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霊界物語 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 凡例 凡例 一、第一巻より第四巻までは、まだ伊那那岐尊、伊邪那美尊二神の御降臨まします以前の物語であります。第四巻にいたつて始めて国祖の御隠退遊ばされるところになり、第六巻において、諾冊二尊が葦原中津国へ御降臨遊ばすところになるのであります。それゆゑ、あまりに小さく現在の大本といふものにとらわれてはならないのであります。たとへば『聖地エルサレム』とあるごときも、決して綾部を指されたものではありません。これは、瑞月大先生より特に御注意がありましたから、読者諸氏のお含みおきを願つておきます。要するに『生れ赤児』の心になつて拝読することが、もつとも必要であらうと思ひます。 一、しかしながら、歴史は繰返すといふごとく、これは今から六七千万年前の物語で、いかにも吾々とは縁が遠いもののやうに油断をしてゐると、脚下から鳥が立つやうなことが出来して、にはかに狼狽へ騒がねばならぬとも限らないのであります。 一、本書第一巻の発表とともに、かれこれ種々な批評も出てゐるやうですが、単に第一巻や第二巻を読んだだけでは、たうてい分らないのであります。何にしても批評は後廻しにして、本書の全部刊行されるまで待つていただきたい。神諭にも『細工は流々仕上げを見て下されよ』と示されてゐます。ただ一端を覗いただけで、批評がましき言を弄するのは、いかにも軽率であるばかりでなく、御神業にたいして大なる妨害を与へるやうな結果になりはしないかと思ひます。 一、第二巻以下には処々に神様の歌が出てきますが、これはすべて神代語で歌はれたものださうですが、そのままでは今の吾々には理解出来ませぬので、特に現代語に翻訳されたものであります。例へば、本書の第二十三章『竜世姫の奇智』の中に、竜世姫が滑稽諧謔な歌を唄はれるところがあります。その歌の神代語と現代語を大先生の御教示のまま、一例として対照しておきます。 歌 言霊別の神さんは(コトトモオコヨカムソモホ) こしの常世へ使ひして(コスヨトコヨイツコイステ) 道に倒れて腰を折り(ミツイトホレテコスヨオイ) 輿に乗せられ腰痛む(コスイノソロレコスイトム) こしの国でも腰抜かし(コスヨクシデモコスヌコス) 腰抜け神と笑はれる(コスヌクカムヨワロヲレル) 他のことなら何ともない(フトヨコトノロノムトヨノイ) こしやかまやせんこしやかまやせんこしやかまやせんこしやかまやせん(コスカモヨセヌコスカモヨセヌコスカモヨセヌコスカモヨセヌ) 一、神代語の数字一二三四五六七八九十百千万は、㍉㌔㌢㍍㌘㌧㌃㌶㍑㍗㌍㌦(略して㌣)㌫といふ風に表はすさうであります。 一、最近一つの神秘的な話を聞きましたから、読者諸氏の御参考のためにここに御紹介しておきます。 昔、南都東大寺五重塔丸柱の虫喰ひ跡に次のやうな文字が表れたことがあります。 九九五一合二十四西より上る四日月 一五一一合八洲の神地となる ○五○六合十一神世の初 一三一一合六合となる 二一六一合十即ち神となる 一一一一合四魂となる 三一六一合十一即ち土の神となる 一○一一合三体の大神となる ○○○合三ツの御魂となる (数字の下の「合云々」の文字は瑞月大先生がつけ加へられたものです) しかし、誰一人これを読むことも出来なければ、その意味も分るものはありませんでしたが、当時の高僧弘法大師は之を斯う読みました。 月九中岸 閑居一一 露五幽苔 獨身一一 法一不一 一一一一 道一不一 時節一一[※普及版のフリガナを参考にすると、次のように読む──月、中岸に九(かかって)、閑居(かんきょ)して一(たれをか)一(まつ)。露(つゆ)幽苔(ゆうたい)に五(しお)れて、独身、一(ひとり)一(さびし)。法、一(はじめ)に、一(はびこら)ず、一(たたくに)一(したがって)一(ひかり)を一(ます)。道、一(ひとり)一(ひろまら)ず。時節、一(ひと)を一(まつ)。] 瑞月大先生にこの事を伺ひましたら、ただちにその意味を御教示下さいました。その五重塔の丸柱に現はれた不可思議な文字は全体を数へると七十七の数になります。そして七十七は上からも下からも七十七となります。上下そろふ訳であります。七十七数は㍊の代詞で七は『成』の意であり、十は『神』の意であり、七はまた『国』の意であり、つまり『成神国』の意味になるさうであります。その数字の中の○三つは三ツの三玉の意であります。つまり瑞の御魂が隠されてゐるといふことになるのであります。弘法大師はこの事を知つてゐたのだけれども、故意とかくしてゐたといふことであります。 大先生は斯う読まれました。 月懸中岸 閑居誰待 露萎幽苔 獨身孤寂 法初不蔓 隨鼓増光 道獨不擴 時節待人 いかにも月光が万界の暗を照破し、神政成就の機運の到達することを暗示せる神秘的な面白い話であるやうに思はれます。 大正十一年一月六日於竜宮館編者識す 酸いも甘いも皆尻の穴、おならの如くにぬけて行く、間抜けた顔の鼻高が、尻毛を抜かれ眉毛をよまれ、狐狸のうさ言と、相手にせねばせぬで良い。雪隠で饅頭喰ひつ武士、武士の言葉に二言はないと、こいた誤託の鼻の糞、ひねつて聞いて馬鹿にして、一度は読んで暮の空、きよろ月、まご月、嘘月の、空言ならぬ瑞月霊界物語穴かしこ穴かしこ。
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霊界物語 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 07 天地の合せ鏡 第七章天地の合せ鏡〔五七〕 ここに天使稚桜姫命は、天使天道別命をして竜宮城を守らしめ、天使天真道彦命、神国別命をして地の高天原を守らしめ、滝津彦をして橄欖山を守らしめ、斎代彦をして黄金橋を守らしめ、はじめて後顧の憂ひなきをみて、稚桜姫命は金竜にまたがり、大八洲彦命は銀竜に、真澄姫は金剛に、芙蓉山より現はれいでたる木花姫命は劒破の竜馬にまたがり、あまたの従臣を率ゐて天馬空を駆けりて、高砂の島に出で行きたまひ、新高山に下らせたまふ。 天までも高く匂ふや梅の花 この高砂の神島は国治立命の厳の御魂の分霊を深く秘しおかれたる聖地であつて、神国魂の生粋の御魂を有する神々の永遠に集ひたまふ経綸地で、神政成就の暁、この聖地の神司の御魂を選抜して使用されむがための、大神の深き御神慮に出でさせられたものである。故にこの島は四方荒浪をもつて囲み、みだりに邪神悪鬼の侵入を許されない。天地の律法まつたく破れて、国治立命御隠退ののちは邪神たちまち襲来して、ほとんどその七分どほりまで体主霊従、和光同塵の邪神の経綸に全く汚されてしまつた。されど三分の残りし御魂は、今に神代のままの神国魂を抱持する厳正なる神々が、潜んで時節を待つてをらるるのである。稚桜姫命はこの中央なる新高山に到着し、あまたの正神司を集め、神界の経綸をひそかに教示しおかれた。 ここにこの島の正しき守り神、真道彦命は岩石を打ち割り、紫紺色を帯びたる透明の宝玉を持ちだし、これを恭々しく稚桜姫命に捧呈された。この玉は神政成就の暁、ある国の国魂となる宝玉である。 つぎに奇八玉命は海底に沈み日生石の玉を拾ひきたつて捧呈した。この玉は神人出生の時にさいし、安産を守る宝玉である。この玉の威徳に感じて生れいでたる神人は、すべて至粋至純の身魂を有する霊主体従の身魂である。そこで真鉄彦は谷間へ下りて水晶の宝玉を取りだし、これを稚桜姫命に捧呈した。この玉は女の不浄を清むる珍の神玉である。ここに武清彦は山腹の埴を穿ちて黄色の玉を取りいだし恭しく命に捧呈した。この玉は神人の悪病に罹れるとき、神気発射して病魔を退くる宝玉である。つぎに速吸別は頂上の巌窟の黄金の頭槌をもつて静に三回打ちたまへば、巨厳は分裂して炎となり中天に舞ひのぼつた。空中にたちまち紅色の玉と変じ、宇宙を東西南北に疾走して火焔を吐き、ついで水気を吐き、雷鳴をおこし、たちまちにして空中の妖気を一掃し、美しき紅色の玉と変じ、命の前にあまたの女性に捧持させてこれを命に献つた。この玉はある時は火を発し、ある時は水を発し、火水をもつて天地の混乱を清むるの神宝である。 稚桜姫命の一行は、馬上はるかに海上を渡りて地の高天原に帰還したまへるとき、天の八衢に鬼熊の亡霊は化して鬼猛彦となり、大蛇彦とともに命の帰還を防止し、かつその神宝を奪取せむと待ちかまへてゐた。ここに稚桜姫命は紅色の玉を用ひるは、いまこの時なりとしてこの玉を用ひむとしたまひし時、木花姫命はこれをとどめていふ。 『この玉は一度使用せば再び用をなすまじ。かかる小さき魔軍にむかつて使用するは実に残念なり。この魔軍を滅ぼすはこれにて足れり』 と懐より天の真澄の鏡をとりだして鬼猛彦の魔軍にむかつて逸早くこれを照らしたまうた。魔神はたちまち黒竜と変じ、邪鬼と化して、ウラル山目がけて遁走した。 天地の真澄の鏡照りわたり 醜の曲霊も逃げうせにけり 稚桜姫命一行は無事帰還された。さうしてこの玉を竜宮島の湖に深く秘めおかれた。さきに木花姫命より大足彦に賜はりしは国の真澄の鏡である。天地揃うて合せ鏡という神示は、この二個の神鏡の意である。また五個の神玉は海原彦命、国の御柱神二神の守護さるることとなつた。 (附言)後世女神および婦人らの簪に玉をつけ、また玉を連ねて頸飾りとなして、悪事を払ひ、幸福を求め、賢児を得むとするのはこの因縁に因るものである。 (大正一〇・一〇・二八旧九・二八桜井重雄録)
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霊界物語 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 15 山幸 第一五章山幸〔六五〕 言霊別命の弟に元照彦という放縦な神司があつた。この神司は、言霊別命が神業に従事して神界を思ふのあまり、親兄弟を顧みざるのを憤慨してゐた。 ふるさとの空打ちながめ思ふかな国にのこせし母はいかにと 元照彦は山幸を好み、天の香具山の鉄をもつて諸々の武器を作り、あまたの征矢を製して大台ケ原に立てこもり、大峡小峡にすむ熊、鹿、猪、兎などを打ちとり無上の快楽としてゐた。さうして伊吹彦といふ供神は常に元照彦に陪従し、山幸を助けてゐた。 ここに伊吹山に立てこもり時節を窺ひゐたる武熊別の部下、八十熊、足熊、熊江姫、その他多くの魔神も大台ケ原山にわけ入り、花々しく山幸を試むれども、終日奔走してただの一頭の獲物もなかつた。そのわけは元照彦が熟練せる経験により大小の鳥獣を一も残らず狩とつた後ばかりを進んだからである。八十熊以下は方向を転じて山を越え、再び山幸を試みた。そこには伊吹彦がゐて征矢をもつて盛んに山幸をしてゐた。八十熊以下の者は伊吹彦に種々の宝を与へて、しきりにその歓心を買ひ、つひに伊吹彦をして元照彦に背き、かつ征矢をもつて元照彦を殺さしめむと計つた。伊吹彦は八十熊らの欲に誘はれ、つひに八十熊の味方となつてしまつた。 元照彦は伊吹彦の変心せしことを知らず、常のごとく相伴なつて日の出ケ山に登り、群がる猪にむかつて征矢を射らしめた。伊吹彦はその猪にむかつて矢を射るがごとく装ひ、たちまち体を翻して元照彦目がけてしきりに射かけた。元照彦は驚いて八尋まはりの大杉の蔭にかくれ、征矢を防がむとした。この時、八十熊らの魔軍八方より現はれ来りて、さかんに征矢を射かけた。元照彦は進退これ谷まり、身に十数創を負ひその場に仆れた。 言霊別命は竜宮城にあり、弟の危難を知りて直ちに天の鳥船に乗り、大台ケ原に駆り進んだ。ただちに伊吹彦、八十熊以下の魔軍にむかひ種々の領巾を打ち振れば、魔軍は黒雲をおこし、武熊別の隠れたる伊吹山さして雲を霞と逃げ去つた。 元照彦は重傷を負ひ、つひに病の床に臥し、生命危篤の状態におちいつた。このとき母神の国世姫は、 『汝平素の放縦なる心を立替へ、深く神を信じ、兄弟と共に神業に参加せば、大神の恵によりて汝が病はたちどころに癒えむ』 と懇に涙とともに諭された。 ここにはじめて元照彦は敬神の至誠をおこし、数月の間、苦痛を忍びつつ天地の大神を祈り、つひに病床を離れ全く悔改めて、山幸の快楽を捨てて苦しき神業に参加し、言霊別命の蔭身に添ひて、神教を天の下四方の国々に宣伝し偉功をあらはした。 邪神伊吹彦は八十熊と共に一時は伊吹山に逃れ去り、やつと息継ぐ暇もなく、どこともなく飛びくる白羽の征矢に当り、山上より転落して終焉を告げ、伊吹山の邪鬼となつた。 (大正一〇・一〇・三〇旧九・三〇桜井重雄録)
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霊界物語 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 26 信天翁 第二六章信天翁〔七六〕 元照彦の攻撃に進退きはまり、金毛八尾白面の悪狐となりてロッキー山の方面に雲をおこして逃げ帰りしと見えしは、まつたく常世姫の魔術であつた。常世姫は依然として城内の奥深く潜んでゐた。常世姫は盛装をこらし悠然として竜世姫、竹熊彦らの前に現はれた。竹熊彦は死者の蘇へりし如く狂喜した。諸神司もともに歓喜の声をあげて勇躍した。城内はにはかに、枯木に花の咲きしがごとく陽気となつた。これに反し小島別、竹島彦、松代姫は稚桜姫命にたいし、この失敗をいかにして陳謝せむやと、思案にくれ、顔の色までかへて青息吐息の体であつた。竜世姫は可笑しさに堪へかねて失笑だした。さうしてまた面白く歌を唄つて踊りだした。 その歌の文句は、 『竹島彦の顔見れば閻魔が抹香喰つたやうに 何が不足でそんな顔ここは地獄か極楽か 常世の城ではないかいなお地蔵さまでも呼んで来て お酌さしたらどうであろ小島別の神さんの お顔を一寸眺むれば青瓢箪か干瓢か 朝瓜、鴨瓜、唐茄子南瓜の一寸ひねたのか ここは畑ぢやあるまいに青息吐息の仏掌薯 つくづく思案をして見ればうそでつくねた其の罪で 真赤な恥を柿のへた下手な巧はせぬがよい 宵に企んだ梟鳥夜食に外れてお気の毒 これが真の信天翁一つの取得泣き寝入り 煎豆花咲く時もあるこの縮尻は身の因果 因果応報目のあたり当り散らして怒つても 私は一寸も知らぬ顔顔が立たうが立つまいが いが栗頭が割れやうが用が無いのはお前さん 三度の食事も二度にして指をくはへて寝るがよい よいよいよいのよいとさつささつさと竜宮に逃げ還れ 帰れば竜宮の神さんに頭をはられて可笑しかろ をかし可笑しと笑はれて腹を立てなよ小島別 笑ふ門には福きたる来る時節を楽みに 今度は改心するがよいよいよいよいのよいとさつさ』 諸神司は小島別、竹島彦の心配さうな顔つきを眺め、いろいろと言葉を尽して慰めた。常世姫はあまたの珍らしきものを二柱に与へ、かつ慇懃にその労を謝し、竜世姫には麗しき宝玉を与へ、稚桜姫命の御土産としては、種々の珍宝を取り出して、これを竜世姫に伝献せしむることとなし、ここに四柱はまづ竜宮城へ還ることとなり、はるかに海山川を打渡りやうやく帰城した。竜世姫は何の恐れ気もなく稚桜姫命の御前に出で、常世姫より預かりしくさぐさの珍宝を奉り、かつ小島別、竹島彦らの今回の失策を詳細に、面白く進言した。稚桜姫命は大いに怒り、 『小島別以下の二神司、すみやかに吾が前に来れ』 と厳命せられた。三柱は猫に追はれた鼠のごとく縮みあがり、蚤か虱のその如く、頭を隠して戦慄いてゐた。言霊姫はこの状態を見て気の毒にたへず、いかにもして稚桜姫命の怒りを和らげむと百方焦慮し、竜世姫は面白き歌を作り、言霊姫は怪しき手つきをなして踊り狂ひ、命を抱腹絶倒せしめ、この場のごみを濁さむとした。その歌は、 『大蛇に追はれた蟇蛙こんなことぢやと知つたなら 使ひに行くのぢやなかつたに何ぢやかんぢやとだまされて ぢやぢや馬神にぢやぢやにされ元照彦に邪魔されて 善ぢや悪ぢやと争ひつたがひに邪推の廻し合ひ 相も変らぬ邪智深き常世の邪神に尾をふつて 尻までふつて腰抜いて輿を取られて輿を舁き 輿に乗せたる神さんにさんざん膏を搾られて その上腰を揉まされて越の国をば腰抜け顔して竜宮へ 帰つた姿を眺むれば青菜に塩か蛭に塩 血を吐く思ひの時鳥ほつと一息休む間も なくてこの場に一同引き出され何の云ひわけ荒男 男の顔も竜世姫立つ時えらい勢で 帰つた時のその姿姿かくして泣いてゐる これが深山の時鳥ほうほけきようの呆け面 面を隠して尻を出し尻の締りはこの通り 通り越したる大阿呆阿呆々々と暁に 鳴いた烏の惚け声どうぞ許して下しやんせ 三人寄れば文殊の智慧といふものをこの三人の神さんは 年は取つても虫喰はぬ目に見ぬ智慧は稚姫の 若布のやうな弱腰で向ふも見ずにべらべらと 云はぬは云ふにいや勝る猿が三匹飛んで出て 常世の国で恥をかきなほまた帰つて頭掻く 木から落ちたる猿のよに空を眺めて泣くよりも 一先づこの場をさるがよいよいよいよいのよいとさつさ』 といふ戯歌であつた。三柱はこの歌の言霊によつて、稚桜姫命のお怒りを和らげ、言霊別命を失つたる失敗の罪を赦された。 (大正一〇・一一・一旧一〇・二加藤明子録)
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霊界物語 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 33 焼野の雉子 第三三章焼野の雉子〔八三〕 高白山の陣営は、元照彦代つてアラスカ全土を治めてゐた。 ここに常世姫の部将猿世彦は、スペリオル湖において一たん救けられたが、たちまち変心して常世姫の命をふくみ、駒山彦の高白山下の隠れ家にいたり、ふたたび高白山占領の計画を執拗にも企ててゐた。 まづ第一に荒熊姫を説きおとす必要を感じ、種々の手段をもつて荒熊姫に密会した。荒熊姫は元照彦にその子清照彦の亡ぼされしことを、常に恨んでゐた。彼にとつて、仇敵を主将と仰ぎつかふるは、実に無限の苦痛であつた。ある時はその寝室にしのび入り、一刺にこれを刺殺し、吾児の仇を報いむと考へたこともしばしばであつた。 かかる考へを抱いてゐる荒熊姫にひそかに面会をもとめた。猿世彦、駒山彦は荒熊姫にとつては実に強大なる味方を得たごとく感ぜられた。 猿世彦、駒山彦は荒熊姫にむかひ、 『貴下は子の愛を知れりや』 と問ふた。荒熊姫は涙を腮辺に垂らしつつ、 『焼野の雉子夜の鶴、子を憐まざるはなし。ましてや天にも地にも杖柱とたのむ最愛の子を討たれ、老の身の味気なき世を送る吾らの境遇、推量されよ』 とその場によよと泣きふれた。 ふたりは策のあたれるを喜び、さも同情の念に堪へざるごとく、ひそかに両眼に唾をぬり、泣顔をつくり、さも悲しさうにオイオイと泣きくづれた。荒熊姫は居たたまらず、共に声を放つて泣きさけんだ。 荒熊彦はその泣声を聞いて馳せきたり、見れば三柱のこの状態である。荒熊彦は声を励まして、 『かかる太平の御代にあたつて何を悲しむか』 と尋ねた。三柱はその声に驚いて一度に顔をあげた。見れば敵軍の駒山彦、猿世彦がその場にあつた。 荒熊彦は大いに憤り、荒熊姫にむかつて、 『汝は何故にわれの承認をも得ず、男性をわが居間に引入るるのみならず、このふたりは敵方の謀将である。実に汝の挙動こそ訝かしきかぎりなれ』 と怒りとともにその不都合を詰つた。ここに荒熊姫は泣きたふれつつ、 『愛児の清照彦を亡ぼせしは元照彦の部下である。しかるに今や何の因果ぞ、吾子の仇を主将として仰ぎ、これにまめまめしく仕ふるは実に残念である。時世時節とは云ひながら、かかる悲惨なことが何処にあらうか』 と、いと悲しげにいふのであつた。猿世彦、駒山彦はすかさず荒熊彦にむかひ、今日までの無礼を謝した。さうして、 『吾らふたりは最愛の独児を彼元照彦の部下に殺され、無念やるかたなく、いかにしてもこの仇を報ぜむと日夜肺肝をくだいてゐた。貴下は勇壮活溌にしてわが児の愛には溺れたまはず、時世時節とあきらめて、仇敵にまめまめしく奉仕さるるは、実にお心の美しき次第である。されど金銀珠玉、その他あまたの宝ありといへども、吾児にまさる宝は、天地の間にあらじと思ふ。貴下はこれでも愛児の仇を討ちたまふ御心はなきや』 といつて、荒熊彦の顔色いかにと見詰めてゐた。 荒熊彦は黙然として何の返事もなく、さしうつむいて思案にくれてゐたが、たちまち両眼よりは豆のごとき涙がはふり落つる。 元来、荒熊彦は言霊別命を亡ぼし、自分がとつて代らむとし、駒山彦に一時款を通じたる関係上、今は敵味方と区別はあれど、子を思ふ一念は少しも変りはない。同病相憐むの念より、叛心をおこし、駒山彦らとともに元照彦を亡ぼし、みづから主将となりアラスカの王たらむとした。 ここに荒熊姫は偽つて元照彦を殺さむとし、事をかまへて拝謁を乞ふた。元照彦は何の気もなく面会を許した。見れば荒熊姫は表面笑を含み、何心なき体を装ふてゐたるが、その面上には陰険なる毒気を含んでゐた。 元照彦はこれを怪しみ、ただちに荒熊姫の両手を後へ捻まはし、堅く柱に縛りつけ酷しく訊問をはじめた。荒熊姫は知らぬ知らぬの一点張りである。勝敗いかにと気遣ひたる荒熊彦、猿世彦、駒山彦はこのとき折戸を押しわけ乱入し、矢庭に元照彦を目がけて斬つてかかつた。 元照彦は三柱を相手に、しばしは火花を散らして闘ふたが、つひに山を下り、身をもつて逃れ、ローマをさして遠く落ちのびた。かくして高白山は全く荒熊彦の手に落ちた。 (大正一〇・一一・三旧一〇・四谷口正治録)
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霊界物語 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 35 南高山の神宝 第三五章南高山の神宝〔八五〕 竜宮城の表大門口は花森彦、道貴彦二神司が控へてゐた。この時、天下の形勢を憂へ、四方八方より神業に参加せむとして集まる神司は日増しに殖えてきた。折しも東の空より怪しき光を放つて入り来る神司があつた。この神司を若豊彦といふ。若豊彦は常世の国にありて、数多の神司と共に神界を救ふべく種々の画策をなし、一時は一方の主将となり声望を遠近に轟かした神司である。然るに時節非にして大自在天の忌諱にふれ、たちまち猛烈なる攻撃にあひ、カシハ城をすて味方は四方に散乱し、自分はわづかに身をもつて免れた。この神司はいかにしても初志を達せむとし、散り失せたる味方の神将を集めむとしたが、カシハ城の陥落のために、目的を達することができなかつた。ここにおいて、地の高天原に稚桜姫命あらはれ神政成就の経綸を起したまふと聞き、自分もその幕下に参加せむとし、はるばる尋ねてきたのである。道貴彦、花森彦は一見してその真偽を疑ひ、これを言霊別命に進言した。言霊別命はただちに神国別命に命じて、その正邪を審判せしめた。八咫の大広間に連れゆき、ここに厳粛なる審神がはじまつた。若豊彦の肉体には数多の邪神がひそかに憑依してゐた。大神の神殿に端座し、神国別命の審神を受くるや、たちまち憑霊現はれて前後左右に飛びまはり、野天狗、野狐、悪蛇、狸の類さかんに飛びだし、その数は幾十百とも数ふるに遑なきほどであつた。これらの数多の邪霊は美山彦の部下の魔神であつて、若豊彦の体に憑依し竜宮城に深く忍び入らむとした。ここに厳粛なる審神によつて邪霊は全部その正体を露はし、四方八方に逃げ散つた。 邪霊の退きさつた若豊彦は、はじめて本心にたちかへり、正しき神司となつて竜宮城に奉仕することとなつた。そこで言霊別命は花森彦を神務につかしめ、若豊彦には、その後を襲はしめた。それより表大門は道貴彦、若豊彦の二神が厳守することとなつた。若豊彦は漸次すすんで、言霊別命の帷幄に参ずるやうになつた。 若豊彦は命の内命をうけ天の高天原にいたり、天上において最も有力なる女神の高照姫命を百方力をつくして説きつけ、竜宮城に下つてきた。ここに高照姫命は城内の諸神司に迎へられ、鄭重なる饗応を受け、ついで稚桜姫命に謁し、天上における混乱の状態を詳細に宣り伝へ、かつ天上を修理固成し、真の天国たらしめむとせば、まづ地上の修祓を第一着とするの必要なることを詳細に宣示された。 稚桜姫命はその真意を諒し、ここに天地相応じて、神業に参加せむことを互ひに相約された。この時、天の八衢より高照姫命の様子をうかがひ、ひそかに跟けきたりし大魔我彦はその場に現はれて、 『吾は両神の秘密の計画を残らず聞きたり。さればこれよりこの一伍一什を八王大神に報告し、もつて根底より破壊せしめむ。後悔するな』 と言ひをはるとともに、姿を消し黒雲となつて逸早く東方の天に向つて去つた。両神司は魔神に神策の暴露せむことを恐れ、奥殿に入つて深く戸を閉ぢ、真澄姫を加へて種々の協議ををへ、その結果、言霊別命を招き神界の秘策を授けられた。 言霊別命は高照姫命を先頭に、神国別命、花照姫、火水姫、梅若彦、広照彦、秋足彦、村幸彦、若豊彦以下五神将をともなひ、長駆して南高山に微行することとなつた。このとき天の八衢に待ち伏せたる大魔我彦一派は、一行の乗れる天の磐船を覆へさむとし、数多の部下を引き連れ、醜の磐船をあまた狩り集め、中空にありて盛んに攻撃をはじめた。 高照姫命の一行は、ただちに方向を変じて北方に引きかへし、東方の天にめぐり、つひに東北さして大空高く、やうやくにして南高山に到着した。 南高山は天上より下りたる種々の神宝の秘蔵されし霊山である。五六七神政成就のために使用すべき種々の神物が充満してゐる。高照姫命は一々その神宝を点検し、一切を言霊別命に授け、若豊彦を従へて一旦天上に帰られた。言霊別命一行は一切の秘密を固く守り、目出たく竜宮城へ帰還した。この南高山の神物は、他の神司には少しも点検を許さず、言霊別命ただ一柱がこれを旧のごとく秘めおかれた。 (大正一〇・一一・四旧一〇・五桜井重雄録)
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霊界物語 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 37 長高山の悲劇 第三七章長高山の悲劇〔八七〕 長高山の城塞には清照彦、末世姫、元照彦とともに、高白山に遣はしたる使者の帰還を待つてゐた。そこへ第一、第二の使者は天空をかすめて一度に帰つてきた。 様子いかにと待ちかまへたる清照彦は、ただちに使者を居間に通した。使者は荒熊彦夫妻の反逆心ますます強く、かつ常世姫の圧迫はげしく、駒山彦は容易に従はず、やむを得ず、言霊別命に反抗を継続するの決心確なりと報告した。 清照彦はしばし黙然として頭を垂れ、吐息をつき思案にくれた態であつた。末世姫の顔には憂ひの雲が漂うた。 やがて清照彦は翻然としてたち上り、部下の部将を集めて、 『吾らの強敵は高白山にあり。早く出陣の用意に取りかかれ』 と命令を発した。数多の部将は時を移さず群臣を集め、部署を定め、命令一下せばたちまち出発せむと、数万の鳥船を用意した。清照彦は一室に入つて独語した。 『あゝ天なる哉。吾父母を救ひたる恩神にたいし、背かばこれ天の道に非ず。さりとて又、山海の鴻恩ある父母を討たむか、これまた天の理に反くものなり。されど大義は炳然として日月の如し。あゝ、鴻恩ある父よ、母よ、吾不孝の罪を赦したまへ』 かく言ひて涙に暮るるをりしも、最前より様子を窺ひゐたる末世姫は、あわただしく入り来つて、清照彦の袖をひかへ、 『夫神、かくまで決心したまひし以上は、妾はいかにとどめ奉らむとするも、とどまりたまはざるべし。されど、父の恩は山より高く、母の恩は海より深しと聞く。いかに大義を重んずればとて、現在骨肉の父母を殺したまふは、いかに時世時節とは申しながら悲惨のきはみなり。希はくはわが夫よ、今日の場合は厳正なる中立を守り、もつて忠孝両全の策を建てさせ給へ』 かく言つて末世姫は掻き口説くのである。このとき清照彦、慨然として立ち上り、 『一旦、男子の身として決心の臍を固めたる以上は、善悪正邪は兎も角、初志を貫徹せざれば止まず。女子の喧しく邪魔ひろぐな』 と云ひも終らず、袖ふり払ひ、今や出陣の用意にかからむとした。末世姫はただちに一室に入り、懐剣を逆手にもち、咽喉を掻き切つてその場にうち倒れた。清照彦は怪しき物音にうち驚き、一室に走り入り見れば、こはそも如何に、末世姫は朱に染り、悶え苦しみつつあつた。 清照彦はこの有様を見て何思ひけむ、たちまち大刀を抜き放ち、双肌を脱ぎ、しばらくこれを打ち眺めてありしが、たちまち決心の色をあらはすとともに、刀を逆手に持ち、左腹部よりこれを突き切らむとする一刹那、元照彦は差し足抜き足しのび寄り、その大刀をもぎとり声をはげまして、その不覚を戒しめた。 時しも天空とどろきわたり、天の磐船に乗りて降りきたる神司があつた。これは竜宮城より派遣されたる梅若彦である。ただちに案内もなくツカツカと奥殿に入りきたり、清照彦に大神の命を伝へむとした。 清照彦は使者の来臨に驚き、ただちに容をあらため、襟を正し、梅若彦を正座に直し、自らは遠く引下つてその旨を承はらむことを申し上げた。 梅若彦は懐中より恭しく一書を取出し、これを頭上に捧げ披いてその文面を読み伝へた。その文意は、 『荒熊彦、荒熊姫、駒山彦ら、常世姫に内通し、高白山を根拠とし、つひに竜宮城を占領せむとす。汝は元照彦に長高山を守らしめ、みづから神軍を率ゐて高白山を攻め、彼ら魔軍を剿滅せよ』 との厳命である。しかし言霊別命は大慈大仁の神なれば、決して内心清照彦をして父母の両親を討たしめむの心なし、ただ清照彦をして父母両親を悔い改めしめ、最愛の児の手より救はしめむとの神慮であつた。清照彦は深き神慮を知らず大義名分を重んじ、つひに父母両神を涙を振つて攻撃した。すなはち清照彦の心中は熱鉄をのむよりも苦しかつた。されど大命は黙しがたく謹んで拝命の旨を答へた。 梅若彦は吾が使命の遂げられたるを喜び、 『時あつて親子兄弟となり主従となり、互ひに相争ふも天の命ならむ。御心中察し入る』 と温かき一言を残して再び磐船に乗り、蒼空高く竜宮城さして帰還した。 ここに、高白山の城塞には、高虎彦の部下に大虎別といふ忠勇にして誠実なる神があつた。この神は常に荒熊彦の悪事を嘆き、いかにもして悔改めしめむと、陰に陽に全力をつくして注意したのである。今しも荒熊彦夫妻のあくまで神軍に対抗せむとする状を聞き、その場にあらはれ種々の道理を説き、涙を流して諫言した。されど、荒熊彦は容易に肯かむとする気色がなかつた。 大虎別は、 『吾かくの如く主の耳に逆らひ奉るは、主および天下の大事を思へばなり。かくなる上は到底吾が力の及ぶべくもあらず。さらば』 といふより早く懐剣をとり出し、手早く双肌を脱ぎ、腹を掻ききり、咽喉を突刺し、その場に繹切れた。 荒熊彦は冷笑の眼をもつてこれを眺めてゐた。たちまち西北の天より数万の神軍天の鳥船にうち乗り、高白山の上空高く押寄せきたり、空中より火弾を投下した。ために駒山彦は戦死し、荒熊彦夫妻は天の磐船に乗り、ローマを指して一目散に遁走した。この神軍はいふまでもなく清照彦の率ゐるものであつた。 陥落したる高白山は清照彦代つてこれを守り、アラスカ全土はきはめて平和に治まつた。さうして長高山は元照彦これを守り、その地方一帯はこれまた平安によく治まつてゐた。後に清照彦はシオン山の戦闘に加はらず、ここに割拠し、言霊別命の了解をえて堅く守つた。 (大正一〇・一一・四旧一〇・五谷口正治録)
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霊界物語 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 38 歓天喜地 第三八章歓天喜地〔八八〕 清照彦は最愛の妻に死に別れ、厚くこれを葬るのいとまもなく、言霊別命の進退ならぬ厳命に接し、ただちに高白山に向ひ、呑剣断腸の思ひをなして、骨肉の父母両親を討滅するのやむなき窮境にたちいたつた。されど神命辞するに由なく、大義を重んじ、ここに血をもつて血を洗ふ悲惨なる戦闘を開始した。 荒熊彦、荒熊姫は一方血路を開き辛うじて免るることを得た。この時清照彦は、ただちに追撃せばこれを滅ぼすこと実に容易であつた。されど敵といひながら、肉身の情にひかされ、わざとこれを見逃し、心の中にその影を拝みつつ、父母の前途を気遣ひ、いづれへなりとも両親の隠れて安く余生を送らむことを祈願した。親子の情としてはさもあるべきことである。 荒熊彦は、散軍を集めて尚も懲りずまに羅馬城に進み、決死の覚悟をもつて戦ふた。されど天運つたなき荒熊彦は力尽き、つひに大島彦のために捕虜となり、夫婦ともに密に幽閉され、面白からぬ幾ばくかの月日を送つた。 清照彦は、風の共響きに両親の羅馬に敗れ、幽閉され、苦しみつつあることを伝へ聞きて、心も心ならず、煩悶苦悩しつつ面白からぬ月日を淋しく送つてゐた。清照彦は忠義に篤く、孝道深き神司なれば、その心中の煩悶は一入察するに余りありといふべし。清照彦は雨の朝風の夕に空を仰いで吐息を漏らし、われ両親の憂目を見ながら坐視するに忍びず、これを救はむとすれば主命に背き、大逆の罪を重ぬるにいたるべし。あゝ両親といひ妻といひ、今は或ひは幽界に、あるひは敵城に囚はれ、子たるもの如何に心を鬼畜に持すとも忍び難し、いつそ自刃を遂げ、もつて忠孝の大義を全うせむ、と決心せる折しも、また飛報あり、 『荒熊彦夫妻は、羅馬において大島彦のために殺されたり』 と。これを聞きたる清照彦は矢も楯もたまらず、吾は山海の洪恩ある恋しき両親に別れ妻に別れ、生きて何の楽しみもなし、自刃するはこの時なりと、天に向つて吾身の不遇を歎き号泣し、短刀を逆手に持ち双肌脱いで覚悟をきはむるをりしも、天空より光強き宝玉眼前に落下するよと見えしが、たちまちその光玉破裂して、中より麗しく優しき女神現はれたまひ、 『吾は天極紫微宮より来れる天使なり。天津神は汝が忠孝両全の至誠を憐みたまひ、ここに汝を救ふべく吾を降したまへり。汝しばらく隠忍して時を待て、汝がもつとも敬愛する両親および妻に再会せしめむ。夢疑ふなかれ』 との言葉を残して、再び鮮光まばゆき玉と化り天上にその影を隠した。後に清照彦は夢に夢見る心地して、合点のゆかぬ今の天女の言葉、われは憂苦のあまり遂に狂せるには非ざるか。あるひは父母、妻を思ふのあまり、一念凝つて幻影を認めしに非ずやと、みづから疑ふのであつた。されどどこやら心の底に、一道の光明が輝くのを認めた。何はともあれ、吾ここに自刃せば、たれか両親および妻の霊を慰むるものあらむ、と心を取り直し、時節を覚束なくも待つことに決心した。 待つこと幾星霜、山は緑に包まれ、諸々の鳥は春を謳ひ、麗しき花は芳香を放ち、所狭きまで咲き満ち、神司はその光景を見て喜び勇み、あたかも天国の春に遇へるがごとく舞ひ狂うてゐた。されど清照彦の心の空はますます曇り、花は咲けども、鳥は歌へども、諸神司は勇み遊べども、自分に取つては見るもの聞くもの、すべてが吾を呪ふもののごとく、悲哀の涙はかはく術なく、日に夜に憂愁の念は増すばかりであつた。 清照彦は天の一方を眺め、長大歎息を漏らす折しも、天空高く数十の鳥船は翼を連ね高白山めがけて降り来るあり、いづれの鳥船にもみな十曜の神旗が立てられてあつた。清照彦は、かかる歎きの際、又もや竜宮城よりいかなる厳命の下りしならむかと、心を千々に砕きつつ重き頭を痛めた。 鳥船はたちまち清照彦の面前近く下り来りて、内より言霊別命、元照彦、梅若彦は英気に満ちたる顔色にて現はれ来り、言霊別命は第一に進んで清照彦にむかひ慇懃に礼を述べ、かつ容を改め正座に直り、 『われ今、稚桜姫命の神使として、当城に来りし理由は、汝に賞賜のためなり』 と云ひをはつて、数多の従臣に命じ善美を尽した御輿を鳥船よりかつぎおろさしめ、清照彦の前に据ゑ、 『汝は忠孝を全うし、かつ至誠をよく天地に貫徹したり。国治立の大神は深くこれを嘉して汝に珍宝を授与し賜ひたり。謹んで拝受されよ』 と莞爾として控へてをられた。清照彦は不審の念ますます晴れず、とも角もその厚意を感謝した。前方の輿よりは顔色美しく勇気凛々たる男神が現はれた。つらつら見れば思ひがけなきわが父荒熊彦であつた。第二の輿を開いて母の荒熊姫が現はれた。第三の輿よりは自殺せしと思ひし最愛の妻末世姫が現はれ、ただちに清照彦の手を取つてうれし泣きに泣く。清照彦は夢に夢見る心地して何と言葉も泣くばかり、ここに四人一度に声を放つて嬉し涙に時を移した。親子夫婦の目出たき対面に、高白山の木も草も空の景色も、一入光を添へるやうであつた。 ここに言霊別命は懐中より一書を取出し、声も涼しく神文を読み聞かした。その意味は、 『長高山は汝荒熊彦、荒熊姫これを主宰せよ。また高白山は清照彦永遠にこれを主宰せよ』 との神勅である。 附記 末世姫は長高山の城中において自刃せむとしたるとき、たちまちその貞節に感じ、天使来りて身代りとなり、末世姫は無事に言霊別命の傍近く仕へてゐた。 (大正一〇・一一・六旧一〇・七加藤明子録)
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霊界物語 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 総説 総説 天地剖判して大地、日、月、星辰現はれ、地上には樹草、人類、獣、鳥、魚、虫を発生せしめ、各自分掌の神を定めてこれを守護せしめたまひける。 大神は人体の元祖神として天足彦、胞場姫を生みたまひ、天の益人の種と成したまひたり。しかるに天足彦は胞場姫のために神勅にそむきて霊主体従の本義を忘れ、つひに体主霊従の果実を食し、霊性たちまち悪化して子孫に悪念を遺したるのみならず、邪念はおのづから凝つて八頭八尾の大蛇と変じ、あるひは金毛九尾の悪狐と化し、六面八臂の魔鬼となり、世界を混乱紛擾せしめ、国治立大神、国直姫命、大八洲彦命以下の諸神を根の国に隠退せしめ、盤古大神(塩長彦)を奉じて国治立大神の聖職に代らしめ、塩長姫をして国直姫命の職をおそはしめ、八王大神(常世彦)をして大八洲彦命の職を司らしめ、常世姫をして豊国姫命にかはらしめ、和光同塵的神策を布き、一時を糊塗して、大国彦と結託し、世界を物質主義に悪化し、優勝劣敗、弱肉強食の端を開き、つひには収拾すべからざる悪逆無道の暗黒界と化せしめ、その惨状目もあてられぬ光景となりたれば、天の三体の大神も坐視するに忍びず、ここに末法濁世の代を短縮して再び国治立命の出現を命じたまひ、完全無欠の理想の神世の出現せむとする次第を略述せるものなれども、製本上の都合により本巻は、国大立命および金勝要神、大将軍沢田彦命の隠退さるるまでの霊界の消息を伝ふることとせり。ゆゑにこの霊界物語は、あたかも大海の一滴、九牛の一毛にもおよばず、無限絶対、無始無終の霊界の一部の物語なれば、これをもつて霊界の全況となすは誤りなり。願はくはこの書をもつて霊界一部の消息を探知し、霊主体従の身魂に立ちかへり、世界万国のために弥勒の神業に奉仕されむことを懇望する次第なり。数千年間の歴史上の事実のみ研究さるる現代の人士は、この物語を読みて或ひは怪乱狂暴取るにたらざる痴人の夢物語と嘲笑し、牽強附会の言となさむは、むしろ当然の理といふべし。神諭に曰く、 『世の元の誠の生神が、時節きたりてこの世に現はれ、因縁ある身魂にうつりて太古から言ひおきにも、書きおきにもなきことを、筆と口とで世界へ知らすのであるから、世界の人民が疑ふて真実にいたさぬのは、もつとものことであるぞよ云々』 と示されあり。また、 『この神の申すことは、因縁の身魂でないと、到底腹へは這入らぬぞよ』 と示されあり。ゆゑに神縁深き人士にあらざれば、断じて信じ難からむ。 要は、単に一片の小説と見なしたまふも不可なく、また痴人の夢物語として読まるるも可なり。ただ天地の大神たちの天地修理固成の容易ならざる御艱難と御苦心の径路を拝察したてまつり、かつ洪大無辺の神恩に報ひたてまつり、人生の本分を全ふしうる人士の一人にても出現するにいたらば、口述者にとりて、望外の欣幸とするところなり。惟神霊幸倍坐世 大正十一年一月王仁識
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霊界物語 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 22 神前の審判 第二二章神前の審判〔一二二〕 天山には黄色の玉を祀り、宮殿を造営してこれを鎮祭し、埴安の宮と名づけられたり。斎代彦を八王神とし、妻神斎代姫をして神業を輔佐せしめ、谷山彦を八頭神となし、谷山姫をして神政を輔助せしめられける。谷山姫は嫉妬猜疑の念ふかく、斎代姫の命令をきくことを非常に不快に感じゐたり。夫婦は、つねに犬猿のごとく、たがひに嫉視反目をつづけ、それがために天山城内の神政は、つねに紛擾絶えざりける。 ここに八王大神は、部下の邪神荒国彦を谷山彦の肉体に憑依せしめ、また荒国姫といふ邪神を谷山姫に憑依せしめたり。これより谷山彦夫妻の性行は俄然一変し、斎代彦夫妻をしりぞけ、みづから八王神たらむことを企てける。斯くのごとく悪心を起したるは全く憑霊の所為なり。ここに谷山彦は妻の使嗾により、埴安の宮司国代彦、国代姫の夫婦を手に入れ、国魂を盗ましめ、八王神の身に失策を招かしめ、その目的を達せむとし、種々の手段をめぐらしゐたりける。 しかるに宮司の国代彦は正義の神司なれば、容易にその心を動かすべからざるを悟り、妻の国代姫を甘言をもつて説得せむと計りぬ。国代姫は谷山彦夫妻に招かれけるが、谷山彦はいふ、 『汝の弁舌をもつて夫国代彦の心を動かし、国魂を盗み出さしめなば、吾はただちに八王神の位に上り、汝ら夫妻を八頭神の地位に据ゑむ』 と言葉たくみに説き立てたり。国代姫はその成功を危ぶみ、かつ天地の律法に背く由を述べ、これを謝絶せむとするとき、何心なく夫の国代彦はこの場に現はれ来りぬ。谷山彦は国代彦にむかひて前述の謀計を打明けたるに、国代彦は一も二もなく賛成の意を表しけり。国代姫は夫の言に驚き、涙とともにその悪行を止めむとて泣きて諫言したりけれども、国代彦は決心の色を面に現はし、今この場において谷山彦の意見に反対を表せむか、いかなる危害の身辺に及ばむも計り難しと、わざと空惚けていふ、 『我は天則違反の行為ならむと察すれども、諺にも勝てば善神、敗れば邪神といふことあり。吾が出世栄達の道を開かせたまふならば、よろこンで貴下の命を奉ぜむ』 と即答したりける。 谷山彦夫妻は大いに喜び、埴安の宮の祭典をおこなひ、これを潮に宮司国代彦をして玉を盗み出さしめむとしたりければ、国代彦は同形同色の偽玉を造り、深く懐に秘めて祭典に列し、みづから鍵を出して宮の扉を開き種々の供物を献じ、ひそかに偽玉を谷山彦に手渡ししたるに、谷山彦は素知らぬ顔を装ひ、これを懐中に秘しゐたりけり。祭典は無事に終了し、八王神斎代彦、斎代姫も列席し、直会の宴は盛ンに開かれ、八百万神司は神酒に酔ひ、歌をうたひ、踊り狂ふ。このとき国代彦はたちて歌をうたひ、しきりに踊りはじめけり。その歌は、 『時世時節は怖いもの深山を越えて谷越えて 常世の国の涯の涯黄が気でならぬ玉の守り。 時世時節は怖いもの谷は変じて山となり 山は代つて谷となる変れば変る世の中よ。 頭は今に尻尾となり尻尾は転げて谷底へ 落ちて苦しむ眼前何の用捨も荒国彦の 霊の憑りし谷と山どこの国代か知らねども 木々(黄々)の木魂に響くなり。埴安宮の玉欲しと 谷と山から攻めてくる谷と山から狙ひをる。 照る日の影は清くとも雲霧たつは山の谷 虎狼も隠れすむ気をつけ守る国世彦[※国代彦の誤記か?] 玉は日に夜に曇るなり。曇る玉こそ替玉よ』 といつて面白く踊り狂ふ。ここに八王神斎代彦はこの歌を聴き、谷山彦の謀叛を悟り、ただちに夫妻を捕へて厳しく詰問したり。谷山彦は答ふるに実をもつてせり。 ここに斎代彦は谷山彦夫妻の職を免じ、国代彦、国代姫をして八頭神の後を襲はしめむと宣言せり。この時謙譲の徳高き国代彦夫妻は、 『命の大命実に有りがたく、身にあまる光栄なれど、われはかかる聖職に任ぜらるるの資格なし。願はくば以前のごとく宮司たらしめられたし。谷山彦夫妻は思ふに元よりかかる悪事を企つるごとき邪神にはあらず。悪霊の憑依によつてかかる無道の行動に出でられしならむ。すみやかに神前にともなひゆきて厳粛なる審神を奉仕し、その上にて裁断あらむことを』 と涙を流し赤心面にあふれて奏上したりける。斎代彦は打ちうなづき、直ちに二人の審神を開始されけるに、たちまち二神は上下左右に身体震動し、邪神荒国彦は谷山彦の体内より、荒国姫は谷山姫の体内より、神威に畏れて脱出し、悪狐の正体を現はし、常世の国にむかつて雲を霞と逃げ去りにけり。 邪神の脱け出でたる後の谷山彦夫妻は、夢から醒めたるごとく前非を悔い、かつ邪神の謀計の恐ろしきを悟り、それより心をあらため、神々を篤く信じ、元の誠心に立ちかへりけり。斎代彦は今までの谷山彦夫妻の行動は、まつたく邪神憑依の結果となし、その罪を赦し、元のごとく八頭神の聖職に就かしめたりける。 (大正一〇・一一・一八旧一〇・一九土井靖都録)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 01 常世会議 第一章常世会議〔一五一〕 太古の神界経綸の神業は、最初稚桜姫命の天則違反によりて瓦解し、つぎに国直姫命の神政となり、これまた姫命の地上を見捨て天上へ帰還されしため、大八洲彦命の神政に移りける。いづれも国治立命の統轄のもとに、神政の経綸に奉仕したまひけり。つぎには天上より高照姫命、地の高天原にくだりて神政経綸の神業に奉仕し、またもや瓦解の運命におちいり、ついで沢田彦命天より降りて国治立命のもとに神政経綸の神業に奉仕し、大破壊を馴致して、またもや地上を捨て天上に還りたまひたるなり。 国治立命は幾度主任の神を代ふるも失敗に帰し、あたかも蟹の手足をもぎ取られたるごとくに途方に暮れたまひける。されど性来の剛直端正なる国治立命は、天地の律法を厳守して、いかなる難局に会するも毫も屈せず、部下の諸神人にむかつて律法の寸毫も干犯すべからざることを厳格に命じたまひしがために地の高天原の主任者は、しばしば更迭したりける。 常世の国の八王大神は機逸すべからずとして、世界各山各地の八王八頭を常世城に召集し謀議を凝らさむと、天の鳥舟を四方に馳せ神の正邪の論なく、智愚に関せず一所に集めて、八王八頭の聯合を図りたり。また一方には自在天大国彦と内々協議を遂げおき、世界神人の国魂会議を開かむとせり。 すなはち八王大神側よりは美山彦、国照姫、魔我彦、魔我姫、清熊、竜山別、蠑螈別、八十枉彦、朝触、夕触、日触、山嵐、広若、舟木姫、田糸姫、鬼若、猿姫、広依別らの諸神人の出席することとなりにける。 大自在天大国彦側よりは、大鷹彦、中依別、牛雲別、蚊取別、蟹雲別、藤高別、鷹取別、遠山別、醜国別、倉波、蚊々虎、荒虎別、国弘別、出雲別、高彦らの神人、堂々として出席したり。 また十二の八王八頭の神司は、万寿山の磐樟彦、瑞穂別を除くほかは、全部出席することとなりけり。しかるに常世の国の八王大神より、ぜひ出席すべく数多の鳥舟を率ゐ、蠑螈別をして万寿山に急使を遣はしていふ、 『神界統一のため、平和のための会議に出席なき時は、一大団結力をもつて貴下を神界現界一般の破壊者とみなし、これを討伐するのやむを得ざるに至らむ』 と脅喝的信書をもつて来たらしめたりけるに、万寿山城にては大八洲彦命、磐樟彦以下の神人らは俄の会議を開かれにける。 磐樟彦は強剛なる態度を持していふ、 『たとへ世界の神人らが一束となつて万寿山へ押寄せくるとも、我は霊鷲山の神の力によりて引受け、数百千万の敵軍をただ一息の伊吹に吹払ひ退け、天地律法の精神によりて天下の千妖万魔を言向け和合し、国治立命の神慮に叶ひたてまつれる大神世を樹立せむ。生ける誠の神の神力には、如何なる邪神も、悪魔も敵し得べきものにあらず。今回の常世の会議は常世彦、大国彦が大陰謀の発露なればかかる会議に相交はり、相口合ふは巨石を抱きて海に投ずるよりも危険なれば、当山の神司は一柱といへども出席すべからず』 と主張したりければ、大八洲彦命は第一に八王神磐樟彦の説に賛成の意を表し、断じて出席すべからずと主張したまへり。 ここに瑞穂別は立ち上り、 『大八洲彦命、磐樟彦の御説示は、実にもつとも千万の次第なれども、時世時節の力には抗すべからず。よろしく時代の趨勢に順応するをもつて、神政経綸の必要事と思ふ。すみやかに当山より何れかの神司を遣はして、今回の大会議に列せしめたまへ。万々一にも出席を望まざる神司数多ありとせば、願はくば我を使者として派遣せしめたまへ。いかに霊鷲山の神人らの威徳は強くとも、国治立命の制定せられし律法の一端に触るることありとも、今回の神集ひに出席せざらむか、世界の神人らに万寿山の神司らは、世界の平和を破壊する邪神司として一斉に攻撃さるるも、答弁の辞なかるべし。今や当山は実に危急存亡の秋なり。吾らは神界現界平和のために強て出席の議を決定されむことを希望の至りに耐へず』 と主張したりければ、神司らはこの場の光景を見ていかになりゆくかと、各自固唾を呑みてひかへゐる。このとき神国別命は立つて、瑞穂別の出席説に大々的反対を唱へける。 瑞穂別はおほいに怒りて、 『貴下らは天地の律法を破り、国治立命より当山に御預け、否な食客となりし神司なれば、八頭神たる我々の所説に容喙すべき資格なし。退場あれ』 と声を慄はせながら顔色火のごとくなりて怒鳴りつけたり。 ここに大八洲彦命、神国別命、言霊別命、大足彦は席を蹴つて退場したりけり。 あとに瑞穂別は肩をいからせ、肱を張り、居丈け高になりて、八王神の磐樟彦に出席の正当なる理由を千言万語理をつくし理義を明して説き迫りけり。城内の諸神司の賛否は相半し、いづれとも決断付かざりにける。磐樟彦は立つて、 『最早この上は神示に従ふのほかに道なし。汝瑞穂別は神殿に拝跪し、自ら神勅を乞ひ、神示によりて出否を決せよ』 と一言を遺して退席したり。ここに瑞穂別は直に月宮殿に参拝し、今回の事件にたいする神示を恭しく奉伺したるに、たちまち瑞穂別の身体は、麻痺して微動だもできずなりぬ。従ひきたれる瑞穂姫は俄然帰神となり、身体上下左右に震動しはじめ、早くも口が切りし憑神はいふ、 『我は国治立命の荒魂、奇魂なり。今回の神集ひは常世彦、大国彦ら一派の周到なる陰謀に出づるものなれば、当山の神司は一柱といへども出席すべからず。今後いかなる難関に逢ふことありとも、よく忍ぶべし。第二の神界経綸の聖場なれば、当城のみは決して敵に蹂躙さるるがごときことなし。真正の力ある神司神人をして、五六七出現の世までは固く守護せしめむ。夢疑ふことなかれ』 と宣言して、姫の体内より出で去りたまひぬ。それと同時に姫の身体はもとに復しける。この神勅と様子を見聞しゐたる瑞穂別は、おほいに前非を悔悟し、心中にて大神に謝罪すると同時に瑞穂別命の身体また旧に復し自由自在となりぬ。固りて直ちに大神に感謝し、荘厳なる報本反始の祭典を挙行し、八王大神および大八洲彦命以下の神司らに陳謝し、万寿山の神人は一柱も出席せざる由を常世の国の使者にむかつて、断乎として宣示したりける。常世の使者、蠑螈別は拍子ぬけしたる顔色にて、一同の神人をさもいやらしき眼にて睨みつけ、 『勝手にされよ。後日に悔いをのこされな』 と捨台詞をのこして天の鳥舟に乗り、あまたの従者とともに常世の国へ還りける。 (大正一〇・一二・一五旧一一・一七出口瑞月)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 14 大怪物 第一四章大怪物〔一六四〕 ここに大島別の従臣たる玉純彦は、八王大神の許しを得て威勢よく登壇し、笑顔を湛へながら満座の神司の首を一々実検におよび、両肩をわざと聳やかしながら、 『アヽ満座の神司よ、耳の穴の清潔法を執行し、風通しを良くして以て、吾が述ぶるところの高論卓説を謹聴せられよ。我こそは、南高山に隠れなき雷名天地に轟き渡る八王神大島別の第一の重臣のその従臣、又その従臣なる玉純彦とは我がことなり。日は照るとも曇るとも、常世の城は焼けるとも、南高山の名城さへ無事ならば毫も痛痒を感ぜず、笑つてこれを看過するといふ鷹揚至極の大英傑大胆者の玉純彦なるぞ。諺にも勇将の下に弱卒無し、臍の下に乳房なし、口の下に眼なし、ただ眼と口の間には、かくのごとき高き鼻あるのみ』 と言ひつつ右手の指を固めて拳となし、その拳を吾鼻の上におき、左の手の指を固めて前の如く拳骨を造り、右手の上に重ねて、またもや右の手を抜いては左の手の上に重ね又左手を抜いては右手の拳の上に重ね、交る交る手を抜きては重ね腕を上前方に伸長して、 『我はかくの如き鼻の高き英雄なれば、南高山の鼻形役者と持てはやさるる、花も実もある尊きものなるぞ。花の都の花と謳はれしは、智仁勇兼備の誉を恣にする吾玉純彦のことなり。吾素性を聞いて胆を潰し、壇上より転落し、肱を折り挫かざる様、登壇さるる諸神人にたいし忠告を与ふ』 と、広依別もどきにさも横柄にかまへ、またもや以前のごとく両手の拳を交る交る鼻の先に高く重ねながら、手を振り足踏みとどろかし、品よく面白く踊りながら、即座に口から出まかせの歌を作りける。その歌、 『狐ン狐ン痴奇珍狐ン痴奇珍抑狐ン度の大怪議 常世の国の常世彦常世の姫の狐ン胆で ヤツト開けた狐ン怪の真怪屁和のそのために 八百八十八柱の寄りに寄つたる痴甚幽 惨得犬尾の誤醜怪恐れ入谷の鬼子母神 鬼や悪蛇の御念仏アカンアカンと鳴る鐘は 弥勒三会の鐘鳴らで地獄の門を押し開く 合図とかねてきく耳の耳と舌とは極楽へ 上る壇上は針の山足並痛く揃はぬは 妙痴奇珍の珍怪議泥田や野天で法螺を吹く 尾も白狸の腹つづみ神の面には泥をぬり どこもかしこも泥田ン坊泥つくどんどん泥まぶれ 泥に酔ふたる鮒のごと泥吐かされて笑はれる 狐ンな馬鹿げた失態は常世の何処を探しても またと有るまい赤愧とあたまを掻いて仰天し 見れば天には天の川数千万の星の影 ほしいほしいは神界の総統権と咽鳴らす 猫を被つた常世彦常夜の暗の常世姫 さぞや心は細引の褌のやうに右左 外れた目算桁違ひ春日の森の古狐 喰へて振られたモスコーの道貫彦の面の皮 かはいかはいの春日姫長い尻尾に尻の毛を 抜かれて八王の聖職を捨てるといつた腰抜けの 尻からはげて泥の中なかぬ斗りの顔つきで あつもの食つて懲りこりし鱠を吹いた可笑しさよ 南高山は名にし負ふ難攻不落の鉄城と 天下にほこりし八王の大島別の尻の毛は 八島の狐につままれて一本も残らず抜き取られ 城よりか己れ真先にあばずれ姫の春日女の 愛におぼれて無残にも自ら八王の聖職を 落す盲目の常夜城野天の泥田に落されて からしが利いたか双の眼に涙落した可笑しさよ 禿げたあたまは光れども心の魂は光りなし 早く身魂を研きあげ玉純彦の神となり 聖地の神に謝罪せよそれが厭なら我前に 三度も四度も尻まくりワンワンワンと声高く ほえて廻れよ禿八王時世時節と云ひながら 斎代の彦の鼻神は鼻をこすつて眼をこすり 寝とぼけ顔の寝言をば百万陀羅尼と蝶舌り立て 口先ばかりの大神楽獅子の舞ならよからうが 奇想天外天山の八王の神の唐威張 心の底はドキドキと轟き震ふた斎代彦 何を柚やら蜜柑やらキンカン桝で量るやら はかり知られぬ底ぬけの池の鮒とぞならにやよい 生血を搾り吸ひに来る蚊取別神壇上に 現はれ出でて灰猫の手水を使ふその恰好 ツルリと撫でた黒い顔ピシヤリとたたいて鼻柱 吾と吾手で打ち懲らし眼から火を出し肱を折り 痛つたいいたいと男泣き気の毒なりける次第なり 八十枉彦の腰まがり心も鼻も首筋も 能く能く揃ふた曲津神機織バツタの化物か 稀代の珍姿怪体をもれなく高座に曝したり 広依別のウロウロと前後左右に壇上に 大法螺吹いて舞ひ狂ひ蚊取の別の二の舞を 演じてまたもや赤耻をかいてかかれて場外へ 投げ出だされし愚さは余所の見る目も憐なり 余所の見る目も憐なり狐ン狐ン痴奇珍狐ン痴奇珍』 満場の諸神司は玉純彦の面白き節にて謳ふその美声に酔はされ、神聖なる議席にあるを忘れて、ただ口のみ、あんぐりとし耳を澄まし、目を見張りゐたりける。 ふと面を上ぐれば、今まで玉純彦と見えしは謬りにて、仁王にまがふ骨格たくましき荒神は、鏡のごとき両眼をカツと見開き、太き鉄棒をひつさげ壇上に衝立ちながら、八王大神の方を見つめて火焔のごとき舌を吐き出しヂリヂリと攻めよるにぞ、さすがの常世彦も満座の諸神司もこの光景に荒胆をくじかれ、顔色土のごとくに変じ、わなわなと地震の孫の火事見舞のやうに震ひ出しける。この荒神は次第々々に煙のごとく成りて消えたまひける。日は常世の西山に舂きて、早くも黄昏つぐる長鳴鶏の声とともに、第三日目の大会議はまたもや有耶無耶に閉ぢられたりにけり。玉純彦は依然として此の間自席に眠りを貪りゐたるなり。そのため、この光景を夢にも知らざりける。はたして何神の化身なりしぞ。この怪物の正体はいつの日か氷解さるるならむ。神諭に示されたる三千世界の大化者とは如何なる神にましますか、たいてい推知し得べきなり。 (大正一〇・一二・一八旧一一・二〇出口瑞月)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 37 時節到来 第三七章時節到来〔一八七〕 地上神界の経綸の中心点なる聖地ヱルサレムは、前述のとほり、統率者を失ひ、ほとんど滅亡の域に瀕したるを、数多の神人らはあたかも日の大神の天の岩屋戸にかくれ給ひしごとく、悲しみ叫べるその中にも、ひとり常世姫は、心中深く期するところあるもののごとく面におつき合ひ的に憂ひを表しゐるものの、その奥底に何となく得意の色潜みゐたりける。 聖地の大広間には、八王八頭をはじめ、大八洲彦命、高照姫命、その他八百万の神人は、おのおの威儀を正して座を列ね、天使長の後任者をすみやかに定めむことを協議し、まづ第一に、国祖大神の神慮をうかがひ、式を挙ぐることに決定せり。ついては国祖大神の御前に出でてこれを奉伺する神人を決定せざるべからずとし、衆議はまづ多数をもつて大八洲彦命を選定したり。 このとき大八洲彦命は立つて、満座の諸神人にむかひ、 『吾はさきに天則違反の罪により、万寿山に蟄居を命ぜられたる者なれば、今この聖地に参集するも、何となく恐懼の念にかられつつあり。いかに諸神人の選定によればとて、未だ罪を赦されざる身として、至厳至貴にまします国祖大神の前に列するは、実に厚顔無恥の所為なれば、この役目のみは固く辞したし。何れの神人か改めて選定されむことを』 と、謙譲の真心を面にあらはして述べたて座に復したまへり。満場の神人も命の心情を察し、強ひてこれを止むるものなかりける。 ふたたび選定されたるは高照姫命なり。しかるに命もまた大八洲彦命とおなじく、 『妾は天則違反の罪によりエデンの野に蟄居を命ぜられたる、いはば蔭身者なり。たとへ罪なき妾としても多士済々たるこの集ひにおいて、妾のごとき女性の出しやばり、神聖なる用務を奉伺すべきに非ず。希はくは他より選定されむことを切望します』 と言ひて座に復したまへり。 ここに神人らはその言を拒むに由なく、全会一致をもつて常世彦を選定したり。常世彦は今はまつたく至善至美の大精神に立ちかへり、心中一点の欲望もなく、ただただ至誠神明に奉仕し、国祖の御神業の一端を輔佐し奉らむと決心しゐたる際なりければ、今の大切なる神務に選定されて大いに恥ぢ、たちまち立ちて満場の諸神人にむかひ、 『我は大八洲彦命、高照姫命のごとく、一度も天使長の職に就きたることなし、ただ徒に野心に駆られて、大神の神業に妨害を加へ、つひには聖地の諸神人を苦しめ、延いては国祖大神の御神慮を悩ませ奉りたる罪重き者にして、今この聖地に参向し、諸神人に面を向くるも心憂しと日夜懺悔に堪へず。しかるに吾がごとき者をして、国祖の聖慮を奉伺するの役目に選定さるるは、実に迷惑千万にして、国祖大神に対し恐懼の至りにたへず。すみやかにこの決定を撤回されむことを希望す』 と言ひて座に復したり。 このとき大鷹別は場の一隅よりすつくと立ち上り、諸神人に向つていふ。 『平時はとも角、今日のごとき危急存亡の場合にあたり、徒に謙譲の辞をくり返し、善悪を争ふべき時に非ず。機に臨み変に応ずるは、神人たるものの最も努むべきことと信ず。すべての感情を去り、既往をとがめず、現在および将来のため奮つて常世彦の御奮励を希望す』 との提案に、諸神人は異口同音に常世彦を選定したり。常世彦も今日の場合、拒絶するは却て大神の神慮を煩はし、諸神人の厚意を無視するものなりと、ここに断然意を決し、神慮奉伺の承諾をなしたり。 満座の諸神人は恰も暗夜に月の出たるがごとく喜び勇み手を拍つて祝し、ウローウローと叫ぶその声、天地も破るるばかり勇ましかりける。 ここに常世彦は、諸神人の代表として国祖のまします奥殿に進み入り、後任の天使長について恭しく神慮を奉伺したるに、国祖は、ただ一言、 『常世彦をもつて天使長に任ず』 と仰せられたり。常世彦は恐懼措くところを知らず、頭をもたげて、 『国祖に対し奉り、今日まで極悪無道の邪神に頤使され、深き罪を犯したる吾々は厚きこの恩命を拝受するは分に過ぎたり。希はくは大八洲彦命をもつて天使長に任じたまはば、有難き次第に候』 と至誠を面に表はし進言したりけれど、国祖大神は、 『神の言葉に二言なし』 とふたたび仰せられ、玉の襖を閉ぢて奥殿に入らせ給ひける。 ここにいよいよ常世彦は天使長となり、地上神界の総統者として八王八頭の上位に就くこととなり、常世彦命の名を給はりにけり。 『時節を待てよ、時節には神も叶はぬぞよ。時節さへ来れば、煎り豆にも花が咲くぞよ』 と神諭に示されたるも、全くかかる事を云ふなるべし。 常世彦命は今まで聖地の天使長たらむとして苦心に苦心をかさね、神人らの悪罵嘲笑の的となり、幾回となく終局にいたりてその目的を破壊せしめられたりしが、今や一切の欲望を捨て誠心誠意に立ちかへり、何事も惟神に任してゆきたる徳によりて、自然に秋の野の桐の一葉の風なきに落つるがごとく、大神の親任を受け、諸神人の信望を負ひて顕要の地位に上りける。 これを思へば、誠と改心の力は実に偉大なりと謂ふべし。 時満ちて捨てた望みの花が咲き (大正一〇・一二・二六旧一一・二八桜井重雄録)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 39 常世の暗 第三九章常世の暗〔一八九〕 聖地ヱルサレムの天使長常世彦命には、高月彦誕生して追々と成長し、父を輔けて、その勲功もつとも多く、かつ天使長の声望天下に雷のごとく轟き、その善政を謳歌せざるもの無く、一時は実に天下泰平の祥代となりける。 しかるに油断は大敵すこしにても間隙あらむか、宇宙に充満せる邪神の霊はたちまち襲ひきたりて、或は心魂に或は身体にたいして禍害を加へ、またはその良心を汚し曇らせ、つひにはそのものの身体および霊魂を容器として、悪心をおこし悪行を遂行せしめむと付け狙ふに至るものなり。 大本神諭にも、 『悪魔は絶えず人の身魂を付け狙ひ居るものなれば、抜刀の中に居る心持にて居らざる時は、いつ悪魔にその身魂を自由自在に玩弄物にせらるるや知れず。ゆゑに人は神の心に立帰りて神を信仰し、すこしも油断あるべからず』 常世彦命は神界の太平にやや安心して、あまたの侍臣とともに竜宮海に舟遊びの宴をもよほすとき、竜宮海の底深く潜みて時を待ちつつありし八頭八尾の大蛇の邪霊は、この時こそと言はむばかりに、その本体を諸神人の前に顕はし、態と神人らの前にて高月彦と変化し、常世彦命の居館に入りこみ神人らを悩めたるなり。 常世彦命はじめ聖地の神人らは、二人の高月彦のうち一人は邪神の変化なることを何れも知悉すれども、その何れを真否と認むること能はざりしために、止むを得ず、同じ姿の二人を居館に住まはせたりける。真の高月彦は、 『我こそは真の高月彦なり、彼は邪神の変化なり』 と證明せむとすれば、邪神の高月彦もまた同じく、 『我こそは真の高月彦なり、彼は邪神の変化なり』 と主張し、その真偽判明せず、やむを得ず二人を立てゐたりける。 この怪しき事実は誰いふともなく神界一般に拡まり伝はり、八王八頭の耳に入り、神人らは聖地の神政に対して、不安と疑念を抱くに至りける。 常世彦命はこのことのみ日夜煩悶し、つひには発病するに立ちいたりぬ。命は妻を枕頭に招き、苦しき病の息をつきながら、 『吾は少しの心の欲望より終に邪神に魅せられて常世国に城塞を構へ、畏くも国祖大神をはじめ歴代の天使長以下の神人らを苦しめ悩ませたるにも拘はらず、仁慈深き国祖は吾らの改心を賞でたまひて、もつたいなき聖地の執権者に任じたまひたれば、吾らは再生の大恩に報いたてまつらむと誠心誠意律法を厳守し、神政に励みて国祖の大神に奉仕せしに、心の何時となく緩みしためか、竜宮海に船を浮べて遊楽せし折しも、海底より邪神現はれて愛児の姿となり、堂々として我館に住み込み、その真偽を判別する能はず、それより吾は如何にもしてその真偽を知らむと、日夜天津大神および国祖大神に祈願を凝らせども、一たん犯せる罪の報いきたりて、心魂暗み天眼通力を失ひ、かつ、それより我身体の各所に痛みを覚え、今やかくのごとく重態に陥りたるも深き罪障の報いなれば、汝らは吾が身の悲惨なる果を見て一日も早く悔い改め、寸毫といへども悪心非行を発起すべからず』 と遺言して眠るがごとく帰幽したりける。鳥の将に死なむとするや其の声悲し、人の将に死せむとする時その言や善しと。宜なるかな、さしも一旦暴威をふるひたる常世彦命も本心より省み、その邪心を恥ぢ、非行を悔い神憲の儼として犯すべからざるを畏れ、天地の大道たる死生、往来、因果の理法を覚りて身魂まつたく清まり、神助のもとに安々と眠るがごとく帰幽したりける。アヽ畏るべきは心の持ちかた一つなりける。 常世彦命の昇天せしより、聖地の神人らは急使を四方に派して、各山各地の八王をはじめ一般の守護職にたいして報告を発したれば、万寿山をはじめ八百万の神人は、この凶報に驚き我一と先を争ひて聖地に蝟集しその昇天を悲しみつつ、後任者の一日も早く確定せむことを熱望し、ここにヱルサレム城の大広間に会したり。常世彦命の長子高月彦を天使長に選定し、国祖大神の認許を奏請せむとするや、天下に喧伝されしごとく、二人の高月彦あらはれ来たりぬ。 諸神司はその真偽について判別に苦しみ、七日七夜大広間に会議をつづけたれど、いかにしても前後と正邪の区別つかざるところまで克く変化しゐたるにぞ、真偽二人の天使長を戴くことを得ず、神人らは五里霧中に彷徨しつつ、その怪事実に悩まされけり。 高月彦は大広間に現はれ竜宮海に潜める邪神大蛇の変より、父の昇天までの種々聖地の怪を述べ且つ、 『吾身に蔭のごとく附随せるは、かの大蛇の変化なることを證明すべきことあり。諸神人はこれにて真偽を悟られたし。吾には父より賜はりし守袋あり、これを見られよ』 と満座の前に差出し、偽高月彦の邪神にむかひ、 『汝が果して真なれば、父より守袋を授けられし筈なり、今ここにその守袋を取出して、その偽神にあらざることを證明せられよ』 と詰め寄れば、邪神はたちまち色を変じ、何の返答もなく物をもいはず、真の高月彦に噛付かむとする一刹那、たちまち「惟神霊幸倍坐世」の神言が自然に口より迸出したるにぞ、偽神はたちまちその神言の威徳に正体を現はし、 『アヽ残念至極口惜さよ。我は永年この聖地を根底より顛覆せむと、海底に沈みて時を待ち、つひに高月彦と変化し、聖地の攪乱に全力を尽したりしに、高月彦の神言によりてその化けの皮を脱がれたれば、いまは是非なし、ふたたび時節を待つてこの怨みを報ぜむ』 と言ふよと見るまに、見るも恐ろしき八頭八尾の大蛇と現はれ叢雲をよびおこし天空をかけりて、遠くその怪姿を西天に没したりけり。高月彦は忽然として立ちあがり、 『諸神司はただいまの邪神の様子を実見して、その真偽を悟りたまひしならむ、吾こそは天使長常世彦命の長子高月彦なり。今後聖地の神政については、諸神司の協力一致して御輔翼あらむことを希望す』 と慇懃に挨拶を述べ終るや否や、たちまち悪寒震慄、顔色急に青ざめ、腹をかかへて苦悶の声を放ちければ、諸神司は驚きて命を扶けその居館に送り、侍者をして叮嚀に看護せしめたり。 この守袋は妹五月姫の計らひにて、俄に思ひつきたるカラクリにして、邪神の正体を現はすための窮策に出たるものなりける。かくのごとき権謀術数を弄するは、神人としてもつとも慎まざるべからざることなり。 また高月彦の急病を発したるは、真正の病気ではなく、命の安心とややその神徳にほこる心の隙に乗じて、西天に姿を隠したる八頭八尾の大蛇の邪霊が、間髪を容るるの暇なきまで速く、その肉体に憑依したる結果なりける。 (大正一〇・一二・二七旧一一・二九外山豊二録)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 43 勧告使 第四三章勧告使〔一九三〕 常世彦は我が目的とする、八王大神の称号を国祖大神に迫つて、これを獲得し、旭日昇天の勢をもつて天下の諸神人に臨み、盤古大神を首長と仰ぎ、これをもつて国祖の位置に就かしめむと、内々準備を整へ、諸神人をふたたび常世城に集めて神界改造の相談会を開催したり。大自在天大国彦は、八王大神を極力讃美して、この際一日もはやく国祖の退隠を迫り、塩長彦をして神政神務の総統者に推戴するをもつて、世界救済の一大要点なりと主張したり。 ここに美山彦、国照姫は立つて、大国彦の主張に対しあらゆる讃辞を呈し、かつ、 『国祖大神をして、かくのごとく頑強固陋の神となさしめたるは、前天使長大八洲彦命、言霊別命、神国別命、大足彦および万寿山の頑老、磐樟彦以下の聖地の神人および女性側としては、前天使長高照姫命、真澄姫、言霊姫、竜世姫ら聖地の神司らの一大責任なれば、国祖の退隠に先だち、右の諸神人を聖地より追放し、根底の国に神退ふべきものなり』 と息をはづませ、肩を揺りながら述べ立てたり。 一旦聖地において全く悔い改め、本心に立帰りゐたる至善の神人も、いまは少しの油断のために、邪神の容器となり、いづれも挙つて国祖にたいし反抗の態度を執るにいたりたるは、果して時節の力か、ただしは因縁か、測度しがたきは神界の経緯なり。 神諭に曰く、 『時節には神も叶はぬぞよ』 と、全大宇宙の大主神たる大六合治立尊の御分身にして、宇宙の大主権神たる、国祖国治立命も、時節の力は如何ともすること出来得ざりしなり。至正、至直、至厳の行動は、かへつて多数の神人より蛇蝎のごとく忌嫌はれて、つひには悪神と貶せられ、祟り神と強ひられ、悪鬼の巨頭艮の金神と名称を附して、大地の北東に居所を極限さるるにいたりたまへるも、神界経綸上止むを得ざる次第ならむか。 このたびの常世城の会議は、前回のごとく少しも騒擾紛糾の光景を現出せず、和光同塵、体主霊従的神政を謳歌せる神人(邪霊の憑依せる)のみの集会なりしゆゑ、全会一致をもつて、まづ国治立命をして、大八洲彦命、高照姫命以下の神人を根の国底の国に追放せしめ、その後において、国祖の自発的退隠を迫ることに一決したりける。ついてはその衝にあたるべき神司の選挙をなさざるべからざれば、ふたたび自決勧告使たるべき神人を物色したりしが、この時大国彦の重臣大鷹別は進ンで、この大切なる使命は吾々ごとき小人の能く耐ふるところにあらずとし、智徳兼備の八王大神および大自在天の御尽力を乞ふのほかなきを主張したれど、八王大神は何か心に期するところあるもののごとく、首を縦に振らざりけり。その場に威儀儼然としてひかへたる大国彦も、無言のまま首を横に振りゐたりける。美山彦、国照姫は立上がり、 『今回の勧告使は、畏れながら小神に任じられたし』 と切り出しけるに、常世彦も、大国彦も言ひ合はしたるごとく頓首きて、承諾の意を表示したり。 美山彦、国照姫は諸神人の一致的賛成のもとに、意気揚々として勧告使となり、聖地ヱルサレムの宮殿に参向し、国祖に対面せむと、数多の神人を引率して聖地に向け帰途に就きける。 常世彦命はまたもや八王大神の資格をもつて聖地に帰還せむとするに先だち、盤古大神の輔佐として、大国彦の従臣大鷹別をして常世城の主管者に任じ、かつ部下の神人をして、各自に神政を分掌せしめ、八百万の神司を引率して、ヱルサレムを指して旗鼓堂々天地も震撼せむばかりの勢にて、上り来たりぬ。先に勧告使として帰還したる美山彦、国照姫の使命は果して完全に成功せしや疑はしき限りなり。 (大正一〇・一二・二九旧一二・一出口瑞月) (第三六章~第四三章昭和一〇・一・二二於佐賀市松本忠左氏邸王仁校正)
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霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 総説嵐の跡 総説嵐の跡 畏くも国祖国治立命は、逆神常世彦以下の不従を征するにも、天地の律法を厳守し、仁慈の矛を振ひて奇策神謀を用ひたまはず、後世湯王の桀を放ち、武王の紂を征誅するごとき殺伐の兵法をもつて、乱虐を鎮定することを好みたまはなかつた。 これに反し常世彦命らは、邪神に使役され、後世いはゆる八門遁甲の陣を張り、国祖をして弁疏するの余地なからしめ、つひに御隠退の止むなきに至らしめた。 狼獺の不仁なるも、また時としては神恩を感謝して獣魚を供へ、天神を祀り、雛鴉の悪食なるも猶ほ反哺の孝あり、しかるに永年国祖大神の仁慈に浴し、殊恩を蒙りたる諸神の神恩を捨て、邪神の六韜三略の奸計に乗せられ、旗色の可なる方にむかつて怒濤のごとく流れ従ひ、国祖をして所謂『独神而隠身也』の悲境に陥らしめた。 常世城の会議における森鷹彦に変装せる大江山の鬼武彦をはじめ、大道別、行成彦および高倉、旭の奇策を弄し、邪神の奸策を根底より覆へしたるごとき変現出没自在の活動は、決して国祖の関知したまふところに非ずして、聖地の神人の敵にたいする臨機応変的妙案奇策にして、よくその功を奏したりといへども、天地の律法には『欺く勿れ』の厳戒あり、神聖至厳なる神人の用ふべからざる行為なれば、その責はひいて国祖大神の御位置と神格を傷つけた。現に大道別、森鷹彦、鬼武彦らの神策鬼謀は、国祖の直命にあらず、国祖は至仁至直の言霊をもつて邪神らを悔い改めしめ、言向和さむとの御聖意より外なかつた。しかるに血気に逸り、忠義に厚き聖地の神々は、律法の如何を顧みるに遑なく、暴に対するに暴を以てし、逆に対するに逆を以てし、不知不識のあひだに各自の神格を損ひ、国祖の大御心を忖度し得なかつたためである。アヽされど国祖の仁愛無限にして責任観念の強大なる、部下諸神の罪悪を一身に引受け、一言半句の弁解がましきことをなし給はず、雄々しくも自ら顕要の地位を捨て、隠退せられたるは、実に尊さのかぎりである。吾人は国祖の大御心を平素奉戴して、ある人々の言行の不穏と誤解の結果、吾身の災厄に遭遇することしばしばである。されど、心は常に洋々として海のごとく、毅然として山のごとく、動かず騒がず、すべての罪責を一身に引受け、もつて本懐としてゐるのである。すべて人に将たるものは、よく人を知り、人を信じ、人に任じ、その正邪と賢愚を推知して各自その処を得せしめねばならぬのである。しかるに部下の選任を余儀なくして、誤らしめられたるは、自己の無知識と薄志弱行の欠点たるを省み、一言もつぶやかず、大神の仁慈の鞭として感謝する次第である。 アヽ尊きかな、千座の置戸を負ひ、十字架の贖罪的犠牲の行動に於てをや。吾人は常に惟神霊幸倍坐世を口唱す。無明暗黒の現代を救ふの愉快なる神業に於てをやである。天下に二難事あり、その一は天に昇ること、その二は人を求むることである。アヽ国祖大神の天国を地上に建設したまはむとして艱難辛苦をつくされ、神人を得むとして、その棟梁に最適任の神を得たまはざりしごとく、吾人またその例に洩れないのである。国祖大神は、聖地に清き高き美はしき宮殿を造り、至治太平の神政を樹立し、天下八百万の神人の安住する祥代をながめて、歓喜に充せたまうたのも僅に数百年、つひに善神も年と共に悪化して邪神の容器となり、国祖が最初の大目的を破滅せしめたるは、たとへば小高き山上に美はしき家をたて、その座敷から四方の風景を眺めて、その雄大にして雅趣に富めるを歓びつつありしを、家屋の周辺に樹木の尠く、風あたりの激しきを防がむために、種々の必要なる木を植付けたるに、一時は木も短くして、風景の眺望に少しも障害なかりしもの、年を経るにしたがひ、追々と成長して枝葉繁茂し、何時しか遠景の目に入らぬやうになつたのみならず、つひにはその大木に風をふくんで、その木は屋上に倒れ、家を壊し、主人までも傷つけたやうなものである。世の成功者といはるる人々にも、これに酷似した事実は沢山にあらうと思ふ。現に吾人は、家の周囲に植付けられた種々の樹木のために、遠望を妨げられ、暗黒につつまれ、つひにはその家もろともに倒されて重傷を負うたやうな夢を見たのである。されどふたたび悪夢は醒めて、さらに立派な家屋を平地に建て直す機会の到来することを確信するものである。国祖大神の時節を待つて再臨されしごとく、たとへ三度や五度失敗を重ぬるとも、機会を逸するとも、七転八起は、神または人たるものの通常わたるべき道程であるから、幾たび失敗したつて決して機会を逸したとは思はない。至誠神明に祈願し、天下国家のために最善の努力をつくすまでである。現代の人々は、吾身の失敗をことごとく棚の上に祭りこみ、惟神だとか、社会組織の欠陥そのものの然らしむる、自然の結果なりと思ふなぞの詭弁に依帰してしまつて、自己の責任については、少しも反省し自覚するものがない。宗教家の中には『御国を来らせたまへ」とか「神国成就五六七神政』とかいふことを、地上に立派な形体完備せる天国を立てることだとのみ考へてゐるものが多い。そして地上の天国は、各人がまづ自己の霊魂を研き、水晶の魂に建替るといふことを知らぬものが沢山にある。各自の霊魂中に天国を建て、[※御校正本・愛世版では「天国を建てるのは」だが、それでは前後の文脈がおかしくなる。霊界物語ネットでは校定版・八幡版と同様に「るのは」を外して「天国を建て」に直した。]天国の住民として愧かしからぬ清き、正しき、雄々しき人間ばかりとならねば、地上に立派な霊体一致の完全な天国は樹立せないのである。 アヽされど一方より考ふれば、これまた神界の御経綸の一端とも考へられる。暗黒もまた清明光輝に向ふの径路である。雛鳥に歌を教へるには、暗き箱の中に入れておき、外面より声の美はしき親鳥の歌ふ声を聞かしめると同様に、一時大本の経綸も、雛鳥を暗き箱に入れて、外より親鳥のうるはしき声を聞かしむる大神の御仕組かとも思はれぬこともないのである。ゆゑに吾人は大逆境に陥つて暗黒の中にある思ひをするとき、かならず前途の光明を認め得るのは、まつたく神の尊き御仁慈であると思ふ。いかなる苦痛も、困窮も、勇んで神明の聖慮仁恵の鞭として甘受するときは、神霊ここに活気凛々として吾にきたり、苦痛も困窮も、却て神の恩寵となつてしまふ。たとへば籠の中に入れられてゐる鳥でも、平気で歌つてゐる鳥は、最早とらはれてゐるのではない。暢気に天国楽園に春を迎へたやうなものである。これに反して、天地を自由に翺翔する百鳥も、日々の餌食に苦しみ、かつ敵の襲来にたいして寸時も油断することができないのは、籠の鳥の、人に飼はれて食を求むるの心労なく、敵の襲来に備ふる苦心なきは、苦中楽あり楽中苦ありてふ苦楽不二の真理である。牢獄の囚人の苦痛に比して、自由人の却て是に数倍せる苦痛あるも、みな執着心の強きに因るのである。名誉に、財産に、地位情欲等に執着して、修羅の争闘に日夜鎬をけづる人間の境遇も、神の公平なる眼より視たまへば、実に憐れなものである。 神諭にも、 『人は心の持ちやう一つで、その日からどんな苦しいことでも、喜び勇んで暮される』 と示されたのは、じつに至言であると思ふ。一点の心燈暗ければ、天地万有一切暗く、心天明けく真如の日月輝く時は、宇宙万有一切清明である。吾人は平素心天の光明に照らされ、行くとして歌あらざるはない。吾人の心魂神恩を謳ふとき、万物みな謳ひ、あたかも天国浄土の思ひに楽しむ。アヽ『天国は近づけり、悔い改めよ』の聖者の教示、今さらのごとく、さながら基督の肉身に接侍するがごとく、崇敬畏愛の念に堪へない。 アヽ末世澆季の今日、オレゴン星座より現はれきたるキリストは、今や何処に出現せむとするか。その再誕再臨の聖地は、はたして何処に定められしぞ。左右の掌指の節々に、釘の跡を印し、背部にオレゴン星座の移写的印点を有して降誕したる救世主の出現して、衆生に安息を与ふる日は、はたして何れの日ぞ。金剛石も汚穢の身体を有する蟇蛙の頭部より出づることあり、金銀いかに尊貴なりとて、糞尿の植物を肥すに及ばむや。高山の頂かならずしも良材なく、渓間低く暗きところ、かへつて良材を産するものである。平地軟土に成長したる大樹、またいかに合抱長直なりと雖も、少しの風に撓みやすく、折れやすし。宇宙間の万物一として苦闘に依らずして、尊貴の位置に進むものはない。しかるに、天地経綸の大司宰たる天職を天地に負へる人間にして、決して例外たることを得ない。アヽ人生における、すべての美はしきもの、尊きものは、千辛万苦、至善のために苦闘して得なくてはならぬと思ふ。 神諭に曰ふ、 『苦労の塊の花の咲く大本であるぞよ、苦労なしには真正の花は咲かぬから、苦労いたす程、尊いことはないぞよ云々』 吾人はこの神諭を拝する毎に、国祖が永年の御艱苦に省み、慙愧の情に堪へないのである。 ここに八王大神常世彦命は、多年の宿望成就して、天津神の命を受け、盤古大神塩長彦を奉じて、地上神界の総統神と仰ぎ、自らは八王大神として、地上の神人を指揮することになつた。しかるに聖地ヱルサレムは、新に自己の神政を布くについては、種々の困難なる事情あるを慮り、常世姫をして竜宮城の主管者として守らしめ、聖地を捨て、アーメニヤに神都を遷し、天下の諸神人を率ゐて世を治めむとした。一方常世城を守れる大鷹別は、大自在天大国彦を奉じて総統神となし、アーメニヤの神都にたいして反抗を試み、またもや地上の神界は混乱に混乱をかさね、邪神の横行はなはだしく、已むを得ず、諾冊二神の自転倒嶋に降りたまひて、海月如す漂へる国を修理固成せむとして、国生み、嶋生み、神生みの神業を始めたまひし神代の物語は、本巻によつて明らかになることと思ふ。 神ながら宇宙の外に身をおきて 日に夜に月ぬ物語する 王仁は、第一巻において天地剖判の章に致り、金や銀の棒が表現して云々と述べたるにたいし、人を馬鹿にすると言つて、コンナ馬鹿な説は聞くだけの価値なきものだと、一笑に附して顧みないのみならず、他人の研究までも中止せしめむとしてゐる立派な学者があるさうだ。 神諭にも、 『図抜けた学者でないと、途中の鼻高には、神の申す事はお気に入らぬぞよ云々』 と示されてある。宇宙間の森羅万象、一として形体を具ふるもの、金、銀、銅、鉄等の鉱物を包含せないものはない。人間を初め、動植物と雖ども、剛体すなはち玉留魂の守護によらぬはない。金銀等の金気の大徳によつて現出したる宇宙間の森羅万象は、悉皆、鉱物玉留魂の神力を保持してゐるのであるから、金の棒や銀の棒から天地万物が発生し凝固したと言つたとて、別に非科学的でも何でもない。神の言には俗人のごとき七面倒くさきことは仰せられぬ。すべて抽象的、表徴的で、一二言にて宇宙の真理を漏らされるものである。 それで神諭にも、 『一を聞いて十百を悟る身魂でないと、誠の神の御用は勤まらぬぞよ』 と示されてある。半可通的学者の鈍才浅智をもつて、無限絶対無始無終の神界の事柄にたいして喃々するは、竿を以て蒼空の星をがらち落さむとする様なものである。洪大無限の神の力に比べては、虱の眉毛に巣くふ虫、その虫のまた眉毛に巣くふ虫、そのまた虫の眉毛に巣くふ虫の放つた糞に生いた虫が、またその放つた糞に生いた虫の、またその虫の放つた糞に生いた虫の糞の中の虫よりも、小さいものである。 ソンナ比較にもならぬ虫の分際として、洪大無辺の神界の大経綸が判つて耐るものでない。それでも人間は万物の長であつて、天地経綸の司宰者だとは、どこで勘定が合ふであらうか。されど、神の容器たるべき活動力を有する万物の長たる人間が、宇宙間に絶無とは神は仰せられぬのは、いはゆる神界にては無形に視、無声に聴き、無算に数へたまふてふ、道の大原の聖句に由るのであらうと思ふ。 蚤虱蚊にもひとしき人の身の 神の為すわざ争ひ得めや 大正十一年一月三日旧十年十二月六日
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霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 30 真帆片帆 第三〇章真帆片帆〔二三〇〕 さしも暗澹たりし天地の光景はここに一変して、空には燦然たる天津日の影うららかに下界を照し、地は東風おもむろに吹いて紺碧の海面に漣を立て、これに日光映射して波のきらめく有様は、あたかも鯛魚の鱗を敷き詰めたるがごとき地中海の渡船場に、息急き切つて現はれた宣伝使があつた。今や船は静かな風に真帆を打揚げ、西南に向つて出帆せむとする時である。 ここに現はれた宣伝使は、太き竹に教示を記したるを甲斐々々しく左肩より右の腋下に斜交に背負ひながら、紫の紐もて乳房のあたりに確と結び、片手に杖をつきながら、紫の被面布を被り、ときどき左の手をもつてこの被面布を額のあたりまでめくり上げ、右の手にて鼻柱をこぢあげ、そのまま右の眼瞼より左の目尻にかけてつるりと撫で、再び鼻の下を手の甲にて擦り、左の手にて再び被面布を顔に覆ひながら乗船を迫つた。 あまたの船客は、この異様の扮装に怪訝の眼を見張つた。船戸神は快く右手を揚げてさしまねき、早く乗れよとの暗示を与へた。宣伝使はつかつかと乗場に近づき、船を目がけて飛び込んだ。その響に船は激動して、畳のごとき海面に時ならぬ波の皺を描いた。海辺の長き太き樹は海底に向つて倒まにその影を沈め、波につれて竜の天に昇るがごとく、樹木の幹は左右に蜿蜒として、地上目がけて上り来るのであつた。 空には一点の雲なくまた風もなき海面は、あたかも玻璃鏡を渡るがごとく、帆は痩せ萎れ、船脚遅々として進まず、この海上に漂ふこと数日に及んだのである。神人らは四方山の無駄話に時を費し、無聊を慰めつつあつた。 日は西山に没し、海上を飛び交ふ諸鳥は塒を求めておのおの巣に帰り行く。半弦の月は西天に懸り、利鎌のごとき光を海上に投げた。空は一面に天書の光梨地色に輝き、月は天の河を流れて海の涯に沈むの感があつた。 海の底には一面の星光輝き、天にも銀河横たはり、海底にもまた燦爛たる銀河流れ、河二つ月二つ、実に蓮華の台に身を托したる如き爽快の念に打たれつつ、静かに船は西南に向つて進んでゐる。 船は渡る海底の空を、棹は穿つ海底の星を、海月の幾十百ともなく波に漂ふ有様は、俄に天上の月幾十ともなく降り来りて、船を支へまもるの感じがしたのである。 昨日の惨澹たる天地の光景に引換へ、今日のこの静けさは、夕立の後の快晴か、嵐の後の静けさか、天地寂として声なく、蚯蚓のささやく声さへ耳に通ふやうであつた。 連日の航海に船中の神人は何れも無聊に苦しみ、船の四隅には、 『アーアー』 と大口を開けて欠伸をする神人が現はれた。何れもこの欠伸に感染して、一斉に両手の拳を握り頭上高く延長しながら、大口を開けて、 『アーアー』 と云ひながら、欠伸を吾劣らずと始めかけた。一時ばかりはあたかも欠伸の競争場のごとき感があつた。最早欠伸の種も尽き、船の一隅には辺りをはばかりてか、小声に鼻唄さへ謡ふ神人が現はれた。これに感染されてか、またもや小声に何事をか小唄を謡ひ始めた。遂には狎れて大声をあげ、遠慮会釈もなく船中に立ち上り、両手を頬に当てながら、 『飲めよ騒げーよ一寸先あー闇ーよー 闇のーあとーにはー月がーでるー 船がー浮くならー心もー浮かせー 心沈めばー船沈むー さあさ浮いたり浮いたり浮いたりなー 浮いたー浮世はどうなろとままよー 儘にならぬが浮世と云へどー わしはー時節で浮いてーゐる 時鳥声は聞けどもー姿は見せぬ 見せぬ姿は魔か鬼か 若も鬼奴が出て来たら 手足を縛りー角を折り 叩いて炙つて食てしまへ たとへ牛虎狼獅子も 力のーよわき山羊 猿の千疋ー万疋もー 掻いて集めて引き縛り 西の海へとさらりとほかせ さらりとーほかせー よいよいーよいとさのーよいとさつさ』 神人らは異口同音に声を合して、節面白く手を拍つて謡ひ始めた。 宣伝使は黙然としてこの騒ぎを心なげに、見るともなしに眺めてゐた。暫くあつて神人らは疲労を感じたと見え、さしも騒がしかりし波の上も、水を打つたる如くたちまち静粛に帰し、風の音さへも聞えぬ閑寂の気に打たるるばかりになつた。 宣伝使はやをら身を起し、船中の小高き所に立ち現はれ、涼しき声を張りあげて、 『高い山からー谷底見れば憂しや奈落の泥の海 三千世界一度に開く梅の花開いて散りて実を結ぶ 月日と土の恩を知れこの世を救ふ生神は 天教山に現はれるこの世を教ふる生神は 地教の山にあらはれた朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるともたとへ大地は沈むとも 誠の力は世を救ふ誠の力は世を救ふ』 と手を拍ち足踏み轟かし舞ひ狂ふ。 神人らはこの声に釣り出さるる心地して、一斉に立ち上り、手を拍ち足踏み轟かし、一心不乱に興に乗りて踊り狂ふ。 このとき船中の一隅より、苦々しき面構の巨大なる神人は、すつくと立ち上り、宣伝使をはつたと睨めつけた。その光景は、あたかも閻羅王の怒髪天を衝いて立ち現はれたごとくであつた。あゝこの神人は何物ならむか。 (大正一一・一・一一旧大正一〇・一二・一四井上留五郎録)
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霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 39 海辺の雑話 第三九章海辺の雑話〔二三九〕 西に高山を控へ東に縹渺たる万里の海を控へたる浜辺に立ち、山嶽のごとき怒濤の荒れ狂ふ光景を眺めて雑談に耽る四五の男があつた。 甲『あゝ世の中は変になつて来たではないか、あの濤を見よ。海か山か判らぬではないか。この間も宣伝使とやらが遣つてきて、海は変じて山となり、山は変じて海となると、大声に叫んで吾々の度胆を抜いた。されど「馬鹿いへ、この深い海が山になつてたまるものか」と冷笑してゐた。それにあの濤は爺の代からまだ見たこともない。この間もタコマ山の半腹まで海嘯が押し寄せると云つて、宣伝使が呶鳴つてゐたよ。この辺も今に海嘯で浚はれるかも知れない。汝らも一つ思案して、タコマ山の頂辺か、地教山へでも避難したらどうだらうね』 と首を傾けて思案顔に言つた。乙は冷笑を浮べながら、 『なに、ソンナ馬鹿なことがあつてたまるかい。この間の宣伝使といふ奴は、ありや気違ひだよ、星が降るとか、洪水が出るとか、人が三分になるとか、訳の判らぬ、舁いて走るやうな法螺ばかり吹きよつて、吾々をびつくりさせて喜んで居るのよ。この世に神もなければ、又ソンナ大変動があつてたまるものぢやない、万々一ソンナ事があれば世間並ぢやないか。この世の神人が全部死んで了つて、僅に二分や三分残つたつて淋しくて仕様がない。ソンナことを云つてくれな、それよりもこの前に来た宣伝使のいふことあ気が利いて居たよ』 丙『気が利いて居るつて、ドンナことを云つたのだい』 乙『ドンナ事をいつたつて、そりや大変な結構なことだよ。天来の福音といつたら、まあアンナことをいふのだらう』 甲『天来の福音て何か、「三千世界一度に開く梅の花」とか、「たとへ大地は沈むとも、誠の神は世を救ふ」と云ふことだらう』 乙[※ここから章末まで乙が九箇所、丙が一箇所あるが、校正本では乙と丙が入れ替わっているようだ。入れ替わっていると考えないと文脈がおかしくなる。校定版も愛世版も乙と丙を入れ替えている。霊界物語ネットも入れ替えた。]『馬鹿いふない、この天地は自然に出来たのだ。雨が降るのも風が吹くのも浪が高くなるのも海嘯も、みな時節だよ。この世は浮世といつて水の上に浮いてゐるのだ。ソンナけち臭い恐怖心を起すやうな、たとへ大地は沈むともなぞと、吾々はちつと気に喰わないよ。アンナ歌を聞くと、吾々の頭はガンガンいつて、今の彼の浪よりも業腹が立つよ。吾々の聞いた福音といふのは、ソンナけち臭い白痴おどしの腐れ文句ぢやない。古今独歩、珍無類、奇妙奇天烈の福音だ。まあコンナ大事なことはとつとこうかい。汝らに聞かしたら吃驚して癲癇でも起すと迷惑だからな』 丙『何だい、貴さまの云ふことあ一体訳が判らぬぢやないかい、偉さうに人の受売を勿体ぶつて天来の福音だなぞと、おほかた駄法螺でも吹音だらう、癲癇の泡吹音くらゐが関の山だ』 乙『だまつて聞いてゐろよ、たとへ大地が沈むとも間男の力は世を救ふのだ。弱蟲や腰抜蟲の前でコンナことを云つたら、冥加に盡て天罰が当るかも知れぬ。やつぱり却つて汝らの迷惑になるから止めておこかい』 丁『あまり勿体ぶるない、三文の大神楽で口ばつかりだよ、こいつな、この間も自分の小忰が井戸へはまりよつただ。その時に狼狽へよつて矢庭に手を合せて「お天とさま、お天とさま」と吐かしてな、吠面かわきよつて拝み仆してゐたのよ。その間にその小忰がぶくぶくと泡をふきよつて沈んでしまつたのだ。その時に自暴糞になりよつてな、この世に神も糞もあるものか。全智全能の神だつて、尻が呆れて雪隠が踊る、小便壺がお出で、お出でをすると吐かして怨んでゐたよ』 乙『要らぬことをいふない、人の欠点までコンナとこで曝け出しよつて、貴様の嬶が死んだ時どうだつたい。男らしくもない、冷たうなつて踏ん伸びて、石の様に硬うなつた奴を……こら女房、お前は儂を後に遺してなぜ先に死んだ、も一度夫といつてくれ……ナンテ死んだ奴に物をいへと吐かすやうな没暁漢だからね』 丁『馬鹿云へ、俺の嬶、神さまだ。貴様の嬶のやうな蜴の欠伸したやうな変な面付した嬶とは種が違ふだよ。死んでからでも毎晩々々おれの枕許へきて介抱する、そりやホントに親切だよ。そして天人の天降つたやうな立派な装束を着てゐるよ』 乙『一遍手水を使うて来い、そりや幻だよ、すべた嬶にうつつ三太郎になりよつて、毎日日日息のある間はお嬶大明神と崇めよつて、朝晩に屁つぴり腰をしよつて、嬶のお給仕に涎を垂らしてをつたお目出度い奴だからね』 一同転げて笑ふ。このとき海鳴ますます激しく浪は脚下まで襲うてきた。これは大変と真蒼な顔して一丁ばかり山へかけ登つた。 丁『偉さうに太平楽のへらず口ばかり並べよつたが、そのざま何だい。浪が来たつて真蒼な顔しやがつて、腰を抜かさぬ許りに山へ駆登つたそのぶざまつたらないぢやないか。見られたざまでないよ、ソンナざまして天来の福音なんて福音が聞いて呆れらあ、呆れ入谷の鬼子母神だ。それもつと早く意茶つかさずに癲癇の泡吹音とやらを、吾々御一統の前に畏み畏み奏聞仕るが後生のためだよ』 乙『その後生で思ひだした、この間もな、ウラル彦の宣伝使だと云つて五升樽を供に担がして大道を呶鳴つて来たのだ。それだ、天国の福音といふのは』 丁『何の事だい、べらべらと序文ばつかり並べよつて、おほかた酒を喰ふことだらう。まあこいつらの福音といふのは樽さへ見せたらよいのだ。口に唾一ぱい溜めよつて、蟹のやうな泡をふきよつてな、喉をぢりぢり焦げつかして、餓鬼が飲みたい水を飲まれぬ時のやうな憐れな面付をして、その宣伝使の後から跟きまはつて、犬が猪の後をつけるやうに鼻ばかりぴこつかして歩いていつたということだ。こいつ等の福音といふことは、酒の匂ひを嗅ぎつけて、よう飲みもせず、けなりさうに指をくはへて、宣伝使の臭い尻からついて歩きよつて、宣伝使が厠へでも這入つてゐるまに、樽のつめをポンと抜いて、長い舌を樽の中へ入れべそべそやつて居ると、雪隠の窓から宣伝使に見つけられて平謝りに謝つて、その代償として立派な美しいお尻を拭かしてもらつた臭い奴があるといふ評判だつた。大方こいつ等のことだらうよ。天国の福音でなくつて糞放の尻拭音だよ。馬鹿々々しい、糞が呆れらあ』 乙は拳を握り、むつとした顔付きで、 『貴様アよい頬桁だなあ』 丁『頬桁より桐下駄がよいのだ、あまり穿きちがひするなよ』 乙『穿きちがひは貴様のこつた、人の下駄で人を踏みつけやうとしよつて、泥足で三千世界泥の海なんて、泥棒の言ひ草みたいなことを吐してな、馬鹿らしい、それよりも酒の代りに泥水でも飲んだら、ちつと天来の福音が聞けるだらう。 飲めよ騒げよ一寸先や暗よ 暗のあとには月が出る ヨイトサ、ヨイトサ』 丁『酒もないのに酒を飲んだ気になりよつて、踊る奴があるものかい』 乙『ごてごていふない、早う帰つて嬶の幽霊になと会つてこい、かまふない』 とたがひに腕を捲りあげ格闘を初めたとたんに、はるか前方より三柱の宣伝使は、 『三千世界一度に開く梅の花、開いて散りて実を結ぶ』 と謡つてくる。乙は矢庭に眼を塞ぎ、顔を顰め、両手に頭を抑へながら、 『こいつはたまらぬ』 と大地にしやがんだ。 折しも暴風ますます激しく、浪は脚下へ襲うてくる。一同は先を争うて又もや山上めがけて逃げ出した。 (大正一一・一・一三旧大正一〇・一二・一六井上留五郎録)
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霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 40 紅葉山 第四〇章紅葉山〔二四〇〕 露の弾霜の劔を幾たびか、受けて血潮に染むる紅葉の、丹き心を照らしつつ、錦の機のこの経綸、織りなす糸の小田巻や、真木の柱のいと高く、高天原の神国に、築き上げむと神人の、四方に心を配りつつ、苦しき悩みを物とせず、沐雨櫛風数かさね、草の枕の悲しげに、天津御空の月星を、褥に着つつ進みくる。心も丹き紅葉山の、紅葉の大樹のその下に、腰うち掛けて宣伝の、神の姿の殊勝にも、彼方こなたの山の色、日々に褪せ行く有様を、見る目も憂しと青息や、吐息を月の大神に、祈る心の真澄空、忽ち吹きくる木枯しの、風に薄衣の身体を、慄はせながら又もや起つて出でて行く。行くはいづくぞモスコーの、都をさしてさし上る、東の山の端出る月の、影も円かなその身魂、月照彦の宣伝使、春日の姫の生れたる、道貫彦の神館、息急き切つて進みける。 折から降りしく村雨に、草鞋脚袢に身をかため、菅の小笠や草の蓑、この世の末をはかなみて、涙の雨の古布子、袖ふりあうも多生の縁、つまづく石も縁のはし。 走つて馳け来る三柱の神人は、この宣伝使の謡ふ宣伝歌に引きつけられ、たちまち前に現はれて、大地に頭を下げながら、 『貴下は地中海の西南岸にて御目にかかりし月照彦神にましまさずや、吾らはそのとき天地の神の懲戒を受け、道踏み外す躄の、旅に徜徉ふ折からに、天地も動ぐ言霊の、三千世界の梅の花、一度に開くと言挙げし、東を指して御姿を、隠したまひし現し神、吾らは御後を伏し拝み、その再会を待つほどに、天の時節の到来か、思はずここに廻り会ひ尊顔を拝するは、盲亀の浮木、浮木はまだおろか、枯木に花の咲きしが如く感きはまりて言の葉の、散り布く紅葉顔あからめて、耻を忍びつつ出で迎へ申したり。わが父道貫彦は幸にして今に健全に月日を送り候へど、素より頑迷不霊にして、天教山に現はれし神の教をうはの空、空吹く風と聞き流し、塞がる耳は木耳の、気苦労おほき吾らが夫婦、いかに教示を諭すとも、ただ一言も聞かばこそ、日に夜に荒ぶ酒の魔の、擒となりし両親の、心浅まし常暗の、岩戸を開き救はむと、朝な夕なに身を尽くし、心を竭し諫むれど、馬耳東風の浅ましさ、鳥は歌へど花は咲けども吾心、父の心を直さむと、暗路を辿る憐れさを、推し測られて一言の、教示を頼み奉る』 と涙と共に嘆願したりける。 モスコーの奥殿には、道貫彦あまたの侍者と共に、八尋殿において大酒宴の真最中である。神人らは一統に声を揃へて、 『飲めよ騒げよ一寸先や暗よ 暗のあとには月が出る 暗のあとには月が出る』 とさうざうしく謡ひ狂ふ声は、殿外に遠く響き渡りける。 たちまち道貫彦は顔色蒼白と変じ、座上に卒倒した。数多の神人の酔は一時に醒め、上を下への大騒ぎとなつた。道貫姫は大いに驚き、鷹住別は何処ぞ?春日姫……と、狂気の如くに叫び狂ふ。 神人らは二神司の所在を探さむと、鵜の目鷹の目になつて、城内くまなく駆け廻つた。されど何の影もない。 このとき城門外にどやどやと数多の神人の囁く声が聞えた。そして三柱の怪しき宣伝使は、涼しき声を張りあげて、 『飲めよ騒げよ一寸先や暗よ暗のあとには月が出る 月が出るとは何事ぞ月は月ぢやがまごつきよ 息つきばつたり力つき今に命もつきの空 空行く雲を眺むれば東や西や北南 酔うた揚句は息つきの道貫彦の憐れなる 最後を見るは眼のあたり冥加につきし今日の月 曇る心は烏羽玉の暗路を照す月照彦の 神の命の宣伝使月は御空に鷹住別や 長閑な春の春日姫命の瀬戸を救はむと 心一つの一つ島神の鎮まる一つ松 堅磐常磐の神の法法を違へし天罰の 報いは忽ちモスコーの道貫彦の身の果か 果しなき世に永らへて果なき夢を結びつつ 心の糸の縺れ合ひ乱れに乱れし奇魂 照れよ照れてれ朝日の如く澄めよ澄めすめ月照彦の 神の教に目を覚まし再び息を吹き返し 救ひの司と現はれよ救ひの司と現はれよ』 と門前に佇み、数多の神人に囲まれて大音声に呼ばはつてゐる。 この声は胸を刺すが如く道貫姫の耳に入つた。姫は従臣に命じ、三柱の神司を招いて奥殿に進ましめた。 三柱の神司は簑笠のまま遠慮会釈もなく奥殿に進み入り、又もや三千世界の宣伝歌を謡ひ、手を拍つて踊り始めた。 息も絶えだえに卒倒しゐたる道貫彦は、俄然として起ち上り、両手を拍ち踊り始めた。神人はあまりの不思議さに、アフンとして開いた口も塞がらなかつた。 三柱の神司は目配せしながら、身に纏へる簑笠を脱ぎ捨て、宴席の中央に三つ巴となつて鼎立した。見れば大八洲彦命初め鷹住別、春日姫の三柱である。 是よりさしも頑迷なりし道貫彦も前非を悔い、月照彦神の教示に従ひ、顕要の地位を捨てて、月照彦神の従者となり、天下救済のために諸方を遍歴する事となりたり。 (大正一一・一・一三旧大正一〇・一二・一六井上留五郎録)
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霊界物語 06_巳_大洪水/国生み神生み/三五教の誕生 04 立春到達 第四章立春到達〔二五四〕 花の顔色、霞の衣、姿優しき春の日の、花に戯る蝶々の、得も言はれぬ風情をば、遺憾無くあらはし乍ら、宣伝使の前に座を占めたる美人あり。 足真彦は思はず、 足真彦『ヤア』 と叫べば、女性はハツと胸を仰へ、 春日姫『鬼熊はあらざるか、鬼虎はいづこぞ、申付く可き事あり早く来れ』 と、しとやかに呼はつた。されど何れの神も、この女に任せて何彼の準備に取かかり、近辺には一柱の厄雑男さへ居らざりける。 女性は四辺に人無きを見済まし、梅花のごとき美しき唇を漸く開いて、 春日姫『アヽ貴下は足真彦にまさずや。月照彦は、当山に割拠する美山彦の謀計にかかり、今や奥殿に休息されつつあり。悪人の奸計にて、痛はしや、今宵の間にその生命も、晨の露と消え給はむ。貴下もまた同じ運命の下に刃の露と消えさせ給ふも計り難し。心配らせ給ひ、妾と共に力を協せ、この館の悪人どもを打亡ぼして、世界の難を救ひ給へ。妾は月照彦の懇篤なる教示を拝し、吾夫鷹住別は宣伝使となつて天下を遍歴し、妾は御恩深き月照彦の御跡を慕ひ、一つは吾夫鷹住別に巡り会はむと、モスコーの城を後にして、雨に浴し風に梳り、流浪ひめぐる折から、今より三年のその昔、美山彦の計略に乗せられ、鬼熊彦の馬に跨り、この深山の奥に誘拐かされ、面白からぬ月日を送りつつある春日姫にて候』 と有りし次第を涙と共に物語り、かつ足真彦の耳に口寄せ、何事か囁きにける。 足真彦は、無言のまま打ちうなづきぬ。 春日姫は、四辺に何人も無きに安心したるものと見え、涙を片手に、激昂の色を満面に漂はせながら、 春日姫『妾は美山彦の妻なる国照姫が、ウラル彦に招かれて、ウラル山に出発せしより、閨淋しき美山彦のために「昼は娘となり、夜は妻となれよ」との日夜の強要に苦しみ、涙の日を送ること茲に三年に及ぶ。されど妾は貞操を守り、今にその破られたることなし。しかるに美山彦は執拗にも、最初の要求を強要してやまざるを幸ひ、今宵は一計を案出し、美山彦の一派の悪人間を打ち懲しくれむ。その手筈はかくかく』 と再び耳うちしながら、悠々として一間に姿を隠したりける。 場面は変つて、ここは見晴らしの佳き美山彦の居間なり。美山彦にとつて強敵たる月照彦、足真彦の甘々とその術中に陥り、吾が山寨に入り来れるは、日頃の願望成就の時到れりとなし、勝誇りたる面色にて、花顔柳腰の春姫に酌させながら、 美山彦『飲めよ騒げよ、一寸先きや暗黒よ 暗黒のあとには月が出る 月照彦の運のつき 足真の寿命も今日かぎり 春日の姫は軈て妻』 と小声に謡ひながら、上機嫌で果物の酒をあほり居たり。 かかるところに、衣摺れの音しとやかに、襖を押開け入りきたる女は、美山彦の須臾も忘るる能はざる春日姫なりける。 春日姫は満面に笑みを湛へ、美山彦に向つて会釈しながら盃を執り、美山彦に差したりしに、美山彦は意気揚々として、満足の色をあらはし乍ら、春日姫の顔を酔眼朦朧として眺めて居たり。春日姫は春姫に目配せしたれば、春姫はこの場を立つて、奥殿の月照彦命の居間に急ぎける。春日姫は形容をあらため、襟を正し、さも嬉しげに言ふ。 春日姫『今日は如何なる吉日ならむ。日ごろ妾が念頭を離れざる彼の月照彦の、貴下の術中に陥れるさへあるに、又もや足真彦の、貴下の神謀鬼略によつて、この山寨に俘虜となりしは、全く御運の強きによるものならむ。妾は此の二人さへ亡きものとせば、この世の中に恐るべき者は一柱も無し。今宵は時を移さず、貴下の妻と許し給はざるか。幸ひに夫婦となることを得ば、互に協心戮力して二人を平げ、彼が所持する被面布の宝物を奪ひ、かつ足真彦は、天教山の木の花姫より得たる国の真澄の玉を所持し居れば、之またマンマと手に入るからは、大願成就の時節到来なり。この吉祥を祝するため今宵妾と夫婦の盃をなし、かつ残らずの召使どもに祝意を表するために充分の酒を饗応はれたし』 と言ふにぞ、美山彦は大いに喜び、心の中にて、「アヽ時節は待たねばならぬものだなア、日ごろ吾を蛇蝎のごとく、毛蟲のごとく嫌ひたる春日姫の今の言葉、全く縁の神の幸ひならむ。善は急げ、又もや御意の変らぬうちに」と二つ返事にて春日姫の願を容れ、手を拍つて侍者を呼び招けば、禿頭の鬼熊彦は忽ち此の場に現はれたり。美山彦は機嫌良げに、イソイソとして、 美山彦『今宵ただちに結婚式を挙ぐる用意をせよ。又召使一同に残らず祝酒を与へて、思ふままにさせ、各自に唄ひ舞ひ踊らしめよ』 と命令したれば、鬼熊彦は、 「諾々」 と頭を幾度も畳にうちつけ乍ら、喜び勇んで此の場を駈け出したり。而して一般的に今宵の結婚の次第を一々伝達せしめたりけり。 (大正一一・一・一六旧大正一〇・一二・一九藤松良寛録)