第二五章巫の舞〔四九二〕
コーカス山の曲津神共を、天津誠の言霊の伊吹に伊吹き払ひ、今は邪気全く払拭され、風塵を留めざるに至りぬ。
茲に神素盞嗚大神は、両刃の剣を神実として神殿に華々しく鎮祭し、大地の霊魂なる金勝要大神、霊力なる国治立大神の二柱を祭り、荘厳なる祭典を行ひ給ひ、祭官としては、天之児屋根命天津祝詞を奏上し、太玉命太玉串を奉り、天之目一箇命はアルプス山の鋼鉄を以て両刃の剣を造り、之を神実として奉安し、石凝姥命は神饌長となり、時置師神、八彦、鴨彦は神饌を運び、大歳神は祓戸を修し、松竹梅の桃の実は御巫の聖職を仕へまつり、月雪花の三柱は茲に忽然として現はれ、歌を歌ひ舞を舞ひ、この祭典を賑したまひける。其時の秋月姫の歌、
秋月姫『此世を造りし元津祖国治立の大神が
根底の国に現はれて百の悩みを受けたまひ
闇に隠れて世を守る其功勲を助けむと
天津御神の御言もて天教山に現はれし
神伊弉諾の大御神其妻神と現れませる
神伊弉冊の大神の御霊幸はひましまして
神素盞嗚の大神の身体なり出でましましぬ
神伊弉諾の大神の貴の御鼻に生れませる
其神霊幸ひて命の御霊にかかりまし
大海原に漂へる豊葦原の瑞穂国
治め給へと言依さし給ひし貴の神言を
諾ひまして朝夕に心配らせ給へども
天足の彦や胞場姫の醜の霊魂になり出でし
八岐大蛇や醜狐悪き曲鬼八十曲津
疎び猛びて天の原大海原を掻き乱し
怪しき雲は天地に非時さやる暗の夜を
晴らして神の御心にこたへまさむと千万に
心砕かせ給ひしが黒白もわかぬコーカスの
山の岩戸も今日あけて心楽しき神祭り
祭り納むる珍の宮天津祝詞の声清く
珍玉串のいや高く神酒は甕高知りて
海河山野種々の珍の御幣帛奉り
天と地とは一時に光輝く美詞
堅磐常盤の松代姫春夏秋冬整ひて
節過またぬ竹野姫神の勲も一時に
開く梅ケ香姫の司淤縢山津見や正鹿山
津見の命の真心を空澄み渡る秋月の
光を此処に深雪姫誠の道も橘姫の
貴の命の宣伝使鋼鉄銅アルプスの
山の尾上のいと高く恵も深き琵琶の湖
山野海川おしなべて仕へまつらむ珍の宮
神の誠の言の葉のみやびの花ぞ尊けれ
みやびの息ぞ畏けれ』
深雪姫は再び立つて祝歌を奏上したり。其歌、
深雪姫『青木が原に比ぶべきコーカス山に降り積る
深雪も晴れて今日の春御稜威も高く照り渡る
高天原に現れませる神の御舎千木高く
大宮柱太知りて仕へまつれるウラル彦
ウラルの姫が真心を天地かけて尽したる
これの顕しき国の宮金勝要の大御神
国治立の大神の霊と力の御守りに
大海原の主宰神神素盞嗚の大神と
現はれまして永久に珍の宮居に鎮まりて
天津神人国津神百の草木に至るまで
恵の露の掛巻も畏き神の詔勅
詔り直すてふ麻柱の神の教の宣伝使
山川渡り荒野わけ雪を踏みわけ霜を浴び
寒けき風に梳り非時雨にゆれながら
治まる御代を深雪姫神のみゆきの今此処に
現はれ給ふぞ嬉しけれコーカス山の峰高く
天にます神国津神神の光を現はして
大海原に漂へる瑞穂の国を永久に
いと平けく安らけく治めたまへや素盞嗚の
神の命の司神黒雲四方に塞がりて
世は常闇となるとても月日の水火より生れませる
我が皇神の神霊玉の剣を振り翳し
醜の村雲切り払ひ払ひ清めて天津日の
御国に在す天照皇大神の御前に
太じき勲を経緯の錦の旗を織りなして
御国を治めたまへかし千代も八千代も万代も
君の勲のいや高く君の齢のいや長く
幸多かれと祝ぎまつる』
と歌ひ終り淑やかに元の座につきにけり。
(大正一一・三・四旧二・六加藤明子録)
(昭和一〇・二・一九於長浜住茂登旅館王仁校正)
No.: 1538