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書籍 | 巻 | 章 | 内容 |
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霊界物語 | 47_戌_治国別の天国巡覧1 | 06 美人草 | 第六章美人草〔一二三九〕 翩翻として降り頻る柔かき雪を被つてコー、ワク、エムの三人は怪しの森影にチヨロチヨロと火を焚き、車座になつて無聊を慰むべく雑談に耽つて居る。 コー『浮木の森で将軍が半永久的の陣営を立てて居る以上は、茲一年やそこらは、どうせイソ館に向つて進軍する気遣ひもあるまい。陣中に女がなくちや淋しくて仕方がないと云つて、浮木の里の女狩りを将軍の命令でやつて見たところ、何奴も此奴もお化けのやうな代物ばかりで、二目と見られぬドテカボチヤばかりだ。そこで将軍様がエキスの大目付に内命を下し、立派な女が見つかつたら、献上せい。さうしたら重要の地位に使つてやらうと、仰有つたさうぢやが、何とかして一つ美人をとつ捕へたいものだなア』 ワク『だつてかう物騒な世の中、女なんかは土竜のやうに皆深山の土窟に隠れて仕舞ひ、容易に出て来る気遣ひはないわ。それでも此処にかうして待つて居れば、やつて来ないものでもないなア』 コー『蠑螈別の追つかけて来たお民とかいふ女は中々のナイスだつたネー。俺も男と生れた甲斐には是非一度はアンナ女と添うて見たいものだ。女の癖に力もあり胆力も据わつてゐるなり、丸きり天女の降臨のやうだつたネー。俺はアノお民の態度には全然参つて了つた。ハヽヽヽヽ』 ワク『昔から男として女の心と身体の美しさを賞め称へるに就ては、どんな偉大な美術家だつて詩人だつて未だ十分に成功したものは無い。粘土を捻つて人間を拵へたといふ神様や猿や犬などには夫れ程に感じないだらうが、少くも吾々の目に映る女の魅力は大したものだ。しなやかに長い髪の毛、それを色々の形に整理して面白く美しく飾り立てた頭、皮下の脂肪分のために骨ばらず筋張らない肉体、トルソだけでもいやモツト小部分だけでも、吾々の礼拝すべき価値が充分にあるやうだ。アノ髯の生えぬ滑々した頬だけでも結構だ。むつちりと張つた乳房だけでもよい。握れば銀杏になり開けば梅干になる指のつけ根の関節に、可愛らしい靨のやうなクボミの這入る手頸だけでも結構だ。足だつて柔かくて気持がよい。そこへ持つて来て、女は身を粧ふことに時間と精魂とを尽して省みない美しい優しい本能をもつてゐるから、玉は益々その光を増すばかりだ。声帯が高調に張られてゐることも男の耳には嬉しい清い響きを伝達する。一体に受動的な性情から挙措物静かに、しとやかに、言葉にも稜が無く控へ目なのも女の美点だ。女といふものは何処に一つ点の打ち処がないやうだ。天地開闢以来、如何なる天才が現はれても、遂に賞め切れず称へ尽されなかつた女の心と身体との優美を、何程俺たちが躍起となつて述べた所で詮なき次第だ。只々謹み敬ひ、永遠無窮の平和の守神と崇め奉るより外はない。アヽ惟神霊幸倍坐世だ。アハヽヽヽ』 エム『おいワク、お前は女権拡張会の顧問にでも選まれて居るのか。大変に女権擁護の弁論をまくし立てやがるぢやないか。俺の見る所では女といふ奴は不思議な程見掛け倒しで不器用な始末の悪いものはないやうだ。一寸賞めりや、のし上る、叱れば泣きよる、殺せば化けて出るといふ厄介至極な代物ぢやないか。何をさせても到底男には叶はない。チツト男子の擁護をしても余り罰は当るまいぞ』 ワク『ヘン、男に昔から碌な奴があるかい。松竹梅の三人姉妹だつて出雲姫だつて祝姫だつて、天教山の木花姫だつて偉大な仕事を為し遂げた女は沢山にあるぢやないか。寡聞ながらも俺はまだまだ沢山に女丈夫の出現した事を聞き及んで居るのだ。常世姫だつてウラナイ教の今通つたお寅婆アさまだつて、俺達より見れば偉いものぢやないか、エーン。俺よりも俺の嬶の方が遥に器用に針を運ぶことを承認して居るのだ。児だつて男では産むことは出来ないからな。何うしても女は社交界の花だよ。それどころか男の為すべきことの様に思はれて来た仕事にかけても、どしどしと行つて退けるのだ。例へば議会に代議士を訪問して何事かベラベラと仰有ると、大抵の事件は無事通過する様になる事を思へば、俺なんかよりも女房の方が遥に政治的の頭脳が発達して居るものだと真に敬服して居るのだ。そんな次第だから女は一口に不器用だと言つて葬つて了ふ訳には行かないよ』 エム『実際何でも一寸器用にやつてのける点は女の方が偉いかも知れぬ。併し不思議なことには開闢以来未だ一人として男が逆鉾立をしても叶はぬやうな図抜けた女は出たことはないぢやないか。音楽などでは随分一流までは行くものもある、然しながら一流の一流といふ点までは決して頭が届いた例がない。ジヤンダークだつて大黒主の傍へ持つて云つたら二流か三流だ。紫式部やサラベルナアルが偉いと言つたつて、一流の一流といふ程のものではない。方面を変へて女の為すべき事のやうに思はれて来た仕事でも一流の一流といふべき位置は残らず男子に占められて居るのだ。料理や針仕事でも一流の職人は矢張り男子だ。少し考へて見たら女は不器用なものだと言はれても仕方が無からうよ。又恋愛なんぞは女が先に立つて、頭からのめり込むやうに深く這入つて行つたらと思ふのだが、俺に言はしたら是とて一流の一流たる恋愛になると、女は何時でも男子に手を引かれて一足づつ跡からついて行く。恋の炎さへプロミセウスに取つて来て貰ふとは、女は実にエタアナルのアイドルだと云はなければならぬぢやないか』 ワク『サウ女を軽蔑するものでないよ。女房に死なれた男子が一流の母たることは出来やうが、決して一流の一流といはるべき母たることは出来ない。ここが如何に男子が逆鉾立になつて気張つて見ても叶はない点だ。このことのみは争ふべくもない事実だよ』 エム『元始女性が太陽だらうと雌猿だらうと構はないが、人間が胎生動物であつて女が子宮といふ立派な製人器を持つて居ることは間違ひない。いやなら児は産まないでも夫れは御勝手だが、する仕事は不器用だし、恋をしても浅薄だとなると、女の生きてゐる甲斐は何処にも無いぢやないか。所詮女は男に隷属すべきものだからなア』 ワク『俺は、女は男に隷属したものだとは考へられないと同時に、独立したものだとも思はない。それは丁度男が女に隷属したものでも独立したものでもないのと同じことだ。然し俺は決して女の自由を男の手の内に握らうとは言はない。モツト女が自由であることを祈るものだ』 エム『女の自由――ヘン猪口才な、女の癖に自由を叫ぶのは怪しからぬぢやないか。思想、感情、習俗、生活などを自分のものにしようとする謀叛だ、男のおせつかいから引き離さうとするのだ。一切の権利を女の方へ引つたくらうとする野望なのだ。女らしくなるのを嫌つてゐるのだ』 ワク『女自身の思想、感情、習俗、生活、さう言ふものを確立しようとする現代婦人の気持は、女が時代に醒めたことを現はして居るのだから、現代の婦人は甚だ頼もしいぢやないか』 エム『けれども、それを男子から取戻さうとして、女のチヤンピオンが男子の中に荒れ込んで来て益々男子の中にズルズルと没入して行く様は見るも痛ましい。男子が女から取り上げたものを議場や慈善愛国の念や飛行機の上や大学や家長の名や乗合自動車の中に隠匿して、私して居る様に思つてるのは、少々見当違ひの詮索だと云はなければならない。そんな所から、本当の女の自由が取戻されるか何うか、マアマア女権拡張会のために充分活動して見るがよからうよ。若しも男子が女から何物かを取つて来てゐたとすれば、それは女が何をしても不器用で、とても見て居られないから男子が代つてやつて居る迄の事だ。併し俺は職業の話をして居るのぢやない。思想でも感情でも習俗でも生活でも……さう云ふものを立派に女自身の手で処理して呉れたならば、男子はそれだけ助かるのだ。それだけの手間や労力をモツト男向きの方面へ有利に使ふことが出来るのだ。決して男子は女に対して返し惜みはせないよ。この頃の新しい女だとか目醒めたとか云ふ女のして居ることには矛盾ばかりだ。自分の家には勝手の知れない手間の雇に働かせて置いて、義理もヘチマも無い隣の家の大掃除に、役にも立たぬ痩腕で手伝に行つて居るやうな形がある。家内は手廻らず隣家は邪魔になるばかりの有難迷惑と気が付かない所が実にお気の毒だ。人の悪い連中に少しばかり煽動られると、何の不自由もない貴婦人の身を以て四辻に立ち、造花の押売までやるのだ。斯うなると馬鹿を通り越していつそ洒落たものだ。女が女であることに飽き足らなかつたり、恥しがつたりしても、それは焼直さない限り、神様だつて人間だつて誰だつて、何うしてやる訳には行かないわ』 ワク『おい、エム、さう言つたものぢやないよ。女だつて出来ないものはない。総理大臣ぐらゐは勤まるよ』 エム『女が総理大臣ぐらゐに成れない事は無いのは当然だ。現に高はないが加藤明子だつて成つて居るぢやないか[※大正13年(1924年)6月から15年1月まで総理大臣を務めた加藤高明と、筆録者の加藤明子の名を引っかけている。ただし本章を口述したのは12年1月で、初版が発行されたのは13年10月なので、口述時にはなかったこの一文を発行時に追加した可能性がある。]。此頃の総理大臣ならデクの坊でも立派に勤まるからなア。併し同じデクの坊でも男子の方が少しばかりは良くやる。だからさう云ふことは歯痒からうが暫く男子に任しておいて、男子には逆鉾立ちをしても、女の真似の出来ない方面のことに身を入れた方が良いわ。それは外でもない女は母たることだ。それだけでは生甲斐が無いやうに感ずる程、精力の過剰があつたら、一流の母たることに務めるべきだ。それでも未だ飽き足りなかつたら一流中の一流、理想の母たることに努めたら良いだらう。たつた一人の子供でも退屈するほど暇な、そして骨の折れない仕事ではなく、またそれほど働き甲斐のない仕事でもない天人の養育機関だからなア。大道で往来の人々に対してビラを撒くほど易い仕事ではないのだから』 ワク『オイ間違つちや可けない、俺の謂つた一流の一流たる母親と云ふのは、世間の所謂良妻賢母といふたぐひでは無い。そんなことなら男子でも相応にやれるわ』 エム『では何うすると云ふのだ』 ワク『サアそこが男子には逆鉾立になつても追付かないところだ。宜しく御婦人にお任せするのだなア』 エム『俺の言ひ方に大分に毒があつたから、俺が女嫌ひだと思つちや困るよ。俺の嫌ひなのは、女だか男子だか判然しないやうな中性の女だ。普通の女らしい女は大好きなのだ。ハヽヽヽヽ』 ワク『アハヽヽヽ、到頭本音を吹きよつたなア』 コー『何と云つても女の心と肉体の美しさは称へても称へ切れないものだ。優しい思ひやりの深い控目な心、むき出しでも綺麗な心、沢山の悪心を持ちながら之を要するに小さい可愛らしい心、嘘吐きでそして直に後悔する心、どこから考へても可い。俺は一切の女が大好きだ』 エム『女といふ奴性来の愚者だから、何うでもなるものだよ。女を喜ばせようと思つたら百万言を費して其心を褒めてやるよりも、たつた一言、髪なり、鼻つきなり、眼元なり、爪の光沢なりを褒めてやつた方が効果が多いものだ。アハヽヽヽ』 コー『誰が何と云つても俺は女の心とその肉体を褒め称へ礼拝して平和の女神と崇めるのだ。それが男子たるものの道義心だ。なんと云つても女はエターナル・アイドルだ』 ワク『アハヽヽヽ』 エム『エヘヽヽヽ』 かく笑ひ興ずる所へ、雪のやうな白い顔をした妙齢の美人が二人、涼しい声を張り上げ歌を歌ひながら此方の森をさして進み来る。三人は目敏くも是を眺めて目引き袖引きしながらコーは小声で、 コー『おい、ワク、エム、俺の言霊は偉いものだらう。女を賞めて居たら忽ち艶麗な美人が出現ましましたぢやないか。噂をすれば影とやら、実に尤物だぞ。どうかしてあいつを旨く虜にし、将軍様の前につき出し、吾々三人が功名手柄をしようぢやないか』 エム『面白いなア、確りしようぞなア。ワク、貴様の婦人反対論者でも、あの美人には一言もあるまい。エーン』 ワク『成程霊光に打たれて頭がワクワクしさうだ。素的のものだな』 かく話す所へ早くも二人の美人は近よつて来た。 甲女(清照姫)『もしもし、一寸お尋ね致しますが、ランチ将軍様や片彦将軍様の御陣営は、何方に参りますかな』 コー『ヤア、貴女方は将軍様の所在を尋ねて何となさる御所存ですか』 甲女(清照姫)『会ひさへすればよいのです。私が会つた上で、雨になるか、風になるか、将た雷鳴か、地震か、今の所では見当がつきませぬ。兎も角も案内をして下さいな』 コー『用向も聞かずに、うつかり案内をしようものなら大変だなア。ワク、エム、どうしようかなア』 ワク『態あ見い、一生懸命女を賞めて居たが、さらばとなればその狼狽方は何だ。それだから、俺が女は駄目と云つたのだ。こんなものを連れて往かうものなら、バラモン軍の爆裂弾になるか知れやしないぞ』 乙女『ホヽヽヽヽ、皆さま御心配なさいますな。何と云つても高が女です、立派な男さまばかりの中へ女が二人位往きましても何が出来ませう。男に対する女、何と云つても異性が加はらねば、どうしても本当の男の威勢は出ませぬぞ』 コー『さうだなア、ヤ承知致しました。何とまア、三日月眉で、目のパツチリとしたお色の白い髪の艶と云ひ、まるで天人のやうですワイ』 乙女(初稚姫)『ホヽヽヽヽ、こんなお多福をそのやうに嬲るものぢやありませぬ。どうぞ妾等両人を将軍様の陣営に案内して下さいませいな』 コー『ハイハイ案内致しませうとも。併しながら貴女のネームを聞かぬ事にや案内の仕方がありませぬ。何卒お名乗りを願ひます』 甲女(清照姫)『私は三五教の宣伝使清照姫、も一人は妹分の初稚姫で厶ります』 コー『何、清照姫に初稚姫、そいつは大変だ。ヤア平にお断り申します』 甲女(清照姫)『何とまあ、弱い男だこと、女の二人位が恐ろしいのですか』 コー『ヤア別に恐ろしくもありませぬが、お前さまは三五教の女豪傑だ。そんな事を云つてバラモン教を潰して仕舞ふ考へだらう。おい、ワク、エム、何うしようかなあ』 ワク『ウンさうだなあ』 エム『何うしたものだらう、困つた問題が起つたものだ』 甲女(清照姫)『あゝ辛気臭い、こんな方に相手になつて居ては駄目だ。さあ初稚姫さま、此方から進んで将軍様を訪問致しませう』 乙女(初稚姫)『さうですなあ、こんな腰の弱い番卒に交渉やつて居つたつて駄目ですわ、それなら姉さま、参りませう』 と早くも二人は手を引、通り過ぎようとする。コーは慌てて両手を拡げ、大の字になつて小道を踏ん張りながら、 コー『まあまあ待つて下さい。さう強硬的に出られちや、八尺の男子も顔色無しぢや、エヽ仕方がない、御案内致しませう。おいワク、エム両人、お前は此所に確りと守衛を勤めて居つて呉れ。俺は将軍様の前まで御両人を御案内して来るから』 エム『手柄を独占しようとは、ちと虫がよ過ぎるぞ。一層の事三人寄つて御案内する事にしようかい。後の守衛はテル、ハルの両人にまかして置けばよいのだ。おいテル、ハルの両人、確り守衛を頼むぞ』 テル『私もお供を致しませう』 エム『罷りならぬ。上官の命令だ、怖けりや木の蔭になとすつ込んで待つて居れ。ハルと両人抱き合つて慄うて居るが好からうぞ』 ハル『アヽ仕方がないなあ、テル、強いものの強い、弱いものの弱い時節だからなあ』 エム『こりや両人、二百五十両儲けたぢやないか、金の冥加でも二人神妙に守衛をして居るだけの価値はあるぞ』 テル『ハーイ』 ハル『仕方がありませぬ』 コー『サア、お二方、御案内を致しませう』 甲乙二女は、叮嚀に会釈し、ニコニコ笑ひながら三人の足跡を踏んで、ランチの陣営さして大胆不敵にも進み行く。 (大正一二・一・八旧一一・一一・二二加藤明子録) |
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霊界物語 | 47_戌_治国別の天国巡覧1 | 07 酔の八衢 | 第七章酔の八衢〔一二四〇〕 天に輝く日月も黒雲とざす時は 忽ち其光を没する如く智仁勇兼備の 三五教の宣伝使治国別も忽ち妖雲に霊眼を交錯されて 悪虐無道のランチ将軍が奸計に陥り 暗黒無明の地下の牢獄へ忽ち顛落し 気絶せしこそ是非なけれ。 肺臓の呼吸は漸く微弱となり、情動は全くとまると共に、心臓の鼓動休止し、治国別は竜公と共に、見なれぬ山野を彷徨することとなつた。行くともなしに、吾想念の向ふまま進んで行くと、一方は屹立せる山岳、一方は巨大なる岩石に挟まれた谷間の狭い所に迷ひ込んだ。ここは中有界の入口である。中有界は、善霊、悪霊の集合地点である。一名精霊界とも称へる。 竜公は四辺の不思議な光景に、治国別の袖をひき、 竜公『モシ先生、此処はどこでせうかな。ランチ将軍の奥座敷で酒を呑んで居つたと思へば、局面忽ち一変して、斯様な谷底、何時の間に来たのでせう』 治国別『どうも変だなア、幽かに記憶に残つてゐるが、何でも片彦の案内で、立派な座敷へ入つたと思へば、忽ち暗黒の穴へおち込んだやうな気がした。ヒヨツとしたら吾々は肉体を脱離して、吾精霊のみが迷つて来たのではあるまいかな』 竜公『何だかチツと空気が違ふ様ですな。併し斯様な所に居つても仕方がありませぬ。行ける所まで進みませうか』 治国別は少時双手を組み、幽かな記憶を辿りながら、二つ三つうなづいて、 治国別『ウンウンさうださうだ、ランチ、片彦将軍の計略にウマウマ乗ぜられ、生命をとられて了つたのだ。アヽ困つた事をしたものだな』 竜公『モシ先生、生命をとられた者が、かうして二人生きて居りますか、変な事を仰有いますなア』 治国別『人間界から言へば、所謂命をとられたのだ。併し乍ら人間は霊界に籍をおいてゐる。肉体はホンの精霊の養成所だ。霊界から言へば、死んだのではない、復活したのだ。サア之から吾々が生前に於て、現界にて尽して来た善悪正邪を検査する所があるに違ひない。そこで一つ検査を受けて天国へ昇るか地獄へおとされるかだ』 竜公『エヽそりや大変ですな、マ一度娑婆へ帰る工夫はありますまいかな』 治国別『何事も神素盞嗚の大神様の御心の儘だから、精霊界にふみ迷ふも、或は天国へ復活するも、現実界へ逆戻りするのも、吾々人間の左右し得べき所でない。最早かくなる上は、神様にお任せするより道はなからうよ』 竜公『私はあなたから、死後の世界があると云ふ事は聞いて居りましたが、斯うハツキリと死後の生涯を続けるとは思ひませなんだ。気体的の体を保ち、フワリフワリと中空をさまよふものだと考へて居りましたが、今となつては、吾々の触覚といひ、知覚といひ、想念といひ、情動といひ、愛の心といひ、生前よりも層一層的確になつたやうな心持が致します。実に不思議ぢやありませぬか。死後の世界はあると云ふ事は承はつて居りましたなれど、是程ハツキリした世界とは思ひませなんだ』 治国別『人間の肉体は所謂精霊の容物だ。精霊の中には天国へ昇つて天人となるのもあれば、地獄へおちて鬼となるのもある。天人になるべき霊を称して、肉体の方面から之を本守護神と云ひ、善良なる精霊を称して正守護神といひ、悪の精霊を称して副守護神と云ふのだ』 竜公『人間の体の中には、さう本正副と三色も人格が分つて居るのですか』 治国別『マアそんなものだ。吾々は天人たるべき素養を持つてゐるのだが、肉体のある中に天人になつて、高天原の団体に籍をおく者は極めて稀だ。今の人間は大抵皆地獄に籍をおいてゐる者ばかりだ、少しマシな者でも、漸くに精霊界に籍をおく位なものだよ。此精霊界に於て善悪正邪を審かれるのだから、最早過去の罪を償ふ術もない。あゝ之を思へば、人間は肉体のある中に、一つでも善い事をしておきたいものだなア』 かく話す所へどこともなく、一人の守衛が現はれて来た。 守衛は治国別に向ひ、 守衛『あなたは三五教の治国別様では厶いませぬか』 治国別『ハイ左様で厶います。エヽ一寸お尋ね致しますが、ここは天の八衢ではございませぬかな』 守衛『お察しの通り、ここは精霊界の八衢で厶います、サア是から関所へ案内を致しませう』 治国別『有難う厶います。オイ竜公、ヤハリ吾々は最早娑婆の人間ぢやないのだよ。覚悟せなくちや可けないよ』 竜公『仮令八衢へ来た所で、此通り意思想念共に健全なる以上は、決して死んだのぢやありませぬから、何とも思ひませぬワ』 守衛『竜公さまとやら、お気の毒ながら、あなたは八衢に於て少しく暇取るかも知れませぬ。そして治国別様とお別れにならなきやならないでせう』 竜公『エヽ何と仰有います、別れよと仰有つても私は治国別様の家来ですから、どこ迄も伴いて行きます。家来が主人の後へ従いて行かれぬと云ふ、何程霊界でもそんな道理はありますまい』 守衛『それは御尤もですが、併しながら貴方の善と信と智慧と証覚とが、治国別様と同程度になつて居れば、無論放さうと思つても放れるものぢやありませぬ。併しながら貴方の円相が余程治国別様に比べて見劣りが致しますから、私の考へでは、どうも御一緒は六かしいやうに感じられます。併しながら八衢の関所までお出でになつて、伊吹戸主の神様のお審きを受けねば、到底私では決定を与へる事は出来ませぬ。又決定を与へる丈の資格も権能もありませぬからなア』 治国『惟神霊幸倍坐世、三五教を守り給ふ国治立の大神、豊国主の大神、守り給へ幸はへ給へ』 竜公はしきりに、 竜公『惟神霊幸はへませ。一二三四五六七八九十百千万』 と数歌をうたふ。守衛は谷道に立止まり、 守衛『治国別様、此竜公さまをあなたにお任せ致しますから、どうぞ此処をズツと東へ取つてお出で下さいませ。少しくあの山をお廻りになると、稍平かな所が厶います。そこが天の八衢の関所で厶いますから、私は之から又次へ出て来る連中がありますから、それを案内して来ます。左様なら、之で失礼を……』 と言ひながら電光石火の如く、空中に一の字を画いて、光となつて西方指して飛んで行く。二人は崎嶇たる山道をドシドシと、三十丁ばかり登りつめた。見れば万公が首を傾け、口をポカンとあけ、憂鬱気分で此方を指して進んで来るのを、四五間ばかり手前で見つけた。竜公は、治国別の袖をひいて、 竜公『モシ先生、あこへ来るのは万公ぢやありませぬか。何だか心配らしい顔をして歩いて来るぢやありませぬか』 治国別『ウン確に万公だ、併しながら言葉をかけちやいかないよ。向ふがもの言ふまで黙つてゐるがいい。先方がもの言つても、こちらはもの言つちや可けないよ』 かく話す折しも、万公は行歩蹣跚として、二人の前に立ちふさがり不思議相な顔をして、二人を眺めてゐる。治国別は心の内にて、天の数歌を奏上してゐる。竜公はあわてて、治国別の戒めた事を打忘れ、 竜公『オイ万公ぢやないか、何だみつともない、其ザマは、シツカリせぬかい』 と背中をポンと叩きかけた拍子に、万公はプスツと煙の如くに消えて了つた。 竜公『アヽ万公かと思へば、何だ、化物だなア。ヤツパリ霊界は霊界だなア。万公に冥土の狐奴、化けてゐやがつたのだなア』 治国別『エヽ仕方のない男だなア、ありや万公に間違ひないのだ。肉体はまだ現界に居つて精霊のみが俺達の身の上を案じて、捜しに来てゐるのだ。肉体のある精霊に言葉をかけるものぢやない。肉体のある精霊は霊界にゐる者が言葉をかければ、すぐに消えるものだ。それだから俺が気をつけておいたのに、困つた男だな、これから伊吹戸主の神様の関所へ行くのだから、余程心得ないと可かないぞ』 竜公『ハイ、キツと心得ます。あなたがモシヤ天国へお出でになつたら、私をどこ迄も伴れて行つて下さりませうねエ』 治国別『どこへ俺が行つても従いて来るといふ真心があるのか、それなら俺は若も天国へ行く時には、八衢の神に願つて伴れてゆく。併しながら、俺も随分若い時にウラル教で悪事をやつて来た者だから、善悪のハカリにかけられたら、大抵は地獄行だ。地獄へ落ちてもついて来るかなア。万劫末代上れない悪臭紛々たる餓鬼道へおちても従いて来る考へか』 竜公『先生がメツタにそんな所へ落ちなさる気遣ひがありますものか。どこ迄もお供を致します』 治国別『地獄へでもついて来るなア』 竜公『ハイ、従いて行きます。其代りにモシモ私が地獄へ落ちた時には、先生もついて来てくれますだらうなア』 治国別『そりやキマつた事だ。お前を見すてて行く事が何うして出来よう。霊界も現界も凡て愛といふものが生命だ。愛を離れては天人だつて、精霊だつて、人間だつて存在は許されないのだ』 竜公『あゝそれを聞いて安心致しました。どうぞ、どこ迄も私を伴れて行つて下さい』 治国別『ヤア、あこに赤門が見える、どうやらアコが関所らしいぞ。サア急いで行かう』 治国別は先に立つて進んで行く。赤門の側へ近付いて見れば、二人の守衛が立つてゐる。一人は光明輝く優しい顔付の男とも女とも知れぬ者、一人は赤面の唐辛をかんだやうな顔した男、衡の前に儼然として控へてゐる。 治国別『ヤア皆さま、御苦労ですなア、ここで吾々の罪の軽重を査べて頂くのですかな』 優しき守衛は面色を和らげて、 優しき守衛『イヽヤ、あなたは査べるには及びませぬ、どうぞ奥へお通り下さいませ……一人のお方、一寸ここへ残つて下さい。査べますから……』 竜公『ヤア此奴ア大変だ。サ先生、断り云つて下さいな』 治国別『霊界の規則だから仕方がないワ。先づ地獄行か天国行か査べて貰ふがよからうぞ』 竜公『モシモシ、門番さま、現代の娑婆では何事も簡略を尊びますから、そんな看貫でかけるよな七面倒臭い事はおやめになつたら何うですか』 赤顔の守衛はグルリと目をむき、竜公を睨みつけながら、 赤顔の守衛『不届き者ツ、霊界の法則を蹂躙するかツ』 と呶鳴りつける。竜公はちぢみ上り、不承不承にカンカン[※「看貫秤(かんかんばかり)」(貫目を看る)のこと。台秤。]の上へ身を載せた。一方は地獄行、一方は天国行と金文字で記してある。 赤顔の守衛『地獄行の方が下つたら、気の毒ながら、之から苦しい暗い所へ落ちて貰はにやなりませぬ。又天国行の方が重かつたら、天国へ行つて貰ひませう。ここは一厘一毛も掛値のない、正直一方の裁判所だから、地獄へ仮令落ちても、決して無実の罪ぢやないから、満足だらう』 と云ひつつ、懐から帳面を出して、 赤顔の守衛『三五教の信者竜公竜公』 と、厚い緯に長い帳面を繰り広げてゐる。 赤顔の守衛『ハヽア、お前はアーメニヤの生れだな、そしてウラル教に這入つて居つたな。随分後家倒しや女殺をやつて来たとみえる。チヤンとここに記いてゐるぞ』 竜公『モシモシ善の方面を一つ査べて下さい』 赤顔の守衛『宜しい、ハヽア、善の方は丸がしてある』 竜公『ヤア有難い、満点ですかなア』 赤顔の守衛『なに、零点だ。零点以下廿七度といふ冷酷漢だと見えるわい。気の毒ながらマア地獄行かなア、併し未だお前は生死簿には死期が来てゐない。まだ五六十年は娑婆で活動すべき代物だ。娑婆へ帰つたならば、地獄へ落ちない様に、善を行ひ、神を信仰し、人の為に誠を尽すがよからうぞ。今此儘で肉体を離れようものなら、気の毒ながら地獄落だ』 竜公『エヽさうすると、マ一度娑婆へ帰れますかな』 赤顔の守衛『まだ心臓に微弱な鼓動が継続してゐる、そして肺の呼吸も微弱ながら存在してゐるから、キツト娑婆へ帰るだらう』 竜公『ヤア、それは有難い、併し宣伝使さまは何うですかな。一寸帳面を査べて下さいませぬか』 赤顔の守衛『宣伝使様は天国行の霊だから、此帳面には記してない。モシ白さま、あなた一寸査べて見て下さい』 白い顔の守衛は懐から帳面を取出し、 白顔の守衛『三五教三五教』 と云ひながら、見出しを読み中程をパツとめくつて、 白顔の守衛『ヤア此方もまだ、寿命がありますわい。現世に於てまだまだ数十年、活動して貰はなくちや、ハア、なりませぬよ。併しながら、伊吹戸主の神様の御意見を聞かなくちやシツカリしたこた言へませぬワ』 竜公『私の罪の測量は免除して下さいますだらうな』 赤顔の守衛『エヽ今すぐに地獄へやるべき精霊でもないから、査べた所で駄目だ。数十年の後に更めてハカる事にしませう』 竜公『ヤアそりや有難い、皆さま、エライお気をもませました』 赤顔の守衛『ハヽヽ、吾々は日々之が役目だから、別に気も揉ましないが、お前は随分気をもんだだらう』 竜公『モシ先生、今の白い守衛のお言葉をお聞になりましたか、あなたは今から天国行の資格がある相ですなア』 治国別『ヤア実に汗顔の至りだ。まだ寿命があるさうだから、モ一度現界へ往つて、大神様の為、世の中の為に、一働きをさして頂かうかなア』 斯く話す所へ、ヘベレケに酔うた一人の男、行歩蹣跚として八衢の赤門にドンと行当り、 男(権太)『ドヽドイツぢやい、バヽバカにすない、俺を誰だと考へてゐる?おれはヤケ酒の権と云つたら、誰知らぬ者のない哥兄さまだぞ、エヽーン、こんな所へ赤い門を立てやがつて、往来の妨げをするといふ事があるかい。叩きこはせ叩きこはせ』 赤顔の守衛『コリヤコリヤ、ヤケ酒の権太とやら、ここを何処ぢやと心得てゐる』 権太『ドコも、クソもあつたものけえ、ここは帝大の入口だ、赤門ぢやないか。俺が酒に酔うとると思うて余り馬鹿にするない、俺だつて足があるのだから、赤門位はくぐるのだからなア。永らく校番を勤めて居つたのだから、学士連中よりも赤門の勝手はよく知つてゐるのだい。何時の間に門番奴、代りやがつたのだ、エヽーン、何だ其面ア、真白けな面しやがつて、男だてら白粉をぬり、チツクをつけ、おれやそれが癪にさはつてたまらぬのだ。今の学士や青年に学生といふ奴ア、皆貴様のやうな代物ばかりだ。何でえ、そんなコハイシヤツ面しやがつて、睨んだつて、何が恐いか、江戸つ児の哥兄さまだぞ。鬼瓦みたやうな面しやがつて、門番が酒に酔つぱらつてそんな赤い顔するといふ事があるかい。今日から免職だ。サア、トツトと去ね……』 赤『コリヤコリヤ権太、ここは冥土の八衢だぞ。何と心得て居るか』 権太『ヤア、成程、道理でチツトそこらの様子が違ふと思うて居つたワ。どこぞ、ここらにコツプ酒でも売つてる所はないか、エヽー、チツト案内してくれたら何うだ』 赤顔の守衛『此奴ア、余り、酔うてゐるので手に合はぬ。コレ白さま、一寸伊吹戸主の大神様に、何う致しませうと云つて伺つて来て下さらぬか』 白はうなづきながら門内に姿を隠した。暫くすると、金冠を頂いた仏画でみる閻魔大王の如き厳しい容貌をした伊吹戸主の神、四辺を光明に照しながら、悠々と現はれ給うた。此光明に照らされて、竜公は目もくらむばかり、ヨロヨロと大地に倒れ、地上にかぶりついて慄うてゐる。治国別は莞爾として判神に向ひ、叮嚀に会釈してゐる。判神も亦治国別に向つて礼を返した。 赤『コリヤ権太、伊吹戸主様のお出ましだ。サア此処で其方の罪を査べるのだから、此衡にかかれ』 権太『こりや衡をようせよ、ハカリが悪いと地獄へ落ちるぞ。高い高い酒を売りやがつて、ハカリで誤魔化さうと思つても駄目だ。朝から晩まで汗水たらして働き、日の暮になつて、一日の疲れを休むべく大切の金を使つて、俺たち貧乏人は酒を買ひに行くのだ。それにハカリを悪うすると冥加が悪いぞ』 赤顔の守衛『チエツ、エヽまだ酔うてゐやがる。コリヤここは地獄の八丁目だぞ』 権太『地ゴク御尤もだ、八升でも九升でも、タダの酒なら何ぼでも持つて来いだ、メツタにあとへは引かぬのだからなア』 赤は劫をにやし、ピシヤツと横面を力に任せて擲りつけた。権太はビツクリして、ハツと気がつけば、光明輝く判神が儼然と吾前に立つてゐる。そして赤鬼が衡を持つて大きな目で睨みつけてゐる。 権太『モシ、ここは何といふ所で厶います』 赤顔の守衛『目が醒めたか、ここは八衢だ、今其方の娑婆に於ける行ひの善悪を査べて、之から地獄へやるか、天国へ救うてやるかといふ所だ。サア判神様の前だ、神妙にこの衡の上にのれ。そして正直に白状するのだぞ。其方の娑婆に於て尽した善悪は全部此処につけとめてあるから、正直に申上げよ』 権太『ハイ、申上げます、私は……エー……権太と申すのは仇名で厶いまして、……エー実は、酔どれの熊公と申しやす』 赤顔の守衛『成程、それに間違ひない、其方は余り酒に喰ひ酔うて、社会的勤めを致さないによつて、お寅といふ女房に逃げられた事があらうがな』 権太(熊公)『ハイ恐れ入りました。確に厶います』 赤顔の守衛『そして其後其方は焼糞になり、隣の屋敷迄抵当に入れて金を借り、皆呑んで了つただらう』 権太(熊公)『ハイ、夫れに相違は厶いませぬ』 赤顔の守衛『それから浮木の村で其方の女房だつたお寅が侠客をして居つた時、幾度も酒に酔うてグヅを巻きに行つたであらうがな』 権太(熊公)『ハイ、それも其通りで厶います』 赤顔の守衛『併し何時とても袋叩きに遇ひ、無念をこらへて辛抱致した、それ丈は感心だ。此忍耐力に仍つて、今迄の悪事は棒引だ』 権太(熊公)『ハイ有難う厶います』 赤顔の守衛『それから其方は小北山のウラナイ教の本山に行つて、お寅と蠑螈別を脅迫し、一千両の金をフンだくり、皆呑んで了つたであらうがな』 権太(熊公)『ハイ、それに相違は厶いませぬ』 赤顔の守衛『なぜさういふ悪い事を致すのか』 と声を尖らして言ふ。 権太(熊公)『余りムカツパラが立つてたまりませぬので、ウヽヽヽヽついグヅつてやる気になりました。どうせお寅婆アの事だから、一文生中も出す気遣はひない……が……ダダでもこねて、無念晴しをしようと思ひやして、一寸試みにゴロついてみた処、悪党婆アに似合はず意外にも気が折れて、一千両くれましたので、これ幸ひと懐にたくし込み、それから呑んで呑んで呑み続けました。まだここに五百両ばかり残つてゐます、どうぞ、……地獄の沙汰も金次第と言ひますさうですから、此金をあなたに上げますから、……地獄行丈はこらへて下さいませ……』 赤顔の守衛『馬鹿を申せ、至正至直、寸毫も虚偽を許さぬ此八衢に於て、賄賂を提供するとは以ての外だ。其方がお寅から奪ひとつた一千両の罪は実に重いけれど、其為にお寅婆アと魔我彦とに改心の動機を与へた功徳に仍つて、其方の功罪を比較し、第三天国へ遣はすべき所であつたが、此神聖なる八衢に於て賄賂を使はむと致した罪に仍つて、ヤツパリ地獄落だ。有難う思へ』 権太(熊公)『それなら、モウ此五百両は提供しませぬから、どうぞ天国へやつて下さい。頼みます』 赤顔の守衛『モシ伊吹戸主の神様、如何取計らひませうか』 伊吹戸主『此権太事、酔どれの熊はまだ五百両の酒代を残してゐるから、此金がなくなる迄娑婆へ帰してやつたがよからう。冥土へかやうなムサ苦しい金などを持込まれては、大変だから……』 赤顔の守衛『コリヤ権太、其方はまだここへ来るのは早い、此五百両の金がとこ、酒を呑んで了ふ迄、娑婆へ帰つたがよからう。長生がしたくば、此金を使はずに、酒を辛抱して居つたがよからうぞ』 権太(熊公)『ハイ有難うございます、併しながら何程死ぬのが厭だと云つても、現在五百両の金を持ちながら呑みたい酒を呑まずに居れませうか。それならコレからマ一度娑婆へ出てお酒を頂戴して参ります』 赤は、 赤顔の守衛『サア早く帰れ』 と云ひさま、背中をポンと叩いた拍子に、権太は煙となつて消えて了つた。権太の熊公はお寅から奪ひ取つた金で酒を呑み歩き、衣笠村の酒屋の門口でブツ倒れ、一時は人事不省になつてゐたが、漸く目がさめ、 権太(熊公)『あゝあ、怖い夢を見た。モウ酒はコリコリだ』 と言ひながら、懐から金を取り出し、人通の多い街道に出で、乞食らしい者の通る前に一円二円とまきちらし、施しをなし、遂には善良なる三五教の信者となり、善人の評判を取つて一生を送る事となつた。此熊公の物語は後に述ぶる事があるであらうと思ふ。あゝ惟神霊幸はへませ。 (大正一二・一・八旧一一・一一・二二松村真澄録) |
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霊界物語 | 47_戌_治国別の天国巡覧1 | 10 震士震商 | 第一〇章震士震商〔一二四三〕 治国別、竜公両人は伊吹戸主の神の関所に於て優待され茶果を饗応せられ、少時休息してゐると、其前をスタスタと勢よく通りかかつたデツプリ肥えた六十男がある。 赤顔の守衛はあわてて、其男を引きとめ、 赤顔の守衛『コラ待てツ』 と一喝した。男は後振返り、不機嫌な顔をして、 男(欲野深蔵)『何だ天下の大道を往来するのに、待てと云つて妨げる不道理な事があるか、エー、俺をどなたと心得て居る。傷死位窘死等死爵鬼族婬偽員欲野深蔵といふ紳士だ。邪魔を致すと、交番へ引渡さうか』 赤顔の守衛『オイ、其方はここをどこと心得て居る』 欲野深蔵『言はいでもきまつた事だ。野蛮未開の北海道ぢやないか』 赤顔の守衛『其方は何うして此処へ来たのだ』 欲野深蔵『空中視察の為、飛行機に乗つて居つた所、プロペラの加減が悪くて、風波でこんな方へやつて来たのだ。何うだ俺を本国へ案内してくれないか、さうすりや腐つた酒の一杯も呑ましてやらぬこともないワイ』 赤顔の守衛『コリヤコリヤ欲野深蔵、ここは冥途だぞ、天の八衢を知らぬか』 欲野深蔵『鳴動も爆発もあつたものかい、そんなメードウな事を云ふない、俺こそはフサの国に於て遠近に名を知られた紳士だ……否紳士兼紳商だ。男のボーイに酒をつがす時には男酌閣下で、自分一人ついで呑む時には私酌閣下だ。エヽーン、そんなおどし文句を並べて、鳴動だの、破裂だのと云はずに、俺の案内でもしたらどうだ、貴様もこんな所で二銭銅貨の様な顔をして、しやちこ張つて居つても、気が利かぬぢやないか。銅銭ロクな奴ぢやあろまいが、俺も大度量をオツ放り出して、椀給で門番にでも救うてやらう』 赤顔の守衛『コリヤ深蔵、貴様はチツとばかり酒に喰ひ酔うてゐるな、今紳士紳商だと吐したが欲にかけたら親子の間でも公事を致したり、又人の悪口を針小棒大に吹聴致し、自己の名利栄達を計り、身上を拵へた真極道だらう、チヤンとここな帳面についてゐるのだ、何程娑婆で羽振がよくても霊界へ来ては最早駄目だ。サ、ここの衡にかかれ、貴様の罪を測量してやらう』 欲野深蔵『さうすると、此処はヤツパリ冥途でげすかなア』 赤顔の守衛『気がついたか、貴様は積悪の酬に仍りて、地震の為に震死した震死代物だらう』 欲野深蔵『成程、さう承はれば朧げに記憶に浮かむで来ますワイ。飛行機に乗つたと思つたのは……さうすると魂が宙に飛んだのかな』 赤面の守衛は帳面をくりながら、 赤顔の守衛『其方は欲野深蔵と云つたな、幼名は渋柿泥右衛門と申さうがな』 欲野深蔵『ハイ、ヨク、深い所まで御存じで厶いますなア、それに間違ひは厶いませぬ』 赤顔の守衛『其方は娑婆に於て、殺人鉄道嵐脈会社の社長兼取締役を致して居つたであらう』 欲野深蔵『ハイ其通りで厶います』 赤顔の守衛『優先株だとか、幽霊株だとか申して、沢山な蕪や大根を、金も出さずに吾物に致しただらう』 欲野深蔵『ハイそんな事もあつたでせう、併しそれを致さねば現界に於ては、鬼族院偽員になる事も出来ず、紳士紳商といはれる事も出来ませぬから、娑婆の規則に依つて止むを得ず優勝劣敗的行動を致しました、コリヤ決して私の罪ではありませぬ、社会の罪で厶います、何分社会の組織制度が、さうせなくちやならない様になつてゐるのですからなア』 赤顔の守衛『馬鹿申せ、そんな法律が何時発布されたか』 欲野深蔵『表面から見れば、左様な事はありませぬが、其内容及精神から考へれば、法文の裏をくぐるべく仕組まれてあるものですから、之をうまく切抜ける者が、娑婆の有力者と云ふ者です、総理大臣や或は小爵や柄杓や疳癪などの高位に昇らうと思へば、真面目臭く、法文などを守つて居つちや、娑婆では犬に小便をかけられ猫にふみつぶされて了ひますワ。郷に入つては郷に従へですから、娑婆ではこれでも立派な公民、紳士中でも錚々たる人物で厶います、ここへ来れば、凡ての行方が違ふでせうが、娑婆は娑婆の法律、霊界は霊界の法律があるでせう、まだ霊界へ来てから善もやつた事がない代りに、悪をやる暇もありませぬ、娑婆の事迄、死んだ子の年をくる様に、こんな所でゴテゴテ云はれちや、やり切れませぬからなア。エヽ、何だか気がせく、斯様な所でヒマ取つては、第一タイムの損害だ、娑婆で金貸しをして居つた時にや、寝とつても起きとつても、時計の針がケチケチと鳴る内に、金の利息が、十円札で一枚づつ、輪転機で新聞を印刷する様に、ポイポイと生れて来たものだが、最早ここへ来ては無一物だ、之から一つ冥途を開拓して、娑婆に居つた時よりもモ一つ勉強家となり、大地主となつて、冥途の一生を送りたい。どうぞ邪魔をして下さるな』 と云ひながら、大股にふん張つて、関所を突破せむとする。 此騒ぎに伊吹戸主の神は関所の窓をあけて、一寸覗かせ給うた。欲野深蔵は判神の霊光に打たれて、アツと其場に悶絶し、蟹の様な泡を吹いて苦み出した。忽ち館の一方より数人の番卒現はれ来り、欲野深蔵の体を荷車に乗せ、ガラガラガラガラと厭らしき音をさせながら、何処ともなく運び去つた。之は地獄道の大門口内へ放り込みに行つたのである。深蔵は暗き門内へ放り込まれ、ハツと気がつき、ブツブツ小言を小声で囁きながら、トボトボと欲界地獄を指して進み行くのであつた。 抑も此八衢の関所は天国へ上り行く人間と地獄へ落ちる人間とを査べる二つの役人があつて、天国へ行くべき人間に対しては、色の白き優しき守衛が之を査べ、地獄へ行くべき人間に対しては形相凄じい赤い顔した守衛が之を査べる事になつてゐる。 竜公は此光景を見て、何とも云へぬ怖れを抱き治国別の袂を固く握り、不安の顔付にて少しばかり慄へながら、息をこらして数多の精霊の取査べらるるのを冷々しながら眺めて居る。暫くすると錫杖をガチヤンガチヤンと言はせながらやつて来たのは、バラモン教の宣伝使であつた。宣伝使が此赤門をくぐらうとするや白、赤二人の守衛は門口に立塞がり、 二人の守衛『暫らくお待ちなさい、取調ぶる事がある』 と呼びかけた。宣伝使は後振返り怪訝な顔をして、 宣伝使(ハリス)『拙者は大自在天大国彦命の御仁慈と御神徳を天下に紹介致すバラモン教の宣伝使で厶る。拙者をお呼止めになつたのは何用で厶るかな』 赤『ここは霊界の八衢だ。其方が生前に於ける善悪の行為を査べた上でなくては、此門を通行させることはなりませぬ。ここに御待ちなされ』 宣伝使(ハリス)『ハテ心得ぬ、吾々は大黒主の命を奉じ、月の国を巡回致し、デカタン高原に向ふハリスと申す者、決して吾々は死んだ覚えは厶らぬ。いい加減に戯談を云つておきなさるがよからう。大黒主の御命令、片時も猶予してゐる訳には参らぬ』 と又もや行かむとする。赤は目を怒らし、大喝一声、 赤顔の守衛『偽宣伝使、暫く待てツ』 と呶鳴りつけた。ハリスは此声にハツと気が付き、あたりをキヨロキヨロ見廻しながら、 ハリス『ヤアどうやらこれは霊界の様で厶る、いつの間に斯様な所へ来たのかなア』 赤顔の守衛『其方は世界の人民に神の福音を宣べ伝へ天国へ案内すると申しながら、其実際に於て霊界の存在を信ぜず、神を認めず、半信半疑の状態に在つて、数多の人間を中有界又は地獄へ幾人落したか知れない偽善者だ。今ここで浄玻璃の鏡にかけて、其方が霊肉共に犯したる罪悪を査べてやらう』 ハリス『イヤもう恐れ入りました。仰せの通り社会の人民に対し、勧善懲悪の道を説き又は天国地獄の存在を朝から晩迄説き諭して参りましたが、実際に於て左様な所があるものか、人間は此肉体を去らば、後は煙の如く消え失せるものだ、コーランに示されたる天国地獄の状態は、要するに、社会の人心を調節する方便に過ぎないものだと信じて居りました。それ故何うしてもハツキリとした事は申されず、自分も半信半疑ながら天国地獄の消息を説諭して来たので厶います。今となつて考へてみれば、死後の世界が斯くも儼然として存在するとは、実に驚愕の至りで厶います』 赤顔の守衛『其方は宣伝使のレツテルをつけて世人を迷はした罪は大なりと雖も、又一方に於て朧げながら、神の存在を無信仰者に伝へた徳に依つて、地獄行丈は許して遣はす、少時此中有界にあつて心を研き神の善と真は何如なるものなるかを了解し得る迄、修業を致したがよからう。ここ三十日の間、中有界に止まることを許してやるから、其間に智慧と証覚を得、愛の善と信の真を了得し得るならば、霊相応の天国へ昇り得るであらう。此期限内に万々一改過遷善の実をあげ得ざるに於ては、気の毒ながら地獄へ落さねばならない、サア早く東を指して進んだがよからう』 ハリス『ハイ、特別の御憐愍を以て地獄落の猶予期間をお与へ下さいまして有難う厶います。左様なればこれから中有界を遍歴し、力一杯善の為に善を行ひ、迷ひ来る精霊に対し、十分の努力を以て、私の悟り得たる所を伝へるで厶いませう』 赤顔の守衛『コリヤコリヤ、ハリス、其方が覚り得たと思つたら大変な間違であるぞ、皆神さまの御神格の内流に依つて、知覚し、意識し、証覚を得るものだ。決して汝一力のものと思つたら、忽ち天の賊となつて地獄へ落ちねばならないぞ、ええか、分つたか』 ハリス『ハイ、分りまして厶います、然らば之より東を指して修業に参ります』 赤顔の守衛『期限内に必ずここへ帰つて来るのだぞ、其時改めて汝の改過遷善の度合を査べ、汝が所住を決定するであらう』 ハリス『どうも御手数をかけまして、真にすみませぬ、左様なれば御免下さいませ』 と云ひながら、始めの勢どこへやら、悄然として次第々々に其影はうすれつつ、靄の中に消えて了つた。 竜公は治国別の袖をひき、小声になつて、 竜公『モシ先生、宣伝使も霊界へ来ては、カラキーシ駄目ですなア、現界では丸で救の神様の様に言はれて居つても、茲へ来ると本当に見る影もないぢやありませぬか』 治国別『ウン、さうぢや、俺達もまだ天国へは行けず、中有界に迷うて居るのだからなア、それだから吾々は八衢人足と、信者以外の連中から云はれても仕方がないのだ』 竜公『何うしたら天国へ行けるでせうかな』 治国別『さうだ、心のドン底より、神さまの神格を理解し、神の真愛を会得し、愛の為に愛を行ひ、善の為に善を行ひ、真の為に真を行ふ真人間とならなくちや到底駄目だ。俺達も少しばかり言霊が利くやうになつて、自分が修行した結果神力が備はつたと思うて居つたが、大変な間違ひだつた、何れも皆瑞の御霊神素盞嗚尊様の御神格が吾精霊を充たし、吾肉体をお使ひになつて居つたのだつた。之を思へば人間はチツとも我を出すことは出来ない、何事も自分の智慧だ力だ器量だと思ふのは、所謂大神の御神徳を横領致す天の賊だ。斯様な考へで居つたならば、到底何時迄も中有界に迷ふか、遂には地獄道へ落ちねばならぬ、有難や尊や、神様の御恵に依つて、ハツキリと霊界の様子を見せて頂き、実に感謝の至りである。之から吾々は、今迄の心を入れ替へて、何事も神様に御任せするのだなア、自分の力だと思へば、そこに慢心の雲が湧いて来る。謹んだ上にも謹むべきは心の持方である。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と合掌し感涙に咽ぶのであつた。竜公も亦無言のまま手を合せ、感謝の涙にくれてゐる。伊吹戸主神は二人に会釈し、スーツと座を立つて、館の奥深く入らせ給うた。二人は後を眺むれば、伊吹戸主神の姿は丸き玉の如く光り輝き、其神姿は判然と見えず、月の如き光が七つ八つ或は九つ円球の周囲を取巻き、次第々々に奥の間に隠れ給ふのであつた。 凡て智慧と証覚のすぐれたる神人を、それより劣りし証覚者が拝する時は、光の如く見えて、目も眩くなるものである。神の神格は神善と神真であり、それより発する智慧証覚は即ち光なるが故である。二人は愕然としてものをも言はず、再び八衢の関所に目を放ちここに集まり来る精霊の様子を瞬きもせず窺つてゐた。 (大正一二・一・九旧一一・一一・二三松村真澄録) |
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霊界物語 | 47_戌_治国別の天国巡覧1 | 12 天界行 | 第一二章天界行〔一二四五〕 高天原の各団体に居住する霊国天人及び天国の天人は愛を生命とし、而して一切を広く愛するが故に人の肉体を離れて上り来る精霊の為にも所在厚誼を尽し、懇篤なる教訓を伝へ、或は面白き歌を歌ひ、舞曲を演じ、音楽を奏しなどして、一人にても多く之を高天原の団体へ導き行かむと思ふ外、他に念慮は少しもないのである。之が所謂天人の最高最後の歓喜悦楽である。併乍ら精霊が人の肉体を宿とし、現世に在りし頃善霊即ち正守護神の群に入るべき生涯や、或は天人即ち本守護神の群に至るべき生涯を送つて居らなかつたならば、彼等精霊は之等の天国的善霊を離れ去らむと願ふものである。斯の如くにして精霊は遂に現世に在つた時の生涯と一致する精霊と共に群居するに非ざれば、どこ迄も此転遷を休止せないものである。 斯の如く自己生前の生涯に準適せるものを発見するに及んで、彼れ精霊は茲に又在世中の生涯に相似せるものと共に送らむとするものである。実に霊界の法則は、不思議なものと云ふべきである。 凡て人間の身には善と悪と二種の精霊が潜在してゐる事は前に述べた通りである。而して人間は善霊即ち本守護神又は正守護神に仍つて高天原の諸団体と和合し、悪霊即ち副守護神に仍つて地獄の団体と相応の理に依りて和合するものである、此等の精霊は高天原と地獄界の中間に位する中有界即ち精霊界に籍を置いてゐる。此精霊が人間に来る時には、先づ其記憶中に入り、次に其想念中に侵入するものである。而して副守護神は記憶及想念中にある悪き事物の間に潜入し、正守護神は其記憶や想念中にある最も善き事物の裡に侵入し来るものである。されど精霊自身に於ては其人間の体中に入り、相共に居る事は少しも知らないものである。而も精霊が人間と共なる時は凡て其人間の記憶と想念とを以て、精霊自身の所有物と信じてゐる。又彼等精霊なるものは、人間を見ることはない。何故なれば、現実の太陽界に在る所の者は、彼等精霊が視覚の対境とならないからである。大神は此等の精霊をして、其人間と相伴へる事を知らざらしめむが為に大御心を用ひ給ふ事頗る甚深である。何故なれば彼等精霊がもし此事を知る時には、即ち人間と相語ることあるべく、而して副守護神たる悪霊は人間を亡ぼさむ事を考へるからである。副守護神即ち悪霊は根底の国の諸々の悪と虚偽とに和合せるものなるが故に、只一途に人間を亡ぼし地獄界へ導き、自分の手柄にしようと希求するの外、他事ないからである。而して副守護神は啻に人間の心霊即ち其信と愛とのみならず、其肉体をも挙げて亡ぼさむことを希求するものである。故に彼等の悪霊が人間と相語らふことがなければ、自分は人間の体内にあることを知らないのだから、決して害を加へないのである。彼等悪霊は其思ふ所、其相互に語る所の事物が、果して人間より出で来るものなりや否やを知らないのである。何となれば彼等精霊の相互に物言ふは、その実は人間より来る所のものなれども、彼等は之を以て自分の裡よりするものなりと信じ切つてゐる。而して何れの人も自分に属する所を極めて尊重し、且之を熱愛するが故に、精霊は自ら之を知らないけれども、自然的に人間を愛し、且つ尊重せなくてはならない様になるのである。これ全く瑞の御霊大神の御仁慈の御心を以て、かく精霊に人間と共なることを知らしめざる様取計らひ給うたのである。 天国の団体に交通する精霊も、地獄界と交通せる精霊も亦同じく人間に付添うてゐるのは前に述べた通である。而して天国の団体に交通してゐる精霊の最も清きものを真霊又は本守護神と云ひ、稍劣つたものを正守護神と云ひ、地獄と交通する精霊を悪霊又は副守護神といふのである。併し人間が生るるや直に悪の裡に陥らねばならない事になつてゐる。故に当初の生涯は全く此等精霊の手の裡に在りと云つてもいいのである。人間にして若しおのれと相似たる精霊が付添うて守るに非ざれば、人間は肉体として生くることは出来ない。又諸々の悪を離れて善に復ることも出来ないことになるのである。人間の肉体が悪霊即ち副守護神に仍つて、おのれの生命を保持し得ると同時に又善霊即ち正守護神に仍つて、此悪より脱離することを得るものである。人間は又此両者の徳に仍つて、平衡の情態を保持するが故に意思の自由なるものがある。此自由の意思に仍つて以て、諸々の悪を去り又善に就くことを得、又其心の上に善を植ゑつくることを得るのである。人間が若しも斯の如き自由の情態に非ざる時は、決して改過遷善の実を挙ぐることは出来ない。然るに一方には根底の国より流れ来る悪霊の活動するあり、一方には高天原より流れ来る善霊の活動するありて、人間は此等両者の中間に立ち、天国、地獄両方の圧力の間に挟まらなくては、決して意思の自由はあるべきものでない。 又人間に自由のない時は、生命あることを得ない。又善を以て他人に強ゆる事は出来ない、人から強ひられたる善其ものは、決して内分の霊魂に止まるものでない、心の底に何うしても滲み込む事は出来ない、但自由自在に摂受した所の善のみは、人間の意思の上に深き根底を下して、宛然其善をおのれの物の如くする様になるものである。 霊的現的一切の所在ものに相対し 自然的なる事物より推考するに非ざれば 思索すること能はざる現代人の通弊は 神的即ち霊的の人格さへも肉的や 自然的なるものなりと思惟する故に彼の輩の 結論する所見る時は果して神は一個なす 人格ならば大いさは全大宇宙と同等に あるべきものと唱導し果して神が天地を 統御按配するとせば世上に於ける君王の 如くに多数の官人を用ゆるならむと臆測す げにも愚の至りなりかかる愚昧の人間に 対して高天原の霊界は現実世界に於ける如 空間的の延長なしと告げ諭すとも直様に 容易に会得せざるべし何故なれば自然界 及び自然の光明を唯一の標準と相定め 思惟する者は目の前に認むる如き延長を 除いて外は何うしても考察し得ざる故ぞかし 高天原の延長は世界に於ける延長と 事情全く相反す自然界なる延長には 一種の限定ある故に容易に測知し得べけれど 高天原の延長には元より限定なき故に 人心小智のやすやすと測知し得べき事ならず そも人間の眼界は如何に遠きに達すとも 極めて遠き距離のある太陽、太陰、星辰も 容易に認め得べしとは何人もよく知れるなり 又今少し心をば深くひそめて思考せば 我内分の視覚力即ち想念界の視覚力は 尚も遠方に相達し尚も進んで内辺の 視力の至る極みには其眼界は尚更に 遠大なるべきことを知る果して然らば何者か 神的視力の現界外に出づるを得るとなさざらむ 神的視力は現実に一切視力のいと深き 内的にして且高上なるものぞ想念中に此の如き 延長の力ある故に高天原の一切の 事物は此処に住む者のすべてに伝はらざるはなし 高天原を成就し遍満したる主の神の 其神格より来るもの凡ては又も斯の如 ならずと云ふ事更になしあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ。 治国別、竜公両人は暫く関所の館に休息してゐた、そこへ東方の空を輝かして一個の火弾が空中に筋を描いて近寄り来り、二人の前に落下し、忽ち麗しき天人の姿と変つた。何時の間にやら、二人は想念に引ずられて第三天国に昇つてゐた。神人の姿をよくよく見れば、豈はからむや、三五教の宣伝使言依別命であつた。治国別は驚きと喜びとに打たれ、ハツと首を下げ、静かに天の数歌を奏上し始めた。 言依別『治国別さま、大変な好都合で厶いましたなア。一度高天原の諸団体を御案内申上げたいと思うて居りましたが、遂に其機会を得ませぬでした。幸ひあなたの肉体はバラモン教の為に苦められ、あなたの精霊は肉体を脱離して漸くここにお越しになることを得たのです。十分に天国をお調べになつた上、再び現界へ立返り、神様の為に衆生済度の為にモウ一働きやつて頂かねばなりませぬよ』 治国別『思はぬ所で、貴神にお目にかかり、余り嬉しうて言葉も出でませぬ。併しながら人間の肉体は二十四時間を過ぐれば既に腐敗糜爛し、再び精霊の容器となることは出来ないと聞きましたが、最早私はここへ参つてから殆ど十時間ばかりも費した様な気が致します。余す所はあと十三四時間、かかる短い時間の間に天国の巡覧が出来ませうかなア』 言依別『御心配なさいますな、霊界の一日は現界の一年に当ります、貴方はまだ霊界より見れば一分間も経つて居りませぬ、十時間もたつたやうに思はれたのは、現実界の反映でせう。又霊界には時間もなければ空間もありませぬ。まして天国には秋冬もなければ夜もない、只情動の変化があるのみです。凡て霊界は想念の世界ですから、時間などは問題にはなりませぬ。マアゆつくりと私に従いて、天国の諸団体を巡覧なさるが宜しからう』 治国別『ハイ有難う厶います、然らば仰に従ひ、お供を仕りませう』 竜公『モシ先生、どうぞ私もお供をさして下さいませ』 治国別『ウンさうだなア、言依別命様に御伺ひしてみようかな』 言依別『竜公さまは未だ天国を巡覧する丈の善と信と智慧証覚が備はつて居りませぬから、到底巡覧は出来ないのですが、幸ひ拙者は大神の命に仍つて、媒介天人と任命されて居りますから、特別を以てお供を許しませう』 治国『ハイ有難う厶います、何分宜しく御願申します』 竜公『ア特別の御引立に与かりまして、身に余る光栄で厶います』 言依別『竜公さま、あなたはまだ精霊界に籍がある方だから、天国へ行つたならば、眼くらみ、息苦くて到底堪へ切れないでせう。ここに被面布がありますから、之を御被りなさい、さうすれば、どうなりかうなりお供が叶ふでせう』 と懐より黒き被面布を取出し、竜公の面上めがけて投げ付くれば、不思議や竜公の顔にはキチンとして被面布がかけられた。 言依別『サア是れで先づ第三天国の或団体から案内致しませう』 治国別、竜公『ハイ有難う』 と治国別、竜公は後に従ひ、恐る恐る進み行く。 俄に美妙の音楽が聞え来り、馥郁たる芳香は四辺をとざし、えもいはれぬ爽快な気分になつて来た。言依別は或小丘の上に二人を導き、美はしき岩石に腰打ちかけながら、眼下の青野ケ原を見おろし説明の労を執つた。 言依別『治国別さま、あの東の方を御覧なさい。あこに一つの小高き丘陵があつて、沢山の家が建つてゐるでせう。あれが第三天国の或一部の団体で、愛と信とに秀でたる天人の住居する団体です。さうして此真西に当る所にも同じく一つの部落がありませう、それは善と真との徳稍薄く、光も少しく朧げなる天人共の住居致して居る団体であります。東の団体に比ぶれば余程西の方は凡ての光景が劣つて居るでせう。これは其団体に於ける天人等の愛善と信真の徳の厚薄に依つて、斯の如く差等が惟神的についてゐるのです。同気相求むると云つて、同じ意思想念の者が愛の徳に仍つて集まるのであります。故に東の団体に比ぶれば、西の方は余程劣つて居ります』 治国別『同じ天人でも、東の団体に住む者と西の団体に住む者とは大変な幸不幸があるぢやありませぬか、西の方の団体が甲団体を羨望して移住して行く様な事はありますまいかな』 言依別『決して決して左様な案じはありませぬ。すべて神格よりする愛其ものの情動如何に依つて、各自の運命が定まるのですから、西の団体が東の団体の光明を羨望して行つた所で、自分の徳が足らないで、苦しくて居られないのです。それ故個々団体の天人は決して他へ自由に移るといふやうな事はありませぬ、すべて高天原には順序が第一重んぜられて居ります。此順序を誤る者は、到底天国の生活は望まれないのです。大神様の神格は順序が第一に位してゐるのですから、地上の世界の如く、決して決して秩序紊乱などの虞は、夢にもありませぬ。これ故に天国は永遠に平和が保たれてゆくのです』 治国別『成程、厳の御霊の御神諭にも、身魂相応の徳を与へると示されてありますが、いかにも恐れ入つた次第で厶いますなア、さうして天人等は日々何をして居るのですか』 言依別『現界の人間は、高天原の天人は年が年中歌舞音楽に耽り、歓楽に酔うてゐる様に考へて居りますが、決して天国だとて、のらのらと放蕩遊惰に日を送つてゐる者はありませぬ。すべて神様が宇宙をお造り遊ばしたのは一つの目的があるためです、其目的とは即ち用であります。故に用のなき人間は霊界にも現界にも決して存在を許されない筈です、彼等天人は各自の天職を楽み、営々として神業に参加し、士農工商の業務を営んで居ります。さうして月に三回公休日があつて、其時には天人等は神の家に集まつて、力一杯歓楽を尽し、神をほめ称へ、且つ神の恵に十二分に浴するのです』 治国別『成程、実に結構な御経綸がしてあるものですなア』 言依別『現界の如く、労資の衝突だとか、労働問題だとか、地主対小作争議だとか、思想問題、政治問題、経済問題などは夢にも起りませぬ、実に平和な幸福な生涯ですよ。現界人が一度天国の情況を見たならば、再び現界へ帰るのは厭になつて了ひますよ』 治国別『さうですな、吾々も此儘天国の生涯を送りたくなりました』 竜公『先生、言依別命様に願つて、再び娑婆へ追ひ帰されないやうにして下さいな、本当にいい所ですなア』 治国別『何事も神様の仰せのままに、吾々は使はれるべき身分だから、左様な勝手気儘な願望を起しちやならないぞ。只々人間は神さまの御用を神妙にお勤めさへすればいいのだ』 竜公『ハイ畏まりました。併し余り良い所で、実際の事、帰るのが厭になりました、が併し神さまの御命令ならば仕方がありませぬ』 言依別は又南の方を指し、 言依別『治国別さま、あの南の方に小さき丘陵が見えませう、あれは智慧と証覚とに充ちたる天人共の住居する団体です。さうして此真北に当る所に又一つの丘陵があつて一部落が見えませう、あれは愛善と信真の徳よりする智慧証覚に充ちたる天人共の居住する一個の団体でありまして、南の団体よりは少しく劣つてゐる天人が群居して居ります。少し、之から見ても朧気に見えるでせう』 治国別『なる程、仰せの通りですなア、ヤハリ情動の如何に依つて、運命が定まるのですかなア。同じ智慧や意思の人間ばかりが、一所に集まつて居る程、愉快な事はありますまい』 言依別『あゝさうです、愛の善といふものは凡て吸引力の強いもので、又無限の生命を保有してゐるものです。天人であらうと現界人であらうと地獄界の人間であらうと、それ相応の愛に仍つて生命が保たれてゐるのですからなア、そして其愛なるものは凡て厳の御霊、瑞の御霊の御神格より内分的に流れ来るものですから、実に無始無終の生命ですよ、あゝ惟神霊幸倍坐世』 (大正一二・一・九旧一一・一一・二三松村真澄録) |
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霊界物語 | 47_戌_治国別の天国巡覧1 | 13 下層天国 | 第一三章下層天国〔一二四六〕 高天原の天国の東と西との団体に 住む天人は信愛の其善徳に居るものぞ 東はいとも分明に愛の善徳感得し 西には少しおぼろげに感ずるもののみ住めるなり 南と北との団体は愛信の徳より出で来る 智慧証覚に居れるものいや永久に住居せり 中にも南に住むものは証覚光明明白に 北は証覚おぼろげに光れるもののみ住めるなり 高天原の霊国にある天人と天国に ある天人は皆共に右の順序を守れども 少し相違の要点は一つは愛の善徳に 従ひて進み又一つは善の徳より出で来る 信の光に従うていや永久に住めるなり 此天国にある愛は神に対する愛にして 之より来る真光は全く智慧と証覚ぞ 又霊国にある愛は隣人に対する愛にして 之を称して仁と云ふ此仁愛より出で来る 真の光は智慧なるぞ或は之を信と云ふ ○ 久方の高天原の神国には 時間空間春夏秋冬の区別なし 只天人各自が 情態の変化あるのみ 現し世に於けるが如く、天界の 万事に継続あり進行もあり されど天人は 時間と空間との 概念なし 久方の高天原には 年もなく 月日もあらず時もなし 只情態の変移あるのみ 情態の変移の ありし所には 只情態ばかりあるなり 現界の 凡ての人は 時間てふ 其概念を離るる能はず 天人は 皆情態の 上より之を思惟すれば 人の想念の中に於て 時間より 来れるものは 天人の間に入りては 皆悉く 情態の想念となるものぞ 春と朝は 第一情態に於ける 天人が居る所の 愛の善及び 証覚の境涯に対する 想念となるものぞ 夏と午時は 第二情態にある天人が 居る所の愛善及び 証覚の境涯に対する 想念となるものぞ 秋と夕べとは 第三情態に於ける 天人が居る所の愛善及び 証覚の境涯に対する 想念となるものぞ 冬と夜とは 地獄におちし精霊が 之等の境涯に対する 想念となるものぞ 言依別命は治国別に向つて尚も天国団体の説明を続けて居る。 治国『実に天国と云ふ所は、吾々の想像意外に秩序のたつた立派な国土ですな。到底吾々如き罪悪に充ちた人間は将来此国土に上る見込はない様ですな』 言依別『決して決して左様な道理はありませぬ、御安心なさいませ。此処は最下の天国で、まだ此上に中間天国もあり、最高天国もあるのです。猶其外に霊国と云ふのがあつて、それ相応の天人が生活を続けて居ます』 治国別『其最高天国へ上り得る天人は、非常な善徳を積み、智慧証覚の勝れたものでなければ参る事は出来ますまいな』 言依別『厳の御霊の聖言にもある通り、生れ赤子の純粋無垢の心に帰りさへすれば、直ちに第一天国と相応し、神格の内流によつて案外容易に上り得るものです』 治国別『成程、然し吾々は如何しても赤子の心にはなれないので困ります。然し天国にも矢張り自然界の如き太陽がおでましになるのでせうな』 言依別『アレ、あの通り東の天に輝いて居られます。貴方には拝めませぬかな』 治国別『ハイ、遺憾乍ら未だ高天原の太陽を拝する丈けの視力が備はつて居ないと見えます』 言依別『さうでせう。貴方には未だ現実界に対するお役目が残つて居ますから、現界から見る太陽の様に拝む事は出来ますまい。天国の太陽とは厳の御霊の御神格が顕現して、茲に太陽と現はれ給ふのです。故に現界の太陽とは非常に趣が違つて居ります。霊国にては瑞の御霊の大神月と現はれ給ひ、天国にては又太陽と現はれ給ふのであります。さうして霊国の月は現界から見る太陽の光の如く輝き給ひ、又天国の太陽は現界で見る太陽の光に七倍した位な輝き方であります。さうして日は真愛を現はし、月は真信を現はし、星は善と真との知識を現はし給ふのであります。故に瑞の御霊の聖言には[※以下の6つの聖言はキリスト教聖書に書いてある文言がベースになっている。]、 一、月の光は日の光の如く、日の光は七倍を加へて七つの日の光の如くならむ。[※参考イザヤ書30:26「さらに主がその民の傷を包み、その打たれた傷をいやされる日には、月の光は日の光のようになり、日の光は七倍となり、七つの日の光のようになる。」〔口語訳聖書〕] 一、我汝を亡ぼす時は空を覆ひ其星を暗くし雲を以て日を蔽はむ。月は其光を放たざるべし。[※参考エゼキエル書32:7「わたしはあなたを滅ぼす時、空をおおい、星を暗くし、雲で日をおおい、月に光を放たせない。」〔口語訳聖書〕] 一、我、空の照る光明を汝等の上に暗くし汝の地を暗となすべし。 一、我は日の出づる時之を暗くすべし。又月は其光を輝かさざるべし。[※イザヤ書13:10「天の星とその星座とはその光を放たず、太陽は出ても暗く、月はその光を輝かさない。」〔口語訳聖書〕] 一、日は毛布の如く暗くなり、月は地の如くなり、天の星は地に落ちむ。 一、之等の艱難の後、直ちに日は暗く月は光を失ひ、星は空より落つべし。[※参考マタイ福音書24:29「しかし、その時に起る患難の後、たちまち日は暗くなり、月はその光を放つことをやめ、星は空から落ち、天体は揺り動かされるであろう。」。マルコ福音書13:24-25「その日には、この患難の後、日は暗くなり、月はその光を放つことをやめ、星は空から落ち、天体は揺り動かされるであろう。」〔口語訳聖書〕] とありませう。此聖言は愛と信との全く滅亡したる有様を、お示しになつたのでせう。今日の現界は自然界の太陽や月は天空に輝き渡つて居りますが、太陽に比すべき愛と、月に比すべき信と星に比すべき善と真との知識を亡ぼして居ますから、天国の移写たる現実界も今日の如く乱れ果てたのです。かかる事を称して聖言は……之等の諸徳、亡ぶる時、之等の諸天体暗くなり其光を失ひて空より落つ……と云はれてあるのです。大神の神愛の如何に大なるか又如何なるものなるかは現界に輝く太陽との比較によつて推知する事が出来るでせう。即ち神の愛なるものは頗る熱烈なる事が窺はれませう。人間にして実に之を信ずる事を得るならば、神様の愛は現実界の太陽の熱烈なるに比較して層一層強いと云ふ事が分りませう。大神様は又現実界の太陽の如く直接に高天原の中空に輝き給はず、その神愛はおひおひ下降するに従つて熱烈の度は和らぎ行くものです。此和らぎの度合は一種の帯をなして天界太陽の辺を輝き亘り、諸々の天人は又此太陽の内流によつて自らの身を障害せざらむが為め、適宜に薄い雲の如き霊衣を以て其身を覆うて居るのです。故に高天原に於ける諸々の天国の位置は其処に住める天人が神の愛を摂受する度合の如何によつて大神の御前を去る事或は遠くなつたり、或は近くなつたりするものです。又高天原の高処即ち最高天国に居る天人は愛の徳に住するが故に、太陽と現はれたる大神の御側近く居るものです。されど最下の天国団体にあるものは信の徳に住するものなるが故に、太陽と現はれ給うた大神を去る事最も遠きものであります。ここは即ち其高天原の最下層第三天国の中でも最も低い所ですから、太陽と現はれました大神の御光を拝する事が余程遠くて現界の太陽を拝する如く明瞭に分らないのです。さうして最も不善なるもの、例へば暗国界の地獄に居るものの如きは、大神様の目の前を去る事極めて遠く且つ太陽の光に背いて居るものである。さうして其暗国界に於ける神と隔離の度合は善の道に背く度合に比するものである。故に極悪の者は到底少しの光も見る事が出来ず無明暗黒の最低地獄におつるものであります』 治国別『やア有難う厶いました。吾々はまだ善と真よりする智慧証覚が足りませぬから、大神の御姿を仰ぐ事が出来ないのでせう』 言依別『第三天国の天人等の前に神其儘太陽となつて現はれ給ふ時は、各眼晦み頭痛を感じ苦みに堪へませぬ。それ故大神様は一個の天人となつて、善相応、真相応、智慧証覚相応の団体へお下り遊ばし、親しく教を垂れさせ給ふのであります』 治国別『いや大に諒解致しました。私も之から現界へ帰りますれば、其心得を以て善の為め真の為めに活動をさして頂きませう。あゝ惟神霊幸倍坐世』 言依別『サア之から天人の団体へ御案内致しませう』 治国別、竜公は、 治国別、竜公『ハイ、有難う』 と感謝しながら言依別の後に従ひ欣々として進み行く。 二三丁ばかり丘を下り行くと、忽ち巨大なる火光と化し言依別は天空さして其姿を没し給うた。二人は暗夜に灯をとられし如き心地し、大地に跪き感謝に咽びながら、 治国別『あゝ有難し、勿体なし、吾々の愛と善の徳、全からず信真の光明らかならず、従つて智慧と証覚の光弱き為めに、畏れ多くも皇大神は天国の太陽と現はれ給はず、言依別命と身を現じ、此処迄導いて下さつたのだらう。あゝ有難し有難し、仁慈無限の大神の御神徳よ』 と感謝の涙に暮れてゐる。 竜公『もし先生、之から如何致しませうか。斯様な処に捨てられては如何行つてよいか、少しも分らぬぢやありませぬか。あれ程最前明瞭に見えて居つた東西南北の天人の部落も、何時の間にか吾々の視線内を外れて了つたぢやありませぬか』 治国別『獅子は三日にして其子を谷底へ捨てるとやら、これ全く神様の仁慈無限の御摂理だ。これだから三五教の聖言にも「師匠を杖につくな、人を力にするな、只神のまにまに活動せよ」と仰有るのだ。言依別様の御案内下さるに甘え、気を許し、凭れかかつて居つたが吾々の過ちだ。それだから神様は吾々の想念中より遠ざかり給うたのだ。吾々はまだまだ愛と信とが徹底しないのだ。あゝ惟神霊幸倍坐世』 と合掌し感涙に咽びつつ主神に祈りを凝すのであつた。 (大正一二・一・九旧一一・一一・二三北村隆光録) |
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霊界物語 | 47_戌_治国別の天国巡覧1 | 14 天開の花 | 第一四章天開の花〔一二四七〕 治国別、竜公両人は一心不乱に油断と慢心の罪を謝し、一時も早く吾精霊に神格の充たされむ事を祈願しつつあつた。 そこへ天国には居るべき筈もない臭気紛々たる弊衣を着し、二目とは見られぬ様な醜面を下げ、膿汁のボトボトと滴る体をしながら、三尺ばかりの百足虫の杖をつき二人の前に現はれ来り、忽ち岩石に躓き苦悶し初めた。竜公は驚いて、 竜公『もし、先生、天国には決して斯様な穢いものは居らない筈です。こりや何時の間にか慢心して地獄へ逆転したのぢやありますまいか。此通り四方は暗雲に包まれ、一丁先は見えぬ様になり、得も云はれぬ陰鬱の気が襲うて来たぢやありませぬか』 治国別『否々決して地獄ではあるまい。最下層の天国に相違ない。然しながら矢張り天国にも不幸な人があると見え、斯様な業病に罹り苦んでゐる方がゐると見える。何とかして救うてやらねばなるまいが、吾々が救ふと云ふのは之亦慢心だ。何うか神様の御神格を頂いて御用に使つて頂き度いものだ』 と神に合掌し初めた。竜公は袖を引いて小声になり、 竜公『もし、先生、こんな穢い人間に触らうものなら、霊身が穢れて忽ち地獄の団体へ落転せねばなりますまい。決してお構ひ遊ばすな。大変で厶ります』 治国別『いや、さうではない。天国は愛善の国だ。神は愛と信とを以て御神格と遊ばすのだ。吾々も神様の愛と信とを受けなくては生命を保つ事は出来ない。さうして神より頂いた此愛と信を洽く地上に分配せねばなるまい。地獄におつるのを恐れて現在目の前に苦んでゐる此憐れな人々を救はないと云ふのは、所謂自愛の心だ、自愛の心は天国にはない。仮令此場所が地獄のドン底であらうとも、自愛を捨て善と愛との光明にひたる事を得るならば、地獄は忽ち化して天国となるであらう』 竜公『さう承はればさうかも知れませぬな。然し乍ら斯様な天国へ来て居りながら、あの様な穢い人間に触れて、折角磨きかけた精霊を穢す様な事があつては、多勢の人間を娑婆へ帰つて救ふ事が出来ますまい。只の一人を助けて精霊を穢すよりも、此場は見逃して多勢の為めに愛と信との光を輝かす方が、何程神界の為になるか知れませぬぜ。此処は一つ考へ物ですな』 治国別『いや決してさうではない。目の前に提供された、いはば吾々の試験物だ。此憐れな人間を見逃して行過ぐる位ならば、到底吾々の愛は神の神格より来る真の愛ではない。矢張り自然界と同様に自愛だ、地獄の愛だ。斯様な偽善的愛は吾々の採るべき道ではない』 斯く話す時しも、前に倒れた非人は治国別を打眺め、 非人『おい、そこな宣伝使、俺は今斯様に業病を煩ひ、剰つさへ岩に躓き、此通り足を挫き苦み悶えて居るのだ。早く来て抱き起して呉れないか』 治国別は、 治国別『ハイ、承知致しました』 と、ツと側に寄り体を抱き起さうとすれば、臭気紛々として鼻をつき、身体一面に蛆がわき、いやらしき種々雑多の虫共が体一面にウヨウヨと、肉体の腐つた部分から数限りもなくはみ出してゐる。治国別がかけた手には幾百とも限り知られぬ蛆がゾウゾウと伝うて、治国別の全身を瞬く間に包んで来る。竜公は之を見て、 竜公『もし先生、何ぼ何でも、そんな腐つた人間を相手になさつちや、いけませぬよ。到底助かる見込はありませぬよ。それ御覧なさい、体一面蛆がわいてるぢやありませぬか』 治国別は言葉静かに、 治国別『何処の誰方様か知りませぬが、嘸御難儀で厶りませう。サア私の肩にお縋り下さい。何処迄なりとお宅迄送つて上げませう』 非人『うん、俺の云ふ事は何でも聞くだらうな』 治国別『ハイ、如何なる事でも吾々の力の及ぶ限りは御用を承はりませう』 竜公『先生、宜い加減に止めたら如何ですか。あんまり物好きぢやありませぬか。何程人を助けるが役だと云つても、二目と見られぬ体を抱起して貰ひながら、まるで主人が僕に対する様な言葉を用ゐ、馬鹿にして居やがつて……お礼の一言位云つた処で宜しからうに……其様な恩も義理も知らぬ位だから、此天国に来てもやつぱり苦んでゐるのですよ。神様の罰が当つてゐるものを、何程宣伝使だつて構はぬでもいいでせう。臭い臭い、エグイ香がして来た』 非人『こりや竜公、慢心を致すな。此方の足を擦れ』 竜公『チヨツ、エー』 治国別『おい竜公、俺の命令だ。此非人さまの云ふ通り、お足を揉まして貰へ』 竜公『ぢやと申して、それが……』 治国別『何が「ぢやと申して」だ。左様な不量見の奴は、只今限り師弟の縁を切る。俺はもうお前と何処へも一緒には行かない』 竜公『エーエ、ぢやと申して、それが如何して……』 非人『こりや竜、俺の尻を嘗め。早く嘗めぬかい』 竜公『エー、馬鹿にして居やがる。貴様等のアタ穢い尻を嘗める位なら、俺や死んだがましだ。アーンアーンアーン』 非人『表に善を標榜する偽善者奴、今に貴様も俺の様な病気にかかるが、それでも宜いか』 竜公『そ……そんな業病にかかる様な……ワヽヽ悪い事はした事はないワイ。あんまり馬鹿にすない。俺の大切のお師匠さまを、僕か何ぞの様に使つて、二目と見られない体を介抱させ、尚其上に世話をさせやがつて……エー、もう先生、こんな奴はいい加減にしておきなさいませ』 治国別『これも神様の御恵みだ。袖ふり合ふも他生の縁、かかる尊き天国に於て、かうしてお目にかかるのも何かの御神縁だらう。何程汚き人間様でも、神様の愛の神格に照らされてからは、少しも汚穢を感じない。実に有難く感じてゐる。お前も此方に会うたのを幸ひに、身の罪を償ふべく介抱をさして頂いたら如何だ』 非人『おい、治国別、俺の足の裏を一寸嘗めて呉れ。大分に膿が出て居る様だ。此膿を吸ひとらねば如何しても歩く事は出来ない』 治国別『ハイ、有難う厶ります。御用さして頂きます』 と云ひながら、足の裏の膿をチウチウと吸ひかけた。竜公は堪りかね、 竜公『無礼者』 と云ひながら、拳骨をかためて非人の頭をポカンと殴つた。拍子に醜穢見るに忍びなかつた非人の姿は、忽ち容色端麗なる妙齢の美人と変り、得も云はれぬ笑をたたへながら、 女(木花姫)『治国別さま、貴方は本当に神の愛が徹底しましたよ。サア妾と天国の旅行を致しませう。竜公さまの様な無情漢は、此処に放つといてやりませうよ』 治国別『私は、憐れな精神上の不具なる此竜公を直してやらず、捨てて行く事は出来ませぬ。竜公と共に天国の巡覧が出来ねば、最早仕方がありませぬ。彼と苦楽を共にする考へなれば、何卒貴女はお一人おいでなさいませ』 女(木花姫)『成程、さうでなくては神の愛が徹底したとは云へない。治国別殿、天晴々々、妾は天教山の木花姫で厶るぞや』 治国別は二足三足後へしざり、大地に手をついて一言も発し得ず、感謝の涙にくれてゐる。木花姫は言葉淑やかに、 木花姫『治国別さま、貴方はよくそこ迄善の道に徹底して下さいましたね。嘸大神様も御満足で厶りませう。最前言依別命と現はれ給うたのは、国治立尊様で厶りましたよ』 治国別『ハイ、初めの間は智慧暗く証覚うとき治国別、全く言依別命様とのみ思ひ居りましたが、如何やら大神様の御化身なりし事をおぼろげに考へさして頂きまして、感謝の涙にくれて居りました処へ、貴方様の御試みに預り、願うてもなき御神徳を頂戴致しました。何卒々々、此竜公も私同様にお目をかけてやつて下さいませ』 木花姫『竜公さま、貴方も随分義の固い人ですな。もう少し愛が徹底すれば天国が立派に被面布をといて上れますよ。師匠を思ふ真意は実に感服致しました。其忠良なる志によつて、貴方の愛の欠点を補ふ事が出来ますから、益々魂を磨いて天国の巡覧を成さいませ』 竜公は感涙に咽びながら、 竜公『重々の御懇切なる御教訓、有難う厶ります。左様なれば、お供をさして頂きませう』 木花姫『ここは最下層の天国、これより中間の天国団体へ案内致しませう。中間天国の天人の証覚や智慧及び愛と信は、下層の天国に住む天人に比ぶれば、万倍の光明が備はつて居ります。それ故此天国より一万倍の愛の善と信の真、智慧証覚を備へなくては、仮令天国へ無理に上るとも、眼くらみ、頭痛甚だしく、力衰へ、殆ど自分の生死の程も分らない様になるものですよ。竜公さまは被面布を頂かれて、先づ之で第二天国の探険も出来ませうが、治国別様は其儘では到底参れますまい。妾が所持の被面布を上げませう』 と云ふより早く懐中より取出し、手早く治国別の頭部にかけ給うた。之より治国別、竜公は木花姫の後を慕ひ、足に任せて東を指して一瀉千里の勢ひで進み行くのであつた。 あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・一・九旧一一・一一・二三北村隆光録) |
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霊界物語 | 47_戌_治国別の天国巡覧1 | 16 霊丹 | 第一六章霊丹〔一二四九〕 天教山にあれませる木花姫の御化身に 案内されて第三の天国界を後にして 五色の雲を踏み分けつ東をさして上り行く 治国別や竜公は如何はしけむ目は眩み 頭は痛み足はなえ胸は轟き両の手は 力も落ちてブルブルと慄ひ出すぞ是非なけれ 木花姫の御化身は順風に真帆をかかげたる 磯の小舟の進むごと何の故障もあら不思議 とんとんとんと上ります治国別や竜公は 吹く息さへも絶え絶えに命限りの声しぼり (治国別、竜公)『これこれもうし木花の姫の命の神司 暫く待たせ給へかし如何なる訳か知らねども 何とはなしに目は眩み意識は衰へ力落ち 進退茲に極まりて最早一歩も進めない 何卒お慈悲に両人をも一度後に引返し お助けなさつて下されや偏に願ひ奉る 朝日は照るとも曇るとも月は盈つとも虧くるとも 仮令大地は沈むとも尊き神の御恵は いつの世にかは忘れませう抑天国の存在は 神の慈愛を善真の其高徳に構成され 愛と善とに満ち満ちし神の国土で御座いませう 貴神も尊き神なれば吾等二人の苦みを 決して見捨て給ふまじかへさせたまへ惟神 木花姫の御前に命限りに願ぎまつる 嗚呼惟神々々御霊幸はへましませよ』 と歌ふ声も切れ切れに第二天国の入口迄来てバタリと平太り込んで了つた。竜公は唯一言も発し得ず、痴呆の如く口をポカンと開いたまま僅かに指先を間歇的に動かして居る。木花姫は後ふり向きもせず巨大なる光と化して、天の一方に姿を隠させ給うた。治国別は後打ち眺め、 治国別『あゝ、過つたりな過つたりな。自愛の欲に制せられ、吾身の苦しさに木花姫様の救助を求めた愚かしさよ。「師匠を杖につくな、人を頼りにするな」と云ふ御教を、正勝の時になつて忘れて居たか。あゝ人間と云ふものは、何と云ふ浅ましいものであらう。竜公はもはや虫の息、かかる天国に於て、精霊の命までも捨てねばならぬのか、あゝ何うしたらよからうな。国治立大神様、豊国主大神様、神素盞嗚大神様、何卒々々此窮状を、も一度お救ひ下さいませ』 と色蒼ざめ、殆ど死人の如くなつて、合す両の手もピリピリ慄ひ戦き、実に憐れ至極の有様となつて来た。願へど、祈れど、呼べど、叫べど唯一柱の天人も目に入らず、神の御声も聞えず、四辺寂然として物淋しく、立つても居ても居られなくなつて来た。竜公はと顧みれば、哀れにも大地に蛙をぶつつけた如く手足をのばし、殆ど死人同様になつて居る。されど治国別は何処迄も神に従ひ神に頼り、神の神格を信じ、斯かる場合にも微塵も神に対し不平又は怨恨の念を持たなかつた。治国別は決心の臍を固め、 治国別『あゝどうなり行くも神の御心、吾々人間の如何ともすべき限りでない。神様、御心の儘に遊ばして下さい。罪悪を重ねたる治国別、過分も此清き尊き天国に上り来り、身の程をわきまへざる無礼の罪、順序を乱した吾等の罪悪を、何卒神直日、大直日に見直し下さいまして、相当の御処分を願ひます』 と祈る声も細り行き、最早絶体絶命となつて来た。此時俄に天の戸開けて天上より金色の衣を纏ひたる目も眩きばかりの神人、二人の脇立を従へ、雲に乗つて二人の前に悠々と下らせ給ひ、懐より霊丹と云ふ天国の薬を取り出し、二人の口に含ませたまへば、不思議なるかな二人は正気に返り、勇気頓に加はり、痩衰へた体は元の如く肥太り、顔色は鮮花色と変じ、得も云はれぬ爽快の気分に充されて来た。二人は恐る恐る面を上ぐれば、威容儼然たる男とも女とも判別し難き優しき天人、その前に莞爾として立たせたまふのであつた。治国別は思はず手を拍ち、 治国別『あゝ有難し有難し、大神の御仁慈、罪深い吾々をよくもお助け下さいました。有難う存じます』 とよくよくお顔を見れば、以前に別れた木花姫命が、二人の侍女を連れ立たせ給ふのであつた。 治国別『ヤア、貴神は木花姫命様で厶いましたか。誠に誠に御仁慈の段感謝の至りに堪へませぬ』 竜公『神様、能くまアお助け下さいました。竜公は既に既に天国に於て野垂れ死をする所で厶いました。天国と云ふ所は、真に苦しい所で厶いますなア』 木花姫『総て天国には善と真とに相応する順序が儼然として立つて居りますから、此順序に逆らへば大変に苦しいものですよ。身霊相応の生涯をさへ送れば、世の中は実に安楽なものです。水に棲む魚は、陸に上れば直に生命がなくなるやうなもので厶ります』 治国別『成程御尤もで厶います。八衢に籍を置いて居る分際をも顧みず、神様のお言葉に甘え、慢心を起し、天国の巡覧などを思ひ立つたのは、吾々の不覚不調法の罪、何卒々々大神様にお詫を願ひ上げます』 木花姫『治国別殿、其方は媒介者によつて天国の巡覧に来られたのだから、決して身分不相応だとは申されますまい。貴方は宣伝使としての肝腎要の如意宝珠を道で落しましたから、それで苦しかつたのですよ。殆ど息が絶えさうに見えましたので、妾は急ぎ月の大神様の御殿に上り、霊丹を頂いて再び此処に現はれ、貴方等の御生命をつなぎ留める事を得たので厶りますよ。まア結構で厶いましたなア』 治国別『ハイ、吾々が命の親の木花姫様、此御恩は決して忘れは致しませぬ』 木花姫『妾は貴方の命の親ではありませぬ。貴方の命の親は月の大神様ですよ。妾は唯お取次をさして頂いたのみですよ。左様にお礼を申されては、何だか大神様の御神徳を妾が横領するやうに思はれて、何となく心苦しう厶います。宇宙一切は月の大神様の御神格に包まれて居るので厶います。吾々には御神徳を伝達する事は出来ても、命をつないだり御神徳を授ける事は出来ませぬ。此後は何事がありても、仮令少しの善を行ひましても、愛を注ぎましても、決して礼を云うて貰つては迷惑に存じます。何卒神様に直接にお礼を仰有つて下さい』 治国別『ハイ、理義明白なる御教、頑迷なる治国別も貴神の御伝教によつて、豁然と眠りより醒めたるやうで厶います。あゝ国治立大神様、月の大神様、最高天国にまします天照大御神様、唯今は木花姫様の御身を通して吾等に命と栄えと喜びを授け給ひし事を、有難く、ここに感謝致します』 木花姫『貴方は途中でお落しになつたものを未だ御記憶に浮かびませぬか、如意宝珠の玉ですよ』 治国別『ハイ、私は高姫さまのやうに如意宝珠の玉などは一度も拝んだ事もない、手に触れさせて頂いた事も厶いませぬから、従つて落す理由も厶いませぬ。何かの謎では厶いますまいかな。心愚なる治国別には、どうしても此謎が解けませぬ』 木花姫『高姫さまの執着心を起された如意宝珠は、あれは自然界の形態を具へた宝玉です。天界の事象事物は総て霊的事物より構成されて居りますれば、想念上より作り出す如意宝珠で厶いますよ。先づ御悠りとお考へなさいませ。妾が申上げるのはお易い事で厶いますけれど、これ位の事がお分りにならない位では、到底中間天国の天人に出会つて、一言も交へる事が出来ませぬ。神の愛と神の信に照され、神格の内流をお受け遊ばし、智慧と証覚を得れば、何でもない事で厶います』 治国別は、 治国別『ハイ』 と答へた儘双手を組み、眼を閉ぢ暫く考へ込んで居る。遉鋭敏の頭脳の持主と聞えて居る治国別も、霊界へ来ては殆ど痴呆の如く、何程思索を廻らしても容易に此謎が解けなかつた。竜公は傍より手を打ち嬉しさうな元気のよい声を出して、 竜公『もし先生、霊界の如意宝珠と云ふのは善言美詞の言霊ですよ。中間天国へ上る途中に於て天津祝詞や神言の奏上を忘れたので、姫命様が、お気をつけて下さつたのですよ』 治国別『成程、ヤ、ウツカリして居つた。木花姫様、有難う厶います。ほんに竜公さま、お前は私の先生だ、ヤア実に感心々々』 竜公『先生、そんな事云つて貰ふと大に迷惑を致します。決して竜公の智慧で言つたのではありませぬ。御神格の内流によつて、斯様に思ひ浮べて頂かせられたのです』 木花姫『現界に於きましては、竜公さまは治国別さまのお弟子でありませう。併しこの天国に於ては愛善と信真より来る智慧証覚の勝れたものが最も高き位置につくので厶います。神を信ずる事が厚ければ厚い程、神格の内流が厚いので厶いますから』 治国別『いや実に恐れ入りました。天国に参りましても、やはり現界の虚偽的階級を固持して居つたのが重々の誤りで厶います。あゝ月の大神様、日の大神様、木花姫様の肉の御宮を通し、又竜公さまの肉の宮を通して、愚鈍なる治国別に尊き智慧を与へて下さつた事を有難く感謝致します』 木花姫『サア皆さま、是より天津祝詞の言霊を奏上しながら、第二天国をお廻りなさいませ。左様ならば、是にてお別れ致します』 治国別、竜公両人は、 治国別、竜公『ハイ有難う』 と首を垂れ感謝を表する一刹那、嚠喨たる音楽につれて木花姫の御姿は、雲上高く消えさせ給ふのであつた。 あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・一・九旧一一・一一・二三加藤明子録) |
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霊界物語 | 47_戌_治国別の天国巡覧1 | 17 天人歓迎 | 第一七章天人歓迎〔一二五〇〕 木の花姫に助けられ治国別や竜公は 心いそいそ中間のさしもに広き天国を 当途もなしにイソイソと東を指して進み行く 金銀瑪瑙硨磲瑠璃や玻璃水晶の色つやを 照して立てる木々の間を宣伝歌をば歌ひつつ 足を揃へて進み行く。 治国別『高天原に八百万尊き神ぞつまります 神漏岐、神漏美二柱皇大神の神言もて 日の神国をしろしめす神伊弉諾の大御神 筑柴の日向の橘の小戸の青木が清原に みそぎ祓はせ給ふ時生り出でませる祓戸の 貴四柱の大御神吾身に犯せる諸々の 罪や汚れや過ちを祓はせ給へ速に 清がせ給へと願ぎ申す吾言霊を小男鹿の 八つの耳をばふり立てて聞しめさへとねぎまつる 世の太元とあれませる皇大神よ吾一行 守らせ給へ村肝の心を清め給へかし あゝ惟神々々御霊幸はへましませよ 治国別は謹みて天津御神や国津神 百の御神の御前に神言申し奉る 珍の御国の神の国高天原に八百万 尊き神ぞつまります此世をすぶる大御祖 神漏岐、神漏美二柱厳の神言を畏みて 覚りの神と現れませる此世を思兼の神 百千万の神たちを安の河原に神集ひ 集ひ給ひて神議り議らせ給ひ主の神は 豊葦原の瑞穂国いと安国と平らけく しろしめさへと事依さし固く任けさせ給ひたり 斯くも依させし国中に荒ぶり猛ぶ神等を 神問はしに問はしまし神掃ひに掃ひまし 語り問はして岩根木根立木や草の片葉をも 語り止めさせいづしくも天の磐座相放ち 天にふさがる八重雲を伊頭の千別に千別まし 天より降り依さします神の守りの四方の国 其真秀良場と聞えたる大日本日高見の国を 浦安国と定めまし下津磐根に宮柱 いとも太しく立て給ひ高天原に千木高く すみきりませる主の神の美頭の御舎仕へまし 天津御蔭や日のみかげ被りたりと隠りまし 心安国と平らけくしろしめします国中に 生れ出でたる益人が過ち犯し雑々の 作りし罪は速かに宣り直しませ惟神 珍の御前に願ぎまつる天津罪とは畔放ち 溝埋め樋放ち頻蒔きし串差し生剥ぎ逆剥ぎや 屎戸許々多久罪科を詔別け給ふ天津罪 国津罪とは地の上の生膚断や死膚断 白人胡久美吾母を犯せし罪や吾子をば 虐げ犯す百の罪母子共々犯す罪 けものを犯し昆虫の醜の災天翔り 国翔りといふ高神の醜の災高津鳥 百の災禍獣をたふし蠱物なせる罪 いや許々太久の罪出でむかく数多き罪出でば 天津祝詞の神言もて天津金木の本末を 打切り打断ち悉く千座の置座におきなして 天津菅曾を本と末刈りたち刈り切り八つ針に 取り裂きまつり皇神の授け給ひし天津国 みやび言霊の太祝詞完全に委曲に宣らせませ 斯く宣る上は天津神は天の磐戸を推しひらき 天にふさがる八重雲を伊頭の千別に千別つつ 心おだひに聞しめせ国津御神は高山と 小さき山の尾に登り高き低きの山々の いほりを清くかきわけて百の願を聞しめす かく聞しては罪といふあらゆる罪はあらざれと 科戸の風の八重雲を気吹放てる事の如 朝の霧や夕霧を科戸の風の心地よく 気吹き払ひし事の如浪うちよする大津辺に つなぎし大船小舟をば舳を解きはなち艫解きて 千尋の深き海原に押し出し放つ事の如 彼方に繁る木の元をかぬちの造る焼鎌や 敏鎌を以て打払ふ神事の如く塵ほども 残れる罪はあらざれと清め払はせ給ふ事を 高山の末短山の末より強く佐久那太理 おち滝津瀬や速川にまします瀬織津比売の神 大海原に持出でむかくも持出でましまさば 罪も汚れも荒塩の塩の八百道の八塩道の 塩の八百重にましませる瀬も速秋津比売の神 忽ち呵々呑み給ひてむかくも呵々呑み給ひなば 気吹の小戸にましませる気吹戸主と申す神 根の国底の国までも気吹放たせ給ふべし 斯くも気吹放ち給ひては根底の国にあれませる 速佐須良比売と申す神総てを佐須良比失はむ 斯くも失ひましまさば現世に在る吾々が 身魂に罪とふ罪科は少しもあらじと惟神 払はせ給へいと清くあらはせ給へと大前に 畏み畏み願ぎ申すあゝ惟神々々 御霊幸はへましませよ』 斯く祝詞くづしの宣伝歌を歌ひながら、或天国団体の一劃に着いた。数多の天人は男女の区別なく、数十人道の両側に列を正し、『ウオーウオー』と、愛と善のこもつた言霊を張り上げて、二人の来るを歓迎するものの如くであつた。 茲に一つ天人の衣服と其変化の状態に就て、一言述べておく必要があると思ふ。抑も天人の衣類は其智慧と相応するが故に、天国にある者は皆其智慧の度の如何に依つてそれぞれの衣服を着用してゐるものである。其中でも智慧の最も秀れた者の衣類は、他の天人の衣服に比べてきわ立つて美しう見えて居る。又特に秀でた者の衣類は恰も火焔の如く輝き渡り、或は光明の如く四方に照り渡つてゐる。其智慧の稍劣つた者の衣服は、輝きはあつて真白に見えて居るけれども、どこともなくおぼろげに見えて、赫々たる光がない、又其智慧の之に次ぐ者は、それ相応の衣類を着用し、其色も亦さまざまであつて、決して一様ではない。併しながら最高最奥の天国霊国に在る天人は、決して衣類などを用ひる事はない。天人の衣類は其智慧と相応するが故に又真とも相応するのである。何故ならば、一切の智慧なるものは、神真より来るからである。故に天人の衣類は智慧の如何によるといふよりも、神真の程度の如何に依るといふのが穏当かも知れない。而して火焔の如く輝く色は、愛の善と相応し、其光明は善より来る真に相応してゐるのである。其衣類の或は輝きて且純白なるも、光輝を欠いでゐるのもあり、其色又いろいろにして一様ならざるあるは、神善及神真の光、之に輝く事少くして、智慧尚足らざる天人の之を摂受する事、種々雑多にして、一様ならざる所に相応するからである。又最高最奥の天国霊国に在る天人が衣類を用ひないのは、其霊身の清浄無垢なるに依るものである。清浄無垢といふ事は即ち赤裸々に相応するが故である。而して天人は多くの衣類を所有して、或は之を脱ぎ、或は之を着け、不用なるものは暫く之を貯へおき、其用ある時に至つて又之を着用する、そして此衣類は皆大神様の賜ふ所である。其衣類にはいろいろの変化があつて、第一及第二の情態に居る時には、光り輝いて白く清く、第三と第四との情態に居る時には、稍曇つた様にみえてをる。これは相応の理より起来するものであつて、智慧及証覚の如何によつて、斯く天人の情態に、それぞれ変化がある故である。序に地獄界にある者の、衣類のことを述べておく。 根底の国に陥つてゐる者も亦一種の衣類の着用を許されて居る、されど彼等の悪霊は、総ての真理の外に脱出せるを以て、着する所の衣服は其癲狂の度と虚偽の度とによつて、或は破れ、或は綻び、ボロつぎの如く見苦しく、又其汚穢なる事は到底面を向くるに堪へない位である。併し彼等は実にこれ以外の衣類を着用する事が出来ないのである。又地獄界にゐる悪霊は美はしき光沢の衣類を着用する時は、相応の理に反するが故に、身体苦しく、頭痛み、体をしめつけられる如くで、到底着用することが出来ないのである。故に大神が彼等の霊相応の衣類を着用することを許し給うたのは、其悪相と虚偽と汚穢とが赤裸々に暴露する事を防がしめむが為の御仁慈である。 種々さまざまの衣服をつけたる諸々の天人は、治国別、竜公両人の此団体に入り来ることを、大神の宣示に仍つて前知し、歓迎の準備を整へて、今や遅しと待つてゐたのである。数多の天人の中から、最も美はしく光り輝いてゐる清浄の衣類を着用した一人の天人は、治国別の側近く進み来り、『ウーオー』と言ひながら、心の底より歓迎の意を表示してゐる。治国別も意外の待遇に且つ驚き且喜びながら、叮嚀に会釈をなし、固く天人の手を握りしめて、何事か言はむとしたが、何故か口舌硬直して、一言も発することが出来なかつた。茲に於て治国別は其顔面の表情を以て、感謝の意を示す事としたのである。数多の天人は治国別の前後左右に群り来り、『ウオーウオー』と叫びながら、且歌ひ、且舞ひ踊り狂うて、其旅情を慰めむと吾を忘れて其優待に全力を尽してゐる。竜公は余りの嬉しさに口をあけた儘、ポカンとして、只『アーアー』とのみ叫んでゐる。併し天国に於ては、『ア』といふ声は喜びを表白する意味であるから、竜公の此一言は治国別の無言に引替へ、最も天人間から尊重され、且賞揚の的となつたのである。天人が総て人間と相語る時は、天人は決して自らの言語を用ひず、其相手の言語及相手が知れる所の言語を用ひ、其人の知らざる言語は一切用ひない事になつてゐる。天人の人間ともの云ふ時は、自己を転じて人間に向ひ、これと相和合するものである。此和合は両者をして相似の想念情態中に入らしむるものである。併しながら、治国別は天人の団体に於ては、これを肉体のある精霊とは思はなかつた為に、天人の語を用ひたから、治国別が面くらつたのである。 凡て人間の想念は記憶に附着して、其言語の根源となるが故に、此両者は共に同一の言語中にありと云つても良いのである。且又天人及精霊の人間に向ひ来るや、自ら転じて彼に向ひ、彼と和合するに至れば、其人のすべての記憶は、天人の前に現出するものである。天人が人間と談話するに当り、其人と和合するは、人の霊的思想とつまり和合するものであるけれども、其霊的想念流れて、自然界想念中に入り、其記憶に附着し離れざるに仍り、其人の言語は天人の如く見え、又其人の知識は天人の知識の如く見ゆるものである。斯の如きは大神の特別の御恵に依つて、天人と人間との間に和合あらしめ給ひ、恰も天界を人間の内に投入したるが如くならしめ給ふに仍るのである。併しながら現代人間の情態は、太古に於ける天的人間の観なく、天人との和合も亦難かしい。却て天界以外の悪精霊と和合するに立至つたのである。精霊は斯く物語る者の、人間なることを信ぜず、この人の内にある自分共なりと信じ切つて居るのである。 茲に治国別は自分が未だ肉体のある精霊なる事を告げて、未だ天人の域に進んでゐない事をあから様に告げようと努めたけれど、何故か一言も発することが出来なかつた。其故は第二天国の天人に相応すべき愛善と信真と智慧と証覚とが、備はつてゐなかつたからである。ここに治国別は天人の諸団体に歓迎され、唖の旅行を続けて、只アオウエイの五大父音を僅に発する様になり、辛うじて余り大きな恥をかかず、此一つの団体を首尾良く巡覧し、且つ天人に比較的好感を与へて此処を去る事を得たのは、実に不思議と云へば不思議な位であつた。是より治国別は再び木花姫命の御導きに仍つて、智慧と証覚を与へられ、第二天国の各団体を巡歴し、進んで最高第一天国及霊国に進む物語は次節より口述する事とする。 惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・一・九旧一一・一一・二三松村真澄録) |
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霊界物語 | 47_戌_治国別の天国巡覧1 | 18 一心同体 | 第一八章一心同体〔一二五一〕 高天原の霊国及天国の天人は、人間が数時間費しての雄弁なる言語よりも、僅に二三分間にて、簡単明瞭に其意思を通ずることが出来る。又人間が数十頁の原稿にて書き表はし得ざる事も、只の一頁位にて明白に其意味を現はすことが出来る、又それを聞いたり読んだりする処の天人も能く会得し得るものである。凡て天人の言語は優美と平和と愛善と信真に充ちて居るが故に、如何なる悪魔と雖も、其言葉には抵抗する事が出来ない。すべて天国の言葉は善言美詞に充たされてゐるからである。さうして何事も善意に解し見直し聞直し宣直しといふ神律が行はれてゐる。それから日の国即ち天国天人の言語には、ウとオとの大父音多く、月の国即ち霊国天人の言語にはエとイの大父音に富んでゐる。而して声音の中には何れも愛の情動がある。善を含める言葉や文字は多くはウとオを用ひ、又少しくアを用ふるものである。真を含んでゐる言葉や文字にはエ及びイの音が多い。そして天人は皆一様の言語を有し、現界人の如く東西洋を隔つるに従つて、其言語に変化があり、或は地方々々にいろいろの訛がある様な不都合はない。されども、ここに少し相違のある点は証覚に充された者の言語は、凡て内的にして、情動の変化に富み且つ想念上の概念を最も多く含んでゐる。証覚の少い者の言語は外的にして、又しかく充分でない。愚直なる天人の言語に至りては、往々外的にして、人間相互の間に於けるが如く、語句の中から其意義を推度せなくてはならぬ事がある。又面貌を以てする言葉がある。此言語は概念に依つて抑揚頓挫曲折の音声を発すが如きものにて其終局を結ぶものもある。又天界の表像を概念に和合せしめたる言葉がある。又概念を自らに見る様、成したる言葉もある。又情動に相似したる身振を以てなす語もある。此身振は其言句にて現はれる事物と相似たるものを現はしてゐる。又諸情動及諸概念の一般的原義を以てする言葉がある。又雷鳴の如き言葉もあり其外種々雑多な形容詞が使はれてある。 治国別、竜公は団体の統制者に導かれ、種々の花卉等を以て取囲まれた相当に美はしき邸宅に入る事を得た。此処は此団体の中心に当り他の天人は櫛比したる家屋に住んでゐるにも拘らず、一戸分立して建つてゐる。現界にて言へば丁度町村長の様な役を勤めてゐる天人の宅である。二人は案内されて奥の間に進むと、真善美といふ額がかけられ、そして床の間には七宝を以て欄間が飾られ、玻璃水晶の茶器などがキチンと行儀よく配置され、珊瑚珠の火鉢に金瓶がかけられてある。ここは第二天国に於ても最も証覚の秀れたる天人の団体であり、主人夫婦の面貌や衣服は特に他の天人に比して秀れて居る。治国別は恐る恐る奥の間に導かれ、無言の儘行儀よく坐つてゐる。此天人の名は珍彦といひ、妻は珍姫と云つた。珍彦は治国別の未だ現界に肉体があり精霊として神に許され、修業の為に天国巡覧に来りし事を、其鋭敏なる証覚に仍つて吾居間に通すと共に悟り得たのである。ここに珍彦は始めて治国別の知れる範囲内の言語を用ひて、いろいろの談話を交ゆることとなつた。 珍彦『治国別さま、あなたは未だ精霊でゐらつしやいますのですな。実の所は天国に復活なされた方と存じまして、其考へで待遇致しましたので嘸お困りで厶いましただらう』 治国別『ハイ、実の所はイソの館から大神様の命を奉じ、月の国ハルナの都に蟠まる八岐大蛇の悪霊を言向和すべく出陣の途中、浮木ケ原に於て、吾不覚の為ランチ将軍の奸計に陥り、深き暗き穴に落され、吾精霊は肉体を脱離して、いつとはなしに八衢に迷ひ込み、大神の化身に導かれ、第三天国の一部分を覗かして頂き、又もや木花姫の御案内に依つて、ここ迄昇つて来た所で厶います。何分善と真が備はらず、智慧証覚が足らない者で厶いますから、天人達の言語を解しかね、大変に面喰ひましたよ。丸で唖の旅行でしたワ。アハヽヽヽ』 珍彦『どうぞ、ゆるりと珍彦館で御休息下さいませ。今日は幸ひ、大神様の祭典日で厶いますれば、やがて団体の天人共が吾館へ集まつて参るでせう。其時は此団体に限つて、あなたの精霊にゐらせられる事を発表致します。さうすれば、吾団体の天人は其積りで、あなたと言葉を交へるでせう』 治国別『ハイ、有難う厶います。何分勝手を知らない愚鈍な人間で厶いますから……』 竜公『これはこれは珍彦様、偉い御厄介に預かりました。先生を何分宜しく御願致します』 珍彦『イエイエ、決して私があなたの御世話をしたのぢや厶いませぬ。又御厄介になつたなぞと礼を言はれては大変に迷惑を致します。何事も吾々は大神様の御命令のままに、機械的に活動してゐるので厶いますから、もし一つでも感謝すべき事があれば、直様大神様に感謝して下さいませ。すべて吾々は大神様の善と真との内流に依つて働かして頂くばかりで厶います。吾々天人として何うして一力で虫一匹助けることが出来ませう』 治国『成程、さすが天国の天人様、真理に明るいのには感服の外厶いませぬ』 珍彦『神様の御神格の内流を受けまして、実に楽しき生涯を、吾々天人は送らして頂いて居ります』 竜公『モシ珍彦様、此団体の天人は、何れも若い方ばかりですな。そしてどのお方の顔を見ても、本当に能く似てゐるぢやありませぬか』 珍彦『左様です、人間の面貌は心の鏡で厶いますから、愛の善に充ちた者同士同気相求めて群居してゐるのですから、内分の同じき者は従つて外分も相似るもので厶います。それ故天国の団体には余り変つた者が厶いませぬ。心が一つですからヤハリ面貌も姿も同じ型に出来て居ります』 竜公『成程、それで分りました。併しながら子供は沢山ある様ですが、三十以上の面貌をした老人は根つから見当りませぬが、天国の養老院にでも御収容になつてゐるのですか』 珍彦『人間の心霊は不老不死ですよ。天人だとて人間の向上発達したものですから、人間の心は男ならば三十才、女ならば二十才位で、大抵完全に成就するでせう、而して仮令肉体は老衰しても其心はどこ迄も弱りますまい。否益々的確明瞭になるものでせう。天国は凡て想念の世界で、すべて事物が霊的で厶いますから、現界に於て何程老人であつた所が天国の住民となれば、あの通り、男子は三十才、女子は二十才位な面貌や肉付をしてゐるのです。それだから天国にては不老不死と云つて、いまはしい老病生死の苦は絶対にありませぬ』 治国別『成程、感心致しました。吾々は到底容易に肉体を脱離した所で、天国の住民になるのは六ケしいものですなア。いつ迄も中有に迷ふ八衢人間でせう。実にあなた方の光明に照らされて、治国別は何とも慚愧に堪へませぬ』 珍彦『イヤ決して御心配は要りませぬ。あなたはキツト或時機が到来して、肉体を脱離し給うた時は、立派なる霊国の宣伝使にお成りなさいますよ。如何なる水晶の水も氷とならば忽ち不透明となります。あなたの今日の情態は即ち其氷です。一度光熱に会うて元の水に復れば、依然として水晶の清水です。肉体のある間は、何程善人だといつても証覚が強いと云つても、肉体といふ悪分子に遮られますから、之は止むを得ませぬ。併し肉体の保護の上に於て、少々の悪も必要であります。精霊も人間もヤハリ此体悪の為に現界に於ては生命を保持し得るのですからなア』 治国別『ヤ有難う、其御説明に仍つて、私も稍安心を致しました。あゝ大神様、珍彦様の口を通して、尊き教を垂れさせ給ひ、実に感謝に堪へませぬ。あゝ惟神霊幸はへませ』 竜公『天国に於ては、すべての天人は日々何を職業にしてゐられるのですか。田畑もある様なり、いろいろの果樹も作つてある様ですが、あれは何処から来て作るのですか』 珍彦『天人が各自に農工商を励み、互に喜び勇んで、其事業に汗をかいて、従事してゐるのですよ』 竜公『さうすると、天国でも随分現界同様に忙しいのですなア』 珍彦『現界の様に天国にては人を頤で使ひ、自分は金の利息や株の収益で遊んで暮す人間はありませぬ。上から下迄心を一つにして共々に働くのですから、何事も埓よく早く事業がはか取ります。丁度一団体は人間一人の形式となつて居ります。例へばペン一本握つて原稿を書くにも、外観から見れば一方の手のみが働いてゐるやうに見えますが、其実は脳髄も心臓肺臓は申すに及ばず、神経繊維から運動機関、足の趾の先まで緊張してゐる様なものです。今日の現界のやり方は、ペンを持つ手のみを動かして、はたの諸官能は我関せず焉といふ行方、それでは迚も治まりませぬ。天国では上下一致、億兆一心、大事にも小事にも当るのですから、何事も完全無欠に成就致しますよ。人間の肉体が一日働いて夜になつたら、凡てを忘れて、安々と眠りにつく如く、休む時は又団体一同に快よく休むのです。私は天人の団体より選まれて、団体長を勤めて居りますが、私の心は団体一同の心、団体一同の心は私の心で厶いますから……』 治国『成程、現界も此通りになれば、地上に天国が築かれるといふものですなア。仮令一日なりとも、こんな生涯を送りたいものです。天国の団体と和合する想念の生涯が送りたいもので厶います』 珍彦『あなたは已に天国の団体にお出でになつた以上は、私の心はあなたの心、あなたの智性は私の智性、融合統一して居ればこそ、かうして相対坐してお話をすることが出来るのですよ。只今の心を何時迄もお忘れにならなかつたならば、所謂あなたは、仮令地上へ降られても天国の住民ですよ。併しながら、あなたは大神様より現界の宣伝使と選まれ、死後は霊国へ昇つて宣伝使となり、天国布教の任に当らるべき方ですから、到底其時は、吾々の智慧証覚はあなたのお側に寄り付く事も出来ない様になりますよ。あなたが霊国の宣伝使にお成りなさつた時は、吾団体へも時々御出張を願ふ事が出来るでせう』 治国別『成程、さう承はればさうに間違ひは厶いませぬ』 竜公『先生、慢心しちや可けませぬよ』 治国別『イヤ、決して慢心でない、珍彦様の心は治国別の心と和合し、治国別の心は珍彦様と和合し、珍彦様は大神様の内流を受け、大神様と和合して厶るのだから、少しも疑ふ余地はない。お言葉を信ずればいいのだ。高天原には愛善と信真とより外には無いのだ。疑を抱くのは中有界以下の精霊の所為だ』 竜公『さうすると、あなたは已に天人気取りになつてゐるのですか、まだ精霊ぢやありませぬか』 治国別『已に天人となつてゐるのだ。珍彦様も同様だ』 竜公『ヘーン、さうですか、そら結構です、お目出度う、そして此竜公は何うですか、ヤツパリ天人でせうなア』 治国別『無論天人様だ。大神様の御内流を受けた尊き天人様だよ』 竜公『何だか乗せられてゐる様な気が致しますワ。モシ、先生、からかつちや可けませぬよ』 珍彦『アハヽヽヽ』 治国『ウツフヽヽヽ』 竜公『オホヽヽヽ』 治国別『コレ竜公、オホヽヽヽなんて、おチヨボ口をして女の声を出しちや、みつともよくないぢやないか』 竜公『木花姫様の御神格の内流によりまして、善と真との相応に依り、忽ち神格化し、竜公は何も知らねども、内分の神音が外分に顕現したまでですよ。オツホヽヽヽ』 三人の笑ひ声に引つけられて、勝手元に在つた珍姫は此場に現はれ来り、三人の前に手を仕へ、 珍姫『遠来のお客様、よくもゐらせられました。私は珍彦の妻珍姫と申します』 治国『何と御挨拶を申してよいやら、天国の様子は一向不案内、併しながら今珍彦様に承はれば、同気相求むるを以て、かく和合の境遇にありとのこと、さすればあなたの心は私の心、私の心は貴女の心、他人行儀の挨拶も出来ず、又自分と同様とすれば、自分に対しての挨拶も分らず、実は困つてをります』 珍姫『ハイ私も其通りで厶います。現界的虚礼虚式は止めまして、万年の知己、否同心同体となつて、打解け合うて、珍らしき話を聞かして頂きませう』 治国別『どうも現界の話は罪悪と虚偽と汚穢にみち、かかる清浄なる天国へ参りましては、口にするも厭になつて参りました。それよりも天国のお話を承はりたいもので厶います』 珍姫『ハイ、惟神の許しを得ましたならば、あなたが何程喧しいと仰有つても、如何なることを申上げるか分りませぬ。弓弦をはなれた矢のやうに、当る的に当らねばやまないでせう、ホツホヽヽヽ』 竜公『モシ珍姫さま、あなたは珍彦さまと服装が違ふ丈で、お顔はソツクリぢやありませぬか。ヨモヤ現界に於て双児にお生れになつたのぢやありますまいかなア』 治国別『コレ竜公、何といふ失礼なことを仰有る。チツトたしなみなさい』 竜公『それでも私の心に浮んだのですよ。思ふ所を言ひ、志す所をなすのが天国ぢやありませぬか。そんな体裁を作つて、現界流に虚偽を飾るやうなことは天国には用ひられますまい。天国は信の真を以て光とするのですからなア』 治国別『ヤ、恐れ入りました、アハヽヽヽ、天国へ出て来ると、治国別も失敗だらけだ。かうなると純朴な無垢な竜公さまは実に尊いものだな』 竜公『ソリヤ其通りです、本当に清らかなものでせう。ホツホヽヽヽ』 治国別『又木花姫の御神格の内流かな』 竜公『これは竜公の副守の外流ですよ。モシ珍彦さま、どうぞ私の今の言葉が天国を汚す様なことが厶いますれば直に宣り直します』 珍彦『滑稽として承はれば、仮令悪言暴語でも其笑ひに仍つて忽ち善言美詞と変化致しますから、御心配なさいますな。天国だつて滑稽諧謔が云へないといふことがありますか、滑稽諧謔歓声は天国の花ですよ』 竜公『ヤア有難い、先生、これで私も少し息が出来ますワイ』 治国別『ウン、さうだなア、何だか私は身がしまる様にあつて、何うしてもお前の様に洒脱な気分になれないワ』 竜公『ソラさうでせう、娑婆の執着がまだ残つて居りますからな。あなたは再び肉体へ帰らうといふ欲があるでせう。私は第三天国でいつたでせう、最早娑婆へは帰りたくないから、此処に居りたいと言つたことを覚えてゐらつしやいませう。私は仮令再び現界へ帰るものとしても、刹那心ですからなア。過去を憂へず未来を望まず、今といふ此瞬間は善悪正邪の分水嶺といふ三五教の真理を体得してますからなア』 治国別『大変な掘出物を、治国別は捉まへたものだなア』 竜公『本当に掘出物でせう。先生もこれだけ竜公に証覚が開けてるとは思はなかつたでせう。それだから人は見かけによらぬものだと現界でも言つてませう』 治国別『ハイ有難う、何分宜しう願ひます』 竜公『口先ばかりでは駄目ですよ。心の底から有難う思つてゐますか、まだ少しあなたの心の底には、竜公に対し稍軽侮の念が閃いてゐるでせう』 治国別『ヤ恐れ入りました、あなたは大神様で厶いませう』 竜公『大神様ぢや厶いませぬ。吾精霊に大神様の神格が充ち、竜公の口を通して、治国別にお諭しになつてゐるのですよ。時に珍彦さま、奥さまとあなたと双児の様に能く似た御面相、其理由を一つ説明して頂きたいものですなア』 珍彦『夫婦は愛と信との和合に依つて成立するものです。所謂夫の智性は妻の意思中に入り、妻の意思は夫の智性中に深く入り込み、茲に始めて天国の結婚が行はれるのです。言はば夫婦同心同体ですから、面貌の相似するは相応の道理に仍つて避くべからざる情態です。現界人の結婚は、地位だとか名望だとか、世間の面目だとか、財産の多寡によつて婚姻を結ぶのですから、云はば虚偽の婚姻です。天国の婚姻は凡て霊的婚姻ですから、夫婦は密着不離の情態にあるのです。故に天国に於ては夫婦は二人とせず一人として数へることになつてゐます。現界の様に、人口名簿に男子何名女子何名などの面倒はありませぬ。只一人二人と云へば、それで一夫婦二夫婦といふことが分るのです。それで天国に於て百人といへば頭が二百あります。これが現界と相違の点ですよ。君民一致、夫婦一体、上下和合の真相は到底天国でなくては実見することは出来ますまい。治国別様も竜公様も現界へお下りになつたら、どうか地上の世界をして、幾部分なりとも、天国気分を造つて貰ひたいものですなア』 治国『ハイ微力の及ぶ限り……否々神様の御神格に依つて吾身を使つて戴きませう。あゝ惟神霊幸倍坐世』 かく話す所へ、玄関口より一人の男現はれ来り、 男『珍彦様、祭典の用意が出来ました、サアどうぞ皆が待つて居ります。お宮まで御出張下さいませ』 珍彦『あゝ御苦労でした。直様参りませう。お二人さま、どうです、之から天国の祭典に加はり拝礼をなさつたら……』 治国別『お供致しませう』 竜公『天国の祭典は定めて立派でせう。竜公もお供が叶ひますかなア』 珍彦『ハイ、さうなされませ』 治国『もし叶はなかつたら、木花姫の神格の内流によつて、参拝すれば良いぢやないか、アハヽヽヽ』 竜公『ウーオーアー』 珍彦『竜公さま、どうぞお供をして下さい』 竜公『ハイ有難う』 (大正一二・一・一〇旧一一・一一・二四松村真澄録) |
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霊界物語 | 47_戌_治国別の天国巡覧1 | 20 間接内流 | 第二〇章間接内流〔一二五三〕 高天原の天界を区分して天国、霊国の二となす事は前に述べた通りである。概して云へば日の国即ち天国は人身に譬ふれば心臓及び全身にして心臓に属すべき、一切のものと相応して居る。又月の国即ち霊国は其肺臓及び全身にして肺臓に属すべき一切の諸機関と相応してゐる。さうして心臓と肺臓とは小宇宙、小天地に譬ふべき人間に於ける二つの国土である。心臓は動脈、静脈により、肺臓は神経と運動繊維によりて、人の肉体中に主治者となり、力の発する所、動作する所、必ずや右両者の協力を認めずと云ふ事はない。各人の内分、即ち人の霊的人格をなせる霊界の中にも亦二国土があつて、一を意思の国と云ひ一を智性の国と云ふ。意思は善に対する情動より、智性は真に対する情動によつて人身内分の二国土を統治してゐるのである。之等の二国土は又肉体中の肺臓、心臓の二国土とに相応してゐる。故に心臓は天国であり意思の国に相応し、肺臓は霊国であり智性の国と相応するものである。 高天原に於ても亦以上の如き相応がある。天国は即ち高天原の意力にして、愛の徳之を統御し、霊国は高天原の智力にして信の徳之を統御する事になつてゐる。故に天国と霊国との関係は人に於ける心臓と肺臓との関係に全く相応してゐるものである。聖言に心臓を以て意を示し、又愛の徳を示し、肺臓の呼吸を以て智及信の真を示すは此相応によるからである。又情動なるものは心臓中にもあらず、心臓より来らざれども、之を心臓に帰するは相応の理に基く為である。高天原の以上二国土と心臓及肺臓との相応は高天原と人間との間に於ける一般的相応である。さうして人身の各肢体及各機関及内臓等に対しては、斯の如く一般的ならざる相応があるのである。 今茲に高天原の全体を巨人に譬へて説明する事としよう。 巨人即ち天界の頭部に居るものは愛、平和、無垢、証覚、智慧の中に住し、従つて歓喜と幸福とに住するを以て天界到る所、この頭部に於ける善徳に比すべきものはない。人間の頭部及び頭部に属する一切のものに其神徳流れ入つて之と相応するのである。故に人の頭部は高天原の最高の天国、霊国に比すべきものである。 次に巨人即ち天界の胸部にあるものは仁と信との善徳中に住して、人の胸部に流れ入り、之と相応するものである。 一、巨人即ち天界に於ける腰部及生殖器機関に属するものは、所謂夫婦の愛に住してゐる、之は第二天国の状態である。 一、脚部にあるものは、天界最劣の徳即ち自然的及霊的善徳の中に住してゐる。 一、腕と手とにあるものは、善徳の中より出で来る真理の力に住してゐる。 一、目にあるものは智に住し、耳にあるものは注意と従順に住し、鼻口に属するものは知覚に住してゐる。又、口と舌とに属するものは智性と知覚とより出づる言語の中に住し、内腎に属するものは研究し調査し分析し訂正する処の諸々の真理に住し、肝臓、膵臓、脾臓に属するものは善と真と色々に洗練するに長じてゐる。何れも神の神格は人体中に相似せる各局部に流入して之と相応し給ふ。天界よりの内流は諸肢体の働き及用の中に入り、而して具体的結果を現ずるが故に、茲に於てか相応なるものが行はれて来るものである。 一、人は智あり覚ある者を呼んで彼は頭を持つて居るとか、頭脳が緻密であるとか、よい頭だとか云つて称へ、又仁に厚いものを呼んで彼は胸の友だとか、心が美しいとか、気のよい人だとか、心意気がよいとか称へ、知覚に勝れた人を呼んで彼は鋭敏なる嗅覚を持つてゐるとか、鼻が高いとか云ひ、智慮に秀でたものを呼んで、彼の視覚は鋭いと云ひ、或は鬼の目と云ひ、強力なる人を呼んで、彼は手が長いと云ひ、或は利くと云ひ、愛と心を基として志す所を決するものを呼んで、彼の行動は心臓より出づるとか、心底から来るとか、同情心が深いとか称へるのである。 斯の如く人間の不用意の中に使ふ言葉や諺は尚此外に何程とも限りない程あるのは、相応の理に基いて其実は厳の御霊の神示にある通り、何事も神界よりのお言葉なる事は自覚し得らるるのである。 治国別一行は人体に於ける心臓部に相当する第二天国の最も中枢部たる処を今や巡覧の最中である。さうして天国の組織は最高天国が上中下三段に区画され、中間天国が又上中下三段に区画され、最下層の天国亦三段に区画されてある。各段の天国は個々の団体を以て構成され、愛善の徳と智慧証覚の度合の如何によりて幾百ともなく個々分立し、到底之を明瞭に計算する事は出来ないのである。又霊国も同様に区画され、信と智の善徳や智慧証覚の度合によつて霊国が三段に大別され、又個々分立して数へ尽せない程の団体が作られてゐる。さうして又一個の団体の中にも愛と信と智慧証覚の度の如何によつて或は中央に座を占め、或は外辺に居を占め、決して一様ではない。斯くの如く天人の愛信と証覚の上に変移あるは、所謂勝者は劣者を導き、劣者は勝者に従ふ天然律が惟神的に出来てゐるがために、各人皆其分度に応じて安んじ、少しも不安や怨恨や不満足等の起る事なく、極めて平和の生涯を送り居るものである。 さて三人は、とある美はしき丘陵の上に着いた。天日晃々として輝き渡り、被面布を通して其霊光は厳しく放射し、治国別は殆ど目も眩むばかりになつて来た。竜公も稍身体の各部に苦悶を兆して来た。五三公は依然として被面布も被らず此処迄進んで来たのである。 五三『皆さま、大変に御疲労の様ですから、此処で山野の景色を眺めて、暫く休養さして頂きませうか』 治国『ハイ、さう致しませう。何だか神様の霊光にうたれて苦しくなつて参りました』 竜公『ヤア私も何となしに苦痛を感じます。ラジオシンターでもあれば、一杯飲みたいものですな』 五三公『ハヽヽヽヽ、ラジオシンターは貴方等の様な壮健な肉体の飲むものぢやありませぬ。あの薬は人体の組織を害しますからな。然しながら九死一生の病人には、とつたか、みたかですから宜いでせう。あの薬は霊国より地上に下る霊薬であつて、之を服用すれば未だ現界に生きて働くべき人間は速かに元気恢復し、又霊界に来るべき運命にある人間が服用すれば、断末魔の苦痛を逃れ、楽々と霊肉脱離の苦しみを助くるものです。さうだから、あれは霊薬と云つて霊国から下るものです』 竜公『霊体分離の時、地獄におつる精霊は虚空を掴み泡を吹き、或は暗黒色になり、非常な苦悶をするものですが、その様な精霊でも矢張り楽に霊肉脱離の難境を越えられますか』 五三公『さうです。地獄へ直接落下すべき悪霊は此霊薬の力によつて肉体より逸早く逃走するが故に、後には善霊即ち正守護神のみが残り、安々と脱離の境を渡り得るのです。霊国に於ては之を以て霊丹と云ふ薬を作ります。治国別様や貴方が、第二天国の入口に於て木花姫命よりお頂きになつた霊薬は即ちそれです。霊に充ちてゐる薬だから、霊充と云ふのです。これを地上の人間は、ラヂウムと称へて居るのですが、語源は、つまり一つですからな』 治国『ラジオシンターは止めにして、それならもう一度霊丹が頂き度いものですな』 竜公『先生、自分の苦痛を薬によつて治さうなどと云ふ想念が起りますと、神様のお道に対し所謂冷淡(霊丹)になりやしませぬか。それよりも天国は愛の熱によつて充たされてゐるのですから、大神直接の内流たる愛の熱を頂く様に願つたら如何でせう。私は最早霊丹の必要もない様に思ひますが……』 治国別『さうだな、一か八かの時に用ふる霊薬だから、さう濫用するのは勿体ない。それよりも尊い神様の愛の熱を頂く事に致しませう。あゝ惟神霊幸倍坐世』 五三公『治国別さま、如何です、もうお疲れは直りましたか』 治国別『ハイ、御神徳によつて、甦つた様です』 竜公『それ御覧、惟神霊幸倍坐世と今仰有つたでせう。其御神文の方が霊充よりも、霊丹よりも効能が顕著でせう』 治国別『ハイ、有難う厶いました』 大神は斯くの如くにして第三者の口をかり、第二者たる治国別に諸々の真理を悟させ給うたのである。 凡て人を教ふる身は、其人直接に云つては聞かないものである。人間と云ふものは自尊心や自負心が強いものであるから、直接其人間に対して教説らしき事を云へば、其人間は「ヘン其位の事はお前に聞かなくとも俺は知つてゐる。馬鹿々々しい」と、テンデ耳に入れぬものである。故に第二者に直接教説すべき所を第三者たる傍人に問答を発し、其第三者の口より談話的に話さしめて之を第二者の耳に知覚に流入せしむる方が余程効験のあるものである。故に神界に於ても時々第一者と第三者が問答をなし、是非聞かしてやらねばならぬ第二者に対して間接に教示を垂れ給ふ事が往々あるのである。今茲に大神は五三公、竜公の両人をして問答をなさしめ、治国別の心霊に耳を通して諭さしめたのである。 竜公『先生、大変な立派な日輪様がお上りになりましたな。吾々の日々拝する日輪様とは非常にお姿も大きく光も強いぢやありませぬか』 治国別『さうだなア、吾々の現界で見る日輪様は、人間の邪気がこつて中空にさまようてゐるから、其為めに御光が薄らいで居るのだらう。天国へ来ると清浄無垢だから、日輪様も立派に拝めるのだらうよ』 竜公『それでも吾々の拝む日輪様とは何だか様子が違ふぢやありませぬか。もし五三公さま、如何でせう』 五三公『天国に於ては大神様が日輪様となつて現はれ給ひます。地上の現界に於て見る太陽は所謂自然界の太陽であつて、天国の太陽に比ぶれば非常に暗いものですよ。自然界の太陽より来るものは凡て自愛と世間愛に充ち、天国の太陽より来る光は愛善の光ですから雲泥の相違がありますよ。又霊国に於ては大神様は月様とお現はれになります。大神様に変りはなけれども、天人共の愛と信と証覚の如何によつて、或は太陽と現はれ給ひ或は月と現はれ給ふのです』 竜公『やはり天国にても日輪様は東からお上りになるのでせうな』 五三公『地上の世界に於ては日輪様が上りきられた最も高い処を南と云ひ、正に之に反して地下にある所を北となし、日輪様が昼夜の平分線に上る所を東となし、其没する所を西となす事は貴方等の御存じの通りです。斯くの如く現界に於ては一切の方位を南から定めますけれども、高天原に於ては大神様が日輪様と現はれ給ふ処を東となし、之に対するを西となし、それから高天原の右の方を南となし、左の方を北とするのです。さうして天界の天人は何れの処に其顔と体躯とを転向するとも、皆日月に向つて居るのです。其日月に向うた処を東と云ふのです。故に高天原の方位は皆東より定まります。何故なれば、一切のものの生命の源泉は、日輪様たる大神様より来る故である。故に天界にては、厳の御魂、瑞の御魂をお東様と呼んでゐます』 治国『尊き厳の御魂、瑞の御魂の大神様、愚昧なる吾々を教導せむが為に、五三公、竜公の口を通し間接内流を以て吾々にお示し下さいました其御高恩を、有難く感謝致します。あゝ惟神霊幸倍坐世惟神霊幸倍坐世』 (大正一二・一・一〇旧一一・一一・二四北村隆光録) |
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霊界物語 | 47_戌_治国別の天国巡覧1 | 21 跋文 | 第二一章跋文〔一二五四〕 その一 一、現代人は霊界一切の事物と、人間一切の事物との間に一種の相応あることを知らず、又相応の何たるを知るものがない。かかる無智の原因には種々あれども、其重なるものは『我』と世間とに執着して自ら霊界殊に天界より遠ざかれるに由るものである。何事をも差し置きて吾と世間とを愛するものは只外的感覚を喜ばし、自己の所欲を遂げしむる所の世間的事物にのみ留意して、曽てその外を顧みず、即ち内的感覚を楽まし心霊を喜ばしむる所の霊的事物に至つては彼等の関心せざる所である。彼等が之を斥くる口実に曰く、『霊的事物は余り高きに過ぎて思想の対境となる能はず』云々。されど古の人なる宣伝使や信者たりしものは、之に反して相応に関する知識を以て一切知識中の最も重要なるものとなし、之に由りて智慧と証覚を得たものである。故に三五教の信者は何れも天界との交通の途を開きて相応の理を知得し、天人の知識を得たものである。即ち天的人間であつた太古の人民は相応の理に基いて思索する事尚天人の如くであつた。之故に古の人は天人と相語るを得たり、又屡主神をも相見るを得て、其教を直接に受けたものも沢山にある。三五教の宣伝使なぞは主の神の直接の教を受けてその心魂を研き、之を天下に宣伝したる次第は此霊界物語を見るも明白である。現代の宣伝使に至つては此知識全く絶滅し、相応の理の何たるかを知るものは宗教各団体を通じて一人も無いと謂つても可い位である。相応の何たるかを知らずしては、霊界に就いて明白なる知識を有するを得ない。斯く霊界の事物に無智なる人間は、又霊界より自然界にする内流の何物たるを知る事は出来ない。又霊的事物の自然的事物に対する関係をすら知る事が出来ない。又霊魂と称する人間の心霊が其身体に及ぼす所の活動や、死後に於ける人間の情態に関して毫も明白なる思想を有する事能はず、故に今何をか相応と云ひ、如何なるものを相応と為すかを説く必要があると思ふ。 抑全自然界は之を総体の上から見ても、分体の上から見ても、悉く霊界と相応がある。故に何事たりとも自然界にあつて其存在の源泉を霊界に取るものは之を名づけて、其相応者と云ふのである。そして自然界の存在し永続する所以は霊界によること、猶結果が有力因によりて存するが如きを知るべきである。自然界とは太陽の下にありて之より熱と光とを受くる一切の事物を謂ふものなるが故に、之に由りて存在を継続するものは、一として自然界に属せないものはない。されど霊界とは天界のことであり、霊界に属するものは、皆天界にあるものである。人間は一小天界にして又一小世界である。而して共に其至大なるものの形式を模して成るが故に、人間の中に自然界もあり霊界もあるのである。その心性に属して、智と意とに関する内分は霊界を作り、その肉体に属して感覚と動作とに関する外分は自然界を作すのである。故に自然界に在るもの即ち彼の肉体及びその感覚と動作とに属するものにして、その存在の源泉を彼が霊界に有する時は、即ち彼が心性及び其智力と意力とより起り来る時は、之を名づけて相応者と謂ふのである。三五教の宣伝使にして以上相応の真理を知悉せざりしものは只の一人も無かつたのは、実に主の神の神格を充分に認識し得た為であります。願はくは此物語に心を潜めて神の大御心のある所を会得し且つ相応の真理を覚り、現界に於ては万民を善道に救ひ、死後は必ず天界に上り天人の班に相伍して神業に参加せられむことを希望いたします。 その二 一、主神の国土は目的の国土である。目的とは用そのものである。故に主神の国土を称して用の国土と云うても可なる訳である。用これ目的である。故に主神は神格の始めに宇宙を創造し、形成し給ふや、初めは天界において為し給ひ、次は世界に於て到る処、動作の上即ち結果の上に用を発揮せむとし給うた。種々の度を経、次第を逐うて自然界の終局点に迄も至らなければ已まない。故に自然界事物と霊界事物即ち世間と天界の相応は用に由つて成就することを知り得るのである。この両者を和合せしむるものは即ち用である。そして此用を中に収むる所のものは形体である。此形体を相応となす即ち和合の媒介である。されど其形態にして没交渉なる時は此の如きことなきを知るべしである。自然界にありてその三重の国土中順序に従つて存在するものは、すべて用を収めたる形態である。即ち用のため用に由つて作られたる結果である。故に斯の如き自然界中の諸物は皆相応者である。されど人間にあつては神の法則に従つて生活する限り、即ち主神に対して愛、隣人に対して仁ある限り、かれの行動は用の形態に現はれたものである。これ天界と和合する所の相応である。主神と隣人を愛するといふのは要するに用を遂ぐることである。人間なるものは自然界をして霊界に和合せしむる方便即ち和合の媒介者なることである。蓋し人間には自然界と霊界と二つのものは具はつて居るものである。人間はその霊的なることに於て和合の媒介者となるけれども、若し然らずして自然的となれば此の事あるを得ないのである。さはいへ神格の内流は人間の媒介を経ずとも、絶えず世間に流れ入り、また人間内の世間的事物にも流れ入るものである。但しその理性的には入らぬものである。 凡て神の法則に従ふものは悉く天界に相応すれども、之と反するものは皆地獄と相応するものである。天界に相応するものは皆善と真とに関係があるが、地獄と相応するものは偽りと罪悪に交渉せないものは無いのである。 霊界は諸々の相応に由つて自然界と和合するが故に、人は諸々の相応によつて天界と交通することを得るものである。在天の天人は人間の如く自然的事物によつて思索せない。人間にして、もし諸相応の知識に住する時は、その心の上にある思想より見て、天人と相伍するものとなすべく、かくして其霊的、内的人格に於て天人と和合せるものである。 地上に於ける最太古の人間は即ち天的人間であつて、相応そのものに由つて思索し彼等の眼前に横たはれる世間の自然的事物は、彼等天的人間が思索をなす所の方便に過ぎなかつたのである。太古の人間は天人と互に相交はり相語り、天界と世間との和合は彼等を通して成就したのである。これの時代を黄金時代と謂ふのである。次に天界の住民は地上の人間と共に居り人間と交はること朋侶の如くであつた。されど最早此時代の人間は相応そのものより思索せずして、相応の知識よりせるに由つて、尚天と人との和合はあつたけれども、以前の様には親密でなかつた。この時代を白銀時代と曰ふ。又この白銀時代を継いだものは相応は知らぬにはあらざれども、其思索は相応の知識に由らなかつた。故に彼等がをる所の善徳なるものは自然的のものであつて、前時代の人の如く霊的たることを得なかつた。これを赤銅時代と曰つたのである。この時代以後は人間は次第々々に外的となり、遂に肉体的となり了へ、従つて相応の知識なるもの全く地に墜ちて天界の知識悉く亡び、霊界に関する数多の事項も追々と会得し難くなつたのである。又黄金は相応に由つて天国の善を表はし、最太古の人の居りし境遇である。又白銀は霊国の善を表はし中古の人の居りし境遇であつた。赤銅は自然界の善を表はし古の人の居りし境遇である。更に下つて、黒鉄時代を現出した。黒鉄なるものは冷酷なる真を表はし、善はこれに居らない時代である。之を思ふに現今の時代は全く黒鉄時代を過ぎて泥土世界と堕落し、善も真も其影を没して了つた暗黒無明の地獄である。国祖の神は斯の如き惨澹たる世界をして松の代、三五の代、天国の代に復活せしめむとして不断的愛善と信真の為に御活動を遊ばし給ひつつあることを思へば、吾々は安閑としてこの現代を看過することは出来ないのである。天下国家を憂ふるの士は、一日も早く神の教に眼を醒まし、善の為に善を励み、真の為に真を光して、空前絶後の大神業に参加されむことを希望する次第であります。 あゝ惟神霊幸倍坐世 (因に爰に主神とあるは、太元神を指したのであります) (大正一二・一・一〇旧一一・一一・二四加藤明子録) |
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霊界物語 | 48_亥_治国別の天国巡覧2 | 序文 | 序文 社会の一般的傾向が、漸く民衆的になりつつあると共に、宗教的信仰も強ち寺院や教会に依頼せず、各自の精神に最も適合する所を求めて其粗弱なる精霊の満足を図らむとするの趨勢となりつつあるやうだ。宣伝使や僧侶の説く処を聴きつつ己れ自ら神霊の世界を想像し之を語りて、所謂自由宗教の殿堂を各自に精神内に建設せむとする時代である。既成宗教の経典に何事が書いてあらうが、自ら認めて合理的とし、詩的とする処を読み、世界の何処かに真の宗教を見出さむものとして居る、今日広く芸術趣味の拡まりつつあるのは宗教趣味の薄らいだ所を補ふやうになつてゐる。従前の宗教は政治的であり専制的なりしに引替へ、現今は芸術的であり民衆的となつて来たのも、天運循環の神律に由つて仁慈出現の前提と謂つても良いのである。 この霊界物語も亦極めて民衆的に且つ芸術的に、惟神の時機を得て大神より直接間接の方法を以て現代並に末代の人生に対し、深遠なる神理を宣示し且つ之を伝達せしめ給うたのであります。惟神霊幸倍坐世。 大正十二年一月十二日王仁識 |
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霊界物語 | 48_亥_治国別の天国巡覧2 | 01 聖言 | 第一章聖言〔一二五五〕 宇宙には霊界と現界との二つの区界がある。而して霊界には又高天原と根底の国との両方面があり、此両方面の中間に介在する一つの界があつて、これを中有界又は精霊界と云ふのである。又現界一名自然界には昼夜の区別があり寒暑の区別があるのは、恰も霊界に天界と地獄界とあるに比すべきものである。人間は霊界の直接又は間接内流を受け、自然界の物質即ち剛柔流の三大元質によつて、肉体なるものを造られ、此肉体を宿として、精霊之に宿るものである。其精霊は即ち人間自身なのである。要するに人間の躯殻は精霊の居宅に過ぎないのである。此原理を霊主体従といふのである。霊なるものは神の神格なる愛の善と信の真より形成されたる一個体である。而して人間には一方に愛信の想念あると共に、一方には身体を発育し現実界に生き働くべき体欲がある。此体欲は所謂愛より来るのである。併し体に対する愛は之を自愛といふ。神より直接に来る所の愛は之を神愛といひ、神を愛し万物を愛する、所謂普遍愛である。又自愛は自己を愛し、自己に必要なる社会的利益を愛するものであつて、之を自利心といふのである。人間は肉体のある限り、自愛も又必要欠くべからざるものであると共に、人は其本源に遡り、どこ迄も真の神愛に帰正しなくてはならぬのである。要するに人間は霊界より見れば即ち精霊であつて、此精霊なるものは善悪両方面を抱持してゐる。故に人間は霊的動物なると共に又体的動物である。精霊は或は向上して天人となり、或は堕落して地獄の邪鬼となる、善悪正邪の分水嶺に立つてゐるものである。而して大抵の人間は神界より見れば、人間の肉体を宿として精霊界に彷徨してゐるものである。而して精霊の善なるものを正守護神といひ、悪なるものを副守護神と云ふ。正守護神は神格の直接内流を受け、人身を機関として天国の目的即ち御用に奉仕すべく神より造られたもので、此正守護神は副守護神なる悪霊に犯されず、よく之を統制し得るに至れば、一躍して本守護神となり天人の列に加はるものである。又悪霊即ち副守護神に圧倒され、彼が頤使に甘んずる如き卑怯なる精霊となる時は、精霊自らも地獄界へ共々におとされて了ふのである。此時は殆ど善の精霊は悪霊に併合され、副守護神のみ我物顔に跋扈跳梁するに至るものである。そして此悪霊は自然界に於ける自愛の最も強きもの即ち外部より入り来る諸々の悪と虚偽に依つて、形作られるものである。かくの如き悪霊に心身を占領された者を称して、体主霊従の人間といふのである。又善霊も悪霊も皆之を一括して精霊といふ。現代の人間は百人が殆ど百人迄、本守護神たる天人の情態なく、何れも精霊界に籍をおき、そして精霊界の中でも外分のみ開けてゐる、地獄界に籍をおく者、大多数を占めてゐるのである。又今日のすべての学者は宇宙の一切を解釈せむとして非常に頭脳をなやませ、研究に研究を重ねてゐるが、彼等は霊的事物の何物たるを知らず、又霊界の存在をも覚知せない癲狂痴呆的態度を以て、宇宙の真相を究めむとしてゐる。之を称して体主霊従的研究といふ。甚だしきは体主体従的研究に堕して居るものが多い。何れも『大本神諭』にある通り、暗がりの世、夜の守護の副守護神ばかりである。途中の鼻高と書いてあるのは、所謂天国地獄の中途にある精霊界に迷うてゐる盲共のことである。 すべて宇宙には霊界、現界の区別ある以上は、到底一方のみにて其真相を知ることは出来ない。自然界の理法に基く所謂科学的知識を以て、無限絶体無始無終、不可知不可測の霊界の真相を探らむとするは、実に迂愚癲狂も甚しといはねばならぬ。先づ現代の学者はその頭脳の改造をなし、霊的事物の存在を少しなりとも認め、神の直接内流に依つて真の善を知り、真の真を覚るべき糸口を捕捉せなくては、黄河百年の河清をまつやうなものである。今日の如き学者の態度にては、仮令幾百万年努力するとも、到底其目的は達することを得ないのである。夏の虫が冬の雪を信ぜない如く、今日の学者は其智暗く其識浅く、且驕慢にして自尊心強く、何事も自己の知識を以て、宇宙一切の解決がつくやうに、否殆どついたものの様に思つてゐるから、実にお目出度いといはねばならぬのである。天体の運行や大地の自転運動や、月の循行、寒熱の原理等に就いても、未だ一として其真を得たものは見当らない。徹頭徹尾、矛盾と撞着と、昏迷惑乱とに充たされ、暗黒無明の域に彷徨し、太陽の光明に反き、僅かに陰府の鬼火の影を認めて、大発明でもしたやうに騒ぎまはつてゐるその浅ましさ、少しでも証覚の開けたものの目より見る時は、実に妖怪変化の夜行する如き状態である。現実界の尺度はすべて計算的知識によつて其或程度までは考察し得られるであらう。併し何程数学の大博士と雖も、其究極する所は、到底割り切れないのである。例へば十を三分し、順を追うて、追々細分し行く時は、其究極する所は、ヤハリ細微なる一といふものが残る。此一は何程鯱矛立になつて研究しても到底能はざる所である。自然界にあつて自然的事物即ち科学的研究をどこ迄進めても、解決がつかないやうな愚鈍な暗冥な知識を以て、焉んぞ霊界の消息門内に一歩たりとも踏み入ることが出来ようか。口述者が霊界より大神の愛善と信真より成れる神格の直接内流や其他諸天使の間接内流に仍つて、暗迷愚昧なる現界人に対し、霊界の消息を洩らすのは、何だか豚に真珠を与ふる様な心持がする。かく言へば瑞月は癲狂者或は誇大妄想狂として、一笑に附するであらう。併し乍ら自分の目より見れば、現代の学者位始末の悪い、分らずやはないと思ふ。プラス、マイナスを唯一の武器として、絣や金米糖を描き、現界の研究さへも未だ其門戸に達してゐない自称学者が、霊界のことに嘴を容れて審神者をしようとするのだから、実に滑稽である。故に此『霊界物語』も之を読む人々の智慧証覚の度合の如何によつて、其神霊の感応に応ずる程度に、幾多の差等が生ずるのは已むを得ないのである。 宇宙の真理は開闢の始めより、億兆万年の末に至るも、決して微塵の変化もないものである。併し乍ら之に相対する人間の智慧証覚の賢愚の度によつて、種々雑多に映ずるのであつて、つまり其変化は真理そのものにあらずして、人間の知識そのものにあることを知らねばならぬのである。もし現代の人間が大神の直接統治し給ふ天界の団体に籍をおき、天人の列に加はることを得たならば、現代の学者の如く無性矢鱈に頭脳を悩まし、心臓を痛め肺臓を破り、神経衰弱を来さなくても、容易に明瞭に宇宙の組織紋理が判知さるるのである。 憎まれ口はここらでお預かりとして、改めて本題に移ることとする。茲に霊界に通ずる唯一の方法として、鎮魂帰神なる神術がある。而して人間の精霊が直接大元神即ち主の神(又は大神といふ)に向つて神格の内流を受け、大神と和合する状態を帰神といふのである。帰神とは、我精霊の本源なる大神の御神格に帰一和合するの謂である。故に帰神は大神の直接内流を受くるに依つて、予言者として最も必要なる霊界真相の伝達者である。 次に大神の御神格に照らされ、知慧証覚を得、霊国に在つてエンゼルの地位に進んだ天人が、人間の精霊に降り来り、神界の消息を人間界に伝達するのを神懸といふ。又之を神格の間接内流とも云ふ。之も亦予言者を求めて其精霊を充たし、神界の消息を或程度まで人間界に伝達するものである。 次に、外部より人間の肉体に侵入し、罪悪と虚偽を行ふ所の邪霊がある。之を悪霊又は副守護神といふ。此情態を称して神憑といふ。 すべての偽予言者、贋救世主などは、此副守の囁きを人間の精霊自ら深く信じ、且憑霊自身も貴き神と信じ、其説き教へる所も亦神の言葉と、自ら自らを信じてゐるものである。すべてかくの如き神憑は自愛と世間愛より来る凶霊であつて、世人を迷はし且つ大神の神格を毀損すること最も甚しきものである。斯の如き神憑はすべて地獄の団体に籍をおき、現界の人間をして、其善霊を亡ぼし且肉体をも亡ぼさむことを謀るものである。近来天眼通とか千里眼とか、或は交霊術の達人とか称する者は、何れも此地獄界に籍をおける副守護神の所為である。泰西諸国に於ては今日漸く、現界以外に霊界の在ることを、霊媒を通じて稍覚り始めたやうであるが、併し此研究は余程進んだ者でも、精霊界へ一歩踏み入れた位な程度のもので、到底天国の消息は夢想だにも窺ひ得ざる所である。偶には最下層天国の一部の光明を遠方の方から眺めて、臆測を下した霊媒者も少しは現はれてゐる様である。霊界の真相を充分とは行かずとも、相当に究めた上でなくては、妄りに之を人間界に伝達するのは却て頑迷無智なる人間をして、益々疑惑の念を増さしむる様なものである。故に霊界の研究者は最も霊媒の平素の人格に就てよく研究をめぐらし、其心性を十二分に探査した上でなくては、好奇心にかられて、不真面目な研究をするやうな事では、学者自身が中有界は愚か、地獄道に陥落するに至ることは想念の情動上已むを得ない所である。 さて帰神も神懸も神憑も概括して神がかりと称へてゐるが、其間に非常の尊卑の径庭ある事を覚らねばならぬのである。大本開祖の帰神情態を口述者は前後二十年間、側に在つて伺ひ奉つたことがある。開祖は何時も神様が前額より肉体にお這入りになると云はれて、いつも前額部を右手の拇指で撫でてゐられたことがある。前額部は高天原の最高部に相応する至聖所であつて、大神の御神格の直接内流は必ず前額より始まり、遂に顔面全部に及ぶものである。而して人の前額は愛善に相応し、顔面は神格の内分一切に相応するものである。畏多くも口述者が開祖を審神者として永年間、茲に注目し、遂に大神の聖霊に充たされ給ふ地上唯一の大予言者たることを覚り得たのである。 それから又高天原には霊国、天国の二大区別があつて、霊国に住める天人は之を説明の便宜上霊的天人といひ、天国に住める天人を天的天人といふことにして説明を加へようと思ふ。乃ち霊的天人より来る内流(間接内流)は人間肉体の各方面より感じ来り、遂に其頭脳の中に流入するものである。即ち前額及び顳顬より大脳の所在全部に至る迄を集合点とする。此局部は霊国の智慧に相応するが故である。又天的天人よりの内流(間接内流)は頭中小脳の所在なる後脳といふ局部即ち耳より始まつて頸部全体にまで至る所より流入するものである、即ち此局部は証覚に相応するが故である。 以上の天人が人間と言葉を交へる時に当り、其言ふ所は斯の如くにして、人間の想念中に入り来るものである。すべて天人と語り合ふ者は、又高天原の光によつて其処にある事物を見ることを得るものである。そは其人の内分(霊覚)は此光の中に包まれてゐるからである。而して天人は此人の内分を通じて、又地上の事物を見ることを得るのである。即ち天人は人間の内分によつて、現実界を見、人間は天界の光に包まれて、天界に在るすべての事物を見ることが出来る。天界の天人は人間の内分によつて世間の事物と和合し、世間は又天界と和合するに至るものである。之を現幽一致、霊肉不二、明暗一体といふのである。 大神が予言者と物語り給ふ時は、太古即ち神代の人間に於けるが如く、其内分に流入してこれと語り給ふことはない。大神は先づおのが化相を以て精霊を充たし、此充たされた精霊を予言者の体に遣はし給ふのである。故に此精霊は大神の霊徳に充ちて其言葉を予言者に伝ふるものである。斯の如き場合は、神格の流入ではなくて伝達といふべきものである。伝達とは霊界の消息や大神の意思を現界人に対して告示する所為を云ふのである。 而して此等の言葉は大神より直接に出で来れる聖言なるを以て、一々万々確乎不易にして、神格にて充たされてゐるものである。而して其聖言の裡には何れも皆内義なるものを含んでゐる。而して天界に在る天人は此内義を知悉するには霊的及び天的意義を以てするが故に、直に其神意を了解し得れども、人間は何事も自然的、科学的意義に従つて其聖言を解釈せむとするが故に、懐疑心を増すばかりで到底満足な解決は付け得ないのである。茲に於てか大神は、天界と世界即ち現幽一致の目的を達成し、神人和合の境に立到らしめむとして、瑞霊を世に降し、直接の予言者が伝達したる聖言を詳細に解説せしめ、現界人を教へ導かむとなし給うたのである。 精霊は如何にして化相によつて大神より来る神格の充たす所となるかは、今述べた所を見て、明かに知らるるであらう。大神の御神格に充たされたる精霊は、自分が大神なることを信じ、又其所言の神格より出づることを知るのみにして、其他は一切知らない。而して其精霊は言ふべき所を言ひ尽す迄は、自分は大神であり、自分の言ふことは大神の言であると固く信じ切つてゐるけれども、一旦其使命を果すに至れば、大神は天に復り給ふが故に俄に其神格は劣り、其所言は余程明晰を欠くが故に、そこに至つて、自分はヤツパリ精霊であつたこと、又自分の所言は大神より言はしめ給うた事を知覚し、承認するに至るものである。大本開祖の如きは始めより大神の直接内流によつて、神の意思を伝へ居ること及び自分の精霊が神格に充たされて、万民の為に伝達の役を勤めてゐたことを能く承認してゐられたのである。其証拠は『大本神諭』の各所に明確に記されてある。今更ここに引用するの煩を省いておくから、開祖の『神諭』に就いて研究さるれば此間の消息は明かになることと信ずる。 開祖に直接帰神し給うたのは大元神大国治立尊様で、其精霊は、稚姫君命と国武彦命であつた。故に『神諭』の各所に……此世の先祖の大神が国武彦命と現はれて……とか又は……稚姫君の身魂と一つになりて、三千世界(現幽神三界)の一切の事を、世界の人民に知らすぞよ……と現はれてゐるのは、所謂精霊界なる国武彦命、稚姫君命の精霊を充たして、予言者の身魂即ち天界に籍をおかせられた、地上の天人なる開祖に来つて、聖言を垂れさせ給うことを覚り得るのである。 前巻にもいつた通り、天人は現界人の数百言を費さねば其意味を通ずることの出来ない言葉をも、僅かに一二言にて其意味を通達し得るものである。故に開祖即ち予言者によつて示されたる聖言は、天人には直に其意味が通ずるものなれども、中有に迷へる現界人の暗き知識や、うとき眼や、半ば塞がれる耳には容易に通じ得ない。それ故に其聖言を細かく説いて世人に諭す伝達者として、瑞の御霊の大神の神格に充たされたる精霊が、相応の理によつて変性女子の肉体に来り、其手を通じ、其口を通じて、一二言の言葉を数千言に砕き、一頁の文章を数百頁に微細に分割して、世人の耳目を通じて、其内分に流入せしめむ為に、地上の天人として、神業に参加せしめられたのである。故に開祖の『神諭』を其儘真解し得らるる者は、已に天人の団体に籍をおける精霊であり、又中有界に迷へる精霊は、瑞の御霊の詳細なる説明に依つて、間接諒解を得なくてはならぬのである。而して此詳細なる説明さへも首肯し得ず、疑念を差挟み、研究的態度に出でむとする者は、所謂暗愚無智の徒にして、学で知慧の出来た途中の鼻高、似而非学者の徒である。斯の如き人間は已に已に地獄界に籍をおいてゐる者なることは、相応の理によつて明かである、斯の如き人は容易に済度し難きものである。何故ならば、其人間の内分は全く閉塞して、上方に向つて閉ぢ、外分のみ開け、その想念は神を背にし、脚底の地獄にのみ向つてゐるからである。而して其知識はくらみ霊的聴覚は鈍り、霊的視覚は眩み、如何なる光明も如何なる音響も容易に其内分に到達せないからである。されど神は至仁至愛にましませば、斯の如き難物をも、種々に身を変じ給ひて、其地獄的精霊を救はむと、昼夜御心を悩ませ給ひつつあるのである。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・一・一二旧一一・一一・二六松村真澄録) |
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霊界物語 | 48_亥_治国別の天国巡覧2 | 03 観音経 | 第三章観音経〔一二五七〕 神が表に現はれて善と悪とを立別ける 三五教の宣伝使治国別の一行は 怪しの森を通過して浮木の森に屯せる ランチ、片彦将軍の陣営を守る番卒に 其入口に出会し種々様々の問答を なせる折しも敵軍の企みの穽におとされて 命危く見えけるが神の守りし神司 危き穽に落ちながら卯の毛の露の怪我もなく 治国別と竜公は早速の頓智番卒の アーク、タールを説き伏せて危難を逃れ這ひ上り 尊き神の御教をいとも細かに説きつれば もとより神の御魂をばうけたる二人の番卒は 忽ち心機一転し悔悟の花も咲き満ちて 心の底より帰順しつ治国別を伴ひて ランチの陣営をさして行くランチ、片彦将軍は 治国別の一行が思はぬここに来りしを 眺めて笑壺に入りながら表面を飾る柔言葉 和睦の酒と云ひながら二人を酔はせ奥の間の 秘密の場所へ誘ひて燕返しの計略に 千尋の深き暗窟へ落し込みしぞ忌々しけれ 治国別や竜公は忽ち正気を失ひて 其霊魂は宙に飛び精霊界に踏み迷ひ 一人の守衛に教へられ狭き谷道攀ぢのぼり 漸う此処に八衢の関所の前にと着きにけり 善と悪との精霊が集まり来り八衢の 審判を受くる有様を心をひそめて眺めつつ 現幽二界の真諦をおぼろげながら感得し 伊吹戸主の御館に暫く息を休めつつ 外面の景色を眺め居る時しもあれや中天を 照らして来る大火団二人が前に顛落し 火花を四方に散乱し暫く雲に包まれて 四辺も見えずなりにけり二人は益々怪しみて きつと目をすゑ眺め入る忽ち一柱の神人が 容貌衣服を輝かし治国別に打向ひ 我は言依別の神不思議な処で会ひました 皇大神の御言もて今は媒介天人と 重き使命を任けられぬいざ之よりは天国を 巡覧召され吾は今汝が命を案内せむ 又竜公は証覚のまだ開けざる身なれども 特にお供を許すべし之を被れと云ひながら 懐中探り被面布をとり出し竜公にかけ給ふ 此処に二人は勇み立ち最下天国の其一部 巡覧し終へ中間の天国さして昇り行く 木花姫の現はれて種々雑多と両人が 心を戒め給ひつつ珍彦館に導きて 尊き神の経綸の其大略を示すべく 此処に言霊別の神治国別の徒弟なる 五三公さまと現はれて又もや尊き教訓を 授け給ひし尊さよ之より二人は五三公の 案内につれて天国の各団体を巡歴し 最高一の天国や霊国までも巡拝し 月の御神や日の御神其他百のエンゼルに 清き教を伝へられ智慧証覚を拝受して 再びもとの肉体にかへり来りてバラモンの 醜の司を悉く言向和す物語 語るにつけて面白く益々深く真に入り 其妙奥に達すべく守らせ給へ惟神 神の御前に願ぎ奉る。 蠑螈別、お民、アーク、タールの四人は一日の間酔をさまし、何喰はぬ顔してランチ将軍の前にヌツと顔を突き出した。ランチ将軍は常にないニコニコとした笑顔を見せ、 ランチ『ヤア四人の御歴々、御壮健で御目出度う。何か御用で厶るかな』 と脱線振を発揮してゐる。察するにランチは珍客に余程同情ある待遇をされ、精神の一部に狂ひを生じて居たと見える。蠑螈別は亦平素から少しく精神上に欠陥のある男だが、今ランチ将軍の顔を見てニコニコ笑ひながら、 蠑螈別『モシ将軍殿、昨夜は嘸御疲れでしただらう。お察し申します。何と云つても世の中は異性が居らなくては威勢の悪いものですよ。空を飛ぶ小雀だつて、蝶々だつて、蜻蛉だつて、蝉だつて、土窠蜂だつて、矢張り男女同棲して天与の真楽を楽しんで居るのですからな。昔の世間に暗い軍人は、陣中に女は一切無用だなどと云つて我慢をしたものですが、最早今日となつては軍人も一種の商売ですから、女がなくちややりきれませぬわい。ウツフヽヽヽ、モシ将軍さま、大変な爽快な面持で厶りますな』 ランチ『ハイ、何と云つても双方から速射砲的に襲撃を受けたものですから、耳はひツかかれる、頬は抓られる、腕は左右からぬける程引つ張られるものだから、イヤもうきつい迷惑を致しました。エツヘヽヽヽ、其為め全身の細胞や繊維が稍倦怠気分となり、各部に同盟罷工をやつたと見えて、思ふ様に足が動かなくなりました』 蠑螈別『足ばかりぢやありますまい。腰部は如何です、腰部は天国に於ける夫婦の愛と相応する最要部で厶りますからな』 ランチ『成程、夜前はあまり乱痴気将軍をやつたものだから、少々ばかり今日は二日酔ひの気味で厶る。それに就いても可憐さうなのは片彦将軍だ』 蠑螈別『あの二人の美人は一人づつ貴方等のお相手になさつたのぢやありませぬか』 ランチ『イヤ、それがさうぢやて、……困つた事には二人ながらランチランチと云ひやがつて……エヘヽヽヽヽ此一人の男を双方から襲撃し、気の毒千万にも片彦将軍には目もくれないのだ。そこで此ランチが聊か同情の念を以て片彦に靡かせむと、種々雑多と心を揉んだでもないし、揉まぬでもなかつたが、矢張恋愛と云ふものは合縁奇縁で仕方のないものだ。凡て恋愛は一方に偏重する性質のものだから、大変に都合の悪い事もあるが、然しそこが男子に取つて非常に妙味のある所だ。イツヒヽヽヽ』 蠑螈別『さうして片彦さまは如何なつたのですか』 ランチ『ウン、片彦は歯ぎしりを噛んで怒り出し、歯をガタガタ云はせ、ガタガタ慄ひをして到頭ガタ彦となつて了つた。何うも斯うガタピシヤになつては陣中の平和が保たれないので、聊か困つてるのですよ。斯うなつて来ると、此ランチを女にチヤホヤされる男らしい男に生んでくれた親が怨めしい様に、根つから厶らぬわい、エツヘヽヽヽ。そこで一つ蠑螈別殿に相談がある。聞いては下されますまいかな』 蠑螈別『其御相談とは何事で厶いますか』 ランチ『外でもござらぬ、其方の最愛のお民さまを暫く此ランチに自由にさして頂きたいのだ』 お民は、 お民『アレ、まアー』 と袖に顔を隠す。 蠑螈別『コリヤお民、何だ其スタイルは……細い目をしやがつて………「アレ、マア」等とランチ将軍に秋波を送つてゐるのか』 と呶鳴りつけた。お民は泣声になり、 お民『コレ、モシ蠑螈別さま、お情ない事を云つて下さいますな。貴方はまだ私の心が分らないのですか』 蠑螈別『ウン、分らぬでもない、が然しあまり妙な素振をすると、俺も聊か気にならない事はないからなあ』 ランチ『実は蠑螈別さま、其お民さまを貸して頂きたいと云ふのは、片彦将軍に綺麗サツパリとやつて貰ひたいのだ。それでなければ軍規の統一が保たれないので、此ランチが折入つてお願ひ申すのだ』 蠑螈別『これは怪しからぬ。何事かと思へば吾々の女房を片彦将軍に与へよなどとは以ての外のお言葉で厶る。さう蕪か大根の様にチヤクチヤクと人に与る事が出来ますか。拙者は命がけの芸当をやつて、漸くお民を此処まで連れ出した所、左様なお言葉を聞くとは意外千万だ。斯様な処に長居は恐れだ。オイ、お民、一時も早うここを帰らう』 お民『ハイ、有難う厶んす。それなら何卒こんな恐ろしい処は嫌になりましたから、貴方の好きな処へ連れて行つて下さい。然し蠑螈別さま、ここを立ち去るとなれば忽ち困るのはお金でせう。貴方がエキスさまの手を通してランチさまにお渡しなさつた五千両の金をスツカリ返して貰つて下さい。それを路銀にして二人が睦じう暮らさうぢやありませぬか』 蠑螈別『ウン、然し男が一旦出したものを返してくれなんて、そんな卑怯未練な事が云はれようか』 お民『エーエ、お前さまはそれだからいつも駄目だと云ふのよ。此先ここを立ち出て乞食でもする積りで御座んすかい』 蠑螈別『成行なら仕方がないぢやないか。あの金だつて俺が働いて造つた金ぢやなし、お寅婆が信者をチヨロまかして貯めた金を何々して来たのだから、そんな執着心は持つものぢやない。サア行かう』 とお民の手をとり引き立てようとする。お民は首を左右にふり、金切り声を出して、 お民『イエイエ此陣営に置いて貰ふのならばお金は必要はありませぬが、忽ち今日から乞食をせねばなりませぬ。なんぼ私だつて、貴方と一緒に乞食する位なら片彦将軍のお妾にでもなりますわ。ほんに気の利かぬ人だな。エー口惜しい、オーンオーンオーン』 蠑螈別『あゝ、それなら仕方がない。ランチさま、何卒私をここに置いて下さい。其代りにお民を片彦将軍に渡す事だけはお断りを申します』 ランチ『実の所はウラナイ教の教主蠑螈別さまは、千変万化の妖術を使ひ、神素盞嗚尊でさへも、ウラナイ教に一指をも染得ざるは蠑螈別の教主あるためだと聞いて居つた所、此間より様子を考へて居れば、見かけ倒しの芸なし猿、女に目を細うして朝から晩まで酒を喰ふばかりが芸当で、何一つ取柄が厶らぬ。もはや此陣中に於てはお前さまの如き偽豪傑はチツトも必要は厶らぬ。然しながら其方の連れ添うて厶るお民は比較的気の利いた女、加ふるに十人並優れた美人と云ひ、片彦将軍の女房には最も適当と認めるによつて、お民をここに残し、とつとと帰つて下され』 蠑螈別『これは怪しからぬ。一旦貴方の幕僚と任命をされた以上は、其様な理由によつて立去る事は出来ませぬ。万一たつて立去れと仰有るならば、之から拙者の法力を以て此陣営をメチヤメチヤに破壊し、其方の生命を刃を用ゐずして奪つて見ませう』 ランチ『アハヽヽヽヽ、何とえらい勢で厶るな。見ると聞くとは大違ひ、今迄ならば其嚇しは利くだらうが、もはや今日となつては内兜を見透した此方、そんな嚇し文句は、いつかないつかな喰ひませぬぞや。何なつと業力を出してランチ将軍の息の根をとめて御覧、それが出来れば拙者の役目をお譲り申す約束を今からしてもよろしい。マサカ其神力は厶るまい。現在お民に秋風を吹かされて居る様な今の体裁、これお民殿、今其方は蠑螈別と乞食する位なら片彦将軍のお妾になると云つたな。ウツフヽヽ出来した出来した天晴天晴、女丈夫の亀鑑、貞女の鑑、名を末代に伝ふであらう』 と脱線だらけの業託を吐いてゐる。 蠑螈別は躍気となり、 蠑螈別『然らば此方の法力によつて此陣中をたたき破り、先づ第一に気の毒ながらランチ将軍の息の根をとめてくれむ。後で後悔召さるな』 と云ひ放ち、次の間へ行つて大自在天の前に数珠をもみながらキチンと端坐し、先づバラモン大自在天を念じ、次に惟神霊幸倍坐世を奏上し、大広木正宗殿、義理天上日の出神と称へ終り、ソロソロ得意の観音経を誦じ初めた。 蠑螈別『真観清浄観広大智慧観 悲観及慈観常願常瞻仰 無垢清浄光慧日破諸闇 能伏災風火普明照世間 悲体戒雷震慈意妙大雲 樹甘露法雨滅除煩悩炎 諍証経官処怖畏軍陣中 念彼観音力衆怨悉退散 妙音観世音梵音海潮音 勝彼世間音是故須常念 念々勿生疑観世音浄聖 於苦悩死厄能為作依怙』 かく一生懸命に汗をタラタラ流しながら観音を念じてゐる。されど観音の感応はありさうもなく、仏が法とも尻喰へ観音とも仏が云はぬので、蠑螈別は業を煮やし、 蠑螈別『エー、仏と云ふ奴は、立派な能書きばかり並べよつて、マサカの時はチツとも間に合はぬものぢやな。もう之から貴様の様な奴は拝んでやらぬわい。之からはこつちから尻喰へ観音ぢや』 とブツブツ呟いて居る其可笑しさ。猫が折角くはへた松魚節を犬にふんだくられた時の様な不足さうな面をして洟をすすつてゐる。 (大正一二・一・一二旧一一・一一・二六[※第1章から第7章の口述日は、版によって相違がある。詳細はオニペディアの「霊界物語第48巻の諸本相違点」を見よ]北村隆光録) |
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霊界物語 | 48_亥_治国別の天国巡覧2 | 10 天国の富 | 第一〇章天国の富〔一二六四〕 現界即ち自然界の万物と霊界の万物との間には、惟神の順序によりて相応なるものがある。又人間の万事と天界の万物との間に動かすべからざる理法があり、又其連結によつて相応なるものがある。そして人間は又天人の有する所を総て有すると共に、其有せざる所をも亦有するものである。人間はその内分より見て霊界に居るものであるが、それと同時に、外分より見て、人間は自然界に居るのである。人の自然的即ち外的記憶に属するものを外分と称し、想念と、これよりする想像とに関する一切の事物を云ふのである。約言すれば、人間の知識や学問等より来る悦楽及び快感の総て世間的趣味を帯ぶるもの、又肉体の感官に属する諸々の快感及び感覚、言語、動作を合せて之を人間の外分となすのである。是等の外分は何れも大神より来る神的即ち霊的内流が止まる所の終極点に於ける事物である。何故なれば、神的内流なるものは決して中途に止まるものでなく、必ずや其窮極の所まで進行するからである。この神的順序の窮極する所は所謂万物の霊長、神の生宮、天地経綸の主宰者、天人の養成所たるべき人間なのである。故に人間は総て神様の根底となり、基礎となるべき事を知るべきである。又神格の内流が通過する中間は高天原にして、其窮極する所は即ち人間に存する。故に、又この連結中に入らないものは何物も存在する事を得ないのである。故に天界と人類と和合し連結するや、両々相倚りて継続存在するものなる事を明め得るのである。故に天界を離れたる人間は鍵のなき鎖の如く、又人類を離れたる天界は基礎なき家の如くにして、双方相和合せなくてはならないものである。 斯の如き尊き人間が、其内分を神に背けて、高天原との連絡を断絶し、却て之を自然界と自己とに向けて、自己を愛し、世間を愛し、其外分のみに向ひたるにより、従つて人間は其身を退けて再び高天原の根底となり、基礎となるを得ざらしめたるによつて、大神は是非なく、茲に予言者なる媒介天人を設けて之を地上に下し、其神人をもつて天界の根底及び基礎となし、又之によつて天界と人間とを和合せしめ、地上をして天国同様の国土となさしめ給ふべく、甚深なる経綸を行はせたまうたのである。この御経綸が完成した暁を称して、松の代、ミロクの世、又は天国の世と云ふのである。そして厳の御霊、瑞の御霊の経緯の予言者の手を通じ口を通じて聖言を伝達し、完全なる天地合体の国土を完成せしめむとしたまうたのである。大本開祖の神諭に『天も地も一つに丸めて、神国の世に致すぞよ。三千世界一度に開く梅の花、須弥仙山に腰を掛け艮の金神守るぞよ。この大本は天地の大橋、世界の人民は此橋を渡りて来ねば、誠のお蔭は分らぬぞよ』と平易簡明に示されて居るのである。されど現代の人間は却てかかる平易簡明なる聖言には耳を藉さず、不可解なる難書を漁り、是を半可通的に誤解して其知識を誇らむとするのは実に浅ましいものである。 治国別は竜公と共に言霊別命の化相身なる五三公に案内され、珍彦の館を後にして中間天国の各団体を訪問する事となつた。五三公は得も云はれぬ麗しき樹木の秩序よく間隔を隔てて点綴せる、金砂銀砂の布きつめたる如き平坦路をいそいそとして進んで往く。道の両方には、天国の狭田、長田、高田、窪田が展開し、得も云はれぬ涼風にそよぐ稲葉の音はサヤサヤと心地よく耳に響いて来る。天人の男女は得も云はれぬ麗しき面貌をしながら、瑪瑙の如く透き通つた脛を現はし、水田に入つて草取をしながら勇ましき声に草取歌を歌つて居る。太陽は余り高からず頭上に輝きたれども、自然界の如く焦げつくやうな暑さもなく、実に入り心地のよい温泉に入つたやうな陽気である。さうして此天国には決して冬がない、永久に草木繁茂し、落葉樹の如きは少しも見当らない。田面は金銀色の水にて満たされ、稲葉は青く風に翻る度毎に金銀の波を打たせ、何とも筆舌の尽し難き光景である。五三公は途中に立ち止まり、二人を顧みて微笑みながら、得も云はれぬ喜びの色を湛へて、 五三公『治国別様、御覧なさいませ、天国にも矢張り農工商の事業が営まれて居ます。さうしてあの通り各人は一団となつて其業を楽しみ、歓喜の生活を送つて居ります。実に見るも愉快な光景ぢやありませぬか』 治国別『成程、実に各人己を忘れ一斉に業を楽しむ光景は、到底現界に於て夢想だも出来ない有様で厶いますな。さうして矢張彼の天人共は各自に土地を所有して居るので厶いますか』 五三公『イエイエ、土地は全部団体の公有です。地上の世界の如く大地主、自作農又は小作農などの忌はしき制度は厶いませぬ、皆一切平等に何事も御神業と喜んで額に汗をし、神様のために活動して居るのです。さうして事業に趣味が出来て、誰一人不服を称ふる者もなく、甲の心は乙の心、乙の心は甲の心、各人皆心を合せ、何事も皆御神業と信じ、あの通り愉快に立ち働いて居るのです』 治国別『さうすれば天国に於ては貧富の区別はなく、所謂社会主義的制度が行はれて居るのですか』 五三公『天国にも貧富の区別があります。同じ団体の中にも富者も貧者もあります。併しながら、貧富と事業とは別個のものです』 治国別『働きによつて其報酬を得るに非ざれば、貧富の区別がつく筈がないぢやありませぬか。同じやうに働き、同じ物を分配して生活を続ける天人に、どうして又貧富の区別がつくのでせうか』 五三公『現界に於ては、総て体主霊従が法則のやうになつて居ます。それ故優れたもの、よく働くものが多く報酬を得るのは自然界のやり方です。天国に於ては総てが神様のものであり、総ての事業は神様にさして頂くと云ふ考へを何れの天人も持つて居ります。それ故天国に於ては貧富の区別があつても、貧者は決して富者を恨みませぬ。何人も神様のお蔭によつて働かして頂くのだ、神様の御神格によつて生かして頂くのだと、日々感謝の生活を送らして頂くのですから、貧富などを天人は念頭に置きませぬ。そして、貧富は皆神様の賜ふ所で、天人が各自の努力によつて獲得したものではありませぬ。何れも現実界にある時に尽した善徳の如何によりて、天国へ来ても矢張り貧富が惟神的につくのです。貧者は富者を見て之を模範とし、善徳を積む事のみを考へて居ります。天国に於ける貧富は一厘一毛の錯誤もなく、不公平もありませぬ。其徳相応に神から授けらるるものです』 治国別『天国の富者とは、現界に於て如何なる事を致したもので厶いませうか』 五三公『天国団体の最も富めるものは、現界にある中によく神を理解し、愛のために愛をなし、善のために善をなし、真の為に真を行ひ、自利心を捨て、さうして神の国の建設の為に心を尽し身を尽し、忠実なる神の下僕となり、且又現界に於て充分に活動をし、其余財を教会の為に捧げ、神の栄と道の拡張にのみ心身を傾注したる善徳者が所謂天国の富者であります。約り現界に於て宝を天国の庫に積んで置いた人達であります。さうして中位の富者は、自分の知己や朋友の危難を救ひ、又社会公共の救済の為に財を散じ、隠徳を積んだ人間が、天国に来つて大神様より相応の財産を賜はり安楽に生活を続けて居るのです。そして天国で頂いた財産は総て神様から賜はつたものですから、地上の世界の如く自由に之を他の天人に施す事は出来ませぬ。ただ其財産を以て神様の祭典の費用に当てたり、公休日に天人の団体を吾家に招き、自費を投じて馳走を拵へ大勢と共に楽しむので厶います、それ故に天国の富者は衆人尊敬の的となつて居ります』 治国別『成程、実に平和なものですな、本当に理想的に社会が造られてありますなア』 竜公はしやしやり出で、 竜公『モシ五三公さま、もしも私が天国へ霊肉脱離の後、上る事を得ましたならば、定めて貧乏人でせうな』 五三公『アヽさうでせう、唯今直に天国の住民となられるやうな事があれば、貴方はやはり第三天国の極貧者でせう。併し再び現界に帰り、無形の宝と云ふ善の宝を十分お積みになれば、天国の宝となり、名誉と光栄の生涯を永遠に送る事が出来ませう』 竜公『それでは聖言に、貧しきものは幸なるかな、富めるものの天国に到るは針の穴を駱駝の通ふよりも難し、と云ふぢやありませぬか』 五三公『貧しきものは常に心驕らず、神の教に頼り、神の救ひを求め、尊き聖言が比較的耳に入り易う厶いますが、地上に於て何不自由なく財産のあるものは、知らず知らずに神の恩寵を忘れ、自己愛に流れ易いものですから、其財産が汚穢となり暗黒となり或は鬼となつて地獄へ落し行くものです。若しも富者にして神の為に尽し、又社会のために隠徳を積むならば、天国に上り得るの便利は貧者よりも多いかも知れませぬが、世の中はようしたもので富者の天国に来るものは、聖言に示されたる如く稀なものです。其財産を悪用して人の利益を壟断し、或は邪悪を遂行し、淫欲に耽り、身心を汚し損ひ、遂に霊的不具者となつて大抵地獄に落つるものです。仮令天国に上り得るにしても、天国に於ける極貧者です』 竜公『治国別さまが、今天国の住民となられましたら何んなものでせう、相当の富者になられませうかなア』 五三『ハヽヽヽヽ』 と笑つて答へず。 竜公『ヤア先生も怪しいぞ、矢張これから天国の宝をお積にならねばなりますまい』 五三『サア是から霊陽山の名所に御案内致しませう』 と早くも歩を起した。二人は後に従ひ、麗しき原野を縫うて、樹木点綴せる天国街道を歓喜に満たされながら進んで往く。五三公は霊陽山の麓に辿りついた。 五三公『此処が第二天国の有名なる公園地で厶います。今日は公休日で厶いませぬから、余り天人の姿も見えませぬが、これ御覧なさいませ、あの山の景色と云ひ、岩石の配置、樹木の色、花の香、到底地上の世界では見られない景色で厶いませう』 治国『ハイ、何だかぼんやりとして、私の目には入りませぬ』 五三公『被面布をお被りなさい、さうすればハツキリと分るでせう』 治国別『ハイ』 と答へて治国別は直に被面布を被つた。竜公も同じく被面布に面を包んだ。 治国『何故、吾々の目には被面布がなくては、此麗しき景色が目に入らないのでせうか』 五三公『失礼ながら、天国の智慧に疎きものは此樹木花卉が目に入らないのです。総て神の智慧に居るものの前には、各種各様の樹木花卉にて満ちたる楽園の現はれるものです。是等の樹木は最も麗しき配列をなし、枝々交叉して得も云はれぬ装ひをなし、薫香を送るものです。総て天国は想念の国土でありますから、貴方に神的智慧が満つれば、直ちに天国の花園が眼前に展開致します。園亭あり、行門あり、行径あり、行く道の美麗なる事、言語の尽す所ではありませぬ。故に神の智慧に居るものは、斯の如き楽園の中を漫歩しながら、思ひ思ひに花を摘み花鬘を作りなどして、楽しく嬉しく暮し得るものです』 治国別『成程、此楽園には被面布を透して眺めますれば、種々雑多の樹木、花卉の吾々地上に嘗て見ざるものが沢山ございますな』 五三公『是等の麗しき樹木は正しき神の知識に居るものの愛の徳如何によりて花を開き実を結ぶものです。厳の御霊の神諭にも「一度に開く梅の花、開いて散りて実を結び、スの種を養ふ」とあるでせう。開く梅の花とは、智慧と証覚とに相応する情態の謂であります。斯くなる時は、天国の園亭や楽園に実を結ぶ樹木及び花卉は神の供へ物として、又天人各自の歓喜の種として各自の徳によつて現前するものです。高天原には斯の如き楽園のある事は聞いては居りますが、唯是を実際に知る者は、唯神よりする愛善の徳に居る者及び自然界の光と其偽りとによつて自己の胸中にある所の天界の光を亡ぼさなかつた者に限つて居ります。故に高天原に対して目未だ見えざるもの、耳未だ聞えざるものは、現に其場に近づき居ると雖も、此光景を見る事も亦斯の如き麗しき音楽の声を聞く事も出来ませぬ』 治国別『種々の御教諭、いや有難う厶いました。これで吾々も大変に神様の御恵を頂き、どうやら被面布を取つてもこの花園の光景が見えるやうになつて参りました。嗚呼神様、言霊別命様の御化身なる五三公様の口を通して、天国の福音をお示し下さつた其御恵を有難く感謝致します。アヽ惟神霊幸倍坐世』 (大正一二・一・一三旧一一・一一・二七加藤明子録) |
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霊界物語 | 48_亥_治国別の天国巡覧2 | 11 霊陽山 | 第一一章霊陽山〔一二六五〕 高天原に発生せる樹木は、仏説にある如く金、銀、瑪瑙、硨磲、瑠璃、玻璃、水晶等の七宝を以て飾られたるが如く其幹、枝、葉、花、果実に至るまで、実に美はしきこと口舌の能く尽し得る所ではない。神社や殿堂や其他の住宅に於ても、内部に入つて見れば、愛善の徳と信真の光明に相応するによつて、これ亦驚く許りの壮観であり美麗である。大神のしろしめす天国団体を組織せる天人は大抵高い所に住居を占めてゐる。其場所は自然界の地上を抜く山岳の頂上に相似して居る。又大神の霊国団体を造れる天人は、少し低い所に住居を定めて居る。恰も丘陵の様である。されど高天原の最も低き所に住居する天人は、岩石に似たる絶景の場所に住居を構へてゐる。而して之等の事物は凡て愛と信との相応の理によつて存在するものである。 大神の天国は、凡て想念の国土なるを以て、内辺の事は高き所に、外辺の事はすべて低い所に相応するものである。故に高い所を以て天国的の愛善を表明し、低い所を以て霊国的の愛善を現はし、岩石を以て信真を現はすのである。岩石なるものは万世不易の性質を有し、信真に相応するが故である。併しながら霊国の団体は低き所に在りとはいへ、矢張地上を抜く丘陵の上に設けられてある。丁度綾の聖地に於ける本宮山の如きはその好適例である。霊国は何故天国の団体よりも稍低き所に居住するかと云へば、凡て霊国の天人は信の徳を主とし、愛の徳を従として居る。所謂信主愛従の情態なるが故に、此国土の天人は智慧と証覚を研き、宇宙の真理を悟り、次で神の愛を能く其身に体し、天国の宣伝使として各団体に派遣さるるもの多きを以て、最高ならず最低ならず、殆ど中間の場所に其位置を占むる事になつてゐるのである。故に世界の大先祖たる大国常立尊は海抜二百フイート内外の綾の聖地に現はれ給ふにも拘はらず、木花咲耶姫命は海抜一万三千尺の天教山に其天国的中枢を定め給ふも、此理によるのである。併しながら木花姫命は霊国の命を受け、天国は云ふに及ばず、中有界、現実界及び地獄界まで神の愛を均霑せしむべき其聖職につかはせ給ひ、且神人和合の御役目に当らせ給ふを以て、仮令天国の団体にましますと雖も時々化相を以て精霊を充たし、或は直接化相して万民を教へ導き給ふのである。 又天人の中には団体的に生活を営まないのがある。即ち家々別々に住居を構へてゐるのは、丁度前に述べた珍彦館の如きは其例である。而して此等の天人は其団体の中心地点及大なるものに至つては高天原の中央を卜して住居を構へてゐる。何故なれば彼等は天人中に於ても、最も愛と信とによる智慧証覚の他に優れて、光明赫灼として輝き渡り、惟神的に中心人物たるが故に、大神の摂理によりて、其徳の厚きと相応の度の高きによるが故である。而して高天原は想念の世界なるが故に、其延長は善の情態を表はし、其広さは真の情態を表はし、其高さは善と真との両方面を度合の上より見て区別することを表はすものである。又霊界に於ては先に述べた通り、時間空間などの観念は少しもない、只情動の変化あるのみである。而して其想念は、時間空間を超越し、無限に其相応の度によつて延長し拡大し且高まるものである。 治国別、竜公二人が浮木の陣営に於て片彦将軍等の奸計に陥り、暗黒なる深き陥穽に墜落し、茲に人事不省となり、其間中有界及最下層の天国より最高の天国、霊国を巡覧したる期間は余程長い旅行の様であるが、現界の時間にすれば、殆ど二時間以内の間失神状態に居つたのである。されど想念の延長によりて、現界人の一ケ月以上もかかつて巡歴した様な長時間の巡覧をなしたのである。而して情動の変化が多ければ多い程、天国に於ては延長さるるものである。 治国別、竜公は言霊別命の化相神なる五三公に導かれ、天国の消息を詳細に教へられながら、霊陽山の殆ど中央まで登りつめた。此時五三公は目も呟き許りの小さき光団となつて、驀地に東を指して、空中に線光を描きながら、何処ともなく姿を隠して了つた。二人は霊陽山の頂上に立つて、四方の景色を瞰下しながら、天国の荘厳をうつつになつて褒め称へてゐた。さうして五三公の此場に姿を隠したことは少しも気がつかず、 竜公『モシ先生、此処は霊陽山とか聞きましたが、実にいい所ですなア、最早此処は最高天国ではありますまいか。四辺の樹木と云ひ、山容と云ひ、如何なる画伯の手にも到底描くことは出来ますまい。どうかして早く現界の御用を了へ、斯様な所に楽しき生涯を送りたいものですなア』 治国別『いかにも結構な所だ。現界人が美術だとか、耽美生活だとか、文化生活だとか、いろいろと騒いでゐるが、此光景に比ぶれば、其質に於て、其量に於て、其美に於て、到底比較にならないやうだ。そして何とも言へぬ吾心霊の爽快さ、ホンに斯様な結構な所があるとは、夢想だにもしえなかつた所だ。此治国別は第一天国ともいふべき斎苑の館に永らく仕へながら、未だ愛信の全からざりし為、瑞の御霊の大神のまします地上の天国が、さまで立派だとは思はなかつた。矢張如何なる荘厳麗美と雖も、心の眼開けざる時は到底駄目だ。恰も豚に真珠を与へられたやうなものだ。これを思へば吾々はあく迄も神に賦与されたる吾精霊を研き浄め、大神の神格に和合帰一せなくてはならない。アヽ実に五三公様の口を通して、かやうな至喜と至楽の境遇に吾々を導き、無限の歓喜に浴せしめ給ひしことを、有難く大神様の御前に感謝致します。アヽ惟神霊幸倍坐世』 と云ひながら拍手をうち、天津祝詞を奏上し了つて、天の数歌を歌ひ、あたりを見れば、豈計らむや、五三公の姿は眼界の届く所には其片影だにも認め得なかつた。治国別は驚いて、 治国別『ヤア竜公さま、五三公さまは何処へ行かれたのだらう、今迄月の如く輝いてゐられたあの霊姿を拝めなくなつたぢやないか』 竜公『成程、コリヤ大変だ、何う致しませう』 治国別『どうしようと云つても、仕方がない、之も神様の御試しだらうよ。四辺の光景に憧憬の余り、五三公様の御親切な案内振を念頭より取除いてゐた。凡て天国は相応と和合の国土だ。愛と信とによつて和合し、結合するものである。即ち想念によつて尊き神人と共にゐることを得たのだ。吾々が情動の変転によつて、吾心の中より五三公様を逃がして了つたのだ。アヽ惟神霊幸倍坐世』 と又もや合掌する。 竜公『成程、さうで厶いましたなア、私も余り嬉しいので、五三公様の御導きによつて未だ中有界に彷徨ふべき身が、かかる尊き天国まで導かれながら、うつかりと自分が勝手に上つて来たやうな気分になつて、無性矢鱈に天国を吾物のやうに思ひましたのが誤りで厶います。先生、何と厳の御霊の神諭にあります通り、高天原は結構な所の恐ろしい所で厶いますな。油断をすれば忽ち天国が変じて地獄となり、明は変じて暗となり、神は化して鬼となるとお示しの通り、実に戒慎すべきは心の持方で厶いますなア』 治国別『ハイ左様、吾々は最早斯うなる以上は、再び中有界へ帰り、現界へ復帰すべき道も分らない、又どこをどう歩いたらいいか、方角さへも判然せない、天国の迷児になつたやうなものだ。アヽ心の油断ほど恐ろしいものはない。只大神様にお詫をなし、救ひをお願ひするより道はなからう』 と話す折しも、足下の土をムクムクムクと土鼠のやうに膨らせながら、ポカンと頭をつき出したのは、片彦将軍であつた。二人は驚いて、無言の儘よくよく見れば、擬ふ方なき将軍は泥酔になつて、全身を山上に現はし、 片彦『ワハツハヽヽ』 と山も崩るるばかり高笑ひした。 治国『ヤア其方は河鹿峠にてお目にかかつた片彦将軍では厶らぬか』 片彦『ワハツハヽヽヽ、其方は盲宣伝使の治国別であらう。そしてマ一匹の小童武者は某が奴、暫く秘書を命じておいた竜公であらう。悪虐無道の素盞嗚尊に諛びへつらひ、大自在天大国彦命の宣伝使兼征討将軍の片彦に向つて刃向ひを致した極重悪人奴、能くもマア悪魔にたばかられ、斯様な処へ彷徨つて来よつたなア。天下一品の大馬鹿者奴、某が計略によつて、八岐大蛇や金毛九尾の悪狐を使ひ、汝を、天国とみせかけ、此処まで連れて来たのは此方の計略だ、どうだ、大自在天の神力には恐れ入つたか、アハツハヽヽヽハア、何とマア不思議さうな顔を致してをるワイ、イヒヽヽヽ、オイ竜公、其方も其方だ。主人に反いた大逆無道の痴者、どうだ、此霊陽山と見せかけたのはバラモン教の霊場、大雲山の頂辺で厶るぞ。あれ、あの声を聞け、雲霞の如き大軍を以て、当山を十重二十重に取巻きあれば、いかに抜山蓋世の智勇あるとも、到底逃るることは出来まい、治国別、返答はどうだ』 治国別は、 治国別『ハテ心得ぬ』 と云つたきり、双手を組んで暫し想念をたぐつてゐる。竜公も亦無言の儘、俯いてゐる。 片彦『アツハヽヽヽ、エツヘヽヽヽ、如何に治国別、モウ斯うなる以上は何程考へても後へは引かぬ。サアどうだ。キツパリと素盞嗚尊の悪神を棄てて、大自在天様に帰順致すか』 治国別『サアそれは……』 片彦『早く返答致せ。返答なきは不承知と申すのか。アイヤ家来の者共、治国別、竜公の両人をふん縛り、嬲り殺しに致せ』 竜公『将軍様、暫くお待ち下さいませ』 片彦『アハヽヽヽ、往生致したか。ヨシ、然らば此処に此通り黄金を以て作りたる素盞嗚尊の像がある。治国別、竜公共に命が助かりたくば、此像に向つて小便をひつかけ、其上此岩石を以て木端御塵に打砕き、大自在天様に帰順の誠を表はせ。否むに於ては、其方が身体は木端微塵、地獄に突き墜し、無限の責苦を加へるが、どうだ』 治国別は初めて顔をあげ、大口あけて高笑ひ、 治国別『アハヽヽヽ、拙者は厳の御霊、瑞の御霊の大神を信仰致す誠の宣伝使だ、仮令汝如き悪神に脅迫され、或は責め殺さるることありとも、吾心霊は万劫末代、大神に信従するのみだ。治国別はこれ以外に汝に答ふることはない、どうなりと勝手に致したがよからう』 片彦『勝手に致せと申さいでも、此方が制敗を致してくれる。併しながら竜公、其方は憎くき奴なれど、一旦某が部下となつたよしみによつて制敗は許して遣はす。其代りに治国別をこの金剛杖を以て打ちのめせ、さうすれば汝の誠が分るであらう。何うぢや、治国別を打ちのめす勇気はないか。矢張其方は二心を持つてゐるのか。返答致せツ』 と呶鳴りつけた。其声に不思議にも、あたりの山岳はガタガタガタと震動し始めた。竜公は少時双手を組み思案にくれてゐたが、忽ち威丈高になり、 竜公『コリヤ、悪神の張本片彦奴、汝は拙者の一時主人に間違ひはない。其主人に離れたるのは汝が行動天に背き、善に離れたるが故だ。仮令拙者が汝の為に一寸刻みか五分だめしに遇はされようとも、恩情深き治国別様の御身に、何うして一指をそむることが出来ようか。ここを何と心得て居る、第二天国の神聖な場所だ、大雲山などとは思ひもよらぬ、詐りを申すな。天国には虚偽と迫害と悪はない筈、其方は要するに天国の魔であらう』 と云ひながら………「厳の御霊、瑞の御霊、守り給へ幸はへ給へ」と拍手し、音吐朗々と怖めず臆せず神言を奏上し始めた。治国別も竜公と共に神言をいと落着いた調子で奏上し始めた。片彦は何時の間にやら数多の部下を集め、金棒をふり上げ、只一打に両人を粉砕せんず勢を示してゐる。治国別、竜公両人は胆力を据ゑ、声調ゆるやかに騒がず焦らず、神言を奏上し終り、「惟神霊幸倍坐世」と唱ふるや否や、今迄ここに立つてゐた片彦他一同の姿は煙の如く消え失せ、四辺に芳香薫じ、嚠喨たる音楽さへ頻りに聞え来るのであつた。 竜公『アハヽヽヽ、猪口才千万な、バラモン教を守護致す八岐大蛇奴、畏くもかかる天国迄化けて来やがつて、尊き神言に面喰ひ、屁のやうに消え散るとは、さてもさても神様の御神力は尊いものだ。アヽ有難う厶います。惟神霊幸倍坐世』 治国別『竜公さま、ここは第二天国、しかも霊陽山の頂だ。八岐大蛇の来るべき道理がない、大方これは神様の御試しだつたらう。私も一度は悪魔の襲来かと考へてみたが、よくよく思ひ直せば、かかる天国に悪魔の来るべき理由がない。若しも彼果して悪魔なりとせば、吾等は天国と思ひ、慢心して地獄に墜ちてゐたのであらう……と考へてみたが、忽ち心中の天海開けて神様の御神格の内流に浴し、矢張第二天国なることを悟り、且片彦と見えしは尊きエンゼルの、吾等が心を試させ給ふ御所為と信ずるより外に途はない、必ず必ず悪魔などと、夢にも思つてはなりませぬぞや』 竜公『仰せ御尤もで厶います。サア先生、どうでせう、これから霊陽山を下つて、又天国の団体を修業さして頂きませうか』 かくいふ所へ、忽然として現はれ給うたのは、三十恰好の美はしき容貌をもてる一柱の神人であつた。神人は治国別の側近く寄り、其手を固く握り、 神人『治国別さま、第二天国の団体は無数無辺にありますが、貴方は第二天国の試験に合格致しました。又竜公さまも其通り、余程証覚を得られたやうです。之から拙者が最奥第一の天国及び霊国を御案内致しませう。併しながら此第二天国に比ぶれば、最高天国の光明は殆ど万倍に匹敵するものです。而して其天国に住む諸天人は、善と真とより来る智慧証覚に充ち、容易に面を向くることが出来ませぬ。其団体の天人に会ふ時は忽ち眼くらみ、言句渋り、頭は痛み、胸は塞がり、四肢五体萎縮して非常な苦痛で厶いますが、貴方等両人は天国の試験に合格されましたから、其被面布を以て最奥天国の巡覧的修業をなさいませ。拙者が案内を致しませう』 と先に立ち、雲を踏み分けてのぼり行く。二人は一生懸命に神言や天津祝詞を交る交る奏上しながら、フワリフワリと雲の橋を渡つてのぼり行く。此神人は言霊別命であつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・一・一三旧一一・一一・二七松村真澄録) |
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霊界物語 | 48_亥_治国別の天国巡覧2 | 13 月照山 | 第一三章月照山〔一二六七〕 治国別、竜公両人は、十二人のエンゼルに導かれ、宮殿の奥深く進み入つた。併しこの宮殿は都率天の前殿とも前宮とも称へられ、最奥の御殿ではなかつた。最奥の御殿は大至聖所と称へられ、大神の御居間である。此居間は、如何なる徳高きエンゼルと雖も一歩も踏み入れる事は出来ない。日の若宮と称へられ、大神は高天原の太陽として御姿を現じたまふ所である。故に証覚の最も勝れたる天人のみ、遥に其お姿を八咫の鏡の如く拝するを得るのみである。神は総て円満の相にましますが故に、此処にては太陽と現はれ給ひ、其御光は自然界の太陽の幾百倍とも知れない光を放たせたまひ、容易に仰ぎ拝する事は出来ない。併し大神は諸団体の天人の前に太陽として現はれ給ふ時がある。其時は和光同塵的態度をもつて、第一天国の天人には地上に於ける太陽の七倍の光をもつて現はれたまひ、第二天国に在りては五倍の光をもつて現はれたまひ、第三天国には二倍の光をもつて現はれたまふが例のやうに承はる。これはほんの大要であつて、各団体、各天人個々の善徳の如何によりて、其光に強弱の度があるのである。又時には一個の天人となつて団体中に現はれ給ふ時もある。さうして最奥の大至聖所に於ける大神の御経綸と其御準備に至りては、如何なる証覚の勝れたる天人と雖も、明白に之を意識する事は出来ない。其故は至貴至尊にして至智至聖なる大神の御神慮は天人の思慮の及ぶ所に非ず、証覚の達せざる所なるが故である。 高天原の天界に於て一切を統合するものは即ち善徳である。此善徳の性相の程度の如何によつて天界に差別を生ずるに至るものである。さうして斯の如く諸天人を統合するは、決して天人が自作の功に非ずして善徳の源泉たる大神の御所為である。大神は総ての天人を導き、之を和合し、之を塩梅し又其善徳に住する限り之をして自由に行動せしめ給ふのである。斯くて大神は天人をして各其所に安んぜしめ、愛と信と智慧と証覚を得て其生涯を楽しましめ給ふのである。故に大神の御側へは容易に進む事は出来ない。言霊別命は奥殿深く進み給ひ、治国別、竜公は神界の都合によりて或機会により、天国巡覧修業に上り来りし由を奏上し、大神の許しを受け、茲に盛大なる酒宴を前殿に於て催さるる事となつた。先づ正面には言霊別命正座し、相並んで西王母其右に座を占め、治国別、竜公は其傍に座席を設けられた。さうして十二人のエンゼルは麗しき葡萄の酒を雲脚机に載せ、恭しく目八分に捧げて四人の前に静に之を据ゑた。次には麗しき桃の実を雲脚机に一つ一つ載せ、一つは治国別の前に、一つは竜公の前にキチンと据ゑられた。西王母は玻璃の盃を先づ言霊別命にさし、葡萄酒をなみなみとつぎ給うた。言霊別命は押頂いて之を飲み、盃洗の水に洗ひ、懐より紙を取出し、盃をよく拭き清め治国別にさした。治国別は押頂き、西王母より葡萄酒を又八分ばかり注がれ、幾度も押頂いて之を飲み、又もや盃洗に滌ぎ拭き清めて竜公に渡した。竜公は盃を押頂き、感謝の涙に暮れて居る。西王母は膝をにじり寄せ、竜公の盃に半分ばかりつがせたまうた。之にて盃は終りをつげた。一人の天女は徳利や盃を雲脚机に据ゑた儘目八分に持ち、次の間に運んだ。この葡萄酒は大神の血と肉とにもたとふべき最も貴重なる賜であつた。この酒を飲む時は心の総ての汚れを払拭し、広大なる神力を授かり、且つ永遠の生命をつなぎ得るものである。次に西王母は天女の運び来りし二個の桃を両人に与へ、速かに此場に於て食すべき事を命じ給うた。二人は命の儘に押頂き、其風味に驚喜しつつ静かに腹中に納めて仕舞つた。不思議にも種は米粒の如く小さく、いつとはなしに種もろとも咽喉を通つて仕舞つたのである。この桃実は前園に実りしものにして、三千年の齢を保つと云ふ目出度き神果である。西王母は一言も言葉を発したまはず、ニコニコとしながら二人の顔を嬉しげに眺め居たまうた。十二の天女は笛、太鼓、鼓、羯鼓、其外種々の楽器を吹奏し、面白き歌を爽かな声にて歌ひ、其中の最も若く見ゆる四人の天女は長袖淑に胡蝶の舞を舞ひ終り、一同に辞儀をなし、衣摺れの音サヤサヤと次の間に姿を隠した。さうして竜公は、玉依別と云ふ神名を賜ひ、喜び勇む事一方ならず、何事か歌を歌つて、感謝の意を表せむとしたが、天国の光に打たれ、是亦一言も発し得なかつた。 西王母がこの二人に向つて此宴席に於て一言も言葉を発したまはなかつたのは、畏れ多き大神のお側近き前殿であつたから、遠慮をせられたのである。西王母の如き尊き証覚の神さへ謹慎を表し、一言も発したまはざる位なれば、言霊別命も亦沈黙を守り、治国別、玉依別は、一言を発せむにも発し得なかつたのである。 暫くあつて以前の舞姫は、二人の麗しき婦人を先に立て此場に現はれて来た。治国別は其二人の女に何処ともなく見覚えのあるやうな感がしたので、頻りに首を傾げよく見れば、豈計らむや、先に立つた女は紫姫であつた。さうして紫姫は、玉照彦を嬉しげに懐に抱き、何事か玉照彦に向つて顔の表情をもつて囁きつつ西王母の左側に座を占めた。も一人の女をよく見れば、お玉の方であつた。お玉の方は玉照姫を懐に抱き、同じく何事か表情をもつて玉照姫に囁きながら静々と西王母が右側に座をしめた。治国別、玉依別の両人はハツと驚き思はず知らずアヽと云つたが、其後の言葉は継げなかつた。西王母は紫姫、お玉の方に目配せし給うた。紫姫はスツと立つて治国別の前に座をしめ、得も云はれぬ笑顔を作りながら玉照彦を治国別の懐に抱かせた。又お玉の方はスツと立つて玉依別の前に進みより、嬉しげに笑顔を作り、玉照姫を玉依別に抱かしめ、二人は静々と西王母の左右にかへつた。暫くすると天女二人、治国別、玉依別の前に現はれ、一人は玉照彦を、一人は玉照姫を大事さうに抱へ、奥殿の大神の御殿をさして足音を忍ばせながら静に進み入つた。言霊別命は西王母に目礼をなし、二人を手招きしながら此御殿を出でて往く。二人は同じく西王母に目礼をなし、言霊別の後に従ひ前殿を出でて往く。それより中門を潜り表門に出た。 因に此前殿に於て、玉照彦、玉照姫を抱かせたまひたるは、深き意味のおはする事ならむも、二人は其何の意たるかを解し得なかつた。併し何れは其意味の判然する時が来るであらう。読者は楽しんで発表の時機を待たれむ事を希望する次第である。 三人は表門に出た。幾千人とも知れぬ麗しき天人は、各麗しき金色の旗を神風に翻へしながら、言霊別命他二人の前途を祝する如く見えた。二人は夢ではないかと思ひながら、麗しき樹木や花卉の道の両側に茂れる金砂の敷きつめたる如き坦々たる大道を、天津祝詞を奏上しながら、数多の天人が喜びの声に送られて、何処ともなく、言霊別命と共に進み往くのであつた。 言霊別命は、とある麗しき山上に二人を伴ひ、四方の風景を眺めながら、此処に腰を下し休息をした。二人も同じく側に腰を下し、天国の荘厳に打たれて唖然たるばかりであつた。 言霊『治国別さま、玉依別さま、大変な貴方はお蔭を頂きましたなア、お祝ひ申します』 治国『何ともお礼の申し様が厶いませぬ。大神様は貴方の御身を通し、吾々如きものに斯かる尊き神庭に導きたまひ、結構な賜物まで頂きまして、何とも早や感謝の情に堪へませぬ』 玉依『私も色々と御神徳を頂いた上、神名まで賜はりまして、実に何と申してよろしいやら、吾任務の益々重大なるを悟りました。これと申すも全く大神様の御仁慈、貴神様の御取りなし、実に感謝に堪へませぬ』 言霊別『拙者は大神様の命に依りてお取次を致したばかり、感謝を受けては困ります。総て天国のものは何事も皆神様の御所為と信じて居りますれば、感謝などせられては実に困ります。貴方等に感謝の言葉を受けるのは、要するに神様の御神徳を私する事になります。何卒此後は如何なる事ありとも、私に対して感謝の言葉を云つて下さるな。是ばかりは固く願つて置きます。どうぞ神様に感謝して下さいませ』 治国『ハイ有難う厶います、キツと今後は心得ませう』 と云ひながら両手を合せ、茲に両人は紫微宮の方に向つて感謝の祝詞を奏上した。 言霊別『此処は第一天国の楽園で、聖陽山と申します。皆さま、被面布をお除りなさいませ。最早此処迄参りました以上は、お除りになつても能く分ります。貴方は前殿に於て生命の酒を与へられ、加ふるに結構な桃の実迄も与へられ給うたのですから、もはや最高天国の諸団体を御巡覧になつても目の眩むやうな事もなく、又総ての天人の言語も明瞭に分ります。私はこれにて貴方等に対する今回の使命は終りました。どうぞ自由に天国団体をお廻り遊ばし、月の大神のまします霊国の月宮殿に御参拝の上、御帰顕あらむ事を望みます、さらば』 と云ひながら、又もや大光団と化して、天の一方に其英姿を隠させたまうた。二人は其後を眺め、暫く伏し拝み居たりしが、治国別は玉依別に向ひ、 治国別『ヤア玉依別殿、実に結構な事では厶らぬか。言霊別命様は昔の神様と承はつて居たが、現在吾前に現はれて、種々と結構な教訓を垂れたまひ、又もや五三公となつて身を下し、吾等を導きたまひし其尊さ、有難さ、治国別はもはや感謝の言葉さへ出なくなりましたよ』 玉依別(竜公)『仰せの如く結構な御導きに預かり、こんな嬉しい事は復と厶いますまい。アヽ神様、この悦びと栄えをして永遠に吾等に臨ませたまへ、惟神霊幸倍坐世』 治国別『惟神霊幸倍坐世』 と手を拍ち感謝の涙に袖を霑して居た。是より二人は天国の諸団体を一々訪問し、各団体の天人より意外の優遇を受け、感謝に満ちた境涯を送りながら、是より霊国の月宮殿に詣でむと聖陽山を乗り越え、霊国の中心を目当に道々祝詞を奏上しながら進み往く。 局面忽ち一変して紫、赤、黄、白さまざまの花咲き匂ふ大野ケ原に二人は立つて居た。 玉依別(竜公)『モシ治国別さま、見渡す限り際限なき百花爛漫たる大原野、これが所謂霊国で厶いませうかなア』 治国別『サア、霊国らしう厶いますなア。誰人か天人に会つて尋ねたいものです』 と話す折しも、一人の宣伝使、霊光に四辺を輝かせながら後より足早に、オーイオーイと声かけ進み来る。二人は立ち止まり、宣伝使の吾側に近づくを待つて居た。 宣伝使(大八洲彦命)『私は大八洲彦命と申す霊国の宣伝使で厶います。貴方は治国別、玉依別のお二方では厶いませぬか』 二人はハツと大地に踞み、 治国別、玉依別『ハイ、仰せの通り、治国別、玉依別の両人で厶います。貴方は吾々が日頃慕ひまつる月照彦様の前身、大八洲彦命様で厶いましたか、存ぜぬ事とて甚い失礼を致しました。何卒不都合の段お赦しを願ひます』 と嬉し涙に暮れながら答へた。大八洲彦命は両人を従へ、スタスタと東を指して進み往くその足の早さ。二人は後れじと一生懸命にチヨコチヨコ走りになつて従いて行く。何時の間にやら小高き丘陵の上に着いて居た。大八洲彦命は二人に向ひ、 大八洲彦命『此処は霊国一の名山、月照山と申します。此山は御存じの通り実に平坦な場所で厶います。是より私と奥へお進みになれば、月の大神様の宮殿なる月宮殿と云ふ立派な御殿が厶います。サア、も一足です、急ぎませう』 と又もや急ぎ歩み出した。二人は漸くにして七宝をもつて飾られたる門の前に辿りついた。数多の麗しき天人は大八洲彦命の帰館を出で迎へ、音楽や歌をもつて歓迎の意を表するのであつた。大八洲彦命は諸天人に一々挨拶を返しながら、七つの門を潜つて邸内深く進み入る。二人は後に従ひ勢よく数多の天人に会釈しながら、月宮殿さして急ぎ往く。 大八洲彦命は二人を導き、殿内深く進み、数多の天女に命じ、珍らしき果実や酒などを饗応し、歌舞音曲を諸天人に奏せしめ、其旅情を慰めた。二人は感謝の涙に咽びつつ、大八洲彦命の命のまにまに珍らしき飲食を喫しつつ、口中に天津祝詞の奏上を怠らなかつた。奥殿より金色燦爛たる御衣を着し、麗しき容貌に得も云はれぬ笑を湛へ、此場に現はれ給うた大神は、最前紫微宮に於て、桃園の案内をされた西王母であつた。西王母の後には巨大なる月光が影の如くつき従ひ輝いて居た。大八洲彦命は恭しく頭を下げ、王母に向ひ、 大八洲彦命『お蔭によりまして、治国別、玉依別の両人は漸く天国の修業を果しました。これ全く大神様の御恵と、両人にかはり、厚く御礼申上げます』 と恭しく奏上した。二人はハツとばかり頭を下げ、畏まり居る。西王母は両人の側近く進み給ひ、左手に治国別、右手に玉依別の手を固く握り、涙を落させ給ひ、 西王母『汝等両人、能くも神命を重んじ天国霊国の巡見を全うせしよ。其熱誠は感賞するに余りあり。汝等二人は是より天の八衢に向つて帰り往け、汝が教へ子、アーク、タールの両人が、キツと迎へに来るであらう。さすれば汝等両人は元の肉体に帰り、素盞嗚尊の神業に参加し得るであらう。名残は尽きざれど、これにて訣別するであらう』 と御声までも打ち湿り、振返り振返り奥殿指して帰り給ふ。二人はハツと後姿を伏拝み、感慨無量の態であつた。大八洲彦命は両人に向ひ、 大八洲彦命『サラバ、拙者はこれにてお別れ申さむ。神業のため随分御精励あれ』 と云ひ捨て、又もや鮮麗なる光となつて、其姿を東天に隠した。これより二人は祝詞を奏上しながら、中間天国を越え、下層天国をも乗り越え、神業に参加すべく天の八衢を指して帰り往く。 (大正一二・一・一三旧一一・一一・二七加藤明子録) |
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霊界物語 | 48_亥_治国別の天国巡覧2 | 14 至愛 | 第一四章至愛〔一二六八〕 治国別、玉依別は最高の霊国を後にして、帰途中間霊国を横断し、最下層の天国に降つて来た。往がけは其証覚、両人共今の如くならざりし故、非常にまばゆく感じたりしが、日の若宮に於て神徳を摂受したる二人は、最早第三天国の旅行は何の苦痛もなかつた。併しながら第一、第二、第三と下降し来るにつれて、吾ながら其神力の減退する如く思はれ、また明確なる想念も甚しく劣りし如く思はるるのは、実に不思議であつた。漸くにして二人は、八衢の関所に着いた。伊吹戸主の神は数多の守衛を率ゐて二人を歓迎した。二人は館の奥の間に導かれ、茶菓の饗応を受け、霊界に関する種々の談話を交換した。 伊吹『治国別様、首尾克く最奥天国、霊国がきはめられましてお目出度う厶います。さぞ面白きお話が厶いませうねえ』 治国別『何分徳が足らないものですから、何れの天国に於ても荷が重すぎて、非常に屁古たれました。併しながら諸エンゼルの導きによつて、辛うじて最奥天国まで導かれ、其団体の一部を巡拝し、漸く此処まで帰つて参りました。併しながら不思議な事には、下層天国より順を追うて最奥天国へ上る時の苦さは譬へられませぬ。丁度三才の童子に重き黄金の棒を負はせたやうなもので、余り結構過ぎて、それに相応する神力なき為、到る所で恥を掻いて参りました』 伊吹戸主神『お下りの時はお楽で厶いましたらうなア』 治国別『ハイ、帰りは帰りで又苦しう厶いました。何だかダンダンと神徳が脱ける様で厶いましたよ』 伊吹戸主神『すべて霊界は想念の世界で厶います、それ故情動の変移によつて、国土相応の証覚に住するのですから、先づそれで順序をお踏みになつたのです。高天原の規則は大変厳格なもので、互に其範囲を犯す事は出来ない様になつて居ります。最高天国、中間天国、下層天国及び三層の霊国は、厳粛な区別を立てられ、各天界の諸天人は互に往来する事さへも出来ないのです。下層天国の天人は中間天国へ上る事は出来ず、又上天国の者は以下の天国に下る事も出来ないのが規則です。もしも下の天国より上の天国に上り行く天人があれば必ず痛く其心を悩ませ、苦み悶え、自分の身辺に在る物さへ見えない様に、眼が眩むものです。ましてや上天国の天人と言語を交ゆる事などは到底出来ませぬ。又上天国から下天国へ下り来る天人は忽ち其証覚を失ひますから、言語を交へむとすれば、弁舌渋りて重く、其意気は全く沮喪するものです。故に下層天国の天人が中間天国に至るとも、亦中間天国の天人が最奥天国に至るとも、決して其身に対して幸福を味はふ事は出来ませぬ。吾居住の天国以上の天人は、其光明輝き、其威勢に打たるるが故に、目もくらみ、只一人の天人をも見る事が出来ませぬ。つまり内分なるもの、上天国天人の如く開けないが為であります。故に目の視覚力も明かならず、心中に非常な苦痛を覚え、自分の生命の有無さへも覚えない様な苦しみに遇ふものです。併しながら貴方等は大神様の特別のお許しを受け、媒介天人即ち霊国の宣伝使に伴はれて、お上りになりましたから、各段及び各団体に交通の道が開かれ、其為巡覧が首尾よく出来たのです。而して大神様は上天と下天の連絡を通じ給ふに、二種の内流によつて之を成就し給ふのです。而して二種の内流とは、一は直接内流、一は間接内流であります』 玉依『直接内流、間接内流とは如何なる方法を言ふので厶いますか』 伊吹戸主神『大神様は上中下三段の天界をして、打つて一丸となし、一切の事物をして、其元始より終局点に至るまで悉く連絡あらしめ、一物と雖も洩らさせ給ふ事はありませぬ。而して直接内流とは大神様から直に天界全般に御神格の流入するものであり、間接内流とは各天界と天界との間に、神格の流れ通ずるのを言ふのです』 治国『如何にも、それにて一切の疑問が氷解致しました。私は之よりお暇を申し、現界へ帰らねばなりませぬ。併しながらどちらへ帰つてよいか、サツパリ分らなくなりました。最高天国から下るに就いて、折角戴いた吾証覚が鈍り、今では元の杢阿弥、サツパリ現界の方角さへも見えなくなつて了ひました。之でも現界へ帰りましたら、神様に賜はつた神力が依然として保たれるでせうか』 伊吹戸主神『現界に於て最奥天国に於けるが如き智慧証覚は必要がありませぬ。只必要なるは愛と信のみです。其故は最高天国の天人の証覚は第二天国人の知覚に入らず、第二天国人の証覚は第三天国人の能く受け入るる所とならない様に、中有界なる現界に於て、余り最高至上の真理を説いた所で有害無益ですから、只貴方が大神様に授かりなさつた其神徳を、腹の中に納めておけば可いのです。大神様でさへも地上に降り、世界の万民を導かむとなし給ふ時は、或精霊に其神格を充し、化相の法によつて予言者に現はれ、予言者を通じて現界に伝へ給ふのであります。それ故神様は和光同塵の相を現じ、人見て法説け、郷に入つては郷に従へとの、国土相応の活動を遊ばすのです。貴方が今最高天国より、段々お下りになるにつけ、証覚が衰へたやうに感じられたのは、之は自然の摂理です。之から現界へ出て、訳の分らぬ人間へ最高天国の消息をお伝へになつた所で、恰も猫に小判を与ふると同様です。先づ貴方が現界へ御帰りになれば、中有界の消息を程度として万民を導きなさるが宜しい。其中に於て少しく身魂の研けた人間に対しては、第三天国の門口位の程度でお諭しになるが宜しい。それ以上御説きになれば、却て人を慢心させ害毒を流すやうなものです。人三化七の社会の人民に対して、余り高遠なる道理を聞かすのは、却て疑惑の種を蒔き、遂には霊界の存在を否認する様な不心得者が現はれるものです。故に現界に於て数多の学者共が首を集め頭を悩ませ、霊界の消息を探らむとして霊的研究会などを設立して居りますが、之も霊相応の道理により、中有界の一部分より外は一歩も踏み入るる事を霊界に於て許してありませぬ。それ故貴方は現界へ帰り学者にお会ひになつた時は、其説をよく聴き取り、対者の証覚の程度の上をホンの針の先程説けば可いのです。それ以上お説きになれば彼等は忽ち吾癲狂痴呆たるを忘れ、却て高遠なる真理を反対的に癲狂者の言となし、痴呆の語となし、精神病者扱をするのみで少しも受入れませぬ。故に現界の博士、学士連には、霊相応の理によつて肉体のある野天狗や狐狸、蛇などの動物霊に関する現象を説示し、卓子傾斜運動、空中拍手音、自動書記、幽霊写真、空中浮上り、物品引寄せ、超物質化、天眼通、天言通、精神印象鑑識、読心術、霊的療法等の地獄界及び精霊界の劣等なる霊的現象を示し、霊界の何ものたるをお説きになれば、それが現代人に対する身魂相応です。それでも神界と連絡の切れた人獣合一的人間は非常に頭を悩ませ、学界の大問題として騒ぎ立てますよ。アツハヽヽヽ』 玉依『モウシ、伊吹戸主神様、私は日の若宮に於て、王母様より玉依別といふ名を賜はりましたが、これは最高天国で名乗る名で厶いませうか、現界に於ても用ひて差支ありますまいか』 伊吹戸主神『現界へお帰りになれば、現界の法則があります。貴方は治国別様の徒弟たる以上は、現界へ帰ればヤハリ竜公さまでお働きなされ。治国別様がお許しになれば、如何なる名をおつけになつても宜しいが、貴方が現界の業務を了へ、霊界へ来られた時始めて名乗る称号です。霊界で賜はつた事は霊界にのみ用ふるものです。併しマア復活後は、結構な玉依別様と云ふ称号が既に既に頂けたのですから、お目出度う厶います。決して霊界の称号を用ひてはなりませぬぞや』 玉依別『ハイ、畏まりました、然らば只今より竜公と呼んで下さいませ』 伊吹戸主神『モウ暫く玉依別さまと申上げねばなりませぬ』 玉依別『アーア、玉依別さまもモウ少時の間かなア、折角最高天国まで上つて、結構な神力を頂いたが、現界へ帰れば又元の杢阿弥かなア。お蔭をサツパリ落して帰るのかと思へば、何だか心細くなりました』 伊吹戸主神『決してさうではありませぬ。貴方の精霊が頂いた神徳は、火にも焼けず、水にも溺れず、人も盗みませぬ。三五教の神諭にも……御魂に貰うた神徳は、何者も盗む事は能う致さぬぞよ……と現はれてありませう。貴方の天国に於て戴かれた神徳は、潜在意識となつて否潜在神格となつて、どこ迄も廃りませぬ。此神徳を内包しあれば、マサカの時にはそれ相当の神徳が現はれます。併しながら油断をしたり慢心をなさると、其神徳は何時の間にやら脱出し元の神の御手に帰りますから、御注意なさるが宜しい。而して仮りにも現界の人間に対し、最奥天国の神秘を洩らしてはなりませぬぞ。却て神の御神格を冒涜するやうになります。霊界の秘密は妄りに語るものではありませぬ。愚昧なる人間に向つて分不相応なる教を説くは、所謂豚に真珠を与ふるやうなものです。忽ち貴重なる真珠をかみ砕かれ、一旦其汚穢なる腹中を潜り、糞尿の中へおとされて了ふやうなものですよ』 玉依別『治国別さま、駄目ですよ、私は天国の消息を実見さして戴き、之から現界へ帰つて、先生と共に現界に於ける霊感者の双璧となり、大に敏腕を揮つてみようと、今の今まで楽しんで居りましたが、最早伊吹戸主様のお説を聞いてガツカリ致しました。さうするとヤツパリ身魂の因縁だけの事より出来ぬのですかなア。宝の持腐れになるやうな気がして聊か惜しう厶いますワ』 治国別『アツハヽヽヽヽ』 伊吹戸主神『私は伊邪那岐尊の御禊によつて生れました四人の兄弟です。されど其身魂の因縁性来によつて祓戸の神となり、最高天国より此八衢に下り、斯様なつまらぬ役を勤めて居りますが、之も神様の御心の儘によりならないのですから、喜んで日々此役目を感謝し忠実に勤めて居るのです。まだまだ私所か妹の瀬織津姫、速佐須良姫、速秋津姫などは実にみじめな役を勤めて居ります。言はば霊界の掃除番です。蛆のわいた塵芥や痰唾や膿、糞小便など所在汚き物を取除き浄める職掌ですから、貴方の神聖なる宣伝使の職掌に比ぶれば、実に吾々兄弟は日の大神の貴の子でありながら、つまらぬ役をさして頂いて居ります。併し之は決して吾々兄弟が此役目を不足だと思つて申したのではありませぬ、貴方等の御心得の為一例を挙げたまでで厶います』 玉依『ハイ、大神様の御仁慈、実に感じ入りました』 と感涙にむせぶ。治国別は憮然として、 治国別『アヽ実に大神様の御恵、感謝に堪へませぬ。厳の御霊の神諭にも……我子にはつまらぬ御用がさしてあるぞよ。人の子には傷はつけられぬから……とお示しになつてゐますが、実に大神様の御心は測り知られぬ有難きもので厶いますなア』 と云つたきり、吐息を洩らして差俯いてゐる。 伊吹戸主神『私ばかりぢやありませぬ、月照彦神様、弘子彦神様、少彦名神様、純世姫様、真澄姫様、竜世姫様、其他結構な神々様は皆、厳の御霊や瑞の御霊の大神の直々の御子でありながら、何れも他の神々の忌み嫌ふ地底の国へお廻りになつて、辛い御守護をしてゐられます。之を思へば貴方等は実に結構なものですよ。厳の御霊の御神諭にも……人民位結構な者はないぞよ……と示されてありませうがなア』 治国『成程、実に大神様の御心の程は、吾々人間の測り知る所ではありませぬ。あゝ惟神霊幸はへませ、五六七の大神様……』 と涙を滝の如く流し、神恩の甚深なるに感じ、竜公と共に合掌して其場に打伏した。伊吹戸主神は目をしばたたきながら、 伊吹戸主神『御両人様、其心で、どうぞ現界に於て神の為、道の為、世人の為に御活動を願ひます。左様ならば之にてお別れ致しませう』 と云ふより早く忙しげに奥の間に姿を隠した。二人は後姿を見送り、恭しく拝礼しながら館を立出で、赤門をくぐり、白赤の守衛に厚く礼を述べ、八衢街道を想念の向ふ所に任せて歩み出した。アヽ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・一・一四旧一一・一一・二八松村真澄録) |
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霊界物語 | 48_亥_治国別の天国巡覧2 | 15 金玉の辻 | 第一五章金玉の辻〔一二六九〕 治国別、玉依別は八衢をブラリブラリと逍遥しながら或四辻の辻堂の前に差掛つた。 玉依別『治国別さま、どうやら玉依別の称号も断末魔が近付いたやうです。ここは浮木の森の十町許り手前の破れ堂ぢやありませぬか、どうも記憶に残つてゐるやうです』 治国別『成程、川の水音迄聞えて来た。何とはなしに娑婆近くなつた様だ』 玉依別『伊吹戸主の神様にキツウ釘をさされて来ました。本当に吾々も何時の間にやら、鼻ばかり高くなつて居つたと見えますな。柔かく厳しくカツンとやられた時の恥かしさ、苦しさ、今思ひ出しても冷汗が出ますワ』 治国別『余りお喋りが過ぎたからだ。三五教の御神諭にも……何にも知らずに途中の鼻高が、鼻ばかり高うして偉さうに申して居るが、余り鼻が高うて上も見えず、鼻が目の邪魔を致して、足許は尚見えず、先も見えず、気の毒なものであるぞよ。神が鼻を捻折りて改心さした上、誠の事を聞かしてやるぞよ……とお示しになつてゐるが、今伊吹戸主神様に御説教を聞かされて、実に御神諭の尊い事を、今更の如く悟つたよ』 玉依別『ハ、さうですな。之から現界へ帰つたら、科学的霊学研究などと偉さうにホラを吹いてゐる途中の鼻高の鼻つパチを捻折つてやらぬ事には、到底霊界の片鱗も宇宙の真相もヨウ分けず、亡者然と威張つて居る始末に了へぬ奴を、鼻を捻折つて助けてやりませうかな』 治国別『アハヽヽヽ、自分の顔は見えませぬか、玉依別さま、お前さまの鼻は随分高うなりましたよ』 玉依別『ヤア、知らぬ間に霊界ぢやと見えて、想念の延長を来し、鼻迄延長してゐました、治国別様に折つて貰つて、これで満足な顔になりました。アヽ惟神霊幸倍坐世』 治国別『伊吹戸主神様のお諭しを忘れちやなりませぬよ』 玉依別『モシ忘れたら、貴方気をつけて下さいや。又潜在意識とか、潜在神格となつて、心内深く潜伏致しました時にや、副守が跋扈して、又脱線をするかも知れませぬから、どうぞ其都度々々、御忠告を願ひます』 治国別『ハツハヽヽ、玉依別さま、私も何時忘れるか知れないから、互に気をつけ合ふ事に致しませう』 玉依別『貴方も私も一時に忘れて了つたら何うなりますか』 治国別『今から忘れる事ばかり考へなくても宜しい。忘れてよい事は忘れ、忘れてならない事は忘れない様に努めるのですな』 かく話す所へ、ヅブ六に酔うてヒヨロリヒヨロリとやつて来たのは蠑螈別、エキス両人の精霊であつた。肉体のある精霊は、肉体のなき精霊に言葉をかけられる時は、直に煙の如く消失するものだが、四人共肉体に帰り得べき精霊の事とて、どちらも元気がよい。蠑螈別は辻堂に休んでゐる二人の前に現はれ来り、 蠑螈別『モシ、何れの方か知りませぬが、一寸御尋ね申します、二十歳許りの妙齢の美人が、ここを通過致しませなんだかな』 玉依『ウン、ねつから女らしい方には、牝猫一匹会ひませぬよ』 蠑螈別『ナヽ何だ、会はぬと申すか、大方其方が誘拐して隠して居るのだろ。此街道は男も女も通る所だ。エヽン、ゴテゴテぬかさずに白状せぬか。なア、エキス、お前の鑑定は何う思ふ』 エキス『何だか知らぬが、女はモウ懲々だ、お民の事を言ふものぢやない。お民の事を聞くと、すぐにお寅婆を聯想する。あんな鬼婆が又もや、やつて来て鼻でも捻ぢよつたら、今度はモウ、サツパリだ。言ふな言ふな、女の一疋やそこら、何だい』 蠑螈別『貴様にや情交上の関係がないから、そんな平気な顔して居らりようが、当の御亭主たる俺には又特別の悲痛があるのだ。恋知らずの木狂漢に英雄の心事が分つてたまらうかい、エヽーン、大切なる情婦を片彦将軍の色魔にチヨロまかされ、其上色白の青瓢箪男に自由にされ、どうしてこれが黙つて居らりようか。お民の奴、とうと途中で逃げて了ひよつた。キツと喋し合せて、どつかで会うてけつかるに違ない、俺はどこまでも彼奴の所在を突き止め、思ふ存分やらなくちや虫がいえねえのだ。……ヤア貴様は治国別ぢやないか。こんな所へお民の後を追うて来よつたのかな。貴様もヤツパリ同穴の貉だらう、サア所在を白状致せ』 と臭い息を吹きかけながら、治国別の手をグツと握り、目を縦にして睨みつけた。治国別は迷惑さうな顔をしながら、 治国別『蠑螈別さま、見当違も程がありますよ』 蠑螈別『ナーニ、見当違だと、馬鹿を申せ、俺の天眼通で、貴様がお民をそそのかして居ることを遠隔透視したのだ。そして囁いて居つた事をも天耳通でチヤンと調べてある。サア何処へかくした、白状致せ』 治国別『アハヽヽヽ、それ程よく天眼通が利くならば、お民さまの所在は一目で分りさうなものですなア』 蠑螈別は言葉につまり、酒の酔機嫌で、拳を固めて治国別の横面を続けざまに三つ四つなぐつた。治国別は頭をかかへて抵抗もせず、『惟神霊幸倍坐世』を奏上しながら、しやがんでゐる。玉依別はグツと癪に障り、蠑螈別の後に廻り、睾玉をグツと握つて、後へ引いた。此体を見て、エキスは又もや玉依別の睾丸をグツと握り、後へ引いた途端に足が前に辷り、ドンと握つたまま仰向けに倒れた。将棋倒しにズルズルと玉依別、蠑螈別といふ順に三つ重ねとなつた。エキスは玉依別の大きな尻に睾丸をグツと押へられ、三人共睾丸を痛めて、舌をかみ出し、目を眩して了ひ、三人揃うて三きん交替の睾丸の江戸登城をやつて了つた。 治国別は驚いて三人の手を無理に放し、一人々々地上に横臥させ、一生懸命に数歌を歌ひ上げ、鎮魂を以て神霊注射を試みた。玉依別は第一着に息を吹返し、 玉依別『アイタヽヽ、アー偉い目に遇はしよつた。ヤ、先生、よう助けて下さいました。私は又第一天国へただ一人上りかけて居りましたら、貴方のお声で天の数歌が聞え出しましたので、後ふり返り見れば、貴方の身体より霊光が発射し、其光に包まれたと思へば気がつきました。精霊界へ来てもヤツパリ目をまかしたり、霊体脱離したりするものと見えますなア』 治国別『アヽさうと見えるなア、不思議なものだ。併し蠑螈別さまとエキスさまが、睾丸を損ねてまだ気がつかない。早く助けてやらねばならぬ。玉依別さま、一つ貴方、神様に願つて復活さしてやつて下さい』 玉依別『成程、揃ひも揃うて睾丸病者ばかりですな。一つ願つて見ませうか。併し先生、此奴ア、貴方の横つ面を擲つた悪人ですから、放つといてやりませうかい』 治国別『神の道は人を救ふのが勤めだ。霊界へ来てそんな心では可けませぬぞ。天国には恨もなければ憎みもない、只愛あるのみですよ』 玉依別『そらさうです、併しここは天国ぢやありませぬぞえ。中有界ですから、善も居れば悪も居ります。悪人は悪人で懲してやるが社会の為ですよ』 治国別『ソリヤいけませぬ。貴方は仮令身は中有界に居るとも、其内分には最高天国が開けてゐるぢやありませぬか。其心を以て御助けなさい』 玉依別『伊吹戸主神様が中有界は中有界、現界は現界相応の理を守れ、妄りに天界の秘密を、訳の分らぬ人間に示すと、却て神を冒涜する……と仰有つたぢやありませぬか』 治国別『ハツハヽヽ、益々分らぬやうになりますねえ』 玉依別『さうでせうとも、すでに竜公に還元の間際ですからなア。大に愛善と証覚が衰へました。否内分が塞がりましたやうです』 かく言ふ折しも、蠑螈別、エキスはムクムクと起上り、二人の顔を睨みながら、怖さうに後向けに歩き出し、五六間の距離を保つた時、何を思うたか、一生懸命に雲を霞と逃げ出して了つた。 玉依別『ハツハヽヽ、とうとう吾々の霊光に打たれ、雲を霞と消え失せよつたな、ヤツパリ吾々はどことはなしに御神力が備はつたとみえるワイ、あゝ愉快々々』 治国別『玉依別さま、先方の方から何だか、人声がするぢやないか』 玉依別は耳をすませ、 玉依別『いかにも、あれはアーク、タールの声ですよ、こんな所へ彼奴も亦迷つて来よつたのですかなア』 二人の声は益々高く聞えて来た。俄にパツと際立つて明くなつたと思へば、治国別、竜公の身は浮木の森の陣営のランチ将軍が居間に横たはつてゐた。さうして枕許にはアーク、タールの両人が心配さうな顔をして坐つてゐた。 治国『あゝ、アークさま、タールさま、此処はどこだなア』 アーク『治国別様、確りなさいませ。貴方は片彦将軍等の企みの罠に陥り、暗い井戸の底で、一旦亡くなつてゐられたのですよ。吾々両人がランチ将軍、片彦将軍の出て行つたのを幸ひ、漸く縄梯子を吊りおろし、此処までお二人の肉体を持ち運び、いろいろと介抱を致しましたら、漸くお気がついたのです』 竜公『ヤア有難い、何時の間に睾丸握の喧嘩から、こんな所へ帰つたのだらうな、アイタ、ヤツパリ睾丸が痛いワイ』 と顔をしかめてゐる。 さて四人は互に無事を祝し、大神の前に端坐して、例の如く祝詞を奏上し、終つて治国別は、蠑螈別の身の上が気に掛り、四人一度に陣内を隈なく探り、漸く酒房の前に行つた。雪は一尺以上も降り積もり、二人の寝てゐる所は際立つて高くなつてゐる。アーク、タールの両人は態とに治国別に知らさなかつた。治国別はこの場に現はれ、人間の形に雪が高くなつてゐるのを見て、 治国別『アークさま、あの雪はチツと変ぢやありませぬか、丁度人間が寝てゐるやうに高く積つてゐるでせう』 アーク『彼奴あ、ユキ倒れかも知れませぬよ』 竜公『こんな所に行き倒れがあつてたまるかい。行き倒れといふ奴ア、道端で乞食が野倒死したのを言ふのだ』 アーク『それでも、あこに蠑螈別が倒れて其上へ雪が積もつたら、ヤツパリユキ倒れだ……ウソと思ふなら、お前行つて調べて来い。彼奴アな、食ひしん坊だから、酒盗みに行きよつて、酒房の外で酔ひつぶれてるのかも知れないよ』 竜公『今幽界で蠑螈別、エキスの両人に面会し、睾丸の掴み合ひをして来た所だ。大方それから考へると、最早肉体は冷たくなつて、現界の人ではないかも知れないよ』 タール『ナニ、俺達と今一緒に倒れた所だ、彼奴ア酒の量が多いのでよく寝てるのだ。俄にブチヤケるやうな雪が降つて、瞬間に一尺も積つたのだ。本当に不思議な雪だつたよ。何はともあれ、竜公さま、お前は冥土の知己だから、一つ気をつけてやり給へ。亡者卒業生だからなア、亡者が亡者に対するのは、身魂相応の理によるものだからなア、アツハツハヽヽ』 竜公は足で雪を掻き分けて見ると、蠑螈別はムクムクと起上り、雪の中に胡坐をかき目をつぶつてゐる。エキスも亦竜公に足で雪を取除かれ、頭を蹴られた途端に気がつき、目を塞いだまま、雪の中に坐つて、口をムシヤムシヤ動かしてゐる。蠑螈別は夢中になつて奴拍子の抜けた声で、 蠑螈別『片彦将軍、お民を返せ、コラ色白の小童、俺の女を何うしよつた。早く此場へ出さぬか、……ヤお寅が来よつたな、痛いわい痛いわい……睾丸を引張りよつて、イヽ痛い、息が切れる、エキス、コラ、竜公の睾丸を引張つてくれ!』 などと千切れ千切れに喋り立ててゐる。エキスはエキスで又拍子抜けのした声で、 エキス『アヽヽア、痛い痛い痛い、睾丸がツヽ潰れる潰れる』 と喚いてゐる。アークは首を傾けながら、 アーク『何とマア不思議な事があるものだな。竜公さまが気がつくが早いか、睾丸が痛いといふかと思へば、蠑螈別が又睾丸々々といひ出す、エキスの奴までお附合に睾丸々々とほざいてゐよる。此奴ア面白い。エヘヽヽヽ、コラ睾丸の大将、早う起きぬかい、確りせい』 と蠑螈別の鼻を力に任して捻ぢた。 蠑螈別『イヽヽヽ痛い痛い、又してもお寅の奴、俺の鼻を摘みやがつて……許せ許せ』 アーク『ハツハヽヽ、オイ、蠑螈別、俺だ俺だ、目をあけぬかい。どこだと思つてゐるのだ』 蠑螈別『何処でもないワイ、辻堂の前だ。早く俺を浮木の陣営へ連れて行つてくれ』 アーク『ここが浮木の森の陣営だ、余り酒を喰ふものだから、目を眩しよつたのだろ』 と頬を平手でピシヤピシヤと擲る。蠑螈別はハツと気が付き四辺を見れば、エキスが側に真白気になつて坐つてゐる。そして治国別、竜公の其処に立つてゐるのを見て、不思議さうに手を組み、 蠑螈別『ハテハテ』 と云ひながら、穴のあく程二人の顔を覗き込んだ。 治国『蠑螈別さま、エキスさま、此処は浮木の森の陣営ですよ。私も暫く魂が肉体を放れ、八衢旅行をやつて来ました。お前さまも八衢で会ひましたね。併しモウ現界へ帰つたのですから、安心なさいませ。それよりもランチ将軍、片彦将軍初めお民さまの身の上が、どうも気にかかります。物見櫓の方に何か変事が突発してゐるかも知れませぬ。サア参りませう』 蠑螈別はお民の危急と聞いて、酔も醒め、本気に立帰り、陣営の駒に打ち乗り、治国別、竜公他四人は馬首を揃へてカツカツカツと蹄の音も勇ましく、物見櫓を指して雪に馬足を印しながら走り行く。 (大正一二・一・一四旧一一・一一・二八松村真澄録) |
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霊界物語 | 48_亥_治国別の天国巡覧2 | 17 甦生 | 第一七章甦生〔一二七一〕 ランチ将軍、片彦、ガリヤ、ケースの四人は罪人橋の傍に佇み、肌を断る許りの寒風に曝されながら、幽かに聞ゆる宣伝歌の声をせめてもの力として、慄ひながら待つて居た。四方を見れば、今まで吾身辺を包みたる冥官は一人も居らず、又我利我利亡者の姿は残らず消え失せたれども、再び潜り来りし小孔は塞がりて分らず、此橋を向ふへ渡らむか、実に危険にして百中の百まで顛落しさうな光景である。宣伝歌の声は追々高くなつた。それに次いで、ワイワイと喚く数百人の声、前後左右より響き来る。四人は心も心ならず、如何なり往くならむと、絶望の淵に沈んで居た。かかる所へ忽然として現はれ給うたのは容貌端麗なる一人の女神、二人の侍女を伴ひながら、四人の前に鳩の如く下り給ひ、女神は優しき声にて、 女神『貴方は大自在天様の教を奉ずるランチ将軍の一行ぢや厶いませぬか』 四人は蘇生の思ひをしながら、俄に嬉し気に声まで元気よく、 四人『ハイ、仰せの如く、ランチ将軍主従で厶います。誠に罪悪のため斯様な所へ落され、二進も三進もなりませぬ。今日迄の罪悪はすつかり悔い改めまして、生れ赤児の心に立ち帰りますれば、どうぞ此の急場をお救ひ下さいませ』 女神『それは嘸お困りでせう。貴方が誓つて体主霊従の行ひを改むるとならばお助け申しませう。妾は都率天に坐ます日の大神のお傍に仕ふるもの、妾が申す事御合点が参りましたらキツと救うて上げませう、実の所は貴方等の危難を大神様が御照覧遊ばし「一時も早く彼が前に往き、誠を説き明し救ひやれ、時後れなば一大事」との仰せに、取るものも取り敢ず、都率天を下り此処に来ました。あれお聞きなさいませ。あの宣伝歌は、貴方等を救ふための宣伝歌の声で厶います』 片彦『ハイ、有難う厶います。歌は聞えますが、其歌がボンヤリとして少しも意味が分りませぬ』 女神『あの歌は、三五教の宣伝使が、貴方等を救ふべく神への祈り歌で厶います、サア篤りとお聞きなされ』 と懐中より大幣を取り出し左右左に打ち振れば、不思議や四人の耳はパツと開けて、歌の意味は益々明瞭になつて来た。四人は両手を合せ、大地に跪いて其歌を一語も洩らさじと聞き入つた。其歌、 (紫姫)『高天原の最奥の日の若宮に現れませる 至仁至愛の大神は八岐大蛇や醜狐 曲鬼共に取りつかれ善の道をば取り違へ 智慧証覚をくらまして体主霊従の小欲に 浮身を窶すバラモンの大黒主の部下となり ミロクの神の化身たる神素盞嗚の大神の 常磐堅磐に現れませる産土山の霊国の 貴の館を屠らむと大黒主の命をうけ ランチ将軍、片彦が数多の部下を引率れて 浮木の森に陣営を構へて作戦計画の 真最中に入り来る治国別の宣伝使 忽ち悪心勃発し神の尊き御使を 千尋の暗き穴の底落し入れたる曲業は 忽ち其身に報い来て眼はくらみ変化神 此上なき美人と過りて互に修羅を燃やしつつ 反間苦肉の策を立て互に命を奪ひ合ひ 忽ち精霊肉体を離れて地獄に踏み迷ひ 進退茲に谷まれる其窮状を臠はし 妾に向つて詔らすやう汝紫姫の神 二人の天女と諸共に根底の国に降臨し 彼等四人が心底を調べたる上真心の 聊かなりと照るあらば誠の道を説き聞かせ 再び娑婆に追ひかへし遷善改過の其実を あげさせよやと厳かに詔らせたまひし神勅を 慎み畏み今茲に降り来りしものなるぞ 軍の君よ汝は今吾言霊を聞き分けて 尊き神の愛に触れ再び現世に立ち帰り 大神業に奉仕する赤心あらば吾は今 汝を安きに救ふべしあゝ惟神々々 尊き神の勅もて汝等四人に詔り伝ふ』 と言葉淑かに聞え来る。よくよく見れば宣伝歌の声は外には非ず、女神の口から歌はれて居たのである。されど神格に満ちたる天人は、現代人の如く口を用ひたまはず、一種の語字を用ひ四辺より語を発し、其意を述べ給ふにより、四人の亡者の気づかなかつたのも道理である。 ランチ将軍は漸くにして力を得、歌をもつてエンゼルに答へた。 ランチ『高天原の最奥の日の若宮に現れませる 尊き神の勅もて天降りましたる紫の 姫の命の御前に慎み敬ひ願ぎ申す 吾はバラモン大御神大国彦を祭りたる 大雲山の聖場に朝な夕なに身を清め 難行苦行の功をへて漸く道の奥処をば 悟りて茲に神柱大黒主に選まれて 教司となり居たり時しもあれやウラル教 三五教の神柱数多の軍を引率れて 空照り渡る月の国ハルナの都に攻め来る 噂は強く聞えけり茲に大黒主の神 大に怒らせ給ひつつ善か悪かは知らねども 軍を起し産土の館を指して進むべく 鬼春別に依さしまし数多の兵士任けたまふ 鬼春別の部下なりし吾等は命に従ひて 浮木の森に来る折怪しき女に村肝の 心を汚し同僚を恋の敵と恨みつつ 悪逆無道の行動を敢てなしたる悔しさよ 斯くなる上は吾とても如何でか悪を尽さむや 唯今限り悪を悔い誠の道に立ち帰り 皇大神の御教に厚く服ひ仕ふべし 尊き神の御使よ此有様を憫れみて 何卒救はせたまへかしもし許されて現界に 再び帰り得るなれば神素盞嗚の大神に 刃向ひまつりし罪咎を償ふ為に一身を 捧げて誠の大道に進み奉らむ吾心 尊き神の御使の御前に心固めつつ 委曲に願ひ奉る朝日は照るとも曇るとも 月は盈つとも虧くるとも仮令大地は沈むとも 一旦誓ひし吾魂は皇大神の御為に 仮令命は捨つるとものどには捨てじ一歩も 顧みせざる誠心を清くみすかし給ひつつ 愍み給へ紫の姫の命の御前に 慎み敬ひ願ぎ申す』 と細き声にて詔り上げた。片彦も亦歌をもつて罪を謝した。 片彦『ここたくの罪や汚れになづみたる わが身魂をば清めて救へ。 惟神誠の道に踏み迷ひ 根底の国に落ちにけるかな。 何事も神の御為世のためと 知らず知らずに曲になりぬる。 ここたくの罪を許して現世に 救はせ給へと乞ひのみ奉る』 ガリヤ『吾も亦汚き欲に包まれて 黒白も分ぬ暗に落ちぬる。 いと深き神の恵に包まれて 根底の国を去るぞ嬉しき。 皇神の此御恵を如何にして 報はぬものと危ぶまれぬる。 さりながら元は尊き大神の 身魂なりせば清く帰らむ』 ケース『身の欲に心曇りて根の国の 川辺に迷ふ吾ぞ果敢なき。 如何にして此苦しみを逃れむと 千々に心を痛めたりしよ。 有難き神の恵の霑ひて 紫姫は降りましけり』 ランチ『有難し勿体なしと申すより 外に言の葉なかりけるかも。 大神の恵の露は根の国や 底の国まで霑ひにけり』 紫姫『村肝の心の闇の晴れし身は 安く帰らむ顕御国へ。 さりながら再び現世に帰りなば 曲の仕業は夢にな思ひそ。 皆さま、結構で厶いました。どうやら現世へお帰り遊ばす道が開けたやうです。妾も大慶に存じます。併しながら此国の守護神様は金勝要大神様、一度お許しを蒙らねばなりませぬ。お願ひを致して参ります』 と云ふより早く、麗しき雲を起し、罪人橋の上を北へ北へと其神姿を隠し給うた。四人は互に顔を見合せ、ホツと息をつきながら、 ランチ『あゝ片彦殿、真に済まない事を致しました。悪魔に取りつかれ、俄にあのやうな悪心を起し、こんな所へ閉ぢ込まれるとは、どうも恥かしい事で厶る。どうか現界へ帰るとも、今迄の恨は川へ流し、層一層御親交を願ひます』 と心の底より片彦に詫びた。片彦は之に答へて、さも嬉し気に云ふやう、 片彦『将軍様、勿体ない事を仰せられますな。皆私が悪いので厶います。数多の軍勢を指揮する身分で居ながら、陣中の規律を紊し、女に心を奪はれ、遂には思はぬ葛藤を起しました其罪は、私が大部分負担すべきものです。何卒今までの罪をお許し下さいまして、従前よりも層一層の御親交を願ひます』 と心の底より打ち解けて云つた。 ガリヤ、ケースの両人は両将軍の物語を聞き、身を縮め、感歎の息を洩らして居る。斯かる所へ治国別、松彦、竜公、万公、アク、タク、テクの一行、宙を飛んで走り来り、四人の前に整列し、 治国『片彦さま、貴方の改心が国魂の神、金勝要大神様に通じました。拙者は要の神の命により、貴方を現界に救ふべくお迎へに参りました』 片彦『ハイ、有難う厶います』 と落涙に及ぶ。松彦はランチ将軍に向ひ、 松彦『将軍殿、貴方の悔悟のお願が大地の金神金勝要神様の御前に達しました。拙者は神命に依り、貴方を現界へお送り申しませう、次にガリヤ、ケースの両人も同様現界へお帰りなさい』 三人は、 三人『ハイ有難う』 と頭を下げる途端、ザワザワと聞ゆる人声に目を醒ませば、浮木の森の物見櫓の下座敷に四人は横たはり、数多の人々に介抱されて居た。さうしてお民はお寅に救はれて居た。ランチ将軍、片彦は枕許をよく見れば、豈図らむや、今夢ともなしに罪人橋の麓にて救はれたる治国別、松彦を初め、竜公、万公、アク、タク、テクの面々であつた。彼等四人は治国別、松彦の一隊に死体を河中より救ひ上げられ、宣伝歌を聞かされ、且つ天津祝詞と天の数歌の功力に救はれ蘇へつたのであつた。又お民は蠑螈別の声にハツと気がつき四辺を見れば、其枕許には蠑螈別、エキス、アーク、タール、お寅婆アさまの面々が親切に介抱をして居た。是よりランチ将軍を初め幽冥旅行の面々は心の底より前非を悔い、初めて神素盞嗚大神の御前に両手を合せ、反逆の罪を陳謝し、遂に三五の道に帰順する事となつた。あゝ惟神霊幸倍坐世。 (大正一二・一・一四旧一一・一一・二八加藤明子録) |