| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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1 (669) |
ひふみ神示 | 27_春の巻 | 第12帖 | 無くて七癖、七七四十九癖、悪い癖直して下されよ。天国へ行く鍵ぞ。直せば直しただけ外へひびくものが、かわって来るぞ。よくなってくるぞ。かわって来れば、外からくるもの、自分に来るもの、かわってくるぞ。よくなってくるぞ。幸となるぞ。よろこび満ち満つぞ。神みちみちて天国ぢゃ。一升桝もってきて一斗入れよと人民申しているが、神は一斗も二斗も入れてやりたいなれど、一升桝には一升しか入らん。大き桝もって来い。頂くには頂くだけの資格いるぞ。一歩づつ進め。一歩づつ絶えず進めよ。それより他に道はないのぢゃ。 |
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2 (1832) |
霊界物語 | 23_戌_木山の里/竜宮島へ出発 | 14 籠抜 | 第一四章籠抜〔七二六〕 洲本の里に名も高き、人子の司東助が留守の門前に佇み、宣伝歌を声低に歌ふ一人の宣伝使があつた。下女のお冊は台所より此声を聞きつけ、門の戸を開いて眺むれば、蓑笠、草鞋脚絆の扮装したる、四十恰好の男盛りの宣伝使であつた。宣伝使はお冊に向ひ、 宣伝使『我れは日頃の経験上、此館の前を通り見れば、何とはなしに此家には変事の突発せし如く覚ゆる。汝が家に何事もなきや』 と言葉淑やかに問ひかけた。お冊は少し首を傾け乍ら、 お冊『一寸お待ちを願ひます。奥へ云つて奥様に伺つて参りますから……』 と言ひ残し、其儘姿を隠した。奥の一間には女房のお百合、火鉢の前にもたれかかり、何事か思案の態であつた。お冊は襖をソツと引あけ、 お冊『奥様々々』 と呼んだ。お百合は何事にか気を取られしものの如く、お冊の声が耳に入らなかつた。お冊は恐る恐るお百合の前ににじり寄り、 お冊『モウシ奥様、門口に不思議な宣伝使が立つて居られます。如何いたしませうかなア』 と云ふ声に、お百合は顔をあげ、 お百合『ナニ、宣伝使が門にお立ちとな。それは都合の好い事だ。一つ伺つて頂きたい事があるから……どうぞ此方へ通つて貰うて下さい』 お冊『ハイ畏まりました』 と足早に表へ出で、 お冊『モシモシ宣伝使様、奥様が何か御願なされたい事があるさうですから、どうぞ奥へ御通り下さいませ』 宣伝使は打ち頷きお冊の後に従ひ、草鞋を脱ぎ足を洗ひ、お百合の居間に通された。お百合は座を下がり、宣伝使を上座に請じ、丁寧に頭を下げ、 お百合『宣伝使様、よくこそ御立寄り下さいました。先づ御ゆるりと御休息下さいませ』 宣伝使『私はバラモン教の友彦と申す宣伝使で御座る。当家の門前を通過致さむとする時、何となく気懸りが致しましてなりませぬので、お宅には思ひも寄らぬ事件が突発致して居る様に考へましたから、一寸御尋ね致しました』 お百合『それはそれは御親切に有難う御座ります。実の所は妾の主人東助と申す者、二三日以前より何処へ参りましたか、皆目行方は分らず、大方此間の颶風に、船自慢の主人の事とて船を操り、荒波に呑まれたのではあるまいかと、上を下への大騒動、村中の者が夫れ夫れ手分けを致しまして、山林原野は申すに及ばず、近海を隈なく探し廻れども皆目行方が知れず、生て居るのか死んで居りますのか、それさへも分りませぬ。どうぞ神様に一応御伺ひ下さいますまいか』 友彦は近辺の者の騒ぎを見て、遠近の人々に東助の紛失せし事を、前以て聞き知り、ワザと立寄つたのである、されど素知らぬ風を装ひ乍ら、 友彦『それはそれは御心配で御座いませう。一つ私が伺つて見ませう』 と手を洗ひ口を嗽ぎ、あたりに人無きを見てニタリと笑ひ、舌を出し、 友彦『村人の話に依れば、あれ丈探したのだから、最早生きて居る気遣ひはない。ウマくチヨロまかせば、淡路一の財産家、友彦が亭主となり、バラモン教を淡路一円に此富力を以て拡張すれば何でもない事だ。あゝ結構な風が吹いて来たものだ。併し乍ら万々一主人が生きて帰つて来たら大変だが、併し滅多にそんな事はあるまい。一つ度胸を出してやつて見よう』 と小声に呟いて居る。そこへ女房のお百合は新しき手拭を持ち、 お百合『宣伝使様、どうぞ此れでお手を御拭き下さいませ』 とつき出す。其横顔を見て、 友彦『アヽ何と綺麗な女だなア。……併し今の独語を聞かれはせなかつたか』 と稍不安の念に駆られ、盗み目にお百合の顔を覗いて見ると、お百合はそんな気配も無かつた。友彦はヤツと安心の胸を撫でおろし、悠々と床の間に端坐し、バラモン教の経文を唱へ終り、偽神憑りとなつて、 友彦『ウンウンウン、此方は大自在天大国別命なるぞ』 と雷の如く呶鳴り立てた。お百合は驚いて平伏し、 お百合『ハイ有難う御座います』 と涙声になつて居る。友彦は又もや口を切り、 友彦『当家の主人東助は、何不自由なき身であり乍ら、海漁を好み或は冒険的事業を致す悪い癖がある。それが為に生命を棄てたのだ。不憫なれどモウ仕方がない。せめて三日以前に此宣伝使が当家に来て居れば、知らしてやるのであつたが、さてもさても残念な事であつたのう。モウ此上は仕方がない。霊魂の冥福を祈り、主人の天国に救はるる様、鄭重なる祭典を行ひ、且有力なる神の如き夫を持ち、東助の後継を致ささねば、当家は到底永続致すまいぞよ。又東助は睾丸病がある為、子が出来ないから、折角蓄めた財産も他人に与らねばなるまい。汝は神の申す事を、よつく肚に入れて、何事も大国別命の命令通り致すが上分別だ』 お百合『ハイハイ有難う御座います。……神様の仰せなら、どんな事でも背きは致しませぬ』 友彦『何と偉い奴だ。其方は流石東助の妻だけあつて、よく身魂が研けたものだ。神も感心致すぞよ』 お百合『何を申しても、世間知らずの卑女、神様から褒められる様な事は一つも御座いませぬ』 友彦『坊間伝ふる所に依れば、汝は実に貞淑の女と云ふ事だ。世間の噂を聞かずとも、神は心のドン底までよく見抜いて居るぞよ。一旦死んだ主人は最早呼べど答へず、叫べど帰らず、是非なしと諦め、後の家を大切に守り、子孫を生み殖やし、祖先の家を守るが、せめてもの東助への貞節、合点が行つたか』 お百合『ハイハイ畏まりまして御座います。併し乍ら妾の様な者に、如何して後添に来て呉れる者が御座いませう。何だか夫の霊に対し気が済まない様に思はれてなりませぬ。そして其夫を持つのは、せめて三年祭を終つてからにして貰ふ事は出来ますまいか』 友彦『大国別命が申す事、しつかり聞け。人間の理屈は論ずるに足らぬ。善は急げだ、一日も早く夫を迎へたがよからう。其夫は神が授けてやる程に……さうすれば子孫は天の星の数の如く殖えて、家は万代不易、世界の幸福者としてやるぞよ』 お百合『ハイハイ有難う御座います。どうぞ宜しう御願申上げます。そして其夫と申すのは、何処から貰ひましたら宜しう御座いますか、これも一つ御伺ひ致したう御座います』 友彦『別に何処へも探しに行くに及ばぬ。灯台下は真暗がり、今汝が目の前に三国一の花婿が来て居るぞよ。これも神が媒介を致さむと、遥々連れて来たのだから、喜び勇んで命令に服従するがよからう』 お百合『神様、根つから其処らに誰も見えませぬ』 友彦『ハテ察しの悪い。今汝の目の前に於て神の託宣を伝へて居る、大国別命の生宮の宣伝使であるぞよ』 お百合はハツと驚き、友彦の顔をつくづく看守り、 お百合『あなたは何時やら、浪速の里でお目にかかつた事のある様な方ですなア』 友彦『馬鹿を申せ。他人の空似と申して、世界に同じ顔をした者は、二人づつ天から拵へてあるのだ。此肉体は神の直々の生宮であるぞよ。よく調べたがよからう』 お百合『鼻の先の一寸赤い所から、目の窪んだ所、口の大きさ、出つ歯の先の欠けた所、似たりや似たり、よくマア似た方も有るものですなア。妾の姉は浪速の里に嫁入つて居りますが、去年の冬、急飛脚が来ましたので、行て見れば姉の大病、そこへ宣伝使がお見えになり、イロイロと仰有つて……姉の病気を直してやらう、それに就てはコレコレの薬が要るから、薬代を出せ……と仰せられ、大枚三百両を懐にし門口を出た限り、今に顔を見せないさうです。妾は其時に見た顔と貴方のお顔と、余りよく似て居りますので、一寸御伺ひ致しました』 友彦『神と詐偽師と一つに見られては、神も迷惑致すぞよ』 お百合『さう仰有るお声は、あの詐偽師とそつくりですワ。声までそれ程よく似た人が有るものですかなア』 友彦『つい話が横道へ這入つた。其方の覚悟は如何ぢや』 お百合『どうぞ二三日お待ち下さいませ。其上でトツクリと考へ、親類にも相談致し、浪速の姉も招んで来て、其上に御厄介に預りませう。どうぞ神さま一先づ御引取り下さいませ』 ポンポンと手を拍つた。友彦は顔色を真赤に染め、冷汗を体一面ヅクヅクにかいて、湯気をポーツポーツと立て乍ら、 友彦『あゝ失礼致しました。つい眠つたと見えて、結構な風呂に入れて貰うたと思へば、アヽ夢でしたか。体中此通り、守護神が入浴したと見えまして、湯気が立つて居りまする』 お百合『イエイエ決して夢では御座いませぬ。お神懸り[※三版・御校正本・愛世版では「神懸り」、校定版では「神憑り」。]で御座いました。それはそれは妙な事を仰有いました。妾は少し許り腑に落ちぬ事が御座いますので、二三日猶予を願つて置きました』 友彦『あゝさうでしたか。何分知覚精神を失つて了ふ神感法の神懸[※三版・御校正本・愛世版では「神懸」、校定版では「神憑」。]ですから、チツトも分りませぬ。神懸[※三版・御校正本・愛世版では「神懸」、校定版では「神憑」。]も却て自分に取つては不便なもので御座います。アハヽヽヽ』 と笑ひに紛らす。 お百合『それ丈立派な神懸[※三版・御校正本・愛世版では「神懸」、校定版では「神がかり」。]が出来ましたら結構です。仮令人間憑りに致しましても、あれ丈巧妙に託宣が出来ますれば、大抵の者は皆降参つて了ひます。妾でさへも一旦は、あの何々でした位ですもの。オホヽヽヽ』 友彦『何と、合点の行かぬ貴女の御言葉尻、何ぞ怪しい事が御座いましたか』 お百合『イエイエ別に怪しい事は御座いませぬ。神様の御引合せ、姉の内へ去年参りました泥棒の模型か実物か、それは後で分りますが、……野太い奴が瞞しに来ました』 と後の一二句に力を籠めて、優しき女に似ず呶鳴りつけた。友彦は此声に打たれ、思はず尻餅を搗いて、口を開けた儘、火鉢の横にバタリと倒れた。お百合は独語、 お百合『オホヽヽヽ、何と悪魔と云ふものは、どこまでも抜目のないものだ。的きり此奴は姉さんの宅で三百両騙り取つた奴に間違ない。まだ主人の生死さへも分らない内から其処ら近所で噂を聞いて来よつて、良い加減な事を言ひ、若後家を誑らかさうと思うてやつて来よつたのだなア。どうやら目を眩かして居るらしい。今の間に細帯で手足を括り、庭先へ引摺り出し、水でもかけて気を付けてやりませう。……アーアそれにしても東助さまは如何なつたのかいな。村の衆は、未だに誰も報告に来て下さらず、イヨイヨ妾も未亡人になれば、今迄とは層一層腹帯を締めねばなるまい。あゝ困つた事が出来て来た』 と自語する折しも、お冊は慌しく此場に駆来り、 お冊『奥様、お喜び下さりませ。旦那様が只今御機嫌よう御帰りになりました』 お百合は飛び立つ許り喜び、 お百合『ナニ、旦那様がお帰りとな。あゝ斯うしては居られまい。ドレドレお迎へを申さねばなるまい』 と襟を正し居る所へ、早くも東助は三人の男を引連れ、廊下の縁板を威喝させ乍ら現はれ来り、 東助『アヽお百合、余り帰るのが遅かつたので、心配しただらうなア。村人にも大変な厄介をかけたさうだ。俺も到頭風に吹き流されたと云ふ訳でもないが、家島まで往つて来たのだ。マア安心して呉れ』 お百合『それはそれは何よりも嬉しい事で御座います。つきましては貴方のお不在中に、四足が一匹這ひ込んで来ましたので、今生捕にして置きました。どうぞトツクリ御覧下さいませ』 と友彦を指ざす。 東助『何、これは人間だないか。厳しく縛されて居るではないか』 お百合『ハイ、一寸妾が縛しておきました。此奴は去年の冬、姉さまの内で三百両騙り取つた泥棒ですよ。あなたが行方が知れないと云ふ噂を聞いて、ウマく妾を誑らかし、此家を横領しようと思うて出て来た図太い代物です』 東助『それは怪しからぬ奴だ。併し乍ら斯うしてはおかれまい。助けてやらねばならぬから……コレコレ鶴公、清公、武公、お前達御苦労だが、縛を解き水でも与へて、気を付けてやつて下さい』 三人は命の儘に縛を解き水を吹き注けた。漸くの事で友彦は正気に復し起きあがり、東助其他の姿を見て大に驚き、畳に頭を摺りつけ、涙と共に詫入る。東助は友彦に向ひ、 東助『お前は立派な宣伝使の風をして居るが、今聞く所に依れば、大変な悪党らしい。此世の中は何処までも悪では通れませぬぞ』 友彦『ハイ誠に悪う御座いました。面目次第も御座いませぬ。どうぞ生命計りはお助け下さいませ。これつきりモウ宣伝使は廃めまする』 東助『結構な宣伝使の役をやめとは申さぬ。ますます魂を研いて立派な宣伝使にお成りなさい。そして世界の人民を善道に導きなさるのが貴方の天職だ。今迄の様な神様を松魚節にして女を籠絡したり、病人の在る家を探して、弱身に付け込み詐欺をしたりする様な事は、これ限りお廃めなさるがよからう』 友彦『ハイ有難う御座います。どうぞお助け下さいませ。これ限り悪は改めまする』 斯かる所へ門口に大勢の声にて、 『東助さまが生きてござつた。無事に帰られた、ウローウロー』 と山岳も揺ぐ計り歓呼の声聞え来る。 東助『お前、イヨイヨ改心を志たのならば、あの通り今門口に沢山の村人が来て居るから、一つ懺悔演説でもして下され。一伍一什包み隠さず、旧悪をさらけ出して改心の状をお示しなされ。それが出来ねば大泥棒として、此東助が酋長の職権を以て成敗を致す』 友彦小さい声で、 友彦『ハイ致しまする』 東助『サア早く門口へ出て、懺悔演説を始めたが宜しからう』 友彦は、 友彦『ハイ直に参ります。俄に大便が催して来ました。どうぞ便所へ往く間御猶予を願ひます』 東助『便所ならば其処にある。サア早く行つて来たがよからう』 友彦は、 友彦『ハイ有難う御座います』 と直様雪隠に入り、跨げ穴から潜つて外に這ひ出し、折柄日の暮れかかつたのを幸ひ、裏山の密林指して一生懸命に隠れたりける。 鶴公、清公、武公の三人は暫く東助の家に厄介となり、遂に東助に感化されて前非を悔い、心の底より言依別命の教を奉ずる事となりにける。 (大正一一・六・一二旧五・一七松村真澄録) |
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3 (2059) |
霊界物語 | 32_未_南米物語4 アマゾンの兎の都 | 22 橋架 | 第二二章橋架〔九一三〕 国依別、高姫、鷹依姫、竜国別其他の宣伝使は各休息室を与へられ、夜は其処に眠り、筋骨を休ませて居た。翌朝早々国依別の一室に松若彦は訪ね来り、 松若彦『国依別様、御早う御座います。就いてはあなたに折入つて御相談が御座いまして、早くから御邪魔を致しました』 と心ありげに笑を含んでゐる。国依別は、 国依別『これは又改まつた御言葉、私に対し、御相談とはどんな事で御座いますか。明智の言依別様が居らせられる以上は、どうぞ命様に御相談下さつたら、如何でせうかなア』 松若彦『実の所は夜前神素盞嗚大神様の御召しに依り、言依別様及び私と三人三つ巴になつて、御相談あつた結果、私が特命全権公使に選まれて参りましたので御座います。万一此使が、不成功に終るやうな事があれば、此松若彦は海外旅行券を交附された手前、腹を切らねばならないのです』 国依別『そりやマア大変な御使命と見えますが、どうぞ早く仰有つて下さいませ。私の力の及ぶ事ならば、神様に捧げた此体、如何なる御用も承はるで御座いませう』 松若彦『実は私の父国彦は、正鹿山津見神様が五月姫様と共に黄泉比良坂の戦ひに御出陣の砌、ウヅの国の人民は申すも更なり、此神館を御預け遊ばし、やがて時来らば、神素盞嗚大神様の瑞の御霊の貴の御子、此国に降り給ふことあるべし。それ迄汝は我命を守つて、此国及び神館を預り呉れよとの厳命で御座いました。父は幸か不幸か、最早幽界に参りましたが、後に残つた私が父の後を継ぎ、此館を守つて居ります所へ、正鹿山津見の神様の御仰せの如く、瑞の御霊の大神様の御娘子、末子姫様が御越し遊ばしたので、直ちに御館を姫様に御渡し申し、此国をも御渡しをして、私は御存じの通り総司として仕へて参りました。然るに此度、御父君神素盞嗚尊、突然天降り給ひ、大変に御悦び遊ばし、且つ末子姫も最早良い年頃であるから、適当な夫を持たせたいのだが……との御尋ね、招かれた吾々始め言依別命様は、言下に国依別様を御婿様になされましたら如何でせうと申上げし処、大神様は大変に御悦び遊ばされ、実は其事に就て、はるばるとここまで出て来たのだ。どうぞ神徳の強き国依別を末子姫の夫になつて呉れる様、其方は取り持てよ……との御命令取る物も取り敢ず、あなたに於ても御異存は御座いますまいと思ひまして……ヘヽヽヽ、一寸全権公使の役を拝命し、御伺ひに参つた次第で御座います。どうぞ善は急げですから、早く善き御返事を御願ひ申します』 国依別は案に相違の面持にて首を傾け、双手を組み、太き息をつきながら、ものをも言はず両眼より涙さへ滴らしつつ居る。 松若彦『モシ国依別さま、あなたは何それ程御思案なされますか、見れば涙を御垂らしになつてゐるやうですなア。如何しても御気に入らないのですか?』 国依別『イエイエどうしてどうして気に入らぬ所か、余りの事で、勿体なくて、申上げる言葉も御座いませぬ。私は若い時より道楽の有丈を尽し、沢山の女殺し、御家倒し、家潰しをやつてきた罪の塊で御座います。今日は三五教の宣伝使として、女と一切の関係を絶ち、生涯独身生活を続ける覚悟を致して居るので御座います。如何に大神様の思召しなればとて、私の様な横着者の成れの果て、何程魂が研けたと申しても、白い布に墨が浸んだのと同様に、いくら洗つても元の白い生地にはなりませぬ。つまり霊魂上の疵者で御座います。斯様な疵者が水晶身魂の生の処女なる末子姫様の夫になるなぞと云ふ事は、どうしても良心が咎めてなりませぬ。冥加の程が恐ろしうなつて参りました。どうぞ右様の次第で御座いますから、悪しからず、大神様に私の素性を素破ぬいた上、宜しく御断り下さいませ』 松若彦『左様な御遠慮はチツとも要りませぬ。神素盞嗚大神様は、あなたがバラモン教の信者であつた事も、女泣かしの御家倒し、家潰しをなさつた事も、大の悪戯者で居らつしやつた事も、松鷹彦様のお宿を知らず識らずに訪ね、お勝殿といろいろのローマンスのあつた事、それから真浦様の弟なる事、一切万事御取調の上の事で御座いますから、決してそんな御遠慮は要りませぬ。言依別様も口を極めてあなたの美点をあげ、又悪い癖を一つも残らず、大神様に申上げられました。所が大神様は大変な御機嫌で……あゝ其奴は益々面白い男だ、気に入つた、どうぞ早く末子姫の夫にしたいものだ……との思召しで御座いましたよ……国依別様、あなたは言依別様から承れば、随分からかひの上手な御方ぢやさうですから、私がこんな事をいつて、あなたをからかつてゐると思はれるか知りませぬが、今日は真剣ですから、どうぞ真面目に聞いて下さい』 国依別『から買ひも豆腐買も、厄介も喧嘩買も、法螺貝もドブ貝も心霊研究会も、大日本修斎会も、議会も日本海も皆目ありませぬワイ。正真正銘の偽りなきあなたの御言葉、国依別、実に光栄に存じます。併しながら貴族と卑族との結婚は提灯に釣鐘、釣合はぬは不縁の元ですから、要らぬ苦労をさせずに、どうぞ体よく断つて下さい』 松若彦『エヽ国依別さま、真剣ですよ。又例の癖を出して、正直な私をじらしなさるのですか。あなたの本守護神はキツト契約済の実印を押捺して御座るに間違ありませぬよ。又世の諺にも、恋に上下の隔てなしと云ふぢやありませぬか。隔のないのが所謂恋の神聖なる所以です』 国依別『私は一旦婦人との関係を心の底より断念して居ますから、恋なんか心に起した事はありませぬ。鯉が滝上りをし、夕立に乗つて天上する様な険呑な結婚問題は、どうぞ御頼みですから、早く撤廃して下さい』 松若彦『又しても鮒々と埒のあかぬ、あなたの御言葉、末子姫様があの飯鞘、尻目で、お前さまの後姿を睨んで、あの男を鰌なとして、私のオツトセイに持ちたいものだと、明けても暮れても、つばすを呑みこんで、あかえ年だから、鯉の炎をもやして御座るのだから、どうぞ色よいあぢのよい返事をして下さい。あなたも鱒々鯖けた人間だと云つて、鱶はまりしてゐられるのだ。それにお前さまが尾をふり、鰭をピンとはねるやうな事をなさつたら……あゝ私も折角の鯉が叶はねば、一層の事、ちぬ鯛、小鮒な浮世に生鰕したかて、サヨリがないからと云つて淵川へ身を投げて了はれたら、お前さま何程魚々とうろついて悔んでもあとの祭り、大神様からは、是程事を分けて言ふのに、鯉の様にはねつけるとは、ギギシイラぬ奴だと御立腹遊ばすかも知れませぬ。私はこれ程白魚もやさして、お前さまはそれでも気が済むの貝な。マア厭でも添うて見なさい。仕舞にやすすきになりますぞや、ヤマメで暮すより鮎らしい奥さまとガザミに手を引いて、山野を時々跋渉なさるのも乙ですよ。これ程私に八カマス鰯ておいて、だまつてゐるとは、余りぢやありませぬか。今日は大神様の思し召だから、瓢箪鯰では通りませぬぞや』 国依別『エエハモ鰈ヤガラ腥い厄介坊主の自堕落上人で御座いますから、どうぞ今日限りそんな事を言つて下さるな。女のスキ身も刺身もモウ若い時から食ひあいて来ました。夜も昼もレコ貝に蛤だつたものだから、どうぞ、カマスにおいて下さい。此事に付ては、イカナゴとも飯蛸致す訳には参りませぬ。アハヽヽヽ』 松若彦は国依別の背中を、後へまはつてポンと叩き、 松若彦『コレ国依別さま!又しても、あなたは、からかひ病が起りましたね』 国依別『カラカギでも、鯰でもフンゾクラヒでもありませぬよ。小雲川で石の魚を釣つてフンゾクラヒだと云つて、高姫さまに贈つた事があります。随分固い魚でした。其通り私は今は鯉の欲が化石して了ひ、石地蔵の様な冷酷な人間ですから、到底此縁談は温まりますまい。鯉と云ふ奴は水の中に常住してゐますから、随分体が冷えてゐますからね、アハヽヽヽ』 松若彦『コレ国依別さま、大国主の神さまの妻呼びの歌を知つてますだらう、男子たる者はさうなくては到底世に立つことは出来ますまい。情を知らずして、どうして宣伝使が完全に勤まりますか。八千矛の神さまを御覧なさい。はるばると出雲の国から越の国まで、腰弁当でお出でになつたぢやありませぬか。其時のお歌に、 八千矛の神の命は八洲国妻求ぎかねて 遠々し越の国に賢し女をありと聞かして 麗し女をありと聞こしてさよばひにありたたし 結婚にあり通はせ太刀が緒も未だ解かずて 襲ひをも未だ解かねば乙女の鳴すや板戸を 押そぶらひ吾が立たせれば引こずらひ吾が立たせれば 青山に鵺は鳴き野鳥雉子は響む 庭つ鳥鶏は鳴く慨たくも鳴くなる鳥か 此の鳥も打ち悩めこせねいしたふや天はせづかひ ことの語り言もこをば と歌はしやつて、越の国の沼河姫様の板の戸を、夜の夜中に押開け這入らうと遊ばす、沼河姫さまは這入られては大変と、男と女が押そぶらひ、引こづらひを永らく遊ばした末、遂に大国主命さまの熱心なる恋に感じ、沼河姫さまは戸の中から、 八千矛の神の命軟え草の女にしあれば 吾が心浦渚の鳥ぞ今こそは千鳥にあらめ のちわ和鳥にあらむをいのちはな死せ給ひそ いしたふや天はせづかひ ことの語り言もこをば 青山に日が隠らば烏羽玉の夜は出でなむ 旭の笑み栄え来て栲綱の白き腕 沫雪の弱かやる胸をそ叩き叩き拱がり 真玉手玉手さしまき股長に寝はなさむを あやに勿恋聞こし八千矛の神の命 ことの語り言もこをば と歌つて沼河姫がたうとう降参つて了ひ、実に神聖なローマンスが行はれたぢやありませぬか。それに何ぞや、お前さまは、八千矛の神一名大国主の神さまとは反対で沼河姫様よりズツと綺麗な賢女麗女にラバーされて、それを何とも思はず、すげなくもエツパツパを喰はす考へですか。本当に人の悪い唐変木だなア……オツトドツコイ、余り一心になつて、ツイ言霊が濁りました。どうぞ早く、 綾垣のふはやが下に虫衾柔やが下に 栲衾亮ぐが下に沫雪の弱かやる胸を 栲綱の白き腕そ叩き叩き拱がり 真玉手玉手差纏き股長に寝をし宿せ 豊御酒献らせ と云ふやうに御返事をして下さい。外の方の御使と違ひ、大神様の思召だから、これ計りは邪が非でも聞いて貰はなくちや、松若彦の男が立ちませぬ』 国依別『大神様を始め末子姫様に於て、御異存なければ御世話になりませう。其代りに古疵だらけの国依別ですから、何時持病が再発して、御姫様に眉気を逆立てさしたり、牙をむかせたり、死ぬの走るの、ひまをくれのと乱痴気騒ぎをさすかも知れませぬから、それが御承知なら、宜しく御取持願ひます』 松若彦『アハヽヽヽ、面白い面白い、私もそれがズンと気に入つた……国依別さま、いよいよ御結婚が整へば、あなたはウヅの国の司、私は御家来で御座いますから、どうぞ末永くお召使ひ下さいませ。今迄の御無礼な申し様、只今限り御忘れの程を願ひます』 国依別『サア忽ちさうなるから、窮屈でたまらぬ。それだから独身生活がしたいのだよ。あんたはん(阿弥陀はん)、ぶつたはん(仏陀はん)、大将さんと皆の連中にピヨコピヨコ頭を下げられ、敬遠主義を取られるやうになつて了つちや、根つから世の中が無味乾燥で、面白くも何ともなくなつて了ふ。あゝ折角自由の世界へ解放されたと思つたら、又もや窮屈な、お慈悲の獄屋に繋がれねばならぬのかいなア。エヽこんな事なら紅井姫でも伴らつて来て、自分の女房のやうに見せて居つたら、こんな問題は起らなかつただらうに、エヽ有難迷惑とは此事だ。女が男にお膳を末子姫と来てゐるのだから、さう無下に無愛想に捨子姫する訳にも行こまい、アハヽヽヽ』 松若彦『なるべく、お気楽な様に持ちかけますから、どうぞ取越苦労をなさらずに、決心をして下さいませ』 国依別『ハイ、是非に及びませぬ。大神の御言葉、あなたの御取持、謹んで御受け致します』 とキツパリ答ふれば、松若彦はニコニコしながら軽く一礼し、急ぎ奥殿指して進み入る。 (大正一一・八・二四旧七・二松村真澄録) |