| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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101 (1780) |
霊界物語 | 21_申_高春山のアルプス教 | 07 誠の宝 | 第七章誠の宝〔六八一〕 湯谷ケ岳の山麓なる杢助が住家へ、面白からぬ目的を達成せむがために、高天原の神国より根底の国へ急転落下したる心の鬼の雲州、三州、甲州は、疵持つ足のきよろきよろと木挽の小屋に近づいた。 雲州『サア兄弟、是れからが正念場だぞ。善と云ふ名詞は此処ですつかり抹殺して、飽迄悪で遣り通すのだ。併し乍ら悪を為さむとする者は、悪相を現はしては出来ない。善の仮面を被らねば敵に内兜を見透かされて仕舞ふから、三州、汝は一つ殊勝らしいお経を唱へるのだぞ』 三州『お経を唱へと云つても、何にもてんで知らぬのだから仕方がないワ』 雲州『何でも好い。其処らの物を出鱈目放題に並べるのだ。一つ俺が云うて見ようかな。アヽ何から何迄教育をしてやらねばならぬのか、低能児を捉まへたテイーチヤーさんも大抵ぢやないワイ。そこらの器具万端を逆様に云ふのだ。先づ屏風に襖、鍋に釜、徳利、杉に松、門口其他我々の名だ。門口に立つて、ブベウ、マフス、ベナーマカ、チバヒ、シバヒ、ツマ、ギス、ドカー、シウウン、シウサン、シウコウ、ケワルハー、マーター、ケーワー、ニーク、ツター、ケワー、リヨーニクー、スケモクノボウニヨーノー、ギスーオーサン、ダーシン、ダーシン、ワイカワイカ、ワカイマツー、カハノー、カナーデー、クタベツナツテ、ルオーデー、ローアー、ハンニヤハラミタシンギヨウ、ウン、アボキヤ、スギコーノリーモーデ、ボードロノ、シウレン、オリーヤーマーシータ、アサ、アサ、レコラカハレカノ、ラカダヲ、ラモイ、シヨマ、ハンニヤハラミタシンギヨー、と斯う云ふのだ』 三州『そんな事云つたつて分りやしない。もつと分るやうに云はないか』 雲州『分らないのがお経の価値だ。今時の蛸坊主や、宣伝使に満足なお経の読める奴があるかい』 三州『オイ甲州、汝がよく似合ふだらう。一つ臨時坊主が嫌なら、三五教の宣伝使になつて、宣伝歌をうまく歌つたらどうだい』 甲州『それの方が近道だ。彼我共に意志が疎通して面白からう。サアこれから俺が宣伝歌をやる。さうすればきつと杢助の奴、頭を下げ、尾を掉つて飛びつくかも知れないぞ、汝達は甲さまの後から小声でついて来い』 と甲州は入口に立つて、 甲州『三五教の宣伝使玉治別の神司 それに従ふ竜国別のプロパガンデイストに従ひて 湯屋が峠を打ち渡り津田の湖水の辺まで やつと進んで来た折に玉治別の宣伝使 俄に手をふり首をふり顔色変へて神懸 これや大変な神様が懸つて何か仰有ると お供をして居た六人は息を殺して畏まり 其託宣を待ち居れば玉治別のお言葉に 妾はお杉の亡霊だ杢助さまや幼児を 後に残して霊界に旅立したが残念ぢや 土の底へと埋められて頭の上から冷水を 蛙のやうに浴びせられ妾は困つて居りまする 行きたい所へもよう行かず六道の辻をウロウロと 彼方此方と彷徨ひつ淋しき枯野ケ原の中 言問ふ人も無き折に実に有難い三五の 神の教の宣伝使霊魂の磨けた玉治別の 珍の使の御肉体一寸拝借致します 可愛い女房に先立たれまだ東西も知らぬ児を 抱へて此世を淋しげに暮して御座る我夫の 心は如何にと朝夕に案じ過ごして結構な 高天原へもええ行かず中有に迷うて居りまする どうぞ憐れと思ぼ召しお杉の願を聞いてたべ 如何に気強い我夫も二世を契つた女房の 涙を流して頼む事よもや厭とは申すまい せめて十日や三十日三五教に帰順した 三甲雲の三州を我霊前に額づかせ 輪廻に迷うた我魂を安心さして下さんせ もしも主人がゴテゴテと疑うて聞かぬ事あれば 高春山を言向けて帰つてござる其時に 玉治別の体を借り一々細々ハズバンドに 心の底からサツパリと氷解するよに申しませう 小盗人ばかりを働いた此三人も元からの 決して悪い奴でない神の光に照らされて 身魂の洗濯した上は尊き神の分霊 一時も早く杢助の住居に駆けつけ幽界で お杉の霊魂が苦んで迷うて居ると逐一に 話して聞かして下されと玉治別の口を借り 涙ドツサリ流しつつしみじみ頼んで居らしやつた 袖振り合ふも多生の縁躓く石も縁の端 高春山の征伐に行かねばならぬ我なれど 顕幽共に助け行く誠の道のピユリタンと なつた我々三人は是を見捨ててなるものか 杢助さまがどのやうに頑張り散らして怒るとも 寄る辺渚の捨小舟浪に取られた沖の舟 憐れ至極のお杉さま助けて上げたいばつかりに 岩石起伏の細道を足を痛めてようように 此処まで訪ねて来ましたぞ杢助さまは在宅か 早う此戸を開けなされお前の大事な女房の 私は頼みで親切に誠尽しにやつて来た よもや厭とは言はりよまいお杉さまの精霊に頼まれて お前に代つて霊前にお給仕さして貰ひます サアサア開けたサア開けた開けて嬉しい玉手箱 これも全く三五の神の御蔭と感謝して お前が今迄貯へた金と銀との小玉まで 皆霊前に置き並べお杉の霊を慰めよ あゝ惟神々々御霊幸はひましまして お杉の精霊の憑つたる玉治別の宣伝使 それに従ふ雲、甲、三三人さまのお目にかけ 修羅の妄執を晴らさして極楽参りをさすがよい 女房となるも前世の深い因縁あればこそ 貞操深いお杉さまお前が体主霊従の 欲に捉はれ金銀に眼眩みて女房を 根底の国に突落し可愛い子供に苦労させ 自分も死んで根の国や底の国へと突込まれ 無限の苦をば嘗めて泣く事にてつきり定つたと 貞操深いお杉さまが大変心配遊ばして 我等に伝言なさつたぞそれは兎も角一時も 此門開けて下されやゴテゴテ言うて開けぬなら 開けでもよいがお前さま未来の程が恐ろしと やがて気が付く時が来る神が表に現はれて 善と悪とを立別けてお前の身魂の行先を キツと守つて下さらうアヽ金が欲しい金が欲し 欲しいと云ふのは俺ぢやない冥途にござるお杉さまだ』 と口から出任せに、憐れつぽい声を出して歌つて居る。杢助フト目を覚し、 杢助『なんだ。門口に乞食が来よつて、蚊の泣く様な声で何だか言つて居るやうだ。腹が空つとるのだらう。死人に供へた飯の余りがある。此れなつと戴かして、早くボツ払うてやらう。……エヽこれだけ気が沈淪むで居るのに、憐れつぽい声を出して、益々淋しくなるワ』 と云ひつつ、門口をサラリと開けた杢助、 杢助『何処の物貰ひか知らぬが、此山中の一つ家へ踏み迷うて来たのか。腹が空つたらしい、力のない声だが、生憎此頃は女房に死なれ、俄に飯炊く事を知らず、骨だらけの飯が炊いてある。さうして女房の亡霊に供へた奴も沢山に蓄積つて居る。恰度好い所へ来て呉れた。勿体なくて放棄す事も出来ないので困つて居た所だ。サア遠慮は要らぬ。這入つてドツサリと喰つて呉れい』 雲州『夜中にお休眠になつて居る所を、お目を醒ましまして申訳が御座いませぬ。私は先般お世話になつた雲州、この二人は甲州、三州で御座います。宣伝使のお伴をして津田の湖辺まで参りますと、お杉さまの精霊が現はれ遊ばして、是非共杢助さまに一度会つて来て呉れと仰有つたものですから、高春山の征服の結構なお伴を棒に振つて漸く此処までスタスタやつて来ました』 杢助『アヽさうでしたか。それは御親切に、女房の精霊も定めて喜ぶ事でせう。此処は小杉の森の祠とはチツト広う御座いますから、ユツクリとお這入り下さいませ』 雲州『何と仰有います。小杉の森の祠の前とは、それや貴方御存じですか』 杢助『御存じも御存じだ、此家から僅か四五丁より無い。俺の日々信仰するお宮さまだ。其神さまは国治立大神様で、何でもかでも信神の徳に依つて知らして下さるのだ。お三人様、随分作戦計画は手落なく整ひましたかなア。イヤ成功する見込がありますかな。玉治別の持つて居る秘密書類を、遠州、駿州、武州が、今頃はウマク手に入れて御座るでせう。お前等も負けない様に計略を廻らして、金銀の小玉を手に入れたが良からうぞ』 三人は互に顔を見合せ、小声で、 三人『オイ怪体な事を言ふぢやないか。どうしてあんな事が判つたのだらうか。俺達の盗賊演習を、ソツと側で観戦して居たのぢやなからうか。これやモウ駄目だぞ』 杢助『アハヽヽヽ、俺が小杉の森の祠に参拝して居ると、二三人の小盗人奴が、何処からともなくやつて来やがつて、虫のよい妙な相談をやつて居よつた。盗らぬ先から取つた様な気になつて、涸き切つた智慧を絞り出し、終局には、人名や器具などの名詞を逆唱してお経に見せたり、哀れつぽい宣伝歌を歌つて、寒いのにビリビリ慄へて立つて居やがつた奴は誰れだあい』 と雷の落ちたやうな声で終の一句を高く呶鳴りつけた。 雲州は慄ひながら、 雲州『ワヽ私は貴方の御高名を一寸拝借致しまして、洒落に芝居をしたのです』 杢助『芝居なら芝居でよい。さうすれば金銀の小玉は必要がないのだなア』 雲州『ハイ、ヒヽ必要はないことはありませぬ。併し猿猴が水の月を探るやうなもので到底貴方のお手にある以上は私の自由になりますまい。オイ甲州、三州、汝の意見は何うだ。何と云うても遠州に申訳が無いぢやないか』 杢助『汝の執着心が、俺所の宝に付着して居るから、俺も今日では、最早金銀の恐ろしいと云ふ事を悟つたのだ。恰度、蜈蚣か蝮か鬼のやうな心持がする。夜前も金銀の小玉奴が赤鬼や黒鬼に化けて、鉄の棒をもつて俺を突刺しに来よつた。今後此金を手に入れた奴は皆此通りにしてやると吐しよつたぞ。本当に金が敵の世の中とは好く云うたものだよ。汝等もそれ程金が欲しければ持つて行つたがよい。併し鬼が出て即座に汝の命を取つても承知かい』 雲州『ソヽその鬼は何時でも出ますか』 杢助『ウン、何時でも出て来る。汝の現に腹の中にも鉄棒を突いて現はれて居るぢやないか。そして現実的に現はれた鬼は、百人力の杢助と云ふ手に合はぬやもをの鬼だ。第一その鬼が最も手に合はぬのだよ、アハヽヽヽ』 雲州『そんなら私はもう是で泥棒は廃業しますから堪へて下さい』 杢助『馬鹿云ふな、地獄の沙汰も金次第だ。金さへあれば何んな恐い鬼でも俄に地蔵様のやうになつて仕舞ふのだ。サアサア遠慮は要らぬ、御註文通り女房の御霊前に供へてある、トツトと持つて帰れ』 三州『そんなら御遠慮なう頂いて帰りませうか』 杢助『薪に油をかけ、それを抱いて火中に飛び込むやうな剣呑な芸当だぞ。旨く汝でそれが遂行出来るか』 甲州『背中に腹は代へられぬ。一寸で宜敷いから、長らく拝借しようとは申しませぬ、触らしてさへ下さればよろしい』 杢助『俺も男だ。持つて去ねと云つたら、綺麗薩張持つて帰れツ』 三州『差支へはありませぬか』 杢助『汝が最前小杉の森で云つて居た、玉治別の宣伝使に従いて行つた三人の計略を、逐一此処で白状せい。さうすれば其白状賃として、あるだけ皆汝に渡してやらう。さうすれば汝も泥棒したのでない、俺から報酬として貰つたのだから』 雲州喉をゴロゴロ云はせながら、 雲州『それは杢助さま、真ですかな。併し乍ら三人の計略を此処で薩張云つて了つては、遠州の親方に縁を絶られて仕舞ふかも知れませぬ』 杢助『泥棒に縁を絶られても好いぢやないか。汝はそれほど泥棒を結構な商売と思うて居るのか』 雲州『金は欲しいし、遠州の親分に縁を絶られるのは辛いし、オイ三州、甲州、秘密を明かして金を貰つて帰らうか………エヽ秘密を云つて金を貰へば我々の估券が下がるなり、何程此奴が強いと云つても知れたものだ。サア三人寄つて此奴をフン縛り持つて帰らう』 と云ふより早く、杢助に三方から武者振りついた。杢助はまるで蝶々でも押へたやうに、 杢助『何を小癪な、蠅虫奴等』 と三人を一緒に倒し、グツと股に支へ、蠑螺のやうな拳骨を固めて、 杢助『是程事を分けて俺が柔順しく出ればのし上り、何と云ふ事を致すか。最早汝は改心の望みがない。サア此拳骨が一つ触るや否や、汝の命はそれきりだ。俺の女房のお伴をさしてやらう』 と今や打たむとする時、六才になつた娘のお初は其場に駆け出で、 お初『お父さま、まア待つておやりなさい。さうして此お金は此人に遣つて下さい』 杢助『お前が成人してから、好い婿を貰ひ、楽に暮せる様にと思つて、夜昼働いて貯めて置いたお金だ。此金は詮り俺のものぢやない、心の中で既にお前にやつてあるのだ』 お初『お父さま、そんなら今私に下さいな』 杢助『オヽ何時でもやる。今か、今やつて置かう』 お初『そんなら貰ひました。これこれ三人のお方、私が此金を皆にあげるから持つて帰りなさい。その代りにこれで何なりと商売をして、もう此先はこんな恐い商売は廃めなさい。お父さま、何卒この三人を助けて上げて下さい』 杢助『よしよし、ヤア命冥加な三人の奴、娘の云ふ事をよく聞いて、此金をもつて何とか商売をして、今後は悪い事をすな。サア早く持つて帰れ』 三人一度に頭を下げ、 三人『誠に済まぬ事で御座いました。そんなら暫く拝借して帰ります。きつと是はお返し致します』 お初『貸したのでは無い、進上たのだから返しては要りませぬ。こんな恐いものがあると私の将来のためになりませぬ。アヽお父さま、これで気楽になりました。よう私を助けて下さいました。このお金があるばつかりで、毎日日日恐くつて寝るのも寝られませなんだ。お母さまも此お金のために心配して、あんな病気になつたのです』 三人はお初の渡す金包を取るより早く、雲を霞と此場を逃げ去る。杢助はお初を抱き、涙に暮れながら、 杢助『アヽお初、有り難い、金銀よりも何よりも貴い宝が手に入つた。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と合掌し、嬉し涙に暮れて居る。 折から吹き来る夜嵐の声、雨戸をガタガタガタと揺つて通る。 (大正一一・五・一九旧四・二三加藤明子録) |
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102 (1795) |
霊界物語 | 22_酉_鷹鳥山の鷹鳥姫 | 総説 | 総説 天の下に生きとし生ける万物の中にありて、最も身魂の勝れたる人間には、天より上中下三段の御霊を授けて、各自の御霊相応に世界経綸の神業を負はしめ給ひ、天国の状態を地上に移してそれぞれ身魂の階級を立別けられてあるけれども、今の世は身魂の位置顛倒して霊肉一致の大道破れ、八頭八尾の邪霊や金毛九尾の悪狐の霊や邪鬼の霊魂なぞ人類の精神を誑惑し、終には地上の世界を体主霊従、弱肉強食の暗黒界と化せしめたるため、今の世界の惨状である。是だけ混乱した社会を何とも思はぬやうに成つたのも、地上の人類が皆邪神の霊魂に感染し切つて居るからである。 天下経綸の神業に奉仕すべき人類の御魂が全然脱退て了ひ、九分九厘まで獣畜の心に堕落して世界は上げも下しも成らぬやうになり、彼方の大空より此方の空へ電火のひらめくが如き急変事の突発せずとも断定しがたい。世界の人類は一日も早く眼を覚し、誠一つの麻柱の道によりて霊魂を研き、神心に立帰らねばならぬ。 真心とは天地の先祖の大神の大精神に合致したる清浄心である。至仁至愛にして万事に心を配り意を注ぎ、善事に遭ふも凶事に遇ふも、大山の泰然として動かざるが如く、微躯つかず、焦慮らず、物質欲に淡白く、心神を安静に保ち、何事も天意を以て本となし、人と争はず能く耐へ忍び、宇宙万有一切を我身魂の所有となし、春夏秋冬、昼夜風雨雷電霜雪、何れも言霊の御稜威に服従するまでに到らば、始めて神心を発揚し得たのである。又小三災の饑病戦、大三災の風水火に攻められ、如何なる艱苦の淵に沈む時ありとも介意せず、幸運に向ふも油断せず、生死一如と心得、生死に対しては昼夜の往来を見るが如く、世事一切を神明の御心に任せ、好みなく憎みなく、義を見ては進み、利を見て心を悩まさず、心魂常に安静にして人事を見る事、流水の如く天地の自然を楽しみ、小我を棄て大我に合し、才智に頼らず、天の時に応じ、神意に随ひ、天下公共の為に舎身の活動を為し、万難に撓まず屈せず、善を思ひ、善を言ひ、善を行ひ、奇魂の真智を照らして大人の行ひを備へ、物を以て物を見極め、他人の自己に等しからむことを欲せず、心中常に蒼空の如く、海洋の如く二六時中意思内にのみ向ひ、自己の独り知る所を慎み、その力量才覚を人に知られむことを望まず、天地の大道に従つて世に処し、善言美辞を用ゐ、光風霽月少しの遅滞なく神明の代表者たる品位を保ち、自然にして世界を輝かし、心神虚しくして一点の私心なき時は、その胸中に永遠無窮の神国あり、至善至美至真の行動を励み、善者又は老者を友とし、之を尊み敬まひ、悪人愚者劣者を憐み、精神上に将又物質上に恵み救ひ、富貴を羨まず貧賤を厭はず侮らず、天分に安んじ社会のために焦慮して最善を竭し、富貴に処しては神国のために心魂を傾け、貧に処しては簡易なる生活に感謝し、我欲貪欲心を戒め、他を害せず傷つけず、失敗来るも自暴自棄せず、天命を楽しみ、人たるの天職を尽し、自己の生業を励み、天下修斎の大神業に参加する時と雖も、頭脳を冷静に治めて周章ず騒がず、心魂洋々として大海の如く、天の空しうして百鳥の飛翔するに任せ、海の広大にして魚族の遊踊するに任すが如く不動にして、寛仁大度の精神を養ひ、神政成就の神業を輔佐し、仮令善事と見るも神界の律法に照合して悪ければ断じて之を為さず、天意に従つて一々最善の行動を採り、昆虫と雖も妄りに傷害せず、至仁至愛の真情を以て万有を守る。又乱世に乗じて野望を起さず、至公至平の精神を持するの人格具はりたる時は、即ち神人にしてその心魂は即ち真心であり神心である。 利害得失のために精神を左右にし、暗黒の淵に沈み良心を傷め、些少の事変に際して狼狽し、忽ち顔色を変へ、体主霊従、利己主義を専らとするものは、小人の魔心より来るのである。内心頑空妄慮にして、小事に心身を傷り乍ら表面を飾り、人の前に剛胆らしく、殊勝らしく見せむとするは、小人の好んで行ふ所である。霊界を無視し万世生き通し生死往来の神理を知らず、現世の外に神界幽界の儼存せる事を弁へず、故に神明を畏れず、祖先を拝せず、単に物質上の欲望に駆られて、天下国家のために身命を捧ぐる真人を罵り嘲り、死を恐れ肉体欲に耽り、肝腎の天より使命を受けたる神の生宮たることを忘却する小人数多現はれ来る時は、世界は日に月に災害と悪事続発し、天下益々混乱し、薄志弱行の徒のみとなり天命を畏れず、誠を忘れ利欲に走り、義を弁へず富貴を羨み嫉み、貧賤を侮り己より勝れたる人を見れば、従つて学び且つ教へらるることを為さず、却つて之を譏り嘲り己れの足らざる点を補ふことを為さず、善にもあれ悪にもあれ、己を賞め己に随従するものを親友となし、遂に一身上の災禍を招き、忽ち怨恨の炎を燃やすもの、是魔心の結実である。執着心強くして解脱し能はず、自ら地獄道を造り出し邪気を生み、自ら苦しむもの天下に充満し、阿鼻叫喚の惨状を露出する社会の惨状を見たまひて至仁至愛の大神は坐視するに耐へず、娑婆即寂光土の真諦を説き、人生をして意義あらしめむとの大慈悲心より、胎蔵せし苦集滅道を説き、道法礼節を開示したまひたるは、此の物語であります。非は理に克たず、理は法に克たず、法は権に克たず、権は天に克たず、天定まつて人を制するてふ真諦を、神のまにまに二十二巻まで口述し了りました。神諭に曰ふ、 『三月三日、五月五日は変性女子に取りて結構な日柄である云々』 と、いよいよ大正十年九月八日に神命降り十日間の斎戒沐浴を了つて、同十八日より口述を始め、大正十一年壬戌の旧三月三日迄に五六七の神に因みたる五百六十七章を述べ了へ、続いて五月五日までに瑞月王仁に因みたる七百十二章を惟神的に述べ了りたるも、又神界の御経綸の毫も違算なきに驚歎する次第であります。本年五十二歳の瑞月が、本書を口述し始むるや、パリサイ人の批難攻撃相当に現はれ、随分編輯者以下筆録者も甚だしく苦しまれたのですが、神助の下に辛ふじて本巻まで口述筆記を終り、神竜の片鱗を爰に開示し得たるを、大教祖の神霊に謹んで感謝し奉り、外山豊二を始め加藤女史、松村真澄、谷村真友、近藤貞二、谷口雅治[※「雅治」は底本通り。正しくは「正治」または「雅春」。]、桜井重雄、北村隆光、山上女史その他本書関係の諸氏が渾身の努力を、茲に謹んで感謝する次第であります。 大正十一年五月二十八日旧五月二日於松雲閣 |
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103 (1806) |
霊界物語 | 22_酉_鷹鳥山の鷹鳥姫 | 11 黄金像 | 第一一章黄金像〔七〇三〕 向脛を擦り剥き、顔を顰めながら清泉の岩壺より這ひ上りたる金助は、スマートボール、カナンボール、銀、鉄、熊、蜂の顔面の擦過傷や茨掻きの傷を眺め、 金助『アー誰も彼も負傷せないものは一人もないのだな。斯んな事があらう道理がない。如何しても吾々の行動に良くない点があるのだらう。バラモン教の大神様の為に所在最善の努力を費してゐる吾々七人が七人乍ら斯んな目に遇ふと云ふのは、全く神様の御神慮に叶はないのかも知れない。但しはバラモン教の神様の御精神かも分らない。何が何だか一向合点が行かぬ。併し乍らバラモン教の本国に於ては、真裸体にして茨の中へ投り込まれ、水を潜り火を渡り、剣の刃渡り、釘を一面に打つた下駄を穿くと云ふ事が、最も神様を悦ばしめる行となつてゐるさうだ。自転倒島では、そこ迄の事は到底行はれないから、今のバラモン教は荒行は全然廃されてゐる。併し乍ら此通り惟神的に、皆が皆まで血を出したと云ふのは、或は御神慮かも知れない。併し乍ら天地の神の生宮たる肉体を毀損し、神霊の籠つた血液を無暗に体外へ絞り出すと云ふ事は、決して正しき神業ではあるまい。之を思へばバラモンの教は全く邪教であらう。嗚呼吾々も今迄は善と信じて、斯かる邪道に耽溺してゐたのではなからうか。バラモン教が果して誠の神なれば、鷹鳥姫を言向和す出征の途中に於て、斯んな不吉なことが突発する道理がない。それに就ては昨夜の夢、合点の行かぬ節が沢山にある。自分の心より美人を生み、極楽世界を拓き、又鬼を生み、地獄、餓鬼道、修羅道を現出すると云ふ真理を悟らされた。此処は鷹鳥山の深谷、三五教の神様のわが身魂に降らせ給うて、斯様な実地の教訓を御授け下さつたのであらう。アヽ有難し、勿体なし、三五教の大神様、今迄の罪を御赦し下さいませ。惟神霊幸倍坐世』 と一生懸命に念じてゐる。六人は傷だらけの顔を互に見合せ、 六人『ヤー、お前は如何した。オー、貴様もえらい傷だ』 と互に叫びながら、金助の前に期せずして集まり来り、金助が懺悔の独語を聴いて怪しみ、首を傾け凝視めてゐる。金助は忽ち神懸状態となり、四角張つた肩を、なだらかに地蔵肩のやうにして了ひ、容貌も何となく美はしく一種の威厳を帯び断れ断れに口を切つた。六人は、 六人『ハテ不思議』 と穴の開く程、金助の顔を打眺めて、何を言ふかと聴耳立てた。金助は口をモガモガさせながら、 金助『天上天下唯我独尊』 と叫んだ。カナンボールは、 カナンボール『オイ金助、ちと確りせぬかい。たかが知れた魔谷ケ岳の山賊上りのバラモン信者の身を以て、天上天下唯我独尊もあつたものかい。三十余万年未来の印度に生れた釈尊が運上取りに来るぞ。ハア困つた気違ひが出来たものだ。オイ銀公、清泉の水でも掬うて来て顔に打掛けてやれ。まだ目が覚めぬと見えるワイ』 銀公『あんな黒い水を掬つて来ようものなら、手も口も、真黒けになるぢやないか』 カナン『まだ夢の連続を辿つて居るのか。よく目を開けて見よ。水晶のやうな水が、ただようてゐる』 銀公『それでも貴様、一度真黒けの黒ン坊に染まつて了つたぢやないか』 カナン『それが夢だよ、俺達の顔を見よ。どつこも黒いところはないぢやないか。貴様は目を塞いでゐるから、其辺中が闇く見えるのだ。確りせぬかい』 と平手でピシヤツと横面を撲つた途端に、銀公は初めてパツと目を開き、 銀公『アヽ、矢張夢だつたかなア』 金助『此世は夢の浮世だ、諸行無常、是生滅法、生滅滅已、寂滅為楽、如是我聞、熟々惟るに宇宙に独一の真神あり、之を称して国祖国常立尊と曰ふ。汝一切の衆生、わが金言玉辞を聴聞せよ。南無無尽意菩薩の境地に立ち、三界の理法を説示する妙音菩薩が善言美詞ゆめゆめ疑ふ勿れ。風は自然の音楽を奏し、宇宙万有惟神にして舞踏す。天地間一物として真ならざるはなし。惟神霊幸倍坐世、帰命頂礼。天上三体の神人の前に赤心を捧げ、心身を清浄潔白にして幽玄微妙の真理を聴聞せよ。吾は三界に通ずる宇宙の関門普賢聖至の再来、今は最勝妙如来、三十三相顕現して観自在天となり、阿弥陀如来の分身閻魔大王地蔵尊、神息総統弥勒最勝妙如来と顕現す。微妙の教旨古今を絶し、東西を貫く。穴かしこ、穴かしこ、ウンウン』 と云つた限り身体を二三尺空中に巻揚げ、得も言はれぬ美はしき雲に包まれ、山上目蒐けて上り行く。其の審しさにスマート、カナン其他四人は後見届けむと尻ひつからげ、荊蕀茂る谷道に脚を引掻きながら、山の頂指して登り行く。六人は鷹鳥山の頂に登り着いた。 金助は忽ち黄金像となり、紫磨黄金の膚美はしく、葡萄の冠を戴きながら、咲き乱れたる五色の花の上に安坐してゐた。 銀公『ヤー此奴は金助によく似て居るぞ。金助は其名の如く、全部黄金に化つて了ひよつた。オイ皆の者、これだけ黄金があれば大丈夫だ。六人が棒を作つて帰り、分解して各自に吾家の財産とすれば大したものだぞ』 鉄『まだそれでも目がギヨロギヨロ廻転し、口がパクツイてゐるぢやないか。こんな未成品を持つて帰つたところで、中心まで化石否化金してゐない。暫らく時機を待つて、うまく固まるまで捨てて置かうぢやないか』 カナン『一時も早く持つて帰らなくちや、鷹鳥姫の部下に占領されて仕舞ふ虞れがある。コリヤ魔谷ケ岳の或地点まで担いで往かう。さア、早く用意をせい』 熊、蜂の両人は携へ持つた鎌にて手頃の木を伐り棒を作つてゐる。スマートボールは此の坐像の周囲をクルクル廻り、指頭を以つて抑へながら、 カナンボール『ヤーまだ少し温味があり、血が通うてゐるやうだ。こんな化物を迂濶り担ぎ込まうものなら、どんな事が起るかも知れない。オイ皆の奴、此儘にして帰らうぢやないか』 金の像(金助の像)『貴様等は執着心の最も旺盛な奴輩ぢや。この金助が化体を一部たりとも動かせるものなら動かして見よ。宇宙の関門最勝妙如来が坐禅の姿勢、本来無一物、色即是空、空即是色、一念三千、三千一念の宇宙の理法を知らざるか。娑婆の亡者共、吾こそは今迄の匹夫の肉体を有する金助に非ず、紫磨黄金の膚と化したる三界の救世主であるぞよ』 カナン『ヤー愈怪しくなつて来た。訳の分らぬことを言ひ出したぞ。オイ金助、モツト俺達の耳にもわかるやうに言つて呉れ』 金助の像『宇宙一切、可解不可解、凡耳不徹底、凡眼不可視』 カナンボール『ますます訳の分らないことを云ふぢやないか。オイ金州、洒落ない。貴様は何故元の金助に還元せないのだ。何程貴い黄金像になつて見たところで、身体の自由が利かねば仕方がないぢやないか』 金助の像『如不動即動是、如不言即言是、如不聴即聴是、顕幽一貫善悪不二、表裏一体、即身即仏即凡夫』 カナンボール『ますます分らぬことを言ひやがる。オイこんな代物にお相手をしてゐたら、莫迦にしられるぞ。モー帰らうぢやないか』 銀公『これが見捨てて帰られようか、宝の山に入りながら一物も得ずして裸体で帰ると云ふのは此の事だ。何処までも荒魂の勇を鼓し、六人が協心戮力此の黄金像を魔谷ケ岳の偲ケ淵迄伴れて行かう。サア、皆の奴、一二三だ』 と前後左右よりバラバラと武者振りつく。金像は一つ身慄ひをするよと見る間に、六人の姿は暴風に蚊軍の散るが如く、四方八方に目にとまらぬ許りの急速度を以て飛散して了つた。 金像は体内より鮮光を放射し、微妙の霊音を響かせながら、ムクムクと動き始めた。忽ち三丈三尺の立像と変じ、鷹鳥山の山頂にスツクと立ち、南面して瀬戸の海を瞰下し、両眼より日月の光明を放射し始めた。 鷹鳥山は暗夜と雖も光明赫灼として、数十里の彼方より雲を通して其の光輝を見ることを得るに至つた。 これ果して何神の憑依し給ひしものぞ。説き来り説き去るに随つて、其の真相を不知不識の間に窺知することを得るであらう。 (大正一一・五・二六旧四・三〇外山豊二録) |
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霊界物語 | 22_酉_鷹鳥山の鷹鳥姫 | 13 寂光土 | 第一三章寂光土〔七〇五〕 嵐のたけぶ魔谷ケ岳バラモン教に立籠る 蜈蚣の姫を教主とし朝な夕なに真心を 捧げて尽す金助も心の駒を立直し 神の御稜威も鷹鳥の山の谷間に湧き出づる 流れも清き清泉魂を洗ひて忽ちに 心の園に一輪の花の薫りを認めてゆ 直に開く大御空高天原に日月の 光隈なく照り渡り娑婆即寂光浄土の真諦を 悟るや忽ち黄金の衣に包まれ煌々と 輝き渡る神御霊紫磨黄金の膚清く 身の丈三丈三尺の三十三魂と成り変り 鷹鳥山の山頂に宇宙万有睥睨し 茲に弥勒の霊体を現じて四方を照しける 折しもあれや玉能姫鷹鳥姫は山上の 光を求めて岩ケ根の庵を後にエチエチと 近づき見れば金像は五丈六尺七寸の 巨体と変じ給ひつつ左右の御手に鷹鳥の 神の司や玉能姫物をも言はず鷲掴み 中天高く投げやれば翼なき身の鷹鳥の 姫の司は忽ちに元の庵に恙なく 投げ返されて胸をつき心鎮めて三五の 道の蘊奥を細々と奥の奥まで探り入る 玉能の姫は中天に玉の如くに廻転し 再度山の山麓に落ちて生田の森の中 木々の若芽も春風に薫る稚姫君の神 鎮まりいます聖場へ端なく下り着きにけり 遠き神代の昔より皇大神の定めてし 五六七神政の経綸地時節を待つて伊都能売の 貴の御霊の姫神と仕へて茲に時置師 此世を忍ぶ杢助が妻のお杉の腹を藉り 生れ出でませし初稚の姫の命と諸共に 清く仕ふる三つ御霊三五の月の皎々と 四海を照らす神徳を暫し隠して岩躑躅 花咲く春の先駆を仕組ませ給ふ尊さよ あゝ惟神々々御霊幸はひましまして 鷹鳥山の頂に示現し給ひし弥勒神 深き経綸の蓋開けて輝き給ふ時待ちし 堅磐常磐の松の世の栄え目出度き神の苑 花は紅葉は緑天と地とは紫に 彩る神代の祥瑞に天津神等国津神 百の神々百人は雄島雌島の隔てなく 老木若木の差別なく栄ゆる御代に大八洲 樹てる小松のすくすくと天津御光月の水 受けて日に夜に伸ぶる如進む神代の物語 黄金閣の頂上に輝き渡る日地月 貴の瓢の永久に開くる御代の魁を 語るも嬉し神館月の桂を手折りつつ 言葉の花を翳しゆく醜の魔風の吹き荒び 朽ちよ果てよと迫り来る曲の嵐も何のその 松の操のどこまでも神の御業に仕へずば 固き心は山桜大和心のどこまでも ひきて返さぬ桑の弓言葉のツルを手繰りつつ 五六七の代まで伝へ行くミロ九の神代を松村が 心真澄のいと清く山の尾の上に馥郁と 咲き匂ひたる教の花太折りて語郎善美世は 開き始めて北村氏隆き御稜威も光りわたり 海の内外の山川も草木もなべて皇神の 豊の恵二浴しつつ神代を祝ふ神人の 稜威の身魂を照らさむと雪に撓める糸柳の いと軟らかに長々と二十二巻の小田巻の 錦の糸を繰返し心も加藤説き明す 鷹鳥山の高姫が娑婆即寂光浄土をば 心の底より正覚し国治立の神業に 仕へ奉りて素盞嗚の神の尊の神力を 悟り初めたる物語言の葉車欣々と 風のまにまに辷り行くあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ。 鷹鳥姫は玉能姫を伴ひ、山上の光を目標に登り行つた後に、若彦は金助、銀公の両人に対し、三五教の教理を説き諭す折しも、如何はしけむ、金助、銀公の二人はキヤツと一声叫ぶと共に其の場に倒れ、人事不省に陥つて了つた。若彦は驚いて谷水を汲み来り、両人の面部に伊吹の狭霧を吹き掛け、甦らさむと焦る折しも、風を切つて頭上より降り来る鷹鳥姫の姿に二度ビツクリ、近寄り見れば、鷹鳥姫は庭前の青苔の上に仰向けとなり大の字になつて、 鷹鳥姫『ウン』 と云つたきり、ピリピリと手足を蠢動させて居る。若彦は周章狼狽為す所を知らず、右へ左へ水桶を提げた儘駆けまはる途端に、鷹鳥姫の足に躓き、スツテンドウと其の上に手桶と共に打倒れた。手桶の水は一滴も残らず大地に吸収されて了つた。若彦は如何したものか、挙措度を失ひし結果、立上る事が出来なくなつて了つた。庭前の苔の上にやうやう身を起し、坐禅の姿勢を取り、双手を組んで溜息吐息、思案に暮れて居る。 若彦『嗟、金、銀の両人と云ひ、力と頼む鷹鳥姫様は此の通り、介抱しようにも腰は立たず、加ふるに妻の玉能姫の消息はどうなつたであらう。神徳高き鷹鳥姫様でさへ斯の如き悲惨な目に遇ひ給うた位だから、吾妻も亦どつかの谷間に投げ棄てられ、木端微塵になつたかも知れない。あゝ、神も仏もないものか』 と稍信仰の箍が緩まうとした。時しもあれや、バラモン教のスマートボール、カナンボールを先頭に、鉄、熊、蜂其他数十人の荒男、竹槍を翳しながら此方を指して進み来り、此態を見て何と思つたか近寄りも得せず、垣を作つて佇み居る。神殿に参拝し居りし七八人の老若男女の信徒は、此惨状と寄せ来る敵の猛勢に肝を潰し、裏口よりコソコソと遁れ出で、這々の態にて山を駆登り、何処ともなく消散して了つた。 山桜は折柄吹き来る山嵐に打叩かれて、繽紛として散り乱れ、無常迅速の味気なき世の有様を遺憾なく暴露して居る。若彦は漸く吾に返り独語。 若彦『あゝ兵は強ければ亡び、木硬ければ折れ、革固ければ裂く。歯は舌よりも堅くして是れに先立ちて破るとかや。吾々はミロクの大神の大御心を誤解し、勝に乗じて猛進を続け、進むを知つて退き、直日に見直し聞直し、宣直す事を怠つて居た。日夜見直せ宣直せの聖言も、機械的無意識に口より出づる様になつては、モウ駄目だ。あゝ過つたり誤つたり。 積む雪に撓めど折れぬ柳こそやはらかき枝の力なりけり とは言依別命様の御宣示であつた。慈愛深き大神様は吾々に恵の鞭を加へさせ給うたのか、殆ど荒廃せむとする身魂を、再び練り直し給ひしか、あゝ有難し辱なし、神様、お赦し下さいませ。神や仏は無きものかと、今の今まで恨みの言葉を申し上げました。柔能く剛を制すの真理を、何故今迄悟らなかつたか。口には常に称へながら有言不実行の罪を重ねて来た吾々、実に天地に対し恥かしくなつて来ました。鷹鳥姫様が斯様な目にお遇ひなさつたのも、玉能姫の消息の分らないのも、吾脛腰の立たなくなつたのも此若彦が誤解の罪、実に神様は公平無私である。敵味方の区別を立つるは吾々人間の煩悩の鬼の為す業、慈愛深き神の御目より見給ふ時は、一視同仁、敵味方などの障壁はない。あゝ神様、あゝ、此世を造り給ひし大神様、心も広き厚き限りなき神直日大直日の神様、何卒々々、至らぬ愚者の吾々が罪、神直日大直日に見直し聞直し下さいませ。今迄の曲事は唯今限り宣り直します』 と声を曇らせ、バラモン教の一味の前に在る事も打忘れ、浩歎の声を洩らして居る。スマートボールは声も荒々しく、 スマートボール『ヤイ三五教の青瓢箪、若彦の宣伝使、態ア見やがれ。金助、銀公の二人を貴様の宅に捕虜にして居やがるのだらう。其天罰でバラモン教の御本尊大国別命様に睨み付けられ、鷹鳥姫は其態、貴様は又脛腰も立たず何をベソベソと吠面かわくのだ。俺達はバラモンの教の為に魔道を拡むる汝等一味を征伐せむが為に実行団を組織し此場に立向うたのだ。これから此スマートボールが汝等一味の奴輩を、芋刺し、串刺し、田楽刺し、山椒味噌を塗りつけて炙つて食つて了ふのだ。オイ泣き味噌、貴様も肝腎要の所で、大変な味噌を付けたものだなア。コリヤ鬼味噌、何を殊勝らしく祈つて居やがるのだ。天道様もテント御聞き遊ばす道理がないぞ。サアこれから顛覆だ』 と槍の穂先を揃へて前後左右よりバラバラと攻め掛る。悔悟の涙に暮れたる若彦は、最早心中豁然として梅花の咲き匂ふが如く、既に今迄の若彦ではなかつた。傲慢無礼のスマートボールが罵詈雑言も侮辱も、今は妙音菩薩の音楽か、弥勒如来の来迎かと響くばかりになつて居る。 若彦『アヽ有難い。われも北光の神様になるのかなア。どうぞ早く目を突いて欲しい。慗に肉眼を所有して居るために、宇宙の光を認むることが出来ないのだ。アヽ惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 と一生懸命に心中に暗祈黙祷を続けて居る。スマートボールは、 スマートボール『オイ、カナン、どうだ。これ丈勢込んでやつて来たのに、一つの応答もせず、又反抗的態度も行らない奴に向つて、攻撃するも馬鹿らしいぢやないか。如何したらよからう』 カナンボール『今こそ三五教を顛覆させるには千載一遇の好機だ、何躊躇逡巡する事があるか。一思ひにやつて了へよ、スマートボール』 スマートボール『併し乍ら、お前は屋内に駆入り、金、銀の在処を探して呉れよ。俺は是から此奴等に引導をわたさねばならぬ。……鷹鳥姫の婆、並びに若彦のヘボ宣伝使、よつく聞け。此世は大自在天大国別命の治しめす世の中だ。然るに何ぞ、天則違反の罪を負ひて、永遠無窮の根底の国に、神退ひに退はれた国治立命や、現在漂浪の旅を続けて居る素盞嗚尊の悪神を頭に戴き、猫を被つて、天下を混乱させむとは憎き奴共。天はバラモン教の蜈蚣姫が部下スマートボールの手を借りて汝を誅戮すべく此処に向はせ給うたのだ。サア此世の置土産、遺言あらば武士の情だ、聞いてやらう。娑婆に心を残さず、一時も早く幽界に旅立到せ。覚悟はよいか』 と部下に目配せしながら、竹槍をすごいてアワヤ一突にせむとする折しも、中空より急速力を以て降り来れる一塊の火弾、忽ち庭の敷石に衝突して爆発し、大音響と共に四面白煙に包まれ、咫尺を弁ぜざるに立到つた。中よりコンコンと白狐の鳴き声、谷の彼方此方に警鐘を乱打せし如く、頻りに聞えて来た。レコード破りの大音響に、失心して居た鷹鳥姫はハツと気が付き、頭を上げて眺むれば、四辺白煙に包まれ、身は空中にあるか地底にあるか、判別に苦しみつつ、独り頭を傾けて記憶の糸を手繰つて居る。金助、銀公両人もハツと気が付き、咫尺も弁ぜぬ白煙の中を腹這ひながら表に出で、若彦、鷹鳥姫の傍に知らず識らずに寄つて来た。忽ち空中より優美にして流暢な女神の声にて、 女神『三五教の宣伝使鷹鳥姫、若彦の両人、よつく聞かれよ。取別けて鷹鳥姫は執着の念未だ去らず、教主言依別命の示諭を軽視し、執拗にも汝が意地を立てむとし、神業繁多の身を以て聖地を離れ、此鷹鳥山に居を構へ、大神を斎り、汝が失ひし二個の宝玉を如何にもして再び取返さむと、千々に心を砕く汝の熱心、嘉すべきには似たれども、未だ自負心の暗雲汝が心天を去らず、常に悶々として至善至美なる現天国を悪魔の世界と観じ、飽くまでも初心を貫徹せむと、迷ひに迷ふ其果敢なさよ。地上に天国を建設せむとせば、先づ汝の心に天国を建てよ。迷ひの雲に包まれて、今や汝は地獄、餓鬼、修羅、畜生の天地を生み出し、汝自ら苦む其憐れさ。片時も早く本心に立復り、自我心を滅却し、我情の雲を払拭し、明皓々たる真如の日月を心天心海に輝かし奉れ』 と厳かに神示を宣らせ給ひ、御姿は見えねども、空中を帰り給ふ其気配、目に見る如くに感じられた。鷹鳥姫は夢の覚めたる如く心に打諾き、 鷹鳥姫『アヽ謬れり謬れり、今迄吾々は神界の為、天下万民の為に最善の努力を尽し、不惜身命の大活動を継続し、五六七神政の御用に奉仕せしものと思ひしは、わが心の驕なりしか。アヽわれ如何に心力を尽すと雖も、無限絶対、無始無終の大神の大御心に比ぶれば、九牛の一毛だにも及び難し。慢心取違の………われは標本人なりしか、吁浅ましや浅ましや。慈愛深き誠の神様、何卒々々鷹鳥姫が不明を憐れみ給ひ、神業の一端に奉仕せしめられむことを懇願致します。唯今より心を悔い改め、誠の神の召使として微力の限りを尽させ下さいませ。神慮宏遠にして、吾等凡夫の如何でか窺知し奉るを得む。今まで犯せし天津罪国津罪は申すも更なり、知らず識らずに作りし許々多久の罪穢を恵の風に吹払ひ、助け給へ。アヽ惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 と両手を合せ、感謝の涙に咽びながら一心不乱に天地の神霊に謝罪と祈願を籠めて居る。四辺を包みし白煙は忽ち晴れて、四辺を見れば此は如何に、鷹鳥姫が庵の前の苔蒸す花園であつた。何処よりともなく三柱の美人、上枝姫、中枝姫、下枝姫は、玉の如き顔貌に、梅花の笑ふが如き装ひにて現はれ来り、鷹鳥姫、若彦、金助、銀公の手を取りて引起し、懐より幣を取出して四人が塵を打払ひ、労はり助けて庵の内に進み入る。スマートボール、カナンボール以下一同は如何はしけむ、身体強直し、立はだかつた儘此光景を不審げに目送して居る。谷の木霊に響く宣伝歌の声、雷の如く聞えて来た。 (大正一一・五・二七旧五・一松村真澄録) |
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霊界物語 | 23_戌_木山の里/竜宮島へ出発 | 03 松上の苦悶 | 第三章松上の苦悶〔七一五〕 原野を遠く見晴らした若彦館の奥の間に招ぜられた三人の男は、杢助、玉治別、国依別であつた。 若彦『これはお三人様、打ち揃うてよくも御入来下さいました。今も今とて貴方方の噂を致して居りました。呼ぶより誹れとはよう云つたものですなア』 杢助『言依別の教主の命に依つて、紀の国へ急遽出張致しました』 若彦『言依別の教主は、矢張り相変らず勤めて居られますか』 杢助『これは又妙なお尋ね、教主が変つてなるものですか』 若彦『高姫さまは何うなりました』 杢助『高姫さまは相変らず聖地で働いて居られます』 若彦『ハテナ』と思案に暮れる。 若彦『玉能姫は如何致しましたか』 杢助『玉能姫様は初稚姫様とお二人、錦の宮の別殿にお仕へになつて居ります。併し妙な事をお尋ねですな。誰か当館へ来た者がありますか』 若彦『ハイ、先程魔我彦、竹彦の両人が参りました』 国依別は是を聞くより俄に眉を吊りあげ、何と無しに不穏な色を顔面に漂はした。 国依別『其の魔我彦は何処に参りましたか』 若彦『離れの座敷で休息して居られます』 杢助『アハヽヽヽ、これは妙だ。悪い事は出来ぬものだなア』 若彦『魔我彦が何を致しましたか』 杢助『イエ、人の心位恐ろしいものはありませぬ』 若彦『何だか、そはそはと両人は致して居りますので、これには深い様子のある事と思ひ、どつこにも逃げないやうに五人の荒男をもつて監守さして置きました。一体何んな事をやつたのです』 杢助は、青山峠の頂上より谷底へ玉治別、国依別を突き落し、殺害を企てた事を小声に耳打ちした。若彦は倒れむ許りに打ち驚き、 若彦『どこ迄も執念深き高姫一派の奸計。何うしても金狐、大蛇、悪鬼の守護神が退かぬと見えますな。何う致しませう。此儘追ひ帰すか、但は帰順させるか二つに一つの方法を執らねばなりますまい』 杢助『まア私に任して下さい』 と腕を組んでやや思案に耽る。暫くありて杢助は若彦の耳に口を寄せた。若彦は打ち頷き、此場を立つて離れ座敷に進み入り、五人の男に向ひ、 若彦『アヽ皆の者御苦労であつた。各自自分の部屋に帰つて休息して下さい。……魔我彦さま、竹彦さま、長らくお待たせ致しました。嘸お退屈でせう』 魔我彦『何卒お構ひ下さいますな。お客さまは何うなりましたか』 若彦『ハイ、ほんの近くの百姓が見えましたので御座います。何れも用をたして帰りました。何卒御悠くりとして下さい。併し一つ貴方にお願ひ仕度き事が御座います』 魔我彦『お願ひとは何事で御座いますか』 若彦『実は熱心な信者が病気にかかつて此館に籠つて居りますが、何うも怪しい病気ですから、一遍貴方の御鎮魂を願ひ度いのです』 魔我彦『神徳の充実した貴方がゐらつしやるのに、何うして私のやうな者がお間に合ひませうか』 若彦『あの病人は何うしても貴方の鎮魂を受けなくては癒らないのです。総てものは相縁奇縁と云うて、何程神様の御神徳だと云うても、意気の合ぬものは到底効能がありませぬ。何卒貴方急ぎませぬから、お休みになつたら鎮魂を施して下さい』 魔我彦『承知致しました。一つ神様に願つて見ませう』 若彦『早速の御承知、本人も喜ぶ事でせう。併し乍ら、何か物怪が憑いて居ると見えて、昼は平穏です。夜分になつてから一つお願ひ申しませう』 魔我彦は傲然として、 魔我彦『ハイ宜敷い』 と大ぴらに首を振つて居る。表の方には杢助、玉治別、国依別の三人小声になりて、何事か話に耽つて居る。若彦は二人に向ひ、 若彦『些しく表に用が御座いますれば失礼致します。何卒御悠くりと今日はお休み下さいませ。今晩お世話にならなくてはなりませぬから』 と云ひ捨て立ち去る。後に二人は小声になり、 魔我彦『何うも怪しいぢやないか。何うやら、杢助がやつて来て居るやうな気がしてならぬ。まかり間違へば青山峠の陰謀が露見したのだなからうかなア』 竹彦『私も何だか心持が悪くなつて来た。何うぞして此処を逃げ出す工夫はあるまいかなア』 魔我彦『ひよつとしたら二人の奴、谷底で蘇生したかも知れないぞ。それなら大変だ。一つお前神懸り[※三版・御校正本・愛世版は「神懸り」、校定版は「神憑り」。]をやつて見て呉れ』 竹彦は言下に手を組み、瞑目した。忽ち身体震動して、 竹彦『ウヽヽ、此方は八岐の大蛇の眷属であるぞよ。今表に杢助、玉治別、国依別の三人が現はれて、今夜を待つて復讐せむとの企みをやつて居るぞよ』 魔我彦『それは大変です、何とかして助かる工夫はありますまいか』 竹彦『ウヽヽ、もうかうなる以上は、館の周囲は荒男が取り巻き警戒して居る。力強の杢助は表に隠れて居る。もはや袋の鼠、両人の身体は逃れる見込はあるまい』 魔我彦『ハテ、困つた事だ。何うしたら良からう』 と顔色を変へてまごつく。 竹彦『ウヽヽ、周章るには及ばぬ。先づ気を落ち着けよ。かういふ時こそ刹那心が必要だ。何れ人を呪はば穴二つ、天に向つて唾したやうなものだ。自業自得だ、諦めて三人に命をやつたらよからう』 魔我彦は益々狼狽へ、 魔我彦『命惜しさに吾々は信仰もし、宣伝使もやつて居るのです。そんな事があつて耐るものですか。かういふ所を助けて下さるのが神様だ。何とかよいお指図を願ひます』 竹彦『ウンウン、自業自得だ。仕方がない、今表に折伏の剣を三人が力限り研いで居るぞ。あの業物で、すつぱりとやられたら、二人の身体は見事梨割りになるだらう、ウフヽヽヽ』 魔我彦『何卒、吾々二人を此処から救ひ出して下さい。もうこれきり改心を致しますから……』 竹彦『ウンウンウン、先づ周章ずと日が暮る迄待つたらよからう。何程謝罪つた所で、これだけ大勢強い奴が取巻いて居るから何うする事も出来はしない。なまじいに逃げ隠れ致して、名もなき奴に命を取られ恥を曝すよりも、汝が持てる懐剣で刺違へて死んだがよからう。それが最善の方法だ』 魔我彦『この不安状態がどうして今夜迄待てますか。また大切な一つの命を、さう易々と放る訳には行きますまい』 竹彦『ウヽヽ、この肉体も可愛さうなものだが、其方も可愛さうだ。併し玉治別、国依別の命を易々と取らうと企んだ張本人は魔我彦だから仕方がない、観念致せ』 魔我彦『これが何うして観念が出来ませう』 竹彦『ウヽヽ、命が惜いか、吾身を抓つて人の痛さを知れ、貴様が命の惜しいのも、玉、国両人が命の惜しいのも同じ事だ。併し乍ら、玉、国両人は常から命が大切だと云うて居る位だから、死ぬのは嫌なに違ひない。それに引かへ貴様は高姫と共に、日々烏の啼くやうに命はいらぬ、お道の為なら仮令どうなつても惜しくないと云うて居るぢやないか。命の無くなるのは貴様の日頃の願望成就ぢや、こんな目出度い事は又とあるまい。アハヽヽヽ』 魔我彦『貴方は何れの神様か存じませぬが、ちと気に食はぬ事を仰有る。お引取を願ひます』 竹彦『ウヽヽ、さうだらう、気に食はぬだらう。尤もぢや、口先でこそ命はいらぬと云つて居つても、肝腎要な時になると、娑婆に未練の残るのは人間として、普通一般の当然の執着心だ。その執着心を取らなければ、誠の神業は成就致さぬぞ』 魔我彦『同じ事なら肉体を持つて御用を致し度う御座います。アヽしまつた事をした。何うしたらよからうかなア。日はだんだんと暮れて来る。愚図々々して居れば何んな目に遇はされるか知れやしない、翼でもあれば、たつて帰るのだけれど』 竹彦『ウヽヽアハヽヽヽ、それ程命が惜しければ此方の申す様に致すか』 魔我彦『命の助かる事なら何んな事でも致します。何うぞ早く仰有つて下さいませ』 竹彦『ウンウンウン、汝等両人は庭先のこの松の頂上に登り、天津祝詞を一生懸命に奏上致せ。さうすれば天上より紫の雲をもつて汝の身体を迎へ取り、安全地帯に送つてやらう。何うぢや嬉しいか』 魔我彦『ハイ、助かる事なれば結構です。そんなら何時から登りませう』 竹彦『時遅れては一大事、半時の猶予もならぬ。松の木を目蒐けて登つてゆけ。竹彦の肉体も共に登るのだぞ。ウンウンウン』 と云ひながら霊は元に帰つた。魔我彦は四辺キヨロキヨロ見廻し、人無きを幸ひ庭先の大木を命を的に猿の如くかけ登つた。竹彦も続いて頂上に登りついた。二人は一生懸命に天津祝詞を声の限り奏上した。此声に驚いて若彦を初め、杢助、玉、国其他の一同は松上の二人の姿を見て、『アハヽヽヽ』と笑ひどよめいて居る。二人は一生懸命汗みどろになつて惟神霊幸倍坐世を奏上して居る。杢助は態と大きな声で、 杢助『サア、是から曲津彦と竹取別の両人を料理して酒の肴に一杯やらうかい』 と雷の如く呶鳴りつけた。魔我彦は是を聞き戦慄し、次第々々に慄ひ声になり、遂には息も出なくなつて仕舞つた。竹彦は『ウヽヽ』と又もや松上にて神懸り[※三版・御校正本・愛世版は「神懸り」、校定版は「神憑り」。]を始めた。 魔我彦『貴方の御命令通り此処迄避難しましたが、あの通り杢助以下の連中が樹下を取り巻いて居ります。どうぞ早く雲をもつて迎ひに来て下さい』 竹彦『ウンウンウン、斯の如く濃厚な紫の雲、汝の身体を取囲んで居るのが目に入らぬか。活眼を開いて四辺を熟視せよ』 魔我彦『何うしても我々の目には見えませぬ』 竹彦『ウンウンウン、見えなくつても雲は雲だ。竹彦の肉体と手を繋いで天に向つて飛びあがれ。さうすれば摘み上げて此館より脱出せしめ、安全地帯に救うてやらう。男は決断力が肝要だ。サア早く早く』 と促され、魔我彦は無我夢中になつて竹彦の手をとり、一イ二ウ三ツと声を揃へて一二尺飛び上つた途端に、松上より眼下の荒砂を敷きつめた庭に真逆様に墜落し、蛙をぶつつけたやうにビリビリと手足を慄はせ、人事不省に陥つた。若彦、杢助、玉、国其他の者は此光景に驚き、忽ち樹下に人山を築き、水よ水よと右往左往に慌て廻る。お光は手桶を提げ慌しく走り来る。杢助は直ちに水を含み、両人の面部に息吹の狭霧を吹きかけ、漸くにして二人は唸りながら生気に復し、四辺をキヨロキヨロ見廻し、玉治別、国依別の姿を見て『キヤツ』と叫び、又もや人事不省に陥つて仕舞つた。玉治別は魔我彦を、国依別は竹彦をひつ抱へ、奥の間深く運び入れ、夜具を敷いて鄭重に寝させ、神前に向つて天津祝詞を奏上し、更めて鎮魂を施した。漸くにして二人は息を吹きかへす。 玉治別『魔我彦さま、何うでした。随分御心配なさつたでせう』 魔我彦『ハイ、誠に申訳のない事を致しました。何うぞ命だけは御猶予を願ひます』 玉治別『人を助ける宣伝使がどうしてお前の命が欲しからう。お蔭で大変な修業をさして貰ひました。併し此後はあんな危険な事は止めて貰ひたいものだ。天の真浦の宣伝使が、駒彦、秋彦に宇津山郷の断崖から雪中へ落されたよりも余程険難でしたよ』 魔我彦は真赤な顔をして俯向く。 国依別『竹彦さま、気がつきましたか』 竹彦『ハイ、気がつきました。悪い事は出来ませぬワイ。余り成功を急いだものですから何分貴方方は高姫さまの御神業の妨害をなさる悪人だと信じきつて、あゝ云ふ無謀な事を致しました。併し乍ら魔我彦の精神は存じませぬが、決して竹彦はそんな悪人ではありませぬ。八岐の大蛇の邪霊が私に憑いてあんな事をさせたのですよ。何卒私を恨まぬやうに願ひます』 杢助『随分不減口を叩く男だな。併し乍らお前も是で悪は出来ないと云ふ事は分つたであらう』 魔我彦『私も肉体がやつたのではありませぬ。八岐の大蛇の眷族が憑つたのですから、どうぞ神直日大直日に見直し聞き直しを願ひます』 杢助『大体お前達は高姫の脱線的熱心に惚込んで居るから、そんな不善的な事を平気でやつて、立派な御神業が勤まると思うて居るのだ』 魔我彦『何事も日の出神さまの御命令通りだと思つて、高姫さまの意志を一寸忖度して居る処へ守護神がやつて来て、霊肉一致、二人を谷底へ突落し、殺さうとしたのです。併し乍ら魔我彦の肉体は何も知りませぬ』 杢助『玉治別、国依別の宣伝使は青山峠の絶頂から、あの深い谷間へつき落され、すんでの事で五体を粉砕するやうな目に遇はされても、お前達両人に対し鵜の毛の露程も恨んで居ないのは実に感服の至りだ。お前達も此両宣伝使の心を汲みとつて、少し改心したらどうだ。さうして改心を証明する為に、今迄の高姫一派の計略を此処ですつかり自白したがよからう』 魔我彦『そればつかりは自白出来ませぬ、高姫さまから仮令死んでも云うてはならないと口留めされ、私も万劫末代、舌を抜かれても言はないと固く約したのですから』 杢助『仮令善にもせよ、悪にもせよ、まだ良心に輝きがあると見えて、約束を守ると云ふ心がけは見上げたものだ。俺達も是以上は最早追及せぬ。玉治別さま、国依別さまこの両人を赦しておやりでせうなア』 玉治別『赦すも許さぬもありませぬ。何事も神様の御経綸、我々に油断は大敵だと云ふ実地の教育を与へて下さつたのですから、其お役に使はれなさつた御両人に対し、御苦労様と感謝こそすれ、寸毫も不足に思つたり恨んだりは致しませぬ』 国依別『私も玉治別と同感です。魔我彦さま、竹彦さま、安心して下さい。当つて砕けよと云ふ事がある。此上は層一層親密にして、神界の御用を勤めようぢやありませぬか』 杢助は立つて歌を歌ひ、しらけた此場の回復を図つた。 杢助『大和河内を踏み越えて漸々此処に紀の国の 青山峠の谷間に言依別の御言もて 勇み進んで来て見れば音に名高き十津川の 激潭飛沫の谷の水衣類を脱ぎて真裸体 ざんぶとばかり飛び込みて御禊を修する折からに 樹々の青葉も追々に黒ずみ来り天津日の 影は漸く隠ろひて闇を彩る折からに 頭上をかすめて落ち来る二つの影は忽ちに 青淵目がけて顛落し人事不省になる滝の 辺に二人を抱きあげよくよく見ればこは如何に 玉治別や国依別の神の命の宣伝使 青山峠の断崖よりつき落されて此さまと 聞いたる時の驚きは流石に豪気の杢助も 胸に浪をば打たせつつ闇を辿りて漸々に 二人を伴ひ平岩の麓に漸く近寄つて 其夜を明かし両人に様子を聞けば魔我彦や 竹彦二人の悪戯と聞いて再び胸躍り 深き仔細のある事と此処に三人はとるものも 取敢ずして若彦が館に訪ね来て見れば 思ひがけなき両人が離れ座敷でひそびそと 深き企みを語り合ふ善悪邪正の其報い 忽ち現はれ北の空雲を払つて照り渡る 北極星の動きなき若彦さまが雄心に 再び動く三人連れ魔我彦竹彦両人は 虚実の程は知らねども兎も角前非を心から 悔いしが如く見えにける嗚呼頼もしや頼もしや 仕組の糸に操られ心にかかりし村雲も 愈晴らす今日の宵あゝ惟神々々 御霊幸倍ましまして鷹鳥姫が迷ひをば 晴らさせ給へ魔我彦や竹彦一派の迷信を 朝日の豊栄昇るごと照し明して三五の 道の誠を四方の国国の内外の島々に 月日の如く明かに照させたまへ天津神 国津神達八百万百の御伴の神達の 御前に頸根つきぬきて遥に祈り奉る 慎み祈り奉る』 と歌ひ終つて両人に向ひ、 杢助『サア、魔我彦さま、竹彦さま、此杢助と共に聖地へ帰りませう。若彦、玉治別、国依別は是より伊勢路に渡り近江に出で、三国ケ岳を探険して聖地へ帰つて下さい。聖地には又もや高姫の陰謀が劃策されてあるから、杢助は是より両人を伴ひ、すぐ帰国致さう』 と云ふより早く忙しげに此館を立ち出た。魔我彦、竹彦は何となく心落着かぬ面持にて、悄々後に従ひ聖地をさして帰り行く。 (大正一一・六・一〇旧五・一五加藤明子録) |
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霊界物語 | 23_戌_木山の里/竜宮島へ出発 | 04 長高説 | 第四章長高説〔七一六〕 杢助は魔我彦、竹彦二人と共に窃に聖地に帰り、表戸を閉し暫らく外出せず、聖地の様子を窺つて居た。玉治別、若彦、国依別の三宣伝使も密に聖地に帰り、国依別が館に深く忍び、高姫一派の陰謀を偵察しつつあつた。神ならぬ身の高姫は此事は夢にも知らず、鬼の来ぬ間の洗濯するは今此時と、私かに聖地の役員信徒の宅に布令を廻し、緊急事件突発せりと触れ込んで、錦の宮の八尋殿に集めた。 此日は風烈しく急雨盆を覆へす如く、雷鳴さへも天の東西南北に巻舌を使つてゴロツキ出した。斯かる烈しき風雨雷電にも屈せず、緊急事件と聞いて爺も婆も猫も杓子も、脛腰の立つ者は満場立錐の余地なきまでに寄り集まつた。此時高姫は烏帽子、狩衣厳めしく神殿に進み、言依別の教主、尻でも喰へと言ふ鼻息にて斎主を勤め、型の如く祭典を済ませ、アトラスの様な曼陀羅の面を講座の上に曝し、満座の一同に向ひ、鬼の首を篦で掻き斬つた様に得意気に壇上に肩を揺り、腮を上下にしやくり乍ら、 高姫『皆さま、今日は斯くの如き結構なお日和にも拘らず、残らず御参集下さいまして、日の出神の生宮も満足に存じます。言依別の教主は先日より少しく病気の態にて引き籠られ、又杢助の総務殿は何れへかお出でになり、此三五教の本山は首の無い人間の様だ、二進も三進も動きが取れないと、大勢様の中には御心配遊ばしたお方があつた様ですが、日の出神の御神徳は偉いものです。教主が出勤せなくても、杢助其他の幹部宣伝使が居なくても、御神力に依つて、斯くの如く一人も残らず参集して下さつたと言ふのは、未だ天道様は此高姫を捨て給はざる証で御座いませう。杢助総務の召集でも言依別の教主の召集でも、此八尋殿の建設以来、是だけ立錐の余地なき迄お集まりになつた事は御座いませぬ。それだから神力が強いか、学力が強いか、神力と学力との力競べを致さうと神様が仰有るのです。論より証拠、実地を見て御改心なさるが一等です。時に緊急事件と申しまするのは外でも御座らぬ。我々日の出神の生宮、而も変性男子の系統の肉体、及び錚々たる幹部の御連中を差措き、たかの知れたお節の成り上りの玉能姫や、杢助の娘お初の如き者に、ハイカラの教主が大切なる御神業をソツと命令し、吾々始め幹部の御歴々にスツパヌケを喰はすと言ふ事は、如何に御神業とは言へ、吾々一同を侮辱したる仕打ちでは御座りますまいか。幹部役員は申すも更なり此処にお集まりの方々は何れも熱心なる三五教の信者様計りで御座りませう、神様のお仕組の御用を各々に致し度いばつかりで、地位財産を捨てて此処へ来乍ら、訳の分らぬ杢助一派の者に蹂躙されて、指を啣へてアフンとして見て居ると言ふ事がありませうか。斯う見渡す所、大分立派な男さまも居られますが、貴方等は睾丸を提げて居られますか。実に心外千万ではありますまいかな』 加米彦は満座の中よりヌツと立ち上り、 加米彦『高姫さまに質問があります、何事も神界の御経綸は我々人間の容喙すべき所ではありますまい。如何に日の出神の生宮ぢやと仰有つても、神様が高姫さまの命令に服従せよとは、何処の筆先にも書いてはありませぬ。日の出神呼ばはりは廃めて貰ひ度い。貴女こそ聖地及び神界の御経綸を混乱顛覆させる魔神の容器でせう』 高姫は講座より地団駄を踏み、目を釣りあげ、 高姫『誰かと思へば汝は秋山彦の門番加米彦ではないか。世界の大門開きを致す此高姫の申す事、たかが知れた一軒の家の門番が容喙すべき限りでない。すつ込つで居なされ』 と一口に叩きつけ様とする。加米彦は負ず気になり、高姫の立てる壇上に現はれて一同を見渡し、 加米彦『皆さま、私は今高姫さまの仰せられた如く、秋山彦の門番を致して居りました加米彦で御座いますが、然し乍ら高姫さまも大門の番人ぢやと只今自白されたではありませぬか。門番の分際として大奥の事が如何して分りませう。それに就いても私は秋山彦の館、即ち神素盞嗚大神、国武彦命様の御隠れ館の門番を致して居つた者、其時に冠島、沓島の鍵を応答なく盗んで行つて玉を呑み込んだ人があると言ふ事は、私が今申し上げずとも、皆さんは既に已に御承知の事と存じます。斯様なる権謀術数到らざるなき生宮さまの言葉が、如何して真剣に真面目に信ぜられませうか。皆様冷静によく御考へを願ひます』 座中より『尤も尤も』『賛成々々』『ヒヤヒヤ』『ノウノウ』の声交々起つて来る。 高姫は烈火の如く、 高姫『今「ノウノウ」と言つたお方は此日の出神の前に出て来て下さい。吾党の士と考へます。サア早く此処へお越しなされ』 加米彦『恐らく一人もありますまい、私の説に対し「ノウノウ」と言つたお方は賛成の意味を間違つて言はれたのでせう。皆さま、失礼な申し分で御座いますが、中には老人や子供衆も居られますから、一寸説明を致します。「ヒヤヒヤ」と言へば私の説に賛成したと言ふ事、「ノウノウ」と言へば賛成せないと言ふ事です。如何です。尚一度宣り直して貰ひませう。さうして不賛成のお方は「ノウノウ」と言つて下さい』 場の四隅よりは『ヒヤヒヤ』の声計りである。殊更大きな声で『ノウノウ、然し高姫の説にはノウノウだ』と付け加へた。高姫は口角泡を吹き乍ら、 高姫『皆さま、今となつて分らぬと言うても余りぢやありませぬか、大切なるお宝を隠されて、よう平気で居られますな。第一言依別のドハイカラの教主は、杢助の様な奴にチヨロまかされ、系統の生宮の高姫を疎外し、さうして其宝をば何処かへ隠して仕舞つた。皆さまはそんな章魚の揚壺を喰はされた様な目に遇ひ乍ら、平気で御座るとは無神経にも程があるぢやありませぬか。何程言依別の教主が偉くても、杢助の力が強くても、神界の事が学や智慧で分りますか。昔からの根本の因縁、大先祖は如何なる事を致して居つたか、如何なる因縁で此世へ生れて来たか、日の出神の誠のお活動は如何なものか、竜宮の乙姫様の御正体は如何かと言ふ明瞭な答へが出来ますか。モウ是からは錦の宮を始め此八尋殿は、及ばず乍ら此高姫が総監致します。玉能姫や初稚姫の女を選んで、大切な御用をさせると言ふ訳の分からぬ教主に、随喜渇仰して居る方々の気が知れませぬ。チツと皆さん、耳の穴を掃除して日の出神の託宣を聞き、活眼を開いて実地の行ひをよくお調べなされ。根本の要を掴んだ日の出神の生宮を差措いて、枝の神の憑つた肉体に何が分りますか。ここは一つ……誰の事でも無い、皆お前さん等の一身上に関する大問題、否国家の大問題です』 加米彦『只今高姫さまのお言葉に就いて異議のある方は起立を願ひます』 一同は残らず起立し『異議あり異議あり』と叫んだ。 加米彦『皆さまの御精神は分りました。私の申した事に御賛成のお方は何卒尚一度起立を願ひます』 高姫は隼の如き目を睜り、各人の行動を監視して居る。壇下の信者は高姫に顔を睨まれ、起立もせず坐りもせず、中腰で居るものも沢山あつた。 加米彦『皆さまに伺ひますが、教主が神界の御命令に拠つて、玉能姫さま、初稚姫さまに御用を仰せ付けられたのが悪いとすれば、まだまだ横暴極まる悪い事が此処に一つある様に思ひます』 聴衆の中より『有る有る、沢山にある』と呶鳴る者がある。 加米彦『その職に非ざる身を以て、神勅も伺はず、教主の承諾も得ず、部下の役員を任免黜陟すると言ふ事は、少しく横暴ではありますまいか。黒姫様、鷹依姫様、竜国別様、テーリスタン、カーリンスを聖地より追出したのは、果して何人の所為だと思ひますか』 此時高姫は肩を斜に聳やかし乍ら、 高姫『加米彦、そりや何を言ひなさる。系統の生宮、日の出神が命令をなさつて、黒姫以下を海外諸国へ玉探しにお遣り遊ばしたのだ。何程言依別や初稚姫が偉いと言つても、日の出神には叶ひますまい。学や智慧で定めた規則が何になるか。そんな屁理屈は神界には通りませぬぞや』 加米彦『これ高姫さま、お前さまは二つ目には日の出神だと仰有るが、そんな立派な神様なら何故宝玉を隠されて、それを知らずに居りましたか。それの分らぬ様な日の出神なら我々は信頼する丈けの価値がありませぬ』 一同は『ヒヤヒヤ』と叫ぶ。中には『加米彦さま、確り頼みます』と弥次る者もあつた。 高姫『誰が何と言つても日の出神に間違ひはない。そんな小さい事に齷齪して居る様な日の出神なれば、如何して此三千世界の御用が勤まりますか。物が分らぬにも程がある。仮令此高姫一人になつたとて此事仕遂げねば措きませぬぞ』 加米彦『高姫さま、一人になつてもと今言はれましたな。此通り沢山の方々が見えて居つても、只一人も貴女の説に賛成する者が無いのを見れば、既に已に一人になつて居るのではありませぬか』 場の四隅より『妙々』『賛成々々』『しつかり頼む』『孤城落日』等の弥次り声が聞えて来た。 高姫『盲目千人、目明一人の世の中とはよくも言つた者だ。神様の御心中をお察し申す。あゝあ、斯んな分らぬ身魂の曇つた人民計りを、根の国、底の国の苦しみから助けてやらうと思召す大神様や、日の出神様の広大無辺のお心がおいとしい』 と涙を拭ふ。 加米彦『高姫さま、貴女の誠心は我々も認めて居りますが、然し乍ら根本的に大誤解があるのを我々は遺憾に存じます。貴女の肉体は変性男子の系統だから曲津神が抱込んで、国治立大神のおでましを妨害し、再び悪魔の世界にしやうとして居るのですから、ちつとは省みなさつたが宜しからう、我々の様な肉体に憑つた処で悪魔の目的は達しない。断つても断れぬ系統の肉体を応用して日の出神だと誤魔化すのですから御用心なさらぬと、遂には貴女の身の破滅は言ふに及ばず、大神様の御経綸を妨害し天下に大害毒を流す様になりますから、此処は一つ冷静にお考へを願ひたい。寄ると触ると幹部を始め数多の信者は、此事計りに頭を悩めて居りますが、然し貴女が変性男子の系統でもあり、断つても断れぬお方ぢやと言ふので皆遠慮して居るのです。此加米彦なればこそ、職を賭して斯かる苦言を申し上げるのです。決して貴女を排斥しようとか、除け者にしようとの悪い心は少しもありませぬ。第一貴女のお身の上を案じ、大神様の御経綸を完全に成就して頂き、世界の人民もミロクの神政を謳歌し、一時も早く松の世をつくり上げ度いとの熱心から御忠告を申し上げるのです。何卒よくお考へを願ひます』 高姫『秋山彦の門番、加米彦、そりや何を言ふか。ヤツとの事で宣伝使の末席に加へられたと思つて、ようツベコベと其んな屁理屈が言へたものだ。系統を抱き込んで目的を立てると言ふ事は、それは言依別命の事だ。此高姫は正真正銘の変性男子よりも早い神様の御降臨、云はば変性男子よりも高姫の方が先輩と云つても異論はありますまい。打割つて言へば、変性男子よりも此日の出神の生宮が教祖とならねばならぬ者だ。変性男子の肉体は最早昇天されたのだから、後は高姫が教祖の御用をするのが神界の経綸上当然の帰結であります。然し乍ら一歩を譲つて変性女子の言依別を教主にしてやつて置いてあるのは、皆此高姫が黙つて居るからだ。然し最早斯うなつては勘忍袋の緒がきれて来た。日の出神が加米彦の宣伝使を今日限り免職させ、杢助の総務役を解き、言依別命を放逐し、玉治別、国依別の没分暁漢も今日限り免職させるから、今後ノソノソ帰つて来ても皆さまは相手になつてはなりませぬぞ』 加米彦『アハヽヽヽ、何程高姫さまが地団駄踏んで呶鳴らつしやつても、少しも我々に於ては痛痒を感じませぬ。お前に任命されたのではない。言依別神様に任ぜられたのだから、要らぬ御心配をして下さいますな』 高姫『お前等の知つた事ぢや無い。善一筋の誠正直を立て通す妾の仕込んだ魔我彦、竹彦両人こそ、本当に立派な宣伝使だ。是から誰が何と言つても魔我彦を総務にし、竹彦を副総務に神が致すから左様心得なされ。嫌なお方は退いて下され。此錦の宮は高姫が誰が何と言つても総監致すのだから』 此時佐田彦、波留彦の両人は壇上に駆上り、 佐田彦『吾々は言依別命様より或特別の使命を帯び、御神宝の御用を勤めた者であります。何と言つても高姫さまは其隠し場所が分らなくては駄目ですよ。大勢の者が如何しても貴女に畏服するのは、貴方が天眼力で玉の所在を言ひ当なくては日の出神も通りませぬ』 高姫は目を瞋らせ、 高姫『エヽ、又しても門掃の成上りがツベコベと何を言ふのだ。玉の所在が分らぬ様な事で、斯んな啖呵がきれますか。屹度時節が来たなれば現して見せて上げよう』 佐田彦『日の出神も時節には叶ひませぬかな』 波留彦『吾々の心の裡にチヤンと仕舞ひ込んであるのだが、常平生から人の心が見え透くと仰有る日の出神さまに、此胸の中を一寸透視して貰ひませうか』 と襟を両方に開け、胸板を出して稍反身になり、握り拳を固めてウンウンと殴つて見せた。 高姫『ツベコベと神に向つて理屈を言ふ間は駄目だ。誰が何と言つても魔我彦、竹彦位立派な者はありませぬワイ。妾の言ふことが気に喰はぬ人はトツトと尻からげて帰つて下さい。お筆先に此大本は大勢は要らぬ。誠の者が三人さへあれば立派に御用が勤めあがると、変性男子のお筆にチヤンと出て居る。今が立替立直しの時期ぢや、サアサア早う各自に覚悟を成さいませ。此処は大勢は要りませぬ。大勢あるとゴテついて、肝腎の御用の邪魔になる。日の出神の生宮が天晴れ神政成就さして見せるから、其時には又集まつて御座れ。神は我子、他人の子の隔ては致さぬから、其時になつたら、「高姫様始め魔我彦、竹彦の宣伝使、エライ取違ひを致して居りましたから、何卒御勘弁下さりませ」と逆トンボリになつてお詫に来なされ。気好う赦して上げるから、今は御神業の邪魔になるからトツトと帰つて下され。帰るのが嫌なら高姫の言ふ事を聞いて、改心をなさるが宜からう』 斯かる所へ杢助は魔我彦、竹彦両人を従へ、ノソリノソリと人を分けてやつて来た。群集は三人の姿を見て思はず雨霰と拍手した。杢助一行は一同に目礼し乍ら講座に上り、 杢助『アヽ是は是は高姫様、御演説御苦労で御座いました。嘸お疲れでせう。貴女の御信任厚き魔我彦、竹彦の立派な宣伝使が見えました。是から貴女に代つて演説なさるさうです。私も大変に両人さんのお説には感服致しました』 高姫は百万の援軍を得たる如き得意面を曝し、肩を聳やかし稍仰向き乍ら、 高姫『杢助殿、アヽそれは御苦労であつた。よう其処迄改心が出来て結構だ。是から何事も高姫の申す事を聞きなさるか、イヤ改心をなさるか』 杢助『改心の徹底迄いつたものは、最早改心する余地がありませぬ。貴女の様に改心から後戻りをして慢心が出来ると、又改心する機会がありまするが、吾々の如き者は、融通の利かぬ困つた者です。貴女の様に慢心しては改心し、改心しては慢心し、慢心改心、改心慢心と自由自在の芸当は、到底吾々の様な朴訥な人間では不可能事です、アツハヽヽヽ』 と豪傑笑ひをする。群集は手を拍つて笑ふ。 高姫『アヽ魔我彦、竹彦、好い処へ帰つて御座つた。皆さまに合点の往く様に此処で改心の話を聞かして下さい。さうすれば此高姫の日頃教育した力も現はるるなり、お前さまの善一筋の一分一厘歪はぬ日本魂の生粋が証明されるのだから、サア早うチヤツと皆さまに大々的訓戒を与へて下さい。これこれ加米彦、佐田彦、波留彦、余り沢山に講座に居ると窮屈でいかぬ。暫らく下へおりて、魔我彦や、竹彦の大宣伝使の御説教を聞くのだよ。さうすれば、チツトはお前さまの我も折れて宜からう』 と得意満面に溢れ肩を揺りイソイソといきつて居る。魔我彦は大勢に向ひ、 魔我彦『皆さま、私は高姫様の神様に御熱心なる御態度に心の底から感銘致しまして、如何かして高姫様の思惑を立てさし度いと思ひ、御心中を忖度致しまして紀伊の国に罷り出で、実の処は若彦を巧く誑かし聖地へ連れ帰り、杢助さま、言依別の教主を或難題を塗りつけ放逐しやうと企みつつ、大台ケ原の峰続き青山峠までスタスタやつて往つた所、玉治別、国依別の両宣伝使が谷の風景を眺めて、休息して居られました。そこで高姫様の一番お邪魔になるのは言依別命、それについで命の信任厚き玉治別、国依別の両人を、何とかして葬り去らうと思ひ進んで行つた所、折よくも日の暮前両人に出会し、二人の隙を覗ひ千仭の谷間へ突落し、高姫様の邪魔ものを除かむものと考へて居りました。万々一都合よく行けば、あとに残つた言依別命位は最早物の数でもないと、忽ち悪心を起し、思ひきつて谷底へ突き込みました。両人は五体が滅茶々々になつて斃死つただらうと思つて居ましたが、あに計らむや妹図らむや、若彦の館に於て杢助様始め玉、国両宣伝使に出会した時のその苦しさ怖さ、屹度復讎を討たれるに相違ないと思つて心配を致し、生きた心地も無くガタガタ慄へ乍ら、矢庭に庭先の松の樹に駆上り、神憑りの言を信じ雲に乗つて逃げ出さうと思ひ、過つて二人共樹上より大地に向つて真逆様に墜落し、人事不省に陥つて居る所を、玉、国の両宣伝使の手厚き御保護を受け、さうして鵜の毛の露ほども怨み給はず、却て神様から結構な教訓を受けたと喜んで下さつた時の吾々の心、到底高姫さまの教へられる事とは天地雲泥の違ひで御座いました。そこで私は何故此様な善のお方を悪く思つたか知らぬと、懺悔の念に堪へず考へ込んで居りましたが、矢張言依別の教主の教理を聞いて御座るお蔭で、斯んな立派な人格になられたのであらうと深く感じました。又私があの様な悪心を起したのも、矢張高姫さまの感化力がさせた事だとホトホト恐ろしくなりました。如何しても人間は師匠を選ばねばなりませぬ。水は方円の器に随ふとか申しまして、教はる師匠、交はる友によつて善にもなり、悪にもなるものと堅く信じます。私は皆さまに今日迄の取違を此処にお詫致します』 高姫『コレコレ魔我彦、誰がそんな乱暴な事をせいと言ひましたか、それは大方言依別の霊が憑つたのだらう』 竹彦『イヽエ、言依別さまの身魂は余り尊く清らかで、我々の様な小さい曇つた鏡にはおうつりに成りませぬ。全く高姫さまや、黒姫さまの生霊が憑りましてな』 聴衆は手を拍つてドヨメキ渡る。杢助は又もや口を開き、 杢助『皆さま、私は言依別の教主より内命を奉じ、十津川の谷間へ急行せよとの仰せにより行つて見れば、谷川に似合はぬ大滝の下に立派な青い淵がありました。そこで水行して居ると上から二人の男が突然降り来り、ザンブとばかり淵へ落ち込んだ。日の暮紛れに何人か分らねども見逃す訳にも行かぬ、直に淵へとび込んで救ひ上げ色々と介抱した所、二人の男は漸く息を吹き返しました。よくよく見れば、玉治別、国依別の宣伝使で御座いました。それより両人に向ひ如何して斯んな所へ落ち込んだのですかと尋ねて見ましたが、御両人は他人に瑕瑾をつけまいと言ふ誠心から、現在此魔我彦、竹彦につき落された事を一言も発せず隠して居られました。さうして二人に対して毛頭怨みを抱いて居られないのには私も感服致しました。是と言ふのも全く瑞の御霊の大精神を体得して居られるからだと、流石の杢助も感涙に咽び、それより三人は道を急いで若彦の館に行つて見れば、魔我彦、竹彦の両人が何事か善からぬ虚言を構へ若彦を唆かし大陰謀を企まむとして居る所でありました。然し乍ら流石の悪人も誠の心に感じ斯くの如く改心を致して、自分の罪状を逐一皆さまの前に曝け出し真心を示して居られます。之でも言依別様の教が悪と言はれませうか。高姫さまの教は果して完全なもので御座いませうか』 と釘をさされて高姫はグツとつまり、壇上を蹴散らす如き勢で肩を斜に首を左右に振り乍ら、己が館へ足早に帰り行く。 斯かる所へ言依別の教主は莞爾として現はれ、一場の演説を試みた。玉治別、国依別、若彦の三人は此場に悠然として現はれ来り、一同に会釈し、神殿に向ひ天津祝詞を奏上し終つて一同解散したり。今後の高姫は如何なる行動を執るならむか。 (大正一一・六・一〇旧五・一五北村隆光録) |
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107 (1825) |
霊界物語 | 23_戌_木山の里/竜宮島へ出発 | 07 知らぬが仏 | 第七章知らぬが仏〔七一九〕 秋彦、駒彦の宣伝使は、常楠、お久の老夫婦と共に、木山の里を立出で漸う栗栖川の畔、栗栖の森に着いた。老人の事とて疲労を感じ、此処に駒彦の父常楠は、俄に胸腹部の激痛を感じ、発熱甚しく、身動きもならぬやうになつて了つた。お久を始め秋彦、駒彦の両人は、如何にもして常楠の病気を恢復せしめむと、栗栖の宮の半破れたる社務所に立寄り、いろいろと介抱に手を尽したが、病は追々重るばかりで、命旦夕に迫つて来た。 二人の宣伝使は栗栖川の上流に妙薬ありと聞き、手配して山深く薬草を求むべく進み入つた。後にお久は夫の看病に余念なく、心力を尽して老の身の労苦も打忘れ、看護に努めた。人里離れし淋しき此栗栖の宮の森は人声もなく、時々烏の声、百舌鳥の囁きが聞ゆるばかり、凩は時を仕切つて吹いて来る。さすが暖国の冬も、今日に限つて殊更厳寒を感じ、身に寒疣を現はすばかりであつた。 夜は深々と更け渡り、月は皓々と中天に輝き、憐れな老夫婦の境遇を憐れ気に見下ろし給ひつつあるものの如く、時々月の面を掠めて淡い雲が来往してゐる。其度毎にパツと明くなつたり、又パツと薄暗くなり、空には薄茶色の雲、白雲に混つて脚速く右往左往に彷徨して居る。 此時覆面した二人の大男、何事かヒソビソと囁き乍ら、此森に向つて進み来り、社務所の中に老夫婦のあるをも知らず、縁側に腰打かけ、ヒソビソ話に耽つて居たが、遂には興に乗つて声高に囀り始めた。 甲『オイ虻公、此頃は泥棒商売も薩張り冬枯れで、懐も寒いことだないか。なんぞ好い鳥がやつて来さうなものだな。木山の里で爺と婆アの家に泊り込み、奪つて来た金子は大方使ひ果し、最早二進も三進も行かなくなつて了つたぢやないか。此処で一つ大きな仕事をせぬことには、持ちもせぬ乾児を養ふことも出来ず、乾児の嬶や子供までが薩張乾上つて了ふ。何とか好い思案は出ないだらうかなア』 虻公『オイ蜂公、貴様は金子が手に入ると、大風に灰撒くやうに、直にバラバラと撒き散らしやがるものだから困つて了ふワ。貴様は乾児も少し、一人生活ぢやないか。俺のやうに有りもせぬ乾児の十人も持ち、近所の杢平が七八人の家族を抱へてゐては到底小さい働きではやりきれない。木山の里で奪つた金子も百両ばかりあつたが、貴様は山分けにして五十両持つて帰つたのだから、余程使ひでがなければならぬ。俺達とは責任が大変違ふのだから……』 蜂公『何と云つても五十両は五十両だ。家内が少いと云つて五十両が百両に使へる道理も無し、又家内や乾児が多いと云つても、五十両は依然五十両だ。滅多に二十両になる気遣ひは無い。そんな吝なことを云ふない』 虻公『其癖貴様は可愛相に彼の娘を○○して、両親の前でばらしたぢやないか。ヨウま彼んな鬼のやうな事が出来たものだ』 蜂公『ヘン俺が鬼なら貴様も鬼だ』 虻公『鬼にも善悪があつて、貴様のは特別製の角鬼だ、所謂雄だ。俺のは雌だから角の無い鬼だからなア』 蜂公『定つたことだ。鬼なら鬼で、何処迄も徹底的に鬼たるの本分を尽さねばなるまい、貴様のやうに少し金子が出来ると、仏の道とか、金の道とかに逆転しやうとする様なことで、何うして大きな仕事が出来るものか』 と話してゐる。社務所の中より苦悶の声、両人の耳を刺した。 虻公『ヤア何だか妙な声がするぢやないか』 蜂公『ほんに怪体な声が聞えて来た。全で狼の唸り声のやうだ。一体何物だらう。一つ調べて見たら何うだ』 虻公『おけおけ、君子は危きに近付かずだ。幽霊かも知れないぞ』 蜂公『君子が聞いて呆れるワ。貴様のやうな悪党が、何処の盲が見たつて君子と思ふ奴があるか。お軽の幽霊が貴様達が此処へ来ると思つて、待つてゐやがるのかも知れぬぞ。何だか俺は首筋元がゾクゾクして来た。外は寒い風が吹くなり、中には嫌らし声が聞えるなり、遣り切れなくなつたぢやないか』 虻公『そんなチヨロ臭いことを云つて居ると、貴様と俺の名ぢやないが虻蜂取らずになつて了ふぞ。ひよつとしたら旅人が沢山金子を持つて寝てゐやがるかも知れぬぞ、山吹色の奴がウンウンと唸つてゐるのだらう。一つ勇気を出して踏ん込み、ウンの正体を見届けやうぢやないか。ひよつとしたら吾々の運の開け口かも知れぬぞ』 蜂公『うつかり遣り損ふとウンが下つて尻から出るウンにならぬやうにせよ。貴様は何時も狼狽者だから尻の局はついた事はない。年が年中手を出しては糞垂れる奴ぢやから、アハヽヽヽ』 と笑ふ。お久は此笑ひ声を聞いて、待ちに待つたる二人の宣伝使の帰つたのだと早合点し、中より戸を開いて、 お久『アヽ待ち兼ねました、お二人の方、早く這入つて下さい。嘸寒かつたでせう』 二人一度に、 虻公、蜂公『ヤア誰かと思へば貴方は此家の御主人か。兎も角それでは一服さして貰ひませう』 と内に入る。微な明りに映つた虻、蜂二人の顔。お久は之を眺めて、 お久『アツ、お前等は此間我が家に泊り込み、娘の生命を奪り、有金をすつかり浚へて逃げ居つた泥棒ぢやないか。サア、斯うなる以上は我が子の仇敵、モウ承知を致さぬ。覚悟せい』 と懐剣を逆手に持つて形相凄じく、上段に構へこんだ。虻、蜂の二人は大口を開けて、『アハヽヽヽ』と高笑ひする。 お久『盗人猛々しいとは其方のこと。此の婆が死物狂ひの働き、覚悟を致せ、最早死んでも惜しうない年寄の生命だ』 と斬つてかかる。二人は長刀をスラリと引抜き、 虻公、蜂公『サア、来い』 と腰を据ゑ、寄らば斬らむと控へて居る。お久も二人の荒武者の身構へにつけ入る隙もなく、瞬きもせず隙あらば斬りかからんと狙つて居る。二人はジリジリと抜刀を両手に、腹の辺りに柄を握り乍ら詰め寄つて来る。 常楠は発熱甚しく夢中になつて『ウンウン』と唸つて居る。斯かる処へ秋彦、駒彦の両人は、歩を速めて帰り来り、駒彦先づ中へ這入つて見れば此の状態。 駒彦『ヤア某は三五教の宣伝使駒彦と申すものだ。汝は泥棒と見受るが、老人ばかりの家にやつて来て、何を奪らうと云つたつて奪るものは有るまい。要らざることを致すより、早く此場を立去つたがよからうぞ。グヅグヅ致して居ると、汝の利益にならぬぞ』 お久は始めて此声に気がつき、短刀を振かざし乍ら、 お久『伜の駒彦か、ようマア危ない処へ帰つて下さつた。……秋彦さま、何うぞ加勢して下さい。此奴が私の娘を殺し、金子を盗つて逃げた悪人で御座いますよ』 と聞いて二人は忽ち両手を組み、満身の霊力を籠めてウンと一声、霊縛をかけた。二人は身構へした儘、身体強直し木像の如くになつて了ひ、眼ばかりギヨロつかせて居る。 駒彦『アハヽヽヽ、マア一寸斯うして置いて、悠くりお父さまに薬を上げ御恢復の上、此の面白い木像を慰みに御目にかけることにせう。秋彦さま、霊縛の弛まないやうに気をつけて下さい。私はこれより父の看護を致しますから。………お母さま、危険いところで御座いましたな』 お久は稍安堵して短刀を鞘に納め、ドツカと坐し、 お久『アーお前の帰るのがモウ一息遅かつたら、爺も婆も又もや此奴のために生命を奪らるるところだつた』 と嬉しさ余つて声さへ曇つてゐる。起死回生の妙薬忽ち効験顕はれ、常楠は俄に元気恢復し、起き上つて二人の泥棒の姿を見、 常楠『アヽ御かげで病気が余程よくなつたと思へば、又しても此間出て来た大悪党奴、刀を抜いて執念深くも吾々夫婦を付け狙うて居るのか。偖も偖も度し難き代物だ。こんな奴は必定根の国、底の国の成敗を受けねばならぬ奴だ。想へば想へば可愛相になつて来た、娘の仇とは言ひ乍ら何うしたものか、此奴の精神が気の毒になつて、日頃の恨みも、腹立ちも何処かへ往つて了つた。オイ泥棒、お前も好い加減に改心をしたら何うだ。未来のほどが恐ろしいぞよ』 泥棒は目をキヨロキヨロ回転させるばかり、唇を微に動かしたきり一言も発し得ず、固まつた儘苦悶して居る。 駒彦『お父さま、是等両人は妹を殺した奴で御座いますか。本当に仕方のない悪人ですな。併し乍ら吾々宣伝使の神力を以てしては、此様なものの五人や十人は、小指の先にも当りませぬが、貴方の仰せの通り罪を憎んで人を憎まず、誠の道に帰順すれば救けてやりませうかなア…オイ泥棒、貴様等はまだ此上悪事をやる考へか、但は今日限り薩張改心を致すか何うだ。口利く丈は霊縛を解いてやるから、直に返答致せ』 虻公は漸く重たさうに口を開いて、 虻公『ハイ、カ…イ…シ…ン…イ…タ…シ…マ…ス』 と千切れ千切れに機械的にヤツと答へた。 駒彦『ウン、よし、それに間違ひはないなア。モウ一人の奴は何うだ。貴様も改心するか』 蜂公は機械のやうに幾度となく、頭を縦に曲線的に振つてゐる。 駒彦『ウン、よし、改心するに違ひはないな。そんなら秋彦さま、霊縛を解いてやつて下さい、万一暴れ出したら其時又霊縛をかけるまでの事だから……』 秋彦『承知しました』 と秋彦は両手を組合せ、天の数歌を一回唱へ、『許す』と一言、言霊を発射するや両人の身体は自由自在の旧に復した。二人は夕立の如き涙をボロボロと落しながら、両手を合せ床に頭を摺つけ、懺悔の念に堪へざるものの如く啜り泣きさへして居る。 常楠は両人の姿をツクヅクと眺め、 常楠『コレ二人の泥棒、お前も生れ付いてからの悪人ではあるまい。人間と云ふものは育ちが大切だ。大抵泥棒になつたりする奴は、若い時に親に離れるか、或は継母育ちか、継父の家庭に育つたものが多い様だが、お前の親は何うなつたのだ。子の可愛くない親は世界にない筈だが、何うぞして家の伜も一人前に育て上げ、世間から偉い奴だと賞めて貰ひたいのは親心、今に両親が生て厶るならば、御心配をして厶るであらう。今より綺麗薩張と心を入れ換へ善の道に立帰りなされや。私もお前さん等に大事の娘を殺されたが、お前にも両親があるだらう。娘の仇だと云つて、仇を討てば私は気分がサラリとしやうが、お前の両親が聞いたら嘸歎かつしやることだらう。之を思へばお前さまに娘の仇として、一太刀報いることも出来ぬやうになつて来た。何卒今日限り生命が失くなつたと思つて誠の心になつて下され。これが老先短き年寄の頼みだ。お前の親の代りに意見をするのだから、何卒忘れぬやうにしてお呉れ』 虻公『ハイ有難う御座います。翻然として今迄の夢が醒めました。私には親があつたさうで御座いますが、未だに分りませぬ。印南の里の森に菰に包まれ、生れた直き直き捨てられて居つたのを、情深い村人が救ひ上げて、子の無いのを幸ひに私を子として育てて下さつたのですが、私が六才の時に大恩ある育ての両親は、俄の病で国替をなされまして、それから私は取りつく島もなく、乞食の群に入り漸く成人して女房を持ちましたが、子供の時より悪い事をやつて来た癖は今に直らず、好い事は一つも致したことはありませぬ。貴方の只今の御教訓は生みの親の慈悲の御言葉のやうに感じまして、心の底より有難涙が溢れます。モウ今日限り悪いことは致しませぬ』 常楠『アヽさうかさうか、よう言うて下さつた。それで私も安心した。さうしてお前は捨児されたと云はつしやつたが、何か其時の印は無かつたか』 虻公『ハイ私は虻公と申して居りますが、私の肌に添へてあつた守り刀に、「常」と云ふ字が書いてあつたさうで御座います。今は擦れて字も見えなくなりましたが、之を証拠に生みの親を探ねんと、斯んな悪人に似合はず、始終肌身に離さず持つて居ります。何うぞして一度此世でお父さまやお母さまに会ひたいもので御座います。何しろ生れ落ちると捨児になるやうな不運なもので御座いますから、到底此世では会ふことは出来ますまい』 と身の果敢なさを思ひ浮かべて、泥棒に似合はずワツと許り其場に泣き倒れた。 常楠は首を傾けて吐息を洩らして居る。暫らくあつて、 常楠『其の守り刀を一寸見せて下さらぬか』 虻公『サア、何うぞ御覧下さいませ』 と懐より取出し押戴いて手渡しする。常楠は手に取上げ、ためつ、すかめつ鞘を払つてツクヅク眺め、 常楠『擬ふ方なき我家の紋所、○に十が記してある。此刀は私の大切な、若い時からの守刀であつた。斯うなれば女房の前で白状するが、実の所は女房の目を忍び、下女のお竜に子を妊娠せ、已むを得ず自分の知り合にお竜を預つて貰ひ、生み落したのが男の子、女房の悋気を恐れて我が家へ連れ帰る訳にも行かず、何処の誰人かの情で育つであらうと、後の印に此の守り刀を付け、「常」と云ふ印をして置きました。アヽそれならお前は私の子であつたか。悪いことは出来ぬものだ。お前が此様な悪人になつたのも、みんな私が天則に背いたからだ。コレ伜、赦して呉れ。何事もみんな私が悪いのだから……』 此物語に一同ハツと呆れて、常楠と虻公の顔を見較べるのみであつた。虻公は常楠に縋りつき、 虻公『アヽ貴方は父上様で御座いましたか。存ぜぬこととて御無礼を致し、可愛い妹まで彼んな目に会はして、誠に申訳が御座いませぬ。何うぞ重々の罪は御赦し下さいませ』 駒彦『そんなら私の兄弟であつたか。これと云ふのも全く神様の御引合せだ。有り難し、辱なし』 と両手を合せ、感謝の涙に沈む。 お久は又もや腕を組み思案に暮れてゐる。此態を見て常楠は、 常楠『コレ女房、怺へて呉れ。お前は今の話を聞いて大変気嫌を悪うしたやうだが、これも私の罪だ。あつて過ぎたことは何と云つても仕方が無い。これ此通りだ、赦してお呉れ』 と両手を合せ、お久の前に頭を下げ謝らんとするを、お久は押止め、 お久『コレコレ親父さま、勿体ない、何を言はつしやるのだ。妾こそ貴方にお詫をせねばならぬことが御座います。妾が白状すれば嘸貴方は愛想を御尽かしなさるでせうが、妾も罪亡ぼしに此処で懺悔を致します。人さまの前又夫や吾が子の前で、年が寄つて昔の恥は言ひたくはなけれど、天道は正直、何時まで隠して居つても罪は亡びませぬから、一応聞いて下さい』 と涙ぐみつつ夫の顔を打看守る。 常楠『なアに夫婦の仲に遠慮は要るものか。何でも構はぬ、皆云つて呉れ。其方が互に心が解け合つて、何程愉快だか分つたものぢやない』 お久『妾は今迄隠して居りましたが、貴方の家へ嫁ぐ前に若気のいたづらから、親の許さぬ男を持ち一人の子を生み落し、爺さまのやうに熊野の森へ捨児を致しました。それもクリクリとした立派な可愛い男の子であつた。お爺さまの捨児に会はれたのを見るにつけ、私の捨てた彼の児は如何なつたであらうと思へば、立つても居ても居られなくなりました。……アヽ捨てた児よ、無残な母と恨めて下さるな。事情があつてお前を捨てたのだから……』 と又もや泣き倒れる。蜂公は怪訝な顔をして、 蜂公『ヤア今承はれば、お婆アさまは熊野の森に捨児をなさつたと云ふことだ。それは何年前で御座いますか』 婆は涙を拭ひ乍ら、 お久『ハイもう彼是四十年にもなるだらう。今居れば恰度お前さま位に立派な男になつて居る筈ぢや。アヽ妾も其子が此世に生きて居るのなら、此世の名残りに一度見て死にたいものだ。そればかりが冥途の迷ひだ。若い時は気が強くて何とも思はなかつたが、年が寄ると捨児の事を心に思はぬ間はありませぬ。さうしてお前さま、其の捨児の事に就て御聞き及びの事はありませぬか』 蜂公『ハイ別に何とも聞いては居りませぬが、私は熊野の森に捨てられて居つたのを、或山賊の親分が見つけて、私を大台ケ原の山砦に伴れ帰り、立派に成人させて呉れました。私が十八才になつた時、三五教の宣伝使がやつて来て、岩窟退治を致した時に生命からがら其処を脱け出し、それから諸方に彷徨ひ、女房を持ち相変らず泥棒をやつて居りました。最前から貴方の御話を聞くにつけ、何だか貴方が母上のやうに思はれてなりませぬ』 お久は、 お久『其時に何か印は無かつたかな』 蜂公『ハイ、私は水児の時に捨てられたので何も存じませぬが、他の話を聞けば守り刀が付いて居つたさうです。併し其守り刀も大台ケ原の岩窟の騒動の時に取り落しました。それには蜂の印が入つて居つたさうで、私を蜂々と呼ぶやうになつたと聞いて居ります』 お久は飛びつく許りに驚いて、 お久『アヽそれ聞けばてつきり我が子に間違ひありませぬ。何とした嬉しい事が一度に出て来たものだらう。コレコレ親父どの、此子は貴方に嫁ぐ迄の子でありますから、何うぞ赦して下さい。今迄包んで居つた罪も何うぞ今日限り赦すと仰有つて下さい。御願ひで御座ります』 と夫に向つて手を合し頼み入る。 常楠『そんなことは相身互だ。罪人同志の寄合ひだから、モウこれ限り今迄の事は川へ流し、改めて二人の子が分つた喜びの御礼を此処で神様に奏上し、明日は早く此処を立去つて熊野へ御礼に参りませう』 一同は涙混りに秋彦の導師の許に、感謝祈願を覚束無げに奏上し了つた。東の空は茜さし、金色の燦然たる太陽は、晃々と海の彼方より昇らせ給ふ。 (大正一一・六・一一旧五・一六外山豊二録) |
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108 (1837) |
霊界物語 | 23_戌_木山の里/竜宮島へ出発 | 霊の礎(八) | 霊の礎(八) 一、現界の人間が人生第一の関門なる死といふ手続を了つて、神霊界に突入するに際しては決して一様で無い。極善の人間にして死後直に天国に上り行く時は、嚠喨たる音楽や、名状することの出来ぬやうな芳香に包まれ、容色端麗なる天人の群や、生前に於て曾て死去したる朋友、知己、親、兄弟等の天人と成りたる人々に迎へられ、際限なき美はしき空中を飛翔して、荘厳なる天国へ直様上り行くもあり、又四面青山に包まれたる若草の広大なる原野を、極めて平静に進み行くものもあり、又死後忽ち五色の光彩を放射せる瑞雲に身辺を包まれて上天するのもある。その時の気分といふものは何んとも言語に尽せないやうな、平和と閑寂と歓喜とに充ち、幸福の極点に達したるの感覚を摂受するものである。余りの嬉しさに、現界に遺しておいた親、兄弟、姉妹や朋友知己、その他物質的の欲望を全然忘却するに至るものである。万一上天の途中に於て地上の世界のことを思ひ出し、種々の執着心が萌芽した時は、その霊身忽ち混濁し、体量俄に重くなり、再び地上に墜落せむとするに到る。迎へに来りし天人は、新来の上天者が地上に心を遺し、失墜せざる様にと焦慮して、種々の音楽を奏したり、芳香を薫じたり、美はしきものを眼に見せたりなぞして、可及的現界追慕の念慮を失はしめむと努力するものである。山河草木、水流、光線等も亦地上の世界に比ぶれば、実に幾倍の清さ美はしさである。然し斯ういふ死者の霊身は、凡て地上に於ける人間としての最善を竭し、克く神を信じ、神を愛し、天下公共のために善事を励みたる人々の境遇である。 一、凡て人間の心霊は肉体の亡びたる後と雖も、人間の本体なる自己の感覚や、意念は引続き生存するものである。故に天上に復活したる人の霊身は、恰も肉体を去つた当時と同じ精神状態で、霊界の生活を営むものである。一旦天国へ上り、天人の群に這入つて天国の住民となつたものは、容易に現界へ帰つて来て肉体を具へた友人や、親戚や、知己達と交通することは難かしい。併し乍ら一種の霊力を具へて、精霊の発達したる霊媒者があれば、其の霊媒の仲介を経て交通することが出来るものである。その霊媒者は概して女子が適してゐる。女子は男子に比して感覚が強く、神経鋭敏で知覚や感情が微細だからである。又霊媒力の発達した人の居る審神場では、霊身は時に現界人の眼に入るやうな形体を現はし、その姿が何人にも見えるのである。その霊身に対して現界人が接触すれば、感覚があり、動いたり、談話を交ふることが出来るのである。されど天国に入つて天人と生れ代りたる霊身は、自分の方から望んで現代人と交通を保たんと希望するものは無い。現界人の切なる願ひによつて、霊媒の仲介を以て交通をなすまでである。 さりながら中有界に在る霊身は、時に由つて現界に生存せる親戚や、朋友等と交通を保たんと欲し、相当の霊媒の現はるることを希望するものである。それは自己の苦痛を訴へたり、或ひは霊祭を請求せむが為である。又執着心の深い霊身になると、現界に住める父母や兄弟、姉妹や遺産などに対して、自分の思惑を述べやうとするものである。かかる霊身は現世に執着心を遺してゐるから、何時までも天国へは上り得ずして、大変な苦悩を感受するものである。 一、霊界の消息、死後の生涯を述ぶるを以て、荒唐無稽として死後の生涯を否定する人々は、最早懐疑者では無く、寧ろ無知識の甚だしきものである。斯の如き人々に対して霊界の真相を伝へ、神智を開発せしむるといふ事は到底絶望である。 一、人間の肉体の死なるものは、決して滅亡でも、死去でもない。只人間が永遠に亘る進歩の一階段に過ぎないのである。只人間の所在と立脚地とを変更した迄である。意念も、愛情も、記憶も、皆個性の各部分であつて不変不動の儘に残るものである。死後に於ける生活状態は、現界に在りし時より引続いて秩序的に、各人がそれ相応の地位の天国の団体の生活を営むものである。 一、又卑賤無智にして世道人情を弁へなかつた悪人は、光明と愛と自由の無い地獄に落ちて苦しむものである。生前既に不和欠陥、闇黒苦痛の地獄に陥つた人間は、現界に在る間に悔い改め、神を信じ、神を愛し、利己心を去り、神に対しての無智と頑迷を除き去らなければ、決して死後安全の生活は出来ない。現世より既に已に暗黒なる地獄の団体に加入して居るものは、現界に於ても常に不安無明の生活を続けて苦しんでゐるものである。一時も早く神の光明に頑迷なる心の眼を開き、天国の団体へ籍替を為すことに努めなければならぬのである。(霊の礎八終) [#以下は余白歌] 柳は煙る モウ何と云つても春である。 ポカポカと暖かい春光に柳が芽ぐんで 寒い綾部にも春が来た事を物語つて居る。 軟かいグリーン色の柳の下に児等が三四 他愛なく遊び戯れて居るのも何んとなく 春の長閑けさである。 |
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109 (1838) |
霊界物語 | 23_戌_木山の里/竜宮島へ出発 | 余白歌 | 余白歌 世の中に誠の神の道踏まぬものほど始末におへぬ奴なし〈第1章(四版)〉 いかめしきよそほひばかり魂は獣に近き今の世の中〈第2章〉 ぬえ鳥の啼きて淋しき暗の夜も神は身に添ひ守り玉へり〈第2章〉 平和なる人の家庭は現世のまま天国の姿なりけり〈第8章(三版)〉 大本の教の源尋ぬればただ愛善の光なりけり〈第8章(三版)〉 常立に浦安国と治め行く神のこころは愛の善なり〈第8章(三版)〉 霊主体従の教を四方に播磨潟磯吹く風に世を清めなむ〈第14章〉 葦原に生ひ繁りたる仇草を薙払ふべき時は来にけり〈第14章〉 この度の神の気吹の無かりせば四方の雲霧誰か払はむ〈第14章〉 百八十の国のことごと愛善の光りに照らす三五の道〈第15章(三版)〉 星光もなき常暗の山道も安く進まむ神の守りに〈第15章(三版)〉 六道の辻に迷へる罪人を神国に救ふ愛善の教〈第16章(三版)〉 高姫と蜈蚣の姫の腹黒き婆々の雄たけびおもしろをかしき〈第18章(四版)〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました] |
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110 (1845) |
霊界物語 | 24_亥_豪州物語1(高姫と蜈蚣姫) | 05 蘇鉄の森 | 第五章蘇鉄の森〔七三五〕 生命の綱と頼みてし三つの神宝の所在をば 執念深く何処までも探さにや置かぬと高姫が 夜叉の如くに狂ひ立ち積る思ひの明石潟 浪の淡路の島影に船打ち当てて沈没し 九死一生の大難を玉能の姫に助けられ 感謝するかと思ひきや心の奥に潜むなる 自尊の悪魔に遮られ生命の親をさまざまに 罵り嘲り東助が操る船に身を任せ 玉の所在は家島ぞと心を焦ちて到着し イロイロ雑多と身を尽し心砕きし其揚句 絶望の淵に身を沈め如何はせむととつおいつ 思案に暮るる折柄に浜辺に繋げる新調の 小舟に身をば任せつつ貫州従へ玉の緒の 生命の瀬戸の海面を力限りに漕ぎ出し 小豆ケ島へ漂着し又もや玉の所在をば 探らんものと国城の山を目蒐けて駆登り 岩窟の中にてバラモンの神の司の蜈蚣姫 館に思はず迷ひ込み早速の頓智高姫は 蜈蚣の姫が心汲み表面ばかり親善の 姿装ひ漸うに敵の毒手を逃れつつ 蜈蚣の姫を利用して玉の所在を探らむと 再び船に身を任せ一行数人波の上 馬関海峡打過ぎり西へ南へ進み行く 蜈蚣の姫は第一に玉の所在を索めつつ 恋しき娘の所在をば探らむ為の二つ玉 愛と欲とに搦まれてスマートボール其外の 供を従へ高姫が船に棹さし進み行く 心そぐはぬ敵味方さしもに広き海原の 波は凪げども村肝の心の海に立つ波は 穏かならぬ風情なり。 焦つく様な暑い日光を浴びた一行は、汗を滝の如くに搾り出し、渇を感じ水を需めむと、やうやうにして海中に泛べる大島の磯端に船を横たへ、彼方此方と淡水を求めつつ草木を別けて互に『オーイオイ』と声を掛け、連絡を保ち乍ら、島内深く進み入つた。渇き切つたる喉よりは最早皺嗄れ声も出なくなりにけり。 高姫は漸くにして蘇鉄の森に着きぬ。一丈許りの蘇鉄の幹は大蛇の突立つて雨傘を拡げた如く、所狭き迄立並ぶ。蘇鉄のマラを眺めて矢庭に貫州に命じ、むしり取らしめてしがみ始めたるに、何とも知れぬ甘露の如き甘き汁、噛むに従つて滲み出で、漸く蘇生の思ひをなせり。………蜈蚣姫一行も漸くにして此場に現はれ、高姫がむしり取つたるマラに目を注ぎ渇を医する為に、餓鬼の如く喰ひ付かんとする一刹那、マラの実は忽ち延長し一丈許りの大蜈蚣となつてノロノロと這ひ出し、其儘蘇鉄の幹にのぼり、次から次へと条虫の如く延長して蘇鉄の幹を残らず巻き、一指をも添へざらしめむとせり。蜈蚣は長さと太さを時々刻々に増し、一時程の間に此大島全体を巻き尽したりける。 高姫、蜈蚣姫其他の一行は、樹木と共に蜈蚣に包まれ、息も絶え絶えに天津祝詞を奏上し、バラモン教の経文を唱へ、只管身の安全を祈る事のみに余念なかりけり。 マラの変化より成出でたる蜈蚣は、大島を十重二十重に巻き、四面暗澹として暗く、得も言はれぬ不快の空気に、呼吸器の働きも停止せむ許りとなりき。九死一生の破目に陥りたる高姫は、最早是までなりと総ての執着心に離れ、運命を惟神に任せ、観念の眼を閉ぢ死を待ちつつありける。 忽ち頭上より熱湯を浴びせかけた如き焦頭爛額の苦みを感ずると共に、紫磨黄金の肌を露はしたる巨大の神人、忽然として此場に現はれ来り、 神人『汝日の出神の生宮と称する高姫、今茲に悔い改めずば汝は永遠に今の苦みを味はひ、根底の国の消えぬ火に焼るべし』 と云つた儘姿は消へたり。一方蜈蚣姫は、頭上より氷の刃を以て突き刺されし如き大苦痛を感じ、七転八倒身を踠く折しも、墨の如き黒き巨顔を現はし、眼球は紅の如く輝きたる異様の怪物、首から上許りを暗黒の中にも殊更黒き輪廓を現はし乍ら、長き舌を出して蜈蚣姫の頭部面部を舐めた其恐ろしさ、流石気丈の蜈蚣姫も其厭らしさに身の毛もよだち、何の応答も泣く許り、怪物の舌の先よりは無数の小さき蜈蚣、雨の如くに現はれ来り、蜈蚣姫の身体を空地もなく包み、所構はず無数の鋭き舌剣を以て咬みつける其苦しさ『キヤツ』と叫んで其場に倒れ、右に左に転げ廻る。此時高姫は漸く正気に復し四辺を見れば、酷熱の太陽は晃々と輝き亘り、数多の樹木青々として、吹き来る海風に無心の舞踏をなし居たり。高姫は、 高姫『アヽ夢であつたかイナア。それにしても此怪しき蘇鉄、斯かる怪異の続出する島に長居は恐れ、一時も早く此島を離れ、宝の所在を探らむ。貫州来れツ』 と四辺を見れば、貫州はドツカと坐し、瞑目した儘腕を組み、石像の如くに固まり居る。高姫は一生懸命に祝詞を奏上し、頬を抓り、鼻を摘み、イロイロ介抱をすること半時ばかりを費したり。されど貫州は血の気の通はざる石像の様に、何処を撫でても少しの温か味も無くなり居る。高姫は何となく寂しさに襲はれ、泣き声まぜりになつて、 高姫『コレ貫州、今お前に斯んな所で死なれて、どうなるものか、……チツト確かりしてお呉れ』 と泣き口説く。貫州は漸くにして左の目をパツチリ開けた。されど黒球はどこへか隠れ、白眼計り剥き出し、木の根の様な筋に赤き血を漲らし、赤き珊瑚樹の枝の様に顔面が見えて居る。 高姫は一生懸命に祈願を凝らす。此時今迄大地に打つ倒れて居た蜈蚣姫は無言の儘ムクムクと立上り、高姫の前にヌツと現はれ、怒りの形相凄じく、拳を固め、平家蟹の様な面をさらして睨付け出した。又もやスマートボールむくむくと立上り、白玉計りの両眼を剥き出し、口を尖らせ、蟷螂の様な手付をし乍ら、鶴嘴を以て土方が大地を掘る様に、高姫の頭上目蒐けてコツンコツンと機械的に打ち始めた。其手は鉄の如く固くなつて居る。高姫は此鋭鋩を避くる為、身をかはさむと焦れども、土中より生えたる木の如く、一寸も身動きならず、止むを得ず同じ箇所を幾回となく、拳の鶴嘴につつかれて居るより仕方なかりけり。 此時天上の雲を押し開き、天馬に跨り此方に向つて下り来る勇壮なる神人あり。数百人の騎馬の従卒を伴ひ、鈴の音シヤンシヤンと一歩々々空中を下り来り大音声にて、 神人『汝は高姫ならずや。日の出神と自称する汝が守護神は、常世の国のロツキー山に発生したる銀毛八尾の悪狐なるぞ。只今汝が霊縛を解かむ。今日限り悔い改め、仮りにも日の出神などと名乗る可らず。我こそは真正の日の出神なり。一先づ此場は神直日大直日に見直し開き直し、汝が罪を赦すべし。是れより汝は蜈蚣姫の一行と共に南洋に渡り、竜宮の一つ島に到りて、黒姫を救へ。ゆめゆめ疑ふな』 と云ひ棄てて馬首を転じ、数多の従神と共に、轡を並べて天上高く昇らせ玉ひぬ。此時何処ともなく空中より大なる光玉現はれ来り、高姫が面前に轟然たる響と共に落下し、火は四辺に爆発飛散し、高姫一行の身は粉砕せしかと思ふ途端に目を醒せば、大蘇鉄の下にマラをしがみながら倒れて居た。蜈蚣姫其他一同は、炎天の草の上に頭の巨大なる虻蠅などに、或は刺され、或は舐められ乍ら、息も絶え絶えに倒れ居たり。貫州はと見れば、そこらに影もない。高姫は力限りに、 高姫『オイ、オーイ、貫州々々』 と叫び始めたるに、あたりの森林の雑草を踏み分けて、大なる瓢箪に水を盛り、ニコニコとして此処に現はれ来る男の姿を見れば、擬ふ方なき貫州なり。 貫州『高姫様、お気が付きましたか。サア此水をおあがり下さいませ』 と自ら手に掬うて高姫に啣ませた。高姫は初めて心神爽快を覚え、 高姫『アヽ持つべき者は家来なりけり、お前がなかつたら妾は如何なつたか分らない。就ては幸ひ蜈蚣姫其他の連中は此通り昏倒つて居れば、今の間にお前と二人、あの船に乗つて竜宮島へ渡り、玉の所在を探さうぢやないか』 と云ひ乍ら稍首を傾げ笑みを湛へて貫州の顔を覗き込み、貫州の返辞をもどかしげに待ちわび居る。貫州は高姫にむかい、 貫州『それだから貴女は不可ないのです。仮令敵でも味方でも助くるのが神の道、此島へ斯の如く弱り切つた人々を残し、我々両人が船を操り逃げ帰るなどと、左様な残酷な事がどうして出来ませうか。貴女はまだ改心が出来て居ないのですなア』 高姫『大功は細瑾を顧みず、天下国家の為には少々の犠牲を払はなければならぬぢやないか。お前はそれだから困るのだよ。まるで女の腐つた様な気の弱い男だから……サア貫州、妾に従いておいで、是れから二人が出世の仕放題、こんな奴を連れて行かうものなら足手纏ひになるばかりか、大変な邪魔者だ。サア行かう』 と元気恢復したのを幸ひに、夢の裡の日の出神の訓戒を忘れ、功名心に駆られスタスタと先に立ちて磯辺に進まうとする。貫州は高姫の顔を心無げに見遣り乍ら、耳に入らざるものの如く装ひ、瓢箪の清水を蜈蚣姫の口に啣ませた。蜈蚣姫は初めて生きたる心地し乍ら起きあがり、両手を合せて貫州に感謝の意を表する。貫州は是れに力を得てスマートボールを初め、其他一同に水を与へたり。高姫は此態を見て目を釣り上げ、面をふくらせ眺めて居る。蜈蚣姫は立あがり、 蜈蚣姫『高姫様の御指図に依つて、貫州様は厭々乍ら、主人の命だと思ひ、私達に結構な水をドツサリ与へて元気を恢復させて下さいました。お陰で私の身内の者も皆助かりました。主人の心下僕知らずとやら、仁慈無限の高姫様の大御心に反抗する貫州さまは、余程可愛い人です。貴女等主従の御争論を、妾は一伍一什聞かして頂きました。……高姫様、御親切有難う御座います。此御恩はキツトお返し申します。オホヽヽヽ』 と肩を揺り、厭らしさうに笑ふ。スマートボールは立あがり、 スマートボール『コリヤ貫州、……貴様は余程腹の悪い奴ぢや……無いワイ。よう俺を助けて呉れやがつた。キツト御礼を申すから、さう思うて居れ。……モシ高姫さま、貴女は三五教に反旗を掲げて、ウラナイ教を創立なさつた様な日の出神の偽宮だから、流石は仁慈に富み、申分の無い善人ぢや……無い。よう我々を助けてやらうと思ひくさらなんだ。アツクアツク御礼申しますぞ』 高姫『オツホヽヽヽ、皆さまの態のよい当てこすりワイの。こりや決して高姫の精神から言つたのぢやない。蜈蚣姫様やお前達の守護神が高姫の体内を藉つて言つたのだ。高姫の守護神は臨時貫州に憑つたのだよ。それだから昔の根本の身魂の因縁が分らぬと、善が悪に見えたり、悪が善に見えたり致しますぞや。神様のイロイロとして心をお引き遊ばす引つかけ戻しのお仕組だから、人が悪に見えたら、自分の心を省みて改心なされ。人の悪いのは皆我が悪いのだ。此高姫は水晶玉の世界の鑑、皆の心の姿が映るのだから、キツト取違ひをしては可けませぬぞや。アーア蜈蚣姫様も余程身魂の研けたお方ぢやと思うたが、日の出神の生宮の前に出て来ると、まだまだ完全な所へは往けませぬワイ』 蜈蚣姫は吹き出し、 蜈蚣姫『オホヽヽヽ』 一同は、 一同『アハヽヽヽ』 と共笑する。貫州は、 貫州『アー何が何だか、サツパリ見当が取れなくなつて来たワイ』 高姫は腮をシヤクリ、 高姫『きまつた事だよ。見当の取れぬお仕組と、変性男子が仰有つたぢやないか。此事分りて居る者は世界に一人よりない……とお筆に現はされて居るだらう。お前達に誠の仕組が分りたら、途中に邪魔が這入りて、物事成就致さぬぞよ。オホヽヽヽ』 と大きう肩を揺つて雄叫びする。蜈蚣姫は眉毛にそつと唾をつけて素知らぬ顔…… 蜈蚣姫『モシ高姫さま、貴女は大自在天様の御眷族の生宮だと仰有るかと思へば、日の出神の生宮とも仰有る様だし、実際の事は何方の守護神がお懸りなのですか』 高姫『変幻出没千変万化、自由自在の活動を遊ばす大自在天様の御守護神だから、時あつて日の出神と現はれ、又大国別命の眷族……実際の所は大黒主命の御守護が主なるものです』 蜈蚣姫『日の出と大クロと………大変な懸隔ですなア。蜈蚣姫には、善悪の区別が全く裏表の様に思へますワ』 高姫『お前さまにも似合はぬ愚問を発する方ですなア。顕幽一致、善悪不二、裏があれば表があり、表があれば裏がある。表裏反覆常なき微妙の大活動を遊ばすのが真の神様ぢや。馬車馬的の行動を取る神は、畢竟人を指揮する資格の無いもの、妾等は大黒主命の生宮たる以上は、すべての神人を、大自在天様に代つて、指揮命令する特権を惟神に具備して居る。所謂日の出神の岩戸開きの生宮で御座る。神はイロイロとして心を曳くから引掛戻しに懸らぬ様に御用心をなされませ』 蜈蚣姫『何時の間にやら、貴女も顕恩城の信者に化け込んで居られた時とは、口車が余程運転する様になりましたなア。蜈蚣姫も感心致しましたよ』 高姫『化け込んだとはソラ何を仰有る。誠正直生粋の日本魂で大自在天様を信仰して居りました。ウラナイ教と謂つても、三五教と言つてもバラモンでもジアンナイ教でも、元は一株、天地根本の大神様に変りはない。併し乍ら今日の所ではお前さまの奉ずるバラモン教の行方が一番峻酷で、不言実行で、荒行をなさるのが御神慮に叶ふと思つたから、国城山でお目に掛つてより、層一層バラモンが好になつたのですよ。サアサア斯うなれば姉妹も同様、一時も早く所在を探しに参りませう』 蜈蚣姫『私は最早玉なんかに執着心はありませぬ。それよりも心の玉を研くのが肝腎だと気がつきました』 高姫『ホヽヽヽヽ、重宝なお口だこと。天にも地にも唯一人の小糸姫様の所在が分りかけたものだから、玉所の騒ぎではない。一刻も早く小糸姫さんに遇ひたいと云ふのが貴女の一念らしい。それは無理もありませぬ。何と云つても目の中へ這入つても痛くない一人娘の事だから、国家興亡よりも自分の娘が大切なのは、そりや人情ですワ』 と嘲る様に云ふ。蜈蚣姫は高姫の言葉にムツとしたが、何を云うても唯一艘の船、高姫の機嫌を取らねば目的地へ達する事が出来ないと思つて、ワザと機嫌よげに、 蜈蚣姫『ホヽヽヽヽ、これはこれは高姫さまの御教訓、感じ入りました。つい吾子の愛に溺れ、大事を誤りました私の不覚、はしたない女とお笑ひ下さいますな。そんなら此れより神第一、吾子第二と致しませう』 高姫『第三に玉ですか、あなたのお説の通り、そこまで研けた以上は、有形的の玉よりも、貴女は小糸姫様に会ひさへすれば結構なのでせう。モウ玉なんかに執着心を持たぬ様になされませ。其代りに妾は其玉を発見次第御預り致し、妾の手より大自在天様に御渡し申しませう。宜しいか。一旦貴女のお口から出たこと、吐いた唾液を呑み込む訳にもいきますまい』 と目を据ゑて蜈蚣姫の顔を一寸見る。蜈蚣姫はワザとに顔を背け、何喰はぬ顔にて、 蜈蚣姫『何事も貴女に任せませう』 スマートボール『モシモシ蜈蚣姫様、そりや目的が違ひませう。貴女も魔谷ケ岳に永らく御苦労なさつたのも、玉の所在を探さむ為でせう。何と云ふ気の弱い事を仰有るのだ。仮令高姫さまが何と仰有つても、スマートが承知しませぬぞ』 蜈蚣姫『何事も私の胸に有るのだから黙つて居なさい』 高姫『胸に有るとは、蜈蚣姫さま、何があるのですか。余程陰険な事を仰有るぢやありませぬか。さうすると今妾に仰有つた事は詐りでせう』 蜈蚣姫『仮にも神様に仕へる妾、鬼熊別の女房、どうして嘘偽りを言ひませう。あまり軽蔑なさると、此蜈蚣姫だつて此儘には置きませぬぞ』 と肩を怒らし口をへの字に結んで歯ぎりし乍ら、形相凄じく高姫の顔を睨みつけたり。 高姫『ホヽヽヽヽ、平家蟹が陀羅助を喰つた様なお顔をなされますな。貴女もヤツパリ腹が立ちますか。忍耐と云ふ宝を如何なさいました』 蜈蚣姫『それは貴女のお見違ひ、妾は腹が俄に痛くなつて苦しみ悶えた結果、顔付が怖くなつたのです。アヽお陰様で大分に緩んで来ました。サアサア皆さま、仲ようして一つの船でこの荒波を渡りませう。十分お水の用意をして………』 と各自に器の有り丈を引抱へ、檳榔樹の生え茂る林の中を潜り、貫州に導かれて、谷間の水溜りを求め、辛うじて水を充たせ、漸く船に積み込み、月明の夜を幸ひ、折からの順風に帆を上げ西南に舵を取り、海上に起伏する小島を縫うて進み行く。 (大正一一・七・二旧閏五・八松村真澄録) |
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111 (1846) |
霊界物語 | 24_亥_豪州物語1(高姫と蜈蚣姫) | 06 アンボイナ島 | 第六章アンボイナ島〔七三六〕 高姫、蜈蚣姫を乗せたる船は、波のまにまに大小無数の嶋嶼を右に左に潜りつつ進み行く。俄に包む濃霧に咫尺を弁ぜず、此儘航海を続けむか、何時船を岩石に衝き当て破壊沈没の厄に会ふも知れざる破目になつて来た。流石の両婆アも船中の一同もはたと当惑し、何となく寂寥の気に充たされ、臍の辺りより喉元さして舞ひ上る熱き凝固は、螺旋状を為して体内を掻き乱すが如く、頭部は警鐘乱打の声聞え、天変地妖身の置き処も知らぬ思ひに悩まされた。何ともなく嫌らしき物音、鬼哭啾々として肌に粟を生じ心胆糸の如く細り、此上少しの風にも、玉の緒の糸の断絶せむ許りになり来たり。何処ともなく嫌らしき声、頭上に響き渡りぬ。 声『アヽヽ飽迄我を立て徹す高姫、蜈蚣姫の両人、天の八衢彦命の言葉を耳を浚へてよつく聞け。汝は悪がまだ足らぬ。悪ならば悪でよいから徹底的の大悪になれ。大悪は即ち大善だ。汝の如き善悪混淆、反覆表裏常なき改慢心の大化物、是こそ真の悪であるぞよ。悪と云ふ事は万事万端、神界の為めに埒があく働きを言ふのだ。 イヽヽ嫌らしい声を聞かされて慄ひ上り、意気銷沈の意気地無し。今此処で慣用手段の日の出神を何故現さぬか。大黒主命は如何したのだ。因循姑息、悪魔の我言に唯々諾々として畏服致すイカサマ宣伝使。てもいげち無い可憐らしい者だなア』 高姫は直ちに、 高姫『何れの神様か存じませぬが、 アヽヽ悪をやるなら大悪をせいとはチツトと聞えませぬ。善一筋の日本魂の生粋を立て貫く此高姫。 イヽヽいつかないつかな、変性女子的貴女の言葉には賛成出来ませぬ。なア蜈蚣姫さま、お前さまもチツト、アフンとしていぢけて居らずに、アヽヽイヽヽアイ共に力を協せ、相槌を打つたら如何だい。斯んな時こそ誠の神の御神力を現はさいで何時現はすのだ、アヽヽ、イヽヽ意気地のない人だなア』 空中より怪しき声、 声『ウヽヽ、煩さい代物だ。何処までも粘着性の強い高姫の執着、有為転変の世の中、今に逆とんぼりを打たねばならぬぞよ。言依別の教主に反抗致した酬い、眼は眩み波にとられた沖の船、何処にとりつく島もなく、九死一生の此場合に立ち到つて、まだ改心が出来ぬか。 エヽヽ偉相に我程の者なき様に申して世界中を股にかけ法螺を吹き捲り、誠の人間を迷はす曲津神の張本人、鼻ばかりの高姫が今日は断末魔、扨ても扨ても可憐想な者だ。浮世に望みはないと口癖の様に申し乍ら、其実、浮世に執着心最も深く、偉相に肩臂怒らし大声で嚇す夏の雷鳴婆ア……。 オヽヽ鬼とも蛇とも悪魔とも知れぬ性来に成りきりて居りても未だ気がつかぬか。恐ろしい執着心の鬼が角を生やして其方の後を追つ掛け来り、今此処で往生させる大神の御経綸、尾を捲いて改心するのは今であらう。返答は如何だ』 高姫は負けず、又もや、 高姫『ウヽヽ煩さい事を仰有るな。 エヽヽえたいの知れぬ声を出して、 オヽヽ嚇さうと思つても日の出神の生宮はいつかないつかな、ソンナチヨツコイ事に往生は致しませぬぞ。一つ島の女王と聞えたる黄竜姫を、お産み遊ばした蜈蚣姫の姉妹分とも言はれたる此高姫、何れの神か曲津か知らねども、チツトは物の分別を弁へたが宜からうぞ』 空中より、 声『カヽヽ重ねて言ふな、聞く耳持たぬ。蛙の行列向ふ見ず、此先には山岳の如き巨大な蛙が現はれて、奸智に長けたる汝が身も魂も、只一口に噛み砕き亡ぼして呉れる仕組がしてあるぞ。叶はん時の神頼みと言つても、モウ斯うなつては駄目だ。神は聞きは致さぬから左様心得たが宜からう。 キヽヽ危機一髪、機略縦横の高姫も最早手の下し様もあるまい。気違ひじみた気焔を吐いた其酬い、気の毒なものだ。聞かねば聞く様にして聞かすと申すのは此事であるぞよ。 クヽヽ黒姫と腹を合せ、変性男子の系統を真向に振り翳し、神界の経綸を無茶苦茶に致した曲者、苦労の凝りの花が咲くと何時も申して居るが、神の道を砕く苦労の凝りの花は今愈咲きかけたぞよ。 ケヽヽ見当のとれぬ仕組だと申して遁辞を設け、誤魔化して来た其酬い。 コヽヽ堪へ袋の緒がきれかけたぞよ。聖地の神々を困らしぬいた狡猾至極の汝高姫、我と我心に問うて見よ。心一つの持ち様で善にも悪にもなるぞよ。 サヽヽ探女醜女の両人、よくも揃うたものだ。サア是からは蜈蚣姫の番だ。逆様事ばかりふれ廻り天下万民を苦しめた蜈蚣姫の一派。 シヽヽ思案をして見よ。神の申す言葉に少しの無理もないぞよ。皺苦茶婆アになつてから、娑婆に執着心を発揮し、死後の安住所を忘れ、獅子奮迅の勢を以て種々雑多の悪計を廻らし乍ら、至善至美至真の行動と誤解する痴者。 スヽヽ少しは胸に手を当てて見よ。素盞嗚大神の御精神を諒解せぬ間は、何程汝が焦慮るとも九分九厘で物事成就は致さぬぞよ。 セヽヽ背中に腹が代へられぬ様な此場の仕儀、それでも未だ改心が出来ぬか。雪隠虫の高上り、世間知らずの大馬鹿者。 ソヽヽ其方達二人が改心致さぬと、総ての者が総損ひになつて、まだまだ大騒動が起るぞよ。早々改心の実を示せ。そうでなければ今此処でソグり立ててやらうか』 蜈蚣姫『ソヽヽそれは、マア一寸待つて下さい。それ程妾の考へが違つて居ますか。此蜈蚣姫は明けても暮れても、神様の為め、世界の為め、人民を助ける為めに、苦労艱難を致して居る善の鑑と堅く信じて居ります。それが妾の生命だ。何れの神か悪魔か知らねども、我々の心が分らぬとは実に残念至極だ。粗忽しい、観察をせずに、もうチツト真面目に妾の腹の底を調べて下さい』 空中より、 声『タヽヽ叩くな叩くな、腹の中をタヽヽ断ち割つて調べてやらうか。高姫も同様だぞ、汝の腹の中は千里奥山古狸の棲処となつて居る。日の出神と名乗る奴は銀毛八尾の古狐の眷族だ。大黒主と名乗る奴は三千年の劫を経たる白毛の古狸だ。又蜈蚣姫の腹中に潜む魔神はアダム、エバの悪霊の裔なる大蛇の守護神だ。 チヽヽ違ふと思ふなら、今此処で正体を現はさうか。地の高天原を蹂躙せむと、汝等両人の体内を借つて仕組んで居るのだ。汝はそれも知らずに誠一つと思ひつめ、自分の身魂に自惚し、最善と感じつつ最悪の行動を敢へてする、天下の曲津神となつて居るのに気がつかぬか。 ツヽヽつまらぬ妨げを致すより、月の大神の心になり、心の底より悔悟して。 テヽヽ天地の神にお詫を致せ。 トヽヽトンボ返りを打たぬうち、トツクリと思案を致し、トコトン身魂の洗濯を励むが肝腎だぞよ。 ナヽヽ何と申しても其方等は曲津の容器。弥勒神政の太柱は地の高天原に、神世の昔より定められた身魂が儼然として現はれ給ふ。何程其の方が焦慮つても、もう駄目だ。 ニヽヽ二階から目薬をさす様な頼りのない法螺を吹き廻るより、生れ赤子の心になつて言依別の教主の仰せを守れ。 ヌヽヽヌーボー式の言依別だと何時も悪口を申すが、其方こそは言依別の神徳を横奪せむとする、ヌースー式の張本人だ。 ネヽヽ熱心な信者を誤魔化し、蛇が蛙を狙ふ様に熱烈なる破壊運動を致す侫人輩。 ノヽヽ野天狗、野狐、野狸の様な野太い代物。喉から血を吐きもつて、折角作り上げた誠の魂を攪乱致す野太い代物。下らぬ望みを起すよりも良い加減に往生致したら如何だ』 高姫は、 高姫『もうもう十分です。 ハヽヽハラハラします。腹が立つて歯がガチガチしだした。早くしようも無い事は、もうきりあげて下さい。 ヒヽヽ日の出神の生宮が堪忍袋の緒を切らしたら、何程偉い神でも堪りませぬぞ。 フヽヽ不都合千万な、此方の行動を非難するとは何れの神だ。 ヘヽヽ屁でもない理屈を並べて閉口さそうと思うても……ン……此高姫さまは一寸お手には合ひませぬワイ。 ホヽヽほんに訳の分らぬ廻しものだ。斯んな海の中へ我々を引張り出し、一寸先も見えぬ様な濃霧に包んで置いて、暗がりに鶏の頸を捻ぢる様な卑怯な計略、其手は喰はぬぞ。 マヽヽ曲津の張本。 ミヽヽ身の程知らずの盲目神。 ムヽヽ蜈蚣姫と高姫が。 メヽヽ各自に神力のあらむ限りを発揮して。 モヽヽ耄碌神の其方を脆くも退治して見せよう。 ヤヽヽ八岐大蛇だの、狐だの、狸だのとは何たる暴言ぞ。 イヽヽ意地気根の悪い。 ユヽヽ油断のならぬ胡散な痴呆もの。 エヽヽえー邪魔臭い。 ヨヽヽよくも、ヨタリスクを並べよつたな、ようも悪魔の変化奴。 ラヽヽ乱臣賊子、サア正体を現はせ、勇気凛々たる日の出神の生宮、大自在天の太柱、グヅグヅ吐すと貴様の素首を引き抜いてラリルレロとトンボリ返しを打たしてやらうか』 空中より一層大きな声で、 声『ワヽヽ笑はせやがるワイ。我身知らずの馬鹿者共、手のつけ様のない困つた代物だ。 ヰヽヽ何程言うても合点の往かぬ歪み根性の高姫、蜈蚣姫。 ウヽヽ煩さくなつて来たワイ。艮の金神国治立尊の御前に我は是より奏上せむ。 ヱヽヽ襟を正して謹聴して待つて居らう。やがて御沙汰が下るであらう。 ヲヽヽ臆病風に誘はれてヲドヲドし乍ら、まだ。 ガヽヽ我の強い。 ギヽヽぎりぎりになる迄。 グヽヽ愚図々々致して居ると。 ゲヽヽ現界は愚か。 ゴヽヽ後生の為めに成らないぞ。 ザヽヽ態さらされて。 ジヽヽジタバタするよりも。 ズヽヽ図々しい態度を改め。 ゼヽヽ前非を悔い改心致して。 ゾヽヽ造次にも顛沛にもお詫を致せ。 ダヽヽ騙し歩いた。 ヂヽヽ自身の罪を。 ヅヽヽ津々浦々まで白状致して廻り、玉に対する執着心を只今限り綺麗薩張此海に流して仕舞へ。さうして仕舞へば又神の道に使つてやるまいものでもない。 デヽヽデンデン虫の角突き合ひの様な小さな喧嘩を致し。 ドヽヽ如何してそんな事で神界の御用が勤まると思ふか。 バヽヽ婆の癖に馬鹿な真似を致すと終には糞垂れるぞよ。 ビヽヽ貧乏揺ぎもならぬ様になりてから。 ブヽヽブツブツと水の中に屁を放いた様な小言を申しても。 ベヽヽ弁舌を何程巧に致しても。 ボヽヽ木瓜の花だ、誰も相手になる者はないぞよ。 パヽヽパチクリと目を白黒致して。 ピヽヽピンピン跳ねても、キリキリ舞ひを致しても。 プヽヽプンと放いた屁ほどの効力も無いぞよ。 ペヽヽペンペン跳ねても。 ポヽヽポンポン言つても、もう日の出神も通用致さぬから覚悟をしたが宜からう。汝果たして日の出神ならば、此濃霧を霽らし、天日の光を自ら浴びて船の方向を定め、アンボイナの聖地に渡れ。其時又結構な教訓を授けてやらう』 高姫、蜈蚣姫は返す言葉も無く、船の中に両手を合せ、負けぬ気の鬼に妨げられて謝罪り言葉も出さず、俯向いて謝罪と片意地との中間的態度を執つて居た。何時しか濃霧は霽れた。よくよく見れば船は何時の間にやら南洋一の聖地、竜宮島と聞えたるアンボイナの港に横着けになり居たりける。 (大正一一・七・二旧閏五・八北村隆光録) |
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霊界物語 | 24_亥_豪州物語1(高姫と蜈蚣姫) | 霊の礎(一〇) | 霊の礎(一〇) 一、高天原の天界には、地上の世界と同様に住所や家屋があつて、天人が生活して居ることは地上の世界に於ける人間の生活と相似て居るのである。斯くいふ時は現界人は一つの空想として一笑に付し顧みないであらう。それも強ち無理ではないと思ふ。一度も見たことも無く、又天人なるものは人間だと云ふことを知らぬ故である。又天人の住所なるものは、地球現界人の見る天空だと思ふから信じないのである。打見る所天空なるものは冲虚なるが上に、其天人といふものも亦一種の気体的形体に過ぎないものと思ふからである。故に地の世界の人間は、霊界の事物にも亦自然界同様であるといふ事を会得することが出来ぬからである。現実界即ち自然界の人間は、霊的の何者たるかを知らないから疑ふのである。地上の現界を霊界の移写だといふことを自覚せないから、天人と云へば天の羽衣を着て、空中を自由自在に飛翔するものと思つてゐるのは人間の不覚である。天人は之等の人間を癲狂者と云つて笑ふのである。 一、天人の生活状態にも各不同があつて、威厳の高きものの住所は崇高なものである。又それに次ぐものはそれ相応の住所がある。故に天人にも現界人の如く名位寿福の願ひを持つて居て進歩もあり向上もあるので、決して一定不変の境遇に居るものでは無い。愛と信との善徳の進むに従つて倍々荘厳の天国に到り、又は立派なる地所や家屋に住み、立派なる光輝ある衣服を着し得るものである。何れも霊的生活であるから、その徳に応じて主神より与えへらるるものである。凡ての疑惑を捨てて天国の生活を信じ死後の状態を会得する時は自然に崇高偉大なる事物を見るべく、大歓喜を摂受し得るものである。 一、天人の住宅は地上の世界の家屋と何等の変りも無い。只その美しさが遥に優つてゐるのみである。その家屋には地上の家屋の如く奥の間もあり、寝室もあり、部屋もあり、門もあり、中庭もあり、築山もあり、花園もあり、樹木もあり、山林田畑もあり、泉水もあり、井戸もあつて、住家櫛比し都会の如くに列んで居る。亦坦々たる大道もあり、細道もあり、四辻もあること地上の市街と同一である。 一、天界にも又士農工商の区別あり。されど現界人の如く私利私欲に溺れず、只その天職を歓喜して天国の為に各自の能力を発揮して公共的に尽すのみである。天国に於ける士は決して軍人にあらず、誠の道即ち善と愛と信とを天人に対して教ふる宣伝使のことである。地上に於て立派なる宣伝使となり其本分を尽し得たる善徳者は、天国に住みても依然として宣伝使の職にあるものである。人間は何処までも意志や感情や又は所主の事業を死後の世界迄継承するものである。又天国霊国にも、貧富高下の区別がある。天国にて富めるものは地上の世界に於てその富を善用し、神を信じ神を愛するために金銀財宝を活用したるものは天国に於ては最も勝れたる富者であり、公共のため世人を救ふために財を善用したるものは中位の富者となつて居る。又現界に於てその富を悪用し、私心私欲の為に費し又は蓄積して飽くことを知らなかつた者は、其の富忽ち変じて臭穢となり、窮乏となり、暗雲となりて霊界の極貧者と成り下り、大抵は地獄に堕するものである。又死後の世界に於て歓喜の生涯を営まむと思ふ者は、現世に於て神を理解し、神を愛し神を信じ、歓喜の生涯を生前より営みてゐなければ成らぬのである。死後天国に上り地獄の苦を免がれむとして、現世的事業を捨てて山林に隠遁して世事を避け、霊的生活を続けむとしたる者の天国に在るものは、矢張生前と同様に孤独不遇の生涯を送るものである。故に人は天国に安全なる生活を営まんと望まば、生前に於て各自の業を励み、最善の努力を尽さねば死後の安逸な生活は到底為し得ることは出来ないのである。士は士としての業務を正しく竭し、農工商共に正しき最善を尽して、神を理解し知悉し之を愛し之を信じ善徳を積みておかねばならぬ。又宣伝使は宣伝使としての本分を尽せばそれで良いのである。世間心を起して、農工商に従事する如きは宣伝使の聖職を冒涜し、一も取らず、二も取らず、死後中有界に彷徨する如き失態を招くものである。故に神の宣伝使たるものは何処までも神の道を舎身的に宣伝し、天下の万民を愛と信とに導き、天国、霊国の状態を知悉せしめ、理解せしめ、世人に歓喜の光明を与ふることに努力せなくては成らぬのである。天界に坐ます主の神は仁愛の天使を世に降し、地上の民を教化せしむべく月の光を地上に投じ給うた。宣伝使たるものは、この月光を力として自己の霊魂と心性を研き、神を理解し知悉し、愛と信とを感受し、是を万民に伝ふべきものである。主一無適の信仰は、宣伝使たるものの第一要素であることを忘れてはならぬ。天界地上の区別なく神の道に仕ふる身魂ほど歓喜を味はふ幸福者は無いのである。 アヽ惟神霊幸倍坐世。 大正十一年十二月王仁 |
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霊界物語 | 24_亥_豪州物語1(高姫と蜈蚣姫) | 余白歌 | 余白歌 底ひなき神の恵の真清水を世にうるほすは愛善の道〈目次(三版)〉 常立に浦安国と治めゆく神の心は愛の善なり〈目次(三版)〉 打たれても断れずもつれず綾錦織りなす瑞の御魂大神〈総説(三版)〉 眼に見えぬ神の御国も現世も愛善神の住家なりけり〈総説(三版)〉 遠近の区別もしらに救ひゆく愛善の神いまや伊都能売〈総説(三版)〉 わざはひの多きつれなき世にたちて楽しみ深きは神のみ子なり〈第3章(三版)〉 憂き事のしげき世なれど惟神神にある身は安けかるべし〈第3章(三版)〉 堪へしのび勤め励みて勇ましく進むは人の荒魂かも〈第4章〉 人の身の春に会ひたる若ざかりをつとめはげみて善の種まけ〈第4章(三版)〉 神にある今日のわが身は若き日のおもひつきせぬ悩みのたまもの〈第4章(三版)〉 あれば憂くなければつらし人の世は神のまにまに進むこそよし〈第4章(三版)〉 現身の世に生くる身は憂しつらし生命の神にたよるのみなる〈第4章(三版)〉 世をなげくばかりが国の為ならずあらむ限りの力尽さむ〈第4章(三版)〉 音もなく静かに積る白雪の清きは神の心なりけり〈第6章(三版)〉 世の中のすべてのものは神の子よ生ひ立ちゆくを祈るのみなり〈第6章(三版)〉 人の世の憂きはならひとあきらめつまことの神を知らぬ曲津霊〈第8章(三版)〉 人の住む世は如何ばかり憂しとても開けば開く道ありにけり〈第8章(三版)〉 人の身はならはしにより善となり悪にも変はるあやしき存在〈第8章(三版)〉 肝向かふ心にかなふ業ならば如何なる大事もとげざるはなし〈第8章(三版)〉 現身の人の生命は夢の如しわれいたづらに過ごすべきかは〈第8章(三版)〉 奇魂智慧の光は村肝の心の暗を照り明すなり〈第11章〉 千早振る神と人とに和らぎて睦び交はる和魂かも〈第11章〉 これの世にいさをたてむと思ふにも尊きものは誠なりけり〈第12章(三版)〉 世のために心くだくる朝夕を守らせ玉へ生命の神たち〈第12章(三版)〉 太平洋浪静なる吉野丸に吾は校正の筆を執るなり〈第14章(四版)〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました] |
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霊界物語 | 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) | 01 水禽の音 | 第一章水禽の音〔七四七〕 時間空間超越し現幽神の三界を 過去と未来と現在に通観したる物語 伊都の教祖が艮の神の御言を蒙りて 現はれ給ひし瑞祥の明治は二十五の年 それに因みし巻の数須弥仙山に腰を掛け 三千世界を守ります神に習ひて掛巻くも 畏き神の現れませる高天原の大宇宙 その外側に身を置きてここに六合隈もなく 見渡し給ひし瑞御霊神素盞嗚の御心を 汲み取り給ふ大八洲彦神の命は月照の 瑞の御霊と現はれて綾の聖地に身を潜め 五十路の阪を二つまで越えた赤子の口を借り 大海原に漂へる名さへ芽出度き竜宮の 一つ島なるオセアニヤ黄金の砂を敷き詰めし 地恩の郷に三五の神の教を開きたる 五十子の姫や梅子姫鬼熊別の珍の子と 生れ出でたる小糸姫仁慈無限の天地の 元津御神の御心を覚りて道に尽したる 古き神代の語り草松竹梅の大本の 竜宮館を立出でて流れも清き小雲川 並木の老松ふくの神風に誘はれ吹き立てる 法螺貝喇叭にあらねども夢か現か誠か嘘か 嘘ぢやあるまい誠ぢやなかろさても解らぬ物語 心真澄の松村が口と鉛筆尖らして 吾が口述を書きとめる松雲閣の中の間に 無尽意菩薩を始めとし五六七太夫や加藤女史 やがては急ぎ北村の隆々光る神界の 御稜威を畏み村肝の心清めて書きとむる 所謂三界物語辷り出でたる蓄音器 取手を握りクルクルと螺旋仕掛のレコードが 茲に廻転始めけるあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ。 ○ 地恩城の役員控室には、スマートボール(敏郎司)、チヤンキー(英吉)、モンキー(米吉)其他二三人、赤裸の儘、芭蕉の実を喰ひ乍ら雑談に耽つて居る。 スマートボール『皆の御連中、人間も良い加減なものだなア。俺達も蜈蚣姫様に朝夕真心を尽し、随分忠勤を擢でて、危険区域に往来出没し、種々雑多の艱難辛苦を嘗めて来た者だが、海洋万里の竜宮島までお供をして来乍ら、吾々は平役人の一部に加へられ、清公さまの頤使に甘んじて居らねばならぬのだから、暗君に仕へるのは実に不利益此上なしだ。此頃は蜈蚣姫さまも女王様に会うた嬉しさに、俺達の殊勲を念頭から遺失して了ひ、今迄は寝ても起きても「スマート、スマート」とお声がかかつたが、此頃は何処のスマートに居るかとも言つて下さらぬ。本当に良い加減なものだよ。俺ア……モウ同伴者が有つたら波斯の国へでも帰りたくなつて来たワイ』 チヤンキー『お前が蜈蚣姫さまに夫丈尽したにも関はらず、抜擢されないのは、みんな身魂の因縁だ。前生からの罪の借金済しを指して下さるのだから、それで大変な御恵に預つて居るのだよ。俺だとて肝腎の黄竜姫様を、シロの島から生命からがら送つて来て、中途で難船をした殊勲者だから、何とか御言葉が懸りさうなものだけれど、ヤツパリ平役人の仲間だ。モンキーだとて其通り、そこが神様の依怙贔屓のない処だ……なア、モンキー、貴様もさうだらう』 モンキー『吾々小身者の分際として、チヤンキーモンキー言つて見た所で、歯節は立たぬよ。マアどうなりと生命さへ助けて貰へば、結構だなア』 スマートボール『それだと云つて、清公の奴、高山彦の後釜に坐り、宰相面をして俺達に何事も指揮命令する特権を与へられたのは、チツと合点がゆかぬぢやないか。何程身魂の因縁性来かは知らぬが、吾々の見る所では、何一つ是れと云ふ手柄をした様にもなし、半泥的の友彦宣伝使のお供をして来た平信者の分際として、出世すると云つてもあんまりぢやないか。レコード破りと言はうか、破天荒と言はうか、譬方の無い黄竜姫のやり口、人も有らうに、清公の様な若輩に、あれ丈の重任を御負はし遊ばしたのは、如何考へても合点の虫が承認して呉れないよ。それ程賢い人間でもなし、どつちかと云へば、チツと許り落して来た様な代物ぢやないか』 チヤンキー『さうだからお筆先に……阿呆になりて居りて下されよ。神の道は悧巧を出すと失敗るぞよ。他人が出世を致したと云うて嫉むでないぞよ。身魂の因縁丈の御用がさせてあるのだから……とお示しになつてるぢやないか』 スマートボール『それに……まだまだ業の沸く事がある……と云ふのは噂にチラツと聞けば、天下無双のネース宇豆姫さまを女房に貰ひ、ブランジー(国主)、クロンバー(国妃)の夫婦が後釜になると云ふ事だが、それが実際とすれば、俺達ア馬鹿らしくて、ジツとして居る事が出来なくなつて了ふ。其時にや貴様達は如何考へるか』 チヤンキー『アハヽヽヽ、又人の疝気を頭痛に病んで居よるな。実際の事を言へば、貴様宇豆姫に大変な執着心を懸けて居るのだらう。チツと妬けとると見えて、酢につけ味噌につけ因縁を附けるのだなア。……何時やらの月の輝く夜の事、宇豆姫さまが庭園を天女の様なお姿で、スラリスラリと木蔭を逍遥ひ遊ばした時、貴様は差足、抜足後の方から近寄つて、電話姫の様に……モシモシと吐した処、宇豆姫様にエツパツパを喰はされ……サーチライス、ユーリンスユーリンスと謝罪つて逃げ出したと云ふ専らの評判だよ。其時のエツパツパの肱鉄を根に持つて居るのだらう』 スマートボールは顔赭らめ、俯むいて黙つて居る。 モンキー『アハヽヽヽ、ヤツパリ……さうすると、火の無い所に煙は立たぬ。何時も……女なんか汚らはしい……と云ふ様な面付をして、スマーして御座るスマートボールさんも、ヤツパり気があるのかなア。恋に上下の隔てないとはよく言つたものだ』 スマートボール『馬鹿を云ふな。それや俺の事ぢやない。鶴公の事だ。……鶴公がなア、性懲りもなく宇豆姫さまのお臀を嗅ぎ廻り、幾回となくエツパツパエツパツパを喰ひ、悲観の極、失恋病に罹り、柿の木で人知れず首をツル公とやりかけた処、此様子を物蔭より見すまして居たスマートボール……ヘン此方が矢庭に其場に駆出で、プリンプリンの最中をギユツと下から抱きあげ、……如何に鶴さまだとて、首をツルと云ふ事が有るかい、マア待て、死は一旦にして易く、生は難しだ。キツと俺がお前の願望を叶へ指してやるから……と云つて慰め、漸くボールス(自殺)を中止させたのだ。其責任上俺は如何しても清公の縁談に水を注し、鶴公の女房に宇豆姫さまをせなくては、一旦男の口から吐いた唾を呑み込む訳にはゆかぬ。それ故昼夜肺肝を砕き、何とかして鶴公の恋を叶へさせてやりたいと、宇豆姫さまの間近く寄つて、機会ある毎に掻き口説いて居るのだ。それを心なき没分暁漢の連中が、俺が姫さんにスヰートハートして居る様に誤解して、下らぬ根無し草の噂の花を咲かして居るのだ。諺にも……人の口に戸は閉てられない……と云つて、一々俺がそんな弁解に廻る訳にもゆかず、千万無量の俺の心中を、チツとは察してくれの鐘だ。烏はカアカアと啼いて塒を定め、夫婦睦まじく暮して居るに、鶴公のやもを鳥、宇豆姫の事を思つて心をウヅウヅさせ乍ら……アーア夏の夜も蚤はせせり、蚊が喰つて寝られないワイ……と歎息して居るのを思ひ出すと、俺だとてそれが袖手傍観出来るものか。早く鶴公さまの恋をかなへさせて、夫婦睦じく卵子を生み、川と云ふ字に寝さしたいのだがそれや将来の事として、一時も早くリの字にさしてやりたい俺の一念。……アーア待つ間の長き鶴公の首、千歳の松の末永く、梢に巣籠る尉と姥との、高砂の謡曲が早く聞きたいので尽力して居るのだよ』 と心配さうに俯むく其様子、冗談とも思はれなかつた。斯かる所へ貫州、武公の両人現れ来り、 貫州『ヤア御連中、何か面白いお話でも有りますかなア』 チヤンキー『今チヤンキーモンキーと、スマートボールのローマンスを遺憾なく聞かして頂き指を銜へて居た処なのだ。……貫州さま、お前此頃の清公の横柄振を何と考へて居るか』 貫州、稍仰向き気味になり『フ、フーン』と云つた限り、力無げに笑ふ。 武公『イヤもう此頃の清公の態度と云つたら、さつぱり、ブランジー気分になり、クロンバーを得むとして、種々と暗中飛躍を試みて居ると云ふ事だ。併し乍ら到底物にはなるまいよ。アハヽヽヽ』 貫州『そんな問題は如何でもよい。国家興亡に関する大問題が今別に突発して居るのだが、お前達分つて居るか』 スマートボール『分つて居らいでかい。鶴公を黄竜姫の夫に推薦すると云ふ大問題だらう。……併し其奴は駄目だから、せめて宇豆姫さまの婿にしてやりたいと思つて、昼夜肝胆を砕いて居るのだ。併し清公の奴、どうやら予約済の札を掛けて居る様だから、此奴もならず、実に世の中は意の如くならないものだ。何か良い智慧を貸して呉れないかネー』 貫州『そんな事が国家興亡の問題かい。あゝ貴様も知つて居る通り、鼻赤の友彦の奴、ネルソン山を西へ渉り、ジヤンナイ(治安内)教のテールス(照子)姫の夫となり、大変な勢でオーストラリヤの西部一帯を勢力範囲となし、今に軍備を整へて此地恩城へ鬼の様な荒武者を引率し、やつて来ると云ふ噂があるのだ。お前達も聞いて居る通り、黄竜姫様は元は友彦の女房だつたが、地恩郷の奴等に打ちのめされ、城外に担ぎ出された其無念を晴らすべく、一挙に当城へ攻め寄せ、否応言はさず、黄竜姫様に兜を脱がせ改めて友彦の第二夫人になるか如何だと、大変な威喝的態度で蹂躙すると云ふ計画オサオサ怠りなしとのこと。吾々は斯うしてジツとして居る訳には行かぬ。婦人問題などの気楽な話に没頭して居る時ぢやない。何を云つても内輪を固めなくては、外敵に当る事は不可能だ。地恩城には清公派と鶴公派が互に鎬を削り、内争絶間なく、如何して此城が持てるものか。兄弟垣に鬩ぐとも、外其侮りを防ぐと云ふ事があるから。サア皆一致和合して、今迄の態度をスツカリ改めて貰ひたいものだよ』 スマートボール『それが又神界の御都合だよ。よく考へて見よ、夜中夫婦喧嘩許りして居る家には泥棒も這入らない。互に軋轢して力比べをし、今の今迄演習をして置くのだ。力士だつてさうぢやないか。一生懸命に稽古と云つて挑み闘ひ、其間に天晴れと力が付いて晴れの場所で格闘すると云ふ段取りになるのだ。友彦が門前まで押寄せ来るを待ちて、協力一致すれば良いのだよ。サアサアモツトモツト内乱を奨励せなくちや本当の勇士は造れないワ。アハヽヽヽ』 と笑ひに紛らす。此処へ蜈蚣姫は稍腰を屈め、ヒヨコヒヨコやつて来て、 蜈蚣姫『お前はスマートボールに貫州、武公、チヤンキー、モンキーの頭株ぢやないか。今……金、銀、鉄等三人の注進に依れば、鼻曲りの意地クネの悪い友彦が、ジヤンナイ教の荒くれ男を率ゐ、当城へ攻めて来るとの急報……サア早く防戦の用意をせなくてはなりますまい』 スマートボール『蜈蚣姫様、無抵抗主義の三五教の本城に防戦とは心得ませぬ。武器と云つては寸鉄もなく、如何したら良いのですか』 蜈蚣姫『サア其防戦は善戦善闘だ。本城へ押寄せ来らぬ間に、ネルソン山の山麓に、威儀を正して友彦の軍隊を待受け、所在款待をするのだ。さうして飽く迄忍耐振と親切振を発揮する。これが第一の味方の神法鬼策、六韜三略の奥の手だ。さうだと云つて、決して権謀術数を弄するのではない。誠一つの実弾をこめて、誠を以て戦ふのだよ。分つたか』 スマートボール『ハイ、根つから……よく分りました』 蜈蚣姫『何だか歯切れのせぬ返答ぢやないか』 スマートボール『返答だか、弁当だか、テントウ様だか、テンと訳が分りませぬワイ。先方は吾々を殺しに来ると云ふ、此方は御馳走の弁当を拵へて歓迎せよと仰有る。ベントウとか天道とかは、人を殺さぬとか…殺すとか云ふぢやありませぬか』 蜈蚣姫『オホヽヽヽ、何でも良い。お前ではチツと事が分り兼ねるに依つて、貫州、武公、チヤンキー、モンキー等の大将株と相談して、最善の方法を講じて下さい。妾は是れから神殿へ参つて御祈念を致すから、周章てず騒がず、静に急いで準備をするがよからうぞや』 スマートボール『徐かに急げとは尚々以て不得要領だ。寝て走れ、目噛んで死ね、睾丸銜へて背伸びせいと云つた様な御註文ですなア』 チヤンキー『御チウモンも表門もあつたものかい。……モシモシ蜈蚣姫様、チヤンとチヤンキーが胸に御座いますれば、どうぞ御心配なくお帰り下さいませ』 蜈蚣姫『そんなら是れでお別れする。よきに取計らひなされ』 と握り拳を固め、蝦の様になつた腰を三つ四つ打ち乍ら、 蜈蚣姫『エーエ、人を使へば苦を使ふ』 と呟きつつ奥の間に姿を隠した。 スマートボール『訳も知らずにチヤンキーモンキーと雀の親方見たいに、チヤアチヤア吐すな。鶏は跣足だ。モンキー、馬は大きくてもフリマラだよ。アハヽヽヽ』 斯かる所へ威風堂々として四辺を払ひ、二三の従者を伴ひ、現れて来た清公、 清公『ヨー、スマートボール其他の役員さま、大変な事が出来致しました。蜈蚣姫様から一応お聞きでせうが、あなた方は其準備を早くして貰はねばなりませぬ』 スマートボール『ハイ先づ内を固めて外に向ふのが順当でせう。外部の敵は、駆逐する事は何でもありませぬが、先づ内部の敵から言向け和せ、其上の事に致しませうかい』 清公『コレだけよく治まつた地恩城に内紊のあらう道理がない。それや又如何した訳でそんな事を言ふのですか』 スマートボール『只今地恩城の俄宰相清公のブランジーに対し、挙国一致的強敵が現はれ居ますぞ』 清公『其敵と云ふのは誰ですか』 スマートボール『其敵は本能寺にあり。汝の敵は汝の心に潜む。先づ清公さまのブランジー気分を撤廃し、自由自在に開放なさらなくては、内部の敵も外部の魔軍も、如何ともする事が出来ますまい。先づ第一に私の方から条件を提出致しますから、御採用になるかならぬか知りませぬが、其上で吾々は決心を定めませう。……貫州、武公さま、サア是から君が特命全権公使だ。早く談判の口火をお切りなさい』 貫州『清公のブランジーさまに質問があります。お前さまは謙遜と云ふ事を知つて居ますか。三五教の教理は如何御解釈になつて居りますか。言心行一致の実をお示し下さらなくては、吾々は去就を決する事が出来ませぬ。斯う言へば表だつて議案を提出せなくても、一を聞いたら十を覚る鋭敏な頭脳の持主と、黄竜姫様が御信任遊ばした貴方だから、一伍一什お分りでせう』 清公『さう突然訳の分らぬ事を言はれても返答の仕方がありませぬ。吾々の施政方針にあなた方の御意に召さぬ欠点が有ると云ふのですか』 チヤンキー『有る有る、大有りだ。大あり大根で胴体ばつかり大きくても味もシヤシヤリも…ないじやくりだ。それだから誰も彼も清公さまには、キヨう交際は出けぬと此処に居る御連中が不平して居ましたぞや。チツと重しをかけて、糠味噌の中へ突込んでやらねば、良い味は出なからうと言つて居ました。重りが重い程圧迫が強くて漬物の味がよくなると云ふ事だから、吾々が尾張大根の重り石にならうと相談をして居つた最中だ。……ナア、モンキー、間違あるまい』 モンキー『何だか知らぬが、エライ人気だ。あつちにも、こつちにも、チヤンキーモンキーと清公さまの不信任問題が喧伝されて居る。先づ是から先へ解決を付けて貰ひませうかい。解決と云つても、股にキネ糞を挟んで立派な礼服を着し、座敷の正中に坐り込み、立ちもならず動きもならぬ様な、蛇の生殺しの様な解決では、此危急存亡の場合、駄目ですよ。流れ川に尻を洗つた様に、綺麗サツパリと、川の流れの宇豆姫さまを思ひ切つて、鶴公さまの女房となし、お前さまは鶴さまに代つて、裏の柿の木でブランジーとぶら下らうと、それや御自由だ。兎も角鶴公さまが宇豆姫にエツパツパを喰はされ、柿の木でブランコをやりかけた位だから、友人を思ふ真心があるならば、自分の愛を犠牲として、信任深き鶴さまにラバーを譲つてやりなさい。是が先決問題だ。グヅグヅして居ると、鶴さまの恋は九寸五分式だから、センケツ、リンリ問題が突発するかも知れない。……アーアあちら立てれば此方が立たず、両方立てれば宇豆姫さまが立たず、世の中は思ふ様に行かぬものだ。併し乍ら清公さま、大勇猛心を発揮し、一皮剥いたら、誰しも髑髏のみつともない肉体計りだから、宇豆姫さまの事をスツカリ思ひ切つて、国家の為にそれ丈の決断力を、今此場で発揮して貰ひませう』 清公、俯むいて『ムニヤムニヤムニヤ』 スマートボールは、 スマートボール『危急存亡の此場合、唯一言の御返答もなきは、不承諾と見えます。それならば其れで宜しい。吾々も共同一致的に不承諾だ。……コレ清公さま、大勢と一人には換へられませぬから、どうぞ早く城を明け渡し、陣引きをなされませ。其後は鶴公さまがブランジーとなつて、地恩城を総轄し、宇豆姫をクロンバーの位置に据ゑ、神業に参加すれば、万代不易の基礎が建つ。サア御返答を承はりませう』 清公『宇豆姫さまは承諾せられますかなア』 と確信あるものの如く冷笑を向ける。 スマートボール『皆さま、暫く此処に待つて居て下さい。これより宇豆姫さまの居間に参り、直接談判をやつて来ますから』 チヤンキー『そんなにグヅグヅして居つたら、友彦が軍勢を引連れやつて来ますぞ。蜈蚣姫様の仰せの如く此方より無抵抗主義の先鞭を付け、友彦の進軍をネルソン山麓に待受け、互に諒解を得なくてはなりますまい。宇豆姫さまより、清公さまの返答さへ聞けば解決の付く話だ。左様な廻りくどい事をして居る場合ではありますまい。……サア清公さま、あなたも立派な堂々たる七尺の男子だ。直に御返事を承はりませう。色男気分になつて、独断的に、私はブランジーだから、きつとクロンバーになるのは宇豆姫に定まつたりと、自惚心を起して威張つて居つても、先方の精神はまだ明瞭と分つては居りますまい。万一最後の一段になつて、宇豆姫さまにエツパツパを喰はされ、アフンとして男を下げるよりも、今の間に綺麗サツパリと断念なさつた方が、何程立派だか知れますまい。是れチヤンキーが心よりの貴方に対する真実なる忠告ですから、空吹く風と聞き流してはなりませぬぞ。男は断の一字が最も必要だ。サーチライス、ユーリンスユーリンスと頭を抱へて恥を掻き、蚤の様に頭ばかり突込んで尻を盛立て、恥を掻くよりも、今の間に思ひ切つたが、貴方に取つて最も賢明な行方だ。さうすれば永遠無窮に地恩城の右守神となりて、尊敬の的となり、神業に参加することが出来ませう。何程井モリの神ぢやと云つても、黒焼になる所まで妬いちや可けませぬよ』 と揶揄ひ半分に忠告する。ここへ何気なうやつて来た右守神鶴公、 鶴公『ヤア皆さま、大変な事が起こつた様ですなア。……モシ左守神の清公殿、如何なさいますか。御所存を承はりたい』 スマートボール初め一同は拍手し乍ら、 一同『鶴公さま、万歳、ウローウロー』 と叫ぶ。 鶴公『兎も角、友彦の寄せ手に向ひ、最善の方法を講ぜねばなりますまいが、清公殿、如何の御所存で御座いますか』 清公『先づ右守神の御意見を承はりませう』 鶴公『吾々は左守神の次の位置に位する者、何事も貴方の指揮命令に従ふのが本意で御座いますから、どうぞ御腹蔵なく仰せ付け下さいませ』 貫州『左守神は最前より吾々一同種々と申上げましたが、何の返答もなされませぬ。察する所、自ら総統権を棄却された事と察しまする。さうでなければ精神錯乱か、或は本城の危急存亡を対岸の火災視し、利己主義を立て通す体主霊従の御方と断定するより道はありませぬ。宇豆姫様さへ手に入らば、地恩城も三五教も、清公さまの眼中には無いと云ふ事を赤裸々に表白されて居ります。吾々は如何しても斯様な御人格の方の風下に立つて活動する事は到底出来ませぬ。さうだと云つて三五教の神の教は大切なり、其教の全権をお握り遊ばす黄竜姫様を御見棄て申す訳には参りませぬ。徹頭徹尾辞職などは出来ませぬから、先づ第一に吾々の代表的犠牲となつて、左守神様から処決して頂きませう』 清公は一同に向ひ、 清公『これより奥殿に入りて、黄竜姫様の御意見を伺ひ、其上に処決する事に致しませう。何は兎もあれ、出陣の用意急がせられよ』 と言ひ棄て、此場を逃ぐるが如く姿を隠した。 チヤンキー『猫に追はれた鼠の如く、左守神も到頭尾を捲いて奥の間へスゴスゴと隠れて了つた。何時まで待つて居たつて、出て来る気遣ひはあるまい。吾々は鶴公様に身も魂も捧げて、如何なる指揮命令にも服従する考へであります。皆さまの御精神は如何で御座いますか』 と一同の顔を看守つた。スマートボールを初め並居る面々口を揃へて、 一同『大賛成大賛成』 と叫ぶ。 鶴公『皆さまはそこまで不束な私に対し、同情を寄せて下され、実に感謝に堪へませぬ。が、併し乍ら清公さまは私の上役、左守神を差し措いて如何する事も出来ませぬ。左様な僣越の行動は神の赦し玉はざる処、先づ第一に清公様のお身の上の解決が付いた上、皆さまの思召に応じ、御用を承はりませう』 スマートボール『モシモシ右守神さま、貴方は吾々の上に立つ御方、下の者に対し御用を承はらうとは、チツと矛盾ぢやありませぬか』 鶴公『イエイエ、上に立つ者は決して下を使ふ役ではありませぬ。あなた方が吾々をお使ひなさらねばならぬのです。吾々の命令を聞いて活動をする様な事では、木偶も同然だ。何時までかかつても神業は発達致しませぬ。先繰り吾々の仕事を拵へて、斯うして呉れ、ああして呉れと御註文下さらねばならぬのです。今の世の中の人は上に立てば下の者を弟子か奴隷の様に使ふべきものだと誤解して居る。上に立つ者は要するに下から使はれるのだ。広大無辺の国祖大神でさへも、吾々の願事を聞いて下さるではありませぬか。所謂吾々は………斯く申せば少しく語弊が有りますけれども……神様は要するに御使ひ申して居る様なものだ。何卒御見捨てなく御用を仰せ付け下さいませ』 と道理を分けて説き諭す。スマートボールは黙然として、時々頭を上下に振り『ウンウン』と頷いて居たが、忽ち鶴公の前に両手をつき、 スマートボール『イヤ何事も諒解致しました。然らば是れから貴方を充分に酷使致しますから、其お積りで御願申しませう』 鶴公『何分宜しく御注意下さいまして、末永くお使ひの程をお願ひ申します』 一同感歎の声を洩らして居る。此処へ金、銀、鉄の三人現はれ来り、 金州『ヤア貴方は鶴公様、只今戸外にて承はればハツキリ訳は分りませぬが、危急存亡の今日の場合、清公様に対しストライキをなさると云ふ御相談らしい。宜しい、これから奥殿に参り、此由黄竜姫の御前に奏上致しますから、其お積りで御決心をなさるがよからう』 と捨台詞を残し、三人は足早に奥を目蒐けて進み入る。 (大正一一・七・七旧閏五・一三松村真澄録) |
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霊界物語 | 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) | 05 酒の滝壺 | 第五章酒の滝壺〔七五一〕 神の恵も開け行く世は太平の洋中に 堅磐常磐に浮びたる神の造りし冠島 黄金花咲く竜宮の一つの島と名を負ひし 日の出神の御遺跡醜女探女を祝姫[※初版や愛世版では「祝部」だが、校定版・八幡版では「祝姫」に直している。文脈上は「祝姫」が正しい]の 三五教の宣伝使風凪ぎ渡る波の上 辷り来りし面那芸の神の命の詣でたる 竜の宮居は今も尚御稜威輝くヒル港 屋根無し船に身を任せ力限りに漕ぎ来る 三五教の神司地恩の郷を後にして 魂を洗ひし清公がチヤンキーモンキー引連れて 進み来るぞ健げなれあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして心ねぢけし清公も 胸の帳を引きあげて輝き初めし厳御魂 瑞の御霊に神習ひ天津祝詞を宣り乍ら 御船を浜辺に繋ぎつつ身装も軽き蓑笠の 金剛杖に送られて山奥指して進み入る。 地恩城に一切の教権を掌握したる高山彦の後を襲ひ、左守となりすまし居たる清公は茲に地恩城のブランジーとして権威を振ひ、宇豆姫をクロンバーの位置に据ゑ、我勢力を扶植せむと種々の権謀術数を弄したるも、天は清公が邪曲に組せず、遂に左守を自ら辞し、スマートボールをしてブランジーの職を専らにせしむるの余儀なきに立到つたのも、全く我が利己主義の罪の致す処と自覚したる清公は、転迷開悟の梅花の香に心の眼も清まり、如何にもして神界の御用を身魂相応に勤め、名誉を恢復せばやと、チヤンキー、モンキー両人の賛同を得て黄竜姫以下の承認の上、タカの港を漕ぎ出でて屋根無し船に身を任せ、嘗て日の出神一行が上陸したるヒルの港に船を止め、竜宮の宮に詣でて前途の無事を祈り、飯依彦、久々神、久木神の遺跡を巡拝し進んでクシの滝の間近まで、茴香の薫に送られ乍ら夏風そよぐ急坂を喘ぎ喘ぎ宣伝歌を歌ひ漸くにして、風景最も佳き谷川の傍に立てる岩石の上に腰打掛け、旅の疲れを休めつつ話に耽る。 チヤンキー『アヽ何と良い景色だなア。谷間は斯う両方より山と山とに圧搾されて、非常に狭隘ではあるが、清き渓流が飛沫を飛ばし淙々と水音を立て、岩に噛みつき、佐久那太理に落ち行く光景は、到底地恩城附近にては見る事も出来ない絶景だ。我々も清公さまの失敗のお蔭で、天下を自由自在に宣伝する事を許され、何だか籠の鳥が宇宙に放たれた様な気分になつて来た。斯うなると人間も一度は失敗もし、慢心もやつて見なくては、本当の天地、人生の真実味が分らないものだ。……南無清公大明神、チヤンキー、モンキー両手を合せ有難く感謝致します。アハヽヽヽ』 とそろそろ地金を現はし、洒落気分になつて、駄句り出した。 清公『世の中は一切万事惟神の御経綸に左右されて居るものだ。俺が地恩城で大野心を起し、宇豆姫を得むとして終生拭ふ可らざる大恥を掻いたのも、今になつて省みれば、実に仁慈無限の大神様の御恵であつた。己に出づるものは己に帰る。悪い事をすればキツト悪い酬いが来るのは当然だ。然るに何ぞや。あれ丈け体主霊従的陰謀を組立て、其結果斯様な結構な宣伝使となり、此冠島に自由自在に開放的に宣伝せよとの許しを受けたのは、悪が自然に善の結果を齎した様なものだ。これと云ふのも全く神様が神直日大直日に見直し聞直し、活かして働かして下さる有難き思召し、逆境に立ちて初めて神の慈愛を知り、宇宙の真善美を味はふ事を得た。左守神となつて日夜心を痛め、下らぬ野心の鬼に駆使されて居るよりも、斯う身軽になつて、何の束縛もなく、自由自在に活動し得る機会を与へられたと云ふ事は、実に我々として無上の幸福だ。アヽ辱なし、勿体なし、惟神霊幸倍坐世』 と有難涙に声を曇らす。 チヤンキー『神も仏も鬼も蛇も悪魔も、残らず自分が招くのだ。決して外から襲来するものでない。盗賊の用意に戸締りをするよりも、心に盗賊を招かない様にするのが肝要だ。一切万事残らず自分の心から招くものだからなア』 モンキー『清公さま、此処はその昔、日の出神様が竜宮城の従神たりし、田依彦、時彦、芳彦と云ふ玉抜かれ神を引連れ、酒飲みの副守護神を追ひ出し給うた名高い酒の滝壺の附近ではありますまいか。竜宮様が天然に造つて置かれた酒壺が有ると云ふ事ですが、未だに相変らず其お酒は湧いて来るでせうか。一度拝見したいものですな』 清公『サア、必要があれば湧いて居るだらうが、……世の中に不必要な物は一つもないのだから、今日となりては何とも分らないなア』 斯く話し合ふ中、何処ともなく二三丁許り上流の谷間より、数多の老若男女の鬨の声が聞えて来た。 チヤンキー『ヤア、清公さま、不思議な声がするぢやありませぬか。一つ探検と出かけませうか』 清公『一寸待てよ、何事も慎重の態度を執らねば、軽々しく進んで取返しの付かぬ失敗を演じてはならないから、よくよく様子を窺つた上出かける事にしよう。それに就いては……モンキー、お前は斥候として声する方を探ね、そつと様子を考へ、報告をして呉れ。それまで我々両人は此巌の上に於て時期を待つ事とするから』 モンキー『畏まりました。どんな事が突発しても、此処を一寸も動いてはなりませぬぞ』 清公『ヨシ合点だ。サア木の茂みに身を隠しつつ、偵察隊の任務を尽して呉れ』 モンキー『承知致したぞよエヘン』 とモンキーは茴香の花の得も言はれぬ薫に包まれ乍ら、酒の滝壺の間近に忍び寄り、少時あつてモンキーは息をはづませ帰り来り、震ひ声になりて、 モンキー『キ……キ……清公さま、タ……タ……大変で御座います。モウ帰りませう。斯んな所を宣伝したつて、あちらに一軒、こちらに二軒と、バラバラに家が建つて居る……モウ斯んな所で労して効少き活動をするよりも、マ一遍ヒルの港へ引返し、少しく人家稠密な地点へ行かうぢやありませぬか』 清公『そんな話はどうでもよい。お前の探検して来た次第を逐一注進せぬかい』 モンキー『イヤ……モウ、思ひ出してもゾツとする。どうぞそればつかりは御量見下さい』 チヤンキー『何だか周章たモンキーの様子、日頃の臆病が突発したのだな。何時も口癖の様に仮令天地は覆るとも、誠の力は世を救ふ……と云つて居つたぢやないか。一体何んな事があつたのか。斥候が報告をせないと云ふ事があるものか。大蛇に狙はれた蛙の様に小さくなつて、何の態ぢや』 モンキー『ヤイヤイ、大蛇の事はモウ言うて呉れな。俺は体が縮み上る様だ』 清公『ハヽア、噂に聞いたクシの滝の、酒呑大蛇を見て来よつたな。ヨシ、其奴ア面白い。一つ生命懸けの活動をして、三五教に言向け和すか。さもなくば生け捕にして、地恩城へ持つて帰るか。兎も角それを聞けば、何だか胴がすわつた様な心持がするワイ』 チヤンキー、モンキーは蒼白な顔して、腰をワナワナ慄はせ乍ら、 両人『ワ…ワ…ワ…私はド…ド…どうやら胴が据り……ませぬワイ。如何しませう』 清公『貴様の腰は何だ。胴体無しの凧、いかにも卑怯未練な腰抜野郎だな。奴腰抜奴、モウ貴様は免除してやるから、勝手にヒルの港へ逃げ帰つたがよからうぞ』 チヤン、モン二人は、 チャンキー、モンキー『それは有難う御座います。併し送つて頂かぬと、途に又あんな奴がやつて来たら如何する事も出来ませぬワイ』 清公『チヤンキー、貴様は話を聞いた丈で震うてるぢやないか。モンキーの恐怖心に駆られた精神作用で、そんな幻覚を起したのだらう。貴様此処に待つて居れ。動いちや可けないぞ。俺が実地探検をやつて来るから……』 両人『ハイどうぞ、御無事に帰つて下さい。動けと仰有つても動けませぬワ。斯う足部に菎蒻の幽霊が憑依しては、如何ともする事は出来ぬ』 清公『アーア勇将の下に勇卒なし。俺もヤツパリ因縁が悪いと見える。斯んな奴を連れて来なかつた方が、何程よかつたか知れやしない。まさかの時に骨を拾うてやる面倒も要らず、エーエ良い穀潰しだな』 と二人を残し、木の茂みを分けて近寄つて見れば、数十人の真黒けの男、滝壺の前に堵列し一生懸命に何事か祈つて居る。白衣を着けた神主らしい男三人、大麻を前後左右に頻りに振廻し、片言混りの宣伝歌を歌ひ土人は其声に従れて、汗をタラタラ流し乍ら合唱して居る。よくよく見れば、周囲一丈も有らむと思はるる大蛇、赤い蛇腹をダンダラ幕の様に見せた儘、二三間許り鎌首を立て、頻りに毒気を吹いて居る所であつた。 昔は此滝に自然の清酒湧き出で、山の竜神時々来つて是れを呑みつつあつたが、日の出神が初めて此島に渡られし時より、次第々々に酒の湧出量を減じ、遂には一滴も出なくなつて了つた。傍の滝は淙々として昔に変らず流れ落ちて居る。此水上に棲息せる大蛇は、酒を呑まむと来て見れば、一滴もなきに業を煮やし、夜な夜な人間の子を呑み喰ふ事となつた。附近の郷人は此害を防がむ為に、飯依彦神の末裔たる飯依別に神宣を請はしめた。此時、大蛇の霊、憑依して云ふ…… 大蛇の霊『汝等、愛児の生命を取らるるを悲しと思はば、所在果物を以て酒を醸り、彼の滝壺に満して我に献ぜよ。さすれば汝等が愛児を呑む事を止めむ』 と云つた。それより郷人は数多の果物を集め酒を造り、此山坂を登り来つて、此滝壺に酒を満たす事を仕事の如くにして居た。大蛇は月に一回づつ現はれ来り、滝壺の酒を一滴も残らず呑み干す事が例となつて居た。 一年に一回位ならば如何なつと仕様もあるが、数十石を満す此滝壺に、毎月果物の酒を充さねばならぬと云ふ事は、余り多からぬ郷人に取つては、此上なき大苦痛であつた。一ケ月にても之を怠りし時は、大蛇忽ち来りて郷の児を呑み喰ひ、足らざる時は若き妙齢の女を片ツ端から呑んで了ふ。此惨状を如何にもして逃れむと郷人諜し合せ酒に茴香の粉末を混じ、香よき酒となし、此滝壺に充し置き、大蛇の来り呑むを、木蔭に潜んで息をこらして待つて居た。 大蛇は二三日前より此処に現はれ、数十石の酒を悠々として呑み干し、最早半分許り三日間に呑み終り、毒が廻つて悶え苦みつつあつた。そこへ飯依別、久木別、久々別の神司は、数多の郷人と共に、大蛇を中に四方を取囲み、一時も早く毒が大蛇の全身に廻り、亡びます様と祈願をこめつつあつたのである。大蛇は一丈許りの大口をパツと開いて、首をシヤクリ乍ら死物狂になつて、郷人を目蒐けて噛みつかむとする。飯依別外二人は、其度毎に大蛇の比礼と称する、大麻を打振り打振り大蛇を悩ませて居た。 されど巨大なる蛇体に茴香の毒位にては、人間が悪酔した時の様なもので、生命に関はる丈の効果はない。そこで酔が醒めたる上は、此大蛇再び来りて如何なる復讐をなすかも知れずと、心も心ならず、数多の郷人は寄つて集つて、大蛇退治の祈願を凝らしつつあつたのである。斬れども突けども鱗堅くして鋼鉄の如く、到底人間としては如何ともする事が出来なかつた。此村の土人にしてタリヤと云ふ力強の男、大鎌を携へ大蛇にワザと呑まれ、腹中にて鎌を以て臓腑を斬り破り、大蛇を殪さむと試み、二三日以前にワザと呑まれて了つたのだが、今に其男は如何なつたか、唯大蛇は少しく目の色を変へて苦しげに狂ふ計りである。されどさう急に死にさうにもなし、人間が酒の酔に少々酩酊して首を振つてる位な態度とよりか見えないので、飯依別始め一同の心配は容易でなかつた。唯此上は神の力に依りて大蛇を退治し貰はむと祈るより外に道がなかつたのである。 清公は木蔭に潜み、稍胸を躍らせ乍ら此態を熟視して居た。何時の間にか身体の各部に痳痺を感じ、一寸も自由の利かぬ様になつて居る事に気が付いた。大蛇は今度はノソリノソリと人垣を破つて広く這ひ出し、尾を頻りに振つて、四辺の樹木をしばき倒し暴れ狂ふ。郷人は尾の先に叩かれて死する者刻々に殖えて来る。大蛇は益々暴れ狂ふ。茴香の毒が全身に廻つたのと、蛇体に最も有毒なる鉄製鎌の悩みとに依つて、流石の大蛇も死物狂ひになり、苦しみ出したのである。清公は其尾に振られて二三丁許り中空に捲上げられ、チヤンキー、モンキーの腰を抜かして待つて居る岩石の傍にドサリと降つて来た。愈此処に三人の躄が揃つた訳だ。嗚呼、大蛇の身体を始め此三人の運命は如何なるであらうか。 (大正一一・七・八旧閏五・一四松村真澄録) |
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116 (1869) |
霊界物語 | 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) | 07 大蛇解脱 | 第七章大蛇解脱〔七五三〕 清公、チヤンキー、モンキーの三人は、酒の滝壺の前に宣伝歌を歌ひ乍ら進み寄り見れば、さしもの大蛇も毒酒に酔ひ、死物狂ひにノタ打廻つた揚句、大に疲労せしと見え、ガクリと首を曲げ口を噛み締め、殆ど半死半生の姿になつて居た。飯依彦の末裔飯依別を始め、久々別、久木別の三人の神司は、逃げ散りたる数多の郷人を呼び集め、各自に竹鎗を持ち、大蛇の身体を鱗と鱗の間より、力限りに突き刺し、殺さむとする真最中であつた。飯依別は大蛇の身体に向ひ、 飯依別『汝此郷を日夜に荒し、人民の膏血を搾り、あまつさへ我等が妻子を呑み喰ひ、郷人を悩ませし悪神の張本、天は何時迄も汝如き悪神を赦し給はず、忝なくも真澄姫命の御神徳に依りて、汝を弱らせ退治せむとの我等が計略、よくも斃死つたなア。サア是よりは汝の肉体の命を取り、此郷の惨害を除かむ。汝も定めて天地間の生物、神の御霊を受け居るならむ。必ず吾等が今日の仕打を恨み、霊魂中有に迷ひ、再び此郷に害を加ふ如きことあらば、吾等が祈念の神力にて其霊魂を責め悩め、根底の国へ追ひ遣らむほどに。……サア大蛇、霊肉共に寂滅為楽、必ず此世に心を残してはならぬぞ』 と大蛇に向つて誅戮の宣示をなし、久々別、久木別両人が指揮の下に、数多の郷人は声を揃へて竹鎗をしごき、鱗と鱗の間に、鎗の穂先を差込み『一二三』の掛声、一時に突込まむと身構へする折しも、宣伝歌の声と共に現はれたる清公以下の宣伝使、ツカツカと此場へ近寄り、 清公『我は地恩郷に現はれ給ふ竜宮島の女王、黄竜姫様の幕下、清公、チヤンキー、モンキーと申すもの、今木蔭に忍んで承はれば、飯依別以下二柱郷人の害を除かむとして毒酒の計略にて、此大蛇を誅戮せむとし給ふ其志、実に尤もなれども仮令大蛇と雖も天帝の分身分体なれば、易々殺すべからず。先づ第一に言霊を以て之に向ひ、如何にしても帰順せざる時は、各柄物を以て、直接行動を開始すべきである。先づ先づ待たせられよ』 と制止し大蛇の頭部にヒラリと飛び上り、盛んに宣伝歌を歌ひ始めた。 清公『神が表に現はれて善と悪とを立て別ける 此世を造りし神直日心も広き大直日 只何事も人の世は直日に見直し聞き直し 身の過ちは宣り直す三五教の神の道 仮令大蛇は死するとも大蛇の霊魂は永久に 此世に残り種々の悪しき曲行繰返し 恨みを晴らし世を乱し荒び猛るは目の当り 悪逆無道の曲神も善の道には敵し得ず 月毎日毎此郷に現はれ来り諸人を 悩まし苦む此大蛇元より悪き神ならず 遠き神世の其昔日の出神が現はれて 真澄の姫の国魂を大宮柱太知りて 斎き祀らせ玉ひつつ飯依彦命をば 神の司と定められ子々孫々に至る迄 祭政一致の大道を夢にも忘れちやならないと 教へ置かれし言の葉を郷人残らず打忘れ 利欲の淵に身を沈め勝利の山に憧憬て 体主霊従の行動を益々盛に続行し 天地の神の御怒りに触れて曲津を自ら 生み出したる郷の人今現はれし此大蛇 皆郷人の魂や心の色の反映に 現はれ出でたるものなるぞ心一つの持ち方で 神と現はれ鬼となり大蛇となるも各自の 言心行の不一致ゆ生み出したるものなるぞ これの大蛇を竹鎗の武器もて虐く殺すより 汝の心の真底に潜める大蛇を平らげて 誠一つの三五の教の光り真澄鏡 照らして見よや曲霊の醜の肉体も忽ちに 跡形も無く消え行きて鬼も大蛇も影もなく 誠の道の御恵みに靡き伏すらむ郷人よ かかる大蛇の現はれし其源を尋ぬれば 紛ふ方なき郷人の心の過ちある故ぞ 大蛇よ大蛇よ曲神よ汝に誠の魂あらば 我言霊を謹聴しうまらにつばらに汲み分けて 怪しき賤しき此姿行衛も更に白雲の 消えて跡なき天津空清く正しく澄み渡る 目出度き御代に逢ふならむあゝ惟神々々 御霊幸倍ましまして昔の神の伝へたる 三五教の御教を日日毎日繰返し 思ひ出して神界の御用に立てよ郷人よ 神の守らす世の中はいかで悪魔の蔓こらむ 悪魔は心に潜むなり一日も早く大神の 厳の言霊経となし身の行ひを緯として 天と地との其中に人と生れし功績を 誠一つに立て直し正しき神となり変り 五六七の御代を造れかしキリストメシヤの再臨も 五六七出生の暁も甘露台の瑞祥も 蓮華台上の御神楽も神国魂其ものの いづれ変らぬ一つ物狭き心を振り捨てて 三五教の神の道思ひ浮べて行へよ あゝ惟神々々御霊幸倍ましませよ』 と宣り終るや、今迄長大なる姿を現はしたる大蛇も、次第々々に縮小し、遂には小さき蛇となりて、清公が足許を嬉し気に這ひ廻る。清公は尚も天津祝詞を奏上し此蛇に向つて鎮魂を修し、 清公『汝再び此郷に現はれ、かかる悪逆無道を繰返す勿れ。又郷人も今迄の心を根底より立直し、日の出神の教へ置かれし三五教を信じ、真澄姫命の神霊に拝謝せば汝等が心中に潜める鬼、大蛇は忽ち姿を隠して、煙となりて消え失せむ』 と宣べ終るや、飯依別、久木別、久々別の神司を始め郷人一同は、清公が前に平伏し、今迄の不信仰の罪を悔い、再び大神の珍の御子とならむことを祈る。清公は、 清公『地恩郷に三五教の梅子姫、黄竜姫の現はれ給ひて神徳四方に輝きあれば、此郷の害悪を洗ひ清められし謝恩の為めに、打揃ひ参拝す可し』 と命ずれば、飯依別を始め一同は、一も二もなく此説に服し、モンキーを案内者として地恩郷に参拝することとなつた。 幾十の船を海面に浮べてヒルの港を漕ぎ出した。船中は神徳の話で持切りながら、清公一同が乗り来たりし船をも従へて、タカの港へ上陸し、参詣する事となつた。此時神命に依つて清公の乗り来りし船は、元の所に帰され、其持主を求めて色々とヒルの郷の珍しき物を与へ、厚く謝辞を述べた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・七・八旧閏五・一四谷村真友録) |
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霊界物語 | 25_子_豪州物語2(地恩城の黄竜姫) | 余白歌 | 余白歌 惟神道の光に照らされて地獄だましひも天国に進めり〈序文(三版)〉 隔てなき神の教も人々の心の隔てに変り行くなり〈第1章(再版)〉 四方の国みな同胞と宣り給ふ聖の君は神にましける〈第1章(再版)〉 何時までも不二の高嶺に積む雪の清き心を主に捧げむ〈第4章(初版)〉 水底まで澄み渡りたる玉水の池に今宵の月は宿れり〈第4章(初版)〉 言霊の神の誠の剣もて言向和はせ醜の大蛇を〈第5章(三版)〉 真心の征矢に刃向ふ敵はなし愛と善との弓張の月〈第7章(三版)〉 五十鈴川流れも清き言霊は我ひのもとの稜威なりけり〈第8章(初版)〉 撞賢木伊都の御魂の大神は綾の高天に現れましにけり〈第8章(初版)〉 たた並はる青垣山に包まれし綾の高天は神の御舎〈第8章(初版)〉 三ツ魂五ツの魂の経綸にたちまち地上は天国と化しぬ〈第10章(三版)〉 へだてなき神の御稜威に生ひながら隔てのありと思ふ愚さ〈第12章(初版)〉 悪しとは思ふな吾に仇なすは吾を錬ふる神の慈悲なり〈第12章(初版)〉 真直なる心はやがて世に出づるまことの人の神徳なりけり〈第12章(初版)〉 照妙の綾部の里に錦織る人は真の神の御柱〈第13章(初版)〉 弓張りの月を頭にいただきて高熊山にわれ登りけり〈第13章(初版)〉 何一つ神の造らぬ物はなしこの大恩を夢な忘れそ〈第16章(再版)〉 志神の御国にあるものは必ず上らむ天国の園に〈第16章(再版)〉 厳御霊天津神国に上りまして下界の闇を照らさせ給へる〈第16章(再版)〉 根の国は地底にあらず偽と悪と醜の集まる都会の真中〈第17章(再版)〉 厭離穢土などと思ふな現世は愛善の神守る楽園〈第17章(再版)〉 親しかりし人の訪ひ来し嬉しさはわが身の地位を忘れて出迎ふ〈第18章(三版)〉 愛善の道に叶ひし身魂こそ天地の神の心に叶へり〈第18章(三版)〉 永久の生命の道をさとせども世の大方は亡びの道辿る〈第19章(三版)〉 今の世にわが大道の無かりせば天地は鬼畜の住処となるべし〈巻末(三版)〉 世を教へ人をあはれむ心ほど苦しきものはあらじと思ふ〈巻末(三版)〉 世の中の一切万事の出来事は神のよさしの経綸と知らずや〈巻末(三版)〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました] |
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霊界物語 | 26_丑_麻邇宝珠が錦の宮に奉納 | 11 言の波 | 第一一章言の波〔七七六〕 秋彦は漸く聖地に船の近付きしに元気益々旺盛となり、副守護神の発動気分を発揮し歌ひ始めた。 秋彦『四尾の山が見えて来た和知の流れは永久に 清き教を白瀬川生田の里も早越えて 何の便りも音無瀬の流れも清き由良の川 由良の港に名も高き秋山彦や紅葉姫 鹿と呼ばれし秋彦が言依別に従ひて 麻邇の宝珠を迎へむと流れを下り来て見れば 思ひ掛なき瑞御霊八洲の河原に誓約して 清明無垢の御心を現はし給ひし救世主 神素盞嗚大神の聖顔殊に麗しく 慈愛の涙満面に湛へいませる崇高さよ 四尾の山に奥深く此世を忍び給ひつつ 神世をここに待ち給ふ国武彦の御身魂 煙の如く現はれて紅葉かがやく秋山の 館に隠れ給ひつつ遠き昔の初より 黄金の島の秘密郷諏訪の湖水の底深く かくれて神世を待ち給ふ玉依姫の厳御魂 麻邇の宝珠は恙なく八咫烏に送られて 天津御空を潔く秀妻の国の中心地 外の囲ひと聞えたる由良の港に鳩のごと 降り給ひて神の世の礎固くつき給ふ あゝ惟神々々御霊の幸を蒙りて 流れも清き和知川に汚れし身魂を洗ひつつ 前代未聞の神業に参加なしたる尊さよ 思ひまはせば其昔兄の駒彦諸共に 紫姫に従ひて花の都を後になし 豊国姫の常久に鎮まりいます比沼真奈井 瑞の宝座に詣でむと主従三人山を越え 草を分けつつ進み行く普甲峠の手前まで 主従三人進む折バラモン教に仕へたる 三嶽の山の守護神名も恐ろしき鬼鷹や 情容赦も荒鷹の曲津の神に誘はれ 紫姫と諸共に醜の岩窟に捕へられ 進退ここに谷まりて前途を煩ふ折柄に 三五教の宣伝使悦子の姫を始めとし 音彦、加米彦両人が岩窟の中に駆入りて 神の化身の丹州と息を合せて救ひ出し 茲に三人は三五の心の岩戸をさらさらと 開き給ひし尊さよ三五教の人々と 三嶽の山の峰伝ひ蜈蚣の姫の籠りたる 鬼ケ城へと立向ひ言霊戦を開始して バラモン教の司等を雲の彼方に追ひ散らし それより聖地に駆向ひ神の大道を伝へむと 高城山の松姫が館をさして進み行く 堪へ忍びの花咲きて神の御目に叶ひしか 名も秋彦と賜はりていよいよ尊き宣伝使 西や東や北南神の御教を伝へつつ 稚姫君大神を祀りし生田の神館 国依別や駒彦と三つの御霊の御教を 道を求むる人々に明し伝ふる折もあれ 玉を索めて南洋の竜宮島まで彷徨ひし 高姫さまの一行が訪問されて国さまや 駒彦、秋彦三人は又も五月蠅い玉詮議 さつと裁いて近江路の竹生の島に宝玉は 社殿の下に奥深く隠されありと出放題 其虚言を真に受けて高姫さまを始めとし 高山彦や黒姫は時を移さず進み行く あゝ惟神々々国依別や秋彦が 心にもなき詐りを宣り伝へたる曲業を 直日に見直し聞直し是非なきことと宣り直し 赦させ給へ三五の道を守らす大御神 埴安彦や埴安姫の貴の命の御前に 慎み敬ひ詫びまつるあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 と歌ひ終つた。 歓呼声裡に玉の御船は漸くにして、吉美の浜辺の南岸に安着した。 言依別命を先頭に、五十子姫、梅子姫、初稚姫、玉能姫、玉治別や黄竜姫、蜈蚣姫と順序を正し、錦の宮の八尋殿より迎へ来れる数多の信徒に神輿を舁がせ、列を正してしづしづと、微妙の音楽に前後を守られつつ、粛々として錦の宮に帰り行く。 腰の曲つた夏彦は、嬉しさの余り足も地に着かず、千鳥の如く右左、大道狭しと手を振り首を揺りつつ祝ひの歌を高らかに口ずさみながら帰り行く。 夏彦『あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 天地を清むる三五の神の教の御光は 四方に輝く時来り三つの宝珠を始めとし 今また五つの麻邇の玉経と緯との御仕組の 錦の機を織りませる真の神を斎りたる 錦の宮に更めて鎮まりますこそ尊けれ 心も赤き秋山彦の神の命の真心は 照り輝きて紅葉姫大和心の厳御霊 皇大神は詳細に夫婦が心をみそなはし 空前絶後の神業を依さし給ひて永久に 誉を四方に伝へむと神素盞嗚大御神 国武彦の厳御霊再び館に現はれて 三五の月の大御教を堅磐常磐に固めまし 神の大道に五十子姫教の花は香ばしく 一度に開く梅子姫花の莟の初稚の 姫の命や玉能姫玉の光はいやちこに 玉治別と現れまして神の御稜威もテールス姫の 神の司や黄竜姫蜈蚣の姫や友彦の 鼻の先まで紅の赤き心の宮仕へ 暗夜を明石の久助が海洋万里の波を越え 妻のお民と諸共に空前絶後の神業に 仕へまつりし健気さよ花さく春も早過ぎて あつき心の夏彦が今日の生日の足日をば 喜び祝ひ奉り千代も八千代も三五の 神の教の礎はいや固らかに揺ぎなく 茂り栄ゆる八桑枝の日に夜に開きのぶるごと 進ませ給へ惟神神の御前に慎みて 今日の喜び祝ぎまつるあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 と歌ひ了つた。 常彦は又夏彦の歌に促されて怪しき口調を以てうなり出した。 常彦『ウラナイ教の黒姫に愛想をつかして三五の 誠の道に救はれし沈香も焚かぬ屁も放らぬ 教も知らぬ常彦が錦の宮の側近く 朝な夕なに仕へつつ唯々諾々と日を送り 三五教の隆盛を指折り数へ松の世の 来るを遅しと伺へば三つの御霊の如意宝珠 綾の聖地に納まりて教の光日に月に 四方に輝く目出度さよ慶びを積み暉きを 重ねて広き八尋殿九つ花の咲き匂ふ 十の美世廻り来て思ひもよらぬ竜宮の 五つの御霊の麻邇宝珠初稚姫や玉治別の 神の使等一行の清き身魂の働きに 諏訪の湖空高く神の使に送られて 雲を圧して悠々と輝き渡り帰ります 今日の生日の足日こそ五六七神政成就して 天国浄土も目のあたり出現したる思ひなり あゝ諸人よ諸人よ天津神等国津神 百の司の神等の御前に赤き心もて 慎み感謝し奉れ先に現れます三つ御玉 神の仕組を畏みて隠させ給ふ言依別の 瑞の命の御指図仕へまつりし玉能姫 初稚姫の御前を寿ぎ奉る信徒の 沢ある中に高姫や高山彦や黒姫が 妬みの焔消えやらず心焦ちて西東 南の洋の果てまでもあてども知らぬ玉探し 出でます後に竜宮の実にも尊き麻邇宝珠 現はれ給ひて言依別の神の司の御許に 納まり給ふと聞くならば高姫如何に村肝の 心なやます事ならむ今から思ひやられける あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 三五教の上下は神に心を任せつつ 睦び親しみ末永く歓ぎて伊都の大前に 心平に安らかに心の空の雲霧を 尊き御水火に吹き払ひ堅磐常磐の礎を 築かせ給へ惟神神の御前に願ぎ奉る』 佐田彦は又もや歌ひ出した。 佐田彦『○○山の頂上に○○○に従ひて 空前絶後の神業に仕へ奉りし佐田彦は 初稚姫や玉能姫危き生命を救はむと 音高々とおちかかる○○滝の麓にて バラモン教の神司蜈蚣の姫と格闘し 初稚姫や玉能姫二人の神使を救ひつつ 波留彦諸共○○の又もや○に立帰り ○○○の御前に三つの御玉を○○し ここにいよいよ谷丸を道の先頭の佐田彦と 宣り直されて滝公は夏の初と言ひながら 名も波留彦と与へられ初稚姫や玉能姫 一行四人は慎みて此の世彼の世の○の海 波に浮べる○○の島に小舟を漕ぎつけて ○○○を○○し神の厳しき戒めに 折角来るは来たものの○○○の隠し場所 知らずに再び漕ぎ帰るさはさりながら○○の ○○したる○○は確かにここと明らめて 知つては居れど皇神のいとも厳しき戒めに 三十万年未来まで○○○にして置かう 高姫さまや黒姫が心を焦ちて遠近と 三つの宝珠の在処をば夜叉の如くに駆巡り 当所も知らぬ玉探しお気の毒ぢやと知つた故 いろいろ様々理を分けて申上ぐれど高姫は 日の出神を楯にとり続いて黒姫竜宮の 乙姫さまを標榜し三つの宝珠はどうしても 系統の身魂が預らにや完全無欠の松の世の 五六七神政は成就せぬ佐田彦言はぬと申すなら 言はでも宜しい高姫が日の出神の神力で 探して見せうと雄猛びし万里の波濤を乗越えて どこどこまでも探し行く心の中の可憐らしさ 玉の在処は○○と知らして安心させたいは 山々なれど○○の教はどうも反かれぬ あゝ惟神々々又もや神の御仕組で 高姫さまの居らぬ間に竜宮島の麻邇宝珠 綾の高天に納まりて梅子の姫を初とし 初稚姫や玉能姫再び尊き神業に 仕へませしと聞くならば日の出神も竜宮の 乙姫さまも肝ぬかれアフンとするに違ひない 夜食にはづれた梟鳥むつかし顔を目のあたり 今見るやうに思はれてお気の毒なる次第なり 今に高姫帰りなば初稚姫や玉能姫 向ふにまはして一戦おつ始まるに違ない 平和克復一時も聖地の空に来て欲しい 三つの宝珠や五つ宝珠ほしうて探す高姫の 心はいつか玉脱けのラムネの様な気ぬけ顔 味もしやしやりも無きのみか誰が呑んでも水臭い うすい憂目にあはしたと教主の襟髪引掴み 金切り声を搾り出し一悶錯をなさるだろ 佐田彦それが気にかかり一夜さへも安々と 眠りに就いた事はない三つの御霊に比ぶれば 天地霄壤に違ひある竜宮島の麻邇の玉 一つ位は高姫に手柄を分けてやつたなら 無事に解決つくだらう言依別神さまも お年が若いで気が利かぬ私が言依別ならば 今度は高姫、黒姫に一つ手柄を指してやる さうすりや高姫、黒姫も手の舞ひ足の踏む所 知らずに顔の紐をときお多福面になるだらう どうしてあれ程因縁が悪い方へとまはるのか これを思へば高姫の執着心の雲晴れず 自ら暗路に迷ひこみ大切の大切の神業に 外れて行くに違ない心一つの持様で 善の御用を命ぜられ悪の御用も引受ける 善悪正邪の二道に迷ひ切つたる三人連れ 三つの御玉は是非なくも因縁づくぢやと諦めて 思ひ切つたにしたとこで麻邇の宝珠のかくされし 竜宮の島に遥々と渡りて長らく住みながら 玉の在処を探らずに帰り来れる其後で 五つの玉の現はれし皮肉な神の経綸に 定めて舌を巻くだらう思へば思へば可憐らしい どうして是が事もなく高姫さまが聞いたなら 心の底から勇むだろ今から思ひやられます あゝ惟神々々神が表に現れまして 言依別や高姫の二つ柱が睨み合ひ どうぞ和めて下さんせ三五教の佐田彦が 真心こめて願ぎまつる厳の御霊の大御神 瑞の御霊の大御神あゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 滝公の波留彦は佐田彦の歌に引出され、始めて言霊の口を切つた。 波留彦『魔窟ケ原に現れしウラナイ教の黒姫が 幕下となつて日に夜に口汚くも使はれし 体主霊従の滝公も普甲峠の梅公が 故智に倣つて船岡の山の麓の森林に お節の後を追ひまくり一寸芝居を打つてみた 悪い時には悪いもの紫姫の一行が 暗の中より現はれて折角仕組んだ此芝居 蛇尾にされたる其揚句板公さまと諸共に 暗の谷間へ蹴落され腰をしたたか打ちなやめ やうやう其処を這ひあがり帰つて見れば黒姫の 大い目玉に睨まれて居た堪らねば板公と 二人は尻に帆をかけて漸う其場を抜け出し どこへ行つてもふられ蛸骨なし男と蔑すまれ 吸ひつく術もなくばかりお尻を喰へ観音の 山の峠に佇みて此世を果敢なむ折柄に 三五教の常彦が情のこもつた握飯 押戴いて蘇生りいよいよ心をため直し 神の恵に救はれて錦の宮の門掃除 塵や芥を掃きちぎり心の奥の奥庭を 清めて時を待ち居れば尊き神の御恵は 電の如身に下り言依別の神司 近く吾をば招きつつ再度山の……こら違うた 再びとなき神業を依さし給ひし嬉しさよ 杢助さまの愛娘初稚姫を始めとし 暗に紛れて縛りたるお節の方の玉能姫 因縁者の寄合ひで○○山の○○に 五人の男女は巡り会ひ黄金の玉は○○の 峰に○○かくしまし金剛不壊の如意宝珠 紫色の御宝初稚姫や玉能姫 滝公さまは波留彦と名を賜はりて谷丸の 佐田彦さまと諸共に帯を二つに引裂いて 俄に狂ふ玉能姫髪ふり乱しどんどんと 二つの玉を肩にかけ○○山の山頂を 一目散に駆出し谷を飛び越え山伝ひ 波打際に立並ぶ堅磐常磐の松林 蜈蚣の姫の手下等が目を眩ませて訳もなく 四人は無事に通りぬけ胸の動悸も高砂の オツト違うた高まりて息もせきせき又走る ○○浜に辿り着き一艘の船に二百両 初稚姫の御手より渡せば船頭は仰天し 忽ち家に駆入りて中より戸口を押へつつ 違約させじと力み居る頃しも波は高まりて 船を出すべき由もなく○月五日の月低う 波は愈高くなり大海原に永久に 浮びて立てる○の島神の恵に易々と 渡り終せて初稚姫や玉能の姫の二人連れ 二つの玉を守りつつ○○山の絶頂に 堅磐常磐に隠し置き千代の印と○○を 植ゑて帰りし勇ましさ吾等は○まで送れども ○○○は分らない○○○の海上を 夜を日に継いで漕ぎ帰る時間の程は分らねど どうやら四十(始終)一日か再度山の…又違うた 又と再び手に入らぬ此御宝を恙なく 隠しまつりし神業は空前絶後の大手柄 あゝ惟神々々御霊幸はへましまして 悪に溺れし滝公も神の光に照らされて 転迷開悟の花咲かせ名も波留彦と宣り直し 今は聖地に名も高き神の使の宣伝使 深き恵を尊みて遥に感謝し奉る 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも三五教の御宝 三つの御玉の宝をば探さにやおかぬと高姫が 心の駒に鞭ちて岩の根木の根踏みさくみ 疲れ果てたる膝栗毛やがて高姫一行は 一先づ聖地に帰るだろアヽ其時は其時は 又も五つの麻邇宝珠心に好かぬ玉能姫 初稚姫や玉治別の神の司が竜宮の 玉依姫の御手づから麻邇の宝珠を受取りて 帰りし後と聞くならばさぞや御心揉めるだろ 国依別や秋彦の早速の頓智再度の 山に坐します大天狗小天狗までが現はれて 近江の国の竹生島玉無し場所を知らしたる 其天罰は目のあたり高姫さまが帰りなば 上を下へと喧しく又々もめる事だらう 今から思ひやられますあゝ惟神々々 御霊幸はへましまして今度計りは高姫や 黒姫さまの一行に何とか一つ花持たせ 執着心の雲霧を払ひ清めて村肝の 心の空に日月の澄み渡るごと爽かに 一切万事相済みて和気靄々と共々に 手を携へて三五の神の教の御光を 四方の国々島々に完全に委曲に布き教へ 五六七の神世の礎を立てさせ給へ惟神 尊き神の御前に慎み敬ひ願ぎ奉る』 と歌ひ了り、日頃の述懐を宣べ終りて拍手し、錦の宮の方に向つて暗祈黙祷するのであつた。 五個の神宝を乗せたる神輿は無事に聖地に到着し、言依別命を先頭に八尋殿に設けられたる聖壇に安置され、聖地の神司を始め信徒等は立錐の余地もなく集まり来りて、神威のいやちこなるに感謝の涙をふるひつつ、五六七神政の曙光を認めたる如き歓喜の声に充たされた。 九月九日の聖地の空は、金翼を一文字に伸べて、空中に翺翔する八咫烏の雄姿悠々として右に左に飛び交ひ、妙音菩薩の微妙の音楽は、三重の高殿の空高く響き渡つた。あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ。 (大正一一・七・一九旧閏五・二五松村真澄録) |
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119 (1904) |
霊界物語 | 26_丑_麻邇宝珠が錦の宮に奉納 | 余白歌 | 余白歌 世の中はいはゆる学者のみにして真言の物識り人は少なし〈目次(三版)〉 学者とは学ぶ者なり無学者は学ぶ用なき者の謂なり〈目次(三版)〉 学ばずも宇宙の真理は悉くわれはさとれり真言の力に〈目次(三版)〉 伊都能売の神とあらはれ瑞霊となりて万事をわれは説くなり〈序歌(三版)〉 言霊は総てのものの初めなり天地万有これより生まるる〈総説歌(三版)〉 大宇宙森羅万象悉く言霊の水火の幸より生まれし〈総説歌(三版)〉 言霊の光を知らず如何にして神の大道のひらかるべきやは〈総説歌(三版)〉 政治宗教教育美術悉く言霊知らずば全きを得じ〈第1章(三版)〉 たまさかに言霊の道説く人も一知半解物にはならず〈第1章(三版)〉 神と言ふは万物普遍の霊なり人は天地の経綸につかふ〈第3章(三版)〉 人にして神人合一の境にあらば無限絶対の力徳を発揮す〈第3章(三版)〉 言霊の幸はふ国の日の本に言霊知らぬ人ばかりなる〈第4章(三版)〉 深遠なる真理は到底今の世の言霊知らぬ人にはわからず〈第4章(三版)〉 移りゆく世の有様をまつぶさに吾はさとれり真心に〈第4章(三版)〉 言霊の真言の光と力より外に開かむ道なかりけり〈第5章(三版)〉 行き詰りゆき詰りたる世を開く力と光は言霊の幸なり〈第5章(三版)〉 千早振る神代からなる神国を汚さじものと心配りつ〈第6章(初版)〉 知る人もなき谷底の本宮に世の根の神ぞ現れましにける〈第6章(初版)〉 言霊は生ける神なり言霊を知らでこの世の治まるべしやは〈第6章(三版)〉 天津御神国津御神の御勲功に万のものは生き通すなり〈第7章(初版)〉 言霊の道の真実は千早振る神の御稜威の教なりけり〈第7章(初版)〉 ものみなの精神は神の賜ぞ尊き卑しき大き小さき〈第7章(初版)〉 我利我欲のみに心をくもらせて真言を知らぬ人のあはれさ〈第8章(三版)〉 神にして人なり人にして吾はまた神なりと自覚せるなり〈第9章(三版)〉 天地の真理を知らず神界の経綸をしらぬ常暗の世なり〈第12章(三版)〉 愛善の心は神に通ふなり神は愛なり善なるがゆゑ〈第13章(再版)〉 澄みきりし心の眼に天地の一切は吾にうつりてあるも〈第15章(三版)〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました] |
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120 (1907) |
霊界物語 | 27_寅_麻邇宝珠の紛失/琉球物語 | 総説歌 | 総説歌 顕幽神の三界を守らせ玉ふ国の祖 国治立大神が再びここに現れまして 五六七の神代を建て玉ふ空前絶後の御経綸 凡ゆる思想の悪風を根本的に改革し 天壤無窮の神国を堅きが上にも堅めまし 神の御裔の大君の稜威を宇内に拡充し 臣たり民たる大道を導き諭す大本を 我の心に照り合はし色々雑多と批評する 似而非忠臣のあらはれて誠の神の御教を 傷つけ破る忌々しさよ心次第に何事も 鏡にうつる人の身の如何で神意の解るべき 小心翼々しながらも広大無辺の神の道 批評の権威は何処にある頑迷固陋の邪神魂 君と臣との道明かき我霊の源泉の御神政 瑞の御霊の説き諭す教の旨が分らねば 真の忠臣義士でない自己の心を省みよ 何れも偽善の凝まりぞ人の事をば言ふよりも 第一自分を省みよ心恥かし事計り 神にお詫をせにやならぬ誠心誠意に立帰り ねぢけ心を除却して円満清朗日月の 輝き渡る神国魂海の内外に示しみよ 神の心も白波の邪の道の曲人が 神の憑りて作りたる奇しき霊界物語 お耳に触るも是非なけれ是も霊魂の因縁で 変性女子を先入的に誤解し切つた世迷言 この物語分らねば大本神諭の真解は いつになつても付きはせぬあゝ惟神々々 御霊幸はひましまして理智に堕したる迷信を 払ひ玉ひて実相の真如の光与へませ 世の悉は隈もなく口ある限り説き諭す 体主霊従の人々の御気に入らない事ばかり 言はねばならぬ我身魂皇大神も見そなはし 迷へる人の目を覚し我神界の奉仕をば 篤く守らせ給へかし。 大正十一年七月於竜宮館 |