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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 40 照魔鏡 第四〇章照魔鏡〔一九〇〕 高月彦が父母二神司をはじめ、八百万の神人の眼力をもつて看破し得ざりし八頭八尾の大蛇の化身を、諸神人満座の中に善言美詞の神言を奏し、その正体を暴露せしめた天眼通力は、あたかも真澄の鏡の六合を照徹するがごとしと、讃嘆せしめたりける。いかに善言美詞の神言なりといへども、これを奏上する神人にして、心中一片の暗雲あり、執着ある時はたちまちその言霊は曇り、かつ、かへつて天地の邪気を発生するものなることは、第一篇に述べたるところなり。 ここに高月彦は神人らの絶対の信望を負ひて父の後を襲ひ天使長となり、天使長親任の祝宴は聖地城内の大広前において行はれ、まづ荘厳なる祭壇は新に設けられ、山野河海の種々の美味物を八足の机代に横山のごとく置き足らはし、御酒は甕戸高知り、甕腹充てならべて賑々しく供進されたりける。神人らは一斉に天地の神明にむかつて天津祝詞を奏上し終り、ただちに直会の宴に移りたり。 このとき竜宮城の主宰者として常世姫は、春日姫、八島姫を従へ礼装を凝らして臨席し、この目出度き盛宴を祝しける。 常世姫は夫と別れ、涙のいまだ乾かざるに、吾が長子は天使長の顕職につきたるを喜び、神明に謝し感涙に咽びつつ、悲喜こもごもいたり夏冬の一度に来りしがごとき面色なりけり。ここに長女初花姫、五月姫も常世姫の左右に座を占めにける。常世姫は夫の昇天されしのちは、みづから竜宮城の主宰たることを辞し、夫の冥福を祈らむと決心し、その後任を初花姫に譲らむとし、さいはひ諸神司集合の式場にその意見をもちだし、諸神人の賛否を求めたるに、諸神人はその心情を察し、一柱も拒止するものなく異口同音に初花姫をして、竜宮城の主宰者たらしむることを協賛決定したりけり。善は急げの諺のごとく、ここに常世姫の後任者として初花姫就任の披露をなし、ふたたび厳粛なる祭典を執行されたれば、聖地は凶事と吉事の弔祝の集合にて非常なる雑踏を極めけり。祭典は無事にすみ、初花姫は就任の挨拶をなさむとし中央の小高き壇上に現はれたるに、同じく五月姫も登壇したり。しかしてその容貌といひ、背格好といひ、分厘の差もなく瓜を二つに割りたる如くなりき。初花姫が一言諸神人に向つて挨拶すれば、五月姫も同時に口を開いて同じことをいふ。初花姫が右手を挙ぐれば五月姫も右手を挙げ、くさめをすれば同時にくさめをなし、あたかも影の形に従ふがごとく、あまたの神人らはこの不思議なる場面に二度びつくりしたり。さきに二柱の高月彦の怪に驚き、漸くその正邪を判別し、ほつと一息吐きしまもなく、またもや姉妹二人の判別に苦しまさるる不思議の現象を見せつけられ、いづれも目と目を見合せ、またもや常世城における野天泥田会議の二の舞にあらずやと眉に唾し、頬を抓めりなどして煩悶しゐたりける。二女性は互に姉妹を争ひぬ。されど現在生み落したる母の常世姫さへ、盛装を凝らしたる姉妹を判別することを得ざりける。 ここに高月彦はふたたび「惟神霊幸倍坐世」の神言を奏上したれど何の効果もなく、依然として二女は互ひに姉の位置を争ふのみ。ここに宮比彦は座をたち諸神人にむかつて、 『我はこれより国祖大神の宮殿に参向し、大神の審判を乞ひ奉らむと思ふ。諸神人の御意見如何』 と満座に問ひけるに、諸神司は一斉に賛成し、宮比彦をして大神の神慮をうかがひ正邪の審判を乞ひ奉らしめけり。 大宮殿には大八洲彦命、高照姫命一派の神人がまめまめしく国祖大神に奉侍し、神務に奉仕し居たり。宮比彦はただちに奥殿に入り、神務長大八洲彦命にむかひ、国祖大神に伝奏されむことを願ふにぞ、大八洲彦命は大いに笑ひ、 『汝は常に神明に奉仕する聖職にありながら、かくのごとき妖怪変化をも看破し能はざるや。我はかかる小さきことを国祖に進言するは畏れおほければ謝絶す』 と断乎として撥ねつけたれば、宮比彦は大いに恥ぢ、神務長の言に顧み直ちに天の真名井に走りゆき、真裸体となりて御禊を修し、祈祷を凝らしけるに、果然宮比彦は国祖大神の奇魂の懸らせたまふこととなりぬ。ここに宮比彦は急ぎ大広間に現はれ、壇上に立ち両手を組み姉妹の女性にむかつて鎮魂の神業を修したるに、命の組みたる左右の人指指より光明赫灼たる霊気発射して二女の面を照らしければ、たちまち五月姫はその霊威光明に照らされて、金毛九尾白面の悪狐の正体を現はし、城内を黒雲にて包み、雲に隠れて何処ともなく逃げ去りにける。宮比彦は中空に向つて鎮魂をはじめ、 『一二三四五六七八九十百千万』 の天の数歌を再び繰返し奏上し終るとともに、大広間の黒雲は後形もなく消え去せ、神人らの面色はいづれも驚異と感激の色ただよひにける。 常世姫は現在我が生みの子五月姫の悪狐の我が胎内を借りて生れ出たりしものなるかと、驚きあきれ茫然として怪しみの雲につつまれけり。これより常世姫は病を得、つひに夫の後を追ひて昇天したりしより、いよいよ竜宮城は初花姫代りて主宰者となりぬ。金毛九尾白面の悪狐の邪霊現はるるとともに、初花姫は精神容貌俄に一変し、さしも温和なりしその面色は次第に険峻の色を現はしけるに、満座の神人らは初花姫の面貌の俄に険峻となりしは、今までの気楽なる生活に引き替へ、竜宮城の主宰者たるの重職を負ひしより、心魂緊張をきたしたる結果ならむと誤信し居たりける。ああ初花姫の身魂は、何者ならむか。 (大正一〇・一二・二八旧一一・三〇加藤明子録)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 41 悪盛勝天 第四一章悪盛勝天〔一九一〕 ここに高月彦は天使長に任ぜられ、神界の神司の総統者となり、父の名を襲うて常世彦と改名したり。改名したるその理由とするところは、さきに二人の高月彦あらはれ、不祥事の続出せるを忌みたるが故なり。 また初花姫は同じく母の名を襲ひ常世姫と改名したりける。これまた初花姫に酷似せる邪神によりて、聖地および竜宮城の攪乱せられしを忌みての故なりける。 改名したる常世彦は、初めの中は天地の律法をよく厳守し、仁愛をもつて天下に臨み至治太平の安泰国を現出したるに、八頭八尾の大蛇の悪霊憑依してより神格俄に一変し、ここに体主霊従の行為をつづけ、大神の神慮を煩はし、かつ聖地の空気を一変せしめける。次にまた改名したる常世姫は兄と同じく、最初のうちは霊主体従の大道を遵守し、至仁至愛にして城内はあたかも春の日のごとく安泰によく治まりゐたりしに、彼女に憑依したる金毛九尾白面の悪狐は、時を経るにしたがひ、常世姫の身体を駆使して、言行日々に悪化し、ために聖地ヱルサレムの神政を攪乱するの端を開きたりける。 天使長常世彦にして、その行動かくのごとしとせば、その部下に仕ふる八王八頭もまた河川の上流濁りて下流濁るがごとく、八王八頭には八岐の大蛇なる八頭八尾の邪神の悪霊、その霊魂を千々に分ちてこれに憑依し、その妻には金毛九尾白面の悪狐の邪霊、その霊魂を分ちてこれに憑依し、つひに天下の神人をして大蛇悪狐の容器たらしめたりき。同じ悪霊の分派を受けたる、八王八頭その他は、その本霊の憑依せる常世彦の頤使に従ふは自然の道理なり。また悪狐の邪霊の分派たる悪霊の容器となりし八王八頭の妻らの挙つて、その本霊の憑依せる常世姫の頤使に甘ンずるは、これまた自然の理なり。ここに常世彦は八王八頭の協力一致の推薦によりて天使長の職名を廃し、八王大神と改称することとなり、その認許を国祖大神に奏言したるに、大神は八王大神の職名を附することを甚く嫌はせたまひける。そのゆゑは国祖の大神さへもその表面は神名を用ゐたまはず、たんに国治立命と称し給へるに、その部下に仕ふる天使長として僣越にも八王大神の名を附するは、天の大神に対して畏多く、かつ下、上を犯すの端を開くものと見なされたるが故なりき。 されど常世彦は、八百万の神人の協力一致の推薦を堅く主張し、多数の同意をもつて強ひて八王大神の名を降下されむことを強要して已まざりにける。 ここに国祖は、大宮殿の奥深く諸神司を集めて、八王大神の職号につき各自の意見を聴取されたるが、ここに神務長大八洲彦命は、ただちに立ちて言ひけらく、 『天に二日なく地に二王なきは、宇宙の大真理なり。いはンや国祖さへも、常に謙譲の徳を堅持したまひ、天にせぐくまり地にぬきあしして、深く上は天津神を敬ひ、下神人を敬愛したまふ。しかるに何ぞや、大神に至誠身をつくして奉仕すべき天使長たる者、我が天職を忘れ、驕慢心を起し、天下の諸神人を籠絡してこれに甘んじ、その職名の強要を申請するその心事の悪逆無道なる察するにあまりあり。希はくは国祖におかせられても天地の秩序を整ふるため、断じて御許容なきことを願ひ奉る』 と奏上されたり。他の神司は何の辞もなく、黙然として国祖の御言葉いかにと固唾を呑ンで控へゐたり。 ここに高照姫命は国祖の大神にむかひ、 『かれ常世彦はさきの高月彦時代の精忠無比の真心なく、いまは邪神のためにその精魂を魅せられ、悪逆無道の心性と悪化しつくせり。また常世姫も初花姫時代の崇敬の心は全く消え失せ、いまは常世の悪狐の霊に憑依され、奸佞邪智の女性と化し去れり。この際、大神にして万一彼らが願ひを聴許したまはば、悪狐はますます増長し、一歩を譲れば一歩を進みきたり、二歩を譲れば二歩を進みきたりて、その要求際限無かるべし。このさい断然として彼ら悪人の奸策におちいり給ふことなかれ』 と理非をつくして言上したりしが、国祖大神は首肯かせたまひ、ただちに二神司の言を容れて、常世彦にたいし、八王大神の職名を附することを許されざりけり。 それより常世彦の、国祖大神をはじめ大八洲彦命、高照姫命以下にたいする反抗の念は、ますます昂まりにける。 (大正一〇・一二・二八旧一一・三〇桜井重雄録)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 42 無道の極 第四二章無道の極〔一九二〕 常世彦は衆を恃みて、その横暴いたらざるなく、八王八頭その他の神司らをほとんど臣下のごとく頤使するにいたりぬ。さるほどに奸佞邪智に長けたる邪神の内面にありて操縦する常世彦は、巧言令色よく天下の諸神人を悦服せしめたりける。 八王八頭をはじめその他の神司らは、常世彦のあるを知つて、国祖大神をほとんど有名無実無用の長物と感ずるにいたりけり。常世彦は執拗にも国祖大神に対し、八王大神の称号を得むと迫ることますます急にして、万々一国祖にして聴許なき時は、みづから進ンで国祖大神を斥け自ら地上の一大主権を掌握せむとの強硬なる態度を持し居たるなり。 而して神務長大八洲彦命以下、国祖直属の神人をはじめ、高照姫命以下の女性が、八王大神称号の聴許につきて国祖に対し、異議を言上したることを深く恨み、これを常に眼の上の瘤とし居たりしが、国祖は常世彦の勢、到底制すべからずとし、涙を嚥ンで彼らの言を採用し、ここに八王大神の称号を与へ給ひける。 この事を聞きつけたる世界各山各地の有力なる神司は、先を争ふて聖地ヱルサレムに参集し、その栄職に就けることを祝し、聖地の大広間において衆神司歓呼のあまり、底抜け騒ぎの大祝宴が催され、大広間の中央には高壇を設けて、常世彦まづ登壇して新任の挨拶をなし、かつ、 『今より天使長の名称を廃し、八王大神と呼ばれたし』 と宣示したり。集まる諸神人は鬨の声を挙げて、その宣示を歓び迎へ、拍手喝采の声は聖地ヱルサレムも崩るるばかりなりき。これより八王大神の世界における声望は、旭日昇天の勢を示し、大神の一言はいはゆる鶴の一声となりて、遺憾なく実行さるることとなりける。八王大神は最早斯うなりては、国祖は第一に眼の上の瘤となり、すべてに対して厳粛不動なる御態度は、和光同塵的神策を行ふにあたり、非常に邪魔物となりたれど、頭無き身体は生命を保つこと能はざるがごとく、いづれかの有力の神人にして、かつ吾意に随ふ神人を戴かねばならぬことを悟りたるなり。ここに八王大神は、父の時代より常世城内深く奉戴し居たりし盤古大神塩長彦に望みを嘱し、盤古大神[※御校正本・愛世版では「盤古大神」だが、校定版では「天の大神」になっている。霊界物語ネットでは「盤古大神」にした。オニペディア「霊界物語の諸本相違点」参照。]の承認を得て国祖の地位に代らしめむとし、あらゆる手段をめぐらし、第一着手として八王八頭を説きつけしめたり。 しかるに万寿山の八王磐樟彦一派は頑としてその誑惑に応ぜざりける。ここに八王大神の悪心日に日に増長し、遂には八王八頭をはじめ八百万の神人を地の高天原なる聖地ヱルサレム城の大広間に集めて、露骨に国祖大神の御退隠を勧告し、国祖にしてこれを容れたまはざる時は、諸神人を率ゐて天の若宮に参向し、日の大神に直願せむことを提議したりける。 つぎに大八洲彦命、言霊別命、神国別命、桃上彦命、大足彦その他の正しき神人を根の国に追放し、かつ女性側としては高照姫命、真澄姫、言霊姫、竜世姫以下の神司を根の国に追放せむことを国祖大神に迫り、これまた聞き入れざれば、天上に坐す日の大神に奏願せむことを提議したり。 同じ邪霊に心魂を全部誑惑されたる神人は、一も二もなく満場一致をもつて、これに賛成したれば、八王大神は満面に笑をたたへながら、傲然として大手を振り、大宮殿に参入し国祖大神に謁して、まづ第一に、 『大八洲彦命以下の男神司および高照姫命以下の女神司を根の国に追放されむことを』 と奏請したりけるより、国祖大神は、大いに怒らせたまふもののごとく、黙して答へたまはざりけり。八王大神はなほも進ンで言ふやう、 『われ今世界の諸神人を代表して、世界永遠の平和のために善言を奏上す。しかるに大神は吾言を請容れたまはず、不平の色を面に表はしたまふは、天下諸神人の至誠を無視し、かつ天地の律法を自ら破りて憤怒の顔色を表はしたまふに非ずや。大神のみづから制定されし律法に言はずや、「怒る勿れ」と。しかるに、大神は自ら律法を制り、また自らこれを破りたまふ。律法の守りがたきは、固より大神制定の律法に無理を存すればなり。国祖大神にして自ら守ること能はざるごとき不徹底なる律法は、天下を毒し神人を誤らしむること多し。貴神はこの罪によつて、すみやかに根の国、底の国に隠退さるる資格十分に備はれり。われは今天地の真理によつて貴神に言明す』 天が地となり、地が天となり、桑田化して海となり、海は変じて山となる、乱暴極まる言辞を弄し、国祖大神をはじめ数多の侍神司をしてその言の高慢不遜と悪逆無道に舌をまかしめたり。 国祖は一言も答へたまはず、玉の襖を閉ぢて奥殿深く御姿を隠したまひける。アヽこの結果は、いかに落着するならむか。 (大正一〇・一二・二八旧一一・三〇外山豊二録)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 43 勧告使 第四三章勧告使〔一九三〕 常世彦は我が目的とする、八王大神の称号を国祖大神に迫つて、これを獲得し、旭日昇天の勢をもつて天下の諸神人に臨み、盤古大神を首長と仰ぎ、これをもつて国祖の位置に就かしめむと、内々準備を整へ、諸神人をふたたび常世城に集めて神界改造の相談会を開催したり。大自在天大国彦は、八王大神を極力讃美して、この際一日もはやく国祖の退隠を迫り、塩長彦をして神政神務の総統者に推戴するをもつて、世界救済の一大要点なりと主張したり。 ここに美山彦、国照姫は立つて、大国彦の主張に対しあらゆる讃辞を呈し、かつ、 『国祖大神をして、かくのごとく頑強固陋の神となさしめたるは、前天使長大八洲彦命、言霊別命、神国別命、大足彦および万寿山の頑老、磐樟彦以下の聖地の神人および女性側としては、前天使長高照姫命、真澄姫、言霊姫、竜世姫ら聖地の神司らの一大責任なれば、国祖の退隠に先だち、右の諸神人を聖地より追放し、根底の国に神退ふべきものなり』 と息をはづませ、肩を揺りながら述べ立てたり。 一旦聖地において全く悔い改め、本心に立帰りゐたる至善の神人も、いまは少しの油断のために、邪神の容器となり、いづれも挙つて国祖にたいし反抗の態度を執るにいたりたるは、果して時節の力か、ただしは因縁か、測度しがたきは神界の経緯なり。 神諭に曰く、 『時節には神も叶はぬぞよ』 と、全大宇宙の大主神たる大六合治立尊の御分身にして、宇宙の大主権神たる、国祖国治立命も、時節の力は如何ともすること出来得ざりしなり。至正、至直、至厳の行動は、かへつて多数の神人より蛇蝎のごとく忌嫌はれて、つひには悪神と貶せられ、祟り神と強ひられ、悪鬼の巨頭艮の金神と名称を附して、大地の北東に居所を極限さるるにいたりたまへるも、神界経綸上止むを得ざる次第ならむか。 このたびの常世城の会議は、前回のごとく少しも騒擾紛糾の光景を現出せず、和光同塵、体主霊従的神政を謳歌せる神人(邪霊の憑依せる)のみの集会なりしゆゑ、全会一致をもつて、まづ国治立命をして、大八洲彦命、高照姫命以下の神人を根の国底の国に追放せしめ、その後において、国祖の自発的退隠を迫ることに一決したりける。ついてはその衝にあたるべき神司の選挙をなさざるべからざれば、ふたたび自決勧告使たるべき神人を物色したりしが、この時大国彦の重臣大鷹別は進ンで、この大切なる使命は吾々ごとき小人の能く耐ふるところにあらずとし、智徳兼備の八王大神および大自在天の御尽力を乞ふのほかなきを主張したれど、八王大神は何か心に期するところあるもののごとく、首を縦に振らざりけり。その場に威儀儼然としてひかへたる大国彦も、無言のまま首を横に振りゐたりける。美山彦、国照姫は立上がり、 『今回の勧告使は、畏れながら小神に任じられたし』 と切り出しけるに、常世彦も、大国彦も言ひ合はしたるごとく頓首きて、承諾の意を表示したり。 美山彦、国照姫は諸神人の一致的賛成のもとに、意気揚々として勧告使となり、聖地ヱルサレムの宮殿に参向し、国祖に対面せむと、数多の神人を引率して聖地に向け帰途に就きける。 常世彦命はまたもや八王大神の資格をもつて聖地に帰還せむとするに先だち、盤古大神の輔佐として、大国彦の従臣大鷹別をして常世城の主管者に任じ、かつ部下の神人をして、各自に神政を分掌せしめ、八百万の神司を引率して、ヱルサレムを指して旗鼓堂々天地も震撼せむばかりの勢にて、上り来たりぬ。先に勧告使として帰還したる美山彦、国照姫の使命は果して完全に成功せしや疑はしき限りなり。 (大正一〇・一二・二九旧一二・一出口瑞月) (第三六章~第四三章昭和一〇・一・二二於佐賀市松本忠左氏邸王仁校正)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 44 虎の威 第四四章虎の威〔一九四〕 美山彦、国照姫は天下万生の代表と自称し、かつ八王大神および大自在天の勢力を笠に着ながら、虎の威を藉る野狐の尾を掉り廻し、傲然として聖地の国祖大宮殿に数多の神人を引率し、常世城の大会議における諸神司の信任と希望とを担ひて、勧告使に選抜されしことを居丈高に吹聴し、ただちに国祖の御前に進み進言すらく、 『今日の美山彦、国照姫は前日のごとき微々たる美山彦、国照姫にあらず、勢望仁徳天下に並びなき、畏くも八王大神常世彦、権勢天下の神人を圧する神力無双の、大自在天大国彦の代表者にして、八百万の神司の代表たる勧告使の重職を担へる美山彦、国照姫なれば、国祖大神におかせられても、必ず粗略の取扱ひあるべからず』 と傍若無人の言辞を弄しながら、 『先づ第一に大八洲彦命以下の頑迷固陋なる神々を、神界平和のため、八王大神の聖意に答ふるため、国祖の神権をもつて御側を追放し、神界攪乱者として根の国底の国に退去を命じたまへ』 と無礼千万にも強力なる後援者あるを楯にして強硬に迫りける。国祖は美山彦にむかひ、 『汝の言果して八王大神および、大自在天その他一般の意見なりとせば、アヽ余また何をか云はむ。至正至直の神人も、天下の平和のためには涙を呑んで馬謖を斬らざるべからざるか』 声涙交々降らせたまひ、感慨無量の御面色に、近く仕へたてまつれる神人らも、美山彦らの従臣らも、涙の袖を絞らぬはなかりける。心弱くては今回の使命は果しがたしとや思ひけむ、やや憂愁に沈まむとせる美山彦を励ましながら、国照姫は国祖の返答をしきりに促したり。国祖も事ここに至りては如何ともなしたまふの余地なく、その請求を容れて大八洲彦命、言霊別命、神国別命、大足彦を根の国に追放したまふことを承認されたりける。 ここに右の四神司は、国祖の厳命によりて、夜見の国なる月界に神退ひに退はれ、四魂合同して国大立命となり、月の大神の精霊に感じてふたたび地上に降り、千辛万苦を嘗め、五六七神政の基礎的活動を開始されたれど、体主霊従の八王大神および大自在天一派の神人は、一柱として此の間の消息を知るもの無かりけり。 次に高照姫命、真澄姫、言霊姫、竜世姫は、大地の底深く地汐[※オニペディア「霊界物語第4巻の諸本相違点」の「地月・地汐・汐球」参照。]の世界に神退はれたまひ、地汐の精霊に感じて大地中の守護神と現はれ、四魂合同して金勝要之神となり、時を得て地表の世界に出現し、五六七神政の基礎的神業に尽力されつつ太古より現代に至るまで神界にあつて、その活動を続けられつつありしなり。 されど八王大神系の神司らも、大自在天系の神司らも、一柱としてこの神業を知了し居る者は絶対にあらざりしなり。神諭に、 『昔の神代が環り来て、元の昔の神代に立替るぞよ、三千世界一度に開く梅の花』 などの神示を十分味はふべきなり。 さて美山彦、国照姫の二人は、右の諸神人を国祖の御神権によつて、追放せしむべきことを、面を犯して強硬に進言し、さいはひにその目的は達したるが、肝腎かなめの国祖の自発的御退隠の勧告に対しては、さすがの邪神も口籠り発言を躊躇し居たり。大神は矢つぎ早に、 『汝の進言はこれにて終れりや』 と問はせたまふに、二使者は大神の威厳に討たれて何心なく、 『もはや申し上ぐることこれ無く候』 と、思はず答申したりける。国祖大神は二使者の答を合図に、ツト立ちて玉の襖を手づから閉ぢ奥殿深く隠れさせたまへり。二柱の使者は奥歯に物の挟まれる如き心地しながら勢なく、その結果を八王大神に奏上したり。八王大神は肝腎の国祖大神に対する自発的御退隠を勧告し能はざりし二人の卑怯を怒り、直ちにこれに蟄居を厳命したれば、夜食に外れた梟鳥面ふくらせながら悄然として退場したりける。 (大正一〇・一二・二九旧一二・一出口瑞月)
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霊界物語 04_卯_常世会議/国祖隠退/神示の宇宙 45 あゝ大変 第四五章ああ大変〔一九五〕 ここに八王大神は諸神人と図り、その一致的意見を集めて、天上にまします日の大神、月の大神、広目大神に、国祖の頑強にして到底地上世界統理の不適任なることを奏上すべく、天地を震動させながら数多の神人を率ゐて、日の若宮に参上り大神に謁し、国祖御退隠の希望を口を極めて奏上したり。 天上の大神といへどもその祖神は、国祖国治立命なれば、大いに驚きたまひ、如何にもして国祖の志を翻さしめ、やや緩和なる神業神政を地上に施行して、万神の心を和めしめ、従来のごとく国祖執権の下に諸神人を統一せしめむと、焦慮せられたるは、骨肉の情としては実にもつともの次第なりといふべし。 ここに天の若宮にます日の大神、広目大神および、月界の主宰神月の大神は、八王大神以下の神人に対し、追つて何分の沙汰あるまで下土に降りて命を待つべしとの神命に、唯々諾々として降り来たりける。[※「~命を待つべし」との神命を与えた。それを聞いた八王大神以下の神人は唯々諾々として降った──という意味だと思われる。霊界物語ネットでは御校正本・愛世版の文章の通りにしたが、校定版・八幡版では「ここに八王大神以下の神人は、天の若宮にます日の大神、広目大神および月界の主宰神月の大神から「追つて何分の沙汰あるまで下土に降りて命を待つべし」との神命に、唯々諾々として降り来たりける」と修正している。] アヽ国祖国治立命は、大宇宙の太祖大六合治立尊の神命を遵奉し、天地未分、陰陽未剖の太初より、大地の中心なる地球世界の総守護神として、修理固成の大業を遂行し、久良芸那す漂へる神国を統轄し、律法を厳行したまひける。されど大神の施政[※校正本では「施設」]たるや、あまりに厳格にして剛直なりしため、混沌時代の主管神としては、少しく不適任たるを免がれざりき。ゆゑに部下の諸神人は、神政施行上、非常なる不便を感じゐたるなり。さいはひ和光同塵的神策を行はむとする八王大神および、大自在天の施政方針の臨機応変にして活殺自在なるに、何れの神人も賛成を表し、つひに常世城に万神集合して、国祖の退隠されむことを決議するに至れるなり。 三柱の大神は地上世界の状況やむを得ずとなし、涙を呑ンで万神人の奏願を聴許せむとせられたり。されど一旦地上世界の主宰者に任ぜられたる以上は、神勅の重大にして、軽々しく変改すべきものに非ざることを省みたまひて、容易に万神人の奏願を許させたまはず、直ちに国祖に向つて少しく緩和的神政を行ひたまふべく、種々と言をつくして、あるひは慰撫し、あるひは説得を試みたまひける。 されど、至正、至直、至厳、至公なる国祖の聖慮は、三体の大神の御命令といへども容易に動かしたまはざりける。 三体の天の大神は、ほとんど手を下すに由なく、ここに、国祖の御妻豊国姫命を天上に招きて、国祖に対し、時代の趨勢に順応する神政を施行さるるやう、諫言の労を取らしめむとなしたまひぬ。豊国姫命は神命を奉じて聖地に降り、百方言を尽して、天津大神の神慮を伝へ、涙とともに諫言したまひたれど、元来剛直一途の国祖大神は、その和光同塵的神政を行ふことを好みたまはず、断乎として妻の諫言を峻拒し天地の律法の神聖犯すべからざるを説示して寸毫も譲りたまはざりける。 ここに豊国姫命は止むを得ずふたたび天上に上りて、三体の大神に国祖の決心強くして、到底動かすべからざることを奏上されたり。 時しも八王大神は、豊国姫命の後を追ひて、天上に登りきたり、天の若宮にます日の大神の御前に恭しく奏問状を捧呈して裁許を請ひぬ。日の大神は、八王大神の奉れる奏問状を御覧遊ばされて、御面色俄に変らせたまひ、太き息をつきたまひける。その文面には、 『国祖国治立命は、至厳至直にして律法を厳守したまふ神聖者とはまをせども、その実は正反対の行動多く、現に前代常世彦命、常世城に大会議を開催するや、聖地の従臣なる、大江山の鬼武彦にみづから秘策を授け、権謀術数の限りをつくして、至厳至聖なる神人らの大会議を混乱紛糾せしめ、つひに根底より顛覆せしめたまへり。吾らをはじめ、地上世界の神人は、もはや国祖を信頼したてまつる者一柱もなし。速やかに国祖を退隠せしめ、温厚篤実にして名望天下に冠たる盤古大神塩長彦命をして、国祖の神権を附与したまはむことを、地上一般の神人の代表として奏請し奉る。以上敬白』 地上の世界一般の神人らは、幾回となく天上に上りきたり、国祖大神の御退隠を奏請すること頻にして、三体の大神はこれを制止し、慰撫し、緩和せしむる神策につきたまひ終に自ら天上より三体の大神相ともなひて、聖地に降らせたまひ、国祖大神をして、聖地ヱルサレムを退去し、根の国に降るべきことを、涙を呑み以て以心伝心的に伝へられたりける。国祖大神は、三体の大神の深き御心情を察知し、自発的に、 『我は元来頑迷不霊にして時世を解せず、ために地上の神人らをして、かくのごとく常暗の世と化せしめたるは、まつたく吾が不明の罪なれば、吾はこれより根の国に落ちゆきて、苦業を嘗め、その罪過を償却せむ』 と自ら千座の置戸を負ひて、退隠の意を表示したまひける。 アヽ国祖は、至正、至直、至厳、至愛の神格を発揮して、地上の世界を至治太平の神国たらしめむと、永年肝胆を砕かせたまひし、その大御神業は、つひに万神人の容るるところとならず、かへつて邪神悪鬼のごとく見做されたまひ、世界平和のために一身を犠牲に供して自ら退隠の決心を定めたまひたる、その大慈大悲の大御心を拝察したてまつりて、何人か泣かざるものあらむや。 神諭に曰く、 『善一と筋の誠ばかりを立貫いて来て、悪神祟り神と申され、悔し残念、苦労、艱難を耐り詰めて、世に落とされて蔭に隠れて、この世を潰さぬために、世界を守護いたして居りた御蔭で、天の御三体の大神の御目にとまり、今度の二度目の天の岩戸を開いて、また元の昔の御用を致すやうになりたぞよ』 と示されたるごとく、数千万年の長き星霜を隠忍したまひしは、実に恐れ多きことなり。 さて三体の大神は国祖にむかつて、 『貴神は我胸中の苦衷を察し、自ら進ンで退隠さるるは、天津神としても、千万無量の悲歎に充たさる。されど我また、一陽来復の時を待つて、貴神を元の地上世界の主権神に任ずることあらむ。その時来らば、我らも天上より地上に降り来りて、貴神の神業を輔佐せむ』 と神勅厳かに宣示したまひけり。 ここに国祖大神は、妻の身に累を及ぼさむことを憂慮したまひて、夫妻の縁を断ち、独り配所に隠退したまひけり。国祖はただちに幽界に降つて、幽政を視たまふこととなりぬ。されど、その精霊は地上の神界なる、聖地より東北にあたる、七五三垣の秀妻国に止めさせたまひぬ。諸神は国祖大神の威霊のふたたび出現されむことを恐畏して、七五三縄を張り廻したり。ここに豊国姫命は、夫の退隠されしその悲惨なる御境遇を坐視するに忍びずして、自ら聖地の西南なる島国に退隠し、夫に殉じて世に隠れ、神界を守護したまひける。ここに艮の金神、坤の金神の名称起れるなり。豊国姫命が夫神の逆境に立たせたまふをみて、一片の罪なく過ちなく、かつ一旦離縁されし身ながらも、自ら夫神に殉じて、坤に退隠したまひし貞節の御心情は、実に夫妻苦楽をともになすべき、倫理上における末代の亀鑑とも称したてまつるべき御行為なりといふべし。 アヽ天地の律法を国祖とともに制定したる天道別命および、天真道彦命も八王大神のために弾劾されて、ここに天使の職を退き、恨を呑ンで二神は、世界の各地を遍歴し、ふたたび身を変じて地上に顕没し、五六七神政の再建を待たせたまひける。惟神霊幸倍坐世。 国祖大神以下の神々の御退隠について、その地点を明示する必要上、神示の宇宙を次章に述べ示さむとす。 (大正一〇・一二・二九旧一二・一出口瑞月) (第四四章~第四五章昭和一〇・一・二三於佐賀市松本忠左氏邸王仁校正)
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霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 総説嵐の跡 総説嵐の跡 畏くも国祖国治立命は、逆神常世彦以下の不従を征するにも、天地の律法を厳守し、仁慈の矛を振ひて奇策神謀を用ひたまはず、後世湯王の桀を放ち、武王の紂を征誅するごとき殺伐の兵法をもつて、乱虐を鎮定することを好みたまはなかつた。 これに反し常世彦命らは、邪神に使役され、後世いはゆる八門遁甲の陣を張り、国祖をして弁疏するの余地なからしめ、つひに御隠退の止むなきに至らしめた。 狼獺の不仁なるも、また時としては神恩を感謝して獣魚を供へ、天神を祀り、雛鴉の悪食なるも猶ほ反哺の孝あり、しかるに永年国祖大神の仁慈に浴し、殊恩を蒙りたる諸神の神恩を捨て、邪神の六韜三略の奸計に乗せられ、旗色の可なる方にむかつて怒濤のごとく流れ従ひ、国祖をして所謂『独神而隠身也』の悲境に陥らしめた。 常世城の会議における森鷹彦に変装せる大江山の鬼武彦をはじめ、大道別、行成彦および高倉、旭の奇策を弄し、邪神の奸策を根底より覆へしたるごとき変現出没自在の活動は、決して国祖の関知したまふところに非ずして、聖地の神人の敵にたいする臨機応変的妙案奇策にして、よくその功を奏したりといへども、天地の律法には『欺く勿れ』の厳戒あり、神聖至厳なる神人の用ふべからざる行為なれば、その責はひいて国祖大神の御位置と神格を傷つけた。現に大道別、森鷹彦、鬼武彦らの神策鬼謀は、国祖の直命にあらず、国祖は至仁至直の言霊をもつて邪神らを悔い改めしめ、言向和さむとの御聖意より外なかつた。しかるに血気に逸り、忠義に厚き聖地の神々は、律法の如何を顧みるに遑なく、暴に対するに暴を以てし、逆に対するに逆を以てし、不知不識のあひだに各自の神格を損ひ、国祖の大御心を忖度し得なかつたためである。アヽされど国祖の仁愛無限にして責任観念の強大なる、部下諸神の罪悪を一身に引受け、一言半句の弁解がましきことをなし給はず、雄々しくも自ら顕要の地位を捨て、隠退せられたるは、実に尊さのかぎりである。吾人は国祖の大御心を平素奉戴して、ある人々の言行の不穏と誤解の結果、吾身の災厄に遭遇することしばしばである。されど、心は常に洋々として海のごとく、毅然として山のごとく、動かず騒がず、すべての罪責を一身に引受け、もつて本懐としてゐるのである。すべて人に将たるものは、よく人を知り、人を信じ、人に任じ、その正邪と賢愚を推知して各自その処を得せしめねばならぬのである。しかるに部下の選任を余儀なくして、誤らしめられたるは、自己の無知識と薄志弱行の欠点たるを省み、一言もつぶやかず、大神の仁慈の鞭として感謝する次第である。 アヽ尊きかな、千座の置戸を負ひ、十字架の贖罪的犠牲の行動に於てをや。吾人は常に惟神霊幸倍坐世を口唱す。無明暗黒の現代を救ふの愉快なる神業に於てをやである。天下に二難事あり、その一は天に昇ること、その二は人を求むることである。アヽ国祖大神の天国を地上に建設したまはむとして艱難辛苦をつくされ、神人を得むとして、その棟梁に最適任の神を得たまはざりしごとく、吾人またその例に洩れないのである。国祖大神は、聖地に清き高き美はしき宮殿を造り、至治太平の神政を樹立し、天下八百万の神人の安住する祥代をながめて、歓喜に充せたまうたのも僅に数百年、つひに善神も年と共に悪化して邪神の容器となり、国祖が最初の大目的を破滅せしめたるは、たとへば小高き山上に美はしき家をたて、その座敷から四方の風景を眺めて、その雄大にして雅趣に富めるを歓びつつありしを、家屋の周辺に樹木の尠く、風あたりの激しきを防がむために、種々の必要なる木を植付けたるに、一時は木も短くして、風景の眺望に少しも障害なかりしもの、年を経るにしたがひ、追々と成長して枝葉繁茂し、何時しか遠景の目に入らぬやうになつたのみならず、つひにはその大木に風をふくんで、その木は屋上に倒れ、家を壊し、主人までも傷つけたやうなものである。世の成功者といはるる人々にも、これに酷似した事実は沢山にあらうと思ふ。現に吾人は、家の周囲に植付けられた種々の樹木のために、遠望を妨げられ、暗黒につつまれ、つひにはその家もろともに倒されて重傷を負うたやうな夢を見たのである。されどふたたび悪夢は醒めて、さらに立派な家屋を平地に建て直す機会の到来することを確信するものである。国祖大神の時節を待つて再臨されしごとく、たとへ三度や五度失敗を重ぬるとも、機会を逸するとも、七転八起は、神または人たるものの通常わたるべき道程であるから、幾たび失敗したつて決して機会を逸したとは思はない。至誠神明に祈願し、天下国家のために最善の努力をつくすまでである。現代の人々は、吾身の失敗をことごとく棚の上に祭りこみ、惟神だとか、社会組織の欠陥そのものの然らしむる、自然の結果なりと思ふなぞの詭弁に依帰してしまつて、自己の責任については、少しも反省し自覚するものがない。宗教家の中には『御国を来らせたまへ」とか「神国成就五六七神政』とかいふことを、地上に立派な形体完備せる天国を立てることだとのみ考へてゐるものが多い。そして地上の天国は、各人がまづ自己の霊魂を研き、水晶の魂に建替るといふことを知らぬものが沢山にある。各自の霊魂中に天国を建て、[※御校正本・愛世版では「天国を建てるのは」だが、それでは前後の文脈がおかしくなる。霊界物語ネットでは校定版・八幡版と同様に「るのは」を外して「天国を建て」に直した。]天国の住民として愧かしからぬ清き、正しき、雄々しき人間ばかりとならねば、地上に立派な霊体一致の完全な天国は樹立せないのである。 アヽされど一方より考ふれば、これまた神界の御経綸の一端とも考へられる。暗黒もまた清明光輝に向ふの径路である。雛鳥に歌を教へるには、暗き箱の中に入れておき、外面より声の美はしき親鳥の歌ふ声を聞かしめると同様に、一時大本の経綸も、雛鳥を暗き箱に入れて、外より親鳥のうるはしき声を聞かしむる大神の御仕組かとも思はれぬこともないのである。ゆゑに吾人は大逆境に陥つて暗黒の中にある思ひをするとき、かならず前途の光明を認め得るのは、まつたく神の尊き御仁慈であると思ふ。いかなる苦痛も、困窮も、勇んで神明の聖慮仁恵の鞭として甘受するときは、神霊ここに活気凛々として吾にきたり、苦痛も困窮も、却て神の恩寵となつてしまふ。たとへば籠の中に入れられてゐる鳥でも、平気で歌つてゐる鳥は、最早とらはれてゐるのではない。暢気に天国楽園に春を迎へたやうなものである。これに反して、天地を自由に翺翔する百鳥も、日々の餌食に苦しみ、かつ敵の襲来にたいして寸時も油断することができないのは、籠の鳥の、人に飼はれて食を求むるの心労なく、敵の襲来に備ふる苦心なきは、苦中楽あり楽中苦ありてふ苦楽不二の真理である。牢獄の囚人の苦痛に比して、自由人の却て是に数倍せる苦痛あるも、みな執着心の強きに因るのである。名誉に、財産に、地位情欲等に執着して、修羅の争闘に日夜鎬をけづる人間の境遇も、神の公平なる眼より視たまへば、実に憐れなものである。 神諭にも、 『人は心の持ちやう一つで、その日からどんな苦しいことでも、喜び勇んで暮される』 と示されたのは、じつに至言であると思ふ。一点の心燈暗ければ、天地万有一切暗く、心天明けく真如の日月輝く時は、宇宙万有一切清明である。吾人は平素心天の光明に照らされ、行くとして歌あらざるはない。吾人の心魂神恩を謳ふとき、万物みな謳ひ、あたかも天国浄土の思ひに楽しむ。アヽ『天国は近づけり、悔い改めよ』の聖者の教示、今さらのごとく、さながら基督の肉身に接侍するがごとく、崇敬畏愛の念に堪へない。 アヽ末世澆季の今日、オレゴン星座より現はれきたるキリストは、今や何処に出現せむとするか。その再誕再臨の聖地は、はたして何処に定められしぞ。左右の掌指の節々に、釘の跡を印し、背部にオレゴン星座の移写的印点を有して降誕したる救世主の出現して、衆生に安息を与ふる日は、はたして何れの日ぞ。金剛石も汚穢の身体を有する蟇蛙の頭部より出づることあり、金銀いかに尊貴なりとて、糞尿の植物を肥すに及ばむや。高山の頂かならずしも良材なく、渓間低く暗きところ、かへつて良材を産するものである。平地軟土に成長したる大樹、またいかに合抱長直なりと雖も、少しの風に撓みやすく、折れやすし。宇宙間の万物一として苦闘に依らずして、尊貴の位置に進むものはない。しかるに、天地経綸の大司宰たる天職を天地に負へる人間にして、決して例外たることを得ない。アヽ人生における、すべての美はしきもの、尊きものは、千辛万苦、至善のために苦闘して得なくてはならぬと思ふ。 神諭に曰ふ、 『苦労の塊の花の咲く大本であるぞよ、苦労なしには真正の花は咲かぬから、苦労いたす程、尊いことはないぞよ云々』 吾人はこの神諭を拝する毎に、国祖が永年の御艱苦に省み、慙愧の情に堪へないのである。 ここに八王大神常世彦命は、多年の宿望成就して、天津神の命を受け、盤古大神塩長彦を奉じて、地上神界の総統神と仰ぎ、自らは八王大神として、地上の神人を指揮することになつた。しかるに聖地ヱルサレムは、新に自己の神政を布くについては、種々の困難なる事情あるを慮り、常世姫をして竜宮城の主管者として守らしめ、聖地を捨て、アーメニヤに神都を遷し、天下の諸神人を率ゐて世を治めむとした。一方常世城を守れる大鷹別は、大自在天大国彦を奉じて総統神となし、アーメニヤの神都にたいして反抗を試み、またもや地上の神界は混乱に混乱をかさね、邪神の横行はなはだしく、已むを得ず、諾冊二神の自転倒嶋に降りたまひて、海月如す漂へる国を修理固成せむとして、国生み、嶋生み、神生みの神業を始めたまひし神代の物語は、本巻によつて明らかになることと思ふ。 神ながら宇宙の外に身をおきて 日に夜に月ぬ物語する 王仁は、第一巻において天地剖判の章に致り、金や銀の棒が表現して云々と述べたるにたいし、人を馬鹿にすると言つて、コンナ馬鹿な説は聞くだけの価値なきものだと、一笑に附して顧みないのみならず、他人の研究までも中止せしめむとしてゐる立派な学者があるさうだ。 神諭にも、 『図抜けた学者でないと、途中の鼻高には、神の申す事はお気に入らぬぞよ云々』 と示されてある。宇宙間の森羅万象、一として形体を具ふるもの、金、銀、銅、鉄等の鉱物を包含せないものはない。人間を初め、動植物と雖ども、剛体すなはち玉留魂の守護によらぬはない。金銀等の金気の大徳によつて現出したる宇宙間の森羅万象は、悉皆、鉱物玉留魂の神力を保持してゐるのであるから、金の棒や銀の棒から天地万物が発生し凝固したと言つたとて、別に非科学的でも何でもない。神の言には俗人のごとき七面倒くさきことは仰せられぬ。すべて抽象的、表徴的で、一二言にて宇宙の真理を漏らされるものである。 それで神諭にも、 『一を聞いて十百を悟る身魂でないと、誠の神の御用は勤まらぬぞよ』 と示されてある。半可通的学者の鈍才浅智をもつて、無限絶対無始無終の神界の事柄にたいして喃々するは、竿を以て蒼空の星をがらち落さむとする様なものである。洪大無限の神の力に比べては、虱の眉毛に巣くふ虫、その虫のまた眉毛に巣くふ虫、そのまた虫の眉毛に巣くふ虫の放つた糞に生いた虫が、またその放つた糞に生いた虫の、またその虫の放つた糞に生いた虫の糞の中の虫よりも、小さいものである。 ソンナ比較にもならぬ虫の分際として、洪大無辺の神界の大経綸が判つて耐るものでない。それでも人間は万物の長であつて、天地経綸の司宰者だとは、どこで勘定が合ふであらうか。されど、神の容器たるべき活動力を有する万物の長たる人間が、宇宙間に絶無とは神は仰せられぬのは、いはゆる神界にては無形に視、無声に聴き、無算に数へたまふてふ、道の大原の聖句に由るのであらうと思ふ。 蚤虱蚊にもひとしき人の身の 神の為すわざ争ひ得めや 大正十一年一月三日旧十年十二月六日
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霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 01 栄華の夢 第一章栄華の夢〔二〇一〕 国祖国治立命、豊国姫命、大八洲彦命、その他聖地における錚々たる神人は、全部各地に退隠されてより、八王大神常世彦の聖地における神務はまつたく破滅され、天地の神を信ずるものなく、聖地の宮殿は全く八王大神の居館となり、申訳的に小さき宮を橄欖山の頂上に建設し、ただ一年に一回の祭典を行ふのみであつた。神殿の柱は風雨に曝され、自然の荒廃に任せ屋根は漏り、蜘蛛の巣は四方に引廻し、至聖至厳なるべき神殿は、つひに野鼠の棲処となつて了つたのである。 一方竜宮城の三重の金殿は、その最下層の間は常世姫の遊楽の場所と定められた。されど顕国の御玉を祭りたる最高段に上ることは、いかに常世彦といへども、神威に畏れて敢行することが出来なかつた。 常世彦、常世姫二神の間に常治彦が生れた。つぎに玉春姫といふ妹神が生れた。父母両神はこれを掌中の玉として愛育してゐた。愛児常治彦は長ずるにおよんで前頭部に牛のごとき角が二本生えた。神々はこれを常治彦といはず鬼治彦と密かに綽名してゐた。聖地の八王大神にして、かくのごとく律法を無視し、神を涜し、放縦不軌の神政をおこなひ、悪逆日々に増長して、聖地は昼夜の区別なく奇怪なることのみ続出した。『上の為す所、下これに倣ふ』の諺のごとく、各山各地の八王八頭は、邪鬼、悪狐、悪竜の霊に憑依されて神命を無視し、暴逆無道の神政を行ふにいたつた。聖地はすでに神霊を宮殿より分離し、橄欖山に形ばかりの神殿を建てたるに倣ひ、各地の八王八頭もその宮殿より国魂を分離して、山上または渓間に形ばかりの神殿を造り、祭祀の道を怠つた。 天上には三個の太陽一度に現はれ、月また中天、東天、西天に一度に三個の月球現はるるにいたつた。しかして太陽の色は、一は赤く、一は青赤く、一は青白く、月また青く赤く白く、おのおの色を異にしてゐた。天上の星は間断なく、東西南北に大音響を立てて飛び散り、巨大なる彗星は、一は東天より、一は南天より、一は西天より現はれ、三個は地の上空に合して衝突し、火花を散らすこと大花火のごとくであつた。八王大神はじめ八王八頭はこの光景を見て、頑迷不霊の国祖国治立命退隠ありてより、天の大神は大に歓びたまひ、太陽はかくのごとく三体現はれ、月また三体現はるるは、天下泰平の瑞祥なりとして、各自に喜び勇んだ。 また彗星の衝突して地上に火花を落下したるは、天の三体の大神、盤古大神の神政を祝したまふ瑞祥なりと謳つて、ますます和光同塵的神政を遂行した。 春の花は秋に咲き、秋咲く花は春に咲き、夏大雪降り、冬は蒸し暑く、気候は全く変換した。大地の主脳神たる国祖国治立命の精霊の脱出したる天地は、日夜に大変調をきたし、妖気は天に漲り、青葉は黒く、あるひは茶褐色となり、紅き花は黒く咲き、白き花は青く咲き、斯かる宇宙の大変調を見て、八王大神以下の神々は、少しも国祖大神の御威霊なきがために、斯く天地の不順不祥を来したりとは夢にも知らず、至善、至美、至楽の神政成就の先駆の象徴として、この光景を祝賀したのである。すべての神々は神業を放擲し、昼夜の区別なく踊り狂ひ廻つた。 霧は天地六合を罩めて、次第に太陽は光を曇らし、月また出でざること数年におよんだ。この間かの円満なる太陽の形を見ることなく、昼夜の区別はほとんどつかなかつた。されど地上の神人は、その暗黒に苦しむほどでもなかつた。あたかも大地は朧月夜のごとき光景である。 八王大神はわが宮殿の奥に当り、怪しき声のしきりに聞ゆるに驚き、急ぎわが居間を出で走り行き見れば、こはそもいかに、常治彦は妹を引捕へ、その腕をむしり、血の流るるまま、長き舌をだして美味さうに喰つてゐる。 常世彦は大に驚き、長刀を引抜き常治彦を目がけて、 『わが子の仇敵、思ひ知れよ』 と言ひつつ真向上段より斬りつくるその途端、常治彦の姿も、妹の姿も白雲となつて消え失せ、ただわが頭上にげらげらと笑ふ声がするのみであつた。怪しみて奥殿くまなく探せども、何の異変もなかつた。ただ怪しきは、長三角形の率塔婆のごときもの五六本、常世彦の前にツンツンツンと音を立て、目鼻口のみムケムケさせながら、上下、前後、左右より常世彦に突つかかつてきた。 常世彦は、長三角形の尖端に面部その他の全体を突刺された。これ全く神明を無視し、神殿を橄欖山に移したるがため、大神の激怒に触れたるならむと、橄欖山に駈上り、ほとんど朽果てたる神殿の前に、息も絶えだえになつてその罪を謝した。たちまち神殿鳴動して無数の金色の鳩現はれ、常世彦の頭上目がけて幾十回ともなく、鋭利な嘴に啄んだ。常世彦は鮮血滝のごとく、漸く正気に復した。 見れば身はヱルサレムの大宮殿の中に、寝汗を瀑布のごとく流して夢を見てゐたのである。常世彦は、この恐ろしき夢より醒めて、少しは前非を悔い、聖地の従臣に命じて橄欖山の神殿を改造せしめた。また各山各地の八王にたいして、神殿を新に建築し、大神の神慮を和め奉ることを伝達したりける。 (大正一一・一・四旧大正一〇・一二・七外山豊二録)
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霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 02 松竹梅 第二章松竹梅〔二〇二〕 八王大神常世彦は表面盤古大神を奉戴し、神政総攬の権を握つてゐた。されど温厚篤実にして威風備はり、かつ至誠至実の盤古大神の奥殿に坐しますは、なんとなく気がねであつた。 そこで八王大神は盤古大神にたいし敬遠主義を取ることになり、エデンの園に宮殿を造り、これに転居を乞ひ、神務神政のことに関しては表面指揮を仰ぐことにした。されど八王大神としては、もはや盤古大神夫婦は眼中になかりしのみならず、却つて迷惑に感じたくらゐである。盤古大神は常世彦の心中を洞察し、何事も見ざる、言はざる、聞かざるの三猿主義を取つてゐた。 橄欖山の頂きに新に建てられたる神殿に奉斎すべき大神の神璽を、盤古大神に下附されむことを奉願するため、八王大神は常治彦を遣はして、エデンの宮殿に到ることを命じた。常治彦は額の角を耻ぢて、この使者を峻拒した。八王大神はやむを得ず涙を流して常治彦の心情を察知し、あまり厳しく追求せなかつた。ここに常世姫とはかり、妹神玉春姫を使神とし、春日姫、八島姫を従へエデンの城にいたり、盤古大神に神璽の下附を奉願せしめたのである。このエデンの園は種々の麗しき花咲き乱れ、四季ともに果実みのり、東北西に青垣山を繞らし、寒風に曝さるることなく、南方の陽気をうけ、実に四時相応の地とも称すべき安楽郷である。南には広きエデンの大河東南より流れきたり、西北に洋々として流れ去る、いかなる悪鬼邪神もこの楽園のみは侵すことが出来ない安全地帯であつた。盤古大神部下の神々は、この楽郷に昼夜の区別なく天地の殊恩を楽しみつつあつた。 あるとき盤古大神の宮殿の奥の間の床下より、床をおしあげ突き抜き、ふとき筍が二本生えだした。見るみるうちに諸所に筍は床を持ちあげ、瞬くうちに棟を突きぬき、屋内屋上に枝葉を生じほとんど竹籔と化してしまつた。盤古大神はこの光景をみて国祖国治立命の怨霊の祟りならむとし、大に怒り、長刀を引抜き、大竹を片つ端より切りすて門戸に立てた。これが今の世に至るまで正月の門に削ぎ竹を飾る濫觴となつた。 玉春姫は八王大神の命により、神璽の下附を乞はむと侍神に伴はれ奥殿に進むをりしも、盤古大神が奥殿に簇生したる諸竹を切り放ちゐたる際なれば、進みかねて、この光景を見入つた。この竹は大江山の鬼武彦の仕業であつた。八頭八尾の大蛇も、この時のみは鬼武彦の権威に辟易して、何の妨害も復讎もすることが出来なかつた。八島姫は忽然として姿が消ゆると見るや、奥殿には十抱へもあらむかと思ふばかりの常磐の松が俄に生えた。これがため盤古大神の居室はすつかり塞がつた。盤古大神は大に怒り、これかならず妖怪変化の仕業ならむと、云ふより大鋸を取りだし、侍神に命じ枝を伐り幹を伐り、暫くにしてこれを取り除けた。しかしてこの切り放した根無し松を門戸に飾り、妖怪退治の記念として立てておいた。ゆゑに太古は正月松の内は一本松を立てて、艮の金神以下の悪魔退治の記念として門松を立てたのである。それが中古にいたり二本立てることになつた。このとき春日姫は幾抱へとも知れぬ梅の木となり、エデンの城一ぱいに枝を瞬くうちに張り、傘のごとき花を咲かせた。園内は一株の梅にて塞がるるばかりであつた。盤古大神はまたもや鉞、鋸等の道具を以つて、神々に命じ枝葉を切らしめ、終に幹までも切り捨てさせた。盤古大神は、大地の艮に引退せられし国祖の怨霊の祟りとなし、調伏のために又もや梅の枝を立てて武勇を誇つた。後世年の始めに松竹梅を伐り、砂盛をして門戸に飾るはこれより始まつたのである。 玉春姫はこの奇怪なる出来事に胆を潰し、茫然として空ゆく雲を眺めつつありしが、つひに過つて庭前の深き井戸に顛落した。盤古大神の長子塩光彦は、これを見るより丸裸体となり井戸に飛び入り、玉春姫を漸くにして救ひあげた。これより塩光彦と玉春姫との間に怪しき糸が搦まれた。 盤古大神は神霊を玉箱に奉安し、玉春姫に下げ渡し、聖地ヱルサレムに帰らしめた。八島姫、春日姫は何処よりともなく現はれきたり、玉春姫に依然として扈従してゐた。塩光彦は、姫のエデンの大河を船に乗りて渡りゆく姿を打ちながめ、矢も楯もたまらなくなつた。盤古大神[※校正本では「盤古男神」]のとどむる声も空吹く風と聞き流し、たちまち大蛇と身を変じ、河を横ぎり南岸に着いた。ここに再び麗しき男神となり、聖地ヱルサレムを指して玉春姫のあとを追ひかけた。この神璽は空虚であつた。何ゆゑか盤古大神の熱心なる祈祷も寸効なく、いかにしても神霊の鎮まらなかつたのは奇怪のいたりである。しかるにエデンの大河を渡るや、この神璽の玉箱は俄に重量加はり数十柱の神々が汗を垂らして輿に乗せ捧持して帰つた。 (大正一一・一・四旧大正一〇・一二・七加藤明子録)
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霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 03 臭黄の鼻 第三章臭黄の鼻〔二〇三〕 いよいよ橄欖山の神殿には、エデンの園より捧持し参りたる神璽を恭しく鎮祭された。この神殿は隔日に鳴動するのが例となつた。これを日毎轟きの宮と云ふ。この神霊は誠の神の御霊ではなくして、八頭八尾の悪竜の霊であつた。 これより聖地ヱルサレム宮殿は、日夜に怪事のみ続発し暗雲につつまれた。八王大神常世彦はやや良心に省みるところあつて、窃に国祖大神の神霊を他知れず鎮祭し、昼夜その罪を謝しつつあつた。大神の怒りやや解けたりけむ、久振りにて東天に太陽のおぼろげなる御影を見ることを得た。随つて月の影が昇りそめた。八王大神は夜ひそかに庭園に出で、月神に向つて感謝の涙にくれた。されどその本守護神は悪霊の憑依せる副守護神のために根底より改心することは出来なかつた。 玉春姫は塩光彦と手を携へ、父母両親の目をくぐりて、エデンの大河をわたり、エデンの楽園にいたり、園の東北隅の枝葉繁茂せる大樹の下にひそかに暮してゐた。盤古大神は塩光彦の影を失ひしに驚き、昼夜禊身をなし、断食をおこなひ、天地の神明を祈つた時しも、園の東北に当つて紫の雲たち昇り、雲中に塩光彦ほか一柱の女神の姿を見た。盤古大神はただちに従者に命じ、その方面を隈なく捜さしめた。塩光彦、玉春姫は、神々らの近づく足音に驚き、もつとも茂れる木の枝高く登つて姿を隠した。この木は麗しき木の実あまた実つて、いつまで上つてゐても食物には充分であつた。神々らは園内隈なく捜索した。されど二人の姿は何日経つても見当らなかつた。盤古大神はこれを聞いて大いに悲しんだ。しかして自ら園内を捜し廻つた。 枝葉の茂つた果樹の片隅より一々仰ぎ見つつあつた。樹上の塩光彦は父の樹下に来ることを夢にも知らず、平気になつて大地にむかつて、木の葉の薄き所より臀引きまくりて、穢き物を落した。盤古大神は怪しき物音と仰向くとたんに、臭き物は鼻と口の上に落ちてきた。驚いて声を立て侍者を呼んだ。されど一柱も近くには侍者の影は見えなかつた。やむを得ず細き渓水に下りて洗ひ落し、ふたたび上を眺むれば、豈計らむや、天人にも見まがふばかりの美女を擁し、樹上にわが子塩光彦がとまつてゐた。盤古大神は大に怒り、はやくこの木を下れと叫んだ。二人は相擁し父の声はすこしも耳に入らない様子であつた。盤古大神は声を嗄して呼んだ。されど樹上の二人の耳には、どうしても入らない。如何とならば、この木の果物を食ふときは、眼は疎く、耳遠くなるからである。ゆゑにこの木を耳無しの木と云ふ。その実は目無しの実といふ。今の世に「ありのみ」といひ、梨の実といふのはこれより転訛したものである。 盤古大神は宮殿に馳せ帰り、神々を集めこの木に駆け上らしめ、無理に二人を引摺りおろし、殿内に連れ帰つた。見れば二柱とも目うすく耳はすつかり聾者となつてゐたのである。ここに塩長姫は二人のこの姿を見て大に憐れみ且つ嘆き、庭先に咲き乱れたる匂ひ麗しき草花を折りきたりて、二人の髪の毛に挿した。これより二人の耳は聞えるやうになつた。ゆゑにこの花を菊の花と名づけた。これが後世頭に花簪を挿す濫觴である。 一方聖地ヱルサレムにおいては、玉春姫の何時となく踪跡を晦したるに驚き、両親は部下の神人らをして、山の尾、河の瀬、海の果まで残る隈なく捜さしめた。されど何の便りもなかつた。常世彦はひそかに国祖の神霊に祈り、夢になりとも愛児の行方を知させたまへと祈願しつつあつた。ある夜の夢に何処ともなく『エデンの園』といふ声が聞えた。八王大神は直にエデンの宮殿に致り、盤古大神に願ひ、エデンの園を隈なく捜索せむことを使者をして乞はしめた。盤古大神は信書を認め、使者をして持ち帰らしめた。常世彦は恭しく押しいただきこれを披見して、かつ喜びかつ驚きぬ。 (大正一一・一・四旧大正一〇・一二・七吉見清子録)
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霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 05 盲亀の浮木 第五章盲亀の浮木〔二〇五〕 エデンの河中に投身したる塩治姫は水中をくぐり、下流の浅瀬に着いた。ここに一つの巨大なる木の株が横たはつてゐた。姫は天の祐けとその大木の株に取りつき、息を休めつつあつた。今まで木の株と思ひしに、見るみる馬のごとき首が現はれ、つぎに手足が現はれた。株はすつかり大きな亀に化してしまつた。 姫はその亀の背に乗り、上流を眺めると、飄箪を括つたやうに二人の神がぶくぶくと頭を上げて流れて来た。よくよく見れば、玉春姫および常治彦である。思はず大声をあげて二人に声をかけた。二人は喜んでその亀に取りついた。ここに三柱は大亀の背にまたがり、亀の行くままにまかせて、エデンの大河を昼夜の区別もなく下る。 河の両岸は壁のごとく岩石屹立して、寄り着くことが出来ぬ。やや下方に白き洲が見えた。三柱は亀の行くままに任しておくと、亀はその洲に向つてのたのたと這ひ上つた。ここに数多の神人は祭とみえて、河辺に出で酒を飲み、歌ひ舞ひ、種々の木石を打ち叩き、拍子をとつて、面白さうに騒いでゐた。 亀は容赦なく、あまたの神人の群がるなかを三柱を載せたまま進んで行つた。三柱の着物は日に晒されていつの間にか乾ききつてゐた。酒に酔潰れたる数多の神人は、この光景を見て一斉に手を打ちたたき、ウロー、ウローと叫ぶのである。ここを突破して北へ北へと進んで行くと、またそこにも稍上級の神らしき群がしきりに酒に酔ひ、手を打つて騒いでゐる。亀はその中を遠慮会釈もなくのたのたと進んで行つた。このとき宴席の上座の方より金冠を着けたる身体骨格衆に優れたる大将らしき神が現はれて来た。そして亀の前に立塞がつた。亀は何事かこの神に向つて囁くやうに見えた。 北には巍峨たる青山を繞らし、東西に鶴の両翼を拡げたるごとく山脈が延長し、あたかも蹄鉄形になつた地勢である。そして南に大河を控へ、種々の麗しき花は咲きみだれ、珍らしき果物は木々の梢に実つてゐた。ちやうどエデンの園にすこしも違はないやうな楽郷である。ここの統一者は南天王と称へ、数多の神人らより国祖のごとく尊敬されてゐた。いづれの神々も木の実を喰ひ、清泉を飲み、天然に発生する山芋などを嗜食し、衣食住の苦痛をすこしも感じないあたかも天国浄土のやうであつた。南天王は実は大道別であつた。この地を顕恩郷と称へられてある。南天王はあまたの神人を集めて、亀上の珍客を天下泰平の瑞祥として歓待せしめた。三柱は思ひがけなき神人らの優遇に感謝し、つひには果実にて造りたる珍しき酒に酔ひ、面白き歌を謡ひはじめた。この地の神人らはいづれも頭の比較的横に長く丈短く、ちやうど蟹のやうな顔をした者ばかりである。そこへ三柱神の現はれたのはあたかも塵芥場に鶴の下りたやうな光景であつた。 これらの神人は南天王に対し、天上より降りきたれる神人として畏敬尊信服従を第一の義務としてゐる。しかるに南天王の神品骨格その他の衆に秀でたるに引き換へ、この地の神々は比較的背低く、身体矮小にして容貌醜悪なるため、南天王の妃とすべき神なきに、神人は挙つて心痛してゐた際である。そこへ天女のごとき二柱の女神と一柱の男神の現はれたるを見て、又もや天津御空より降りきたれる優秀の神と残らず信じてしまつた。そこで神人は相談の上、南天王に奏上して彼の二神を王の妃となし、一柱の男神は頭部に大なる角発生しあれば、まつたく誠の神と信じてゐたり。それゆゑ二柱の女神に対して、この神の妻または妃たることを少しでも顧慮する者がなかつた。 常治彦、塩治姫、玉春姫の三柱は、この郷の神人らの言霊に通じないのを幸ひにして、種々と自由自在に話することができた。そこへ数多の神人は集まつて涕泣拝跪し、輿を舁ぎきたり、無理に常治彦に搭乗を手真似をもつて勧めた。常治彦は吾を非常に歓待するものと思ひ、心中喜悦の情をあらはし、二つ三つ頷づきながら機嫌よく輿の中に入つた。神人らはその輿を寄つて集つて舁きあげた。この顕恩郷は昔から角の生えたる神が降臨して、天変地妖を防ぎ、万年の寿命を守るといふ伝説が伝はつてゐた。そこへ南天王の誕生の祝日にあたつて、万年の齢を保つてふ亀に乗り、河上より下りきたれるは、あたかも天上より降りきたれる神人に相違なしと心より喜び勇んだ。 神輿はダンダンと舁がれて東北の山の谷を越え、立岩の上に神輿もろとも安置された。この岩は円柱を立てたるごとき長円形の棒岩である。そして神人らは遠く退き拍手を打つて、ウロー、ウローと一斉に讃美しかつ喜び、涙を流して拝礼した。 常治彦は輿の中より様子怪しと少しく扉を開け見れば、吾が乗れる輿は天をも貫ぬくばかり長き棒岩の上に据ゑられてある。出るにも出られず、下りるにも下りられず、途方にくれ声をかぎりに『オーイ、オーイ』と叫んだ。あまたの神人はその声を聞きつけ『オーイ、オーイ』と、呼ばはりながら喜び、初めて天の神の声を聞きたりと、勇み狂ひ踊り廻つた。常治彦は、 『輿を下せ』 と大声に呼ばはつた。岩の下遠くこの光景を見て立ち騒いでゐた神人らは、一斉に芝生の上に腰をおろし、棒岩の神輿をうち眺めた。常治彦はこれを見てもどかしがり、 『違ふ違ふ』 といふた。違ふという言葉は、顕恩郷にては臀部をまくり握拳で尻を打つと云ふことである。神人らは棒岩の方へ向つて一斉に赤黒い尻をまくり、一二三つと、拳を固めて自分の尻を打ちたたいた。それがために、臀部は青く変色したものさへあつた。命はこれを見て、 『コラコラ』 といつた。コラコラと云ふことは、この郷にては尻をまくつたまま左右に廻ることである。棒岩の上にある命は業を煮やし、 『コラコラ違ふ』 といつた。コラコラと二つ重ねていふ時は、頭を下にし足を上にして手で歩き廻ることである。神人らは天の尊き神の御命令を固く尊信し、先を争うて倒さまになり、前後左右に這ひ廻り、廻り損なつて谷に落ち傷つく者も出来た。中には、 『こいつは真の神でない、吾々を苦しむる悪神である』 とつぶやく者もあつた。何処よりともなく傍の山の中腹に塩治姫、玉春姫の女神の姿が忽然として現はれた。白き尾のやうな領巾を前後左右に振つてゐた。この郷の神人らはその白き領巾を振るとともに、雪崩をうつてもとの平地に帰つてしまつた。常治彦は横槌の柄に乗せられた亀のやうに手足をもがき、 『塩治姫ヤーイ 玉春姫ヤーイ』 と声をかぎりに叫び、つひにはその声さへ出なくなつてしまつた。 (大正一一・一・五旧大正一〇・一二・八加藤明子録)
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霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 06 南天王 第六章南天王〔二〇六〕 顕恩郷の大王神なる南天王は、その実大道別の分魂で、日の出神であつた。そして三柱を迎え来つた大亀は琴平別の化神である。 神人らは二柱の女神の婉麗にして神格の高尚なるに敬服し、南天王に請ふて、二女神を妃にせむことを協議した。神人らの中より蟹若といふ者、推されて代表となり、南天王の宮殿に参向し、衆議一致の請願をなした。南天王は思ふところありて表面これを許した。これより顕恩郷は高貴なる三柱の神人によりて統一さるることとなり、南方より年々攻めきたる悪神の襲来も恐るるに足らずと異口同音に祝しあうた。 今まで塩治姫と見えしはその実は春日姫であつた。春日姫には高倉白狐が始終守護してゐた。また玉春姫と見えしは実際は八島姫であつて、白狐の旭が守護してゐた。 今まで国祖の御神政中は、大江山の鬼武彦以下正義の神人らは、敵に対するその神術をよほど遠慮へてゐたのであるが、もはや国祖は御退隠となり、いかなる権謀術数に出づるとも、今日は累を国祖に及ぼし奉る憂ひはなくなつた。そこで聖地の神人らは国祖大神の御無念を深く察し、わが身はたとへ天津神より天則違反に問はるるとも、至恩ある大神の敵にたいして、極力反抗をこころみ、復讐をなさむとするの念慮は、片時の間も忘れなかつた。 二柱の女神は、南天王の宮殿深く仕へることとなつた。蟹若は大に喜んで神人にその旨を伝へ、一同は手を拍つて祝杯を挙げた。 奥殿には南天王と春日姫、八島姫の三柱鼎坐して昔語りに夜を徹した。春日姫は思はず、大道別の日の出神に面会し、うれしさのあまり涙を湛へ、且つ俄に鷹住別のことを思ひ出し、憂ひに沈む面容であつた。南天王は、 『貴下は何ゆゑにかくの如く、この目出度き宿縁の喜びにたいし鬱ぎたまふや』 と言つた。春日姫はわづかに声を出して、 『たかす……』 と云つた。南天王はその声に春日姫の意を悟り、ただちに手を拍つて、 『清彦、清彦』 と呼んだ、声に応じて、一間より現はれ出でた神格の優れた侍神がある。見れば、春日姫の常世城を去りしより、夢寐にも忘れぬ恋人の鷹住別であつた。春日姫は思はず飛付かむとしたが他の神人の前を憚りて、動く心を吾から制止し、耻づかしげに俯いて啜り泣きに泣く。 南天王は粋をきかして、鷹住別、春日姫二人を別殿に去らしめた。あとに残つた八島姫は南天王と二柱互に黙然として顔見合せ、うれし涙に暮れてゐた。八島姫は思ひきつたやうに、 『南高山において、貴下に生命を救はれ、それより貴下を慕ふ心、切りに起りて、つひには父母を棄て、御後を慕ひまつりしも、今は昔の夢となりたれども、一たん思ひつめたる最初の念は、今に消えやらず、妾が心の切なさを推量ありたし』 と前後もかまはず、南天王の膝に顔をあて、泣き叫ぶのであつた。 南天王は八島姫の心情を憫れみ、いかにもして彼女を慰めむと思へども、一たん国祖より命ぜられたる大使命あれば、たとへ国祖は隠退し給ふとも、妄りに妻帯するは大神の神慮に反するものである。されどこの八島姫の心情を推知しては、さすが道義堅固なる南天王も、骨身も砕くるごとき切なき思ひをしたのである。 八島姫は漸くにして顔をあげ、 『吁、妾は年老いたる父母二神を棄て、山海の高恩を忘却し、かつ忠節無比の玉純彦を途中に追返したるは、今になつて思へば、実に妾が一生の不覚であつた。たとへ臣下の身分たりとも、彼がごとき忠良なる玉純彦をして、せめては吾夫にもつことを得ば、いかに幸ひならむかと夜ごとに思ひ浮ぶれども、かれ玉純彦は常世の国にて、一たび姿を見たるきり、今は何れにあるや、その居所も判然せず。また父の消息も聞かまほしけれど、今となりては如何とも詮術なく、日夜悲歎の涙に暮るるのみ』 と、流石女人の愚痴をこぼし、滝のごとく涙を流して、その場に倒れ伏しにけり。 このとき南天王は何思ひけむ、つと座をたちて手を拍ち、 『芳彦、芳彦』 と呼ばはつた。芳彦ははたして如何なる神人であらうか。 (大正一一・一・五旧大正一〇・一二・八松村仙造録)
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霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 07 三拍子 第七章三拍子〔二〇七〕 南天王の招きに応じ、 『おう』 と答へて現はれ出でたる眉目清秀の美男は、南高山の従者なりし玉純彦であつた。玉純彦は南天王に一礼し、その右側に座を占めた。南天王は八島姫にむかひ、 『貴下にいま珍しきものを御目にかけむ。顔を上げられよ』 と言葉せはしく言つた。 八島姫は、その声に励まされ、ふと顔を上ぐるとたんに美はしき男神の、わが前に端坐せるを見た。どこやら見覚えありと思ひながら、つらつらその顔を見つめてゐた。玉純彦はただちに下座に直り、 『姫君様』 と慇懃に低頭していつた。 八島姫はあわてたるごとき声色にて、 『いや、汝は玉純彦に非ずや、如何にして此所に来りしや』 などと再会の嬉しさにたたみかけて、いろいろと問ひかけたのである。南天王は満面笑を含みながら、 『われは今日ただ今、姫の心中を承はりたる上は、今となつて否みたまふまじ。われ唯今月下氷人となつて、玉純彦とともに夫婦となり、幾久しく同棲して、神業に参加せられよ』 と言ひ渡した。玉純彦の顔にも、八島姫の顔にも、さつと紅葉が散つた。 このとき次の間より鷹住別、春日姫は銚子を携へ、悠々として二人の前に現はれ、夫婦の盃を取らしめむとした。八島姫は何思ひけむ、 『暫く待たせたまへ』 と言つて、また涙に打沈んだ。 南天王は、 『姫の心中たしかに御察し申す。されど御父大島別はおひおひ年老いたまひ、姫の所在を探し求めてわれに送れよ、との度々の依頼なれど、われは時未だ到らずとして、今日までこれを貴下に告げざりしが、この信書を披見されよ』 と側の器より封書を取出し、八島姫に渡した。八島姫は不審の面色にて、その信書を手に取り、つくづく眺むれば、擬ふ方なき父の手蹟であつた。姫の胸はあたかも早鐘を撞くごとくであつた。轟く胸を押鎮め、静かに封押切つて眺むれば、左のごとき信文が墨黒々と書き記されてあつた。その文面に言ふ、 『吾は南高山の八王として、国祖大神の信任を辱なうし来りしに、盤古大神の治しめす神政となりたれども、仁慈に厚き盤古大神は、われを元のごとく八王に任じたまふ。されど宰相神なる八王大神常世彦の、何時変心して吾職を奪ひ、かつ吾らを滅ぼさむも計りがたし。汝八島姫、一日も早く本城に立帰り、忠良にしてかつ勇猛なる侍者玉純彦と夫婦になり、わが後を継げよ。アヽされど玉純彦は、常世城の会議以後汝の後を追ひ、世界各地を探ね廻り、今にその行方を知らず。幸ひに国祖大神の保護によつて、玉純彦と再会せば、その時こそは、日の出神の媒介にて夫婦となり、すみやかに南高山に帰城し、父の心を慰めよ』 との信文であつた。八島姫はこれを見るより顔をますます紅らめながら、感謝の涙とともに、その信書を南天王の手に恭しく奉還した。 ここに二神は結婚の式を挙げた。八島姫は心のうちに、万一かかる目出度き嬉しき結婚の席に、ただ一柱の老ひたる父の望み給ふことあらば、如何に喜びたまはむと、またもや俯むいて思案に暮るるもののやうであつた。 ここに南天王は玉純彦にむかひ、 『汝は今ここに父坐さざれば、われは媒酌兼父となつて、この式に列すべし』 といつた。そして、 『八島姫は父在せば、今ここにて対面せしむべし』 と言ひ放つた。八島姫は一円合点がゆかず、はるばる遠き南高山に在すわが父に、神変不思議の神力あればとて、今この場にすみやかに現はれまさむ理由なし。訝かしや、と俯きたる頭を上ぐる其のとたん、不思議や、わが父の大島別、南天王よりも上座に控へてゐた。ここに顕恩郷は、親子夫婦の対面の時ならぬ喜悦の花に満ち、一同声をそろへて神恩を感謝し、その天恩の厚きに感激した。 今まではこの郷を川北郷といひしを、この度の事ありてより顕恩郷と名づけられた。さうして玉純彦は、父と共に南高山に夜ひそかに遁れて帰り、南高山の八王となつた。そして顕恩郷の宮殿には、白狐旭が依然として八島姫に変じて、南天王の側近く仕へた。南天王はこの郷の数多の神人らを殿内に召集し、大王の位をわが子鷹住別に譲ることを宣示した。神人は一も二もなく手を拍つて慶賀し、鷹住別を大王と仰いだ。 そして前の南天王たる日の出神は夜陰に紛れて、何処ともなく神界経綸の神業に出でてしまつた。神人らは夜中に前南天王の天に復らせ給ひしものと信じて少しも疑はなかつた。神人らは前大王の天上に復りたまひしを惜しみ、山野河海の珍物を岩上に列べ、これを奉斎し、感謝の声を放ち、果物の酒に酔ひ、またもや手を拍ち、歌ひ舞ひ騒ぎ立た。鷹住別はここに王冠を戴き、春日姫とともに棒岩の傍にいたり祝宴を張つた。神人らは二神に向つて代るがはる盃を奉つた。 棒岩の上に安置されたる常治彦は、扉をひらき下を見下せば、わがもつとも愛する塩治姫が、鷹住別と睦まじさうに夫婦となつて、神人らの祝盃を受けてゐるやうに見えたので、常治彦は歯噛みをなして口惜しがり、輿のなかを前後左右に暴れ廻つた。すこしの風にもぐらつくこの棒岩は、常治彦の雄叫びによつて非常に動揺せるとたん、輿もろとも谷間に真逆様に顛落してしまつた。 この結果は、如何なるであらうか。 (大正一一・一・五旧大正一〇・一二・八外山豊二録)
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霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 10 奇々怪々 第一〇章奇々怪々〔二一〇〕 八王大神常世彦は、この不思議な光景を見て、二人を伴ひ、奥殿に急ぎ入りて、心私かに国祖の神霊に祈願し、怪事続出の難を救はれむことを祈願した。 奥の一間よりサヤサヤと、衣摺の音聞えて現はれ出でたる巨大の神は、大八洲彦命であつた。常世彦は夢に夢見る心地して、物をも言はずジツとその顔を見上げた。大八洲彦命と見えしは、大江山の鬼武彦であつた。常世彦は二度驚愕して、狐に魅まれしごとき顔付しながら、又もやその顔を熟視した。見るみる神の額に角が現はれた。そしてその容貌身長は、わが子の常治彦に分厘の差なきまでに変つてしまつた。表の門前に当つては神人らの騒ぎの声ますます頻りに聞える。八王大神は五里霧中に彷徨ひながら、この場を棄てて表玄関に立現れた。 ここにも常治彦が神人らを相手に闘つてゐる。同時に三柱の常治彦が現はれて、角を以て牛の様に何れも四這になり、突き合を始めた。つひには常世彦を目がけて三方より突き迫つた。 このとき竜宮城の方にあたりて、一大爆発の声が聞ゆるとともに、黒烟濛々と立上り、大火災となつた。常世姫は、命カラガラ火中よりのがれ出で、ヱルサレムに走りきたりて、常世彦に救援を請はむとした。このとき常世彦は、牛のごとく変化したる三柱の神に三方より突き捲られ、逃路に迷ひ苦しむ最中であつた。 奥殿の方にあたりて、またもや大爆音が聞えた。見れば殿内は全部黒煙につつまれ、宮殿の四方より一時に火焔立昇り、瞬くうちに各種の建物は全部烏有に帰した。 竜宮城の三重の金殿は俄に鳴動し、天に向つて際限もなく延長し雲に達し、その尖端は左右に分れ、黄金色の太き柱は東西に際限もなく延長し、満天に黄金の橋を架け渡したかのごとくに変つてしまつた。あたかも三重の金殿は丁字形に変化してしまつた。その丁字形の黄金橋を天の浮橋といふ。この橋より俄に白雲濛々として顕現れ、満天を白くつつんだ。たちまち牡丹のごとき雪は、頻りに降りきたり、見るまに聖地は雪に包まれてしまつた。常世彦は火と雪とに攻められ、あまたの神人らと共に、辛うじてアーメニヤの野にむかつて遁走しはじめた。 一方エデンの宮殿は、轟然たる音響とともに、大地震動して巨城を滅茶々々に打倒し、樹木は根本より倒れ、火災は四方より起こり、黒煙に包まれ、咫尺を弁ぜざるの惨状に陥つた。時しも雪はにはかに降りきたり、道を塞ぎ、神人は自由に行動することができなくなつた。 盤古大神はいち早くエデンの大河に船を泛べ、南岸に渡り、雪を掻分けながら些少の従者とともに、期せずして、アーメニヤの野にむかつて命カラガラ遁走した。降雪ますます烈しく、つひに一行は雪に埋もれてしまつた。 このとき太陽はにはかに光熱を増し、四方山の積雪は一時に氷解し、地上はあたかも泥の海となつてしまつた。盤古大神はじめその他の神人らは、傍の木に辛うじて攀上つた。あまたの蛇その他の虫族は先を争うて木に上り難を避けた。前方の木の枝にあたつて泣き叫ぶ声が聞えた。見れば、竜宮城の司宰神なる常世姫が、木の上であまたの毒蛇に全身を巻かれて苦しむ声であつた。八王大神はその木の中腹にまたもやあまたの蛇に全身を巻付けられ、顔色蒼白となり、息も絶え絶えの光景である。 このとき東南の方より、天地六合も一度に崩壊せむばかりの大音響をたて、黒雲を起し、驀地に進みきたる大蛇があつた。これは天足彦、胞場姫の霊より現はれた八頭八尾の大蛇であつた。大蛇は巨大なる尾を前後左右に打振り打振り暴れ廻つた。この震動に水は追々と減じ、大地の表面を露はすやうになつた。すべての蛇は先を争うて樹上より落下し、各自土中にその影を潜めた。このため常世彦、常世姫をはじめ、塩長彦は漸くにして危難を免れ、神人らと共に、アーメニヤに無事到着することを得た。 塩長彦は、エデンの宮殿を棄てて遁走するとき、驚愕のあまり、妻の塩長姫を伴ふことを忘れてゐた。しかるに豈はからむや、アーメニヤの野には立派なる宮殿が建てられ、そのうちにわが妻の塩長姫および塩光彦は欣然として、あまたの神人らと共に、塩長彦一行を迎へたのは、奇中の奇とも言ふべきである。吁、かくの如く到るところに異変怪事の続発するは、大地の主宰神たる国祖を退隠せしめ、地上の重鎮を失ひたるがために、たとへ日月は天上に輝くといへども、霊界はあたかも常暗の惨状を誘起し、邪神悪鬼の跋扈跳梁に便ならしめたためである。これより地上の神界は、日に月に妖怪五月蠅のごとく群がり起り、収拾すべからざる常暗の世を現出した。 (大正一一・一・六旧大正一〇・一二・九松村仙造録)
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霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 11 蜃気楼 第一一章蜃気楼〔二一一〕 盤古大神以下の神人は、忽然として現はれたるアーメニヤの宮殿を、万古不易の安住所と定め、各居室を定め、八百万神を配置し神政を行ふこととなつた。天より降つたか、地から湧いたか、知らぬまに荘厳無比の宮殿をはじめ数多の建築物が建てられてゐた。神人らは盤古の神政を祝するために遠近の山に分けいり、種々の珍しき花木を切り来つて、各これをかたげながら宮殿を中心として面白き歌を謡ひ、酒に酔ひながら踊り狂うてゐた。 時に中空にあたり何神の声ともなく、 『アーメニヤ、アーメニヤ』 と叫ぶ声しきりに聞えた。神人らは期せずして声する方を仰ぎ見た。幾百千とも限りなき神軍は武装を整へ、雲に乗り中空に整列して、その中央には国祖国治立尊の神姿現はれ、采配を振つて神軍を指揮しつつあつた。神人らはその威厳に打たれてたちまち地上に平伏した。何とはなしに身体一面に湿気を感じ、驚きのあまり酒の酔も醒め、ぶるぶると地震の孫のやうに、一斉に震ひだした。このとき又もや天上より、 『盲神ども、足もとを見よ』 と頭からたたきつけるやうな声で云ひ放つた。いづれも驚いて足もとを見ると、またもや泥田の中に盤古大神はじめ、八百万の神人らは泥まみれになつて、のたくつてゐた。ここはアーメニヤの宮殿と、何れも思うて宮殿の方を一斉に見やれば、今まで立派な宮殿と見えしは蜃気楼であつた。見るみる天上に宮殿は舞ひ上り、自分らの姿までも空中に舞ひ上つてしまつた。八王大神はじめ、重なる神将は残らず蜃気楼とともに天上に昇つてゐるのが見える。残された神人らは性を失ひ驚きのあまり、四方八方に泥田の中をうろつき始めた。そのじつ盤古大神も八王大神も天上に影が映つてゐるのみで、依然として深き泥田に乳の辺りまで落ち入り、身動きもならず苦しんでゐた。されど数多の神人らは、盤古大神以下の神将残らず天上に昇りしものと思ひ、右往左往に泥田を走り廻り、盤古大神、八王大神以下の神将を泥足で踏みつけ、一斉に、 『オイオイ』 と泣くばかりである。 このとき、ウラル山の方面より黒雲を捲き起し、空中を照らし進み来る八頭八尾の大蛇が現はれた。今まで国治立尊以下の神将、天の一方に現はれゐたりしその姿はいつしか消え失せ、八頭八尾の大蛇の火を噴きつつ、満天墨を流したごとく黒雲をもつて包んでしまつた。 (大正一一・一・六旧大正一〇・一二・九加藤明子録)
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霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 12 不食不飲 第一二章不食不飲〔二一二〕 折しもウラルの山颪、地上を吹きまくり、終には空前絶後の大旋風となつた。あらゆる樹木を吹き倒し、泥田に落ちたる神々を、木の葉のごとく土諸共、中天に捲きあげ、天上をぐるぐると住吉踊りの人形のやうに釣りまはした。そのため何れの神人も、鶴のやうに首が残らず長くなつて了つた。丁度、空中に幾百千とも限りなき首吊りが出来たやうなものである。首吊りでなくて、残らず鶴首になつてしまつた。 風がやむとともに、一斉に雨霰のごとく地上に落下した。腕を折り足を挫き腰をぬかし、にはかに半死半生の者ばかりとなつてしまつた。そのとき何処ともなく、 『八岐の大蛇、八岐の大蛇』 といふ声が聞えた。八百万の腰抜け奴、不具者はぶるぶる唇をふるはせながら、 『八岐の大蛇様、助けたまへ』 と叫んだ。 たちまち天上より美はしき八柱の男女の神人が、神人らの前に降つて来た。さうしてその中の一番大将と思しき男神は、耳まで裂けた紅い口を開いて、 『吾はウラル山を守護する八頭八尾の大蛇である。もはや今日は国祖国治立尊は、わが神力に恐れて根の国に退隠し、その他の神人はいづれも底の国に落ち行き、無限の責苦に遭へり。この世界はもはや吾の自由なり。汝らこのアーメニヤの地に来つて神都を開き、神政を樹立せむと思はば、まづ第一に宮殿を造り、わが霊魂を鎮め、朝夕礼拝を怠るなかれ。また盤古大神をはじめ八王大神その他の神人は、ただ今より百日の断水断食を励むべし』 と言ふかと見れば、八柱の神人の姿は烟のごとく消え、ただ空中を運行する音のみ聞えてきた。その音も次第々々に薄らいでウラル山目蒐けて帰つたやうな気持がした。 不思議にも、大負傷に悩んでゐた神人は手も足も腰も旧のごとくに全快し、ただ首のみは長くなつたままである。神人らは先を争うて、ウラル山方面さして断食をなさむと駆登つた。 ウラル山の中腹には、非常な広い平地がある。この平地は南向きになつて、非常に香りのよい甘さうな果物が枝もたわむばかりになつてゐて、平地に垂れてゐる。 あまたの神人は、やつと此処まで登つてきたが、咽喉はにはかに渇きだし、腹は非常に空いてきた。されど大蛇の厳命によつて、咽喉から手が出るほど食ひたくても食ふことが出来なかつた。ちやうど餓鬼が河の端に立つて、その水を飲むことが出来ぬやうな苦痛である。 盤古大神はじめ八王大神は頻りに口なめしをなし、長舌を出し、この果物をみて羨望の念にかられてゐた。神人は咽喉は焼けるほど渇き、腹は空いて板のごとくなつてゐる矢先、目の前にぶらついたこの美味を食ひたくて堪らず、見るより見ぬが薬と、いづれも目を閉ぶつて見ぬやうに努めてゐた。さうすると何処ともなしに百雷の一時に落下したやうな音響がきこえ、地響がして身体を二三尺も中空に放りあげた。吃驚して思はず目を開くと、目の前、口の前に甘さうな果物がぶらついてゐる。エヽ儘の皮よと四五の従者は、そのまま大きな果物を鷲づかみにしてかぶりはじめた。何とも言へぬ甘さである。濡れぬうちこそ露をも厭へ、毒を食うたら皿までねぶれといふ自棄糞気味になつて、四五人の神人は舌鼓をうつて猫のやうに咽喉をごろごろ鳴らしながら、甘さうに食ひ始めた。傍の神人はその音を聞いて矢も楯もたまらなくなつて、目を閉ぢた上、両方の指で耳を塞いで、顔をしかめて辛抱してゐた。風が吹くと、果物の枝が揺れて、その甘さうな果物は口のあたりに触つてくる。思はず知らず舌がでる。こいつは堪らぬとまた口を閉いだ。ちやうど見ざる、聞かざる、言はざるの庚申さまの眷属が沢山に現はれた。四五の自棄糞になつた神人は腹一杯布袋のやうになつて息までも苦しく、肩で息をするやうになつた。腹の中は得心したが、まだ舌が得心せぬので、無理無体に舌の要求をかなへてやつた。もはや舌も得心をしたが、肝腎の眼玉が得心せぬので無理矢理に取つては食ひ取つては食ひ、大地にドンドンと四肢を踏んで、詰め込まうとした。そのとたんに臍の括約筋がバラバラになつて、果物の赤子が沢山生れた。アイタヽアイタヽと腹を抱へて顰み面しながら大地に七転八倒した。他の神人はまた目をあけてこの光景を見、あり合ふ草の蔓をとつて腹の皮を一処へ集め、これを臍の真中で堅く括り、五柱の神人を神命違反の大罪人として棒にかつぎ、その果物の樹の枝にかけた。 この時、またもや天上から声がした。 『腹が空いたら、神命違反者を食へ』 と言つた。神人は果物は食はれぬが、この五柱の神人でも食つて見たいやうな気がした。このとき早玉彦といふ八王大神の侍者は、天の声のする方にむかひ、 『断食する吾々、この者を食うても神意に反せずや』 と尋ねて見た。 さうすると、また空中に声あつて、 『鬼になりたき者はこれを食へ』 と言つた。いづれの神人も自分の悪は分らず、各自に至善至美の立派な者と自信してゐるので、流石の邪神も鬼になることだけは閉口したとみえ、一柱もこれを食はうとする者もなかつた。さうかうする中に、断食の行も五十日を経過した。何れの神人も声さへも立てる勇気は失せ、目は潤み、耳はガンガン早鐘をつくがごとくになり、ちやうど蛭に塩したやうにただ地上に横たはつて、虫の息にピコピコと身体の一部を動揺させてゐた。このとき、東北の空より、六面八臂の鬼神、あまたの赤、青、黒などの顔をした幕下の鬼を引き連れ、この場にむかつて嬉しさうに降つてくるのを見た。 あゝこの結果は如何なるであらうか。 (大正一一・一・六旧大正一〇・一二・九桜井重雄録)
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霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 17 勢力二分 第一七章勢力二分〔二一七〕 大国彦は、大鷹別以下の神々とともに常世城において、堅固なる組織のもとに神政を開始した。しかして大自在天を改名して常世神王と称し、大鷹別を大鷹別神と称し、その他の重き神人に対して命名を附すこととなつた。 ここに八王大神常世彦は、常世神王と類似せるわが神名を改称するの必要に迫られ、ウラル彦と改称し、常世姫はウラル姫と改めた。そして盤古大神を盤古神王と改称し、常世神王にたいして対抗する事となつた。各山各地の八王神は残らず命を廃し、神と称することとなり、八頭は依然として命名を称へ、八王八頭の名称を全部撤廃してしまつた。これは八頭八尾の大蛇の名と言霊上間違ひやすきを慮つたからである。されど数多の神人は従来の称呼に慣れて、依然として八王八頭と称へてゐた。国祖御隠退の後は、常世神王の一派と盤古神王一派は東西に分れ、日夜権勢争奪に余念なく、各地の八王八頭はその去就に迷ひ、万寿山、南高山を除くのほか、あるひは西にあるひは東に随従して、たがひに嫉視反目、紛糾混乱はますます劇しくなつた。この状況を蔭ながら窺ひたまひし国治立大神は野立彦命と変名し、木花姫の鎮まります天教山に現はれたまうた。また豊国姫命は野立姫命と変名してヒマラヤ山に現はれ、高山彦をして天地の律法を遵守し、天真道彦命とともに天地の大道を説き、神人をあまねく教化せしめつつあつた。また天道別命は国祖とともに天教山に現はれ、神界改造の神業について、日夜心魂を悩ましたまひつつあつた。幸にヒマラヤ山は東西両方の神王の管下を離れ、やや独立を保つてゐた。また万寿山は磐樟彦、瑞穂別の確固不抜の神政により、依然として何の動揺もなく、霊鷲山の大八洲彦命、大足彦とともに天下の形勢を観望しつつあつた。 天道別命は、野立彦命の内命を奉じ青雲山に現はれ、神澄彦、吾妻彦とともに天地の大変動のきたるを予知し、あまねく神人を教化しつつあつた。 盤古神王およびウラル彦は、常世神王の反逆的行為をいきどほり、各山各地の神人をアーメニヤの仮殿に召集し、常世城討伐の計画を定めむとした。されども神人ら(八王八頭)は、常世神王の強大なる威力に恐れ、鼻息をうかがひ、盤古神王の召集に応ずるもの甚だ尠かつた。いづれも順慶式態度をとり、旗色を鮮明にするものがなかつた。また一方常世神王は、各山各地の八王八頭にたいし、常世城に召集の令を発し、神界統一の根本を定めむとした。されどこれまた前のごとく言を左右に託して、一柱も参集する神人がなかつた。この参加、不参加については、各山各地とも、八王と八頭とのあひだに意見の衝突をきたし、八王が常世神王に赴かむとすれば、八頭は盤古神王に附随せむとし、各所に小紛乱が続発したのである。このときこそは実に天下は麻のごとく乱れて如何ともすることが出来なかつた。八王および八頭は進退谷まり、今となつてはもはや常世神王も盤古神王も頼むに足らず、何となくその貫目の軽くして神威の薄きを感じ、ふたたび国祖の出現の一日も速からむことを、大旱の雲霓を望むがごとく待ち焦がるるやうになつた。叶はぬ時の神頼みとやら、いづれの八王八頭も各自鎮祭の玉の宮に致つて、百日百夜の祈願をなし、この混乱を鎮定すべき強力の神を降したまはむことを天地に祈ることとなつた。 地上の神界は常世神王の統制力も確固ならず、盤古神王また勢力振はず、各山各地の八王八頭は各国魂によつて独立し、つひには常世神王も盤古神王もほとんど眼中になく、ただたんに天地創造の大原因たる神霊の降下して、善美の神政を樹立したまふ時のきたるを待つのみであつた。八頭八尾の大蛇および金毛九尾の悪狐および六面八臂の邪鬼は、時こそ到れりと縦横無尽に暴威を逞しうする事となつてしまつた。 附言、言葉の冗長を避くるため、今後は八頭八尾の大蛇を単に大蛇といひ、金毛九尾の悪狐を単に金狐と称し、六面八臂の邪鬼を単に邪鬼と名づけて物語することといたします。 (大正一一・一・九旧大正一〇・一二・一二加藤明子録)
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霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 18 宣伝使 第一八章宣伝使〔二一八〕 ここに天教山(一名須弥仙山ともいふ)に鎮まり坐す木花姫命の招きにより、集つた神人は、 大八洲彦命(一名月照彦神)、大足彦(一名足真彦)、言霊別命(一名少彦名神)、神国別命(一名弘子彦神)、国直姫命(一名国照姫神)、大道別(一名日の出神)、磐樟彦(一名磐戸別神)、斎代彦(一名祝部神)、大島別(一名太田神)、鬼武彦(一名大江神)、高倉、旭の二神合体して月日明神 その他の神人なりける。 それらの神人は、天教山の中腹青木ケ原の聖場に会し、野立彦命の神勅を奉じ、天下の神人を覚醒すべく、予言者となりて世界の各地に派遣せられた。その予言の言葉にいふ。 『三千世界一度に開く梅の花、月日と土の恩を知れ、心一つの救ひの神ぞ、天教山に現はれる』 以上の諸神人はこの神言を唱へつつ、あるひは童謡に、あるひは演芸に、あるひは音楽にことよせ、千辛万苦して窃に国祖の予言警告を宣伝した。 されど、大蛇や金狐の邪霊に心底より誑惑され切つたる神人らは、ほとんどこの予言を軽視し、酒宴の席における流行歌とのみ聞きながし、事に触れ物に接してただちに口吟みながら、その警告の真意を研究し、日月の神恩を感謝し、身魂を錬磨せむとする者は、ほとんど千中の一にも当らぬくらゐであつた。 常世神王は、門前に節面白く「三千世界一度に開く梅の花云々」と歌ひくる月日明神の童謡を聞いて首をかたむけ、大鷹別をして月日明神をともなひ殿中に招き、諸神満座の中にてこの歌を謡はしめた。 月日明神は、面白く手拍子足拍子を揃へ、かつ優美に歌ひ舞ひはじめた。いづれもその妙技に感嘆して見とれゐたり。 神人らは、嬉々として天女の音楽を聴くごとく勇みたち、中には自ら起ちてその歌をうたひ、月日明神と相並んで品よく踊り狂ふものあり。殿内は神人らの歓喜の声に充されて春のやうであつた。独り常世神王は、神人らの喜び勇み踊り狂うて他愛なきに引きかへ、両手に頭を抑へながら苦悶に堪へざる面持にて、始終俯きがちにその両眼よりは涙を垂らし、かつ恐怖戦慄の色をあらはし、何となく落着かぬ様子であつた。 この様子を窺ひ知つたる大鷹別は、常世神王の御前に恭しく拝礼し、かついふ、 『神王は、何故かかる面白き歌舞をみそなはしながら、憂鬱煩慮の体にましますや、一応合点ゆかず、御真意を承はりたし、小子の力に及ぶことならば、いかなる難事といへども、神王のためには一身を惜しまず仕へまつらむ』 と至誠面にあらはれて進言した。 されど、常世神王はただ俯向いて一言も発せず、溜息吐息を吐くばかりであつた。大鷹別は重ねてその真意を言葉しづかに伺つた。常世神王はただ一言、 『月日明神を大切に饗応し、本城の主賓として優待せよ』 といひ残し、奥殿に逸早く姿をかくした。 月日明神は衆神にむかひ、 『世の終りは近づけり、天地の神明に身魂の罪を心底より謝罪せよ』 といひつつ、姿は烟のごとく消えてしまつた。 しばらくあつて常世神王は大鷹別にむかひ、 『旭明神とやらの唱ふる童謡は、普通一般の神人の作りし歌にあらず、天上にまします尊き神の予言警告なれば、吾らは一時も早く前非を悔い、月日と土の大恩を感謝し、天地の神霊を奉斎せざるべからず。是については吾々も一大決心を要す。すみやかに盤古神王の娘塩治姫およびウラル彦の娘玉春姫をアーメニヤの神都に礼を厚くしてこれを送還し、時を移さずロッキー山上に仮殿を建て、すみやかに転居の準備に着手せよ』 と厳命した。大鷹別は神王の真意を解しかね、心中に馬鹿らしく感じつつも、命のごとく数多の神人をして二女性をアーメニヤに送還せしめ、ロッキー山の頂上に土引き均し、形ばかりの仮殿を建設することとなつた。 アーメニヤの神都にては、盤古神王をはじめウラル彦は、常世神王の俄に前非を悔い、心底より帰順したる表徴として安堵し、かつ軽侮の念を高めつつ意気衝天の勢ひであつた。 頃しも仮宮殿の傍近く、 『三千世界一度に開く梅の花』 と謡うて通る言触神(宣伝使)があつた。盤古神王はこの声に耳をそばだて胸を抑へてその場に平伏した。この声の耳に入るとともに頭は割るるがごとく、胸は引き裂くるごとくに感じたからである。 ウラル彦夫妻は、神王のこの様子を見て不審に堪へず、あわただしく駆けよつて介抱せむとした。神王は右の手を挙げて左右に振り、苦しき息を吐きながら、 『ただ今の言触神の声を聴け』 といつた。二神は答へて、 『彼は神人らに食を求めて天下を遍歴する流浪人なり、かくのごとき神人の言を信じて心身を悩ませたまふは、平素英邁にして豪胆なる神王の御言葉とも覚えず、貴下は神経を悩ましたまふにあらざるか』 とやや冷笑を浮べて問ひかけた。 神王は二人の言葉の耳にも入らざるごとき様子にて、両手を合せ、或は天を拝し或は地を拝し、 『月日と土の恩を知れ、月日と土の恩を知れ、世界の神人の罪を赦し、吾ら一族をこの大難より救はせたまへ』 と流汗淋漓、無我夢中に祈願をこらす。 ウラル彦夫妻は、この体を見て可笑しさに堪へかね噴出さむばかりになつたが、神王の御前をはばかつて、両眼より可笑し涙を垂らしてこの場を退きさがつてしまつた。そしてこの場に現はれた言触神は日の出神であつた。 (大正一一・一・九旧大正一〇・一二・一二井上留五郎録)
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霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 33 暗夜の光明 第三三章暗夜の光明〔二三三〕 一行は先を争うて暗中摸索、島に駈上つた。山頂には一道の光明暗を縫うてサーチライトのごとく、細く長く海面を照らしてゐる。この島は地中海の一孤島にして牛島といひ、また神島、炮烙島と称へられた。現今にてはサルヂニア島と云ふ。またこの海を一名瀬戸の海と云ふ。 かつて黄金水の霊より現はれ出でたる十二個の玉のうち、十個までは邪神竹熊一派のために、反間苦肉の策に乗ぜられ、竜宮城の神人が、その持玉を各自争奪されたる時、注意深き高杉別は、従者の杉高に命じ、その一個たる瑠璃光色の玉を、窃にこの島の頂上なる岩石を打ち破り、深くこれを秘蔵せしめ、その上に標示の松を植ゑ、杉高をして固くこれを守らしめつつあつた。 しかるに天教山の爆発に際し、天空より光を放つて十一個の美はしき光輝を発せる宝玉、この瀬戸の海に落下し、あまたの海神は海底深くこれを探り求めて杉高に奉り、今やこの一つ島には十二個の宝玉が揃うたのである。かかる不思議の現象は、全く杉高がこの孤島に苦節を守り、天地の神命を遵守し、雨の朝、雪の夕にも目を離さず、心を弛めず、厳格に保護せしその誠敬の心に、国祖大神は感じ給ひて、ここに十一個の玉を下し、都合十二個の宝玉を揃へさせ、もつて高杉別および杉高の至誠を憫れませ給うたからである。これより杉高は高杉別と共に、この玉を捧持して天地改造の大神業に奉仕し、芳名を万代に伝へた。この事実は後日詳しく述ぶることにする。 咫尺を弁ぜざる暗黒の夜に、辛うじてこの島に打上げられたる神人らは、あたかも地獄にて仏に会ひしごとく、盲亀の浮木に取着きしがごとく、死者の冥府より甦りたるがごとく、枯木に花の開きしがごとく、三千年の西王母が園の桃花の咲きしごとき嬉しさと感謝の念に駆られ、祝部神が暗中に立ちて、 『三千世界云々』 の歌を謡ふ声を蛇蝎のごとく忌み嫌ひし神人も、ここに本守護神の霊威発動して、天女の音楽とも聞え、慈母の愛の声とも響いた。神人らは一斉に声を揃へて、祝部神の後をつけ、 『三千世界一度に開く梅の花云々』 と唱へ出した。 祝部神は、これに力を得て、又もや面白き歌を謡ひ始めた。 『世は烏羽玉の暗深く罪さへ深き現世の 神の不覚をとりどりに深くも思ひめぐらせば 海底深く棲む鱶の餌食となすも食ひ足らず 邪曲を助くる神心深く悟りて感謝せよ 海より深き神の恩恩になれては又もとの 深き泥溝にと投げ込まれ奈落の底の底深く 不覚をとるな百の神神の恵は目の当り 辺り輝く瑠璃光の光は神の姿ぞや 光は神の姿ぞや牛雲別も角を折り 心の雲を吹き払ひ心の岩戸を押別けて 神の光を称へかし牛雲別を始めとし 百の神人諸共に心の暗を照らせよや 心の暗の戸開けなば朝日眩ゆき日の光 汝が頭上を照らすべし朝日の直刺す一つ島 夕日の輝く一つ松常磐の松のその根本 千代も動かぬ巌の根に秘め置かれたる瑠璃光の 玉の光にあやかりて心の玉を磨くべし 三千世界の珍宝この神島に集まりて 十二の卵を産み並べ松も千歳の色深く 枝葉は繁り幹太り空に伸び行く杉高の 功績をひらく目のあたり高杉別の誠忠も 共に現はれ北の島蓬莱山も啻ならず この神島は昔より神の隠せし宝島 宝の島に救はれて跣裸で帰るなよ 神より朽ちぬ御宝を腕もたわわに賜はりて 叢雲繁き現世の万のものを救ふべし われと思はむ神等はわれに続けよ、いざ続け 言触神の楽しさは体主霊従の小欲に 比べて見れば眼の埃埃の欲に囚はれて 眼も眩み村肝の心曇らせ暗の夜に 暗路を迷ふ海の上心の波をなぎ立てて この世を造り始めたる神の御息の風を吸ひ 酸いも甘いも弁へてこの世を救ふ神となれ 神の力は目のあたり辺り輝く瑠璃光の 光は神の姿ぞや光は神の姿ぞや 東雲近き暗の空やがて開くる常磐樹の 松の根本に神集ひ千代万代も動ぎなき 堅磐常磐の松心この松心神心 神の心に皆復れ神の心に皆復れ かへれよ復れ村肝の心に潜む曲津神 大蛇や金狐悪鬼共国治立の大神の 御息の気吹に吹払ひ払ひ清めて神の世を 待つぞ目出度き一つ松心一つの一つ島 心一つの一つ島一二三四五六七八九十 百千万の神人よ百千万の神人よ それ今昇る東の空見よ空には真円き 鏡のやうな日が昇る心の鏡明かに 照らして耻づること勿れああ惟神々々 みたま幸はひましませよ三千世界の梅の花 一度に開く松の世の松に千歳の鶴巣喰ひ 緑の亀は此島に泳ぎ集ひて神の代を 祝ふも目出度き今日の空千秋万歳万々歳 千秋万歳万々歳 ヨイトサ、ヨーイトサ、ヨイヨイヨイトサツサツサ』 と祝部神の歌終ると共に、東天紅を潮して天の岩戸の開けし如く、日の大神は東の山の上に温顔を現はし、一つ島の神人らをして莞爾として覗かせ給うた。 ここに牛雲別は、危機一髪の神の試練に逢ひ、翻然としてその非を悟り、断然酒を廃し、かつ三千世界の宣伝歌を親のごとくに欣仰し、寸時も口を絶たなかつた。牛雲別は祝部神に帰順し、祝彦と名を賜はり、杉高はまた杉高彦と改名し、ここに三柱は相携へて、大神の宣伝使となつた。 しかして、この十二個の宝玉は、天の磐船に乗せ、玉若彦の神司をしてこれを守らしめ、地教山の高照姫命の御許に送り届けられた。惟神霊幸倍坐世。 (大正一一・一・一一旧大正一〇・一二・一四外山豊二録)
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霊界物語 05_辰_顕恩郷/天の浮橋/言触神 34 水魚の情交 第三四章水魚の情交〔二三四〕 天にも地にも只一つ、風光明媚の一つ島、類稀なる瑞祥の、光を照らす神々の、心の空も晴れ渡り、和気靄々として心天清朗一点の隔てもなく、各自に得物を携へて、諸神人は手を揃へ足曳の、山の尾上の山口の、神に願ひを掛けまくも、畏き神の御許しを、忝なみて千仭の、谷間に下り檣に、匹敵したる杉の大木を伐り倒し、檣に代へ艫を新に造り、乗り来し船に艤装して、いよいよ音に名高き一つ島、一つの松に名残を惜しみ、真帆を上げつつ悠々と、油を流せし波の上、船の動揺に円き波紋を描きながら、心も身をも打解けし、救の船の一蓮托生、修羅も地獄も波の上、水に流してをちこちの、話にふける面白さ、実にも目出度き高砂の、尉と姥とが現はれて、心の空の雲霧を、伊吹の狭霧に吹き払ひ、心の底の塵埃、雁爪や箒に掻き払ひたる、年の始めの春心地、和気靄々として西南指して欸乃面白く出帆したりける。 空には鴎の幾千羽、前後左右に飛び交ひて、一行の船を祝し見送るかと思はるるばかりの心地よき光景なりき。祝部神は真先に口の扉を捻ぢ上げた。そして船中の神人らに向ひ、 『見渡すところ、貴下らはいづれも由緒ありげの神人らしく思はる。何の目的あつてこの海を渡り給ふや』 と問ひかけたるに、神人の中に最も秀でて骨格たくましき男は、膝を立直し、 『実は吾々は小郷の酋長でありますが、先つ頃よりの天変地妖に対し、吾郷の神人たちの不安は一方ならず、東北の天に当つて烟火のごとき火光天に冲するかと見れば、大空には金銀銅色の三重の橋東西に架り、南北に廻転し、暴風吹き荒み、強雨頻に臻り、五風十雨の順を破り、雷鳴地震非時鳴動し、火山は爆発し、地上の神人色を失ひ、未来を憂慮すること言辞の尽す限りではありませぬ。加ふるに東北の天に当つて、此頃又もや十六個の光星現はれ、日を逐うてその星は金線のごとく地上に向つて延長し、そのうへ西南の天に当り銀色の十六個の星同じく現はれて、地上に日々接近しつつ、吾々神人に向つて何事か天地の神の暗示さるるごとき心地がしてならないのであります。それ故吾々は其星の地上に垂下するに先だち、西南に向つてその真相を確め、郷の神人をして覚悟する所あらしめむと欲し、酋長の役目として、はるばる西南に向つて進むのであります』 と首を傾けながら、物憂しげに語り始めた。酋長の言葉終るや否や、次席にひかへたる一柱の神人は、直にその後をつけて、 『なほも吾々として訝しきは、宵の明星何時の間にか東天に現はれて非常の異光を放ち、その星の周囲には種々の斑紋現はれ、地上の吾々は何事かの変兆ならむと心も心ならず、郷の神人に選ばれて吾もまた西南指して進むのであります。果して何の象徴でありませうか』 と云つて祝部神の顔をちよつと覗いた。 祝部神は膝立直し、諄々として説き始めた。 『この天地は決して地上神人の力によつて造られたものでは無い。大宇宙に唯一柱まします無限絶対無始無終の霊力体の三徳を完全に具有し給ふ天主、大国治立尊と云ふ絶対無限力の神様が、この広大無辺の大宇宙を創造されたのである。そしてこの宇宙には其身魂を別けて国治立尊と命名け、わが大地及び大空を守護せしめ給うたのである。しかるに世は追々と妖邪の気充ち、地上の神人は神恩を忘却し、体主霊従の悪風は上下に吹き荒び、かつ私利私欲に耽り、至善至美の地上を汚し、そのうへ大蛇と金狐と邪鬼の悪霊に左右されて、上位に立つ神人らは、遂に大慈大悲の国祖国治立尊を根底の国に神退ひに退ひ、暴虐無道の限りを尽した。それ故この宇宙には真の統率神なく、神人日夜に悪化して、修羅、餓鬼、地獄、畜生の世界と堕して了つた。それがために地は震ひ天は乱れ、天変地妖頻に臻る。世の災は是にて足らず、一大災害の今将に来らむとする象徴あり。それ故、吾々は慈愛深き野立彦命、野立姫命の神勅を奉じ、地上の神人を悔い改めしめ、この災害を救ひ、大難をして小難に見直し、聞直し、宣直さむと、八王の聖位を捨て、かくも見すぼらしき凡夫の姿と変じ、山野河海を跋渉して、救の道の宣伝を為すのである。諺に云ふ、袖振り合ふも他生の縁、躓く石も縁のはしとやら、今や同じ一つの船に身を托し、天来の福音を伝ふる吾も、これを聴く汝ら神人らも決して偶然にあらず、必ず深き大神の恵の綱に共に結ばれたるものなれば、吾一言を夢々聴き落す勿れ』 と云つて手を伸べて海水を掬ひ、唇を潤しながら座を頽した。 並ゐる神人らはいづれも緊張し切つた面色にて、首を傾げながら一言も聴き洩らすまじと耳を澄まして聞き入りにける。 (大正一一・一・一一旧大正一〇・一二・一四井上留五郎録)