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(747)
ひふみ神示 29_秋の巻 第5帖 へその緒はつながってゐるのであるから、一段奥のへそえへそえと進んで行けば、其処に新しき広い世界、大きくひらけるのであるぞ。自分なくするのではなく高く深くするのであるぞ。無我でないぞ。判りたか。海の底にはキンはいくらでもあるぞ。幽界と霊線つなぐと自己愛となり、天国と霊線つなげば真愛と現れるぞ。よろこびも二つあるぞ。三つあるぞ。大歓喜は一つなれど、次の段階では二つとなるのであるぞ。
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(956)
ひふみ神示 39_月光の巻 第24帖 怒ってはならん。急いではならん。怒と怒りの霊界との霊線がつながり、思わぬ怒りが湧いてものをこわして了ふぞ。太神のしぐみに狂ひはないぞ。皆々安心してついて御座れよ。
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(962)
ひふみ神示 39_月光の巻 第30帖 心のいれかへせよとは新しき神界との霊線をつなぐことぞ。そなたは我が強いから、我の強い霊界との交流が段々と強くなり、我のむしが生れてくるぞ。我の病になって来るぞ。その病は自分では判らんぞ。わけの判らん虫わくぞ。わけの判らん病はやるぞと申してあるがそのことぞ。肉体の病ばかりでないぞ。心の病はげしくなってゐるから気付けてくれよ。人々にもそのことを知らせて共に栄えてくれよ。この病を治すのは、今日までの教では治らん。病を殺して了ふて、病をなくしようとて病はなくならんぞ。病を浄化しなければならん。悪を殺すと云う教や、やり方ではならんぞ。悪を抱き参らせて下されよ。
4

(987)
ひふみ神示 39_月光の巻 第55帖 そなたはよく肚をたてるが、肚がたつのは慢心からであるぞ。よく心得なされよ。下肚からこみあげてくる怒りは大きな怒りであるから、怒ってよいのであるなれど、怒りの現わし方を出来るだけ小さく、出来るだけ清く、出来るだけ短かくして下されよ。怒りに清い怒りはないと、そなたは思案して御座るなれど、怒りにも清い怒り、澄んだ怒りあるぞ。三月三日。 そなたはいつも自分の役に不足申すくせがあるぞ。そのくせ直して下されよ。長くかかってもよいから、根の音からの改心結構ぞ。手は手の役、足は足、頭は頭の役、それぞれに結構ぞ。上下貴賎ないこと、そなたには判ってゐる筈なのに、早う得心して下されよ。そなたはこの神ときわめて深い縁があるのぢゃ。縁あればこそ引きよせて苦労さしてゐるのぢゃ。今度の御用は苦の花咲かすことぢゃ。真理に苦の花さくのであるぞ。因縁のそなたぢゃ、一聞いたなら十がわかるのぢゃ。云われんさきに判ってもらわねばならんぞ。知らしてからでは味ないぞ。十人並ぞ。今度の御用は千人力、十人並では間に合わんぞ。人間の目は一方しか見えん。表なら表、右なら右しか見えん。表には必ず裏があり、左があるから右があるのぢゃ。自分の目で見たのだから間違いないと、そなたは我を張って居るなれど、それは只一方的の真実であるぞ。独断は役に立たんぞと申してあろうが。見極めた上にも見極めねばならんぞ。霊の目も一方しか見えんぞ。霊人には何でも判ってゐると思ふと、大変な間違ひ起るぞ。一方と申しても霊界の一方と現界の一方とは、一方が違ふぞ。そなたは中々に立派な理屈を申すが、理屈も必要ではあるが、あわの如きもの、そなたの財産にはならんぞ。体験の財産は死んでからも役にたつ。ざんげせよと申しても、人の前にざんげしてはならんぞ。人の前で出来るざんげは割引したざんげ。割引したざんげは神をだまし、己をだますこととなるぞ。悔ひ改めて下され。深く省みて下され。深く恥ぢおそれよ。心して慎しんで下されよ。直ちによき神界との霊線がつながるぞ。霊線つながれば、その日その時からよくなってくるぞ。気持が曲ったら霊線が切り替えられる。
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(993)
ひふみ神示 39_月光の巻 第61帖 そなたの苦労は取越し苦労。心くばりは忘れてならんなれど、取越し苦労、過ぎ越し苦労はいらん。そうした苦労は、そうした霊界をつくり出して、自分自身がいらぬ苦労をするぞ。何ごとも神にまかせよ。そなたはまだ神業の取違ひして御座るぞ。そなたの現在与えられてゐる仕事が神業であるぞ。その仕事をよりよく、より浄化するよう行じねばならんぞ。つとめた上にもつとめねばならん。それが御神業であるぞ。そなたはそなたの心と口と行が違ふから、違ふことが次から次へと折り重なるのぢゃ。コト正して行かねばならんぞ。苦を楽として行かねばならん。苦と心するから苦しくなるのぢゃ。楽と心すれば楽と出てくるのぢゃ。ちょっとの心の向け方、霊線のつなぎ方ぞ。そなたは悪人は悪人ぢゃ、神として拝めとは無理ぢゃと申してゐるが、一枚の紙にも裏表あるぞ。そなたはいつも裏ばかり見てゐるから、そんなことになるのぢゃ。相手を神として拝めば神となるのぢゃ。この世は皆神の一面の現われであるぞ。
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(1209)
霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 47 神示の宇宙その二 第四七章神示の宇宙その二〔一九七〕 前節に述べたるところを補ふために、更に少しく断片的に説明を加へ置くべし。併し自分の宇宙観は凡て神示の儘なれば、現代の天文学と如何なる交渉を有するや否やは全然自分の関知するところにあらず。 自分は神示に接してより二十四年間、殆ど全く世界の出版物その物から絶縁し居たり。随つて現在の天文学が如何なる程度にまで進歩発達しゐるかは無論知らざるなり。故に自分の述ぶる宇宙観に対して、直ちに現代の天文学的知識を以て臨むとも、俄に首肯し難き点少なからざるべし。 前節に引続き太陽のことより順次述ぶる事とせり。 太陽は暗体にして、太陽の色が白色を加へたる如き赤色に見ゆるは、水が光り居るが故なり。暗夜に赤布と白布とを比較して見れば白布の方がハツキリ見ゆるものなり。これに依りて見るも水の光りゐることが判じ得るなり。 大宇宙間の各小宇宙は互に牽引してゐるものにして、それと同じく太陽がその位置を支持するは諸星の牽引力によるものなり。故に天主は太陽を支持する為に先づ諸星辰を造りたり。(第一篇天地剖判の章参照) 太陽と我が地球との距離は、小宇宙の直径五十六億七千万里の八分の一に当り、而て大空の諸星は皆それ自体の光を放ちつつ太陽の高さ以上の位置を占めゐるなり。太陽の光は、決して大空に向つては放射されず、恰も懐中電燈の如く、凡て大地に向つてのみ放射さるるなり。 普通我々は太陽の昇る方角を東としてゐるが、本来宇宙それ自体より言へば、東西南北の別なし。仏説に、 『本来無東西何処有南北』 とあるも、この理に由る。今、東西南北の区別を立つれば、大地の中心たる地球が北極に当る。北とは気垂、水火垂、呼吸垂、の意なり。南とは皆見えるといふ意味の言霊なり。 地球は前述の如く、世の学者らの信ずる如き円球にあらずして地平なり。我々の所謂地球は、大地の中心なる極めて一小部分にて、大地は第一図に示す如く、悉く氷山なり。而て其の氷山は所謂地球を相距る程愈嶮峻になり行く。普通氷山の解けるといふことは、地球の中央に接近せる氷山の解けるのみにして、大部分の氷山は決して解くることはなきものなり。 地球説の一つの証拠として、人が海岸に立ちて沖へ行く舟を眺める場合に、船が段々沖へ行くに従つて、最初は船体を没し、次第に檣を没して行くといふ事実を挙げられるやうだが、それは我々の眼球がすでに円球に造られてあるが故である。望遠鏡は凹鏡であるから、人間の瞳との関係で、遠方が見えるのである。故に地球説を固執する人々は先づ人間の眼球そのものの研究より始めねばなるまい。 地球は又一種の光輝を有し、暗体ではない。 宇宙全体の上に最も重大なる役目を有するのは、太陰即ち月である。太陽の恩恵によつて万物の生成化育し行くことは誰でも知つてゐるが、蔽はれたる月の洪大無辺なる恩恵を知る者は殆ど全く無い。 宇宙の万物は、この月の運行に、微妙にして且つ重大なる関係を有つてゐる。月は二十九日余即ち普通の一月で、中空を一周する。但し、自転的運行をするのではなく、単に同一の姿勢を保つて運行するに過ぎない。大空に於ける月の位置が、たとへば月の三日には甲天に、四日には乙天と順次に変つて行くのは、月が静止してゐるのでなくして西より東に向つて運行してゐる證拠である。 月が我々の眼に見えるのは、第一図の上線を月が運行してゐる場合で、下線を通過してゐる時は全然我々には見えない。月が上線を運行する時は、月読命の活動であり、下線を運行する時は素盞嗚尊の活動である。 次に月を眺めて第一に起る疑問は、あの月面の模様である。昔から猿と兎が餅を搗いてゐるといはれるあの模様は、我々の所謂五大洲の影が月面に映つてゐるのである。それ故、何時も同じ模様が見えてゐる。蝕けた月の半面に朧げな影が見えるのは、月それ自体の影である。つまり月の半面たる火球の部分が見えてゐるからである。 月蝕の起るは、月が背後から太陽に直射された場合である。日蝕は、月が太陽と地球との中間に入つて、太陽を遮ぎつた場合である。 銀河は、太陽の光が大地の氷山に放射され、それが又大空に反射して、大空に在る無数の暗星が其の反射の光によつて我々の眼に見えるのである。銀河の外椽に凸凹あるは氷山の高低に凸凹あるが為めである。 又彗星は大虚空を運行し時に大地より眺められる。大虚空とは此の小宇宙の圏外を称するので、青色を呈してゐる。大空の色は緑色である。併し、我々は大空の色のみならず、青色の大虚空をも共に通して見るが故に、碧色に見えるのである。 此の小宇宙を外より見れば、大空は大地よりはずつと薄き紫、赤、青等各色の霊衣を以て覆はれ、大地は黄、浅黄、白等各色の厚き霊衣を以て包まれてゐる。そしてこの宇宙を全体として見る時は紫色を呈してゐる。これを顕国の御玉といふ。 わが小宇宙はこれを中心として他の諸宇宙と、夫れ夫れ霊線を以て蜘蛛の巣の如く四方八方に連絡し相通じてゐるのであつて、それらの宇宙にも、殆ど我々の地球上の人間や動植物と同じ様なものが生息してゐない。但此の我が小宇宙に於ける、地球以外の星には神々は坐ませども、地球上に棲息する如き生物は断じてゐない。この小宇宙と他の宇宙との関係を図によりて示せば、第五図の如くである。 [#図第五図大宇宙の図] (大正一〇・一二・一五旧一一・一七桜井重雄録)
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(1210)
霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 48 神示の宇宙その三 第四八章神示の宇宙その三〔一九八〕 王仁は前席に於て、太陽は暗体であつて、其の実質は少しも光輝を有せぬと言ひ、また地球は光体であると言つた事に就き、早速疑問が続出しましたから、念のために茲に改めて火と水との関係を解説しておきます。されど元来の無学者で、草深き山奥の生活を続け、且つ神界よりの厳命で、明治以後の新学問を研究する事を禁じられ、恰も里の仙人の境遇に二十四年間を費したものでありますから、今日の学界の研究が何の点まで進ンで居るかと云ふ事は、私には全然見当が付かない。日進月歩の世の中に於て、二十四年間読書界と絶縁して居たものの口から吐き出すのですから、時世に遅れるのは誰が考へても至当の事であります。昔話にある、浦島子が龍宮から帰つて来た時の様に世の中の学界の進歩は急速であつて、私が今日新なる天文、地文、その他の学問を見ましたならば、嘸驚異の念にからるるで在らうと思ひます。併し私としては今日の科学の圏外に立ち、神示のままの実験的物語をする迄です。 『神ながら虚空の外に身をおきて日に夜に月ぬものがたりする』現代文明の空気に触れた学者の耳には到底這入らないのみならず、一種の誇大妄想狂と見らるるかも知れませぬ、然れど『神は賢きもの、強きものにあらはさずして、愚なるもの、弱きものに誠をあらはし玉ふ』と言へる聖キリストの言を信じ、愚弱なる私に真の神は、宇宙の真理を開示されたのでは無からうかとも思はれるのであります。 凡て水は白いものであつて、光の元素である。水の中心には、一つのゝがあつて、水を自由に流動させる。若しこのゝが水の中心から脱出した時は固く凝つて氷となり、少しも流動せない。故に水からゝの脱出したのを、氷と云ひ、又は、氷と云ふ。火もまたその中心に水なき時は、火は燃え、且つ光る事は出来ぬ。要するに水を動かすものは火であり、火を動かすものは水である。故に、一片の水気も含まぬ物体は、どうしても燃えない。 太陽もその中心に、水球より水を適度に注入して、天空に燃えて光を放射し、大地はまた、氷山や水の自然の光を地中の火球より調節して、その自体の光を適度に発射して居る。 次に諸星の運行に、大変な遅速のある様に地上から見えるのは、地上より見て星の位置に、遠近、高低の差あるより、一方には急速に運行する如く見え、一方には遅く運行する様に見えるのである。が、概して大地に近く、低き星は速く見え、遠く高き星はその運行が遅い様に見える。 例へば、汽車の進行中、車窓を開いて遠近の山を眺めると、近い処にある山は、急速度に汽車と反対の方向に走る如く見え、遠方にある山は、依然として動かない様に見え又その反対の方向に走つても、極めて遅く見ゆると同一の理である。 前述の如く、太陰(月)は、太陽と大地の中間に、一定の軌道を採つて公行し、三角星、三ツ星、スバル星、北斗星の牽引力に由つて、中空にその位置を保つて公行して居る。月と是等の星の間には、月を中心として、恰も交感神経系統の如うに、一種の微妙なる霊線を以て、維持されてある。 太陽と、大空の諸星との関係も亦同様に太陽を中心として、交感神経系統の如うに一種微妙の霊線を以て保維され、動、静、解、凝、引、弛、合、分の八大神力の、適度の調節に由つて、同位置に安定しながら、小自動傾斜と、大自動傾斜を永遠に続けて、太陽自体の呼吸作用を営ンで居る。 大地も亦その中心の地球をして、諸汐球との連絡を保ち、火水の調節によつて呼吸作用を営み居る事は、太陽と同様である。地球を中心として、地中の諸汐球は、交感神経系統の如く微妙なる霊線を通じて、地球の安定を保維して居る。 また地球面を大地の北極と云ふ意味は、キタとは、前述の如く、火水垂ると云ふことであつて、第六図の如く、(挿図参照)太陽の水火と、大地の中心の水火と、大地上の四方の氷山の水火と、太陰の水火の垂下したる中心の意味である。 [#図第六図地球の平面図] 人間が地球の陸地に出生して活動するのを、水火定と云ふ。故に地球は生物の安住所であり、活動経綸場である。また水火即ち霊体分離して所謂死亡するのを、身枯留、水枯定と云ふのは、火水の調節の破れた時の意であります。されど霊魂上より見る時は生なく、死なく、老幼の区別なく、万劫末代生通しであつて、霊魂即ち吾人の本守護神から見れば、単にその容器を代へるまでであります。 (大正一〇・一二・二七旧一一・二九加藤明子録)
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(1240)
霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 23 神の御綱 第二三章神の御綱〔二二三〕 聖地ヱルサレムは常世彦、常世姫らの暴政の結果、天地の神明を怒らしめ、怪異続出して変災しきりにいたり、終にアーメニヤに、八王大神は部下の神々とともに逐電し、エデン城もまた焼尽し、竜宮城もまた祝融子に見舞はれ烏有に帰し、橄欖山の神殿は鳴動し、三重の金殿は際限もなく中空にむかつて延長し、上端において東西に一直線に延長して丁字形の金橋をなし、黄金橋もまた地底より動揺して虹のごとく上空に昇り、漸次稀薄となり、大空に於て遂にその影を没して了つた。 丁字形の金橋は、東より南、西、北と緩やかに廻転し始めた。さうして金橋の各部よりは、美はしき細き金色の霊線を所々に発生し、地球の上面に垂下すること恰も糸柳の枝のごとくであつた。さうして其の金色の霊線の終点には、金銀銅鉄鉛等の鈎が一々附着されてある。これを『神の御綱』ともいひ、または『救いの鈎』ともいふ。 言触神は遠近の区別なく山野都鄙を跋渉し、櫛風沐雨、心身を惜しまず天教山の神示を諸方に宣伝しはじめた。さうしてその宣伝に随喜渇仰して、日月の殊恩を感謝し、正道に帰順する神人には、おのおのその頭に『神』の字の記号を附けておいた。されど附けられた者も、附けられない反抗者も、これに気付くものは一柱もなかつた。 中空に金橋廻転し、金色の霊線の各所より放射するを見て、地上の神人は最初は之を怪しみ、天地大変動の神の警告として、心中不安恐怖の念に駆られて、天に向ひ、何者かの救ひを求むるごとく、合掌跪拝しつつあつた。しかるに日を重ね、月を越ゆるにつれて、これを少しも異しむものなく、あたかも日々太陽の東より出でて西に入るもののごとく、ただ普通の現象として之を蔑視し漸く心魂弛み、復び神を無視するの傾向を生じてきた。 このとき天道別命、天真道彦神、月照彦神、磐戸別神、足真彦神、祝部神、太田神その他の諸神は、昼夜間断なく予言警告を天下に宣布しつつあつた。 されどウラル彦の体主霊従的宣伝歌に、あまたの神人らは誑惑され、かつ大にこの歌を歓迎し、致る所の神人は山野都鄙の区別なく、 『呑めよ騒げよ一寸先や暗よ 暗の後には月が出る 時鳥声は聞けども姿は見せぬ 姿見せぬは魔か鬼か』 と盛んに謡ひ、酒色と色情の欲に駆られ、暴飲暴食、淫靡の風は四方を吹捲つた。 言触神の苦心惨憺して教化の結果、得たる神人の頭部に『神』の字の記号を附着されたる神人は、大空の金橋より落下する金色の霊線の末端なる『救ひの鈎』にかけられ、中空に舞上るもの、引揚らるるもの、日の数十となく現はれてきた。八百万の神人の中において、日に幾十柱の神人の救はれしは、あたかも九牛の一毛に如かざる数である。 この鈎にかかりたる神人は、上中下の身魂の中において、最も純粋にして、神より選ばれたものである。同じ引揚げらるる神人のなかにも、直立して『上げ面』をなし、傲然として頭を擡げ、鼻高々と大地を歩み、又は肩にて風をきる神人は、耳、鼻、顎、首、腕などを其の鈎に掛けられ、引揚げらるる途中に非常の苦しみを感じつつあるのが見えた。また俯向いて事業に勉励し、一意専心に神を信じ、下に目のつく神は、腰の帯にその鈎が掛つて少しの苦しみもなく、金橋の上に捲き上げられるのであつた。その他身体の各所を、地上の神人の行動に依つて掛けられ金橋の上に救ひ上げらるるその有様は、千差万別である。中には苦しみに堪へかねて、折角もう一息といふところにて顎がはづれ、耳ちぎれ、眼眩み、腕をれ、鼻まがりなどして、ふたたび地上に落下し、神徳に外れる者も沢山に現はれた。その中にも頭を低くし、下を憐れみ、俯向きて他の神人の下座に就き、せつせと神業をはげむものは、完全に天上の金橋に救ひ上げられた。 このとき天橋には、第二の銀色の橋、金橋とおなじく左右に延長し、また其の各所よりは銀色の霊線を地上に垂下し、末端の鈎にて『中の身魂』の神人を、漸次前のごとくにして救ひ上げるのを見た。 次には同じく銅色の橋左右に発生して、前のごとく東西に延長し、銅橋の各所より又もや銅色の霊線を地上に垂下し、その末端の鉤にて選まれたる地上の神人を、天橋の上に引揚ぐること以前のごとく、完全に上り得るもあり、中途に落下するもあり、せつかく掛けられし其の綱、其の鉤をはづして地上より遁去するもあつた。 [#図救ひの鈎] 図をもつて示せば、前図のとほりである。 (大正一一・一・一〇旧大正一〇・一二・一三外山豊二録)
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(1241)
霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 24 天の浮橋 第二四章天の浮橋〔二二四〕 竜宮城の三重の金殿より顕国玉の神威発揚して、あたかも両刃の剣を立てたるごとき黄金の柱中空に延長し、その末端より発生したる黄金橋はこの柱を中心に東西に延長し、その少しく下方よりは左右に銀橋を発生し、そのまた下方部よりは銅橋を発生して東西に延長し、地球の上面を覆うたことは前述の通りである。 そして各橋より垂下する金銀銅の霊線の鉤に身体をかけられ、上中下三段の身魂が各自身魂の因縁によつて金銀銅の橋上に救ひ上げられ、或は中途に地上に落下する有様を、訝かしげに眺めつつ見惚れてゐた瑞月の前に、銀色の霊線が下りきたり、その末端の鉤は腹部の帯に引掛るよと見るまに、眼も眩むばかりの速力にて空中に引きあげられた。あまりの恐ろしさに、思はず眼を閉ぢ口を塞ぎ、両手をもつて耳を塞ぎつつあつた。俄に、 『眼を開けよ』 といふ声が、頭上の方にあたつて聞えた。その声に思はず眼を開けば、遥の中空に捲揚げられ、自分は銀橋の上に立たされてゐた。銀橋の上には、ところどころに神人が引き揚げられてゐるのを見た。いづれも恐ろしげに緊張しきつた態度で、地上を瞰下してゐるのであつた。このとき吾頭上にあたつて、 『吾は国姫神なり、汝に今より小松林命といふ神名を与へむ。この綱にすがりて再び地上に降り、汝が両親兄弟朋友知己らに面会して天上の光景を物語り、悔い改めしめ、迷へる神人をして神の道につかしむべし』 と言葉終るとともに頭上より金線は下つてきた。そして国姫神の姿は声のみにて、拝することは出来なかつたのである。下りくる金色の霊線を両手に握るよとみるまに、ガラガラと釣瓶の車をまはすごとき音して地上に釣瓶落しに卸されて了つた。 降れば身は何ともいへぬひろびろとした原野に立つてゐた。ここには吾親らしきものも兄弟知己らしき人間もなく、ただ虎、狼、山狗、狐狸の群がところどころに散在してゐるのであつた。不思議にも是らの猛獣は白壁造りの庫を建てて、或は立派な門構へをなし、美しき広き家に住まつてゐるのである。どう考へても猛獣狐狸の棲むべき住家とは思はれなかつた。これはどうしても人間の住むべき家である。しかるに何ゆゑ、此のごとき獣類のみ住みをるやと、訝かりつつあつた。 このとき国姫神の声として、 『天上より此黒布を与へむ』 と云はるるかと見るまに、黒き布は風にヒラヒラとして吾前に下り来つた。手早くこれを持つて面部を覆うた。黒布を透してその猛獣狐狸の群をながむれば、あにはからむや、いづれも皆立派なる人間ばかりである。中には自分の親しく交はつてゐた朋友も混つてをるには、驚かざるを得なかつた。 それよりこの黒布を一瞬の間も離すことをせなかつた。そのゆゑは、此眼の障害物を一枚除けば、前述のごとく猛虎や狐狸の姿に変つて了ひ、実に恐ろしくてたまらなかつたからである。 さうかうする間、又もや天上より吾前に金色の霊線が下つてきた。以前のごとく吾腹帯に鈎は引かかつた。今度はその黒布を手ばやく懐中に入れ、両手を以て確と金色の霊線を掴みながら、前のごとく一瀉千里の勢にて上空に引き揚げられて了つた。 やや久しうして、 『眼を開けよ』 と叫びたまふ神の声が聞えた。眼を開けば今度は最高点の黄金橋の上に引き揚げられてゐたのである。まづ安心とあたりを見れば、国姫神は莞爾として四五の従神とともに吾前に現れ、 『この橋は黄金の大橋といひ、また天の浮橋ともいひ、地球の中心火球より金気昇騰して顕国の玉となり、この玉の威徳によりて国の御柱は中空に高く延長し、その頂上は左右に分れ、左は男神の渡るべき橋にして、右は女神の渡る橋なり、この黄金橋は滑にして、少しの油断あらば滑りて再び地に顛落し、滅亡を招くの危険あり。汝は抜身の中に立つごとく心を戒め、一足たりとも油断なく、眼を配り、耳を澄ませ、息を詰め、あらゆる心を配りてこの橋を東方に向つて渡れ。また此橋は東南西北に空中を旋回す、その旋回の度ごとに橋体震動し、橋上の神人は動もすれば跳飛ばさるる恐れあり、また時には暴風吹ききたつて橋上の神人を吹き落すことあり。欄干もなく、足溜りもなく、橋とはいへど黄金の丸木橋、渡るに難し、渡らねば神の柱となることを得ず、実に難きは神柱たるものの勤めなり』 と言葉嚴かに云ひ渡された。 王仁は唯々諾々として其教訓を拝し、東方に向つて覚束なき足下にて、一歩々々跣足のまま歩を進めた。 忽ち黄金橋は東より南に廻転を初めた。じつに危険身に迫るを覚え、殆ど顔色をなくして了つた。このとき何神の御声とも知れず、 『勇猛なれ、果断なれ、毅然として神命を敢行せよ。神は汝の背後にあり、夢恐るるな』 といふ声が耳朶を打つた。 王仁はこの声を聞くとともに、恐怖心も何も全部払拭され、光風霽月、心天一点の暗翳も留めざる思ひがした。 金橋はますます廻転を速め、東より南に、南より西へ、西より北へと中空をいと迅速に旋回し、また元の東に戻つた。 黄金橋の東端は、ある一つの高山に触れた。見れば是は世界の名山天教山の頂きであつた。このとき木花姫命を初め数多の神人は、吾姿を見て、 『ウローウロー』 と両手を挙げて叫び、歓迎の意を表された。 いつの間にか王仁の身は天教山の山頂に、神々とともに停立してゐた。金橋は何時のまにか東南隅に方向を変じてゐた。 時しも山上を吹き捲くる吹雪の寒さに、頬も鼻も千切れるばかりの痛みを感ずるとともに、烈風に吹かれて山上に倒れし其の途端に前額部を打ち、両眼より火光が飛び出したと思ふ一刹那、王仁の身は高熊山の岩窟に静坐し、前額部を岩角に打つてゐた。 (大正一一・一・一〇旧大正一〇・一二・一三井上留五郎録)
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霊界物語 06_巳_大洪水/国生み神生み/三五教の誕生 16 大洪水(二) 第一六章大洪水(二)〔二六六〕 世は焼劫に瀕せるか、酷熱の太陽数個一時に現はれて、地上に熱を放射し、大地の氷山を溶解したる水は大地中心の凹部なる地球に向つて流れ集まり、地球は冷水刻々に増加して、さしもに高き山の尾上も次第々々に影を没するに至りける。 このとき星はその位置を変じ、太陽は前後左右に動揺し、地は激動して形容し難き大音響に充されたりぬ。太陽は黒雲に包まれ、地上は暗黒と変じ、咫尺を弁ぜざる光景とはなりぬ。 彼の竜宮城に在りし三重の金殿は、中空に際限もなく延長して、金銀銅色の天橋を成し、各自天橋よりは金銀銅色の霊線を垂下し、その端の救ひの鉤をもつて、正しき神人を橋上に引き揚げ始めたり。 天橋の上には蟻の群がる如く、数多の神人が救ひ上げられ、天橋は再び回転を開始したり。東西に延長せる天橋は、南に西に北に東と中空を廻り、天教山、地教山その他数ケ所の高山の巓に、救はれたる神人を送り、またもや憂瀬に沈み苦しめる正しき神人を救ひの鈎を以て次第々々に天橋の上に引き揚げ玉ひける。 このとき天教山の宣伝使は、何時の間にか黄金橋の上に立ち、金色の霊線を泥海に投げ、漂流する正しき神人を引き揚げつつあり。而して天橋に神人の充満するを待ちて、またもや天橋は起重機のごとく東南西北に転回し、その身魂相当の高山に運ばれゆくなり。神諭に、 『誠の者は、さあ今と云ふ所になりたら、神が見届けてあるから、たとひ泥海の中でも摘み上げてやるぞよ』 と示されあるを、想ひ出さしめらるるなり。 救ひ上げられたる中にも、鬼の眼にも見落しとも云ふべきか、或は宣伝使の深き経綸ありての事か、さしも悪逆無道なりしウラル彦、ウラル姫も銅橋の上に救ひ上げられたり。而して常世神王始め盤古神王もまた金橋の上に救はれて居たりける。 ウラル彦はアルタイ山に運ばれ、その他の神人も多くここに下されたり。この山は大小無数の蟻、山頂に堆く積り居たりけるが、凡て蟻は洪水を前知し、山上に真先に避難したりしなり。 ウラル彦神は蟻の山に運ばれ、全身蟻に包まれ、身体の各所を鋭き針にて突き破られ、非常の苦悶に堪へかねて少しく山を下り、泥水の中に全身を浸し見たるに、蟻は一生懸命に喰ひ着きて、苦痛はますます激しく、またもや蟻の山へと這ひ上りゆけり。 蚊取別の禿頭も此処に居たるが、この時ばかりはその禿頭は全部毛が生えたるごとく見えたりき。全く蟻が集りたる結果なりける。 このアルタイ山に運ばれた神人は、極悪の神人ばかりにして、極善の神人は天教、地教両山に、極悪者はアルタイ山に救はれたりける。 平素利己主義を持し、甘い汁を吸うた悪者共は、全身残らず甘くなつてをると見えて、蟻が喜びて集るに反して、世界のために苦き経験を嘗めたる神人は、身体苦く、一匹も蟻は集り得ざるなり。裏の神諭に、 『甘いものには蟻がたかる(有難)。苦いものには蟻がたからぬ(不有難)』 と書いてあるのは、この物語の光景を洩らされしものなるべし。嗚呼地上の世界は今後何れに行くか心許なき次第なり。 (大正一一・一・一八旧大正一〇・一二・二一井上留五郎録)
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霊界物語 14_丑_小鹿峠(弥次彦・与太彦) 13 山上幽斎 第一三章山上幽斎〔五六三〕 醜の魔風や様々の、世の誘惑に勝彦の、神の使の宣伝使は、弥次彦、与太彦、六公の三人を伴なひ、小山の郷を打過ぎて、二十の坂を三つ越えし、峠の頂きに漸く登り着いた。 この峠の頂きは今迄過来し各峠の頂上に引換へて大変に広い高原になつて居る。小鹿川の流れは眼下の山麓を、白布を晒した如く、岩と岩とにせかれて飛沫を飛ばして居る。山腹は殆んど岩を以て蔽はれ、灌木の其処彼処に青々として、岩と岩の配合を、優美に高尚に色彩つて居る。 弥『小鹿峠も漸く二十三坂を跋渉したが、この頂上くらゐ広い所は無かつた。東西南北の遠近の山、茫漠たる原野は一望の下に横たはり、風は清く、何となく春の気分が漂ふて来た。此処で吾々はゆつくりと休養して参る事に致しませうか』 勝『アヽそれは宜からう、この頂上より四方を眺めた時の気分は、実に雄渾快濶にして、宇宙を我手に握つたやうな按配式だ。ゆるゆると神界の話でもさして頂かうか、斯う云ふ清い所では、何程神界の秘密を話した所で、滅多に曲津神の襲来する虞もなからう』 と言ひ乍ら、青芝の上に腰を下した。三人も同じく、芝生の上に横たはつた。 与『アヽ良い気分だ。何時見ても、頂上を極めた時の心持はまた格別だが、今日は殊更に気分が良い。斯う云ふ時に一つ幽斎の修業を始めたら、キツト善い神様が感合して下さるでせう、………もし宣伝使様、一同此処で三五教の鎮魂帰神の神法を施して下さいませぬか』 勝『それは結構だが、生憎高地の事とて、水も無し、手を洗ひ口をすすぎ、水を被ると云ふ事が出来ないから……第一此れには閉口だ』 弥『神様の教にも、「身の垢は風呂の湯槽に洗へ共、洗ひ切れぬは魂の垢なり」と示されてある、たとへ水が無くとも、神様に一つ御免を蒙つて、身魂の洗濯をして貰ふ訳にはゆきますまいか。水は肉体の垢を洗ひ落す丈のもの、鎮魂は精神の垢を落すものですから、今日は肉体は已を得ずとして、霊丈の洗濯をして貰ひませうか……ナア与太彦、六公』 与『それも一つの真理だ……もしもし勝彦の宣伝使、あなたは古参者だ、吾々は新参者、どうぞ一つ鎮魂を願つて下さいな』 勝『霊肉一致、現幽一本だから、理屈を云へば、別に水行をせなくつても、霊さへ洗へば良いと云ふ様なものだが、矢張汚い肉体には美しい霊の神が憑る事は、到底不可能だらう。コンナ所で漫然と幽斎でもやらうものなら、ウラル教の守護を致して居る悪神が、何時憑依するかも知れたものでない。此頃は霊界に於て、往昔国治立の大神、その他の神々に対し、極力反抗を試み、遂には大神をして退隠の已むなきに至らしめたと云ふ大逆無道の常世姫や木常姫、口子姫、八十枉彦の邪霊連中が、少しでも名望のある肉体に憑依し、再び神界混乱の陰謀を企てて居るのだから、愚図々々して居ると、何時憑依されるか分つたものでない。宇宙一切は大国治立尊の御支配だから、到る所として正しき神の神霊は、充満し給ふとは云ふものの、また盤古系統、自在天系統の邪神も天地に充満して居るから、此方の霊をよほど清浄潔白にして掛らねば、神聖の神の降臨を受けるといふ事は、到底不可能なが原則だ。水が一滴もないのだから、肉体を清める訳にも行かないから、また滝壷の在る所か、清き流れの水に禊をするとかして、その上で幽斎の修業にかかつたが宜しからう』 弥『アヽ融通の利かぬものだな、全智全能の根本の神様でも、ソンナ窮屈な意見を以て居られるのだらうか。善悪相混じ、美醜互に交はつて、天地一切の万物は、茲に初めて力を生じ、各自の活動を開始するのでは有りませぬか。世の中には絶対の善もなければ、また絶対の悪もない。如何に水晶の身魂だと云つても、大半腐敗せる臭気に包まれた人間の体に宿らねばならぬのだから、何程表面を水位で洗つた所で、五臓六腑まで洗濯しきれるものでない、物を深く考へれば、手も足も出せなくなつて了ふ。何事も神直日大直日に見直し聞直し詔直して、ここで一つ神聖なる幽斎の修業を、是非々々開始して下さい。ナンダカ神経が興奮して、神懸の修業がしたくつて、仕方がなくなつて来た』 勝『幽斎の修業は心身を清浄にする為、第一の要件として、清潔なる衣服を纏ひ、身体を湯水に清めて掛らねばならぬのだが、さう言へば仕方がない、神様に御免を蒙つて幽斎の修業をさして頂く事にしやうかなア』 弥『イヤー有難いありがたい……ナア与太彦、六公、貴様は今迄まだ神懸の経験がないのだから、この弥次彦サンの神懸を、能つく拝め、心を清め、肝を錬れ、……サア勝彦の宣伝使様、早く審神をして下さい。ナンダカ気がイソイソとして堪まらなくなつて来ました、……ウンウンウンウン、ウーウー』 と忽ち惟神的に両手は組まれ、身体忽ち前後左右に動揺し始めた。 与『ヨー弥次彦の奴、独り芝居を始め出したナ、ナンダ、妙な恰好だな、目を塞ぎよつて両手を組み、坐つたなりに飛上がり、宙にまいまいの芸当を始め出した。大方松の大木から滑走しよつた時の亡霊が、まだ体のどつかに残留して居つたと見える……オイ六公、面白いぢやないか、……コレコレ勝彦サン、今日はモウ口上丈はやめて下さい、頼みますぜ』 勝『アハヽヽヽ』 弥次彦は夢中になつて、汗をブルブル垂らし乍ら、蚋が空中に餅搗した様に、地上一尺以上を離れ、五六尺の間を昇降運動を開始して居る。神懸に関しては素人の与太彦、六公の二人は、口アングリとして大地に倒れた儘、 与、六『アーアー、ヤルヤル、妙だ妙だ、オイ弥次彦、貴様はそれ丈の隠し芸を持つて居つたのか、重宝な奴だ、宙吊りの芸当は珍らしい。ワハヽヽヽ、モシモシ宣伝使さま、どうとかして、御神力で弥次彦の体を、猿廻しの様に使つて見せて下さいな』 勝彦は両手を組み、天津祝詞を声も緩やかに奏上し終り、一二三四五六七八九十百千万と、天の数歌を歌ひ終り、右の食指の指頭より五色の霊光を発射し、弥次彦の身体に向つて、空中に円を描いた。弥次彦の身体は勝彦の指の廻転に伴れて、空中に円を描き、指の向ふ方向に、彼が身体は回転する。勝彦は、今度は思ひ切つて腕を延べ、中天に向つてブンマワシの如くに円を描き、弥次彦の体は勝彦の指さす中空に向つて舞上り舞ひ下り、また舞ひ上り舞下り、空中遊行の大活劇を演ずる面白さ。 与『オイ六公、あれを見い、弥次彦の奴、漸々熱練しよつて、体が小さくなつて、見えぬやうな高い所まで、空中を滑走し、上つたり下りたり、上になつたり下になつたり、大変な大技能を発揮しよるぢやないか、……モシモシ宣伝使さま、あなたの指の動く通りに、弥次彦の奴、動きますなア。あれなら軽業師になつても大丈夫食へますナ』 勝『アハヽヽヽ、あれは霊線の力に操られて、体を自由に使はれて居るのだ。俺の指の通りになるであらうがな』 与『ハハア、さうすると弥次彦が偉いのじやなくて、あなたの指が偉い神力を具備して居るのだなア……あなたはヤツパリ魔法使だ、恐ろしい油断のならぬ宣伝使ぢや、私丈はアンナ曲芸は、どうぞ遣らさぬ様に願ひますで、喃六公、アンナ事をやられたら、息も何も切れて了うワ』 六『アヽ恐ろしい事だのう』 斯く云ふ中、弥次彦の身はスーと空気を分ける音と共に、三人の前に下つて来た。勝彦は又もや両手を組んで、『許す』と一声、弥次彦は常態に復し、目をギロつかせ乍ら、 弥『アヽやつぱり二十三峠の頂上だつた、ヤア怖い夢を見たよ、天へ上がるかと思へば地へ下つて、地へ下つたと思へば又天へ引上げられる、目はまわる、何ともかとも知れぬほど苦しかつた、アヽやつぱり夢だ夢だ』 与、六『エ、なアに、夢所か実地誠の正味正真だ。現に俺達は今ここで貴様の大発明の軽業を、無料観覧した所だ。貴様もよつぽど妙な病気があると見える、親のある間に治療をして置かないと、親が無くなつたら、到底一生病だ。不治の難症と筍医者に宣告されるが最後、芝を被つて来ない限り、迚も此世では駄目だぞ、……モシモシ勝彦さま、コラ一体何の業ですか』 勝『弥次彦には、悪逆無道の木常姫と云ふ奴が、タツタ今油断を見すまして、くつつきよつたのだ。そこで私が鎮魂の力を以て木常姫の悪霊を縛つたのだ。悪霊は私の指の指揮に従つて、あの通り容器と一所に、宙を舞ひ狂うたのだよ、モウ今の所では、木常姫の邪霊も往生致して逃げよつたから、弥次彦も旧の通り、常態になつたのだ、ウツカリして居ると、貴様等も亦何時邪霊の一派に襲はれるか知れやしないぞ。夫れだから、至貴至重至厳なる幽斎の修業は、肉体を浄めもせず、汗だらけの、垢の付いた衣服を纏ふて奉仕する事は出来ないと、私が説諭したのだ。それにも拘はらず、私の言葉を無にして聞かないものだから、修業も始めない中から、邪霊に誑惑され、忽ち木常姫の容器となりよつたのだ、……オイ弥次彦、しつかりせないと、又もや邪神が襲来するぞ』 弥『智覚精神を殆んど忘却して居ましたから、何が何だか私としては、明瞭を欠きますが、仮令邪神にもせよ、宙を駆けるナンテ、偉い力のあるものですなア』 勝『馬鹿を言ふな、胴体なしの凧といふ事がある。悪魔と云ふ者は、大体が表面ばかりで、実地の身がないから、恰度、言へば風の様なものだ。その邪霊が人間の肉体へ這入つたが最後、人間の体は風船玉が人間を宙にひつぱり上げる様な具合になつて、体が飛び上がるのだ。人間は大地を歩む者、鳥かなんぞの様に、宙を翔つ奴は、最早人間としての資格はゼロだ、貴様たちも中空が翔つて見たいのか』 与、六『ヘイヘイ邪神だらうが、何だらうが、人間として天空を翔ると云ふ様な事が出来るのなら、私は一寸一遍、ソンナ目に会ふて見たいですな。世界の人間は驚いて……「ヤア与太彦、六公の奴、偉い神力を貰ひよつた、生神さまになりよつた」と云つて、尊敬して呉れるでせう。そうなると、「ヤア彼奴は三五教の信者だ、三五教は神力の強い神だ、俺も三五教に帰依する」と云ふて、世界中の人間が一遍に改心するのは請合です。神様も吾々にアンナ神力を与へて、世界の奴をアツと言はして下さつたら一遍にお道が開けて、世界の有象無象が改心するのだけれどなア』 勝『正法に不思議なし、奇蹟を以て人を導かむとする者は、いはゆる悪魔の好んで執る所の手段だ。吾々は神様の貴重な生宮だ、充分に自重して、肉の宮に重みを付け、少々の風にまで飛あがり、宙をかける様な事になつては、最早天地経綸の司宰者たる資格はゼロになつたのだ。何処までも吾々はお土の上に足をピツタリと付け居るのが法則だ』 与『それでも、鷹彦の宣伝使は宙を翔つぢやありませぬか』 勝『鷹彦は半鳥半人の境遇に居るエンゼルだ。彼は時あつて空中を飛行し、神業に参加すべき使命を持つて居るのだから、羽翼が与へられてあるのだよ。羽翼は空中を飛翔するための道具だ。羽もない人間が、今弥次彦の様な事を行るのは変則だ、悪魔の翫弄物にせられて居るのだよ』 六『さうすると、悪魔の方がよつぽど偉い様ですな。誠の神様は土に親しみ、悪魔は天空を翔るとは、実に天地転倒の世の中とは言ひ乍ら、コラ又あまり矛盾ぢやありませぬか。仮令邪神でも何でも構はぬ、一遍アンナ離れ業を演じて見たいワ』 勝『コラコラ六公、言霊の幸はふ国だ、ソンナ事を言ふと、貴様には、竜宮城から鬼城山に使ひした、一旦大神に叛いた口子姫の霊が、貴様の身辺を狙つて居るぞ、シツカリ致せ』 六『ヤアそいつは一寸乙でげすな、何時も憑り通しにされては困るが、一遍位は憑つて呉れても御愛嬌だ、……ヤイ口子姫とやら、俺の肉体を貸して与るから、一遍アツサリと憑つて呉れぬかい』 弥次彦口をきつて 弥次彦『クヽヽヽチヽヽヽコヽヽヽヒヽヽヽメヽヽヽ口子…口子…ヒヒメメメメ口子姫命只今より六公の肉体を守護致すぞよ』 六『有難う御座います』 と云ふや否や、身体を上下左右に動揺し始めた。地上より四五尺許りの所を、上りつ下りつ、石搗の曲芸を演じ始めた。遂には足は地上を離れ、最低地上を距ること一尺余、最高二三丈の空中を上下し、廻転し始めた。 弥『ヤア六公の奴、偉い神力を貰ひよつたぞ、羨りい事だ、俺も一遍アンナ事が有つて見たい。俺にアヽ言ふ実地が現はれたら、それこそ一も二もなく神の存在を、心底から承認するのだが、どうしても俺には、霊が曇つて居ると見えて、神が憑つて呉れぬワイ』 与『オイ弥次公、貴様ア、アンナ事所かい、殆ど日天様の所へ行きよつたかと思ふほど高う、空中をクルクルクルと廻転しよつて、まるで鳥位小さく見える所まで……貴様は現に大曲芸を演じよつたのだよ、それを貴様は記憶して居らぬか』 弥『アヽさうか、ナンダかソンナ夢を見たやうな記憶が朧げに残つて居る様だ。ヤアヤア六公の奴、追々と熟練しよつて、ハア上るワ上るワ……殆ど体が小さく見える所まで上りよつたナ、……モシモシ勝彦さま、アラ一体全体どうなるのですか』 勝『あまり慢心をすると、体の重量がスツカリ無くなつて、邪神の容器となり、風船玉のやうに吹き散らされるのだ、幸に今は無風だから好いが、一昨日の様な風でも吹いた位なら、夫れこそ、どこへ散つて仕舞ふか分りやしないぞ。それだから俺が此処では幽斎の修業は行られぬと云ふたのだ、……吁、困つた病人が二人も出来よつた、愚図々々して居ると、与太公、貴様にも伝染の兆候が見えて居る、病菌の潜伏期だ。何とかして、免疫法を講じたいものだが、此附近には避病院もなし、消毒薬も無し、困つた事だワイ』 与『消毒薬とは何ですか』 勝『生粋の清浄なお水だ、お水で体を清めて、神様の霊光の火で、黴菌を焼き亡ぼすのだ。吁、困つた事だ、……オイ与太公、しつかりせぬか、貴様には八十枉彦が附け狙ふて居るぞ、……何だ其態度は……またガタガタと震ひ出したぢやないか』 与『強度の帰神状態で、……イヤもう神人感合の妙境に達するのも、余り遠くはありますまい、……南無八十枉彦大明神、何卒々々この与太彦が肉体にどこどこまでもお見捨てなく、神懸り下さいませ、惟神霊幸倍坐世』 勝『また伝染しよつた、病毒の伝播と云ふものは、実に迅速なものだ、アヽ仕方がない、此奴等は皆奇蹟を好んで神を認めやうとする偽信者だから、谷底へ落ちて目を覚ますまで打遣つて置かうかなア。大火事の中へ、一本や二本のポンプを向けた所で仕方がないワ。エ、ままよ、これ丈熱くなつて燃え来つた火柱の様な、周章魂は、最早救ふの余地はない、……吁、国治立の大神様、木花姫の神様、日の出神様、モウ此上は貴神の御心の儘になさつて下さいませ、惟神霊幸倍坐世、惟神霊幸倍坐世』 勝彦の祈り終るや、六公は上下動を休止し、芝生の上にキチンと双手を組んだ儘端坐し、真赤な顔をし乍ら、汗をタラタラと垂らして居る。与太公は又もや唸り出した。法外れの大声で、 与太彦『ヤヤヤヤヤア、ヤソ、ヤソヤソヤソ、ママママ、ガヽヽヽ、マガマガマガ、ヒヒ、ココ、ヒコヒコ、八十枉彦だア……腐り切つたる魂で、三五教の宣伝使とは能くも言ふたり、勝彦の奴、……俺の審神が出来るなら、サア、サアサアサア、美事行つて見よ……』 勝『ナニツ、此世を乱す悪神、退却致せ』 と双手を組んで霊線を発射した。 八『アハヽヽヽヽ、ワツハヽヽヽヽ、可笑しいワイ、イヤ面白いワイ、小鹿峠の二十三坂の上に於て、審神者面を致した其酬い、数多の魔神を引きつれて、貴様の肉体を八裂に致してやらう、覚悟を致せ、……ヤツ…ヤツ…』 と矢声を出し乍ら、勝彦が端坐せる頭上を、前後左右に飛びまわり出した。勝彦は全身の力と霊を籠めて、右の食指より霊光を、八十枉彦の憑れる与太彦の前額部目掛けて発射した。 八『ワツハヽヽヽ、オツホヽヽヽ、猪口才な腰抜審神者、吾々を審判するとは片腹痛い。サアこれよりは其方の素つ首を引き抜いてやらう、覚悟を致せ』 と猿臂を延ばして掴みかかる。勝彦は『ウン』と一声言霊の発射に、与太彦の身体は翻筋斗うつてクルクルと七八廻転し乍ら、傍の木の茂みに転げ込んだ。又もや弥次彦は容色変じ、目を怒らせ、歯をキリキリと轢る音、……暫くあつて大口を開き、 弥次彦『コヽヽヽツヽヽヽネヽヽヽヒヽヽヽヒメ、コツコツコツ、ネヽヽヽヒヒヒ、メメメメ、コツコツ、コツネヒメのミコト、……其方は三五教の宣伝使と申し、変性男子埴安彦の神、変性女子埴安姫の神の神政を楯に取り、吾々の天下を騒がす腰抜野郎、この二十三峠は、吾々が屈強の関所だ。二十三坂、二十四坂の間は、ウラル彦の神に守護いたす、八岐の大蛇や、金狐、悪鬼の縄張地点、此処へ来たは汝が運の尽き、これから其方の霊肉共に木葉微塵にうち亡ぼし呉れむ、カカ覚悟をせよ』 と弥次彦の肉体は、拳骨を固めて、勝彦目がけて迫つて来る。勝彦は又もや『ウン』と一声言霊の水火を発射した。弥次彦の肉体は二三間後に飛び下がり、大口を開けて、 弥次彦『オホヽヽヽヽ、汝盲宣伝使の分際と致して、この木常姫を言向和さむとは片腹痛し、思ひ知れよ。汝が身魂の生命は、最早風前の灯火だ。この谷底に蹶り落し、絶命させてやらうか、ホヽヽホウ、愉快千万な事が出来たワイ。貴様を首途の血祭りに、祭りあげ、夫れよりは尚も進んでコーカス山を蹂躙し、ウラルの神に刄向ふ変性女子の身魂を片つ端から喰ひ殺し、平げ呉れむは瞬く間、オツホヽヽホウ、嬉し嬉し喜ばし、大願成就の時節到来だ、………ヤアヤア部下の者共、一時も早く勝彦が身辺に群がり来つて、息の根を止めよ、ホーイホーイホーイ』 と云ふかと見れば、ゾツと身に沁む怪しの風、縦横無尽に吹き来り、四辺陰鬱の気に閉され、数十万の厭らしき泣き声、笑ひ声、叫び声、得も言はれぬ惨澹たる光景となつて来た。勝彦は最早これ迄と、一生懸命、両眼を閉ぢ、天津祝詞を奏上し、天の数歌を歌ひ始めた。与太彦の身体は前後左右に脱兎の如く、駆け廻り始めた。続いて弥次彦の身体は四つ這となつて猛虎の荒れ狂ふが如く、口より猛火を吐きつつ、勝彦の居所を中心に猛り狂ひ飛廻る。六公は忽ち頭上の中空に跳上がり、勝彦が頭上を前後左右に駆けめぐり、何とも譬難き悪臭を放ち始めた。四辺は刻々に暗黒の度を増した。最早勝彦の身辺は烏羽玉の闇に包まれて了つた。 (弥次彦)『八十枉彦、木常姫、口子姫の神の神力には恐れ入つたか、イヤ恐れ入らずに居られうまい、ワツハヽヽヽ、オツホヽヽヽ、ホツホヽヽヽ』 と暗がりより、怪体な声切りに響き渡る。虎嘯くか、獅子吼ゆるか、竜吟ずるか、但しは暴風怒濤の声か、響か、四辺暗澹、荒涼、魔神の諸声は五月蝿の如く響き渡る。怪また怪に包まれたる勝彦は、一生懸命、滝の如き汗を絞り乍ら、神言を生命の綱に、声の続く限り奏上しかけた。この時闇を照して、中空より、馬に跨り下り来る四五の生神があつた。見る見る此場に現はれ、金幣を打振り打振り、前後左右に馬を躍らせ、駆け巡れば、流石の邪神も度を失ひ、先を争ふて二十四坂の方面指して、ドツと許り動揺めき渡り、怪しき声と共に煙の如く逃げ散つた。与太彦、弥次彦、六公は忽ち元の覚醒状態に復帰した。 勝『アヽ有難し有難し、悪魔の襲来を払ひ清め給ひし、大神の御神徳有難く感謝仕ります』 と大地に頭をすりつけて、嬉し涙に咽ぶ。弥次彦、与太彦、六公の三人も、同じく芝生に頭を着け、何となく驚異の念に駆られ、一生懸命に神言を奏上して居る。四人の身体は虹の如き鮮麗なる霊衣に包まれた。芳香馥郁として四辺に薫り、嚠喨たる音楽の響は、四人の身魂に沁み込むが如く聞ゆるのであつた。四人は漸く首を挙げて眺むれば、こはそも如何に、日の出別の宣伝使は、鷹彦、岩彦、梅彦、亀彦、駒彦、音彦と共に、馬上豊に此場に立つて居る。 勝『ヤア是れは是れは日の出別の神様、能くも御加勢下さいました。思はぬ不調法を致しまして、重々の罪御宥し下さいませ。此上は決して決して、斯かる不規律なる幽斎の修業は断じて行ひませぬ。何事も、我々が不覚無智の致す所、知らず識らずに慢心仕り、お詫の申様も御座いませぬ』 日の出別の神は一言も発せず、首を二三回肯かせ乍ら、一行の宣伝使を引連れ、再び天馬空を駆つて、雲上高く姿を隠した。無数の光輝に冴えたる霊線は、虹の如く彗星の如く、一行の後に稍暫く姿を存しける。 峰の尾の上を吹き亘る春風の声は、淑やかに聞えて来た。百鳥の春を唄ふ声は長閑に四人が耳に音楽の如く聞え始めた。 弥『モシ勝彦の宣伝使さま、大変な大騒動がおつぱじまつて、天の岩戸隠れの幕が下りましたな、あの時の私の苦しさと云つたら、沢山な青面、赤面、黒面の兎や、虎や、狼、大蛇が一時に遣つて来て、足にかぶり付く、髪の毛を引つぱる、耳を引く、腕をひく、擲る、それはそれは随分苦しい目に逢はされました。イヤもう神懸は懲り懲りでした。咫尺暗澹として昼夜を弁ぜず、苦しいと云つても譬様のない、えぐい、痛い、辛い、臭いイヤもう惨々なきつい目に会ひました。その時に…アヽ宣伝使様がウンと一つ行つて下さると好いのだけれど、あなたは霊眼が疎いと見えて、敵の居ない方ばつかり、一生懸命に鎮魂をやるものだから、鼻糞で的貼つた程も効能は無く、聾ほども言霊の神力は利かず、イヤモウ迷惑千万な事でしたよ』 勝『アヽさうだつたか、そらさうだらう、何分曇り切つた肉体で、俄審神者を強ひられて無理に行つたものだから、審神者の肉体に神様が完全に宿つて下さらぬものだから失敗をやつたのだ。然しチツトは鎮魂も効能が現はれただらう』 弥『千遍に一度位まぐれ当りに、私を責めて居る悪霊の方に霊光が発射したのは確かです。イヤモウ脱線だらけで、必要な所へはチツトも霊の光線が発射せないものだから、悪魔の奴益々付け込んで、武者振りつき、えらい苦みをしました。アーア斯うなると立派な大将が欲しくなつて来たワイ』 勝『惟神霊幸倍坐世』 与『私もえらい目に遭はされた、人の首を真黒けの縄で、悪魔の奴、幾筋ともなく縛りよつて、古池の水を両方から、釣瓶の綱をつけて替揚げる様に、空中を自由自在に振り廻しよつた時の苦さと言つたら、何遍息が絶えたと思つたか分りませぬ、アヽコンナ苦い責苦に会ふのなら、一層の事、一思ひに殺して欲しいと思ひましたよ。熱いと思へば又冷たい谷底へ体を吊り下ろされ、今度は又焦つく様な熱い所へ吊り上げられ、夏と冬とが瞬間に交代をするのだから、体の健康は台なしになるなり、手足は散り散りバラバラになつて了つた様な苦みを感じた。その時に審神者の勝彦サンは、どうして御座るか、ここらでこそ助けて呉れさうなものだと思つて、あなたの方を眺めて見れば、あなたの背後には、常世姫の悪霊が、貧乏団扇をふつて、悪霊の指揮命令をやつて居る、お前さまは、その常世姫の手の動く通りに、操り人形の様に活動し………否蠢動して居るものだから、却てそれが此方の助け所か、邪魔になつて、益々苦しさを加へ、イヤモウ言語に絶する煩悶苦悩、目の球が一丁ほど先へ飛出すやうな悲惨な目に遇はされました』 勝『それだから、コンナ所で幽斎の修業は廃せと言ふのに、貴様が勝手に悪魔の方へ行きよつたのだ。仮令邪神でも、あの弥次彦の様に、空中滑走がしたいの曲芸が演じたいのと、熱望的気焔を吐くものだから、魔神の奴得たり賢し、御註文通り何でも御用を承はります、私の好物、手具脛引いて待つて居ました、何のこれしきの芸当に手間もへツチヤクレも要るものか、遠慮会釈にや及ばぬ、悪神の容器には持つて来いして来いぢや、ヤツトコドツコイして来いナ、権兵衛も来れ、太郎兵衝も来れ、黒も来い、赤も来い、大蛇も来い、序に狐も、狸も、野天狗も、幽霊も、あらゆる四つ足霊もやつて来いと、八十枉彦の号令の下に集まり来つた数万の魔軍、千変万化の魔術を尽して攻め来る仰々しさ、目ざましかりける次第なりけりだ。アツハヽヽヽ』 与『モシモシ勝彦の宣伝使さま、あまり法螺を吹いて貰ひますまいか、………イヤ法螺ぢやない業託を並べて嘲弄して貰ひますまいかい。この天地は言霊の幸はふ国ぢやありませぬか、ソンナ事を言つて居ると、又もや私の様に、軽業の標本に、魔神の奴から使役されますぜ。労銀値上の八釜しい今の世の中に、破天荒の………否廻転動天の軽業を生命からがら、無報酬で強制され、汗や脂を搾られて、墓原の骨左衛門か骨皮の痩右衝門の様な、我利々々亡者の痩餓鬼にならねばなりますまい、チツト改心なされ』 勝『惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 六『コレコレ立派な審神者の勝彦さま、あなたの御神力には往生致しましたよ、イヒヽヽヽ』 勝『みなが寄つて、さう俺を包囲攻撃しても困るぢやないか。俺だつて誠心誠意、有らむ限りのベストを尽したのだ。これ以上吾々に望むのは、予算超過と云ふものだ。国庫支弁の方法に差支へて了ふ。又復増税なんて、人の嫌がる事を言はねばならぬ。お前等はさう言つて、吾々当局の審神者を攻撃するが、当局者の身にもチツトはなりて見るが宜い。国家多事多難のこの際ぢや、金の要るのは底知れず、増税、徴募あらゆる手段を尽して膏血を絞り、有らむ限りの智慧味噌の臨時支出までして、ヤツトこの場を切抜けたのだ。さう八釜しく責め立ると、勝彦内閣も瓦解の已むを得ざる悲運に立到らねばならなくなる。さうなれば、貴様等も一蓮托生、連袂辞職と出かけねばなるまい。今度の責任を俺一人に負担させやうと云ふのは、あまり虫が好過ぎるワイ。共通的の責任を持つのが、いはゆる一蓮托生主義だよ、アハヽヽヽ』 弥『イヤ仰る通りだ、御尤もだ、モチだ。スツテの事で勝彦内閣も崩解するとこだつた。併し乍ら、人間は老少不定、何時冥土の鬼に迎へられて、欠員が出来るか知れたものぢやない、その時には、弥次彦が後釜に坐つて、この弥次喜多内閣でも組織し、お前サンの政綱を維持して行く、つまり連鎖内閣でも成立させて、居すわる積りだから、後に心を残さず、白紙の三角帽を頭に戴いて、未練残さず旅立なされ。何れ新顔の一人や二人は入れても構はぬ、居坐り内閣をやつて居る方が、党勢維持上都合が好いから、アハヽヽヽ。併しコンナ所に長居は恐れだ、グズグズしとると、冥土から角の生えた鬼族院がやつて来られちや、一寸閉口だ。これや一つ、研究会でも開いて、熟議をこらすが道だけれど、余り同じ処にくつついて居るのも気が利かない。二十四番峠も踏破し、二十五番の峠の上で、善後策をゆつくり講究致しませうか、アハヽヽヽ』 一同『ワハヽヽヽ』 勝『まだ笑ふ所へは行かないぞ、何時瓦解の虞があるかも知れやしない。常世姫命が、遠く海の彼方に逃げ去つて、盛に空中無線電信で合図をして居るから、一寸の隙も有つたものぢやない、気を付けツ、進めツおいち二三四ツ』 と道なき路をアルコールに酔ふた猩々の如く、無闇矢鱈に二十五番峠の上まで、漸く辿り着いた。 勝『アーア、ヤレヤレ危ない事だつた、中空に高き一本の丸木橋を渡つて来るやうな心持だつた』 弥『地獄の釜の一足飛といふ曲芸も、首尾能く成功致しました。皆様、お気に入りましたら、一同揃ふて拍手喝采を希望いたします』 勝『ヤア賛成者は少いなア、……、ヤア一つも拍手する奴がない、全然反対だと見えるワイ』 与『それでも勝彦さま、あなたの身の内に簇生して居る寄生虫は、ソツと拍手して居ましたよ。その声が……ブン……と云つて、裏門から放出しました。イヤもう鼻持のならぬ臭い事だつた、ワハヽヽヽ』 この時忽然として、東北の天より黒雲起り、暴風忽ち吹き来つて、峠の上に立てる四人の体は中空に舞ひ上り、底ひも知れぬ谷間目がけて天上より、岩をぶつつけた如く、一瀉千里の勢を以て、青み立つたる淵に向つて、真逆様にザンブと落込んだ。 その途端に夢は破られ附近を見れば瑞月が近隣の三四人の男、藪医者を招いて脈を執らせて居る。 藪医者は、一寸首を捻つて、 医者『アー此奴ア、強度の催眠状態に陥つて居る、自然に覚醒状態になるまで、放任して置くより途はなからう……非常な麻痺だ、痙攣だ……』 と宣告を下し居たりける。 (大正一一・三・二五旧二・二七松村真澄録)
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(1772)
霊界物語 21_申_高春山のアルプス教 凡例 凡例 一、本巻の原稿は全部口述者の周到なる校閲を経たものであります。お蔭で校正上のいろいろな注意に就て得る所がありました。 一、既刊第二十二巻[※初版の発行日は、第21巻は大正12年4月5日だが、第22巻はそれより早く大正11年7月30日に発行されている。その理由は第22巻初版の凡例に「本年旧五月五日迄の成績を公表せんがため」と記されている(この一文は初版だけに書いてある)。その成績とは第22巻凡例の前半に書いてある。]及び其他の巻の『百足姫』はオサムシと訓すべきですから、『蜈蚣姫』となるべきでしたのを、活字が無かつたので已むを得ず『百足姫』としておきましたが、本巻より全部『蜈蚣姫』と訂正しておきました。 一、『物語』の中に屡『言霊戦を発射する』といふ言葉が現はれて来ますが、それは『言霊線を発射する』の誤りです。が、『言霊戦に参加する』といふ如き場合は無論『言霊戦』でよい訳です。 一、『……でありません』とか『……であるんだ』とかいふ場合の『ん』は本巻より全部『……でありませぬ』又は『……であるのだ』に訂正しましたが、読む時には矢張『……でありません』『……であるんだ』といふ風に読むのださうです。 大正十二年三月編者識
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(1931)
霊界物語 28_卯_台湾物語(日楯と月鉾) 03 玉藻山 第三章玉藻山〔八〇三〕 真道彦命は国治立大神の時代より、此島に鎮まり、子孫皆真道彦の名を継いで、新高山の北方に、聖場を定め、三五の道を全島に拡充し、神国魂の根源を培ひつつあつた。然るにバラモン教の一派此島に漂着してより、花森彦命の子孫なるアークス王は、三五の教を棄ててバラモン教に帰順せしため、住民は上下の区別なく、残らずバラモンの教に帰順して了つた。されど新高山の以北にのみアークス王の権力も、バラモンの教権も行はれて居たのみで、新高山以南は少しも勢力が及ばなかつた。 真道彦は遠く新高山を越えて、東南方に当る高原地日月潭に居を構へ、東南西の地を教化しつつありき。然るにアークス王の宰相たるサアルボース兄弟は、此地点をも占領し第二の王国を建てんと、時々兵を引連れ、玉藻山の聖地に向つて攻めよせた。されど竜世姫の永久に鎮まり玉ふ大湖水を南へ越ゆることは容易に出来なかつた。 或時ホーロケースはバラモンの信徒を数多引連れ、三五教の巡礼に身をやつし、玉藻山の聖地に、雲霞の如く押寄せ、隙を覗つて真道彦命を生擒し、一挙に全島を占領せむと試みつつあつた。真道彦命はホーロケースの悪竦なる計画を前知し、数多の信徒を駆り集め、言霊戦を以て、之れに向ふこととなし、玉藻山の山頂に、祭壇を新に設けて、寄せ来る敵に向つて、言霊線を発射しつつあつた。され共、バラモン教のホーロケースは少しも屈せず、獅子奮迅の勢を以て各隠し持つたる兇器を振り翳し、鬨を作つて一挙に亡ぼさむと斬り込んで来た。 真道彦の子に日楯、月鉾と云ふ二人の信神堅固なる屈強盛りの二児があつた。父真道彦はホーロケースに向つて、言霊を奏上するや、ホーロケースは怒つて、真道彦の胸板を長剣を以て突き刺し、此場に打殪し、凱歌を奏し、其勢天地も震ふ計りであつた。突刺されて其場に倒れた真道彦の身体より白烟忽ち濛々として立あがり、美はしき女神となつて、雲の彼方に姿を隠した。 日楯、月鉾の兄弟は父真道彦の行方不明となりしを歎き、如何にもして、ホーロケースの一族を亡ぼし、父の仇を報じ、三五教の教を再び樹立せむと苦心の結果、湖中に泛べる竜の島に夜秘かに漕ぎつけ、祈願をこらして居た。此時既に玉藻山の聖地は、ホーロケースの占領する所となつて居た。真道彦の部下は四方に散乱して、其影さへも止めなかつた。 竜の島は樹木鬱蒼として、湖水の中心に浮び、周囲殆ど一里計りもある霊島であつた。二人は島山の頂上目蒐けて登り行く。此処に高大なる巨岩壁の如く立並び、中央に人の入れる計りの岩穴が開いて居た。兄弟は其岩窟に思はず足を向けた。炎熱焼くが如き夏の空に得も言はれぬ涼しき香ばしき風、坑内より頻りに吹き来る。二人は何となく此窟内を探険したき心持となつて、思はず知らず四五丁計り奥へ進んで行つた。 俄に強烈なる光線何処よりかさし来たる。振かへり見れば、最早岩窟の終点と見えて、両方に円き天然の穴が穿たれ、そこより太陽の光線が直射してゐた。あたりを見れば、階段の如きもの自然にきざまれてゐる。日楯、月鉾の二人は、此階段を登り詰め、前方を遥かに見渡せば、紺碧の波を湛へた玉藻の湖水、小さき島影は彼方此方に浮み、白き翼を拡げたる数多の水鳥は前後左右に飛び交ふ様、実に美はしく、二人は此光景に見惚れて居た。遠く目を東南に注げば、玉藻山の聖地は以前の儘なれど、ホーロケースが襲来せしより、バラモン教の拠る所となり、何となく恨めしき心地せられて、稍今昔の念に沈み居たり。 日楯『オイ弟、斯の如き聖場を敵に蹂躙され、父上は行方不明とならせ玉ひ、吾々兄弟は身の置所なく、漸くにして此竜の島に逃げ来りしものの、未だ安心する所へは往かない。罷り違へばバラモン教の奴原、此島迄吾等が後を追跡し来るやも計られ難し、吾等兄弟は今此処に於て、三五教の大神に祈願をこらし、運を一時に決せば如何に。見下せば千丈の断崖絶壁、神に祈願をこめ、此青淵に飛び込み、生死の程を試し見む。万一吾等両人生命を取り止めなば、再び三五教は元の如く勢力も盛返し、バラモン教の一派を新高山の北方に追返し得む。月鉾、汝如何に思ふや』 と決心の色を顕はして話しかけた。 月鉾『兄上の仰せの如く、これより天地神明に祈願をこめ、此断崖より湖中に飛び込み、神慮を伺ひ見む』 と同意を表し、二人は天津祝詞を奏上し、此世の名残と天の数歌を数回繰返し唱へて居た。傍の密樹の蔭より、 (言依別命、国依別)『神が表に現はれて善と悪とを立別る 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直せ聞直せ 身の過ちは宣り直せ三五教の宣伝使 言依別や国依別の神の司は此処に在り 国治立大神の教を伝ふる真道彦 脆くも敵に聖地を追はれ玉藻の山を後にして 雲を霞と逃げ去りぬ後に残りし兄弟は 力と頼む父には別れ教の御子には見棄てられ 寄辺渚の捨小船泣く泣く聖地を立出でて ここに荒波竜の島涙の雨に濡れ乍ら 此岩窟に尋ね来て玉藻の湖面を打眺め 感慨無量の思ひ出に今や生死を決せむと 思ひ煩ふ憐れさよ日楯、月鉾両人よ 必ず心を悩ますな琉と球との宝玉の 御稜威を吾が身に負ひ来る三五教の宣伝使 汝等二人に玉藻山元の昔に恢復し 誠の道にバラモンの敵を言向け和すてふ 珍の神宝授けなむあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と歌ひながら、此場に二人の宣伝使は現はれ来り、兄弟の前に直立して、軽く目礼した。 兄弟は夢かと計り打驚き、平身低頭稍少時、何の応へもなく計り。やうやうにして両人面をあぐれば、こはそも如何に、二人の宣伝使の影は何処へ消え失せしか、山の尾の上を通ふ風の音颯々と響き亘るのみなり。 これより二人の兄弟は、勇気日頃に百倍し、天の数歌を歌ひ乍ら、湖上に泛べる島々を残る隈なく駆巡り、二人の宣伝使の所在を尋ねたれ共、何れへ行きたりしか、其影さへも見ることは出来なかつた。されど二人は何となく勇気に充ち、再び玉藻山に向つて言霊戦を開始せむと、湖水に浮きつ沈みつ、七日七夜の御禊を修し、言霊の練習に全力を尽す事となつた。 ○ セールス姫の侍女として永く仕へ居たるアークス王の落胤なるマリヤス姫は、サアルボースの館を脱け出で、夜を日に次で、新高山を東南に越え、玉藻の湖辺を巡つて、玉藻山の聖地に救はれて居た。然るに、此度のホーロケースの襲来に依りて、真道彦命は行方不明となり、数多の部下は四方に散乱し、日楯、月鉾の二人はこれ亦、行方不明となり、進退谷まる折しも、ホーロケースに捕へられ、散々な責苦に会ひ、遂には一室に厳重なる監視人をつけ、幽閉されにける。 ホーロケースは兄のサアルボースと相応じて、此全島の主権を握らむと、意気昇天の勢にて、玉藻山にバラモン教の聖場を開き、吾物顔に振るまつて居た。さうしてマリヤス姫を幽閉し、時々其居間に到りて、強談判を開始することもあつた。 話し変つて、マリヤス姫は、悲歎の涙に暮れ乍ら、独ごちつつ、心の憂さを歌ひ居たり。 マリヤス姫『水の流れと人の行末変れば変る世の中よ 遠津御祖の其源を尋ぬれば高天原のエルサレム 花森彦のエンゼルと仕へ玉ひし吾御祖 美しの命の御裔なるアークス王が子と生れ 浮世を忍ぶ落胤の吾は果敢なき身の因果 高砂島を所知食すカールス王の妹と生れ 心汚なきサアルボースが娘セールス姫の侍女となり 醜の企みを探らむと父の御言を畏みて 心を尽す折柄にセールス姫のあぢきなき 其振舞に追ひ立てられ今は果敢なき独身の 行方も知らぬ旅枕神の情に助けられ 真道彦神の開きます三五教の霊場と 音に聞えし玉藻山これの館に救はれて 楽しき月日を送る折月に村雲、花には嵐 浮世の風に煽られて今日は悲しき幽閉の身 あゝ何とせむ只泣く涙かはき果てたる夕まぐれ 恋しと思ふ月鉾の神は何れにましますか 親子兄弟諸共に夜半の嵐に散らされて 行方も分かぬ旅の空仮令何処にますとても マリヤス姫の真心は山野海河幾千里 隔つるとても何のその尋ねて行かむ君が側 とは言ひ乍ら情無や心汚なき醜神の ホーロケースに捉へられ暗き一間に幽閉されて 面白からぬ月日を送る吾身の上朝に夕に涙の袖を絞りつつ 恋しき人の行方を尋ね夢になりとも吾恋ふる 月鉾神に会はせかしと木花姫の御前に 祈りし甲斐もあら悲しやホーロケースの横恋慕 牢獄の暗き吾居間に夜な夜な来りてかき口説く 其言の葉の厭らしさ消え入りたくは思へ共 神ならぬ身の如何にせむ逃るる由もなくばかり 恋しき人は来まさずに蝮の如く忌み嫌ふ 醜の曲霊の執念深く朝な夕なに附け狙ふ バラモン教の神司吾身に翼あるならば 牢獄の窓を飛び越えて恋しき主が御許に 天翔り行かむものをあゝもどかしや苦しや』と 小声になつて涙と共に掻口説く。 ○ 折しもあれや館内俄に騒々しく数多の人々右往左往に逃げ惑ふ 其様子の一方ならざるにマリヤス姫は『真道彦命 味方を数多引連れて弔戦に向ひ玉ひしか 但は日楯、月鉾の二人数多の神軍を引率して 茲に現はれ玉ひしか何とはなしに吾が心 勇ましくなりぬあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ』 と思はず合掌する。其処へ密室の戸を荒らかに押開けて、形相凄まじく入り来れるホーロケースは、 ホーロケース『ヤア、マリヤス姫、変事突発致した。サア吾れに続いて来れ』 と無理に引つ抱へ、此場を逃げ出さむとする其周章加減、マリヤス姫はキツとなり、 マリヤス姫『仮りにもバラモン教の神司、数多の部下を引率し玉ふ御身を以て、其周章方は何事ぞ。先づ先づ鎮まり玉へ。様子を承はりし上にては、あなたの御後に従ひ、参らうも知れませぬ』 とワザとに落付払つて、時を移さうとする。ホーロケースは、 ホーロケース『時遅れては一大事』 と有無を言はせず、小脇にひんだき、密室を駆出さむとする時しも、日楯、月鉾の両人は、琉、球の玉の威徳に感じたりけむ、身体より強烈なる五色の光を放射し乍ら、此場に現はれ来り、 両人『ヤア、ホーロケース、暫く待たれよ』 と声をかけた。ホーロケースは転けつ輾びつ、マリヤス姫を後に残し、数多の部下と共に、雲を霞と夜陰に紛れ、何処ともなく姿を隠した。 月鉾『あゝマリヤス姫殿、御無事で御座つたか、芽出度い芽出度い。これと云ふも全く、大神様の御恵み』 と両手を合せて、感謝の涙を流して居る。 マリヤス姫は夢か現か幻かと、飛び立つ計り喜び勇み、あたりをキヨロキヨロ見廻し乍ら、ヤツと胸を撫でおろし、 マリヤス『悲しき恐ろしき苦しき所へお越し下さいまして、妾を救ひ賜はり、嬉しいやら、有難いやら、何とも申上ぐる言葉は御座いませぬ。……日楯様、月鉾様、最早館の内は別状は御座いませぬか』 と云ひつつ、月鉾にすがり着いた。 月鉾『マリヤス姫殿、御安心なさりませ。最早敵は残らず散乱致しました。今後の警戒が最も肝要で御座います。まづまづ御心を落着けられよ』 日楯『サアサア、皆さま、打揃うて神前に天津祝詞を奏上致しませう』 茲に玉藻山の聖地は再び、三五教に返り、宏大なる神殿は造営され、日楯、月鉾の声名は遠近に押し拡まり、旭日昇天の勢となり来たれり。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・八・六旧六・一四松村真澄録) (昭和一〇・六・六王仁校正)
14

(1996)
霊界物語 30_巳_南米物語2 末子姫と言依別命の旅 17 出陣 第一七章出陣〔八五九〕 秘露の国日暮シ山の山腹に広大なる岩窟を掘り、ウラル教の霊場を作り、ロツキー山の本山と相応じて、一旦亡びかけたるウラル教も再び頭を擡げ、巴留の国の西北部よりヒル全体に其勢力を拡大して居る。此岩窟を日暮シ山の聖場と称へてゐた。此処にはブールを教主とし、ユーズ、アナンの両宣伝使はブールを助け、数多の宣伝使を四方に派し、大いにウラル教宣伝に力を尽しつつあつた。 奥の一間には教主のブールを始め、アナン、ユーズの二人、色麗しき香り高き林檎を堆く盛り、互に皮を剥き、舌鼓を打つて味はひ乍ら、幹部会議を開いて居た。 ブール『此ヒルの国には紅葉彦命の伜楓別命三五教を宣伝致し、其勢中々侮る可らず、加之バラモン教の石熊の一派、此頃又もや俄に頭を擡げ、吾々ウラル教の牙城に向つて突進し来り、数多の国人は去就に迷ひ、今は殆ど両教の為に数百年のウラル教の努力も、根底より覆へされむとしてゐる。吾々は何とかして、彼等両教の徒を駆追せなくては、ロツキー山の本山に対し、申訳が御座らぬ。吾々が日頃唱道して居た、世の終りは近づけり、悔い改めよ、天国の門はやがて開かれむと、予言せし神示空しからず、今年の此大旱魃、大饑饉、山河草木、殆ど枯死せむとする此惨状、如何なる頑迷不霊の徒と雖も、之を見て無情を感じ、現世を忌み天国を希求せざる者あらむ、此機逸す可らずとなし、国魂神を斎りたる御倉山の谷川に、数多の国人集まると聞き、遠路の所遥々宣伝の為に、吾々出張し、大部分吾教理に服し、天国に救はれむとする折しも、三五教の宣伝使忽然として其場に現はれ、体主霊従的教理を説き、再びウラル教をして根底より転覆せしめたる其腕前、かかる邪教を看過するは吾々ウラル教宣伝使として、教祖常世彦命に対し奉り、又ウラル彦の教主に対し、陳弁の辞なし。加ふるに、又もや荒しの森にて、昨日の如き大敗を取りしは、返す返すも残念至極の至りではないか?……アナン殿、此頽勢を如何にして挽回せむと思はるるか、腹蔵なく述べられたい』 と覗く様にして問ひかけた。アナンは暫く双手を組み、差俯向いて思案にくれてゐたが、ハタと両手を打ち、ニタリと笑ひ、 アナン『教主殿、私に一切を御委任下さらば、三五教は申すに及ばず、バラモン教徒をして一人も残らず帰順させて見ませう。併し乍ら此機を逸しては、到底其目的を達することは出来ませぬ。やがてここ十日も過ぐれば、今日の天候より観察するに、大雨沛然として降り来り、山河草木忽ちにして元の如く青々として蘇生するは鏡にかけて見るようで御座いますれば、今の内に宣伝使を残らず四方に派遣し、国人の弱点につけ入り……汝等悔い改めざれば今や亡びむとす、今迄の心を悔い改め、ウラル教に身を任せよ、さすればやがて天に祈り慈雨をふり注ぎ、山河草木人類をして蘇生の喜びに酔はしめ、天国の楽みを再び地上に現はし与へむ、早く悔い改めよ、天国はウラル教を信ずる者の領分なり……と、此際獅子奮迅の活動を開始せば、数多の国人は今迄迷へるバラモン、三五の両教を弊履の如く抛棄して吾教に先を争ひ、潮の如く集まり来るは目に見る如き感じが致します。どうぞ吾々に此れを一任なし下さいますれば、数多の宣伝使を使役し、宣伝使長となつて一肌脱いで見る覚悟で御座います』 ブール『成程、それも妙案だ。然らばアナン殿、宣伝の件に就いては、一切万事御任せ申す』 アナン『早速の御承知……否御信任、有難くお受け仕ります』 と喜色満面に溢れ、肩を怒らし、腕を振り、意気揚々として、期する所あるものの如く雄健びしてゐる。ユーズは少しく首を傾け乍ら、 ユーズ『教主殿、アナン殿の御進言は至極妙案奇策と存じますが、敵の末は根を切つて葉を絶やすとか申しまして、如何しても根本的に両教を絶滅するには、幹部に向つて大打撃を与へなくては、到底駄目でせう。仮令一時ウラル教に帰順する共、又もや、彼れ三五教の言依別、国依別の如き勇者ある上は到底完全に教義を宣布することは不可能でせう。先づ第一に焦眉の急とする所は、言依別、国依別の両宣伝使を亡き者とし、ヒルの都の楓別命の本城に攻め寄せ、根底より転覆絶滅せしめなくては到底駄目でせう。私の考へとしては、どうしても、枝葉の問題を後にし、此大問題たる根幹を芟除せなくてはならないと存じます』 ブール『ユーズ殿の云はるる通り、吾れも其戦法を以て最も肝要なる手段と心得る。……アナン殿、如何で御座らうか』 アナン『然らば斯う致したら如何で御座いませう。此館に集まれる八十人の宣伝使を半割き、四十人を一先づヒル、カル両国に至急派遣し、残り四十人の宣伝使を吾々が引率し、教主殿は此聖場におはしまし、少数の役員信徒と共に、お守りを願ひ、吾々はユーズ殿と先づ楓別命の館に向つて、夜襲を試み、只一戦に滅亡せしめ、神の力を天下に現はしなば、素より体主霊従の事大主義に囚はれたる人々は、一も二もなくウラル教の権威に畏服し、帰順致すは明かな活たる事実で御座いませう』 ブール『然らば両人にお任せ申す。何卒一切万事に違算なき様頼み入る』 アナン『仰せ迄もなく、目から鼻へつき抜けた、智謀絶倫のユーズ殿、私が後に控えさせられての作戦計画なれば、水一滴の遺漏も御座いませぬ。御安心下さいませ』 ブール『いやいや斯く迄勢力を四方に張つたる、楓別命又言依別、国依別のあの腕前、到底一通りにては往生致すまい。何とか神策を考究致さねば、軽々しく進んで敵の術中に陥るやうな事あらば、それこそ挽回の道がつかぬ。此点に於てブール、甚だ心許なく存ずる。一例を挙ぐれば、御倉山の渓谷に於て、数多の宣伝使が居乍ら、脆くも吾々は敗走致せし苦き経験に徴し、容易に侮る可からざる強敵なれば、吾々は最も深く神を念じ、神力を身に充実して進まねばなりませぬぞ。智謀絶倫と聞えたるユーズ、アナンの両将迄が只一言の言霊をも交へず、雲を霞と逃げ帰つたる無態さ、吾れは只一人ふみ止まるに忍びず、止むを得ず引返せし様な仕末なれば、果して両人に於て、確固不抜の成算が御座るかなア』 ユーズ『アハヽヽヽ、吾々の神算鬼謀は敵に向つて弱しと見せかけ、ワザとに敗走の体を装ひ、彼等両人を版図内に深く入り込ませ四方より取囲み、袋の鼠と致して本教に帰順せしむるか、但は滅亡せしめむかとの考へより退却を致したので御座る。仮令三五教の宣伝使慓悍決死にして、鬼神を拉ぐ勇あり共、たかの知れた一人や二人、何の恐るる所が御座いませう。これもユーズが一つの計略で御座れば、必ず必ず御煩慮なく、ユーズ、アナンの実力を御信任あらむことを希望致します』 と諄々として愉快気に述べ立てたり。 ブール『荒しの森の味方の敗北、たかが一人の宣伝使に対し、実に何とも形容の出来ない無念さではなかつたか。今思ひ出しても、実に腹立たしい。汝等両人、吾前にのみ強く、敵の影を見れば忽ち軟化し、所謂陰弁慶の徒にはあらざるやと、聊か懸念せざるを得なくなつた』 アナン『アハヽヽヽ、是に就ても天機洩らす可らざる深遠なる吾々の戦略、必ず必ず御心配なさいますな。キツと大勝利を現はし、お目にかけるで御座いませう』 ブール『然らば、汝両人を信任し、一切を委託する。随分気を付けて呉れ』 と一間に入つて了つた。後に二人は顔見合して、思案顔、 アナン『オイ、ユーズ、実に困つたことになつたものだないか。楓別命は実に古今無双の神力を具備する大神将なり、言依別、国依別は之れ亦不可思議なる力を持つてゐる。彼等両人が放射する五色の霊線は、到底吾々近寄る可らざる威力がある。又バラモン教の石熊も中々以て注意周到な奴、決して油断は出来ない。如何したら、千騎一騎の此場合、彼等を殲滅することが出来ようかと心配でならないワ』 ユーズ『それだから、俺達はユーズを利かして、教主様の前でいろいろと言葉を構へ、威張つて見せ、教主の心に力を与へたのだ。勇将の下に弱卒なしだ。弱将をして能く勇将たらしむるは、両人の任務である。サア、アナン殿、これより宣伝使を全部引つれ、又数百人の信者を以て、先づ第一に楓別の宣伝使の館を夜陰に乗じ、襲撃することにせう。大刀竹槍の用意は出来て居るであらうか?』 アナン『大刀竹槍を使ふは変事に際してのみ用ゐることを、神明許させ玉へ共、未だ武器を以て立向ふべき時ではあるまいぞ』 ユーズ『さてユーズの利かぬ其お言葉、千騎一騎の此場合は即ち大変事のことでは御座らぬか?斯様な時に武器を用ゐざれば、何れの時に用ゐむや。仮令敵は少数と雖も、古今無双の勇者、到底、口先の弁舌を以て帰順せしむることは思ひも寄らざる事なれば、短兵急に暴力を以て彼等の牙城を屠むらなくては、ウラル教の休戚に関する大問題だ。危急存亡の分るる所、ウラル教国家の興亡此時にあり。……サア、アナン殿、早く決心あれ』 アナン『智謀絶倫と聞えたるユーズ殿の言葉、アナン賛成致しませう』 ユーズ『早速の御承諾、実に有難し』 と座を立ち、別室に入り、宣伝使の溜り所に在る宣伝使を吾居間に呼集め、ヒルの館の夜襲に時を移さず着手せむ事を厳命した。一同は一も二もなく、ユーズの言葉に服従し、武装を整へ、ヒルの都の楓別命が館をさして、数百人の部下と共に、旗鼓堂々と進み行く。 (大正一一・八・一六旧六・二四松村真澄録)
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(2032)
霊界物語 31_午_南米物語3 国依別の旅 23 化老爺 第二三章化老爺〔八八九〕 秋山別は烈風に吹き散らされ、力と頼みしモリスには別れ、止むを得ず只一人、屏風山脈の帽子ケ岳を目当てに登りつつ、又もや日を暮らして、老木茂る木蔭に立寄り、身を横たへて茲に夜の明くるを待つ事とせり。 満天の星光は燦然として金色の光を放ち、紺碧の空は、何となく爽快を覚え、天を仰いで神徳を讃美しつつありし折、俄に山岳も崩るる計りの大音響聞え来り、一天忽ち曇りて、大粒の雨バラバラと降り出でぬ。 秋山別は止むを得ず、老木の蔭に立寄り雨を避けむとする折しも、忽然として現はれたる白髪異様の大怪物、鏡の如き巨眼を剥き出し、鼻高く、口大きく、銅の如き面相にて、秋山別を睨めつけにける。秋山別は轟く胸を押へ、臍下丹田に神を納め、怪物の顔を瞬きもせず睨めつけゐたり。怪物も又、ビクともせず、地上より生えたる樹木の如く突立つて、赤、青、白、黒、黄、紫と幾度も顔色を変じ、爪の長き毛だらけの巨腕をヌツと前につき出し、今や秋山別を、一掴みにひン握り、投げ捨てむとするの勢を示しけるにぞ、秋山別は心の中にて……国治立大神、豊国姫大神、国大立大神、日の出神、木の花姫神、金勝要大神、守り玉へ幸はひ玉へ……と祈願をこらし居たりしが、怪物は大口をあけて、雷の如き巨声にて笑ひ出しぬ。 怪物『アツハヽヽヽ、秋山別の宣伝使、能つく聞け!吾こそはアマゾン河の森林に永住致す八岐大蛇の化身であるぞ。 イヽヽー如何に汝、勇猛なりとて吾等が一族に向つて言霊線を発射し、吾等が永年の棲処を荒さむと致す憎き奴原、 ウヽヽーうつかり森林に向うものならば、某が神変不思議の術を以て、汝が身体を寸断し呉れむ。万一汝改心をなし、是より引返すに於ては、汝が罪を許し、生命を助け遣はすべし。返答は如何に』 と呶鳴り立てけるを、秋山別は不退転の信念を固め、 秋山別『エヽヽー面倒な、某は国治立大神の教の御子、三五教の神司、汝が如き曲神の言を用ゐて、のめのめ引返す様な腰抜武士ではないぞ。 オヽヽー恐ろしき其面構へを致し、活神の宣伝使を脅しつけようと致しても到底駄目だ。早く姿を隠せ』 怪物『ヤイ秋山別、良つく聴け。 カヽヽー神々と申すが、国治立尊が神ならば、八岐大蛇も亦神であるぞよ。神と云ふ点に於て何処に違つた所があるか。此方はウラル教を守護致す元の神にして、世界の先祖と聞えたるアダム、エバの霊より現はれ出でたる者なるぞ。言はば汝ら人民の祖神である。子が親に対してたてつくと云ふ道理は何処にあるか、 キヽヽ鬼門の金神とはそりや何の囈言、八岐大蛇が悪神なれば、鬼門の鬼の字は又鬼ではないか、 クヽヽ下らぬ事を申すより、早く往生致せば、苦労なしに神徳が頂けるではないか、 ケヽヽ見当の取れぬ神界の模様、人間の分際として如何して分らうぞ、 コヽヽ是位神が言葉を分けて申したら、如何な頑迷な其方でも、合点が往つたであらう。 サヽヽさつぱりと今迄の心を取直し、大蛇の神に帰順致すか、 シヽヽしぶとう致して居ると最早量見はならぬぞ、 スヽヽ好だ嫌ひだと、神に区別を立て、世界をうろたへまはる腰抜共、 セヽヽせせこましい事を思はずに、天地一体の真理を弁へ、早く此方に帰順せよ、 ソヽヽそれが其方に取つて最も安全な道であるぞ、 タヽヽ高天原の聖地錦の宮の神司だとか、イソの館に鎮まる素盞嗚尊の部下だとか、 チヽヽ小さき隔てを立てて、自ら小さき穴に迷ひ込み、 ツヽヽ月の大神許りを持て囃し、 テヽヽ天に輝く日の大神を次に致し、 トヽヽ十曜の神紋を閃かし、世界を宣伝使面さげて、うろたへ廻るとは何のたわ事、早く此方の傘下に集まり来つて、吾神業に奉仕するか、さもなくば汝が身体は風前の燈火だ。ハヽヽヽヽ』 と四辺に響く高笑ひ。秋山別は暗夜、此深山に於て、斯かる怪物に出会ひ、胸轟き、身の毛もよだつ計りに恐ろしくなり来たりぬ。されど飽く迄も、一旦心にきめた信仰を翻さじと、臍下丹田に息をこめ『一二三四五六七八九十百千万』と辛うじて、天の数歌を奏上すれば、怪物の顔は漸くに和ぎ少しく笑を湛へ居るにぞ、秋山別は吾言霊の非常に効力ありしことを心中に打喜び、怪物に向つて、 秋山別『オイお爺イさま、随分偉い勢で、吾々を威喝したぢやないか。そンな事を怖がる様な者は只の一人もないぞよ。俺の怖いと云ふのはそンな化州でも何でもないワ』 怪物『ワツハヽヽヽ、それなら其方は何が一番怖いと思ふか。此爺は恐ろしくないか』 秋山別『ヘン、何が恐ろしいのだ。夜になればそンな偉相な面をして出て来るが、お日様がお出ましになると、すぐに消えて了ふ代物が恐ろしくて、此世の中が生きて行けるかい。コリヤ此方は三途の川を渡り、焦熱地獄へ往き、地獄の底まで探険して、実地修養を経た秋山別の宣伝使だぞ。お前達が怖くて堪らうかい』 怪物『そンなら、一つ怖い者があると云つたのは何の事だい。俺の怖いと云ふのは誠と云ふ一字許りだ』 とウツカリ怪物は口を辷らしたるを、秋山別は之を聞いて、 秋山別『ハヽー此奴、誠が怖いと云ひよつたなア。大方言霊に恐れてゐるのだらう。ヨシ、之からグヅグヅ吐しよつたら、言霊を連発してやるのだナア』 と腹の中で決定て了つた。 秋山別『オイ爺、モウしめたものだ。貴様は誠が一番怖いと云ひよつた。誠生粋の大和魂の言霊をこれから発射してやるから、其積りで居れ。 ナヽヽ何と申しても、此言霊は俺の口から出るのだから、貴様の力でとめる訳にも行こまい、早く改心を致さぬと、 ニヽヽ二進も三進も行かさぬ様に、秋山別がここで封じて了つてやるぞ』 怪物『ヌヽヽ吐すな吐すな。強盗猛々しいとは其方の事だぞ。主人の娘を盗み出さうと致した痴者奴、 ネヽヽ佞け曲つた其方の言霊が、此方に対して応用が出来て堪るものかい、 ノヽヽ野天狗、野狸、野狐の様な厄雑神の容物となり、言霊を発射するのなンのと、 ハヽヽ腹が撚れるワイ、余り可笑しうてのウ。 ヒヽヽ姫の後を野良犬の様に嗅ぎまはる、 フヽヽ不束者奴が、 ヘヽヽ屁でも喰つたがよからうぞ、 ホヽヽ呆け野郎奴、 マヽヽ誠が怖いと申せば直に附け上り、言霊を発射してやらうなどと、心の中で北叟笑みを致して居るぞよ。この方は余りの可笑しさに、 ミヽヽ見つともない、其面付で女に対し、恋の鮒のと、ソリヤ何のたわ事。 ムヽヽ昔から無理往生の恋が遂げられた例しはないぞ。 メヽヽ盲滅法界に、 モヽヽ盲目的に、 ヤヽヽやり切らうと思うても、 イヽイ行きは致さぬぞよ。 ユヽヽ幽冥界へ落されて、焦熱地獄に迷ひ込み、火の車に乗せられ、 エヽヽえぐい、熱い苦みに会ひ、 ヨヽヽヨウもヨウも幽界の探険をして来たなどと、口幅の広い事を云はれたものだ、 ラヽヽらつちもない、 リヽヽ悋気喧嘩を致したり、 ルヽヽ坩堝の様な黒い洒つ面をして、 レヽヽ恋愛の恋慕のと、ソリヤ何を吐くのだい、 ロヽヽ碌でなし奴。 ワヽヽ吾れの身分を考へて見よ。 ヰヽヽいたづら小僧の分際として、 ウヽヽ囈言のような恋を語り、 ヱヽヽ縁があるの、ないのと、 ヲヽヽ可笑しいワイ。貴様の怖いのは大方女だらう。女の為に、シーズン河へ投込まれ、有るに有られぬ苦労を致し、地獄の八丁目迄落されて来よつたのだから、女にはコリコリ致したと見えて、元気のない其面付は何だい』 秋山別『ヨシ待て、糞爺、今に秋山別が神力無双、円満清朗なる生言霊の弾丸を其方の面体に向つて乱射してやるから覚悟を致せ。コリヤ取つときの言霊だぞ。最前のは鉛の玉だつたが、今度は銀の玉と金の玉だ。化物に向つて金の玉を発射すれば、化者は滅亡するのは昔から定まつてゐる。サア良いか』 怪物『アハヽヽヽ、睾玉を発射するのも面白からう。其方は最早女に絶縁し来た以上は、睾玉は不必要だ。サア何ぼなと発射せい。受取つてやらう。併乍ら只の二つより有ろまい。其代り、其二つを発射したが最後、其方の勇気はなくなり、言霊戦はモウ駄目だぞ』 秋山別『馬鹿だなア。そんな睾の玉とは違うのだ。一言天地を震憾し、一声よく風雨雷霆を叱咤する黄金の言霊だ』 と云ひ乍ら、 秋山別『一二三四五六七八九十百千万』 と四五回も繰返せば、流石の怪物も追々其容積を減じ、遂には二三尺の童子の姿となり、小さき声にて、 童子(怪物)『コリヤ秋山別、其方は俺の一番怖がる誠の言霊を発射して攻めよつたな。ヨシ此方にも考へがある。今日はこれで別れてやるが、明晩キツと仇を打つてやるから其積りで居れ。ウーーツ』 と唸りを立ててパツと其儘消え失せにけり。 (大正一一・八・二〇旧六・二八松村真澄録)
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霊界物語 40_卯_照国別と黄金姫&清照姫母子 09 雁使 第九章雁使〔一〇九三〕 フサと月との国境アフガニスタンの北方に 雲を圧してそそり立つ清春山はバラモンの 教に取つて第一の要害堅固の関所ぞと 名も遠近に轟きぬ大黒主の命に依り 清春山の神柱大足別は軍卒を 数多率ゐてカルマタの国の都に蟠まる ウラルの彦の魂の末常暗彦の集団を 只一戦に相屠りバラモン教の安泰を 守らむ為に出でゆきし後は藻ぬけの殻となり 難攻不落の絶所をば力となしてポーロをば 臨時岩窟の司とし出でゆきし後の岩窟は 制度も秩序も紊れはて夜を日に次いで十数の 番卒共は腸を腐らす牛飲馬食会 盛んに行ひ居たりしが三五教の神司 照国別の一行に言霊線を放射され 右往左往に逃げ惑ふ其惨状を見のがして 先を急ぎし宣伝使両親妹を守りつつ 帰りし後は又元の牛飲馬食の会となり 飲めよ騒げよ歌へよ舞へよ一寸先は暗の夜ぢや 暗の後には月が出る月は月ぢやが運の尽 キヨロつき、マゴつき、ウソつきのバラモン教の神柱 戦に勝たうが負けようが国家の興亡は吾々の 敢て関するとこでない朝から晩まで酒を呑み 甘い物食て楽々と暮して其日を送るのが 文明人種の行方とウラル教もどきに悪化して ポーロ、レールを初めとしハール、エルマやシヤム、キルク 其外残りの信徒は飲まな損ぢやと争うて ヘベレケ腰になりながら岩窟の中を這ひまわり 大蛇の正体現はして騒ぎ狂ふぞ可笑しけれ。 ポーロはもつれ舌を無理に動かせながら、 ポーロ『オイ、レール、とうとう爺イと婆アを取返され、折角陥穽へ落した三五教の宣伝使一行も亦、ヤツコスの裏返りに依つて、サツパリ掠奪され、最早俺達の使命はこれで尽きたと言ふものだ。こんな淋しい岩窟に頑張つて居つたのも、あの夫婦を押込め、彼奴の口から菖蒲を口説き落させ、大足別さまの女房にする為に勤めてゐたのだが、モウ斯うなつちやア仕方がない。本館へ立帰らうぢやないか。大足別さまは不在でも、小足別の神司がまだ沢山の部下を伴れて守つてゐるから、そこまで一つ退却しようかい。グヅグヅしてゐるとあの宣伝使奴がむし返しにやつて来よつたら、それこそ今度はポーロもボロクソにやられて了はねばならぬかも知れない。さうだから今の間にポーロい汁を吸うて、後に未練のないやうにしておかうと思つて、特別破格を以て、貴様たちに勉強さして牛飲馬食を勤めさしてゐるのだ。此頃は貴様も一向不勉強ぢやないか。初めの間は僅かに十六人を以て四斗も五斗も飲んでくれたが、何だ、此頃は十七八人も寄つて僅かに一斗五六升の酒にヘベレケになりよつて、そんな事で此岩窟の酒が何時なくなるか分つたものぢやないぞ。レール、ちつと皆の奴を鞭撻して、モ少し活動させたら如何だい』 レール『俺だつて何時もレールから脱線する所まで奨励してるのだから、モウこの上勉強せいと云つても仕方がないワ。ウラル教の奴でもゐよると、五六人新手を加へて、呑ましてやつたなら、それはそれは随分はかがゆくのだけれどなア。酒を呑むなら薬鑵で呑めよ、薬鑵がいやなら壺口で呑めよ。壺口がいやなら飛込んで呑めよ、猩々の奴めが胆つぶし、呆れ返つて逃げるよに呑めよ、呑めよ呑めよドツサリ呑めよ、呑めば呑む程身の徳利だ。デカタンシヨウデカタンシヨウ……とやつたら、随分面白からうがな。アーン』 ポーロ『オイ、シヤム、貴様は此頃は一向酒に勉強をせぬぢやないか。何だか口汚ないシヤムシヤムと飯ばかり食ひやがつて、そんなことで牛飲党の幹部になれるか。グヅグヅしてゐると酒のなくならぬ間に三五教がやつてくるかも知れぬぞ。さうなつたら俺達は三五教ぢやないが、無抵抗主義だから、甘い酒が残つてると、後に執着心が残つて潔う逃げられぬからなア。敵に酒を呑ますも余り気が利かぬぢやないか』 シヤム『ナアニ、三五教だつてヤツパリ人間だ。彼奴が呑んでもヤツパリ甘い酒は甘いのだ。ウラル教の奴に手伝はすより、余程ハカが行くかも知れぬぞ。何ぼ呑んでも三五教だから、腹にたまる気遣もなし、俺達のやうに、直にづぶ六メンタルになる虞はなからうぞ。なあ、ハール、三五教がやつて来たら………これはこれはようこそ御入来下さいました。何分悪の御大将が不在で厶いますから、結構な毒酒をあげる訳にもゆかず、とつときのよい酒で済みませぬが、一献どうでげせう……とかますのだ。さうすると、酒見て笑はぬ奴アないから、何程三五教だつて、すぐに相好をくずし、喉をグルグル言はして……ヤアこれはこれは思ひがけなき御馳走を頂戴致しました……といつて、目を細うしてグツと一杯やつたらモウ大丈夫だ。一杯のんでも甘い、二杯のんでも亦甘い、三杯のんでもまだ甘い、四杯五杯、百杯千杯と、しまひの果にや土手を切らし、三五教も何も忘れて了ひ、キツと牛飲馬食会の会員になるにきまつとる。さうなると、余り俺達は酒を呑まぬやうにするのだ。向方が十分酔うた潮合を計つて、来る奴来る奴をあの陥穽へ埋葬さへすれば、三五教の百匹や二百匹来たつて、さまで驚くには及ばぬよ。何と妙案奇策ぢやないか』 かく話す時しも、エルマ、キルクの両人は今迄酔ひ倒れてゐたが、何に感じたかムクムクと起上り、 エルマ、キルク『コーリヤ、どいつも此奴も、計略を以ておれ等両人を殺そうとしたなア。俺も死物狂ひだ』 と夢を誠と思ひ僻め、矢庭に奥の間に駆け入り、両人は長刀をスラリと引抜いて、ポーロ、レール、シヤム、ハール其他十二三人の群に向つて、無性矢鱈に切込んだ。頬の肉をけづられた奴、鼻の先を切られた奴、耳を落された奴、腕を切られ、指を飛ばされ、 『コラコラ何をする』 といひながら徳利や鉢や盃や膳を以て防ぎ戦ふ。徳利や鉢の破れる音パチパチガチヤガチヤ、ウン、キヤア、アイタと咆吼怒号の声一時に起り来り、岩窟の外迄聞えて来た。ケーリス、タークスの両人は何事の変事突発せしやと、足許に注意しながら奥深く進み入れば、岩窟の中は阿鼻叫喚、修羅の巷と激変してゐる。ケーリスは矢庭に雷の如き声を張り上げ、 ケーリス『コラツ』 と一喝した。どこともなく其言霊に三五教の威力備はつてゐたと見え、エルマ、キルクは其声と共に刀をバタリと落して尻餅をつき、仰向けに倒れる。ポーロ以下の連中も手に持つた得物を悉く其声と共にパタリと落し、同じく仰向けに、残らず倒れて了つた。何れもケーリスの言霊の威力に打たれて身体強直し、首から上のみをクルクルと廻転させ、蒼白な顔して呻いてゐる。 タークスは声も涼しく宣伝歌を歌ひ出した。 タークス『大黒主の命を受けイソの館へ立向ふ 鬼春別の将軍が先鋒隊と仕へたる 片彦さまに従うてライオン河を打渡り 駒に跨り堂々とクルスの森に来る折 三五教の宣伝使照国別の一行に 思はぬ所で出会し互に挑み戦ひつ 味方は脆くも敗北し吾等二人は言霊に 打たれて馬より転落し命危くなりけるが 仁慈無限の三五の神に仕へし神司 照国別は照、梅の二人の供と諸共に 吾等を助け労はりて尊き教を宣り給ひ 三五教の信徒と許され給ひし身の上ぞ あゝ惟神々々神の御霊の幸はひて 吾等二人は勇み立ち栗毛の駒に跨りて 清春山の麓まで風に髪をば梳り 進み来りし者なるぞここに駒をば乗捨てて 汝ポーロに会はむ為照国別の信書をば 齎し来る吾が一行岩窟の外にて窺へば 阿鼻叫喚の惨状は手にとる如く聞えたり 只事ならじと吾々は進み来りて眺むれば 落花狼藉ここかしこ血潮の雨は降りしきり 丼鉢は舞ひ狂ひ徳利は宙に飛上がり さながら戦場の如くなりポーロ、レールよシヤム、ハール エルマやキルク其外の神の司よ、よつく聞け 人は神の子神の宮一つの神の造らしし 同胞なれば村肝の心を合せ睦じく 天地の神の御使となりて仕ふる身なるぞや 汝等一同神柱大足別の出でましし 不在を幸ひ甘酒に酔ひくづれつつ此様は 神の司と任けられし人のなすべき事ならず 一日も早く心をば改め直せ惟神 神に誓ひてタークスが汝を戒め諭すなり あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ 一二三四五つ六つ七八九つ十百千 万の神の御恵にポーロを始め一同の 心の園に花開き正しき教の御柱と 救はせ給へ惟神神の御前にねぎまつる』 と歌ひ了るや、ポーロを始めレール其他一同はムクムクと漸くにして起上り、二人の前に恐る恐る手をつかへ、あやまり入るのであつた。 ポーロ、レールは同じバラモン教にて顔を見知つたるケーリス、タークスの両人が俄に不可思議の神力を身にそなへ、且つ三五教式の宣伝歌を歌ひたるに胆を潰し、其霊徳に打たれて一言も発せず又反抗的態度もとらず、唯々諾々として両人のなすが儘に服従せむと、期せずして互の心は一致してゐた。 ケーリス『コレ、ポーロさま、大将の不在中だと思つて、随分活躍したものですな、少しタガがゆるんでゐるやうですよ。かかる忠臣に留守を守らせておけば、大足別様も御安心でせう、アハヽヽヽ』 タークス『きまつた事よ。鬼の居ぬ間に心の洗濯を遊ばしたのだ。誰だつて今の人間は面従腹背とかいつて、本人の前ではペコペコと頭を下げ………お前さまのことなら命でも差上げますと、二つ目には巧妙な辞令を使つてゐるが、其前を離れると、すぐに打つて変つて悪口を言つたり反対的の行動を執るものだ。それが所謂現代思潮だ。いはば時勢に忠実な行方と言はば云へぬことはない。何事も神直日、大直日に見直し聞直し、善意に此場は解釈しておく方が穏かであらうよ。俺だつて、昨日までならキツトさうだ。ポーロさまに決して負けるものぢやない。吾々だつて片彦将軍に何といつた………仮令三五教の宣伝使幾万騎押寄せ来るとも、命の限り奮闘を続け、不幸にして命がなくなれば、七度生れ変つて、バラモン教の為に三五教の司を殲滅致さねばおきませぬ………と誓つた間もなく直に此通り三五教へ帰順して了つたのだから、人間のやる事は如何しても矛盾は免がれない。オイポーロさま、実は俺達は最早三五教の信徒だ。これからイソの館へ修行に参る所だ。其途中に於て三五教の宣伝使………つまり俺達の親分、照国別命から信書をことづかつて来たから、何が書いてあるか知らぬが、よく検めて読んでくれ』 ポーロは照国別と聞いて、胸をビクつかせながら信書を受取り、封おし切つてソロソロと読み下した。信書を持つ手は頻りに慄へてゐる。其文面は左の通りである。 『一、三五教の宣伝使照国別より清春山の岩窟の留守職ポーロに一書を送る。吾両親は、永らく汝の手厚きお世話になり、安楽に月日を送り、あらゆる世の艱難を嘗めた為、漸くにして尊き神の恩恵を悟り、又吾妹も同じく神徳の広大無辺なるを悟り、正しき三五の信徒となりしも、要するに汝等が迫害的同情の賜物たることを深く信じ深く感謝する。又岩彦の宣伝使はヤツコスと名を変じ、汝が岩窟の館に忍び込み、種々雑多のバラモン教の教理を探り得たるは、向後に於ける彼が活動上、最も便宜を得たるものと確信し、これ又謹んで感謝する次第である。 次に吾々始め一行の者、暗黒なる陥穽に放りこまれ、否陥落したるより、不注意の最も恐るべきを悟りたるは、今後の吾々が活動上に於ける良き戒めにして、全く汝等の恩恵に依るものと、これ又謹んで感謝する。人は凡て尊き造物主の分霊分体なれば、狭隘なる教の名を設けて、互に信仰を争ひ、主義を戦はすは、大慈大悲の元つ御祖の神に対し、不孝の罪、これより大なるはなかるべし。 ケーリス、タークスの両人は直ちに三五の教理を悟り、速かに入信したれば、今よりウブスナ山のイソ館に遣はし、天晴れ誠の神柱となさむ為に差遣はす途中、此手紙を汝に謹んで呈する。万一汝等にして照国別の言を肯定するならば、此二人と共にイソの館に参り、日の出別の神始め其他の神司より教を受けられよ。恐惶頓首』 と記してあつた。ポーロは涙を流して感歎し、再び此神文を読み上げ、一同に聞かせた。レール、シヤム其他一同は異口同音に照国別の宣伝使を称讃し、且三五教の教理の十方無礙、光明赫灼たるに打驚き、心を改め、二人に従つてイソ館へ参進することとなつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一一・二旧九・一四松村真澄録)
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霊界物語 73_子_太元顕津男の神の物語1 02 高天原 第二章高天原〔一八三三〕 ここに宇迦須美の神は⦿の神の神言もちて、大虚空中に活動し給ひ、遂にオの言霊を神格化して大津瑞穂の神を生み給ひ、高く昇りて天津瑞穂の神を生ませ給ひぬ。大津瑞穂の神は、天津瑞穂の神に御逢ひてタの言霊、高鉾の神、カの言霊、神鉾の神を生ませ給ひぬ。高鉾の神は太虚中に活動を始め給ひ、東に西に南に北に、乾坤巽艮上下の区別なくターターターター、タラリタラリ、トータラリ、タラリヤリリ、トータラリとかけ廻り、神鉾の神は、比古神と共にカーカーカーカーと言霊の光かがやき給ひ、茲にいよいよタカの言霊の活動始まり、高鉾の神は左旋運動を開始し、神鉾の神は右旋運動を開始して円満清朗なる宇宙を構造し給へり。茲に於て両神の活動は無限大の円形を造り給へり。この円形の活動をマの言霊と言ふ、天津真言の大根元はこのマの言霊より始まれり。 高鉾の神、神鉾の神、宇宙に現れ給ひし形をタカアと言ひ、円満に宇宙を形成し給ひし活動をマと言ひ、このタカアマの言霊、際限なく虚空に拡がりて果てなし、この言霊をハと言ひ速言男の神と言ふ。両神は速言男の神に言依さし給ひて、大宇宙完成の神業を命じ給ふ。速言男の神は右に左に廻り廻り鳴り鳴りて螺線形をなし、ラの言霊を生み給ふ。この状態を称してタカアマハラと言ふなり。高天原の六言霊の活動によりて無限絶対の大宇宙は形成され、億兆無数の小宇宙は次で形成さるるに至れり。清軽なるもの、霊子の根元をなし、重濁なるものは物質の根元をなし、茲にいよいよ天地の基礎は成るに至れり。 未だ速言男の神以前の世は宇宙なるもの無く、日月星辰の如き霊的物質形をとめず、虚空はただ霊界のみ創造され、物質的分子は微塵だもなかりけるが、この六言霊の活用によりて、天界の物質は作られたるなり。これより天地剖判に至るまで数十代の神あり、之を天の世と称し奉る。 天の世は霊界のみにして現界は形だにもなく、実に寂然たる時代なりき。この高天原六言霊の鳴り鳴りて鳴り止まざる活用によりて、大虚空に紫微圏なるものあらはれ、次第々々に水火を発生して虚空に光を放ち、其光一所に凝結して無数の霊線を発射し、大虚空をして紫色に輝く紫微圏層の世を創造し給ひぬ。紫微圏層についで蒼明圏層現れ、次に照明圏層、次に水明圏層現れ、最後に成生圏層といふ大虚空に断層発生したり。この高さ広さ到底算ふべき限りにあらず、無限絶対無始無終と称するより語るべき言葉なし。嗚呼惟神霊幸倍坐世。 (昭和八・一〇・四旧八・一五於天恩郷千歳庵加藤明子謹録)
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霊界物語 74_丑_太元顕津男の神の物語2 02 野路の草枕 第二章野路の草枕〔一八七〇〕 広袤千里の原野を覆ひたる夕空の叢雲を、生言霊に吹き払ひ、天地を清めたる多々久美の神の功績を深く感じ給ひて、御歌詠ませ給ふ。 顕津男の神『天晴れ天晴れ多々久美の神の言霊に 天地をこめし雲は散らへり 言霊の御水火に生れしもの皆は また言霊に消え失するかも わが行手深く包みし醜雲の 晴れて清しき夕の広野よ 久方の天津御空の星かげは 黄金白銀とかがよひにけり 多々久美の神の功績なかりせば 科戸の風は吹かざるべきを わが供に仕へて公はいやさきに 貴の功を立て給ひける 三笠山頂上つつみし白雲も 今はあとなく晴れ渡るらむ 夕月の影やうやくに現れて 草葉の露は照り初めにけり 月出でて草葉にすだく虫の音も いよよ清しくなりにけらしな 天津日はかくろひ給へども月読の 神の光に草枕やすし 草枕旅を重ねて大野原 闇と雲とに包まれしはや 久方の空に輝く月かげを 見ればわが霊冴え渡り行く 現世の比女神も今日の月読を 仰ぎつ吾を偲びますらむ』 多々久美の神は、御歌詠ませ給ふ。 『はづかしも瑞の御霊の称言 聞けば嬉しも今宵の胸は 御尾前に仕へ奉りて言霊の 力をはじめて試みしはや 岐美が行く道に雲霧あらせじと 吾御尾前に仕へ奉りぬ 惟神神の生みてし天界にも 雲のさやるは怪しきろかも』 顕津男の神、再び御歌詠ませ給ふ。 『愛善の道をはづして恋となりし わが胸の火ゆくもらひにけむ 比女神を恋ふる心の胸の火は 雲霧となりて空にあふれしか 現世比女神の思ひは天を焼き わが霊線は地を覆へり 執着の心ゆ出し黒雲の 群立ちにつつ行手なやますも 今日よりは心の駿馬綱締めて 安らに平らに神業仕へむ 天界といへども未だ生み終へぬ 国土は怪しの雲霧立つも 科戸辺の神の伊吹に四方の国 包める雲霧払ふたふとさ』 近見男の神は歌ひ給ふ。 『瑞御霊出でます神業の大野原を 包みし雲は晴れ渡りけり 晴れ渡る御空の奥にかがやける 月の面のにこやかなるも 瑞御霊月読の神を力にて 国土生みの御供仕へ奉らな 見渡せば大野が原に湯気立ちて 未だ地稚く一樹だにもなし 見の限り草ばうばうの荒野原 分け行く道のはろけくもあるか 主の神の神霊に生れし国土なれば 安く進まむ醜の荒野も 多々久美の神の添ひますこの旅路 雲立ち騒ぐも何おそるべき 多々久美の神の功は風の神 科戸辺比古を生ましめにけり 国土造る道ははろけし吾は今 荒野の夕虫の音聞くなり 駿馬の足は急げど大野原 果しなければ夕さりにけり 夕されば虫の音清しきこの野辺に 鏡の月は満ち照らひたり 仰ぎ見る御空雲なく星の海 浪も静かに月舟の行く 月舟の御空流るるさま見つつ 移り行く世を偲ばれにける』 圓屋比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『思ひきや万里の荒野に瑞御霊と 月に照らされ虫を聞くとは 瑞御霊行手はろけし圓屋比古 吾は気永く仕へ奉らな 久方の天津高宮伏し拝み 遥けく宣らむ善言美詞を 善言美詞朝夕を宣りつれど 非時曇るわが魂あやしも』 茲に国中比古の神は御歌詠み給ふ。 『限りなき広けき紫微の天界に 国魂神を生ます畏さ 美しき紫微天界の国中に さやる黒雲わが憎らしも 神々の心の曇り固まりて 水火濁りつつ雲となりつる 朝夕に厳の言霊宣り上げて 世の黒雲を払ひ清めむ 山青く水又清き天界の 中に生れしわが幸思へり 言霊の水火を清めて主の神の 依さしの神業朝夕守らむ 御供に仕へ奉りてこの宵を わが言霊はひらき初めたり 主の神の天津真言の言霊に この天地は弥栄えまさむ 清き赤き正しき真言の言霊は 荒ぶる神も和ぎ伏すなり 瑞御霊神の御供に仕へつつ 今日言霊の功をさとりぬ 多々久美の神の功は言霊の 清き明るき水火の力よ』 宇礼志穂の神は歌ひ給ふ。 『草枕旅のなやみの空晴れし このたそがれを宇礼志穂の神 天地に喜び満つる国原と 思へば吾は宇礼志穂の神 主の神の神言かしこみ瑞御霊 神に仕へて宇礼志穂の神 宇礼志穂の神の喜び花となり 又月となり四方にかをらむ 行き暮れて闇に包まれ淋しかる 夕を出でし月は宇礼志穂 御子生ませ喜び勇み宇礼志穂の いとまもあらに立ち出で給ひぬ 幾千里荒野を渡り瑞御霊の 岐美と居るかも月の夕を』 国中比古の神は再び歌ひ給ふ。 『天晴れ天晴れ天津日は照る月は満つ 野に花匂ひ虫の音冴えたる 久方の天津神国の国中に 吾は楽しも神業に仕へて 瑞御霊神の神言の功績に この曠原や神国樹つらむ 国土造り国魂神を生まさむと 勤しみ給ふ功畏し 美しき天と地との国中に 比古比女二神は御子を生ませり 永久の神国の種と瑞御霊 生ませる御子に国は拓けむ 瑞御霊神の御稜威ぞ高照の 尾上遥けし月読のかげは 瑞御魂朝な夕なをさすらひて 八十比女神に涙そそがす 尊さを思へば朝夕暮の わが魂は曇らひにつつ 月読の神のかがやく夕の野に 駒諸共に安寝するかも 神々はいねましにけむ草の根に 鼾の浪の打寄せにつつ』 斯く各も各も述懐を歌ひ給ひて、一夜を明し、天津日の豊栄昇りし頃、近見男の神先頭に、瑞の御霊の神柱は、駒に鞭うち、際限もなき草莽々の野を、御歌をうたひながら進ませ給ふぞ畏けれ。 (昭和八・一〇・二〇旧九・二於水明閣森良仁謹録)
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霊界物語 74_丑_太元顕津男の神の物語2 13 水上の月 第一三章水上の月〔一八八一〕 顕津男の神一行の白馬隊は、漸く黄昏れむとする時、玉野湖畔に着き給へば、御空を渡る満月の光は、緩やかに湖面を照し、縮緬の波穏やかにたゆたふ。 玉野森は広き湖水の彼方の岸に、月光を浴びて森厳そのものの如く、地上と湖底に描かれて居る。 顕津男の神は湖面に向ひ、心静に御歌詠ませ給ふ。 『仰ぎ見る夕の月は玉野湖の 波に浮びて静なるかも こんもりと夕の地上に描きたる 玉野の森は清しきろかも 吾は今駒に鞭うち大野原 遠く渡りて今来つるかも 鏡なすこの湖に浮びたる 月の面一入広かりにけり そよそよと湖を吹く風もなく この天地はしづまりて居り 村肝の心静けくなりにけり 月の浮べる湖の鏡に わがい行く玉野の森は波の彼方 かすみて湖路遥けかりけり 葦蘆の茂らふ荒野を渡り来て 今ひろびろと波の月見つ 虫の声岸のあちこち聞えつつ わが霊線の清しさを覚ゆ 真鶴の黒雲を見しわが目には 一入静けく思はるるかな 暫しの間駒を休ませ水飼ひて 彼方の岸に乗りて渡らむ 波渡る舟さへもなきこの湖は 駿馬の背こそ力なりけり 久方の高日の宮を出でしより かかる静けき湖を見ざりき ままならばこの湖の真寸鏡 主の大神の土産となさばや 久方の御空は蒼し湖青し 月天地に清しく浮ぶも 雲の蒼湖にうつるか湖の青 雲にうつるか月の鏡に 空蒼く水また青き湖の面に 浮く白鳥のかげのさやけさ 満天の星を写して輝ける 湖は千花の匂へるが如し 星の花水底に浮び湖の青 天に浮びて清しき宵なり 見の限り御空は蒼く水青く 中を流るる月舟のかげ 月見れば心清しも湖見れば わが霊線はひろごりにつつ 玉野比女の姿なるかも青き湖の 面に浮ぶ満月の光は わが心湖水の月と輝きつ 玉野の比女の住所照らさむ 麗しも紫微天界のたましひか この湖の面に浮ぶ月光は 高照の山の宮居を立ち出でて 清しき湖にいむかひ居るかも 濁り河渡りし時のわが霊も 月照る湖の青に洗へり 天高く湖底深し我は今 神の御稜威を深く悟りぬ 湖の面いや広々と目路遠み わが行くおもひ遥けくもあるか』 遠見男の神は御歌詠ませ給ふ。 『瑞御霊御供に仕へ清しくも 今宵の月に魂を洗へり 果しなきこの天地を照します 月光今宵は湖に浮べり 白銀の玉と輝く月舟の これの湖水にかがやき給ふ 月も日も星も浮ぶなるこの湖の あをく清きは神の心か 如意宝珠玉の月光明らけく 浮べる湖の清くもあるかな 小波も立たぬ夕の湖の月は 玉の宮居を写してさゆるも 汀辺の千草の虫も月光の 清きに鳴くか声冴えにけり 乗りて来し白馬の背に露おきて 玉とかがよふ今宵の月光 仰ぎ見る御空の月も湖の底の 月も太元顕津男の神よ』 圓屋比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『月盈ちて今宵のかげは圓屋比古 神の姿は湖にうかべる 久方の御空うつして玉野湖の 底明らけく澄みきらふかな 黄昏の闇は迫れど天渡る 月に明るく透きとほるなり 青雲の色を写して夕暮の 月澄み湖のあをみたるかも ぼんやりと彼方の岸に描きたる 玉野の森は水に映えたり きらきらと輝く波は不知火の 海原照す如く見ゆめり 雲の上高く聳ゆる真鶴の 山ほの見えぬ月の光に 見の限り雲霧晴れて空蒼み 星きらめきて清しき宵なり 国土生みの御供に仕へて珍しく 冴えたる月を今宵見るかな 乗りて来し駿馬白く月に浮きて 水底までも影を写せり たのもしき旅なりにけり荒野渡り 玉野湖水の冴えたる月見つ 何となくわが魂線の和みたり 今宵の月の光の清しさに 主の神の御水火に成りし国土ながら かく麗しと思はざりけり 月読は光の限りを光りつつ 波の面に静に浮けるも 山かげのただ一つなき広野原に 一つ浮べる月の湖 ともかくも岐美のみあとに従ひて 今宵の内に彼岸に渡らむ』 多々久美の神は御歌詠ませ給ふ。 『天清く湖また清き中にして われは楽しく歌詠まむかな 虫の声湖畔に冴えて更け渡る 今宵の空の長閑なるかも 大空に輝く月も水底に 写れる月も瑞の御霊よ 駿馬もこれの景色に見惚れしか 嘶く声は清しかりけり 渡り行く彼方の岸の神森は 水底深くうつろひにけり 吾は今この水月を駿馬の 蹄に砕くと思へば惜しきも ままならばこの湖の月光を 空にあづけて渡らまほしけれ 月の浮く湖面を渡るこの宵は 御空の雲の上行く如し』 宇礼志穂の神は御歌詠ませ給ふ。 『歓の天地に充つるこの国土は 紫微天界の真秀良場なるも 瑞御霊御供に仕へて天界の 真秀良場に照る湖の月見つ 真鶴の稚き国原わかわかしく 湖水のみどりに潤ひ栄えむ 久方の天をうつせるこの湖は 天津月日も永久に宿らす この清き水底に遊ぶ魚鱗は 月を仰ぎて浮び上りつ 天も地もよみがへりたる心地して 湖面に浮ぶ宵月を見つ 夕されど御空の月の底ひまで 輝く湖畔は明るかりけり とこしへの歓び充つる天界に 生きて歎かふ神は曲なれ 空高く底深みつつこの湖の 面にうかぶ蒼空の色 主の神の言霊清く幸ひて 澄みきりますかこれの湖 澄みきらふ月のしたびに吾立ちて 湖底の月を下に見るかな 瑞御霊出でます道の幸ひを 明して冴ゆる湖上の月光 千万の悩みにあひて今此処に 清き御空の下に月見る』 美波志比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『近ければ天の神橋をかけ渡し この湖を渡らまほしけれ 紫の雲の神橋を渡りゆく 月は御空の宝珠なるかも 久方の御空は蒼く限りなく 果しも知らに湖に写れる 名にしおふ紫微天界の真秀良場や この湖に月宿るなり いや広に月の光はひろごりて 湖水のあらむ限りを照せり そよ風は吹き出でにけり黄金なす 波のおもてに月はさゆれつ 波の間に浮べる月の光清し 湖面を見つつ心躍るも つぎつぎに科戸の風は強まりぬ 波間に浮ぶ月を砕きつ そよ風に波紋描きて湖の面は 右と左に月をひろげつ 百千々に砕けて月は波の面に 世の移りゆくさまを示せり』 産玉の神は御歌詠ませ給ふ。 『夕凪の湖に忽ち風立ちて あたら月光千々に砕けつ 湖の月は砕けて乱るれど 御空の月は変らざりける 冴え渡る月天心に輝きて わが立つかげも短くなれり 天心にいつきて動かぬ月光は 雄々しかりけり瑞の御霊か 虫の音もいよいよ高くなりにけり 水の面にをどる月をめづるか 向つ岸に岐美の渡らす今宵なり 風もしづまれ波もをさまれ 波がしら白々光る湖の面に 夕を浮ける水鳥白しも 水鳥の翼かがよふ月光は いやますますに冴えわたりつつ 岐美が行く波路静に守れかし 湖底に潜みて守る神々 瑞御霊御供に仕へ玉野湖 渡らむ今宵は静なれかし』 魂機張の神は御歌詠ませ給ふ。 『たまきはる生命うるほす月読の 神守りませ水の上の旅を つぎつぎに風高まりぬ波荒れぬ 月は砕けぬうれたきの夜や 水底に潜むは正しく生代比女の 神の魂とわれ覚ゆなり ナノヌネニこの言霊の功績に 今立つ波をなぎふせて見む ナノヌネニこの言霊の功績に 曲の荒ぶる術なかるらむ 清き明き心になり出る言霊に 如何でしるしのなかるべきやは ほのぼのと湖面に狭霧たちこめて 波は漸く凪ぎ渡りけり この清きさやけき湖に狭霧たちて 水底の月は光うすらぎぬ 瑞御霊進ませ給ふ今宵なり 水底の神よ狭霧晴らさへ』 結比合の神は御歌詠ませ給ふ。 『つぎつぎに狭霧は立ちてひろびろと 輝く湖を稍狭めたり 水底の月は次第にかくれつつ 御空の海のみ月の浮べる 写るべき月は狭霧に包まれて この湖の面は薄ら暗きも 生代比女恨みの炎かたまりて またもや狭霧の湧き立つならむか よしやよし黒雲四方を包むとも 生言霊に吹きはらひ見む』 美味素の神は御歌詠ませ給ふ。 『主の神の依さしに国土生み神生みの 旅に立たせる岐美と知らずや 湖底の神よ静に聞し召せ この湖も神のたまもの 国土生みの妨げなさむ神あらば 伊吹き払はむ言霊の水火に 駒並めて今や渡らむ湖の 面を晴らして風よしづまれ この風は科戸の神の水火ならず 水底の曲の詛の水火なる 愛善の国の真秀良場にあらはれし これの湖水に曲は無からむ 曲神の住処とすべき湖ならず 早く去れ去れただに退け 言霊の水火も恐れぬ神なれば この天地に住まはせじと思ふ』 真言厳の神は御歌うたひ給ふ。 『われこそは真言の厳の神なるぞ 湖を晴らして岐美を通せよ 湖の神よわが言霊を聞かずして はむかひ来るか生命知らずに 千早振る神の造りし湖に 穢あらすな瑞御霊神』 かく神々は、各も各もに御歌うたひて、湖の神をなだめつ諭しつ時を移し給へども、生代比女の神の恋の炎は強く猛く、神々の生言霊の光さへ、包みかくすぞうたてけれ。 (昭和八・一〇・二三旧九・五於水明閣白石恵子謹録)
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霊界物語 74_丑_太元顕津男の神の物語2 15 晴天澄潮 第一五章晴天澄潮〔一八八三〕 顕津男の神の仁慈の籠れる言霊の御歌に、生代比女の神が恋の恨みも炎も、玉野湖の水泡と消えて、水面には月の鏡を写し、雲霧の幕何れにか取り外されて、大空の蒼にきらめく星影を湖底に描き、天国浄土の光景と回復したるぞ不思議なる。 遠見男の神は、今目前展開したる天地の光景を眺めて湖面に向ひ、御歌詠ませ給ふ。 『天晴れ天晴れ瑞の御霊の言霊に 天地四方の雲晴れにけり 恐しきものは恋かも思ひかも この天地を闇となしける 天地を深く包みし闇雲も 情の言葉に晴れ渡りぬる 瑞御霊神の苦しき御心を 悟りて吾は涙に暮るるも 玉野湖の鏡に月は冴えにつつ 波は静に香りこそすれ 八千尋の底まで澄めるこの湖の 深き思ひを和らげし岐美よ 目路遠く彼方の岸にうつろへる 玉野神森見え初めにける 一片の雲さへも無き大空の 心にかがよふ神の霊線 大愛の神の心に比ぶれば 吾は小さき愛に狂へるも 今日よりは心の手綱ひき締めて 大愛の道進まむと思ふ 恋すてふ心は愛し清しもよ 天と地との中に輝く 湖原をなでて吹き来しそよ風の わが面吹きて香る宵なり 見の限り月の下びに草も木も 安き眠りにつきにけらしな 荒風に揉まれて汀の葭葦は 片靡きつつ露に光れる 瑞御霊恵の露の霑ひに この天地は洗はれにける 闇深く湖原荒れしたまゆらを 吾は艱みぬ御供に仕へて 吹きすさび荒れ狂ひたる湖風も 静まりにけり岐美の情に 頼むべきものは神かも恐るべき 邪曲は恋かもこの天地に かくならば勇みて御供仕へつつ 吾渡り行かむ神馬の守りに』 圓屋比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『はろばろと岐美の旅路に仕へ来て 吾は悟りぬ世の状態を 恋心燃えつ消えつつまた燃えつ 天と地とを恨みにとざせり とざしたる天地の闇も情ある 生言霊に明け放れたり 大空を隈なく包みし黒雲は 恋の炎と思へば恐し 美しき紫微天界のことごとは 愛より生みしと思へば畏し 愛善と愛悪交々ゆきかひて 紫微天界は固まり行くも 天も地も圓屋の比古の神の稜威に 丸く治めむ神のまにまに 神と神国と国との交らひを 丸く治めむわが誓ひなり 丸々と御空の月は玉野湖の 上と下とにかがよふこの宵 この宵の移り変りのさま見つつ わが行先の光見つむる 目路遠きこの神国を固めむと 駆け廻ります瑞の御霊はや』 多々久美の神は御歌詠ませ給ふ。 『わが力及ばざりけり恋雲の 四方をふさぎしその束の間を 国土造る神の御供の畏さを 思へば心ゆるされぬかな 湖荒れて大蛇の出でしたまゆらを 吾は畏み見て居たりける 玉野湖の岸辺に立ちて吾はただ 浪凪ぎ渡る時を待ちつつ 不甲斐なき吾と思へど恋雲を 晴らさむ術なく黙し居にけり 瑞御霊艱める態を目前 見つつ術なき吾を悲しむ 言霊に恵の露の輝きて 大蛇の胸は和みたりけむ 恐しく忌はしきものは恋すてふ 心に生まるる影なりにけり 縹渺と限りも知らぬ大野原も 月の光に輝きそめたり 久方の天また地を黒雲に 包みし邪曲は恋なりにけり 国土生みの供に仕へて恐しき 恋てふものの影見たりけり 村肝の心静めて黙しつつ 眺むる恋の大蛇すさまじ』 宇礼志穂の神は御歌詠ませ給ふ。 『天地によみがへりたる心地して 鏡の湖の月仰ぐかな 天心に輝く月のかげ冴えて 玉野湖水は澄み照らひけり 移り行く世の状態をつくづくと わが目前偲びけらしな 言霊の厳の力も揉み消して 恋の炎は燃え立ちにけり 燃え立ちし恋の炎は雲となり 雨となりつつ天地を包めり 瑞御霊貴の神業御子生みの 艱み思へば謹みの湧く 謹みて国魂神を生みまする 神の神業の難きを偲ぶも 地稚く漂へる国土を固めずば 紫微天界は栄えざるらむ 愛善の神代ながらも兎もすれば 恨み憎みて争ふが憂し 葭葦の生ひ茂りたる国原を 拓かす岐美の艱みを思ふ』 美波志比古の神は御歌詠ませ給ふ。 『吹き荒ぶ荒野の風も湖風も ひたをさまりぬ情の言葉に 神々はいふも更なり天界の 総ては情によみがへるなり 天界に情を知らぬ神は無し 瑞の御霊の艱み畏し 天地を包みし雲も晴れ渡り 清しくなりぬわが魂線は 広袤万里稚き国原拓きます 岐美の功の畏さ思ふ 大空の月の御霊と生れませし 瑞の御霊の功光るも 大空の月さへ雲に覆はるる 世に言霊の稜威を思へり 言霊の御稜威に生りし天界は 澄みきらひつつ塵の無き国 罪穢塵さへも無き国原を 曇らせ荒ぶ恋の黒雲 天界に恋すてふことなかりせば 天地を包む雲は起らじ 愛善の光の満つる天界を 穢さじものと言霊宣るも 善悪のゆきかふこれの天界は 雲霧立つも是非なかるらむ』 産玉の神は御歌詠ませ給ふ。 『野路遠く岐美を守りて玉野湖の 岸辺に見たり世の状態を 永久に祟ると宣りし比女神の 心思へば悲しかりける 永久に恨みを残す曲業を 改めませよ神ます国土に 愛しさのあまりあまりて比女神の 恨みの心燃え立ちにけむ 世を恨み神を恨むも恋すてふ 心の糸の縺なりけり 村肝の心の縺解くよしも なくなく悲しき恋なりにける 神生みの神業に仕ふる岐美なれば 一入愛しく思し給はむを 愛善の天界なれば愛しさの 心は何れの神も持つなり 比女神の深き思ひは湖の 底ひもつひに湧き立ちにけむ 恐しきものは恋かも恨みかも この神国も破れむとせし』 魂機張の神は御歌詠ませ給ふ。 『たまきはる生命の恋を遂げむとて 艱みの果は大蛇となりぬる 玉の緒の生命惜まず細女の 恋の炎は天をこがせり 瑞御霊情の籠る言霊に この天地は明け放れたり 深々と夜は更けにけり月影も 西空低ううつろひにけり 大空に傾く月のかげ冴えて わが駒の影長くなりけり 主の神の神言の儘に国魂神 生まさむ岐美を愛しと思ふ 凡神の身にしおはさば非時に かかる艱みに逢はせまじものを 凡神の眼に写る我岐美の 神業は悪しと写りこそすれ 凡神の妬み嫉みの恐しさに ましてつれなき恋のあだ神 果しなき艱みを胸に包みつつ この湖原を渡らす岐美はも わが岐美の心の艱み思ひつつ わが目の涙湖と漂ふ』 結比合の神は御歌詠ませ給ふ。 『天と地を結び合せて月日の 影を宿せる玉野湖天晴れ 月も日も澄みきらひたる湖原の 岸辺に立ちて世を思ふかな 虫の音もいやさやさやに響きつつ 水面の月は強く冴えたり 湖に浮べる月の影見れば 瑞の御霊の心を思ふ 天地を結び合せの神ながら この恋綱を吾如何にせむ 兎も角も生言霊の御光に 明し進まむ玉野森まで 駿馬の足掻き急しく地をかきて 吾を促すさまの愛しも 湖に浮べる月の影見つつ 駒は勇むか足掻きせはしも』 美味素の神は御歌詠ませ給ふ。 『月読は東に天津日は西に ゆきかひにつつ湖面を照らすも 西空の雲井の幕を押しわけて 東に進ます月読の神 東雲の空押しわけて天津日は 日毎に西の空に沈むも 右左月日のゆきかひあればこそ この天界は栄えこそすれ 月と日を天と地とをまつぶさに 結び合せて神代を守らむ』 真言厳の神は御歌詠ませ給ふ。 『此処に来て思はず時を移しけり 愛と恋との艱みの幕に 天高く国原広し月読は 恵の露を隈なく配りつ いざさらば駒を並べて御供せむ この湖原はよし深くとも 駿馬の手綱をしかと握りしめ 泳ぎ渡らむ駒もろともに おほけなくも吾先頭に仕ふべし 続かせ給へ百の神等』 斯く謡ひ終へて白馬にヒラリと跨り、一鞭あてて月照る湖面を、竜蛇の躍るが如く浪を蹴立てて走り行く。顕津男の神を始めとし百神等は、真言厳の神の踏切りし浪の穂を伝ひて、驀地に馬上進ませ給ふ。 (昭和八・一〇・二四旧九・六於水明閣森良仁謹録)