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書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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霊界物語 | 60_亥_イヅミの国3/三美歌/祝詞/神諭 | 25 三五神諭(その六) | 第二五章三五神諭その六〔一五五〇〕 大正六年旧二月九日 神の国には、世の根本の大昔から、天地の先祖が仕組が致してあるので、二度目の天の岩戸開は末代に一度より為られんのであるから、何に附けても大謨な事であるぞよ。肝腎の事は、あとへ廻はして何も知らぬ厭な方の神や、下劣の守護神が大事の仕組も知らずに、利己主義の経綸でここまでトントン拍子に出て来たなれど、九分九厘といふ所で往生致さなならん世になりたぞよ。 九分九厘の御魂が天地の御恩といふ事が判りて来たなれば、現世は斯んな惨い事に成りはせんなれど、盲目や聾と同じ事で、全然暗黒界であるぞよ。今の守護神と人民とは岩戸開の手伝致すどころか、大きな邪魔を致すぞよ。悪の方から見れば、誠の方が悪に見えて、悪の方が善く見えるので、何事も皆逆様ばかりより出来んのであるぞよ。 悪の守護神が大本の中へ這入りて来て、何彼の邪魔を致すから、気ゆるしは些とも出来んから、物事が遅くなりて、世界中の苦しみが永うなると申す事が毎度筆先に出して知らしてあるぞよ。大本には、世界の事が映るから、大本の中の様子を見て居りたら、世界の事の見当が、明白に判りて来るぞよ。筆先に一度出した事は、チト速し遅しは在るなれど、毛筋も違はん事許りであるから、皆出て来るぞよ。霊の本の国と申しても、惨い事に成りて居るのを、知りて居る守護神も、人民も、誠になさけ無いほど尠いから今の世界の困難であるぞよ。神国魂と申して威張りて居れど、神国魂の性来はチツトも無いやうに惨い事になりて居るぞよ。 世界を一つに丸めて、神国の世に致すには、此世を拵へた天と地との根本の真で治める時節が参りて来たから、明治二十五年から今に続いて知らしてあるぞよ。世界の今度の大戦争は世界中の人民の改信の為であるぞよ。まだまだ是では改信が出来ずに、神の国を取る考へを致して居るぞよ。神の国は神の誠の守護致してある国であるから、何程邪神に神力が沢山ありたとて、知識や学がありたとて、神国には到底も叶はん仕組が世の本から致してあるから、九分九厘で掌を返して、万古末代潰れぬ守護を致して三千世界を丸めて人民を安心させ、松の世、仁愛神の世、神世といたして、天地へ御目に掛ける時節が近うなりたぞよ。天地の間に一輪咲致梅の花、三千世界を一つに丸めて一つの王で治めるぞよ。悪神のしぐみは、今迄はトントン拍子に来たなれど、九分九厘でもう一足も先へも行けず、後へも戻れず、往きも帰りも成らんといふのが、今の事であるぞよ。茲へ成りた所で、悪神の頭が充分改信を致して、善へ立返りて、善の働きをいたさんと、世界中の何も知らん人民が、此先でエライ苦しみを致すぞよ。此の大本の中にも、悪の身魂の守護神が化けて来て居るが、もう化けを現はして、皆に見せてやるぞよ。 ○ 大正七年旧正月十二日 三千世界一度に開く梅の花、艮金神の守護の世になりたぞよ。明治二十五年から出口直の手を借り口を借りて知らした事の、実地が現はれる時節が近寄りて来たぞよ。今迄の世は悪神の覇張る世で何事も好き寸法、利己主義の行り方で、此世を乱して来たが、モウ是からは昔の元の生神が世に現はれて、三千世界を守護やうに時節が参りたから、思ひの違ふ守護神人民が大多数に出来て来るぞよ。今度の二度目の天の磐戸開きは、悪の身魂が毛筋の横巾でも混りてありたら成就いたさぬ大謨な末代に一度より為られん神界の経綸であるから、茲まで悪神の覇張りた暗黒の世を生粋の水晶の如うな明かな、何時までも変らぬ神世に致さねば成らぬから、神も中々骨の折れる事であるぞよ。 昔のミロク様の純粋の、何時になりても変らぬ其儘の秘密の経綸の凝結で、末代動かん巌に松の仕組、何神にも解らぬ様に為てある善一つの誠の道であるから、途中に精神の変るやうな身魂では出来も致さず、判りもせぬぞよ。此世の元を創造へて、世界中の一切の事、何一つ知らんといふ事のない身魂でないと、今度の二度目の天の岩戸開は、世界を創造へるよりも、何程骨が折れるか知れんぞよ。限り無しの潰されぬ末代の経綸、天の岩戸開といふことは、爰まで悪神が覇張りて、モ一つ奸賢しこう人民をいたして、未だ未だ悪神の力を強くして、善神の道は立てさせぬ如うに体主霊従主義で貫く、仕組を致して居るから、神国の人民は余程魂を研いて、水晶魂を元に研いて光を出して置かねば、万古末代邪神の自由に為られて了ふぞよ。 昔から露国へ上りて居りた悪神の頭目が、モ一つ向ふの国へ渡りて、人民の頭を自由自在に、吾の思惑どほりに悪を働き、世界中の大困難を構はず、何処までも暴れて暴れて暴れまはして世界を苦しめ、又露国を自由に致して吾の手下に附けて、今に神国へ出て来る経綸を致して居るが、そんな事にビクつく如うな守護神、人民でありたら到底続きは致さんぞよ。是から神が蔭から手伝ふて軍隊に神力を附けて与るから、今度は大丈夫であれども、国と国同士が戦争は到底叶はんと申して、可い加減な事で仲直りを致して、一腹になつて、今度は押詰めて来るから、守護神も人民も腹帯を締て掛らな、万古末代取返しの出来ん事になるぞよ申して、明治二十五年から出口直の手を藉り口を藉りて、知らして置いた事の実地が、迫りて来たぞよ。邪神は悪が強いから、ドコ迄も執念深う目的の立つ迄行り通すなれど、九分九厘と云ふ所まで来た折に、三千年の神が経綸の奥の手を出して、邪神を往生いたさすので在るから、大丈夫であれども、罪穢の深い所には罪穢の借銭済しが在るから今の中に改信を致さんと、神国にも酷しい懲罰が天地から在るぞよ。霊主体従主義の行り方で、末代の世が立つか、体主霊従の施政方針で世が末代続く乎、今度は善と悪との力量比べであるから、勝ちた方へ末代従うて来ねばならぬぞよ。それで神界は茲まで煉に煉たので在るぞよ。 この先に善一つの誠の道を立貫かねば、斯世に安住て貰へんやうに酷しく成るから、爰まで永らく言ひ聞かしたので在るぞよ。善と悪との境界の大峠であるから、爰まで充分に煉らねば、悪の性来には聞けんから、今の今まで煉りたのであるが、チツトは腹へ浸み切りて居る身魂が在るであらう。爰まで言ひ聞かしても判らん如うな身魂は、体能く覚悟をいたさんと、是迄のやうな心で居りたなら、又天地を汚して了ふから、善へ心底から従ふ身魂で無いと、今迄の如うな心の人民が在りたら総損害になりて、モ一つ遅れるから、艮金神も助けて遣る事も出来ず、天の御三体の大神様へ申訳が無いやうな事になりて来るから、止むを得ず気の毒でもモウ経綸どほりに致すぞよ。天の岩戸開が段々と近寄りたから、是までの如うな事には行かんから、一か八かと云ふ事を、悪の頭に書いて見せて置くが良いぞ。今の番頭のフナフナ腰では、兎ても恐がりて、コンナ事を書いて見せて遣るだけの度胸はありは致すまいなれど、神の申すやうに致したら間違は無いぞよ。一の番頭の守護神が改信が出来たら、肉体に胴が据わるなれど、到底六ケ敷いから、今に番頭が取替へられるぞよ。モウ悪の頭の年の明きであるから、悪い頭から取払ひに致すぞよ。何事も時節が一度に参りて来て、世界中の困難が到来すると云ふ事が、毎度申して知らした事が実地になりて、一度に開く梅の花、追々分らなんだ事が明白に判りて来て、キリキリ舞を致さな成らん、夜の目も眠られん如うな事に成ると申して置いたが、一度筆先に出した事は皆出て来るぞよ。能く念を押して置くぞよ。念に念を押して、クドイと云はれて復念を押してあるから、モウ是からは神界の事情も能く解る様に一度に成りて来るから、誠で無いと、此先は誠一つの善の道が拵へて在るから、一日も早く善の道へ立復りて、神国魂に捻ぢ直して下されよ。悪の世は齢が短いから、体主霊従の身魂が大変困む事が出来るから、明治二十五年から怒られる程申して在りたぞよ。人民は男も女も腹帯を確り締めて掛らんと、一旦は堪れん如うな混雑になるぞよ。 明治二十五年から煩いと申して怒られもつて、今に岩戸開の筆先を書かして居るぞよ。何時までも同じ事に間々に細々能く判る様に抜目の無い様に知らしたなれど、ソンナ事が在るものかと申して、今に疑うて居る人民許り、実地が出て来て青白い顔をして、腰が抜けて足も立たず、腮が外れて足が上に成り、頭が下に成りて、ソコラ中をヌタクラな成らん事が出て来るぞよと知らして在るが、モウ近うなりて来たぞよ。悪の昇るのは迅いなれど、降るのも亦速いぞよ。善の分るのは手間が要るなれど、善の道の開けたのは、万古末代の栄えであるから、爰まで悪開けに開けた世界を、根本からあらためて、今後は体主霊従主義といふ様な醜しき世は無い如うに致すのであるから、是ほど大望な事は末代に一度ほか為られんのであるから、神も中々骨が折れるぞよ。是程世界中が曇り切りて居る世の中を、水晶に致すのであるから、骨が折れるのも当然であるぞよ。斯の極悪の世の岩戸を開いて、末代口舌のないやうに、大神様の善一つの世に、立直しをいたさねば、世界の苦舌が絶えんから、人民の心が悪なる許り、何時になりても国の奪り合ひ計りで、治まりは致さんぞよ。 神の国は本が霊主体従であるから、誠に穏かにありたなれど、世が逆様に覆りて今の状態であるぞよ。薩張り上下へ世が覆りて了ふて、神国に悪神が渡りて来て、上から下まで醜しさと云ふものは、天地の誠の神からは、眼を開けて見る事が出来んぞよ。斯世を結構と申して大きな取違ひを為て居りて、良いと云ふ事も悪いと云ふ事も、可非の判らん見苦しき世が、一旦は出て来ると申す事は、地球を創造へる折から良く判りて居るので、外の身魂では能う為もせず解りも致さんぞよ。一輪の火水(言霊)の経綸がいたして在りて先が見え透いて居るから、爰まで辛い事も堪り詰めて来られたのであるぞよ。今度の二度目の岩戸開きは、知識でも学でも機械でも、世界中の大戦ひには、手柄は出来んぞよ。何程悪の頭でも到底是からの世は今迄の行方では行かんと云ふ事に気が附いて、綾部の大本へ今の内に願ひに来る守護神でありたら、善一つの道へ乗替へさして、末代の世を構はして、毛筋の横巾も悪の性来の混りの無い結構な神代に助けて遣るから、早く改信なされよ。何程我を張りて見ても時節には叶はんぞよ。 善一筋の純粋で末代の世を立てて行く結構な仕組の解る世が参りて来たから、爰までに知らしても未だ今に成つて疑うて居る守護神や人民許りで、可憐相なものなれど、モウ神からは人民に知らせ様が無いから、何時までも邪魔を致す極悪の頭から平げると云ふ事を、永らく筆先で知らしてある通りに、時節が迫りて来るぞよ。余り何時までも高上りをして居ると、時分の過ぎた色花の萎れる如く、今日の間にも手の掌が覆るぞよ。今の中に発根からの改信が一等であるぞよ。疑うて居りて何事が出来しても神はモウ知らんぞよ。 悪の霊を抽抜いて元の水晶の霊と入替へて遣ると申して、爰まで知らして在るなれど、余り世界の霊魂が悪渋とうて手に合はんから、皆の霊魂が悪シブトい性来に成り切りて居るから、言ひ聞かした位に聞く如うな優しい霊魂はありはせんぞよ。今の人民は悪のやり方が良く見えるのであるから、何程言ひ聞かしても聞きはせぬぞよ。困つたものであるぞよ。是ほど良い国は無いと心に錠を降して了ふて居るから、何程実地の事を言ひ聞かしても、逆様計りに取るから、助けてやり様が無いぞよ。是れもモチト先に成りたら、大きな取違ひを致して居りたと云ふ事が、上へあがりて覇の利いて居りた神に自然的に判りて来るぞよ。今迄の様に自分好しの目的は、トントン拍子には行かぬ如うになるぞよ。 世界の人民確り致さんと、今に大変な事になりて来るから、何れの国も危ないと申して、彼方此方へと狼狽へまはりて、行く所に迷ふぞよ。神道を守護致す誠の所は、綾部の大本より外には無いぞよ。綾部は三千年余りて、昔からの神の経綸の致してある結構な所であるから、大本の教を聞いて居る守護神は余程シツカリいたして居らんと、油断が在りたら肝腎の経綸を他国から取りに来るぞよ。何程奪らうと致しても神が奪らしは致さんなれど、物事が遅れるだけ世界の困難が永びくから、充分に覚悟をいたして正勝の時の御用を勤めて下されよ。三千世界の鏡の出る大本であるぞよ。今の人民は神がいつまで言ふて聞かしても、人を威す位にほか能う取らんから、一度にバタツイても間に合はんぞよ。俄の信心は役に立たぬから、常から信心いたせと申して爰まで気を附けてあるぞよ。善の行り方と悪の行り方とを末代書いて遺す綾部の大本であるから、変性男子の書いた筆先を、坤金神が変性女子と現はれて説いて聞かして、守護神人民に改信を致さす御役であるから、世界の人民よ、真の事が聞き度くば綾部の大本へ参りて来て、細々と聞かして貰ふたら、世界の事が心相応に解りて来て世界に何事ありても驚きは致さんやうになるぞよ。 昔からの極悪神の頭が神国の人民を一人も無いやうに致す仕組を為て居るなれど、神国にも根本から動かぬ経綸が致して在るから、国も小さいし、人民も尠いなれど、初発から一厘と九分九厘との大戦ひで在ると申して、何時までも同じやうな事を書かして在る通り、口で言はしてある事がドチラの国にもあるから、神力と学力との力比べの大戦ひであるから、負た方が従はねば成らんと申して、筆先に出してある通り、実地に実現て来るから、此先で神から不許と申す事を致したり、吾の一力で行らうと思ふても、世が薩張り変りて了ふから、是までの事はチツトも用ゐられんぞよと、度々気を附けてあるのに、聞かずに吾の我で行りたら、彼方へ外れ、此方へ外れて、一つも思ふ様には行かんぞよ。素直にさへ致せば何事も思ふやうに箱差した様に行くのが神代であるぞよ。今の人民は余り我が強いから、是迄は神の申す事も聞かずに、守護神の自由に一力で思惑に行けたのは、地の上に誠と申すものが無かりたから、世に出て居る方の守護神が、悪神の大将に気に入る様な悪る力がありたなら、何処までも上げて貰へる世と成りて居りたから、悪い事の仕放題、悪神の自由で在りたなれど、モウ時節が廻りて来たから、其時節の事を致さな世は立ちては行かんぞよ。今迄は物質の世でありたから、学が茲まで蔓りて、学力でドンナ事でも九分九厘までは成就いたしたなれど、モウ往生いたさなならん如うに成りて来たぞよ。茲に成るまでに悪の守護神を改信さして、助けて遣りたいと思ふて、明治廿五年から深い因縁のある出口直の身魂に知らさしたのであるなれど、吾程豪いものは無きやうに思ふて、チツトも改信の出来ん罪人ばかり、神も是には往生いたさな仕様がないぞよ。現世の鬼を平げて、世界のものに安心を致さすぞよと云ふ事が初発に筆先にかかしてあるが、世界の大洗濯を致して、元の水晶の身魂やら天地の大神の教どほりの世に致して、天に坐ます御三体の大神様に、御目に懸けねば成らぬ御役であるぞよ。来いで来いでと松の世を待ちて居りたら、松の世の始まりの時節が参りて来たなれど、肝腎の悪の性来の改信をいたして貰はんと、何時までも頑張るやうな事では、此世は水晶にならんから、ドウシテも聞かねば聞くやうに致すより仕様は無いぞよ。世界には代へられんから、此先の規則通りに制配を致さねば御三体の大神様へ申訳がないから、二度目の天の岩戸開をいたしたら、悪の性来は微塵も無い如うに洗ひ替をして、巌に松の動かぬ世にいたす世界の大橋と成る尊い所であるから、余り何時迄も疑ふて居ると、天地の大神様へ大きな御無礼になるから、今一度気を附けておくから素直に致すが徳であるぞよ。 (大正一二・四・二七旧三・一二北村隆光再録) (昭和一〇・六・一五王仁校正) |
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霊界物語 | 60_亥_イヅミの国3/三美歌/祝詞/神諭 | 余白歌 | 余白歌 天地のなやみを救ふ神人を押しこめて見よないふるかみなり〈序文(初版)〉 愛善の徳に充ちたる神人を知らずに攻むる曲津神ども〈序文(初版)〉 大正十四年六月十五日一行十三人元伊勢に詣でて 天照皇大神の初盥来たりて見れば赤竜およぐ〈総説(初版)〉 雨雲の衣を破りて天津日の光刺しにけり元伊勢の宮〈総説(初版)〉 王仁は今大江の山の麓なる宮町に来て鬼の絵見しかな〈総説(初版)〉 谷川の岩根踏み分け登り見れば岩戸神社に又も竜あり〈第1章(初版)〉 新緑の山路を遡る十三の神子の勢ひ神山ゆるがす〈第2章(初版)〉 綾部町会にのぞみて 木偶の坊口先ばかり喧ましく課税問題に永き日潰す〈第4章(初版)〉 上すぎるいな下すぎる高い安いなぞと雪隠虫の相談〈第6章(初版)〉 公平だいな不公平だ去年式とおにが居るので古い事いふ〈第6章(初版)〉 茶と煙草欠伸にまでも節つけて袖にかくしぬしがみし面を〈第8章(初版)〉 半日を無駄に潰した町会議止むなく明日にやり直しする〈第8章(初版)〉 世人の知恵は賢しくも斯世をのろふ魔が神の 醜のたくみは覚り得じ神より出でし真心の 礎かたく搗きかため神のまにまに進みなば 仁慈の神は人の身に無限の神力たまふべし。〈巻末(初版)〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました] |
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霊界物語 | 61_子_讃美歌1 | 14 神服 | 第一四章神服〔一五六四〕 第一三二 一 皇大神の御教に服従ひまつる人の身は 千引の巌と動きなくスメール山と聳え立つ。 二 神の教に清まりし選みの民を子の如く 抱かせたまふ愛の御手いと柔かに穏かに 抱きたまひて珍の国神の都に導き玉ふ。 三 貴の御国の花園に導きたまふ瑞御魂 限りも知らぬ御栄光の中に安けく吾が霊を 住まはせたまふぞ尊けれ。 第一三三 一 興りては直に倒るる国々は 皆かげろふの姿なりけり。 二 永久に動かず立てる神国は 乱れも知らず嵐だもなし。 三 立ち騒ぐ浪にも似たる世の中に 心やすくて住む人はなし。 四 山のごと動かぬ国は伊都能売の 神のまします松の神国。 五 皇神の広き心は和田の原 目にも留まらぬ如くなりけり。 六 神国の清き力は潮なす 海の底ひもはかり知られじ。 第一三四 一 あな尊千座を負ひて罪人を 生かせたまひし岐美の御姿。 二 吾魂の礎固し瑞御霊 その御懐に抱かれし上は。 三 赤心の清き涙を濺ぎつつ 清めの貴美の艱みをぞ思ふ。 四 皇神の御座の前に近づきて 友に交はる事の楽しき。 五 曲神の深き企みに勝たせかし きみのきみなる厳の大神。 六 皇神の誠の道の栄ゆれば 天地の幸は神都にぞ降る。 第一三五 一 現世はよしや悪魔と変るとも 吾は変らじ神のまにまに。 二 天地は砕け壊るる事あるも やすくあるべし神の都は。 三 父母の情も友の親しみも 変る御代にも神は変らじ。 四 皇神の恵の露は永久に かわきし霊に降り濺ぐなり。 五 火に焼かれ水に溺るる苦しさも 心はやすし神の御民は。 第一三六 一 友となり又仇となる国々も 同じ御神の露に霑ふ。 二 御恵の露を降らして世を洗ふ 瑞の大神いとぞ尊し。 三 皇神の珍の御舎仕へてし 清き心を神は愛でなむ。 四 喜びの御歌うたひて御舎を 仕へまつりし人を愛でます。 五 赤心の清き祈りにこたへつつ たまふ恵のいや広きかな。 六 世の民を瑞の御霊に清めつつ 幸ひたまふ珍の言霊。 七 又も世に現はれまして天の下 知らすよき日にあはせたまはれ。 八 愛善のつくる事なき父の神 瑞の御霊を与へたまへり。 九 此上もなき御栄の永久に あれよと祈る信徒天晴。 第一三七 一 元津御祖の皇神の恵の露の弥広く 瑞の御霊を世に下し罪に死したる人草を 甦らして神国へ導きたまひ今日よりは 御民の数に入らしめよ。 二 元津御神は瑞御霊下津御国に下しまし 千座の置戸を負はせつつ世人の罪の贖ひの 清めの主となしたまふ仰ぎ敬へ神の恩 慕ひまつれよ瑞御霊。 三 暗き司の魔の手より諸の罪をば贖はれ 世人の為めに千万の艱みをうけし瑞御霊 諸の悪魔は争ひて亡ぼし呉れむと攻め来る 其光景の物凄さ神の御子たる瑞御霊 仁慈の鞭をふり上げて言向和し神の代の 栄光を清く現はして眠をさまし玉ひけり。 四 厳の御霊や瑞御霊清めのきみの御もとに 生きては頼り死りては御側に近く縋りつき 恵に離るる事もなく清く正しく永久に つかはせたまへ惟神謹みゐやまひ願ぎまつる。 第一三八 一 暗き世の光となりて天降ります 厳の御霊の御稜威かしこし。 二 今よりは命の主の御手のままに うちまかせつつ神国に進まむ。 三 素盞嗚の神の血潮に洗はれし 人は御国に直に進まむ。 四 罪に死し恵に生きて皇神の 御もとに栄ゆる身こそ嬉しき。 五 皇神の教の御子の数に入る 其御しるしの守神祭かな。 六 許々多久の罪を清むる身の幸は 世に比ぶべきものこそあらめ。 七 吾霊も身体も捧げて皇神の 御名を称へつ月日を送らむ。 第一三九 一 三千年の月日重ねて今もなほ 変りたまはぬ神の御瑞兆。 二 奥深くはかり知られぬ秘事を やすく覚りぬ神の御文に。 三 蓮華台清き御庭に集まりし 身魂を永久に照させたまへ。 四 永久の誠のみのり結ぶべく すすがせたまへおのが身魂を。 第一四〇 一 八束髯手足の爪を剥がれつつ 血をもて世をば清めたまひぬ。 二 許々多久の罪も汚れも皇神の 血潮によりて洗はれにける。 三 御恵の教の文を謹みて 味はふ霊魂とならしめたまへ。 四 安河に誓約の業を始めたる 厳と瑞との神ぞ尊き。 五 八衢の醜の大蛇の帯ばせたる 厳の剣を奉りたる君。 第一四一 一 選まれし神の御民よ声高く 瑞の御霊を称へ唱へよ。 二 言霊のあらむ限りを尽すとも 如何でうつし得む瑞の御勲。 三 現世におどろき難儀多けれど 神としあれば撓むことなし。 四 千座なす置戸を負ひて神人の 生命守りしきみぞ尊き。 五 風流なる御歌うたひて瑞御霊 ほめ称へなむ高き勲を。 六 飢ゑ渇く心に生命の糧と水 豊にたまひし瑞の大神。 七 御恵ののどかなりける筵には 掟の影も消えてゆくなり。 八 玉の緒の生命と誠の御光と 輝きたまふ厳の大神。 九 夜は更けて曲の軍の狂ひ立つ 折にも神は安きを賜へり。 (大正一二・五・五旧三・二〇於教主殿加藤明子録) |
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霊界物語 | 62_丑_讃美歌2 | 09 神子 | 第九章神子〔一五八四〕 第三三二 一 幸薄く果敢なき夢の浮世にも 神としあれば楽しかりけり。 二 風荒み雨しきりなる闇の夜も 如何で怖れむ神としあれば。 三 外よりは諸の誘惑内に罪 汚れの絶えぬ此の世なりけり。 四 人の世はほほ笑む目にも涙あり 泣いて楽しき神の御教。 五 恐ろしき死出の山路も何かあらむ 教主も一度いでまさむ道。 六 皇神の珍の御声に眼を醒せ ねむりの深き罪の閨より。 七 我神に遠く放れて現身の 憂世に住めば苦しかるらむ。 八 幸流れ喜び溢るるヨルダンの 水こそ瑞の御霊なりけり。 九 愛善の徳にみたされ円満に 暮すは天津国人なりけり。 一〇 花のごと晴れて曇らぬわが教主の 瑞のみもとの頼もしきかな。 第三三三 一 神の手にねむる正しき信徒の いまはの面の美はしきかな。 二 引く汐の静なるごと逝く人の 面ざし見れば神と倶にあり。 三 生死の恐れもしらぬ天津国の その長閑さは春の花園。 四 光闇行き交ふ世をば後にして 天津御国に昇るは安けし。 五 天地の神も祝ぎたまふらむ 信徒達の最後の床しさを。 第三三四 一 春雨のそぼふる梢に萎みたる 花の姿のいとど床しき。 二 春の夜の短き夢にも似たるかな 露の命の散るを思へば。 三 秋風に揺らるる萩の露のごと おちて消え行く人の玉の緒。 四 花と匂ひ玉と栄えし人の身の 消ゆるを見れば果敢なかりけり。 五 山に野に河の畔に祈りてし 昔の友のいとど恋しき。 六 奥津城に淋しく眠るわが友は 天津御国に栄えますなり。 七 死出の山調の川も手を曳いて 導きたまはむ瑞の大神。 第三三五 一 人はただ此世の命のみならば 如何に悲しきものとこそ知れ。 二 身はたとへ朽ち果つるとも霊魂は 天津御国に永久に栄えむ。 三 死の神も襲ひ来らぬ神の国は わが玉の緒の住所なりけり。 四 妹と背の契も永久に動かざる 神の国こそ楽しかるらめ。 五 村肝の心直なる人の家は 夜なき国の園に立ちおり。 六 喜びの絶えせぬ歌は神国の 御殿の門に非時ひびくも。 七 朝日影に消えしと見えし月星は 消えしにあらで隠れたるなり。 第三三六 一 皇神の永久にまします故郷に 帰り行く身は死せしにあらず。 二 涙をば絞る眼は閉づれども 栄えに醒むるをなど死と云はむ。 三 世の中の醜の覊絆をときはなし 天翔り往く天晴霊魂。 四 皇神の厳の言葉に招かれし 身は永久に天に栄ゆく。 第三三七 一 親と子を後に残して死る身も いと安らけし御国思へば。 二 何事も神の御旨と仰ぎつつ 空しき別れを歎かざらまし。 三 永久に滅びず朽ちぬ神国の 恵思へば頼もしきかな。 四 わが命神に受けつつ又神に 召さるも恵の御旨と仰がむ。 第三三八 一 醜雲の四方に閉ざせる世を捨てて 愛児逝きぬ天津御国へ。 二 皇神の愛の燈火きらめきて 愛児の路照させたまひぬ。 三 愛児は天津乙女の懐に 笑みつつ永久の花園に往きぬ。 四 天使の歌や小琴の音の響きに 慰めたまふ逝きし愛児を。 五 逝きし子は天津乙女に抱かれて 夜なき国に生立ちて行く。 六 美はしき天津乙女に抱かるる 其喜びは如何に深けむ。 七 御心のままになりしか愛児は 夢のごとくに現世去りぬ。 八 皇神は生命の元にましまさば 与へたまはむ愛児の命。 第三三九 一 懐しくいと慕はしく思ふかな 天津御国にゆけるわが子を。 二 父母を後に見捨ててわが御子は 夜なき国に昇りけるかな。 三 火に焼けず水に流れぬ天津国の 永久の家路に住むか愛児。 四 現世に老いて艱める吾さへも 若きに帰らむ神の国には。 五 行く先は唯白露の命なれど 神としあらば永久に栄えむ。 六 思はざる嵐に遇ひて愛児は 夜なき国に帰りけるかな。 七 死の川や暗の山路を打越えて 神の御国にわが子昇りし。 八 浪の上救ひの船をさしむけて 拾はせたまへ愛児の霊を。 第三四〇 一 春の花夢と去り往き紅葉散らす 風も身にしむ人の果敢なさ。 二 花を愛で月を賞めつつゑらぎてし 友に甲斐なく今は別れぬ。 三 わが友の昇りし後は遥けしと 思ひし空も近くなりけり。 四 天地は離れ居れども皇神を 称へまつるに隔てこそなき。 第三四一 一 夜も昼も天津御国の幸を 胸にうかべて送る楽しさ。 二 天使称への歌は海山に みち溢れけり夜も日もたえず。 三 慰めの珍の御声は故郷に 旅立つ人の力とぞなる。 四 言霊の祝詞の声は天地に 響きて霊魂は神国に栄えつ。 五 太祝詞厳の言葉に守られて 安く御許に行くぞ嬉しき。 六 瑞御霊恵の声を聞く時は 嶮しき山路もやすく渡らむ。 七 疲れたる人の霊魂もわが教主の 声をしるべに喜び進まむ。 八 天使の清き御歌を聞く時は 尽きぬ希望の胸に溢るる。 九 暗き夜の雲晴れ渡り天津日の 輝く日まで忍ばせたまへ。 (大正一二・五・一一旧三・二六於教主殿明子録) |
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霊界物語 | 62_丑_讃美歌2 | 22 神樹 | 第二二章神樹〔一五九七〕 第四六二 一 葦原の瑞穂の国のことごとは 天津御神の御許に仕ふ。 二 天地のすべてを造り玉ひたる 神の御前に山河寄り来む。 三 山河も皇大神の大前に より来仕ふる御代ぞ尊き。 四 言の葉も胸の思ひもよろこびも みな皇神のめぐみし賜もの。 五 大前に地のことごと集まりて みいづ称へむ日は近づきぬ。 六 石の上ふるき神代の初めより 神の御国とえらまれし大和。 七 神の民とえりぬかれたる国人の さすらひの夢も今は醒めけり。 八 葦原の中津御国に降ります 教への主を仰ぎつつ待つ。 九 よろこびを胸にたたへて皇神の いづの救ひをまつの代のたみ。 一〇 わが魂よ貴の教によみがへり 雲より来る神にならへよ。 第四六三 一 限りなき教の神の御恵みを 心にとめて夢な忘れそ。 二 いたづきの身もやすかれと朝夕に わが皇神はわづらひたまふ。 三 ほろびゆく生命を救ひ愛の雨を そそがせ玉ふ瑞の大神。 四 ゆたかなる恵の雨の降りそそぎて 怒のちりを清めさせたまひぬ。 五 とこしへに怒らせたまふ事もなく せむることなき瑞の大神。 六 人の罪を数へたまはず憎みまさず 只愛のみを御身となしたまふ。 七 天津空の高きがごとく皇神の みいづはスメール山も及ばじ。 八 東西分るるごとくわが罪を 遠ざけたまふ仁愛の大神。 九 始めなく終りも知らに栄えませ すべてを造り守る大神。 第四六四 一 千引岩動かぬ主の御恵を 力となして進む嬉しさ。 二 喜びの声を揃へて皇神の あれます都を讃め称へかし。 三 天地の総ての神を統べ玉ふ 誠の神は厳の大神。 四 足曳の山の頂き海の底も 皆皇神の御手にありけり。 五 海陸を造り玉ひし皇神の 御子と生れし人は神なり。 六 跪きてわが身生ましし元津祖を 綾の高天原に伏し拝むかな。 七 村肝の心の清き供物 受けさせ玉へ元津大神。 八 地の限りその大前に畏みて いと美しく称へまつれよ。 九 正しきと誠をもちて諸々の 民を審かせ玉ふ時来ぬ。 一〇 元津御祖厳と瑞との二柱の 御稜威常磐にあれと祈りつ。 第四六五 一 神国には御栄光あれや地の上は 平穏あれよ恵みあれかし。 二 皇神を讃めつ称へつ拝みつ 御栄光仰ぎて御稜威を崇む。 三 天にます大国常立大神は 総てのものの誠の祖なり。 四 祖神は瑞の御霊の瑞の子を 下して世をば救はせ玉ふ。 五 世の罪をわが身一つに引受けし 瑞の御霊の恵み畏し。 六 穢れたるわが魂を洗へかし 瑞の御霊の教の主よ。 七 皇神の右にまします瑞御霊 わが祈りをも受けさせ玉へ。 八 いと清く尊き瑞の神霊 厳の御霊は世を生かしますも。 九 厳御霊瑞の御霊は祖神の 栄光の中にいや栄え玉ふ。 第四六六 一 神路山五十鈴の川の水上に 世を照します神はましけり。 二 暗き世を照さむ為に厳御霊 教祖の宮に下りましけり。 三 更生主の魂に宿りて天地の 奇き誠を諭し玉へり。 四 攻め来る醜の仇さへ憎まずに 言向和す瑞の大神。 五 遠津祖世々の祖等に仕へよと 教へ玉ひぬ瑞の御霊は。 六 世を照す油の教主はあれましぬ 古き誓ひを証しせむため。 七 御教の聖き義しき言の葉に 仕ふる身こそ楽しかりけり。 八 精霊を充たし玉ひて更生主に 天降りし国の常立の神。 九 老の身を賤が伏屋に横たへて 明き尊き道を宣べけり。 一〇 皇神の深き恵に罪人を 救はむとして下りましけり。 一一 御恵の珍の光は死の影と 暗き身魂を照しましけり。 一二 わが足を安き大道に導かむと 輝き玉ふ厳の大神。 第四六七 一 わが心厳の御霊を崇つつ 喜び祝ふ更生の神を。 二 元津神厳の御霊の御教を 伝へ玉へる更生の御神。 三 瑞御霊万代までもわが魂を 真幸くあれと守りますかも。 四 御力に富ませ玉へる厳の神は わが身を尊きものとなしませり。 五 名は清く恵の深き皇神を 畏るるものは世々恵まれむ。 六 村肝の心驕れる枉人の 曲を散らして救はせ玉ふ。 七 高山の伊保里[※「伊保里」の「里」は他の箇所では「理」だがここでは「里」になっている。]を分けて谷に下し いやしきものを上らせ玉ふ。 八 飢渇く人をば飽かせ富めるものも 許させ玉ふ日は近づけり。 九 神孫と其御裔をば限りなく 憐れみ玉ふ元津大神。 一〇 遠津祖に誓ひ玉ひし言の葉を 現し玉ふ時は来にけり。 一一 古の神の誓ひを詳細に 証させ玉ふ瑞の大神。 第四六八 一 新しき御歌を神の大前に 向ひて歌へ声も涼しく。 二 神津代の奇き尊き物語 中に交はる厳の御歌を。 三 御救ひを知らせ正しき理を 世の悉に示させ玉ふ。 四 瑞御霊現れまして五十鈴の 家を堅磐に守らせ玉ふ。 五 地のはても神の救ひを得たりけり 聞けよ諸人神の言葉を。 六 琴の音と歌の声もて皇神を 崇めまつれよ上にある人。 七 海も山も皆諸共に鳴り動み やがては神の御代となるべし。 八 瑞御霊神の御前に手を拍てば 山川共に声挙げて答へむ。 九 地の上の総てのものは大前に 戦き畏み仕ふる御代かな。 一〇 地の上の総ての民を審かむと 下り玉ひぬ神の言葉に。 第四六九 一 節分の夜に退はれし我神の 再び現れます時は来にけり。 二 邪心と悪徳を捨てて愛善の 誠の種子を地の上に蒔け。 三 瑞御霊東の空に甦り 雲に乗りつつ来る日近し。 四 罪に死し神に生きたる瑞御霊 今は此世の柱なりけり。 五 至聖なる旧の都に雲の如 降らせ玉ふ時は来にけり。 六 時満ちて救ひの神は元津国に 甦りましぬ来りて崇めよ。 七 瑞御霊五六七のもとに寄り集ふ 誠の人に生命賜はむ。 第四七〇 一 三柱の御前に向ひて喜びの 声を上げつつ謡ひ舞へかし。 二 わが身魂生ませ玉ひて懇に 哺育みたまふ元津祖神。 三 身体も霊魂も神のものならば 只御心に任すのみなり。 四 綾錦厳の御門に寄り来り 讃めよ称へよ厳の御前に。 五 千早振る神代は愚か万代の 末も守らす元津大神。 第四七一 一 惟神御霊幸ひましませと 三柱神の御前に祈る。 二 スメールの山は何処と打仰ぐ わが目に映る紫の雲。 三 わが魂を助け守らす皇神は 三柱神の外なかりけり。 四 わが持てる五官の機関あるうちに 祈れよ称へよ勤しみ仕へよ。 五 葦原の地の悉を守ります 神は夜昼眠り玉はず。 六 人は只神の守りを受くるより 外に栄光の道こそ無けれ。 七 夜の守り日の守りと月日の神は 光り恵みを与へ玉ひぬ。 八 諸々の醜の災打払ひ わが魂を守らせ玉ふ。 九 皇神は永久までも汝が身の 出づると入るとを守り玉はむ。 (大正一二・五・一四旧三・二九隆光録) |
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霊界物語 | 63_寅_伊太彦の物語 | 04 山上訓 | 第四章山上訓〔一六一一〕 玉国別の一行はスダルマ山の麓にて 伊太彦徒弟に立別れ焦つく如き炎天の 音の名高き急坂を汗をたらたら絞りつつ 迦陵嚬伽の鳴く声に慰められつ登り行く 見渡す限り野も山も緑彩どる夏景色 眺めも飽かず頂上に黄昏ちかき夕の空 漸く辿りつきにけり。 真純『お蔭によつて此急坂を漸く無事に登つて参りました。今夜は月を枕に草の褥、蒼空の蒲団を被つて安けき夢を結びませう。天空快濶一点の暗雲もなく、星は稀に月の光は吾等一行を照らし守らせたまふ有難さ愉快さ、旅をすればこそ、こんな結構な恵の露に霑ふ事が出来るのですなア』 三千『本当に愉快だ。スダルマ山の峠の頂上に月の光を浴びて寝ると云ふ事は、実に爽快の気分に漂はされる。四方の山野は宏く遠く展開し、西南方に当つてスーラヤの湖は鏡の如く月に輝き恰も天国のやうだなア。先生是からは下り阪、今晩は此処で寝む事に致しませうか』 玉国『本当に有難い事だ。此処で一夜の雨宿り、恵の露を浴びて霊肉共に天国に進まう。併し乍ら先づ第一に吾々の務めを果し、神様に感謝の言葉を奏上し、それから悠りと話でも交換して華胥の国に入らうぢやないか』 三千『さう願へば実に有難いです』 と茲に一同は声も高らかに、スダルマ山の谷々の木魂を響かせ天津祝詞を奏上し、終つて蓮の実を懐より出し夜食にかへ四方八方の話に時を移し、且つ歌など詠んで楽しんで居る。 玉国別『大空に輝く月も安々と 傾きたまへば軈て明けなむ。 此景色天津御国か楽園か 何に譬へむ術もなければ』 真純彦『スダルマの山の尾上に来て見れば いよいよ高き月の輝く。 真澄空星はまばらに輝けど 月のみ独り世を知し召す』 三千彦『大空に星はみちけり三五の 月の光も天地にみちぬ。 みちみちし神の御稜威を只一人 頂きにけり三千彦の胸に。 さりながら天津御空に照り渡る 玉国別の恵忘れじ』 治道『三五の神の司と諸共に 伊都のみやこに行くぞ楽しき。 村肝の心に宿る曲神も 逃げ散りにけり月の光に』 デビス姫『師の君の御跡慕ひて背の君と 漸く登りぬ恋の山路を。 見渡せば吾故郷は霞みけり テルモン山の雪のみ見えて』 治道『ベル、バット軍の司は今いづこ 早や泥棒となり果てし彼』 三千彦『吾が寝ねし隙を窺ひ抜足に 近よりバット首を掻かなむ。 心して今宵一夜は眠るべし ベルとバットの曲のありせば』 玉国別『ベル、バット如何に力は強くとも 吾には神の守りありけり。 身の外の仇に心を焦すより 吾身の中の仇を恐れよ』 デビス姫『皇神と吾師の君の在す上は 何か恐れむ露の夜の宿も』 真純彦『いざ来れベルもバットも曲津見も 生言霊に服へて見む。 大空に輝く月の影見れば 吾心根の恥かしくなりぬ』 斯く互に歌ひ終り、蓑を敷き雑談に耽つた。 治道『拙者の部下に使つて居たベル、バット其外の連中が軍隊を放れて猛悪な泥坊となり、四方に放浪して数多の人間を苦しめるのを思へば、早や私は立ても居ても居られないやうな苦しい思ひが致します。どうしても人間は境遇に左右せらるるものと見えますなア。吾々は自分の罪は申すも更なり、部下一同の罪を贖ふために将軍職を廃し、治国別様の御教によりて三五教の教の子となり、比丘となりてビクトル山に根拠を構へ同僚三人と共に交る交る天下を遍歴して居ますが、思へば思へば神様に対し恥かしい事です。かう云ふ部下が出来たのも全く私の罪で厶います』 と述懐を述べ、吐息をついて涙に沈む。玉国別は気の毒さに堪へやらぬ面持にて言葉静かに、 『治道居士様、必ず御心配なさいますな。現在親子の間でも、体は生んでも魂は生みつけぬと云ふ譬が厶います。決して貴方の罪では厶いませぬ。其人々の心の垢によつて種々と迷ふのですよ。吾々人間の精神といふものは、いつも健全なものでは無い。時々一時的の変調異常が起るものでこの異常には五つの型があるやうです。 先づ 第一は利欲に迷ふた時だ。利欲に迷ふた時は誰人も冷静な判断と周密な考慮を失ひ易いものだから、利を以て釣らるる事が多いものだ。たとへば他人の物品を預かつて居るやうな場合にフト「是が自分のもので在つたらなア」と云ふやうな心が浮ぶと、責任観念などが無くなり、それを自分が使つた場合の状態などに眩惑されて自分のものに為たり、また平生から欲しい欲しいと思つて居るものが眼の前にあると前後を考へる暇がなくなつて万引をしたりするやうに成る、これは言ふまでも無く副守先生の発動で、利益のために理智を塞がれ健全なる働きをせないといふ事に原因するものです。 第二の型は、強い強い刺戟に接した時だ。単純な蔭口位ゐ聞いても心を乱さない様な人間でも、面と向つて手酷しく痛罵されると、吾身を忘れて予期しなかつた行為をしたり、また普通の異性に対しては普通の態度が保たれ得る人間が、美しく化粧した異性の誘惑的な嬌態に接すると日頃の平静を破られやすいと云ふ様に同じ刺戟でもその程度によつて精神に異常な影響を与へる事がある。無論是等はその人間の先天的性質や後天的教養によつて程度の差が在ることは云ふまでもないが、副守先生の活動に原因する事が最も多いのである。又異常なる強烈な刺戟が人間の精神を異常ならしむると云ふ事は間違ひの無い事実だ。 第三の型は、焦心したり狼狽した時に起る精神の状態だ。こんな時には精神の活動が安静を欠いで居るので精神的の作業にしても、又肉体的の作業にしても過失や失敗を招き易いものだ。少々許りの失策を隠さうと為たために却て、その失策を大きくしたり、又少々の損失に狼狽した結果、大損失を招くやうな事をした事実は、能く世にあることだ。こんな時には副守先生の最も煩悶を続けて居た際である。 第四の型は、失意の時と得意の時だ。失意の時には精神の能率が減退して因循になり、消極的になつて努力を厭ふやうな傾きになり、得意の時には其反対に精神の能率が増進して快活になり、積極的になつて努力を惜まぬやうになるものです。従つて事業の成功と身体の健康慰安のある時と無い時、名誉を得た時と恥を受けた時とは其精神に及ぼす影響は全く正反対だ。そして精神が極端に沮喪した時は余り消極的になる結果、次第々々に社会生活の敗残者となり、極端に精神を発揚した時は積極に進み過ぎた結果、実力以上に仕事をするやうに成つて冒険的や独断的に走るやうに成るものだ。これも副守先生の活動の結果と云つても良い位なものです。 第五は迷信に陥つた時に起る精神状態だ。不健全なる信仰を持て居る人間は其他の方面の事物に就ては普通の判断を誤ることが無いにも拘らず、信仰の方面になると著しい誤解を来たすものです。従つてそれが難病治癒に関する場合であつても又利欲に関して居る場合であつても、冷静な判断や、前後の考へも廻らす余裕がなくなつて遂に、幼者を誘拐したり、死体を発掘したり、或は七夕の夕に七軒の家から物を盗む様になるのです。以上の外に婦人が妊娠、月経などの生理的原因に基いて、一時的に精神に異常を来すことは言ふまでも無いことです。それだから凡ての人間は狂人の未製品だ予備品だ、と言つたのだ。伊都の教祖や美都の教主而己が突発性狂人では無い。本正副守護神さまの容器たる人間は実に不可思議なものです』 治道『有難う御座います。貴師の御説に由つて拙者も漸く安心致しました。人間と云ふものは実に困つたものですなア』 三千『治道様、貴方も先生のお説で御安心なさつたでせう。私も一寸得心致しました。併し乍ら突張の無い蒼雲の天井の下に寝るのですから、何時頭の上に月が落ちて来て目を醒ますか、ベル、バットがやつて来て、玉を取るか分りますまいが、そこは惟神にまかして寝みませうか。比丘さまは経が大事、拙者は明日が大事だ』 治道『アハヽヽヽ。然らば御免蒙つて寝みませう』 茲に一同はスダルマ山の峠の頂上に、河も無きに白河夜船を漕いで眠つて仕舞つた。一塊の黒雲天の一方に起るよと見るまに忽ち満天に急速力をもつて拡がり、今迄皎々と照り輝いて居た月も星も皆呑んで仕舞つた。かかる所へ峠をスタスタと登つて来た二人の覆面頭巾の男があつた。此男は云ふ迄もなく、ベル、バットの泥棒である。二人は鼾の声を聞きつけ小声になつて、 ベル『オイ、バット、何だか暗がりに、フゴフゴと云つたり、粥を炊くやうにグツグツグツグツと云ふやつがあるぢやないか、こんな所に畚売りも登つて来る筈もなし、お粥を炊く婆も居る道理が無い。一体何だらうな、余りバットせぬぢやないか』 バット『これや、ベル、大きな声でシヤーベルない、バットせないのが俺達の豊年だ。此奴はどうしても人間の鼾だよ。一つそつと枕探しでもやつてボロつたらどうだ。こんなよい機会は又とあるまいぞ』 ベル『枕探しと云つても、こんな山の上に枕をして寝て居る奴も無いぢやないか、探さうと云つても真暗で一寸先も分りやしない。どうしたらよからうかなア』 バット『真暗の中を探すからまつくら探しだ、暗がりに仕事が出来ないやうな泥棒が何になるかい』 治道居士は横になつた儘一目も寝ず、玉国別一行の保護の任に当つて居た。夫故ベル、バットの囁き声を残らず聞いて居る。そんな事とは知らぬ両人は声低に尚も囁きを続けて居る。 バット『オイ、鬼治別将軍も、随分耄碌したものぢやないか。あれだけ権要な地位を放り出して身窄しい比丘となり、昨夜も昨夜とて祠の森に寝て居たぢやないか。いい馬鹿だなア。大方彼奴は発狂したのかも知れないねえ』 ベル『そんな事は云ふだけ野暮だよ。喇叭を法螺貝にかへ三千の部下を棄て、只一人墨染の衣を身に纒ひ殊勝らしく乞食に廻ると云ふのだから大抵極つて居るわ。あいつは治国別と云ふ極道宣伝使に霊をぬかれ、呆けて仕舞つたのだよ』 治道居士は一つ喝かしてやろうと、法螺貝を口に当て、ブウブウと吹き立てた。寝耳に水の法螺の声に二人は驚きドスンと其場に尻餅をつき慄い戦いて居る。治道居士は闇の中から細い作り声をしながら、 『諸行無常是生滅法、生滅滅已寂滅為楽』 と称へてみた。 バット『オイ、ベル彼奴は法螺の化者だ、俺達にわざをしようと思うてあんな事を吐きやがる。一つ此方にも武器があるのぢやから対抗せなくてはなるまい。かう云ふ時には悪事災難除けに大自在天大国彦命様のお助けを蒙るために陀羅尼を称へるに限つて居る』 ベル『泥棒が陀羅尼を称へても神様は聞いて呉れるだらうかなア』 バット『きまつた事だ。是から俺が化物に対抗して見るつもりだ。 イテイメーイテイメーイテイメー イテイメーイテイメーニメー ニメーニメーニメー ニメールヘールヘー ルヘールヘースッヘー スッヘースッヘースッヘー スッヘースヷーハー』 ベル『そりや何と云ふことだい。妙なことを吐くぢやないか。痛いわい痛いわい痛いわいなアんて』 バット『これは陀羅尼品の文言だ。是を義訳すれば、「是に於て斯に於て爾に於て氏に於て極甚に我無く吾無く身も無く所無し倶に同じくす己に興し己に生じ己に成じ而して住し而して立ち亦住す嗟嘆亦非ず消頭大疾加害を得る無し」と謂つて有難い御経だ。大病にも罹らず一切の難を受けないと云ふ呪文だ。今の比丘比丘尼どもは、「いでいび、いでいびん、いでいび、あでいび、いでいび、でび、でび、でび、でび、でび、ろけい、ろけい、ろけい、ろけい、たけい、たけい、たけい、とけい、とけい」と囀つて居るのだ。恰度油蝉が樹上に鳴いて居る様に聞こえるから、サンスクリットで唱えたのだ。アハヽヽヽ』 附記註解 陀羅尼品 経語義訳梵語 伊提履(於是)イテイメー 伊提泯(於斯)イテイメー 伊提履(於爾)イテイメー 阿提履(於氏)イテイメー 伊提履(極甚)イテイメー 泥履(無我)ニメー 泥履(無吾)ニメー 泥履(無身)ニメー 泥履(無所)ニメー 泥履(倶同)ニメー 楼醘(己興)ルヘー 楼醘(己生)ルヘー 楼醘(己成)ルヘー 楼醘(而住)ルヘー 多醘(而立)スッヘー 多醘(亦住)スッヘー 多醘(嗟嘆)スッヘー 兜醘(亦非)スッヘー №兜(消頭大疾無得加害)スッヘースヷハー ○ 法螺貝の声は益々高くなつて来る。玉国別外一同は直に夢を破られバットが称ふる陀羅尼の声を興味をもつて聞いて居た。治道居士頓に大きな声で、 『拙者は月の国ハルナの都に名も高き、バラモン教の神司、大黒主の神の幕下、鬼春別将軍のなれの果、今は三五教の信者治道居士と申す比丘であるぞよ。汝ベル、バットの両人早く心を入れ替へ、神の正道につけ』 と厳かに呼ばはれば、二人何となく其言霊に打たれて、『ハイ』と僅かに云つたきり其場に跼んで仕舞つた。黒雲の帳をやぶつて大空の月はパツと覗かせたまふた。一同の姿は昼の如く見えて来た。 治道『黒雲に包まれたまひし月影も 誠の光あらはしたまひぬ。 ベルバット心の雲を押し除けて 玉の光を研き照らせよ』 と詠みかけた。二人は恐る恐る慄ひ声にて、 バット『村肝の心の闇を照らすため 神の恵の燈火ともさむ。 今迄の深き罪咎赦せかし 元津御霊にかへる吾身を』 ベル『盗みする心は露もなけれども 醜の鬼奴に使はれけるかな。 鬼春別軍の君の御前に 拝む吾を赦させたまへ。 三五の清き教の神司 吾を許せよ神のまにまに』 治道『村肝の心の暗の晴れぬれば その身も明かく清まりぬべし』 玉国別『ベル、バット二人の男子に言告げむ 神は誠の恵なるぞや』 バット『有難し司の君の御言葉に 胸は晴れけり心澄みけり。 吾心バット明るくなりにけり 神の教の燈火に遇ひて』 ベル『大空の月に心を照らされて 心恥かしくなりにけるかな。 今迄は醜の曲霊にさやられて 黒白も分かず踏み迷ひけり』 治道『大空に輝く月の御姿を 心となして世を渡れかし』 三千彦『スダルマの山の尾上に仮寝して 今日はうれしき夢を見しかな』 真純彦『村肝の心の空は真純彦 かかるくもなき今宵の嬉しさ』 デビス姫『あら尊月の恵の輝きて 二人の御子の蘇生りぬる』 斯く話す所へ天空に嚠喨たる音楽聞え、月を笠に被りながら一行が前に雲押し分けて悠々と下りたまうた大神人がある。玉国別一同はこの神姿を見るより忽ち大地に平伏し感涙に咽んで居る。この神人は月の御国の大神に在しまして産土山の神館に跡を垂れたまひし、三千世界の救世主、神素盞嗚の大神であつた。大神は一同の前に四柱の従神と共に輝きたまひ、声も涼しく神訓を垂れたまうた。一同は拝跪して感謝の涙に暮れながら一言も漏らさじと謹聴して居た。 神素盞嗚の大神が山上の神訓 一、無限絶対無始無終に坐しまして霊力体の大元霊と現はれたまふ真の神は只一柱在す而已。之を真の神又は宇宙の主神と云ふ。 汝等、この大神を真の父となし母と為して敬愛し奉るべし。天之御中主大神と奉称し、又大国常立大神と奉称す。 一、厳の御霊日の大神、瑞の御魂月の大神は、主の神即ち大国常立大神の神霊の御顕現にして、高天原の天国にては日の大神と顕はれ給ひ、高天原の霊国にては月の大神と顕はれ給ふ。 一、愛善の徳に住するものは天国に昇り、信真の光徳に住するものは霊国に昇るものぞ。 一、此外天津神八百万坐しませども、皆天使と知るべし。真の神は大国常立大神、又の名は天照皇大神、只一柱坐します而己ぞ。 一、国津神八百万坐しませども皆現界に於ける宣伝使や正しき誠の司と知るべし。 一、真の神は、天之御中主大神只一柱のみ。故に幽の幽と称え奉る。 一、真の神の変現したまひし神を、幽の顕と称へ奉る、天国に於ける日の大神、霊国に於ける月の大神は何れも幽の顕神なり。 一、一旦人の肉体を保ちて霊界に入り給ひし神を顕の幽と称え奉る。大国主之大神及び諸々の天使及び天人の類を云ふ。 一、顕界に肉体を保ちて、神の大道を伝え、又現界諸種の事業を司宰する人間を称して顕の顕神と称へ奉る。 而して真に敬愛し尊敬し依信すべき根本の大神は幽の幽に坐します一柱の大神而已。其他の八百万の神々は、主神の命に依りて各その神務を分掌し給ふものぞ。 一、愛善の徳に住し信真の光に住し、神を愛し神を信じ神の為に尽すものは天界の住民となり、悪と虚偽とに浸りて魂を曇らすものは地獄に自ら堕落するものぞ。 斯く宣り終へたまひて以前の従神を率ゐて紫の雲に乗り大空高く月と共に昇らせたまふた。 玉国別『素盞嗚の瑞の御霊の御恵に 教の泉湧き出でにけり。 昔よりためしも聞かぬ御教を 居ながらに聞く事の尊さ』 治道『水火の中をかい潜り求ぎて往くべき道芝の 恵の露に濡れながらスダルマ山の頂上に 聞くも嬉しき御教あゝ惟神々々 神の恵を赤心に留めて感謝し奉る』 三千彦『大空ゆ瑞の御霊の下りまして 生命の清水与へたまひぬ』 デビス『夜の露うけて寝らう身の上に 注がせたまひし恵の御露』 真純彦『大空の雲押し分けて輝きつ 真澄の水の教を賜ひぬ』 治道『あら尊誠の神の御姿に 謁見まつりし吾ぞ嬉しき』 ベル『村肝の心の闇の晴れ往きて 誠の神の光に遇ひぬ』 バット『限りなき神の恵を悟りけり 悔改めて正道に入らむ』 茲にベル、バットの両人は心の底より悔改め、玉国別一行に従ひて聖地エルサレムを指して進む事となつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・五・一八旧四・三於教主殿二階加藤明子録) |
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霊界物語 | 63_寅_伊太彦の物語 | 10 鷺と鴉 | 第一〇章鷺と鴉〔一六一七〕 人間が霊肉脱離の後、高天原の楽土又は地獄の暗黒界へ陥るに先んじて何人も踏まねばならぬ経過がありまして、この状態は三種の区別があります。そしてこの三状態を大別して、外面の状態、準備の状態、内面の状態と致します。併し乍ら死後直に高天原へ上る精霊と地獄へ陥る精霊とのあることは、今日迄の物語に於て読者は既に已に御承知の事と思ひます。中有界一名精霊界の準備を経過せずして直に天界又は地獄に行くものは生前既に其準備が出来て居て善悪の情動並に因縁によつて各自霊魂相応の所を得るものです。右の如く準備既に完了せる精霊にあつては只その肉体と共に自然的世界的なる悪習慣等を洗滌すれば直に天人の保護指導に依つて天界の、それ相応の所主の愛に匹敵した楽土に導かるるものであります。之に反して直に地獄に陥る精霊にあつては、現界に於て表面にのみ愛と善とを標榜し且つ偽善的動作のみ行ひ、内心深く悪を蔵し居りしもの、所謂自己の凶悪を糊塗して人を欺くために善と愛とを利用したものであります。中にも最も詐偽や欺騙に富んで居るものは足を上空にし頭を地に倒にして投げ込まれるやうにして落ち行くものです。この外にも種々様々の状態にて地獄へ陥ち行くものもあり、或は死後直に岩窟の中深く投げ入れられるものもありますが、斯の如き状態になるのは凡て神様の御摂理で精霊界にある精霊と分離せむがためであります。或時は岩窟内より取り出され、又ある時は引き入れられる場合もありますが、斯の如き精霊は生前に於て口の先計りで親切らしく見せかけて、世人を油断させ其虚に乗じて自己の利益を計り、且つ世の人に損害を与へたものですが、斯様な事は比較的少数であつて、その大部分は精霊界に留められて神教を授かり精霊自己の善悪の程度によつて神の順序に従ひ、第三下層天国、又は地獄へ入るの準備を為さしめらるるものであります。人間各自の精霊には外面的、内面的の二方面を有しております。精霊の外面とは人間が現世に於て他の人々と交はるに際し其身体をして之に適順せしむる所の手段を用ひる事で特に面色、語辞、動作等の外的状態であり、精霊の内面とは人の意思及びその意志よりする想念に属する状態であつて、容易に外面には現はれないものであります。凡ての人間は幼少の頃より朋友の情だとか、仁義誠実、道徳等の武器を外面に模表する事を習つて居りますが、其意志よりする所の凡ての想念は之を深く内底に包蔵するが故に、人間同士の眼よりは之を観破することは実に不可能であります。現代の人間はその内心は如何に邪悪無道に充ちて居つても、表面生活上の便宜のために似非道徳的、似非文明的生涯を営むのは常であります。現界永年の習慣の結果、人間は精神痳痺し切つて了つて、自己の内面さへ知る事が出来なくなつて居ります。また自己の内面的生涯の善悪などに就いて煩慮することさへも稀であります。況んや自己以外の他人の内面的生涯の如何を察知するに於ておやであります。死後直ちに精霊界に於ける人間精霊の状態はその肉体が現世にありし時の如く依然として容貌、言語、性情等は相酷似し、道徳上、民文上の生活の状態と少しの相違もない。故に人間死後の精霊にして精霊界に於て相遇ふ事物に注意を払はず、又天人が彼精霊を甦生せし時に於ても、自己は最早一箇の精霊だといふことを想ひ起さなかつたなれば、その精霊は依然高姫の如く現界に在つて生活を送つて居るといふ感覚をなすの外は無いのです。故に人間の死といふものは唯此間の通路に過ぎないものであります。 現世を去りて未だ幾何の日時も経ない人間の精霊も又現界人の一時的変調によつて霊界に入り来りし精霊も、先づ以上の如き状態に居るものであつて、生前の朋友や知己と互に相会し相識合ふものであります。何となれば、精霊なるものは、その面色や言語等によつて知覚し又相接近する時はその生命の円相によつて互に知覚するものです。霊界に於て甲が若し乙の事を思ふ時は忽ちその面貌を思ひ之と同時に、その生涯に於いて起りし一切の事物を思ふものです。そして甲に於て之を為すときは、乙は直ちに甲の前に現はれ来るもので丁度態人を使ひに遣つて招いて来るやうなものです。霊界に於て何故斯の如き自由あるかと謂へば霊界は想念の世界であるから自ら想念の交通があり何事も霊的事象に支配されて居りますから、現界の如く時間又は空間なるものが無いからであります。それ故霊界に入り来りしものは其想念の情動によつて、互にその朋友、親族、知己を認識せざるは無く、現世にあつた時の交情によつて互に談話も為し、交際も為し、殆ど現世にありし時と少しの相違もないのです。中にも夫婦の再会などは普通とせられて居ますが、夫婦再会の時は互に相祝し、現世に於て夫婦双棲の歓喜を味はひ楽しんだ程度に比して、或は永く久しく、或は少時間、その生涯を共にするものです。そしてその夫婦の間に真実の婚姻の愛、即ち神界の愛に基づいた心の和合の無い時は、その夫婦は少時にして相別るるものであります。 又夫婦の間に現世に於て互に了解なく嫉妬や不和や争闘や、その他内心に嫌忌しつつあつたものは、此仇讐的想念は忽ち外面に破裂して相争闘し分離するものであります。 霊界にある善霊即ち天人は現界より新たに入り来りし精霊の善悪正邪を点撿すべく、種々の方法を用ふるものです。精霊の性格は死後の外面状態にあつては容易に弁別が付かないものです。如何に凶悪無道なる精霊にても外面的真理を克く語り、善を行ふ事は至誠至善の善霊と少しも相違の点を見出すことが出来ないのです。外面上は皆有徳愛善らしき生涯を送つて居る。現界に於て一定の統治制度の下にあつて法律に服従して生息し、之に由つて正しきもの、至誠者との名声を博し或は特別の恵を受けて尊貴の地位に上り富を蒐めたるものであつて、是等は死後少時は善者有徳者と認めらるるものです。併しながら天人は是等の精霊の善悪を区別するに当り、大抵左の方法に由るものであります。凡て何人も所主の愛に左右さるるものでありますから、即ち凶霊は常に外面的事物にのみ就て談論するを好むこと甚だしく内面的事物に就ては毫も顧みないからであります。内的事物は神の教、又は聖地救世主の神格、及び高天原に関する真と善とに関しては之を談論せず、又之を教ふるも聴くことを嫌忌し更に意に留めず、又神の教を聴いて楽まず、却て不快の念を起し面貌にまで表はすものです。現界人の多くは凡て神仏の教を迷信呼ばはりをなし、且つ神仏を口にする事を大に恥辱の如く考へて居るものが大多数であつて、大本の教を此方から何程親切を以て聞かし、天界に救ひ助けむと焦慮するとも、地獄道に籍を置いた人間には、到底駄目である事を屢実験いたしました。併しながら大慈大悲の大神の御心を奉体し一人たりとも天界に進ませ、永遠無窮の生命に赴かしめ以て神界御経綸の一端に仕へなくては成らないのであります。霊界に於ても現界に於ても同一ですが、地獄入りの凶霊と天界往きの善霊とを区別せむとするには凶霊は屢ある一定の方向に進まむとするを見ることが出来ます。凶霊がモシその意のままに放任される時はそれに通ずる道路を往来するもので、彼等が往来する方向と転向する道路とによりて、その所主の愛は何れにあるかを確めらるるものであります。 現界を去つて霊界に新たに入り来る精霊は何れも高天原とか地獄界とかの或る団体に属して居ないものは有りませぬが、併し之は内的の事ですから、その精霊が尚ほ依然として外面的状態にある間は其内実を現はさない。外面的事物が凡ての内面を蔽ひかくして了ひ、内面の暴悪なるものは、殊に之を蔽ひかくすこと巧妙を極めて居るからです。併し或る一定の期間を経たる後に彼等の精霊が内面的状態に移る時に於て、その内分の一切が暴露するものです。この時は最早外面は眠り且つ消失し内面のみ開かるるからであります。人間の死後に於ける第一の外面的情態は或は一日、或は数日、或は数ケ月、或は一年に渉ることがあります。されど一年を越ゆるものは極めて稀有の事であります。斯の如く各自の精霊が外面状態に長短の差ある所以は、内外両面の一致不一致によるものです。何故なれば、精霊界にあつては何人と雖も思想及び意志と言説又は行動を別にする事を許されないから、各精霊の内外両面が一となつて相応せざればならぬからであります。 精霊界にあるものは、自有の情動たる愛の影像ならぬものはありませぬから、その内面にある所の一切をその外面に露はさない訳にはゆきませぬ。此故善霊なる天人は先づ精霊の外面を暴露せしめ、是を順序中に入らしめて以て其内面に相応する平面たらしめらるるのであります。そして斯の如き順序を取る所は精霊界即ち中有界の中心点たる天の八衢の関所であつて、伊吹戸主神の主管し給ふ、ブルガリオに於て行はるるものであります。 内面的情態は人間の死後或る一定の期間を中有界にて経過し、心即ち意志と想念に属する精霊の境遇を云ふのです。人間の生涯、言説、行為等を観察する時は何人にも内面外面の二方面を有することが知り得られます。その想念にも意志にも内外両面の区別があるものです。凡て民文の発達した社会に生存するものは他人の事を思惟するに当り、その人に対する世間の風評又は談話等に由つて見たり聞いたりした所のものを以て人間の性能を観察する基礎となすものです。されど人間は他人と物語る時に際して自分の心の儘を語るものではありませぬ。たとへ対者が悪人と知つても、又自分の気に合はない人であつても、その交際応接などの点は成る可く礼に合ふべく、又相手方の感情を害せざる様と努むるもので、実に偽善的の行為を敢てするもので、又此でなければ社会より排斥されて了ふやうな矛盾が出来する世の中であります。そして凡ての人は見えすいたやうな嘘でも善く言はれると大変に歓ぶものですが、之に反し真実を其人の前に赤裸々に言明する時は非常に不快の念を起し、遂には敵視する様になり、害を加ふるやうな事が出来るものです。故に現代の人間の言ふ所、行ふ所は、その思ふ所願ふ所と全く正反対のものです。偽善者の境遇にあるものは、高天原の経綸や死後の世界や、霊魂の救ひや聖場の真理や国家の利福や隣人の事を語らしておけば恰も天人の如く愛善と信真に一切基づける様なれども、其内実には高天原の経綸も霊魂の救ひも死後の世界も信じないのみか、只愛する所のものは自己の利益あるのみであります。斯の如き偽善者、偽信者は随分太古の教徒の中にも可なり沢山あつたものですが、現代の三五教の中には十指を折り数へたら最早残るは外面的状態にあるもの計りで、天国に直ちに上り得る精霊は少いやうであります。 凡て人間の想念には内面、外面の区別がありまして、斯の如き人間は、外面的想念によりて言説をなし、内面には却て異様の感情を包蔵して居るものです。そして内外両面を区別する事に努めて、一とならない様にと努むるものです。真に高天原の経綸を扶け聖壇の隆盛を祈り死後の安住所を得むことを思はば如何なる事情をも道のためには忍ぶべきものであります。神様の御用にたて得らるるだけの余裕を与へられたのも皆神様のお蔭である事を忘れ、自有と心得て居るからです。爰に外面内面の衝突を来すことになつて来るのです。併し現代の理窟から言へば、内外両面を区別して考ふる事が至当となつて居ります。そして右様の説に対しては種々の悪名を以て対抗し、且つ悪魔の言と貶すものであります。又斯の如き人は内面的想念の外表に流れ出でて爰に暴露することなからむを勉め、現界的道理によつて、凡てを解決せむとし内面的神善を抹殺するものであります。 さり乍ら人間の創造さるるや、その内面的想念をして相応に由りて外面的想念と相一致せしめなくては成らない理由があるのです。この一致は真の善人に於て見る所であつて、その思ふ所も言ふ所も、唯々善のみだからであります。かくの如き内外両面の想念の一致する事は到底地獄的悪人に於ては見る事が出来ない。何故なれば、心に悪を思ひながら善を口に語り全く善人と正反対の情態にあるものです。外面に善を示して悪を抱いて居る。かくて善は悪のために制せられ、之に使役さるるに至るのであります。悪人はその所主の愛に属する目的を達成せむがために、表に善を飾つて唯一の方便となすものです。故にその言説と行動とに現れる所の善事なるものは、その中に悪き目的を包蔵して居るので、善も決して善でなく、悪の汚す所となるは明白なものです。外面的に之を見て善事となすものは、その内面を少しも知悉せざるものの言葉であります。 真の善に居るものは、順序を乱すこと無く、その善は皆内面的想念より流れて外面に出てそれが言説となり行動となるのは、人間は斯の如き順序のもとに創造せられたものであるからであります。人間の内面は凡て高天原の神界にあり、神界の光明中に包まれて居る。その光明とは、大神より起来する所の神真で所謂高天原の主なるものです。人間は内外両面の想念があり、その想念が内外互に相隔たり居ることは前述の通りであります。想念と言つたのは其中に意志をも包含して併せて言つたのです。盖し想念なるものは意志より来り、意志なければ何人と雖も想念なるものは有りませぬ。又意志及び想念と云ふ時は、この意志の裡にも又情動、愛、及び、是等より起来する歓喜や悦楽をも含んで居ります。以上のものは何れも意志と関連して居るからです。何故なれば人はその欲する所を愛し、之によつて歓喜悦楽の情を生ずるものだからです。又想念といふことは人が由りて以て其情動即ち愛を確かむる所の一切を言ふのです。何んとなれば想念は意志の形式に過ぎないものです。即ち意志が由りて以て自ら顕照せむと欲する所のものに過ぎないからであります。この形式は種々の理性的解剖によつて現れるもので、その源泉を霊界に発し人の精霊に属するものであります。 凡て人間の人間たる所以は全くその内面にあつて内面を放れた所の外面にあらざることを知らねばならない。内面は人の霊に属し、人の生涯なるものは、此の内面なる霊(精霊)の生涯に外ならないからです。人の身体に生命のあるのは此精霊に由るものです。是の理によつて人はその内面の如くに生存し永遠に渉りて変らず、不老不死の永生を保つものです。されど外面は又肉体に属するが故に、死後は必ず離散し消滅し、其霊に属して居た部分は眠り、唯内面のために、是が平面となるに過ぎないのです。かくて人間の自有に属するものと属せざるものとの区別が明かになるのであります。悪人にあつては其言説を起さしむる所の外的想念と、其行動を起さしむる所の外的意志とに属するものは、一も以て彼等の自有と為すべからざるものと知り得るでありませう。只その内面的なる想念と意志とに属するもの而己が自有を為し得るのであります。故に永遠の生命に入りたる時自有となるべきものは、神の国の栄えのために努力した花実ばかりで、其他の一切のものは、中有界に於て剥脱されるものであります。アヽ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・五・二四旧四・九於竜宮館加藤明子録) |
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霊界物語 | 63_寅_伊太彦の物語 | 13 蚊燻 | 第一三章蚊燻〔一六二〇〕 人(精霊)の内面的情態に居る時は自有の意志その儘を思索するが故にその想念は元来の情動即ち愛そのものより来るものです。そして其時に於て想念と意志とは一致する。この一致によつて人の内面的なる精霊は自ら思惟するを覚えずただ意志するとのみ思ふものです。又言説する時も之に似たるものがありますが只相違せる点は、その言説はその意志に属する想念そのままを赤裸々的に露出することを憚るの情が籠つてゐるものです。その故は人(精霊)が現界に在つた時に俗を逐ふて其生を営みたる習慣がその意志に附属するに至るからであります。 精霊が内面の情態に居る時は、その精霊(人)が如何なる人格を所有して居たかと云ふことを明かに現はすものです。この時の精霊は自我に由つてのみ行動するからであります。現界に在つた時に内面的に善に居つた精霊は茲に於て其行動の理性と証覚とにかなふこと益々深きものあるを認め得られるものです。今や肉体との関連を断ち、雲霧の如く心霊を昏迷せしめ、且つ執着せる物質的事物を全部脱却したからであります。之に反し精霊の内面が悪に居つたものは、今や外面的情態を脱れて了ひ、その行動は痴呆の如く狂人の如く、現世に在つた時よりも層一層の癲狂状態を暴露し、醜悪なる面貌を表はすものであります。彼精霊の内面悪なりしものは今や自由を得て表面を飾る外面情態の繋縛を離れたからです。現世にあつて外面上善美と健全の相を装ひ理性的人物に擬せむとして焦慮して居たものが、全く外面の皮相を取り除かれたので、その狂質は遺憾なく暴露するに至つたのであります。外面上善人を装ひ学者識者を以て擬して居た人間は馬糞を包んだ錦絵の重の内の様なもので、外面より見れば実に美麗なる光沢を放ち人をして羨望の念に堪へざらしむるものですが、その蔽葢を取り除けて内面を見る時は始めて汚物の伏在せるを見て驚くやうなものです。心霊学者だとか、哲学者だとか、宗教家だとか、種々の立派な人間も外面の蔽葢を取り去つて見れば、実に痴呆癲狂の汚物が内面に堆積され、地獄界の現状が暴露されるものであります。 現世に在つた時神格を認め神真を愛し内面の良心に従つて行動を為せしものは、霊界に入り来る時は直に内面の情態に導き入れられて永き眠りより醒めたる如く、又暗黒より光明に進み入りしものの如きものであります。その思索もまた高天原の光明に基き内面的証覚より発し来るが故に、凡ての行動は善より起り、内面的情動より溢れ出づるものです。かくて高天原は想念と情動との中に流れ入り歓喜と幸福とを以て其内面を充満せしめ、未だかつて知らざる幸福を味はふものです。最早かくなりし上は高天原の天人との交通が開けて居るので、主の神を礼拝し真心を尽して奉仕し、自主の心を発揮し、外的聖行を離れて、内面的聖行に入るものです。かくの如きは三五教の教示に由りて、内面的善真の生涯を送りしものの将に享くる所の情態であります。併し三五教以外の教団に信入したものと雖も、神真を愛し内面的善に住し神格を認めて奉仕したるものの精霊も亦同様であります。 之に反し現世にあつて偽善に住し神を捨て悪に住し、良心を滅し神格を否定し、或は神の名を称ふる事を恥ぢて、種々の名目にかくれ霊的の研究に没頭し、凶霊を招致して霊界を探り現世の人間を欺瞞し、又は一旦三五の教を信じ乍ら心機一転して弊履の如く之を捨て去り、或は誹謗し、世間の人心を狂惑したるものの精霊界に於ける内面的情態は全然之と正反対であります。 又内心に神格を認めず、或は軽視し何事も科学に立脚して神の在否を究めむとし、且つ自己の学識にほこるものは、皆悪の霊性であります。たとへ外面的想念に於いては神を否定せず、之を是認し少しは敬神的態度に出づるものと雖も、其内面的精神は決して然らざるものは依然悪であります。何故なれば神格を是認することと悪に住することとは互に相容れないからであります。又「吾々は単に神を信じ宗教を学ぶ位なれば、決して学者の地位を捨てたり、役目を棒に振つて入信はしないのだ。只吾々は神諭のある文句を信じたからだ。万万一その神諭が一年でも世界に現はるる事が遅れたり間違ふ様なことがあつたならば、自分が率先して教壇を打き潰して了ふ」と揚言し、到頭意の如く神の聖団を形体的にも精神的にもたたき毀し、沢山な債務を後に塗り付け、谷底へ神柱を突き落し頭上から煮茶を浴びせかけ、尻に帆を掛けてエルサレムを後に又々種々の企てを始めて居る守護神の如きは、実に内面の凶悪なる精霊であります。然し乍ら斯る精霊は表面に善の仮面を被り、天人の如き善と真との言説を弄するが故に、容易に現界に於ては其内面の醜悪を暴露せないものであります。かくの如き精霊が霊界に来り内面的情態に入つて其言説する所を聞き、其行動する所を見る時は恰も前後の区別も知らず、発狂者の如く見ゆるものであります。彼等精霊の凶欲心は爰に爆裂して、一切憎悪の相を現はしたり、他を侮蔑して到らざる無く所在悪の実相を示し、悪行を敢てし殆んど人間の所作なるかと疑はしむる許りであります。 現世にあつた時には、外的事物のために制圧せられ沮滞しつつあつたけれ共、今や其覊絆を脱し彼等の意志よりする想念に任せて放縦自在に振舞ふ事を得るからです。彼等が又生前に於て所有した理性力は皆外面に住し、内面に住して居なかつたから、斯の如き悪相を現ずるに到るのであります。而も彼等は他人に優りて内面的に証覚あるものと自信して居たものであります。今日の学者や識者と謂はるる人の精霊は、概して外面的情態のみ開け、内面は却て悪霊の住所となつて居るものが大多数を占めて居るやうであります。 ○ 高姫『これ、お前さま等、何が可笑しうてさう笑ふのだい。千騎一騎の此場合、笑ふ所ぢや厶るまい。変性男子様の教にも「座敷を閉めきりてジツとして居らぬと、笑つて居るやうな事では物事成就致さぬ」とありますぞや。五人が五人とも揃うて笑ふとは何の事ぢやい。此日出神を馬鹿にしてるのぢやあるまいかな』 カークス『何、馬鹿にする所か、私達五人は高姫さまに馬鹿にされて馬鹿になつて、此道端でお話を聞かうと思つてるのです。なあベース、さうだらう。これも旅の慰みだからな。立派な先生があり乍ら三五教の謀反人ウラナイ教の高姫さまに説教を聞く者がありますか。あんまり名高い高姫さまだから、一つ話を聞いてやるのですよ』 高姫『オツホヽヽヽ、盲蛇に怖ぢずとやら、困つたものだわい。斯う云ふ代物も神様は済度遊ばすのだから、並や大抵の事ぢやないわい。日出神や大神様のお心を察しましておいとしう厶りますわいな。オーンオーンオーン。日出神様、斯くの如く憐れな身魂ですから、何卒虫族だと思つて腹を立てずに、神直日大直日に見直して助けてやつて下さい。どうして又世の中は斯うも曇つたものだらう。俺もここで足掛け二年も大弥勒さまの教を伝へて居るのに、唯一人聞く者がいないとは、如何に暗がりの世の中とは云へ、困つたものだな』 カークス『お前さま、えらさうに善人らしく、智者らしく、神さまらしく仰有るが、肝腎要の内面的状態は地獄的精神でせうがな。此カークスは斯う見えても精神の内面状態は……ヘン……第一天国に感応して居るのだから、お前さまの云ふ事が、何だか幼稚で馬鹿に見えて仕方がありませぬわ。ウツフヽヽヽ』 高姫『オツホヽヽヽ何とまあ没分暁漢だこと。現在目の前に底津岩根の身魂が現はれて居るのも分らず、第一霊国の天人、珍の神柱高姫が言葉を幼稚だとか、馬鹿に見えるとか云ふて居るが、ほんに困つたものだな。丹波の筍ぢやないが、煮ても焚いても喰はれない代物だ。それでも人間の味がして居るのかな。伊太彦さま、お前も大抵ぢやなからうな。仮令千年万年かかつても、誠の道に帰順させる事は難かしいよ。如何な此大弥勒の御用する高姫でも、此代物には一寸、手古摺らざるを得ないからな』 カークス『ヘン、そこつ岩根の大弥勒さまだけあつて随分粗忽な事を仰有るわい。霊国の天人ぢやと仰有つたが、いかにも無情冷酷の天人イヤ癲狂人と見える。神の道には好き嫌ひは無い筈、それに結構な神様の生宮を捉まへて這入ると家が穢れるの、なんのつて仰有るから恐れ入るわいウツフヽヽヽ』 高姫『お前のやうなコンマ以下に相手になつて居つたら日が暮れる。さア伊太彦さま、お前は一寸利口さうな顔をして居るが、高姫の云ふ事は耳に入るだらうな』 伊太『もとより愚鈍な私、賢明な貴女の仰有る事、どうせ耳に入りますまいよ。平易簡単に仰有つて下さい。どうぞお願ひ致します』 高姫『あ、よしよし、お前の方から、さう出れば文句はないのだ。然し乍ら此大弥勒さまに教へてやらうと云ふやうな態度に出たら大間違が出来ますぞ。それこそアフンとして尻がすぼまりませぬぞや。結構な結構な大神様の一厘の仕組、之が分つたら俺も私もと高姫の足許に寄つて来るなれど、あまり身魂が曇つておるから何も申されぬが、兎角改心が一等ぞや。これ伊丹彦さま、傷み入つて改心するなら今ぢやぞえ。後の後悔間に合はぬ。毛筋の横巾でも間違ひはないぞや。大弥勒の神に間違ひはないぞえ。高姫が申しても高姫が申すのではない。口借るばかりぢやから慎んでお聞きなさい。分つたかな。分つたら分つたと、あつさり云ひなさい。これ丈け説教したら分る筈だから……』 伊太『根つから分りませぬがな。もつと詳しく簡単明瞭に仰有つて下さいな』 高姫『何と頭の悪い、これ丈け細かう云ふてもまだ分らぬのかな。何程簡単に言つても肝胆相照さない伊丹彦さまにはイタイタしいぞや』 カークス『何だ、訳の分らぬ能書ばかりを吹聴して、肝腎の事は一つも云はぬぢやないか』 高姫『エー、黙つて居なさい。お前等の下司身魂に分るものか。此高姫は底津岩根の大弥勒と分れば宜いのだ』 伊太『そりや分つて居ります。その大弥勒が又どうして斯様な処でお一人お鎮まりになつてるのでせうかな』 高姫『「竜は時を得て天地に蟠り、時を得ざれば蚯蚓蠑螈と身を潜む」と云ふ事がある。何程天地の大先祖の大先祖の、も一つ大先祖の底津岩根の大弥勒さまでも時節が来ねば身を落して衆生済度をなさるのぢやぞえ。此高姫を見て改心なされ。此世の鑑に出してあるのだよ。別にエルサレムとか斎苑館とかコーカス山とか甘粕大尉山とかへ行かなくても此高姫の云ふ事を腹に締め込みて置いたら世界が見えすきますぞや』 伊太『どうもハツキリ分りませぬがな。余程甲粕御魂と見えますわい。アハヽヽヽ』 高姫『これ程細かく云つても未だ分らぬのかいな。さうするとお前は一寸落して来て居るのだわい。一体誰のお弟子になつてゐたのだな』 伊太『玉国別の先生に教養を受けて居りました』 高姫『何だ。あの玉かいな。彼奴は音彦と云つてフサの国の本山にも、俺の宅の門掃をして居つた奴だ。彼奴は謀叛者でな。自転倒島の魔窟ケ原でも後足で砂をかけて逃げて行つた不人情者だ。あんな者が天理人道が分つて堪るものかい。五十子姫と云ふ阿婆摺れ女郎を貰つて玉国別だ等と云ふ名で其処辺りを歩き廻つて居るのだから、臍茶の至りだ。オツホヽヽヽ、何とまア三五教も人物払底だな。之では瑞の御霊が何程シヤチになつても駄目だわい。それだから底津岩根の大弥勒さまの肝腎の事が分らぬと申すのだ。さア伊太彦さま、ここが宜い見切り時だ。天国に上るが宜いか、地獄に落ちるが宜いか、一つ思案をしなされや。チツと許り耳が伊太彦でも辛抱して聞いて見なさい、利益になりますよ』 伊太『高姫さま、もうお暇致します。私は玉国別様が大切なお師匠様、そのお師匠様の悪口を云はれて、どうして黙つて居られませう。さア皆さま、帰りませう』 カークス『万歳々々、始終臭ひの婆々万歳』 ベース『退却々々本当に誠に退屈々々』 高姫『これお前は三五教の宣伝使ぢやないか。怒る勿れと云ふ掟を知つてをるか。さう二つ目には腹を立てて帰るとは何の事だい。それで宣伝使と云はれますか。お前のやうな無腸漢が居るから三五教の名が日に月に落ちるのだ。よい加減に馬鹿を尽して置きなさい』 ブラヷーダ『思ひきや高姫様に廻り会ひ 醜の教を授からむとは』 高姫『思ひきや三五教の神司 闇と枉とに包まれしとは』 伊太彦『思ひきや斯程に自我の強烈な ウラナイ教の高姫婆さまとは』 アスマガルダ『思ひきや斯んな処にウラナイの 醜の婆々アが構へゐるとは』 ベース『思ひきやウラナイ教の高姫の 減らず口でも之程迄とは』 カークス『とはとはと問はず語りに高姫が 囀る言葉ここで聞くとは』 伊太『高姫さま、お邪魔を致しました。さア之でお暇を致します。どうかトワに御鎮座遊ばしませ』 カークス『まアゆつくりと此破れ家で一人居りなさい。よく宣伝が出来る事でせう。イツヒヽヽヽ』 高姫『こりやカークス、何と云ふ無礼な事を申すのだ。貴様の骨を叩き割つてカークスにしてやらうか』 カークス『そんならカークスベース(蚊燻べ)にして貰はうかい。たかと云ふ蚊が居るのだから面白からうよ。ヒヽヽヽヽメヽヽヽヽ』 高姫『伊太彦の鼬見た様な奴についてる者は碌な奴はありやせないわ。ブラヷーダだのアスマガルダだのと、曲つた腰付でブラブラと迂路付きやがつて鼬に屁をかまされた様な顔付してイツヒヽヽヽ、あゝ衆生済度も並大抵ぢやないわい』 アスマガルダ『高姫さま、お前さまは何時の間に、スーラヤの死線を越へて此岩窟に来たのだい』 高姫『オツホヽヽヽ馬鹿だな。一つ手洗を使ふて来なさい。ここは岩窟の中ぢやありませぬよ。フサの国テルモン山の麓、高姫高原の神館だ。夜中の夢を見て世の中をぶらついて居るのだな。妹の婿の尻を追ふて歩く代物だから、どうせ碌な奴ぢやないと思つたが、矢張日出神が一目見たら違はんわい。何と云ふても金挺聾だから何にも分らぬ、困つた人足だな』 アスマガルダ『何、言はして置けば際限もなき雑言無礼、かう見えても俺はスーラヤの海で鍛へた腕だ。覚悟せい』 と鉄拳を揮つて殴りつけむとする。伊太彦は早くも其腕を掴んで、 伊太『待つた待つた、三五教は無抵抗主義だ。さう乱暴な事をしちやいけませぬ』 アスマガルダ『それだと云つて余りぢやありませぬか』 伊太『そこを辛抱するのが誠の道です。堪忍五万歳と云つて堪忍は無事長久の基ですからな』 アスマガルダ『そんなら伊太彦さまの命令に従ひませう。エー残念な……』 高姫は腮をしやくり乍ら、 高姫『イツヒヽヽヽ無抵抗主義の三五教、お気の毒様』 と大きな尻をプリンプリンと振り乍ら、裏の柴山を獅子の如くに駆け上り、何処ともなく姿を隠して了つた。五人は又もや宣伝歌を謡ひ乍ら露おく野辺を悠々と進み行く。 (大正一二・五・二四旧四・九於竜宮館北村隆光録) |
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霊界物語 | 63_寅_伊太彦の物語 | 17 峠の涙 | 第一七章峠の涙〔一六二四〕 ハルセイ山の峠の頂上に古き木株に腰打掛け、疲れを休むる一人の男、過ぎ来し方の空を眺めて独語、 男『春過ぎ夏も去り、漸く初秋の風は吹いて来た。名に負ふ夏の印度の国も、此高山の峠に登つて見れば、ヤハリ秋の気分が漂ふて居る。玉国別の師の君に従ひ凩荒ぶ冬の頃、斎苑の館を立出でて難行苦行の結果、漸くここ迄来るは来たものの、吾身に積る罪悪の重荷に苦しみ、もはや一歩も歩けなくなつて来た。あゝ如何にせば吾罪を赦され、神の任さしの使命をば果すことが出来ようか。スダルマ山の山麓にて吾師の君に別れ、スーラヤ山の岩窟にナーガラシャーの宝玉を得むと勃々たる野心に駆られ、カークス、ベースの両人を道案内にして、漸くにしてスダルマの湖水の一角に辿りつき、ルーブヤが家に一夜の雨宿り、ゆくりなくもブラヷーダ姫に見そめられ、ハルナの都に上る途中とは知り乍らも、同僚の三千彦が嬪に做らひ、師の君の許しをも得ずして神勅を楯に自由の結婚談を定め、それより夫婦気取りになつて兄に送られ、スーラヤ山に登り五大力とか何とか称する神に途中に出会し、いろいろの教訓を受け乍ら、妖怪変化とのみ思ひつめ、死線を越へて、岩窟に忍び込み霊界現界の境迄一行五人は進み入り、高姫の精霊の試しに会はされ、神の化身に助けられ、漸く蘇生し、又もや竜王に辱られ、初稚姫様のおとりなしによつて此通り夜光の玉を頂き、一先づエルサレムを指して上る此伊太彦が体の痛み、死線の毒にあてられし其艱苦は今に残れるか、頭は痛み胸は苦しく、足はかくの如く腫れ上り、もはや一足さへ進まれぬ。吾は如何なる因果ぞや。許させ玉へ天津神、国津神、玉国別の吾師の君よ。惟神霊幸倍坐世。それにつけてもブラヷーダ姫は孱弱き女の一人旅、何処の野辺にさまようであらうか。山野河海を跋渉したる此伊太彦の健足でさへ、斯の如く痛むものを、歩みもなれぬ孱弱き女の身の、その苦しみは如何許りぞや。思へば思へば初めて知つた恋のなやみ、皇大神の御言葉と師の言葉には背かれず、さりとて此儘、思ひ切られぬ胸の苦しさ、最早かくなる上は吾はハルセイ山の頂にて朝の露と消ゆるのではあるまいか。仮令仮にもせよ、千代を契つたブラヷーダ姫に夢になりとも一目会ふて、此世の別離が告げ度いものだ。あゝ如何にせむ千秋の怨み、万斛の涙、何れに向つて吐却せむや』 と、胸を躍らせ、息もたえだえに涙は雨と降りしきる。 かかる処へ二人の杣人に担がれて色青ざめ半死半生の態にて登つて来たのは夢寐にも忘れぬ恋妻のブラヷーダ姫であつた。伊太彦は一目見るより、嬉しさ、悲しさ胸に迫り、涙の声を絞り、僅かに、 『あゝ、其女はブラヷーダ姫であつたか。お前の其様子、嘸苦しいであらう、此伊太彦も死線を越えた時のなやみが、まだ体内に残つて居ると見え、今は九死一生の場合、せめては一目なりと、お前に会うて天国の旅がしたいものだと思つてゐたのだ。あゝ斯様の処で会はうとは夢にも知らなかつた。之も神様の大慈大悲のおとりなし。あゝ有難し有難し、惟神霊幸倍坐世』 と合掌する。ブラヷーダ姫は糸の如き細き声を張り上げて息も苦しげに、 『あゝ嬉しや、貴方は吾背の君伊太彦様で厶いましたか。妾はまだ年端も行かぬ女の身、旅に慣れない孱弱き足許にて貴方に会うた嬉しさ。スーラヤ山の険を越え、生死の境に出入し、神の仰を畏みて、神力高き御一行様に立別れ、踏みも習はぬ山道をトボトボ来る折もあれ、俄に体は疲れ果て、魂は宙に飛び、最早臨終と見えし時、此杣人の情によりて、漸くここに救ひ上げられ参りました。何卒伊太彦様、妾の命は最早断末魔と覚悟を致して居ります。此世の名残に今一度、貴方のお手をお貸し下さいませ。さすれば仮令此儘死するとも少しも此世に残りは厶いませぬ。あゝ生みの父様、母様、兄様が、妾夫婦の事をお聞きなされば如何にお歎き遊ばす事であらう。そればつかりが黄泉路の障り、あゝ如何にせむか』 と伊太彦の側らに身を投げ出して泣き叫ぶ。其痛はしさ。流石豪気の伊太彦も女の情にひかされて恩愛の涙に袖を絞り乍ら、 『あゝ其方の云ふ事も尤もだが、大切なる神の使命を受けて、此夜光の玉をエルサレムの宮に献じ、ハルナの都に進まねばならぬ身の上、仮令肉体は亡ぶとも精霊となつてでも此使命を果さねば、どうして神界に申訳が立たう。初稚姫を通しての大神様のお言葉、吾師の君の御教訓、順序も守らねばならぬ神の使が、如何に恋しき妻の身なればとて、どうして妻の手を握る事が出来よう。もしも此玉の神霊が吾懐より逃ぐる事あれば、それこそ末代の不覚、ここの道理を聞分けて、ブラヷーダ姫、そればつかりは許して呉れ。仮令此世の運命尽きて霊界に至るとも、互に相慕ふ愛善の思ひは弥永久に失するものではあるまい。仮令此世で長命をするとも日数に積れば二三万日の日数、此短き瞬間に恋の魔の手に囚はれて幾億万年の命の障害になるやうな事があつては、吾も汝も、とり返しのならぬ罪悪を重ねねばなるまい。真に、其方を愛する伊太彦は、其女に無限の生命を与へ無窮の歓楽に浴せしめ度いからだ。必ず悪く思ふては呉れなよ』 と息もちぎれちぎれに苦しげに説き諭す。ブラヷーダ姫は首を左右に振り、 『いえいえ、何と仰せられましても臨終の際に只一回の握手位許されない事がありませうか。恋に燃え立つ妾の胸、焦熱地獄の苦しみを救はせ給ふは吾背の君の御手にあり、仮令未来に於て如何なる責苦に会ふとても夫婦が臨終の際に互に介抱をし相助け相救ふ事の出来ない道理がありませうか。物固いにも程が厶います。妾の心も少しは推量して下さいませ』 と云ひつつ伊太彦に縋り付かむとする。伊太彦は儼然として、たかつた蜂を払うやうな態度にて金剛杖の先にてブラヷーダ姫を突き除け、刎ね除け、 『これブラヷーダ姫、慮外な事をなさるな。大神様のお言葉、吾師の君の御教訓を何とする考へであるか。今の苦みは未来の楽み、左様の事に弁別のない其方とは思はなかつた。とは云ふものの、同じ思ひの恋しい夫婦、あゝ如何にせば煩悶苦悩を慰する事が出来ようか』 と胸に焼鉄あてし心地、差俯向いて涙に暮れて居る。二人の杣人は声高らかに打笑ひ、 杣人の一『アハヽヽヽヽ、扨ても扨ても固苦しい旧弊な男だな。最前からの二人の話を聞いて居れば随分お目出度い恋仲と見えるが、永い月日に短い命だ。未来がどうの、こうのと云つても、一旦死んだものが又生きる道理もなし、人間の命は水の泡と消えて行くのだ。長い浮世に短い命を持ち乍ら、何開けぬ事を云ふのだ。これこれ夫婦の方、未来があるの、神様が恐ろしいのと、そんな馬鹿な事云ふものではない。況して、二人の此断末魔の様子、死際になつて思ひ合つた夫婦が手を握つてはならぬ事があるものか。それだから宣伝使と云ふものは時代遅れと云ふのだ。誰に憚つてそんな遠慮するのだ。これ伊太彦さまとやら、こんなナイスに思はれて据膳喰はぬ男があるものか。可愛がつてやらつせい』 伊太『あなたは此辺りの杣人、よくまア、ブラヷーダを御親切に助けて下さつた。又只今のお言葉、実に御親切は有難う厶いますが、未来を信ずる吾々には、どうして、左様な天則違反が出来ませうか』 杣の一『山の奥まで自由恋愛だとか、ラブ・イズ・ベストだとか、言ふ新しい空気が吹いて居るのに、之は又古い事を仰有る。三五教と云ふ宗教は実に古臭いものだな。此広い天地に自在に横行濶歩し、天地経綸の司宰をする人間が些々たる女一人に愛を注いだと云つて、それを罰すると云ふやうな開けぬ神があらうか。もし神ありとせば、そんな事云ふ神は野蛮神の、盲神だよ。いや宣伝使様、悪い事は申しませぬ。この可愛らしい、まだ年の行かぬナイスが之丈け、命の瀬戸際になつて、云ふ事を聞かぬとは無情にも程がある。お前さまも、よもや木石でもあるまい。暖かい血も通つてゐるだらう。人情も悟つて居るだらう。吾々両人がここに居つては、恰好が悪いと思ひ、躊躇してるのではあるまいか。さうすれば吾々両人はここを立退くから、泣くなり、笑ふなり、意茶つくなり、好きの通りにしなさい。おい兄弟、行かう。斯うして夫に渡して置けば、俺等も安心と云ふものだ』 杣の二『さうだな兄貴の云ふ通り両人が居つては恰好が悪くて意茶つく事も出来まい。此世の中は偽りの世の中だから、人の前では思ふ所を言葉に出し、赤裸々に自分の信念を吐く事は誰だつて出来まい。さうだ俺等が此処に居るので断末魔の夫婦の別れを惜む事も出来ぬのだらう。そんなら兄貴、行かうぢやないか』 伊太『もしもし杣人様、決して御心配下さいますな。世間の人間のやうに吾々は決して裏表はありませぬ。思ふ処を云ひ、思ふ所を行ふのみです。吾々は痩ても倒けても三五教の宣伝使、決して外面的の辞令は用ひませぬ。それ故に天地の神に恥づる事なき二人の行動、貴方がお聞き下さらうが、少しも差支は厶いませぬ。何卒誠に済みませぬが、左様な事を仰有らずに、もう暫らく私の最後を見届けて下さい。おひおひ体は重くなり、足は一歩も歩けませぬ。もし吾々夫婦が此儘死んだならばウバナンダ竜王が持つて居た此夜光の玉をエルサレムへ持つて行く事が出来ませぬ。何卒御面倒でせうが乗掛けた舟だと思つて息のある中に此玉を貴方に渡して置きますから、貴方代つて何卒これをエルサレム迄行つて大神様へ奉つて下さいませぬか。沢山はなけれども此懐の金を旅費として、神様の為めと思つて行つて下さいませぬか』 杣の一『ハヽヽヽ気の弱い男だな。お前も神の道の宣伝使ならば、何故も少し男らしくならないのか。醜い弱音を吹いて人に泣顔を見せると云ふのは不心得では厶らぬか、喜怒哀楽を色に現はさずと云ふのが男の中の男で厶らうぞ』 伊太『成程、貴方のお説も尤もだが、人間は悲しい時に泣き、腹の立つた時に怒り、嬉しい時に笑ふのが本当の神心、喜怒哀楽を色に現はさぬ人間は偽り者か化物ですよ。今日の世の中は、それだから虚偽虚飾、世の中が真暗になるのです。吾々宣伝使は之を匡正する為、道々宣伝し乍らハルナの都に進むのです』 杣の二『成程一応御尤もだ。然し乍ら一枚の紙にも裏表がある。最愛の妻が臨終の願ひ、それを聞かない道理が厶いませうか。貴方は余り理智に走り過ぎる、情がなければ人間ではありませぬよ。広い心に考へて世の中は、さう狭く考へるものではありませぬ。変幻出没窮まりなく、時に臨み変に応じ、うまく此世を渡つて行くのが、神の御子たる人間ではありますまいか。ナアお姫さま、さうで厶いませう』 ブラヷ『はい、伊太彦さまのお言葉も御尤もなり、貴方のお言葉も御尤もで厶います』 杣の二『伊太彦さまのお言葉も御尤も、俺の言葉も御尤も、とはチツト可怪しいぢやありませぬか。どちらか、尤もと不尤もの区別がありさうなものだ。さアお姫様、貴女の思惑通りなされませ。斯うして様子を考へて見れば、最早此世の別れと見える。伊太彦さまも体に毒が廻り何れは死なねばならぬ命、生命のある間に互に手を握つて天国とかへ行く準備をなさいませ。決して悪い事は申しませぬ』 伊太『ブラヷーダ姫初めお二人のお言葉、その御親切は骨身に浸み渡つて、何とも云へぬ有難さを感じますが、どうあつても私は神様が恐ろしう厶います。神様の教の為には如何なる愛も、如何なる宝も総てを犠牲にする考へですから、もう之きり何とも仰有らずに下さいませ。あゝ惟神霊幸倍坐世』 杣の一『扨ても扨ても固苦しい男だな。成程之では世に容れられないのも尤もだ。矢張バラモン教が時勢に適当してるわい。俺も実はバラモン教の信者だが、まだ一度も斯んな固苦しい宣伝使に会ふた事はない。押せども引けども少しも動かぬ千引岩のやうな宣伝使だな。斯様な無情な男に恋をなさる姫様こそ実に不幸なお方だな。あゝどうしたら宜からうかな』 (大正一二・五・二九旧四・一四於天声社北村隆光録) |
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霊界物語 | 64_上_卯エルサレム物語1 | 16 天消地滅 | 第一六章天消地滅〔一六四五〕 マリヤ『晴れもせず曇りも果てぬ橄欖山の 月の御空に無我の声する 行先は無我の声する所まで 無我の声あてに旅立つ法の道 父母の愛にも勝る無我の声 ○ ほんに可愛しいあの人の 恋しなつかし此手紙 涙で別れた其夜から どこにどうして御座るかと 寝た間も忘れず居つたのに なんぼなんでも余りな 今更切れとは何かいな 情ないやら悔しいやら 無情いお方になりました ほんにいとしい彼方と 思へば泣いても泣き切れず 諦められぬこの手紙 いとしいとしと思ふ程 憎い言葉のあの人が 妾はほんとに懐かしい』 と云ひ乍ら橄欖山の頂上をウロついて居る一人の女がある。これはアメリカンコロニーの牛耳を取つて居るマリヤであつた。ブラバーサはマリヤの女難を避けむ為、逸早くも僧院ホテルを立ち出てシオン山の渓谷に草庵を結び隠れて居たのである。マリヤは斯の如く歌つて恋に憔れ乍ら、ブラバーサの後を探して居るのである。かかる所へ橄欖山上の木の茂みから優しき女の歌ひ声が聞えて来た。 サロメ『緑の風に花は散り逝く春の宵歎きつつ 己が心に夏は来ぬ夕胡蝶の床に臥し 晨輝く花思ふ悩ましの夢今さめぬ 現実の月空高く青葉は光る橄欖の山に せめて憩はむ吾が心』 と歌ひつつ静々朧の月夜に浮いたやうに出て来たのはサロメであつた。折々両人は此山上で月下に出会すのである。されど互に余り心易くもせず、又沁々と話した事もない。双方とも期せずして同情の念にかられ、何物にか惹かるる如く二人は朧月夜にもハツキリ顔の分る所迄近づいた。 マリヤ『行水の帰らむよしもなし 散る花を止めむよしもなし』 サロメ『桜の花の盛りこそ 君と睦みし月日なり 月は幾度かはれども 日は幾日か重なれど 君に遇ふべきよしもない』 マリヤ『涙の中に夏は来ぬ 夜毎に飛び交ふ螢こそ こがるる吾身に似たるかな』 サロメ『今は悲しき思ひ出の 夜毎に飛び交ふ螢こそ 焦るる吾身に似たるかな』 かく両人は意気投合して何れも恋の敗者となりし述懐を打明け歌つた。是よりマリヤ、サロメの両人は姉妹の如く親しくなり、互に心胸を打ち明けて語り合ふ事となつた。 サロメ『マリヤ様、貴女の今のお歌によりまして妾の境遇とソツクリだと云ふ事を悟りました。ほんたうに世の中は思ふやうにならないもので御座いますなア』 マリヤ『ハイ、有難う御座います。もはや此世の中が嫌になつて参りました。思ひ込んだ男に捨てられ、もはや此世に何の楽しみも御座いませぬ。オリオン星座よりキリストが現はれたまふとも人間として恋に破れた以上は、もはや何の楽しみも御座いませぬ。キリストの再臨なんか物の数では御座いませぬわ』 と半狂乱の如くになつて居る。 サロメ『あなたは永らく独身生活を続けなさつたのも、キリスト再臨を待つ為では無かつたのですか』 マリヤ『妾の待望して居るキリストは左様な高遠な神様では御座いませぬ。妾の愛の欲望を満して下さる愛情の深い清らかな男子で御座います。妾の一身に取つてキリストと仰ぐのは日出の島からお出になつた、ブラバーサ様で御座います』 サロメ『妾だつてキリストの再臨を待つて居るのですよ。併し乍ら自分の心を満して呉れる愛情の深い方があれば、其方こそ妾に対して本当のキリストで御座いますわ。乾き切つたる魂に清泉の水を与へ、朽果てむとする心に生命を与へて下さる方が所謂キリストですわ。さうしてブラバーサ様は何処へお出になつたか分らないのですか』 マリヤ『ハイ百日の行をすると云つて聖地を巡覧遊ばして居られましたが、百日も立たない中にお姿が見えなくなつたのですよ。あの方は雲に乗つて来たと云つて居られましたから、竹取物語の香具耶姫様のやうにオリオン星座へでもお帰りになつたのではあるまいかと、毎晩々々空を仰いで其御降臨を待つて居るので御座いますよ。本当にあの方は普通の人ではありませぬ、きつと神様の化身ですわ』 サロメ『何程これと目星をつけた男でも、神様の化身では仕方無いではありませぬか。どれ程あなたがモウ一度下つてほしほしと毎日天を仰いで居たつて駄目で御座いませう。そんな遠い天の星を望むよりも間近にオリオン星座があるではありませぬか。この地も天に輝く星の一つでせう。ドンと四股を踏んでも直ぐと答へて呉れるのは地球と云ふこの星ぢやありませぬか。きつと此星の中に貴女の恋人は隠れて居ませう。どこ迄も探し出してユダヤ婦人の体面を保つて貰はねば、妾だつて世界へ合はす顔がありませぬわ。妾も一旦相思の恋人が御座いましたが、花はいつ迄も梢に留まらぬが如く、夜の嵐に吹かれ、たうとう生木を裂くやうな悲惨な目に会ひ、それからと云ふものは恋に狂ふて、この霊地にお参りするのをせめてもの心慰めとして居るので御座います。貴女の恋人と仰有るブラバーサ様は、三四回も此お山でお目にかかりましたが、ほんとに神様の様なお方でした。妾だつて貴女の恋人でなければキツト捕虜にして居るのですけれども、人の恋人を取つたと云はれてはユダヤ婦人の体面にかかると思ふて、どれだけ恋の悪魔と戦つたか知れはしませぬわ。自分の好く人、又人が好くと云ひまして、男らしい男は誰にも好かれるものですなア。さうかと云つて今後ブラバーサ様を発見しても、決して妾は指一本さえない事を誓つておきますから安心して下さいませ』 マリヤ『あなたの恋人と仰せらるるのはヤコブ様ぢや御座いませぬか。薄々噂に承はつて居りました』 サロメ『ヤコブ様と妾の中には何の障壁もなく、極めて円満に清い仲で御座いましたが無理解な両親が中に入つて引き分けてしまつたので御座います。かうなつて別れると妙なもので恋の意地が募り、どこ迄も添ひ遂げねばおかないと云ふ敵愾心が起つて来たのですよ。貴女もユダヤ婦人としてどこまでも奮闘なさいませ。妾も此儘泣き寝入るのでは御座いませぬからなア。かうして二人も失恋の女が、橄欖山上に出遇はすと云ふのも何かの因縁で御座いませうよ』 マリヤ『サロメ様、妾は夜も更けましたから、今晩はこれで帰らうと思ひます。コロニーのスバツフオード様が余り遅くなると大変矢釜しく仰有いますから、又明日ここで貴女と楽しくお目にかかりませう』 サロメ『左様ならば一歩先へ帰つて下さいませ。妾はもう暫く祈願してお山を下る事と致しませう』 と別れをつげ、サロメはシオン大学の基礎工事の施してある傍の作事場に行つて腰を下ろし、暫く身体をやすめ、再び祈願にかかつて居た。 シオンの谷に恋の鋭鋒をさけて隠れて居たブラバーサは、もはや夜も深更になつたればマリヤがよもや来て居る筈は無からうと高を括り橄欖山上に於てキリストの無事再臨を祈るべく登つて来た。作事場の中に優しい女の祈り声が聞えて居る。ブラバーサはもしやあの声はマリヤであるまいか、もしマリヤであつたら又とつつかまへられて五月蠅い事であらう、併しあれだけ慕ふて来る女をむげに捨てるのも残酷のやうであり、さればとて彼の意志に従へば罪悪を犯したやうな心持がするなり、大神様の御化身からは叱られ、吁どうしたらよからう、辛い事だな。マテマテ世界万民を救ふのも一人の女を救ふのも救ひに二つはない、一人の女を見殺しにして世界の人民を助けたつて最善の行方で無いかも知れない。吁、私は自己愛に陥ちて居たのかも知れない、仮令あの女を助けるために地獄に陥ちてもあの女を助けるが赤心だ。エーもうかうなれば善も悪もない、シオンの谷に身を隠し女に罪を作らせるよりも自分が罪人となつて、マリヤを助けてやらう、それが男子たるものの本分だ。自分が居なくても、又失敗つてもウヅンバラチヤンダーの再臨の邪魔にはなるまい。キリストは万民のために十字架に、おかかりなされたのだ。国に残した妻には済まないが、妻だつて宣伝使の妻だ。その位の犠牲は忍ぶだらう、エーもう構はぬ、これだけ熱烈の女を見殺しにするのも余り善ではあるまいと心の中に問ひつ答へつ思案を定め、作事小屋の中に進み入つた。 ブラバーサは斯く決心をきめた上は、もはや宇宙間に何者も無くなつて了つた。此広い世界にマリヤの姿が唯一つあるのみである。今迄聞えて居た山鳩の声も虫の音も無く、一切万事何処かへ消えて了ひ、天もなく地もなく心にうつるものはマリヤの姿のみとなつて了つた。それ故サロメの姿がすつかりマリヤと見えて了つて、どうしても他の人と考へ直す暇は微塵も無かつた。 一方サロメはヤコブの事を思ひ乍ら祈願をこらして居たが、心の中に思ふやう、 サロメ『たとへ両親が何と云はうとも、世間の人が堕落女と譏らうとも、そんな事に構ふものか。自分の恋を自分が味はふに何の構ふ事があるものか。あの人の為には天も無く地も無い。森羅万象をすべて葬り去つても吾心を生すものはヤコブさまより無いのだ、地位や、名誉が何になる、貴族の生が何だ。鳥や獣でも自由に恋を味はつて居る。万物の霊長たる人間が恋を味はふに何の不道理があらう筈がない。草を分けても捜し出し、ヤコブ様を見つけ出して、地位や名誉を投げ出して今迄のお詫をせう。妾の意志が弱かつた為ヤコブ様に思はぬ歎をかけた……。ヤコブ様許して下さいませ。仮令地獄に堕ちた所で貴方との約束を実行致しませう。それが女の本領で御座いますから……』 と傍に人無きを幸ひ、知らず知らず大きな声を出して了つた。 ブラバーサは、サロメがヤコブのことを云つて居るのを聞いてゐながら、やつぱりマリヤとしか思へなかつた。二人の男女は一所に集まつて互にかたく抱き締めた。そして天も地も、橄欖山も自分の体もどこかへ消滅したやうな無我の域に入つて了つた。暫くあつてサロメは、ホツト気がついたやうに、 サロメ『あゝヤコブ様、ヨウ来て下さいました。妾の一念が貴方の魂に通じたので御座りませう。もう此上は身も魂もあなたに捧げまして決して外へは心を散らしませぬから可愛がつて下さいませ』 ブラバーサはヤコブと云ふ声を聞いて大に怒り、 ブラバーサ『こりや不貞腐れのマリヤ奴、よう私を翻弄して呉れたなア。お前の熱愛して居るヤコブの代理に己を使ふとは、馬鹿にするのも程があるではないか。己はマリヤより外に愛する女は無いのだと思つて居たのにエヽ汚らはしい、勝手にどうなとしたがよからう。俺もこれで胸の迷ひが取れた。あゝ惟神霊幸倍坐世』 サロメはやつぱり現になつてブラバーサをヤコブと思ひつめて居た。マリヤより愛する女が無いと云ふのを聞いて、 サロメ『エヽ悪性男のヤコブ奴、ようもようも此サロメを馬鹿にしよつたなア。命を捨てた此体、もう此上は破れかぶれ思ひ知つたがよからう』 と護身用の短刀を抜いて切つてかかる。ブラバーサはマリヤ待つた待つたと作事小屋のぐるりを逃げ廻つて居る。かかる所へ疑ひ深いマリヤは、サロメがアンナ事をいつて、ブラバーサを隠して居るのでなからうかと、中途より引返し来り、此体を見て打驚き、 マリヤ『もしサロメ様、マア待つて下さいませ』 と腕に食ひつく。サロメは夜叉の如くに怒り狂ひ、 サロメ『エヽ恋の敵マリヤ奴、ヤコブを取りよつた恨だ、覚悟を致せ』 と猛り狂ふ。其処へ又現はれて来たのはサロメの後を追ふてやつて来た失恋男のヤコブであつた。ヤコブは大声をあげて、 ヤコブ『これこれサロメさまお気が狂ふたのか一寸待つて下さい。私はヤコブで御座います』 サロメは此声に勢抜け茫然として短刀を握つたまま衝立つて居る。月は皎々として山の端を照らし初めた。四人の顔は一度にハツキリして来た。マリヤは慄ふて居るブラバーサの手を固く握り、 マリヤ『聖師様何処へ行つてゐらしたの。妾どの位たづねて居たのか分りませぬのよ』 ブラバーサ『ウンお前がマリヤであつたか。夜中の事とて甚い人違ひをしたものだ。あの活劇を見て居つたであらうなア』 マリヤは、 マリヤ『ホヽヽヽヽ』 サロメも、 サロメ『ホヽヽヽヽ』 ヤコブ『何だ人違ひか、サア、サロメさま、ヤコブはどこ迄も貴女と離れませぬから覚悟して下さい、命がけですよ』 サロメ『妾だつて命がけですわ。ブラバーサ様があなたに見えたので甚い間違ひを致しました。マア無事で怪我が無くて何より結構で御座いました。皆様茲で神様に感謝を致しませう』 と男女四人は地上に端座し、恋の成功を感謝した。ヨルダン川の流れも峰吹く風の音も天も地も漸く四人の前に開展して来た。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・七・一二旧五・二九加藤明子録) |
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霊界物語 | 64_上_卯エルサレム物語1 | 19 祭誤 | 第一九章祭誤〔一六四八〕 高城山の峰つづき、小北山の松林を切り開いて沢山な小宮やチヤーチを建てたルートバハーの脱走教があつた。ここの主人を虎嶋久之助と云ひ、女房は虎嶋寅子と云ふ。生れつき自我心の強い女であつたが変性男子の系統と云ふのを奇貨としてユラリ教と云ふ変則的なる教団をたてユラリ彦命を祀つて、盛んにルートバハーの教主ウヅンバラチヤンダーに反抗的態度をとつてゐる。そして自分は底津岩根の大弥勒、日の出神と自称し、朝から晩まで皺枯声を出して濁つた言霊で四辺の空気を灰色に染て居る。ここへ集る信徒の中には随分色々な変り者があつて、中にも最も寅子の信任を得たのは、善も悪きも難波江の菖蒲のお花と云ふ、あまり色の白くない背の低い横太い年増婆アさまである。そして寅子の最も信任してゐるのは守宮別と云ふ海軍の士官上りの外国語をよく囀る男であつた。寅子は日の出神の生宮と自称し乍ら此守宮別と共に宅を外にして曲霊軍の襷を掛け、日の出島の東西南北を隈なく巡教し、軍艦布教までやつてヤンチヤ婆アさまの名を売つた、したたか者である。守宮別は日の出神と腹を合せ如何にしても変性女子のウヅンバラチヤンダーを社会の廃物となし、自分等がとつて代らむと苦心の結果、守宮別は四方八方に反対運動を開始し、終には六六六の獣を使つてウヅンバラチヤンダーの肉体の自由まで奪つた剛の者である。 目の上の瘤として居た人物を、うまく圧倒した上は、もはや天下に恐るべきものなしと、菖蒲のお花を筆頭に守宮別、曲彦、木戸口、お松等の連中と謀り小北山に拝殿を建て、一時も早く願望成就致しますやうと祈願をこらして居た。さうして地の高天原へ乗込んで一切の教権を握らむと聖地の古い役員をたらし込み、九分九厘と云ふ所へウヅンバラチヤンダーが帰つて来たので、肝をつぶしホウボウの態にて再び小北山へ逃げ帰り守宮別は海外に逃げ出し、後に寅子姫、お花、曲彦の三人は首を鳩めて第二の策戦計画にとりかかつた。先づ第一に日の出神の筆先を書いてルートバハーの信者を籠絡し、変性女子の勢力を失墜せむものと難波の里の高山某に軍用金を寄附させ、日出島全体の神社仏閣を巡回し、身魂調べと称し、口碑伝説を探つていろいろの因縁をつけ、筆先を作つて誠しやかに少数の信徒を誤魔かして居る。 今日は春季大祭の為五六十人の信徒が集つて来た。祭典は無事に済んで信者は各家に帰つた。あとには曲彦、寅子、菖蒲のお花、久之助、高山彦等が首を鳩めて協議を凝して居る。曲彦は先づ第一に口を開いて、 曲彦『皆さま、お神徳によりまして春季大祭も無事終了致し、さしもに広き霊場も立錐の余地なき迄に信者が集まらず、却て、込みあはずお神徳を頂きました。之も日頃熱心に御布教して下さる日の出神様を初め竜宮の乙姫様の御活動の結果と有難く感謝致します。就いては御存じの通り、吾々がかねて計画してゐた玉照彦、玉照姫の御結婚もたうとう此世を乱す悪神の憑つた瑞の霊の為に挙行されて了ひ、本当に苦辛した甲斐もなく誠にお目出度う御座いませぬわい。貴方はいつもいつも此結婚は変性女子には指一本さえさせぬ、此日の出神が許して天晴れ結婚をさし、ルートバハーの教を立直すと仰有いましたが、一体どうなつたので御座います』 寅子は、 虎嶋寅子『ソレハ神界の都合によつてお仕組を変へたのだよ。玉照彦、玉照姫もたうとう変性女子の悪霊に感染して了ひ、水晶魂が泥魂になりかけました。さあ之から吾々の正念場だ。グヅグヅしてゐては駄目ですよ。もはや期待してゐた玉照彦様、玉照姫様も駄目だから此日の出神の生宮が、もう一働きやらねば到底神政成就は出来ませぬぞや。神様は控えは何程でもあるぞよ、肝腎の事は系統にさしてあるぞよとお筆に出してゐられませうがな。その系統は誰の事だと思ひますか。金勝要神の身魂もサツパリ駄目だし、日の出神が居らなくては、もう此三千世界の立替立直しは出来ますまい。艮金神、坤金神、金勝要神、日の出神、四魂揃ふて御用を致さすぞよ、とお筆に出てゐるでせう。艮金神の御魂はもはや御昇天遊ばし、坤金神の生宮は悪霊にワヤにされて了ひ、金勝要神は我の強い神で役員達に祭り込まれて慢心致し、到底神政成就どころか、ルートバハーの維持も出来ませぬ。四魂の中、三魂迄役に立たねば、九分九厘の処で一厘の仕組でクレンと覆すとお筆に出てゐるでせう。それだから此の日の出神が一厘のところで掌をかへすのですよ。宜しいかな。取違ひを致しなさるなや』 曲彦『それほど変性女子の霊が曇つとるのなら、何故大祭毎に頼みさがして、変性女子に来て貰ふのですか。チツと矛盾ぢやありませぬか』 寅子『エー、分らぬ人ぢやな。変性女子さへ詣らしておけばルートバハーの信者が「ヤツパリ小北山の神殿は因縁があるに違ひない。あれだけ悪く云はれても変性女子が頭を下げに行くから、矢張偉い神様だ」と思はせる……一厘の仕組をしてるのだよ。神の仕組は人間に分りませぬよ。神謀鬼策の仕組を遊ばすのが日の出神の御神策だよ』 曲彦『ヤア、それで貴女の権謀術数、悪にかけたら抜目のない、やり方が分りましたよ。ヘン糞面白くもない』 とあとは小声で呟く。 寅子『ヘン、措いて下され、私が悪に見えますかな。神様のお仕組は悪に見えて善を遊ばすのだよ。何もかも昔からの根本の因縁を十万億土のドン底まで行つて調べて来た日の出神の生宮、何程お前さまは賢うても軍人上りぢやないか。軍人が神界の事が分りますかい。お前さまは早く女子の留守の中に拝殿を建て、事務所を建て、そして費用は何ぼでも出すと云ひ乍ら愈となれば、スツタモンダと云つて一円の金も出さぬぢやないか、そんな事でゴテゴテ云ふ資格がありますかい。スツ込んで居りなさい』 曲彦『ヤア、どうも日の出神様の御威勢には楯つく事は出来ませぬわい。何と云つても一寸先の見えぬ人民ですから、何と口答へする訳にも行かず、マア時節を待ちませう』 寅子『あ、それが宜いそれが宜い、何事も日の出神の生宮の申す通りに致さねば神界の仕組がおくれて仕方がない。これ久之助さま、お前さまも私のハズバンドなら、少しシツカリしなさらぬかい。菖蒲さまも何して御座る。曲彦にアンナ事を云はして黙つてる事がありますかいな』 菖蒲のお花『私も間がな隙がな、曲彦さまに御意見を申して居りますが、何と云つても若い人だから到底婆の云ふ事は聞いて下さいませぬ。然し乍ら寅子姫さま、私は一つ妙な事を聞きましたが、それが本当とすれば、かうしてグヅグヅしてゐる訳にも行きますまい』 寅子『お前さまの妙な事と云ふのは一体ドンナ事かいな。差支なくば云つて下さい。此方にも考へがありますから』 お花『それなら申しませうが、変性男子のお筆に西と東にお宮を建てて神がうつりて守護を致すぞよと出て居りませう。東と西のお宮とは、あなた一体どこの事だと思つて居りますか』 寅子『オツホヽヽヽヽ、お花さま、お前は何を恍けてゐるのだい。東のお宮といふのは小北山の神殿ぢやないか。人間の初り、五穀の初りは所謂此小北山ですよ。そして西のお宮と云ふのは聖地の桶伏山ぢやありませぬか。桶伏山の神殿はあの通り叩きつぶされましたが、東のお宮は旭日昇天の勢ひで誰一人指一本支へるものがないぢやありませぬか。これを見ても神徳があるかないか分るぢやありませぬか。ルートバハーの信者は馬鹿だから変性女子の為に騙され、壊された宮の跡へ集まつて、 壊たれる宮の為に 過ぎ去りし偉大のために 吾等は地に伏して泣く あゝ惟神霊幸倍坐世 なぞと、憐れつぽい声を出して毎日日日吠面かわいてゐるぢやありませぬか。それを見ても神様が居られるか、居られないか分るでせう。善の道の分るのはおそいと神は云はれますが、今は此小北山はルートバハーの信者からは馬鹿にされて居りますが、今に金色燦爛たるお宮が建つて桶伏山尻でも喰へと云ふ様になるのですよ。それだからお前さま等しつかりなされと云ふのですよ。イツヒヽヽヽヽ』 お花『寅子さま、西と東にお宮を建てると云ふのはチツと見当違ひぢやありませぬか。私は桶伏山の御神殿こそ東のお宮と思ひます。神様の御仕組はそんな小さいものぢやありますまい』 寅子『ホヽヽヽヽ、日輪様のおでましになるのが東、お隠れになる方を西と云ふ事が分つてるぢやありませぬか。小北山が西ぢやと思ひますか。貴女も分らぬ方だな。お前も桶伏山の山麓に蟄居してゐたので、女子の悪霊に憑られてソロソロ恍けかけましたね。ウツフヽヽヽヽ』 斯かる所へ洋服姿の守宮別が忙がしげに帰り来たるを見て一同は嬉しさうに、 一同『ヤア、守宮別さま、御苦労で御座いました。外国のお仕組はどうで御座りましたな。定めし日の出神様のお仕組も行渡つて居るでせうな』 守宮別『兎も角お酒を一杯出して下さい。お神酒を頂きもつて、守宮別がゆつくり物語りを致しませう』 (大正一二・七・一三旧五・三〇北村隆光録) |
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霊界物語 | 64_下_卯エルサレム物語2 | 04 誤霊城 | 第四章誤霊城〔一八一〇〕 お花は只一人、日の丸の掛軸の前に暗祈黙祷し乍ら、両眼から雨の如き涙をたらし、聖地の宣伝も予期した如くに行かず、未だに一人の信徒も出来ぬ矢先、お寅、守宮別の在所が分らなくなつたので、太い吐息を洩らしてゐると、そこへ受付のヤクが慌だしく帰り来り、 ヤク『コレもし、お花さま、お花さま』 と何回も矢継早に呼ばはれ共、お花はキヨロリとヤクの顔を見乍ら、素知らぬ顔をしてゐる。 ヤク『もしお花さま、これ丈私が呼んでゐるのに、なぜ返事をして下さらぬのですか、聾になられたのですか、余り苛いぢやありませぬか』 お花『ソンナ人は居ないよ』 とプリンと横を向く。 ヤク『ハヽヽハア、コリヤヤクが悪かつた。竜宮の乙姫さまの生宮様、あやめの花子殿、一寸こつちやを向いて下さい』 お花『お前はヤクかい。何の用だなア』 とすましてゐる。 ヤク『何の用もかんの用もありますかいな。乙姫さまは日の出神の生宮さまの所在が知れないのに、何して厶るのですか』 お花『何もして居ないよ。おつつけ帰つて厶るといふ御神示があつたから、余り慌てるには及びませぬワイ。チトお前さまも落つきなさい。ここの受付になつてから、殆ど一年にも成りますが、月給取る許りで、一人の信者も出来たでなし、私だつて困るぢやないか、些と活動して下さいな。生宮様が悪者に攫はれて行かれるのを見て居り乍ら、助けにも行かぬといふやうな、ヤクザ人足のヤクさまには、もう竜宮の乙姫も相手にはなりませぬワイな』 ヤク『私は此処の受付になつてから、余り暇なので、これでは堪らないと思ひ、エルサレムの町中歩いて紳士紳商を一々訪問し、ウラナイ教の宣伝をやり、生宮様の御威徳を盛んに吹聴して居ります。何れも一旦は感心して、一辺お話が聞きたい、其上で信者になり度いなどと、異口同音に私の顔に免じて賛成しては下さいますが、何しろ生宮様の脱線がひどいので、何時も駄目になつて了ふのですよ。神様なら神様らしう、何時もチヤンと霊城に立籠もつて、声なくして人を呼ぶといふ態度をお取りになつて居れば可いのに、フンゾ喰ひの、ドブ酒飲みの守宮別を連れて、アトラスの様な面をして、徳利をブラ下げた様な尻をして、市中をブラつかれるものだから、あのスタイルでは、どうも尊敬の心が起らない。そして言ふ事が徹底してゐないから、要するに日の出島の気違だらうといふ噂が立つて、誰も聞くものがありませぬ哩。毎日日日、かう受付にチヨコナンとコマ犬のやうに坐つて居つても用は無し、ダンジヤコを並べた様な筆先を写さして貰うて居つても、余り有難くはありませぬがな。お前さまも、ようマア、あんな生宮さまと一緒にこんな所迄やつて来て、能う嫌にならぬ事ですな』 お花『コレ、ヤクさま、お前は何といふ勿体ない事をいふのだい、どうも霊に因縁のない者は仕方のない者だなア。あんな立派な救世主が、お前さまも矢張り世間並に悪く見えるのかいな』 ヤク『ハイ、何程贔屓目にみても、普通の人間とより見えませぬわ。第一仰有る事が筋が立つてゐませぬもの。教義が支離滅裂で掴まへ所が無くつて、既成宗教の方が、どれ丈立派だか知れませぬよ。私も此間からいろいろと就職口を考へて居りましたが、半気違の生宮さま所に居つた者だからといつて、だアれも使つてくれないのです。それで止むを得ず、不快で不快でたまらないのを、辛抱して居るのです。併し乍ら、躓く石も縁のはしとやら、縁あればこそ生宮様のお側で御用が出来たものだと思ひ、昨夜も昨夜とて、お寅さまの危難を救ふべく、会計の金を六十円放り出してお寅さまを助ける工夫をしたのですよ。其六十円の金が無かつて御ろうじ、生宮さまは其場で袋叩きに会ひ、半死半生になつて居られるかも知れませぬよ。夜前トツクにお帰りの筈だのに、まだ帰つてゐられぬのは、チツト不思議ですなア』 お花『ヘン、能う言へます哩、現に生宮さまがアラブに取つ掴まへられた時、お前さまはジツとして見て居つたぢやないか。そんな嘘を云つても、私がチヤンと見て居りますぞや』 ヤク『乙姫さま……だつて、ジツとして見て厶つたぢやありませぬか。神様でさへ手出しのできぬ乱暴者に、どうしてヤクが手出しが出来ませうぞ。其時の事情をマア聞いて下さい。さうすれば私の忠勤振がチツトは分るでせう』 お花『ヘン、おいて貰ひませうかい、現在目の前に主人の危難を見乍ら、手も足も能う出さぬクセに、忠勤振なぞと鼠が笑ひますぞや。此上文句があるなら言つて御覧』 ヤク『あります共、真面目に聞いて下さい。今夜はキリストの聖日でもあり、僧院ホテルで大演説会があり、生宮さまも大々的獅子吼をなさるといふ事を聞いて居つたので、万一を慮り、警戒の任に当つて居りますと、生宮様が衆人環視の前で、ブラバーサさまを罵り、言語道断な事を仰有るので、日頃ブラバーサさまを信頼してゐる信者連が腹を立て、あの気違婆をやツつけてやらうかと、私が居るとは知らずに、コソコソ相談をやつてゐますので、此奴アたまらぬ、何とかして生宮さまを助け出さねばなるまいと、傍を見ればアラブが三人居つたので、ソツと金をわたし、一時どつかへ生宮を隠してくれと云つた所、アラブは早速諾いて、あの通りお二人の危急を救つたのです。夕べの騒ぎで市中は喧しい噂が立ち、警察の活動となつて居る相ですから、一時生宮さまもイキリぬきにどつかへ遊覧に行つてゐられるのでせう。これでも私の忠勤振が分りませぬかなア』 お花『ても偖も、何んといふ下手な事をするのぢやいな。何程ブラバーサの信者が手荒い事をせうと思つても、生宮様の御神徳には歯節は立ちませぬぞや。それに猶更、立派な警察もあり、人目もあるのだから、そんな心配は御無用だ、お前さまは永らく生宮様の側に居つて、あれ丈の御神徳が分らないのかな、ホンに盲聾といふ者は仕方のない者だなア』 ヤク『もし、お花さま、イヤ、ドツコイ、竜宮の乙姫さま、余り盲々といふて下さいますな、御神徳の程度を知つて居ればこそ、私が案じて、ああいふ手段を取つたのですよ、乙姫さまは日の出さまの御神力を買かぶつて居りますな』 お花『かもうて下さるな、お前さま等のやうな子供に分つてたまるかな。大それた、大枚六十円の金をアラブにやるなぞと、誰に許可を得て支出したのだえ。生宮さまも乙姫も許した覚えはありませぬぞや。其金こちらへ返して下さい、返すことが出来にや此月分と来月分とで勘定する。お前さまは受付だ、支払ひ役は命じて無い筈だ。委托金費消罪で訴へませうか』 ヤク『二つ目には法律をかへるとか、警察もいらぬよにするとか仰有るクセに、猫がクシヤミしたやうな事でも警察へ訴へるのですか、何とマア偉い神様ですな。お前さまは最前も雪隠の中から聞いて居れば、ブラバーサやマリヤさまに向つて、世界中から数珠つなぎに信者が参つて来ると、エライ駄法螺を吹いて厶つたが、ここ一年程の間に猫の子一疋訪問した事は無いぢやありませぬか。誠一つで開くウラナイの道だからと云ひ乍ら、ようマア、あんな嘘が言へました。霊城なぞと聞いて呆れます哩』 お花『ホヽヽヽヽ、マア何と分らぬ代物だこと、これ程諸国の霊が、数珠つなぎになつて、生宮さまの神徳を慕つて参拝するのに分らぬのかいな。それだから、教会とも宣伝所ともいはないで、御霊城と書いてあるのだよ』 ヤク『ソンナラ、私の受付は必要がないぢやありませぬか。一体何の受付をするのですか』 お花『身魂相応の理に仍つて、悪者が出て来たり、詐欺漢が出て来たりせぬ様に、番犬の御用がさしてあつたのだよ、霊なんか到底お前等にや分らないから、テンデそんなこた当にしてゐないのだ。頭から信用のないこた分つて居るのだからな』 ヤク『ソンナラ何故宣伝に行け行けと私に仰有るのですか』 お花『現幽一致の御教だから、現界の人間も宣伝する必要があるのだ。けれ共お前の魂がテンで物になつてゐないものだから物にならないのだよ。無用の長物娑婆ふさぎ、穀潰しの糞造器とはお前の事だ。こんな糞造器でも神様は至仁至愛だから、助けてやらうと思つて、三十円も月給を出して飼つてやつて居るのだよ。世間に目の開いた奴があつたら……何と神様といふものは偉い者だ。エルサレム中で相手にしてのない蚰蜒の様な男でも、生神さまならこされ、三十円も月給をやつておいて置けるのだ。神さまといふ者は偖も偖も感心な者だ。……と此様に思うて青い鳥が引かかつて来る様に、つまり、おとりにおいて有るのだ……オツトドツコイこりや云ふのぢやなかつた。コレ、ヤクさま、こりや嘘だよ。お前の副守が一寸私の体内を借つて云ふのだから、屹度気にさへて下さるなや、オホヽヽヽ』 ヤク『これで貴女方の腹の底はすつかり分りました。私も可い馬鹿でした。月給も何もいりませぬ。気好うお暇を下さい。其代り覚えてゐなさい。ヒヤツとする様な目にあわして上げますから。お前さま方のカラクリを、これから、エルサレムの町中演説して歩きますから、足許の明るい内トツトと帰りなさい。イヒヽヽヽヽ。ヤアこれで一つ俺も活気が出来て来た。悪魔退治の張本人となり正々堂々の陣を張り、日出神の生宮と力比べだ。此奴ア面白い、ウツフヽヽヽ』 お花は顔を曇らせ乍ら、 お花『コレ、ヤクさま、皆嘘だよ。お前は正直だから、直に腹を立てて仕方がない。日出神の生宮と此乙姫の生宮が、天にも地にもない大切な宝として、お前を重宝がつてるのだ。そんな水臭い事をいふものぢやありませぬがな』 と皺の寄つた顔の目を細うして、ヤクの背中をポンと叩く。年は老つて居つても、浪速の水で洗ひさらした肌、まだ何処やらに花の香が残つてゐる。其手でお釈迦の顔撫でた式に、お花の色目につり込まれ、ヤクはつり上つた眉毛を一寸許り下へおろし、目尻迄下げて、時計の八時二十分の様な顔をし乍ら、 ヤク『ヘヽヽヽヽ、ソンナ優しいお心とは知らず、つい副守があんな事を囁きました。どうぞ生宮さまがお帰りになつても、今の様な事は言はない様にして下さいや』 お花『何ぢやいな、ヤクさま、眉毛や目尻が眠り草の様に、サツパリ下つて了ひ、七時二十五分の顔ソツクリぢやないかい』 ヤク『乙姫さまのお顔にも一時は低気圧が襲来し、眉毛が十一時五分になつて居ましたよ』 お花『ソンナ時計の話や何うでもよい、人の顔と時計とゴツチヤ交ぜにしられちや困るからなア』 斯く話して居る所へ、ドヤドヤ人の入り来る足音、ヤクは素早く表へ駆け出し、 ヤク『ヤ、これはお寅様、能くマアお帰り下さいました。乙姫さまが大変なお待ちかねで厶います。サアサアとつとと奥へ御通りなさいませ』 お寅『お前はヤクザ者のヤクぢやないかい。妾がアンナ目に会つて居るのに傍観してるとは余りぢやないか。何程名はヤクでも、役に立たぬ代物だなア』 ヤク『ハイお花さま……オツトドツコイ乙姫さまの生宮さまに、惨々そんな事をいつて油を絞られて居つた所ですから、どうぞ二重成敗は勘弁して下さい』 といひ乍ら狭い路地を伝うて入つて来た。お花は嬉しさうに手をつかへて、 お花『ヤ、これはこれは、能う帰つて下さいました。日出様、大変待ちかねて居りました。今ヤクと心配して居つた所で厶いますよ』 お寅『ヘン、有難う、感じ入りました。貴女方の御親切には……ブラバーサの計略にかかり、谷底へつれ込まれ、命を取られ様と致しましたが、幸に日出神の御神力によりまして、無事に帰つて参りました。乙姫さま、さぞ面くらつたでせう。ヤクと二人寄つて、日の出神の居らなくなつたのを幸ひ、此霊城の主人となり、一大飛躍を試みむとして厶つた所を、目的と牛の尻がひとは、向ふから外れるとか申しましてね……誠にお気の毒さま。ヘン巧言令色、偽善の御挨拶は止めて貰ひませうかい』 お花は泣声を出して、 お花『コレ、モウシ、お寅さま、余りぢや厶いませぬか、私の心が分りませぬか。余り殺生ぢや厶いませぬかい。十年此方真心を尽して、世間の非難攻撃を受け乍ら、身命を賭して、貴女に付いて来た私ぢや厶いませぬか。御冗談仰有るにも程がありますわ』 お寅『冗談ぢやありませぬよ。誠生粋の日出神の言葉ですから、慎んでお聞きなさい。私の心が分らぬか……と仰有つたが、分つて居らこそ、お前さまに御礼を申して居るぢやありませぬか。第一の証拠は……いつも貴女言ふて居つたでせう。仮令地獄のドン底へでも、命を的にお伴致しますと、口癖の様に、うるさい程、百万遍をくる様に、云つておき乍ら、人の危難を見て、助けようともせず、ヤクと一緒に、ぬつけりことして霊城にをさまり返り、第二の計画をやつて居つたのでせう、それに違ありますまい。お前さまの様な水臭いお方は、主でもなけら、家来でもない。又師匠でも無ければ弟子でもありませぬ。乙姫さまなぞと、チヤンチヤラ可笑しい、もう之から云ふて下さるな』 お花『私は素よりあやめのお花といつて、何も知らぬ者で厶いましたが、貴女が竜宮の乙姫の生宮だと仰有つて下さるので、それを誠と信じ、今日迄乙姫で通して来ましたが、云ふてくれるなと仰有るのなら、モウ之から言ひませぬ。さうすると、お前さまの日出神さまも可いかげんなものぢや厶いませぬか。誰が阿呆らしい、乙姫の生宮と思へばこそ、住なれた自転倒島を立つて、コンナ他国で、不自由な生活を辛抱してゐるのですよ』 ヤクは鼻息あらく、 ヤク『もしもし乙姫さま、否お花さまにしておきませう。コンナ糞婆と縁を切りなさいませ。私がお前さまの参謀長となつて、お寅さまの向方を張り、立派に一旗挙げて御覧にいれませう、私がお花さまの赤心は能う知つてゐます。側から聞いてゐても余り無体な事いふ婆だから、愛相が尽きた。お花さま、可い縁の切時だから、覚悟なさいませ』 お花は、 お花『サア、それでもナア』 と首を傾むけてゐる。 お寅『コリヤ、ヤク、何を横槍入れるのだ。お師匠様が弟子に向かつて意見をしてるのに、ヤクザ人足がゴテゴテいふと云ふ事があるものか、ひつ込んで居なさい、お前の出る幕ぢやない。お前とお花さまと寄つて、妾をあんな目に会はしたのだろがな。チヤンと此処に三人の証拠人が連れて来てあるのだから……』 ヤク『アヽア、分らずや許りの所に居つても仕方が無いワ。お花さま、左様なら、又お目にかかりませう、お寅婆アさま左様なら、守宮別と精々意茶つきなさい。私は私の考へを以て、何処迄もお前さまの目的の妨害をして上げますから、イヒヽヽヽヽ』 と腮をしやくり、そこにあつた箒を一本かたげたまま、尻ひんまくり、何処ともなく駆出して了つた。此奴逃がしてなるものかと、お寅は金切声を張上げ、でつかいお尻をプリンプリンと振廻し乍ら、埃に汚れた雑踏の街を人目も恥ぢず追つかけて行く。お寅はヤツと追付き、首筋を掴まむとするや、ヤクは箒で大道の砂埃をまぜ返し、お寅の顔をポンと撲り乍ら又もや駆け出す、お寅は両眼に土埃を浴び、皺枯声を張上げ、 お寅『オーイオーイ誰でも可いから、其ヤクを掴まへて呉れ』 と叫んでゐる。道行く人は黒山の如くお寅の周囲を取まき、見世物でも見る様に口々に罵り居たりける。 (大正一四・八・一九旧六・三〇於丹後由良秋田別荘松村真澄録) |
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霊界物語 | 65_辰_虎熊山と仙聖郷の物語/七福神 | 総説 | 総説 芸術と宗教とは、兄弟姉妹の如く、親子の如く、夫婦の如きもので、二つ乍ら人心の至情に根底を固め、共に霊最深の要求を充しつつ、人をして神の温懐に立ち遷らしむる、人生の大導師である。地獄的苦悶の生活より、天国浄土の生活に旅立たしむる嚮導者である。故に吾々は左手を芸術に曳かせ、右手を宗教に委ねて、人生の逆旅を楽しく幸多く、辿り行かしめむと欲するのである。矛盾多く憂患繁き人生の旅路をして、宛ら鳥謳ひ花笑ふ楽園の観あらしむるものは、実に此の美はしき姉妹、即ち芸術と宗教の好伴侶を有するが故である。若しも此の二つのものが無かつたならば、如何に淋しく味気なき憂世なるか、想像出来がたきものであらうと思ふ。人生に離れ難き趣味を抱かしむるものは、唯此の二つの姉妹の存在するが故である。 抑も此の二つのものは、共に人生の導師たる点に於ては、相一致して居る。然し乍ら芸術は一向に美の門より、人間を天国に導かむとするもの、宗教は真と善との門より、人間を神の御許に到らしめむとする点に於て、少しく其立場に相異があるのである。形、色、声、香など云ふ自然美の媒介を用ゐて、吾人をして天国の得ならぬ風光を偲ばしむるものは芸術である。宗教は即ち然らず、霊性内観の一種神秘的なる洞察力に由りて、直ちに人をして神の生命に接触せしむるものである。故に必ずしも顕象界の事相を媒介と為さず、所謂神智、霊覚、交感、孚応の一境に在つて、目未だ見ず耳未だ聞かず、人の心未だ想はざる、霊界の真相を捕捉せしめむとするのは、宗教本来の面目である。芸術の対象は美そのものであり、而も美は神の姿にして、其心では無い。其衣であつて、其身体では無い。『神は霊なれば之を拝するものも亦、霊と真とを以て之を拝すべし』と云つたキリストの言葉は万古不易の断案である。美を対象とする芸術は、能く人をして神の御姿を打ち眺めしむる事を得るも、未だ以て其心を知り、其霊と交はり、神と共にあり、神と共に動き、神と共に活る、の妙境に達せしむることは出来得ない。譬ば僅かに神の裳裾に触らしめる事は出来得るも、其温き胸に抱かれ、其生命の動悸に触れしむる事は、到底望まれない。芸術の極致は、自然美の賞翫悦楽により、現実界の制縛を脱離して、恍として吾を忘るるの一境にあるのである。それ故、その悦楽はホンの一時的で、永久的のものでは無いのである。其悠遊の世界は、想像の世界に止まつて、現実の活動世界でなく、一切の労力と奮闘とを放れたる夢幻界の悦楽に没入して、陶然として酔へるが如きは、即ち是れ審美的状態の真相である。若しそれ宗教の極致に至つては、遥に之れとは超越せるものがある。宗教的生活の渇仰憧憬して已まざる所のものは、自然美の悦楽では無く、精神美の実現である。その憧憬の対象は形体美ではなくて人格美である。神の衷に存する真と善とを吾身に体現して、永遠無窮に神と共に活き、神と共に動かむと欲する、霊的活動の向上発展は、即ち是れ宗教的生活の真相であらうと思ふ。芸術家が、美の賞翫もしくは創造に依つて、一時人生の憂苦を忘るるが如き、軽薄なものでは無い。飽迄も現実世界を聖化し、自我の霊能を発揮して、清く気高き人格優美を、吾と吾身に活現せなくては止まないのが即ち宗教家の日夜不断の努力奮闘であり、向上精進である。宗教家の悦楽は、単に神の美はしき御姿を拝する而已でなく、其聖善の美と合体し、契合し、融化せむと欲して進み行く途上の、向上的努力にあるのである。死せるカンバスや冷たき大理石を材料とせず、活ける温かき自己の霊性を材料として、神の御姿を吾が霊魂中に認めむとする、偉大なる真の芸術家である。故に宗教家の悦楽は、時々刻々一歩々々神の栄光に近づきつつ進み行く、永久の活動その物である。故にその生命のあらむ限りは、その悦楽は常住不変のもので、其慰安も亦空想の世界より来るに非ず。最も真実なる神の実在の世界より来るものである。 『我与ふる平安は、世の与ふる所の如きに非ず。爾曹心に憂ふる勿れ、又懼るる勿れ』とは正しく這般の消息を伝ふるものである。美の理想を実現するには、先づ美の源泉を探らねばならぬ。其源泉に到着し、之と共に活き、之と共に動くのでなければ実現するものでは無い。而して其実現たるや、現代人の所謂芸術の如く、形体の上に現はるる一時的の悦楽に非ず、内面的にその人格の上に、その生活の上に活現せなくてはならないのである。真の芸術なるものは生命あり、活力あり、永遠無窮の悦楽あるものでなくてはならぬ。瑞月はかつて芸術は宗教の母なりと謂つた事がある。併し其芸術とは、今日の社会に行はるる如きものを謂つたのでは無い。造化の偉大なる力に依りて造られたる、天地間の森羅万象は、何れも皆神の芸術的産物である。此の大芸術者、即ち造物主の内面的真態に触れ、神と共に悦楽し、神と共に生き、神と共に動かむとするのが、真の宗教でなければならぬ。瑞月が霊界物語を口述したのも、真の芸術と宗教とを一致せしめ、以て両者共に完全なる生命を与へて、以て天下の同胞をして、真の天国に永久に楽しく遊ばしめむとするの微意より出たものである。そして宗教と芸術とは、双方一致すべき運命の途にある事を覚り、本書を出版するに至つたのである。 大正十二年七月十七日 |
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霊界物語 | 65_辰_虎熊山と仙聖郷の物語/七福神 | 02 古峽の山 | 第二章古峡の山〔一六五八〕 今雲を出でた虎熊山の頂は、夏ながら雪に覆はれて、その上に立つ噴火の煙は、青味を帯びた黄土色をして、南へ南へと靡いてゐる。 道はトロトロ上りになつて、萱野の音淋しく、昔のバラモンの関所跡の門柱が、二本倒れかかつて悲しげに仰天してゐる。あたりの森林の景色は木の色や草の色、山々の色迄が、すべて深山的趣きを持つて居る。左右の密林を脱けると、雨にやつるる音と風に並みふす音許りで、人の丈よりも高い萱草の、中の右も左も雲許り、足に任して登りつつ細谷川を渡つて行く七人は、云はずと知れた治道居士の一行である。治道居士は例の法螺貝を吹き乍ら山野の邪気を清めつつ、密林の中の山径を登り行く。行く手に当つて二人のトランスが又もや路傍の石に腰打掛け、何か雑談に耽つて居る。 甲『オイ、タール、詮らぬぢやないか。バラモン軍に従つて、斎苑の館の征服に行く途中、鬼春別将軍が俄に心機一転し、軍隊を解散さしたものだから、俺等も生れてから、やつた事もないトランスとなり下り、住み馴し故郷に帰る訳にも行かず、セールの親分に従つて、あてどもない鳥を探して日々過ごすのは本当に気が利かぬぢやないか。俺アもう、いい加減に機会を考へて故国へ帰り、何とかして生計を立て、理想の生活を、自分の故郷に於て営んで見たいと思ふが、お前はどう思ふか』 タール『馬鹿な事を云ふな。何処で死なうと、構はぬぢやないか。凡て此天地は吾々の故郷だ。貴様の様に故郷と云つたら、自分の生れた土地許りだと思つてゐるのは、未だ真の故郷を知らぬものだ。自分の生れた故郷は只此世の旅の一夜の宿りのやうなものだ。それだから海で死ぬるもよし、山野に於て死ぬるのもよし、河で死ぬるも都で死ぬるも、田舎で死ぬるも、また、旅に出て並木の肥料になるのもいいぢやないか。天に日月星辰を宿し、地に万物を載する所、行くとして己が故郷に非ざるはなしだ。それだから此の天と地との間は、何んな処に於いて暮すも、睡るも、死ぬるも差支はない。人間が斯く悟つた以上は、別に生れた所が恋しいの、命が惜しいのと云ふ道理が無いぢやないか。何国何郡何村の何某の先祖も、元々其土地から水のやうに湧き出で、菌や筍の様に土の中から、もぐり出たものぢやあるまい。矢張外から移住して来て、其土地を開いたのぢやないか。俺達の先祖にして已に然りとすれば、その子孫たるものは何ぞ奮つて祖先の行動を採らざるやだ。見ず知らずの新しき国に至り、新しき土地を墾いて新しい村を作るも、トランス団を組織するも皆人間の自由ぢやないか。人間たるもの、ここに至つて初めて、其面目を発揮せりと云ふべしだ。一竿飄然として狐舟に棹す、又甚だ快ならずやだ。然るを何万何千噸の汽船に乗つて一度その土地を離れむとする時、数千百の蚯蚓のやうな小胆者は、別れを惜んで涙を振つてゐるが、実に吾人の、之は恥辱ではあるまいか。同じ月の国の此土地に於て活動し乍ら、故郷を恋しがるとは、甚だ以て醜の醜たるものではないか。此地を去つて彼地に至り、隣を去つて隣に至る。何ぞ離別を惜み、心身を痛むるの愚を要せむやだ。貴様の如きは鈍根愚痴、醜態も、ここに至つて真に極まれりと云ふべしだ。あまり腹の中が見え透いて、俺ヤ可笑しうなつて来たわい。些と確りせないか、そんな事でトランス商売が勤まらうかい。一波来りて一波去り、万波来つて万波去る。之海洋万里の状態だ。激浪も怒濤ももうこれ通常事だ。徒に真の故郷を解せない貴様の如きは、無暗に故郷に遠ざかるのを恐れ、顔色まで蒼白色に変じ、胸を焦す小魂小胆者だ。終には病気を起して縮み上り、身動きも出来ぬ、憐むべき代物だよ。千里の山野を渉つて腸を絞り、一村落の花園に快哉を叫ぶ腰抜け者の如きは、到底人生を語るに足らぬものだ。小さき寒村に、営々として田畑を耕し、田の草取りに日を暮す人間、よろしく寒山氷地、広袤漠々の野に家を築いて以て一大帝国をなして、天地経綸の司宰者たる本分を尽すが、男子たるものの勤むべき所だ。此天地は真に吾々の故郷だ。一夜の宿に等しき産土の地を出でては、再び古巣に帰り、家を求むる如き卑屈の事は為るものではない。之が今日の人間の世に処すべき要訣だ』 エム『お前の弁舌も一応尤もだが、併し乍ら産土の土地を恋しがらないものが、何処にあらうか。生れ故郷を忘れるやうな奴は遂には国を忘れ、仁義道徳を忘却し、妻子に対して不仁となり、祖先に対して不孝の罪を重ぬるものだ。望郷の念に駆られざるものは、もはや人間の霊性を忘却した人面獣心ぢやないか』 タール『アハヽヽヽ、人の財物を掠めるトランスと成り乍ら、仁義道徳も、孝、不孝もあつたものかい。此社会へ這入つた以上は善悪、倫常、孝悌などに超越せなくちや到底発達は遂げられないぞ。俺だつて生れつきの悪人ぢやないから、善悪正邪の区別位知つてゐる。併し乍ら俗に云ふ通り、勝てば官軍敗くれば賊だ。俺だつてトランス様で一生を終らうとは思はない。何とかいい機会があれば世間の所謂善に立帰り、虚礼虚偽の生活を送つて世間に謡はれ度いのは山々だ。其の材料を集むるために好きでもないトランスをしてるのだ……。まだ吾々は仁義道徳を称へる丈の余地が無い。そこ迄物質的の準備も無く、世間を詐る偽善の権化となつて威張る所へは行かないのだ。今の間は何よりも商売の発達を考へるのが安全第一だ。金さへ有れば愚者も賢者となり、無学者も学者と成り、悪人も善人となり、蝿虫野郎も有力者と云はれるのだからな。貴様も一つ改心してトランス学の研究に一意専心没頭するのだな』 エム『トランス学の研究も随分苦しいものだな。南無バラモン大自在天、守り給へ幸へ給へ。 霜おく野辺の夜は更て 身を裂る許りの寒風に 御空の月は清く震ふ 喧々轟々の声 彼方此方より響き来る 世は何となく物騒がし 秋の紅葉の凩に 脆くも散りて 囀る鳥の声ひそむ あゝ荒れ果てし山野の景色 小夜ふけて峰の松風 庵を叩く 夕日の影は暗くして バラモン男子の意気消沈す 守らせ給へ自在天 大国彦の大御神 あゝ苦しいせつろしい こんな浮世に何として 私は生れて来ただらう』 タール『こりやエム、何と云ふ卑劣の歌を謳ふのだ。夏の真盛りに冬だの凩だのと、そんな淋しい事を云ふない。バラモン兵士であり乍ら、意気が萎むの何のつて、泣声を並べやがつて、あゝ俺も何だか浮世が嫌になつて来たわい。水は方円の器に随ひ、人は善悪の友によると云ふからな。お前のやうな悪の破産者と一緒に働いてゐると、どうやら俺も世の中の無常を感じて、社会の所謂善の道へ堕落しさうだ。ヤア法螺貝の声が聞えて来たぞ。オイ此奴アどこともなしに権威のある声ぢやないか。サアここで一つ確り、トランスの秘術を尽し、うまく、あれを岩窟に引込まねばなるまいぞ。サア此処で善だとか正義だとか云ふ名詞は抹殺するのだ』 と俄に空元気を出してゐる。 治道居士を先頭に、六人の改心組は密林の小径を辿つて漸く両人の前に現はれた。 タール『オイ、ヤク、エール、そのお方は何処へおいでになるのだ』 ヤク『此方は勿体なくも鬼春別将軍様だ。俺等やお前等がトランスに堕落して居るのを改心さしてやらうと云つて、今、結構な御説教を聞かして下さつたのだ。そしてセールの親分に誠の教を聞かせて改心をさせてやらねばならぬと云つて、俺等に案内を命じ遊ばしたのだから、貴様もいい加減に改心したがよからう。トランスなんて詮らぬからな』 タールは心の中にて、 「いや、いい鳥が引掛つた。鬼春別将軍は今あゝして比丘になつてゐるものの、元が元だから、一万両や、二万両の金は持つてるに違ひない。一つ改心したと見せかけ、うまく岩窟に引張り行かう……エール、ヤクの奴、仲々偉いわい。岩窟の中に引込み、否応云はさず、ボツタくる所存だな。俺も一つ帰順と見せかけ、一つ岩窟へ案内してやらう」 と故意と空涙を流し、 タール『これはこれは鬼春別将軍様で厶いましたか、お久しう厶います。私も、こんなトランスはし度くありませぬが、貴方から頂いたお手当金は、心の悪魔に皆使はれて了ひ、今は止むを得ずセールの世話になり、虎熊山の岩窟にトランスの乾児となつて居ります。然し貴方様が、そんな姿とお成り遊ばし、世界をお歩き遊ばすのを見て、懺悔の心が湧きました。只今限り私も改心致しますから、何卒岩窟にお越し下さいまして、セールの大親分を説き伏せ、善道へ復るやう御取計らひ下さいませ』 エム『将軍様、何分宜しくお願致します』 とエムは本当に涙を流してゐる。治道居士はタールの心の中からの改心でない、自分をたばかる為だ、とは直覚して居たが、兎も角岩窟の中に無事に到着して、セール、ハールの巨頭を改心させむと決心し、ワザとタールの言葉を信ずるものの如く装ひ、 治道『やア、それは何より結構だ。俺もお前の言葉を聞いて感謝に堪へない。サア案内して呉れ』 タール『ハイ、承知致しました。勝手覚えし此山道、近道も知つて居りますれば、お伴をさして貰ひませう』 エム『もしもし、治道居士様、何卒私を貴方のお弟子となし、どこかへ連れて行つて下さいませ。セール、ハールの大将を初め、此タールだつて到底改心の見込はありませぬ。あんな事云つて計略にかけて懐のものを盗らうと云ふ企みで厶いますよ』 タール『コリヤ、エム、何と云ふ事を吐すのだ。俺の心が貴様に分らうかい。仮令セール、ハールが悪人でも、もとの主人たる将軍様が、斯うなつて衆生済度にお歩き遊ばす姿を拝んだならば、屹度改心をなさるにきまつてる……。味方の裏切りする奴がどこにあるかい』 と小声で窘める。エムは大声を張り上げ乍ら、 エム『もし治道様、御一同様、険呑ですから御用心なさいませ。私は之にてお暇します。岩窟へでも帰らうものなら、私の今云つた言葉を大将に告げ、どんな目に合はすかも知れませぬから、貴方も何処へ逃げて下さい。さア早く早く、お逃げなさい』 と云ひ捨て、雲を霞と森林の中へ姿を隠した。 タール『ハヽヽヽ疑の深い奴だな。セールの親分だつて、元は真人間だ。治道居士様の懇篤な説示によつて改心するにきまつてる。此悪人の俺でさへも、将軍様のお姿を拝んだ丈けで、感涙に咽び、最はや悪魔は逃げ去つたのだもの、もし将軍様、何卒エムの云ふた事を信用遊ばさず、私が案内しますから、何卒岩窟へお越し下さいませ。さア、ヤク、エール、貴様は将軍様のお後からお伴し、随分抜かりなく用心して上るのだぞ』 と小声にて囁く。ヤク、エールは黙然としてニタリと笑ふ。 治道『アハヽヽヽ、随分人生と云ふものは面白いものだな。仮令悪魔に謀られようとも命を取られようとも、天に任した吾が身魂、何の恐るる事があらうぞ。之でも昔は三軍を叱咤した勇将だ。オイ、タール、心遣ひは無用だ。サア早く案内して呉れ。 虎熊の山は如何程峻しとも 安く上らむ神のまにまに。 セール、ハール、醜の司を言向けて 神の大道に靡かせて見む。 仰ぎ見れば山の尾の上は黒雲に 包まれにけり晴らしてや見む』 タール『サア御案内致しませう。之から段々坂が峻しくなりますから、足許に気をつけてお上り下さいませ。然らば私が先導致しませう』 と胸に一物、心に二物、罪の重荷を背負ひつつ、喘ぎ喘ぎ上り行く。 (大正一二・七・一五旧六・二於祥雲閣北村隆光録) (昭和一〇・六・一六王仁校正) |
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霊界物語 | 65_辰_虎熊山と仙聖郷の物語/七福神 | 04 不聞銃 | 第四章不聞銃〔一六六〇〕 虎熊山は昼夜の区別なく盛んに噴火してゐる。そして時々鳴動を始め、地の震ふ事も日に三四回はあつた。セール、ハールの両人は旅人を、乾児に命じて甘く此岩窟に引ずり込ませ、赤裸にしては四肢五体を解き、此噴火口に放り込み焼いて了ふのを例としてゐた。セールは夜が明けてフト目をさました時は既に酔は醒めてゐた。併し乍ら昨夜ハールに突当り、ハールは九死一生の場合になつてゐた事を思ひ出し、もしや蘇生しよつたら大変だから、今の内に片付けて了はむと、自ら抜身を提げてうす暗い牢獄の前に行つてみると、ハールの姿は影も形もなくなつてゐた。其実ハールはセールの酒に酔うての独言を聞いて「此奴ア大変だ。かやうな所に居つては何時自分の命が亡くなるか知れぬ」と、頭に繃帯をし杖をついて夜陰に紛れ、此岩窟を脱け出して了つたのである。 セールは二人の女の牢獄の前に只一人進みより、顔色を和らげて猫撫声をし乍ら、牢獄の扉を自ら開き、髯武者武者の顔にも似ず、 セール『ウン、お前は淑女のデビス姫さまであつたか、ホンに苦労をしただらうな。何分ハールの奴、罪もないお前たちを拐かし、かやうな残酷な事を仕やがつて、俺も可哀相で、何うとかして助けてやりたいと朝夕心を砕いてをつたが、何しろ彼奴は柔道百段の強者だから、俺が大将となつてゐるものの、其実権はハールが握つて居るのだから仕方がなかつた。昨夜は計らずもお前の仇をうつてやつたのだから、云はばお前の命の親だ、どうだ嬉しいか。ブラヷーダといふ女も可哀相だが、彼奴ア何だかハールの奴と甘つたるい事を云つてゐやがつたやうだから、ひよつとしたら情意投合でもやつたかも知れない。何分青白い瓜実顔だから……それで先づ彼奴は後廻しとして、最も愛するお前の方から助けてやらう。どうぢや嬉しいか。さぞ嬉しいだらうの』 デビス『御親切は有難う厶いますが、余り嬉しうは思ひませぬ。何だかあなたのお面が怖ろしうなつて来ましたもの』 セール『ソリヤお前取違ひといふものだ。ハールの様な、女か男か分らぬやうな優しい面してゐる奴に、人を殺したり、大泥棒のあるものだ。俺のやうな髯武者武者の黒い面してゐるものは却つて心が美しいものだよ。サア、そんな事を言はずに、お前の命の親だから、とつとと出たが可からうぞ』 デビス『妾はここを出るのは厭で厶います。万劫末代永久に岩窟姫神となつて、虎熊山の主になりますから、どうぞ、そんなせうもない事を云はないでおいて下さいませ。それよりも一時も早く妾の命を奪つて貰へば満足で厶います。かやうな所から引出され、あなたの弄物になるよりも、此儘死んだ方がいくらマシだか知れませぬワ』 セール『これは又、悪い了見と申すもの、命あつての物種だ。そんな分らぬ事をいはずに、俺の云ふ事を聞いたら何うだ。又面白い事や嬉しい事が、タツプリと見られるかも知れないぞや』 隣の間よりブラヷーダは細い声で、 『姉さま、デビス姫様、出ちや可けませぬよ。獅子の餌食になるよりも、自由自在にここから天国へ行かうぢやありませぬか』 デビス『あゝブラヷーダ様、あなたも其お考へですか、そんなら両人共永久に此岩窟に鎮まることに致しませう。私は岩窟姫になりますから、あなたはお年が若いから木花咲耶姫にお成り遊ばせ。そして私は世界人民の寿命を守り、あなたは世界の平和を守る神とおなり遊ばせ。それが本望ですワ』 ブラ『さう致しませう。決して出ちや可けませぬよ』 セール『オオ、きつい事同盟したものだな。コリヤコリヤ両人、二人一緒に出してやるから、両人仲よく一ぺん面会する気はないか』 ブラ『私も一度姉さまの顔がみたいから、厭だけれ共、お前さまの願ひを許して、出てあげまほうかな』 セール『エーエ、仕方のない姫御前だなア』 と云ひ乍らガタリガタリと両方の牢獄の戸を捻ぢ開けた。二人は飛立つ許り喜んで、牢獄を立出で、互に抱きついて嬉し涙にくれてゐる。 ブラ『姉さま逢ひたう厶いました』 デビス『ブラヷーダさま、お顔が見たう厶いましたよ』 と絡ついてゐる。 セールは之を見て、ワザと高笑ひ、 『アツハヽヽヽ、先づ先づ目出たい目出たい。天の岩戸が開けたやうだ。あな面白し、あなさやけ、おけ。アテーナの女神様が、セールの七五三縄によつて、再び世にお出ましになつたのか、暗澹たる天地も茲に六合晴れ渡り、光明遍照十方世界の光景となつて来た。謂ば此セールは天の手力男の神さま同様だ。サアお二人の姫神様、私の居間へお出で下さりませ。之から賑しく、男女三人が御神楽を奏げませう』 両人は目と目を見合はせ乍ら……此奴に酒を呑ませ、操つてやらうと思ひ、セールの居間に進んでゆく。セールは満面に得意の色をあらはし、 セール『あゝどうも男一人に女二人は都合の悪い者だ。何とか一人の姫様に別室に控へて貰ふ訳には行くまいかな』 ブラ『姉さま、厭ですワネ、私とあなたとは神さまから結んで下さつたフラチーノですものね。之から二人が同盟して、セールさまを一つ包囲攻撃せうぢやありませぬか、砲弾の用意は出来ましたかな』 デビス『新式の三千彦砲も厶いますなり、極堅牢な肱鉄砲不聞銃も所持致して居りますわ、ホヽヽヽ』 ブラ『妾だつて、最新式の伊太彦砲やエッパッパ銃に、セール親分の恋は何うしても不聞銃を沢山に用意して居りますから大丈夫ですよ。モシ泥棒の親分様、あなたの方にも戦備は整つて居りますかな』 セール『調つて居らいでかい。すべて此世の中は言向和すのが神の教だ。刀剣を鋤鍬に替へ、大砲を言霊に代へ、爆弾の音を音楽に変へて、世界万民を悦服させるバラモン教の元大尉だから、モウ泥棒の名称は、女将軍殿に返上する。おれは音楽の王たる三味線はフエムーロに挟んでゐる、一寸弾じてみると、チンチンチンと味はひ良くなるのだ。随分可い音色がするぞ。何と云つても金で面を張つた一番上等の○○紫檀の棹だからなア』 デビス『ソリヤ違ひませう。あなたのはツンツンと浄瑠璃三味線のやうな音がするでせう。何と云つても、特製の太棹ですからね。ホヽヽヽ』 セール『アハヽヽヽそんなら一つ太棹の音を聞いて貰はうかな』 ブラ『姉さま、太棹も細棹も聞きたくありませぬね』 セール『そんなら太鼓のブチにせうか。それが嫌なら尺八は何うだ』 デビス『オホヽヽ。すかぬたらしい。あのマアデレた面ワイの、モシモシ親分さま、涎が流れますよ。アタみつともない。牛の様ですワ』 セール『エー、時に、冗談はぬきにして、お前に直接談判がある。キツト聞いてくれるだらうな』 デビス『ソリヤあなたのお言ですもの、聞きますとも、其為に耳があるのですもの』 セール『イヤ、其奴ア有難い。キツと聞いてくれるな。間違ひはないなア』 デビス『キツと聞きます』 ブラ『ソリヤあなたのお言は、聞かねばなりませぬもの』 セールは面の紐を解き乍ら、さも嬉しげに、 セール『ハツハヽヽヽ、イヤ、之で何もかも万事解決だ。矢張り女は女だ。ソレぢや今露骨にいふが、デビス、お前は今日只今より拙者が宿の妻、またブラヷーダは第二夫人として採用するから、さう心得たが可からうぞ。イヒヽヽヽ』 デビス『アレまあ、何事かと思へば、好かぬたらしい、誰があなた方の妻になつたりしませうか。ねえブラヷーダさま』 ブラ『さうです共、貞女両夫に見えずといひますから、何程男前が好くつても、金持でも、吾夫より外に身を任すことア、出来ませぬワ、ましてこんな鬼のやうなしやつ面した盗賊の親分に身を任してたまりませうかねえ』 セールは、不機嫌な顔して、 セール『コリヤ女、俺を嘲弄致すのか、今、何でも聞くと云つたぢやないか』 デビス『お約束通り聞いたぢやありませぬか。聞いたればこそ、応答してるのですよ。あなたのお言葉を採用する、せぬは、私たち両人の自由ですもの、天女の様な美人に対し、恋慕するとは、チツト分に過ぎとるぢやありませぬか。あなたの御面相とチと御相談なさいませ。あのマア怖い面……。一石の米が百両するやうな面付だワ』 セール『エー、仕方のない奴だ。最早堪忍袋の緒が切れた。恋の叶はぬ意趣返し、再び牢獄へ打ち込んで嬲り殺しにしてやらう………。ヤアヤア乾児共、此女両人を引捉へ、牢獄へ打ち込め』 と怒り狂うて牢獄内がわれる程呶鳴立てた。声の下より七八人の乾児はバラバラと入り来り、矢庭に両人の手を取り足を取り、エツサエツサとかき込んで、旧の牢獄へブチ込んで了つた。あとにセールは吐息をつき、 「あゝ恋許りは暴力でも、金力でも、脅迫でも、絶対権威でも可かぬものだなア。併し乍ら、一旦男が言出した事、此儘にしては、何だか吾れと吾心に恥かしい。水責火責に会はしても、こちらの心に従はさねば、親分の権威にも関係する。大勢の子分を使ふ身で居乍ら、かよわい女二人位を自由にする事が出来ないでは、最早おれも駄目だ。ヨーシ、一つ之は食責に会はすが一番だ。獅子でも虎でも狼でも食物で責さへすれば、人間の云ふ事を聞く。コリヤ食責めに限る」 と独言を云つて居る。そこへ慌ただしく帰つて来たのは、乾児のタールであつた。 タール『モシモシ親方様、今よい鳥を見つけて参りました』 セール『何?よい鳥を見つけて来たとは、一体、美人か、金持か、どちらだ』 タール『ハイ、ヤク、エールの両人と腹を合せ、治道居士の一行を巧く引張込んで来ましたが、何う致しませうかな』 セール『治道居士とは、あの鬼春別将軍ではないか。あの男ならば、定めて金は持つてゐるだらうな。中々智勇兼備の勇将だから油断はならぬ。何は兎もあれ、巧くだまし込んで、牢獄へ打込んでおけ』 タール『ハイ、承知致しました。併し乍ら一行五人、其中で四人は盗賊の改心した奴です。治道居士も、岩窟の親分セール大尉を始め、其外一同の奴を、誠の道とか、間男の法とかで、改心さしてやると云つて、強い事を云つて居りますから、どうぞあなた一寸来て下さいませな』 セール『イヤ、おれは何程盗賊の親分でも、一旦主人と仰いだ将軍を、手づから放り込む事は出来ぬ。乾児が全部集まつて、五人の奴を皆ブチ込んで了へ。そして弗々と持物を引たくり、甘く片付けて了うのだ。可いか、キツとぬかるでないぞ』 タール『ハイ承知致しました。そんなら第一の牢獄へ、五人共放り込んで了ひませうか』 セール『ウーン、第一が可からう。水一杯与へちやならぬぞ。そしてヤク、エールの両人はどこに居るのだ』 タール『ハイ、治道居士の両側について居ります』 セール『あゝさうか、ソリヤ可い事をした。始めての功名だ。誉てやらねばなるまい。併し汝と一緒に行つたエムは何うなつたか』 タール『あのエムですか、彼奴ア俄に善の道へ堕落しやがつて、麓の森林で治道居士に道義とか、真理とかを説き聞かされやがつて、涙を流し、尾を振り、首をすくめてどつかへエム散霧消して了ひました。本当に腑甲斐のない奴ですな。まだ彼奴ア盗賊学に達してゐないものですから、たうとうお蔭を落しました。どうも助けやうがないので見遁してやりました』 セール『ヤア、其奴ア大変だ。エムの奴、此団体を逃出し、そこら中へ廻つて喋らうものなら、何時捕手が出て来るか知れたものぢやない。なぜエムをつれて帰らなかつたか、馬鹿な事をしたものだのう』 タール『それでもあなた、此方は三人、向方には豪傑が五人、エムなんかに相手になつて居れば、肝腎の玉を台なしにして了ふと思つて、逐はなかつたので厶います』 セール『仕方がない。既往は咎めぬから、今後は心得たがよからう。サア早く五人の奴を打ち込んで了へ』 タールは逸早く此場を去つて、治道居士以下四人を、第一牢獄へ巧く打ち込んで了つた。治道居士は何か心に期するものの如く、さも愉快気に四人をつれて牢獄へ、何の抵抗もせずもぐり込んだ。ヤク、エールの両人は最早今日では泥棒心を改め、治道居士の味方となつてゐた。されどセールを始めタール其他の盗人連には、一人も之を知るものがなかつた。夫故ヤク、エールは五人の牢番を命ぜらるる事となつたのは、治道居士にとつて非常な便宜であつた。 (大正一二・七・一五旧六・二於祥雲閣松村真澄録) |
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霊界物語 | 65_辰_虎熊山と仙聖郷の物語/七福神 | 22 均霑 | 第二二章均霑〔一六七八〕 虎熊山の俄の爆発に、仙聖山は云ふも更なり、此郷土の山川草木は激烈に震動し、三千彦を除く外、何れも顔色蒼白となり、慄ひ戦いてゐた。熔岩は七八里隔てた此地点まで遠慮会釈もなく降りくるその凄じさ。されど此大きな家にも拘はらず、只の一個も当らなかつたのは神様の御守護と、何れも感謝の念を催すのであつた。流石の猛悪なるテーラも、キングレスも、部下の小盗人も、俄に怖けつき、思はず知らず両手を合せ、一生懸命に祈願し初めた。その声は一時、裏山の谷々の木精を響かした。 スマナー姫『皆さま、恐ろしい事で厶いましたな。あの様な……一時は巨大な熔岩が雨の如くに降つて参りましたが、お神徳によりまして、吾家には只の一つも当らず、又あの地響で家も倒れず、皆さまも無事に命を拾はれしは、全く尊き神様の御守護で厶いませう』 と云ひ乍ら窓を開いて、村落の家々を眺めて見た。然し乍ら黒煙天に漲つて黒白も分らぬ真の暗となつて居た。実際今日は朝早くより何処ともなく薄暗く、何れも夜分と思つてゐたがその実、まだ昼の最中であつたのである。別に村の家々にも火災も起らず、阿鼻叫喚の声もなきに安心の胸を撫でおろし、 スマナー『皆さま、私の家は村中一度に見下ろせる所で厶いますが、村方はあの騒動に火災も起らず、叫びの声も聞えませぬから、一軒も残らず神様のお神徳を頂いたのでせう。サア之から神様に感謝の祭を致しまして、皆さまに直会を頂いて貰ひませう』 三千『いや、それは結構です。此様な大爆発、雨の如く降り来る熔岩が、此広い家に一箇も当らず、村中安全と云ふのは全く不思議です。此れも神様の御神徳でせう。サア青年隊の方々、御苦労乍らお祭の用意を願ひます』 タークは三千彦の言葉に従ひ、青年隊を率ゐ、いろいろ供物の用意をなし、祭典の準備に取りかかつた。漸く祭典の用意は出来た。ここに三千彦、スマナー姫は新しき祭服をつけ、恭しく神前に祝詞を奏上し、祭典も無事に終了した。それより村中の老若男女は此広き家に集まり来り、キングレスの部下も斎場に列し、直会を頂く事となつた。 スマナー姫は嬉しげに宴席の中央に立つて、自から歌ひ自ら舞ふ。 スマナー姫『此処は名に負ふ秘密郷北に仙聖山を控へ 東に虎熊の山聳え立ち白青黄色紫の 花は芳香薫じつつ胡蝶は高く舞ひ遊び 迦陵嚬伽は涼しき声を放ちて神世を謡ふ 実にも尊き仙聖郷の青人草の喜びは 外の国には例なき中国一の瑞祥ぞ 醜の曲津の時を得て一度は荒び狂ひしが 尊き神の御使人三千彦司があれまして 吾家を初め此里の醜の災除かせ玉ひ 今は全く古の神代に帰りし嬉しさよ 仙聖山の峰高く五色の雲の被衣して 雲をば起し雨降らし五日の風や十日の 雨も時をば違へずに降りしく厚き御恵は 仙聖郷の名に負ひし吾住む郷の喜びぞ 勇めよ勇め里人よ踊れよ踊れ皆の人 今日の生日の喜びは外へはやらじ幾千代も つづかせませと大前に祈る吾等が真心を 神は必ずみそなはし清く諾なひ玉ふべし あゝ惟神々々実にも嬉しき人の世の 誠の道を踏みしめて神の教を守るならば 此世に枉の恐れなし妾も尊き足乳根の 親兄弟や背の君に悲しき別れをなせしより 心は曇り胸痛み身も世もあらぬ思ひにて 一度は此世を去らむかと狭き女の心より 思ひ定めて仙聖の山に立ちたる白骨堂 それの御前に平伏して今や果てむとする時しもあれや 名さへ目出度き三千彦の神の司の御恵みに 果敢なき命を救はれて吾家に帰り窺へば 早くも魔の手は内外に拡げられたる恐ろしさ 闇を幸ひ裏口に立ちて様子を覗へば 従兄と名乗るテーラさま捕手と名乗る人々が 青年隊のタークさまインターさまと何事か 争論つつ妾が命死せしとや思ひ玉ひけむ 百千万の心配り感謝の涙にほだされて 三千彦司と諸共に奥の襖を引開けて 其場に立出で言霊をかすかに宣れば人々の 心の暗は晴れ渡り清く尊き惟神 珍の身魂に帰りたるその喜びや如何許り 感謝の言葉もなきまでに妾は喜び泣き入りぬ あゝ惟神々々神の恵みを何処までも 頂きまして直会の此酒宴を快よく 聞し召されと宣り奉る朝日は照るとも曇るとも 月落ち星は失するとも虎熊山は割るるとも 神に任せし人の身はいかで恐れむ今目の辺り 神の恵を蒙りて笑み栄えたる嬉しさよ あゝ惟神々々神の御前に慎みて 畏み感謝し奉る』 三千彦『諸々の罪や穢を払はむと 爆発しけむ虎熊の山。 虎熊の峰に潜みし枉神も 今は全く逃げ失せにけむ。 仙聖の清けき郷に来て見れば 思ひがけなき事のみぞ聞く。 スマナーの姫の命の真心を 愛玉ひなむ天地の神は。 インターやタークの君の真心に バータラの家は栄え行かなむ』 ターク『思ひきや魔神の猛る此郷に 神の使の来りますとは。 傾きし家の柱を立直す 君は誠の三千彦司よ』 インター『村肝の心の暗は晴れにけり バータラの家の雲を払ひて。 昼さへも暗くなりぬる今日の空 明かさむ為か爆発の声。 吾胸に潜む枉津も逃げ失せぬ かの爆発の強き響に。 獅子熊も虎狼も戦きて 鎮まりにけむ爆発の声に』 三千彦『何事も皆皇神の御心ぞ 仰ぎ敬へ神の御子達。 産土の山を立ち出し師の君の 御身如何にと思ひ煩ふ。 さり乍ら吾師の君は神人よ いと平らけく安くましまさむ』 スマナーは三千彦に盃をさし乍ら、 スマナー『もし宣伝使様、妾の今後の身の振り方に就いては、如何致したら宜しう厶いませうか。何卒お示しを願ひたう厶います』 三千『私が斯うなさいませ……とお指図は致しませぬが、貴女のお心にお感じなされた最善の方法を以ておやりなされたら如何でせう』 スマナー『はい、有難う厶います。左様ならば貴方のお蔭で命のない処を救はれ、又こうして沢山の方も誠の道へ立帰つて下さつたので厶いますから、妾はこれに越した喜びは厶いませぬ。山林も田畑も宝も何も要りませぬ。妾は此家に三五教の神様やウラルの神様をお祀り致し、祖先や、夫の菩提を弔ひ、比丘尼となつて、一生を送りたう厶いますが、如何で厶いませうな』 三千『成程、それは誠に殊勝なお考へです。三千彦、双手を挙げて賛成致します』 スマナー『早速の御承知、有難う存じます。就きましては妾の家は先祖代々の……此界隈での富豪で厶いまするが、もはや比丘尼となつて神様にお仕へする以上は、財産なんか、必要は認めませぬ。何卒バータラ家の財産全部を、社会公共の為に捧げ度いと存じますが、如何で厶いませうか』 三千『それは至極結構です。定めて村人もお喜びになるでせう』 スマナー『全財産を四つに分け、その一部をエルサレムの宮に献じ、一部を神館の維持費に当て、残りの二部を村人に寄贈致しましたら如何で厶いませうかな』 三千『それは至極よいお考へです。さうなさいませ。然し乍ら今ここに改心をせられたキングレス、外十数人の方々は、いま泥棒をお廃めになつた処で、百姓するにも田畑はなし、商売をするにも資本もないと云ふ場合ですから、此方々にも少しなりと山林なり田畑なりお与へになり、農業をおさせになつたら如何で厶いませうか』 スマナー『はい、どうも有難う厶います。キングレス様其外の方々が御承知さへ下されば此村に居つて貰つて正業に就いて貰ひませう』 三千『キングレス様、其他の方々、今スマナー様が貴方等に相当の財産を分配したいと仰有るがどうで厶いませう。改心なさつた以上は、此仙聖郷に於て農業を営み、安全なる生活を送られたら宜からうと思ひますが、貴方のお考へは如何で厶いますか』 キングレスは落涙し乍ら両手をつき、 キング『ハイ、重々の罪を赦された上、夢だにも見る事の出来ないやうな御恵み、あまりの事で、勿体なうて返す言葉も厶いませぬ。何分にも宜しく御願申します』 三千『あ、それは結構々々。これ、スマナー様、これで財産の処分が略落着しました。貴女もこれから重荷が下りたやうなものだから、此家を修繕して神様の御舎となして里人を善に導き善根をお積みなさいませ。私も貴女に会つて思はぬ御用をさして頂きました。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と天に向つて合掌し嬉し涙にくれてゐる。 三千『世の中に醜の枉津はなけれども 只心より湧き出づるかな。 身の内に枉さへなくば獅子熊も 虎狼も物の数かは。 誠ほど世に恐るべき物はなし 鬼も大蛇も逃げ失せて行く。 バラモンの神の教を振捨てて 今日は誠の三千彦となる』 スマナー姫『玉の緒の命危き折節に 待てよとかかる玉の御声。 三千彦の君の現はれ来まさずば 吾は霊界の人なりしならむ。 テーラの醜の言葉に怖ぢ恐れ 死なむとせしぞ愚なりけり。 さり乍らテーラの君のあらばこそ 此喜びの来りしならむ。 世の中に悪きものとて無かるべし 只吾心暗き故なり。 村肝の心の空に雲なくば 月日も清く身を照らすらむ』 ターク『仙聖の郷も今日より古の 花咲き匂ふ園となるらむ。 三千彦の神の司の御恵みに 吾里人は甦りつつ。 スマナーの比丘尼の君によく仕へ 朝な夕なに道を守らむ』 インター『吾とても比丘尼の君の真心の 雨にぬれつつ忍び音に泣きぬ。 嬉しさの涙は胸に充ち溢れ 身も浮く許り勇み立つかな』 キングレス『枉事のあらむ限りを尽したる 吾にも神の恵み賜ひぬ。 虎熊の山に悪事を企らみつ 今もありせば亡びしならむ。 此郷に現はれ来り爆発の なやみ逃れし事の嬉しき』 テーラはノソリノソリと足を痛めて此場に這ひ来り、庭の土間に犬突這となつて、 テーラ『枉神の醜の限りを尽したる 吾今よりは悔い改めなむ。 百人よ吾罪科を赦せかし 村の僕となりて仕へむ』 愈ここにバータラ家の遺産は、スマナーの意志に従ひそれぞれ分配されて、上下貧富の区別なく、郷民は互に業を楽しみ近隣相和し、和気靄々として世を送る事となつた。三千彦は宣伝の旅が急くので、永く留まる訳にも行かず、二三日逗留して里人に神の教を伝へ、タークを館の留守居と頼み置き、スマナーはエルサレムへ参拝せむと、三千彦の許しなければ、見え隠れに後を慕ふて進み行く事となつた。 (大正一二・七・一七旧六・四於祥雲閣北村隆光録) |
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霊界物語 | 66_巳_オーラ山の山賊 | 03 酒浮気 | 第三章酒浮気〔一六八五〕 タライの村の里庄ジャンクの家の表門には、甲乙二人の門番が胡坐をかいて雑談に耽つて居た。 甲(アンコ)『オイ、バンコ、どうも此頃位怪体な時候はないぢやないか。朝も早くから日の丸様がカンカンとお照りなさるかと思へば、直様西の方から黒雲がやつて来て日の丸を呑んで了ひ、お月様が照るかと思へば、雲に呑まれ、この暑い国も底冷たい風が吹き何とはなしに悪魔に襲はれさうな気分で、酒でも飲まなければやりきれぬぢやないか』 バンコ『オイ、アンコ、それは何を云ふのだ。酒どころかい、大事な大事な一人娘のお姫様はお行衛が分らず、ジャンクの旦那様が日々青息吐息で、大自在天様に火物断をし艱難苦労をして御座るのに、其家の子の吾々が安閑と酒を呑むやうな不始末が出来ようか。姫様がお帰りになつたら三日なりと五日なりとお祝の酒を頂かうとままだ。旦那様が火物断をして厶るのに、吾々は結構なお扶持を頂き安閑と門番をさして頂いて居るのぢやないか。勿体ない、冥加に尽きるぞよ』 アンコ『夫れだつて人間はさう悲観斗りするものぢやない。天地の道理を考へて見よ、黒雲は日月を呑み、大蛇は人を呑み、蛇は蛙を呑み、大魚は小魚を呑み、暴君は人の国家を呑み、英雄は天下を呑み、女房は夫を呑み、大工の宝は槌と鑿、人間は酒を呑み、茶を呑み、水を呑み、芸者は人の家倉を呑み、おまけに床の下から這い上つて来て吾々を遠慮会釈もなく噛んで血を啜る奴は蚤だ。それだから門番のみに心力を費し謹慎々々と謹慎のみに日を送つて居るやうな事で、どうして人間様の生命が保たれようか。人間は生活する為に生て居るのぢやないか』 バンコ『馬鹿云ふな、今の人間に生活なんてあるものか。生活と云ふ奴は生々として社会に最善的活動をなし、神の御子として世の為、人の為に愛善の徳に住し、信真の光に浴して、善美なる生涯を送るものを称して生活者と云ふのだ。どいつも、こいつも生活難がどうだの、生命がどうだのと学者振つて吐いて居るが、生命がどこにあるか。何奴も此奴も、機械人形のやうに、ウヨウヨと蠢動して暗黒界に堕落し、虫の息で半死半生の境遇にあり乍ら、新生命だとか何とか云つて居るのが、をかしいわい。生活難ではなくて生存難の事を云ふのだらう』 アンコ『生存難に打ち勝ち半死半生の境涯を脱却しようとして吾々は活動をして居るのだ、それだから生活といふのだ。今日の種々の主義者を見よ彼奴だつて……………、左に傾いているのぢやないか。左に傾くのは酒に限る。それだから左傾(酒)党と云ふのぢや、あゝ酒なるかな、酒は百薬の長だ。万民愛護の神様だ、平和の曙光だ』 バンコ『オイオイアンコ、さう脱線しては困るぢやないか、酒と左傾党とを混同してるぢやないか』 アンコ『定つた事だ。酒に酔うた上に管を巻き、終ひの果には気に入らない嬶の横面をはり倒し、家から追出して新規播直しに愛善の徳に富み、信真の光に満ちた女神様を入れるのが酒の徳だよ。之を称して万民愛の世界改革酒断(手段)と云ふのだ。左傾党だつて同じやうなものだ。古い社会を立替へて新しい平和の社会を立て直さうとするのだから、いづれ一度は酒の酔と同様に、落花狼藉乱離骨敗、矛盾混沌の暗黒界を来さないとも限らない。破壊の為の破壊でなく、建設の為の破壊だよ。さあさうだから僕は仮令主人がどうあらうとも、僕は僕として酒に信頼するのだ』 バンコ『夫れやさうかも知れぬが、避得る限り酒は避たいものだなア』 アンコ『山はさけ海はあせなむ世ありとも 酒に心は離れざりけり。 と云ふ古歌があるだらう。さうだから僕は酒を止める事は出来ないのだ。何奴も此奴もなさけない顔をして忠義面を振廻し、世の潮流に漂ひ、時代の風に吹きまくられて戦慄して居るのだからなア、困つたものだよ。酒の反対は浮けだ、「酒を呑め呑め呑んだら浮けよ」と云ふぢやないか。何程浮け浮け浮いて浮世を暮せと云つたつて瓢箪ぢやあるまいし、酒も呑まずに浮けるものか。左傾即右傾(酒即浮け)なりと云ふ這般の真理を知らない唐変木は、現代の世に処することは出来やせないぞ』 バンコ『オイそんな大きな声で左傾々々と云ふものぢやないわ。此の頃はバラモンのスパイが昼夜の区別なく往来して居るぞ、些し危険の言語は避けたら好からうぞ。大黒主から御発布になつた法律をお前は何と心得て居るか』 アンコ『法律と云ふものは、正邪善悪を蹂躙して立つ、暴君の専政を謳歌する唯一の機関に過ぎないのだ。強者は益々強く弱者は益々弱く、悪徳の蔓延する悪魔の機関だ。今日の法学者だつて奸吏だつてみんな善の仮面を被り、飽迄も悪を遂行しようとして居るのぢやないか。それだから暗黒無明の世界だと云ふのだよ。現代の悲境を救ふのには酒でも呑んで浩然の気を養ひ、恍惚として其心魂は天国の楽園に遊ぶためだ。世の中にこれに増したる救世主があらうか。あゝ酒なるかな酒なるかな。僕は飽迄酒党だ。酒党は即ち浮け党。どうだ、僕の教説が、うけ取れたかな』 バンコ『右確にうけとり不申候だ、アハヽヽヽ。併し貴様は臭いぢやないか』 アンコ『馬鹿云ふな、俺は二十八才だ、壮年の花盛りだよ。正に男子として美の頂点に達した所だ。スガコ姫さまだつて俺にはチヨイ惚れだつたのだからなア。俺もスガコさまのお顔をチヨイチヨイ拝むのが楽しみに、こんな卑しい門番になつたのだ。蛟竜池中に潜むとも、何時迄か池中のものならむや。一朝風雲を得れば天地に蟠つて日月を呑吐する底の神力を有する怪男児だよ』 バンコ『ハヽヽヽヽ、デカタン風のやうに、好くも吹いたものだなア。スガコ姫様に愛して貰はうと思へば門番ぢや気が利かねえ。なぜ貴様の云ふ通り天地に蟠つて風雲を捲き起し、男の中の男と謳はれないのだ。天下一の人気男となつて見たまへ。スガコ姫以上の美人が煩さい程貴様の周囲に集まつて来るやうになるわ。此んな門番位やつて居てスガコ姫様に対し、恋ぢやの愛ぢやの吐すのは片腹痛いわ、アハヽヽヽ。御主人の心も知らず、懐の中に朝から晩迄酒器を隠しやがつて、人の目を盗んでチヨイチヨイと引つかけて居ると云ふケチな根性だから、いつ迄も頭が上らないのだ、ハヽヽヽヽ』 アンコ『これやバンコ、俺の金で俺が呑むのに何が悪い。貴様は俺の先輩ぢや、上役だといつも威張よるが、そんな事で人が使へるか。コセコセと何だい。部下の行動をゴテゴテ云ふやうな事でどうして世が治まるか。吾々は圧迫すりやする程頭を擡げるのだ。反抗と抗議と革命は吾輩の生命だ。チエー貴様もいまのうちに目が覚めないとアンコ主義者の暴動が起り貴様の地位を転覆し、バンコ末代浮かべぬやうになるかも知れないぞ。エーン。懐中に呑んで居た此酒徳利を貴様に看破された以上、もはや何の躊躇が要るものか。焼糞だ、やけ酒だ、言論では追付ない。示威行動だ』 と言ひ乍ら鬼の蕨を固めてバンコの頭を首も飛べよと擲りつけた。バンコはアツと叫んで其場に倒れた。 かかる所へジャンクの家の下僕セールは慌しく走り来り、 セール『オイ、何だ何だ、妙な悲鳴が聞えたぢやないか』 アンコ『アハヽヽヽ、アンコさまが国家安固の為めに、バンコ平和の基礎を作る為め、日頃の主義主張(酒義酒張)の実行と出かけたのだ。ても扨ても脆いものぢやわい、イヒヽヽヽ』 セール『オイ、アンコ、そんな気楽な事を云つて居るどころかい。バンコが人事不省に陥つて居るぢやないか』 アンコ『アハヽヽヽ人事不省に陥るのも天の然らしむる所ぢや。此奴は自分の事ばかり考へて人事を省みないから人事不省に陥つたのだ。其癖人の頭に上つて不正の事ばかりやりやがつて、唯一の吾々の娯楽にして居る酒をどうだの、こうだのと頭から圧迫しやがるものだから酒の霊が聯盟して茲に直接行動となつたのだ、アハヽヽ』 セール『チエツ、酒呑と云ふものは仕方のないものぢやなア。どうれ介抱してやらねばなるまい』 とセールは清らかな湯水を汲み来り、頭部面部の嫌ひなく伊吹の狭霧を吹きかけ、…バラモン自在天救ひたまへ助けたまへ…と流汗淋漓として祈願を籠めた。半時斗りたつとバンコは息吹きかえし、セールに手を引かれ、ヒヨロリヒヨロリと吾居間を指して導かれ行く。 後見送つてアンコは怪しき笑ひを泛べ、 アンコ『チヨツ、エヽ反古の小撚で造つた羅漢のやうな面曝しやがつて、酒がどうのこうのと何だい。又セールもセールだ。闇で蛙を踏み潰したやうな声を出しやがつて、吾輩に意見がましい事を吐きやがつた。ヘン何奴も此奴も古い頭だな。然し俺も、些とは好くないかも知れぬ。あまり直接行動が早やすぎたからなア。併し当家の旦那様もさう云ふもののお気の毒だ。一人よりないお嬢さまは悪漢に夜の間に奪はれ今にお行衛が分らず、其所へ向けてバラモン軍の大将大足別奴、沢山の部下を引きつれ闖入し来り、金銀珠玉を奪ひ取り帰つた後だから、旦那様も御心配なさるのも御無理はあるまい。アヽ思へば思へばお気の毒様だ』 と独り語ちつつ又もや懐から酒徳利を出し、額をピシヤピシヤと右の手で叩き乍ら、左の手で徳利の口を自分の口へ運んで居る。 其所へ慌しく門を潜つて入り来る一人の男があつた。アンコは目敏くこれを見て、 アンコ『オイオイオイ、どこへ行くのだ。此処に門番が厶るぞ。此関所を越えるのにや吾輩の許可を受けねばなるまい。一体貴様の名は何と云ふか』 男(インカ)『ハイ私は隣村の百姓でインカと申ます。ジャンクの旦那様に御報告の為め取急ぎ参りました。何卒お通し下さいませ』 アンコ『ハヽヽヽヽ。お前の名はインカと云ふのか。そんなら門の通過を允可してやらぬでもないが、貴様は右傾党か左傾党か、どちらだ。左傾党なら此酒を飲下して進むのだな』 インカ『イヤ有難う、私は酒の話を聞くとどんな大切な用でも忘れて仕舞ふのです。どうか帰りに呑まして下さい』 アンコ『ナランナラン、人の志を無にすると云ふ事があるか。先づ一ぱいグツと飲下して而して後に君の使命をジャンクの主に報告すれば可いのだ。さうクシヤクシヤと世の中を狭く小さく暮すものぢやないよ。まア一口やりたまへ』 とインカの口許へ突つける。インカは目を細うしてガブガブと音を立て嬉しげに呑み干した。 アンコ『オイ、コラコラ貴様が皆呑んで了つたぢやないか。俺をどうして呉れるのだ』 インカ『誠にすみませぬ、あまり美味しい酒で口を離さうと思つたのですが、副守の奴、空になる迄離して呉れなかつたのです。何卒過ぎ去つた事は大目に見て下さいな』 アンコ『よし、それぢや俺の云ふ事を聞いて呉れるか、聞いてくれりや了見する』 インカ『どんな事で厶いますか、とも角聞かして頂きませう』 アンコ『俺の名はアンコだ。併し乍ら俺の地位は余り安固でない。今バンコに対して蛮行をやつたものだから、どうやら首が飛びさうだ。だから此所をスタコラヨイヤサと三十六計の奥の手を出さうとして居た所だが、此処を出されちや居所に困る。浮浪罪で捕まつては大変だから、暫くお前の家に養つて貰ひたいものだなア』 インカ『何の事かと思へばそんな御用ですか。ヘイ宜しい、私もコマの村の侠客ぢや。男が頼まれちや後には引けませぬ、安心なさい。きつと引き受けますよ』 アンコ『やア有難い、夫で一寸安心した。併し君、慌しうやつて来たのは何の用だ。一寸端緒だけでもよいが、僕に内報して呉れまいか』 インカ『や、実の所は自分の村に大変な騒動が起つたのだ。里庄の悴サンダーさまが当家のお嬢様スガコ様にゾツコン、ラブして厶つた所、お前も知つての通りスガコさまが行衛不明になつたのだ。サンダーさまが失望落胆の為め発狂したと見え、此間から行衛が分らぬのだ。夫が為めに村中は山と云はず谷と云はず広い野原迄、返せ戻せと鉦や太鼓で探して見たのだが、今に行衛が分らぬので許嫁のある当家へ無音信つて居る訳には行かないので、里庄に頼まれ使に来たのだ。自分も沢山の乾児を使つて昼夜兼行で探して居るのだが今にわからないのだよ。実に気毒な事が出来たものだ。夫のみならずバラモン軍が通過の際村中の婦女を誘拐し、村民は大変に困つて居る、何とかして一時も早く所在を探さねば此インカだつて男の顔が立たないのだ』 アンコ『アーさうか、夫れや気の毒だ。俺もお前の兄弟分となつて、一つ捜索隊の御用でも努めようかなア、アハヽヽヽ』 インカ『ヤア、兎も角も奥へ往つて報告を済まして来るから、又後で悠つくり話さうか』 と云ひながら足早にジャンクの館をさしてかけり往く。 かかる所へ宣伝歌を歌ひながら、やつて来たのは照国別の一行五人であつた。アンコが厳重に鎖した門の外に宣伝使一行は立ち乍ら、 照国『お頼み申す、お頼み申す』 アンコ『ナヽ何だ、バラモン教の宣伝使はお断りだ。宣伝使なんかに用はない。トツトと帰つて下さい。当家は心配事が出来て上を下へと大騒動だ。そんな気楽さうな歌を歌つて来る乞食の潜る門ぢやない。トツトと帰んで貰ひませうかい』 梅公『主の神は此家の嘆きを救はむが為に、教の御子をつかはし門外に立たせ給へども、奸悪なる世はこの御使を迎へ入れ救はるる事を知らず、実に憐れむべきの至りだ』 と大声に叱呼した。 タクソン『オイ門番、アンコにバンコ、俺は主人にお気に入りのタクソンさまだぞ。お屋敷の難儀を救ふべく三五教の活神様をお迎へ申て来たのだ。何をグヅグヅして居るか。サア早く開けたり、開けたり』 アンコ『エイ、嬶盗まれのタクソン奴、偉さうに吐しやがる。仕方がない、開けてやらう』 と呟き乍ら、閂を外し、パツと門を開いた。 タクソン『ヤア御苦労、いつも元気な顔をして居るなア、結構々々』 と云ひ乍ら照国別一行を案内し邸内深く進み入る。 (大正一三・一二・一五旧一一・一九於祥雲閣加藤明子録) |
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霊界物語 | 66_巳_オーラ山の山賊 | 04 里庄の悩 | 第四章里庄の悩〔一六八六〕 タライの村の里庄ジャンクは重なる悲運に悄然として奥の間に火物断ちをなし、顔色青ざめ、殆ど此世の人とは見えぬ迄にやつれ乍ら二絃琴を弾じて、心の煩悶苦悩を慰めてゐた。 ジャンク『久方の、空すみ渡り日月の光は清く万有を 照らし玉へど醜神の其勢の猛くして 真澄の空も瞬間に墨を流せし常暗の 淋しき世とはなりにけり地には百草繁茂して 紫紅赤白の目出たき花は遠近と 所狭き迄咲匂ふさながら花の莚をば 布きし如くに見ゆれ共天に叢雲花に嵐 静な波も風吹かば海の底ひも白波の 立髪ふるひ大津辺の岸に噛みつく世の習ひ 天国浄土と頼みてしタライの村の吾家も 世の変遷にもれずして柱と頼む吾妻は 十年の前に病気の身を横たへて幽界に 果敢なき旅をなせしより忘れがたみの一人娘を 家の杖とし力とし這へば立て立てば歩めと朝宵に 心を配り育くみて漸く二九の春迎へ ヤレ嬉しやと思ふ間もなくなく醜の荒風に 吹きまくられて情なくも後に残りし吾独り 天に歎き地に哭し呼べど叫べど行方さへ 空白雲の当もなく無限の涙干もやらず 憂きに苦む吾不運憐れみ玉へ自在天 大国彦の御前に偏に願ひ奉る 此家の柱と頼みてしスガコの姫は今いづこ 雨の夕や霜の朝心痛むる足乳根の 父の心を思ひ出て胸に万斛の涙をば 湛へて苦みゐるならむさは去り乍ら吾娘 如何なる曲に捉はれて苦み悩みあるとても 神の賜ひし玉の緒の命の此世に在る限り 日頃頼みし家の子を四方に遣はし所在をば 尋ね出して老の身の涙にぬれし衣手を 天津御空の日のかげに乾かし喜ぶ事もあらむ それを一途の望みとし老の命を永らへて 味なき月日を送るなり憐み玉へ自在天 仮令天地は失するとも忘れ難きは恩愛の 吾子を思ふ赤心にまさりしものはあらざらむ あゝなつかしやなつかしや夢になり共スガコ姫 恋しき父よと一言の言あげせよや惟神 神の恵の深ければ又も逢瀬の川波の 会うて流るる愛の海救世の舟に救はれて 父の館へイソイソと帰り来ませよ吾は汝の 身魂の幸を祈りつつ朝な夕なに歎くなり あゝ惟神々々神霊の恩頼を願ぎまつる』 かかる折しも玄関番に導かれて隣村の侠客インカが隔ての襖を押しあけ、叮嚀に辞儀をし乍ら、 インカ『エー、旦那様御免下さいませ』 此声にジャンクは琴の手を止めて、涙をかくし乍ら、 ジャンク『ヨー、ア、其方は、音に名高き隣村の侠客インカ親分であつたか、ヨウ、マア来て下さつた。そして御用の筋はどんな事かなア、早く聞かしてもらひたい』 インカ『ハイ、お嬢様の御行方を探し求め、一日も早く旦那様に喜んで頂かうと思ひ、五十人の手下を遠近四方に間くばり、大捜索を致しましたが、今にお所在は分らず面目次第は厶りませぬ。貴方の御心中は此インカ御察し申します』 ジャンク『ア、それはお心を煩はし、誠に申訳がありませぬ。何れ貴方の御威光と御親切によつて、娘のスガコはやがて帰るで厶いませう。何卒々々宜しう願ひます』 インカ『ハイ、承知致しました。面目次第も厶いませぬが、痩てもこけても、遠近に名を売つた侠客の私、力の限り活動を致し、お心に副ふ様努めるで厶いませう。併しかかるお歎の央へ、又もや御心配の事を申上るのは私の身に取つて、実に心苦しい次第で厶いますが、お嬢さまの許嫁のサンダー様は、日夜怏々として楽まず、遂には御行方が分らなくなり、お父上マルク様より私に捜索方を依頼され、これも又二三日前から骨を折つて探してゐますが、どうもお行方が分りませぬので、私の顔も台なしで厶います』 ジャンク『何、マルクさまの御子息が、行方不明とな。左様な事が……出来てゐるのなら、これ程眤懇な間柄、なぜに直ぐに知らしに来て下さらなかつたのだらう。サテ不思議な事だなア』 インカ『実の所は、マルクの旦那様も直様御通知遊ばす筈で厶いましたが、旦那様が嬢様の事に就いて御心配の最中へ、こんな話を申し上げたら、嘸お力おとしをなさるだらうと思召され、ソツと人知れず捜索を始められ、御子息のサンダー様が御帰りになりさへすれば、それで貴方様に御心配をかけるに及ばないと、今迄包んでゐられましたので厶いますが、どうしても行方が分らぬとすれば、当家の御養子と定まつたサンダーさまの事で厶いますから、旦那様に報告せずには居られないので、今日は私に「一寸、お使に行つて来てくれぬか」との御頼み、罷出ました次第で厶います』 ジャンク『何と、憂が重なれば重なるものだなア。吾娘の紛失といひ、許嫁の養子サンダーの行方不明といひ、あゝ天道は是か非か。かく迄歎きの打重なるものだらうか、如何なる宿世の罪業かは知らね共、これは又余り惨酷だ、あゝ』 と吐息をつき差俯き、熱い涙をポロリポロリとおとしてゐる。 インカ『お歎は御無理も厶いませぬが、歎いて事のすむものでも厶いませぬ。先づ心を落つけなさいませ。きツと神様が御助け下さるでせう』 ジャンク『ヤ、有難う、悔んで帰らぬ事を、又しても年老の愚痴、つい涙がこぼれるのだ、アハヽヽヽヽヽ。これもしインカさま、サンダーはバラモン軍に捉はれたのではありますまいか』 インカ『神ならぬ身の吾々、何うとも申上げかねますが、サンダー様は何時も女装をしてゐられますから、大足別の軍勢が女と過つてつれ帰つたのかも知れませぬ。私も一身を賭して、バラモンの陣中に駆け込み、実否を査べむかと存じますけれど、何を云うても目に余る大軍、血に飢ゑたる虎狼共の群、可惜犬死を致すよりも……と存じ、卑怯かは知りませぬが、何とかして安全にお救ひ申したいと苦心惨澹の最中で厶います。義を見ては命を惜まぬ侠客なれど、目的も達せずに犬死するは、男子の意気でも厶いますまい。湧きかへる胸を抑へて、時を待つて居るやうな次第で厶います。併し邪は正に勝つものぢや厶いませぬ。きつとお嬢様もサンダー様も無事にお帰りなさるでせう。心丈夫にお待ちなさいませ』 ジャンク『ハイ、弱肉強食の暗の世の中、誰にたよる術もなき腑甲斐なき里庄の身、只貴方様を唯一の助け神として、細き息の根をつないで居ります。何分宜しく願ひます』 斯く話す所へ旧臣のタクソンは慌しく入来り、頭を畳にすりつけ乍ら、 タクソン『旦那様、御愁傷の程御察し申し上げます。まだ嬢様のお行方は何の便りも厶いませぬか』 ジャンク『ア、其方はタクソンか、よう来て下さつた。娘の行方に付て、今インカ親分と相談をしてゐた所だ。お前も大切な女房を取られ、さぞ心配してゐるだらう』 タクソン『旦那様、勿体ない其お言葉。私の女房なんか、物の数でも厶いませぬが、大切な、只お一人の嬢様を、お捕られ遊ばした旦那様のお心、立つても居てもゐられないで厶いませう。早速御見舞に参り、嬢様の御在所を探し出さねば済まないので厶いますが、バラモン軍の跋扈跳梁の為に、吾女房はかつさらはれ、又村の妻女は残らず毒手にかかり、阿鼻叫喚の地獄の有様で厶いますから、旦那様にはすまぬ事とは知り乍ら、其方に手をとられ、いろいろ善後策を講じ、つい、御無沙汰を致しました』 ジャンク『ナニ、そんな心配はしてくれな。お前も村人の為に非常に力を尽してゐるといふ事を聞いて、蔭乍ら私も感涙にむせんでゐたのだ。私の娘はどうでもよい。村の災難を救ひさへすれば、之にまさつた喜びはないのだ』 タクソン『旦那様の慈愛に深き其お言葉を、村人が聞いたなら、さぞ喜ぶ事で厶いませう。私も貴方のお言葉は神の慈言のやうに心にしみ渡り、有難さ勿体なさ、自然に落涙を致します。あゝ時にインカの親分さま、御親切に有難う御座います。どうかお嬢様の為に一臂の力をお添へ下さいますやう、旦那様に代り、お願申します』 インカも涙ぐみ乍ら、許嫁のサンダーが又もやさらはれたといへば、歎の上に歎をかさねる道理だ。此タクソンには知らさない方が可いだらうと思つたから、サンダーの事は口にせず、 インカ『お嬢様の事は御心配下さいますな。キツト神様がお救ひ下さるでせう。又私も神様のお力に仍つて最善の努力を尽さして頂きませう』 タクソン『ハイ有難う厶います。モウ斯うなれば、神様に何事もおすがりするより途が厶いませぬ。時に、旦那様、インカ様、お喜び下さいませ。斎苑の館より派遣されたる三五教の宣伝使、照国別といふ活神様が此村にお出でになり、サンヨの家にお立寄り下さいまして、婆さまの危難をお救ひ下され、其上、バラモンの悪神を言向和してやらうと仰有いましたので、吾々の奉ずる宗旨は違ひますけれど、神の助に二つはないと存じ、お願致しまして、只今当家の玄関迄お伴を致しました。宣伝使にお尋ねになつたならば嬢様の所在も判然するだらうかと存じましたので、旦那様に照会もせず、だしぬけに、失礼ながら御案内申して参りました』 ジャンク『ナニ、三五教の宣伝使様を御案内申して来たといふのか。あ、何はともあれ大自在天様の御引合せだらう。サアサア玄関にお待たせ申してはすまない。早く奥へ通つて頂くやうに……セールは居らぬか、セールセール』 呼ばはれば『ハイ』と答へて、セールは此場に現はれ、 セール『旦那様、何の御用で厶いますか』 ジャンク『お前は、玄関にお客様が見えてゐるのを知らぬのか、早くお迎へ申して来い。玄関番もせずにどこへ行つて居つたのだ』 セール『ハイ、誠に不都合を致しました。実は表門に当つて、騒々しい声がしますので取る物も取敢ず行つてみれば、アンコ、バンコの大喧嘩、バンコは鉄拳をくらつて気絶致しましたので、いろいろと介抱を致し、漸く蘇生させましたが、どうやらすると再び昏睡状態に入り相なので、目も放されず介抱致してをりました。旦那様の御歎の央へ、かやうな下らぬ門番の争事迄申上げては済まないと存じ、差控えて居りました』 ジャンク『そりや怪しからぬ奴だ。アンコといふ奴は、酒くせの悪い男だからなア。併し何は兎もあれ、宣伝使を御案内申して来い』 『ハイ』と答へて、セールは玄関に立現はれ、一同を案内した。照国別始め梅公、照公、エルソンの四人はジャンクの居間に、一礼を施し座に着いた。 ジャンク『これはこれは三五教の宣伝使様、賤が伏家を能くお訪ね下さいました。何分宜しく御願申します。私は此村の里庄を勤むるジャンクと申す者で厶います』 照国『お初にお目にかかります。此村の入口にてタクソンさまにお目にかかり、承はればお館にはお取込のお有りなさるといふ事、それを聞いては宣伝使の吾々、聞捨にもなりませぬから、御邪魔を致し、御機嫌を伺ひに参りました。何分神力の足らぬ、修業中の吾々で厶いますから、何もお間に合ひませぬが、神様のお力によりて、最善の方法を尽さして頂きたいと思ひます』 ジャンク『尊き有難き其御言葉、老木も若芽を吹出し、花に合ふ春陽の気が漂ふ様で厶います。此処に厶るお方はインカ親分といつて隣村の侠客で厶いますが、此方にもいろいろと御心配にあづかつて居るので厶います』 照国『あゝ、これはこれは、お初にお目にかかります。あなたが有名な侠客のインカ親分で厶いましたか。何卒お見知りおかれまして、今後は御眤懇に願ひます』 インカ『貴方様は、今承はれば尊き三五教の宣伝使様。ならず者の取締を致す野郎で厶います。どうか私のやうなケチな奴でも、男のはしくれと思召し、何卒お目をかけ下さいませ』 斯かる所へセールはあわただしく此場に現はれ、 セール『旦那様に申上げます、今国王様のお使がみえまして厶います。如何取斗らひませうや』 ジャンク『ハテ国王様のお使とは何事だらう。何は兎もあれ、別殿に御案内申せ。すぐさまお目にかかるから……』 セール『ハイ畏まりました』 とセールは足早に玄関指して出てゆく。一同は面見合せ、何事の起りしならむかと不審の眉をひそめて居た。 照国別『三五の神のあれます上からは いかなる事もゆめな憂ひそ』 照国『世の中は相身互、まして四海兄弟と申しますれば、何卒御眤懇に願ひませう』 ジャンクは小声で『ハヽヽヽヽヽ』と笑い乍ら、 ジャンク『先生様暫く失礼を致します。オイ、タクソン、お使にお目に掛つて来るから、お前は宣伝使様の接待をしてゐてくれ』 タクソン『ハイ承知致しました。勝手覚えし御家の中、御安心なさいませ』 ジャンク『タクソン、落度のないよう、御無礼をせぬ様に頼んでおくぞや』 と言葉を残し、別室に入つて、礼服を着用し、別殿さして進み行く。 (大正一三・一二・一五旧一一・一九於祥雲閣松村真澄録) |
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霊界物語 | 66_巳_オーラ山の山賊 | 05 愁雲退散 | 第五章愁雲退散〔一六八七〕 トルマン国バルガン城の国王トルカ王より勅使として、ジャンクの家に入り来りし二人の男はオール、コースと云ふ。オールは厳然として正座に直り、里庄のジャンクに国王の令を伝へた。 『我トルマン国は建国以来、上下一致、王と民との間は親子の如く兄弟の如く夫婦の如し。天恵豊にして地味は肥え、印度全国の宝庫楽園と称せられ、国民和楽し、太平の夢を結びたること茲に三千年なり。然るに図らざりき、今回ハルナの都に君臨し玉ふ大黒主の命の軍勢、ウラル教征伐の為、遙々軍卒を派遣し玉ふ。然るに全軍の将たる大足別は性質暴戻にして虎狼の如く、我国内の民を苦しめ、婦女を姦し財物を掠奪し、甚しきは民家を焼き、暴状至らざるなく、勢に乗じてトルマン国の首府バルガン城を攻略せむとす。汝等忠良の民、忠勇義烈の赤心を発揮し、前古未曽有の大国難を救ふべく、凡ての男子は十八才以上六十才以下は各武器を携帯し王城の救援に向ふべし。汝等が祖先の開きし国土を守るは此時なるべし。汝里庄、村民に吾意のある所を伝達し、時を移さず軍に従ふべし。トルマン国、バルガン城トルカ王の使者オール、コース、国王殿下の聖旨を伝達するもの也』 と読み聞かすや、里庄ジャンクは謹んで席を下り、 ジャンク『力なき吾々には候へど、御勅命に従ひ速に義勇軍を召集し、王城並に国家の危難に殉じ奉りませう』 勅使オール、コースの両人は「満足々々」と笑を洩らし挨拶し乍ら、ジャンクが勧むる茶も呑まず、急いで玄関口に立ち出て、待たせおいたる十数名の士卒と共にヒラリと駒に跨り、紅の手綱ゆたかに、蹄の音もカツカツカツと隣村さして進み行く。 ジャンクは照国別一行の居間に帰り来り、稍緊張したる面色にて、 ジャンク『御一同様、えらい失礼を致しました』 照国『いや、どう致しまして、勅使の趣、如何で厶いましたか。実は御心配申上げて居りました』 ジャンク『ハイ、有難う厶います。私も、もはや国家の為一家一命を棄てねばならぬ時が参りました』 と憂愁に沈み、意気銷沈しきつたる老人にも似合はず、どこともなく決心の色が現はれて居る。 照国『一身一家を棄てねばならぬとは何事で厶いますか』 ジャンク『只今バルガン城のトルカ王様よりの御勅使によれば、「印度の国を守るべき大黒主様の軍隊大足別将軍なるもの、トルマン国の城下の民を脅かし、民家を焼き婦女子を奪ひ人種を絶やし、尚飽き足らず王城を攻め落し、国王を放逐せむとする勢で厶いますれば、此際国民は男子は十八才より六十才以下のもの、一人も残らず国難に殉ずべし」との御厳命で厶いますれば、私も本年は五十八才、老耄たりとは云へ、まだ適齢がかかつてゐます。もはや娘の事は断念致しました。華々しく軍に従ひ、国家のために屍を山野に曝す覚悟で厶います』 照国『成程、承れば承る程、お気の毒で厶います。国王の御命令とあらば国民として、此際お起ちなさるのが義務で厶いませう。私も宣伝使として天下の害を除くべく遙々月の国へ神命を受けて参つたので厶いますから、どうか参加させて頂き度いもので厶いますな』 ジャンク『ハイ、有難う厶います。何分よろしく』 梅公『ア、先生、よくお考へなさいませ。善言美詞の言霊を以て、あらゆる万民を言向和す無抵抗主義の三五教では厶いませぬか。殺伐なる軍隊に参加し、砲煙弾雨の中に馳駆するのは決して宣伝使の本分ぢや厶いますまい。三五教は決して軍国主義では厶いませぬよ』 照国『ハヽヽヽヽ、吾々はお前の云ふ通り、決して敵を憎まない。又殺伐な人為的戦争はやり度くない。義勇軍に参加しようと云ふのは傷病者を救ひ、敵味方の区別なく誠の道を説き諭し、平和に解決し、このトルマン国は申すに及ばず、印度七千余国の国民を神の慈恩に浴せしむる為だ。其第一歩として従軍を願つて居るのだ』 梅公『ヤア、それなら分りました。別に文句もありませぬが、然しながら当家の娘スガコ嬢やサンダーさまはどうなさる考へですか。此方々も見捨てる訳には参りますまい』 照国『ア、それも気にかかるが、それはインカ親分にお願ひしたらどうだ』 梅公『それもさうですな。もしジャンク様、先生は、あゝ仰有いますから貴方と一緒に従軍を遊ばすなり、私共はサンヨの妹娘花香さまも救はねばならず、当家のスガコさまもサンダーさまも見殺にする訳にも行かないから、此捜策は拙者にお任せ下さいませぬか』 ジャンク『御親切は有難う厶いますが、もはや今日となつては、娘の事等云つてる場合ぢやありませぬ。国王様のため国家のために全身の力を尽さねばなりませぬ。どうか貴方も照国別の宣伝使と行動を一にして下さいませ。自分の娘のために宣伝使様を頼んだと云はれては末代の恥で厶います。ついてはインカの親分さま、貴方も国民の一部、義勇軍の将となり、私と一緒に出陣下さいませ。娘の事やサンダーの事は次の次で厶いますから』 インカ『成程、天晴見上げたお志、それでなくては里庄様とは申されますまい。私だつて弱きを扶け、強きを挫く侠客渡世、国王様のお達示を聞いて、之が安閑として居られませうか。お言葉に従ひ従軍致しませう』 タクソン『もし、ジャンク様、イヤ御主人様、私もお伴致しませうか』 ジャンク『イヤ、其方は、もはや承れば三五教の宣伝使のお伴になると云ふ約束をしたさうだ。トルマン国の男子の一言は金鉄も同様だ。照国別様のお弟子として参加して下さい』 エルソン『もし里庄様、私も照国別のお弟子となりましたが、国民の一部として里庄様と共に軍に従ひませうか』 ジャンク『イヤイヤ貴方も、もはや三五教の宣伝使の部下だ。タクソンと行動を一にするが宜からう』 エルソン『ハイ有難う厶います。然らば尊き宣伝使のお伴を致し、剣を持たず只コーランを手にして、天下万民の為に最善の努力を尽さして頂きませう』 ジャンク『ア、よしよし、それで私も安心した。もし照国別様、どうか両人の身の上を宜しくお願ひ申します』 照国『ヤ、感じ入つたる皆様のお志、委細承知致しました』 門番のバンコや受付のセールに命じ、村内一同に国王の令を伝へ、明朝を期して出陣すべく伝達せしめた。村内は俄に騒然として火事場の如く殺気漲つて来た。ジャンクは村の男子を軍隊に仕立て、自ら将として出陣する事となつた。 インカ『吾村にも必ずや同様の命令下りしならむ。お先へ御免』 と云ひ乍ら一同へ挨拶をなし、尻引まくり大地をドンドン響かせ乍ら、飛ぶが如くに帰り行く。 ここに一同は三五の大神、バラモンの大神に前途の勝利を得む為とて一大祈願を凝らし、首途の祝として夜の明くる迄、直会の宴を催した。何れも勇気頓に加はり山河を呑むの勢である。祭典も終り、愈直会の宴に移り、酒汲み交して室内は和気靄々恰も春の如き空気が漂うた。 ジャンクは、ホロ酔ひ機嫌になつて声も涼しく二絃琴を弾じつつ謡ひ初めた。 ジャンク『千早振る皇大神の造らししトルマン国の目出度さは 時じく花の香に匂ひ果物豊に実りつつ 五穀は栄え民は肥え牛馬駱駝羊豚 鷄までもよく肥り天の下四方の国々安らけく いと平けく治まりて神代の儘の人心 何れの家も押並べて怒り妬み悲しみの 声さへもなく日に夜に歓ぎ楽しむ天津国 常世の春を喜びしが天津御空の日の影は 漸く光褪せ給ひ月の面も薄曇り 星のみ独りキラキラと瞬き初めて何となく 此地の上は騒がしく鳥の声さへ悲しげに 謡ふ御代とはなりにける月日は進み星移り 天の下なる民草の心は漸く曇り果て 強きは強く弱きもの虐げられて秋の夜の 霜に悩める虫の如怨嗟の声は満ち満ちぬ 人の心は日に月に益々悪く曇り果て 山の尾の上や河の瀬に荒ぶる神の屯して 又もや民家を苦しめつ人の妻女を奪ひ取り 悪き災日に月に相重なりて国人は 薄き氷を踏む如く涙に咽ぶ折もあれ 大足別の率ゐたる醜の曲霊の軍人 弥益々に醜業の募り来りてトルマンの 国をば荒らし国主まで打滅して欲望を 遂げむとするぞ忌々しけれあゝ惟神々々 神の此世に在すならば我国民の災を 一日も早く除きませよバルガン城は永久に トルカの国主は幾千代も寿長く栄えまし トルマン国を包みたる醜の雲霧吹き払ひ 再び天土晴明の珍の世界に還しませ 吾は老木の行末のいとも短き身なれども 一つの生命を国の為め君の御為献り 万民安堵の道のため捧げ奉らむ吾が生命 諾なひ給へ三五の神素盞嗚の大御神 梵天帝釈自在天大国彦の大御神 偏に願ひ奉るあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ御霊幸はひましませよ』 照国別は又謡ふ。 照国別『蒼空一点雲もなく日月星辰明かに 輝き亘る世の中も天に風雨のなやみあり 地には地震洪水の百の災湧き来る 浪静かなる大海も只一塊の雨雲の 中より吹き来る荒風に波立ち騒ぎ島々を 呑まむ例もあるものを此地の上に住む人は 如何で悩みのなかるべき天変地妖ある毎に 世は晦冥に進み行くかかる汚れし世の中は 一度天地の大神の大活動を要すべし バラモン軍や醜神の醜の猛びは強くとも 誠一つの三五の神の光に敵すべき 心安けくましませよ大日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも天は地となり地は天に 上る激変あるとても只惟神々々 神に任せし身にしあればいかなる事も恐れむや 仰ぎ敬へ神の徳祝へよ祝へ神の恩 神は吾等と倶にあり神は汝等と倶に在す 人は神の子神の宮誠の神に敵すべき 曲霊の如何で来るべきあゝ勇ましし勇ましし 今神軍の首途にジャンクの君を初めとし 梅公、照公、タクソンやエルソン司と諸共に 神の御前に慴伏して前途の幸を祈るこそ 実に壮快の至りなりあゝ惟神々々 御霊幸はひましませよ御霊幸はひましませよ』 梅公『思ひきや軍の庭に立たむとは 今の今迄さとらざりけり。 さり乍ら吾は神軍言霊の 武器より外に持つものはなし』 照公『大空に日は照公の吾なれば あわてる事は一つも要らず。 照国の別の命に従ひて 道照公の吾は進まむ』 タクソン『照国別神の命の御威勢に 吾は全たくそん敬をぞする。 おめでたくそん厳無比の大神の 御前に幸を祈る嬉しさ』 エルソン『常暗の世を立替へて神の代に 開かむ人ぞ人の人なる。 沸きかえるそん内一同の騒ぎをば いかに静めむ由もなきかな』 ジャンク『天津日を隠さむとする村雲を 払はむ為の今日の神軍。 老いぬれど吾魂は若々と 甦りつつ出陣やせむ。 白髪を染めて軍に向ひたる 武士もあり吾も習はむ。 国難に殉ずる吾と白髪の 輝きを見て驚くならむ』 照国別『面白し神の任さしの神業の 一歩を進むる時は来にけり。 オーラ山嵐はいかに強くとも 神の御息に吹き払ふべし。 小夜更て武士共が語り合ふ 軍の庭の心地するかな。 明けぬれば百の軍人を率連れて バルガン城に駒を進めむ』 梅公『駒並めて大野ケ原を進み行く 勇士の姿吾目に躍るも』 照公『早已にバルガン城の敵軍を 討ち払ひたる心地しにけり』 タクソン『面白し吾師の君に従ひて 神の軍の功績立てむ』 エルソン『恋雲もいつしか晴れて国の為 世人のために尽さむとぞ思ふ』 漸くにしてコケコツコーとテイハ(鷄)の声、四隣より聞え来る。ジャンクは先づ立上り、 『もはや鷄鳴、皆様、御用意なされませ。いよいよ出陣の時近づきました』 と勇気凛々雄健びし乍ら、マサカの時の用意と蓄へおきたる具足をとり出し武装に着手した。 かかる所へ白髪異様の老翁現はれ来たり『頼まう頼まう』と玄関口より呶鳴つてゐる。果して此老翁は何者だらうか。 (大正一三・一二・一五旧一一・一九於祥雲閣北村隆光録) |
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霊界物語 | 66_巳_オーラ山の山賊 | 06 神軍義兵 | 第六章神軍義兵〔一六八八〕 玄関口に立ちはだかり『頼まう、頼まう』と呼ばはつて居る白髪異様の老人は、さも横柄に、此家の下女に向ひ、 老人『オイ、お下女どの、当家の主人はどう致して居るか。吾はオーラ山の修験者、シーゴーと申す者だ。当家の主人に申上げたい事あれば、面倒乍ら案内をして呉れやれ』 下女『ハイ、何方か知りませぬが、旦那様は俄の御出陣で上を下への大騒動、どうか又出直して来て下さい。何分御多忙でいらつしやいますから』 老人『アハヽヽヽヽ当家に係はる大難を救はむが為、遙々オーラ山より救世主の使として現はれ来りし修験者だ。何は兎もあれ、主人に面会致したい』 斯くいふ所へ、武装をつけた主人のジャンクは現はれ来り、老翁に向ひ、 ジャンク『いづれの方かは知りませぬが、今は国家の一大事、館は番頭共に任せおき、今早朝より出陣せなくてはなりませぬ。何御用か存じませぬが、もはや一身一家の事にかかはる場合ではありませぬ。どうかお帰り下さいませ』 シーゴー『アハヽヽヽヽ。拙僧がオーラ山を立ち出で、草茫々たる夜途を露に濡れ乍ら夜も明けぬ中尋ねて来たのは、大神の御命令、国家を救ふも一家を救ふも、神ならでは叶はぬ事、其方も国家を救はむとして、義勇の軍に出陣なさるならば、拙者の一言をお聞きなされ。唯一回位耳を借した所で、余り損にはなりますまい』 ジャンク『国家を救ふ方法がありとすれば何より結構、既に出陣の間際なれども、聞き逃す訳にはゆきますまい。此処は玄関口、サアサア奥へお進み下さい。篤とお話を承はりませう』 シーゴー『然らば御免、まかり通るであらう』 と錫杖をつき乍ら、横柄な面をして離れの別殿に伴はれ往き、丸き机を中に置き、主客向ひ合せとなつて談話が初まつた。 ジャンク『貴方は神のお使、修験者と承はりましたが、国家を救ふ要道をお示し下さるとの事、実に感謝に堪へませぬ。何卒御指導を願ひます』 シーゴー『拙僧はオーラ山の生神、玄真坊の高弟シーゴー坊と申すもの、此度吾師の君玄真坊におかせられては、トルマン国の危急を救ひ、民の苦を免れしめ、且小にしては一家一人の危難を免れしめむと、連日連夜の修業を遊ばし、一切の苦難を救ひたまふ、其霊験の著しき事、古今絶無で厶る。天地の神明も吾師の高徳を慕ひ、教を受けむとし、毎夜オーラ山の大杉の樹に、天より棚機姫の星体下らせたまひ、深遠微妙なる教理を聞かせたまふと云ふ御威勢、如何にバラモン軍が跋扈跳梁するとも、吾師の君の祈祷によりて、煙散霧消するは火を睹るよりも明かである。就いては当家の娘御は行衛不明との事、必ずやバラモン軍の間諜者に捉へられ給ひしに相違なし、貴方は吾師の君に依頼して、最愛の娘御を、救つて貰ふ御精神は厶らぬか』 ジャンクは怪しみ乍ら、頭を垂れ、稍思案に暮れて居た。 ジャンク『シーゴー様とやら、遠路の所御親切に有難う厶います。然し乍ら今日の場合、娘の事などに心を悩ます場合では厶いませぬ。国家の一大事を救ふ御道あらばお示しに預かりたい』 シーゴー『アハヽヽヽ、貴方も偽善者の一人で厶るな。何程国家の為だと云つても、天にも地にも掛け替のない娘が危難を救はれたいと云ふ精神は、十分にお持ちでせう。吾子を愛せない親は、人君として、或は里庄としての資格は厶いますまい』 ジャンク『いや、貴方の御明察、恐れ入りました。天が下に子を思はぬ親が何処に厶いませう。併し乍ら今日の場合は、小なる愛を捨て、国家国王と云ふものに向つて、大なる愛を注ぐべきで厶います。国家も国王様のお身の上も、既に焦頭爛額の危機に瀕して居りますれば、仮令最愛の娘を犠牲と致しても、大なる愛の為に心力を傾注したい考へで厶います』 シーゴー『貴方は大切な娘御を犠牲としてでも、国家を助けたいと云ふ思召、実に感心致しました。もし国家、国王、並に貴方の愛児がお助かりになるのなら、当家の財産に執着は厶いますまいなア』 ジャンク『勿論の事です。吾娘は行方知れず、生死もさだかならず、加ふるに老躯を引提げて、剣光閃く戦場に進む此身、元より死は覚悟して居ます。吾死したる後は、巨万の財産も何の必要が厶いませう』 シーゴー『成る程立派なお志感じ入りました。然らば一つ御相談を申上たいが、国王、国家、及びお娘御を救ふ為め、此財産をオーラ山の師の君玄真坊に奉るお気は厶いませぬか。山も川も、草木も天の星迄其徳を慕ひ寄り来ると言ふ古今無双の生神様に、お上げなさつたならば、第一は祖先の為め、国家の為最善の功徳と考へますがな』 斯かる所へ受付のセールは慌ただしく入り来り、 セール『旦那様、村中の用意が調ひました。早く御出陣をと、村人が武装の儘お願に参りました。お馬の用意も出来ましたから……』 ジャンク『アヽさうか、直に往くからと申て呉れ』 セール『ハイ畏まりました』 と、慌ただしく立ち去つた。 シーゴー『如何で厶いますか、御決心は……』 ジャンク『国家の為め、国王様の為めならば、吾財産を全部玄真坊様に差上げませう』 シーゴー『いや流石は明察の里庄殿、天晴天晴、然らば後日の為め、貴方のお手より、一切の財産を差上るとの証文を認めて下さい』 ジャンク『男子の一言は鉄石の如し、面倒臭い証文などは要りますまい。これが人と人との交渉なら兎も角も、善知識の活神様に差上るのだから、却つて証文など差上るのは失礼で厶いませう』 シーゴー『成る程、御尤もの話だ。現に拙者が生証文で厶る。梵天帝釈自在天様も御照覧あれ、決して二言は厶いますまいなア』 ジャンク『エ、執拗厶る。苟くも義勇軍の総司令、武士の言葉に二言は厶らぬ』 シーゴー『然らば今日只今より、此財産は吾師玄真坊の所有に帰しました。御承知であらうなア』 ジャンク『吾財産を善用し、国家の為め、国王様の為め、娘の為め、神様を鄭重に祭り、祈願を籠めて下さい。時刻も切迫致しますれば拙者はこれよりお別れ申す』 シーゴー『ヤ拙僧も此吉報を吾師の君に申上げ、早速祈願に取りかかりませう』 と云ひ乍ら、揚々として帰り往く。梅公は二人の問答を訝かり乍ら、密に立聞して居た。 ジャンクは照国別の居間に入り来り、 ジャンク『いやどうもお待たせ致しました、サア是から出陣を致しませう』 梅公は次の間より慌ただしく入り来り、 梅公『もしもしジャンク様、御用心なさいませ、彼の修験者と云ふ老人は曲者で厶います。彼の人相には剣難の相が漂ひ、悪相が顔面に満ちて居ます。貴方は此財産を玄真坊とやらに全部提供なさつたやうですが、今の中にお取消しなさつたがよからう、一寸御忠告申上ます』 ジャンク『イヤ、有難う。私も怪しい事だとは思つたが、何と云うても国王様や国家を助けると云ふのだから、此言葉に免じ怪しいとは思ひ乍ら財産全部を提供しました。最早男子の口に出した以上は撤回は出来ませぬ。是が撤回出来るやうなら地上に吐いた痰唾を再び呑むやうなものです。もう私も覚悟を定めました。サアサア御苦労乍ら出陣致しませう』 梅公『チヨツ、曲津神の奴、偉い事をしやがつたな。こいつは屹度何かの秘密があるに相違ない。あんな事を吐して、自分が当家の娘を何処かに隠して居るのだらう。こんな事を聞いては見逃す事は出来ない。吾師の君が何と云はれても、オーラ山とやらに踏み込んで正体を調べてやらう、オウ、さうぢやさうぢや』 と独語し乍ら、照国別に従ひジャンクと共に三角旗を風に翻し、数百の義勇軍と共に旗鼓堂々とバルガン城を指して、法螺の声も勇ましく『ブウブウ』と四辺の邪気を清めながら隊伍を調へ進み行く。 数百人の騎兵隊は、手に手に槍長刀などを携へ、果しもなき広原を進み行く。風は幸ひ追風にて進軍に最も便利であつた。ジャンクは馬上乍ら進軍歌を謡ふ。 ジャンク『神代の昔皇神の開きたまひし神の国 トルマン国の若者よ国と君とに尽すべき よき日は今や来りけり勇めよ勇めよ神軍よ 進めよ進め百軍敵は幾万ありとても 如何でか恐れむ敷島のトルマン男子の魂は 金鉄よりも猶堅し国に仇なす曲津神 払へよ払へよおつ払へ骨身は積みて山をなし 血潮は流れて河となり屍を野辺に曝すとも 神の御為め君の為め御国の為に進むなる 吾等は貴の神軍ぞ撓まず屈せず進み行け ジャンクの率ゆる義勇軍後れを取るなひるむなよ 神の守りのある上は汝の前途は坦々と 蓮華の華の開くごと真楽園が開かれむ 進めよ進めよ快男子進めよ進めよ神軍よ 神は汝と倶にあり吾等は神の選みたる 御国を守る神軍ぞ吾神軍の往く道に 塞らむ曲のあるべきぞあゝ勇ましし勇ましし 国を救ひの此軍民の守りの神軍ぞ あゝ惟神々々梵天帝釈自在天 大国彦の大稜威吾身の上に輝きて 忠義一途に固まりし軍を守りたまへかし 勝利の都は近づきぬ勇めよ勇めよ快男子 進めよ進めよ神軍よ』 照国別は又謡ふ。 照国別『吾は神軍照国の別の命の宣伝使 三五教の御教を四方の国々伝へむと 進み来れる折もあれタライの村のジャンクさまが 館に立ち入り此度の軍の話を聞きしより 吾も義軍に加はりて厳の言霊尽くる迄 或は防ぎ戦ひつ神の建てたる神の国 御空に塞る黒雲を伊吹払ひに払ふべし 勇めよ勇めよ神軍よ神は汝と倶にあり 人は神の子神の宮神に敵する曲はなし 梵天帝釈自在天大国彦の神様を 敬ひまつり三五の教を守りたまふなる 神素盞嗚の大神の御稜威を力と頼みつつ 生死の境に超越し神の御為国の為 国王と民を救ふため身もたなしらに進むべし あゝ惟神々々神の御稜威の尊さよ 進めよ進めよ神軍士勇めよ勇めよ軍人 あゝ惟神々々御霊幸はひましませよ 御霊幸はひましませよ』 梅公は又謡ふ。 梅公『吾師の君に従ひて風吹き荒ぶ河鹿山 やうやく越えて千万の曲の難を払ひつつ 葵の沼に来て見れば月照り渡る水の面 空に輝く清照の姫の命や黄金の 姫の命の宣伝使右と左に袂をば 別ちてタライの村の口進み来れる折もあれ バラモン軍の暴状を耳にせしより腕は鳴り 血は躍りつつどこ迄も世人の難を救はむと 思ひきはめし雄心の大和心のやりばなく 如何はせむと思ふ折ジャンクの率ゆる義勇軍 従軍せよとの師の君の言葉に否み兼ねつつも 皇大神の御心と仰ぎまつりて進み往く さはさりながらスガコ姫難に遇ひしと聞くよりも 是が見捨てて置かれようか戦の場に立ちながら 心にかかるは姫の事一旦救ひ助けむと 思ひ定めし吾胸はいつか晴れなむ大空を 包みし雲の如くなりあゝ惟神々々 御霊幸倍ましませよ吹き来る風は強くとも 敵の勢猛くとも神にある身はどこ迄も 如何でか恐れためらはむあゝ面白し面白し 敵を千里に退けてトルマン国を永久に 神の教に守るべく進まむ身こそ楽しけれ 進めよ進めよ神軍よ勇めよ勇めよ諸人よ あゝ惟神々々御霊の恩頼を願ぎまつる 御霊の恩頼を願ぎまつる』 照公は又謡ふ。 照公『風よ吹け吹け科戸の風よ砂よ立て立て天迄立てよ 吾は神軍照公の神の司よ乗る駒の 蹄の音も戛々と如何なる山路も恐れなく 神のまにまに進むべしデカタン国の高原に 駒に鞭つ吾々は三千世界の救世主 鳥獣や草木迄救ひ助けむ職掌ぞ 大足別の曲軍バルガン城を十重廿重 取り囲むとも何かあらむ神のよさしの言霊を 力限りに射放ちて敵と味方の隔てなく 言向け和すは案の中刃に血をば塗らずして 軍をおさむる神の徳あゝ勇ましし勇ましし 前途に光明輝きぬ恐るる勿れ神軍士 進めよ進めよ皆共に天国浄土を地の上に 完全無欠に開く迄あゝ惟神々々 御霊幸倍ましませよ』 と声勇ましく謡ひながら、千里の広野を駒の蹄に砂塵を捲き上げながら、途々参加する兵士を合し、数千人の団隊となつてバルガン城を目がけ、勢猛く進み行く。 (大正一三・一二・一五旧一一・一九於祥雲閣加藤明子録) |