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霊界物語 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 23 鶴の一声 第二三章鶴の一声〔一二三〕 崑崙山には紅色の国魂を、紅能宮を造営して鄭重に鎮祭され、八王神には磐玉彦を任じ、妻磐玉姫は神務を輔佐し、八頭神は大島彦が任ぜられ、大島姫妻として神政を内助し、紅能宮の司には明世彦、明世姫の二神奉仕し、崑崙山一帯の地方は、きはめて太平無事に治まりゐたりける。 磐玉彦は名利に薄く、かつ忠誠無比にして、一切の宝玉、珍品を地の高天原に献納し、自己を薄くし、下を憐み、善政を布きたまひて、四辺よく治まり、鼓腹撃壌して神人その業を楽み、小弥勒の神政は樹立されたる姿なり。ために天上の日月は清く晴れわたり、蒼空一点の妖気をとどめず、五風十雨の順序ととのひ、地には蒼々として樹草繁茂し、五穀ゆたかに、鳥啼き花笑ひ、四季ともに春陽の気充ちて、世界第一の楽土と羨望さるるにいたりける。 磐玉彦は、 『天下克く治まり、神人みづから田を耕して食し、井を穿つて飲み、室に憤怨の声なく、神人和楽の色あり。かかる瑞祥の世には、天地の律法も徒に空文と化し、八王神の聖職もまた無用の長物たるに似たり。日夜無事に苦しみつつ高位にあるは、天地に対し何ンとなく心愧かしさに堪へず。すみやかに八王神の聖職を辞退して下に降り、神人とともに神業を楽まむ』 と決意し、ひそかに八頭神大島彦を招き、その意を告げたまひける。 大島彦はこの言を聞きておほいに驚き、暫時黙然として何の答弁もなく、八王神の顔を眺めつつありしが、たちまち首を左右に振り涙を流して諫めていふ。 『崑崙山一帯の今日の至治太平なる祥運は、貴神司の神徳の致すところにして、我らをはじめ下万神万民の貴神司を慕ひたてまつりて、感謝措く能はざるところなり。しかるに貴神司にして聖位を捨て、野に下らせたまへば、いづれの神司か、よくこの国土を治むべき。上を敬ひ下を愛撫し、もつて社稷を安全に保つは聖者の天賦的聖職なり。願はくば大慈大悲の聖徳によりて、なにとぞ退位の儀は、断念させたまへ』 と声涙交々下つて、諫言よく努めけるに、磐玉彦は答へて、 『我は八王神として、高天原の大神より重職を忝なうし、何の功労もつくさず、日夜神恩の深きを思ふごとに、慙愧の念胸に迫りて苦しく、一日として心を安んずることあたはず。下神人は日夜営々兀々として神業に奉仕し、汗油をしぼりて勤勉神業を励むなる世に、吾はいたづらに雲深く殿中にありて安逸の生を送り、何の活動をもなさず、曠職いたづらに光陰を消するは、天地の大神に対したてまつり恐懼にたへず。今日の至治泰平は、要するに貴下らが誠実と苦心の賜なり。すみやかに吾の思望を許し、貴下は直ちに八王神の位に昇りて神務を主管されたし。吾はこれより夫妻ともに山野に隠れ、修験者となりて神明に祈り、神政の万歳を守らむ。男子たるもの一度決心したるうへは、いかなる諫言も拒止も耳にはいり難し』 と決心の色面に現はれ容易に動かすべからず。大島彦も、平素寡欲にして恬淡水のごとき八王神なれば、如何ともするに由なく、ただ黙然として深き憂に沈みゐたりしが、ヤヽありて大島彦は口をひらき、 『貴神司の潔白なる御神慮は、神人ともに常に歎賞おかざるところ、今更いかに諫めたてまつるとも、初志を翻させ給ふことなからむ。されど貴神司の身魂は貴神司の単独に処置さるべき軽々しきものに非ず、遠き神世の因縁によりて上下の名分定まり、天地の大神の優渥なる御委任に出づるものなれば、吾らはこれより直ちに地の高天原に参上がり神示を蒙りしうへ、その結果を詳しく奏上せむ。何はともあれ、それまでは何事も吾らに一任あらむことを』 と力をこめて歎願したりしに、磐玉彦は、 『貴下の言道理にかなへり、万事は一任すべし。よきやうに計らひくれよ』 と言を残して奥深く姿をかくしたまひける。 大島彦はただちに天の磐船に乗り、従者をともなひ空中風をきつて竜宮城に到着し、大八洲彦命に謁をこひ、八王神の退隠の件につき、裁断を下されむことを奏請したりける。ここに大八洲彦命は、すぐさま地の高天原の大宮にいたりて国直姫命に拝謁し、前述の次第を逐一奏上し、神勅の降下を願ひしに、国直姫命は衣服を更め、身体を清め、大神殿に進みいり、恭しく神勅を乞ひたまひ、大八洲彦命を近く召し、容姿をあらため厳かに神示のおもむきを伝達されたり。その神示の大要は、 『磐玉彦は遠き神代よりの御魂の因縁によりて、崑崙山に八王神の聖職を拝するは動かすべからざる神界の一定不変の経綸なり。君は万古君たるべく、臣はまた万古末代臣たるべし。王にして臣となり、あるひは下賤の地位に降り、臣にしてたちまち王の位に進むごときは、天地の真理に違反し、かつ大神の御神慮を無視するものなり。神勅一度出てはふたたびこれを更改すべからず。神の一言は日月のごとく明らかにして一毫も犯すべからず。かつ名位は神の賦与する正欲にして、長者たるものの欠くべからざる栄誉なり。磐玉彦いかなればかかる明瞭なる問題を提出して、大神の御神慮を悩ませ奉るぞ。たとへ生くるも死するもみな大神の御心のままなり。一時も早く片時もすみやかに神慮を反省し、もつて神勅のまにまに八王神の聖職を奉仕し、今後ふたたびかかる問題を提出し神慮を煩はすこと勿れ』 との厳命なりける。 大八洲彦命は神示を拝し、恭しく礼を述べ、大島彦を近く招きて、神示を詳細に諭達したまへり。 大島彦はおほいに歓び急ぎ崑崙山に飛還し、八王神に一切の神示を恭しく復命奏上したりけり。素より正義純直の八王神は、神勅を重ンじ前非を悔い、ふたたび元の聖職につき、その後数百年のあひだは、実に至治至楽、泰平の聖代は継続されたり。神命の犯すべからざるは、これにても窺ひ知らるべし。 (大正一〇・一一・二〇旧一〇・二一出口瑞月録) (第二一章~二三章昭和一〇・一・一六於亀の井旅館王仁校正)
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霊界物語 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 29 男波女波 第二九章男波女波〔一二九〕 モスコーの八王神道貫彦は、ローマに召集されて多年の間不在なりき。妻の道貫姫は子に甘かりしため、その長女春日姫は父の不在に心をゆるめ放縦堕落ますます激しく、神司らの指弾する行動をつねに平気にて演じゐたり。されど母人は、子の愛に眼くらみて春日姫のあらぬ日々の行動如何を少しも気づかざりける。春日姫は眉長く眼涼しく、口許しまりて色白く、膚やはらかく、あたかも桜花の時をえて咲初めたるごとき容姿を持てりき。 八王大神の従臣に竹倉別といふ若者ありき。竹倉別は水色の烏帽子狩衣を着し、烏羽玉の宮に参拝したるに、春日姫は盛装をこらし侍女の春姫とともに、神前に参拝ををはり階段を下らむとするや、みづからわが衣の裳を踏み階段より真逆さまに顛倒せむとしたり。このとき階段を上りくる竹倉別は、春日姫の体をささへ危く厄難を救ひければ、春日姫の感謝は一通りの歓びではなく、何か深き印象を胸底にとどめける。春日姫は春姫に手をひかれて階段を下り、あと振返りつつ竹倉別の階段を上りゆくを流目に見惚れゐたりしが、これより春日姫は何ゆゑか、ただちに病の床に呻吟する身とはなりける。 諸神司はこれを憂ひて大神に祈り、医薬を与へなど色々と手をつくせども、春日姫の病にたいしては何の効果もなかりける。母の道貫姫は姫の日夜に弱りゆく姿をながめて、夜も日も、たまらず煩悶苦悩しつつ、あたかも掌中の玉を失ひしごとく、落胆失望の極に達しゐたり。 道貫姫は春姫をひそかに招き、 『汝はつねに春日姫の側近く仕ふる者なれば、姫の意中をよく察しゐるならむ。姫のこの度の重病につきては、何か思ひあたることなきや』 と耳に口よせひそかに問ひかけたるが、春姫は春日姫の病因はほぼ察知してゐたれども、恐れて口外することをはばかり、 『くはしく探りて後日申しあげむ』 とやうやくその場を立去り、春日姫にむかひ、 『烏羽玉の宮に参拝のをり、竹倉別に危難を救はれ、それより発病したまひしは、神も薬もきかぬ御病気には非ずや』 とおそるおそる尋ねけるに、春日姫は袖にて顔をおほひながら頭をかたむけ、やや覚束なき声にてただ一言、 『然り』 と答へ、そのまま夜具をひきかぶり息をはづませ、病体を左右にゆすりてもがき、かつ啜り泣さへ聞へけり。春姫は春日姫にむかひ、 『主のためならば、たとへ身は天律を破るとも、妾は律法の犠牲となりて目的願望を達し参らせむ』 と決心の色をしめし、しばしの暇を乞ひこの場を立去り、ただちに竹倉別の家を訪れた。 竹倉別は明けても暮れても、烏の鳴かぬ日はあつても、春姫を思はぬ間は瞬時もなきまでに懸想しゐたりしが、今その当の女性に不意の訪問をうけて胸ををどらせ、肩を上げ下げしつつ顔をあからめ、用もなきに前後左右に室内を駈けまはり、晴天の霹靂頭上にはげしく落下せむとする時の態度そのままなりける。春姫は落付顔に竹倉別の手をとり、 『何事の出来せしか知らざれども、まづ、しばらく落つかせたまへ』 と肩を撫で、胸をさすりてその場に端坐せしめたるに、竹倉別はあたかも酢に酔ひしごとく、骨までぐなぐなになりし心地して、何となく落つかぬ風情なりき。春姫は耳に口寄せ、あたりをはばかりながら、 『春日姫は汝に心をよせ、ために病床に臥したまふ。貴下は主を助くるために春日姫の夫となりたまはずや』 と私語けば、竹倉別は狐につままれたるごとき面持にて、ただ茫然として春姫の面を穴のあくほどうちながめ両眼よりは熱き涙ほとばしりける。春姫は竹倉別の心中を知らず、その態度に焦慮がり百方弁をつくして、春日姫の意に従はしめむとしきりに勧めてやまざりける。竹倉別ははづかしさうに、 『貴下のお勧めを承諾するに先だち、一つの願ひあり』 とて狩衣の袖に面をつつみ、息をはづませ肩まで動揺させたり。春姫は、 『貴下の願とはいかなることぞ。か弱き女の身に叶ふことならば、何事にても身命にかへて応じたてまつらむ』 といふ。このとき竹倉別を訪ねて若彦といふ麗しき若者、烏帽子直垂を着用しながら這入りきたり。若彦は、春姫の寝ても覚めても忘れられぬ若者なりき。春姫の血は燃えたちぬ。若彦はこの場の光景を見ていぶかり無言のまま、直立不動の姿勢を取りゐたり。 竹倉別は春姫に心奪はれ、若彦の入りきたりてわが前に立てることさへ少しも気づかず、顔の紐を解きてしきりに春姫に向ひ思ひのたけを、ちぎれちぎれに口説きたてたり。春姫は、若彦の前にて思ひもよらぬ竹倉別に口説きたてられ、痛さ痒さの板ばさみとなりて、心中悶々の情にたへざりけり。若彦は竹倉別の家にひそかに春姫の来りゐるを見て、なンとなく不快の念をおこし、たちまち顔色を変じて物をも言はず立去りにける。この時の春姫の胸は剣を呑むよりも苦しかりしならむ。 春姫はわが心にもなき主命によりての訪問を若彦に認められ、若彦の顔色のただならぬに煩悶し、いまは自暴自棄となりにける。されど主の命は重く千言万語をつくして竹倉別を納得させ、春日姫の夫たることを承諾させたりける。 春姫は竹倉別をともなひ、春日姫の館に導きぬ。それより竹倉別は春日姫の親切にほだされて、つひには春姫を一時の夢と忘るることとなりぬ。若彦はまた春姫に心を深く寄せゐたりしところ、春姫のひとり竹倉別を訪問せるを認めてより大いに竹倉別を恨み、いかにもして春日姫との間を割き、鬱憤を晴さむと日夜計画しゐたり。 あゝ竹倉別、春日姫の間は如何になりゆくならむか。 (大正一〇・一一・二九旧一一・一谷村真友録)
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霊界物語 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 31 竜神の瀑布 第三一章竜神の瀑布〔一三一〕 長らくローマに足を留めたる八王神道貫彦は、ローマの没落とともに、モスコーを気づかひ、あまたの敵軍を突破してやうやく帰城し、道貫姫とともに長物語りに夜を徹したりける。 しかるに道貫彦はわが不在中、春日姫の鷹住別と夫婦となりしことを大いに怒り、かかる一身上の大問題を父にも母にも計らず、決行したる春日姫も不都合なれども、第一母たる道貫姫の行き届かざる行為を怒り、道貫姫には別殿を造りてこれに蟄居せしめ、鷹住別と春日姫のあひだを生木を割くごとく、無残にも夜半の嵐の物凄く、常世国にむかつて鷹住別を神退ひに退はれにける。 春日姫は、海洋万里の孤島にただ一柱とりのこされし心地して、連日連夜泣き暮したる。その結果、つひに心魂に異状を呈し、狂乱となり、行きあふ人ごとに形相を変じ眼を見はりて、 『鷹住別、々々々』 と叫び狂ふ。ここに竹友別、畠照彦は、いかにもして春日姫の病を癒さむとし、遠近の高山に分け入り瀑布に身を浸し、あるひは断食をなして祈願を籠めたれども、病気はおひおひ重くなるばかりなりける。 あるとき畠照彦、竹友別はゆくりなくも天道山に分け入りしが、ここには「竜神の滝」といふがありて、山頂より落下する水勢は百雷の一度に轟くがごとく、水煙濛々として立ち上り、実にすさまじき深山幽谷なりける。 ここに二人は、七日七夜精神をこめて祈願したりしが、その時馬の蹄の音嘎々と山上より聞えて、六面八臂の鬼神あらはれ二人にむかひ、 『春日姫の病気は、この瀑布に一ケ月打たれなば全快せむ』 と告げ、そのまま姿は煙雲のごとく消え失せけり。二人は天にも上る心地して急ぎモスコーに帰り、平玉彦とはかり春日姫をひそかに誘ひ、天道山の瀑布に連れ行かむとしたるに、大道別はこれを探知し、直ちにこれを厳禁したるに、畠照彦、竹友別は顔色をかへ大道別にむかつて、 『心得ぬ貴下の仰せなるかな。貴下は八王神に仕へまつる侍従長の顕職にありながら、毫末も忠良の志なし。われは身命を捨て、八王神夫婦の心痛を助けまつらむ忠義の心より出でたるなり。数月のあひだ、食を断ち、あるひは深山に分け入り、瀑布に投じあらゆる艱難辛苦を嘗め、その報いによつて神の命を受け、春日姫を救ひまつらむとす。しかるに厳禁すとは何事ぞ。いかに長上の言なればとて、かかる不忠不義の言に服従すること能はず』 と云ひ放ち、ひそかに春日姫を鶴舞姫と仮名し、ここに主従三人[※従者は畠照彦、竹友別、平玉彦の3人いるので「主従四人」の間違いでは?]は天道山の大瀑布の下に進み入りにける。 道貫彦は、平玉彦以下二人の赤誠を非常に感謝されたりといふ。ここに大道別は守高彦を瀑布に遣はし、すみやかに春日姫をともなひ帰るべく命令を伝へしめたれば、守高彦は、天道山の瀑布にいたり窺ひみれば、平玉彦以下の人々は春日姫の鶴舞姫を傍の石の上に横臥せしめ、代るがはる瀑布に打たれ、真裸のまま春日姫の身体にむかつて指を組み、鎮魂の姿勢をとり汗を滝水と流して、ウーウーと呻りゐたり。守高彦はこの体を見てあきれ果て、つひには抱腹絶倒のあまり、自分も気が変になりきたりぬ。そのとき鶴舞姫は、 『竹友別、々々々』 と連呼しけるが、竹友別は唯々諾々として滝壺より這ひあがり、鶴舞姫の前に畏るおそる跪坐しける。鶴舞姫はいやらしき笑をうかべて、 『貴下は恋しき鷹住別に非ずや』 と力のかぎり手首を握りたり。強力の鶴舞姫に手首を握られたる竹友別はみるみる顔色青褪め、その場に打ち倒れたり。畠照彦は驚きて滝壺より這ひあがり滝水を口に含み、竹友別の面上を目がけて息吹き放ちけるに、竹友別やうやくして正気づきぬ。されど鶴舞姫は堅く手を握りて放さねば、竹友別は耳菟のごとき円き目を白黒とむき出し、一言も発しえず悶え苦しみにけり。時しもあれ守高彦は、やにはに鶴舞姫の横面目がけて拳固を加へたるが、そのはずみに鶴舞姫は滝壺へ落ち込みたり。三人は驚きて鶴舞姫を滝壺より救ひあげ、守高彦の手足に搦みつき、 『汝は不忠不義の悪人よ。主にたいして無礼の段その罪もつとも重し、目に物見せてくれむ』 と、三人一度に有りあふ岩を手に持ち、守高彦の身体を処かまはず打ち据ゑける。守高彦は四つ這となり、笑ひながら、 『もう、それでよいか』 と嘲笑したるに、三人はますます怒り、岩を持つて打てども擲れども、不死身の守高彦は平然たり。何はともあれ、一時もはやくこの様子を大道別に報告し、あまたの神司を引き連れきたりて三人をしばり、春日姫を連れ帰らむと心を定め、守高彦は一目散にモスコーに走り帰り、この次第を大道別に奏上したりける。 大道別は大石別を守高彦にそへ、あまたの神司をひきゐて天道山の瀑布にむかひ、 『鶴舞姫以下諸神司を残らず打ち殺し帰るべし』 と命令したり。大石別、守高彦は案に相違の顔色にて、 『畏れおほくも主の御娘を、従臣の分際として、打ち殺し帰れとはその意を得ず。貴下もまた常世国の邪神に憑依されて、かくのごとき暴言を吐かるるならむ。決して決して貴下の本心より出し言には非ざるべし』 と言ひつつ、大石別、守高彦は前後より手を組み合せ、ウーウーと一生懸命に霊力をこめ鎮魂の姿勢を取りける。大道別は吹きだし、腹をかかへてその場に打ち伏し、 『大石別腰を揉め、守高彦足を撫でよ。あまりのをかしさに腹も腰もだるくて置き処なし』 とて哄笑せり。二人は烈火のごとく憤り、 『不忠不義の悪魔の張本、天にかはりて誅戮せむ。思ひ知れよ』 と力自慢の守高彦は、蠑螺のごとき拳固をかためて大道別を打たんとしたるその刹那、守高彦の腕は銅像のごとく手を振り上げしまま少しも動かずなりにける。大道別は二人にむかひ、 『吾は臣下の分際として忠義の道をわきまへざるに非ず。春日姫はすでに鷹住別と手をたづさへて常世国にあり。しかるに二人の春日姫の在すは合点ゆかずと、毎夜ひそかに烏羽玉の宮に詣で、神勅を請ひゐるをりしも大神現はれたまひ、かれ春日姫は銀毛八尾の悪狐の変身なり。その証拠はかれの足の裏に狐の形したる斑紋ありとの神示なりしかば、吾は常に注意しつつありしに、ある機会にその斑紋を見届けたり。ゆゑに偽りもなき悪狐の変化なれば、汝はすみやかに天道山の瀑布にいたり、姫もろともに一度に打ちとるか、さなくばこれを生擒りにして帰りきたるべし』 と初めて心中を打ち明けたりしに、守高彦はいづれが真の狐なるや合点ゆかず、ともかくも春日姫の足の裏を見とどけての上決せむと、大石別もろとも急ぎ竜神の瀑布に進み入りにける。 (大正一〇・一一・二九旧一一・一加藤明子録) (第二九章~第三一章昭和一〇・一・一七於延岡市吉野屋旅館王仁校正)
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霊界物語 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 34 旭日昇天 第三四章旭日昇天〔一三四〕 ここに大道別は、大島別の奥殿に導かれ、山野海河の珍味の饗応をふたたび受け、終日終夜うるはしき女性の舞曲を見せられ、絲竹管絃の音に精神恍惚として、鼻唄気分になりゐたりしが、不思議や八島姫の巴形の斑紋は拭ふがごとく消え去り、大道別の斑紋はおひおひ濃厚となりきたりぬ。 ここに大島別は威儀を正し、大道別にむかひ、八島姫のこの度の大難より、大道別の渓間に顛倒しほとンど絶息しゐたるを助けゐたるに、あにはからむや、その面上に巴形の斑紋あらはれ、八島姫の額の斑紋はしだいに薄らぎ消え失せたる次第を物語り、 『汝は吾が娘八島姫の身代りとなりて、荒河の宮の犠牲たるべき運命のもとにおかれたるものなり』 と吐息をつきながら涙を流して物語りけるにぞ、大道別は少しも驚く色なく、涼風面を吹くごとき平気な態度にていふ。 『そは実に面白きことを承るものかな。我はかかる犠牲的行為を心底より喜ぶ。そもそも神たるもの犠牲をたてまつらざれば、怒りて神人を苦しますべき理由あるべからず。これまつたく邪神の所為ならむ。我かつて竜神の滝において悪魔を見届けたることあり、よき研究材料なり。謹ンで貴意に応ぜむ』 と、こともなげにいひ放ち平然として酒をのみゐたりけり。大島別以下の神司らは、おほいに喜び感謝の意を表し、ただちにその準備に着手したりぬ。 いよいよ期日は迫り来れり。神司らは種々の供へ物とともに、大道別を柩に入れ納め、山深く分けいりて、黄昏ごろやうやく荒河の宮に到着し、社前に柩ならびに供へ物を安置し、一目散に逃げ帰りける。 夜は森々と更けわたり、四辺しづかにして、水さへ音なく、静かにねむる深更の丑満時となりぬ。たちまち社殿は鳴動しはじめ、数万の虎狼が一度に咆哮するごとき、凄じき音響聞え来りぬ。 大道別は何の恐るる色もなく、柩の中に安坐して、天津祝詞を幾回ともなく繰返し奏上しゐたるに、たちまち神前の扉はぎいぎいぎいと響きわたりて、眼は鏡の如く、口は耳まで引裂け、不恰好に曲める鼻は菊目石を括りつけしごとく、牙は剣のごとく、白髪背後に垂れ薄蝋色の角、額の左右に突出たる異様の怪物、金棒をひつさげて柩の前に現はれ、どんと一突き地上を突けば、その響きに柩は二三尺も地上をはなれ飛び上りける。さすがの大道別も、すこしは案に相違の面持なりける。 大道別は天津祝詞を一生懸命に、汗みどろになり声をかぎりに奏上したるに、その言霊の響きによりて、柩は自然に四方に解体したれば、大道別はスツクと立ち上りたり。怪物はその勢に辟易して二三歩後方に退きし、その隙間を見すまし、怪物の胸部を目がけて長刀を突き刺しけるに、怪物はキヤツと一声、大地にだうと倒れ伏し、もろくも息は絶にける。大道別はそのままそこに端坐して、神前の神酒神饌その他の供へ物を仁王のごとき手をもつて之をつかみ、むしやむしやと片つ端から残らず平げにける。 しばらくあつて天上より微妙の音楽聞え来たりぬ。大道別はその音楽を酒の肴のごとく思ひつつ、神前の冷酒の残りをがぶがぶと呑みはじめたる時もあれ、たちまち容色端麗にして荘厳無比なる女神は数多の侍神とともに現はれたまひ、言葉しづかに、 『妾は天の高砂の宮に鎮まる国直姫命なり。汝はこれより吾が命を遵奉し、神界経綸の大業を完成するまで、地上の各地をめぐり悪神の陰謀をさぐり、逐一これを国治立命に奏上すべし。それまでは汝は仮に道彦と名乗り、かつ聾唖となり、痴呆と変じて神業に従事せよ。汝には、高倉、旭二柱の白狐をもつてこれを保護せしめむ。使命を遂行したる上は、汝は琴平別命と名を賜ひ、竜宮の乙米姫命を娶はし、神政成就の殊勲者として四魂の神の中に加へむ。夢疑ふなかれ』 と言葉終るとともに、国直姫命以下の神司らの姿は消え失せ、東方の山の谷間よりは紫の雲を分けて天津日の神豊栄昇りに昇りたまひぬ。かたはらを見れば象のごとき怪物、血にまみれて横たはりゐたり。これぞ六面八臂の邪鬼の眷族なる大狸なりける。 それ以後荒河の宮は焼きすてられ、南高山一帯の地方の禍は、跡を絶つに至りける。玉純彦以下の神司らは、大島別の命により数多の神司を引率し、荒河の宮にいたり見れば、大道別は平然として大狸の横に安坐し、天津祝詞を奏上しゐたるにぞ、神司らはかつ驚きかつ喜び、大道別とともに南高山の城内に意気揚々として帰り来りける。大道別は神司らより親のごとく尊敬され、優待されて若干の月日をここに過したりける。 (大正一〇・一二・六旧一一・八加藤明子録)
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霊界物語 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 37 天女の舞曲 第三七章天女の舞曲〔一三七〕 八咫の大広間の大酒宴の中に立ちて、旭姫は長袖いとしとやかに舞ひつ踊りつ、口づから歌ひはじめたり。その歌、 『朝日は豊栄昇りまし神の光もいやちこに 清照彦のうしはげる世は永遠に長高の 山の草木もかぐはしく花は咲けども百鳥の 声は長閑に謳へども月に叢雲花に風 常世の国より吹きおくる冷たき嵐にさそはれて 山のふもとや谷底の木草は倒れ花は散り 神人一度に泣き叫ぶその声今に長高の 山の尾の上を轟かし常世の暗の世とならむ 心きよてる彦の神その身の側に気をつけて 角の生えたる牛熊や鬼丸等がたはむれを 真寸美の鏡に照し見よあらしはやがて吹き荒み 炎は今に燃え上がる清照彦よ気をつけよ 常世の暗となるなれば長高山も末世姫 末世澆季の世をてらす国直姫の御使 旭の明神これにあり太刀抜き振ふは今の内 角折りこらすはこの砌大道別や八島姫 後にひかへ奉るいそげよいそげいざ急げ 一時の猶予は千歳の悔いを残さむささ早く』 清照彦は旭姫の諷歌を聞くや、侍臣に命じてその場に牛熊別を縛せしめむとせしに、さすがの牛熊別も大酒をすごせしため身体自由ならず、やすやすと部下の神司のために前後左右より取り囲まれ縛につきぬ。このとき山下に聞ゆる鬨の声。清照彦は突つ立ち上り、 『反逆者の襲来ならむ。神将らは武装を整へ防戦にむかへ』 と下知すれども、酒に酔ひつぶれて正体なく、ただただ寝耳に水の恐怖心にかられ、右往左往に城内を奔りまはるのみ。一人として戦場にむかふ勇者は無かりけり。 時しも鬼丸は、陣頭に立ちあまたの魔軍を引率し、城内に侵入しきたり、 『鬼丸これにあり、清照彦命に見参せむ。吾こそは常世国の重臣にして、鬼丸とは世を忍ぶ仮の名、実は八王大神の密偵、鷹虎別なるぞ。長高山を占領せむと身をやつし牛熊別としめし合せ、本城を根底より覆へさむとの吾が計略、天運ここに循環して、日ごろの大望成就の暁はきたれり。もはや叶はぬ清照彦は、本城を開けわたし、常世の国に従ふか、ただしはこの場で切腹あるか。返答いかに』 と阿修羅王の荒れたるごとく、奥殿目がけて攻めきたるを、清照彦、末世姫は、強弓に矢を番へ、立ち出でて鷹虎別にむかひ、一矢を発たむとする時しも、いかがはしけん、弓弦はプツリと断ち切れて双方とも用をなさず、進退きはまり夫婦は最早切腹の余儀なきをりしも、旭姫は牛熊別を縛のまま、その前に曳出しきたり、短刀を牛熊別の胸に擬し、鬼丸にむかひ、 『汝吾が主にむかつて危害を加へむとせば、妾はいま汝の主を刺殺さむ』 と睨めつけたるにぞ、鷹虎別は仁王立ちとなりしまま歯がみをなし、手を下すによしなく溜息つくをりしも、表の方よりにはかに聞ゆる数多の足音。鬼丸はふと後を振返る一刹那、旭姫は短刀の鞘を払ふより早く、鬼丸の胸につき立てしが、鬼丸はアツと一声、その場に倒れこときれにけり。 山麓に押しよせたる鬼丸の部下をさんざんに打ち悩ませ、敵を四方に散乱せしめ勝に乗じて山上に登り、城内の危急を救はむとして入り来れる大道別の雄姿は、今この場に現はれ、鐘のごとき大声を放ちて、神助の次第を報知したりける。 旭姫はおほいに悦び、奥に進み入りて清照彦、末世姫に戦捷の次第を物語り、かつ大道別の功績を逐一物語りたり。清照彦はただちに大道別を引見し、その勲功を感謝し、ただちにわが地位を捨てて大道別、八島姫に譲り、かつ、 『吾ら夫妻は、貴下の従臣として永く奉仕せむ』 と赤心を面に表はして、しきりに慫慂したりける。 案に相違の大道別は、大いに迷惑を感じ、直ちに偽の聾唖を装ひ、痴呆を真似て清照彦の言を馬耳東風と葬り去りぬ。旭姫は口をきはめて道彦の力量のみ徒に強くして、治世の能力なき痴呆者たる事を宣明したれば、清照彦は止むを得ずこれを断念したりけり。 これより清照彦は、領内の正しき神人を下級より選抜し、重任に就かしめたりしより、その後は一回の紛擾もおこらず、長高山はその名のごとく、世は長く栄え神徳は高く四方に輝きわたり、常世の邪神はつひにその影を没したりける。 大道別は長高山を煙のごとく消え失せ、八島姫もまた何時のまにか、姿を隠したりける。雲のごとく現はれ、霞のごとく消え去りし二人の神変不可測の行動、高倉、旭の二白狐の変現出没の神妙奇蹟は、今後の物語りによつて判明するならむ。 (大正一〇・一二・七旧一一・九近藤貞二録)
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霊界物語 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 38 四十八滝 第三八章四十八滝〔一三八〕 長高山の城塞より煙のごとく消え失せたる道彦は、高倉のあとを追ふて、遠く東北にすすみ、氷のはりつめたる海峡を渡りて、アラスカの高白山の谷間に進みたりしが、すこしく谷川の上流にあたりて喧騒の声聞え来たる。道彦はその声をしるべに谷川をどんどん上りゆきみれば、谷の両側はあたかも鏡を立てたるごとく、断巌絶壁の一方に、あまたの人々寄り集まり、右往左往に声を放ちて騒ぎゐたり。 見れば、高白山の主将荒熊彦は、谷間に顛落して大負傷をなし、谷水を鮮血にそめ苦しみつつありしなり。 神司らはこれを救はむとすれども、名におふ断巌絶壁、いかんともすることあたはず途方にくれゐたりける。 このとき白狐の高倉は、金色の槌と変化し、絶壁をうち砕き、足のかかるべき穴を穿ちつつ谷底に下り行く。道彦は傍なる山林に生茂れる藤葛を長く結び、谷川のほとりの老木の根にその一端を結びつけ、みづからその蔓を谷底に垂れ、高倉の穿ちおきたる巌壁の穴に足をかけ、やうやく谷底に下りつき、荒熊彦のかたはらに寄りそひ、水を口にふくみて面上に吹きかけ、かつ天津祝詞を奏上し、鎮魂の神術をほどこし、やうやく正気づき、出血もただちに止りたれば、右の脇に引抱へ、藤葛を左の手に持ち、巌壁の穴に足をかけ上りきたりぬ。神司らの喜びの声、感歎の声は天地も崩るるばかりなり。荒熊彦は道彦を命の親として尊敬し城内にともなひ帰り、山海の珍味を出して饗応し、救命の恩を感謝したりける。 さて荒熊彦は衆とともに、この谷間の絶景を眺めて酒宴を催し、興に乗じて踊り狂ひ眼くらンで、この千仭の谷間に顛落したりしなりけり。この谷川は四十八滝と称し、いたる所に奇岩、怪石散在して、大小四十八個の荘厳なる瀑布が出現し、風光絶佳の遊覧所となりゐたりけり。 道彦は荒熊彦の信任を得、聾唖痴呆の強力として侍臣のうちに加へられ、つひには炊事の用務を命ぜられ、まめまめしく奉仕しゐたり。 高白山の城内の宰相に、八十熊別といふ徳望高き人あり。この人は常世姫の間諜にして、古くより高白山に謀計をもつて忍び入り、時をみて高白山を顛覆せむと企てゐたりける。 ここにローマの戦に敗れ、常世の国に送られたる言霊別命は[※第二八章参照]、中途にて、言代別命のために救はれ、身を変じて高白山にのがれ、賓客として、荘厳なる別殿に迎へられ、時機を待ちつつありしが、八十熊別は、言霊別命の素性を探知せむと、探女を使役して常にその行動を注視せしめゐたり。探女の名を月の姫といふ。月の姫は常に八十熊別の命により、言霊別命の侍女として、表面まめまめしく仕へゐたりぬ。 ある夜、言霊別命と荒熊彦の密談を立聴きしてをり、ひそかにその詳細を八十熊別に報告しければ、八十熊別は月の姫に耳語して何事か命令を下しける。 時に八十熊別は、茶の湯の饗応に言寄せて荒熊彦夫妻を招待し、かつ賓客なる玉照彦を招待したり。玉照彦は言霊別命の仮名なり。道彦は荒熊彦の侍者として宴席に現はれしが、彼はただちに炊事場にいたり、水をくみ茶を沸かすなど、まめまめしくたち働きける。 八十熊別の侍者は、道彦の聾唖と痴呆とに心をゆるし、よろこびて炊事一切をうち任せける。月の姫は客人に茶をたて、これをすすめむとするとき、懐中よりひそかに毒薬をとり出し、茶の湯に投じたるを道彦は素知らぬ顔にこれを眺めゐたりける。月の姫はうやうやしく茶の湯を両手にささげ、玉照彦、荒熊彦らの前にすゑ、一礼して座を立ちにける。 道彦はただちに月の姫を強力に任せてひきつかみ、茶席の前に現はれ出で、仰向に押し倒し、その茶を取るより早く、月の姫の口に無理やりに飲ませたり。 月の姫はたちまち手足をもがき、黒血を吐きことぎれにける。 八十熊別は謀計の暴露せむことを恐れ、合図の磬盤を打つやいなや、どこともなく数多の邪軍現はれ、玉照彦、荒熊彦らを目がけて前後左右より、長刀を抜き放つて切り込みぬ。このとき道彦は、高倉の妙術により、数百の道彦となつて現はれたれば、八十熊別の味方の邪軍は、縦横無尽に、道彦を目がけて切りこめども、いづれも皆空を斬り、影を追ひ、勢あまつて階上より地上に顛落し、さんざんに敗北したりける。 八十熊別はこの態を見て、裏門よりのがれ出むとするや否や、幾千丈とも限りなき深き広き池沼にはかに現出して、遁るるの道なかりける。これは高倉白狐の謀計的幻影なりける。 八十熊別はやむをえず、あとへ引返すとたんに、真正の道彦のために、八つ割にされ、ここに高白山の妖雲はまつたく晴れわたり、真如の明月は、高く中天に輝きはじめたり。 言霊別命は、高白山の主将となり、しばらく地の高天原の神司らにも行衛を秘密にしゐたまひける。 荒熊彦、荒熊姫は、言霊別命に一切を譲り、みづから従臣となり忠実に奉仕したりしが、道彦の姿はまたもや煙と消えにける。 (大正一〇・一二・七旧一一・九栗原七蔵録)
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霊界物語 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 41 二神の帰城 第四一章二神の帰城〔一四一〕 美山彦、国照姫は、天の原なる国の広宮の建設されしより、邪鬼、悪狐の憑霊現はれ、八百万の神司の手前面目を失し、竜山別、広若、船木姫、田糸姫、猿若姫らとひそかに広若の館に集まり、地の高天原をはじめ竜宮城を占領せむことを企てたるが、到底その力のおよばざるを悟りて、大国彦、常世彦の助力を求め、第一に国の広宮を破壊し、厳粛なる神司の審判を廃止せしめ、そのうへ当初の目的たる地の高天原を占領せむとし、四方の魔軍を募り、かつ大自在天大国彦の部下、醜原彦、大鷹彦、中依別、藤高、鷹取、遠山その他の暴悪非道の曲神の率ゐる数万の魔軍を、天の原にむかつて攻めよせしめたり。 宮司の武直彦、玉国彦をはじめ、竜宮城の従臣佐倉彦、白峰別は大八洲彦命の命によりて極力防戦したれども、暴悪なる魔軍はなんの容赦もなく、多数の権威を頼みてたちまちこれを破壊し、凱歌をあげていういうと引揚げたりける。しかるに美山彦、国照姫の一派は、この残虐を自己の関知せざる態によそほひ、なほも依然として竜宮城内に留まり、言霊姫命、真澄姫、杉生彦を甘言をもつて説きつけ、地の高天原の主宰者なる大八洲彦命をはじめ、神国別命その他の重職にある神司を排除し、竜山別をして天使長の職に代らしめむとしたりける。 されど強直無比の曙姫、梅ケ香姫、玉若彦、豊日別の若き神人のために遮られて、せつかくの計画も九分九厘のところにて一頓挫を来したりけるが、あくまで執拗なる美山彦、国照姫、船木姫、杵築姫らは、弁舌たくみに言霊姫命、真澄姫を利害得失をもつて説きつけ、 『万々一我らの進言を用ゐたまはざるにおいては、大自在天大国彦の軍勢は、直ちに竜宮城へ押寄せきたりて、国の広宮のごとく一挙に地の高天原もろとも破壊さるるのみならず、大八洲彦命以下の神司は残らず滅ぼされむ。我らの言を採用し、常世姫を迎へたてまつり、かつ竜山別をして天使長の職に就かしめなば、地の高天原も竜宮城も安全無事なるのみならず、言霊別命、大足彦は常世国より解放の歓びにあふは必然なり。真澄姫、言霊姫にして、夫の危難を救ひ本城を永遠に保ち、神徳を四方に発揮せむと欲したまはば、速やかに我らの忠言を容れられよ。夢にも我らの言を否みたまふにおいては、後日のため面白からぬ結果を招き、つひには貴女らの御身の上にも大事の発生せむこと、火を睹るよりも明白なり』 と脅喝したりければ、さすが女人の心よわく、真澄姫、言霊姫は、その賛否に迷はざるを得ざりける。曙姫、梅ケ香姫、佐倉姫らの女性は、いたつて強剛の態度をとり、真澄姫、言霊姫にむかつて、 『断じて美山彦一派の言に耳を傾けたまふべからず』 と進言したりけるに、二人はやや思案にくれつつありき。そこへまたもや国照姫、杵築姫、船木姫、広若らの邪神現はれ来たり、二女にむかひて、 『如何にしても吾らの忠言を容れて諸神司を放逐し、竜山別以下の神人を採用せざるときは、災禍たちまちいたりて本城は大国彦の部下に亡ぼされ、言霊別命、大足彦は常世国の刑に処せられ、末代帰還さるべき機会なし。一時も早く吾らの言を容れて大改革を断行されよ』 と前後左右より攻めよするをりしも、竜宮城の門外にはかに騒がしく、諸神司の歓呼の声、鬨の声、百雷の一時に轟くごとく聞こえきたりぬ。これは言霊別命が神助の下に常世国に送らるる[※第二八章参照]中途において、従者言代別命に救はれ、一たん高白山の城主となり各地をひそかに巡視し、詳細なる偵察を了へて緑毛の大亀にうち乗り、大足彦とともに突然帰還したまひしなりき。 かくと知りたる美山彦、国照姫、杵築姫らの邪神は、たちまち周章狼狽して色をうしなひ、逃ぐるにも逃げ途なく、梟の夜食に外れし時のごとく面ふくらしながら二神司を迎へて、いやさうな、気乗のせぬ声にて、 『よくもお帰りありしぞ、マアマア御芽出度し』 と義理一遍の冷淡きはまる挨拶をのべ、早々わが居室に立ち去りにけり。 あまたの神司は、二神司の無事に帰還せられしを心底より欣喜にたへず、天を拝し、あるひは地を拝し、枯木に花の咲きしがごとく勇み立ちにける。二神司はまづ天の三柱の大神に無事の帰城を感謝し、ついで国治立命の神前に拝跪して神恩の深きに涙を流し、真澄姫をはじめ留守中の諸神司に、永日の労苦を謝しをはりて、蓮華台上の聖地にのぼり、天神地祇、八百万の神々に感謝の祝文を奏上し、衆に守られて城内深く休息したまひける。 ややあつて国照姫、杵築姫、広若は二神司の前に現はれ、 『妾らは、常世城に捕はれ獄中に呻吟したまふことを悲しみ、同情の涙にたへず、よりて妾らは種々の手続きを求めて大国彦に歎願し、かつ常世彦のもとに必死的運動の結果、貴神司らは今日無事に帰還するを得たるは御承知のことならむ。神明の加護とはいひながら、その大部分は妾らが犠牲的大運動のたまものなれば、今後は妾らの忠言を容れて、大々的改革を断行したまへ。この好機を逸する時は、地の高天原も竜宮城も、暗黒界と変ぜむこと明らかなり』 と喋々として述べ立つる。二神司は国照姫以下の邪神の、見えすきたる虚言にあきれて、言語も発し得ざりける。すなわち二神司は一旦ローマの戦ひに破れて捕はれたれど、神の佑助によつて中途に救はれ、言霊別命は一時高白山に隠れて時を待ち、それより不思議にも途中大足彦に会し相共に天下の諸山を歴視し、邪神の奸計を詳細に探求し還りたることを告げ、かつ国照姫、杵築姫らの言葉の事実に相反し、全然虚構なる旨を素破抜きたまひける。 国照姫以下の邪神らは、二神司の言を聞きて赤面するやと思ひの外、厚顔無恥なる彼ら悪神は、少しの痛痒も感ぜざるごとき態度をよそほひ、かへつて二神司の言を虚言と言ひはなちつつ、なほも陰に陽に反抗的態度を持続し、あるひは大国彦の部神に通じ、あるひは常世姫とはかり、盛ンに地の高天原を顛覆せむと焦慮しつつ、表に善人の仮面を被ぶり、暗々裡に反逆的活動を続けたりける。 (大正一〇・一二・七旧一一・九桜井重雄録)
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霊界物語 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 45 猿猴と渋柿 第四五章猿猴と渋柿〔一四五〕 天使長高照姫命以下の女天使は、天地の激怒に狼狽し、ほとンど為すところを知らず、部下の神司らは残らず驚きのあまり右往左往に逃げまはり、或ひはつまづき或ひは失神し、とかげの欠伸したるごとき怪しき顔にて呆れ仰天するもあり、石亀の酒壺におちいりて溺れし時のごとき顔付にて、じつに見るも滑稽至極のいたりなりける。 雷鳴は容易にやまざるのみならず、ますます激烈に鳴りとどろき、東北の強風しきりに吹き荒み、暗雲天地に閉してすさまじく、常夜の暗のごとく神人戦慄し、禽獣虫族にいたるまで、いづれも地に俯伏して息をも発せざるの惨状を現出したるぞ畏こけれ。また四柱の女天使は自我心もつとも強くして、神命さへも抗拒し律法を破りたれば、天地の大神の怒りに触れ、かかる混乱状態に陥りたるぞ是非なき次第なりけり。 待ちまうけたる常世姫の部下、国照姫、杵築姫は、平素の願望を成就するはこの時を逸すべからずとし、国治立命の奥殿に参向し、高照姫命以下の女天使らの神勅を無視し、律法に違反せる罪科を詳細に陳述し、すみやかに四柱の女天使の職を免じ、聖地聖城を追放されたしと進言したり。神明に依怙なし、大神は天地の律法に対し、情に訴へて四天使を赦すわけにもゆかず、つひに涙をのンで四人の聖職を免じ、かつ四人に対し、改心のためとてエデンの園に籠居を厳命したまひける。 四天使は神命と律法にたいしては抗弁するの余地なく、唯々として厳命を拝受し、命のまにまにエデンの園に籠居の憂目を味はふの止むなきに立いたりけり。 四天使の追放とともに、さしも激烈なりし雷鳴も、凄じかりし電火も、烈風強雨も、たちまち鎮まりて清澄なる天地と化し、宇宙は夢の醒めたるごとき光景となりにける。 エデンの園は、東北西の三方青山をもつて囲まれ、南方のみ広く展開して一条の大川清く流れ、自然の城壁を造られあり。四人はこの一定の場所に押込められ、草木の実を食用に供しつつ楽からぬ光陰を送りけり。 エデンの園は、かつて邪神の棟梁竹熊の割拠せし所にして、鬼熊のために占領せられしが、鬼熊、鬼姫の没落後まつたく竜宮城の管下になりゐたりしところなり。 因に、高照姫命は金勝要の神の和魂であり、 真澄姫命は幸魂であり、 言霊姫命は荒魂であり、 竜世姫命は奇魂である。 今まで四魂合一して、神業に奉仕されつつありしが、自我心の強烈なりしために、聖地聖城を追放され、さびしき配所の月に心を慰め、時を待ちたまふの止むをえざるに立いたりしは実に残念のいたりなりける。これについても慎むべきは、自我心と驕慢心なれ。神諭の各所に、 『金勝要之神もあまり自我心が強かつたゆゑに、狭い処へ押込められなさつたぞよ』 とあるも、この消息を漏らされたるなり。 しかるに金勝要の神は、一旦大地神界の根神とまでなりたまひしに、自我心の頑強なりしため、エデンの園に押こめられ、なほも自我を頑強に張りしため、つひには地底の醜めき穢なき国に墜落し、三千年の辛苦をなめたまふに至りしなり。 美山彦、国照姫の一派は、時運の到来をよろこびつつ、かならずや後継の天使長は、常世彦に新任され、自分らの一派は天使の聖職を命ぜらるるものと期待し、肩を怒らし鼻をうごめかし、得意頂点に達し、その吉報を今か、いまかと指をり数へて楽しみ待ちゐたりける。 しかるに豈計らむや、後継の神司は常世彦一派に下らずして、天上より降りきたれる金神の首領なる沢田彦命の一派に降りける。沢田彦命は一名大将軍と諸神将より賞揚されつつありし英雄神におはせり。 常世彦の一派は、案に相違し、猿猴が渋柿を口一杯に含みしごとく、頬をふくらせ渋面を造りながら、悄然として引下がりたるその状、見るも気の毒なる次第なりける。 ここに国治立命は沢田彦命を天使長に任じ、妻沢田姫命を輔佐神司となし、真心彦を天使に任じ、妻の事足姫をして神務を輔佐せしめたまひける。 また沢田彦命の従臣に、八雲彦、八雲姫の夫婦ありしが抜擢されて用ひられ、また真心彦には国比古、国比女の夫婦および百照彦を従臣として奉仕せしめられたり。 百照彦は、真心彦のもつとも寵愛深かりし者にして、真心彦は霜の朝、月の夕に無聊を晴らすためと、百照彦を居室に招き、種々の面白き物語を聞きて心の労を慰めゐたり。百照彦は、いかにして主の心労を慰安せむかと常に焦慮しゐたれども、主の機嫌とるべき物語も、もはや種絶れとなりにける。 いかにせば良からむやと我が居間に端座し、双手を組みて吐息をもらし、思案に沈みてゐたるを、妻なる春子姫は夫の近ごろの様子をうかがひ、夫には何か一大事の出来し、それがために朝夕苦慮をめぐらしたまふならむかと、心も心ならず、思ひきりて夫にむかひ言ふやう、 『近ごろの夫の様子を伺ひまつるに、よほど御心痛のていに見受けたてまつる。天地の間にかけがへなき水ももらさぬ夫婦のあひだに、なにの遠慮懸念のあるべきぞ、苦楽を共にすべき偕老同穴の契を結びたる妻に、心の苦衷を隠したまふは、実に冷酷無慈悲の御仕打ち、妾はこれを恨みまつる』 と涙片手に口説き立つれば、百照彦はやうやく口を開き、 『吾は主の仁慈と恩徳の深きに昼夜感謝の念を断たず。しかるに主真心彦は神務の繁忙に心身を疲労し、日をおひて身体やつれ弱らせたまふを見るにつけ、従臣の身として、これを対岸の火災視するあたはず、いかにもして主の御心を慰め奉らむと日々御側に侍し、神務の閑暇には面白き四方山の物語を御聞に達し、御心を幾分か慰め奉りきたりしに、もはや吾はめづらしき物語もつきたれば、今後はいかにして御心を慰め奉らむと、とつおいつ思案にくるるなり』 と語りて太き吐息をつく。春子姫は何事か期するところあるもののごとく、夫にむかひ笑顔をたたへ見せゐたりけり。 (大正一〇・一二・九旧一一・一一加藤明子録)
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霊界物語 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 46 探湯の神事 第四六章探湯の神事〔一四六〕 百照彦は黙然として春子姫の面色を打見やりつつありしが、たちまち膝を前めて、 『汝の愉快にみちしその容貌、たしかに妙案あらむ、はやく吾がためにその妙案を物語れよ』 と顔色に光をあらはし勢よく問ひければ、春子姫はこたへていふ、 『妾は元来芸無し猿の不束者なれども、ここに一つの隠れたる芸能あり。そは天人の舞曲にして、天上において諸神の讃歎やまざりし、妾が独特の芸能なり。妾もし夫の許しを得ば、夫とともに真心彦の御前において一曲を演じまつらば、かならず歓ばせたまはむ』 と得意満面にあふれて勇ましげに言ふ。百照彦はおほいに驚きて、 『アヽ汝は何時のまにか、かかる芸能を覚えたるか』 と尋ぬれば、春子姫は、 『妾は貴下のもとに娶らるるまで、高天原の神殿に奉仕し、日夜舞曲を奏し、神歌をうたひ、大神の神慮を慰め奉る聖職に奉仕せしが、その技はつひに神に入り、妙に達して、天上における第一位の芸能者として、もてはやされしが、このたび地の高天原の改革につき、貴下は真心彦とともに赴任さるるに際し、大神の命によりて貴下の妻と定められたり。されど、貴下は大神の御心のあるところを毫も知りたまはず、ただ単に自ら選びて妾を妻に娶りしごとく思召したまへども、夫婦の縁は決して独自の意志のごとくになるべきものに非ず。いづれも大神の御許しありての上の神議りのことなれば、夫婦の道は決して軽忽に附すべきものにあらず。いづれも皆夫婦たるべき霊魂の因縁ありて、神界より授けらるるものなり』 と天地の因果を説き示し、夫婦の道は神聖にして犯すべからざる理由を諄々として説き立たり。 百照彦は初めて妻の素性を知り、かつ神律の重ンずべきを深く感得したりしが、百照彦はさらに妻にむかひ、 『汝はさほどの芸能を有しながら、現在夫たる吾に今日まで何故に告げざりしや』 と怪しみ問ふを、春子姫はこたへて、 『妾は貴下の妻となりし上は、妻たるの務めを全うせば足る。いたづらに芸能に驕り慢心に長じ、つひには夫を眼下に見下すごときことありては、天地の律法を破る大罪なれば、夢にも芸能を鼻にかけ不貞の妻と笑はるるなかれとの、父母の固き教訓なれば、今日まで何事もつつしみて、一度も口外せざりし次第なれども、今日夫の辛労を傍観するに忍びず、この時こそは妾が得意の芸能を輝かし、夫を輔佐し奉らむと決意したる次第なり。諺にも芸は身を助くるとかや、妾の身は何れになるも問ふところにあらざれども、現在の大切なる夫の神業を助け、なほ殊恩ある主の御神慮を慰め奉ることを得ば、妾が鍛錬したる芸能の功も、はじめて光を発するものなれば、女性の差出口、夫にたいして僣越至極の所為とは存じながら、夫を思ふ一念にかられて、はづかしながら妾の隠し芸を知れることをふと申上げたるなり』 と夫の前に両手をつき、敬虔の態度をあらはし物語りたり。 ここに百照彦は妻を伴なひ、主真心彦の館に参向し、春子姫の芸能のすぐれたることを進言したりけるに、命はたちまち顔色をやはらげ、さも愉快気に、 『天地神明の神慮を慰め、万物を歓ばしむるの道は歌舞音楽に如くものはなし。幸ひにも春子姫芸術に妙をえたるは何よりの重宝なり。一度吾がために一曲を演ぜよ』 と言葉もいそいそと所望したりける。 百照彦は主の愉快さうなる顔色を見て、やつと安堵せしものの如く胸をなでて笑声を作りける。 春子姫は、会心の笑みをもらしながら、舞衣に着替へ長袖しとやかに舞ひはじめしが、実に春子姫の言へるごとく、その技、妙に達し神に入り、天地神明の嘉賞したまふも当然なるべしと、真心彦をはじめ百照彦もただ感にうたれて恍惚たる有様なりける。その妙技の非凡なるを伝へ聞きて、大将軍沢田彦命まで臨席せられ、真心彦にむかひて、 『貴下は実に良き従臣を持たせらる。吾は羨望の念にたへず』 と言ひながら、その妙技に首を傾けて観覧したまひける。百照彦、春子姫はおほいに面目を施し、主の賞詞をうれしく拝受して厚く礼を述べ、吾が館に帰りただちに神前に神酒を奉献して、感謝の祝詞を奏上したりける。 それより天使真心彦は、春子姫の舞曲の優雅なると、その神格の高尚なるとに心をとろかし、一にも春子姫の舞曲、二にも姫の音調と、事あるごとに二人を招き酒宴をもよほし、つひには神務を捨てて絲竹管絃の道にのみ耽溺し、真心彦と春子姫の間に面白からぬ風評さへ立つにいたりける。 真心彦は元来仁慈の念ふかく、かつ多情多感の神司なりけり。それゆゑ外部の風評を耳にするや、春子姫にたいする同情の念は日をおうて昂まり、悪しき風評はますます油の浸潤するがごとき勢にて内外に拡まりにけり。 このことたちまち国治立命の耳に入りたるより、命はただちに真心彦を召しだして厳しく不義の行為の有無を詰問されたりしが、真心彦は首を左右にふり、 『吾いやしくも聖地の重神司として、天使の職を忝なうし、天地の律法を宣伝すべき聖職にあり。いかでか斯かる忌はしき行為を敢てせむや。天津神国津神も、吾が心身の潔白を照鑑ありて、わが着せられし濡衣を干させたまへ』 と一心不乱に祈願を凝らしたり。そのとき春子姫は突然身体激動して憑神状態となりぬ。これは稚桜姫命の降臨なりける。命は教へ諭していはく、 『よろしく探湯の神事をおこなひ、その虚実を試みよ。神界にてはこの正邪と虚実は判明せり。されど地上の諸神人は、疑惑の念深くして心魂濁りをれば、容易に疑ひを晴らすの道なし。ゆゑに探湯の神事を行なひ、もつて身の疑ひをはらすべし。正しきものは、神徳を与へてこれを保護すべければ、いかなる熱湯の中に手を投ずるとも、少しの火傷をもなさざるべし。これに反して、汚れたる行為ありし時は、たちまちにして手に大火傷をなし、汝の手はただちに破れただれて大苦痛を覚ゆべし』 と宣示されたり。 真心彦は、喜びて頓首したまひ、ただちに探湯の神事に取かかりけり。八百万の神人はその虚実を試すべく探湯の斎場に垣をつくり片唾をのンで見ゐたりしが、沸きかへる熱湯の中に、怖ぢず臆せず、真心彦は天津神国津神にむかつて祈願し、泰然自若として手を浸し入れたり。つづいて春子姫も同じく手を浸し、久しきにわたるといへども、二人ともに何の火傷もなく、ここに二人の疑ひはまつたく払拭されにける。二人は天地にむかいて神恩の有難きを謝し、慟哭やや久しうしぬ。八百万の神人は一斉に手をうつて、二人の潔白を賞讃したりける。国治立命は、二人の清浄無垢の心性を賞し、かつ種々のありがたき言葉を賜ひ、かつ今後は神祭のほか断じて舞曲に耽溺し、絲竹管絃にのみ心を奪はれ、神務を忘却するごとき不心得あるべからず、と厳しく教へ諭したまひ、悠然として奥殿に入らせたまひける。 真心彦は大いに愧ぢ、 『我は大いに過てり。我が悪しき風評の高まりたるは、わが不徳の致すところなり。聖地の重臣として、いかで他人に臨み得むや』 と直ちに国治立命の御前にいたり、天使の聖職を弊履を捨つるがごとく辞したりにけり。 (大正一〇・一二・九旧一一・一一外山豊二録)
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霊界物語 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 50 安息日 第五〇章安息日〔一五〇〕 天地剖判に先だち、宇宙の大元霊たる無声無形の一神ありけり。 これを神典にては、天之御中主大神ととなへ奉り、神界にては大六合常立尊と申す。西洋にてはゴツドといひ、仏教にては阿弥陀如来といふ。漢土にては古来天帝または天主といふ。吾々はきはめて言語のすくない簡単な御名を選んで、ここでは天主ととなへ奉つて述ぶることにしたいと思ふ。 天主は、過去現在未来に一貫して無限絶対無始無終の大神霊にましまし、その絶対の霊威を発揮して宇宙万有を創造したまうた。 大宇宙の太初にあたつて、きはめて不完全なる霊素が出現し、それが漸次発達して霊の活用を発生するまでの歳月はほとんど十億年を費してゐる。これを神界においては、ヒツカ(一日)といふ。つぎにその霊の発動力たる霊体(幽体)なるものが宇宙間に出現した。これをチカラと称へた。チとは霊または火の意味であり、カラとは元素の意味である。この宇宙に元素の活用するにいたるまでの歳月は、また十億年を費してゐる。この十億年間を神界においてフツカ(二日)といふ。 つぎにこの元素に霊気発生して、現顕の物体を形成するにいたるまでの歳月は、また大略十億年を費してゐる。この十億年間の霊体の進歩を称してミツカ(三日)といふ。ここにいよいよ霊、力、体の三大勢力発揮して、無数の固形体や液体が出現した。太陽、太陰、大地、諸星の発生はつぎの十億年の間の歳月を費してゐる。これを神界にてはヨツカ(四日)といふ。 またつぎの十億年間の歳月を費したる神霊の活動状態を、神界にてはイツカ(五日)といふ。イツは稜威にしてカは光輝の意である。この五日の活動力によりて、動植物の種天地の間に現出した。いよいよ五十億年間の星霜を経て陰陽、水火の活用あらはれ、宇宙一切の万物に水火の活用が加はり、森羅万象の大根元が確立した。この歳月は六億年を費してゐる。この六億年間の神霊の活用をムユカ(六日)といふ。 かくのごとくして天主は宇宙万有一切をムユカに創造された。それより天主は一大金剛力を発揮して、世界を修理固成し、完全無欠の理想世界いはゆる五六七の神代、松の世を建設さるるその工程が七千万年の歳月であつて、これをナナカ(七日)といふ。ナナとは地成、名成、成就、安息の意である。七日の神霊の活用完了の暁にいたつて、至善至美至真の宇宙が完成さるる、之を安息日といふ。 安息日の七千万年間は天主の荒工事ををはつて、その修理固成のために活動さるる時代であつて、世人のいふごとく神の休息したまふ意味ではない。もしも天主にして一日はおろか一分間でもその神業を休めたまふことがありとすれば、宇宙一切の万物はたちまち滅亡してしまふからである。ゆゑにこの安息日は人々神の洪恩を感謝し、かつその神徳を讃美すべく祝すべき日である。 かくして五十六億七千万年を経て、五六七の神政まつたく成就され、天主の経綸の聖代がくるのである。しかるに幸ひなるかな、五六七の歳月もほとんど満期に近づいてをる。いよいよ五六七神政出現の上は、完全無欠、至善至美の世界となり、神人和合して永遠無窮に栄えゆくのである。ゆゑに今日までの世界は未完成時代であつた。ここに天運到来して、神政の開かるる時機となつた。現代はその過渡時代であるから、その前程として種々の事変の各所に突発するのも、神界の摂理上やむを得ざる次第であらうと思う。 この安息日については各教法家の所説も、古今東西の区別なく論議されてをるが、私は世説の如何にかかはらず、神示のままを述べたまでである。 〔附言〕 聖書に、神は六日に世界を造り了へて、七日目は安息せりといふ神言がある[※創世記第一章末から第二章冒頭にかけての一文。「(略)神其造りたる諸の物を視たまひけるに甚だ善りき夕あり朝ありき是六日なり斯天地および其衆群悉く成ぬ第七日に神其造りたる工を竣たまへり即ち其造りたる工を竣て七日に安息たまへり神七日を祝して之を神聖めたまへり其は神其創造為たまへる工を尽く竣て是日に安息みたまひたればなり(略)」(一九三七年、日本聖書協会発行『旧新約聖書』より)。]。この神言について言霊研究の大要を述べてみやうと思ふ。 ナの言霊は宇宙万有一切を兼て統一するといふことである。⦿の凝る形であり、行届く言霊であり、天国の経綸を地上に移すことともなり、⦿の確定ともなり、調理となり成就となり、水素の形となり、押し鎮むる言霊の活用ともなる。 次のナも同様の意義の活用である。 カの言霊は、燥かし固むる活用となり、晴れて見ゆる也、一切の物発生の神力となり、光明となるの活用である。 メの言霊は、世界を見るの活用となり、起り兆となり、本性を写し、女子を生み、天の岩戸を開き、草木の芽となり、眼目となるの活用である。 以上の言霊によりて、神は七日目に安息したまふといふ神語は、実に明瞭となつてくるのである。要するに宇宙万有一切の生物にたいし、神人、樹草、禽獣、鳥族、虫魚の区別なく、各自その所に安んじて、その天職に奉仕する聖代の現はれである。 ゆゑに七日は現代の暦にいふ日月火水木金土の一週間の日数の意味ではないことも明白なる事実であると思ふ。 (大正一〇・一二・一〇旧一一・一二加藤明子録) (第四八章~第五〇章昭和一〇・一・一九早朝於宮崎市神田橋旅館王仁校正)
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霊界物語 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 岩井温泉紀行歌 附録岩井温泉紀行歌 瑞月作 岩井温泉紀行歌 瑞の御魂に縁由ある壬戌の一月の 雪降りつもる銀世界黄金閣をあとにして 八日午前の巳の刻に身魂の垢を清めむと 岩井温泉さして行く湯浅篠原植芝や 松の大本の竹下氏恵みの風も福島の 近藤の湯治を送らむと信仰かたき石の宮 家並は古く朽ちぬれど名は新町の正中を 足並速き自動車に揺られて綾部の駅につく 汽笛一声汽車の窓記者の外山氏加藤女史 西村徳治を伴ひて心も勇む石原の駅 煙をあとに初瀬の橋飛びたつばかり進み行く 科戸の風の福知山聞くも恐ろし鬼ケ城 見捨てて走る山間の上川口や下夜久野 降り来る雪を突破して安全守る上夜久野 梁瀬を渡りゴウゴウと輪音も高き和田山や 篠竹しげる養父の駅八鹿江原を打ち過ぎて 外山に包みし豊岡の昇降客のいと多く 但馬名所の玄武洞右手にながめて城ノ崎の 温泉場を振り返へり竹野や佐津の駅も過ぎ 日本海をながむれば雪雲とほく香住駅 山腹包む鎧田の雪つむ景色面白久 谷を埋むる白雪は山陰寒気の表徴と ながめて走る汽車の窓煙草正宗菓子饅頭 お茶お茶弁当の売声に空しき腹を満たすとは ま坂思はぬまうけもの車のすみに居組つつ いよいよ汽車も申の刻岩美の駅に降りけり 雪より白きお梅さま雲井の上の雪の空 緩高梅の田舎道ホロの破れし自動車に 一行六人ぶるぶると自身神也屁の車 廻る駒屋の温泉宿湯治々々と月代の 一同夕餉も相済みて腹もポンポコ湯冠りの ヤレヤレヤレの拍子歌いと面白き雪の庭 なが夜を茲に明しける大正十年十二月 十の二日の未明新暦一月九日に 激しき吹雪降りすさみ寒さに凍えた瑞月は 炬燵の中の侘住居横に立ちつつ千早振 神世の奇しき物語外山加藤井上氏 筆を揃へてかくの通り ○  来訪者名読込歌 温泉の神と現れませる出雲に坐す大己貴(出口王仁三郎) 岩井の湯口細くとも薬の王と聞えたる 神の仁慈の三ツ御魂心地も日々に朗かに 病の根まで断り払ふ効験は岩美に名西負ふ(西村徳治) 田舎の村の湯の御徳療治を加ねて藤くより(加藤明子) 明々つどひ遊び来る男子と女子の宿りたる これの駒屋の温泉は外に又なき客の山(外山豊二) 豊二暮す玉の井のこの上もなき御神徳(井上留五郎) 留る三階に五郎々々とねころびながら霊界の ありし昔の物語石より堅き信仰の(石渡馨) 丹波に馨る神の道常磐堅磐の岩よりも(岩淵久男) かたき誠の教の淵汲取るものは久方の 天より降る変性男子この世の峠や嵯峨の根に(嵯峨根民蔵) さまよふ民蔵救はむと誓ひ出ます神の世に 生れ大野は只ならじ深き因縁の著次郎く(大野只次郎) 田づね来て見よ神の村天地を兼太郎大神の(田村兼太郎) 黄色の色や白梅の佐和に佐木たる神の苑(佐々木清蔵) 清き蔵昔のそのままの紙より白くすがすがし(紙本鉄蔵) 世の大本の金鉄の身魂蔵めし万代の 亀のよはひの本宮山二代教主にかかりたる(亀山金太郎) 金勝要の太み神肌への色は山吹の 清郎比ぶるものもなき景色も藤や田子の浦(藤田武寿) よはひも今は武寿の古き昔を田どる時(古田時治) 治まる波路を加露ケ浜船にて越え来し三保の関(船越英一) 英米須の神を祭りたる山陰一の神霊地 稜威も高嶋あとに見て浪路を進むゆかしさよ(高嶋ゆか) 神の御魂を迎遠藤綾部に居ます牛虎の(遠藤虎吉) 神の吉詞をかしこみてやうやう平田にたどりつき 田植の中の道芝を神のま盛りに踏みて行く(植芝盛隆) 降々昇る旭影竹はなけれど松梅の(竹下斯芸琉) 御杖を下げて道草の斯芸琉野路を勇ぎよく 東の空の色良しと俊老いたまふ大教祖(東良俊) 桑原田原の道別けて喜び一行幽世を(桑原道善) 知食します大社栄ゆる松や神の田の(松田政治) 尊き政治を偲びつつ苔むす藤のいと高く(藤松良寛) からむ社の千代の松心持良く胸寛く 進む小林神の森秀づる尾の上の弥仙山(小林秀尾) 鶴山亀山右左神威を保つ一の鳥居(小林保一) 稲田の姫の命をば救ふて得たる村雲の(稲村寿美) 劔の光寿美渡り須賀の宮居を建了へて 横暴無道の悪神の山田の大蛇を斬放り(横山辰次郎) ひの川上に辰雲の光も殊にいち次郎く 神の功ぞ尊とけれ諸木の下を潜りたる(木下泉三) 谷の泉も素鵞の川三山の奥村芳りつつ(奥村芳夫) 夫婦はここに八雲立出雲八重垣つまごめに 八重垣作る八重垣の誉れは今にコン近藤(近藤繁敏) 栄えて繁る長の敏我日の本のあななひの 道を教へし大己貴浦安国の田のもしく(安田武平) 武力絶倫国平の鉾を皇孫に奉り 君の御尾前仕へなむこれの誓ひは万代も 田賀へじものと手を拍つて青紫垣にかくれたる(田賀鉄蔵) 事代主の金鉄の堅き御言蔵尊とけれ すぎ西むかしの物語神有村の老人に(西村菊蔵) 詳しく菊蔵ありがたき地の高天原にあれませる(原祐蔵) 神の祐蔵うれしみて詣でし一行十五人 神徳岡さぬ皇神の重き御命を拝しつつ(徳岡重光) 神の光を照さむと藤き山路や原野越え(藤原勇造) 勇み来る造艮の神の生宮直子刀自 社の前に田知よりて祈る誠の美千香る(前田美千香) この音づれを久方の雲井の空や土の上に(井上敏弘) いと敏やかに弘めかし神の真毛利は八洲国(毛利八弥) 弥常永に伝はりて栄え目出度瑞穂国 秋の足穂の御田代は太田の神に神習ひ(田代習) 教の苗を植付ける国常立大神の 高木勲を寿ぎて三柱神の神の教(高木寿三郎) 田中も山も佐嘉栄吉し五六七の御代に住山の(田中嘉栄吉) 人の心は泰平蔵雲井の上も葦原も(住山泰蔵) 熊蔵なき迄住渡る清けき富士の高山に(上原熊蔵) 金銀竜の二柱世人を真森田すけむと(住山竜二) 御心くまらせ玉ひつつ大矢嶋国栄えゆく(森田くま) 祥たき御代を松の世の浦安国の磯輪垣の(矢嶋ゆく) 秀妻の国蔵尊とけれ元気も吉田の一行は(松浦秀蔵) 身魂勝れて美はしく聖地を西にあとに見て(吉田勝美) 町や山村伝ひつつ又蔵降り来る五月雨を(西村伝蔵) おかして伊佐み田庭路の福知へ帰り喜一郎(伊佐田喜一郎) 途上つはりの心地して二代スミ子は澄渡る 石原の小泉すくひ上げ教祖手づから清泉を(小泉熊彦) 口に富熊せ玉ひつつ国武彦の真森田る(森田勘太郎) 綾の勘部の太元に雨の中尾ば六月の(中尾豊弘) 四日に豊かに弘前に神徳高く山の如(山本惣吉) 頭にいただき帰ります大本役員惣一同 今日の生日の吉き日をば祝ひ納むる吉祥の(同納吉) 宴を平木て大神の御稜威かしこ美山川の(平木稜威美) 供物を献じ石の上古き太初の皇神の(山川石太郎) 直なる武の田ぐひなき誉れを今に伝へける(武田なを) 大正三年の春の頃十三才の直霊嬢 瑞月柳月の三人が出雲大社へ礼参り 其往きがけに岩美駅馬車にゆられて晃陽の やかたに再び逗留しいよいよ三度の入浴に 身魂の垢を洗ひつつ五ツと六との霊界の 昔語りを新らしく天地宇宙の外に立ち 言葉も清くいさぎよくまはる駒屋の温泉場 心の垢をあらひつつあらあらかくは識しけり 皇道発祥の霊地日向国宮崎市の公会堂に於て昭和神聖会支部の発会式を盛大に挙行したる翌朝七時四十分、同市神田橋旅館の二階の間大淀河の名橋や清流を眺めつつ誌し置く。いよいよ霊主体従寅の巻の校正を終る。 (昭和一〇、一、一九早朝) 附言 明治三十四年旧五月十五日、教祖様神勅を受けて、八雲立出雲の国の天日隅の宮に御参拝の節、山陰道を徒歩し一行十五人、岩井温泉駒屋に一泊せられ、帰路ふたたび同家に宿泊されたる、大本にとつて由縁浅からざる温泉なり。瑞月は大正三年の春、三代直霊、梅田信之氏とともに一泊したることあり。今回にて三度目の入浴なり。静養かたがた霊界物語の口述をなすも、神の御仁恵と歓びのあまり、筆記者および信者の訪問して色々と御世話下されし其の厚意を感謝するため、諸氏の芳名を読込み、長歌を作りて第三巻の巻尾に附する事となしぬ。
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 01 常世会議 第一章常世会議〔一五一〕 太古の神界経綸の神業は、最初稚桜姫命の天則違反によりて瓦解し、つぎに国直姫命の神政となり、これまた姫命の地上を見捨て天上へ帰還されしため、大八洲彦命の神政に移りける。いづれも国治立命の統轄のもとに、神政の経綸に奉仕したまひけり。つぎには天上より高照姫命、地の高天原にくだりて神政経綸の神業に奉仕し、またもや瓦解の運命におちいり、ついで沢田彦命天より降りて国治立命のもとに神政経綸の神業に奉仕し、大破壊を馴致して、またもや地上を捨て天上に還りたまひたるなり。 国治立命は幾度主任の神を代ふるも失敗に帰し、あたかも蟹の手足をもぎ取られたるごとくに途方に暮れたまひける。されど性来の剛直端正なる国治立命は、天地の律法を厳守して、いかなる難局に会するも毫も屈せず、部下の諸神人にむかつて律法の寸毫も干犯すべからざることを厳格に命じたまひしがために地の高天原の主任者は、しばしば更迭したりける。 常世の国の八王大神は機逸すべからずとして、世界各山各地の八王八頭を常世城に召集し謀議を凝らさむと、天の鳥舟を四方に馳せ神の正邪の論なく、智愚に関せず一所に集めて、八王八頭の聯合を図りたり。また一方には自在天大国彦と内々協議を遂げおき、世界神人の国魂会議を開かむとせり。 すなはち八王大神側よりは美山彦、国照姫、魔我彦、魔我姫、清熊、竜山別、蠑螈別、八十枉彦、朝触、夕触、日触、山嵐、広若、舟木姫、田糸姫、鬼若、猿姫、広依別らの諸神人の出席することとなりにける。 大自在天大国彦側よりは、大鷹彦、中依別、牛雲別、蚊取別、蟹雲別、藤高別、鷹取別、遠山別、醜国別、倉波、蚊々虎、荒虎別、国弘別、出雲別、高彦らの神人、堂々として出席したり。 また十二の八王八頭の神司は、万寿山の磐樟彦、瑞穂別を除くほかは、全部出席することとなりけり。しかるに常世の国の八王大神より、ぜひ出席すべく数多の鳥舟を率ゐ、蠑螈別をして万寿山に急使を遣はしていふ、 『神界統一のため、平和のための会議に出席なき時は、一大団結力をもつて貴下を神界現界一般の破壊者とみなし、これを討伐するのやむを得ざるに至らむ』 と脅喝的信書をもつて来たらしめたりけるに、万寿山城にては大八洲彦命、磐樟彦以下の神人らは俄の会議を開かれにける。 磐樟彦は強剛なる態度を持していふ、 『たとへ世界の神人らが一束となつて万寿山へ押寄せくるとも、我は霊鷲山の神の力によりて引受け、数百千万の敵軍をただ一息の伊吹に吹払ひ退け、天地律法の精神によりて天下の千妖万魔を言向け和合し、国治立命の神慮に叶ひたてまつれる大神世を樹立せむ。生ける誠の神の神力には、如何なる邪神も、悪魔も敵し得べきものにあらず。今回の常世の会議は常世彦、大国彦が大陰謀の発露なればかかる会議に相交はり、相口合ふは巨石を抱きて海に投ずるよりも危険なれば、当山の神司は一柱といへども出席すべからず』 と主張したりければ、大八洲彦命は第一に八王神磐樟彦の説に賛成の意を表し、断じて出席すべからずと主張したまへり。 ここに瑞穂別は立ち上り、 『大八洲彦命、磐樟彦の御説示は、実にもつとも千万の次第なれども、時世時節の力には抗すべからず。よろしく時代の趨勢に順応するをもつて、神政経綸の必要事と思ふ。すみやかに当山より何れかの神司を遣はして、今回の大会議に列せしめたまへ。万々一にも出席を望まざる神司数多ありとせば、願はくば我を使者として派遣せしめたまへ。いかに霊鷲山の神人らの威徳は強くとも、国治立命の制定せられし律法の一端に触るることありとも、今回の神集ひに出席せざらむか、世界の神人らに万寿山の神司らは、世界の平和を破壊する邪神司として一斉に攻撃さるるも、答弁の辞なかるべし。今や当山は実に危急存亡の秋なり。吾らは神界現界平和のために強て出席の議を決定されむことを希望の至りに耐へず』 と主張したりければ、神司らはこの場の光景を見ていかになりゆくかと、各自固唾を呑みてひかへゐる。このとき神国別命は立つて、瑞穂別の出席説に大々的反対を唱へける。 瑞穂別はおほいに怒りて、 『貴下らは天地の律法を破り、国治立命より当山に御預け、否な食客となりし神司なれば、八頭神たる我々の所説に容喙すべき資格なし。退場あれ』 と声を慄はせながら顔色火のごとくなりて怒鳴りつけたり。 ここに大八洲彦命、神国別命、言霊別命、大足彦は席を蹴つて退場したりけり。 あとに瑞穂別は肩をいからせ、肱を張り、居丈け高になりて、八王神の磐樟彦に出席の正当なる理由を千言万語理をつくし理義を明して説き迫りけり。城内の諸神司の賛否は相半し、いづれとも決断付かざりにける。磐樟彦は立つて、 『最早この上は神示に従ふのほかに道なし。汝瑞穂別は神殿に拝跪し、自ら神勅を乞ひ、神示によりて出否を決せよ』 と一言を遺して退席したり。ここに瑞穂別は直に月宮殿に参拝し、今回の事件にたいする神示を恭しく奉伺したるに、たちまち瑞穂別の身体は、麻痺して微動だもできずなりぬ。従ひきたれる瑞穂姫は俄然帰神となり、身体上下左右に震動しはじめ、早くも口が切りし憑神はいふ、 『我は国治立命の荒魂、奇魂なり。今回の神集ひは常世彦、大国彦ら一派の周到なる陰謀に出づるものなれば、当山の神司は一柱といへども出席すべからず。今後いかなる難関に逢ふことありとも、よく忍ぶべし。第二の神界経綸の聖場なれば、当城のみは決して敵に蹂躙さるるがごときことなし。真正の力ある神司神人をして、五六七出現の世までは固く守護せしめむ。夢疑ふことなかれ』 と宣言して、姫の体内より出で去りたまひぬ。それと同時に姫の身体はもとに復しける。この神勅と様子を見聞しゐたる瑞穂別は、おほいに前非を悔悟し、心中にて大神に謝罪すると同時に瑞穂別命の身体また旧に復し自由自在となりぬ。固りて直ちに大神に感謝し、荘厳なる報本反始の祭典を挙行し、八王大神および大八洲彦命以下の神司らに陳謝し、万寿山の神人は一柱も出席せざる由を常世の国の使者にむかつて、断乎として宣示したりける。常世の使者、蠑螈別は拍子ぬけしたる顔色にて、一同の神人をさもいやらしき眼にて睨みつけ、 『勝手にされよ。後日に悔いをのこされな』 と捨台詞をのこして天の鳥舟に乗り、あまたの従者とともに常世の国へ還りける。 (大正一〇・一二・一五旧一一・一七出口瑞月)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 04 乱暴な提案 第四章乱暴な提案〔一五四〕 常世の国の首府たる常世城内の大広間には、世界における八王、八頭の神司をはじめ、数多の使者を集めたる大会議は開催されたり。大広間の中央に高座が設けられて八王八頭をはじめ諸神司は立つて議題を演述するの装置なりける。 常世彦は美山彦をしたがへ、この高座に現はれ、 『世界の平和を永遠に、無窮に保持して、神人をして国治立命の神政に随喜し天地の律法を厳守し、各山各地の神政を統一して根本的世界の大改造を断行すべく、そのため、諸神司の来集を求めたるに、神界および万有の平和安息を望まるる至誠至仁の諸神司は漏れなく、空前絶後のこの大会議に先を争ふて出席されたるは、主催者として実に感謝のいたりに耐へず。願はくば、諸神司は協心戮力もつて慎重に世界のため、天下神人のために最善をつくして審議されむことを懇請す。ただ恨むらくは万寿山における八王八頭の反抗的態度を固持して出席を拒絶せる頑迷不霊の行動を遺憾とするのみ。万々一この会議をして、不結果に終らしむる様のことあらば、本会議にたいする責任は万寿山の八王神司に帰すべきものと確信する。諸神司それ克く吾が誠意の存するところを洞察して、我が主催の大目的を達成せしめられむことを希望す』 と宣明せり。 諸神司は一度に拍手喝采し八王大神の宣示を大神の慈言のごとく、救世主の福音として口を極めて讃美したり。その声は常世の国の天地も崩るるばかりの勢なりける。ついで万寿山の不参加を口々に悪罵嘲笑して世界の大敵、平和の破壊者とまで極言するにいたりける。 諸神司の会するもの八王、八頭をはじめとし、諸山諸地の守護なる国魂および使臣を合して八百八十八柱の多数が綺羅星のごとく、中央の高座を円形に取まきたりしが、その光景は、大宇宙の中心にわが宇宙球ありて、無数の小宇宙球が包囲し居るごとく見えにけり。 ここに大国彦の重臣なる大鷹彦は八王大神の退場とともに中央の高座に現はれ、議席を一瞥し厭らしき笑をもらし、眉毛を上下に転動させながら百雷の一時にとどろくごとき大音声を発して、諸神司の荒胆を奪はむとしたりしより、諸神司はその声にのまれて摺伏せむばかりなりける。 因にいふ、この時代はいまだ神人の区別なく、現代のごとき厳格なる国境も定まらず、神人は単に高山を中心として、国魂神を祭り神政を行ひゐたりしなり。神人らは竜蛇、虎、狼、獅子、悪狐、鬼、白狐、鰐、熊、鷲、鷹、烏、鵄なぞを眷属として使役し、これらの眷属によつて各自に守らしめゐたりしなり。ちやうど現代の国防に任ずるところの陸海軍、空軍が各自に武装をこらしゐて敵にあたるごとく、角や、牙や、羽根や、甲のごときは太古の時代における神人の大切なる武器とせられける。 ここに大鷹彦、美山彦二人は立つて、 『神界の争乱を根絶し、真個平和の神政を布き、道義的に世界を統一せむとせば、各神の率ゆる眷属の有するその武器を脱却せしめざるべからず。かつ各山の主権者なる八王を廃し、上中下の神人の区別を撤回し、四海平等の神政を行ふをもつて第一の要件と思ふ。諸神司は如何、御意見あらば、遠慮なくこの高座に登りて、その正否を陳弁論議されたし』 と述べ立てたりしより、十一柱の八王は寝耳に水の驚きに打たれ、鳩が豆鉄砲を喰つたるごとく、唖然として互ひに顔を見合すばかりなり。ここに蛸間山の八頭なる国玉別はただちに登壇し、大鷹彦、美山彦二人の提出せる議案について口を極めて讃歎し、八王の廃止をもつて平和第一の要点なりと述べ、且つ、 『武備の全廃は平和のために欠くべからざる大名案なれば、一同の賛成を乞ふ』 と謂ひつつ壇をしづかに降り、自分の定席につきぬ。満場水を打ちたるごとく暫時のあひだは寂寥の気に充たされ、神人らは呆然として口を開いたまま閉づるものなかりける。大広間の外部には数万の猛虎嘯き、獅子吼え猛り、狼唸り、竜蛇荒れくるひ、鷲の羽ばたき凄まじく、大空には天の磐船幾百千ともかぎりなく飛びまはりて巨音をたて、一大示威運動が開始されつつありき。いづれも常世彦の指揮によるものなりけり。 八王、八頭の神司をはじめ諸神人は、いまに何事かの一大惨事の勃発せむやも計り難しと、煩悶の結果は、たちまち顔色土のごとく、蒼ざめたる唇を慄はせて、上下の歯に音をたてつつ一言も発せずして、扣へてゐたりける。示威的運動は時々刻々に激烈の度を加ふるのみ。八百八十八柱の神司らは、この光景に胆をうばはれ畏縮して、何の意見をも述べむとする者なかりけり。 この腑甲斐なき場面をながめて、聖地よりの使者行成彦は、恐るる色もなく立上り壇上目がけて悠々と登りゆく。神司らの視線はのこらず行成彦の一身に集注されたりける。アヽ行成彦は果していかなる意見を吐くならむか。 (大正一〇・一二・一六旧一一・一八出口瑞月)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 05 議場の混乱 第五章議場の混乱〔一五五〕 行成彦は満場にむかつて慇懃に挨拶を述べ且つ、 『今回の大会議は世界永遠の平和を企図さるるため、八王大神および大自在天の発起されしものにして、じつに現今の世界の状況よりみて、まことに吾々は感謝に耐へないのである。これ全く二神が天下蒼生を愛したまふ大慈大悲心の発露にして大神の慈言に等し。我々は誠心誠意をもつて相終始しこの平和会議をして名実相伴ひ、真個世界の永遠平和の基礎たらしめざるべからず。この点においては、諸神司におかせられても吾々と同感なるべきことを信じて疑はない次第である。各自の武備を撤廃し、四海同胞和親の曙光に接するは実に同慶の至りである。ゆゑに我々は武備の撤廃については双手をあげて賛成するものである。されど吾々は八王廃止[※御校正本・愛世版では「八王大神廃止」だが、校定版・八幡版では「八王の廃止」になっている。ストーリー上は後者が正しいので、霊界物語ネットでは「八王廃止」とした。]の件については、おほいに考ふべき余地の幾多存することと思ふ。そのゆゑは、かの八王なるものは、天地の大神の定められたる規定にして、それぞれに国魂を配置し、もつて神界現界御経綸の守護となしおかれ、八王は天地の律法をあまねく神人に宣伝し、かつ国魂を通じて国治立命に仕事するの聖職である。かかる聖職を神界大神の御神慮をも伺はず、軽々しくこれを提唱するごときは、第一天地の神明を無視したる反逆的行為なれば、吾らはこの議案にたいしては大々的反対である。各山各地の八王を撤廃するは、恰も扇子の要を抜きとりたると同様にして却つて、世界の四分五裂を招き、これより地上は一層の混乱、無明の天地と悪化せむ。吾々は世界の前途を思ふのあまり、一時も早くかくのごとき愚案は撤回されむことを望まざるべからず。いかに徳望高く、勢力旺盛にして旭日昇天の威望ある八王大神の提案なりとはいへ、かくのごとき天意に反したる議案には他人はいざ知らず、吾々は断じて盲従すること能はず』 とやや声を荒らげ、憤然として降壇した。 ここに八王大神は烈火の如く憤りながら、強力の神道彦を従へ、ふたたび壇上に登り一座を瞰下し、恐ろしき眼を見はりつつ、視線を行成彦の方にむけたる時の容貌は実に六面八臂の邪鬼の面相そのままなりける。諸神司は固唾をのんで雨か、風か、はた洪水か、雷鳴か、地震かと、おそるおそる八王大神の顔色をのぞくやうにして、見上げてゐたり。 このとき八王大神声を励まし雷鳴のごとくに怒号咆哮し、列座の諸神司をして恐怖の念に駆られしめたり。しかして行成彦をハツタとにらみ、 『汝は若年の身として小賢しくも屁理屈を百万陀羅述べ立るといへども、口角いまだ乳臭を脱せず。汝は律法を楯にとりて吾らの大慈旨を抹消せむとは片腹痛し。時世の大勢に透徹せざる迂遠狂愚の論議を、かかる尊き会議の席において蝶々喃々し、議席の神聖を汚し、天下の神人万有を安住せしめ、真個の天国を地上に顕出せむとする大自在天大国彦および吾らの神策の実行を妨害せむとする、その心事の陋劣にして悪逆無道なる実に汝の言辞といひ、精神といひ見下げ果てたるその振舞ひ、汝のごとき邪心を包蔵する愚者は、この席に列するの資格なし、一時もはやく退場せよ』 と厳命し、かつ諸神司の方に眼を転じていふ、 『諸神司は彼行成彦の言をもつて、天地経綸の神策を破壊するものと見做さざるや。諸神司にして我が説に賛成ならば、手をあげて以て誠意を示されたし』 と傍若無人の暴言をはき、場の四隅を見渡しける。諸神司はその権幕の猛烈さに、ますます気をのまれ、猫に出あひし鼠のごとく、戦々兢々として縮みあがり片言隻句も発し得ざるの卑怯さを遺憾なく発露したりける。 行成彦は憤然として立ち上り、何事か自席より発言せむとするや、八王大神大に怒り、 『汝は神聖なる議場を汚す曲人なり。意見あらば何ンぞ場内の規律を守り登壇してこれをなさざるや』 と叱咤したるにぞ、行成彦は、 『然らば御免あれ』 といひつつ自席をはなれ登壇せむとするや、八王大神は、 『この愚昧者』 といふより早く、壇上より蹴り落さむとする際、従者なる道彦は暫時の御猶予と言ひながら、八王大神の片腕を掴みける。八王大神は強力の道彦に利腕を固く握られ、全身麻痺してその場に顔をしかめて打ち倒れたり。この態を見たる大鷹彦、美山彦は矢庭に壇上に立ち上がり、道彦を蹴り落したり。蹴落されたるは道彦と思ひきや、行成彦なりき。しかして道彦の姿は煙と消えて跡形もなくなりぬ。八王大神は痛さをこらへ、やうやくにして立上り、道彦を叱咤せむとし四辺を見れば、道彦の姿は見えず、行成彦が壇下に倒れて七転八倒し居たりける。八王大神は心地よげに打ながめ、 『汝は若年の分際として、老練なる神政者の我にむかつて抗弁せり。天地の大神は汝の暴逆を悪みたまひて、その高き鼻梁をうち砕きたまふ。今より汝は良心に立かへり、我主張に賛成せば汝のいまの無礼を許し与へむ』 と欣然として降壇する際、八王大神は吾が足をもつて行成彦の倒れたる身体をはね退けむとする刹那、行成彦の身体より数個の玉現はれ満場を照して天上へ上ると見るまに玉はその姿をかくしたりける。 行成彦は、依然として最前より自分の議席に静まりゐたるなり。また道彦は八王大神の館の正門を離れず厳守しゐたりける。アヽこれ何物の所為なりしならむか。 (大正一〇・一二・一六旧一一・一八出口瑞月) (序~第五章昭和一〇・一・一九於鹿児島市錦江支部王仁校正)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 08 不意の邂逅 第八章不意の邂逅〔一五八〕 道貫彦は常世姫の快諾を得て、中央の高座にのぼり満場の諸神司にむかひ一礼していふ。 『我はモスコーを管轄する八王道貫彦なり。今日はじめて常世彦の至仁至愛にして毫末の野心もなく、真個世界平和を欲求したまふ至誠のあまり今回の大会議を開催されたることと確信す。諸神司試みに現今地の高天原の状勢を見られよ。天地の律法は有つて無きがごとく、綱紀は弛緩し、邪神は至善至美至仁の仮面をかぶりて聖地に出入し、天使真心彦は糸竹管絃に心を奪はれ花顔柳腰に心魂をとろかし、つひには自決するのやむなきに立ちいたれり。天使の行動にして斯のごとしとせば、その他の神人の悪行非為や知るべきのみ。第一、天使長たりし沢田彦命は神命を軽ンじ、律法の尊厳を無視し、薄志弱行の心性を暴露し、聖地の紛糾混乱を余所に見て還天したるごとき無責任極まる行動を敢てし、ために聖地の秩序をみづから破りたるにあらずや。その片割たる真心彦の後嗣広宗彦は、やや反省するところあるもののごとく、神政経綸のため最善の努力を竭しつつありといへども、元来無責任にして放埒きはまる真心彦の血統を享けたる者なれば、言、心、行、常に一致せず、ために聖地の神人が日に月に聖地をはなれ、各地に居住を定め、邑に君となり、村に長となり、たがひに権勢を争ひ戦乱止むなき常暗の現代を招来したり。いかに智仁勇兼備の神将と称へらるる広宗彦といへども、今日のごとく敗亡の域に瀕せる聖地ヱルサレムの神政を恢興し、回天の大神業を遂行すること思ひもよらず、かつ聖地の勢力は至つて微弱にして、いつ顛覆の運命に遭遇するやも計りがたく、嵐の前の朽樹のごとき状態なり。このさい常世城の八王大神にして聖地の神政を根底より破壊し、おのれ取つて代り神政を管掌せむと計りたまはば、じつに焼鎌の敏鎌をもつて葱を刈り取るごとく易々たる業のみ。しかるに至仁至愛にして、世界の万有にたいし、恵みの乳房を抱かしめむとして苦心焦慮したまふ、常世彦のごとき至誠至実の神司は、はたして何処にか之を求めて得るものぞ。我々は八王大神御夫婦の万有に対したまふ平等なる大慈愛の大御心に対し奉りて感歎措くところを知らず、じつに八王大神は天来の救世主にして、国祖国治立命の股肱たるべき真正の義神なれば、我らは世界永遠の平和のために率先して、八王神の聖職を退き一切の権能を八王大神に奉り、一天四海の平和のさきがけを為さむ。諸神司はいかが思召したまふや、現にわが肉身の娘春日姫は永く大神の近側に奉仕し無類の慈愛に浴し、至善至愛の神司にゐませることを証言したるに見るも、一点八王大神を疑ひたてまつるの余地、寸毫も発見することあたはず。行成彦の主張のごときは、ほとんど歯牙にかくるに足らざる、短見的愚論にして耳をかすの価値なきものなり。諸神司にして吾が言ふところをもつて是としたまはば、直ちに起立をもつて賛成の意を表したまへ』 と陳べたて悠然として降壇したりける。常世姫以下二女は依然として壇上に立ち、その艶麗国色の誉れを輝かしゐたり。八王八頭その他の国魂をはじめ、諸々の神人は何の言葉もなく、黙然として呆気に取られ、眼球を白黒に転回させ、口をへの字に結び何人かの答辞を待ちゐたりける。 このとき場の何処よりともなく、 『満場の神人たち、常世彦の奸策に陥るな、注意せよ。悪魔は善の仮面をかぶりて世を惑はすぞ』 と大声に呶鳴りしものあり。常世姫をはじめ列座の神人は、何神の声なるかと四隅を見渡したるが何の影もなかりき。常世姫は声を震はせ息をはづませながら、諸神司にむかつていふ。 『諸神司、よろしく心魂を臍下丹田に鎮めよ。好事魔多し、寸善尺魔とはただ今のことなり。天下を混乱せむとする邪神妖鬼の言に迷はさるること勿れ。良果には虫害多く善神と善人には病魔常につけねらふ。神界をして永遠無窮に至治太平ならしめむとするこの神聖無比の議会を根底より破壊せむとして、数万の悪鬼羅刹は場の内外に充満せり。寸毫といへども油断あるべからず。すみやかに諸神司は八王の撤廃に賛成されむことを望む』 と容色を柔げ笑を満面に湛へて述べ立てたり。諸神司は何ゆゑか口舌をしばられたるごとく一言をも発すること能はず、かつ全身麻痺して微躯とも動くを得ざりしがため起立して賛意を表すること能はず、ただおのおの目を円くしてギロギロと異様の光を放つのみなりけり。 このとき壇上の八島姫は口をひらき、 『妾は南高山の八王大島別の娘なりしが、ある一時の心得ちがひより父母を捨てて城内をひそかに脱出し、それより世界の各地を漂浪し、零落して四方を彷徨せし折しも、至仁至愛なる常世彦の部下に救はれ、言舌につくしがたき手厚き恩恵に浴しその洪恩譬ふるにものなく、日夜感謝の涙に暮れゐたりしに、思ひきや、勢力徳望天下に冠絶せる八王大神夫婦の殊寵を忝なうし、今やかくのごとく畏れおほくも姫命の侍女として、春日姫と相ならび一日の不平不満もなく近侍し、二神司の神徳の非凡にして大慈大悲の救世主にましますことを覚り、洪恩の万一にも報いたてまつらむと寸時も忘るることなし。諸神司は妾のこの証言を信じて、一刻も早く原案に賛成され、もつて永遠平和の神と後世まで謳はれたまはむことを、天地の大神に誓ひて勧告したてまつる』 と述べ立つる。このとき会場の一方より常世姫に登壇の許可を請求せる八王あらはれにける。さて、この結末は如何になり行くならむか。 (大正一〇・一二・一七旧一一・一九出口瑞月) (第六章~第八章昭和一〇・一・一九於錦江支部王仁校正)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 30 七面鳥 第三〇章七面鳥〔一八〇〕 聖地の天使長広宗彦命は、常世城における会議の結果と、行成彦一行の消息如何にと心を悩ませゐたる折しも、桃上彦の従臣なる八十猛彦、百猛彦は慌ただしく広宗彦命の前にあらはれ、その面上に一種異様の色をうかべて、 『急変あり、隣人を遠ざけたまへ』 と奏上しける。 広宗彦命は二人の啻ならざる顔色に不審の眉をひそめながら、その言を採納して従臣らを残らず別室に立去らしめたり。二人は肩を怒らせ肱を張り、眼を丸く光らせ、口を尖らせ、何物にか襲はれたるごとき形容にて、 『天使長よ、常世の会議について一大事変突発せり。天則破壊の張本人は貴下の代理として出張されし行成彦一行なり。ただ今常世姫遥々来城ありて、その詳細を貴下を通じ、国祖の大神に奏上すべく準備中なり。いかが取計らはむや』 と二人は異口同音に符節を合したるごとく奏上したり。二人の一時に同じ語を揃へて発したるも道理、二人は野心つよき桃上彦の命により、持てる笏板の裏にこの奏言を書き記して読みあげたればなり。 広宗彦命は二神の意外なる報告に茫然として返す言葉も出ざりし。時しも桃上彦は、常世姫の後にしたがひ、悠然として入りきたり、勝ち誇りたる面色にて、その麗はしき白き顔を空に向つて少しくしやくりながら、 『ただ今これなる常世姫、常世城の常世会議の報告のため、はるばる来城あり。速かに国祖の大神に、この由伝奏せられたし』 と叩きつけるやうに云ひければ、広宗彦命は弟の高慢不遜なる態度に憤懣せざるを得ざりけり。されど天地の律法に省み、わき立つ胸をジツとこらへ、さあらぬ体にて、 『常世姫遠路の御旅行、御疲労のほど察し入る。先づこれにて御休息あれ』 と席をゆづつて側に端坐したり。常世姫は、何の憚るところもなく、 『しからば高座を許されよ』 と悠然として座に着きぬ。この時の姫の態度は、群雀の中に丹頂の鶴のただ一羽、天空より舞下りしごとく、一種不可思議の威厳をもつて、諸神司を圧伏するやに見えにける。 常世姫は、慇懃に一別以来の挨拶を述べ、かつ行成彦を聖地の代理として、はるばる常世城に派遣されしその好意を感謝し、かつ八王大神はじめ我身の不覚より、千載一遇の大会議をして紛糾混乱の極に達せしめ、かつ聖地の使臣らの一片の誠意なく、権謀術数のみをこれ事とし、神格を傷つけたることを遺憾とするの旨を言葉さはやかに諄々として述べ立てたり。 広宗彦命は頭上より突然冷水を浴せかけられたるごとき心地して、答ふる言葉も知らざりき。姫はなほ語をついで、 『妾は貴下の知らるるごとく、国祖国治立命の娘稚桜姫命の第三女にしてこの聖地に永く神務を執り神政を輔佐したてまつりたるは、貴下の熟知さるるところならむ。妾は身はたとへ海洋万里を隔てたる常世の国にありといへども、聖地を忘れたることは瞬く間もなし。今回の常世会議は、神定の聖地にて開かざりしは、第一八王大神はじめ妾の失態には相違なけれども、今日の聖地の実況に照し、深く思ひ、遠く慮りて聖地を避け、常世城に開催したるもその真意は、聖地の混乱紛糾の内情の天下に暴露せむことを恐れたればなり。しかるにただ単に吾々夫婦の野心遂行のために、常世城に諸神司を集めこれを籠絡せむとしたりとの聖地の使臣らの言は、実に乱暴の極にして天地の大神も、各神人も共に歯ひせざるの大非行なりと信ず。賢明なる貴下は天使長たるの資格をもつて、妾が陳述の詳細を国祖の神に進言されたし。貴下にして直接進言を肯ンじたまはざれば妾を大神の御前に導きたまへ』 と進退させぬ言霊の猛烈なる釘、鎹を打たれる広宗彦は思はず額を撫で、頭を掻き太き息を漏らすのみなり。 このとき桃上彦は猛然として立上り、 『兄上に一言せむ』 と威猛高に呼はる折しも、門外俄に騒がしく、広若を真先に二三の従臣慌しく入りきたり、広宗彦命に向ひて、 『行成彦の御一行御帰城あり』 と報告したりけるに、常世姫、桃上彦の顔色は、七面鳥のごとくさつと色を変じたりける。アヽこの結果は如何。地震か暴風雨の襲来か、次章に明白とならむ。 (大正一〇・一二・二四旧一一・二六外山豊二録) (第二二章~第三〇章昭和一〇・一・二一於久留米市布屋旅館王仁校正)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 32 免れぬ道 第三二章免れぬ道〔一八二〕 しばらくありて桃上彦は、慌ただしく入りきたりて二人の前に拝跪し、畏れ多くも国治立命より吾母事足姫をはじめ御兄広宗彦命、行成彦にたいし大至急参向すべしとの厳命なりと報告したり。 桃上彦は天使長広宗彦命の副となりて、神政を補佐し居たりしなるが、つひには兄二柱の愛を忘れ、みづから代つて天使長の聖職に就かむと企て居たるなり。このとき常世姫の来城せるを奇貨とし、たがひに心を合せて兄二柱を排除せむと考へたりける。事足姫は三柱の兄弟の子を伴ひて、国祖大神の正殿に伺候したりしに、国祖の傍には常世姫、常世彦の二神司が行儀正しく左右に侍し居たり。行成彦はこの姿を見て卒倒せむばかりに驚きたり。このとき国祖大神は、言葉おごそかに、 『大道別を吾が前に連れ来れ』 と命ぜられたるにぞ、行成彦は唯々諾々として、この場を退出し稍ありて、大道別を召し連れ国祖の御前にふたたび現はれけり。常世彦は大道別に向つて、 『汝の智略には余も感服したり』 と笑みを浮べて顔をのぞき込めば、大道別は機先を制せられて狼狽したり。国祖の大神は大道別に向ひ、 『汝は神界のために永年の艱難辛苦を嘗め、以て神人たるの天職を全うせしは、我も感謝の念に堪へず。されど汝は智量余りありて徳足らず、偽の八王大神となりてより忽ちその行動を一変し、その約に背きたるは神人として余り賞揚すべき行為にあらず。また行成彦以下の使臣の行動は、聖地を大切に思ふの余り天地の律法を破りたり。汝らは至誠至実の者なれども、如何せむ国祖の職として看過すべからず。アヽ、かかる功臣をば無残にも捨てざるべからざるか』 と落涙にむせびたまふ。大道別は恐縮しながら、国祖大神に目礼し、八王大神その他の神司らに一礼し直ちに御前を退出し、そのまま竜宮海に投身したりける。その和魂、幸魂はたちまち海神と化しぬ。国祖はこれに琴比良別神と名を賜ひ永遠に海上を守らしめたまひ、その荒魂、奇魂をして日の出と名を賜ひ、陸上の守護を命じたまひぬ。琴比良別神および日の出の神の今後の活動は、実に目覚しきものありて、五六七神政の地盤的太柱となり後世ふたたび世に現はるる因縁を有したまへるなり。 ここに広宗彦命は国祖の御心情を拝察し、責を負ひて天使長の聖職を辞し、弟の桃上彦に譲りける。ちなみに桃上彦の神政経綸の方法は前巻に述べたるごとく、つひには国祖の御上にまで累を及ぼし奉るの端を開きたりける。 八王大神は常世姫とともに桃上彦の襲職を祝したり。このとき大江山の鬼武彦は、高倉、旭を伴なひ国祖の大前に進み出でて、最敬礼を捧げたるのち、 『今回の常世城における行成彦以下の大功労者をして、退職を命じたまひしは如何なる理由にて候や』 と恐るおそる伺ねたてまつれば、国祖はただ一言、 『汝らの心に問へよ』 と答へたまひける。鬼武彦はやや色をなし、 『鹿猪尽きて猟狗煮らる。吾々は貴神の命によりて常世城に忍び入り八王大神を悩ませ、その陰謀を断念せしめたるのみ。決して行成彦をはじめ一行の使臣は大神に背きて自由行動を取りしにあらず。ただ一点の野心も無く、聖地を守り御神業を輔佐したてまつらむとしての至誠の行動に出たるのみ。また吾は内命によりて、忠実に行動せしは御承知の御事に候はずや』 と少しも畏るる色なく奏上したりける。 国祖の大神の御顔には何となく驚愕の色表はれたまひぬ。それと同時に八王大神の面上にはいやらしき笑ひがひらめき渡りける。アヽ、国祖大神の顔色と八王大神の顔色との、氷炭の差異を生じたるは、果して何事を物語るものならむか。読者諸氏はこの不思議なる光景につきて十分熟考されむことを望むものなり。 (大正一〇・一二・二五旧一一・二七広瀬義邦録)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 33 至仁至愛 第三三章至仁至愛〔一八三〕 聖地ヱルサレムの大宮殿には、天使長桃上彦新任の披露と、広宗彦命、行成彦以下の神司らの退職の披露を兼ねたる大宴会が開かれたるが、常世彦、常世姫、大鷹別その他各山各地の八王八頭およびその他の神人は、この芽出たく、芽出たからぬ宴席に綺羅星のごとく列席したり。 桃上彦は立つて新任の挨拶をなし、 『今後は国祖の大御心を奉体し、天地の律法を厳守し、諸神人とともに世界経綸の大業に、協力一致奉仕せむことを望む』 と簡単に述べ終り、悠然として中央の正座に着きぬ。広宗彦命は自席より立上り、諸神人にむかひ、 『永年諸神司は愚昧なる小生を輔けて、今日まで天使長の職を保たしめ給ひしその好意を感謝す』 と沈痛なる語調をもつて、今回退職の已むを得ざるに立到りしことを簡単に述べ終り、今後は身を雲水にまかせ、天下を遍歴し、身魂の修養につくし、蔭ながら神業に奉仕せむことを誓ひ、元の座に悄然として復したり。 このとき八王大神はじめ常世姫、大鷹別の面上には、得もいはれぬ爽快の色浮びゐたりき。行成彦は立上り沈痛なる語気にて、 『吾が心の暗冥愚直よりつひに常世会議における、天則違反の行動を不知不識のあひだに執りたることを悔悟し、みづから責任をおびて職を辞し、兄と均しく聖地を離れて天下を遍歴し修養を積み、ふたたび諸神司らの驥尾に附して神業に奉仕するの時機あらむ』 と述べ、 『今後の吾が犠牲的行動については、諸神司の懇篤なる御教示を給はらむことを希望す』 と陳べ終り、力なげに元の座に復しける。 このとき奥殿より玉の襖を押開き、数多の侍神司をしたがへて、国祖国治立命はこの場に現はれたまひ、言葉しづかに宣りたまふやう。 『この度の広宗彦命以下の退職については、余の胸は熱鉄を呑むがごとく、千万無量の想ひに満つ。されど天地の律法は犯しがたし。今となつては如何ともするの余地なく遺憾ながら至仁至愛にして、至誠天地に貫徹するの忠良なる神司を捨つる、余が心中を推察せよ』 と、その御声は曇り、御涙さへ腮辺に伝ふるを窺ひたてまつりたる。 一座の神人らは、国祖のこの宣示に一柱も顔を得上ぐるものはなく、感慨胸に迫つて、熱涙ほとばしり、鼻をすする声四辺より聞へ来りぬ。国祖は、なほも御言葉をつがせられ、涙の袖をしぼりながら、 『神は洽く宇宙万有一切をして美はしき神国に安住せしめ、勇みて神界経綸の大業に奉仕せしめむとし、昼夜の別ちなく苦心焦慮す。汝神人ら、神の心を心とし万有一切にたいし、至仁至愛の真心をもつてこれに臨み、かつ忍耐に忍耐を重ね、克く神人たるの資格を保全せよ』 と、説き示し給ひ更に重ねて宣りたまはく、 『神の慈愛は敵味方の区別なく、正邪理非を問はず広く愛護す。汝ら桃上彦をはじめ諸神人一同、これを見よ』 と上座の帳を、手づから捲り上げたまへば、六合も照りわたる真澄の大鏡懸りあり。 諸神人は国祖大神の宣示にしたがひ、真澄の大鏡の安置されたる正座に、一斉に面をむけ思はず低頭平身、得も言はれぬ威厳に打たれ、落涙しつつ頭を恐るおそるもたげ、鏡面を拝すれば、こはそも如何に、シナイ山の渓間に天の鳥船より落下して身魂ともに粉砕したる魔子彦をはじめ、竹熊、鬼熊、木常姫、鬼姫、磐長姫、口子姫、鬼雲彦、佐賀姫、真心彦、玉の湖に沈められたる三柱の白狐および八尋殿にて玉を差出したる五柱の竜宮の神人および醜原彦、胸長彦、鶴若、亀若、八十枉彦その他前述の神罰を受けて滅亡したる諸々の悪人は、いづれも生々としてその肉体を保ち、国祖の身辺にまめまめしく、楽し気に仕へ居ることを明瞭に覚り得たりける。 国祖は満座にむかひ、 『汝らは神の真の愛を、これにて覚りしならむ』 と言ひ終りて、背部を諸神の前にむけ、 『わが後頭部を熟視せよ』 と仰せられたれば、諸神人はハツト驚き見上ぐれば国祖の後頭部は、その毛髪は全部抜き取られ、血は流れて見るも無残に爛れ果て、御痛はしく拝されにけり。神司らは一度にその慈愛に感激し、この御有様をながめて、涙の両袖を湿し、空に知られぬ村時雨、心も赤き紅葉を朽ちも果てよと吹く風に、大地を染めなす如き光景なり。神人のうち一柱も面を得上ぐるものなく畳に頭を摺りつけて、各自の今まで大神の御心の慈愛深きを知らざりし罪を感謝したり。 大神の神諭に、 『この神はたれ一人つつぼに致さぬ。敵でも、悪魔でも、鬼でも、蛇でも、虫けらまでも、救ける神であるぞよ』 と示されたる神諭を思ひ出すたびごとに、王仁は何時も落涙を禁じ得ざる次第なり。 悪神の天則違反により厳罰に処せられ、その身魂の滅びむとするや、国祖はその贖ひとして、我生毛を一本づつ抜きとりたまひしなり。この国祖の慈愛無限の御所業を覚りたまひし教祖は、常に罪深き信者にたいし、自ら頭髪を引き抜き、一本あるひは二本三本または数十本を抜き取り、 『守りにせよ』 と与へられたるも、この大御心を奉体されたるが故なり。 (大正一〇・一二・二五旧一一・二七外山豊二録)
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霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 総説嵐の跡 総説嵐の跡 畏くも国祖国治立命は、逆神常世彦以下の不従を征するにも、天地の律法を厳守し、仁慈の矛を振ひて奇策神謀を用ひたまはず、後世湯王の桀を放ち、武王の紂を征誅するごとき殺伐の兵法をもつて、乱虐を鎮定することを好みたまはなかつた。 これに反し常世彦命らは、邪神に使役され、後世いはゆる八門遁甲の陣を張り、国祖をして弁疏するの余地なからしめ、つひに御隠退の止むなきに至らしめた。 狼獺の不仁なるも、また時としては神恩を感謝して獣魚を供へ、天神を祀り、雛鴉の悪食なるも猶ほ反哺の孝あり、しかるに永年国祖大神の仁慈に浴し、殊恩を蒙りたる諸神の神恩を捨て、邪神の六韜三略の奸計に乗せられ、旗色の可なる方にむかつて怒濤のごとく流れ従ひ、国祖をして所謂『独神而隠身也』の悲境に陥らしめた。 常世城の会議における森鷹彦に変装せる大江山の鬼武彦をはじめ、大道別、行成彦および高倉、旭の奇策を弄し、邪神の奸策を根底より覆へしたるごとき変現出没自在の活動は、決して国祖の関知したまふところに非ずして、聖地の神人の敵にたいする臨機応変的妙案奇策にして、よくその功を奏したりといへども、天地の律法には『欺く勿れ』の厳戒あり、神聖至厳なる神人の用ふべからざる行為なれば、その責はひいて国祖大神の御位置と神格を傷つけた。現に大道別、森鷹彦、鬼武彦らの神策鬼謀は、国祖の直命にあらず、国祖は至仁至直の言霊をもつて邪神らを悔い改めしめ、言向和さむとの御聖意より外なかつた。しかるに血気に逸り、忠義に厚き聖地の神々は、律法の如何を顧みるに遑なく、暴に対するに暴を以てし、逆に対するに逆を以てし、不知不識のあひだに各自の神格を損ひ、国祖の大御心を忖度し得なかつたためである。アヽされど国祖の仁愛無限にして責任観念の強大なる、部下諸神の罪悪を一身に引受け、一言半句の弁解がましきことをなし給はず、雄々しくも自ら顕要の地位を捨て、隠退せられたるは、実に尊さのかぎりである。吾人は国祖の大御心を平素奉戴して、ある人々の言行の不穏と誤解の結果、吾身の災厄に遭遇することしばしばである。されど、心は常に洋々として海のごとく、毅然として山のごとく、動かず騒がず、すべての罪責を一身に引受け、もつて本懐としてゐるのである。すべて人に将たるものは、よく人を知り、人を信じ、人に任じ、その正邪と賢愚を推知して各自その処を得せしめねばならぬのである。しかるに部下の選任を余儀なくして、誤らしめられたるは、自己の無知識と薄志弱行の欠点たるを省み、一言もつぶやかず、大神の仁慈の鞭として感謝する次第である。 アヽ尊きかな、千座の置戸を負ひ、十字架の贖罪的犠牲の行動に於てをや。吾人は常に惟神霊幸倍坐世を口唱す。無明暗黒の現代を救ふの愉快なる神業に於てをやである。天下に二難事あり、その一は天に昇ること、その二は人を求むることである。アヽ国祖大神の天国を地上に建設したまはむとして艱難辛苦をつくされ、神人を得むとして、その棟梁に最適任の神を得たまはざりしごとく、吾人またその例に洩れないのである。国祖大神は、聖地に清き高き美はしき宮殿を造り、至治太平の神政を樹立し、天下八百万の神人の安住する祥代をながめて、歓喜に充せたまうたのも僅に数百年、つひに善神も年と共に悪化して邪神の容器となり、国祖が最初の大目的を破滅せしめたるは、たとへば小高き山上に美はしき家をたて、その座敷から四方の風景を眺めて、その雄大にして雅趣に富めるを歓びつつありしを、家屋の周辺に樹木の尠く、風あたりの激しきを防がむために、種々の必要なる木を植付けたるに、一時は木も短くして、風景の眺望に少しも障害なかりしもの、年を経るにしたがひ、追々と成長して枝葉繁茂し、何時しか遠景の目に入らぬやうになつたのみならず、つひにはその大木に風をふくんで、その木は屋上に倒れ、家を壊し、主人までも傷つけたやうなものである。世の成功者といはるる人々にも、これに酷似した事実は沢山にあらうと思ふ。現に吾人は、家の周囲に植付けられた種々の樹木のために、遠望を妨げられ、暗黒につつまれ、つひにはその家もろともに倒されて重傷を負うたやうな夢を見たのである。されどふたたび悪夢は醒めて、さらに立派な家屋を平地に建て直す機会の到来することを確信するものである。国祖大神の時節を待つて再臨されしごとく、たとへ三度や五度失敗を重ぬるとも、機会を逸するとも、七転八起は、神または人たるものの通常わたるべき道程であるから、幾たび失敗したつて決して機会を逸したとは思はない。至誠神明に祈願し、天下国家のために最善の努力をつくすまでである。現代の人々は、吾身の失敗をことごとく棚の上に祭りこみ、惟神だとか、社会組織の欠陥そのものの然らしむる、自然の結果なりと思ふなぞの詭弁に依帰してしまつて、自己の責任については、少しも反省し自覚するものがない。宗教家の中には『御国を来らせたまへ」とか「神国成就五六七神政』とかいふことを、地上に立派な形体完備せる天国を立てることだとのみ考へてゐるものが多い。そして地上の天国は、各人がまづ自己の霊魂を研き、水晶の魂に建替るといふことを知らぬものが沢山にある。各自の霊魂中に天国を建て、[※御校正本・愛世版では「天国を建てるのは」だが、それでは前後の文脈がおかしくなる。霊界物語ネットでは校定版・八幡版と同様に「るのは」を外して「天国を建て」に直した。]天国の住民として愧かしからぬ清き、正しき、雄々しき人間ばかりとならねば、地上に立派な霊体一致の完全な天国は樹立せないのである。 アヽされど一方より考ふれば、これまた神界の御経綸の一端とも考へられる。暗黒もまた清明光輝に向ふの径路である。雛鳥に歌を教へるには、暗き箱の中に入れておき、外面より声の美はしき親鳥の歌ふ声を聞かしめると同様に、一時大本の経綸も、雛鳥を暗き箱に入れて、外より親鳥のうるはしき声を聞かしむる大神の御仕組かとも思はれぬこともないのである。ゆゑに吾人は大逆境に陥つて暗黒の中にある思ひをするとき、かならず前途の光明を認め得るのは、まつたく神の尊き御仁慈であると思ふ。いかなる苦痛も、困窮も、勇んで神明の聖慮仁恵の鞭として甘受するときは、神霊ここに活気凛々として吾にきたり、苦痛も困窮も、却て神の恩寵となつてしまふ。たとへば籠の中に入れられてゐる鳥でも、平気で歌つてゐる鳥は、最早とらはれてゐるのではない。暢気に天国楽園に春を迎へたやうなものである。これに反して、天地を自由に翺翔する百鳥も、日々の餌食に苦しみ、かつ敵の襲来にたいして寸時も油断することができないのは、籠の鳥の、人に飼はれて食を求むるの心労なく、敵の襲来に備ふる苦心なきは、苦中楽あり楽中苦ありてふ苦楽不二の真理である。牢獄の囚人の苦痛に比して、自由人の却て是に数倍せる苦痛あるも、みな執着心の強きに因るのである。名誉に、財産に、地位情欲等に執着して、修羅の争闘に日夜鎬をけづる人間の境遇も、神の公平なる眼より視たまへば、実に憐れなものである。 神諭にも、 『人は心の持ちやう一つで、その日からどんな苦しいことでも、喜び勇んで暮される』 と示されたのは、じつに至言であると思ふ。一点の心燈暗ければ、天地万有一切暗く、心天明けく真如の日月輝く時は、宇宙万有一切清明である。吾人は平素心天の光明に照らされ、行くとして歌あらざるはない。吾人の心魂神恩を謳ふとき、万物みな謳ひ、あたかも天国浄土の思ひに楽しむ。アヽ『天国は近づけり、悔い改めよ』の聖者の教示、今さらのごとく、さながら基督の肉身に接侍するがごとく、崇敬畏愛の念に堪へない。 アヽ末世澆季の今日、オレゴン星座より現はれきたるキリストは、今や何処に出現せむとするか。その再誕再臨の聖地は、はたして何処に定められしぞ。左右の掌指の節々に、釘の跡を印し、背部にオレゴン星座の移写的印点を有して降誕したる救世主の出現して、衆生に安息を与ふる日は、はたして何れの日ぞ。金剛石も汚穢の身体を有する蟇蛙の頭部より出づることあり、金銀いかに尊貴なりとて、糞尿の植物を肥すに及ばむや。高山の頂かならずしも良材なく、渓間低く暗きところ、かへつて良材を産するものである。平地軟土に成長したる大樹、またいかに合抱長直なりと雖も、少しの風に撓みやすく、折れやすし。宇宙間の万物一として苦闘に依らずして、尊貴の位置に進むものはない。しかるに、天地経綸の大司宰たる天職を天地に負へる人間にして、決して例外たることを得ない。アヽ人生における、すべての美はしきもの、尊きものは、千辛万苦、至善のために苦闘して得なくてはならぬと思ふ。 神諭に曰ふ、 『苦労の塊の花の咲く大本であるぞよ、苦労なしには真正の花は咲かぬから、苦労いたす程、尊いことはないぞよ云々』 吾人はこの神諭を拝する毎に、国祖が永年の御艱苦に省み、慙愧の情に堪へないのである。 ここに八王大神常世彦命は、多年の宿望成就して、天津神の命を受け、盤古大神塩長彦を奉じて、地上神界の総統神と仰ぎ、自らは八王大神として、地上の神人を指揮することになつた。しかるに聖地ヱルサレムは、新に自己の神政を布くについては、種々の困難なる事情あるを慮り、常世姫をして竜宮城の主管者として守らしめ、聖地を捨て、アーメニヤに神都を遷し、天下の諸神人を率ゐて世を治めむとした。一方常世城を守れる大鷹別は、大自在天大国彦を奉じて総統神となし、アーメニヤの神都にたいして反抗を試み、またもや地上の神界は混乱に混乱をかさね、邪神の横行はなはだしく、已むを得ず、諾冊二神の自転倒嶋に降りたまひて、海月如す漂へる国を修理固成せむとして、国生み、嶋生み、神生みの神業を始めたまひし神代の物語は、本巻によつて明らかになることと思ふ。 神ながら宇宙の外に身をおきて 日に夜に月ぬ物語する 王仁は、第一巻において天地剖判の章に致り、金や銀の棒が表現して云々と述べたるにたいし、人を馬鹿にすると言つて、コンナ馬鹿な説は聞くだけの価値なきものだと、一笑に附して顧みないのみならず、他人の研究までも中止せしめむとしてゐる立派な学者があるさうだ。 神諭にも、 『図抜けた学者でないと、途中の鼻高には、神の申す事はお気に入らぬぞよ云々』 と示されてある。宇宙間の森羅万象、一として形体を具ふるもの、金、銀、銅、鉄等の鉱物を包含せないものはない。人間を初め、動植物と雖ども、剛体すなはち玉留魂の守護によらぬはない。金銀等の金気の大徳によつて現出したる宇宙間の森羅万象は、悉皆、鉱物玉留魂の神力を保持してゐるのであるから、金の棒や銀の棒から天地万物が発生し凝固したと言つたとて、別に非科学的でも何でもない。神の言には俗人のごとき七面倒くさきことは仰せられぬ。すべて抽象的、表徴的で、一二言にて宇宙の真理を漏らされるものである。 それで神諭にも、 『一を聞いて十百を悟る身魂でないと、誠の神の御用は勤まらぬぞよ』 と示されてある。半可通的学者の鈍才浅智をもつて、無限絶対無始無終の神界の事柄にたいして喃々するは、竿を以て蒼空の星をがらち落さむとする様なものである。洪大無限の神の力に比べては、虱の眉毛に巣くふ虫、その虫のまた眉毛に巣くふ虫、そのまた虫の眉毛に巣くふ虫の放つた糞に生いた虫が、またその放つた糞に生いた虫の、またその虫の放つた糞に生いた虫の糞の中の虫よりも、小さいものである。 ソンナ比較にもならぬ虫の分際として、洪大無辺の神界の大経綸が判つて耐るものでない。それでも人間は万物の長であつて、天地経綸の司宰者だとは、どこで勘定が合ふであらうか。されど、神の容器たるべき活動力を有する万物の長たる人間が、宇宙間に絶無とは神は仰せられぬのは、いはゆる神界にては無形に視、無声に聴き、無算に数へたまふてふ、道の大原の聖句に由るのであらうと思ふ。 蚤虱蚊にもひとしき人の身の 神の為すわざ争ひ得めや 大正十一年一月三日旧十年十二月六日
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霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 03 臭黄の鼻 第三章臭黄の鼻〔二〇三〕 いよいよ橄欖山の神殿には、エデンの園より捧持し参りたる神璽を恭しく鎮祭された。この神殿は隔日に鳴動するのが例となつた。これを日毎轟きの宮と云ふ。この神霊は誠の神の御霊ではなくして、八頭八尾の悪竜の霊であつた。 これより聖地ヱルサレム宮殿は、日夜に怪事のみ続発し暗雲につつまれた。八王大神常世彦はやや良心に省みるところあつて、窃に国祖大神の神霊を他知れず鎮祭し、昼夜その罪を謝しつつあつた。大神の怒りやや解けたりけむ、久振りにて東天に太陽のおぼろげなる御影を見ることを得た。随つて月の影が昇りそめた。八王大神は夜ひそかに庭園に出で、月神に向つて感謝の涙にくれた。されどその本守護神は悪霊の憑依せる副守護神のために根底より改心することは出来なかつた。 玉春姫は塩光彦と手を携へ、父母両親の目をくぐりて、エデンの大河をわたり、エデンの楽園にいたり、園の東北隅の枝葉繁茂せる大樹の下にひそかに暮してゐた。盤古大神は塩光彦の影を失ひしに驚き、昼夜禊身をなし、断食をおこなひ、天地の神明を祈つた時しも、園の東北に当つて紫の雲たち昇り、雲中に塩光彦ほか一柱の女神の姿を見た。盤古大神はただちに従者に命じ、その方面を隈なく捜さしめた。塩光彦、玉春姫は、神々らの近づく足音に驚き、もつとも茂れる木の枝高く登つて姿を隠した。この木は麗しき木の実あまた実つて、いつまで上つてゐても食物には充分であつた。神々らは園内隈なく捜索した。されど二人の姿は何日経つても見当らなかつた。盤古大神はこれを聞いて大いに悲しんだ。しかして自ら園内を捜し廻つた。 枝葉の茂つた果樹の片隅より一々仰ぎ見つつあつた。樹上の塩光彦は父の樹下に来ることを夢にも知らず、平気になつて大地にむかつて、木の葉の薄き所より臀引きまくりて、穢き物を落した。盤古大神は怪しき物音と仰向くとたんに、臭き物は鼻と口の上に落ちてきた。驚いて声を立て侍者を呼んだ。されど一柱も近くには侍者の影は見えなかつた。やむを得ず細き渓水に下りて洗ひ落し、ふたたび上を眺むれば、豈計らむや、天人にも見まがふばかりの美女を擁し、樹上にわが子塩光彦がとまつてゐた。盤古大神は大に怒り、はやくこの木を下れと叫んだ。二人は相擁し父の声はすこしも耳に入らない様子であつた。盤古大神は声を嗄して呼んだ。されど樹上の二人の耳には、どうしても入らない。如何とならば、この木の果物を食ふときは、眼は疎く、耳遠くなるからである。ゆゑにこの木を耳無しの木と云ふ。その実は目無しの実といふ。今の世に「ありのみ」といひ、梨の実といふのはこれより転訛したものである。 盤古大神は宮殿に馳せ帰り、神々を集めこの木に駆け上らしめ、無理に二人を引摺りおろし、殿内に連れ帰つた。見れば二柱とも目うすく耳はすつかり聾者となつてゐたのである。ここに塩長姫は二人のこの姿を見て大に憐れみ且つ嘆き、庭先に咲き乱れたる匂ひ麗しき草花を折りきたりて、二人の髪の毛に挿した。これより二人の耳は聞えるやうになつた。ゆゑにこの花を菊の花と名づけた。これが後世頭に花簪を挿す濫觴である。 一方聖地ヱルサレムにおいては、玉春姫の何時となく踪跡を晦したるに驚き、両親は部下の神人らをして、山の尾、河の瀬、海の果まで残る隈なく捜さしめた。されど何の便りもなかつた。常世彦はひそかに国祖の神霊に祈り、夢になりとも愛児の行方を知させたまへと祈願しつつあつた。ある夜の夢に何処ともなく『エデンの園』といふ声が聞えた。八王大神は直にエデンの宮殿に致り、盤古大神に願ひ、エデンの園を隈なく捜索せむことを使者をして乞はしめた。盤古大神は信書を認め、使者をして持ち帰らしめた。常世彦は恭しく押しいただきこれを披見して、かつ喜びかつ驚きぬ。 (大正一一・一・四旧大正一〇・一二・七吉見清子録)