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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 17 殺風景 第一七章殺風景〔一六七〕 さすがは稚桜姫の娘にして、智勇兼備の常世彦の妻だけありて、かかる紛糾混乱せる議場の猛烈なる反対派の神たちの反駁も、攻撃も、突喊もほとんど鎧袖一触の感じも抱かざるごとき悠然たる態度をもつて、よく胸中の野心と不満とその希望を、優雅なる歌もて遺憾なく表白し、諸神人の心胆を柔げ、且つその大度量に敬服せしめ、反対側をして一言一句を挟むの余地無からしめたる手腕は実に天晴なり。あたかも清風爽々として巷塵をおもむろに吹き散らして一片の埃影をも止めざるの概ありき。 満座の神人は常世姫の堂々として動かず、悠々として騒がず焦慮らず、小児にたいする大人のごとく、綽々として余裕ある長者の態度に心胆を呑まれ、一柱といへども立つて之を反駁する神人なかりたり。 この時、モスコーの従臣森鷹彦は瓢然として自席より身を起し、八王大神に向つて発言権を請求し、骨格衆に秀でたる仁王のごとき巨躯を提げ、足早に一歩一歩場内をヤツコスの六方踏みしごとき調子にて、節くれ立つた両腕に拳を固く握り、腕を広く左右に張りつつ威勢よく登壇したり。森鷹彦はモスコーの爆裂弾と称へられ居る強力にして、無鉄砲なる英傑なりける。 常世姫の言霊の威力に呑まれて堂々たる八王、八頭をはじめ、その他の神人らの一柱として反駁を試むるものなき腑甲斐なさを見て心中深く憤懣し、終に耐へかねて登壇を試みたるなり。森鷹彦は壇下に居並ぶ諸神人に赭顔を曝し睨みつけ、つぎに身体をクルリと常世姫の方にむけ、嬋娟たる美容を頭上より脚下まで熟視し、口唇をへの字形にかたく結び、巨眼をむき出し、忌々しげに太き息を猛虎の嘯くごとく吹き立てたる。その形相の凄じきこと、悪鬼羅刹の怒りたる時の如くなりけり。 森鷹彦は舌端火を吐きながら満座に向つて声を励まし、 『そもそも今回の大会議については、八王大神の世界を永遠に平和ならしめむとする、大慈大悲の至誠より発起されたるものと聞きおよぶ。しかし表面的理由は如何とも名づく可けれども、その落着く心の真の精神の如何については、十分考量を要すべきことと思ふ。本会議に臨みたまふ八王、八頭は申すにおよばず、その他の神人はいづれも神定の聖地ヱルサレムの地上高天原において、国祖国治立命の神定によりてその身魂々々に匹敵する神界の天職を命ぜられたる、至厳至重の聖職に奉仕すべき天賦的大使命を負はせらるる方々ならずや。しかるに何ンぞや、大神の天使たる八王をはじめ、その他の神司の今日の行動は、天地神明の聖慮を無視したる反逆的悪事にあらざるか。かれ八王大神なるもの果して何の特権あるか。かれは国祖の神任によりて八王大神と成りしに非ず。ただただ時の力を利用し、体主霊従的行為を続行して数多の邪神を蒐集し、自らその頭目となりしものにして、一言にして論ずれば彼のごときは、天則違反自由行動の反道者たるのみ。素性賤しき野蕃神の成り上りにして真正の天使にあらず、天下を掠奪せむとする一大盗賊の徒なり。吾々は彼が如き大盗賊をして心底より悔い改めしめ、善道に導き、大神の慈徳の洪大無辺なるを悟らせ、身魂ともに天国に救ひ与へむとの真情より、はるばると本会議に参列したる次第である。然るに諸神司はかかる天則を破る大盗賊の配下となり、神より任命されたる各自の聖職を捨てむとするや。八王以下の聖職は神の職を任けられたる貴き天職にして、決して個人の自由に左右すべきものにあらず、諸神司はよろしく我が天職を反省し、軽々しくかかる暴論暴挙に耳を藉し、参加して国祖の神慮を怒らしむる勿れ。吾々は八王大神にして心底より省み、前非を悔い改め、天地の真理を覚り大神の律法に背戻するの罪を畏こみ、また八王大神らの奸策にのりて野天泥田に陥りたるその無智を恥ぢ、断然として今回の会議を脱退し、天賦の聖職を尊重し、聖地ヱルサレムにおいて神慮に叶へる至善至真の会議を開催されむことを望む』 と大声疾呼しつつ降壇せむとし、たちまち巨躯をクルリと返へし、ふたたび演説を始めたり。 『諸神司はくれぐれも真の神の恩徳を忘れたまふことなく、至誠の真心を発揮し今日の失敗を大神に泣謝し、蕃神八王大神大自在天の陰謀を根底より破壊し、以て神の前に清き、赤き、直き、正しきを顕彰されよ。我は微賤の者なりといへども、世界平和のため、律法保護のためには、決して諸神司の後に落ちざるものである。アヽ八王大神よ、常世姫よ、寸時も早く至誠にかへれ。アヽ満場の諸神人も、片時も速かに迷夢を醒ませ。悪魔は善の仮面を以て善なる神人を誑惑す。正邪理非曲直の判断に迷ふなかれ』 と現在名声を世界にとどろかし、勢力巨大なる八王大神の前をも憚らず、洒々然として猛烈に攻撃の矢を放ちたるその大胆不敵さに驚かざるはなかりける。要するに森鷹彦は一意専心に大神の神威を畏れ、神徳の洪大無辺なるを確信するより、かくのごとき強敵の前をも憚らず、諄々として大胆に、率直に所信と抱負を無遠慮に叶露することを得たるなり。アヽ信仰の力は山をも動かすとかや、千祈万祷至誠一貫して以て山動かざる時は、吾より往きて山に登らむてふ確固不抜の信仰あらば、天下何ものか之に敵し得むや。森鷹彦の熱心なる大々的攻撃も悪罵も流石の八王大神において、如何ともすること能はざりしは、全く信念の力の致す所といふべし。 (大正一〇・一二・二〇旧一一・二二出口瑞月)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 18 隠忍自重 第一八章隠忍自重〔一六八〕 森鷹彦の壇上における大獅子吼はその実、地の高天原より神命を奉じて、この反逆的会議を根底より改めしむべく、神使として鬼武彦なる白狐出の猛神の変化なりける。森鷹彦はモスコーの八王道貫彦の従臣にして、あくまで強力の男子なるが、いま壇上にその雄姿を表はしたるは、実に鬼武彦の化身なりける。鬼武彦は大江山の守神にして悪魔征服の強神なりけり。 八王大神以下常世国の神人らは、何れも悪鬼、邪神、悪狐、毒蛇の天足と胞場の裔霊常に彼らの身魂を左右し、日夜悪逆無道、天則破壊の行為を続行せしめつつありける。ゆゑに今回の常世会議は、すべて背後にこれらの邪神操縦して居りて、大々的野望を達せむと企てゐたりけるに、地の高天原より大神の命により派遣されたる大江山の猛神鬼武彦のために、さすがの邪神もその魔力を発揮する機会を全く失ひけるぞ心地よき。 すべて天地の間は宇宙の大元神たる大神の御許容なき時は、九分九厘にて打ち覆さるるものなれば、さしもに名望勢力一世に冠絶せる八王大神と大自在天の威力をもつてするも、到底その目的を達し得ざるは、神明の儼乎として動かすべからざるの證拠なり。神は自ら創造したる世界を修理固成せむと、ここに千辛万苦の結果、無限の霊徳をもつて神人を生み出したまひ、天地経綸の大司宰として大神に代りて、世界を至善、至美、至安、至楽の神境となしたまふが大主願なり。併しこの時代は前述せるごとく、世界一体にして地上の主宰者は只一柱と限定されゐたりしなり。しかるに世はおひおひと開け、神人は神人を生み地上に充満するに至つて、各自の欲望発生し、神人みなその天職を忘れて、利己的精神を発生し、つひには自由行動をとり、優勝劣敗の悪風吹き荒み、八王大神のごとき自主的強力の神現はれ、天下を掌握せむとするに立到りたるなり。 ちなみに神人とは現代にいふ人格の優れたる人をいふにあらず、人の形に造られたる神にしてある時は竜蛇となり、猛虎となり、獅子となりて神変不思議の行動を為し得る神の謂なり。ゆゑに神として元形のままに活動する時は、天地をかけり、宇宙を自由自在に遠近明暗の区別なく活動し得るの便宜あり。宇宙の大元神はここにおいてその自由行動を抑圧し、地上の神界を修理せむとして神通力をのぞき、神人なるものに生み代へ変らしめたまひける。 ゆゑに神人なるものは危急存亡の時に到るや、元の姿のままの竜となり、白蛇となり、その他種々の形に還元することあり。されど還元するは神の生成化育、進歩発達の大精神に違反するものにして、一度元形に復し神変不可思議の神力を顕はすや、たちまち天則違反の大罪となりて、根底の国に駆逐さるるのみならず、神格たちまち下降して畜生道に陥るの恐れあり。ゆゑに神人たる名誉の地位を守るためには、いかなる悔しさ、残念さをも隠忍してその神格を保持することに努力さるるものなり。自暴自棄の神人はつひに神格を捨て悪竜と変じ、つひに万劫末代亡びの基を開くなり。現代のごとき体主霊従の物質主義者は、すべてこの自暴自棄してふたたび畜生道に堕落したる邪神と同様なり。これを思へば人間たるものは、あくまでも忍耐の心を持ち大道を厳守して、神の御裔たる品格を永遠に保つべきなり。 人間の中には短慮なるもの在りて危急の場合とか、一大事の場合に際し、身命を擲ちてその主張を急速に達成せむとし、知らず識らずの間に自暴自棄的行動を敢行し、瓦全よりも玉砕主義を選ぶと言ひて誇るものあり。玉砕は自己の滅亡にして、自ら人格を無視するものとなり、神界の大神の眼よりは自暴自棄、薄志弱行の徒として指弾され霊魂の人格までも失墜するに致るものなり。すべて瓦全と玉砕は、人間として易々たる業なり。天地経綸の大司宰として、生れ出でしめられたる人間はあくまでも隠忍自重して、人格を尊重し、いかなる圧迫も、困窮も、災禍も、忍耐力、荒魂の勇を揮つて玉全を計るべきは当然の道なり。アヽ現代の人間にしてこの忍耐を守り、人格を傷害せざるもの幾人かある。人は残らず禽獣の域を脱すること能はずして、神の造りし世界は日に月に餓鬼、修羅、畜生の暗黒界と化しつつあるは、実に遺憾の極みなりけり。 国祖の神諭にも、 『三千年の永き月日を悔し残念、艱難辛苦を耐へ耐へて、ここまできた艮の金神であるぞよ』 と示されたるも、右の理由に基くものなり。天地万有をみづから創造したまひ、絶対無限無始無終の神徳を完全に具有したまふ宇宙の大元神たる大国治立命にして、固有の神力を発揚し、太古の初発時代の神姿に還元して活動したまふにおいては、如何なる大神業といへども朝飯前の御事業なるべし。されど大神は一旦定めおかれたる天則をみづから破り、その無限の神力を発揮したまふは、みづから天則を造りて自ら之を破るの矛盾を来すものなれば、大神は軽々しくこれを断行したまはざるは、もつともなる次第なりけり。 神諭にいふ、 『艮の金神が、太古の元の姿に還りて活らき出したら、世界は如何様にでも致すなれど、元の姿のままに現はれたら、一旦この世を泥海に致さねばならぬから、神は成るだけ静まりて、世の立替を致そうと思ふて神代一代世に落ちて、世界の神、仏、人民、畜類、鳥類、昆虫までも助けてやらうと思ふて苦労を致して居るぞよ』 と示されたる神示は、我々は十分に味はひおかざるべからず。万々一国祖の神にして憤りを発し、太初の神姿に復帰したまひし時は、折角ここまで物質的に完成したるこの世界を破壊し終らざれば成らぬものなれば、大神はあくまでも最初の規則を遵守して忍耐に忍耐を重ねたまひしなり。アヽ有難き大神の御神慮よ。 常世彦をはじめ、さすがの暴悪無道の神人といへども太古のままの元形に還り、神変不可思議の活動をなすことは知りをり、かつ又その実力は慥に保有してをれども、その神人たるの神格を失ひ、根底の国において永遠無窮に身魂の苦しまむことを恐れて、容易にその魔力を揮はざりしなり。この真理を悟りし神人はたとへ肉体は滅亡するとも、決して根本的に脱線的還元の道は選ばざりしなり。アヽ犯し難きは天則の大根元なるかな。 (大正一〇・一二・二一旧一一・二三出口瑞月)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 20 長者の態度 第二〇章長者の態度〔一七〇〕 森鷹彦の峻烈なる攻撃演説と、猿田姫の流暢なる水も漏さぬ歌意とによつて、並居る満場の諸神司はややその本心に立復り神威の畏るべく、神律の儼として犯すべからざるを今さらの如く自覚し、神人らは以心伝心的に八王大神らの今回の言動の信憑すべからざるを固く知了したるごとき形勢は、会場の各所に漂ひける。この形勢を目敏くも見てとりし八王大神は、ヤオラ身を起して演壇の前に立ち現はれたり。 さて八王大神常世彦は頭髪長く背後に垂れ、身躯長大にして色白く、眼清く、眉正しく鼻は高からず低からず、骨格逞しうして神格あり、何処となく長者たり頭領たるの権威自然に備はり、諸神人の猛烈なる攻撃も嘲罵も、少しも意に介せざるがごとく、如何なる強敵の襲来も、たとへば鋼鉄艦に蝶々の襲撃したるごとき態度にて悠々せまらず、光風霽月の暢気さを惟神に発揮しゐたりけり。かくのごとき神格者の八王大神も、少しく心中に欲望の念萠さむか、たちまち体主霊従的行動を敢行して憚らぬまで神格一変したりしなり。心に一点の欲望おこるや、宇宙間に充満せる邪神は、その虚に乗じて体内に侵入し、ただちにその神格をして変化せしめ、悪心欲望をますます増長せしめむとするものなり。ゆゑに八王大神も常世姫も、天授の精魂体内を完全に支配するときは、じつに智仁勇兼備し且つ至聖至直の神格者となり得る人物なり。邪神の憑依せしときの二人は、俄然狂暴となり、時に由つては意外の卑怯者と変ずることあり。如何に善良なる神人といへども、その心中に空虚あり、執着あり、欲望あるときは直様邪神の容器となる。実に恐るべきは心の持方なりける。これに反し、至誠一貫わづかの執着心も欲望もなき神人は、いかなる場合にも恐怖し嗟嘆し失望することなく、行成彦のごとく、敵城にありながら少しも恐れず滔々として所信を述べ、その目的の達成に努力を吝まず、その使命を完全に遂行することを得るものなり。 常世彦は悠々せまらず静かに壇上に行儀正しく佇立し、温顔に溢るるばかりの笑を湛へて両手を揃へて卓上におき、ややうつむき気味になりて、諸神人の面上を見るごとく見ざるごとく、諄々として口演を始めたり。 『あゝ満場の諸神司ら、吾が最も敬愛するところの八王をはじめ、慈愛と正義の権化とも称ふべき神人らの前に、謹ンで吾が胸中に深く永年納めおきたる赤心を吐露し、もつてその同情ある御了解を得て、這般の大会議の目的を世界平和のために達成せむことを、天地の神明に誓ひ、至誠をもつて貫徹せむことを希望する次第であります。そもそも、宇宙の大元霊たる大国治立命の大宇宙を創造し、太陽、太陰、大地および、列星を生み成し洪大無辺の神業を樹て給ひしは、万有一切の生物をして、至安至楽の世に永遠無窮に栄え住はしめ、かつ宇宙の大意志を完全に遂行せしめたまはむが為であります。大神は太陽を造り、これに附するにその霊魂と、霊力と霊体をもつてし、太陽の世界にその守護神を任じたまひ、太陰にも同じくその霊魂と霊力と霊体とを附与して、各自の守護神を定めて、太陽界と太陰界の永遠無窮の保護神として、それぞれの尊き神をして守護せしめたまふ如く、我地上にも大国治立命の分霊をして、これを守護せしめたまふたのであります。これぞ、吾々の日夜尊敬して止まざる大地の主宰たる国治立命であります。賢明にわたらせらるる諸神司の方々は、吾々のごとき愚者の言は、耳を傾くるの価値なきものとして一笑に付して顧みられざるは、当然であらうと思ひます。しかしながら、宇宙一切のものには凡て本末がありますから、幼稚極まる論説でありますが、今日は天地開闢にも比すべき神聖祥徴の大会議でありますから、賢明なる諸神司の特に御承知のこととは存じながら、神の御恩徳を讃美したてまつるために、謹ンで天地根本の大道より説きはじめた次第であります。そもそも我地上の大主宰にまします、国祖の国治立命は、鋭意世界の平和と、進歩発達の聖業を完成せむと、不断の努力を続けさせたまふは、諸神司の熟知さるるところと堅く信じて疑はざる次第であります。国祖は大慈大悲の大御親心を発揮し、神人その他の生物をして各自そのところを得せしめむと、大御心を日夜に砕かせたまふは、吾々は実に何ンとも申上げやうのなき有難きことであつて、その洪恩に報いたてまつり、大神の御子と生れ出でたる地上の万有も、大神の御心を心として、吾々はそれぞれ神のために、最善の努力と奉仕を励まねばならぬのであります。国祖の神は、その御理想を地上に完全に遂行せむがために、ここに国魂の神を祭り、八王、八頭を配置し、もつて神政の完成を企図したまひしことは、諸神司も御承知のことと思ふのであります。しかるに、現今世界の状況をつらつら思考するに、賢明なる八王、八頭の方々の鋭意心力を尽して治めらるる各山各地は、いづれも星移り月代りて、次第に綱紀は緩み最早収拾すべからざるに立到つたことは、直接その任に当りたまふ、諸神司らの熟知さるるところでありませう。かくのごとき世界の混乱を放任して、これを修斎せざるは、果して国祖の御聖慮に叶ふものでありませうか、いづれの神司らも、我々としては実に申上げがたき言葉でありますが、これでも、立派に国祖の大御心を奉体されてをらるるのでありませうか。国祖は現代の世界の状況を見て、いかに思召したまふでありませうか。吾々は、深夜ひそかに国祖の神の大御心を推察したてまつるときは、熱涙滂沱として腮辺に伝ふるを覚えざる次第であります。仁慈に富ませたまふ、国祖の神の御聖慮はいかに残念に思召さるるでありませう。一旦神命を下したまひて八王と定めたまひし以上は、その不都合なる神政をおこなふ神司が、万々一ありとしても、神司らの体面を重ンじ、容易にその御意思を表白したまはず、神司らの本心に立復り、神意の神政をおこなふを鶴首して待たせたまふは、必定であらうと思はれます。アヽ国祖は今日の八王らの、優柔不断の行動を見て、日暮ンとして途遠しの御感想をいだき、内心御落涙の悲惨を嘗めたまはぬでありませうか。吾々神人の身をもつて、国祖の大御心を拝察したてまつるは畏れ多きことではありますが、大神は必ずや、各山各地の八王の退隠を、自発的に敢行するのを希望されつつ、心を痛めさせたまはぬでありませうか。諸神司はここにおいて、一つ御熟考を願はねばなりませぬ』 と自発的八王の退隠を慫慂したりける。並ゐる八王、八頭は、国祖を笠にきての堂々たる八王大神の論旨にたいして、一言半句も返す辞なく、羞恥の念にかられて太き息を吐くのみなりける。この時いかがはしけむ、八王大神の顔色俄に蒼白となり、アツ、と叫ンで壇上に打倒れたり。アヽこの結末は如何に治まるならむか。 (大正一〇・一二・二一旧一一・二三出口瑞月)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 21 敵本主義 第二一章敵本主義〔一七一〕 八王大神常世彦の堂々として毫末も抜目なき、真綿で首を締め付るごとき手痛き雄弁に列座の諸神司、ことに直接の関係ある八王は、我身の境遇と、その責任に省みて、鷺を烏といひくるめたる巧妙なる言論にたいし、抗弁反駁の余地なく、たがひに顔を見あはせ当惑至極の体にて青息吐息、五色の息を一時にホツと吐き、さすが雄弁の行成彦も猿田姫、出雲姫、斎代彦その他の神司も悄気かへりて、 『八王大神め、よくも吐したり』 と心中に驚異しつつ形勢いかになり行かむかと、とつおいつ、諸行無常是生滅法の因果をつらつら思はざるを得ざりける。 連日の諸神司が至誠一貫全力を傾注して、神界のために舌端火花を散らして奮闘したるその熱誠と猛烈なる大々的攻撃も、沖の鴎の諸声と聞き流したる八王大神が、敵の武器をもつて敵を制するてふ甚深なる計略と、その表面的雅量とによりて、国祖の聖慮を云為し、敵の弱点を捕へ、鼠を袋に入れて堅く口を締めたるごとく、咽元に短刀を突付けたるがごとき、辛辣なる手腕に、いづれも敬服するの止むなきに至らしめ、満座の諸神人を小児のごとく、内心に見くびりさげしみながら、綽々として無限の余裕を示したるその威容は、常世城の大会議における檜舞台の千両役者としての価値、十分に備はりにける。 幸か不幸か、八王大神はいま一息にして、その目的を達せむとする折しも、突然として発病したれば、彼我の諸神人は周章狼狽し、懇切に介抱しつつありき。常世城の従臣、春日姫、八島姫は驚きながら、城中奥深く八王大神の病躯を扶けて、その艶姿を議場より没したりける。 この突然の出来事に、城内は上を下へと、大騒ぎの真最中、突然登壇したる神人は、大自在天の重臣たる大鷹別なりき。 『アヽ満場の諸神人よ、本会議の主管者たる八王大神は、御承知の通り急病のため退席の止むなきに立到られましたことは、相互に遺憾の至りであります。しかしながら、吾々はこの大切なる会議を、中止することは出来なからうと思ふのであります。吾々は八王大神のあまりに天下の平和について、造次にも顛沛にも忘れたまはざる、至誠の心魂ここに凝つて、つひに病を発したまふたのではあるまいかと、推察する次第でありますが、諸神人は如何の御感想を保持したまふや。思ふに吾々はじめお互ひに、八王大神の御熱誠なる訓戒的お宣示にたいして、一言の辞なきを思ひ、実に、汗顔の至りに耐へませぬ。直接の関係者たる八王各位においても、腹の底をたたけば何れも同じ穴の狐、疵もつ足の仲間と云はれても、答弁の辞はなからうと思ひます。いづれも神定の天職を全うされた神司らは、あまり沢山には、この席に列なる方々には、失敬ながら有るまいと断言して憚らないのであります。諸神司の間には斯のごとき重大なる会議は、国祖の御許容を得て、神定の聖地ヱルサレム城において、開催するが至当である、徒に常世城において会議を開くことをもつて、自由行動、天則違反の甚しきものと主張さるる神司らもありましたが、諸神人、胸に手をあてて、冷静に御熟考をして戴きたいのであります。万々一、前日来のごとき紛乱の議会を聖地において開いたとすれば、第一、大神の聖地を汚し神慮を悩ませたてまつり、吾々は天地の神明に対して謝するの辞がありますまい。賢明卓識の八王大神は、今日の結末を事前に感知して止むを得ず、この地において会議を開き、聖地を汚さざらしめむと、苦心されたる、その敬神の御心と天眼力は、吾々凡夫の企及すべからざる所であります。諸神人は八王大神の理義明白なる御主張に対し、すみやかに御賛成あらむことを希望いたします』 と述ぶるや、末席の方より、 『ヒヤヒヤ』 『ノウノウ』 の声湧き起り、中には、 『ヒヤヒヤ冷やかなノウノウの能弁者』 と叫ぶものもあり。 この時、緊急動議ありとて、登壇したるは例の斎代彦なり。斎代彦は、例のごとく右手をもつて鼻をこぢ上げ、両眼を撫で、洟を手の甲にて拭ひ、その手を右側の着衣にて拭ひながら、 『今日は、八王大神の御急病なればこれにて解散いたし、明日あらためて開会せばいかん、諸神人の御意見を承はりたし』 と大声に呼ばはりければ、満座の諸神人は、八九分まで手を拍つて賛成したり。 ここに、当日の会議もまた不得要領のうちに幕を閉ぢられたり。アヽ今後の八王大神の病気および、会議の結果は如何に展開するならむか。 (大正一〇・一二・二二旧一一・二四出口瑞月) (第二〇章~第二一章昭和一〇・一・二一於八代駅長室王仁校正)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 22 窮策の替玉 第二二章窮策の替玉〔一七二〕 いかなる美事善事といへども、天地根本の大神の御許容なきときは、完全に何の事業といへども、成功すること不可能なり。世界の一切はすべて神の意志のままにして、神は宇宙一切をして至美至善の境界に転回せしめむとするが第一の理想にして、かつ生命なり。ゆゑに如何なる善なる事業といへども、第一に神明を祭り、神明の許諾を得て着手せざれば、その善も神をして悦ばしむることを得ず。つまり神の眼よりは、自由行動の所為と見られ、かつ宇宙の大本たる神明の尊厳を犯すものとなるがゆゑなり。いはンや、心中大なる野心を包蔵し、天下の神人を籠絡したる八王大神、および、大自在天一派の今回の常世会議における、紛糾混乱怪事百出するなどは、国祖の神の大御心に叶はざりし確なる證拠なるべし。これを思へば人間はいかなる善事をなすも、まづ神の許しを受けて、至誠至実の心をもつて熱心にとりかからざるべからざるものなり。 ある信徒の中には、抜けがけの功名を夢み、神のため道のため、非常なる努力をはらひ九分九厘の域に達したるとき、その誠意は貫徹せずしてガラリとはづれることあり。その時にいふ、吾々は神のため、道のため、最善の努力をつくすにもかかはらず、神はこれを保護したまはず。神は果してこの世にありや。一歩をゆづつて神が果してありとせば、無力無能理義を解せざるものと嘲罵し、あるひは恨み、つひには信仰より離るる者多し。しかしそれこそ大なる誤解慢心と云ふべし。神が人間をこの世に下したまへる目的は、何事も神の命のまにまに、天地の経綸に当らしめむが為なり。もし、神にして善事ならば自由行動をなしても差支なしとする時は、ここに宇宙一切の秩序を破壊するの端を開くことを忌みたまふが故なり。ゆゑに、一旦神に祈願し着手したることは、たとへその事が万一失敗に終るとも、ふたたび芽を吹き出し、立派に花咲き実る時期あるものなり。これに反して自己の意志よりはじめて失敗したることは、決して回復の時期はなきのみならず、神の怒りに触れて、つひには身を亡ぼす結果をきたすものなり。 八王大神はじめ、常世姫らの連日の献身的大活動も、最初に神の認可を得ず、加ふるに胸中に大野心を包蔵しての開催なれば、成功せざるは当然の理なり。しかして八王大神の壇上にて病気突発したるは、大江山の鬼武彦が、国祖の神命によつて、邪神の陰謀を根本的に破壊せむとしたる結果なり。八王大神の急病によりて、常世城の大奥は非常なる混雑を極め、そのためせつかくの会議も、一週間停会するのやむなきに立ちいたりぬ。八王八頭をはじめ、今回会議に集ひたる神人は、代るがはる八王大神の病気を伺ふべく、夜を日についで訪問したりしが、常世姫は代りてこれに応接し、一柱の神人もその病床に入ることを許さざりける。八王大神は、日に夜に幾回となく激烈なる吐瀉をはじめ、胸部、腹部の疼痛はげしく、苦悶の声は室外に漏れ聞へたり。かかる苦悶のうちにも、今回の大会議の成功せむことを夢寐にも忘れぬ執着心を持ちゐたるなり。大神の病は時々刻々に重るばかりにして、肉は落ち骨は立ち、ちようど田舎の破家のごとく骨の壁下地現はれ、バツチヤウ笠のごとく、骨と皮とに痩きり仕舞ひけり。 常世姫は、重なる神人を八王大神の枕頭に集めて協議を凝らしたり。常世姫はいかに雄弁なりといへども、この大会議をして目的を達せしむるには、少しく物足りなく、不安の感あり。どうしても八王大神の顔が議場に現はれねば、たうてい進行しがたき議場の形勢なりける。 ここに謀議の結果、八王大神と容貌、骨格、身長、態度、分厘の差もなき道彦に、八王大神の冠を戴かせ、正服を着用せしめて、身代りとすることの苦策を企てける。道彦は招かれて八王大神の病室に入りければ、常世姫は前述の結果を手真似で道彦に伝へけるに、道彦は嬉々として、ウーと一声、首を二三度も縦に振りて応諾の意を表しければ、神人らは道彦に衣冠束帯を着用せしめて見たるに、妻の常世姫さへも、そのあまりによく酷似せるに驚きにける。 (大正一〇・一二・二三旧一一・二五加藤明子録)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 23 思ひ奇やその一 第二三章思ひ奇やその一〔一七三〕 道彦は神人の推薦によりて、八王大神の衣冠束帯を着用し、ここに偽常世彦となりすましたり。常世姫の意見によりて、立派なる別殿を与へられ、殿中に数多の従者をしたがへて収まりかへりゐたり。奸黠なる常世姫は、思ふところありて八王、八頭にたいし八王大神に面会することを許したり。 春日姫、八島姫は、玄関の間に盛装をこらして、八王の病気伺ひにたいし、応接の役にあたりゐたりしが、ここにモスコーの城主道貫彦は病気を見舞ふべく別殿を訪ひたるに、玄関には娘の春日姫が、花のごとき姿を現はしあふるるばかりの愛嬌をたたへて控へをるにぞ、道貫彦は思はず知らず大声を発し、 『また出よつたなア』 と叫びながら、春日姫の顔を穴のあくほど見つめゐたり。春日姫は言葉静かに、 『父上様、おなつかしう存じます』 と叮嚀に頭を下げたるが、その顔には悲喜交々まじり、両眼からは涙さへ滲み出ゐたり。姫は立ちてその手をとり、奥殿に案内せむとするや、道貫彦は驚いてその手を振りはなち、眼を刮と見ひらき、 『油断のならぬ大化物、その手は喰はぬぞ』 と一喝したるに、春日姫は強てその手をとり、親切に奥へ導かむとするを、右手に持てる杖にて春日姫の面上を力かぎりに打据ゑたり。姫は悲鳴をあげてその場に打仆れける。 道貫彦は杖の先にて姫の全身を衝いたり、叩いたりしながら、 『コン畜生、何時までも馬鹿にしてやがる』 と怒り狂ひつつ姫には目もくれず、悠々として杖を曳きながら、奥殿に進み入りぬ。奥殿には八王大神端然として神々に取りまかれ控へゐたり。 道貫彦は叮嚀に敬礼しながら、ふと見上げるとたんに、八王大神の下顎の裏の黒子に気がつき、合点ゆかじと目を円くして見つめてゐたるが、道貫彦は思はず、 『汝は八王大神とは真赤な偽り、先年吾に仕へたる大道別に非ずや。汝不届にもこの常世の国に渡り、神変不思議の魔術をつかひ、畏れ多くも稚桜姫命の第三女常世姫を籠絡し、八王大神と僣越にも自称して、反逆無道の欲望を貫徹せむとし、世界の八王をはじめ、有力なる国魂をここに参集せしめたる、その伎倆や感ずるにあまりあり。されど邪は正に敵しがたく、開会以来の議場の怪を見よ。これ全く国祖大神の御神慮に反し、神明の罰をうけ汝が目的の大望も九分九厘にて幾回ともなく打ち覆され、つひには諸神環視の壇上にて急病を発し、大失態を演じたるに非ずや。かくのごとく覿面なる神罰を蒙むりながら、なほ未だ目ざめず、あくまで反逆心を貫徹せむとし、ふたたび議場に現はれむとするか。われは開会の当日より汝の面体を熟視して疑団晴れざりしが、いま汝に接近してその化けの皮を感知せり。あらそはれぬ証拠は汝が下顎下の黒子を見よ。他神人はいざ知らず、われは汝を宰相として永く使用したれば、如何に隠すとも隠されまじ。また春日姫なるものは汝が魔術によつて現はれたる悪狐の化身なり。われいま玄関口において彼女を打仆しおきたり。さぞ今ごろは彼女が正体を現はし、身体一面に毛を生じ仆れをるならむ。汝もまた或ひはその狐なるやも計りがたし、化の皮を現はしてくれむ』 といふより早く、携へたる杖にて面上目がけて打据ゑむとするや、この時数多の従臣は、 『乱暴者』 と云ひながら、前後左右よりとりまき、その杖をもぎとりにけり。八王大神は目をもつて、神司らに何か合図をなしければ、常世姫はじめ従者は一柱も残らず席を避けたり。 あとには八王大神と道貫彦とただ二柱のみ。ここに八王大神は座を立つて下座に降り、一別以来の挨拶を声低に述べをはり、かつ常世城の一切の秘密および春日姫が、命の真の娘なることを打明け、固く口外せざることを約しける。道貫彦は始めて実の娘なることを悟り、心も心ならず、急ぎこの場を立つて玄関に出たり。 春日姫は少しく面部に負傷しながら、依然として玄関に控へゐる。道貫彦は真の吾が娘なることを覚り、飛びつきて抱へたき心持したれど、大事の前の小事と動く心をみづから制し、目に物言はせながら素知らぬ顔に、この場を立去りにける。 (大正一〇・一二・二三旧一一・二五外山豊二録)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 25 燕返し 第二五章燕返し〔一七五〕 八王大神は病気まつたく恢復し、ふたたび会議を続行すべきことを八百八十八柱の神司に、常世姫より一々叮嚀に通知したれば、諸神司は先を争ひて大広間に参集し、例のごとく八王大神はじめ常世姫、春日姫、八島姫、その他の常世城の神司らは、中央の高座に、花を飾りたるごとく立派なる姿をあらはしたり。この時行成彦はたちまち登壇して八王大神の急病まつたく癒え、ふたたびこの大切なる会議に出席されたることを、口を極めて慶賀し、諸神司とともに万歳を唱へ、かつ猿田姫、出雲姫、春日姫、八島姫をして祝意を表するため、壇上に、優美にして高尚なる舞曲を演ぜしめたり。四女性の艶麗優美なる姿は、あたかも柳の枝に桜の花を咲かせ、白梅の薫りを添へたるごとくなりけり。頭には金色の烏帽子を戴き、衣服は揃ひの桃色、緋の袴を長くひきずりながら、四女は一度に手拍子、足拍子をそろへて、春の野の草花に蝶の戯むれ飛び交ひ遊ぶごとくなりける。諸神司は、この長閑なる光景に心魂を奪はれ、吾を忘れて眺めゐたり。 行成彦は壇上に立ち、優雅な声調にて謳ひはじめたるが、鶯の春陽に逢ひ谷の戸開いて、白梅の梢に春を謳ひ、鈴虫の秋の野の夕に、涼しき声にて鳴くにも似たる床しき声調に、四辺の空気をたちまち清鮮ならしめたり。 その歌、 『千早振る神の御心かしこみてチーバブリカンヨミコモトカスクミテ 天地四方の国魂やアメツツヨシノコキシタマ 八王の司や八頭ヤツコスヨツカスヨヤツカムロ ももの神たち八百万モモロカムタチヤモヨロヅ 常世の国に神集ひトコヨヨクシイカムツトヒ 虎狼や獅子大蛇トツオオカムヨシスオロミ 鬼も探女も曲津見もオヌモサヨメヨマトツミヨ 伊寄り集ひて村肝のイヨキクルミテムロイコヨ 心の雲を吹き払ひコモトヨコモヨフチハロチ 払ひ清めて神の世のハロチコソメテカムホヨヨ 目出度き光照妙のメロトチフカリテロトオヨ 綾と錦の大御機アヨヨヌスコヨオオムホト 織りて神世のまつりごとオリテカムヨヨマツイコヨ 堅磐常磐にたてよこのカコハトコハイタトヨコヨ 神の任さしの神みたまカムヨヨサイヨカムミトモ 世に出でまして美はしきヨニウテモステウロホスク 栄えみろくの大神のサコエミロクヨオオカムヨ 安けき国を守らむとヨソケシコモヨモモロムト 心めでたき常世国コモトメテトキトコヨクシ うしはぎ坐すとこよひこオソフクイモストコヨホコ とこよの姫の世をなげきトコヨヨホメヨヨヨノゲク ももの千草のあら風にモモヨツクソヨアロコセイ 倒れ苦しむわざはひをトヨレコロスムワロワイヨ 救はむためのもよほしはスクホムトメイモヨホスヨ この天地の開けてゆコヨアメツツヨフロケトヨ ためしあらしのしづまりてトモスアロスヨスヅモリテ 常世の春の常永にトコヨヨホロヨトコスヱイ 千代万世も動きなくトヨヨロヅヨヨヨロギノク 高天原も賑はしくタコオモホロヨヌグホスク 千歳の松の色あせずトツセヨマツヨウロアセズ 枝葉も繁るくはし世にエロホヨスゲリクホスヨイ 立直さむと身を忘れトチノヨソムヨムヨワスリ 家を忘れて朝夕にウヘヨワスレテアソヨベイ 心を尽し身を尽しコモトヨツクイモヨツクイ 四方の雲霧吹払ひヨモヨコモクリホキホロヒ 国治立の大神のクシホロトチヨオオカムヨ いかしき御世を守らむとウカスキムヨヨモモラムト 開きたまひしこの集ひフロキトモイスコヨツドイ 集ひ来たりし行成彦もツドヒコモステユキノリホコモ もろてをあげてこのたびのモロテヨアゲテコヨトヒヨ 常世の彦の御こころにトコヨヨホコヨミコモトイ まつろひまつり常暗のマツロイマツイトコヨミヨ 世をとこしへに照しなむヨヨトコシエイテラスノム 百の神たちみともたちモモヨカムトチミトモトチ 一日も早くかた時もヒツカモホヨクカトトキヨ いと速やかにかたりあひイトスムヨコイカトリアイ けふのつどひをうれしみてケフヨツドイヨウロスミテ むなしく過すことなかれムノスクスゴスコトノコレ 国治立の神のまへクシホロトチヨカムヨミエ 常世の神のうるはしきトコヨヨカムヨウロホスキ 赤き心をうべなひてアコキコモトヨウベノイテ 四方の神人草や木のヨモヨカムフトクサヨコヨ さやぎの声を静めかしサヨギヨコエヨスズメカス 救ひの神とあれませるスクイヨカムヨアレモセル 国治立の神ごころクシホロトチヨカムコモト ただに受けます常世彦トドイウケモストコヨホコ とこよの姫のひらきてしトコヨヨホメヨホロキテス これのもよほしいときよしコレヨモヨホスイトキヨス きよきこころの百の神キヨキコモトヨモモヨカム 八王の神やつはもののヤツコスカムヨツホモヨヨ 猛きうつはをとりのぞきトケキウツホヨトリヨゾキ その根底よりあらためてソヨネトコヨイアロトメテ はやとりのぞき大神にホヨトリヨゾキオオカムイ 叶ひまつれよ松の世のカノイモツリテマツヨヨヨ 神のこころの神ぞ目出度くカムヨコモトヨカムゾメデトキ 松の心の神ぞ目出度けれマツヨコモトヨカムゾメデトケレ』 行成彦は、以前の極力反対的の態度に打つて変り、八王大神賛成の歌を作り、その豹変的態度に諸神司を驚異せしめたり。八王大神は欣然として、無言のまま行成彦の讃美の歌を、耳を澄まして聞き入りぬ。 常世姫は、行成彦の行動に合点ゆかず、首をしきりにかたむけ、思案に暮るるもののごとくなりける。 行成彦の豹変的態度をとりたるは、八王大神の偽物たることを、よく知悉しゐたるが故なり。四柱の女性は満座に一礼し、得もいはれぬ愛嬌を振りまきながら静々と降壇したり。このとき末席より発言権を請求して登壇する神司あり。 これは長白山の八王有国彦にして、その神格は温和にして至誠一貫の神司なり。やや頭の頂に禿を現はし、背丈はスラリと高く、どこともなく威徳具はりて見へけり。いまや行成彦の豹変的歌を聞きて、平素の温柔なる性質にも似合ず、猛然として立上り登壇したるなり。諸神司は彼の顔色のただならざるを見て、その発言のいかんを気遣ひける。彼は口を開いて、 『満座の諸神司よ、吾々は今回の大会議については、許多の疑問胸中に山積せり。第一に泥田の中の失態といひ、同じ姿の女性の続出せる怪といひ、八王大神の急病といひ、森鷹彦の異変といひ、数へきたれば限りなき怪事の続出すること、あたかも妖怪変化の巣窟ともいふべき有様ならずや。しかのみならず聖地ヱルサレムの天使長広宗彦の代理たる行成彦の軟化豹変、燕返しの曲芸的行動の不審千万にして逆睹すべからざるに非ずや。思ふに行成彦も、連日の疲労の結果精神に異状をきたせしにはあらざるか。ただしは前日来議場を攪乱しつつありし邪神悪鬼に憑依され、誑惑されて、その大切なる使命を忘却し、かかる変説改論の醜を演じたるには非ざるか。熟考すればするにつけ腑に落ちぬことのみ、如何にしても、吾らは何処までも疑はざるを得ぬ。要するに、今回の会議は怪より始まりて怪に終るにあらざるか。吾々は国祖国治立命の聖慮に背き、神界の御制定になれる八王神の聖座を撤廃し、野武士的神政を樹立せむとする悪平等主義の、反逆的目的を根底より破壊せむとの、国祖大神の御心に出づる諸神人への厳しき懲戒の鞭を加へさせたまひしものと断ぜざるを得ず。ゆゑに吾々は失礼ながら今日かぎり本会議を脱退せむ。諸神司よろしく吾々の行動をもつて本会議を乱すものとなす勿れ』 と声に力をこめて述べをはり、降壇せむとするや、 『暫く、しばらく』 と大声に呼ばはる神司ありける。 (大正一〇・一二・二三旧一一・二五出口瑞月)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 26 庚申の眷属 第二六章庚申の眷属〔一七六〕 有国彦は、常世会議より脱退せむことを宣言し、降壇せむとするや、 『暫く、しばらく』 と、大声に呼ばはりたる神司は、ヒマラヤ山の八王高山彦なりき。高山彦はただちに登壇し満座を睥睨し、おもむろに口を開いていふ。 『そもそも今回の会議は、八王の撤廃をもつてその眼目とするもののごとし。八王大神はさきに八王聯合を図り、一大団結力をもつて、聖地ヱルサレムの天使長大八洲彦命以下の神司を協力一致弾劾して失脚せしめたるは、今日にいたつて考ふれば、吾々は実に天則違反の非行為なりと思ふ。その後の世界一般の形勢は、ますます悪化し紛糾混乱の巷と化し去りしは、はたして何に原因するものぞ。吾々は思ふ、これ全く国祖の大御心に叶はざるがためなりと。しかるに今回の提案たるや、各山各地の八王八頭の政令おこなはれず、地上の世界はあたかも修羅の巷と化しさりしを口実に、また八王の無能を口実としてこれを撤廃し八王大神みづから特権を握りますます欲望を完全に達成せむとするの下心あることは、吾々の天地の大神に誓つて声明するところのものである。ゆゑに吾々の考へとしては、八王の撤廃論をすみやかに撤回し、八王一致団結して各自の中より主宰者を選出し、確固不動の団結を造り、もつて国祖の聖慮に叶へる神政を顕彰し、地の高天原に従前の過失を詫び、国治立命の管理のもとに服従し、誠心誠意帰順の実を挙ぐるに如かずと思ふ。諸神司の賛否如何』 と述べ了るや、満場破るるばかりの拍手と賛成の声に充たされける。 高山彦は笑を満面にたたへながら、 『諸神司は吾が主張にたいし、十二分の賛成を表したまへり。これより総統者の選挙に移らむ』 と言ふや、高座の上左側に控へたる行成彦はふたたび登壇し、 『高山彦の説に吾々は双手を挙げて賛成するものなり。ついては従前のごとく八王大神をもつて総統者と選定せば如何』 と提議したり。満場の諸神司は行成彦の提議に一も二もなく賛成の意を表したれば、いよいよ八王の撤廃は否決され、八王大神これを総統することとなり、地の高天原に直属し、柔順に国祖の神命に奉仕すべきことを決定したりけるは、世界平和のため慶賀にたえざるなり。 高山彦はふたたび口を開き、 『世界平和のために各自の神司らの武装の一部を撤廃するの件は、諸神司においても御異存なかるべきを確信す。賛成者はすみやかに起立されむことを』 と述ぶるや、諸神司のほとんど八分までは、一斉に起立し、かつ賛成を唱へたる。その声あたかも常世城も震動するばかりなりける。 八王大神は高座の中央に黙然として控へ、庚申の眷属よろしく、見ざる、聞かざる、言はざるの三猿主義を採り居たるもののごとし。常世姫は事ここにいたつては如何ともするに由なく、たちまち容色を和らげ満場の諸神司にむかつていふ。 『諸神司らの誠心誠意世界の平和を希求さるるは、八王大神をはじめ吾々の実に欣喜に堪へざるところであります。要するに八王大神をはじめ大自在天の提議にかかはる八王の撤廃案は、その実諸神司の誠意のあるところを伺はむための反正撥乱[※一般的には「撥乱反正」と書く。「みだれた世を治め、正しい状態にかえすこと」〔広辞苑〕]的神策でありまして、もはや吾々は諸神司の至誠公に奉ずるの御精神を実地に拝察しました以上は、何とも申し上げやうはありませぬ。従前のごとく八王大神をもつて八王の総統者となし、聖地にたいし協力一致帰順の誠をいたせば、今回の大目的は、完全に成功したものといつて差支へはないのであります』 と打つて変りし常世姫の燕返しの変節改論に、諸神人は思はず顔を見合はし、その先見の明と機敏に舌をまきにける。 常世姫はふたたび口を開き、 『かくの如く決定する以上、たがひに和衷協同の実を挙げ、もつて律法を遵守し、至誠至実の結合を見たる上は、あながちに、各神人の武装を撤回するの必要は無きものと考へます。要はただ諸神司の心を改むるにあるのみ。この点については、いま一応御熟考を願ひます』 といつてのけ、自分の席に帰りける。 (大正一〇・一二・二四旧一一・二六外山豊二録)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 27 阿鼻叫喚 第二七章阿鼻叫喚〔一七七〕 行成彦は、ふたたび立つて壇上に現はれ、さも快活なる面色にて諸神人にむかひ、 『ただ今、高山彦の周密精細なる主張と、賢明仁慈なる常世姫の演説について、諸神人は全会一致をもつて賛成せられたることを、吾々は聖地ヱルサレムの天使長広宗彦の代理として本心より歓迎するものであります。これまつたく諸神人が誠心誠意国祖大神の聖慮を奉戴し、神界の平和を熱望さるる結果と信じて疑ひませぬ。ついてはただ今常世姫は各神人の武装撤廃については、その必要なきを詳論されましたが、私はこの際武装の撤廃を断行したいと思ひます。諸神人の御感想を承はりたし。賛成の諸神人はすみやかに起立を願ひます』 この提案に対して、満座の神司らは六分まで起立して賛意を表しける。行成彦はこれを見て、 『御承知のごとく、過半数の賛成を得ました。ついては速やかに実行にかかられむことを希望します。武装の撤廃の方法については、竜神はその玉を取り、獅子、虎、熊、狼などの眷属はその羽翼を全廃し、鰐、鯨および海竜はその針毛を撤廃し、白狐は堅き金毛銀毛および鉄毛を撤廃し、中空を翔る鳥族はその咽下の毒嚢を排除せざれば、真正の平和を永遠に維持することはできないと考へます。この件については、まづ第一に常世城の神司らより模範を示されむことを希望します』 と述べ終り、悠々として降壇し、自席につきぬ。常世姫の顔色は、にはかに失望落胆の影浮び出でぬ。八王大神は莞爾として高座に控へ、操り人形のやうに首を上下に振り、賛成の意を形容に表しゐたりける。 この様子を見たる常世姫、大鷹別一派の神司らは歯噛みをなして口惜しがりたれど、議場内の形勢は如何ともするに由なかりける。 このとき、森鷹彦は両肱を張り、拳固を固め勢よく登壇し、満座の壇上にてその正体を露はし、巨大なる獅子となり、矢庭に右の手をもつて左の羽翼をメリメリとむしりとり、壇下の神人の前に投げ捨てたり。今度は左手を背中にまはして、右の羽翼を顔をしかめながら又もやメリメリとむしりとり、その羽翼を口にくはへ、壇下を目がけて山岳も崩るるばかりの唸り声を立て巨眼を光らせ、雄叫びしぬ。神人らの顔色はサツと変りぬ。 このとき、春日姫とともに常世城に逃れゐたる鷹住別は、立つて壇上にのぼり、 『アヽ諸神人よ、言説よりも実行をもつて第一とす。神人は言心行一致をもつて精神とす。貴下らは国祖大神より神人の神格を賜ふ。この場に臨みて女々しく躊躇逡巡するは決して名誉ある神人の度量に非ざるべし。まづ常世城より実行されむことを希望す。常世城の神人にしてモスコーの従臣森鷹彦に倣はずば、吾々は進ンで諸神人の武装を排除し奉らむ。八王大神においては御異存ありや』 と向き直りて問ひつめたり。 八王大神はさも愉快さうなる面色にて首を上下にしきりに振り、大賛成の意を表したり。常世姫は憂ひ悲しみ、内心狼狽の色面に表はれたり。行成彦は満座の諸神人にむかひ、 『諸神人よ、一斉に本城の神人らの屯所に出張し、武装撤回を監督されよ』 と、さも得意気に命令的に述べ立てたり。 血気にはやる神人はまづ自分の羽翼を除り、あるひは牙を抜き、その場に投棄し、猛然として神人らの駐屯所に侵入したり。しばらくあつて、叫喚の声、咆吼怒号の雷声は城内に響き渡りける。八王大神はこの声に驚き、病躯を提げ壇上に馳せ上り、武装撤回中止を厳命したり。森鷹彦は巨大なる獅子に還元したるまま眼を怒らせ、牙を立て八王大神目がけて飛びかからむとする猛勢を示し、ときどき雷のごとく咆吼し、八王大神を威喝しつつありける。神人らは自席より口々に、 『偽八王大神を引ずり落せ。今となつて、卑怯未練に諸神人の決議を無視するは、吾々を侮辱するの甚だしきものなり。現に常世城の城主八王大神の黙許を得たり。何れの痴漢ぞ、速やかに退去せよ』 と口をそろへて呶鳴り立てたり。 森鷹彦の獅子はまたもや後来の八王大神に向つて唸り立てたれば、場内はあたかも戦場のごとく修羅道のごとき光景とたちまち変じたりける。このとき三猿主義をとつて壇上に控へたる聾唖痴呆と思ひし道彦の偽八王大神は、猛然として立ち上り、満座を一瞥し、 『ただ今これに控へたるは八王大神と称すれども、彼は容貌吾に似たりといへども、その実はモスコーの八王に仕へたる道彦といふ発狂者なり。諸神人はかかる発狂者の言に耳をかたむけず、すみやかに武装撤回を断行されよ』 と言ひければ、真正の八王大神は歯噛みをなして口惜しがれど、身から出た錆の如何ともするに由なく、主客顛倒したるこの大勢を挽回することは到底不可能なりける。このとき八王大神は猫に出会ひし鼠のごとく、萎縮して何処ともなく姿をかくしたり。常世姫の影は忽然として消え失せたり。神人らの叫喚の声は実に物凄く、寂寥身に迫り、聞く者をして肌に粟を生ぜしむるにいたりける。 たちまち天の一方より峻烈骨を裂くごとき寒風吹ききたるよと見る間に、王仁の身は高所より深き谷間に顛落したりけるより、目を開けば、身は高熊山の岩窟に寒風にさらされて横様に倒れゐたりける。 (大正一〇・一二・二四旧一一・二六桜井重雄録)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 29 月雪花 第二九章月雪花〔一七九〕 風は新柳の髪を梳けづり、浪は青苔の髯を洗ふとは菅公の詩なり。 頃は弥生の央ごろ、天津日の神は西の山の端に隠れ黄昏の雲ただよふ。地には燕の翩翻として忙しげに梭を織り、神人みな春の日長に睡眠をもよほす、時しも東の空の雲の戸開けてたち昇る朧の月影は得もいはれぬ長閑さなりける。 照りもせず曇りも果てぬ春の夜の 朧月夜にしくものぞなき と古人の詠へる歌は実にこの光景を描写して遺憾なしと思はれたり。 ここに聖地ヱルサレムの桃上彦は、常に心中おだやかならず、不平満々の中にこの長き春の日を過ごしつつありぬ。たちまち吹きくる夜嵐に、庭園に今を盛りと咲き誇りたる八重桜は苦もなく風に打ち落されたり。寝所にありて寝もやらず千々に思ひをくだき嵐の音に耳を澄ませ、首を延ばして屋外の光景を聞き入る時しも、 『桃上彦、桃上彦』 と呼ぶやさしき女性の声、嵐の音に交ぜりて聞え来たりぬ。桃上彦は不審の念にかられ、ひそかに戸を開けて庭園に出で、遠近と所狭きまで散り積りたる花の庭を逍遥し居たりける。 空には満月朧に懸り、地には花の筵を敷きつめたるごとく、月と花と相映じて得もいはれぬ雅趣をそぞろに感じける。このとき庭園の一隅より庭木を押し分け、雪をあざむく純白の女性忽然として現はれけるに、桃上彦はあたかも月雪花に包まれて天国に遊ぶの愉快を感じたり。女性は桃上彦の前に近くすすみ、叮嚀に腰をかがめ敬意を表しける。桃上彦は朧月夜のため何れの女性なるかを判別するに苦しみぬ。このとき女は、 『貴下は我がもつとも敬愛する桃上彦に在さずや』 と袖をもて顔を覆ひ、腰を屈め恥かしげに花のごとき優しき唇を開きたり。桃上彦は倒れむばかりに驚きいたる。この体を見てとりたる女性はしづかに、 『行成彦らは常世城の大会議において、傍若無人にして[※御校正本・愛世版では「妾は常世城の大会議について、行成彦等は傍若無人にして」になっているが、それでは主語・述語がおかしく、文意が伝わらない。霊界物語ネットでは校定版・八幡版に準じて「行成彦らは常世城の大会議において、傍若無人にして」と修正した。]ほとんど天使長の代理たるの資格なく、諸神人環視のうちにて終生拭ふべからざる恥辱を印したり。妾はいま常世の国にありて、神政を輔佐しつつあれども、元来妾が出生の聖地なる高天原を一刻も忘れたることなし。しかるに聖地の代理として出張したる行成彦の行動は実に聖地を辱しむるものなれば、妾は悲歎に堪へず、如何にもして聖地の権威と声望とを回復せむと日夜焦慮し、遠き海山を越え繊弱き女性の足の痛みも、聖地を思ふ誠心のあまり打ち忘れ、夜を日につぎてここにその実情を貴下に愬へ、善後策を講じ、もつて国祖の神慮に叶ひたてまつらむとす、貴下の聖慮いかに』 と言葉たくみに小声に述べ立てたるに、桃上彦は驚くかと思ひきや、満面に会心の笑をもらしける。月と花とに照されたる桃上彦の笑顔をチラリとながめたる女性は、得意の色を満面に漂はしたりき。 若き男の清き姿と、浦若き女の姿は、しばらく花の庭に無言のまま立ち停まれる折しも月は雲の戸さらりと左右に開き、あたかも秋天の明月のごとく、光り輝ける二人の顔はいやが上にもその艶麗を加へたり。天には皎々たる月影蒼空を照し、下には大地一面の花筵、その中に窈窕鮮麗なる若き男女の二人、漆のごとき黒髪を長く背後に垂れ、庭園を逍遥する有様は、天人天女の天降りたるがごとき高尚優美の面影をとどめける。 桃上彦は若き男女の夜中に私語するを他神司に見つけられ、痛からぬ腹を探られ、思ひも寄らぬ濡衣を着せられむことを遠く慮り、女を伴なひ態と足音高く殿内に進み入りぬ。桃上彦は女性にむかひ何事かささやきながら戸の入口にて袂を分ちぬ。この麗しき女性は果して何人なりしならむか。 (大正一〇・一二・二四旧一一・二六加藤明子録)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 30 七面鳥 第三〇章七面鳥〔一八〇〕 聖地の天使長広宗彦命は、常世城における会議の結果と、行成彦一行の消息如何にと心を悩ませゐたる折しも、桃上彦の従臣なる八十猛彦、百猛彦は慌ただしく広宗彦命の前にあらはれ、その面上に一種異様の色をうかべて、 『急変あり、隣人を遠ざけたまへ』 と奏上しける。 広宗彦命は二人の啻ならざる顔色に不審の眉をひそめながら、その言を採納して従臣らを残らず別室に立去らしめたり。二人は肩を怒らせ肱を張り、眼を丸く光らせ、口を尖らせ、何物にか襲はれたるごとき形容にて、 『天使長よ、常世の会議について一大事変突発せり。天則破壊の張本人は貴下の代理として出張されし行成彦一行なり。ただ今常世姫遥々来城ありて、その詳細を貴下を通じ、国祖の大神に奏上すべく準備中なり。いかが取計らはむや』 と二人は異口同音に符節を合したるごとく奏上したり。二人の一時に同じ語を揃へて発したるも道理、二人は野心つよき桃上彦の命により、持てる笏板の裏にこの奏言を書き記して読みあげたればなり。 広宗彦命は二神の意外なる報告に茫然として返す言葉も出ざりし。時しも桃上彦は、常世姫の後にしたがひ、悠然として入りきたり、勝ち誇りたる面色にて、その麗はしき白き顔を空に向つて少しくしやくりながら、 『ただ今これなる常世姫、常世城の常世会議の報告のため、はるばる来城あり。速かに国祖の大神に、この由伝奏せられたし』 と叩きつけるやうに云ひければ、広宗彦命は弟の高慢不遜なる態度に憤懣せざるを得ざりけり。されど天地の律法に省み、わき立つ胸をジツとこらへ、さあらぬ体にて、 『常世姫遠路の御旅行、御疲労のほど察し入る。先づこれにて御休息あれ』 と席をゆづつて側に端坐したり。常世姫は、何の憚るところもなく、 『しからば高座を許されよ』 と悠然として座に着きぬ。この時の姫の態度は、群雀の中に丹頂の鶴のただ一羽、天空より舞下りしごとく、一種不可思議の威厳をもつて、諸神司を圧伏するやに見えにける。 常世姫は、慇懃に一別以来の挨拶を述べ、かつ行成彦を聖地の代理として、はるばる常世城に派遣されしその好意を感謝し、かつ八王大神はじめ我身の不覚より、千載一遇の大会議をして紛糾混乱の極に達せしめ、かつ聖地の使臣らの一片の誠意なく、権謀術数のみをこれ事とし、神格を傷つけたることを遺憾とするの旨を言葉さはやかに諄々として述べ立てたり。 広宗彦命は頭上より突然冷水を浴せかけられたるごとき心地して、答ふる言葉も知らざりき。姫はなほ語をついで、 『妾は貴下の知らるるごとく、国祖国治立命の娘稚桜姫命の第三女にしてこの聖地に永く神務を執り神政を輔佐したてまつりたるは、貴下の熟知さるるところならむ。妾は身はたとへ海洋万里を隔てたる常世の国にありといへども、聖地を忘れたることは瞬く間もなし。今回の常世会議は、神定の聖地にて開かざりしは、第一八王大神はじめ妾の失態には相違なけれども、今日の聖地の実況に照し、深く思ひ、遠く慮りて聖地を避け、常世城に開催したるもその真意は、聖地の混乱紛糾の内情の天下に暴露せむことを恐れたればなり。しかるにただ単に吾々夫婦の野心遂行のために、常世城に諸神司を集めこれを籠絡せむとしたりとの聖地の使臣らの言は、実に乱暴の極にして天地の大神も、各神人も共に歯ひせざるの大非行なりと信ず。賢明なる貴下は天使長たるの資格をもつて、妾が陳述の詳細を国祖の神に進言されたし。貴下にして直接進言を肯ンじたまはざれば妾を大神の御前に導きたまへ』 と進退させぬ言霊の猛烈なる釘、鎹を打たれる広宗彦は思はず額を撫で、頭を掻き太き息を漏らすのみなり。 このとき桃上彦は猛然として立上り、 『兄上に一言せむ』 と威猛高に呼はる折しも、門外俄に騒がしく、広若を真先に二三の従臣慌しく入りきたり、広宗彦命に向ひて、 『行成彦の御一行御帰城あり』 と報告したりけるに、常世姫、桃上彦の顔色は、七面鳥のごとくさつと色を変じたりける。アヽこの結果は如何。地震か暴風雨の襲来か、次章に明白とならむ。 (大正一〇・一二・二四旧一一・二六外山豊二録) (第二二章~第三〇章昭和一〇・一・二一於久留米市布屋旅館王仁校正)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 31 傘屋の丁稚 第三一章傘屋の丁稚〔一八一〕 花のかんばせ月の眉、雪をあざむく優美姿の常世姫も、行成彦の一行御帰城あり、との急報に驚異の眼を見張り、不安の色を漂はしける。この光景を見て取つたる桃上彦は、ただちに八十猛彦、百猛彦に目配せしたれば、二人はうなづきながら急遽表に駆出したり。これは行成彦以下の神人を竜宮城に導くためなりける。 二人は、あまたの部下を率ゐて一行を出迎へ、今回の遠旅の使命を了へ無事帰城せられしを祝し、かつその労苦を謝しける。 行成彦はまづ兄の天使長に拝顔せむことを望みけるに、二人は言を設けて、ただ今天使長は国祖大神と御懇談の最中なれば、暫時この城内に休息されたしと進言したりける。行成彦命以下の神司らは、遠路の疲労を慰せむとその言にしたがひ、城内の別殿に入り休息したり。諸神将卒一同も又竜宮海に瀕せる高楼に登り、春の海面に陽炎のきらめき渡り温かき風のおもむろに小波の皺を海面にゑがき、水茎の文字の清く美しく彩る長閑な光景を見やり、祝ひの酒に微酔の面をさらしつつ、広宗彦命の招き出しをいまや遅しと心待ちに待ちゐたり。しかして行成彦一行は、先だちて常世姫の来城せることを夢にも知らざりにける。 広宗彦命は行成彦一行の帰城と聞き、一刻も早く面会して、その真相を聞かむことを急ぎたれど、常世姫、桃上彦の二人のために止むを得ず促されて、国祖の御前に参進したり。常世姫は国祖の御前に恭しく低頭平身して、御機嫌を奉伺し、かつ八王大神および吾身の自由行動の律法に違反せることを涙を流して陳謝し、速やかに天地の律法に照し厳罰に処せられむことをと泣いて訴へ、かつ行成彦をはじめ聖地の使臣らの権謀術数の奸手段を弄して大会議を攪乱し陋劣極まる手段を用ゐて、神司らを煽動し、つひに天地の律法を破り、天下にその暴状と卑屈とのあらむ限りを遺憾なく暴露し、聖地の威厳をして、まつたく地に落さしめたりと、虚実交々進言したり。国祖は顔色俄に一変し一言の挨拶もなく奥の一室に入り玉ひけり。広宗彦命、常世姫、桃上彦は是非なく退出して錦の館に引上げたり。 ここに行成彦は、今回の常世会議において、殊勲を建て八百八十八柱の神司らの精神を統一し、聖地の危急を根底より救ひたる大道別をはじめ猿田姫、出雲姫を先導に、八王八頭を従へ天にも昇る心地して、得々とし意気昇天の勢をもつて、衆望を一身に集め、八王大神なる大道別とともに潔く帰城したるなりき。 この光景を窺知したる桃上彦は嫉妬の念押ふるに由なく如何にもして行成彦を聖地より排除せむと、ここに常世姫と計り、国祖に虚実交々言辞をたくみに讒言したるなり。 聖地に今回参向したる、八王以下は、モスコーの道貫彦、南高山の大島別および玉純彦、森鷹彦の四神司と聖地の神司らより外には、八王大神を大道別の偽八王大神たりしことを知るものなかりける。 ここに行成彦は、広宗彦命、事足姫に謁見をもとめ、常世城における大成功を詳細に物語り、かつ大江山の鬼武彦をはじめ、高倉と旭の殊勲を物語り、なほモスコーの宰相たりし大道別の永年の苦心より、つひに八王大神の替玉に選まれ、八王大神および大自在天の大陰謀を根底より覆へし、各山各地の八王以下を、心底より帰順せしめたることを、一々詳細に物語りける。 広宗彦命は、弟の捷報を一々聞き終りて歓喜するならむと、従臣一行は御兄の様子を窺居たり。されど広宗彦命の面上には、何となく暗影のさし居ることは歴然として表はれ居たり。行成彦をはじめ御母の事足姫は、不審に堪へざるもののごとし。広宗彦命はやうやく口を開き、 『大道別はいま何処にありや』 と尋ねけるに、行成彦は何心なく、 『ただいま別殿に諸神司に護られ、八王大神となりて休息せり。しかして諸神司の大部分は八王大神常世彦と確信しつつあり。この機を逸せず、彼の口をもつて八王大神を辞職せしめ、諸神司をして御兄の直属のもとに帰順せしむるの神策確立せり。兄上よ歓ばせたまへ』 と一切の秘密を打ち明けたる折しも、廊下に小さき足音聞えきたりぬ。はたして何人の立聞きならむか。兄弟二人は声をひそめて、その足音のする方に耳をかたむけたり。 天に口あり壁に耳あり、慎むべきは、密談なりける。 (大正一〇・一二・二五旧一一・二七クリスマスの日近藤貞二録)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 32 免れぬ道 第三二章免れぬ道〔一八二〕 しばらくありて桃上彦は、慌ただしく入りきたりて二人の前に拝跪し、畏れ多くも国治立命より吾母事足姫をはじめ御兄広宗彦命、行成彦にたいし大至急参向すべしとの厳命なりと報告したり。 桃上彦は天使長広宗彦命の副となりて、神政を補佐し居たりしなるが、つひには兄二柱の愛を忘れ、みづから代つて天使長の聖職に就かむと企て居たるなり。このとき常世姫の来城せるを奇貨とし、たがひに心を合せて兄二柱を排除せむと考へたりける。事足姫は三柱の兄弟の子を伴ひて、国祖大神の正殿に伺候したりしに、国祖の傍には常世姫、常世彦の二神司が行儀正しく左右に侍し居たり。行成彦はこの姿を見て卒倒せむばかりに驚きたり。このとき国祖大神は、言葉おごそかに、 『大道別を吾が前に連れ来れ』 と命ぜられたるにぞ、行成彦は唯々諾々として、この場を退出し稍ありて、大道別を召し連れ国祖の御前にふたたび現はれけり。常世彦は大道別に向つて、 『汝の智略には余も感服したり』 と笑みを浮べて顔をのぞき込めば、大道別は機先を制せられて狼狽したり。国祖の大神は大道別に向ひ、 『汝は神界のために永年の艱難辛苦を嘗め、以て神人たるの天職を全うせしは、我も感謝の念に堪へず。されど汝は智量余りありて徳足らず、偽の八王大神となりてより忽ちその行動を一変し、その約に背きたるは神人として余り賞揚すべき行為にあらず。また行成彦以下の使臣の行動は、聖地を大切に思ふの余り天地の律法を破りたり。汝らは至誠至実の者なれども、如何せむ国祖の職として看過すべからず。アヽ、かかる功臣をば無残にも捨てざるべからざるか』 と落涙にむせびたまふ。大道別は恐縮しながら、国祖大神に目礼し、八王大神その他の神司らに一礼し直ちに御前を退出し、そのまま竜宮海に投身したりける。その和魂、幸魂はたちまち海神と化しぬ。国祖はこれに琴比良別神と名を賜ひ永遠に海上を守らしめたまひ、その荒魂、奇魂をして日の出と名を賜ひ、陸上の守護を命じたまひぬ。琴比良別神および日の出の神の今後の活動は、実に目覚しきものありて、五六七神政の地盤的太柱となり後世ふたたび世に現はるる因縁を有したまへるなり。 ここに広宗彦命は国祖の御心情を拝察し、責を負ひて天使長の聖職を辞し、弟の桃上彦に譲りける。ちなみに桃上彦の神政経綸の方法は前巻に述べたるごとく、つひには国祖の御上にまで累を及ぼし奉るの端を開きたりける。 八王大神は常世姫とともに桃上彦の襲職を祝したり。このとき大江山の鬼武彦は、高倉、旭を伴なひ国祖の大前に進み出でて、最敬礼を捧げたるのち、 『今回の常世城における行成彦以下の大功労者をして、退職を命じたまひしは如何なる理由にて候や』 と恐るおそる伺ねたてまつれば、国祖はただ一言、 『汝らの心に問へよ』 と答へたまひける。鬼武彦はやや色をなし、 『鹿猪尽きて猟狗煮らる。吾々は貴神の命によりて常世城に忍び入り八王大神を悩ませ、その陰謀を断念せしめたるのみ。決して行成彦をはじめ一行の使臣は大神に背きて自由行動を取りしにあらず。ただ一点の野心も無く、聖地を守り御神業を輔佐したてまつらむとしての至誠の行動に出たるのみ。また吾は内命によりて、忠実に行動せしは御承知の御事に候はずや』 と少しも畏るる色なく奏上したりける。 国祖の大神の御顔には何となく驚愕の色表はれたまひぬ。それと同時に八王大神の面上にはいやらしき笑ひがひらめき渡りける。アヽ、国祖大神の顔色と八王大神の顔色との、氷炭の差異を生じたるは、果して何事を物語るものならむか。読者諸氏はこの不思議なる光景につきて十分熟考されむことを望むものなり。 (大正一〇・一二・二五旧一一・二七広瀬義邦録)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 33 至仁至愛 第三三章至仁至愛〔一八三〕 聖地ヱルサレムの大宮殿には、天使長桃上彦新任の披露と、広宗彦命、行成彦以下の神司らの退職の披露を兼ねたる大宴会が開かれたるが、常世彦、常世姫、大鷹別その他各山各地の八王八頭およびその他の神人は、この芽出たく、芽出たからぬ宴席に綺羅星のごとく列席したり。 桃上彦は立つて新任の挨拶をなし、 『今後は国祖の大御心を奉体し、天地の律法を厳守し、諸神人とともに世界経綸の大業に、協力一致奉仕せむことを望む』 と簡単に述べ終り、悠然として中央の正座に着きぬ。広宗彦命は自席より立上り、諸神人にむかひ、 『永年諸神司は愚昧なる小生を輔けて、今日まで天使長の職を保たしめ給ひしその好意を感謝す』 と沈痛なる語調をもつて、今回退職の已むを得ざるに立到りしことを簡単に述べ終り、今後は身を雲水にまかせ、天下を遍歴し、身魂の修養につくし、蔭ながら神業に奉仕せむことを誓ひ、元の座に悄然として復したり。 このとき八王大神はじめ常世姫、大鷹別の面上には、得もいはれぬ爽快の色浮びゐたりき。行成彦は立上り沈痛なる語気にて、 『吾が心の暗冥愚直よりつひに常世会議における、天則違反の行動を不知不識のあひだに執りたることを悔悟し、みづから責任をおびて職を辞し、兄と均しく聖地を離れて天下を遍歴し修養を積み、ふたたび諸神司らの驥尾に附して神業に奉仕するの時機あらむ』 と述べ、 『今後の吾が犠牲的行動については、諸神司の懇篤なる御教示を給はらむことを希望す』 と陳べ終り、力なげに元の座に復しける。 このとき奥殿より玉の襖を押開き、数多の侍神司をしたがへて、国祖国治立命はこの場に現はれたまひ、言葉しづかに宣りたまふやう。 『この度の広宗彦命以下の退職については、余の胸は熱鉄を呑むがごとく、千万無量の想ひに満つ。されど天地の律法は犯しがたし。今となつては如何ともするの余地なく遺憾ながら至仁至愛にして、至誠天地に貫徹するの忠良なる神司を捨つる、余が心中を推察せよ』 と、その御声は曇り、御涙さへ腮辺に伝ふるを窺ひたてまつりたる。 一座の神人らは、国祖のこの宣示に一柱も顔を得上ぐるものはなく、感慨胸に迫つて、熱涙ほとばしり、鼻をすする声四辺より聞へ来りぬ。国祖は、なほも御言葉をつがせられ、涙の袖をしぼりながら、 『神は洽く宇宙万有一切をして美はしき神国に安住せしめ、勇みて神界経綸の大業に奉仕せしめむとし、昼夜の別ちなく苦心焦慮す。汝神人ら、神の心を心とし万有一切にたいし、至仁至愛の真心をもつてこれに臨み、かつ忍耐に忍耐を重ね、克く神人たるの資格を保全せよ』 と、説き示し給ひ更に重ねて宣りたまはく、 『神の慈愛は敵味方の区別なく、正邪理非を問はず広く愛護す。汝ら桃上彦をはじめ諸神人一同、これを見よ』 と上座の帳を、手づから捲り上げたまへば、六合も照りわたる真澄の大鏡懸りあり。 諸神人は国祖大神の宣示にしたがひ、真澄の大鏡の安置されたる正座に、一斉に面をむけ思はず低頭平身、得も言はれぬ威厳に打たれ、落涙しつつ頭を恐るおそるもたげ、鏡面を拝すれば、こはそも如何に、シナイ山の渓間に天の鳥船より落下して身魂ともに粉砕したる魔子彦をはじめ、竹熊、鬼熊、木常姫、鬼姫、磐長姫、口子姫、鬼雲彦、佐賀姫、真心彦、玉の湖に沈められたる三柱の白狐および八尋殿にて玉を差出したる五柱の竜宮の神人および醜原彦、胸長彦、鶴若、亀若、八十枉彦その他前述の神罰を受けて滅亡したる諸々の悪人は、いづれも生々としてその肉体を保ち、国祖の身辺にまめまめしく、楽し気に仕へ居ることを明瞭に覚り得たりける。 国祖は満座にむかひ、 『汝らは神の真の愛を、これにて覚りしならむ』 と言ひ終りて、背部を諸神の前にむけ、 『わが後頭部を熟視せよ』 と仰せられたれば、諸神人はハツト驚き見上ぐれば国祖の後頭部は、その毛髪は全部抜き取られ、血は流れて見るも無残に爛れ果て、御痛はしく拝されにけり。神司らは一度にその慈愛に感激し、この御有様をながめて、涙の両袖を湿し、空に知られぬ村時雨、心も赤き紅葉を朽ちも果てよと吹く風に、大地を染めなす如き光景なり。神人のうち一柱も面を得上ぐるものなく畳に頭を摺りつけて、各自の今まで大神の御心の慈愛深きを知らざりし罪を感謝したり。 大神の神諭に、 『この神はたれ一人つつぼに致さぬ。敵でも、悪魔でも、鬼でも、蛇でも、虫けらまでも、救ける神であるぞよ』 と示されたる神諭を思ひ出すたびごとに、王仁は何時も落涙を禁じ得ざる次第なり。 悪神の天則違反により厳罰に処せられ、その身魂の滅びむとするや、国祖はその贖ひとして、我生毛を一本づつ抜きとりたまひしなり。この国祖の慈愛無限の御所業を覚りたまひし教祖は、常に罪深き信者にたいし、自ら頭髪を引き抜き、一本あるひは二本三本または数十本を抜き取り、 『守りにせよ』 と与へられたるも、この大御心を奉体されたるが故なり。 (大正一〇・一二・二五旧一一・二七外山豊二録)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 34 紫陽花 第三四章紫陽花〔一八四〕 満座の諸神人は、国祖の無限無量の仁慈の有難さにほだされて感涙に咽び、さしもに広き宮殿も寂として水を打ちたるごとく、ただ諸所にすすり泣きの声、感嘆の言葉のひそかに聞ゆるのみなりき。 国治立命は儼然として正座に直り、言葉をあらためて桃上彦を天使長に任じ、竜山別、八十猛彦、百猛彦、鷹住別を聖地の天使の職に命じ、常世姫は竜宮城の主管者となし常世彦は常世城に帰りて神政を奉仕し、かつ天使八王となり、その他の八王八頭は従前のとほり、誠心誠意神明に奉仕し、天使長桃上彦の指揮に従ふべしと宣示し、満座の神司に一礼し、冠を戴き、頭部の血痕を秘し、憮然として奥殿に入らせ給ひける。 桃上彦命、広宗彦、行成彦も共に顔を見合せ、大神の大御心に照り合せ、互に心中の不平を根底より科戸の風の天の八重棚雲を吹き払ひしごとく、あたかも光風霽月の心地を遺憾なく色に表はしゐたりける。智略縦横にして、奸佞ならぶ者なき常世彦も常世姫も、大自在天の従臣なる大鷹別以下の暴悪なる曲神も、いまは前非を悔い、誠心誠意国祖大神の御心を体し、忠実に奉仕し、神業の一端たりとも輔佐し奉らむとの本守護神の至誠を発露し、袖をしぼりて歔欷するにいたりぬ。 『あゝ宇宙間何ものといへども、至善至愛の道に敵する者なかるべし』 と神人らは口をそろへて感嘆の辞を洩らしゐたり。強力無双の森鷹彦は許されてふたたびモスコーの従臣となり、鬼武彦、高倉、旭は聖地を離れ、各地に出没して山の尾上や川の瀬に、伊猛り狂ふ邪神を至善至愛の心をもつて帰順せしむることに努力したりける。 モスコーの城主道貫彦の娘春日姫および南高山の城主大島別の娘八島姫は竜宮城に止り、常世姫の左右の侍女として奉仕することとなり、桃上彦命は聖地ヱルサレムの大宮殿にありて、国祖の大神に奉仕し神務を励み、神政を聞き、下神人にたいし慈愛をほどこし、聖地の神政はふたたび枯木に花の咲きしがごとく隆盛を極めたり。また竜宮城は常世姫の指揮の下に一時は完全に統治されゐたりしに、星移り月更るにしたがひ、桃上彦命はやや神政に倦怠の気運を萌し、自由放埒の所業多く国祖大神の大御心を忘却するにいたり、つひには八王常世彦をはじめ各山各地の神司らの信望を失墜し、政令おこなはれず、つひに地の高天原の神政を破壊し、ふたたび衰亡の悲境に陥らしめたりける。 前篇に述べたるごとく桃上彦命は御母事足姫の天則を破り、後の夫春永彦と相通じ、その罪悪の血統を享けたる桃上彦なれば、つひにその金箔を剥がし地金を暴露したるもやむを得ざる次第なりといふべし。 これを思へば、人たる者は胎内教育を最も尊重せざるべからず。父母両親の精神行動至正至直なるときに受胎せし生児は、至正至直の人となり、放逸邪慳なるときに宿りたる生児は、また放逸邪慳の性質をもつて生れ、悪逆無道の精神行動を執りたるとき受胎したる子は悪逆無道の精神をもつて生るるものなればなり。 故に子の親たるものは、造次にも顛沛にも神を信じ、君を敬ひ、至誠善道を行はざるべからずと知るべし。 (大正一〇・一二・二五旧一一・二七桜井重雄録)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 35 頭上の冷水 第三五章頭上の冷水〔一八五〕 聖地ヱルサレムは桃上彦命の失政により、ふたたび混乱紛糾をかさね、日向に氷の解くるがごとく、日に月に衰滅に傾ききたり。国祖大神はあたかも手足をもぎとられし蟹のごとく、進退きはまり如何ともなしたまふ術なかりける。各山各地の八王はふたたび常世城に集まり、聖地の回復を首をあつめて凝議するの止むなきに至りける。 このとき聖地より常世姫の使臣として広若、鬼若の二人は、天の鳥船に乗りて下り来りけるに、八王神常世彦は、ただちに使臣を一室にみちびき来意をたづねたり。二人は聖地の惨状目も当てられず、このままに放任せむか、聖地は滅亡するの外なきことを詳細に述べたてたり。 天授の本心に立帰り、本守護神の活動全く、至善至美の善神と改まりゐたる常世彦も、このとき一種の不安を感じ、天を仰いで嗟嘆の声を漏らしける。この虚を狙ひゐたる八頭八尾の大蛇の霊は、頭上よりカラカラと打ち笑ひ、 『小心者よ卑怯者よ、汝のごとき弱虫にては常世城はおろか、聖地の救援を焦慮するも何の力量かあらむ。汝すみやかに本心に立帰り、荒魂の勇を振りおこし、奇魂の覚を開き、くだらぬことに煩慮するよりも男らしく何ゆゑに勇猛心を発揮せざるか、自信と断行力なき者は蛆虫も同様なり。すみやかに大勇猛心を振りおこし、快刀乱麻を断るの壮烈なる神業を敢行せよ。吾こそは日の稚宮に坐す日の大神の神使なり、夢々疑ふなかれ』 といふかと見れば、その声はバタリと止まりにける。八王神は青息吐息の体にて両手を組み、奥殿に安坐してその処置につき千思万慮を費しゐる折しも、ふたたび天空に声あり、 『吾は大国治立命なり。国治立命は今や窮地におちいり、非常なる苦境にあり。汝は神業に奉仕する神聖なる職を奉じながら、かかる危急存亡の場合何を苦しみて躊躇逡巡するや。有名無実とは汝がことなり。すみやかに奮ひ起て、世の中に恐るるものは神より外になし。一つも憂慮することなく各地の八王神と語らひ、すみやかに聖地ヱルサレムに馳せつけよ。神は汝に添ひて守らむ』 と声高らかに呼び終り、またもや鬼の声はバツタリと止まりぬ。 常世彦は五里霧中に彷徨しながら、大慈大悲の国祖大神の窮状を耳にして之を坐視するに忍びず、断然意を決して神人の集へる大会議場に出席し、大国治立命および外一神の宣示を諸神人に告げ決心を促したりける。しかしてこの大国治立命と称するは全く偽神にして、大自在天を守護する六面八臂の鬼なりにける。 数多の八王は常世彦の言を聞きて、聖地を思ふのあまり、前後の分別もなく、またその声の正神の言なるや、邪神の言なるやを考慮する暇もなく、異口同音に常世彦の言に賛成したり。ここにおいて常世彦は誠心誠意聖地を救ふべく、八王とともに天の磐樟船に乗りて天空を轟かしつつ聖地ヱルサレムに安着したりける。 桃上彦命は八王の翼を連ねて下りきたれるその光景に胆をつぶし、 『常世彦またもや悪心を起し、この聖地を占領し、みづから代りて国祖の地位までも占領せむとする反逆の行為にきはまつたり。聖地の神人らはただちに武装を整へ、彼ら反逆者を殲滅せよ』 と声を涸らして号令したれど聖地の神人らはその勢力の優勢なるに胆を潰し或は腰を抜かし、猫に逐はれし鼠の如く各自身の安全を計りて逃げ出すもあり、隠るるもあり、一柱として桃上彦命の命令に服従するもの無かりけり。桃上彦命は周章狼狽して大宮殿に進みいり、国祖大神に謁し、 『常世彦反逆を企て、数多の八王その他の神人を率ゐて短兵急に攻め寄せたり、いかに取計らはむや』 と進言したるに、国祖大神は奮然として立ちあがり、 『事ここにいたりし原因は汝が律法を破壊し、放縦不軌の行動を執りし報いなれば、一時も早く天に向つて罪を謝し、ただちに職を退き至誠を表白せよ』 と厳重に言ひわたし、そのまま奥殿深く入らせたまひぬ。桃上彦命は何とせむ方なく、涙にくれ悄然として宮殿を立ち出で吾が居館に帰らむとする時、常世姫は春日姫、八島姫とともに礼装を凝らして入りきたり、 『八王大神聖地の混乱を坐視するに忍びず、あまたの神人とともに聖地を救はむがために参向したり。天使長はすみやかにこの次第を国祖大神に進言されたし』 と言葉も淑やかに述べ立つるにぞ、桃上彦命はふたたび宮殿に参向し襖の外より国祖大神にこの次第を進言せむとし悲痛なる声を絞りながら一言奏上せむとするや、大神は中よりただ一言、 『神の言葉に二言なし、速に天地にむかつて汝が罪を謝せ、再び吾が前に来る勿れ』 と厳格なる御言葉をもつて宣はせたまひければ、桃上彦命は是非なく宮殿を下り、面に憂鬱の色をうかべながら再び吾が居館に帰りける。 (大正一〇・一二・二五旧一一・二七加藤明子録) (第三一章~三五章昭和一〇・一・二二於久留米市布屋旅館王仁校正)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 36 天地開明 第三六章天地開明〔一八六〕 桃上彦命は、国祖大神の峻厳骨を刺すてふ厳格なる御一言にいよいよ退職の決心をなし、その由をただちに竜宮城の主宰常世姫に伝へたり。常世姫はただ一言留任の勧告をも与へず、内心欣喜雀躍しながら、さあらぬ体にて同情の色をうかべ、無言のまま命の辞表を受けとり、ただちに聖地ヱルサレムの大宮殿に参向し、桃上彦命の責任を自覚し、骸骨を乞ふ旨を恭しく進言したりける。 ここに聖地高天原はあたかも扇子の要を除したるがごとく、四分五裂の惨状を呈するの止むなきに立ち到り、各山各地の八王八頭をはじめ国魂その他の諸神司らは高山の末低山の末より集まり来り、また竜神は五つの海より聖地をさして暴風を捲き起し、海面を躍らせながら黒雲に乗じて残らず聖地に集まりける。聖地に集まりし神人の数はほとんど粟粒三石の数に達したり。さしも剛直にかまへ常世会議の出席を峻拒したりし万寿山の八王も、聖地の変乱を聞き一切の情実を排して集まり来たり、霊鷲山に退隠したる大八洲彦命、言霊別命、神国別命、大足彦をはじめ、エデンの野に蟄居を命ぜられたる高照姫命、真澄姫、言霊姫、竜世姫の諸神人も禁を破り、あまたの従臣を引き連れ聖地の一大事とかけ集まり来たりける。 今まで大八洲彦命一派ならびに高照姫命一派にたいし、極力反抗の態度を持しゐたる大自在天大国彦も常世彦も、この度の聖地の殆ンど滅亡に瀕したる惨状をながめ、何れも憂愁の念にかられ、敵味方の感情を心底より除却し、たがひに聖地回復の誠意を復起したり。ことに大自在天のごときは、大八洲彦命、高照姫命一派の神人の隠忍蟄伏の心情を察して同情の涙に暮れゐたりける。元来は全部国治立命を元祖といただく神人なれば、いよいよ危急存亡の場合に立ちいたりては、区々たる感情はいづこにか雲散霧消して各自神司は互に謙譲の徳を発揮し、相親しみ相愛し、毫末も心中に障壁を築かざりけり。諺に、 『親は泣き寄り、他人は食ひ寄り』 といふ。元来正しき神の直系を受け又は直系より分派して生れ出たる神人は、この時こそ惟神の本心に立ち復り至誠を発揮し大神に対し報本反始の実を挙げむとの誠意を顕はしける。 『落ぶれて袖に涙のかかる時人の心の奥ぞ知らるる』 遉に神世の神人だけありて、その天性に立復り本守護神の発動に復帰したる時はすべて敵もなく味方もなく、怨恨、嫉妬、不平不満の悪心も発生する余地無かりしなり。かくのごとき至善、至美、至直の神心を天賦的に保有する神人といへども、天地間の邪気の凝結して現はれ出たる六面八臂の鬼や、金毛九尾の悪狐や、八頭八尾の大蛇の霊にその身魂を誑惑され、かつ憑依さるる時は、大神の分霊なる至純至粋の身魂もたちまち掌をかへすごとく変化するにいたる。その速かなること恰も影の形に随ふが如くなり。 序に述べおきたきことあり、そは三種の邪神の名義についてなり。六面八臂の邪鬼といふは一つの身体に六個の頭や顔の付属せるにあらず。ある時は老人と化し、ある時は幼者と変じ、美人となり醜人と化し、正神をよそほひ、ある時は純然たる邪神と容貌を変じ、もつて神変不思議の魔術をおこなふ者の謂にして、また八臂とは一つの身体に八つの臂あるにあらず。これを今日の人間に譬ふれば、一つの手をもつて精巧なる機械を作るに妙を得てをり、書に妙を得てをり、絵画に堪能してをり、音楽に妙を得てゐるとか、一切の技術、技能を他に勝れて持ち居たる手腕の意なり。強ち八種のことに妙を得たりといふ意味ではなく、一切百種の技能に熟達し居るの意義なり。 また金毛九尾白面の悪狐といふは、金色はもつとも色の中においても尊く、金属としても最上位を占てをる。狐としては黄金色の光沢ある硬き針毛を有して居るが、化現するときに美しき女人の体を現はし優美にして高貴なる服装を身に纏ひ、すべての神人を驚かしめ、その威厳に打たれしめむとするをいふなり。また九尾といふは一匹の狐に九本の尾の生えてゐる意味にあらず、九とは数の終極、尽すといふ意味にして、語をかへていへば、完全無欠といふことなり。 いま筑紫の島を九州といふのも、九は尽しの意味から出たるなり。尾といふは総てのものを支配する力をいふ。後世にいたり三軍の将が采配を振つて軍卒を指揮し、あるひは祭典にさいし祓戸主の役が大幣を左右左に振つて悪魔を退け、かつ正しき神を召集し、邪気を払拭するが如し。真澄姫が黄金の幣を打ち振りて魔軍を亡ぼしたまひしも、悪くたとへていへば金毛九尾の尾を振りたると同意味なり。されど正しき神の使用するときは金幣を左右左に振るといひ、邪神の使用する時は九尾を振ると称へたるなり。この物語のなかの所々に金毛八尾、銀毛八尾とあるは、九尾にやや劣りし働きをなす邪神といふ意味なり。 また八頭八尾の大蛇といふも、決して一つの蛇体に八つの頭があり、また尾が八ツあるにあらず。蛸や烏賊や、蟹には足が八つもあるが、蛇体には偶に尾の先二つに裂けて固まれるがありても、決して八つの岐になり居るものはなし。仏書に九頭竜などといひ、九つの頭のある竜のことが示しあれど、これも全く象徴的の語にして、神変不可思議の働きをなす竜神といふ意味なり。昔から「長いものには捲かれよ」といふ譬あり。大蛇は他の動物に比して身の丈もつとも長く、かつ蚯蚓のやうに軟弱ならず相当に堅き鱗をもちて身体を保護し、沢山の代用足を腹部に備へゐるなり。腹部の鱗と見ゆるは、みな蛇の足の代用をするものなり。足は下を意味す。ゆゑに上に立ちて下を指揮するものを長といひ、また長者ともいふなり。この大蛇の霊は世界の各地にその分霊を配り、千変万化の活動をなし、神人の身体を容器として邪悪を起さしむる悪霊の意なり。十二柱の八王八頭を十二王、十二頭と称へず、八王、八頭と称へらるるごとく、この八頭八尾の大蛇の働きも決して八種に限るにあらず。千変万化反道的行為を敢行する悪力の働きの意なり。 王仁は聖地の混乱の状況を述ぶる心算なりしが、つい談が蛇のごとくぬるぬると長く滑りて、知らず識らず山の奥に這ひ込み、深き谷間に陥りけり。これがいはゆる蛇足を添へるとでもいふならむか。 (大正一〇・一二・二六旧一一・二八加藤明子録)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 37 時節到来 第三七章時節到来〔一八七〕 地上神界の経綸の中心点なる聖地ヱルサレムは、前述のとほり、統率者を失ひ、ほとんど滅亡の域に瀕したるを、数多の神人らはあたかも日の大神の天の岩屋戸にかくれ給ひしごとく、悲しみ叫べるその中にも、ひとり常世姫は、心中深く期するところあるもののごとく面におつき合ひ的に憂ひを表しゐるものの、その奥底に何となく得意の色潜みゐたりける。 聖地の大広間には、八王八頭をはじめ、大八洲彦命、高照姫命、その他八百万の神人は、おのおの威儀を正して座を列ね、天使長の後任者をすみやかに定めむことを協議し、まづ第一に、国祖大神の神慮をうかがひ、式を挙ぐることに決定せり。ついては国祖大神の御前に出でてこれを奉伺する神人を決定せざるべからずとし、衆議はまづ多数をもつて大八洲彦命を選定したり。 このとき大八洲彦命は立つて、満座の諸神人にむかひ、 『吾はさきに天則違反の罪により、万寿山に蟄居を命ぜられたる者なれば、今この聖地に参集するも、何となく恐懼の念にかられつつあり。いかに諸神人の選定によればとて、未だ罪を赦されざる身として、至厳至貴にまします国祖大神の前に列するは、実に厚顔無恥の所為なれば、この役目のみは固く辞したし。何れの神人か改めて選定されむことを』 と、謙譲の真心を面にあらはして述べたて座に復したまへり。満場の神人も命の心情を察し、強ひてこれを止むるものなかりける。 ふたたび選定されたるは高照姫命なり。しかるに命もまた大八洲彦命とおなじく、 『妾は天則違反の罪によりエデンの野に蟄居を命ぜられたる、いはば蔭身者なり。たとへ罪なき妾としても多士済々たるこの集ひにおいて、妾のごとき女性の出しやばり、神聖なる用務を奉伺すべきに非ず。希はくは他より選定されむことを切望します』 と言ひて座に復したまへり。 ここに神人らはその言を拒むに由なく、全会一致をもつて常世彦を選定したり。常世彦は今はまつたく至善至美の大精神に立ちかへり、心中一点の欲望もなく、ただただ至誠神明に奉仕し、国祖の御神業の一端を輔佐し奉らむと決心しゐたる際なりければ、今の大切なる神務に選定されて大いに恥ぢ、たちまち立ちて満場の諸神人にむかひ、 『我は大八洲彦命、高照姫命のごとく、一度も天使長の職に就きたることなし、ただ徒に野心に駆られて、大神の神業に妨害を加へ、つひには聖地の諸神人を苦しめ、延いては国祖大神の御神慮を悩ませ奉りたる罪重き者にして、今この聖地に参向し、諸神人に面を向くるも心憂しと日夜懺悔に堪へず。しかるに吾がごとき者をして、国祖の聖慮を奉伺するの役目に選定さるるは、実に迷惑千万にして、国祖大神に対し恐懼の至りにたへず。すみやかにこの決定を撤回されむことを希望す』 と言ひて座に復したり。 このとき大鷹別は場の一隅よりすつくと立ち上り、諸神人に向つていふ。 『平時はとも角、今日のごとき危急存亡の場合にあたり、徒に謙譲の辞をくり返し、善悪を争ふべき時に非ず。機に臨み変に応ずるは、神人たるものの最も努むべきことと信ず。すべての感情を去り、既往をとがめず、現在および将来のため奮つて常世彦の御奮励を希望す』 との提案に、諸神人は異口同音に常世彦を選定したり。常世彦も今日の場合、拒絶するは却て大神の神慮を煩はし、諸神人の厚意を無視するものなりと、ここに断然意を決し、神慮奉伺の承諾をなしたり。 満座の諸神人は恰も暗夜に月の出たるがごとく喜び勇み手を拍つて祝し、ウローウローと叫ぶその声、天地も破るるばかり勇ましかりける。 ここに常世彦は、諸神人の代表として国祖のまします奥殿に進み入り、後任の天使長について恭しく神慮を奉伺したるに、国祖は、ただ一言、 『常世彦をもつて天使長に任ず』 と仰せられたり。常世彦は恐懼措くところを知らず、頭をもたげて、 『国祖に対し奉り、今日まで極悪無道の邪神に頤使され、深き罪を犯したる吾々は厚きこの恩命を拝受するは分に過ぎたり。希はくは大八洲彦命をもつて天使長に任じたまはば、有難き次第に候』 と至誠を面に表はし進言したりけれど、国祖大神は、 『神の言葉に二言なし』 とふたたび仰せられ、玉の襖を閉ぢて奥殿に入らせ給ひける。 ここにいよいよ常世彦は天使長となり、地上神界の総統者として八王八頭の上位に就くこととなり、常世彦命の名を給はりにけり。 『時節を待てよ、時節には神も叶はぬぞよ。時節さへ来れば、煎り豆にも花が咲くぞよ』 と神諭に示されたるも、全くかかる事を云ふなるべし。 常世彦命は今まで聖地の天使長たらむとして苦心に苦心をかさね、神人らの悪罵嘲笑の的となり、幾回となく終局にいたりてその目的を破壊せしめられたりしが、今や一切の欲望を捨て誠心誠意に立ちかへり、何事も惟神に任してゆきたる徳によりて、自然に秋の野の桐の一葉の風なきに落つるがごとく、大神の親任を受け、諸神人の信望を負ひて顕要の地位に上りける。 これを思へば、誠と改心の力は実に偉大なりと謂ふべし。 時満ちて捨てた望みの花が咲き (大正一〇・一二・二六旧一一・二八桜井重雄録)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 38 隙行く駒 第三八章隙行く駒〔一八八〕 地上の神界は、国祖国治立命の公明正大なる英断的聖慮に依つて、総ての神人の罪は赦され、大八洲彦命、神国別命、言霊別命、大足彦、高照姫命、真澄姫、竜世姫、言霊姫らは、国祖大神の侍者として奥殿に奉仕し、神政に向つては、少しも容喙を許されざりける。 一たん神政の職を離れ、単に国祖の帷幕に参じ、神務のみに奉仕するにいたりては、容易に神政管理者となることの出来ざるは、神界の厳格なる不文律なりき。ゆゑに是らの諸神人は、国祖御隠退とともに表面隠退されしものの、千差万様に身魂を変じ、五六七神政の暁の来るを待ちつつ神界に隠れて活動されつつありしなり。このことは後篇に判明するに至るべし。 ここにいよいよ常世彦命は、神界の執権者となり、天使長の職に就きぬ。天地開闢以来未曾有の盛典にして、かつ神人らの精神の一致したるは、空前絶後といふべき有様なりける。天上よりは天津神八百万の神人を率ゐて、天の八重雲を伊都の千別に千別て天降りたまひ、国津神は高山の伊保理、低山の伊保理を掻き別けてこの聖地に集まり来り、大海原の神は浪を開いて聖地に集まり、諸神人一斉にウローウローと祝する声は、実に清く、勇ましく、壮絶快絶たとふるにものなき状況なりける。 八王八頭をはじめ、諸神人は追々と聖地を離れて、各自所管の地に帰りける。一時神人の神集ひにより、隆盛殷賑の精気に充ちたる聖地ヱルサレムも、漸次静粛に復り、あたかも洪水の退しごとくなりぬ。神人らの合同して至誠を顕彰するときは、いかなる兇暴なる邪神といへども、これに向つて一指を染むるの余地なきものなり。 されど聖地は、自然に静粛閑寂となり、邪神界にたいしての制圧力は、手薄になり来たりけり。ここに八頭八尾の大蛇の霊は、潜心万難を排し、黄金橋下を泳ぎわたり、潜かに竜宮海を占領し、竜宮海の竜王となりて海底に潜み、時のいたるを待ちつつありける。されど流石の八頭八尾の大蛇も、天使長の身魂を犯すこと容易ならず、常世姫は依然として竜宮城の主宰となりゐたり。常世姫の身体には、一大異状を来し、俄に庭園の青梅を侍女にもぎとらせ、好みてこれを食するにいたりける。 この梅を沢山食するとともに、腹部は日に月に膨張し、十二ケ月を経て玉のごとき男子を産み落したれば、父母二神司はおほいに悦び、掌中の玉と愛で、蝶よ花よと慈しみ、その成長を引伸ばすやうに待ち居たり。ややありてふたたび常世姫は、梅の実を好むに至り、以前のごとく腹部は日に月に膨張し、十六ケ月を経て玉のごとき女子を生みける。ここにおいて男子には高月彦と命名し、女子には初花姫と命名し右と左に月花を飾つたるごとく、楽しみつつ二児の成長を待ちける。高月彦が長ずるにおよんて智、仁、勇の三徳を完全に発揮し、初花姫は親愛兼備の徳を称へられける。 あるとき常世彦命は、竜宮海に舟を泛べ、諸神人とともに酒宴を催し居たるに、たちまち暴風吹起るよと見るまに、海水は左右にパツと分れ、海底に潜む魚介の姿まで明瞭に見えにける。このとき海底より八頭八尾の大蛇の姿現はれて、見る間に高月彦となりける。常世彦命は、この怪物を一刀の下に寸断せむと思ひしが、あまり我児に酷似せるを想ひ浮べて躊躇したり。偽の高月彦は、ただちに命の居館に向つて歩を急ぎけるに、常世彦命は驚いて舟遊びを中止し、館に帰り見れば奥の間に二人の高月彦、色沢といひ、背格好といひ、縦から見るも横から見るも、少しの差異もなかりける。命はいづれを真の愛児と弁別すること能はざりける。しかして一人の高月彦が東すれば、また一人は影の形に随ふごとく東へ進み、また西へ進めば西へ進むといふ調子にて、分時といへども二人は離れざりける。 あるとき常世姫は、侍女を随へて橄欖山に遊び、無花果を取つて楽しみゐたりしが、その中に優れて色美はしく、大なる無花果の実がただ一個、時を得顔に熟しゐたり。常世姫は一目見るより、その無花果を頻りに食ひたくなりければ、侍女に命じてその無花果をむしり取らしめ、その場に端坐し、四方の景色を眺めながら、美味さうに食ひ終りぬ。 俄に常世姫は腹痛を発して苦悶し始めたるに、侍女は驚いてこれを助け起し、竜宮城内に救け帰りしが、陣痛はなはだしく、玉のごとき女子を生み落したり。女児の顔は初花姫に似るも似たり、瓜二つなりければ、父母二神司は五月姫と命名し、これを愛育したり。追々成長してこれまた姉の初花姫と背丈、容色すべてが瓜二つとなりける。 現在の親の眼より、その姉妹を弁別するに苦しみける。果してこの姉妹は何神の化身なりしか。 (大正一〇・一二・二六旧一一・二八外山豊二録)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 39 常世の暗 第三九章常世の暗〔一八九〕 聖地ヱルサレムの天使長常世彦命には、高月彦誕生して追々と成長し、父を輔けて、その勲功もつとも多く、かつ天使長の声望天下に雷のごとく轟き、その善政を謳歌せざるもの無く、一時は実に天下泰平の祥代となりける。 しかるに油断は大敵すこしにても間隙あらむか、宇宙に充満せる邪神の霊はたちまち襲ひきたりて、或は心魂に或は身体にたいして禍害を加へ、またはその良心を汚し曇らせ、つひにはそのものの身体および霊魂を容器として、悪心をおこし悪行を遂行せしめむと付け狙ふに至るものなり。 大本神諭にも、 『悪魔は絶えず人の身魂を付け狙ひ居るものなれば、抜刀の中に居る心持にて居らざる時は、いつ悪魔にその身魂を自由自在に玩弄物にせらるるや知れず。ゆゑに人は神の心に立帰りて神を信仰し、すこしも油断あるべからず』 常世彦命は神界の太平にやや安心して、あまたの侍臣とともに竜宮海に舟遊びの宴をもよほすとき、竜宮海の底深く潜みて時を待ちつつありし八頭八尾の大蛇の邪霊は、この時こそと言はむばかりに、その本体を諸神人の前に顕はし、態と神人らの前にて高月彦と変化し、常世彦命の居館に入りこみ神人らを悩めたるなり。 常世彦命はじめ聖地の神人らは、二人の高月彦のうち一人は邪神の変化なることを何れも知悉すれども、その何れを真否と認むること能はざりしために、止むを得ず、同じ姿の二人を居館に住まはせたりける。真の高月彦は、 『我こそは真の高月彦なり、彼は邪神の変化なり』 と證明せむとすれば、邪神の高月彦もまた同じく、 『我こそは真の高月彦なり、彼は邪神の変化なり』 と主張し、その真偽判明せず、やむを得ず二人を立てゐたりける。 この怪しき事実は誰いふともなく神界一般に拡まり伝はり、八王八頭の耳に入り、神人らは聖地の神政に対して、不安と疑念を抱くに至りける。 常世彦命はこのことのみ日夜煩悶し、つひには発病するに立ちいたりぬ。命は妻を枕頭に招き、苦しき病の息をつきながら、 『吾は少しの心の欲望より終に邪神に魅せられて常世国に城塞を構へ、畏くも国祖大神をはじめ歴代の天使長以下の神人らを苦しめ悩ませたるにも拘はらず、仁慈深き国祖は吾らの改心を賞でたまひて、もつたいなき聖地の執権者に任じたまひたれば、吾らは再生の大恩に報いたてまつらむと誠心誠意律法を厳守し、神政に励みて国祖の大神に奉仕せしに、心の何時となく緩みしためか、竜宮海に船を浮べて遊楽せし折しも、海底より邪神現はれて愛児の姿となり、堂々として我館に住み込み、その真偽を判別する能はず、それより吾は如何にもしてその真偽を知らむと、日夜天津大神および国祖大神に祈願を凝らせども、一たん犯せる罪の報いきたりて、心魂暗み天眼通力を失ひ、かつ、それより我身体の各所に痛みを覚え、今やかくのごとく重態に陥りたるも深き罪障の報いなれば、汝らは吾が身の悲惨なる果を見て一日も早く悔い改め、寸毫といへども悪心非行を発起すべからず』 と遺言して眠るがごとく帰幽したりける。鳥の将に死なむとするや其の声悲し、人の将に死せむとする時その言や善しと。宜なるかな、さしも一旦暴威をふるひたる常世彦命も本心より省み、その邪心を恥ぢ、非行を悔い神憲の儼として犯すべからざるを畏れ、天地の大道たる死生、往来、因果の理法を覚りて身魂まつたく清まり、神助のもとに安々と眠るがごとく帰幽したりける。アヽ畏るべきは心の持ちかた一つなりける。 常世彦命の昇天せしより、聖地の神人らは急使を四方に派して、各山各地の八王をはじめ一般の守護職にたいして報告を発したれば、万寿山をはじめ八百万の神人は、この凶報に驚き我一と先を争ひて聖地に蝟集しその昇天を悲しみつつ、後任者の一日も早く確定せむことを熱望し、ここにヱルサレム城の大広間に会したり。常世彦命の長子高月彦を天使長に選定し、国祖大神の認許を奏請せむとするや、天下に喧伝されしごとく、二人の高月彦あらはれ来たりぬ。 諸神司はその真偽について判別に苦しみ、七日七夜大広間に会議をつづけたれど、いかにしても前後と正邪の区別つかざるところまで克く変化しゐたるにぞ、真偽二人の天使長を戴くことを得ず、神人らは五里霧中に彷徨しつつ、その怪事実に悩まされけり。 高月彦は大広間に現はれ竜宮海に潜める邪神大蛇の変より、父の昇天までの種々聖地の怪を述べ且つ、 『吾身に蔭のごとく附随せるは、かの大蛇の変化なることを證明すべきことあり。諸神人はこれにて真偽を悟られたし。吾には父より賜はりし守袋あり、これを見られよ』 と満座の前に差出し、偽高月彦の邪神にむかひ、 『汝が果して真なれば、父より守袋を授けられし筈なり、今ここにその守袋を取出して、その偽神にあらざることを證明せられよ』 と詰め寄れば、邪神はたちまち色を変じ、何の返答もなく物をもいはず、真の高月彦に噛付かむとする一刹那、たちまち「惟神霊幸倍坐世」の神言が自然に口より迸出したるにぞ、偽神はたちまちその神言の威徳に正体を現はし、 『アヽ残念至極口惜さよ。我は永年この聖地を根底より顛覆せむと、海底に沈みて時を待ち、つひに高月彦と変化し、聖地の攪乱に全力を尽したりしに、高月彦の神言によりてその化けの皮を脱がれたれば、いまは是非なし、ふたたび時節を待つてこの怨みを報ぜむ』 と言ふよと見るまに、見るも恐ろしき八頭八尾の大蛇と現はれ叢雲をよびおこし天空をかけりて、遠くその怪姿を西天に没したりけり。高月彦は忽然として立ちあがり、 『諸神司はただいまの邪神の様子を実見して、その真偽を悟りたまひしならむ、吾こそは天使長常世彦命の長子高月彦なり。今後聖地の神政については、諸神司の協力一致して御輔翼あらむことを希望す』 と慇懃に挨拶を述べ終るや否や、たちまち悪寒震慄、顔色急に青ざめ、腹をかかへて苦悶の声を放ちければ、諸神司は驚きて命を扶けその居館に送り、侍者をして叮嚀に看護せしめたり。 この守袋は妹五月姫の計らひにて、俄に思ひつきたるカラクリにして、邪神の正体を現はすための窮策に出たるものなりける。かくのごとき権謀術数を弄するは、神人としてもつとも慎まざるべからざることなり。 また高月彦の急病を発したるは、真正の病気ではなく、命の安心とややその神徳にほこる心の隙に乗じて、西天に姿を隠したる八頭八尾の大蛇の邪霊が、間髪を容るるの暇なきまで速く、その肉体に憑依したる結果なりける。 (大正一〇・一二・二七旧一一・二九外山豊二録)