| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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霊界物語 | 79_午_葭原の国土の竜神族の物語 | 14 再生の歓び | 第一四章再生の歓び〔一九九五〕 葭原の国の一部、水上山を中心として約二十里四方の土地を領有ぎ、国津神の頭人となりて父祖の代よりここに君臨したる御祖の神、山神彦、川神姫の翁と姥は、天にも地にもかけがへなき二人の兄妹が、ゆくりなくも其姿を隠せしより、夜昼の区別なく慟哭して身体は日に日に衰へ、見るかげもなき憐れな姿となりゐたりける。 水上山に仕ふる数多の国津神等は、四方八方に馳け廻り、兄妹の所在をさがし求むれども、約一ケ月を経たる今日、何の便りも荒波の磯に打寄すばかりなりける。 山神彦、川神姫の二柱は、玉耶湖の汀辺をさまよひながら、声を細々と歌ふ。 『あな悲しや かかる歎きにあはむとは 思はざりしよ いとし子の 行方は何処 今日が日まで 三十日三十夜を探ぬれど 何の便りも波の音 磯打ち寄するばかりなり 万斛の 涙はすでに涸れ果てぬ わが声さへもしをれけり わが身体は日に夜に 痩せ衰へて力なく この世に生きてたよりなし 夢になりとも兄妹の 所在知りたや 顔見たや 思へど詮なき今日のわれは 泣くより外に術もなし この世に神のいますならば わがいとし子の所在をば 一言われに知らさせ給へ 月日は空に照れれども 星は隈なくきらめけど 大地に草は茂れども 湖水の波は騒げども わがいとし子の消息は なしのつぶてや波の上 飛び交ふ千鳥の声ばかり ああ悲しもよ恨めしよ 生きて甲斐なきわが生命 捨つるもやすしいとし子の 生命保ちて地の上に ありとし聞けばさぞやさぞ 蘇るらむわが心 あはれみ給へ厳御霊 瑞の御霊の御前に 老いのやつれの身を捧げ 偏に祈り奉る わが子は何処聞かまほし 娘は何処と朝夕に 探ぬる甲斐も荒風の 野路吹く音の聞ゆのみ。 空見れば心悲しも湖見れば ひたに淋しも子なきわれには 天地の恵みに満つる国ながら 死なまく思ふわが子なければ いとし子の行方探ねてわが魂は 衰へにけり糸の如くに 身体は骨ばかりなるみじめさに 力弱りて淋しきわれなり』 川神姫は歌ふ。 『人の世に生れてわれは年老いぬ 夫の命も衰へぬ 力と頼むいとし子は 如何なる曲の荒びにや 行方しら波立ち騒ぐ 水泡と消えしか浅ましや 玉耶の湖に浮びたる 竜神棲める魔の島に 若しも迷ひて渡りしか 何の便りもあら波の 磯打つ音の淋しさよ われらは朝夕子を慕ひ 姫を慕ひてなく涙 早や涸れ果てて斯くの如 痩せ衰へぬ 言葉さへ 思ふにまかせぬ苦しさよ 百神たちは二人の子の 行方探ぬと山川を 騒ぎ廻れど今にして 風の便りも泣く涙 乾く暇なき袖袂 恵ませ給へ憐れみ給へ 厳の御霊や瑞御霊 神の御前に願ぎまつる 草葉にすだく虫の音や 梢に囀る百鳥の 声を聞きつつ若しや若し わが子の声にあらぬかと 子を恋ふる身の浅ましや まよひにまよふ老の身の 今日は悲しき汀辺に あらぬ望みを抱へつつ 佇み居れば夕津陽は 雲に包まれ遠山の 尾の上に消えてあともなし。 いとし子に離れしわれらは天地の 神を頼むの外なかるらむ 神よ神吾等を憐れみ給ひまして 二人の御子を返させ給へ 眉目形勝れて清きいとし子の かげなき今日はひたに悲しも わが子かと近より見れば叢に 夕べを鳴ける虫の声々 陽は照れど月は冴ゆれど村肝の 心曇りてあやめも分かず 汀辺に匂ふ菖蒲の清しさも われには何の趣もなし 果てしなき大湖原を打見やり 御子と思へば浮寝鳥なる 鳥うたひ百花匂ひ虫鳴けど われには淋しき春なりにけり』 山神彦は又歌ふ。 『草を別け土を潜るもいとはまじ わが子の行方突きとむるまで 夢の世に夢を見ながら夢の如 あてなきわが子を探ねぬるかな わが御子は湖の藻屑となりしかと わがいとし子は彼れならずやと わが御子と名告るものさへあるなれば 鳥も獣もいとはざるべし わが御子は鳥となりしか湖原の 魚となりしか心許なや 玉の緒の生命ある間只一度 見まく思ふもいとし子の面』 かく夫婦は湖辺をさまよひ、歎きの歌をうたふ折しも、館に仕ふる国津神真砂は、あとを探ねて追ひ来り、 『わが君はここにいませりわが君は ここに立たせり嬉しきろかも あちこちと君の行方を探ねつつ 真砂の磯辺にあひにけりしな ありがたし神の恵みに守られて 君二柱生きていませり 艶男の君は何処ぞ麗子の 姫の行方は未だ知れずや』 山神彦はこれに応へて、 『人草の行くべき所はことごとに 探ね廻れど影だにもなし この上は神に任せて帰るべし わが子は此世のものならなくに』 真砂は歌ふ。 『わが君よ淋しきことを宣らすまじ 必ず生きて帰らせ給はむ わが見たる昨夜の夢をうかがへば 艶男の君は帰りますべし 麗子の君の行方は竜宮の 島に渡りて王とならせり さりながら確にそれと宣りがたし ただ朧気の夢にありせば』 川神姫は稍力得顔に微笑を浮べて、 『汝が言葉まことならずも生くるてふ 夢の話に心ときめくも ともかくも館に帰り時待たむ 日は黄昏れて黒白もわかねば』 山神彦、川神姫は、従神の真砂に夜の道を護られ、一先づ館に立帰り、其夜はとつおひつあらぬ事のみ繰返しつつ、淋しき眠りに就きにける。 暁告ぐる鶏の声、鵲の声に呼び覚されて、二人は寝間を起き出で、再び真砂に導かれて栄居の浜辺に出でてゆく。 遥か前方を見渡せば、一艘の舟、此方に向つて艫を漕ぎながら進み来る。 山神彦はこの光景を眺め、若しやわが子にあらずやと脇目もふらず湖上を打ちまもり、 『若しや若しわが子に非ずや浜辺近く 漕ぎ来る舟のあしの早きも 若しや若しわが子の舟と知るならば 百神集へて出で迎へむを』 真砂は、 『正しくや兄妹の舟とおぼえたり 水火土の神艫を操れば』 かく歌ふ折しも、次第々々に舟は浜辺に近づき来る。よくよく見れば舟を操るは水火土の神、舷頭に立つは確に艶男と見ゆれども、いぶかしきは一人の女神なりと、脇目もふらず眺め居たり。 川神姫は、 『水先に立つは確に艶男よ されどをみなの姿はあやしき 見なれざる女を乗せて艶男は 心いそいそ帰り来るらし 神々の厚き恵みに護られて わが子は正しく生きてありしよ』 かく歌ふ折しも、漸くにして水火土の神のあやつる御舟は、三人の立てる湖辺に安々着きにける。 老いたる両親は、手の舞ひ足の踏む所を知らず、忽ち天に向つて感謝言を奏上し、勇み進んで水上山の館をさして帰りゆく。 (昭和九・七・一八旧六・七於関東別院南風閣林弥生謹録) |
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霊界物語 | 79_午_葭原の国土の竜神族の物語 | 20 産の悩み | 第二〇章産の悩み〔二〇〇一〕 艶男の別名を橘と言ふ。艶男の橘は妻の燕子花と共に、空澄み渡り風清き夏の初めを、大井ケ淵に新しき舟を浮べて半日の清遊を試みた。水は洋々として夏陽に輝き、流れゆるやかにして、そよ吹く小波を立て涼味津々たり。 艶男は歌ふ。 『橘の花散る里の夕暮は 風も匂ひて清しかりけり 橘の香り床しく水の面に ただよひにけり夏の初めを 橘の匂へるかげをふむ足に かをりのこるか舟の上清しき』 燕子花は歌ふ。 『香に匂ふ花橘をしるべにて 竜の島根ゆ吾は来にけり 竜宮の花橘にくらぶれば 香り床しき君にもあるかな わが恋ふる情の君のよそほひは あから橘匂へる如し 五月闇あかして匂ふ橘の 君はわが身の光なりけり ただならぬ花の匂ひにあこがれて 水面に夕を橘のわれ 橘の花は床しもその実さへ 花さへ一入めでたくあれば 橘の枝にふれにし心地して 君がみ袖にすがりぬるかな 水清き大井ケ淵の川ぞひに 紫匂ふかきつばたあはれ 朝夕の香り清しき橘の 君に生命を任せけるかな 夜な夜なを君が香りにひたされて 花橘を偲びぬるかな わが袖は床しく香れり舟の上の 川吹く風にさらされながらも 夜な夜なの夢の枕もかむばしや 花橘の君が袖の香 久方の雲間の星も降り来て 橘の上に輝き給へる わが宿の朝夕を匂ひたる 岩燕子花と伊添ひゐるかも 燕子花匂ふ川辺に棹さして 思ふことなし今日の遊びは 花の香はうつらずあれと神かけて 二人が幸を祈りけるかな』 艶男は歌ふ。 『大井川波の綾織る燕子花の 君と楽しく川遊びすも 小波の色も紫匂ふなる 君は床しく竜宮の花かも 川水に影をしたせる橘の 花美しき汝が面かげ 袖にしむ花橘の香りすも 愛しき君と舟に遊べば 燕子花匂へる妹が手枕を 思へば春は久しかりけり 夕風に契る二人の真心を 月もゆるすかほほ笑み給へる 村雨の露にしをれてうなだるる 君のよそほひ愛しかりけり うたた寝の枕に通ふ燕子花の 夢は夜な夜なあたらしきかも 橘の下吹く風のかむばしさも 汝が色香に如かざりにけり わが庭に清しく匂ふ燕子花 水に写して見るはさやけし』 燕子花は歌ふ。 『わが君の情の言葉にほだされて わがまなかひに五月雨の降る 真清水を深く湛へしこの淵に 思ふことなく二人遊ぶも 白萩は水底に清く咲きにつつ 二人が影を眺めゐるかも 尾の上吹く風にゆられて女郎花 花は水底にうつろひゐるも 水上山斜面に匂ふ女郎花の やさしき姿うつれる川水 宵々を君に許されこの淵に 遊ぶわが身は楽しかりけり いとこやの君の情はこの淵の 水底にまして深かりにけり 千重の波ふみて渡りし燕子花の わが身を永く愛でさせ給へ 竜神の島より植ゑし燕子花の 花は常世に捨てさせ給ふな』 艶男は歌ふ。 『男の子吾花橘の香りもて 幾千代までも君を守らむ 汀辺に清しく匂ふ燕子花 見るもさやけき舟の上かな 水底にうつらふ花の影見れば わが魂もうるほひにけり 水上の速瀬を見れば藤ケ丘の あたりにあやしき煙立つ見ゆ 何人の住めるか知らず藤ケ丘の けむらふ見れば人のあるらし 近寄りて尋ねみむかも燕子花 汝が心を知らまほしけれ』 燕子花は稍驚きの色をうかべて歌ふ。 『水上は瀬の速ければ危ふからむ これの淵瀬にあそばせ給へ 藤ケ丘のけむらふ見つつ何故か わが魂は戦きやまぬも 竜神の棲めるにやあらむ朝夕に 藤ケ丘辺に雲霧立つも 世の中に恐るることなき身ながらも 藤ケ丘辺はもの憂かりけり』 艶男は歌ふ。 『さもあれば吾は行かまじ燕子花 いとへる丘に登ると思はず 吾もまた心あやしく思ひけり 朝夕べに立つ雲霧を 天津陽は傾きにけりいざさらば 花園をぬひて館にかへらむ』 斯くて二人は汀辺に舟を繋ぎおき、花咲く丘を右へ左へたどりながら、館をさして帰りけり。二人は睦じく夕飯をすませ、四方山の話にふける折しも、俄に陣痛激しく産気づきければかねて設けし産屋に、真砂、白砂は、送り行きて柴の戸を堅く閉ぢ、館に帰り来り、山神彦、川神姫の御前に、御子生れませる時の迫りしを伝へければ、二人の老神はいたく喜び給ひて、直ちに神殿に参詣で、祈の言葉を捧げまつりぬ。 『掛巻も綾に畏き久方の天にまします主の大御神、この国内を開き給ひし大御祖の御前に謹み敬ひ願ぎ奉る。あはれあはれわが子艶男と、先の日妹背の契を結びたる燕子花はも、日足らひ月をみたして御子産まむ時の迫りければ、主の神等の深き広き厚き大御恵みに依りて、安く穏かに美子を産ませ給へ。生れし御子は此の国の永久の司として、喪無く事なく永久に命を保ち、国津神の安きを守らせ給へ。吾等夫婦は既に年老いて唯一柱艶男を力と頼みゐたりしに、幸なるかも竜の島根より迎へ来りし燕子花姫の御腹満ちて、今日目出度き日とはなりにけり。仰ぎ願はくば燕子花姫の産屋は安く平らけく清くさやけく貴の子を産み了せ給へと、大前に御幣帛奉り山川海野の種々の甘美物、八足の机代に横山の如く置き足らはして奉るさまを、平らけく安らけく聞し召せと申す』 と敬々しく祝詞を宣り終へ、静々と艶男が居間に来て見れば、艶男は腕を組み、黙然として顔青ざめゐたりけり。山神彦夫婦はいぶかりながら、 『我国の司生れますよき日なるを 汝は何故沈み居るにや 水上山ひらき初めてゆ今日の如 目出度きよき日はあらざらましを』 艶男は漸く面をもたげ、重々しき口にてわづかに歌ふ。 『嬉しさの限りなれどもわが妻の 産みの悩みをおもひて沈める 玉の緒の生命の峠ふみ越えて 御子を産ますと思へば苦しき わが為にならむと思へば燕子花 心かなしくなりにけらしな 生れし子は健かなれと祈りつつ 他に一つのわれなやみもてり 若しや若し竜の御子をば産まむかと 思へば苦しき今宵なりけり』 川神姫は艶男の心を慰めむとして歌ふ。 『天地の神の恵みのふかければ 安く生れむさかしき神の子 村肝の心悩ますことなかれ 美しき御子は安く生れむ わが家の宝の御子の生れ来る 今日の目出度き日がらを祝へよ 燕子花姫は雄々しくふるまへば 今日の産屋はうら安からむ』 かかる折しも、遠く看守の役を務めたる真砂は、あわただしく入り来り、満面笑みを湛へながら、 『美しき玉の御声は柴の戸の 中より清くひびき来れり わが君よ喜び給へ貴御子は 今産声をあげさせ給へり 戸をあけて入らむと思へば姫神は いたくこばませ給ひたりけり 天地の開けし心地ただよひて 勇み喜び知らせ奉るも』 山神彦は喜び歌ふ。 『ありがたし神の恵みの幸はひて わが孫安く生れたりけり 今しばし産屋の御戸を開くまじ 産婦は姿見らるるをいとふ 七日七夜産屋に近づくことなかれ 未だ血の若き産婦なりせば 驚きて生命死せむもはかられず 必ず産屋の戸はひらくまじ』 と戒めおきて再び神殿に額き、燕子花の安産せし事を感謝し、川神姫と共に、夜も更けたればとて寝殿に進み入る。艶男は余りの嬉しさに、妻は如何に、わが子は如何にと、たとへ父の厳しき戒めなればとて、最愛の妻や待ち設けたる御子の顔を見ずして止むべきやと、月照る庭を忍び忍び、産屋に近寄り戸の外よりすかし見れば、豈計らむや、姿優しき妻の燕子花は、全身太刀膚の竜体となりて、玉の子を抱き安々と眠り居るにぞ、艶男は一目見るより胆をつぶし、あつと叫びながら逃げ行く音に、燕子花は目をさまし、わが浅ましき此姿を夫の君に見られたるかと恥らひの余り、戸をおし開けて驀地に大井ケ淵の底深く飛び込みにける。生れたる子の名は竜彦と名づけたり。 (昭和九・七・一九旧六・八於関東別院南風閣内崎照代謹録) |
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霊界物語 | 79_午_葭原の国土の竜神族の物語 | 23 二名の島 | 第二三章二名の島〔二〇〇四〕 水上山方面の地は、数日の間天災地妖打ち続き、雷鳴轟き電光閃めき、暴風雨しきりに臻り、驟雨沛然として滝の如く、地鳴震動連続的に起り、大井ケ堰は濁水滔々と流れ落ち、囂々たる水勢は雷鳴に和して、耳も割るるばかりの大騒動とはなりぬ。 大井の淵には四頭の竜神互に眼を怒らし、一人の艶男を奪はむと、間断なく格闘を続け、竜体より流るる血汐は、濁水に和して朱の如く、さすがに広き玉耶の湖も紅の湖と変りけり。水量は日に日に増さり行きて、低地に住める国津神等は住家を流され、生命を奪はるる者多く附近の山にのぼりて難を避けつつありけるが、暴風雨と地鳴との為に振り落され、水中に没して生命を失するもの、その数を知らざりき。 山神彦、川神姫は岩ケ根、瀬音、水音と共に、幼き乳児を抱へ、頂上の神殿に参籠して、一時も早く天変地妖のをさまらむ事を祈願すれども、如何ともせむ術もなく、惨状は益々その度を加ふるのみ。 かかるところへ大空の黒雲を分け、四柱の侍神を従へ、嚠喨たる音楽と共に、水上山の頂さして降り給ひし神は、御樋代神の朝霧比女の神に坐しましける。侍神は大御照の神、朝空男の神、国生男の神、子心比女の神に坐しましける。 朝霧比女の神は、天変地妖をものともせず、儼然として宣らせ給ふ。 『われこそは主の大神の神言もて 御樋代神と降り来つるも 葭原の国土は獣に汚されて 天と地との怒りを招けり 竜ケ島の乙女を汚せし罪によりて 国魂神は怒らしにけり われは今葭原の国土を治さむと 降りて見れば浅ましき状よ 天津神生ませ給ひし食す国を わが物顔に振舞ひし罪なり 山神彦、川神姫が今日の日の 歎きにあふも神の心よ 今日よりはたかぶる心を振りすてて 正しく清く神に仕へよ 此国は汝が治むる国ならず 御樋代神の治す国なり 玉耶湖の中に浮べる竜ケ島は 今は全く備はらぬ国 人の面なしつる女神も身体の その大方は獣なるぞや 神の子の御魂を持ちて獣なす 姫を娶るは罪とこそ知れ 艶男は神の律に叛きたる 報いによりて亡せにけるかも 今日よりはいづれの神も村肝の 心清めて改めよかし。 一二三四五六七八九十 百千万八千万 風も早凪げ雨も降るな 雲よ退け地震振る止まれ これの神国は主の神の 依さし給へる御樋代神の 永久に鎮まる清所なり 雨はれ国はれ雲はれよ 葭の島根は今日よりは 黄金花咲く食す国と 宣り直しつつ開くべし ああ惟神々々 わが言霊に力あれ 生言霊に光あれ』 と宣らせ給ふや、さしも烈しかりし雷鳴は鎮まり、電光は影を没し、暴風雨は跡形もなく尾の上の雲と消え、地震はひたと止まりて、安静の昔にかへりしこそ畏けれ。 山神彦は濁流の次第々々に減じ行くを眺めながら、恐れ畏み歌ふ。 『御樋代の神の光の畏けれ 百のなやみも消え失せぬれば 大御祖神のみあとを継ぎて来し われは御国の仇なりしかも 治むべき神の治むる国なりしと 今更ながら悟らひにけり 御祖より重ね来りし罪科を 許させ給へ御樋代の神 わが伜水の藻屑と消え果てしも 御祖の罪のめぐり来つるか 畏しや貴の言霊幸はひて 国のなやみは消え失せにけり 今日よりは心清めて御樋代の 神の教にまつろひ奉らむ』 川神姫は恐る恐る御前にひれ伏して、述懐を歌ふ。 『はしけやし厳の御神天降りまして われらが悩みを救はせ給ひぬ 知らず知らず罪を犯せしわれなりし 許させ給へ天降ります神 御顔を仰ぐもまぶしくなりにけり 曇りきりたるわがまなかひは まなかひの眩むばかりに思はるる 神のよそほひ尊きろかも 今となりてわが子の生命は惜しむまじ ただ惟神神に任せむ よしやよしわれらの生命召さるとも 罪し消ゆれば悔ゆる事なし 昔より此丘の上に鎮まりて 国を守りしことのはづかし 主の神の御許しなくばよき事も 罪なりといふ事を悟りぬ』 御樋代神の朝霧比女の神はうなづきながら、 『汝が言葉澄みてありけり宜よ宜よ 国の司とありし身なれば 汝が罪をここに改め許すべし 水上の山に永久に鎮まれ』 山神彦は涙を袖に拭ひながら、 『再生の思ひするかな御樋代神の なさけの言葉かたじけなみつつ 天地の神は怒りて国原は 修羅の巷となりにけりしな 常闇の世を照しつつ天降りましし 神の御前に戦くわれなり』 岩ケ根は恐る恐る歌ふ。 『二柱神に仕へて今日までも 安く暮れにしわが身恥かし 御樋代の神の御前を伏し拝み わが身体はいすくみにける 主の神の御許しなくて仕へたる われは悲しも罪を重ねて 目路の限り国津神らの住む家は 跡形もなく失せにけるかも かくの如なげきの種を培ひし われは礼なき罪人なりける わが生命よしや死すとも厭はまじ なやめる神を許させ給へ 此館に古く仕へて年老いぬ 著きいさをのあともなくして』 水音は歌ふ。 『久方の雲井を分けて天降りませし 神の御前にわれ戦きぬ 常闇の醜の国原伊照らして 天降り給ひし尊き神はも 滝津瀬の水音とみにしづまりて 漲る水は低みたるかも つぎつぎに漂ふ水も流れ行きて 狭霧立ちたつこれの国原 如何して貴の恵に報いむと 思ふはわれらが真心なりけり』 瀬音は畏み歌ふ。 『常闇の歎きに泣きしわが魂も 神の光によみがへるける 幾千代の末の末まで忘れまじ 神の恵のいやちこなるを あはれあはれ水上山の聖場は 蘇りつつ朝日照らへり 草も木も歓ぎよろこぶ世となりぬ 光の神の天降りましてゆ』 大御照の神は御歌詠ませ給ふ。 『天津日も大御照らしの神なれば 御樋代神に添ひて降れる 今日よりは御空の雲霧吹き払ひ 葭原の国土を生かさむと思ふ 光闇行きかふ世なりわれあらば 夕さりくるも国原明るし 竜神の島の乙女に心せよ 彼等は全き神にあらねば 御樋代の神の渡らせ給ひなば 竜の島根は生く国とならむ 伊吹山尾根に集る曲津見は 百花千花と化りて匂へるよ』 岩ケ根は頭を地にすりつけながら、 『ありがたし天津御神の御宣示 心に刻みて忘れざらまし 歎かひの日を送りつつよろこびの 今日はよき日にあひにけらしな』 朝空男の神は御歌詠ませ給ふ。 『悩ましき水上の山のありさまを われあはれみて降り来つるも 御樋代の神のみあとに従ひて 天降りしわれは朝空男の神 朝津日は御空に昇り夕月は 尾の上にかかりて国土照しまさむ 主の神の貴の食す国を美し国と 治めて永久の礎固めむ 山神彦よ岩ケ根、瀬音、水音と 力協せて御子を育てよ 生ひ立ちし御子を此地の司とし 近き辺りを安く治めよ』 山神彦は嬉しさのあまり、落涙しながら地に伏して歌ふ。 『罪深きわれらが孫をかくまでも 恵ませ給ふと思へば悲しき 真心のあらむ限りを捧げつつ 御樋代神に永久に仕へむ』 川神姫は同じく伏して歌ふ。 『常闇の世は晴れにけり隈もなく 御樋代神の光によりて わが夫と共にかしこみ此国の 近き辺りを謹み治めむ』 国生男の神は御歌詠ませ給ふ。 『葭原の国土は涯なく広ければ われは力の限りを尽さむ はてしなき此国原に天降りまして 都つくると思へばいさまし』 御樋代の神は再び歌はせ給ふ。 『朝霧は四方に立ちたつ夕霞 棚引き初むるこれの国原 水上山これの清所は年老いし 二人を休ませ岩ケ根にあづけむ 此御子の生ひ立ちまさば岩ケ根は 国の政治を御子に返せよ 此御子は竜神の腹に生りませば 国津神らの手には育たじ 子心比女神に嬰児を守らせて 安く雄々ししく育てむと思ふ』 岩ケ根は地に伏して歌ふ。 『ありがたし老います君のあとうけて 水上の山に仕へ奉らむ 貴御子の生ひ立ちまさば吾は直に これの御国を返し奉らむ 貴の子の生ひ立ち頼みまゐらする 御樋代の神子心比女の神に』 子心比女の神は御歌詠ませ給ふ。 『御樋代の神の仰せをかしこみて 朝な夕なを恵み育てむ』 斯く歌ひ給ひて、竜彦の御子を御肌に抱へさせ給ひ、 『貴の子よ愛しき御子よ汝こそは 国の柱よすくすく育てよ。 神の恵はいや広し 汝の生命の永かれと 朝夕祈りて育まむ 山神彦よ川神姫よ 心安かれ岩ケ根も すくすく此子の生ひ立ちを 楽しみ待てよ惟神 われはこれより高光の 御山を指して御樋代の 神に従ひ出で行かむ ああ惟神々々 恩頼は永久にあれ 恩頼は永久にあれ』 と歌はせ給ひつつ、悠然として雲を起し、御樋代の神の他四柱は、高光山の方面指して出で給ひける。 因に言ふ、高光山を境として、東に御樋代神の貴の御舎は建てられ、土阿の宮殿を造り、改めて土阿の国と名付け給ひ、高光山以西を予讃の国と名付け給ひ、葭原の国土を総称して貴の二名島と称へ給ひけるぞ畏けれ。 (昭和九・七・二〇旧六・九於関東別院南風閣白石恵子謹録) |
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霊界物語 | 81_申_伊佐子の島の物語 | 02 月光山 | 第二章月光山〔二〇二九〕 イドム城は敵の襲来に破れて、敗走したるアヅミ王初め妃ムラジ、左守ナーマン、右守ターマン及び軍師シウラン其の他討ち洩らされし軍人等は遠く南に逃れ、月光山の嶮所を扼し、ここに城壁を造り、南端の国原を治めつつ再挙の時を待つ事とせり。 王の一人娘チンリウ及び侍女のアララギの両人を初め数多の勇士は、敵の捕虜となりて遠く大栄山を北に越え、サールの都の城中の牢獄に繋がれ、悲しき月日を送る事とはなりぬ。 アヅミ王は最愛の娘チンリウの姿なきに歎きの余り述懐を歌ふ。 『遠き神代の昔より 平和の風に包まれて 安く楽しく暮したる イドムの国は果敢なくも サールの国のエールスが 軍のために奪はれて 今ははかなき南方の 月光山に退きて 再挙を計るくるしさよ 数多の味方は敵軍に 討ち滅されわが軍は もろくも敗れを取りにけり かかる歎きのその中に 我世を継ぐべき愛娘 チンリウ姫の姿なく たづぬる由も泣くばかり 或は敵に討たれしか 思へば思へば悲しもよ 天地の神の御恵に 姫の行方を夢になと 知らせ給へと祈れども 何のしるしも荒風の 山野を吹きゆく音ばかり ああ惟神々々 再び軍を調へて 祖先の賜ひしイドム城 再びわが手に取りもどし 姫の在処を探らむと 千々に心を砕くなり 思へば思へば味気なや 月光山は清くとも 川の流れは清しとも 何の楽しみなきままに 月日を暮す果敢なさよ 月は御空に輝けど 星は黄金とまたたけど 吾目はくもりて涙のみ 救はせ給へ天津神 国津御神の御前に はかなき我世に再生を 偏に祈り奉る。 月光の山に漸く逃れ来て 再挙を計る吾は苦しも いとこやのチンリウ姫は今いづこ 生命失せしか心もとなや 時を得てイドムの城を取り返し 祖先の功を輝かしみむ エールスの猛き軍に破られて もろくも吾は逃げ来つるかも わが軍そなへ破れて敵軍に イドムの城は奪はれにける 如何にしてもイドムの城を取り返し 国津神等を安く住ませむ エールスの悪逆無道に国津神は 朝な夕なを歎くなるべし 国津神は親を奪はれ子をとられ 珍の宝も奪はれにけむ 諸の果実ゆたかに実るなる イドムの国はあらされにける 国津神の祖と生れにし吾にして 朝夕歎く浅ましさかな』 ムラジ姫は歌ふ。 『安らけきイドムの国は上も下も 驕りし罪に斯くは滅びしか 天地の恵になれて昼夜の 恵み忘れし報いなるらむ 今日よりは天地の神をおそれみて 厚く敬ひ仕へ奉らな 神々の厚き恵を忘れたる イドムの国は斯くも滅びぬ 月光の山に天地の神々を 斎き奉りて世を開くべし 上も下も曇り果てたる国故に 神の譴責に滅びしならむ 主の神の守りなければ国津神の 力に国の治まるべしやは 上も下も神の恵を悟りつつ 心清めて務めはげまな シウランの軍のきみも心せよ 人の力に戦は勝てず 国津神の名は称ふれど人の身よ 人の力は限りあるなり 限りなき神の力を身に受けて のぞまむ道に仇神はなし 仇神は隙を窺ひ攻め来り イドムの国を乱しけるかな』 シウランは歌ふ。 『畏しやムラジの姫の御言宣り 吾は宜よとをののくのみなる 今となりて王の御国をあやまりし 吾は世に立つ顔もなし 吾王に不明の罪を詫び奉り 軍師の司を返し申さむ 今日よりは凡人となりて国の為 王の御為に誠を捧げむ 大軍を抱へながらも敵軍に 敗れし思へば吾顔立たじ 願はくば軍師の司を召し上げて 凡人の群におとさせ給へ』 アヅミ王は歌ふ。 『勝敗は時の運なり汝のみか 吾の罪なり心安かれ 君なくばこれの御国は治まらじ 心の駒を立て直すべし エールスは戦のそなへを足はして 再びここに押し寄するらむ 押し寄する敵の鉾先くじきつつ 月光山を永久にささへむ 歎くとも及ばざりけり天地の 神を祈りて敵に備へむ』 シウランは歌ふ。 『吾王の御言畏み吾は只 嬉し涙にくるるのみなり 今日よりは神の力を力とし 王の恵にむくい奉らむ 吾王よ御心安くおはしませ 敵を千里に吾退けむ この広き伊佐子の島の隅々まで 王の領有ぐ御国となさむ』 ムラジ姫は歌ふ。 『蘇る心地するかもシウランの 軍師の言葉力と頼みて 千載の恨みはらすとイドム城に 軍を向けて奪ひ返さむ さりながら二年三年の備へして エールス王を征討め奉れよ』 シウランは歌ふ。 『ありがたしムラジの姫の御言葉 吾は必ず報い奉らむ さりながらチンリウ姫の御行方 ためらはずして探し求めむ 軍人の中にも雄々しき武士を 選びてサールに遣はさむかな』 アヅミ王は歌ふ。 『チンリウ姫の在処を吾はさぐりたし 一日も早く軍を遣はせ 三柱の武士を遣はしひそやかに 姫の在処を求め来れよ チンリウの姫の行方の判るまで 吾戦ひを起さじと思ふ チンリウの侍女のアララギ諸共に 生命保つか心もとなし アララギは賢女なればチンリウ姫を かばひていづくにか潜みゐるらむ アララギの誠を一つのたよりとし 吾は日夜をなぐさめて居り』 左守のナーマンは歌ふ。 『吾王の心思へばかなしもよ 吾身の力足はなくして 王いますイドムの城を奪はれて 吾は生きたる心地せざるも 歎くともせむすべなければ村肝の 心を堅めて再挙を計らむ 月光の山に仕へて夜もすがら 涙にくるるは姫の御事 亡びたる国を再び生かさむと 心は闇にさまよひにける』 右守のターマンは歌ふ。 『恥かしや吾は右守を務めつつ イドムの国を奪はれしとは 如何にしても元津御国を取り返し 王の御稜威を照らさでおくべき 国津神の驕りの罪の報い来て 斯くもかなしき憂目にあひしか 火と水と土を尊み畏みて 神を敬ひ世に生きむかも 火と水をおろそかにせし報いにて 吾住む地も奪はれにけり 斯くならばせむすべもなし村肝の 心堅めて再挙せむのみ』 アヅミ王は歌ふ。 『今日よりは月光山の頂に 主の大神の宮居造らむ 主の神の恵になれて今までは 朝夕べを務めせざりき 朝夕を神の御前に額づきて 国の栄を祈り奉らむ 国津神を呼び集へ来よ主の神の 御舎急ぎ造り奉ると』 左守の神は歌ふ。 『吾王の教畏み今日よりは 主の大神の御舎仕へむ』 これより左守の神は附近の国津神に命令を降しけるにぞ、国津神は大いに喜び、老も若きも男も女も月光山に集り来り、大峡小峡の良材を本打ち伐り末打ち断ちて柱梁等集め、ここにいよいよ主の大神の宮殿を造営の運びとはなりける。 左守の神は先づ地鎮祭を行ひ、石搗の歌をうたふ。 『月光山の聖場に アヅミの王の御言もて 主の大神の御舎を 大宮柱太知りて 高天原に千木高く 仕へ奉ると今ここに 国津神等集りて いと勇ましく地かための 珍の祭りを務むなり 彼方此方の岩座を この聖場に持ち運び 槻の大木を伐り採りて 石搗柱と定めつつ 大地の底のわるるまで 力を籠めて打つ石の 千代に八千代に動ぎなく イドムの国の礎と 御代に輝けよこの石は 月光山の溪間より 国津神等の誠もて 集まり来りし御魂石 ああ面白や面白や 打てよ打て打て石の面 大地の底へととほるまで 打てよ打て打て天地の 一度にどよむところまで よーいとなあ、よーいとなあ』 右守のターマンは歌ふ。 『ああ有難や有難や 今日の吉き日の吉き辰に アヅミの王の御言もて 月光山の頂上に いと美しき主の神の 御舎建つるいさましさ この大宮の建つ上は 朝な夕なに謹みて 吾等は仕へ奉るべし 如何に雄々しき吾王の いますと言へど神なくば 永久の御国は治まらじ イドムの城を取り返し エールス王を平げて 神代のままのイドム城 王の御稜威は四方八方に 輝き渡らむ礎と 思へば今日の足れる日の この石搗の音のよき 御空に天津日照り渡り 吹き来る風の清しさに 汗さへ出でぬ石搗の この働きの勇ましさ ああ惟神々々 神の恵ぞ畏けれ』 漸くに石搗の儀式は終了し、一同は月光山の聖場に果実の酒等を酌み交し、あらゆる馳走を作りて、祝宴は小夜更くるまで開かれにける。 アヅミ王はこの場に静々と現はれ来り、この光景を眺めて歌ふ。 『月光の山は八千代に栄ゆべし 国の礎固めし今日はも 天地をゆるがせ歌ふ神々の 声いさましく目出度かりけり 左守、右守其の他の司の神々も 今日の務めをよろしみ思ふ いと早く貴の御舎仕へ奉れ 主の大神を斎き奉ると』 ムラジ姫は歌ふ。 『よみがへりよみがへりたり月光山 今日の歓び天に響きて 奪はれしイドムの国の礎を 月光山に搗き固めたり かくならば主の大神の御稜威もて イドムの国を再び治めむ エールスの悪魔の司を言向けて サールの国に追ひ返さなむ』 シウランは歌ふ。 『ありがたし今日の吉き日のよろこびは 神もいさむか天地晴れたり 一片の雲さへもなき大空の 蒼きは神の心なるらむ 吾心勇み勇みて大空の 雲井の蒼にとけ入りにけり わが国は神を斎きて朝夕の 御祭りせずば治まらざるべし 兎にもあれ角にもあれや吾王の 神を祭らす御心嬉しも』 左守のナーマンは歌ふ。 『風清く空晴れ渡る今日の日の 石搗祭り清しかりけり 月光の山は今日よりかがやかむ 主の大神の光り添ふれば 常闇の世を照らさむと主の神の 御光仰ぐ月光の山』 右守のターマンは歌ふ。 『うるはしき月光山の頂上に 神天降らすと思へば嬉し 天地の神を祭りて国の政 はげむは王の務めなるらむ 吾王は真の務め悟りましぬ これの御国は今日より栄えむ 南のはてなる月光山の上に 神を祭りて再挙計らすも 吾心とみにいさめり月光の 山に天降らす神を思ひて』 その他国津神等の祝歌は数多あれども、省略することとせり。 (昭和九・八・四旧六・二四於伊豆別院谷前清子謹録) |
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霊界物語 | 81_申_伊佐子の島の物語 | 07 月音し | 第七章月音し〔二〇三四〕 地上の楽土と聞えたるイドムの国も秋さりて 四方の山野は錦織り吹き来る風は爽かに 虫の啼く音も清しくて天津御国の思ひあり 大栄山の百樹々は錦の衣着飾りて 天津御空に峙ちぬこの麗しき大栄の 百谷千溪の清流を集めて流るる水乃川 川幅広く水蒼く底ひも知らぬ深淵の 岸辺に壁立つ巌ケ根は神の斧もてけづりたる 如き奇勝の其の上に映ゆる紅葉の麗しさ 松の緑をちりばめて小鳥囀り虫は啼き 夕さり来れば月宿るイドム唯一の絶勝地 ここに遊べる艶人は新たにイドムの城主となりし エールス王を初めとしサツクス姫やチクターの 外に供人なかりけり淵瀬に写る月光を あかなく見つつ酒酌み交し歓喜を尽しゐたりける。 エールス王は、ほろ酔ひ機嫌にて、水面に写る月光を眺めながら歌ふ。 『宵々を酒酌み交し宵の月 酔をさまして流るる川水 この淵に人魚の棲むと人のいふも うべなり水底も見えぬ深淵 紅に照る紅葉も夕されば かげ黒々と水にうつろふ 月かげに描ける巌のかげ見れば 淵も紅葉も一つ色なり 麗しき天国浄土に住む心地 しつつ天地の恵みによふかな 酌む酒の味も一入かんばしし 月の流るる水面眺めて 泡立ちて流るる水はしろじろと 真玉かがよふ月の光りに 小夜更けて虫の音細くなりつれど 館に帰らむ心起らず 飲めよ飲め騒げよ騒げ世の中は 光と闇のゆき交ふ世なれば 月影の水にうつろふ清しさに 恋しくなりぬ水乃の川なり 大栄の山より落つる水乃川の 汀に棲める河鹿の声々 星影を流して澄める水乃川の 真砂は白し月に照らひて』 サツクス姫は歌ふ。 『わが王の御供に仕へて水乃川 流るる夜半の月を見しかな 春もよし夏もよけれど秋月の 流るるさまは一入さやけし 水乃川瀬筋流るる月影は 千々に砕けて面白きかな 静かなる月にはあれど瀬の波の 谷間に砕けてうつろふかげかな 右左波にさゆるる月光は 世のさまざまのあかしなりけり』 チクターは盃を捧げながら歌ふ。 『王に従ひ壁立つ巌に 坐して月見の酒を酌む 虫は啼く啼く河鹿はうたふ 月は波間に舞踏する 山は大栄人魚は真珠 月の流るる水乃川 上と下とに秋月眺め 紅葉照る夜に酒を酌む 松も紅葉も影黒々と 川の面を描いてる 松の梢に月澄み渡り 酒に染まりし顔紅葉 月は皎々御空に澄めど 恋に曇りしわが心 恋の黒雲吹き払はむと 壁立つ巌根に月見酒 吹けよ川風うたへよ河鹿 月に酒酌む男あり 王は勇まし高山越えて イドムの主と住み給ふ 澄める月光流るる川の 岸に酒酌みや虫が啼く』 エールス王は機嫌斜ならず、チクターの歌に釣り出され、酒に足をとられ、よろよろしながら常磐樹の松に片手を掛け、ロレツも廻らぬ舌もて歌ふ。 『心地よきかなイドムの城は 花と紅葉のすみどころ 花は千咲く成る実は一つ 心もむなよわが妻よ 酒に酔た酔た一升の酒に 川の流れも目に入らぬ 月は照れどもわれより見れば 辺り真暗真の闇 西も東も分らぬまでに 酔ふて苦しき月見酒 月の露ほど美味酒飲んで 酔ふて苦しむ川の側 小夜更けて虫の啼く音も細々と 早く館へ帰りたい』 サツクス姫は歌ふ。 『王の言葉は聞えませぬよ 此処もあなたの治らす国 館ばかりが家ではないに 館こがるる王をかし 川の瀬音に耳すませつつ 明日の朝まで待ちませう』 チクターは歌ふ。 『前も後も分らぬまでに 王は酔はすか面白や 姫様よ日頃の謀計今此の場所で やつて見なされ恋の為 悪い事とは知つては居れど 恋の為には是非もない』 エールス王は、妻のサツクス姫と左守のチクターとが深き恋仲となつてゐる事は夢にも知らず、両人におびき出され、無性矢鱈に酒を飲み、前後も分らずなれるを見澄まし、チクターはサツクスに目配せするや、恋の悪魔にとらはれしサツクス姫は、時こそ到れりと、エールス王の背後に立ち廻り、全身の力を籠めてウンとばかり突き落せば、何条以て堪るべき、エールス王は壁立つ崖よりザンブとばかり突き落され、水泡となりて消えにけり。 サツクス姫は、いやらしき笑を浮べ、水面を眺めながら、 『天地も一度にひらくる心地かな わが仇雲は水泡となれり わが王と敬ひ仕へまつりたる 人は水泡となりにけらしな 大空に輝き給ふ月影を 仰げば何か恐ろしきわれ さりながら月は語らじ川水は 今宵のさまを伝へざるべし 虫の音も河鹿の声も何となく われは寂しくなりにけるかも さりながらチクターの君と今日よりは 親しく住まむと思へば楽し』 チクターは歌ふ。 『恐ろしき姫にますかも背の君を 川に落して微笑ますとは われも亦第二のエールス王なるかと 思へばにはかに恐ろしくなりぬ 如何にせむかくなる上はわが王の 行方知れずと世に知らすべきか 病気に打ち伏し給ふと世の中に しばしのうちを伝へ置かむか』 サツクス姫は歌ふ。 『心弱き事を宣らすなわが王を 水泡とせしは汝ならずや 直々に手は下さねど汝が心 わが手をかりて殺したるなり 天地の神の御前に恐ろしと 思ふ心を打ち消し給へ』 チクターは歌ふ。 『わが王は酒に酔はせて水乃川の 淵に落ちしと世に知らすべし かくすれば吾等に疑ひかかるまじ 隠すは却りて露はるるもとよ いざさらば急ぎ帰りて城内に 王の溺死を報告為さむ』 サツクス姫は歌ふ。 『われわれの謀計全く図に当り 憐れエールス水屑となりぬ いざさらば急ぎ帰らむイドム城へ 長居は恐れよ人目なくとも』 かくて両人は、何喰はぬ顔にてイドム城に帰り、酒に酔ひつぶれたる風を装ひ、群臣を一間に集めて、エールス王の訃音を伝へむと歌ふ。 サツクス姫。 『水乃川流るる月を見ながらに わが背の君と酒を酌みつつ 背の君は月見の酒に酔ひつぶれ よろめき淵瀬におちさせ給へり チクターは素裸体となり深淵に 飛び入り探せど御影見えず 暇どらばことぎれやせむと吾も亦 水中に飛び込み王をさがせり 大空に月は照れども夜なれや 王の御影見るよしもなし 汝等に知らす間にことぎれむと 二人は生命からがら探ねし わが王の身を果敢なみて涙ながら 急ぎ館にわれ帰り来し 汝等は水乃の川に立ち入りて 水底を潜り探ね来れよ 平和なるイドムの城も黒雲に 包まれし如われは悲しき』 チクターは歌ふ。 『姫君の仰せの如く川の瀬を 潜り探せど御影なかりき 生命にもかへて尊き吾王の あはれ行方は見えずなりけり 如何にしてサツクス姫の御心を 慰めむかと心砕きぬ 姫君の歎き思へばわれも亦 生命いらなく思ひけらしな 司等は数多の人を水乃川の 上津瀬下津瀬に配り探させよ』 夜中の事ながら、軍師のエーマンは急ぎ登城し、二人の様子を見て頭を傾け、無言のまま黙し居たりける。諸々の司等はエールス王の死体を求めむと、鉦や太鼓を打鳴らし、群集を集め水中隈なく捜索の結果、壁立つ巌根の深淵に、王の死体を発見し、型の如く盛大なる土葬式を行ひける。 これより、サツクス姫は女王として君臨し、チクターは依然として左守を勤め、両人が心の秘密は一人として知るもの無かりける。 (昭和九・八・五旧六・二五於伊豆別院林弥生謹録) |
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霊界物語 | 81_申_伊佐子の島の物語 | 11 五月闇 | 第一一章五月闇〔二〇三八〕 サールの国王エールスが、イドムの国を占領せむとして大兵を募り、イドム城に疾風迅雷的に攻め寄せ、一挙にして王城を占領し、アヅミ王を始めムラジ妃及び左守、右守、軍師も共に月光山に逃走せしめ、数多の敵軍を捕虜としてサールの国の牢獄に繋ぐべく騎士をして護送せしめた。 サールの国には大栄山より流れ落つる木田川と言ふ薄濁つた流れがある。ここには橋梁もなければ船もないので、いづれも水馬の術を以て渡ることとなし、木田川をへだて、東の丘陵木田山にエールスは城壁を構へ、要害堅固の陣地とたのんでゐる。 エールス王の太子エームスは木田山城の留守師団長として守つてゐたが、数多の敵軍の捕虜の送られて来るのを見むと、城内の広場に夕月、朝月の侍臣を従へ、その状を愉快げに眺めてゐたるが、其の中に気品優れて高く、面貌麗しき三人連れの美人を認め、独り身のエームスはたとへ敵国の女性にもせよ、何とかして吾妻に為さむものと、それより吾館に帰り、忽ち恋慕の鬼に捉はれ、夜も昼も煩悶苦悩の溜息ばかり続け居たりける。 この三人の美女は言ふ迄もなく、アヅミ王の娘チンリウ姫にして、稍年老いたるのは侍女のアララギ及びチンリウ姫の乳兄弟なる乳母の娘センリウの三人なりける。 朝月、夕月はエームスの日夜の様子只ならざるに心をいため、如何にもして爽快なる太子の笑顔を見むものと、あらゆる手段をつくし、声美しき小鳥も集め或は虫を啼かせ、種々の禾本類を太子の眼近き所に陳列し、その上歌を歌ひ或は踊り舞ひ、種々と心力をつくせども、太子の身体は日夜に憔悴するばかりなりければ、或日朝月、夕月は太子に花ケ丘の清遊を勧めむと、側近く参入して歌もて勧めける。 朝月は歌ふ。 『朝月の光はおぼろに白けつつ 花の蕾に露を宿せり 花ケ丘の百花千花悉く 若王が情の露に濡れつつ 若王の心の蕾開かむと 涙の露を降らす朝月』 エームスはかすかに朝月の歌を聞いて、稍心動きたる如く、二三歩前に進み来りて歌ふ。 『朝月の光は白けて大空は かすめり吾が心にも似て 吾心朝な夕なに晴れやらず 花鳥風月楽しみにならず 百鳥の囀る声も松虫の 共啼きさへもかなしき吾なり 吾父は生死の巷に戦へり されど吾にはかかはりもなし 吾心戦に出でます垂乳根に いつか離れて花に悩めり 花ケ丘に匂へる桃のよそほひも 吾にはかなしき便りなりけり 山も川も吾にはかなし木田山の 館もさびし思ひはれねば』 朝月は歌ふ。 『吾若王の御心かすかに悟りたり 朝月吾は花便りせむ』 エームスは歌ふ。 『たらちねの仇なる花にあこがれて 吾はくるしき夢を見るなり 斯くならば誉も位も玉の緒の 吾生命さへ惜しけくはなし ままならぬ人を恋ひつつままならぬ わが世を歎きぬ朝夕べに はてしなき広きサールの国中に かかる目出度き花は見ざりき』 朝月は歌ふ。 『若王の欲りする花は捕はれの 花にあらずや語らせ給へ』 エームスは歌ふ。 『恥かしと思へど吾は村肝の 心明さむ汝が言葉あたれり 捕はれの女の姿気高ければ 正しくアヅミの娘なりけむ 吾父はアヅミの国を滅ぼして 恨みを買ひしことのかなしさ 心安く手折り得べけむその花を 父の嵐に散らされむとすも』 朝月は歌ふ。 『吾若王のかなしき心まつぶさに 牢獄の女に吾は伝へむ 言霊の舌の剣を振りかざし 若王の心をはらし奉らむ 麗しき三人の女のその中に すぐれてたかきを若王に進めむ どこまでも吾真心を打ち明けて イドムの国の花をなびかせむ』 エームスは稍面色をやはらげながら嬉しげに歌ふ。 『朝月の露の情にうるほひて 蘇るらむ朝顔の花は 初恋の吾初花を手折らむと 露の涙に朝夕くれけり』 朝月は歌ふ。 『木田川の流れはよしや涸るるとも 若王の依さしを遂げずにおくべき 斯くならば吾は今日よりアヅミの娘 若王が床の花と咲かせむ』 エームスは歌ふ。 『たのもしき汝が言葉よ朝月の 光を力に夕べを待たむ』 朝月は歌ふ。 『朝月の光消ゆるとも夕月の 光清ければ心安かれ』 夕月は歌ふ。 『吾若王の情の露にほだされて アヅミの花は御側に薫らむ 夕月の光を合図に忍びよりて 若王が真心伝へ奉らむ 朝月と夕月心を一つにし 露の情になびかせ奉らむ 三柱の美しき姫朝夕を うなかぶしつつ涙にしめれり 朝夕に涙の露にうなだるる 花をし見ればあはれもよほす 若王の真心つぶさに伝へなむ 物言ふ花も笑みて栄えむ 兎も角も善事は急げと昔より 世のことわざもありしを思ふ 一時も早く御心安めむと 心の駒は勇み立つなり』 エームスは欣然として歌ふ。 『朝月の光はさやけし夕月の 光りは強し夕顔の花 夕顔の花の白きにあこがれて 吾は生命をかけて待つなり』 朝月は歌ふ。 『いざさらば三人の姫のこもりたる 牢獄に進みて言霊開かむ』 夕月は歌ふ。 『若王の生命の恋をかなへむと 真心の駒に鞭うち進まむ』 エームスは歌ふ。 『恥かしきかなしき心を推しはかり 出でゆく汝が復命待たむ』 斯く主従は歌を交しながら暫し袂を別ちける。朝月、夕月の立出でし後に、エームスは一時千秋の思ひしながら、高殿より眼下を流るる木田川の薄濁りを瞰下しながら静かに述懐を歌ふ。 『木田川の流れは如何に濁るとも 吾真心のうつらざらめや 月も日も浮びて流るる木田川の 水はかなしもかげくだけつつ 百千々に心くだけど口なしの 花にも似たる吾なりにけり 大栄山越えてはるばる吾父は なやみの種を蒔き給ひける 父も母もとほくイドムの国に在り 吾さびしくも恋に泣くなり ままならぬ花を恋ひつつ手折るべき よすがなき身のかなしき吾なり 朝月はいかがなしけむ夕月は いづらにあるか御空曇らふ 村肝の心の空の雲霧を いかに晴らさむ五月雨の降る 五月雨にしめり勝なる吾袂 知る由もなくほととぎす鳴く 百鳥も必ず恋を叫ぶらむ 独り身吾の心にも似て 妻恋ふる尾の上の鹿のそれならで 吾面ざしに散る紅葉かな 朝夕に青息吐息つきながら 生命の恋にあこがれにけり 吾父に恨みを買ひしアヅミ王の 娘と思へば一入かなしき 晴れやらぬ五月の空に吾は只 空を仰ぎて吐息するのみ 庭の面にあやめ、かきつばた匂へども 吾には何の望みだになし しとしとと降る五月雨は吾袖の 乾く間もなき涙ならずや かかる世に生れてかかるかなしさを 今日が日までも悟らざりけり 木田川の水とこしへに流るとも 吾の悩みを洗ふすべなき 捕はれし清き女はアヅミ王の 娘と聞きて驚きしはや 兎も角も朝月、夕月言霊の 露に匂はむ朝顔夕顔 夕顔の花に心を奪はれて 吾魂は闇となりける 恋すてふ心のかなしさ悟りけり アヅミの王の娘に会ひて 一目見て吾魂は乱れたり 恋の悪魔に捕はれにけむ よしやよし吾玉の緒は消ゆるとも 一夜の語らひなさでおくべき 国も城も吾身も総てを忘れたり 只あこがるる夕顔の花 夕暮にふと眺めたる花なれば 吾夕顔と名づけてあこがる 夕顔の心如何にと案じつつ 吾垂乳根の心を恨むも いたづらに平地に浪を起したる 父のすさびをかなしく思ふ 父母の仇なる敵に夕顔の 君は心をまかさざるべし』 斯く独り述懐を述べ居たる折もあれ、侍女の滝津瀬、山風の両人は、各自茶を汲み菓子を捧げながら恭しくエームスの前に進み来り、憂ひに沈める太子の態をいぶかりがら滝津瀬は歌ふ。 『滝津瀬の清水を汲みてわかしたる お湯召し上れエームスの君』 山風は歌ふ。 『大栄山なぞへに実りし果実よ いざ召し上れ生命の桃の実』 エームスは黙然として、侍女が捧ぐる茶の湯にも、果実にも、手を附けようともせず俯いてゐる。 滝津瀬は再び、 『若王の御面ざしのすぐれぬは 身にいたづきのおはしますにや 若王の今日のよそほひ見るにつけて かなしくなりぬ滝津瀬吾は 月も日も隈なく照れる世の中に 何歎かすか太子の君は 御心のなぐさむるならば吾生命 若王に捧ぐもいとはざるべし 朝夕に若王に仕ふる滝津瀬も 今日はさびしき思ひするなり 若王のすぐれ給はぬ顔を 拝みて吾はくだくる思ひす 一言のいらへの言葉願はしや 吾は為すべきすべもあらねば』 山風は歌ふ。 『若王の御面いたく曇らへり いかなる悩みを持たせ給ふか 咲き匂ふ花をつれなく吹き散らし 梢清しき山風の吾 いかならむ悩みおはすか知らねども 山風吾は吹き払ふべし 大栄の山の尾の上の黒雲も 吹き散らすべし小夜の山風 若王の心の雲霧払はむと 山風吾は心くだきつ』 エームスはかすかに歌ふ。 『滝津瀬や山風の心よみすれど 吾宣る言葉なきがかなしき 朝されば朝顔思ひ夕されば 夕顔思ひてしめらふ吾なり 木田川の水とこしへに流るれど いつか晴れなむ心の闇は ほととぎす朝夕べの分ちなく 鳴きつる空は吾心かも 月も日も光をかくせる五月闇に 鳴くほととぐす吾ならなくに 滝津瀬も早く寝よかし山風も 吾前を去れ小夜更けぬれば 吾は只思ひの淵に沈みつつ 闇の水音聞きて明さむ』 滝津瀬は歌ふ。 『若王の御言畏みいざさらば まかり退らむ貴の御前を』 山風は歌ふ。 『若王の悲しき心ははかれども せむすべもなき吾身なりけり』 斯く歌ひて二人の侍女は吾居間にすごすごと帰りゆく。 小夜更けの空に鳴き渡るほととぎすの声、四方八方よりしきりに木田山城の森をかすめて響き来る。 (昭和九・八・一四旧七・五水明閣谷前清子謹録) |
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霊界物語 | 81_申_伊佐子の島の物語 | 12 木田山颪 | 第一二章木田山颪〔二〇三九〕 アヅミ王の娘チンリウ姫は、乳母のアララギ及びアララギの娘センリウ女とともに敵城に虜はれ、第一の牢獄に縄目の恥を忍びながら、世をはかなみつつ互に述懐を歌ふ。 チンリウ姫の歌。 『あぢきなき浮世なるかなわれは今 縄目の恥にあひて苦しむ 垂乳根は如何なりけむイドム城は いづらに行きしか心許なや 思はざる敵の軍に攻められて わが垂乳根は露と消えしか 諸々の家臣軍人あれど いひ甲斐もなく滅び失せけむ 祖々の賜ひし国はエールスの 暴虐の手に奪はれにけむ わが力尽きて敵にとらへられ 今は涙の淵にただよふ 玉の緒の生命もいつか量られずと 思へば悲しき吾身なりけり 如何にしてこの苦しみを逃れむと 神を力に時の間を生くる 望みなき吾身となりぬ水乃川の 月に親しむ術もなければ 罪もなき人魚を捕りし酬いにて わが垂乳根の国亡びしか 数百里の道をナイトに送られて 寒き牢獄に世を歎くなり 天地の神の此世にいますならば 再び見せよ水乃川の月を 垂乳根の此世に生命在すならば 夢になりとも通はせ給へ 望みなきわが身と思へば悲しけれ 朝夕われは淋しさに泣く』 アララギは歌ふ。 『姫君の歎き言葉を聞くにつけ わが身の置場無きが悲しき 姫君の御供に仕へて二十年 われは御側を離れざりける はるばると敵の国まで送られて 姫の憂目を見るが悲しき 情深きイドムの王に生き別れ 苦しき憂目を敵城に見るも 天地の神を祈りて今日の日の わが姫君のなやみを晴らさむ 姫君を守る身ながらかくの如 憂目を見せしわが愚さよ 姫君よ許させ給へ何事も 時の力に刃向ふ術無き さりながら心安けくおはしませ われには一つの計略持ちぬ 吾娘センリウも亦虜はれの 苦しき身ぞと思へば悲しも 如何にしてアヅミの王に詫びむかと 心を砕く吾身の悲しさ 水乃川の水は無心の月光を 浮べて清く流れゆくらむ エールスはイドムの城の高殿に 月を賞めつつ酒を酌むらむ エールスのふるまひ思へば憎らしし イドムの国を手もなく奪ひて エールスは勝ち誇りたる面もちに イドムの城に横暴り居るらむ 邪は正しきに勝つ道はなし 必ず滅びむ神の怒りに 今しばし縄目の恥を忍びつつ 花咲く春を待たせ給はれ 必ずやエールス王は滅ぶべし 道に反ける曲業なれば 姫君とともに牢獄に繋がれて 朝夕怨むはエールス王なり わが王はいづらなるらむ妃の君は 御無事にますか便り聞きたし 雁の便りもがもと願へども 今は詮なし時鳥鳴く しとしとと五月雨るる空に時鳥 鳴き渡るなり一声落して 時鳥鳴きつる空を眺むれば あやめもわかぬ五月闇なり 姫君はいふも更なりわが娘も われも闇夜の時鳥なり 力あらばこれの牢獄を破らむと 思へば詮なし女の腕には 罪も無きわが姫君をかくの如き 牢獄に繋ぐは鬼か大蛇か 鬼大蛇伊猛り狂ふ世の中は 神ぞ誠の力なりける 木田川を隔てしこれの牢獄に 繋がれし吾等は袋の鼠よ 玉の緒の生命は敵に握られて 淋しき吾身に雨の音聞く』 センリウは歌ふ。 『姫君の歎き宜なりわが母の 怨みもうべよとわれも泣くなり 平安の城を屠りてエールスは 悪魔の性を現はしにけり 悪神の伊猛り狂ふ世の中と 思へど悲しき吾等ならずや 如何にして今日の怨みを晴さむと 思へど心曇るのみなる 肝向ふ心は闇にさまよひつ 朝夕悲しく時鳥聞く 姫君の生命助くるよしあらば われは生命を惜しまざるべし 姫君と母に代りてわが生命 捧げむわれは神に祈りて わが生命は軽し姫君の御生命 大山よりも重くいませり イドム国の世継といます姫君の 今日のなやみを思へば悲しき 如何にして吾姫君を救はむと 朝夕べを心砕きつ 五月闇この牢獄に迫り来て 黒白もわかず心狂ふも』 チンリウ姫は歌ふ。 『天地に神はまさずや在さずや かかる歎きをみそなはさずや わが父は雄々しくませば必ずや 生命保ちて再び立たさむ わが父の輝きましてこの国を 言向け和せ給はむと思ふ わが父の軍勝ちなば五月闇 晴れて再び月日を拝まむ あてもなき望みながらも何となく わが魂に光り見るなり 罪も無き父の国をば亡ぼして 時めき渡る曲の忌々しさ エールスの曲津の王は天地の 神の光にふれて滅びむ 天地に誠の神のいますならば 必ず父を助け給はむ 滅ぶべき運命を持つエールスの 行末思へば憐れなりけり 今われは縄目の恥を曝せども やがて光と世に現はれむ 村肝の心の奥に何か知らず われには一つの光ありけり 来るべき世を楽しみて今日の日の 恥となやみを忍びまつべし』 アララギは歌ふ。 『姫君の雄々しき御心聞くにつけ わが魂は輝き初めたり 朝夕をなやみもだえしわが魂も 姫の言葉に勇み初めたり 闇あれば光ある世と知りながら 愚心に朝夕なやみし』 センリウは歌ふ。 『姫君の御心聞きてわれも亦 心の駒は勇みたちけり われも亦月日の駒に跨りて 永久の安所に進まむと思ふ 虜はれの悲しき身にも天地の 便り聞くかな風のまにまに 身体はよし縛るとも魂は 自由自在に天地を駆けるも 虜はれの自由無き身も魂は 自由に天地を駆けめぐるなり』 かかるところへ、朝月、夕月の両人は足音を忍ばせながら静かに寄り来り、朝月は先づ歌ふ。 『われこそはエームス王の御側近く 仕ふる朝月、夕月なるぞや これの家に忍ばせ給ふ姫君は チンリウ姫におはしまさずや 品高く装ひ清しき姫君は チンリウ姫と察しまつりぬ ほの暗き牢獄のうちになやみ給ふ 姫をあはれみわれは来つるも 魚心あれば必ず水心 ありと思せよわが言の葉に わが宣らむ言葉に従ひ給ひなば 今日の憂目はさせまじものを 果しなく牢獄に苦しみ給ふよりも 早く安所を望み給はずや 若王は姫に心を寄せ給ふ なびかせ給へチンリウ姫の君』 チンリウ姫は、朝月の歌に憤慨しながら、儼然として歌ふ。 『怨みなき人の国をば奪ひてし 曲の言葉に従ふべしやは 玉の緒のよしや生命はとらるとも 如何で靡かむ曲の言葉に 千秋の恨重なるエールスに たとへ死すともまつろはざるべし いらざらむ繰り言宣るないやしくも われはアヅミの王の御子ぞや 汝が如き賤しき司の言の葉は 耳にするさへけがらはしと思ふ われは今生命を捨つる覚悟なり 仇の王にまつろふべしやは』 夕月は歌ふ。 『姫君の言葉うべよと思へども 此処は一先づ見直し給へ 玉の緒の生命死すとも及ぶまじ 御身の為と聞き直しませ アヅミ王の御子とあれます君なれば われは真心捧げて仕へむ わが若王の妃となりて栄えませよ 今日のなやみは直にとけなむ』 チンリウ姫は歌ふ。 『如何ほどに言葉尽して誘ふも われ承知はじ曲の言葉に エームスの王妃となりて栄ゆより われは牢獄の鬼となるべし 玉の緒の生命を捨てて鬼となり 父のうらみを晴らさむと思ふ わが父のなやみ思へば如何にして 敵の王妃となるべきものかは わが父にイドムの国を奉還し 而して後にわれに当れよ イドム城父の御手に帰るまでは 汝が言葉をわれ耳にせじ 望みなきわれに言葉をかくる前に 父に御国を返しまつれよ わが父の御許しあればわれとても 王妃となるを拒まざるべし』 朝月は歌ふ。 『姫君の御言畏しさりながら 今暫時を待たせ給はれ 姫君はエームス王の妃となりて 和睦の道を計らせ給へ 姫君が王妃とならせ給ひなば 両国平和に治まるべきを』 チンリウ姫は歌ふ。 『偽りの多き世なれば如何にしても 汝が言葉に従ふべしやは わが父の御許しあれば何時とても 汝が勧めに応へまつらむ わが父の消息今にわからねば エールス王を怨みこそすれ エールス王わが前に来て詳細に 父の消息語れと伝へよ 父母の仇にわが身を任すべき われは人の子獣にあらず 玉の緒の生命惜しまぬわれなれば 栄華の夢は望まざるべし ともかくもわが垂乳根を本城へ 返しまつりし其の上にせよ われも亦サールの国には住まはまじ イドムの国に送りとどけよ エームス王われに恋すと聞きしより わが魂は砕けむとせり 万斛の涙をのみてわれは今 これの牢獄に父母をしのぶも』 夕月は歌ふ。 『姫君の堅き心を聞くにつけ われは涙のとめどなきかな 姫君の正しき言葉聞くよしも なきわれこそは悲しかりけり 玉の緒の生命惜しまぬ姫君の 堅き心に動かされたり さりながらエームス王の御なやみ 晴らさむとしてわれは来つるも 千秋の恨しのびて今暫し エームス王になびかせ給へ 姫君の御心知らぬにあらねども 御国を思ひてわれは勧むる 玉の緒の生命限りに姫君を 恋はすエームス王の憐れさ 情心あらねば人も木石に 変らず思ひて靡かせ給へ』 チンリウ姫は歌ふ。 『無理遣に小暗き牢獄に押し込めて 恋を語らふ不甲斐なき若王よ エームスに情心のあるならば なぜに吾身を牢獄に苦しむる 第一にこの解決をつけざれば われは否やの応へなすまじ わが耳は汚れ果てたりエームスの 敵の王の焦るると聞きて』 朝月は歌ふ。 『姫君の心の誠察すれど われは進まむ道さへもなし 姫君のやさしき言葉聞くまでは われは此の場を去らずと思ふ くやしさをしばし忍びて姫君よ 末の光りと諾ひ給はれ』 チンリウ姫は歌ふ。 『如何ならむ甘き言葉も承知はじ われは死すべき生命なりせば エームスの王の言葉を聞くにつけ われは一入死にたくなりぬ』 朝月、夕月は、梃でも棒でも動かぬチンリウ姫の強き心に返す言葉も無く、すごすごとして此の場を立ち去り、いろいろと相談の結果、水責め、食責め、火責めをもつて、エームス王の恋心に靡かせむかと、種々浅はかなる計画をめぐらしつつありける。 (昭和九・八・一四旧七・五於水明閣林弥生謹録) |
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霊界物語 | 81_申_伊佐子の島の物語 | 18 井守の精 | 第一八章蠑螈の精〔二〇四五〕 主人のチンリウ姫を計略を以て退け、自らチンリウ姫と名告りてエームス王の妃となり、母のアララギと共に権勢並ぶものなく、数多の群臣の上に君臨して、意気揚々たりしチンリウ姫は、木田山城内の森林を徒然のまま、彼方此方に咲き匂ふ花を賞めつつ逍遥して居る。 『前や後右も左も芳しき 花に包まれ吾は遊ぶも 回天の望みを遂げて吾は今 木田山城の花と匂ふも 百千花咲けど匂へど如何にして わが花の香に及ぶべきかは 燕子花花の紫水の面に 写るを見れば夏さりにけり 木田山の城は広けし山水の 景色あつめて清き真秀良場 此の城の花と世人に讃へられ 吾は楽しく世に生くるかも 天地は残らず吾手に入りしかと 思へば楽しき吾身なるかも エールスの王はイドムの国にあり われ若王の妃となりぬ 何ものの制縛もなく此の城に 時じくかをると思へば楽し 国津神のあらむ限りを統べ治め 王に仕へて御代を照らさむ わが母は賢しくませばチンリウ姫を わが身となして退ひましけり 心地よやチンリウ姫は魔の島に 漂ひながら亡び失せけむ かくならば世に恐るべきものはなし エームス王を力とたのめば エームス王われに恋ふるを幸ひに 如何なる事も遂げざるはなし 朝風にゆらるる百合の花見れば 清しきわれの姿なるかな 赤に白に匂へる花も世の人は あふひの花と称へ来にけり チンリウ姫の贋にはあれど吾もまた あふひに匂ふ花にあらずや 雪といふ字も黒々と墨で書く 例ある世ぞ何を恐れむ 贋物と看破りたりし朝月は 王の威勢に退はれにけり 朝月は千里の海の島ケ根に 流され生命亡せにけむかも 妨ぐる何ものもなき吾なれば 心のままに世にふれまはむ 水濁る木田山城の司等は 吾言霊に苦もなくまつろふ 吾威勢日に日に高まりゆく見れば 智慧の力の現はれなるべし イドム城に長く仕へしわが王の 行方はいづく最早影なし わが王の滅びによりて今ここに 木田山城の花と匂ふも よき事に曲事いつき曲事に よき事いつくは吾の身にしる かくならば世に恐るべきものはなし エームス王を操りゆきなば』 斯く歌ひながら、人もなげに逍遥して居る。後の方より容姿端麗なる美男子、すつくと現はれ、 『姫様のみあと慕ひて来りけり エームス王の吾は従弟よ 御姿の気高さ美々しさに見惚れつつ 心の駒に引かれ来しはや 汝が姿ふと見初めてゆ朝夕を うつつともなく過ぎにけらしな 傍に人影なければわが思ひ 君の御前に匂はせ奉らむ』 此の声に贋のチンリウ姫は驚き振り返れば、エームス王に幾倍とも知れぬ美男子、チンリウ姫は恋の悪魔にとらはれ、恍惚として男の側に進み寄り、右手をしつかと握りながら、頬を赤らめて歌ふ。 『思ひきやかく麗はしき艶人の 此の国原におはしますとは エームスの王に仕へし吾なれば 汝に答ふる言の葉もなし さりながら汝が愛しき心根を われ忝なみて胸にしるさむ かかる世に此のうるはしき大丈夫の いますとは夢にも知らざりにけり ままならば君と千歳を契りつつ 木田山城に住みたく思ふ』 美男は歌ふ。 『吾こそはエームス王の従弟にて セームスといふ軽きものなり 御心に叶ひ奉らば今日よりは 人目を忍びて千代を語らむ われは今エームス王の目を忍び 姫を恋ひつつ此処に来りし 名も位も生命も吾は惜しからじ 君と会ふ夜のありと思へば』 チンリウ姫は歌ふ。 『懐かしの君に会ひてゆわが胸は 高鳴り止まず面ほてりけり 明日さればこの森林に君と吾と 千代の契りを語らはむかも』 セームスは歌ふ。 『ありがたき情の言葉聞くにつけ 心の駒の雄猛びやまずも』 斯く歌ひつつ、何処へか煙の如く消え失せにける。 チンリウ姫は茫然として佇みながら歌ふ。 『いぶかしき事の限りよ麗しき 恋のセームス煙と消えたり エームスの王にいやまし麗しき セームスこそはわが生命かも』 斯く歌ひながら、しづしづと殿内に帰り来る。 アララギは玄関に迎へながら、 『汝は今いづらにありし供人も つれずひとり身危ふからずや 汝が姿見えぬに吾は驚きて 千々に心を砕きたりしよ 明日よりは御供をつれて出でませよ 一人歩みは危ふかるらむ』 チンリウ姫は歌ふ。 『百花の清きかをりに誘はれて 知らず知らずに一人遊びぬ 水をもてめぐれる木田山城内に 恐るべきもの如何であるべき 此の城は吾等が心のままなれば 心安んじ遊ぶともよし』 斯く歌へる折しも、エームス王は姫の姿なきに稍待ちかまへ気味なりしが、その場に現はれ来りて、 『汝は今帰り来るか吾心 いたくさやぎてありけるものを 明日よりは侍女を伴ひ遊ぶべし 一人歩みは吾意に叶はじ』 チンリウ姫は微笑みながら歌ふ。 『吾王の幸を祈ると裏庭に 佇み神言白し居たりき』 斯くて其の日は黄昏の闇に包まれ、夫婦睦まじく寝に就きけるが、その翌日はチンリウ姫の提言として、城内の菖蒲池に舟を浮べ、半日の清遊を試むる事となりぬ。 菖蒲池に舟遊びの準備は整ふた。然しながら舟と言つても大木の幹を石鑿を以てゑぐりたるものなりければ、余り多くの人の乗るべき余地なく、エームス王はじめ、チンリウ姫、アララギ其の他二人の侍女のみなりける。 王は菖蒲池の汀に匂へる紫の花を打ち見やりつつ愉快げに歌ふ。 『菖蒲咲く此の池水に棹さして ものいふ花と遊ぶ楽しさ 水底にうつろふ花の紫を 見つつ床しき舟遊びかな 八千尋の深き池底にひそむなる 真鯉、緋鯉も驚きにけむ 此の池に初めて舟を浮べつつ 遊ぶは昔ゆ例なきかな 此の池に魔神の棲むと昔より 伝へ来れど今日の安けさ アララギの雄々しき女と諸共に 遊ぶ御舟は楽しかりけり』 アララギは歌ふ。 『吾王の言葉の巧みさあきれたり アララギならでチンリウならずや 年老いし此のアララギは花の香も はや失せぬればかをらひもなし』 エームス王は歌ふ。 『春匂ふ花もよけれどまた秋の 花のかをりも捨て難く思ふ 五月雨の空晴れにつつ燕子花 菖蒲匂へる清しき今日なり チンリウの姫の装ひ清ければ 菖蒲もかきつも恥らひ顔なる』 チンリウ姫は歌ふ。 『わが王の言葉嬉しやたのもしや われは生命を捧げて仕へむ わが王の手活の花と匂ひつつ 木田山城の要と仕へむ』 斯く歌ふ折しも、不思議や池水は俄に煮えくり返り、水柱各所に立ち狂乱怒濤のために独木舟は忽ち顛覆し、エームス王は真逆様に水中に落ちたるまま遂に姿を現はさざりける。 茲に生命からがら、アララギ、チンリウ其の他の侍女は汀辺に這い上り、玉の生命をつなぎける。 先の日チンリウ姫の前に現はれし、セームスといふ美男は此の池の主にして、巨大なる蠑螈の精なりけるが、俄に池水を躍らせて舟を顛覆せしめ、王の生命を奪ひとり、チンリウ姫の夫となりて此の城にはばらむとする計略なりける。 これより不思議やアララギ及び二人の侍女は、生命は助かりたれども、眼眩み喉塞がりて何一つ見る事を得ず、また語らふ事も得ずなりにける。それ故王の水中に陥りて溺死したる事も知らずに居たりしなり。 茲に蠑螈の精は、エームス王となりて奥殿に端然と控へ、チンリウ姫を側近く侍らせ不義の快楽に耽りつつ国政日に月に乱れゆくこそ浅ましかりける。 チンリウ姫は、どこともなくエームス王に似たれども、稍様子の異なれるに不審の眉をひそめながら歌ふ。 『エームスの王は池中に陥りて 生命死せしと思ひたりしを エームスの王と思へどどこやらに わが腑に落ちぬ節のあるかも 先の日に吾と語りし艶人に 若しあらずやと疑はれぬる』 蠑螈の精は歌ふ。 『愚なりチンリウ姫よ吾こそは 先の日会ひしセームスなるぞや 幸ひにエームス王は滅びたり いざやこれより汝と住みなむ 歎くとも逝きたる人は帰らまじ 吾にいそひて暮させ給へ』 チンリウ姫は歌ふ。 『思ひきや汝はセームス優男 わがたましひを蘇らせり われもまたエームス王にあき居たり 汝が姿を見初めてしより 汝こそは常世の夫よ恋の夫よ 生命捧げて吾は仕へむ』 蠑螈の精は歌ふ。 『汝とても誠のチンリウ姫ならず センリウ姫の贋玉なりけむ 吾もまた誠のエームス王ならず 従弟のセームス優男なり 贋物と贋物二人が此の城に 二世を契るも面白からずや アララギは眼失ひ唖となり わがたくらみを悟らであるらし 今日よりは汝に免じてアララギの 病は癒し永久に救はむ』 チンリウ姫は歌ふ。 『吾母を救ひ給ふかありがたし さすがは吾背の君なりにけり よき事のいやつぎつぎに重なりて 恋しき汝にいそひ居るかも どこまでもエームス王となりすまし 木田山城に臨ませ給へよ』 蠑螈の精は歌ふ。 『汝が言葉宜なり吾はどこまでも エームス王となりて臨まむ 面白き吾世なるかも木田山の 城の主となれる思へば』 斯くして贋のチンリウ姫と、蠑螈の精の化身なる贋のエームス王は、木田山城内奥深く住み込みて、国政は日に月に乱れ衰へ、遂には収拾すべからざるに至りたるこそ是非なけれ。 (昭和九・八・一五旧七・六於水明閣白石恵子謹録) |
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霊界物語 | 81_申_伊佐子の島の物語 | 19 悪魔の滅亡 | 第一九章悪魔の滅亡〔二〇四六〕 サールの国王エールスは大軍率ゐて、大栄山の嶮を越え、イドムの城に一挙に攻め寄せて、アヅミ王、其の他の重臣共を追ひ散らし、意気揚々としてイドムの城の主となり、軍師、左守を残し、サールの国を監督せしめむと右守のナーリスに数多のナイトを従へさせ帰国を命じけり。ナーリスは意気揚々として数百のナイトを従へながら、馬上豊かに歌ふ。 『サールの国の御主 エールス王に従ひて 数多のナイトを引率し 大栄山を乗り越えて 人魚の里に攻め寄せつ 難なくここを占領し 勢ひあまつてイドム城 数多軍の守りたる 要害堅固の鉄城を 何の苦もなく占領し アヅミの王を追ひ散らし 風塵全く治まりて 馬の嘶き鬨の声 松吹く風となりにけり エールス王は欣然と イドムの城におはしまし 山河の景色を眺めつつ 御代太平を謳ひまし 汝右守のナーリスよ イドムの国は治まりぬ 汝はこれより数百の ナイトを従へ堂々と 大栄山を乗り越えて サールの国にかへれよと よさし給ひし畏さよ 王の軍の勝鬨を みとめて吾はかへりゆく 駒の嘶き勇ましく 蹄の音もかつかつと 山路を分けて進むなり イドムの国は漸くに 平定したれど村肝の 心にかかるはサールなり サールの国に残したる エームス太子は只一人 国の政治を握りつつ 心を悩ませ給ふらむ 数多の捕虜は木田山の 城の牢獄に満ちぬらむ この制裁もなかなかに 容易のことにあらざらむ 急げよ進めよナイト等 一日も早く木田山の お城の馬場に到るまで』 斯く歌ひながら、夜を日についで漸く木田川を打渡り、城内に旗鼓堂々とかへり来りしさま威風凛々と四辺を払ひ、物々しさの限りなりけり。右守のナーリスは、わが出征の後にエームス太子に妃の定まりたる事も知らず、城門を潜り、太子の君の御前に罷り出で、軍状を委に奏上せむとして歌ふ。 エームス王は王座にあらはれ、儼然としてナーリスを打見やりながら、 『親王に仕へてイドムに向ひたる 汝はナーリス司ならずや』 この歌にナーリスはハツと頭を下げながら、歌もて奏上する。 『親王の功尊く御軍は イドムの国を打ち亡ぼしぬ 寄せ来る数多の敵を御軍は 斬り払ひつつ進みたりけり 石垣を高く廻らすイドム城は 攻むるに難く守るにやすし さりながらわが親王の功績に 敵はもろくも滅び失せたり われこそは右守の神と仕へつつ 御側近くまもらひにけり 御父の功績高くイドム城は 平安無事の今日となりけり まつぶさにこのありさまを若王に 伝へむとしてかへり来りぬ 左守、軍師その他の兵士残しおき 吾はナイトを率ゐてかへりし 若王のまめな御顔拝しつつ 嬉し涙に吾くれにけり 名にし負ふイドムの国の真秀良場は 親王住ますによろしき国なり 若王はサールの国に留まりて 国につくせと宣らせ給ひし 親王の仰せなりせば若王も 必ずうけがひ給ふなるべし』 エームス王は歌ふ。 『待ちわびしわが親王の消息を つぶさに聞ける今日の嬉しさ 親王のいまさぬうちに止むを得ず 吾は妻をば娶りたりけり 親王は戦の場にましますと 思ひて一人こととりにけり 親王の御前よしなに計らへよ わが新妻を娶りたるよし』 ナーリスは歌ふ。 『若王の妻を娶らす目出度さを 如何で親王さまたげ給はむ この国も若王の御稜威に安々と 治まる思へば楽しかりけり 今日よりは右守の吾はこの国の 左守となりて仕へまつらむ 父王の依さし言葉にしたがひて われは左守と仕へまつるも』 チンリウ姫は始めて右守のナーリスを見たるとて、驚きの色を見せながら、さすが曲者、平然として、そしらぬ態を装ひ、 『われこそはエームス王の妃ぞや 汝は左守かよくもかへりし アヅミ、ムラジ二人が仲に生れたる われはチンリウ姫にぞありける』 ナーリスは、 『ありがたしサールの国に臨みます 妃の君の雄々しき御心 今日よりは赤き心を捧げつつ 若王と妃に仕へ奉らむ』 チンリウ姫は歌ふ。 『ナーリスの左守の言葉聞くにつけ わが魂の光りかがよふ わが王の政治をたすけ今日よりは 国のことごと眼くばれよ 治まれる国にはあれど彼方此方に 波風立つと聞くが忌々しき 汝が帰り久しく待ちぬ今日こそは 盲亀の浮木にあへるが如し』 斯かるところへ乳母のアララギは、さも横柄な面がまへにて出で来り、 『吾こそはチンリウ姫に仕へたる 乳母アララギよ、ナーリスの君 陰になり日向になりて若王の 御身を守るわが身なるぞや 若王の心をくみて今日よりは われは汝にこと計るべし』 左守のナーリスは、 『不思議なることを聞くかな汝こそは チンリウ姫の乳母にあらずや 汝が如き女に政治かたらふも 何の詮なし退きて居れ いやしくも左守司の吾なれば 汝の言葉聞くに及ばじ』 チンリウ姫は歌ふ。 『ナーリスの言葉もうべよさりながら アララギの言葉なほざりにすな アララギはサールの国の柱ぞや 汝も共々国に尽せよ アララギは女なれども男に勝り さかしき雄々しき益良女なるぞや』 ナーリスは歌ふ。 『妃の君の御言葉うべよと思へども 女ことさき立つは悪しけむ』 アララギは憤然として歌ふ。 『若王の妃をすすめしアララギを さげすむ左守は国の仇なり 何事もアララギ吾の言の葉に したがはずして治まるべきかは』 エームス王は歌ふ。 『アララギの雄々しきさかしき魂は 左守といへども及ばざるべし』 左守は憤然として、 『左守吾は鄙に退き奉るべし いやしきアララギ用ひ給はば』 と歌ひつつ足早に御前を退出し、何処ともなく消え失せにける。 斯かるところへ山岳も崩るるばかりの矢叫びの声、鬨の声、城下に轟き渡り、数多の暴徒は手に手に得物を携へ、本城目がけて阿修羅王の狂ひたる如く攻め寄せ来る。その勢ひに城中は戦場の如く、到底寡を以て衆に敵し難しと、贋のエームス王はチンリウ姫を小脇に抱へ、菖蒲が池にざんぶとばかり飛び込み、二人の姿は水泡となりて消え失せにける。 斯かる所へ、暴徒の中心人物たる夕月は弓に矢をつがへながら、殿中深く入り来り、王の居間に進みけるが、二人の影の見えざるにぞ、再び引き返し玄関口に来る折しも、髪振り乱し、血相変へてアララギは馳せ来り、大声にて、 『やあ、その方は夕月にあらざるか、不届千万な、恐れ多くもこの城内に群衆をおびき寄せ、クーデターを謀らむとは不届千万なるやり方、罪は万死に値すべし、退れ退れ』 と呼ばはるにぞ、夕月は弓に矢をつがへながら、儼然として答ふ。 『奸佞邪智の曲者、若王の心にとり入り、真正のチンリウ姫様を吾子といたし、大罪を負はせて遠島の刑に処し、生みの吾子をチンリウ姫様と称し、若王様の御目をくらませ、暴政をふるひ、国津神を塗炭の苦しみに堕したるは皆汝がなす業、最早今日となりては天命逃れぬところ、覚悟いたして自害いたすか、さなくば此の方が弓矢の錆となるか、覚悟はどうだ、返答を聞かむ』 と、攻め寄せれば、アララギは慌てふためき、逃げ出さむとするにぞ、夕月は弓を満月にしぼり、発止と放つ。剛力の征矢に射抜かれて、アララギはもろくも身失せにける。 これより城内は統制機関なく、左守のナーリスも何処へ行きしか皆目分らず、木田山城はさながら悪魔の跳梁に任せけるこそ是非なけれ。 (昭和九・八・一五旧七・六於水明閣内崎照代謹録) |
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霊界物語 | 81_申_伊佐子の島の物語 | 20 悔悟の花 | 第二〇章悔悟の花〔二〇四七〕 贋のエームス王や、贋のチンリウ姫を始め、乳母アララギに捨台詞を残し城内を立ち出でたる左守司のナーリスは、群衆の犇き立てる大混乱の巷に数百の騎士を従へ、隊伍整然として現はれ来り、十字路に立ちて、声高らかに歌ふ。 『サールの国の国津神 木田山城の人々よ 鎮まり給へ吾こそは イドムの国に攻め寄せて 勝鬨あげしナーリスよ 今は左守の神となり 木田山城に帰りしが エームス王は悪神に 生命奪はれ怪しかる 贋のエームス君臨し 悪逆無道のアララギが 娘が妃となりすまし 暴威を振るひ居たりしが 愛国志士の団体に 攻め立てられし悪魔等は 忽ち煙と消えにけり かくなる上は人々よ 最早騒ぐに及ぶまじ サールの国を永久に 平安無事に守りつつ 各業に安んじて 其の日の生活を楽しめよ 吾は之より城内に 騎士を率ゐて立帰り 乱れ果てたる秩序をば 全く元に立て直し 善政を布かむ覚悟なり 国津神等国人よ 心を安んじ給ふべし 鎮まり給へ諸人よ 其の他百の国津神 一先づ鉾を納めませ エールス王は遥々と イドムの国を言向けて 時めき給ふ功績を 汝等国人恐れずや エールス王が軍隊を 数多引連れ此の国に 再び帰りますならば 汝が生活は弥益も 安く楽しくありぬべし 一時に鎮まれ疾く早く 吾は左守のナーリスよ 真の悪魔は亡びたり 平地に波を起すべき 理由は無からむ速かに 元の如くに鎮まれよ 後は吾々汝等が 望みを詳細に聞え上げ 其の目的を達すべし』 斯く歌ふ折しも、向ふの方より群衆に押されながら、馬上ゆたかに進み来る勇士は、音に名高き夕月なりけり。 夕月は歌ふ。 『悪魔の昼夜にはびこりし 木田山城は鎮まりぬ 吾等の率ゆる大丈夫の 御国を思ふ真心は 天と地とに通じけむ 暴逆無道のアララギも 奸佞邪智なるセンリウも 蠑螈の精と聞えたる 贋のエームス王までも 今は全く亡びたり もう此の上は吾々は 左守の神を力とし 乱れ果てたる国原を 清め澄まして元の如 至治太平の世となさむ ああ惟神々々 天地の神の御恵みに 国に仇なす曲神は 全く影を隠しけり 汝等心を安んぜよ サールの国は生れたり 亡び行くなる国原は 汝等群衆の真心に 蘇りたる嬉しさよ いざ是よりは国人よ ナーリス左守を信頼し 一切万事を委ねつつ 心平穏に引けよかし ああ惟神々々 神の御稜威の御前に 感謝を捧げ奉る』 斯くて左守と夕月は十字街頭に大衆を率ゐたるままで邂逅し、互に暴動の無事治まりしを祝し合ひつつ、夕月は先づ歌ふ。 『常暗の雲は晴れにつ久方の 月日は清く輝き渡れり 汝こそは左守の神よ乱れたる 此の世の縺れを解かせ給へり 曲神は残らず亡び失せにけり いざ是よりは君に頼らむ』 ナーリスは歌ふ。 『遥々とイドムの国より帰り来し 間もあらなくに此の騒ぎみし 夕月の君の真心力とし 吾は仕へむ木田山城に』 これより左守のナーリスは、愛国団体の隊長夕月と共に騎士に守られ、城内深く浸入し、一切万事の後片附をなし、重臣等を一間に集めて国乱鎮定の祝賀会を催しける。重なる参会者はナーリスを初め夕月、滝津瀬、山風、青山、紫、玉山等の数十人の重臣なりける。 青山は歌ふ。 『天地の神の御稜威と左守司 夕月司に治まりしはや 刈菰の乱れ果てたる国原も 君の力に治まりにけり 国津神国人等は悪政に 苦しめられて喘ぎ居しはや かくならば思ふことなしサールの国は いや益々に栄え行くらむ』 紫は歌ふ。 『長き日を鄙に潜みて国の状態 吾は細々調査べ来にけり 只ならぬ大事起ると常々に 忠告せしも聞かれざりけり 城内に数多の曲津潜み居て 益々国は乱れ果てけり 怪しかる女アララギ覇をとなへ 木田山城は闇となりける 紫の雲は御空に靡けども 中空の雲黒々覆ひし 行先は如何ならむとわづらひし 心遣ひも夢となりしか エールスの王の戦に出でしより 一入サールの国は乱れし』 玉山は歌ふ。 『イドムより怪しき女入り来り サールの国は乱されにけり 捕虜として捕へ帰りし魔の女に 木田山城は傾きしはや 今日となりて吾等の心安まりぬ 亡びむとする国のいのちを 如何にして亡びむ国を生かさむと 朝夕心を砕きけるかな』 山風は歌ふ。 『エームスの吾若王の御心を 蕩かせ奉りし魔の女かな エームスの若王魔性に謀られ 生命果敢なくならせ給ひぬ 城内の菖蒲の池の主といふ 蠑螈は王を失ひしはや これよりは蠑螈の精を言向けて 国の災清く払はせよ』 滝津瀬は歌ふ。 『木田川の流れはいたく濁りたり 魔性の女を捕へ来しより 斯くの如安く治まりし有様を イドムの王に知らせたきかな 吾王はイドムの城を亡ぼして 功を永久に立てさせ給へり 治まりし国の姿をイドムなる 王に見せなば喜び給はむ』 夕月は歌ふ。 『木田城に吾は久しく仕へつつ 乱れ行く世を歎かひて居し アララギの木田山城に入りしより 人の心は騒ぎ初めたり アララギを斬つて捨てむと幾度か 思へど詮なく忍び居たりき 天の時漸く到り群衆を 率ゐて吾は曲津を討ちたり 神々の恵みに吾は守られて 日頃の望み遂げし嬉しさ 折も折左守の司帰りますと 聞きてゆ吾は勇み立ちたり 人の和を得たる軍は何処までも 亡ぶ事なく勝ち終せたり 城内を騒がせ奉りし吾罪を 身に引き受けて鄙に下らむ』 左守の司ナーリスは歌ふ。 『国人の清き心の集まりに 曲は影なく亡び失せたり 刈菰の乱れ漸く鎮まりて 神の御前に祝言宣るも エールスの王の言葉に従ひて 急ぎ帰れば国乱れ居り 今暫し帰国後るる事あらば サールの国は自滅し居るらむ』 斯く歌へる折もあれ、数千の騎士を率ゐて逃げ帰りたる副将チンリンは奥殿深く進み来り、左守の神のナーリスに向ひ、挙手の礼を捧げながら歌ふ。 『エールスの王悲しくも帰幽れましぬ サツクス姫も身失せ給ひぬ チクターの左守を始めエーマンの 軍師も共に滅び失せたり アヅミ王の勢強く盛り返し 吾等が味方は脆くも破れぬ かくならばイドムの国に用なしと 騎士を率ゐて急ぎ帰りし』 此の報告に左守を始め夕月其の他の面々は、顔色をサツと変へ、茫然として暫し無言の幕を続け居たりける。 ナーリスは愕然として歌ふ。 『思ひきや武勇の聞え高かりし 吾等の王は帰幽れ給ふか サツクスの妃の君も身うせしと 聞くにつけても悲しさに堪へず 左守まで軍師の君まで身罷りしは 如何なる事か聞かまほしけれ 漸くにサールの国の治まりを 喜ぶ間もなく此の便り聞くも』 チンリンは歌ふ。 『何故か訳は知らねど吾王は 神の譴責にあひ給ひけむ 人々の語るを聞けば主の神の 皆いましめと定めゐるらし 兎に角に人の国をば奪ひたる 報いなりせば詮術なけむ』 左守は歌ふ。 『恐ろしき事を聞くかな他の国を 奪はむとする戦の有様 エールスの王の血統は亡びたり サールの国を如何に守らむ』 夕月は憮然として歌ふ。 『兎にもあれ角にもあれや人はただ 誠の道をあゆむべきなり 日月の威勢輝く吾王も 亡ぶる時のある世なるかな 今日よりは誠一つを力とし サールの国を安く治めむ』 滝津瀬は歌ふ。 『欲といふ醜の曲津に誘はれ 王は御国を失ひ給ひし 此の広きサールの国にましまさば 斯かる歎きはあらざらましを 吾力頼み過ぎたる報いにて 王は生命を失ひ給ひぬ 全滅の憂目にあひしエールスの 王の行末淋しかりけり 愛善の誠なければ人の身は 身も魂も終に亡びむ』 山風は歌ふ。 『嶮しかる大栄山を乗り越えて 生命を捨てし王を悲しむ 吾王はイドムの城に攻め寄せて 尊き生命を捨てさせ給へり 歎きても及ばじものと思へども なほ歎かるる今宵なりけり 何事も誠一つに進みなば 世に過ちはあらじと思ふ』 左守は歌ふ。 『かくならば最早是非なし吾々は 誠の道を進むのみなる エールスの王は吾等にいましめを 永遠に残して去りましにけり 天地の神を恐れみ謹みて 誠の道に進み行くべし』 斯く歌ひ終り左守のナーリスは、城内一般にエールス王一族の不幸を発表し、国民の代表者を集めて盛大なる葬の式を執り行ひ、木田山の城内に荘厳なる主の神の御舎を造営し、朝な夕なに正しき政治を行はせ給へと祈願怠りなかりける。 (昭和九・八・一五旧七・六於水明閣森良仁謹録) |
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伊都能売神諭 | 神諭一覧 | 大正8年1月21日 | 大正八年一月二七日 大正八年一月廿七日 現はれて間無く隠るる西の空、二日の月は上弦の、敏鎌の如き鋭鉾を、暫し隠して武蔵野の、草木も靡く時津風、時を松風梅ケ香の、薫る小さき神の森に、三五の月は澄渡り、谷の戸開けて鴬の、声も長閑な足御代の、竹の園生の清くして、功績も太く村肝の、心の奥は朗らかに、皇大神に捧げ奉りし真心の、千歳の鶴の替玉と、仕えて誉れを酉の年、四十四度の紀元節、五六七の神代の初春ぞ、正しき友の寄り集い、雄々しき清き活動に、助けの神と表はれて、雲井に高き高松の、八重の玉垣いと赤き、心の色は日月の、光に疑ふ尉と姥、鶴は千年亀万年、東方朔の九千年、栄え三浦の王統家は、日夜久睦まじく神国の神世の姿備はりて、三千世界の太平を、松竹梅の経綸ぞよ。辛の酉の紀元節、四四十六の花の春、世の立替立直し、凡夫の耳も菊の年、九月八日のこの仕組。 天津国玉、国津御魂、石凝姥の神御魂、金銀竜の神馬の御魂、高天原に納まりて、天下太平、千秋万歳万々歳、七福神の楽遊び、豊受の神の豊国の、主と現はれ真寸鏡。 |
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伊都能売神諭 | 神諭一覧 | 大正8年2月13日 | 大正八年二月一三日 大正八年二月十三日旧一月十三日 艮の金神国常立之神言変性男子の御魂が、竜宮館の高天原に現はれて、昔の根本の事を知らすぞよ。今日は出口直日主命の上天から丸る百日に当る祭日であるから、大本の標目の十曜の紋の由来を書きをくぞよ。国常立之尊が世の太初から悔しき残念を堪忍りて、在るにあられぬ苦労艱難を致して貯えた、只一輪の生き花の開きて散りて芳ばしき、果実を結ぶ時節が到来から、善一筋で貫きて来た神と、悪計りを企みて、好き候に致して来た神との因縁を現はして、日の出の守護と致すぞよ。 大本の十曜の神紋は、世界統一の標章であるから、この神紋の由来を知らねば肝心の神秘が分らぬぞよ。九重の花が十曜に化りて咲く時は、万劫末代しほれぬ生き花で在ると申して、今迄の神諭に出して在ろうがな。斯の九つ花が十曜に開く其時は、如何な鼻高も如何な悪魔も改心いたして、今までの自分の思いの違ふて居りた事が明白に分りて帰順いたすぞよ。三千世界の世の元を締固めた折に、一生懸命に大活動を致した誠の神の因縁を説いて置くから、万の神々様も人民も、能く腹へ呑み込みなされよ。綾部の大本地の高天原に、変性男子と変性女子の身魂を現はして、今までに充分に気が注けて在るなれど、未だ皆の役員信者が誤解いたして居るから、根本から神の因縁を分けて見せるぞよ。日本の古事記にも出してない神が沢山に在るから、迷はぬ好うに為るが可いぞよ。艮の金神が改めて日の出の神の肉体を表はすぞよ。常世姫之命の御魂の宿りて居る、○○○○○○○が、日の出の神の生き魂であるぞよ。大分思ひの違ふ役員信者が出来るぞよ。 日の出の神の肉体は○○○で在ると云ふ事を、変性男子の上天までに発表たいと思ふたなれど、五六七の神の世に成るまで控えねば成らぬ義理がありて、態とに隠しておいたなれど、モウ大門も経綸の形だけ出来たから、変性女子の手で知らすぞよ。八木の北山に火竜と成りて実地の姿が見せて在るぞよ。変性男子の身魂は現世で百歳の寿命が与えて在りたなれど、余り仕組が後れるから、天へ上りて守護いたす為に早く上天さして御苦労に成りて居るぞよ。世の元の大御宝を占め固める折に、差添に成つて活動なされた神は、真道知彦命、青森知木彦命、天地要彦命の三男神と、常世姫之命、黄金竜姫之命、合陀琉姫之命、要耶麻姫之命、言解姫之命の五女神、合して三男五女八柱の神を育て上げて、差添の御用を命せなさつたのが稚日女岐美尊であるから、是が九重の花と申すので在るぞよ。 稚日女岐美尊の後見を為された至善の神様が天照日子尊であるぞよ。天照彦命は海潮の肉体に宿りて、五六七の世の御用を致して居れるなれど、誰も未だ分りては居らぬぞよ。此神が表はれたら二度目の世の立直し、九重の花が十曜に咲くので、三千世界の統一が成就するので在るぞよ。斯神々が大国常立之尊の差添え日本魂の純粋であるからタタキ潰しても潰れず、火に焼いても焼けもせぬ剛強なる御魂であれど、大地の祖神が世に落されたに就いて供に落ちねば成らぬ如うになりて是非なく世に落ちたので在るぞよ。時節参りて地の先祖の国常立之尊が再び世に現はれるに付て、供に今度は現はれて万古末代萎れぬ花の咲く結構な神代が来たので在るぞよ。 今度は二度目の世の立替建直しであるから、世の太初からの善悪の胤を残らず現はして水晶の神代に致すのであるから、一切の事を書きおかすぞよ。世の元の国常立之尊を世に落したのは第一番に天稚日子命であるぞよ。天稚日子命は大変に女の好く神で在りたから、女神を沢山に部下に付けて天の規則を破りたり破らしたり、体主霊従の大将と成りて世を持ち荒した神で在りたぞよ。天地の別れた折からの邪気凝まりて体主霊従の邪鬼と成りた神が天若日子命であるぞよ。世の根本を修理固成た地の先祖を押込める経綸を致した様な邪神であるから、今までの神界を持ちて現界までも構ふて来たなれど、肝心の天地の神の大恩を知らずに世界の人民をアヤツリ人形に致して来たから、今の人民の上に立つ守護神が薩張り心が曇りて了ふて胴体なしの紙鳶昇りで上下たに眼が着かぬから、大空斗り向ひて仰向ひて我身の出世する事斗りに心を奪られて居るから、地の世界が真の暗同様になりて今に天地が転動て逆トンボリを打つ事が出て来るのも判らぬ様な惨いことに成りて居るが、其れも知らずに未だデモクラシーを唱えて騒ぎ廻りて居りても、日本の霊主体従の行り方致さねば到底世界の艮めは刺す事は出来ぬぞよ。変性男子若姫君命は元来の善神で在るから、大変な千座の置戸を負ふて国津神等に代りて世に落ち成されて万神万民の探き罪を贖ひ遊ばされ、天よりも高く咲く可き生き花を咲かさずに地獄の釜のコゲ起し、在るに在られん御艱難を遊ばしたのも、元を糺せば天稚日子の命のために神の世一代の御苦労を成されて、未だ其の苦労が余りて現世にて其罪を八人の産の児に負はせて在る故に、三男五女の児は今に八百万の神に踏下げられて居るから、一通りや二通の苦労ではないぞよ。斯の由来が大本の中の重立ちた役員に早く判りて来んと、十曜の神紋が開けぬぞよ。十重の門が開けたら、三千世界の統一が出来るので在るから、跡に残りて居る○○の兄弟と変性女子の肉体とに解けて聞かして腹帯を確かりと締さして置かんと、サアと云ふ時に成ると変性女子の肉体を体主霊従の行り方の人民が世界一致して引裂きに出て来るぞよ。皆々の結構な天来の神諭を取違い致して、肝心の大本の役員信者までが変性女子の身魂を攻めに来る者が中には出て来るぞよ。 肝腎の判らねば成らぬ肉体に実地の神業が判りて居らぬから、物事が後れて世界中が困る事が出来いたすから、早く肝心の御方に知らして置かぬと、罪なき人民にまでも泥水を呑ますやうな事が出来いたすぞよ。現今の大本は一旦天の規則が破れて了ふて、世を持たれぬ神の天稚日子が名を代えて充分に自身の思が達した形が東の空から西の地の底の大本へ写りて居るので在るから、未だ真実ものに開けて居るのでないから、気宥しはチツトも成らぬぞよ。日の出の神の因縁が判りて居らぬから、世界の物事が後れるので在るぞよ。艮の金神の筆先を速く調べておかぬと、世界へ対して申訳なき事が出来いたすぞよ。自分ほど神界の事の能く分りたものはなきやうに思ふて自惚いたして居りても、世の変り目で在るから、神の奥には奥が在り、未だ其奥には奥の奥の大奥が在るので在るから、可い加減な一心では誠の神秘は判りは致さんぞよ。梅で開ひて云々と申す事はドンナ苦労艱難いたしても、又ドンナ悔しい残念な事が在つても堪え堪えて持切ると云ふ事の誓えで在るぞよ。梅で開くと云ふ事は皆の肝心の行ひで在るから、思ひ違いのないやうに致して身魂を充分に練り鍛えて下されよ。今は未だ天稚彦の系統が重に集めて在るから、今大本に集りて居る人民の中に天稚日子の行動が判りて実地を調べて置いて下さらぬと、皆の守護神が濡手で粟を握むやうな甘い事を思ふて居るものが沢山あるから、都合が好ければ一生懸命に勤めもするなれど、少し形勢が悪いと見たら皆還りて了ふと云ふやうな水臭い役員も中には出来るから、気宥しは成らんぞよ。それで各自に心得て気を注け合ふて互に何処までも、神国の為に生命を捧げると云ふ立派な日本魂に研き上げて居りて下されよ。思が間違ふと一寸の事が在りても経綸が後れても直ぐに不足を申したり、顔の色を変えたり致すから、何事が在りても一分も動かぬ日本魂に研いておかぬと、世界の大峠と大本の中の大峠に躓いて後へ引かねば成らぬぞよ。それでは早ふから大本の教を聞いた功能がないぞよ。此度の二度目の天之岩戸開きの天地の大神の至仁至愛の御恵みと申すものは洪大無辺にして何程人為の学問や智識で考えて見ても判らん深い仕組であるから、鼻柱を体能く捻ぢ折つて生れ赤子に立復りたなれば、三千年の経綸の世界の大機織が紋様が判然と分明るなれど、肝心の機織の模様を拵へる根本をソコ退けに致して、人間界の智慧計り働かして居ると、何時まで焦慮りて骨を折りても肝心の経綸が判らぬから、一時も早く我を折りて、明治二十五年からの筆先を充分に調べて下されよ。神聖元年からの筆先は一層注意して調べぬと大きな取違いが出来いたすぞよ。 大出口国直日主命の永年の苦労の徳で天若彦命の肉体の名は指さずに神界から赦しておくから、我一と我心身をサニハ致して省みて身魂を立替いたさぬと、神界の仕組が後れる計りであるぞよ。何程外囲の垣や構造が立派でも誠の教が立ぬと神界にて教祖の神が苦しむから、早く改心いたして誠を立て下されよ。○○○○○○○には日の出の神の生き魂の守護が在るなれど、未だ充分に研けて居らぬから、十に二つ位は間違いがあるぞよ。天照彦命は至善の神であるぞよ。天稚彦は悪の神で在るぞよ。 |
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伊都能売神諭 | 神諭一覧 | 大正8年2月21日 | 大正八年二月二一日 大正八年二月二十一日旧正月二十一日 艮の金神国常立之尊が竜宮館の地の高天原の神屋敷に現はれて、天照彦之尊の御魂の宿りた言霊幸彦命の体内を借りて世界改造の筆先を誌しおくぞよ。明治二十五年から大出口直の手を借りて世界に出現事変一切を日本の守護神人民に警告てをいた事の実地が近よりて来たぞよ。日本の神国に生れて来た身魂は皆日本魂の性来が授けて在りて上中下の三段の身魂が天から降して世界を経綸させるやうに天国の政治が地上に写して、君と臣と民とに立別けて在れども、今は世が逆様に成りて居るから、民の身魂が大臣小臣となり、大臣小臣の身魂が民の位置に落ち、其上に八頭八尾の邪神が守護いたして、斯世を体主霊従の行り方に乱して了ふて今の世界の此の惨害、是を何んとも思はぬやうに成りたのは、日本及び世界の人民が皆な四ツ足に欺され切つて居るからであるぞよ。世界を経綸する天職の備はりた日本の人民は日本魂が薩張り抜けて了ふて、九分まで獣蓄の身魂に成つて居るぞよ。天地開闢の初の世からの約束の時節が参りたから、愚図々々致して居れんから、今の静まりて在る間に一日も早く身魂を研いて居らんと、東の大空から西の谷底へ天の火が降る事が出来いたしたら俄に、栃面貌を振つてアフンと致さな成らぬやうになるぞよ。それで一日も早く日本魂を研けと申すので在るぞよ。日本魂と申すものは天地の先祖の神の精神と合一した心で在るぞよ。至仁至愛の大精神にして、何事にも心を配り行届き、凶事に逢ふとも、大山の如く微躯とも致さず、物質欲を断ちて精神は最も安静な心であるぞよ。天を相手とし凡人と争はず、天地万有山野海川を我の所有となし、春夏秋冬も昼も夜も暗も雨も風も雷も霜も雪も皆我言霊の自由に為し得る魂であるぞよ。如何なる災禍に逢ふも艱苦を甞るも意に介せず、幸運に向ふも油断せず、生死一如にして昼夜の往来する如く、世事一切を惟神の大道に任かせ、好みも無く憎みも為さず、義を重んじて心裏常に安静なる魂が日本魂であるぞよ。常に心中長閑にして、川水の流るる如く、末に至る程深くなりつつ自然に四海に達し、我意を起さず、才智を頼らず、天の時に応じて神意に随つて天下公共の為に活動し、万難を撓まず屈せず、無事にして善を行ふを日本魂と申すぞよ。奇魂能く活動する時は大人の行ひ備はり、真の智者となり、物を以て物を見極め、自己に等しからん事を欲せずして身魂共に平静なり。小人なるものは自己を本として物を見、自已に等しからん事を欲するが故に、常に心中静かならず、之を体主霊従の精神と申すぞよ。今の世の中一般の心は皆この心で在るぞよ。誠の日本魂のある人民は其意志平素に内にのみ向ひ、自己の独り知る所を慎み、自已の力量才覚を人に知られん事を求めず、天地神明の道に従ひ交はり、神の代表となりて善言美辞を用ひ、光風霽月の如き人格を具へて自然に世に光輝を放つ身魂であるぞよ。心神常に空虚にして一点の私心無ければ、常永に胸中に神国あり、何事も優れ勝りたる行動を好み、善者を喜こびて友となし、劣り汚れたるを憐み且つ恵む、富貴を欲せず羨まず、貧賤を厭はず侮らず、只々天下の為に至善を尽す事のみに焦心す、是の至心至情は日本魂の発動であるぞよ。我身富貴に処しては君国の為に心魂を捧げ、貧に処しては簡易の生活に甘んじ、欲望を制し暇にも他を害せず、自暴自棄せず、天命を楽みて自己応分の天職を守る、是が日本魂の発動であるぞよ。天下修齋の大神業に参加する共決して周章ず騷がず、身魂常に洋々として大海の如く、天の空うして鳥の飛ぶに任すが如く、海の広くして魚の踊るに従ふが如き不動の精神を常に養ふ、是が神政成就の神業に奉仕する身魂の行動でなけねば成らぬのであるぞよ。凡人の見て善事と為す事にても神の法に照して悪しき事は是を為さず、凡人の見て悪と為す事にても神の誠の道に照して善き事は勇みて之を遂行すべし。天意に従がひ大業を為さんとするものは一疋の虫と雖も妄に之を傷害せず、至仁至愛にして万有を保護し、世の乱に乗じて望を興さぬ至粋至純の精神を保つ、是が誠の日本魂の発動であるぞよ。今度の二度目の天之岩戸開きの御用に立つ身魂は是丈の身魂の覚悟が無ければ到底終りまで勤めると云ふ事は出来んから、毎度筆先で日本魂を研いて下されと申して知らして在るぞよ。今の日本の人民は九分九厘まで日本魂が曇り切りて了ふて居るから、今の人民の所作柄と申すものは薩張り精神を利害のために左右せられて、一寸先きは暗黒であるから、何時も心が急ろしうて、一寸の事変にも狼狽え騷いで顏の色まで変えて了ふ人民計りで在るぞよ。是では到底日本の神国の人民とは申されんぞよ。今の人民の精神と申すものは体主霊従であるから心は平素外面ばかりに走り、人前だけは殊勝らしく慎しみて居れど、内心と申すものは頑空妄慮であるから、少しの事にも微躯付いて外国の四ツ足に喰えて振るやうな難に逢されて居りても未だ気が付かぬ厄介な人民であるぞよ。今の人民は霊界の事実が頭から少とも解りて居らんから、万古末代生き通しの真理を弁まへず、現世でさえ立派に暮したら死後は堂でも搆はぬと云ふ一般の馬鹿な身魂で在るから、天地神明の御威光も畏れず、現世の富貴安逸快楽のみに心を奪られて貧を蛇蠍の如くに忌み嫌い、精神が腐ろうが天則を外そうが其んな事には毛程も心配いたさず、黄金万能主義の信者に落ち込み、国家の為に身命を捧げんとする真人を馬鹿ものの如うに詈り嘲り、死ぬ事を厭ひ下らぬ体欲に耽りて、肝心の天の使命の降つた神の生き宮の身魂である事を忘れて居るから、世界は日に増しに悪事災害が発生いたすので在るぞよ。少し順境に向えば千年も万年も生き度いと申し、少し逆境に落つれば直に斯の結構な神国を畏れ果敢なみ、名聞に恥るが故に誠を忘れ利欲に眼眩みて義を弁へず天命を覚らず、自己よりも富貴の人を羨やみ且つソネミ、自己よりも貧賤なる人を侮り軽蔑み凌ぎ苦しめ、才智芸能の自己より勝れたる人に従ひ学ぶ事を為さず、却て之を譏り、自己の足らざるを補ふ精神毫もなく、善かれ悪かれ自己を賞め、且つ自己に追従するものを親しみて害毒を招き、遂に又た之を悪み、智者賢者に問ふ事を愧ぢて一生無知愚鈍の生活を送る憐れな今の世界の人民の度根性で在るから、何時までも世の中が暗黒界で、我と我手に要らん困難を致す人民計りで、神の眼からは可愛想で見て居れんから、今度は神が表に現はれて世界の人民の目を醒して改心さして結構な神代に立直すので在るぞよ。余り世界の曇りやうが激しいから、神界も中々骨が折れるぞよ。世界の人民の中の悪の身魂を平げて了ふて、世の立直し致すのなれば容易なれど神は世界の人民を一人もツツボに致し度もないから、色々と申して永らく出口直の手で警告たので在れども、余り何時までも守護神人民が聞いて下さらぬと止むを得ずの事に致さねば成らぬから、神も中々辛い思ひを致して居るから、日本の人民ならチツトは神の心も推量いたして早く身魂を研いて神国の行動を為て下され。何時までも神は人民に説き諭して居る暇がないから、改心いたすなら今の間であるぞよ。今の人民の心に合ふやうな行為は誠の神の心に叶はず、神の心に叶ふ行為いたす人民は俗悪世界の鼻の高い人民の心に叶はぬから、腰の弱い日本魂の腐りた人民は残らず今の世界の人民に従いて了ふて、譬え天道に叶はぬ事でも世界の人民の善いと申す事は靡くなり、天道に叶ふた結構な事業でも世界から悪く言はれたら直ぐに止めて了ふなり、只眼の前の名利を求め、形の欲に迷ふて天津誠を知らず、故に斯の結構な地の高天原の誠の教を迷信教とか、怪宗とか、危険集団とか申して、新聞にまで書いて悪く申すので在るが、今の俗悪世界の新聞などに良く言はれる様な世間向きのする教で在りたら却て斯の大本の教は悪の教であるぞよ。悪く言はれて良く成る経綸であると明治二十五年から知らして置いた事の実地が出て参りたので在るから、世間から悪く言はれる程此の大本の教は結構になるので在るぞよ。今の人民は人から褒められると過ぎた事でも大変に歓こび且つ人にほこり高振りたがり、又自己を譏るのを聞いては実際なれば驚き周章て顏の色まで蒼くし、無い事を譏られると大変に立腹いたして名譽恢復の訴訟を起し、自己の過失を飾り、又は隠し、非を遂げて改心する事を知らず、自己の心の邪悪なるを知りつつ人が賞めて呉れると自己の邪悪は誰も知らぬと気を赦し、自己の欲する事は譬え少々罪悪なりと承知しながら善人の諫言を耳に入れず、却て其誠の人を悪人扱ひに致すやうに成りた今の世の中であるから、况して誠の神の申す事は聞きさうな筈はなけれども、天から貰ふた直霊の御魂にチツトは尋ねて見たら神の申す事は解らねば成らぬ筈で在るぞよ。結構な直霊を我身に抱え乍ら、小人罪を作りて知らぬとは余りで在るぞよ。間がな隙がな人の非事を探したり、人の名与を毀けて自己の眼識が高く成つたやうに考がへ且つ又たそれを偉いやうに思ふて自慢を致したり、天道に背いて俗悪世界の名与を求めたり、義に背いて利己主義を立貫き高貴に媚びへつらい、以て我身の栄達を計り人の目を眩まして利を企み、浮雲の如き富貴を希望して一生懸命に心身を労し、終には子孫断絶の因と成るを覚らず、我霊魂の永苦を省みず、只現在に於てのみ自己在る事を知つて人在る事を知らず、自己に利益あれば公道を破り、人を害ふをも顧みずして近きは其身を亡ぼし、遠きは其家を亡ぼす事を知らず、我程の立派な利発ものはなしと慢心して獣族境界に安んじ、親子兄弟他人の区別もなく、利害の為には互に敵視する今の世の中の有様。此様な沒義道な汚らはしき世が何時までも続きそうな事はないぞよ。此世が何時までも此調子で行く如うな事で在りたら天地の間は神は一柱もないので在るぞよ。今度は地の高天原の竜宮館から天地に神が在るかないかを明白に解けて見せて、世界の人民に改心さして松の世ミロクの神代と致して、世界一列勇んで暮すやうに世を替へて了ふのであるぞよ。夫れに成る迄に世界の黄泉津比良坂が在るから、今の世の中の精神を根本から立替て了ふて誠の日本魂に立帰り、神国成就の御用を勤めて、末代神国の名を残して下され、神が誠のものにはドンナ神力も蔭から渡して与るぞよ。一日も早い改心が結構であるぞよ。 明治二十五年からの筆先は充分に腹へ入れて見て貰はぬと、大変な取違いを致すものが出来るぞよ。この綾部へ出て来ねば神徳が貰えんやうに思ふて、一家を挙げて移住したり、今迄の結構な職業まで捨てたり、学校を退学したりして迄大本へ出て来るやうな事は神慮に叶はぬぞよ。大本の祝詞の中にも学びの術に戦の法に益々も開け添はりて玉垣の内津御国は細矛千足国心安国と云々と出てあらうがな。学びの術を捨てまで信心いたせとは申さんぞよ。それとも事情止むを得ぬ事があれば仕方はなけれども、悔しい残念を忍耐ることの出来んやうな身魂でありたら到底神の御用どころか我身一つさえも修まらんぞよ。是から大本の中も充分気を付け合ふて落度のなき様に心得て下さらんと斯の結構な神国の教の名を汚す事に成りて却て世界から悪るく申されても弁解の出来ぬ事が出来するぞよ。此の大本の名を汚すものは大本の中から出現するぞよ。外部からは指一本さわる事は出来ぬ完全で在と毎度筆先に出て知したが余程是からは何彼の事を気配いたして神の教に背かぬ様に善一筋の行ひを致して神の善き名を出やうに致して下されよ。何も分らずに人民の心の騒ぐ様な事を申で無ぞよ気を付るぞよ。 |
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伊都能売神諭 | 神諭一覧 | 大正8年3月8日 | 大正八年三月八日 大正八年三月八日旧二月七日 天に坐ます日の大神様は、天地初発の時から、世界万物を造りて之を愛護し給ひ、永遠無窮に光りを与え、地の世界を照らして御守護遊ばすなり、五六七の大神様は人民よりも下たに降りて、地の在らむ限り、遺る隈なく、隠れて御守護下され、何一とつ自由と云ふ事も成さらずに、万物を養育遊ばして御座るなり。地の固成主なる国常立尊は、坤の根神[*「根神」は底本通り]豊雲野尊と水火を合はして、夫れ夫れの守護神に御苦労に成りて地を固め締め、一旦は地の世界の主宰者と成りたなれど、八百万の神の為に永らくの間神の世一代艮へ押込められて、隠から斯世を守護いたして居りた事の、誠の精神と行状が天地の大神様の御眼に留まりて、再び地の世界の神界を守護いたすやうになりたのは、誠に神は満足であれども、是だけに乱れた世の中を、善一とつの神代の神政に改造すのは、中々大業で在るから、昔の神代に艮の金神と共に世に落された神々を、今度の天之岩戸開きの御用いたさす為に、世に上げて神政成就の御用に使ふから、其神々の名を上から上から表はして置くぞよ。国常立尊の侍従長を勤めたのは、右が猿田彦命と猿田姫命の夫婦なり、右の侍従が八雲立命と出雲姫命の夫婦なり、左の侍従長が真心彦命と事足姫命の夫婦なり、左の侍従が国彦命と国比女命の夫婦の神でありたぞよ。其他に沢山の付々や眷属は在りたなれど、時節に応じ、手柄に由りて、次々に名を表はすぞよ。天の規則が破れた始りは、真心彦命の最も愛して居りた百照彦命に春子姫命と申す妻がありたが、真心彦命は愛情深き神で在つたが、終には百照彦の命の妻の春子姫に手が掛り、不調法が出来たので、天の大神様から役目を御取上げに成つたのであるぞよ。真心彦命は事足姫命と申す妻神が在りて、広心彦命、行成彦命と云ふ二柱の神子が出来てあるにも関はらず、情けに耽れて春子姫との間に怪しき行為が結ばれたので、天の大神様から天の規則破りの罪として、国常立尊の侍従長を退職されたので、真心彦命は自分の失態を愧ぢて終に国替を致されたので在るぞよ。そこで八百万の神々も其心事を気之毒に思召されて、種々と持てなしを成されて、長男の広心彦命が父神の後を継ぎて、左の侍従長と成り、仁愛を以て下を治め、一時は天下泰平に世が治まりて、国常立尊の威勢も揚りたので在りたぞよ。然る所に未亡神なる事足姫命は、夫神の御心情も察せずに、春永彦命と云ふ後の夫を持ちて、桃上彦命を生み、夫婦の神が仲良く暮して居りたが、是が大変に天の規則に照して面白く無き行為で在るぞよ。 桃上彦命は非常に下を憐む、精神の善き神でありたから、種違いの兄神の広心彦命も大変に安神いたして、自分の副神に任じて、神界の御用の祐けを為せて居りたが、桃上彦命は月日の経つに連れて、始めの善良なる精神が狂ひ出し、上の神の命令も聞かず、外神の難義も顧みず、終には慢神益々増長して、兄神の権利と地位を占領し、只管下斗りの機嫌を取る事に而巳心を碎きたるが故に、下の神々は恩に馴れて安楽な道ばかりに傾き誠の天則を守る神の教に反対いたし出し、神界の政治は上げも下ろしも成らぬ如うに成り果て、終には重立たる侍従神もチリチリ破乱々々に世に押込められて了ふて、国常立尊は枝葉を断られた大樹の如うに致されて了ふたので在るぞよ。是が此世に体主霊従と申す事の初りであるぞよ。 ◎ 真心彦命の未亡神なる事足姫命は、貞操を破りて春永彦命と云ふ後の夫神を持ち、其間に生れた桃上彦命で在るから、初めの間は大変に円満な神で在つたなれども、母の規則破り、不貞操の水火が伝はりて居るから、終には勝手気儘な精神が現はれて、野心を起し、天地の経綸を破りたので在るから、神は猶更、人民は神に次での結構な身魂であるから、夫婦の道を大切に守り、一夫一婦の規定を守らぬと、終には身を亡ぼし、家を破り国家に害毒を流して、天地の規則破りの大罪人に落ちて苦しまねば成らぬ事が出来いたすぞよ。事足姫命の不貞操な行状が元に成りて、神界が一旦乱れて了ひ、次に人民の世界が今の如うに乱れて来たので在るから、悪と云ふ行為は毛筋も今度は無きやうに、水晶の神世に立直すので在るから、皆の人民は互に気を注け合ふて心得て下されよ。取返しの成らん事が出来いたすぞよ。斯の天則を破りた二柱神の子の桃上彦命が、大野心を起して、下々の神に対し贔屓を取らんとして、八方美人主義を非常に発揮したる為、下は之に馴れて上の命令を一も聞かぬやうに成りたので、他の善神から大禍津美命と名を付けられたので在るぞよ。この桃上彦命は八十猛彦と百武留彦を殊の外寵愛し、両神を頤使て益々自己の野心を遂行いたし、自由自在に斯世を持荒らしたが為に、今に世界が体主霊従の身魂斗りに成りたので在るぞよ。それから国常立尊の左の侍従を勤めて居りた、国比古之命は侍従長の真心彦命の国替に由り、首長の無くなつたのに気を赦るし、自由自在に自己主義の行り方を致して世に現はれ、大権力を振り舞はし、終に世界を乱して了ふたので在るぞよ。国比古之命と国比女命夫婦の間に三柱の神子が生れて、長子を真道知彦命、次子を青森行成彦命、三子を梅ケ香彦命と申す名が付けてありたぞよ。此の三神の兄弟は、父母の神に似ぬ厳格にして、智仁勇兼備の善良な神で在るから、父母両神に度々兄弟が交る交る意見を致したなれど、少しも聞入れなき故に、何れも時節を待つて父母の改心を促がさんと、古き神代の昔より、堪え堪えて貯えし、誠の花の咲く世に成りたから、今度の二度目の天之岩戸開きに就て、国常立尊の大神業を輔け、父母の大罪を償はんと、一生懸命に兄弟の神が力を合はして活動いたして居れるぞよ。 ◎ 広心彦命と行成彦命は、真心彦命と事足姫命と夫婦の間の神子であるぞよ。桃上彦命は未亡神事足姫命と、後添の夫神春永彦命の間の神子であるぞよ。 ◎ 広心彦命は桃上彦命の為に、非常なる困難の地位に落ち、筆紙に尽されぬ程の艱難辛苦を致した神であるぞよ。其原因は父神の真心彦命が大罪を犯して天則を破り、侍従長重職を退き、且つ神去ましたので、忠孝仁義に厚き広心彦命は、昔から貯えた善の神力で、天地の神の稜威を輝やかし、天地万有を安きに救ひ、且つ父母両神の大罪を償はんと思召しての、御艱難を為て居れるぞよ。此神は至善至愛の身魂であれど、其温順なる身魂の性来として厳しき事を申すのが嫌で在つた為に、異父弟の桃上彦命の乱政を戒め、改めしめる事が出来なんだのが、此神の一生の失敗でありたぞよ。それで此の大本の教は、天の規則に外づれた事は、容赦なく厳しく申して戒める御道であるから、情義にからまれて天の規則を外す事は出来ぬぞよ。桃上彦命の行り方が天則に外づれて居りた斗りに、下々が段々と増長して、君、大臣、小臣、民の四階級を破壊して了ふたので、八百万の真の神々が忍び兼て各自に退職を致されたので、神界の政治は如何ともする事が出来ぬやうに成りたので在るぞよ。そこで広心彦命は弟神の行成彦命と力を合はせ、心を一にして天則を厳守し、回天の事業を起し、完全に神代を改造せんと焦慮せられたなれど、安逸なる放縱神政に馴れたる神々は一柱も賛成なく、天地は益々暗黒界と成り、上げも下ろしも出来ず、万妖億邪一度に突発したので、国常立尊の侍従の役を勤めた、猿田彦命の妻神なる猿田姫命と、八雲立命の妻神なる出雲姫命が、非常に心を配り身を竭し、神政改造の為に在るに在られん数十万年の永い間の御艱難を成されて、今に神界で大変な御活動に成つて居られるが、今に苦労の花の咲くやうに成りて来たから、今度は苦労の凝りで、万劫末代萎れぬ結構な生花が開くから、世界の人民は是を見て一日も早く改心致して、君国の為に出来るだけの苦労を勇んで致して、日本魂に立帰り、神国成就の為に真心を尽して下されよ。後にも先にも無き結構な天地の岩戸が開くのであるから、日本の人民は一人なりとも余計に改心して、岩戸開きの御用に身魂を捧げて下されよ。末代名の残る事であるぞよ。 猿田彦命と猿田姫命の間に三柱の神子が生れて、長女が杵築姫命、次女が朝子姫命、三女が猿子姫命と申すぞよ。天の規則が破れて、神政が潰滅た際に、猿田彦命は妻神の意見を聞かず、却つて大に立腹せられ、三柱の姫神を引連れて天上に昇りて了ふた、神政に冷淡なる神であるぞよ。茲に猿田姫命は思ひ掛けも無く夫神と三柱の大切な姫神とに生き別れの辛酸を甞められた、気の毒な神であるぞよ。猿田姫命は悲歎行る方なく、天を仰ぎ地に伏して、猿田彦命に天より降り玉ひて、此の乱れた神代を改造し給へと、一生懸命に歎願致されたなれど、一徹短慮の猿田彦命は妻神の言に耳を藉さず、三柱の姫神までも地へ降されなんだのであるぞよ。茲に広心彦命は猿田姫命の窮状を察し、一方の力に成らんと、弟神の行成彦命と相談の上、猿田姫命に向ひて申さるるには、斯の騒動は吾々にも大責任あり傍観する時に非ず、貴神の国土の為に心を碎きなさるのを御助け申上げたいからと、兄弟の神が心を一つに致して漸く苦心の結果、猿田姫命の一時の困難を助けた誠に至善なる神でありたぞよ。 ◎ 茲に猿田彦命は天上に昇りて、自由に神政の経綸を為さんとすれど、元より妻神を見捨られし位の気儘な神で在るから、真の日本魂が欠けて居る為に、事志と相違し、中界の魔神とまで成り果てたのであるが、高天原の岩戸が開けて後、皇孫二二岐命が豊葦原の水穂国に、天照皇大神の神勅を奉じて地上に降臨あらせらるるに際し、猿田彦大将軍と成りて、中界の魔軍を数多召び集へ、天の八衢[*底本は「八街(やまた)」]に出でで、皇孫降臨の途を塞がんと為したるを、神代の女傑神天宇受売命の為に矛を返して皇孫に帰順し、悪心を翻がへして忽ち善良の神となり、皇孫の御先導となりて、筑紫の国の櫛振の峰に送り仕え奉られたのであるぞよ。此の天宇受売命は元来は出雲姫命の変化の神でありたが、天の規則が破れた折に、何なりとも善を尽し義を立てて、神国の麻柱の道を立てんと焦心せられたなれど、何分にも肝腎の大本元が破壊されて在るのであるから、真実の神業は成功する事に至らずして、大正の御代の今日まで忍耐をいたして居れたが、此の神の誠の活動が成就するのは今後であるぞよ。広心彦命も非常に苦心致され、天の下を平けく安らけく治め玉ふ現人神の、隠から御守護を致して居れど、今に誠の事は成功致さず、小さい国の一つ位いでは未だ十分の満足が出来ぬので、科学の力を借りて三千世界を開かうと思召し、○○を用ゐる程益々体主霊従が盛んになりて来て、世界が段々と乱れる斗りで、上げも下ろしも成らぬやうに成りたなれど、昔の神代の時代から絶えずに国土を思ひ、神君を大切に思はれた誠の在る神であるから、今度の二度目の世の元の生き神が、揃ふて艮の金神の配下で艮の御用を致さるるに就て、神代からの順次を明白に立別けて御用に掛りて居れるぞよ。世界の人民の昔からの因縁の判る時節に成りたから、誰に由らず改心が一等ぞよ。 |
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伊都能売神諭 | 神諭一覧 | 大正8年4月13日 | 大正八年四月一三日 大正八年四月十三日 艮の金神大国常立尊が竜宮館の地の高天原に現はれて、世界の事を書きおくぞよ。変性男子の御魂の宿りて居る出口直の手を借り口を借りて明治二十五年から大正七年まで二十七年かかりて知らして置いた言葉の実地が出て来たぞよ。由良川の水上の渭水の辺りに流れも清き和知川十二の支流を寄せ集め、三千世界の隅々へ。澄める教を伝えむと探き思は神の胸。広しと雖三千歳の。経綸も茲にアオウエイ。五大父音の音無瀬や、科戸の風の福知山。空吹く東風や北風の。塵も埃も外の国。皆舞鶴の入海に、流し清めて惟神。火水の稜威も荒磯の、砕くる日影月の影月日も仲良く治まりて、神教の奥は大正の、一二御代に厳々し。伊都の御魂の表はれて、燃の斯世を開きつつ、地成の春夏秋の空。峰の頂き四ツ尾の、木々のそよぎて畏こくも、高天原に登ります。最も尊とき惟神、真道弥広大出口、国地王霊主の神魂、国稚姫の久良芸如す、漂ふ神国を、造り初め。経と緯とに織る機は、綾の錦の棚機や、千々に心を配らせつ、鬼も大蛇も瑞の霊、光りさやけく美はしく、天の岩戸を開かむと、二代三代澄直霊、三千世界の梅の花、開く常盤の松みどり、竹の園生の弥栄に、栄えを松の神代かな。弥々ひらく大正の、八ツの御年の春よりぞ。花の香清く実を結び、世界の花と鳴り渡り、東も西も南北も、神の都と称へつつ、凝り固まれる九年、十年の春や秋の空、高く清けき神の国、世の大本と美はしき、名を酉年の芽出度けれ。 ◎ 今の世界の人民は余り学や智慧が有り過ぎて神徳は言ふに及ばず、人徳と云ふものが、一つも無いから、今の世界の此の有様を何とも思はずに、我身さえ好けりや他人は死のうが倒れうがチツトも構はぬ自己本位の人民が九分九厘まで湧いて居るから、何時までも神国成就の経綸が出来上らむから、今度は昔の元の天地の先祖が現はれて三千世界の改造を致すために天の大神様の御命令を戴きて、地の先祖の国常立尊が神代一代世に落ちて仕組いたした誠の道の玉手箱、開けても暮れても一筋の天津日継の弥高く四方に輝やき渡す時節が参りたぞよ。綾部の大本は神界の経綸で、変性男子の大気違いを現はして天地の神々や守護神人民に警告て在りたなれど、斯の大気違は最早天に帰りて天からの守護となりたから、是からは弥々変性女子の大化物を現はして、三千年の経綸の艮めを差して世界を水晶の神世に造り代えて了ふぞよ。それに就ては大本の金竜殿の説教や演説の行り方から立直さぬと天地の先祖の神慮に叶はんぞよ。今は世の堺の金輪際の千騎一騎の性念場であるから、因縁の御魂を日々遠近から引寄して明治二十五年からの筆先と此の大本の中に在りた実地の談さえ致して、天地の先祖の苦労やら変性男子が鏡に出した其の行状の有様やら、女子の心の底にある炬火を世に現はして充分に立寄る人民の腹の底へ浸み込むやうに平たう説いて聞かせる世界の大本で在るのに学者が聞いても容易に判りかけの致さん言霊学やら哲学の如な話を仕て居りては物事が段々遅れる斗りで、神界は却つて迷惑を致して居るぞよ。此の大本は改心改心と一点張りに申す所で在るが、其改心は堂したら良いかと申せば、生れ赤子の何も知らぬ天真爛漫の心に立帰りて大馬鹿に成ると云ふ事であるぞよ。今の金竜殿の先生は智者学者の集り合ひで在るから、知ず知ずに自分の腹の中の智利や誤目が飛んで出て神と人とを酔はして土を耳や目や鼻に入れるから溜つたもので無いぞよ。今の鼻高さんには神も感心致して居るぞよ。神が一度申したら其通りに致さねば斯の大本は神が因縁の身魂を引寄して致す神策地であるから、賢こい御方の結構な考えとは薩張大反対であるぞよ。世界の日々の説法を見て改心いたして今迄の行り方を根本から立替て下さらぬと神界の邪魔に成るぞよ。神の為君の為国の為に一身一家を捧げて居乍ら知らず知らずに神慮に背く如うな事で在りたら折角の役員の苦心が水の泡と成つては其人も気の毒なり神が第一に迷惑いたすなり、引寄せられた因縁の御魂も苦しむから、一日も早く何彼の行方を改正て下されよ。一時後れても神界では大変であるぞよ。筆先一方で開くと迄申して在る位の大本であるから、入れ言やら混りの教は神は大変にいやで在るぞよ。斯の大本は世界中の人民を阿房に致す神の大本で在るから、変性女子の大化物の大馬鹿が申す事と行動行り方を気を付けて居りて下されたら何も判るので在るぞよ。 是までに変性男子が一度極めて置た役目は例之変性女子の教主と雖ども猥りに立替る事は成らぬ神の深い経綸であるから、大本の役員の勝手に致す事は成らぬぞよ。我を出して行るなら一寸やつて見よ直に手の掌が覆りて後戻り斗りに成りて苦しむだけの事じやぞよ。神界の仕組はまだ外にも色々と致して在るから、変性女子の胸の内は誠に辛いぞよ。神界の誠の一方の助けに成りて呉れる役員が大本に在りたら女子も御用が致し良いなれど、肝心の女子の心は解らぬから無理は無いぞよ。今の大本の役員は赤誠一図で一生懸命の御用を致して居れる国家の大忠臣斯世の加賀美で在れども、余り正直すぎて融通の利かぬ人民も在るから、神の目放しが一つも出来んぞよ。今の役員信者は結構な立派な御方ばかりで人間界では申分は無けれども、水晶の世に致す神の眼から見ると丁度狭い山路を自転車に乗つて馳りて行くやうに在りて神が横目を振る間も無い馬車馬式の御方斗りで仕末に困るぞよ。けれ共斯の始末に了えぬ人民で無いと今度の御用には間に合はず、六ケ敷神界の経綸であるぞよ。 ◎ 変性男子の御魂若姫君の命は天に上りて五六七大神様の差添を遊ばすなり、坤の金神豊雲野命は地へ降りて大国常立尊の女房役となりて働くなり、天にも地にも夫婦揃ふて守護いたす時節が参りたから、是からは世界の物事は急転直下の勢いで天地の岩戸が開けるぞよ。天では撞の大神様が一の主なり、五六七の神と若姫君命の夫婦が御側役の御用なり、地では禁闕要乃大神様が一の主なり、国常立尊と豊国主尊が夫婦揃ふて御側役をいたすなり、木花咲耶姫命の御魂は日出乃神と現はれて立派な神代を建る御役なり、彦火々出見命は木花咲耶姫命に引添ふて日出の神の御手伝を成さるので在るぞよ。出口直は(イ)の御役を地の上で済して天へ上り、出口の王仁は(ロ)の役を地で致すなり、(ハ)の御役は二代澄子の御役であるから、是から后は一番御苦労であるぞよ。次に日出乃神の御用は(ニ)の御用を致すのであるぞよ。今の大本は(イ)の御用だけ片付きて、(ロ)の御用の初発であるから、混沌時代で四方八方からイロイロと噂さを致すなれど、是がロの守護であるから神界の経綸通りで在るから、皆安心して御用を勤めて下されよ。是から二代の御用は筆先を読んで修行に参る人民に説き聞かす御役であるぞよ。遠国から参りた人民は是非一回に一度や二度は面会いたさせねば因縁が明白に解らんから、大本の役員は是が一番の大事であるから、取違いの無きやうに致して下されよ。 ◎ 三千世界一度に開く梅の花開ひて散りて若日女の再び天に高く咲く、地は豊国主の良き果実を結ぶ、夫れ迄に世界は未だ未だ大きい稲荷の御礼が湧いて来るぞよ。大きな馬の四ツ足と蚤とが動き出すぞよ。木に日が懸り小里の者がさはき出し日月雲に掩はれて常夜の暗やサルの年、トリ越苦労致すより早く身魂を研くが一等ぞよ。 ◎ 銀貨銅貨が凝まりて大きな一箇の丸となり、金貨の山へ攻め寄せて来るなれど、元から貴き光りの在る金は容積少なくも終には一の宝と勝ちほこるぞよ。 ◎ 若日女君命は昔の神代に天の規則が破れた折、イとロの機の経綸の最中に素盞嗚命の天斑駒の為に御国替遊ばして地の底へ埋もりて居られたなれど、二度目の天の岩戸が開く時節が参りて来て、我子の禁闕要の大神に地の主宰権を譲りて今度は天へ還りて五六七大神様と力を協せ心を一にして天の御守護を遊ばすなり、地の神界は国常立尊豊雲野尊が左右の御脇立となりて地の上に高天原を建て三千世界を守護遊ばして天津日継の御尾前を幸へ助け心安の元の神代に捻ぢ直し給ふぞ尊とき金勝要の大神の純きり坐ます梅と松との世界の神の大本ぞ。 |