| 番号 (No.) |
書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 38 歓天喜地 | 第三八章歓天喜地〔八八〕 清照彦は最愛の妻に死に別れ、厚くこれを葬るのいとまもなく、言霊別命の進退ならぬ厳命に接し、ただちに高白山に向ひ、呑剣断腸の思ひをなして、骨肉の父母両親を討滅するのやむなき窮境にたちいたつた。されど神命辞するに由なく、大義を重んじ、ここに血をもつて血を洗ふ悲惨なる戦闘を開始した。 荒熊彦、荒熊姫は一方血路を開き辛うじて免るることを得た。この時清照彦は、ただちに追撃せばこれを滅ぼすこと実に容易であつた。されど敵といひながら、肉身の情にひかされ、わざとこれを見逃し、心の中にその影を拝みつつ、父母の前途を気遣ひ、いづれへなりとも両親の隠れて安く余生を送らむことを祈願した。親子の情としてはさもあるべきことである。 荒熊彦は、散軍を集めて尚も懲りずまに羅馬城に進み、決死の覚悟をもつて戦ふた。されど天運つたなき荒熊彦は力尽き、つひに大島彦のために捕虜となり、夫婦ともに密に幽閉され、面白からぬ幾ばくかの月日を送つた。 清照彦は、風の共響きに両親の羅馬に敗れ、幽閉され、苦しみつつあることを伝へ聞きて、心も心ならず、煩悶苦悩しつつ面白からぬ月日を淋しく送つてゐた。清照彦は忠義に篤く、孝道深き神司なれば、その心中の煩悶は一入察するに余りありといふべし。清照彦は雨の朝風の夕に空を仰いで吐息を漏らし、われ両親の憂目を見ながら坐視するに忍びず、これを救はむとすれば主命に背き、大逆の罪を重ぬるにいたるべし。あゝ両親といひ妻といひ、今は或ひは幽界に、あるひは敵城に囚はれ、子たるもの如何に心を鬼畜に持すとも忍び難し、いつそ自刃を遂げ、もつて忠孝の大義を全うせむ、と決心せる折しも、また飛報あり、 『荒熊彦夫妻は、羅馬において大島彦のために殺されたり』 と。これを聞きたる清照彦は矢も楯もたまらず、吾は山海の洪恩ある恋しき両親に別れ妻に別れ、生きて何の楽しみもなし、自刃するはこの時なりと、天に向つて吾身の不遇を歎き号泣し、短刀を逆手に持ち双肌脱いで覚悟をきはむるをりしも、天空より光強き宝玉眼前に落下するよと見えしが、たちまちその光玉破裂して、中より麗しく優しき女神現はれたまひ、 『吾は天極紫微宮より来れる天使なり。天津神は汝が忠孝両全の至誠を憐みたまひ、ここに汝を救ふべく吾を降したまへり。汝しばらく隠忍して時を待て、汝がもつとも敬愛する両親および妻に再会せしめむ。夢疑ふなかれ』 との言葉を残して、再び鮮光まばゆき玉と化り天上にその影を隠した。後に清照彦は夢に夢見る心地して、合点のゆかぬ今の天女の言葉、われは憂苦のあまり遂に狂せるには非ざるか。あるひは父母、妻を思ふのあまり、一念凝つて幻影を認めしに非ずやと、みづから疑ふのであつた。されどどこやら心の底に、一道の光明が輝くのを認めた。何はともあれ、吾ここに自刃せば、たれか両親および妻の霊を慰むるものあらむ、と心を取り直し、時節を覚束なくも待つことに決心した。 待つこと幾星霜、山は緑に包まれ、諸々の鳥は春を謳ひ、麗しき花は芳香を放ち、所狭きまで咲き満ち、神司はその光景を見て喜び勇み、あたかも天国の春に遇へるがごとく舞ひ狂うてゐた。されど清照彦の心の空はますます曇り、花は咲けども、鳥は歌へども、諸神司は勇み遊べども、自分に取つては見るもの聞くもの、すべてが吾を呪ふもののごとく、悲哀の涙はかはく術なく、日に夜に憂愁の念は増すばかりであつた。 清照彦は天の一方を眺め、長大歎息を漏らす折しも、天空高く数十の鳥船は翼を連ね高白山めがけて降り来るあり、いづれの鳥船にもみな十曜の神旗が立てられてあつた。清照彦は、かかる歎きの際、又もや竜宮城よりいかなる厳命の下りしならむかと、心を千々に砕きつつ重き頭を痛めた。 鳥船はたちまち清照彦の面前近く下り来りて、内より言霊別命、元照彦、梅若彦は英気に満ちたる顔色にて現はれ来り、言霊別命は第一に進んで清照彦にむかひ慇懃に礼を述べ、かつ容を改め正座に直り、 『われ今、稚桜姫命の神使として、当城に来りし理由は、汝に賞賜のためなり』 と云ひをはつて、数多の従臣に命じ善美を尽した御輿を鳥船よりかつぎおろさしめ、清照彦の前に据ゑ、 『汝は忠孝を全うし、かつ至誠をよく天地に貫徹したり。国治立の大神は深くこれを嘉して汝に珍宝を授与し賜ひたり。謹んで拝受されよ』 と莞爾として控へてをられた。清照彦は不審の念ますます晴れず、とも角もその厚意を感謝した。前方の輿よりは顔色美しく勇気凛々たる男神が現はれた。つらつら見れば思ひがけなきわが父荒熊彦であつた。第二の輿を開いて母の荒熊姫が現はれた。第三の輿よりは自殺せしと思ひし最愛の妻末世姫が現はれ、ただちに清照彦の手を取つてうれし泣きに泣く。清照彦は夢に夢見る心地して何と言葉も泣くばかり、ここに四人一度に声を放つて嬉し涙に時を移した。親子夫婦の目出たき対面に、高白山の木も草も空の景色も、一入光を添へるやうであつた。 ここに言霊別命は懐中より一書を取出し、声も涼しく神文を読み聞かした。その意味は、 『長高山は汝荒熊彦、荒熊姫これを主宰せよ。また高白山は清照彦永遠にこれを主宰せよ』 との神勅である。 附記 末世姫は長高山の城中において自刃せむとしたるとき、たちまちその貞節に感じ、天使来りて身代りとなり、末世姫は無事に言霊別命の傍近く仕へてゐた。 (大正一〇・一一・六旧一〇・七加藤明子録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 44 魔風恋風 | 第四四章魔風恋風〔九四〕 言霊別命は思はざる濡衣を着せられ、如何にもしてこの疑を晴らし、身の潔白を示さむと焦慮し、かつ常世姫を悔い改めしめむとした。されど狐独の身となりし命はいかんとも策の施すべき道がなかつた。そこでいよいよ意を決し、万寿山に落ち延びた。 言霊別命の境遇に同情したる数多の神司は、命の後をおふて万寿山に馳集まつた。 重なる神将は、吾妻別、鷹松別、河原林、玉照彦、有国彦、森鷹彦らの諸神将であつた。勇猛なる神軍は期せずして日に月に集まりきたつた。このこと常世姫の耳に雷のごとく響いてきた。常世姫はおほいに驚き、八王大神常世彦をして万寿山を攻撃せしめむとした。時しも竜宮城は常世姫のために陥落し、稚桜姫命は神国別命以下の神将とともに、言霊別命の駐屯せる万寿山に逃れたまうた。 ここに言霊別命は、礼をつくしてこれを迎へ奉り、竜宮城を回復せむとし、かつ言霊別命以下の清廉潔白にして、至誠至実の神たることが初めて悟られた。 稚桜姫命の来臨とともに万寿山はますます開拓され、つひには堅城を造り、鉄壁をめぐらし、実に難攻不落の城塞となつた。 この時、智勇兼備の勇将にして、紅葉別といふ軍神があつた。この神司あまたの神軍を率ゐて来り、言霊別命に面謁せむことを申込んだ。言霊別命はまづ吾妻別に面会せしめ、その来意を尋ねさせた。紅葉別は常世姫の奸策を聞き義憤をおこし、自ら進んで万寿山に参加し、彼を亡ぼし天下を太平に治めむと欲し、協心戮力もつてミロク神政の神業に参加せむと、殊勝にも誠意を表にあらはして参加せむ事を申込んだ。吾妻別はおほいに喜び、これを言霊別命に委細進言した。紅葉別は戦闘に妙をえたる武神である。言霊別命は稚桜姫命とはかり、紅葉別をして万寿山の主将たらしめむとした。このとき竜宮城はすでに常世姫の占領するところとなり、ついで地の高天原も、橄欖山も敵手に落ちてゐた。シオン山の総大将大八洲彦命は、逃れきたれる大足彦の国の真澄の鏡をもつて、敵軍を山上より射照した。たちまち山頂より幾十万とも知れぬ巨巌湧出して中空に飛び、美山彦、国照姫、武熊別の魔軍の集団めがけて雨のごとく落下し、一方鏡に射照されてその正体を露はし、たちまち悪鬼、大蛇、悪狐の姿と変じ、鬼城山めがけて逃げ散つた。 ここに大八洲彦命は宮比彦を祭祀の長とし、安世彦を主将とし、一部の神軍をもつてこれを守らしめ、ただちにその勢をもつて竜宮城に攻め寄せ回復戦を試みた。真鉄彦は地の高天原にむかひ、磐樟彦は橄欖山にむかひ、吾妻別、大足彦は竜宮城にむかひ、国の真澄の鏡を取り出し、敵軍を照し、かつ大八洲彦命の神言を奏上するや、たちまち暴風吹きおこり、浪は山の如く立荒び、城はほとんど水中に没した。常世姫の身体よりは異様の光現はれ、金毛八尾の悪狐と化し、黒雲を巻きおこし、常世城めがけて遁走し、部下の魔軍は諸方に散乱して、竜宮城も地の高天原も再び神軍の手に帰つた。ここに稚桜姫命は、言霊別命、吾妻別らを率ゐてふたたび竜宮城に帰還したまうた。万寿山は鷹松別、有国別らの諸神将をしてこれを守備せしむることとなつた。 話かはつて天稚彦は、唐子姫に心を奪はれ、壇山を捨ててなほも山奥深くわけいり、 『お前と一緒に暮すなら、たとへ野の末山の奥、虎狼の住家にて、竹の柱に茅の屋根、手鍋提げてもかまやせぬ』 といふやうな状態にて、わづかの庵を結び夫婦きどりで暫く暮してゐた。 ある時天稚彦は近辺の山に分け入りて、兎を狩つて帰つてきた。唐子姫は夫の留守に気を許し、辺りに響く鼾声を発し、よく寝入つてゐた。天稚彦はひそかに外より覗いて見た。唐子姫の姿はどこへ行つたか影もなく、寝間には銀毛八尾白面の悪狐が睡つてゐる。天稚彦はおほいに驚き、かつ怒り、 『この邪神奴、わが不在を窺ひ、最愛の唐子姫を喰ひ殺し腹膨らせ、安閑と仮眠りをるとは心憎し。妻の敵、思ひ知れよ』 と弓に矢をつがひ、悪狐をめがけて発止と射かけた。この時遅く、かの時速く、悪狐はたちまち白煙となつて消え失せた。いづこともなく唐子姫の声として、 『われは常世姫の部下の魔神なり。竜宮城を占領せむために花森彦を誘き出し、今また汝をこの山奥に誘ひ、その通力を失はしめたり。吾はこれより常世の国に馳帰り賞賜に預からむ。汝はすみやかに竜宮城に還り、この失敗を包み隠さず物語り、唐子姫に眉毛をよまれ、尻の毛も一本も残らず引抜かれたり。悔し残念を耐りこばりてここまで還りきました。今までの罪はお許し下さいと、女房の稚桜姫命に頭を下げて、三拝九拝せよ』 と言葉途切るとともに、カラカラと嘲笑ひの声次第に遠くなりゆくのであつた。命は大いに怒り、声する方を中空目がけて矢を射つた。矢は危くも命の肩先をすれずれにうなりを立てて落ちきたり、実に危機一髪の間であつた。天稚彦はこれより諸方を流浪し、種々の艱苦を嘗めつつすごすごと竜宮城に帰ることとなつた。 (大正一〇・一一・八旧一〇・九加藤明子録) |
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霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 46 天則違反 | 第四六章天則違反〔九六〕 ここに天稚彦は唐子姫の妖魅に誑らかされ、諸方を流転し、山野河海を跋渉し、雪の朝霜の夕に足を痛め、風雨に曝され、晩秋の案山子の如きみすぼらしき姿となりて万寿山の城下に現はれ、神司の門戸をたたき、乞食の姿となつてあらはれた。 たまたま吾妻別の門戸をたたく者がある。その音はどこともなくことなれる響きであるを感じ、吾妻別はみづから立つて門を開きみれば、一個の賤しき漂浪神が立つてゐて、命の顔を眺め、 『汝は吾妻別に非ずや』 といつた。命の従臣滝彦は走りきたり、その神司にむかつて、 『汝はいづれの神司か知らざれども、吾門戸に立ち、吾主人にむかつて名を呼捨てになす不届者、一時も早くこの場を立去れ。否むにおいてはこの通り』 といふより早く棍棒をもつて頭上を殴打した。そのはづみに急所をはづれて笠は飛び散つた。漂浪神は眼光烱々として射るごとく、言葉するどく、 『無礼者』 と罵つた。 吾妻別は始めて天稚彦の成れの果てなることを覚り、従臣の無礼を謝し、ねんごろに手を引き万寿山城内に迎へたてまつり、新しき神衣を奉つた。今までの案山子のごとく窶れたる神司は、たちまち豊頬円満なる天晴勇将と変りたまうた。吾妻別は信書を認め、滝彦を使者として竜宮城につかはし、稚桜姫命に、 『天稚彦、万寿山に還りたまひ、しばらく休養されしのち、ふたたび竜宮城に帰還したまはむとす。すみやかに歓迎の準備あらむことを乞ふ』 といふ意味の文面であつた。 大八洲彦命はまづこの信書をひらき、一見して大いに悦び、稚桜姫命は定めて満足したまはむと、みづから心中雀躍りしながら、稚桜姫命の御前に出で、委細を言上した。 命はさだめて御喜びのことと思ひきや、その御顔には怪しき雲がただようた。側近く仕へゐたる玉照彦は、にはかに顔色蒼白となり、唇はぶるぶると震へだした。 大八洲彦命は合点ゆかず、その場を引退つた。このとき滝彦は、天稚彦の今までの御経歴を語り、かつ稚桜姫命にたいし、大なる疑を抱き給ふことを述べた。大八洲彦命は一室に入りて、双手を組み思案に時を移し、この度の命の態度といひ、玉照彦の様子といひ、実に怪しさのかぎりである。しかし律法厳しき竜宮城の主神として天則を破りたまふごとき失態あるべき理由なしと、とつおいつ煩悶苦悩してゐた。 しばらくあつて城内はにはかに騒がしく、天稚彦の御帰城なりとて、右往左往に神司は奔走しはじめた。ここに花森彦は大八洲彦命の前に出で、夫君の御帰城なり、一時もはやく稚桜姫命みづから出迎へたまふやう、御執成しあらむことをと、顔に笑みを含んで進言した。 花森彦はすでに善道に復帰り、律法をよく守りつつあれば、唐子姫を奪はれしことは、少しも念頭にかけてゐなかつた。ここに稚桜姫命は周章狼狽のあまり、袴を前後にはき、上着の裏を着るなどして、あわてて出迎へられた。しかして玉照彦は相変らず、御手をひき命を労りつつ迎へた。 天稚彦は、いきなり物をもいはず鉄拳を振りあげ、玉照彦を打ちすゑた。稚桜姫命はおほいに驚き、玉照彦を抱きあげむとしたまうた。 玉照彦は息もたえだえに、 『われは厳重なる規律を破り、天則に違反し、ここに命のために打たれて滅びむとす。これ国治立命の御神罰なり。許したまへ』 と真心より大神に祈りを捧げ、たちまち城内の露と消えた。 諸神司はこの光景をながめ、二神司の間をいかにして宥め奉らむやと苦心した。 このとき国治立命は神姿を現はし、二神司の前に立ち、 『夫婦の戒律を破りたる極重罪悪神なり。天地の規則に照し、天稚彦、稚桜姫命は、すみやかに幽界にいたり、幽庁の主宰者たるべし』 と厳命された。地上を治め、その上天上にいたりて神政を掌握さるべき運命の神、稚桜姫命は、やがては天より高く咲く花の、色香褪せたる紫陽花や、変ればかはる身の宿世、いよいよここに、二神司は地獄の釜の焦起し、三千年の、忍びがたき苦しみを受けたまうこととなつた。 (大正一〇・一一・八旧一〇・九外山豊二録) |
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44 (1104) |
霊界物語 | 02_丑_常世姫の陰謀/シオン山攻防戦 | 余白歌 | 余白歌 夢ならばいつかは醒めむ夢の世の夢物語聞いて目さませ〈序前〉 古へゆ今に変らぬ神の世の活物語するぞうれしき〈序前〉 天地のあらむ限りは人の世の光とならむこの物語〈序前〉 浮き沈み憂きを美山の彦神と化けおふせたる棒振彦の神〈第2章(初版)〉 苦にならぬ国照姫の名をかたる鼻高虎の醜の曲津見〈第2章(初版)〉 奸策を種々さまざまに振りまはす棒振彦の汚れたる身は〈第2章(初版)〉 高虎の醜女の神はロツキーの山の鼻高姫を使いつ〈第2章(初版)〉 顕はれて間なく隠るる二日月〈第4章〉 四日月を三日月と見る二日酔〈第4章〉 空海も必ず筆を選むなり〈第4章〉 美山彦国照姫は名を替へて言霊別や言霊姫となりぬ〈第5章〉 病神どこへうせたか春の風〈第5章〉 神徳は山より高し天真坊〈第6章(初版)〉 天地の律法を正す天道坊〈第6章(初版)〉 尻尾まで別れて逃げる古狐〈第8章(初版)〉 春霞棚引きそめて久方の高天原の教の花咲く〈第8章(初版)〉 久恵彦の足は行かねど天の下世の悉々は覚りましけり〈第8章(初版)〉 人皆の夢にも知らぬ幽事を覚すは神の教なりけり〈第8章(初版)〉 惟神道の奥処に別け入れば心の罪の恐ろしきかな〈第8章(初版)〉 冠を足にはきつつよろこびて沓をかしらにかぶる世の中〈第9章(初版)〉 良き人はしいたげられて曲者のもてはやさるる暗の世の中〈第9章(初版)〉 毒よりも気の毒としれ曲つ神〈第10章(初版)〉 毒々し曲津の毒の巧みごと〈第10章(初版)〉 気を付けよ味方の中に敵潜む〈第10章(初版)〉 虎よりもおそろしき口を人は持ち〈第11章〉 しこめとは我大神をおしこめしからの身魂の使なりけり〈第12章(初版)〉 まごころを貫きとほす槍の穂に常世の鬼も逃げうせにけり〈第13章〉 蜂かこむ室屋を出て大巳貴須世理の姫の比礼に免れつ〈第13章〉 烏羽玉の暗き天地照らさむと雲押し別けて月は出でけり〈第13章〉 惟神宇宙の外に身をおきて日に夜に月の光あらはすも〈第13章〉 炉の傍に居ても寒けき冬の夜の御空に澄める月もありけり〈第13章〉 いつはりの無き世なりせば斯くばかり心も身をも砕かざらまし〈第14章(初版)〉 初めてぞ神の恵みの知られけり苦しき坂を登り終ふせて〈第15章〉 病む時は神の御前に平伏して心の罪の在所たづねよ〈第15章〉 梟や宵になく声朝のこゑ〈第16章(初版)〉 登りゆく神路の山の山松に神の恵の露の玉散る〈第17章〉 八島国島の悉々照り渡る神の威徳に隈蔭もなし〈第17章〉 大空にきらめき渡る星かげものぼる旭にかくろひにけり〈第19章〉 一切のことに疑問を抱く内はまだ小人の境を脱せず〈第22章〉 世の中の総ては区々の感情の争ひなりせば神に在れ人〈第22章〉 幸福は家内揃うて睦まじく暮すにまさる歓びはなし〈第23章〉 産業の外の事業の一切は皆空業と覚るべきなり〈第23章〉 現し世の濁りに濁り乱るるはみな黄金の禍ひなりけり〈第25章〉 神界の真の神業は産業にあらねど唯一の実業と知れ〈第25章〉 奇魂智慧の光は村肝の心の暗を照り明すなり〈第26章〉 奇魂智の道の程々に世の物事を裁く義しさ〈第26章〉 世を救ひ国を開きて曲津まですくふ言霊別の雄々しさ〈第28章〉 国々に御名を変へさせ玉ひつつ救ひの為に降ります主〈第29章〉 天のはて地のきはみもおつるなく照らす光と現はれし救主〈第29章〉 老人も若きも男子女子も上る神路の山は変らじ〈第30章〉 あし原の中つ御国は異人の夢にも知らぬ宝ありけり〈第30章〉 教とは人の覚りの及ばざる神の言葉の御告なりけり〈第30章〉 躊躇の心打ち捨て勇ましく思ひし善事遂ぐるは義し〈第34章〉 国人を幸ふために身を忘れ難みに殉ふ心義しさ〈第34章〉 一家内和合なければ自棄自暴遂には離散の憂目見るべし〈第36章〉 咲く花の散り行く見ればいとど猶身の果敢なきを忍ばるるかな〈第37章〉 身体はよし死るとも霊魂は幾千代までも生きて栄ゆる〈第37章〉 みづみづしをしへの主の御姿は空照り渡る月のかんばせ〈第40章〉 春の朝露にほころぶ白梅の花にもまして美しき救主〈第40章〉 万有に通ずる真の神力は自信の光に如くものは無し〈第42章〉 わが祈る誠を愛でて惟神奇しき力を授け玉へよ〈第44章〉 天照神の教は神国の人のふむべき大道なりけり〈第44章〉 釈迦孔子や外の聖の唱へたる教も一つは善き節もあり〈第44章〉 今の世は神の職の多けれど神の真教を知る人まれなり〈第44章〉 時つ風吹き荒ぶとも真木柱立てし初めの心ゆるめな〈第49章〉 醜草を薙ぎて放りて神国の日本魂の松の種蒔け〈第49章〉 いろいろと世は紫陽花の七変り変らぬ道は天津日の道〈第49章〉 道のため書き記したる教典の千代万代に栄えとぞ思ふ〈第50章〉 この道の光も知らぬ人草は醜の魔風に靡き伏しつつ〈第50章〉[この余白歌は八幡書店版霊界物語収録の余白歌を参考に他の資料と付き合わせて作成しました] |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 序文 | 序文 艮の金神出現以後三十年の立替は、いよいよ明治五十五年、すなはち大正の十一年、三千世界一度に開く梅の花の機運に到達したのである。つぎに坤の金神出現以後二十五年、桃李もの言はずして桃李ものとなりし神の教示も、いよいよ開く桃の春、五十二歳の暁に、月の光に照らされて、霊界探険物語り、ももの千草も、百鳥も、百の言問ひ言止めて、三月三日五月五日の神の経綸を詳細に、悟る神代の魁となつたのも、まつたく時の力といふべきである。明治三十三年九月八日の神筆に、 『出口直は三千世界の根本の因縁から末の世のことまで書かす御役なり、それを細かう説いて聞かせるのが海潮の役であるから、一番に男子が現はれて、次に女子が表はれたら、大本の中の役員も、あまり思ひが違ふてをりたと申して、きりきり舞をいたして喜ぶ人と、きりきり舞をして苦しむ人と、力一杯われの目的のために、男子女子を悪くまをすものとができるぞよ。神を突込みておいて我で開いて、まだ悪く申して歩行く、取次がたくさんにできるぞよ。云々』 大本の筆先は、どうしても男子女子でなければ真解することはできぬのは神示のとほりである。しかるに各自の守護神の御都合の悪いことがあると、「女子の筆先は審神をせなそのままとつてはいかぬ」と申す守護神が現はれてくる、困つたものだ。九月八日にいよいよ神示のとほり女子の役となり、隠退して霊界の消息を口述するや、またまた途中の鼻高がゴテゴテ蔭で申し出したのである。女子の帰神の筆を審神者する立派な方が沢山できて、神様も御満足でありませう。 また、明治五十五年の三月三日五月五日といふ神の抽象的教示にたいして、五十五年は大正十一年に相当するから、今年は女子の御魂にたいして肉体的結構があるとか、大本の神の経綸について花々しきことが出現するかのやうに期待してをる審神者があるやうにきく。されど、神の御心と人間の心とは、天地霄壌の相違があるから、人間の智慧や考へでは、たうてい、その真相は判るものでない。五十五年といふことは、明治二十五年から三十年間の神界経綸の表面に具体的にあらはれる年のいひである。 三月三日とは三ツの御魂なる月の大神の示顕が、天地人三体に輝きわたる日といふことである。日は「カ」と読む、「カ」はかがやくといふことである。今まで三十年間男子の筆先の真意が充分に了解され、また従道二十五年に相当する女子の御魂の光が、そろそろ現はれることを暗示された神諭である。二十五年間、周囲の障壁物にさまたげられた女子の御魂の神界経綸の解釈も、やや真面目になつて耳をかたむくる人が出現するのを、「女子にとりて結構な日である」と示されたものである。あたかも暗黒の天地に、日月の東天を出でて万界を照らすがごとき瑞祥を、五月五日といふのである。五は言霊学上「出」であつて、五月五日は出月出日の意味である。二十五年の天津風、いま吹きそめて経緯の、神の教示も明らけく、治まる御代の五十五年(出神出念)、いよいよ神徳出現して、神慮の深遠なるを宇宙に現出すべき時運にむかふことを慶賀されたる神示であります。 月光世に出でて万界の暗を照破す、これ言霊学上の五月五日となるのであつて、けつして暦学上の月日でないことは明白である。三月三日と五月五日に、変つたことがなければ信仰をやめるといふ無明暗黒の雲が、遠近の天地を包むでゐるやうに思はれましたから、一寸略解をほどこしておきました。これでもまた女子の御魂の言は審神者をせなくてはいかぬと、唱ふる豪い人々が出現するかもしれませぬ。これが暗黒の世の中といふのでせう。 神諭に「女子にとりて結構な日である」云々は微々たる五尺の肉体にたいしての言ではない。神霊そのものの大目的の開き初むるを慶賀されたる意味であることを了解すべきである。千座の置戸は、瑞の御魂の天賦的神業たることを承知してもらひたい。 霊界物語を読ンで、初めて今日までの神諭の解釈にたいする疑雲は一掃され、心天たちまち晴明の日月をうかべ、霊体力に光輝をそへ歓喜と了解の日月出現していはゆる三月三日五月五日の瑞祥を神人ともに祝することになるのである。 五月五日は男子の祝日、菖蒲の節句である。三月三日は女子の祝日で、桃の節句である。女子の御魂聖地に出現してより二十五年の間桃李物言はず自ら蹊をなせしもの、ここに目出度く世にあらはれて苦、集、滅、道を説き、道、法、礼、節をはなばなしく開示することとなつたのも、神界経綸の神業成就の曙光をみとめ、旭光照破の瑞祥にむかつたので、神人界のともに祝福すべき年であります。 ○ この物語のうちに大自在天とあるは、神典にいはゆる、大国主之神の御事であつて、大国彦命、八千矛神、大己貴命、葦原醜男神、宇都志国魂神などの御名を有したまひ、武力絶倫の神にましまして国平矛を天孫にたてまつり、君臣の大義を明らかにし、忠誠の道を克く守りたまふた神であります。本物語にては大自在天、または常世神王と申しあげてあります。 大自在天とは仏典にある仏の名であるが、神界にては大国主神様の御事であります。この神は八代矛の威力をふるつて、天下を治めたまうた英雄神である。皇祖の神は、平和の象徴たる璽と、智慧の表徴たる鏡とをもつて、世を治めたまふのが御神意である。故に我皇孫命の世界統御の御神政は、飽く迄も道義的統一であつて、武断的ではないのである。故に天津日嗣天皇の世界御統一は、侵略でも征伐でもない、併呑でも無い、皇祖大神の大御心を心とし玉ふたのである。劍を用ゐ玉ふは、変事に際してのみ其神聖不可犯の御威力を発揮し玉ふので、是又止むを得ざるに出でさせ玉ふ御神業であります。決して大自在天的武力統一ではない、御仁慈の御政治であります。[※「故に我皇孫命の」から「御仁慈の御政治であります。」までは、戦前の版・聖師御校正本には書いてあるが、戦後の版からは削除されている。霊界物語ネットでも削除されていたが、2020/4/27に追加した。] また盤古大神塩長彦は一名潮沫彦と申し上げる、善良なる神にましますことは、前篇に述べたとほりであります。この神を奉戴して荒ぶる神人等が色々の計画をたて、神界に活動して国治立命の神政に対抗し、種々の波瀾をまきおこしたことはすでに述べたとほりである。そこでこの世界を救ふべく、諾冊二神がわが国土を中心として天降りまし、修理固成の神業を励ませたまふこととなつた、ありがたき物語は篇を逐うて判明することであらうと思ひます。惟神霊幸倍坐世 大正十一年一月三日 王仁識 |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 総説 | 総説 天地剖判して大地、日、月、星辰現はれ、地上には樹草、人類、獣、鳥、魚、虫を発生せしめ、各自分掌の神を定めてこれを守護せしめたまひける。 大神は人体の元祖神として天足彦、胞場姫を生みたまひ、天の益人の種と成したまひたり。しかるに天足彦は胞場姫のために神勅にそむきて霊主体従の本義を忘れ、つひに体主霊従の果実を食し、霊性たちまち悪化して子孫に悪念を遺したるのみならず、邪念はおのづから凝つて八頭八尾の大蛇と変じ、あるひは金毛九尾の悪狐と化し、六面八臂の魔鬼となり、世界を混乱紛擾せしめ、国治立大神、国直姫命、大八洲彦命以下の諸神を根の国に隠退せしめ、盤古大神(塩長彦)を奉じて国治立大神の聖職に代らしめ、塩長姫をして国直姫命の職をおそはしめ、八王大神(常世彦)をして大八洲彦命の職を司らしめ、常世姫をして豊国姫命にかはらしめ、和光同塵的神策を布き、一時を糊塗して、大国彦と結託し、世界を物質主義に悪化し、優勝劣敗、弱肉強食の端を開き、つひには収拾すべからざる悪逆無道の暗黒界と化せしめ、その惨状目もあてられぬ光景となりたれば、天の三体の大神も坐視するに忍びず、ここに末法濁世の代を短縮して再び国治立命の出現を命じたまひ、完全無欠の理想の神世の出現せむとする次第を略述せるものなれども、製本上の都合により本巻は、国大立命および金勝要神、大将軍沢田彦命の隠退さるるまでの霊界の消息を伝ふることとせり。ゆゑにこの霊界物語は、あたかも大海の一滴、九牛の一毛にもおよばず、無限絶対、無始無終の霊界の一部の物語なれば、これをもつて霊界の全況となすは誤りなり。願はくはこの書をもつて霊界一部の消息を探知し、霊主体従の身魂に立ちかへり、世界万国のために弥勒の神業に奉仕されむことを懇望する次第なり。数千年間の歴史上の事実のみ研究さるる現代の人士は、この物語を読みて或ひは怪乱狂暴取るにたらざる痴人の夢物語と嘲笑し、牽強附会の言となさむは、むしろ当然の理といふべし。神諭に曰く、 『世の元の誠の生神が、時節きたりてこの世に現はれ、因縁ある身魂にうつりて太古から言ひおきにも、書きおきにもなきことを、筆と口とで世界へ知らすのであるから、世界の人民が疑ふて真実にいたさぬのは、もつとものことであるぞよ云々』 と示されあり。また、 『この神の申すことは、因縁の身魂でないと、到底腹へは這入らぬぞよ』 と示されあり。ゆゑに神縁深き人士にあらざれば、断じて信じ難からむ。 要は、単に一片の小説と見なしたまふも不可なく、また痴人の夢物語として読まるるも可なり。ただ天地の大神たちの天地修理固成の容易ならざる御艱難と御苦心の径路を拝察したてまつり、かつ洪大無辺の神恩に報ひたてまつり、人生の本分を全ふしうる人士の一人にても出現するにいたらば、口述者にとりて、望外の欣幸とするところなり。惟神霊幸倍坐世 大正十一年一月王仁識 |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 03 渓間の悲劇 | 第三章渓間の悲劇〔一〇三〕 新高山は花森彦統裁のもとに、高国別、高国姫が天地の律法を厳守し、高砂島一帯の諸神を至治太平に治めゐたりしが、たまたま高国姫は谷間に下りて清泉を汲まむとし、断崕より過つて足を踏み外し、谷間に転落し、神事不省に陥りければ、侍者らは大いに驚きて、これを救ひあげむと百方手をつくしたれども断崕高く、渓流はげしく、いかんとも救助の道なく、侍者は驚きあはてこれの顛末を詳細に高国別に報告せしより、急報を聞きし夫は、たちまち顔色蒼白となり、とるものも取りあへず、職服のまま現場にかけつけたりける。 高国姫は渓間の激流におちいり、激浪につつまれて、浮きつ沈みつ悶え苦しみ救ひを呼びゐたり。その声は次第に細りゆきて、つひには虫の音のごとく衰へきたりぬ。いかに救はむとするも断巌絶壁に隔てられ救助の道なく、ただ手をつかねて神司らは、あれよあれよと絶叫するばかり、傍観するより外に方法とてはあらざりにける。 ここに高国姫の侍者に玉手姫といふ容色優れたる女性ありしが、玉手姫は、 『主神の一大事、吾は生命に替へて救ひまつらむ』 といふより早く着衣を脱ぎすて、数百丈の谷間を目がけ、急転直下、高国姫の溺れ苦しむ前に飛下り、高国姫を小脇にかかへ、辛うじて渓流はるかの下流に泳ぎつきこれを救ひあげたり。高国別夫妻の喜悦と感謝はたとふるに物もなく、玉手姫は高国姫の生命の親として優遇され、つひに玉手姫は二神司の寵愛ふかき神司となりぬ。 高国別、高国姫二神は、玉手姫の奇智と才略と忠勇心に深く信頼し、城中のこと一切は、玉手姫のほとんど指揮を待たざれば何事も決定せざるまでに、漸次権勢を張るにいたりける。 ここに新高山を中心とする高砂島は、玉手姫の水ももらさぬ経綸によつて大いに治まり、よく天地の律法を厳守し、上下一致して神政の模範となり、国の誉も高砂の、千歳の松の永久に、治まる御代と思ひきや、高国姫は渓流に落ちたるとき、身体の一部に障害をきたし、それが原因となりて大病を発し、病床に呻吟し、身体は日に衰へゆくばかりなりける。 ここに高国別は、高国姫の寵愛ふかき玉手姫をして、昼夜看護に尽力せしめたるに、玉手姫の周到なる看護も何の効なく、病は日々重りゆくのみなりける。ここに花森彦は高国別を近く招き、玉手姫を一時も早く追放すべく厳命せられたるにぞ、高国別は天使の命をいぶかり、腑におちぬていにて言葉静に、 『かれ玉手姫は忠勇無比にして真心より懇切なる神司なり。高国姫の危急を救ひたるもまた玉手姫なり。多くの侍者ありといへども、玉手姫のごとき忠実なる者は外に一柱もなし。しかるに天使は何をもつて玉手姫を追ひだせと命じたまふか』 と反問したりけれど、花森彦は、 『今は何事も語るべき時期にあらず、ただ吾命を遵奉せば足れり』 と、鶴の一声を残して殿内ふかく足早に進みいりぬ。しかして高国別は妻および玉手姫にむかつて、花森彦の厳命の次第を物語れば、高国姫は重き病の頭をもたげながら、驚きの眼を見はり、 『わが生命は玉手姫のために救はれ、今また懇切なる看護を受く、妾にとつて命の親なり。たとへ天使の厳命なりといへども、かかる没義道なる命には従ひがたし』 と非常に天使を恨み興奮の結果つひに上天したりける。高国別は妻の憤死を見て大いに悲しみ、かつ花森彦を深く恨むにいたれり。 ここに玉手姫は高国別の心中を察し、熱涙をうかべ、花森彦の無情冷酷を怒り、高国別をして信書を認め天使に捧呈せしめける。その文意は、 『高国姫は天使の冷酷なる命令を恨み憤死いたしたり。また玉手姫は誠意を疑はれ、かつ放逐の命をうけたるを大いに憤慨せり。我はいかに天使の命なりとて盲従するに忍びず、実に貴神を恨みまつる』 と云ふの意味なりし。花森彦はこれを披見してただちに高国別にたいし、天則違反の由を懇諭し、かつ、 『根の国にいたるべし』 と厳命したりける。高国別は天使の神通力を知らず、ただ単に無情冷酷の処置とのみ思惟し、自暴自棄となりて、花森彦の無道を天使長大八洲彦命に進言せむとしたりける。 (大正一〇・一一・一三旧一〇・一四加藤明子録) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 04 鶴の首 | 第四章鶴の首〔一〇四〕 高国別は妻に先だたれ、心さびしく新高山の城中にあつて、神業に奉仕しつつありけれども、花森彦の神意を了解せず、心中に不平を抱きゐたりける。玉手姫は高国別の常に怏々として楽まず、不平無聊に日を送りつつあるを慰撫し、つひに命の絶対的信任を得るにいたり、ここに第二の妻と昇進したりける。玉手姫はその実は常世姫の間者にして、高国姫を谷間に落して苦しましめたるも、また重病におちいらしめたるも、玉手姫のひきゆる悪魔の暗中飛躍的悪計なりき。花森彦はさすがに名智の神将なればよくこれを察知し、高国別にむかつて、玉手姫を追出すべく厳命されたり。されど高国別は玉手姫を少しも疑はず、深く信任して天使の厳命を無情冷酷と恨み、かつ猥に怒ることは、天地の律法違反なるをもつて、これが処罰を命ぜられたりしなり。 高国別は玉手姫と夫婦になり、ひそかに天使長大八洲彦命に向つて信書をたてまつり、花森彦の横暴かぎりなき処置を、口をきはめて進言したり。大八洲彦命はただちに言霊別命をして新高山に急行せしめ、精密なる調査を命じたまひぬ。言霊別命はここに花森彦、高国別、玉手姫を命の前に来らしめ、審判を開始されけるが、花森彦は言霊別命にむかひ、高国別夫妻が玉手姫の悪計にかかりをることを詳細に述べたり。このとき玉手姫は涙を流して泣き伏し、言霊別命にむかつて、花森彦の無情をうつたへ、かつ自分の誠意の貫徹せざることを言葉たくみに進言したりける。 ここに花森彦は高国別の天地の律法に違反し、かつ玉手姫を妻とせる不法の行為を述べたてたるに、高国別はうやうやしく言霊別命にむかつていふ。 『我は不幸にして高国姫に死別れ、神務を輔佐する者なく、実に煩悶苦悩せしに、忠実なる玉手姫は陰に陽に我が神業を輔佐し功績もつとも顕著にして、この高砂島においては彼にまさる完全なる輔助者なし。いかに一夫一婦の律法あればとて、我はすでに妻を失ひ孤独となれり。故にここに諸神司に信任あつき玉手姫を登用して、妻となすに何の不可かこれあらむ。一夫一婦は天地律法の精神ならずや』 と口をきはめて進言したりければ、言霊別命は、 『汝のいふところ一理なきにあらざれども、本嶋の主権者たる花森彦の認許を受けずして、独断的にかかる一大事を決行するは道理に反するものなり。今後は主権者の認許をえて何事も決行すべし』 と厳命したまへば、高国別はいふ。 『貴神の厳命は実にもつとも千万なれども、本嶋の主権者たる花森彦はすでに天則に違反し、延いて稚桜姫命を幽界に降したてまつりたる無道の神司なり。我いかに天地を畏れ長上を尊べとの律法ありといへども、かかる不徳不義なる天使の命を聞くに堪へむや。君君たらずンば臣臣たらず、願はくは公明正大なる御裁断を乞ひ奉る』 と涙を流して陳弁するにぞ、言霊別命は高国別にむかつて、 『花森彦の罪は律法制定前の罪にして、国治立命のすでに恩赦されしは汝も知るところならむ。しかるに汝律法制定後、八頭の神となり、国魂の神に仕へながら、邪神のために誤られて最愛の妻を失ひ、玉手姫の容色に迷ひ、かつ長上の命を奉ぜず。これに越えたる律法破壊者はなし』 と宣示したまひ、 『高国別にしてなほ迷夢を醒さざれば是非なし』 といひつつ神殿より青色の玉を取りだし、玉手姫の面上を射照したまへば、今まで玉を欺く姫の姿はたちまち悪狐と変じ、雲を翔りて空中高く西天に姿を隠しける。高国別はここに初めて花森彦の明察に驚き、今までの無礼を涙とともに陳謝したりければ、言霊別命は深く将来を戒め、……何事も主権者の命を奉じ、神政に奉仕せよ……と厳命し、かつ……委細を大八洲彦命に報告し、何分の沙汰あるまで謹慎を表しをるべし……と地の高天原に帰還し、一伍一什を天使長に奏上したまひける。審議の結果高国別に厳しく注意をあたへ、今回の失敗の罪は問はざることとなりにけり。 しかるに常世姫一派の悪魔は、千変万化の悪計をめぐらし、つひには高国別をおとしいれ、蒙古別をしてその地位に代らしめ、花森彦を新高山の西南方に押込めたりければ、さしも平和の高砂島は大半常世姫の部下の占領するところとなりける。されど花森彦の至粋至純の霊魂は永く本嶋にとどまり、青色の玉とともにこの島に永久に隠されにける。花森彦の子孫も今に儼存して勇猛義烈の神民となり、神の御魂を維持しつつ弥勒神政の出現を鶴首して霊を研きて待ち居れりと云ふ。 (大正一〇・一一・一三旧一〇・一四土井靖都録) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 06 籠の鳥 | 第六章籠の鳥〔一〇六〕 国直姫命は靖国姫とともにロツキー山の諸神将卒を集め、高天原の惨状を物語り、かつ、……我は天の御三体の大神の命を奉じ、ロツキー山に地の高天原を建設し、国治立命を迎へたてまつり、天地の律法を厳守し、もつて至善至美なるミロクの神政を布かむとす。汝ら諸神将卒心を合せ我が命を奉じ、力を一にして、もつて神政成就のために努力せよ……と宣示したり。 諸神将卒は一点の疑ひもなく、この宣示を遵守し、ますます結束を固くし、各城門には勇猛なる神将を配置し、固くこれを守らしめたり。このとき東天をとどろかし、天の磐船に乗りてきたる神あり、靖国別に面談せむと、眉目清秀威厳犯すべからざる言霊別命がこの場に現はれたまひける。東門の神将玉国別は、この旨を国直姫命に奏上しければ、命はただちに大広間に諸神将を集め、列座せる中央に言霊別命を招き、その来意を尋ねける。 ここに言霊別命は、 『貴治彦の使者国彦の進言により、高天原の混乱状態に陥り、国直姫命は身をもつて免れ、大八洲彦命は昇天し、国治立命は行衛不明となりたまひたりとの密使ロツキー山に来れりと聞き、不審にたへず、事の実否を調査せむために、我は大八洲彦命の使神として出向せり。今日の地の高天原はきはめて平穏無事なり。したがつて国治立命をはじめ、国直姫命、大八洲彦命はすこぶる健全にして神務に鞅掌せられ、天地の律法は完全に行はれつつあり。しかるに何者の奸策にや、当城にむけ虚偽の密告をなし当山を攪乱せむとはする、貴下は何者なるぞ』 と国直姫命にむかつて詰問せり。このとき国直姫命は容色をあらため威儀を正し、 『汝言霊別命と自称するも我はこれを信ぜず。現に国直姫命は我なるぞ。しかるに国直姫命高天原にあり、大八洲彦命も健全に神務に従事せりとは虚偽もまた甚だしからずや、汝は「詐るなかれ」といふ天地の律法を破りたる邪神なり、国直姫命あに二柱あらむや』 と色をなして言ひ放ちけるにぞ、ここに諸神将は、……我らをいつはる不届至極の邪神、贋言霊別命を厳罰に処せむ……と、いふより早く目と目を見合せ、ただちに立つて命を後手に縛りあげ、口に猿轡をはませ、神卒をして泥深き堀の中に投棄し、凱歌を奏しふたたび国直姫命の御前に出で鼻高々とこの顛末を奏上したり。国直姫命は賞詞を賜はるかと思ひきや、……汝らは『殺すなかれ』との天則に違反せり。すみやかに根の国に退去を命ず……と厳かに言ひわたしければ、案に相違の神司らは梟の夜食に外れたるごとき不平面にて、神将に引立てられ牢獄に投げ込まれける。一方言霊別命は辛うじて泥中より這ひ上りしところを番卒に見つけられ、高手小手に縛められて牢獄に投げこまれ、無限の苦痛をなめたまひける。 折しもどこともなく微妙の音楽聞え、紺碧の蒼空より五色の雲に乗り、あまたの神将をしたがへ十曜の神旗を幾十ともなく押したてて、ロツキー山にむかつて下りきたる、栄光と権威の具はれる大神現はれましぬ。国直姫命は恭敬礼拝拍手してこれを迎へ、……国治立命様御苦労に存じ奉る……と大声に奏上したれば、あまたの神司は命の声を聞くと斉しく恭敬礼拝低頭平身、礼の限りをつくして奉迎し、歓喜の涙にくれにける。 ここに国直姫命は国治立命を奥殿に案内し奉り、かつ諸神司を集めて地の高天原を天の大神の命により、ロツキー山に遷されしことを宣示しける。諸神将卒は欣喜雀躍手の舞ひ足の踏むところを知らざりし。時しも天の鳥船に乗りて、地の高天原より八王神なる貴治彦、八頭神なる靖国別帰りきたり、東門に降下し、番卒にむかつて開門を命じたり。番卒はおほいに驚き、唯々として門を開き二神将を通したり。二神将はただちに奥殿に気色をかへて進み入り、靖国姫を一間に招き、高天原の実況を物語り、かつ、当山に逃げきたりしといふ国治立命は、その実常世姫の部下の邪神なりと語れば、靖国姫はおほいに驚き、かつ、その真偽に迷はざるを得ざりける。 ここに貴治彦、靖国別は城内の諸神司を集め、地の高天原の実況を伝達せむとし城内一般に令を発したるに、偽国直姫命は陰謀の露見せむことを恐れ、みづからも諸神将に令を発し、大広前に集まらしめける。諸神将卒は一柱として国直姫命を偽神と信ずる者なく、かつ偽の国治立命を一層深く信頼しゐたりける。このとき貴治彦、靖国別は正座になほり、偽の国直姫にむかつて、貴治彦は、 『汝はいづれより来りし邪神なるか、有体に白状せよ。返答次第によりては容赦はならじ』 と双方より詰めかけけるを、国直姫命はカラカラとうち笑ひ、 『汝は主神にむかつて無礼の雑言、「長上を敬へ」との律法を破る反逆者ならずや。また汝は地の高天原にいたりてその惨状を見きはめ帰りしにもかかはらず、吾にむかつて何れの邪神ぞと口をきはめて罵るは、これはまた律法違反に非ずや。我はただちに奥殿に入り、国治立命に汝が無礼の次第を逐一奏上し奉らむ、しばらく控へよ』 と、足音荒く奥殿に急ぎ進入したりしが、城内の諸神将はこの光景を見てやや不審の雲に包まれゐたり。貴治彦、靖国別は怒心頭に達し、二神司は共に刀の柄に手をかけ、国直姫命を一刀の下に切り付けむと決心したりしが、たちまち天地の律法を思ひ出し……「怒る勿れ、殺す勿れ」いま我短慮を起しなばみづから天則を破る者なり、ああ如何にせむ……と思案にくるるをりしも、奥殿より国治立命あまたの侍神を従へ、悠然と立ち現はれ、 『国治立命これに在り、汝何ゆゑなれば天地の大命を拝持する国直姫命にむかつて暴言を吐くや、汝は天地の律法を破壊する邪神なり、一時も早くこの場を立去れ。万一吾が言に違背せば、やむを得ず汝ら二人を、根の国に退去を命ず』 と、言辞おごそかに伝へければ、城内の諸神将卒はいづれも真正の国治立命と信じ、この二人を天則違反者となして、ロツキー山を退去せしめたりける。ここに貴治彦はモスコーに逃れ、蟄居して時期を待つこととなりぬ。また靖国別夫婦は何処ともなく落ちのび、行衛不明となれり。 附言この国治立命といふは六面八臂の邪鬼の変化にして、国直姫命は常世姫の部下醜玉姫なり。かくしてロツキー山は悪魔の手におちいり、諸神将卒は、その邪神たることを覚る者なく、ここに偽高天原はある時期まで、建設されゐたりしなり。 (大正一〇・一一・一四旧一〇・一五河津雄録) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 07 諷詩の徳 | 第七章諷詩の徳〔一〇七〕 大八洲彦命は、ロツキー山は悪神のために根底より覆へされ、貴治彦、靖国別夫妻のいづこともなく逃亡し、かつ言霊別命は敵のために捕はれ、牢獄につながれ呻吟せることを知り、ここに諸神司を集めて、ロツキー山を回復し、言霊別命を救ひ出さむことを協議したまひぬ。諸神司は鳩首謀議の結果、神軍をおこしてロツキー山を一挙に奪還するは、さまで難事にあらざれども、言霊別命の身辺にかへつて危険の迫らむことを慮り、表面これを攻撃することを躊躇したまひぬ。 ここに言霊別命の侍者に、忠勇義烈の誉高き言代別といふ者ありき。言代別は恐るおそる諸神将の前に出で、 『我つらつら考ふるに、ロツキー山の攻撃に先だち、言霊別命を救ひださざれば、命は人質同様なれば、魔軍は危急におちいりたる場合、命を殺害したてまつるは必定なり。我は「偽るなかれ」の厳しき律法を破りみづから犠牲となりて、我が主を救ひたてまつらむとす。幸にこの大任を我に許したまへ』 と誠心おもてに表はして嘆願したりければ、大八洲彦命は打ちうなづき、 『汝は主を救はむとして敵を偽らむとする行為は、元来忠良の真情よりいでたるものなれば決して罪とならざるべし。すみやかにロツキー山にいたりて言霊別命を救ひだせよ』 と命じたまひぬ。言代別はおほいに悦び天にも昇る心地して、ただちにロツキー山にむかひける。言代別は円き石に金鍍金をほどこし、如意宝珠の珠を偽造して懐中に深く秘蔵し、ロツキー山の南門に現はれ、 『国直姫命に奉るべき珍宝あり。拝謁を乞ひたし。願はくば貴下らの斡旋によりこの由を奏上されむことを』 と、言葉たくみに頼みこみけるを、番卒はいふ。 『果して貴下が如意宝珠の珠を所持さるるならば、我らに一目拝観せしめよ。珠の有無をたしかめざるにおいては、軽々しく奏上することを得ず』 とてやや難色ありければ言代別は、 『貴下の仰せ実に尤もなり』 とて懐をひらき、金色燦然たる珠の一部を現はし見せたるに、番卒はこれを上級の神司に伝へ、漸次国直姫命にこの次第を奏上したりける。国直姫命は、 『ロツキー山には未だ如意宝珠の珠なきを憾みとす。しかるに天運循環してここに珍宝の手に入るは、いよいよ願望成就の時期到来せしならむ。すみやかに言代別を我が前によびきたれ』 といそいそとして命令したり。かくて言代別はしばらくして城内の神司にみちびかれ、国直姫命の前に現はれ一礼の後、懐中より珠を取出し八足の机上にうやうやしく安置し、 『吾こそは高白山の麓に住む言代別といふ者なり。いまや当山に国治立大神現はれたまふと聞きて歓喜にたへず。吾は往古より家に伝はる如意宝珠の珠を持参し、これを大神に奉り、もつて神業に参加せむと欲し、遠き山河を越えてここに参のぼりたり』 と言葉をつくして奏上したるに、国直姫命はおほいに悦び、その珠を手にとり熟視して満面笑を含み、 『実に稀代の珍宝なり。汝はこの珠を奉りし功により、いかなる望みなりとも叶へつかはさむ』 と宣言せり。言代別は頓首再拝、喜色満面にあふれ、 『実に有難き大神の御仰せ、御恩は海山に代へがたし。願はくば卑しき吾をして牢獄の番卒たらしめたまへ、これに過ぎたるよろこびはなし』 と願ひけるに、国直姫命は少しく首をかたむけ、 『心得ぬ汝が望み、かかる麗しき世界の珍宝を奉りたる功労者でありながら、何を苦しみてかかる卑しき職を求むるや』 と反問するを、言代別はただちに言葉を反していふ。 『諺にも喬木よく風にあたり、出る杭は打たれ、高きに昇る者は、地に落つることありと聞きおよぶ。吾は役目の高下を望まず、ただ誠心誠意大神に仕へ、神業の一端に加へたまはばこれに過ぎたる幸なし。それとも吾が技倆を大神において認めたまはば、其のとき相当の地位を与へたまふべし。急に上職をたまはるより漸次に重く用ゐさせたまはば、吾が一身にとりてもつとも安全ならむ』 との言に、国直姫命は言代別の名利を求めず、寡欲恬淡なるに感激し、ただちにその乞ひを容れて牢獄の番卒仲間に加へけり。言代別は日夜番卒として忠実に奉務し、心ひそかに言霊別命の繋がれたる牢獄を探りゐたりける。言霊別命は頭髪長く背後に伸び、髯は胸先に垂れ、顔色憔悴して、ほとんど見擬ふばかりの姿と変じゐたまへば、言代別は命の御姿を認めること容易ならざりける。 あるとき国治立命出現の祝ひとして、ロツキー山の城内に祝宴を張られ、また獄卒一般は獄前において祝意を表するため、酒宴を催しける。獄卒は珍しき酒肴に酔ひ、あるひは舞ひ、あるひはうたひ、踊りて立騒ぎけり。中に言代別は立ちて歌をうたひ、踊りはじめたり。その歌は、 昔の昔のさる昔猿が三疋飛ンできて 鬼に遂はれて二疋は逃げた。残りの一疋捕まへられて いまは鬼らの玩弄とせられ暗い穴へとほりこまれ 消息せうにも言伝しよにもいまは詮なしただ一言の 言霊別の神代と現はれいでし言代別の わけて苦しき暗の夜半高天原より降りきて お猿の命を助けむと思ふ手段は有明の 十五の月のまンまるい光をあてに飛ンで出よ。 猿が餅搗きや、兎がまぜる。まぜる兎が言代別よ。 今年や豊年満作ぢや。心持よき望月の 光とともに飛ンで出よ。光とともに飛ンで出よ。 よいとさのよいとささつさとぬけ出て東へ走れ。 東に羊が千疋をつて猿をかかへて飛ンでゆく。 よいとさのよいとさ。 と節面白くみづから謡ひみづから踊り狂ふにぞ、あまたの番卒は何の意味なるやを知らず、ただ面白き歌とのみ思ひて笑ふばかりなりける。言霊別命はこの歌を聞きて言代別の我を救ひ出さむために番卒となり、合図の歌をうたひしものと大いによろこび、十五夜の月を待ちゐたまひぬ。昼きたり夜去りて、つひには仲秋の月の夜となりぬ。国直姫命以下の曲人は、高台に昇り月見の宴を催しゐたれば、番卒もまた一所に集まりて月見の宴を開き、酒に酔ひくるひ面白き歌をうたひて余念なくたわむれゐたりけり。このとき言代別は、ふたたび以前の歌をうたひ牢獄を見廻りぬ。ある牢獄の中より小声にて、 『言代別』 と呼ぶ声あり。疑ひもなく聞きおぼえたる主の声なるに、言代別は大いによろこび、ただちに戸をひらき縛を解き、やつれたる言霊別命を背に負ひ、東門指して逃げ出したり。 外には言霊別命の部下の神卒あまた現はれきたり、命を天磐船に乗せ、天空高くロツキー山を後に、地の高天原へ無事帰還したりける。言代別は何喰はぬ顔にて牢獄の戸を閉ぢ、もとのごとく酒宴の場に現はれ、あまたの番卒とともに酒に酔ひ踊り狂ひゐたり。後に残りし言代別は後日いかなる活動をなすか、趣味ある問題と云ふべし。 (大正一〇・一一・一四旧一〇・一五土井靖都録) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 10 無分別 | 第一〇章無分別〔一一〇〕 天使長大八洲彦命の命により、須賀彦は第二の使者として、伴をも連れずただ一騎竜馬にまたがり蹄の音高く、鬼城山にむかひて出馬したりけり。須賀彦は、容貌うるはしく眉目清秀にして、あくまで色白く肌滑らかにしてあたかも天女の再来かと疑はるるばかりの美男子なりけり。 須賀彦は鬼城山の城門を何ンの憚る色もなく、竜馬に鞭うち奥ふかく侵入し、玄関先に馬をすて奥殿に進みいり、大音声をあげていふ。 『我こそは、地の高天原を司りたまふ国治立命、天使大八洲彦命の直使として出馬せり、言ひ渡すべき仔細あり。美山彦はあらざるか、国照姫は何処ぞ。すみやかに我が眼前にまかり出で、直使の命を承れ』 と呼ばはりし。その言霊の力は、実に雷鳴のごとく轟きわたり何となくすさまじき中にも優しみありき。美山彦は須賀彦の言霊にのまれ、やや恐怖の念にかられて躊躇逡巡の色見えにける。 この時国照姫は一室より走りいで、須賀彦の容姿端麗にして、どことなく権威に充てるその態度に荒肝をひしがれ、何の言葉もなく頭を垂れて黙視するのみなりしが、又もや静に入りきたる女性あり。須賀彦は一目見るよりハツタと睨み、 『反逆不忠の口子姫、見るもけがらはし、片時も早くこの場を立ち去れよ』 とにらみつけられ、口子姫は恨めしげに須賀彦の顔を見あげ、袖をもつてしたたる涙をふきながら四辺に眼を配り、わが胸を押へ、何事か口には出さざれど秘密のこもれることを暗示する様子なりける。 美山彦の一女に小桜姫といふ絶世の美しき若き女性あり。この小桜姫は最前よりの須賀彦の容貌端麗なるを、戸の陰より垣間見つつ心臓に劇しき波を打たせゐたるが、つひに耐へかねて顔を赤らめながら戸を押しひらき、静々と須賀彦の立てる前にはづかしげに両手をつき、慇懃に述ぶる挨拶も口ごもるそのしほらしさ。 小桜姫は思ひきつて面をもたぐるその刹那、須賀彦とたがひに視線は合致せり。いづれ劣らぬ花紅葉、色香争ふ美人と美人、両者の眼は何事かを物語るやうに見へにける。このとき美山彦、国照姫、口子姫はその場に現はれ、山海の珍味をもちだし須賀彦を丁寧に饗応し、ここに五人の神司は互ひに打ちとけ談話を交換したりける。 須賀彦はおもむろに使者のおもむきを伝へ、美山彦の返答を促しければ、美山彦は、 『使者のおもむき、たしかに拝承し奉る。しかしながら、城内の諸神司をあつめ一まづ協議を遂ぐるまで、数日の猶予を与へたまはずや』 と顔をやや左方にかたむけ、須賀彦の返答いかにとその顔を見上げたり。須賀彦はその請求を許し、数日城内に滞在し返事を待ちゐたり。国照姫は小桜姫に命じ、須賀彦の身辺に侍せしめ用務を便ぜしめける。 遠きやうでも近く、難きに似て易きは男女の道とかや。ここに須賀彦、小桜姫は人目の関を破りて割無き仲となり終りぬ。この様子をうかがひ知りたる国照姫、口子姫はおほいに喜び、須賀彦をとどめて婿となさむと思ひ、種々心を配りゐたりける。 それより須賀彦と小桜姫は両親の黙認のもとに夫婦きどりになり、緊要なる大神の使命を忘却するにいたりけるぞ歎てけれ。須賀彦は小桜姫に魂をうばはれ日夜姫を相手に淫酒にふけり、あまたの城内の神司とともに花見の宴を催したるに、諸神司は酒に酔ひつぶれ、かつ庭前にいまを盛りと咲き香ふ桜木の下に、あるひは謡ひあるひは舞ひ、鐘や太鼓の拍子に乗つて踊りくるひ、かつ須賀彦の手をとり、「貴下も謡ひたまへ、舞ひたまへ」と、諸手をとつて大桜木の下に誘ひ、春風に散る花吹雪を浴びつつ愉快気に、須賀彦は酒の威力を借りてうたひ出しけり。その意味の大要を、今様式にここに挙ぐれば左の意味の籠れる歌なりける。 『花の顔色月の眉富士の額に雪の肌 天津乙女の再来か小野の小町か照手の姫か ネルソンバテーか万竜か欣々女史か楊貴妃か 褒似の姫か難波江のよしもあしきも判きかぬる 富田屋八千代も丸跣年は二八か二九からぬ 小桜姫の微笑は天下の城も傾けむ 鬼神もおそるる幽庁の閻魔もよだれを流すらむ 優び姿は海棠の雨の湿ほふごとくなり かかる美人がまたと世に三千世界にあるものか 有明月のまるまると背は高からず低からず 一度にひらく紅梅の露に綻ぶ姿かや 口より見する歯の光光明姫か衣通姫の 美し命の再生かすずしき声は鈴虫か さては弥生の鶯か松の神代に遇ふよりも 小桜姫ともろともに仲も吉野の山ふかく 竹の柱に茅の屋根虎狼の住家をも なぞか厭はむ糸桜夜半の嵐に散るとても 散らぬ両人の恋衣恋に上下の隔てなし 隔てないのが恋の道隔てないのが恋の道 心須賀彦須賀々々と八雲の琴の須賀掻も シヤツチンシヤツチンシヤツチンチンシヤツチンシヤツチンシヤツチンチン』 と二弦の琴を弾じながら、あたりかまはず土堤を切らして踊り狂ふ。 かくして須賀彦は、つひに恋の虜となり、地の高天原への復命をなさず、敵城の養子婿となりすまして不義の臣とはなりにける。楽しき鴛鴦の契もつかのま、いづこよりとも知らず白羽の矢は飛び来りて須賀彦の胸を貫ぬきたれば、あはれ悶死を遂げにけり。あゝ、実に慎むべきは男女の道にこそあれ。 (大正一〇・一一・一五旧一〇・一六有田九皐録) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 13 嫉妬の報 | 第一三章嫉妬の報〔一一三〕 長白山には白色の玉を、荘厳なる神殿を造営してこれに鎮祭し、国魂の神の御神体となし、八王神は有国彦これに任ぜられ、妻の有国姫神業を輔佐することとなりぬ。八頭神には磐長彦任命せられ、磐長姫は妻となり[※第3巻第2章では磐長彦の妻は玉代姫になっているが、第14章で玉姫が玉代姫と改名し、磐長彦の後妻になっている。]、内助輔佐の役を勤めゐたりける。 しかるに磐長姫は、その性質獰猛邪悪にして、かつ嫉妬心の深き女性なりき。常に夫の行動を疑ひ、何事にもいちいち反対的行動をとり、夫が東へゆかむとすれば、西へゆくといひ、山へゆかむといへば、川へゆくといひ、常に夫婦の間に波瀾が絶えざりしが、磐長姫の頭髪は、実に見事なるものにして、その色沢は漆のごとくあくまでも黒く、ひいて地上に垂るるほどなりし。磐長姫はある時ただ一人深山にわけ入り、白布の滝に身をうたれ、夫の我意に従はむことを祈願したり。 百日百夜強烈なる滝にうたれ、見るも凄じき血相にて、祈願をこめゐたるをりしも、山上より騒がしき足音聞え、樹木を吹き倒し、岩石を飛ばし、姫のかかれる滝の上にも、あまたの岩石降り来たりたれども、姫はこれにも屈せず、一心不乱に、長髪をふり乱し、祈願を籠めつつありぬ。そこへ忽然として白狐の姿現はれ、姫にむかつて、 『我は常世国の守護神なり。汝の熱心なる願ひにより、今より汝の肉体を守護すべし』 といふかと見れば姿は消えて、ただ滝の水のはげしく落つる音のみ聞えけり。 それより磐長姫の黒漆の頭髪は、にはかに純白色に変じ、眼は釣りあがり、唇は突出し、容貌たちまち一変するにいたりけり。 磐長姫は、我は白狐の守護により、夫の驕慢を矯なほし、夫婦和合の目的を達することと確信し、欣然として長白山にかへりきたれり。 さて磐長彦をはじめ、あまたの神司は姫の俄然白髪となり、かつ面貌の凄くなりたるに驚きぬ。それより姫は性質ますます獰猛となり、日夜従者をしたがへて山野に入り、兎、猪、山鳥なぞを狩立て無上の楽みとなし居たりければ、夫はこれを固く戒めて曰く、 『天地の律法を厳守して、すべての生物を断じて殺すべからず』 とおごそかに訓諭しける。されど白毛の悪狐に憑かれたる姫は、夫の訓諭を、東風吹く風と聞き流し、ますます殺生をつづけ、つひには我が意に少しにても逆らふ従者は、片つ端より斬り殺し、生血を啜りて無上の快楽となし、悪逆の行為日に日に増長し、従者も恐れて近づくものなきにいたりたり。 このこと八王神なる有国彦の耳に入り、唐山彦をして厳しき訓戒を伝達せしめられたるに、磐長姫は声を放つて号泣し、夫の無情を陳弁し、かつ、 『妾は天地の律法を厳守し、虱一匹といへども殺したることなし。その証拠には妾が着衣を検められよ』 といひつつ、下着を脱いで唐山彦の面前に差出したり。唐山彦は、その下着を見ておほいに驚きぬ。よく見れば下着には、ほとんど隙間なきほどに、粟のごとく虱鈴生になりゐたればなり。唐山彦はこれを見て、同情の涙にくれ、 『貴女の御心中察するにあまりあり。かくのごとく虱にいたるまで、仁慈の情をもつて助けたまふ。今は疑ふところなし。この由ただちに八王神に達し奉らむ』 と袂を別ち帰りゆく。あとに磐長姫は長き舌をだし、いやらしき微笑を浮かべてけり。 有国彦は、唐山彦の復命の次第を詳細に聴きをはり、ただちに磐長彦を召して、 『事実の詳細をつつまず、隠さず奏上せよ』 と厳命しければ、磐長彦は事実をもつて答弁したり。されど有国彦は頭をかたむけ半信半疑の面色にて、命の顔色を熟視されつつありき。このとき磐長姫は、夫の後を追ひ出できたり有国彦にむかつて、涙とともに、言葉たくみに我身の無実を陳弁したりける。 ここに夫婦二人の争論は開かれけるが、姫は口角泡をとばし、舌端火をはき、両眼はますます釣りあがり、口は耳元まで割け、見るも凄じき形相となりける。有国彦はこの光景を見てただちに奥殿にいり、白色の国玉を取りだし、その玉を両手に捧げ、磐長姫目がけて、伊吹の神業を修したまへば、その身体より、たちまち白毛の悪狐現はれいで、空中を翔りて、たちまち西天に姿を没したりける。 ここに磐長姫は大いに愧ぢ、この場を一目散に逃げだし大川に身を投じ、終焉を遂げたり。しかして磐長姫の霊魂は化して無数の緑白色の鴨となり、水上に浮きつ沈みつ日を送ることとなりぬ。これよりこの川を鴨緑江となんいふとかや。 (大正一〇・一一・一六旧一〇・一七栗原七蔵録) (第一二章~第一三章昭和一〇・一・一六於みどり丸船室王仁校正) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 16 玉ノ井の宮 | 第一六章玉ノ井の宮〔一一六〕 玉ノ井の邑は、玉ノ井の湖の中央に浮かべる清き一つ島なり。玉ノ井湖の水は深く清く、常に紺碧の波漂ひ、金銀色の諸善竜神の安住所なりと伝ふ。湖の外は、大小高低、千変万化の霊山をもつて囲らされ、万寿山は東方に位し、霊鷲山は西方に位し、その他の山々には諸々の神鎮まり、春は諸々の花咲きみだれ、山は雲か霞かと疑はるるばかり。夏は新緑諸山に栄え、老松処々に点綴し得もいはれぬ風景なり。秋は諸山錦の衣を織り、冬は満山銀色に変じ、霊鳥は四季ともに悠々として舞ひ遊び、山々の谷を流るる大河小川の水清く、玉ノ井の湖水に潺々として注ぎをれり。 国治立命は世界の中心に地の高天原を建設し、今また東方の霊地を選み、この地点を第二の高天原となし、東西相応じて、陰陽のごとく、日月のごとく、経と緯との神策を定められたるなり。常世姫は地の高天原なる蓮華台および竜宮城を占領せむとして、千変万化の奸策を弄し、苦心焦慮すれども、神威赫々として冒すべからざるに落胆し、第二の経綸なる玉ノ井の湖を占領せむとし、大自在天にその意を通じ、東西呼応して大神の経綸を破壊し、盤古大神の神政に覆へさむと焦心せり。 万寿山は第二の地の高天原に擬すべき霊地にして、玉ノ井の邑は竜宮城に比すべき大切なる霊地なり。ゆゑに万寿山を占領するに先だち、玉ノ井湖を占領するの必要起りしなり。玉ノ井湖は前述のごとく四方霊山に囲まれ、神司の守護強く容易にこれを突破すること能はざる要害堅固の霊地なり。 ここに大自在天の部下蟹雲別は、あまたの神卒をことごとく蟹と化せしめ、東南の山々の谷をつたひて玉の井湖に這ひ込みきたり、また牛雲別は、数万の部下を残らず牛に変化せしめ、東北の山々の谷をつたひて湖水に近寄り来たり、また蚊取別は数万の魔を幾百万の蚊軍と化せしめ、西南より山々の谷をつたひて玉ノ井の邑にすすましめ、玉取別は数万の魔を、残らず瑪瑙の玉と化せしめ、西北の山の頂に登り、玉ノ井の邑を目がけて雨のごとく降り下らしめたりける。あまたの蟹はたちまち悪竜と変じ湖水に飛び込みしが、ここに湖水の諸善竜神と悪竜とは、巨浪を起し、飛沫を天に高く飛ばし、死力をつくして争ひ、さしもに清き紺碧の湖水の水もまたたくうちに赤色と変じ、得もいはれぬ血腥き風は四方に吹きまくりける。一方牛雲別の部下は、たちまち水牛と変じ湖水に飛びいり蟹雲別に加勢し、戦闘はますます激烈となり、湖水はすでに敵軍のために、占領されむとしたりけり。 ここに真道姫[※御校正本・愛世版では「天道姫」だが、第15章後半で「真道姫」が玉ノ井の宮で奉仕している旨記されているいるので「天道姫」は誤字だと思われる]は玉ノ井の宮に、敵軍降伏の祈願をこめられしが、三ツ葉彦命は旗輝彦[※「旗輝彦」は第3巻第18章では「旗照彦」になっている。]、久方彦を部将とし、湖水の敵軍に向つて天津祝詞を奏し、金色の大幣を打ち振り打ち振りおほいに敵を悩ましゐたる。時しも西北の高山より石玉の雨しきりに降りそそぎ、味方の神軍の頭上を目がけて打ち悩ましたり。西南の敵軍は、億兆無数の巨大なる蚊群となりて、味方の身体に迫り、その声は暴風の荒れ狂ふがごとく、咫尺を弁ぜざるばかり立塞がり、暗黒無明の天地と化しぬ。三ツ葉彦命は天にむかつて救援の神軍を遣はされむことを祈願しけるに、たちまち天上の三ツ星より東雲別命、白雲別命、青雲別命の三柱の軍神、雲に乗りて万寿山に降りきたり、大地を踏みたて、三柱一度に雄健びしたまへば、玉ノ井の湖水の水は一滴も残らず中空に舞ひのぼり、遠く東西に分れて降りきたり、一大湖水を現出したり。このとき石玉も、蚊軍も、共に湖水の水に浚はれて中天に舞ひのぼり、影を潜めけり。 東に分れし湖水の水は地上に停留してふたたび湖水を形成したり。これを牛の湖水といふ。今日の地理学上の裏海にして、また西に分れ降りて湖水を形成したるを、唐の湖といふ。現今地理学上の黒海なり。ここに東雲別命、青雲別命、白雲別命は、湖水を清め、新しき清泉を湛へられ、永遠に玉ノ井の湖の守護神となり、白竜と変化したまひぬ。かくして三ツ葉彦命とともに神政成就ミロクの世を待たせたまひける。 (大正一〇・一一・一七旧一〇・一八河津雄録) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 17 岩窟の修業 | 第一七章岩窟の修業〔一一七〕 万寿山は前述のごとく、神界の経綸上もつとも重要なる地点なれば、これを主管する八王神は他の天使八王神に比してもつとも神徳勝れ、かつ神界、幽界の大勢を弁知し、大神の神慮を洞察せざるべからずとし、八王神なる磐樟彦は、単独にて万寿山城をひそかに出城し、霊鷲山の大岩窟にいたりて百日百夜、すべての飲食を断ち、世染をまぬがれ一意専心に霊的修業をはげみ、つひに三ツ葉彦命の神霊に感合し、三界の真相をきはめ、天晴れ万寿山城の王たるの資格を具有するにいたりける。 磐樟彦は、霊鷲山の大岩窟を深く探究したるに、数百千とも限りなき小岩窟ありて、大岩窟の中の左右に散在して、それぞれ受持の神守護されつつありき。この岩窟はいはゆる宇宙の縮図にして、山河あり、海洋あり、種々雑多の草木繁茂し、禽獣虫魚の類にいたるまで森羅万象ことごとくその所を得て、地上の神国形成されありぬ。 三ツ葉彦命の霊媒の神力により、数十里に渉れる大岩窟の磐戸を開き、現はれいでたる気品高き美しき女神は、数多の侍女とともに出できたり、磐樟彦に向ひ軽く目礼しながら、 『汝は神界のために昼夜間断なく神業に従事して余念なく、加ふるに百日百夜の苦行をなめ、身体やつれ、痩おとろへ、歩行も自由ならざるに、どの神司も恐れて近付きしことなき、この岩窟の神仙境にきたりしこと、感ずるにあまりあり。妾はいま、汝の熱心なる信仰と誠実なる赤心を賞て、奥の神境に誘ひ、坤の大神豊国姫命の御精霊体なる照国の御魂を親しく拝せしめむとす。すみやかに妾が後にしたがひきたれ』 といひつつ、岩窟の奥深く進みける。磐樟彦は女神の跡をたどりて、心も勇みつつ前進したりしが、はるか前方にあたりて、眼も眩きばかりの鮮麗なる五色の円光を認め、両手をもつて我面をおほひながら恐るおそる近付きける。女神はハタと立留まり、あと振かへり命にむかひ、 『汝の修業はいよいよ完成したり。ただちに両手をのぞき肉眼のまま、御神体なる照国の御魂を拝されよ。この御魂をつつしみ拝せば三千世界の一切の過去と、現世と、未来の区別なく手に取るごとく明瞭にして、二度目の天の岩戸開きの神業に参加し、天地に代る大偉功を万世に建て、五六七の神政の太柱とならせたまはむ。神界の状勢は、この御魂によりて伺ふときは、必然一度は天地の律法破壊され、国治立命は根の国に御隠退のやむなきに立いたりたまひ、坤の金神豊国姫命もともに一度に御退隠あるべし。しかしてその後に盤古大神現はれ、一旦は花々しき神世となり、たちまち不義の行動天下に充ち、わづかに数十年を経て盤古の神政は転覆し、ここに始めて完全無欠の五六七の神政は樹立さるるにいたるべし。汝は妾が言を疑はず、万古末代心に深く秘めて天の時のいたるを待たれよ。神の道にも盛衰あり、また顕晦あり。今後の神界はますます波瀾曲折に富む。焦慮らず、急がず、恐れず、神徳を修めて一陽来復の春のきたるを待たれよ』 と懇に説き諭したまひて、たちまちその気高き美しき女神の神姿は消えたまひける。 磐樟彦は天を拝し、地を拝し、感謝の祝詞をうやうやしく奏上したまふや、今まで光の玉と見えたる照国の御魂は崇高なる女神と化し、命の手をとり、紫雲の扉をおし明け、宝座の許に導きたまひける。 夢か、現か、幻か。疑雲に包まれゐたるをりしも、寒風さつと吹ききたつて、肌を刺す一刹那、王仁の身は高熊山の岩窟の奥に、端座しゐたりける。 (大正一〇・一一・一七旧一〇・一八土井靖都録) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 18 神霊の遷座 | 第一八章神霊の遷座〔一一八〕 霊鷲山は磐樟彦が修業の霊場にして、天神地祇の中にてももつとも先見の明ある神々のひそみて時を待ちたまふ神仙境なれば、等閑に附すべき所にあらずとし、磐樟彦は諸神司と議り霊窟のほとりに大宮柱太敷く造営し、神人らの修業所として鄭重に設備をほどこし、三ツ巴の神紋は、社殿の棟に燦然として朝日に輝き、夕日に照り映えじつに壮観をきはめたりける。満山ことごとく常磐の老松をもつて覆はれ、得もいはれぬ神々しさなり。社殿の境内には千年の老松、杉、桧、楓、雑木苔生して中天高く聳えたち、諸鳥の囀る声はあたかも天女のきたりて音楽を奏するかと疑はるるばかりなりける。 ここにいよいよ社殿は完全に建て上げられたり。八王神磐樟彦、磐樟姫をはじめ、八頭神なる瑞穂別、瑞穂姫は神霊鎮祭のため神衣を着し、参拝さるることとなりけり。 祭官としては、神世彦斎主となり、守国彦副斎主となり、大川彦は祓戸主となり、国清彦は後取を奉仕し、清川彦は神饌長となり、常立別は神饌副長を奉仕し、供物は海山河野の種々の珍らしきものを横山なして献られける。神饌のなかに鴨、山鳥、猪、海魚、川魚等あまた八足の机代に盛られあり。ここに旗照彦[※「旗照彦」(本章に2回出る)は第3巻第16章では「旗輝彦」になっている。]、久方彦はこの供物を一見して、 『穢らはしき物を神前に献るは何の故ぞ。神は清浄を喜び汚穢を嫌はせたまふ。しかるにかくのごとき禽獣や魚類の肉を献り、机上や神殿を汚し神慮を怒らせ、加ふるに博く万物を愛せよとの、天地の律法を侵害し生物を殺して神饌に供するは、何たる心得違ひぞ。神は律法を定めて殺生を固く禁じたまへり。神威を冒涜するの罪軽からず。すみやかにこの神饌を撤回し清浄無穢の神饌に改めよ』 と二神司は肩をゆすりながら顔色赤く気色ばみて述べ立てたり。これを聞くより清川彦、常立別は容をあらため襟を正し、二神司に向つていふ。 『貴下らは今吾らが献らむとする神饌にたいして色々と故障をいれたまふは心得ぬことどもなり。いはンやかかる芽出度き大神遷座の席においてをや。せつかく選りに選り、清めし上にも清め千辛万苦の結果、山野河海をあさりて漸く集め得たる宇豆の神饌を、汚穢の供物なればすみやかに撤回せよとの貴下の暴言、実に呆然たらざるをえず。貴下らは祓戸の行事を何ンと心得らるるや。恭しく祓戸の神の降臨を仰ぎ奉り、清きが上にも清き神饌なり。万一これをも汚穢の供物なりとせば、祓戸の神の御降臨は一切無意義にして、ただ単に形式のみに終らむ。吾らは大神の祭典に奉仕せむとする以上は、つねに霊主体従の法則により赤誠をこめて奉仕す。いづくンぞ形式的に祓戸の神業を奉仕し、体主霊従の逆事に習はンや。つつしンで二神司の御熟考を請ひ奉る』 と顔色をやはらげながら陳弁したりしに、旗照彦、久方彦は直ちに反対していふ。 『貴下の言は一応もつともらしく聞ゆれども、すべて大神は仁慈をもつて神の御心となし、博く万物を愛育したまふ。しかるにその広き厚き大御心を無視し、神の愛によりて成り出でたる生物を殺し、天地の律法を破壊し、大罪を犯しながら、なほもこれを大神の清き神饌に供せむとするは何事ぞ。仁慈の神の大御心を無視したる暴逆無道の挙動にして、これに勝れる無礼の行為はなかるべし。是非々々この供物は瞬時も早く撤回されたし。貴下は強情をはり神饌長の職をもつて、このままにして吾らの言を容れず、汚穢に充ちたる祭事を敢行さるるにおいては、我らはただ今かぎり折角の御盛典に列すること能はず』 吾意を固執して動く色なく、清川彦、常立別は大いに当惑しつつありしが、双方の論争を聞きかねたる斎主神世彦は、 『諸神司暫時論争を中止したまへ。我いま大神の神慮を奉伺し神示をえて正邪を決すべし』 と、ただちに件の大岩窟に白き祭服のまま進み入り神の教示を乞ひ、ふたたび祭場にかへりて神教を恭しく諸神に伝へたり。神教はきはめて簡単にして要を得たものなりき。すなはちその教示は、 『神は一切の万物を愛す。神の前に犠牲とさるる一切の生物は幸なるかな。そは一の罪悪を消滅し、新しき神国に生れ出づればなり』 との理義明白なる神示なりける。双方の争論はこの神示を尊重し、うやうやしく祭典を完了し、天地にとどろく言霊の祝詞に四方の神人集まりきたりて、荘厳無比の遷座祭の式は執行されたりけり。 (大正一〇・一一・一七旧一〇・一八栗原七蔵録) (第一六章~第一八章昭和一〇・一・一六於みどり丸船室王仁校正) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 20 晴天白日 | 第二〇章晴天白日〔一二〇〕 青雲山上の黄金の宮は竣工を告げ、いよいよ国魂として、黄金の宝玉を鎮祭することとはなりぬ。神澄彦は玉守彦を招き、 『さきに保管を命じたる宝玉を持参せよ』 と命ずれば玉守彦は、預かりし玉を恭しく奉持してこれを奉り、荘厳なる儀式の下に国魂は祀られけり。ここに玉守彦は、黄金の宮の司となり、厳重に守護することとなりぬ。 玉守彦の侍女に良姫なるものあり。つねに玉守彦夫妻に忠実に仕へ、とくに玉守彦には信任もつとも深ければ玉守彦は、何事も良姫に相談するを常とせり。玉守姫は夫の良姫を深く信ずるを見て、嫉妬心をおこし、自暴自棄となりて、日夜飲酒にふけり、隣人を集め踊り狂ひ、ややもすれば酒気に乗じて、夫の秘密を口ばしるのみならず、玉守彦と良姫の間には汚き関係あるがごとく言ひふらしける。 玉守彦は、妻の日夜の放埒を見るに忍びず厳しく訓戒を加へたるに、玉守姫はたちまち眉を逆立て目を瞋らせ、顔色するどく、狂気のごとくなりて、玉守彦にむかひ、 『貴下は平素妾を疎んじ、侍女の良姫を寵愛し、妾に侮辱を与ふ。もはや堪忍袋の緒も切れたれば、妾はこれより八王神の御前に出で、夫の隠謀の次第を逐一訴へ奉らむ』 といふより早く家を飛びだし、八王神の御前に夫の罪を残らず奏聞したりける。奏聞の次第は、 『玉守彦は大切なる黄金の宝玉を預かりながら、この玉を吾物にせむと謀り、真の宝玉には黒く墨をぬり、別に同形の石の玉を作り、これに金鍍金をかけ、真の玉は宝珠山の奥深くこれを埋め、擬玉を差出して黄金の宮に祀り、後日時を得て真の宝玉を取りだし、玉の神力によりて青雲山の城塞を乗取り、八王、八頭の神を放逐し、おのれとつて代り八王神とならむと、不軌を謀りつつあり。夫ながらも実に恐ろしき悪逆無道の者なり。すみやかに捕へて獄に投じ、国の害を除かせたまへ』 と嫉妬の炎すさまじく、身をゆすりて泣きつ訴へにけり。ここに八王神神澄彦は、八頭神吾妻彦を招きて、玉守姫の訴への次第を物語り、ただちに玉守彦を召し捕へしめたり。 玉守彦は妻の玉守姫とともに、吾妻彦の前に呼び出され、きびしき訊問を受けたるが、玉守彦は、言葉さはやかにその無実を陳弁し、かつ、 『玉守姫は嫉妬ふかく、今は狂者となれり、かならず彼がごとき狂者の言を信じたまふなかれ。至誠は天に通ず。願はくば天地の大神も吾が赤誠を照覧あれ』 と天を拝し地を拝し、涕泣して訴へたり。このとき玉守姫は首を左右に振り吾妻彦にむかひ、 『玉守彦は大胆不敵の曲者なり。彼はたしかに国魂を宝珠山に埋め、この黄金の宮の国魂は擬玉を祀りをれり。その証拠は現在妻の妾とともに山中に匿しおきたり。何時にてもその所在をお知らせ申さむ』 とあわただしく苛ち気味に奏上するにぞ、玉守彦は言辞を荒らげて、妻にむかひ、 『女の姦ましき要らざる讒言、いまに天地の神罰はたちどころに到らむ、慎めよ』 と睨めつけたるに、玉守姫は躍気となり、 『夫は何を呆け顔に弁解するや。宝珠山の谷を渡るとき、川の中にて二匹の兎を生捕にし、また宝珠山の松の大木に大いなる鮭の生りをりたるを妾が見つけ、夫と共にこれをむしり帰りて、その夜兎と鮭を料理し、祝酒を飲みしことをよもや忘れたまふまじ。そのとき宝珠山に玉を埋めおきたるを忘れたるか』 と烈火のごとくなりて述べ立つる。玉守彦は吾妻彦にむかひ、 『ただ今お聞きおよびのとほり、妻の玉守姫は発狂し、取とめなきことを述べたて候。彼がごとき狂人の言は御採用なからむことを乞ひまつる』 と奏上せるに、吾妻彦は玉守姫の狂者たることを知り、ここに玉守彦の疑ひは全く晴れ、許されて家に帰りぬ。 八王大神常世彦は、黄金の宮の国魂を奪はむとし、部下の国足彦、醜熊、玉取彦に命じ、種々の奸策を授けたり。ある日のこと国足彦らは夜陰に乗じ、黄金の宮に入り国魂を首尾よく盗み、遠く常世の国へ逃げ帰りたり。八王神神澄彦は国魂を拝せむと諸神司をしたがへ神殿に進み入りしに、神前の堅牢なる錠前は捻切られ、肝腎の国魂は紛失しゐたりける。 『八王大神の部下国足彦、醜熊、玉取彦、玉を取つて常世の国に立帰る。藻脱の空の宮の神徳弥顕著ならむアハヽヽヽ』 と認めありぬ。八王神は顔色青ざめ、 『吾は貴重なる国魂の守護を命ぜられながら、今これを敵に奪取され、大神にたいして謝すべき辞なし。この玉なきときは八王の聖職を奪はれ、かつ重き罪に問はれむ。いかがはせむか』 と歎きたまふをりしも、玉守彦はすすみ出で、 『八王神よ、必ず神慮を悩ましたまふこと勿れ。我は宝玉の保護を命ぜられてより、今日あることを前知し、擬玉を作りて奉斎し、真正の国魂の宝玉は、宝珠山の奥深く楠樹の下に大切に埋め置きたり。直ちにこれを掘出して更めて鎮祭したまへ』 と誠を色に現はして奏上したり。神澄彦はおほいに喜び、ただちに玉守彦を先頭に、あまたの神司を遣はし、白木の輿を作りて宝玉を納め、青雲山に奉迎せしめ、ここにあらためて立派なる遷座式を挙行し、玉守彦は疑ひ解けて晴天白日となり、かつその注意周到なる行動を激賞され、重く用ゐらるることとなり、天下に盛名を馳せにけり。 (大正一〇・一一・一八旧一〇・一九河津雄録) (第一九章~第二〇章昭和一〇・一・一六於別府・亀の井旅館王仁校正) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 22 神前の審判 | 第二二章神前の審判〔一二二〕 天山には黄色の玉を祀り、宮殿を造営してこれを鎮祭し、埴安の宮と名づけられたり。斎代彦を八王神とし、妻神斎代姫をして神業を輔佐せしめ、谷山彦を八頭神となし、谷山姫をして神政を輔助せしめられける。谷山姫は嫉妬猜疑の念ふかく、斎代姫の命令をきくことを非常に不快に感じゐたり。夫婦は、つねに犬猿のごとく、たがひに嫉視反目をつづけ、それがために天山城内の神政は、つねに紛擾絶えざりける。 ここに八王大神は、部下の邪神荒国彦を谷山彦の肉体に憑依せしめ、また荒国姫といふ邪神を谷山姫に憑依せしめたり。これより谷山彦夫妻の性行は俄然一変し、斎代彦夫妻をしりぞけ、みづから八王神たらむことを企てける。斯くのごとく悪心を起したるは全く憑霊の所為なり。ここに谷山彦は妻の使嗾により、埴安の宮司国代彦、国代姫の夫婦を手に入れ、国魂を盗ましめ、八王神の身に失策を招かしめ、その目的を達せむとし、種々の手段をめぐらしゐたりける。 しかるに宮司の国代彦は正義の神司なれば、容易にその心を動かすべからざるを悟り、妻の国代姫を甘言をもつて説得せむと計りぬ。国代姫は谷山彦夫妻に招かれけるが、谷山彦はいふ、 『汝の弁舌をもつて夫国代彦の心を動かし、国魂を盗み出さしめなば、吾はただちに八王神の位に上り、汝ら夫妻を八頭神の地位に据ゑむ』 と言葉たくみに説き立てたり。国代姫はその成功を危ぶみ、かつ天地の律法に背く由を述べ、これを謝絶せむとするとき、何心なく夫の国代彦はこの場に現はれ来りぬ。谷山彦は国代彦にむかひて前述の謀計を打明けたるに、国代彦は一も二もなく賛成の意を表しけり。国代姫は夫の言に驚き、涙とともにその悪行を止めむとて泣きて諫言したりけれども、国代彦は決心の色を面に現はし、今この場において谷山彦の意見に反対を表せむか、いかなる危害の身辺に及ばむも計り難しと、わざと空惚けていふ、 『我は天則違反の行為ならむと察すれども、諺にも勝てば善神、敗れば邪神といふことあり。吾が出世栄達の道を開かせたまふならば、よろこンで貴下の命を奉ぜむ』 と即答したりける。 谷山彦夫妻は大いに喜び、埴安の宮の祭典をおこなひ、これを潮に宮司国代彦をして玉を盗み出さしめむとしたりければ、国代彦は同形同色の偽玉を造り、深く懐に秘めて祭典に列し、みづから鍵を出して宮の扉を開き種々の供物を献じ、ひそかに偽玉を谷山彦に手渡ししたるに、谷山彦は素知らぬ顔を装ひ、これを懐中に秘しゐたりけり。祭典は無事に終了し、八王神斎代彦、斎代姫も列席し、直会の宴は盛ンに開かれ、八百万神司は神酒に酔ひ、歌をうたひ、踊り狂ふ。このとき国代彦はたちて歌をうたひ、しきりに踊りはじめけり。その歌は、 『時世時節は怖いもの深山を越えて谷越えて 常世の国の涯の涯黄が気でならぬ玉の守り。 時世時節は怖いもの谷は変じて山となり 山は代つて谷となる変れば変る世の中よ。 頭は今に尻尾となり尻尾は転げて谷底へ 落ちて苦しむ眼前何の用捨も荒国彦の 霊の憑りし谷と山どこの国代か知らねども 木々(黄々)の木魂に響くなり。埴安宮の玉欲しと 谷と山から攻めてくる谷と山から狙ひをる。 照る日の影は清くとも雲霧たつは山の谷 虎狼も隠れすむ気をつけ守る国世彦[※国代彦の誤記か?] 玉は日に夜に曇るなり。曇る玉こそ替玉よ』 といつて面白く踊り狂ふ。ここに八王神斎代彦はこの歌を聴き、谷山彦の謀叛を悟り、ただちに夫妻を捕へて厳しく詰問したり。谷山彦は答ふるに実をもつてせり。 ここに斎代彦は谷山彦夫妻の職を免じ、国代彦、国代姫をして八頭神の後を襲はしめむと宣言せり。この時謙譲の徳高き国代彦夫妻は、 『命の大命実に有りがたく、身にあまる光栄なれど、われはかかる聖職に任ぜらるるの資格なし。願はくば以前のごとく宮司たらしめられたし。谷山彦夫妻は思ふに元よりかかる悪事を企つるごとき邪神にはあらず。悪霊の憑依によつてかかる無道の行動に出でられしならむ。すみやかに神前にともなひゆきて厳粛なる審神を奉仕し、その上にて裁断あらむことを』 と涙を流し赤心面にあふれて奏上したりける。斎代彦は打ちうなづき、直ちに二人の審神を開始されけるに、たちまち二神は上下左右に身体震動し、邪神荒国彦は谷山彦の体内より、荒国姫は谷山姫の体内より、神威に畏れて脱出し、悪狐の正体を現はし、常世の国にむかつて雲を霞と逃げ去りにけり。 邪神の脱け出でたる後の谷山彦夫妻は、夢から醒めたるごとく前非を悔い、かつ邪神の謀計の恐ろしきを悟り、それより心をあらため、神々を篤く信じ、元の誠心に立ちかへりけり。斎代彦は今までの谷山彦夫妻の行動は、まつたく邪神憑依の結果となし、その罪を赦し、元のごとく八頭神の聖職に就かしめたりける。 (大正一〇・一一・一八旧一〇・一九土井靖都録) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 24 蛸間山の黒雲 | 第二四章蛸間山の黒雲〔一二四〕 蛸間山には銅色の国玉を鎮祭し、吾妻別を八王神に任じ神務を主管せしめ、妻には吾妻姫を娶はし内面的輔佐を命じ、国玉別を八頭神に任じ国玉姫を妻として神政を輔助せしめられ、駒世彦を宮司となし駒世姫をして祭事に従事せしめられたりしなり。しかるにこの蛸間山には、かねて地の高天原より、言霊別命神命を奉じて国魂の神を鎮祭し、荘厳なる宮殿まで建立しあれば[※第2巻第9章「タコマ山の祭典その一」参照]、つまり二個の国魂を並べ、祭祀さるることとなりぬ。ここに二つの国魂の霊現はれて互ひに主権を争ひたまへば、蛸間山は常に風雲たちこめ、時に暴風吹きおこり強雨降りそそぎ樹木を倒し、河川の堤防を破壊し、濁水地上に氾濫して神人その堵に安ンずること能はず、神人の嫉視反目は日に月に激烈の度を加へ、東天より西天にむかつて真黒の雲橋かかりて天地は為に暗黒となり咫尺を弁ぜず。ここをもつて常夜ゆく万の妖ことごとく起り、国土間断なく震動し、草の片葉にいたるまで言問ふ無道の社会を現出し、所々に大火あり大洪水あり疫病蔓延して神人まさに滅亡せむとし、また銅能宮は日夜震動して妖気を吐き、国魂の宮また同時に大音響を発して百雷の一時に轟くかと疑はるるばかり凶兆しきりにいたり、神人ともに心安からず、戦々兢々として纔に日を送る状態を馴致したりける。 国魂の神よりしてすでに斯くのごとく互ひに主権を争ひ、ほとンど寧日なきの有様なりければ、その霊精また一は八王神に憑依し、一は八頭神に憑りてつねに狂暴の行為多く、ことに八頭神には前の国魂神憑依して、八王神の命令に一々反抗し、たがひに権利を主張して相譲らず、犬猿もただならず氷炭相容れず、混乱紛糾ますます甚だしく、神人塗炭の厄に苦しみ、荒ぶる神人の言騒ぐその声は、五月蠅のごとく群がりおこりて修羅道を現出し、動乱止むことなく饑饉相次ぎ、虎狼、豺狼、毒蛇、悪鬼、妖怪なぞの邪霊は地上に充ち満ちたり。このことただちに国祖の御耳に入り、国直姫命の口をかりて、大八洲彦命に神教を伝へしめたまひける。 国祖の御神教の大要は、 『天に二日なく地に二王なきは天地の神則なり。汝らさきに蛸間山に国魂の神を鎮祭しおきながら、国魂神には何の通告もなさず、新に同じ神山に二個の国玉を奉斎せるは、おのづから秩序を紊乱し争乱の種をまくものなり。彼ら八王神八頭神は名利にふけりて争ひ憎み、たがひに怒りて天下を騒擾せしむるの罪軽からずといへども、要するに一所の霊山に二体の国魂を鎮めたる失敗の結果にして、ただちに二神を懲戒すべきに非ず、このたびの出来事はすべて汝らの一大責任なるぞ。神は神直日大直日に見直し詔り直し、もつて今回はその罪を問はざるべし。一日も早く改言改過の実をあげ、蛸間山を境として国土を南北に両分し、その持場を決定し、騒乱を鎮定し国祖の大神に復命せよ』 とおごそかに宣りたまひける。 大八洲彦命は恐懼措くところを知らず、みづからの不明不徳を謝し、大足彦とともに蛸間山に向つて出発したまひけり。 大八洲彦命は八王神に、大足彦は八頭神にむかつて神示を説き諭し神恩の忝なく尊きことを慇懃に宣り伝へける。八王神はただちに天使長の懇篤なる説示を承り、翻然として前非を悟り、かつ国魂の神のもつとも恐るべき威力に感じ、正心誠意をもつて神業に厚く奉仕し、かつ如何なる神勅なりとも、今日かぎり断じて違背せじと、心底より誓約をなしたりにける。 これに引替へ、大足彦は八頭神なる国玉別にむかひ順逆の道を説き、神の威徳をさとし言辞を竭して説示したるが、国玉別は天使の教示を聞くやたちまち顔色獰猛の相をあらはし、口をきはめて反抗し容易に屈伏せず、ほとンど捨鉢となりて天使大足彦の面上に噛みつかむとせるを、大足彦は、心得たりと両手の指を交叉し鎮魂の姿勢をとり、ウーと一声発くその言霊に、国玉別は地上に仰天し倒れ伏し、口中よりは多量の泡沫を吐きだし悶え苦しみけり。天使はなほも一声言霊の矢を放つや、八頭神の体内よりは、にはかに黒煙立ちのぼるよと見るまに、金毛八尾の悪狐の姿現はれ、雲をかすみと西の空めがけて逃失せにけり。 国魂神の嫉妬的発動の狂態を洞察したる常世国の邪神は、貪・瞋・痴の迷につけ入り、たちまち憑依の目的を達し、進ンで八王神を倒し、八頭神を失墜せしめ、蛸間山を攪乱せむとしゐたりしが、八頭神は始めて覚醒し、天使にむかつて以前の無礼を謝し、我が精神空弱にして意志強からず、つひに邪神の容器となり、神を無視し長上を侮蔑し、天地の律法を破りたる大罪を悔い、低頭平身罪に処せられむことを願ひけり。大足彦は、 『国魂の神ある上に重ねて再び、国魂の神を斎りたるは天使長以下の経綸を誤りたる結果なれば、その責任は吾らも同様なり。されど仁慈ふかき大神は、この度の事件に関しては寛大なる大御心をもつて、神直日大直日に見直し聞き直し詔り直したまひて、吾らがたがひの大罪を忘れさせたまひたり。心安く思召されよ』 と満面笑をうかべて宣り聞かせたるに、国玉別は神恩の尊く忝なさに涙を滝のごとく流し、衷心より改悛の情をあらはし、八王神に忠実に仕へける。それより天地和順し上下よく治まりて、松の神代の常永に時津風枝も鳴らさぬ聖代を招来したりける。 今まで天空に橋状をなして横たはりし黒雲は、次第に散乱して拭ふがごとく、天明らけく地清く、神人和楽の極楽浄土を現出したるぞ目出度けれ。これより二個の国魂を南北に分ち祭られ、国土を二分して、北方は八王神吾妻別これを主管し、南方は八頭神国玉別これを主管することとなりぬ。君主的神政の神界の経綸も、ここにいよいよ民主的神政の端を啓かれたるぞ是非なけれ。 (大正一〇・一一・二〇旧一〇・二一午後八時東の天より西の天に向つて一条の怪しき黒雲横たはり、天を南北に区劃し、天地暗澹たる時、竜宮館において、加藤明子録) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 25 邪神の滅亡 | 第二五章邪神の滅亡〔一二五〕 吾妻別、吾妻姫二人の間に、月世姫、月照姫、五月姫の三人の娘生れたり。長女の月世姫は、その性質粗暴にして常に邪神の群に出入し、邪神と結託して、蛸間山を混乱紛擾せしむることにのみ全力を集注しゐたりけるが、吾妻別の重臣たる日出彦は、平素月世姫の行動ますます暴逆の度を加へ、非事醜行止まざるを歎き、涙をふるつてしばしばこれを諫めたれども、月世姫は一言半句も耳をかさず、つひには日出彦を讒訴してこれを排除せむとくはだて、百方手段をつくして蛸間山城の神人を籠絡し、市守姫、畑野彦、田長彦、国平別、竹代彦らを股肱の臣となし、昼夜謀計をめぐらし、日出彦に失敗を来さしめむとし、ここに芳香姫といふ美はしき女性に策を授けて、日出彦を陥いれむとしたりけり。 日出彦は八王神の命を奉じて、竜宮城に使ひせむとする時、芳香姫は門に立ふさがり日出彦の袖をひきてこれをとどめ、かつその顔色を熟視していふ。 『貴下は何故に妾を平素詐りたまひしや、残念々々』 と身をふるはし、声をくもらせ涕泣する。日出彦は芳香姫の言、少しも合点ゆかず、ただ呆然として芳香姫の様子を怪しみ眺めゐたるのみ。 芳香姫はたちまち日出彦に抱きつき、 『無情非道のわが夫よ。しらじらしきその御様子。アヽ妾は今まで貴下の玩弄物とされゐたるか。死なば諸共死出の山、三途の川もともどもに渡らむものと誓ひし仲をも顧みず、竜宮城に御使ひの旅出に、ただ一言の御相談もなく妾を捨て、はるばると出行きたまふは余りの無情。アヽ残念や、口惜や』 と歯をくひしばり、大地にドツと打ち伏し、声をかぎりに泣き叫びける。 日出彦は藪から棒の出来事に、月世姫一派の奸計とは知らず、 『芳香姫は発狂せしか、不憫の者よ』 といひつつも、直ちに手をとり抱きおこし労はり介抱せむとする折しも、時を待ちゐたる月世姫は、市守姫、畑野彦、田長彦、国平別、竹代彦らの一味と共にその場に現はれ、 『天地の律法を破れる不義もの、日出彦を縛れよ』 と下知の声とともに、田長彦らは何の容赦もなく荒縄おつとり、手足をしばりて八王神の御前にまかりいで、 『天地の律法を破り、芳香姫を玩弄せし曲者捕へたり。かかる曲者を城内に止めおくは、風儀を乱し秩序を破るの恐れあるのみならず、八王神の御名の汚れなり。すみやかに厳罰に処し、当城を追放し禍根を絶ちたまへ。証拠は吾ら数名の実地目撃せるところなり』 と言辞たくみに無実の奏上をなしたりしが、日出彦は、神色自若として恐るる心なく、 『ただただ賢明なる八王神の御裁断を請ひ奉る』 と言ひしまま、一言も発せざりける。 八王神は、黙然としてこの訴へを聞きつつありしが、何の言葉もなく、ツト立ちて宮殿の奥深く入りたまひ、ただちに神前に端坐して神教を請ひたまひ、日出彦、月世姫その他一同を召し出し列を作らしめ、日出彦にむかつて叮嚀に言葉をかけ、吾が長女月世姫の不都合きはまる行動を謝し、かつ、懇ろにこれを慰撫したまひ、月世姫に向つて今後を戒め、その他の神人にも厳しく訓戒したまひ、ここにいよいよ神示によりて日出彦の疑ひは氷解され、正邪の判断は、日月のごとく明らかとなりにける。 日出彦は無実の疑ひ、まつたく神の明白なる教示によりて晴れわたりたれば、天地にむかつて拝謝し、急ぎ竜宮城さして出発したりける。 月世姫は謀計のガラリはづれたるに失望し、いかにもして初志を達せむと、蛸間の滝に芳香姫をともなひ、悪竜の神に七日七夜祈願を籠めけるが、芳香姫は忽然として六面八臂の邪鬼と変じ、中空に駆けのぼるよと見るまに、東北の天に怪しき雲塊あらはれ、たちまち西北の空にむかつて延長し、昼夜を弁ぜざる常暗の空となり、あまたの黒竜は月世姫の頭上目がけて降りきたり、盛ンに毒気を吹きかけ、火炎の舌を出して月世姫を喰ひ殺さむとす。このとき月世姫は声をあげていふ。 『汝は芳香姫の変化にあらずや。妾の汝に命ずるところは、妾を苦しめよとには非ず。日出彦を悩ませ滅亡せしめむがためなり。何をまちがへてかかる反対的行動をとるや』 と絶叫したりしに、その時黒雲の間より声ありて、 『汝は実に悪逆無道なり。芳香姫は今や悪竜となりて汝を滅ぼさむとす。他を呪はば穴二つ、自己に出るものは自己に還る。天の賞罰は、寸毫もたがふことなし、思ひ知れや』 と言葉の下より鎗の穂尖は雨の降るがごとく、危険身にせまりて寸毫も免るるの余地なかりけるが、辛うじてわが居室に逃げいりホツト一息つぐ間もなく、家の四隅より毒竜あまた出現して瞬くうちに火炎と化し、烟は身辺をつつみ、猛火炎々として天に冲し、月世姫は黒焦となりて敢なくも亡びける。今まで稍さえたる月世姫も、神の懲罰によりて暗路をたどり幽界のふたたび刑罰を受くるの破目に陥りしなり。アヽ天地に依怙なし、善を助け悪を亡ぼし、世界の神人を戒めたまふこと、実に明鏡の物を写して余蘊なきがごとし。慎むべきは悪事にして、恐るべきは天地神明の大道なり。神はかかる暗黒無道の世に出現して、神、幽、現の三界の立替立直しの神業を開始し、真善美の天国を地上に樹立したまはむとす。神の国に生れ、神の国の粟を食む神の子孫たる吾人は、つつしみて神業に奉仕し、神恩に報いたてまつるべき責任の重大なるを深く自覚すべきなり。 (大正一〇・一一・二〇旧一〇・二一外山豊二録) (第二四章~第二五章昭和一〇・一・一六於亀の井旅館王仁校正) |
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霊界物語 | 03_寅_十二の国魂/大道別/天使長の更迭 | 34 旭日昇天 | 第三四章旭日昇天〔一三四〕 ここに大道別は、大島別の奥殿に導かれ、山野海河の珍味の饗応をふたたび受け、終日終夜うるはしき女性の舞曲を見せられ、絲竹管絃の音に精神恍惚として、鼻唄気分になりゐたりしが、不思議や八島姫の巴形の斑紋は拭ふがごとく消え去り、大道別の斑紋はおひおひ濃厚となりきたりぬ。 ここに大島別は威儀を正し、大道別にむかひ、八島姫のこの度の大難より、大道別の渓間に顛倒しほとンど絶息しゐたるを助けゐたるに、あにはからむや、その面上に巴形の斑紋あらはれ、八島姫の額の斑紋はしだいに薄らぎ消え失せたる次第を物語り、 『汝は吾が娘八島姫の身代りとなりて、荒河の宮の犠牲たるべき運命のもとにおかれたるものなり』 と吐息をつきながら涙を流して物語りけるにぞ、大道別は少しも驚く色なく、涼風面を吹くごとき平気な態度にていふ。 『そは実に面白きことを承るものかな。我はかかる犠牲的行為を心底より喜ぶ。そもそも神たるもの犠牲をたてまつらざれば、怒りて神人を苦しますべき理由あるべからず。これまつたく邪神の所為ならむ。我かつて竜神の滝において悪魔を見届けたることあり、よき研究材料なり。謹ンで貴意に応ぜむ』 と、こともなげにいひ放ち平然として酒をのみゐたりけり。大島別以下の神司らは、おほいに喜び感謝の意を表し、ただちにその準備に着手したりぬ。 いよいよ期日は迫り来れり。神司らは種々の供へ物とともに、大道別を柩に入れ納め、山深く分けいりて、黄昏ごろやうやく荒河の宮に到着し、社前に柩ならびに供へ物を安置し、一目散に逃げ帰りける。 夜は森々と更けわたり、四辺しづかにして、水さへ音なく、静かにねむる深更の丑満時となりぬ。たちまち社殿は鳴動しはじめ、数万の虎狼が一度に咆哮するごとき、凄じき音響聞え来りぬ。 大道別は何の恐るる色もなく、柩の中に安坐して、天津祝詞を幾回ともなく繰返し奏上しゐたるに、たちまち神前の扉はぎいぎいぎいと響きわたりて、眼は鏡の如く、口は耳まで引裂け、不恰好に曲める鼻は菊目石を括りつけしごとく、牙は剣のごとく、白髪背後に垂れ薄蝋色の角、額の左右に突出たる異様の怪物、金棒をひつさげて柩の前に現はれ、どんと一突き地上を突けば、その響きに柩は二三尺も地上をはなれ飛び上りける。さすがの大道別も、すこしは案に相違の面持なりける。 大道別は天津祝詞を一生懸命に、汗みどろになり声をかぎりに奏上したるに、その言霊の響きによりて、柩は自然に四方に解体したれば、大道別はスツクと立ち上りたり。怪物はその勢に辟易して二三歩後方に退きし、その隙間を見すまし、怪物の胸部を目がけて長刀を突き刺しけるに、怪物はキヤツと一声、大地にだうと倒れ伏し、もろくも息は絶にける。大道別はそのままそこに端坐して、神前の神酒神饌その他の供へ物を仁王のごとき手をもつて之をつかみ、むしやむしやと片つ端から残らず平げにける。 しばらくあつて天上より微妙の音楽聞え来たりぬ。大道別はその音楽を酒の肴のごとく思ひつつ、神前の冷酒の残りをがぶがぶと呑みはじめたる時もあれ、たちまち容色端麗にして荘厳無比なる女神は数多の侍神とともに現はれたまひ、言葉しづかに、 『妾は天の高砂の宮に鎮まる国直姫命なり。汝はこれより吾が命を遵奉し、神界経綸の大業を完成するまで、地上の各地をめぐり悪神の陰謀をさぐり、逐一これを国治立命に奏上すべし。それまでは汝は仮に道彦と名乗り、かつ聾唖となり、痴呆と変じて神業に従事せよ。汝には、高倉、旭二柱の白狐をもつてこれを保護せしめむ。使命を遂行したる上は、汝は琴平別命と名を賜ひ、竜宮の乙米姫命を娶はし、神政成就の殊勲者として四魂の神の中に加へむ。夢疑ふなかれ』 と言葉終るとともに、国直姫命以下の神司らの姿は消え失せ、東方の山の谷間よりは紫の雲を分けて天津日の神豊栄昇りに昇りたまひぬ。かたはらを見れば象のごとき怪物、血にまみれて横たはりゐたり。これぞ六面八臂の邪鬼の眷族なる大狸なりける。 それ以後荒河の宮は焼きすてられ、南高山一帯の地方の禍は、跡を絶つに至りける。玉純彦以下の神司らは、大島別の命により数多の神司を引率し、荒河の宮にいたり見れば、大道別は平然として大狸の横に安坐し、天津祝詞を奏上しゐたるにぞ、神司らはかつ驚きかつ喜び、大道別とともに南高山の城内に意気揚々として帰り来りける。大道別は神司らより親のごとく尊敬され、優待されて若干の月日をここに過したりける。 (大正一〇・一二・六旧一一・八加藤明子録) |