかつた。竜公は傍より手を打ち嬉しさうな元気のよい声を出して、 竜公『もし先生、霊界の如意宝珠と云ふのは善言美詞の言霊ですよ。中間天国へ上る途中に於て天津祝詞や神言の奏上を忘れたので、姫命様が、お気をつけて下さつたのですよ』 治国別『成程、ヤ、ウツカリして居つた。木花姫様、有難う厶います。ほんに竜公さま、お前は私の先生だ、ヤア実に感心々々』 竜公『先生、そんな事云つて貰ふと大に迷惑を致します。決して竜公の智慧で言つたのではありませぬ。御神格の内流によつて、斯様に思ひ浮べて頂かせられたのです』 木花姫『現界に於きましては、竜公さまは治国別さまのお弟子でありませう。併しこの天国に於ては愛善と信真より来る智慧証覚の勝れたものが最も高き位置につくので厶います。神を信ずる事が厚ければ厚い程、神格の内流が厚いので厶いますから』 治国別『いや実に恐れ入りました。天国に参りましても、やはり現界の虚偽的階級を固持して居つたのが重々の誤りで厶います。あゝ月の大神様、日の大神様、木花姫様の肉の御宮を通し、又竜公さまの肉の宮を通して、愚鈍なる治国別に尊き智慧を与へて下さつた事を有難く感謝致します』 木花姫『サア皆さま、是より天津祝詞の言霊を奏上しながら、第二天国をお廻りなさいませ。左様ならば、是にてお別れ致します』 治国別、竜公両人は、 治国別、竜公『ハイ有難う』 と首を垂れ感謝を表する一刹那、嚠喨たる音楽につれて木花姫の御姿は、雲上高く消えさせ給ふのであつた。 あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・一・九旧一一・一一・二三加藤明子録) |
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霊界物語 | 47_戌_治国別の天国巡覧1 | 19 化相神 | 第一九章化相神〔一二五二〕 天国人の祭典を行ふのは、天国団体の重要なる務めの一となつてゐる。天国の天人は愛の善に居るが故に、大神を愛し且同僚を愛し、天地惟神の法則に従つて宇宙の創造主たる神を厳粛に斎り、種々の珍らしき供物を献じ、而して後神の愛に浴するを以て唯一の歓喜となし、唯一の神業としてゐるのである。而して天国人は決してエンゼルになつたり、或は宣伝使にはならないのである。エンゼルや宣伝使になる天人は、すべて霊国天人の任務である。何とならば霊国は信の真に充ちたる者多く、天国は愛の善にみちたる者多き国土なるが故である。祭典がすむと、霊国よりエンゼル又は宣伝使出張し来つて愛善を説き、信真を諭し、円満なる天人の智慧と証覚をして益々円満ならしめむと務めるのである。又天人は其説教を聞いて自分の人格を円満ならしめ、処世上の福利を計らむとするものである。そして天国の団体は大なるものに至つては十万も集まつて居り、少いのは五六十人の団体もある。之は愛と信より来る想念の情動如何に依つて相似相応の理により団体を形成するからである。 治国別、竜公は珍彦に伴はれ、神の家と称する、天人が祭典を行ひ霊国宣伝使が説教を行ふ木造の殿堂に導かれた。いつまでも木の香新しく薫り、幾年経ても新築した時の想念に依つて建てられてあるから、決して腐朽したり或は古くなつたりするものではない。 珍彦夫婦は光沢にみちた赤の装束をつけ、神の家に悠々と進み入つた。団体の天人は赤子に至る迄此処に集まり、祭典に与らむと、えも言はれぬ歓喜に充ちた面貌を表はして控へてゐる。この天人も智慧証覚の如何に仍りて、幾分か差等はあれども、大抵は相似の面貌をしてゐる。現界の形式的祭典に比ぶれば、実に荘厳と云はうか、優美と言はうか、華麗と言はうか、譬方のない情態である。此団体中にて、最も証覚の秀れたる者が、祓戸や神饌係や祭典に関するいろいろの役目をつとめ、珍彦は団体長として斎主の役に当ることとなつた。凡て天国は清潔主義、統一主義、進取主義、楽観主義であるから、何とも云へぬ良い気分に充たされるものである。此祭典に依つて、神人は和合の極度に達し、歓喜悦楽に酔ふのである。而して天国の祭典は神に報恩謝徳の道を尽すは言ふも更なれど、又一方には其団体の円満を祈り、天人各自の歓喜を味はひ、悦楽に酔ふ為である。故に現界の祭典の如く四角張らず、小笠原流式もなく、実に円滑に自由自在に、愛善より来る想念の儘に情動するのであるから、何とも云へぬ完全な祭典が行はれる。法なくして法あり、式なくして式あり、到底現界にて夢想だもなし能はざる光景である。而して祝詞はやはり現界の如く天津祝詞や神言を奏上して、神慮を慰め、且天人各自の心を喜ばせ、一切の罪汚れ過失を払拭する神業である。天国に於ても時に或は少々の憂ひにみたされ、悲みや驚きに遭遇することは絶無とは言へない、故に天人は日を定めて、荘厳なる祭典式を行ひ、其生涯に対して福利を得むことを祈るのである。 祭典の式も漸く済み、八尋殿に於て直会の宴が開かれた。大抵此祭典は午前中に行はるるものである。併し天国に於ては時間空間など云ふものはなく、従つて午前午後昼夜などの区別はない。併しながら情動の変異に依つて、朝たり夕べたるの感覚が起るものである。而して朝は太陽の愛に相応し、天国の愛善に和合するものである。又夕べは信真に相応し、月に相応するものである。故に天国人の祭典は午前中に行はれ、霊国即ち月の国から出張し来る宣伝使は午後に至つて説教を初むるのが例となつてゐる。現代に於ける各宗教の儀式も祭事に関することは凡て午前に行ひ、説教などは午後に行はるるのは、知らず知らずに天国の情態が地上に映つてゐるのである。 各天人は思ひ思ひの歌を歌ひ、舞を舞ひ、音楽を奏し、祭典後一切を忘れて面白可笑しく茶番狂言なども交へて、時の移るのも知らず、遊び狂ふのである。 天人の歌や演舞の状況は茲には省略して、後日又時を得て述ぶることとする。さて直会の宴も無事終了し、各天人の情動は初めて午後に相応する感覚になつた時、霊国の宣伝使が何処ともなく嚠喨たる音楽に送られて、四辺を輝かしながら、二人の侍者と共に神の家に向つて進んで来た。諸天人は此宣伝使を『ウオーウオー』と、愛の声を注ぎながら迎へ入れる。宣伝使は莞爾としてさも嬉しげに、諸天人に目礼を施し、団体長なる珍彦の案内に連れて、半円形に組立てられた演壇上に悠々と座を占めた。而して其左右には証覚の光明稍劣つた者が控へてゐる。これは宣伝使の侍者である。諸天人は半月形に演壇の前に席を取り、宣伝使の視線を外さない様にして、其教示を嬉し気に聴聞してゐる。宣伝使の天国に於ける説教は大神の御神格を徹底的に理解すべく、且愛善と信真の何たるかを、極めて微細に説きさとし、天人が処世上の利便を計らしむるべく努むるより外にはないのである。 治国別、竜公は天国の言葉を解し得ず、特別の席に黙然として耳を傾け、其教示を一言なりとも会得せむと努めてゐる。されど此等の両人は未だ第二天国の天人の言葉さへ聞分くる丈の智慧証覚も備はつてゐないのだから、此等の天人を説き諭す幽遠美妙なる説教などは到底聴取れる筈はない。従つて感得することは出来ない。デクの棒然として、其美妙なる声調や言語の抑揚頓挫曲折などの巧妙ぶりや、顔面筋肉の動き振り、形容身振などを考へて、略其何事を語り居るかを、おぼろげに窺知し得るのみであつた。殆ど一時ばかり経つたと思ふ時、宣伝使は説教の終結を告げた。各天人は頻りに拍手し、讃嘆しながら、ウオーウオーと叫びつつ神の家を立つて各自の住所に帰り行く。珍彦夫婦は宣伝使の先頭に立ち、己が館を指して迎へ帰る。治国別、竜公も後に従ひ、珍彦の館に入る。 宣伝使は奥の間に進み、冠を取り、法服を着替へ、くつろいで主客対坐し、茲に少時雑談に耽るのが例となつてゐる、珍彦夫婦は珍らしき果物を並べ、葡萄酒を注いで宣伝使に勧めた。宣伝使は栄えにみちた面貌を珍彦に向けながら、一口グツと呑み珍彦にさした。珍彦は恭敬礼拝しつつ押戴いてグツと呑み、其残りを珍姫にさした。珍姫も同じく押いただいて之を呑み終り、宣伝使に返し、宣伝使は二人の侍者に盃を与へ、手づから葡萄酒をつぐ。二人の侍者は何事か解し難き歌を歌ひ出した。治国別、竜公は宣伝使の面貌の高尚優美にして光明に充てるに眼くらみ、容易に面を向くることが出来なかつた。之は智慧と証覚の度に非常の相違があるが故である。あわてて被面布を取出し、治国別、竜公は之をかぶつた。そして宣伝使の顔をよくよくみれば、豈計らむや野中の森で別れた治国別の徒弟五三公であつた。宣伝使の五三公は、治国別、竜公のここに来り居ることを一目見て看破してゐたけれど、二人が自然に吾を認めるまでワザと名乗らなかつたのである。治国別は心の中に、 治国別『あゝ似たりや似たり、よく似たり、吾徒弟の五三公にソツクリだ。只どこともなく、肌の色合が透き通つてみえるばかりで、どこに一所違つた所がない。名乗つて見ようか、イヤイヤ五三公如き者が何うして霊国の宣伝使になり得るものか、なまじひに質問をして無礼になつてはすまない』 と心にとつおいつ、煩悶をつづけて居る。竜公も亦被面布の中から宣伝使の姿をためつすかしつ、首を切りにかたげ、或は右に左にふりながら、 竜公『ハテナ、よく似てゐる、妙だなア、ヤツパリ違ふかなア、イヤイヤ違ひはしようまい。何は兎もあれ不思議千万なことだ。何うしても合点の虫が承知せぬ。何程天国には相似の面貌があると云つても、これ丈似た顔は二度とあるまい』 などと四辺かまはず、無垢の心より、遠慮会釈もなく喋つてゐる。宣伝使は輝きの面貌を両人に向け、ニコニコと笑つてゐる。竜公は構はず、 竜公『モシ先生、あの宣伝使の顔を御覧なさい。三日月眉毛に頬のゑくぼ、目のつき方から、鼻の格好、口のチヨンモリした所、五三公にそつくりぢやありませぬか』 治国別は始めて口を開き、 治国別『よく似てゐられるなア』 竜公『先生、似るも似ぬもありますか。本真者の五三公ですよ。オイ五三公、何だ偉相に、俺だ俺だ、俺は被面布を被つてるから分らぬだらうが、竜公さまだ。そして一人はお前の大切な先生治国別さまだ。座を下つて挨拶をせないか、エヽーン、いつの間に夫れ程出世したのだ』 宣伝使はますますニコニコと笑つてゐる。 治国別『これはこれは木花姫命様、よくもマア私如き者の徒弟となり、化相の術を以て今迄此愚鈍な治国別をよくもお導き下さいました。有難く感謝致します』 宣伝使は始めて口を開き、 宣伝使(言霊別)『治国別様、竜公様、失礼を致しました。併し私は月の大神の御側に仕へまつる言霊別命で厶います。此度大神の命に依り、地上に降り、五三公の精霊を充たし神国成就の為に、貴方と共に活動をしてゐた者で厶います。夫れ故私と五三公とは全く別個の人間です。併しながら私の神格の全部が、五三公の精霊をみたしたる為、面貌までが能く似てゐるのでせう。今後に於ても時々五三公の精霊に下り、地上に天国を建設する為、化相を以て活動を致しますれば、五三公はヤハリ貴方の徒弟としてお使ひを願ひます』 治国別は此物語に打驚き、 治国別『ハイ』 と言つたきり、神の恵の広大無辺なるに感謝の涙をこぼしてゐる。 竜公『モシ宣伝使様……否言霊別命様、私が現界へ帰りました時は、五三公さまに対し、今迄の通りの交際振をやつて居ればいいのですか、之を伺つておかねば、今後の都合が厶いますからなア』 言霊別『化相を以て現はるれば、ヤハリ五三公です。従前の通り交際を願ひます』 竜公『ヤ、五三公、承知した。お前がこんな偉い者になることを思へば、俺だつてヤツパリ友達だ。何程智慧証覚があるといつても、現界へ出れば、俺とチーと偉いか、少し劣つた位なものだ。俺が一升でお前が九合か、お前が一升で俺が九合か位なものだ。なア五三公、さうだらう』 言霊別はパツと上衣を脱いだ。忽ち現界で見た五三公と、風体まで変らないやうになり、言葉もなれなれしくなつて来た。 五三公『天国の法衣をぬいで、暫く気楽に又お前と天国の旅行をしようぢやないか。治国別の先生、これから五三公が第二天国は云ふも更也、第一天国まで御案内を致しませう』 治国別『何卒宜しく御願致します』 竜公『コレ先生、融通の利かぬ人だな。ヨシ五三公、お供を許すと何故仰有らぬのだ。なア五三公、さうぢやないか』 五三公『ウン、化の皮をぬいだら、ヤツパリ元の五三公だ。ヤア珍彦様、珍姫様、有難う厶いました。之から天国の巡覧を致しますから、之でお別れ致しませう』 珍彦夫婦は意外の此問答に呆れ果て、黙然として三人の顔を見つめてゐる。二人の宣伝使の侍者はどこへ行つたか、影も形も見えなくなつて居た。 茲に治国別は五三公、竜公を伴ひ珍彦、珍姫に厚く礼を述べ、宣伝歌を歌ひながら、五三公の案内につれて、南方さして進み行く。 (大正一二・一・一〇旧一一・一一・二四松村真澄録) |
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霊界物語 | 48_亥_治国別の天国巡覧2 | 12 西王母 | 第一二章西王母〔一二六六〕 高天原の総統神即ち大主宰神は大国常立尊である。又の御名は天之御中主大神と称へ奉り、其霊徳の完全に発揮し給ふ御状態を称して天照皇大神と称へ奉るのである。そして此大神様は厳霊と申し奉る。厳と云ふ意義は至厳至貴至尊にして過去、現在、未来に一貫し、無限絶対無始無終に坐ます神の意義である。さうして愛と信との源泉と現れます至聖至高の御神格である。さうして或時には瑞霊と現はれ現界、幽界、神界の三方面に出没して一切万有に永遠の生命を与へ歓喜悦楽を下し給ふ神様である。瑞と云ふ意義は水々しと云ふ事であつて至善至美至愛至真に坐まし且円満具足の大光明と云ふ事になる。又霊力体の三大元に関聯して守護し給ふ故に三の御魂と称へ奉り、或は現界、幽界(地獄界)、神界の三界を守り給ふが故に三の御魂とも称へ奉るのである。要するに神は宇宙に只一柱坐ますのみなれども、其御神格の情動によつて万神と化現し給ふものである。さうして厳霊は経の御霊と申し上げ神格の本体とならせ給ひ、瑞霊は実地の活動力に在しまして御神格の目的即ち用を為し給ふべく現はれ給うたのである。故に言霊学上之を豊国主尊と申し奉り又神素盞嗚尊とも称へ奉るのである。さうして厳霊は高天原の太陽と現はれ給ひ、瑞霊は高天原の月と現はれ給ふ。故にミロクの大神を月の大神と申上ぐるのである。ミロクと云ふ意味は至仁至愛の意である。さうして其仁愛と信真によつて、宇宙の改造に直接当らせ給ふ故に、弥勒と漢字に書いて弥々革むる力とあるのを見ても、此神の御神業の如何なるかを知る事を得らるるのである。善悪不二、正邪一如と云ふ如きも、自然界の法則を基礎としては到底其真相は分るものでない。善悪不二、正邪一如の言葉は自然界の人間が云ふべき資格はない、只神の大慈大悲の御目より見給ひて仰せられる言葉であつて、神は善悪正邪の区別に依つて其大愛に厚き薄きの区別なき意味を善悪不二、正邪一如と仰せらるるのである。併しながら自然界の事物に就ても亦善悪混淆し美醜互に交はつて一切の万物が成育し、一切の順序が成立つのである。故に人は霊主体従と云つて自然界に身を置くとも、凡て何事も神を先にし、愛の善と信の智を主として世に立たねばならないのである。然るに霊的事物の何たるを見る事の出来ない様になつた現代人は、如何しても不可見の霊界を徹底的に信じ得ず、稍霊的観念を有するものと雖も、要するに暗中模索の域を脱する事が出来ない。それ故に人は何うしても体を重んじ、霊を軽んじ物質的欲念に駆られ易く地獄に落ち易きものである。かかる現界の不備欠点を補はむが為に大神は自ら地に降り其神格に依つて精霊を充し、予言者に向つて地上の蒼生に天界の福音を宣伝し給ふに至つたのである。凡て人間が現実界に生れて来たのは、云はば天人の胞衣の如きものである。さうして又天人の養成器となり苗代となり又霊子の温鳥となり、天人の苗を育つる農夫ともなり得ると共に、人間は天人其ものであり又在天国の天人は人間が善徳の発達したものである。さうして天人は愛善と信真に依つて永遠の生命を保持し得るものである。故に人間は現界の生を終へ天国に復活し、現界人と相似せる生涯を永遠に送り、天国の円満をして益々円満ならしむべく活動せしむる為に、大神の目的に依つて造りなされたものである。故に高天原に於ける天国及び霊国の天人は一人として人間より来らないものはない。大神様を除く外、一個の天人たりとも天国に於て生れたものはないのである。必ず神格の内流は終極点たる人間の肉体に来り、此処に留まつて其霊性を発達せしめ、而して後天国へ復活し、茲に初めて天国各団体を構成するに至るものである。故に人は天地経綸の司宰者と云ひ、又天地の花と云ひ、神の生宮と称ふる所以である。愚昧なる古今の宗教家や伝教者は概ね此理を弁へず、天人と云へば、元より天国に在つて特別の神の恩恵に依つて天国に生れたるものの如く考へ、又地獄にある悪鬼どもは元より地獄に発生せしものの如く考へ、其地獄の邪鬼が人間の堕落したる霊魂を制御し或は苦しむるものとのみ考へてゐたのである。之は大なる誤解であつて、数多の人間を迷はす事、実に大なりと云ふべしである。茲に於て神は時機を考へ、弥勒を世に降し、全天界の一切を其腹中に胎蔵せしめ、之を地上の万民に諭し、天国の福音を完全に詳細に示させ給ふ仁慈の御代が到来したのである。されど大神は予言者の想念中に入り給ひ、其記憶を基礎として伝へ給ふが故に、日本人の肉体に降り給ふ時は即ち日本の言葉を以て現はし給ふものである。科学的頭脳に魅せられたる現代の学者又は小賢しき人間は「神は全智全能なるべきものだ。然るに何故に各国の民に分り易く、地上到る所の言語を用ひて示し給はざるや」と云つて批判を試み、神の遣はしたる予言者の言を以て怪乱狂妄と罵り、或は無学者の言とか或は不徹底の言説とか何とかケチをつけたがる盲が多いのは、神の予言者も大に迷惑を感ずる所である。 高天原と天界は至大なる一形式を備へたる一個人である。さうして高天原に構成されたる天国の各団体は之に次げる所の大なる形式を備へたる一個人の様なものである。さうして天人は又其至小なる一個人である。人間も亦天界の模型であり、小天地である事は屡述べた所である。神は此一個人なる高天原の頭脳となつて其中に住し給ひ、万有一切を統御し給ふ故に、又地獄界も統御し給ふは自然の道理である。人間も亦其形体中に天国の小団体たる諸官能を備へ種々の機関を蔵し、而して天国地獄を包含してゐるものである。 扨て高天原の如き極めて円満具足せる形式を有するものには、各分体に全般の面影があり又全般に各分体の面影がある。其理由は高天原は一個の結社の様なものであつて、其一切の所有を衆と共に相分ち、衆は又一切の其所有を結社より受領して生涯を送る故である。かくの如く天界の天人は一切の天的事物の受領者なるによつて、彼は又一個の天界の極めて小なるものとなすのである。現界の人間と雖も、其身の中に高天原の善を摂受する限り、天人の如き受領者ともなり、一個の天界ともなり、又一個の天人ともなるのである。 治国別、竜公両人は言霊別命の案内によつて第一天国の或個所に漸く着いた。此処には得も云はれぬ荘厳を極めた宮殿が立つてゐる。これは日の大神の永久に鎮まります都率天の天国紫微宮であつて、神道家の所謂日の若宮である。智慧と証覚と愛の善と信の真に充されたる数多の天人は此宮殿の前の広庭に列をなし、言霊別一行の上り来るを歓喜の情を以て迎へて居たのである。言霊別命は遥か此方より此光景を指さし、 言霊別『治国別様、あの前に金色燦然として輝いてゐるのは、エルサレムで厶ります。さうしてあの通り巨大なる石垣を以て造り固められ、数百キユーピツトの城壁を囲らしてあるのを御覧なさいませ』 治国別『ハイ、有難う厶ります、如何したものか吾々は円満の度が欠けて居りまするために、エルサレムは何処だか、石垣は何処にあるか、城壁の高さも分りませぬ。只私の目に映ずるのは赫灼たる光と天人の姿が幽かに見ゆるばかりです。さうしてエルサレムとか仰有りましたが、それは小亜細亜の土耳古にある聖地では厶りませぬか』 言霊別『エルサレムの宮とは大神様の御教を伝ふる聖場の意味であります。又高き処の意味であつて即ち最高天界の中心を云ふのです。石垣と申すのは即ち虚偽と罪悪との襲来を防ぐ為の神真其ものであります。度と申すのは性相其ものであつて、聖言に云ふ、人とは凡ての真と善徳とを悉く具有するものの謂であります。即ち人間の内分に天界を有するものを人と云ひ、天界を有せないものを人獣と云ふのです。ここには決して人なる天人はあつても現界の如き人獣は居りませぬ。然し私が今人獣と云つたのは霊的方面から云つたのです。凡て神の坐します聖場及び其御教を伝ふる聖場を指して貴の都と云ひ、或はエルサレムの宮と云ふのです』 治国別『さう致しますと、現界に於けるウブスナ山の斎苑館を始め、黄金山、霊鷲山、綾の聖地及び天教山、地教山、万寿山其他の聖地は凡て天国であり、エルサレムの宮と云ふのですか』 言霊別『さうです、実に神格によつて円満なる団体の作られたものは凡てエルサレムとも云ひ、地上に於ては地の高天原と称ふべきものです。地上の世界は要するに高天原の移写ですから、地上にある中に高天原の団体に籍をおいておかなくては、霊相応の道理順序に背いては、死後天国の生涯を送る事は出来ませぬ。サア之より最奥天国の中心点、大神の御舎に御案内致しませう』 と先に立つて歩み出した。二人は足の裏がこそばゆい様な気分に打たれ、いと恥かし気に従ひ行く。路傍に堵列せる数多の天人は『ウオーウオー』と手を拍つて叫び、愛善の意の表示をなしてゐる。二人は言霊別命の背後に従ひ、被面布を冠りながら心落ち着き、静々と日の若宮の表門を潜り入る。 言霊別命は二人を門内に待たせ置き悠々として奥深く入り給うた。二人は門内に佇み園内に繁茂せる果樹の美しきを眺めやり、舌うちしながら頭を傾け『アーア』と驚きに打たれ吐息を洩らしてゐる。暫くすると庭園の一方より目も眩むばかりの光を放ち悠々と入り来り給ふ妙齢の天女があつた。二人は思はずハツと大地に踞み敬礼を表した。此女神は西王母と云つて伊邪那美尊の御分身、坤の金神であつた。西王母と云ふも同身異名である。女神は二人の手をとりながら言霊別命の奥殿より帰り来る間、庭園を巡覧させむと桃畑に導き給うた。二人は恐る恐る手を曳かれながら芳しき桃樹の園に導かれ行く。此処には三千株の桃の樹が行儀よく繁茂してゐる。さうして前園、中園、後園と区劃され、前園には一千株の桃樹があつて美はしき花が咲き且一方には美はしき実を結んだのも尠なくはない。此前園の桃園は花も小さく又其実も小さい。さうして三千年に一度花咲き熟して、之を食ふものは最高天国の天人の列に加へらるるものである。さうして此桃の実は余程神の御心に叶つたものでなければ与へられないものである。西王母は二人に一々此桃の実の説明をしながら中園に足を踏み入れた。ここにも亦一千株の桃の樹があり、美はしき八重の花が咲き充ち又甘さうな実がなつて居る。之は六千年に一度花咲き実り、之を食ふものは天地と共に長生し、如何なる場合にも不老不死の生命を続けると云ふ美はしき果物である。西王母は又もや詳細に桃畑の因縁を説き諭し、終つて後園に足を入れ給うた。此処にも亦一千株の桃樹が行儀よく立ち並び、大いなる花が咲き匂ひ、実も非常に大きなのが枝も折れむばかりに実つてゐる。此桃の樹は九千年に一度花咲き実り、之を食ふものは天地日月と共に生命を等しうすると云ふ重宝至極な神果である。西王母は此因縁を最も詳細に治国別に諭し給うた。然し此桃の密意については容易に発表を許されない、然しながら桃は三月三日に地上に於ては花咲き、五月五日に完全に熟するものなる事は、此物語に於て示されたる所である。之によつて此桃に如何なる御経綸のあるかは略推知し得らるるであらう。西王母は一度地上に降臨して黄錦の御衣を着し、数多のエンゼルと共に之を地上の神権者に献げ給ふ時機ある事は、現在流行する謡曲によつても略推知さるるであらう。 却説、西王母は桃園の案内を終り、二人の手を引きながら元の門口に送り来り、 西王母『治国別殿、竜公殿、之にてお別れ申す』 と云ふより早く桃園内に神姿を隠し給うた。二人は其後姿を伏し拝み、王母が説明によつて神界経綸の深遠微妙なる密意を悟り、思はず合掌して感涙に咽びつつあつた。 かかる所へ紫微宮の黄金の中門を開いて現はれ来る美はしき天女、五色の光輝に充ちた羽衣を着しながら出で来る其荘厳さ、天国の天人は何れも美はしく円満の相を具備すれども、未だ嘗て斯の如き円満なる妙相を備へたる神人を見るのは二人とも天国巡覧以来初めてであつた。 因に羽衣とは決して謡曲にある如き中空を翔ける空想的のものでない。最も美はしき袖は手より数尺長く、裾は一二丈も後に垂れてゐる神衣の事である。 扨て十二人の天女は、無言の儘二人を指し招き、前に六人、後に六人、二人を守りながら黄金の中門を潜つて迎へ入れるのであつた。此時今まで聞いた事もない様な微妙な音楽四方より起り、芳香馥郁として薫じ、二人は吾身の何処にあるやも忘るるばかり歓喜に充されながら、微の声にて天津祝詞を奏上しつつ欣々として進み入る。 (大正一二・一・一三旧一一・一一・二七北村隆光録) |
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霊界物語 | 48_亥_治国別の天国巡覧2 | 13 月照山 | 第一三章月照山〔一二六七〕 治国別、竜公両人は、十二人のエンゼルに導かれ、宮殿の奥深く進み入つた。併しこの宮殿は都率天の前殿とも前宮とも称へられ、最奥の御殿ではなかつた。最奥の御殿は大至聖所と称へられ、大神の御居間である。此居間は、如何なる徳高きエンゼルと雖も一歩も踏み入れる事は出来ない。日の若宮と称へられ、大神は高天原の太陽として御姿を現じたまふ所である。故に証覚の最も勝れたる天人のみ、遥に其お姿を八咫の鏡の如く拝するを得るのみである。神は総て円満の相にましますが故に、此処にては太陽と現はれ給ひ、其御光は自然界の太陽の幾百倍とも知れない光を放たせたまひ、容易に仰ぎ拝する事は出来ない。併し大神は諸団体の天人の前に太陽として現はれ給ふ時がある。其時は和光同塵的態度をもつて、第一天国の天人には地上に於ける太陽の七倍の光をもつて現はれたまひ、第二天国に在りては五倍の光をもつて現はれたまひ、第三天国には二倍の光をもつて現はれたまふが例のやうに承はる。これはほんの大要であつて、各団体、各天人個々の善徳の如何によりて、其光に強弱の度があるのである。又時には一個の天人となつて団体中に現はれ給ふ時もある。さうして最奥の大至聖所に於ける大神の御経綸と其御準備に至りては、如何なる証覚の勝れたる天人と雖も、明白に之を意識する事は出来ない。其故は至貴至尊にして至智至聖なる大神の御神慮は天人の思慮の及ぶ所に非ず、証覚の達せざる所なるが故である。 高天原の天界に於て一切を統合するものは即ち善徳である。此善徳の性相の程度の如何によつて天界に差別を生ずるに至るものである。さうして斯の如く諸天人を統合するは、決して天人が自作の功に非ずして善徳の源泉たる大神の御所為である。大神は総ての天人を導き、之を和合し、之を塩梅し又其善徳に住する限り之をして自由に行動せしめ給ふのである。斯くて大神は天人をして各其所に安んぜしめ、愛と信と智慧と証覚を得て其生涯を楽しましめ給ふのである。故に大神の御側へは容易に進む事は出来ない。言霊別命は奥殿深く進み給ひ、治国別、竜公は神界の都合によりて或機会により、天国巡覧修業に上り来りし由を奏上し、大神の許しを受け、茲に盛大なる酒宴を前殿に於て催さるる事となつた。先づ正面には言霊別命正座し、相並んで西王母其右に座を占め、治国別、竜公は其傍に座席を設けられた。さうして十二人のエンゼルは麗しき葡萄の酒を雲脚机に載せ、恭しく目八分に捧げて四人の前に静に之を据ゑた。次には麗しき桃の実を雲脚机に一つ一つ載せ、一つは治国別の前に、一つは竜公の前にキチンと据ゑられた。西王母は玻璃の盃を先づ言霊別命にさし、葡萄酒をなみなみとつぎ給うた。言霊別命は押頂いて之を飲み、盃洗の水に洗ひ、懐より紙を取出し、盃をよく拭き清め治国別にさした。治国別は押頂き、西王母より葡萄酒を又八分ばかり注がれ、幾度も押頂いて之を飲み、又もや盃洗に滌ぎ拭き清めて竜公に渡した。竜公は盃を押頂き、感謝の涙に暮れて居る。西王母は膝をにじり寄せ、竜公の盃に半分ばかりつがせたまうた。之にて盃は終りをつげた。一人の天女は徳利や盃を雲脚机に据ゑた儘目八分に持ち、次の間に運んだ。この葡萄酒は大神の血と肉とにもたとふべき最も貴重なる賜であつた。この酒を飲む時は心の総ての汚れを払拭し、広大なる神力を授かり、且つ永遠の生命をつなぎ得るものである。次に西王母は天女の運び来りし二個の桃を両人に与へ、速かに此場に於て食すべき事を命じ給うた。二人は命の儘に押頂き、其風味に驚喜しつつ静かに腹中に納めて仕舞つた。不思議にも種は米粒の如く小さく、いつとはなしに種もろとも咽喉を通つて仕舞つたのである。この桃実は前園に実りしものにして、三千年の齢を保つと云ふ目出度き神果である。西王母は一言も言葉を発したまはず、ニコニコとしながら二人の顔を嬉しげに眺め居たまうた。十二の天女は笛、太鼓、鼓、羯鼓、其外種々の楽器を吹奏し、面白き歌を爽かな声にて歌ひ、其中の最も若く見ゆる四人の天女は長袖淑に胡蝶の舞を舞ひ終り、一同に辞儀をなし、衣摺れの音サヤサヤと次の間に姿を隠した。さうして竜公は、玉依別と云ふ神名を賜ひ、喜び勇む事一方ならず、何事か歌を歌つて、感謝の意を表せむとしたが、天国の光に打たれ、是亦一言も発し得なかつた。 西王母がこの二人に向つて此宴席に於て一言も言葉を発したまはなかつたのは、畏れ多き大神のお側近き前殿であつたから、遠慮をせられたのである。西王母の如き尊き証覚の神さへ謹慎を表し、一言も発したまはざる位なれば、言霊別命も亦沈黙を守り、治国別、玉依別は、一言を発せむにも発し得なかつたのである。 暫くあつて以前の舞姫は、二人の麗しき婦人を先に立て此場に現はれて来た。治国別は其二人の女に何処ともなく見覚えのあるやうな感がしたので、頻りに首を傾げよく見れば、豈計らむや、先に立つた女は紫姫であつた。さうして紫姫は、玉照彦を嬉しげに懐に抱き、何事か玉照彦に向つて顔の表情をもつて囁きつつ西王母の左側に座を占めた。も一人の女をよく見れば、お玉の方であつた。お玉の方は玉照姫を懐に抱き、同じく何事か表情をもつて玉照姫に囁きながら静々と西王母が右側に座をしめた。治国別、玉依別の両人はハツと驚き思はず知らずアヽと云つたが、其後の言葉は継げなかつた。西王母は紫姫、お玉の方に目配せし給うた。紫姫はスツと立つて治国別の前に座をしめ、得も云はれぬ笑顔を作りながら玉照彦を治国別の懐に抱かせた。又お玉の方はスツと立つて玉依別の前に進みより、嬉しげに笑顔を作り、玉照姫を玉依別に抱かしめ、二人は静々と西王母の左右にかへつた。暫くすると天女二人、治国別、玉依別の前に現はれ、一人は玉照彦を、一人は玉照姫を大事さうに抱へ、奥殿の大神の御殿をさして足音を忍ばせながら静に進み入つた。言霊別命は西王母に目礼をなし、二人を手招きしながら此御殿を出でて往く。二人は同じく西王母に目礼をなし、言霊別の後に従ひ前殿を出でて往く。それより中門を潜り表門に出た。 因に此前殿に於て、玉照彦、玉照姫を抱かせたまひたるは、深き意味のおはする事ならむも、二人は其何の意たるかを解し得なかつた。併し何れは其意味の判然する時が来るであらう。読者は楽しんで発表の時機を待たれむ事を希望する次第である。 三人は表門に出た。幾千人とも知れぬ麗しき天人は、各麗しき金色の旗を神風に翻へしながら、言霊別命他二人の前途を祝する如く見えた。二人は夢ではないかと思ひながら、麗しき樹木や花卉の道の両側に茂れる金砂の敷きつめたる如き坦々たる大道を、天津祝詞を奏上しながら、数多の天人が喜びの声に送られて、何処ともなく、言霊別命と共に進み往くのであつた。 言霊別命は、とある麗しき山上に二人を伴ひ、四方の風景を眺めながら、此処に腰を下し休息をした。二人も同じく側に腰を下し、天国の荘厳に打たれて唖然たるばかりであつた。 言霊『治国別さま、玉依別さま、大変な貴方はお蔭を頂きましたなア、お祝ひ申します』 治国『何ともお礼の申し様が厶いませぬ。大神様は貴方の御身を通し、吾々如きものに斯かる尊き神庭に導きたまひ、結構な賜物まで頂きまして、何とも早や感謝の情に堪へませぬ』 玉依『私も色々と御神徳を頂いた上、神名まで賜はりまして、実に何と申してよろしいやら、吾任務の益々重大なるを悟りました。これと申すも全く大神様の御仁慈、貴神様の御取りなし、実に感謝に堪へませぬ』 言霊別『拙者は大神様の命に依りてお取次を致したばかり、感謝を受けては困ります。総て天国のものは何事も皆神様の御所為と信じて居りますれば、感謝などせられては実に困ります。貴方等に感謝の言葉を受けるのは、要するに神様の御神徳を私する事になります。何卒此後は如何なる事ありとも、私に対して感謝の言葉を云つて下さるな。是ばかりは固く願つて置きます。どうぞ神様に感謝して下さいませ』 治国『ハイ有難う厶います、キツと今後は心得ませう』 と云ひながら両手を合せ、茲に両人は紫微宮の方に向つて感謝の祝詞を奏上した。 言霊別『此処は第一天国の楽園で、聖陽山と申します。皆さま、被面布をお除りなさいませ。最早此処迄参りました以上は、お除りになつても能く分ります。貴方は前殿に於て生命の酒を与へられ、加ふるに結構な桃の実迄も与へられ給うたのですから、もはや最高天国の諸団体を御巡覧になつても目の眩むやうな事もなく、又総ての天人の言語も明瞭に分ります。私はこれにて貴方等に対する今回の使命は終りました。どうぞ自由に天国団体をお廻り遊ばし、月の大神のまします霊国の月宮殿に御参拝の上、御帰顕あらむ事を望みます、さらば』 と云ひながら、又もや大光団と化して、天の一方に其英姿を隠させたまうた。二人は其後を眺め、暫く伏し拝み居たりしが、治国別は玉依別に向ひ、 治国別『ヤア玉依別殿、実に結構な事では厶らぬか。言霊別命様は昔の神様と承はつて居たが、現在吾前に現はれて、種々と結構な教訓を垂れたまひ、又もや五三公となつて身を下し、吾等を導きたまひし其尊さ、有難さ、治国別はもはや感謝の言葉さへ出なくなりましたよ』 玉依別(竜公)『仰せの如く結構な御導きに預かり、こんな嬉しい事は復と厶いますまい。アヽ神様、この悦びと栄えをして永遠に吾等に臨ませたまへ、惟神霊幸倍坐世』 治国別『惟神霊幸倍坐世』 と手を拍ち感謝の涙に袖を霑して居た。是より二人は天国の諸団体を一々訪問し、各団体の天人より意外の優遇を受け、感謝に満ちた境涯を送りながら、是より霊国の月宮殿に詣でむと聖陽山を乗り越え、霊国の中心を目当に道々祝詞を奏上しながら進み往く。 局面忽ち一変して紫、赤、黄、白さまざまの花咲き匂ふ大野ケ原に二人は立つて居た。 玉依別(竜公)『モシ治国別さま、見渡す限り際限なき百花爛漫たる大原野、これが所謂霊国で厶いませうかなア』 治国別『サア、霊国らしう厶いますなア。誰人か天人に会つて尋ねたいものです』 と話す折しも、一人の宣伝使、霊光に四辺を輝かせながら後より足早に、オーイオーイと声かけ進み来る。二人は立ち止まり、宣伝使の吾側に近づくを待つて居た。 宣伝使(大八洲彦命)『私は大八洲彦命と申す霊国の宣伝使で厶います。貴方は治国別、玉依別のお二方では厶いませぬか』 二人はハツと大地に踞み、 治国別、玉依別『ハイ、仰せの通り、治国別、玉依別の両人で厶います。貴方は吾々が日頃慕ひまつる月照彦様の前身、大八洲彦命様で厶いましたか、存ぜぬ事とて甚い失礼を致しました。何卒不都合の段お赦しを願ひます』 と嬉し涙に暮れながら答へた。大八洲彦命は両人を従へ、スタスタと東を指して進み往くその足の早さ。二人は後れじと一生懸命にチヨコチヨコ走りになつて従いて行く。何時の間にやら小高き丘陵の上に着いて居た。大八洲彦命は二人に向ひ、 大八洲彦命『此処は霊国一の名山、月照山と申します。此山は御存じの通り実に平坦な場所で厶います。是より私と奥へお進みになれば、月の大神様の宮殿なる月宮殿と云ふ立派な御殿が厶います。サア、も一足です、急ぎませう』 と又もや急ぎ歩み出した。二人は漸くにして七宝をもつて飾られたる門の前に辿りついた。数多の麗しき天人は大八洲彦命の帰館を出で迎へ、音楽や歌をもつて歓迎の意を表するのであつた。大八洲彦命は諸天人に一々挨拶を返しながら、七つの門を潜つて邸内深く進み入る。二人は後に従ひ勢よく数多の天人に会釈しながら、月宮殿さして急ぎ往く。 大八洲彦命は二人を導き、殿内深く進み、数多の天女に命じ、珍らしき果実や酒などを饗応し、歌舞音曲を諸天人に奏せしめ、其旅情を慰めた。二人は感謝の涙に咽びつつ、大八洲彦命の命のまにまに珍らしき飲食を喫しつつ、口中に天津祝詞の奏上を怠らなかつた。奥殿より金色燦爛たる御衣を着し、麗しき容貌に得も云はれぬ笑を湛へ、此場に現はれ給うた大神は、最前紫微宮に於て、桃園の案内をされた西王母であつた。西王母の後には巨大なる月光が影の如くつき従ひ輝いて居た。大八洲彦命は恭しく頭を下げ、王母に向ひ、 大八洲彦命『お蔭によりまして、治国別、玉依別の両人は漸く天国の修業を果しました。これ全く大神様の御恵と、両人にかはり、厚く御礼申上げます』 と恭しく奏上した。二人はハツとばかり頭を下げ、畏まり居る。西王母は両人の側近く進み給ひ、左手に治国別、右手に玉依別の手を固く握り、涙を落させ給ひ、 西王母『汝等両人、能くも神命を重んじ天国霊国の巡見を全うせしよ。其熱誠は感賞するに余りあり。汝等二人は是より天の八衢に向つて帰り往け、汝が教へ子、アーク、タールの両人が、キツと迎へに来るであらう。さすれば汝等両人は元の肉体に帰り、素盞嗚尊の神業に参加し得るであらう。名残は尽きざれど、これにて訣別するであらう』 と御声までも打ち湿り、振返り振返り奥殿指して帰り給ふ。二人はハツと後姿を伏拝み、感慨無量の態であつた。大八洲彦命は両人に向ひ、 大八洲彦命『サラバ、拙者はこれにてお別れ申さむ。神業のため随分御精励あれ』 と云ひ捨て、又もや鮮麗なる光となつて、其姿を東天に隠した。これより二人は祝詞を奏上しながら、中間天国を越え、下層天国をも乗り越え、神業に参加すべく天の八衢を指して帰り往く。 (大正一二・一・一三旧一一・一一・二七加藤明子録) |
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霊界物語 | 49_子_祠の森の物語1(高姫と妖幻坊) | 05 復命 | 第五章復命〔一二七九〕 漸くにして石搗も済み、道公、晴公、伊太公、純公、其外一同は、前後百余日を費して立派なる宮を建て上げた。而して其遷宮式は節分の夜に行はるることとなつた。四方八方より信者が密集し来り、祠の森のふくらんだ広い谷も、立錐の地なき迄に信者が集まつて来て、此遷宮式に列することとなつた。沢山の供物が山の如く集まつてゐる。道公始めバラモン組のイル、イク、サール、ヨル、テル、ハルの連中も祭官の中に加はり、イソの館より下附された立派な新調の祭服を身にまとひ、神饌所に入つて、何百台とも知れぬ神饌の調理にかかつてゐる。 ヨル『オイ、今日の祭りは俺のお蔭だぞ。神様を拝むよりも先づさきに俺を拝むのだな』 とお神酒の盗み呑みに、顔を真赤にしてクダを巻いてゐる。 イル『コラ、ヨルの奴、貴様は何だ、エヽン、祭服をつけやがつて、神様にお供へもせぬ内からお神酒を戴くといふ事があるか、チツと心得ぬかい』 ヨル『コラ、イル、何を吐しやがるのだ。今夜は玉国別さまがヨルの祭だと仰有つただないか、イルの祭だないぞ。それだから俺が先づ毒味をして喉の神様に供へ、其上でヨルの神様をお祭りするのだ。ヤツパリ身魂がよいとみえて、こんな立派なお宮様にヨルの霊を祭つて頂くのだからなア、本当に偉いものだらう』 イク『併しこれ丈沢山の金銭物品を供へても、神様はお受取になるだらうかなア。却て御迷惑だらうも知れぬぞ、神様はすべて無形にましますのだから、この様な人間の食ふ有形的供物はおあがりになる筈はないだないか。その証拠にやいくら永く供へておいても果物一つ減つてゐないぢやないか、こんな沢山の物供へるよりも、代表的にお三方に二台か三台か供へておいて差支なささうだがな。丸で八百屋の店みたやうだ。エヽー、ヨル、貴様何う思ふ?』 ヨル『貴様はヤツパリまだ神の事が分らぬと見えるワイ。神様は地上に降り玉ふ時はヤツパリ人間の肉の宮を機関と遊ばすのだから、自然界の法則を基として、何事もお仕へせなくちやならぬぢやないか。信者の供物を受取り玉ふ神様は無形にましますが故に、物質的食物は不必要だと云つて、此結構な御祭典に金額物品を備へない奴は神様の愛に居らず又神の恵に浴する事も出来ない偽信者のなすべき事だ。祭典といふ事は祭る法式といふ事だ。祭るといふ事は、人を待つ事だ、所謂お客様を招待するも同じ事だ。善と真とを衡にかけ、人間の愛と神の愛とを和合する神事だ。それだから真釣りにまつるといふのだ。何程神様に供へたお供へものがへらないと云つても、肝腎要のお供物の霊は皆おあがりになつてゐるのだ。大根は大根の味、山葵は山葵の味、魚は魚の味と、各自に其味が変つてゐるのは皆神様から造られたものであつて、人間の所為でもなければ、大根山葵夫れ自身のなし得たる所でもない。同じ土地に同じ肥料をやつて作つても、唐辛を蒔けば辛くなる、水瓜を作れば甘くなる、山椒を作れば又辛くなる、そして其甘さにも辛さにも各特色がある。これ皆神徳の内流によつて出来るものだ。それだから地上の人間は神様に結構なものを与へられて、之を感謝せずには居られない。夫れ故神の御恵みを謝する為に心を尽してお供物をするのだ。此通り沢山なお供物の集まつたのも、仮令少しづつでも、これ丈の人間が各自に何なりと持つて来たのだから、塵つんで山をなしたのだ。神は人間の真心を受けさせ玉ふものだから、菜の葉一枚でも供へてくれと云つて持つて来た者は、皆お供へせなくちやすまないぞ。それが祭の祭たる所以だから、……』 テル『それでも賽銭一文持たず、菜の葉一枚お供へせずして、有難がつて喜んでゐるのもあるだないか。それは何うなるのだ』 ヨル『其奴は夢を見て喜んでる様なものだ。此ヨルさまはヨルの祭だから、供へてくれた人間は皆覚えてゐるが、空参りする奴は空霊だからお蔭はやらないよ。ヨルの守護の世の中だからなア。何なつと手形を持つて来ないとヨルの神様も信仰が分らないからな』 テル『お前の神様はヨルの神様でなうて、欲の神様だろ』 ヨル『馬鹿云ふな。神を愛し、神に従ひ、仮令菜の葉一枚でも、神様に上げたいといふ真心の人間をヨルの神様だ。即ちより分ける神様だ。選まれたる者は天国にゆくといふぢやないか。選むといふ事はヨル事だ。併しチツとは其時の都合にヨル神だから、マアなるべく酒でも何でも構はぬ、供へ玉へ運び玉へだ、アハヽヽヽ』 ハル『丸でバラモン教みたいな事を言ふぢやないか、神様に物をお供へすればお蔭がある、お供へせない奴ア神様が愛せないといふのは、チツと神としての神格に抵触するではないか』 ヨル『バラモン教だつて、三五教だつて、祭に二つはないだないか、別に神様は人間の乞食でもあるまいから、醵出したものを以て生命を保ち玉ふ様なお方ではないが、すべて愛の心が起れば、人間は神様に何なりと上げたくなるものだ。又神様は人間を愛し玉ふ時は田もやらう、畔もやらうといふお心にならせ玉ふものだ。年よりの親が息子や娘に土産を買ふて来て貰つたり、又孫が仮令少しの物でも、これをお爺さまお婆アさまに上げたいと思つて買つて来たと聞いた時は、其爺さま婆アさまは、仮令僅少なものでも、どれ丈喜ぶか知れぬだないか。せうもないものでも、息子が買ふて来てくれたものだとか、孫が遥々買ふて来てくれたとか、送つてくれたとか、会ふ人毎に話して喜ぶだろう。そして僅二三十銭の物を孫がくれると爺さま婆アさまは臍繰金の十円も出して、孫にソツとやるだないか。愛は愛と相応し、善は善と相応するものだ。それだから、祭を真釣合といふのだ。決して爺さま婆アさまは吾子や孫に、土産を買ふて来て貰はうと望まない……と同様に神様は決してお供へを望み遊ばさない。けれど其子や孫が土産をくれた時の心と、くれない時の心とは、其時の愛の情動の上に於て、非常な差等のあるものだ。それだから神の愛に触れむと思ふ者は神を愛さなくてはならぬのだ。人間として何程心を尽しても、神様に対する御恩報じは金額物品を以て、其真心を神に捧ぐるより、外に手段も方法もないだないか』 テル『それでも人間は精神を以て神の為に尽し、神を愛すれば可いのだよ。なア、イク、サール、貴様、そう思はせぬか』 サール『それも一理あるやうだが、ヤツパリ、ヨルの神様の、云ふやうに、愛の心が起つたならば、キツト中途に止まるものだない、終局点迄達するものだ。其終局点は所謂人間の実地の行ひだ。霊から始まつて体に落ち着くのが真理とすれば、ヤツパリ神様に山野河海の珍しき物や幣帛料を献納するのは所謂愛と誠の表はれだと思ふ』 ハル『成程夫れに間違ない。さうでなければ何うして玉国別さまや、五十子姫様が、こんな大層な祭を遊ばすものか』 と神饌所が賑つてゐる。そこへ伊太公、純公の二人現はれ来り、 伊太『サア、是から祓戸が初まる、お前たちも準備をしてゐなくちやならないぞ。併し大変な参詣者だないか』 ヨル『本当に立錐の余地なき迄、参拝者が集まりましたなア』 伊太『ヤア、今太鼓がなつた。サア、神饌の用意は出来たかなア』 イル『余り沢山な供へ物で、実は目をまはす許りの多忙を極めて居ります。併し大方準備が出来たやうです』 伊太『純公さま、私は之から祓戸を勤めねばなりませぬ。貴方はどうか神饌長になつて下さい』 純公『ハイ承知しました』 伊太公は『皆さま宜しく、抜目のないやうに頼みます』と云ひすて、祓戸の館を指して急いで行く。 祓戸式、神饌伝供もすみ、玉国別の遷宮祝詞の奏上も了り、それより餅撒きの行事に移つた。祓戸主の祝詞や遷宮式の祝詞は略しておく。 昼夜を分たずポンポンと搗いた小餅は五石六斗七升と称へられた。而して其大部分は五十子姫今子姫の手に固められたものであつた。神饌係のイル、イク、サール、ヨル、テル、ハルを始め、神饌長の純公は高台の上に登り、一生懸命に四方八方へ餅を撒きつけた。数多の老若男女は波打つ様に餅の落ちる方へ雪崩を打つて、人を踏み越え、つき倒しなどして、一個でも多く拾はむ事を努めた。平素は神の教を聴き、人間は人に譲り、謙らねばならぬと云ふ事を心に承知し且人にも偉相に宣伝し乍ら、かかる場合にはスツカリ獣性を遺憾なく発揮するものである。丁度犬の子がさも親密相にじやれあふたり、ねぶり合ふて遊んでゐる所へ、腐つた肉を放りこんだやうな物である。之を思へば人間は肉体を有する限り、どうしても我慢と欲には離れ得ないものと見える。一つでも此餅を戴き家に帰つて家族や近所の者に分け与へて神徳を分たむとすれば、おとなしくして、後の方へ控へて居つても、半分の餅も拾ふ事は出来ない。始めの間はさういふ態度を取つて居つた信者も沢山あつたがグヅグヅしてると、押し倒され、踏み躙られ、餅は拾ふ事が出来ないので、群集心理とやらに襲はれて、さしも謙遜にして従順なりし男も、ソロソロ鉢巻をしめ出し、手に唾をつけ、邪魔になる奴を押し倒し、そして一つでも余計に拾ふて懐に捻ぢ込まねば損だといふ気になり、一時にあばれ出したからたまらない。彼方の端にもキヤアキヤア、此方の隅にもアンアンと子供の泣く声、俄に修羅道の浅ましき場面と変じて了つた。餅撒きも漸くすみ、餅の争奪戦も休戦のラツパが鳴つた。それより各信徒は立派に建て上つた新しき宮を伏拝み、欣々として河鹿峠を下り、各家路に日を暮し乍ら、帰つて行く。あとには宣伝使や祭典係の連中と熱心なる信者が十数人残つて居た。 因に神殿は三社建てられ、中央には国治立尊、日の大神、月の大神が斎られ、左の脇には大自在天大国彦命、並に盤古大神塩長彦神を鎮祭し、右側には山口の神を始め、八百万の神々を鎮祭された。此祭典がすむと同時に玉国別の眼病は全快し、顔の少しく、形まで変つて居たのが、以前にまして益々円満の相となり、俄に神格が備はつて来た様に思はれた。茲に玉国別は直会の宴を、社務所の広間に於て開く事となつた。而してこの席に並んだ者は、此祭典に与つた役員全部と十数名の熱心な信者とであつた。玉国別は鎮祭無事終了を祝する為、神酒を頂き乍ら、歌ひ出した。 玉国別『神が表に現はれて善と悪とを立て分ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直し聞直し 身の過ちは宣り直す三五教の大御神 聖き教を四方の国開き伝ふる身を以て 少しの心の油断より天津御空の日月に 譬ふべらなる両眼を獣の為に破られて 痛さに悩み皇神が依さし玉ひし神業を いかにかなして果さむと思ひ悩める折もあれ 皇大神の御心に深き仕組のゐましてや 祠の森に止められ皇大神の御舎を 大宮柱太しりて仕へまつらせ玉ひたる 其御心は今となり初めて思ひ知られける これを思へば吾々が二つの眼を山猿に 掻きむしられし経緯は全く神の御心に 出でさせ玉ふものなりと悟るも嬉し今日の宵 今迄痛みし吾眼拭ふが如く癒えわたり 眼の霞もよく冴えて今は全く元の如 清き光を放ちけりあゝ惟神々々 神の守らす神の世は一切万事神界の 御教に服ひ奉り卑しき人の心もて 何くれとなく一々に争論うべきものならず 天地の間は一切を只神様の御心に 任せまつりて従順に吾天職を守るより 道なきものと悟りけり五十子の姫よ今子姫 最早吾身は斯くの如眼の悩み癒えぬれば 汝が命と何時迄も一つとなりて神の前 仕ふる事は叶ふまじわれは是より珍彦に これの館を守らせて神の依さしの神業に 立ち出で行かむ汝は又イソの館へ立ち帰り 今子の姫と諸共に皇大神の御前に 心を浄め身を清め朝な夕なに仕へかし 珍彦静子晴公よ汝は吾れに成り変り 祠の森の神殿に朝な夕なに仕へつつ 神の教を受けむとて参来集へる信徒を 完全に詳細に説き諭し神の御国の福音を 普く附近にかがやかし曲津身魂の往来を いよいよ茲にせきとめてイソの館に一歩も 進入させじと村肝の心を尽して守るべし 夜が明けぬれば吾々はこれの館を立出でて ハルナの都に蟠まる八岐大蛇の征服に 神の恵を浴び乍ら進みて行かむ惟神 神の守りを願ぎまつる』 と歌ひ了り、神殿に向つて合掌する。 五十子姫は長袖淑かに舞ひ乍ら、静に歌ひ出したり。 五十子姫『神素盞嗚大神の神言畏み背の君は 玉国別と名乗りまし獅子狼の吠えたける 荒野を別けて河鹿山風の悩みや山猿の 為に眼を失ひつ漸く茲に来りまし 悩みし眼を癒やす内如何なる神の御恵か 尊き神業を任けられて百日百夜を事もなく 過ごさせ玉ひ皇神の瑞の御舎仕へまし 祭も無事に相済みて神の恵も灼然に 眼の悩みなをりまし感謝の涙諸共に 今直会の宴席に列なり玉ひ珍彦や 其他の司に御社の守りの役を任けさせつ 只の一日も休まずに又もや猛き荒野原 雪踏み分けてフサの野を渡らせ玉ひ月の国 遠き都に出で玉ふ其功績は皇神の 御稜威に比べまつるべしさはさり乍ら五十子姫 漸く茲に尋ね来て夫の命の笑顔をば 拝む間もなくイソ館神の御前に帰るべく 宣らせ玉ひし言の葉は実にも雄々しき限りぞと 勇みに勇む胸の内今子の姫もさぞやさぞ 嬉しみ玉ふ事ならむ伊太公さまよ純公よ 其外百の司たち吾背の君に従ひて 一日も早く月の国ハルナの都に蟠まる 八岐大蛇や醜神を言向和し大神の 依さし玉ひし神業を完全に委曲に尽し了へ 一日も早く復命申させ玉へ惟神 神の御前に祈ぎまつる旭は照る共曇るとも 月は盈つ共虧くるとも仮令大地は沈むとも 誠の力は世を救ふ誠一つは神界の 唯一の宝生命ぞ皇大神を能く愛し 其神格を理解して神の御前に善徳を 積む傍に世の人を普く愛し導きて 神の司の本分を遂げさせ玉へ五十子姫 イソの館に勤めつつ吾背の君や汝が命 其一行の成功を身もたなしらに祈るべし いざいざさらばいざさらば勇み進んで出でませよ 妾はこれより河鹿山雪踏み分けてやうやうに イソの館に立ち帰り皇大神に此さまを 完全に委曲に奏上し百の司の真心を 洩らさず落さず大前に申し上げなむいざさらば 明日はお別れ申します何れも無事でお達者で 神の恵の幸あれや偏に祈り奉る あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ』 今子姫は又歌ふ。 今子姫『旭は照る共曇るとも月は盈つ共虧くる共 仮令大地は沈む共神の恵は永久に 変らせ玉ふ事あらじ抑も神が世の中を 造り玉ひし目的は地上に住める蒼生を 一人も残さず天国に救はむ為の御仕組 天国浄土の団体をますます浄く円満に 開かせ玉ひ神国を永遠無窮に建設し 百の神人喜びて常世の春の栄えをば 来さむ為の御経綸吾等は人と生れ来て 深甚美妙の神徳にひたり乍らも体欲に いつとはなしに晦され至粋至純の神霊を 汚しゐるこそはかなけれ皇大神は吾々の 曇れる霊を憐れみて高天原より降りまし ウブスナ山や其外の聖地を選りて神柱 立てさせ玉ひ現そ身の暗黒無明の世界をば 照らさせ玉ふ有難さ皇大神の神言もて 五十子の姫の侍女となりメソポタミヤの天恩郷 其外百の国々を経めぐり神の福音を 余り大した過ちも来さず漸く使命をへ イソの館に相召され尊き神の大前に 仕ふる身とはなりにけりハルナの都の曲津身を 征服せむと出でましし玉国別の遭難を 介抱せむと神勅を辱なみて五十子姫 みあとに従ひ来て見れば思ひ掛けなき御負傷に 一時は胸も轟きて憂へ悩みゐたりしが 神の仕組のいや深くかかる案じもあら涙 流せし事の恥かしさ百日百夜を無事に経て 茲に尊き皇神の瑞の御舎建て了り 国治立の大神や月の大神日の御神 大国彦の神様や其外百の神々を 斎きまつりて三五の教の道の御光を 照らさせ玉ふ今日の宵あくれば立春初春の 天津光をうけ乍ら玉国別は道の為 南を指して鹿島立ち妾は君と諸共に 雪踏み分けて河鹿山風に吹かれつ春の日を 頭にいただきいそいそと勇みて帰るイソ館 皇大神の御前に此有様をまつぶさに 復命する楽しさよ旭は照るとも曇る共 月は盈つとも虧くる共皇大神の御恵は 千代も八千代も永久に変らせ玉ふ事あらじ 玉国別よ百人よ勇み進んで月の国 ハルナの都は云ふも更七千余国の国々に 蟠まりたる曲神を厳の言霊打出だし 言向和し神国を此地の上に永久に 建てさせ玉へ惟神神の御前に今子姫 謹み敬ひ願ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 道公は又歌ふ。 道公『祠の森に宮柱太しく建てて永久に 鎮まりいます皇神の御前に謹み願ぎ奉る 皇大神の御道を四方に伝ふる道公は 玉国別の師の君に従ひまつり月の国 其外百の国々に威猛り狂ふ曲神を 神の力を蒙りて言向和し神国の 聖き教を世に布きて神の御前に復命 仕へ奉らむ吾心諾ひ玉ひ惟神 神の御前に道公が真心こめて願ぎまつる 五十子の姫よ今子姫汝が命はイソ館 いと安々と帰りまし皇大神の御前に 此有様を詳細に宣らせ給ひて師の君や 吾等が一行の身の上を深く守らせ玉ふべく 祈らせ玉へ道公は吾師の君に従ひて 吾身を砕き吾骨を粉にするとも厭ひなく 守り奉らむ心安く帰らせ玉へ惟神 神の御前に願ぎまつる』 と歌つて五十子姫に別れを告げた。五十子姫は忽ち神懸状態となつた。かからせ玉ふ神は国照姫命なりけり。 国照姫『皇神の神言畏み御舎を 仕へ奉りし人ぞ尊き。 玉国別神の命の悩みたる 目のはれたるも神の恵ぞ。 大神に尽す誠の顕はれて 再元の眼とぞなれる。 道公は名を道彦と改めて 玉国別に従ひて行け。 伊太公は伊太彦司と名を賜ひ 曲きたへむと月に出でませ。 純公は真純の彦と改めて 神の教を四方に伝へよ。 晴公は道晴別と名を替へて 治国別の後を追ひ行け』 玉国別『有難し、国照姫の詔 項にうけて進み行かなむ』 道彦『身も魂も曇りはてたる道公に 名を賜ひたる事の嬉しさ。 大神の恵はいつか忘るべき 心も身をも捧げ尽さむ』 伊太彦『暗の世にいたけり狂ふ曲神を 言向和さむ伊太彦司は』 道晴別『治国別神の命に従ひて 帰りて見れば道晴別となりぬ』 今子姫『国照姫、かからせ玉ふ五十子姫 汝は誠の神にいませし。 美はしき尊き神の生宮に 仕へ奉りしわれぞ嬉しき』 珍彦『皇神の瑞の御舎側近く 仕ふる吾れを守らせ玉へ』 静子『背の君は宮の司となりましぬ 守らせ玉へ国照姫の神』 楓『父は今、神の司となりましぬ 母と吾等を守らせ玉へ。 国照姫神の命の御教を 固く守りて仕へまつらむ』 国照姫『いざさらば、神の宮居も恙なく 成りたる上は天に帰らむ』 と歌ひ玉ひ、神上がり玉へば、五十子姫は元の肉体に復りける。 五十子姫『いざさらば吾背の君よ恙なく 神の仰せをとげさせ玉へ。 五十子姫イソの館にあるとても 霊は清き君が御側に』 玉国別『玉国別神の命の真心を 力となして神に仕へよ』 かく互に歌をよみかはし乍ら、大神の御前に恭しく拝礼し、前途の光明を祈り乍ら珍彦、静子、楓其外バラモン組の六人の役員や熱心な信者に後事を托し、玉国別は道晴別、真純彦、伊太彦、道彦と共に宣伝歌を歌ひ乍ら、潔く河鹿峠を、初春の日の光を浴びて下り行く。 (大正一二・一・一六旧一一・一一・三〇松村真澄録) |
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霊界物語 | 49_子_祠の森の物語1(高姫と妖幻坊) | 14 大妨言 | 第一四章大妨言〔一二八八〕 高姫の居間には高姫、お寅、魔我彦の三人が三角形に座を占め、高姫の説教を耳をかたげて聞いて居る。 高姫『魔我彦さま、お前はイソの館へ詣るのも結構だ。決してとめは致さぬが、まだお前の様な事で到底イソの館へ行つても赤恥をかく様なものだから、此高姫が此から行つても差支ないと云ふ処迄義理天上日出神の御説教を聞いて其上にしなさい』 魔我『それは有難う厶りますが、さうグヅグヅして居れませぬ。何程貴女が偉くてもヤツパリ元は元ですからな。私は祠の森へ参拝するつもりで来たのぢやありませぬ。松姫さまに許されてイソの館に直接に教を聞く事に致して来ましたから、今夜は御世話になるとしても是非明日はイソの館へ百日ばかり修業に行つて参ります』 高姫『これ魔我彦、お前チツと慢心してはゐないかな。何程松姫さまがイソの館へ行けと仰有つても神力のない者が何うして行けますかね。お前は元は高姫の弟子だつた事は誰知らぬ者はありませぬよ。お前の様に修業の足らぬ人がイソの館に行つて御覧、高姫もあんな分らぬものを弟子にして居つたかと思はれちやお前ばかりの恥ぢやありませぬぞえ。忽ちこの高姫の恥になります。それで此処で充分修業して義理天上日出神からお許しを受けたらイソの館へ行つても宜しい』 魔我『それなら、何日ばかり此処にお世話になつたら宜しいでせうかな』 高姫『さうだな、まア早くて百日、おそくて二百日だらうかいな』 魔我『さう長らく居る訳にや行きませぬ。往復の日数を加へて百日の間お暇を戴いて来たのですから、こんな所に百日も居らうものならイソ館へ詣る事が出来ぬぢやありませぬか。それでは松姫さまに嘘をついた事になりますから、兎も角明日はお寅さまと参拝して来ます』 高姫『仮令百日かからうと二百日かからうと聖地に上る丈の徳がつかねば如何して行けるものか。私もお前を大切に思へばこそ斯うして気をつけるのだよ。よう考へて御覧なさい。中有界に迷ふてゐる八衢人足の身魂が何程天国を覗かうと思つてもまばゆいばつかりで却て苦しいものだ、面曝されて逃げて帰つて来ねばなりませぬぞや。チツと此処で義理天上日出神の筆先を戴いて身魂の因縁をよく調べて詣れる資格があればお詣りなさい。何は兎もあれ身魂研きが肝腎だからな』 魔我『高姫さま、義理天上日出神は私ぢやなかつたのですか』 高姫『さうぢや、暫くお前に表向き、さう云はしてあつたのだが、何時迄も世は持ちきりには致させませぬぞや。誠の日出神は此高姫ですよ。ヘン……済みませぬな』 魔我『身魂の因縁だとか、義理天上だとか、日出神だとか、私はもうこりこりしました。小北山で松彦さまが見えて、何もかもサツパリ化けが露はれて了つただもの、義理天上日出神と云つてるのは金毛九尾の家来の大きな黒狐ですよ。お前もヤツパリ其黒狐を喜んで奉つてゐるのですか』 高姫『これ魔我、そりや何と云ふ大それた事を云ふのだい。勿体なくも日出神様を狐だ等と馬鹿にしなさるな。お前の腹の中に曲津が棲んでゐるのだらう。それがそんな事見せたのだ。それでマガ彦と神様が名をおつけ遊ばしたのだよ。左様の事申すなら何と云つてもイソの館へはやりませぬぞや』 魔我『お寅さま、如何しませうかな。高姫さまがあんな事云ひますがなア』 お寅『高姫さまが何と仰有つても私は治国別様から手紙を戴いて来たのだから非が邪でもイソ館へ参り八島主様に此手紙を手渡しし嫌でも応でも立派な宣伝使となつて帰らねばなりませぬ。お前は此処に修行に来たのではない。此お寅の付添だから如何しても来て貰はねばなりませぬ。高姫さま、私が魔我彦を連れて行きますから又御世話になります。今度は如何しても連れて行かねばなりませぬ』 高姫『これお寅さまとやら、お前さまは治国別とやらに添書を貰つてイソの館へおいでるのかい。そりや措いたが宜しからうぞや。云ふとすまぬがお前はまだそれ丈けの資格が備はつて居らぬ。治国別なんて偉相に云つてるが、彼奴は元はウラル教の亀公ぢやないか。そんな奴が手紙を書いた処が……ヘン何、八島主様がお受取り遊ばすものか。悪い事は決して申しませぬ、此日出神の申す様になさつたが宜しからうぞや』 お寅『治国別様は立派な宣伝使ぢや厶りませぬか。さうして第一天国迄お調べになつた結構なお方ですよ。其お方から手紙を下さつたのだから八島主様がお受取りなさらぬ道理がありますか。私は何と仰有つても参ります』 高姫『ヘン、偉相に、亀の野郎、第一天国に行つて来た等と、そんな事が如何してあるものか。彼奴は醜の岩窟の井戸に這入つてドン亀の様に苦しんでゐた男だ。そして自転倒島に渡り英子姫、悦子姫等の女達の家来になつた男ですよ。お寅さま、そんな男の手紙を貰つて何になりますか。それよりも義理天上日出神様の教を受けて其上でイソの館へおいでなさい。さうしたら屹度八島主が面会してくれるでせう』 お寅『はい、御親切は有難う厶りますが何と仰有つて下さつても、私は思ひ立つたのだから参ります。そして貴女様の弟子ぢやあ厶いませぬ。治国別の直々のお弟子になつたので厶ります。おとめ下さるのは嬉しう厶りますが、仮令イソの館で赤恥をかいても是非行つて参ります。いかいお世話になりました。さア魔我彦、行きませうぞや』 魔我『高姫さま、折角御親切に仰有つて下さいましたけど、今度はお寅さまの付添ですから是非参つて来ます』 高姫『何と云つてもやらさぬと云つたら、やらしやせぬぞや。此祠の森にお宮さまを建てて高姫に番をさして厶るのは何とお考へで厶る。大神様が高姫の御神力を御信認遊ばし、お前は一方口の祠の森に居つてよく身魂を調べ、よく研けぬ者は一年でも聖地へよこすでないぞよ。汚れた者が聖地に参つたら天変地異が勃発し聖地が汚れるから、よく調べよと大神様の御言葉、それで遥々此処迄参つて身魂調べをしてをるのだ。何程お寅さまが治国別の手紙を持つて行つても此関所の認めがなくては、駄目ですよ。お前一人の為めに三千世界の大難儀になつたら如何しますか。よい年をして居つてチツとは考へてもよさそうなものぢやありませぬかい。魔我彦だつてそれ位の道理は分つてゐさうなものぢやないか。之が分らぬ様な低脳児なら、体よう目なつと噛んで死んだがよいぞや。もう高姫も、如何しても云ふ事聞かぬなら魔我彦と師弟の縁をきるが如何だい』 魔我『お前さまに、師弟の縁をきられたつてチツとも痛痒は感じませぬ。私は松彦さまの弟子にして貰つたのだから忠臣二君に仕へずと云つてお前さまにお世話にならうとは思ひませぬ。何卒放つといて下さい』 高姫『エーエ、相変らずの没分暁漢だな。お前もここ迄になつたのは誰のお蔭だと思つてるのだい。皆この高姫のウラナイ教で鍛へ上げられたのぢやないか。諺にも師の影は三尺隔てて踏まずと云ふぢやないか。たとへ一年でも教をうけたら師匠に違ひない。師匠の恩を忘れるのは畜生同然だぞえ』 魔我『畜生と云はれてもチツとも構ひませぬわ。貴方だつて偉相に義理天上日出神とすまし込んで厶るが、ヤツパリ守護神は劫経た黒狐ぢやありませぬか。何程偉相に云つても小北山の御神殿でチヤンと審神がしてあるから……お気の毒さまだ……そんな事仰有るとお前の守護神はこれこれだと今ここでスツパぬきませうか』 高姫『エーエ分らぬ男だな。どうなつと勝手にしたがよい。あとで吠面かはかぬ様にしたがよいわ。後になつて高姫の云ふ事を聞いておいたらよかつたのに……と云つてヂリヂリ舞ひしても後の後悔間に合はぬぞや。神が気をつける間に気づかぬと何事があるや知らぬぞよ。何事も神に不足申して下さるな。大橋越えてまだ先へ行衛分らぬ後戻り、慢心すると其通りと変性男子のお筆に出てゐませうがな。此祠の森は世界の大門とも大橋とも云ふべき処だ。大門開きも出来ぬ身魂を以て十里四方の宮の内、イソの館へ行かうとは……オホヽヽヽヽ向ふ見ずにも程がある。盲蛇に怖ずとは、よくも云つたものだ。魔我彦さま、之でも行くなら行つて見よれ。目まひが来るぞや。神罰が当つて大地に蛙をぶつつけた様にフン伸びん様にしなさいや。是丈け高姫が気をつけるのに、如何しても意地の悪い東助の居る……ウヽヽウンとドツコイ……意地の悪い、……どうしても行くのかい。後は知りませぬぞや。アーア高姫さまが親切に仰有つて下さつたのに、あの時、我を張らなけれや、こんな事はなかつたらうにと豆の様な涙を零して嘆いても後の祭、波に取られた沖の舟、とりつく島が無くなつてから、「高姫さま、何卒助けて下さい」と縋りて来ても義理天上日の出神は聞き済みはありませぬぞや。行くなら行くでよいからトツクリと心に相談をして、うせるがよからう、エツヘヽヽヽヽ』 魔我彦『何とマア相変らず達者な口ですこと。そんな事云はれると何だか幸先を折られた様で、気分が悪くなつて来た。なアお寅さま、どうしませう』 お寅『御勝手になさいませ。此お寅は一旦云ひかけたら後へは引かぬ女丈夫だ。初めから一人詣る積りだつたが、お前がお伴さして呉れえと云つたから、連れて来たのだよ。高姫さまの舌にちよろまかされてお神徳を落さうと勝手になさいませ。私は何と云つても行くと云つたら行きますぞや。女の一心岩でも突き貫くと云つて、つき貫いて見せてやりますぞや』 高姫『これお寅さま、決して高姫は悪い事は申しませぬ。何卒マアお腹が立ちませうが、トツクリと胸に手をあてて考へて御覧なさいませ。祠の森の許しがなくちや折角遥々遠方へ行つても、恥をかかねばならぬから私が親切に忠告するのですよ』 お寅『何と云つて下さつても私は参ります。治国別様から祠の森の高姫さまに許しを得て行けとは聞いて居りませぬ。もしもイソの館へ行つて高姫さまの許しがないから受付けぬと云はれたら、帰つて来ます。其時は又宜しうお願ひします』 高姫『神の申す時に聞かねば神は後になりてから、何程ジタバタ致してもお詫申しても、そんな事、取上げて居りたらきりがないからあかぬぞよ……とお筆に出て居りますぞや。高姫の承諾なしに行くなら行つて御覧、夜食に外れた梟鳥、アフンと致して六つかしいお顔をなさるのが日の出神は気の毒なから気をつけますのだ。ヘン、どうなつとお前さまの御神徳は……えらいものだからなさいませ。此日の出神は帳を切りますぞや。帳を切られたら何程地団太踏んでも助かりませぬぞや』 お寅『お前さまに帳を切られたつて、私は大神様から帳を切られなければ一寸も構ひませぬワ』 高姫『何処迄も分らぬ人だな。アーア一人の人民を改心させようと思へば神も骨が折れる事だわい。大国常立尊の片腕とおなり遊ばす日の出神の云ふ事を聞かずに如何して思惑が立ちませうぞ。阿呆につける薬がないとはよく云つたものだ。縁なき衆生は度し難しかな。本当に度し難い代物ばつかりだ』 お寅はムツとして高姫をグツと睨みつけ少しく声を尖らして、 お寅『これ高姫さま、度し難き人物だとは何と云ふ口巾の平たい事を仰有る、此お寅は斯う見えても若い時から浮木の里の女侠客丑寅婆と云ふ女ですよ。鬼でも取挫ぐ婆だ。それが大神様の御意に叶ふて今や宣伝使の修行に参る途中、お前は私の修業の妨害を致す考へだな、お前は義理天上日の出神と云つて居られるが、日の出神がそんな訳の分らぬ事を仰有いますか。何程お前が偉くともイソの館の八島主さまには叶ひますまい。私は仮令神罰が当つても貴方の様な無理云ふ方には教は受けませぬ。放つといて下さい。さア魔我ヤン、行きませう、こんな気違じみた方に構ふて居つちや堪りませぬわ』 高姫『これお寅さま、強つてお止めはしませぬが、神様は順序ですよ。順序を乱したら誠の道が潰れますから、それを御承知ならおいでなさい。何事も順序と手続きが必要で厶りますから……』 お寅『ハイ、御親切に有難う厶ります。私は治国別様に手続きをして頂き順序を踏んでイソの館へ参るのです。お前さまはイソの館から命令を受けて来たのぢやありますまいがな。珍彦様が此処の神司となつて治めなさらなならぬ処だのに、お前さまから順序を破つて勝手に義理天上日の出神だと仰有つて此新しいお館を占領して厶るのだらう。今私の耳許に守護神が囁きましたよ。お前さまは此お寅がイソの館へ参ると化けが露はれるものだから、何とか云つてお止めなさるのだらうが、私も苦労人だから、人の悪い事は申しませぬから御安心なさいませ。守護神の囁く処を聞くと、お前さまは大山子を張つてイソの館に参る宣伝使や信者を皆お前さまのものにする考へだ。云はば天の賊も同様だ。チツと改心なされ。悪は長く続きませぬぞや。さあさあ魔我ヤン、こんな処に長く居つても駄目ですよ。さあさあ早く行きませう』 高姫『こんな処とは、……何と云ふ事を云ひなさる。勿体なくも国治立の大神様、日の大神様、月の大神様、大自在天大国彦命様其外御神力のある尊い神様の祀つてある此聖場をこんな処とは……何を云ひなさる。滅多に許しませぬぞや』 お寅『高姫さま、私は此森の神様を決して悪くは申しませぬ。こんな処と云つたのは貴方の様な没分暁漢の厶る居間をさして云つたのですよ。エーエ耳が汚れる、さあ魔我彦さま、行かう行かう』 と早くも立つて表へ走り行く。高姫はイソの館へ行かれちや大変だと気を苛ち『ヨル……ハル……テル』と呼ばはつてゐる。ヨル、ハル、テルの三人は『ハイ』と答へて此処に集まり来り、 ヨル『高姫様、イヤ日の出神様、お呼びになつたのは何の御用で厶りますか』 高姫『お前達、何をグヅグヅしてゐるのだい。あの二人の連中をトツ掴まへて来なさい』 ヨル『何ぞあの人は悪い事を致しましたかな。別に罪のない者をトツ掴まへる必要はないぢやありませぬか。イソの館へ参らうと仰有るのを止めると云ふ事がありますか。お一人でも本山へお詣りする様にお奨めするのが道でせう。それにお前さまは何とか、かんとか云つて参らせぬ様にするのが不思議ですな。私だつて一度詣りたいと云へば何とか、かとか云つて、お止めになる。どうも貴方の仰有る事は腑におちませぬわい』 高姫『勝手にしなさい。もう此処には居つて貰へませぬ。さあトツトと去んで下さい。日の出神の云ふ事に一々反対する人は受付に居ても邪魔になるからな』 ヨル『大きに憚り様、私は玉国別様と五十子姫様とのお許しを受けて此処の受付をしてゐるのですよ。決して貴方から任命されたのぢやありませぬ。此処の館は珍彦さまの御監督、お前さまのグヅグヅ云ふ処ではありませぬ。そんな事云ふとお寅さまと魔我彦さまに随いてイソの館の八島主さまの処へ行つて一伍一什を報告しますよ。おいテル、ハル、イク、サール、お前達気をつけて珍彦御夫婦さまや楓姫さまをよく気をつけてお宮さまを注意して下さい。私は是から一足本山に行つて来ますから……』 と出て行かうとするを、高姫は飛びかかつて首筋をグツと捕らへ、 高姫『こりやヨル、日の出神の許しもなく何処へ出て行くのだ』 ヨル『ヘー、放つといて下さい。お尋ね迄もなくイソの館へ注進に参りますわ。さアお寅さま、魔我彦さま、参りませう』 高姫は仁王立ちになり真赤な顔を膨らして、握り拳で乳の辺りを、反身になつて交る交る打ち乍ら、ヤツコスが六方を踏む様なスタイルで玄関に立ちはだかり、ドンドン云はせ乍ら、 高姫『ヤアヤアヤア三人の四足共、日の出神の命令を聞かずに行くなら、サア行つて見よ。あとで吠面かはくなよ。気もない中から義理天上日の出神が噛んでくくめる様に気をつけておくぞや』 お寅、魔我彦、ヨルは少しも頓着なく尻に帆かけて急坂を上り行く。 (大正一二・一・一八旧一一・一二・二北村隆光録) |
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霊界物語 | 49_子_祠の森の物語1(高姫と妖幻坊) | 16 魔法使 | 第一六章魔法使〔一二九〇〕 高姫はお寅、魔我彦、ヨルの三人が数千言を尽しての、高姫の勧告を一蹴して、強行的に出立したので、コリヤ大変だと、心も心ならず、吾れと吾手に胸をかきむしり乍ら、 高姫『エーエ、義理天上さまも、何をして厶る、こんな時にこそ、なぜ不動の金縛りをかけてとめて下さらぬのだい。コレコレ、イル、イク、サール、ハル、テル、何をしてゐるのだ、なぜ早く後を追つかけて行かぬのかいな。エーエもどかしい、荒男が五人も居つて、これ程気の揉めるのに、なぜ捉まへて来ぬのだい。日出神の命令を聞きなさらぬか』 イル『高姫さま、それより義理天上さまに直接にお聞になつたら何うです、貴女は何時も三千世界を自由に致すと仰有つたぢやありませぬか。それ丈神力のある義理天上の生宮が、引戻せぬといふ事がありますか、かふいふ時にこそ貴女の御神力を見せて頂かねば、吾々は心の底から心服するこた出来ませぬワ』 高姫『コレ、イルや、お前は何といふ分らぬ事をいふのだい。日出神様といへば天の大神様だ、大取締りをして厶るのだよ。つまりいへば総理大臣のやうなものだ、人間を捉へに行くのはポリスの役だぞえ、大臣の位地に在る神様がポリスの役をなさるといふやうな、そんな、道に外れた事がどこにあるものか。それだからお前等五人が、ポリスやスパイになつて、掴まへて来いといふのだよ』 イル『貴女の神様が総理大臣ならば、吾々は知事位なものです。知事がスパイやポリスの役は出来ませぬからな』 高姫『エーエ、気の利かぬ男だな。神様は変幻出没自由自在なるべきものだ。大にしては宇宙一切を統轄し、小にしては微塵の内にも隠れ玉ふが神様の働きだよ。そんな事が出来ぬやうな事で、何うして祠の森の御用が出来ますか』 イル『それ程大神様は大小いろいろに変幻出没なさるのなら、ポリスやスパイになつて掴まへに行つたつて可いぢやありませぬか』 高姫『それは日出神の生宮、一人の時の働きだよ。かうして五人も荒男があるのに、私許りに苦労をかけようといふ、お前は不了見な人だ。そんな事で神さまの道と云へますか。何もかも日出神が一人でするならば、お前達の様な分らずやを五人も置いとく筈がないぢやないか』 イク『コレ高姫さま、お前達のやうな分らずやをおいとくと仰有つたが、ヘン、すみませぬが、私はお前さまに命令を受けてるのぢやありませぬぞや。お前さまこそ勝手に居候に来たのぢやないか、それ程ゴテゴテ云ふのなら帰んで貰ひませう』 高姫はクワツと怒り、目をつり上げて、矢庭にイクの胸倉をグツと取り、 高姫『コリヤ、イク、女と思ひ侮つての雑言無礼、用捨は致さぬぞや。勿体なくも義理天上日出神の生宮、三五教の立派な立派な宣伝使、生田の森の神司、琉の玉の守護神、夫れさへあるに、三五教の三羽烏、イソ館の総務時置師の神杢助が妻、マ一度無礼な事を言ふなら、言つてみやれ、腮も何も捻ぢ切つて了ふぞや』 と力に任せて、頬をグツとねぢる。イクは、 イク『アイタヽヽヽ、カヽ堪忍々々』 高姫『余り貴様は頬桁がいいから、此頬桁も下駄の歯も一本もない所迄抜いてやるのだ』 と益々抓る。サールは見るに見かねて、高姫の後から、両足をグツと攫へた、拍子に高姫は筋斗うつて玄関へ飛出し、饅頭迄天覧に供して、慌ただしく起上り、 高姫『サ、イクを此処へ出せ、高姫の足をさらへた奴は何奴ぢや』 と金切声を出して喚き立てる。そこへ飛んで来たのは杢助であつた。 高姫『ヤ、お前はこちの人、女房がこんな目に会ふてるのに、何して厶つたのだえ』 杢助『つい、そこら中を散歩してをつたのだ。何だか義理天上さまの声カ……ギ……リ天上の喚声が聞えたので、スワ一大事と、慌てて来て見れば、何の事はない、斯様な男を掴まへての、ホテテンゴ、イヤハヤ呆れて物が言はれぬ哩、ワツハヽヽヽヽ』 高姫『コレ、こちの人、女房がこんな目に会ふてゐるのに、お前は何ともないのかえ』 杢助『イヤ、何ともない事はない。併し乍ら元を糺せばお前が悪いのだ、イクの頬辺を女だてら、一生懸命に抓つただないか。そんな事をするに仍つて、自然の成行として、サールが足をさらへたのだ。実の所は椿の木の下から様子を見て居つた。これは公平な判断から見れば、どちらが悪いとも言へぬ。高姫、お前もチツと上気してゐるから、気の落着く迄、杢助と一所に奥へ行つて、酒でも呑んだら何うだい』 高姫『お前は一体何処へ行つてゐらしたの。お寅といふ婆アや、魔我彦、それに受付のヨル迄が、義理天上の言葉に反対して、無理無体にイソの館へ参拝しよつたのですよ。お前さまが居つてさへくれたら、食ひ止めるのだつたに、あゝあ残念な事をしたわいな。お前さまと私と此処に腰を卸し、イソの館へ行く奴を一人も残らず食止めて、本山をアフンとさしてやらうと思つてゐたのに、困つた事をしたものだ。五人も荒男が居つても、酒を食ふのと理窟を垂れるのが芸当で、チツとも間しやくに合やせぬワ。あゝあ人を使へば苦を使ふとは能う言ふたものだ。私は何程奥へ行つて一杯やらうと仰有つても気が気ぢやありませぬ哩ナ、コリヤ、イク、イル、サール、お前は今日限り、誰が何と云つても、放逐する、サ、何処なつと行かつしやれ。其代り、ハルを受付にして、テルを内事の取締に任命します』 ハル『エツヘヽヽヽ、これはこれは実に有難う厶ります。いつ迄もヨルが頑張つて居ると、拙者の登竜門を閉塞してゐるやうなものだ、あゝ人の禍は自分の幸ひ、有難くお受け致します。オイ、テル、貴様もイルが失敗つたお蔭で、内事の司になつたのだ。早く御礼申さぬかえ』 テル『これはこれは高姫様、特別の御恩命を蒙りまして、有難う存じます。サ、どうぞ、シツポりと奥へ這入つて、エヘヽヽヽ、一杯あがつて御機嫌を直して下さい。ハル、テル両人扣へある以上は大丈夫で厶います』 高姫『コレ、ハル、テルや、お前はバラモン教でも随分羽振を利かして居つた男と言ふぢやないか。お前には何か見所があると思ふて居つたのだ。どうだい一つ出世をさして貰つた恩返しに、三人の奴を引戻して来て下さるまいかな。まだ十丁許りより行つて居らうまいから、チツと許り急いだら追着けない事もなからうから、……』 ハル『実の所はバラモン教にて習ひ覚えた、引掛戻しの法が厶います。此ハル、テル両人が重い役に御任命下さつた御恩返しとして、今三人を引戻して見せます。これから暫く大自在天様にお祈りをかけねばなりませぬから、引戻す術が整ひましたら、お知らせ致します。どうぞ夫れ迄奥へ行つて御休息下さいませ。仮令一日が二日、十里向ふへ行つてゐましても、引掛戻の法に仍つて、三人共此処へ引寄せて御覧に入れます。それは御安心下さいませ、確にやつて見せますから……』 高姫はニコニコし乍ら、 高姫『オツホヽヽヽ、お前はどこともなしに気の利いた男だと思つて居つた。神様がチヤンと、それ相応のお役をあてがうて下さるのだ。これだから義理天上様の御神力は偉いといふのだ。コリヤ、イク、イル、サール、何をグヅグヅしてゐるのだい。アタ汚らはしい。トツトと帰んで下さい』 イル『それ程喧しう仰有るのなら帰にますワ。又元のバラモン教へ這入つて大活動をなし、今に祠の森を占領して、アフンとさして上げるから楽んで待つてゐるがいいワ。オイ、イク、サール、ゲンタクソの悪いサア帰なうぢやないか。序にハルとテルのドタマをかち割つて帰らうかい』 ハル『コリヤコリヤ俺の引掛戻しの法を知つてるかい。指一本でもさへやうものなら、忽ちふん伸ばして了ふぞ』 イル『ヤ、恐れ入つた。バラモン教の中でも魔術使の名人だと言ふ事は、予て聞いてゐた。ヤ、もうお前には降参だ。そんなら三人はこれから帰ります』 ハル『ゴテゴテ吐さずに直に帰つたがよからう。四の五の吐すと為にならないぞ』 イル『エツ、仕方がないなア、イク、サール、そんなら浮木の森へ逆転せうかい』 高姫『オホヽヽヽ、小気味のよい事だわい。イヒヽヽヽ』 と腮をしやくり、貧乏町の家並のやうな、脱けさがした歯をむき出し、袖の羽ばたきし乍ら杢助の居間を指して、欣々と進み入る。 イルはハル、テル両人の前にヌツと首をつき出し、耳に口よせ、 イル『オイ両人、甘くやつたねえ。サ、これから蓑笠を出してくれんかい。丁度、お寅に魔我彦、ヨルの、俺達三人がなつて此処を通るから、其時高姫に見せてやるのだなア、ウツフヽヽヽ』 ハル『大きな声で笑ふない。サヽ、早う早う、受付の溜りに蓑笠が沢山あるから、女のなつと男のなつと、一着づつ持つて、俺が合図するから、ドーン、と太鼓が鳴つたら五分許りしてから、此坂を下つて来るのだ。それ迄あの谷の曲りで、酒でも呑んで待つとつてくれ』 と忽ち協議一決し、イク、イル、サールの三人は旅装束をなし、僅に一丁許りの上手の山の裾の曲角に姿を隠し、酒をグイグイ呑み乍ら太鼓の鳴るのを待つてゐた。 ハルは三人に用意を命じおき、テルに受付を構はせ乍ら、高姫の居間へ足音高く進んで行つた。受付は沢山の参拝者で、中々雑踏してゐる。テルは今日は神界の都合だと云つて、全部の参拝者を八尋殿に籠るべく命令した。ハルはソツと襖を押あけ、 ハル『エヘヽヽヽ、これはこれは高姫様、お二人、お楽みの所を、御面倒致しました。殆ど準備が整ひましたから、一寸来て下さいませ』 高姫『準備が整つたら、夫れで可いぢやないか』 ハル『貴女に一つ、引掛戻しの芸当を、実地目撃して頂きたいのですから……其代り少し眷族に酒を呑まさななりませんから其積りで居つて下さいや、何と云つてもバラモン教切つての魔法使ですから、……一度私の隠し芸を御覧に入れますから……』 高姫『杢助さま、貴方も御覧になつたら何うですか』 杢助『アハヽヽヽ、それ位なこた、此杢助だつて何でもないワ。併し乍ら少し許り骨が折れるから、ハル、テルにやらしておくがよからう。俺もお前にいぢめられたので眠たいなり、チツと許り、腰が変だから、……アツハヽヽヽ』 高姫『コレ杢助さま、みつともない。ハルが聞いてるぢやありませぬか』 杢助『最早ハルが来てるのだから、鶯も鳴くだらう。お前の声も鼠のやうにもあり、鶯のやうにもあるからな、アハヽヽヽ』 高姫『エー、千騎一騎の場合に、気楽な男だな……女房の心も知らずに……』 と呟き乍らハル公の後に従ひ、受付迄やつて来た。 テル『これはこれは日出神様、今スパイが一つ魔法を使つてお目にかけます。それに付いては沢山の眷族を使つて、三人の奴を引戻して来ねばなりませぬ。沢山の魔神を使ふには、何うしても酒を呑ましてやらねば可けませぬから、ドツサリ酒を此処へ出して下さい』 高姫『勝手にお出しなさい。御馳走が要るなら、まだ夜前の杢助様のお祝のが残つてゐるから、それを取つて来て、肴にして眷族共に呑まして下さい』 『ヤ有難い』といひ乍ら、ハル、テルは酒肴を中におき、向ひ合ひになつて、グイグイと呑み出した、喉の中から妙な声が出て来る、丁度笛を吹くやうに聞えて来た。ハルは尖つた口を前へつき出し、 ハル(腹の中)『おれは大雲山の狼だ、一杯呑ましてくれ』 と作り声し、又今度は真面目な声で、 ハル『ウン、ヨシヨシ、ハル公の肉体へ這入つて来よつたかな、サ、一杯呑め』 と自分の口へ自分がついで、グーツと呑んだ。腹の中から、 ハル(腹の中)『ウマイウマイ、俺は大雲山の狐だ、俺にも一杯呑ましてくれ』 ハル『ウン、よしよし、貴様も一杯呑んで、お寅婆や外二人を喰へて来るのだぞ』 腹の中『ハイ、承知致しました、酒許りでははづみませぬ、肴も一口入れて下さいな』 ハル『ウン、よしよし尤もだ、遠慮はいらぬ、御苦労にならねばならぬのだから、ドツサリ食つたがよからう』 テルは又作り声、喉から声の出るやうな振をして、 テル(腹の中)『高姫さま、私は北山村に居つた古狐で厶います、お久しうお目にかかりませぬ、今日は御恩報じに、お寅、魔我彦、ヨルの三人を喰へてイソの館へ行かないやうに致します、どうぞ一杯よんで下さいな』 高姫『御苦労様だ、ドツサリ呑んで働いて下さいや、千騎一騎の場合だからな。お前さまも首尾よく御用が勤まつたら、又ヘグレ神社を建てて祀つて上げるぞや』 テル公の腹の中から、 テル(腹の中)『ハイ有難う厶んす、早く一杯呑まして頂戴ね、序に甘い肴もねえ』 テル『ヨシヨシ、貴様も仕合せ者だ、俺の肉体へ宿をかりよつて、……充分活動するんだぞ、サ一杯呑ましてやらう』 と又自分が注いでグツと呑み、鯛の刺身をムシヤムシヤと頬張り、 テル『あゝあ、何ぼ口を使はれても、皆副守先生が食ふのだから、口のだるいこつちや、甘くも何ともありやせぬワ』 テルの腹の中から『それでも喉三寸越える間は、チツとは甘からうがな』 テル『コリヤ、守護人、偉相に云ふな、喉通る間位甘かつたつて、たまるかい。チツと静にせぬかい、腹の中で騒ぎやがつて……』 テルの腹の中より『臍下丹田で吾々の同志が集まつて、散財をして居るのだ、モツとドツサリ注入してくれないと、根つからお座が持てぬワイ』 テル『高姫さま、困つたものですな、何うしませう』 高姫『コレ、テル、余り酔はすと、又間に合はぬやうになつちや可けないから天晴御用がすんでから呑ますからと云つて下さいな。御用さへすんだらば何ぼなつと呑まして上げるから……と』 テル『コリヤ腹の中の連中、御用がすんだら幾らでも呑ましてやるから、今それ位で辛抱したら何うだ』 テルの腹の中から『それだと云つて、まだ一杯づつも渡つてゐないぢやないか、せめて、盃についだのは邪魔臭いから、徳利グチ、一升許り注入してくれ』 テル『エ……チエツ厄介な奴だな、嫌でもない酒を呑ましやがつて……チエツ、コラ守護神、御苦労と申せ』 と云ひ乍ら、徳利の口からラツパ呑みを始めた。ハル公も肴を二膳かたしでつかみては頬張り頬張り、又一升徳利の口からテル公同様にガブガブと呑みほした。 ハルは額をピシヤツと叩き、 ハル『ゲーエー、あゝ酔ふた酔ふた、オイ、テル、貴様も随分もう酔ふただらう、否貴様の眷族も酔ふただらう、何だか俺の守護神も腹の中でクダまいてけつかるワイ、……コリヤ高姫、昨夜は何うだい、……コレ高姫さま、あんな事いひますワ、仕方のないヤンチヤがをりますわい、併し乍らかういふヤンチヤでないと、お寅婆引戻しの芸当は出来ませぬからな』 高姫『サ早くお寅外三人を引戻して見せて下さい』 ハルは何だか口の中で文言を称へ、座太鼓をポンポンポンと打つた。さうするとお寅婆に扮したイルが、首をプリンプリン振り、怪しい腰付をし乍ら、何物にか引張られる様な素振をして、受付の前を横切り、坂の下へトツトツトツと去て了つた。 ハル『サア、何うでげす、高姫さま、引掛戻しの魔法はズイ分エライものでげせうがな。お寅の奴、眷族に袖をくわへられて、折角河鹿峠を半分程上つたら、たうとう引ぱりよせられよつた、何うだす、エーエ』 高姫『いかにもアリヤお寅に違ひない、偉いものだな。併しお寅丈ではつまらぬぢやないかい、ヨルと魔我彦が戻つて来なくちや、一人でも向方へやつたら大変だから……』 ハル『エー、今度はテルの番です、オイ、テル公、魔我彦を引張り出すのだよ』 テルは『ウーン、ヨシツ』と云ひ乍ら、鞭を取り、座太鼓をポンポンポンと三つ打つた。魔我彦に似た蓑笠を被つた男、金剛杖をつき、以前の如く、首や身体を前後左右に振り乍ら、又前を通り過ぎた。 テル『高姫さま、何うです、妙でせうがなア』 高姫『成程、ヤツパリ神様は水も洩らさぬ仕組をして厶るワイ、日出神様の筆先にチヤンと出てますぞよ、キチリキチリと箱さしたやうにゆくぞよと現はれてるのは此事だな。何を云つても日出神さまは偉いわい、夫れ相当の守護神をお使ひ遊ばすのだから……時にテルや、ヨルの奴、まだ後へ帰つて来ぬぢやないか』 テル『其奴ア、ハルが今やる番になつて居ります、守護神もかつために休ましてやらんなりませぬからな』 高姫『成程、サ、ハルや、頼んますぞや』 ハルは『エヘン』と咳払し乍ら、太鼓の鞭をグツと握り、座太鼓の面を仔細ありげに暫く睨みつめ、空中を鞭で七八へんもかくやうな真似をして、鞭の先を高姫の口へ一寸当てた。 高姫『コレコレ、ハルや、何をテンゴーして厶る、早く引掛戻しをなさらぬかいな』 ハル『高姫さま、之が三べん、蛇の子と申しまして、業の終局ですから一寸六かしいのですよ、之が甘く行けばヨルが後へ戻つて来ます。此奴を失敗つたら大変ですから……日出神様が、要するに、吾々をお使ひなさつてるのです。鞭に仕掛がしてあるのですから、日出神様のお口へ一寸持つて行きまして、此次は一寸お鼻へさわるかも知れませぬ……』 高姫『ヤ、業の作法とあれば、何うも仕方ありませぬ、どうなりと御好きなやうにして下さい』 ハルは鞭を前後左右に、静に振り、 ハル『東方日出神様、西方夕日の大神様、南方星の大神様、北方月の大神様、北極明星、北斗七星大菩薩守り玉へ幸へ玉へ』 と鞭を、益々急速度に働かせ、自分の股倉へつつ込み、高姫の鼻へピタリと当てた。高姫は之れがバラモン教の魔法使の法だ、臭くても辛抱せなくてはヨルが帰つて来ないと思ひつめ、尻に当てた鞭の先を鼻に当てられ、顔をしかめて、待つてゐる。 高姫『コレ、ハルや、そないキツク当てると息が出来ぬぢやないか、何と臭い鞭だなア』 ハル『ソリヤ、チツと臭うごんせうとも、何せよあなた、向ふへ行く奴を引戻すといふ魔法ですもの、つまり、尻の匂ひを高い所の鼻迄持運ばなくちや、相応の道理に叶ひますまい、尻の所謂外臭を、又鼻から引込んで内臭に充さなくちや業は利きませぬからねえ、エヘヽヽヽ。サ、之から本芸に取りかかりまーす』 と鞭を放しがけに、グツと手を伸ばし、高姫の鼻をついた。高姫は鼻柱をつかれて、ウンと仰向けに倒れて了つた。 高姫は目がクラクラとして、そこらが廻るやうになつて来た。耳のはたで無暗矢鱈に太鼓を叩き出した。高姫は益々逆上て、目がまひ、遂には家も身体も山もグレリグレリと舞ひ出した。サールはヨルに扮して通つて行く、其姿が上になり、下になりし乍らどつかに隠れて了つた。少時すると、高姫は起上り、 高姫『あゝあ御苦労だつた、お前達は大変な魔法を覚えてるものだな。家を逆様にしたり、山を自由に動かしたり、何と偉いものだよ。ヤツパリお前は、受付丈の値打はあるわい、テルも内司の司丈の値打は十分あるわい。これからお前等二人を魔法使の大将とし、イソの館に行く奴を喰ひとめ、きかぬ奴は今のやうに山まで動かして、往生させるのだ。これから祠の森を大門神社と改名いたすぞや。サ、お前達御苦労だつた、悠くり休んで下さい。私は杢助さまに、お前達の手柄を按配よう報告しておくから……キツと御褒美が出るだらうからなア』 ハル『どうぞ、お酒をドツサリ戴くように願ひますよ』 高姫『アレ、マアあれ丈沢山呑んでおいて、まだ呑みたいのかい、余程よい樽だなア』 ハル『高姫さま、ありや皆魔法使の為に守護神が呑んだのですよ。ハルやテルが呑んだと思はれちやたまりませぬワ』 高姫『あゝさうだつたな、まア一寸待つてゐて下さい、御馳走をして上げるから……』 といそいそと奥に入る。 ハル『アハヽヽ、オイ、テル、甘くやつたぢやないか』 テル『貴様ア、ヒドいぢやないか、エヽン、自分の尻を高姫にかがしたり、鼻をついて高姫の目をまかしたり、怪しからぬことをするね』 ハル『それだつて、一番しまひに回天動地の実況を見せておかなくちや、疑の深い女だから、ああいふ具合にしたんだよ、俺の智慧は偉いものだらうがな』 テル『ウン、感心だ、併し、イル、イク、サールに一杯、改めて呑ましてやらなくちやなるまい、ソツと宿舎へ酒肴を持運び、慰労会でもやつてやらうかな』 ハル『楓さまを、酒注ぎ役として、静に宿舎で呑むやうにしておいてくれ、余り大きな声で歌つたり何かすると分るから大きな声をしない様に注意をしてくれよ』 かく両人は相談の結果宿舎に三人を忍ばせ、楓姫の酌にてクビリクビリと小酒宴を開いてゐる。高姫は居間へ帰り、ニコニコし乍ら、 高姫『コレ杢助さま、喜んで下さい。腐り縄にも取柄とかいひましてな、日出神の義理天上の目鏡に叶ふた、テル、ハルの両人は、バラモン教で魔法使と名を取つた丈あつて、偉い事をしましたよ。お寅婆を引戻すやら、魔我彦、ヨルまでが引つけられて惨めな様で坂を返つて行く可笑しさ、そしてまた不思議な芸当を持つてゐますよ。家をまいまいこんこをさしたり、山をグラグラ動かしたりするのですもの、義理天上日出神もあんな弟子を持つて居れば、正勝の時にや山も何も引くりかへしますワ、あゝあ有難う厶います日出神様、よい家来を御授け下さいまして、……あゝ惟神霊幸はへませ惟神霊幸はへませ』 杢助『アハヽヽヽ、其奴ア偉い事をやつたね、ウン、感心感心。併し乍ら其三人は今どこに居るのか』 高姫『サ、今頃にやモウ山口の森あたり迄逃げて行つたでせうよ』 杢助『其奴ア、何にもならぬぢやないか、イソの館へ行かうと思へば、ここ許りが道ぢやない、遠廻りをしてゆけば行けるのだから、彼奴等三人を此処へ引つけて十分に説き聞かすか、但はどうしても聞かねば、穴でも掘つて、末代上れぬ事にしておかぬ事にや、お前の謀反は成就しないだないか、賢いやうでも女だなア』 高姫『いかにもそうで厶いましたなア、何う致しませう』 杢助『それ位な事は朝飯前だ、俺が一つここへ呼んで見ようかな』 高姫『杢助さま、貴方にそんな事が出来ますかい』 杢助『アハヽヽヽ、出来えでかい、それ位な事が出来いで、今迄イソの館の総務が勤まらうかい、今此杢助が一つ文言を称へたが最後、望み通の人間をここへよせてみせう、其代り高姫、お前もチツと痛い辛抱をせなくちやならぬぞ』 高姫『お前さまの為なら、少々痛い事しましても辛抱しますワ』 杢助『ヨシヨシ一寸高ちやん、ここへお出で、お前は木魚の代りになるのだよ』 と言ひ乍ら、高姫の長煙管を取り、 杢助『ブビヨウ、マフス、ベナ、マカ、お寅婆サンよ、杢助如来が、魔法の功徳に仍つて、此場へ来れ、早来れ』 「クワン、グリングリングリングリン」と続け打に、高姫の前頭部を五つ打つた。高姫は又もや少しく逆上たと見え、そこらがクルクル見え出して来た。パツと現はれたのは、お寅ソツクリの姿である。 高姫『ヤ、お前はお寅ぢやないか、どうだ、義理天上の神力には往生致したか』 お寅『ハイ、サツパリ往生致し……ま……せぬワイ』 高姫『アハヽヽ何と負惜みの強い婆だなア、サ、もう斯うなる上はビク共動かさぬのだ。義理天上には、ハル、テルといふ立派な魔法使がついて居りますぞや。お寅さま、もう駄目だから、スツカリ我を折つて、日出神の申すやうになさるが、おのしのお得だぞえ』 お寅『ハイ有難う厶いませぬ。何分宜しく御願ひ致しませぬ』 高姫『それ見なさい、早く改心すればいいものを、いつ迄も我を張つてゐると、此通りだぞえ、ドンあとで首尾悪うすがりて来ねばならぬぞよ……とお筆に現はれて居るぞえ』 お寅『ハイ何分宜しく御願申します。モウこれきり我は出しまする。どうぞ高姫さまの御弟子にして下さいますな』 高姫は握拳を固め、両腕を力一杯伸し、立あがり、六方をふみ乍ら、雄健びして云ふ。 高姫『三五教に名も高き、高姫さまとは此方の事、若い時から男女と呼ばれたる、変性男子の生宮の腹をかつて、生れ出でたる剛の女、今は祠の森の杢助が妻となり、山のほでらの茅屋住ひ、先を見てゐて下されよ……と○をまくつて、大音声』 と自ら呶鳴り、芝居気取りになつて、伊猛り狂ふた、其勢の凄じさ。杢助は思はず『ワツハツハヽヽ』と吹出し、又もや高姫に向ひ、 杢助『オイ高ちやん、まだ勇む所へはいかぬ。魔我彦ヨルの両人を此処へ引付けなくちや駄目だよ』 高姫はハツと気がつき、 高姫『なる程杢助さま、魔我彦、ヨルは何うしたらいいでせうかな、モウ頭を叩かれるのはたまりませぬがな』 杢助『さうだらう、モウ頭を叩く必要はない。一寸お前が私の云ふ通り、目をつぶつて舌を出してくれさへすりや、それで呪禁が利くのだ、さうすりやキツと二人は此処へ引付けてみせるよ』 高姫『そんな事なら、頭を叩かれるよりもおやすいことです。サア早く呪禁をして下さい』 と云ひ乍ら、目をシツカと塞ぎ、馬鹿正直に舌をニユツと出した。杢助は火鉢の灰を掴んで、高姫の舌へ、口があかぬ程突込んだ。高姫は灰が喉に引かつたとみえて『クワツクワツ』と咳をしあたりに灰を飛ばした。そして両眼から涙をポロポロと流してゐる。それでもまだ杢助がよいといはぬので、辛い業だと思ひ乍ら気張つてゐる。杢助は、 杢助『オイ高姫、モウ目をあけたら良いよ』 高姫はパツと目を開けば、豈計らむや魔我彦、ヨルが自分の前にキチンと坐つてゐる。高姫は、 高姫『ヤ、魔我彦か、ヨルか』 と言はむとして、口につまつた灰に又むせ返り、クワツクワツと、咳し乍ら、苦んでゐる。其間に杢助は金盥に水を汲んで口をそそがした。鼻も舌も灰だらけになつた高姫は、ヤツとの事で灰を洗ひおとし、口を清め、魔我彦を睨つけて、ソロソロと憎まれ口を叩き出したり。 高姫『コレ魔我彦、お前は一体どこへいつとつたのだ、エヽー。此御神徳には叶ふまいがな。それだから、日出神の申す事を聞なさいと、あれ程言ふのに、何の事だいな、大本の大橋越えてまだ先へ行方分らぬ後もどり、慢心すると其通り……と日出神の真似の筆先に出て居りませうがな』 魔我『アハヽヽヽ、実の所はお前さまにお土産を持つて来たのだよ。余り何だか食ひた相に舌を出してゐらつしやるものだから、地獄の釜の下から死人の灰を持つて来て、口にねぢ込んであげました、イヒヽヽヽ』 高姫『コレ魔我ツ、何といふ失礼な事を致すのだ。サ、もう了見ならぬ。穴でも掘つて放り込んでやりませう。コレ杢助さま、もう斯うなる上は了見なりませぬぞや、魔我とヨルと、穴でも掘つて岩でも被せて末代上れぬやうにして下さいナ』 魔我彦の口は俄かに尖り出した。そして大きな耳が生えて来た。ヨルはと見れば、これも耳を生やし、牙を出し、キツキツキツト猿のやうに鳴き出した、お寅は獅子神楽のやうな口を開けて、体中斑の虎となり、高姫に向ひ、『ウーウー』と唸り出した。三人一度に怪獣となり、山も砕けむ許りに唸り初めた。高姫はアツと叫んで其場に正気を失つて了つた。怪獣はのそりのそりと四つ足に還元し、玄関口めがけて飛出した。ハル、テルの両人は両手で頭を抱へ、息をこらして縮こまり、怪獣の帰り去るを待つて居た。俄に山は唸り出し、岩石も飛ぶ様な風が吹いて来た。 (大正一二・一・一九旧一一・一二・三松村真澄録) |
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霊界物語 | 50_丑_祠の森の物語2 | 18 安国使 | 第一八章安国使〔一三一二〕 珍彦館には、珍彦、静子、楓、初稚姫及び斎苑の館の直使なる安彦、国彦の六人がヒソビソと首を鳩めて懇談に耽つて居る。 珍彦『遥々と大神様よりの御使、御苦労に存じます。何分至らぬ吾々、大役を仰せつけられ、力にあまり、勤めも碌に出来ませぬので、定めし八島主命様にも御迷惑の事で厶いませう。定めて吾々の不都合をお叱りのためのお使で厶いませうなア』 安彦『イヤイヤ決して左様では厶らぬ。貴方の赤心は誰知らぬ者も厶いませぬ。教主様も大変にお喜びになつて居ますから、御安心下さいませ』 珍彦『左様で厶いますか、不都合な吾々を、広き心に見直し聞直し下さいまして誠に畏れ多い事で厶います』 静子『何分とも宜しく御願ひ致します』 安彦『ハイ、よきに取計らひませう。先づ先づ御安心下さいませ』 初稚『安彦様、今度お出でになりましたのは、あの高姫さまの一件で厶いませうな』 安彦『お察しの通り、彼高姫は斎苑の館に於て、副教主東野別に対して無礼を加へ、其上所在狂態を演じ、夜陰に紛れて館を抜け出し、直様此館に逃げ来り、又もや悪霊に左右されて、神業の妨害を致すこと最も甚だしければ、一時も早く此館を放逐し、自転倒島へ追つ帰せとの御命令で厶る』 初稚姫『それは嘸高姫様がお驚き遊ばす事で厶いませう。何とか穏便に高姫様に改心して貰ひ、此処に暫く御用をさしてあげる事は出来ますまいかなア』 安彦『貴女のお言葉ならば、決して違背は厶いますまい。併しながら吾々は教主のお使にて参りしものなれば、独断にて如何ともする事は出来ませぬ』 初稚姫『成程それは御尤もで厶います。教主様の御命令とあらば致し方厶りませぬ。併しながら茲暫くの間私にお任せ下さるまいか。何とか致して高姫さまの身魂を救ひたいもので厶います。今放逐すれば益々心荒み、上げも下しもする事が出来ないやうになるかも知れませぬ。何卒八島主様にお会ひでしたら、茲暫く初稚姫にお任せ下さるやうお願ひ下さいませぬか』 安彦『ハイ承知致しました。直様立ち帰り御猶予を願つて見ませう』 初稚姫『早速の御承知、有難う存じます』 国彦『イヤ珍彦殿、高姫殿は何だか怪しき男を引き入れて居られるとか聞きましたが、それは何者で厶いますか』 珍彦『ハイ、真偽の程は吾々には分りませぬが、どうも怪しいもので厶います。斎苑の館から参つた、杢助だと云つて居られますが、どうしても初稚姫様にお会ひなさらぬので厶います。それが第一私の不思議とする所、一度初稚姫様にお尋ねして見たいと思うて居ますが、余り失礼だと思ひ、お尋ねも致さず控へて居りました』 国彦『ハテナ、杢助総務は日々斎苑の館へ御出勤になつてゐます。弥もつて不思議の至りで厶る。何か怪しい点はお認めになりませぬかな』 珍彦『ハイ、何だか存じませぬが、大変に犬がお嫌ひださうで厶います。此間も森を散歩して躓き眉間を石で打つたと仰せられましたが、一寸私が窺ひますのに、顛倒て打つた傷ではなく、犬に噛まれたやうな深い歯形が附いて居りました』 国彦『成程、そいつは益々怪しう厶る。安彦殿、如何思召されますか。こりや聞き捨てにはなりますまい。一つ正体を調べたいものですなア』 安彦『サア、吾々はお使に参つたのは、何も彼も一切を調べて来いとの事なれば、高姫は申すに及ばず、杢助と名乗る人物を能く調べて報告を致さねばなりますまい』 国彦『左様で厶る、直様着手致しませう』 珍彦『一寸お待ち下さいませ。余程考へなくては、先方に悟られては又逃げ出すかも知れませぬから、一寸私が様子を伺つて参りませう』 楓『あのお直使様、高姫さまと夫婦だと云つて、それはそれは朝から晩迄、酒ばかり呑んで一寸も事務は見ないのですよ。そしてお父さまやお母さまを毒散と云ふ薬で殺さうとしたのですよ。けれども文珠菩薩様が夢に現はれて神丹を下さいましたので、お蔭で毒が利かなかつたのです。さうでなければ、私の両親はとうの昔になくなつて居るのです。彼んな奴は早くどうかして貰はなくては、本当の事、一目も寝られないのです。初稚姫のお父さまだなんて云ひながら、正体が現はれるのが怖ろしさに一度も姫様に会はず、此頃は初稚姫様を此館に閉ぢ込めて了ひ、自分の居間には高姫と二人で誰も通さないのです。きつとあいつは妖怪に違ひありませぬ。そして高姫さまは、妖怪を杢助さまと思つて居るのです。斎苑の館の杢助さまが彼方にもあり、此方にもある道理がないぢやありませぬか』 安彦『ハテ、聞けば聞く程不思議千万で厶る。これはテツキリ妖怪に間違ひ厶いますまい。初稚姫殿、貴女のお考へは如何で厶います』 初稚姫『私の考へでは杢助と名乗る怪物は、大雲山に居る妖幻坊と云ふ悪魔に違ひないと考へます。何と云つても妾の愛犬スマートが怖くて仕様がないので厶いますもの』 安彦は二歩三歩ニジリ寄り、目を見張り、口を尖らしながら、 安彦『姫様、それがお分りになつて居るのに、何故今まで放任しておかれたのですか。早くスマートを使嗾かけて亡ぼしてやつたらどうですか。さうしたら高姫も目が醒めるでは厶いませぬか』 初稚姫『さうして見ようかとも思ひましたが、俄に左様な事を致せば、高姫様が大変な恥をお掻き遊ばすなり、又失望落胆の程が計り知られないと思ひまして、ボツボツと気のつくやうと、忙がしい体をここに留めて、時機を待つて居るので厶います』 安彦『姫様、そんな、グヅグヅして居る場合では厶いませぬぞ。吾々両人が承はりました以上、此儘帰る訳には参りませぬ、サア是から妖怪征伐に着手致しますから、何卒拙者等両人にお任せを願ひます』 初稚姫『あれしきの妖怪を倒す位は朝飯前の仕事で厶います。スマートだけでも立派に追ひ散らすでせう。併しながら彼を追ひ散らしてみた所で、又他の地方へ往つて悪事をなすに違ひありませぬ。それ故に暫く此処に留め置き、心の底から彼の妖怪を改心させようと存じ、光を和らげて時機を待つて居るのですよ』 国彦『どうも腕が鳴つて仕方がないぢやないか。もし初稚姫様、そんな気の永い事を云はずに、私にお任せ下さいませ。きつと私が退治てお目にかけませう』 初稚姫『短気は損気、まア待つて下さいませ。お直使様のお言葉を背いては済みませぬが、何と云つても妾の父と云つて現はれたので厶いますから、仮令怪物と雖も吾父と名のついたものを、さう無闇に苦しめる事は情に於てすみませぬ。仮令贋者にもせよ、父の名に於てどうして敵対へませうか。仮令貴方が退治なさつても、この初稚の耳に入つた以上は何処迄もお止め致します。妾が知らぬ間に退治遊ばすのなら已むを得ませぬが、もう只今となつては、貴方も妾に対し左様な惨酷な事は出来ますまい』 安彦『何と親と云ふものは偉いものだな。仮令如何なる悪魔でも親の名を名乗つて居るものを苦しめる事は出来ないとは、実に人情の深いお方だ。いや孝行の御精神だ。いやもう感じ入りました』 初稚姫『それ故何処迄も赤心を尽して其妖怪を改心させ、救うてやりたいものです。妾もあの妖怪から吾娘と云はれたのですから、娘としての赤心を尽したいと存じます。斯様な妖怪に、仮令言葉の上でも娘と云はれるのは何か因縁があるのでせう。何うか愛善の徳を以て彼を救ふべく、試験問題をお与へ下さつたのだらうと存じます』 安彦『然らば是非に及びませぬ。イヤ国彦殿、これにてお別れ致さうぢやないか』 初稚姫『何うも遠方を御苦労様で厶いました。高姫さまの件については今一応妾の意見を申上げ、御詮議の上暫しの御猶予あらむ事をお願ひ申します。そして否やの御返事は、無線霊話をもつて妾の耳迄お達し下さいますれば、結構で厶います』 安彦『イヤ委細承知致しました。珍彦殿、然らばこれにて御免蒙りませう。随分貴方も御苦労で厶います。初稚姫様に御返事のあり次第、貴方は祠の森の神司の職権を以て高姫に申渡しをなさるやうに、呉れ呉れも申渡しますぞや。決して遠慮はいりませぬから、どしどしおやりなさいませ』 珍彦『ハイ委細承知致しました。それを承はらば、拙者も職権を以て御命令通り、何の憚る所なく断行致しますから、何卒御安心下さいませ。此珍彦も何分神様のお道が充分に分つてゐないものですから、つひ高姫さまの口先に操られ、いつも屁古まされ通しですが、お直使を通しての教主様のお言葉、決して背きは致しませぬ』 安彦『イヤそれ聞いて安心致しました』 国彦『イヤ安彦殿、折角出張致したのだから、御本殿は申すに及ばず、此館は一間も残らず見分致し、境内を一巡致して帰らうでは厶らぬか』 珍彦『然らば幹部の役員に申付けて御案内を致させませう』 安彦『イヤそれは有難い。然らば二人許り案内を願ひませうかなア』 珍彦『承知致しました』 と云ひながら、磬板をカンカンと打つた。イル、サールの両人は暫くして装束をつけ珍彦が館に入り来り、 イル、サール『今「二人来い」と云ふお報せで厶いましたので、直様装束を調へ罷り出ました。お直使様に対し何か御用が厶いますれば、承はりませう』 珍彦『いや、イル、サール両人様、御苦労で厶いました。外でもありませぬが、お直使様お二人を一度御本殿に御案内申上げて下さい。そして境内を叮嚀に御案内申上げ、最後に杢助様の御居間や、高姫様のお居間へ御案内なさるが宜しいぞや』 イル『ハイ承知致しました。サア御直使様、吾々両人が御案内致しませう』 安彦、国彦両人は軽く目礼しながら、イル、サールの後に従ひ御本殿に案内された。 茲に両人は恭しく神言を奏上し、終つて宣伝歌を手向けた。安彦は歌ふ。 安彦『厳の御霊や瑞御霊清き尊き大御稜威 現はれまして今此処に河鹿峠に名も高き 祠の森の真秀良場に千木高知りて現れませる 国治立の大御神月の大神日の御神 バラモン教の司神大国彦を初めとし 盤古神王塩長の彦の命や其外の 百の神等斎かひて常世の暗を晴らさむと 顕れませるこそ尊けれ朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 曲津は如何に荒ぶとも皇大神の御稜威もて 此世の曲を悉く伊吹払ひに払ひのけ 浦安国の浦安く守らせ給へ惟神 神の詔を畏みて産土山の聖場より 参り来ませる安彦や国彦司と諸共に 御前に畏み願ぎまつるああ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 国彦は又歌ふ。 国彦『吾は国彦宣伝使高取村の与太彦と 名を知られたる与太男弥次彦さまと諸共に コーカス参りの其途中お竹の宿に泊る折 日出の別の宣伝使部下に仕へる神司 此処に現はれましまして駒に跨がりいそいそと 小鹿峠の麓まで来る折しも音彦の 神の司と諸共に吾等二人は残されて ウラルの道の目付等に取囲まれて逃ぐる折 小鹿峠の峻坂に前後に敵を受けしより 千尋の谷間に落ち込んで忽ち幽冥の人となり 三途の川まで到着し脱衣婆さまにいろいろと 小言八百並べられ河を渡りて銅木像 其外怪しき者共に二度三度出会し 茲に漸く身魂をば研きすまして宣伝使 仕へまつりし国彦ぞああ惟神々々 神の恵を身に浴びて今は尊き斎苑館 司の群に加はりて教の道を宣伝し 帰りて見れば此度の祠の森の直使をば 云ひつけられし尊さよ此御社に現れませる 皇大神よ百神よ何卒吾身の使命をば 完全に委曲に復り命申させたまへ惟神 尊き神の御前に安彦国彦両人が 畏み畏み願ぎまつるああ惟神々々 神のみたまの幸はひてこれの館に住まひたる 妖幻坊の醜霊や金毛九尾の醜狐 一日も早く大神の誠の道に目を醒まし 悪逆無道をひるがへし世界に曲を行はず 世人を救ふ御柱とならさせたまへ惟神 神かけ念じ奉る』 と歌ひ終り、恭しく拝礼をして階段を下り、又もやイル、サールの案内に連れて広き森林内を隈なく巡視し、妖幻坊が遭難場をも詳しく実見し、落ちこぼれたる血糊の、人間の血にあらざる事迄よく確め、終つて八尋殿に上り、暫し休憩の後、杢助、高姫の居間を臨検せむと相談しながら茶を啜つて居た。 杢助、高姫は安彦、国彦が今や吾居間に臨検に来るとは、神ならぬ身の知る由もなく、ハルを相手にいろいろと訊問を始めて居た。 (大正一二・一・二三旧一一・一二・七加藤明子録) |
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霊界物語 | 51_寅_浮木の森の曲輪城 | 06 舞踏怪 | 第六章舞踏怪〔一三二一〕 松姫の館には、お千代、お菊と女三人首を鳩め、ひそびそと何事か囁いて居る。勇敢なスマートが、松姫の危難を助けて呉れた事などが無論話頭に上つた。スマートは俄に魔の如く姿を消して仕舞つた。 千代『あれまア、可愛いスマートが何処へやら行つて仕舞つたわ、私どうしませう』 松姫『スマートは神様のお使で吾々の危難を助けに来て下さつたのだから、もうお帰りになつたかも知れないよ』 お千代『それだつて私、あのスマートが好きで耐らないのよ。お母さまの危難を谷の向ふからよく探知して助けに来て呉れたのだもの。そして賢い犬で私とお友達にならうと云うて約束して置いたのだもの』 松姫『茲暫くスマートさまの事は云うてはいけませぬよ、どんなお仕組があるか知れないからねえ』 お千代『だつてスマートは恋しい犬だわ。なア、お菊さま、ほんたうに貴女だつて好きでせう』 お菊『私、貴女の次にスマートが好きのよ』 と斯んな話をして居ると、表にどやどやと人の足音が聞えて来た。 妖幻『こりや初、徳、エエ貴様は不届きの奴だ。サア尻を捲れ、なぜ松姫様に御無礼を働いたか。是から此杢助が其方の尻引つ叩いて懲しめて呉れる。悪の報いだと思うて観念せい』 初『ハイ誠に誠に済まぬ事で厶いました。貴方のお名を借りまして、松姫さまを嚇かしましたのは重々悪う厶いました。決して殺さうなぞと思うては居ませぬ。つい酒の興に乗つて狂言をかいたのですから、何卒耐へて下さいませ』 妖幻坊の杢助『馬鹿申せ、そんな事申しても松姫様に御無礼を加へ、此方の名を騙つたのだから了簡はならぬ、尻を捲れ』 高姫『これ初、徳両人、お前は杢助さまや私の名を騙つて松姫さまに御無礼をしたぢやないか、何と云つても松姫さまに済まないから、お前の尻を、千切れても構はぬから三百ばかり叩いて上げよう、徳公さまは私の名を騙つたのだから私が叩いてあげる。初公は杢助さまの名を騙つたのだから杢助さまに叩いて貰ひなさい。サア早く尻をまくりなされ』 徳『ハイ仕方が厶いませぬ。どうぞソツと叩いて下さい。三百もそんな太い杖でやられては命がなくなりますから』 高姫『命がなくなつたつて仕方がないぢやないか、お前は松姫様の命を取らうとしたのだから。サア杢助さま、貴方は初公をお叩きなさい、オイ徳、もうかうなつては駄目だ、早く尻を出さぬか』 と館の中に聞えるやうな声で四人は八百長芝居を始めかけた。 両人は笞を振り上げながら、二人の尻を叩くやうな顔をして大地を叩く。 妖幻『一つ、二つ』 初、徳『キヤツ、キヤツ』 高姫『一つ、二つ』 初、徳『アイタタタ、アイタタタ』 高姫『四ツ、五ツ、六ツ、七ツ、八ツ、九ツ、十』 初、徳『キヤツ、キヤツ、キヤツ、アイタタタタ、アンアンアン』 手許が狂うて、妖幻坊が力一ぱい打ち下した棒が初公の尻にビウと当つた。初公はキヤツと云つて其場に倒れた。妖幻坊、高姫の両人は、持場を定めて、尚も続け打ちに数をかぞへながら打つて居る。 初『これ杢助さま、約束が違ふぢやありませぬか、本当に叩かれるのなら、もう止めですわ、アア痛いワ』 高姫『これ初さま、黙つて居なさらぬか、あいさには二つや三つ手が狂うたつて仕方がないぢやないか』 初『それだと云つて痛いわな』 高姫『二十、二十一、二十二、二十三、二十四』 初、徳『アイタタタアイタ、キヤア、キヤツキヤツ』 高姫『痛かろ痛かろ、痛いやうに撲るのだ。かうせねばお前の罪も亡びず、私の疑も晴れぬから、弁慶でさへも御主人の頭を撲つた事を思へば辛抱をしなさい』 徳『本当に高姫さま、撲つちや耐りませぬわ、約束が違ふぢやありませぬか。何ぼお前さまの弁慶の(弁解の)ためだと云つてもやりきれませぬわ』 何だか屋外にザワザワ音がするので、お菊、お千代の両人は立ち出でて見れば右の体裁である。両人は一度に手を叩いて、 お菊、お千代『ああ面白い面白い、芝居ぢや芝居ぢや、痛くもないのに猿のやうに初公と徳公が泣いて居るわ。ありや八百長だよ。お母さま、一寸来て御覧、面白い芝居が始まつて居ますよ』 松姫も気掛りでならぬので、お千代の言葉に引かれて外に出て見た。杢助、高姫の両人は八百長と見られちや大変だと思ひ、真剣に力をこめてビウビウと撲り出したから耐らない、忽ち臀部は紫色に腫上り血が滲み出した。二人は動きもならず、目を眩かして仕舞つた。松姫は驚いて其場に走り寄り両手を拡げて、 松姫『ヤア高姫様、杢助様、如何なる事か存じませぬが、どうぞ暫くお待ち下さいませ』 高姫『イヤ、お前さまは松姫さま、長らくお目に掛りませぬ、此両人が吾々の名を騙つてお前さまを苦しめたさうですから、今折檻を加へて居る所です。何卒お止め下さいますな。これ杢助さま、もつと打つてやりなさい。こんな奴は死んだつて構ふものか』 松姫『杢助さま、高姫さま、お腹が立ちませうが、これら両人は小北山の役員、如何なる事が厶いませうとも、私に云つて下されば何とか致しますから、まアまア待つて下さいませ』 妖幻『イヤ初めてお目に掛ります。貴女が松姫さまで厶いましたか、えらいお気を揉ませまして恐れ入ります。許し難い奴なれども、貴女のお言葉に免じ許してやりませう。これ高姫、お前も許してやりなさい』 高姫『エエ私はどうしても許しませぬ。三百の笞を加へなくてはなりませぬ。私や貴方の名を騙つて悪事をなした代物だから、以後のみせしめ、息の止まる所まで撲つてやりませう』 とピシヤピシヤと撲りつけた。徳公は息が切れむばかりになつてヒーヒーとひしつて居る。漸くにして松姫の仲裁によつて鞭を加へることだけはやめて了つた。松姫は、お千代、お菊に命じ水を運ばせ、両人に呑ませ且つ尻に水をかけてやつた。二人は無我夢中になつて起き上り、尻の痛さに肱をついて庭に横たはつて居る。 松姫『まア可愛さうに、酷いことなされますなア、貴方等の気の強いのには私も感心致しました』 高姫『私だつて斯様な事はしたくはありませぬが、杢助さまと私が貴女を殺して来いといつたやうに申して乱暴を働いた悪者ですから、以後のみせしめに笞を加へたのです。松姫さま、何卒疑はないやうにして下さい、こんな獣は何を申すか知れませぬからなア』 松姫『ハイ何卒お気遣ひ下さいますな。善悪は神様が御存じですから、私等は善悪を審く力はありませぬ。サア何卒此処は門先……中へ入つて下さいませ。これお千代や、お菊さまと二人、初公、徳公の側に筵をもつて行つて其上に寝かせ、お前等が世話をして上げて下さい。お母さまは一寸お二人さまとお話があるから』 と二人の介抱を二人の少女に命じ置き、高姫、杢助を居間に引き入れた。 松姫『高姫様、お久しう厶います。貴女は生田の森の神司として、琉の玉を御守護遊ばすとか承はり、お羨ましい事だと存じて居りました。此頃は又斎苑の館へお越しになつて居たさうで厶いますねえ』 高姫『ハイ、一寸都合があつて斎苑の館へ参りましたが、神様の命令に依つて、此小北山は高姫の系統蠑螈別が開いたのだから、其方が行つて教主となり、松姫さまは生田の森へ行つて貰へとの事で厶います。つまり云へば更迭ですな、自転倒島は又景色のよい所ですな、高城山からは僅か三十里許りの所で厶いますからな』 松姫『それは神界の御都合とあれば是非に及びませぬが、併し貴女は斎苑の館の八島主の命様から御命令を受けてお出でになりましたか、神様の命令と云つても、現界の仕事は矢張現界の法則を守らねばなりませぬ。ついては御辞令が厶いませう。一寸拝見さして頂きませう』 高姫『馬鹿な事を仰有るな、松姫さまにも似合はぬ愚問を発するぢやありませぬか。三五教は人民の教を立てる所ぢやありますまい。神様の御命令で働く所でせう。私も誠の義理天上様の御命令で忙しくして仕方がない身を、小北山の神司となつて来たのですよ。お前さまは神様の御命令を聞いて生田の森へ行つて貰ひたい、元はお前さまの師匠ですから、私の云ふ事を聞くでせうね、そして杢助さまは生田の森に厶つたけれど、今は斎苑の館の総務、此お方が厶つた以上は辞令も何も要りますまい。つまり八島主さまの意見は杢助さまの意見、杢助さまの意見は八島主さまの意見、又八島主さまの意見は義理天上の意見、義理天上の意見は高姫の意見ぢやぞえ』 松姫『いや分りました、それなら仰に従ひ貴女に事務の引継を致しませう。それについては私は解職の奉告祭、貴方等は新任の奉告祭をなさらなくてはなりますまい。それでなくては神様の御用の引継ぎは出来ませぬからなア』 高姫『イヤ尤もで厶います。お前さま立派に引渡して下さるか、偉いものだなア。其代り生田の森へ行つて下さい、又生田の森へ転任の辞令がないと仰有るだらうが、現在此処に杢助さまが厶るから、生証文だ。どうか安心して行つて下さいや』 松姫『左様ならば事務の引継ぎを致しませう、善は急げと申しますから、一時も早くお空の大神様へ参拝致し、奉告祭を行はうぢやありませぬか』 高姫『それは真に結構で厶います。杢助さま、お前さまも、何程霊界の天人だからといつて、今日は新任の奉告祭だから参らねばなりませぬぞや』 妖幻坊の杢助『ウン仕方が……ウンない、イヤ結構だ、私も奉告祭に参列させて貰ひませう』 松姫『それでは貴方等にお装束をつけて頂きたう厶ります。又それ迄に神饌の用意や祓戸の式をせなくてはなりませぬから、役員にその準備を致させませう。肝腎の初や徳は貴方等に笞を当てられ、八百長芝居が利き過ぎて、あの通り平太つて居ますから、他の役員に命じませう。これ、お千代や、お前はお菊さまに二人の介抱を頼み、文助さまに祭典の用意を命じて下さい』 お千代は、 お千代『ハイ』 と一言後に残して、文助に松姫の命令を下すべく階段を下り行く。文助は早速四五の役員に命じ、祭典の準備を整へしめた。彌祓戸も済み神饌も済んだ。松姫、高姫、杢助は新しき衣装を着替へ、悠然として上段の石の宮の前に現はれた。 忽ち神饌は踊り出し、供へた木の果などは空中に蚋の舞ふ如く舞ひ狂うて居る、さうして人参も大根も山の薯も蜜柑も川魚もピンピン跳ね出し踊り出した。高姫は首を傾けて非常に感心をして居る。 高姫『何とまア神徳の高い者が御用をする事になると偉いものだなア、神様が大変にお勇みだと見えて、お供へ物が中天に舞ひ上り、皆踊つて居る。これ松姫さま、偉いもので厶いませうがな。あれ御覧なさいませ。神様が四辺の木の上に鈴なりになつて居られませうがな、エエ見えませぬか、修業の足らぬものは仕方が厶いませぬな。義理天上さまが、松姫をおつぽり出せ……いや生田の森に遣はせと仰有つたのも、斯んな仕組があつたからだらう。ああ宙空に八百万の神様が勇んでお出でになることわいなア。ネーブルなどは、あの通り目の届かぬ所まで上つて舞踏をやつて居ます。何と神徳と云ふものは争はれぬものだなア』 杢助は何とも云へぬ渋い顔をして頭の痛いのを耐へて居る。高姫は益々調子に乗つて法螺を吹いて居る。 松姫『これ高姫さま、これ程神様がお勇みになつて居るのですから、一遍、ユラリ彦や月の大神、日の大神様のお扉を開けさせて頂きませうか』 高姫『ああそれが肝腎だ。お前さま、開けて下さい、私が神様に直接にお話し致しますから。嘸神様も高姫にお給仕をして貰ひ、杢助さまに構うて貰へば御満足なさるだらう。大神様、斎苑の館の杢助と義理天上日の出神が、今日から御世話をさして頂きますぞや』 松姫はスツと神前に進み、中の社の扉をパツと開いた。杢助、高姫の二人はアツと叫んで其霊光に打たれ、ヨロヨロヨロと七歩八歩後すざりをした途端に、断岩絶壁から逆とんぼりに、キザキザの岩の上に顛落し「ウン、キヤツ」と怪しき声を立てながら、痛さを耐へ、 妖幻坊の杢助『高姫来れ』 と一生懸命坂道を逃げ出した。初公、徳公両人は之を見るより尻の痛さも忘れ、トントントンと二人の後に従ひ一生懸命に逃げ出す。折からヨボヨボと階段を上つて来る文助に突きあたり、妖幻坊は文助の顔を引つかき坂の下に投げつけながら、飛ぶが如くに雲を霞と駆け出す。高姫は金切声を振り立てながら髪振り乱し、でつかい尻を振りながら可愛い男を逃がしちや大変だと、一町許り間隔を保ち、一本橋を渡り怪志の森を指して逃げて行く。又一町許り後れて、初、徳の両人が、 初、徳『オイオイ』 と叫びながら、青草の芽含んだ野路を追つ駆けて行く。小北山の頂から、 スマート『ウーウーワウワウワウ』 とスマートの声、雷の如くに杢助の妖幻坊の耳に入る。 是より、スマートは松姫の返書を首に括りつけられ、初稚姫に報告すべく祠の森をさして帰り往く。 (大正一二・一・二五旧一一・一二・九加藤明子録) |
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霊界物語 | 52_卯_小北山の文助の改心物語 | 08 巡拝 | 第八章巡拝〔一三四四〕 イク、サールの二人は、大広前の神殿を拝礼しをはり、蠑螈別が籠りしと云ふ館の前に立つて、 サール『蠑螈別お寅婆さまの古戦場 見るにつけても可笑しくなりぬ』 イク『この館土瓶が踊り徳利舞ひ 盃われし古戦場なり』 サール『魔我彦やお寅婆さまが改心を なしたる場所も此館なり』 イク『酔ひドレの熊公さまが飛込んで 脅し文句で金を千両(占領)。 一段と高く築ける段梯子 登りて行くも姫を訪ねて』 二人は木花姫を祀りたる小さき祠に参拝し拝礼を了り、 イク『木花姫神の恵は目のあたり 開き初めにき木々の梢に』 サール『木の花の姫の命の御前に その鼻高をさらすイクなり。 天教の山より下りし皇神は わが馬鹿面を笑ひますらむ。 イクの奴狸の曲に魅まれて 恥も知らずに大前に来つ』 斯く歌ひ、今度は金勝要神の祠の前に進み拝礼を了り、 イク『縁結ぶ畏き神と聞きしより ゐたたまらずして詣で来にけり』 サール『其面で何程神を拝むとも 妻となるべき人のあるべき』 イク『吾輩の顔を眺めて笑ふより 一寸見て来い水鏡をば』 サール『顔容姿で妻が出来ようか 魂麗しき人でなくては。 此様に見えても俺はをちこちの 女にチヤホヤされる曲者』 イク『其様に慢心ばかりするでないよ 乙女に馬鹿にされた身ながら。 要の神貴の御前にこんな事 囀る奴は鰥鳥かも。 さア行かう大神様に恥かしい 女なんぞと言ふ面でなし アハハハハハ』 と笑ひながら玉依姫(竜宮の乙女)様を祭つたる祠の前に進みよつた。 イク『いろいろの宝をためて海の底に 隠し給ひし欲な神様』 サール『馬鹿言ふな乙姫様は今は早 物質欲に離れた神よ』 イク『これはしたり失礼な事を言ひました 聞直しませ乙姫の神』 サール『神様は宝を以て人々に 与へ給へどお前には列外』 イク『列外か又案外か知らねども 宝なくては世に立つを得ず』 サール『物質の宝求めて何になる 朽ちぬ宝を霊につめよ』 イク『馬鹿云ふな水晶玉も物質よ されど暗夜を照らしましける。 金なくて何のおのれが人間かと 世の人々は相手にもせず。 それ故に俺は金銀財宝を むげには捨てぬ冥加者ぞや』 サール『イクの奴イク地の足らぬ証拠には 宝々と憧れゐるも。 神様は何程宝あるとても 貧乏面にくれるものかは。 サア行かう目の正月をするよりも 宝忘れて宝拾ひに。 俺の云ふ宝といふは金銀や 水晶でない教の宝よ』 かく歌ひ終つて、今度は中段の宮の前に進んだ。此処には日の大神の祠が建つてゐる。 イク『伊弉諾の皇大神を斎りたる この御舎は殊に麗し』 サール『其筈だつくしの日向の立花で 禊ぎ給ひし神に坐しませば』 イク『許々多久の罪や汚れに溺れたる 霊を洗へ神の御前に』 サール『曲神に騙られたる愚さを 許し給へと詫びよイク公』 イク『かもてなや頭打たりよが打たりよまいが お前の知つた事でなければ』 サール『道伴れの一人が狸に叩かれて 吠面かわくを見るつらさかな。 天教の山に天降りし日の神の 宮は殊更高くおはせり』 又此処を去つて、今度は月の大神を斎りたる祠の前に進んだ。 イク『素盞嗚の神の御霊を祀りたる 社の前に月の大神』 サール『古狸梟の奴に馬鹿にされ 乙女にまでも笑はれにけり。 さながらに愛想も月の大神が 貴様の面を笑ひ給はむ』 イク『馬鹿云ふな善言美詞の神様だ 必ずよきに見直しまさむを』 サール『此男世界に稀な馬鹿なれば 守らせ給へ月の大神』 イク『サールこそ馬鹿の証拠にや水晶の 玉をばイクにせしめられける』 サール『イクの奴イク地がないと知つた故 玉を持たせておいたばかりよ』 イク『サア行かう月の光に照らされて 何とはなしに恥かしき宵』 今度は最上段の国常立尊の祠の前に参拝した。 イク『掛巻も畏き神の御前に 詣で来りし吾は罪人。 さりながら悔い改めて大神の 道に仕へしイク身魂なり』 サール『われこそは皇大神の御恵に 与りました未サールの神』 イク『罰当りサールのやうな面をして 坤とはよくもいはれた。 お前こそ世人がサールの人真似と 嘲るとても仕方あるまい』 サール『三五の道にサール者ありと云ふ 此神司知らぬ馬鹿者』 イク『国所立のき彦の狼と 人に言はれた馬鹿者は誰』 斯く二人は拝礼を終り、次いで互に揶揄ひ合ひながら、枝振りのよい松の七八本かたまつた下に、余り広からず狭からざる瀟洒たる一棟が建つてゐる。それが所謂松姫の館であつた。 イク『常磐木の松の木蔭に建てられし 松姫館をなつかしみ思ふ』 サール『吾慕ふ初稚姫のいます上は 一しほ恋しき館なりけり』 イク『小北山要となりし此館は 扇の如くに建てられにける』 サール『常磐木の松の緑は青々と とめどもなしに伸び立てるかも』 イク『初稚姫神の司がますと聞けば 胸轟きて進みかねつつ』 サール『臆病風又吹き荒みイクの奴 イク地のなきを暴露せりけり』 イク『そんな事言ふなら俺が先に立ち 一つ肝をば見せてやらうかい』 サール『面白い初稚姫の前に出て 叱り飛ばされベソをかくだろ』 イク『水晶の玉を抱きしわれなれば 初稚姫も褒め給ふべし。 その時は指をくはへてサールの奴は 恨めしさうに見てゐるがよい』 サール『姫様に会うたら皆素破ぬき 一伍一什を申し上ぐべし。 その時は赤い顔をばせぬがよい 梟鳥にもなぶられる奴よ』 イク『イクらでも人の悪口言ふがよい 首吊りそこねし死損ね奴が』 サール『貴様とて矢張首吊り仲間ぞや 何うして姫に顔があはせよう』 二人は流石に恥かしさに堪へかね、松姫の館の四五間ばかり側までやつて来て、互に「お前から先へ行け」「イヤ貴様から先へ」と、押合ひをやつてゐる。スマートは二人の影を見るより、喜んで走り来り、胸に飛びついたり、背中に抱きついたり、頬をなめたり、勇み出した。 イク『ヤア、スーちやんか、先づ先づ御無事でお目出度う。漸く此処までお後を慕つて参りました。何卒姫様に宜しうお取りなしを願ひますよ』 サール『ハハハハハ馬鹿だなア。此頃の衆議院の候補者のやうに、犬にまで追従してゐやがる、犬がもの言ふかい』 イク『主人に威勢があると、何だか犬に迄頭が下がるやうな気になるものだ。そこが人情の然らしむる所だよ。娘を嫁にやつてある在所へ入ると、其親は野良犬にでも辞儀をするといふぢやないか。貴様も訳の分らぬ奴だなア。そんな事で今日の虚偽万能の世の中に、どうして生存が続けられると思うてるか、時代遅れの骨董品だなア』 サール『ほつといてくれ、何程偉さうに云つても、姫様に叱られるかと思つて、ビリビリしとるやうな腰抜の言葉に、何うして権威があるものか、マア、俺のすることを見てをれ、エヘン』 と云ひながら、思ひ切つて門口に立寄り、怖さうに中を眺めた。初稚姫と松姫は何事か一生懸命に、ニコニコしながら話の最中であつた。サールがガラリと戸を開け、 サール『へーご免なさいませ。松姫様、始めてお目にかかります。私は祠の森のサールと申す者、モ一人の従者はイクと申します。イヤもう意気地のない野郎で厶いますから、何卒可愛がつてやつて下さいませ』 松姫『それはそれはよくマアいらせられました。サ、どうぞお上り下さいませ』 サール『スマートさまも御壮健で、大慶至極に存じます』 と初稚姫に御機嫌を取らうといふ考へか、切りに犬に追従してゐる。イクは不在の家へ盗人が這入るやうな調子で、ビリビリもので、足音もさせず這入つて来た。 初稚姫は二人を見て、言葉静に、 初稚姫『貴方はイクさま、サールさま、神様へお参りで厶いますか』 二人は、 イク、サール『へー、あの、何です』 と頭をかき、モヂモヂとして土間に踞んで了つた。 初稚『妾に何ぞ御用が厶いましたのか、何卒早く仰有つて下さいな』 イクは思ひ切つて、 イク『イヤ実の所は姫様の、何処までもお供をさして頂かうと思ひまして、お後を慕ひ参つたので厶います。吾々両人の真心をお汲み取り下さいまして、是非にお供をさして頂きたう厶います』 初稚姫『貴方、山口の森で何か変つたことは厶いませぬでしたか』 イク『ハイ、イヤもう面白いこつて厶いましたよ。結構な御神力を戴いて鬼の奴、二匹迄遁走させました。それはそれは随分愉快なもので厶いましたよ』 初稚姫『それはお手柄で厶いましたな。そして貴方、何だか神様から頂いたでせう』 イク『ハイ、頂きました』 初稚姫『無事に此処まで、貴方は守護して来ましたか。途中に他の者の手に入るやうなことはありませなんだかな』 イク『へ、此通り、此処に所持して居ります。実に立派な水晶玉で厶います』 初稚姫『それは夜光の玉と云つて、水晶ではありませぬ。筑紫の島から現はれた結構なダイヤモンドですよ』 イク『へーエ、さうで厶いましたか、誠に有難いこつて厶いました』 初稚姫『貴方、途中で妖怪につままれ、一旦ふんだくられるやうな、不都合な事はなさいますまいな』 サール『イヤもう恐れ入りました。実の所は、古狸に騙かされ、取られて了つたのですが、お千代さまのお蔭で再び元へ返つたのです』 初稚姫『其玉は一旦曲神の手に入つた上は、大変に汚れて居りますよ。これは今のうちに禊をなさらぬと、役に立たなくなりますからねえ』 イク『塩水を貰つて清めませうかなア』 初稚姫『貴方の無形の魂をお清めになれば自然に玉は浄まります。そしてお前さまは其玉に執着心を持つてゐるでせう。なぜサールさまに渡さなかつたのですか。一旦貴方の手に入り、妖魅に取られたのだから、貴方は玉に対して、監督権を自然に放棄したやうなものです。今度はサールさまに持たせておくが宜しい。実の所は妾より日の出神様にお願ひ申し、貴方等の熱心に感じて、お二人様の中へ一個をお与へ申したのですから、此玉は二人の身魂が一つになつた証拠です。決して一人が独占すべき物ではありませぬ。即ちイクさまの心はサールさまの心、サールさまの心はイクさまの心、二人一体となり、神界の為に活動なさるやうに仕組まれてあるのです』 サール『オイ、イク州、どうだ。ヤツパリ宝の独占は許されまいがな。貴様が自分の物のやうにして、俺にも碌に見せず、懐へ捻ぢ込んで来よつたものだから、神罰が当つて、狸の野郎に一旦取られて了つたのだよ』 イク『モシ姫様、さうすると此玉は、これからサールに渡すべき物で厶いますか』 初稚姫『誰の物といふ訳には参りませぬ。お二人さまが交代に保護なさるれば宜しい。そして此宝は世界救済の為の御神宝で、人間の私すべき物ではありませぬ。暫く拝借してゐる考へになつて、大切に保存なさいませ。そして其玉が手に入つた以上は、妾について来る必要はありませぬ。一時も早く祠の森に帰つて下さい。貴方の御親切は有難う厶いますが、妾は神様が沢山に守つて下さいますから、決して淋しい事は厶いませぬからな』 サール『それなら、此玉を貴方に御返し致します。何卒、どんな御用でも致しますから、そんな事仰有らずに、サール一人でも、ハルナの都までお供を許して下さいませ。モシ此通りで厶います』 と熱誠を面にあらはして、涙を流しながら頼み込むのであつた。 初稚姫『夜光る宝を神に得し君は 祠の森に帰り行きませ。 この玉は日の出神の賜ひてし 暗夜を照らす珍の御宝。 曲神のたけり狂へる月の国へ かかる宝を持ち行くべしやは。 汝こそは此御宝を守るべく 計り給ひし神の御心 ハルナへは供を連れ行く事ならず 神の厳しき仰せなりせば』 イク『姫様のその御言葉には背かれず さりとて此儘帰るべきやは』 サール『いかならむ仰せ受けさせ給ふとも 許させ給へ見直しまして』 初稚姫『益良夫の心の花は匂へども 手折らむ由もなきぞうたてき』 イク『さりとても此儘これが帰らりよか 仮令死すとも姫に仕へむ』 サール『どうしても許し給はぬ事ならば われは此処にて腹を切るなり』 松姫『姫君の厳の言葉を聞かずして 迷へる人ぞ憐れなりけり。 赤心の溢れ出でたる益良夫が 心はかりて涙こぼるる。 さりながら皇大神の御心に 背くべしやは宣伝使のわれ』 初稚姫『イク、サール二人の司よ村肝の 心鎮めてかへりみませよ』 イク『今暫し思案定めていらへせむ 何は兎もあれ頼み参らす』 サール『姫君の言葉を背くにあらねども 弥猛心を抑ゆるすべなし さりながら暫し彼方に休らひて 身の振方を胸に問ひみむ』 斯く歌を以て姫に答へ、蠑螈別、お寅の住居せし元の教主館に退きて、二人は茶を啜りながら、腕を組み、吐息をもらし、進退谷まつて、涙に暮れてゐた。これより初稚姫は松姫に別れを告げ、二人の隙を窺ひ、スマートを伴ひ、逸早く聖場を立ち出で、征途に上ることとなつた。イク、サールの両人は、依然として初稚姫は松姫館にいます事と確信し、お菊に酒を勧められ一夜を明かした。そして文助の危篤を聞いて、夜中頃館を飛出し、河鹿川に降つて水垢離を取り、一生懸命に其恢復を祈つた。 (大正一二・一・二九旧一一・一二・一三松村真澄録) |
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霊界物語 | 52_卯_小北山の文助の改心物語 | 15 千引岩 | 第一五章千引岩〔一三五一〕 文助は重た相な石が、土鼠が持つ様に、ムクムクと動くので、此奴ア不思議と立止り神言を奏上してゐると、一人は二十歳位な娘、一人は十八歳位な男が岩の下から現はれて来た。文助は何者ならむと身構へしてゐると、男女二人は文助の側へ馴々しくよつて来て、 二人『お父さま、能う来て下さいました。私は年子で厶います……私は平吉で厶います』 文助『私には、成程お年、平吉といふ二人の子はあつた。併しながら其子は、姉は三つの年に、弟は二つの年に死んだ筈だ。お前のやうな大きな子を持つた筈はない、ソラ大方人違だらう』 年子『私は三つの年に現界を去つて、あなたの側を離れ、霊界へ出て来ました。さうすると沢山な、お父さまに騙された人がやつて来て、彼奴は文助の娘だと睨みますので、居るにも居られず、行く所へも行けず、今日で十六年の間、此萱野ケ原で暮して来ました。そして毎日ここに隠れて、姉弟が住居をして居ります。霊界へ来てから、ここまで成人したのです』 文助『成程、さう聞けばどこともなしに女房に似た所もあり、私の記憶に残つてゐるやうだ。そしてお前等二人は永い間此処ばかりに居つたのか』 平吉『ハイ、姉さまと二人が木の実を取つたり、芋を掘つたり、いろいろとして、今日迄暮して来ました。人に見つけられようものなら、すぐに、お前の親は俺をチヨロまかして、こんな所へ落しよつたと云つて責めますから、それが苦しさに、永い間穴住居をして居ました』 と涙を滝の如くに流し、其場で姉弟は泣き伏して了つた。文助は手を組み、涙を流しながら思案にくれてゐると、後から文助の背を叩いて、 (竜助)『オイ文助』 といふ者がある。よくよく見れば、生前に見覚のある竜助であつた。文助は驚いて、 文助『イヤ、お前は竜助か、根つから年がよらぬぢやないか』 竜助『折角お前が生前に於ていろいろと結構な話をしてくれたが、併しながら其話はスツカリ霊界へ来て見ると、間違ひだらけで、サツパリ方角が分らぬやうになり、今日で十年の間、此原野に彷徨うてゐるのだ、これから先へ行くと、八衢の関所があるが、そこから追ひかへされて、かやうな所で面白からぬ生活をやつてゐるのだ。お前の為にどれだけ苦しんでゐる者があるか分つたものでないワ』 文助『誰もかれも、会ふ人毎に不足を聞かされ、たまつたものぢやない。ヤツパリ私の言ふ事は違うて居つたのかなア』 竜助『お前はウラナイ教を俺に教へてくれた先生だが、あの教は皆兇党界の神の言葉だつた。それ故妙な所へ落される所だつたが、産土の神様の御かげによつて、霊界の方へやつて貰うたのだ。併しながら生前に於て誠の神様に反き、兇党界ばかりを拝んだ罪が酬うて来て、智慧は眩み、力はおち、かやうな所に修業を致して居るのだ。お前の娘、息子だつてヤツパリお前の脱線した教を聞いてゐたものだから、俺達と同じやうに、こんな荒野ケ原に惨めな生活をしてゐるのだ。そして大勢の者にお前の子だからと云つて、憎まれてゐるのだ、俺はいつも二人が可愛相なので、大勢に隠れて、チヨコチヨコ喰物を持つて来たり、又淋しからうと思つて訪問してやるのだよ』 文助『あ、困つた事が出来たものだなア、今は改心して三五教に入つてゐるのだ。マ、其時は悪気でしたのでないから、マ、許して貰はな仕方がない、どうぞ皆さまに会つてお詫をしたいものだ』 竜助『三五教だつて、お前の慢心が強いから、肝腎の神様の教は伝はらず、ヤツパリお前の我ばかりで、人を導いて来たのだから、地獄道へ堕ちたのもあり、ここに迷うて居るのも沢山ある。なにほど尊い神の教でも、取次が間違つたならば、信者は迷はざるを得ないのだよ』 文助『何と難かしいものだなア。吾々宣伝使は一体何うしたらいいのだらうか、訳が分らぬやうになつて了つた』 竜助『何でもない事だよ、何事も皆神様の御蔭、神様の御神徳に仍つて人が助かり、自分も生き働き、人の上に立つて教へる事が出来るのだ。自分の力は一つも之に加はるのでないといふ事が合点が行けば、それでお前は立派な宣伝使だ。余り自分の力を頼つて慢心を致すと、助かるべき者も助からぬやうな事が出来するのだよ。是から先には沢山のお前に導かれた連中が苦しんでゐるから、其積りで行つたがよい。二人の娘、息子だつてお前の為に可愛相なものだ。筆先に「子に毒をのます」と書いてあるのは此事だ。合点がいつたか』 と、どこともなしに竜助の言葉は荘重になつて来た。文助は思はず神の言葉のやうに思はれてハツと首を下げ、感謝の涙にくれてゐる。忽ちあたりがクワツと明るくなつたと思へば、竜助は大火団となつて中空に舞ひのぼり、東の方面指して帰つて行く。之は文助の産土の神であつた。 産土の神はお年、平吉の二人を憐れみ、神務の余暇に此処へ現はれて、二人を助け給ひつつあつたのである。文助は始めて産土の神の御仁慈を悟り、地にひれ伏して涕泣感謝を稍久しうした。 文助は二人に向い、 文助『お前たち二人は、子供でもあり、まだ罪も作つてゐないから、ウラナイ教の御神徳で天国へ行つて居る者だとのみ思つてゐたのに、斯様な所で苦労してゐたとは気がつかなかつた。之も全く私の罪だ。どうぞ許してくれ、さぞさぞ苦労をしたであらうな』 お年『お父さま、あなたの吾々を思うて下さる御志は本当に有難う厶いますが、何と云つても、誠の神様の道に反き、兇党界の神に媚び諂ひ、日々罪を重ねてゐられるものですから、私たちの耳にも、現界の消息がチヨコチヨコ聞えて、其度毎に剣を呑むやうな心持で厶いました。今日も亦文助の導きで兇党界行があつたが、産土様のお蔭で霊界へ救はれたといふ噂を幾ら聞いたか分りませぬ。弟も余り恥かしいと云つて外へ出ず、又外へ出ても大勢の者に睨まれるのが辛さに狐のやうに、穴を掘つて、此岩の下に生活を続けて来ました。これだけ広い野原で、石なとなければ印がないので、産土様のお蔭で、此石を一つ運んで貰ひ、これを目当に暮してゐます。石といふものは、さやります黄泉大神と云つて、これさへあれば敵は襲来しませぬ。此岩のお蔭で、姉弟がやうやうとここまで成人したので厶います。お父さまも、一時も早く御改心を遊ばして、吾々を天国へ行くやうにして下さい』 文助『今までは、吾々が祝詞の力に仍つて天国へ救へるもの、又は導けるものと思うてゐたが大変な間違だつた。これは神様の御力に仍つて救はれるのだつた、今迄は自分の力で人を救うと思ひ、又人の病を自分の力で直すと思うたのが慢心だつたのだ。もう此上は神様に何事も任して、御指図を受ける外はない。ああ惟神霊幸倍坐世』 と親子三人は荒野ケ原に端坐して、一生懸命に祈願を凝らした。 因に石といふものは、真を現はすものである。そして、所在虚偽と罪悪と醜穢を裁断する所の神力の備はつたものである。神典古事記にも、黄泉平坂の上に千引の岩をおかれたのは、黄泉国の曲を裁断する為であつた。人間の屋敷の入口に大きな岩を立てて、門に代用するのも外来の悪魔を防ぐ為である。又家屋の周囲に延石を引きまはすのも、千引の岩の古事にならひ悪魔の襲来を防ぐ為である。築山を石を以て飾るのも神の真を現はす為であり、又悪魔の襲来を防ぐ為である。そして所在植物を庭園に栽培するのは愛を表徴したのである。人間の庭園は愛善の徳と信真の光を惟神的に現はした至聖所である。故に之を坪の内とも花園とも称するのである。天国の諸団体の有様は、すべて美はしき石を配置し、所在植物を植ゑつけられた庭園に類似したものである。それから石は砿物であり玉留魂である。故に神様の御霊を斎るのは所謂霊国の真相を現はすもので、月の大神の御神徳に相応するが故に、石の玉を以て御神体とするのである。これ故に霊国の神の御舎は皆石を以て造られ、天国は木を以て、其宮を造られてある。木は愛に相応し、太陽の熱に和合するが故である。大本の御神体が石であつたから、何でも無い神だと嘲笑してゐるそこらあたりの新聞記事などは、実に霊界の真理に到達せざる癲狂痴呆であつて、新聞記者自らの不明を表白してゐるものである。 ああ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・二・九旧一一・一二・二四松村真澄録) |
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霊界物語 | 54_巳_ビクの国の物語2(後継者問題) | 10 万亀柱 | 第一〇章万亀柱〔一三九六〕 カルナ姫は又歌ふ。 カルナ『朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも誠一つは世を救ふ 誠の神の御教を四方に伝ふる宣伝使 治国別の神司産土山の聖地より 珍の御伴を従へて下らせ給ひ天地の 清き教を宣らせつつ若君様の御結婚 とりなし給ひし有難さ天と地との息合せ 生れ出でたる人々は所謂神の子神の宮 生きては此世の神となり死しては護国の神となり 豊葦原の瑞穂国生ひ立ち栄ゆる人草を あつく守りて皇神の依さしのままに赤心を 尽すは人の務めぞと教へ給ひし有難さ 妾夫婦は謹みて神の御為国の為め 蒼生を守るため尊き神の御前に 朝な夕なに身を清め天の下をば平けく いと安らけく守りませ偏に願ひ奉ると 宣る言霊も空しからず若君様の御結婚 いよいよ無事に調ひて御国の栄えを松の花 緑の色もいや濃ゆく栄え栄えていつ迄も 果しも知らぬ喜びは全く神の御恵み 謹み感謝し奉るああ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 松彦は又歌ふ。 松彦『此処は名に負ふビクの国堅城鉄壁を繞らし 四方を見晴らす宮城百の国民見おろして 御空に高く輝ける月日の如く光をなげ 恵の雨を降らし国人を厚く守らせたまふ 音に名高き刹帝利万代不易のビクトリヤ王が家 いや益々も天地とむた永久に長からむ事を 神の御前に祈り奉る一度は黒雲に包まれて 音に名高き名城も遂に危く見えけるが 尊き神の御守りに醜の曲津は滅び失せ 今は全く風塵も留めぬ御代の目出度さよ 其目出度さにまた一つ喜びを重ね給ひたる アールの君の御結婚いとさやさやに運びまし 玉の緒琴の音も清く響き渡れる勇ましさ 此極みなき喜びは外へはやらじと心をこめて 松彦司が惟神神に祈りをかけまくも 畏き君の御前に祝ぎ仕へ奉る ビクトリヤの神殿が築き上りし暁は アールの君よハンナ姫手に手を取つて朝夕に かかさず詣で天が下四方の国民恙なく 君が政治を喜びて仕へまつるべく 祈らせたまへ治国別の師の君に 吾は従ひ近き中恋しき都を後にして 神の御為道のため聖地をさして進むべし ああ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 と歌ひ終り座についた。竜彦は又歌ふ。 竜彦『吾師の君に従ひて祠の森を離れつつ 曲神の猛ぶ山口の昼さへ暗き森を越え 野中の森や小北山後に眺めてすたすたと 浮木の森に来て見れば思ひも寄らぬ曲神の 深く企みし陥穽師の君様と諸共に 千尋の底へ転落し霊は忽ち身を脱けて 精霊界に彷徨ひつ尊き神の御指図に 霊国天国巡覧し又もや下りて八衢の 司の神とあれませる伊吹戸主にいろいろと 尊き道を教へられ再び此世に生き還り バラモン教のゼネラルと現はれ給ふ片彦や ランチの君を言向けて三五教の神力を 現はせまつり吾々は吾師の君と諸共に 荒野ケ原を打ち渡りライオン河を横ぎりて ビクトル山の麓まで進みて来る折もあれ 俄に聞ゆる鬨の声只事ならじと進みより よくよく見ればバラモンの鬼春別や久米彦が 一斉射撃の真最中見逃し往くも三五の 神の司の吾として如何ならむと思ひつつ 吾師の君と諸共に厳の言霊打ち出せば 豈図らむやバラモンの率ゆる軍に非ずして 右守の司の反逆と覚りし時の憎らしさ 吾等師弟は一斉に心を揃へ口揃へ 一目散に太祝詞涼しく宣りて言霊を 連続的に打ち出せば雲霞の如き大軍も 雲を霞と逃げ去りぬ斯かる所へヒルナ姫 カルナの姫の女武者神に守られかつかつと 栗毛の駒に跨りて反逆人の右守をば 縛して帰り給ひたる忠勇義烈の働きは 末代迄の鑑ぞと褒めそやさぬは無かりけり 刹帝利様の御前に吾等師弟は導かれ いろいろ雑多の待遇しに厚意を感謝し奉り 三五教の御教を完全に委曲に相伝へ 皇大神の御舎をビクトル山の頂上に 岩切り砕き土を掘り上つ岩根に搗きこらし 底つ岩根に搗き固め大宮柱太知りて 今は漸く九分通り竣工したるぞ嬉しけれ これに先立ち刹帝利ビクトリヤ王の御子とます 五男一女の行衛をば神の御告を蒙りて 照国岳の谷間に進みて迎へ奉り 長子の君と生れませる心やさしきアールさま 今日は目出たき結婚の式を挙げさせ給ひつつ 百の司は云ふも更吾々師弟も招かれて 目出度き席に列ねられ神の恵の大神酒を 与へられたる嬉しさよ元より酒豪の竜彦は 何より彼より酒が好きとは云ふものの三五の 教の道に仕ふ身は先づ第一に大酒を 謹まなくてはなりませぬ然るに今日は何となく 嬉し嬉しが重なりて廻る盃数重ね 思はず知らず酔ひつぶれいかい失礼したでせう 唯何事も神直日大直日にと見直して 許させたまへ刹帝利其外百の司達 御前に慎み詫びまつるああ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 万公は其尾についてヘベレケに酔うた儘、足もよろよろ謡ひ舞ふ。 万公(謡曲調)『ああ目出度し目出度しお目出たし、朝日は照るとも曇るとも、此結婚が恙なく、千秋万歳楽と、祝ひ納むる其上は、仮令天地は変るとも、何か恐れむ神の御恵み、ビクの国主の御威勢、空飛つ鳥も羽翼をゆるめて地に墜ち、草木も感じて自然の音楽を奏し、河の流れは鼓を打ち、君が幾世を祝すらむ。又三五の皇大神に仕へたる、吾師の君を初めとし、三人の伴人の中に於て、さる者ありと聞えたる、万世祝ふ亀の齢の万公が、此喜びを万世に、伝へむものと勇み立ち、手足も儘ならぬ程、酔ひつぶれたる重たき身を起し、命限りに祝ぎ奉る。鶴は千年の齢を保ち、亀は万年の寿命をつづく、鶴と亀との命は愚か、幾億万年の末迄も、ビクの御国は永久に、ビクトリヤ王家は、天地の続かむ限り、限りも知らず栄えませ。それにつけてもアールの君、新に迎へ給ひし后の宮のハンナ姫、いと睦まじくどこ迄も、陰と陽との息を合せ、天が下に妹と背の、清き鑑を示させ給へ。日は照る日は照る月は輝く、星は御空に永久に、光も褪せず月の国の大海原の底深く、契らせ給へ惟神、神の御前に謹みて、亀の齢の万公が、今日の寿末長ふ、幾千代迄も、祝ひ奉る』 と泥酔者に似ず、いと真面目に祝ひ納め元の座に着きぬ。此外、数多の司人の祝の歌はあれど、あまり管々しければ省略するなり。 アールの王子は理想の妻、ハンナを娶りしより、国の政治日に月に開けて国民悦服し、ビクトル山の神殿に祭りたる国治立尊、日の大神、月の大神、神素盞嗚大神を朝な夕なに国民一般が信仰をなし、各其業を楽しみ、ミロクの聖代を地上に現出する事となりぬ。ああ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・二・二一旧一・六於竜宮館加藤明子録) |
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霊界物語 | 54_巳_ビクの国の物語2(後継者問題) | 19 流調 | 第一九章流調〔一四〇五〕 治国別は謡ふ。 治国別(謡曲調)『久方の天の八重雲掻きわけて名さへ目出度きフサの国 ビクトル山の頂上の上つ岩根を搗きこらし 下つ岩根に搗固め礎固く敷き並べ 金銀瑪瑙瑠璃硨磲琥珀や玻璃に擬ふべき ライオン川の清き真砂を上つ岩根に敷き詰めて 大峡小峡の幹を切り本と末とは山口の 皇大神に献り置きて神の御稜威も三つ栗の 中つ幹を忌斧忌鋤もて心を籠めて削りたて 飛弾の工の業もあざやかに御代の光を現はす真木柱 つきたて木組も細やかに 天の御蔭日の御蔭と大屋根をしつらへ 桧の皮のいと厚く葺きつめ給ひしこの社 高天原の天国の皇大神の御舎を 天津風時津風吹き捲るまにまに茲に現世の 国の守りと定めつつ霊国にありては月の大神と現はれまし 天国にありては日の大神と現れませる大国常立の大神の 珍の御舎つかへまつり国王の君を初めとし后の宮や 世継の御子左守右守の宮司をはじめ 百の司も悦びて今日の御祭祝ぎ奉り 天津御空の極みなく底つ岩根の果てもなく 澄み渡りたる大空や紫の浪漂ふ大海原の如くいや高く いや深き大御恵を喜びて治国別を初めとし 三五教の神司今日の喜び永久に 神の賜ひし村肝の心に銘じ忘れまじ ああ斯る目出度き聖代に扇の御代の末広く 国の要と現れませる神に等しき聖の君 五風十雨の序よく山河は清くさやけく 百の種物はよく実り万民鼓腹撃壤の 至幸至楽の境涯を全く神と国王の御徳と 仰ぎ奉らむ今日の御典の尊さよ朝日は照るとも曇るとも 大空渡る月影は或は盈ち或は虧くるとも 金砂銀砂を布きつめし天の河原の星の数 浜の真砂の数多き蒼生の身の上を 恵ませ給へ皇大神ミロクの御代を来たさむと 朝な夕なに仕へたる闇夜も清く治国別の 神の使常磐の松の松彦や 世は永久に竜彦の司の悦びは云ふも更 亀の齢の万公が今日の盛典を心より 歓ぎ喜び祝ぎ奉るああ惟神々々 御霊の恩頼を祈り奉る御霊の恩頼を祈り奉る』 と謡ひ終り元の座についた。タルマンは前ウラル教の宣伝使たりしが、此度治国別の弟子となり、三五教の御教や儀式を教へられ、宮司となつて長く仕へ、王家を初め国家の安泰を祈るべき職掌となつた。タルマンは宮司として祝意を表すべく立ち上り謡ひ始めた。 タルマン(謡曲調)『赤玉は緒冴へ光れど白玉の君がよそひし尊くもあるかな 抑もビクの国は天地開闢の初めより ビクトリヤ家の遠つ御祖国の国王と現はれまして 上は神を崇め奉り下万民を慈み 五日の風や十日の雨もほどほどに与へられ 御国は栄え民はとみ天国浄土の有様を いや永久に伝へたる珍の御国も時ありて 曲の醜風吹き荒び千代の住所と定めたる ビクトリヤの城も既に傾かむとする所へ 天の八重雲掻きわけて天降りましたる神司 此世の闇をすくすくに治国別の神人を 初め三人の神司下り給ひし尊さよ タルマン司は云ふも更国王の君も后の宮も 左守右守の宮司も迷ひの雲を吹き払ひ 御空に輝く日月の光に擬ふ三五の 教の道に照らされて誠の道をよく悟り 愛善の徳に住し信真の光を浴び ビクトル山の下つ岩根に大宮柱太しき建てて 皇大神を斎ひまつり天下泰平国土成就 万民安堵の祈願を凝らし賤しき身をも顧みず 吾師の君や国王の君の任けのまにまに おほけなくも此玉の宮の神司と仕へ奉り 朝な夕なに身を清め汚れを避けて只管に 誠を尽すタルマンが心を諾ひ給へかし 天津御空の日影は或は照り或は雲り 月は盈ち或は虧くる夜ありとも誠一つの三五の 神の教を力としライオン川の水永久に 絶ゆる事なく涸るる事なき赤心のあらむ限りは 骨を砕き身を粉にし神の御為君の為め 御国の為に尽すべしああ畏くも此世をば 統べ守り給ふ大国常立の大神を初め奉り 天地八百万の大神従ひ給ふ百神達の御前に 謹み敬ひ願ぎ奉るああ惟神々々 御霊幸倍ましませよ御霊幸倍ましませよ』 松彦は又歌ふ。 松彦『千代万代も色かへぬ常磐の松の松彦が いや永久のビクの国いや永久にいつ迄も 栄えませよと大神の御前にひれ伏し朝夕に 赤心籠めて祈りしが皇大神は速に 吾等が願を聞召し百日百夜の其中に かく麗しき御舎を造らせ給ひし嬉しさよ 抑ビクの神国は神の守りのいや厚く 恵み給ひし国なればビクトル山の岩のごと いや永久に動くまじ斯かる目出度き神国の 国王の君は三五の教を悟り給ひてゆ いよいよ国は盤石の礎清く固まりて 松の緑の青々と果てしも知らず栄ゆべし 抑此国は四方の山見渡す限り松林 木々の木の間にちらちらと見ゆるは樫の大木か 但しは樟の霊木か千代に八千代にかたらかに 命も長く朽もせず枯るるためしもなき霊樹 これに因みてビクの国ビクとも動かぬ瑞祥と 遥に四方を打ちながめ心に浮かみし其儘を 茲に写して惟神神の宮居の御祭りを 祝ぎつかへ奉るああ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 左守は老躯を起して嬉しげに歌ふ。 左守『ああ有難し有難し神の恵は目の当り 傾きかけしビクの城立直します神の息 三五教を守ります厳の御霊や瑞御霊 皇大神は云ふも更斎苑の館を後にして 天降りましたる神司治国別の一行が 鳩の如くに下りまし吾大君を初めとし 百の司や国人の難みを救ひ給ひたる 大御恵はいつの世かいかで忘れむ大空の 限りも知らぬ星のかげ忽ちおつる事あるも 浜の真砂の尽くるとも誠の神の御恵は いや永久に忘れまじ抑国を治むるは まづ第一に天地の尊き神を寿ぎ奉り 神の教に従ひて下国民に相臨み 国の司と現れませる模範を示し詳細に 民の心をやはらげて世を永久に治むべき 誠の道を悟りけり左守の司も今迄は 霊の光暗くして心を政治に焦ちつつ 現世に心傾けて元つ御祖の神様を 次になしたる愚さよ知らず知らずに神の前 幾多の罪を重ねたる吾をも懲めたまはずに 広き心に見直して許させ給ふのみならず 左守の司の職掌を元の如くにおほせられ いと重大な任務をば任けさせ給ひし有難さ お礼の言葉は尽されずいざこれよりはキユービツトも 心を研き身を清め先づ第一に大神を 祈り奉りて君の為めいと麗しき政治 助けまつらむ吾心諾ひ給へ惟神 御前に謹み願ぎまつる』 と歌ひ座についた。右守のエクスは又歌ふ。 エクス『ビクの御国の刹帝利ビクトリヤ王の重臣と 仕へまつりし右守司エクスは茲に謹みて 皇大神の御高恩治国別の御恵 畏み畏み赤心を捧げて感謝し奉る 此世を造りし神直日心も広き大直日 ただ何事も人の世は直日に見直せ聞直せ 身の過ちは宣り直せかくも尊き御教を 授けられたる上からは孫子の代に至るまで 畏れ慎み三五の誠の教を遵奉し 右守の司の職掌を一心不乱に相守り 神と君との御為に心の限り尽すべし ああ惟神々々一度は醜の魔軍の バラモン軍に囲まれて社稷危く見えけるが 仁慈無限の大神は仁徳高き吾君の 其窮状を憐みて救はせ給ひし有難さ 唯何事も世の中は神の御旨に従ひて 如何なる小さき事とても決して我意を主張せず 神のまにまに行へばキタリキタリと恙なく 箱さすやうに行くものと初めて覚りし神の道 ああ惟神々々皇大神よ永久に 此聖代を守りまし御国を栄え給へかし ああ惟神々々神の御前に願ぎまつる』 と歌ひ終り悠然として座についた。 (大正一二・二・二三旧一・八於竜宮館加藤明子録) |
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霊界物語 | 55_午_ビクの国の物語3(玉木の里) | 序文 | 序文 (明)けく治まる御代の三十一年春は如月の九日天教山に鎮座したまふ木花姫命の神使斯世を (治)めむと神々の協議の結果をもたらし坐丹波の国曽我部の村に牛飼ふ牧童の辛未の年生れ (三)ツの御魂に因縁ある三葉彦命の再生なる神柱に三千世界の修理固成の神業の先駆を命じ (十)字架を負はしめたまひしより今年大正の十二年正月十八日まで満二十五年間出口王仁は (一)心不乱に神国成就のために舎身的活動を続けて宇宙万有一切の為に心身を焦がし奉り十 (年)一日の如く三千世界の諸天人民に至上の心を持せしめ神の御国に安住せしめむと妙法真 (如)の光明を顕彰し暗黒社会を照破すべく変性男子の精霊と倶に綾の聖場地の高天原に現れ (月)光菩薩の神業に心事し家を捨て欲を棄てて神の僕となり微妙真心を発こし一向に我神国 (九)山八海の諸神を念願し諸の功徳を修して高天原に万人を救はむことを希ふ大国常立大神 (日)の大神月の大神は神を愛し神を理解し信真の徳に充たされたる者を天界に救ふべく最と (高)き神人を率ゐて霊肉脱離の際に来迎し直ちに宝座の前に導きて七宝の花の台に成道し虎 (熊)狼などの悪獣をも恐れざる不退転の地位に住して智慧勇猛神通自在ならしめ玉ふ噫天教 (山)に現はれたまふ木花姫の無上の神心に神習ひ大功徳を修行して顕幽両界の神柱となり人 (の)人たる本分を尽さしめ玉ふ伊都の御魂の大御心の有難さ瑞月は多年の間千難万苦を排し (修)行の効を了え漸く神界より赦されて爰に謹み畏こみ三世一貫の物語を口述するを得たり (行)して神使となること能はずとも当に無上の神心を発し一向に天地の大祖神を祈願し真心 (よ)り可成的善行を修して斎戒を奉持し神の聖社を建立するの一端に仕え神使に飲食を心よ (り)供養し神号輻を祀り灯火を献じ祝詞を奏上し神の御前に拝跪せば天界に生れしめ玉はむ (今)生は云ふも更なり来世に到りて智慧証覚を全ふし愛善の徳に住して身に光明を放射し兆 (年)の久しき第二の天国に安住し得べし又十方世界の諸天人民にして至心ありて天国浄土に (大)往生を遂げむと欲するものは譬え諸の功徳を成す能はずと雖も常にこの物語を信じ無上 (正)覚を得て一向に厳瑞二神を一意専念せば神徳いつとなく身に具足して現幽両界共に完全 (十)足の生涯を楽み送ることを得べしこの深遠なる教理を真解して歓喜し信楽して疑惑せず (二)心を断ち一向に神教と神助を信じ至誠一貫以て天国に復活せむ事を願ふ時は臨終に際し (正)に夢の如くに厳瑞二神即ち日月の神を見たてまつりて至美至楽の第三天国に復活すべし (月)神の信真によりて智慧証覚の光明を受くること第二即ち中間天国の天人の如くなるべし (十)方世界の無量無辺不可思議の聖徳を具有する諸神諸仏如来宣伝天使は大国常立大神の徳 (八)荒に輝き給ふを称讃して其の出現聖場たる蓮華台上に集り給ひ無量無数の菩薩や衆生は (日)月の光を仰ぎ奉りてここに往詣して洪大無辺の神徳に浴し克く恭敬礼拝し供物を献じた (ま)ひて神慮を慰め且つ五六七神政の胎蔵経たる経緯の神諭と聖なる霊界物語を歓喜聴受し (て)顕幽二界の消息に通じ天下の蒼生に至上の神理を宣布し東西南北四維上下を光輝し月光 (満)ちて一切の神人各自に天界の妙華と宝香と無価の神衣とを以て無量の証覚を供養し顕幽 (二)大世界は咸然として天楽を奏し和雅の音を暢発し最勝最妙と大神柱を謳歎し神徳を覚り (十)方無碍の神通力と智慧とを究達して深法界の門に遊入し功徳蔵を具足して妙智等倫無く (五)逆消滅して慧日世間を照らし生死の雲を消除し給ふべし嗚呼惟神の霊光天に輝く月と日 (星)の如くにして荘厳清浄の天国を現じたまふ霊主体従の至上心を発揮し神に奉仕する時は (霜)雪の寒気も忽ち変じて春陽の生気と化し三界一時に容を動かして欣笑の声を発し無限光 (を)出して十方世界を照らさせ玉ふ霊光を以て身を囲繞せしめ円相を具し天人と倶に踊躍し (経)緯の神人に由つて大歓喜の心境に遊入すべし若し人にして善徳なき時は此の神啓の神書 (た)るを覚らず且つ理解し得ざるべし清浄無垢にして小児の如き心境に在る者にして根本よ (り)其真実味を聞くことを獲べし驕慢と悪しき弊と懈怠とは容易く神示に成り就たる是の (霊)語神声を信ずる事能はざるべし心身清浄にして能く神を信じ克く神に仕え神を愛し精霊 (界)の諸消息を探知したるものは歓喜雀躍してこの神言霊教を聴聞し聖心を極めて一切の事 (物)を開導するに至るべし神界の主神たる大国常立大神の愛善の徳と信真の光明は弥広く言 (語)の尽し得る所にあらず二乗の測知し得る限りにあらず只大神自身のみ独り明瞭にこの間 (の)経緯真相を知悉したまふ而已たとへ一切の人にして智慧証覚を具備して道を悟りこれを (口)に手に現はさむと欲するも又本空の真理を知り万億劫の神智を有する共到底これを口に (述)ぶること能はざる可し神の智慧と証覚には辺際なく絶対なりアア愚眛頑固なる人間智を (開)きて最奥第一の天界は云ふも更なりせめて第三の下層天界の消息を覚らしめ無限絶対無 (始)無終の神徳に浴せしめむとする吾人の苦衷何時の世にかこの目的を達し得むや口述開始 (よ)り既に十五ケ月未だ神諭に目覚めたる人士の極めて少数にして偶々信ずる者あるも元よ (り)上根の人にあらざれば僅かにその門口に達したる迄の状態にありアア如何にせむ神将三 (十)三相を具備し玉へる観世音菩薩最勝妙如来の道化の妙法瑞の御魂の千変万化の大活動三 (五)教の大本五六七の仁慈に浴して各自にその智慧を充たせ深く神諭の深奥に分け入りて箇 (箇)の神性を照し神理の妙要を究暢し神通無礙の境地に入りて諸根を明利ならしめたまへと (月)光如来の聖前に拝跪して鈍根劣機の男女をして神意を識らしめ五濁悪世に生じて常に執 (着)の妖雲に包まれ苦しめる蒼生をして清く正しく理解するの神力を与え金剛法身を清め両 (手)に日月の光を握らせ玉え鈍根劣機痴愚の生涯を送りつつある神の僕の瑞月が謹み畏こみ (日)に夜に真心を捧げて天下万民のために大前に祈願し奉る三五教の聖場五六七の大神殿に (数)多の聖教徒日夜に参集して道教を宣伝し妙法を演暢したまふ神使の言に歓喜し心解し得 (は)四方より自然に神風起りて普く松柏の宝樹を吹き鳴らし五大父音の神声を出して天下無 (二)の妙華を降らし風に随つて宇内を周遍し天の岩戸開きの神業は易々として天地主宰神八 (百)万の神と倶に宇都の神業は大成され神示の許になれる是の神書霊界物語を著はしたる連 (日)の辛苦も稍々その光明を輝かし得るに至る可し大聖五六七の神霊地上に降臨して宇宙間 (に)羅列棊布せる一切万有を済度し玉ふその仁慈は大海の如く慧光また明浄にして日月の如 (し)清白の神法具足して円満豊備せること天教山の如く諸の神徳を照らし玉ふこと等一にし (て)浄きこと大地の如し浄穢好悪等の異心なきが故に猶ほ清浄なる泉の如く塵労もろもろの (五)逆十悪を洗除し玉ふが故に猶ほ火王の如く一切煩悩の薪を焼滅し玉ふこと猶大風の如く (十)方世界を行くに障礙なきが故に猶ほ虚空の如く一切の有に於て執着無きが故に蓮の如く (五)濁の汚染なく真に月の皎々として蒼天に輝くが如し之れ月の大神の真相にして霊界物語 (編)述する時の吾人の心境なりアア何時迄も志勇精進にして心神退弱せず世の灯明となり暗 (を)照らし常に導師となりて愛善の徳に住し正しきに処して万民を安んじ三垢の障りを滅し (終)身三界のために大活躍せしめ玉ひて口述者を始め筆録者の真心を永遠に輝かし玉へと祈 (る)も嬉し五十五編の霊界物語茲に慎み畏み神助天祐の厚きを感謝し奉るアア惟神霊幸坐世 大正十二年三月五日旧正月十八日 |
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霊界物語 | 55_午_ビクの国の物語3(玉木の里) | 06 洗濯使 | 第六章洗濯使〔一四一四〕 治国別の居間へはフエル、アヅモスの両人が膳部を運び、叮嚀に辞儀をし乍ら、フエルの方は慄うてゐる。フエルは三五教の宣伝使とアヅモスに聞いたので、俄に恐ろしくなつたのである。併し乍ら治国別、松彦、竜彦は一面識もないので、此家の下男とのみ考へてゐた。フエルは鬼春別以下三人の姿を見て、様子は分らず、不思議相に俯いたまま横目で四人の顔を見比べてゐた。エミシは早くもフエルの姿を見て、 エミシ『オオお前はフエルぢやないか。何うして此処へ来たのだ』 フエル『貴方はカーネル様で厶いましたか、能うマア……何うしてお出でになりました。私は貴方の命令に仍つて、シメジ峠に三五教の宣伝使の閉塞隊を勤めて居る矢先、道晴別宣伝使に霊縛をかけられ、当家の庫に放り込まれ、ヤツと今朝ここの若主人に解放され、炊事や掃除の役を仰せ付けられて居ります』 エミシ『お前一人か』 フエル『イエ、ベツトと二人で厶います。ベツトも私と同様に早朝から大活動をやつて居ります』 エミシは鬼春別を指ざし、 エミシ『オイ、此お方を知つてゐるか』 フエル『ハイ、ゼネラル様ぢや厶いませぬか、どうしてマア三五教の宣伝使と、かやうな所へお出になりました。又霊縛にかかつてぢや厶いませぬか』 鬼春『アハハハ、治国別様の霊縛にかけられ、たうとうゼネラルを棒にふつて、今日は三五教の一兵士となつたのだよ』 フエル『思ひきやゼネラル様が此家に お越しあるとは夢にも知らず。 夢の世に夢を見るてふ人の世は はかなきものと今や悟りぬ』 鬼春別『三五の神の光に照されて 暗は晴れけり心の闇も』 治国別『テームスの珍の館に落合ひて 神の恵を味はふ今日かな』 アヅモス『客人よいと平けく聞召せ 万公別が献立の味を』 竜彦『万公の姿見えぬと思ひしに 早飯焚となりにけるかな』 松彦は飯の少しく色の変つたのを見て、 松彦『此飯は何とはなしに色づきぬ 灰カラ女のたきしものにや』 アヅモス『色付きし万公別の献立と 思へば何の不思議かはある。 さり乍ら直日に見直し聞直し 今日一朝は忍ばせ玉へ』 松彦『何となくゲヂゲヂゲヂと歯はきしり 砂を噛むよな飯の味かな』 竜彦『万公が主人気取となりよつて 灰カラ飯を炊しなるらむ』 治国別は、 治国別『皆さま、頂戴致しませう。お先へ御免』 と云ひ乍ら、一口口に含んで目を白黒し、吐き出す訳にも行かず、涙を流し乍らグツと呑み込んで了つた。白い飯の上に所々灰が黒く塊つてゐた。 治国別『黒胡麻のふりかけ飯と思ひきや 目も白黒と麦粟をふく』 松彦『麦飯の色にもまがふ灰飯に 黍悪相に粟を吹くかな』 竜彦『オイ番頭さま、偶々のお客さまに、こんな飯を食はすといふ事があるか、余りヒドイぢやないか』 アヅモス『ハイ、万公別の若旦那が御指図で、お炊になつたので厶いますから、何卒今朝丈は御辛抱下さいませ。それはそれは炊事場は偉い灰埃で厶いました。飯の奴、鍋山が噴火して灰を降らし、そこら一面灰の山となりましたので、知らず知らずの間に厚い鍋蓋を潜つて、灰が浸入したので厶いませう。何なら鬼春別さま、久米彦さまにあがつて頂きまして、お腹がすきませうが、暫く待つてゐて下さいませ。更めておいしい御飯を炊いて参りますから……』 治国『イヤ、誰だつて同じ事だ。併し乍ら折角の志、無にするのも済まないから一度之をスツカリ清水に洗つて日に乾かし、お茶漬にしてよばれませう。サ、お膳を引いて下さい。誰だつて此御飯許りは勿体ない事乍ら喉へは通りませぬから……』 アヅモス『左様ならば一先づ膳をひきませう 待たせ玉へよ暫くの間。 フエルさまお前も共に炊事場へ 急ぎ御飯を炊いてくるのよ』 フエル『炊き様に依つてお米はフエルさまだ サア是からが一生懸命。 生命の綱と聞えし此飯を 灰にまぶせし吾れはハイカラ。 万公別主人の君と諸共に 腕に撚かけむし返しみむ』 と云ひ乍ら、アヅモス、フエルの両人は急いで膳部を片付け、幾度も謝罪し乍ら、炊事場に引返して来た。見れば万公はお民をつかまへて、一生懸命に指図をしてゐる。 万公『オイお民、火消壺の蓋は何時もキチンと出来てるか、底の方に火がまわりはせぬかと能く気をつけるのだぞ。コンロの下の灰を一遍々々捨てる事を忘れるな。井戸の水はどんなとこへ使へば危険でないか。煮物、炊物、沸かして呑む水等の外、決して生水は呑んでは可かぬぞ。此頃は梅雨だから、水に塩気があつて、妙な黴菌が生いてゐるから充分に沸らして、水が呑みたけりや冷して呑め、生水を使ふのは手洗水か雑巾水より外にはならぬぞ』 お民『流しを洗うたり、食器類や爼板を洗ふのは何うしたら可いのですか。ヤツパリ之も湯を沸かすのですか』 万公『エー、そんな事迄指図せなくちや分らぬのかナ、其奴ア水で辛抱するのだ。そして水壺に何時も水を用意して、非常の時の用意に備へておくのだ。そして毎日新しい水と取かへるのだぞ。柄杓などを水の中へつけておくと、水の味もかわるし、杓もホトびて損むから、一遍々々外へ出して乾かしておくのだよ。そして井戸は使つたあとは蓋をしておくのだ。釣瓶縄の新しいのを使う時は、ようスゴいて使はないと、クロロを脱線するから気をつけよ』 お民『贋旦那さま、指図計りして居らずと、貴方も一つ手伝うて下さいナ。ここは井戸ぢやありませぬよ。水道の水を使つて居るのですよ』 万公『水道でも井戸でも同じ事だ。痳病やみが小便をたれるやうに、いつもジヨウジヨウと洩しておいては公徳上すまないから、水道の栓は、使つたら固く締めておくのだ。そして朝水道の水はバケツに一杯丈は使水とし、余りは滌ぎ水にして外へ利用するのだ。お水を粗末にすると、月の大神さまの神罰が当るぞ』 お民『ハイハイ。能うゴテゴテと構ふ人ですな。そんな事位知らいで、大家の下女が勤まりますか』 万公『コリヤ主人に口答するといふ事があるか。何だ灰だらけの飯を炊やがつて、おまけに火のいつた黒い黒い飯を沢山拵へたぢやないか』 お民『あんたが出て来て喧ましう差出なさるものだから、つい気を取られてお前さまの顔計り見て居つたら、焦げついたのですよ』 万公『ヘヘヘヘ、気を取られて俺の顔計りみとつたといふのか、其奴ア駄目だ。諦めたがよからう、下女を女房にする訳にも行かず、又汝の赤い頬ぺたでは、如何に物食ひのよい万公別でも、一寸は三舎を避けるからのう』 お民『ホツホホホ、誰が主人だつて、貴方の様なお顔に惚ますか。余り奇妙な顔だと思つて、気を取られてゐたのですよ。モウ可いかげん彼方へ行つて下さいな』 万公『今日はどうやら日和もよささうだから、お客さまの着物が大分汗じゆんでゐる。着替を出して着て貰つて、其お装束を洗濯するのだな』 お民『ハイハイ飯を焚かねばならず、洗濯もせにやならず、本当に忙しい事だ。私はここへ飯焚き女に雇はれて来たのだから、洗濯は約束以外ですワ、洗濯さすのなら二人前の給料をくれますか。お前さまは俄主人だから私の約束を知らぬのだらう。庭掃きとも座敷の掃除番とも云つて、雇はれて来たのぢや厶りませぬよ』 万公『下女と云ふ者は家の内一切を構ふものだ。飯焚きといへば一切の事が含んでをるのだ。融通の利かぬ奴だなア』 お民『そんなこた分つてをりますよ。併し余り融通を利かすと、忙しい計りで身体が疲れて損ですワ。目のない主人に使はれて居つては、何程骨を折つても椽の下の舞だから、マアやめておきませうかい。お前さま若主人だなんて、勝手にきめてるのだらう、そんなこたチヤンとお民の目に映つてをりますよ。宣伝使の褌持ぢやありませぬか、オホホホホ、チツと何うかしてますねえ』 万公『エー、お上の事が下に分るものかい。サア是から洗濯だ。洗濯の仕方は分つとるかなア』 お民『洗濯と云つたら、河へ持つて行つて、浅瀬に石を一々乗せて、漬けておけば可いのでせう。そして十日程して行けば自然に垢が除れてますワ。万公さま、ここに古い褌や湯巻の古手が沢山つつ込んであるから、お前さま抱えて猪倉川迄持つて来て下さらぬか』 万公『馬鹿云ふな、主人候補者の俺に向つて、チツと失礼ぢやないか。ここの背戸口で盥に水や湯を汲んでバサバサとやれば可いのだ。きめの粗い水だとみた時は、始めに曹達を能く溶かして使へばキツト美しうおちる、さうすると石鹸と時間とが経済になる。そして滌ぎ水は奇麗に濁らなくなる迄何遍も変へないといふと、生地が早くいたむぞ。そして水で洗うて可いものと、湯で洗うて可いものとある。それを第一心得ておかないと洗濯婆にはなれぬぞ。俺は世界の人民の霊を洗濯する三五教の洗濯使だ。併し乍ら今日は譲歩して、汝に衣類の洗濯方法を教てやるのだから、能く忘れぬやうに覚えておけ。洗方に注意せないと、折角の結構な衣類が台無しになつて了ふものだ。絹物や毛織物や色物は熱い湯につけて洗うと駄目だ。又毛織物は冷たい水に漬けても悪い。そして絹物、毛織物、麻織物は強く揉んでは駄目だぞ。曹達(灰汁)や悪い石鹸で、絹物はキツと洗つてはならない、色物は猶更だ。そして色物は皆陰干にせなくては、日向に出したら皆色が褪せて了ふ。干す時は竿か縄を通して、木から木へ掛けておくのだ。白い物を色物の竿にかけると、色がついて台なしになつて了ふぞ。あああ宣伝使も何から何迄知つてをらねば勤まらぬ、本当に難しい職掌だなア』 お民『ハハア、さうするとお前さまは若い時から洗濯屋の番頭をして居つたのだなア。男の癖にそんな事を知つて居るものは、首陀の内だつてありませぬワ。モウ余り喋りなさるな、お里が見えると、折角の縁談もフイになりますよ。ホツホホホホ』 万公『馬鹿云ふな、女子大学家政科の卒業生だ。それだから何もかも知つてるのだ』 お民『ホホホホ、女子大学へ男が行くのですか。さうするとお前さまは男の腐つた女の屑だな。道理でクヅクヅ云うと思つてゐた』 万公『女は口を慎むが第一だ。男子に抗弁するといふ事が何処にあるか、らしうせよといふ言を知つてゐるか』 お民『其位のこた、とうの昔に御存じのお民ですよ。主人は主人らしう、奴は奴らしう、下女は下女らしう、宣伝使は宣伝使らしう、居候は居候らしうせよと云ふ事でせうがな。お前さまも若主人なら、なぜ若主人らしうせぬのだい。私が一寸考へてみると、お前さまは、馬鹿らしう、ケレ又らしう、自惚男らしう、腰抜らしう、デレ助らしう、雲雀らしう、九官鳥らしう、まだも違うたら鸚鵡らしうみえますよ、ホツホホホホ』 かかる所へアヅモス、フエルの両人はツマらぬ顔をして、入り来り、 アヅモス『オイ、お民、何といふ飯を炊きやがるのだ。偶々のお客さまに灰飯を食はしやがつて、マ一遍炊き直さぬかい。サ、早う、何をグズグズしてゐるのだ。ハハア此お客さまにうつつをぬかしやがつて、飯の焦たのも知らず、灰の這入つたのも気がつかなかつたのだなア』 お民『モシ二の番頭さま、此人、どつかへ伴れて行つて下さい、蕪から大根菜種のはしに至る迄ゴテゴテ云つて構ふのですもの、骨折つて炊事も出来やしませぬワ』 アヅモス『ヤア貴方は夜前のお客様、何卒奥へお入り下さいませ。先生が御待ち兼で厶います』 万公『ウン、お前が番頭のアヅモスだなア。スガールやシーナが病気で伏せつて居るので、お前も忙しい事だらう。併し乍らここ二三日辛抱してくれ、其代りに褒美は又此若主人がドツサリ使はすから』 アヅモス『ヘーエ、妙ですな。貴方何時の間にここの主人になられましたか』 万公『遠き神代の昔から、霊の因縁でここの主人ときまつて居るのだ。俺は今の主人の父親のテームスの生れ変りだぞ』 アヅモス『ヘーエ、貴方のお年は、一寸見た所で四十近いぢやありませぬか、御主人のお父さまは亡くなつてから、まだ五六年よりなりませぬがな』 万公『其モ一つ親だ、親と云つたら先祖をすべて親といふのだ。それで遠津御祖代々の親等と祝詞にもいうてあるぢやないか。祖父さまだの、曾祖父さまだのと、人間は云ふか知らぬが、神の方では一口に親と云へば、それで可いのだ。ゴテゴテ言はずに、お民に飯の炊方から洗濯の方法まで教へてあるから、能く聞いて早く膳部を拵へ、珍客さまを待遇すやうに致さぬか』 アヅモス『モシ、若旦那の候補生様、之から吾々が骨を折つて御飯を拵へますから、何卒治国別さまのお居間へいつて、暫くお客さまの待遇をして居つて下さいませぬか』 万公『主人が番頭の言ひ付を聞く法はないけれ共、暫く折角のお客様だから、主人が出ないのも却て失礼になる、そんなら能く気をつけて万事抜目のないやうにやつてくれ。……お民、汝も、今度は性念入れて飯を焚くのだぞ』 と言ひ捨て、広い家を迷ひさがし乍ら、漸くにして治国別一行の陣取つてゐる庭園内の建物を見つけて走り行く。 (大正一二・三・三旧一・一六於竜宮館松村真澄録) |
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霊界物語 | 56_未_テルモン山の神館1 | 09 我執 | 第九章我執〔一四三九〕 求道居士が息をこめて吹き立てた法螺貝の音にベル、ヘル、ケリナの三人は此場より煙の如く姿を消した。求道居士の影もいつしか消えて幽かに法螺の音が遠く聞えてゐる。高姫はシャル、六造の二人に向ひ、 高姫『コレ、シャル、六造の両人、何と高姫の神力は偉いものだらうがなア。余り我が強いに仍つて、義理天上様が勘忍袋をお切らし遊ばし、ホンの一寸お睨み遊ばすと共に、あの法螺吹もベル、ヘルの両人もハイカラ女も、皆一度に煙散霧消跡型もなくなりにけり……といふ悲惨な有様だ。之を見て改心をしなされ。六さんは又唖か何かのやうに一言もいはずに、今迄どこに居つたのだえ』 六造『ヘー、余り法螺の貝が恐ろしいので、一寸厠の中へ隠居して居りました。随分強い奴がやつて来た者ですな。それにしてもベルの奴、私をライオン川に放り込みやがつた天罰で煙の如く消えて了つたのは小気味のよいこつて厶います。之も全く高姫様の御神力の致す所と、有難く感謝を致して居ります』 高姫『それだから神に凭れてさへ居りたら神が仇を討つてやらうと仰有るのだ。今迄のヤンチヤをスツカリ改良して、何事も此生宮の申す通りにするが可いぞや』 六造『ハイ、何でも致しますが、併し何だか気分が悪くなつて来ました。一杯おごつて貰いませぬと、元気が付きませぬワ』 高姫『エーエ付け上りのした、お前はそれだから可かぬのだ。お前の仇をあの通り消滅さしてやり、結構な教を聞かして居るのに、一杯呑ませなんて、何と云ふ厚かましい事を云ふのだいなア』 六造『イエ私は酒を呑ましてくれと云つたのぢや厶いませぬ。お前さまの持つて居る出刃を懐に呑まして欲しいと云つたのです。どうか一口頂く訳には行きませぬかな』 高姫『ならんならん、出刃のやうな兇器を持つて、何うする積だい、又出刃亀にでもなる積だらう』 六造『イエ、出刃亀ぢやありませぬ、出刃六になる考へです。之を以て風呂屋の障子を四角に切り、三助やおさんの活動を覗く考へです。三助とおさんと寄れば六でせう。そこへ六さんが這入ると六六三で十五夜の満月になりませうがな。お前さまは最前も小声で唄つてゐたでせう……十五夜に片割月があるものか、雲に隠れてここに半分……と聞きましたよ。十五夜の片割月は余り目出度くありませぬから、私が之から出刃六となり、三五の月となりて第一霊国へ上り、月の大神様に、お前さまの今の有様を報告せうと思つてゐるのだ。どうです、名案でせう』 高姫『明暗も顕幽もあるものか、お前の霊は暗の暗だ。それだから暗本丹と人に云はれるのだよ。六でなしだから、名迄六造だ。どうで月の国へ行けるやうな代物ぢやない。六道の辻代物だ。イヒヒヒヒ』 六造『コリヤ高、俺を何方と心得てるンでえ、エエン。今迄は法螺つ吹先生が来よつたので、俺も聊か面喰つてすつ込んでゐたのだが、モウ斯うなりや〆たものだ。誰憚る者もなし、婆の一匹や二匹は俺の自由自在だ。サア有金をスツパリ渡すか、さなくば、衣類一切をここへつん出して、あやまるか、どうだ。汝の槍は俺が、実の所はボキボキに折つといたのだ。ゴテゴテ申すと命がないぞ』 高姫『コレ、シャル、お前は私の家来ぢやないか、何をグヅグヅしてゐるのだい。サ、此出刃を貸すから、負ず劣らず、此奴に対抗して取つつめてやりなさい。善を助け悪を懲すは神の道だ。こんな者が世の中にウヨウヨしてゐると、世界にどれ丈害を流すか分らない。サア、之を確り握つて強圧的に出るのだよ』 シャル『高姫さま、チツト夫れは自愛ぢやありませぬか、私は何だか地獄の行り方のやうに思へてなりませぬがな、威喝や憤怒や復讐などは、神の国には影さへもないぢやありませぬか』 高姫『エーエ、気の利かぬ男だな、正当防衛といふ事を知つてゐるかい。何程誠の道だと云つても、ジツとして居つたら、此高姫の生宮がどんな目に合はされまいものでもない。此生宮は大神様の大切なお道具だから、それを守護するのはお前の役目だ。サアお前の手柄を現はす時だ。かういふものの此高姫は、六のやうな者が千匹万匹束になつて来たとて屁とも思うて居ないが、お前の弟子入りした初陣の功名に、此奴をとつつめさしてやるのだから、生宮様のお馬の前の功名だ。サア、結構な御神徳を頂くのは今だぞえ。エーエ、慄つてゐるのかいな、何だ気のチヨろい。そんな事で、よう今迄盗人が出来たものだなア』 六造『ワツハハハハ、オイ、シャル、其ザマは何だ。随分体が微細にワク……ワクと動いてゐるぢやないか、エヘヘヘヘ』 シャル『オイ六、俺は決してお前に抵抗する意志はないのだから、俺には決して危害を加へないやうにしてくれ、そして高姫は何から何まで見えすく生宮だから、天下の為に之を傷付けるやうな事があつては大変な損害だよつて、何卒、そんな無理な事を言はずに、トツトと帰つてくれ、頼みだからなア』 六造『オイ高、ツベコベと人の受売許りしやがつて、日出神の生宮を標榜してゐるが、一遍其出刃を此方へ渡せ、実の所はお前の肚を断ち割つて、日出神の出現を願ふ積だ。日出神もこんな肉体に這入つて厶つてはお気の毒だからなア』 高姫は稍慄ひ乍ら、ワザと空元気を出し、 高姫『此生宮を何とお前は心得てるのか、ヘグレのヘグレのヘグレ武者、或時は天に蟠まる竜ともなり、或時は蠑螈となつて身を潜め、千変万化の活動をいたして、此世を守護致す弥勒様の太柱だ。左様な事を申すと神罰が当つて、忽ち地獄行を致さねばならぬぞや』 六造『何だか俺はお前の面を見るとムカついて仕方がないのだ。地獄へ堕されうが、そんなこたア、構ふものかい。地獄へ堕ちるのが厭だと云つて、心にもないおベツカを使ふのは、自分の潔しとせざる所だ。そんな心になれば、お前の最前言はれたやうに自愛心になるのだから、放つといて呉れ。それよりも一旦言ひ出したらば後へは引かぬ六造だ。サア、キレーサツパリと、何もかも渡して貰ひませう』 シャルは一生懸命に、 シャル『義理天上日出神様、一時も早く此六造を改心さして下さいませ。生宮様の御難儀で厶います。惟神霊幸はひませ』 と小声で祈つてゐる。高姫はツト立つて此家を逃げ出し相な様子が見えた。六は背後からグツと首筋を引掴み、力に任して引倒した。シャルは之を見て、吾師の一大事と、矢庭に六の胸倉を取り、力限りに締めつけた。不思議や六はスボツと脱けて三間許り後につつ立ち、大口をあけて、 六造『アツハハハ』 と笑つてゐる。そこへ何処ともなしに宣伝歌の声が聞えて来た。此声を聞くより六は、天井の窓から煙の如く逃出して了つた。高姫はヤツと安心し、又もや法螺を吹出した。 高姫『オホホホホ、コレ、シャル、日出神の生宮の御神徳は偉いものだらう。あの通り御神徳に恐れて消えて了ふのだからな』 シャル『それでも、貴方、大変に体がフラックツァールしてゐたぢやありませぬか。此シャルは高姫さまが恐れて精神動揺を遊ばしたのだと思ひ、随分心配致しましたよ』 高姫『ホホホホ、私がフラックツァールしたのは一厘のお仕組を現はしてみたのだよ。彼奴は影の代物だから、此方の言ふ通りになるのだ。影は形に従ふものだ。日の照る所へ出て、体を動かして見なさい、キツと影法師が動くだらう。さうだから高姫が動揺して見せたのは、影人足の六公をゆり散らす神の御神法だ。何と御神力といふものは結構なものだらうがなア』 シャル『成程矢張貴女は、チェンジェーブルの術に長けてゐられますな。それでヘグレのヘグレのヘグレ武者といふ事が合点が参りました。イヤもう大変な御神徳を戴きました。サンキューサンキュー』 高姫『コレ、サンキューとは何を云ふのだい。六が帰んだと思へば、又三九だのと、三九の数は十二ぢやないか、何と云ふ意味だい。ハツキリと聞かして貰ひませう。チェンジェーブルだの、三九だのと、鳥のなくやうな声を出して……神には分りませぬぞや』 シャル『別にお前さまの御考へ遊ばすやうな深い意味があるのぢや厶いませぬ、サンキューと云つたのは有難うと感謝したので厶います。チェンジェーブルと云つたのは、何にもよく変げ遊ばす尊い神様だと感心したので厶います』 高姫『ウン成程、そんなら之から精出して、私をチェンジェーブルの大神様といふのだよ。サンキューも許しますから、精出してサンキューサンキューと云ひなさい』 シャル『チェンジェーブル大神様、サンキューサンキュー、サンキューサンキューサンキュー、モ一つサンキューまだサンキュー、……サンキューサンキューサンキュー、モシモシ之でお気に入りますかな』 高姫『エーエ、過ぎたるは及ばざるが如しといふぢやないか、サンキューも可いかげんにしときなさい、融通の利かぬ男だなア』 シャル『コルブスコルブス、サークイサークイ』 高姫『又分らぬことを言ふぢやないか、コルブスとは何の事だい』 シャル『ハイ、コルブスといふ事は、死体といふ事です、サークイといふ事は臭いといふ事です』 高姫『エー、増長するも程がある。何程したいと云つても、ヘン、お前等に相手になる生宮ぢやありませぬぞや。そして臭いとは、何といふ無礼な事をほざくのだい。夫れほど臭ければ、そこに居つて下さるな』 シャル『実の所は死体のやうな臭い匂ひがしたといふのです。それは高……オツトドツコイ高い窓から脱けて帰にやがつた六の事ですよ。本当に臭い奴でしたなア』 高姫『お前の云ふ通り鼻持のならぬ代物だつた。マアマア悪魔が払へて結構だ。サア之からお前は何事も私の云ふ通りに致すのだよ』 シャル『一旦貴女に体を任した以上は何でも聞きますが、併し乍らかうして男女が二人一つ家に住居をし乍ら、両方がセリバシー生活をやつてゐるのも無駄ぢやありませぬか。何とかそこは妥協の余地がありさうなものですなア』 高姫『ホホホホ、チツトお前のスタイルと相談して御覧。そんな事云へた義理ぢやありますまい。年から云つても三十計りも違ふぢやないか、せうもない事を云つて生宮をおだてるものぢやありませぬぞや』 シャル『お前さまは神様のアボッスルだから、到底私のやうな俗人の側へおよりになつても神格が汚れるでせう。無理とは申しませぬ、併し乍ら肉体上から言へば、貴女も私もウルスヴルングは皆神から発してゐるのですから、霊は兎も角として、さう軽蔑するものぢやありませぬワイ』 高姫『ウルスヴルングなんて、又怪体な事を言ふぢやないか、どこ迄もうるさく口説くといふのかなア。そんな野心はやめたがよからう。お師匠様の生宮に向つて、チと無礼ぢやないか』 シャル『貴女は何処までもセリバシー生活を続けて行く考へですか、四十後家立つても五十後家立たぬといふぢやありませぬか。何程表面で立派に男嫌を標榜してる女でも、何時とはなしに其インスチンクトが現はれて、遂には操を破るのが避く可らざる女の境遇ですよ。さうだから露骨に素直に此シャルが直接交渉を開いたのです。私だつてハタの友達が皆お前さまの説に反抗するにも関らず同情を表し、お味方になつたのも、そこにはそれ、一つ曰く因縁がなくちや叶ひますまい』 高姫『エー、汚い、インスだとか、チンクトだとか、碌なこた言はせぬのぢやないか、そんな事を申すと、風俗壊乱になりますぞや、チツとたしなみなされ』 シャル『あああ、サツパリサツパリだ。男と生れて而もこんなお婆さまに、エッパッパをくはされちや、どうして男の顔が立つものか。エー飽く迄も初志を貫徹するのが男だ。コレ高姫さま、何と云つても駄目ですよ。何程お前さまが神力が強いと云つても、肉体と肉体と争へば、到底男には叶ひますまい』 高姫は厳然として威儀を正し、 高姫『コリヤ、シャル、何と心得てゐる。此肉体は勿体なくも、時置師神、斎苑の館の総務をして厶つた杢助様の奥方だぞえ、何と心得てゐるか』 シャル『ヘー、さうで厶いましたか、何でも杢助さまといふ宣伝使は偉い神力が備はつてゐると聞いて居りましたが、その杢助様は今何処にゐられますか』 高姫『お前は又それを尋ねてどうする考へだ』 シャル『別に何うせうと云ふ考へも厶いませぬが、一遍お目にかかつてみたいのです』 高姫『オホホホホ、お目にかかりたければ、モツと霊を研きなされ、杢助様は神変不思議の術を使つて、雲に乗り、天へ上られたのだ。天では時置師神様が天人の霊を守護遊ばされ、地では高姫が汚れた霊の洗濯をしてゐるのだ。何れ下つて厶るに違ひないから、其時に目の眩まぬやうに、何事も高姫の申す通り、神妙に御用を致すのだ。今後は一切口答へなどしてはなりませぬぞや、そして女などには心を寄せることは出来ませぬぞ。お前も立派な宣伝使になつた以上は、私が相当の女房を選んで与へてやるから、それ迄辛抱なさい』 かかる所へ美妙の音楽聞え、美はしき三十前後の天人が現はれ来りぬ。高姫は見るより仰天し、アツと計りに其場に倒れたり。シャルは目を閉ぎ、床上に喰付いて慄うてゐる。天人は言葉静かに高姫の耳許にて、 天人『吾こそは中間天国のエンゼル文治別命で厶る。其方は高姫では厶らぬか』 此声に高姫は何となく力を得て、目を開き、目映ゆ相な顔をし乍ら、 高姫『お前さまは一寸気の利いたエンゼルとみえるが、杢助さまのお使で来たのかい。底津岩根の根本の弥勒の生宮、此高姫にお前は何か御用があつて来たのだなア。オホホホホ、何とまア若い男だこと、随分天国では、それ丈美しいと、女にもてるだらうな』 文治『高姫殿、拙者をお忘れになりましたか。小北山の受付を致して居つた文助で厶るぞや』 高姫『ナニ、お前があの盲の文助かい、ホホホホホ、そんな嘘を云ふものでない。そんな立派な風をして化けて来ても、此日出神の二つの目で睨んだら、違ひは致しませぬぞや。お前は大方中界の魔神だらう、今も今とて此シャル奴、せうもない事を言ひよる也、又中界の魔神迄が高姫の姿にラブして下つて来ても、いつかないつかな、動きませぬぞや。容貌や若い年に惚るやうな柔弱な高姫とは、ヘン、チツと違ひますぞや。男とも女とも分らぬやうな面をして騙しに来つて、そんな事に乗るやうな生宮ぢや厶いませぬぞえ。サアサア諦めて、トツトと帰つて下さい』 文治『高姫殿、文助に間違は厶らぬ、拙者も暫く中有界に於て修行を致し漸く諸天人の教を聞いて心を研き、今は此通り第二霊国のエンゼルとなり、中有界地獄界を宣伝に廻つて居ります。お前さまも早く悔い改めて、この中有界を脱出し、早く天国へ昇つて下さい。此儘にしておけば、貴女は地獄へ堕ちるより道は厶いませぬぞ。生前の交誼に仍つて、一応御注意の為に現はれて来たのです』 高姫『ホホホホ、ようまア仰有いますワイ。第一霊国の天人の霊の高姫の光明がお前さまには見えませぬかな。神は至仁至愛だから現界へ現はれて衆生済度を、糞糟に身をおとしてやつてゐるのだ。文助なぞと、そんな詐りを言つてもあきませぬぞや。今に正体を現はしてやるから、其積でゐなさい、オホホホホ、油断も隙もあつたものぢやない』 と云ひ乍ら両手を合せ、 高姫『底津岩根の弥勒の大神様、義理天上日出神様、末代日の王天の大神様』 と祈り出した。文治別のエンゼルは高姫の余りの脱線振りに取付く島もなく、傍に倒れてゐるシャルを揺り起し、 文治『お前はバラモンのシャルといふ男ぢやないか。こんな所に何時迄居つても仕方がない。まだ現界に生命が残つてゐるから、今の中に、サア早く帰つたがよからう。グヅグヅしてゐると肉体が腐敗して帰ることが出来なくなりますぞ』 シャル『ハイ、私は此通り肉体を持つてをります。此外にまだ肉体があるとは合点が参りませぬ。そんな事を云つて、騙さうとなさつても、高姫さまの片腕となつた此シャルは、いつかないつかな騙されませぬ。そんな事を言はずに、何卒帰つて下さいませ。あとで高姫様の御機嫌が悪いと困りますから……』 文治『お前達は何うしても目が醒めないのかな。又高姫さまも高姫さまだ。中有界に彷徨ひ乍ら、ヤツパリここを現界と思つてゐると見えて、私の姿を見て化物と疑つてゐるらしい。ああ元の肉体になつてみせてやりたいが、さうすれば忽ち神格が下つて、再び今の地位になるのは容易な事ではなし、どうしたら助けることが出来やうかなア』 と手を組んで思案にくれてゐる。四辺に芳香薫じ、嚠喨たる音楽の音は切りに聞え、此伏家の周囲には百の天人が隊を成して取巻いてゐる。高姫は殆んど気も狂はむ許りに悶え苦しみ出した。エンゼルはいかにもして高姫を救はむと、天津祝詞を奏上し、数歌を歌つた。高姫は益々忌み嫌ひ、手足をヂタバタさせ乍ら、裏口を開けるや否や、エンゼルの間を潜つて裏の禿山を指して、野猪の如く四這ひになつて逃げゆく。シャルは此体を見るなり、又もや高姫の跡を逐ひ、数多のエンゼルの間を潜り脱け、駆けり行く。 之より高姫は禿山を二つ三つ越え、四面山に包まれた赤濁の可なり広い沼の畔に着いた。而して沼の水を手に掬うて一生懸命に渇をいやしてゐる。皺枯声を張り上げ、 『オーイオイ』 と呼ばはり乍ら、禿山の上から、転げる様にやつて来たのはシャルであつた。 シャル『ああ、先生、能うマア此処に居つて下さいました、大変な事で厶いましたなア。ありや一体何で厶いませう。何万とも知れぬ怖い顔した鬼奴が鉄棒を持つて家のぐるりを取巻き、厭らしい鳴物を鳴らし、鼻の塞がるやうな匂ひをさして攻めかけた時の怖さ、辛さ、生宮さまでさへもお逃げ遊ばす位だから、到底自分は助かりつこはないと、お後を慕うて此処迄逃げて参りました。モウ追つかけて来る気遣ひは厶いますまいかなア』 高姫『ホホホホ仮令幾万鬼が来ようとも、そんな事にビクともする高姫ぢや厶いませぬぞや。之は神の秘密の法に仍つて、あの悪魔をここ迄誘ひ出し、此血の池へ皆放りこむ算段で、ワザとに逃げて来たのだよ。千や万の鬼に逃げ出すやうな高姫と思つて貰つちや片腹痛いわいの、オホホホホ』 と胸の驚きを隠して、ワザと何気なき態を装ひ笑つて居る。 シャル『高姫さま、そんな強相な事を仰有いますけれど、あの時の貴女のスタイルには随分狼狽のサマがみえて居りました、不減口ぢや厶いますまいかな』 高姫『まだお前迄が私を疑うてをるのかい、困つた男だなア。文助の霊だなどと云ひやがつて、化けて来よつたのを看破する丈の御神力があるのだから、到底お前では、此高姫の真価は分りますまい、マア黙つてゐなさい。而して高姫のする事を考へてをれば、成程と、二三日の内には合点がゆくだらう。オホホホホ、あのまア怖相な顔はいの。これだから弱虫を伴れてゐると、足手まとひになつて、本当の神力を出すことが出来ないのだ。お前さへゐなかつたら、あんな奴ア、一人も残さず、最前のやうに烟にして了ふのだけれど、お前の曇つた霊が邪魔をするものだから、とうとう位置を転じて第二の作戦計画をせなけりやならぬ面倒が起つたのだよ。併し流石の鬼も此処迄、ヨモヤ高姫の神力を恐れて追掛ては来ますまい。まア些と落着きなさい』 斯かる所へ又もや音楽の声、山の頂より文治別は先頭に立ち、数百人の天人を従へて降つて来る。 シャル『モシモシ高姫さま、やつて来ました、サア、此処で見事、彼奴を亡ぼして下さいませ。私の目では彼奴が鬼に見えたり、又綺麗な天人に見えたりして仕方がありませぬワ……それそれ、大速力で此方へ下つて来ませうがな、早く準備をして下され』 高姫『エー、準備をせうと思ふておつたのに、お前が出て来て、せうもない事を喋り、肝腎の時間を潰さして了つたものだから、悪魔の方が早く来よつたのだ。ああ此処でも具合が悪い、第三の計画に移らう』 と言ひ乍ら、顔を真青になし、又もや次の山を転けつ輾びつ駆け上る。シャルも是非なく黒い褌をたらし乍ら、高姫の足型を尋ねて、息も苦しげに跟いて行く。 (大正一二・三・一六旧一・二九於竜宮館松村真澄録) |
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霊界物語 | 56_未_テルモン山の神館1 | 13 不動滝 | 第一三章不動滝〔一四四三〕 テルモン山の峰続き山一面に鬱蒼と 巨木茂れるスガの山天を封じて谷間は 昼さへ暗く濛々と夏と冬との区別なく 霧立ち上る秘密郷天より布を晒したる 如くに見ゆる大滝はアン・ブラツク滝といひ 物凄じき水の音百の雷一時に 轟く如く聞え来るかかる所へスタスタと 夜な夜な通ふ女ありバラモン教の神司 テルモン山に館をば築きて教を開き居る 小国別の愛娘デビスの姫は吾父の 重き病を救はむと一人の妹に別れたる 其悲しさに身を忘れ父の病や妹の 無事を祈りて進み来る月は御空に皎々と 輝き亘り下界をば隈なく照らし玉へども 此滝のみは老木の枝に影をば遮られ 只滝水のうす白く吾目にとまる許りなり デビスの姫は忽ちに衣脱ぎすてて滝壺に ザンブと許り飛込んで一心不乱にバラモンの 呪文を称へ祈り居る其心根ぞ殊勝なれ かかる所へスタスタと慌てふためき走り来る 怪しの影は只二つ足音忍ばせ忍び寄り 暗に浮出た白い肌眺めて互に囁きつ デビスの姫が滝壺をあがり来るを待ちにける これぞベル、ヘル両人が月照彦の神霊の 御稜威に恐れ修験者ケリナの姫を振棄てて 命カラガラ逃げ来る其道すがら何気なく 谷の水音たよりにて尋ね来りし物ぞかし。 スガ山の谷間は此界隈にても目立つて大木の繁茂せる、余り高からざる密林であつて、二十丈三十丈と幹のまわつた大木が天を封じ、昼さへ暗き凄い様な場所である。そしてテルモン山の谷水を一切ここに集めて大瀑布をなし、高さ数百丈に及び、白布を天から吊り下した様になつてゐる。此地点は殺生禁断の場所であり、アン・ブラツク明王が滝の傍に祀られてある。されど国人は怖れて此滝壺に近よつた者はない。種々雑多の猛獣や蚖蛇などが沢山に棲息し、一歩たり共、スガ山の森林へ足を踏み入れたる者は生きて帰つた者は無いと云つて怖れられてゐた。雨傘を拡げた様な蝙蝠が滝の近辺を真黒になつてバタバタと飛び交ひ、昼は大木の朽穴に身を隠し、日の暮頃から、ソロソロ活動し始めるのである。 デビス姫は浄行の家に生れた淑女なるにも関らず、自分の命を的に夜な夜な通ひ来つて、老病に苦む父の全快を祈り、且三歳前に姿を隠した妹ケリナ姫の無事に帰り来らむことを、アン・ブラツク明王の前に祈るべく、危険を冒して夜な夜な通ひ来り、深い滝壺に身を投じて荒行をやつてゐたのである。そこへ求道居士、ケリナ姫を撲り殺して姿を隠さうとしてゐる矢先、天の一方より大火光となつて、月照彦神のエンゼル現はれ来り、求道居士、ケリナ姫を甦らせ玉うた。ベル、ヘルの両人は此火団の爆発した音に肝を潰し、スガ山の谷間の恐ろしい事は承知し乍らも、余りの驚きに逃げ場を失ひ、山を駆け登つて、此滝の麓に漸く逃げて来たのである[※「そこへ求道居士」から「来たのである」まで文章がおかしいが、底本通り。]。滝水の音は轟々と騒がしく、デビス姫の祈る声も聞き取る事が出来なかつた。 ベル、ヘルの両人は斯かる深林に夜中、繊弱き女が荒行に来て居るとは思ひもよらないので、不審に堪へやらず、若や妖怪にはあらざるかと、歯の根をガタガタさせ乍ら、滝の近くへ寄つたものの、気味悪く互に抱きついて慄うてゐた。 デビス姫は一生懸命に祈願をしてゐたので、二人の男が近くに来て居る事は夢にも知らず、濡れた体の水気を拭き取り、立派な衣類と着替へて、馴た道をスタスタと帰つて行く。怖い物見たさの喩に洩れず両人は、跡を慕うて十間許り距離を保ち跟いて行つた。女は漸くにして月の照り亘る野原に出た。此処には天拝石と云つて、一間四方許りの長方形の削つた様な天然岩がある。デビス姫は其岩の真中にキチンと坐り、再び祈願を籠めた。ベル、ヘルの両人は腰を屈め、茫々たる草原を潜り乍ら、ソツと傍に寄り草の繁みに身を隠して様子を考へてゐた。 デビス姫は月光に向つて双手を合せ祈り初めたり。 デビス姫『南無大自在天バラモン大神様、私は丁度今日にて三七廿一日の荒行を無事に了りました。何卒々々大黒主の神司より父が預かりました如意宝珠の玉が、一日も早く発見されまして、大黒主様の御勘気が許されまする様に、又父は妹の行衛不明となりしより心配を致し、それが為めに重き病の床に臥し、命旦夕に迫つて居りまする。何卒私の心を憐み下さいまして、父の病を全快させ、恋しき妹に会はして下さいませ。そして如意宝珠の神宝が一時も早く館へ、何者かの手を経て還つて参ります様に、御恵を垂れ玉はむことを、偏に御願申奉ります。月の大神様の御姿を拝するにつけ、其円満なるお姿にも等しき如意宝珠の神宝の思ひ出されて参ります。あの神宝が無き時は、テルモン山の神館は暗夜も同様で厶います。何卒々々私の命はお召取になつても構ひませぬから、何卒此三つの願はお聞き届け下さいます様に……』 と一心不乱に祈願を籠めてゐる。ベル、ヘルの両人は初めて此女の素性を聞知り、胸を撫で下し、又もやソロソロ横着心を起し、女を赤裸にして多少の財産を手に入れむと考へ込んだ。デビスの頭や体には金剛石や珊瑚珠、瑠璃、瑪瑙、硨磲等の宝玉が飾られ、折柄の月光に映じて花の如く光つてゐる。之を眺めた両人は猫に松魚節を見せたやうに、喉をゴロゴロならし、よき獲物厶んなれと耳に口を寄せ、 ベル『オイ、ヘル、素的滅法界なナイスぢやないか。そしてあの頭から体に光つてゐる宝石は随分高価な物だらうよ。ここで一つ悪の仕納めに、彼奴を赤裸にして、持物一切を奪ひ取り、それを持つて国許へ帰り、故郷へ錦を飾らうぢやないか。さうすればバラモン軍が解散になり、お払ひ箱になつたと笑はれる事もあるまい。人間はどうでもよい、成功さへすれば人が褒めるのだからなア。こんな好い機会は又とあるまいぞ』 ヘル『どうも何だか、体がビリビリと動き出して来た。俺やモウ泥坊は廃業する。何程高価な物でも欲しくはないワ。頭の上から皎々たる月の大神が、吾々の行動を看視してゐられるやうに思へて、怖ろしくなつて来たよ。お前欲しけら、あのナイスに事情をあけて、頼んで貰つたら如何だ』 ベル『エー、腰抜だなア。さうだから惚泥と云はれるのだ。そんなら汝、ここで俺の腕前を拝見してゐよ、其代りに、俺が奪つたら一つも汝に分配せぬから、承知だらうな』 ヘル『ウン承知だ、併しベル、余程考へてやらないと、どんな目に会ふか知れぬぞ。どこともなしに彼奴の体から御光がさして居るぢやないか、俺やどうしても神さまのやうに思はれて、体がすくむ様だ』 ベル『光つてゐるのが価値だ。彼奴をスツカリ手に入れやうものなら、何十万両とも知れぬ価値の物だ。汝は余程可い腰抜けだなア。目の前にブラ下つてる宝を見す見す見捨るのか。冥加知らず奴、そんなら、そこに少時蝮のやうに蟄伏して居れ』 と言ひ乍ら、ツカツカとデビス姫の祈願してる前に立現はれ、 ベル『オイ、どこの女中か知らぬが、長の旅を致す内、盗賊に出会ひ、有金をスツカリと奪ひ取られ、今は是非なく乞食の様になつて道中をしてゐるのだ。之から月の国迄帰らなくてはならない。どうかお前の頭に光つてゐる物を二つ三ツつ此方へ渡して下さるまいか』 デビスは此声に驚いて、祈願の手をやめ、月影によくよく透して見れば、荒くれ男が一人、自分の坐つてゐる少し横手に立塞がつてゐる。 デビス『お前はどこの旅人か知らぬが、今私の頭の物をくれと云つたやうだが、之は何うしても上げる訳には行きませぬ。体中に宝石をつけてゐるのは、悪魔を防ぐ禁厭ですから、まだ之から吾家へ帰るのには、一寸二里許りも道程がある。夜の道を帰るのは危険だから、たつて欲しいのなれば更めて来て下さい。私の家はテルモン山の神館で厶います』 ベル『ナニツ、お前はあのテルモン山の霊地小国別様の娘といふのか、ヤアそりや妙な縁だ。拙者は斯う見えてもバラモン軍の征夷大将軍鬼春別将軍で厶るぞ』 デビス『ホホホホ鬼春別将軍さまは沢山の軍隊を伴れて堂々とお出で遊ばすぢやありませぬか。最前何と云ひました……長途の旅、泥坊に出会ひ、金をスツカリ奪られたから頭の物でもくれい……と云つたでせう。鬼春別ともあらう方が、只一人歩いたり、賊に持物を奪られたりする様な事がありませうか。お前は胡麻の蠅だらう。サア、奪るなら奪つて御覧、女乍らも腕に覚がありますぞや』 ベル『実の所は鬼春別に間違ひは無いのだ。三五教の軍勢十万騎を以て吾陣屋へ押寄せ来り、味方は僅に三千余騎、それも大部分は脚気を患ひ、殆ど戦場に立つ者は二三百人許り、如何に勇猛なる鬼春別も僅に三百の手兵を以て十万の敵に対するのだから、天地の道理上、已むを得ず味方は残らず討死し、自分は神の助けによつて、漸く命を助かり、此処まで落伸びて来たのだ。鬼春別に間違ひは厶らぬぞや』 デビス『鬼春別様に間違ひなければ、何卒妾の館迄来て下さいませ、自分の体につけてる宝石位は物の数でも厶いませぬ。諸方から貢いで来た種々の宝物は山程厶いますから、そして又父も鬼春別様がお出になれば喜ぶ事でせう。何卒私と一緒に来て貰ひたいものですな』 と偽者とは知り乍ら、ワザと気を引いて見た。そしてデビスは自分の館近くに行つた時に、部下に命じて此泥坊を捕縛し、懲らしめて改心させむと刹那に考へた。ベルは館へ行つては直様バケが現はれると思ひ、焼糞になり、 ベル『エー、実の所は天下晴れての泥坊様だ。サアここで何もかもお前の体に附着してゐる物は受取らう。ゴテゴテ申すと大切な命迄奪つて了ふが何うだ』 ヘルは思はず知らず草の中から、 ヘル『オイ、ベル、そんな無茶な事云ふない。それ程欲しけりや一つ丈頂戴したらどうだ』 と呼んでゐる。ベルはハツとし乍ら、 『アハンアハン』 と大きな咳払に紛らし、ヘルの声を消さうとした。デビスは早くもまだ外に一人の卑怯な泥坊が潜んでゐる事を悟つた。 デビス『ホツホホホホ、腰抜泥坊だこと、一つ丈頂戴せいなどと、何した情ないシミツタレた事をいふのだらう。命が欲しけりや命もやらう。宝石が欲しければ与らぬ事もない。併し乍ら此方も生物だから、チツと許り動きますから、跳飛ばされぬやうになさいませや』 ベル『エー、モウ駄目だ。コラ、ヘルの奴、汝もやつて来んかい。戦利品は山分けだ』 ヘル『俺モウそんな殺生な事はしたくないワ、又天から光つて来たら何うする。ダイヤモンドでも何でも、俺モウ光るものには懲々だ』 デビス『ホホホホ、腰の弱い泥坊許り集つたものだなア。併し乍ら其処辺に慄つてる腰抜泥坊、お前は可愛想な奴だ。こんな奴にやるのは惜いが、お前になら宝石もやらうし、体が欲しけら体も任してやるから、そんな草原に螽斯の如うにスツ込んでをらずに、トツトと此処へ出て来なさい』 ヘルは大胆不敵の女の言葉に度肝を抜かれ、腰をぬかしてバタリと平太つたまま慄うてゐる。 ベル『エー、腰抜奴、気の弱い事許りぬかしやがつて、助けになる所か商売の邪魔許りする奴だ。タカが女の一人、何程手が利いてると云つても知れたものだ。オイ女、渡すのが厭なら俺が直接に奪つてやる、神妙にしろ』 と云ひ乍ら猿臂を伸ばして、頭に光る宝石をグツと掴みかけた。デビスは其手をグツと握り、日頃鍛えし柔術の手を以て、三間許り草つ原へ投げ付けた。ベルは死武者になつて、女に喰ひつき喉を締めようとした。ベルも少し許り手は利いてゐたが、到底デビスには敵はない。併し乍ら宝石に眼眩んで、自分の危い事も忘れ、一生懸命に放られては組み付き放られては組み付き、殆ど十二三回も投げられ、グタグタになつた。それでもまだ性懲もなく、頭や体の宝石の光を目当に喰ひつく。デビスは『エー面倒』と岩を飛下り、武者振りつくベルの胸倉をグツと取り、息を詰めた。ベルは手足を藻掻きヂタバタとやつてゐる。流石のヘルも何時迄戦慄して草の中に伏艇してる訳にも行かず、傍に落ちてゐた半朽ちたる棒杭が月に照らされて光つてゐるのを見つけ出し、デビスがベルの首を締めてゐる背後から、脳天目蒐けて力一杯打下した。手許外れて耳から横つ面をウンと云ふ程撲りつけた。愍やデビスはアツと一声叫んで脆くも其場に倒れて了つた。夜嵐は遠慮会釈もなく音を立てて通つて行く。 (大正一二・三・一七旧二・一於竜宮館松村真澄録) |
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霊界物語 | 59_戌_イヅミの国2(キヨの港) | 11 黒白 | 第一一章黒白〔一五一一〕 ヘールは勢込んで初稚姫の籠もれる館の前迄やつて来たが、何だか敷居が高くて心が怖ぢつく。 ヘール『エー、又副守の卑怯者奴、正守護神の行動を防止せむと致すか。猪口才千万な、左様な事に躊躇逡巡するヘールさまではないぞ。全隊止まれ』 腹の中から副守一同に『ハーイ』。 ヘール『よしよし、暫らく沈黙を守るのだ。いや寝て居るが宜い。非常召集の喇叭が鳴つたら、その時こそ一度に立上るのだ。それ迄副守全隊に休息を命ずる。今の間に郷里にでも帰つて爺婆の乳でも飲むで来い。アハヽヽヽ、到頭副守の奴沈黙しやがつたな。然しまだ恐怖心の奴、喰付いてゐると見えるわい。これ恐怖心、お前も早く郷里に帰つて在郷軍人となり、農工商の業に従事せよ。一旦緩急あらば鋤を鉄砲に代へ、算盤を剣に代へ、鑿を槍に代へて義勇奉公の実を示すのだ。それ迄此ヘール体内国の現役兵を免ずる。有難く思へ。アハヽヽヽ、どうやらチツト許り恐怖心が退散したさうだ否帰郷したさうだ。エー一つ歌でも歌つて姫の精神を恍惚たらしめるのだな。俺も硬骨男子と云はれて居たが、女にかけたら何と云ふ軟骨だらう。此二〇三高地は一寸骨が折れるわい。口で法螺を吹き、尻で喇叭を吹いた位ぢや容易に効果が上らない。未来の聖人は礼楽を以て世を治めたと云ふ。射御書数は末の末だ。先づ礼を厚くし楽を奏し、微妙なる音声を出して名歌を歌ひ、姫の心を動かすに限る。歌は神明の心を和らげ又天地を動かすと云ふ。況んや、人間の心に於ておやだ。歌なる哉歌なる哉だ。 恋といふ字を分析すれば 糸し糸しと言ふ心[※恋の旧字体は「戀」]……か、 やア此奴ア古い。初稚姫位のナイスになつたら已に聞いてるだらう。俺の発明した歌だと思つて呉れれば宜いが黴の生えた様な受売歌だと思はれちや、却て男が下る。よし何とか考へて見よう。 糸し可愛と心に思や 糸しお方と先方が言ふ(戀) これでスツカリ新しくなつた。然し乍ら引繰返しの焼直しだから、矢張もとの方がどうも宜い様だ。はてな、今度は愛と云ふ字を分析して歌つてやらうかな。 可愛心が貫くなれば 君は必ず受けるだらう。 今度は至上主義の至上だ、ベストだ。エヘヽヽヽ、どうか巧くやり度いものだナ。 ラブのベストは一つで厶る 土の上には君ばかり。 初稚姫のナイスさま天の川原に船泛べ 黄金の棹をさし乍らキヨの海原乗り越えて これの館に天降りまし花の顔月の眉 星の衣をつけ玉ひ天女の姿その儘に これの館にビカビカと光らせ玉ふ尊さよ 朝日は照るとも光るとも月の姿は清くとも 初稚姫に比ぶれば側へもよれない惨めさよ 雪を欺く白い顔肌滑らかにツルツルと 水晶玉の如くなりそも天地の真相は 白きは色の始まりよ黒きは色の終なり 艮は即ち年増ぞや色は年増が艮めさす 白と黒とが寄り合ふてキチンとしたる碁盤の目 経と緯との仕組をば遊ばしました大御神 赤が重なりや黒うなる黒がかへれば白となる 初稚姫の白い肌ヘールの司の黒い顔 これぞ全く艮の厳の御霊の御再来 初稚姫は瑞御魂坤なる姫神の 皇大神の御再来厳と瑞との水火合せ 夫婦の契永久に天の御柱廻り合ひ 山川草木諸々の珍の御子を生みましし 神伊邪那岐の大神のその古事に神習ひ 此地の上に永遠の天国浄土を建設し 所在百の神人を救はむ為に皇神は お色の黒き尉殿とお色の白き姥殿を 目出度くここに下しけり初稚姫の神司 如何にヘールを嫌ふとも神のよさしの縁ぞや 省みたまへ惟神神の教に目覚めたる ヘールの身魂に明かに鏡の如く映りけり 此家の主チルテルは肝腎要の女房を 他所に見捨て遠近の仇し女に現をば 抜かして魂を腐らせつ夫婦喧嘩の絶えまなく 家財一切ガタガタと時々騒ぎ躍り舞ふ 化物屋敷に居る様だ青と白とをつき交ぜた 干瓢面を下げ乍らキヨの関守笠に着て キャプテン面を振廻し天から降つた初稚姫の 神の命の神女をば閨のお伽になさむとて チルナの姫に難癖をうまうまつけて縛り上げ 倉の中へと無慚にも押込めたるぞ憎らしき かかる残虐無道をば敢て恥ない鬼畜生 必ず迷はせ玉ふなよ涙もあれば血も通ふ 義勇一途のこのヘール昨晩の神の御告げに 其方は神世の昔から深い因縁ある身魂 初稚姫と其昔夫婦となつて道の為 尽しまつりし天人ぞ弥勒の神代が来るにつけ お前を変性女子となし初稚姫の神司 変性男子と現はれて神の御国を細に 造り固めよと厳かに宣らせ玉ひし尊さよ 初稚姫の神司必ず嘘ではない程に 神の言葉に二言ない胸に手をあて神勅を 正しく覚りヘールをば神の結びし夫とし 睦び親しみ神業に参加なされよ瑞御魂 変性女子が宣り伝ふ朝日は照るとも曇るとも 仮令大地は沈むとも夫婦の道は変らない 兎角浮世は人間の心の儘にはなりませぬ 互に欠点辛抱して採長補短睦じく 天地の水火を固むべし吾言霊の御耳に 安全に委曲に入るならばいと速けく返事 宣らせ玉へよ姫命誠に厚きヘール司 ここに慎み神勅を命の前に宣りまつる あゝ惟神々々恩頼を賜へかし』 初稚姫は中よりパツと戸を開いてヘールの姿を打見守り乍ら微笑して、 初稚姫『何人の言霊ぞやと怪しみて 窓を開けば面白の君。 種々と厳の言霊繰返す 君の心の悲しくぞある』 ヘール『吾とても男の子の中の男の子なれば 如何で女に心乱さむ。 さり乍ら神の言葉は背かれず 汝が命に宣り伝へける。 此恋は人恋ならず神の恋 ラブ・イズ・ベストの鑑なりけり』 初稚姫『訝かしや神の言葉と聞く上は 背かむ術もなきにあらねど』 ヘール『瞹眛な姫の言霊如何にして 解く由もなき吾思ひかな。 益良夫が思ひつめたる恋の矢は やがて岩をも射貫くなるらむ』 初稚姫『さは云へど妾は神の御使よ 夫持たすなと厳しき戒め。 戒めを固く守りて進む身は 醜の嵐の誘ふ術なし。 詐りのなき世なりせば斯くばかり 吾魂を痛めざらまし。 吾身には恋てふものは白雲の 空にまします月の大神』 ヘール『吾とてもこれの関所につきの神 テルモン山の雄々しき姿よ』 初稚姫『春は花夏は橘秋は菊 冬水仙の寂しき花よ。 手折るべき人なき吾を慈しむ 男の子は神に等しとぞ思ふ。 真心は吾魂に通へども 詮術もなし天人の身は。 現世の人は一所なりあはぬ しるし有れども吾はこれなし。 浮かれ男の吾身体を知らずして 迷はせ玉ふ事の果敢なさ』 ヘール『どうしても皇大神の御教を 守りて君を吾妻とせむ。 如何程に振らせ玉ふも撓みなく 従ひ行かむ海の底まで』 初稚姫『思ひきや思はぬ人の深情 汲む由もなき吾ぞ悲しき』 ヘール『柔かに珍の言霊生き車 押す君こそは天の於須神 ラブベスト那須野ケ原の若草は 踏まれ躙られ乍ら花咲く』 初稚姫『踏まれても又切られても花咲かず 見る影もなき無花果の樹は。 神の道只無花果に進む身は 春風吹くも咲く例なし。 花の無き妾の姿を見限りて 野に咲き匂ふ花を求めよ。 紫雲英花実に目覚ましく開くとも 床の飾りにならぬ吾なり』 ヘール『野辺に咲く紫雲英の花の花莚 敷きてやすやす寝ねむとぞ思ふ。 もどかしき君の言葉を早吾は 聞くも堪え難くなりにけらしな。 男心の大和心を振り起し 手籠めにしても手折らで止まじ』 と云ひ乍ら表戸をガラリと開け、ツカツカと初稚姫の前に進み猿臂を伸ばして、グツと其手を握らむとした。初稚姫は手早く其手を放し襟髪とつて窓の外に猫を提げた様な調子でフワリと投げ出した。ヘールはムクムクと起き上り再び座敷に性懲りもなく初稚姫の前に進み寄り、 ヘール『一旦男が云ひだした恋の意地、中途に屁古垂れる様な男では厶らぬ。もう此上は平和の手段では到底駄目だ。覚悟召され、美事靡かして見せよう』 と武者振りつくを初稚姫は手もなく、グツと押へつけ、 初稚姫『ホヽヽヽヘールさま、宜い加減に悪戯なさいませ。貴方はお酒に酔つて居らつしやるのでせう。少しく酔の醒めるまで、此処でお休みなさいませ』 ヘール『決して酔うては居りませぬ。酔うたと云ふのは貴方の容色に酔つたのです。之も全く貴女より起つた事、吾心を鎮めて下さるのは貴女より外にはありませぬ。決して私は初めから貴女にラブしようとは思つて居なかつたのです。それが俄かに貴女のお姿を見るにつけ、忽ち神懸となり、矢も楯もたまらず、神の命に従つて貴女にかけ合つたのです。決してヘールの考へではありませぬ』 初稚『ホヽヽヽよい年をして、ようまアそんな事を仰有いますな。ブリンギング・アップ・ファーザー(老年教育)を施さなくては到底貴方は駄目でせう。神さまの命令だなどと云つて妾を誤魔化さうと思召しても、外の女ならいざ知らず、妾に対しては寸功も現はれませぬから、どうか左様な詐言はお慎み下さいませ』 ヘール『何と仰有つても男の顔が立ちませぬ。何卒そこ放して下さい。左様な剛力で押へられましては息が絶れますわい』 初稚『息が絶えても構はぬぢやありませぬか。貴方は妾の為には海の底まで跟いて行くと仰有つたでせう、ホヽヽヽヽ』 と小さく笑ふ。そこへ足をチガチガさせ乍ら血相変へてやつて来たのは館の関守チルテルのキャプテンであつた。 (大正一二・四・二旧二・一七於皆生温泉浜屋北村隆光録) |
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霊界物語 | 61_子_讃美歌1 | 04 神田 | 第四章神田〔一五五四〕 第三四 一 暗につつみしこの世の中を いづのみたまは隈なくてらす みひかり。 (折返) いときよけき神の御祖 あめと地とを清めまもらす 御はしら。 二 夕べにかへる田人のごとく ただしきたまを招かせ玉へ 御前に。 三 あまの川原をよく打ちながめ たかくながるる御姿見れば かしこし。 四 つみにかすめる眼を照らし 瑞のすがたををがませ玉へ みかみよ。 第三五 一 聖きたふとき国の御祖大国常立大神は 三千世界の大宇宙完全に具足に造りまし 天の御中主大神と現り大元霊の真神として 聖き御姿見えねども天地万有に普遍して 総てのものを守り玉ふ高天原の霊国に 月の大神と現れ玉ひまた天国に到りては 日の大神と現はれて顕幽神の三界を 守りたまふぞ畏けれ仰ぎ敬へ伊都御魂 この世の大本大御神。 二 上無き権威ある人も学びの道の司等も 御祖の神の御まへに冠を捨てて伏しをがむ この世の御祖伊都御霊吾等は謹みあさ夕に 真心尽して仕へ奉らむ。 三 伊都の大神日の御霊美都の大神月の御霊 夜の御守り日のまもり青人草をあはれみて 罪より浄め助けむと天津御神の御こと以て 綾の高天に降りましこの世にありとしある罪を 神の伊吹に吹き払ひ安の河原にあひすすぎ 清め玉ひて人草を神の御国に生かさむと 神慮配らせ玉ふこそ畏き尊き神業なれ 仰ぎ敬へ神の恵み。 四 淤能碁呂嶋は神の国珍の経綸の真秀良場ぞ 照る日の下に住む民は神の選りたる珍の民 神にすべてを打ち任せ神国を地上に来さむと おもひは胸に三千年の諸のなやみや虐げを 忍びて仕ふる尊さよ。 五 瑞の御魂の神ばしら誠一つの神の子と 再び現世に現はれて千座の置戸を負ひながら 世人のために身を砕き心をなやまし道を伝ふ そのいさをしぞ畏けれ。 六 天津御神のおん父と瑞の御魂の貴の子と 聖き神霊の天使一つになりて世に降り 三ツの御魂と現はれてマイトレーヤの神業を 開かせたまひし畏さよ仰ぎ敬へ三ツ御魂 伊都の御魂の神の徳あゝ惟神々々 神の教ぞいと清し。 第三六 一 宇宙万有一切を堅磐常磐に知食す 元津御祖の伊都の神空蝉なせる人の世の 暗を晴らして浄めむと教御祖に降りまし 貴の御教をねもごろに普く地上に布きたまふ その御心をいときよく汲み上げ玉ひ世に広く 流し伝ふる瑞の神諸の譏やしひたげを その身一つに負はせつつウヅンバラ・チャンドラと諸共に いそしみたまふぞ有難きあゝ惟神々々 神の御いづを称へまつれ。 第三七 一 宇宙の祖とあれませる真の独り神柱 伊都の御霊は永久に顕幽神の世界を知召し 山海河野くさぐさの物皆造り育みて 栄光と平安を賜ひつつわれ等を生かし楽しませ 幸ひ玉ふ御恵をよろこび感謝したてまつる。 二 瑞の御魂の月の神はこの世を生かし清めむと 卑しき人の子と生れ神の使とえらまれて 言霊つるぎ振りかざし天津御国の権威もて 醜の曲霊をことごとく言向和し地の上に 奇しき楽しき神の国を建てて万有に生魂の 瑞の栄光をあたへむと朝な夕なに真心の 限りをつくし身を尽しいそしみたまふぞ畏けれ 仰ぎ敬へ伊都御霊慕ひまつれよ美都御霊。 三 綾に畏き瑞の神伊都の御神の御命もて 総てのものに歓喜と栄光と平安を降しつつ 青人草のたましひを静かに治めしめ玉へ 御神を慕ふ吾々をいや永久に万代に 守り幸はへたまへかし謹みかしこみ願ぎまつる。 四 三つに神業を別ちつつ天と地とを只ひとり うしはぎ玉ふ元津御祖真の神のみさかえを いやとこしへに賞めたたへ仕へまつらむ真心もちて。 第三八 一 御稜威かがやく高天原の貴の宝座にマヅラスバラ ボーヂーサットヷの声の如カラビンセラビン勇ぎよく 常世の春をうたふなり実にも尊き天津国の 司とあれます大神の大御さかえは天地に 溢れて充ちつつ叫びつつ。 二 瑞の御魂の御使が神の御教をいさぎよく うたへばももの草も木も皆まつろひてうたふなり 神の御つかひ貴の御子天にも地にもみ栄光あれと。 三 あめつち百の神人や山海川野も声そろへ 神のみいづをうたふなりあな尊きかな伊都の神 この世を浄むる美都御魂天にも地にも御栄光あれと。 第三九 一 永久に坐ます元津御祖神奇しきみいづの輝きて 天津御使集ひまし玉の小琴を掻き鳴らし マヅラスヷラやマノーヂニヤガンダルヷをかなでつつ 貴のみめぐみに報いむと勤しみ仕ふる芽出度さよ 神の大道に生かされしわれ等は神国のこのすがた はるかに拝み御栄光を畏み嬉しみ祝ぎまつる。 二 神の造りし神の世にみたまのふゆを蒙りて 生れ出でたる民草はしこの嵐にもまれつつ きたなき罪の身となりぬあゝ罪ふかき人の身は 元津御国へ如何にして安々還り得らるべき 底なき地獄におちいりて永久の苦みにふるふ身を 瑞の御神は友となり力となりてねもごろに 仁慈の御手を伸ばしつついとなつかしきかんばせを われらに向けさせ玉ひつつ天津御国へみちびきて 栄光と平安とよろこびを授けたまふぞ尊けれ あゝなつかしき瑞御魂あゝしたはしき月の神。 三 伊都の御魂や美都御魂塵に染まりし吾からだ いとはせ玉はず宮として鎮まり坐しまし諸々の 光をさづけ楽しみに酔はせ身魂を弥遠に 生かせたまふぞ嬉しけれ。 四 霊と力と身体の三ツの大元を一つとし 現れたまひし伊都の神大国常立の大神は 天地百の身魂をば完全に具足に造り了へ 始め終りの主としてスメール山に腰を据ゑ 三千世界を隈もなく守らせたまふ御いさをを われ人ともに勇ましくたたへ奉らむ大前に あゝ惟神々々神のいさをぞ尊けれ。 第四〇 一 われらが崇むる真の神は嶋の八十嶋八十の国 海川山野の草も木も禽獣に至るまで みいづを称へぬものぞなきよろこび称へよ人の子よ ほめよ称へよ人の子よ。 二 貴き稜威は天地四方の国々嶋々隈なく照りぬ 大地も御稜威を仰ぎ見てその崇高さに打ちふるふ ほめよ称へよ神のいづ。 三 誰かは否まむ神の御神業を誰かは拒まむ神の御むねを。 四 すべてのぬしなる御神に従へまことの権力は天にこそあれ。 五 天津御空も地の上も称への御歌聞ゆなり 厳と瑞とはまことの神よと。 第四一 一 ちからの主とあれませる元津御神の宣り言は 山川草木も打ち伏して御旨のままに従はむ 伊都の言霊清くして天津空なる月も日も 歩みを止めて大前に寄りて仕ふる尊さよ。 二 山と寄せくる荒浪も地震雷鳴火の雨も 来らば来れ寄せ来れ神は吾等と倶にあり 天地経綸の主宰者なる人は神の子神の宮 神と親しくある身魂は如何なるなやみも恐れむや 吾等も神の子神の宮神は吾等と倶にあり。 三 いかに荒ぶる夜嵐も虎狼や獅子熊の 伊猛り狂ふ暗の夜も神の恵のある上は 犯す術なき神の国人は神の子神の宮 神に習ひて世にあらば醜の曲霊も露と消え 嵐も和ぎて天津国の清けき安き花園と 易るぞ目出度き珍の御国ほめよたたへよ神のその うたへよ舞へよ神の子等。 四 尊き厳の御声は天津御空に雷のごと 鳴り轟きて聞えけり綾の高天の聖き場に 進め進めと宣りたまふあゝ有難し神の声 あゝかむながら神の声。 五 陸地の上に生出でし御子よ伊都の御霊の御前に かしこみ鰭伏し貴の御名を称へよ祝へよ真心こめて 粟生すつかさも跪づきて御名を称ふる時来るらむ。 |
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霊界物語 | 62_丑_讃美歌2 | 20 神香 | 第二〇章神香〔一五九五〕 第四四二 一 さまよへる罪の人の子求ぎ集ひ 清き莚に導く宣伝使。 二 八束髭わが胸先に垂るるまで 嘆き玉ひぬ天地の為に。 三 ヨルダンの清き流れもわが魂を 洗ふ由なきまでに曇りぬ。 四 穢れたるわが魂も清まりぬ 神の教にヨルダンの川。 第四四三 一 瑞御霊世の枉神に勝ちけりと 厳の御霊の珍の御声。 二 言霊の珍の軍を整へて 待ち玉ひたる神軍強し。 三 言霊の軍の司勇み立ち 勝鬨挙ぐる時は来にけり。 四 枉神の稜威の根城も震ひけり 鍛へに鍛へし直日の霊に。 五 言霊の軍の前に仇もなく 進むにつれて勝鬨の声。 六 山々の伊保理を分けて百の神 加はり玉はむ言霊軍に。 七 選まれし御民の勇む時は来ぬ 瑞の御霊の勝鬨の声。 第四四四 一 如何にせむと悩み迷ひし村肝の 心に聞ゆる御教の声。 二 迷ふものよ早く来れと手を延べて 長閑な顔に招かせ玉ふ。 三 村雲は心の空に塞がりて 見え分ぬまで眼くらめり。 四 村肝の心の眼押開き 救はむとして出でましにけり。 五 何人が吾を招くと辿り行けば 瑞の御霊の立ち玉ふ影。 六 近寄りて勇み喜ぶ耳の中に 入りしは愛の御声なりけり。 七 浅間しきわが心根を知り玉ふ 神の御前の恥しきかな。 八 皇神に捨てられむかと煩ひつ 進みて見れば御声変らず。 九 瑞御霊声もやさしく世の中に 迷ひし聖人を教へ玉へる。 第四四五 一 神代より秘め置かれたる綾の里に 御教を聞く今日の楽しさ。 二 枉神の醜の企も災も 知らずに過す神の花園。 三 玉の井の厳の真清水汲み上げて 渇きし魂を癒し玉ひぬ。 四 類なき世の喜びは御恵の 神と静かに憩ふ時なる。 五 訳もなき願言さへも忍びつつ 受けさせ玉ふ救ひの御神よ。 六 あやまてる世人に教を垂れ玉ひ 餓ゑし心に力を賜ふ。 七 定めなき浮雲の世を後にして 秘め置かれたる花園に行かむ。 八 御恵の清き神姿の玉の井に 映るも嬉し月の大神。 第四四六 一 わが魂を恵ませ玉ふ瑞御霊 天津港へみちびき玉へ。 二 風荒び波高まりてわが船は 沈まむとす救はせ玉へ大神。 三 頼るべき方だにもなきわが魂を 恵ませたまへ仁慈の神。 四 御恵の珍の翼の下影に 抱かれし身は楽しかりけり。 五 曇りたる世人のために瑞御霊 救はむとして下りましけり。 六 疲れたる魂を慰め玉ひけり 内と外とを清めすまして。 七 玉の緒の命のもととあれませる 元津御神に会はせ給はれ。 八 枯れ果てしわが魂を潤して 栄光を賜ふ瑞の大神。 第四四七 一 姉妹の天の真名井の御禊より 現れましし瑞の大神。 二 滝津瀬の涙も百の詫言も 罪を償ふ力だになし。 三 只神の恵の露に恵まれて 重き罪科赦さるるのみ。 四 厳御霊瑞の御霊のまさざれば われは生くべき力だになし。 五 現世も亦霊界も隔てなく 守らせ玉ふ元津大神。 第四四八 一 災に悩む諸人はや来れ 救ひの神はここにあれます。 二 言霊の御水火に迷ひの夢覚めて 日は輝きぬ心の空に。 三 武士の猛き心も和らぎて 厳の御前に太祝詞宣る。 四 泡沫の水泡と消ゆる名を捨てて 醜の博士大前に伏せ。 五 遣る瀬なき老いさらばひし人さへも 神の御前に笑み栄ゆなり。 第四四九 一 世の務め果てて神国に帰りなば 愛の御声をかけさせ玉へ。 二 常久に果てしも知らに栄え行く 神の御園は楽しき住家よ。 三 疑の雲もあとなく晴れぬらむ 厳の御霊の下りましなば。 四 東雲の雲に跨り元津都に 下らせ玉ふ瑞の大神。 第四五〇 一 朝咲きて夕も待たぬ朝顔の 萎るる花に迷ふ人あり。 二 春の雨秋の夕の露時雨 涙とともに祈る母神。 三 垂乳根の恵の胸に抱かれて 哺育まれたる昔忘るな。 四 村肝の心を千々に砕きたる 報いありしと喜ばせ母を。 五 漸くに世に立つ身魂となりぬれば 母の恵を忘るる凡俗。 六 母神の此世に居ます其中に 御袖に縋れ四方の民草。 第四五一 一 御恵の雨は静に降り来り 雪霜消えて山は笑ひぬ。 二 御言葉に春の花まで頷きて 旭長閑に匂ひけるかな。 三 夕立の早過ぎ行きて勇み立つ 木草の葉末に月はほほ笑む。 四 雨と露に苗潤せば秋の田の 黄金の垂穂浪打ち寄するも。 五 春生かし夏には育て秋稔らせ 冬休まする洽き恵よ。 (大正一二・五・一三旧三・二八隆光録) |