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書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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霊界物語 | 01_子_霊界探検/玉の争奪戦 | 42 八尋殿の酒宴(二) | 第四二章八尋殿の酒宴の二〔四二〕 ここに竹熊、大虎彦は威丈高になり、高杉別、森鷹彦、鶴若、亀若、時彦を眼下に見下し、 『汝らは竜宮城の神司とはいへ、その実は有名無実にして、糞土神同様なり。玉なき者は、この席に列なる資格なし。ああ汚らはしや』 と塩をふり、臀部をまくり、あらゆる侮辱を加へた。五柱の従臣は、勘忍に勘忍を重ね、これも畢竟悪魔の世迷ひ言に過ぎずとして、つひには少しも耳をかさなかつた。 玉を差し出したる竜宮城の五柱の神司も、竹熊一派の者も、共に声を揃へて、高杉別以下の神司をさんざん罵倒した。酒宴はますます酣となつた。 この時、竹熊は左より大虎彦は右より、彼我の手を結びあはせ、円を描いて高杉別以下四柱の神司を中に取まき、悪声を放ちつつ踊り狂ひはじめた。 五柱の神司は、遁れ出づるに由なく、何時また吾が玉を奪はるるやも知れずと、非常に苦心した。されど竹熊の執拗なる計略も、この五柱の神司の玉のみは、どうしても奪ることはできなかつた。そこで更に第二次会に臨まむことを告げた。酔ひつぶれた彼我の者たちは、一も二もなく、手を拍つて賛成した。 要するに、玉を差し出したる五柱の神司は、知らず知らずのまに、全く竹熊の捕虜となつたのである。高杉別以下四柱の神司は、いかにして此の場を遁出さむかと苦心すれども、彼らはなかなか油断はしない。やむなく引きずられて、第二次会の宴席に臨むことになつた。 第二次の宴会は開かれた。ここは以前の席とは変つて、よほど大きな広間であつた。広間は上下の二座に別たれて、上座には八重畳が敷きつめられ、種々の珍宝が飾り立てられてある。席の中央には、得もいはれぬ美しき花瓶に、芳香馥郁たる珍らしき花樹が立てられてある。これに反して、下座には目もあてられぬやうな、汚い破れ畳が敷きつめてあつた。 各自席に着くや、竹熊は立つて一同に向ひ、 『この席は、玉を差し出したる心美しき者のみ集まる、神聖なる宴席である。玉を差し出さざる心汚き者は、下の席に下れよ』 と、おごそかに言ひ渡した。 そこで、一同は立つて、高杉別以下四柱の神司を下座に押しやつた。五柱の神司は、この言語道断なる虐待に慷慨悲憤の念に堪へなかつたが、深くこれを胸の中に秘めて、せきくる涙をぢつと押へてゐた。 上座の席には、海河山野の種々の珍らしき馳走が列べられ、一同は舌鼓を打つて或ひは食ひ、あるひは飲み、太平楽のあらむかぎりを尽してゐた。下座におかれた五柱の神司の前には、破れた汚き衣を纏へる年老いたる醜女数名が現はれて、膳部を持ち運んできた。その酒はと見れば牛馬の小便である。飯はと見れば虱ばかりがウヨウヨと動いてゐる。その他の馳走は蜈蚣、蛙、蜥蜴、蚯蚓などである。五柱の神司は、あまりのことに呆れかへつて、暫しは、ただ茫然と見詰めてゐるより外はなかつた。 その時、汚き老婆は、 『竹熊さまの御芳志である。この酒を飲まず、この飯を食ひたまはずば、竹熊さまに対して、礼を失するならむ、親交を温むるため是非々々、御遠慮なく、この珍味を腹一杯に召し上れ』 と、無理矢理に奨めておかない。上座よりは、酒に酔ひつぶれた者が集まりきたりて、手を取り、足を取り、無理無体に頭を押へ、口を捻ぢ開け、小便の酒を飲ませ虱の飯を口に押込み、その他いやらしい物を強て食はせてしまつた。 そこへ芳彦座を立ち酔顔朦朧として、高杉別以下の神司にむかひ、 『貴下らは竹熊さまの誠意を疑ひ、玉を秘して出さざるため、かかる侮辱と迫害を受くるものならむ。よし玉を出したりとて、決して奪はるるものにあらず、速やかにその玉を差し出し机上に飾りたて竜宮城の威勢を示し、もつて竹熊さまの心を柔げられよ』 と忠告した。 この時、高杉別は首を左右に振り声を励まし、 『吾はたとへ如何なる侮辱を受くるとも、いかなる迫害に遭ひ、生命を絶たるるとも万古末代、この玉は断じて離さじ』 と、キツパリ強く言ひはなつた。残りの四柱神司も同じく、「高杉別の意見に同意なり」と答へた。をりしも、金色の咫尺の烏数百千とも限りなく中空より、光を放つて現はれ、高杉別以下四神司を掴んで、竜宮城へ飛び帰つた。 つづいて数多の怪鳥は天空に舞ひ乱れ、砂磔の雨しきりに降りきたり、屋根の棟を打ち貫き、宴席に列べる芳彦、神彦、倉高、杉生彦、猿彦の頭上を砕き、その場に悶死せしめた。 アゝ貴重なる竜宮の黄金水の玉は、惜しい哉、七個まで竹熊の手に渡つてしまつたのである。 (大正一〇・一〇・二四旧九・二四桜井重雄録) |
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霊界物語 | 01_子_霊界探検/玉の争奪戦 | 44 緑毛の亀 | 第四四章緑毛の亀〔四四〕 亀若は緑の玉を生命にかけて死守してゐた。いかなる名誉欲も、物質欲も眼中におかず、ただこの玉のみを保護することに心魂を凝らしてゐた。しかるに亀若は八尋殿の酒宴のみぎり竹熊の奸計にかかり、毒虫を多く腹中に捻込まれたのが原因をなして、身体の健康を害し、病床に臥し全身黄緑色に変じ、つひに帰幽した。亀若の妻亀姫は、天地に慟哭し、足辺に腹這ひ頭辺に這ひまはり、涕泣日を久しうした。その悲しみ泣き叫ぶ声は風のまにまに四方にひびき、つひには悲風惨雨の絶間なきにいたつた。この間およそ百日百夜に及んだ。 この時ガリラヤの海より雲気立ち登り、妖雲を巻きおこして一種異様の動物現はれ、竜宮城近く進んできた。異様の動物は、たちまち美はしき神人と化した。そして亀姫の家に亀若の喪を弔うた。この者は其の名を高津彦といふ。亀姫は高津彦を見て大いに喜び、その手を取つて一間に導き、いろいろの酒肴を出して饗応し、かつ、 『貴下はわが最も愛する亀若ならずや』 と訝かり問ふた。高津彦は、 『われは亀若なり、決して死したるに非ず、毒の廻りし体を捨て、新に健全なる体を持ち、汝の前にきたりて偕老同穴の契を全くせむとすればなり』 と言葉たくみに物語つた。亀姫は高津彦の顔色といひ、容貌といひ、言葉の色といひ、その動作にいたるまで亀若に寸毫の差なきを見て、心底より深くこれを信ずるにいたつた。ここにふたりは水も洩さぬ仲のよき夫婦となつた。 亀姫は再生の思ひをなし、一旦長き別れと断念した不運の身に、夫のふたたび蘇生しきたつて鴛鴦の契を結ぶは如何なる宿世の果報ぞと、手の舞ひ足の踏むところを知らなかつた。 夫婦の仲は蜜のごとく漆のごとく親しかつたが、ふとしたことより風邪のために高津彦は重い病の床についた。今まで歓喜に満ちた亀姫の胸は、ふたたび曇らざるを得なかつた。手を替へ品を換へ看病に尽した。幾日たつても何の効も見えず、病はだんだん重るばかりである。このとき高津彦の友の高倉彦きたりて病床を見舞ひ、かつ医療の法をすすめた。百草を集め種々の医薬をすすめた。されど病は依然として重るばかりである。亀姫の胸は、実に熱鉄を当るごとくであつた。不思議にも高倉彦の容貌、身長、言語は、亀若に酷似してゐた。ここに亀姫は、その真偽に迷はざるを得なかつた。そこで亀姫は、かつ驚き、かつ怪しみ、 『貴下はいづれより来ませしや』 といぶかり問ふた。高倉彦は、 『われは竜宮城の神司にして、亀若のふるくよりの親しかりし美はしき友なり』 と答へた。そこで亀姫は、 『高倉彦の亀若に酷似したまふは如何なる理由ぞ』 と反問した。高倉彦は答へて、 『実際吾は亀若とは双生児である、されどわが父母は世間を憚り、出産とともに他に預けたのである。そして亀若と吾とは此の消息を少しも知らず、心の親友として幼少のころより交はつてゐた。然るにある事情より吾はこの事を感知せしが、今ここに病みたまふ亀若は、この真相を御存じないのである。われは骨肉の情に惹かれて、同胞の苦しみを見るに忍びず、いかにもしてこの病を恢復せしめ兄弟睦じく神業に奉仕せむと焦慮し、神務の余暇を得て、ここに病床を訪ねたのである』 とはつきり物語つたので、亀姫の疑ひは全く氷解した。 高倉彦は、亀姫の信頼ますます加はつてきた。一方亀若の病気はだんだん重るばかりである。そこで亀姫はふたたび、 『夫の病を救ふ妙術はなきや』 と面色憂ひを含んで高倉彦に相談をした。そのとき高倉彦は、実に当惑の面持にて、 『ああ気の毒』 と長歎息をなし、腕を組んで頭を垂れしばしは何の返答もなかつた。ややあつて思ひ出したやうに高倉彦は喜色を満面にたたへて、 『その方法たしかにあり』 と飛び立つやうな態度をしながら答へた。亀姫は顔色にはかに輝き、驚喜して、 『いかなる神法なりや聞かま欲し』 と高倉彦の返辞をもどかしがつて待つた。 高倉彦はわざと落着いて手を洗ひ口嗽ぎ、天に向つて永らくのあひだ合掌し、何事か神勅を請ふもののやうであつた。病床にある亀若はしきりに苦悶の声を発し、既に断末魔の容態である。亀姫の胸は矢も楯もたまらぬやうになつた。たとへ自分の生命は失ふとも最愛の夫、亀若の生命を救はねばおかぬといふ決心である。一方高倉彦の様子いかにと見れば悠々として天に祈り、いささかも急ぐ様子がない。高倉彦はおもむろに祈りを捧げた後、室内に這入つてきた。このとき亀姫は渇きたる者の水を求むるごとくに、高倉彦の教示や如何にと待ち詫びた。高倉彦はこの様子を見て心中に謀計のあたれるを打ち喜び、外知らぬ顔にて左も勿体らしく言葉をかまへていふ、 『当家には貴重なる緑色の玉が秘蔵されてある。この玉を取りだして月の夜に高台を設けてこれを奉安し、月の水をこの玉に凝集せしめ、その玉より滴る一滴の水を亀若に呑ましめなば、病癒えなむとの月読神の神勅なり』 と誠しやかに教示した。亀姫は天の佑けと喜び勇んで直ちに高台を造り、その玉を中央に安置した。その刹那一天たちまち掻き曇り、黒雲濛々として天地をつつみ、咫尺を弁ぜざるにいたつた。時しも雲中に黒竜現はれ、その玉を掴みて西方の天に姿をかくした。数日を経てこの玉は、竹熊の手に入つたのである。今まで夫と思ふてゐた偽の亀若は、にはかに大竜と変じた。また高倉彦はガリラヤの大なる竈に還元し、亀姫を後に残して雲をおこし姿をかくした。亀姫は地団駄踏んで侮しがり、精魂凝つて遂に緑毛の亀と変じ竜宮海に飛び入つたのである。亀は万年の齢を保つといふ。亀若は八尋殿の宴会において毒虫を食はせられ、それがために短命にして世を去つた。それから亀姫の霊より出でし亀は、衛生に注意して毒虫を食はず、長寿を保つことになつた。 (大正一〇・一〇・二五旧九・二五加藤明子録) |
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霊界物語 | 01_子_霊界探検/玉の争奪戦 | 46 一島の一松 | 第四六章一島の一松〔四六〕 ここに竹熊は武熊別と共に、あまたの者を集め、大祝宴を張つた。その理由は、十二個の宝玉はわが神智神策をもつて十個まで手に入れたり、余すところただ二個のみ。いかなる神力の強き神人なりとて、これを奪取するに何の苦心かあらむと、おのが智略に誇り、ここに一同を集め祝宴を張つてゐた。 時しも末席より鬼彦肩を揺りながら立ち現はれ、竹熊、武熊別の前に出で、 『今日は実に大慶至極の日なり。しかるによき事の続けばつづくものかな。ただ今竜宮城より高杉別、森鷹彦の二神司、二個の玉を持ち献上せむことを申込みたり。いかが取計らつてよかるべきや』 と述べた。酒宴の酒に酔ひて酔眼朦朧たる竹熊らは、願望成就の時節到来と欣喜雀躍し、ともかく二神司を引見せむことを承諾した。ややありて高杉別、森鷹彦は侍者の案内に伴れて、殿中深く竹熊の前に現はれ一礼をなし、且つおのおの玉を献上せむことを申込んだ。 竹熊は胸を躍らせた。注意深き武熊別は二神司にむかひ、 『この貴重なる竜宮城の神宝を何ゆゑ吾らに譲与せらるるや。その理由を聞かまほし』 と詰つた。二神司は喜色満面を粧ひながら、おもむろに答ふるやう、 『貴下等の神算鬼謀は吾らをして舌を巻かしむるに足る。既に十個の玉は貴下の手に入れり。われ二個の玉を以て貴下と争ふといへども、十対二の比例をもつて、何ぞよく貴下の軍に勝たむや。それよりも潔く吾らは此の玉を貴下に献じ、たがひに和親を結び、もつて天下泰平を祈らむのみ』 と、言葉涼しく答ふるのであつた。 竹熊は二個の玉を熟視して大いに驚き、その光沢に感激止まなかつた。このとき高杉別、森鷹彦は言葉を設けて曰く、 『この玉は十二個のうち特殊の神力あり、故に悪臭に触れ、悪風にあたらば霊力迸出して何の効用も為さじ。いづれの者にも拝観を許さず、ただちに函を作り十重二十重に之をつつみて奥殿深く奉安し、危機一髪の場合にこれを使用したまへ』 と述べた。竹熊も武熊別も二神の誠意を疑はず、ただちに言のごとく之を幾重にも函に包み、固く封じて奥殿深く蔵めたのである。 しかるにこの玉は真赤な偽玉であつた。注意深き二神司は竹熊の機先を制し、もつて真玉の奪取を免れたのである。その後高杉別、森鷹彦は竹熊の気にいりとなり、重く用ゐられた。しかして真正の玉は、森鷹彦は大八洲彦命に献り、高杉別は従臣の杉高に命じ、口に呑ましめて地中海に羅列せる嶋嶼に之を永遠に秘蔵し、杉高をこの島の守護神に任命した。一つ島に堅き岩窟を掘り、玉を深く蔵め、その上に標の松を植ゑておいた。これを一つ島の一つ松といふ。 これより二神司は竹熊の信任をえ、武熊別と列んで三羽烏と称せられ、帷幕に参ずるにいたつた。アゝ今後の高杉別、森鷹彦は如何なる行動に出づるであらうか。 (大正一〇・一〇・二五旧九・二五外山豊二録) |
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霊界物語 | 01_子_霊界探検/玉の争奪戦 | 余白歌 | 余白歌 大宇宙スメール山を笠にきて億兆無数の宇宙を踏まむ〈目次前〉 惟神スメール山を笠にきて無数の宇宙を踏破せむとす〈目次前〉 天の下隈なく誠の大道を教へ伝ふる瑞御魂かな〈目次前〉 神業をなすのが原の若草は踏まれにじられながら花咲く〈第2章〉 世を救ふ神の稜威もたかくまの露に潤ふ百の人々〈第2章〉 ありがたき御代にあふぎの末広く開け行く世をまちつつぞふる〈第2章〉 万有に恵みの露をまくばりて神の御国へすくふ真人〈第3章〉 一日の吾が玉の緒は世の人の幾十年の生命とぞ思ふ〈第3章〉 世の為に生れ来し身ぞ苦しけれひとり千座の置戸負ひつつ〈第6章〉 悪人を標準として造りたるお規定の道の狭苦しきかな〈第6章〉 人心神の心にかなひなばひとり開けむ蜂の室屋も〈第7章〉 世の為に尽す御魂をおしこむる醜のつかさの胸の暗さよ〈第7章〉 世を救ふ弥勒の神を押し込めて苦しみもだゆる盲神あはれ〈第8章〉 世を救ふメシヤの御魂と知らずして苦しめし果て世の様を見よ〈第9章〉 神の道歩む身ながら根の国の暗探り行く人ぞ誰なる〈第9章〉 吾にして信仰の花なかりせば身もたましひも潰えしならむ〈第10章〉 現し世に生るも神の御心ぞまかるも神の恵みとぞしれ〈第12章〉 よきことをなしてこの世を去る人の霊魂の幸ぞ羨ましけれ〈第13章〉 常暗の夜にもまがへる人心狐狸も舌や巻かなむ〈第14章〉 人鬼のいや蔓これる世の中は神の御声を聞くものもなし〈第14章〉 かくり世も現の世にも人々の霊魂ばかりは同じはたらき〈第16章〉 ささやけき心のまよひは忽ちに魂は根底の国に落ち行く〈第16章〉 言霊の幸はふ国に生れ来て祝詞を知らぬ人ぞおほかり〈第18章〉 神人を苦しめおける報ひにや常世の国の鼻息あらし〈第18章〉 焦熱の地獄に落ちし現身も神に復ればこころ涼しき〈第19章〉 迫害と苦痛は常と覚悟して世を教へゆく真人尊き〈第19章〉 世を救ふ弥勒の神の標章は○に十字の神定めなる〈第19章〉 約らなしと吾身を思ひ或る時は偉大しと思ふこともありけり〈第19章〉 吾無くば神の御国を如何にせんと胸いためけり夏の夕暮れ〈第19章〉 無雨に泣きまた暴風や洪水に苦しむ世人救へといのる〈第19章〉 世の中の知識を捨てて惟神胎蔵経を宣ぶる真人〈第20章〉 賢哲の疑問に答へ世の中のもつれをさばく天津神人〈第20章〉 日を追ふて神の経綸進みけりやがて天下に大渦捲かむ〈第20章〉 大国主神に習ひて国々に人生み行かむ経綸のため〈第21章〉 秋津島曲の砦を打ち破り渡りきたりぬ神の恵みに〈第21章〉 追々と火星は天地に近づきぬ心ゆるすな四方の国人〈第22章〉 訪ふ人の無きぞ幸多からむ神の御国に遊ぶ身なれば〈第23章〉 栄ゆべき神の御前に若返り若がへりつつ春を待ちませ〈第23章〉 村肝の心に神の国あらば夜半の山路も淋しからまじ〈第23章〉 水は火の御魂によりて動かされ火はまた水のちから得て燃ゆ〈第24章〉 可惜日を為す事も無く消す吾は天と地とに恐れつつ生くる〈第24章〉 甲子の春の寒さを思ひつつ万里の蒙古に渡り来し吾〈第24章〉 信徒の上に立つ人真心の固まりし見て吾は出で行きぬ〈第24章〉 訪ふ人も無きぞ苦しき炎天の一間にひそむ竜の佗しさ〈第24章〉 世の人に好かれ慕はれ亦人に誤解せらるる身こそ苦しき〈第25章〉 憂き事の如何に汝が身を包むとも伊吹払へよ希望の風に〈第25章〉 水晶の玉よ教の柱よと世に攻めらるる人ぞいとしき〈第25章〉 魔子彦が殺されむとする源は犯せしつみにヨルダンの川〈第26章〉 竹熊が神をあつめてかきまはすさるとび彦の歯がゆき参謀〈第26章〉 常暗の夜となり果てし竜宮もうしとら神の風に晴れつつ〈第27章〉 竹熊はエデンの城にこすみ姫足長彦のながもちもせず〈第27章〉 魔軍の矢叫びのこゑ鯨波の声松ふく風となりにけるかな〈第28章〉 世の中のすべての歎き身に負ひて生れますかと涙しにけり〈第29章〉 久方の天津御空の雲わけて轟き来たる天の磐船〈第30章〉 神力もいづの御魂の神宝稜威も高杉別のはたらき〈第30章〉 なつかしき御空の月を見るよしもなくなく過ごす此頃のわれ〈第33章〉 天地に貫徹したる真教を世に伝へ行く人の雄々しさ〈第34章〉 天地の正しき神はことごとく竜宮島にかくれたまへり〈第36章〉 地の上汚れ果てたる世の中にいかでか神の坐すべきかは〈第36章〉 まが神のしこのしこ草たちまちになびき伏しけり天津神風〈第36章〉 信天翁も神の御業に仕へてゆ黄金の鵄と改りける〈第36章〉 天津日の神の御魂をあし原の四恩の山にうつし国魂〈第38章〉[※初版では第37章p278に掲載されている] 山清く草木もきよく水きよく神また清き四恩神山〈第38章〉[※初版では第37章p278に掲載されている] 神の代のいはれを分くる稚日女の四恩の峰に分け入らせけり〈第39章〉[※初版では第37章p278に掲載されている] 獅子王の舞曲に御玉を奪はれし玉彦玉をとられけるかな〈第40章〉 坂姫の姿に魂を抜かれつつ身は烏羽玉の暗にさまよふ〈第40章〉 烏羽玉の黒き御玉をとられけり恋の暗路に迷ふ玉彦〈第40章〉 怒らずにうつむきをれば芳彦のうら紫の玉をぬかれつ〈第41章〉 神ならぬ神とうまれし神彦の負けぬ黄色の玉を虎彦〈第41章〉 心より赤き御玉も児の愛にひかれて玉をとられつる若〈第43章〉 邪しまの蔭だにも無き吾にまたいつまで憂きの雲かかるらむ〈第44章〉 時待ちしに甲斐だにもなく時彦のあては外れて玉は逃げ行く〈第45章〉 天地も一つに治れと一つ島一つ松根に玉を蔵めつ〈第46章〉 あらがねの土掘り返し⦿の種を蒔きて育つる貴き献労〈第46章〉 ウラル山黒竜江の曲神と化り下りたる鬼熊の神〈第48章〉 手も足もしばりつけられ鬼熊の鉄棒さへも間に合はぬかな〈第48章〉 鬼姫はバイカル湖水の鬼となり杵築姫とぞ生れかはりぬ〈第49章〉 売らる山買かる湖の邪神の祟り由々しく汚れけるかな〈第49章〉 天地の稜威も高き高熊の山の修行の物語する〈第50章〉 一二三四五つの巻の物語静心なく読むぞうたてき〈第50章〉 いのちにも代へて惜しけく思ふかな見果てぬ夢を覚ます松風〈巻末〉 朝日刺す夕日かがやく高熊の神の光を照らすこの書〈巻末〉 この書をおとぎ話と笑ふ人瑞の御魂の足もともみず〈巻末〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました] |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 総説 | 総説 神界における神々の御服装につき、大略を述べておく必要があらうと思ふ。一々神々の御服装に関して口述するのは大変に手間どるから、概括的に述ぶれば、国治立命のごとき高貴の神は、たいてい絹物にして、上衣は紫の無地で、下衣が純白で、中の衣服が紅の色の無地である。国大立命は青色の無地の上衣に、中衣は赤色、下衣は白色の無地。稚桜姫命は、上衣は水色に種々の美はしき模様があり、たいていは上中下とも松や梅の模様のついた十二単衣の御服装である。天使大八洲彦命、大足彦のごときは、上衣は黒色の無地に、中衣は赤色、下衣は白色の無地の絹の服である。その他の神将は位によつて、青、赤、緋、水色、白、黄、紺等、いづれも無地服で、絹、麻、木綿等に区別されてゐる。 冠もいろいろ形があつて纓の長短があり、八王八頭神以上の神々に用ゐられ、それ以下の神司は烏帽子を冠り、直衣、狩衣。婦神はたいてい明衣であつて、青、赤、黄、白、紫などの色を用ゐられ、袴も色々と五色に分れてゐる。また神将は闕腋に冠をつけ、残らず黒色の服である。神卒は一の字の笠を頭に戴き、裾を短くからげ、手首、足首には紫の紐をもつて結び、実に凛々しき姿をしてをらるるのである。委しく述ぶれば際限がないが、いま述べたのは国治立命が御隠退遊ばす以前の神々の御服装の大略である。 星移り、月換るにつれ、神界の御服装はおひおひ変化し来たり、現界の人々の礼装に酷似せる神服を纒はるる神司も沢山に現はれ、神使の最下たる八百万の金神天狗界にては、今日流行の種々の服装で活動さるるやうになつてをる。 また邪神界でもおのおの階級に応じて、大神と同一の服装を着用して化けてをるので、霊眼で見ても一見その正邪に迷ふことがある。 ただ至善の神々は、その御神体の包羅せる霊衣は非常に厚くして、かつ光沢強く眼を射るばかりなるに反し、邪神はその霊衣はなはだ薄くして、光沢なきをもつて正邪を判別するぐらゐである。しかるに八王大神とか、常世姫のごときは、正神界の神々のごとく、霊衣も比較的に厚く、また相当の光沢を有してをるので、一見してその判別に苦しむことがある。 また自分が幽界を探険した時にも、種々の色の服を着けてゐる精霊を目撃した。これは罪の軽重によつて、色が別れてゐるのである。しかし幽界にも亡者ばかりの霊魂がをるのではない。現界に立働いてゐる生きた人間の精霊も、やはり幽界に霊籍をおいてをるものがある。これらの人間は現界においても、幽界の苦痛が影響して、日夜悲惨な生活を続けてをるものである。これらの苦痛を免るる方法は、現体のある間に神を信仰し、善事を行ひ万民を助け、能ふかぎりの社会的奉仕を務めて、神の御恵を受け、その罪を洗ひ清めておかねばならぬ。 さて現界に生きてゐる人間の精霊を見ると、現人と同形の幽体を持つてゐるが、亡者の精霊に比べると、一見して生者と亡者の精霊の区別が、判然とついてくるものである。生者の幽体(精霊)は、円い霊衣を身体一面に被つてゐるが、亡者の幽体は頭部は山形に尖り、三角形の霊衣を纒うてをる。それも腰から上のみ霊衣を着し、腰以下には霊衣はない。幽霊には足がないと俗間にいふのも、この理に基づくものである。また徳高きものの精霊は、その霊衣きはめて厚く、大きく、光沢強くして人を射るごとく、かつ、よく人を統御する能力を持つてゐる。現代はかくの如き霊衣の立派な人間がすくないので、大人物といはるるものができない。現代の人間はおひおひと霊衣が薄くなり、光沢は放射することなく、あたかも邪神界の精霊の着てをる霊衣のごとく、少しの権威もないやうになつて破れてをる。大病人などを見ると、その霊衣は最も薄くなり、頭部の霊衣は、やや山形になりかけてをるのも、今まで沢山に見たことがある。いつも大病人を見舞ふたびに、その霊衣の厚薄と円角の程度によつて判断をくだすのであるが、百発百中である。なにほど名医が匙を投げた大病人でも、その霊衣を見て、厚くかつ光が存してをれば、その病人はかならず全快するのである。これに反して天下の名医や、博士が、生命は大丈夫だと断定した病人でも、その霊衣がやや三角形を呈したり、紙のごとく薄くなつてゐたら、その病人は必ず死んでしまふものである。 ゆゑに神徳ある人が鎮魂を拝授し、大神に謝罪し、天津祝詞の言霊を円満清朗に奏上したならば、たちまちその霊衣は厚さを増し、三角形は円形に立直り、死亡を免れるものである。かくして救はれたる人は、神の大恩を忘れたときにおいて、たちまち霊衣を神界より剥ぎとられ、ただちに幽界に送られるものである。 自分は数多の人に接してより、第一にこの霊衣の厚薄を調べてみるが、信仰の徳によつて漸次にその厚みを加へ、身体ますます強壮になつた人もあり、また神に反対したり、人の妨害をしたりなどして、天授の霊衣を薄くし、中には円相がやや山形に変化しつつある人も沢山実見した。自分はさういふ人にむかつて、色々と親切に信仰の道を説いた。されどそんな人にかぎつて神の道を疑ひ、かへつて親切に思つて忠告すると心をひがまし、逆にとつて大反対をするのが多いものである。これを思へばどうしても霊魂の因縁性来といふものは、如何ともすることが出来ないものとつくづく思ひます。 ○ 大国治立尊と申し上げるときは、大宇宙一切を御守護遊ばすときの御神名であり、単に国治立尊と申し上げるときは、大地球上の神霊界を守護さるるときの御神名である。自分の口述中に二種の名称があるのは、この神理に基づいたものである。 また神様が人間姿となつて御活動になつたその始は、国大立命、稚桜姫命が最初であり、稚桜姫命は日月の精を吸引し、国祖の神が気吹によつて生れたまひ、国大立命は月の精より生れ出でたまうた人間姿の神様である。それよりおひおひ神々の水火によりて生れたまひし神系と、また天足彦、胞場姫の人間の祖より生れいでたる人間との、二種に区別があり、神の直接の水火より生れたる直系の人間と、天足彦、胞場姫の系統より生れいでたる人間とは、その性質において大変な相違がある。そして神の直接の水火より生れ出たる人間は、その頭髪黒くして漆の如く、天足彦、胞場姫より生れたる人間の子孫は赤色の頭髪を有している。[※「そして神の直接の」から「頭髪を有して居る。」まで、校定版・八幡版では削除されている。]天足彦、胞場姫といへども、元は大神の直系より生れたのであれども、世の初発にあたり、神命に背きたるその体主霊従の罪によつて、人間に差別が自然にできたのである。 されども何れの人種も、今日は九分九厘まで、みな体主霊従、尊体卑心の身魂に堕落してゐるのであつて、今日のところ神界より見たまふときは、甲乙を判別なし難く、つひに人種平等の至当なるを叫ばるるに立いたつたのである。 ○ 盤古大神塩長彦は日の大神の直系にして、太陽界より降誕したる神人である。日の大神の伊邪那岐命の御油断によりて、手の俣より潜り出で、現今の支那の北方に降りたる温厚無比の正神である。 また大自在天神大国彦は、天王星より地上に降臨したる豪勇の神人である。いづれもみな善神界の尊き神人であつたが、地上に永住されて永き歳月を経過するにしたがひ、天足彦、胞場姫の天命に背反せる結果、体主霊従の妖気地上に充満し、つひにはその妖気邪霊の悪竜、悪狐、邪鬼のために、いつとなく憑依されたまひて、悪神の行動を自然に採りたまふこととなつた。それより地上の世界は混濁し、汚穢の気みなぎり、悪鬼羅刹の跋扈跳梁をたくましうする俗悪世界と化してしまつた。 八王大神常世彦は、盤古大神の水火より出生したる神にして、常世の国に霊魂を留め、常世姫は稚桜姫命の娘にして、八王大神の妃となり、八王大神の霊に感合し、つひには八王大神以上の悪辣なる手段を用ゐ、世界を我意のままに統轄せむとし、車輪の暴動を継続しつつ、その霊はなほ現代にいたるも常世の国にとどまつて、体主霊従的世界経綸の策を計画してをる。 ゆゑに常世姫の霊の憑依せる国の守護神は、今になほその意志を実行せむと企ててをる。八王大神常世彦には天足彦、胞場姫の霊より生れたる八頭八尾の大蛇が憑依してこれを守護し、常世姫には金毛九尾白面の悪狐憑依してこれを守護し、大自在天には、六面八臂の邪気憑依してこれを守護し、ここに艮の金神国治立命の神系と盤古大神の系統と、大自在天の系統とが、地上の霊界において三つ巴になつて大活劇を演ぜらるるといふ霊界の珍しき物語である。 自分はここまで口述したとき、何心なくかたはらに散乱せる大正日日新聞に眼をそそぐと、今日はあたかも大正十年陰暦十月十日午前十時であることに気がついた。霊界物語第二巻の口述ををはつた今日の吉日は、松雲閣において御三体の大神様を始めて新しき神床に鎮祭することとなつてゐた。これも何かの神界の御経綸の一端と思へば思へぬこともない。 ついでに第三巻には、盤古大神(塩長彦)、大自在天(大国彦)、艮能金神(国治立命)三神系の紛糾的経緯の大略を述べ、国祖の御隠退までの世界の状況、神々の驚天動地の大活動を略述する考へであります。読者諸氏の幸に御熟読あつて、それが霊界探求の一端ともならば、口述者の目的は達せらるる次第であります。 アゝ惟神霊幸倍坐世 大正十年旧十月十日午前十時十分 於松雲閣口述者識 (註)本巻において、国治立命、豊国姫命、国大立命、稚桜姫命、木花姫命とあるは、神界の命により仮称したものであります。しかし真の御神名は読んで見れば自然に判明することと思ひます。 |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 11 狸の土舟 | 第一一章狸の土舟〔六一〕 ここに高虎姫の偽名なる国照姫は、常世国に時めきわたる常世姫を動かして自分の目的を達せむとした。この常世姫は稚桜姫命の第三女にして、もつとも野心の強い神司であつた。国照姫は竜宮城の寵神言霊別命、言霊姫を排除し、みづから代つてその地位に立たむとしてゐたのである。ここに国照姫は偽の美山彦とともに常世国にいたり常世姫の意を迎へ、もつて竜宮城に帰還せしめむとした。しかるに彼らは、天使大八洲彦命、言霊別命にその大敵たることを悟られをるをもつて、自分の部下なる魔我彦、魔我姫とともに母神に会見し、その目的を達すべく常世姫を教唆した。 常世姫は久しぶりにて魔我彦、魔我姫をともなひ数多の神司に送られて無事に竜宮城に帰還せむと、黄金橋の袂にさしかかりしとき、神威にうたれて容易に橋を渡ることができなかつた。常世姫はやむをえず信書を認め烏の足に縛りつけ、黄金橋畔まで帰りきたりしことを稚桜姫命に奏上した。稚桜姫命は従臣に命じ、新しき黄金の船を出してこれを迎へしめられた。常世姫は何の障もなく竜宮城に到着し、種々の珍らしきものを八足の机代に盛足らはして、これを命に奉つた。命は久しぶりの親子の対面を非常によろこばれ海山の話に夜を徹し、常世姫は常世国の事情を詳しく述べ、珍らしき話に花が咲き、和気靄々として春陽の気分にみたされたのである。その翌日、ただちに数多の神司を集め歓迎の宴をはつた。神司は先を争ふて宴席に現はれ無事の対面を祝した。 さて常世姫は、稚桜姫命にむかひ、一度ヨルダン河に黄金の船を浮べ、神司とともに船遊びせむことを希望した。稚桜姫命は直ちにその請を容れ、諸神司に命じ、その準備に着手せしめられた。 御馳走にヨルダン河の舟遊び教の舟にヨルものは無し 今日のヨルダン河は河幅もあまり広からず、流れもまた清からず、濁りをおびをれど、神界にて見たるヨルダン河は水清く流れも緩やかにして、広きこと揚子江のやうである。これは神界におけるヨルダン河の光景である。黄金の船は幾艘となく準備された。上流には、かの金色燦然たる黄金の大橋が、太鼓を並べたやうにその影水に映り、実に荘厳を極めてをる。常世姫を主賓として周囲に数多の船をならべ、珍酒佳肴に酔ひて諸神司は交るがはる面白き歌舞音楽を奏し、実に賑はしき底抜け騒ぎの大散財であつた。 そこぬけのさわぎに舟の底いため この時、竜宮城の神司は大部分出遊し、猫も杓子もみな船遊びに耽つた。言霊別命は何となく心に不安を感じ、船遊びの列に加はらなかつた。その時稚桜姫命は色を作し、 『汝は常世姫の久しぶりに帰城せるを喜ばざる面持あり』 と不満の意を表はされた。折しも常世姫の使なりとて魔我彦は礼をつくし言霊別命を迎へにきた。言霊別命は否むに由なく斎代彦、斎代姫とともに船遊びの列に加はることとなつた。あまたの神司は命の河畔に現はれしを見て大いによろこび、手を拍つて喝采した。この時魔我彦は新しき黄金の船に搭乗を勧めた。命は虫が知らすか何となくこの船に乗ることを否む色があつた。ふたたび魔我彦はしきりに搭乗を勧めてやまぬが、他の船には神司満乗してすこしも空席がない。已むをえずしてこれに乗り中流に棹さしてすすんだ。魔我彦は常世姫の乗れる大船の側近く寄るとみるや、この船を捨てて常世姫の用船に飛び入つた。言霊別命を乗せた船は、表面堅固に見えてその実はもろき狸の土船であつた。土製の船に金箔を塗りたる偽船である。たちまち船は崩壊沈没した。言霊別命は水に溺れ深みに沈まむとして九死一生の態である。神司はアレヨアレヨと声を放つて叫ぶばかりである。この時斎代彦は水練に妙を得たるをもつて、からうじて岸に泳ぎついた。 斎代姫は身を犠牲として激浪の中に飛び入り、言霊別命の頭髪を握り、流れ渡りに此方の岸についた。ここに国照姫の謀計は全く破れた。 常世姫は船遊びををへ、諸神司と共に竜宮城に帰還し、 『斎代姫は夫の斎代彦に目もくれず、言霊別命を命をかけて救ひたる義侠と勇気は感ずるにあまりあれども、また一方より考ふる時は、まことに怪しき節あり』 と言霊姫および稚桜姫命に種々の言葉を設けて誣告した。 きりまくる舌の剣のおそろしさ これより言霊別命は稚桜姫命の大なる疑惑を受けた。されど妻神はこれを信じなかつた。それより稚桜姫命、常世姫と、言霊別命、言霊姫の間に面白からぬたかき垣が築かれた。 (大正一〇・一〇・二九旧九・二九加藤明子録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 12 醜女の活躍 | 第一二章醜女の活躍〔六二〕 常世姫は稚桜姫命の厚き信任を得、城内の諸神司を種々様々の方法をもつて吾に信頼せしめ、声望並ぶものなく、つひに竜宮城内の花と謳はるるにいたつた。ゆゑに常世姫の一言一行は諸神司を支配し、その威望と信徳は四方に喧伝さるることとなつた。 これに反し言霊別命、言霊姫、斎代彦、斎代姫の威信は、邪神の讒言のために今は全く地に墜ちてしまつた。常世姫は魔我彦、魔我姫に陰謀の真意を含め、ひそかに美山彦、国照姫に対して一切の秘密の打ち合せをなし、漸をもつて竜宮城の主たらむとし、画策これ日も足らぬ有様であつた。 常世姫のために最も妨害となるべき目の上の瘤は、言霊別命以下の神司である。ここに魔我彦と魔我姫は藤姫、八百姫の醜女をして、言霊別命を魔道におとしいれむとした。(醜女とは色情をもつて敵を堕落せしめむとする心の醜悪なる女性のことである) ある時、言霊別命は風邪に罹り、病床に呻吟してゐた。藤姫の醜女は甘言をもつて近く傍に侍し、看護に務めながら身に盛装を凝らし、命の心を動かさむとした。命は藤姫の醜女たることを夢にも知らず、病の床を立ち出で廁に入らむとせし時、藤姫は手をとつて命を支へつつ廁に送つた。命は廁より出で眩暈、危く地に倒れむとし、前後も知らず藤姫の肩にもたれかかつた。藤姫は甲だかき声をあげて救ひを求めた。一間にあつてこの様子を聞きゐたりし魔我彦は、その場に現はれ、 『言霊別命は藤姫を後ろより抱きしめたり。かならず汚き心あらむ』 とただちに走つて、常世姫に尾に鰭をつけ仰山らしく報告した。常世姫は烈火のごとく憤り、藤姫を招き委細を厳しく訊問した。藤姫は涙ながらに、 『吾は今日まで何事も包みゐたりしが、今や現状を見届けられて何の辞もなし。実は命のために常に脅迫され、夫ある身の不倫とは知りつつも、今まで命の命に盲従せしは、全く吾が重ねがさねの罪なり』 と声を放つて泣く。常世姫はえたりと喜び、心中ひそかに小躍りしながら、表面はどこまでも物憂げに稚桜姫命の御前に出でて、言霊別命の不倫の行為を針小棒大に報告した。これを聞かれし稚桜姫命はおほいに怒らせたまひ、諸神司を集めてその顛末を語り、言霊別命を神退ひに退はむとしたまうた。言霊姫は泣いてその無実を証明し、佐倉姫もまた走せきたつて、その無実を涙とともに証言した。稚桜姫命は二柱の女神の証言により、言霊別命の処罪を赦し給ふた。しかし疑雲は容易に晴れないばかりでなく、常世姫の誣言はますます甚だしく、つひには諸々の神司まで、言霊別命の真意、行動を疑ひはじめ、たがひに耳に口を寄せては囁きあひ、命の悪評は城内はおろか四方の国々までも、油の滲むがごとく広まつていつた。 ここに言霊別命は憂悶やるかたなく、ただ一柱神苑を逍遥しをられしとき、松の小蔭に女の叫び声が聞えた。命は何事ならむと急ぎ声する方へ走りゆく。大空の月は黒雲に包まれ光も薄く星影一つ見えぬ朧月夜であつた。フト見れば八百姫が地上に倒れて七転八倒してゐた。命は女の苦悶する様を見て、そのままそこを立去るに忍びず、いかにもしてその苦痛を救ひ助けむものと、八百姫の手を取り助け起さむとした。八百姫は悲しき声を放つて助けを叫んだ。たちまち松の小蔭より邪神魔我彦が勿然として現はれ、 『狼藉者見届けたり』 と燈火を点じて、言霊別命が八百姫の手を取り脇に抱へたその一刹那を捉へて、不倫の行為と罵り、無理に引き立てて常世姫の前に突き出した。常世姫は謀計の図にあたりしを喜びながら何喰はぬ顔にて、言霊別命、八百姫を前におき、厳しく事実の審問をはじめた。ここに言霊別命は答ふるに、事実の真相を委細に述べた。されど魔我彦は首を左右にふり、 『否々、吾はたしかなる証拠を握る。命は八百姫を手込めになし、既に非を遂げむとせり、委細は八百姫に問はせたまへ』 と気色ばみて誣言した。八百姫は同じ穴の狐である。魔我彦の言ふところを事実なりと強弁し、かつ涙を流して、 『吾は今まで幾度となく命のために辱められたり。今日かぎり吾に暇をたまへ』 と、しきりに嘆願した。 城内の諸神司は集まり来りて、あゝ言霊別命はかかる不倫の神人に非ざりしに、いかなる邪霊の魅入りしやと、命の前途を悲しんだ。常世姫は魔我彦、八百姫をともなひ奥殿に進みて稚桜姫命に謁し、事実を曲げて言霊別命の日夜の悪行を針小棒大に進言した。稚桜姫命はおほいに憂ひたまひ、諸神司を集めて協議の結果、命を蜂の室屋に投げ入れたまうた。 あゝ、言霊別命の運命や如何。 (大正一〇・一〇・二九旧九・二九桜井重雄録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 13 蜂の室屋 | 第一三章蜂の室屋〔六三〕 言霊別命は常世姫一派の奸計におちいり、蜂の室屋に投げ込まれ、熊蜂、雀蜂、足長蜂、土蜂の悪霊どもは、昼夜の区別なく襲ひきたりて、尻尖の剣をもつて刺し迫る。 言霊姫は、黄金竜姫の霊魂に感じ、蜂の領巾を作りて夜ひそかに室屋の内に差入れた。言霊別命はその領巾を持ちて八方より攻めきたる悪蜂を払ひ退けた。されど数万の悪蜂は隙をねらうて、室屋の外に群がり集まり、少しの油断あれば直ちに入りて、これを刺さむとするがゆゑに、少しも眠ることはできなかつた。ここに田依彦、中裂彦は小島別を誑かし、三柱は、共に室屋の外にきたつて命が不倫の行跡を詰り、かつ改心を迫つた。しかして改心の意を表するために、蜂の領巾を吾らに渡せと脅迫した。 命はその無実を細々と弁じた。されど三柱はこれを信ぜず、つひには辞を荒らげ顔色を紅くして、罵詈雑言を頻発し侮辱した。命は無念やるかたなくただ首を垂れて、悲憤の涙を押さへつつあつた。このとき常世姫室屋の前に現はれ、命にむかつて言葉きたなく雑言を並べ、かつ速かに改心の情を表はし、職を去り常世の国に落ちゆくべしと宣言した。言霊別命は天にむかひ、……正邪理非曲直を明らかにしたまへ、もしわれに邪あれば、わが生命を断ち、常世姫に邪あれば今この場において常世姫を罰し、もつてわが疑ひを晴らしたまへ……と祈願をこめた。この時いづくともなく神の御声命の耳に入つた。神の御声のまにまに蜂の領巾を常世姫にむかつて打振つた。常世姫の身体はにはかに動揺をはじめ、悪寒悪熱を感じ、その場に転倒し苦悶をはじめた。 ここに小島別、田依彦、中裂彦は驚いて常世姫を籠に乗せ、担いで稚桜姫命の御前にいたり、事の顛末を報告した。常世姫は病勢刻々に募り、口より泡を吹きつひには黒血を吐いて苦悶しだした。稚桜姫命はこれを見て言霊別命の復讐的悪行となし、大いに怒つて大神に賞罰を明らかにされむことを祈願された。 このとき言霊姫は愉快気に微笑を漏らし、神司の狼狽するを傍観してゐた。稚桜姫命以下の神司は、大宮の前に額きて祝詞を奏上し、病気平癒の祈願を凝らし、五日五夜に及んだ。されど連夜の祈願も寸効無く、常世姫の生命は瀕死の状態に立ちいたつた。 ここに稚桜姫命は気色を変へ、みづから蜂の室屋の前に立ち、言霊別命にむかつて、 『常世姫の苦しみは汝が怨霊の祟りならむ。すみやかに前非を悔いて、かれが病を癒やし天地の神に謝せよ』 と言葉厳かにきめつけられた。されど言霊別命はその言を用ゐず、空吹く風と聞き流してゐた。折しも常世姫の居室に当つて、大なる叫び声がおこつた。諸神司は周章狼狽きながら、その居室に集まつた。そのとき既に常世姫は身体冷え渡りてこと切れてゐた。ここに稚桜姫命は神慮を疑ひ、ただちに国治立命に正否を奉伺された。 国治立命は言葉おごそかに宣りたまふやう、 『邪は正に勝たず、神は善を助け邪を罰す。邪は常世姫にあり。言霊別命は正しき神人なり。汝すみやかに小島別をして言霊別命の前にいたり、謝罪せしめよ』 との神勅であつた。小島別は正邪の判別に迷ひ、心は五里霧中に彷徨しつつ大神の命を拒むに由なく、つひに我を折りて言霊別命、言霊姫に前の誤解と無礼を陳謝した。命は答へて、 『正邪の判別したる上は、われ何をか恨まむ』 とて直ちに天に向つて謝罪したまふと同時に、常世姫はたちまち蘇生した。 ここに稚桜姫命以下の諸神司は、常世姫に向つて謝罪せむことを勧めた。されど頑強なる常世姫はこれを拒み、ふたたび苦悶をはじめ、口から泡を吹き血を吐くこと前の通りである。 さすがの常世姫もつひに我を折り、生々に室屋の前にきたりて叩頭陳謝した。命の怒りは忽ち解けて常世姫の病は全快した。ここに言霊別命は諸神司の進言により、室屋の中より救ひ出され、ふたたび元の聖職に就かれた。 常世姫はこの事件のために竜宮城を退はれ、つひに常世国に遁げ帰つた。されど常世姫の悪意は容易に改まらず、執拗にも種々の画策をめぐらし、はるかに常世国より醜女を放ちて、ふたたび言霊別命夫妻を陥れむと、画策これ日も足らぬ有様であつた。 (大正一〇・一〇・三〇旧九・三〇外山豊二録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 14 水星の精 | 第一四章水星の精〔六四〕 ここに田依彦、中裂彦は麗しき庭園を造り、稚桜姫命を慰め奉らむとし、ヨルダン河の上流にあまたの神々を引きつれ、千引の岩をとり、広き石庭を造らむとした。稚桜姫命はにはかに身体に大痙攣を発し、劇烈なる腹痛に悩まされたまうた。諸神司は驚き集まりて、あるひは天に祈り、あるひは薬を献じ、百方手を尽せども、何の効をも奏せなかつた。このとき小島別は言霊別命の前に出で、命の重病に罹り給ひし原因につきて神界に奉伺し裁断を請ひ、神示を得むことを依頼した。言霊別命は大いに驚き、ただちに神言を奏上し神示を請ひ奉つた。天津神の神示によれば、 『ヨルダン河の上流に、水星の精より出でたる長方形にして茶褐色を帯べる烏帽子型の霊石あり、これを掘りだし持ち帰り、汚れたる地上に奉置し、その上にあまたの岩石を積みたり。水星の霊苦しみにたへず、これを諸神司に知らさむがために稚桜姫命に病を発せしめ、もつて警告せるなり。すみやかに種々の巌岩を取り除きて、その霊石を黄金水にて洗ひ清め、宮を作りてこれを鎮祭せば、命の病はたちまち恢復せむ。しかしてこれを掘り出したるは中裂彦にして、これを汚したるもまた同神司なり。田依彦以下の神司も共に、水星の祟りを受くべきはずなれども、その責任は主神たる稚桜姫命に負はせたまへるなり。されば諸神司は慎みて水星の神に陳謝し恭しくこれを祭れ』 との神示であつた。 小島別はこれを聞きて大いに恐れ慎みてその命のごとく取計らつた。不思議なるかな稚桜姫命の病苦は、霊石を洗ひ清めて恭しく神殿に祭るとともに拭ふがごとく癒えたのである。 ヨルダン河の上流に、この水星の精なる烏帽子型の霊石ありしため、河広く水深く、清鮮の泉ゆるやかに流れて、あたかも水晶の如くなりしを、この霊石を掘り出してより、山上よりは土砂を流し河を埋め、濁水の流れと変化してしまつた。そして中裂彦はここに心狂ひてヨルダン河に身を投じ、その霊は悪蛇と変じ、流れて死海に入り、変じて邪鬼となつた。水星の精を祭りたる水の宮は、言霊別命特に斎主として日夜奉仕さるることとなつた。 一時霊石を祭りて恢復し給ひし稚桜姫命は、その後健康勝れたまはず、時々病床に臥したまふことがあつた。茲に常世姫は信書を認め、熊鷹の足に結びこれを放ち、真道知彦に何事かを報告した。真道知彦は稚桜姫命の長男であつた。この信書を見てたちまち顔色を変じ、怒髪天を衝き竜宮城に参入し、神国別命、花森彦、真鉄彦、小島別その他の神司を集めて、何事か凝議したのである。そしてその結果は、稚桜姫命に進言された。稚桜姫命はこれを聞きて大いに怒り、言霊別命にむかひ、 『汝は水星の霊石を祭りもつて吾を苦しめ、或ひは呪咀し、つひに取つて代らむとの野心ありと聞く、実に汝の心情疑ふにあまりあり。もし汝にして誠意あり、吾が疑ひを晴らさむとせば、すみやかに水星の宮を毀ち、その神体なる霊石を大地に抛ち、これを砕きて誠意を示せ』 と厳しく迫られたのである。あまたの従神は集まり来りて、異口同音に宮を毀ちて、神体を打ち砕けと迫るのであつた。 言霊別命は衆寡敵せず、涙を呑んで天に訴へ、霊石に謝し、恭しく頭上に奉戴し、ついで麗しき芝生の上に擲げつけた。敬神に厚き言霊別命は、このとき熱鉄を呑む心地をせられたであらう。たちまち霊石より旋風吹きおこり、その風玉は高殿に立てる稚桜姫命にあたり、高楼より地上に吹き飛ばされ、腰骨を挫き身体の自由を失ひ、非常に苦悶したまうた。諸神司は群がりきたりて命を介抱し、奥殿に担ぎ入れ、心力をつくして看護に余念なかつた。稚桜姫命は久しうしてやや恢復され、神務に差支なきにいたられた。されど遂に不具となり、歩行に苦痛を感じたまふに立ちいたつた。 言霊別命は庭園の八重梅の枝を切り、御杖を作りてこれを奉つた。これが老衰者の杖を用ふる濫觴である。ここに言霊別命は神威を恐れ千引の巌を切り、うるはしき石造の宮を造り、月読命の従神として永遠に鎮祭し置かれた。[※戦前の二版・愛世版では「月読命の従神として永遠に鎮祭し置かれた」だが、校定版・八幡版では「月読命の従神として、霊石を永遠に鎮祭し置かれた」になっている。意味が通じるようにするため「霊石を」を挿入したのではないかと考えられる。] (大正一〇・一〇・三〇旧九・三〇加藤明子録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 16 梟の宵企み | 第一六章梟の宵企み〔六六〕 ここに言霊別命は、疑惑まつたく晴れて蜂の室屋を再び出で、神業に奉仕せられた。されど疑惑の念深き稚桜姫命は、言霊別命の心中に野望を抱けるものと、日夜疑心を抱いてをられたのである。かてて加へて小島別、田依彦の一派は心中穏かならず、命の神務にたいし、いちいち反対的態度を持し種々の妨害を加へ、かつ非難を放つて止まなかつた。神国別命以下の神司も、小島別の言に賛同して、つひに言霊別命を排斥せむとするに立いたつた。 うたがひの黒雲おほふも何かせむ天津日さへも曇る世なれば されば言霊別命は、天使大八洲彦命、真澄姫とはかりたまひ、天道別命、天真道彦命とともに一時竜宮城を立退き、ローマの都に下りて、国魂の神花園彦の御舎に潜み、時の到るを待ちたまふこととなつた。このとき八島彦、元照彦、正照彦らの諸神司は、共にローマの都に集まり、天道別命、天真道彦命の教を四方に宣伝し、声望天下にふるひ、驍名つひに竜宮城にまで高く達した。 稚桜姫命は大いに驚きたまひ、小島別、田依彦、安川彦、その他の諸々の神司をして、言霊別命の遺物をヨルダン川の岸に持出さしめ、八方より火をかけてこれを焼燼せしめたまうた。 さるほどに、言霊別命はモスコーの都に出で、諸神司を集めて、天津神の宣旨を宣べ伝へた。この時、ローマなる花園彦の急使として、小島別、田依彦、安川彦はあまたの者と共に出できたり、片時もはやく還りたまへと報告した。 言霊別命は八島彦をともなひローマに帰り、花園彦の神殿に到着した。待ちくたびれたる小島別の一行は、言霊別命の御殿に入り、威儀を正し、容をあらため、 『吾は稚桜姫命より重大なる任務を帯びてはるばる下りきたれる神使なり。汝は今この地にありて諸々の神司等を集め勢力日に加ふと聞く。思ふに後日地の高天原を占領し覇権を握らむとするの所存ならむ。汝は命の命に従ひ、この所を捨てて竜宮城に帰還し、命の命のまにまに悔改めて神業に従ひまつるか、万一これを拒むにおいては吾に覚悟あり』 と都牟刈太刀の柄に手をかけ、三方より返答きかむと詰めよつた。言霊別命は小島別らの尊大不遜なる態度にあきれながら、小島別の鼻高く肩を揺りて折衝する姿の可笑しさにたへず、抱腹絶倒した。 小島別は大いに怒り、真赤になつて、 『汝大神の神使を愚弄するや。このままには捨ておかじ。覚悟をせよ』 と三方より刀を抜きはなちて切りかけた。 歎きつついかり眼をむく猿芝居 言霊別命は偽つてこの場をのがれ、後日の備へをなさむとし、降伏の意味の神文をしたため、小島別に渡し、 『貴下は今より速やかに竜宮城に帰らせたまへ。吾は神軍を解散しすべての後始末をなし、後より帰参すべし』 と体よく答弁した。 小島別は得意満面にあふれ、勝ち誇つたる面持にて、あたかも鬼の首を竹篦にて切りとりしごとく、意気傲然として、他の三神司とともに数多の部下を引連れ、竜宮城に帰還した。 三神司は肩にて風を切りつつ、手柄顔に稚桜姫命の御前に出で、 『このたびは大神の御神威により大勝利を得たり。やがて言霊別命は悄然として、後より還り来るべし。その詫状は今ここにあり』 と鼻高々と得意気にその封書を命に奉まつつた。稚桜姫命は大いに喜びたまひ、披き見ればこはそもいかに、言霊別命は竜宮城に断じて帰還せず、稚桜姫命はまず御心を改められて、嫉妬心を去り、冷静に復り、赤心より悔い、もつて一切の誤解を払拭し、常世姫、小島別、魔我彦、魔我姫その他の神司をそれぞれ処罰し、もつて吾意のごとく改革の実をあげたまふならむには、喜びて帰城すべし。万一この語に御違背あらば、吾らはますますローマの都に根拠を固め、ここに天津神の命を奉じて、新に地の高天原を開き、竜宮城を建設し、もつて貴神に対抗し奉り、花々しく雌雄を決し申さむ、との極めて強硬なる信書であつた。 稚桜姫命は顔色にはかにかはり、声もいとあららかに信書を引破りて握りかため、小島別の面上目がけて投げつけ、雉子の直使なり、と神使の不明不覚を詰りたまふた。 小島別以下の神司は案に相違し、あたかも梟の夜食に外れしごとく、頭をかいて小隅に引きさがり、今後の身の進退につき苦心してゐた。 ここに稚桜姫命は大いに憤りたまひ、小島別、田依彦、安川彦をして数多の神軍を引率せしめ、言霊別命を討ち悩ましたまふことになるのである。言霊別命は已むをえず、花園彦、元照彦、正照彦、八島彦をして、これが防備に当らしめた。 (大正一〇・一〇・三〇旧九・三〇谷口正治録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 17 佐賀姫の義死 | 第一七章佐賀姫の義死〔六七〕 言霊別命は素より稚桜姫命に反抗するの心は毛頭なかつたのである。されど命以下の神司にたいし、反正撥乱の目的をもつて故意に反抗的信書を認め、使臣小島別に渡した。 玉の緒のいのちも如何で惜むべきすてて誠の道を照らさば 稚桜姫命は、言霊別命の心情および行動につき、半信半疑の雲に包まれゐ給ひし折柄なれば、その信書を見て、本心より反旗を翻せるものとなし、ここに天使大八洲彦命に命じて、言霊別命討伐の令を下された。このとき大八洲彦命は疚と称して出でず、固く戸をとざして差こもり、諸神司との交通を絶ち、正邪黒白の判明する時機を待たれた。 稚桜姫命は已むをえず、代つて小島別に[※稚桜姫命は最初は大八洲彦命に命じ、その後、大八洲彦命の代わりに小島別に叛神討伐の命を下された。戦前の二版では「小島別に代つて」と書いてあるが、それでは意味が通らなくなるので、「代つて小島別に」に直した(校定版と同じ)。]叛神討伐の命を下された。小島別は直ちに命を拝し、田依彦、安川彦を部将とし、あまたの神軍を督して叛軍を悩まさむと全力を尽した。ここに言霊別命は、一方小島別の神軍に諸方より攻撃され、一方よりは常世姫の部下美山彦、国照姫の魔軍より攻撃され、非常なる苦境におちいつた。 言霊別命はローマに根拠をかまへ、花園彦、大島彦をして神軍を督せしめ、正照彦、溝川彦をしてモスコーの神軍を督せしめおき、自らは元照彦とともに姿を変じ、小島別、常世姫の両軍の情勢を探りつつ、神出鬼没の神策を講じた。さても言霊別命は、ボムベー山に陣せる佐賀彦のもとに到り、この度の戦闘に参加せしめむとして百方弁をつくして説きつけた。 佐賀彦は元来言霊別命のために身の危難を救はれたる神司であつた。ゆゑに一言の違背もなく命の命に従ふは当然の義務である。しかるに稚桜姫命は、 『言霊別命野心あり。ローマに拠りて神軍に叛旗を翻したり。万一かれに加担せば厳罰に処すべし』 との厳令は、佐賀彦はじめ一般的に諸神司の許に伝へられてゐた。佐賀彦もその選に漏れず、戦々兢々として怖れ戦いてゐた際である。また田依彦のすでに来りて神軍の令旨を伝へ、言霊別命来らば伏兵をまうけて、これを滅ぼさむとの準備すでに整ふてゐた際である。 言霊別命はかかる計画ありとは夢にも知らず、佐賀彦の勧むるままに、奥殿に入りて休息し、かつ防戦の計画を命令された。佐賀彦は心すでに言霊別命を離れ、田依彦と款を通じてゐた。言霊別命の運命は、今や風前の燈火であつた。佐賀彦の妻佐賀姫は、命の立つて庭園を逍遥せるをりしも、傍より御前を横切り、懐よりわざと紙片を落し、足早に殿中に姿を隠した。 命は怪しみながら、手早くその紙片を拾ひあげ披きみるに、「田依彦、佐賀彦の謀計により、貴神の身命は瞬時に迫れり。一時も早く裏門より免れたまへ」との書状である。命はやや思案にくるる折しも、奥殿に当りて怪しき叫び声が聞えた。これは佐賀姫が自殺を遂げたのである。恩神を救へば夫にたいして道立たず、一命を捨てて節を守つたのである。ボムベー山の陣営は、上を下への大騒ぎであつた。佐賀彦は妻の変死に度を失ひ、狂気のごとくなりて大声を発し、神々を集めてゐた。その声は言霊別命の耳に透き通るごとく聞えた。 ボムベー山の部将は、残らず佐賀彦の声する方に集まつた。佐賀彦は周章狼狽のあまり、言霊別命のあることを忘却するにいたつた。このとき言霊別命は服装を変じ、神司の周章狼狽するその間を悠然として表門より立出で、門外に出づるや否や、待ちかまへたる元照彦と共に、モスコーをさして落のびた。 モスコーには正照彦、溝川彦が固く守つてゐた。このとき田依彦の姉草香姫は、身を変じてモスコーに入り、正照彦にむかひ言霊別命の急使なりと偽り、面会を求め、かつ言霊別命はボムベー山において佐賀彦、田依彦のために窮地に陥り、今や全軍滅亡に瀕せり。正照彦は溝川彦とともに全軍を率ゐて救援に来れとの伝令なりと伝へた。 正照彦は溝川彦をしてモスコーを守備せしめ、自ら部下を率ゐてボムベー山に急ぎ向ふたのである。モスコーは溝川彦の神軍によく守備されつつあつた。そこへ国照姫の部下種熊彦は、ローマの花園彦の急使なりとして面会を求めた。溝川彦は国照姫の間者たることを知らず、花園彦の急使と信じ面会を許し、かつ使のおもむきも訊ねた。種熊彦はローマの陥落は旦夕に迫り、大島彦は戦死したり。すみやかにモスコーをすて、全軍を率ゐて救援に来るべしとのことであつた。 溝川彦はただちにその言を信じ、モスコーを空虚にし直ちにローマに向うた。ローマの都は士気おほいに振ひ、敵の片影だも認めないのが実際である。ボムベー山救援に向ひたる正照彦は中途にして、言霊別命、元照彦に会し、草香姫のために偽られしことを覚り、取るものも取りあへず、モスコーの陣営を気づかひ、急いでボムベー山の攻撃をすててモスコーに帰陣した。 一方溝川彦はローマに到つて実情を知り、全く敵の間者に欺かれたるを悔いかつ怒り、これまたモスコーを危みて急に軍を復した。言霊別命、正照彦、溝川彦らのモスコーに到れる時は、すでにモスコーは田依彦の手に陥り、草香姫は部将として活躍してゐた。 ここに国照姫の部下種熊彦は、モスコーを占領せむとして溝川彦を欺き、空虚を狙つて一挙に占領し、数多の魔軍をもつて一斉に攻撃をはじめた。この時モスコーの城塞は田依彦、草香姫の占領に帰してゐた。ここに田依彦、種熊彦の軍を見て国照姫の魔軍と知らず、言霊別命の一味と誤認し、死力を尽して戦ふてゐたのである。そこへ正照彦、元照彦は言霊別命を主将とし、種熊彦の後方より神軍を督して火弾を抛ち、よく戦ふた。種熊彦は双方に敵を受けつひに戦死を遂げ、全軍ほとんど全滅するにいたつた。それと同時に溝川彦の一軍は側面より田依彦、草香姫の軍を襲ひ、克く戦ふた。 田依彦は種熊彦の滅亡せるを見、竜宮城の味方の援軍のために滅されたるものと信じ、凱歌を奏し万歳を連呼し、城中は鬨の声に充ち満ちてゐた。しかるに側面より溝川彦の激烈なる攻撃を開始したるに打ち驚き、その方に向つて全力をそそぎ、言霊別命の神軍にたいする備へを閑却してゐた。 言霊別命は渡りに船と勇みすすみて、田依彦の占領する近くより一斉に火弾を発射した。田依彦、草香姫は、周章狼狽なすところを知らず、黒雲に乗じ、たちまち竜と変じ、狐と化して四方に敗走した。この時の天祐は全く言霊別命の神軍に下つた。 (大正一〇・一〇・三一旧一〇・一外山豊二録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 18 反間苦肉の策 | 第一八章反間苦肉の策〔六八〕 ここに田依彦、安川彦、草香姫はモスコーに敗れ一時四方に遁走し、つひにペテロに陣営を構へ、竜宮城の神軍と相応じてモスコーを陥落せしめむと計画し、神軍をペテロに集めて再挙を謀つてゐた。 ローマはもはや安全なればとて、花園彦の謀将大島彦をしてモスコーを守らしめ、言霊別命みづから元照彦、正照彦、溝川彦を督してペテロの魔軍を討伐せむとし、大川彦、戸川彦、高屋彦を各部の将とし、八方よりこれを攻め落さむとした。小島別、田依彦は敵勢の侮りがたきを見て、魔我彦、魔我姫に款を通じ、常世姫を主将として一挙にこれを破砕せむとした。 ここに常世姫はタカオ山に城塞を構へ、あまたの魔軍を集め、ペテロの田依彦と呼応して言霊別命を挟撃せむとした。小島別、田依彦一派は卑怯にも魔軍に款を通じ、その応援力をもつて敵を悩まさむとしたのである。ここに言霊別命はペテロにむかつて進撃せむとす。このとき伊吹山に逃げ帰りたる八十熊、足熊、熊江姫の一派は、大台ケ原山の恨を報ずるはこの時なりと、常世姫の魔軍に参加し、三方より言霊別命の神軍を殲滅せむとした。神将正照彦、溝川彦は、大川彦、戸川彦、高屋彦とともに軽々しく進みて敵の包囲に遇ひ、力尽きて正照彦、溝川彦は敵の捕虜となり、他の三将以下は戦死を遂げたのである。さても言霊別命は元照彦をして伊吹山を攻撃せしめ、自らは武彦を部将としてタカオ山に迫つた。タカオ山には常世姫立てこもり、岩倉彦といふ勇猛の魔神謀主となり、杉岡、夷彦、山彦、団熊を部将として士気おほいに振ひつつあつた。言霊別命は前方より、武彦は後方より、タカオ山めがけて一目散に押し迫つた。この時タカオ山に向はむとして密かに言霊別命の陣営を横ぎるものがある。怪しみこれを捕へ、 『汝は何ゆゑにこの陣中を横ぎりしか』 と厳しく訊問した。ところが之は国照姫の間者であつた。懐中せる密書を開き見れば、 『ローマは既に小島別の手に落ちたり。もはや後顧の憂ひなし。貴下はタカオ山に押寄する敵にむかつて暫時これを支へたまへ。吾は近く援軍を出して言霊別命を後方より討滅すべし』 との秘文であつた。言霊別命はその真偽を疑ひ、敵の謀計に非ずやと思案にくるる折しも、後方の陣営にある武彦より、 『ただ今わが軍において敵の間者を捕へこれが懐中を厳査せしに、かかる秘文を所持しゐたり、よつてこれを奉り裁断を乞はむとす』 といふてきた。 曲神の醜のたくみの深くとも言霊別ぞふみ破りけり 言霊別命は慌ただしくその秘文を開き見るに、 『モスコーは既に味方の手に入らむとす。貴下はタカオ山の陣営を守り、暫時これを支へたまふべし。吾は直ちに進んでタカオ山を応援し、前後より敵を全滅せむ』 との文意が記されてあつた。この間者は国照姫の謀計に出づるものにして、態とこれを捕らへしめた。 ここに言霊別命は武彦以下の諸将を集めて議を凝らし、つひに軍を還した。神軍を二隊に分ちて自らはローマに向ひ、武彦をしてモスコーに向はしめた。岩倉彦以下の部将は言霊別命の退却するを見て後方より火弾を投じた。怯気だちたる言霊別命の神軍は諸方に散乱した。武彦は身をもつて免れ、伊吹山に迫れる元照彦に急を報じ、モスコー、ローマの危急に迫り、言霊別命の消息もつとも心許なきを伝へた。元照彦は取るものも取敢ず、伊吹山の囲みを解いて直ちにローマに向はむとした。伊吹山の八十熊一派はこの機に乗じ後方より火弾を投じ、元照彦の神軍を打ち悩ました。元照彦は身をもつて免れた。ローマ及びモスコーの危急に迫れりとの密書は、全然国照姫以下の反間苦肉の策であり、ローマもモスコーも依然として金城鉄壁のごとく安全であつた。 (大正一〇・一〇・三一旧一〇・一加藤明子録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 20 疑問の艶書 | 第二〇章疑問の艶書〔七〇〕 言霊別命の妻神言霊姫は稚桜姫命の第五女であり、常世姫は第三女である。言霊別命の帰城により城内の疑雲は一掃され、親子兄弟夫婦の目出たき対面となつた。邪智深き常世姫は表面祝意を表し、城内の諸神将も亦心底より平和にをさまりしことを祝した。しばらくの間は竜宮城はきはめて平穏無事であつた。 ここに常世姫は稚桜姫命、以下諸神将の信頼を一身に集めた。しかしてその勢力は日ごとに増して来たのであつた。言霊別命の声望は以前の如くならず、一時の叛将として上下一般より侮蔑の眼をもつて見らるるにいたつた。しかし稚桜姫命に信任厚き大八洲彦命、真澄姫の隠れたる努力により、日に月に言霊別命の声望は回復に向つていた。そこで言霊別命はふたたび神務を掌握し、神国別命は依然として神政を総攬し、言霊別命と神国別命のあひだは極めて円にして、あたかも親しい夫婦のごとくであつた。常世姫はふたたび魔我彦、魔我姫を左右の補佐となし、種々の手段をめぐらし、二神の信望を失墜せしめむとした。 言霊別命の声望日々に回復するとともに、常世姫の奸黠なる心情はやうやく諸神司の感知するところとなつた。しかるに小島別、田依彦、安川彦、竹彦一派は常世姫を深く信頼してゐた。稚桜姫命もつひにその心情を察知し、信任は前日に比して大いに薄らいだのである。 やうやく言霊別命の一派と常世姫の一派とがここに現はれた。されど常世姫の一派はきはめて少数にして微力であつた。常世姫はつひに策の成らざるを知り、時機をまつてその目的を達せむとし、表に不平を包み、莞爾として稚桜姫命に暇を請ひ、常世国へ事変突発せりと称して、帰国せむことを乞ふた。稚桜姫命は思ふところあつて、之をただちに許したまふた。常世姫は魔我彦、魔我姫を伴なひ、帰国に際して小島別、田依彦、安川彦一派に密策を授け、公然帰国した。 常世姫の退城したるあとは、言霊別命の勢力は実に旭日昇天の勢となつた。田依彦、安川彦は命の声望を傷つけむとし、容色並びなき数子姫を城内に召し、言霊別命に近侍せしめた。数子姫はいと懇切に命に仕へて、かゆきところへ手のまはるごとく立ち働いた。命は数子姫の誠意を喜び、外出のときは必ず侍女として相伴なふこととしてゐた。 あるとき城内に一通の手紙が落ちてゐた。安川彦は手早くこれを拾つて懐中し、ただちに小島別の手に渡した。小島別はこれを披見し、稚桜姫命に奉つた。その手紙は数子姫より言霊別命へ送れる艶書であつた。その文面によれば、すでに数回要領をえたる後にして、かつ命の強圧的非行を怨み、天則に違反したる罪を謝し、自らはヨルダン河に身を投じて罪を償はむとの意味が認めてあつた。ここに稚桜姫命はおほいに驚き、ひそかに言霊姫にその手紙を示された。 言霊姫は夫神の行為を嘆き、死して夫を諫めむと覚悟を定めた。言霊別命はかかる奸計ありとは夢にも知らず、一間に入つて安臥しゐたりしに、夜半ひそかに室の押戸を押開きて入りきたる怪しき影がある。何心なく打ちながめてゐると、その影は正しく言霊姫であつた。しばらく熟睡をよそほひ姫神の様子をうかがつてゐた。姫神は命の枕辺に端坐し、小声にて何事か耳語しつつ寝姿を三拝して直ちにその室を立ち出でた。言霊別命はこれを怪しみて直ちに起きあがり、姫神の後を差し足抜き足しつつ追ふていつた。姫神は天の真名井の岸に立ち、天地を拝して合掌し神言を奏上しをはりて今や投身せむとす。命は驚いて背後より不意にこれを抱きとめ、仔細を尋ぬれば、数子姫の落したる艶書の次第を物語り、かつ泣いていふ。 『折角の声望を回復したまへる夫神にして、かかる汚き御心ましますはかならず天魔の魅入りしならむ。妾は死をもつて夫神に代り、天地の神明に夫の罪科を謝し、かつ夫神をして悔改め本心に立ちかへらしめ奉らむと、女心の一心に胸せまりてかかる行動に出でしなり』 との陳弁であつた。命の驚きはあたかも寝耳に水のごとく、呆気にとられて何の言葉も出なかつた。時しも城内は言霊姫の影を失ひしに驚き、上を下へと動揺めきわたつた。神国別命は姫神を尋ねむとしてここに現はれ、二神の姿を見てやや安堵し、二神をなだめて殿内に帰つた。 稚桜姫命は言霊別命の非行を質問したまふた。諸神司はただ驚くばかりである。この時思慮深き神国別命は安川彦をひそかに招き、肩をたたき敬意を表して、 『貴下の謀計は巧妙至極にして、吾らは実に舌を巻くに堪へたり。吾も貴下と同腹なり。いかにもして言霊別命を失墜せしめむと日夜苦慮せしが、もとより愚鈍の吾、かかる神策鬼謀は夢にも思ひよらず。吾は今日より貴下を総裁と仰ぎ、貴下の部下となつて仕へ奉らむ』 と言葉たくみに述べたてた。安川彦は持ち上げられて心おごり、鼻高々と吾の腕前はかくの如しといはむばかりの面色にて、 『実は数子姫は吾の間者なり。決して言霊別命に非行あるに非ず。数子姫をしてわざと艶書を認め、殿内に遺失せしめたるなり。しかしながら吾は貴下を信じて秘密を打明けたれば、貴下もまた吾を信じて口外したまふ勿れ』 と、かたく口止めた。神国別命は直ちに色を変じ、安川彦の両手を捻ぢ後へまはして縛りあげ、稚桜姫命の御前に引き連れ、彼が自白のことを逐一進言した。 ここに言霊別命に対する疑ひは全く晴れた。神国別命は諸神司を集めて、安川彦、数子姫の罪状を審議し、つひに退去を命じたのである。安川彦は退はれて直ちに鬼城山にある国照姫の城塞に使はるることとなつた。 (大正一〇・一〇・三一旧一〇・一桜井重雄録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 21 常世の国へ | 第二一章常世の国へ〔七一〕 稚桜姫命は、一度は常世姫を常世の国に追ひ帰したまうた。されど親子の情として、幾分か常世姫を愛護さるる気味があつた。 常世姫はロッキー山麓に都を開き漸次勢力を増し、その威望は諸方に拡充されたのである。常世姫は一方に威力を示しつつ、一方には稚桜姫命の信任を回復せむとし、善言美辞を連ねて命を慰め奉り、かつ一方には言霊別命夫妻の心理行動につき、種々の虚偽的材料を集めて密使をたて、しばしば報告した。命はふたたび常世姫の言に耳を傾け、つひにはその報告を信ぜらるるにいたつた。 時しも竜宮城内における数子姫の艶書の件につき、一時言霊別命を疑ひたまひしが、神国別命の智略によりて、安川彦らの陰謀露見し、少しく疑団を晴らしたまうた。されど内心疑ふかく、半信半疑の眼をもつて、言霊別命の行動を注意されつつあつた。 また安川彦の陰謀は常世姫の使嗾に出で、小島別らの謀議に加はりしを少しも覚られなかつた。 やや年をへて常世姫の公然の使者は、竜宮城に参向し、恭しく信書を奉つた。その文意は、 『常世姫の神政おほいに開け、ここに神殿を造り、天地の神霊を奉斎せむとす。実に恐れ多き願なれども、稚桜姫命諸神司とともに出場されたし。万一御承認なくば已むをえず、言霊別命を代理として出場せしめたまへ。言霊別命の悪心を改めしめ、真心より命に奉仕せしむべく種々の神策をもつてし、まことに命の輔佐神たるの実を挙げさせしめむ。すなはち言霊別命の出場は、一挙両得の所為たるべし』 と理をつくして認められてあつた。 稚桜姫命はこれを見て大いに喜び、常世姫は最早改心の実を挙げたれば憂ふるに足らず、ただ心にかかるは言霊別命の心理行動なり。如かず、これを遣はして、常世姫により改心せしめむと、ここに言霊別命を招き、その旨を伝へたまうた。 言霊別命は常世姫の奸計ならずやと思案にくれてゐた。折しも元照彦、常世の国の実情を探知し、帰りきたりて常世姫の謀計に出でたるなれば、ゆめゆめ油断あるべからず、とひそかに忠告した。 茲に言霊別命は病と称して出場を謝絶せむとした。稚桜姫命は顔色を変じ言葉を荒らげ 『千載一遇の神界の慶事にたいし、病に託し出場を拒むは、吾が命に背くものにして必ず深き企みあらむ』 と憤懣された。 ここに言霊姫は止むをえず竜世姫、元照彦とはかり種々の秘策を案じ、命の危難を救はむとし、その神策を命にすすめられた。 元照彦はひそかに竜宮城を立出で、天の八衢に隠れ種々の計画を立ててゐた。言霊別命は厳命否みがたく、ここに意を決して常世の国に出発さるることとなつた。一行は小島別、松代姫、竜世姫、竹島彦らの諸神司であつた。命の出発に臨み母神の国世姫は、種々物の領巾を取り出して、言霊別命に与へ、 『この領巾は吾家の宝なり。今これを汝に授く、この領巾をわれと思ひ、深く懐中に秘して行け』 との言葉を残し、涙とともに別れたまうたのである。一行は目無堅間の船に乗りて常世の国へ安着した。ここにロッキー山麓の常世の都にいたるべき左右に岐れたる二筋の大道が開かれてある。その岐路の少しく手前に差しかかるや、竜世姫は忽ち急病を発し、路上に転倒し苦しみ悶える。 竜世姫は稚桜姫命の最愛の娘神なれば、小島別以下の神司はおほいに驚き、周章狼狽きて看護に余念なく手をつくした。これは竜世姫の巧妙なる神策にして、その実は偽病であつた。言霊別命はこの場の光景に眼もくれず、ただ一柱足を速めてその岐路に進み、左方の道をとつて驀地に走り進んだ。 (大正一〇・一一・一旧一〇・二外山豊二録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 25 蒲団の隧道 | 第二五章蒲団の隧道〔七五〕 言霊別命の夜陰にまぎれて城中を遁げ出でたる藻脱けの穀のあとの祭りの光景は、実に惨澹たるものであつた。神司は残らず八方に派遣された。後には常世姫諸神司を集め、竜世姫の行動を怪しみ、いろいろと詰問をした。竜世姫は何といはれても平気の平左で鼻唄をうたひ、素知らぬ顔に誤魔化すのであつた。常世城の重神猿世彦は、竜世姫にむかひ、 『大切なる玉を、眠れる間に失ひたるは貴神司の責任なり。貴神司はこれより常世姫に事実を述べ、所在を詳かに自白せられよ』 と迫つた。竜世姫は飽くまで白を切り、ネル尽しの歌を作つて異しき手真似をなし、臀を振りつつ面白く踊りくるふのであつた。 その歌は、 『長途の旅に疲れてグツと寝る素人按摩が肩ひねる 竹島彦が腰ひねる寝るは寝るは他愛もなしに 寝る間に飛び出た目の玉は尋ねる由も泣き寝入り こねる理屈も立ちかねる呆れてわたしは尻ひねる なんぼ理屈をこねるともわたしは何とも言ひかねる 言霊別の神さんは竜宮城へは往にかねる 行衛はどこぢやと尋ねるも妾は知らんで言ひかねる 寝床の後を眺むれば布団の隧道開いてある あまり寝るにもほどがある常世の国の神さんの わたしは心を解きかねるねつてねつてねりさがし 百度も千度もねるがよいわたしに何を尋ねるも 白河夜船のネル尽し白川夜船のネル尽し』 と奥殿目がけて踊り入る。常世姫も呆れはて、やうやくに疑を晴らした。 常世の城はほとんど空虚となり、守将は大部分出城して、言霊別命の跡を追ふて不在中である。にはかに城下に聞ゆる鬨の声。常世姫は高台に上つて城下をきつと打見やれば、豈はからむや、元照彦はあまたの神軍を引つれ、十重二十重に取囲んでいまや火蓋を切らむとする勢であつた。 常世姫は進退これきはまり、直ちに和睦をなさむとて、竜世姫を軍使として、元照彦の神軍に遣はした。竜世姫は元照彦の前に出で、たがひに顔を見合せ、微笑しつつ常世姫の命を伝へた。 元照彦は和議に関する信書をしたため、常世姫に送達した。その文意は、 『すみやかに城を捨て、汝はウラル山に退却せよ』 といふのであつた。常世姫はいよいよ進退谷まり、ただちに黒雲を呼び、金毛八尾の悪狐と化して東北の空高く遁げのびた。 元照彦は常世の城に入城した。常世姫の部下の神軍は、残らず元照彦に降伏した。元照彦は諸神司の勤労を慰めむとて酒宴を催した。このときロッキー山の南方に立籠りたる常世姫の部下なる竹熊彦、安熊といふ勇猛なる魔神があつた。彼は常世城の陥落し、かつ常世姫の身をもつて免れたるを憤慨し、再びこれを回復せむとして身をやつし、城下近く進んで様子を考へたのである。 このとき元照彦は心ゆるめ、丸裸のまま酔ひ倒れてゐた。竹熊彦、安熊は突然城内に侵入し、頭槌をもつて元照彦の部下を目がけて打ちまくつた。今まで元照彦に帰順せし常世城の神司は総立となり、四方より討ちかかつた。これらの諸神司は初めより酒を呑み酔ひしと見せて、その実水を呑み酒に酔ひし風をしてゐた。元照彦は驚きのあまり酔もにはかに醒め、生命からがら裏門より逃げだし、濠を泳いで裸のまま後をも水に、浪を打たせつつ震ひにふるふて、北方さして影を隠してしまつた。元照彦の運命はどうなるであらうか。 元照彦の神軍はにはかに驚いて酔を醒まし、蜘蛛の子を散らすがごとく四方に遁げ散つたのである。 (大正一〇・一一・一旧一〇・二外山豊二録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 29 乙女の天使 | 第二九章乙女の天使〔七九〕 言霊別命は、高白山を中心として仁慈をもつて神政をほどこし、諸神は鼓腹撃壤してその堵に安んじ、実に地上の天国といふべき聖代を現出した。命の威望は旭日昇天の勢であつた。荒熊彦は荒熊姫の使嗾により、内心時をうかがひ、大恩ある言霊別命を陥れ再び自分が取つて代らむと企みてゐた。かれ荒熊彦は、常世城に密使を立て、常世姫の力を借りて、再生の恩神、言霊別命を亡ぼさむとした。 一旦敗走したる駒山彦は兵備を整へ、遮二無二高白山に攻めかけた。言霊別命は荒熊彦に命じてこれを防がしめた。しかるに荒熊彦はすでに敵軍に款を通じてゐた。 ここに荒熊彦の子に清照彦といふ正しき神司があつた。この度の戦ひに大敗して元照彦のために滅ぼされたりとの風評たかく荒熊姫のもとに届いた。この時元照彦はローマ、モスコーの視察ををへ、高白山の危急に迫れることを聞きて、はるかに神軍を率ゐて応援に来たのである。荒熊姫は清照彦の、元照彦に亡ぼされし噂を聞きてますます怒り、ここに言霊別命の神軍を率ゐて南方に陣し、敵軍を防ぐと見せかけ、高白山を陥れむとした。折しも竜馬にまたがり天空を翔り、高白山の城塞目がけて下りきたる女神使があつた。年いまだ若く容貌秀麗なる天使である。案内もなく馬を乗りすてて、言霊別命の御座近くすすみ、 『吾は天津神の使神なり。高白山は、今や荒熊彦の変心によつて、危機一髪の間に迫り、命の生命は瞬時に迫りつつあり。命にして吾が天使の言を信じたまはば、われに全軍の指揮を命じたまへ』 といふのである。言霊別命は荒熊彦、荒熊姫を深く信じ、全軍の指揮を委任したるくらゐなれば、今この天使の言葉を聞いて大いに訝かり、 『汝は天使に化して吾を偽る邪神には非ざるか、汝は常世姫の魔術によりて現はれたる魔神ならむ』 とただちに剣を抜きてその女神使に斬りつけた。電光石火今や天使は頭上より真二つになりしと思ふ瞬間、天使の頭上より異様の光輝あらはれ、剣は三段に折れて命の手には柄のみ残つた。言霊別命は呆然として乙女の天使を眺めてゐた。乙女の天使は笑ひとともに命にむかひ、 『もし吾が言を疑ひたまはば、高白山は直ちに滅亡すべし。吾は天津神の命により、正しき神人に味方せむとて天より救援に来りしものぞ』 と天神の神慮を詳細に述べられたのである。言霊別命はやうやく乙女を天使と信ずるに至つた。時しも門外騒がしく、足音高く命の前に近づき来るものがある。命は怪しみて見るに、荒熊彦、鉄棒を打ち振りつつ御座近く迫りきたつて、 『言霊別命にただいま更めて見参せん。高白山はすでに常世姫の有力なる応援と、駒山彦の巧妙なる戦略と、加ふるに吾ら夫婦の変心とによりほとんど全滅せり。もはや命の運命は尽きたり。潔くこの場にて自決さるるや。いたづらに躊躇逡巡して時を移さるるにおいては、畏れながら吾は、この鉄棒をもつて命を粉砕し奉らむ。返答いかに』 と詰め寄つた。見るより乙女の天使絹子姫はその仲に入り、 『荒熊彦、しばらく待て』 と柔しき女神使に似ず、言葉鋭く眦を釣つて叫んだ。荒熊彦はかよわき乙女と侮り嘲笑つていふやう、 『大廈の覆へらむとするとき、一木のよく支ふべきに非ず。いはんや乙女のただ一柱の如何でか力及ばむや、邪魔ひろぐな』 と乙女を突き倒さむとした。乙女の天使は声をはげまし、 『汝天使に向つて挑戦するか。目に物見せむ』 といふより合掌した。勇猛なる神卒はたちまち天より下り、荒熊彦を前後左右に取囲み、つひにその場に引据ゑた。荒熊彦は胆をつぶし、救ひを求め、かつ総ての罪状を自白し、全軍の指揮権を返上した。荒熊姫はかかる出来事を夢にも知らず、南麓の原野において元照彦と鎬を削つてゐたのである。この時元照彦は深く進みて重囲に陥り、ほとんど全滅せむとする間際であつた。 駒山彦の魔軍はますます勢を得て今や城内に入らむとする。常世姫の応援軍は鬨をつくつて勢を煽り、侮りがたき猛勢である。この時言霊別命は、乙女の天使に全軍の指揮を命じた。ほとんど絶望に瀕したる味方の神軍は、にはかに天使の現はれしに勇みたち、勇気はここに百倍した。乙女の天使は金の采配を打振り全軍を指揮し、駒山彦の魔軍にむかつて、驀地に突入した。敵軍は雪崩をうつて、倒けつ転びつ数多の死傷者を出しつつ、山麓目がけて逃げ散つた。 荒熊彦は改心の上一方の部将となり、常世姫の援軍にむかつて厳しく攻め入り、奮闘のすゑ足部に大負傷をなし、身体の自由を失ひ、従臣に救はれやうやく城塞に逃げ帰つた。乙女の天使は駒山彦の魔軍を破り、再び転じて荒熊姫の頭上より攻撃をはじめた。荒熊姫は周章狼狽き、つひに乙女の天使にむかつて降を乞うた。ここに乙女の忠告により元照彦に無礼を謝し、高白山は目出たく平和に帰し、敵は四方に散乱した。 (大正一〇・一一・三旧一〇・四加藤明子録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 30 十曜の神旗 | 第三〇章十曜の神旗〔八〇〕 高白山を中心とするアラスカ国はふたたび平和に治まつた。常世姫はいかにもしてこれを占領せむと、多くの探女醜女を放つて、種々の計画を立ててゐるので、少しの油断もできぬ有様であつた。 天使として下り来れる絹子姫は言霊別命の身辺を衛り、かつ不測の出来事を排除せむために、ここに侍女と身を変じ名を照妙姫と改称し、命の側近く奉仕した。 常世姫の部将駒山彦はこのことをうかがひ知り、ただちにこれを常世姫に通告した。常世姫は好機逸すべからずとなし、みづから竜宮城にいたつて、稚桜姫命に謁し、 『言霊別命は高白山に城塞を構へ、ローマ、モスコーの神軍と相呼応して常世城を屠り、ついで竜宮城を占領せむとし、照妙姫といふ怪しき女性を妻となし、神政を怠り、国土は乱れ、昼夜間断なく酒色に耽り、荒淫いたらざるなし。かつ言霊姫を極力誹謗し、かつ天地に容れざるの大叛逆を企てをれり』 と誣奏した。 稚桜姫命は常世姫の言を信じ、たちまち顔色を変じて、天使大八洲彦命、真澄姫、言霊姫、神国別命その他の諸神将を集めて言霊別命の非行を伝へ、かつ神軍をもつてこれを討亡ぼさむことを厳命された。 ここに小島別、竹島彦は大いに喜び、雙手をあげて賛成をとなへた。城内の諸神将は常世姫の言を疑ひ、大広間に諸神司をあつめて、高白山攻撃に関する協議を開いた。 そのとき末席よりあらはれたる神山彦、村雲彦、真倉彦、武晴彦は一斉に立ち、大八洲彦命に向つて発言をもとめ、言葉も穏やかに、 『高白山討伐の儀は、しばらく吾らに委したまはずや』 といつた。小島別、竹島彦はたちまち立つて、 『汝がごとき微力なる神司の、いかでかこの大任を果し得べきぞ。冀はくは吾に少しの神軍を与へたまはば、吾は神変不可思議の妙策をもつて、言霊別命以下を捕虜とし面縛して、彼らを諸神司の眼前に連れ帰らむ』 と述べ立てた。神山彦は憤然色をなし、 『常世の国に使ひして、言霊別命以下をとり失ひ、失敗の恥を晒したる汝ら諸神司、いかなる妙策あるとも散々に討ち悩まされ、ふたたび恥辱を重ぬるは火をみるよりも瞭かなり。いらざる言挙げして失敗をとるなかれ』 と睨めつけた。 大八洲彦命は、相互の争論のいつ果つるべきやうもなきを見、この場をはづして直ちに稚桜姫命に拝謁し、 『いづれの神司を遣はさむや』 と教を請はれた。稚桜姫命はこれを聞きて頭をかたむけ、やや思案の体であつた。このとき真澄姫、言霊姫、竜世姫は異口同音に、 『神山彦を遣はしたまふべし。彼は忠勇無比の神将にして、かつ至誠至実の神司なり』 と奏上した。かくしてつひに神山彦の進言は容れられた。 ここに神山彦は、村雲彦、真倉彦、武晴彦を伴なひ、従臣を引連れ、天之磐樟船に打乗りて天空高く高白山にむかふた。 時しも言霊別命は、高白山城塞に安居し、照妙姫を侍臣とし、荒熊彦、荒熊姫、元照彦らの勇将とともに高台にのぼり、月を賞してゐた。空は一点の雲もなく、星はほとんどその姿を隠し、えもいはれぬ光景であつた。 折から東南の蒼空より一点の黒影があらはれ、おひおひ近づいてくる。一同は何者ならむと一心にこれを眺めてゐた。たちまち音響が聞えだした。見れば天之磐樟船である。この船には白地に赤の十曜を染めだしたる神旗が立つてゐた。ややあつてその船は城内に下つてきた。これは神山彦一行の乗れる船であつた。 このとき照妙姫は何思ひけむ、にはかに白雲と化し、細く長く虹のごとく身を変じて月界に帰つた。 荒熊彦は神山彦の一行を出迎へ、慇懃に遠来の労を謝し、かつ使節の趣旨をたづねた。神山彦は威儀を正して、 『吾は稚桜姫命の直使なり。言霊別命に面会ををはるまでは、何事も口外することあたはず』 と意味ありげに答へ、 『ただちに命の前へ吾らを導くべし』 といつた。荒熊彦は何思ひけむ、得意気に微笑を洩らしつつ、この由を命に伝へた。 命はただちに応諾して、神山彦一行を居間に導き、まづ来意を尋ねた。神山彦は、 『一大事あり、冀はくは隣神司を遠ざけたまへ』 と申込んだ。ここに言霊別命は隣神司を遠ざけ、 『一大事とは何ぞ』 とあわただしく尋ねた。 (大正一〇・一一・三旧一〇・四谷口正治録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 31 手痛き握手 | 第三一章手痛き握手〔八一〕 神山彦は決心の色をあらはし言霊別命にむかつて、 『貴神は美しき天女のごとき妻ありと聞く、冀はくは吾らに拝謁を許したまはずや』 と出しぬけに申しこんだ。言霊別命は案に相違し、 『こは奇怪なることを承はるものかな、わが妻は汝の知らるるごとく竜宮城にあり』 と答へた。神山彦は、 『そは既に承知せり。第二の妃神に面会したし。秘くさせたまふとも、秘くすよりあらはるるはなし。すでに妃神のあることは竜宮城に雷のごとく響きわたれり。命は吾らにむかつて詐言を用ゐたまふや』 と詰問した。命はおほいに困り、 『吾は汝の言はるるごとく第二の妃神を持てる覚えなし。吾高白山の戦ひに敗れ、危機に迫れるとき、天上より乙女の天使下りきたりて吾を救ひ、かつ吾が身辺に侍してこれを保護せり。常世姫はこれを伝へ聞きて、第二の妃神と思ひ誤りしならむ。疑はしくば今ここに天使を招き、もつて汝の蒙を啓かむ』 とたちまち立つて一室に入り、『照妙姫殿、照妙姫殿』と呼んだ。何の返事もなく、そこらには影だに見えぬ。命は不思議にたへず今度は、『乙女の天使絹子姫殿、絹子姫殿』と名をかへて呼びかけた。されども音沙汰も返辞もない。命は荒熊彦に命じて乙女の行衛を厳探せしめたが、いづこにも乙女の姿を認めることはできなかつた。 命は是非なく一間へ帰り、神山彦らに向つて、 『今まで吾が前にありし乙女はいかがなりけむ。声のかぎり呼べど叫べど、何の答へもなし。城内くまなく探せどもその影さへも認めず』 と答へた。神山彦はニヤリと笑ひ、 『天女のごとき妃神二柱までも、左右に侍らせたまふ命の身の上こそ実に羨まし。からかはずと早くわれらに会はせたまへ』 としきりに嘲笑の色をうかべて促すのである。命はおほいに当惑した。ここに元照彦は戸を排して入りきたり、密室を開きたてまつり、 『吾は申しわけなき次第なれど、大変事出来せり』 と顔色をかへ進言するのであつた。命は、 『変事とは何事ぞ』 と反問した。元照彦は、 『ただいま照妙姫命は白雲と化し、月宮殿に帰りたまへり』 といつた。言霊別命はおほいに驚き、思はずその場を立ち上がらむとした。このとき神山彦は言霊別命の袂をひかへ、 『暫く待たれよ、その計略はもはや古し、ふるし、吾らはかかる奸策に誤らるる神司にあらず、誠心誠意、善心に立ちかへり、もつて事実の真相を明白に述べられよ』 と追窮ますます烈しくなつた。真倉彦、村雲彦、武晴彦は一斉に立つて刀の柄に手をかけ、満面憤怒の色をあらはし、 『われを偽る悪神の張本、目に物見せてくれむ』 と三方より詰めよつた。神山彦は声を荒らげ、 『第二の妃神絹子姫をわが前に出せ。第三の妃神照妙姫をこのところに現はせ。汝は竜宮の使神を弁舌をもつて胡魔化さむとするか、無礼者、斬つて捨てむ』 とこれまた刀の柄に手をかけ気色ばみて四方より迫つた。命は進退谷まり、いかにしてこの疑ひを晴らさむかと焦慮し、かの国世姫より賜はりし種々物の領巾を懐中より取りいだし、左右左に打ちふつた。たちまち天に嚠喨たる音楽がきこえ、乙女は閉したる戸のまま、何の障もなく入りきたり、言霊別命の前に平伏した。 ここに神山彦は、したり顔に命にむかひ、 『こは照妙姫にあらずや、最早かくなる上は絹子姫も現はし、吾らの疑ひを晴らされよ』 と迫つた。困りはてたる命は、左右左に前の如くに領巾を振つた。たちまち嚠喨たる音楽聞え、あまたの天女その場に現はれきたつて、四柱の手を把り踊り狂うた。手をとられた四柱は身体たちまち強直してその場に仆れ、ここに全く疑ひを晴らし、重々の無礼を陳謝したのである。真倉彦、村雲彦は大いに弱り、 『いかに美しき天女なりとて、かかる強き手にて握られては、実にたまつたものにあらず。命はよくもかかる怪物を相手にしたまひしぞ』 と目と目を見あはせ、舌をまきうち驚く。命は、 『汝らの疑ひ全く晴れたるは相互の幸ひなり。いざこれより遠来の労を犒はむため、奥殿にて饗応せむ』 と先に立つてゆかむとした。そのとき神山彦は、 『しばらく待たれよ。申し上げたき仔細あり』 と引きとどめ、 『これから肝心要の正念場なり。この返答承はりしのち饗応に預からむ』 と四柱はともに声を揃へていきまきながらいつた。 (大正一〇・一一・三旧一〇・四桜井重雄録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 32 言霊別命の帰城 | 第三二章言霊別命の帰城〔八二〕 神山彦は威儀を正し、言葉を改め、 『稚桜姫命の直使として貴神に伝ふべきことあり。貴神はローマ、モスコーにあまたの神軍を配置し、今またこの高白山に陣営をかまへ、久しく竜宮城へ帰りきたらざるは何故ぞ。一時も早くローマ、モスコーの神軍を解散し、当城をすてて竜宮城に帰り、稚桜姫命の疑を晴らすべし』 と気色はげしく鼻息たかく述べたてた。言霊別命は答へて、 『稚桜姫命の真意はさることながら、今や魔神は天下に跋扈跳梁して、勢なかなか侮るべからず。吾らが今、ローマ、モスコーに神軍をあつめ、また当山に城塞をかまへて神軍を集むるは、地の高天原を守り奉らむがためなり。いかに稚桜姫命は聡明におはしますとも、元来は婦神の悲しさ、比較的その御神慮浅く疑念深く、常に常世姫のごとき奸侫邪智の神を信任し、つひには根底より神政を覆へされたまふは、火をみるより瞭かなり。われはこの災禍を前知し、実は天使大八洲彦命、真澄姫と謀り、万一に備へむとして苦慮せるなり。思慮浅き女神、小神の知るところに非ず』 と憤然として席をけり、一間に駆け入らむとした。このとき神山彦は懐中より短剣を取いだし、両肌を脱いで割腹せむとした。真倉彦以下二神司も、吾後れじと一時に両肌を脱ぎ短刀にて腹を掻ききらむとす。 言霊別命はこれを見ておほいに驚き、 『諸神しばらく待たれよ。逸まりたまふな』 ととどめむとした。四柱は、 『しからば命は竜宮城へすみやかに帰りたまふや』 と問ひつめた。命はいかに答へむと太息をもらし、思案にくれた。神山彦は決心の色をあらはし、 『われは帰りて稚桜姫命にたいし奉り、陳弁の辞なし。如かず、ここに潔く諸共に自殺して、その責任を明らかにせむ』 と又もや短刀を逆手に持ち、四柱一度に割腹せむとする。 このとき言霊別命は心中にて、吾は天下を救はむと思へばこそ、寒風強き極北に種々の苦難を嘗めつつあるのである。されど眼前に、かかる忠誠なる神司の自殺の惨状を看過するに忍びず、アゝいかにせむと、その刹那の苦痛は実に言辞の尽すべきかぎりでなかつた。 命は意を決し、 『しからば神山彦の言葉を容れ、すみやかに帰城すべし』 と決心固くのべた。ここに一行は大いによろこび自殺を思ひとどまり、その場は無事に治まつたのである。言霊別命はやむをえず、一まず神山彦一行とともに帰城せむとするに際し、元照彦を一間に招き、清照彦の所在を教へ、かつわが妹の末世姫を娶し、斎代彦を相そへて、海峡をこえ、長高山の北方に都を開き、時期を待ちつつあることを密かに告げた。 しかして高白山は元照彦を主将とし、荒熊彦を部将としてこれを守らしめ、天の磐樟船に乗りて、神山彦一行とともに目出度く竜宮城へ帰還した。 竜宮城はにはかに色めきたつて、諸神司の悦びはたとふるにものなき有様で、春陽の気は城内に溢れた。常世城よりきたれる常世姫のみは、何ゆゑか顔色が平常よりも冴えなかつた。 言霊別命はただちに奥殿に入り、稚桜姫命に謁した。かたはらに常世姫、竜世姫、真澄姫は侍してゐた。言霊別命は帰城の挨拶を慇懃にのべた。稚桜姫命は帰城を悦び、いろいろの飲食を出して饗応された。 常世姫はたちまち口を開いて命にむかひ、 『高白山は全く滅亡し、汝は進退きはまり九死一生の悲境にありしを、稚桜姫命の大慈悲心より窮場を救はれしは、定めて満足ならむ。すみやかに命にその大恩を謝したまへ』 と言葉を鼻にかけて嘲笑ひつつ、いと憎気に言ひはなつのであつた。 言霊別命は立腹のあまり、高白山の実情を述べむとし、口を開かむとする時、常世姫は遮つて、 『敗軍の将は兵を語らず。黙したまへ』 と頭から押へつけた。また言葉をついで、 『汝は命に背き、ローマ、モスコーに陣営を構へたが、これまた荒熊彦のために一敗地に塗れ、汝にしたがひし諸神将卒は四方に散乱して、今は残らず天下に放浪のあはれ果敢なき者となつてゐる。汝はこの失敗に省み、今後は心を改めて命の厳命に服従し、かつ吾は女性なれども、わが言も少しは用ゐられよ』 と舌長に上から被せかけるやうに言つた。 言霊別命は怒りを忍び、わざと笑つてその場をすました。今後この二神司の関係はどうなるであらうか。 (大正一〇・一一・三旧一〇・四外山豊二録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 35 南高山の神宝 | 第三五章南高山の神宝〔八五〕 竜宮城の表大門口は花森彦、道貴彦二神司が控へてゐた。この時、天下の形勢を憂へ、四方八方より神業に参加せむとして集まる神司は日増しに殖えてきた。折しも東の空より怪しき光を放つて入り来る神司があつた。この神司を若豊彦といふ。若豊彦は常世の国にありて、数多の神司と共に神界を救ふべく種々の画策をなし、一時は一方の主将となり声望を遠近に轟かした神司である。然るに時節非にして大自在天の忌諱にふれ、たちまち猛烈なる攻撃にあひ、カシハ城をすて味方は四方に散乱し、自分はわづかに身をもつて免れた。この神司はいかにしても初志を達せむとし、散り失せたる味方の神将を集めむとしたが、カシハ城の陥落のために、目的を達することができなかつた。ここにおいて、地の高天原に稚桜姫命あらはれ神政成就の経綸を起したまふと聞き、自分もその幕下に参加せむとし、はるばる尋ねてきたのである。道貴彦、花森彦は一見してその真偽を疑ひ、これを言霊別命に進言した。言霊別命はただちに神国別命に命じて、その正邪を審判せしめた。八咫の大広間に連れゆき、ここに厳粛なる審神がはじまつた。若豊彦の肉体には数多の邪神がひそかに憑依してゐた。大神の神殿に端座し、神国別命の審神を受くるや、たちまち憑霊現はれて前後左右に飛びまはり、野天狗、野狐、悪蛇、狸の類さかんに飛びだし、その数は幾十百とも数ふるに遑なきほどであつた。これらの数多の邪霊は美山彦の部下の魔神であつて、若豊彦の体に憑依し竜宮城に深く忍び入らむとした。ここに厳粛なる審神によつて邪霊は全部その正体を露はし、四方八方に逃げ散つた。 邪霊の退きさつた若豊彦は、はじめて本心にたちかへり、正しき神司となつて竜宮城に奉仕することとなつた。そこで言霊別命は花森彦を神務につかしめ、若豊彦には、その後を襲はしめた。それより表大門は道貴彦、若豊彦の二神が厳守することとなつた。若豊彦は漸次すすんで、言霊別命の帷幄に参ずるやうになつた。 若豊彦は命の内命をうけ天の高天原にいたり、天上において最も有力なる女神の高照姫命を百方力をつくして説きつけ、竜宮城に下つてきた。ここに高照姫命は城内の諸神司に迎へられ、鄭重なる饗応を受け、ついで稚桜姫命に謁し、天上における混乱の状態を詳細に宣り伝へ、かつ天上を修理固成し、真の天国たらしめむとせば、まづ地上の修祓を第一着とするの必要なることを詳細に宣示された。 稚桜姫命はその真意を諒し、ここに天地相応じて、神業に参加せむことを互ひに相約された。この時、天の八衢より高照姫命の様子をうかがひ、ひそかに跟けきたりし大魔我彦はその場に現はれて、 『吾は両神の秘密の計画を残らず聞きたり。さればこれよりこの一伍一什を八王大神に報告し、もつて根底より破壊せしめむ。後悔するな』 と言ひをはるとともに、姿を消し黒雲となつて逸早く東方の天に向つて去つた。両神司は魔神に神策の暴露せむことを恐れ、奥殿に入つて深く戸を閉ぢ、真澄姫を加へて種々の協議ををへ、その結果、言霊別命を招き神界の秘策を授けられた。 言霊別命は高照姫命を先頭に、神国別命、花照姫、火水姫、梅若彦、広照彦、秋足彦、村幸彦、若豊彦以下五神将をともなひ、長駆して南高山に微行することとなつた。このとき天の八衢に待ち伏せたる大魔我彦一派は、一行の乗れる天の磐船を覆へさむとし、数多の部下を引き連れ、醜の磐船をあまた狩り集め、中空にありて盛んに攻撃をはじめた。 高照姫命の一行は、ただちに方向を変じて北方に引きかへし、東方の天にめぐり、つひに東北さして大空高く、やうやくにして南高山に到着した。 南高山は天上より下りたる種々の神宝の秘蔵されし霊山である。五六七神政成就のために使用すべき種々の神物が充満してゐる。高照姫命は一々その神宝を点検し、一切を言霊別命に授け、若豊彦を従へて一旦天上に帰られた。言霊別命一行は一切の秘密を固く守り、目出たく竜宮城へ帰還した。この南高山の神物は、他の神司には少しも点検を許さず、言霊別命ただ一柱がこれを旧のごとく秘めおかれた。 (大正一〇・一一・四旧一〇・五桜井重雄録) |